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特表2022-535958インビボでセロトニンを産生するように設計された高度な微生物叢治療薬
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】インビボでセロトニンを産生するように設計された高度な微生物叢治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20220803BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20220803BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20220803BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20220803BHJP
   A61K 35/742 20150101ALI20220803BHJP
   A61K 35/741 20150101ALI20220803BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 5/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220803BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220803BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20220803BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20220803BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A61K35/747
A61K35/745
A61K35/744
A61K35/742
A61K35/741
A61P25/00
A61P1/00
A61P5/00
A61P3/00
A61P1/16
A61P3/06
A61P3/10
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/28
A61P25/20
A61P25/06
A61P29/00
A61P37/02
A61P1/04
A61P35/00
C12N1/21 ZNA
C12N1/20 E
C12N15/53
C12N15/60
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573417
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(85)【翻訳文提出日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2020066383
(87)【国際公開番号】W WO2020249784
(87)【国際公開日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】62/861,007
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】19186680.5
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507023887
【氏名又は名称】ダンマークス テクニスク ユニバーシテット
【氏名又は名称原語表記】DANMARKS TEKNISKE UNIVERSITET
【住所又は居所原語表記】Anker Engelunds Vej 101,DK-2800 Kongens Lyngby,Denmark
(71)【出願人】
【識別番号】521540656
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ イン ザ シティー オブ ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ソマー,モーテン オット アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ボンジャーズ,マレイケ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ハリス ヘ
(72)【発明者】
【氏名】クシマノ,フランク
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA21X
4B065AA23X
4B065AA26X
4B065AA30X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BC03
4B065CA05
4B065CA16
4B065CA18
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC31
4C087BC33
4C087BC53
4C087BC55
4C087BC56
4C087BC59
4C087BC61
4C087BC64
4C087BC68
4C087BC70
4C087BC75
4C087BC77
4C087MA52
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA05
4C087ZA08
4C087ZA12
4C087ZA66
4C087ZA68
4C087ZA75
4C087ZB07
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZC21
4C087ZC33
4C087ZC35
(57)【要約】
本発明は、医薬としての使用のための組成物であって、それが由来した非組換え微生物と比較して増加した量の、5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)、5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT)およびトリプタミン(TRM)のうちの1つ以上を産生することができる組換え微生物の細胞を含む、組成物を提供する。組成物は、哺乳動物における中枢神経系(CNS)、腸管神経系(ENS)、胃腸(GI)および代謝のTRM、5-HTPもしくは5-HT関連障害の予防および/または治療に使用を見出し、それを必要とする哺乳動物に経口投与され得る。さらに、メラトニンを産生することができる組換え微生物の細胞を含む組成物が、鬱病、認知症、がんおよび睡眠障害の治療用などの医薬としての使用のために提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬としての使用のための組成物であって、前記組成物が、組換え微生物の細胞を含み、前記微生物が、以下から選択される1つ以上のタンパク質をコードする1つ以上の組換え核酸分子を含む、組成物:
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)および
(c)トリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)。
【請求項2】
前記微生物が、以下を発現することができる遺伝子を欠いている、請求項1に記載の使用のための組成物:
i.Trpオペロンリプレッサータンパク質、および/または
ii.トリプトファナーゼ(EC 4.1.99.1)。
【請求項3】
前記微生物が、以下をコードする組換え核酸分子を含み、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、およびトリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、または
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)およびトリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)、かつ
以下をコードする組換え核酸分子をさらに含み:
(c)セロトニンアセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.87)および
(d)アセチルセロトニンO-メチルトランスフェラーゼ(EC 2.1.1.4)、
前記細胞が、メラトニンを産生することができる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記微生物が、変異体GTPシクロヒドロラーゼI(EC 3.5.4.16)をコードする核酸分子を含み、前記変異体が、非変異体GCH1、好ましくは、配列番号2に対して少なくとも約80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する変異体と比較して少なくとも2倍の、前記トリプトファン5-ヒドロキシラーゼの増加したヒドロキシル化活性を提供し、かつT198I、T198S、F214S、V179A、M99IおよびL200Pから選択される変異を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記微生物が、以下をコードする核酸分子を含み、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、および
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、
トリプトファン5-ヒドロキシラーゼおよびトリプトファンデカルボキシラーゼをコードする前記核酸分子が、それぞれ第1のリボソーム結合部位および第2のリボソーム結合部位に機能的に連結され、前記第1のリボソーム結合部位の翻訳開始強度が、前記第2のリボソーム結合部位よりも少なくとも10倍大きい、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記微生物が、以下をコードする核酸分子を含み、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、および
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、
トリプトファン5-ヒドロキシラーゼおよびトリプトファンデカルボキシラーゼをコードする前記核酸分子が、それぞれ第1のリボソーム結合部位および第2のリボソーム結合部位に機能的に連結され、前記第1のリボソーム結合部位の前記翻訳開始強度が、前記第2のリボソーム結合部位よりも少なくとも2倍低い、請求項1または2に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記微生物が、Escherichia、Bacteroides、Clostridium、Feacalibacterium、Eubacterium、Ruminococcus、Peptococcus、Peptostreptococcus、Lactobacillus、Lactococcus、Bifidobacterium、Enterococcus、Streptococcus、Pediococcus、Leuconostoc、StaphylococcusおよびBacillusの中から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
動物における、中枢神経系(CNS)、腸管神経系(ENS)、胃腸(GI)のTRM、5-HTP、5-HT、もしくはメラトニン関連障害、ホルモンの不均衡、代謝性疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、糖尿病の予防および/または治療に使用するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記中枢神経系の前記障害が、不安および鬱病に関連する行動、記憶、認知、および精神障害、全般性不安障害、恐怖症障害、社交不安障害、パニック障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、慢性ストレス障害、分離および状況不安、加齢性記憶低下、認知症および睡眠、空間記憶形成、警戒心、集中力、学習および認知における障害、自閉症および片頭痛からなる群から選択され、前記胃腸の前記障害が、免疫関連および炎症関連の病気、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群(IBS)、セリアック病、憩室症、および結腸直腸がんからなる群から選択される、請求項8に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
前記組成物が、経口投与を必要とする哺乳動物への経口投与用である、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
以下から選択される1つ以上のタンパク質をコードする1つ以上の組換え核酸分子または導入遺伝子を含む、組換え細菌細胞であって:
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、および
(c)トリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.-.-)
前記細菌が、以下を発現することができる遺伝子を欠く、組換え細菌細胞:
i.trpオペロンリプレッサータンパク質および
ii.トリプトファナーゼ(EC:4.1.99.1)。
【請求項12】
前記細菌細胞が、Escherichia、Bacteroides、Clostridium、Feacalibacterium、Eubacterium、Ruminococcus、Peptococcus、Peptostreptococcus、Lactobacillus、Lactococcus、Bifidobacterium、Enterococcus、Streptococcus、Pediococcus、Leuconostoc、StaphylococcusおよびBacillusの中から選択される、請求項11に記載の組換え細菌細胞。
【請求項13】
前記トリプトファン5-ヒドロキシラーゼのアミノ酸配列が、配列番号6または12に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記トリプトファンデカルボキシラーゼの前記アミノ酸配列が、配列番号18に対して少なくとも80%の配列同一性を有する、請求項11または12に記載の組換え細菌細胞。
【請求項14】
前記細菌が、以下をコードする核酸分子を含み、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、および
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、
トリプトファン5-ヒドロキシラーゼおよびトリプトファンデカルボキシラーゼをコードする前記核酸分子が、それぞれ第1のリボソーム結合部位および第2のリボソーム結合部位に機能的に連結され、
前記第1のリボソーム結合部位の翻訳開始強度が、前記第2のリボソーム結合部位よりも少なくとも10倍大きい、請求項11~13のいずれか一項に記載の組換え細菌細胞。
【請求項15】
前記細菌が、以下をコードする核酸分子を含み、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、および
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、
トリプトファン5-ヒドロキシラーゼおよびトリプトファンデカルボキシラーゼをコードする前記核酸分子が、それぞれ第1のリボソーム結合部位および第2のリボソーム結合部位に機能的に連結され、
前記第1のリボソーム結合部位の前記翻訳開始強度が、前記第2のリボソーム結合部位よりも少なくとも2倍低い、請求項11~14のいずれか一項に記載の組換え細菌細胞。
【請求項16】
以下をコードする組換え核酸分子を含み、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、およびトリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、または
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)およびトリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)、かつ
以下をコードする組換え核酸分子をさらに含み:
(c)セロトニンアセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.87)および
(d)アセチルセロトニンO-メチルトランスフェラーゼ(EC 2.1.1.4)、前記細胞が、メラトニンを産生することができる、請求項11に記載の組換え細菌細胞。
【請求項17】
前記細菌が、変異体GTPシクロヒドロラーゼI(EC 3.5.4.16)をコードする核酸配列を含み、前記変異体が、非変異体GCH1と比較して少なくとも2倍の、前記トリプトファン5-ヒドロキシラーゼの増加したヒドロキシル化活性を提供する、請求項11~16のいずれか一項に記載の組換え細菌細胞。
【請求項18】
前記変異体GTPシクロヒドロラーゼI(EC 3.5.4.16)のアミノ酸配列が、配列番号2に対して少なくとも約80%の配列同一性を有し、かつT198I、T198S、F214S、V179A、M99IおよびL200Pから選択される置換を含む、請求項17に記載の組換え細菌細胞。
【請求項19】
前記細菌細胞が、1つ以上の臨床的に使用される抗生物質に対して抗生物質耐性ではない、請求項11~18のいずれか一項に記載の組換え細菌細胞。
【請求項20】
対象において、TRM、5-HTP、5-HT、もしくはメラトニン関連障害を治療および/または予防する方法であって、TRM、5-HTP、5-HT、もしくはメラトニン関連障害と診断された前記対象に、1つ以上の
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、または
(c)トリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.-.-)を発現するように操作された組換え細菌を投与することを含む、方法。
