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特表2022-536145細胞老化を低下させるためのヒト肝臓幹細胞由来の細胞外小胞(HLSC-EV)
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  • 特表-細胞老化を低下させるためのヒト肝臓幹細胞由来の細胞外小胞(HLSC-EV) 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-12
(54)【発明の名称】細胞老化を低下させるためのヒト肝臓幹細胞由来の細胞外小胞(HLSC-EV)
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220804BHJP
   A61K 35/407 20150101ALI20220804BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 27/12 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 27/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220804BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20220804BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALN20220804BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K35/407
A61P43/00 107
A61P9/10
A61P3/10
A61P17/00
A61P3/04
A61P3/02
A61P21/00
A61P27/06
A61P27/12
A61P19/02
A61P19/08
A61P35/00
A61P9/12
A61P9/00
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P27/00
A61P11/00
A61P43/00
C12Q1/02
C12Q1/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573199
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(85)【翻訳文提出日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2020065986
(87)【国際公開番号】W WO2020249567
(87)【国際公開日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】19179220.9
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518361044
【氏名又は名称】ユニシテ エーファウ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ロビンズ ポール
(72)【発明者】
【氏名】カムッシ ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】エルレラ サンチェス マリア ベアトリス
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QR15
4B063QR77
4B063QS12
4B065AA93X
4B065BB12
4B065BB19
4B065BB23
4B065BB25
4B065BB34
4B065BB37
4B065BC11
4B065BD09
4B065BD12
4B065BD14
4B065CA44
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB52
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZA33
4C087ZA36
4C087ZA42
4C087ZA45
4C087ZA59
4C087ZA70
4C087ZA89
4C087ZA92
4C087ZA94
4C087ZA96
4C087ZB22
4C087ZB26
4C087ZC22
4C087ZC35
4C087ZC52
(57)【要約】
ヒト肝臓幹細胞に由来する、好ましくは、SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイにおいて測定された場合、老化細胞集団の老化を低下させることが可能である、肝細胞マーカーを発現する非卵形ヒト前駆細胞系に由来する細胞外小胞の調製物が開示される。本発明によるヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物の治療適用についても開示される。治療適用としては、例えば、in vitro又はex vivo方法における細胞老化の低下、ならびに例えばアテローム性動脈硬化、2型真性糖尿病、無力症、その他などの加齢及び細胞老化に関連することが知られる疾患及び状態の治療処置が挙げられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞(EV)の調製物であって、前記調製物が、2×108EV/mlの濃度において、試験老化細胞集団の老化を少なくとも10%低下させることを特徴とし、老化が、対照としてEVで処置されていない試験老化細胞を使用して、SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイにおいて測定される、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物。
