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特表2022-535801Klothoタンパク質の産生を活性化するクエン酸塩およびカルニチンを含む組成物
<図1>
  • 特表-Klothoタンパク質の産生を活性化するクエン酸塩およびカルニチンを含む組成物 図1
  • 特表-Klothoタンパク質の産生を活性化するクエン酸塩およびカルニチンを含む組成物 図2
  • 特表-Klothoタンパク質の産生を活性化するクエン酸塩およびカルニチンを含む組成物 図3
  • 特表-Klothoタンパク質の産生を活性化するクエン酸塩およびカルニチンを含む組成物 図4
  • 特表-Klothoタンパク質の産生を活性化するクエン酸塩およびカルニチンを含む組成物 図5
  • 特表-Klothoタンパク質の産生を活性化するクエン酸塩およびカルニチンを含む組成物 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】Klothoタンパク質の産生を活性化するクエン酸塩およびカルニチンを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/194 20060101AFI20220803BHJP
   A61K 31/205 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 47/16 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220803BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20220803BHJP
【FI】
A61K31/194
A61K31/205
A61P43/00 121
A61K47/10
A61K47/16
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/02
A61K9/08
A61P13/12
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571471
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(85)【翻訳文提出日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 EP2020063454
(87)【国際公開番号】W WO2020239459
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】102019000007446
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521521390
【氏名又は名称】イパルボリアル ファルマ エスアールエル
【氏名又は名称原語表記】IPERBOREAL PHARMA SRL
【住所又は居所原語表記】Via Piave, 110/7, 65122 PESCARA, ITALY
(71)【出願人】
【識別番号】521521404
【氏名又は名称】カステラーノ,ジュゼッペ
【氏名又は名称原語表記】CASTELLANO, Giuseppe
【住所又は居所原語表記】Via Giuseppe Garibaldi, 39, 70124 Gravina in Puglia (BA), ITALY
(71)【出願人】
【識別番号】521521415
【氏名又は名称】プエラプリアエ インベスト エスアールエル
【氏名又は名称原語表記】PUERAPULIAE INVEST SRL
【住所又は居所原語表記】Via Robert Kennedy, 3/C, 70124 Bari (BA), ITALY
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カステラーノ,ジュゼッペ
(72)【発明者】
【氏名】フランツィン,ロッサーナ
(72)【発明者】
【氏名】シュタージ,アレッサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】サルスティオ,ファビオ
(72)【発明者】
【氏名】アルディーニ,アルドゥイーノ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB02
4B065BB12
4B065BD22
4B065BD33
4B065CA44
4C076AA01
4C076AA11
4C076AA29
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA54
4C076BB01
4C076CC17
4C076DD38
4C076FF67
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA34
4C206FA59
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA36
4C206MA51
4C206MA54
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA61
4C206MA63
4C206NA06
4C206ZA81
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、腎尿細管細胞を保護するKlothoタンパク質の産生を活性化する、クエン酸塩およびカルニチンを含む組成物に関する。これにより、その酸化ストレス状態を軽減することができ、臓器移植のための臓器を保全、灌流および再灌流するために使用することができる。さらに、液体形態および食事療法/栄養補助製品の組成物は、ヨード造影手段、抗生物質、NSAIDまたは酸化ストレスを誘発する薬剤によって誘発される腎毒性を軽減するために使用され得る。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む医薬組成物であって、前記クエン酸塩の濃度は、0.25mM~10mMの範囲であり、前記カルニチンの濃度は、2.5mM~5mMの範囲である、医薬組成物。
【請求項2】
前記クエン酸塩の濃度は、2.5mMまたは5mMである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記カルニチンの濃度は、2.5mMまたは5mMである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記クエン酸塩の濃度は、5mMであり、前記カルニチンの濃度は、5mMである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
少なくとも1つのポリオールをさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ポリオールは、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、イソマルト、ラクチトールおよびポリグリシトールからなる群から選択される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記クエン酸ナトリウムは、クエン酸二ナトリウム、クエン酸一ナトリウムおよびクエン酸三ナトリウムのナトリウム塩の形態である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
液体形態または固体形態に製剤化される、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記固体形態は、錠剤、丸薬、硬質カプセル、粉末、顆粒および座薬からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記液体形態の医薬組成物を、移植用臓器のための保存液および/または保全液および/または灌流液および/または再灌流液に添加した、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記液体形態の医薬組成物であって、移植用臓器のための前記保存液および/または前記保全液および/または前記灌流液および/または前記再灌流液は、スティーン溶液、ユーロコリンズ溶液、ウィスコンシン大学溶液、ヒスチジン・トリプトファン・ケトグルタル酸溶液、マーシャル溶液、セルシオ溶液およびインスティテュート・ジョルジュ・ロペス溶液からなる群から選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記液体形態の組成物であって、移植用臓器のための前記保存液および/または前記保全液として使用される、請求項8、10および11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記液体形態の組成物であって、移植用臓器のための前記灌流液および/または前記再灌流液として使用される、請求項8、10および11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
腎毒性物質によって誘発される腎障害を予防および/または軽減するために使用される、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記腎毒性物質は、ヨード造影剤、腎毒性のある抗生物質、抗炎症作用のあるNSAIDs、および酸化ストレスを誘発する薬剤からなる群から選択される、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
酸化ストレスを誘発する前記薬剤は、活性酸素種、過酸化水素および活性窒素種からなる群から選択される、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記液体形態の組成物であって、灌流装置内で移植用臓器を灌流するための溶液として使用される、請求項10または11に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品の分野に関し、より詳細には、腎細胞によるKlothoタンパク質の産生を活性化することができ、したがって、腎臓に影響を与える可能性のある外因性および内因性の要因による酸化ストレスに起因する損傷を軽減することができる、クエン酸塩およびカルニチンを含む組成物に関する。本製剤は、ヨード造影剤、抗生物質または非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、および酸化ストレスを誘発する薬剤によって誘発される腎毒性を軽減するために使用され得る。臓器移植の分野において、移植用臓器の保存、灌流および再灌流のため、ならびに腎臓の早期老化を防止するために、この組成物を効果的に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
Klothoタンパク質は、α、βおよびγの3つの異なるアイソフォームが存在する。ヒトでは、α-Klothoは、KLという遺伝子でコードされ、主に腎臓の遠位尿細管に発現するβ-グルコシダーゼファミリーに属する酵素をコードしているが、脳の脈絡叢レベル、副甲状腺、膀胱、骨格筋、胎盤、甲状腺、および大動脈や腎動脈の内皮細胞にも発現している(J.Donate-Correa「Expression of FGF23/KLOTHO system in human vascular tissue」Int.J.Cardiol.(2013)、K.Lim「Vascular Klotho deficiency potentiates the development of human artery calcification and mediates resistance to fibroblast growth factor 23」Circulation(2012)、K.Lim「α-Klotho Expression in Human Tissues」J.Clin.Endocrinol.Metab.(2015))。
