(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】シトルリンの合成および精製の改善された方法
(51)【国際特許分類】
C07C 273/02 20060101AFI20220803BHJP
C07C 275/16 20060101ALI20220803BHJP
C07C 273/16 20060101ALI20220803BHJP
C07F 1/08 20060101ALI20220803BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220803BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220803BHJP
A61P 11/08 20060101ALI20220803BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C07C273/02
C07C275/16
C07C273/16
C07F1/08 C
A61P9/12
A61P9/10
A61P11/08
A61K31/198
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572607
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(85)【翻訳文提出日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 US2020036468
(87)【国際公開番号】W WO2020247853
(87)【国際公開日】2020-12-10
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517438491
【氏名又は名称】アスクレピオン ファーマシューティカルズ, エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Asklepion Pharmaceuticals,LLC
【住所又は居所原語表記】729 East Pratt Street, Suite 360, Baltimore, Maryland 21202, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ブル,ジェームス・アラン
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ホルガー・クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】カイザー,カール・ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】モノ-チェイス,ベッテ
【テーマコード(参考)】
4C206
4H006
4H048
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA04
4C206HA28
4C206KA17
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA75
4C206NA20
4C206ZA42
4C206ZA61
4H006AA02
4H006AC57
4H006AD17
4H006BC10
4H006BC19
4H006BC51
4H048AA02
4H048AB84
4H048AC57
4H048AD17
4H048BB31
4H048BC51
4H048VA22
4H048VA32
4H048VA56
4H048VB10
(57)【要約】
本発明は、オルニチンの末端アミノ基を誘導体化するためにシアネートを使用する、オルニチンの遷移金属錯体からのシトルリンの合成を提供する。本発明はまた、シトルリンの銅錯体の再沈殿、硫化物沈殿による錯化金属の除去、活性炭吸着および貧溶媒結晶化のステップを介した、シアネートとオルニチンとの反応によって生成される、シトルリンの精製のための改善された方法を提供する。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端カルバミド基をα-アミノ酸に付加する方法であって、
(a)水溶液中において銅で錯化された、末端アミンを有するα-アミノ酸を得るステップと;
(b)末端アミンを有するα-アミノ酸をシアネートと反応させるステップと;
(c)銅で錯化されたα-アミノ酸のカルバミド誘導体を沈殿物として回収するステップと
を含む方法。
【請求項2】
