IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 雲南中煙工業有限責任公司の特許一覧

特表2022-536035(Z)型ソラノン、その製造方法および使用
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-12
(54)【発明の名称】(Z)型ソラノン、その製造方法および使用
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/68 20060101AFI20220804BHJP
   C07C 49/203 20060101ALI20220804BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220804BHJP
【FI】
C07C45/68
C07C49/203 E
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568581
(86)(22)【出願日】2020-06-01
(85)【翻訳文提出日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 CN2020093673
(87)【国際公開番号】W WO2021068530
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】201911244805.X
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517283640
【氏名又は名称】雲南中煙工業有限責任公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】雷声
(72)【発明者】
【氏名】劉志華
(72)【発明者】
【氏名】王凱
(72)【発明者】
【氏名】李振杰
(72)【発明者】
【氏名】冒徳寿
(72)【発明者】
【氏名】王昆▲みょう▼
(72)【発明者】
【氏名】高莉
(72)【発明者】
【氏名】付磊
(72)【発明者】
【氏名】張翼鵬
(72)【発明者】
【氏名】者為
(72)【発明者】
【氏名】楊影
(72)【発明者】
【氏名】周強輝
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC44
4H006BA25
4H006BA39
4H006BA48
4H006BA69
4H006BB15
4H006BB25
4H006BC10
4H006BC19
4H006BC32
4H039CA20
(57)【要約】
本発明は、立体構造式が(I)または(II)であり、名称が(S,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン、又は(R,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オンである(Z)型ソラノンを開示する。本発明は、(Z)型ソラノンの製造方法、および巻型タバコ用タバコ刻みの加香におけるその使用も開示する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体構造式が
であり、
名称が(S,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン、または(R,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オンであることを特徴とする、(Z)型ソラノン。
【請求項2】
請求項1に記載の(Z)型ソラノンの製造方法であって、
原料であるイソアミルアルデヒド及びメチルビニルケトンを触媒及び共触媒の存在下で反応させ、化合物である(S)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナール、又は化合物である(R)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールを得る、ステップ(1)と、
ステップ(1)で得られた(S)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナール、又は(R)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールをヨードメチル-トリフェニル-ホスホニウムヨージドと反応させて(S,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オン、又は(R,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンを得るステップ(2)と、
ステップ(2)で得られた(S,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オン又は(R,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンを触媒の存在下でイソプロペニルボロン酸ピナコールエステルと反応させ、前記(Z)型ソラノンとして(S,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン又は(R,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オンを得るステップ(3)とを含み、
前記製造方法を示す反応式は、
であることを特徴とする、(Z)型ソラノンの製造方法。
【請求項3】