【請求項21】
前記微生物が、以下を発現することができる遺伝子を欠いている、請求項20に記載の方法:
a.Trpオペロンリプレッサータンパク質として機能するタンパク質、および/または
b.トリプトファナーゼ(EC 4.1.99.1)。
【請求項22】
前記微生物が、以下をコードする組換え核酸分子を含み、
a.トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、およびトリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、または
b.トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)およびトリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)、かつ以下をコードする組換え核酸分子をさらに含み、
c.セロトニンアセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.87)、および
d.アセチルセロトニンO-メチルトランスフェラーゼ(EC 2.1.1.4)、
前記細胞が、メラトニンを産生することができる、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記微生物が、変異体GTPシクロヒドロラーゼI(EC 3.5.4.16)をコードする核酸分子を含み、前記変異体が、非変異体GCH1と比較して少なくとも2倍の、前記トリプトファン5-ヒドロキシラーゼの増加したヒドロキシル化活性を提供する、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記変異体GTPシクロヒドロラーゼI(EC 3.5.4.16)、前記変異体GTPシクロヒドロラーゼIのアミノ酸配列が、配列番号2に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつT198I、T198S、F214S、V179A、M99IおよびL200Pから選択される変異を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記微生物が、以下をコードする核酸分子を含み、
a.トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、および
b.トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、
トリプトファン5-ヒドロキシラーゼおよびトリプトファンデカルボキシラーゼをコードする前記核酸分子が、それぞれ第1のリボソーム結合部位および第2のリボソーム結合部位に機能的に連結され、前記第1のリボソーム結合部位の翻訳開始強度が、前記第2のリボソーム結合部位よりも少なくとも10倍大きい、請求項20~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記微生物が、以下をコードする核酸分子を含み、
a.トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、および
b.トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、
トリプトファン5-ヒドロキシラーゼおよびトリプトファンデカルボキシラーゼをコードする前記核酸分子が、それぞれ第1のリボソーム結合部位および第2のリボソーム結合部位に機能的に連結され、前記第1のリボソーム結合部位の前記翻訳開始強度が、前記第2のリボソーム結合部位よりも少なくとも2倍低い、請求項20~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記微生物が、Escherichia、Bacteroides、Clostridium、Feacalibacterium、Eubacterium、Ruminococcus、Peptococcus、Peptostreptococcus、Lactobacillus、Lactococcus、Bifidobacterium、Enterococcus、Streptococcus、Pediococcus、Leuconostoc、StaphylococcusおよびBacillusの中から選択される、請求項20~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記対象が、ヒトである、請求項20~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
TRM、5-HTP、5-HT、またはメラトニン関連障害が、中枢神経系(CNS)、腸管神経系(ENS)、胃腸(GI)の障害、ホルモンの不均衡、代謝性疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、または糖尿病である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記中枢神経系の前記障害が、不安および鬱病に関連する行動、記憶、認知、および精神障害、全般性不安障害、恐怖症障害、社交不安障害、パニック障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、慢性ストレス障害、分離および状況不安、加齢性記憶低下、認知症および睡眠、空間記憶形成、警戒心、集中力、学習および認知における障害、自閉症および片頭痛からなる群から選択され、前記胃腸の前記障害が、免疫関連および炎症関連の病気;炎症性腸疾患、過敏性腸症候群(IBS)、セリアック病、憩室症、および結腸直腸がんからなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬としての使用のための組成物であって、それが由来した非組換え微生物と比較して増加した量の、5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)、5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT)およびトリプタミン(TRM)のうちの1つ以上を産生することができる組換え微生物の細胞を含む、組成物を提供する。組成物は、哺乳動物における、中枢神経系(CNS)、腸管神経系(ENS)、胃腸(GI)および代謝のTRM、5-HTPもしくは5-HT関連障害の予防および/または治療への使用を見出し、それを必要とする哺乳動物に経口投与され得る。さらに、メラトニンを産生することができる組換え微生物の細胞を含む組成物が、医薬としての使用のために提供される。
【背景技術】
【0002】
生体モノアミンセロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン、5-HT)は、全身の神経伝達および他の多くの機能にとって重要である。体内のセロトニンの最大95%が、胃腸管で産生される。図1に示すように、セロトニンは、最初にトリプトファンヒドロキシラーゼ(TPH)によって5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)中間体を形成し、次にトリプトファンデカルボキシラーゼ(TDC)によって、2段階の反応でトリプトファン(TRP)から誘導される。ヒトでは、トリプトファンヒドロキシラーゼは、5-HT生合成の律速段階であり、TPH1およびTPH2の2つのアイソフォームで作製される。TPH2は全身のニューロンで産生されるが、TPH1は主に腸内の神経内分泌細胞で発現する。
【0003】
胃腸管では、セロトニンは、腸の運動性、細胞の代謝回転、および恒常性を調節する。脳では、セロトニンレベルの不均衡は不安および鬱病に関連している。治療には、不安および鬱病に関連する広範な疾患を患っている患者においてセロトニンを高めるためのストラテジーが含まれる。
【0004】
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、鬱病の治療に広く処方されている。それらは、シナプス前細胞への再吸収(再取り込み)を制限し、シナプス後受容体に結合するために利用可能なシナプス間隙のセロトニンのレベルを増加させることによって、神経伝達物質セロトニンの細胞外レベルを増加させると考えられている。患者のサブグループは、SSRI治療抵抗性(TRD)の症状を示す。哺乳動物モデルで現在臨床試験中のTRD患者の治療は、SSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)およびセロトニン前駆体である5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)の併用療法に基づく。これは、投与された5-HTPの急速な取り込みにより、5-HTレベルの突然の増加につながるという望ましくない結果を有する。この問題に対処するための努力は、現在、5-HTPの徐放形態を用いる併用療法に焦点を合わせている。
【0005】
腸内細菌は、胃腸(GI)の健康および恒常性に重要な役割を果たす。腸内微生物は、腸の恒常性を調節するだけでなく、腸脳軸に沿った腸管神経系(ENS)および中枢神経系(CNS)による双方向のシグナル伝達経路にも関与すると考えられている。腸内の常在微生物相は、それら自体が5-HTの顕著な供給を提供するよりもむしろ、腸の5-HT含有量および5-HT血漿レベルを維持するために宿主粘膜内分泌細胞にシグナルを送ることが知られている。より最近では、動物モデルで特定の細菌を経口摂取すると、宿主の生理機能および行動に変化をもたらすことが示され、このことは、腸脳連関におけるこれらの微生物の役割を示唆する。
【0006】
脳の海馬、線条体、皮質、および歯状回では、セロトニンベースの生合成経路、セロトニンベースの受容体、およびセロトニンベースのシグナル伝達経路が、記憶、認知/加齢関連の空間学習、および記憶形成に関係している。胃腸管からのセロトニン作動性求心性ニューロンは、迷走神経を介して迷走神経の背側運動核および孤束神経の核を変化させるため、腸の5-HTは、ニューロンの記憶、認知、および学習に関与する。
【0007】
哺乳動物の恒常性および不十分な5-HTレベルから生じる病状におけるTRMおよび5-HTの重要な役割を考慮して、患者、特に不安関連疾患、およびTRDを患っている患者の5-HTレベルを上昇させるための新しい治療法が必要とされている。
【0008】
シグナル伝達分子であるメラトニンは、主に夜間に松果体のホルモンとして放出される、多面発現性の高い分子である。メラトニン分泌は加齢とともに減少するが、減少したメラトニンレベルは、いくつかの種類の認知症、一部の気分障害、重篤な疼痛、がん、および2型糖尿病などの様々な疾患でも観察される。メラトニンの機能不全は、振幅の偏差、位相、および概日リズムの結合にしばしば関連する。したがって、治療を必要とする患者のメラトニンのレベルを上昇させる治療が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
第1の実施形態において、本発明は、医薬としての使用のための組成物であって、該組成物が、組換え微生物の細胞を含み、該微生物が、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、および
(c)トリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)から選択される1つ以上のタンパク質をコードする1つ以上の組換え核酸分子を含む、組成物を提供する。
【0010】
したがって、細胞は、それが由来した非組換え微生物の細胞と比較して、増加した量の5-ヒドロキシトリプトファン、5-ヒドロキシトリプタミンおよびトリプタミンのうちの1つ以上を産生することができる。
【0011】
第2の実施形態において、本発明は、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、および
(c)トリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)から選択される1つ以上のタンパク質をコードする1つ以上の組換え核酸分子または導入遺伝子を含む、組換え細菌細胞を提供し、
該微生物は、trpオペロンリプレッサータンパク質およびトリプトファナーゼ(EC:4.1.99.1)を発現することができる遺伝子を欠く。したがって、細胞は、それが由来した非組換え微生物の細胞と比較して、増加した量の5-ヒドロキシトリプトファン、5-ヒドロキシトリプタミンおよびトリプタミンのうちの1つ以上を産生することができる。
【0012】
好ましくは、組換え細菌細胞が、Escherichia、Bacteroides、Clostridium、Feacalibacterium、Eubacterium、Ruminococcus、Peptococcus、Peptostreptococcus、Lactobacillus、Lactococcus、Bifidobacterium、Enterococcus、Streptococcus、Pediococcus、Leuconostoc、StaphylococcusおよびBacillusの中から選択される。
【0013】
第3の実施形態において、本発明は、対象において、TRM、5-HTP、5-HT、もしくはメラトニン関連障害を治療および/または予防する方法であって、TRM、5-HTP、5-HT、もしくはメラトニン関連障害と診断された対象に、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、または
(c)トリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)のうち1つ以上を発現するように操作された組換え細菌を投与することを含む、方法を提供する。
【0014】
したがって、細胞は、それが由来する非組換え微生物の細胞と比較して、増加した量の5-ヒドロキシトリプトファン、5-ヒドロキシトリプタミンおよびトリプタミンのうち1つ以上を産生することができる。
【0015】
TRM、5-HTP、5-HT、もしくはメラトニン関連障害は、哺乳動物における中枢神経系(CNS)、腸管神経系(ENS)、胃腸(GI)または代謝の障害であり得る。
【0016】
第4の実施形態において、本発明は、1つ以上の組換え核酸分子または導入遺伝子を含む組換え微生物であって、該微生物が、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、およびトリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、または
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)およびトリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)
をコードする組換え核酸分子を含み、かつ
(c)セロトニンアセチルトランスフェラーゼ(AANAT)EC 2.3.1.87および
(d)アセチルセロトニンO-メチルトランスフェラーゼ(ASMT)(EC 2.1.1.4)をコードする組換え核酸分子を含み、
細胞が、メラトニンを産生することができる、組換え微生物を提供する。したがって、細胞は、それが由来した非組換え微生物の細胞と比較して、増加した量のメラトニンを産生することができる。
【0017】
第5の実施形態において、本発明は、医薬としての使用のための組成物であって、該組成物が、第4の実施形態によるメラトニンを産生することができる組換え微生物の細胞を含み、以下のメラトニン関連障害:概日リズム障害、不眠症、時差ぼけ、自閉症などのメラトニン欠乏またはメラトニン関連障害、認知症、気分障害、重篤な疼痛、がん、および2型糖尿病を患っている患者の経口送達に好適な、組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
発明の説明
図面の簡単な説明
図1】5-HTおよびメラトニン生合成経路の触媒作用を示すカートゥーンである。TrpR(トリプトファンオペロンリプレッサータンパク質)、TnaA(トリプトファナーゼ)、FolE(変異体GTPシクロヒドロラーゼ1(T198I)をコードする)TRP(トリプトファン)、TRM(トリプタミン)、5-HTP(5-ヒドロキシトリプトファン)、5-HT(セロトニン)、TPH(トリプトファンヒドロキシラーゼ)、TDC(トリプトファンデカルボキシラーゼ)、T5H(トリプタミン5-ヒドロキシラーゼ)、セロトニンアセチルトランスフェラーゼ(AANAT)およびアセチルセロトニンO-メチルトランスフェラーゼ(ASMT)。
図2】[A]ヒトTPH1およびイネTDC(H1R)をコードするTPHおよびTDC遺伝子、ヒトTHP2(H2)およびイネTDC(H2R)、ヒトTHP2(H2)およびCataranthus roseus TDC(H2C)、ヒトTHP2(H2)およびモルモットTDC(H2G)、マウスTPH1(M1)およびイネTDC(M1R)、ならびにマウスTHP2(M2)およびイネTDC(M2R)をそれぞれ共発現するように操作された6つのE.coli Nissle株の細胞の培養物に由来する培地で測定された、TRM(トリプタミン)、5-HTP(5-ヒドロキシトリプトファン)、5-HT(セロトニン)の力価を示すヒストグラムである。[B]ヒトTHP2(H2)およびイネTDC(H2R)をコードするTPHおよびTDC遺伝子、ヒトTHP2(H2)およびCataranthus roseus TDC(H2C)、ヒトTHP2(H2)およびモルモットTDC(H2G)をそれぞれ共発現するように操作された3つのE.coli Nissle株の細胞の5-HTP供給培養物に由来する培地で測定されたTRM(トリプタミン)、5-HTP(5-ヒドロキシトリプトファン)、5-HT(セロトニン)の力価を示すヒストグラムである。
図3】基質を添加した増殖培地でTPHおよびTDCを共発現するE.coli Nissle株(EcN△2+pUC-H2R)の培養後の培地で測定された、TRM(トリプタミン)、5-HTP(5-ヒドロキシトリプトファン)および5-HT(セロトニン)の、10~100mgトリプトファン/Lの範囲での力価を示すヒストグラムである。