【請求項2】
調製物が、2×108EV/mlの濃度において、老化細胞集団の老化を少なくとも30%、好ましくは40%低下させることを特徴とし、老化が、対照としてEVで処置されていない試験老化細胞を使用して、SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイにおいて測定される、請求項1に記載のヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物。
【請求項3】
SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイが、酸化ストレス誘導性老化を伴う初代マウス胚線維芽細胞(MEF)で実施される、請求項1又は2に記載のヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物。
【請求項4】
SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイが、エトポシド誘導性老化を伴うヒト肺線維芽細胞系で実施される、請求項1又は2に記載のヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物。
【請求項5】
細胞外小胞が、25歳までのヒト対象の肝臓幹細胞に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載のヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物。
【請求項6】
細胞外小胞が、継代培養10代目未満のヒト肝臓幹細胞の細胞培養物に由来する、請求項1~5のいずれか1項に記載のヒト肝臓幹細胞の調製物。
【請求項7】
ヒト肝臓幹細胞が、肝細胞マーカーを発現する非卵形ヒト肝臓多能性前駆細胞系である、請求項1~6のいずれか1項に記載のヒト肝臓幹細胞の調製物。
【請求項8】
細胞を含む生体試料において細胞老化を低下させるin vitro又はex vivo方法であって、前記細胞を含む生体試料を、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物と接触させるステップを含む、in vitro又はex vivo方法。
【請求項9】
調製物が、請求項1~7のいずれか1項に記載の調製物である、請求項8に記載のin vitro又はex vivo方法。
【請求項10】
細胞老化又は細胞老化に関連する疾患もしくは状態の治療処置における使用のためのヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の調製物である、請求項10に記載の使用のためのヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物。
【請求項12】
細胞老化に関連する疾患又は状態が、アテローム性動脈硬化、2型真性糖尿病、無力症、白髪、皮膚老化、サルコペニア、加齢性肥満症、線維症及び特定の肺線維症、緑内障、白内障、膵性糖尿病、骨関節炎、椎間板変性、がん、肺高血圧症、加齢性心血管疾患、加齢性神経変性、加齢性認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、黄斑変性症、慢性閉塞性肺障害、肺気腫、インスリン非感受性からなる群から選択される、請求項10又は11に記載の使用のためのヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物。
【請求項13】
細胞老化の低下を必要とする対象における細胞老化を低下させる方法であって、対象に、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物の有効量を投与するステップを含む、前記方法。
【請求項14】
細胞老化に関連する疾患又は状態の処置を必要とする対象における細胞老化に関連する疾患又は状態を処置する方法であって、対象に、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物の有効量を投与するステップを含む、前記方法。
【請求項15】
細胞老化に関連する疾患又は状態が、アテローム性動脈硬化、2型真性糖尿病、無力症、白髪、皮膚老化、サルコペニア、加齢性肥満症、線維症及び特定の肺線維症、緑内障、白内障、膵性糖尿病、骨関節炎、椎間板変性、がん、肺高血圧症、加齢性心血管疾患、加齢性神経変性、加齢性認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、黄斑変性症、慢性閉塞性肺障害、肺気腫、インスリン非感受性からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
