(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-12
(54)【発明の名称】ネオアガロオリゴ糖混合物原料用寒天の製造方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12P 19/04 20060101AFI20220804BHJP
A23L 29/256 20160101ALN20220804BHJP
【FI】
C12P19/04 Z
A23L29/256
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572098
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(85)【翻訳文提出日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 KR2020007181
(87)【国際公開番号】W WO2020246785
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】10-2019-0066184
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519130096
【氏名又は名称】ダインバイオ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DYNEBIO INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジェヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウンジュ
(72)【発明者】
【氏名】カク,アミン
(72)【発明者】
【氏名】コ,ヘジョン
【テーマコード(参考)】
4B041
4B064
【Fターム(参考)】
4B041LC10
4B041LD01
4B041LH10
4B041LK11
4B041LK44
4B041LP25
4B064AF04
4B064AF11
4B064CA21
4B064CA50
4B064CB07
4B064CC01
4B064DA01
4B064DA10
(57)【要約】
本発明の一例は、テングサ原草から熱水抽出して寒天含有溶液を作製し、冷却して凝固し、その後所定の大きさに粉砕して精製水で洗浄し、精製した寒天含有溶液の凝固物を得るように構成される寒天製造方法を提供する。本発明による寒天製造方法は、工程が簡単であるため商品化に有利であり、漂白剤などを用いないので食品学的に安全である。また、本発明による方法で製造した寒天は、β-アガラーゼに対する分解感受性が向上し、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)の含有量が相対的に高いネオアガロオリゴ糖混合物を製造することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)抽出タンクにテングサ原草及び水を投入して熱水抽出を行い、その後残渣と熱水抽出液を分離して寒天含有溶液を得るステップと、
(b)前記寒天含有溶液を攪拌タンクに移動して攪拌しながら50~55℃の温度で1次冷却し、その後攪拌を停止して静置した状態で10~25℃の温度で2次冷却して寒天含有溶液の凝固物を得るステップと、
(c)前記攪拌タンク内で寒天含有溶液の凝固物を0.5~15cmの大きさに粉砕し、その後水(water)で洗浄して精製した寒天含有溶液の凝固物を得るステップとを含む、寒天の製造方法。
【請求項2】
前記抽出タンクに投入するテングサ原草の乾燥重量は、水100リットル当たり1~5kgであることを特徴とする、請求項1に記載の寒天の製造方法。
【請求項3】
前記熱水抽出の温度は、80~110℃であり、熱水抽出の時間は、1~10hrであることを特徴とする、請求項1に記載の寒天の製造方法。
【請求項4】
前記寒天含有溶液を1次冷却し、その後攪拌を停止して静置する時間は、15~30hrであることを特徴とする、請求項1に記載の寒天の製造方法。
【請求項5】
前記寒天含有溶液の凝固物を洗浄するために用いる水(water)の量は、熱水抽出の際に用いたテングサ原草の乾燥重量1kgに対して2,000~10,000リットルであることを特徴とする、請求項1に記載の寒天の製造方法。
【請求項6】
前記(c)ステップは、攪拌タンク内で寒天含有溶液の凝固物を粉砕し、その後水(water)を攪拌タンクの内部に供給して寒天含有溶液の凝固物を洗浄し、洗浄に用いた水(water)を濾過網が設置された排出管を介して攪拌タンクの外部に排出するように構成されることを特徴とする、請求項1に記載の寒天の製造方法。
【請求項7】
前記寒天含有溶液の凝固物を洗浄するために攪拌タンクの内部に供給される水の流速は、熱水抽出の際に用いたテングサ原草の乾燥重量1kgに対して3~8リットル/minであり、供給時間は、12~20hrであることを特徴とする、請求項6に記載の寒天の製造方法。
【請求項8】
前記(c)ステップは、攪拌タンクの内部への水(water)の供給及び攪拌タンクの外部への水の排出により寒天含有溶液の凝固物を洗浄し、その後攪拌タンクの内部にある寒天含有溶液の凝固物と排出されていない水(water)を篩(sieve)に移し、振動を加えて排出されていない水(water)を除去するように構成されることを特徴とする、請求項6に記載の寒天の製造方法。
【請求項9】
(a)抽出タンクにテングサ原草及び水を投入して熱水抽出を行い、その後残渣と熱水抽出液を分離して寒天含有溶液を得るステップと、