【0003】
単にKlothoとも呼ばれるα-Klothoは、老化や炎症に対抗するタンパク質であり、主に腎臓から放出される可用性形態のα-Klothoが血液中に分泌され、生体全体、特に、心血管および中枢神経系レベルで保護機能を発揮する。特に、可用性形態のα-Klothoは、動脈における石灰化を低減し、心臓の肥大症を予防する(J.Xie「Cardioprotection by Klotho through downregulation of TRPC6 channels in the mouse heart」Nat.Commun.(2012))。これは、内皮機能不全および平滑筋細胞への酸化ストレスの抑制によって行われる(R.Mencke,J.L.Hillebrands「The role of the anti-ageing protein Klotho in vascular physiology and pathophysiology」Ageing.Res.Rev.(2017)、J.Donate-Correa「Klotho in cardiovascular disease:Current and future perspectives」World J.Biol.Chem.(2015))。
【0004】
中枢神経系レベルでは、α-Klothoは、認知能力の促進、および神経疾患や精神疾患に対抗するために不可欠な役割を果たしている(H.T.Vo「Klotho,the Key to Healthy Brain Aging?」Brain Plast.(2018))。動物モデルでは、このタンパク質の発現が増加することで、認知能力の改善や、アルツハイマー病に関連する神経変性に対する抵抗性が増加することが示されている。さらに、in vitroの細胞培養では、Klothoタンパク質が酸化ストレスに対してより大きな抵抗性を誘導し、A13タンパク質によって誘発される細胞毒性やアルツハイマー病に関連するグルタミン酸による細胞毒性を有意に予防することが観察された(M.M.Cararo-Lopes「The relevance of α-KLOTHO to the central nervous system:Some key questions」Ageing Res.Rev.(2017))。
【0005】
FGF(Fibroblast Growth Factor(線維芽細胞増殖因子))23の共受容体として機能するα-Klothoの膜貫通形態は、130kDaである。一方、血清、尿および脳脊髄液中に検出される分泌形態は、膜貫通タンパク質の開裂と選択的スプライシング(70kDaのアイソフォームを形成)の両方によって形成され得る。腎尿細管では、膜タンパク質であるKlothoがリン酸の再吸収を調節し、カルシウムの恒常性に関与するビタミンDの代謝を制御する。一方、分泌形態は、FGF23受容体から独立して作用し、ホルモン作用を伴って血流に沿って拡散される。これにより、インスリンのシグナル伝達が調節され、抗酸化作用や抗老化作用を有するWntの伝達経路が調節される(C.Schmid「Growth hormone and Klotho」J.Endocrinol.(2013))。
【0006】
Klothoをもたない遺伝子導入マウスは、早死に、骨粗鬆症、視力喪失、動脈硬化および血管石灰化を伴う促進老化に類似する症候群を発症し、特に、内皮依存性の血管拡張と血管新生に障害が見られる。Klothoタンパク質による心臓血管系の保護は、血管収縮および内皮機能不全に対抗する抗酸化分子として知られている一酸化窒素の放出を制御することによって行われる。ノックアウトマウスとは異なり、Klothoを過剰に発現させたマウスは、正常のマウスよりも長生きする。
【0007】
β-Klothoに関しては、脂質の代謝、グルコースの恒常性および胆汁の放出を制御することが知られている(Y.Xu「Molecular basis of Klotho:from gene to function in aging」Endocr.Rev.(2015)、M.Yamamotoら「Regulation of oxidative stress by the anti-aging hormone klotho」J.Biol.Chem.(2005)、S.Ito「Impaired negative feedback suppression of bile acid synthesis in mice lacking beta Klotho」J.Clin.Invest.(2005)、M.S.Razzaque「The role of Klotho in energy metabolism」Nat.Rev.Endocrinol.(2012))。βの調節解除は、肥満などの脂肪組織の変化と関連している(V.J.Nies「Fibroblast Growth Factor Signaling in Metabolic Regulation」Front Endocrinol.(Lausanne)(2016))。β-Klothoによって調節される褐色脂肪組織、肝臓および腸内微生物叢の間の相互作用(クロストーク)の存在が指摘されている(E.Sommら「β-Klotho deficiency protects against obesity through a crosstalk between liver,microbiota,and brown adipose tissue」JCI Insight(2017))。γ-Klothoの機能はあまりよく知られておらず、大いに議論されている(J.H.Kim「Biological role of anti-aging protein Klotho」J.Lifestyle Med.(2015))。健康な人の場合、Klothoの平均的な血清値は、約472pg/mlであることが知られている(L.Pedersen「Soluble serum Klotho levels in healthy subjects」Clin.Biochem.(2013))。その一方で、加齢と共に、または慢性腎疾患の患者において、または心血管疾患や糖尿病を患っている人において、値は大きく低下する。特に、可溶性Klothoのレベルは、血清中クレアチニンと逆相関することが観察されてきた。血漿中のKlothoの正常値に対する女性/男性の性別の影響については、まだ大いに議論されている(Y.Yamazaki「Establishment of sandwich ELISA for soluble alpha-Klotho measurement:Age-dependent change of soluble alpha-Klotho levels in healthy subjects」Biochem.Biophys.Res.Commun.(2010))。
【0008】
様々な研究により、Klothoの放出を増加させる要因が検証され、採用すべき薬品、天然化合物またはライフスタイルが特定されてきた。その例として、糖尿病や糖尿病性腎症の動物モデルに静脈内投与されるACE阻害剤(ラミプリル)(C.Zanchi「Renal expression of FGF23 in progressive renal disease of diabetes and the effect of ACE inhibitor」PLoS One(2013)、N.Eltablawy「Vitamin D protection from rat diabetic nephropathy is partly mediated through Klotho expression and renin-angiotensin inhibition」Arch.Physiol.Biochem.(2018))、老化マウスモデルの栄養補助食品として評価される、ラクトバチルス・アシドフィルスやビフィドバクテリウム・ビフィダムなどのプロバイオティクス因子(D.Kaushal「Probiotic Dahi containing Lactobacillus acidophilus and Bifidobacterium bifidum alleviates age-inflicted oxidative stress and improves expression of biomarkers of ageing in mice」Mol.Biol.Rep.(2012))、サルの腎臓細胞でin vitroでその影響が分析されたインスリン(C.D.Chen「Insulin stimulates the cleavage and release of the extracellular domain of Klotho by ADAM10 and ADAM17」Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2007))などが挙げられる。
【0009】
例えばインドキシル硫酸のようにKlothoの放出を低減する、活性炭にように尿毒症毒素を隔離することができる一部の化合物は、様々な研究で有効性が示されている(S.Lekawanvijit「Chronic kidney disease-induced cardiac fibrosis is ameliorated by reducing circulating levels of a non-dialysable uremic toxin, indoxyl sulphate」PLoS One(2012))。
【0010】
最後に、特に透析患者におけるビタミンDの栄養補給からは、対照的な結果が得られている(D.Prie「Reciprocal control of 1,25-dihydroxyvitamin D and FGF23 formation involving the FGF23/Klotho system」Clin.J.Am.Soc.Nephrol.(2010)、E.Seibert「Influence of cholecalciferol supplementation in hemodialysis patients on monocyte subsets:a randomized,double-blind,placebo-controlled clinical trial」Nephron.Clin.Pract.(2013))。
【0011】
運動は、循環するKlothoレベルを安定的に増加させることができる主な因子の1つであることが示されている(K.G.Avin「Skeletal muscle as a regulator of the longevity protein,Klotho」Front Physiol.(2014))。
【0012】
国際公開WO2018098375号には、Klothoの組み換えタンパク質が記載されている。
【0013】
韓国特許出願第20170111384号には、薬剤タクロリムスによって誘発される腎レベルにおける毒性を低減するための、Klothoを含む組成物が記載されている。
【0014】
中国特許出願第107438423号には、長寿の遺伝子を活性化するための、Klothoを含む組成物が記載されている。
【0015】
カナダ国特許出願第3025461号には、Klothoタンパク質の様々な治療への応用が記載されている。
【0016】
米国特許出願第2018289306号には、腎障害のためのバイオマーカーとしてKlothoを使用することが記載されている。
【0017】
米国特許出願第2018037868号には、Klothoを発現する遺伝子組み換え間充織幹細胞が記載されている。
【0018】
中国特許出願第105838661号には、腎臓のヘテロ移植のための遺伝子を組み換えて使用することが記載されている。
【0019】