図4】[A]OD600nmでの単位として測定された、4つのE.coli Nissle株の培養物の細胞密度を示すグラフである。株は、EcN△2+pUC-H2R、EcN△3+pUC-H2R、EcN△2+pMUT-H2Rであり、各々ヒトTPH2(H2)およびイネTDC(R)を共発現する、EcN +pMUTは空のプラスミドである。EcN△2は、欠失ΔtrpR、ΔtnaAを有し、EcN△3は、欠失ΔtrpR、ΔtnaA、ΔinfAを有する。[B]OD600nmの単位として測定された、ヒトTPH2(H2)またはマウスTPH1(M1)をイネTDC(R)とともに共発現する9つのE.coli Nissle株の培養物の細胞密度、および空のプラスミドを含む対照株を示すグラフである。[C]抗生物質を選択せずに100世代の増殖期間にわたって測定された、pUCベースまたはpMUTベースのセロトニン産生プラスミドを含むE.coli Nissle株の培養で検出されたカナマイシン耐性コロニーの割合を示すグラフである。各時点で、細胞を、LB寒天プレート+/-カナマイシンにプレーティングし、コロニーの比率を計算した(n=6)。[D]pUC(pUC-H2R)またはpMUT(pUC-H2R)プラスミドにクローン化されたヒトTPH2(H2)およびイネTDC(R)を共発現するE.coli Nissle株の培養後に培地中で測定された5-HT(セロトニン)の0-100細胞世代についての力価を示すヒストグラムである。
図5】[A]pUCまたはpMUCプラスミドでヒトTPH2およびイネTDC(H2R)、またはマウスTPH1およびイネTDC(M1R)オペロンを共発現するか、または空のpMUTプラスミドを保持するE.coli Nissle株N、NΔ2および「oN」培養後の培地で測定した、TRM(トリプタミン)および5-HT(セロトニン)の力価を示すヒストグラムである。[B]マウスTPH1(oN10=oN+pMUTM1)、イネTDC(oN11=oN+pMUTR)、マウスTPH1およびイネTDC(oN14=oN+pMUTM1R)を発現するかまたは空のプラスミド(oN9=pMUT)を保持するE.coli Nissle「oN」株培養後の培地で測定した、TRM(トリプタミン)、5-HTP(ヒドロキシトリプトファン)および5-HT(セロトニン)の力価を示すヒストグラムである。示される全てのデータは、n=3の生物学的複製からの標準偏差のエラーバー付きの平均値である。[C]および[D]左パネル:広範な翻訳強度を有するRBS配列に機能的に連結されたプラスミドpMUT-H2RおよびpMUT-M1Rを含むE.coli Nissle株の培養後の培地で測定された、TRP(トリプトファン)、TRM(トリプタミン)、5-HTP(5-ヒドロキシトリプトファン)および5-HT(セロトニン)の力価を示すヒストグラムである。右パネル:ある範囲の翻訳強度を有するRBS配列に機能的に連結されたプラスミドpMUT-H2Rを含むE.coli Nissle株について測定された培養培地中の5-HT、5-HTPおよびトリプタミンの収量を示す2次元図であり、x軸は、TPH遺伝子のRBS強度に対応し、y軸は、TDCのRBS強度に対応し、取り消し線の付いたボックスは、試験されていない組み合わせを示す。[E]E.coli Nissleゲノムへの遺伝子改変および[B]で試験されたプラスミドの遺伝子構造を示すカートゥーンである。[F]各々がヒトTPH2pMUTプラスミドを含むE.coli Nissle株NΔ2(=folE WT)またはoN(=folE(T1981I))の培養後に培地で測定された5-HTPの力価を示すヒストグラムである。
図6】[A]pUCプラスミドにクローン化された異なる翻訳強度のRBS配列に機能的に連結されたヒトTPH2およびイネTDC(H2R)遺伝子を各々共発現するE.coli Nissle株NΔ2または株oNの培養後に培養培地で測定された、5-HT(セロトニン)およびTRM(トリプタミン)の力価を示すヒストグラムである。[B]各々ヒトTPH2またはマウスTPH1遺伝子を、pMUTプラスミドにクローン化された異なる翻訳強度のRBS配列に機能的に連結されたイネTDC(H2R)遺伝子と組み合わせて発現するE.coli Nissle株NΔ2または株oNの培養後に培養培地で測定した5-HT(セロトニン)およびTRM(トリプタミン)の力価を示すヒストグラムである。[C]腸内微生物叢の総数のパーセントとして測定された5-HT産生細菌の存在量に対する、マウス腸内の理論的5-HT濃度を示すグラフである。腸内の5-HTの理論的生理学的レベルは、示されるように、5~30mg/Lの範囲にある。治療有効範囲内で5-HTを産生するために必要な5-HT産生細菌の相対的な存在量を、0.1~10mg/LOD630 hのインビボ5-HT産生率(P)を有する細菌についてプロットする。
図7】[A]E.coli株oN9、oN11、oN14および対照(PBS)の最後の強制経口投与の24時間後のマウスに由来する中結腸の薄片の画像であり、ここで、切片はDAPIおよび抗GFP抗体で染色された。[B]いずれかのE.coli株oN9、oN11、またはoN14、または対照(PBS)による最後の強制経口投与の24時間後のマウス由来の十二指腸、空腸回盲部、盲腸、近位結腸、遠位結腸、および糞便中のカナマイシン耐性GFP陽性細菌濃度を示すグラフである。LB寒天プレートおよびカナマイシン上にプレートしたサンプル、および糞便1グラム当たりのコロニー形成単位(CFU)として計数測定されたコロニー(n=6)。y=0で示されたデータポイントは、10CFU/グラムの検出レベルを下回った。
図8】E.coli株oN9、oN11、oN14、または対照(PBS)のいずれかを用いた最後の強制経口投与の24時間後のマウスに由来する、血清中のmg/L、洗浄した均質化E.coli組織中のバイオマス中のmg/g、糞便物質中のバイオマスmg/g(n=7-8))として測定した[A]トリプトファンおよび[B]5-HT濃度を示すヒストグラムである。示される全てのp値は、多重比較検定のためのテューキーの事後補正を用いる一元配置分散分析からのものである。示されない他の全ての比較は、p>0.05で有意ではなかった。データは、平均の標準誤差としてのエラーバー付きの平均値である。[C]E.coli株oN9、oN11、oN14および対照(PBS)を最後に強制経口投与してから24時間後のマウスに由来する中結腸の薄切片の画像。ここで、切片は、DAPIおよび抗セロトニン抗体で染色されており、スケールバーは、100μmである。
図9】[A]E.coli株oN9、oN11、またはoN14、または対照(PBS)の最後の強制経口投与の24時間後のマウス由来の結腸組織で、ΔΔCτ(n=6)により相対的mRNAとして測定された、MUC2、TPH1、TPH2、SERT遺伝子発現レベルの相対的発現を示すヒストグラムである。データは、平均の標準誤差としてのエラーバー付きの平均値である。[B]E.coli株oN9、oN11、oN14および対照(PBS)による最後の強制経口投与の24時間後のマウスに由来する中結腸の薄片の画像。ここで、切片は、DAPIおよび抗Muc-2抗体で染色され、スケールバーは、400μmである。矢印は、oN14中でのMUC2シグナルの増加を示している。
図10】E.coli株oN9、oN11、oN14、または対照(PBS)のいずれかによる最後の強制経口投与の24時間後のマウス由来結腸組織におけるRT-PCR(n=6)による結腸内の5-HT受容体HTR1B HTR1D、HTR3、HTR4、およびHTR7の相対的発現を示すヒストグラム[(a)-(e)]。対応して処理されたマウスコホートにおける6%カーマインレッド溶液(方法)(n=7-8)を用いた口から肛門までの総胃腸通過時間を示すヒストグラム(f)。示される全てのp値は、多重比較検定のためのテューキーの事後補正を用いる一元配置分散分析からのものである。示されない他の全ての比較は、p>0.05で有意ではなかった。データは、平均の標準誤差としてのエラーバー付きの平均値である。
図11】(a)6分間の強制水泳試験(FST)(n=9-10)の最後の4分間にマウスが不動で滞在した時間、(b)10分間のオープンフィールド試験(OFT)中に産生された糞便ペレットの数(排泄(fecal boli)の数)(n=7-10)、(c)10分間のOFT中にマウスが移動した平均総距離(n=7-10)、(d)OFT中に内側の40cm×40cmゾーンまたは外側の10cmリングの両方で滞在した時間(n=7-10)、(e)E.coli株oN9、oN11、oN14、または対照(PBS)のいずれかを強制経口投与した後の、各マウスコホートからの1匹のマウスの代表的な追跡パターン、を示すヒストグラムである。示される全てのp値は、多重比較検定のためのテューキーの事後補正を用いる一元配置分散分析からのものである。示されない他の全ての比較は、p>0.05で有意ではなかった。データは、平均の標準誤差としてのエラーバー付きの平均値である。
図12】(a)10分間のオープンフィールド試験(OFT)で産生された排泄の数を示すヒストグラム(n=7-10)、(b)OFT中に40cm×40cmの内側ゾーンでマウスが滞在した時間(n=7-10)、(c)10分間のOFT中に内側の40cm×40cmゾーンでマウスが移動した平均距離(n=7-10)、(d)10分間のOFT中の40cm×40cmの内側ゾーンへのマウスの侵入数(n=7-10)、(e)10分間のOFT中にマウスが移動した平均総距離(n=7-10)、(f)6分間の強制水泳試験(FST)の最後の4分間にマウスが不動で滞在した時間(n=9-10)、強制経口投与の21日後の各マウスコホートについて測定した場合:PBS/IP:生理食塩水(陰性対照)、強制経口投与:PBS/IP:フルオキセチン(SSRI陽性比較対照薬)、強制経口投与:E.coli株oN14/IP:生理食塩水(oN14陽性比較対照薬)、および強制経口投与:E.coli株oN14/IP:フルオキセチン(陽性組み合わせ比較)。示される全てのp値は、多重比較検定のためのテューキーの事後補正を使用した一元配置分散分析からのものである。示されない他の全ての比較は、p>0.05で有意ではなかった。データは、平均の標準誤差としてのエラーバー付きの平均値である。
図13】E.coli株oN10またはTPH発現を欠くE.coli株(EcN-対照)のいずれかを強制経口投与した後のマウスにおける、末梢血漿サンプル中の(A)5-HT濃度および(B)トリプトファン濃度、尿サンプル中のC)5-HT濃度およびD)5-HTP濃度を示すヒストグラム(n=8、血漿5-HTの両側t検定によるp<0.001)。
図14】S.cerevisiae(pSc-1~pSc-3)におけるセロトニン経路の発現のためのプラスミドの構造を示すカートゥーン。RTDC=トリプトファンデカルボキシラーゼ遺伝子(イネ)、ck-TDC=トリプトファンデカルボキシラーゼ遺伝子(Candidatus Koribacter versatilis Ellin345)、TPH=トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ1(マウス)。
図15】(A)いずれかのイネ(Sc-1およびSc-2)由来のまたはCandidatus Koribacter versatilis Ellin345(Sc-3)由来のマウスTPH1およびTDC遺伝子を発現するプラスミドを用いてまたは用いずにS.cerevisiaeを培養した後に培養培地中で測定された5-HT(セロトニン)の力価を示すヒストグラムである。(B)いずれかのイネ(oN14)由来またはCandidatus Koribacter versatilisEllin345(M1ck)由来のマウスTPH1およびTDC遺伝子を共発現するE.coli Nissle株の培養後に培養培地中で測定された5-HT(セロトニン)およびTRM(トリプタミン)の力価を示すヒストグラムである。(C)OD600nmでの単位として測定された4つのE.coliNissle株の培養物の細胞密度を示すグラフであり、oN対照はpMh-emptyを含み、oN14はpMUT14-5HTを含み、M1R(trc)=trcプロモーターから発現されたマウスTPH1およびイネTDC、M1ck(trc)=trcプロモーターから発現されたマウスTPH1およびck-TDC[配列番号112]である。
図16】B.subtilis(pBS-M1Rf)でのセロトニン経路の発現のためのプラスミドの構造を示すカートゥーンである。R-TDC=トリプトファンデカルボキシラーゼ遺伝子(イネ)、TPH=トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ1遺伝子(マウス)、FolE=変異体GTPシクロヒドロラーゼI遺伝子(GCH1)。
【0019】
略語、用語および定義:
「それが由来した非組換え微生物」とは、組換え核酸分子を含まない微生物を意味する。
【0020】
「増加した量を産生する」とは、組換え核酸分子を含まない非組換え生物と比較して意味する。例えば、特許請求の範囲の組換え酵素を発現する組換え微生物細胞は、特許請求の範囲中の酵素についての核酸分子を含まない微生物細胞と比較される。図1による生合成経路で酵素を発現するコードされた核酸の発現の結果として、酵素をコードする組換え核酸を有する細胞は、増加した量の5-ヒドロキシトリプトファン、5-ヒドロキシトリプタミン、およびトリプタミンのうちの1つ以上を産生するであろう。
【0021】
gi番号:(genInfo識別子)は、データベースソースに関係なく特定の配列を識別する独自の整数であり、NCBIによって、DDBJ/EMBL/GenBank由来のヌクレオチド配列、SWISS-PROT、PIRおよび他の多くのもの由来のタンパク質配列を含む、Entrezに処理される全ての配列に割り当てられる。
【0022】
アミノ酸配列同一性:本明細書で使用される「配列同一性」という用語は、実質的に等しい長さの2つのアミノ酸配列間の相同性の程度の定量的尺度を示す。比較する2つの配列は、ギャップの挿入、またはタンパク質配列の末端でのトランケーションによって、可能な限り最良の適合を与えるように整列させる必要がある。配列同一性は、((Nref-Ndif)100)/(Nref)として計算され得、式中、Ndifは、2つの配列の整列したときの同一でない残基の総数であり、Nrefは一方の配列の残基の数である。配列同一性の計算は、好ましくは、BLASTプログラム、例えば、BLASTPプログラム(Pearson W.RおよびD.J.Lipman(1988))(www.ncbi.nlm.nih.gov/cgi-bin/BLAST)を使用して自動化される。マルチプルアラインメントは、http://www2.ebi.ac.uk/clustalw/で入手可能な、Thompson J.,et al 1994によって説明されるデフォルトパラメーターを使用し、シーケンスアラインメントメソッドClustalWを使用して実行される。
【0023】
好ましくは、その比較ポリペプチドと比較した、ポリペプチド中のアミノ酸残基のうちの1つ以上の置換、挿入、付加または欠失の数は制限され、すなわち、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以下の置換、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以下の挿入、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以下の付加、および1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以下の欠失である。好ましくは、置換は保存的アミノ酸置換であり、グループ1:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、グループ2:セリン、システイン、セレノシステイン、スレオニン、メチオニン、グループ3:プロリン、グループ4:フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、グループ5:アスパラギン酸、グルタメート、アスパラギン、グルタミンのメンバー内の交換に限定される。
【0024】
機能性タンパク質をコードする遺伝子を欠く:機能性タンパク質(例えば、トリプトファンリプレッサーまたはトリプトファナーゼ)を発現することができる遺伝子を欠く微生物は、それぞれの遺伝子を欠くか、または遺伝子idが改変される(例えば、不活性化されている)ので、機能性タンパク質を発現することができない微生物である。一連の遺伝子改変は、微生物細胞のゲノムからの遺伝子の欠失(ノックアウト)、その同族の調節配列(例えば、プロモーター)の欠失、遺伝子によってコードされる機能的ポリペプチドの発現の喪失をもたらす少なくとも1つのヌクレオチドの置換または付加を含む、遺伝子の不活性化に好適である。コードされたポリペプチドが酵素である場合、遺伝子改変は、微生物細胞におけるそれぞれのポリペプチドの検出可能な酵素活性の喪失をもたらす。
【0025】
ゲノム:細胞または生物に存在する遺伝物質である。該ゲノムは、その細胞または生物を構築および維持するために必要な全ての情報を含み、細胞または生物内に存在する染色体およびプラスミドの両方において遺伝物質を含む。
【0026】
変異体GTPシクロヒドロラーゼI(EC 3.5.4.16):本明細書では変異型GCH1と略され、5-ヒドロキシトリプトファン収量で測定されるように、非変異型GCH1と比較して、少なくとも2倍(例えば、少なくとも3倍、または4倍、または5倍、6倍、または、7倍、または、8倍、または、9倍、または10倍)のトリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)の増加したヒドロキシル化活性をもたらす変異体GCH1として理解されるべきである。非変異体GCH1は、変異体が由来した親酵素であり得、それにより、変異体に見られる変異が増加した活性をもたらす。
【0027】
ネイティブ遺伝子:微生物細胞ゲノム内の内因性遺伝子で、宿主微生物と相同である。
【0028】
RBS:リボソーム結合部位は、mRNA転写産物の開始コドンの上流にあるヌクレオチドの配列であり、タンパク質翻訳の開始時にリボソームの動員に関与する。
【0029】
リボソーム結合部位(RBS)カリキュレーター:細菌中の翻訳開始率(TIR)を予測または制御する方法を提供する。特定のコード配列の翻訳を制御するために使用される場合、RBSカリキュレーターは、定義された翻訳開始率(したがって、タンパク質発現強度)をもたらす合成DNA配列を生成する。任意のプロモーター配列(転写強度を制御する)について、この転写物から産生されるタンパク質の量を調節するために、多くの異なるRBS強度を設計することができる(Salis at al.,2009)。
