(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-12
(54)【発明の名称】粘膜ワクチン製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/761 20150101AFI20220804BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220804BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220804BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220804BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220804BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220804BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220804BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220804BHJP
A61K 47/16 20060101ALI20220804BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220804BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220804BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220804BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220804BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20220804BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
A61K35/761
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/16
A61K47/22
A61K47/42
A61K47/14
A61P31/12
A61K39/12
A61K48/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573147
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(85)【翻訳文提出日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 IB2020055411
(87)【国際公開番号】W WO2020250130
(87)【国際公開日】2020-12-17
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】305060279
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガロリーニ,シモーナ
(72)【発明者】
【氏名】ナポリターノ,フェデリコ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィテッリ,アレッサンドラ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB40
4C076CC35
4C076DD01
4C076DD08
4C076DD23
4C076DD37
4C076DD49
4C076DD52
4C076DD59
4C076DD60
4C076DD67
4C076EE09
4C076EE09M
4C076EE12
4C076EE12M
4C076EE16
4C076EE16M
4C076EE23
4C076EE23M
4C076EE30
4C076EE30M
4C076EE31
4C076EE31M
4C076EE36
4C076EE36M
4C076EE37
4C076EE37M
4C076EE41
4C076FF11
4C076FF31
4C076FF34
4C076FF68
4C084AA13
4C084MA05
4C084MA17
4C084MA70
4C084NA11
4C084NA12
4C084NA14
4C084ZB33
4C085AA03
4C085BA51
4C085CC08
4C085EE01
4C085EE05
4C085GG10
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087CA20
4C087MA05
4C087MA17
4C087MA70
4C087NA11
4C087NA12
4C087NA14
4C087ZB33
(57)【要約】
サルアデノウイルスベクターが、免疫原性を維持する生体接着剤および賦形剤と共に製剤化される。それらを、粘膜投与して、有効な予防および治療を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性製剤中に、免疫原性導入遺伝子をコードする組換えサルアデノウイルスと、生体接着性賦形剤とを含む、組成物。
【請求項2】
生体接着剤が、ポリオキシエチレン、ポリ(エチレングリコール)(PEG);ポリ(ビニルピロリドン)(PVP);ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA);プルロニック;ポリアクリレート;カルボマー;ポリカルボフィル;ヒアルロン酸;キトサン;アルギネート;グアーガム;カラゲナン;およびセルロースに由来するポリマーから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
生体接着剤が、プルロニックであり、プルロニックF-68、プルロニック127およびポロキサマー407から選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
プルロニックがポロキサマー407である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
生体接着剤が、セルロースに由来し、カルボキシメチルセルロース(CMC)、微結晶性セルロース、酸化再生セルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースナトリウムから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
セルロースに由来する生体接着剤が、カルボキシメチルセルロース(CMC)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
組成物が、Tris、NaCl、非晶質糖および界面活性剤を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
二価金属イオン、EDTA、ヒスチジン、エタノール、ビタミンEコハク酸塩およびアルブミンのうちの1種以上をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
Tris、NaCl、非晶質糖およびポリソルベート界面活性剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
LTK63またはアルファ-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
免疫原性導入遺伝子が、インターロイキン1ベータ(IL1β)を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
疾患の予防または治療における使用のための、水性製剤中に免疫原性導入遺伝子をコードする組換えサルアデノウイルスと、生体接着性賦形剤とを含む、組成物。
【請求項13】
生体接着剤が、ポリオキシエチレン、ポリ(エチレングリコール)(PEG);ポリ(ビニルピロリドン)(PVP);ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA);プルロニック;ポリアクリレート;カルボマー;ポリカルボフィル;ヒアルロン酸;キトサン;アルギネート;グアーガム;カラゲナン;およびセルロースに由来するポリマーから選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
生体接着剤が、プルロニックであり、プルロニックF-68、プルロニック127およびポロキサマー407から選択される、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項15】
プルロニックがポロキサマー407である、請求項12~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
生体接着剤が、セルロースに由来し、カルボキシメチルセルロース(CMC)、微結晶性セルロース、酸化再生セルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースナトリウムから選択される、請求項12~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
セルロースに由来する生体接着剤が、カルボキシメチルセルロース(CMC)である、請求項12~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
組成物が、Tris、NaCl、非晶質糖および界面活性剤を含む、請求項12~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
二価金属イオン、EDTA、ヒスチジン、エタノール、ビタミンEコハク酸塩およびアルブミンのうちの1種以上をさらに含む、請求項12~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
Tris、NaCl、非晶質糖およびポリソルベート界面活性剤をさらに含む、請求項12~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
LTK63またはアルファ-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)をさらに含む、請求項12~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
免疫原性導入遺伝子が、インターロイキン1ベータ(IL1β)を含む、請求項12~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
水性製剤中の免疫原性導入遺伝子をコードする組換えサルアデノウイルスおよび生体接着性賦形剤を、哺乳動物の粘膜に投与することによって、哺乳動物における免疫応答を誘導する方法。
【請求項24】
感染症の処置のための薬剤の製造における、水性製剤中の免疫原性導入遺伝子をコードする組換えサルアデノウイルスおよび生体接着性賦形剤の使用。
【請求項25】
製剤が、頬、結腸直腸、まぶたの下、胃腸、肺、鼻、眼、舌下または膣の粘膜に送達される、請求項23または24に記載の方法または使用。
【請求項26】
生体接着剤が、ポリオキシエチレン、ポリ(エチレングリコール)(PEG);ポリ(ビニルピロリドン)(PVP);ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA);プルロニック;ポリアクリレート;カルボマー;ポリカルボフィル;ヒアルロン酸;キトサン;アルギネート;グアーガム;カラゲナン;およびセルロースに由来するポリマーから選択される、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
