(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】高温カーボンブラック空気予熱器
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20220803BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220803BHJP
C22C 38/34 20060101ALI20220803BHJP
C22C 38/52 20060101ALI20220803BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C01B32/05
C22C38/00 302Z
C22C38/34
C22C38/52
C22C30/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572388
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(85)【翻訳文提出日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 US2020036484
(87)【国際公開番号】W WO2020247862
(87)【国際公開日】2020-12-10
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506093430
【氏名又は名称】ビルラ カーボン ユー.エス.エー.,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】ワイリー チャールズ シェンク
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146DA02
4G146DA34
4G146DA48
(57)【要約】
高温カーボンブラック空気予熱器、並びにこれの設計及び構成に有用な材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック空気予熱器であって、前記カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部が、約3質量%~約10質量%のアルミニウム、約18質量%~約28質量%のクロム、約0質量%~約0.1質量%の炭素、約0質量%~約3質量%のケイ素、約0質量%~約0.4質量%のマンガン、約0質量%~約0.5質量%のモリブデン、及び残部の鉄を含む合金を含む、カーボンブラック空気予熱器。
【請求項2】
前記合金が、約0質量%~約37質量%のニッケル、約0質量%~約29質量%のコバルトを更に含む、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項3】
前記合金が、約5質量%~約6質量%のアルミニウム、約20質量%~約21質量%のクロム、約0質量%~約0.08質量%の炭素、約0.1質量%~約0.7質量%のケイ素、約0質量%~約0.4質量%のマンガン、約0質量%~約3質量%のモリブデン、約0質量%~約1質量%のニッケル、約0質量%~約1質量%のコバルト、及び残部の鉄を含む、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項4】
前記合金が、約5質量%~約6質量%のアルミニウム、約20.5質量%~約23.5質量%のクロム、約0.08質量%未満の炭素、約0.7質量%未満のケイ素、約0.4質量%未満のマンガン、約3質量%のモリブデン、及び残部の鉄を含む、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項5】
カーボンブラックの製造環境に持続的に曝露されると、前記合金が、前記合金の少なくとも一部の上に表面不動態化層を形成する、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項6】
カーボンブラックの製造環境に曝露されると、前記合金が、前記合金の少なくとも一部の上に表面アルミナ層を形成する、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項7】
前記合金が、前記合金中に配置された複数のセラミック粒子を更に含む、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項8】
向流エネルギー回収熱交換器である、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項9】
前記カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部が、前記カーボンブラック空気予熱器内に配置された複数の管の全部又は一部を含む、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項10】
前記カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部が、前記カーボンブラック空気予熱器内に配置された1つ以上の管の一部を含み、1つ以上の管の前記一部が、カーボンブラック炉と流体連通している前記1つ以上の管の第1の端部に位置されている、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項11】
カーボンブラック製造工程の一部である、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項12】
カーボンブラック炉と流体連通している、請求項11に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項13】
持続した時間にわたって少なくとも約1,000℃の温度まで空気を加熱できる、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項14】
著しい分解なしに、持続した時間にわたって少なくとも約1,000℃の温度まで空気を加熱できる、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項15】
約1,000~約1,300℃の温度まで空気を加熱できる、請求項1に記載のカーボンブラック空気予熱器。
【請求項16】
カーボンブラック炉と、前記カーボンブラック炉の下流に位置し、前記カーボンブラック炉と流体連通しているカーボンブラック空気予熱器とを含むカーボンブラック製造工程であって、前記カーボンブラック空気予熱器が、約3質量%~約10質量%のアルミニウム、約18質量%~約28質量%のクロム、約0質量%~約0.1質量%の炭素、約0質量%~約3質量%のケイ素、約0質量%~約0.4質量%のマンガン、約0質量%~約0.5質量%のモリブデン、及び残部の鉄を含む合金を含む、カーボンブラック製造工程。
