IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シトノス、ソシエダッド、リミターダの特許一覧

特表2022-535798ハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】ハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20220803BHJP
【FI】
G01N21/27 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571457
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(85)【翻訳文提出日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2020064984
(87)【国際公開番号】W WO2020239981
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】19382444.8
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521521208
【氏名又は名称】シトノス、ソシエダッド、リミターダ
【氏名又は名称原語表記】CYTOGNOS, S.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100213654
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 晃樹
(72)【発明者】
【氏名】ホセ、マリオ、テネラ、モルガド
(72)【発明者】
【氏名】アルバロ、ロドリゲス、デ、ラ、ガラ
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB12
2G059CC16
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE07
2G059EE12
2G059FF01
2G059JJ02
2G059JJ11
2G059KK04
2G059MM01
(57)【要約】
本発明はルミネッセンスのハイパースペクトル検出に関し、特に、放射線源を用いて刺激された固相試料からのルミネッセンスの検出に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の固相試料を保持するように構成された試料保持器を含む、観察領域(104)と、
前記観察領域(104)を照射するように構成された少なくとも1つの放射線源(101、102、103)と、
前記少なくとも1つの放射線源(101、102、103)による照射時に前記試料を通して放射された、または前記試料によって反射された放射線を集光するように構成された集光要素(105)であって、前記集光要素(105)が20以下の拡大率値(M)を有し、0.25以上の開口数値を有する、集光要素(105)と、
前記集光要素(105)によって集光された前記放射線の波長を選択的に濾波するように構成されたマルチチャネル濾波要素(108)と、
前記濾波された放射線を受け取り、前記試料の2次元マップである画像を生成するように構成された画像センサ(109)であって、前記画像センサ(109)が放射線検出要素の2次元アレイを含む、画像センサ(109)と、
を備える、ハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項2】
前記濾波要素(108)が、少なくとも2つの位置の間で可動であるように構成されており、前記濾波要素(108)の各位置が、前記画像センサ(109)の各放射線検出要素に到達した前記放射線の前記波長を選択的に濾波する、請求項1に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項3】
前記システムがプロセッサ(110)をさらに備え、前記プロセッサ(110)が、
- 前記試料の複数の波長符号化2次元マップ(301)を受け取ることであって、前記複数の波長符号化2次元マップ(301)が前記濾波要素(108)の複数の位置に関連付けられており、波長符号化2次元マップが、前記画像センサ(109)によって、それが前記濾波要素(108)の位置のために受け取った前記放射線に基づいて生成された画像であることと、
- 特定の波長(λ)に対応する前記試料の前記波長符号化2次元マップ(301)の部分を組み合わせることによって前記試料の複数の単色2次元マップ(304)を生成すること(205)と、
- 前記複数の単色2次元マップ(304)を含むスペクトル・キューブ(306)を構築することと、
- 前記スペクトル・キューブ(306)上の試料構造を識別し(206)、それらのスペクトル・シグネチャを獲得すること(207)と、
- 前記獲得されたスペクトル・シグネチャを既知の構造のスペクトル・シグネチャのデータベースと比較し(208)、および/または前記スペクトル・シグネチャを分解し、前記識別された試料構造の各々の内部における各マーカの存在度の推定を獲得すること(209)であって、マーカが、天然に、または前記試料に添加された分子タグの存在に起因して放射線を放射する前記試料上の任意の成分であることと、
を行うように構成されている、請求項2に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項4】
前記システムがプロセッサ(110)をさらに備え、前記プロセッサ(110)が、
- 前記試料の複数の波長符号化2次元マップ(301)を受け取ることであって、前記複数の波長符号化2次元マップ(301)が前記濾波要素(108)の複数の位置に関連付けられており、波長符号化2次元マップが、前記画像センサ(109)によって、それが前記濾波要素(108)の位置のために受け取った前記放射線に基づいて生成された画像であることと、
- 特定の波長(λ)に対応する前記試料の複数の単色2次元マップ(304)を、多変数補間プロセスを利用し、ピクセルごとに、前記波長符号化2次元マップからの記録に基づいてこのような特定の波長(λ)において受け取られた前記放射線の推定を獲得することによって生成すること(205)と、
- 前記複数の単色2次元マップ(304)を含むスペクトル・キューブ(306)を構築することと、
- 前記スペクトル・キューブ(306)上の試料構造を識別し(206)、それらのスペクトル・シグネチャを獲得すること(207)と、
- 前記獲得されたスペクトル・シグネチャを既知の構造のスペクトル・シグネチャのデータベースと比較し(208)、および/または前記スペクトル・シグネチャを分解し、前記識別された試料構造の各々の内部における各マーカの存在度の推定を獲得すること(209)であって、マーカが、天然に、または前記試料に添加された分子タグの存在に起因して放射線を放射する前記試料上の任意の成分であることと、
を行うように構成されている、請求項2に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項5】
前記観察領域(104)は、前記放射線源(103)の前記放射線が、前記集光要素(105)によって集光される前に前記観察領域(104)を通過するよう、透過照明構成に従って、少なくとも1つの放射線源(103)と前記集光要素(105)との間に介在させられている、請求項1から4のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項6】
少なくとも1つの放射線源(102)、前記観察領域(104)、および前記集光要素(105)が暗視野構成に従って配置されている、請求項1から5のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項7】
少なくとも1つの放射線源(101、103)、前記観察領域(104)、および前記集光要素(105)が明視野構成に従って配置されている、請求項1から6のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項8】
少なくとも1つの放射線源(101、102)は、前記観察領域(104)が、前記集光要素(105)によって集光される前に前記放射線源(101、102)の前記放射線を反射するよう、落射照明構成に従って、前記観察領域(104)に向けて配向されている、請求項1から7のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項9】
前記システム(100)がメモリ(111)をさらに備える、請求項1から8のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項10】
