IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ・バイオニクス・インスティテュート・オブ・オーストラリアの特許一覧

特表2022-535931神経活動を検出するための方法及びシステム
<>
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図1
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図2
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図3
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図4
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図5
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図6A
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図6B
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図7
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図8A
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図8B
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図9
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図10
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図11
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図12
  • 特表-神経活動を検出するための方法及びシステム 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】神経活動を検出するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/388 20210101AFI20220803BHJP
   A61B 5/397 20210101ALI20220803BHJP
【FI】
A61B5/388
A61B5/397
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572640
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(85)【翻訳文提出日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 AU2020050570
(87)【国際公開番号】W WO2020243785
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】2019901989
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519044955
【氏名又は名称】ザ・バイオニクス・インスティテュート・オブ・オーストラリア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ファロン
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA04
4C127BB05
4C127CC01
4C127DD03
4C127GG05
4C127GG10
(57)【要約】
神経における神経活動を検出する方法が開示されている。第1の電気信号は、第1の電極対から受信される。第2の電気信号は、第2の電極対から受信され、第2の電極対は、神経に沿って第1の電極対から離間されている。相関分析は、相関データを取得するために、少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間を含む、第1及び第2の電気信号の間に適用される。相関データから、神経における神経活動を示す少なくとも1つの神経信号が検出される。神経信号は、少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間での第1及び第2の信号の間の増加する相関に対応する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経における神経活動を検出する方法であって、
第1の電極対からの第1の電気信号を受信することであって、前記第1の電極対が前記神経に沿って互いの近傍に位置する2つの第1の電極を含む、前記受信すること、
第2の電極対からの第2の電気信号を受信することであって、前記第2の電極対は、前記神経に沿って互いの近傍に位置する2つの第2の電極を含み、前記第2の電極対は、前記神経に沿って前記第1の電極対から離間している、前記受信すること、
相関データを取得するために、少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間を含む、前記第1及び第2の電気信号間の相関分析を適用すること、及び
前記相関データから、前記神経における神経活動を示す少なくとも1つの神経信号を検出することであって、前記神経信号は、前記少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間で前記第1及び第2の電気信号の間の増加する相関に対応する、前記検出すること、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記第1及び/または第2の電気信号は信号対雑音比が負である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間が、前記第1の電極対と前記第2の電極対との間の距離に基づいて事前に選択される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間が、前記神経の線維のタイプに基づいて事前に選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記相関分析が複数のゼロ以外の遅延時間に適用される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記複数のゼロ以外の遅延時間が負及び正の符号の遅延時間を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記神経信号が検出される前記遅延時間の前記符号に基づいて、前記神経信号を求心性または遠心性として分類することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記神経信号が検出される前記遅延時間の大きさに基づいて、前記神経の線維のタイプを分類することをさらに含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記相関データを取得するために遅延時間ゼロで前記相関分析を適用することをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記相関データから、電気的活動を示す少なくとも1つの代替信号を検出することであって、前記代替信号が実質的に遅延時間ゼロでの前記第1及び第2の電気信号の間の増加する相関に対応する、前記検出すること、をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記代替信号が筋肉の動きを示す、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記代替信号が、刺激に対する誘発された神経応答である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記神経信号は、前記少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間で、前記第1及び第2の電気信号の間の増加する相関の1つまたは複数の領域に対応する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間での前記相関データの増加する相関の前記1つまたは複数の領域が前記第1及び第2の電気信号の間の相関の1つまたは複数のピークを含み、前記ピークが前記少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間を中心とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1及び第2の電極対のそれぞれが前記神経の神経周膜の外側に配置される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記神経が末梢神経である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記神経が自律神経系の神経である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記神経が有髄である、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記神経が無髄である、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成された処理装置。
【請求項21】
前記処理装置が植込み可能である、請求項20に記載の処理装置。
【請求項22】
処理装置に、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法を実行させる命令を含む、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項23】
神経における神経活動を検出するシステムであって、
第1の電極対であって、前記神経に沿って互いの近傍に位置できる2つの第1の電極を含む、前記第1の電極対、及び
第2の電極対であって、前記神経に沿って互いに近傍に位置できる2つの第2の電極を含む、前記第2の電極対、
この場合、前記第2の電極対は前記神経に沿って前記第1の電極対から離間して構成される、ならびに、
処理装置であって、
前記第1の電極対から第1の電気信号を受信すること、
前記第2の電極対から第2の電気信号を受信すること、
相関データを取得するために、少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間を含む、前記第1及び第2の電気信号間の相関分析を適用すること、及び
前記相関データから、前記神経における神経活動を示す少なくとも1つの神経信号を検出することであって、前記神経信号は、事前に選択されたゼロ以外の遅延時間で前記第1及び第2の電気信号の間の増加する相関に対応する、前記検出すること、に対して構成される、前記処理装置を含む、前記システム。
【請求項24】
前記第1及び第2の電極対の少なくとも1つが、前記第1及び第2の電極対を前記神経と電気的にインターフェースするように前記神経に取り付けられるように適合された電極取り付けデバイスに含まれる、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記電極取り付けデバイスは、電極アレイを含み、前記電極アレイは、前記第1の電極対及び前記第2の電極対を含む、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記2つの第1の電極は、前記電極アレイに沿って互いに近傍に位置し、
前記2つの第2の電極は前記電極アレイに沿って互いに近傍に位置し、
前記第1の電極対は、前記電極アレイに沿って前記第2の電極対から離間されている、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記2つの第1の電極は、距離a1だけ互いに間隔を置いて配置され、
前記2つの第2の電極は距離a2だけ互いに間隔を置いて配置され、
前記第1及び第2の電極対は、距離b1で互いに離間し、この場合前記距離b1が前記距離a1及び前記距離a2よりも大きい、請求項24から26のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項28】
前記神経信号は、前記少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間で、前記第1及び第2の信号の間の増加する相関の1つまたは複数の領域に対応する、請求項23から27のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項29】
前記少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間での前記相関データの増加する相関の前記1つまたは複数の領域が前記第1及び第2の信号の間の相関の1つまたは複数のピークを含み、前記ピークが前記少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間を中心とする、請求項28に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年6月7日に出願された豪州仮特許出願第2019901989号の優先権を主張するものであり、その内容のすべてが参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、神経活動の検出に関するものであり、特に電極を使用して神経系から電気信号を受信することによる。