イスラエル国特許出願第201880号、米国特許出願第2012172314号および米国特許出願第2012232024号には、癌を治療するための、Klothoを含む医薬製剤が記載されている。
【0020】
特開2001-072607号には、α-Klothoタンパク質をコードするKL遺伝子を含むベクターを有する医薬組成物が記載されている。これは、高血圧や粥状動脈硬化から内皮を保護することができる。
【0021】
中国特許第104826164号には、KlothoまたはGDNFタンパク質を含む人工血管が記載されている。
【0022】
中国特許出願第102961739号、中国特許出願第107148215号、中国特許出願第107148215号、中国特許出願第106342787号、中国特許出願第106035316号、米国特許出願第2018070582号、米国特許出願第2017265456号、米国特許出願第2017265456号、米国特許出願第2016302406号、米国特許出願第2017265456号、シンガポール共和国特許出願第10201709595号、シンガポール共和国特許出願第10201709595、特開2017-186295号、特開2017-061531号、特開2017-057184号、特開2017-186295号および国際公開WO2015152429号には、移植用臓器を保存するための溶液が記載されている。
【0023】
国際公開WO2002/102149号には、移植を待つ臓器を保存、維持および灌流するための溶液が記載されている。これは、カリウム、一酸リン酸塩、二酸リン酸塩、イオン、塩化物、ナトリウムおよび重炭酸塩を含む平衡等張液と、50mM~250mMのグルコースと、0.2mM~20mMのアルカノイルL-カルニチンまたは生理学的に許容される塩と、1mM~100mMのL-カルニチンまたは生理学的に許容される塩と、(e)水と、を含む。好ましくは、カルニチンは、クエン酸塩として存在する。この溶液は、マンニトールなどの抗酸化剤をさらに含むことができる。
【0024】
米国特許出願公開第2018070582号には、臓器を保存するための溶液が記載されている。これは、デキストランやポリエチレングリコールなどのコロイドと、クエン酸ナトリウムなどのpH緩衝性を有する緩衝化合物と、マンニトールなどの防水性を有する成分と、少なくとも1つのビタミンと、少なくとも1つの電解質と、少なくとも1つのエネルギー供給系成分と、抗酸化剤を形成するための少なくとも1つの基質と、カルニチンなどの1つまたは複数のアミノ酸と、を含む。特に、マンニトールと、クエン酸ナトリウム、カルニチン、ならびにラフィノース、トレハロースおよびラクトビオン酸から選択される防水剤を含むES2と、を含む2つの標準的なHTK保存組成物が記載されている。
【0025】
Mark D.Kayらによる科学論文(「NormothermicHypothermicFlush Using a Novel Phosphate-Free Preservation Solution(AQIX)in Porcine Kidneys」Journal of Surgical Research,171(1)275~282)には、AQIX、高浸透圧クエン酸塩(HOC)およびウィスコンシン大学溶液(UW液)と呼ばれる臓器用溶液が記載されている。
【0026】
Ren Hany Tolbaによる科学論文(「Improved Preservation of Warm Ischemia-Damaged Porcine Kidneys after Cold Storage in Ecosol,a Novel Preservation Solution」Annals Of Transplantation,20,233~242)では、クエン酸塩カルニチンを含むEcosolと、マンニトールを含むHTKという2つの保存液を比較している。
【0027】
中国特許第109549032号には、マラカイト茶を16%~20%、L-カルニチンを8%~20%、難消化性デキストリンを1%~3%、甘味料を8%~10%、スイートオレンジの濃縮果汁を3%~5%、クエン酸を0.02%~0.04%、リンゴ酸を0.02%~0.04%、およびマルチビタミンを含む、減量用の機能性飲料が記載されている。ここで、マルチビタミンにおいて、B1は0.002%~0.004%0、B6は0.0008%0~0.0016%0、およびB12は0.00008%0~0.0002%0であり、甘味料は、キシリトール、マルチトール、ソルビトール、マンニトールおよびラクチトールなどのポリオールである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
腎尿細管細胞は、Klothoの主な放出源である。Klothoは、体の様々な部位で抗老化作用、抗線維化作用および抗炎症作用などの多くの有益な作用を発揮する。
【0029】
損傷や細胞の老化の状況において、腎尿細管は、Klothoの産生を著しく低減させて、その本来の抗老化機能を果たせなくする。
【0030】
腎臓は、血液フィルターとしての機能を有し、生体の浄化を担う臓器であるため、腎臓を通過する物質による潜在的な損傷に曝される。腎生理学について最も有害な外因性の物質には、一部の薬品および/または代謝物、放射線治療に使用される造影剤、および抗生物質がある。
【0031】
本発明の発明者らは、腎臓の上皮細胞におけるKlothoタンパク質の産生を保護し、その合成および放出の抑制を防止することができる物質を特定し、試験を行った。この保護は、腎毒性物質、酸化ストレスを引き起こす薬剤およびヨード造影剤などの異なる毒性の尿細管物質に対して発揮される。
【0032】
その他、敗血症や腎臓移植などの外科的手術により、腎臓の機能が急激に低下し、急性腎障害として定義される死亡率の高い重篤な病状が発症する場合がある。
【0033】
敗血症は、生体の異常な免疫反応による全身性の炎症を特徴とした臨床症候群の1つであり、急性腎障害に発展することもある。敗血症の経過中におけるKlothoの劇的な調節解除が、多臓器不全の発生率と死亡率の増加を決定することが実証されている(L.B.Jorge「Klotho deficiency aggravates sepsis-related multiple organ dysfunction」Am.J.Physiol.Renal Physiol.(2019)、D.Jou-Valencia「Renal Klotho is Reduced in Septic Patients and Pretreatment With Recombinant Klotho Attenuates Organ Injury in Lipopolysaccharide-Challenged Mice」Crit.Care Med.(2018))。
【0034】
現在のところ、腎臓移植は、末期の腎疾患患者の治療法として選ばれており、透析に比べて生活の質が向上を提供することができる。しかしながら、虚血性障害や再灌流など、献体や移植処置の際に生じる避けられない事象や、使用された臓器の質の低さが主な原因となって、移植後不全のケースが未だに数多く存在する。
【0035】
実際、生体臓器提供者が不足しているため、移植団体は、脳死や心臓死後のドナーを移植の候補者として考慮するようになり、最近では、高齢者や、高血圧を有する者、心血管合併症を有する者、または血清中クレアチニンが1.5mg/mlを超える者を含むマージナルドナー(拡大適応ドナー)も登録基準として考慮するようになった。
【0036】
本発明は、血行動態の変化、炎症誘発性反応および酸化ストレスなどの複雑な生理的現象を特徴としたこのような状況において、腎臓におけるKlothoの産生を増加させることができる化合物を提供する。これは、腎機能パラメータや移植される臓器の質の改善につながる。
【0037】
上述した技術的課題は、生体が内因性に産生する、正常な細胞代謝に関与する天然物質を含む組成物を提供することによって解決される。
【0038】
また、本発明の発明者らは、個々の成分の濃度間隔を、現状で入手可能なすべての成分を含めて意図的に選択して、個々の成分が発揮する相加効果に対して、組み合わせた成分がより大きな相乗効果を発揮するという予想外で驚くべき相乗効果を検証して得ることができた。
【課題を解決するための手段】
【0039】
上述した技術的課題は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む医薬組成物を提供することで解決される。
【0040】
本発明の目的は、有効成分としてクエン酸塩、カルニチン、ならびに任意選択且つ追加的に、少なくとも1つのポリオールおよび薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む医薬組成物を提供することである。
【0041】
本発明のさらなる目的は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに任意選択且つ追加的に、移植用臓器のための保存液および/または保全液、または移植用臓器のための灌流液および/または再灌流液に添加された少なくとも1つのポリオールを含む、液体形態の医薬組成物を提供することである。
【0042】
本発明のさらなる目的は、腎毒性物質によって誘発される腎障害を軽減するために使用される上述した組成物を提供することである。
【0043】
本発明のさらなる目的は、腎毒性物質によって誘発される腎障害を予防および/または軽減するための輸液として使用される、液体形態の上述した組成物を提供することである。
【0044】
本発明のさらなる目的は、移植用臓器のための保存液および/または保全液、ならびに移植用臓器のための灌流液および/または再灌流液として使用される、液体形態の上述した組成物を提供することである。
【0045】
本発明のさらなる目的は、腎毒性物質によって誘発される腎障害を予防および/または軽減するための食事療法/栄養補助製品を構成する、固体形態の上述した組成物を提供することである。
【0046】
本発明のさらなる特徴は、添付の図面と実験データを参照して記載した以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】in vitroの培養モデル、および生理学的な基本条件と腎毒性傷害後の両方で、RPTEC(腎尿細管細胞)における上清中のKlothoレベルを増加させることができるクエン酸塩およびカルニチンの化合物と濃度を試験するために使用した条件を示す図である。
図2】クエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後、Hの刺激による酸化ストレスに6時間曝した際の、尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出に関する結果を示す図である。
図3】クエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後、ヨードキサノール(商品名Visipaque、ヨード造影剤)に6時間曝した際の、尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出に関する結果を示す図である。
図4】クエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後、硫酸ゲンタマイシン(抗生物質)によって誘発された尿細管損傷に6時間曝した際の、尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出に関する結果を示す図である。
図5】KL遺伝子の転写物(α-Klothoタンパク質)について、臍帯由来の内皮細胞(HUVEC)の初代培養において実施されたリアルタイムPCRに関する結果を示す図である。
