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特表2022-536173シチジンアナログを含むアンチセンスRNA編集オリゴヌクレオチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-12
(54)【発明の名称】シチジンアナログを含むアンチセンスRNA編集オリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20220804BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20220804BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220804BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220804BHJP
   C07H 21/04 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61P11/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P21/02
A61P11/06
A61P7/02
A61P21/00
A61P21/04
A61P19/00
A61P7/04
A61P25/14
A61P35/00
A61P9/12
A61P27/02
A61P37/02
A61P7/06
A61K31/7088
A61K48/00
C07H21/04 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573712
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(85)【翻訳文提出日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 US2020037580
(87)【国際公開番号】W WO2020252376
(87)【国際公開日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】62/860,843
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517299054
【氏名又は名称】プロキューアール セラピューティクス ツー ベスローテン フェンノートシャップ
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】トゥルネン,ジャンヌ ユハ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン シント フィエット,レンカ
(72)【発明者】
【氏名】ケメル,シェリー ペイジ
(72)【発明者】
【氏名】ベアール,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ドハーティ,エリン,イー.
【テーマコード(参考)】
4C057
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C057BB02
4C057BB10
4C057CC03
4C057DD01
4C057MM09
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA16
4C084ZA42
4C084ZA53
4C084ZA55
4C084ZA59
4C084ZA61
4C084ZA89
4C084ZA94
4C084ZB07
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA16
4C086ZA42
4C086ZA53
4C086ZA55
4C086ZA59
4C086ZA61
4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZB07
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、標的RNA分子に存在する少なくとも1個の標的アデノシンを脱アミノ化するために標的RNA分子に結合させ、細胞、好ましくはヒト細胞においてADAR2酵素を動員して標的RNA分子の少なくとも1個の標的アデノシンを脱アミノ化するための、一本鎖RNA編集アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)に関する。本発明によるAONは、標的アデノシンと対向する位置にシチジンアナログを含み、シチジンアナログは、より効率的なRNA編集のために、N3部位でH結合供与体として機能する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的RNA分子と二本鎖核酸複合体を形成することができる、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)であって、前記二本鎖核酸複合体は、前記標的RNA分子の少なくとも1個の標的アデノシンの脱アミノ化のためにADAR酵素を動員することができ、前記少なくとも1個の標的アデノシンの真向かいにある前記AONのヌクレオチドは、N3部位でH結合供与体として機能するシチジンアナログである、AON。
【請求項2】
前記シチジンアナログは、シュードイソシチジン(piC)またはベンナーの塩基Z(dZ)である、請求項1に記載のAON。
【請求項3】
前記シチジンアナログは2’-OMeまたは2’-MOEリボース修飾を保有しない、請求項1または2に記載のAON。
【請求項4】
少なくとも1つのホスホロチオエート(PS)、ホスホノアセテートおよび/またはメチルホスホネート(MP)のヌクレオチド間結合を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のAON。
【請求項5】
リボースの2’位に置換を含む1個または複数のヌクレオチドをさらに含み、前記置換は:-OH;-F;1個または複数のヘテロ原子によって中断されていてもよい、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分枝状の低級(C1~C10)アルキル、アルケニル、アルキニル、アルカリル、アリル、またはアラルキル;-O-、S-、またはN-アルキル;-O-、S-、またはN-アルケニル;-O-、S-、またはN-アルキニル;-O-、S-、またはN-アリル;-O-アルキル-O-アルキル;-メトキシ;-アミノプロポキシ;-メトキシエトキシ;-ジメチルアミノオキシエトキシ;および-ジメチルアミノエトキシエトキシからなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載のAON。
【請求項6】
前記二本鎖核酸複合体は、内因性ADAR酵素、好ましくは内因性ADAR2酵素を動員することができる、請求項1から5のいずれか一項に記載のAON。
【請求項7】
少なくとも15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、または36個のヌクレオチドを含み、最大で100ヌクレオチド長、好ましくは最大で60ヌクレオチド長である、
請求項1から6のいずれか一項に記載のAON。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のAON、および薬学的に許容される担体または希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項9】
嚢胞性線維症、ハーラー症候群、アルファ-1-アンチトリプシン(A1AT)欠損症、パーキンソン病、アルツハイマー病、色素欠乏症、筋萎縮性側索硬化症、喘息、β-サラセミア、CADASIL症候群、シャルコー-マリー-トゥース病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、遠位脊髄性筋萎縮症(DSMA)、デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロフィー、栄養障害性表皮水疱症、表皮水疱症、ファブリー病、第V因子ライデン関連障害、家族性腺腫性ポリポーシス、ガラクトース血症、ゴーシェ病、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、血友病、遺伝性ヘモクロマトーシス、ハンター症候群、ハンチントン病、炎症性腸疾患(IBD)、先天性多凝集症候群、レーバー先天性黒内障、レッシュ-ナイハン症候群、リンチ症候群、マルファン症候群、ムコ多糖症、筋ジストロフィー、I型およびII型筋強直性ジストロフィー、神経線維腫症、ニーマン-ピック病A型、B型およびC型、NY-eso1関連がん、ポイツ-イェガース症候群、フェニルケトン尿症、ポンペ病、原発性線毛疾患、プロトロンビン変異関連障害、例えばプロトロンビンG20210A変異、肺高血圧症、(常染色体優性型)網膜色素変性症、サンドホフ病、重症複合免疫不全症候群(SCID)、鎌状赤血球貧血、脊髄性筋萎縮症、スタルガルト病、テイ-サックス病、アッシャー症候群(例えばアッシャー症候群I型、II型およびIII型)、X連鎖免疫不全、スタージ-ウェーバー症候群、ならびにがんからなる群から好ましくは選択される遺伝障害の処置または予防における使用のための、請求項1から7のいずれかに記載のAONまたは請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
細胞の標的RNA分子に存在する少なくとも1個の標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって、
(i)請求項1から7のいずれか一項に記載のAONまたは請求項8に記載の医薬組成物を細胞に供給するステップと;
(ii)前記AONを前記標的RNA分子にアニーリングさせて、前記細胞の内因性ADAR酵素を動員することができる二本鎖核酸複合体を形成するステップと;
(iii)前記ADAR酵素によって前記標的RNA分子の前記標的アデノシンを脱アミノ化するステップと;
(iv)必要に応じて、前記標的RNA分子において脱アミノ化アデノシンの存在を特定するステップと
を含む方法。
【請求項11】
工程(iv)は、
a)前記脱アミノ化標的アデノシンを含む、前記標的RNA分子の領域を配列決定するステップ;
b)前記標的アデノシンがUGAまたはUAGのストップコドンに存在する場合、機能的で、伸長された、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ;
c)2個の標的アデノシンがUAAストップコドンに存在する場合、機能的で、伸長された、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ;
d)前記標的RNA分子がプレmRNAである場合、前記プレmRNAのスプライシングは前記脱アミノ化によって変更されたか否かを評価するステップ;または
e)機能的読出し情報を使用するステップであって、前記脱アミノ化後の前記標的RNA分子が、機能的で、全長の、伸長されたおよび/または野生型のタンパク質をコードする、ステップ、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
標的RNA分子に存在する少なくとも1個の標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって、
(i)請求項1から7のいずれか一項に記載のAONまたは請求項8に記載の医薬組成物を用意するステップと;
(ii)前記AONを前記標的RNA分子にアニーリングさせて、二本鎖核酸複合体を形成するステップと;
(iii)哺乳動物のADAR酵素によって前記標的RNA分子の前記標的アデノシンを脱アミノ化するステップと;
(iv)必要に応じて、前記標的RNA分子において脱アミノ化アデノシンの存在を特定するステップと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年6月13日出願の米国仮特許出願第62/860,843号明細書の優先権を主張するものであり、上記特許出願の内容全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出している配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2019年6月13日に作成された前記ASCIIのコピーは、0032WO01ORD_SeqList_ST25.txtと命名され、2,931バイトのサイズである。
【0003】
本発明は、医学の分野に関する。具体的には、本発明は、一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)が細胞のRNA分子を標的として、標的RNA分子に存在する標的ヌクレオチドを特異的に変化させる、RNA編集の分野に関する。より具体的には、本発明は、そのin vivoおよびin vitro RNA編集効果を改善するために修飾ヌクレオチドを含むRNA編集AONに関する。
