(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-12
(54)【発明の名称】ガンマ線を用いたカルボキシメチルヒアルロン酸ヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
C08B 37/08 20060101AFI20220804BHJP
A61L 33/08 20060101ALN20220804BHJP
A61L 31/14 20060101ALN20220804BHJP
【FI】
C08B37/08 Z
A61L33/08
A61L31/14 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559481
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(85)【翻訳文提出日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 PH2020050002
(87)【国際公開番号】W WO2020236016
(87)【国際公開日】2020-11-26
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521437998
【氏名又は名称】デパートメント オブ サイエンス アンド テクノロジー - フィリピン ニュークリア リサーチ インスティテュート
【氏名又は名称原語表記】DEPARTMENT OF SCIENCE AND TECHNOLOGY - PHILIPPINE NUCLEAR RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】Commonwealth Avenue, Diliman, Quezon City, 1101, Philippines
(74)【代理人】
【識別番号】110002295
【氏名又は名称】弁理士法人M&Partners
(72)【発明者】
【氏名】リレヴ ローナ エス.
(72)【発明者】
【氏名】ガヤルド アルビン キア アール.
(72)【発明者】
【氏名】テクソン マリエル ジー.
(72)【発明者】
【氏名】アバド ルシール ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】ルナ ジョン アンドルー エー.
【テーマコード(参考)】
4C081
4C090
【Fターム(参考)】
4C081BA17
4C081CC06
4C081CD08
4C081DA12
4C081EA11
4C090AA02
4C090AA05
4C090BA67
4C090BB18
4C090BB22
4C090BB36
4C090BB53
4C090BB81
4C090BB92
4C090BD36
4C090CA36
4C090DA22
(57)【要約】
【課題】組織再生や医療に利用できる理想的な生体適合性材料であり、放射線によって架橋できるカルボキシメチルヒアルロン酸(CMHA)ヒドロゲルを得る。
【解決手段】
これまでのCMHAは、高濃度の溶液やペースト状の状態で架橋されていたが、置換度DSが0.74の高置換度CMHAを合成し、開始剤や架橋剤を加えることなく20-120kGyの線量で10%-60%w/wの濃度でガンマ線を照射して架橋し、異なるゲル特性を持つヒドロゲルが得られた。10%及び20%の濃度ではゲルは形成されなかった。20%及び40%の濃度では、ゲルの割合は15%から68%であった。架橋効率が向上した。CMHAの放射線架橋は、置換度(DS)、分子量、照射量が高いほど効率的であることがわかった。CMHAヒドロゲルの水中での膨潤性は26-571gH2O/g乾燥ゲルの範囲で得られた。このような膨潤特性の範囲は、多様な応用を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換度DSが0.74であるカルボキシメチルヒアルロン酸であって、
ヒアルロン酸HAとクロロ酢酸CAの重量比を1:3とし、温度36℃でNaOH(水酸化ナトリウム溶液)に1時間及びCA(クロロ酢酸溶液)に2時間、の反応条件で得られるカルボキシメチルヒアルロン酸であって、
高濃度の前記カルボキシメチルヒアルロン酸の溶液に20-120kGyの線量でガンマ線が照射されることにより前記カルボキシメチルヒアルロン酸(CMHA)のヒドロゲルが調製されることを特徴とするカルボキシメチルヒアルロン酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガンマ線照射によって調製されるカルボキシメチルヒアルロン酸ヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