組成物が、NaCl、非晶質糖、界面活性剤、二価金属イオン、EDTA、ヒスチジン、エタノール、ビタミンEコハク酸塩およびアルブミンのうちの1種以上をさらに含む、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
生体接着剤がプルロニックである、請求項23~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
プルロニックがポロキサマー407である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
生体接着剤が、セルロースに由来するポリマーである、請求項23~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
セルロースに由来するポリマーが、カルボキシメチルセルロース(CMC)である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
組成物が、LTK63またはアルファ-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)をさらに含む、請求項23~31のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項33】
免疫原性導入遺伝子が、インターロイキン1ベータ(IL1β)を含む、請求項23~32のいずれか一項に記載の方法または使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患を防止および処置する分野にある。特に、本発明は、サルアデノウイルスワクチンの粘膜投与にとって好適な製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノウイルスベクターは、治療分子をコードする核酸配列がアデノウイルスゲノム中に組み込まれ、アデノウイルス粒子が処置される対象に投与された時に発現される、予防的および治療的送達プラットフォームを提供することが証明されている。多くのヒトは、ヒトアデノウイルスに曝露され、それに対する免疫を生じる。かくして、ヒトアデノウイルス血清型に対する既存の免疫の効果を最小化しながら、予防的または治療的分子をヒト対象に効率的に送達するベクターに対する要求がある。ヒトはサルウイルスに対する既存の免疫がほとんどないか、または全くないが、これらのウイルスは、既存の免疫によって最小限に影響を受ける強力な免疫応答を惹起するのに有効であるヒトウイルスと十分に密接に関連するため、サルアデノウイルスは、これに関して有効である(Vitelliら(2017) Expert Rev Vaccines 16:1241)。
【0003】
ワクチン接種は、感染症を防止するための最も有効な方法の1つである。ワクチンは、典型的には、筋肉内経路によって投与されるが、代替的な送達経路、例えば、皮内、経口、粘膜その他が報告されている。粘膜経路によるアデノウイルスに基づくワクチンの送達は、既存の免疫の効果を回避し、コードされた抗原に対する有意な免疫応答を誘導することが示されている。例えば、エボラを発現し、経口的または鼻内的に送達されるヒトアデノウイルスは、エボラチャレンジに対して保護した(Croyleら、(2008) PLoS One 3:e3548)。
【0004】
しかしながら、粘膜投与のためのアデノウイルスワクチンの製剤化は、課題を有する。必要な少量で有効用量を達成するためには、アデノウイルスは高濃度で投与しなければならず、これらの高濃度で安定性を維持しなければならない。ワクチンの粘度は、粘膜との接触を維持するのに十分なものでなければならない。舌下投与に関して、唾液中のプロテアーゼはワクチンを分解する;唾液により、いくらかのワクチンを嚥下することができ、かくして、舌下粘膜から失われる;また、舌下上皮の表面積は、比較的小さい。保持は困難であり、ワクチンと上皮との接触を保持するためには、かなりの努力を要する。かくして、粘膜投与することができる有効で安定なワクチン製剤が当業界で必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Vitelliら(2017) Expert Rev Vaccines 16:1241
【非特許文献2】Croyleら、(2008) PLoS One 3:e3548
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ウイルスワクチンベクターの保持、並びに、結果として、その吸収および浸透を増加させる生体接着性ポリマーを含むワクチン製剤を提供する。本発明はまた、抗原特異的体液性および細胞性免疫応答を誘導するための粘膜経路によるアデノウイルスの送達も提供する。
【0007】
ある実施形態においては、本発明は、サルアデノウイルスおよび1種以上の生体接着剤(bioadhesive)を含む水性製剤中の、免疫原性導入遺伝子をコードする組換えサルアデノウイルスと、生体接着性賦形剤とを含む組成物を提供する。製剤は、非晶質糖を含んでもよい。特定の実施形態においては、非晶質糖は、トレハロースまたはスクロースであってもよい。それは、低濃度の塩を含んでもよい。特定の実施形態においては、生体接着剤は、ポロキサマー、例えば、プルロニック(登録商標)、例えば、プルロニックF-68、プルロニック127またはポロキサマー407;カルボマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース;水溶性キトサンまたはカルボキシメチルセルロース(CMC)であってもよい。より特定の実施形態においては、生体接着剤は、CMCまたはポロキサマー407である。さらにより特定の実施形態においては、CMCの濃度は、0.25%~5.0%、0.5%~5.0%、例えば、0.5%~4.0%、0.5%~3.0%、0.5%~2.5%、0.75%~4.0%、0.75%~3.0%、0.75%~2.5%、1.0%~4.0%、1.0%~3.0%、1.0%~2.5%、1.0%~2.0%、1.25%~1.75%または1.5%w/vである。別の特定の実施形態においては、ポロキサマー407の濃度は、10%~30%、例えば、10%~25%、15%~30%、15%~25%、15%~20%、20%~25%、18%~22%、19%~21%または20%(w/v)である。
【0008】
本発明のある実施形態においては、ベクターを粘膜投与することができる。本発明のある実施形態においては、ベクターを舌下投与することができる。本発明のある実施形態においては、ベクターを頬投与することができる。
【0009】
本発明のある実施形態においては、アデノウイルスは少量で投与される。したがって、アデノウイルスは、高度に濃縮されており、例えば、免疫学的に有効な濃度である。アデノウイルスを、本発明の組成物中のアデノウイルスの濃度が1012vp/ml、1011vp/ml、1010vp/ml、109vp/mlまたは108vp/mlである濃度で投与することができる。
【0010】
本発明のある実施形態においては、アデノウイルスは、生体接着剤と共に製剤化される。ある実施形態においては、アデノウイルスは、Tris緩衝剤と共に製剤化される。ある実施形態においては、アデノウイルスは、ヒスチジンと共に製剤化される。ある実施形態においては、アデノウイルスは、塩化ナトリウムと共に製剤化される。ある実施形態においては、アデノウイルスは、塩化マグネシウムと共に製剤化される。本発明のある実施形態においては、アデノウイルスは、非晶質糖と共に製剤化される。ある実施形態においては、アデノウイルスは、界面活性剤と共に製剤化される。ある実施形態においては、アデノウイルスは、ビタミンEコハク酸塩(VES)と共に製剤化される。ある実施形態においては、アデノウイルスは、アルブミンと共に製剤化される。ある実施形態においては、アデノウイルスは、エタノールと共に製剤化される。ある実施形態においては、アデノウイルスは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)と共に製剤化される。ある実施形態においては、アデノウイルスは、ポリエチレングリコール(PEG)と共に製剤化される。
【0011】
本発明のある実施形態においては、サルアデノウイルスは、注射可能な液体濃度中に典型的に見出されるものよりも高いウイルス濃度で1種以上の生体接着剤と共に製剤化される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】感染性によって決定され、HEK293細胞中でのヘキソン-ELISAによって測定されたサルアデノウイルスの安定性。ウイルスを、製剤1(丸)、製剤2(四角)、1.5%CMCを含む製剤2(三角)または20%プルロニックを含む製剤2(逆三角)中で製剤化し、4℃で6ヶ月間インキュベートした。1mlあたりの感染性粒子の数(ip/ml)を、14、30、60、90、120、150および180日で決定した。
【
図2】狂犬病導入遺伝子を含むアデノウイルス(ChAd155-RG)の舌下(SL)または筋肉内(IM)投与後のマウスにおけるサルアデノウイルスの免疫原性。ウイルス中和抗体を、第4週(丸)、第8週(四角)および第12週(三角)で測定した。点線は、抗狂犬病免疫の血清変換閾値を示す。
【
図3】アジュバントの存在下または非存在下での舌下(SL)投与後および鼻内(IN)投与後のマウスにおけるサルアデノウイルスに対する全身性IgG応答。血清IgGを、第4週(初回接種後)、第7週(追加接種後)および第8週(追加接種後)で測定した。バーは、RSVプレF導入遺伝子に対するIgG血清力価を示す。
【
図4】RSVプレF導入遺伝子を含むアデノウイルスの舌下(SL)または鼻内(IN)投与後のマウスにおけるサルアデノウイルスに対する全身性中和抗体応答。ウイルス中和抗体を、第4週(白抜きの円柱)および第8週(斜線付きの円柱)で測定し、ED
60として表した。点線は、検出限界を示し、バーの上の数字はED
60を示す。
【
図5】アジュバントの存在下または非存在下での舌下(SL)投与または鼻内(IN)投与後のマウスにおけるサルアデノウイルスに対する分泌IgA(sIgA)応答。分泌IgAを、第4週(初回接種後)および第8週(追加接種の1週間後)にELISAによって唾液中で測定した。バーは、sIgA力価に対応する、405nmでの光密度を示す。
【
図6】サルアデノウイルスに対するT細胞応答を、舌下(SL)または鼻内(IN)投与後、IFNγELISpotによってマウスの脾臓および肺において第4週(初回接種後)および第8週(追加接種後)に測定した。結果を、10
6個のリンパ球あたりのスポット形成単位として表す。
【
図7】アジュバントの存在下または非存在下での舌下投与後および鼻内または筋肉内投与後のマウスにおけるサルアデノウイルスに対する全身性IgG応答。血清IgGを、第4週、第8週(追加接種後)および第13週(追加接種後)で測定した。バーは、抗プレF IgG血清力価を示す。
【
図8】RSVプレF導入遺伝子を含むウイルスの舌下(SL)または鼻内(IN)投与後のマウスにおけるサルアデノウイルスに対する全身性中和抗体応答。ウイルス中和抗体を、第4週(白抜きのバー)、第8週(明るい点描)、第12週(追加接種後)(中間の点描)および第13週(追加接種後)(暗い点描)で測定した。バーは、抗プレF IgG血清力価を示す。
【
図9】アジュバントの存在下もしくは非存在下での舌下(SL)投与、鼻内(IN)投与または筋肉内(IM)投与後のマウスにおけるサルアデノウイルスに対する分泌IgA応答。分泌IgAを、第4週および第13週(追加接種後)で測定した。バーは、sIgA力価に対応する、450nmでの光密度を示す。
【
図10】IgGの血清枯渇後の血清(全身性)IgAレベル。血清IgA力価を、第4週、第8週、第12週(追加接種後)および第13週(追加接種後)で測定した。バーは、血清IgA力価に対応する、450nmでの光密度を示す。
【