前記システム(100)が、少なくとも1つの放射線源(101、102、103)と前記観察領域(104)との間に介在させられた少なくとも1つのバンド・パス・フィルタ(107)をさらに備える、請求項1から9のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項11】
少なくとも1つの放射線源(101、102、103)が、レーザ、発光ダイオード、またはランプである、請求項1から10のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項12】
前記集光要素(105)が、前記観察領域の複数の空間的位置からの放射線を同時に撮像するように構成された、レンズ、またはレンズの組み合わせを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項13】
前記集光要素(105)が、10以下、好ましくは、2以下の拡大率値(M)を有し、および/または
前記集光要素(105)が0.5以上の開口数値を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項14】
前記濾波要素(108)が、好ましくは、200nm~1200nm、より好ましくは、350nm~950nmの、連続または半連続線形可変フィルタである、請求項1から13のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)を用いて固相試料からデータを獲得するための方法であって、
a) 固相試料を提供するステップ(201)と、
b) 前記試料を、前記試料と相互作用する放射線を用いて照射するステップ(202)であって、これにより、前記試料が放射線を放射する、ステップ(202)と、
c) 前記集光要素(105)を用いて、前記放射された放射線を撮像するステップと、
d) 前記マルチチャネル濾波要素(108)を用いて、前記放射された放射線を濾波するステップと、
e) 前記濾波要素(108)の順次変位(203)と協調して前記試料の複数の波長符号化2次元マップ(301)を順次に記録するステップ(204)であって、前記濾波要素(108)の各位置が、前記画像センサ(109)の各放射線検出要素に到達した前記放射線の前記波長(λ)を選択的に濾波し、波長符号化2次元マップが、前記画像センサ(109)によって、それが前記濾波要素(108)の位置ごとに受け取った前記放射線に基づいて生成される、ステップ(204)と、
f) 前記試料の前記波長符号化2次元マップ(301)に基づいて前記試料の複数の単色2次元マップ(304)を生成するステップ(205)と、
g) 前記複数の単色2次元マップ(304)を含むスペクトル・キューブ(306)を構築するステップと、
h) 前記スペクトル・キューブ(306)上の試料構造を識別し(206)、それらのスペクトル・シグネチャを獲得するステップ(207)と、
i) 前記獲得されたスペクトル・シグネチャを既知の構造のスペクトル・シグネチャのデータベースと比較し(208)、および/または前記スペクトル・シグネチャを分解し、前記識別された試料構造の各々の内部における各マーカの存在度の推定を獲得するステップ(209)であって、マーカが、天然に、または前記試料に添加された分子タグの存在に起因して放射線を放射する前記試料上の任意の成分である、ステップ(209)と、
を含む方法。
【請求項16】
ステップb)~f)が複数の照射波長(Λ)および/または複数の照射モード(α)のために遂行され、ステップf)において、各単色2次元マップ(304)は、前記試料が、所与の照射波長(Λ)を用いて、および所与の照射モード(α)で照射されたときに、特定の波長(λ)で放射された放射線に対応し、ステップg)が、前記複数の単色2次元マップ(304)を組み合わせることによって遂行される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記単色2次元マップ(304)が、特定の波長(300)に対応する前記波長符号化2次元マップの部分を組み合わせることによって生成される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記単色2次元マップが、多変数補間プロセスを利用し、ピクセルごとに、前記波長符号化2次元マップからの記録に基づいてこのような特定の波長(λ)において受け取られた前記放射線の推定を獲得することによって生成される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項19】
前記多変数補間プロセスがトリキュービック・スプライン補間法である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ステップa)において、コントラストをもたらし、特定の成分の検出を可能にするために、種別特異的タグが前記固相試料に添加された(201)、請求項15から19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はルミネッセンスのハイパースペクトル検出に関し、特に、放射線源を用いて刺激された固相試料からのルミネッセンスの検出に関する。
【背景技術】
【0002】
生物組織の機能はその細胞成分の協調作用の結果である。それらの細胞の各々は、組織学的環境とのその相互作用から生じる特定の表現型を呈し、これらの機構の任意の制御異常(deregulation)は癌のような疾病を生じさせ得る。したがって、単一細胞の特徴を空間的枠組みの中で分析することができることが、組織が正常な状況および疾病状況下でどのように機能するのかを理解するため、ならびに有効な治療法の開発を助けるために不可欠である。
【0003】
疾病が特定の組織に影響を及ぼす結果は、古典的な組織学的および形態学的評価によって常に気付かれるとは限らない。組織のいくつかの構造および成分は、形態学的には同様に見えるが、それらの分子構成要素に関しては、疾病に関連付けられた制御異常の結果として重要な相違を呈する場合がある。このような場合には、免疫学的方法によって提供されるもののような、多重の、およびより特異的な染色が、それらの相違を識別するために利用される必要がある。このようなものの一例は、調査対象の組織内の免疫細胞の識別である。それらの存在は、疾病状況が組織に影響を及ぼし、病変区域へのそれらの細胞の動員を誘起することから生じ得るか、または、他方で、それらの存在が、疾病が組織に影響を及ぼす主原因になり得る。
【0004】
どちらの場合にも、それらの細胞の系譜および機能状態の正確な識別が必須であり、特に、小リンパ球の場合には、専門家からの形態学的評価でさえ、それらの細胞の性質、起源、および異質性を解明するには十分でない。マルチパラメータ免疫表現型検査のアプローチのみが細胞浸潤の正確な特徴決定および異質性評価を可能にする。また、組織構成要素のマルチパラメータ情報を獲得することができることと同じほど重要なことは、異なる表現型的に識別された特徴の、組織内で観察される可能な解剖学的変化との関連付けである。それらの変化は当該分野の専門家の直接観察によって識別され得る。
【0005】
フロー・サイトメトリを用いた単一細胞のマルチパラメータ分析は、細胞懸濁液に適用されたときに正常な状況および疾病状況下における細胞表現型の異質性を解明するために欠かせなくなっていることが分かっている。最新のフロー・サイトメータは多数の同時パラメータを分析することができ、マルチスペクトル・システムの発展およびマス・サイトメトリの出現は、近い将来にそれらの数を押し上げることを約束する。しかし、これらの技術は組織標本に、それらの自然のアーキテクチャを乱すことなく機能することができず、組織の細胞外環境の構成要素を調査する能力を有しない。他方で、細胞形態可視化および空間位置確認(spatial localization)のための標準的な選択であるにもかかわらず、顕微鏡機器は、統計的に有意な数の細胞上の細胞成分の定量的および客観的分析を可能にできず、フロー・サイトメトリのような他の方法論には存在する標準化能力を欠いている。
【0006】
他のものは、フロー・サイトメータの構成を、レーザを用いて顕微鏡スライド上に固定化された試料を走査し、試料上の蛍光分子を励起し、組織上に存在する分子の表現をピクセルごとに構築するように適応させることによって、これらの課題のうちのいくつかを解決することを試みた(レーザ走査サイトメトリ)。この思想は、後に、分析されるべき同時分子の数を増大させるために蛍光検出の代わりに質量分析を用いるように適応させられた(イメージング・マス・サイトメトリ)。それにもかかわらず、どちらのアプローチも、1度に1つのピクセルずつ生物組織を調査する必要のゆえに、相当に低速である。
