(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】食後血糖応答を制御するための乳清タンパク質ミセルの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/20 20060101AFI20220803BHJP
A23L 33/19 20160101ALI20220803BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20220803BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220803BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
A61K35/20
A23L33/19
A61P3/04
A61P3/10
A61K9/107
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568377
(86)(22)【出願日】2020-06-11
(85)【翻訳文提出日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2020066187
(87)【国際公開番号】W WO2020249666
(87)【国際公開日】2020-12-17
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100217157
【氏名又は名称】野村 梨沙
(72)【発明者】
【氏名】ボヴェット, リオネル ジャン レネ
(72)【発明者】
【氏名】ダリモント-ニコラウ, クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】エグリ, レオニー
(72)【発明者】
【氏名】リッツ, アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE05
4B018MD14
4B018MD20
4B018MD23
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4B018ME01
4B018ME03
4C076AA17
4C076BB01
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4C087AA01
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4C087BB39
4C087CA07
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA70
4C087ZC35
(57)【要約】
乳清タンパク質ミセル(WPM)を含有する組成物を個体に経口投与する工程と、その後、WPMを含有する組成物の経口投与後かつWPMを含有する組成物の経口投与の約1時間以内に、食事を個体に経口投与する工程と、を含む、食事に由来する食後血糖を低減するための方法。例えば、食事は、WPMを含む組成物の投与の約30分後に投与することができる。食後血糖は、乳清タンパク質分離物を含む相当組成物の投与に由来する食後血糖と比較して、低減される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食事に由来する食後血糖を低減する方法であって、
乳清タンパク質ミセル(WPM)を含む組成物を個体に経口投与する工程と、
その後、前記WPMを含む前記組成物の前記経口投与後かつ前記WPMを含む前記組成物の前記経口投与の約1時間以内に、前記個体に前記食事を経口投与する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記個体が、過体重、肥満、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病及び前糖尿病からなる群から選択される少なくとも1つの状態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
食事に由来する食後血糖の低減が有益である少なくとも1つの状態を治療又は予防する方法であって、
治療又は予防を必要とする個体又はそのリスクがある個体に、乳清タンパク質ミセル(WPM)を含む組成物を経口投与する工程と、
その後、前記WPMを含む前記組成物の前記経口投与後かつ前記WPMを含む前記組成物の前記経口投与の約1時間以内に、前記個体に前記食事を経口投与する工程と、
を含む、方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの状態が、過体重、肥満、前糖尿病及び糖尿病からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記WPMを含む前記組成物が、飲料又は準完全栄養の経口栄養補助食品(ONS)などの液体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が、約5.0g~約60.0gの前記WPMを含むサービング、好ましくは、約5.0g~約30.0gの前記WPMを含むサービング、好ましくは約5.0g~約15.0gの前記WPMを含むサービング、好ましくは約10.0gの前記WPMを含むサービングで、前記個体に投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、前記WPMと、更なるタンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、及び風味剤からなる群から選択される少なくとも1つの追加成分と、を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記食事が、前記WPMを含む前記組成物の投与の約10分後~約1時間後、好ましくは前記WPMを含む前記組成物の投与の約10分後~約40分後に投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記食事が、前記WPMを含む前記組成物の投与の約30分後に投与される、又は前記食事が、前記WPMを含む前記組成物の投与の約10分後に投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記食事が朝食である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記個体の前記食後血糖が、同じ食事前時間に投与された、同量の乳清タンパク質を乳清タンパク質分離物の形態で含む組成物の投与時の食後血糖と比較して低減される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記個体は、前記WPMを含む前記組成物の前記個体への経口投与から、前記食事の前記個体への経口投与までの期間中に、任意の水分補給以外にいかなる食品製品も摂取しない、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
治療又は予防を必要とする個体又はそのリスクがある個体における食後血糖応答の増加に関連する少なくとも1つの状態の治療又は予防に使用するための乳清タンパク質ミセル(WPM)であって、前記乳清タンパク質ミセルが、通常の食事の投与前約1時間以内に前記個体に提供される、乳清タンパク質ミセル。