調製物が、請求項1~7のいずれか1項に記載の調製物である、請求項13~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
細胞外小胞(EV)の医薬調製物を製造する方法であって、
複数の体液調製物又は細胞培養の条件培地からEVを単離するステップと、
単離されたEVから、所定のEV濃度の1種又は複数の試料を調製するステップと、
細胞老化の低下を測定する効能試験において、各EV試料の活性を試験するステップであって、老化が、対照としてEVで処置されていない試験老化細胞を使用して、SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイにおいて測定される、前記ステップと、
測定された細胞老化の低下が所定の閾値を超える調製物を選択するステップとを含み、
任意に、2種以上の選択された調製物をプールするステップを含んでもよい、前記方法。
【請求項18】
2.5×107EV/mlの濃度において選択された調製物が、少なくとも10%、好ましくは少なくとも40%、試験老化細胞集団の老化を低下させる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイが、請求項3又は4に従って実施される、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞老化を低下させる、ならびに老化に関連する疾患及び状態を処置するための幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞間の小胞媒介性伝達は、多くの生物学的プロセスにおいて重要であると考えられる。細胞から放出される小胞は、細胞間伝達の重要なメディエーターとして近年浮上してきている。「細胞外小胞(EV)」と称されているこれらの小胞は、エンドソームの細胞膜コンパートメントから放出されたエキソソーム及び原形質膜の出芽によって細胞表面から放出された微小胞を含む。EVのタンパク質、脂質及び核酸の含量は細胞の起源によって変化し、レシピエント細胞に取り込まれた後、これらはレシピエント細胞の表現型及び機能を変化させ得る情報を転送することができる。
細胞老化は、細胞が分裂することを終える現象である。最近の数十年にわたって、この現象は、加齢ならびに加齢に関連する疾患及び状態に対する重要な一因として浮上している。入手可能なエビデンスは、前駆細胞における細胞周期が停止することを原因として、老化が組織修復能を喪失させることを示唆する。さらに、老化細胞は、いわゆる老化関連分泌表現型(SASP)において、炎症促進性及びマトリックス分解性の分子を生成する。したがって、細胞老化は、治療法開発のための魅力的な標的となっている。
セノリティクスと称される、細胞培養において老化細胞を特異的に殺すことができる薬物は、in vivoで細胞老化を低下させ、加齢ならびに加齢に関連する疾患及び状態を妨げることができる。HSP90阻害剤、Bcl-2ファミリー阻害剤、ピペルロングミン、FOXO4阻害性ペプチド及びダサチニブ/ケルセチンの組合せを含む、いくつかのセノリティクスが先行技術において公知である。さらに、国際特許出願第2017/189842号は、幹細胞機能不全又は老化の増大によって引き起こされる疾患又は状態を患っている患者を処置するための方法であって、患者に、処置されるべき患者よりも若いか又は健康である対象の幹細胞から得られた細胞外小胞(EV)を含む組成物を投与するステップを含む、方法を開示する。国際特許出願第2017/189842号は、特に、細胞外小胞の供給源として間葉系幹細胞について言及している。
【発明の概要】
【0003】
本発明者らは、今日、驚くべきことに、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞が、間葉系幹細胞(MSC)に由来する細胞外小胞よりも、細胞老化を低下させるのにはるかに有効であることを見出した。
したがって、本発明の第1の態様は、細胞老化を強力に低下させることが可能である、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物である。
本発明の第2の態様は、細胞老化又は細胞老化に関連する疾患もしくは状態の治療的処置における使用のための、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物である。
本発明の第3の態様は、細胞を含む生体試料において細胞老化を低下させるin vitro又はex vivo方法であって、細胞を含む生体試料を、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物と接触させるステップを含む、方法である。
本発明の第4の態様は、それを必要とする対象における細胞老化を低下させる方法であって、対象に、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物の有効量を投与するステップを含む、方法である。
