(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】バチルス(Bacillus)でのフコシル化オリゴ糖の生産
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20220803BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220803BHJP
C12P 19/00 20060101ALI20220803BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20220803BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220803BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C12N1/21
C12N1/00 P
C12P19/00
C12P19/04 C
A23L33/10
C12P1/04 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573425
(86)(22)【出願日】2020-06-08
(85)【翻訳文提出日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2020065835
(87)【国際公開番号】W WO2020249512
(87)【国際公開日】2020-12-17
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】511149751
【氏名又は名称】クリスチャン.ハンセン・ハー・エム・オー・ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イェネバイン,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ワルテンベルク,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ハーバーセッツァー,シュテファーニエ
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B018LB07
4B018MD31
4B018ME14
4B018MF13
4B064AF04
4B064CA02
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4B064CD09
4B064DA10
4B065AA15X
4B065AA19X
4B065AA26Y
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4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BA02
4B065BA03
4B065BA23
4B065BB15
4B065BB16
4B065BD36
4B065CA21
4B065CA41
(57)【要約】
フコシル化オリゴ糖の生産のための非芽胞形成バチルス細胞並びにフコシル化オリゴ糖を生産するための方法が開示され、ここで、前記バチルス細胞はラクトースパーミアーゼ、GDP-フコース生合成経路及びフコシルトランスフェラーゼを有するように遺伝子操作されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコシル化オリゴ糖の生産のための非芽胞形成バチルス(Bacillus)細胞であって、ラクトースパーミアーゼ、GDP-フコース生合成経路及びフコシルトランスフェラーゼを有するように遺伝子操作されている細胞。
【請求項2】
芽胞形成が、Spo0A、sigmaE及びsigmaFをコードする遺伝子のうちの1つ以上の欠失又は機能的不活化により損なわれている、請求項1に記載のバチルス細胞。
【請求項3】
ラクトースパーミアーゼが、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)LacY又はその機能的変異体である、請求項1又は2に記載のバチルス細胞。
【請求項4】
GDP-フコース生合成経路が、デノボGDP-フコース生合成経路及び/又はサルベージ経路である、請求項1~3のいずれか一項に記載のバチルス細胞。
【請求項5】
フコシルトランスフェラーゼが、ラクトース受容フコシルトランスフェラーゼ、好ましくは、α-1,2-フコシルトランスフェラーゼ及びα-1,3-フコシルトランスフェラーゼの群から選択されるフコシルトランスフェラーゼである、請求項1~4のいずれか一項に記載のバチルス細胞。
【請求項6】
任意のβ-ガラクトシダーゼ活性を欠いているか又は同じ種の野生型前駆体バチルス細胞と比べてβ-ガラクトシダーゼ活性が低下している、請求項1~5のいずれか一項に記載のバチルス細胞。
【請求項7】
yesZ又はganAからなる群から選択される遺伝子のうちの少なくとも1つの欠失又は機能的不活化により遺伝子操作されている、請求項6に記載のバチルス細胞。
【請求項8】
バチルス・サブチリス(B.subtilis)細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載のバチルス細胞。
【請求項9】
フコシル化オリゴ糖の生産のための、請求項1~8のいずれか一項に記載のバチルス細胞の使用。
【請求項10】
- 請求項1~8のいずれか一項に定義される非芽胞形成バチルス細胞を提供し;
- 培地において、フコシル化オリゴ糖の生産に許容的である条件下でバチルス細胞を培養し;並びに、任意選択的に、
- 培地及び/又はバチルス細胞からフコシル化オリゴ糖を回収する
フコシル化オリゴ糖の生産のための方法。
【請求項11】
培地がラクトースを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
培地がL-フコースを含有する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の方法により生産されるフコシル化オリゴ糖。
【請求項14】
栄養組成物の、好ましくは、調整粉乳の製造のための、請求項13に記載のフコシル化オリゴ糖の使用。
【請求項15】
請求項13に記載のフコシル化オリゴ糖を含有する栄養組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子操作の技術分野に関し、特に、フコシル化オリゴ糖の生産のためのバチルス細胞の遺伝子操作、及び前記遺伝子操作されたバチルス細胞を使用するフコシル化オリゴ糖の微生物生産に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト母乳は幼児に対して最適な栄養特性を有する。ヒト母乳中に存在する糖類は、脂肪及びタンパク質を差し置いて、ヒト乳の主成分となっている。エネルギー源として働くラクトースに加えて、ヒト母乳は、複合糖分子、すなわち、オリゴ糖を1リットル当たり約5~25グラム含有する。これらのオリゴ糖はヒト乳にのみかなりの濃度で見出され、ヒト乳オリゴ糖(HMO)と総称される。
【0003】
およそ200の構造的に異なるHMOが現在まで同定されている。前記HMOは二糖ラクトース(グルコース(Glc)部分とガラクトース(Gal)部分からなる)に基づいており、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、フコース(Fuc)、シアル酸(NeuNAc)、及びガラクトース(Gal)に基づいている追加の単糖残基を有する。ヒト乳中のHMOの濃度及び組成は、個体間及び授乳期の間に初乳中の最大20g/L~成熟乳中の5~10g/Lまで変動する。
【0004】
いわゆる「分泌型表現型」に属する女性の乳は、α-1,2-フコシル化HMOを高含量で含有する。これらの女性は、いわゆる「フコシルトランスフェラーゼ2」をコードするFUT2遺伝子を発現する。彼女たちの乳中最も豊富なHMOは、2’-フコシルラクトース(2’-FL;Fuc(α1-2)Gal(β1-4)Glc)及びラクト-N-フコペンタオース-I(LNPF-I;Fuc(α1-2)Gal(β1-3)GlcNAc(β1-3)Gal(β1-4)Glc)である。
【0005】
ヒト乳オリゴ糖は、幼児の腸(intestine)の中を通過中は消化されない。幼児の腸(gut)でのその持続性のために、オリゴ糖は有益な効果を示す。より具体的には、HMOは、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、バクテロイデス属(Bacteroides)及びラクトバチルス属(Lactobacillus)という片利共生微生物にとって炭素源として働くので、プレバイオティックであることが示されている。したがって、HMOは、幼児の腸中でのこれらの微生物の増殖を支えている。
【0006】
ヒト乳オリゴ糖は、それが腸粘膜表面上のグリカン構造体への病原菌の付着を妨げる点で、前記病原菌による幼児の腸への定着も直接低減させる。HMOは、上皮表面グリカンとのその構造的類似性のためにデコイとして機能し、病原菌の侵入を阻害し、それによって感染症のリスクを低減する。
【0007】
アルファ-1,2-フコシル化HMOは、非常に一般的な細菌性下痢の原因物質である、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)での感染症に対して防御的であることが示されている。α-1,2-フコシル化HMOは、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)の熱安定毒素により引き起こされる下痢に対する防御にも関連している。その上、下痢媒介カリシウイルスでの感染症リスクは、母乳中の高含量のα-1,2-フコシル化HMOにより低減される。HMO、特にフコシル化HMOラクト-N-フコペンタオースV(LNFP-V;Gal(β1-3)GlcNAc(β1-3)Gal(β1-4)[Fucα1-3]Glc)は、院内下痢の最も一般的な原因であるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)由来の毒素Aの炭水化物結合部位に結合する。このようにして、HMOは、クロストリジウム・ディフィシル由来の毒素Aと細胞受容体との相互作用を妨げると思われる。
【0008】
さらに、上皮細胞へのシュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)の付着は、2’-FL及び3-フコシルラクトース(3-FL;Gal(β1-4)[Fucα1-3]Glc)により有意に阻害された。急性胃腸炎の主原因であるノロウイルス(ノーウォーク様ウイルス、NLV)の組織血液型抗原への結合は、α-1,2-フコシル化HMOにより及びα-1,3-フコシル化HMOにより妨げられる。これは、宿主受容体グリカンへのノロウイルスカプシド結合を阻害するこれらのHMOの潜在力を示している。
【0009】
HMOの、特に、フコシル化HMOの公知の利点のために、これらのオリゴ糖又はこれらのオリゴ糖の少なくとも一部が乳児用調整粉乳用の栄養補助剤として利用可能になるように、その合成のための経済的に価値のある工程が望まれる。
【0010】
個々のヒト乳オリゴ糖の供給は限られておりその純粋な画分を入手するのが困難であるために、これらの複合分子の一部を合成する化学的経路が開発された。しかし、化学合成も生体触媒アプローチも商業的に持続可能にはならなかった。さらに、特に、ヒト乳オリゴ糖の化学合成は、いくつかの有害な化学物質の使用を伴い、この化学物質は最終製品を汚染するリスクをもたらすこととなる。
【0011】
ヒト乳オリゴ糖の化学合成に関連する課題があるために、HMOを生産するための発酵アプローチが開発された。今日、主に遺伝子操作されたエシェリキア・コリ株を使用する、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-ジフコヘキサオースII、3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースなどのいくつかのHMOの微生物生産が開示されている。
【0012】
現在では、組換えエシェリキア・コリ細胞が工業規模でのHMOの微生物生産に使用されている。しかし、エシェリキア・コリ属は病原性メンバーも非病原性メンバーも含む。非病原性エシェリキア・コリ株はHMOの微生物生産に用いられているにもかかわらず、そのような非病原性エシェリキア・コリは、種々の管轄においてヒト消費を目的とする製品の製造に対して安全であるとは認識されていない。したがって、前記管轄における商品化に対して前記製品の規制上の承認を得るためには、そのような管轄において安全であると認識されている属の微生物細胞がヒト消費を目的とする化合物の製造に必要とされる。
【0013】
この問題は、ヒト消費に対して安全であると認識され、フコシル化オリゴ糖を生産することができるバチルス属の細菌細胞を使用することにより解決される。