(b)前記寒天含有溶液を攪拌タンクに移動して攪拌しながら50~55℃の温度で1次冷却し、その後攪拌を停止して静置した状態で10~25℃の温度で2次冷却して寒天含有溶液の凝固物を得るステップと、
(c)前記攪拌タンク内で寒天含有溶液の凝固物を0.5~15cmの大きさに粉砕し、その後水(water)で洗浄して精製した寒天含有溶液の凝固物を得るステップと、
(d)前記精製した寒天含有溶液の凝固物を加熱して溶解させ、攪拌しながら35~50℃の温度で冷却し、その後ここにβ-アガラーゼ(β-agarase)を添加し、酵素反応させてネオアガロオリゴ糖を生成するステップとを含む、ネオアガロオリゴ糖混合物の製造方法。
【請求項10】
前記精製した寒天含有溶液の凝固物の加熱温度は、80~110℃であり、生成されるネオアガロオリゴ糖は、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)であることを特徴とする、請求項9に記載のネオアガロオリゴ糖混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネオアガロオリゴ糖混合物を製造する際に原料として用いられる寒天の製造方法などに関し、より詳細には、β-アガラーゼに対する分解感受性が向上し、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)の含有量が相対的に高いネオアガロオリゴ糖混合物を製造することのできる、寒天の製造方法、及びそれを用いてネオアガロオリゴ糖混合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
寒天(Agar)は、以前から食品添加物、医薬品、化粧品、家畜飼料、工業原料などに広く用いられている代表的な海藻類由来の多糖類であり、韓国ではその年間生産量が約2,000~5,000トンに達する比較的豊富な水産資源の一つである。しかしながら、実際の利用面においては、総生産量の一部のみ単なる加工処理が施され、安価な原料として用いられているにすぎず、その残りはほとんど放置されており、賦存資源量の割に付加価値が非常に低い現状である。よって、豊富な韓国の寒天の新たな用途の開発と付加価値の向上に関する研究が強く求められている現状である。
【0003】
寒天は、少量のタンパク質、灰分及び脂肪を除けば、ほとんどが多糖類からなるが、前記寒天を構成する多糖類としては、中性多糖類であるアガロース(agarose)と、酸性多糖類であるアガロペクチン(agaropectin)が挙げられる。アガロースは、D-ガラクトース(D-galactose)と3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose)がβ-1,4結合したアガロビオース(agarobiose)を単位体として有し、アガロビオースがα-1,3結合により繰り返されて連結された直鎖構造となっており、ゲル(gel)化力が強い。それに対して、アガロペクチンは、アガロースと同様にアガロビオースを単位体として有するが、硫酸基などの酸性基を含有するので、ゲル化力が弱い。
【0004】
これらのうち、アガロースは、β-1,4結合に作用するβ-アガラーゼ(β-agarase)によりネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)を経てネオアガロビオース(neoagarobiose)に分解され、さらにα-1,3結合に作用するα-アガラーゼ(α-agarase)によりガラクトース(D-galactose)と3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose)に最終分解される。また、アガロースは希酸やα-アガラーゼ(α-agarase)によりアガロビオース(Agarobiose)に分解される。一般に、ネオアガロオリゴ糖とは、寒天またはアガロースをβ-アガラーゼ(β-agarase)により加水分解して得られるネオアガロビオース(neoagarobiose)、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)、ネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)、ネオアガロオクタオース(neoagarooctaose)などのように、単糖が2~10個程度結合したオリゴ糖を意味する。また、アガロオリゴ糖とは、寒天またはアガロースを希酸やα-アガラーゼ(α-agarase)により加水分解して得られるアガロビオース(Agarobiose)、アガロテトラオース(Agarotetraose)、アガロヘキサオース(Agarohexaose)、アガロオクタオース(Agarooctaose)などのように、単糖が2~10個程度結合したオリゴ糖を意味する。ネオアガロオリゴ糖は3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose)を非還元末端に有するのに対して、アガロオリゴ糖はD-ガラクトース(D-galactose)を非還元末端に有し、このような構造的差異により生理学的活性の面で異なる性質を示す。
【0005】