図11】サルアデノウイルスに対するT細胞応答を、舌下(SL)または鼻内(IN)投与後にIFNγELISpotによってマウスの脾臓および肺において測定した。結果を、10
6個のリンパ球あたりのスポット形成単位として表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
構築物、抗原およびバリアント
本発明は、感染性病原性生物によって引き起こされる疾患に対する対象における免疫応答の誘導のための免疫原性組成物の成分として有用な構築物を提供する。これらの構築物は、抗原の発現、処置におけるその使用のための方法、およびその製造のためのプロセスにとって有用である。「構築物」は、遺伝子操作された分子である。「核酸構築物」とは、遺伝子操作された核酸を指し、天然には存在しない核酸を含む、RNAまたはDNAを含んでもよい。いくつかの実施形態においては、本明細書に開示される構築物は、病原性生物、例えば、ウイルス、細菌、真菌、原生動物または寄生虫の野生型ポリペプチド配列、そのバリアントまたは断片をコードする。
【0014】
本発明の組成物を、アジュバントを用いて、または用いずに投与してもよい。あるいは、またはさらに、組成物は、1種以上のアジュバント(例えば、ワクチンアジュバント)を含んでもよいか、またはそれと共に投与してもよい。
【0015】
本明細書で使用される用語「抗原」とは、宿主の免疫系を刺激して、体液性応答、すなわち、B細胞媒介性抗体産生、および/または細胞性抗原特異的免疫応答、すなわち、T細胞媒介性免疫を作らせる1種以上のエピトープ(例えば、線状、立体またはその両方)を含有する分子を指す。「エピトープ」は、その免疫学的特異性を決定付ける抗原の部分である。
【0016】
ポリペプチド配列の「バリアント」は、参照配列と比較した場合、1個以上のアミノ酸付加、置換および/または欠失を有するアミノ酸配列を含む。バリアントは、完全長野生型ポリペプチドと少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含んでもよい。あるいは、またはさらに、ポリペプチドの断片は、完全長ポリペプチドの連続するアミノ酸配列と同一である少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個、少なくとも20個以上のアミノ酸の連続するアミノ酸配列を含むか、またはそれからなってもよい完全長ポリペプチドの免疫原性断片(すなわち、エピトープ含有断片)を含んでもよい。
【0017】
2つの密接に関連するポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列を比較するために、第1の配列と第2の配列との「同一性%」を、標準的な設定を使用するBLAST(登録商標)(2015年3月9日に最後にアクセスした、blast.ncbi.nlm.nih.govで入手可能)などのアラインメントプログラムを使用して算出することができる。同一性%は、同一の残基数を参照配列中の残基数で除算し、100を掛けたものである。上および特許請求の範囲に記載される同一性%の数字は、この方法によって算出されるパーセンテージである。同一性%の別の定義は、同一の残基数を整列された残基数で除算し、100を掛けたものである。代替的な方法は、アラインメント中のギャップ、例えば、一方の配列中の、他方の配列と比較した欠失が、スコアリングパラメーターにおけるギャップスコアまたはギャップコストによって説明されるギャップ法を使用することを含む。さらなる情報については、2015年3月9日に最後にアクセスした、ftp.ncbi.nlm.nih.gov/pub/factsheets/HowTo_BLASTGuide.pdfで入手可能なBLAST(登録商標)ファクトシートを参照されたい。
【0018】
それによってコードされたポリヌクレオチドまたはポリペプチドの機能を保持する配列は、より密接に同一である可能性が高い。ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、それらがその全長にわたって100%の配列同一性を有する場合、他のポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列と同じであるか、または同一であると言われる。
【0019】
配列間の「差異」とは、第1の配列と比較した、第2の配列の位置における単一のアミノ酸残基の挿入、欠失または置換を指す。2つのポリペプチド配列は、1つ、2つ以上のそのようなアミノ酸差異を含有してもよい。そうでなければ第1の配列と同一である(100%の配列同一性)第2の配列中の挿入、欠失または置換は、配列同一性パーセントの減少をもたらす。例えば、同一の配列が9アミノ酸残基の長さである場合、第2の配列中の1個の置換は、88.9%の配列同一性をもたらす。同一の配列が17アミノ酸残基の長さである場合、第2の配列中の2個の置換は、88.2%の配列同一性をもたらす。同一の配列が7アミノ酸残基の長さである場合、第2の配列中の3個の置換は、57.1%の配列同一性をもたらす。第1および第2のポリペプチド配列が9アミノ酸残基の長さであり、6個の同一の残基を有する場合、第1および第2のポリペプチド配列は、66%を超える同一性を有する(第1および第2のポリペプチド配列は、66.7%の同一性を有する)。第1および第2のポリペプチド配列が17アミノ酸残基の長さであり、16個の同一の残基を有する場合、第1および第2のポリペプチド配列は、94%を超える同一性を有する(第1および第2のポリペプチド配列は、94.1%の同一性を有する)。第1および第2のポリペプチド配列が7アミノ酸残基の長さであり、3個の同一の残基を有する場合、第1および第2のポリペプチド配列は、42%を超える同一性を有する(第1および第2のポリペプチド配列は、42.9%の同一性を有する)。
【0020】
あるいは、第1の、参照ポリペプチド配列と、第2の、比較ポリペプチド配列とを比較するために、第2の配列を作製するために第1の配列に対して為された付加、置換および/または欠失の数を確認することができる。付加は、第1のポリペプチドの配列中への1個のアミノ酸残基の付加である(第1のポリペプチドのいずれかの末端での付加を含む)。置換は、第1のポリペプチドの配列中の1個のアミノ酸残基の、1個の異なるアミノ酸残基との置換である。欠失は、第1のポリペプチドの配列中からの1個のアミノ酸残基の欠失である(第1のポリペプチドのいずれかの末端での欠失を含む)。
【0021】
第1の、参照ポリヌクレオチド配列と、第2の、比較ポリヌクレオチド配列とを比較するために、第2の配列を作製するために第1の配列に対して為された付加、置換および/または欠失の数を確認することができる。付加は、第1のポリヌクレオチドの配列中への1個のヌクレオチド残基の付加である(第1のポリヌクレオチドのいずれかの末端での付加を含む)。置換は、第1のポリヌクレオチドの配列中の1個のヌクレオチド残基の、1個の異なるヌクレオチド残基との置換である。欠失は、第1のポリヌクレオチドの配列中からの1個のヌクレオチド残基の欠失である(第1のポリヌクレオチドのいずれかの末端での欠失を含む)。
【0022】
好適には、本発明の配列中の置換は、保存的置換であってもよい。保存的置換は、あるアミノ酸の、置換されるアミノ酸と類似する化学的特性を有する別のアミノ酸との置換を含む(例えば、Stryerら、Biochemistry、第5版、2002、44~49頁を参照されたい)。好ましくは、保存的置換は、(i)塩基性アミノ酸の、別の異なる塩基性アミノ酸との置換;(ii)酸性アミノ酸の、別の異なる酸性アミノ酸との置換;(iii)芳香族アミノ酸の、別の異なる芳香族アミノ酸との置換;(iv)非極性脂肪族アミノ酸の、別の異なる非極性脂肪族アミノ酸との置換;および(v)極性非荷電アミノ酸の、別の異なる極性非荷電アミノ酸との置換からなる群から選択される置換である。塩基性アミノ酸は、好ましくは、アルギニン、ヒスチジン、およびリシンからなる群から選択される。酸性アミノ酸は、好ましくは、アスパラギン酸またはグルタミン酸である。芳香族アミノ酸は、好ましくは、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンからなる群から選択される。非極性脂肪族アミノ酸は、好ましくは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、メチオニンおよびイソロイシンからなる群から選択される。極性非荷電アミノ酸は、好ましくは、セリン、トレオニン、システイン、プロリン、アスパラギンおよびグルタミンからなる群から選択される。保存的アミノ酸置換とは対照的に、非保存的アミノ酸置換は、あるアミノ酸の、上で概略された保存的置換(i)~(v)に該当しない任意のアミノ酸との交換である。
【0023】
あるいは、またはさらに、ワクチン構築物の交差防御幅を、抗原のメドイド(medoid)配列を含ませることによって増大させることができる。「メドイド」とは、他の配列に対する非類似度が最小となる配列を意味する。あるいは、またはさらに、本発明のベクターは、タンパク質またはその免疫原性断片のメドイド配列を含む。あるいは、またはさらに、メドイド配列は、NCBIデータベース中で注釈される全ての関連するタンパク質配列間で最も高い平均パーセントのアミノ酸同一性を有する天然ウイルス株に由来する。
【0024】
遺伝子コードにおける冗長性の結果として、ポリペプチドは、様々な異なる核酸配列によってコードされてもよい。コードは、いくつかの同義コドン、すなわち、他のものよりも同じアミノ酸をコードするコドンを使用するように偏っている。「コドン最適化」とは、組換え核酸のコドン組成の改変が、アミノ酸配列を変化させることなく行われることを意味する。生物特異的コドン使用頻度を使用することにより異なる生物中でのmRNA発現を改善するために、コドン最適化が使用されている。
【0025】
コドンの偏りに加えて、また、コドンの偏りとは無関係に、オープンリーディングフレームにおけるコドンの並置は、無作為ではなく、いくつかのコドン対が他のものよりも頻繁に使用される。このコドン対の偏りは、いくつかのコドン対が過剰に存在し、他のものが少数しか存在しないことを意味する。「コドン対最適化」とは、コドン対の改変が、個々のコドンのアミノ酸配列を変化させることなく行われることを意味する。本発明の構築物は、コドン最適化された核酸配列および/またはコドン対最適化された核酸配列を含んでもよい。
【0026】
「ポリペプチド」は、配列を定義し、アミド結合によって連結された、複数の共有結合したアミノ酸残基を意味する。この用語は、「ペプチド」および「タンパク質」と互換的に使用され、最小の長さのポリペプチドに限定されない。ポリペプチドの用語は、当業界で公知のように、化学反応または酵素触媒反応によって導入される翻訳後改変も包含する。この用語は、付加、欠失または置換などの、ポリペプチドの断片またはポリペプチドのバリアントを指してもよい。
【0027】
本発明のポリペプチドは、天然には存在しない形態(例えば、組換え形態または改変形態)にあってもよい。本発明のポリペプチドは、C末端および/またはN末端に共有的改変を有してもよい。それらはまた、様々な形態(例えば、天然、融合物、グリコシル化、非グリコシル化、脂質化、非脂質化、リン酸化、非リン酸化、ミリストイル化、非ミリストイル化、モノマー、マルチマー、粒子、変性など)を採ってもよい。ポリペプチドは、天然に、または非天然にグリコシル化されていてもよい(すなわち、ポリペプチドは、対応する天然に存在するポリペプチド中に見出されるグリコシル化パターンとは異なるグリコシル化パターンを有してもよい)。
【0028】
当業者であれば、単一のアミノ酸または小さいパーセンテージのアミノ酸を変化させる、付加する、または欠失させる、タンパク質に対する個々の置換、欠失または付加が、変化が、あるアミノ酸の、機能的に類似するアミノ酸との置換または免疫原性機能に影響しない残基の置換/欠失/付加をもたらす「免疫原性誘導体」であることを認識するであろう。
【0029】