【背景技術】
【0004】
RNA編集とは、真核細胞が多くの場合部位特異的で正確な方法でそのRNA分子の配列を変更する、天然のプロセスであり、これによって、RNAにコードされたゲノムのレパートリーが数桁も増加する。RNA編集酵素は、動物界および植物界全体を通して真核生物種について記載されてきたが、そういったプロセスは、最も単純な生命体(例えば、エレガンス線虫(Caenorhabditis elegans))からヒトに至る後生動物での細胞の恒常性を管理する上で、重要な役割を果たす。RNA編集の例とは、アデノシン(A)からイノシン(I)への変換、およびシチジン(C)からウリジン(U)への変換であり、こういった変換は、それぞれ、RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR)およびAPOBEC/AID(RNAに作用するシチジンデアミナーゼ)と呼ばれる酵素を通して起こる。
【0005】
ADARは、触媒ドメイン、および、2~3の二本鎖RNA認識ドメインを含むマルチドメインタンパク質であり、問題とする酵素次第である。各認識ドメインは、特異的二本鎖RNA(dsRNA)配列および/または立体構造を認識する。触媒ドメインは、dsRNAヘリックスの一部を認識および結合する上で、ある役割も果たすが、触媒ドメインの重要な機能とは、核酸塩基の脱アミノ化によって、標的RNAの近傍の、あらまし所定の位置で、AをIへと変換することである。イノシンは、細胞の翻訳機構によってグアノシンとして読み取られるが、これが意味するところは、編集されたアデノシンは、mRNAまたはプレmRNAのコード領域にある場合、タンパク質配列を再コードすることができる、ということである。AからIへの変換は、当初の開始部位の上流に新規の翻訳開始部位を創り出し、このことによりN末端で拡張されたタンパク質がもたらされる、標的mRNAの5’非コード配列においても、または、RNAのプロセッシングおよび/もしくは安定性に影響を与えることができる3’UTRもしくは転写の他の非コード部分においても、起こることができる。加えて、AからIへの変換は、プレmRNAのイントロンまたはエクソンのスプライスエレメントで起こり、これによって、スプライシングのパターンを変更することができる。その結果として、エクソンは、含まれる場合もありスキップされる場合もある。アデノシン脱アミノ化を触媒する酵素は、ヒトデアミナーゼhADAR1およびhADAR2、さらにはhADAR3が含まれる、ADARの酵素ファミリー内にある。しかし、hADAR3については、デアミナーゼ活性はまだ示されていない。
【0006】
アデノシンデアミナーゼを適用して標的RNAを編集するオリゴヌクレオチドの使用が記載されてきた(例えば、Woolf et al. 1995. PNAS 92:8298-8302; Montiel-Gonzalez et al. PNAS 2013, 110(45):18285-18290; Vogel et al. 2014. Angewandte Chemie Int Ed 53:267-271)。Montiel-Gonzalez et al. (2013)により記載された方法の欠点とは、バクテリオファージラムダNタンパク質のboxB認識ドメインからなる融合タンパク質の必要性であり、これは、短縮型天然ADARタンパク質のアデノシンデアミナーゼドメインに遺伝子的に融合している。これには、標的細胞に融合タンパク質を形質導入するか、これは主たるハードルであるが、または、標的細胞に、発現用に操作されたアデノシンデアミナーゼ融合タンパク質をコードする核酸構築物をトランスフェクトするか、のいずれかが必要である。Vogel et al. (2014)により記載されたシステムは、まずADARを遺伝子的に改変する必要無しでシステムを適用し、続いて標的RNAを宿す細胞にトランスフェクトするまたは形質導入して、この遺伝子操作されたタンパク質を細胞に供給する方法が明確ではないという点で、同様の難点がある。明らかに、そういったシステムは、ヒトにおける(例えば治療状況での)使用のためには適用可能であるとは言い難い。標的RNA配列と100%相補的であったWoolf et al. (1995)のオリゴヌクレオチドは、細胞抽出物においてまたはマイクロインジェクションによるアフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞においてのみ機能するように見え、特異性に関する重度の欠如で難儀した:アンチセンスオリゴヌクレオチドと相補的であった標的RNA鎖中のほぼすべてのアデノシンが編集された。各ヌクレオチドが2’-O-メチル(2’-OMe)修飾を保有する、長さ34個のヌクレオチドのオリゴヌクレオチドが試験され、不活性であることがWoolf et al. (1995)で示された。ヌクレアーゼに対する安定性をもたらすために、5’および3’末端の5個のヌクレオチドにて2’-OMeで修飾されかつホスホロチオエート(PS)結合で修飾された、34-mer RNAについても試験した。このオリゴヌクレオチドの中央非修飾領域は、内在性ADARによる標的RNAの編集を促進することができるが、この場合、上記末端修飾がエキソヌクレアーゼ分解に対する保護をもたらすこと、が示された。しかし、このシステムは、標的RNA配列中の特定の標的アデノシンの脱アミノ化を示さなかった。述べたように、アンチセンスオリゴヌクレオチドの非修飾ヌクレオチドと対向するほぼすべてのアデノシンが編集された(したがって、アンチセンスオリゴヌクレオチドの5’および3’末端の5個のヌクレオチドが修飾されていた場合は、中央非修飾領域のヌクレオチドと対向するほぼすべてのアデノシン、またはヌクレオチドが修飾されていなかった場合は、標的RNA鎖中のほぼすべてのアデノシン)。
【0007】
ADARは任意のdsRNAに作用することができることが当技術分野で公知である。「多塩基置換型編集」と呼ばれることもあるプロセスを通して、酵素はdsRNAの複数のAを編集することになる。したがって、そのような多塩基置換型編集を回避し、標的RNA分子の特定のアデノシンのみを標的として、治療上適用可能となる方法および手段が必要である。Vogel et al. (2014)は、編集する必要がないアデノシンと対向する位置でのオリゴヌクレオチドに2’-OMe修飾ヌクレオチドを使用することによって、そのようなオフターゲット編集を抑制することができることを示した。そして、Vogel et al. (2014)は、標的RNA上の特異的に標的化されるアデノシンと真向かいに非修飾ヌクレオチドを使用した。しかし、AONと共有結合を有する組換えADAR酵素を使用することなく、標的ヌクレオチドにて特定の編集効果が起こることは示されなかった。
【0008】
国際公開第2016/097212号パンフレットでは、RNAの標的化編集用のアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)が開示されているが、この場合、AONは、標的RNA配列と相補的である配列によって(そこでは「ターゲティング部分」と呼ばれる)、および標的RNAと好ましくは非相補的であるステム-ループ構造(そこでは「動員部分」と呼ばれる)の存在によって、特徴付けられる。かかるオリゴヌクレオチドは、「自己ルーピングAON」と呼ばれる。標的配列とターゲティング部分とのハイブリダイゼーションによって形成されるdsRNAへと、細胞に存在する天然ADAR酵素を動員する際に、動員部分は働く。動員部分に起因して、コンジュゲート主体または修飾組換えADAR酵素の存在は必要ない。国際公開第2016/097212号パンフレットでは、ADAR酵素の、天然基質(例えば、GluB受容体)またはdsRNA結合ドメインもしくはZ-DNA結合ドメインによって認識されることが公知であるZ-DNA構造、のいずれかを模倣するステム-ループ構造である動員部分が、記載されている。ステムループ構造は、別々の2つの核酸鎖によって形成された分子間ステムループ構造であってもよく、単一の核酸鎖内に形成された分子内ステムループ構造であってもよい。国際公開第2016/097212号パンフレットに記載の動員部分のステム-ループ構造は、分子内ステム-ループ構造であり、AON自体内で形成され、ADARを誘引することができる。
【0009】
国際公開第2017/220751号パンフレットおよび国際公開第2018/041973号パンフレットでは、かかるステムループ構造を含まないが、1個または複数のミスマッチヌクレオチド、いわゆる「ゆらぎ」もしくは「バルジ」を除いて、標的領域と(ほぼ完全に)相補的であるAONが記載されている。唯一のミスマッチは、標的アデノシンと対向するヌクレオチドの部位にあるとすることができるが、他の実施形態では、AONは、標的配列領域に付着した場合、多重のバルジおよび/またはゆらぎを伴って記載された。AONの配列は、ADARを誘引することができるように注意深く選択された場合、ステムループ構造を欠くAONで、および内因性ADAR酵素で、in vitro、ex vivo、およびin vivoのRNA編集を行うことが可能であると思われた。「オーファンヌクレオチド」は、標的RNA分子の標的アデノシンの真向かいに位置するAONのヌクレオチドとして定義されるが、2’-OMe修飾を保有しなかった。オーファンヌクレオチドはまた、DNAヌクレオチド(2’修飾を保有しない糖主体である)とすることもでき、この場合、AONの残部は、糖主体に2’-O-アルキル修飾(例えば2’-OMe)を保有したが、あるいは、オーファンヌクレオチドを直接囲んでいるヌクレオチドは、RNA編集の効率性をさらに改善しおよび/もしくはヌクレアーゼに対する耐性をさらに高める、特定の化学修飾を含有した(またはDNAであった)。かかる効果は、分解に対してAONを「保護する」センスオリゴヌクレオチド(SON)を使用することによって、さらにもっと改善することができた(国際公開第2018/134301号パンフレットに記載)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上で概説した成果にもかかわらず、(内因性)細胞経路およびデアミナーゼ活性を備える酵素、例えば、天然に発現されるADAR酵素を利用して、哺乳動物細胞において、生物全体においても、内因性核酸をより特異的にかつより効果的に編集し、その結果疾患を緩和することができる、改善された化合物のニーズが依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、標的RNA分子と二本鎖核酸複合体を形成することができる、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)であって、二本鎖核酸複合体は、標的RNA分子の少なくとも1個の標的アデノシンの脱アミノ化のためにADAR酵素を動員することができ、標的アデノシンの真向かいにあるAONのヌクレオチドは、N3部位でH結合供与体として機能するシチジンアナログである、AONに関する。本発明のAONで使用される好ましいシチジンアナログは、シュードイソシチジン(piC)およびベンナーの塩基Z(dZ)である。本明細書に開示の教示に従って使用することができる他の好ましいシチジンアナログは、5-ヒドロキシC-H+、5-アミノC-H+および8-オキソA(syn)である。好ましくは、シチジンアナログは、2’-OMeまたは2’-MOEリボース修飾を保有しない。好ましい態様では、本発明のAONは、リボースの2’位に置換を含む1個または複数のヌクレオチドをさらに含み、ここで、置換は:-OH;-F;1個または複数のヘテロ原子によって中断されていてもよい、置換もしくは非置換、直鎖状もしくは分枝状の低級(C1~C10)アルキル、アルケニル、アルキニル、アルカリル、アリル、またはアラルキル;-O-、S-、またはN-アルキル;-O-、S-、またはN-アルケニル;-O-、S-、またはN-アルキニル;-O-、S-、またはN-アリル;-O-アルキル-O-アルキル;-メトキシ;-アミノプロポキシ;-メトキシエトキシ;-ジメチルアミノオキシエトキシ;および-ジメチルアミノエトキシエトキシ、からなる群から選択される。別の好ましい態様では、動員されるADAR酵素は、内因性酵素、好ましくは内因性ADAR2酵素である。
【0012】
別の実施形態では、本発明は、本発明によるAONおよび薬学的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物に関する。
【0013】