【請求項14】
前記状態が、過体重、肥満、前糖尿病、及び糖尿病からなる群から選択される、請求項13に記載の乳清タンパク質ミセル。
【請求項15】
食事に由来する食後血糖の低減に使用するための乳清タンパク質ミセル(WPM)であって、前記乳清タンパク質ミセルが、前記食事の投与前約1時間以内に個体に提供される、乳清タンパク質ミセル。
【請求項16】
前記食事が、前記WPMの投与の約10分後~約1時間後、好ましくは前記WPMの投与の約10分後~約40分後に投与される、請求項13~15のいずれか一項に記載の乳清タンパク質ミセル。
【請求項17】
前記食事が、前記WPMの投与の約30分後、又は前記WPMの投与の約10分後に投与される、請求項16に記載の乳清タンパク質ミセル。
【請求項18】
前記乳清タンパク質ミセルが、組成物の1サービング当たり約5.0g~約60.0gの前記WPM、好ましくは組成物の1サービング当たり約5.0g~約30.0gの前記WPM、好ましくは組成物の1サービング当たり約5.0g~約15.0gの前記WPM、例えば組成物の1サービング当たり約10.0gの前記WPMを含む組成物で提供される、請求項13~17のいずれか一項に記載の乳清タンパク質ミセル。
【請求項19】
前記WPMが、飲料又は準完全経口栄養補助食品(ONS)などの液体組成物の形態で提供される、請求項13~18のいずれか一項に記載の乳清タンパク質ミセル。
【請求項20】
前記WPMが、前記WPMと、更なるタンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、及び風味剤からなる群から選択される少なくとも1つの追加成分と、を含む液体組成物の形態で提供される、請求項13~19のいずれか一項に記載の乳清タンパク質ミセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、食後血糖(PPG)応答を低減させるために、その後の食事投与の前に投与される、乳清タンパク質ミセル(WPM)の使用に関する。本発明はまた、対象における食後血糖の増加に関連する疾患の治療及び/又は予防に使用するための、その後の食事投与の前に投与される、乳清タンパク質ミセルに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、身体がインスリンを産生又は使用できないことにより生じる高血糖値を主な特徴とする代謝状態である。高血糖症は、失明、四肢切断、心臓発作、又は脳卒中を含む多くの臨床的合併症を引き起こす可能性がある。
【0003】
最も一般的なタイプの糖尿病は、インスリン依存性糖尿病(1型糖尿病T1D)及び非インスリン依存性糖尿病(2型糖尿病T2D)である。最も多く認められるタイプは2型糖尿病(T2D)であり、主に肥満率の増加に伴い増加している。
【0004】
更に、正常値よりは高いが、糖尿病と診断されるほど高くはない血糖を有すると定義される前糖尿病状態は、糖尿病人口の大幅な増加に関係している。
【0005】
インスリン抵抗性(低インスリン感受性)は、妊娠中の対象においても生じる。このインスリン抵抗性は、妊娠中の対象から胎児への栄養素の移動を確実にするよう働くホルモン変化に起因する。上記のように、インスリン抵抗性に応答して、膵臓はより多量にインスリンを分泌して補償し得る。これらの対象は、耐糖能障害(以下、IGT)を有するとみなされる。最終的に、膵臓は、身体のインスリン需要の増加に対応できず、2型糖尿病につながる場合がある。妊娠中の発症又は最初の認識を伴う任意の程度のグルコース不耐性は、妊娠糖尿病(GDM)と呼ばれる。
【0006】
2型糖尿病の発症の病態生理学は、複雑かつ多因子である。肥満、座りがちな生活スタイル、及び/又は加齢は、経時的にインスリン抵抗性及び循環インスリン濃度の増加につながる可能性がある。ある時点で血糖の制御低下が現れ始め、耐糖能障害(IGT)又は空腹時血糖障害(IFG)が引き起こされ、最終的には2型糖尿病となり得る。したがって、IGT及びIFGは、正常なグルコース恒常性と糖尿病との間の中間的な代謝状態を指す。
【0007】
更なる試験、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を実施して、患者が糖尿病であるか、又はIGTを有するかについて評価することができる。OGTTは、75gのグルコースを含有するグルコース飲料を含む。この飲料の投与から1時間後及び2時間後に患者の血糖値を測定する。
【0008】
グルコースは人体にとって必須栄養素であることから、末梢組織に適切な量を供給するために、その循環血中濃度を注意深く一定に維持しなければならない。肝臓は、グリコーゲン合成を介したグルコースの取り込み及び貯蔵と、グリコーゲン分解及びグルコース新生によるその放出とのバランスをとることによって、グルコースの恒常性において中心的な役割を果している。グルコースの恒常性の障害は、2型糖尿病の典型的な特徴である。2型糖尿病患者は、肝臓グルコース産生(HGP)の増加を示す。この増加は空腹時低血糖症の主要原因として特定されており、血漿グルコースクリアランスの低下を伴い(Gastaldelli A,et al.,Diabetes 2000;49:1367~1373)、更には非糖尿病の対象と比較してグリコーゲン合成の25~45の%減少も伴う(Roden M,et al.,Best Pract Res Clin Endocrinol Metab.2003;17:365~83)。
【0009】
最適な血糖管理は、糖尿病の管理の基本である。空腹時血漿グルコース(FPG)及び食後血漿グルコース(PPG)の値はいずれも合併症のリスクと相関があり、糖化ヘモグロビン(A1C)の測定値に関係する。7.0%超のA1C値は、微小血管合併症及び心血管(CV)合併症の両方のリスクの有意な増加と関連がある。PPGは、高血糖症全般に関する重要な要素であり、A1Cのゴールが近い患者及び中高年者においては主要な要素であり得る。
【0010】
PPGは、いくつかの因子をもとに、例えば、食事の総カロリー量、主要栄養素の組成、及び炭水化物の質(例えば、血糖指数/血糖負荷)をもとに決定され、これらは全て監視及び制御され得る。しかしながら、T2Dなどの疾患に関与するその他複数の因子は、制御することができず、個体間で様々であることから、より複雑である。これらの因子としては、胃内容物排出速度、腸管吸収速度、腸内分泌細胞によるインクレチン分泌(enteroendocrine incretin secretion)、インクレチン感受性、膵臓ベータ細胞のインスリン分泌機能、肝臓のインスリン消費率(insulin extraction)、肝臓グルコース産生、グルコース有効性、全ての組織(特に、脳、脂肪、肝臓、筋肉)におけるグルコース取り込み、インスリン感受性、及び腎グルコース再吸収が挙げられる。
【0011】
糖尿病患者における食後血糖のピークを制限することは、血糖管理戦略全般において重要な目標となっている。糖尿病においては、PPGが制御不良であることが一般的である。この制御不良は高血糖症全般に関与し、予後不良と関連がある。したがって、PPGを特異的に標的とする治療候補は、1型糖尿病(T1D)及び2型糖尿病(T2D)を有する患者における血糖管理を達成及び維持するための重要な要素であり、前糖尿病者が糖尿病と診断される状態に進行することを予防する可能性がある。
