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特表2022-536154スリップクラッチ解放イベントを検出するための方法及び電動工具
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  • 特表-スリップクラッチ解放イベントを検出するための方法及び電動工具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-12
(54)【発明の名称】スリップクラッチ解放イベントを検出するための方法及び電動工具
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20220804BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20220804BHJP
   B23B 51/04 20060101ALI20220804BHJP
   B23Q 11/04 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
B23Q17/09 Z
B23Q11/00 D
B23B51/04 Z
B23Q11/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573257
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(85)【翻訳文提出日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2020066781
(87)【国際公開番号】W WO2020260093
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】19182950.6
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100, 9494 Schaan, LIECHTENSTEIN
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ザットラー, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】バルター, マルコ
(72)【発明者】
【氏名】フリッチュ, フランク
【テーマコード(参考)】
3C011
3C037
【Fターム(参考)】
3C011AA14
3C037AA05
(57)【要約】
発明は、工作機械においてスリップクラッチがトリガされたかどうかを検出するための方法と、提案される方法を実行するよう設計される工作機械とに関する。この目的のために、工作機械は、特に、工作機械のための駆動装置としてのモータと、コントローラと、伝達装置と、伝達装置の第1の速度を検出するための第1のセンサと、モータの速度を検出するための第2のセンサと、電流値を検出するための第3のセンサと、スリップクラッチとを備える。提案される方法によれば、速度及び電流値が、特に、スリップクラッチトリガイベントを検出するために用いられる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリップクラッチ解放イベントが起こったかどうかを検出するための方法であって、電動工具(1)は、前記電動工具(1)のための駆動装置としてのモータ(3)と、制御装置(4)と、歯車装置(5)と、前記歯車装置(5)の第1の速度を検知するための第1のセンサ(10)と、前記モータ(3)の第1の速度を検知するための第2のセンサ(20)と、電流値を検知するための第3のセンサ(30)と、更にスリップクラッチ(12)とを備え、
以下の方法ステップ、即ち、
a)前記第1のセンサ(10)によって前記歯車装置(5)の第1の速度を特定するステップと、
b)前記第2のセンサ(20)によって前記モータ(3)の第1の速度を特定するステップと、
c)前記第3のセンサ(30)によって電流値を特定するステップと、
d)前記センサ(10、20、30)によって検知される前記速度及び電流値を用いることによって、前記電動工具(1)の状態を特定するステップと、を特徴とし、
前記制御装置(4)は、
-特定される前記電流値に応じて前記歯車装置(5)の状態を特定し、
-特定される前記速度値に応じて前記スリップクラッチ(12)の作動状態を確認するよう設計され、
前記制御装置(4)は、前記歯車装置(5)の前記状態と前記スリップクラッチ(12)の前記作動状態との組み合わせによって、スリップクラッチ解放イベントが起こったかどうかを確認する、
