(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-12
(54)【発明の名称】網膜症を治療するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/28 20060101AFI20220804BHJP
A61K 31/232 20060101ALI20220804BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20220804BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220804BHJP
A61K 38/30 20060101ALI20220804BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220804BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20220804BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20220804BHJP
A61K 47/55 20170101ALI20220804BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220804BHJP
A61P 9/14 20060101ALI20220804BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
A61K38/28
A61K31/232
A61K31/122
A61P43/00 121
A61K38/30
A61K9/107
A61K47/40
A61K9/19
A61K47/55
A61P27/02
A61P9/14
A61P29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570441
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(85)【翻訳文提出日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 IL2020050589
(87)【国際公開番号】W WO2020240558
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521516639
【氏名又は名称】エルガン ファーマ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ELGAN PHARMA LTD
【住所又は居所原語表記】New Generation Technologies NGT3, 13 Wadi El-Haj Street, Nazareth, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オルシャンスキー ミカル
(72)【発明者】
【氏名】オストロフスキー エレナ
(72)【発明者】
【氏名】ゼルディス スタヴ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076AA30
4C076AA95
4C076CC10
4C076CC41
4C076DD25
4C076DD26
4C076DD37
4C076DD40
4C076DD46
4C076EE06
4C076EE39Q
4C076GG06
4C084AA02
4C084BA01
4C084DB34
4C084DB58
4C084MA22
4C084MA58
4C084NA13
4C084ZA33
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB28
4C206DA05
4C206MA03
4C206MA04
4C206NA13
4C206ZA33
(57)【要約】
インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物、並びに、該組成物の製造及び使用方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む、
医薬組成物。
【請求項2】
インスリン様成長因子(IGF)をさらに含む、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
局所送達用に処方された担体をさらに含む、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
眼球への送達用に処方された担体をさらに含む、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記担体が、界面活性剤を含む、
請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ナノ粒子に結合した前記インスリンを有する水中油型ナノ油滴エマルジョンとして処方される、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記インスリンが、前記ナノ液滴とアミド結合している、
請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記ナノ液滴が、前記ドコサヘキサエン酸(DHA)及び前記コエンザイムQ10を含む、
請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記インスリンが、前記ドコサヘキサエン酸(DHA)とアミド結合している、
請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記インスリンの濃度が、1ml当たり0.001U~20Uである、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記DHAの濃度が、1~3mg/mlである、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記コエンザイムQ10の濃度が、1~3mg/mlである、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記IGFの濃度が、1ml当たり0.001U~20Uである、
請求項2の医薬組成物。
【請求項14】
早産児の網膜症を治療する方法であって、
早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の網膜症を治療する工程を含む、
方法。
【請求項15】
早産児の網膜症の予防又は重症度を軽減させる方法であって、