【0014】
バチルス属の細菌は、好気性又は通性に嫌気性種のグラム陽性、桿状、内生芽胞形成微生物細胞である。バチルス属はファーミキューテス(Firmicutes)門に属する。バチルス属のメンバーのゲノムは、そのコドン使用においてA-T塩基対に向かうバイアスを有する。バチルス種は自然界にほぼ一様に存在している。バチルス種は、例えば、土壌中に見出される(バチルス・サブチリス(B.subtilis))が、高pH(バチルス・アルカロフィラス(B.alcalophilus))、高温(バチルス・サーモフィラス(B.thermophilus))、又は高塩濃度(バチルス・ハロデュランス(B.halodurans))などの極端な環境にも存在する。
【0015】
バチルス属は、自由生活性種並びに寄生病原性種を含む266の名称付きの種を含む。2つのバチルス種は医学的に重要であると見なされており、バチルス・アンシラシス(B.anthracis)は炭疽病を引き起こし、バチルス・セレウス(B.cereus)は食中毒を引き起こす。第3の種、バチルス・チューリンゲンシス(B.thuringiensis)は、昆虫を殺傷する毒素を産生する重要な昆虫病原菌である。したがって、この細菌は害虫を制御する殺虫剤として使用されている。
【0016】
そのGRAS(一般に安全だと認められている)ステータスのために、いくつかのバチルス種、例えば、バチルス・アミロリケファシエンス(B.amyloliquefaciens)、バチルス・リケニフォルミス(B.licheniformis)及びバチルス・サブチリスは、食品及び製薬業において使用される種々のタンパク質及び化合物のバイオテクノロジー生産において使用されている。
【0017】
バチルス・アミロリケファシエンスは制限酵素BamHIの供給源であり、天然の抗生物質タンパク質バルナーゼも合成する。さらに、バチルス・アミロリケファシエンスは、バチルス・アンシラシスに対する選択活性を有する抗生物質であるプランタゾリシンを産生する。バチルス・アミロリケファシエンス由来のアルファ-アミラーゼはデンプン加水分解に使用されることが多い。バチルス・アミロリケファシエンスはサブチリシンの供給源でもあり、これはタンパク質の分解を触媒する。
【0018】
バチルス・アミロリケファシエンスは、農業、水産養殖及び水性栽培においていくつかの植物根病原菌と闘うために使用される根定着細菌である。なぜならば、バチルス・アミロリケファシエンスは細菌及び真菌病原体に対して作用し、競争的排除又は望ましくない病原菌を打ち負かすことにより感染を予防しうるからである。
【0019】
アルカリセリンプロテアーゼを分泌する能力が高いために、バチルス・リケニフォルミスは、産業的酵素生産において最も重要な細菌の1つとなっている。バチルス・リケニフォルミスにより分泌されるサブチリシンカールスバーグは洗浄プロテアーゼとして使用され、Alcalase(登録商標)の商品名で販売されている。
【0020】
バチルス・サブチリスは、土壌並びに反芻動物及びヒトの消化管に見出されるカタラーゼ陽性細菌である。バチルス・サブチリス及びこのエンドトキシンフリー細菌由来の物質は、食物中でのその安全で有益な使用について異なる当局機関により評価されてきた。アメリカ合衆国では、バチルス・サブチリス由来のカルボヒドラーゼ及びプロテアーゼ酵素は米国食品安全性管理(FDA)により一般的に安全である(GRAS)と認められている。バチルス・サブチリスは、欧州食品安全機関により「安全性適格推定」ステータスとも認められてきた。
【0021】
さらに、バチルス・サブチリス株の無毒性及び無病原性株は食品に一般的に使用された。例えば、納豆の形態の発酵ダイズ豆は、日本で広く消費されているが、1グラム当たり108もの生存可能なバチルス・サブチリス細胞を含有する。発酵豆は、健康な腸内フローラ及びビタミンK2摂取へのその寄与が認められている。納豆製品及びその主成分としてのバチルス・サブチリス・ナットー(B.subtilis var.natto)は、健康の維持に効果的であると日本厚生労働省に認可されたFOSHU(特定保健用食品)である。
【0022】
バチルス・サブチリスは扱いやすく、成長が速く培養条件が簡単である。組換えバチルス・サブチリス株は、ポリヒドロキシアルカノエート、ヒアルロン酸並びにアミラーゼ及びプロテアーゼなどの種々の酵素の生産に使用されている。
【0023】
バチルス・サブチリスの野生型天然単離菌は、変異誘発及び選択の順化工程を経ている実験室株と比べて、扱いが難しい。これらの順化株は、天然のコンピテント発達(環境DNAの取込み及び組込み)、成長、及び「野生の状態で」必要とされる能力の喪失を経験する能力が改善されていることが多い。バチルス・サブチリスでは、直鎖状DNA並びに多量体形態のプラスミドDNAは、天然のコンピテント細胞により積極的に吸収される。
【0024】
ある特定の生理条件下では、バチルス・サブチリス細胞の小下位集団はコンピテントになる。バチルス・サブチリスでは、天然のコンピテンスは複雑な制御ネットワークにより制御されている。このネットワークでの重要な制御因子は、とりわけ、コンピテンスの主要制御因子ComK及び芽胞形成の転写主要制御因子Spo0Aである。バチルス・サブチリス細胞の形質転換効率及びおそらくそのゲノム中にDNAを組み込む効力は遺伝子操作により改善することが可能である。これは、制御されたプロモーター(例えば、マンニトール誘導性PmtlAプロモーター)並びに遺伝子comK及びcomSを含む発現カセットをバチルス・サブチリスのゲノム中に異所的に組み込むことにより達成することができる。さらに、この戦略により、複合培地(例えば、LB)を使用する天然のコンピテンスによるバチルス・サブチリスの形質転換が可能になる。
【0025】
フコシル化糖の生産では、バチルス・サブチリスは種々の方法により遺伝的に改変することが可能である。
【0026】
遺伝子組込み及び/又は破壊若しくは欠失による(同時の)遺伝子不活化は、相同組換えにより達成することができる。効率的な相同組換えには、バチルス・サブチリスにおいて少なくとも400~500bpの相同アームが必要である。
【0027】
標的にされたゲノム操作のための別の方法は、最新のCRISPR-Cas9システムである。この迅速でマーカーレスのゲノム編集ツールは、大規模ゲノム欠失、小さな及び大きなDNA挿入、停止コドンの導入による遺伝子サイレンシング並びに点突然変異の導入に使用することが可能である。CRISPR-Cas9による痕跡を残さないゲノム編集には以前のゲノム改変を必要としない。
【0028】
遺伝子のランダムな染色体組込み及び挿入変異は、改変mariner由来トランスポゾンを使用して実施することができる。このシステムは、バチルス・サブチリスではホットポットへの偏りはなく、一方、ランダムな異所的組込みにおいて高い効率を示す。
【0029】
バチルス種は酵素の工業規模の生産に使用されているが、バチルス細胞は、現在まで、オリゴ糖の、特に、フコシル化オリゴ糖の工業規模での生産のための実施に供されたことがない。
【0030】
中国特許出願CN 108 410 787 Aは、ラクチル-N-ネオテトラオースを合成する組換えバチルス・サブチリス細胞を開示している。前記組換えバチルス・サブチリス細胞は、細胞ゲノム中に組み込まれているラクトースパーミアーゼ遺伝子を有する。さらに、前記バチルス細胞は、ベータ-1,3-N-グルコサミントランスフェラーゼ遺伝子及びβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドを有している。バチルス・サブチリス細胞は外因性ラクトースの存在下で培養することができ、約1g/Lまでの力価でラクチル-N-ネオテトラオースを合成するが、この量では経済的に合理的な工業規模の生産には少なすぎる。
【0031】
多種多様な特許出願がバチルスをラクチル-N-ネオテトラオースなどのオリゴ糖の生産に適している属として言及しているが、おそらく、バチルスにおいてHMO生産に必要な生合成経路を実行するためには代謝工学的操作でのかなりの努力が必要とされるために、フコシル化オリゴ糖の、特に、フコシル化ヒト乳オリゴ糖の生産のためのバチルスの商業的使用はまだ実行されたことがなかった。LNnTの生産用の上述のバチルス・サブチリスは、バチルス・サブチリス細胞中に天然に存在するドナー基質に頼っているが、バチルスでのフコシル化オリゴ糖の生産には、必要とされるドナー基質であるGDP-フコースを提供するための異種代謝経路の細胞中での実行が必要である。
【0032】
中国特許出願CN109 735 479 Aは、2’-フコシルラクトースを合成するための組換えバチルス・サブチリス細胞を開示しており、そこではラクトース輸送酵素の発現は増強されており、その細胞はフコースキナーゼ、リン酸グアニントランスフェラーゼ及びフコシルトランスフェラーゼを発現する。発酵培地での2’-フコシルラクトースの収量は、0.424g/L~1.042g/Lであると報告されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】中国特許出願公開第108410787号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第109735479号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
それにもかかわらず、フコシル化オリゴ糖の生産のためにバチルス属の細菌細胞を提供することが本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0035】
この目的は、細胞中への外因性ラクトースの移入のためのラクトースパーミアーゼを有するバチルス細胞、GDP-フコースを提供するためのデノボGDP-フコース生合成経路、及びGDP-フコースからラクトースへのフコース部分の輸送のためのフコシルトランスフェラーゼを提供することにより達成された。前記バチルス細胞は、フコシル化オリゴ糖を生産するように外因性ラクトースの存在下で培養することができる。
【0036】
(発明の要旨)
第1の態様によれば、フコシル化オリゴ糖の生産のためのバチルス属の非芽胞形成細菌細胞が提供され、バチルス細胞は、ラクトースパーミアーゼ、GDP-フコース生合成経路、及びフコシルトランスフェラーゼを有する。
【0037】
第2の態様によれば、フコシル化オリゴ糖の生産のための第1の態様に従ったバチルス属の非芽胞形成細菌細胞の使用が提供される。
【0038】
第3の態様によれば、フコシル化オリゴ糖の生産のための方法であって、
- バチルス属の非芽胞形成細菌細胞を提供することであって、前記バチルス細胞はラクトースパーミアーゼ、GDP-フコース生合成経路、及びラクトース受容フコシルトランスフェラーゼを有すること;
- ラクトースを含有する培養培地において、バチルス細胞がフコシル化オリゴ糖を生産することに許容的である条件下で、バチルス細胞を培養すること;並びに
- 任意選択的に、培養培地及び/又はバチルス細胞からフコシル化オリゴ糖を回収すること
を含む方法が提供される。
【0039】
第4の態様によれば、ラクトースパーミアーゼ、GDP-フコース生合成経路及びフコシルトランスフェラーゼを有するバチルス細胞により生産されたフコシル化オリゴ糖が提供される。
【0040】
第5の態様によれば、栄養組成物の製造のためにラクトースパーミアーゼ、GDP-フコース生合成経路及びフコシルトランスフェラーゼを有するバチルス細胞により生産されたフコシル化オリゴ糖の使用が提供される。
【0041】
第6の態様によれば、ラクトースパーミアーゼ、GDP-フコース生合成経路及びフコシルトランスフェラーゼを有するバチルス細胞により生産された少なくとも1つのフコシル化オリゴ糖を含有する栄養組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、フコシル化オリゴ糖の生産のためのバチルス細胞、ラクトースを含有する培養培地において、及び前記バチルス細胞による前記フコシル化オリゴ糖の生産に許容的である条件下で前記バチルス細胞を培養することによりフコシル化オリゴ糖を生産するためのその使用及び方法に関する。
【0043】
フコシル化オリゴ糖を生産することができるためには、バチルス細胞は、フコシルトランスフェラーゼがフコシル部分をドナー基質から前記アクセプター基質に移動させ、それによってフコシル化オリゴ糖を生成することができるように、フコシル部分を含むドナー基質及び二糖又はオリゴ糖であるアクセプター基質をフコシルトランスフェラーゼに提供しなければならない。
【0044】
フコシル化オリゴ糖(前記バチルス細胞が生産するよう意図されている)が、所望のフコシル化オリゴ糖であり、所望のフコシル化オリゴ糖の生産中にフコシルトランスフェラーゼが無差別的であるために生成される場合がある他のフコシル化オリゴ糖は望ましくないフコシル化オリゴ糖又は副産物と見なされることは理解されるべきである。適切なドナー基質はGDP-L-フコースであり、フコシルラクトースを生成するのに適したアクセプター基質は二糖ラクトースである。こうして得られた所望のフコシル化オリゴ糖は、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース又は2’,3-ジフコシルラクトースである。