一方、放線菌であるストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3(2)は、寒天またはアガロース(agarose)を分解するβ-アガラーゼ(β-agarase)を細胞外(細胞外に分泌される)タンパク質の形態で生産することが知られており(非特許文献1,2)、このアガラーゼは、DagA遺伝子またはDagB遺伝子にコードされている。ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3(2)が生産するβ-アガラーゼ(β-agarase)属DagA酵素は、寒天またはアガロース(agarose)を分解して主にDP4(neoagarotetraose)及びDP6(neoagarohexaose)を生成し、DagB酵素は、寒天またはアガロース(agarose)を分解して主にDP2(neoagarobiose)を生成する。DagA遺伝子は、放線菌を用いるアガラーゼ生産の研究において重要な位置にある。特に、ストレプトマイセス・セリカラーは、放線菌の分子生物学的研究に最も広く用いられる菌株であり、2002年に英国のSanger centreにより染色体DNAの配列が分析されて現在公開されている(非特許文献3)。
【0006】
β-アガラーゼ(β-agarase)を用いるネオアガロオリゴ糖混合物製造の際に原料として用いられる寒天またはアガロースは、様々な方法で製造することができる。例えば、特許文献1には、1~5%の濃度の寒天溶液にキトサンとエタノールを添加して攪拌し、その後静置して寒天中に存在するアガロペクチン(Agaropectin)を沈殿分離させ、上清に3倍の量のエタノールを加えて沈殿させ、ガラス濾過器で濾過し、その後減圧下で乾燥させて灰分及び硫酸機の含有量を減少させることを特徴とする、キトサンを用いる寒天の精製方法が開示されている。また、特許文献2には、テングサ、オゴノリ、イバラノリなどや、その他の寒天原草を前処理、煮熟、凝固、脱水及び乾燥して寒天を製造する方法であって、前記前処理ステップにおいて寒天植物を30~60℃の温度で約0.3~1.5%の濃度の消石灰や生石灰溶液に2~4時間浸漬処理することを特徴とする、寒天原草の前処理方法が開示されている。さらに、特許文献3には、寒天粉末にEDTA塩溶液を加えて攪拌し、上清を除去し、その後中和する工程と、前記EDTA塩処理及び中和工程で添加された塩類を水洗及び濾過する工程と、得られた濾過残渣に有機溶媒を添加して脱水処理及び乾燥する工程とを含む、高品質寒天の製造方法が開示されている。さらに、特許文献4には、寒天原料を0.1~10%(W/V)になるように溶解させ、その後寒天の重量に対して0.1~20%の割合でキトサンまたは水溶性キトサンを添加し、50~90℃の温度で反応させ、反応終了後に反応液の水素イオン濃度を9~11に調節し、次いで沈殿物を生成させ、それら沈殿物を濾過または遠心分離して除去し、上清を乾燥させることを特徴とする、電気泳動用高純度アガロースの製造方法が開示されている。さらに、特許文献5には、淡水で水洗して乾燥させたテングサを前記テングサの10倍の量の淡水に一夜浸漬し、その後次亜塩素酸ナトリウムを液量の0.05%になるように添加して漂白処理し、前記テングサを水洗して0.2%硫酸溶液で処理し、その後中性になるまで水洗して前記テングサに前記テングサの10倍の量の0.02%メタリン酸ナトリウム溶液を添加し、pHを6.0に固定して加熱抽出し、次いでピロリン酸カリウムを加えてpHを8.0に調節し、珪藻土を液量の2%になるように添加して濾過し、前記濾過液を室温に放置してゲル化させ、5×5×300mmの大きさに切って0.1%次亜塩素酸ソーダで漂白し、-80℃で凍結させ、次いで解凍しながら脱水乾燥させ、次いで前記寒天抽出物を気孔が0.2~0.4μmの微細濾過器で濾過して製造することを特徴とする、微生物培地用寒天の製造方法が開示されている。さらに、特許文献6には、寒天溶液にキトサン溶液を添加し、アガロペクチンを沈殿させて除去し、上清を分離し、その後粉末化してアガロースを製造する方法であって、前記アガロペクチンが沈殿して除去された残りの上清に酸容液を添加してpHを2~4に調節し、1~6時間攪拌し、次いでアルカリを添加して中和し、中和したアガロース水溶液を常温で冷却し、次いでそれに40~70%(v/v)の濃度のエタノールをアガロース水溶液総量に対して1.0倍の量で添加し、沈殿した沈殿物を分離し、次いで上清を回収して粉末化することを特徴とする、アガロースの製造方法が開示されている。さらに、特許文献7には、テングサ原草を洗浄するステップと、前記テングサ原草を水に入れて蒸気と共に加熱して寒天分を含む寒天液を抽出する煮熟ステップと、前記抽出された寒天液をテングサ原草カスから濾過する濾過ステップと、前記濾過した寒天液を成形容器に投入して凝固させる凝固ステップであって、成形容器に投入する寒天液の深さは、寒天液の深さの30%に相当する長さを寒天液の深さから引いたものが注文された細寒天の長さと同じになるように設定される凝固ステップと、前記凝固ステップで凝固させたトコロテンを切断用網の上に配置し、垂直に加圧して切断することにより、完成前の寒天を形成する垂直切断ステップであって、シリンダにより昇降する加圧プレートが凝固したトコロテンを前記切断用網に対して加圧することにより行われる垂直切断ステップと、前記完成前の寒天を凍結、融解、脱水するステップと、前記完成前の寒天を乾燥する乾燥ステップとを含む、寒天の製造方法が開示されている。