さらに別の実施形態では、本発明は、遺伝障害であって:嚢胞性線維症、ハーラー症候群、アルファ-1-アンチトリプシン(A1AT)欠損症、パーキンソン病、アルツハイマー病、色素欠乏症、筋萎縮性側索硬化症、喘息、β-サラセミア、CADASIL症候群、シャルコー-マリー-トゥース病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、遠位脊髄性筋萎縮症(DSMA)、デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロフィー、栄養障害性表皮水疱症、表皮水疱症、ファブリー病、第V因子ライデン関連障害、家族性腺腫性ポリポーシス、ガラクトース血症、ゴーシェ病、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、血友病、遺伝性ヘモクロマトーシス、ハンター症候群、ハンチントン病、炎症性腸疾患(IBD)、先天性多凝集症候群、レーバー先天性黒内障、レッシュ-ナイハン症候群、リンチ症候群、マルファン症候群、ムコ多糖症、筋ジストロフィー、I型およびII型筋強直性ジストロフィー、神経線維腫症、ニーマン-ピック病A型、B型およびC型、NY-eso1関連がん、ポイツ-イェガース症候群、フェニルケトン尿症、ポンペ病、原発性線毛疾患、プロトロンビン変異関連障害、例えばプロトロンビンG20210A変異、肺高血圧症、(常染色体優性型)網膜色素変性症、サンドホフ病、重症複合免疫不全症候群(SCID)、鎌状赤血球貧血、脊髄性筋萎縮症、スタルガルト病、テイ-サックス病、アッシャー症候群(例えばアッシャー症候群I型、II型およびIII型)、X連鎖免疫不全、スタージ-ウェーバー症候群、ならびに、がんからなる群から好ましくは選択される、遺伝障害の処置または予防における使用のための、本発明によるAONまたは本発明による医薬組成物に関する。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、細胞の標的RNA分子に存在する標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって、本発明によるAONまたは本発明による医薬組成物を細胞に供給するステップと;AONを標的RNA分子にアニーリングさせて、細胞の内因性ADAR酵素を動員することができる二本鎖核酸複合体を形成するステップと;ADAR酵素によって標的RNA分子の標的アデノシンを脱アミノ化するステップと;必要に応じて、標的RNA分子において脱アミノ化アデノシンの存在を特定するステップとを含む方法に関する。さらに別の実施形態では、本発明は、標的RNA分子に存在する少なくとも1個の標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって、本発明によるAONを用意するステップと;AONを標的RNA分子にアニーリングさせて、二本鎖核酸複合体を形成するステップと;哺乳動物のADAR酵素によって標的RNA分子の標的アデノシンを脱アミノ化するステップと;必要に応じて、標的RNA分子において脱アミノ化アデノシンの存在を特定するステップとを含む方法に関する。
【0015】
次に、本発明の1つまたは複数の実施形態を、添付の図面を参照することにより、単なる例示として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】dsRNAに結合したADAR2 E488Q変異型の結晶構造および488位のグルタミン(Gln)とオーファンシチジンとの接触を示す、図である。
図2】488位にグルタミン酸(Glu)を有する野生型ADAR2とオーファンシチジンの間のプロトン化依存性接触を示す、図である。
図3】(左側に)488位にグルタミン酸(Glu)を有する野生型ADAR2と、N3に水素結合供与を提供してグルタミン酸残基と相互作用するシチジンアナログ「シュードイソシチジン」(piC)との間の相互作用を示す、図である。右側に、シチジンアナログpiCとベンナーの塩基Z(dZ)の構造を示すが、これは、N3での水素の存在を指示する(正常なシチジンには存在しない)。
図4】本明細書で概説のシチジンアナログを模倣する、2つのシチジンアナログ、5-ヒドロキシシチジン-H+(左)および5-アミノシチジン-H+(中央)ならびにアデノシンアナログ8-オキソアデノシン(右)を示す、図である。
図5】わずかに上方にある標的アデノシンを有する標的マウスIdua RNA配列(5’から3’まで;配列番号2)を示す、図である。標的配列の下に、29ntのガイドRNAアンチセンスオリゴヌクレオチド(3’から5’まで;配列番号1)を与える。Nは、オーファンヌクレオチド(標的アデノシンと対向する)を表し、これは、正常の(デオキシ-)シチジンであっても、piCやdZなどの本明細書で概説のシチジンアナログであってもよい。
図6】標的アデノシンと対向する正常のシチジン(「C」)を保有するAONと、標的アデノシンと対向するシュードイソシチジン(piC)を保有するAONを比較した速度論的解析の結果を示す、図である。
図7】標的アデノシンと対向する正常のシチジン(デオキシ-C、またはここでは:「dC」)を保有するAONと、標的アデノシンと対向するベンナーの塩基Z(dZ)を保有するAONを比較した速度論的解析の結果を示す、図である。
図8】3種のAONを比較した速度論的解析の結果を示す、図である:標的アデノシンと対向する正常のシチジン(デオキシ-C、またはここでは:「dC」)を保有するもの、標的アデノシンと対向するシチジンアナログとしてベンナーの塩基Z(dZ)を保有するAONのもの、および標的アデノシンと対向するシチジンアナログとしてデオキシ-シュードイソシチジン(dpiC)を保有するもの。
図9】(A)編集されるAヌクレオチドが太字である、AONを標的としたAからIへの編集をうける、マウスmRNA Idua配列(下の鎖;5’から3’まで;配列番号6)を示す、図である。上の鎖は、RNA編集AON配列(配列番号7)を、3’から5’まで示す。編集されるAに対抗するCヌクレオチドは太字であり下線が引かれている。(B)試験された2種のAONを示す図であり、ここでは5’から3’までである((A)と同じ配列)。小文字のヌクレオチドは2’-OMe修飾RNAヌクレオチドである。大文字のヌクレオチドはDNAヌクレオチドである。アスタリスク()は、ホスホロチオエート(PS)結合を指示する。IDUA287の正常のデオキシシチジン(dC)ヌクレオチドおよびIDUA294のシチジンアナログベンナーの塩基Z(dZ)ヌクレオチドは、太字で与えられかつ下線が引かれている。
図10】初代マウス肝線維芽細胞アッセイにおける、トランスフェクション後(内因性ADARを適用)にAONのIDUA287およびIDUA294を使用した編集パーセンテージのddPCR解析の結果を示す、図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
標的RNAの標的アデノシンの編集効率に悪影響を及ぼすことなく、RNA編集アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON、「編集オリゴヌクレオチド」または「EON」と呼ばれる場合もある)の薬物動態特性を改善するニーズが絶えずある。多くの化学修飾が、AONの生成にあたって存在するが、その特性は、効率的なRNA編集を達成するという願望と常に適合しているとは限らない。より良好な薬物動態特性に関する探索において、すべてではないが一部のヌクレオチドのリボースの2’-O-メトキシエチル(または2’-メトキシエトキシ;または2’-MOE)修飾が、驚くべきことに、効率的なADARの関与および編集に適合していると思えることが、先にわかっていた(国際公開第2019/1548475号パンフレット)。
【0018】
ヒトADAR2の変異誘発研究が明らかにしたことは、グルタミン酸からグルタミンへの残基488(E488Q)での単一の変異により、野生型酵素と比較した場合、脱アミノ化の速度定数に60倍上昇が得られたことである(Kuttan and Bass. Proc Natl Acad Sci USA 2012. 109(48):E3295-3304)。脱アミノ化反応過程では、ADARは編集した塩基をそのRNA二重鎖から酵素活性部位へと外側に引き出す(Matthews et al. Nat Struct Mol Biol 2016. 23(5):426-433)。ADAR2が好ましい状況でアデノシンを編集する場合(A:Cミスマッチ)、標的アデノシンと対向するヌクレオチドは「オーファンシチジン」と、多くの場合呼ばれる。二本鎖RNA(dsRNA)に結合したADAR2 E488Qの結晶構造が明らかにしたことは、488位のグルタミン(Gln)側鎖が、ADAR2 E488Qの触媒速度の上昇を招くH結合を、オーファンシチジンのN3位に(図1)、供与することができることである(Kuttan and Bass. 2012)。グルタミン(Gln)の代わりにグルタミン酸(Glu)が488位に存在する野生型酵素では、グルタミンのアミド基は存在しておらず、代わりにカルボン酸である。オーファンシチジンとE488Q変異型との同じ接触を獲得することには、次に、野生型の状況にとって、そういった接触が起こるためのプロトン化が必要であると思われる(図2)。内因的に発現されたADAR2を利用して、疾患に関連する変異を矯正するためには(過剰発現と外因性投与が必要とされ得る変異型ADAR2バージョンではない)、細胞に存在する野生型ADAR2酵素の編集効率を最大化することが必須である。酵素変異型を使用することに代えて、本発明の発明者らは、特にオーファンシチジンの位置で修飾RNA塩基を有するAONを使用して、E488Q ADAR2変異型によって観察される水素結合パターンを模倣することを目的とした。AONの標的アデノシンと対向するヌクレオチドを、N3でH結合供与体として機能すると思われる特定のシチジンアナログで置き換えることによって、変異型酵素に関して触媒速度の上昇をもたらすと思われる同じ接触を安定化することが可能であろうと想定された。図3に、2種のシチジンアナログを示す:シュードイソシチジン(「piC」とも呼ばれる;Lu et al. J Org Chem 2009. 74(21):8021-8030; Burchenal et al. (1976) Cancer Res 36:1520-1523)およびベンナーの塩基Z(「dZ」とも呼ばれる;Yang et al. Nucl Acid Res 2006. 34(21):6095-6101)。これらは、核酸塩基の形状に対して最小限の撹乱を持ってN3での水素結合の供与を与えてくれるので、最初に選択されたものである。図4に、同じ目的に適用することができるさらなる非限定的核酸塩基アナログを示す。添付の例に、標的アデノシンと対向するヌクレオチドとしてpiCを有するAONを適用した後に実行した、ADAR2の速度論的解析を、当該位置に正常のシチジンを保有するAONと比較して、示す。これらの実験が明らかにしたところは、piCオーファンヌクレオシドを使用する場合の脱アミノ化速度は、同じ位置に正常のシチジンを保有したAONを使用した場合よりも概ね1.8倍高いことであった(図6および8)。また、標的アデノシンと対向する正常のシチジン(デオキシ-C、またはdC)を保有するAONを、同じセットアップで標的アデノシンと対向するベンナーの塩基Zアナログ(dZ)を保有するAONと比較したところ、RNA編集も改善されることもわかった(図7および8)。初代マウス線維芽細胞でトランスフェクションセットアップを使用すると、AONのさらに同一の環境でデオキシ-CをdZと比較した場合、RNA編集も向上した(図10)。これらの結果が示すところは、本発明者らは、オーファンヌクレオシド位置にヌクレオシドアナログを保有するAONを使用することによって脱アミノ化効率を高めることが実際にできたが、この場合、アナログのN3部位がH結合供与体部位として機能する、ということである。
【0019】
本発明のAONにおけるシチジンアナログの存在はまた、リボース2’基への修飾に加えて存在することができる。AONのリボース2’基は、2’-H(すなわち、DNA)、2’-OH(すなわち、RNA)、2’-OMe、2’-MOE、2’-F、または2’-4’-連結のもの(すなわち、ロック核酸またはLNA)、またはその他の2’置換から独立して選択することができる。様々な2’の修飾については、国際公開第2016/097212号パンフレット、国際公開第2017/220751号パンフレット、国際公開第2018/041973号パンフレット、および国際公開第2018/134301号パンフレットでさらに詳しく論議されている。2’-4’結合は、メチレンリンカーや拘束エチルリンカーなどの当技術分野で公知のリンカーから選択することができる。すべての場合において、修飾は、オリゴヌクレオチドがRNA編集AONとしてのその役割を満たすような編集と、適合している必要がある。ヌクレオチドデアミナーゼ活性を有する酵素の編集活性と非対応ではない位置に少なくとも1つのアンロック核酸(UNA)リボース修飾を生成することによって、ヌクレオチド脱アミノ化活性を備える酵素への結合向けに、AONをさらに最適化することができる(PCT/EP2020/053283に記載のように、未公開)。UNAの修飾では、リボースの2’と3’の炭素原子の間に炭素-炭素結合はない。したがって、UNAリボース修飾によってオリゴヌクレオチドの局所的な柔軟性が高まる。UNAによって、分解に対する耐性の向上を通して、薬物動態特性の向上などの効果を招くことができる。UNAはまた、毒性を低下させることもでき、オフターゲット効果の低減に関与する場合もある。好ましくは、AONとは、プレmRNAまたはmRNAを標的とするRNA編集一本鎖AONであり、ここで、標的ヌクレオチドは標的RNAのアデノシンであり、ここで、アデノシンは、翻訳機構によってグアノシンとして読み取られているイノシンへ脱アミノ化される。好ましくは、アデノシンは、UGAまたはUAGストップコドンに存在し、これは、UGGコドンに編集される;または、ここで、2個の標的ヌクレオチドはUAAストップコドンの2個のアデノシンであり、このコドンは、両方の標的アデノシンの脱アミノ化を通してUGGコドンに編集され、ここで、オリゴヌクレオチドの2個のヌクレオチドが標的核酸とミスマッチする。