末端アミンを有する前記α-アミノ酸が、オルニチンまたはリジンからなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記α-アミノ酸の前記カルバミド誘導体が、シトルリンまたはホモシトルリンからなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)の温度が、30℃~100℃、好ましくは40℃~80℃、より好ましくは55℃~65℃である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)が、0.5~5時間、好ましくは1~5時間、より好ましくは3~4.5時間の反応時間を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
反応時間が、少なくとも3.5時間である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)が、反応混合物をもたらす、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応混合物が、ステップ(c)の前に少なくとも周囲温度以下に冷却される、請求項7に記載の反応混合物。
【請求項9】
ステップ(c)において回収された前記沈殿物が、さらに水で洗浄される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記沈殿物が、青色が現れなくなるまで水で洗浄される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
シトルリンを銅で錯化するステップを含む、シトルリンのオルニチン汚染を低減する方法であって、シトルリンを銅で錯化するステップが、沈殿したシトルリン-銅錯体をもたらす、方法。
【請求項12】
前記沈殿したシトルリン-銅錯体が、水で洗浄される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記沈殿したシトルリン-銅錯体の水洗浄が、
(a)前記沈殿したシトルリン-銅錯体を水中に懸濁するステップと;
(b)ステップ(a)の懸濁液を酸性化して、シトルリンを溶解するステップと;
(c)ステップ(b)の溶液をアルカリ化して、シトルリン-銅錯体を再沈殿させるステップと;
(d)シトルリン-銅沈殿物を回収するステップと
によって達成される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(d)の前記シトルリン-銅沈殿物が、塩化物が現れなくなるまで水で洗浄される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記シトルリン-銅沈殿物が、ステップ(a)の前記沈殿したシトルリン-銅錯体に含有される銅の量以下の量の銅を含有する、請求項13~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(b)および(c)における再溶解したシトルリンの温度が、85℃以下、好ましくは55℃以下、より好ましくは45℃以下である、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記沈殿したシトルリン-銅錯体の洗浄が、前記沈殿したシトルリン-銅錯体中のオルニチン:シトルリンの比率の低下をもたらす、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記沈殿したシトルリン-銅錯体を水中に再懸濁し、前記沈殿したシトルリン-銅錯体が水中に再溶解するまでpHを酸で調整し、その後、pHを塩基で再調整して、シトルリン-銅錯体を再沈殿させる、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記シトルリンが、オルニチンを尿素と反応させることによって生成される、請求項11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記シトルリンが、オルニチンをシアネートイオンと反応させることによって生成される、請求項11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
シトルリンを精製する方法であって、
(a)シトルリン:銅錯体を得るステップであって、任意選択で、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法を含むステップによって得られるシトルリン:銅錯体を得るステップと;
(b)シトルリン:銅錯体を水中に懸濁するステップと;
(c)硫化水素を導入してシトルリン:銅錯体を溶解し、沈殿した銅塩を含有するシトルリン水溶液を生成するステップと;
(d)沈殿した銅塩を、ろ過によりシトルリン水溶液から除去するステップと
を含む方法。
【請求項22】