【請求項17】
前記合金が、約0質量%~約37質量%のニッケル、約0質量%~約29質量%のコバルトを更に含む、請求項16に記載のカーボンブラック製造工程。
【請求項18】
前記カーボンブラック空気予熱器が、約5質量%~約6質量%のアルミニウム、約20質量%~約21質量%のクロム、約0質量%~約0.08質量%の炭素、約0.1質量%~約0.7質量%のケイ素、約0質量%~約0.4質量%のマンガン、約0質量%~約3質量%のモリブデン、約0質量%~約37質量%のニッケル、約0質量%~約29質量%のコバルト、及び残部の鉄を含む合金を含む、請求項16に記載のカーボンブラック製造工程。
【請求項19】
カーボンブラックの製造環境に持続的に曝露されると、前記合金が、前記合金の少なくとも一部の上に表面不動態化層を形成する、請求項16に記載のカーボンブラック製造工程。
【請求項20】
カーボンブラックの製造環境に曝露されると、前記合金が、前記合金の少なくとも一部の上にアルミナ層を形成する、請求項16に記載のカーボンブラック製造工程。
【請求項21】
前記合金が、前記合金中に配置された複数のセラミック粒子を更に含む、請求項16に記載のカーボンブラック製造工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カーボンブラック及びその他特定の炭素質材料の製造、取扱い、並びに/又は後処理に有用であり得る高温空気予熱器技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックの製造工程は、一般的な工業材料の多くが分解に至りかねない高温や環境を伴うことがある。そのため、カーボンブラックの製造、取扱い、及び後処理工程で使用する材料を改善する必要性が存在する。こうした必要性は、本開示の構成要素及び方法によって満たされる。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的に従って、本明細書に具体的且つ広範に記載するように、本開示は、一態様において、例えばカーボンブラックの製造、取扱い、及び/又は後処理における使用に適した高温材料並びにこれを含む空気予熱器;並びに上記を製造及び使用する物品並びに方法に関する。
一態様では、本開示はカーボンブラック空気予熱器を提供し、カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部が、約3~約10質量%のアルミニウム、約18~約28質量%のクロム、約0~約0.1質量%の炭素、約0~約3質量%のケイ素、約0~約0.4質量%のマンガン、約0~約0.5質量%のモリブデン、約0~約37質量%のニッケル、約0~約29質量%のコバルト、及び残りの鉄を含む合金を含む。
別の態様では、本開示は、カーボンブラックの製造環境に持続的に曝露されると、その少なくとも一部の上に表面不動態化層を形成する合金を含むカーボンブラック空気予熱器を提供する。
別の態様では、本開示はカーボンブラック空気予熱器を提供し、カーボンブラック空気予熱器内に配置される複数の管の全部又は一部が、本明細書に記載する合金を含む。
別の態様では、本開示は、持続した時間にわたって少なくとも約1,000℃の温度まで空気を加熱できるカーボンブラック空気予熱器を提供する。
更に別の態様では、本開示は、カーボンブラック炉と、カーボンブラック炉の下流に配置され、且つカーボンブラック炉と流体連通しているカーボンブラック空気予熱器とを含むカーボンブラック製造工程を提供し、カーボンブラック空気予熱器は、約3~約10質量%のアルミニウム、約18~約28質量%のクロム、約0~約0.1質量%の炭素、約0~約3質量%のケイ素、約0~約0.4質量%のマンガン、約0~約0.5質量%のモリブデン、及び残りの鉄を含む合金を含む。
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、いくつかの態様を例示しており、記述と合わせて本発明の原理を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】従来のカーボンブラック製造工程の概略図である。
【
図2】本開示の様々な態様に従ったカーボンブラック空気予熱器の断面図である。
【
図3】本開示の様々な態様に従ったカーボンブラック空気予熱器の消費された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明の更なる態様の一部は以下で説明し、一部はその説明から明らかになるか、又は本発明の実施によって教示され得る。本発明の利点は、添付の特許請求の範囲で具体的に指し示す要素及び組み合わせによって実現され、達成されよう。前述の一般的な説明と以下の詳細な説明はいずれも例示的且つ説明的なものに過ぎず、請求項に記載する本発明を制限するものではないことを理解されたい。
【0006】
本発明は、以下の発明を実施するための形態及びこれらに含まれる実施例を参照することによって、より容易に理解され得る。
本発明の化合物、組成物、物品、システム、装置、及び/又は方法を開示及び説明する前に理解されるべきこととして、これらは、他に指定のない限り特定の合成方法に限定されず、又は他に指定のない限り特定の試薬に限定されず、それ自体は当然ながら変化し得る。本明細書で使用する用語は特定の態様を説明することを目的としているにすぎず、限定することを意図していないことも理解されたい。本明細書に記載するものと同様又は同等の任意の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用できるが、方法及び材料の例をこれから記載する。
本明細書で言及する全ての出版物は、その出版物が引用されているものに関連する方法及び/又は材料を開示及び説明するために、参照により本明細書に援用される。
他に定義されていない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術者が通常理解しているものと同じ意味を持つ。本明細書に記載するものと同様又は同等の任意の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用できるが、方法及び材料の例をこれから記載する。
【0007】
特段の記載がない限り、本明細書で使用する単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかに他の指示がない限り複数の指示対象を含む。従って、例えば「a filler(フィラー)」又は「a solvent(溶媒)」という言及は、それぞれ2つ以上のフィラー又は溶媒の混合物を含む。