【0030】
RBS強度スケールおよび単位:出力値は、発現強度の尺度として蛍光タンパク質の存在量を使用して実験的に検証された任意の単位を有する線形スケール上の1~1000000の範囲内にある(Salis at al.,2009)。特定の強度の設計された配列は独自のものではない。すなわち、異なるヌクレオチド配列が、同じRBS強度を有するRBSをコードし得る。さらに、RBS強度は常にコンテキスト依存性であるため、定義された強度の設計された配列は、計算されたコーディング配列に対してのみ有効である。RBS強度を定義する最小ヌクレオチド配列は、コード配列の開始コドン(ATG)の上流に35塩基対および下流に50塩基対である。
【0031】
導入遺伝子:ある生物から別の生物に自然に、または多くの遺伝子工学技術のうちのいずれかによって移されている遺伝子または遺伝物質。レシピエントに移される導入遺伝子は、同じ種の他の個体からのものでも、無関係の種からのものでもあり得る。
【発明を実施するための形態】
【0032】
I:第1の態様において、本発明は、医薬としての使用のための組成物であって、該組成物が、組換え微生物の細胞を含み、該微生物が、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、および
(c)トリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)から選択される1つ以上のタンパク質をコードする1つ以上の導入遺伝子または組換え核酸分子を含む、組成物を提供する。
したがって、該微生物の細胞は、それが由来した非組換え微生物の細胞と比較して増加した量の、5-ヒドロキシトリプトファン(5-HT)、5-ヒドロキシトリプタミン(5-HTP)およびトリプタミン(TRM)のうちの1つ以上を産生することができる。
【0033】
そのさらなる態様において、該1つ以上の組換え核酸分子は、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、
(c)トリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)、
(d)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)およびトリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、ならびに
(e)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)およびトリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)からなる群から選択されるタンパク質をコードする。
【0034】
そのさらなる態様において、該組成物は、哺乳動物において、中枢神経系(CNS)、腸管神経系(ENS)、胃腸(GI)のTRM、5-HTPまたは5-HT関連障害、ホルモン不均衡、代謝性疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、糖尿病を予防および/または治療する際の治療薬として使用するためのものである。
【0035】
より具体的には、本発明の組成物によって治療されるCNSのTRM、5-HTPまたは5-HTホメオスタシスには、不安および鬱病に関連する行動、ならびに記憶障害、認知障害、および精神障害、特に、全般性不安障害、恐怖症障害、社交不安障害、パニック障害、強迫性障害、外傷後ストレス障害、慢性ストレス障害、分離および状況不安、加齢性記憶低下、および空間記憶形成、覚醒の障害、集中力、学習と認知、自閉症、片頭痛および免疫関連障害が挙げられる。本発明の組成物によって治療されるGIのTRMまたは5-HT関連療法には、運動障害、メタボリックシンドローム、肥満、体重制御、炎症関連疾患、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群(IBS)、セリアック病、憩室症、および結腸直腸がんが挙げられる。
【0036】
別の態様では、本発明は、組換え微生物を含む医薬としての使用のための組成物であって、微生物が、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、およびトリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、または
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)およびトリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)、をコードする1つ以上の導入遺伝子または組換え核酸分子の両方、
さらに、
(c)セロトニンアセチルトランスフェラーゼ(AANAT)EC 2.3.1.87および
(d)アセチルセロトニンO-メチルトランスフェラーゼ(ASMT)(EC 2.1.1.4)、をコードする導入遺伝子または組換え核酸分子を含み、
細胞が、メラトニンを産生することができる、組成物を提供する。したがって、細胞は、それが由来した非組換え微生物の細胞と比較して、増加した量でメラトニンを産生することができる。
【0037】
そのさらなる態様において、本発明は、医薬としての使用のための組成物であって、該組成物が、メラトニンを産生することができる組換え微生物の細胞を含み、以下のメラトニン関連障害:概日リズム障害、不眠症、時差ぼけ、自閉症などのメラトニン欠乏またはメラトニン関連障害、認知症、気分障害、重篤な疼痛、がん、および2型糖尿病を患っている患者の経口送達に好適な、組成物を提供する。
【0038】
そのさらなる態様において、該組成物は、経口投与を必要とする哺乳動物への経口投与用である。
【0039】
そのさらなる態様において、該組成物中の微生物は、生きている通性嫌気性腸内細菌または酵母(Ianiro G et al.,2014)、好ましくは、哺乳動物の腸の1つ以上の領域で生き残るおよび/またはコロニー形成する能力により特徴付けられる共生またはプロバイオティクス株である。例えば、細菌は、Escherichia、Bacteroides、Clostridium、Feacalibacterium、Eubacterium、Ruminococcus、Peptococcus、Peptostreptococcus、Lactobacillus、Lactococcus、Bifidobacterium、Enterococcus、Streptococcus、Pediococcus、Leuconostoc、StaphylococcusおよびBacillusから選択されるものである。細菌の好適な種には、Escherichia coli(例えば、Nissle株)、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus casei、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus rhamnosus、Lactococcus lactis、Bifidobacterium longumおよびBifidobacterium adolescentisが挙げられる。さらに、該組成物中の好適な微生物は、Li et al.,2014およびZou et al.,2019(その教示は参照により組み込まれる)によって同定された微生物種から選択することができる。
【0040】
そのさらなる態様において、該組成物中の微生物は、トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(TPH)(EC 1.14.16.4)をコードする核酸配列を含み、これは、C5位置でトリプトファンをヒドロキシル化することによる、L-トリプトファン+テトラヒドロビオプテリン+O(2)=>5-ヒドロキシ-L-トリプトファン+4a-ヒドロキシテトラヒドロビオプテリンの変換を触媒する(図1)。5-ヒドロキシ-L-トリプトファン収量のアッセイおよび定量化は、1.1.2および1.1.3にそれぞれ記載されている。哺乳動物への経口投与に続いて、該組成物中の微生物は、5-HTPを産生および分泌するなど、哺乳動物の腸内でTPH酵素を発現することができる(図2A)。本発明の微生物で発現される場合、トリプトファンヒドロキシラーゼの両方のアイソフォーム、TPH1およびTPH2は、5-HTP、およびEC 4.1.1.28を有するTDCと共発現する場合の5-HTを産生するのに好適である(図2A)。しかしながら、好ましい実施形態では、哺乳動物の胃腸管に投与するための、組成物中の微生物において発現されるTPH酵素はTPH1であるが、これは、腸の低酸素環境およびTPH1のTPH2と比較してより高い酸素結合親和性のためである。
【0041】
該組成物中の微生物は、追加的または代替的に、5-ヒドロキシ-L-トリプトファン=>5-ヒドロキシトリプタミン+COの変換を触媒する、トリプトファンデカルボキシラーゼ(TDC)(EC 4.1.1.28)をコードする核酸分子を含み得る(図1)。5-ヒドロキシトリプタミン収量のアッセイおよび定量化は、1.1.2および1.1.3に記載される。TPH酵およびTDC酵素の両方を発現することができる微生物の細胞を含む組成物は、哺乳動物の腸で5-HTを産生および分泌することができる(図2A)。対照的に、TDC酵素を発現することができる微生物の細胞を含む組成物は、哺乳動物の腸でTRMを産生および分泌することができる(図1、5B)。微生物の5HT生産性は、細胞内で発現するTPH酵素およびTDC酵素の選択された組み合わせによって調節され得る(例1)。したがって、いくつかの微生物において、発現される酵素の組み合わせは、(a)そのアミノ酸配列が配列番号6または12に対して少なくとも80%の配列同一性を有するトリプトファンデカルボキシラーゼであって、該トリプトファンデカルボキシラーゼのアミノ酸配列が、配列番号18に対して少なくとも80%の配列同一性を有する。
【0042】
さらなる態様において、該組成物中の微生物は、トリプタミン5-ヒドロキシラーゼをコードする組換え核酸分子または導入遺伝子を含み、これは、O2+還元[NADPH-ヘムプロテインレダクターゼ]+トリプタミン=>H++H2O+酸化[NADPH-ヘムプロテインレダクターゼ]+セロトニンの変換を触媒する(図1)。トリプタミン収量のアッセイおよび定量化は、1.1.2および1.1.3に記載される。好ましくは、該組成物中の微生物は、TDCをコードする核酸配列をさらに含む。哺乳動物への経口投与に続いて、該組成物中の微生物は、5-HTを産生および分泌するなど、哺乳動物の腸内でTPHおよびT5H酵素を発現することができる(図1)。
【0043】
さらなる態様では、該組成物中の微生物は、TPHおよびTDC、またはTDCおよびT5Hのいずれかをコードする核酸分子または導入遺伝子、ならびに以下の酵素
-セロトニンアセチルトランスフェラーゼ(AANAT)EC 2.3.1.87(これは、アセチルCoAおよびセロトニンのCoAおよびN-アセチルセロトニンへの変換を触媒する)、および
-アセチルセロトニンO-メチルトランスフェラーゼ(ASMT)(EC 2.1.1.4)(これは、L-トリプトファンからのメラトニンの産生における最後の反応、N-アセチル-セロトニンおよびS-アデノシル-L-メチオニン(SAM)のメラトニンおよびS-アデノシル-L-ホモシステイン(SAH)への変換を触媒する)を含む。次に、SAHは、S-アデノシル-L-メチオニンサイクルがネイティブ(すなわち、外因的に添加)でありかつ構成的に発現される微生物細胞、例えば、E.coli(図1)中で、S-アデノシル-L-メチオニンサイクルを介してSAMに再利用され得る。
【0044】
さらなる態様において、微生物は、TPH、TDC、T5H、AANATおよびASMT酵素を含む、該5-HTまたはメラトニン経路酵素をコードする異種核酸分子の導入によって遺伝的に改変され、ここで、異種核酸分子は各々、構成的または誘導性プロモーターなどのプロモーターに同族的に連結されている。該酵素をコードする異種核酸分子は、共通の同族プロモーターに連結されたオペロン内にクローン化され得る。異種核酸分子は、微生物に導入された自己複製エピソームにクローン化され得るか、または微生物の染色体にクローン化され得る。エピソームは、微生物の天然プラスミドまたは異種プラスミドであり得る。好ましくは、該プラスミドは、別の微生物細胞への形質導入を促進する遺伝的要素を欠くか、または、プラスミドは、該微生物細胞の生存に必須のタンパク質をコードする遺伝子(すなわち、実施例3に記載の必須遺伝子)を含む。
【0045】
そのさらなる態様において、微生物は、機能的なTrpオペロンリプレッサータンパク質、および/または機能的なトリプトファナーゼ(EC:4.1.99.1)を発現することができる遺伝子を欠くという点で、さらに遺伝的に改変される(図1)。機能的なTrpオペロンリプレッサータンパク質を発現することができない微生物は、L-トリプトファンと複合体を形成しかつtrpオペロンのオペレーター領域(例えば、5’-ACTAGT-’3’)に結合するために必要なリプレッサータンパク質を欠くので、トリプトファン生合成経路の転写の開始を防ぐことはできない。機能的なトリプトファナーゼ(EC 4.1.99.1)を発現することができない微生物は、反応L-トリプトファン+H(2)O<=>インドール+ピルビン酸+NH(3)を触媒することができない。機能的なTrpオペロンリプレッサータンパク質および機能的なトリプトファナーゼ(EC 4.1.99.1)を発現することができる遺伝子を欠く本発明の微生物は、トリプトファン経路への強化されたフラックスのために、強化されたレベルの5-HTおよびTRM(実施例2、4および図3、6A)を産生する。
【0046】
そのさらなる態様において、微生物は、変異体GTPシクロヒドロラーゼI EC 3.5.4.16(GCHI)をコードする遺伝子を含むようにさらに遺伝子改変され、変異体は、5HTP収量で測定して、ネイティブ非変異体GCH1(例えば、親GCH1)と比較して少なくとも2倍、または3倍、または4倍、または5倍、6倍、または、7倍または、8倍または、9倍または、10倍増加した該TPHのヒドロキシル化活性を提供する。GCH1は、TPH合成に必要とされる、GTPからのテトラヒドロビオプテリン補因子の再生を触媒する(図1)。trpRおよびtnaA遺伝子の両方を欠く変異体GCH1酵素を発現する本発明の微生物は、5HTP合成への増強されたフラックスのために、増加した量の5-HTおよびTRM(実施例4、図5A、6A)を産生する。
【0047】
そのさらなる態様において、微生物は、(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)および(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC:4.1.1.28)をコードする組換え核酸配列を含み、TRM産生を減少させながら、産生される5-HTの量をさらに増加させるなど、5-HT経路のTPHおよびTDC酵素の発現レベルを調節するようにさらに遺伝子改変される。例として、TPHおよびTDCの発現は、それらのそれぞれの核酸コード配列(すなわち遺伝子)の各々に機能的に連結されたRBSによって独立して調節される。実施例4(図5C、D、図6A)に示すように、TPH遺伝子のRBSがTDC遺伝子のRBS(翻訳開始の相対強度として測定)を超える強度を有する場合、5-HT収量は増加し、TRMレベルは減少する。trpRおよびtnaA遺伝子を欠く本発明の微生物の5-HT生産性は、TPH遺伝子転写物の翻訳速度がTDC遺伝子転写物の翻訳速度を超える場合、それらのそれぞれの機能的に連結されたRBSのおかげで相乗的に増加する(図6A、B)。
【0048】
本発明による組成物は、動物、特にヒト、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、およびヒツジからなる群から選択される哺乳動物、ならびに家禽(例えば、ニワトリ)のための医薬としての使用するためのものである。一実施形態では、組成物は、妊娠中または授乳中の女性のための医薬としての使用のためのものである。
【0049】
哺乳動物におけるTRM、5-HTP-、または中枢神経系(CNS)のHT関連障害、腸管神経系(ENS)、胃腸(GI)および代謝またはメラトニン関連障害治療などの治療用途において、本発明による組成物は、疾患およびその合併症の症状を少なくとも部分的に治癒または阻止するのに十分な量で投与するためのものである。これを達成するのに十分な量は、「治療上有効な用量」として定義される。この目的に有効な量は、疾患の重症度、患者の体重および一般的な状態など、当業者に既知の多くの要因に依存するであろう。
【0050】
同様に、予防的用途では、本発明の組成物は、特定の疾患に感受性があるか、そうでなければ特定の疾患のリスクがある対象に、疾患を発症するリスクを少なくとも部分的に低減するのに十分な量で投与するためのものである。そのような量は「予防的実効用量」と定義される。ここでも、正確な量は、患者の健康状態および体重などの患者に特有の多くの要因に依存する。
【0051】
本発明の微生物は、純粋な形態として提供され得るか、またはマトリックスに組み込まれ得る。そのようなマトリックスは、胃腸管(胃の酸性状態を含む)を通過する間に微生物を有利に保護し、微生物の生細胞が腸に到達することを可能にし得る。このような保護マトリックスは、糖(マルトデキストリンなど)、タンパク質または脂肪成分を含み得る。一実施形態では、保護マトリックスは、植物油を含むか、または植物油である。微生物は、任意の好適な方法に従って培養され得、例えば、凍結乾燥または噴霧乾燥による栄養組成物へのカプセル化または添加のために調製され得る。あるいは、食品に添加するのに好適な形態ですでに調製されたものを購入してもよい。
【0052】
好適な栄養組成物には、乳製品、飲料粉末、脱水スープ、栄養補助食品、ミールリプレイスメント、栄養バー、シリアル、菓子製品、動物飼料サプリメントまたはドライペットフードが含まれる。
【0053】