ステップ(a)の前記シトルリン:銅錯体が、銅で錯化されたオルニチンのカルバミド誘導体を形成することによって生成される、または前記シトルリン:銅錯体が、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法を含むステップによって得られる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(c)の前記シトルリン:銅錯体が、さらなるガス消費が観察されなくなるまで硫化水素にさらされる、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(c)中の温度が、周囲温度未満、好ましくは5℃未満、または任意選択で0℃~5℃に維持される、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
ステップ(d)の温度が、周囲温度より高く、好ましくは30℃以上に上昇される、請求項21~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
ステップ(d)で除去される前記銅塩が、圧搾ろ過器内で除去される、請求項21~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
(e)前記沈殿した銅塩を除去した後の前記シトルリン水溶液のpHを調整して、前記シトルリン水溶液を中和するステップであって、好ましくはpHがpH=5.9±0.2に調整されるステップ
をさらに含む、請求項21~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
(f)ステップ(e)の中和されたシトルリン水溶液を活性炭で処理するステップ
をさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
(f)ステップ(e)の中和されたシトルリン水溶液を、周期的に活性炭吸着床に通すステップ
をさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
(g)活性炭で処理した後の前記中和されたシトルリン水溶液に水混和性貧溶媒を添加して、前記中和されたシトルリン水溶液からシトルリンを沈殿させるステップ
をさらに含む、請求項28~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記水混和性貧溶媒が、水混和性有機溶媒である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記水混和性貧溶媒が、2-プロパノール、エタノール、メタノール、およびアセトンからなる群から選択される少なくとも1つのメンバー、好ましくはアセトンである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
水混和性貧溶媒:水の比率が、0.5:3、好ましくは1.0:2.5、より好ましくは1.5:2.2である、請求項30~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
アセトン:水の比率が、約1.8:1である、請求項32~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
ステップ(g)中の温度が、-5℃~20℃、好ましくは0℃~20℃、より好ましくは0℃~10℃である、請求項30~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
ステップ(e)、(f)、および/または(g)が、低微生物汚染環境内で実行される、請求項27~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記低微生物汚染環境が、ステップ(e)、(f)、および/または(g)を密閉容器内で実行することによって維持される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記低微生物汚染環境が、ステップ(e)、(f)、および/または(g)をクリーンルーム環境内で実行することによって維持される、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
請求項1~38のいずれか一項に記載の方法により製造された、非経口投与に適したシトルリン含有製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、オルニチンの末端アミノ基を誘導体化するためにシアネートを使用する、オルニチンの遷移金属錯体からのシトルリンの合成を提供する。本発明はまた、シトルリンの銅錯体の再沈殿、硫化物沈殿による錯化金属の除去、活性炭吸着および貧溶媒結晶化のステップを介した、シアネートとオルニチンとの反応によって生成される、シトルリンの精製のための改善された方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