図6】5mMの濃度のクエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後の腎尿細管細胞の初代培養で観察された細胞増殖の増加を示す、MTT試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む医薬組成物に関する。
【0049】
代替的に、有効成分としてカルニチンおよび薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む医薬組成物は、少なくとも1つのポリオールをさらに含むことができる。
【0050】
好ましくは、ポリオールは、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、イソマルト、ラクチトール、ポリグリシトールおよびキシリトールからなる群から選択される。
【0051】
本医薬組成物は、用途に応じて液体形態または固体形態に製剤化され得る。
【0052】
この固体形態は、錠剤、丸薬、硬質カプセル、粉末、顆粒または座薬であり得る。
【0053】
本発明は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む、腎尿細管および内皮細胞によるKlothoタンパク質の産生を刺激することができる医薬組成物に関する。
【0054】
好ましくは、腎細胞は、尿細管細胞および/または内皮細胞である。
【0055】
本発明は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む、腎毒性物質によって誘発される腎障害を軽減するための医薬組成物に関する。
【0056】
本発明のさらなる目的は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む、移植用臓器のための保存液および/または保全液として使用される、液体形態の組成物を提供することである。
【0057】
本発明のさらなる目的は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む、移植用臓器のための灌流液および/または再灌流液として使用される、液体形態の組成物を提供することである。
【0058】
本発明のさらなる目的は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む、腎毒性物質によって誘発される腎障害を予防および/または軽減するための、液体形態の組成物を提供することである。
【0059】
本発明のさらなる目的は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む、腎毒性物質によって誘発される腎障害を予防および/または軽減するための食事療法/栄養補助製品を構成する、固体形態の組成物を提供することである。
【0060】
腎毒性物質は、ヨード造影剤、腎毒性のある抗生物質、抗炎症作用のあるNSAIDs、および酸化ストレスを誘発する薬剤からなる群から選択される。
【0061】
好ましくは、固体形態は、錠剤、丸薬、硬質カプセル、粉末、顆粒または座薬である。
【0062】
酸化ストレスを誘発する薬剤は、酸素フリーラジカル、過酸化水素(H)および反応性窒素種からなる群から選択される。
【0063】
酸素フリーラジカル(活性酸素種、ROS)とは、その後の単電子的還元によって酸素分子を水に変化させるすべての中間分子を意味する。例えば、スーパーオキシドアニオン(O)が形成されると、Hが放出される。例えば、ヒドロキシルラジカル(HO)は、高い反応性を有する分子であり、強い酸化力をもつHから生成され、組織における過酸化処理の初期段階を主に担う薬剤を構成する。
【0064】
好ましくは、活性酸素種は、スーパーオキシドアニオンおよびヒドロキシルラジカルからなる群から選択される。
【0065】
活性窒素種(RNS)は、細胞内に存在するスーパーオキシドアニオンとHOが一酸化窒素と反応して形成される。
【0066】
好ましくは、活性窒素種は、一酸化窒素、ペルオキシ亜硝酸、二酸化窒素および三酸化窒素からなる群から選択される。
【0067】
例えば、食事療法/栄養補助製品は、腎毒性で知られているヨード造影剤の使用を想定したCTスキャンなどの放射能検査の前に投与されて、その腎毒性の影響を軽減することができる。
【0068】
例えば、食事療法/栄養補助製品は、腎毒性のある抗生物質または抗炎症作用のあるNSAIDsと組み合わせて投与されて、その腎毒性の影響を軽減することができる。
【0069】
液体形態の本組成物は、腎毒性で知られているヨード造影剤の使用を想定したCTスキャンなどの放射能検査の前に投与されて、その腎毒性の影響を軽減することができる。
【0070】
液体形態の本組成物は、腎毒性のある抗生物質または抗炎症作用のあるNSAIDsと組み合わせて投与されて、その腎毒性の影響を軽減することができる。液体形態の本組成物は、移植用臓器のための保存液および/または保全液として使用され得る。
【0071】
液体形態の本組成物は、移植用臓器のための灌流液および/または再灌流液として使用され得る。
【0072】
また、液体形態の本組成物は、静脈内または動脈内注入における臓器除去前段階で使用され得る。
【0073】
本発明による液体形態の組成物は、灌流装置内で移植用臓器を灌流するための溶液として使用され得る。
【0074】
好ましくは、クエン酸ナトリウムは、クエン酸二ナトリウム、クエン酸一ナトリウムおよびクエン酸三ナトリウムのナトリウム塩の形態で使用される。
【0075】
好ましくは、クエン酸塩の濃度は、0.25mM~10mMの範囲である。
【0076】
好ましくは、クエン酸塩の濃度は、2.5mM~5mMの範囲である。
【0077】
より好ましくは、クエン酸塩の濃度は、2.5mMである。
【0078】
より好ましくは、クエン酸塩の濃度は、5mMである。
【0079】
好ましくは、L-カルニチンの濃度は、2.5mM~5mMの範囲である。
【0080】
より好ましくは、L-カルニチンの濃度は、2.5mMである。より好ましくは、カルニチンの濃度は、5mMである。
【0081】
さらにより好ましくは、本医薬組成物におけるクエン酸塩の濃度は、5mMであり、カルニチンの濃度は、5mMである。
【0082】
本発明による組成物は、有効成分と共に、少なくとも適切な胆体または薬理学的に許容される賦形剤を含む。これは、得られる製剤および形状に基づく補助薬であってもよく、当業者がその平均的な知識に基づいて選択することができる。
【0083】
液体形態の本組成物は、当該技術分野で既知の移植用臓器のための保存液および/または保全液および/または灌流液および/または再灌流液に添加され得る。これは、保存、保全、灌流または再灌流される臓器に応じて当業者が適切に選択することができる。
【0084】
上述した溶液の例が、E.E.Guibertらによる論文(「Organ Preservation:Current Concepts and New Strategies for the Next Decade」Transfus.Med.Hemother.,38(2):125~142(2011))、およびJ.O’Callaghan、H.Leuvenink、P.Friend、R.Ploegによる記事(Peter J.MorrisとStuart J.Knechtle(編)「Kidney Transplantation,Principles and Practice」第7版、第9章「Kidney Preservation」p130~141、Saunders出版)に記載されている。
【0085】
例えば、ヒト血液中のアルブミンとデキストラン40を含む、商品名スティーン溶液(STEEN SOLUTION(登録商標)、スウェーデン国、XVIVO Perfusion AB))として知られている、一般的に肺に使用される生理食塩水がある。
【0086】
または、例えば、重炭酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸カリウム二塩基三水和物、および塩化カリウムを含む、ユーロコリンズ溶液(Eurocollins solution)として知られている溶液がある。
【0087】
または、例えば、ラクトビオン酸カリウム、KHPO、MgSO、ラフィノース、アデノシン、グルタチオン、アロプリノール、およびヒドロキシエチルデンプンを含む、ウィスコンシン大学溶液(University of Wisconsin solution、UW液)またはViaspan(登録商標)として知られている、一般的に腎臓、肝臓、膵臓および小腸に使用される溶液がある。
【0088】
または、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ケトグルタル酸/グルタミン酸、ヒスチジン、マンニトール、およびトリプトファンを含む、ヒスチジン・トリプトファン・ケトグルタル酸(HTK)溶液として知られている溶液がある。
【0089】
または、例えば、カリウム、ナトリウムマグネシウム、およびクエン酸塩またはHEPESを含む、マーシャル溶液(Marshall solution)またはHOC溶液として知られている溶液がある。
【0090】
または、例えば、グルタチオン、マンニトール、ラクトビオン酸、グルタミン酸、水酸化ナトリウム、塩化カルシウム二水和物、塩化カリウム、塩化マグネシウム六水和物、およびヒスチジンを含む、セルシオ溶液(Celsior solution)として知られている溶液がある。
【0091】
または、例えば、カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、硫酸イオン、二リン酸塩、ラフィノース、ラクトビオン酸、ポリエチレングリコール、グルタチオン、アロプリノール、およびアデノシンを含む、インスティテュート・ジョルジュ・ロペス溶液(Institute Georges Lopez Solution)またはIGL溶液として知られている溶液がある。
【実施例
【0092】
in vitroのモデルにおいて、腎尿細管の上皮細胞(RPTEC)を初代培養し、クエン酸ナトリウム塩(クエン酸三ナトリウム)およびL-カルニチンを含む異なる溶液に曝した。試験した濃度間隔は、クエン酸ナトリウムについては0.1mM~50mM、L-カルニチンについては0.1mM~20mMとした。
【0093】
図1には、in vitroのモデル、および生理学的な基本条件と腎毒性傷害後の両方で、RPTECにおける上清中のKlothoレベルを増加させることができるクエン酸塩およびカルニチンの化合物と濃度を試験するために使用した条件が模式的に示されている。
【0094】
その結果、図2に示すように、5mMの濃度のクエン酸ナトリウムとL-カルニチンで12時間曝した後の尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出量が増加していることが分かった。
【0095】
次いで、図2に示すようにHによって誘発された酸化ストレス、図3に示すようにヨード造影剤への曝露、および図4に示すように硫酸ゲンタマイシンなどの腎毒性のある抗生物質への曝露など、異なる腎毒性傷害に対してもこの増加が保持されるかどうかを検証した。
【0096】
図2は、クエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後、0.1mMの濃度、すなわち、統計的に有意なKlothoの低減を誘発することができる最も低い濃度のHの刺激による酸化ストレスに6時間曝した際の、尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出量の増加をグラフで示している。また、Hの濃度を、0.1mM、0.2mM、0.5mMから1mMまでにして試験した。
【0097】
5回の独立した実験のP値を(対応のない)t-検定を用いて計算して、図中に破線で示されているように、Hを用いた条件に対してP値<0.05および**P値<0.01とした。可溶性のα-Klothoの分析を、市販のELISAのIbl試験でコード277789を用いて、製造者の指示書に従って行った。