ステップ(1)における前記触媒は、(S)-2-(メトキシベンズヒドリル)ピロリジンまたは(R)-2-(メトキシベンズヒドリル)ピロリジンであり、前記共触媒は、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチルであり、原料であるメチルビニルケトンとイソアミルアルデヒドとのモル比は、(1:1.0)~(1:2.0)であり、2-(メトキシベンズヒドリル)ピロリジンとイソアミルアルデヒドとのモル比は、(0.1:1.0)~(0.1:2.0)であり、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチルとイソアミルアルデヒドとのモル比は、(0.2:1.0)~(0.2:2.0)であり、反応温度は、-10℃~50℃であり、反応時間は、20~30時間であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
ステップ(2)における反応は塩基性の溶媒の存在下、且つ添加剤を添加する条件で行われ、前記溶媒はテトラヒドロフランであり、塩基はヘキサメチルジシラザンナトリウムであり、前記添加剤はヘキサメチルリン酸トリアミドであり、2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールと(2-メチルアリル)ホスホン酸ジエチルとのモル比は(1:1.0)~(1:1.5)であり、2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールとヘキサメチルジシラザンナトリウムとのモル比は(1:1.0)~(1:1.5)であり、2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールとヘキサメチルリン酸トリアミドとのモル比は(1:4.0)~(1:5.0)であり、反応温度は-100℃~室温であり、反応時間は2~10時間であり、前記室温は40℃であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
ステップ(3)で使用される触媒が、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウムであることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
ステップ(3)における反応は塩基性の溶媒の存在下で行われ、前記溶媒はテトラヒドロフランであり、塩基は水酸化ナトリウムであり、7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンとイソプロペニルボロン酸ピナコールエステルとのモル比は、(1:1.0)~(1:2.0)であり、7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンと水酸化ナトリウムとのモル比は、(1:1.5)~(1:2.5)であり、触媒と7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンとのモル比は、(0.05:1.0)~(0.05:2.0)であり、反応温度は0℃~100℃であり、反応時間は2~10 時間であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の(Z)型ソラノンの、巻型タバコ用タバコ刻みの加香における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成の技術分野に属し、具体的には(Z)型ソラノン、その製造方法及びタバコの加香における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
セムブラトリエン系(cemb renoids)物質は、タバコ植物が成長過程で形成する重要なテルペン系物質である。この種の物質自体は香気を有していないが、タバコに対する調製、熟成及び加工などの一連の過程で、この種の物質が分解し、香りを有する多数の化合物を生成する。これらの一次分解生成物の中で、ソラノンは最も重要な香気成分である。ソラノンは、タバコに対する調製、熟成の過程でさらに分解し、タバコの喫味や香型に重要な影響を及ぼすソラノフラン(Solanofuran)、ノルソランジオン(solanedione)、ソラネソール(Solanesol)、ソラン酸(Solanic acid)およびそのエステル類などの物質を生成する。ソラノンはタバコ葉の中で極めて微量(タバコ葉の乾燥重量のわずか0.0036%程度)で含まれているので、抽出によりソラノンを得る方法は、明らかに実用的ではない。したがって、人工的に合成する方法でしか、この要求を満たすことができない。
【0003】
ソラノンは、タバコ製品の調香に使用され、タバコの香りをより豊かにすることができ、喫食感を改善し、フレッシュな紅茶の香り、清香、草の香り、ニンジンの香りなどの香りを有し、且つほんのり甘い香りを有する。毎年、大量のタバコ用フレーバーを我が国へ輸入している海外の会社が存在するが、当該会社はソラノンという単体香料を我が国へ輸入することを未だ拒んでいる。なぜなら、ソラノンはどのタバコ刻みに添加しても独特の効果を示し、その雑味の除去効果、香りの向上効果、煙の勢いの向上効果、及びタバコ刻みとの協調性等においては、他のいずれの単体香料もそれに匹敵するまでには至っていないからである。タバコ用単体香料の生産はタバコ用フレーバーの調合に比べてはるかに困難であり、特にソラノンのような単体の人工合成は非常に困難であるため、わが国では純粋の単体香料であるソラノン(立体配置を考慮する)の人工合成ルートは、画期的な進展はなかった。
【0004】