[0002]オルニチンは、α炭素の反対側に末端アミノ基を持つα-アミノ酸である。シトルリンは、オルニチンの末端アミノ基と同じ位置に末端カルバミド基を持つα-アミノ酸である。A. Kurtz博士は、1938年のラセミオルニチンからのラセミシトルリンの合成について記載した(J.Biol.Chem.、122巻:477~484頁)、およびその開示に続いて、1949年にl-オルニチンから光学活性なl-シトルリンが合成された(J. Biol. Chem.、180巻:1253~1267頁)。αアミノ基およびカルボキシル基を介して遷移金属錯体において出発物質(l-オルニチン)を錯化し、次に末端アミノ基を尿素と反応させてカルバミド誘導体を形成することにより、光学活性が維持された(
図1を参照)。Kurth(1949)は、分子の他の部分を誘導体化しながら、出発化合物のα-アミノ酸特性を維持するため、遷移金属錯体にすべて依存する、他の多くの合成について記載している。この合成の例は、以下の実施例1に記載される。
【発明の概要】
【0003】
[0003]本発明は、末端アミンを有し、銅で錯化されたα-アミノ酸を用い、それを水溶液中の過剰なシアネートにさらすことにより、末端カルバミド基をα-アミノ酸に付加するための改善された方法を提供する。シアネートは末端アミンと反応して、銅で錯化されたα-アミノ酸のカルバミド誘導体を形成し、この誘導体は水溶液から沈殿する。末端アミンを有する好ましいα-アミノ酸はオルニチンまたはリジンであり、得られるカルバミド誘導体はシトルリンまたはホモシトルリンである。尿素をオルニチンと反応させるために還流温度を使用する従来技術の合成スキームとは対照的に、本発明の方法は、30℃~100℃、好ましくは40℃~80℃、より好ましくは55℃~65℃で実行してもよく、反応は0.5~5時間、好ましくは1~5時間、より好ましくは3~4.5時間以内に起こるが、55℃~60℃では、反応は好ましくは少なくとも3.5時間進行する。反応が完了したとき、沈殿物は周囲温度にてろ過により回収してもよく、沈殿物は好ましくは青色がろ液に現れなくなるまで水で洗浄してもよい。
【0004】
[0004]本発明はまた、シトルリンを銅で錯化し、沈殿したシトルリン:銅錯体を水で洗浄し、それによって沈殿物中のオルニチン:シトルリン比を低減することで、シトルリンのオルニチン汚染を低減する改善された方法を提供する。本発明の方法において、沈殿したシトルリン:銅錯体は水中に懸濁し、沈殿物が水中に再溶解するまで懸濁液のpHが酸で調整される。シトルリン:銅錯体の溶液のpHは、シトルリン:銅錯体を再沈殿させるために塩基で調整される。好ましくは、沈殿したシトルリン:銅錯体の水性懸濁液は塩酸で酸性化され、これによりシトルリンを溶液にし、次にシトルリン-銅錯体を再沈殿させるために塩基が添加される。再沈殿したシトルリン:銅錯体をろ過により回収し、回収された沈殿物を、塩化物がろ液に現れなくなるまで水で洗浄する。酸性化および中和によって生成される熱は、能動冷却によって制御され、好ましくは45℃以下の温度を維持し得る。
【0005】
[0005]本発明によれば、シトルリンは、シトルリン:銅錯体を水中に懸濁させ;硫化水素を導入して錯体を溶解し、沈殿した銅塩を含有するシトルリン水溶液を生成し;次に、沈殿した銅塩をろ過により溶液から除去することにより、シトルリン:銅錯体から回収される。さらなる消費が観察されなくなるまで、硫化水素ガスを密閉反応容器内の懸濁液に添加する。消費が、結果として生じる圧力変化を観察することにより、モニタされる。反応中、pHは4未満、好ましくはpH約3まで低下し、温度は周囲温度より低く維持され、好ましくは5℃未満に維持される。次に、温度を周囲温度より高く、好ましくは30℃以上に上げて、ろ過中にシトルリンを溶液中に保ち、沈殿した銅塩を除去する。
【0006】
[0006]本発明は、シトルリン:銅錯体から回収された溶液中のシトルリンのさらなる精製を提供する。回収されたシトルリン溶液は、好ましくはpH=5.9±0.2に調整することにより、中和され、好ましくは中和されたシトルリン溶液を活性炭吸着床に循環させることにより、活性炭で処理される。活性炭処理後、シトルリン溶液は水混和性貧溶媒と混合され、水溶液からシトルリンを沈殿させる。適切な貧溶媒には、2-プロパノール、エタノール、メタノール、または好ましくはアセトンが含まれる。溶媒/貧溶媒沈殿は、低温、好ましくは0℃~10℃で実施される。シトルリン:銅錯体からシトルリンを回収した後のすべてのステップは、好ましくは密閉容器内で実行され、微生物汚染を最小限に抑える。シトルリン沈殿物は乾燥され、水および貧溶媒が除去される。得られた生成物は注射用治療組成物における使用に適する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】[0007]尿素との反応によりオルニチンからシトルリンを合成するための反応物および生成物の化学構造を示す。
【
図1B】[0008]シトルリン:銅錯体、および錯体が無機硫化物で処理されたときに得られるシトルリンの化学構造を示す。
【