置換度0.74のカルボキシメチルヒアルロン酸(CMHA)を常法により合成する。これをペースト状あるいは高濃度の溶液(10%-60% w/wt)にして、開始剤や架橋剤を加えることなく20-120kGyのガンマ線を照射して架橋すると、ゲル特性の異なるヒドロゲルが得られる。10%及び20%の濃度ではゲルは形成されない。40%及び60%の濃度のCMHAのゲルは15%から68%のゲル分率を示した。
【0003】
水中での膨潤は、26gH2O/g乾燥ゲル(※乾燥ゲル1gあたり水の吸収量が26g)から571gH2O/g乾燥ゲルまでの範囲であった。ヒアルロン酸をベースにしたこれらのヒドロゲルは、生体適合性の高い材料として、組織の置換や増強に使用できる可能性がある。
【0004】
望ましい形態、剛性、生物活性などを持つヒドロゲルの構築を実現するために、多くの潜在的な用途に向けて異なるゲル特性を持つヒドロゲルの開発が進められている。医療用途のヒドロゲルには、組織の置換や増強に利用できる生体適合性材料が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のことから、本発明の1つの目的は、組織の補強や再生などの医療用途に使用可能な生体適合性材料として特徴づけられるヒドロゲルを製造するために、ガンマ線を照射して調製されたカルボキシメチルヒアルロン酸ヒドロゲルを提供することである。
【0006】
ガンマ線照射によって調製されたカルボキシメチルヒアルロン酸ヒドロゲルに関する本発明の他の目的および利点は、以下の詳細な説明を読んだ後に完全に理解され、容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
放射線によって架橋されたカルボキシメチルヒアルロン酸(CMHA)ヒドロゲルは、組織再生や医療に利用できる理想的な生体適合性材料である。これまでのCMHAは、高濃度の溶液やペースト状の状態で架橋されていた。DSが0.74の高置換度CMHAを合成し、開始剤や架橋剤を添加することなく、10%-60% w/wの濃度で20-120kGyの線量でガンマ線を照射して架橋し、異なるゲル特性を持つヒドロゲルを得た。10%と20%の濃度ではゲルは形成されなかった。20%と40%の濃度では、ゲルの割合は15%から68%であった。架橋効率が向上した。CMHAの放射線架橋は、置換度(DS)と分子量が高く、照射量が多いほど効率的であることがわかった。CMHAヒドロゲルの水中での膨潤性は、26gH2O/g乾燥ゲルから571gH2O/g乾燥ゲルまで得られた。このような膨潤特性の範囲は、様々な応用を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ヒアルロン酸及びカルボキシメチルヒアルロン酸の化学構造
【
図2】濃度10-60%のCMHAにおけるゲル分率と照射線量の関係
【
図3】濃度40%と60%のCMHAヒドロゲルの膨潤特性
【発明を実施するための形態】
【0009】
カルボキシメチルヒアルロン酸は、ヒアルロン酸(HA)の水酸基の水素原子にカルボキシメチル基を置換することで合成される。
図1にHAとCMHAの化学構造を示す。ヒアルロン酸は、D-グルクロン酸とN-アセチル-D-グルコサミンの二糖単位の繰り返しからなる天然由来の直鎖状多糖である。カルボキシメチルヒアルロン酸(CMHA)は、放射線を照射すると分解されるが、ペースト状の状態で放射線架橋することができる。何人かの研究者は、抗ウイルス、ラジカル消去、ヒドロゲルの調製などの用途のために、様々な置換度(DS)(0.1-0.8)のCMHAを合成した。
【0010】
これまでに、DSが0.5のCMHAが合成され、それをガンマ線照射によってペースト状に架橋することで、異なる特性のヒドロゲルが調製されている。カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルカッパ・カラギーナン、カルボキシメチルデンプンの放射線架橋には、高いDS(1.6~2.2)が好ましいことが判明した。DSは水酸基のH原子がカルボキシメチル置換基で置換されている数として定義される。DSが増加すると、多糖類のカルボキシメチル化誘導体に含まれる付加的なC-H結合の数も増加する。この条件は、カルボキシメチル基のC-H結合の水素引き抜きによるフリーラジカルの形成に有利であり、その結果、多糖類のカルボキシメチル化誘導体の高い架橋性が得られる。このように、高度に置換されたCMHAを合成し、ヒドロゲルを調製するための架橋のパラメータを最適化することが目的である。放射線によって架橋されたヒドロゲルはクリーンなプロセスであり、開始剤や架橋剤の添加を必要としないため、高純度の製品が得られる。プロセスはシンプルで柔軟性に富み、コントロールも容易である。HAおよびその誘導体の優れた生体適合性と放射線照射というクリーンなプロセスという有益な特性により、放射線合成されたCMHAヒドロゲルは再生医療への応用に理想的な候補となる。