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記制御装置(4)は、前記モータ速度及び前記シャフト速度の比を形成し、この比は、前記電動工具(1)の前記歯車装置(5)の伝達に対応し、前記歯車装置(5)の歯車段に割り当てることができることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、前記電動工具(1)の前記モータ(3)は、前記電動工具(1)の前記スリップクラッチ(12)の解放が確認された場合に、スイッチがオフになることを特徴とする方法。
【請求項4】
電動工具(1)であって、
-前記電動工具(1)のための駆動装置としてのモータ(3)と、
-制御装置(4)と、
-歯車装置(5)と、
-前記歯車装置(5)の第1の速度を検知するための第1のセンサ(10)と、
-前記モータ(3)の速度を検知するための第2のセンサ(20)と、
-電流値を検知するための第3のセンサ(30)と、
更に、スリップクラッチ(12)と、を備え、
前記電動工具(1)は、前記センサ(10、20、30)によって検知される速度値及び電流値によって、前記スリップクラッチ(12)の解放を検出するよう設計されることを特徴とする電動工具(1)。
【請求項5】
請求項4に記載の電動工具(1)であって、前記電動工具(1)は、前記第1のセンサ(10)を前記制御装置(4)に接続する第1のライン(8)を備えることを特徴とする電動工具(1)。
【請求項6】
請求項4及び5のいずれかに記載の電動工具(1)であって、前記電動工具(1)は、前記第2のセンサ(20)を前記制御装置(4)に接続する第2のライン(9)を備えることを特徴とする電動工具(1)。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載の電動工具(1)であって、前記電動工具(1)は、前記第3のセンサ(3)を前記制御装置(4)に接続する第3のライン(11)を備えることを特徴とする電動工具(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動工具のスリップクラッチが解放されたかどうかを検出するための方法、並びに提案される方法を実行するよう設計される電動工具に関する。この目的のために、電動工具は、特に、電動工具のための駆動装置としてのモータと、制御装置と、歯車装置と、歯車装置の第1の速度を検知するための第1のセンサと、モータの第1の速度を検知するための第2のセンサと、電流値を検知するための第3のセンサと、また、スリップクラッチとを備えている。提案される方法の場合、速度及び電流値が、特にスリップクラッチの解放を検出するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
機械式スリップクラッチ即ち安全クラッチを有する電動工具は、従来技術において公知である。しかし、スリップクラッチ即ち安全クラッチがどれだけ頻繁に解放されたか又は対応する解放イベントがどれだけ長く続いたかに応じて、これら従来の電動工具は摩耗及び損耗の大きな影響を示す。摩耗及び損耗のこれらの影響の別の望ましくない結果は、スリップクラッチの解放トルク、従って電動工具全体の性能も時間とともに低下することである。この理由の中には、低減された解放トルクが、解放イベントの数を増加させることがあり、これは、スリップクラッチの解放によって引き起こされるダウンタイムにおいて電動工具を用いることができないため、例えば、電動工具の稼働時間に不利な影響を及ぼす。従って、例えば、ある特定数の解放イベントを超過した装置を修理することを求めるために、スリップクラッチの解放を確実に検出することができる方法を提供することができれば望ましいであろう。
【0003】
幾つかの工具又は電動工具は、自動送り装置と共に用いられる。かかるシステムは、例えば、オートフィードと称する。電動工具が自動送り装置と共に用いられる場合、送り装置によって制御される自動プロセスは、所望の方法で継続されない可能性があり、及び/又はスリップクラッチの解放イベントが発生した場合に終了する可能性がある。
【0004】
例えば、かかるオートフィード装置は、コアドリルとして設計される電動工具と共に用いられる。例えば、電動コアドリル等の電動工具は、一般的に、例えば、コンクリート又はレンガ等の無機物に穴を開ける目的に役立つ。このために、コアドリルは通常、工具取付具と、例えばドリルビットの形態の工具とを含んでいる。モータは、歯車装置を介して工具と共に工具取付具を回転運動で駆動する。回転運動に設定されたドリルビットは、ダイヤモンドチップ切刃によって材料に環状穴を開け、それによって円筒状ドリルコアを作製する。穿孔又は切削作業が終了した後、このドリルコアはボアホールから取り出される。
【0005】
スリップクラッチの解放に関する信頼できるデータはこれまでのところ入手できない。特に、これまでのところ、かかるデータを収集し、格納し、一定時間で評価することは技術的に可能ではなかった。しかし、かかる信頼性のあるデータ、特に、装置当たりの解放イベントの数、ドリル穴当たりの解放イベントの数、又は年当たりの解放イベントの数を説明するデータが利用可能であれば、スリップクラッチの改良及び更なる開発にとって望ましいであろう。