本発明の組成物は、保護親水コロイド(ガム、タンパク質、修飾デンプンなど)、結合剤、フィルム形成剤、カプセル化剤/材料、壁/シェル材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、担体、充填剤、複合化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶剤)、流動剤、味覚マスキング剤、加重剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、酸化防止剤および抗菌剤をさらに含み得る。組成物はまた、水、任意の起源のゼラチン、植物性ガム、リグニンスルホン酸塩、タルク、糖、デンプン、アラビアゴム、植物油、ポリアルキレングリコール、香料、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、充填剤などの従来の医薬添加物ならびに補助剤、賦形剤および希釈剤を含むが、これらに限定されない。全ての場合において、そのような追加の成分は、目的のレシピエントへの適合性を考慮して選択される。
【0054】
本発明の好ましい態様では、組成物は、少なくとも1つのプレバイオティクスをさらに含む。したがって、プレバイオティクスは、経口投与後の対象の腸において、本発明の微生物のコロニー形成を促進し、それにより、本発明による組成物に含まれる微生物の効果を増強し得る。さらに、いくつかのプレバイオティクスは、消化などに正の影響を及ぼす。
【0055】
好ましくは、プレバイオティクスは、オリゴ糖からなる群から選択され得、かつ必要に応じて、フルクトース、ガラクトース、マンノース、大豆および/もしくはイヌリン、食物繊維、またはそれらの混合物を含み得る。本発明の組成物は、水分活性が0.2未満、例えば、0.19~0.05の範囲、好ましくは0.15未満の粉末形態で提供され得る。
【0056】
経口投与後、本発明の微生物は、十二指腸、小腸、盲腸、近位および遠位結腸を含む腸のうちの1つ以上の領域を生存および/またはコロニー形成することができる。実施例6に例示されるように、経口投与された微生物は、主に盲腸、近位および遠位結腸にコロニーを形成した。
【0057】
腸のコロニー形成に続いて、本発明の微生物は、その糞便で検出可能な5-HTを産生し、そして重要なことに、腸の粘膜層における5-HTのレベルの増加を伴うことが示されている(実施例6)。さらに、コロニー形成微生物は、遺伝子発現および腸の生理機能の両方に治療上有益な変化を誘発すると考えられている。特に、腸の生理学で観察される変化には、粘膜層の増加、腸バリア機能のマーカーのレベルの維持、および腸の炎症のマーカーのレベルの低下が挙げられ、その各々が5-HT関連GI障害の治療効果に見合っている。腸における5-HT関連受容体、HTR1BおよびHTR1Dの発現もまた、片頭痛を含む(実施例8)5-HT関連CNS障害に対する治療効果に見合った高レベルの5-HTまたはTRMを産生する本発明の微生物の投与後に観察された。
【0058】
本発明の組成物の対象への投与は、十分に確立された方法:強制水泳試験(FST)およびオープンフィールド試験(OFT)(実施例9および10)を用いて、本明細書で実施される前臨床試験からのCNS関連障害に対して予防的および治療的効果を有することが実証される。
【0059】
II.第2の態様では、本発明は、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、および
(c)トリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)から選択される1つ以上のタンパク質をコードする1つ以上の組換え核酸分子または導入遺伝子を含む、組換え細菌を提供し、
該微生物は、trpオペロンリプレッサータンパク質およびトリプトファナーゼ(EC:4.1.99.1)を発現することができる遺伝子を欠き、細胞が、それが由来した非組換え微生物の細胞と比較して増加した量の5-ヒドロキシトリプトファン、5-ヒドロキシトリプタミンおよびトリプタミンのうちの1つ以上を産生することができる。
【0060】
そのさらなる態様において、該1つ以上の組換え核酸分子または導入遺伝子は、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、
(c)トリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)、
(d)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)およびトリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、および
(e)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)およびトリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)からなる群から選択されるタンパク質をコードする。
【0061】
さらなる態様において、該細菌が、
(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、およびトリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)、または
(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)およびトリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)、をコードする組換え核酸分子
さらに、
(c)セロトニンアセチルトランスフェラーゼ(AANAT)EC 2.3.1.87および
(d)アセチルセロトニンO-メチルトランスフェラーゼ(ASMT)(EC 2.1.1.4)をコードする組換え核酸分子を含み、
細胞が、それが由来した非組換え細菌の細胞と比較して、増加した量のメラトニンを産生することができる。
【0062】
そのさらなる態様において、細菌が、そのアミノ酸配列が、配列番号2を有する野生型GCHIに対して、少なくとも70、71、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有する変異体GTPシクロヒドロラーゼI(GCHI)をコードする遺伝子を含み、かつ1つ以上の変異を含み、変異体が、ネイティブGCH1と比較して、該TPHの増加したヒドロキシル化活性を提供する。
【0063】
例として、変異体GTPシクロヒドロラーゼI(GCH1)が、D97、M99、T101、V102、A125、K129、N170、V179、T196、T198、S199、L200、S207、H212、E213、F214、L215およびH221からなる群から選択されるアミノ酸残基に少なくとも1つ以上の変異を有するものであり、N170の変異は、N170K、N170DまたはN170Lであり、V179の変異は、V179Aであり、H212の変異は、H212RまたはH212Kであり、H221の変異は、H221RまたはH221Kである。好ましくは、変異が、T198I、T198S、F214S、V179A、M99IおよびL200Pから選択される置換である。
【0064】
当業者は、微生物細胞中で変異体GCH1およびトリプトファン5-ヒドロキシラーゼを共発現させることにより、ならびに5-ヒドロキシトリプトファンへのトリプトファンヒドロキシル化の活性の増加を試験することにより、さらなる変異体を試験することができるであろう。好ましくは、変異体GCH1が、5-ヒドロキシトリプトファンの収量で測定した場合、トリプトファン5-ヒドロキシラーゼのヒドロキシル化活性を、変異体が由来する非変異体GCH1と比較して、少なくとも2倍、または3倍、または4倍、または5倍、6倍または、7倍または、8倍または、9倍または、10倍増加させる。
【0065】
そのさらなる態様において、該細菌が、トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)活性を有するタンパク質を発現することができ、該タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号6、8、または12に少なくとも70、71、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%の配列同一性を有する。
【0066】
そのさらなる態様において、該細菌が、トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)活性を有するタンパク質を発現することができ、該タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号14または18に少なくとも70、71、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%の配列同一性を有する。
【0067】
そのさらなる態様において、該細菌が、トリプタミン5-ヒドロキシラーゼ(EC:1.14.-.-)活性を有するタンパク質を発現することができ、該タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号20に少なくとも70、71、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%の配列同一性を有する。
【0068】
そのさらなる態様において、該細菌が、セロトニンアセチルトランスフェラーゼEC 2.3.1.87活性を有するタンパク質を発現することができ、該タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号22に少なくとも70、71、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%の配列同一性を有する。
【0069】
そのさらなる態様において、該細菌が、アセチルセロトニンO-メチルトランスフェラーゼ(EC 2.1.1.4)活性を有するタンパク質を発現することができ、該タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号24に少なくとも70、71、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%の配列同一性を有する。
【0070】
そのさらなる態様において、該細菌が、(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、および(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)をコードする組換え核酸分子を含み、トリプトファン5-ヒドロキシラーゼが、配列番号6または12に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、該トリプトファンデカルボキシラーゼのアミノ酸配列が、配列番号18に対して少なくとも80%の配列同一性を有する。
【0071】
そのさらなる態様において、(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、および(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)をコードする組換え核酸分子を含む該細菌は、さらに遺伝的に改変されて、5-HT経路のTDC酵素に対するTPHの発現レベルを、例えば、産生される5-HTの量をさらに増やし、TRMの産生を減らすように、上方調節する。例として、トリプトファン5-ヒドロキシラーゼおよびトリプトファンデカルボキシラーゼをコードする核酸分子は、各々、それらのそれぞれのRBSに機能的に連結されており、それらの強度の比は、少なくとも1.5:1.0、1.75:1.0、2.0:1.0、2.5:1.0、3.0:1.0、3.5:1.0、4.0:1.0、4.5:1.0、5.0:1.0、5.5:1.0、6.0:1.0、6.5:1.0、7.0:1.0、7.5:1.0、8.0:1.0、8.5:1.0、9.0:1.0、9.5:1.0、10.0:1.0、20:1、40:1、60:1.0、80:1.0、100:1.0、150:1.0、200:1.0、250:1.0、および300:1.0であり、より好ましくは少なくとも20.0:1.0であり、RBS強度は、Salis et al.,2009を参照して、上記で定義されたように測定される。
【0072】
あるいは、(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、および(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)をコードする組換え核酸分子を含む該細菌は、5-HT経路のTPH酵素に対するTDCの発現レベルを、例えば、TRM産生量をさらに増加させるように上方調節するために、さらに遺伝的に改変される。この目的のために、トリプトファンデカルボキシラーゼおよびトリプトファン5-ヒドロキシラーゼをコードする核酸分子は、各々、それらのそれぞれのRBSに機能的に連結されており、それらの強度の比は、少なくとも1.5:1.0、1.75:1.0、2.0:1.0、2.5:1.0、3.0:1.0、3.5:1.0、4.0:1.0、4.5:1.0、5.0:1.0、5.5:1.0、6.0:1.0、6.5:1.0、7.0:1.0、7.5:1.0、8.0:1.0、8.5:1.0、9.0:1.0、9.5:1.0、10.0:1.0、20:1、40:1、60:1.0、80:1.0、100:1.0、150:1.0、200:1.0、250:1.0、および300:1.0であり、より好ましくは、少なくとも2.0:1.0である。
【0073】
そのさらなる態様において、本発明の細菌における、(a)トリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4)、および/または(b)トリプトファンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.28)をコードする1つ以上の組換え核酸分子が、構成的に発現を調節するかまたは誘導性であるプロモーターに機能的に連結されている。プロモーターが構成的プロモーターである場合、好適なプロモーターは、http://parts.igem.org/Promoters/Catalog/Andersonに記載されている合成プロモーターの中から選択され得、好ましくは、アンダーソンスケールで0.5以上の測定強度を有する強力なプロモーターを選択する。
【0074】
そのさらなる態様において、該細菌が、機能的なtrpオペロンリプレッサータンパク質を発現することができず、該タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号26に少なくとも70、71、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%の配列同一性を有する。
【0075】
そのさらなる態様において、該細菌が、トリプトファナーゼ活性(EC:4.1.99.1)を有するタンパク質を発現することができず、該タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号29に少なくとも70、71、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%の配列同一性を有する。
【0076】
そのさらなる態様において、該細菌が、1つ以上の臨床的に使用される抗生物質に対して抗生物質耐性ではない。
【0077】
第2の態様による組換え細菌は、その様々な記載された形態で、本発明のさらなる態様の各々による組成物での使用に好適である。
【実施例
【0078】
実施例1:遺伝子組換えEscherichia coli細胞は5-HT産生のための生合成経路を発現する
5-HT生合成経路をE.coli Nissleの細胞に導入して、TRPを5-HTPに変換し、次に5-HTPを5-HTに変換する2つの連続した代謝ステップを触媒する合成セロトニン経路を確立した(図1)。これらの2つの代謝ステップを触媒するための最適な組み合わせ酵素の同定は、TPH遺伝子およびTDC遺伝子の組み合わせから得られる5-HT収量を発現および決定することによって決定された。
【0079】
1.1方法論
1.1.1改変E.coli細胞を、表1を参照して、次のように操作した。
宿主株であるE.coli Nissle 1917(Mutaflor(登録商標))を、Ardeypharm GmbH,Germanyから購入した。緑色蛍光タンパク質の遺伝子(GFP、GenBank:CAH64882.1)を、強力な構成的プロモーター(Part BBa_J23101、Registry of Standard Biological Parts,www.parts.igem.org)の制御下に置き、pGRG25を使用して、McKenzie et al.,(2006)によて記載されるように、Tn7付着部位のE.coli Nissleゲノムに組み込んだ。哺乳動物または植物源に由来するTPHタンパク質をコードする遺伝子:ヒトTPH1(H1)、ヒトTHP2(H2)、マウスTPH1(M1)、マウスTHP2(M2)、およびTDCをコードする遺伝子は、イネTDC(R)、Cataranthus roseus(C)、モルモット(G)およびCandidatus Koribacter versatilis Ellin345(ck)に由来し、IDTのオンラインツール(idtdna.com/CodonOpt)を用いて、E.coli用に最適化されたコドンを使用して合成した。試験したTPHおよびTDC遺伝子の組み合わせを、カナマイシン耐性遺伝子を含む自己複製プラスミド(バックボーンとしてpUCを使用)中で、合成プロモーターBBa-J23107の制御下でオペロンとしてクローン化させた。続いて、当該技術分野で既知の標準的なクローニングおよび形質転換手順を使用することにより、プラスミドを宿主株に形質転換した。
【0080】
1.1.2増殖およびインビトロ代謝産物生産を、以下のように決定した。