本明細書では、1つの特定の値の「約」から、及び/又は別の特定の値の「約」までとして範囲を表すことができる。このような範囲が表される場合、別の態様は、その1つの特定の値から、及び/又は別の特定の値までを含む。同様に、値が近似値として表される場合、先行詞「約」を使用することで、特定の値が別の態様を形成することが理解されよう。更に各範囲の終点は、他の終点との関係においても、また他の終点とは無関係でも重要であることが理解されよう。本明細書には多数の値が開示されているが、各値は、その値自体に加えて、その特定の値の「約」としても本明細書に開示されていることも理解される。例えば「10」という値が開示されている場合、「約10」も開示されている。2つの特定の単位の間の各単位も開示されていることも理解される。例えば10と15が開示されている場合、11、12、13、及び14も開示されている。
本明細書で使用する「任意の」又は「任意で」という用語は、その後に記載する事象又は状況が発生することもしないこともあること、また説明が、前記事象又は状況が発生する例と発生しない例を含むことを意味する。
【0008】
本発明の組成物を調製するために使用される成分、及び本明細書で開示する方法で使用される組成物自体が開示される。こうした材料は本明細書に開示されており、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、集合などが開示されている場合、これらの化合物の様々な個別の及び集合的な組み合わせ並びに順列それぞれの具体的な参照を明示的に開示することはできないものの、それぞれが本明細書に具体的に企図され、記載されていることが理解される。例えば特定の化合物が開示及び検討され、その化合物を含む多数の分子に対して可能な多数の改変が検討されている場合、特に別段の指示がない限り、その化合物及び可能な改変のありとあらゆる組み合わせ並びに順列が具体的に企図される。従って、分子A、B、及びCのクラスが開示され、更に分子D、E、及びFのクラス、並びに結合分子の一例であるA-Dが開示されている場合、それぞれが個別に列挙されていなくとも、それぞれが個別且つ集合的に企図される意味の組み合わせとなり、即ちA-E、A-F、B-D、B-E、B-F、C-D、C-E、及びC-Fが開示されているとみなされる。同様に、これらの任意のサブセット又は組み合わせも開示されている。従って、例えばA-E、B-F、及びC-Eのサブグループが開示されているとみなされよう。この概念は、本発明の組成物を製造及び使用する方法のステップを含むがこれらに限定されない本出願の全ての態様に適用される。従って、実行可能な様々な追加ステップが存在する場合、これらの追加ステップは、それぞれ本発明の方法における任意の特定の実施形態又は実施形態の組み合わせで実行できることが理解される。
本明細書に開示する材料はいずれも、市販されている、及び/又はこれらの製造方法が当業者に既知である。本明細書に開示する組成物は特定の機能を有していることが理解される。
本明細書には、開示された機能を実行するための特定の構造要件が開示されているが、開示された構造に関連する同じ機能を実行できる様々な構造が存在し、これらの構造が通常、同じ結果を達成することが理解される。
別段の指示がない限り、部品は質量部で表され、温度は℃で表されるか又は環境温度であり、圧力は大気圧又は大気圧近傍である。
簡潔に前述したように、本開示は、特にカーボンブラック製造工程における高温材料、高温空気予熱器、並びにこれを製造及び使用する方法を提供する。
【0009】
カーボンブラック製造
一態様では、カーボンブラックは、FCCデカント油、コールタール、及び/又はエチレン分解タールなどの重油が不完全燃焼することで生じる炭素の微粉化形態であり、これらは一般にカーボンブラック原料と呼ばれることがある。従来のカーボンブラック製造工程は炉工程と呼ばれることが多いが、特定の種類のカーボンブラックにはその変形など他の製造工程が存在する。
一態様では、本開示のカーボンブラック製造工程は、カーボンブラックを調製する任意の従来工程を含むことができる。別の態様では、そのような工程は炉工程を含むことができる。その他の態様では、カーボンブラック製造工程は、米国特許出願公開第2004/0241081及び2004/0071626号明細書、並びに米国特許第4,391,789、4,755,371、5,009854、及び5,069882号明細書のうち1つ又は複数に記載の方法及び装置の全部、一部、及び/又は変形を含むことができ、それぞれが、カーボンブラックの製造方法及び装置を開示する目的で、参照によりその全体が本明細書に援用される。
カーボンブラックを生産する様々な方法が当技術分野で既知である。一般にカーボンブラックの生産は、反応器で炭化水素の部分燃焼及び/又は熱分解変換によって実行される。カーボンブラックを製造するこの従来の反応器工程では、送風機によって供給されるプロセス空気流中で炭化水素燃料、通常、天然ガス又は燃料油を燃焼させる。燃料の燃焼によって発生した高温ガスは、普通は耐火物で内張りされた、大抵は円形断面の容器内を流れる。システムの主な炭素源となる、通常は高芳香族の原料油が、燃料の燃焼が終了する地点の下流で高温ガス流に注入される。原料油は、通常、カーボンブラック形成工程の1ステップとして気化させる。気化には、高速の高温ガス流、高い乱流度、高温、及び油の高い霧化度が好ましい。
原料油の蒸気は高温燃焼ガスによって運ばれ、燃焼ガスは約1316~約1871℃(約2,400~約3,400°F)の温度に達し、燃焼の制御に用いられる方法によって異なる。耐火物からの放射熱、高温ガスによって直接伝わる熱、高温ガス中の高いせん断と混合、及び燃焼生成物中の残留酸素による油の一部の燃焼、これら全てが組み合わさって、原料油の蒸気に非常に速く熱を伝える。こうした条件下で、原料油の分子が分解、重合、及び脱水素化され、徐々に大きくなって水素化されなくなり、一部が炭素の核と呼ばれる状態にまで達する。核は成長し、ある段階で粒子が合体してクラスター様の凝集体を形成する。工程の終了時に、カーボンブラックを含む高温ガスを、反応が停止又は大幅に減速するほどの低温に急冷することで、従来の手段でカーボンブラックを回収できる。
【0010】
当技術分野では多種多様なカーボンブラックが開示されている。これらのカーボンブラックはそれぞれ多くの特性が異なり、様々な工程で製造される。カーボンブラックの主な使用領域は、その特性ごとに異なる。カーボンブラックは、それ自体の化学組成や成分によって十分に特徴づけることができないため、示される特性によってカーボンブラックを特徴づけることが幅広く受け入れられるようになっている。従ってカーボンブラックは、例えばその表面積によって特徴づけることができる。
カーボンブラックは、例えばタイヤ製造でコンパウンドに用いられるゴムの補強剤としてよく知られている。自動車タイヤ産業で用いられるカーボンブラックは大きく2種類に分けられる。ある種のカーボンブラックはタイヤのトレッドコンパウンドの補強剤として使用するのに最適であり、別の種のカーボンブラックは、タイヤのカーカスで補強剤に使用するのに最適である。