【0006】
例えば、独国特許出願公開第10 2011 082 988 A1号明細書は、電動工具、特に電動グラインダを制御するための装置であって、電動工具の動作機能を制御し、且つ電動工具をプログラムすることを目的とする装置を説明している。装置は、定型入力において入力を実行するために用いることができる操作パネルを備えている。
【0007】
欧州特許出願公開第2 927 186 A1号明細書は、少なくとも1つのグラフィックディスプレー装置と、制御装置と、産業用トラックを操作及び/又は整備するための情報が格納されているメモリ素子とを有する産業用トラックのコントローラを開示している。動作状態、発生した障害、又は入力装置に入力することができる要求に応じて、制御装置は、割り当てられた情報を有するバーコードをディスプレー装置上に表示してもよい。
【0008】
独国特許出願公開第10 2016 010 068 A1号明細書において、状態データを備える数値コントローラが開示されている。状態データは、機械加工状態又はメニュー要素に関するものであってもよい。更に、独国特許出願公開第10 2016 010 068 A1号明細書において、メニュー表示におけるメニュー要素表示シーケンスを特定するための機械学習モデル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従って、上で説明した先行技術の欠点及び不具合を克服すること、及びスリップクラッチ解放イベントを検出するための方法、並びにその方法を実行する電動工具を提供することにある。発明により、本発明の目的のためのスリップクラッチイベントは、電動工具の状態に影響を及ぼすことができるイベントとして考えられることが好ましいため、例えば、スリップクラッチの解放イベントに関する信頼できるデータを収集し、評価することを可能にすることが意図される。特に、スリップクラッチが特に頻繁に解放されるか、又は解放イベントのある特定の限界値に既に到達している場合にそれらの装置又は装置の種類が、方法によって識別されることになる。例えば、スリップクラッチの解放の危険性が増大したある特定の種類の装置を識別することができる場合、この種類の装置に特化して改善作業を行うことができる。スリップクラッチの解放の危険性が増大した個々の装置を方法によって識別することができる場合、これら装置の所有者に、それらの装置を整備するか、又は他の改善策を講じるよう要求することができる。また、本発明の目的は、特に、自動送り装置と共に動作するそれら電動工具におけるスリップクラッチ解放イベントを検出するための方法を提供することにある。
【0010】
目的は、独立請求項の主題によって達成される。独立請求項の主題の有利な実施形態は、従属請求項において見出され得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
目的は、スリップクラッチ解放イベントが起こったかどうかを検出するための方法であって、電動工具は、電動工具のための駆動装置としてのモータと、制御装置と、歯車装置と、歯車装置の第1の速度を検知するための第1のセンサと、モータの第1の速度を検知するための第2のセンサと、電流値を検知するための第3のセンサと、また、スリップクラッチとを備える、方法によって達成される。方法は、以下の方法ステップ、即ち、
a)第1のセンサによって歯車装置の第1の速度を特定するステップと、
b)第2のセンサによってモータの第1の速度を特定するステップと、
c)第3のセンサによって電流値を特定するステップと、
d)センサによって検知される速度及び電流値を用いることによって、電動工具の状態を特定するステップと、を特徴とし、制御装置は、特定される電流値に応じて歯車装置の状態を特定するよう設計され、制御装置は、特定される速度値に応じてスリップクラッチの作動状態を確認するよう設計され、制御装置は、歯車装置の状態とスリップクラッチの作動状態との組み合わせによって、スリップクラッチ解放イベントが起こったかどうかを確認することを特徴とする。
【0012】
本発明の特に最も好ましい実施形態において、電動工具は電動コアドリル又はコアドリルである。電動工具の工具は、この場合、例えばドリルビットであってもよい。提案される方法が電動工具のスリップクラッチの解放イベントを検出するために用いられることが特に最も好ましい。これに関連して、電動工具がスリップクラッチを有することが特に好ましい。方法ステップd)は、この場合、電動工具のスリップクラッチの解放が起こったかどうかを特定することを意味してもよく、センサによって特定される電流及び速度値は、この特定のためにも用いられることが好ましい。
【0013】
