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特表2022-535681船体を水中で監視及び保守するためのロボット、システム、及び、方法
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  • 特表-船体を水中で監視及び保守するためのロボット、システム、及び、方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】船体を水中で監視及び保守するためのロボット、システム、及び、方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 59/10 20060101AFI20220803BHJP
【FI】
B63B59/10 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566997
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(85)【翻訳文提出日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 EP2020060865
(87)【国際公開番号】W WO2020229091
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】20190599
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521491831
【氏名又は名称】シップシェイブ アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルーン フレイヤー
(57)【要約】
本発明は、船舶が航行中に船体(1)を水中で監視及び保守するためのロボット(2)及び方法を提案する。ロボット(2)は、本体(5)、ロボット(2)を牽引するためのケーブル(3)にロボット(2)を接続するための接続部(21)、船体(1)に対して接触するために設けられた接触基部(13)、本体の長手方向の軸に対し垂直に配置された1以上の水中翼(6、7)、及び、本体(5)の前部に配置された舵(8)を備え、本体(5)は長手方向の長さと幅方向の長さの比率が5以上である直線状の細長い形状であり、水中翼(6、7)は長手方向が本体(5)に垂直となるように配置され本体(5)の幅より長く、ケーブル3を接続するための接続部(21)は、水中翼(6)の一端、又は、1以上の水中翼と平行に伸びるアームに配置される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶が航行中に、水中において前記船舶の船体の監視及び保守を行うためのロボットであって、
前部と、後部と、前記前部と前記後部とを接続する中央部とを有する本体と、
前記本体の前記前部に配置され、前記ロボットを牽引するためのケーブルに前記ロボットを接続するための接続部と、
前記船舶の船体に対して接触されるために前記本体の全長に渡って配置されている基部である接触基部と、
前記ロボットの前記接触基部を前記船舶の船体に向かい押し付けるように、前記本体の長手方向の軸に対し垂直に配置された1以上の水中翼と、
前記本体の前部に、前記本体の長手方向の軸に垂直に配置された舵と
を備え、
前記本体は直線的な細長い形状で、幅方向の長さに対する長手方向の長さの比率が5以上であり、
前記本体の長手方向の軸に対する垂直方向における前記1以上の水中翼の各々の長さは、前記本体の幅方向の長さよりも長く、
前記接続部は、前記1以上の水中翼のいずれかの端部、又は、前記本体から前記1以上の水中翼と平行に延伸するアームに配置されている
ロボット
【請求項2】
前記本体の前記前部に配置される前方水中翼と、前記本体の前記後部に配置される後方水中翼を備え、前記前方水中翼と前記後方水中翼は互いに平行に、かつ前記接触基部により規定される平面に対し平行に、配置されている
請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記本体の後端に、前記本体の長手方向に対し垂直に、かつ、前記1以上の水中翼に対し垂直に配置されている固定式姿勢安定用フィンを備える
請求項1又は2に記載のロボット。
【請求項4】
前記固定式姿勢安定用フィンは前記本体の一部である
請求項3に記載のロボット。
【請求項5】
前記ケーブルを接続するための前記接続部は、前記前方水中翼の外側端部の近傍に配置される
請求項2に記載のロボット。
【請求項6】