【0020】
本発明によるAONは、ヌクレオシド間結合修飾を含んでもよい。一実施形態では、かかる他のヌクレオシド間結合の1つは、ホスホノアセテート、ホスホロチオエート(PS)またはメチルホスホネート(MP)修飾結合とすることができる。好ましい結合はPS結合である。MP結合の好ましい位置は、PCT/EP2020/059369(未公開)に記載されている。別の実施形態では、ヌクレオチド間結合は、ホスホジエステルのOH基がアルキル、アルコキシ、アリール、アルキルチオ、アシル、-NR1R1、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アルケニルチオ、アルキニルチオ、-S-Z+、-Se-Z+、または-BH3-Z+によって置き換えられたホスホジエステルとすることができる(式中、R1は、独立して水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、もしくはアリールであり、かつZ+はアンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン、ヘテロ芳香族イミニウムイオン、もしくは複素環式イミニウムイオンであり、そのいずれもが第一級、第二級、第三級もしくは第四級であり、またはZは一価金属イオンであり、PS結合であるのが好ましい)。
【0021】
本発明のAONでは、オーファンヌクレオチド(標的アデノシンの真向かいのヌクレオチド)は一般に、2’-OH基を有するリボース、または2’-H基を有するデオキシリボースを含み、好ましくは、2’-OMe修飾を保有するリボースを含まない。さらに、本発明のAONは一般に、オーファンヌクレオチドに対してある特定の位置に2’-MOE修飾を含まず、さらに、AON内の他の位置に2’-MOE修飾を含むことができる。
【0022】
本発明は、細胞の標的RNA分子に存在する少なくとも1個の標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって、本発明の第1の態様によるAONまたは本発明の第2の態様による組成物を細胞に供給するステップと、AONの細胞による取り込みを可能にするステップと、AONを標的RNA分子にアニーリングさせるステップと、ヌクレオチドデアミナーゼ活性を有する哺乳動物酵素によって標的RNA分子の標的ヌクレオチドを脱アミノ化させるステップと、必要に応じて、標的RNA分子において脱アミノ化ヌクレオチドの存在を特定するステップとを含む方法に関する。好ましくは、標的RNA分子の存在は、以下のいずれかによって検出される、(i)標的配列を配列決定するステップ、(ii)標的アデノシンが、脱アミノ化を通してUGGコドンに編集されるUGAまたはUAGのストップコドンに位置する場合、機能的で、伸長された、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ、(iii)2個の標的アデノシンが、両方の標的アデノシンの脱アミノ化を通してUGGコドンに編集されるUAAストップコドンに位置する場合、機能的で、伸長された、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ、(iv)プレmRNAのスプライシングが脱アミノ化によって変更されたか否かを評価するステップ;または(v)機能的読出し情報を使用するステップであって、脱アミノ化後の標的RNAが、機能的で、全長の、伸長されたおよび/または野生型のタンパク質をコードする、ステップ。したがって、本発明はまた、(プレ)mRNAに存在する未成熟終止ストップコドン(PTC)を標的にして、停止コドンに存在するアデノシンをイノシン(Gとして読み取る)に変更する、AONであって、次いで、翻訳過程でのリードスルーおよび完全長の機能的タンパク質をもたらす、AONに関する。本発明の教示は、本明細書に概説のように、AONを用いて標的とすることができるかつRNA編集を通して処置することができる、すべての遺伝病に適用可能である。
【0023】
好ましい実施形態では、本発明によるAONは、相補的な標的RNA領域との2、3、4、5、6、7、8、9または10のミスマッチ、ゆらぎおよび/またはバルジを含む。標的アデノシンと対向するヌクレオチドがシチジンアナログである場合、AONは標的RNA分子と少なくとも1回ミスマッチする。しかし、好ましい態様では、1つまたは複数のさらなるミスマッチヌクレオチド、ゆらぎおよび/またはバルジが、AONと標的RNAとの間に存在する。このようなことは、標的アデノシンの位置で、細胞に存在するADARによるRNA編集効率に加えるべきである。当業者であれば、生理学的条件下でハイブリダイゼーションがなおも起こるか否かを判定することができる。本発明のAONは、細胞に存在する哺乳動物ADAR酵素を動員(関与)することができ、ここで、ADAR酵素は、野生型酵素に見られるようにその天然のdsRNA結合ドメインを含む。本発明によるAONは、内因性細胞経路および天然に利用可能なADAR酵素、またはADAR活性を備える酵素(これはまだ未同定のADAR様酵素であってもよいが)を利用して、標的RNA配列の標的アデノシンを特異的に編集することができる。本明細書に開示のように、本発明の一本鎖AONは、標的RNA分子のアデノシンなどの特定の標的の脱アミノ化を行うことができる。理想的には、少なくとも1個の標的ヌクレオチドが脱アミノ化される。あるいは、さらなる1、2、または3個のヌクレオチドが脱アミノ化される。本発明のAONの特徴をまとめると、改変された組換えADAR発現の必要がなく、AONに付着したコンジュゲート主体、または、標的RNA配列と相補的ではない長い動員部分の存在の必要がない。そればかりか、本発明のAONによって、RNA/AON複合体の他の場所での多塩基置換型編集のリスクなく野生型酵素に見られるような天然のdsRNA結合ドメインを含む天然のヌクレオチドデアミナーゼ酵素による標的RNA分子に存在する標的ヌクレオチドの特異的脱アミノ化が、可能になる。
【0024】
本発明は、標的RNA分子と二本鎖核酸複合体を形成することができる、AONであって、二本鎖核酸複合体は、標的RNA分子の少なくとも1個の標的アデノシンの脱アミノ化のためにADAR酵素を動員することができ、少なくとも1個の標的アデノシンの真向かいにあるAONのヌクレオチドは、N3部位でH結合供与体として機能するシチジンアナログである、AONに関する。好ましくは、シチジンアナログは、シュードイソシチジン(piC)またはベンナーの塩基Z(dZ)である。これらのシチジンアナログヌクレオチドは、RNAまたはDNAフォーマットに、または本明細書でさらに概説の2’位で潜在的に修飾されたフォーマットに、なることができる。本発明のAONで使用することができる他の好ましいシチジンアナログは、5-ヒドロキシC-H+、5-アミノC-H+および8-オキソA(syn)である。本発明によるオリゴヌクレオチドでまた使用することができる他のシチジンアナログは、シチジンC5メチル、エチル、プロピル等などのシュードイソシチジン(piC)、ベンナーの塩基Z(dZ)、5-ヒドロキシC-H+、5-アミノC-H+および8-オキソA(syn)の誘導体、ニトロとは異なる置換基(例えば、アルキル、F、Cl、Br、CN等)を有するベンナーの塩基ZのバリアントおよびC2で置換された8-オキソAのバリアント(メチル、エチル、プロピル、ハロゲン等)、である。好ましい一態様では、シチジンアナログは、2’-OMeまたは2’-MOEリボース修飾を保有しない。別の好ましい態様では、本発明によるAONは、少なくとも1つのホスホロチオエート(PS)、ホスホノアセテートおよび/またはメチルホスホネート(MP)のヌクレオチド間結合を含む。好ましい態様では、二本鎖核酸複合体は、内因性ADAR酵素を動員することができ、好ましくは、ここで、ADAR酵素は内因性ADAR2酵素である。別の好ましい態様では、AONは、少なくとも15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、または36個のヌクレオチドを含み、最大で100ヌクレオチド長、好ましくは最大で60ヌクレオチド長である。
【0025】
本発明はまた、本発明によるAONおよび薬学的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物にも関する。かかる薬学的に許容される担体または希釈剤は、当業者に周知である。
【0026】
別の実施形態では、本発明は、遺伝障害であって:嚢胞性線維症、ハーラー症候群、アルファ-1-アンチトリプシン(A1AT)欠損症、パーキンソン病、アルツハイマー病、色素欠乏症、筋萎縮性側索硬化症、喘息、β-サラセミア、CADASIL症候群、シャルコー-マリー-トゥース病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、遠位脊髄性筋萎縮症(DSMA)、デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロフィー、栄養障害性表皮水疱症、表皮水疱症、ファブリー病、第V因子ライデン関連障害、家族性腺腫性ポリポーシス、ガラクトース血症、ゴーシェ病、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、血友病、遺伝性ヘモクロマトーシス、ハンター症候群、ハンチントン病、炎症性腸疾患(IBD)、先天性多凝集症候群、レーバー先天性黒内障、レッシュ-ナイハン症候群、リンチ症候群、マルファン症候群、ムコ多糖症、筋ジストロフィー、I型およびII型筋強直性ジストロフィー、神経線維腫症、ニーマン-ピック病A型、B型およびC型、NY-eso1関連がん、ポイツ-イェガース症候群、フェニルケトン尿症、ポンペ病、原発性線毛疾患、プロトロンビン変異関連障害、例えばプロトロンビンG20210A変異、肺高血圧症、(常染色体優性型)網膜色素変性症、サンドホフ病、重症複合免疫不全症候群(SCID)、鎌状赤血球貧血、脊髄性筋萎縮症、スタルガルト病、テイ-サックス病、アッシャー症候群(例えばアッシャー症候群I型、II型およびIII型)、X連鎖免疫不全、スタージ-ウェーバー症候群、ならびに、がんからなる群から好ましくは選択される、遺伝障害の処置または予防における使用のための、本発明によるAONまたは本発明による医薬組成物に関する。
【0027】
別の実施形態では、本発明は、細胞の標的RNA分子に存在する標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって、本発明によるAONまたは本発明による医薬組成物を細胞に供給するステップと;AONを標的RNA分子にアニーリングさせて、細胞の内因性ADAR酵素を動員することができる二本鎖核酸複合体を形成するステップと;ADAR酵素によって標的RNA分子の標的アデノシンを脱アミノ化するステップと;必要に応じて、標的RNA分子において脱アミノ化アデノシンの存在を特定するステップとを含む方法に関する。脱アミノ化アデノシンの存在を特定する上での必要に応じたステップは、脱アミノ化標的アデノシンを含む、標的RNA分子の領域を配列決定するステップ;標的アデノシンがUGAまたはUAGのストップコドンに存在する場合、機能的で、伸長された、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ;2個の標的アデノシンがUAAストップコドンに存在する場合、機能的で、伸長された、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ;標的RNA分子がプレmRNAである場合、プレmRNAのスプライシングは脱アミノ化によって変更されたか否かを評価するステップ;または機能的読出し情報を使用するステップであって、脱アミノ化後の標的RNA分子が、機能的で、全長の、伸長されたおよび/または野生型のタンパク質をコードする、ステップによって実行される。
【0028】
さらに別の実施形態では、本発明は、標的RNA分子に存在する少なくとも1個の標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって、本発明によるAONを用意するステップと;AONを標的RNA分子にアニーリングさせて、二本鎖核酸複合体を形成するステップと;哺乳動物のADAR酵素によって標的RNA分子の標的アデノシンを脱アミノ化するステップと;必要に応じて、標的RNA分子において脱アミノ化アデノシンの存在を特定するステップとを含む方法に関する。
【0029】