【0012】
複数のエビデンスが、2型糖尿病の管理及び予防の両方における、食後血糖の重要性を明らかにしている。食後血糖は、HbA1cが8%未満の2型糖尿病患者、すなわち、良好に管理された糖尿病患者又は前糖尿病患者における総グルコース変動に対する主な寄与因子であることが示された。前糖尿病状態は、世界中で急速に増加しており、主に年齢及びBMIに関連する。過体重及び肥満集団における食後血糖応答を制御することは、2型糖尿病のリスクがある場合も、この疾患の予防にとって重要であると考えられる。
【0013】
タンパク質はインスリン分泌を促進することが知られており、高タンパク食には、2型糖尿病の対象において血漿グルコース及び空腹時トリグリセリドを低下させる可能性がある(Van Loon LJ et al.,2000,Am J Clin Nutr 72:96~105;Gannon MC et al.,2003,Am J Clin Nutr 78:734~741)。Shertzer HGらによって発表された更なる研究(2011,J Nutr 141:582-587)によると、マウスに投与した食餌の乳清タンパク質分離物が、代謝性疾患のリスク及び高脂肪食の摂取に関連する糖尿病発症のリスクを低減した。国際公開第2011/112695号は、乳清タンパク質がもたらす健康上の利益として、糖尿病患者に好適な血糖の管理が挙げられることを開示している。最近の研究では、食事の30分前に乳清タンパク質分離物(25~50g)を摂取することは、健康な対象又は2型糖尿病の対象において食後糖血症を低下させた(Ma J.,et al.,Diabetes Res Clin Pract.2015 May;108(2):e31~4;Jakubowicz D.,et al.,Diabetologia.2014 Sep;57(9):1807~11)。低用量の乳清タンパク質分離物を試験したある研究では、健康な成人において、10gの乳清タンパク質分離物を食事の30分前に摂取させることで、インスリン分泌を変化させることなく血糖変動を低減できることを報告している(Akhavan T.,et al.,Am J Clin Nutr.2010 Apr;91(4):966~75)。
【0014】
食品産業において、糖尿病の対象又は2型糖尿病を発症するリスクを有する対象に与えられる、栄養的解決策(nutritional solution)を更に改善することが引き続き必要とされている。
【0015】
本発明の目的は、現状の技術水準を改善すること、及び対象、特に糖尿病の対象又は2型糖尿病発症のリスクがある対象において、食後血糖プロファイルを改善するための新規かつより良好な栄養的解決策を提供することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本明細書でより詳細に記載されるように、本発明者が実施した研究は、驚くべきことに、かつ予想外に、食前に投与された乳清タンパク質ミセル(WPM)が、乳清タンパク質分離物(WPI)と比較して食後血糖の有意な低減をもたらすことを示した。これも驚くべきことに、食事の約30分前又は更には約10分前に投与された10gのWPMとしての、少量のWPMの摂取は、食後血糖の有意な低減をもたらすのに十分であり、同量のWPIよりも有意に有効であることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、非限定的な実施形態では、本発明は、食事に由来する食後血糖を低減する方法を提供する。本方法は、乳清タンパク質ミセル(WPM)を含む組成物を個体に経口投与する工程と、次いでその後、WPMを含む組成物の経口投与後かつWPMを含む組成物の経口投与の約1時間以内、好ましくはWPMを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後かつWPMを含む組成物の経口投与の約1時間以内、例えば、WPMを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後かつWPMを含む組成物の経口投与後約40分以内、例えばWPMを含む組成物の経口投与の約30分後に、食事を個体に経口投与する工程と、を含む。
【0018】
別の態様では、本発明は、個体における食後血糖濃度の増加に関連する障害の治療及び/又は予防に使用するための乳清タンパク質ミセルを提供し、当該WPMは、通常の食事前、好ましくは食事の少なくとも約10分前かつ食前約1時間以内に提供される。
【0019】
更なる態様では、本発明は、個体における食後血糖濃度を低減させるための乳清タンパク質ミセルの使用に関し、当該WPMは、通常の食事前、好ましくは食事の少なくとも約10分前かつ食前約1時間以内に提供される。
【0020】
一実施形態では、個体は、過体重、肥満、糖尿病、及び前糖尿病からなる群から選択される少なくとも1つの状態を有する。
【0021】
例えば、WPMを含む組成物の経口投与は、食事投与の約10分前~食事投与の約1時間前、例えば、食事投与の約10分前、食事投与の約30分前などであり得る。好ましくは、個体は、(i)WPMを含む組成物の投与と(ii)食事の投与との間の期間に、任意の水分補給以外にいかなる食品製品も摂取しない。
【0022】
組成物は、1サービング当たり最大で約60gのWPM例えば、約5g~約60gのWPM、好ましくは約5g~約30gのWPM、約10g~約30gのWPM、好ましくは約5g~約15gのWPM、例えば、約10gのWPMを提供するサービングにおいて個体に投与することができる。
【0023】
一実施形態では、食事の投与前にWPMを含む組成物を投与すること(例えば、食事の約10分前又は約30分前にWPMを投与すること)によって達成される食後血糖は、同量の乳清タンパク質を、乳清タンパク質ミセル以外の形態、例えば乳清タンパク質分離物として、同じ食事前時間(the same amount of time before the meal)に投与することによって達成される食後血糖よりも低い。
【0024】
WPMを含む組成物は、準完全栄養を提供する経口栄養補助食品(ONS)であり得る。所望により、組成物は、WPMに追加して1種以上の原材料、例えば、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル、添加物、乳化剤、安定剤、及びこれらの混合物からなる群から選択される任意の追加成分を含み得る。最終製剤は、すぐに摂取できる液体状又はゲル状にすることができ、又は使用前に水で再構成される粉末状にすることができる。
【0025】
