(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】新規の乳酸菌株‐上記株によって産生される抗菌ペプチド、及び関連する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220803BHJP
C07K 14/335 20060101ALI20220803BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220803BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20220803BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20220803BHJP
A61K 36/534 20060101ALI20220803BHJP
A61K 36/53 20060101ALI20220803BHJP
A61K 36/15 20060101ALI20220803BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20220803BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20220803BHJP
A61K 31/191 20060101ALI20220803BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20220803BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20220803BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220803BHJP
A61K 31/045 20060101ALI20220803BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20220803BHJP
A61K 31/015 20060101ALI20220803BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220803BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220803BHJP
C12R 1/225 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C07K14/335
A61K38/16
A61K35/747
A61K35/74 G
A61K36/534
A61K36/53
A61K36/15
A61K31/375
A61K31/19
A61K31/191
A61K9/51
A61K9/16
A61K47/36
A61K31/045
A61K31/05
A61K31/015
A61P31/04
A61P31/00
C12R1:225
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572600
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(85)【翻訳文提出日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 EP2020065376
(87)【国際公開番号】W WO2020245216
(87)【国際公開日】2020-12-10
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518338518
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・リール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LILLE
(71)【出願人】
【識別番号】519208029
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル ドゥ ラ レシェルシェ サイエンティフィク
(71)【出願人】
【識別番号】521532433
【氏名又は名称】インクレア・オウト・ドゥ・フランス
(71)【出願人】
【識別番号】516340364
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デュ・リトラル・コート・ドパール
(71)【出願人】
【識別番号】517444089
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ダルトワ
【氏名又は名称原語表記】Universite d’Artois
(71)【出願人】
【識別番号】521532444
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ポリテクニーク・デ・ゾウト・ドゥ・フランス
(71)【出願人】
【識別番号】516123435
【氏名又は名称】サントラル・リール・アンスティチュ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ブケルブ,ラバー
(72)【発明者】
【氏名】ドリデル,ジャメル
(72)【発明者】
【氏名】ハジメ,ノウラ
(72)【発明者】
【氏名】ベルゲスミア,ヤナト
(72)【発明者】
【氏名】ベンジェドウ,カメル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
4C088
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA30X
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA31
4C076AA65
4C076CC31
4C076CC32
4C076EE36H
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA19
4C084BA20
4C084BA21
4C084BA23
4C084BA24
4C084MA02
4C084MA38
4C084MA41
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB32
4C084ZB35
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA18
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA38
4C086MA41
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB32
4C086ZB35
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087CA10
4C087MA02
4C087MA38
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4C087NA05
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4C087ZB35
4C088AB03
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4C088MA38
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4C088NA05
4C088NA14
4C088ZB32
4C088ZB35
4C206AA01
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4C206BA03
4C206BA04
4C206CA13
4C206CA17
4C206DA02
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA58
4C206MA61
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZB32
4C206ZB35
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA20
4H045CA11
4H045EA20
4H045EA29
(57)【要約】
本発明は、参照番号CNCM I‐5369としてCNCMに寄託されたLactobacillus paracasei株に関する。本発明はまた、以下の配列:(配列番号1)、(配列番号2)、(配列番号3)、(配列番号4)、(配列番号5)を有するペプチドの混合物、並びに上述のペプチドのうちの1つと、以下:
‐精油、特にハッカの精油、タイムの精油、マツの精油、メンソール、チモール、ピネン、
‐ビタミンC、ギ酸、プロピオン酸、クエン酸、ソルビン酸、乳酸;及び/又は
‐上記有効成分が添加され得るナノ粒子
から選択される少なくとも1つの成分との組み合わせに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項4】
前記医薬組成物は更に、有効成分として、コリスチン、並びに/又は:
‐精油、特にハッカの精油、タイムの精油、マツの精油、メンソール、チモール、ピネン;
‐ビタミンC、ギ酸、プロピオン酸、クエン酸、ソルビン酸、及び乳酸
から選択される、少なくとも1つの成分を含む、請求項2又は3に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ナノ粒子は薬学的有効成分であること、並びに前記ナノ粒子には:
i)配列番号1~配列番号5を有する前記5つのペプチド、特に請求項1に記載の株の培養液の上清;並びに
ii)精油、特にハッカの精油、タイムの精油、マツの精油、メンソール、チモール、ピネン、ビタミンC、ギ酸、プロピオン酸、クエン酸、ソルビン酸、及び乳酸から選択される少なくとも1つの成分
を含む、混合物が添加されることを特徴とする、請求項6~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ナノ粒子には:
i)前記5つのペプチドの混合物、特に請求項1に記載の株の培養液の上清;並びに
ii)精油、特にハッカの精油、タイムの精油、マツの精油、メンソール、チモール、ピネン、ビタミンC、ギ酸、プロピオン酸、クエン酸、ソルビン酸、及び乳酸から選択される少なくとも1つの成分
を含む、又はからなる、混合物が添加されることを特徴とする、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項14】
有効成分として、以下の配列:
MYTMTNLKDKELSQITGGFAFVIPVAAILGFLASDAWSHADEIAGGATSGWSLADKSHSL(配列番号1);
MQQFMTLDNSSLEKIAGGENGGLWSIIGFGLGFSARSVLTGSLFVPSRGPVIDLVKQLTPKN(配列番号2);
MLILGLIAIDAWSHTDQIIAGFLKGWQGM(配列番号3);
MTDKRETLMSMLSKAYANPTIKAEPALRALIETNAKKVDEGDDEKAYVTAVTQLSHDISKYYLIHHAVPEELVAVFNYIKKDVPAADIDAARYRAQALAAGLVAIPIVWGH(配列番号4);
MYVKDSKVDLTQNNLLPFEEKRKIMSYNYRQLDDFQLSGVSGGKKKFDCAATFVTGITAGIGSGTITGLAGGPFGIIGGAVVGGNLGAVGSAIKCLGDGMQ(配列番号5)
を有するペプチドから選択される単離ペプチド;並びに
‐精油、特にハッカの精油、タイムの精油、マツの精油、メンソール、チモール、ピネン、
‐ビタミンC、ギ酸、プロピオン酸、クエン酸、ソルビン酸、乳酸;及び/又は
‐前記有効成分が添加され得るナノ粒子
から選択される、少なくとも1つの成分
を含む、医薬組成物。
【請求項17】
前記ナノ粒子への添加重量は、前記ナノ粒子の重量の12.2%以下であり、特に12%に等しいことを特徴とする、請求項14~16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規の乳酸菌株に関し、また抗菌/抗微生物特性を有する、より詳細にはEscherichia coli(E. coli)及びEscherichia coli(E. coli)のコリスチン耐性株に対して抗微生物特性を有する、5つの新規のペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