【0098】
対応する条件におけるKlotho値(pg/ml)を以下の表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
クエン酸塩とカルニチンに同時に曝すことで相乗効果が得られた。すなわち、表1の数値が示すように、2つの物質の複合効果は、クエン酸塩またはカルニチンの個々の増加量の合計よりも大きい。
【0101】
図3には、クエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後、ヨード造影剤であるヨードキサノール(商品名Visipaque)に6時間曝した際の、尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出に関する結果が示されている。
【0102】
使用された造影剤の濃度は、50mg/mlおよび100mg/mlとした。図には、100mg/mlよりも高い濃度に関するデータが示されている。破線で示されているように、ヨードキサノール造影剤のみを用いた条件に対して*P値<0.05および**P値<0.01とした。ヨードキサノールは、基本条件に対してKlothoの大幅な低減を誘導していた。
【0103】
関連条件におけるKlotho値(pg/ml)を以下の表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
クエン酸塩とカルニチンに同時に曝すことで相乗効果が得られた。すなわち、表2の数値が示すように、2つの物質の複合効果は、ヨードキサノールの存在下で、クエン酸塩またはカルニチンのここの増加量の合計よりも大きい。
【0106】
図4には、クエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後、腎毒性のある抗生物質である硫酸ゲンタマイシンに6時間曝した際の、尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出に関する結果が示されている。
【0107】
試験濃度を0.1mM~1mM~10mMとし、グラフでは、10mMの濃度が示されている。破線で示されているように、硫酸ゲンタマイシンのみを用いた条件に対して*P値<0.05および**P値<0.01とした。クエン酸塩およびカルニチンの共培養により得られたKlothoレベルの増加は、以下の表3の数値が示すように、相乗効果をもたらしている。
【0108】
【表3】
【0109】
ELISAのIbl試験を用いて、可溶性α-Klothoの分析を行った。
【0110】
腎臓が人体の中で最も血管が発達している臓器の1つであることから、ヒトの内皮細胞に対する化合物の影響を試験した。図5は、クエン酸塩および/またはカルニチンを含む製剤に24時間曝した後の、内皮細胞(HUVEC、ヒト臍帯静脈内皮細胞)の初代培養による、(α-Klothoタンパク質をコードする)KLの遺伝子発現レベルの増加量を示すグラフである。したがって、本化合物は、内皮細胞に対して毒性を示さず、尿細管細胞で生じるのと同じように、Klotho遺伝子の転写を誘導する能力を示している。
【0111】
3回の独立した実験のP値を(対応のない)t-検定を用いて計算して、基本条件に対してP値(*P<0.05)を計算した。α-Klothoの転写物の遺伝子発現の分析を、リアルタイムPCR、具体的には、SYBR green assay(SsoAdvanced(商標)Universal SYBR(登録商標)Green Supermixを使用)を用いて行い、量子化は、ソフトウェアLight Cycler96(Roche社)を用いて、メソッド2-DDCTで基本条件に値1を割り当てて行った。
【0112】
図6には、5mMの濃度のクエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後の腎尿細管細胞の初代培養で観察された細胞増殖の増加が示されている(白色背景の棒グラフ)。また、このグラフは、細胞毒性のあるHの濃度0.5mMで尿細管細胞を曝した後に観察された細胞生存性の著しい低下を示している(灰色背景の棒グラフ)。クエン酸塩とカルニチンに同時に曝した場合のみ、Hによって誘発された酸化的損傷から細胞生存性を回復させる相乗効果が得られた。すなわち、2つの物質の複合効果は、クエン酸塩またはカルニチンの個々の増加量の合計よりも大きい。したがって、5mMの濃度で、単独ではなく同時に存在する2つの物質が、基本条件下およびその後の酸化ストレス下の両方で、細胞生存性の著しい増加を決定することが示された(MTT試験)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品の分野に関し、より詳細には、腎細胞によるKlothoタンパク質の産生を活性化することができ、したがって、腎臓に影響を与える可能性のある外因性および内因性の要因による酸化ストレスに起因する損傷を軽減することができる、クエン酸塩およびカルニチンを含む組成物に関する。本製剤は、ヨード造影剤、抗生物質または非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、および酸化ストレスを誘発する薬剤によって誘発される腎毒性を軽減するために使用され得る。臓器移植の分野において、移植用臓器の保存、灌流および再灌流のため、ならびに腎臓の早期老化を防止するために、この組成物を効果的に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
Klothoタンパク質は、α、βおよびγの3つの異なるアイソフォームが存在する。ヒトでは、α-Klothoは、KLという遺伝子でコードされ、主に腎臓の遠位尿細管に発現するβ-グルコシダーゼファミリーに属する酵素をコードしているが、脳の脈絡叢レベル、副甲状腺、膀胱、骨格筋、胎盤、甲状腺、および大動脈や腎動脈の内皮細胞にも発現している(J.Donate-Correa「Expression of FGF23/KLOTHO system in human vascular tissue」Int.J.Cardiol.(2013)、K.Lim「Vascular Klotho deficiency potentiates the development of human artery calcification and mediates resistance to fibroblast growth factor 23」Circulation(2012)、K.Lim「α-Klotho Expression in Human Tissues」J.Clin.Endocrinol.Metab.(2015))。
【0003】
単にKlothoとも呼ばれるα-Klothoは、老化や炎症に対抗するタンパク質であり、主に腎臓から放出される可用性形態のα-Klothoが血液中に分泌され、生体全体、特に、心血管および中枢神経系レベルで保護機能を発揮する。特に、可用性形態のα-Klothoは、動脈における石灰化を低減し、心臓の肥大症を予防する(J.Xie「Cardioprotection by Klotho through downregulation of TRPC6 channels in the mouse heart」Nat.Commun.(2012))。これは、内皮機能不全および平滑筋細胞への酸化ストレスの抑制によって行われる(R.Mencke,J.L.Hillebrands「The role of the anti-ageing protein Klotho in vascular physiology and pathophysiology」Ageing.Res.Rev.(2017)、J.Donate-Correa「Klotho in cardiovascular disease:Current and future perspectives」World J.Biol.Chem.(2015))。
【0004】
中枢神経系レベルでは、α-Klothoは、認知能力の促進、および神経疾患や精神疾患に対抗するために不可欠な役割を果たしている(H.T.Vo「Klotho,the Key to Healthy Brain Aging?」Brain Plast.(2018))。動物モデルでは、このタンパク質の発現が増加することで、認知能力の改善や、アルツハイマー病に関連する神経変性に対する抵抗性が増加することが示されている。さらに、in vitroの細胞培養では、Klothoタンパク質が酸化ストレスに対してより大きな抵抗性を誘導し、A13タンパク質によって誘発される細胞毒性やアルツハイマー病に関連するグルタミン酸による細胞毒性を有意に予防することが観察された(M.M.Cararo-Lopes「The relevance of α-KLOTHO to the central nervous system:Some key questions」Ageing Res.Rev.(2017))。
【0005】
FGF(Fibroblast Growth Factor(線維芽細胞増殖因子))23の共受容体として機能するα-Klothoの膜貫通形態は、130kDaである。一方、血清、尿および脳脊髄液中に検出される分泌形態は、膜貫通タンパク質の開裂と選択的スプライシング(70kDaのアイソフォームを形成)の両方によって形成され得る。腎尿細管では、膜タンパク質であるKlothoがリン酸の再吸収を調節し、カルシウムの恒常性に関与するビタミンDの代謝を制御する。一方、分泌形態は、FGF23受容体から独立して作用し、ホルモン作用を伴って血流に沿って拡散される。これにより、インスリンのシグナル伝達が調節され、抗酸化作用や抗老化作用を有するWntの伝達経路が調節される(C.Schmid「Growth hormone and Klotho」J.Endocrinol.(2013))。
【0006】
Klothoをもたない遺伝子導入マウスは、早死に、骨粗鬆症、視力喪失、動脈硬化および血管石灰化を伴う促進老化に類似する症候群を発症し、特に、内皮依存性の血管拡張と血管新生に障害が見られる。Klothoタンパク質による心臓血管系の保護は、血管収縮および内皮機能不全に対抗する抗酸化分子として知られている一酸化窒素の放出を制御することによって行われる。ノックアウトマウスとは異なり、Klothoを過剰に発現させたマウスは、正常のマウスよりも長生きする。
【0007】