トレッド用のカーボンブラックは、通常、カーカス用のカーボンブラックの生産に用いるものとは異なる工程及び反応器を用いて生産される。トレッドのカーボンブラックは粒径が小さい。これには、早くて熱い反応器、即ち高速と高温が必要となる。これらの工程の滞留時間はミリ秒オーダーである。トレッドのカーボンブラックはカーカスのカーボンブラックよりも高速で流動ガスに対する油の比率が低い状態で製造される。
カーカス用のカーボンブラックは大きな粒子を含む。粒子を大きくするには、比較的低温の反応器でゆっくり反応させる。滞留時間はミリ秒オーダーである。こうしたカーボンブラックは、低速で流動ガスに対する油の比率が高い状態で製造される。
【0011】
典型的なカーボンブラック反応器が、米国特許第4,822,588及び4,824,643号明細書に開示されており、これらも参照によりその全体が本明細書に援用される。これらの明細書では、反応器は、連続的に結合された収束ゾーン、喉部、第1の反応ゾーン、及び第2の反応ゾーンを含む。反応器は長手方向軸を有する反応流路を有する。燃焼ゾーン及び反応器喉部は、反応器の長手方向軸に沿って配置され、収束ゾーンは燃焼ゾーンから反応器喉部に収束している。急冷ゾーンは、反応器喉部と離して配置され、断面寸法が反応器喉部の断面寸法よりも一般に大きい。反応ゾーンは反応器喉部と急冷ゾーンを繋げている。反応ゾーンの断面寸法は、急冷ゾーンの断面寸法よりも小さいことが多く、長さは一般に喉部直径の2~6倍の範囲である。燃焼器は、燃焼ゾーンから急冷ゾーンへの高温燃焼ガスの軸流が起こるよう、燃焼ゾーンと動作可能に関連づけられている。反応ゾーンには、反応流路の長手方向軸に向けて半径方向内向きに炭素質原料を導入する油注入器を受けるための少なくとも1つのポートが設けられている。更に反応器には、急冷用流体を急冷ゾーンに導入する手段が設けられている。反応器喉部の両側のポートに油注入器を設けることで、カーボンブラックを高効率で生産できる。
上記で参照した特許に記載されているような例示的なカーボンブラック反応器は、上流端部、収束ゾーン、反応器喉部、反応ゾーン、急冷ゾーン、及び下流端部を含み、以下を含む工程でカーボンブラック材料を製造するために用いることができる:(a)過剰量の酸素含有ガスで炭化水素燃料を燃焼させることで、遊離酸素を含み、且つ一般に反応流路の上流端部から下流端部に向かって軸方向に流れる高温燃焼ガスの塊を形成するステップ;(b)高温燃焼ガスの塊を、収束ゾーンを通して流すステップ;(c)炭素質原料を、収束ゾーンの周縁部の位置から一般に半径方向内向きに高温燃焼ガスに導入して、第1の反応混合物を形成するステップ;(d)第1の反応混合物を、反応器喉部を通して流すステップであって、反応器喉部が、半径及び半径の2倍の直径を有し、反応器喉部の下流端部で反応流路の第1の急拡大部を過ぎて、反応ゾーンの上流端部に至り、また該第1の急拡大部が反応器喉部と反応ゾーンとを繋げているステップ;(e)追加の炭素質原料を、反応ゾーンの周縁部の位置で一般に半径方向内向きに反応混合物に導入して、第2の反応混合物を形成するステップ;並びに(f)第2の反応混合物を、反応ゾーンの下流端部で反応流路の第2の急拡大部を過ぎて、カーボンブラックを形成するのに十分なほど大きな直径と長さとを有する急冷ゾーンに流すステップ。
そのような例示的な反応器は、反応器の燃焼ゾーンの下流のみに原料油噴霧器を配置できる。原料注入器は収束ゾーン及び反応ゾーンに設けられている。
別の例示的な態様では、カーボンブラック反応器は、カーカス用のカーボンブラックに望ましい反応体積、及びトレッド用のカーボンブラックに望ましい燃焼体積を提供する燃焼/反応区域の組み合わせを含むことができる。
【0012】
従来のカーボンブラック製造工程では、生産されたカーボンブラックを含む煙流は、熱交換器を通過させることで、反応器で用いられる煙流及び予熱燃焼ガスを冷却できる。煙流をろ過及び高密度化してカーボンブラックを回収することもできる。得られたカーボンブラックは、更にビーズ又はペレットの形状にし、続いて任意で乾燥ステップを施すことができる。そのような工程では、燃焼ガスは反応器に再循環させる、冷却する、又は燃料価として使用することができる。
【0013】
図1に例示的なカーボンブラック製造工程100を図示する一態様では、燃料油及び/又は天然ガス110並びに空気120が、カーボンブラック反応器の炉130に導入される。空気の全部又は一部を、ファン117を介して導入し、任意で熱交換器135を通過させて、空気の温度を上げることができる。次いでカーボンブラック原料115を導入し、部分的に燃焼させてカーボンブラック粒子を形成できる。これらの粒子は、水135の導入によって反応が消滅するまで成長できる。それにより得られた、カーボンブラック、水分、及び未利用のカーボンブラック原料を含む煙流は、次いで熱交換器135を通過させ、1つ又は複数の初期処理ステップを施す。この初期処理ステップは、テールガスとも呼ばれる未利用のカーボンブラック原料170からカーボンブラックを分離するステップを含むことができる。この初期処理ステップは、主バッグ回収器141及び副バッグ回収器145の使用を含むことができる。回収したカーボンブラックは、続いて、微粉砕機147を通過させて大きな凝集体を粉砕した後、高密度化タンク149を通過させて、ふわふわしたカーボンブラック粉末のかさ密度を上げることができる。場合によっては、カーボンブラックを粉末形態ではなくビーズ形態で包装して輸送することが望ましいこともある。そのような場合には、次いでカーボンブラックをピンミキサー151に供給して、水135及び/又はビーズ化剤を導入できる。次いで、カーボンブラックを乾燥器153に供給して、カーボンブラック中の水分の全部又は一部を除去できる。カーボンブラックを含む可能性のある乾燥機からの蒸気は、分離のために蒸気バッグ回収器143に再循環させることもできる。この例示的な態様では、得られたカーボンブラック160は、例えば昇降器155を介して貯蔵タンク157に、最終的にはトラック又は鉄道車両などの輸送手段159に搬送できる。
図1に図示するカーボンブラック製造工程は、本質的に例示的なものであることを意図しており、本開示は、この例示的な態様に限定されることを意図していないことを理解すべきである。
当業者は適切なカーボンブラック製造方法及び設備を決定でき、また本開示は任意の特定のカーボンブラック製造方法又は装置に限定されることを意図していない。
【0014】