【0045】
野生型バチルス細胞はラクトースを細胞内で合成しないし、外因性ラクトースを内部移行も代謝もしない。しかし、ラクトースは、一部のフコシル化オリゴ糖の形成におけるラクトース受容フコシルトランスフェラーゼによるフコース部分に対するアクセプター基質である。したがって、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース又は2’,3-ジフコシルラクトースなどのフコシル化オリゴ糖を生産することができるためには、バチルス細胞は、ラクトースを細胞内で生成することにより及び/又は外因性ラクトースを内部移行することにより、ラクトースをラクトース受容フコシルトランスフェラーゼに提供できる能力を持たなければならない。
【0046】
ある実施形態では、フコシル化オリゴ糖を生産するためのバチルス細胞は、ラクトースパーミアーゼを有することにより外因性ラクトースを内部移行することができる。本明細書で使用されるラクトースに関する用語「外因性」とは、バチルス細胞を起源としない、すなわち、バチルス細胞により細胞内で合成されないラクトースであるが、バチルス細胞以外を起源とし、フコシル化オリゴ糖を生産するようにバチルス細胞を生育している培養培地に添加されるラクトースのことである。
【0047】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、外因性ラクトースを内部移行させることができる、すなわち、ラクトースパーミアーゼを有するように遺伝子操作されている。したがって、フコシル化オリゴ糖を生産するためのバチルス細胞は、異種ラクトースパーミアーゼを有する。適切なラクトースパーミアーゼは、エシェリキア・コリLacY又はその機能的変異体である。
【0048】
タンパク質、ポリペプチド、酵素及びトランスポーターに関して、しかし、核酸分子及び/又はヌクレオチド配列に関しても本明細書で使用される用語「異種の」とは、前記分子を含有する細胞の種にとってノンネイティブである分子のことである。用語「ノンネイティブ」は、前記分子が、バチルス細胞の、天然に存在するか又は野生型の前駆細胞、すなわち、自然界に非常に一般的に存在する同じ種の細胞に存在しないことを示す。
【0049】
酵素及び/又は輸送分子に関して本明細書で使用される用語「機能的変異体」とは、参照酵素又はトランスポーターと同じ活性(酵素的、触媒的又は移動させる)を有するが、参照酵素又はトランスポーター分子とは異なるアミノ酸配列を有するタンパク質又はポリペプチドのことである。したがって、タンパク質/ポリペプチドの典型的な変異体はアミノ酸配列が参照タンパク質/ポリペプチドと異なる。変異タンパク質/ポリペプチドと参照タンパク質/ポリペプチドは、アミノ酸配列において1つ以上の置換、付加、及び/又は欠失がいかなる組合せでも異なりうる。したがって、用語「機能的変異体」は、参照タンパク質/ポリペプチドと同じ活性を有する参照タンパク質/ポリペプチドの切詰めバージョンを含む。置換された又は挿入されたアミノ酸残基は、遺伝コードによりコードされたアミノ酸残基でもよくそうでなくてもよい。タンパク質/ポリペプチドの変異体は、対立遺伝子変異型などの天然に存在する変異体でもよく、又は天然に存在することが知られていない変異体でもよい。タンパク質/ポリペプチドの天然に存在しない変異体は、変異誘発技法により、直接的合成により、及び当業者には公知である他の組換え法により作製しうる。本開示の範囲内では、好ましくは、少なくとも約25、50、100、200、500、1000、又はそれよりも多いアミノ酸の領域にわたって、参照ポリペプチドに対して、約60%アミノ酸配列同一性よりも大きな、65%、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%又はそれよりも大きなアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列/核酸配列を有するタンパク質及び種間相同体も用語「変異体」に含まれる。
【0050】
本明細書で使用される用語「同じ活性」とは、質的方法によってのみ、タンパク質/ポリペプチドの酵素活性、触媒活性又は輸送活性のことである。したがって、「機能的変異体」は、参照タンパク質/ポリペプチドの活性と比べて増加した又は減少した活性を有する変異体も含む。
【0051】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、ラクトースパーミアーゼをコードするヌクレオチド配列、好ましくは、エシェリキア・コリ ラクトースパーミアーゼLacY又はその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0052】
エシェリキア・コリ ラクトースパーミアーゼLacYは、エシェリキア・コリlacY遺伝子(Gen Bank受託番号:NP_414877.1)のタンパク質コード領域(すなわち、オープンリーディングフレーム)によりコードされている。したがって、ある実施形態では、バチルス細胞は、エシェリキア・コリ ラクトースパーミアーゼLacY又はその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0053】
追加の及び/又は代替の実施形態では、異種ラクトースパーミアーゼをコードするヌクレオチド配列のコドン使用は、バチルスのコドン使用に適応されている。例えば、バチルス・サブチリスのコドン使用は、全GC含有量が約45%未満であり、コドンの第1文字のGC含有量は約51%より大きく、コドンの第2文字のCG含有量は約36.1%未満であり、コドンの第3文字のCG含有量は約46%未満である点で独特である。
【0054】
ラクトースパーミアーゼの発現では、バチルス細胞は組換えラクトースパーミアーゼ遺伝子を含有しており、ここで、ラクトースパーミアーゼをコードするヌクレオチド配列はラクトースパーミアーゼオープンリーディングフレームの発現を媒介する発現制御配列に作動可能に連結されている。
【0055】
本明細書で使用される用語「作動可能に連結された」とは、核酸/遺伝子発現制御配列(例えば、プロモーター、シグナル配列、又は転写因子結合部位のアレイ)と第2の核酸配列(典型的には「タンパク質コード領域」、「オープンリーディングフレーム」と呼ばれ、「遺伝子」とさえ呼ばれることもある)の間の機能的な連鎖を意味するものとし、ここで、発現制御配列は、第2の配列に従ってヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を引き起こす。したがって、用語「プロモーター」は、通常DNAポリマー中のオープンリーディングフレームに「先行し」、mRNAへの転写の開始部位を提供するDNA配列を指示する。「制御因子」DNA配列は、通常は、所与のDNAポリマー中のオープンリーディングフレームの「上流」(すなわち、先行する)であるが、転写開始の頻度(又は速度)を決定するタンパク質に結合する。「プロモーター/制御因子」又は「制御」DNA配列と総称されているが、機能的なDNAポリマー中の選択されたオープンリーディングフレーム(又は一連のオープンリーディングフレーム)に先行するこれらの配列は協働して、オープンリーディングフレームの転写(及び最終的な発現)が起こるかどうかを決定する。DNAポリマー中の遺伝子「に続き」mRNAへの転写の終結シグナルを提供するDNA配列は、転写「ターミネーター」配列と呼ばれる。
【0056】
組換えラクトースパーミアーゼ遺伝子はバチルス染色体中に組み込まれている、又はバチルス細胞内のプラスミド上のエピソームバージョンとして存在している場合もある。
【0057】
バチルス細胞での異種ラクトースパーミアーゼ遺伝子の発現により、得られたバチルス細胞は培養培地から外因的に供給されるラクトースを内部移行することができる。次に、内部移行されたラクトースは、フコシルトランスフェラーゼに対するアクセプター基質として働くことができる(本明細書の下を参照)。
【0058】
フコシル化オリゴ糖を生産するためのバチルス細胞は、フコシル部分をアクセプター基質に移動させるためのドナー基質を提供できなければならない。フコシル部分のドナー基質はGDP-フコースである。したがって、バチルス細胞は細胞内でGDP-フコースを生成することができなければならない。GDP-フコースの細胞内生合成では、バチルス細胞はGDP-フコース生合成経路を有する。バチルスは、GDP-フコース生合成経路を有するように遺伝子操作されている。GDP-フコース生合成経路は、デノボGDP-フコース生合成経路でもよく及び/又はGDP-フコースサルベージ経路でもよい。
【0059】
ある実施形態では、バチルス細胞は、GDP-フコースの細胞内生合成のためのデノボGDP-フコース生合成経路を有する。バチルス細胞は、デノボGDP-フコース生合成経路を有するように遺伝子操作されている。
【0060】
デノボGDP-フコース生合成経路は、以下の酵素:
1.フルクトース-6-リン酸イソメラーゼ;
2.ホスホマンノムターゼ;
3.GDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ;
4.GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ;及び
5.GDP-フコースシンターゼ
の活性を含む。
【0061】
したがって、フコシル化オリゴ糖を生産するためのバチルス細胞は、フルクトース-6-リン酸イソメラーゼ(典型的には、マンノース-6-リン酸イソメラーゼとも呼ばれる)、ホスホマンノムターゼ、GDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ、及びGDP-フコースシンターゼを有する。
【0062】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、フルクトース-6-リン酸イソメラーゼ、ホスホマンノムターゼ、GDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ、及びGDP-フコースシンターゼを有するように遺伝子操作されている。
【0063】
GDP-フコース生合成の新規経路は、フルクトース-6-リン酸イソメラーゼにより触媒される反応であるフルクトース-6-リン酸からマンノース-6-リン酸への異性化から始まる。追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、フルクトース-6-リン酸イソメラーゼをコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。適切なフルクトース-6-リン酸は、エシェリキア・コリManA又はその機能的変異体である。例となるヌクレオチド配列は、エシェリキア・コリManAをコードするヌクレオチド配列である。
【0064】
エシェリキア・コリ フルクトース-6-リン酸イソメラーゼManAは、エシェリキア・コリmanA遺伝子(Gen Bank受託番号:NP_416130.3)のタンパク質コード領域によりコードされている。したがって、追加の実施形態では、バチルス細胞は、エシェリキア・コリManA又はその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0065】
エシェリキア・コリ フルクトース-6-リン酸イソメラーゼManAは、エシェリキア・コリmanA遺伝子(Gen Bank受託番号:NP_416130.3)のオープンリーディングフレームによりコードされている。したがって、追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、エシェリキア・コリmanA遺伝子又はその機能的変異体を含有する。
【0066】
追加の及び/又は代替の実施形態では、フルクトース-6-リン酸イソメラーゼをコードするヌクレオチド配列のコドン使用は、バチルスのコドン使用に適応されている。
【0067】
他の適切なフルクトース-6-リン酸イソメラーゼは、バチルス・サブチリスManA並びにパラロガスタンパク質であるバチルス・サブチリスGmuF(YdhS)及びバチルス・サブチリスPmi(Yvyl)又はその機能的変異体である。例となるヌクレオチド配列は、バチルス・サブチリスManA、バチルス・サブチリスGmuF又はバチルス・サブチリスPmiをコードするヌクレオチド配列である。バチルス・サブチリスフルクトース-6-リン酸イソメラーゼManAは、バチルス・サブチリスmanA遺伝子(Gen Bank受託番号:NP_389084.1)のオープンリーディングフレームによりコードされている。
【0068】