【0007】
したがって、固相試料支持体内に固定化された細胞および/または組織からのマーカのサイズおよび表現に関する定量的データを提供するシステムが必要である。
【0008】
現在利用可能な最も一般的なアプローチは、従来の顕微鏡検査を用いて複数の単一パラメータ調査を遂行することである。このアプローチは試料(通例、生物の固形組織)のアーキテクチャ構造を維持するが、定量的でなく、複雑な調査のために必要とされるマルチパラメータ次元を欠いている。
【0009】
代替的に、マルチパラメータ・フロー・サイトメトリが、生物組織に関するマルチパラメータ情報を獲得するために利用され得るが、単一細胞懸濁液を得るために必要とされる組織分離のゆえに空間情報を失うという代償を払う。
【0010】
フロー・サイトメータの構成を、顕微鏡スライド上に固定化された試料を走査するように適応させることによって、レーザ走査サイトメトリ(Laser Scanning Cytometry、LSC)が開発された。それはレーザを用いて試料上の蛍光分子を励起し、組織上に存在する分子の表現をピクセルごとに構築する。この理由のために、および全ての「色」が同時にサンプリングされる、スナップ・ショット・システムであるにもかかわらず、それは非常に速度の遅い方法論である。さらに、この技術は、多重化の点で非常に限定された潜在能力に限定されるにとどまり、3つ~4つの同時パラメータの調査を可能にするのみである。
【0011】
同様の仕方で、他のものはマス・サイトメトリを、固形組織に対する調査を遂行するように適応させた(イメージング・マス・サイトメトリ(Imaging Mass Cytometry)-IMC)。LSCとは異なり、IMCは、組織成分を明らかにし、依然として、高い多重化潜在能力を有するために、蛍光性または発色性複合体の代わりに金属複合体を用いる。それにもかかわらず、LSCの場合と同様に、試料が単一のピクセル単位で「画像化される」ため、それは、非常に低速の技術であるという同じ欠点に悩まされる。
【0012】
代替的に、分析されることができる同時マーカの数を増大させるために、マルチスペクトルおよびハイパースペクトル能力が顕微鏡検査ベースのシステムに適用された。データをサンプリングするために2次元センサを用いることで、これらのシステムは複数の空間的位置を同時にサンプリングすることができるが、それにもかかわらず、これらのシステムは、再現可能で定量化可能なデータの代わりに、視覚情報を提供することを意図され、組織の大きい区域を分析するよりも、主として少量の生物物質に関する高分解能情報を提供するように設計される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、請求項1に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム、および請求項15に記載の方法によって、上述の問題のための解決策を提供する。従属請求項において、本発明の好ましい実施形態が定義される。
【0014】
本発明は、細胞下レベル(subcellular level)の分解能でなく、細胞の分解能をもって組織構造全体に焦点を当てることによって、固相試料支持体上に固定化された生物試料の細胞および組織からマーカのサイズおよび表現に関する定量的データを高速な仕方で獲得するためのシステムおよび方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の発明の態様において、本発明は、
1つまたは複数の固相試料を保持するように構成された試料保持器を含む、観察領域と、
観察領域を照射するように構成された少なくとも1つの放射線源と、
少なくとも1つの放射線源による照射時に試料を通して放射された、またはそれによって反射された放射線を集光するように構成された集光要素と、
集光要素によって集光された放射線の波長を選択的に濾波するように構成されたマルチチャネル濾波要素と、
濾波された放射線を受け取り、試料の2次元マップである画像を生成するように構成された画像センサであって、画像センサが放射線検出要素の2次元アレイを含む、画像センサと、
を備える、ハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システムを提供する。
【0016】
固相試料は、概して、固相試料支持体上に提供される。一実施形態では、試料保持器は、少なくとも1つの固相試料支持体を保持するように構成されており、各支持体は、固定化された試料、好ましくは、生物試料を包含するように適応させられている。支持体は、材料が異なり得、好ましくは、結晶質で光に対して透明であり(例えば、ガラスまたはプラスチック)、ならびに、形状およびサイズが異なり得、好ましくは、長方形形状(例えば、顕微鏡スライド)を有する。
【0017】
用語「成分(component)」は、細胞または組織内に天然に存在する任意の分子を意味するために使用されることになる。用語「タグ」および「分子タグ」は、試料内に天然に存在する特定の成分の存在を明らかにするために試料に添加される任意の物質を意味するために使用されることになる。用語「マーカ」は、天然に、または試料に添加された分子タグの存在に起因して放射線を放射する試料上の任意の成分を定義するために使用されることになり、マーカは、細胞または組織の性質を定めるために用いられる。用語「スペクトル・シグネチャ」は、構造またはピクセルの、その構造またはピクセル内に存在するマーカの固有の組み合わせから生じる固有の放射スペクトルを意味するために使用される。用語「リスト・モード・ファイル」は、生物学的構造のような、関心のある異なる要素に関する情報が記憶され、それらの要素の各々が多列リスト上の列によって表現される、データ・ファイル構造を意味するために使用される。
【0018】
少なくとも1つの放射線源は、観察領域を照射するように構成されている。それゆえ、試料が観察領域内に存在するときには、放射線は、試料の成分と相互作用し、存在する場合には、試料と組み合わせて用いられている分子タグと相互作用する。この相互作用から、放射線が、試料によって、散乱、蛍光、燐光、化学発光、または選択吸収/透過などの任意のプロセスの結果として放射され得る。試料から放射された放射線は、集光要素を用いて集光され、マルチチャネル濾波要素を通過し、画像センサに到達する。マルチチャネル濾波要素は、スペクトル特性がフィルタに沿って変化し、それゆえ、入ってくる放射線の位置依存濾波を提供するフィルタとして理解されるべきである。
【0019】
画像センサは放射線検出要素の2次元アレイを含む。放射線検出要素は放射線を受け取り、各放射線検出要素において受け取られた放射線に関連した出力を提供する。その結果、試料の2次元マップである画像が生成される。一実施形態では、画像センサは、電荷結合素子(charge-coupled device、CCD)、相捕型金属酸化膜半導体(complementary metal oxide semiconductor、CMOS)、または電子増倍電荷結合素子(electron multiplier charge-coupled device、EMCCD)である。
【0020】
好ましくは、マルチチャネル濾波要素は、集光要素と画像センサとの間に、それらから離間されて配置されている。特定の実施形態では、システムは、集光要素によって撮像または集光された画像を平面上に投影するように構成された少なくとも1つのレンズをさらに備え、マルチチャネル濾波要素は、画像が投影されるこのような平面に位置付けられており、これにより、画像は濾波要素上に投影され、システムは、マルチチャネル濾波要素によって濾波された上記中間画像を撮像し、それを画像センサに投影するように構成された少なくとも1つの追加のレンズを備える。換言すれば、濾波要素は、第1のレンズが、集光要素と画像センサとの間に形成される中間画像を投影する、まさにその平面上に配置されている(またはそれから若干オフセットしている)。したがって、2つのレンズ、または、同様に、レンズの2つのセットが、この中間画像を形成し、集光するために用いられ得る。
【0021】
一実施形態では、少なくとも1つの放射線源は、紫外(ultraviolet、UV)、可視(visible、VIS)、または近赤外(near infrared、NIR)範囲内、好ましくは、200nm~1200nmの範囲内、より好ましくは、350nm~950nmの範囲内の波長を有する放射線を放射するように構成されている。システムは1つまたはいくつかの放射線源を含み得る。一実施形態では、システムは複数の放射線源を含み、各放射線源は、異なる波長間隔内、例えば、525nm~625nmの範囲内に含まれる波長の放射線を放射するように構成されている。
【0022】