カーボンブラック製造工程における環境は、例えば製造工程の反応器や操作部に用いられる金属にとって特に腐食性がある可能性がある。様々な態様では、環境は、水分、硫黄、並びに水素及び窒素などの混合ガスを含むことがある。様々な態様では、高温での使用に適していると称される従来合金及び他の合金でも、カーボンブラックの製造環境に曝露されると、硫化、炭化、及び/又は酸化する可能性がある。一態様では、本明細書で用いるようなカーボンブラック製造環境への持続的な曝露とは、カーボンブラック製造工程の動作環境において約3~4週間以上の期間を意味することが意図される。
カーボンブラック製造工程の空気予熱器は、こうした工程で用いるのに適した任意の設計又は種類を含むことができる。一態様では、カーボンブラック空気予熱器はレキュペレータであり得る。別の態様では、カーボンブラック空気予熱器は向流エネルギー回収熱交換器であり得る。更に別の態様では、カーボンブラック空気予熱器は、例えば互いに平行に配置された複数の管を含むことができる。様々な態様では、そのような管は、1つ以上の列又は千鳥配列で位置づけることができる。更に別の態様では、管は外殻内に配置できる。更に別の態様では、管は第1の流体を1つの方向に運ぶことができ、第2の流体は、管の外側且つ外殻の内部を反対方向に流れることができる。別の態様では、各管の長手方向軸が、空気予熱器の長手方向軸と平行になるように、複数の管のうち1本を配置できる。特定の態様では、カーボンブラックを含む煙流と高温燃焼ガスを含む煙流とが接触するように、空気予熱器の一端が、カーボンブラック反応器と流体連通している。そのような態様では、カーボンブラック反応器からのガスと接触又は流体連通している空気予熱器の端部は、空気予熱器の他の部分よりも高い温度になり得る。
【0015】
図2及び
図3は、カーボンブラック反応器と流体連通できる第1の端部210と、カーボンブラック製造工程の運搬部、操作部、及び回収部と流体連通できる第2の端部220とを有する例示的なカーボンブラック空気予熱器200の概略図を示す。例示的な一態様では、第1の端部は、高温ガス及びカーボンブラック煙流が反応器から出るため、動作時に第2の端部よりも著しく高い温度に曝露される可能性がある。例示的な空気予熱器は、外殻230と外殻230内部に配置された複数の管240とを含む。外殻の内部で、管を介して第1の流体を第1の端部から第2の端部に送ることができ、第2の流体は管の周囲を、例えば反対方向に流れることができる。複数の管はそれぞれ、同じ又は異なる金属又は合金を含む1つ以上の区域を含むことができる。例示的な態様では、管は4つの区域を含むことができ、空気予熱器の第1の端部から第2の端部まで、それぞれが異なる構成材料からなる。そのような態様では、第1の部分250は、動作時に最高温度に曝露される領域にあり、且つ第1の端部210、第2の部分260、第3の部分270、及び第4の部分280と接続している。区域の数、及び任意の所与の管の構成材料は異なっていることが可能であり、当業者は、適切な管数、管ごとの区域数、並びに各管及び/又は区域の材料を容易に選択できよう。
【0016】
本明細書では、現在最先端の空気予熱技術を超える動作温度が可能な、空気予熱器とも呼ばれるカーボンブラック熱交換器の設計に関する発明の様々な実施形態を開示する。カーボンブラック空気予熱器を構成するために選択される金属合金は、最大使用温度を決定づける可能性があり、ひいては、装置で可能な最大エネルギー回収を決定づける可能性がある。カーボンブラックの生産速度及び収量は、空気予熱温度の上昇に伴って増加することが業界では一般に知られており、従って、現在利用可能な温度を上回る温度で動作可能な空気予熱器の設計には、効率的にも経済的にも大きなメリットがある。現在の空気予熱器は、主にそれらを構成している合金のために、通常、空気予熱温度が950℃に制限されている。本発明が教示するのは、セラミックス酸化物粒子成長抑制剤を含有するフェライト系ステンレス鋼合金及びアルミニウムを使用することで、カーボンブラックプロセスガス流に含まれる腐食性の高いガスに耐性があり、更に現在最先端のカーボンブラック空気予熱器で用いられる合金よりもおよそ200℃高い温度で長時間動作が可能な頑強な管材料が得られることである。一態様では、そのような合金は、市販のKANTHAL APM(登録商標)及びKANTHAL APMT(登録商標)フェライト系ステンレス鋼合金(Sandvikから入手可能)を含むことができる。
【0017】
様々な態様では、カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部に使用する合金は、約5~約6質量%、例えば約5、5.2、5.4、5.6、5.8、若しくは6質量%;約4~約6質量%、例えば約4、4.2、4.4、4.6、4.8、5、5.2、5.4、5.6、5.8、若しくは6質量%;又は約3~約10質量%、例えば約3、3.1、3.3、3.5、3.7、3.9、4、4.1、4.3、4.5、4.7、4.9、5、5.1、5.3、5.5、5.7、5.9、6、6.1、6.3、6.5、6.7、6.9、7、7.1、7.3、7.5、7.7、7.9、8、8.1、8.3、8.5、8.7、8.9、9、9.1、9.3、9.5、9.7、9.9、若しくは10質量%のアルミニウムを含むことができる。別の態様では、カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部に使用する合金は、約20~約21質量%、例えば約20、20.1、20.2、20.3、20.4、20.5、20.6、20.7、20.8、20.9、若しくは21質量%;約20~約24質量%、例えば約20、20.2、20.4、20.6、20.8、21、21.2、21.4、21.6、21.8、22、22.2、22.4、22.6、22.8、23、23.2、23.4、23.6、23.8、若しくは24質量%;又は約18~約28質量%、例えば約18、18.5、19、19.5、20、20.5、21、21.5、22、22.5、23、23.5、24、24.5、25、25.5、26、26.5、27、27.5、若しくは28質量%のクロムを含むことができる。別の態様では、カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部に使用する合金は、約0.08質量%未満、例えば約0、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、若しくは0.07質量%;約0~約0.08質量%、例えば約0、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、若しくは0.08質量%;又は約0~約0.1質量%、例えば約0、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、若しくは0.1質量%の炭素を含むことができる。