好ましくは、電動工具の状態は、電動工具のスリップクラッチの解放によって影響を受けてもよく、その結果、スリップクラッチ解放イベントが発生したか否かに関する結論を、電動工具の特定された状態から引き出すことができる。特に、好ましくはその動作中に電動工具のセンサによって検知される速度及び電流値は、スリップクラッチ解放イベントが起こったかどうかを調査するために用いられる。スリップクラッチ解放イベントが特定された場合、電動工具のモータは、これに対する応答として、又は任意選択の方法ステップe)として、電動工具のモータのスイッチをオフにしてもよい。電動工具が自動送り装置と共に用いられる場合、送り装置の駆動力を、スリップクラッチ解放イベントに対する応答として減少させてもよい。本発明の目的のため、送り装置又は電動工具が略完全に負荷から解放されることも好ましい可能性がある。加えて、スリップクラッチ解放イベントを検出した後、ドリルビットは、電動工具がコアドリルである場合、ボアホールから引き抜かれてもよい。
【0014】
本発明の目的のため、スリップクラッチは、電動工具の工具と電動工具のモータとの間に配置されることが好ましい。電動工具がコアドリルである場合、スリップクラッチはドリルビットとモータとの間にあることが好ましい。特に、スリップクラッチは、ドリルビットとコアドリルのモータとの間の機械的接続を形成する。本発明の目的のため、スリップクラッチは、ドリルビット及びモータが略同じ回転速度で回転している場合、「アクティブ」であると考えられることが好ましい。ドリルビット及びモータが異なる回転速度を有する場合、スリップクラッチは「非アクティブ」であると考えられることが好ましい。本発明の目的のため、モータ及びドリルビットの回転速度がセンサによって特定されることが特に好ましい。モータ回転速度を特定するためのセンサは、例えば、モータの空間的近傍に配置されてもよい。それは、好ましくは、本発明の目的のための第2のセンサであり得る。ドリルビットの回転速度を特定するためのセンサは、例えば、ドリルビットの空間的近傍に配置されてもよい。加えて、歯車センサが回転速度を測定するために用いられてもよい。上述のセンサは、例えば、ホールセンサとして設計されてもよい。
【0015】
方法ステップd)によれば、コアドリルの状態は、センサによって検知される速度及び電流値を用いることによって特定されてもよい。電流値は、第3のセンサによって特定され、電流値は、特に、歯車装置がアイドリング状態であるかどうか、又はスリップクラッチがアクティブであるかどうかを区別することができるようにするために用いられる。本発明の文脈において、アイドリングは、比較的小さい電流値が第3のセンサによって測定されることを特徴とすることが好ましい。本発明の文脈において、小さい電流値は、結果的に、あまり激しく動作する必要のないコアドリルのモータに関連付けられる。スリップクラッチがアクティブである状態は、好ましくは、第3のセンサによって特定される比較的大きな電流値から検出され得る。この状態は、コアドリルのモータが激しく動作しなければならないことに関連付けられることが好ましい。この点で、第3のセンサによって特定される電流値は、特に、歯車機構の状態を確認するために用いられる。これにより、スリップクラッチが解放されたか否かに関する結論を引き出すことが可能であることが好ましい。言い換えれば、電流値は、特に、スリップクラッチ解放イベントが起こったか否かを特定するために用いることができる。スリップクラッチの動作を再現又は表すのは電流値であることが好ましい。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、電動工具は、電動工具を切削される材料内に駆動するよう設計されることが好ましい自動送り装置と共に動作してもよい。特に、オートフィードとして公知のかかる装置と共に、スリップクラッチ解放イベントを検出するための提案される方法は、スリップクラッチの解放が起こると、又は、かかる解放イベントが提案される方法を実行することによって特定されると、送り装置によって自動的に制御されるプロセスを所望の方法で継続するか又は終了することができる効果を有する。特に、スリップクラッチ解放イベントが検出される場合、スリップクラッチの解放に応答するために、送り装置の駆動力を低減できることが好ましい。後の時点で、送り装置の駆動力は、次いで、例えば元の又は異なるレベルに再度増加されてもよい。
【0017】
加えて、提案される方法は、解放イベントに関する情報を収集及び評価するために用いられてもよい。結果として、スリップクラッチの解放の理解を更に向上させることができ、得られた知見を用いて、基盤技術を更に最適化することができる。スリップクラッチが解放されたかどうかを電動工具で検出するような方法で、速度及び電流値を互いに組み合わせて、共同評価において考慮することができることは、当業者にとって驚くべきことであった。
【0018】
提案される方法は、有利に、スリップクラッチの寿命又は耐用年数の増加に繋がり、また、短い停止時間又は比較的長い運転時間を有する電動工具の安定した性能をもたらす。特に、オートフィード装置を用いる場合、高いプロセス完了率を達成することができ、プロセスを計画通りに又は所望通りに完了させることができる。試験により、提案される方法を実施する電動工具の停止時間を大幅に短縮できることが示された。