別の実施形態では、本開示は、食後血糖の低減が有益である少なくとも1つの状態を治療又は予防する方法を提供する。本方法は、WPMを含む組成物を、治療又は予防を必要とする個体又はそのリスクがある個体に経口投与する工程と、次いでその後、WPMを含む組成物の経口投与後かつWPMを含む組成物の経口投与の約1時間以内、好ましくはWPMを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後かつWPMを含む組成物の経口投与の約1時間以内、例えば、WPMを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後かつWPMを含む組成物の経口投与後約40分以内、例えばWPMを含む組成物の経口投与の約10分後~WPMを含む組成物の経口投与の約30後、例えばWPMを含む組成物の経口投与の約10分後、約20分後、又は約30分後などに、食事を個体に経口投与する工程と、を含む。一実施形態では、本方法は、WPMを含む組成物を、治療又は予防を必要とする個体又はそのリスクがある個体に経口投与する工程と、次いでその後、WPMを含む組成物の経口投与の約10分後に、食事を個体に経口投与する工程と、を含む。別の実施形態では、本方法は、WPMを含む組成物を、治療又は予防を必要とする個体又はそのリスクがある個体に経口投与する工程と、次いでその後、WPMを含む組成物の経口投与の約30分後に、食事を個体に経口投与する工程と、を含む。
【0026】
治療又は予防される少なくとも1つの状態は、好ましくは、肥満、前糖尿病、2型糖尿病からなる群から選択される。
【0027】
有利には、本発明による食前に投与される乳清タンパク質ミセル(WPM)は、乳清タンパク質分離物(WPI)と比較して、食後血糖の有意な低減をもたらす。
【0028】
更に、驚くべきことに、食事の約30分前又は更には約10分前に投与された10gのWPMとしての、少量のWPMの摂取は、食後血糖の有意な低減をもたらすのに十分であり、同量のWPIよりも有意に有効であることが示されている。更に、有利には、これにより、通常の食事前の比較的短い食前時間に投与された比較的少量のタンパク質により、食後血糖に対する大きな効果を達成することが可能になる。この効果は、食前組成物のタンパク質及びカロリーを比較的低くできるなどの多くの利点をもたらし、カロリー及び/又はタンパク質の制限された栄養という状況において、過体重、肥満、前糖尿病、又は2型糖尿病の個体のための食前組成物を提供することが可能となる。また、これにより、比較的少ない体積で食前タンパク質組成物を提供することが容易になり、組成物が使用に便利なものになる。
【0029】
追加の特徴及び利点は、以降の発明の詳細な説明及び図面に記載され、これらにより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】WPM又はWPIを食事の30分前に摂取したときの経時的なグルコース変動(ベースラインを超える)を示すグラフである。
【
図2】WPM又はWPIを食事の10分前に摂取したときの経時的なグルコース変動(ベースラインを超える)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
定義
以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0032】
パーセンテージは全て、特に明記しない限り組成物の総重量に対する重量によるものとする。同様に、比は全て、特に明記しない限り重量によるものとする。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。
【0033】
更に、本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数(integers)、整数(whole)又は分数、を含むものと理解されたい。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項をサポートすると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと解釈されたい。「~の間(between)」を使用して定義される範囲は、参照される端点を含む。
【0034】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、別途文脈が明らかに示していない限り、単数形の単語は複数形を含む。したがって、「1つの」、「ある」、及び「当該」」(「a」、「an」及び「the」)の言及には、概してそれぞれの用語の複数形が包含される。例えば、「原材料(an ingredient)」又は「方法(a method)」と言及する際は、複数の、かかる「原材料」又は「方法」が含まれる。「X及び/又はY」という文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。同様に、「X又はYのうちの少なくとも1つ」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びYの両方」と解釈されるべきである。
【0035】
同様に、「含む/構成される(comprise)」、「含む/構成される(comprises)」、及び「含む/構成される(comprising)」という用語は、排他的ではなく、他を包含し得るものとして解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは他を包含し得るものであると解釈される。しかし、本開示により提供される実施形態は、本明細書で具体的に開示されない任意の要素を含まない場合がある。したがって、用語「含む(comprising)」を用いて規定される実施形態の開示は、開示される構成要素「から本質的に構成される」、及び「から構成される」実施形態の開示でもある。「から本質的に構成される」とは、実施形態又はその構成成分が、個別に特定された構成成分を50重量%超、好ましくは個別に特定された構成成分を少なくとも75重量%、より好ましくは個別に特定された構成成分を少なくとも85重量%、最も好ましくは個別に特定された構成成分を少なくとも95重量%、例えば、個別に特定された構成成分を少なくとも99重量%含むことを意味する。
【0036】
本明細書で使用するとき、用語「例(example)」は、特に、後に用語の列挙が続く場合に、単に例示的なものであり、かつ説明のためのものであり、排他的又は包括的なものであるとみなすべきではない。本明細書で開示される全ての実施形態は、特に明示的に示されない限り、本明細書で開示される任意の別の実施形態と組み合わせることができる。
【0037】
「動物」としては、齧歯類動物、水生哺乳動物、イヌ及びネコなどの飼育動物、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマなどの家畜、並びにヒトを含むがこれらに限定されない哺乳動物が挙げられるが、これらに限定されない。「動物」若しくは「哺乳動物」、又はこれらの複数形が使用される場合には、これらの用語は、その節の文脈により示される又は示されることが意図される効果を得られる任意の動物、例えば、食後血糖の低減により利益を受ける動物にも適用される。用語「個体」又は「対象」は、本明細書において多くの場合にヒトを指すのに用いられるが、本開示はそのように限定されない。したがって、用語「個体」又は「対象」は、本明細書に開示される方法及び組成物から利益を得ることができる任意の動物、哺乳動物又はヒトを指す。
【0038】
相対用語「改善された」、「低減された」、「増強された」などは、食後血糖に対する本明細書に開示される方法の効果、特に食事投与前(例えば、食事の約30分前)にWPMを含有する組成物を投与した場合の効果を、同じ配合の食事の投与であるがWPMなし(例えば、食事の約1時間以内にWPMなし)で投与した場合と比較して、又は同じ配合の食事をWPMと並行して(すなわち、ほぼ同時に)投与した場合と比較して言及する。