前記船体に対し前記ロボットを接触するための脚部が、前記前方水中翼の、前記ケーブルを接続するための前記接続部が配置される側と同じ側の端部に配置されている
請求項5に記載のロボット。
【請求項7】
前記前方水中翼は前記本体に対して非対称に配置され、前記前方水中翼のうち前記ケーブルが取り付けられる側の部分が、前記前方水中翼のうち当該部分と前記本体を挟んだ反対側の部分よりも長い
請求項6に記載のロボット。
【請求項8】
前記接触基部の外側表面に、固定式ブラシ、硬質ローラ、スクレイパー、及び、研磨部材のうちの1以上が配置されている
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項9】
前記接触基部、又は、前記接触基部の1以上の構成部が、交換可能である
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項10】
データを取得するセンサ、カメラ、及び、検査装置のうちの1以上が配置されている
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項11】
船舶が航行中に水中において前記船舶の船体の監視及び保守を行うための方法であって、
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のロボットを前記船舶の船体上に配置する(a)工程と、
前記ロボットが備えるケーブルの長さを調整して、前記船舶の船体に沿った長手方向における前記ロボットの位置を調整する(b)工程と、
前記ロボットが備える舵を調整し、前記ロボットが前記船舶の進行方向を縦断する方向に1回以上移動するように前記ロボットの深さ方向における位置を調整する(c)工程と、
前記ケーブルの長さを調整して、前記長手方向における前記ロボットの位置を調整する(d)工程と、
前記船舶の船体の所定領域に関する監視及び保守の少なくとも一方が完了するまで、前記(c)工程及び前記(d)工程を繰り返す(e)工程と
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体を水中で監視及び保守するためのロボット、及びそのロボットを用いて航行中の船舶の船体を水中で監視及び保守するためのシステム及び方法に関する。より具体的には、本発明は、船舶が商業的な航行速度で移動しているときに、船体からの付着生物の除去、検査、船体表面の粗さの低減、その他の作業を行うことができるロボット、及びそのロボットを用いた方法とシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
船体の保守及び検査は通常、陸上のドックで行われる。陸上のドックにおける検査及び保守は多大な費用と時間を要し、その間、船舶を稼働することができない。陸上でそれらの作業を行うもう一つのデメリットは、船舶が稼働している環境下で検査を行うことができない、すなわち、船体が受ける水流の状態が十分に把握できない、という点である。航行中の実際の水流の状態を把握できれば、運航方法や燃費を改善するための情報を得ることができる。船体の洗浄や表面処理を行うための工具を含む各種工具を用いれば、船体に付着した生物を除去し、船体抵抗を低減し、燃費を向上することができる。
【0003】
生物汚損は、船体に付着した生物が船体抵抗を大幅に増加させ、船舶の流体力学的な性能を低下させ、燃料消費量を大幅に増加させるため、船舶運送における大きな課題である。生物汚損は、船体表面に薄い膜状に生物が付着することから始まり、それがより大きな水性植物、ムール貝、フジツボ等が船体に付着しやすい状況を作り出す。船体に付着した生物を除去しなければ、有機物の厚い層が形成され、その結果、船体上に生物の生息環境が確立されることになる。国際海事機関(IMO)によれば、生物汚損は生物の種を望ましくない新たな場所に拡散する主要な原因であり、環境保全の観点から望ましくない。
【0004】
防汚塗料は、例えば水流により自己研磨する塗料であり、船体に対する生物の付着を低減し、生物がより強固な汚損状態を作り出すことを遅らせるために使用される。ただし、多くの防汚塗料は環境を損なう化学物質を含み、近年、その使用が禁止されているものも多い。塗料製造業者は環境への影響が少ない、より効率的な防汚塗料の開発に懸命に取り組んでいるが、防汚塗料は生物汚損を遅らせることはできても、防汚汚損の発生を防ぐことはできない。
【0005】
最も広く行われている船体の洗浄方法は、陸上のドックにおける高圧洗浄である。高圧洗浄は船体表面の粗さを増加させる。高圧洗浄の作業は手動で行われ、船体に塗布されている塗料を滑らかな状態に維持するための自動化された作業の制御が行われることはほとんどない。そのため、高圧洗浄は長期的には船体の性能を低下させる。