(
図1)
[医療グレード(等級)のヒアルロン酸(900kDa)は市販のものを使用。カルボキシメチル化試薬である水酸化ナトリウム、イソプロピルアルコール、クロロ酢酸は分析グレードのものを使用。生理的食塩水の調製には、分析グレードの試薬である塩化ナトリウムを使用。ヒドロゲルの調製と特性評価には脱イオン水を使用。]
【0011】
1.CMHA合成のステップ
CMHAまたはヒアルロン酸のカルボキシメチル化の合成は、以前に報告されたプロトコルにいくつかの変更を加えて実施される。簡単に言うと、HA(5g)を50mlの45% NaOHと混合すると、ペースト状のものが得られる。約500mlのイソプロパノールを加え、混合物を攪拌してスラリーを形成する。固体のクロロ酢酸(CA)を加え、所定の時間撹拌を続ける。混合物を不織布でろ過し、得られたCMHAをイソプロピルアルコールで洗浄した後、250mlの脱イオン水に溶解する。pHメーターを用いて12NHClでpHを7に調整し、MWCO12-14kDaのチューブを用いて3日間、頻繁に水を交換しながら透析して脱イオン水で精製する。この溶液を凍結乾燥し、乾燥したCMHAを4℃で保存して、今後の分析やヒドロゲルの調製に使用する。CMHAのDSを最適化するために、クロロ酢酸の量(10-15g)、NaOHでの時間(1-2時間)、CAでの時間(1-3時間)を変化させる。また、温度も変化させる(23-40℃)。多段階のカルボキシメチル化が行われる。シングルステッププロセスの凍結乾燥したCMHAを粉砕し、上記の手順で室温でカルボキシメチル化する。
【0012】
2.置換度判定のステップ
置換度(DS)は電位差逆滴定法により測定した。HAとCMHAは,それぞれ5mg/mlと10mg/mlの脱イオン水に溶解させる。これらの溶液にカチオン交換樹脂(Dowex(登録商標) 50Wx8)を加え,37℃で2時間混合する。その後、樹脂を加えた溶液をステンレス製の200メッシュのワイヤースクリーンでろ過し、さらに0.45μmと0.22μmのシリンジフィルターでろ過し、酸性化したHAとCMHAの溶液を凍結乾燥させる。乾燥した酸性化HAまたはCMHA約0.1gを10mlの0.1N NaOHに溶解し、15mlの脱イオン水で希釈する。この溶液を、フェノールフタレインを指示薬として0.05NHClで滴定する。ブランク滴定には試料は含まれない。置換度は以下の式で算出する:
(式)
[ここで、n
COOHはカルボキシル基のモル数、Vbはブランク滴定に使用されたHClの体積、Vは試料の滴定に使用されたHClの体積、C
HClはHClの濃度、MW
DSUは未置換の二糖類ユニットの分子量、m
dryは乾燥CMHAの体積、MW
1はカルボキシメチル基の分子量。]
【0013】
3.分子量測定のステップ
CMHAの重量平均分子量(Mw)をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析する。東ソーTSKゲルガードカラムPWXLと4本のTSKゲル直列接続分析カラム(G6000PWXL、G4000PWXL、G3000PWXL、G2500PWXL)を備えた島津プロミネンスのクロマトグラフで行う。溶出は、0.2MNaClを用いて、0.5ml/minの流速で行われる。報告されているすべての分子量は、PEO標準に基づいており、絶対的なものではない。
【0014】
4.ヒドロゲルの照射と特性評価のステップ
CMHA(10%-60%w/w)の高濃度溶液またはペースト状を手で混練して調製し、一晩静置する。一晩放置した後、40%と60%の混合物を再度混練し、均一な溶液にする。サンプルは真空シールされ、フィリピン原子力研究所のCo-60照射施設で20-120kGy、線量率0.5kGy/Hで照射される。
【0015】
照射後,すべてのサンプルを凍結乾燥させ,分析前にデシケーターで保存する。ゲル分率および膨潤度は,乾燥したCMHAを脱イオン水に室温で72時間浸漬することにより測定する。ヒドロゲルの膨潤は、吸収された水の質量を乾燥ゲルの初期重量で割ることによって推定される。その後、膨潤したゲルを50℃で乾燥させ、不溶性画分の重量を得る。ゲル分率は、不溶性画分の質量を乾燥ゲルの初期重量で割って算出する。
【0016】
5.結果の分析のためのステップ
CMHAのDSの最適化