本発明の第5の態様は、それを必要とする対象における細胞老化に関連する疾患又は状態を処置する方法であって、対象に、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の調製物の有効量を投与するステップを含む、方法である。
【0004】
本発明の第6の態様は、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞の医薬調製物を製造する方法であって、調製物が、細胞老化を強力に低下させることが可能である、方法である。本発明の第6の態様による方法は、
(a)体液の複数の調製物又は細胞培養の条件培地からEVを単離するステップと、
(b)単離されたEVから、所定のEV濃度の1種又は複数の試料を調製するステップと、
(c)細胞老化の低下を測定する効能試験において、各EV試料の活性を試験するステップであって、老化が、対照としてEVで処置されていない試験老化細胞を使用して、SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイにおいて測定される、ステップと、
(d)測定された細胞老化の低下が所定の閾値を超える調製物を選択するステップと、を含む。
本発明の方法は、ステップ(d)において選択された調製物のうちの2種以上をプールするステップをさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】MEF細胞(図1A)及びIMR90細胞(図1B)を、70歳のドナーから得られ、かつ継代培養6代目から採取したヒト肝臓幹細胞(HLSC2(P6))に由来する様々な濃度の細胞外小胞(EV)で処置することによって得られる老化の低下を示すグラフである。対照は処置されていない細胞である。老化は、SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイによって測定した。
図2】MEF細胞(図1A)及びIMR90細胞(図1B)を、15歳のドナーから得られ、かつ継代培養4代目から採取したヒト肝臓幹細胞(HLSC6B(P4))に由来する様々な濃度の細胞外小胞(EV)で処置することによって得られる老化の低下を示すグラフである。対照は処置されていない細胞である。老化は、SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイによって測定した。
図3】MEFを、より低濃度の図2の細胞外小胞(EV)で処置することによって得られる老化の低下を示すグラフである。対照は処置されていない細胞である。老化は、SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイによって測定した。
図4】継代培養5代目から採取したヒト臍帯MSC由来のEVの老化を低下させる活性と、SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイによってMEFで試験したHLSC6B由来のEVの老化を低下させる活性との間の比較を示すグラフである。
図5】MEFを、継代培養4代目及び10代目において採取した、異なる濃度のHLSC2由来のEVとHLSC6B由来のEVで処置することによって得られた老化の低下を示すグラフである。老化は、SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイによって測定した。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞が、ドナーの年齢及び得られる細胞の継代培養の継代数とは無関係に、細胞老化を低下させることができるという発見に基づく。これは、高齢者の幹細胞ではなく若年者からの条件培地が、線維芽細胞及び老化幹細胞の老化を改善し得ることを開示する国際特許出願第2017/189842号の教示に相対する驚くべき発見である。さらに、国際特許出願第2017/189842号は、EVの供給源として間葉系幹細胞について言及するが、本発明者らは、ヒト肝臓幹細胞に由来するEVが、間葉系幹細胞(MSC)に由来する細胞外小胞よりも細胞老化を低下させるのにはるかに有効であることを見出した。
セノリティクスとして細胞外小胞を使用する1つの利点は、細胞外小胞が天然物であるという事実に由来する。さらに、実施例において示されるように、ヒト肝臓幹細胞は容易に単離され、細胞外小胞は単離されたヒト肝臓幹細胞から簡単に精製される。細胞外小胞は、損傷した老化細胞を優先的に標的とすることが示されており、このことにより、細胞外小胞は、細胞老化を低下させ、細胞の損傷及び老化によって引き起こされる疾患及び状態を処置するのに特に有効なツールとなる。
【0007】
細胞老化は、Hayflick, L. & Moorhead, P. S. The serial cultivation of human diploid cell strains. Exp Cell Res. 25 585-621, (1961)に初めて記載された。老化細胞は、養分、成長因子の存在及び接触阻害の非存在にかかわらず増殖しないが、代謝的には活性なままである。この現象は、「複製老化」として知られており、主にテロメア短縮に起因する。さらなる研究によって、発癌ストレス、DNA損傷、細胞傷害性薬物及び放射線照射などの他の刺激によっても老化が誘導され得ることが示されている。ある特定の状況下では、細胞老化は腫瘍サプレッサーとして作用するため、有益である場合がある。しかし、老化は、細胞損傷の蓄積により、加齢と共に増加する。老化細胞は、いわゆる老化関連分泌表現型(SASP)を構成するサイトカイン、メタロプロテイナーゼ及び成長因子を分泌する。加齢に依存する細胞老化及びSASPの増加は、組織恒常性の減少及び加齢の一因である。さらに、加齢に依存する老化負荷の増加は、多数の加齢に関連する疾患及び状態の原因であり得る。