早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の網膜症の予防又は重症度を軽減させる工程を含む、
方法。
【請求項16】
早産児の網膜出血を低減する方法であって、
早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の網膜出血を低減する工程を含む、
方法。
【請求項17】
網膜症を経験している対象の網膜出血を低減する方法であって、
対象の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって対象の網膜出血を低減する工程を含む、
方法。
【請求項18】
網膜症を経験している対象の網膜血管新生を低減する方法であって、
対象の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって対象の眼の網膜血管新生を低減する工程を含む、
方法。
【請求項19】
早産児の網膜血管被覆を増加させる方法であって、
早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の網膜血管被覆を増加させる工程(無血管網膜領域を減少させる工程)を含む、
方法。
【請求項20】
早産児の網膜炎症を軽減する方法であって、
早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の網膜炎症を軽減する工程を含む、
方法。
【請求項21】
早産児の網膜酸化ストレスを軽減する方法であって、
早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の網膜酸化ストレスを軽減する工程を含む、
方法。
【請求項22】
早産児の網膜層の発達を改善する方法であって、
早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それにより早産児の網膜層の発達を改善する工程を含む、
方法。
【請求項23】
早産児の視覚障害(発生率又は重症度)を軽減する方法であって、
早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の視覚障害を軽減する工程を含む、
方法。
【請求項24】
早産児の視野を増加させる方法であって、
早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の視野を増加させる工程を含む、
方法。
【請求項25】
前記医薬組成物が、水性ナノエマルジョンである、
請求項14~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記投与が、前記医薬組成物の1つ以上の滴を角膜に適用することによって行われる、
請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記医薬組成物を、前記早産児の出生から6ヶ月齢までの期間内のいずれかの時期に適用する、
請求項14~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記投与が、前記医薬組成物の1回以上の硝子体内注射を介して行われる、
請求項14~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
以下の工程を含む、網膜症の局所治療のための医薬組成物を処方する方法:
(a)油相中に、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む水中油型ナノエマルジョンを生成する工程;
(b)アミンカップリング反応を使用して、インスリン又はIGF-1を前記ナノエマルジョンのナノ液滴に結合させるか、又は、前記インスリンを遊離形態で提供する工程。
【請求項30】
(c)前記インスリン又はIGF-1が結合したナノ液滴を精製する工程をさらに含む、
請求項29に記載の方法。
【請求項31】
(c)の工程に続いて、(d)安定剤を添加する工程をさらに含む、
請求項20に記載の方法。
【請求項32】
前記安定剤が、シクロデキストリンである、
請求項31に記載の方法。
【請求項33】
(d)の工程に続いて、凍結乾燥する工程をさらに含む、
請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜症を治療するための組成物に関する。本発明の実施形態は、未熟児網膜症(ROP)を治療するための、インスリン及び/又はIGFを含むナノエマルジョンに関する。
【0002】
[関連出願の参照]
本出願は、2019年5月28日に出願した米国仮特許出願第62/853,179号の優先権を主張するものであり、当該仮出願の内容の全てが、本参照をもって本願に組み込まれるものとする。
【背景技術】
【0003】
出生は、妊娠37週よりも前に発生した場合、未熟産、又は早産とみなされる。子宮内の最後の数週間は、健康的な体重増加と様々な重要な臓器の完全な発達にとって極めて重要である。
【0004】
ヒトの場合、網膜は、組織の酸素が少ない子宮内で発達する。血管前駆細胞は、12~21週の在胎期間に生じ、将来の血管発達のための足場を作り出す。網膜血管新生は、在胎期間約16週で始まり、既存の血管から新しい血管が出芽する。発達中の網膜の代謝要求は、脈絡膜循環によって供給される酸素を上回り、血管新生を刺激する「生理学的低酸素症」をもたらす。
【0005】
未熟児網膜症(ROP)は、不完全な血管新生網膜の網膜血管の異常増殖を特徴とする発達血管障害である。ROPは、その大部分が1250gの超短在胎期間児(ELGAN)、又は妊娠28週未満の出生時に起こり、小児の視覚障害及び失明の最も一般的な原因である。
【0006】
レーザー光凝固術や血管内皮増殖因子(VEGF)抗体の硝子体内注射を含む現在の治療オプションは、重度の後期ROPにおいて有用であることが証明されている。しかし、レーザー光凝固術は、網膜の主要部分を破壊し、幼若乳児において実施するのは困難で複雑な手技である一方、VEGF抗体の硝子体内注射は、他の臓器に影響を及ぼす血管成長の全身抑制を引き起こす可能性がある。
【0007】
したがって、必要性があり、上記の制限を含まない網膜症治療手法を有することが非常に有利である。
【発明の概要】
【0008】
本発明の一態様によれば、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物が提供される。
