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2022-535975Vx-001に対する応答を予測するためのマーカーの組合せ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】Vx-001に対する応答を予測するためのマーカーの組合せ
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20220803BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20220803BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220803BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20220803BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALI20220803BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
A61K39/00 H ZNA
A61P35/00
A61K38/08
A61K45/00
A61P43/00 121
G01N33/573 A
C12Q1/00
C07K7/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573592
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(85)【翻訳文提出日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 FR2020050975
(87)【国際公開番号】W WO2020249895
(87)【国際公開日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】1906208
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511298060
【氏名又は名称】ヴァクソン バイオテック
【氏名又は名称原語表記】VAXON BIOTECH
【住所又は居所原語表記】Tour Montparnasse Centred’Affaires,33 avenue du Maine,75015 Paris,France
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】コスマトプロス,コスタンティノス(コスタス)
(72)【発明者】
【氏名】メネス-ジャメ,ジャンヌ
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ24
4B063QQ26
4B063QR04
4B063QR06
4B063QS10
4B063QS11
4B063QS28
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA03
4C085BB11
4C085EE01
4C085EE03
4H045BA15
4H045EA20
4H045FA10
(57)【要約】
本発明は、正常ガンマグルタミントランスフェラーゼ(gGT)レベル及び/又は正常乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)レベルを有するHLA-A*0201患者においてテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を発現する腫瘍を処置するための、9アミノ酸の2つのペプチド-腫瘍細胞により発現される天然型潜在性ペプチドTERT572(RLFFYRKSV、配列番号1)及びその最適化バリアントTERT572Y(YLFFYRKSV、配列番号2)-から構成される抗腫瘍ワクチンの使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正常レベルのガンマグルタミントランスフェラーゼ(gGT)及び/又は正常レベルの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を有する患者に投与されることを特徴とする、HLA-A*0201患者においてテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を発現する腫瘍を処置する方法に用いるための、配列番号1のペプチド及び配列番号2のペプチドを含む抗癌ワクチン(Vx-001)。
【請求項2】
正常レベルのgGT及び正常レベルのLDHを有する患者に投与されることを特徴とする、請求項1に記載のVx-001抗癌ワクチン。
【請求項3】
非小細胞肺癌に罹患している患者に投与されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のVx-001抗癌ワクチン。
【請求項4】