【0008】
細胞老化といくつかの疾患及び状態との関係は、先行技術において公知である。公知の老化に関連する疾患及び状態としては、例えば、アテローム性動脈硬化、2型真性糖尿病、無力症、白髪、皮膚老化、サルコペニア、加齢性肥満症、線維症及び特定の肺線維症、緑内障、白内障、膵性糖尿病、骨関節炎、椎間板変性、がん、肺高血圧症、加齢性心血管疾患、加齢性神経変性、加齢性認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、黄斑変性症、慢性閉塞性肺障害、肺気腫、インスリン非感受性が挙げられる(とりわけ、He S, Sharpless NE. Senescence in Health and Disease. Cell. 2017;169(6):1000-1011; Campisi J. Aging, cellular senescence, and cancer. Annu Rev Physiol. 2012;75:685-705; Childs BG, Durik M, Baker DJ, van Deursen JM. Cellular senescence in aging and age-related disease: from mechanisms to therapy. Nat Med. 2015;21(12):1424-1435; Jeck WR, Siebold AP, Sharpless NE. Review: a meta-analysis of GWAS and age-associated diseases. Aging Cell. 2012;11(5):727-731;. Munoz-Espin, D. and Serrano, M. Cellular senescence: from physiology to pathology. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 2014;15:482-496; van Deursen JM. The role of senescent cells in ageing. Nature. 2014;509(7501):439-446を参照されたい)。
【0009】
したがって、ヒト肝臓幹細胞に由来する細胞外小胞は、細胞老化を低下させ、前述の老化に関連する疾患及び状態を処置するのに特に好適である。
本発明の中でEV供給源として使用するために特に好ましい肝臓幹細胞型は、国際特許出願第2006/126236号に記載される肝細胞マーカーを発現する非卵形ヒト肝臓多能性前駆細胞系である。国際特許出願第2006/126236号は、前述の非卵形ヒト肝臓多能性前駆細胞系を単離する方法も開示する。国際特許出願第2006/126236号の非卵形ヒト肝臓多能性前駆細胞系(本明細書においてHLSCと示される)及びHLSCを調製するための方法は、参照により本明細書に組み込まれる。
好ましい実施形態では、非卵形ヒト肝臓多能性前駆細胞系は、成熟肝臓細胞、インスリン産生細胞、骨形成原細胞及び上皮細胞に分化することが可能である。さらに好ましい実施形態では、非卵形ヒト肝臓多能性前駆細胞系は、肝細胞マーカーであるアルブミンならびに幹細胞マーカーであるCD44、CD73、及びCD90を発現し、細胞マーカーであるCD117、CD34、及びCD45を発現しない。
【0010】
幹細胞の供給源の種類の次に、患者の年齢及び一般的な健康状態が、細胞老化を低下させるEV調製物の能力に影響を及ぼす。70歳の患者から採取したEVは依然として有効であることが示されたが、より年齢の若い患者由来の幹細胞に由来するEVはより高い有効性を伴う。EVが、25歳までの患者由来の幹細胞供給源から得られることが好ましい。
さらに、EVが由来する幹細胞の継代培養の培養回数が多いほど、細胞老化を低下させるEV調製物の能力は減少する。継代培養10代目のHLSC培養物から採取したEVの調製物は、依然として有意な老化を低下させる活性を示すが、継代培養10代目未満のHLSC培養物から採取したEV調製物が好ましい。
【0011】
細胞老化を測定するために多数のマーカーを利用可能であるが、老化細胞を検出するための現在の標準は、pH6における特定のβ-ガラクトシダーゼの酵素活性の測定である(Dimri GP, Lee XH, Basile G, Acosta M, Scott C, Roskelley C et al. A biomarker that identifies senescent human-cells in culture and in aging skin in-vivo. Proc Natl Acad Sci USA 1995;92:9363-9367)。有利には、SA-β-galは、すべての老化細胞型に認識されるマーカーであり、それによって、SA-β-galアッセイをすべての細胞型の老化の評価に使用することができる。