本発明の別の態様によれば、早産児の網膜症を治療する方法であって、早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の網膜症を治療する工程を含む方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、早産児の網膜症の予防又は重症度を軽減させる方法であって、早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の網膜症の予防又は重症度を軽減させる工程を含む方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、早産児の網膜出血を低減する方法であって、早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の網膜出血を低減する工程を含む方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、網膜症を経験している対象の網膜出血を低減する方法であって、対象の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって対象の網膜出血を低減する工程を含む方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、網膜症を経験している対象の網膜血管新生を低減する方法であって、対象の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって対象の眼の網膜血管新生を低減する工程を含む方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、早産児の網膜血管被覆を増加させる方法であって、
早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の網膜血管被覆を増加させる工程(無血管網膜領域を減少させる工程)を含む方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、早産児の網膜炎症を軽減する方法であって、早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の網膜炎症を軽減する工程を含む方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、早産児の網膜酸化ストレスを軽減する方法であって、早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の網膜酸化ストレスを軽減する工程を含む方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、早産児の網膜層の発達を改善する方法であって、早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それにより早産児の網膜層の発達を改善する工程を含む方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、早産児の視覚障害(発生率又は重症度)を軽減する方法であって、早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の視覚障害を軽減する工程を含む方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、早産児の視野を増加させる方法であって、早産児の眼に、インスリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む医薬組成物を投与し、それによって早産児の視野を増加させる工程を含む方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、以下の工程を含む、網膜症の局所治療のための医薬組成物を処方する方法が提供される:
(a)油相中に、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む水中油型ナノエマルジョンを生成する工程;
(b)アミンカップリング反応を使用して、インスリン又はIGF-1を上記ナノエマルジョンのナノ液滴に結合させる工程。
【0009】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術及び/又は科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様の又は等価な方法及び材料を、本発明の実践又は試験に使用することができるが、例示的な方法及び/又は材料を下記に記載する。矛盾する場合、定義を含む特許明細書が優先する。加えて、材料、方法、及び実施例は、単なる例示であり、必ずしも限定を意図するものではない。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態について、その例示のみを目的として添付の図面を参照して本明細書に記載する。以下、特に図面を詳細に参照して示す細部は、例示を目的とし、また本発明の好ましい実施形態の詳細な説明を目的とするのみであり、本発明の原理及び概念的態様の最も有用であり、容易に理解される説明であると考えられるものを提供する目的で提示することを強調する。同様に、本発明の基本的な理解のために必要である以上に詳細に本発明の構造的詳細を示す試みはなされていない。また、図面と共に説明を見ることで、本発明の実施形態をどのように実践し得るかが当業者には明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図2A~Bは、網膜出血箇所の総数(
図2A)及び重度出血箇所の総数(
図2B)を表す生体内眼底検査(in-vivo眼底検査)のグラフである。
【
図3】
図3A~Cは、正常酸素状態の動物(
図3A)、未治療の低酸素状態の動物(
図3B)及び治療された動物(
図3C)の生体内眼底検査(in-vivo眼底検査)結果の画像である。
【
図4】
図4A~Bは、14日目及び18日目の血管新生に対する治療の効果を示すグラフである。
【
図5】
図5A~Dは、インスリン治療群(
図5A)、IGF-1治療群(
図5B)、未治療群(
図5C)及び正常酸素(健康)動物(
図5D)に対する、P14のイソレクチン-B4染色を示す。
【
図6】
図6A~Bは、インスリン治療群、IGF-1治療群、未治療群及び正常酸素群の、無血管領域を示すグラフである。
【
図7】
図7A~Dは、インスリン(
図7A)、IGF-1(
図7B)、未治療(
図7C)及び正常酸素(
図7D)群についての、P14のイソレクチン-B4染色を示す画像である。ROI(緑)、血管被覆領域(青)、血管骨格(赤)及び分岐点(白)を示した。
【
図8】
図8は、全ての反応成分、例えば、反応物(rh-インスリン及びDHA)、中間体(DHA-EDC中間体)、及び得られた生成物(インスリン-DHA結合体)との、特定の時点におけるカップリング反応のクロマトグラムである。
【
図9】
図9は、凍結乾燥エマルジョン(最終生成物製剤)から抽出されたインスリン-DHA結合体のクロマトグラムである。
【