わが国のソラノンの人工合成については、これまで報告されているソラノンの合成方法は十数種あり、主にイソアミルアルデヒド、イソ吉草酸エチル、マロン酸ジエチルなどを出発原料としてソラノンを製造するものであった。これらの合成方法は、その多くが長ルートでの合成であり、しかも、空気及び湿気に敏感なアルキル金属試薬を使用しているため、生産における安全上のリスク及びコストを増大させている。また、従来のソラノンの合成方法では、いずれも生成物の立体配置に対する制御(C5キラル炭素のR、S立体配置と、C6,C7二重結合のE、Z立体配置)については考慮されておらず、立体配置が混在したソラノン、又はラセミ体が得られるが、純粋の(Z)型ソラノン、例えば(S,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン又は(R,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オンは得られていない。本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。
【発明の概要】
【0005】
本発明の技術案は、以下の通りである。
【0006】
本発明の第1の態様は、立体構造式が
であり、
名称が(S,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン、または(R,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オンであることを特徴とする、(Z)型ソラノンが開示されている。
【0007】
本発明の第2の態様には、前記(S,Z)型ソラノンの製造方法が開示されている。
前記製造方法は、
原料であるイソアミルアルデヒド及びメチルビニルケトンを触媒及び共触媒の存在下で反応させ、化合物である(S)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナール、又は化合物である(R)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールを得るステップ(1)と、
ステップ(1)で得られた(S)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナール又は(R)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールをヨードメチル-トリフェニル-ホスホニウムヨージドと反応させ、(S,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オン又は(R,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンを得るステップ(2)と、
ステップ(2)で得られた(S,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オン又は(R,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンを触媒の存在下でイソプロペニルボロン酸ピナコールエステルと反応させ、前記(Z)型ソラノンとして(S,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン又は(R,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オンを得るステップ(3)とを含み、
前記製造方法を示す反応式は、
である。
【0008】
好ましくは、ステップ(1)における前記触媒は、(S)-2-(メトキシベンズヒドリル)ピロリジンまたは(R)-2-(メトキシベンズヒドリル)ピロリジンであり、前記共触媒は、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチルであり、原料であるメチルビニルケトンとイソアミルアルデヒドとのモル比は、(1:1.0)~(1:2.0)であり、2-(メトキシベンズヒドリル)ピロリジンとイソアミルアルデヒドとのモル比は、(0.1:1.0)~(0.1:2.0)であり、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチルとイソアミルアルデヒドとのモル比は、(0.2:1.0)~(0.2:2.0)であり、反応温度は、-10℃~50℃であり、反応時間は、20~30時間である。
【0009】
好ましくは、ステップ(2)における反応は塩基性の溶媒の存在下、且つ添加剤を添加する条件で行われ、前記溶媒はテトラヒドロフランであり、塩基はヘキサメチルジシラザンナトリウムであり、前記添加剤はヘキサメチルリン酸トリアミドであり、前記2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールと(2-メチルアリル)ホスホン酸ジエチルとのモル比は(1:1.0)~(1:1.5)であり、2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールとヘキサメチルジシラザンナトリウムとのモル比は(1:1.0)~(1:1.5)であり、2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールとヘキサメチルリン酸トリアミドとのモル比は(1:4.0)~(1:5.0)であり、反応温度は-100℃~室温であり、反応時間は2~10時間であり、前記室温は40℃である。ヘキサメチルリン酸トリアミドは優れた非プロトン性極性溶媒であり、塩基性を増して反応性を著しく高めることができる。
【0010】
好ましくは、ステップ(3)で使用される触媒は、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウムである。
【0011】