【0006】
陸上のドックに船舶を持ち込むことなく船体の洗浄を行うための提案がなされている。それらの提案は、船体に付着した有機物を除去することによって、船体の流体力学的な性能を向上させることを目的としている。
【0007】
船体の外側の検査や洗浄のために遠隔操作が可能な移動体(ROV)を用いるアイデアは広く知られている(例えば、KR20170065916A、WO 01171874A1、US2011282536A1、US5947051A、及び、DK201670635A1を参照のこと)。ROVは、船舶が港内又は港外に停泊中に船体を清掃又は洗浄するためには適しているかも知れないが、船舶が航行中には大きな抵抗となり適していない。
【0008】
また、いくつかの特許には、ロープ又はワイヤの制御等によって航行中の船舶を擦って洗浄する装置が記載されており、それらのあるものは、船体と水との速度差によって駆動される回転ブラシを有する(例えば、US826012A、US702965A、EP1390257A1、US2093434A、GB2038721Aを参照のこと)。なお、ブラシを用いた洗浄の目的は、塗料の品質維持ではなく、迅速な汚損生物の除去である。
【0009】
GB2038721A、US826012A、SU893713Aには、舵を制御して自装置の深さを制御し、水中翼を用いて船体に対する自装置の姿勢を維持し、船体を洗浄する装置が記載されている。これらの文献には、海水中の抵抗を増加させるタービン等の高度な機構の使用についての記載が含まれている。例えば、船舶が6~8m/s程度の商業輸送速度で航行する場合、抵抗は非常に大きくなり、舵によってはロボットの位置を十分に制御するために必要な力を生み出すことができない。そのため、タービンや水中翼等の構造物が、装置の制御を困難又は不可能とする抵抗に抗う力を生成する主要な手段となる。US826012Aには、4つの異なるロープとクレーンを用いてユニットの方向を制御する仕組みが提案されている。GB2038721Aには、ユニットの背面に独立したロープを設けてユニットの方向を制御することで、船体に対するユニットの位置を制御可能とする仕組みが提案されている。また、SU893713Aには、装置の位置の制御に関する問題を解決するために、複数の制御線を用いる仕組みが提案されている。
【0010】
WO2005014387A1には、船舶が前進しているときに船体の外面を洗浄する装置が記載されている。この装置によれば、船体は、モータによる駆動手段によって、船体に固定された1以上のレールに係合しそれらのレールに沿って移動可能な台車に連結されている。船体は、船舶から電力の供給を受けて動作するモータ、もしくは、水中の移動に伴い動作する1以上のタービンにより駆動される回転ブラシによって洗浄される。ただし、船体に対し確実に正しい姿勢で対峙するように装置を水中に配備するための積極的な手段が見つかっていない。装置が船体に対し誤った姿勢で配備されると、装置及び船体の少なくとも一方が損傷を受ける危険性がある。回転ブラシ、モータ、制御機構、タービン等の複雑な構造を採用すると、洗浄装置は流体力学的に非効率となり、大きな抵抗を生じる。複雑な装置は抗力を発生させ、その結果、作動舵からの操舵力と装置からの抗力との間の力ベクトルが、密度と共に、ロープの水平に対する偏差角度を決定する。従って、装置は水平に対する偏差角度が小さいアンカーポイントを有する必要があり、また、船体のほとんどの部分に到達するための手段として、さらに可動式のロープアンカーポイントを有する必要がある。
【0011】
WO2005014387A1に記載の装置は、複数の可動部を有し、比較的複雑であり、船体に固定された1以上のレールを必要とする。これらの技術的な構成はいずれもサイズが大きく、輸送中に大きな抗力を発生し、装置の取り扱いを複雑にしている。ロープの偏差角度が小さいと、抗力は舵の力に比べて大きくなり、装置が船体の大部分に到達できなくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、船舶が航行中に船体の外側を保守及び検査する方法及び装置であって、上述した方法及び装置と比較し簡単で信頼性の高い方法及び装置を提供することである。
【0013】
当業者が本明細書を読めば、本発明の他の目的もまた明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、一実施態様として、船舶が航行中に、水中において前記船舶の船体の監視及び保守を行うためのロボットであって、