図10】
図10は、凍結乾燥エマルジョン(最終生成物製剤)の成分のピークを示すクロマトグラムである。
【
図11A-B】
図11Aは、Wimretinaソフトウェアを用いたH&E網膜層の厚さの自動解析の結果(
図11A)のグラフであり、
図11Bは、試験で実施したバイオマーカーPGE2濃度解析の結果を、異なる試験群で比較した場合(
図11B)のグラフである。
【
図11C】
図11Cは、試験で実施したバイオマーカー8-iso-PGF2a濃度解析の結果を、異なる試験群で比較した場合(
図11C)のグラフである。
【
図12】
図12は、遊離インスリン、DHA及びコエンザイムQ10を含む製剤の成分のピークを示すクロマトグラムである。
【
図13】
図13は、遊離インスリン、DHA及びコエンザイムQ10を含む製剤の成分のピークを示すクロマトグラムである。
【
図14】
図14A~Eは、本発明の組成物の低温透過電子顕微鏡写真(TEM)である。
【
図15】
図15A~Eは、本発明の組成物の低温透過電子顕微鏡写真(TEM)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、網膜症を治療するために使用することができる組成物そのものである。具体的には、本発明は、インスリン又はIGFを含むナノエマルジョンの局所投与を介してROPを治療するために使用することができる。
【0013】
本発明の原理及び実施は、図面及び以下の説明を参照してより良く理解されよう。
【0014】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その用途が、以下の記載に示す、詳細に限定されるものではないことを理解するべきである。本発明は、他の実施形態が可能であり、また、さまざまな手段で実施又は実行することが可能である。また、本明細書で使用する表現および用語は、説明を目的とするものであり、限定とみなすべきではないことも理解されたい。
【0015】
ROPの治療オプションは存在するが、このようなオプションは、投与の複雑性、副作用、及び眼組織に対する損傷の可能性によって制限される。
【0016】
本発明者は、ROPの効果的な治療は、出生後の毒性影響(例えば、酸素過剰)を防止し、これらの因子への全身曝露を最小限にしながら、生理学的血管系発達を促進し得る、欠損した子宮内因子(インスリン及びインスリン成長因子1)を提供するべきであると仮定した。
【0017】
本発明を実施に還元する一方で、本発明者は、生理学的眼血管系の発達を促進し、眼内毒性を低減することができ、それによって網膜症などの網膜障害の治療を可能にする組成物を処方した。以下の実施例の項にさらに記載されるように、本発明の組成物は、健康な血管の成長を刺激し、ラットにおける酸素誘導モデルによって引き起こされる網膜出血及び病的血管成長(血管新生)を防止し、低減するのに効果的であった。
【0018】
「生理学的血管発達を促進する」という表現は、視神経から眼の周辺部への酸素の流れ又は通過を増加させることを意味する。
【0019】
「網膜症」という言葉は、視覚障害を引き起こす可能性のある網膜のあらゆる障害を意味する。これは、例えば、生理学的血管系の成長を遅らせるか、又は停止させる病態(例えば、ROPの第I相等の血管閉塞又は収縮期)、及び、組織低酸素症及び虚血に応答して形成される異常な(異常である)病的血管を含むことができる。網膜症は、放射線照射又は頭部外傷等の外部因子、或いは、糖尿病又は高血圧等の全身性疾患の症状発現に起因しうる。網膜症は、血管の炎症や薬(エキセナチド、リラグルチド、プラムリンタイド等の糖尿病治療薬)によっても引き起こされうる。
【0020】
したがって、本発明の一態様によれば、治療有効量のインスリン及び/又はIGF-1、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を有効成分として含む組成物が提供される。
【0021】
本明細書にさらに記載されるように、インスリン及び/又はIGF-1は、生理学的血管発達を促進し、一方、DHAは、炎症反応を減少させ、コエンザイムQ10は、酸化ストレスシグナル伝達を減少させる。
【0022】
用語「治療有効量」又は「薬学的有効量」は、有効成分又は有効成分が示される治療効果を提供する有効成分を含む組成物の用量を意味する。
【0023】
本願の医薬組成物中の各々の有効成分の用量は、治療される対象、網膜症の段階(例えば、ROP)及び投与経路(局所又は眼内)を含む多くの因子に依存し得る。
【0024】
ROPの場合、進行は、体細胞効果(例えば、血管密度及び被覆率)、血管形成の程度及び/又は進行、或いは網膜層発達の質を介して決定され得る。
【0025】
組成物は、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含み、(例えば、アミド結合を介して)インスリン及び/又はIGFに結合されるナノ液滴を有する油中水ナノエマルジョンとして処方され得る。
図1は、インスリン又はIGF 12に結合し、DHA 12及びコエンザイムQ10 14を含むナノ液滴を示す本組成物の概略図である。
【0026】
以下の実施例セクションは、本組成物を処方するための1つのアプローチを記載する。
【0027】
本組成物は、凍結乾燥状態で保存することができ、例えば、使用のために水又は生理食塩水で再構成されるか、又はすぐに使用できる医薬組成物として保存されうる。
【0028】
本組成物は、局所又は眼球内への送達用に処方される担体を含む医薬組成物の一部であり得る。
【0029】
本医薬組成物の局所製剤は、中鎖トリグリセリド(MCT)、ヒマシ油等の長鎖トリグリセリド油、鉱油等の合成油及び半合成油、並びにオレイン酸等の不飽和脂肪酸等の担体を含むことができる。
【0030】
本医薬組成物の眼内製剤は、マイクロエマルジョンとして処方することができ、及び/又はリポソーム、ナノスフェア、ミセル及びナノカプセル等の担体を含むことができる。
【0031】
眼内製剤は、キレート剤、界面活性剤、及びシクロデキストリン等の有効成分と包接複合体を形成する賦形剤を使用して、有効成分の徐放又は遅延放出のために処方することができる。
【0032】
医薬組成物は、以下を含むことができる。
(i)炭水化物(安定剤、潤滑剤、凍結防止剤として):当該炭水化物としては、単糖類(グルコース、マルトース等)、二糖類(トレハロース等)、オリゴ糖(デキストリン等)、シクロデキストリン(ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPbCD)等)、多糖類(デキストラン等)等が含まれるが、これらに限定されない。
(ii)乳化剤:当該乳化剤としては、天然起源の非イオン性界面活性剤(例えば、レシチン、卵黄リン脂質)、合成起源の非イオン性界面活性剤(例えば、チロキサポール)、及びイオン性界面活性剤(例えば、セタクロニウムクロリド)が含まれるが、これらに限定されない。