【背景技術】
【0003】
電気医療機器は、電気インパルスを使用して病を治療する医療機器である。このような機器は、生体電気の神経調節を利用して、様々な疾患または病状を治療することができる。
【0004】
薬学的または生物学的な治療と比較した生体電気神経調節デバイスの1つの利点は、変化する患者のニーズに対応するために刺激のレベルを迅速に調整できることである。これは、閉ループ制御として知られている。ただし、真の閉ループでの生体電気神経調節には、神経活動を長期的に刺激または活性化し、神経活動を阻害または抑制し、また進行中の自発的または自然に誘発された神経活動を感知することができることが必要である。
【0005】
本明細書に含まれている文書、行為、物質、デバイス、物品などのいかなる説明も、これらの内容のすべてまたは一部が、添付の「特許請求の範囲」のそれぞれの優先日前において存在していた先行技術基準の一部を形成する、または本開示に関連する分野における通常の一般的知識であったとの承認とみなされるべきではない。
【発明の概要】
【0006】
本開示の一態様によると、神経における神経活動を検出する方法であって、
第1の電極対からの第1の電気信号を受信することであって、第1の電極対が神経に沿って互いの近傍に位置する2つの第1の電極を含む、受信すること、
第2の電極対からの第2の電気信号を受信することであって、第2の電極対は、神経に沿って互いの近傍に位置する2つの第2の電極を含み、第2の電極対は、神経に沿って第1の電極対から離間している、受信すること、
相関データを取得するために、少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間を含む、第1及び第2の電気信号間の相関分析を適用すること、及び
相関データから、神経における神経活動を示す少なくとも1つの神経信号を検出することであって、神経信号は、少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間で第1及び第2の信号の間の増加する相関に対応する、検出すること、を含む、方法が提供される。
【0007】
いくつかの実施形態では、第1及び/または第2の電気信号は信号対雑音比(SNR)が負である場合がある。つまり、神経信号成分のパワーは、第1及び/または第2の電気信号のノイズ信号成分のパワーよりも小さい場合がある。人工的な刺激に応答して誘発された神経活動を記録するのに適した従来型の記録装置は、通常、信号の過度のノイズのために、進行中の自発的または自然な神経活動を記録することができない。開示されている方法は、別様であればバックグラウンドノイズに隠されているであろう神経信号を感知及び抽出する能力を提供し得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、第1及び第2の電極対のそれぞれは、神経の神経周膜(神経鞘)の外側に配置され得る。高い信号対雑音比は必ずしも必要ではないので、この方法は、神経周膜を破壊または貫通することを必要とせずに、自発的または自然な神経活動を検出することができる。したがって、本開示による方法は、低侵襲性であると見なすことができる。神経周膜の外側に配置された電極は、この方法を採用するデバイスの寿命を延ばし、長期的な植込みに対するそれらの適合性を高める可能性がある。
【0009】
遅延時間は、第1の電気信号と第2の電気信号の間での時間のオフセット、伝導遅延、または待ち時間として理解できる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間は、第1の電極対と第2の電極対との間の距離に基づいて事前に選択され得る。あるいは、またはさらに、神経の線維のタイプに基づいて、少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間を事前に選択することができる。遅延時間は、第1の電極対と第2の電極対との間の神経信号伝導時間と実質的に一致するように事前に選択され得る。例えば、電極対の間の所与の距離について、遅延時間は、対象の線維のタイプの予想される伝導速度に基づいて選択することができる。
【0010】
ゼロ以外の遅延時間の絶対値は、閾値より大きくなるように選択できる。閾値は、ゼロ以外の遅延時間で検出された信号を、ゼロの遅延時間で検出された信号と区別するのに十分であるように設定され得る。例えば、ゼロ以外の遅延時間の絶対値は、0.1ms、0.2ms、0.3msなどを超える場合がある。
【0011】
いくつかの実施形態では、相関分析は、単一のゼロ以外の遅延時間に適用され得る。他の実施形態では、相関分析は、複数のゼロ以外の遅延時間に適用することができる。複数のゼロ以外の遅延時間は、遅延時間の範囲に亘ることができる。例えば、複数のゼロ以外の遅延時間は、最大遅延時間と最小遅延時間との間で、増大させて設定することができる。複数のゼロ以外の遅延時間は、負及び正の符号の遅延時間を含み得る。
【0012】
この方法は、神経信号が検出される遅延時間の符号に基づいて、神経信号を求心性または遠心性として分類することをさらに含み得る。すなわち、神経における神経信号の進行方向は、信号が最初に到達する電極対に応じて、神経信号が正の遅延時間で検出されるか負の遅延時間で検出されるかによって示され得る。例えば、神経信号は、第2の電極対が正の遅延時間で検出される信号に至る前に、第1の電極対に到達し得る。次に、神経信号は、神経に沿った第1及び第2の電極の相対的な位置に応じて、求心性または遠心性として分類され得る。
【0013】
さらに、この方法は、神経信号が検出されるゼロ以外の遅延時間の大きさに基づいて、神経の線維のタイプを分類することを含み得る。例えば、第1及び第2の電極対との間の既知の距離について、ゼロ以外の遅延時間は、神経の伝導速度を示し得る。次に、伝導速度を使用して、神経線維の既知の特性に基づいて、神経線維のタイプを分類することができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、この方法は、相関データを取得するために、遅延時間ゼロの相関分析を適用することも含み得る。両方の電極で同時に受信される信号は、一般に、実質的にゼロの遅延時間での相関データの増加する相関に対応する。この方法は、相関データから、電気的活動を示す少なくとも1つの代替信号を検出することをさらに含み得、代替信号は実質的に遅延時間ゼロでの第1及び第2の信号の間の相関の増加に対応する。代替信号は、運動または刺激に対する誘発された神経反応を示し得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、神経信号は、少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間で、第1及び第2の信号の間の増加する相関の1つまたは複数の領域に対応し得る。同様に、いくつかの実施形態では、代替信号は、遅延時間ゼロで、第1及び第2の信号の間の増加する相関の1つまたは複数の領域に対応し得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間(神経信号に対応する)での相関データの増加する相関の1つまたは複数の領域が、第1及び第2の信号の間の相関の1つまたは複数のピークを含み得、ピークが少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間を中心とする。同様に、いくつかの実施形態では、遅延時間ゼロ(代替信号に対応する)での相関データの増加する相関の1つまたは複数の領域が、第1及び第2の信号の間の相関の1つまたは複数のピークを含み得、ピークが遅延時間ゼロを中心とする。