さらに、特許文献8には、乾燥させたオゴノリを沸騰させた湯で茹でて冷たい水で冷却し、その後流水で洗浄し、次いで乾燥させる前処理ステップと、前記前処理ステップで前処理したオゴノリをアルカリ溶液である濃度1~3%の水酸化ナトリウム溶液に浸漬するアルカリ浸漬ステップと、前記オゴノリが浸漬されたアルカリ溶液に熱を加えてオゴノリ抽出物を抽出する抽出ステップと、前記オゴノリ抽出物からゲルを形成させるゲル形成ステップと、前記ゲルを凍結させ、次いでマイクロ波を加えて解凍及び脱水するマイクロ波脱水ステップと、前記マイクロ波脱水ステップで脱水したゲルを洗浄し、その後乾燥させる乾燥ステップとを含み、前記アルカリ浸漬ステップは、前記アルカリ溶液を30~60分間攪拌しながら行い、前記抽出ステップは、前記アルカリ溶液を100~130℃に加熱して30~120分間抽出し、前記ゲル形成ステップは、a)前記オゴノリ抽出物を濾過して濾過液を得る濾過ステップと、b)前記濾過液に酸を加えて中和処理する中和処理ステップと、c)前記中和処理した濾過液を凝固させてゲルを形成する凝固ステップとからなり、前記マイクロ波脱水ステップは、前記ゲルを-20℃で12時間凍結してマイクロ波を30~60分間加えることを特徴とする、アルカリ浸漬とマイクロ波脱水工程を用いてオゴノリから寒天を製造する方法が開示されている。前記先行技術に開示されている寒天またはアガロースの製造方法の一部は過程が非常に複雑であるため商品化に不利であり、一部は機能性食品素材の製造に適さない化合物などを用いるので不都合であり、一部は製造された寒天のβ-アガラーゼに対する分解感受性が劣り、十分な量のネオアガロオリゴ糖混合物が得られないという問題がある。
【0007】
特に、寒天またはアガロース(agarose)のβ-アガラーゼ(β-agarase)反応産物のうち、DP4(neoagarotetraose)及びDP6(neoagarohexaose)がDP2(neoagarobiose)に比べて高い抗肥満、抗糖尿、脂質異常症などの代謝疾患の改善、抗癌、免疫増強効能を有することが報告されているので、DP4(neoagarotetraose)及びDP6(neoagarohexaose)の含有量が多いネオアガロオリゴ糖混合物を製造することができ、食品学的に安全な寒天またはアガロースの製造方法を開発することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国登録特許第10-0125214号公報
【特許文献2】韓国登録特許第10-0122019号公報
【特許文献3】韓国登録特許第10-0196679号公報
【特許文献4】韓国登録特許第10-0317579号公報
【特許文献5】韓国登録特許第10-0411481号公報
【特許文献6】韓国登録特許第10-0484926号公報
【特許文献7】韓国登録特許第10-0759525号公報
【特許文献8】韓国登録特許第10-1759282号公報
【特許文献9】韓国登録特許第10-1632262号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Stanier et al.,1942,J.Bacteriol.
【非特許文献2】Hodgson and Chater,1981,J.Gen.Microbiol.
【非特許文献3】Bantley et al.,2002,Nature
【非特許文献4】Journal of the Korean Fisheries Society v.18 no.1,1985年,pp.37-43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、これらの技術的背景の下でなされたものであり、β-アガラーゼに対する分解感受性が向上し、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)の含有量が相対的に高いネオアガロオリゴ糖混合物を製造することができ、工程が簡単であるため商品化に有利であり、食品学的に安全な寒天の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、寒天の製造方法を用いてネオアガロオリゴ糖混合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、商業的に市販されている寒天製品が製造過程における漂白剤などの使用によりネオアガロオリゴ糖混合物などの機能性食品素材の製造原料として適さないことを認識し、工程が簡単で、食品学的に安全な寒天の製造方法を開発する研究を行った。本発明の発明者らは、テングサ原草から熱水抽出により寒天含有溶液を作製し、それを直ちにβ-アガラーゼと反応させてネオアガロオリゴ糖混合物を製造すると、工程が簡単で、食品学的に安全であるが、最終反応生成物においてDP4(neoagarotetraose)及びDP6(neoagarohexaose)の含有量が相対的に低いことを確認し、さらに工程を改善した。その結果、テングサ原草から熱水抽出して寒天含有溶液を作製し、冷却して凝固し、その後所定の大きさに粉砕して精製水で洗浄し、次いで再び溶解させて精製した寒天含有溶液を作製し、それをβ-アガラーゼと反応させてネオアガロオリゴ糖混合物を製造すると、最終反応生成物においてDP4(neoagarotetraose)及びDP6(neoagarohexaose)の含有量が大幅に増加することを確認し、本発明を完成するに至った。
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の一例は、(a)抽出タンクにテングサ原草及び水を投入して熱水抽出を行い、その後残渣と熱水抽出液を分離して寒天含有溶液を得るステップと、(b)前記寒天含有溶液を攪拌タンクに移動して攪拌しながら50~55℃の温度で1次冷却し、その後攪拌を停止して静置した状態で10~25℃の温度で2次冷却して寒天含有溶液の凝固物を得るステップと、(c)前記攪拌タンク内で寒天含有溶液の凝固物を0.5~15cmの大きさに粉砕し、その後水(water)で洗浄して精製した寒天含有溶液の凝固物を得るステップとを含む、寒天の製造方法を提供する。