(iii)増粘剤:増粘剤としては、親水性ポリマー(例えばポリビニルアルコール)又はセルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC))が挙げられるが、これらに限定されない。
(iv)ポリアミノ酸(例えば、ゼラチン、ヒトアルブミン)等の生物接着剤、及びセルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒアルロン酸等の多糖。
(v)アルギン酸塩及びポリアクリル酸塩等のゲル化剤を医薬組成物に添加して、角膜上の有効成分の滞留時間を増大させることができる。
【0033】
本発明の実施形態によれば、医薬組成物中のインスリンの濃度は、0.001U~20U/mlであり得る。一方、IGFの濃度は、0.001U~20U/mlであり得る。
【0034】
本発明の実施形態によれば、医薬組成物中のDHAの濃度は、1~4mg/mlであり得る。
【0035】
本発明の実施形態によれば、医薬組成物中のコエンザイムQ10の濃度は、1~3mg/mlであり得る。
【0036】
以下の表1は、本組成物の局所製剤を記載する。
【表1】
【0037】
本製剤は、MCTを含まないように改変することができ、遊離酸として、及びエチルエステルとして、の2つの形態のDHAを含む。これらの2つの形態のDHAは、液滴コア中のMCTに取って代わる。2つの別々のエマルジョンが製造され、最後の製造工程で組み合わされる。第1のエマルジョンは、インスリンが結合されるDHA遊離酸を含む液滴を含有する。第2のエマルジョンは、Q10がDHAエチルエステルコアに組み込まれている液滴を含有する。以下の表2は、注射可能な形態の本製剤の本実施形態の成分を列挙する。
【表2】
【0038】
本組成物の眼内製剤を、以下の表3に記載する。
【表3】
【0039】
本組成物の有効性を高めるために、(DHA)とコエンザイムQ10を封入し、インスリン又はIGFに結合したナノ液滴を有するナノエマルジョンを製造するための手法を開発した。
【0040】
したがって、本発明の別の態様によれば、網膜症の局所治療のための医薬組成物を処方する方法が提供される。医薬組成物は、油相中に、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10を含む水中油型ナノエマルジョンを生成し、アミンカップリング反応を用いて、インスリン又はIGF-1をナノエマルジョンのナノ液滴に結合させることによって製造される。
【0041】
ナノエマルジョン生成に続いて、ナノ液滴は、カラムクロマトグラフィー、タンジェントフロー濾過(TFF)、透析を使用して精製又は濃縮することができるが、これらに限定されない。シクロデキストリン、デキストリン、モノ又は二糖等の安定剤を添加することができるが、これらに限定されない。
【0042】
次いで、製剤は、保存のために凍結乾燥され、使用前に生理食塩水又は水により再構成することができる。
【0043】
以下の実施例のセクションは、本製剤化アプローチのより詳細な説明を提供する。
【0044】
上記で述べたように、本組成物は、網膜症、特に未熟児の網膜症を治療するために使用することができる。
【0045】
したがって、本発明の別の態様によれば、早産児等の必要とする対象における網膜症を治療する方法が提供される。本方法は、本発明の医薬組成物を必要とする対象の眼に投与することによって行われる。このような投与は、局所的又は眼内であり得る。
【0046】
本明細書で使用される「それを必要とする対象」という語句は、ヒト又はヒト以外の哺乳動物を指す。ヒト又はヒト以外の哺乳動物(ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ及びウマ)は、任意の年齢(例えば、満期産児や早産児等の乳児、成人、又は高齢者等)、又は性別であってもよい。対象としてのヒトは、在胎週数24~33週で生まれた早産児であり得る。また、対象としてのヒトは、出生時の体重が500~1650gmの低出生体重児であり得る。
【0047】
本組成物の局所製剤(点眼剤)は、出生から6ヶ月齢までの間のいつでも、10マイクロリットルから100マイクロリットルの用量で、180日の期間にわたって1日1回又は数回、早産児に投与することができる。本組成物の眼内製剤は、臨床的に必要とされる1回の注射当たり5~30マイクロリットルの用量で、180日の期間にわたって数週間に1回、出生から6ヶ月齢の間のいつでも早産児に投与することができる。
【0048】
本明細書で使用する「約」は、±10%を指す。
【0049】
本発明の更なる目的、利点、及び新規の特徴は、限定することを意図していない以下の実施例を検討すれば、当業者には明らかになるであろう。
【実施例】
【0050】
次に、以下の実施例を参照するが、これらの実施例は、上記の説明とともに、本発明を非限定的な様式で説明する。
【0051】
実施例1
ナノエマルジョン製剤
以下の実施例は、水中油型ナノエマルジョンとして再構成するのに適した凍結乾燥粉末として処方された本組成物の製造を実証する。
【0052】
以下の表4は、組成物製剤の製造プロセスで使用される成分を列挙する。
【表4】
【0053】
ナノ液滴の配合は、溶剤置換法を用いて達成した。100mgのDHA、50mgのCoQ10、25mgのチロキサポール及び50mgのMCTを9mlのアセトンに溶解し、25mgのLipoid E80を1mlのエタノールに溶解した。得られた溶液を合わせ、900rpmで30分間室温で混合し、0.1%w/vのPVA水溶液20mlに滴下添加し、900rpmでさらに15分間連続的に撹拌した。その後、実験室ロータリーエバポレーターを用いて、減圧下(50mBar)、室温で有機溶媒を完全に除去し、得られたエマルジョンを、0.5MのNaOHでpH7.4に予備調整した後、アミンカップリング反応に供した。
【0054】
0.5mlのリン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)中で調製した1.3μmolのEDCを、得られたエマルジョンに加え、混合物を室温で15分間インキュベートし、次いで、炭酸ナトリウム緩衝液を用いてpHを8.3±0.2に調整した。リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.2)中の0.1μmol/mLのrh-インスリン溶液0.5mlを、エマルジョン19.5mlに加えた。反応混合物を室温で12時間撹拌するように設定した。次いで、より小さいサイズの粒子(例えば、EDC、遊離活性物質分子)からナノ液滴を分離するために、水を溶離剤として使用して、重力流PD-10ゲル濾過カラム(Sephadex G-25)に反応混合物をロード(loaded onto)した。過剰の溶離液(水)を、実験室ロータリーエバポレーターを用いて、減圧下(50mBar)及び37℃でナノ液滴画分から除去した。次に、エマルジョンを2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンと混合して、最終濃度2%w/vとし、0.45μmのPES(ポリセタールスルホン)膜で濾過し、バイアルに分注した後、凍結乾燥した。再構成された溶液1ml中の有効成分は、0.67Uのrh-インスリン、2mgのDHA及び1mgのCoQ10であった。