図2A】[0009]シアネートとの反応によりオルニチンからシトルリンを合成するための反応物および生成物の化学構造を示す。
【
図2B】[00010]シトルリン:銅錯体、および錯体が硫化水素ガスで処理されたとき得られるシトルリンの化学構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[00013]医薬品グレードのシトルリンを製造するために本発明者らによって開発された改善されたプロセスにおける様々なステップの詳細が以下で論じられる。
オルニチンからのシトルリンの合成
[00014]本発明者らは、Kurth(1938および1949)によって報告されたとおり、分子のα末端を遷移金属原子で錯化することにより、化合物上の他の場所でのアミノ基の反応中に、α-アミノ酸のα炭素の周りの立体化学的構造を保持した。l-オルニチン-銅錯体の初期生成は、Kurtzによる記述のとおり実行される。Kurtzは、1949年の論文において種々の遷移金属を錯化金属として記述しているが、安定した錯体の形成の容易さ、およびその後に生成物から銅(II)が除去され得る容易さに基づけば、好ましい金属は銅(II)である。銅は通常、硫酸第二銅として供給されるが、酢酸銅(II)、炭酸第二銅、または酸化第二銅からの錯体形成も報告されてきた。
【0009】
[00015]本発明者らは、Kurthによって報告された尿素反応ではなく、シアネートを使用して、錯体化されたα-アミノ酸の末端アミノ基を誘導体化する代替方法を発見した。この改善された合成の例は
図2Aに示され、以下の実施例3に記載される。誘導体化剤としてシアネートを使用すると、生成される別個の生成物化合物が少なくなり、所望のシトルリン生成物の精製が単純化されることが見出された。Kurthは、過剰な尿素の存在下で銅錯体を還流することにより、尿素誘導体化を実行した。シアネート誘導体化は、オルニチンの初期量に対してシトルリンのより高い収率に寄与し得る、より低い温度(例えば、55°C~65°C)にて実行してもよい。シアネートは好ましくは過剰に提供され、反応はシトルリン:銅錯体の沈殿によって促進される。未反応の銅を除去するため、沈殿した錯体は水で洗浄される(例えば、ろ液中に青色の呈色が見られなくなるまで洗浄する)。シトルリンの沈殿した銅錯体は回収し、乾燥し得る。
銅錯体としてのシトルリンの濃縮
[00016]本発明者らは、反応生成物の相対的なシトルリン含有量が、シトルリン:銅錯体の再沈殿によって高め得ることを見出した。シトルリンの沈殿した銅錯体(例えば、水中でのオルニチン:銅錯体と尿素またはシアネートとの反応によって生成される)は、乾燥させてもよい。シトルリン:銅錯体は、沈殿物を水中に懸濁させ、錯体が溶解するまで懸濁液を酸性化することによって再溶解させ得る。酸性化は、撹拌しながら、濃酸、好ましくは塩化水素を懸濁液に添加することによって達成し得る。銅:シトルリン錯体溶液が透明になった後、塩基(通常は水酸化ナトリウム)を添加して、pHを7~10にする。両方の酸性化およびその後の中和ステップでは、シトルリン生成物を加水分解または副生成物を生成する反応から保護するために、能動冷却が行われる(45°C以下の温度)。沈殿物は水で洗浄され(例えば、硝酸銀でろ液の濁度をチェックすることにより、ろ液が塩化物を含まなくなるまで)、次に沈殿物は乾燥される。これらの条件下での再沈殿は、オルニチン錯体がより水中に溶けやすいため、オルニチン:銅錯体よりもシトルリン:銅錯体に対して選択性が高い。乾燥した錯体が望ましいレベルよりも高いレベルのオルニチン汚染を含む場合(例えば、NMRで測定した場合に、10モル%を超えるオルニチン)、錯体は、必要に応じて再溶解および再沈殿され、オルニチンの相対量をさらに下げることができる。
銅錯体からのシトルリンの回収
[00017]銅:シトルリン錯体沈殿物中のオルニチン含有量が十分に低くなったら(好ましくは10モル%未満のオルニチン)、沈殿物は水中に再懸濁され、銅を無機沈殿物として、通常は硫化銅として除去することにより、シトルリンが錯体から遊離される(
図2Bを参照)。硫化物は様々な塩の形態で導入され得るが、本発明者らは、硫化物源として硫化水素ガスを使用することが好ましいことを見出した。好ましい方式では、水性懸濁液は、攪拌圧力容器に入れられる。次に、低圧を形成するため、空気が反応器のヘッドスペースからポンプで排出される。次に、反応器は、水性懸濁液の上の硫化水素ガスにより(硫化水素の溶解度を最大にするために、好ましくは低温、例えば0℃~5℃で)再加圧される。硫化水素は、このガスの消費中に周囲圧力と同等の状態を維持するために、反応器に継続的に添加される。銅塩が沈殿し、溶液中にシトルリンが残る。硫化水素が消費されると容器内の圧力が低下し、圧力が安定すると反応が完了する。硫化水素と残留銅塩(例えば、塩化物または硫酸塩)との反応により、pHが低下する。通常、pHは4未満、好ましくはpH約3になる。銅塩は通常、硫化銅(II)を含むが、硫化銅(I)および酸化銅をも含む場合がある。溶液温度がろ過のために通常約30℃に上げられ、シトルリンの溶解性が促進され、過剰な硫化水素ガスが追い出される一方、沈殿した銅塩はろ過により除去される。