一実施形態では、濾波要素は、少なくとも2つの位置の間で可動であるように構成されており、濾波要素の各位置は、画像センサの各放射線検出要素に到達した放射線の波長を選択的に濾波する。好ましい実施形態では、濾波要素は、複数の位置へ可動であるように構成されている。好ましくは、濾波要素の移動は集光要素の視野(field of view、FOV)の空間次元のうちの1つと平行である。
【0023】
一実施形態では、濾波要素は連続または半連続線形可変フィルタ(Linear variable filter)である。好ましくは、濾波要素は、200nm~1200nm、より好ましくは、350nm~950nmの放射線波長を濾波するように構成されている。
【0024】
一実施形態では、観察領域は、上記放射線源の放射線が、集光要素によって集光される前に観察領域を通過するよう、すなわち、透過照明構成に従って、少なくとも1つの放射線源と集光要素との間に介在させられている。
【0025】
一実施形態では、少なくとも1つの放射線源は、観察領域が、集光要素によって集光される前に放射線源の放射線を反射するよう、すなわち、落射照明構成に従って、集光要素と同じ観察領域の側に配置されている。
【0026】
一実施形態では、少なくとも1つの放射線源および集光要素は、放射線源からの放射線のビームが、集光要素の光軸に対して0でない角度に向けられるよう、すなわち、暗視野構成に従って、配置されている。
【0027】
一実施形態では、少なくとも1つの放射線源および集光要素(105)は、放射線源からの放射線のビームが集光要素の光軸に沿って向けられるよう、すなわち、明視野構成に従って、配置されている。
【0028】
好ましい実施形態では、システムは複数の放射線源を備え、各放射線源は所与の波長(Λ)の放射線を提供し、明視野落射照明、暗視野落射照明、明視野透過照明、および暗視野透過照明から選択される異なる照射モード(α)に従って配置されている。
【0029】
一実施形態では、システムはプロセッサを備える。特定の実施形態では、プロセッサは、コンピュータ(例えば、パーソナル・コンピュータ)の部分である。
【0030】
一実施形態では、プロセッサは、
- 試料の複数の波長符号化2次元マップを受け取るステップであって、複数の波長符号化2次元マップが濾波要素の複数の位置に関連付けられており、波長符号化2次元マップが、画像センサによって、それが濾波要素の位置のために受け取った放射線に基づいて生成された画像である、ステップと、
- 特定の波長に対応する試料の波長符号化2次元マップの部分を組み合わせることによって試料の複数の単色2次元マップを生成するステップと、
- 複数の単色2次元マップを含むスペクトル・キューブを構築するステップと、
- スペクトル・キューブ上の試料構造を識別し、それらのスペクトル・シグネチャを獲得するステップと、
- 獲得されたスペクトル・シグネチャを既知の構造のスペクトル・シグネチャのデータベースと比較し、および/またはスペクトル・シグネチャを分解し、識別された試料構造の各々の内部における各マーカの存在度(abundance)の推定を獲得するステップであって、マーカが、天然に、または試料に添加された分子タグの存在に起因して放射線を放射する試料上の任意の成分であり、これにより、マーカが、細胞または組織の性質を定めるために用いられる、ステップと、
を遂行するように構成されている。
【0031】
システムがプロセッサを備える代替的な実施形態では、プロセッサは、
- 試料の複数の波長符号化2次元マップを受け取ることであって、複数の波長符号化2次元マップが濾波要素の複数の位置に関連付けられており、波長符号化2次元マップが、画像センサによって、それが濾波要素の位置のために受け取った放射線に基づいて生成された画像であることと、
- 特定の波長(λ)に対応する試料の複数の単色2次元マップを、単色2次元マップのピクセルごとに、多変数補間プロセスによって全ての波長符号化2次元マップからこのような特定の波長(λ)における測定された信号を推定することによって、生成することと、
- 複数の単色2次元マップを含むスペクトル・キューブを構築することと、
- スペクトル・キューブ上の試料構造を識別し、それらのスペクトル・シグネチャを獲得することと、
- 獲得されたスペクトル・シグネチャを既知の構造のスペクトル・シグネチャのデータベースと比較し、および/またはスペクトル・シグネチャを分解し、識別された試料構造の各々の内部における各マーカの存在度の推定を獲得することであって、マーカが、天然に、または試料に添加された分子タグの存在に起因して放射線を放射する試料上の任意の成分であり、これにより、マーカが、細胞または組織の性質を定めるために用いられることと、
を行うように構成されている。
【0032】
一実施形態では、プロセッサは、試料構造のサイズおよび/または形状を獲得するように構成されている。
【0033】
一実施形態では、プロセッサは、複数の照射波長(Λ)のため、および/または複数の照射モード(α)のために前のステップのうちの任意のものを遂行するように構成されており、各単色2次元マップは、試料が、所与の照射波長(Λ)を用いて、および所与の照射モード(α)で照射されときに特定の波長(λ)で放射された放射線に対応し、スペクトル・キューブを構築するステップは、複数の単色2次元マップを組み合わせることによって遂行される。
【0034】
一実施形態では、プロセッサは、濾波要素の順次変位と協調させられた試料の複数の波長符号化2次元マップの順次記録を制御するように構成されている。別の実施形態では、システムは、濾波要素の順次変位と協調させられた試料の複数の波長符号化2次元マップの順次記録を制御するように構成された第2のプロセッサを備える。好ましくは、濾波要素は、連続または半連続線形可変フィルタ、より好ましくは、連続線形可変フィルタである。
【0035】
一実施形態では、システムはデータ記憶のためのメモリを備える。特定の実施形態では、データ記憶のためのメモリは、ハードディスク・ドライブ、EEPROMメモリ、または光ディスクなどの、不揮発性コンピュータ・メモリである。
【0036】
一実施形態では、少なくとも1つの放射線源は、レーザ、発光ダイオード、またはランプである。放射線源は、単色または広帯域放射線を提供するように構成され得る。
【0037】
一実施形態では、システムは、少なくとも1つの放射線源と観察領域との間に介在させられたバンド・パス・フィルタを備える。有利に、バンド・パス・フィルタは、広帯域放射線源によって放射された特定の放射線波長を選択することを可能にする。
【0038】
一実施形態では、集光要素は、観察領域の複数の空間的位置からの放射線を同時に撮像するように構成された、レンズ、またはレンズの組み合わせを含む。
【0039】
一実施形態では、集光要素は、20よりも低い、好ましくは、10よりも低い、より好ましくは、2よりも低い拡大率値(magnification factor value)を有する。
【0040】
一実施形態では、集光要素は、0.25よりも高い、好ましくは、0.5以上の開口数値を有する。
【0041】
第2の発明の態様において、本発明は、第1の発明の態様の実施形態のうちの任意のものに係るハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システムを用いて固相試料からデータを獲得するための方法であって、該方法が、
a) 試料を提供するステップと、
b) 試料を、試料と相互作用する放射線を用いて照射するステップであって、これにより、試料が放射線を放射する、ステップと、
c) 集光要素を用いて、放射された放射線を撮像するステップと、
d) マルチチャネル濾波要素を用いて、放射された放射線を濾波するステップと、
e) 濾波要素の順次変位と協調して試料の複数の波長符号化2次元マップを順次に記録するステップであって、濾波要素の各位置が、画像センサの各放射線検出要素に到達した放射線の波長を選択的に濾波し、波長符号化2次元マップが、画像センサによって、それが濾波要素の位置ごとに受け取った放射線に基づいて生成される、ステップと、
f) 特定の波長に対応する試料の波長符号化2次元マップの部分を組み合わせることによって試料の複数の単色2次元マップを生成するステップと、
g) 複数の単色2次元マップを含むスペクトル・キューブを構築するステップと、
h) スペクトル・キューブ上の試料構造を識別し、それらのスペクトル・シグネチャを獲得するステップと、
i) 獲得されたスペクトル・シグネチャを既知の構造のスペクトル・シグネチャのデータベースと比較し、および/またはスペクトル・シグネチャを分解し、識別された試料構造の各々の内部における試料の各マーカの存在度の推定を獲得するステップと、
を含む方法を提供する。
【0042】