抗微生物耐性(antimicrobial resistance :AMR)と呼ばれる抗生物質に対する耐性は、世界中でよく認識された危機となった。従って、効果が弱まり古くなった抗生物質に代わる代替物が、適時に、また絶対的に必要である。動物の生産における抗生物質の消費は、世界中で着実に増加している。最近、WHOは、ヒトの健康のために、抗生物質に対するいわゆる「極めて重要な(critically important)」耐性ができることを制限するために、「最も重要でない(least important)」抗生物質の合理的な使用を勧告した。更に2017年10月に編集されたWHOの報告書では、抗生物質耐性の広がりを防止及び軽減するために、農業部門に以下の勧告がなされた:抗生物質は、獣医の管理下でのみ動物に投与されなければならない;抗生物質は、成長促進剤として、又は動物の疾患を予防するために使用するべきではない;抗生物質の必要性を減らすために、及びこれらの薬剤の代替物が存在する場合にはそれを使用するために、動物のワクチン接種を実施しなければならない;動物性及び植物性食品の生産及び加工の全ての段階において、良好な実践を促進し、適用する;動物の衛生及び福祉を改善することにより感染症を回避するために、飼養場のバイオセキュリティを向上させる。
【0003】
現在検討されている代替的なアプローチとしては、既存の抗生物質のより良好な管理、既存の抗生物質の活性を向上させるためのこれらの構造の改変、及びあらゆる生物によって産生される抗微生物ペプチド(antimicrobial peptide:AMP)等の新規の抗生物質分子の探索が挙げられる(非特許文献1)。単細胞生物(特に細菌)によって産生されるAMPとしては:非リボソーム合成二次代謝物であるリポペプチド;グラム陰性菌及びグラム陽性菌によって、並びに比較的少ないが古細菌によってリボソーム合成される、バクテリオシンが挙げられる。乳酸菌によって産生されるバクテリオシン(LAB‐バクテリオシン)は、熱安定性であり、広範囲のpH値にわたって活性を有する。これらは主に、バクテリオシン産生株に系統学的に関連する株に対して活性を有する。しかしながら、系統学的に遠い株に対して活性を有するLAB-バクテリオシンは少ない。注目すべきことに、グラム陰性桿菌(Gram‐negative bacilli:GNB)に対する活性を有する新規のバクテリオシンを産生するLAB(乳酸菌)の新規の株の発見は、学術的な成績及び洞察の根源であり、産業的及び生物医学的応用に関して重要である。
【0004】
多剤耐性GNBによって引き起こされる感染症を治療するための治療選択肢の不足により、ヒト用医薬に必要な最後の手段の抗生物質としてコリスチンが復帰することになった。しかしながら、この抗生物質は、大腸菌症による下痢を治療するための動物用医薬に大量に使用されており、これは結果的に大きな経済的損失の原因となる。コリスチンの使用は、飼育における獣医学的慣習にとってと同様にヒト用医薬にとっても主要な問題である。にもかかわらず、コリスチンに対する耐性の最初の伝達機構(mcr‐1、mcr‐2、mcr‐3、mcr‐4及び続いてmcr‐5)の発見(非特許文献2、続いて非特許文献3を参照)を含むコリスチンに対する細菌の耐性の同定は、コリスチンのリスクプロファイルを再評価するために、欧州で行われた。これに対して、欧州疾病予防管理センター(European Center for Disease Prevention and Control:ECDC)は最近、動物部門におけるコリスチンの使用の制限を提案する報告書を公開した。そしてANSESは、2016年10月の報告書(No.2016‐SA‐0160)において、動物部門における治療及び/又は発症予防(metaphylaxis)のための、抗生物質、特にコリスチンの重要な代替物を強化するよう勧告した。
【0005】
特許文献1は、バクテリオシンを分泌する、NRRL B‐50314として寄託されているLactobacillus paracasei株を開示している。このバクテリオシンは、Listeria monocytogenes、Staphylococcus aureus、Enterococcus faecalis及び他のLactobacillus種を含むがこれらに限定されないある範囲のグラム陽性菌に対する抗菌活性を有する。更に、このバクテリオシンは、メチシリン耐性Staphylococcus aureusに対する活性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nes,I.F.(2011).History,Current Knowledge,and Future Directions on Bacteriocin Research of Lactic Acid Bacteria.In Prokaryotic Antimicrobial Peptides:From Genes to Application edited by Djamel Drider,Sylvie Rebuffat.Springer.NY:3‐12
【非特許文献2】Borowiak,M.,Fischer,J.,Hammerl,J.A.,Hendriksen,R.S.,Szabo,I.,Malorny,B.(2017)
【非特許文献3】Identification of a novel transposon‐associated phosphoethanolamine transferase gene,mcr‐5,conferring colistin resistance in d‐tartrate fermenting Salmonella enterica subsp.enterica serovar Paratyphi B. J Antimicrob Chemother.2017 Dec 1;72(12):3317‐3324.doi:10.1093/jac/dkx327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Escherichia coli(E. coli)等のGNBによって引き起こされる感染症の発症を制御するための抗生物質分子の開発は、ヒト用医薬及び動物用医薬の両方にとって大きな関心の対象である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの目的は、バクテリオシンの基準を満たすタンパク質性の5つの抗菌/抗微生物ペプチドを産生できる、新規の乳酸菌株を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、真核細胞、特にヒト腸細胞及び/又はブタ腸細胞に対する細菌接着、特にE. coli接着を防止又は制限できる、新規の細菌株を提供することである。
【0011】
本発明の1つの目的は、GNB株、特にE. coli株に対して有用な、新規の抗菌/抗微生物化合物を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、投与されるコリスチンの量を低減するため又はコリスチンの抗菌活性を増強するためにコリスチンと併用できる、新規の化合物を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、コリスチン耐性株、特にコリスチン耐性E. coli株に対しても有効な新規の抗菌化合物を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、活性医薬組成物、及び更にpH非依存性活性を有する医薬品を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、細菌の耐性が生じる確率が低い医薬組成物又は新規の抗菌/抗微生物化合物を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、細胞傷害性でない、特にヒト腸細胞及び/又はブタ腸細胞に対して細胞傷害性でない、抗菌化合物を提供することである。
【0017】
本発明は、請求項2に記載の少なくとも1つのペプチドを産生できる、参照番号CNCM I‐5369としてCNCMに寄託されたLactobacillus paracasei ICVB411株、並びにその多様体及び変異体に関する。
【0018】
これ以降、Lactobacillus paracasei ICVB411株は、Lactobacillus paracasei CNCM I‐5369とも呼ばれる。
【0019】
Lactobacillus paracasei ICVB411(L. paracasei CNCM I‐5369)は、5つの新規のバクテリオシンを産生できる。これらの新規のバクテリオシンは、合成され、培養上清中に出現する。これらを部分的に精製して、mcr‐1遺伝子を有するE. coliを含むE. coli株のパネルに対して首尾よく試験した。ここで提供されたデータは、ブタ、特に子ブタの大腸菌症感染を治療するために潜在的に使用可能な分子としての、LAB‐バクテリオシンの可能性をはっきりと示している。本発明は、集中的な飼養から抗生物質(特にコリスチン)を制限、それどころか排除する機会、及び上記抗生物質の、L. paracasei CNCM I‐5369によって産生されるバクテリオシンによる置き換えを提供する。
【0020】
本発明はまた:
‐以下の配列:
MYTMTNLKDKELSQITGGFAFVIPVAAILGFLASDAWSHADEIAGGATSGWSLADKSHSL(配列番号1);
MQQFMTLDNSSLEKIAGGENGGLWSIIGFGLGFSARSVLTGSLFVPSRGPVIDLVKQLTPKN(配列番号2);
MLILGLIAIDAWSHTDQIIAGFLKGWQGM(配列番号3);
MTDKRETLMSMLSKAYANPTIKAEPALRALIETNAKKVDEGDDEKAYVTAVTQLSHDISKYYLIHHAVPEELVAVFNYIKKDVPAADIDAARYRAQALAAGLVAIPIVWGH(配列番号4);
MYVKDSKVDLTQNNLLPFEEKRKIMSYNYRQLDDFQLSGVSGGKKKFDCAATFVTGITAGIGSGTITGLAGGPFGIIGGAVVGGNLGAVGSAIKCLGDGMQ(配列番号5)
を有するペプチド、並びに
‐上述の配列番号1~配列番号5の配列と少なくとも90%、特に少なくとも95%の同一性を有し、かつ抗菌活性、特にE. coli株に対する抗菌活性を有する、ペプチド
から選択される、単離ペプチドに関する。
【0021】
本発明によるペプチドの抗菌/抗微生物機序は公知でない。しかしながら、ペプチドの大半は、細菌/微生物外膜のリン脂質と化学的に反応するため、抗菌/抗微生物活性を有する。換言すると、これらは、微生物/細菌外膜を破壊する。ペプチドは、微生物/細菌の外膜に入る前に微生物/細菌の外膜と化学的に相互作用するため、これらは微生物/細菌の耐性に関与しない。従って、本発明のペプチド及び上記ペプチドを含む医薬組成物は、細菌/微生物耐性を生じる確率が低い。
【0022】
本発明はまた、薬品、特に抗菌又は抗微生物薬として使用するための、より詳細には治療必要がある哺乳動物におけるE. coli感染症、特にコリスチン耐性E. coli株感染症の治療に使用するための、上述のような単離ペプチドに関し、上記哺乳動物は特に、ブタ、子ブタ、家禽、ウシ、ヒツジ、ヤギ亜科、及びヒトから選択される。
【0023】
好ましくは、本発明は、薬品、特に抗菌又は抗微生物薬として使用するための、より詳細には治療の必要がある哺乳動物におけるE. coli感染症、特にコリスチン耐性E. coli株感染症の治療に使用するための、5つの上述のペプチドの混合物に関し、上記哺乳動物は特に、ブタ、子ブタ、家禽、ウシ、ヒツジ、ヤギ亜科、及びヒトから選択される。
【0024】
本発明はまた、有効成分として請求項2に記載の少なくとも1つのペプチド、特に配列番号1~配列番号5の配列を有する上記5つのペプチド及び/又は請求項1に記載の株、並びに薬学的に許容可能な賦形剤を含む、医薬組成物に関する。
【0025】