第一選択化学療法の後に患者に投与されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のVx-001抗癌ワクチン。
【請求項5】
男性患者に投与されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のVx-001抗癌ワクチン。
【請求項6】
非扁平上皮腫瘍を有する患者に投与されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のVx-001抗癌ワクチン。
【請求項7】
65歳以下の患者に投与されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のVx-001抗癌ワクチン。
【請求項8】
癌が第一選択化学療法後もはや進行していない患者に投与されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のVx-001抗癌ワクチン。
【請求項9】
ECOGスコアが0である患者に投与されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のVx-001抗癌ワクチン。
【請求項10】
腫瘍がPD-L1分子を発現せず及び/又はリンパ球浸潤されていない患者に投与されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載のVx-001抗癌ワクチン。
【請求項11】
TERT発現腫瘍に罹患しているHLA-A*0201患者がVx-001による抗癌ワクチン接種に有利に応答する可能性があるかどうかをインビトロで決定するための方法であって、
前記患者からの生体試料において、前記患者のgGTレベル及びLDHレベルを測定するステップを含み、これらレベルの少なくとも1つが正常である場合、前記患者が抗癌ワクチンに有利に応答する可能性があることを特徴とする方法。
【請求項12】
患者のgGTレベル及びLDHレベルが両方とも正常である場合、該患者がVx-001による抗癌ワクチン接種に有利に応答する可能性が高いことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
腫瘍がPD-L1分子を発現せず及び/又はリンパ球浸潤されない場合、患者がVx-001による抗癌ワクチン接種に有利に応答する可能性が更に高いことを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
患者が以下の特徴:
(i)男性である;
(ii)非扁平上皮腫瘍を有する;
(iii)65歳以下である;
(iv)第一選択化学療法後もはや進行していない腫瘍を有する;
(v)ECOG=0
の1又は2以上を示す場合、該患者がVx-001による抗癌ワクチン接種に有利に応答する可能性が更に高いことを特徴とする、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、抗癌免疫療法の分野、より具体的には、抗腫瘍ワクチン接種の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
技術背景
癌に罹患している患者の全身状態は、LDHグルタミン(乳酸デヒドロゲナーゼ)、gGT(ガンマグルタミントランスフェラーゼ)、ALP(アルカリホスファターゼ)、肝機能及び炎症のマーカーのレベル、並びに/又は絶対数、好中球とリンパ球との間の比及び血小板数の決定を可能にする血球数を含むルーチンの血液検査によって評価される。
これら定数は、癌に罹患している患者における予後マーカーであることが知られており、全身状態が悪化した患者は、生命予後がより悪い。これは、特定の治療、特に、免疫チェックポイント阻害剤(近年開発され、特定の癌の管理に革命をもたらした物質)に対する応答に影響を及ぼし得ることも示されている(Ferrucciら,Annals Oncol.2016)。
【0003】
抗癌免疫療法は、クラスIヒト白血球抗原(HLA-I)により腫瘍細胞表面に提示される腫瘍抗原由来ペプチドの細胞傷害性Tリンパ球(CTL)による認識を刺激するために提供される。CTLにより標的されるペプチドはHLA分子に関する親和性に従って顕性(dominant)又は潜在性(cryptic)であり得る。
腫瘍関連抗原(TAA)は、腫瘍特異的であり最も頻繁には患者特異的であるネオアンチゲンとは対照的に、腫瘍細胞及び正常組織の両方により頻繁に発現される。TAAは、ネオアンチゲンとは対照的に非常に多くの腫瘍によって発現されるという利点を有するが、自己免疫(すなわち、個体免疫系による自己抗原の認識)を妨ぐ寛容機構に供されるという欠点を有する。
【0004】