前部と、後部と、前記前部と前記後部とを接続する直線状の中央部とを有する本体と、
前記本体の前記前部に配置され、前記ロボットを牽引するためのケーブルに前記ロボットを接続するための接続部と、
前記船舶の船体に対して接触されるために前記本体の全長に渡って配置されている基部である接触基部と、
前記ロボットの前記接触基部を前記船舶の船体に向かい押し付けるように、前記本体の長手方向の軸に対し垂直に配置された1以上の水中翼と、
前記本体の前部に、前記本体の長手方向の軸に垂直に配置された舵と
を備え、
前記本体は直線的な細長い形状で、幅方向の長さに対する長手方向の長さの比率が5以上であり、
前記本体の長手方向の軸に対する垂直方向における前記1以上の水中翼の各々の長さは、前記本体の幅方向の長さよりも長く、
前記接続部は、前記1以上の水中翼のいずれかの端部、又は、前記本体から前記1以上の水中翼と平行に延伸するアームに配置されている
ロボットを提供する。
直線的な細長い形状の本体は、船体の監視及び保守の少なくとも一方のための作業中にロボットの姿勢の安定性を保つために重要である。また、直線的な細長い形状の本体は、例えばロボットが作業中に船体の表面に対し実質的に平行な方向である本体の長手方向の軸から離間して横方向に配置されているケーブルを接続するための接続部と共に、ロボットが配備され船体に近づく際に、ロボットが正しい姿勢で船体に対峙していることを確認するために重要である。
【0015】
一実施例において、前記ロボットは、前記本体の前記前部に配置される前方水中翼と、前記本体の前記後部に配置される後方水中翼を備え、前記前方水中翼と前記後方水中翼は実質的に互いに平行に、かつ前記接触基部により規定される平面に対し実質的に平行に、配置されている。
【0016】
一実施例において、前記ロボットは、前記本体の後端に、前記本体の長手方向に対し実質的に垂直に、かつ、前記1以上の水中翼に対し垂直に配置されている固定式姿勢安定用フィンを備える。本体の後端に配置されている固定式姿勢安定用フィンは、ロボットの姿勢の安定性をさらに向上させ、ロボットの本体の長手方向の軸が、船体に沿った水流の方向に実質的に平行となることを確実にする。本体の方向が水流と実質的に平行となる姿勢で本体を維持することによって、ロボットに沿って流れる水流によりロボットに対し生じる抗力と横方向の力が低減される。その結果、舵によって、ロボットの横方向の動きが容易に制御可能となる。
【0017】
一実施例において、前記固定式姿勢安定用フィンは前記本体の一部である。
【0018】
一実施例において、前記ケーブルを接続するための前記接続部は、前記前方水中翼の外側端部の近傍に配置される。
【0019】
前記船体に対し前記ロボットを接触するための脚部が、前記前方水中翼の、前記ケーブルを接続するための前記接続部が配置される側と同じ側の端部に配置されてもよい。
【0020】
一実施例において、前記前方水中翼は前記本体に対して非対称に配置され、前記前方水中翼のうち前記ケーブルが取り付けられる側の部分が、前記前方水中翼のうち当該部分と前記本体を挟んだ反対側の部分よりも長い。
【0021】
前記接触基部の外側表面には、固定式ブラシ、硬質ローラ、スクレイパー、及び、研磨部材のうちの1以上が配置されてもよい。
【0022】
一実施例において、前記接触基部、又は、前記接触基部の1以上の構成部が、交換可能である。接触基部、又は、接触基部の構成部が交換可能であると、消耗した定式ブラシ、硬質ローラ、スクレイパー、又は、研磨部材を新しいものに変更したり、必要に応じて接触基部を新しいものに変更したりできる。
【0023】
ロボットに、データを取得するセンサ、カメラ、及び、検査装置のうちの1以上が配置されてもよい。
【0024】
本発明は、一実施態様として、船舶が航行中に水中において前記船舶の船体の監視及び保守を行うための方法であって、
上述のロボットを前記船舶の船体上に配置する(a)工程と、
前記ロボットが備えるケーブルの長さを調整して、前記船舶の船体に沿った長手方向における前記ロボットの位置を調整する(b)工程と、
前記ロボットが備える舵を調整し、前記ロボットが前記船舶の進行方向を縦断する方向に1回以上移動するように前記ロボットの深さ方向における位置を調整する(c)工程と、
前記ケーブルの長さを調整して、前記長手方向における前記ロボットの位置を調整する(d)工程と、
前記船舶の船体の所定領域に関する監視及び保守の少なくとも一方が完了するまで、前記(c)工程及び前記(D)工程を繰り返す(e)工程と
を備える方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、一実施形態に係る船体保守用のロボットが船体上で作業を行っている状態を示した図である。