機能的に類似するアミノ酸を提供する保存的置換表は、当業界で周知である。一般に、そのような保存的置換は、以下に特定されるアミノ酸分類の1つに該当するであろうが、いくつかの状況では、抗原の免疫原性特性に実質的に影響することなく、他の置換が可能であってよい。以下の8つの群はそれぞれ、互いに典型的に保存的置換であるアミノ酸を含有する:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(N)、リシン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、トレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)。
【0030】
好適には、そのような置換は、エピトープの領域中には存在せず、したがって、抗原の免疫原性特性に対する有意な影響を有しない。
【0031】
免疫原性誘導体はまた、参照配列と比較して追加のアミノ酸が挿入されるものを含んでもよい。好適には、そのような挿入は、エピトープの領域中には存在せず、したがって、抗原の免疫原性特性に対する有意な影響を有しない。挿入の一例は、問題の抗原の発現および/または精製を助けるためのヒスチジン残基(例えば、2~6残基)の短いストレッチを含む。
【0032】
免疫原性誘導体は、参照配列と比較してアミノ酸が欠失したものを含む。好適には、そのような欠失は、エピトープの領域中には存在せず、したがって、抗原の免疫原性特性に対する有意な影響を有しない。当業者であれば、特定の免疫原性誘導体が、置換、欠失、挿入および付加(またはその任意の組合せ)を含んでもよいことを認識するであろう。
【0033】
アデノウイルス
アデノウイルスは、約36kbの線状二本鎖DNAゲノムを有する非エンベロープの20面体ウイルスである。アデノウイルスは、宿主細胞のゲノム中に組み込まれることなく、分裂細胞と非分裂細胞との両方を含む、いくつかの哺乳動物種のいくつかの細胞型を形質導入することができる。ヒトアデノウイルスベクターは、遺伝子療法およびワクチンにおいて現在用いられているが、一般的なヒトアデノウイルスへの以前の曝露後、既存の免疫の普及率が世界的に高いという欠点を有する。サルアデノウイルスは、それらが、ヒトウイルスと十分密接に関連し、ヒト細胞中に進入し、導入遺伝子を送達することができるが、ヒトが既存の免疫をほとんど有しないか、全く有しないという利点を有する。
【0034】
アデノウイルスは、3つの主要タンパク質、ヘキソン(II)、ペントンベース(III)および小塊状線維(IV)と共に、いくつかの他の小さいタンパク質、VI、VIII、IX、IIIaおよびIVa2を含む20面体カプシドを有する特徴的な形態を有する。ヘキソンは、240個の3量体ヘキソンカプソメアおよび12個のペントンベースからなる、カプシドの構造成分の大部分を占める。ヘキソンは、3つの保存された二重バレルを有し、頂部は3つのタワーを有し、それぞれのタワーは、カプシドのほとんどを形成するそれぞれのサブユニットに由来するループを含有する。ヘキソンのベースは、アデノウイルス血清型間で高度に保存されているが、表面ループは可変性である。ペントンは、別のアデノウイルスカプシドタンパク質である;それは、線維が結合する5量体ベースを形成する。3量体線維タンパク質は、カプシドの12の頂点のそれぞれでペントンベースから突出し、小塊状の棹状構造である。線維タンパク質の主要な役割は、小塊状領域と細胞受容体との相互作用によってウイルスカプシドを細胞表面に係留することである。可撓性シャフト、ならびに線維の小塊領域の変動は、異なるアデノウイルス血清型の特徴である。
【0035】
アデノウイルスゲノムは、よく特徴付けられている。線状の二本鎖DNAは、高度に塩基性のタンパク質VIIおよび小さいペプチドpX(ミューとも呼ばれる)と結合する。別のタンパク質であるVは、このDNA-タンパク質複合体と共にパッケージングされ、タンパク質VIを介してカプシドとの構造的連結を提供する。同様に位置する特定のオープンリーディングフレーム、例えば、それぞれのウイルスのE1A、E1B、E2A、E2B、E3、E4、L1、L2、L3、L4およびL5遺伝子の位置に関して、アデノウイルスゲノムの全体的な構成は、一般的に保存されている。アデノウイルスゲノムのそれぞれの先端は、ウイルスの複製にとって必要な、逆方向末端反復(ITR)として知られる配列を含む。アデノウイルスゲノムの5’末端は、パッケージングおよび複製にとって必要な5’シスエレメント;すなわち、5’ITR配列(複製起点として機能することができる)ならびに線状アデノウイルスゲノムのパッケージングにとって必要な配列およびE1プロモーターのためのエンハンサーエレメントを含有する、天然の5’パッケージングエンハンサードメインを含有する。アデノウイルスゲノムの3’末端は、パッケージングおよびカプシド形成にとって必要な、ITRを含む3’シスエレメントを含む。ウイルスは、感染性ビリオンを産生するために必要とされる一部の構造タンパク質をプロセッシングするのに必要である、ウイルスによりコードされたプロテアーゼも含む。
【0036】
アデノウイルスゲノムの構造は、ウイルス遺伝子が宿主細胞形質導入後に発現される順序に基づいて記載される。ウイルス遺伝子は、転写が、DNA複製の開始の前または後に起こるかどうかに従って、初期(E)または後期(L)遺伝子と呼ばれる。形質導入の初期段階では、アデノウイルスのE1A、E1B、E2A、E2B、E3およびE4遺伝子は、ウイルス複製のために宿主細胞を準備するために発現される。E1遺伝子は、マスタースイッチと考えられ、それは、転写活性化因子として作用し、初期および後期遺伝子転写の両方に関与する。E2は、DNA複製に関与する;E3は、免疫モジュレーションに関与する;およびE4は、ウイルスmRNA代謝を調節する。感染の後期段階には、ウイルス粒子の構造成分をコードする後期遺伝子L1~L5の発現が活性化される。後期遺伝子は、選択的スプライシングと共に主要後期プロモーター(MLP)から転写される。
【0037】
歴史的には、アデノウイルスワクチン開発は、欠損性非複製性ベクターに着目してきた。それらは、複製にとって必須である、E1領域遺伝子の欠失によって複製欠損になる。典型的には、非必須E3領域遺伝子も、外因性導入遺伝子のための場所を作るために欠失される。E4領域遺伝子も欠失させてもよい。次いで、外因性プロモーターの制御下に導入遺伝子を含む発現カセットが挿入される。次いで、これらの複製欠損ウイルスは、E1補完細胞中で産生される。複製可能アデノウイルスも記載されている(WO2019/076877)。本発明のアデノウイルスは、複製可能と複製欠損との両方のサルアデノウイルスを含む。
【0038】
用語「複製欠損」または「複製不能」アデノウイルスとは、それが少なくとも機能的欠失(もしくは「機能喪失」変異)、すなわち、それを完全に除去することなく遺伝子の機能を損なわせる欠失または変異、例えば、人工停止コドンの導入、活性部位もしくは相互作用ドメインの欠失もしくは変異、遺伝子の調節配列の変異もしくは欠失など、またはE1A、E1B、E2A、E2B、E3およびE4 (E3 ORF1、E3 ORF2、E3 ORF3、E3 ORF4、E3 ORF5、E3 ORF6、E3 ORF7、E3 ORF8、E3 ORF9、E4 ORF7、E4 ORF6、E4 ORF4、E4 ORF3、E4 ORF2および/もしくはE4 ORF1など)から選択される1つ以上のアデノウイルス遺伝子などの、ウイルス複製にとって必須である遺伝子産物をコードする遺伝子の完全な除去を含むように操作されたため、複製することができないアデノウイルスを指す。好適には、E1および必要に応じて、E3および/またはE4が欠失される。欠失した場合、上記の欠失した遺伝子領域は、好適には、別の配列に関して同一性パーセントを決定する場合にアラインメントにあると考えられないであろう。
【0039】
用語「複製可能」アデノウイルスとは、細胞中に含まれる任意の組換えヘルパータンパク質の非存在下で宿主細胞中で複製することができるアデノウイルスを指す。好適には、「複製可能」アデノウイルスは、無傷の構造遺伝子および以下の無傷の、または機能的に必須の初期遺伝子:E1A、E1B、E2A、E2BおよびE4を含む。特定の動物から単離された野生型アデノウイルスは、その動物において複製可能であろう。
【0040】
本発明のベクター
「ベクター」とは、野生型配列と比較して実質的に変化した、および/または異種配列、すなわち、異なる起源から得られた核酸を含み、細胞(すなわち、「宿主細胞」)中に導入された場合、挿入されたポリヌクレオチド配列を複製および/または発現する、核酸を指す。複製欠損アデノウイルスの場合、宿主細胞は、E1、E3またはE4を補完してもよい。本発明のベクターは、ネイキッドDNA、ファージ、トランスポゾン、コスミド、エピソーム、プラスミドまたはウイルス成分などの任意の遺伝子エレメントを含んでもよい。本発明のアデノウイルスベクターの実施形態においては、アデノウイルスDNAは、哺乳動物標的細胞に進入することができる、すなわち、それは感染性である。
【0041】
本発明のベクターは、サルアデノウイルスDNAを含有してもよい。一実施形態においては、本発明のアデノウイルスベクターは、「サルアデノウイルス」とも呼ばれる、非ヒトサルアデノウイルスに由来する。いくつかのアデノウイルスが、チンパンジー、ボノボ、アカゲザル、オランウータンおよびゴリラなどの非ヒトサルから単離されている。これらのアデノウイルスに由来するベクターは、これらのベクターによってコードされた導入遺伝子に対する強力な免疫応答を誘導することができる。非ヒトサルアデノウイルスに基づくベクターのある特定の利点は、ヒト標的集団におけるこれらのアデノウイルスに対する交差中和抗体の相対的欠如を含み、かくして、それらの使用は、ヒトアデノウイルスに対する既存の免疫を克服する。
【0042】
本発明のアデノウイルスベクターは、例えば、チンパンジー(Pan troglodytes)、ボノボ (Pan paniscus)、ゴリラ(Gorilla gorilla) およびオランウータン (Pongo abeliiおよびPongo pygnaeus)に由来する、非ヒトサルアデノウイルスに由来してもよい。これらは、B群、C群、D群、E群およびG群に由来するアデノウイルスを含む。チンパンジーアデノウイルスとしては、限定されるものではないが、ChAd3、ChAd15、ChAd19、ChAd25.2、ChAd26、ChAd27、ChAd29、ChAd30、ChAd31、ChAd32、ChAd33、ChAd34、ChAd35、ChAd37、ChAd38、ChAd39、ChAd40、ChAd63、ChAd83、ChAd155、ChAd157、ChAdOx1、ChAdOx2およびSAdV41が挙げられる。あるいは、アデノウイルスベクターは、PanAd1、PanAd2、PanAd3、Pan 5、Pan 6、Pan 7 (C7とも呼ばれる)およびPan 9などのボノボまたはGADNOU19およびGADNOU20などのゴリラから単離された非ヒトサルアデノウイルスに由来してもよい。ベクターは、全体として、または部分的に、非ヒトアデノウイルスの線維、ペントンまたはヘキソンをコードするヌクレオチドを含んでもよい。
【0043】
本発明のある実施形態においては、ベクターは、アデノウイルスベクターの機能的または免疫原性誘導体である。「アデノウイルスベクターの誘導体」とは、例えば、ベクターの1個以上のヌクレオチドが欠失、挿入、改変または置換された、改変型のベクターを意味する。そのようなサルアデノウイルスベクターは、ウイルスゲノムがプラスミドベクターによって担持された分子クローンに由来する。細菌プラスミドに由来するベクターの使用は、細胞培養物中で気付かずに増殖し、ヒトレシピエントに害を及ぼし得る未確認の病原体によるあり得る夾雑のリスクを排除する。
【0044】