腫瘍細胞の不死化に関与する酵素であるテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)は、多数の腫瘍(腫瘍の85%)により発現されるTAA型抗原である。TAAに関連する免疫系による寛容の問題を回避するため、本発明者らは、TERTの潜在性ペプチド、すなわち、HLA-A*0201分子(ヒトにおいて最も頻繁に発現されるCMH-I分子)に関して低親和性を有し、不安定なペプチド/HLA-I複合体を形成するTERTペプチドを標的するワクチン(Vx-001)を提供した(Tourdot S.ら,2000;Menez-Jamet J.ら,2016)。HLA-Iに関する親和性と免疫原性との間の強い相関を考慮すると、この潜在性ペプチドは、天然には免疫原性ではない。この潜在性ペプチドは、抗癌ワクチンとしての使用のために、免疫原性を強化するように最適化されている。
【0005】
したがって、Vx-001は、9アミノ酸の2つのペプチドから構成される抗腫瘍治療ワクチンである;腫瘍細胞により発現される天然型潜在性ペプチドTERT572(RLFFYRKSV、配列番号1)及びその最適化バリアントTERT572Y(YLFFYRKSV、配列番号2)。これら2つのペプチドは、各々アジュバントMontanide ISA51 VG(高精製鉱油(Drakeol 6VR)と界面活性剤(モノオレイン酸マンニド)との混合物)と共に別々に投与される。免疫原性最適化ペプチドであるTERT572Yは、強力な免疫応答を誘発するために最初の2回のワクチン接種に使用される。天然型ペプチドTERT572は、TERT572Yにより刺激された全てのTリンパ球の中から、HLA-A*0201に関連する腫瘍細胞の表面に存在する天然型TERT572に対して最も高い特異性を有するものを選択するために、その後のワクチン接種ステップで投与される。
【0006】
Vx-001は、最近、無作為化第IIb相臨床試験(Vx-001-201)で転移性又は再発ステージI~IIIのNSCLC(非小細胞肺癌)を有する患者において試験された。この試験におけるワクチンプロトコルは、3週間間隔で6回のワクチン接種(TERT572Yで2回のワクチン接種の後、TERT572で4回のワクチン接種)、続いて、疾患が進行するまで12週間ごとに追加免疫(TERT572で)を含んでいた(Georgouliasら,Clin Lung Cancer,2013)。
患者は、発現されたHLA-A*0201を含み、TERTを発現する腫瘍を有していた。この研究の主目的は、全体生存率を追跡することであった。この研究の結果は全体としては満足するほどには十分ではなかった。しかし、Vx-001は、特定の患者において有意な有効性を示した。したがって、本発明者らは、特定の血液定数が、このワクチンに対する臨床応答又は応答欠如に関連し得るかどうかを調べた。この研究により、患者が層別化され、Vx-001ワクチン接種が統計学的に有益であると証明された患者のカテゴリーが同定された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明者らは、抗腫瘍ワクチンVx-001が、正常レベルのgGT及び/又は正常レベルのLDHを有する患者に対して統計学的に有意な利益を提供することを示し、正常レベルのgGT及びLDHを有する患者はこの治療に特に良好に応答することを示した。より詳細な層別化により、非扁平腫瘍を有する男性患者が該治療に対して特に良好に応答することが示された。
【0008】
したがって、本発明は、正常レベルのガンマグルタミントランスフェラーゼ(gGT)及び/又は正常レベルの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を有するHLA-A*0201患者において、好ましくは非扁平上皮腫瘍を有する男性患者において、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を発現する腫瘍を処置する方法におけるVx-001の使用に関する。
本発明はまた、TERT発現腫瘍に罹患しているHLA-A*0201患者が、Vx-001抗癌ワクチン接種に有利に応答する可能性があるか否かをインビトロで決定するための方法に関し、該方法は、前記患者のgGT及びLDHレベルを測定することを含み、この患者は、前記レベルの少なくとも1つが正常である場合、Vx-001に有利に応答する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1:正常LDH血清レベルを有する患者におけるOS及びTTF。太い灰色曲線:Vx-001を投与された患者;細い黒色曲線:偽薬を投与された患者。
図2図2:正常gGT血清レベルを有する患者におけるOS及びTTF。太い灰色曲線:Vx-001を投与された患者;細い黒色曲線:偽薬を投与された患者。
図3図3:正常ALP血清レベルを有する患者における臨床応答。太い灰色曲線:Vx-001を投与された患者;細い黒色曲線:偽薬を投与された患者。
図4図4:Vx-001に対する臨床応答及び好中球の絶対数。太い灰色曲線:Vx-001を投与された患者;細い黒色曲線:偽薬を投与された患者。
図5図5:Vx-001に対する臨床応答及び好中球とリンパ球との比。太い灰色曲線:Vx-001を投与された患者;細い黒色曲線:偽薬を投与された患者。
図6図6:Vx-001に対する臨床応答及び血小板数。太い灰色曲線:Vx-001を投与された患者;細い黒色曲線:偽薬を投与された患者。