バチルス・サブチリスフルクトース-6-リン酸イソメラーゼManAは、バチルス・サブチリスmanA遺伝子(Gen Bank受託番号:NP_389084.1)のタンパク質コード領域によりコードされている。したがって、追加の実施形態では、バチルス細胞は、バチルス・サブチリスManA又はその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。したがって、追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、バチルス・サブチリスmanA遺伝子又はその機能的変異体を含有する。別の追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、バチルス・サブチリスgmuF遺伝子若しくはその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列及び/又はバチルス・サブチリスpmi遺伝子若しくはその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0069】
追加の及び/又は代替の実施形態では、天然のmanA遺伝子、天然のgmuF遺伝子及び/又は天然のpmi遺伝子の発現を増加させることができる。天然のmanA遺伝子、天然のgmuF遺伝子及び/又は天然のpmi遺伝子の発現は、天然のmanA遺伝子、天然のgmuF遺伝子及び天然のpmi遺伝子のうちの少なくとも1つの内因性プロモーターがもっと強力なプロモーター、すなわち、manA遺伝子、gmuF遺伝子及びpmi遺伝子のそれぞれの天然のプロモーターと比べて、増加した発現を媒介するプロモーターで置き換えられる点で増加させることができる。別の追加の又は代替の実施形態では、天然のmanA遺伝子、天然のgmuF遺伝子及び/又は天然のpmi遺伝子の発現は、天然のmanA遺伝子、天然のgmuF遺伝子及び/又は天然のpmi遺伝子の追加のコピーがバチルス細胞で増殖される点で増強することができる。
【0070】
別の追加の又は代替の実施形態では、天然のmanA遺伝子の発現は、天然のmanA遺伝子の構成的発現をもたらすマンノーストランスポーターをコードするmanP遺伝子の欠失又は機能的不活化により増強することができる。
【0071】
別の追加の又は代替の実施形態では、天然のgmuF遺伝子の発現は、対応する転写リプレッサーをコードするgmuR遺伝子の欠失又は機能的不活化により増強することができる。
【0072】
フルクトース-6-リン酸イソメラーゼの発現では、バチルス細胞は、組換えフルクトース-6-リン酸イソメラーゼ遺伝子を含有しており、ここで、フルクトース-6-リン酸イソメラーゼをコードするヌクレオチド配列は発現制御配列に作動可能に連結されている。
【0073】
組換えフルクトース-6-リン酸イソメラーゼ遺伝子は、バチルス染色体中に組み込まれているか又はバチルス細胞内でプラスミド上のエピソームバージョンとして存在している場合もある。
【0074】
デノボGDP-フコース生合成の第2のステップでは、マンノース-6-リン酸は、ホスホマンノムターゼの酵素活性によりマンノース-1-リン酸に変換される。追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、ホスホマンノムターゼをコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0075】
適切なホスホマンノムターゼは、エシェリキア・コリ ホスホマンノムターゼManBである。したがって、追加の実施形態では、バチルス細胞は、エシェリキア・コリManB又はその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0076】
エシェリキア・コリ ホスホマンノムターゼManBは、エシェリキア・コリManB遺伝子(Gen Bank受託番号:NP_416552.1)のタンパク質コード領域のヌクレオチド配列によりコードされている。したがって、追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、エシェリキア・コリManB遺伝子又はその機能的変異体を含有する。
【0077】
追加の及び/又は代替の実施形態では、ホスホマンノムターゼをコードするヌクレオチド配列のコドン使用は、バチルスのコドン使用に適応されている。
【0078】
ホスホマンノムターゼの発現では、バチルス細胞は、組換えホスホマンノムターゼ遺伝子を含有しており、ここで、ホスホマンノムターゼをコードするヌクレオチド配列は発現制御配列に作動可能に連結されている。
【0079】
組換えホスホマンノムターゼ遺伝子は、バチルス染色体中に組み込まれているか又はバチルス細胞中にプラスミド上のエピソームバージョンとして存在している場合もある。
【0080】
GDP-フコースのデノボ生合成経路での次のステップは、以下の反応:
α-D-マンノース-1-リン酸+GTP+H+=>二リン酸+GDP-α-D-マンノース
によるGDP-マンノースの形成である。
【0081】
マンノース-1-リン酸のGDP-マンノースへの変換は、GDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼにより媒介される。したがって、フコシル化オリゴ糖を生産するためのバチルス細胞は、異種GDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼを有する。適切なGDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼはエシェリキア・コリManC又はその機能的変異体である。
【0082】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、GDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。例となるヌクレオチド配列は、エシェリキア・コリManCをコードするヌクレオチド配列である。したがって、追加の実施形態では、バチルス細胞は、エシェリキア・コリManC又はその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0083】
エシェリキア・コリGDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼManCは、エシェリキア・コリManC遺伝子(Gen Bank受託番号:NP_416553.1)のオープンリーディングフレームによりコードされている。したがって、追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、エシェリキア・コリManC遺伝子又はその機能的変異体を含有する。
【0084】
追加の及び/又は代替の実施形態では、GDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列のコドン使用はバチルスのコドン使用に適応されている。
【0085】
GDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼの発現では、バチルス細胞は、組換えGDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ遺伝子を含有し、ここで、GDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は発現制御配列に作動可能に連結されている。
【0086】
組換えGDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ遺伝子は、バチルス染色体中に組み込まれているか又はプラスミド上のエピソームバージョンとして存在している場合もある。
【0087】
デノボGDP-フコース経路に引き続くステップでは、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼにより触媒されて、GDP-D-マンノースは、GDP-4-デヒドロ-6-デオキシ-D-マンノースに変換される。
【0088】
したがって、フコシル化オリゴ糖を生産するためのバチルス細胞は、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼを有する。適切なGDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼはエシェリキア・コリGmdである。
【0089】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼをコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。例となるヌクレオチド配列は、エシェリキア・コリGmdをコードするヌクレオチド配列である。したがって、追加の実施形態では、バチルス細胞は、エシェリキア・コリGmd又はその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0090】
エシェリキア・コリGDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼGmdは、エシェリキア・コリgmd遺伝子(Gen Bank受託番号:NP_416557.1)のオープンリーディングフレームによりコードされている。したがって、追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、エシェリキア・コリgmd遺伝子又はその機能的変異体を含有する。
【0091】
追加の及び/又は代替の実施形態では、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼをコードするヌクレオチド配列のコドン使用はバチルスのコドン使用に適応されている。
【0092】
GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼの発現では、バチルス細胞は、組換えGDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ遺伝子を含有し、ここで、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼをコードするヌクレオチド配列は発現制御配列に作動可能に連結されている。
【0093】
組換えGDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ遺伝子は、バチルス染色体中に組み込まれているか又はプラスミド上のエピソームバージョンとして存在している場合もある。
【0094】
デノボGDP-フコース生合成経路の最終反応では、GDP-4-デヒドロ-6-デオキシ-D-マンノースは、2段階NADPH依存性反応によりGDP-フコースに変換される。この変換は、GDP-フコースシンターゼにより媒介され、エピメラーゼ反応及びレダクターゼ反応を含む。前記エピメラーゼ反応はGDP-4-ケト-6-デオキシマンノースをGDP-4-ケト-6-デオキシガラクトースに変換し、次にGDP-4-ケト-6-デオキシガラクトースはGDP-フコースに還元される。
【0095】
したがって、フコシル化オリゴ糖を生産するためのバチルス細胞は、GDP-フコースシンターゼを有する。適切なGDP-フコースシンターゼはエシェリキア・コリWcaG又はその機能的変異体である。
【0096】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、GDP-フコースシンターゼをコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。例となるヌクレオチド配列は、エシェリキア・コリWcaGをコードするヌクレオチド配列である。したがって、追加の実施形態では、バチルス細胞は、エシェリキア・コリWcaG又はその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0097】
エシェリキア・コリGDP-フコースシンターゼWcaGは、エシェリキア・コリwcaG遺伝子(Gen Bank受託番号:NP_416556.1)のオープンリーディングフレームによりコードされている。したがって、追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、エシェリキア・コリwcaG遺伝子又はその機能的変異体を含有する。
【0098】
追加の及び/又は代替の実施形態では、GDP-フコースシンターゼをコードするヌクレオチド配列のコドン使用はバチルスのコドン使用に適応されている。
【0099】
GDP-フコースシンターゼの発現では、バチルス細胞は、組換えGDP-フコースシンターゼ遺伝子を含有し、ここで、GDP-フコースシンターゼをコードするヌクレオチド配列は発現制御配列に作動可能に連結されている。
【0100】