【0055】
実施例2
試験1
実施例1に記載の組成物の眼科用製剤(インスリン、DHA及びCoq10で構成されたELGN01)を、ラットの酸素誘発性網膜症モデルで試験した。
【0056】
<手順>
単一の母ラットの孕んだ18匹の子を2つの群:A群-ELGN01(9匹)、B群-未治療(9匹、治療なしの酸素チャンバー)に分けた。正常酸素状態におかれた単一の母ラットの孕んでいる3匹の子を追加対照として用いた。
【0057】
治療は、5~14日目又は18日目(屠殺日に従う)に開始され、最初に注射器(局所、眼表面を損傷しない)を用いて瞼の下に投与され、次いで、開眼後に点眼された。
【0058】
酸素投与レジメンは、以下の通りであった:生後0~14日、高酸素(50%)で24時間のサイクルと、その後24時間の低酸素(12%)。
【0059】
1群の試験は生後14日目(P14)に、2群は生後18日目(P18)に終了し、17日目に眼科医による眼底検査による評価を実施し、その後サンプルを組織学的及び免疫組織学的に評価した。
【0060】
<結果>
In-vivo眼底検査の結果
治療群では、計12の網膜出血箇所が観察されたのに対し、未治療群では22箇所であった(治療ELGN01の有意性p=0.04)。
【表5】
【0061】
治療群及び未治療群における網膜損傷箇所の総数と重度出血箇所の総数を、
図2A~Bのグラフに示す。
【0062】
図3A~Cは、正常酸素状態、低酸素状態(治療及び未治療)の網膜の画像である。正常酸素状態の動物は、網膜に無傷の血管が示され、出血や焼灼(ablation)はない。未治療の低酸素状態の動物は、網膜出血を呈する(矢印)。治療された動物は、損傷が減少している。
【0063】
新生血管領域
血管新生への影響を
図4A~Bに示す。血管新生(NV)はP18で高く、ヒトの疾患のフェーズIIの終わりに相当していた。P14は、疾患のフェーズIの終了(進行期)に相当していた。いずれの時点においても、治療群のNVは、未治療群よりも有意に少なかった。P14では、ELGN01投与群は0%の血管新生を示したのに対し、非投与群では0.09%であった(T検定比較p=0.07)。P18では、ELGN01投与群は、非投与群と比較して平均で40%少ない血管新生を示した(治療ELGN01 1.35%、未治療1.89%、T検定比較p=0.07、治療効果28%)。
【0064】
網膜層
パラフィン包埋した全眼を切片化し、ヘマトキシリン・エオシンで染色した。異なる場所からの4つの切片を1枚のスライド上に収集した。H&E染色は、10倍対物レンズ(いくつかの位置で4倍)を用いて光学顕微鏡で画像化した。
【0065】
未治療OIR群からの代表的な染色は、OIR損傷の結果としての網膜層の崩壊、神経節細胞層の厚膜化を示す。群ごとに合計8サンプル、即ち、各眼ごとに4つの切片、各投与群ごとに(異なる動物から)2眼、が入手可能であった。
【0066】
網膜層の完全性を評価するために、脱同定されたH&E染色画像をWimasis Software Imageにアップロードした。各網膜をマスクした状態で分析し、各網膜層(RGCL-網膜神経節細胞層、IPL-内網状層、INL-内核層、OPL-外網状層、ONL-外核層、RPE-網膜色素上皮、CHO-脈絡膜)を同定し、そのサイズを測定した。
図11Aは、網膜層の平均厚さを示す。
【表6】
【0067】
実施例3
試験2
実施例1に記載された組成物に基づく眼科用製剤(インスリン、DHA及びCoq10で構成されたELGN01、並びにIGF-01及び同じもので構成されたELGN02)を、ラットの酸素誘導網膜症モデルで試験した。
【0068】
<手順>
2匹の母ラットそれぞれが孕んだ18匹の子を、3つの治療群:A群 ELGN01(12匹)B群 ELGN02(12匹)、C群 未治療(12匹)に分けた。正常酸素状態のD群を対照として分析した。
【0069】
治療は、5日目に開始され、14日目又は18日目(屠殺日に準じて)まで治療され、最初に注射器(眼表面を損傷しない局所)で瞼の下に投与され、その後、開眼後に点眼剤を投与された。
【0070】
酸素レジメンは、最初の4日間に次の8回の間欠的低酸素イベントを実施した:30分にわたり12%まで減少させるイベントを3回と、残りの時間は50%の高酸素とした。生後5~14日は、高酸素(50%)で24時間のサイクルと、その後、24時間の低酸素(12%)。
【0071】
1群の試験は14日目に終了し、17日目に眼科医による眼底検査による評価を実施し、その後、試料を組織学的及び免疫組織学的に評価した。
【0072】
<結果>
イソレクチン染色
サンプルを平らにマウントし、網膜をイソレクチンGS-IB4で染色した。無血管領域(AVA)は、イソレクチン染色網膜の画像を使用して独立した専門家によって手動で定量化された。
【0073】
図5A~Dは、インスリン及びIGF治療群、未治療群及び正常酸素群の染色を示す。インスリン投与群及びIGF-1投与群(
図5A~B)では、完全な中心血管を伴う最小限の無血管領域が観察される。未治療群(
図5C)では、大きな無血管領域が観察される(矢印)。正常酸素群(
図5D)では、血管の完全な被覆が観察される。
【0074】
図6A~Bは、AVAを表すグラフである。P14では、両治療群とも、対照群と比較して、AVAが50%低下した(治療ELGN01:2.77%、治療ELGN02:3.15%、無血管領域:6.13%)。正常酸素群の無血管領域は、1.4%を示した。T検定(T-Test)を用いて、治療群と未治療動物を比較する場合は、ELGN01治療群対未治療群は、ELGN02治療群対未治療群(p=0.03)と同様に、統計的に有意差(p=0.01)を有していた。
【0075】
各網膜の、血管密度(%、血管の画素の数を、対象領域の総画素数で割ることによって計算される)、総血管面積、分岐点の数(2つ以上のセグメントが収束する)、セグメントの数(個々の血管セグメントの数)及び平均セグメント長を、マスクして分析した。
【0076】