図7図7:正常LDH及びgGT血清レベルを有する患者におけるOS及びTTF。太い灰色曲線:Vx-001を投与された患者;細い黒色曲線:偽薬を投与された患者。
図8図8:正常LDH及びgGT血清レベルを有する患者のサブグループの生存分析。NSQ:非扁平上皮腫瘍。SQ:扁平上皮腫瘍。OR:化学療法に対する客観的応答。SD:安定疾患。ECOG:「米国東海岸癌臨床試験グループ」の機能指数。
図9図9:正常LDH及びgGT血清レベルを有する患者のTTF(治療成功期間)分析。NSQ:非扁平上皮腫瘍。SQ:扁平上皮腫瘍。OR:化学療法に対する客観的応答。SD:安定疾患。ECOG:「米国東海岸癌臨床試験グループ」の機能指数。
図10図10:試験されたマーカーの組合せの関数としての患者生存率。太い灰色曲線:Vx-001を投与された患者;細い黒色曲線:偽薬を投与された患者。
図11図11:TIL(腫瘍浸潤リンパ球)による浸潤及びPD-L1発現により定義される腫瘍の免疫原性の関数としての患者生存率。灰色曲線:Vx-001を投与された患者;黒色曲線:偽薬を投与された患者。
図12図12:TIL(腫瘍浸潤リンパ球)による浸潤及びPD-L1発現により定義される腫瘍の免疫原性の関数としての患者のTTF。灰色曲線:Vx-001を投与された患者;黒色曲線:偽薬を投与された患者。
図13図13:試験されたマーカーの関数としての、腫瘍が非免疫原性又は免疫原性である患者の生存。LDH/gGT UNL = 正常上限値未満のLDH/gGT
図14図14:試験されたマーカーの関数としての、腫瘍が非免疫原性又は免疫原性である患者のTTF。LDH/gGT UNL = 正常上限値未満のLDH/gGT
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
本発明は、Vx-001-201研究の結果によりVx-001ワクチン接種が有意に有益であると示された患者のカテゴリーの同定に基づく。
本発明は、(下記に示される)患者カテゴリーの各々についてTERT発現腫瘍を処置するためのVx-001の使用に関する。
本発明はまた、これら患者カテゴリーの各々について、配列番号1の配列の潜在性エピトープTERT572に対するCTL応答を誘導するための、配列番号2のTERT572Yペプチドの使用に関する。
【0011】
これら患者カテゴリーの各々について、本発明はまた、患者に予め投与された配列番号2のペプチドTERT572Yにより誘導されるCTL応答を維持するための、配列番号1の配列のペプチドTERT572の使用に関する。
下記の実験の部に示されるように、患者の第1のカテゴリーは、TERT発現腫瘍に罹患し、正常レベルの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を有するHLA-A*0201患者からなる。
Vx-001ワクチン接種に対して有利に応答する可能性が高い患者の別のカテゴリーは、TERT発現腫瘍に罹患し、正常レベルのガンマグルタミントランスフェラーゼ(gGT)を有するHLA-A*0201患者からなる。
TERT発現腫瘍に罹患し、正常レベルのgGT及び正常レベルのLDHの両方を有するHLA-A*0201患者は、Vx-001ワクチン接種に対して有利に応答する可能性が特に高い患者のカテゴリーを構成する。
【0012】
「正常レベルのgGT」及び「正常レベルのLDH」とは、当該検査室で用いられる技術的実施要領及び試薬に従って各検査室により規定される上限正常値(UNL)より低いレベルを意味する。或るレベルが正常かどうかの同定は当業者にとって困難ではない。
したがって、本発明は、正常レベルのgGT及び/又は正常レベルのLDHを有するHLA-A*0201患者においてTERT発現腫瘍を処置するためのVx-001の使用に関する。
「治療する」とは、本明細書では、少なくとも、腫瘍の進行を遅らせること及び/又は患者の生存を延長することを意味する。
【0013】
本発明の特定の実施形態によれば、Vx-001は、少なくとも1つの化学療法を受けた後に正常レベルのgGT及び/又は正常レベルのLDHを有する患者に投与される。よって、Vx-001は、第一選択の化学療法に加えて投与される。
本発明の別の特定の実施形態によれば、Vx-001は、非小細胞肺癌(NSCLC)、例えば、転移性又は再発性NSCLCに罹患し、正常レベルのgGT及び/又は正常レベルのLDHを有する患者に投与される。
本発明者らはまた、正常レベルのgGT及び/又は正常レベルのLDHを有する患者のうち、男性が女性よりVx-001ワクチン接種に対して統計学的により良好に応答することを示した。
したがって、本発明の別の特定の実施形態によれば、Vx-001は、正常レベルのgGT及び/又は正常レベルのLDHを有する男性患者に投与される。
【0014】
同様に、Vx-001-201研究の結果は、Vx-001が、扁平上皮腫瘍より非扁平上皮腫瘍の処置に関して統計学的に有効であることを示す。
したがって、本発明の別の特定の実施形態によれば、Vx-001は、非扁平上皮腫瘍に罹患している、正常レベルのgGT及び/又は正常レベルのLDHを有する患者に投与される。