二本鎖AON/標的RNA分子複合体は、ワトソン-クリック塩基対を通して相互作用する。当業者であれば、当技術分野で利用可能な教示に基づいて、RNA編集を行う能力のレベルを判定し、これを特定の糖および/または結合修飾の指定された位置を欠くAONと比較することができる。別の好ましい態様では、本発明のAONは、リボースの2’位に置換を含む1個または複数のヌクレオチドをさらに含み、ここで、置換は:-OH;-F;1個または複数のヘテロ原子によって中断されていてもよい、置換もしくは非置換、直鎖状もしくは分枝状の低級(C1~C10)アルキル、アルケニル、アルキニル、アルカリル、アリル、またはアラルキル;-O-、S-、またはN-アルキル;-O-、S-、またはN-アルケニル;-O-、S-、またはN-アルキニル;-O-、S-、またはN-アリル;-O-アルキル-O-アルキル;-メトキシ;-アミノプロポキシ;-メトキシエトキシ(2’-MOE);-ジメチルアミノオキシエトキシ;および-ジメチルアミノエトキシエトキシからなる群から選択される。
【0030】
標的ヌクレオチドの真向かいにあるAONのヌクレオチドは、本明細書では「オーファンヌクレオチド」として定義される。好ましい実施形態では、本発明のAONは、2’-OMeまたは2’-MOEリボース修飾を含む少なくとも1個のヌクレオチドを含み、オーファンヌクレオチドは、2’-OMeまたは2’-MOEリボース修飾を保有しない。
【0031】
本発明によるAONは、少なくとも15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、または36ヌクレオチド長であるのが好ましい。AONの長さは、存在する構造に応じて変化することができる(ヘアピン構造のAONは一般により長いが、ヘアピン構造が存在しない場合、AONは比較的「短い」とすることができ、好ましくは15~25個のヌクレオチドを含む)。本発明のAONは、必ずしもADARを誘引するための動員部分(ステムループ構造)を保有するとは限らないが、動員部分は除外されない。いずれの場合でも、本明細書に概説のシチジンアナログは、様々な異なるRNA編集AONにおいて適用することができる。また、好ましくは、AONは100個のヌクレオチドよりも短く、より好ましくは60個のヌクレオチドよりも短い。
【0032】
別の実施形態では、本発明は、遺伝障害であって:嚢胞性線維症、ハーラー症候群、アルファ-1-アンチトリプシン(A1AT)欠損症、パーキンソン病、アルツハイマー病、色素欠乏症、筋萎縮性側索硬化症、喘息、β-サラセミア、CADASIL症候群、シャルコー-マリー-トゥース病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、遠位脊髄性筋萎縮症(DSMA)、デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロフィー、栄養障害性表皮水疱症、表皮水疱症、ファブリー病、第V因子ライデン関連障害、家族性腺腫性ポリポーシス、ガラクトース血症、ゴーシェ病、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、血友病、遺伝性ヘモクロマトーシス、ハンター症候群、ハンチントン病、炎症性腸疾患(IBD)、先天性多凝集症候群、レーバー先天性黒内障、レッシュ-ナイハン症候群、リンチ症候群、マルファン症候群、ムコ多糖症、筋ジストロフィー、I型およびII型筋強直性ジストロフィー、神経線維腫症、ニーマン-ピック病A型、B型およびC型、NY-eso1関連がん、ポイツ-イェガース症候群、フェニルケトン尿症、ポンペ病、原発性線毛疾患、プロトロンビン変異関連障害、例えばプロトロンビンG20210A変異、肺高血圧症、(常染色体優性型)網膜色素変性症、サンドホフ病、重症複合免疫不全症候群(SCID)、鎌状赤血球貧血、脊髄性筋萎縮症、スタルガルト病、テイ-サックス病、アッシャー症候群(例えばアッシャー症候群I型、II型およびIII型)、X連鎖免疫不全、スタージ-ウェーバー症候群、ならびに、がんからなる群から好ましくは選択される、遺伝障害の処置のための医薬の製造における、本発明によるAONの使用に関する。
【0033】
本発明によるAONの使用を通して関与するヌクレオチドデアミナーゼ活性を備える哺乳動物酵素は、好ましくはアデノシンデアミナーゼ酵素、より好ましくはADAR2、さらにより好ましくは細胞に存在する内因性ADAR2酵素であるとともに、標的RNA分子の標的ヌクレオチドを変更させることができ、その標的ヌクレオチドはその場合、イノシンへ脱アミノ化されるアデノシンであるのが好ましい。
【0034】
別の実施形態では、本発明は、対象、好ましくはそれを必要とするヒト対象を処置する、方法であって、対象は、アデノシンの出現(例をあげるとPTCで)を伴う変異によって引き起こされる遺伝障害に罹患しており、ここで、標的アデノシンのイノシンへの脱アミノ化によって、疾患が緩和、予防、または改善されると思われ、本発明によるAONまたは医薬組成物を対象に投与して、対象の細胞においてAONがこの特定の相補的標的核酸と二本鎖核酸複合体を形成することを可能にするステップと;内因性で存在するhADAR2の関与を可能にするステップと;酵素が標的核酸の標的分子の標的アデノシンをイノシンへ脱アミノ化することを可能にして、それによって、遺伝病を緩和、予防または改善するステップとを含む、方法に関する。本方法により処置することができる遺伝病は、それらに限定されないが、本明細書に列記の遺伝病であるのが好ましい(上を参照されたい)。
【0035】
当業者であれば、RNAオリゴヌクレオチドなどのオリゴヌクレオチドは一般に繰り返しモノマーからなることを知っている。かかるモノマーは、ほとんどの場合、ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログである。RNAの最も共通の天然に存在するヌクレオチドは、アデノシン一リン酸(A)、シチジン一リン酸(C)、グアノシン一リン酸(G)、およびウリジン一リン酸(U)である。これらは、五炭糖、リボース、リン酸エステルを介して連結している5’連結リン酸基、および1’-連結塩基からなる。糖は、塩基とリン酸を接続し、したがって、ヌクレオチドの「足場」と呼ばれることが多い。それゆえ、五炭糖における修飾は「足場修飾」と呼ばれることが多い。重度の修飾の場合、当初の五炭糖を、塩基とリン酸を同様に接続する別の部分で全体として置き換えることが可能かもしれない。したがって、五炭糖は足場であることが多いが、一方、足場は必ずしも五炭糖であるとは限らないことが理解される。核酸塩基と呼ばれることもある塩基は一般に、アデニン、シトシン、グアニン、チミンもしくはウラシル、またはそれらの誘導体である。シトシン、チミン、およびウラシルはピリミジン塩基であり、一般にそれらの1-窒素を通して足場に連結している。アデニンおよびグアニンはプリン塩基であり、一般にそれらの9-窒素を通して足場に連結している。
【0036】
ヌクレオチドは一般に、その5’-リン酸部分が隣接ヌクレオチドモノマーの3’-ヒドロキシル部分に縮合することを通して、隣接ヌクレオチドに接続されている。同様に、その3’-ヒドロキシル部分は一般に、隣接ヌクレオチドモノマーの5’-リン酸に接続されている。これにより、ホスホジエステル結合が形成される。ホスホジエステルと足場は交互コポリマーを形成する。塩基はこのコポリマー上に、すなわち足場部分にグラフトされる。この特徴により、オリゴヌクレオチドの連結モノマーによって形成される交互コポリマーは、オリゴヌクレオチドの「主鎖」と呼ばれることが多い。ホスホジエステル結合は隣接モノマーどうしを互いに接続するので、「主鎖結合」と呼ばれることが多い。リン酸基は、修飾され、その結果、かわりにホスホロチオエート(PS)などのアナログ部分である場合、かかる部分は依然としてモノマーの主鎖結合と呼ばれることが理解される。これは「主鎖結合の修飾」と呼ばれる。一般論として、オリゴヌクレオチドの主鎖は、交互足場および主鎖結合を含む。
【0037】
本発明のオリゴヌクレオチドの核酸塩基は、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、またはウラシルとすることができる。核酸塩基は、アデニン、シトシン、グアニン、またはウラシルの修飾型とすることができる。修飾核酸塩基は、ヒポキサンチン(イノシンの核酸塩基)、シュードウラシル、シュードシトシン、1-メチルシュードウラシル、オロト酸、アグマチジン、リシジン、2-チオウラシル、2-チオチミン、5-ハロウラシル、5-ハロメチルウラシル、5-トリフルオロメチルウラシル、5-プロピニルウラシル、5-プロピニルシトシン、5-アミノメチルウラシル、5-ヒドロキシメチルウラシル、5-ホルミルウラシル、5-アミノメチルシトシン、5-ホルミルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、7-デアザグアニン、7-デアザアデニン、7-デアザ-2,6-ジアミノプリン、8-アザ-7-デアザグアニン、8-アザ-7-デアザアデニン、8-アザ-7-デアザ-2,6-ジアミノプリン、シュードイソシトシン、N4-エチルシトシン、N2-シクロペンチルグアニン、N2-シクロペンチル-2-アミノプリン、N2-プロピル-2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン、2-アミノプリン、G-クランプ、スーパーA、スーパーT、スーパーG、アミノ修飾核酸塩基またはそれらの誘導体;および、縮重またはユニバーサル塩基、2,6-ジフルオロトルエンなど、または非存在、脱塩基部位など(例えば、1-デオキシリボース、1,2-ジデオキシリボース、1-デオキシ-2-O-メチルリボース、アザリボース)、とすることができる。本明細書で使用される「アデニン」、「グアニン」、「シトシン」、「チミン」、「ウラシル」および「ヒポキサンチン」という用語は、核酸塩基それ自体を指す。「アデノシン」、「グアノシン」、「シチジン」、「チミジン」、「ウリジン」および「イノシン」という用語は、(デオキシ)リボシル糖に連結した核酸塩基を指す。
【0038】
本発明のオリゴヌクレオチドは、2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)リボース修飾を保有する1個または複数のヌクレオチドを含むことができる。また、AONは、2’-MOEリボース修飾を保有しない1個または複数のヌクレオチドを好ましくは含み、ここで、2’-MOEリボース修飾は、ヌクレオチドデアミナーゼ活性を備える酵素が標的ヌクレオチドを脱アミノ化することを妨げない位置にある。そして、別の好ましい態様では、AONは、2’-MOEリボース修飾を含まない位置に2’-O-メチル(2’-OMe)リボース修飾を含み、および/またはここで、オリゴヌクレオチドは、2’-MOEリボース修飾を含まない位置にデオキシヌクレオチドを含む。AONは、2’-MOE、2’-OMe、2’-OH、2’-デオキシ、2’-F、または2’-4’-結合を含む2’位を含む1個または複数のヌクレオチドを含むことができる(すなわち、ロック核酸またはLNA)。2’-4’結合は、メチレンリンカーや拘束エチルリンカーなどの当技術分野で公知のリンカーから選択することができる。様々な2’修飾については、国際公開第2016/097212号パンフレット、国際公開第2017/220751号パンフレット、国際公開第2018/041973号パンフレット、国際公開第2018/134301号パンフレット、国際公開第2019/219581号パンフレット、および国際公開第2019/158475号パンフレットにおいて、さらに詳細に論じられている。すべての場合において、オリゴヌクレオチドが編集オリゴヌクレオチドとしてのその役割を満たすように、修飾は編集と適合している必要がある。位置がUNAリボース修飾を含む場合、当該位置は、上で論議と同じ修飾を含む2’位、すなわち、2’-MOE、2’-OMe、2’-OH、2’-デオキシ、2’-F、または2’-4’-結合(すなわち、ロック核酸またはLNA)を有することができる。ここでも、すべての場合において、オリゴヌクレオチドが編集オリゴヌクレオチドとしてのその役割を満たすように、修飾は編集と適合している必要がある。本発明のすべての態様では、ヌクレオチドデアミナーゼ活性を備える酵素は、ADAR1またはADAR2であることが好ましい。高度に好ましい実施形態では、AONは、プレmRNAまたはmRNAを標的とするRNA編集オリゴヌクレオチドであり、ここで、標的ヌクレオチドは、標的RNAのアデノシンであり、ここで、アデノシンは、翻訳機構によってグアノシンとして読み取られているイノシンへ脱アミノ化される。さらに好ましい実施形態では、アデノシンは、UGAまたはUAGのストップコドンに位置し、これは、UGGコドンに編集される;または、ここで、2個の標的ヌクレオチドはUAAストップコドンの2個のアデノシンであり、このコドンは、両方の標的アデノシンの脱アミノ化を通してUGGコドンに編集され、ここで、オリゴヌクレオチドの2個のヌクレオチドは標的核酸とミスマッチする。本発明はまた、本明細書で特徴付けられるようなAON、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物にも関する。
【0039】