P14では、両治療群は、多数の特性において未治療動物よりも優れていた。治療ELGN01は、未治療群と比較して有意に高い血管密度(%)を有し(p=0.051)、同様に治療ELGN02群(p=0.032)は、網膜の血管のより良い成長と発達、並びにより少ない無血管領域を示した。また、治療群;ELGN01(p=0.073)及び治療ELGN02群(p=0.014)は、未治療群と比較して、より大きな血管領域を示した。さらに、治療A-ELGN01は、未治療の動物と比較して、有意に高い平均セグメント長(p=0.037)を有し、血管のより良好な連続性を示した。
【表7】
【0077】
図7A~Dは、治療群当たりのP14のイソレクチン-B4染色の画像である。ROI(緑)、被覆領域の血管(青)、血管骨格(赤)及び分岐点(白)が示されている。
【0078】
以下の表8に概説されるように、P18では、治療ELGN01群は、未治療群と比較して有意に高い血管密度(%)を有した(p=0.007)。治療ELGN02群は、有意ではない傾向を示した。血管密度(%)は、血管新生していない領域と比較して、血管新生している網膜の量を反映する。血管新生を伴わない血管密度が高い場合は、網膜の血管の増殖と発達が良好であるほか、無血管領域が少ないことを示している。また、治療群は、未治療群と比較して血管面積が大きい傾向を示した。治療ELGN01群は、未治療群と比較して、より高い分岐点数を示した(p=0.02)。さらに、治療ELGN01群は、未治療群と比較して血管量が多かった(p=0.04)。
【表8】
【0079】
バイオマーカー活性
P14及びP18では、眼を採取し、ホモジナイズし、遠心分離して、異なる研究群の組織中の異なるバイオマーカーのレベルを比較した。試料は、各群4匹の異なるラットを含み、各3試料について試験した。含有量は、各試料の総蛋白質濃度に対して正規化した。分析したバイオマーカーは、一般的に研究され、酸化ストレス及び脂質過酸化の間にin vivoで豊富に生成される、酸化ストレスの信頼性の高い、実証済みのバイオマーカーである、8-イソプロスタン又は8-isoPGF2αである(Beharry 2017)。さらに、炎症プロセスのバイオマーカーであるPGE2も測定された(
図11B)。このPGE2は、内皮細胞に対して二重の反対の効果を有する。それは、血管収縮と血管拡張の両方を(異なる受容体を介して)媒介する。PGE2は、サイトカインと成長因子によって活性化されるCOX-2アイソフォームの主要代謝物であり、血管新生に深く関与する(Beharry 2017)。
【0080】
結果は、P14及びP18では、未治療群と比較して8-isoPGF2αレベルの減少を示し、動物モデルによって作り出された酸化ストレス損傷に対する予防効果を示した(
図11C)。その効果は、病気の第1ステージと第2ステージ(P14とP18)の両方で見られる。P14では、PGE2のレベルは、正常酸素状態と比較して全ての群でより高く、P18では、PGE2のレベルは、治療群は減少を示し、未治療群は病理学の炎症段階と関係した有意な増加を示す(
図11B)。
【0081】
実施例4
試験3
眼科用製剤(インスリン、DHA及びCoq10を含むELGN01(実施例1に記載))を新生児ラットに投与し、投与後の眼中のインスリン濃度を測定した。
【0082】
<手順>
2匹の母ラットそれぞれが孕んだ18匹の子2つの群に分けた:A群-ELGN01 正常酸素群(18匹)、B群-ELGN01 低酸素群(18匹)。正常酸素状態におかれた単一の母ラットの孕んでいる2匹の子を対照として用いた。
【0083】
治療は、5日目に開始され、4日間、注射器(局所)を用いて、瞼の下に組成物(0.0067インスリン単位を含有する10μLの用量)を投与することによって行われた。投与後30分、60分、120分にラットを屠殺し(TあたりN=3)、全眼をホモジナイズし、ELISA(Quantikine(登録商標)ELISA)で評価した。
【0084】
<結果>
投与したインスリンの8~16%が、最初の2時間以内に眼組織に吸収されたことが、以下の表9に示されている。
【表9】
【0085】
実施例5
ナノエマルジョン製剤
以下の実施例は、本発明の組成物を製造するための代替アプローチを実証する。
【0086】
本発明は、処方プロセスの過程で直接的に油性ナノ液滴へのインスリンのワンポット結合を開示する。架橋試薬N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)を用いて、水媒体中でインスリンとDHAカルボキシル基の一段階カップリングにより、その結合を行った。
【0087】
インスリン-DHA結合体を作製するための方法は、以下の一般的プロセスを利用する:
・溶剤置換法によるナノ液滴の生成;
・活性なO-アシリソ尿素DHA-EDCエステルの形成による、EDCによるDHAカルボキシル基の活性化;
・可溶性N-非置換尿素としてのEDC副生成物の放出を伴う、インスリンの第一級アミン基とのアミド結合の生成による、インスリンのDHAカルボキシル基への結合;
・30,000~100,000 MWCO膜による限外濾過を用いた、EDC副生成物からの反応混合物の精製
【0088】
<材料及び方法>
有機相の調製:
347mgのDHA遊離酸、75mgのチロキサポール及び75mgのリポイドE80を25mlのエタノールに溶解した。これを、二重脱イオン水100mlに21G針で滴下し、常温、350rpmで連続混合した。得られたエマルジョンをさらに10分間混合し、その後、実験室ロータリーエバポレーター(40±2℃、50mBar)を用いて減圧下で有機溶媒を完全に除去した。
【0089】
得られたエマルジョンを0.1NのHClでpH4.5に予め調整した後、アミンカップリング反応に供した。
1mlの水に溶解した0.27mmolのEDCを得られたエマルジョンに添加し、この混合物を、DHA-EDC中間体エステルの形成が完了するまで、室温で40分間インキュベートした。
【0090】
反応混合物のpHを6.2に調整し、50mlの水(pH 7.2)に溶解した0.045mmolのインスリンを添加した。反応は、1時間の間に完了し、カップリングの間、pHは6.3~6.4に維持された。反応をHPLC(Dionex Ultimate 3000)によってモニターし、方法条件及び30分の時点での反応混合物のクロマトグラムを、
図8に示した。
【0091】
反応完了時に、混合物を二重脱イオン水で1:2に希釈し、蠕動ポンプを使用して100,000 MWCO Hydrosart限外濾過カセット(Sartorius)を通して移した。
【0092】
得られた保持液150ml中のインスリン結合体の含有量は0.037ミリモルであり、インスリン含有量に対して計算して収率は82%であった。エマルジョンのモル浸透圧濃度は、301mosm/kgであった。
【0093】
カップリング反応混合物のクロマトグラムを
図8に示し、成分及び条件を、以下の表10に列挙する。
【表10】
【0094】
水中油型ナノエマルジョンに再構成するのに適した凍結乾燥粉末として処方された別の組成物を製造した。以下の表11に、製造工程で使用した成分を列挙する。