シトルリンの精製
[00018]医薬品用途の場合、活性化合物は実質的に汚染物質を含まない必要があり、医薬品グレードの製品を製造するために、さらなる精製ステップが必要である。本発明の目的のために、汚染物質を実質的に含まないとは、0.8%以下(not more than:NMT)のオルニチン、0.15%以下の個々の特定の不純物、0.1%以下の個々の不特定の(未知の)不純物を含み、関連物質の合計は1.3%以下、Cuは10ppm以下であると考えられる。α-アミノ酸機能を保護するために銅錯体を使用してオルニチンから製造されたシトルリンに関して、本発明者らは、シトルリンが銅錯体から放出された後の所望の精製が、汚染物質の活性炭吸着および活性医薬品成分の溶媒/貧溶媒結晶化によって達成できることを見出した。
【0010】
[00019]沈殿した銅塩の除去後に残留するシトルリン含有水溶液は、加水分解に対してシトルリンを安定化し、活性炭への残留銅の吸着を強化し、シトルリンの溶媒/貧溶媒沈殿を促進するために、中和される。pHは、好ましくは、シトルリンの等電点である5.9±0.2に調整される。中和されたシトルリン溶液は、溶液を汚染する細菌および/または細菌の細胞壁断片を除去するために、ナノフィルターに通してもよい。ナノろ過された溶液は、以後の精製ステップ間に、実施に備えて半滅菌リザーバーに保持してもよい。中和されたシトルリン溶液は、カーボンダストと混合するか、または溶液を活性炭吸着床に通すことによって、活性炭で処理される。活性炭からの水性シトルリン含有流出液は、貧溶媒結晶化を生じされるために、貧溶媒と混合される。適切な貧溶媒は、2-プロパノール、エタノールまたはメタノールなどの脂肪族アルコール、およびアセトンを含んで、水と混和性がある。シトルリンのための好ましい貧溶媒は、約2倍量の水と混合される場合、アセトンである(例えば、1.8倍量のアセトンに対して1倍量の水)。アセトンは、好ましくは、得られる懸濁液が0℃~10℃になるように、予冷される。冷却された懸濁液は、リザーバーに収集されるか、または直ちにろ過により処理して、シトルリン沈殿物を回収してもよい。
微生物制御:
[00020]シトルリンの合成および精製は水溶液中で行われるため、生成物中の微生物汚染および内毒素蓄積の増大したリスクがある。シトルリン:銅沈殿物の洗浄、および酸性溶液へのH2Sの添加は、微生物の蓄積を最小限に抑える。錯体のH2Sへの曝露からアセトンでの処理まで、微生物汚染および増殖を制限するために、シトルリンの水溶液は、好ましくは密閉容器に保持される。環境との接触を最小限に抑えるために精製ステップを囲い込み、潜在的な微生物汚染を捕捉するために滅菌フィルターを使用することにより、製造がISO8クリーンルーム内で実行されることが可能になる。あるいは、最終精製ステップは、滅菌投与生成物の無菌充填に使用される種類の滅菌GMP環境(例えばISO Class 5/6)内で実行され得る。
【0011】
[00021]貧溶媒沈殿前の溶液の検査が、微生物または内毒素レベルの量が注射用治療組成物に関して許容できる量(例えば、50EU/g API、より好ましくは20EU/g)を超えることを示した場合、貧溶媒沈殿および乾燥により回収される前に、生成物をナノろ過に供して、微生物および内毒素を除去し得る。シトルリンおよび水分子はナノろ過膜を通過するが、より大きな細菌および細菌の細胞壁断片はフィルターによって保持される。
圧搾ろ過器
[00022]反応混合物は、圧搾ろ過器にポンプで送り込んで、浮遊物質を収集/除去し得る。
図3の全体像と
図4の添付写真を参照してほしい。圧搾器は一連のプレート1で構成され、これらのプレート1は次に油圧により一緒に圧搾される。油圧により、システムは確実に密閉される。次に、懸濁液は中央管2を通ってポンプで送られ、そこでプレート間の複数のチャンバー3を通して広がる。プレートの壁にはフィルターシートがあり、フィルターシートにより、ろ液が通過して、内部空洞4を経て流出できるようになる。
【0012】
[00023]圧搾ろ過器の一般的な利点は、ろ過のために高い表面積を与えることである。この効果は、錯体およびAPIを少しずつ収集し洗浄することを大幅に加速する。このシステムは、硫化水素への曝露後に銅塩を収集するために使用してもよい。後者の場合、懸濁液は反応器から圧搾器にポンプで送られ、次にろ液は、残留銅粒子を捕らえるためのインライン5μmフィルターを通過し、次に、保持用の半滅菌容器の入口でインライン滅菌用0.2μmフィルターを通過し得る。
圧搾器は、以下のものを収集するために使用してもよい。
・粗シトルリン銅錯体
・pHによる(pH-driven)再沈殿の後の錯体