「シチジンアナログ」という用語は、N3でH結合供与体として機能してADAR2と相互作用する任意の核酸塩基を指す。かかるシチジンアナログの非限定的な例は、シュードイソシチジン(piC)、ベンナーのZ(dZ)、5-ヒドロキシC-H+、5-アミノC-H+および8-オキソA(syn)である。当業者であれば、N3でH結合供与体として機能してhADAR2と相互作用するとともに標的アデノシンの脱アミノ化を可能にする任意の核酸塩基は、本明細書で使用されるシチジンアナログの定義の範囲内であることを、本開示に基づいて知るであろう。「ヌクレオシド」という用語は、リン酸基が無い状態で、(デオキシ)リボシル糖に連結した核酸塩基を指す。「ヌクレオチド」は、ヌクレオシドと1個または複数のリン酸基から構成される。したがって、「ヌクレオチド」という用語は、それぞれの核酸塩基-(デオキシ)リボシル-ホスホリンカーも、リボース部分またはホスホ基の任意の化学修飾も指す。したがって、この用語には、ロックリボシル部分(メチレン基または他の任意の基を含む2’-4’ブリッジを含む)を含むヌクレオチド、アンロック核酸(UNA)、ホスホジエステル、ホスホノアセテート、ホスホトリエステル、PS、ホスホロ(ジ)チオエート、MPを含むリンカー、ホスホロアミデートリンカー等を含むヌクレオチドが含まれることとなろう。しばしば、アデノシンとアデニン、グアノシンとグアニン、シチジンとシトシン、ウラシルとウリジン、チミンとチミジン/ウリジン、イノシンとハイポキサンチンという用語は、一方では対応する核酸塩基、および他方ではヌクレオシドまたはヌクレオチド、を指すのに互換的に使用される。しばしば、核酸塩基、ヌクレオシドおよびヌクレオチドという用語は、例をあげると、ヌクレオシドが隣接ヌクレオシドに連結し、これらのヌクレオシド間の結合が修飾されている場合、文脈上異なることを明らかに必要としない限り、互換的に使用される。上述のように、ヌクレオチドとは、ヌクレオシド+1個または複数のリン酸基である。「リボヌクレオシド」および「デオキシリボヌクレオシド」、または「リボース」および「デオキシリボース」という用語は、当技術分野で使用される通りである。「アンチセンスオリゴヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、または「AON」に言及する場合はいつでも、文脈上別段の指示がない限り、オリゴリボヌクレオチドおよびデオキシオリゴリボヌクレオチドの両方を意味する。「オリゴリボヌクレオチド」に言及する場合はいつでも、これは塩基A、G、C、UまたはIを含むことができる。「デオキシオリゴリボヌクレオチド」に言及する場合はいつでも、これは塩基A、G、C、TまたはIを含むことができる。
【0040】
好ましい態様では、本発明のAONとは、化学修飾を含み、ある特定の指定された位置にデオキシヌクレオチド(DNA)を含むことができる、オリゴリボヌクレオチドである。オリゴヌクレオチド、オリゴ、ON、オリゴヌクレオチド組成物、アンチセンスオリゴヌクレオチド、AON、(RNA)編集オリゴヌクレオチド、EON、およびRNA(アンチセンス)オリゴヌクレオチドなどの用語は、本明細書では互換的に使用することができる。シトシンなどのオリゴヌクレオチド構築物中のヌクレオチドに言及する場合はいつでも、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシンおよびβ-D-グルコシル-5-ヒドロキシ-メチルシトシンが含まれる;アデニンに言及する場合はいつでも、N6-メチルアデニンおよび7-メチルアデニンが含まれる;ウラシルについて言及する場合、ジヒドロウラシル、4-チオウラシルおよび5-ヒドロキシメチルウラシルが含まれる;グアニンに言及する場合、1-メチルグアニンが含まれる。ヌクレオシドまたはヌクレオチドに言及する場合はいつでも、2’-デオキシ、2’-ヒドロキシなどのリボフラノース誘導体、および2’-O-メチルなどの2’-O-置換バリアントが含まれ、同様に、2’-4’ブリッジバリアントを含めて、他の修飾も含まれる。オリゴヌクレオチドに言及する場合はいつでも、2つのモノヌクレオチド間の結合は、ホスホジエステル結合ならびにそれらの修飾物とすることができ、これにはホスホノアセテート、ホスホジエステル、ホスホトリエステル、PS、ホスホロ(ジ)チオエート、MP、ホスホロアミデートリンカー等が含まれる。
【0041】
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」ならびに「からなる(consisting)」を包含する、例えば、「Xを含む」組成物は、Xのみからなってもよく、またはさらなる何か、例えばX+Yを含んでもよい。数値xに関して「約」という用語は必要に応じたものであり、例えば、x±10%を意味する。「実質的に」という語は、「完全に」を除外するものではなく、例えば、「Yを実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まない場合がある。適切な場合には、「実質的に」という語は、本発明の定義から省略されることがある。
【0042】
本明細書で使用される「相補的」という用語は、生理学的条件下でAONが標的配列にハイブリダイズするという事実を指す。この用語は、AONのそれぞれのおよびあらゆるヌクレオチドが標的配列のその対向するヌクレオチドと完全な対合を有することを意味しない。言い換えれば、AONは標的配列と相補的とすることができるが、AONと標的配列との間にはミスマッチ、ゆらぎおよび/またはバルジがあってもよく、その一方で生理学的条件下で当該AONは標的配列になおもハイブリダイズし、その結果、細胞のRNA編集酵素は標的アデノシンを編集することができる。したがって、「実質的に相補的」という用語はまた、ミスマッチ、ゆらぎ、および/またはバルジの存在にもかかわらず、生理学的条件下でAONが標的RNAにハイブリダイズするという、AONと標的配列との間に十分なマッチングヌクレオチドをAONが有することを意味する。本明細書に示すように、AONは相補的とすることができるが、生理学的条件下でAONがその標的にハイブリダイズすることができる場合、標的配列との1つまたは複数のミスマッチ、ゆらぎおよび/またはバルジも含むことができる。
【0043】
核酸配列に関して「下流」という用語は、さらに3’方向に配列に沿うことを意味し;「上流」という用語はその逆を意味する。したがって、ポリペプチドをコードする任意の配列において、スタートコドンは、センス鎖ではストップコドンの上流にあるが、アンチセンス鎖ではストップコドンの下流にある。
【0044】
「ハイブリダイゼーション」への言及は典型的には特異的ハイブリダイゼーションを指し、非特異的ハイブリダイゼーションを除外する。プローブと標的との間の安定な相互作用の大部分が、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性をプローブと標的とが有する場合であることを確保するように、当技術分野で周知の技法を使用して、指定の実験条件下で特異的ハイブリダイゼーションを行うことができる。「ミスマッチ」という用語は、ワトソン-クリック型塩基対合則に従って完全な塩基対を形成しない、二本鎖RNA複合体中の対向するヌクレオチドを指すために本明細書中で使用される。ミスマッチヌクレオチドとは、G-A、C-A、U-C、A-A、G-G、C-C、U-U対である。一部の実施形態では、本発明のAONは、4未満のミスマッチ、例えば、0、1または2のミスマッチを含む。ゆらぎ塩基対は、G-U、I-U、I-A、およびI-C塩基対である。
【0045】
「スプライス変異」という用語は、エクソンからのイントロンのスプライシングが妨げられ、異常なスプライシングに起因して、その後の翻訳が、フレームから外れて、コードされたタンパク質の未成熟終止をもたらすという意味において、スプライシング機構が機能不全である、プレmRNAをコードする遺伝子における変異に関する。多くの場合、このような短縮タンパク質は、迅速に分解され、本明細書で論議のように、機能的活性をなんら有さない。正確な変異は、RNA編集に対する標的である必要はない;スプライス変異の近接または近傍アデノシンが標的ヌクレオチドであり、このアデノシンのIへの変換により、スプライス変異が正常状態へと修復される可能性がある。当業者であれば、スプライス変異の部位または領域内のアデノシンのRNA編集の後、正常なスプライシングが復元されるか否かを判定する方法を知っている。
【0046】
本発明によるAONは、例えば、2’-O-メチル化糖部分(2’-OMe)を、および/または2’-O-メトキシエチル糖部分(2’-MOE)をヌクレオチドにもたらすことによって、ほとんど全体として化学的に修飾することができる。しかし、オーファンヌクレオチドはシチジンアナログであり、好ましくは2’-OMeまたは2’-MOEの修飾を含まず、ならびに、さらに好ましい態様では、標的アデノシンに対向する各ヌクレオチドに隣接する少なくとも1個の近接ヌクレオチドが、および好ましい態様では、標的アデノシンに対向する各ヌクレオチドに隣接する2個の近接ヌクレオチドの両方が、2’-OMe修飾をさらに含まない。AONのすべてのヌクレオチドが2’-OMe修飾を保持するという完全な修飾は、RNA編集が進行する限り、非機能的オリゴヌクレオチドをもたらすが(当技術分野で公知である)、その理由は、おそらく、標的化された位置でADAR活性を妨害するからである。一般に、標的RNAのアデノシンは、2’-OMe基を含む対向するヌクレオチドを提供することによって、または、対向する塩基としてグアニンもしくはアデニンを提供することによって編集から保護することができ、これはこれら2つの核酸塩基はまた、対向するアデノシンの編集を低減することができるからである。本発明に従って容易に使用することができるオリゴヌクレオチドの分野において、種々の化学物質および修飾が公知である。ヌクレオチド間の定型的ヌクレオシド間結合は、ホスホジエステル結合のモノまたはジチオ化によって変更されて、それぞれホスホロチオエートエステルまたはホスホロジチオエートエステルを生じることができる。アミド化およびペプチドリンカーを含めて、ヌクレオシド間結合の他の修飾が可能である。好ましい態様では、本発明のAONは、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、または60個のヌクレオチドを含む。
【0047】
RNA編集主体(例えばヒトADAR酵素)は、いくつかの要因に応じて、種々の特異性を持ってdsRNA構造を編集することは当技術分野で公知である。重要な一要因とは、dsRNA配列を作り上げる2つの鎖の相補性の程度である。2つの鎖の完全な相補性によって通常、hADARの触媒ドメインは、遭遇する任意のアデノシンと多かれ少なかれ反応して、非差別的にアデノシンを脱アミノ化する。hADAR1および2の特異性を、化学修飾を導入することおよび/またはdsRNAにいくつかのミスマッチを確保することによって向上することができるが、このことは、まだ明確に定義されていない形でdsRNA連結ドメインを配置するのに役立つと推定される。加えて、脱アミノ化反応自体は、編集するアデノシンと対向するミスマッチを含むAONを提供することによって増強することができる。本明細書に開示のミスマッチは、編集するアデノシンと対向するシチジンアナログを有するターゲティング部分を提供することによって創り出される。本出願の指示により、当業者であれば、それらの必要性に応じてオリゴヌクレオチドの相補部分を設計することができるであろう。
【0048】
本発明のAONと共に使用される、最も興味深い、細胞に存在するRNA編集タンパク質は、ヒトADAR2である。細胞内部の編集主体が他の標的部位にリダイレクトされる程度は、編集分子の認識ドメインに対する本発明によるAONの親和性を変化させることによって調節することができることは、当業者であれば理解するであろう。正確な修飾は、いくらかの試行錯誤によって、および/またはAONと編集分子の認識ドメインとの間の構造的相互作用に基づくコンピューター計算方法によって決定することができる。加えて、あるいは代替的に、細胞に常在性の編集主体を動員およびリダイレクトする程度は、AONの投薬および投薬レジメンによって調節することができる。これは実験者(in vitro)または臨床医によって、通常は第I相および/または第II相治験で決定されるものである。
【0049】