組換えGDP-フコースシンターゼ遺伝子は、バチルス染色体中に組み込まれているか又はプラスミド上のエピソームバージョンとして存在している場合もある。
【0101】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、GDP-フコースの細胞内生合成のためのGDP-フコースサルベージ経路を有する。GDP-L-フコースのサルベージ経路では、遊離のサイトゾルフコースはL-フコキナーゼによりリン酸化されてL-フコース-L-リン酸を形成し、次にL-フコース-L-リン酸はGDP-L-フコースにさらに変換される。
【0102】
GDP-フコースの生合成のためのサルベージ経路は以下の酵素:
I.フコースキナーゼ;及び
II.L-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ
を含む。
【0103】
したがって、GDP-フコースサルベージ経路を有するフコシル化オリゴ糖を生産するためのバチルス細胞は、フコースキナーゼ及びL-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼを有する。
【0104】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、フコースキナーゼ及びL-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼを有するように遺伝子操作されている。
【0105】
フコースキナーゼは、フコキナーゼ、ATP:6-デオキシ-L-ガラクトース1-ホスホトランスフェラーゼ、ATP:β-L-フコース1-ホスホトランスフェラーゼ又はL-フコキナーゼ活性、L-フコースキナーゼ活性とも呼ばれるが、反応L-フコース+ATP→β-L-フコース-1-リン酸+ADP+2H+を触媒する。
【0106】
次に、L-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ又はGDP-L-フコースピロホスホリラーゼは前記β-L-フコース-1-リン酸をGDP-L-フコースに変換する。
【0107】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、フコースキナーゼ又はその機能的変異体、及びL-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ又はその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0108】
追加の及び/又は代替の実施形態では、フコースキナーゼ及びL-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼは単一のポリペプチドに組み合わされる。フコースキナーゼ、フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ及び/又は二機能性L-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードする形質転換に適した遺伝子は、バクテロイデス属、レンティスファエラ属(Lentisphaera)、ルミノコッカス属(Ruminococcus)、ソリバクター属(Solibacter)、アラビドプシス属(Arabidopsis)、オリザ属(Oryza)、フィスコミトレラ属(Physcomitrella)、ビチス属(Vitis)、ダニオ属(Danio)、ボス属(Bos)、エクウス属(Equus)、マカク属(Macaca)、パン属(Pan)、ホモ属(Homo)、ラッタス属(Rattus)、ムス属(Mus)及びゼノパス属(Xenopus)から得ることができる。二機能性フコースキナーゼ/L-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼの例は、バクテロイデス・フラジリス(Bacterioides fragilis)に見出される。
【0109】
バクテロイデス・フラジリスでは、二機能性フコースキナーゼ/L-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼFkpは、バクテロイデス・フラジリスfkp遺伝子(GeneBank受託番号AY849806)によりコードされている。
【0110】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、バクテロイデス・フラジリスFkp又はその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0111】
追加の及び/又は代替の実施形態では、フコースキナーゼ、フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ及び/又は二機能性フコースキナーゼ/L-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列のコドン使用はバチルスのコドン使用に適応されている。
【0112】
フコースキナーゼ及びフコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼの発現では、バチルス細胞は少なくとも1つの組換え遺伝子を含有し、ここで、フコースキナーゼ及びL-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ及び/又は二機能性フコースキナーゼ/L-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼフコースキナーゼをコードするタンパク質コード領域は、発現制御配列に作動可能に連結されている。
【0113】
組換えフコースキナーゼ遺伝子、フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ遺伝子及び/又は二機能性フコースキナーゼ/L-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ遺伝子は、バチルス染色体中に組み込まれているか又はプラスミド上のエピソームバージョンとして存在している場合もある。
【0114】
フコシルラクトースの細胞内形成では、バチルス細胞はフコシルトランスフェラーゼを有する。フコシルトランスフェラーゼの酵素活性は、フコシル部分をドナー基質からアクセプター基質へ移動させる。フコシルラクトースの生合成では、前記アクセプター基質はラクトースである。したがって、フコシルトランスフェラーゼは、ラクトース受容フコシルトランスフェラーゼである。
【0115】
フコシルトランスフェラーゼは、2’-フコシルラクトースの生合成のためのα-1,2-フコシルトランスフェラーゼ、及び3-フコシルラクトースの生合成のためのα-1,3-フコシルトランスフェラーゼからなる群から選択される。
【0116】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、フコシルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0117】
2’-フコシルラクトース(2’-FL)を生産するためには、エシェリキア・コリO126由来のα-1,2-フコシルトランスフェラーゼWbgL及びヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)由来のFucT2(EP 2 479 263 B1)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholera)O22由来のα-1,2-フコシルトランスフェラーゼWblA、ヘリコバクター・ビリス(H.bilis)ATCC 437879由来のFutD 、ヘリコバクター・シネディ(H.cinaede)CCUG 18818由来のFutE 、バクテロイデス・ブルガタス(Bacteroides vulgatus)ATCC 8482由来のFutN、バクテロイデス・オバータス(Bacteroides ovatus)ATCC 8483由来のFutO、エシェリキア・コリO55:H7由来のWbgN、バクテロイデス・フラジリスNCTC 9343由来のBft1及びBft3(WO 2014/018596 A2)、並びにルイスY及びルイスB糖類の合成のためのヘリコバクター・ピロリ由来のα-1,2-フコシルトランスフェラーゼFucT2(US 6,670,160 B2)は記載されており、バチルス細胞での2’-FL生合成に適したα-1,2-フコシルトランスフェラーゼである。
【0118】
3-フコシルラクトースを生産するためには、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)由来のα-1,3-フコシルトランスフェラーゼAmuc、及びバクテロイデス・フラジリス由来のFucT6及びFucT7(EP 2 439 264 A1)、ヘリコバクター・ピロリ由来のα-1,3-フコシルトランスフェラーゼFutA(US 2014/0120611 A1)は記載されており、バチルス細胞での3-FL生合成に適したα-1,3-フコシルトランスフェラーゼである。さらに、WO 2016/040531 A1は、3-フコシルラクトース及びラクトジフコテトラオースの合成のためのバクテロイデス・ノルディ(B.nordii)CL02T12C05由来のα-1,3-フコシルトランスフェラーゼCafC並びにLNnFP-IIIの生産のためのヘリコバクター・ヘパティカス(H.hepaticus)ATCC51449由来のCafDを開示している。
【0119】
フコシル化糖類の生産のためバチルス細胞で発現させることができる追加のフコシルトランスフェラーゼはWO 2019/0088133 A1に開示されており、前記特許文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0120】
追加の及び/又は代替の実施形態では、フコシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列のコドン使用はバチルスのコドン使用に適応されている。
【0121】
フコシルトランスフェラーゼの発現では、バチルス細胞は少なくとも1つの組換え遺伝子を含有し、ここで、フコシルトランスフェラーゼをコードするタンパク質コード領域は、発現制御配列に作動可能に連結されている。
【0122】
組換えフコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、バチルス染色体中に組み込まれているか又はプラスミド上のエピソームバージョンとして存在している場合もある。
【0123】
追加の及び/又は代替の実施形態では、フコシル化オリゴ糖を生産するためのバチルス細胞は、L-フコースを内部移行することができる。L-フコースを内部移行する能力は、GDP-フコースサルベージ経路を有するバチルス細胞にとり有利である。
【0124】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、L-フコースの内部移行を可能にするか又は改善するように遺伝子操作されている。したがって、バチルス細胞は、異種L-フコースパーミアーゼを有する。適切なL-フコースパーミアーゼは、エシェリキア・コリFucP又はその機能的変異体である。
【0125】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、L-フコースパーミアーゼをコードするヌクレオチド配列、好ましくは、エシェリキア・コリFucP又はその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0126】
エシェリキア・コリL-フコースパーミアーゼは、エシェリキア・コリfucP遺伝子(GeneBank受託番号:NP_417281.1)のタンパク質コード領域によりコードされている。したがって、バチルス細胞は、エシェリキア・コリFucP又はその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含有し発現するように遺伝子操作されている。
【0127】
追加の及び/又は代替の実施形態では、L-フコースパーミアーゼをコードするヌクレオチド配列のコドン使用はバチルスのコドン使用に適応されている。
【0128】
L-フコースパーミアーゼの発現では、バチルス細胞は組換えL-フコースパーミアーゼ遺伝子を含有し、ここで、L-フコースパーミアーゼをコードするヌクレオチド配列は、発現制御配列に作動可能に連結されている。
【0129】
組換えL-フコースパーミアーゼ遺伝子は、バチルス染色体中に組み込まれているか又はプラスミド上のエピソームバージョンとして存在している場合もある。
【0130】
追加の及び/又は代替の実施形態では、フコシル化オリゴ糖を生産するためのバチルス細胞は任意のβ-ガラクトシダーゼ活性を欠いているか又は同じ種の野生型バチルス細胞と比べてβ-ガラクトシダーゼ活性が減少している。