本発明の方法によれば、観察領域内に配置された試料が、1つまたはいくつかの放射線源によって放射された放射線を用いて照射される。試料の成分は特定の波長の放射線を選択的に吸収し、通例、異なる波長における放射線を放射し得る。しばしば、試料の内部成分が、直接調査されるために十分なコントラストを欠いていることがあり、このような場合には、コントラストをもたらし、特定の成分の検出を可能にするために、種別特異的タグ(class-specific tags)が試料に添加され得る。これらの成分は、DNA、蛋白質、脂質、炭水化物、またはその他のものであり得、複数のタグが、複数の成分を同時に調査するために用いられてもよい。タグのうちの一部は特定の波長の放射線を選択的に吸収し、広帯域放射線源を用いて照射されたときに、吸収された放射線に相補的な波長の放射線を放射し得る(発色タグ)。他のタグは、特定の波長の高エネルギー放射線を用いて照射されたときに、吸収されたものよりも高い波長のスペクトル内の放射線を放射し得る(蛍光タグ)。蛍光または発色タグは、特定の分子のための天然親和性を有する蛍光色素または色原体であり得るか、あるいは親和性分子(例えば、抗体、DNAレポータ、または文献において知られた他の親和性分子)およびレポータ分子(例えば、色原体または蛍光色素)の組み合わせであり得る。
【0043】
試料によって放射された放射線は集光要素によって集光される。集光要素によって集光された後に、および画像センサに到達する前に、放射された放射線はマルチチャネル濾波要素を通して向けられる。濾波要素を変位させることで、試料の複数の波長符号化2次元マップが順次に記録され、濾波要素の各位置は、画像センサの各放射線検出要素(または放射線要素のグループ)に到達した放射線の波長を選択的に濾波する。それゆえ、濾波要素の位置ごとに、波長符号化2次元マップが、画像センサによって、それが受け取った放射線に基づいて生成される。一実施形態では、濾波要素は集光要素のFOVの空間次元のうちの1つと平行に移動させられ、全FOVを通した濾波要素の完全な変位のために必要とされるステップの数は、獲得される波長符号化2次元マップの数を規定する。
【0044】
複数の波長符号化2次元マップから、試料の複数の単色2次元マップが構築される。一実施形態では、試料の単色2次元マップは、特定の波長に対応する波長符号化2次元マップの部分を組み合わせることによって構築される。それゆえ、試料の複数の単色2次元マップが獲得され、これらの単色2次元マップの各々のものは、試料が所与の放射線源を用いて照射されたときに所与の波長で放射された放射線の情報を有する。獲得された異なる単色2次元マップのセットはスペクトル・キューブを構成する。
【0045】
画像センサを用いて獲得された画像は複数のピクセルによって形成され、各ピクセルは放射線検出要素の出力に対応する。ピクセルごとに、本方法は不連続放射スペクトルを提供し、特定の波長に対応するスペクトルの点は、該波長に関連付けられた単色2次元マップにおいて見出される。
【0046】
各不連続放射スペクトルは、通例、いくつかの重なり合う純粋放射スペクトルによって形成され、各純粋放射スペクトルは特定のマーカに対応する。純粋放射スペクトルの重なり合いまたは混合の量は試料内のマーカの空間分布に依存する。
【0047】
スペクトル・キューブが獲得された後に、試料内に存在する試料構造が、獲得されたスペクトルおよび空間情報に基づいて識別され、特定のスペクトル・シグネチャが、識別された構造ごとに獲得される。その結果、スペクトル・シグネチャおよび空間位置確認に関する情報が、識別されたあらゆる構造のために記憶された、「リスト・モード」ファイルが獲得される。
【0048】
最後に、各構造のスペクトル・シグネチャは既知のスペクトル・シグネチャのセットと比較され、および/または分解され(分離され(unmixed))、各マーカの存在度の推定がその構造のために獲得される。
【0049】
すなわち、本実施形態では、単色2次元マップは、特定の波長に対応する波長符号化2次元マップの部分を組み合わせることによって生成される。本方法のステップf)の代替的な実施形態では、単色2次元マップは、多変数補間プロセスを利用し、ピクセルごとに、波長符号化2次元マップからの記録に基づいてこのような特定の波長(λ)において受け取られた放射線の推定を獲得することによって生成される。
【0050】
この多変数補間の算出は、とりわけ、多項式補間、最近隣補間、クリギング、逆距離加重、自然近傍補間、放射基底関数補間、トライリニア補間、トリキュービック補間、スプライン補間などの、文献においてよく知られたいくつかの方法によって遂行され得る。
【0051】
好ましい実施形態では、多変数補間プロセスはトリキュービック・スプライン補間法である。
【0052】
特定の実施形態では、ステップh)は、空間クラスタリングとも呼ばれる、空間セグメンテーションを用いてスペクトル・キューブ内の構造を識別し、それらの特定のスペクトル・シグネチャを、
試料構造に対応するピクセルの数を決定し、
背景を表すと考えられる区域を識別し、
背景内の区域を決定し、
スペクトルの波長ごとに背景補正信号を次式のように決定することによって獲得する:
【数1】
ここで、NstおよびNbckは、それぞれ、選択された試料構造および背景内のピクセルの数であり、
【数2】
は、試料構造のピクセルiにおいて測定された信号であり、
【数3】
は、背景のピクセルjにおいて測定された信号であり、S’stは試料構造の背景補正信号である。
【0053】
有利に、背景補正は、信号強度の微妙な変化を明らかにすることを可能にする。
【0054】
一実施形態では、ステップh)は、試料構造のサイズおよび/または形状を獲得することを含む。
【0055】
特定の実施形態では、ステップh)は、空間クラスタリングとも呼ばれる、空間セグメンテーションを用いてスペクトル・キューブ内の構造を識別し、それらのサイズを、
試料構造に対応するピクセルの数を決定し、
構造のサイズを以下のように決定することによって獲得する:
【数4】
ここで、Nstは、選択された試料構造内のピクセルの数であり、Pはピクセルのサイズであり、Mはシステムの総合光学倍率(total optical magnification)である。
【0056】
ステップi)の目的は、スペクトル・キューブ内で識別された構造の生物学的性質に関する情報を獲得することである。これは、各構造のスペクトル・シグネチャを既知の生物学的構造のスペクトル・シグネチャのセットと比較することによって達成され得る。加えて、または代替的に、構造のスペクトル・シグネチャが分解され得、調査対象のマーカの各々の相対寄与が獲得され得、複数のマーカの相対寄与は、当該技術分野における専門家の知識に基づいて、または専門家によって以前に構築された割合の参照データベースに基づいて上記構造の性質を識別することを助け得る。
【0057】
ステップi)における試料の各マーカからスペクトル・キューブの各構造への相対寄与の決定は、文献において知られたスペクトル分離方法のうちの任意のものを用いて遂行される。好ましい実施形態では、放射の混合のための線形混合モデルが仮定され、とりわけ、通常最小二乗法(ordinary least-square、OLS)、重み付き最小二乗法(weighted least squares、WLS)、一般化線形モデル(generalized linear model、GLM)、非負最小二乗法(non-negative least-squares、NNLS)のような、異なる方法が、LMM問題を解くために利用され得る。この分離プロセスの結果、複数の画像が試料のマーカごとに獲得される。これらの単色画像は本明細書において「マーカ画像」と称され、試料内の各マーカの存在度を表現することになる。
【0058】
一実施形態では、ステップb)~f)は複数の照射波長(Λ)および/または複数の照射モード(α)のために遂行される。本実施形態では、ステップf)において、各単色2次元マップは、試料が所与の照射モード(α)を用いて所与の照射波長(Λ)を用いて照射されたときに、特定の波長(λ)で放射された放射線に対応し、ステップg)は、複数の単色2次元マップを組み合わせることによって遂行される。複数の照射波長および/または照射モードは、調節可能な波長および/または選択可能な位置を有する1つの放射線源を用いて、あるいは複数の放射線源を用いて提供され得る。
【0059】
加えて、特定の実施形態では、スペクトル・キューブは、特定の波長(λ)および所与の照射波長(Λ)の両方に従って複数の単色2次元マップを仕分けて構築される。
【0060】
一実施形態では、固相試料は、人間、動物、真菌、または植物起源の試料などの、生物試料である。
【0061】
一実施形態では、固相試料は人間の組織の生検材料である。
【0062】