β-Klothoに関しては、脂質の代謝、グルコースの恒常性および胆汁の放出を制御することが知られている(Y.Xu「Molecular basis of Klotho:from gene to function in aging」Endocr.Rev.(2015)、M.Yamamotoら「Regulation of oxidative stress by the anti-aging hormone klotho」J.Biol.Chem.(2005)、S.Ito「Impaired negative feedback suppression of bile acid synthesis in mice lacking beta Klotho」J.Clin.Invest.(2005)、M.S.Razzaque「The role of Klotho in energy metabolism」Nat.Rev.Endocrinol.(2012))。βの調節解除は、肥満などの脂肪組織の変化と関連している(V.J.Nies「Fibroblast Growth Factor Signaling in Metabolic Regulation」Front Endocrinol.(Lausanne)(2016))。β-Klothoによって調節される褐色脂肪組織、肝臓および腸内微生物叢の間の相互作用(クロストーク)の存在が指摘されている(E.Sommら「β-Klotho deficiency protects against obesity through a crosstalk between liver,microbiota,and brown adipose tissue」JCI Insight(2017))。γ-Klothoの機能はあまりよく知られておらず、大いに議論されている(J.H.Kim「Biological role of anti-aging protein Klotho」J.Lifestyle Med.(2015))。健康な人の場合、Klothoの平均的な血清値は、約472pg/mlであることが知られている(L.Pedersen「Soluble serum Klotho levels in healthy subjects」Clin.Biochem.(2013))。その一方で、加齢と共に、または慢性腎疾患の患者において、または心血管疾患や糖尿病を患っている人において、値は大きく低下する。特に、可溶性Klothoのレベルは、血清中クレアチニンと逆相関することが観察されてきた。血漿中のKlothoの正常値に対する女性/男性の性別の影響については、まだ大いに議論されている(Y.Yamazaki「Establishment of sandwich ELISA for soluble alpha-Klotho measurement:Age-dependent change of soluble alpha-Klotho levels in healthy subjects」Biochem.Biophys.Res.Commun.(2010))。
【0008】
様々な研究により、Klothoの放出を増加させる要因が検証され、採用すべき薬品、天然化合物またはライフスタイルが特定されてきた。その例として、糖尿病や糖尿病性腎症の動物モデルに静脈内投与されるACE阻害剤(ラミプリル)(C.Zanchi「Renal expression of FGF23 in progressive renal disease of diabetes and the effect of ACE inhibitor」PLoS One(2013)、N.Eltablawy「Vitamin D protection from rat diabetic nephropathy is partly mediated through Klotho expression and renin-angiotensin inhibition」Arch.Physiol.Biochem.(2018))、老化マウスモデルの栄養補助食品として評価される、ラクトバチルス・アシドフィルスやビフィドバクテリウム・ビフィダムなどのプロバイオティクス因子(D.Kaushal「Probiotic Dahi containing Lactobacillus acidophilus and Bifidobacterium bifidum alleviates age-inflicted oxidative stress and improves expression of biomarkers of ageing in mice」Mol.Biol.Rep.(2012))、サルの腎臓細胞でin vitroでその影響が分析されたインスリン(C.D.Chen「Insulin stimulates the cleavage and release of the extracellular domain of Klotho by ADAM10 and ADAM17」Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2007))などが挙げられる。
【0009】
例えばインドキシル硫酸のようにKlothoの放出を低減する、活性炭にように尿毒症毒素を隔離することができる一部の化合物は、様々な研究で有効性が示されている(S.Lekawanvijit「Chronic kidney disease-induced cardiac fibrosis is ameliorated by reducing circulating levels of a non-dialysable uremic toxin, indoxyl sulphate」PLoS One(2012))。
【0010】
最後に、特に透析患者におけるビタミンDの栄養補給からは、対照的な結果が得られている(D.Prie「Reciprocal control of 1,25-dihydroxyvitamin D and FGF23 formation involving the FGF23/Klotho system」Clin.J.Am.Soc.Nephrol.(2010)、E.Seibert「Influence of cholecalciferol supplementation in hemodialysis patients on monocyte subsets:a randomized,double-blind,placebo-controlled clinical trial」Nephron.Clin.Pract.(2013))。
【0011】
運動は、循環するKlothoレベルを安定的に増加させることができる主な因子の1つであることが示されている(K.G.Avin「Skeletal muscle as a regulator of the longevity protein,Klotho」Front Physiol.(2014))。
【0012】
国際公開WO2018098375号には、Klothoの組み換えタンパク質が記載されている。
【0013】
韓国特許出願第20170111384号には、薬剤タクロリムスによって誘発される腎レベルにおける毒性を低減するための、Klothoを含む組成物が記載されている。
【0014】
中国特許出願第107438423号には、長寿の遺伝子を活性化するための、Klothoを含む組成物が記載されている。
【0015】
カナダ国特許出願第3025461号には、Klothoタンパク質の様々な治療への応用が記載されている。
【0016】
米国特許出願第2018289306号には、腎障害のためのバイオマーカーとしてKlothoを使用することが記載されている。
【0017】
米国特許出願第2018037868号には、Klothoを発現する遺伝子組み換え間充織幹細胞が記載されている。
【0018】
中国特許出願第105838661号には、腎臓のヘテロ移植のための遺伝子を組み換えて使用することが記載されている。
【0019】
イスラエル国特許出願第201880号、米国特許出願第2012172314号および米国特許出願第2012232024号には、癌を治療するための、Klothoを含む医薬製剤が記載されている。
【0020】
特開2001-072607号には、α-Klothoタンパク質をコードするKL遺伝子を含むベクターを有する医薬組成物が記載されている。これは、高血圧や粥状動脈硬化から内皮を保護することができる。
【0021】
中国特許第104826164号には、KlothoまたはGDNFタンパク質を含む人工血管が記載されている。
【0022】
中国特許出願第102961739号、中国特許出願第107148215号、中国特許出願第107148215号、中国特許出願第106342787号、中国特許出願第106035316号、米国特許出願第2018070582号、米国特許出願第2017265456号、米国特許出願第2017265456号、米国特許出願第2016302406号、米国特許出願第2017265456号、シンガポール共和国特許出願第10201709595号、シンガポール共和国特許出願第10201709595、特開2017-186295号、特開2017-061531号、特開2017-057184号、特開2017-186295号および国際公開WO2015152429号には、移植用臓器を保存するための溶液が記載されている。
【0023】
国際公開WO2002/102149号には、移植を待つ臓器を保存、維持および灌流するための溶液が記載されている。これは、カリウム、一酸リン酸塩、二酸リン酸塩、イオン、塩化物、ナトリウムおよび重炭酸塩を含む平衡等張液と、50mM~250mMのグルコースと、0.2mM~20mMのアルカノイルL-カルニチンまたは生理学的に許容される塩と、1mM~100mMのL-カルニチンまたは生理学的に許容される塩と、(e)水と、を含む。好ましくは、カルニチンは、クエン酸塩として存在する。この溶液は、マンニトールなどの抗酸化剤をさらに含むことができる。
【0024】
米国特許出願公開第2018070582号には、臓器を保存するための溶液が記載されている。これは、デキストランやポリエチレングリコールなどのコロイドと、クエン酸ナトリウムなどのpH緩衝性を有する緩衝化合物と、マンニトールなどの防水性を有する成分と、少なくとも1つのビタミンと、少なくとも1つの電解質と、少なくとも1つのエネルギー供給系成分と、抗酸化剤を形成するための少なくとも1つの基質と、カルニチンなどの1つまたは複数のアミノ酸と、を含む。特に、マンニトールと、クエン酸ナトリウム、カルニチン、ならびにラフィノース、トレハロースおよびラクトビオン酸から選択される防水剤を含むES2と、を含む2つの標準的なHTK保存組成物が記載されている。
【0025】
Mark D.Kayらによる科学論文(「NormothermicHypothermicFlush Using a Novel Phosphate-Free Preservation Solution(AQIX)in Porcine Kidneys」Journal of Surgical Research,171(1)275~282)には、AQIX、高浸透圧クエン酸塩(HOC)およびウィスコンシン大学溶液(UW液)と呼ばれる臓器用溶液が記載されている。
【0026】
Ren Hany Tolbaによる科学論文(「Improved Preservation of Warm Ischemia-Damaged Porcine Kidneys after Cold Storage in Ecosol,a Novel Preservation Solution」Annals Of Transplantation,20,233~242)では、クエン酸塩カルニチンを含むEcosolと、マンニトールを含むHTKという2つの保存液を比較している。
【0027】
中国特許第109549032号には、マラカイト茶を16%~20%、L-カルニチンを8%~20%、難消化性デキストリンを1%~3%、甘味料を8%~10%、スイートオレンジの濃縮果汁を3%~5%、クエン酸を0.02%~0.04%、リンゴ酸を0.02%~0.04%、およびマルチビタミンを含む、減量用の機能性飲料が記載されている。ここで、マルチビタミンにおいて、B1は0.002%~0.004%0、B6は0.0008%0~0.0016%0、およびB12は0.00008%0~0.0002%0であり、甘味料は、キシリトール、マルチトール、ソルビトール、マンニトールおよびラクチトールなどのポリオールである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
腎尿細管細胞は、Klothoの主な放出源である。Klothoは、体の様々な部位で抗老化作用、抗線維化作用および抗炎症作用などの多くの有益な作用を発揮する。
【0029】
損傷や細胞の老化の状況において、腎尿細管は、Klothoの産生を著しく低減させて、その本来の抗老化機能を果たせなくする。
【0030】
腎臓は、血液フィルターとしての機能を有し、生体の浄化を担う臓器であるため、腎臓を通過する物質による潜在的な損傷に曝される。腎生理学について最も有害な外因性の物質には、一部の薬品および/または代謝物、放射線治療に使用される造影剤、および抗生物質がある。
【0031】
本発明の発明者らは、腎臓の上皮細胞におけるKlothoタンパク質の産生を保護し、その合成および放出の抑制を防止することができる物質を特定し、試験を行った。この保護は、腎毒性物質、酸化ストレスを引き起こす薬剤およびヨード造影剤などの異なる毒性の尿細管物質に対して発揮される。