本発明は真核生物、好ましくは後生動物、より好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトの各細胞における標的RNA配列の修飾に関係する。本発明は任意の臓器、例えば、皮膚、肺、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、腸、筋肉、腺、眼、脳、血液等由来の細胞と共に使用することができる。本発明は、(ヒト)対象の罹患状態に関与する細胞、組織または臓器において配列を修飾するのに特に適している。細胞は、in vitro、ex vivo、またはin vivoで存在することができる。本発明の一利点とは、本発明は、生体のin situの細胞と共に使用できることであるが、培養中の細胞と共に使用できることでもある。一部の実施形態では、細胞は、ex vivoで処理され、次いで、生体に導入される(例えば、細胞が元々由来した生物に再導入される)。本発明はまた、いわゆるオルガノイド内の細胞において標的RNA配列を編集するのに使用することもできる。オルガノイドは、三次元のin vitro由来の組織であると考えることができるが、特定の条件を使用して駆動されて個々の分離された組織を生成する(例えば、Lancaster & Knoblich, Science 2014, vol. 345 no. 6194 1247125を参照されたい)。治療状況では、オルガノイドは、患者の細胞からin vitroで誘導することができるので有用であり、次いで、オルガノイドは、通常の移植片よりも拒絶される可能性が低い自家材料として患者に再導入することができる。処置される細胞は一般に遺伝的変異を有することになる。変異はヘテロ接合であってもホモ接合であってもよい。本発明は、典型的には、NからAへの変異(式中、NはG、C、U(DNAレベルではT)とすることができる)、好ましくはGからAへの変異、またはNからCへの変異(式中、NはA、G、U(DNAレベルではT)とすることができる)、好ましくはUからCへの変異などの、点変異を改変するために使用されることになる。
【0050】
理論に拘束されることを望むものではないが、hADAR2を通してのRNA編集は、例えば成熟mRNA、miRNA、またはncRNAを編集することができる、転写またはスプライシング過程で、核内において、または細胞質内において、一次転写物で起こると考えられる。
【0051】
多くの遺伝病がGからAへの変異によって引き起こされ、変異した標的アデノシンでのアデノシン脱アミノ化は、機能的で、全長のおよび/または野生型のタンパク質をもたらすコドンに当該変異を元に戻すことになるので、特に変異がPTCに関係する場合、上記の多くの遺伝病は優先される標的疾患である。本発明によるオリゴヌクレオチドで予防および/または処置することができる遺伝病の優先される例は、標的RNAの1個または複数のアデノシンの修飾によって(潜在的に)有益な変化がもたらされることになる、任意の疾患である。特に優先されるのは、アッシャー症候群およびCFであり、より具体的には、CFTR RNAの疾患誘導性PTCにおけるアデノシンのRNA編集が優先される。CF変異に関する当業者であれば、G542X、W1282X、R553X、R1162X、Y122X、W1089X、W846X、W401X、621+1G>Tまたは1717-1G>Aを含めて、1000から2000の間の変異がCFTR遺伝子において公知であることを理解している。
【0052】
本発明による標的化編集は、それが所与の配列における変異したヌクレオチドであろうと野生型ヌクレオチドであろうと、任意のアデノシンに適用できることは自明である。例えば、編集を使用して、様々な特性を備えるRNA配列を創り出すことができる。そのような特性とは、コーディング特性(様々な配列または長さを備えるタンパク質を創り出し、その結果、タンパク質の特性または機能の変更を招く)、または結合特性(RNA自体または標的または結合パートナーの阻害または過剰発現を引き起こす;miRNAまたはそれらの同族配列を標的RNAに再コード化することによって、発現経路全体を変更することができる)とすることができる。タンパク質の機能または局在化は、それらに限定されないが、シグナル配列、ターゲティングまたは局在化のシグナル、タンパク質分解切断または同時翻訳修飾もしくは翻訳後修飾向けの認識部位、酵素の触媒部位、結合パートナーの結合部位、分解または活性化向けのシグナル等を含めて、機能的ドメインまたは認識モチーフによって、自由に変化させることができる。これらならびに他の形態のRNAおよびタンパク質の「工学」は、疾患を予防、遅延または処置するかどうかにかかわらず、あるいは、診断、予防、治療、研究のツールまたはそれ以外として、医学またはバイオテクノロジーにおいて、他の任意の目的であれ、本発明によって包含される。
【0053】
投与されるAONの量、用量および投薬レジメンは、細胞のタイプごとに、処置される疾患、標的集団、投与の様式(例えば、全身対局所)、疾患の重度、および副次的活性の許容可能レベルで異なることができるが、これらは、前治験および治験でのin vitro研究の過程で試行錯誤によって評価することができかつそうするする必要がある。修飾配列が、容易に検出される表現型の変化を招く場合、治験は特に簡単である。より高用量のAONは、細胞内のADARへの結合について競合し、それによってRNA編集に自由に参加することができる主体の量が枯渇する可能性があるが、ルーチンでの投薬を試みることにより、所与のAONおよび所与の標的に対する任意のかかる効果が明らかとなるであろう。
【0054】
ある適切な試験技法は、AONを細胞株または試験生物に送達すること、次いで、その後の種々の時点で生検試料を採取することを含む。標的RNAの配列を生検試料において評価することができ、修飾を有する細胞の割合を容易にフォローすることができる。こういった試験を一度実行した後は、次にその知識が保持され、生検試料を採取する必要なく今後の送達を実行することができる。したがって、本発明の方法は、細胞の標的RNA配列における所望の変化の存在を特定するステップ、それによって標的RNA配列が修飾されたことを検証するステップを含むことができる。本ステップは、典型的には、上で論議のように、標的RNAの関連部分、またはそのcDNAコピー(または標的RNAがプレmRNAである場合は、そのスプライシング産物のcDNAコピー)の配列決定ステップを含むことになり、したがって、配列の変化を容易に検証することができる。あるいは、変化を、タンパク質のレベル(長さ、グリコシル化、機能等)で評価してもよいし、または何らかの機能的読出し情報、例えば標的RNA配列によってコードされるタンパク質がイオンチャネルである場合は、(誘導性)電流によって評価してもよい。
【0055】
細胞でRNA編集が行われた後、例えば細胞分裂、編集されたRNAの限定された半減期等に起因して、修飾されたRNAは経時的に希釈されることになる場合がある。したがって、実際の治療期間中、本発明の方法は、十分な標的RNAが修飾されて患者に有形の効果をもたらすまでおよび/または経時的に効果を維持するまで、AONの反復送達を含むことができる。
【0056】
本発明のAONは治療用途に特に適しており、したがって、本発明は、本発明のAONおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。本発明の一部の実施形態では、薬学的に許容される担体は単に生理食塩水とすることができる。これは、特に肺送達向けには、有用に等張性であっても低張性であってもよい。本発明はまた、本発明の医薬組成物を含む送達装置(例えば注射器、吸入器、ネブライザー)も提供する。
【0057】
本発明はまた、本明細書に記載のように、哺乳動物、好ましくはヒトの細胞において標的RNA配列に変化を加える方法における使用のための本発明のAONを提供する。同様に、本発明は、本明細書に記載のように、哺乳動物、好ましくはヒトの細胞において標的RNA配列に変化を加える医薬の製造における本発明のAONの使用を提供する。
【0058】
本発明はまた、細胞の標的RNA分子に存在する少なくとも1個の特異的標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって、本発明によるAONを細胞に供給するステップと;AONの細胞による取り込みを可能にするステップと;AONを標的RNA分子にアニーリングさせるステップと;野生型酵素に見られるような天然のdsRNA結合ドメインを含む哺乳動物ADAR酵素が、標的RNA分子の標的アデノシンをイノシンへ脱アミノ化することを可能にするステップと;必要に応じて、RNA配列においてイノシンの存在を特定するステップとを含む方法に関する。
【0059】
好ましい態様では、AからIへの変換の最終的な脱アミノ化効果に応じて、特定ステップは:標的RNAを配列決定するステップ;機能的で、伸長された、全長のおよび/または野生型のタンパク質の存在を評価するステップ;プレmRNAのスプライシングが脱アミノ化によって変更されたか否かを評価するステップ;または機能的読出し情報を使用するステップであって、脱アミノ化後の標的RNAが、機能的で、全長の、伸長されたおよび/または野生型のタンパク質をコードする、ステップを含む。アデノシンのイノシンへの脱アミノ化は、標的位置での変異したAにもはや悩まされないタンパク質をもたらすことができるので、イノシンへの脱アミノ化の特定はまた、機能的な読出し情報、例をあげると、機能的タンパク質が存在するか否かに関する評価、または、さらにアデノシンの存在によって引き起こされる疾患が(部分的に)元に戻っているという評価、とすることができる。本明細書で言及の疾患それぞれの機能的評価は一般に、当業者に公知の方法によることになる。標的アデノシンの脱アミノ化後にイノシンの存在を特定するための極めて適切な様式とは、当業者に周知の方法を使用して、当然ながらRT-PCRおよび配列決定である。
【0060】
本発明によるAONは、薬学的使用に適合する、添加剤、賦形剤、およびその他の成分を必要に応じて含む、水溶液、例えば、生理食塩水で、または、懸濁液で、1ng/ml~1g/ml、好ましくは10ng/ml~500mg/ml、より好ましくは100ng/ml~100mg/mlの範囲の濃度で、適切に投与される。投薬量は、適切には、約1μg/kgから約100mg/kg、好ましくは約10μg/kgから約10mg/kg、より好ましくは約100μg/kgから約1mg/kgの間の範囲とすることができる。投与は、吸入(例えば、ネブライザーを通して)によって、鼻腔内に、経口に、注射もしくは注入によって、静脈内に、皮下に、皮内に、頭蓋内に、硝子体内に、筋肉内に、気管内に、腹腔内に、直腸内に等とすることができる。投与は、固体形態、散剤、丸剤、ゲル剤、点眼剤の形態、または、ヒトの医薬使用に適合する他の任意の形態とすることができる。
【実施例
【0061】
[実施例1]
標的アデノシンと対向する位置にシュードイソシチジン(piC)を含有するRNA編集ガイドアンチセンスオリゴヌクレオチドの合成。
すべての試薬は、Combi-blocks、Sigma Aldrich、またはFisher Scientificから購入し、特に記載がない限り、さらなる精製はせずに使用した。無水条件を要する反応は、乾燥アルゴンの雰囲気下で実施した。液体試薬は、プラスチック製ディスポーザブル注射器またはオーブン乾燥ガラス製マイクロシリンジのいずれかで導入した。ピリジンおよびN、N-ジイソプロピルエチルアミンをCaHから蒸留し、活性化3Åモレキュラーシーブで保存した。テトラヒドロフランおよび1-メチルイミダゾールを3Åモレキュラーシーブで16時間乾燥させた。ジクロロメタンは、Pure Process Technologyの溶媒精製システムから直接使用した。無水条件を要する反応の出発材料は、無水アセトニトリル、次にジクロロメタンの10%(v/v)無水ピリジンと共蒸発させることにより乾燥した。薄層クロマトグラフィー(TLC)を、Merckシリカゲル60F254プレコートTLCプレートで実施した。フラッシュカラムクロマトグラフィーを、Fisher Scientific Grade 60(230~400メッシュ)シリカゲルで実施した。H、13C、および31P NMRを、Bruker 400MHz NMRで実施した。piCビルディングブロックの中間体:
i) 6-N-(ジメチルホルムアミジノ)シュードイソシチジン;
ii) 5’-O-(4,4-ジメトキシトリチル)-6-N-(ジメチルホルムアミジノ)シュードイソシチジン;
iii) 2’-O-(tert-ブチル)ジメチルシリル-5’-O-(4,4-ジメトキシトリチル)-6N(ジメチルホルムアミジノ)シュードイソシチジン;および
iv) 3-[2’-O-(tert-ブチル)ジメチルシリル-3’-O-(2-シアノエチル-N、N-ジイソプロピルホスフィノ)-5’-O-(4,4-ジメトキシトリチル)-β-D-リボフラノシル]-6-N-(ジメチルホルムアミジノ)シュードイソシチジン
はすべて、当業者に公知の方法を使用して、文献の手順に従って合成した。
【0062】
piCシチジンアナログを含有するAONを、当業者に公知の方法を使用して生成した。AONの修飾を、図の凡例に示す。dZシチジンアナログを含有するAONを、当業者に公知の方法に従って製造することができる。このAONは、piCを含有するAONと同じ修飾を含有した。
【0063】
[実施例2]
RNA編集アンチセンスオリゴヌクレオチドのオーファンヌクレオチドとしての正常のシチジン(C)およびシュードイソシチジン(piC)を比較する速度論的ADARアッセイ。
すべての水性反応および希釈には、蒸留脱イオン水を使用した。ベンナーの塩基Zを、デオキシリボヌクレオシドホスホラミダイトとして、FireBird Biomolecular Sciences LLCから購入した。分子生物学グレードのウシ血清アルブミン(BSA)およびRNase阻害剤を、New England BioLabsから購入した。SDS-ポリアクリルアミドゲルを、Molecular Dynamics 9400 Typhonホスホイメージャーで視覚化した。データを、Molecular Dynamics ImageQuant 5.2ソフトウェアで解析した。すべてのMALDI分析を、Bruker UltraFlextreme MALDI TOF/TOF質量分析計を使用して、University of California、Davis Mass Spectrometry Facilitiesで、行った。オリゴヌクレオチドの質量を、Mongo Oligo Calculator v2.08で決定した。特に明記されていない限り、未修飾オリゴヌクレオチドは、DharmaconまたはIntegrated DNA Technologiesのいずれかから購入した。