【0131】
フコシル化オリゴ糖の細胞内生合成には、ラクトース受容フコシルトランスフェラーゼに対するアクセプター基質としてのラクトースの移入を必要とする。内部移行されたラクトースを加水分解するいかなる細胞内酵素活性もフコシルラクトース形成の有効性に影響を及ぼすと考えられる。なぜならば、細胞内ラクトースのプールが減少すると考えられるからである。したがって、フコシル化オリゴ糖を生産するためのバチルス細胞が、β-ガラクトシダーゼ活性を欠いているか又は、野生型バチルス細胞と比べた場合、少なくともβ-ガラクトシダーゼ活性が減少しているならば有利であると考えられる。
【0132】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、細胞のβ-ガラクトシダーゼ活性を消失しているか又は少なくとも減少しているように遺伝子操作されている。
【0133】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、ganA遺伝子の欠失又は機能的不活化により遺伝子操作されている。別の実施形態では、バチルス細胞は、野生型バチルス細胞と比べた場合、ganA遺伝子の発現レベルを減少させるように遺伝子操作されている。
【0134】
バチルスganA遺伝子は、yvfN又はlacAとも呼ばれる。ガラクタンの利用に関与している酵素をコードする遺伝子を含有するのはGanRレギュロンの遺伝子である。ganA遺伝子は、バチルスのガラクタン利用に関与しているベータガラクトシダーゼをコードする。
【0135】
ganA遺伝子を欠失するか又は機能的に不活化すると、バチルス細胞においてGanA媒介β-ガラクトシダーゼ活性は消失し、ganA発現が減少するとバチルス細胞でのGanAの量が低下し、したがって、フコシル化オリゴ糖の生合成を妨害するおそれがあるβ-ガラクトシダーゼ活性が低下する。
【0136】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、yesZ遺伝子の欠失又は機能的不活化により遺伝子操作されている。バチルスyesZ遺伝子は、植物細胞壁に由来するラムノガラクツロナンの分解で役割を果たしているベータガラクトシダーゼYesZをコードする。バチルスyesZ遺伝子の発現は、ラムノガラクツロナンIにより誘導される。別の実施形態では、バチルス細胞は、野生型バチルス細胞と比べてyesZ遺伝子の発現レベルを減少させるように遺伝子操作されている。
【0137】
yesZ遺伝子を欠失するか又は機能的に不活化すると、バチルス細胞においてyesZ媒介β-ガラクトシダーゼ活性は消失し、yesZ発現が減少するとバチルス細胞でのyesZの量が低下し、したがって、フコシル化オリゴ糖の生合成を妨害するおそれがあるβ-ガラクトシダーゼ活性が低下する。
【0138】
バチルス・サブチリスは、ポスト指数増殖期に入ると、多量の細胞外プロテアーゼを産生(し始める)する。外来性タンパク質は多くの場合プロテアーゼ感受性である。したがって、無エキソプロテアーゼ株は異種タンパク質の安定性を増加し、高レベルの外来性タンパク質を蓄積させるのに望ましい。バチルスのゲノムは、少なくとも8つの細胞外プロテアーゼ、すなわち、nprE、aprE、epr、bpr、mpr、nprB、vpr及びwprAをコードする。したがって、追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、細胞外プロテアーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子、好ましくは、nprE、aprE、epr、bpr、mpr、nprB、vpr及びwprAからなる群から選択される遺伝子のうちの少なくとも1つが欠失しているか又は機能的に不活化されている点で遺伝子操作されている。好ましくは、nprE、aprE、epr、bpr、mpr、nprB、vpr及びwprAからなる群から選択される遺伝子のうちの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又は8つが欠失しているか又は機能的に不活化されている。
【0139】
バチルス・サブチリスは、グルコース又はラクトースなどの炭水化物を含有する培地で成長する場合、プルケリミン酸を合成する。排出されたプルケリミン酸は、成長培地に鉄が存在すると、プルケリミン酸の塩である赤色色素のプリケリミン(鉄キレート)を形成する。発酵工程中のこの望ましくない副産物の形成は、遺伝子yvmC及び/又はcypXの欠失又は破壊により回避する/消失させることができる。遺伝子yvmCはシクロペプチドシンターゼをコードし、遺伝子cypXはシトクロームP450シクロ-l-ロイシル-l-ロイシルジペプチドオキシダーゼをコードする。
【0140】
したがって、追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、遺伝子yvmC及びcypXのうちの少なくとも1つが欠失しているか又は機能的に不活化されている点で遺伝子操作されている。
【0141】
リゾバクテリウム(rhizobacterium)であるバチルス・サブチリスは、20を超える抗生物質の合成のための遺伝子を有する。その中には、バチルス・サブチリスランチビオティクスのようなペプチド抗生物質及びランチビオティク様ペプチド(スブチリン、エリシン(ericin)S、メルサシジン、スブランシン(sublancin)168、サブチロシンA)並びに非リボソーム合成(ペプチド)抗生物質(サーファクチン、イツリン、バシロマイシン、ミコサブチリン、コリネバクチン(corynebactin)/バチリバクチン、フェンギシンプリパスタチン(fengycin plipastatin)、ミコバシリン、TL-119、バシライシン(bacilysin)、バシリソシン(bacilysocin)、アミクマシン(amicoumacin)、3,3’-ネオトレハロサジアミン(neotrehalosadiamine)、ディフィシジン(difficidin)、リゾクチシン(rhizocticin))がある。
【0142】
フコシル化オリゴ糖を生産するため、抗生物質を生成しないバチルス細胞を使用することが好ましい。したがって、追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、ランチビオティクス及びランチビオティク様ペプチド、例えば、スブチリン、エリシンS、メルサシジン、スブランシン168、サブチロシンA;非リボソーム合成(ペプチド)抗生物質、例えば、サーファクチン、イツリン、バシロマイシン、ミコサブチリン、コリネバクチン/バチリバクチン、フェンギシンプリパスタチン、ミコバシリン、TL-119、バシライシン、バシリソシン、アミクマシン、3,3’-ネオトレハロサジアミン、ディフィシジン及びリゾクチシンからなる群から選択される抗生物質の1つ以上を合成しない。バチルス細胞は、前記抗生物質の1つ以上を合成しないバチルス細胞を得るように遺伝子操作されていてもよい。
【0143】
野生型バチルス細胞は芽胞を形成することができる。細菌における芽胞形成、すなわち、芽胞を形成する過程は、異なる形態及び運命を有する娘細菌の形成をもたらす発生プログラムを開始する細菌細胞の反応だと見なされている。バチルスの芽胞形成は細胞分化の基本的モデルとして研究された。芽胞形成中、桿状バチルス細胞は非対称的に分裂し、それによって異なる形態及ぶ運命を有する2つの遺伝的に同一の細胞を生じる。
【0144】
しかし、工業生産では、細菌生産株が発酵中に芽胞形成するとすればそれは望ましいことではない。したがって、フコシル化オリゴ糖の生産のためには芽胞を形成できないバチルス細胞を使用することが好まれる。そのようなバチルス細胞は「非芽胞性」と呼ばれる。
【0145】
好ましくは、フコシル化オリゴ糖を生産することができる非芽胞性バチルス細胞は、表1に列挙されるバチルス・サブチリス株の1つを起源としていた。
【0146】
【0147】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、Spo0Aの欠失又は機能的不活化により遺伝子操作されている。Spo0Aの適切な機能的不活化は、リン酸化部位の欠失を含み、ここでSpo0F及びSpo0BホスホトランスフェラーゼはSpo0Aをリン酸化する。
【0148】
追加の及び/又は代替の実施形態では、バチルス細胞は、シグマ因子SigE(sigE)及び/又はシグマ因子SigF(sigF)をコードする遺伝子の欠失又は機能的不活化により遺伝子操作されている。
【0149】
本発明のバチルス細胞は、培地中においてラクトースの存在下、バチルス細胞がフコシル化オリゴ糖を生産するのに許容的である条件下で培養された場合、フコシル化オリゴ糖を生産することができる。
【0150】
第2の態様によれば、フコシル化オリゴ糖、好ましくは、2’-FL、3-FL又は2’,3-DiFLなどのフコシル化ヒト乳オリゴ糖の生産のための本明細書で前に記載されたバチルス細胞の使用が提供される。
【0151】
バチルスは一般に安全であると認識されているので、フコシル化オリゴ糖を生産するためのバチルス細胞の変更がヒトの健康及び環境に関して生産株の安全性に影響を及ぼさないという条件で、一般に安全であると見なされている生産生物を利用するヒト消費のためのフコシル化オリゴ糖の生産も安全であると見なされるはずである。したがって、ヒト消費用のフコシル化オリゴ糖の、特に、ヒト消費用の、より具体的には、調整粉乳用の、本明細書に記載されるバチルス細胞を使用することにより生産されたフコシル化オリゴ糖からなるか又はこれを含有するフコシル化ヒト乳オリゴ糖の規制上の承認に影響を及ぼす懸念が少なくなると予想される。したがって、調整粉乳及び栄養組成物中の微生物的に生産されるフコシル化オリゴ糖についての規制当局での並びに消費者間での受け入れはもっと良くなるはずである。
【0152】
第3の態様によれば、フコシル化オリゴ糖の生産のための方法であって、
- ラクトースパーミアーゼ、GDP-フコース生合成経路、及びフコシルトランスフェラーゼを有するように遺伝子操作されている非芽胞性バチルス細胞を提供すること
- ラクトースを含有する培養培地において、フコシル化オリゴ糖の生産に許容的である条件下でバチルス細胞を培養すること、並びに
- 任意選択的に、フコシル化オリゴ糖を培養培地から及び/又はバチルス細胞から回収すること
を含む方法が提供される。
【0153】
提供される非芽胞性バチルス細胞は、本明細書に記載されるバチルス細胞である。
【0154】
追加の及び/又は代替の実施形態では、フコシル化オリゴ糖は、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、2’,3-ジフコシルラクトース(DiFL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNFP I)、ラクト-N-ネオフコペンタオースI(LNnFP I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNFP II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNFP III)、ラクト-N-フコペンタオースV(LNFP V)、ラクト-N-ネオフコペンタオースV(LNnFP V)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LNDH I)及びラクト-N-ジフコヘキサオースII(LND)からなる群から選択される。
【0155】
追加の及び/又は代替の実施形態では、培養培地は、特に、フコシルトランスフェラーゼに対するドナー基質としてGDP-フコースを提供するためのGDP-フコースサルベージ経路を有するフコシル化オリゴ糖の生産用のバチルス細胞を培養するため、L-フコースを含有する。
【0156】
本発明は、バチルス細胞及び/又は本明細書に記載される方法により生産されたフコシル化オリゴ糖まで、栄養組成物、好ましくは、調整粉乳、栄養補助食品又は薬用食品の製造のための前記フコシル化オリゴ糖の使用までも広がる。さらに、本発明は、本明細書に記載されるバチルス細胞及び/又は方法により生産されたフコシル化オリゴ糖を含有する栄養組成物までも広がる。
【0157】
本発明は特定の実施形態に関して及び図面を参照して記載されるが、本発明はそれに限定されず、特許請求の範囲にのみに限定される。さらに、記述中及び特許請求の範囲中の用語第1の、第2の及び同類のものは、類似する要素を区別するために使用され、必ずしも順番を時間的に、空間的に、ランクを付けて又は他のいかなる方法によっても記載するために使用されるものではない。そのようにして使用される用語は、適切な状況下で互換可能であり、本明細書に記載される本発明の実施形態は本明細書に記載されるか又は図解される以外の順番で実施可能であることは理解されるべきである。
【0158】