【0017】
いくつかの実施形態では、神経は末梢神経であり得る。他の実施形態では、神経は中枢神経系の神経であり得る。いくつかの実施形態では、神経は自律神経系の神経であり得る。自律神経の刺激は通常、意識する知覚を生み出さないため、自律神経系の神経活動を検出、監視及び/または記録できることは有利であり得る。他の実施形態では、神経は、体性神経系の神経、例えば、体性感覚神経の混合であり得る。いくつかの実施形態において、神経は有髄であり得る。他の実施形態では、神経は無髄であり得る。
【0018】
例として、神経は、骨盤神経、迷走神経、または坐骨神経であり得る。しかし、開示された方法は、これらの神経に限定されない。
【0019】
神経活動、特に進行中の自発的または自然な神経活動を検出または感知できることは、末梢神経の神経調節に有用である可能性がある。特に、進行中の自発的な神経活動を検出または感知できることは、電気化学デバイスの閉ループ制御に有用ないくつかの潜在的なバイオマーカーの検証を可能にする可能性がある。例えば、この方法は、炎症性腸疾患(IBD)における炎症の増加する求心性シグナル伝達などの神経活動の検出に有用であり得、任意選択で、治療学的な治療が、検出された神経活動に応答して開始または適合される。IBDは寛解/再発する状態であり、治療学的な治療が必要とされない期間が往々にしてある。現在開示されている方法を用いて迷走神経の求心性活動を監視することにより、患者がフレアの症状を経験する前に、フレア(すなわち、炎症の増加)に関連する求心性神経活動の増加を検出することが可能であり得る。そのような場合、求心性神経活動の検出された増加に直接応答して、治療学的な治療を開始または増加させることが可能である可能性がある(例えば、電気化学装置を使用した迷走神経の刺激による)。その後の求心性活動の継続的なモニタリングは、炎症の減少に関連する求心性活動の結果としての減少を検出し、治療学的な治療の中止または減少の兆候を提供し得る。検出された神経活動に応じた治療学的な治療の適応(例えば、開始、中止、増加または減少)は、患者が疾患の症状を経験することなく、進行中のIBDの閉ループ治療を可能にし得る。そのような閉ループ治療は、治療学的な治療が必要な場合にのみ適用されるか、または必要な程度にのみ適用されることを確実にし得る。これは、消費電力の削減及び/またはバッテリー寿命の改善、及びいずれかの目標外の影響または安全性の問題の最小化という点で、電気化学デバイスに対する潜在的な利点がある。
【0020】
他の例では、この方法は、例えば、膀胱プロテーゼの閉ループでの制御のために、膀胱体積求心性シグナル伝達などの神経活動の検出に有用であり得る。
【0021】
本開示の別の態様によれば、上記の方法を実行するように構成された処理装置が提供される。いくつかの実施形態では、処理装置は、少なくとも部分的に植込み可能であり得る。いくつかの実施形態では、処理装置は、全面的に植込み可能であり得る。
【0022】
任意の実施形態において、受信された第1及び第2の電気信号は、相関分析を適用する前に、増幅、フィルタリング、または他の方法で処理され得る。したがって、処理装置は、信号増幅器、信号フィルタ、及び/または他のタイプの信号プロセッサを備え得る。いくつかの実施形態では、処理装置は、第1及び第2の電気信号を受信するための少なくとも2つの記録入力部(またはチャネル)を備え得る。処理装置は、約10kHz以上のサンプルレート、例えば、少なくとも10kHz、20kHz、30kHz、40kHz、50kHz、またはそれを超えるものでのサンプルレートで、第1及び第2の電気信号を受信(及び任意選択で記録)するように構成され得る。一実施形態では、処理装置は、受信信号を増幅するように構成され得る。例えば、処理装置は、第1及び第2の電気信号に少なくとも100倍の利得を設けるように構成され得る。処理装置は、バンドパスフィルタ、例えば、少なくとも10~5kHzのバンドパスフィルタを設けるように構成され得る。
【0023】
本開示の別の態様によれば、処理装置に上記の方法を実行させるための命令を含む非一時的なコンピュータ可読記憶媒体が提供される。
【0024】
本開示の別の態様によれば、神経における神経活動を検出するシステムであって、
第1の電極対であって、神経に沿って互いの近傍に位置できる2つの第1の電極を含む、第1の電極対、及び
第2の電極対であって、神経に沿って互いに近傍に位置できる2つの第2の電極を含む、第2の電極対、
この場合、第2の電極対は神経に沿って第1の電極対から離間して構成される、ならびに、
処理装置であって、
第1の電極対から第1の電気信号を受信すること、
第2の電極対から第2の電気信号を受信すること、
相関データを取得するために、少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間を含む、第1及び第2の電気信号間の相関分析を適用すること、及び
相関データから、神経における神経活動を示す少なくとも1つの神経信号を検出することであって、神経信号は、事前に選択されたゼロ以外の遅延時間で第1及び第2の信号の間の増加する相関に対応する、検出すること、に対して構成される、処理装置を含む、システムが、提供される。
【0025】
第1及び第2の電極対の提供は、電気信号を監視または適用する目的であるかどうかにかかわらず、第3、第4、第5、またはさらにいっそうの電極対の提供を排除するものではない。
【0026】
いくつかの実施形態では、第1及び第2の電極対の少なくとも1つは、第1及び第2の電極対を神経と電気的にインターフェースするように神経に取り付けるように適合された電極取り付けデバイスに含まれ得る。第1及び第2の電極対は、実質的に固定された関係にあり得る。例えば、電極取り付けデバイスは、電極の相対的な位置及び向きを実質的に維持する支持体を備え得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、電極取り付けデバイスは、電極アレイを含み得、電極アレイは、第1の電極対及び第2の電極対を含む。この実施形態では、2つの第1の電極は、電極アレイに沿って互いに近傍に位置し得、2つの第2の電極は、電極アレイに沿って互いに近傍に位置し得る。第1の電極対は、電極アレイに沿って第2の電極対から離間され得る。例えば、第1及び第2の電極対は、PCT出願の全内容が参照により本明細書に組み込まれる、PCT出願番号PCT/AU2018/051240に開示されているような電極アレイにおいて、含まれ得る。