本発明の別の特定の実施形態によれば、Vx-001は、正常レベルのgGT及び/又は正常レベルのLDHを有する65歳以下の患者に投与される。
本発明の別の特定の実施形態によれば、Vx-001は、正常レベルのgGT及び/又は正常レベルのLDHを有し、化学療法後、例えば、第一選択の化学療法後に癌がもはや進行していない患者に投与される。
【0015】
本発明の別の特定の実施態様によれば、Vx-001は、正常レベルのgGT及び/又は正常レベルのLDHを有し、0のECOGスコアを有する患者に投与される。
Vx-001-201研究の結果はまた、正常な血清レベルのLDH及びgGTが、非免疫原性腫瘍を有する患者のより長い生存及びより長いTTFと相関することを示す。「非免疫原性腫瘍」とは、本明細書中では、PD-L1分子を発現しない腫瘍(すなわち、腫瘍細胞の少なくとも1%がPD-L1を発現する場合:腫瘍比率スコア<1%)及び/又はリンパ球によって浸潤されていない腫瘍(すなわち、腫瘍浸潤リンパ球(又はTIL)が全く存在しないか又は数が非常に少ない場合)を意味する。
したがって、本発明の別の特定の実施形態によれば、Vx-001は、正常レベルのgGT及び/又は正常レベルのLDHを有し、その腫瘍がPD-L1分子を発現しない及び/又はリンパ球によって浸潤されていない患者に投与される。
【0016】
本発明はまた、TERT発現腫瘍に罹患しているHLA-A*0201患者が、Vx-001を用いる抗癌治療ワクチン接種に対して有利に応答する可能性が高いかどうかをインビトロで決定する方法であって、該患者の生物学的試料から該患者のgGTレベル及びLDHレベルを測定する工程を含む方法に関する;この方法によれば、これらレベルの少なくとも1つが正常である場合、該患者は、当該抗癌ワクチン接種に対して有利に応答する可能性が高いとみなされ、このことは、当該患者のgGT及びLDHのレベルが共に正常であれば尚更である。
本発明の方法によれば、患者がVx-001抗癌ワクチン接種に対して有利に応答する確率は、腫瘍が非免疫原性である場合、すなわち、PD-L1分子を発現せず及び/又はリンパ球が浸潤していない場合に、より一層高いとみなされる。
【0017】
本発明の方法によれば、患者がVx-001抗癌治療ワクチン接種に対して有利に応答する確率は、当該患者が下記の特徴の1又は2以上を更に示す場合、更に高いと考えられる。
(i)患者は男性である。
(ii)患者は非扁平上皮腫瘍を有する
(iii)患者は65歳以下である
(iv)患者は、第一選択の化学療法後にもはや進行していない腫瘍を有する
(v)患者はECOG=0を有する。
当然のことながら、本発明の異なる実施態様は互いに排他的ではなく、複数の上記基準を有する患者カテゴリーは、Vx-001ワクチン接種に対する良好な応答者である可能性が更に高い。
本発明を以下の実験の部で更に説明するが、下記の説明は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0018】
実施例
臨床試験における患者募集の過程で、化学療法治療後に血液検査を行った。各検査室が独自の検査及び独自の正常性限界値(UNL又は「正常上限値」)を適用するので、データは、患者の医学ファイルから集め、当該検査室により適用された正常性限界値と比較して得られた結果に従って分類した(表1)。調べた情報は、LDHレベル、gGTレベル、ALPレベル、好中球の絶対数、血小板の絶対数及び好中球とリンパ球との比である。
この臨床試験における調査対象品(Vx-001)の有効性は、2つの基準を調査対象品を投与された患者と偽薬を投与された患者との間で比較することによって評価した。
- 患者の「全体生存率」(OSと示す)
- 疾患がもはや進行せず、患者が調査対象品(又は偽薬)以外の処置を受けない期間(「治療成功期間」と呼ばれ、TTFと示す)
【0019】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
表1:乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、ガンマグルタミントランスフェラーゼ(gGT)、アルカリホスファターゼ(ALP)の血清レベル、好中球の絶対数(ANC)、好中球/リンパ球の比(N/L)及び血小板の絶対数(Plat)の測定
Vx0001-201研究に参加した患者を幾つかのサブグループに分類した:測定を行った研究施設の基準に従って、マーカーが正常レベルであるみなされた患者についてはL;各研究施設により確立された正常限界値より高いレベルを有する患者についてはH;N=該当せず;Y=該当する;ND=測定せず。
【0020】
1.Vx-001に対する臨床応答及びLDHレベル
Vx-001-201試験に参加した190人の患者のうち、127人の患者が正常血清レベルのLDHを有していた。この集団において、Vx-001ワクチン接種は、OS及びTTFを、偽薬群の患者と比較して有意に増加させた(図1)。

2.Vx-001に対する臨床応答及びgGTレベル