上記薬学的に許容可能な賦形剤は、精製水、エチルアルコール、プロピレングリコール、グリセリン、植物油、ラクトース、ソルビトール、デンプン、ポリマー、又はHandbook of Pharmaceutical Excipients(London Pharmaceutical Press 2012)の第7版に記載されているいずれの他の賦形剤、及びこれらの混合物から選択してよい。
す。
【0026】
有利には、上記賦形剤は、水又は水溶液である。
【0027】
有利には、上記医薬組成物は、上述の5つのペプチド、及び上述のような少なくとも1つの賦形剤を含む。
【0028】
上述の実施形態のうちのいずれの1つと組み合わせることができる、ある特定の実施形態によると、上記医薬組成物は、請求項1に記載の株の培養液の上清を有効成分として含むか、又は上記上清からなり、上記上清は任意に精製される。上記上清はクロマトグラフィで精製でき、例えば特に逆相C18上で精製して、20体積%のアセトニトリルを含有するアセトニトリルの水溶液で溶出できる。上記上清は好ましくは、無細胞上清である。これは、請求項1の株を37℃の培地(例えばMRS)中で24~30時間培養することにより、得ることができる。
【0029】
上述の実施形態のうちのいずれの1つと組み合わせることができる別の実施形態によると、上記医薬組成物のpHは、4以上および5以下であり、特に4.5に等しい。本発明のペプチドは特に上述のようなpHにおいて、抗菌剤又は抗微生物剤として、特にE. coli及びコリスチン耐性E. coli株に対して有効である。
【0030】
上述の実施形態のうちのいずれの1つと組み合わせることができる別の実施形態によると、本発明の医薬組成物は更に、有効成分として、コリスチン、並びに/又は精油、特にハッカの精油、タイムの精油、マツの精油、メンソール、チモール、ピネン、ビタミンC、ギ酸、プロピオン酸、クエン酸、ソルビン酸、及び乳酸から選択される少なくとも1つの成分を含む。
【0031】
本発明の5つのペプチドのそれぞれ、及び本発明の5つのペプチドの混合物は、コリスチンとの相乗的な抗菌効果を有する。本発明の1つ以上のペプチドをコリスチンと共に(混合物として)使用することにより、コリスチンの有効投与量を低減できる。コリスチンと、本発明のペプチド、特に本発明の上記5つのペプチドのうちの少なくとも1つとの混合物により、コリスチンを使用せずに単独で使用した場合の本発明の1つ以上のペプチドの薬学的有効量に比べて、上記混合物の薬学的有効量の低減が可能となる。
【0032】
精油及び酸もまた抗菌活性を有し、上述のような医薬組成物の抗菌活性若しくは抗微生物活性を改善するために、又は本発明の少なくとも1つのペプチド、好ましくは本発明の5つのペプチドとの混合物、若しくはコリスチンと本発明の少なくとも1つのペプチド、好ましくは本発明の5つのペプチドとの混合物との相乗効果を得るために、使用できる。
【0033】
上述の実施形態のうちのいずれの1つと組み合わせることができる別の実施形態によると、本発明の医薬組成物は更に、ナノ粒子を含む。ナノ粒子の使用により、本発明の医薬組成物の1つ以上の有効成分の量を低減できる。更に本発明者らは、本発明の少なくとも1つのペプチド、又は有利には本発明の5つのペプチドの混合物が添加されたナノ粒子が、上記医薬組成物のpHがどのようなものであっても、抗菌剤として有効であり、特にE. coli株に対して(更にはコリスチン耐性E. coli株に対して)有効であることを示した。更に、ナノ粒子及び特にアルギン酸ナトリウムナノ粒子は消化に耐えられるため、本発明の少なくとも1つのペプチド、好ましくは本発明の5つのペプチドの混合物(例えば上述のような上清)が添加されたこのようなナノ粒子を含む上記医薬組成物は、経口投与できる。
【0034】
これは、本発明の5つのペプチドの混合物(有利には請求項1に記載の株の培養上清)と、上述のような成分及び/又はコリスチン、特に乳酸及び/又はチモール及び/又はメンソールとを、ナノ粒子、特にアルギン酸ナトリウムナノ粒子に添加する場合にも当てはまる。
【0035】
ナノ粒子は、本発明によるものに限定されない。ナノ粒子の一実施形態によると、これらは少なくともアルギン酸ナノ粒子、特にアルギン酸ナトリウムナノ粒子を含む。好ましくは、上記医薬組成物中に含有される全てのナノ粒子は、アルギン酸ナノ粒子、より詳細にはアルギン酸ナトリウムナノ粒子である。
【0036】
上述の実施形態と組み合わせることができるナノ粒子のある特定の実施形態によると、上記ナノ粒子は、115nm以上126nm以下、特に118nm、120nm又は124nmに等しい平均粒径を有する。ナノ粒子のこのような粒径により、有効成分が添加されたナノ粒子を、特に抗菌剤又は抗微生物剤として活性を有するものとすることができる。
【0037】
一実施形態によると、上記ナノ粒子には、請求項2に記載の上記5つのペプチドのうちの少なくとも1つ、好ましくは上記5つのペプチドの混合物、特に請求項1に記載の株の培養液の上清が添加される。ある変形例によると、上記ナノ粒子には、薬学的有効成分として上記1つ以上のペプチドのみが添加される。添加済みの上記ナノ粒子は薬学的有効成分である。
【0038】
別の実施形態によると、上記ナノ粒子には:
i)請求項2に記載の上記5つのペプチドのうちの少なくとも1つ、好ましくは上記5つのペプチドの混合物、特に請求項1に記載の株の培養液の上清;並びに
ii)コリスチン;及び/又は
iii)精油、特にハッカの精油、タイムの精油、マツの精油、メンソール、チモール、ピネン、ビタミンC、ギ酸、プロピオン酸、クエン酸、ソルビン酸、及び乳酸から選択される少なくとも1つの成分
を含む、混合物が添加される。
【0039】
上記5つのペプチドの混合物(好ましくは上述のような上清)、及び上述のような成分が添加されたナノ粒子は、上記医薬組成物のpHがどのようなものであっても、抗菌剤として有効である。これは特に、上述のような成分及び/又はコリスチンも上記ナノ粒子に添加される場合にも当てはまる。更に、これらの添加済みのナノ粒子は消化に耐えられるため、経口投与できる。このようなタイプの添加済みのナノ粒子は、抗菌剤又は抗微生物剤として有効であり、特にE. coli、更にはコリスチン耐性E. coli株に対して有効である。
【0040】
上記医薬組成物は更に、コリスチンのみ、並びに/又はハッカの精油、タイムの精油、マツの精油、メンソール、チモール、ピネン、ビタミンC、ギ酸、プロピオン酸、クエン酸、ソルビン酸、及び乳酸中から選択される成分が、薬学的活性化合物として添加された、ナノ粒子を含んでよい。本発明のペプチドが添加されていない上記ナノ粒子は更に、本発明の医薬組成物の効果を高めることができる。
【0041】
上記ナノ粒子には、本発明による医薬組成物を添加することもできる。
【0042】
全ての上述の実施形態において、上記ナノ粒子への添加重量は、上記ナノ粒子の重量の12.2%以下であり、特に12%に等しい。
【0043】
ある特定の実施形態によると、上記医薬組成物は、60μg/mLの上記少なくとも1つのペプチド、特に60μg/mLの上記5つのペプチドの上記混合物、特に上述のような上清を含む。
【0044】
上述の実施形態と組み合わせることができる別の実施形態によると、上記医薬組成物は、コリスチンと本発明の少なくとも1つのペプチドとの混合物を含む。この混合物は、重量で、少なくとも80%(80%を含む)の本発明の少なくとも1つのペプチド、特に上記5つのペプチド(好ましくは上清)と、20%のコリスチンとを含む。ある特定の実施形態によると、コリスチンと上記1つ以上のペプチドとの混合物は、例えば少なくとも99%及び99.2%の1つ以上のペプチド(好ましくは上清)と、1%以下のコリスチン、好ましくは0.8%のコリスチンとを含む。
【0045】
別の実施形態によると、上記医薬組成物は、重量で、特に乳酸(1μg/mL)、メンソール(10μg/mL)又はチモール(10μg/mL)に関しては、上記量の1つ以上のペプチドに対して0.2~2%(0.2及び2%を含む)の上記成分を含有する。好ましい組み合わせは以下の通りである:10μg/mLのメンソールと50μg/mLの上記5つのペプチド(上記上清)の上記混合物との組み合わせ;1μg/mLの乳酸と60μg/mLの5つのペプチド(即ち上記上清)の混合物との組み合わせ。これらの値はE. coli株に対して良好な結果を提供する。
【0046】
上述の実施形態のうちのいずれの1つと組み合わせることができる別の実施形態によると、上記医薬組成物は、上記5つのペプチドの混合物(特に上記上清)、又は上記5つのペプチドの混合物及び上記成分がその重量の12%だけ添加されたナノ粒子を含む。別の実施形態によると、ナノ粒子には、12重量%の上記上清と、その重量の0.1%又は0.2%に等しい量の上記成分との混合物を含む。乳酸に関して、その量は例えば、ナノ粒子の重量の0.2%とすることができる。メンソール及びチモールに関して、これらの量はそれぞれ、重量で、0.2%から6%(0.2及び6%を含む)、特に2%又は4%とすることができる。チモールとメンソールとの混合物を4重量%の量で使用して、良好な抗菌結果を得ることができる。上記ナノ粒子は、全ての場合において、好ましくはアルギン酸ナノ粒子、より好ましくはアルギン酸ナトリウムナノ粒子である。
【0047】
本発明による医薬組成物中の有効成分の量は、治療対象の哺乳動物及び殺滅対象の株に依存する。当業者は、本発明の医薬組成物中に含有される有効成分の有効量を判断できる。
【0048】
上述の特性を有し得るある特定の実施形態によると、本発明は、有効成分として、以下の配列:
MYTMTNLKDKELSQITGGFAFVIPVAAILGFLASDAWSHADEIAGGATSGWSLADKSHSL(配列番号1);
MQQFMTLDNSSLEKIAGGENGGLWSIIGFGLGFSARSVLTGSLFVPSRGPVIDLVKQLTPKN(配列番号2);
MLILGLIAIDAWSHTDQIIAGFLKGWQGM(配列番号3);
MTDKRETLMSMLSKAYANPTIKAEPALRALIETNAKKVDEGDDEKAYVTAVTQLSHDISKYYLIHHAVPEELVAVFNYIKKDVPAADIDAARYRAQALAAGLVAIPIVWGH(配列番号4);
MYVKDSKVDLTQNNLLPFEEKRKIMSYNYRQLDDFQLSGVSGGKKKFDCAATFVTGITAGIGSGTITGLAGGPFGIIGGAVVGGNLGAVGSAIKCLGDGMQ(配列番号5)
を有するペプチドから選択される単離ペプチド;並びに
‐精油、特にハッカの精油、タイムの精油、マツの精油、メンソール、チモール、ピネン、
‐ビタミンC、ギ酸、プロピオン酸、クエン酸、ソルビン酸、乳酸;及び/又は
‐上記有効成分が添加され得るナノ粒子
から選択される、少なくとも1つの成分
を含む、医薬組成物に関する。
【0049】
この特定の実施形態によると、上記ナノ粒子は、少なくともアルギン酸ナノ粒子、特にアルギン酸ナトリウムナノ粒子を含んでよく、又は上記ナノ粒子はアルギン酸ナトリウムナノ粒子からなってよい。
【0050】
この実施形態によると、上記ナノ粒子は、115nm以上126nm以下、特に118nm、120nm又は124nmに等しい平均粒径を有する。
【0051】
更に、この実施形態によると、上記ナノ粒子への添加重量は、上記ナノ粒子の重量の12.2%以下であり、特に12%に等しい。
【0052】
本発明はまた、薬品として使用するための、参照番号CNCM I‐5369としてCNCMに寄託されているL. paracasei ICVB411株に関する。
【0053】
本発明はまた、心血管疾患、急性及び慢性腎疾患、神経変性疾患、黄斑変性、慢性閉塞性肺疾患、胆道疾患、糖尿病、癌、老化といった急性及び慢性の病的状態から選択される疾患に罹患した患者の治療において、抗酸化剤として使用するための、参照番号CNCM I‐5369としてCNCMに寄託されているL. paracasei ICVB411に関する。
【0054】
本発明はまた、高コレステロール血症の治療、特に脳卒中、高血圧、アテローム性動脈硬化、心血管疾患、黄色腫、癌、肥満、糖尿病、神経変性疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患といった疾患の予防において使用するための、参照番号CNCM I‐5369としてCNCMに寄託されているL. paracasei ICVB411に関する。
【0055】