その他の態様では、カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部に使用する合金は、約0.1~約0.7質量%、例えば約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、若しくは0.7質量%;約0~約1質量%、例えば0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、若しくは1質量%;又は約0~約3質量%、例えば約0、0.2、0.4、0.6、0.8、1、1.2、1.4、1.6、1.8、2、2.2、2.4、2.6、2.8、若しくは3質量%のケイ素を含むことができる。更に別の態様では、カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部に使用する合金は、約0~約0.4質量%、例えば約0、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、又は0.4質量%のマンガンを含むことができる。その他の態様では、カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部に使用する合金は、約2~約3質量%、例えば約2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、若しくは3質量%;約1~約3質量%、例えば約1、1.2、1.4、1.6、1.8、2、2.2、2.4、2.6、2.8、若しくは3質量%;又は約0~約5質量%、例えば約0、0.2、0.4、0.6、0.8、1、1.2、1.4、1.6、1.8、2、2.2、2.4、2.6、2.8、3、3.2、3.4、3.6、3.8、4、4.2、4.4、4.6、4.8、若しくは5質量%のモリブデンを含むことができる。その他の態様では、カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部に使用する合金は、任意で、約0~約1質量%、例えば約0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、若しくは1質量%;約0~約20質量%、例えば約0、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5、若しくは20質量%;又は約0~約37質量%、例えば約0、1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、若しくは37質量%のニッケルを含むことができる。別の態様では、カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部に使用する合金は、任意で、約0~約1質量%、例えば約0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、若しくは1質量%;約0~約15質量%、例えば約0、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、若しくは15質量%;又は約0~約29質量%、例えば約0、1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、若しくは29質量%のコバルトを含むことができる。その他の態様では、カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部に使用する合金は、少量、例えば約0.1質量%未満のセラミック微粒子を含むことができる。様々な態様では、存在する場合、セラミック粒子は、ハフニア、イットリアなどの酸化物、及び/又は他の適切な粒子を含むことができる。理論に束縛されることは望まないが、こうしたセラミック粒子の存在によって、合金中で結晶粒界が固定され、耐クリープ性が低下する可能性があると考えられる。本開示の合金は、本明細書に列挙する任意の1つ以上の構成要素を、より少ない又はより多い濃度で含むことができることに留意すべきである。その他の態様では、合金は、カーボンブラック空気予熱器としての使用において合金の性能に悪影響を及ぼさないものであれば、本明細書に具体的に列挙しない追加的な構成要素を含むことができる。合金組成の残りは鉄を含む。
【0018】
一態様では、熱交換器で使用する合金は、約5.8質量%のアルミニウム、約20.5~約23.5質量%のクロムレベル、最大約0.08質量%の炭素、最大約0.7質量%のケイ素、最大約0.4質量%のマンガン、及び残りの鉄を含むことができる。別の態様では、材料は、約3質量%のモリブデン、約5質量%のアルミニウム、約20.5~約23.5質量%のクロムレベル(又は約21質量%のクロム)、最大約0.08質量%の炭素、最大約0.7質量%のケイ素、最大約0.4質量%のマンガン、及び残りの鉄を含むことができる。別の態様では、材料は、約450MPa若しくは約540MPaの降伏強度、約670MPa若しくは約740MPaの引張り強度、約27%若しくは約26%の伸び率、及び/又は約225Hv若しくは約250Hvの硬度を有することができる。別の態様では、材料は(1,000時間における伸び率1%で)900℃で約5.9MPa、1,000℃で約2MPa、1100℃で約0.7MPa、又は1,200℃で約0.3MPaのクリープ強度を示すことができる。別の態様では、材料は(1,000時間で)800℃で約25.3MPa、900℃で約7若しくは17.3MPa、1,000℃で約3.4若しくは12.3MPa、1,100℃で約1.7若しくは6MPa、又は1,200℃で約2.5若しくは1MPaのクリープ破断強度を示すことができる。別の態様では、材料は約7.1又は約7.25g/cm3の密度を有することができる。その他の態様では、材料は、上述の特性のうち任意の1つ以上を含むことができ、任意の特定の値は、具体的に列挙した値よりも大きい又は小さい可能性がある。上述の成分濃度及び特性は、例えば構成時の天然合金の成分濃度及び特性を表すことを意図していることを理解すべきである。動作後及び高温への曝露後、これらの成分濃度及び/又は特性のうち1つ以上が変化する可能性がある。一態様では、高温に曝露することで、金属の少なくとも一部にアルミナ不動態化層が形成されることがある。別の態様では、低温での継続的な使用によって、表面に望ましくない酸化クロムが形成され、シグマ相が増加し、合金が脆化することがある。
【0019】
一態様では、本発明の目的は、市販の最先端の空気予熱器で用いられている合金よりも優れた合金を選択することによって、カーボンブラック反応器空気予熱器の動作温度を高め、それによりカーボンブラックの製造歩留まりを高めることである。