一般的なSA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイに従って、アッセイされるべき細胞試料は培養培地でインキュベートし、次いで、ヘキスト染料などのDNAインターカレート色素と接触させる。次いで、SA-β-gal陽性細胞は、sCMOSカメラ検出技術によるなどの通常の方法によって定量される。
上述したように、SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイは、様々な細胞型で実施することができる。SA-β-gal細胞老化アッセイを実施するための十分に認識された細胞型は、エトポシド誘導性老化を伴うヒトIMR90線維芽細胞及び酸化ストレス誘導性老化を伴う初代Ercc1-/-マウス胚線維芽細胞(MEF)であり、いずれもFuhrmann-Stroissnigg, H. et al. Identification of HSP90 inhibitors as a novel class of senolytics. Nat Commun. 8 (1), 422, (2017)に記載される。
【0012】
前述のタイプのSA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイを使用して行われる実験研究において、本発明者らは、ヒト肝幹細胞に由来するEVが、臍帯MSC由来のEVと比較して、細胞の老化を低下させるのに特に有効であることを見出した。このために特に好ましいEVは、国際特許出願第2006/126236号に開示される肝細胞マーカーを発現する非卵形ヒト肝臓多能性前駆細胞系に由来するEVである。
さらに、前述のタイプのSA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイを使用することによって、本発明者らは、特に強力な老化を低下させる活性を有するヒト肝幹細胞に由来するEVの調製物を得た。実際に、本発明者らは、このようなEVの調製物が、2.5×107EV/mlの濃度において用いられる場合に、老化細胞集団の老化を約10%低下させることが可能であることを見出した。約2×108EV/mlの用量で、本発明の調製物が、老化を約40%低下させることが示された。
【0013】
ヒト肝幹細胞に由来するEVの調製物の強力な老化を低下させる活性に基づいて、本発明による2×108EV/mlの濃度のEV調製物は、試験老化細胞集団の少なくとも10%の老化の低下を示し、ここで、老化は、対照としてEVで処置されていない試験老化細胞を使用して、SA-β-ガラクトシダーゼに基づく細胞老化アッセイにおいて測定される。好ましい実施形態では、2×108EV/mlの濃度のEV調製物は、少なくとも25%、より好ましくは40%の老化の低下を示す。別のさらなる実施形態では、2.5×107EV/mlのより低い濃度の調製物は、少なくとも7%、より好ましくは10%の老化の低下を示す。
興味深いことに、細胞外小胞が、年配のドナー(すなわち、70歳)に由来する場合、又は細胞外小胞が、延長された期間、例えば継代培養10代目まで培養されていた細胞から精製される場合であっても、強度は低下するが、本発明のEV調製物の老化を低下させる活性は存在する。
【実施例
【0014】
ヒト肝臓幹細胞(HLSC)の単離
HLSCを、以前に記載されたように(Herrera Sanchez MB, Bruno S, Grange C, Tapparo M, Cantaluppi V, Tetta C, et al. Human liver stem cells and derived extracellular vesicles improve recovery in a murine model of acute kidney injury. Stem Cell Res Ther (2014) 5(6):124)、ヒトの凍結保存された成人の正常肝細胞(Lonza、Basel、Switzerland)から単離した。
簡単に言うと、HLSC6BとHLSC2を、L-グルタミン(5mM)、ペニシリン(50IU/ml)、ストレプトマイシン(50μg/ml)(すべてSigma、St.Louis、MO、USA由来)、10%のウシ胎仔血清(FCS)(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)ならびにヒト組換え上皮成長因子(rhEGF)及び塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)(いずれも4ng/ml)を補充したアルファ最小必須培地(Lonza、Basel、Switzerland)中で培養した。細胞を、以前に記載されたように、拡大させ、特徴付けし、凍結保存した。細胞外小胞(EV)単離の2日前に、HLSCを、FCSをEV枯渇FCSで置換した培養培地中で培養し、血清中のEV夾雑を回避した。
【0015】
細胞外小胞(EV)の単離