本発明はまた、参照番号CNCM I‐5369としてCNCMに寄託されているL. paracasei ICVB411の、抗酸化剤としての使用に関する。本発明はまた、参照番号CNCM I‐5369としてCNCMに寄託されているL. paracasei ICVB411を含有するか、又はこれからなる防腐剤に関する。上記防腐剤は例えば、食品防腐剤、化粧品防腐剤、薬剤防腐剤、又は塗料防腐剤であってよい。
【0056】
本発明はまた、参照番号CNCM I‐5369としてCNCMに寄託されているL. paracasei ICVB411を含有する製品、特に液体製品に関する。上記製品は例えば、食品製品、飲料、薬剤、化粧品、木材、生物学的試料、又は塗料であってよい。
【0057】
上記医薬組成物は、溶液、ゲル、粉末、錠剤、又はカプセルとすることができる。これは好ましくは経口投与されるよう処方される。しかしながら、粘膜(例えば舌下若しくは吸入による)、局所、皮内、静脈内、又は筋肉内投与のために処方することもできる。
【0058】
定義
用語「コリスチン耐性E. coli株(colistin‐resistant E. coli strain)」は、最小発育阻止濃度(minimal inhibitory concentration:MIC)が>2μg/mLである、及び/又はコリスチン耐性に関与する遺伝子を有するE. coli株を指し、特にmrc‐1遺伝子を有する株を指す。
【0059】
用語「治療(treatment)」は、予防的治療及び治癒的治療を指す。
【0060】
用語「抗菌(antibacterial)」は特に、GNB株に対する抗菌活性に関する。
【0061】
用語「…が添加されたナノ粒子(nanoparticle loaded with...)」又は「ナノ粒子に添加されたX(X loaded in nanoparticle)」は、ナノ粒子の外面に吸着された化合物又は化合物の混合物を含むナノ粒子を指す。しかしながら、例えば上記ナノ粒子が多孔質である場合、化合物又は混合物はナノ粒子の内面に吸着される場合もある。
【0062】
用語「本発明のペプチドの混合物(mixture of the peptides of the invention)」は、好ましくは上述のような上清、より好ましくは精製された上清(E20、E20画分(E20 fraction)とも呼ばれる)を指す。
【0063】
用語「…%の同一性(% of identity)」は、比較対象の配列において参照配列と同一のアミノ酸残基のパーセンテージを指す。比較対象の配列は、参照配列に対する欠失、置換及び/又は挿入を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】
図1は、AU/mL(任意単位ヒストグラム)で表される、L. paracasei CNCM I‐5369の培養上清中の抗E. coli活性の動態を、600nmにおける細菌増殖のOD(灰色の領域)のモニタリングと共に示す。
【
図2】
図2は、E20画分で処理された複数の選択されたE. coli株の殺滅曲線(又は生存曲線)を示す。
【
図3】
図3は、IPEC‐1細胞に対するL. paracasei CNCM I‐5369及びE20画分の細胞傷害性を示す。
【
図4】
図4は、Alg NP(アルギン酸ナトリウムナノ粒子)のSEM画像である。
【
図5a-5b】
図5a、5bは、水中のAlg NP(500 μg.mL
-1)のDLS(体積による粒径分布)及びゼータ電位分布測定を示す。
【
図6】
図6は、温度(℃)に応じて異なる重量損失を示す、Alg NPの熱挙動を示す。
【
図7】
図7は、アルギン酸ナノ粒子(500μg/mL)上/中に吸着されるコリスチンの量(μg/mL)の定量化(コリスチンμg/mL対コリスチンの質量/アルギン酸ナノ粒子の質量×100)を示す。
【
図8】
図8~
図11は、複数の細胞株に対するAlg NPの細胞傷害性に関する結果を示し;用語「ペプチド(peptide)」はE20画分を指し、「アルギン酸(alginate)」はAlg NPを指す。
【
図9】
図8~
図11は、複数の細胞株に対するAlg NPの細胞傷害性に関する結果を示し;用語「ペプチド(peptide)」はE20画分を指し、「アルギン酸(alginate)」はAlg NPを指す。
【
図10】
図8~
図11は、複数の細胞株に対するAlg NPの細胞傷害性に関する結果を示し;用語「ペプチド(peptide)」はE20画分を指し、「アルギン酸(alginate)」はAlg NPを指す。
【
図11】
図8~
図11は、複数の細胞株に対するAlg NPの細胞傷害性に関する結果を示し;用語「ペプチド(peptide)」はE20画分を指し、「アルギン酸(alginate)」はAlg NPを指す。
【
図12】
図12は、Bagel 3オンラインソフトウェアを用いて得られたL. paracasei CNCM I‐5369ゲノム解析による、バクテリオシンを潜在的にコードするオープンリーディングフレーム(Open Reading Frame:orf)を示す。
【
図13】
図13は、消化の子ブタインビトロモデルの静的プロセスの異なる複数の区画、即ち:口内(最初の接種/対照)、胃、及び十二指腸内の、各区画におけるpH変動の影響(黒色のバー)又は酵素及び胆汁(胆汁は十二指腸シミュレーション区画に添加された)と組み合わされたpH変動の影響(暗灰色のバー)による、L. paracasei CNCM I‐5369細胞の数を示す。試料は消化の各ステップにおいて採取され、CFU/mLの数が寒天培地上で決定された。データは、Caco‐2のコンフルエントな単層上に注がれた全酵母細胞のパーセンテージで表現された。値±SDは3回の平均である。統計分析はXL‐STATソフトウェアを用いて行われた。Tukey post‐hoc解析による一元配置分散分析(one‐way ANOVA)を用いると、異なる文字が付されたバーは大きく異なっている(P<0.05)。
【
図14】
図14は、細胞比1/10又は1/100(Caco2/Lactobacillus)のMOIで24時間にわたる、複数のLactobacillus株による処理及び希釈されたE20画分による処理後の、Caco‐2の生存率を示す。0.01%のTriton X100界面活性剤を、同様の条件下で陽性試験として使用した。値は、3回の独立した測定の平均±SDである。Tukey post‐hoc解析による一元配置分散分析(one‐way ANOVA)を用いると、異なる文字が付されたバーは大きく異なっている(P<0.05)。
【
図15】
図15は、単独(白色)の、又はLactobacillus paracasei CNCM I‐5369(bac+)株の存在下(黒色)での、若しくはLactobacillus paracasei FB1 (bac-)株の存在下(灰色)での競合アッセイ及び排除アッセイ中の、A)Caco‐2単層細胞;B)IPEC‐1単層細胞に対するE. coli 184株の接着のパーセンテージを示す。値は、3回の独立した測定の平均±SDである。Tukey post‐hoc解析による一元配置分散分析(one‐way ANOVA)を用いると、異なる文字が付されたバーは大きく異なっている(P<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0065】
実験結果
1.Alatigチーズからの乳酸菌の単離及び精製
(参照番号CNCM I‐5369としてCNCMに寄託されている)株L. paracasei ICVB411を、Alatigチーズという名称の伝統的なアルジェリアの乳製品から単離した。最初の例では、この株は、タンパク質性の1つ以上の阻害化合物の産生により、E. coli株に対する拮抗作用を示した。上記1つ以上の阻害化合物は、MRS培地上でL. paracasei CNCM I‐5369を増殖させた後に遠心分離(8,000g、4℃、10分)によって得られた培養上清に出現した(de Man et al. 1960)。にもかかわらず、この抗E. coli活性は、4~5の低いpH値においてのみ観察された。
【0066】
職人によって製造されたチーズ「Alatig」10gを、90mLの無菌生理食塩水中で溶解及び均質化した。続いて、この希釈されたチーズから少量を採取し、MRS寒天(Liofilchem、イタリア)上に表面播種し、その後30℃で48時間にわたりインキュベートした。このステップを2回実施した。MRS寒天(Liofilchem、イタリア)を用いた1回目はpH6.5に調整され、MRS寒天を用いた2回目は0.1M HClを用いてpH5.45に調整された。
【0067】
単離株の精製は、MRS寒天上のコロニーの連続的な継代培養によって実施した。インキュベーションは30℃で48時間実施した。これらの株の純度を、同一の外観、同一の色、同一のサイズ、及び同一の形状を含む同一の形態を有する均質なコロニーの寒天上での存在によって確認した。グラム染色を用いて、単離株の純度を確認した。カタラーゼ活性を有しないグラム陽性菌を、LABであるものと推定した。これらをMRSブイヨン(Biokar、フランス)中で4℃で保管した。
【0068】
2.単離株の抗菌活性
Alatigチーズから単離された株の抗菌活性を、E. coli種の様々な標的生物に対して試験した。従って、9mLのMRSブイヨンを、1mLの標的株の18時間の新鮮な培養液と共に播種し、37℃で18時間インキュベートした。続いて、250mLのMRSブイヨンに、108CFU/mLを含有する2%のこの予備培養液を接種し、37℃で18時間インキュベートした。細胞を遠心分離(12000g、30分、4℃)によって除去した。得られた上清を0.22μmのニトロセルロース膜(Millipore Corp.、ベッドフォード、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)によるろ過によって、殺菌した。
【0069】
粗上清の抗菌活性を、ウェル拡散法(Batdorj, B., Dalgalarrondo, M., Choiset, Y., Pedroche, J., Metro, F., Prevost, H., Chobert, J.M., Haertle, T. (2006) “Purification and characterization of two bacteriocins produced by lactic acid bacteria isolated from Mongolian airag” Journal of Applied Chemistry https://doi.org/10.1111/j.1365‐2672.2006.02966.x)によってミューラーヒントン寒天(Muller Hinton agar)(Merck)上で試験した。従って、ペトリ皿に、標的株(E. coli or S. aureus)の24時間培養液を、107CFU/mLで接種した。ペトリ皿を室温で15分間乾燥させた。続いて、直径6mm、深さ4mmのウェルを、寒天に作製した。次に、未処理状態のpH(pH4.5)及び(1M NaOH溶液によってpH7.0に中和された)中性pHの100μLの粗上清を、ウェルの中に堆積させた。同一のpH値に調整され、ろ過によって殺菌された100μLのMRS培地のアリコートを、陰性対照として使用した。皿を4℃で2時間プレインキュベートすることにより、標的株の増殖を停止させ、寒天中に阻害剤を拡散させた後、37℃で24時間インキュベートした。このインキュベーションの期間後、抗菌活性を、ウェルの周りの阻害区域の直径を測定することにより、評価した。
【0070】
未処理状態のpHにおいて、試験された全ての株はE. coli 及びS. aureus株に対する抗菌活性を発揮し、様々な直径の複数の阻害区域を呈した。記録された最大の阻害区域は直径約17mmのハロのものであり、この活性の原因となる株を選択し、更に特性決定した。
【0071】