好ましくは、ステップ(3)における反応は塩基性の溶媒の存在下で行われ、前記溶媒はテトラヒドロフランであり、塩基は水酸化ナトリウムであり、前記7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンとイソプロペニルボロン酸ピナコールエステルとのモル比は、(1:1.0)~(1:2.0)であり、7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンと水酸化ナトリウムとのモル比は、(1:1.5)~(1:2.5)であり、触媒と7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンとのモル比は、(0.05:1.0)~(0.05:2.0)であり、反応温度は0℃~100℃であり、反応時間は2~10時間である。
【0012】
本発明の第3の態様には、前記(Z)型ソラノンの、巻型タバコ用タバコ刻みの加香における使用が開示されている。
【0013】
本発明の有利な効果は、以下の通りである。
1、本発明に係る純粋の(Z)型ソラノン、すなわち、(S,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン、または(R,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オンは初めて開示されており、新規な化合物である。
【0014】
2、本発明では、安価な化合物であるイソアミルアルデヒド、メチルビニルケトンから出発し、僅か三つのステップで目的分子である純粋の(Z)型ソラノンを得ることができる。本発明は、純粋の(S,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン、又は(R,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オンの人工合成を精度良く達成し、合成ステップが少なく、安全性が高く、かつ収率が50%以上達成できるので、工業化へのポテンシャルを有する。
【0015】
3、本発明に係る製造方法では、優れた非プロトン性極性溶媒であるヘキサメチルリン酸トリアミドを少量添加することにより、塩基性を増加させ、反応性及び収率を著しく向上させることができる。
【0016】
4、本発明に係る(Z)型ソラノンは、巻型タバコ用タバコ刻みの加香に用いると、タバコの香りの豊かさ、優雅さを著しく向上させ、煙の濃度を向上させ、煙の滑らかさやきめ細さを改善し、香味・喫味を改善し、雑味を遮断し、後味を甘くすることができ、タバコの核心的な香原料としての幅広い応用が見込まれている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施例により更に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではなく、本発明の内容がより良く理解されることを目的とする。
【0018】
実施例1:(S)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナール、または(R)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールの合成
3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチル73mg(約0.4mmol)を丸底フラスコに入れ、(S)-2-(メトキシベンズヒドリル)ピロリジン53.48mg(0.2mmol)、イソアミルアルデヒド215μL(約2mmol)及びメチルビニルケトン243μL(約3mmol)を順次加え、室温で撹拌して固形分を溶解させ、24時間撹拌して反応させた。
【0019】
反応終了後、残りのメチルビニルケトンをロータリーエバポレーターで除去した。残留の液体は、石油エーテル:酢酸エチル=20:1のカラムクロマトグラフィーにより分離し、淡黄色の液体230.1mgを得た。収率は74%であった。分析したところ、(S)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナール、すなわち、
であった。分析結果は以下の通りである。
【0020】
H NMR(400 MHz,Chloroform-d)δ9.59((d,J=2.8 Hz,1H),2.47(m,1H),2.35(m,1H),2.11(s,3H),2.07-1.99(m,2H),1.85-1.70(m,2H),0.98(d,J=6.6 Hz,3H),0.95(d,J=6.6 Hz,3H)。13C NMR(101 MHz,Chloroform-d)δ208.05,205.28,57.50,41.23,29.97,28.34,20.25,19.44,19.31。[α]+47.754°(589 nm),(c0.54g/100mL,CHCl)。
【0021】
触媒を(R)-2-(メトキシベンズヒドリル)ピロリジンに変えた以外は、上記と同様に実施した。収率は同様に74%であった。分析したところ、(R)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナール、すなわち、
であった。分析結果は以下の通りである。
【0022】
H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ9.59(d,J=2.8 Hz,1H),2.47(m,1H),2.35(m,1H),2.11(s,3H),2.07-1.97(m,2H),1.86-1.69(m,2H),0.98(d,J=6.6 Hz,3H),0.95(d,J=6.6 Hz,3H)。13C NMR(101 MHz,Chloroform-d)δ208.04,205.28,57.49,41.23,29.97,28.33,20.24,19.44,19.32。[α]-47.128°(589 nm),(c0.54g/100mL,CHCl)。
【0023】