図2図2は、一実施形態に係るロボットの斜視図である。
図3図3は、図2に示したロボットを、作業時に船体に接触する側から見た図である。
図4図4は、図2に示したロボットの詳細図である。
図5図5は、一実施形態に係る左舷用のロボットと右舷用のロボットを対比して示した図である。
図6図6は、一実施形態に係るロボットの調整可能な水中翼を示した図である。
図7A図7Aは、一実施形態に係るロボットの位置調整の様子を例示した図である。
図7B図7Bは、一実施形態に係るロボットの位置調整の様子を例示した図である。
図7C図7Cは、一実施形態に係るロボットの位置調整の様子を例示した図である。
図7D図7Dは、一実施形態に係るロボットの位置調整の様子を例示した図である。
図7E図7Eは、一実施形態に係るロボットの位置調整の様子を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明に係る船体1と、船体1に接触しているロボット2の主要部分を示した図である。ケーブル3は、ロボット2と船上に配置されたウィンチ4の各々に取り付けられている。ケーブル3の長さは、ウィンチ4により調整可能である。
【0027】
図2等に示されるように、ロボット2は、細長い本体5を備え、本体5の前部を横断するように前方水中翼6が配置されており、本体5の後端部に後方水中翼7が配置されている。前方水中翼6と後方水中翼7は、実質的に互いに平行に配置されており、かつ、本体5の長手方向の軸に対して実質的に垂直に配置されている。舵8は、本体5の前部に、本体5と前方水中翼6の両方に対し実質的に垂直に配置されている。固定型姿勢安定用フィン9は、本体5及び後方水中翼7の両方に対して実質的に垂直に配置されている。図示された実施形態における前方水中翼6は、本体5に対して対称的には配置されていない。脚部10は、前方水中翼6の長い方の部分の端部に配置されている。ロボット2を牽引するためのケーブル3にロボット2を接続するための接続部21は、図示された実施形態においては、前方水中翼6の長い方の部分の外側端部に配置されている。
【0028】
本体5は、中央部と、中央部を介して接続された前部及び後部を備え、ロボット2が作業中に生じる抗力ができるだけ小さくなるように、直線状の細長い形状をしている。接触基部13は、実質的に平坦な表面を有し、ロボット2が作業中に船体1に対して接触するように、本体5の側面に沿うように配置されている。接触基部13は本体5の長手方向における大部分を占め、本体5の長手方向における接触基部13の長さは、幅方向における長さより実質的に長い。船体1に接触する構成部である接触基部13の表面の構成は、ロボット2により行われる作業の種類に応じて変わる。ロボット2が船体1の監視のみに使用される場合は、ロボット2と船体1との間に生じる摩擦力ができるだけ小さくなるように、接触基部13の表面は滑らかに構成される。一方、ロボット2が船体1の保守に用いられる場合は、接触基部13の表面はその作業に適した構成を備え、例えば、ブラシ、研磨部材、スクレイパー、ローラ等を備える。接触基部13は、行う保守作業に使用される同種又は異種の表面素材で覆われた2以上の部分に分割されていてもよい。例えば、フジツボ等を粉砕又は除去するために、スクレイパーやローラが使用されてもよいし、生物の被膜及び粉砕されたフジツボの少なくとも一方を除去するために、通常の、もしくは研磨性能を有するブラシが使用されてもよい。船体1の外面を平滑化するために、研磨素材が接触基部13の表面に採用されてもよい。また、ロボット2が異なる時に異なる目的のために使用できる柔軟な装置の役割を果たせるように、接触基部13の表面の全て又は一部が交換可能であることが望ましい。
【0029】
典型的な例では、本体5の幅方向における長さに対する長手方向における長さの比率は5以上、すなわち、本体5の長さは本体5の幅の5倍以上である。より好ましい例では、本体5の幅方向における長さに対する長手方向における長さの比率は約8であるが、その比率が10以上であってもよい。幅方向の長さに対する長手方向の長さに比率が大きい形状の本体5と、本体5の後部に配置された固定型姿勢安定用フィン9と、本体5の前部に配置された舵8とによりロボット2は安定し、作業中にロボット2の鉛直方向における移動が容易に制御可能である。
【0030】
図に示される実施形態に係るロボット2は、本体5の一方に配置されている部分が本体5の他方に配置されている部分よりも長くなるように、本体5に対し非対称的に配置されている前方水中翼6を有する。また、この実施形態においては、脚部10は前方水中翼6の長い方の部分の外側端部に配置され、本体5から見える。ケーブル3は、前方水中翼6の脚部10に近い位置に配置された接続部21に接続されている。