一実施形態では、本方法は、少なくとも1種の分子タグを用いて試料を染色するステップを含む。
【0063】
一実施形態では、染色ステップの際に、少なくとも1種の分子タグは発色性または蛍光性のものである。
【0064】
一実施形態では、染色ステップの際に、少なくとも1種のタグは、試料の少なくとも1種の成分のための天然親和性を呈する、親和性分子と、色原体または蛍光色素である、レポータ分子との組み合わせである。
【0065】
一実施形態では、レポータ分子と組み合わせられる親和性分子のうちの少なくとも1種は抗体である。
【0066】
一実施形態では、染色ステップの際に、少なくとも1種のタグは、試料の少なくとも1種の成分のための天然親和性を有し、同時に、色原体または蛍光色素である、単一種の分子である。
【0067】
本明細書(請求項、説明、および図面を含む)において説明される全ての特徴、および/または説明される方法の全てのステップは、このような相互排他的な特徴および/またはステップの組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせられることができる。
【0068】
本発明のこれらおよび他の特性および利点は、単なる一例として与えられ、それに限定されない、本発明の好ましい実施形態から明らかになる本発明の詳細な説明を、図面を参照しつつ考慮して明確に理解されることになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1-A-1-E】本発明に係るハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システムの5つの実施形態を概略的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る方法のフローチャートを示す図である。
図3】試料の波長符号化空間マップを獲得するプロセスを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
図1-A~図1-Eに、本発明に係るハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)が概略的に示されている。
【0071】
システム(100)は、1つまたは複数の固相試料を保持するように構成された試料保持器(112)を含む、観察領域(104)を備える。一実施形態では、試料保持器は、少なくとも1つの固相試料支持体を保持するように構成されており、各支持体は、固定化された試料、好ましくは、生物試料を包含するように適応させられている。これらの固相試料支持体は、材料が異なり得、好ましくは、結晶質で光に対して透明であり(例えば、ガラスまたはプラスチック)、ならびに、形状およびサイズが異なり得、好ましくは、長方形形状(例えば、顕微鏡スライド)を有する。
【0072】
生物試料は、人間、動物、真菌、または植物起源のものであり得、単独で、または分子タグと組み合わせて用いられ得る。
【0073】
好ましくは、分子タグが、生物試料の成分を明らかにするために用いられる。分子タグのレポータ部分は、照射されたときに、ルミネッセンスを示すか、または放射線を選択的に吸収し得る。分子タグは、その物理構造のゆえに、または生物試料と組み合わせられたときに、特性放射線スペクトルを呈し得る。
【0074】
システム(100)は、観察領域(104)内に配置された試料のマーカを照射し、刺激するための1つまたはいくつかの放射線源(101、102、103)を備える。この相互作用から、放射線が、試料によって、散乱、蛍光、燐光、化学発光、または選択吸収/透過などの任意のプロセスの結果として放射され得る。
【0075】
一実施形態では、観察領域(104)内に配置されるべき生物試料は、生物組織、すなわち、生体内の同様の機能を果たす相互接続された細胞およびそれらの細胞外マトリックスの集団である。その生物組織の成分は特定の波長の光を天然に吸収し、通例、異なる波長における放射線を放射し得る。生物組織の成分が、直接調査されるために十分なコントラストを欠いている場合には、コントラストをもたらし、特定の成分の検出を可能にするために、種別特異的タグが試料に添加され得る。これらの成分は、DNA、蛋白質、脂質、炭水化物、またはその他のものであり得、複数のタグが、複数の成分を同時に調査するために用いられてもよい。
【0076】
放射線に応答して、試料の成分、および/または試料と組み合わせて用いられている分子タグは、集光要素(105)によって撮像された放射線のスペクトルを放射する。集光された放射線はマルチチャネル濾波要素(108)へ向けられ、画像センサ(109)へ改めて向けられる。
【0077】
図1-Aに示される実施形態は、可視スペクトル内の光を放射する3つの放射線源(101、102、103)を含む。しかし、異なる数の放射線源が用いられてもよい。また、標的試料材料の励起に適した任意の既知の放射線源が用いられ得る。例えば、放射線源(101、102、103)は、レーザ、発光ダイオード(light emitting diode)(「LED」)、および/またはランプであり得る。レーザまたはLEDは、複数の励起波長または単一の波長を放射するように構成され得る。放射線源(101)が放射線の1つを超える波長を生成する場合には、放射線が観察領域(104)内の試料に到達する前に任意の不必要な波長を濾波して除去するために、バンド・パス・フィルタ(107)が放射線源(101)の前方に配置され得る。
【0078】
図1-Aの実施形態では、各放射線源(101、102、103)が観察領域(104)の全体を同時に照射する(すなわち、広視野照射)。
【0079】
図1-Bに示される実施形態では、集光要素(105)が配置されている同じ側から到来し、集光要素(105)の光軸に沿って向けられる光のビーム(106)を用いて観察領域(104)を照射する1つの放射線源(101)のみが存在する(明視野落射照明)。図1-Cに示される別の実施形態では、放射線源(102)が、集光要素(105)が配置されている同じ側から到来し、集光要素(105)の光軸に対して0でない角度で向けられる光のビーム(106)を用いて観察領域(104)を照射する(暗視野落射照明)。図1-Dに示される別の実施形態では、放射線源(103)が、集光要素(105)が配置されている側と反対の観察領域の側から到来し、集光要素(105)の光軸に沿って向けられる光のビーム(106)を用いて観察領域(104)を照射する(明視野透過照明)。図1-Eに示される別の実施形態では、放射線源(103)が、集光要素(105)が配置されている側と反対の観察領域の側から到来し、集光要素(105)の光軸に対して0でない角度で向けられる光のビーム(106)を用いて観察領域(104)を照射する(暗視野透過照明)。
【0080】
それゆえ、図1-Bおよび図1-Cの実施形態では、放射線源(101、102)は、集光要素(105)と同じ観察領域(104)の側に配置されており、これにより、観察領域(104)内の試料は、集光要素(105)によって集光される前に放射線源(101、102)の放射線を反射する。図1-Dおよび図1-Eの実施形態では、観察領域(104)は放射線源(103)と集光要素(105)との間に介在させられており、これにより、放射線源(103)からの放射線は、集光要素(105)によって集光される前に観察領域(104)内の試料を通過する。
【0081】
図1-Aに示されるもののような好ましい実施形態では、図1-B~図1-Eに示される上述の撮像幾何のうちの2つ以上がシステム内に共存し得、相補データを獲得するために順次に用いられ得る。
【0082】
照射された試料によって放射された放射線は集光要素(105)によって集光される。好ましい実施形態では、集光要素は、観察領域(104)の複数の空間的位置からの放射線を同時に撮像するように構成されている。一実施形態では、集光要素は、レンズ、またはレンズの組み合わせである。
【0083】
好ましい実施形態では、集光要素は、大きい視野(FOV)を達成し、観察領域(104)の、および、それゆえ、試料の、より大きい2次元区域に関する情報を獲得するために、低い拡大率(M)を有する。好ましくは、拡大率値(M)は20よりも低く、より好ましくは、10よりも低く、最も好ましくは、2よりも低い。拡大率を有するシステムの任意の他の要素と組み合わせられた集光要素(105)の総合拡大率は、画像センサ(109)によるFOVの正確なサンプリング周波数を保証するように選択され得る。FOVのサンプリング周波数は、生物組織試料内の個々の細胞を区別するために選択され得、小さい細胞内詳細を区別するために選択されるものではない。画像センサ(109)は放射線検出要素の2次元アレイを含む。システムの最終拡大率(final magnification factor)は、放射線検出要素のサイズなどの、画像センサの特性に依存し得る。