実施例2:(S,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オン、又は(R,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンの合成
【0024】
ヨードメチル-トリフェニル-ホスホニウムヨージド1166mg(約2.2mmol)を反応瓶に入れ、テトラヒドロフラン3mLを加え、濃度2Mのヘキサメチルジシラザンナトリウムのテトラヒドロフラン溶液1.1mL(約2.2mmol)を加え、室温で15分間撹拌したところ、反応系は明るい赤色になった。反応系を零下78℃に冷却し、ヘキサメチルリン酸トリアミド1.6mL(約9.2mmol)を加え、最後に、実施例1で得られた(S)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナール312mg(約2mmol)をテトラヒドロフラン2mLに混合した混合液を加えた。零下78℃で4時間撹拌した。
【0025】
反応終了後、飽和の炭酸水素ナトリウム溶液2mLを反応系内に加え、珪藻土で濾過し、濾液を酢酸エチルで3回抽出した。有機相を併合し、無水硫酸ナトリウムで乾燥、濃縮した後、残留の液体は、石油エーテル:酢酸エチル=30:1でカラムクロマトグラフィーを行い、淡黄色の液体387mgを得た。収率は69%であった。分析したところ、(S,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オン、すなわち、
であった。分析結果は以下の通りである。
【0026】
H NMR(400 MHz,Chloroform-d)δ6.31(d,J=7.4 Hz,1H),5.86(dd,J=9.8,7.4 Hz,1H),2.49-2.31(m,2H),2.24(m,1H),2.12(s,3H),1.82(m,1H),1.69(m,1H),1.50(m,1H),0.92(d,J=6.8 Hz,3H),0.88(d,J=6.9 Hz,3H)。13C NMR(101 MHz,Chloroform-d)δ208.83,143.31,83.88,50.03,41.21,31.86,30.13,25.29,20.35,19.23。[α]+34.839°(589 nm),(c0.62g/100mL,CHCl)。
【0027】
実施例1で得られた(R)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールを用いた以外は、上記と同様に実施した。淡黄色の液体380mgを得た。収率は68%であった。分析したところ、(R,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オン、すなわち、
であった。分析結果は以下の通りである。
【0028】
H NMR(400 MHz,Chloroform-d)δ6.31(d,J=7.4 Hz,1H),5.86(dd,J=9.8,7.4 Hz,1H),2.44-2.35(m,2H),2.24(m,1H),2.12(s,3H),1.82(m,1H),1.69(m,1H),1.50(m,1H),0.92(d,J=6.8 Hz,3H),0.88(d,J=6.9 Hz,3H)。13C NMR(101 MHz,Chloroform-d)δ208.83,143.31,83.88,50.03,41.21,31.86,30.13,25.29,20.35,19.23。[α]-34.032°(589 nm),(c0.62g/100mL,CHCl)。
【0029】
実施例3:(5S,6Z)-ソラノンまたは(5R,6Z)-ソラノンの合成
反応管に[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム731mg(約1mmol)を入れ、テトラヒドロフラン70mLを加えた。また、実施例2で得られた(S,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オン2802mg(約10mmol)とイソプロペニルボロン酸ピナコールエステル2.8mL(約15mmol)とをテトラヒドロフランに混合して混合溶液30mLを得た。この混合溶液30mLを前記反応管に加えた。最後に、2Mの水酸化ナトリウム水溶液10mL(約20mmol)を上記反応管に加えた。これらを60℃で5時間撹拌した。
【0030】
反応終了後、反応系内に水を加え、エチルエーテルで3回抽出した。有機相を併合し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濃縮して粗生成物を得た。この粗生成物を石油エーテル:酢酸エチル=30:1でカラムクロマトグラフィーにより分離し、淡黄色の液体1425mgを得た。収率は73%であった。分析したところ、(5S,6Z)型ソラノンである(S,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン、すなわち、
であった。分析結果は以下の通りである。
【0031】
H NMR(400 MHz,Chloroform-d)δ5.97(d,J=12.0 Hz,1H),5.09(t,J=11.6 Hz,1H),4.95-4.81(m,3H),2.45-2.43(m,1H),2.41-2.30(m,2H),2.10(s,3H),1.85(s,3H),1.81-1.77(m,1H),1.6-1.51(m,1H),1.37(m,1H),0.92-0.89(d,J=6.8 Hz,3H),0.89-0.86(d,J=6.8 Hz,3H)。13C NMR(101 MHz,Chloroform-d)δ209.34,141.83,133.67,132.36,115.43,42.90,41.94,32.48,29.98,26.41,23.53,20.23,19.52。[α]+9.355°(589 nm),(c0.62g/100mL,CHCl)。