Vx-001-201試験に参加した190人の患者のうち、139人の患者が正常血清レベルのgGTを有していた。この集団において、Vx-001ワクチン接種は、OSを偽薬群の患者と比較して増加させたが、有意ではなかった(p=0.10)。対照的に、TTFは有意に増加した(図2)。

3.Vx-001に対する臨床応答及びアルカリホスファターゼ(ALP)
Vx-001-201試験に参加した190人の患者のうち、160人の患者が正常血清レベルのALPを有していた。この集団において、Vx-001ワクチン接種は、OSを偽薬群の患者と比較して増加させなかった(p=0.74、図3)。患者のALPレベルは、Vx-001に対して応答する患者の能力に影響しなかった。TTFに関する結果も同じである。
【0021】
4.Vx-001に対する臨床応答及び血球数
血球数は、患者の炎症状態を評価するために一般的に使用される。よって、好中球の絶対数に加えて、好中球の数とリンパ球の数との比及びに血小板数は、患者の全身健康状態に特徴的である。

a.Vx-001に対する臨床応答及び好中球の絶対数
好中球の絶対数は、一般的に用いられる炎症マーカーである。特に、多数の好中球は、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)での処置に対する弱い応答に関連することが示されている(Ferrucciら,Annals Oncol 2016)。
Vx-001での処置の場合、好中球数の影響は観察されなかった。好中球が高レベルの患者又は正常レベルの患者のいずれにおいても、偽薬群の患者と処置を受けた患者との間で生存差は観察されなかった(図4)。

b.Vx-001に対する臨床応答及び好中球とリンパ球との比
好中球数とリンパ球数との比でも同様な結果が観察された。好中球とリンパ球との比が3(文献(Mezquitaら,2018;Ferrucciら,2016)において限界値として一般的に用いられている比)未満である患者においても、3より高い患者においても、偽薬群の患者と処置を受けた患者との間で生存差は観察されなかった(図5)。

c.Vx-001に対する臨床応答及び血小板
最後に、血小板数は影響を及ぼさない。血小板をが高レベルの患者又は正常レベル(UNL:「正常上限値」)の患者のいずれにおいても、偽薬群の患者と処置を受けた患者との間で生存差は観察されなかった(図6)。
【0022】
5.因子の組合せ
gGT及びLDH
次に、因子、特に患者の生存及びTTFに影響を示した因子を組み合わせたときのVx-001の臨床的有効性を評価した。
共に正常なLDH及びgGTレベルを有する97人の患者において、Vx-001での処置は、生存及びTTFを非常に有意に増加させた:それぞれp=0.003及びp=0.0019(図7)。
正常なLDH及びgGT血清レベルを有する患者集団のサブグループのより詳細な生存分析は、Vx-001が、非扁平上皮癌に罹患している患者(NSQ、p=0.0038)、男性患者(p=0.0024)、喫煙患者(p=0.0099)、65歳以下の患者(p=0.0019)、化学療法に対する客観的応答を有して本研究に参加した患者(OR、p=0.036)又は安定疾患を有して本研究に参加した患者(SD、p=0.034)、0のECOGを有して本研究に参加した患者(0.041)又は1のECOGを有して本研究に参加した患者(p=0.039)において非常に有意な効果を有することを示す。対照的に、そして驚くべきことに、Vx-001は、癌が扁平組織構造を有する患者(SQ、p=0.39)、女性患者(p=0.27)及び65歳を超える患者(p=0.08)の生存を有意に増加させない(図8)。
【0023】
同様に、正常なLDH及びgGT血清レベルを有する患者集団のサブグループのTTF分析により、Vx-001は、非扁平上皮癌に罹患している患者(NSQ、p=0.0009)、男性患者(p=0.0064)、喫煙患者(p=0.001)、65歳以下の患者(p=0.0017)、化学療法に対する客観的応答を有して本研究に参加した患者(OR、p=0.021)、0のECOGを有して本研究に参加した患者(0.021)並びに65歳を超える患者(p=0.0017)において非常に強力な効果を有することが確認される。
対照的に、Vx-001は、癌が扁平組織構造を有する患者(SQ、p=0.49)、女性患者(p=0.25)及び化学療法の後に安定疾患を有して本研究に参加した患者(SD、p=0.074)又は1のECOGを有して本研究に参加した患者(p=0.14)のTTFを有意には増加させない(図9)。
LDHレベル及びgGTレベルの組合せは、その効果が相乗的である唯一の因子の組合せであり、他の組合せは、LDHレベル単独を用いた分析とせいぜい同一の結果を与える(図10)。
【0024】
6.腫瘍の免疫原性の関数としてのLDHマーカー及びgGTマーカーの効果
腫瘍の免疫原性は、幾つかの因子に依存し、最も重要な因子は、腫瘍内のTIL(腫瘍浸潤リンパ球)の存在及び腫瘍細胞によるPD-L1分子の発現である。本発明者らは、生検スライドが入手可能であった136人の患者に対するこれら2つのパラメータの関数としてのVx-001の効果を分析した。PD-L1の検出には22C3 pharmDxキットを用いた。