株は、特に明記しない限り、1×M9塩(M6030、Sigma Aldrich)、0.2%(w/v)グルコース、0.1%(w/v)カザミノ酸(カタログ番号C2000、Teknova)、1mM MgSO4、50μMFeCl3、0.2%(v/v)2YT培地(組成は以下を参照)、および50mg/LのL-トリプトファンを含む改変M9培地中で増殖させた。特に明記しない限り、カナマイシンを最終濃度50mg/Lで添加した。各株から3つの単一コロニーを選び、96ディープウェルプレートで300μlの培地で増殖させ、250rpm、37℃で16時間振とうした。この予備培養物を、新鮮な培地に1:100に希釈することによって主培養物に接種し、細胞を同じ条件下で24時間増殖させた。基質供給の場合、TRPおよび5-HTPを100mgTRPまたは5-HTP/Lの量で増殖培地に添加した。その後、0.2μmポアサイズフィルターを使用して培養上清を細胞から分離し、LC-MSによる分析まで-20℃で凍結した。示される全てのデータは、少なくとも3つの生物学的複製からの平均+/-SDである。
【0081】
1.1.3代謝産物生産を、LC-MSによって次のように定量化した。
セロトニン、トリプタミン、トリプトファンおよび5-HTPの検出を、Orbitrap Fusion質量分析計(Thermo Fisher Scientific)に接続されたDionex UltiMate 3000 UHPLC(Fisher Scientific,San Jose,CA)での液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)測定によって行った。システムは、35℃に保たれたAgilent Zorbax Eclipse Plus C18 2.1×100mm、1.8μmカラムを使用した。流速は、0.350mL/分で、移動相として、0.1%ギ酸(A)およびアセトニトリル中0.1%ギ酸(B)を用いた。勾配は、5%Bとして始まり、1.5分かけて35%Bまで直線勾配をたどった。この溶媒組成物を3.5分間保持した後、すぐに95%Bに変更し、1分間保持した。最後に、勾配を6分まで5%Bに変更した。サンプル(1uL)を、シースガスを60(a.u.)、補助ガスを20(a.u.)、スイープガスを2(a.u.)に設定した陽イオンモードの加熱エレクトロスプレーイオン化源(HESI)を備えたMSに通過させた。コーンおよびプローブの温度は、それぞれ380℃および380℃であり、スプレー電圧は3500Vであった。スキャン範囲は50~500Daで、スキャン間の時間は100msであった。セロトニン(160.07646イオン)、トリプタミン(144.08158および161.10775イオン)およびトリプトファン(205.09785イオン)の検出を、フルスキャンで実行し、一方、5-HTP検出を、HCDフラグメンテーション(221.09>162.05553、25%HCD CE)の後に実行した。化合物の定量は、24サンプルのセットの前後に分析されたキャリブレーション標準からの計算に基づいた。使用した試薬は全て、分析グレードのものであった。
【0082】
1.2結果:
マウスTPH1(M1)またはヒトTPH2(H2)を、イネ(R)またはCataranthus roseus(C)のTDCと組み合わせて発現するように操作された、宿主の遺伝子改変株であるE.coli Nissleは、測定可能な量のセロトニン産生を産生することが見出された(図2A)。培養中に株に基質5-HTPを供給すると、イネTDC(R)をコードする遺伝子を発現する細胞は、5-HTの最高収量(79.5±11.1%収量)を産生したが、このことは、イネTDCが5-HTP脱炭酸ステップを触媒するのに最も効率的であったことを示す(図2B)。したがって、「M1R」および「H2R」経路を発現し、5-HTプロデューサーであるE.coli Nissleを、さらなる最適化のために選択した。
【0083】
TDCへの供給は、全ての酵素がいくらかのセロトニンを産生することを示したが、イネ由来の「R」酵素が最も高い変換率を有した(右パネル)。
【0084】
実施例2.本発明の遺伝子改変Escherichia coli細胞による5-HTおよびTRM産生は、トリプトファン経路フラックスを増加させることによって増強される
トリプトファン経路基質であるトリプトファンの増加したアベイラビリティは、本発明の5-HT産生株において5-HT産生を増加させることが示される(図3)。増加この観察に照らして、トリプトファン経路フラックスを増強するなど、トリプトファンリプレッサーtrpRおよびトリプトファナーゼtnaAをコードする内因性遺伝子を不活性化することによって生成された本発明の遺伝子操作された細胞において、利用可能なTRPの内因性プールを増加させた。
【0085】
2.1方法論:
宿主E.coli NissleゲノムからのtrpRおよびtnaAのノックアウトは、(Mehrer et al.,2018)に記載されているようにCRISPR/Cas9を使用して実行された。簡単に説明すると、誘導性cas9/λ-Red発現プラスミドおよびガイドRNA(gRNA)プラスミドからなる2プラスミドシステムを使用して、宿主ゲノムの所望の遺伝子座に二本鎖切断を導入した。gRNAを、EcNゲノム配列(GenBank:CP007799.1)をアップロードした後、CRISPy-web(Blin et al.,2016)を使用して設計された。選択した切断部位での相同組換えのテンプレートは、次のように生成された。可能な場合は、KEIO collection(Baba et.al.,2006)からの所望のノックアウトを有する株(それぞれ、ΔtrpR::FRT-kan-FRTまたはΔtnaA::FRT-kan-FRT)をpSIJ8(Jensen et al.,2015)で形質転換し、FLPリコンビナーゼ遺伝子を誘導してカナマイシン耐性遺伝子を除去した。得られたコロニーを、カナマイシン感受性についてスクリーニングした。ΔtrpR::FRTまたはΔtnaA::FRT遺伝子座を、FRT部位の上流および下流で500bpに結合するオリゴを使用して増幅させ、約1kbのPCR産物を生成した。CRISPR/Cas9およびgRNA発現プラスミドを、以前に記載されているように(Mehrer et al.,2018)、株で処置した。
【0086】
宿主細胞の成長、それらの代謝産物生産および定量化を、例1.1.2および1.1.3に記載されているように実行した。
【0087】
2.2結果:
対応する内因性トリプトファンの流れを5-HT経路に向けるために、本発明の株を、宿主ゲノムからのtrpRおよびtnaAをコードする遺伝子のノックアウトによってさらに操作して、NΔ2と呼ばれる宿主E.coli Nissle株を生成した。トリプトファンの外因性供給は、本発明のそのような遺伝子改変されたE.coli Nissle細胞(図3の株EcN△2+pUC-H2R)により5HTおよびTRM産生をさらに増強することが示される。
【0088】
実施例3.本発明の遺伝子改変されたE.coli株は、安定した5-HT産生を示す
5-HT生合成経路をコードする5-HTオペロンが本発明の宿主細胞のマルチコピープラスミドにクローン化される場合、5-HTの産生はプラスミドの安定性に依存する。安定性は、抗生物質耐性を付与するプラスミド遺伝子に依存しないことが好ましい。pUCのプラスミドバックボーン(実施例1および2の通り)およびE.coli Nissle中の2つのネイティブプラスミドのうちの1つであるpMUT1(Blum-Oehler et al.,2003)に基づき、プラスミドの安定性を与えるための2つの解決策を比較した。
【0089】
3.1方法論:
高コピー数の5-HT産生プラスミド(pUC-H2R)を、H2R経路オペロンの下流に必須の細菌遺伝子infAの合成コピーを導入することによって改変した。宿主ゲノム中の対応するinfA遺伝子を、E.coli Nissle株NΔ3(ΔtrpR、ΔtnaA、ΔinfA)を生成するために、実施例2.1に記載のプロトコルを使用してノックアウトした。
【0090】
H2R経路を構成するオペロンもまた、以下のようにプラスミドpMUT1(GenBank:A84793.1)にクローン化させた。pMUT1プラスミドを、野生型E.coli Nissleから分離し、pMUTバックボーンとして機能するように増幅した。プラスミド転移を可能にし得る要素を除去してpMUT(環状配列A84793.1由来のΔbp1-1323および1664-3117)を生成し、カナマイシン耐性遺伝子およびH2RまたはM1Rオペロン(infAなし)をバックボーンに挿入してpMUT-H2RまたはpMUT-M1Rをそれぞれ生成した。
【0091】
次の追加バージョンのプラスミドpMUT-H2RまたはpMUT-M1Rを生成した。hok/sok毒素-抗毒素プラスミド安定性エレメント(GenBank:MK134376、リージョン58002-58601)をpMUT-M1Rバックボーンに挿入してプラスミドpMUT14-serを生成した。TPH遺伝子をpMUT14-serから削除して、pMUT11-trmを生成し、TPHおよびTDCの両方を削除して、pMUT09-ctrlを作製した。
【0092】
細胞増殖の測定:細胞を、実施例1.1.2に記載されているように増殖させたが、主培養物の接種後、200μlを平底の透明な96ウェルマイクロタイタープレートに移し、次いで、ガス透過膜(Z380059、Sigma Aldrich)で密封した。培養物を700rpmでオービタル振とうしながら37℃で増殖させ、それらの増殖をOD630nmでBioTek(商標)ELx800プレートリーダーで10分ごとに記録した。
【0093】
プラスミド安定性の決定:各試験株から各々6つの単一コロニーを選び、300μlの2YT培地(1.6%(w/v)トリプトン、1%(w/v)酵母エキス、0.5%(w/v)NaClを含む)中、カナマイシンを用いずに96ディープウェルプレート中で増殖させ、250rpm、37℃で24時間振とうした。培養物の光学密度(OD630)を測定し、培養物を新鮮な培地で1:1000に希釈し、細胞を、カナマイシンを含むまたは含まないLB寒天プレートに毎日播種したが、これは24時間ごとに約10倍に相当する。LB寒天プレート+/-カナマイシン上のコロニー形成単位を毎日カウントした。時点t=0、50および100世代で、培養物を上記の改変M9培地(カナマイシンを含まない)中に1:100に希釈し、セロトニン産生を記載のように測定した。
【0094】
3.2結果:
安定している間、H2R経路およびinfA遺伝子の両方を発現するpUCベースのプラスミドは、おそらく代謝負荷のために、NΔ2およびNΔ3宿主細胞(ΔtrpR、ΔtnaA、ΔinfAを有するEcN)の両方で望ましくない成長欠陥を引き起こした(図4A、BおよびC)。
【0095】
対照的に、pMUTベースのプラスミド(pMUT-H2R)は、NΔ2宿主細胞中で安定して維持され(図4A、B)、選択圧の不在下で、抗生物質耐性の形態で、少なくとも100世代に対して検出不可能なフィットネス欠陥を示した(図4A、B、C)。さらに、EcNΔ2pMUT-H2R細胞による5-HT産生はこの期間にわたって安定しており、初期のpUC-H2R力価に匹敵した(図4D)。
【0096】
hok/sok毒素-抗毒素モジュールをpMUT-M1Rプラスミドに導入し、pMUT14-serおよびpMUT11-trm(表1)を産生して、インビボでの安定性をさらに確保した。
【0097】
実施例4.本発明の遺伝子改変されたE.coli株による5-HT産生の最適化
トリプタミン(TRM)は、植物TDC酵素を発現する本発明の遺伝子操作されたE.coli株によって産生される代謝産物の中で検出される重要な副産物である(図2A、3)。5HTP合成への流れを強化するように設計された遺伝子組換えは、GTPグリコヒドロラーゼ(GCH1)活性の活性を高め、それによってTPH合成に必要とされるテトラヒドロビオプテリン補因子の再生を高めるためのものであった。5-HT産生をさらに増強するために、TPHおよびTDCの相対的な発現強度を微調整するように設計されたさらなる遺伝子改変を試験した。
【0098】
4.1方法論
E.coli NfolE遺伝子のコード配列は、最初にfolE遺伝子を2つの部分に増幅し、次にオーバーラップエクステンションPCRに使用されるオリゴにT198Iコード化変異を導入することによって変異させた。得られたdsDNAフラグメントを精製し、gRNAプラスミドで同時形質転換して、EcNの細胞のゲノムにfolE遺伝子のマーカーレス遺伝子変異を生成した。
【0099】
RBS強度ライブラリーを、「RBSカリキュレーターv1.1」(Salis et al.,2009)を使用して設計し、TPHおよびTDC(M1RおよびH2R)をコードする共発現遺伝子ごとに、50~50000の任意の単位の理論強度の範囲内の4~6のバリアントのライブラリーサイズを選択した。RBSの変異を、縮退塩基を含むオリゴを用い、ギブソンアセンブリを使用して、各遺伝子の上流に導入した(Gibson et al.,2009)。株の代謝産物生産プロファイルを試験した後、形質転換体をランダムに選び、RBSをシーケンシングした。
【0100】
4.2結果
本発明の宿主E.coli Nissle細胞におけるネイティブfolE遺伝子を、テトラヒドロビオプテリン補因子の再生を増強するために、変異体GCH1(T198I)をコードするように変異させた。5-HT生合成オペロン(oNpMUT1H2RまたはoNpMUTM1R)と組み合わせて変異体GCH1酵素を発現するこれらの最適化Nissle(oN)株では、この追加の改変を欠く株(NΔ2pMUT-H2RまたはNΔ2pMUT-M1R)と比較して、5-HTの産生が増加される。変異体GCH1は、pMUT10-5htpを含む株において、ヒトトリプトファン5-ヒドロキシラーゼによって触媒されるトリプトファンの5-ヒドロキシトリプトファンへのヒドロキシル化を4倍増加させる(図5F)。
【0101】
5-HTP生合成経路(oN10=oN pMUTM1)またはTRM経路(oN11=oN pMUTR)のいずれかと組み合わせて変異体GCH1酵素を発現するoN株は、経路の唯一の検出産物としてそれぞれ5-HTPおよびTRMを産生した(図5B)。
【0102】
それぞれの遺伝子のリボソーム結合部位(RBS)の選択された組み合わせを使用するTPHおよびTDCの相対的な発現強度の調節は、5-HT産生を増強しかつTRMの蓄積を減少させることが示される(図5CおよびD)。TPH遺伝子に機能的に連結したRBSの相対強度がTDC遺伝子に機能的に連結したRBSの相対強度を超えた場合、増加した5-HT産生が得られた。
【0103】
5-HT経路の遺伝子を含むE.coli Nissle株に導入された遺伝子改変の相乗効果が、それぞれの5-HT生産性および5-HT:TRM比に対して、図6に示される。E.coliゲノムにおけるtrpRおよびtnaA遺伝子のノックアウトは、TPH遺伝子の相対的発現がTDC遺伝子の相対的発現を上回っていれば、機能的に連結されたRBSのおかげで、E.coli細胞における5-HT収量および5-HT:TRM比に相乗効果をもたらした(図6A)。folEゲノム変異(T198I置換をコードする)の導入により、E.coli Nissle株中で前述の変異と組み合わせると、5-HT収量および5-HT:TRM比がさらに増加した(図6B)。
【0104】
実施例5 本発明の遺伝子改変されたE.coli株の経口投与は、対象において治療的5-HTレベルを産生すると予測される
腸内の5-HTの治療上有効なレベルは、5~30mg/Lの範囲にあると報告されている(Liu,Q.et al.,2008)。マウス腸内で治療有効範囲内で5-HTを産生するために必要な5-HT産生細菌の相対的存在量は、0.1~10mg/LOD630 hのインビボ5-HT産生速度を有する細菌で予測される(図6C)。これは、以下に示すように、場所(Casteleyn et al.,2010)に応じて、1E2~E11/g(Sender et al.,2016)の範囲であると予測される腸内細菌の密度に関する基本的な仮定に基づく。
【表1】
【0105】
インビトロでは、比生産性(P)は、1時間当たりの細菌負荷(OD630nm)当たりのセロトニン力価(mg/L)として測定され得る。5-HTの枯渇率は不明であるため、生理学的に適切な濃度(mg/L)を決定するために、生産性と等しくなるように設定される。本発明の遺伝子改変されたE.coli株(例えば、oN14株)は、投与されると、生理学的に適切なレベルの近くで、インビボで5-HTを産生することができると予測される。
【0106】
実施例6 本発明の遺伝子改変されたE.coli株の経口投与は、マウス腸における5-HT産生を増強する
本発明の遺伝子改変されたE.coli Nissle株の経口送達、ならびにそれらの腸への局在化および5-HT産生の増強が、マウスにおいて実証された。
【0107】
6.1方法論
6.1.1経口投与:Taconic BiosciencesまたはJackson Laboratoriesから供給された6~8週齢の雄のマウス(C57BL/6)を、12時間の明暗サイクル(7:00~19:00に点灯)で、一定温度で、特定病原体除去(SPF)施設内にて、食物および水に自由にアクセスすることができるようにグループ飼育した。搬送の際に、新しい場所に適応するためにマウスに1週間を与え、続いて、7日間、3回転の微生物叢正規化プロトコルを行った。正規化プロトコルの1日目、3日目、および5日目に、マウスをランダムに混合した。6日目に、マウスを最後にもう一度混合し、コホートごとに2~3ケージでそれぞれのコホートに分け、各ケージに3~5匹のマウスを入れた。正確な数は、実験によって異なる。7日目に、マウスを、実験プロトコルのゼロ日目から始めて、識別のためにタグ付けし、ボトル飼育ケージに3~5匹のマウスのグループで収容し、指定されたラックにセットされ、層流フードの下でのみ開いた。糞便サンプルを、実験プロトコルのゼロ日目に収集した。次に、マウスに、24時間ごとに同じ時刻に10日間、200μlの滅菌PBSまたは滅菌PBS中の新たに増殖させた10細胞の指定されたE.coli Nissle株:oN14(プラスミドpMUT14-serを含むE.coli Nissle株oN)、oN11(プラスミドpMUT11-trmを含むE.coli Nissle株oN)、およびoN9(プラスミド対照プラスミドpMUT9-ctrlを含むE.coli Nissle株oN)を経口投与した(図5E)。最後の強制経口投与の24時間後、糞便ペレットを収集し、マウスを、血清、腸組織、および管腔内糞便収集のために安楽死させるか、あるいは運動または行動試験に使用した。
【0108】