【0028】
2つの第1の電極は、距離a1だけ互いに離間され得、2つの第2の電極は、距離a2だけ互いに離間され得る。第1及び第2の電極対は、距離b1だけ互いに離間され得る。距離a1及びa2は、実質的に等しく、すなわちa1=a2であり得、またはそれらは異なる場合がある。一般に、距離b1は、距離a1及びa2よりも大きくてもよい。例えば、距離a1または距離a2と距離b1との間の比率は、1:1.5と1:4の間、1:1.5と1:3の間、または約1:2.5であってよい。別の例では、比率は約1:5またはそれより多いものであり得る。例えば、距離a1または距離a2と距離b1との間の比率は、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:11、約1:12、約1:13、約1:14、約1:15、約1:16、約1:17、約1:18、約1:19、約1:20、またはこれを上回るものであることができる。
【0029】
あるいは、またはさらに、距離b1は、神経活動の検出が望まれる神経の線維のタイプまたは特性に基づいて選択され得る。例として、既知の神経線維伝導速度(V、例えば、1m/s)に対して、距離b1は、増加する相関(または、いくつかの実施形態では、領域及び/または相関のピーク)を特定の待ち時間(L、例えば2ms)で、例えば、式b1=VL(例えば、2mm)を使用して求められるように、選択され得る。特定の待ち時間の大きさは、増加する相関が0msまたはその周辺に存在するバックグラウンドノイズと適切に区別できるように十分に大きくなるように選択でき、及び/または任意の信号の時間分散効果を最小限に抑えるのに十分小さいように選択できる。
【0030】
本明細書を通じて、単語「含む、備える(comprise)」、または「含む、備える(comprises)」もしくは「含む、備える(comprising)」などの変形は、記載した要素、整数もしくはステップ、または要素群、整数群もしくはステップ群を包含するが、いかなる他の要素、整数もしくはステップ、または要素群、整数群もしくはステップ群をも排除することを意味するものではないことが理解されよう。
【0031】
これより、本開示の実施形態が、図面を参照して、例としてのみ説明される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本開示の実施形態による、神経信号を検出する方法において実行されるステップのフローチャートを示す図である。
図2図1の方法で使用するための第1及び第2の電極対の実施形態を示す図である。
図3】電気信号をモデル化するため図1の方法の適用を示す、信号トレースと相関データを示す図である。
図4】膀胱の圧力(P)と、骨盤神経からの対応する第1(N1)及び第2(N2)の電気信号の記録を示す図である。
図5図4の第1及び第2の電気信号(N1とN2)の間に適用された相関分析の出力を、相関分析データから抽出された低速求心性(SA)、高速求心性(FA)、及び遠心性(E)の信号トレースと共に示す図である。
図6A】本開示の実施形態による、神経信号を検出するためのシステムのシステム図を示す図である。
図6B】本開示の実施形態による、神経信号を検出し、治療学的治療を適用するためのシステムのシステム図を示す図である。
図7】本開示の実施形態による電極アレイを示す図である。
図8】A及びBは、本開示の別の実施形態による電極アレイを示す図である。
図9】膀胱の圧力の記録(パネルA)、骨盤神経からの第1及び第2の電気信号間の相関分析の出力(パネルB)、及び1msの遅延時間での相関データから抽出された求心性神経信号トレース(パネルC)を示す図である。
図10】膀胱の圧力の記録(パネルA)、骨盤神経からの第1及び第2の電気信号間の相関分析の出力(パネルB)、及び1msの遅延時間での相関データから抽出された遠心性神経信号トレース(パネルC)を示す図である。
図11図10の膀胱の圧力の記録部分の拡大(パネルA)、図10の相関分析からの対応する部分(パネルB)、及び相関データから抽出された求心性(パネルC)と遠心性(パネルD)の神経信号を示す図である。
図12】膀胱の圧力の記録(パネルA)、骨盤神経からの第1及び第2の電気信号間の相関分析の出力(パネルB)、及び相関データから抽出された高速求心性及び遠心性神経信号トレース(パネルC及びD)を示す図である。
図13】ラットの坐骨神経からの第1及び第2の電気信号間の相関分析の出力に重ねられた、ラットの足首の角度の変化を表すトレースを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本開示の実施形態による、神経における神経活動を検出する方法は、図1のフローチャート100を参照して説明される。この方法は、第1の電気信号110及び第2の電気信号120を受信することを含む。受信した第1及び第2の電気信号110、120は、増幅、フィルタリング、または他の方法で処理することができる。第1及び第2の電気信号110、120は、それぞれの第1及び第2の電極対(例えば、図2に示されるような電極対210、220)から受信される。第1の電極対210は、神経に沿って互いの近傍に位置する2つの第1の電極211、212を含む。同様に、第2の電極対220は、神経に沿って互いの近傍に位置する2つの第2の電極221、222を含む。図2に示されるように、第2の電極対220は、神経に沿って第1の電極対210から離間されている。図2の実施形態では迷走神経が示されているが、開示された方法が他の神経に関して適用され得ることが理解される。
【0034】
再び図1のフローチャート100を参照すると、130で、相関分析が、第1の電気信号110と第2の電気信号120との間に適用されて、相関データが得られる。相関分析130の適用は、少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間を含む、1つまたは複数の遅延時間に対して実行される。遅延時間は、第1及び第2の電極対の間の距離及び信号の伝導速度の関数であり得る、第1及び第2の電気信号間の時間オフセット、伝導遅延または待ち時間として理解され得る。
【0035】
140で、神経の神経活動を示す少なくとも1つの神経信号が相関データから検出され、神経信号は、ゼロ以外の遅延時間での第1及び第2の電気信号間の相関の増加に対応する。
【0036】