【0031】
本実施形態に係るロボット2は、簡単な構造のクレーン等によって、船舶の甲板の位置から吊り上げられ、船舶の一方の側面に吊り下ろされて、配備される。ロボット2がケーブル3に吊り下げられ、その尾部が水中に入る前の状態においては、ロボット2の後部又は尾部に対し、前部又は首部と比較し強い風があたり、尾部を下げる方向のモーメントが生じる。ケーブル3に吊り下げられているロボット2が航行中の船舶から海中に吊り下ろされて、ロボット2の後部が先に海水に触れると、ロボット2はその後部が下流方向に向くように回転する。本体5の長手方向の軸に対し、ケーブル3が本体5に接続される点が非対称な位置に配置されていることは、ロボット2を海中に入れる際に特別な措置を施すことなくロボット2に望ましい姿勢を取らせるために重要な役割を果たす。
【0032】
前方水中翼6及び後方水中翼7は翼形状を有し、水中で移動すると、本体5と脚部10を船体1に向かって押し付ける方向の力を生じ、その結果、前方水中翼6及び後方水中翼7は、船体1と実質的に平行に配置され、固定型姿勢安定用フィン9と舵8は、船体1に対して実質的に垂直に配置される。船体1に対して接触する脚部10の表面は、船体1との間で生じる摩擦力ができるだけ小さくなるように滑らかであることが望ましく、例えば、低摩擦素材で被覆されている。また、脚部10に1以上のローラを配置し、脚部10と船体1との間に生じる摩擦力を低減するようにしてもよい。
【0033】
洗浄装置は、船体1に接触している本体5の接触基部13の表面に配置される。洗浄装置は、除去又は低減の対象の汚れの性質に応じて、ブラシ、研磨部材、スクレイパー、1以上のローラ等であってもよいし、それらの種類の装置の1以上の組み合わせであってもよい。洗浄装置の種類にかかわらず、洗浄の作業はロボット2の縦方向又は横方向の移動に伴い実施され、その結果、回転ブラシを用いる従来技術に係る仕組みと比較し、ロボット2の可動部品の点数が最小限で済む構成となっている。洗浄装置には、スライム、藻類、海藻、昆布などの比較的柔らかい汚れを除去するためのブラシが使用される。硬質な素材のローラやスクレイパーは、ブラシを用いた汚れの除去に先んじて、フジツボやムール貝を粉砕するために必要となる場合がある。研磨部材、又は研磨性の毛を有するブラシは、船舶と水の間に生じる摩擦力を低減するために船体1の表面を平滑にする目的で使用される。また、表面が平滑であれば汚れが付着しにくいため、研磨後は汚れの付着が低減される。
【0034】
通常、本実施形態に係るロボット2は、船舶が外洋である程度の速度で航行しているときに使用される。船舶の速度は船舶の種類や船舶に積まれている貨物の有無によって変化する。例えば、石油を満載した大型タンカーは、一般的に12-15ノットの速度で航行するが、バラストのみを積んだ状態での航行速度はその半分程度となる。クルーズ船や貨物船等の他の種類の船舶は、状況によるが、一般的にタンカーよりも高速で航行する。
【0035】
本実施形態に係るロボット2は、翼形状の水中翼6及び7に沿って流れる水流により生じる力によって、船体1に対し押し付けられ保持される。それらの水中翼によって生じる力の大きさは、翼の表面上を流れる水の速度、すなわち、船舶の航行速度、水流に対する翼の角度、翼の断面の大きさ、翼全体の大きさ等によって変化する。翼により生じる力が小さすぎると、洗浄や研磨の効率が低下したり、ロボット2が船体1の固定されずに船体1から周囲の水中へと剥がれ出たりする。一方、翼に生じる力が強すぎると、ロボット2と船体1の間に生じる摩擦力が大きくなりすぎて、船体1の外面上においてロボット2が必要な移動を十分にスムーズに行えなかったり、移動できずに停止したりする。
【0036】
船舶が通常の速度で航行する際に生じる、ロボット2が船体1に向かって押し付けられる力が、船舶が様々な速度で航行する際に生じる力として1度のみ設定されてもよい。また、ロボット2が様々な状況下で柔軟に使用可能となるように、必要に応じて、翼そのもの、水流に対する翼の取り付け角度、翼の断面形状等が、ロボット2が海中に入れられる前に、もしくは海中に入れられた後に遠隔操作によって、調整されてもよい。
【0037】
図6は、翼によって生成される船体に向かう力が自動調整されるようにバネ12で付勢されたフラップ11を備える水中翼6及び7を示した図である。図示されたバネ12が、ロボット2が配備される前に調整可能なロック装置や、遠隔制御可能なアクチュエータによって置き換えられてもよいことは、当業者にとって容易に理解できる。また、例えば翼の長手方向に平行な軸周りに翼の前方部分が回転された後にネジ等によって固定されて、もしくは、ゴム等の弾性材料で作られた水中翼を用いることによって、水流に対する翼の相対的な角度が調整されてもよい。