用語「含む(comprising)」は、特許請求の範囲で使用されるが、その後に列挙される手段に制限されると解釈されるべきではなく、他の要素又はステップを排除しないことは注目されるべきである。したがって、この用語は、述べられている特長、整数、ステップ又は言及される成分の存在を明示すると解釈されるべきであり、1つ以上の他の特長、整数、ステップ若しくは成分、又はその群の存在又は追加を排除しない。したがって、表現「手段A及びBを含む装置」の範囲は、成分AとBのみからなる装置に限定されるべきではない。この表現は、本発明に関して、装置の唯一関連のある成分はA及びBであることを意味する。
【0159】
本明細書全体を通じて「一実施形態」又は「ある実施形態」への言及は、実施形態に関連して記載される特定の特長、構造又は特徴は本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通じて種々の場所での語句「一実施形態では」又は「ある実施形態では」の出現は必ずしもすべてが同じ実施形態に言及しているわけではないが、そうであってもよい。さらに、当業者には本開示から明らかになると考えられるように、1つ以上の実施形態において、特定の特長、構造又は特徴はいかなる適切な方法で組み合わせてもよい。
【0160】
同様に、本発明の例となる実施形態の説明において、開示を簡素化し種々の発明の態様のうちの1つ以上の理解に役立つ目的で、本発明の種々の特長が単一の実施形態、図、又はその記述にまとめられることがあることは認識されるべきである。しかし、この開示方法が、請求されている発明がそれぞれの請求において明確に列挙されているよりも多くの特長を必要としているという意図を反映していると解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が示すように、発明の態様は、単一の先の開示された実施形態のすべての特長よりも少なく存在する。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲はこれによってこの詳細な説明中に明確に組み込まれ、それぞれの請求は本発明の別々の実施形態として自立している。
【0161】
さらに、本明細書に記載される一部の実施形態は、いくつかの特長を含むが他の実施形態に含まれる他の特長は含まないが、当業者であれば理解すると考えられるように、異なる実施形態の特長の組合せは本発明の範囲内にあることが意図されており、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の特許請求の範囲では、特許請求されている実施形態のいずれもいかなる組合せでも使用することができる。
【0162】
さらに、実施形態の一部は、コンピュータシステムの処理装置により又はその機能を実行する他の手段により実施することができる方法又は方法の要素の組合せとして本明細書に記載されている。したがって、そのような方法又は方法の要素を実行するのに必要な指示を含む処理装置は、方法又は方法の要素を実行するための手段を形成する。さらに、装置実施形態の本明細書に記載される要素は、本発明を実行する目的で要素によって実施される機能を実行するための手段の例である。
【0163】
本明細書で提供される記述及び図面において、数多くの特定の詳細が表明されている。しかし、本発明の実施形態はこれらの特定の詳細なしで実行しうることは理解される。他の例では、周知の方法、構造及び技法は、理解を不明瞭にしないように、詳細を示してはいない。本発明は、この時点で、本発明のいくつかの実施形態の詳細な説明により記載される。本発明の他の実施形態は、本発明の真の精神又は技術的な教えから逸脱することなく当業者の知識に従って設計できることは明らかであり、本発明は添付の特許請求の範囲の用語によってのみ限定される。
【実施例】
【0164】
[実施例1] バチルス・サブチリスの形質転換
バチルス・サブチリスは種々の技法により遺伝子操作することができる。バチルス・サブチリスの形質転換では、コンピテント細胞は2ステップ法の改変プロトコルにより調製した(Anagnostopoulos,C.及びSpizizen,J.(1961)J Bacteriol 81(5):741~746頁)。一晩培養物をMG1培地で接種し、37℃で振盪した。MG1培地はSpizizen最少培地であり、この培地は0.5%のグルコース、5mMのMgSO4及び0.02%のカザミノ酸を補充している(任意選択的に、ビオチン及び/又はL-トリプトファンをさらに補充される)。次の日の朝、この培養物は1対20で新鮮なMG1培地に希釈し、37℃でおよそ6時間インキュベートした。1mlの培養物を8mlのMG2培地に希釈したが、この培地はカザミノ酸の濃度がMG1培地とは異なっている(0.02%の代わりに0.01%)。短縮したプロトコルで、一晩培養物はMG2培地に直接希釈する。さらに90分間の接種後、培養物の1ml部分を1~3μgの多量体プラスミドDNA又は直鎖状DNAと混合し、振盪しながら37℃で30~60分間インキュベートした。多量体プラスミドDNAは、プラスミドDNAの増殖用にエシェリキア・コリ株NM538を使用することにより又はシングルカッター制限酵素での消化によるプラスミドの線状化により入手した。この制限酵素は骨格内で切断し、続いてT4 DNAリガーゼで再ライゲーションする。
【0165】
その後、細胞は適切な抗生物質を含有する2×YT寒天プレート上に広げた。抗生物質は以下の濃度:5μg・mL-1のエリスロマイシン、5μg・mL-1のクロラムフェニコール、10μg・mL-1のカナマイシン、100μg・mL-1のスペクチノマイシンで添加した。
【0166】
あるいは、プロトプラスト形質転換では(Romero,D.ら、(2006)Journal of Microbio-logical Methods 66:556~559頁)、細胞は成長の定常期の開始まで37℃で20mlのペナッセイブロス(PAB)において成長させた(OD600=1.7~2)。次に、細胞はペレット化し、10mlのSMPP培地(0.3%のウシ血清アルブミン、5%の2Mサクロース、25%の4×PAB、50%の2×SMM)に再懸濁し、2×SMMの組成は1Mのサクロース、0.04Mのマレイン酸二ナトリウム塩水和物及び0.04MのMgCl2(pH6.5)であった。リゾチーム(10mg・ml-1)及びムタノリシン(75U・ml-1)を添加後、混合液は振盪しながら37℃でインキュベートし、プロトプラストを生成した。プロトプラスト形成は顕微鏡的にチェックした。次に、プロトプラストは、5200×gで4℃、5分間の遠心分離により慎重に収穫し、氷冷洗浄電気的形質転換バッファー(1×SMM)で2度洗浄し、最後にこの溶液に懸濁した。プラスミドDNA(1~3μg)を120μlのプロトプラスト懸濁液に添加し、混合液を氷上に少なくとも5分間保持した。形質転換混合液を0.2cmのキュベットに移し、単回エレクトロポレーションパルスを25μF、400Ω及び0.7kVで適用した。エレクトロポレーションショックの直後、1mlの回収培地(等容積の4×PAB及び2×SMM、使用前に新たに調製する)をキュベットに添加した。次に、形質転換反応液を2mlのチューブに移し、振盪しながら37℃で12時間インキュベートした。再生のため、細胞懸濁液をDM3寒天プレート上に広げ(Chang,S.及びCohen,S.(1979)MGG 168(1):111~115頁)、37℃で48時間インキュベートした。DM3再生培地は、リットルあたり以下の無菌溶液:200mlの4%寒天、100mlの5%カザミノ酸、50mlの10%酵母エキス、100mlの3.5%K2HPO4及び1.5%KH2PO4、25mlの20%グルコース、20mlの1M MgCl2、500mlの0.5Mソルビトール並びに5mlのフィルター無菌化2%ウシ血清アルブミンを含有し(温度が55℃より低くなったら混合液に添加した)、適切な抗生物質を補充されていた。
【0167】
バチルス・サブチリスのエレクトロポレーションは、Zhangら、(2011)由来の、MoBiTec GmbHにより提供された改変プロトコルに従って行った(Zhang,G.、Bao,P.、Zhang,Y.、Deng,A.、Chen,N.及びWen,T.(2011)Anal.Biochem.、409:130~137頁)。2×YT一晩培養物は新鮮な2×YT培地で100倍に希釈し、培養物は回転式振盪器上、37℃で2のOD600まで成長させた。次に、培養物には1%のDL-スレオニン、2%のグリシン、0.1%のトリプトファン及び0.03%のTween80を補充した。さらに60分間の培養後、細胞懸濁液は氷上で20分間冷却し、5000×gで4℃、10分間遠心分離し、エレクトロポレーションバッファー(0.5Mのトレハロース、0.5Mのソルビトール、0.5Mのマンニトール、0.5mMのMgCl2、0.5mMのK2HPO4、0.5mMのKH2PO4、pH7.4、フィルター濾過し凍結保存した)で2度洗浄した。最後に、細胞は最初の培養容積の1/100でエレクトロポレーションバッファーに再懸濁し、100μlの細胞懸濁液をDNAと混ぜ合わせた。形質転換混合液は0.1cmのキュベットに移し、エレクトロポレーションは、1.8kVでMicroPulser(商標)装置(Bio-Rad)により送られるシングルパルスを用いて実施した。パルス送出直後、0.5Mのソルビトール及び0.38Mのマンニトールを含有する1mlの2×YTブロスをキュベットに添加した。形質転換懸濁液は2mlのチューブに移し、回転式振盪器上、37℃で3時間インキュベートした。細胞は選択2×YT寒天プレート上に広げ、37℃で一晩インキュベートした。
【0168】
代替のエレクトロポレーションプロトコル(Xue,G.P.、J.S.Johnson、及びB.P.Dalrymple:1999年;Journal of Microbiological Methods 34:183~191頁)を使用して、0.5Mのグルシトールを含有する5mlのLBにバチルス・サブチリスを接種し、37℃で一晩インキュベートした。引き続いて、一晩培養物を0.5Mのグルシトールを含有する75mlのLBにより希釈し(1対16)、0.85~0.95のOD600が得られるまでインキュベートした。次に、細胞は5000×gで4℃、10分間の遠心分離によりペレット化し、氷冷エレクトロポレーションバッファー(10%のグリセロール、0.5Mのグルシトール、0.5Mのマンニトール)で4回洗浄した。最後に、細胞は、1~2mlのエレクトロポレーションバッファーに再懸濁した。エレクトロポレーションは、冷却エレクトロポレーションキュベット(1mmの電極間隔)中60μlのコンピテント細胞をDNAと一緒に使用して実施した。細胞-DNA混合物は、25μF、200Ω及び21kV/cmで単回電気パルスを受けさせた。最後に、1mlの回収ブロス(0.5Mのグルシトール及び0.38のマンニトールを含有するLB)をエレクトロ透過処理した細胞に添加し、細菌培養物は37℃で3時間インキュベートし、続いて抗生物質を補充したLB寒天上に蒔いた。
【0169】
2つの異なる富栄養培地、すなわち、Luriaブロス(LB)及び2×YTを使用した。Luriaブロス(LB)培地は、1%のトリプトン、0.5%の酵母エキス及び0.5%のNaCl(pH7.2)からなっていた。
【0170】
2×YT培地は、1.6%のトリプトン、1%の酵母エキス及び0.5%のNaCl(pH7.5)からなっていた。
【0171】
富栄養培地寒天プレートを調製するため、15g・L-1の寒天を添加した。
【0172】
振盪フラスコ実験では、Spizizen最少培地(Spizizen,J.1958年 Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.44(10):1072~1078頁)を使用した。
【0173】
Spizizen最少培地は以下の塩:2g/Lの(NH4)2SO4、14g/LのK2HPO4、6g/LのKH2PO4、1g/LのNa3クエン酸×2H2O及び0.2g/LのMgSO4×7H2Oを含有する。
【0174】
前培養培地は、2%のD-グルコース、0.05%のカザミノ酸及びMgSO4を最終濃度2mMまで補充されたSpizizen最少培地からなっていた(任意選択的に、ビオチン及び/又はL-トリプトファンをさらに補充された)。
【0175】
本培養培地は、2%のD-グルコース、0.05%のカザミノ酸、MgSO4を最終濃度2mMまで及び0.5mL/Lの1000×微量元素溶液を補充されたSpizizen最少培地からなっていた(任意選択的に、ビオチン及び/又はL-トリプトファンをさらに補充された)。
【0176】
微量元素溶液(1000×)は、100.6gL-1のC6H9NO6、56.4g・L-1のクエン酸アンモノウム鉄、9.8g・L-1のMnCl2×4H2O、1.6g・L-1のCoCl2×6H2O、1g/L-1のCuCl2×2H2O、1.9g・L-1のH3BO3、9g・L-1のZnSO4×7H2O、1.1g・L-1のNa2MoO4×2H2O、1.5g・L-1のNa2SeO3、1.5g・L-1のNiSO4×6H2Oからなっていた。
【0177】