図3は、信号データをモデル化するための方法の適用を示している。「C線維」求心性神経信号(Aff)、低速及び高速の遠心性神経信号(Eff)、筋電図の活動(EMG)からのノイズ信号、ランダムなバックグラウンドノイズ信号(Noise)を含むモデル信号トレースが生成された。Aff及びEff信号のスケールは、EMG及びNoise信号のスケールの10分の1である。モデルの第1及び第2の電気信号Rec1及びRec2は、Aff及びEff信号の複数のインスタンスと、適切な遅延を伴うEMG及びNoise信号を組み合わせて、電極対間の1mmの間隔をシミュレートすることによって生成された。理解できるように、EMG及び大規模な遠心性活動は、モデル電気信号Rec1及びRec2で明らかである。ただし、対象となる小規模な求心性及び遠心性神経信号は、EMG及びバックグラウンドノイズ信号によって圧倒され、Rec1またはRec2トレースのいずれでも容易には検出できない。
【0037】
この例では、図3の下部に示すように、相関分析は、開示された方法によれば、相関データを得るためにモデルの第1及び第2の電気信号Rec1とRec2との間に適用された。相関分析は、約-2~2msでゼロ以外の遅延時間(伝導遅延)の範囲で適用され、また遅延時間ゼロでもなされた。相関分析に使用されたソフトウェアはIgor Pro 8であり、使用された主な関数は「相関」であった。この関数は、次式を使用して線形相関を実行する:
【数1】
【0038】
相関データは、活動「ヒートマップ」の形式でグラフィカルに表示され、それにおいて暗い領域は、第1及び第2の電気信号と間の相関、及び特定の時間と伝導遅延(遅延時間)の組み合わせでのさらなる電力の増加を示す。「ヒートマップ」は、記録された信号データのブロックで相関を繰り返すことによって作成された。図3に示すように、求心性神経信号(Aff)、低速及び高速遠心性神経信号(Eff)、及び筋電図信号(EMG)は、それぞれ相関データで明らかである。
【0039】
各神経信号は、中央部分と隣接する側部の部分を有する暗色の帯域(または「ホットスポット」)によって示される、第1及び第2の信号の間の相関が増加した領域として、グラフ状の相関データに現れ得る。中央部分と側方部分は、特定の時間の値に対して、第1及び第2の電気信号間の相関関係にある3つのピークを表しているが、様々な遅延時間に対応する。信号のタイプは、帯域が中心にある遅延時間の符号に基づいて分類できる。例えば、図3を参照すると、求心性神経信号(Aff)は、1msの遅延時間(黒丸301で強調表示)を中心とする暗い帯域として、グラフ状の相関データで検出される。遅い遠心性信号は、-1msの遅延時間を中心とする暗い帯域としてグラフ状の相関データで検出される(点線の円302で強調表示)。線維のタイプとサイズは、帯域が中心に置かれる遅延時間の大きさに基づいて分類できる。例えば、高速遠心性活動は、約-0.1msのはるかに短い遅延時間(破線の円303で強調表示)を中心とする暗い帯域として、グラフ状の相関データで検出される。低速遠心性信号は、それぞれの信号が中心に置かれる遅延時間の大きさの違いによって、高速遠心性信号と区別することができる。
【0040】
実質的に0ms(すなわち、遅延時間ゼロ)を中心とする暗い帯域304として検出されたグラフ状の相関データの信号は、第1及び第2の電極対の両方で、実質的に同時に受信される信号である。そのような代替信号は、神経線維を上下に伝導する信号を表していない可能性がある。例えば、EMG活動(筋活動を示す)は、両方の電極対で実質的に同時に記録され、実質的に0msの遅延時間を中心とする暗い帯域として表示される。
【0041】
図4及び5を参照すると、別の例では、電極アレイが正常な成体ラットの骨盤神経に長期的に植込まれ、電極アレイはそれぞれ、骨盤神経に沿って互いに間隔を置いて配置された2つの電極対を含む。ラットは、膀胱内圧測定(膀胱の圧力の測定)及び膀胱の制御された充満を可能にするように計装された。覚醒での膀胱内圧測定セッションの間、差動記録(100xゲイン、10-10kHzバンドパスフィルタ、33kHzまたは40kHzのサンプリング)を使用して、骨盤神経から、自発的な膀胱排尿事象中、それぞれの電極対を介して、第1及び第2電気信号(N1及びN2)を受信した。
【0042】
図4のトレースPは、排尿事象における膀胱の圧力の膀胱内圧測定の記録を示している。膀胱の圧力の漸増が観察され、その後、最初に閉じていた膀胱括約筋による膀胱壁の収縮に起因する膀胱の圧力の急激な上昇、また最後に、膀胱排尿事象の結果としての膀胱の圧力の急速な低下が観察され得る。骨盤神経(N1及びN2)からの対応する第1及び第2の電気信号の記録には、圧力の初期の上昇中に正のSNRである信号が含まれている。しかし、対象の信号は負の信号対雑音比を有するので、対象の自律求心性及び遠心性神経信号は、記録された第1及び第2の電気信号N1及びN2から容易に検出できない。
【0043】
図5は、図4の第1の電気信号N1と及び第2の電気信号N2の間の相関分析を適用して得られた相関データのグラフ状の表示を示している。この例では、相関分析は、-2~2msで、ゼロ以外の遅延時間(伝導遅延)の範囲、及び遅延時間ゼロに適用された。図5のグラフでは、暗い部分はより大きな活動、または第1及び第2の信号の間の相関の増加を示している。検出された第1の神経信号は明白であり、-1msを中心とする相関のピークに対応し、黒丸501で示されている。第1の神経信号は、この特定の配置では、ピークが中心となる遅延時間の負の符号に基づいて、求心性神経として分類される。遅延時間(伝導遅延)の絶対的な大きさ(1ms)は、神経線維のタイプが小さい自律神経であることを示す(電極対間の既知の距離と信号の推定伝導速度に基づく)。同様に、第2の神経信号に対応する、+1msが中心の相関の第2のピークは、点線の楕円502によって示されている。第2の神経信号は、この特定の配置では、ピークが中心となる遅延時間の正の符号に基づいて、遠心性神経として分類される。遅延時間の絶対的な大きさ(1ms)は、電極対間の既知の距離に基づいて、神経線維のタイプが小さい自律神経であることを示す。矢印503で示される相関のピークに対応する第3の神経信号も、図3で明らかである。矢印503によって示されるピークは、第1及び第2の神経信号のピークよりも小さい大きさの負の遅延時間に集中しており、したがって、神経における高速求心性活動として分類することができる。個々の信号のトレースは相関データから抽出され、低速求心性(SA)、高速求心性(FA)、及び遠心性(E)信号のそれぞれのヒートマップの下に表される。信号の抽出は、関連する信号が検出された遅延時間に基づいて、相関データから適切な行を取得することによって、実行された。
【0044】
他の実施形態は、より狭い範囲またはより広い範囲の遅延時間にわたって相関分析を適用することができる。代替的または追加的に、例えば、対象の1つまたは複数の伝導速度の神経応答を分離するために、対象の単一の遅延時間(または対象の複数の離散した遅延時間)の第1及び第2の信号の間に、相関分析を適用することができる。
【0045】
この例では、この方法に従って第1及び第2の電気信号の間に相関分析を適用することで、別様であれば負の信号対雑音比のためにバックグラウンドノイズに隠れてしまう神経信号の検出が可能になった。さらに、この例では、本方法によるゼロ以外の遅延時間の相関分析の適用は、検出された神経信号を区別し、分類することを可能にした。