【0039】
本明細書で使用するとき、「治療する」及び「治療」という用語は、ある状態を有する対象に対して、その状態に関連する少なくとも1つの症状を減弱、低減若しくは改善することを目的として、かつ/又はその状態の進行を遅延、低下若しくは阻止することを目的として、本明細書に開示される組成物を投与することを意味する。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」には、抑止的又は予防的治療(対象とする病的状態又は障害を予防する及び/又は発症を遅らせる治療)と、治癒的、治療的、又は疾患改質的治療との両方が含まれ、例えば、診断された病的状態又は障害の治癒、遅延、症状の軽減、及び/又は進行の停止のための治療的手段、並びに、疾患に罹患する危険性がある患者、又は疾患に罹患した疑いのある患者、及び体調不良の患者、又は疾患若しくは医学的状態に罹患していると診断された患者の治療が含まれる。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」は、対象が全快するまで治療することを必ずしも意味するものではない。「処置/治療」及び「処置/治療する」という用語はまた、疾患に罹患してはいないが不健康な状態を招きやすい可能性のある個体の健康を維持及び/又は促進することも指す。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」はまた、1つ又は複数の主たる予防又は治療手段の相乗作用、又はそうでない場合強化を含むことも目的としている。非限定的な例として、処置/治療は、患者、介護者、医師、看護師、又は別の医療専門家によって行うことができる。
【0040】
「予防する」及び「予防」という用語は、その状態の症状を何ら示していない対象に対して、その状態に関連する少なくとも1つの症状の発症を低減又は予防するために本明細書に開示される組成物を投与することを意味する。更に、「予防」には、状態又は障害の危険性、発生率、及び/又は重症度の低減が含まれる。本明細書で使用するとき、「有効量」とは、個体における、欠乏を治療若しくは予防する、疾患若しくは医学的状態を治療若しくは予防する、又は、更に一般的には、個体に対して、症状を軽減する、疾患の進行を管理する、若しくは栄養学的、生理学的若しくは医学的利益を提供する量である。
【0041】
「過体重」は、ヒトに関しては、体格指数(BMI)が25~30kg/m2であることとして定義される。「肥満」は、ヒトに関しては、BMIが少なくとも30kg/m2、例えば30~39.9kg/m2であることとして定義される。
【0042】
「糖尿病」には、疾患のI型及びII型の両方が包含される。糖尿病の危険因子の非限定的な例としては、ウエストラインが男性で40インチ超又は女性で35インチ超であること、血圧が130/85mmHg以上であること、トリグリセリドが150mg/dL超であること、空腹時血糖が100mg/dL超であること、又は高密度リポタンパク質が男性で40mg/dL未満若しくは女性で50mg/dL未満であることが挙げられる。したがって、「糖尿病のリスクがある個体」は、これらの因子のうちの1つ以上を有し得る。
【0043】
「前糖尿病」とは、その個体が次の特徴、すなわち、5.7~6.4%の糖化ヘモグロビン(A1C)値、100~125mg/dL(5.6~7.0mmol/L)の空腹時血糖値、又は140~199mg/dL(7.8~11.0mmol/L)の血糖値のうちの少なくとも1つを有していることを意味する。
【0044】
本明細書で使用するとき、「投与する」は、言及されている組成物を個体が摂取できるよう別の人が当該組成物を個体に提供することを含み、また、言及されている組成物を摂取する個体自身の行為のみも含む。
【0045】
用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取を意図するものであり、個体に少なくとも1つの栄養素を提供する、組成物を意味する。「食品」及びその関連用語には、ヒト又は他の動物を対象とした任意の食品、餌、スナック、栄養補助食品、トリート、食事代用物、又は置換食が含まれる。動物用食品には、任意の飼養された動物又は野生種を対象とした食品又は餌が含まれる。好ましい実施形態では、動物用食品は、ペレット化された、押出成形された、又は乾燥させた食品、例えば、犬及び猫用食品などの押出成形されたペットフードを表す。
【0046】
用語「サービング」又は「単位剤形」は、本明細書で使用するとき、互換可能であり、ヒト対象及び動物対象のための一体型用量として好適な物理的に独立している単位(physically discrete units)を指し、各単位は、所望の効果をもたらすのに十分な量の本明細書に開示されるWPMを含む組成物の所定量を、好ましくは医薬として許容される希釈剤、担体、又はビヒクルと共に含有する。単位剤形の仕様は、使用される具体的な化合物、達成しようとする効果、及びホスト体内の各化合物に関連する薬力学によって決まる。一実施形態では、単位剤形は、ボトルなどの容器内に収容された所定量の液体であり得る。
【0047】
「経口栄養補助食品」又は「ONS」は、少なくとも1つの主要栄養素及び/又は少なくとも1つの微量栄養素を含む組成物であり、例えば、滅菌液、半固体又は粉末の形態であり、例えば食品によるものなどの他の栄養摂取を補うことを意図する組成物である。いくつかの実施形態では、ONSは、液体を更に添加せずとも摂取され得る、例えば、液量が組成物の1サービング分である、液体形態の飲料とすることができる。
【0048】
本明細書で使用するとき、「準完全栄養(incomplete nutrition)」とは、好ましくは、栄養製品が含有している主要栄養素(タンパク質、脂肪及び炭水化物)又は微量栄養素が、この栄養製品を投与される動物のための唯一の栄養源とするのに十分なレベルのものではない、栄養製品を指す。
【0049】
「乳清タンパク質ミセル」は、本明細書において、国際公開第2007/110411号(A2)に記載のとおり定義される。特に、「乳清タンパク質ミセル」は、国際公開第2007/110411号(A2)に開示されているプロセスによって得ることができる乳清タンパク質ミセル濃縮物に含まれるミセルである。この開示において、乳清タンパク質ミセル濃縮物の製造プロセスは、
a)乳清タンパク質水溶液のpHを3.0~8.0の値に調整する工程と、b)水溶液を80~98℃の温度にかける工程と、
c)工程b)で得られた分散液を濃縮する工程と、を含む。この工程によって、調製されたミセルは非常に狭域のサイズ分布を有し、調製されたミセルの80%超が直径1μm未満のサイズを有し、好ましくは100nm~900nmのサイズである。「乳清タンパク質ミセル」は、液体濃縮物又は粉末形態とすることもできる。重要であるのは、濃縮物において、粉末において、また粉末から例えば水で再構成する際に、乳清タンパク質の基本的なミセル構造が維持されることである。「乳清タンパク質ミセル」は、分散液中で、粉末として、更に噴霧乾燥中又は凍結乾燥中も、物理的に安定である。
【0050】
実施形態