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の一例は、(a)抽出タンクにテングサ原草及び水を投入して熱水抽出を行い、その後残渣と熱水抽出液を分離して寒天含有溶液を得るステップと、(b)前記寒天含有溶液を攪拌タンクに移動して攪拌しながら50~55℃の温度で1次冷却し、その後攪拌を停止して静置した状態で10~25℃の温度で2次冷却して寒天含有溶液の凝固物を得るステップと、(c)前記攪拌タンク内で寒天含有溶液の凝固物を0.5~15cmの大きさに粉砕し、その後水(water)で洗浄して精製した寒天含有溶液の凝固物を得るステップと、(d)前記精製した寒天含有溶液の凝固物を加熱して溶解させ、攪拌しながら35~50℃の温度で冷却し、その後ここにβ-アガラーゼ(β-agarase)を添加し、酵素反応させてネオアガロオリゴ糖を生成するステップとを含む、ネオアガロオリゴ糖混合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明による寒天製造方法は、工程が簡単であるため商品化に有利であり、漂白剤などを用いないので食品学的に安全である。また、本発明による方法で製造した寒天は、β-アガラーゼに対する分解感受性が向上し、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)の含有量が相対的に高いネオアガロオリゴ糖混合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】製造例1で製造した精製した寒天含有溶液、及び比較製造例1で製造した寒天含有溶液の液相、凝固及び凍結乾燥状態での性状を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0017】
本発明の一態様は、工程が簡単で、食品学的に安全で、β-アガラーゼに対する分解感受性に優れる寒天の製造方法に関する。本発明の一例による寒天の製造方法は、(a)抽出タンクにテングサ原草及び水を投入して熱水抽出を行い、その後残渣と熱水抽出液を分離して寒天含有溶液を得るステップと、(b)前記寒天含有溶液を攪拌タンクに移動して攪拌しながら50~55℃の温度で1次冷却し、その後攪拌を停止して静置した状態で10~25℃の温度で2次冷却して寒天含有溶液の凝固物を得るステップと、(c)前記攪拌タンク内で寒天含有溶液の凝固物を0.5~15cmの大きさに粉砕し、その後水(water)で洗浄して精製した寒天含有溶液の凝固物を得るステップとを含む。
【0018】
本発明の一例による寒天の製造方法において、前記(a)ステップは、抽出タンク内で熱水抽出や濾過などによりテングサ原草から高温の寒天含有溶液を得るステップである。前記(a)ステップにおいて、抽出タンクに投入するテングサ原草は、脱塩や乾燥などの前処理を経たものが好ましい。また、前記(a)ステップにおいて、抽出タンクに投入するテングサ原草の乾燥重量は、特に限定されるものではないが、熱水抽出後の円滑な移送や冷却後の円滑な凝固などを考慮すると、抽出溶媒である水100リットル当たり1~5kgであることが好ましく、水100リットル当たり2~3kgであることがより好ましい。さらに、前記(a)ステップにおいて、熱水抽出温度は、抽出効率や経済性などを考慮すると、80~110℃であることが好ましく、85~105℃であることがより好ましい。さらに、前記(a)ステップにおいて、熱水抽出時間は、抽出効率や経済性などを考慮すると、1~10hrであることが好ましく、2~8hrであることがより好ましい。さらに、前記(a)ステップにおいて、熱水抽出後にテングサ原草残渣と熱水抽出液を分離する方法は、特に限定されるものではなく、例えばテングサ原草を抽出袋に入れて熱水抽出し、その後熱水抽出液のみ排出する方法、濾過布、濾過網(または濾過体)を用いて濾過する方法などが挙げられる。
【0019】
本発明の一例による寒天の製造方法において、前記(b)ステップは、攪拌タンク内で冷却、攪拌などの条件を調節して高温の寒天含有溶液から寒天含有溶液の凝固物を得るステップである。前記(b)ステップにおいて、攪拌タンクに移動した寒天含有溶液は、1次冷却により攪拌された状態で50~55℃に冷却される。前記(b)ステップにおいて、寒天含有溶液を55℃より高い温度または50℃より低い温度で1次冷却して攪拌を停止すると、寒天含有溶液の凝固が円滑に行われない恐れがある。また、前記(b)ステップにおいて、寒天含有溶液を1次冷却し、その後攪拌を停止して静置する時間は、円滑な凝固及び凝固物の性状を考慮すると、15~30hrであることが好ましく、18~25hrであることがより好ましい。さらに、前記(b)ステップにおいて、寒天含有溶液は、攪拌を停止して静置した状態で10~25℃、好ましくは12~22℃の温度で2次冷却される。
【0020】
本発明の一例による寒天の製造方法において、前記(c)ステップは、β-アガラーゼ(β-agarase)の酵素反応によるネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)の生成収率を向上させるために、寒天含有溶液の凝固物を精製水などの清浄な水で洗浄することにより、β-アガラーゼ(β-agarase)との酵素反応に否定的な影響を及ぼす不純物、アガロペクチンなどを除去するステップである。前記(c)ステップにおいて、寒天含有溶液の凝固物は、精製水で洗浄する前に、まず0.5~15cm、好ましくは1~10cm、より好ましくは1~5cmの大きさに粉砕される。前記(c)ステップにおいて、寒天含有溶液の凝固物が0.5cm未満の大きさに粉砕されると、後述する攪拌タンク内への精製水供給及び攪拌タンク外への精製水排出による寒天含有溶液の凝固物洗浄の際に、寒天含有溶液の凝固物が濾過網を設置した排出管から排出されて寒天回収率またはアガロース回収率を低下させたり、前記濾過網を閉塞して寒天含有溶液の凝固物を洗浄することが続けられないなど、様々な問題を引き起こす。