現在市販されている空気予熱器は空気吹出口の最高温度が950℃に制限されており、この限界値付近で作動させると信頼性が低い。カーボンブラックプロセス流中に存在する硫黄種に起因する高温腐食によって、特に高い動作温度で激しい金属腐食が生じる。本発明は、他の従来の空気予熱器の合金が完全に破損する温度で優れた耐食性と機械的安定性を示す高性能の合金を選択することによってこの問題を克服する。KANTHAL(登録商標)合金などのアルミニウム合金は、ステンレス鋼合金中にアルミニウムを含有し、このアルミニウムが、卑金属を攻撃から保護する酸化アルミニウム不動態化層を形成するよう作用し得るという点で無比である。更に、微粒子セラミック材料を合金に組み入れると、合金中の結晶粒界が固定されることによって十分な高温強度及び耐クリープ性が得られる。
従って一態様では、カーボンブラック空気予熱器は、本明細書に記載するKANTHAL(登録商標)合金などのアルミニウム合金を含むことができる。別の態様では、カーボンブラック空気予熱器は、使用中に不動態化層が材料表面に形成されるようにアルミニウム含有合金を含むこともできる。別の態様では、カーボンブラック空気予熱器は、カーボンブラックのプロセス流と接触する表面の少なくとも一部に不動態化層が配置された材料を含むことができる。更に別の態様では、空気予熱器は、材料に対する強度と耐クリープ性を向上させることができる微粒子セラミック材料を内部に含有する材料を含むことができる。更に別の態様では、空気予熱器は表面保護材料を含むことができる、又は使用時に表面不動態化層を形成する材料及び微粒子セラミック材料を含む。
【0020】
本開示の重要な特徴は、カーボンブラック空気予熱器に、また一態様ではカーボンブラック空気予熱器において動作時に最も高い温度に曝露される部分に、このような材料を適用することである。このような材料は市販されており、性能が公示されているが、カーボンブラック反応器環境におけるこうした合金の実行可能性に関するデータは存在しない。所望の温度での適合性を主張している材料はいずれも、カーボンブラック製造工程の温度及び動作条件に耐えることができない。本開示は、最先端の空気予熱器が通常経験する温度を超える温度のカーボンブラック反応器プロセス流における、本明細書に記載する材料の評価及び分析に一部基づいている。
本発明はこれまでのカーボンブラック空気予熱器技術と比べて、例えばKANTHAL(登録商標)合金などの本明細書に記載する材料が、現在最先端のカーボンブラック空気予熱器で使用されている耐熱合金よりも優れた無比の高温耐食性を備えているという点で有利である。現在の合金は、特に硫黄濃度が高い原料油を使用するカーボンブラック反応器で通常激しい腐食を示すのに対し、本明細書に記載する材料は、高温のカーボンブラック反応器の試験において、同じ条件での腐食に完全に耐性がある、又は実質的に完全に耐性があることが実証されている。またこれらの材料は、1,300℃超の温度に曝露しても形状を維持し、且つ腐食にも耐えることで、カーボンブラック反応器における予想を超える温度への曝露に耐えた。試験結果によれば、最先端の空気予熱器に使用される合金で、その温度領域で妥当な時間にわたって耐えられる合金はない。
【0021】
本発明は、カーボンブラック産業への適用、及び市販の最先端カーボンブラック空気予熱器で使用されている材料と比べて有意に高い動作温度(例えば空気吹出口温度が1,000~1,100℃)という観点で新規である。様々な高温材料の試験では、そのような温度での使用について記載された、又はそのような温度で使用するために設計された材料の全てが、カーボンブラックの製造環境に適している、又はこれに耐えられるわけではないことが示された。一態様では、本明細書に記載する材料をカーボンブラック反応器プロセス流と共に使用することによって、従来の空気予熱器材料よりも優れた性能を得ることができる。
試験では、他の耐熱合金が完全に破損するような温度で評価を行ったにもかかわらず、これらの材料は腐食やクリープ変形に対して驚くほどの耐性を示した。これらの材料の実験室での評価ではバルク金属の内部損傷は認められず、合金は硫化、炭化、及び酸化に対して耐性が強いことが示された。また、曝露試験後の合金のクリープ変形も最小限に抑えられており、高い耐クリープ性が示されている。
これらの材料から調製し、熱電対を埋め込んだ管サンプルを、トレッドのカーボンブラック反応器の第1の急冷水噴霧と第2の急冷(トリム)水噴霧の間のポート位置で複数回評価した。最後のトリム水噴霧の前にある試験ポート位置では、市販の空気予熱器が通常経験する温度を超える可能性のある曝露温度に達した。950℃の市販の空気予熱器の吸煙口最高温度はおよそ1,050℃に制限されており、これらの材料の曝露試験温度は、反応器工程条件に応じて、およそ1,000~1,300℃の範囲であった。現在の空気予熱器に用いられている市販の従来合金を、本明細書に記載する材料と同じ試験位置で同時に試験したところ、それらの従来合金は完全に破損した(即ち、試験終了後に、反応器に曝露された端部が完全に腐食していた)。
【0022】
本発明は、カーボンブラック空気予熱器設計の下部管組立体に、本明細書に記載する材料を組み入れることによって実施できる。空気予熱器内の管は熱煙及びガス流と直接接触しており、入口温度が上がると、管の底部の温度が上がる。費用効率の高い装置を作るために、様々な態様で、本明細書に記載する材料は有益となる場合にのみ使用される可能性がある。そのような態様では、材料は管組立体の下部に組み込むことができる。別の態様では、空気予熱装置の全部又は一部が、本明細書に記載する材料を含むことができる。一態様では、本明細書に記載する材料を含む管部の長さは、フェライト合金のシグマ相の脆化を防ぐために、この管部の最上領域の金属温度が少なくともおよそ900℃となるように選択できる。従来の空気予熱器管の合金は、例えばこの管部の上部に突合せ溶接し、完全な管組立体を作ることができる。様々な態様では、このように管を製造し、本明細書に記載する材料は必要な場合にのみ用いることによって総コストを削減できる。管の冶金の変更に加えて、状況によっては、1,000~1,100℃の空気吹出口温度を達成し、及び/又は殻と管板の熱損傷を防ぐために、空気予熱器管板の底及び下方殻部の内側に組み込まれたセラミック耐火物の改変が必要となることがある。様々な態様では、本明細書に記載するカーボンブラック空気予熱器は、カーボンブラック製造工程で使用する空気を、少なくとも約1,000℃、又は約1,000~約1,100℃、約1,000~約1,200℃、又は約1,000~約1,300℃の温度に加熱できる。
【0023】
以下の表1に記載するように、多数の例示的な高温金属合金をカーボンブラック製造条件下で試験した。高温使用が謳われているにもかかわらず、大部分の材料はカーボンブラック製造環境での試験で破損した。HaynesのHR160材料は試験条件を一部満たした。それ以外で試験条件に合格した唯一の材料は、SandvikのAPM及びAPMT材料であった。
【表1】
【0024】