【0032】
その他、敗血症や腎臓移植などの外科的手術により、腎臓の機能が急激に低下し、急性腎障害として定義される死亡率の高い重篤な病状が発症する場合がある。
【0033】
敗血症は、生体の異常な免疫反応による全身性の炎症を特徴とした臨床症候群の1つであり、急性腎障害に発展することもある。敗血症の経過中におけるKlothoの劇的な調節解除が、多臓器不全の発生率と死亡率の増加を決定することが実証されている(L.B.Jorge「Klotho deficiency aggravates sepsis-related multiple organ dysfunction」Am.J.Physiol.Renal Physiol.(2019)、D.Jou-Valencia「Renal Klotho is Reduced in Septic Patients and Pretreatment With Recombinant Klotho Attenuates Organ Injury in Lipopolysaccharide-Challenged Mice」Crit.Care Med.(2018))。
【0034】
現在のところ、腎臓移植は、末期の腎疾患患者の治療法として選ばれており、透析に比べて生活の質が向上を提供することができる。しかしながら、虚血性障害や再灌流など、献体や移植処置の際に生じる避けられない事象や、使用された臓器の質の低さが主な原因となって、移植後不全のケースが未だに数多く存在する。
【0035】
実際、生体臓器提供者が不足しているため、移植団体は、脳死や心臓死後のドナーを移植の候補者として考慮するようになり、最近では、高齢者や、高血圧を有する者、心血管合併症を有する者、または血清中クレアチニンが1.5mg/mlを超える者を含むマージナルドナー(拡大適応ドナー)も登録基準として考慮するようになった。
【0036】
本発明は、血行動態の変化、炎症誘発性反応および酸化ストレスなどの複雑な生理的現象を特徴としたこのような状況において、腎臓におけるKlothoの産生を増加させることができる化合物を提供する。これは、腎機能パラメータや移植される臓器の質の改善につながる。
【0037】
上述した技術的課題は、生体が内因性に産生する、正常な細胞代謝に関与する天然物質を含む組成物を提供することによって解決される。
【0038】
また、本発明の発明者らは、個々の成分の濃度間隔を、現状で入手可能なすべての成分を含めて意図的に選択して、個々の成分が発揮する相加効果に対して、組み合わせた成分がより大きな相乗効果を発揮するという予想外で驚くべき相乗効果を検証して得ることができた。
【課題を解決するための手段】
【0039】
上述した技術的課題は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む医薬組成物を提供することで解決される。
【0040】
本発明の目的は、有効成分としてクエン酸塩、カルニチン、ならびに任意選択且つ追加的に、少なくとも1つのポリオールおよび薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む医薬組成物を提供することである。
【0041】
本発明のさらなる目的は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに任意選択且つ追加的に、移植用臓器のための保存液および/または保全液、または移植用臓器のための灌流液および/または再灌流液に添加された少なくとも1つのポリオールを含む、液体形態の医薬組成物を提供することである。
【0042】
本発明のさらなる目的は、腎毒性物質によって誘発される腎障害を軽減するために使用される上述した組成物を提供することである。
【0043】
本発明のさらなる目的は、腎毒性物質によって誘発される腎障害を予防および/または軽減するための輸液として使用される、液体形態の上述した組成物を提供することである。
【0044】
本発明のさらなる目的は、移植用臓器のための保存液および/または保全液、ならびに移植用臓器のための灌流液および/または再灌流液として使用される、液体形態の上述した組成物を提供することである。
【0045】
本発明のさらなる目的は、腎毒性物質によって誘発される腎障害を予防および/または軽減するための食事療法/栄養補助製品を構成する、固体形態の上述した組成物を提供することである。
【0046】
本発明のさらなる特徴は、添付の図面と実験データを参照して記載した以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】in vitroの培養モデル、および生理学的な基本条件と腎毒性傷害後の両方で、RPTEC(腎尿細管細胞)における上清中のKlothoレベルを増加させることができるクエン酸塩およびカルニチンの化合物と濃度を試験するために使用した条件を示す図である。
図2】クエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後、Hの刺激による酸化ストレスに6時間曝した際の、尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出に関する結果を示す図である。
図3】クエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後、ヨードキサノール(商品名Visipaque、ヨード造影剤)に6時間曝した際の、尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出に関する結果を示す図である。
図4】クエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後、硫酸ゲンタマイシン(抗生物質)によって誘発された尿細管損傷に6時間曝した際の、尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出に関する結果を示す図である。
図5】KL遺伝子の転写物(α-Klothoタンパク質)について、臍帯由来の内皮細胞(HUVEC)の初代培養において実施されたリアルタイムPCRに関する結果を示す図である。
図6】5mMの濃度のクエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後の腎尿細管細胞の初代培養で観察された細胞増殖の増加を示す、MTT試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む医薬組成物に関する。
【0049】
代替的に、有効成分としてカルニチンおよび薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む医薬組成物は、少なくとも1つのポリオールをさらに含むことができる。
【0050】
好ましくは、ポリオールは、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、イソマルト、ラクチトール、ポリグリシトールおよびキシリトールからなる群から選択される。
【0051】
本医薬組成物は、用途に応じて液体形態または固体形態に製剤化され得る。
【0052】
この固体形態は、錠剤、丸薬、硬質カプセル、粉末、顆粒または座薬であり得る。
【0053】
本発明は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む、腎尿細管および内皮細胞によるKlothoタンパク質の産生を刺激することができる医薬組成物に関する。
【0054】
好ましくは、腎細胞は、尿細管細胞および/または内皮細胞である。
【0055】
本発明は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む、腎毒性物質によって誘発される腎障害を軽減するための医薬組成物に関する。
【0056】
本発明のさらなる目的は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む、移植用臓器のための保存液および/または保全液として使用される、液体形態の組成物を提供することである。
【0057】
本発明のさらなる目的は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む、移植用臓器のための灌流液および/または再灌流液として使用される、液体形態の組成物を提供することである。
【0058】
本発明のさらなる目的は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む、腎毒性物質によって誘発される腎障害を予防および/または軽減するための、液体形態の組成物を提供することである。
【0059】
本発明のさらなる目的は、有効成分としてクエン酸塩およびカルニチン、ならびに薬理学的に許容される適切な賦形剤を組み合わせて含む、腎毒性物質によって誘発される腎障害を予防および/または軽減するための食事療法/栄養補助製品を構成する、固体形態の組成物を提供することである。
【0060】
腎毒性物質は、ヨード造影剤、腎毒性のある抗生物質、抗炎症作用のあるNSAIDs、および酸化ストレスを誘発する薬剤からなる群から選択される。
【0061】
好ましくは、固体形態は、錠剤、丸薬、硬質カプセル、粉末、顆粒または座薬である。
【0062】
酸化ストレスを誘発する薬剤は、酸素フリーラジカル、過酸化水素(H)および反応性窒素種からなる群から選択される。
【0063】
酸素フリーラジカル(活性酸素種、ROS)とは、その後の単電子的還元によって酸素分子を水に変化させるすべての中間分子を意味する。例えば、スーパーオキシドアニオン(O)が形成されると、Hが放出される。例えば、ヒドロキシルラジカル(HO)は、高い反応性を有する分子であり、強い酸化力をもつHから生成され、組織における過酸化処理の初期段階を主に担う薬剤を構成する。
【0064】
好ましくは、活性酸素種は、スーパーオキシドアニオンおよびヒドロキシルラジカルからなる群から選択される。
【0065】
活性窒素種(RNS)は、細胞内に存在するスーパーオキシドアニオンとHOが一酸化窒素と反応して形成される。
【0066】
好ましくは、活性窒素種は、一酸化窒素、ペルオキシ亜硝酸、二酸化窒素および三酸化窒素からなる群から選択される。
【0067】
例えば、食事療法/栄養補助製品は、腎毒性で知られているヨード造影剤の使用を想定したCTスキャンなどの放射能検査の前に投与されて、その腎毒性の影響を軽減することができる。
【0068】
例えば、食事療法/栄養補助製品は、腎毒性のある抗生物質または抗炎症作用のあるNSAIDsと組み合わせて投与されて、その腎毒性の影響を軽減することができる。
【0069】
液体形態の本組成物は、腎毒性で知られているヨード造影剤の使用を想定したCTスキャンなどの放射能検査の前に投与されて、その腎毒性の影響を軽減することができる。
【0070】
液体形態の本組成物は、腎毒性のある抗生物質または抗炎症作用のあるNSAIDsと組み合わせて投与されて、その腎毒性の影響を軽減することができる。液体形態の本組成物は、移植用臓器のための保存液および/または保全液として使用され得る。
【0071】
液体形態の本組成物は、移植用臓器のための灌流液および/または再灌流液として使用され得る。
【0072】
また、液体形態の本組成物は、静脈内または動脈内注入における臓器除去前段階で使用され得る。
【0073】
本発明による液体形態の組成物は、灌流装置内で移植用臓器を灌流するための溶液として使用され得る。
【0074】
好ましくは、クエン酸ナトリウムは、クエン酸二ナトリウム、クエン酸一ナトリウムおよびクエン酸三ナトリウムのナトリウム塩の形態で使用される。
【0075】
好ましくは、クエン酸塩の濃度は、0.25mM~10mMの範囲である。