6.1.2oN株の腸内局在:50mg/Lカナマイシンを含むLB寒天培地上に、異なる腸領域に由来する消化物をプレーティングし、GFP陽性のカナマイシン耐性(KanR)コロニーの数を定量化することによって決定した。
【0109】
6.1.3薄切片での免疫検出:結腸サンプルを収集し、5mm切片を結腸中央で切断し、メタノール-カルノイ(60%メタノール、30%クロロホルム、10%酢酸)溶液またはリン酸緩衝液(PBS)中の4%パラホルムアルデヒド(PFA))中で24時間固定した。次に、固定したサンプルを3回洗浄し、70%エタノール中に保存した。サンプルを、消化物とともに内腔中で無傷に保ち、パラフィンに包埋し、管腔内で4μmで切断し、免疫組織化学用に準備するか、またはヘマトキシリンおよびエオシン染色に供した。免疫組織化学用:セロトニン(5-HT)抗体染色にPFA固定スライドを使用し、Muc2、緑色蛍光タンパク質(GFP)、およびクロモグラニンA(CgA)抗体染色にメタカーン固定サンプルを使用した。全てのスライドを、57℃で2時間ベークし、キシレンおよびエタノール-水勾配で脱パラフィンし、再水和した後、pH6.0の10mMクエン酸ナトリウムの抗原回収溶液で、90℃にて30分間処理した。スライドを、PBS中の5%ウシ胎児血清(FBS)を用いて室温で30分間ブロックし、次いで、PBS中の5%FBS中、一次抗体を用いて4℃で一晩インキュベートした。スライドを、PBSで3回洗浄し、PBS中で室温にて2時間二次抗体を用いてインキュベートし、PBSで3回洗浄し、10μg/mlのDAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)を用いて5分間インキュベートし、PBSで3回洗浄し、グリセロールを使用してマウントした。Alexaフルオロフォアでプレコンジュゲートされた一次抗体で染色されたスライドは、二次抗体染色を受けなかった。使用した抗体:Alexa Fluor 594コンジュゲートを含む抗GFPウサギIgG(Life Technologies A21312)。抗Muc2ポリクローナルウサギ(Santa Cruz Technologies sc-15334)。抗クロマグラニンAポリクローナルウサギ(Abcam ab15160)。抗セロトニンポリクローナルヤギ(Abcam ab66047)。二次抗ウサギAlexa Fluor 568(Thermo-Scientific Novex a11011)。二次抗ヤギIgGAlexa Fluor 488(Abcam ab150077)。全ての画像を、Nikon Eclipse Ti2-E倒立顕微鏡システムで撮影し、画像変換およびセルサイズ(粒子)分析を、Macbookバージョン2.0.0-rc-69/1.52i用のNIS-Elements,Advanced Research SoftwareおよびImageJ(FIJI)を使用して実行した。
【0110】
6.1.4インビボ代謝産物分析.セロトニン、5-ヒドロキシトリプトファン、トリプタミン、およびトリプトファンについて、血清、組織サンプル、および糞便サンプルを分析した。血清用:安楽死後、血液サンプルを下大静脈から採取し、サンプルを0.9%NaCl、0.2%アスコルビン酸と1:1で混合した。サンプルを室温で10分間保持し、次いで、2000gで4℃で10分間遠心分離するまで氷上に置いた。上清を、分析のために保存し、すぐに-20℃で凍結した。組織分析用:結腸組織の重さを量り、収集後すぐに液体窒素で凍結し、BeadBeater(Biospec 112011)中での6.34mmのステンレス鋼ビーズ(Biospec 11079635ss)を有するステンレス鋼マイクロバイアル(Biospec 2007)で30秒間叩いて凍結破砕した。次いで、組織を、0.9%NaCl、0.1%アスコルビン酸に再懸濁し、2000gで10分間4℃で遠心分離した。上清を、分析のために保存し、すぐに-20℃で凍結した。糞便サンプル用:サンプルを秤量し、200mlのジルコニア/シリカビーズ(Biospec 11079101z)を含む0.1%アスコルビン酸を含む0.5mlの0.9%NaClを含むCorning Cryovialsに入れ、BeadBeater中で、4℃で5分間撹拌した。サンプルを、2000g、4℃で10分間遠心分離した。上清を、分析のために保存し、すぐに-20℃で凍結した。
【0111】
6.2結果
マウスにE.coli Nissle株ON14、ON1および対照株oN9(図5E)の10個の細胞を経口投与した10日後、投与された細胞が、主にそれらの大腸に蓄積することが見出された。最高濃度のoN細胞は、近位結腸で>10CFU/gで検出されたが(図7A)、小腸で検出されたoN細菌は最も少なかった(<10CFU/g)。結腸の中央では、oN細胞は、抗GFP抗体を用いる免疫組織化学によるそれらの視覚化に基づき、粘膜層に沿って局在していた(図7B)。
【0112】
TRP、5-HTP、5-HTおよびTRMのレベルは、経口投与されたマウスに由来する血清、結腸組織、および糞便のサンプルでも測定された。トリプトファンレベルは、結腸組織および糞便で上昇したが、血清では上昇せず、E.coli Nissle株oN14を経口投与したマウスでのみ上昇した(図8A)。5-HTレベルは、コホート間で血清および結腸組織で統計的に異ならなかった(ANOVAによるp>0.4)。しかしながら、糞便中の5-HTレベルは、他の群と比較して、E.coli Nissle株oN14を投与したマウスで有意に増加した(13.4倍の増加、ANOVAによるp<0.0001)(図8B)。トリプタミンおよび5-HTPのレベルは、全てのサンプルで検出限界を下回った。
【0113】
5-HTレベルは、結腸組織自体では上昇しなかったが(残留消化物を除去するための洗浄後)、E.coli Nissle株oN14を投与したマウスでは、結腸の粘膜層に沿って、上昇したレベルのセロトニンが特異的に検出された(図8C)。これらの結果は、経口投与されたE.coli Nissle株oN14の細胞が蓄積し、マウスの結腸の粘膜に沿ってインビボで5-HTを産生することを示す。
【0114】
実施例7 本発明の遺伝子改変E.coli株の経口投与は、腸において遺伝子発現および生理学の変化を誘発する
E.coli Nissle株oN14をマウスに経口投与すると、Muc2の発現が上方調節され、粘膜の肥厚が増加し、次いで、粘膜の完全性が向上することが示された。腸クロム親和性細胞に由来する過剰なセロトニンは、腸炎を刺激する可能性がある。しかしながら、治療されたマウスの結腸の粘膜層で増加したレベルの5-HTが検出されたとしても(実施例6)、これは腸炎、腸の代謝回転または腸のバリア機能のマーカーの発現の変化をもたらさなかった(示されない)。
【0115】
TPH1ではないが、宿主(マウス)TPH2の発現が、E.coli Nissle株oN14を投与したマウスの結腸で増加したが、このことは、細菌由来の5-HTが、マウスのENSで、TPH2を介したニューロン5-HT生合成を誘導し得ることを示す。しかしながら、これらのマウスのEC細胞(腸内の宿主5-HTの主要な産生細胞)の総数またはサイズは、影響を受けなかった。
【0116】
トリプトファンおよびセロトニンの代謝もまた、キヌレニン経路に影響を与え得、その機能障害は多くの神経障害および代謝障害に関連するが、E.coli Nissle株oN14を投与したマウスの結腸で、L-トリプトファンをN-ホルミルキヌレニンに変換する律速酵素をコードする遺伝子の発現に変化は検出されなかった。
【0117】
7.1方法論
7.1.1経口投与:6.1.1に記載されている通りである。
【0118】
7.1.2遺伝子発現分析:例6.1.4のプロトコルに従って組織を凍結破壊した。次に、RNA単離のための製造業者の説明書に従って、組織をTrizol(Invitrogen)に再懸濁した。全RNAを、30μLのRNaseフリー水に再懸濁した。製造業者の説明書に従って、iScript gDNA Clear cDNA合成キット(BioRad 1725035)を使用してRNAをcDNAに変換した。定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)は、Applied Biosystems QuantStudio6 Flex Real-Time PCR Systemの384ウェルプレート中、製造業者の説明書に従って3回実施した。使用したプライマーを、表3に列挙する。シクロフィリンを、ハウスキーピング遺伝子として使用した。ΔΔCτ法を使用して、相対的なmRNAレベルを定量化した。
【0119】
7.1.3薄片での免疫検出:実施例6.1.3に記載の通りである。
【0120】
7.2結果
E.coli Nissle株oN14を投与されたマウスに由来する結腸組織におけるMUC2遺伝子の発現は、対照群と比較して約2倍増加した(ANOVAによるp<0.05)(図9A)。同様に、抗Muc2抗体で免疫組織化学的に染色された結腸組織の切片は、E.coli Nissle株oN14を投与されたマウスにおいてより顕著な粘膜層を示した(図9B)。結腸切片のヘマトキシリンおよびエオシン染色は、腸の炎症と関連する組織病理学的変化の欠如をさらに確認した(示されない)。
【0121】
しかしながら、杯細胞マーカーCDX2または腸幹細胞マーカーBM1およびLGR5の発現に違いは観察されず(図示せず)、このことは、Muc2産生杯細胞および一般的な腸の代謝回転が変化していないことを示す。それに対して、E.coli Nissle株oN14を投与されたマウスの結腸組織で、炎症マーカーIL6、IL1β、NFKβ、IL17A、およびTNFαのqPCRによる遺伝子発現レベルの変化は検出されなかった(示されない)。さらに、結腸の長さの変化は観察されなかった(ANOVAによるp=0.66)が、これは、短縮されたことが判明した場合の慢性腸炎の別の指標である(示されない)。結腸の腸のバリアを維持するためのマーカーであるTJP1、TJP2、またはOCLNの発現も、E.coli Nissle株oN14を投与したマウスでは変化しなかった(データは示されない)。
【0122】
TPH1およびSERTの発現に違いは観察されなかったが、E.coli Nissle株oN14を投与したマウスでは、結腸内で、他の群(ANOVAによるp<0.001)と比較して予想外の2.8倍のTPH2発現の増加が検出された(図9A)。しかしながら、qPCRおよびEC細胞マーカーであるクロモグラニンAの免疫組織化学によって定量化されたEC細胞(腸内の宿主5-HTの主要な産生細胞)の総数またはサイズの変化が検出された(示されない)。
【0123】
さらに、L-トリプトファンをN-ホルミルキヌレニンに変換する律速酵素をコードするE.coli Nissle株oN14を投与したマウスでは、IDO1、IDO2、およびTDO2の発現に変化は検出されなかった(示されない)。
【0124】
実施例8 本発明の遺伝子改変E.coli株の経口投与は、腸においてセロトニン受容体の発現および関連する効果を増強する
セロトニンは、ENS、CNS、および末梢神経系全体の興奮性および抑制性神経伝達を媒介するGPCRである多くの5-HT受容体のリガンドである。CNSにおける5HT1b受容体のリガンド活性化は、攻撃性の低下に関連しており(de Almeida et al.,2002)、5HTr1dとともに、片頭痛のトリプタミンに基づく治療の標的受容体である(Tepper et al.,2002)。E.coli Nissle株oN11およびoN14の両方をマウスに経口投与すると、HTR1BおよびHTR1Dの遺伝子発現が増加することが示され、このことは、トリプタミンを介した効果の可能性を示唆する。
【0125】
5HT3受容体は、嘔吐、過敏性腸症候群(IBS)、統合失調症、不安、学習、記憶および依存症に関係する様々な生理学的役割を持ち、制吐剤5HTr3拮抗薬によって臨床的に調節される(Thompson et al.,2007)。5HT4受容体は、腸管神経系の神経新生を誘発し、胃腸管の蠕動運動の調節、ストレス誘発性の摂食行動、学習と記憶の変化、およびCNSの鬱病に関連する(Gershon et al.,(2007)、Lucas et al.,(2007)、Lamirault et al.,(2001))。5HTr7刺激は、認知および記憶を改善することができ(Meneses et al.,2015)、5HTr7拮抗作用は、CNSの抗鬱および抗精神病薬の行動を解決することができ(Roth、B.L.et al.,1994)るが、腸でのその機能は、IBSおよび炎症性腸疾患(IBD)に関連してきたにもかかわらず、あまり理解されていない(Guseva、D.et al.,2014)。5-HT受容体の遺伝子発現で検出された変化の多様性および大きさを考慮すると、E.coli株oN14が宿主で生理学的反応を誘発することは妥当である。
【0126】
HTR3、HTR4、およびHTR7遺伝子の上方調節された発現は、oN14コホートでのみ検出されたが、このことは、特定のセロトニンを介した応答を示す。
【0127】
さらに、E.coli Nissle株oN14の経口投与は、総胃腸通過を減少させることが示されるが、このことは、セロトニンが、蠕動反射を引き起こす管腔内圧および空腹時の間隔に小腸内を通過する腸移動運動複合体の両方を誘導することによって、胃腸運動性を調節することが知られていることと一致する。
【0128】
腸の運動性および細菌によって産生された生物起源のアミンの変化は腸内微生物叢に影響を与える可能性があり得るが、マウスコホートの糞便の16Sメタゲノムシーケンスに基づいた、E.coli Nissle株oN14、oN11、oN9またはPBSのみの投与の結果としての、マウスコホート間での腸内微生物叢の有意な変化は検出されなかった(示されない)。同時に、E.coli Nissle株oN14およびoN11の投与は、宿主5-HT受容体遺伝子発現および胃腸運動性を含む腸内での多くの生理学的反応を誘発するが、常在微生物群集を影響されないままにする。
【0129】
8.1方法論
8.1.1経口投与:6.1.1に記載されている通りである。
【0130】
8.1.2遺伝子発現分析:7.1.1に記載されている通りである。
【0131】
8.1.3総胃腸通過:腸の内腔から吸収され得ないカーマインレッドを使用して、総胃腸通過時間を研究した。0.5%メチルセルロース(Sigma-Aldrich)に懸濁したカーマインレッド(300μl、Sigma-Aldrich)の6%溶液を、21ゲージの丸い先端の給餌針を通して強制経口投与した。強制経口投与が行われた時刻を、T0として記録した。強制経口投与後、糞便ペレットを、10分間隔でカーマインレッドの存在についてモニターした。総胃腸通過時間は、T0および便中のカーマインレッドが最初に観察された時間の間の間隔と見なされた。
【0132】
8.1.4 メタゲノム16Sシーケンシングと分析:0日目および10日目にマウスから糞便ペレットを収集し、ペアエンドシーケンシングまで-20℃で直ちに保存した。ゲノムDNAを、Epicenterグラム陽性キットに加えて、0.1mmジルコニアビーズを用いる最初のビーズビーティングステップを使用して、糞便ペレットから抽出した。サンプルの16S rRNA V4領域のPCR増幅およびマルチプレックスバーコーディングを、以前のプロトコル57に従って行った。16S rRNA遺伝子のV4領域を、Kozich et al.,(2013)の方法に従って、カスタムプライマーを使用して1×NEBNext q5 Hot Start HiFi PCR Master Mixで増幅した。シーケンシングを、Illumina MiSeqシステム(300V2キット)を用いて行った。シーケンシングされたペアリードを、USEARCHv10.0.240_i86osx64を使用して準備した。順方向および逆方向の読み取りをペアにし、最大予想誤差が1の最小長240にフィルタリングした。配列を複製解除し、最小クラスターサイズ2でクラスター化し、97%の同一性58でOTUにマッピングした。OTU分類法を、RDP分類子59で割り当てた。Conda内でPyNASTを使用してQIIME1、python 2.7、matplotlib1.4.3で整列された配列。RStudioパッケージエイプで読み取ったFastTreeで構築されたツリー。gglot2およびphyloseqパッケージを備えたGraphpad PrismおよびRStudioを使用して予め形成されたOTUデータ分析および視覚化。phyloseqおよびveganパッケージでRStudioを使用してANISOMによって実行された統計的有意性。
【0133】
8.2結果
HTR1BおよびHTR1D遺伝子の発現の増加を、E.coli株oN11およびoN14を投与されたマウスで検出し(両方ともANOVAによるp<0.05)(図10a、b)、一方、HTR3、HTR4、およびHTR7遺伝子の増加した発現を、E.coli株oN14を投与したマウスの結腸で観察した(全てANOVAによるp<0.01)(図10c-e)。
【0134】
さらに、E.coli株oN14の投与により、対照コホートと比較して、特に、処置したマウスにおいて総胃腸通過時間を15%も短縮した(ANOVAによるp<0.05)(図10)。0日目および11日目にE.coli Nissle株oN14、oN11、oN9またはPBSのみを投与した後の、マウスコホートに由来する糞便の16Sメタゲノムシーケンシングでは、0日目から11日目までのコホート間で腸内微生物叢に有意な変化は見られなかった(R:0.07403、有意性:0.155、ANISOMによる)(表示されない)。
【0135】
実施例9 本発明の遺伝子改変E.coli株の経口投与は、マウスにおいて不安を軽減した
本発明の遺伝子改変E.coli oN系統の経口投与は、脳腸軸または末梢および/または脳の5-HTレベルの増加を介して媒介され得る、処置されたマウスにおいて行動変化を誘発することが示される。これらの行動の変化を実証するために、2つの確立された方法である強制水泳試験(FST)およびオープンフィールド試験(OFT)が採用された。齧歯動物における抗不安薬および抗鬱薬の有効性を評価するために一般的に使用されるFSTは、ストレスの多い環境から逃れるための絶望の尺度として水で満たされた容器中で不動で滞在した時間を記録することによって、行動の諦めを定量化する。OFTは、総排泄、総移動距離、および50×50cmの白く十分に明るいオープンフィールドの内側および外側のゾーンを探索して滞在した時間を検出することにより、不安レベルおよびストレスの多い環境で探索する意欲を測定する。