別の態様では、カーボンブラック空気予熱器は、カーボンブラック反応器での使用に適した任意の設計を含むことができる。特定の例示的な態様では、カーボンブラック空気予熱器は、複数の管を備え、該複数の管は外殻に収容され、間隔を空けて平行に配置されている。カーボンブラック産業の当業者は、本明細書に記載する材料を用いて、カーボンブラック製造ユニット用の空気予熱器を容易に設計できよう。
本発明はカーボンブラック製造工程も提供し、本明細書に記載するカーボンブラック空気予熱器は、例えばカーボンブラック炉若しくは反応器と流体連通する工程、及び/又はその下流にある工程の一部である。
【0025】
本明細書及び図面に記載する態様に加えて、本発明を、以下の非限定的な態様のうちの1つ又は複数に記載することもできる。
態様1:カーボンブラック空気予熱器であって、カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部が、約3質量%~約10質量%のアルミニウム、約18質量%~約28質量%のクロム、約0質量%~約0.1質量%の炭素、約0質量%~約3質量%のケイ素、約0質量%~約0.4質量%のマンガン、約0質量%~約0.5質量%のモリブデン、及び残部の鉄を含む合金を含む。
態様2:合金が、約0質量%~約37質量%のニッケル、約0質量%~約29質量%のコバルトを更に含む、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様3:合金が、約5質量%~約6質量%のアルミニウム、約20質量%~約21質量%のクロム、約0質量%~約0.08質量%の炭素、約0.1質量%~約0.7質量%のケイ素、約0質量%~約0.4質量%のマンガン、約2質量%~約3質量%のモリブデン、約0質量%~約1質量%のニッケル、約0質量%~約1質量%のコバルト、及び残部の鉄を含む、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様4:合金が、約5質量%~約6質量%のアルミニウム、約20.5質量%~約23.5質量%のクロム、約0.08質量%未満の炭素、約0.7質量%未満のケイ素、約0.4質量%未満のマンガン、約3質量%のモリブデン、及び残部の鉄を含む、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様5:カーボンブラックの製造環境に持続的に曝露されると、合金が、合金の少なくとも一部の上に表面不動態化層を形成する、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様6:カーボンブラックの製造環境に曝露されると、合金が、合金の少なくとも一部の上に表面アルミナ層を形成する、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様7:合金が、合金中に配置された複数のセラミック粒子を更に含む、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様8:カーボンブラック空気予熱器が向流エネルギー回収熱交換器である、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様9:カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部が、カーボンブラック空気予熱器内に配置された複数の管の全部又は一部を含む、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様10:カーボンブラック空気予熱器の少なくとも一部が、カーボンブラック空気予熱器内に配置された1つ以上の管の一部を含み、1つ以上の管の一部が、カーボンブラック炉と流体連通している1つ以上の管の第1の端部に位置されている、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様11:カーボンブラック空気予熱器がカーボンブラック製造工程の一部である、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様12:カーボンブラック空気予熱器がカーボンブラック炉と流体連通している、態様11のカーボンブラック空気予熱器。
態様13:持続した時間にわたって少なくとも約1,000℃の温度まで空気を加熱できる、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様14:著しい分解なしに、持続した時間にわたって少なくとも約1,000℃の温度まで空気を加熱できる、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様15:約1,000~約1,300℃の温度まで空気を加熱できる、態様1のカーボンブラック空気予熱器。
態様16:カーボンブラック炉と、カーボンブラック炉の下流に位置し、これと流体連通しているカーボンブラック空気予熱器とを含むカーボンブラック製造工程であって、カーボンブラック空気予熱器が、約3質量%~約10質量%のアルミニウム、約18質量%~約28質量%のクロム、約0質量%~約0.1質量%の炭素、約0質量%~約3質量%のケイ素、約0質量%~約0.4質量%のマンガン、約0質量%~約0.5質量%のモリブデン、及び残部の鉄を含む合金を含む、カーボンブラック製造工程。
態様17:合金が、約0質量%~約37質量%のニッケル、約0質量%~約29質量%のコバルトを更に含む、態様16のカーボンブラック製造工程。
態様18:カーボンブラック空気予熱器が、約5質量%~約6質量%のアルミニウム、約20質量%~約21質量%のクロム、約0質量%~約0.08質量%の炭素、約0.1質量%~約0.7質量%のケイ素、約0質量%~約0.4質量%のマンガン、約0質量%~約3質量%のモリブデン、約0質量%~約37質量%のニッケル、約0質量%~約29質量%のコバルト、及び残部の鉄を含む合金を含む、態様16のカーボンブラック製造工程。
態様19:カーボンブラックの製造環境に持続的に曝露されると、合金が、合金の少なくとも一部の上に表面不動態化層を形成する、態様16のカーボンブラック製造工程。
態様20:カーボンブラックの製造環境に曝露されると、合金が、合金の少なくとも一部の上にアルミナ層を形成する、態様16のカーボンブラック製造工程。
態様21:合金が、合金中に配置された複数のセラミック粒子を更に含む、態様16のカーボンブラック製造工程。
【0026】
本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、本発明において様々な改変及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかであろう。本発明の他の実施形態は、本明細書に開示する発明の明細書及び実施態様の検討から当業者には明らかであろう。本明細書及び実施例は、例示的なものとしてのみ考慮されることが意図され、本発明の真の範囲及び趣旨は、以下の特許請求の範囲によって示される。
【国際調査報告】