本開示の一態様は、食事に由来する食後血糖を低減する方法である。本方法は、乳清タンパク質ミセル(WPM)を含む組成物を個体に経口投与する工程と、次いでその後、WPMを含む組成物の経口投与後かつWPMを含む組成物の経口投与の約1時間以内、好ましくはWPMを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後かつWPMを含む組成物の経口投与の約1時間以内、より好ましくは、WPMを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後かつWPMを含む組成物の経口投与の約40分以内、例えばWPMを含む組成物の経口投与の約10分後、約20分後、又は約30分後に、食事を個体に経口投与する工程と、を含む。本明細書で使用するとき、「その後」は、少なくとも約5分後、好ましくは少なくとも約10分後を意味する。
【0051】
別の実施形態では、本開示は、食後血糖(PPG)の低減が有益である、少なくとも1つの状態を治療又は予防する方法を提供する。本方法は、WPMを含む組成物を、治療又は予防を必要とする個体又はそのリスクがある個体に経口投与する工程と、次いでその後、WPMを含む組成物の経口投与後かつWPMを含む組成物の経口投与の約1時間以内、好ましくはWPMを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後かつWPMを含む組成物の経口投与の約1時間以内、より好ましくは、WPMを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後かつWPMを含む組成物の経口投与の約40分以内、例えばWPMを含む組成物の経口投与の約10分後、約20分後、又は約30分後に、食事を個体に経口投与する工程と、を含む。治療又は予防される少なくとも1つの状態は、好ましくは、前糖尿病、2型糖尿病からなる群から選択される。
【0052】
好ましい実施形態では、WPMを含む組成物は、食事の約10分前に個体に経口投与される。別の好ましい実施形態では、WPMを含む組成物は、食事の約30分前に個体に経口投与される。
【0053】
本明細書で使用するとき、「食事」は、それぞれが実質的に同時に摂取される1つ以上の食品製品を指し、好ましくは、その結果として、少なくとも1種の主要栄養素及び少なくとも1種の微量栄養素が、食事を摂取することによって提供され、より好ましくは、その結果として、1種以上のタンパク質、1種以上の炭水化物、1種以上の脂質、1種以上のビタミン及び1種以上のミネラルが、食事を摂取することによって提供される。好ましくは、食事は、複数の食品製品を含む。一実施形態では、食事は、200kcal~1,000kcal、好ましくは250kcal~900kcal、より好ましくは300kcal~850kcal、最も好ましくは350kcal~800kcalを個体に提供する。一実施形態では、食事はWPMを実質的に含まない(すなわち、2.5重量%未満、好ましくは2.0重量%未満、より好ましくは1.0重量%未満、最も好ましくは0.5重量%未満のWPM)、又はWPMを全く含まない。食事は、任意の食事、例えば朝食、昼食、又は夕食であり得る。
【0054】
WPMを含む組成物の投与は、食事投与の約10分前~食事投与の約1時間前、好ましくは食事投与の約10分前~食事投与の約40分前、より好ましくは食事投与の約10分前~食事投与の約30分前、例えば、食事投与の約10分前、約20分前、又は約30分前であることができる。好ましくは、個体は、WPMを含む組成物の投与と食事の投与との間の期間に、任意の水分補給以外にいかなる食品製品も摂取しない。
【0055】
いくつかの実施形態では、食事は朝食である。例えば、WPMを含む組成物は、朝食前に個体に投与することができ、その後、WPMを含む組成物の投与後に朝食を個体に投与することができる。例えば、朝食は、WPMを含む組成物の投与の約10分後~WPMを含む組成物の投与の約1時間後、好ましくはWPMを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後かつWPMを含む組成物の経口投与後約40分以内、好ましくはWPMを含む組成物の経口投与の約10分後~WPMを含む組成物の経口投与の約30分後、更には例えばWPMを含む組成物の投与の約30分後に投与することができる。
【0056】
本明細書で使用するとき、「朝食」は、その日に個体によって摂取される最初の食事である。例えば、朝食は、個体の現地時間に従って正午前に摂取することができ、好ましくは、個体の現地時間に従って午前11:00時前に、より好ましくは、個体の現地時間に従って午前10:00時前に、最も好ましくは、個体の現地時間に従って午前9:00時前に摂取することができるが、個体が睡眠から目覚めた後、及び/又は個体の現地時間に従って午前4時以降、好ましくは、個体の現地時間に従って午前5時以降、より好ましくは、個体の現地時間に従って午前6時以降、最も好ましくは、個体の現地時間に従って午前7時以降に摂取することができる。
【0057】
一実施形態では、食事の投与前にWPMを含む組成物を投与(例えば、食事の約10分前、例えば、食事の約30分前のWPM投与)することによって達成される食後血糖は、非ミセル形態、例えば、乳清タンパク質分離物(WPI)の形態の乳清タンパク質を含む同一配合の組成物を同じ食事前時間に投与することによる食後血糖よりも低い。
【0058】
一実施形態では、組成物は、少なくとも約5gのWPM、例えば、少なくとも約10gのWPMを提供するサービングで、個体に投与される。いくつかの実施形態では、組成物の1サービング当たり最大30gのWPMが投与される。
【0059】
好ましい実施形態では、WPMを含む組成物は、液体飲料の形態で提供され、任意選択で、脂質、炭水化物、又は別のタンパク質源のうちの1つ以上を更に含んでもよく、任意選択で、食物風味剤(例えば、バニラ)を更に含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、WPMを含む組成物は、栄養組成物又は栄養補助食品の形態であってよい。用語「栄養補助食品」は、対象の普段の食生活を補助することを意図した製品を指す。例えば、WPMを含む組成物は、準完全栄養を提供する経口栄養補助食品(ONS)であり得る。ONSは、WPMに追加して1種以上の原材料、例えば、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル、及びこれらの混合物からなる群から選択される追加成分を含み得る。
【0061】
WPMに追加される好適なタンパク質の非限定的な例としては、乳タンパク質、肉タンパク質、及び卵タンパク質などの動物性タンパク質;又は植物性タンパク質、例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、エンドウ豆タンパク質、トウモロコシタンパク質、キャノーラタンパク質、オート麦タンパク質、ジャガイモタンパク質、ピーナッツタンパク質、及び豆、ソバ、若しくはレンズ豆由来の任意のタンパク質などが挙げられる。乳タンパク質、例えば、カゼイン及び乳清、並びに大豆タンパク質は、いくつかの用途で好ましい場合がある。タンパク質が乳タンパク質又は乳タンパク質画分である場合、タンパク質は、例えば甘性乳清、酸性乳清、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、ウシ血清アルブミン、酸カゼイン、カゼイネート、α-カゼイン、β-カゼイン及び/又はγ-カゼインであり得る。