【0038】
上述のように、船体1の外側面を洗浄するためにロボット2が水中に投入されると、ロボット2は、自動的に、その長手方向の軸が実質的に船舶の長手方向の軸、及び、船体1の外側表面に対し平行となる姿勢をとる。その姿勢は、本体5の前端部付近に配置されている舵8と、本体5の後端部付近に舵8と距離をおいて配置されている固定型姿勢安定用フィン9によってもたらされる。その結果、ロボット2は、舵8を制御することによって、ロボット2の長手方向の軸に対し横断する方向に移動することができる。ロボット2は、舵8を第1の方向に回転させることによって、船体1の前進に伴い生じる水流の方向を横切る第1の方向に向かう力を受け、舵8を第1の方向と逆方向に回転させることによって、第1の方向と逆方向に向かう力を受ける。ロボット2は、舵8をある方向に回転させたり逆方向に回転させたりすることによって、横方向に所定距離だけ移動でき、その移動に伴い、洗浄面が船体1のある領域の上を移動しながら、洗浄面の性質に応じて、船体1を洗浄又は研磨する。そのように、ロボット2は水面から船底までの範囲で横方向に移動して、ロボット2が接触する船体1の船側及び船底を洗浄する。
【0039】
なお、ビルジキールがロボット2の移動における障害となり、船体1のうちビルジキールよりも深い部分にロボット2が到達困難な場合がある。ただし、汚れとなる生物は日光を必要とし、水面に近い領域において最もよく成長するため、水中深い部分における汚れの問題はさほど深刻ではない。従って、水面からビルジキールに至る船体1の領域が洗浄できれば、多くの場合、船舶がドックを出た後、次にドックに入るまでの期間の洗浄としては十分である。
【0040】
ロボット2が船体1の1つの区画の洗浄を終えると、上述した制御によりロボット2が再度、洗浄のための移動を行う前に、ケーブル3の長さが調整される。ケーブル3の長さは、ある長さにおいてロボット2が洗浄する領域と、次の長さにおいてロボット2が洗浄する領域とがわずかに重複するように調整されることが望ましい。そのように、船舶の船体1は区画毎に順次、洗浄される。
【0041】
図4は、舵8及び舵8を制御する機構の一実施例を示している。舵8が有線通信手段又は無線通信手段によって制御されてもよい点は、当業者にとって容易に理解される。舵8は、ロボット2が作業する状態において、ロボット2の長手方向の軸に対して実質的に垂直に船舶の船体1から延伸するように配置されている。舵8は、アクチュエータ14によって制御される舵軸15上に配置されている。舵軸15は、アクチュエータ14によって直接制御されてもよいし、図示されているようにギアを介して制御されてもよい。
【0042】
舵8の回転に抗うように生じる力が実質的に相殺されるように、舵8の一部が舵軸15の上流側に配置され、他の一部が舵軸15の下流側に配置され、それらのバランスが調整されていることが望ましい。そのようなバランスの調整された舵8を用いることによって、舵8の回転に要する力が少なくて済み、その結果、ロボット2の制御に要する電力消費が低減される。そして、バランスの調整された舵8の使用によってロボット2の消費電力が十分に小さく抑えられる結果、ロボット2に内蔵されるバッテリが電源として使用でき、ケーブルを介した電力供給が不要となる。
【0043】
鳥瞰図に示されるように、好ましい実施態様に係るロボット2は本体5に対し非対称な形状をしているため、右舷で使用されるロボット2と左舷で使用されるロボット2は異なる。図5は、前方水中翼6と舵8の固定を解除した後、それらを回転させて、左舷用のロボット2を右舷用のロボット2に、また、右舷用のロボット2を左舷用のロボット2に、変換できることを示している。
【0044】
本実施形態に係るロボット2は、上述のように海中に投入された後、ロボット2が船舶の長手方向における適した位置に配備されるように、ケーブル3の長さが調整される。その後、ロボット2は、舵8を調整することによって、左舷又は右舷において、横方向に移動する。このロボット2の横方向の移動に伴い、洗浄面が船体1に対しスライドする。本実施形態に係るロボット2が、プロペラ、スラスタ、アクティブ・ウェーブ・ダンパー等の洗浄には適さず、また、電球を洗浄することも困難である点は、当業者にとって容易に理解できる。しかしながら、船体1の大部分は、本実施形態に係るロボット2によって洗浄可能であり、ロボット2により洗浄できないそれらの部分は、船舶が港内又は港外で停泊中に他の手段によって洗浄すればよい。