【0046】
図9は、上記の実験的な設定を使用して得られたデータの別の例を示している。これには、膀胱排尿事象中に神経に沿ったそれぞれの電極対から第1及び第2の電気信号記録が作成される。図9は、排尿事象における膀胱の圧力の膀胱内圧測定の記録(パネルA)、明るい色合いで示されたより強い相関の領域を伴った、2つの記録された信号間の相関分析から得た出力のグラフ状の表示(パネルB)、及び神経の求心性活動を示す、1msの伝導遅延(遅延時間)での相関データから抽出されたトレース(パネルC)を示す。膀胱の2回目の圧力上昇に対応する求心性活動の増加は、メインの圧力ピーク時のさらに大きな活動によって信号が圧倒される前に、観察できる。
【0047】
図10は、膀胱の圧力の膀胱内圧測定トレース(パネルA、1kHzのサンプルのレート)、相関データの対応するグラフ状の表示(パネルB、明るい色はより強い相関を示す)、及び0.1msの伝導遅延遠心性活動信号の相関データから抽出されたトレースを示している(パネルC)。周期的な変動は、圧力トレースで明らかである。圧力のこれらの変動は、遠心性活動トレースの変調と一致する。
【0048】
図11は、図10の圧力変動のかなりの詳細(パネルA)、相関分析ヒートマップからの対応する詳細(パネルB)、及び-0.105msの伝導遅延での遠心性活動を示す、相関ヒートマップから抽出されたトレース(パネルC)、及び0.366msの伝導遅延での求心性活動を示す相関ヒートマップから抽出されたトレース(パネルD)を示している。遠心性と求心性の両方のトレースは、周期的な圧力変化に一致する変調を示している。したがって、本開示による方法は、求心性及び遠心性の神経信号を同時に検出することを可能にし、その結果、求心性及び遠心性の活動の間の任意のパターンまたは関係を識別し得る。
【0049】
図12は、ラットの別の膀胱排尿事象中に得られたデータを示している。これには、排尿事象中の膀胱の圧力の膀胱内圧測定トレース(パネルA)、明るい色合いがより強い相関を示す、相関データのグラフ状の表示(パネルB)、及び相関データから抽出されたそれぞれの速い求心性及び遠心性の信号トレース(パネルC及びD)が含まれる。これらのトレースから、典型的な膀胱排尿事象中の様々な神経信号の相対的なタイミングを観察することができる。
【0050】
図13を参照すると、別の例で、電極アレイがラットの坐骨神経に埋め込まれた。ラットの足首を操作して、2Hzの周期的な伸展運動で関節の角度を変更した(白いトレース、図13の上部)。相関分析が、2つの電極対で受信された信号に対して実行された。この分析のグラフ状の表示は、図13の下部に示されており、これにおいて明るい色合いは、より強い相関関係を示している。実線の楕円で示された領域にて見られるように、周波数において、足首の伸展運動の周期に対応する求心性神経活動の周期が、検出された。神経線維の伝導速度は約48mm/msで計算され、電極間の距離と伝導遅延(ゼロ以外の遅延時間)に基づいており、検出された神経信号を伝導する神経線維がタイプA-アルファであったことを示している。
【0051】
本開示の実施形態による神経における神経活動を検出するためのシステムは、図6Aのシステムの図200によって示されている。このシステムは、第1の電極対210、第2の電極対220、及び処理装置300を含む。
【0052】
処理装置300は、例えば、図1を参照して、または他の方法で、上に開示された方法を実行するように構成され得る。
【0053】
図7は、本開示の実施形態による、第1及び第2の表面電極対210’、220’を含む電極のアレイ400を示している。第1の表面電極対210’は、神経に沿って互いに近接して配置可能な2つの第1の電極211’、212’を含み、第2の電極対220’は、神経に沿って互いに近接して配置可能な2つの第2の電極221’、222’を含む。第2の電極対220’は、神経に沿って第1の電極対210’から離間するように構成される。
【0054】
電極対210’、220’は、アレイの電極取り付けデバイス410に埋め込まれるか、さもなければ配置され、これは、第1及び第2の電極対210’、220’を神経と電気的にインターフェースするように適合される。電極取り付けデバイス410は、互いに対する電極対210’、220’の相対的な配向及び位置を実質的に維持する支持体411を備える。したがって、この実施形態では、電極211’、212’、221’、222’の間の間隔は、実質的に事前に画定され、固定されている。
【0055】
代替の実施形態が図8A及び8Bに示されている。この実施形態では、電極アレイ500は、神経での神経活動を検出するための電極対を含むリード501を含む。リード501は、3つの別個の分岐に分割され、各分岐は、別個の電極取り付けデバイス510、520、530を備える。各電極取り付けデバイス510、520、530は、それぞれの電極対210’’、220’’、230’’を備える。特に、第1の電極取り付けデバイス510は、第1の電極対210’’を含み、第1の電極対は、電極アレイの長手方向Lに沿って互いの近傍に位置する2つの第1の電極211’’、212’’を含み、第2の電極取り付けデバイス520は、第2の電極対220’’を含み、第2の電極対は、電極アレイの長手方向Lに互いの近傍に位置する2つの第2の電極221’’、222’’を含む。この実施形態では、任意選択で、第3の電極対230’’を含む第3の電極取り付けデバイス530が設けられる。第3の電極対は、例えば、電極アレイの縦軸Lにそれぞれ近傍に位置した2つの第3の電極231’’、232’’を含み得、電気信号を検出、記録、監視または適用する目的のためであり得る。
【0056】
他の実施形態は、様々な目的のために設けられる4つ、5つ、またはそれ以上の電極対を有し得ることが理解されるであろう。さらに、第1及び第2の電極対は、アレイ上で互いに隣接している必要はなく、1つまたは複数の他の電極対によって分離され得る。
【0057】
図8Bに示されるように、第1、第2、及び第3の取り付けデバイス510、520、530は、電極アレイ500の長手方向Lで互いに間隔を置いて配置されている。したがって、第1、第2及び第3の電極対210’’、220’’は、電極アレイの長手方向Lにおいて互いに対応して間隔を置いて配置されている。第1の電極211’’、212’’は、距離a1だけ互いに間隔を置いており、第2の電極221’’222’’は、距離a2だけ互いに間隔を置いており、距離a1及びa2は、電極アレイの長手方向にあり、一般に、それぞれの電極の中心から中心へ至る。図8Bにも示されているように、第1及び第2の電極対210’’、220’’は、距離b1だけ互いに間隔を置いており、距離b1は、電極アレイの長手方向であり、一般に、近傍の電極対の最も近い電極の中心から中心までである。図示の実施形態では、各電極対210’’、220’’内の電極間の距離は、実質的に同じである。つまり、a1=a2である。この実施形態では、第1及び第2の電極対210’’、220’’間の距離b1は、各電極対210’’、220’’内の電極間の距離a1及びa2よりも大きい。距離b1は、距離a1及び距離a2よりも大きい。距離a1及びa2と、距離b1との比率は1:1.5と1:3、より具体的には、この実施形態で約1:2.5の間である。代替の実施形態では、第1及び第2の電極対の間の距離a1及びa2は等しくなくてもよい。場合によっては、そのような電極の非対称の配置は、解剖学的及び/または生理学的状態という観点から望ましい場合がある。