【0032】
実施例2で得られた(R,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンに変えた以外は上記と同様に実施した。淡黄色の液体1345mgを得た。収率は69%であった。分析したところ、(5R,6Z)型ソラノンである(R,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン、すなわち、
であった。分析結果は以下の通りである。
【0033】
H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ5.97(d,J=12.0 Hz,1H),5.09(t,J=11.6 Hz,1H),4.87(m,3H),2.50-2.43(m,1H),2.42-2.32(m,2H),2.11(s,3H),1.85(s,3H),1.82-1.75(m,1H),1.56(m,1H),1.37(m,1H),0.90(d,J=6.8 Hz,3H),0.87(d,J=6.9 Hz,3H)。13C NMR(101 MHz,Chloroform-d)δ209.34,141.83,133.67,132.36,115.42,42.90,41.94,32.47,29.97,26.40,23.53,20.23,19.52。[α]-9.839°(589 nm),(c0.62g/100mL,CHCl)。
【0034】
実施例4:巻型タバコ用タバコ刻みの加香における、(Z)型ソラノンの使用。
中国雲南産の某ブランド品紙巻タバコのサンプルを試験対象とし、タバコ刻みの重量に基づいて香料の添加量を計算した。本発明により合成された2種の純粋の(Z)型ソラノン、すなわち、(S,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン(これを注入して加香したタバコはサンプル1とする)と(R,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン(これを注入して加香したタバコはサンプル2とする)をエタノールに溶解し、所定濃度のエタノール溶液となるように配合した。CIJECTORフレーバー・香料注入機を用い、タバコ刻みの重量に対して香料が0.005重量%となるように、上記のエタノール溶液を均一にタバコに注入した。同じ条件で同じ体積のエタノールを注入したタバコ(サンプル0)を対照サンプルとし、相対湿度60%、22℃で48時間平衡化し、三つのサンプルに対して中国タバコ産業標準「タバコ製品の官能評価方法」(YC/T415-2011)に準拠して官能比較評価を行った。その結果を下記表に示す。
【0035】
【0036】
官能評価の結果から、対照サンプルに比べて(Z)型ソラノンが添加された二つのサンプルは、明らかに、タバコの熟成した香り、乾き草の香り、清香・甘い香りなどの特徴的な香気を表しているため、タバコ本来の香りとの協調性が良く、タバコの香りの豊富さ、きめ細さ、優雅さ、煙の飽満性がすべて向上し、煙の滑らかさやきめ細さが明らかに改善され、さらに雑味が遮断され、後味が改善されたことがわかった。また、2つの異性体である香料の加香効果を比較すると、(S,Z)-型ソラノンは、主に香気の質、飽満性及び煙の形態において向上効果が顕著であり、対して、(R,Z)-型ソラノンは、主にタバコの香りの豊富さ、煙のきめ細さや優雅さ、後甘味といった快適さにおいて向上効果が顕著であった。全体的に見て、二つの(Z)型ソラノンは、巻型タバコにおけるタバコの香りの豊富さ、煙の飽満性、香気の質、煙のきめ細さや優雅さ、雑味の抑制等を改善する効果を奏する。二つの異性体は、作用効果はほぼ同じであるが、強調点が若干異なる。したがって、巻型タバコにおけるフレーバーや香料の配合、調香において、高い利用価値を有している。
【手続補正書】
【提出日】2022-02-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体構造式が
であり、
名称が(S,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン、または(R,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オンであることを特徴とする、(Z)型ソラノンであって、
原料であるイソアミルアルデヒド及びメチルビニルケトンを触媒及び共触媒の存在下で反応させ、化合物である(S)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナール、又は化合物である(R)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールを得る、ステップ(1)と、
ステップ(1)で得られた(S)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナール、又は(R)-2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールをヨードメチル-トリフェニル-ホスホニウムヨージドと反応させて(S,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オン、又は(R,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンを得るステップ(2)と、
ステップ(2)で得られた(S,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オン又は(R,Z)-7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンを触媒の存在下でイソプロペニルボロン酸ピナコールエステルと反応させ、前記(Z)型ソラノンとして(S,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オン又は(R,Z)-5-イソプロピル-8-メチル-6,8-ジエン-2-オンを得るステップ(3)とを含み、