上記のように、複製欠損ベクターの遺伝子発現カセット挿入部位の選択は、ウイルス複製に関与することが知られる領域の置き換えに主に着目してきた。複製可能ベクターの遺伝子発現カセット挿入部位の選択は、複製機構を保持しなければならない。結果として、複製可能ウイルスベクターは、機能的発現カセットのための余地を与えながら、複製にとって必須の配列を保持しなければならない。
【0045】
本発明のベクターの調節エレメント、すなわち、発現制御配列は、適切な転写開始、終結、プロモーターおよびエンハンサー配列;スプライシングおよびウサギベータグロビンポリAなどのポリアデニル化(ポリA)シグナルなどの効率的なRNAプロセッシングシグナル;テトラサイクリン調節可能システム、マイクロRNA、転写後調節エレメント、例えば、WPRE、ウッドチャック肝炎ウイルスの転写後調節エレメント;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を増強する配列(例えば、Kozakコンセンサス配列);タンパク質安定性を増強する配列;ならびに必要に応じて、コードされた生成物の分泌を増強する配列を含む。
【0046】
「プロモーター」は、RNAポリメラーゼの結合を可能にし、遺伝子の転写を指令するヌクレオチド配列である。典型的には、プロモーターは、転写開始部位に隣接する、遺伝子の非コード領域中に位置する。転写の開始において機能するプロモーター内の配列エレメントは、コンセンサスヌクレオチド配列を特徴とすることが多い。プロモーターの例としては、限定されるものではないが、細菌、酵母、植物、ウイルス、ならびにサルおよびヒトなどの哺乳動物に由来するプロモーターが挙げられる。内部、天然、構成的、誘導性および/または組織特異的であるプロモーターを含む、多数の発現制御配列が、当業界で公知であり、使用することができる。
【0047】
本発明のプロモーターとしては、限定されるものではないが、CMVプロモーター、ベータアクチンプロモーター、例えば、ニワトリベータアクチン(CAG)プロモーター、CAS1プロモーター、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ-1(PGK)プロモーター、TBGプロモーター、レトロウイルスラウス肉腫ウイルスLTRプロモーター、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸リダクターゼプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、EF1aプロモーター、亜鉛誘導性ヒツジメタロチオネイン(MT)プロモーター、デキサメタゾン(Dex)誘導性マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーターシステム、エクジソン昆虫プロモーター、テトラサイクリン抑制システム、テトラサイクリン誘導性システム、RU486誘導性システムおよびラパマイシン誘導性システムが挙げられる。
【0048】
好適なプロモーターとしては、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターおよびCASIプロモーターが挙げられる。CMVプロモーターは、強力かつ遍在的に活性である。それは、多くの組織型において高レベルの導入遺伝子発現を駆動する能力を有し、当業界で周知である。CMVプロモーターを、CMVエンハンサーを含む、または含まない本発明のベクター中で使用することができる。CASIプロモーターは、CMVエンハンサー、ニワトリベータアクチンプロモーターならびにユビキチン(UBC)エンハンサーにフランキングするスプライスドナーおよびスプライスアクセプターの組合せとして記載された合成プロモーターである(US8865881)。
【0049】
本明細書で使用される「転写後調節エレメント」は、転写された場合、本発明のウイルスベクターによって送達される導入遺伝子またはその断片の発現を増強するDNA配列である。転写後調節エレメントとしては、限定されるものではないが、B型肝炎ウイルス転写後調節エレメント(HPRE)およびウッドチャック肝炎転写後調節エレメント(WPRE)が挙げられる。WPREは、全てではないが、ある特定のプロモーターによって駆動される導入遺伝子発現を増強することが証明されている3部分のシス作用エレメントである。
【0050】
本発明のベクターは、in vivo発現のために、所望のRNAまたはタンパク質配列、例えば、異種配列を送達するために使用される導入遺伝子を含んでもよい。「導入遺伝子」は、目的のポリペプチドをコードする、導入遺伝子にフランキングするベクター配列に対して異種である核酸配列である。核酸コード配列は、宿主細胞中での導入遺伝子の転写、翻訳、および/または発現を可能にする様式で調節成分に機能し得る形で連結される。本発明の実施形態においては、ベクターは、治療または予防レベルで導入遺伝子を発現する。トランスジェニックポリペプチドの「機能的誘導体」は、例えば、1個以上のアミノ酸が欠失、挿入、改変または置換された、改変型のポリペプチドである。「発現カセット」は、導入遺伝子と、宿主細胞中での導入遺伝子の翻訳、転写および/または発現にとって必要な調節エレメントとを含む。
【0051】
必要に応じて、治療的に有用な生成物または免疫原性生成物をコードする導入遺伝子を担持するベクターはまた、選択マーカーまたはリポーター遺伝子を含んでもよい。リポーター遺伝子を、当業界で公知のものから選択することができる。好適なリポーター遺伝子としては、限定されるものではないが、特に、ゲネチシン、ヒグロマイシンまたはピューロマイシン耐性をコードする配列を含んでもよい、高感度緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼおよび分泌型胚性アルカリホスファターゼ(seAP)が挙げられる。アンピシリン耐性などの、そのような選択リポーターまたはマーカー遺伝子(ウイルス粒子中にパッケージングされるウイルスゲノムの外部に位置しても、しなくてもよい)を用いて、細菌細胞中のプラスミドの存在を知らせることができる。ベクターの他の成分は、複製起点を含んでもよい。
【0052】
導入遺伝子に加えて、発現カセットは、アデノウイルスベクターをトランスフェクトされた細胞中でのその転写、翻訳および/または発現を可能にする様式で導入遺伝子に機能し得る形で連結された従来の制御エレメントも含む。本明細書で使用される場合、「機能し得る形で連結された」配列は、目的の遺伝子と連続的である発現制御配列と、目的の遺伝子を制御するためにトランスに、または一定の距離で作用する発現制御配列との両方を含む。
【0053】
導入遺伝子を、予防もしくは処置のために、例えば、免疫応答を誘導するためのワクチンとして、欠陥遺伝子もしくは欠けている遺伝子を補正もしくは置換することによって遺伝子欠損を補正するために、またはがん治療剤として使用することができる。本明細書で使用される場合、免疫応答の誘導とは、タンパク質が、タンパク質に対するT細胞および/または体液性抗体免疫応答を誘導する能力を指す。
【0054】
導入遺伝子によって惹起される免疫応答は、中和抗体を産生する、抗原特異的B細胞応答であってもよい。惹起される免疫応答は、全身応答および/または局所応答であってもよい、抗原特異的T細胞応答であってもよい。抗原特異的T細胞応答は、サイトカイン、例えば、インターフェロンガンマ(IFNガンマ)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFアルファ)および/またはインターロイキン2(IL2)を発現するCD4+T細胞を含む応答などの、CD4+T細胞応答を含んでもよい。あるいは、またはさらに、抗原特異的T細胞応答は、サイトカイン、例えば、IFNガンマ、TNFアルファおよび/またはIL2を発現するCD8+T細胞を含む応答などの、CD8+T細胞応答を含む。
【0055】
導入遺伝子配列の組成は、得られるベクターが置かれる使用に依存するであろう。ある実施形態においては、導入遺伝子は、予防的導入遺伝子、治療的導入遺伝子または免疫原性導入遺伝子、例えば、タンパク質またはRNAなどの、生物学および/または医学において有用である生成物をコードする配列である。タンパク質導入遺伝子は、抗原を含む。本発明の抗原性導入遺伝子は、疾患を引き起こす生物に対する免疫原性応答を誘導する。RNA導入遺伝子は、tRNA、dsRNA、リボソームRNA、触媒RNA、およびアンチセンスRNAを含む。有用なRNA配列の例は、処置される動物中での標的核酸配列の発現を失わせる配列である。導入遺伝子配列は、発現時に検出可能なシグナルを産生するリポーター配列を含んでもよい。
【0056】
本発明のベクターは、当業者には公知の技術と共に、本明細書で提供される技術を用いて生成される。そのような技術としては、本文中に記載されるものなどのcDNAの従来のクローニング技術、アデノウイルスゲノムの重複オリゴヌクレオチド配列の使用、ポリメラーゼ連鎖反応、および所望のヌクレオチド配列を提供する任意の好適な方法が挙げられる。
【0057】
改変ワクシニアウイルスアンカラ
改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)は、皮膚ワクシニア株アンカラに由来し、ヒトにおける使用のために弱毒化されたオルトポックスファミリーのメンバーである。弱毒化は、連続継代によって実施されており、結果として、継代回数に応じて、いくつかの異なる株または単離物が存在する。本発明の場合、MVAは、ヒトにおける使用にとって好適な任意の弱毒化株である。
【0058】
MVAのゲノム構成は記載されている(Virology (1998) 244:365)。このウイルスは、高度に免疫原性であることが知られている。それは、初回接種用ウイルスというよりはむしろ、追加接種用ウイルスとして好ましく、DNAワクチンのための有効なブースターとして記載されている(US7384644)。
【0059】
生体接着製剤
生体接着剤は、生体組織、例えば、粘膜への製剤の接着を増加させ、また、組織への製剤の浸透を増強し得る。これは、粘膜でのアデノウイルスの滞留時間を増大させる。本発明の組成物は、生体接着剤を含み、緩衝化水性溶液中に、塩、非晶質糖、界面活性剤、二価金属イオン、金属イオンキレーター、ヒスチジン、ビタミンEコハク酸塩(VES)および組換えヒト血清アルブミン(rHSA)のうちの1種以上を含んでもよい。
【0060】
「生体接着」は、合成および天然高分子が生体表面に接着するプロセスであり、「粘膜接着」は、生体表面が粘膜組織である場合の生体接着である。本発明の生体接着剤は、アデノウイルスの体内への取込みを可能にし、粘膜から全身循環へのその放出に対する妨害がほとんどないか、または全くない。生体接着剤が医薬製剤中に含まれる場合、粘膜細胞による吸収またはその部位での放出を、長期間にわたって増強することができる。合成ポリマーの場合、生体接着および粘膜接着は、いくつかの異なる物理化学的相互作用の結果生じてもよい。本発明の生体接着剤およびその分解産物は、粘膜に対して非吸収性、非刺激性であり、多くの組織に迅速に接着するべきである。いくつかの実施形態においては、それらはある程度の部位特異性を有する。
【0061】
生体接着剤、例えば、粘膜接着剤は、粘膜送達部位での滞留時間を改善することによって、活性薬剤のバイオアベイラビリティを改善することができる。これらの薬剤の好ましい特性は、それらが粘膜に対して非毒性的であり、主に非吸収性であり、非刺激性であり、上皮細胞表面との強力な非共有結合を形成するということである。好ましくは、それらは、組織に迅速に接着し、粘膜、例えば、口腔粘膜に対するいくらかの特異性を有し、その製剤からの活性ワクチン成分の放出を阻害せず、ワクチンの保存可能期間にわたって安定である。
【0062】