・沈殿した銅塩(シトルリンがろ液中の溶液として残る場合)
・乾燥前の貧溶媒沈殿から沈殿したシトルリン
半滅菌容器
[00024]有用な半滅菌容器は、基本的に、攪拌機ならびに液体の添加および除去用のポート、ならびにpHメーターを備えた密閉容器である。容器は、使用直前に(例えば、イソプロピルアルコール溶液で処理し、水ですすいで)滅菌し、使用中に開けないようにする必要がある。蓋に取り付けられた滅菌エアフィルターは、液体がポンプで排出されているときに、空気が容器に流れ込むことを可能にする。活性炭での処理の前に、この容器内でpH調整を行ってもよい。容器は、溶液の長期保管に特に適しているわけではない。
活性炭吸着床
[00025]
溶液は、半滅菌容器から、アルゴンで事前にフラッシングされた活性炭床(粒状活性炭が充填されたカラム)を通して、ポンプで送られる。次に、液体は、インラインの5μmフィルターおよび入口ポートの0.2μm滅菌フィルターを介して、半滅菌容器に戻される。攪拌器を6時間以上作動させた状態で溶液を循環的にポンプで送る場合、滅菌フィルターは「微生物スクラバー」として機能し、溶液中の微生物を継続的に収集する。活性炭は主に有機不純物を除去し、残留する溶解銅イオンをも除去する。5μmフィルターは、床から離れる炭素粒子を捕捉する。
滅菌袋
[00026]活性炭吸着床で処理した後、溶液は、別の滅菌フィルターを介して使い捨て滅菌袋に通してもよい。溶液は、半滅菌容器内よりも長く袋内に保管され得る。この時点で、微生物および/または細菌内毒素の存在についての試験を行ってもよい。内毒素が観察された場合、カットオフ(ナノろ過)膜を用い得る。内毒素が観察されない場合、シトルリンは、貧溶媒沈殿により溶液から回収される準備ができている。滅菌袋に溶液を収集すると、シトルリン溶液がバッチ式で処理されることが可能になり、シトルリンの好都合な量の部分が沈殿し、圧搾ろ過器で回収される。
溶媒/貧溶媒の混合
[00027]シトルリン水溶液は、予冷した貧溶媒と混合して、溶液からシトルリンを沈殿させる。貧溶媒と混合した後、細菌の増殖によってもたらされる脅威は、他のAPIの脅威よりも高くない。有機溶媒の添加は、得られる溶液を少なくとも静菌的にする。この沈殿により、シトルリンの純度が向上し、特にオルニチンレベルが低下し、溶液からのシトルリンの迅速な抽出が可能になる。
最終乾燥
[00028]沈殿物は、残留アセトンおよび水を除去するために、乾燥される。乾燥は、最初にアセトン貧溶媒を追い出し、次に水分を追い出し、最後に結晶水を追い出すために、円錐形乾燥機内で実行し得る。円錐形乾燥機は、生成物を均質化するために使用してもよい。貧溶媒沈殿の最終的な乾燥生成物は、保存し、最終的には治療投与のために滅菌水性希釈剤に溶解し得る。
【0013】
[00029]滅菌水性媒体に溶解したら、本明細書に記載のように調製されたシトルリンは、
肺高血圧症(WO/2000/073322)、気管支肺異形成症(WO/2009/099998)、鎌状赤血球発症(WO/2018/157137)、心臓手術患者(WO/2005/082042)、心肺バイパス患者(WO/2018/125999)、およびくも膜下出血の合併症としての血管痙攣(WO/2009/099999)を、参照により本明細書に組み込まれるこれらの文書に記載されている非経口投与により処置するために使用され得る。
【実施例】
【0014】
実施例1
尿素を用いたオルニチンからのシトルリンの合成。
[00030]L-シトルリンは、L-オルニチンおよび尿素から合成される。反応の流れ図を
図1Aに示す。
【0015】
[00031]L-シトルリンは、L-オルニチン塩酸塩から出発して合成的に調製される。約50リットルの水を入れた120L反応器に、10キログラムのL-オルニチン塩酸塩を添加して溶解させる。この溶液を水酸化カリウムで中和し、次に15kgの硫酸銅(モル当量)を添加することで銅錯体に変換する。銅錯体は分子内の2-アミノカルボン酸官能基を保護する一方、末端アミノ基では化学反応が行われる。次に、L-オルニチン銅錯体を、還流時に過剰の尿素にさらし、L-シトルリンの銅錯体への変換を促進する。次に、得られたL-シトルリンの銅錯体を沈殿させ、ろ過により収集する。
【0016】
[00032]L-シトルリンの単離された銅錯体を乾燥させ、試験を実施する。外観を検証し、使用時性能試験を行って続行の適合性を判断する。
実施例2
銅-シトルリン錯体からのシトルリンの精製。
【0017】
[00033]L-オルニチンおよび尿素から合成されたL-シトルリンを、樹脂系の精製および再結晶によって精製する。反応の流れ図を
図1Bに示す。
[00034]120L反応器内で、実施例1において調製した約13キログラムのL-シトルリン銅錯体を、水中の硫化ナトリウム(Na
2S)の攪拌溶液に添加し(50リットルの水中に約8キログラムのNa