【0076】
好ましくは、クエン酸塩の濃度は、2.5mM~5mMの範囲である。
【0077】
より好ましくは、クエン酸塩の濃度は、2.5mMである。
【0078】
より好ましくは、クエン酸塩の濃度は、5mMである。
【0079】
好ましくは、L-カルニチンの濃度は、2.5mM~5mMの範囲である。
【0080】
より好ましくは、L-カルニチンの濃度は、2.5mMである。より好ましくは、カルニチンの濃度は、5mMである。
【0081】
さらにより好ましくは、本医薬組成物におけるクエン酸塩の濃度は、5mMであり、カルニチンの濃度は、5mMである。
【0082】
本発明による組成物は、有効成分と共に、少なくとも適切な胆体または薬理学的に許容される賦形剤を含む。これは、得られる製剤および形状に基づく補助薬であってもよく、当業者がその平均的な知識に基づいて選択することができる。
【0083】
液体形態の本組成物は、当該技術分野で既知の移植用臓器のための保存液および/または保全液および/または灌流液および/または再灌流液に添加され得る。これは、保存、保全、灌流または再灌流される臓器に応じて当業者が適切に選択することができる。
【0084】
上述した溶液の例が、E.E.Guibertらによる論文(「Organ Preservation:Current Concepts and New Strategies for the Next Decade」Transfus.Med.Hemother.,38(2):125~142(2011))、およびJ.O’Callaghan、H.Leuvenink、P.Friend、R.Ploegによる記事(Peter J.MorrisとStuart J.Knechtle(編)「Kidney Transplantation,Principles and Practice」第7版、第9章「Kidney Preservation」p130~141、Saunders出版)に記載されている。
【0085】
例えば、ヒト血液中のアルブミンとデキストラン40を含む、商品名スティーン溶液(STEEN SOLUTION(登録商標)、スウェーデン国、XVIVO Perfusion AB))として知られている、一般的に肺に使用される生理食塩水がある。
【0086】
または、例えば、重炭酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸カリウム二塩基三水和物、および塩化カリウムを含む、ユーロコリンズ溶液(Eurocollins solution)として知られている溶液がある。
【0087】
または、例えば、ラクトビオン酸カリウム、KHPO、MgSO、ラフィノース、アデノシン、グルタチオン、アロプリノール、およびヒドロキシエチルデンプンを含む、ウィスコンシン大学溶液(University of Wisconsin solution、UW液)またはViaspan(登録商標)として知られている、一般的に腎臓、肝臓、膵臓および小腸に使用される溶液がある。
【0088】
または、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ケトグルタル酸/グルタミン酸、ヒスチジン、マンニトール、およびトリプトファンを含む、ヒスチジン・トリプトファン・ケトグルタル酸(HTK)溶液として知られている溶液がある。
【0089】
または、例えば、カリウム、ナトリウムマグネシウム、およびクエン酸塩またはHEPESを含む、マーシャル溶液(Marshall solution)またはHOC溶液として知られている溶液がある。
【0090】
または、例えば、グルタチオン、マンニトール、ラクトビオン酸、グルタミン酸、水酸化ナトリウム、塩化カルシウム二水和物、塩化カリウム、塩化マグネシウム六水和物、およびヒスチジンを含む、セルシオ溶液(Celsior solution)として知られている溶液がある。
【0091】
または、例えば、カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、硫酸イオン、二リン酸塩、ラフィノース、ラクトビオン酸、ポリエチレングリコール、グルタチオン、アロプリノール、およびアデノシンを含む、インスティテュート・ジョルジュ・ロペス溶液(Institute Georges Lopez Solution)またはIGL溶液として知られている溶液がある。
【実施例
【0092】
in vitroのモデルにおいて、腎尿細管の上皮細胞(RPTEC)を初代培養し、クエン酸ナトリウム塩(クエン酸三ナトリウム)およびL-カルニチンを含む異なる溶液に曝した。試験した濃度間隔は、クエン酸ナトリウムについては0.1mM~50mM、L-カルニチンについては0.1mM~20mMとした。
【0093】
図1には、in vitroのモデル、および生理学的な基本条件と腎毒性傷害後の両方で、RPTECにおける上清中のKlothoレベルを増加させることができるクエン酸塩およびカルニチンの化合物と濃度を試験するために使用した条件が模式的に示されている。
【0094】
その結果、図2に示すように、5mMの濃度のクエン酸ナトリウムとL-カルニチンで12時間曝した後の尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出量が増加していることが分かった。
【0095】
次いで、図2に示すようにHによって誘発された酸化ストレス、図3に示すようにヨード造影剤への曝露、および図4に示すように硫酸ゲンタマイシンなどの腎毒性のある抗生物質への曝露など、異なる腎毒性傷害に対してもこの増加が保持されるかどうかを検証した。
【0096】
図2は、クエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後、0.1mMの濃度、すなわち、統計的に有意なKlothoの低減を誘発することができる最も低い濃度のHの刺激による酸化ストレスに6時間曝した際の、尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出量の増加をグラフで示している。また、Hの濃度を、0.1mM、0.2mM、0.5mMから1mMまでにして試験した。
【0097】
5回の独立した実験のP値を(対応のない)t-検定を用いて計算して、図中に破線で示されているように、Hを用いた条件に対してP値<0.05および**P値<0.01とした。可溶性のα-Klothoの分析を、市販のELISAのIbl試験でコード277789を用いて、製造者の指示書に従って行った。
【0098】
対応する条件におけるKlotho値(pg/ml)を以下の表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
クエン酸塩とカルニチンに同時に曝すことで相乗効果が得られた。すなわち、表1の数値が示すように、2つの物質の複合効果は、クエン酸塩またはカルニチンの個々の増加量の合計よりも大きい。
【0101】
図3には、クエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後、ヨード造影剤であるヨードキサノール(商品名Visipaque)に6時間曝した際の、尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出に関する結果が示されている。
【0102】
使用された造影剤の濃度は、50mg/mlおよび100mg/mlとした。図には、100mg/mlよりも高い濃度に関するデータが示されている。破線で示されているように、ヨードキサノール造影剤のみを用いた条件に対して*P値<0.05および**P値<0.01とした。ヨードキサノールは、基本条件に対してKlothoの大幅な低減を誘導していた。
【0103】
関連条件におけるKlotho値(pg/ml)を以下の表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
クエン酸塩とカルニチンに同時に曝すことで相乗効果が得られた。すなわち、表2の数値が示すように、2つの物質の複合効果は、ヨードキサノールの存在下で、クエン酸塩またはカルニチンのここの増加量の合計よりも大きい。
【0106】
図4には、クエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後、腎毒性のある抗生物質である硫酸ゲンタマイシンに6時間曝した際の、尿細管細胞の初代培養における上清中のα-Klothoの放出に関する結果が示されている。
【0107】
試験濃度を0.1mM~1mM~10mMとし、グラフでは、10mMの濃度が示されている。破線で示されているように、硫酸ゲンタマイシンのみを用いた条件に対して*P値<0.05および**P値<0.01とした。クエン酸塩およびカルニチンの共培養により得られたKlothoレベルの増加は、以下の表3の数値が示すように、相乗効果をもたらしている。
【0108】
【表3】
【0109】
ELISAのIbl試験を用いて、可溶性α-Klothoの分析を行った。
【0110】
腎臓が人体の中で最も血管が発達している臓器の1つであることから、ヒトの内皮細胞に対する化合物の影響を試験した。図5は、クエン酸塩および/またはカルニチンを含む製剤に24時間曝した後の、内皮細胞(HUVEC、ヒト臍帯静脈内皮細胞)の初代培養による、(α-Klothoタンパク質をコードする)KLの遺伝子発現レベルの増加量を示すグラフである。したがって、本化合物は、内皮細胞に対して毒性を示さず、尿細管細胞で生じるのと同じように、Klotho遺伝子の転写を誘導する能力を示している。
【0111】
3回の独立した実験のP値を(対応のない)t-検定を用いて計算して、基本条件に対してP値(*P<0.05)を計算した。α-Klothoの転写物の遺伝子発現の分析を、リアルタイムPCR、具体的には、SYBR green assay(SsoAdvanced(商標)Universal SYBR(登録商標)Green Supermixを使用)を用いて行い、量子化は、ソフトウェアLight Cycler96(Roche社)を用いて、メソッド2-DDCTで基本条件に値1を割り当てて行った。
【0112】
図6には、5mMの濃度のクエン酸塩および/またはカルニチンで12時間前処理した後の腎尿細管細胞の初代培養で観察された細胞増殖の増加が示されている(白色背景の棒グラフ)。また、このグラフは、細胞毒性のあるHの濃度0.5mMで尿細管細胞を曝した後に観察された細胞生存性の著しい低下を示している(灰色背景の棒グラフ)。クエン酸塩とカルニチンに同時に曝した場合のみ、Hによって誘発された酸化的損傷から細胞生存性を回復させる相乗効果が得られた。すなわち、2つの物質の複合効果は、クエン酸塩またはカルニチンの個々の増加量の合計よりも大きい。したがって、5mMの濃度で、単独ではなく同時に存在する2つの物質が、基本条件下およびその後の酸化ストレス下の両方で、細胞生存性の著しい増加を決定することが示された(MTT試験)。
【0113】
in vitroの実験に加えて、クエン酸塩5mMとカルチニン5mMの組成物を用いて、2つの動物モデルでさらなる試験を行った。
【0114】
ゼブラフィッシュのゲンタマイシンによる急性腎障害(AKI)モデルにおいて、生後5日目までに投与した組成物は、in vivoで毒性を示さなかった。投与した魚では、未投与のゼブラフィッシュと比べて60%超の割合でAKIを予防することができた。
【0115】
次に、虚血/再灌流障害を受けたラットにおけるAKIモデルを使用した。上記と同様に、本組成物の投与は、正常なラットでは毒性を検出することなく、良好な耐性を示した。興味深いことに、本化合物を投与してAKIを発症させたマウスでは、本組成物が腎機能を健常対照の約88%に維持することで、虚血/再灌流障害を予防することができた。一方、未投与のラットでは、腎機能が基準値の44%にまで低下した。
【国際調査報告】