重要なことに、上清が中性化された場合には、抗菌活性は検出されなかった。これは、この拮抗作用における有機酸の可能な役割を示している。これに関して、様々な研究により、有機酸以外の、ほとんどがタンパク質性である1つ以上の阻害化合物による、乳酸桿菌の阻害能力が報告されており、その安定性はpH2からpH6まで観察された(Drider, D., Rebuffat, S. (2011). “Prokaryotic Antimicrobial Peptides: From Genes to Application” Editor. Springer. NY 451pp))。他の研究は、LAB(乳酸菌)が、酸性pHにおいて完全に活性であり、中性pHにおいて部分的に活性である、タンパク質性の阻害化合物を産生できることを示唆している(Mortvedt‐Abildgaa, C., Nissen‐Meyer, J., Jelle, B., Grenov, B., Skaugen, M., Nes, I.F. (1995). “Production and pH‐Dependent Bactericidal Activity of Lactocin S, a Lantibiotic from Lactobacillus sake L45”; Houlihan AJ1, Mantovani HC, Russell JB. (2004). “Effect of pH on the activity of bovicin HC5, a bacteriocin from Streptococcus bovis HC5” FEMS Microbiol Lett. 2004)。中性pHにおける上清の抗菌活性の喪失は、酸性pHで活性を有する有機酸以外の活性物質の存在を排除するものではない。この仮説を、5M HClを用いて上清と同一のpH値(pH4.5)に調整されたMRS培地によって確認した。実際に、E. coliに対する抗菌活性は記録されなかった。
【0072】
3.最高の拮抗性を有するLAB株の表現型同定
最も高い活性を有する株を、メーカーの推奨事項を用いて、API(登録商標)50 CHLギャラリー(bioMerieux、マルシーレトワール、フランス)で同定した。寒天上での37℃での24時間の培養後の産生株の複数の同一のコロニー由来の細菌懸濁液を調製し、600nmにおいて0.45の吸光度(2マクファーランドに等しい不透明度)に到達するまで、「API 50 CHL培地(API 50 CHL medium)」中で希釈した。
【0073】
均質化後、接種済みのAPI 50 CHL培地をギャラリーの細管中で希釈した。必要に応じて、カップを無菌パラフィン油で覆い、起こり得るガスの放出を回避した。ギャラリーを37℃で48時間インキュベートした。インキュベーション後、得られた生化学プロファイルを、ApiWeb(商標)ソフトウェア(https://apiweb.biomerieux.com)で分析した。
【0074】
優良株をそのAPI 50 CHLギャラリーを構成する49個の炭水化物に対する発酵能力に関して分析した。正(positive)の結果は、結果が正である場合に黒色になるエスクリンの細管を除いて、pHインジケータ:ブロモクレゾールパープルの黄色への変化に相当する(試験された糖の発酵による培地の酸性化)。
【0075】
このプロファイルをIdentax Bacterial同定システムソフトウェア(www.identax.org)によって分析した。この分析に基づくと、得られた結果により、この産生株がL. paracaseiと99.52%の相同性を有することが明らかになった。
【0076】
4.抗菌活性に対するプロテアーゼ及びリパーゼの影響
上清の抗菌活性に対する様々な酵素の影響を、最適条件下で試験した。従って、上清の100μLのアリコートを、各酵素に適したpHにおいて0.05Mの緩衝液中で2mg/mLの濃度となるように調製された100μLの酵素溶液と混合した後、ろ過によって殺菌した。使用した酵素及びそれらの操作条件を以下の表1に提示する。表1は、使用した酵素及びそれらの操作条件を示す。
【0077】
【0078】
37℃で2時間のインキュベーション後、試料を水浴中で3分間沸騰させ、直ちに4℃まで冷却して酵素を不活性化した。(1M NaOH又は1M HClを用いて)pH5に調整され、ろ過によって殺菌され、おおよそ100μLまで濃縮された、これらの試料の残った抗菌活性を、ウェル拡散法によってE. coli ATCC8739及びE. coli 184に対して試験した。同様の条件下で処理された無菌MRSブイヨンの試料を陰性対照として使用した。
【0079】
LAB株によって産生された1つ以上の活性抗菌化合物の性質を、酵素処理後に残った活性に関して、ウェル拡散法によって決定した。タンパク質分解酵素が、未処理の対照によって呈される阻害区域の直径(17mm)と比較して、関連する活性の喪失を誘発する場合、抗菌活性はタンパク質性化合物に起因していた。活性の部分的な喪失は、ペプシン、トリプシン、及びα‐キモトリプシンで処理された上清に関して観察され;この喪失はこれらの酵素で処理された試料の阻害区域直径の減少によって明らかになり、平均阻害区域はそれぞれ8.16、10.16、8.83mmに等しかった。更に、抗菌活性は、パパイン及びプロテイナーゼKによる処理後に完全に失われた。これらの結果は、抗菌活性が、過酸化水素、又は脂質若しくは多糖類の性質のいずれの物質によるものではなく、タンパク質性物質に起因する可能性が極めて高かったことを示唆している(表2を参照)。実際のところ、L. paracaseiに関連する抗菌活性は、他にも例があるものの少なくともバクテリオシンである。この株を、参照番号CNCM I‐5369としてPasteur Culture collectionに登録及び寄託した。表2は、L. paracasei CNCM I‐5369培養上清の抗E. coli活性に対する酵素及びpHの影響を示す。
【0080】
【0081】
5.加熱処理及び保管プロセス後のL. paracasei I‐CNCM 5369(LAB株)によって産生された1つ以上のバクテリオシンの安定性
L. paracasei I‐CNCM 5369の新鮮な培養液から遠心分離(8000g、4℃、10分)によって得られた上清を、5、10、15、20、30、60、及び120分にわたって、80℃、90℃、及び100℃で加熱処理した。ウェル拡散法によって決定された抗菌活性は、80℃及び90℃での加熱処理の5分後には変化しないままであったが、100℃ではそうではなかった。そして、効果は温度依存性であるように見え、活性は時間と共に低下した(表3)。表3は、加熱処理されたL. paracasei CNCM I‐5369培養上清の活性の結果を示す。
【0082】
【0083】
L. paracasei I‐CNCM 5369 抗菌活性(抗E. coli)の安定性を、冷蔵、冷凍及び凍結乾燥条件下で評価した。4℃での保管は、L. paracasei I‐CNCM 5369の抗E. coli活性にほとんど影響を及ぼさなかった。というのは、任意単位/mL(AU/mL)で記録された総活性は、調製されたばかりの上清のものと同様であったためである。注目すべきことに、この活性は、保管時間がどのようなものであっても、4℃において安定したままだった。にもかかわらず、表4に示すように、冷凍及び凍結乾燥条件により、この活性は大幅に変化した。表4は、様々な保管条件下でのL. paracasei I‐CNCM 5369培養上清の活性を示す。
【0084】
【0085】
6.L. paracasei CNCM I‐5369による1つ以上の推定抗E. coliバクテリオシンの産生の動態
L. paracasei I‐CNCM 5369による抗E. coli活性を有する1つ以上の推定バクテリオシンの産生の動態を、MRS培地中での37℃で72時間にわたるバクテリオシン産生株の増殖時に、1mLあたりの任意単位(AU/mL)を用いて評価した。1時間間隔で回収された培養上清を、以下の希釈比:1/2、1/4、1/8、1/16、1/32、及び1/64に従って、MRS培地中で連続的に希釈した。50μLの各希釈済み上清画分を、指示株、即ちコリスチン耐性の原因となるmcr‐1遺伝子を有するE. coli 184を事前に接種した、(寒天を1%含有する)半固体ブレインハートインフュージョン(Brain Heart Infusion:BHI)培地上に堆積させた。ペトリ皿を、4℃で1時間、その後37℃で18時間インキュベートした。続いて、抗菌活性を培地1ミリリットルあたりの任意単位(AU/mL)で決定した。
【0086】
同時に、無菌MRS培地をブランクとして用いて、培養液の600nmにおける光学密度を、分光光度計で同一の実験期間中に監視した。
図1に示したデータに基づくと、1つ以上の推定バクテリオシンの産生は、バクテリオシン産生株の細菌増殖と相関していると思われ、従って増殖の48時間の間に徐々に増えている。
【0087】
7.L. paracasei I‐CNCM5369の培養上清からの活性抽出物E20画分の精製
MRS培地上で振盪させることなく37℃で24~30時間増殖させたL. paracasei I‐CNCM5369の培養液の遠心分離(8000g、10分、4℃)によって、無細胞上清(CFS)を得た。続いて、得られた40mLのCFSを逆相C18(Agilent、アメリカ合衆国)カートリッジ上に装填した。その後、10%(v/v)アセトニトリルを用いて洗浄ステップを実施し、続いて40mLの20%(v/v)アセトニトリル溶液を用いた溶出を実施して、活性画分を溶出させた。SpeedVacを用いて活性画分を乾燥させ、初期体積10の超純水中に1の割合で再懸濁させた。得られた活性溶液を、本文全体を通して画分E20(又は特に図中ではE20%)と呼ぶ。画分E20を4℃で保管し、抗E. coli活性を特性決定するために様々な試験に使用した。注目すべきことには、E20画分を、様々な遺伝子型を有するE. coli株のパネルに対して試験し、この画分に含まれる1つ以上の推定バクテリオシンに対するこれらの株の感受性を調査した。この評価は、最小発育阻止濃度(MIC)値(これらは250~2000μg/mL(表5)であった)の決定により実施した。興味深いことに、E. coli 184株及びATCC8739株は、同じE20画分MIC値を示し、コリスチンMICは、参照株E. coli ATCC8739と比較して、E. coli 184株に関して4倍高かった。表5は、E. coli株のパネルに対するL. paracasei I‐CNCM 5369の培養上清から得られたE20画分に起因し得るMIC値を示す。
【0088】
【0089】
8.殺菌活性及び殺滅曲線分析
コリスチンに対する3つのE. coli株の耐性又は感受性を理由として、これらについて殺滅曲線を決定した。これらの株は、E. coli 184(mcr‐1)、コリスチンに対する耐性を有するE. coli E4A4多様体、及びE. coli ATCC8739コリスチン感受性参照株(表5)であった。これらの株を、E20画分の半精製画分を阻害濃度で含有するBHI(ブレインハートインフュージョン)培地に接種した。阻害濃度のコリスチン(16μg/mL)で処理された未処理のE. coli ATCC8739対照も試験した。これらの様々な試料において培地のpHを4.5~5に調整し、37℃で8時間インキュベートした。規則的な時間間隔で試料を採取して、各試験条件下の1mLあたりのコロニー形成単位(CFU/mL)の数を決定した。
【0090】
図2に示されるように、1時間のインキュベーション後、E20画分で処理された株のCFU/mLの数は急速に減少し、目に見える増殖はなかった(0CFU/mL)。しかしながら、E. coli 184は2時間のインキュベーション後に同様の挙動を示した。コリスチン(16μg/mL)で処理されたE. coli ATCC8739に関しては、1時間のインキュベーション後に同様のデータが得られた。なお、対照として使用した未処理の株は、予期した通り、実験の間に通常発生する増殖曲線を示した(
図2を参照)。
【0091】
9.コリスチンとE20画分との間の相乗的な相互作用
L. paracasei I‐CNCM 5369から調製されたE20画分を半希釈し、BHI培地中で、1~128μg/mLの濃度のコリスチンと混合した。得られた調合物を、mcr‐1遺伝子を有するE. coli 184、及び他のE. coli株に対して試験した(表6)。37℃での一晩のインキュベーションの後、E. coli株の増殖をOD600nmにおける分光光度測定によって確認し、コリスチン/E20の新規のMIC値を決定した。重要なことに、E20画分とコリスチンとの組み合わせは、コリスチン単独により得られたMICに比べて、MIC値を少なくとも4倍低下させた。実際に、E20画分の存在下では、上記MIC値は8μg/mLから2μg/mLまで減少した。この相乗的な相互作用は他のE. coli株に関しても同様に観察され、MIC値は、E. coli E4A4WTに関して2倍、E. coli 289に関して4倍、E. coli E4A4多様体に関して8倍低下した。E. coli株ATCC8739、SBS36及びTOP10は、抗生物質に対するMIC値のいかなる低減も示さなかったことに留意されたい(表6を参照)。表6は、様々なE. coli株に対して、コリスチン単独で得られたMIC値、及びE20画分と組み合わせて得られたMIC値を示す。E20画分+コリスチンの混合物の重量組成は、MIC値の隣の丸括弧内に示されている。最初の値はコリスチンの量(μg/mL)を指し、丸括弧の中のその次の値はE20画分の量(μg/mL)を指す。