【0084】
集光要素(105)によって集光された後に、および画像センサ(109)に到達する前に、放射線はマルチチャネル濾波要素(108)を通して向けられる。マルチチャネル濾波要素(108)は、画像センサ(109)の各放射線検出要素、または放射線検出要素のグループに到達した放射線を選択的に濾波する。一実施形態では、マルチチャネル濾波要素(108)は連続または半連続可変バンドパス・フィルタである。
【0085】
本実施形態では、マルチチャネル濾波要素は、1つまたは2つの空間次元(x,y)において変位可能となるように構成されており、それゆえ、画像センサ(109)が複数の2次元出力を生成することを可能にし、各出力は試料の異なる波長符号化(λ=λ(y))2次元(x,y)マップを表現する。画像センサ(109)によって生成された試料の各波長符号化2次元マップはプロセッサ(110)に送信され、および/またはさらなる処理のためにメモリ(111)内に記憶され得る。
【0086】
画像センサ(109)は、アレイ内の各放射線検出要素が、試料内の異なる2次元空間的位置から到来する放射線を受け取り、調査対象の試料の空間(x,y)マップである画像を生成する、2次元アレイセンサである。画像センサ(109)は、電荷結合素子(CCD)、相捕型金属酸化膜半導体(CMOS)、電子増倍CCD(EMCCD)、または2次元空間データを獲得するための任意の他の同様のシステムなどの、2次元光検出器アレイセンサであり得る。2次元画像センサは、指定された時間量の間にデータを累積的にサンプリングするためにトリガされ得る。
【0087】
図2は、本発明の一実施形態に係る方法のフローチャートを示す。タグで染色されていてもよい、試料が観察領域(104)内に配置される(201)。第1の放射線源(101、102、103)が活性化され(202)、濾波要素(108)がその初期位置に配置され(203)、画像センサ(109)が、生物試料の第1の波長符号化2次元マップを表現する第1の画像を記録する(204)。次に、濾波要素(108)が第2の位置へ移動させられ(203)、第2の波長符号化2次元マップが獲得される。このプロセスが、濾波要素(108)の最後の位置に到達されるまで継続される。1つを超える照射モード(α)または照射波長(Λ)が用いられる場合には、第2の放射線源(101、102、103)が活性化され(202)、濾波要素(108)がその初期位置へ移動させられ(203)、新たな波長符号化2次元マップに対応する、新たな画像が獲得される。このプロセスが、濾波要素(108)の最後の位置に到達されるまで継続され、全ての放射線源のために繰り返される。
【0088】
プロセッサ(110)が生物試料の複数の波長符号化2次元マップ(301)を獲得し、特定の波長に対応する波長符号化2次元マップ(301)の部分を組み合わせることによって試料の複数の単色2次元マップ(304)を構築する(205)。これらの単色2次元マップの各々のものは、試料が、所与の照射モード(α)を用いて所与の放射線波長(Λ)を用いて照射されたときに、所与の波長(λ)において放射された放射線に関する空間関連(x,y)情報を有する。これらの複数の単色2次元マップ(304)の組み合わせは、2つの空間次元(x,y)および1つのスペクトル次元(α,Λ,λ)を有するスペクトル・キューブ(306)に単純化され得る5次元(x,y,λ,Λ,α)データセット(305)を構成する。
【0089】
この例示的な実施形態では、単色2次元マップは、特定の波長に対応する波長符号化2次元マップの部分を組み合わせることによって生成されるが、代替的な実施形態では、単色2次元マップは、多変数補間プロセスを利用し、ピクセルごとに、波長符号化2次元マップからの記録に基づいてこのような特定の波長(λ)において受け取られた放射線の推定を獲得することによって生成される。
【0090】
プロセッサ(110)は、生物試料から生成されたスペクトル・キューブ(306)を取得し、意味のある生物試料構造(例えば、細胞)を識別し、それらの構造の各々のスペクトル・シグネチャを獲得するために(207)、データ位置の空間セグメンテーション(206)を遂行する。次に、プロセッサ(110)は各構造のスペクトル・シグネチャを、メモリ(111)内に記憶された既知の構造のスペクトルのデータベースと比較する(208)。代替的に、またはステップ208と同時に、プロセッサ(110)は、各マーカから、スペクトル・キューブ内で識別された各構造のスペクトル・シグネチャへの相対寄与を決定することによって、それらの識別された試料構造の各々の内部における各マーカの存在度の推定(209)(すなわち、スペクトル分離)を遂行する。識別された構造の性質に関する、および/または各マーカの存在度に関する獲得された情報は、当該技術分野における専門家によって、試料に関する他の関連情報と相関され得る(210)。
【0091】
スペクトル分離を遂行するために必要とされる、放射の混合のための一般に認められているモデルは、放射の存在度の線形結合を仮定する、線形混合モデル(Linear Mixing Model、LMM)である。複数の単色2次元マップはピクセルごとに不連続放射スペクトルを提供し、特定の波長に対応するスペクトルの点は、該波長に対応する単色2次元マップにおいて見出される。
【0092】
LMMによれば、不連続放射スペクトルが個々のマーカのスペクトルの線形結合であると仮定される。N個のピクセルまたは構造から到来するM個の励起されたマーカの放射がL個の励起波長(Λ)において取得され、L個の個々の信号(チャネル)を生成する。したがって、各ピクセルまたは構造は、チャネルごとにM個のマーカの寄与の合計を包含するL個のチャネルのベクトルによって表現される。LMMは、次式のように、その行列形式で書かれることができる:
Y=AH
ここで、Yは、検出された強度のLxN行列であり、Aは、L個のスペクトル・チャネルの各々におけるM個のマーカの各々の予想される放射を包含する混合のLxM行列であり、Hは構造ごとの現実のマーカ濃度のMxN行列である。
【0093】
測定における不確実性も、ノイズをモデル内に含めることによって考慮され得る。通例、2つのノイズモデルが採用される。第1のモデルは加算性ガウス・ノイズ(ホワイト・ノイズ)モデルであり、この場合、上式は次式に変更される:
Y=AH+R
ここで、Rは、0の平均を有する独立で同一の分布に従うガウス変数によって形成された行列である。第2のモデルはポアソン過程を用いて光子放射をモデル化する。
【0094】
とりわけ、通常最小二乗法(OLS)、重み付き最小二乗法(WLS)、一般化線形モデル(GLM)、非負最小二乗法(NNLS)のような、異なる方法が、LMM問題を解き、各マーカの存在度を有する空間マップを獲得するために利用され得、空間マップはプロセッサへ送信され、および/またはさらなる処理のためにメモリ内に記憶され得る。
【0095】
図3は、生物試料の波長符号化2次元マップを獲得するステップ(A)、および組み合わせられたときに、試料のスペクトル・キューブを構成する(D)、生物試料の単色2次元マップへのそれらの変換のステップ(B&C)の一実施形態を示す。プロセスは、所与の照射波長(Λ)および所与の照射モード(α)のために濾波要素(108)の異なる位置を用いて取得された全ての連続した画像を用い、次に、(x,y,λ)次元空間内で機能する。1つを超える照射波長(Λ)および/または1つを超える照射モード(α)が用いられた場合には、プロセスは画像のセットごとに独立して行われ、画像の各セットは所与の照射波長(Λ)および所与の照射モード(α)に対応する。
【0096】
各波長符号化2次元マップ(301)は、いくつかの連続した個別のステップにおいて濾波要素(108)を集光要素のFOVの空間次元のうちの1つ(y)と平行に移動させることによって獲得される(A)。全FOV(303)を通した濾波要素の完全な変位のために必要とされるステップの数は、取得される画像の数、およびそれゆえ、波長符号化2次元マップの数を規定する。
【0097】
各波長符号化2次元マップ(301)は「y」空間次元に沿って「n」個の帯域に分割される(スライスされる)(B)。帯域の数「n」は、全FOVを通したフィルタの1つの帯域の完全な変位のために必要とされるステップの数に対応する。帯域の各々のものは、同じ波長に対応する他の波長符号化2次元マップ(301)からの帯域と組み合わせられ、各々のものが特定の波長に対応する、生物試料の単色2次元マップ(304)を再現する。単色2次元マップ(304)の完全セットはスペクトル・キューブ(306)を構成する。図3において、同じ波長に対応する帯域は同じパターンを用いて表現されている。
【0098】