2S)、硫化銅の沈殿およびL-シトルリンの遊離を引き起こす。溶液をろ過して銅塩を除去する。L-シトルリンのナトリウム塩および残留硫化ナトリウムを含有する、得られた水溶液のpHは、酸性イオン交換樹脂(Amberlite(商標))の添加により、4に低下する。一定のアルゴンガス流を溶液に通して、残留硫化物を二硫化水素として除去する。次に、水酸化ナトリウムを使用して、溶液のpHを5.9±0.2に上げ、等電位のL-シトルリンを形成する。次に、活性炭を反応混合物に添加し、残留不純物、特に残留銅イオンを除去する。次に、固形物(Amberlite(商標)および活性炭)をろ過によって除去し、(蒸発または逆浸透のいずれかによって)ろ液を約50リットルに濃縮する。次に、等量部のアセトンを添加することにより、水溶液からL-シトルリンを沈殿させ、混合物を0℃近くまで冷却する。沈殿物をろ過により収集し、真空オーブン中で乾燥させる。
【0018】
[00035]次に、非滅菌バルク粉末を、内毒素低減および滅菌ろ過ステップのために再構成および処理し、続いて、無菌環境において結晶化、乾燥、および微粉化する。次に、滅菌バルク粉末を、ガラスバイアルに無菌充填するための「原料」として使用し、使用前に滅菌希釈剤で再構成できる最終製剤を製造する。
実施例3
シアネートを用いたオルニチンからのシトルリンの合成
[00036]L-シトルリンを、L-オルニチン塩酸塩から出発して合成的に調製した。水(170kg)中の水酸化ナトリウム(11kg)を含有する反応器に、L-オルニチン塩酸塩(44kg)を添加して溶解した。能動冷却により温度を40℃以下に維持した。次に、0.5モル当量の硫酸銅(33 kg)を添加し、周囲温度にて15分以上撹拌することにより、オルニチンを銅錯体に変換した。銅錯体は分子の2-アミノカルボン酸官能基を保護する一方、末端アミノ基では化学反応が行われる。次に、モル過剰のシアン酸カリウム(32 kg)をL-オルニチン銅錯体に添加し、溶液を55℃~65℃にて4.0~4.5時間保持する。これにより、L-シトルリンの銅錯体への変換が促進される。得られたL-シトルリンの銅錯体が反応中に沈殿し、それをろ過により回収する。
実施例4
治療等級シトルリンの精製。
【0019】
[00037]実施例3で生成された乾燥銅:シトルリン錯体を、水を含有する反応器に添加し、錯体を再懸濁するために攪拌する。能動冷却により反応器の温度を45℃以下に維持しながら、濃縮塩化水素溶液を添加し、錯体を塩化銅(II)およびシトルリン塩酸塩の溶液に変換する。反応器の内容物が溶解したら、水酸化ナトリウムを添加してpHを7~10に上げながら、温度を40℃以下に維持する。次に、シトルリンの銅錯体が沈殿する。沈殿物を収集し、ろ液に青色の呈色が見られなくなるまで水で洗浄する。
【0020】
[00038]相対的なオルニチン含有量を決定するために、洗浄された沈殿物を試験する。オルニチンが10モル%を超える場合、オルニチン含有量が10モル%以下に低下するまで、沈殿物を上記のように再溶解および再懸濁する。
【0021】
[00039]沈殿物が所望のオルニチン含有量に達したら、それを攪拌反応器内の水中に再懸濁し、硫化水素ガスを懸濁液に導入して硫化銅を沈殿させ、シトルリンを溶解する。溶液を30℃±2℃に温め、シトルリンが完全に可溶化され、沈殿した銅塩がろ過によって除去されるようにする。シトルリン含有ろ液をマイクロおよび滅菌ろ過に通し、半滅菌反応器内に収集する。
【0022】
[00040]活性炭を使用して、残留不純物、特に有機成分および残留銅イオンを除去する。L-シトルリンおよび残留銅を含有する、得られた水溶液のpHを、水酸化ナトリウムで5.9±0.2に調整して、等電位シトルリン溶液を形成する。好ましくは溶液を活性炭吸着床に通すことによって、等電位シトルリン溶液を活性炭顆粒で処理し、活性炭処理後にマイクロおよび滅菌フィルターに通す。
【0023】
[00041]次に、アセトン貧溶媒の添加により水溶液からL-シトルリンを沈殿させ、混合物を0℃近くまで冷却する。1.5~2体積当量のアセトンを添加して、シトルリンの二水和物結晶を生成する。沈殿物をろ過により収集する。結晶を円錐形乾燥機内で45℃以下の温度にて真空中で乾燥させ、アセトンおよび水を除去し、無水結晶性固体を得る。この固体シトルリンは、Allouchiら(2014)(Cryst.Growth Des.、14巻:1279~1286頁)によって報告された、斜方晶系δ形態の無水結晶に対応する。
【0024】
[00042]二水和物結晶または無水結晶のいずれかを治療的に使用することができる。固形物または水溶液/懸濁液は経腸的に投与することができ、または固形物を非経口投与のために再溶解することができる。最終治療薬を製造するために、非滅菌バルク粉末を再構成し、内毒素低減および滅菌ろ過ステップを実行し、続いて、無菌環境内で結晶化、乾燥、および微粉化を行った。次に、滅菌バルク粉末をガラスバイアルに無菌充填するための「原料」として使用して、使用前に滅菌希釈剤で再構成された最終製剤を製造した。
【国際調査報告】