前記製造方法を示す反応式は、
であることを特徴とする、(Z)型ソラノンの製造方法
【請求項2】
ステップ(1)における前記触媒は、(S)-2-(メトキシベンズヒドリル)ピロリジンまたは(R)-2-(メトキシベンズヒドリル)ピロリジンであり、前記共触媒は、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチルであり、原料であるメチルビニルケトンとイソアミルアルデヒドとのモル比は、(1:1.0)~(1:2.0)であり、2-(メトキシベンズヒドリル)ピロリジンとイソアミルアルデヒドとのモル比は、(0.1:1.0)~(0.1:2.0)であり、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチルとイソアミルアルデヒドとのモル比は、(0.2:1.0)~(0.2:2.0)であり、反応温度は、-10℃~50℃であり、反応時間は、20~30時間であることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
ステップ(2)における反応は塩基性の溶媒の存在下、且つ添加剤を添加する条件で行われ、前記溶媒はテトラヒドロフランであり、塩基はヘキサメチルジシラザンナトリウムであり、前記添加剤はヘキサメチルリン酸トリアミドであり、2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールとヨードメチル-トリフェニル-ホスホニウムヨージドとのモル比は(1:1.0)~(1:1.5)であり、2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールとヘキサメチルジシラザンナトリウムとのモル比は(1:1.0)~(1:1.5)であり、2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールとヘキサメチルリン酸トリアミドとのモル比は(1:4.0)~(1:5.0)であり、反応温度は-100℃~室温であり、反応時間は2~10時間であり、前記室温は40℃であることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
ステップ(3)で使用される触媒が、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウムであることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
ステップ(3)における反応は塩基性の溶媒の存在下で行われ、前記溶媒はテトラヒドロフランであり、塩基は水酸化ナトリウムであり、7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンとイソプロペニルボロン酸ピナコールエステルとのモル比は、(1:1.0)~(1:2.0)であり、7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンと水酸化ナトリウムとのモル比は、(1:1.5)~(1:2.5)であり、触媒と7-ヨード-5-イソプロピル-6-エン-2-オンとのモル比は、(0.05:1.0)~(0.05:2.0)であり、反応温度は0℃~100℃であり、反応時間は2~10時間であることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0003
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0003】
ソラノンは、タバコ製品の調香に使用され、タバコの香りをより豊かにすることができ、喫食感を改善し、フレッシュな紅茶の香り、清香、草の香り、ニンジンの香りなどの香りを有し、且つほんのり甘い香りを有する。ソラノンはどのタバコ刻みに添加しても独特の効果を示し、その雑味の除去効果、香りの向上効果、煙の勢いの向上効果、及びタバコ刻みとの協調性等においては、他のいずれの単体香料もそれに匹敵するまでには至っていない。タバコ用単体香料の生産はタバコ用フレーバーの調合に比べてはるかに困難であり、特にソラノンのような単体の人工合成は非常に困難であるため、わが国では純粋の単体香料であるソラノン(立体配置を考慮する)の人工合成ルートは、画期的な進展はなかった。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
好ましくは、ステップ(2)における反応は塩基性の溶媒の存在下、且つ添加剤を添加する条件で行われ、前記溶媒はテトラヒドロフランであり、塩基はヘキサメチルジシラザンナトリウムであり、前記添加剤はヘキサメチルリン酸トリアミドであり、前記2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールとヨードメチル-トリフェニル-ホスホニウムヨージドとのモル比は(1:1.0)~(1:1.5)であり、2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールとヘキサメチルジシラザンナトリウムとのモル比は(1:1.0)~(1:1.5)であり、2-イソプロピル-5-カルボニルヘキサナールとヘキサメチルリン酸トリアミドとのモル比は(1:4.0)~(1:5.0)であり、反応温度は-100℃~室温であり、反応時間は2~10時間であり、前記室温は40℃である。ヘキサメチルリン酸トリアミドは優れた非プロトン性極性溶媒であり、塩基性を増して反応性を著しく高めることができる。
【国際調査報告】