【0019】
本発明の更なる利点は、スリップクラッチの解放を検出することによって、スリップクラッチが解放期間の観点から制限できることである。これは、例えば、電動工具のモータのスイッチをオフにすることによって達成することができる。これらの手段によって、スリップクラッチの耐用年数を有利に大幅に延長することができる。この耐用年数の延長は、以下の計算例によって説明することができる。スリップクラッチ解放イベントの頻度が一定であり、且つユーザが一般的に20秒間のスリップクラッチ段階を維持するのが常だったが、システムが現在は既に10秒後にスリップクラッチをオフにする場合、例えば、スリップクラッチの耐用年数を2倍にすることができる。スリップクラッチ解放イベントの検出及び対応する解放期間の制限は、オートフィード装置等の自動送り装置を作動させるか又は備える電動工具の場合に特に有利である。これは、特に、スリップクラッチ解放イベント検出のない電動工具がスリップクラッチ段階を維持する可能性があり、この外乱に対して適切に応答できないためである。
【0020】
本発明の目的のため、電流値がモータの電流レベルに関係することが特に最も好ましい。代替として、モータの消費電流も測定し、本発明の目的のための電流値として用いてもよい。本発明の目的のため、モータ電子機器によって提供される測定値を電流値として用いることが特に最も好ましい。これらは、例えば、本発明の文脈において「電流値」として理解されるべき電力又は電圧値であってもよい。例えば、モータの電力消費量を、本発明の目的のための電流値として用いてもよい。更に、電圧測定のイベントは、提案される方法の過程において評価のために用いられてもよい。本発明の目的のための用語「電流値」は、電流(I)、電圧(U)、及び/又は電力(P)の測定値から構成することができる値を説明することが好ましく、電流値はモータ電子機器によって提供されることが好ましい。
【0021】
提案される方法の文脈において、第1のセンサ及び第2のセンサは、特に速度、正確には、好ましくは歯車ユニット又はモータの速度を特定する。本発明の目的のため、これらの速度値は歯車ユニット又はモータの回転数に関係することが好ましい。その結果、回転数を用いて歯車ユニット又はモータの速度を特定することができる。更に、スリップクラッチ解放イベントが起こったかどうかを確認するための基礎として、第3のセンサによって特定される電流値と共に取られるために、歯車ユニット又はモータの回転数を直接用いることが好ましい可能性がある。本発明の目的のため、スリップクラッチ解放イベントが起こったかどうかを検出するために、スリップクラッチ解放イベントの前後の回転数を用いることが特に最も好ましい。これらは、例えば、互いに比較することができる。例えば、電動工具のモータの回転数を回転数として用いてもよい。しかし、電動工具の歯車機構においてモータによって駆動される歯車の回転数を評価のために用いることも好ましい可能性がある。
【0022】
回転数は「1分当たりの回転数」(rpm)の単位で検知されることが好ましい。例えば、その後、単位rpmでの回転数に変換することができるパルス及び時間を測定してもよい。
【0023】
更なる態様において、本発明は、電動工具、特に電動コアドリルに関し、電動工具は、以下の構成部品、即ち、
-電動工具のための駆動装置としてのモータと、
-制御装置と、
-歯車装置と、
-歯車装置の第1の速度を検知するための第1のセンサと、
-モータの第1の速度を検知するための第2のセンサと、
-電流値を検知するための第3のセンサと、
-また、スリップクラッチとを備える。
【0024】
電動工具は、センサによって検知される速度及び電流値によって、スリップクラッチの解放を検出するよう設計されることを特徴とする。提案される方法について説明した定義、技術的効果、及び利点は、電動工具にも同様に適用される。電動工具がスリップクラッチを備えている場合、電動工具の状態は、特に、スリップクラッチ解放イベントが起こったか否かによって影響される可能性がある。特に、電動工具の制御装置は、提案される電動工具によって、電動工具のスリップクラッチが解放されたことを検出できることを可能にする。この目的のため、センサによって検知される速度及び電流値は、コアドリルの制御装置において評価されることが好ましい。例えば、3つのセンサによって特定され、制御装置に伝達される速度及び電流値は、数学的に相殺されてもよいか、及び/又は互いに組み合わされてもよい。加えて、速度及び電流値は、所定の条件で評価されてもよい。この目的のため、例えばルックアップテーブルが用いられてもよい。本発明の目的のため、電動工具の制御装置は、特に、センサによって検知される速度及び電流値によって電動工具の状態又はスリップクラッチ解放イベントを検出するよう設計されることが特に最も好ましい。