また、前記(c)ステップにおいて、寒天含有溶液の凝固物を洗浄するために用いる水(water)の量は、寒天含有溶液の凝固物の精製レベルを考慮すると、熱水抽出の際に用いたテングサ原草の乾燥重量1kgに対して2,000~10,000リットルであることが好ましく、3,000~80,000リットルであることがより好ましい。さらに、前記(c)ステップは、寒天含有溶液の凝固物洗浄を連続工程で行うために、攪拌タンク内で寒天含有溶液の凝固物を粉砕し、その後水(water)を攪拌タンクの内部に供給して寒天含有溶液の凝固物を洗浄し、洗浄に用いた水(water)を濾過網が設置された排出管を介して攪拌タンクの外部に排出するように構成されることが好ましい。さらに、前記(c)ステップは、不純物及びβ-アガラーゼ(β-agarase)との酵素反応に否定的な影響を及ぼす因子をさらに除去するために、攪拌タンクの内部への水(water)の供給及び攪拌タンクの外部への水の排出により寒天含有溶液の凝固物を洗浄し、その後攪拌タンクの内部にある寒天含有溶液の凝固物と排出されていない水(water)を篩(sieve)に移し、振動を加えて排出されていない水(water)を除去するように構成されることがより好ましい。前記(c)ステップにおいて、寒天含有溶液の凝固物洗浄を連続工程で行う場合、寒天回収率、精製した寒天中のアガロース含有量またはアガロース回収率を考慮すると、寒天含有溶液の凝固物を洗浄するために攪拌タンクの内部に供給される水の流速は、熱水抽出の際に用いたテングサ原草の乾燥重量1kgに対して3~8リットル/minであることが好ましく、4~6リットル/minであることがより好ましく、水の供給時間は、12~20hrであることが好ましく、14~18hrであることがさらに好ましい。
【0021】
本発明の一態様は、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)の含有量が相対的に高いネオアガロオリゴ糖混合物の製造方法に関し、本発明の一例によるネオアガロオリゴ糖混合物の製造方法は、前述した寒天の製造方法を用いる。本発明の一例によるネオアガロオリゴ糖混合物の製造方法は、(a)抽出タンクにテングサ原草及び水を投入して熱水抽出を行い、その後残渣と熱水抽出液を分離して寒天含有溶液を得るステップと、(b)前記寒天含有溶液を攪拌タンクに移動して攪拌しながら50~55℃の温度で1次冷却し、その後攪拌を停止して静置した状態で10~25℃の温度で冷却して寒天含有溶液の凝固物を得るステップと、(c)前記攪拌タンク内で寒天含有溶液の凝固物を0.5~15cmの大きさに粉砕し、その後水(water)で洗浄して精製した寒天含有溶液の凝固物を得るステップと、(d)前記精製した寒天含有溶液の凝固物を加熱して溶解させ、攪拌しながら35~50℃の温度で冷却し、その後ここにβ-アガラーゼ(β-agarase)を添加し、酵素反応させてネオアガロオリゴ糖を生成するステップとを含む。
【0022】
本発明の一例によるネオアガロオリゴ糖混合物の製造方法において、前記(a)~(c)ステップは、前述した寒天の製造方法に相当するので、技術的特徴についての具体的な説明を省略する。
【0023】
本発明の一例によるネオアガロオリゴ糖混合物の製造方法において、前記(d)ステップは、精製した寒天含有溶液の凝固物中にあるアガロースをβ-アガラーゼ(β-agarase)と反応させてネオアガロオリゴ糖を生成するステップである。前記(d)ステップにおいて、精製した寒天含有溶液の凝固物は、加熱により再び溶解されるが、ここで、精製した寒天含有溶液の凝固物の加熱温度は、80~110℃であることが好ましく、85~105℃であることがより好ましい。また、前記(d)ステップにおいて、精製した寒天含有溶液の凝固物中にあるアガロースをネオアガロオリゴ糖に変換するために用いるβ-アガラーゼ(β-agarase)酵素は、公知の様々なβ-アガラーゼ(β-agarase)酵素から選択される。例えば、前記β-アガラーゼ(β-agarase)酵素は、ネオアガロオリゴ糖混合物の種類及び含有量比を考慮すると、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)由来β-アガラーゼであるDagAであることが好ましい。前記DagAのアミノ酸配列や生産方法などに関して、本発明は、特許文献9の明細書に開示された実施例を参照する。また、前記(d)ステップにおいて、β-アガラーゼ(β-agarase)の添加量は、特に限定されるものではなく、ネオアガロオリゴ糖生成効率を考慮すると、10~200unit/mlの量であることが好ましく、75~175unit/mlの量であることがより好ましい。前記β-アガラーゼ(β-agarase)酵素の活性を示す1Unitは、0.2%(w/v)の濃度でアガロースを溶解した50mM PBS溶液(pH7)3.9mlを40℃で5分間反応させ(反応液4ml)、その後反応液と同量のDNS試薬(dinitrosalicylic acid 6.5g、2M NaOH 325ml及びglycerol 45mlを蒸留水1リットルに溶解して作製する)を入れて10分間沸騰させ、次いで冷却し、吸光度を540nmで測定したときに、540nmでの吸光度0.001を生成する酵素の量と定義される。