PD-L1を発現する腫瘍細胞の定量化(TPS:腫瘍比率スコア)を可能にするAgilentキットの推奨に従って、PD-L1の発現を分析した。3群に分類した:i)PD-L1陰性群(細胞の<1%が標識;TPS<1%)、ii)PD-L1陽性群(細胞の1~49%が標識;TPS 1~49%)及びiii)PD-L1を過剰発現する群(細胞の>50%が陽性;TPS>50%)。TILによる腫瘍浸潤(腫瘍内部位(IS)及び間質部位(SS))を、i)不在(スコア0)、ii)非常に稀(スコア1)、iii)低(スコア2)、iv)平均(スコア3)及びv)高(スコア4)に定性化した。
腫瘍は、腫瘍細胞の1%未満がPD-L1を発現するとき(TPS;腫瘍比率スコア;<1%)、PD-L1陰性に分類され、腫瘍コア及び腫瘍間質中にTILが全く存在しない(スコア0)又は非常に稀である(スコア1)とき、TIL陰性に分類された。個々の結果を表2に示す。
【0025】
【表2-1】
【表2-2】
表2:これらデータが入手できた患者のTIL及びTPSスコア
【0026】
図11に示す結果により、Vx-001は、TILについて陰性である腫瘍を有する患者及びPD-L1について陰性である腫瘍を有する患者の生存を延長する(それぞれ、8.7月対20.7月、p=0.0089;9.9月対15.5月、p=0.13)が、TILについて陽性である腫瘍を有する患者及びPD-L1について陽性である腫瘍を有する患者の生存を延長しない(それぞれ、16.3月対14.3月、p=0.197;24.9月対7.9月、p=0.29)ことが示される。Vx-001の臨床効果は、TIL-及びPD-L1-である腫瘍を有する患者においてより一層高い(6.6月対20.7月、p=0.0049)。同様の結果がTTFの分析でも得られた。Vx-001は、TIL-腫瘍、PD-L1-腫瘍及びTIL-/PD-L1-腫瘍を有する患者においてTTFを延長した(それぞれ、2.7月対3.6月、p=0.041;2.3月対3.5月、p=0.079;及び2.2月対3.6月、p=0.011)(図12)。
TILの存在及びPD-L1発現により規定される腫瘍の免疫原性に従う両因子LDH及びgGTの効果の分析によって、正常レベルの血清LDH及び血清gGTは、非免疫原性腫瘍(TIL-、PD-L1-、TIL-/PD-L1-)を有する患者において、より長い生存(図13)及びより長いTTF(図14)と相関するが、免疫原性腫瘍(TIL+、PD-L1+、TIL+、PDl-L1+)を有する患者においては相関しないことが示された。
【0027】
参考文献
Ferrucci PF,Ascierto PAら,Baseline neutrophils and derived neutrophil-to-lymphocyte ratio: prognostic relevance in metastatic melanoma patients receiving ipilimumab. Ann Oncol. 2016 Apr;27(4):732-8.
Georgoulias Vら,A multicenter randomized phase IIb efficacy study of Vx-001, a peptide-based cancer vaccine as maintenance treatment in advanced non-small-cell lung cancer: treatment rationale and protocol dynamics. Clin Lung Cancer. 2013 Jul;14(4):461-5.
Menez-Jamet Jら,Optimized tumor cryptic peptides: the basis for universal neo-antigen-like tumor vaccines. Ann Transl Med. 2016 Jul;4(14):266.
Mezquita, L.ら,Association of the Lung Immune Prognostic Index With Immune checkpoint Inhibitor Outcomes in Patients With Advanced Non-Small Cell Lung Cancer. JAMA Oncol. 2018 Mar 1;4(3):351-357.
Tourdot Sら,A general strategy to enhance immunogenicity of low-affinity HLA-A2. 1-associated peptides: implication in the identification of cryptic tumor epitopes. Eur J Immunol. 2000 Dec;30(12):3411-21.
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【配列表】
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【国際調査報告】