【0058】
例えば、上記の例でラットの骨盤神経の活動を検出する場合、電極対は互いに約2mmの距離b1で神経に沿って離間され、その結果、低速求心性神経信号と低速遠心性神経信号がおよそ+/-1msの遅延時間で検出可能になる。しかし、他の実施形態では(例えば、有髄神経線維に沿って伝わる信号を検出する場合)、電極対間の信号の伝導ははるかに速くなり得る。結果として、短い距離にわたる遅延時間は非常に短くなり得、その結果、神経信号は、0msの遅延時間及びその付近に存在するバックグラウンドノイズによって不明瞭になる。そのような実施形態では、電極対間の距離b1は、それに応じて増加され得、それにより、遅延時間を増加させ、その結果、神経信号は、0msの遅延時間に存在するバックグラウンドノイズからより明確に区別できる。例えば、ラットの坐骨神経で高速求心性活動を検出する場合(図13に示すように)、電極対は、互いに約19mmの距離b1で神経に沿って間隔を置いて配置された。逆に、いくつかの実施形態では、電極対間の距離b1は、時間的な分散の効果を回避するために減少され得る。電極対間の距離b1は、予想される伝導速度に基づいて選択され、時間的な分散を最小限に抑えながら、所望の遅延時間を設けることができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、例えば上記の方法及び装置による神経活動の検出または感知、特に進行中の自発的または自然の神経活動は、末梢神経の神経調節と併せて、例えば電気化学的なデバイスの閉ループ制御の一部として使用され得る。例えば、図6Bを参照すると、装置は、図6Aを参照して上記の装置に従って概ね構成され得るが、検出された神経活動に基づいて、神経に治療学的な電気治療を適用するように構成された治療電極230をさらに含み得る。したがって、処理装置300は、検出された神経療法に基づいて、神経活動を検出し、治療法を制御することができる。図6Bでは、治療電極230は、第1及び第2の電極対210、220から分離されているものとして示され、第3の電極対の形態であり得るか、そうでなければ、他の実施形態で、第1及び/または第2の電極対が、治療電極として選択的に動作可能であり得る。
【0060】
図6Bを参照して記載された装置は、炎症性腸疾患(IBD)における炎症の増加の求心性シグナル伝達などの神経活動の検出に有用であり得、この場合、治療学的な治療は、検出された神経活動に応答して開始または適合される。IBDは寛解/再発する状態であり、治療学的な治療が必要とされない期間が往々にしてある。現在の方法で迷走神経の求心性活動を監視することにより、患者がフレアの症状を経験する前に、フレア(すなわち、炎症の増加)に関連する求心性神経活動の増加を検出することが可能であり得る。そのような場合、求心性神経活動の検出された増加に直接応答して、治療学的な治療を開始または増加させることが可能である可能性がある(例えば、電気化学装置を使用した迷走神経の刺激による)。その後の求心性活動の継続的なモニタリングは、炎症の減少に関連する求心性活動の結果としての減少を検出し、治療学的な治療の中止または減少の兆候を提供し得る。検出された神経活動に応じた治療学的な治療の適応(例えば、開始、中止、増加または減少)は、患者が疾患の症状を経験することなく、進行中のIBDの閉ループ治療を可能にし得る。そのような閉ループ治療は、治療学的な治療が必要な場合にのみ適用されるか、または必要な程度にのみ適用されることを確実にし得る。これは、消費電力の削減及び/またはバッテリー寿命の改善、及びいずれかの目標外の影響または安全性の問題の最小化という点で、電気化学デバイスに潜在的な利点がある。
【0061】
他の例では、図6Bの装置は、例えば、膀胱プロテーゼの閉ループでの制御のために、膀胱体積求心性シグナル伝達などの神経活動の検出に有用であり得る。
【0062】
本開示の実施形態による方法及び装置は、処理装置に特定のステップを実行させるための命令を含む非一時的なコンピュータ可読メモリ媒体を使用することができる。
【0063】
一般に、本開示で使用される処理装置は、1つまたは複数のプロセッサ及び/またはデータストレージデバイスを含み得る。1つまたは複数のプロセッサはそれぞれ1つまたは複数の処理モジュールを含むことができ、1つまたは複数のストレージデバイスはそれぞれ1つまたは複数の記憶要素を含むことができる。モジュール及び記憶要素は、例えば、単一のハンドヘルドデバイスなどの1つの場所に配置することも、複数の場所に分散させてインターネットなどの通信ネットワークによって相互接続することも可能である。
【0064】
処理モジュールは、コンピュータプログラムまたはプログラム命令を含むプログラムコードによって実装することができる。コンピュータプログラム命令は、ソースコード、オブジェクトコード、マシンコード、またはプロセッサに説明された方法を実行させるように動作可能な他の任意の格納されたデータを含むことができる。コンピュータプログラムは、コンパイル言語またはインタプリタ言語を含むいずれかの形式のプログラミング言語で記述されてもよく、スタンドアロンプログラム若しくはモジュール、コンポーネント、サブルーチン、またはコンピューティング環境における使用に適切な他のユニットとして含む、いずれかの形式において展開されてもよい。データストレージデバイスは、非一時的なコンピュータ可読メモリまたはその他を含み得る。
【0065】
本開示の広範な一般的範囲から逸脱することなく、多数の変形及び/または修正が、上記の実施形態に対して行われ得ることは、当業者に理解されよう。従って、本実施形態は、全ての点で例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
【符号の説明】
【0066】
110 第1の電気信号
120 第2の電気信号
130 相関分析
210 第1の電極対
211 第1の電極
212 第1の電極
220 第2の電極対
221 第2の電極
222 第2の電極
230 治療電極
300 処理装置
304 暗い帯域
400 電極のアレイ
410 デバイス
411 支持体
500 電極アレイ
501 リード
510 デバイス
520 デバイス
530 デバイス
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】