また、前記(d)ステップにおいて、酵素反応温度は、攪拌状態で精製した寒天含有溶液の再凝固が発生せず、同時に適正レベル以上のβ-アガラーゼ(β-agarase)酵素活性が発揮される範囲であれば、特に限定されるものではなく、ネオアガロオリゴ糖生成効率を考慮すると、35~50℃であることが好ましく、38~45℃であることがより好ましい。さらに、前記(d)ステップにおいて、酵素反応時間は、特に限定されるものではなく、ネオアガロオリゴ糖生成効率及び経済性を考慮すると、10~24hrであることが好ましく、12~20hrであることがより好ましい。さらに、前記(d)ステップにおいて、酵素反応により主に生成されるネオアガロオリゴ糖は、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)である。例えば、前記(d)ステップにおいて、酵素反応により得た最終産物は、固形分の総重量に対して、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)を30~40重量%含み、ネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)を18~26重量%含むことが好ましい。また、前記(d)ステップにおいて、酵素反応により得た最終産物におけるネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)を合わせた含有量は、固形分総重量に対して50~65重量%である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は本発明の技術的特徴を明確にするものにすぎず、本発明を限定するものではない。
【0025】
1.実験原料及び測定方法
(1)β-アガラーゼ(β-agarase)の生産及び力価
下記実施例に用いるβ-アガラーゼ(β-agarase)は、出願人であるダインバイオ株式会社が自社生産したものであり、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)DagA酵素である。具体的には、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)DagA酵素の生産方法は、特許文献9の明細書に開示された実施例1の内容と同様である。
【0026】
β-アガラーゼ(β-agarase)活性は、還元糖の定量法(DNS method)により測定した。具体的には、β-アガラーゼ活性の測定方法及び1U(Unit)の定義は、特許文献9の明細書に開示された実施例2の内容と同様である。
【0027】
(2)アガロース(Agarose)含有量の測定
試料のアガロース含有量は、公知のDMSO(Dimethyl sulfoxide)法により測定した[非特許文献4を参照]。
【0028】
(3)ネオアガロオリゴ糖含有量の測定
試料のネオアガロオリゴ糖含有量は、HPLCを用いて測定した。
【0029】
2.寒天の製造及びそれを用いたネオアガロオリゴ糖混合物の製造
製造例1.
塩分を除去して乾燥させたテングサ原草を1kgずつ抽出袋に入れ、テングサ原草を入れた計20個の抽出袋(総量でテングサ原草20kgに相当する)を準備した。その後、抽出タンクの内部に準備した20個の抽出袋を入れ、精製水500リットルを投入して浸漬し、約40~50℃で約10分間保持し、次いで投入した精製水を除去した。その後、抽出タンクの内部に精製水800リットルを投入し、抽出タンクの外部ジャケットにスチームを供給し、約95±5℃で約4hrかけて熱水抽出を行った。熱水抽出終了後に、抽出タンクに連結された排出管を減圧し、残渣と熱水抽出液を分離して寒天含有溶液を得て、次いでそれを滅菌したバルブ管を介して攪拌タンクの内部に移動した。その後、攪拌タンクの35rpmのインペラ速度を維持し、攪拌タンクの外部ジャケットに冷却水を供給して寒天含有溶液を冷却し、寒天含有溶液の温度が約55℃になったときにインペラの作動を停止し、攪拌タンクの外部ジャケットに冷却水のみ供給しながら約20hrかけて静置し、寒天含有溶液を凝固させた。その後、攪拌タンクの内部にある寒天含有溶液の凝固物を約1~3cmの大きさに粉砕し、外部配管を介して精製水を攪拌タンクの内部に約100リットル/minの流量で約16hrかけて供給して寒天含有溶液の凝固物を洗浄し、同時に洗浄に用いた精製水を濾過網が設置された排出管を介して攪拌タンクの内部に排出した。その後、攪拌タンクの内部で洗浄した寒天含有溶液の凝固物と排出されていない精製水を振動篩に移し、振動を加えて洗浄した寒天含有溶液から排出されていない精製水を除去し、精製した寒天含有溶液の凝固物を得た。その後、精製した寒天含有溶液の凝固物を攪拌タンクの内部に入れ、攪拌タンクの外部ジャケットにスチームを供給し、攪拌タンクの内部温度を95±5℃に上げて約1hr維持し、精製した寒天含有溶液の凝固物を精製した寒天含有溶液に溶解させた。
【0030】
その後、攪拌タンクの25rpmのインペラ速度を維持して攪拌タンクの外部ジャケットに冷却水を供給し、精製した寒天含有溶液の温度を約43℃に低下させた。ここにβ-アガラーゼ(β-agarase)を約125U/mlの力価に相当する量で添加し、約16hrかけて酵素反応を行い、反応生成物含有液を得た。酵素反応終了後に、攪拌タンクの外部ジャケットにスチームを供給し、攪拌タンクの内部温度を95±5℃に上げて約1hr維持し、β-アガラーゼ(β-agarase)を失活させた。その後、攪拌タンクの外部ジャケットに供給していたスチームを遮断して冷却水を供給し、攪拌タンクの内部温度を65±5℃に低下させて減圧条件で濃縮し、次いで1μmの濾過フィルターで濾過して反応生成物含有濃縮液を得た。その後、反応生成物含有濃縮液を凍結乾燥して粉砕し、反応生成物含有粉末を得た。
【0031】
比較製造例1.