代替的な実施形態では、単色2次元マップは、多変数補間プロセスを利用し、ピクセルごとに、波長符号化2次元マップからの記録に基づいて特定の波長(λ)において受け取られた放射線の推定を獲得することによって、波長符号化2次元マップから生成される。
【0099】
以下の条項が本発明に従って本明細書において提供される:
第1項. 1つまたは複数の固相試料を保持するように構成された試料保持器を含む、観察領域(104)と、
観察領域(104)を照射するように構成された少なくとも1つの放射線源(101、102、103)と、
少なくとも1つの放射線源(101、102、103)による照射時に試料を通して放射された、またはそれによって反射された放射線を集光するように構成された集光要素(105)と、
集光要素(105)によって集光された放射線の波長を選択的に濾波するように構成されたマルチチャネル濾波要素(108)と、
濾波された放射線を受け取り、試料の2次元マップである画像を生成するように構成された画像センサ(109)であって、画像センサ(109)が放射線検出要素の2次元アレイを含む、画像センサ(109)と、
を備える、ハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0100】
第2項. 濾波要素(108)が、少なくとも2つの位置の間で可動であるように構成されており、濾波要素(108)の各位置が、画像センサ(109)の各放射線検出要素に到達した放射線の波長を選択的に濾波する、第1項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0101】
第3項. システムがプロセッサ(110)をさらに備え、プロセッサ(110)が、
- 試料の複数の波長符号化2次元マップ(301)を受け取ることであって、複数の波長符号化2次元マップ(301)が濾波要素(108)の複数の位置に関連付けられており、波長符号化2次元マップが、画像センサ(109)によって、それが濾波要素(108)の位置のために受け取った放射線に基づいて生成された画像であることと、
- 特定の波長(λ)に対応する試料の波長符号化2次元マップ(301)の部分を組み合わせることによって試料の複数の単色2次元マップ(304)を生成すること(205)と、
- 複数の単色2次元マップ(304)を含むスペクトル・キューブ(306)を構築することと、
- スペクトル・キューブ(306)上の試料構造を識別し(206)、それらのスペクトル・シグネチャを獲得すること(207)と、
- 獲得されたスペクトル・シグネチャを既知の構造のスペクトル・シグネチャのデータベースと比較し(208)、および/またはスペクトル・シグネチャを分解し、識別された試料構造の各々の内部における各マーカの存在度の推定を獲得すること(209)と、
を行うように構成されている、第2項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0102】
第4項. 観察領域(104)は、上記放射線源(103)の放射線が、集光要素(105)によって集光される前に観察領域(104)を通過するよう、透過照明構成に従って、少なくとも1つの放射線源(103)と集光要素(105)との間に介在させられている、第1項から第3項のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0103】
第5項. 少なくとも1つの放射線源(102)、観察領域(104)、および集光要素(105)が暗視野構成に従って配置されている、第1項から第4項のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0104】
第6項. 少なくとも1つの放射線源(101、103)、観察領域(104)、および集光要素(105)が明視野構成に従って配置されている、第1項から第5項のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0105】
第7項. 少なくとも1つの放射線源(101、102)は、観察領域(104)が、集光要素(105)によって集光される前に上記放射線源(101、102)の放射線を反射するよう、落射照明構成に従って、観察領域(104)に向けて配向されている、第1項から第6項のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0106】
第8項. システム(100)がメモリ(111)をさらに備える、第1項から第7項のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0107】
第9項. システム(100)が、少なくとも1つの放射線源(101、102、103)と観察領域(104)との間に介在させられた少なくとも1つのバンド・パス・フィルタ(107)をさらに備える、第1項から第8項のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0108】
第10項. 少なくとも1つの放射線源(101、102、103)が、レーザ、発光ダイオード、またはランプである、第1項から第9項のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0109】
第11項. 集光要素(105)が、観察領域の複数の空間的位置からの放射線を同時に撮像するように構成された、レンズ、またはレンズの組み合わせを含む、第1項から第10項のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0110】
第12項. 集光要素(105)が、20よりも低い、好ましくは、10よりも低い、最も好ましくは、2よりも低い拡大率値(M)を有し、および/または
集光要素(105)が、0.25よりも高い、好ましくは、0.5以上の開口数値を有する、第1項から第11項のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0111】
第13項. 濾波要素(108)が、200nm~1200nm、好ましくは、350nm~950nmの、連続または半連続線形可変フィルタである、第1項から第12項のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)。
【0112】
第14項. 第1項から第13項のいずれか一項に記載のハイパースペクトル定量的イメージング・サイトメトリ・システム(100)を用いて固相試料からデータを獲得するための方法であって、
a) 試料を提供するステップ(201)と、
b) 試料を、試料と相互作用する放射線を用いて照射するステップ(202)であって、これにより、試料が放射線を放射する、ステップ(202)と、
c) 集光要素(105)を用いて、放射された放射線を撮像するステップと、
d) マルチチャネル濾波要素(108)を用いて、放射された放射線を濾波するステップと、
e) 濾波要素(108)の順次変位(203)と協調して試料の複数の波長符号化2次元マップ(301)を順次に記録するステップ(204)であって、濾波要素(108)の各位置が、画像センサ(109)の各放射線検出要素に到達した放射線の波長(λ)を選択的に濾波し、波長符号化2次元マップが、画像センサ(109)によって、それが濾波要素(108)の位置ごとに受け取った放射線に基づいて生成される、ステップ(204)と、
f) 放射された放射線の特定の波長(λ)に対応する試料の波長符号化2次元マップ(301)の部分を組み合わせることによって試料の複数の単色2次元マップ(304)を生成するステップ(205)と、
g) 複数の単色2次元マップ(304)を含むスペクトル・キューブ(306)を構築するステップと、
h) スペクトル・キューブ(306)上の試料構造を識別し(206)、それらのスペクトル・シグネチャを獲得するステップ(207)と、
i) 獲得されたスペクトル・シグネチャを既知の構造のスペクトル・シグネチャのデータベースと比較し(208)、および/またはスペクトル・シグネチャを分解し、識別された試料構造の各々の内部における各マーカの存在度の推定を獲得するステップ(209)と、
を含む方法。
【0113】
第15項. ステップb)~f)が複数の照射波長(Λ)および/または複数の照射モード(α)のために遂行され、ステップf)において、各単色2次元マップ(304)は、試料が、所与の照射波長(Λ)を用いて、および所与の照射モード(α)で照射されたときに、特定の波長(λ)で放射された放射線に対応し、ステップg)が、複数の単色2次元マップ(304)を組み合わせることによって遂行される、第14項に記載の方法。
図1-A】
図1-B】
図1-C】
図1-D】
図1-E】
図2
図3
【国際調査報告】