【0025】
本発明の目的のため、歯車装置は、複数の歯車段を有することが好ましい。結果として、好ましくは、ドリルビット及びモータの回転速度は一定の伝達を有することを確実にすることができる。この伝達は、特に、設定される歯車段に応じて変更できることが好ましい。例えば、第1の歯車段における伝達は1:25であってもよい。個々の伝達比は、ルックアップテーブルに格納されてもよく、例えば、歯車段に従ってリストにされていてもよい。この点で、制御装置のルックアップテーブルは、スリップクラッチ解放イベントが起こったかどうかを検出することを助けることができる。好ましくは、コアドリルの制御装置は、モータ及びドリルビットの特定される回転速度に基づいて、ルックアップテーブルとの比較によって、スリップクラッチ解放イベントが起こったか否かを確認するよう設計される。これは、例えば、特定された値と格納されている値との比較を行い、従って、比較の結果に応じてスリップクラッチ解除イベントが起こったかどうかを確認する制御装置によって行われてもよい。言い換えれば、コアドリルの制御装置は、モータ及びドリルビットの特定された回転速度に応じて、ドリルのスリップクラッチがどのような状態にあるか、即ち、スリップクラッチがアクティブであるか又は非アクティブであるかを確認するよう設計される。
【0026】
本発明の目的のため、提案される本発明の文脈において、モータ速度とシャフト速度との間の比が形成されることが好ましい。この比の特定は、例えば、電動工具の制御装置において行われてもよい。比はモータ速度とシャフト速度との商に対応することが好ましい。本発明の目的のため、電動工具の歯車装置においてどの歯車段が選択されたかを検出するためにモータ速度とシャフト速度との間の比を用いることが好ましい。例えば、第1の歯車段は、電動工具の第2又は第3の歯車段よりも大きいモータ速度とシャフト速度との比に割り当てられてもよい。モータ速度とシャフト速度との比の値は、例えば1~100の範囲内、好ましくは1~50の範囲内、より好ましくは1~30の範囲内にあってもよい。モータ速度とシャフト速度との間の比は、電動工具の歯車装置の伝達に対応することが好ましい。
【0027】
提案される本発明によって、電動工具の歯車装置における歯車段が選択されたこと、及び、歯車段が選択された場合、どの歯車が選択されたかを有利に検出することができる。歯車段のうちの1つのための条件のいずれも満たされない場合、即ち、モータ速度とシャフト速度との間の比又は歯車機構の伝達がルックアップテーブル内の固定値のうちの1つにも対応しない場合、これは、スリップクラッチが解放されたこと、又はスリップクラッチ解放イベントが起こったことの指示である可能性がある。これは、歯車段状態が満たされていないことに加えて、電流レベルが以前に固定された限界値又はオフセットより上にある場合はいつでも該当することが好ましい。
【0028】
本発明の目的のため、電動工具は、第1のセンサを制御装置に接続する第1のラインを備えることが好ましい。更に、電動工具は、第2のセンサを制御装置に接続する第2のラインを備える。加えて、電動工具は、第3のセンサを制御装置に接続する第3のラインを備える。このようにして、3つのセンサによって検知されるデータを遅延なく制御装置に伝達することができ、ここでそれらを評価し、情報技術によって更に処理することができる。本発明の文脈において、モータの回転数、電動工具の出力軸の回転数、及びモータの電流レベルは、電動工具の状態を特定するために互いに組み合わされることが特に好ましく、アルゴリズム及びルックアップテーブルは、特に、スリップクラッチ解放イベントが確立され得る条件を定義するために用いられる。スリップクラッチ解放イベントが検出された場合、電動工具のモータのスイッチはオフにされてもよい。電動工具が自動送り装置と共に動作する場合、提案される方法は、自動送り装置の駆動力(送り力)を低減するという点で、スリップクラッチの解放を無効にすることを可能にしている。
【0029】
好ましくは、電動工具は、また、未加工又は処理済みデータを格納するためのデータメモリを備えていてもよい。このデータメモリには、好ましくは、例えば電動工具の状態を判定するために、又は電動工具のスリップクラッチが解放されたかどうかを確認するために、好ましくはデータの評価に用いることができるルックアップテーブルも格納されてもよい。データメモリは、例えば、制御装置の構成部品であってもよい。しかし、本発明の目的のため、データメモリは電動工具上の異なる位置に配置されることも好ましい可能性がある。幾つかの用途では、センサによって検知されるデータを電動工具内で評価すべきではなく、速度及び電流値の外部評価を行うべきであることが好ましい可能性がある。電動工具は好ましくは、この場合、検知され、場合によっては既に少なくとも部分的に評価されたデータを、外部PC、サーバ、クラウド、又は何らかの他の外部データメモリ若しくは外部データ処理装置に伝達することを可能にする通信手段を備えていてもよい。本発明の目的のため、通信手段は、また、電動工具又は電動工具の構成部品のための評価されたデータ、又は場合によってはそれから導出された制御コマンドを受信するよう設計されることも好ましい。