【0092】
【0093】
表6の結果によると、少なくとも99%のE20及び1%のコリスチンを含有する混合物は、複数の株において、また更にはコリスチン耐性株において、コリスチン単独と同等の効果を有し得る。更に、E20とコリスチンとの組み合わせにより、E20の量の低減及び混合物E20+コリスチン自体の量の低減が可能となる。
【0094】
10.細胞傷害性アッセイ
E20画分の細胞傷害性を、ブタ腸管上皮細胞(IPEC‐1)に対してインビトロで評価した。従って、各ウェルの底部でコンフルエントな細胞培養液が形成されるまで、5%CO
2雰囲気下の96ウェル組織培養プレート上で37℃で48~72時間培養された、IPEC‐1細胞を用いて、細胞傷害性アッセイを実施した。MRS培地中の24~30時間経過した培養液から採取されたL. paracasei I‐CNCM 5369の細胞と、半精製E20画分とを、抗生物質及び血清を含まないDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(ダルベッコ改変イーグル培地))培地中で、それぞれ100倍及び4倍に希釈した後で、試験した。抗生物質及び血清を含まないDMEM培地を、対照として試験した。上述したように、希釈済みのCFS試料及びE20試料で処理されたIPEC‐1細胞を含むプレートを、5%CO
2雰囲気中で、37℃で24時間インキュベートした。活性ミトコンドリアによるテトラゾリウム塩の還元に基づいたCCK‐8アッセイ(Dojindo Molecular Technologies、日本)を用いて、処理済みのIPEC‐1細胞の細胞生存率を評価した。7.5μLのCCK‐8試薬を含む150μLのDMEMを各ウェルに添加し、細胞を2時間インキュベートした。プレートを、マイクロプレートリーダー分光光度計(Xenius、Safas、モナコ)において450nmで読み取った。結果は、処理されていない細胞(
図3を参照)を用いて観察された基底増殖の%で表現した。
図3の結果は、E20画分がブタ腸管上皮細胞(IPEC‐1)に対して毒性でないことを示している。というのは、生存の%がE20画分で処理されたIPEC‐1細胞に関して150%に等しいためである。
【0095】
11.アルギン酸ナノ粒子(Alg NP/E20)に対するE20画分の添加
A.アルギン酸ナノ粒子(Alg NP)の調製及びその特性決定
Alg NPを、遊星ボールミルによる費用対効果が高い技法を用いて調製した。この技法で、バルク粉末アルギン酸ナトリウム(Sigma‐Aldrich、W201502)試料を用いて、Alg NPを調製した。2gのアルギン酸ナトリウムと13個の焼入鋼ボール(総重量=112g;直径10mmのボールが10個+直径20mmのボールが3個)とを用いて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バイアル(容積=50mL)中でミリングを室温で実施した。ミリングプロセスは、440rpmの回転速度を用いて10時間続けた。ミリングプロセスの終了時にAlg NPを回収し、25℃で1時間の超音波処理(BRANSON2800、周波数:40KHz)によりMilli‐Q水(0.5mg/mL)に溶解させた。
【0096】
アルギン酸ナノ粒子(0.5mg/mL)は、いずれの明らかな沈殿又は凝集もなしに、+4℃で3ヶ月にわたって安定である。
【0097】
アルギン酸ナノ粒子(Alg NP)の特性決定
動的光散乱法(dynamic light scattering :DLS)、走査電子顕微鏡(scanning electron microscopy :SEM)、フーリエ変換赤外(Fourier transform infrared :FTIR)分光法、及び熱重量分析(thermogravimetric analysis:TGA)測定といった様々な技法を用いて、Alg NPを特性決定した。
【0098】
走査電子顕微鏡(SEM)
試料の形態を、ULTRA55(Zeiss、フランス)走査電子顕微鏡(SEM)によって検査した。Alg NPの水溶液(500μg.mL
-1)を清潔なシリコン基板上に数滴堆積させ、その後100℃で1時間にわたり水分を蒸発させることにより、SEM分析の試料を調製した。結果は
図4に示されている。
【0099】
SEM分析は、ナノ粒子が広範な粒径分布(50~200nm)を有することを示している。
【0100】
動的光散乱法(DLS)測定
合成されたナノ複合体の流体力学的サイズ及び表面電荷を、25℃で、動的光散乱法原理(Malvern Zetasizer、NanoZS)を用いて決定した。溶液は分析前に新たに調製したものであり、報告されたデータは3つの独立した測定の平均である。
図5aに示されているDLS測定により、平均粒径118nmのナノ粒子のゼータ電位がpH7.2において32mVである(pH5ではゼータ電位は12mVである)ことが明らかになった(
図5bを参照)。これはAlg NPが負の電荷を帯びていることを示す。
【0101】
熱重量分析(TGA)
熱重量分析(TGA/DTG)を、TG/DTG NETZSCH TG 209 F3機器上で実施した。10mgのアルギン酸ナノ粒子を添加し、試料を窒素雰囲気下で加熱速度10℃/分で30℃から980℃に加熱することにより、サーモグラムを記録した。
【0102】
図6は、様々な重量損失を示す、Alg NPの熱挙動を示す。最初の重量損失(<100℃)は、ナノ粒子表面からの水分の脱離に相当する。次の急な重量損失は、200~250℃の間に発生し、これはナノ粒子のポリマー鎖の分解に対応する可能性がある。その後、安定した連続的な重量損失が観察され、残った質量は980℃において<15%である。
【0103】
フーリエ変換赤外(FTIR)分光法
フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を、Thermo Fisher Inc,製Nicolet 380上で実施した。試料を、1mgのAlg NPを100mgの臭化カリウム(KBr)と混合することにより作製されたパレット(pallet)形態で、IR照射で分析した。その後、混合物を適切に粉砕して、KBrベース中での均一な分布を保証した。最後に、粉砕した混合物を、~7~9トンの圧力を印加することによる水圧プレスでプレスした。更に、Alg NPの化学組成を、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって評価した。アルギン酸ナトリウム前駆物質のFTIRスペクトルは、ヒドロキシル、エーテル及びカルボキシ官能基の特徴的な振動バンドを含む。3431cm-1の幅広く強力な振動ピークは、O‐H結合の伸縮振動に対応する。脂肪族C‐H基の伸縮振動は、2920及び2850cm-1において観察された。1625及び1414cm-1におけるバンドはそれぞれ、カルボン酸塩イオンの非対称な伸縮振動及び対称な伸縮振動によるものである。1032cm-1におけるピークは、C‐O振動によるものである。
【0104】
Alg NPのFTIRスペクトルは同様のバンドからなり、これは、アルギン酸前駆物質の化学組成及び構造が、ボールミリングプロセスを用いたナノ粒子の形成中に変化しなかったことを示す(結果は図示せず)。
【0105】
アルギン酸ナノ粒子/E20画分(Alg NP/E20)の特性決定
アルギン酸ナノ粒子へのE20の添加は、表7に示されているように、アルギン酸ナノ粒子の粒径に大きな影響を及ぼさなかった。実際に、DLS測定により、pH7におけるAlg NPの平均粒径が118nmであり、pH5において記録された120nmに匹敵するものであることが明らかになった。Alg NPにE20画分を添加すると、わずかな粒径の増大(4nm)が観察され、これは、ナノ粒子の表面にペプチドが吸着されたことの良好な指標となる。結果は、ゼータ電位測定によって裏付けられる。Alg NPの表面は、負の電荷を帯びており(pH7において-32mV)、(pH5において-12mV)、E20を添加すると中性になる。表7は、E20画分をAlg NPの表面に添加する前及び後の、Alg NPの粒径及び表面電荷を示す。
【0106】
【0107】
E20画分に対するAlg NPの吸着キャパシティの決定
Alg NP上に添加できるE20の最大量の決定は、遊離E20画分の活性と、Alg NP上に吸着されたものの活性とを区別するための、重要なパラメータである。これは、Alg NPへのコリスチンの添加に関して得られた結果に基づいて行った。Alg NP上に吸着されたコリスチンの量を、HPLCを用いて評価した。Alg NP(500μg/mL、水中)をコリスチン(20、40、50、60、80、及び100μg/mL)と混合し、室温で60分間の超音波処理に供することにより、Alg NP/コリスチンの様々な溶液を調製した。各混合物を、8kDa膜を用いて室温で24時間透析し(水は6時間ごとに交換した)、溶液中のコリスチンの量をHPLCによって決定した。
図8から、500μg/mLのAlg NP上に吸着できるコリスチンの最大量は60μgであると結論づけることができた。これは12重量%に相当する。研究全体において、本発明者らは、様々な調合物の抗菌活性を調査するために、E20又はE20+小分子(以下「成分(component)」という)及び500μg/mLのAlg NPの合計量を60μgとした。
【0108】
細胞傷害性の研究
様々な調合物(Alg NP、Alg NP+E20、Alg NP+E20+小分子)の細胞傷害性を、ヒト結腸癌(HT‐29)及びブタ腸管上皮細胞(IPEC‐1)に対してインビトロで評価した。従って、各ウェルの底部でコンフルエントな細胞培養液が形成されるまで、5%CO
2雰囲気下の96ウェル組織培養プレート上で37℃で48~72時間培養された、HT‐29及びIPEC‐1細胞株を用いて、細胞傷害性アッセイを実施した。様々な調合物と、半精製E20画分とを、抗生物質及び血清を含まないDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(ダルベッコ改変イーグル培地))培地中で試験した。抗生物質及び血清を含まないDMEM培地を、対照として試験した。上述したように様々な調合物で処理されたHT‐29及びIPEC‐1細胞を含むプレートを、5%CO
2雰囲気中で、37℃で24時間インキュベートした。活性ミトコンドリアによるテトラゾリウム塩の還元に基づいたCCK‐8アッセイ(Dojindo Molecular Technologies、日本)を用いて、処理済みのHT‐29又はIPEC‐1細胞の細胞生存率を評価した。7.5μLのCCK‐8試薬を含む150μLのDMEMを各ウェルに添加し、細胞を2時間インキュベートした。プレートを、マイクロプレートリーダー分光光度計(Xenius、 Safas、モナコ)において450nmで読み取った。結果は、処理されていない細胞(
図8~11)を用いて観察された基底増殖の%で表現した。
【0109】
図8~11の結果は、Alg NPが、調査された細胞株に対するいかなる明らかな細胞傷害性も呈さないことを明らかにしている。同様に、Algナノ粒子に添加された遊離E20(12%)、並びにE20及びE20+小分子は、HT‐29及びIPEC‐1細胞株に対して明らかな細胞傷害性効果を有しない。
【0110】
Alg NPとE20との組み合わせの生物学的活性
アルギン酸ナノ粒子(Alg NP)をトップダウンプロセス(ボールミリング)によって得て、濃度500μg/mLで使用した。E20画分を、使用されるAlg NPの濃度の12%に相当する濃度60μg/mLで、この懸濁液と混合した。この混合物を酢酸の添加によりpH5に調整し、表8に列挙されている標的株に対して試験した。表8の結果から、活性は、E20画分単独で得られた活性と比較して大幅に増大した。アルギン酸ナノ粒子の影響に対する見識を得るために、コリスチンもAlg NP上に添加し、得られた調合物(コリスチン‐Alg NP)を同一の標的E. coli株に対して試験した。結果として、MIC値は、コリスチン単独で得られたMIC値と比較して大幅に低下した。この効果は特に、コリスチンに対する耐性を示すE. coli 184及び289株に対して顕著であった(表8)。