本発明における使用にとって好適な生体接着剤としては、ポリオキシエチレン、ポリ(エチレングリコール)(PEG);ポリ(ビニルピロリドン)(PVP);ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA);ポリマー混合物、例えば、プルロニックF-68、プルロニック127およびポロキサマー407(P407)(LUTROL)などのプルロニック;ポリアクリレート;カルボマー、例えば、カルボマー910、カルボマー934、カルボマー934P、カルボマー940、カルボマー941、カルボマー971Pおよびカルボマー974P;ポリカルボフィル;ヒアルロン酸;キトサン、例えば、キトサン、N-トリメチルキトサン(TMC)およびモノ-N-カルボキシメチルキトサン(MCC);アルギネート;グアーガム;カラゲナン;ならびにセルロースに由来するポリマーが挙げられる。セルロース性のものは、低コストで、再現性よく製造され、生体適合性である。セルロース性生体接着剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、微結晶性セルロース、酸化再生セルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースナトリウムが挙げられる。生体接着剤カルボキシメチルセルロース(CMC)は、天然セルロースポリマーの化学的に得られる誘導体である。それは消化性ではなく、毒性的ではなく、アレルゲン性ではない。
【0063】
プルロニックとしても知られるポロキサマーは、ポリオキシエチレンの2個の親水性鎖によって挟まれたポリオキシプロピレンの中心疎水性鎖から構成される非イオン性トリブロックコポリマーである。ポロキサマー溶液は、温度依存的様式で自己集合し、熱ゲル化挙動を示す。ポロキサマーの濃縮水性溶液は、可逆性プロセスにおいて、低温では液体であり、高温ではゲルを形成する。これらの系で起こる遷移は、ポリマー組成(分子量および親水性/疎水性モル比)に依存する。水と混合した場合、ポロキサマーの濃縮溶液は、容易に押し出すことができ、他の粒子のための担体、例えば、ベクターとして作用することができるヒドロゲルを形成することができる。
【0064】
カルボマーは、アクリル酸の合成高分子量ポリマーである。それらは、アクリル酸のホモポリマーであってよいか、またはペンタエリスリトールのアリルエーテル、スクロースのアリルエーテルもしくはプロピレンのアリルエーテルと架橋させてもよい。
【0065】
キトサンは、通常は、キチンからのアルカリ脱アセチル化によって得られる非毒性的で生体適合性のカチオン性バイオポリマーである。それは、粘膜接着剤として、かつ、上皮を通過する浸透性を増強し、吸収を増強するように作用することができる。キトサンは、粘膜バリアの固い接点(ジャンクション)を開き、親水性高分子の傍細胞輸送を容易にする。それはまた、金属イオンに対するキレート化能力と、広範囲のグラム陽性およびグラム陰性細菌ならびに真菌に対する抗微生物効果とを有する。微結晶性キトサン(MCC)は、非結晶性キトサンよりも高い結晶化度、水素結合エネルギーおよび水分保持力を有する。
【0066】
本発明における使用にとって好適な塩は、酸と塩基との中和反応の結果生じ、生成物が正味の電荷を有しないような関連数のカチオンおよびアニオンから構成されるイオン化合物である。成分イオンは、無機性または有機性であってよく、単原子または多原子であってもよい。ある実施形態においては、塩は、NaClである。ある実施形態においては、製剤中の塩の濃度は、100mM未満、75mM未満、50mM未満、25mM未満、10mM未満、7.5mM未満または5mM未満である。特定の実施形態においては、塩は、約5.0mMの濃度のNaClである。別の特定の実施形態においては、塩は、約75mMの濃度のNaClである。
【0067】
本発明における使用にとって好適な非晶質糖を、スクロース、トレハロース、マンノース、マンニトール、ラフィノース、ラクチトール、ラクトビオン酸、グルコース、マルツロース、イソマルツロース、ラクツロース、マルトース、ラクトース、イソマルトース、マルチトール、パラチニット、スタキオース、メレジトース、デキストラン、またはその組合せから選択することができる。ある実施形態においては、非晶質糖は、5~25%、10~20%、25~17%または約16%の濃度のスクロースである。ある実施形態においては、非晶質糖は、5~25%、10~20%、25~17%または約16%の濃度のトレハロースである。
【0068】
本発明における使用にとって好適な界面活性剤としては、ポロキサマー界面活性剤(例えば、ポロキサマー188)、ポリソルベート界面活性剤(例えば、ポリソルベート80および/またはポリソルベート20)、オクトキシナール(octoxinal)界面活性剤、ポリドカノール界面活性剤、ステアリン酸ポリオキシル界面活性剤、ポリオキシルヒマシ油界面活性剤、N-オクチル-グルコシド界面活性剤、マクロゴール15ヒドロキシステアリン酸、およびその組合せから選択される界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、水性混合物に関して算出された場合、少なくとも0.001%、少なくとも0.005%、少なくとも0.01%(w/v)、および/または最大で0.5%(w/v)の量で存在してもよい。ある実施形態においては、界面活性剤は、ポロキサマー界面活性剤(例えば、ポロキサマー188)およびポリソルベート界面活性剤(例えば、ポリソルベート80および/またはポリソルベート20)から選択される。ある実施形態においては、界面活性剤は、0.005~0.05%、0.01~0.04%、約0.02%または約0.25%の濃度のポリソルベート80である。
【0069】
本発明における使用にとって好適な二価金属イオンとしては、Mg2+、Ca2+またはMn2+が挙げられる。ある実施形態においては、二価金属イオンは、MgCl2、MgSO4、CaCl2またはMnSO4などの塩の形態のMg2+、Ca2+またはMn2+である。特定の実施形態においては、二価金属イオンは、Mg2+である。二価金属イオンは、0.05~5.0mMの濃度で水性混合物中に存在してもよい。ある実施形態では、二価金属イオンは、Mg2+塩であるMgCl2であり、約1.0mMの濃度で存在する。
【0070】
本発明における使用にとって好適な金属イオンキレーターとしては、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ビタミンB12およびジメルカプトコハク酸が挙げられる。ある実施形態においては、金属イオンキレーターは、0.5%(w/v)未満、0.25%(w/v)未満、0.1%(w/v)未満または0.05%(w/v)未満の量で存在する。ある実施形態においては、金属イオンキレーターは、0.01~1.0mM、0.05~0.5mMまたは約0.1mMの濃度のEDTAである。
【0071】
本発明の製剤はまた、必要に応じて、1.0~50mM、5.0~25mMまたは約10mMの濃度のヒスチジンを含んでもよい。本発明の製剤は、必要に応じて、0.005mM~0.5mM、0.01~0.1または約0.05mMの濃度のビタミンEコハク酸塩(VES)を含んでもよい。本発明の製剤は、必要に応じて、0.01~1.0mM、0.05~0.5mMまたは約0.1mMの濃度の組換えヒト血清アルブミン(rHSA)を含んでもよい。
【0072】
本発明における使用にとって好適な緩衝剤としては、Tris、コハク酸、ホウ酸、マレイン酸、リシン、ヒスチジン、グリシン、グリシルグリシン、クエン酸、カルボン酸またはその組合せが挙げられる。緩衝剤は、少なくとも0.5mMの量で水性混合物中に存在してもよい。緩衝剤は、50mM未満の量で水性混合物中に存在してもよい。水性混合物のpHは、少なくとも6.0かつ10未満である。ある実施形態においては、緩衝剤は、6.5~9.5または7.0~9.0のpHのTrisである。ある実施形態においては、緩衝剤は、Tris pH7.4である。ある実施形態においては、緩衝剤は、Tris pH8.4である。ある実施形態においては、緩衝剤は、Tris pH8.5である。
【0073】
粘膜免疫化
「粘膜」は、身体部分の表面の内側を覆い、それらを保護するために粘液を産生する薄い皮膚である。それは、典型的には、緩い結合組織の層を覆っている1つ以上の上皮細胞層からなる。粘膜組織としては、頬、結腸直腸、まぶたの下、胃腸、肺、鼻、眼、舌下および膣組織が挙げられる。
【0074】
非経口ワクチン接種は、全身応答を誘導することによって疾患を防止または処置することができるが、粘膜免疫化は、病原体侵入部位で免疫を誘導する。粘膜免疫応答は、分泌IgAおよび細胞傷害性T細胞を含み、両方とも重要な役割を果たしている。粘膜免疫の誘導は、典型的には、先天性免疫を刺激し、次いで、適応免疫応答を生成する、免疫誘導部位への有効な抗原送達を必要とする。
【0075】
粘膜ワクチン送達は、ワクチンの筋肉内送達に対するいくつかの利点を提供する。粘膜は身体の外部と連続しているため、粘膜ワクチンは、非経口ワクチンと比較してわずかに低い純度で有効かつ安全であり、かくして、それらは製造がより容易であり得る。それらはまた、典型的には、低用量で有効であり、かくして、費用効果的である。粘膜ワクチンは、針を必要とせず、非経口投与の痛みおよび恐怖、針の再使用および針刺し傷害に由来する感染のリスクを除去する。それらは、高度に訓練された専門家によって投与される必要がなく、かくして、より容易に広めることができ、さらには自己投与することができる。
【0076】
粘膜ワクチンを、口腔に、例えば、舌下、頬または歯肉に送達することができる。舌下および頬粘膜は、非ケラチン性上皮を有するが、歯肉粘膜は皮膚のものと類似するケラチン性上皮で覆われている。鼻腔-口腔-咽頭腔における、リンパ系組織、例えば、扁桃腺およびアデノイドは、これらの経路によって提示された抗原に対する免疫応答を媒介する。これらのリンパ系組織、特に、舌扁桃は、免疫応答を誘導するために口腔粘膜に送達されるワクチン抗原をサンプリングすることができる。口腔上皮はまた、樹状抗原提示細胞に富む。
【0077】
頬および舌下粘膜の非ケラチン性上皮は、硫酸コレステロールおよびグリコシルセラミドなどの少量の中性および極性脂質を有する;セラミドおよびアシルセラミドのような少量の非極性脂質は存在しない。したがって、それはケラチン性上皮よりも浸透性が高い。頬経路によるワクチン送達は、舌下層よりもいくらか厚い、階層化された扁平非ケラチン性上皮の層を介してアクセスされる抗原を提供する。頬送達はまた、ランゲルハンス細胞を標的とし、全身応答を誘導する。厚さ100~200μmの舌下粘膜は、頬粘膜(厚さ500~800μm)よりも相対的に薄く、より多くの血管が発達しており、より浸透性が高いことが示されている。舌下または頬に送達される抗原は、粘膜内のランゲルハンス細胞および固有層中の骨髄樹状細胞に標的化される。
【0078】
「頬」とは、頬の内側を意味する。「歯肉」とは、歯茎、口腔粘膜または唇の内表面を意味する。「舌下」とは、舌の腹側表面または舌の下の口の床を意味する。
【0079】
舌下経路によるワクチン送達は、階層化された扁平非ケラチン性上皮の非常に薄い層を介して速くアクセスされる抗原を提供し、そこでそれはランゲルハンス細胞を標的とし、全身応答を誘導する。舌の下に送達される抗原は、舌下粘膜中の樹状細胞の密なネットワークに対して利用可能になる。舌下的に送達される複製可能ウイルスは、肝臓をバイパスし、かくして、初回通過代謝を回避し、その持続性を増大させ、かくして、より強力な免疫応答を潜在的に生成する。
【0080】
舌下投与は、経口投与と比較して、必要な容量が低く、消化酵素への曝露を減少させ、腸管を回避する。舌下ワクチン接種は、鼻内ワクチンと比較して、中枢神経系の合併症のリスクがより低い。舌下投与は、低い胃のpHの障壁および腸での酵素分解を回避し、ならびに経口投与によって遭遇する初回通過肝臓代謝を回避する。舌下投与を、用量の制御が容易であると共に、水を必要とすることなく、舌の下にドロップの形態で投与することができる。
【0081】