【0045】
図7A図7Eは、ロボット2を制御又は調整する複数の方法を示している。図7Aは上述した実施形態の方法を示しており、一方がロボット2に取り付けられているケーブル3の他方がウィンチ4に接続されている。ケーブル3は、符号4で示される船舶の甲板上の最前部に配置されたウィンチのプーリーを介してその方向が定められるが、ウィンチの位置は図示された位置と異なる位置であってもよい。
【0046】
また、図7Bに示されるように、ケーブル3が船首近くに配置されたクレーン17のブームを介して船舶に接続されてもよい。クレーン17を用いれば、ロボット2を船体1から離れた位置で吊り上げたり吊り下げたりすることによって、海中にロボット2を投入する作業と、海中のロボット2を吊り上げる作業が容易となる。さらに、クレーン17によれば、図7Aに示される構成によっては到達が不可能又は困難な船体1の最前部の領域にまでロボット2を到達させることができる。
【0047】
図7C図7A及び図7Bの代替となる構成を示しており、この例では、船体1の最前部に対するロボット2の到達を容易とするように、ケーブル3がウィンチ4から、船体1の最前部に配置されたプーリー18を通った後、ロボット2に取り付けられている。
【0048】
図7D及び図7Eは、船舶の甲板に沿って配置された図示されない線路の上を走行するトローリー19を用いる場合を示している。図7Eの構成においては、ロボット2が、図7Cの構成におけるケーブル3に加え、トローリー19に接続されたケーブル20にも接続され、ケーブル20によってロボット2の垂直方向における位置が制御される。この構成によれば、垂直方向及び水平方向の両方において、ロボット2の位置をより容易に制御できる。図7D図7Eと類似しているが、ケーブル3を備えず、ロボット2の位置がトローリー19及びケーブル20のみによって制御される。
【0049】
船舶の長手方向におけるロボット2の位置が、ケーブル3の長さによって算出可能であることは、当業者によって容易に理解される。ロボット2の洗浄中の横方向における位置を予測又は確認することは容易ではない。ロボット2の横方向の動きに関するより正確な情報を取得し、洗浄対象の表面が実際に洗浄されていることを確認するために、ロボット2及び船舶の少なくとも一方に搭載されているセンサが用いられることが望ましい。ロボット2の横方向における動きや位置に関する情報は、ロボット2に配置されてロボット2の水深を常時測定する圧力センサ、ロボット2の船舶上のビルジキール等の基準物や水面までの距離を測定する距離センサ、及び、加速度計等の1以上を用いて、確認又は計算されてもよい。それらの利用可能な情報源からの情報を組み合わせることによって、ロボット2の位置と動きが計算され、ロボット2が今どこにあり、ロボット2の移動範囲が意図した領域をカバーしていることが確認されてもよい。
【0050】
船体1における生物汚損の状態、保守作業中におけるロボット2がカバーする領域、船体1に対し行われた作業の成果、船体1の損傷、流量等を監視したり、様々な種類の非破壊検査方法等を実行したりするために、センサ、カメラ、及び、試験装置がロボット2に接続されてもよい。ロボット2が船舶に搭載されているときにセンサ、試験装置、及び、カメラのうちの1以上により取得されたデータは、ロボット内のデータ取得モジュールに保存されてもよいし、無線通信又は有線データ接続を介して、船舶の他の装置に送信されてもよい。
【0051】
本発明の技術的思想に従い設計された2台の異なるロボットの各々を、船速3ノット、5ノット、7ノット、又は、9ノットで航行する、船長22メートルのタグボートと船長11メートルのエビ漁用のトロール船の側面の水深2メートルの位置に配備して実験を行った。それらのロボットの長さは1.2~1.5メートルであり、質量は4~7キログラムであった。全ての実験において、ロボットは水に達するとすぐさま、船舶と平行で、前部が船首に向かい、後部が船尾に向かい、舵が船体から離れる方向に延伸する姿勢となった。船速が7ノット以上の全ての実験において、数秒以内に水中翼がロボットを船体に向かって押し付け、ロボットの接触基部が船体の側面に接する状態となった。船速が7ノット以上の全ての実験において、ロボットの本体は船体に沿って流れる水の水平面における方向に対し5度以内の角度を維持していた。全ての実験において、鉛直方向に対するケーブルの角度は45度から30度の間であり、舵が生み出す力の方が、装置が受ける抗力よりも大きいことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
【国際調査報告】