【表11】
【0095】
処方プロセスは、2つの別々のエマルジョンの調製を含む:第1のエマルジョンは、コエンザイムQ10をDHAナノ液滴に取り込んでおり、第2のエマルジョンは、DHAナノ液滴に結合したインスリンを含む。エマルジョンは、置換法により別々に調製し、精製工程の前に組み合わせた。
【0096】
<エマルジョン1>
300mgのコエンザイムQ10、525mgのDHAエチルエステル、125mgのチロキサポール及び125mgのリポイドE80を、15mlのアセトンと50mlのエタノールの混合物に溶解した。この混合物を、250mlの0.1%PVA水溶液に、21Gニードルで滴下し、常温、350rpmで連続混合した。得られたエマルジョンをさらに10分間混合し、その後、実験室ロータリーエバポレーター(45±2℃、50mBar)を用いて、減圧下で有機溶媒を完全に除去した。
【0097】
<エマルジョン2>
125mgのDHA遊離酸、25mgのチロキサポールおよび25mgのリポイドE80を12mlのエタノールに溶解した。この混合物を、二重脱イオン水50mlに21G針を通して滴下し、常温で350rpmで連続的に混合した。得られたエマルジョンをさらに10分間混合し、その後、実験室ロータリーエバポレーター(40±2℃、50mBar)を用いて減圧下で有機溶媒を完全に除去した。
【0098】
得られたエマルジョンを0.1NのHClでpH4.5に予め調整した後、アミンカップリング反応を行った。
【0099】
1mlの水に溶解した0.11mmolのEDCを得られたエマルジョンに添加し、混合物を、DHA-EDC中間体エステルの形成が完了するまで室温で1.25時間インキュベートした。反応混合物のpHを6.2に調整し、18mlの水に溶解した0.015mmolのインスリン溶液(pH4.2)を添加した。反応は1時間の間に完了し、pH6.2~6.4はカップリングの間維持された。反応をHPLC(Dionex Ultimate 3000)によってモニターし、方法条件及び反応混合物の典型的なクロマトグラムを、
図8に提供した。
【0100】
反応完了後、混合物は、エマルジョン#1と結合し、その後、0.1%のPVA水溶液(モル浸透圧濃度<5mosm/kg)で1:2を希釈し、周縁ポンプを用いて30,000 MWCOハイドロサートフィルターカセット(Sartorius)を通して移送し、残留物の最終量は250ml(結合インスリン(conjugated insulin)の理論的含有量は0.06μmol/ml)であった。
【0101】
8mlの水に溶解した4gのHPBCDを80mlのエマルジョンに添加し、容量を100mlに調整した。
エマルジョンを、0.22μmのPES膜を通して濾過し、4mlをガラスバイアルに充填し(1バイアルあたり0.5ml)、低温にした。最終バルク製品のモル浸透圧濃度は、376mosm/kgであった。
【0102】
1バイアル当たりのインスリン結合体の理論的含有量は0.024μmol/バイアル、観測された含有量は0.017μmol/バイアルであり、結合インスリンの収量は72%であった。
【0103】
液状バルクと乾式最終製品のZ-Averageサイズは、それぞれ119.9nm(ポリ分散指数0.137)と243nm(ポリ分散指数0.342)であった。
【0104】
凍結乾燥粉末中の結合インスリン、DHA及びコエンザイムQ10の含有量を、RP-HPLCによってモニターする。凍結乾燥された最終製品のクロマトグラムを、
図10に示す。以下の表12は、凍結乾燥された製剤の試験に使用されるクロマトグラフィー条件を提供する。
【表12】
【0105】
実施例5に記載したように、製造した製剤の典型的な凍結透過電子顕微鏡写真(TEM)を
図14A~E及び15A~Eに示す。
【0106】
実施例6
GI処方
早産児の腸吸収不良の局所治療のための経口エマルションを製造した。製剤は、3つの有効成分:rh-インスリン、DHA及びコエンザイムQ10を含有する。再構成製剤では、インスリンは遊離蛋白質として存在し、DHA及びコエンザイムQ10は、油滴に取り込まれている。
【0107】
配合プロセスには、以下の一般的工程が含まれていた:
-溶剤置換法を用いた、DHAとコエンザイムQ10エマルジョンの生成、
-rh-インスリン及び凍結保護剤の追加、
-ろ過・凍結乾燥。
【0108】
<材料及び方法>
513mgのコエンザイムQ10、898mgのDHAエチルエステル、175mgのチロキサポール及び175mgのリポイドE80を、80mlのエタノールに溶解した。混合物を、350mlの0.1%PVA水溶液に21Gニードルで滴下し、常温下、350rpmで連続混合した。得られたエマルジョンをさらに10分間混合し、その後、実験室ロータリーエバポレーター(45±2℃、50mBar)を用いて、減圧下で有機溶媒を完全に除去した。
【0109】
1mlのインスリン溶液(2.7mg/ml、pH 8.5)を、28.6mg/mlのHPBCD及び343mg/mlのマルトデキストリンを含む14mlの凍結保護剤溶液と混合した。得られた溶液を、連続的に混合されたエマルジョンに加え、20分間混合した。
【0110】
エマルジョンを0.22μmのPES膜を通して濾過し、4mlをガラスバイアルに充填し(充填容量0.5ml/バイアル)、凍結乾燥した。最終バルク製品のモル浸透圧濃度は、358mosm/kgであった。1バイアル中にrh-インスリンを0.65IU、DHAを0.9mg及びコエンザイムQ10を0.5mg含有する。
【0111】
以下の表13は、配合物成分を列挙する。凍結乾燥製品のクロマトグラムを、
図12及び13に示す。
【表13】
【0112】
明確さのために別個の実施形態に関連して記載した本発明の所定の特徴はまた、1つの実施形態において、これら特徴を組み合わせて提供され得ることを理解されたい。逆に、簡潔さのために1つの実施形態に関連して記載した本発明の複数の特徴はまた、別々に、または任意の好適な部分的な組み合わせに対しても提供され得る。
【0113】
本発明をその特定の実施形態との関連で説明したが、多数の代替、修正及び変種が当業者には明らかであろう。したがって、そのような代替、修正及び変種の全ては、添付の特許請求の範囲の趣旨及び広い範囲内に含まれることを意図するものである。本明細書で言及した全ての刊行物、特許及び特許出願は、個々の刊行物、特許及び特許出願のそれぞれについて具体的且つ個別の参照により本明細書に組み込む場合と同程度に、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。加えて、本願におけるいかなる参考文献の引用または特定は、このような参考文献が本発明の先行技術として使用できることの容認として解釈されるべきではない。
【0114】
さらに、本願の基礎出願に係る書類も、本参照をもって本明細書に完全に組み込まれたものとする。
【国際調査報告】