これらの利点にも拘わらず、今まで、感染症のための舌下ワクチンは、ヒトでの使用について認可されていない。今まで、舌下投与に関して可変的応答が観察されている。変数としては、限定されるものではないが、ワクチンと舌下粘膜との接触時間、粘度および免疫原性の反応速度が挙げられる。舌下ワクチンは、安全であるが、必ずしも有効ではないことが示されている。場合によっては、全身性および粘膜免疫応答は、舌下投与に応答して観察されている(Czerkinskyら(2011) Human Vaccines 7:110)。例えば、非晶質固体製剤中のヒトアデノウイルスは、齧歯類に舌下投与した場合、免疫原性であり(US9675550)、舌下投与されたアジュバント化オブアルブミンは、マウスにおいて抗体およびT細胞応答を誘導し(Cuburuら(2007) Vaccine 25: 8598)し、アジュバント化インフルエンザワクチンの舌下投与は、粘膜および全身免疫応答を惹起し、後者は、非アジュバント化筋肉内ワクチン接種と同等であった(Galloriniら(2014) Vaccine 32:2382)。しかしながら、HIVタンパク質をコードする弱毒化ワクシニアウイルスを用いた舌下免疫化は、ウイルス攻撃に対する防御において有効ではなかった(Thippeshappaら(2016) Clin Vaccine Immunol 23:204)。この文献はまた、ウイルスワクチンベクターの製剤がその安定性および効力に影響することも証明している。
【0082】
医薬組成物、免疫原性組成物およびアジュバント
本発明の組成物を、対象への投与の前に医薬組成物に製剤化することができる。本発明は、本発明の組成物と、1種以上の製薬上許容し得る賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0083】
医薬組成物は、200mOsm/kg~400mOsm/kg、例えば、240~360mOsm/kg、または290~310mOsm/kgのオスモル濃度(重量モル浸透圧濃度、osmolality)を有してもよい。医薬組成物は、チオマーサルまたは2-フェノキシエタノールなどの、1種以上の保存剤を含んでもよい。水銀非含有組成物が好ましく、保存剤非含有ワクチンを調製することができる。医薬組成物は、無菌性または滅菌性であってもよい。医薬組成物は、例えば、用量あたり1EU(内毒素単位)未満、好ましくは、用量あたり0.1EU未満を含有する非発熱性であってもよい。医薬組成物は、グルテンフリーであってもよい。医薬組成物を、単位用量形態で調製することができる。あるいは、またはさらに、単位用量は、0.1~2.0ml、例えば、約1.0または0.5mlの容量を有してもよい。
【0084】
本発明の組成物を、任意の公知の剤形によって送達することができる。これらのものとしては、限定されるものではないが、錠剤、軟膏、ゲル、パッチおよびフィルムが挙げられる。
【0085】
本発明の組成物を、アジュバントを用いて、または用いずに投与してもよい。あるいは、またはさらに、組成物は、1種以上のアジュバント(例えば、ワクチンアジュバント)を含んでもよいか、またはそれと共に投与してもよい。
【0086】
「アジュバント」とは、組成物の活性成分に対する免疫応答を増大させる、刺激する、活性化する、強化する、またはモジュレートする薬剤を意味する。アジュバント効果は、細胞レベルまたは体液レベルで、またはその両方で生じてもよい。アジュバントは、実際の抗原に対する免疫系の応答を刺激するが、それ自体は免疫学的効果を有しない。あるいは、またはさらに、本発明のアジュバント化組成物は、1つ以上の免疫刺激剤を含んでもよい。「免疫刺激剤」とは、抗原と共に投与されるにしろ、別々に投与されるにしろ、対象の免疫応答の全体的な、時間的増加を誘導する薬剤を意味する。
【0087】
本発明のアジュバントは、粘膜および/または全身免疫応答を増加させることができる。それらは、例えば、大腸菌熱不安定性腸毒素変異体LTK63、アルファ-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)およびモノホスホリルリピドA(MPL)を含んでもよい。LTK63は、熱不安定性腸毒素LTの非毒性変異体である。変異は、アジュバント活性を保持しながら、LTのADPリボシル化活性および関連する毒性を除去する。LTK63は、タンパク質抗原の鼻送達のための強力な粘膜アジュバントとして公知であり、抗原特異的血清免疫グロブリンG(IgG)、分泌IgA、ならびに局所および全身T細胞応答を増強する。また、それは粘膜免疫化後にワクチン抗原に対するTh17応答を促進する;この作用は、粘膜表面の様々な病原体に対する防御における重要な役割を有する。α-GalCerは、ナチュラルキラー(NK)T細胞の強力かつ特異的な活性化因子であり、ウイルスベクターワクチンの粘膜投与および粘膜によって伝播する病原体に対する防御のための有効なアジュバントである。α-GalCerの投与の数時間以内に、NK細胞は、多量の調節性サイトカインと炎症性サイトカインとの両方を産生する。MPLは、Toll様受容体アゴニストである。
【0088】
使用方法/使用
病原性生物に対する免疫応答の誘導を必要とする対象において、病原性生物に対する免疫応答を誘導するための方法であって、免疫学的有効量の本明細書に開示される構築物または組成物を投与するステップを含む、方法が提供される。いくつかの実施形態は、抗原に対する免疫応答の誘導を必要とする対象において、抗原に対する免疫応答を誘導するための本明細書に開示される構築物または組成物の使用を提供する。いくつかの実施形態は、対象において抗原に対する免疫応答を誘導する薬剤の製造における、本明細書に開示される構築物または組成物の使用を提供する。
【0089】
一態様においては、本発明は、疾患または障害の治療剤、予防剤または改善剤としての使用のための本発明の組成物を提供する。別の態様においては、本発明は、疾患または障害の処置、予防または改善における使用のための本発明の組成物を提供する。さらなる態様においては、本発明は、疾患または障害の処置、予防または改善のための薬剤の製造のための本発明の組成物を提供する。さらなる態様においては、本発明は、疾患または障害の処置を必要とする対象に、有効量の本発明の組成物を投与することを含む、疾患または障害を処置する方法を提供する。
【0090】
本発明の方法は、対象を免疫するか、またはワクチン接種することによって防御免疫応答を誘導する。本発明はしたがって、感染性因子によって引き起こされる疾患の予防、処置または改善のために適用することができる。
【0091】
本発明の組成物を、単独で、または他の治療剤と組み合わせて用いることができる。本発明による併用療法は、少なくとも1つの本発明の組成物の投与および少なくとも1つの他の治療活性剤の使用を含む。本発明の組成物および他の治療剤を、単一の医薬組成物中で一緒に、または別々に投与することができる。別々に投与される場合、これは同時的に、または任意の順序で連続的に行ってもよい。
【0092】
「対象」とは、哺乳動物、例えば、ヒトまたは獣医学的哺乳動物を意味する。いくつかの実施形態では、対象は、ヒトである。
【0093】
「初回接種」とは、単一の免疫原性組成物との投与によって得られる免疫応答よりも、同一又は異なる免疫原性組成物のその後の投与後に、高レベルの免疫応答を誘導する免疫原性組成物の投与を意味する。
【0094】
「追加接種」とは、その後の投与が、免疫原性組成物の単回投与に対する免疫応答よりも、高レベルの免疫応答をもたらす、初回免疫原性組成物の投与後のその後の免疫原性組成物の投与を意味する。
【0095】
「異種初回追加接種」とは、抗原による免疫応答の初回接種および異なる分子および/またはベクターにより送達される抗原による免疫応答のその後の追加接種を意味する。例えば、本発明の異種初回追加接種レジメンは、RNA分子による初回接種およびアデノウイルスベクターによる追加接種ならびにアデノウイルスベクターによる初回接種およびRNA分子による追加接種を含む。
【0096】
「免疫学的有効量」は、抗体もしくはT細胞応答を惹起するのに十分であるか、または対象に対する有益な効果を有するのに両方とも十分である活性成分の量である。
【0097】
キット
本発明は、病原性生物によって引き起こされる疾患または状態を処置するための免疫原性、予防的または治療的レジメンの容易な投与のための医薬キットを提供する。キットは、サルアデノウイルスベクターによってコードされる1種以上の抗原の免疫学的有効量を含む初回ワクチンを投与すること、続いて、1種以上のサルアデノウイルスによりコードされた古諺の免疫学的有効量を含む追加ワクチンを投与することによって、免疫応答を誘導する方法における使用のために設計することができる。
【0098】
キットは、抗原をコードするサルアデノウイルスベクターを含む少なくとも1つの免疫原性組成物を含有する。キットは、それぞれの複数回の投与のための成分ベクターのそれぞれの複数の予めパッケージングされた用量を含有してもよい。キットの成分を、バイアル中に含有させることができる。キットはまた、本明細書に記載の初回/追加方法において免疫原性組成物を使用するための指示書を含有する。それはまた、成分の免疫原性と関連するアッセイを実施するための指示書を含有してもよい。キットはまた、賦形剤、希釈剤、アジュバント、シリンジ、免疫原性組成物を投与する、もしくは除染の他の適切な手段または他の廃棄指示書を含有してもよい。
【0099】
本発明のベクターは、当業者には公知の技術と共に、本明細書で提供される技術および配列を用いて生成される。そのような技術としては、本文中に記載されるものなどのcDNAの従来のクローニング技術、アデノウイルスゲノムの重複オリゴヌクレオチド配列の使用、ポリメラーゼ連鎖反応、および所望のヌクレオチド配列を提供する任意の好適な方法が挙げられる。
【0100】
別途説明されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。単数形の用語「a」、「an」および「the」は、本文が別途明確に指摘しない限り、複数の指示対象を含む。同様に、単語「または」は、本文が別途明確に指摘しない限り、「および」を含むことが意図される。用語「複数」とは、2以上を指す。さらに、溶液成分濃度またはその比などの物質の濃度またはレベル、ならびに温度、圧力およびサイクル回数などの反応条件に関して与えられる数的限界は、近似であることが意図される。数値に関する用語「約」は、任意のものであり、例えば、量±10%を意味する。
【0101】
用語「含む(comprising)」は「含む(including)」ならびに「からなる(consisting)」を包含し、例えば、Xを含む組成物は、Xのみからなってもよいか、または何かさらなる、例えばX+Yを含んでもよい。用語「実質的に」は、「完全に」を排除しない。例えば、Zを実質的に含まない組成物は、Zを完全に含まなくてもよい。
【0102】
本発明を、ここで以下の非限定例によってさらに説明する。
(実施例)
【実施例1】
【0103】
生体接着製剤中のアデノウイルスのin vitroでの安定性
アデノウイルスの生体接着製剤を、4℃および37℃ならびに凍結解凍後の安定性についてin vitroで試験した。安定性を、定性的PCR(qPCR)によって、また、培養細胞中のアデノウイルスヘキソンタンパク質を検出する感染性アッセイを用いて測定した。アデノウイルス安定性に対する生体接着試薬の効果を、欠失したE1/E4遺伝子領域を有し、コドン対最適化された狂犬病糖タンパク質(G)を発現する遺伝子改変された複製欠損ChAd155ベクター(ChAd155-RGco2)(WO2018/104919)を使用して評価した。
【0104】
様々な保存媒体中でのChAd155ビリオンの分解を、4℃の制御された保存温度で長時間にわたってウイルス調製物の感染性を測定することによって実験的に評価した。細胞の感染後のウイルスヘキソンタンパク質の発現を測定する、HEK293細胞中でのヘキソンELISAアッセイを使用して、感染性を決定した。安定性を、細胞に感染するウイルスの能力として表した。ウイルス感染性を、精製され、製剤化されたウイルス1ミリリットルあたりの感染性粒子の数(IP/ml)として定量した。製剤化されたウイルスのVP/mlを、ウイルスゲノムの導入遺伝子発現カセット中の領域にハイブリダイズするプローブを使用する定量的PC(qPCR)によって算出した。