【0111】
更に、本発明者らは、2%という低い濃度における乳酸の効果並びにメンソール及びチモール(精油)の効果を試験した。MIC値に関して、本発明者らは、有機酸及び精油を含むこれらの分子は、関心の対象となり得、これらのE20画分及びコリスチンとの組み合わせは調査する価値があると結論づけた。表8は、Alg NPと様々な分子との組み合わせに基づいた様々な調合物の、E. coli株に対する効果に関する結果を示す。
【0112】
【0113】
重要なことに、L. paracasei I‐CNCM5369によって産生されるE20画分に起因する抗E. coli活性は、大いにpH依存性である。実際に、活性はpH4.5~pH5においてのみ観察された。この制限されたpH活性は、ブタ、主に離乳後の子ブタの胃腸区画で遭遇する様々なpH値によっていずれの用途にも無力となり得る。
【0114】
従って、単独の又は精油若しくは乳酸と組み合わせたAlg NP/抗菌剤をベースとする調合物を、様々なpH値において試験した。
【0115】
実際には、様々な調合物をpH値6及び7において試験し、その後pH2において2時間インキュベートし、食道、胃、及び十二指腸を通過する間に遭遇するpH値に相当するpH5及びpH7において、再び試験した。すると、試験した様々な調合物の活性は、pHがpH5より高い場合に低下するように思われ、MIC値は、pH5において4μg/mLであったが、pH6及び7においてそれぞれ16μg/mL及び32μg/mLであった。しかしながら、0.2重量%の乳酸又は2若しくは4重量%の精油、即ちメンソール若しくはチモールとの組み合わせにより、pH値に関係なく、MIC値2~4μg/mLを維持できた(表9を参照)。表9は、E20及び乳酸又は精油を伴うAlg NPのE. coli 184(mcr‐1)株に対するアンタゴニスト活性へのpHの影響に関する結果を示す。
【0116】
【0117】
2%若しくは4%の精油(メンソール若しくはチモール)又は0.2%の乳酸を伴う、E20画分及びAlg NPを含有する調合物を、離乳後の子ブタの消化管で遭遇する消化酵素の連続的な作用に供した。Zhongら(Zhong, R.Z., Xia、 J.Q., Sun, H., Qin, G.X. (2017) Effects of different sources of protein on the growth performance, blood chemistry and polypeptide profiles in the gastrointestinal tract digesta of newly weaned piglets. J Anim Physiol Anim Nutr (Berl). 2017 Oct;101(5):e312‐e322. doi: 10.1111/jpn.12607)によって記載された条件に従って、第1のインキュベーションを39℃で30分間実施し、ペプシン(15U/mL)の存在下でpH3において振盪させ(140rpm)、その後、同様の温度条件及び撹拌条件下でpH6において第2のインキュベーションを実施し、最後にキモトリプシン(5U/mL)及びトリプシン(40U/μL)を添加してから、pH6において振盪(140rpm)させながら39℃で2時間のインキュベーションを実施した。
【0118】
pH3のペプシンの存在下で実施された第1のインキュベーションの間、画分Alg NP/E20及び乳酸を伴うAlg NP/E20のMIC値はそれぞれ、16μg/mLから32μg/mLへ、及び2μg/mLから4μg/mLへと増加した(表10)。にもかかわらず、2%又は4重量%の精油の存在下において、記録されたMIC値は、酵素で処理されていないものの同様の温度、撹拌、及びpH条件下でインキュベートされた調合物に関して記録されたMIC値と違わなかった。
【0119】
これらの結果は、E20画分、Alg NP並びに精油及び/又は乳酸の組み合わせが、子ブタの胃及び小腸の第1のセグメントにおける猛烈なpH条件、温度、及び消化酵素の存在を特色とする、子ブタの胃腸環境の過酷なシミュレーションに対する耐性を有するために、十分ロバストなものであることを強調している。表10は、乳酸又は精油を伴うアルギン酸ナノ粒子/E20画分をベースとする調合物の、E. coli 184(mcr‐1)に対する拮抗活性に対する、消化酵素の影響に関する結果をまとめたものである。
【0120】
【0121】
12.L. paracasei I‐CNCM5369のゲノムのインシリコ解析
Bagel 3オンライン解析ソフトウェア(bagel.molgenrug.nl)を用いたL. paracasei I‐CNCM5369のゲノムのインシリコ解析により、バクテリオシン様タンパク質を潜在的にコードする複数のオープンリーディングフレーム(
図12)を同定した。更に、Jpredソフトウェア(www.compbio.dundee.ac.uk/jpred/)を用いた、これらの遺伝子から翻訳されたアミノ酸配列の分析により、12KDaにおいておおよそ3.2の予測サイズを有する5つのペプチドの特性決定が可能となった(表11)。
【0122】
最初に同定された推定バクテリオシンの予測サイズは、3,199Daであり、29個のアミノ酸を有し、クラスIIバクテリオシンの特性及び5.17のpIを有する。第2及び第3の推定バクテリオシンの予測サイズは6,300及び6,582Daであり、これらはそれぞれ60個及び63個のアミノ酸を有する。これらの2つのペプチドはそれぞれ、4.86及び8.25の推定pI値を有し、これらもまたクラスIIバクテリオシンに属する。2つの最大のオープンリーディングフレームは、10kDaより大きい、それぞれ10、395Da超及び12,252Da超の、101個及び111個のアミノ酸を有するペプチドを潜在的にコードする。計算されたpIはそれぞれ8.62及び6である。最後の2つの予測されるペプチドも、クラスIIバクテリオシンに属する(表11は、Bagel 3ソフトウェアによって同定されたオープンリーディングフレーム(ORF)に相当する、可能性のあるバクテリオシンのアミノ酸配列を示す)。
【0123】
【0124】
推定バクテリオシンのためのorfコード化をそれぞれ、E. coliコンピテント細胞に適した発現ベクターにおいてクローニングした。各orfを、誘導性T7プロモータの制御下でクローニングし、ここでHisタグ(6His)テールはN末端又はC末端部分に位置する。HisタグテールのN末端又はC末端位置における各orfのクローニングは、10個の組換えプラスミドをもたらした。各上記組換えプラスミドをE. coli BL21(DE3)(plysS)コンピテント細胞に導入した。首尾よく形質転換されたE. coliを、SOC培地中で160rpmで振盪させながら37℃で1時間にわたり再生し、その後アンピシリン(100μg mL-1)及びクロラムフェニコール(30μgmL-1)(Sigma Aldrich)を補充したLuria‐Bertani(LB)寒天に対して選択した。37℃における一晩のインキュベーションの後、抗生物質を含むLB寒天上で得られたコロニーを、特定のプライマーを用いたPCRによって、適切にクローニングされたorfを含有する組換えプラスミドの存在に関して確認した。
【0125】
各組換えプラスミドを有するE. coli株BL21(DE3)(pLysS)の一晩の培養液を、アンピシリン(100μgmL-1)及びクロラムフェニコール(30μgmL-1)を含有するLB培地中で1%(体積/体積)に希釈し、その後37℃で好気的に増殖させた。光学密度が600nmにおいて0.8に達したとき、濃度1mMのイソプロピル‐β‐d‐チオガラクトピラノシド(IPTG)(Sigma)の添加によって、遺伝子発現を誘導した。細胞を更に5時間増殖させ、遠心分離(8,000×g、10分、4℃)によって試料を採取し、細胞ペレットをPBS緩衝液で洗浄した後に保持した。続いて、細胞ペレットを、10mMのイミダゾール(Sigma)を含有するpH7.9のPBS緩衝液中で再懸濁した。細菌懸濁液を2分間にわたり5回超音波処理して、細胞を撹乱し、溶解した。細胞質不溶性画分及び細胞残屑からの細胞質可溶性画分(cytoplasmic soluble fraction:CSF)の分離を、遠心分離(14,000×g、15分、4℃)によって実施した。CSFをろ過(0.45μm孔径フィルタ)し、その後1mLニッケルHis‐Trapキレートカラム(Amersham Biosciences)に直接装填した。装填後、カラムを、30mMイミダゾール(pH7.9)を含有するPBSで連続的に洗浄した。Hisタグを有するクローニングされたorfによってコードされたペプチドを、250mMイミダゾール(pH7.9)を含有する2mLのPBSで溶出した。続いて、得られた溶液を、酢酸を用いてpH5に調整した後、上述したように、E. coliコリスチン耐性株に対する活性(AU/mL)を評価した。
【0126】
結果は、Ni‐NTAカラム上の全ての精製された組換えペプチドが約400~800AU/mLを有することを示した。興味深いことに、N末端Hisタグ付き組換えペプチドorf‐38は、C末端Hisタグ付きの対応物の活性である400AU/mLよりも良好な、800AU/mLの活性を示した。
【0127】
表12は、E. coli BL21(DE3)(pLysS)における異種発現によって合成される組換えペプチドの抗E. coli活性(AU/mL)の結果を示す。
【0128】
【0129】
13.抗微生物剤の寒天拡散試験
寒天拡散試験により、抗菌活性をグラム陰性菌及びグラム陽性菌のセット(表1)に対して評価した。MRSブイヨン上で37℃で18~24時間増殖させたLactobacillus paracasei CNCM I‐5369(8000g、10分、4℃)の一晩の培養液を遠心分離することによって、抗菌活性のために使用する無細胞上清(CFS)を得た。42℃の溶解した1%BHI軟寒天に指示株を1%(v/v)で接種した後、培地をペトリ皿に注ぎ、クリーンベンチ下で20分間放置した。続いて、ウェルを凝固BHI軟寒天内に作製し、pH4.5~5に調整された50μlのCFS又はE20画分をウェルに注いだ。ペトリ皿を無菌条件で室温で1時間放置した後、十分な温度で18時間にわたってインキュベートした。この期間後、CFS又はE20画分を含むウェルの周りの阻害区域を検出することにより、抗菌活性を決定した。
【0130】
表13は、Lb. paracasei I‐CNCM 596由来の無細胞上清(CFS)及びE20画分の抗微生物活性を示す。
【0131】
【0132】
表13に示されているように、グラム陰性菌及びグラム陽性菌の大半は、明白な阻害区域によってマークされているように、E20画分による影響を受けた。CFSの活性は低かったが、試験したEscherichia coli、Staphylococcus aureus and Listeria株は明らかに阻害され、1~3mmの阻害区域を呈した。
【0133】
14.組換えペプチドの抗微生物活性の定量化
精製組換えペプチドの抗微生物活性を決定し、ミリリットルあたりの任意単位(AU/mL)で表した。組換えペプチドの混合物は、等しい体積(100μl)の各ペプチドを添加して撹拌することにより得られた。簡潔に述べると、活性試料を超純水中で順次希釈し、活性試料のpHを、以下の希釈比:1/2、1/4、1/8、1/16、1/32、及び1/64に従って酢酸を用いて、pH4.5~5に調整した。その後、10μLの各希釈済み上清を、指示株(mcr‐1+)として使用されるE. coli 184を予め接種した1%BHI培地寒天上に堆積させた。プレートを4℃で1時間インキュベートし、その後37℃で18時間インキュベートした。AU/mLで表される抗菌活性は、指示株の阻害をもたらす最も高い希釈の逆数(2n)として定義される。AU/mLは2n×100μL/堆積させた体積(μL)として定義される。
【0134】
表14は、E. coli 184に対する融合組換えペプチドの抗微生物活性を示す。
【0135】
【0136】
各精製組換えペプチドは、200~400AU/mlの抗微生物活性を示したが、5つの組換えペプチドの混合物に関して登録された抗微生物活性は800AU/mlであった。
【0137】