【0136】
これらの試験の結果は、E.coli株oN14のマウスへの経口投与が、不安関連障害に対して治療効果を有することを示す。
【0137】
9.1方法論
9.1.1経口投与:6.1.1に記載されている通りである。
【0138】
9.1.2強制水泳試験:Ferguson(2001)による説明に従って、各マウスを15cmの水を入れた透明な円筒形タンク(高さ30cm×20cm)に23~25℃で6分間入れ、記録した。次に、マウスをタオルで乾燥させ、低体温症を防ぐために熱ランプの下に置いて乾燥させ、次いで、元のケージに戻した。Can et al.,(2012)によって記載されるように、記録を匿名化し、盲検観察者は、6分間の試験の最後の4分間に不動で滞在した時間の記録を採点した。
【0139】
9.1.3オープンフィールド試験:各マウスを白いオープンルーフの十分に明るい50cm(長さ)×50cm(幅)×38cm(高さ)のチャンバーに入れ、前述の方法に従って、10分間記録した(Spohn、S.N.et al.,2016)。次に、マウスを元のケージに戻した。10分間の試験中に産生された糞便ペレットを数えた。次に、記録を後処理し、前述のようにBehaviorCloudを使用して分析した(Spohn、S.N.et al.,2016)。マウス追跡ソフトウェアは、各マウスの総移動経路、総移動距離、内側の40cmの正方形として定義された内側ゾーンおよび壁に最も近い外側の10cmの境界として定義された外側ゾーンで滞在した時間、内側ゾーンへの侵入回数、および内側ゾーン内を移動した距離を記録した。
【0140】
9.2結果
FSTおよびOFTを、E.coli Nissle株oN14、oN11、oN9またはPBSのみを投与した後のマウスコホートで実施した。
【0141】
FSTでは、E.coli Nissle株oN14を投与したマウスコホートは、E.coli Nissle株oNを投与した対照コホートと比較して、統計的に最長17%まで短縮したFSTの間の不動時間を示した(ANOVAによるp=0.004)(図11a)。この結果は、別の独立した動物コホートで確実に再現された(示されない)。
【0142】
OFTでは、E.coli Nissle株oN14を投与したマウスコホートは、10分間の試験中に減少した数の排泄を示した(図11b)が、これは、減少したストレスまたは低下した総胃腸通過と関連している可能性がある(図10f)。野生型マウスは、生来、閉じた、暗く、狭い空間を好むが、E.coli Nissle株oN14を投与したマウスコホートは、内側の40×40cmゾーンを探索して過ごす時間が長くなり、10×10cmの外側ゾーンに沿った端の近くで過ごす時間が減少し(図11d、e)、総移動距離は変化しなかった(図11c)。OFTで観察されたこれらの効果は、別のマウスのコホートでのOFTによって確認された(示されない)。異なる初期腸内微生物相を有する異なる供給業者(Jackson Laboratory)から入手したマウスでの追加のOFTも、上記と同様の生理学的および行動的結果をもたらした(示されない)。
【0143】
実施例10 本発明の遺伝子改変E.coli株の経口投与の有効性は、マウスにおけるSSRIと一致する
とりわけProzacおよびSarafemのブランド名で販売されているフルオキセチンは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)クラスの一般的に使用されている抗鬱薬である。これは、大鬱病性障害、心的外傷後ストレス症候群(PTSD)、およびその他の適応症を治療するのに使用される。本発明の遺伝子改変E.coli oN株の経口投与の有効性は、治療されたマウスにおいて不安またはストレスの治療的減少を示す行動変化を誘発する能力によって、フルオキセチンの投与に対応することが示される。
【0144】
10.1方法論:
10.1.1投与:以下の変更以外は、6.1.1で経口投与について記載したように行った。マウスに、無菌PBSのみ(PBS)または無菌PBS(oN14)中で新たに増殖させた10細胞のE.coli Nissle株指定oN14(pMUT14-serを含むE.coli Nissle株oN)を強制経口投与で投与した。さらに、マウスに、生理食塩水または生理食塩水中のSSRI、フルオキセチンの200μl腹腔内(IP)注射を10mg/kg体重で投与した。マウスは、21日間同じ時刻に24時間ごとに経口およびIP投与の同時治療を受けた。したがって、4つのマウス治療群は、IP:生理食塩水/強制経口投与:PBS(陰性対照)、IP:フルオキセチン/強制経口投与:PBS(SSRI陽性比較対照薬)、IP:生理食塩水/強制経口投与:oN14(oN14陽性比較対照薬)、およびIP:フルオキセチン/強制経口投与:oN14(陽性組み合わせ比較対照薬)を与えられた。最後の投与の24時間後、マウスを運動性および行動試験に供した。
【0145】
10.2結果
oN14(IP:生理食塩水/強制経口投与:oN14)で21日間処置した後にマウスが示した表現型は、フルオキセチン(IP:フルオキセチン/強制経口投与)で処置したものとよく似ている。図12に示すように、A)OFT中に産生される排泄の減少は、oN14、フルオキセチンまたは併用療法(IP:フルオキセチン/強制経口投与:oN14)の両方で観察されるが、このことは、ストレスレベルの減少が少ない排便につながることを示す。さらに、図12B)~E)では、内側ゾーンで滞在した時間および移動距離、ならびに内側ゾーンへの侵入の総数は、全て、oN14またはフルオキセチン処置によって増加する。これらのパラメータの増加は、不安またはストレスの減少として解釈され、未知の環境で探索する意欲の増加を示す。強制水泳試験(図12F)では、不動で滞在した時間は、絶望/鬱の指標として測定される。oN14およびフルオキセチンでの処置は、両方とも不動の時間を大幅に短縮し、同様の効果を示す。oN14で処置したマウスは、フルオキセチンで治療したマウスと比較して、内側ゾーンで滞在した時間、内側ゾーンへの侵入、および内側ゾーンでの距離への同様の効果を示した(図12)。oN14による処置およびフルオキセチンによる処置の組み合わせは、oN14またはフルオキセチンのみで処置された個々のグループと比較した場合、総効果のわずかな減少をもたらした。
【0146】
実施例11 本発明の遺伝子改変E.coli株の経口投与は、血漿中および尿中セロトニンを増加させる
5-HTP産生E.coli Nissle株oN10をマウスに経口投与すると、マウスの血漿中セロトニンおよび尿中セロトニンならびに5-HTP濃度を上昇させることが示された。
【0147】
11.1方法論
11.1.1経口投与:以下の変更を加え、6.1.1に記載される通りである。動物は、強制経口投与の3日前からおよび実験の初めから終わりまで、飲料水中でストレプトマイシン(5g/L)を与えられた。108細胞のoN10またはトリプトファンヒドロキシラーゼを含まない対照EcN株(EcN_対照)のいずれかの単回の強制経口投与。動物を、TDC阻害剤カルビドパで24時間ごとに腹腔内注射(IP)で処置し、新鮮な糞便サンプルを7日間毎日収集し、その後、動物を安楽死させた。血漿サンプルを、強制経口投与後2日目および7日目に採取した。
【0148】
11.1.2インビボ代謝産物分析:血漿、組織、腸内容物、尿および糞便サンプルを、セロトニン、5-ヒドロキシトリトファン、トリプタミン、5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)およびトリプトファンについて分析した。血漿用:強制経口投与後2日目(および心臓穿刺8日目)に顎下静脈から血液サンプルを採取し、Li-Heparin Microtainersで10分間氷上に保持した後、10000g、4℃で90秒遠心分離して血漿を分離し、血漿を、-80℃で急速凍結した。サンプルを解凍した後、0.9%NaCl、0.2%アスコルビン酸、および20mg/LのC-13標識トリプトファンを含む内部標準緩衝液を添加し、メタノール抽出を使用してタンパク質を沈殿させた。真空遠心機を用いてサンプルを乾燥させた後、それらをLC-MS/MS分析のために50μlのddHO中で再構成した。組織分析用:結腸組織の重さを量り、収集後すぐに液体窒素で凍結し、BeadBeater(Biospec 112011)中で、単一の6.34mmのステンレス鋼ビーズ(Biospec 11079635ss)を有するステンレス鋼マイクロバイアル(Biospec 2007)を用いて30秒間叩くことにより凍結破砕した。強制経口投与後2日目および6日目に尿を採取し、直ちに-80℃で急速凍結した。サンプルを解凍した後、0.9%NaCl、0.2%アスコルビン酸、および20mg/LのC-13標識トリプトファンを含む内部標準緩衝液を添加し、メタノール抽出を使用してタンパク質を沈殿させた。真空遠心機を用いてサンプルを乾燥させた後、それらをLC-MS/MS分析のために50μlのddHO中で再構成した。
【0149】
11.2結果
TPH発現のない対照株と比較して、oN10を含む血漿で5-HT濃度の有意な増加が観察され(両側t検定によりp<0.001)、このことは、インビボでの5-HTPのoN10由来の産生の成功を示す(図13A)。oN10により産生される5-HTPの量は、トリプトファン濃度に影響を与えずに末梢血漿セロトニン濃度を上昇させるのに十分であったが(図13B)、このことは、生理学的に適切なレベルの範囲内のセロトニン代謝に対するoN10の特定の効果を示す。5-HTPの血漿中濃度は、全てのサンプルで定量レベルを下回った。しかしながら、5-HTPは血液脳関門を通過することが知られているため、末梢で産生される5-HTPは、気分、睡眠、不安およびその他の障害への見込みのある治療効果を伴って、脳内のセロトニン生合成を増加させることができる(Turner et al.,2006)。oN10株は、一定の用量で胃腸管内から5-HTPを送達するメカニズムを示し、5-HTPおよび5-HTなどの神経伝達物質の用量依存性の変動の望ましくない影響を回避する。
【0150】
尿中5-HTおよび5-HTP濃度も、対照群と比較してoN10で増加したが(それぞれ図13CおよびD)、このことは、oN10でセロトニン代謝が増加したことを示す。
【0151】
実施例12:遺伝子改変されたSaccharomyces cerevisiae細胞は、5-HT産生のための生合成経路を発現する
Saccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)を、組換え遺伝子の導入によって遺伝的に改変することにより、TRPを5-HTPに変換し、次に5-HTPを5-HTに変換する2つの連続した代謝ステップを触媒する酵素を含む合成セロトニン経路を確立した(図1)。これらの2つの代謝ステップを触媒する酵素の最適な組み合わせの特定は、TPH遺伝子およびTDC遺伝子の組み合わせから得られる5-HT収量を発現および決定することによって決定された。
【0152】
12.1方法論
改変S.cerevisiae細胞を、表1を参照して、以下のように操作した。
宿主株であるS.cerevisiaeを、Mans et al.,(2015)から入手した。哺乳動物、植物または細菌の供給源に由来するTPHタンパク質をコードする遺伝子であるマウスTPH1(M1)およびイネTDC(R)は、1.1.1におけるものと同じであった。細菌Candidatus Koribacter versatilis Ellin345(ck)とは異なるTDC遺伝子もまた試験された。経路遺伝子を、酵母2μプラスミドバックボーン、またはARS/CENバックボーンのいずれかにクローン化した(図14を参照)。M1遺伝子を、PKG1プロモーターの制御下でクローン化し、TDC遺伝子(イネTDCまたはck TDCのいずれか)をTEF1プロモーターによって制御した。続いて、当該技術分野で既知の標準的なクローニングおよび形質転換手順を使用することにより、プラスミドを宿主株に形質転換した。
【0153】
増殖およびインビトロ代謝産物生産を、以下のように決定した。酵母株を、合成完全ドロップアウト(SC)培地(アミノ酸を含まない酵母窒素ベース6.7g/L、グルコース20g/L、ドロップアウトミックス2g/L)中で増殖させた。使用したドロップアウトミックスは、ヒスチジンを欠くことによってプラスミドを維持した。陰性対照(プラスミドを含まない)を、20mg/Lのヒスチジンで増殖させた。各株から3つの単一コロニーを選び、24個のディープウェルプレートで2mlμlの培地で増殖させ、250rpm、30℃で48時間振とうした。本培養物を、振とうフラスコ中で25mlSC培地+500mg/Lトリプトファン中でOD600=0.05まで接種し、細胞を、同じ条件下で72時間増殖させた。その後、培養上清を17000×gで2分間の遠心分離により細胞から分離し、HPLCによる分析まで、-20℃で凍結した。示される全てのデータは、少なくとも3つの生物学的複製由来の平均+/-SDである。
【0154】
代謝産物生産を、1.1.3のようにLC-MSによって定量化した。
【0155】
12.2結果:
イネ由来のTDC(R)[またはCandidatus Koribacter versatilis Ellin345(ck_TDC)の細菌TDC遺伝子と組み合わせてマウスTPH1(M1)を発現するように操作された宿主S.cerevisiaeの遺伝子改変株は、顕著な量のセロトニンを産生した(図15A)。TPHまたはTDC遺伝子発現を有しない対照株(Sc_Control)では、セロトニン産生は検出されず(p<0.0018、ANOVA)、マウスTPH1およびR-TDCを発現する株(pSc-1およびpSc-2)またはck-TDC(pSc-3)(表1を参照)は、それぞれおよそ0.38+/-0.07mg/Lおよび0.52+/-0.06mg/Lのセロトニンを産生した。ck-TDC遺伝子はまた、R-TDC遺伝子を機能的に置換し得、E.coli構築物におけるセロトニンの産生を可能にする(図15B)が、ck-TDCの強い過剰発現は、oNにおいて細胞毒性を引き起こし(図15C)、R-TDC発現と比較して、増殖率および最終バイオマス収量の減少をもたらす。
【0156】
実施例13:遺伝子改変されたBacillus subtilis168細胞は、5-HT産生のための生合成経路を発現する
Bacillus subtilis(B.subtilis)を、組換え遺伝子の導入によって遺伝的に改変することにより、TRPを5-HTPに変換し、次に5-HTPを5-HTに変換する2つの連続した代謝ステップを触媒する酵素を含む合成セロトニン経路を確立した(図1)。これらの2つの代謝ステップを触媒する最適な組み合わせ酵素の同定は、TPH遺伝子およびTDC遺伝子の組み合わせから得られる5-HT収量を発現および決定することによって決定される。
【0157】
13.1方法論
German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(DSMZ)[NC_000964]から入手した宿主株B.subtilis168を、表1を参照して、次のように遺伝子操作した。哺乳動物または植物源に由来するTPHタンパク質をコードする遺伝子であるマウスTPH1(M1)およびイネTDC(R)は、1.1.1におけるものと同じであった。試験されたTPHおよびTDC遺伝子の組み合わせを、E.coli folE遺伝子のT198Iバリアントとともに統合プラスミド(pDG364に由来、表1を参照)にクローン化することにより、経路オペロンのゲノム統合を促進した。遺伝子を、強力なBacillus特異的プロモーター(Ps11)、M1の強力なRBS(R01)、TDCの中強度のRBS(表1のRBS50)、およびfolE(T198I)の強力なRBS(R11)からなる合成オペロンに配置した。プラスミドpBs-M1Rfは、マウスTPH1、イネTDC、およびfolE(T198I)遺伝子を含んだ(図16)。
【0158】
クローニングを、標準的な分子生物学的手法を採用することにより、E.coli Top10で実施した。続いて、当該技術分野で既知の標準的なクローニングおよび形質転換手順を使用することにより、プラスミドを宿主株に形質転換した。amyE遺伝子座でのB.subtilis168ゲノムへの正しい経路統合を、Sangerシーケンシングによって検証した。
【0159】
増殖およびインビトロ代謝産物生産を、以下のように決定した。B.subtilis168株を、0.2%(w/v)グルコースおよび50mg/LのL-トリプトファンを含むLysogeny Broth(LB)培地で増殖させた。各株から3つの単一コロニーを選び、96ディープウェルプレート中で300μlの培地で増殖させ、250rpm、37℃で16時間振とうした。この予備培養物を新鮮な培地に1:100で希釈することによって主培養物に接種し、細胞を同じ条件下で24時間増殖させた。その後、0.2μm孔サイズのフィルターを使用して培養上清を細胞から分離し、LC-MSによる分析まで、-20℃で凍結した。示される全てのデータは、少なくとも3つの生物学的複製由来の平均+/-SDである。
【0160】
代謝産物生産を、1.1.3と同様に、LC-MSによって定量化した。
【0161】
13.2結果:
マウスTPH1(M1)を発現するように操作された宿主の遺伝子改変株であるB.subtilis168は、イネ(R)およびE.coli folE(T198I)由来のTDCと組み合わせて、セロトニンおよび5-HTPを産生すると予想される。
【0162】
野生型Bacillus subtilis168株を使用して5-HTPまたは5-HTは産生されないが、トリプトファンヒドロキシラーゼM1をfolE(T198I)と一緒に発現させると、5-HTPの産生が可能になるであろう。M1_TPH、folE(T198I)およびR_TDCの発現は、セロトニンの産生をもたらすと予想される。
【0163】
【表2-1】
【表2-2】
【表3】
【表4】
【0164】
参考文献
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図1
図2
図3
図4
図5
図5E
図5F
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8
図8C
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
2022535958000001.app
【国際調査報告】