【0062】
好適な炭水化物の非限定的な例としては、単糖類及び/又は二糖類、遅消化性完全カロリー炭水化物、オリゴ糖、又はこれらの混合物が挙げられる。特定の非限定的な例としては、マルトデキストリン、マルトース、高マルトースコーンシロップ、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0063】
好適な脂質の非限定的な例としては、モノアシルグリセロール(MAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、長鎖トリグリセリド(LCT)、中鎖トリグリセリド(MCT)、短鎖脂肪酸(SCFA)、分枝鎖脂肪酸(BCFA)、構造化MAG、構造化DAG、脂肪酸(遊離脂肪酸及び/又は結合脂肪酸、例えば、グリセロールとのエステル化、又はエチルエステル)、リン脂質、リゾリン脂質、スフィンゴミエリン、ガングリオシド、特異的炎症収束性メディエーター(SPM)、又はこれらの混合物が挙げられる。遊離脂肪酸及び/又は結合脂肪酸は、リノール酸(18:2n-6)、α-リノレン酸(18:3n-3)、ジホモγリノレン酸(20:3n-6)、γ-リノレン酸(GLA、18:3n-6)、ステアリドン酸(18:4n-3)、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5n-3)、又はこれらの混合物のうちの1種以上を含んでもよい。脂質源は、動物、植物、発酵させたもの、微細藻類、GMO、非GMO、又はこれらの混合物のうちの1つ以上であってもよい。
【0064】
WPMを含む組成物の一実施形態は、タンパク質、例えば、乳タンパク質濃縮物を更に含むことができる準完全栄養のONS用液である。この準完全栄養のONS用液の一実施形態では、組成物は、水、WPM、及びタンパク質(例えば、乳タンパク質濃縮物)、及び任意選択的に風味剤を本質的に含む。好ましくは、準完全栄養のONS用液は、例えば約30mL~約300mL、好ましくは約40mL~約200mL、より好ましくは約50mL~約150mL、例えば約100mLの体積を有する「ショット」である。好ましくは、準完全栄養のONS用液は、少なくとも約5gのWPM、例えば少なくとも約10gのWPMを提供する単位剤形であり、いくつかの実施形態では60g以下のWPM、好ましくは30g以下のWPMを提供する単位剤形である。
【0065】
WPM製品の構成には、添加物、乳化剤、安定剤、及びこれらの混合物を含有させることができ、最終製剤は、すぐに摂取できる液体状、又は使用前に水で再構成される粉末状とすることができる。
【0066】
WPMは、液体組成物の約10~約200g/Lであり得る。追加のタンパク質は、組成物の0~約120g/Lであり得る。脂質は、組成物の0~約120g/L、好ましくは組成物の約10g/L~約200g/Lであり得る。炭水化物は、組成物の0~約200g/L、好ましくは組成物の約10g/L~約200g/Lとすることができる。
【0067】
WPMを含む組成物は、ミネラル;ビタミン類;塩類;又は、機能性添加剤、例えば、嗜好剤(palatant)、着色剤、乳化剤、抗菌剤、又は他の保存料などの1種以上の追加成分を更に含んでもよい。本明細書に開示される組成物に好適なミネラル類の非限定的な例としては、カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、鉄、塩化物、ホウ素、銅、亜鉛、マグネシウム、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン、フッ化物、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。本明細書に開示される組成物に好適なビタミンの非限定例としては、水溶性ビタミン(チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、パントテン酸(ビタミンB5)、ピリドキシン(ビタミンB6)、ビオチン(ビタミンB7)、ミオイノシトール(ビタミンB8)、葉酸(ビタミンB9)、コバラミン(ビタミンB12)及びビタミンCなど)及び脂溶性ビタミン(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、及びビタミンKなど)、並びにこれらの塩、エステル又は誘導体が挙げられる。イヌリン、タウリン、カルニチン、アミノ酸、酵素、補酵素、及びこれらの任意の組み合わせが、様々な実施形態に含まれ得る。
【0068】
個体は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、又は霊長類などの哺乳動物であってよい。好ましくは、個体はヒトである。
【0069】
治療についての本明細書の全参照は、治癒的、緩和的、予防的治療を含む。治療には、疾患の重症度の進行を抑止することも含まれ得る。ヒトと動物の両方の治療が本開示の範囲内である。好ましくは、WPMを含む組成物は、治療有効量又は予防有効量のWPMを提供するサービング又は単位剤形で投与される。
【0070】
上記を考慮して、本明細書で提供される実施形態は、食事に由来する食後血糖を低減する方法であって、乳清タンパク質ミセル(WPM)を含む組成物を個体に経口投与する工程と、その後、WPMを含む組成物の経口投与後かつWPMを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、個体に食事を経口投与する工程と、を含む。
【0071】
個体における食後血糖は、好ましくは、同量の乳清タンパク質を、非ミセル形態、例えば、乳清タンパク質分離物(WPI)の形態で、同じ食事投与前時間に経口投与した場合の食後血糖と比較して低減される。
【0072】
個体は、好ましくは、肥満、2型糖尿病、及び前糖尿病からなる群から選択される少なくとも1つの状態を有する。WPMを含む組成物は、好ましくは液体である。組成物は、好ましくは、少なくとも約5.0gのWPM~約60.0gのWPM、好ましくは約5.0gのWPM~約30.0gのWPM、例えば、約10.0gのWPM~約30.0gのWPMを含むサービングで個体に投与することができる。組成物は、WPMと、別のタンパク質源、脂質及び炭水化物からなる群から選択される少なくとも1つの追加成分とを含み得る。
【0073】
食事は、WPMを含む組成物の投与の約10分後~WPMを含む組成物の投与の約1時間後、好ましくはWPMを含む組成物の投与の約10分後~WPMを含む組成物の投与の約40分後、例えば、WPMを含む組成物の投与の約10分後~WPMを含む組成物の投与の約30分後に投与することができる。例えば、食事は、WPMを含む組成物の投与の約10分後、約20分後、又は約30分後に投与することができる。
【0074】
食事は朝食であり得る。組成物は、液体の準完全栄養経口栄養補助食品(ONS)であり得る。
【0075】
好ましくは、個体は、WPMを含む組成物の個体への経口投与から、食事の個体への経口投与までの期間中に、任意の水分補給以外にいかなる食品製品も摂取しない。
【0076】