必要であれば、適切な抗生物質(複数可)が、培地が選択的になるように培地に添加された。
【0178】
バチルス・サブチリス株は、最初富栄養培地寒天プレート上で成長させて単一のコロニーを得た。これらのプレートは、30~37℃で1日間成長させた。振盪フラスコ実験では、20mlの前培養物に単一コロニーを接種し、回転式振盪器上30~37℃で一晩成長させた。それに続く20mlの本培養物にこの前培養物を約0.1の開始OD600まで接種し、回転式振盪器上30~37℃でインキュベートした。誘導が必要な場合には、40~60mlの本培養物を誘導の時点で20ml部分に分割した。培養物容積は、振盪フラスコ容量の20%を超えなかった。
【0179】
[実施例2] 2’-フコシルラクトース用のバチルス・サブチリス生産株の構築
芽胞形成欠損バチルス・サブチリス株(表1)の代謝工学的操作は、異種遺伝子エシェリキア・コリmanC、エシェリキア・コリmanB及びエシェリキア・コリmanAの組込み並びに相同組換えによる内因性遺伝子lacAの同時欠失により達成された。バチルス・サブチリス遺伝子ganA(yvfN、lacA)は、ガラクタンオペロン内に位置しているが、ベータガラクトシダーゼをコードしている。
【0180】
GDP-マンノースの合成では、manC、manB及びmanAのオープンリーディングフレームは、オペロンとしてのバチルス・サブチリス構成的プロモーターp43(iGemパーツレジストリー:配列ID:BBa_K143013)に作動可能に連結されていた。遺伝子manC(Gene Bank受託番号:NP_416553.1)は、エシェリキア・コリ由来のGDP:マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードしている。遺伝子manB(Gene Bank受託番号:NP_416552.1)は、エシェリキア・コリ ホスホマンノムターゼをコードしており、遺伝子manA(Gene Bank受託番号:NP_389084.1)は、バチルス・サブチリスフルクトース-6-リン酸イソメラーゼをコードしている。上記の遺伝子のそれぞれはインシリコでバチルス・サブチリスRBS配列に融合された。本明細書に記載される発現カセット<P43-manCBA>はバチルス・サブチリスでの発現のためにコドン最適化されており、GenScript Cоrpにより合成的に調製された。それに続いて、完全組込みカセットを組み立ててpBR322(New England Biolabs GmbH、Frankfurt、Germany)中にクローニングして自殺プラスミド<pBR322 flank ganA up-lox71-erm-lox66-P43-manCBA-flank ganA down>(配列番号1)を作製した。その後、バチルス・サブチリスをその天然のコンピテンスによりこのプラスミドで形質転換した。細胞は、適切な抗生物質(5μg・mL-1のエリスロマイシン)を含有する2×YT寒天プレート上に広げた。A株を産するバチルス・サブチリスゲノムのganA遺伝子座中への発現カセット<P43-manCBA>の組込みは、コロニーPCRにより確認した。遺伝子発現は、標的化されたプロテオミクスにより及び/又はリアルタイムPCRにより確認した。
【0181】
こうして得られた<P43-manCBA>組込み株でのラクトース及びGDP-マンノースからの2’-フコシルラクトースの生産のため、誘導性プロモーターPgrac100の制御下で必要なすべての遺伝子を含む発現プラスミド(配列番号2)を構築した。したがって、バチルス・サブチリス発現ベクターpHT253(MoBiTec GmbH、Gottingen、Germany)を骨格として使用した。エシェリキア・コリlacY遺伝子(Gene Bank受託番号:NP_414877.1)のオープンリーディングフレームは染色体DNAからPCRにより増幅させた。エシェリキア・コリO126α-1,2-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子wbgLのオープンリーディングフレームは、バチルス・サブチリスでの発現のためにコドン最適化し、GenScript Corpにより合成的に調製された。その上、エシェリキア・コリ遺伝子gmd(Gene Bank受託番号:NP_416557.1;GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼをコードする)及びwcaG(Gene Bank受託番号:NP_416556.1;GDP-フコースシンターゼをコードする)のオープンリーディングフレームは、バチルス・サブチリスでの発現のためにコドン最適化し、GenScript Corpにより合成的に調製された。誘導性発現カセットに入れたそれぞれの遺伝子は、バチルス・サブチリスRBS配列に連結された。さらに、iGemパーツレジストリー由来の適切なバチルス・サブチリスターミネーター配列が最終発現プラスミド<pHT253 Pgrac100-wbgL-gmd-wcaG-lacY-ターミネーター>(配列番号2)に導入された。<P43-manCBA>組込み株は、その天然のコンピテンスによりこの発現プラスミド(配列番号2)で形質転換した。遺伝子発現は、標的化されたプロテオミクスにより及び/又はリアルタイムPCRにより確認した。形質転換体は、外因性ラクトースの存在下でバチルス・サブチリスが2’-フコシルラクトースを生産するのに許容的である条件下で培養した。
【0182】
[実施例3] 2’-フコシルラクトース用のバチルス・サブチリス生産株の構築
実施例2に記載されているA株を親株として使用した。ラクトース及びGDP-マンノースからの2’-フコシルラクトースの生産のため、さらに、エシェリキア・コリ遺伝子lacY、gmd、wcaG及びwbgLをA株の内因性amyE(amyA)遺伝子座(アルファアミラーゼをコードしている)に組み込んだ。
【0183】
遺伝子wbgL(α-1,2-フコシルトランスフェラーゼをコードしている)のオープンリーディングフレームは、バチルス・サブチリスでの発現のためにコドン最適化し、GenScript Corpにより合成的に調製された。その上、遺伝子gmd(Gene Bank受託番号:NP_416557.1;GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼをコードする)及びwcaG(Gene Bank受託番号:NP_416556.1;GDP-フコースシンターゼをコードする)のオープンリーディングフレームは、バチルス・サブチリスでの発現のためにコドン最適化し(GenScript Corpにより実行された)、2遺伝子オペロンとして強力な構成的バチルス・サブチリスプロモーターPlepAの制御下に置かれ、GenScript Corpにより合成的に調製された。ラクトースパーミアーゼをコードするエシェリキア・コリlacY遺伝子(Gene Bank受託番号:NP_414877.1)のオープンリーディングフレームは、染色体DNAからPCRにより増幅させた。
【0184】
ラクトース及びGDP-マンノースからの2’-フコシルラクトースの生産に必要なすべての遺伝子は、構成的発現カセット<P43-wbgL-lacY-PlepA-gmd-wcaG>に組み立てられ、ここで、それぞれの遺伝子はバチルス・サブチリスRBS配列に連結された。さらに、iGemパーツレジストリー由来の適切なバチルス・サブチリスターミネーター配列(配列ID:BBa_B0015)はこの発現カセットの下流に置かれた。上記の構築物はpBR322(New England Biolabs GmbH、Frankfurt、Germany)中にクローニングして、<pBR322 flank amyE up-lox71- aad9-lox66-P43-wbgL-lacY-PlepA-gmd wcaG-ターミネーター-flank amyE down>(配列番号3)を生成した。
【0185】
こうして得られたamyE組込みベクター(配列番号3)を使用して、その天然のコンピテンスによりバチルス・サブチリスを形質転換した。形質転換体はスペクチノマイシン(100μg・ml-1)により選択した。バチルス・サブチリスゲノムのamyE遺伝子座中への発現カセット<P43-wbgL-lacY-PlepA-gmd wcaG-ターミネーター>の組込みはコロニーPCRにより確認された。遺伝子発現は、標的化されたプロテオミクスにより及び/又はリアルタイムPCRにより確認した。
【0186】
[実施例4] 2’-フコシルラクトース用のバチルス・サブチリス生産株の構築
GDP-フコース及び外因性ラクトースからの2’-フコシルラクトースの生産では、最初、エシェリキア・コリ遺伝子lacYを内因性amyE(amyA)遺伝子座(アルファアミラーゼをコードしている)中に組み込んだ。ラクトースパーミアーゼをコードするエシェリキア・コリlacY遺伝子(Gene Bank受託番号:NP_414877.1)のオープンリーディングフレームは、染色体DNAからPCRにより増幅させた。組込みカセット<flank amyE up-lox71- aad9-lox66-P43-lacY-flank amyE down>(配列番号4)を構築し、pBR322(New England Biolabs GmbH、Frankfurt、Germany)中にクローニングした。バチルス・サブチリスをこうして得られたプラスミドでその天然のコンピテンスにより形質転換した。B株を産するバチルス・サブチリスゲノムのamyE遺伝子座中への発現カセット<P43-lacY>の組込みは、コロニーPCRにより確認した。遺伝子発現は、標的化されたプロテオミクスにより及び/又はリアルタイムPCRにより確認した。
【0187】
外因性L-フコースからのGDP-フコースの合成では、必要な遺伝子をすべて含むバチルス・サブチリス発現プラスミドを構築した。プラスミドpDW1は骨格として使用した。このプラスミドはGenScript Corpにより合成的に調製され、エシェリキア・コリ及びバチルス・サブチリスにおける選択のためにそれぞれ遺伝子bla及びermを含有する。さらに、このプラスミドは、エシェリキア・コリでの増殖用にpMB1のレプリコン、及びバチルス・サブチリスでの増殖用にpUB110レプリコンを含有する。
【0188】
バクテロイデス・フラジリス遺伝子fkp(Gene Bank受託番号AY849806)は、二機能性フコースキナーゼ/L-フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードしており、エシェリキア・コリ遺伝子wbgLはα-1,2-フコシルトランスフェラーゼをコードしており、エシェリキア・コリ遺伝子fucP(Gene Bank受託番号:NP_417281.1)はL-フコースパーミアーゼをコードしている。これらの遺伝子のオープンリーディングフレームはそれぞれ、バチルス・サブチリスでの発現のためにコドン最適化され、GenScript Corpにより合成的に調製された。強力な構成的バチルス・サブチリスプロモーターP43の制御下で遺伝子fkp、wbgL及びfucPを含む発現カセットを構築した。
【0189】
発現カセットに入れたそれぞれの遺伝子は、バチルス・サブチリスRBS配列に連結された。さらに、iGemパーツレジストリー由来の適切なバチルス・サブチリスターミネーター配列(配列ID:BBa_B0015)が最終発現プラスミド<pDW1-P43-fkp-wbgL-fucP-ターミネーター>(配列番号5)に導入された。B株は、その天然のコンピテンスによりこの発現プラスミド(配列番号5)で形質転換した。遺伝子発現は、標的化されたプロテオミクスにより及び/又はリアルタイムPCRにより確認した。形質転換体は、外因性ラクトース及びL-フコースの存在下でバチルス・サブチリスが2’-フコシルラクトースを生産するのに許容的である条件下で培養した。
【0190】
[実施例5] 代謝的に操作されたバチルス・サブチリス株を使用する2’-フコシルラクトースの生産
前培養物を、2’-フコシルラクトースの生合成に適した代謝的に操作されたバチルス・サブチリス株で接種した(それぞれ実施例2、3及び4に記載されている)。
【0191】
前培養物は30~37℃で一晩インキュベートし、次に新鮮な本培養培地において約0.1の開始OD600まで希釈した。本培養物がおおよそ0.5のOD600に到達すると、2mMのラクトースを成長培地に添加した。遺伝子発現用に誘導性プロモーターPgrac100を使用した場合、誘導は、ラクトース(2mM)で又はラクトース(2mM)とIPTG(1mM)の両方で実行した。GDP-フコースのサルベージ生合成では、さらに、2mMのL-フコースを添加した。培養は24時間/48時間後に中止し、細胞内及び細胞外2’-フコシルラクトースは、薄層クロマトグラフィー並びに/又はHPLC及び/若しくは質量分析(WO 2017/042382 A又はWO 2019/008133 Aに記載されている)により分析した。2’-フコシルラクトースの相当量の生合成が検出された。
【配列表】
【国際調査報告】