【0064】
シチジンアナログ含有AON向けのRNA化学合成を、ABI 394シンセサイザーを使用してUniversity of Utahで行った。ヌクレオシドを適当なサイクル過程で組み込んだ。AONの配列は、5’-UUU GAG ACC UCU GUC CAG AGU UGU UCU CC-3’(配列番号1、ここでCはpiCまたはdZであり、図5にNとして示した)とした。一本鎖AONを、変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって精製し、UVシャドウイングによって視覚化した。バンドをゲルから切り取り、圧搾し、0.5M NaOAc、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、および0.1mM EDTAに4℃で一晩、浸漬した。ポリアクリルアミド断片を0.2μmフィルターで除去し、RNAを75% EtOHの溶液から-70℃で4時間沈殿させた。溶液を13,000rpmで20分間遠心分離し、上澄みを除去した。RNA溶液を凍結乾燥して乾燥し、ヌクレアーゼフリーの水に再懸濁し、260nmでの吸光度によって定量化した。オリゴヌクレオチド質量を、MALDI TOFによって確認した。精製した上部および下部の鎖をハイブリダイゼーション緩衝剤(180nM編集鎖、1.8μMガイド鎖、1×TE緩衝剤、100mM NaCl)に10:1の比で添加し、95℃に5分間加熱し、室温までゆっくりと冷却した。
【0065】
野生型hADAR2を先に記載のように(Matthews et al. 2016; MacBeth and Bass. Methods Enzymol. 2007. 15(424):319-331)発現させた。フレンチプレスを使用して、20mM Tris-HCL、pH8.0、5%グリセロール、1mM 2-メルカプトエタノール、750mM NaCl、35mMイミダゾール、および0.01% Nonidet P-40を含有する緩衝剤で細胞を溶解することにより、hADAR2の精製を行った。細胞溶解物を遠心分離(19,000rpmで1時間)により清澄化した。溶解物を3mL Ni-NTAカラムに通し、これを次いで20mL溶解緩衝剤、洗浄I緩衝剤(20nM Tris-HCl、pH8.0、5%グリセロール、1mM 2-メルカプトエタノール、750mM NaCl、35mMイミダゾール、0.01% Nonidet P-40)、洗浄II緩衝剤(20mM Tris-HCl、pH8.0、5%グリセロール、1mM 2-メルカプトエタノール、35mMイミダゾール、500mM NaCl)による3段階で洗浄し、そして、20mM Tris-HCl、pH8.0、5%グリセロール、1mM 2-メルカプトエタノール、400mMイミダゾール、100mM NaClで溶出した。生化学的アッセイにおける使用のために、標的タンパク質を含有する画分をプールし、30~80μMに濃縮した。タンパク質濃度を、SDS-ポリアクリルアミドゲルのSYPROオレンジ染色により視覚化したBSA標準物質を使用して決定した。精製hADAR2 wtを、20mM Tris-HCl pH8.0、100mM NaCl、20%グリセロールおよび1mM 2-メルカプトエタノールに-70℃で保存した。
【0066】
標的RNAを、MEGAScript T7キット(ThermoFisher)を用いてDNAテンプレートから転写した。DNA消化を、RQ1 RNaseフリーDNase(Promega)を使用して行った。DNase処理したRNA産物を上記のように精製した。
【0067】
DNAテンプレート配列:
【0068】
【化1】
イタリック体の領域を用いてT7プロモーターを表し、太字の大きなAを用いて標的のアデノシンを表し、ggatccを用いて制限部位(BamHI)、および下線付きの領域を用いて図5に示す標的配列を表す。
【0069】
「標的FWD」:5’-GCT CCT CCC ATC CTG TGG GCT GAA CAG T-3’(配列番号4)および「標的RVS」:5’-CGG GGT GTG CGT GGG TGT CAT CAC T-3’(配列番号5)を、RT-PCR用のプライマーとした。
【0070】
脱アミノ化アッセイを、15mM Tris-HCl pH7.5、3%グリセロール、60mM KCl、1.5mM EDTA、0.003% Nonidet P-40、3mM MgCl、160U/mL RNAsin、1.0μg/mL、0.8nM RNA、および2nM ADAR2 wt酵素で、シングルターンオーバー条件下で実施した。各反応溶液を30℃で30分間インキュベートし、その後に酵素を添加し、そして30℃で種々の時間の間インキュベーションを行い、その後に95℃の水190μLで停止し、95℃で5分間加熱した。RT-PCR(Promega Access RT-PCR System)を使用して、脱アミノ化RNAからcDNAを生成した。
【0071】
結果として生じるcDNAを、Zymo製DNA Clean&Concentratorキットを使用して精製し、UC Davis DNA Sequencing FacilityでABI Prism 3730 Genetic Analyzerを使用して、フォワードPCRプライマーを用いてSanger Sequencingに供した。配列決定のピーク高さを、4Peaks v1.8で定量化した。各実験は3回重複で実施した。対応するゼロ時点の編集レベルを、背景差分として各データポイントから減算した。
【0072】
速度論的解析の結果を図6に示すが、結果が明確に実証するところは、シチジンアナログpiCは、AONのオーファン塩基位置に存在する場合、標的Aでの編集速度を増強することができることである。
【0073】
[実施例3]
RNA編集アンチセンスオリゴヌクレオチドのオーファンヌクレオチドとしての正常なシチジン(デオキシ-C;dC)とベンナーの塩基Z(dZ)とを比較する速度論的ADARアッセイ。
かかるシチジンアナログを保有しないAON(デオキシ-C、またはdC、これは先の実施例のCとは異なる)と比較して、標的アデノシンと対向するシチジンアナログとしてベンナーの塩基Z(dZ)を保有するAONを使用して、同一実験を行った。この速度論的解析の結果を図7に示すが、結果が指示するところは、piCとdZの間の脱アミノ化速度は同等であるが(図6も参照されたい;シチジンアナログを含む両方のAONは、当該位置にシチジンアナログを含まないAONよりも2倍高い速度を呈する)、dZ保有のAONの終点は、dCで見られたものよりも幾分か低いことである。速度上昇の重要性とは、細胞において、オリゴヌクレオチド(およびADAR)はいくつかの様々なRNAプロセシング因子(例えばスプライシング因子)と競合する必要があり、したがって、競合因子がRNAからAONおよびADARを除去する機会を有する以前に脱アミノ化反応を実行し得ることを確保する上で、速度がより速いことは極めて重要であるという結果になり得る、ということである。
【0074】
[実施例4]
RNA編集アンチセンスオリゴヌクレオチドのオーファンヌクレオチドとしてのベンナーの塩基Z(dZ)およびデオキシ-シュードイソシチジン(dpiC)と、正常のシチジン(デオキシ-C;dC)を、比較する速度論的ADARアッセイ。
かかるシチジンアナログを保有しないAON(デオキシ-C;ここではdC)と比較して、標的アデノシンと対向するシチジンアナログとして、ベンナーの塩基Z(dZ)またはデオキシ-シュードイソシチジン(dpiC)のいずれかを保有するAONを使用して、上と同一の実験を実行した。この速度論的解析の結果を図8に示すが、この結果が示すところは、エンドポイントがdCと比較してdZとdpiCの両方でより高いことである。本実験向けに合成したAONは先の実施例とは異なっていたことに留意されたい。重要なことに、オーファンヌクレオチドとしてdZを保有するAONはdCよりも速い動態を有し、このようなことは図7でも見ることができた。また、オーファンヌクレオチドとしてdpiCを保有するAONは、標的アデノシンと対向して、オーファンヌクレオチドとしてdCを保有するAONよりも速い動態を有する。
【0075】
[実施例5]
オーファンヌクレオチドとしてdCおよびdZを保有するAONのトランスフェクション後の細胞におけるRNA編集の判定。
次に、本発明者らは、オーファンヌクレオチドとしてシチジンアナログベンナーの塩基Z(dZ)を含有するAONが、細胞において、デオキシ-C(dC)を保有する同一のAONよりもRNA編集において効率的となるか否かについて、内因性ADARを使用して、調査した。上記のように、マウスIdua mRNAの同じアデノシンの特定の編集について試験した。標的の配列および相補的なターゲティングAON(図5におけるよりも幾分か長い)を図9に与える。
【0076】
選択した細胞は、Idua遺伝子にGからAへの変異を担持するマウス系統から由来する初代マウス肝線維芽細胞としたが、これにより未成熟ストップコドン(W392X)の形成がもたらされる。トランスフェクションの24時間前に、300,000個の細胞を播種した。製造業者の取扱説明書に従って(AON 1μgに対するLipofectamine 2000 2μlの比で)100nM AONおよびLipofectamine 2000(Invitrogen)を使用して、AONをトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、製造業者の取扱説明書に従ってDirect-zol RNA MiniPrep(Zymo Research)キットを使用してRNAを抽出した。ランダムヘキサマーとオリゴdTプライマーの組合せを用いて、製造業者の取扱説明書に従ってMaxima逆転写酵素キット20(Thermo Fisher)を使用して、cDNAを調製した。cDNAを3×で希釈し、この希釈液1μLを、合計インプット5ng RNAで、デジタルドロップレットPCR(ddPCR)のテンプレートとして使用した。
【0077】
核酸標的配列の絶対定量化のためのddPCRアッセイを、BioRadのQX-200 Droplet Digital PCRシステムを使用して行った。プローブ用ddPCR Supermix、dUTP(Bio Rad)、Taqman SNP遺伝子型アッセイを含む、反応ミックス20μlの総混合物中で、RT cDNA合成反応から得た希釈cDNA 1μlを、以下の遺伝子特異的プローブと組み合わせた以下のフォワードおよびリバースプライマーと共に、使用した:フォワードプライマー:5’-CTC ACA GTC ATG GGG CTC-3’(配列番号8、リバースプライマー:5’-CAC TGT ATG ATT GCT GTC CAA C-3’(配列番号9)、野生型プローブ(FAM NFQ標識):5’-AGA ACA ACT CTG GGC AGA GGT CTC A -3’(配列番号10)、および変異型プローブ(HEX NFQ標識):5’-AGA ACA ACT CTA GGC AGA GGT CTC A-3’(配列番号11)。cDNAを含むPCRミックス20μlを、ddPCRカートリッジ(BioRad)の中央の列に充填した。レプリケートを2つのカートリッジで分けた。下の列を、プローブ用のドロップレット生成オイル(BioRad)70μlで充填した。ドロップレットをQX200ドロップレット発生器で生成した。カートリッジの上列からのオイルエマルジョン40μlを96ウェルPCRプレートに移した。PCR 20プレートをスズ箔でシールし、PX1プレートシーラーを使用して170℃で4秒間保持し、これに続いて以下のPCRプログラムを行った:95℃で10分間の1サイクル、95℃で30秒間の40サイクル、63.8℃で1分、98℃で10分、これに続いて8℃で保存した。プレートを読み取り、QX200ドロップレットリーダーで解析した。
【0078】
結果を図10に与えるが、この結果が実証するところは、標的アデノシンと対向するベンナーの塩基Z(dZ)を保有するAONは、 - 唯一の差異として - 標的アデノシンと対向するデオキシシチジン(dC)を保有する同一のAONと比較して、有意により高いRNA編集パーセンテージを与えることである。
【0079】
これらの結果が示すところは、標的アデノシンの真向かいにあるAONのヌクレオチドが、N3部位で、H結合供与体として機能するシチジンアナログである場合、本発明者らは、初代マウス線維芽細胞におけるRNA編集の効率の向上も示すことができたということである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2022536173000001.app
【国際調査報告】