高濃度の溶液またはペースト状の多糖誘導体の放射線架橋は、高い置換度(DS)で効率的に行われるため、DSの最適化を検討した。DSの最適化は、HAとCAの重量比、NaOH中での時間、CA中での時間などの反応条件を変化させることで行った。表1は、反応条件を変えたときの置換度とMwを示している。我々は誤ってDSが0.91のCMHA(CMHA-4)を夏場の無冷房室で合成してしまったが、これは温度がDSに及ぼす影響を明確に示している。多糖類誘導体のDSを高める方法としては,多段階カルボキシメチル化がよく知られている。CMHA-4(DS=0.91)に多段階カルボキシメチル化を行った。多くの研究でカルボキシメチル化された誘導体が凝集したり、粘着性を帯びたりすることが報告されているため、最初にCMHAの多段階カルボキシメチル化に対する反応を見るために実施したものである。また、CMHAの多段階カルボキシメチル化の際にもこの現象が見られた。凝集したCMHAを攪拌するために、ホモジナイズする。3段階のカルボキシメチル化により、DSが0.91から1.08(CMHA-7)に増加している。
【0017】
DSに及ぼす温度(32℃, 36℃, 40℃)の影響を調べた。これらの温度におけるCMHAのDSは,それぞれ0.67、0.72、0.69であった。非空調の部屋で得られたDSを再現することはできなかった。以前の研究では、CMHAのMwは約149kDaと低かったが、これはアルカリによる劣化に起因すると考えられる。CMHA-9を用いて、20gスケールでのスケールアップ合成に成功した。CMHA-9のMwは342kDaと比較的高く、これがその架橋挙動に影響を与えている可能性がある。スケールアップして得られたDS(CMHA-11)は0.74であり、小規模合成(CMHA-9)とよく一致した。(表1参照)
【0018】
【0019】
放射線架橋CMHA
多糖類誘導体をペースト状または高濃度の溶液で架橋する方法は、クリーンで常温のプロセスである。この方法では、ヒドロゲルの調製に必要なのは水と放射線のエネルギーだけであり、生体適合性材料の開発に適している。我々の最初の研究では、DSが0.5でMwが149kDaのCMHAに40%と60%の濃度で50-100kGyの線量を照射すると、架橋が起こることがわかった。本研究では、ガンマ線を照射することでCMHAの架橋効率を高めることを目的とした。濃度10-60%、線量20-120kGyで培地置換したCMHAの架橋効率をゲル分率で評価した。ヒドロゲルのゲル含有率を
図1に示す。CMHAは10-20%の濃度では、すべての線量範囲でゲル含有量が測定されないため、架橋しなかった。一方、40%の濃度(20kGyから60kGy)では、ゲル含有率が24%から60%に増加し、60%の濃度では、ゲル含有率が15%から54%に増加した。どちらの濃度でも60kGyを境にゲル分率は横ばいになった。40%の濃度と120kGyの線量で約68%のゲル含有率が達成された。架橋の効率は我々の以前の研究に比べて改善された。
【0020】
我々の以前の研究では、濃度60%、100kGyで約44%のゲル含有量が達成されている。このように架橋が促進されたのは、DSと分子量の増加と照射線量の増加によるものと考えられる。
(
図2)
【0021】
CMHAヒドロゲルの膨潤
ヒドロゲルの基本的な特徴は、水を吸収し、その架橋構造に大量の水を保持する能力である。ヒドロゲルの膨潤特性は、通常、乾燥したゲル1gあたりに吸収された溶媒の重量で示されるが、ポリマーの親水性と分子間結合の密度に強く依存する。
図3aと
図3bは、それぞれ、濃度40%と60%のCMHAヒドロゲルの膨潤特性を示している。CMHAヒドロゲルの膨潤は、両濃度とも照射線量とともに減少した。これは、高線量では架橋密度が高くなるため、通常は線量とともに膨潤が減少することが予想される。脱イオン水での膨潤度は26-571gH
2O/g乾燥ゲルの範囲であった。CMHAヒドロゲルのこのような幅広い膨潤特性は、多様な応用を可能にする。
(
図3)
【0022】
以下の反応条件で、DSが0.74のカルボキシメチルヒアルロン酸が得られた(スケールアップ合成)。HAとCAの重量比は1:3、NaOHで1時間、CAで2時間、温度は36℃である。CMHAヒドロゲルは、20-120kGyの線量で高濃度の溶液中でガンマ線を照射することにより調製され、特徴付けられる。 10%-20%の濃度では、すべての線量範囲でCMHAは分解を受けた。ゲル分率は68%に達し、水中での膨潤度は40%と60%の濃度で26-571gH2O/g 乾燥ゲルとなった。CMHAの架橋効率は、置換度と分子量の増加によって改善される。ヒアルロン酸をベースとしたこれらのヒドロゲルは、生体適合性の高い材料であり、組織の補強や再生に応用できる可能性がある。
【国際調査報告】