【0030】
制御コマンドは、例えば、電動工具のモータのスイッチをオフにすることであってもよい。しかし、制御コマンドは、例えば、自動送り装置の駆動力を増加又は減少させることであってもよい。かかる制御コマンドは、制御装置から電動工具の構成部品に、又はコマンドを実行するよう意図される外部装置に送られることが好ましい。例えば、外部装置は電動工具のモータ又は自動送り装置である場合がある。制御コマンドの伝達は、有線又は無線で行われることが好ましい可能性がある。
【0031】
本発明の更なる利点は、以下の図面の説明から明らかになるであろう。図には、本発明の様々な例示的実施形態が表されている。図面、説明、及び特許請求の範囲は、多数の特徴を組み合わせて含む。当業者もまた、適宜、特徴を個別に検討し、それらを組み合わせて、有用な更なる組み合わせを形成するはずである。
【0032】
図では、同一及び類似の構成部品を同じ参照符号で示す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】電動工具の好ましい実施形態の図を示す。
図2】提案される方法の可能な設計の図を示す。
図3】電動工具が自動送り装置と共に動作する場合の提案される方法の可能な設計の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、電動コアドリルとして設計され、ドリルスタンド2に固定される電動工具1を示している。ドリルスタンド2によって、電動工具1は、双方向矢印Aの方向に沿って、加工されるべき被加工物Wに向かって及び再度離れるよう、前後に可逆的に移動することができる。材料Wは、例えば、コンクリート又はコンクリートのスラブである。
【0035】
電動工具1は、モータ3と、制御装置4と、歯車装置5と、出力軸6と、ドリルビットとして設計された工具7と、歯車装置5の第1の速度を検知するための第1のセンサ10と、モータ3の第1の速度を検知するための第2のセンサ20と、電流を検知するための第3のセンサ30とを含んでいる。任意の種類の電気モータが、モータ3として用いられてもよい。
【0036】
モータ3は特に電気モータとして設計され、電動工具1の工具7を駆動するのに役立つ。特に、それはドリルビット7であってもよい。モータ3は、歯車装置5に解放可能に接続される駆動軸を含んでいてもよい。接続はクラッチの形態を取ってもよい。歯車装置5及び出力軸6によって、ドリルビット7は回転運動に設定される。モータ3において発生するトルクは、それによって、材料Wにボアホールを開けるために、ドリルビット7に対応して伝達される。
【0037】
歯車装置5は、モータ3の駆動軸と出力軸6との間に位置決めされることが好ましい。第1のセンサ10は、歯車装置5の第1の速度を検知できるように歯車装置5上に位置決めされる。第2のセンサ20は、モータ3の第1の速度を検知できるように位置決めされることが好ましい。第3のセンサ30は、モータ3の電流値を検知できるように位置決めされることが好ましい。
【0038】
制御装置4は、センサ10、20、30によって測定される速度及び電流値を制御装置4に伝達することができるように、第1のライン8によって第1のセンサ10に、第2のライン9によって第2のセンサ20に、及び第3のライン11によって第3のセンサ30に接続されている。更に、制御装置4は、制御装置4がモータ3の回転速度又は速度を直接変化させることができるように、モータ3に接続されている。制御装置4は、好ましくは、ルックアップテーブル(伝達テーブル)が格納されていてもよいデータメモリを備えていてもよい。これらのルックアップテーブルを用いることによって、又はアルゴリズムを用いることによって、電動工具1の状態を特定することができ、センサ10、20、30によって測定される速度及び電流値は、特に、状態を特定するための基礎として採用される。本発明の目的のため、この状態の特定は、また、センサ10、20、30によって検知されるデータの評価とも称することが好ましい。本発明の目的のため、電動工具1の状態が、速度比及び電流値を含むルックアップテーブルを用いることによって特定されることが特に最も好ましい。データの評価は電動工具1の制御ユニット4において行われることが好ましい。評価は、例えば、ルックアップテーブル内の値を検索すること、及び数学的アルゴリズムを用いること、データを比較すること、又は値を組み合わせることを含んでもよい。例えば、電動工具1の状態を特徴付ける状態値又は変数が計算されてもよい。これらの状態値は、例えば、ルックアップテーブルに格納される限界値又は閾値と比較されてもよい。
【0039】
図2は、例として、提案される方法の可能なシーケンスを示している。
【0040】