本明細書で提供される別の実施形態は、食事に由来する食後血糖の低減が有益である状態を治療又は予防する方法であって、当該方法は、乳清タンパク質ミセル(WPM)を含む組成物を個体に経口投与する工程と、その後、WPMを含む組成物の経口投与後かつWPMを含む組成物の経口投与の約1時間以内、好ましくはWPMを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後かつWPMを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、個体に食事を経口投与する工程と、を含む。状態は、好ましくは、肥満、前糖尿病、糖尿病からなる群から選択される。
【0077】
別の実施形態では、本発明は、治療又は予防を必要とする個体又はそのリスクがある個体において血漿食後血糖濃度の増加に関連する障害の治療及び/又は予防に使用するための乳清タンパク質ミセルに関し、当該WPMは、通常の食事の前、好ましくは、食事の少なくとも10分前かつ食事前約1時間以内、より好ましくは食事の少なくとも10分前かつ食事前約40分以内、例えば、食事の約10分前、約20分前、又は約30分前に提供される。
【0078】
障害は、メタボリックシンドローム、グルコース不耐性、前糖尿病、妊娠糖尿病及び2型糖尿病からなる群から選択され得る。一実施形態では、治療又は予防を必要とする個体又はそのリスクがある個体は、体重過多又は肥満の個体であり得る。
【0079】
好ましい施形態では、乳清タンパク質ミセルは、肥満、前糖尿病、又は糖尿病患者において使用するためのものである。「前糖尿病患者」は、インスリン抵抗性又は耐糖能障害を示す対象であり、例えば、家族歴又は遺伝により、以降の人生で2型糖尿病を発症する傾向がある。本発明による乳清タンパク質ミセルの使用は、結果的に、これらの対象におけるインスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、グルコース不耐性、及び2型糖尿病のリスク及び/又は発症を低減するであろう。
【0080】
更なる態様では、本発明は、個体における血漿食後血糖濃度を低減させるための乳清タンパク質ミセルの使用に関し、WPMは、通常の食事の前に提供され、好ましくは、食事の少なくとも10分前かつ食事前約1時間以内、より好ましくは食事の少なくとも約10分前かつ食事前約40分以内、例えば食事の約10分前、約20分前、又は約30分前に提供される。
【0081】
一実施形態では、個体は、肥満、糖尿病、及び前糖尿病からなる群から選択される少なくとも1つの状態を有する。
【0082】
一実施形態では、食事は、WPMを含む組成物の投与の約10分後~WPMを含む組成物の投与の約40分後に投与することができる。例えば、食事は、WPMを含む組成物の投与の約10分後に投与することができる。別の実施形態では、食事は、WPMを含む組成物の投与の約30分後に投与することができる。
【0083】
一実施形態では、WPMは、少なくとも約5gのWPM、例えば、少なくとも約10gのWPMを提供するサービングで、個体に投与される。いくつかの実施形態では、組成物の1サービング当たり最大60gのWPMが投与される。いくつかの実施形態では、組成物の1サービング当たり最大30gのWPMが投与される。1つの好ましい実施形態では、組成物の1サービング当たり、例えば約5g~約15gのWPM、例えば約10gのWPMが提供される。
【実施例】
【0084】
以下の非限定的な例は、本発明の概念を展開及び裏付ける臨床データを提示する。
【0085】
食事前の乳清タンパク質投与が食後血糖に与える効果を、過体重/肥満対象におけるクロスオーバー試験で試験した。水のみ(対照)、10gの乳清タンパク質分離物(WPI)、又は10gの乳清タンパク質ミセル(WPM)(国際公開第2007/11041号に従って製造)のいずれかを含有する溶液(100mL)を、標準的な食事の10分前又は30分間に摂取した。皮下間質液グルコース濃度を、乳清タンパク質及び標準食の摂取前(空腹時グルコース)及び摂取後(最大120分)に、連続グルコース監視システム(FreeStyle libre(登録商標)、Abbott)を使用して測定した。
【0086】
被験者が摂取する標準食は、精白パン2枚、ジャム、及びオレンジジュース1杯を含む朝食(計算カロリー320kcal)とした。
【0087】
試験集団は、14名の過体重肥満成人男性及び女性(女性8名、男性6名)で、BMI31.2+/-2.8、年齢49+/-8であった。
【0088】
図1は、WPM、WPI、又は水(対照)を標準食の30分前に投与したときの間質液血糖値(14名の対象の平均)の経時変化を示す。時間0は、標準食(朝食)の摂取に相当する。
【0089】
図2は、WPM、WPI、又は水(対照)を標準食の10分前に投与したときの間質液血糖値(14名の対象の平均)の経時変化を示す。時間0は、標準食(朝食)の摂取に対応する。
【0090】
標準朝食の30分前に摂取した場合、WPMとWPIの両方で、食後血糖曲線のiCmaxが対照と比較して有意に低減した(WPI:-0.7mM、p=0.02;WPM:-1.1mM、p<0.01)。食事の30分前にWPMを投与した場合は食後血糖iAUCも有意に低減したのに対し、WPIではiAUCを低下させる傾向のみが観察された(WPI:-14%,p=0.1;WPM:-30%,p<0.01)。驚くべきことに、食事の30分前にWPMを投与したときの食後血糖iAUCは、WPIで観察されたiAUCよりも有意に低かった(-19%、p=0.04)。
【0091】
同様に、WPM及びWPIを標準食の10分前に摂取した場合、血糖iCmaxは、水の摂取後よりも有意に低かった(WPI:-0.9mM、p=0.01;WPM:-1.1mM、p<0.01。血糖iAUCは、WPM摂取後に有意に低減し、WPIの後では低減傾向のみを示した(WPI:-18%,p=0.08;WPM:-25%,p=0.02。ここでも、驚くべきことに、食事の10分前にWPMを投与したときの食後血糖iAUCは、WPIで観察されたiAUCよりも実質的に低かった。
【0092】
乳清タンパク質(WPM又はWPI)を食事の10分前に摂取したときと、同じ種類の乳清タンパク質を食事の30分前に摂取したときとを比較して、グルコースiCmax又はiAUCに有意な差は認められなかった。
【0093】
これらの結果は、食事前のWPMの投与が食後血糖応答(PPG)を有意に低減させることを示し、食事の10分前又は30分前に摂取したときに、WPMはWIPよりも食後血糖の低減に有効であることを実証する。更に、これらの結果から、食後血糖の有意な低減をもたらすには、10gのWPMを食事の10分前又は30分前に投与すれば十分である。
【0094】
これらの結果はまた、食事の10分前にWPMを投与することで、30分前に摂取した場合と同様の程度で、食後血糖が低減したことも示す。
【0095】
本明細書で説明されている現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び改変が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。かかる変更及び改変は、本発明の主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、行うことができる。それゆえ、そのような変更及び改変は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
【国際調査報告】