無血清Roswell Park Memorial Institute Medium(RPMI)(Euroclone S.p.A、Italy)中で18時間培養したHLSC6bとHLSC2(T75フラスコ当たり2×106個の細胞)の上清から、細胞外小胞(EV)を得た。上清収集の時点での細胞の生存率は、トリパンブルー色素排除によって確認した場合、98%であった。簡単に言うと、細胞片及びアポトーシス小体の除去のために、上清を4℃で、3,000gで15分間遠心分離し、その後、4℃で、100,000gで2時間超遠心分離した(Beckman Coulter Optima L-90K、Fullerton、CA、USA)。得られたEVのペレットを、1%のジメチルスルホキシド(DMSO)を補充したRPMI中に再懸濁させ、使用するまで-80℃で保存した(Herrera Sanchez MB, Previdi S, Bruno S, Fonsato V, Deregibus MC, Kholia S, et al. Extracellular vesicles from human liver stem cells restore argininosuccinate synthase deficiency. Stem Cell Res Ther (2017) 8(1):176)。
【0016】
MEFアッセイ
Ercc1-/- MEFを、Fuhrmann-Stroissnigg, H. et al. Identification of HSP90 inhibitors as a novel class of senolytics. Nat Commun. 8 (1), 422, (2017)に開示されたように単離した。基本的に、同文献に開示されたように、MEFアッセイを実施した。簡潔には、処置の少なくとも6時間前に、20%O2で、MEF(5×103)を96ウェルプレートの1ウェルごとに播種した。EVを添加した後、MEFを20%O2の酸素条件下で24~48時間インキュベートした。SA-β-Gal活性の蛍光分析のために、細胞をPBSで1回洗浄し、C12FDG(10μM)を培養培地に添加し、細胞を1.5~2時間インキュベートした。分析の10分前に、DNAインターカレートヘキスト色素(2μg/ml)を細胞に添加した。細胞数(ヘキスト染色)及びC12FDG陽性の老化細胞数の定量分析のために、広視野sCMOSカメラ検出技術を用いるレーザーベース回線走査共焦点イメージャーIN Cell Analyzer 6000を使用した。画像化したプレート及びウェル、波長、ならびに曝露時間などのパラメーターを含むAcquisitionソフトウェアv4.5を使用して、獲得プロトコールを確立した。様々な決定樹の作成及び様々な画像スタックに対する適切な分類フィルターの適用を可能にするMulti Target Analysis Moduleを使用して、獲得した画像を分析した。すべての試料を、ウェル当たり3~5視野で、二連で分析し、それに従って平均値及び標準偏差を計算した。
【0017】
IMR90肺線維芽細胞
American Type Culture Collection(ATCC)からヒトIMR90肺線維芽細胞を入手し、10%FBS及びpen/strep抗生物質を含むEMEM培地中で培養した。老化を誘導するために、細胞を20μMのエトポシドで24時間処置した。エトポシドを除去した2日後に、試験したIMR90細胞の約70%がSA-β-Gal陽性であった。細胞を100nMの17-DMAGで48時間処理し、C12FDGに基づく老化アッセイを使用して、SA-β-Gal陽性細胞のパーセンテージを決定した。このアッセイは、Fuhrmann-Stroissnigg, H. et al. Identification of HSP90 inhibitors as a novel class of senolytics. Nat Commun. 8 (1), 422, (2017)に開示される。
【0018】
結果
上記で例示した実験研究は、15歳のドナーから得たヒト肝臓幹細胞(HLSC6B)に由来する細胞外小胞及び70歳のドナーから得たヒト肝臓幹細胞(HLSC2)に由来する細胞外小胞に関して実施した。
実験データは、HLSC6B由来のEVとHLSC2由来のEVの両方が、再現可能に老化IMR90細胞と老化MEF細胞のパーセントを低下させることができることを示す(図1A、B 図2A、Bを参照されたい)。図3は、HLSC6B由来のEVの老化を低下させる活性が、2.5×107EV/mlの低濃度でも、すでに顕著であることを示す。
MIFアッセイとIMR90アッセイの両方において、HLSC6B由来のEVは、HLSC2由来のEVよりも、線維芽細胞の老化を低下させるのにより有効であり、両タイプのHLSC由来のEVは、臍帯MSC由来のEVよりも、いずれの場合もより有効である(図A、B及び図1A、Bを参照されたい)。
【0019】
さらに、実験は、老化を抑制するHLSC由来のEVの能力は継代培養と共に衰えるが、この能力は、継代培養15代目において依然として観察され、HLSC6B由来のEVの場合とHLSC2由来のEVの場合の両方で、継代培養10代目において統計的に有意であることを示す(図5を参照されたい)。
これらの図において、「細胞数」は、1に正規化される対照細胞(すなわち、EVで処置されていない)に関して測定される老化レベルを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】