この目的のため、ステップS1において、最初に、歯車装置5の第1の速度が第1のセンサ10によって特定される。
【0041】
ステップS2において、モータ3の第1の速度が第2のセンサ20によって特定される。
【0042】
ステップS3において、モータ3の電流値が第3のセンサ30によって特定される。
【0043】
ステップS4において、電動工具1の状態がセンサ10、20、30によって検知される速度及び電流値を用いることによって特定される。電動工具1の状態は、例えば、スリップクラッチ12の解放によって影響を受けてもよい。言い換えれば、センサ10、20、30によって検知される速度及び電流値は、値を評価することによって、電動工具1におけるスリップクラッチ12が解放されたか否かを確認するために用いられてもよい。
【0044】
任意選択のステップS5において、特定された状態に応じて、電動工具1のモータ3のスイッチがオフにされるか、又は電動工具1が動作し続ける。例えば、幾つかの用途において、電動工具のスリップクラッチ12の解放が確認された場合1、電動工具1のスイッチをオフにすることが好ましい可能性がある。この点で、方法ステップS5は、特に、電動工具の特定された状態(方法ステップS4)を考慮して、モータ3のスイッチオフが必要であるか又は望ましいと思われる場合はいつでも実行される任意選択の方法ステップを表している。これは、特に、スリップクラッチ解放イベントの場合に当てはまる可能性がある。モータのスイッチをオフするための評価の尺度は、ルックアップテーブルに格納される速度及び電流値の組み合わせであってもよい。しかし、計算、値の比較、又はデータの組み合わせは、また、例えば、電動工具1のスリップクラッチ12が解放された場合はいつでも、電動工具1のモータ3のスイッチをオフにすべきかどうかを特定するために用いられてもよい。
【0045】
図3は、例として、電動工具1が自動送り装置(「オートフィード」)と共に動作する場合の提案される方法の可能なシーケンスを示している。ここで、第1の方法ステップAF1~AF4は、図2に表す方法、特に、方法ステップS1~S4と略同様に進行する。
【0046】
方法ステップAF5において、自動送り装置の駆動力が低減される。自動オートフィード装置の駆動力のこの低減は、例えば、ステップAF4において特定される電動工具1の状態に応じて、又は、ステップAF1~AF3においてセンサ10、20、30によって特定される速度及び電流値に応じて行われてもよい。本発明の目的のため、自動送り装置の駆動力が、例えば、方法ステップAF4において検出されるスリップクラッチ解放イベントに応答して低減されることが特に最も好ましい。
【0047】
ステップAF6~AF8において、第2の速度及び電流値は、次いで、センサ10、20、30によって特定される。これらの第2の速度及び電流値は、特に、自動送り装置の低減された駆動力による電動工具1の動作中に特定される。本発明の目的のため、第2の速度及び電流値により、例えば穿孔が継続される電動工具1の状態が検出されることが好ましい。これは、特に、電動工具1を備えるシステムがスリップクラッチ解放イベントに応答し、スリップクラッチ12の解放を引き起こす条件が変化した場合はいつでも行われる。
【0048】
特に、歯車装置5の第2の速度は、方法ステップAF6において、第1のセンサ10によって検知される。方法ステップAF7において、モータ30の第2の速度値が第2のセンサ20によって検知される一方で、AF8において、第2の電流値は第3のセンサ30によって特定される。このように特定された第2の速度及び電流値は、センサ10、20、30によって制御装置4に伝達することができ、第1のライン8、第2のライン9、及び第3のライン11がこのために用いられることが好ましい。制御装置4により、センサ10、20、30によって検知されたデータを評価することができる。
【0049】
特に、方法ステップAF9において、正確には、センサ10、20、30によって伝達される第2の速度及び電流値を用いて、電動工具1の第2の状態を特定することができる。この第2の状態は、自動送り装置が低減された駆動力により動作している場合の電動工具1の状態を表すことが好ましい。電動工具1の状態の変化は、例えば、電動工具1のスリップクラッチ12の解放イベントにより発生する可能性がある。
【0050】
方法ステップAF10において、自動送り装置の駆動力は、好ましくはステップAF9において特定される電動工具1の第2の状態に応じて増加されてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 電動工具、例えば、電動コアドリル
2 ドリルスタンド
3 モータ
4 制御装置
5 歯車装置
6 駆動軸
7 電動工具用工具、例えば、ドリルビット
8 第1のライン
9 第2のライン
10 第1のセンサ
11 第3のライン
12 スリップクラッチ
20 第2のセンサ
30 第3のセンサ
図1
図2
図3
【国際調査報告】