塩分を除去して乾燥させたテングサ原草を1kgずつ抽出袋に入れ、テングサ原草を入れた計20個の抽出袋(総量でテングサ原草20kgに相当する)を準備した。その後、抽出タンクの内部に準備した20個の抽出袋を入れ、精製水500リットルを投入して浸漬し、約40~50℃で約10分間保持し、次いで投入した精製水を除去した。その後、抽出タンクの内部に精製水800リットルを投入し、抽出タンクの外部ジャケットにスチームを供給し、約95±5℃で約4hrかけて熱水抽出を行った。熱水抽出終了後に、抽出タンクに連結された排出管を減圧し、残渣と熱水抽出液を分離して寒天含有溶液を得て、次いでそれを滅菌したバルブ管を介して攪拌タンクの内部に移動した。
【0032】
その後、攪拌タンクの25rpmのインペラ速度を維持し、攪拌タンクの外部ジャケットに冷却水を供給して寒天含有溶液の温度を約43℃に低下させた。ここにβ-アガラーゼ(β-agarase)を約125U/mlの力価に相当する量で添加し、約16hrかけて酵素反応を行い、反応生成物含有液を得た。酵素反応終了後に、攪拌タンクの外部ジャケットにスチームを供給し、攪拌タンクの内部温度を95±5℃に上げて約1hr維持し、β-アガラーゼ(β-agarase)を失活させた。その後、攪拌タンクの外部ジャケットに供給していたスチームを遮断して冷却水を供給し、攪拌タンクの内部温度を65±5℃に低下させて減圧条件で濃縮し、次いで1μmの濾過フィルターで濾過して反応生成物含有濃縮液を得た。その後、反応生成物含有濃縮液を凍結乾燥して粉砕し、反応生成物含有粉末を得た。
【0033】
3.各寒天(Agar)製造方法における特性分析
(1)寒天の性状分析
製造例1の精製した寒天含有溶液の凝固物を精製した寒天含有溶液に溶解させ、その後それをサンプリングし、凝固及び凍結乾燥して固形化した。また、比較製造例1の寒天含有溶液を攪拌タンクの内部に移動させ、その後それをサンプリングし、凝固及び凍結乾燥して固形化した。
図1は製造例1で製造した精製した寒天含有溶液、及び比較製造例1で製造した寒天含有溶液の液相、凝固及び凍結乾燥状態での性状を示す写真である。
図1において、「抽出agar」は比較製造例1で製造した寒天含有溶液であり、「水洗agar」は製造例1で製造した精製した寒天含有溶液である。
図1に示すように、製造例1で製造した精製した寒天含有溶液は、比較製造例1で製造した寒天含有溶液に比べて、外観上は不純物がほとんど存在しない。
【0034】
(2)寒天回収率などの定量分析
製造例1の精製した寒天含有溶液の凝固物を精製した寒天含有溶液に溶解させ、その後それをサンプリングし、凝固及び凍結乾燥して固形化した。固形化した試料の重量を寒天重量とみなし、固形化した試料のアガロース含有量を測定した。また、比較製造例1の寒天含有溶液を攪拌タンクの内部に移動させ、その後それをサンプリングし、凝固及び凍結乾燥して固形化した。その後、同様に寒天重量及びアガロース含有量を測定した。表1に、各寒天製造方法におけるテングサ原草重量に対する寒天回収率、テングサ原草重量に対するアガロース回収率、及び製造した寒天中のアガロース含有量を示す。表1の値は、製造例1及び比較製造例1の寒天製造を相対的なスケールのみ変更して計5回行って測定した平均値である。
【0035】
【0036】
表1から分かるように、製造例1の方法において、比較製造例1の方法と比較して、寒天回収率は相対的に低いが、β-アガラーゼ(β-agarase)の基質であるアガロースの含有量は大幅に増加し、その結果、アガロースの回収率は大きな差がなかった。
【0037】
4.各ネオアガロオリゴ糖混合物製造方法におけるネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)の含有量の分析
製造例1及び比較製造例1で最終的に得られた反応生成物含有粉末中のネオアガロオリゴ糖含有量を分析した。その結果を表2に示す。表2の値は、製造例1及び比較製造例1のネオアガロオリゴ糖混合物製造を相対的なスケールのみ変更して計5回行って測定した平均値である。
【0038】
【表2】
*DP4:ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)
*DP6:ネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)
【0039】
表2から分かるように、製造例1で最終的に得られた反応生成物含有粉末は、比較製造例1で最終的に得られた反応生成物含有粉末に比べて、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)含有量及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)含有量が非常に高い。なお、製造例1及び比較製造例1で最終的に得られた反応生成物含有粉末は、どちらもネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)を除く他の重合度のネオアガロオリゴ糖含有量が0.1%以下であり、他の固形成分は主にアガロース、アガロペクチン及び重合度が10より大きい多糖類の形態で存在するものと考えられる。
【0040】
以上、実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、本発明の範囲と思想を逸脱しない範囲で様々な変形が可能であることは言うまでもない。よって、本発明は請求の範囲に属するあらゆる実施形態を含むものと解釈されるべきである。
【国際調査報告】