15.子ブタの胃腸シミュレーション条件に対するL. paracasei CNCM I‐5369の耐性
子ブタの静的インビトロ消化モデルを用いて、このような条件に対するL. paracasei CNCM I‐5369の生存率を評価した。
【0138】
実際には、このモデルは、温度、pH、胆汁塩濃度、及び酵素といった、子ブタ胃腸(GI)環境の消化プロセスに関与するパラメータを再現する。なお、pH変動のみの影響も、並行して研究した。消化の口、胃、及び小腸段階を、各段階及び区画の生理学的条件を模倣した流体を用いてシミュレートした。37℃のMRS培地中での18~24時間の培養後、Lactobacillus細胞を遠心分離(8,000g、4℃、10分)によって回収した。細胞ペレットを、十分な量のPBS緩衝液中で2回洗浄した。口段階は、140rpmにおける39℃での5分間の撹拌下で、6.8~7に調整されたpHを有する頬条件を再現した。その後、15U/mLのブタペプシン(Sigma Aldrich)(pH3~3.5)を含有する胃液を添加することにより、胃段階をシミュレートした。この30分の段階を、前の段階(39℃、140rpm)と同様の温度及び撹拌条件で実施した。続いて1M NaOH溶液をバッチに添加して、pH溶液をpH6まで上昇させて、ペプシン消化を停止させ、胃から十二指腸区画への通過を模倣する。十二指腸段階は、膵酵素(トリプシン40U/μL;キモトリプシン5U/mL)(Sigma Aldrich)及び胆汁(60g/L)(Sigma Aldrich)の添加を含んでいた。続いて、腸消化プロセスをpH6において2時間にわたって実施した(39℃、140rpm)。この消化シミュレーションプロセスの各段階後に、Lactobacillus細胞の試料を回収し、生理食塩水緩衝液中で希釈した。その後、100μLの十分な希釈液をMRS寒天プレートにプレーティングして、37℃で18~24時間インキュベートし、十分に増殖させた。1ミリリットルあたりのコロニー形成単位(CFU)の数を決定した。統計分析。3つの独立した実験に対して計算された標準誤差(mean ± standard error)としてデータを表現した。統計学的有意性の解析を、XL‐STAT(Addinsoft、ボルドー、フランス)を用いた一元配置分散分析及びpost‐hoc Tukey試験(P<0.05)を用いて行った。
【0139】
得られた結果は
図13に示されている。これらのデータは全体として、Lactobacillus paracasei CNCM I‐5369が、子ブタの消化シミュレーションプロセス中に発生する条件に対して良好な耐性を有することを示す。消化プロセスの開始時に~10
10CFU/mLであった生存細菌細胞の当初の個数は、対数で2~3だけ減少した。この現象は、pH変動によるものである可能性が極めて高い。これは注目すべきことに胃区画内であった。
【0140】
16.細胞傷害性アッセイ
CNCM I‐5369及びE20画分の安全性をクリスタルバイオレット(Sigma Aldrich)染色アッセイを用いてCaco‐2細胞ヒト結腸直腸腺癌細胞に対してインビトロで評価した。Caco‐2細胞を、96ウェル細胞培養プレートに6×10
4細胞/ウェルの密度で播種して、7日間プレインキュベートした。Lactobacillusの一晩の培養液及びE20画分をPBS中で調製し、その後コンフルエントなCaco‐2細胞単層上に、Caco‐2/Lactobacillus並びに希釈済みE20画分に関するMOI(感染多重度(Multiplicity of infection))が1:10及び1:100の比となるように、4X及び8X(X=回)塗布した。インキュベーション後、培地を除去して細胞をPBSで2回洗浄し、0.5%(w/v)の150μLのクリスタルバイオレット染料を用いてインキュベートし、振盪させながら室温で20分間インキュベートした。染料を除去して脱イオン水で洗浄し、プレートを乾燥させて、残った染料を、ウェルに200μLのメタノールを添加することにより可溶化した。続いて、マイクロプレートリーダー(Xenius SAFAS、モナコ、フランス)を用いて、570nmにおける吸光度に基づいて、相対生存率(%)を計算した。結果を、未処理の対照細胞の生存率と比較した増殖のパーセンテージとして表した。Triton X100界面活性剤(Sigma Aldrich)を、細胞傷害性の陽性対照として0.01%(v/v)で使用した。結果は
図14に示されている。
図14のデータは、Caco‐2>90%の生存率を示しており、従ってこれは、試験した両方のMOIにおけるLactobacillus paracasei CNCM I‐5369について、及び希釈済みE20画分について、細胞傷害性がなく安全であることを示唆している。なお、ブタ腸上皮IPEC‐1細胞でも同様の結果が得られた。
【0141】
17.Lactobacillus株による、Caco‐2細胞及びIPEC‐1細胞へのE. coli 184の接着の阻害
ヒト結腸直腸腺癌Caco‐2細胞及びブタ腸上皮IPEC‐1細胞を用いて、接着及び阻害アッセイを確立した。これに関して、4.5g/Lのぶどう糖を含有し、L‐グルタミン(2mM)、ペニシリン(100U/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)、10%の熱失活させたウシ胎児血清(heat‐inactivated fetal bovine serum:FBS)、及び1%(v/v)非必須アミノ酸を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で、細胞を、37℃で、5%(v/v)CO2の存在下で増殖させた。続いて、24ウェル組織培養プレートを用いて、単層のCaco‐2細胞及びIPEC‐1細胞を調製した。ウェルに、1ウェルあたり4.104個のCaco‐2/IPEC‐1細胞を接種し、全てのプレートを7日間インキュベートした。2つの異なるプロトコルを用いて、バクテリオシン産生株Lactobacillus paracasei CNCM I‐5369、及びバクテリオシンを産生しないLactobacillus paracasei FB1による、E. coli 184の競争/排除を区別した。
【0142】
排除試験のために、Lactobacillus株(~108CFU/mL)を1mLのPBSで洗浄して、DMEM血清中で再懸濁し、抗生物質を含まないものとした。続いて、これらをCaco‐2/IPEC‐1細胞単層に添加し、37℃で90分間(5%CO2)インキュベートした。その後、非接着性Lactobacillus株を、PBSで2回洗浄することにより除去し、E. coli 184(~107CFU/mL)をLactobacillus株と同じ方法で調製した。これらを添加して、37℃で更に2時間インキュベートした。
【0143】
競争試験のために、上で示したように調製されたLactobacillus株(108CFU/mL)と病原体株(107CFU/mL)とを混合し、Caco‐2/IPEC‐1単層に添加して、37℃で2時間インキュベートした。Caco‐2/IPEC‐1単層を500μLのPBSで2回洗浄し、200μLのトリプシン/EDTAを用いて15分間インキュベートして、接着性細菌を有するCaco‐2/IPEC‐1細胞を除去した。
【0144】
排除及び競争試験の後、接着性E. coli 184細胞の計数を、エオシンメチレンブルー(Eosine Methylene Blue:EMB)で実施した。病原体接着率を、100%の接着を示す対照(Lactobacillus株を含まない病原体を含有するウェル)と比較して決定した。得られた結果は
図15(15A及び15B)に示されている。
図15に示されているように、バクテリオシン産生性のLactobacillus paracasei CNCM I‐5369(bac+)が、Caco‐2単層及びIPEC‐1単層上の接着性E. coli 184の数を、対照アッセイ(処理していない)に比べて80~90%だけ減少させたことが明らかである。なお、バクテリオシンを産生しないLactobacillus paracasei FB1(bac-)株は、子ブタIPEC‐1単層に対するE. coli 184の接着に影響を与えなかった。しかしながら、この株は、未処理の対照に比べて、ヒトCaco‐2単層細胞上の接着性E. coliの数を~60~70%減少させることができた。これは、Lactobacillus paracasei CNCM I‐5369に関して得られたものよりも大幅に低いままである。
【0145】
18.インタクト細胞及び細胞内無細胞抽出物のDPPHラジカル消去活性:
Lactobacilli細胞をMRS培地中で37℃で18時間増殖させ、細胞を遠心分離(8000g、4℃で10分間)によって採取した。細胞をPBS(10mM、pH7、2)で3回洗浄し、PBS中に110CFU/mLで再懸濁することにより、インタクト細胞を得ることができた。更に、細胞内無細胞抽出物を調製するために、細胞ペレットを脱イオン水で2回すばやく洗浄し、同一の溶液中に110CFU/mLで再懸濁した後、NucleoSpin(登録商標)Bead Tubes Type B(Macherey‐Nagel)に移した。これらのチューブを、FastPrep‐24 5G(MP Biomedicals)を用いてそれぞれ30秒の3サイクルで均質化し、各サイクルの間に5分間の氷浴上での冷却を行った。細胞残屑を遠心分離(8000g、4℃、10分)によって除去した。得られた上清は細胞内無細胞抽出物に相当する。1mLの新たに調製したDPPH溶液(0.004%、メタノール中でのw/v)と混合され、暗所条件で30分間インキュベートされた、0.8mlのインタクト細胞及び細胞内無細胞抽出物を用いて、DPPHの消去を分析した。ブランク試料はPBS又は脱イオン水を含んでいた。続いて、515nmにおける吸光度を測定することにより、消去されたDPPHを監視した。消去能力は、以下の式によって定義され、表15で報告されている。
【0146】
%消去=[1-A515(試料)/A515(ブランク)]100%。
【0147】
これらの結果は、Lactobacillus paracasei CNCM I‐5369が抗酸化効果を有することを示す。
【0148】
19.インビトロコレステロール低下
Lactobacillus paracasei CNCM I‐5369によるインビトロのコレステロール低下を、0.3%(w/v)胆汁塩を補充したMRSブイヨン中の残存コレステロールを測定することによって調査した。簡潔に述べると、10mgの純粋なコレステロールを500μLのエタノール(Sigma‐Aldrich)中に溶解し、これを、0.3%(w/v)のブタ胆汁(Sigma‐Aldrich)を補充した100mLのMRSブイヨンに添加した。培地にLactobacillus株を接種し、37℃で24時間インキュベートした(試験培地)。このインキュベーションの期間の後、細胞を遠心分離(8,000g、4℃、10分)によって採取し、無細胞上清をコレステロール定量化のために使用した。非接種ブイヨンを対照(対照培地)と見なした。1mLの培養上清に、3mLの95%(v/v)エタノールを添加し、その後2mLの50%(w/v)水酸化カリウム(KOH、Sigma Aldrich)を添加し、各成分の添加後に内容物を混合した。チューブを60℃で10分間加熱した。冷却後、5mLのヘキサン(Sigma‐Aldrich)を全てのチューブに分注し、5分間撹拌した後、3mLの水を追加して徹底的に混合した。チューブを30℃で20分間静置して、相分離させた。続いて、体積が2.5mLのヘキサン層を新たなチューブに移し、完全に乾燥させて;1.5mLの塩化第二鉄試薬(Sigma‐Aldrich)を添加し、チューブを10分間静置した。1mLの濃硫酸(Sigma‐Aldrich)を試験管の側部から添加した。混合物を撹拌して、30℃で45分間静置した。吸光度を540nmにおいて測定した。コレステロール標準グラフを、純粋なコレステロール(Sigma‐Aldrich)を用いて確立し、コレステロール濃度を決定するために使用した。続いて、同化のパーセンテージを以下の式を用いて計算した。
【0149】
【0150】
結果は表15で報告されている。
【0151】
【0152】
表15に示されているように、インタクトLactobacillus paracasei CNCM I‐5369のDPPH消去活性及びコレステロール同化は、それぞれ32%及び78%と興味深い割合に達したようである。
【国際調査報告】