【0105】
図1は、単独の、または1.5%CMCもしくは20%プルロニックを添加した、10mM Tris pH7.4、75mM NaCl、5%スクロース、0.02%ポリソルベート80、0.1mM EDTA、10mMヒスチジンおよび1mM MgCl2(製剤1)または10mM Tris pH8.5、5mM NaCl、10mMヒスチジン、16%スクロース、0.025%ポリソルベート80、1mM MgCl2、0.05mMビタミンEコハク酸塩(VES)および0.1%組換えヒト血清アルブミン(rHSA)(製剤2)中、4℃で6ヶ月間にわたるChAd155-RGco2の安定性を示す。VPおよびIPの数を測定することによって、安定性を決定した。製剤3(10mM Tris pH8.4、5mM NaCl、16%トレハロース、0.02%ポリソルベート80、0.1mM EDTA)についても観察されたように、ウイルス粒子の数は、長時間にわたって変化しなかった。
【0106】
図1はまた、CMCまたはポロキサマー407のいずれかの添加がウイルス安定性に影響しなかったことも示す。4℃で、単独の、またはCMCを添加した、製剤1および製剤2中でウイルスは安定であった。ポロキサマー407と共に製剤化した場合、ウイルスは約1ヶ月間にわたって安定性を保持した。
【0107】
-80℃で凍結し、室温で解凍した後の、生体接着試薬を含む、または含まない製剤2中でのアデノウイルスの安定性を、上記実験に記載のように測定した。ウイルス粒子の数またはその感染性に対する、これらの生体接着試薬のいずれかの存在に起因する安定性に対する影響は観察されなかった。
【実施例2】
【0108】
生体接着製剤中のアデノウイルスのin vivoでの免疫原性
アデノウイルスの免疫原性に対する生体接着剤の影響を決定するために、1x109vpのChAd155-RGco2を、製剤2、1.5%CMCを含む製剤2または20%ポロキサマー407を含む製剤2中で製剤化した。数μlを、6匹のBalb/cマウスのそれぞれに舌下的に送達した。対照として、マウスの群を、製剤2中の1x109vpのChAd155-RGco2を用いて筋肉内的に免疫した。血清中の抗狂犬病ウイルス中和抗体(VNA)の力価を、蛍光抗体ウイルス中和(FAVN)試験によってワクチン接種の4、6および8週間後に決定した。
【0109】
図2に示されるように、抗狂犬病VNA力価は、舌下的に免疫した3群間で同等であったが、製剤中のCMCまたはポロキサマー407のいずれかの存在が、狂犬病ワクチンの免疫学的効力に負に影響しなかったことを示している。舌下的に免疫した全てのマウスの力価は、血清変換閾値を優に上回っていた。予想通り、筋肉内送達は、高い血清力価を誘導した。
【実施例3】
【0110】
サルアデノウイルスの免疫原性に対する公知の粘膜アジュバントの効果
実験1
サルアデノウイルスの舌下投与は、マウスにおいて粘膜部位での免疫応答および検出可能であるが、低い全身免疫応答を誘導した。アジュバントLTK63およびアルファ-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)を製剤2中に含有させ、サルアデノウイルスのBALB/cマウスへの舌下送達後に粘膜および全身免疫応答に対するその効果を決定した。第1に、これらのアデノウイルスと共に製剤化されたアデノウイルスの安定性を、ウイルスとアジュバントとを混合し、細胞に感染させる前に2時間インキュベートし、免疫化の日に何を行うかをシミュレートすることによって、in vitroで確認した。ヘキソン免疫染色によって接着性Procell 92細胞中で感染性を評価し、これらのアジュバントがウイルスの安定性に影響しないことが確認された。
【0111】
ウイルスゲノムの異なる領域中に挿入された2つの異なる発現カセットからコードされた呼吸器合胞体ウイルス(RSV)タンパク質F、NおよびM2-1をコードする、6.4x108vpのアデノウイルスChAd155-dualRSVを用いて、3群のBalb/cマウスを、舌下的に免疫し、1群を鼻内的に免疫した(PCT/EP2018/078212)。群1の動物は、アジュバントを用いずに製剤化された7μlのウイルスを受けた。群2の動物は、5μgのLTK63を用いずに製剤化された7μlのウイルスを受け、群3の動物は、5μgのαGalCerを用いて製剤化された7μlを受けた。群4の動物を、アジュバントを含まない同じ用量のウイルスワクチンで鼻内的に免疫した。
【0112】
【0113】
初回用量の7週間後、各群の動物の半分に、サルアデノウイルス初回接種用ベクターと同じRSV抗原をコードする、4.5x106pfuの改変ワクシニアアンカラウイルスMVA-RSVを追加接種した。追加接種用ベクターを、アジュバントを含まない、7μlの容量で送達し、追加接種の1週間後に動物を屠殺した。10μgのピロカルピンの腹腔内注射によって、屠殺の日に唾液を収集した。マウスは、ピロカルピン投与の約20分後に唾液を出し始めた。
【0114】
図3は、舌下経路による免疫化が、4週(初回接種後)、7週(追加接種前)および8週(追加接種後)で全身IgG応答を誘導したことを示す。RSV Fタンパク質で被覆されたプレート上でのELISAによって血清中でIgGを測定し、ワクチン接種によって誘導された抗F抗体の血清力価を、終点力価として表す。舌下的にワクチン接種された動物において、MVA-RSVの追加接種は、非アジュバント化バクターに対する全身IgG応答に対する効果はほとんどないか、または全くなかった。アジュバント化ベクターの追加接種は、舌下的にワクチン接種された動物においてわずかな刺激効果を有していた。予想通り、鼻内経路は、血清IgG応答を誘導するのに非常に有効であった。
【0115】
図4は、初回接種後(第4週)および追加接種後(第8週)の血清中和抗体(nAb)力価を示す。Vero細胞上でのRSV-Aマイクロ中和アッセイによって、力価を測定した。プラーク形成の60%阻害を与える希釈率として、力価(ED
60)を表した。舌下投与は、血清中の抗原に対する中和、すなわち、機能的抗体を誘導した。舌下的に免疫された動物において、アジュバントの効果は観察されなかった。
【0116】
図5は、舌下経路による免疫化が、第4週(初回接種後)と第8週(追加接種後)との両方において分泌IgA(sIgA)応答を誘導したことを示す。分泌IgAを、RSV Fタンパク質で被覆したプレート上でのELISAによって1:6に希釈した唾液中で測定し、光密度(O.D.
405)として表した。sIgA応答を、アジュバントの存在下および非存在下で観察した。第4週で、アジュバントLTK63は、鼻内的にワクチン接種された動物のものと同等のレベルまで、舌下的にワクチン接種された動物中のsIgA(sIgA)を増加させた。追加接種後、sIgAのレベルは、一定のままであった。第4週で、アジュバントα-GalCerは、舌下的にワクチン接種された動物中のsIgAを増加させなかったが、追加接種後、鼻内的にワクチン接種された動物のものと同等のロバストなsIgA応答が観察された。LTK63とα-GalCerとの両方が、アジュバント化効果を有していたが、その効果は、マウス間の個々の変動を克服するのに十分に強くなかった。
【0117】
サルアデノウイルスの舌下投与は、抗原特異的T細胞応答を刺激し、追加接種と、アジュバントLTK63およびα-GalCerとの両方によって増幅される。
図6は、初回接種の4週間後および追加接種の1週間後に脾細胞および肺ホモジェネート上でIFNγELISpotアッセイを使用して測定された、ワクチン接種によって誘導された全身(脾臓)および局所(肺)RSV特異的T細胞応答を示す。IFNγELISpot分析は、抗原特異的細胞が位置した膜上にスポットを生成する色素基質の沈降をもたらす、ビオチン化されたAbと、アルカリホスファターゼにコンジュゲートされたストレプトアビジンとの複合体でサンドイッチされた膜に結合したIFN-γに対する捕捉抗体を用いて、サイトカインIFNγを分泌する抗原特異的T細胞を計数する。
【0118】
図6に示されるように、アデノウイルスの舌下投与は、4週(初回接種後)で脾臓と肺との両方において抗原特異的T細胞応答を誘導した。LTK63またはα-GalCerのいずれかと共にアデノウイルスを製剤化することは、全身的(脾臓)と局所的(肺)との両方において、追加接種後にワクチン特異的T細胞のはるかに多い拡大をもたらした。
【0119】
実験2
次いで、同様の実験を、導入遺伝子中に組み込まれたアジュバントインターロイキン1ベータ(IL1β)を添加して実施した。以下の表に示されるように、1.0x109vpのアデノウイルスChAd155-dualRSVまたは導入遺伝子カセット中にIL1βが挿入されたChAd155-dualRSV(ChAd155-dual RSV-IL1β)を用いて、4群のCB6マウスを舌下的に免疫し、1群を鼻内的に免疫し、1群を筋肉内的に免疫した。全ての動物に、第12週で、4.5x106pfuのMVA-RSVを追加接種した。
【0120】
【0121】
図7は、舌下経路による免疫化が、検出可能な前進IgG応答を誘導したことを示す。RSV Fタンパク質で被覆されたプレート上でのIgG ELISAによって、第4週、第8週、第12週(追加接種前)および第13週(追加接種後)に血清IgGを測定した。実験1に記載のように、アジュバントの明確な効果は観察されず、MVA-RSVを用いた追加接種は、全身IgG応答に対する効果がほとんどないか、または全くなかった。予想通り、鼻内および筋肉内経路は、血清抗体応答の誘導において非常に有効であった。
【0122】
図8は、舌下投与が、血清中の抗原に対する中和、すなわち、機能的抗体を誘導したことを示す。中和抗体を測定し、実験1に記載のように表した。全身中和抗体に対するアジュバントの効果は、舌下的に免疫された動物においては観察されなかった。
【0123】
図9は、舌下経路による免疫化が、第4週(初回接種後)と第13週(追加接種後)との両方において分泌IgA応答を誘導したことを示す。唾液中の分泌IgAを測定し、実験1に記載のように表した。アジュバントα-GalCerおよびIL1βは、初回接種後にsIgA産生を増加させた。IL1βでアジュバント化されたアデノウイルスの舌下投与は、鼻内投与された非アジュバント化アデノウイルスによって誘導されたものと同等の分泌IgA唾液レベルをもたらした。LTK63は、追加接種後にsIgA産生を増加させた。MVAを用いた追加接種は、アジュバントの非存在下またはα-GalCerもしくはIL1βの存在下でsIgA産生を増加させなかった。予想通り、筋肉内投与は、唾液IgA産生をもたらさなかった。
【0124】
図10は、LTK63は、鼻内免疫化と同等のレベルまで血清IgA産生を増加させることを示す。1:45に希釈された血清IgAを、Gタンパク質アガロースを用いた処理によって干渉血清IgGを枯渇させた後、Fタンパク質ELISAによって測定した。血清を、樹脂と共に2時間、室温でインキュベートし、遠心分離後、上清を特異的IgA含量について分析した。舌下投与後、LTK63は、追加接種前の第4、8および12週で、ならびに追加接種の1週後の第13週で、鼻内投与と同等のレベルまで全身IgA産生を増加させた。
【0125】
図11は、4週(初回接種後)および追加接種の1週後に脾細胞および肺ホモジェネート上でIFNγELISpotアッセイを使用して測定された、ワクチン接種によって誘導された全身および局所RSV特異的T細胞応答を示す。
図11に示されるように、初回接種時にアジュバントを含むサルアデノウイルスの製剤は、追加接種後に肺におけるワクチン特異的T細胞のより大きな拡大をもたらした。アジュバントによって惹起されたT細胞応答の拡大は、特に、局所において、すなわち、肺において明らかであった。
【0126】
結論として、粘膜経路によって送達された水性製剤中の免疫原性導入遺伝子をコードするサルアデノウイルスワクチンおよび生体接着性賦形剤は、全身的と局所的との両方において、分泌IgA、全身抗体応答およびワクチン特異的T細胞応答を誘導することができる。
【国際調査報告】