(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-15
(54)【発明の名称】3D印刷用の食用菓子インク組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20220805BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20220805BHJP
A23D 9/007 20060101ALN20220805BHJP
【FI】
A23L5/00 F
A23G3/34
A23L5/00 L
A23D9/007
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573901
(86)(22)【出願日】2020-06-08
(85)【翻訳文提出日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 EP2020065848
(87)【国際公開番号】W WO2020249515
(87)【国際公開日】2020-12-17
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520372869
【氏名又は名称】ブンゲ・ローデルス・クロックラーン・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリクス・ミュルデル
(72)【発明者】
【氏名】ヘレン・コルネリア・スミト
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・マ
【テーマコード(参考)】
4B014
4B026
4B035
【Fターム(参考)】
4B014GE10
4B014GG06
4B014GG11
4B014GK05
4B014GK07
4B014GL03
4B014GL07
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4B035LK01
4B035LK13
4B035LK19
4B035LP01
4B035LP21
4B035LT20
(57)【要約】
3D印刷用の食用菓子インク組成物は、20重量%~75重量%の甘味料、好ましくは砂糖と、15重量%~50重量%の脂肪組成物とを含み、該脂肪組成物は、45重量%~65重量%のラウリン酸(C12:0)と、15重量%~25重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)とを含み、該酸のパーセンテージは、脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づき、該脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で80~100の固体脂肪含有量、25℃で70~98の固体脂肪含有量および30℃で30~60の固体脂肪含有量を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3D印刷用の食用菓子インク組成物であって、20重量%~75重量%の甘味料、好ましくは砂糖と、15重量%~50重量%の脂肪組成物と、を含み、前記脂肪組成物が、
45重量%~65重量%のラウリン酸(C12:0)と、
15重量%~25重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)と、を含み、
前記酸のパーセンテージが、前記脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づき、
前記脂肪組成物が、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、
20℃で80~100の固体脂肪含有量、
25℃で70~98の固体脂肪含有量、
30℃で30~60の固体脂肪含有量
を有する、インク組成物。
【請求項2】
25重量%~70重量%、好ましくは35重量%~60重量%、より好ましくは43重量%~55重量%の甘味料と、
20重量%~45重量%、好ましくは25重量%~40重量%、より好ましくは25重量%~34重量%の前記脂肪組成物と、を含む、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記脂肪組成物が、85重量%~100重量%の飽和脂肪酸(SAFA)、好ましくは88重量%~100重量%の飽和脂肪酸(SAFA)を有し、前記酸のパーセンテージが、前記脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく、請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記脂肪組成物が、0.01~0.50の、オレイン酸(C18:1):(パルミチン酸(C16:0)+ステアリン酸(C18:0))の重量比を有し、前記酸の量が、前記脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく、請求項1~3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記脂肪組成物が、
50重量%~60重量%、好ましくは50重量%~55重量%のラウリン酸(C12:0)と、
16重量%~23重量%、好ましくは17重量%~21重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)と、を含み、
前記酸のパーセンテージが、前記脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく、請求項1~4のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記脂肪組成物が、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、
20℃で85~100、好ましくは90~98の固体脂肪含有量、および/または
25℃で75~96、好ましくは78~94の固体脂肪含有量、および/または
30℃で35~58、好ましくは40~55の固体脂肪含有量、および/または
35℃で1~7、好ましくは1~5の固体脂肪含有量
を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記脂肪組成物が、パーム核油、パーム核油画分、ココナッツ油、ココナッツ油画分およびそれらの混合物から選択される水素化ラウリン油、好ましくは完全に水素化されたパーム核ステアリンである、請求項1~6のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項8】
前記脂肪組成物が、非水素化パーム核ステアリンと非水素化パーム油ステアリンとのブレンドである、請求項1~6のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項9】
ココア粉末、粉乳、植物粉乳、乳製品粉末、ヨーグルト粉末、カカオマス、バニリン、乳化剤、着色料および香味料から選択される1つ以上の成分をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項10】
5重量%~25重量%、好ましくは6重量%~20重量%のココア粉末を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項11】
3D印刷のための、請求項1~10のいずれか一項に記載の食用菓子インク組成物の使用。
【請求項12】
3D食用菓子製品を印刷する方法であって、
a)脂肪組成物を提供するステップであって、前記脂肪組成物が、
45重量%~65重量%のラウリン酸(C12:0)と、
15重量%~25重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)と、を含み、
前記酸のパーセンテージが、前記脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づき、
前記脂肪組成物が、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、
20℃で80~100の固体脂肪含有量、
25℃で70~98の固体脂肪含有量、
30℃で30~60の固体脂肪含有量
を有するステップと、
b)ステップa)で提供された前記脂肪組成物を完全に溶融させるステップと、
c)甘味料、好ましくは砂糖と、任意選択で、ココア粉末、粉乳、植物性粉乳、乳製品粉末、ヨーグルト粉末、カカオマス、バニリン、乳化剤、着色料および香味料から選択される1つ以上の成分とを、ステップb)からの溶融させた液体の前記脂肪組成物とブレンドするステップであって、前記ブレンドが、20重量%~75重量%の甘味料、好ましくは砂糖と、15重量%~50重量%の、ステップa)およびb)からの前記脂肪組成物と、を含むステップと、
d)ステップc)で得られた前記ブレンドを50℃~65℃の温度で混合するステップと、
e)前記ステップd)から得られたインクを27℃~40℃の温度に冷却するステップであって、前記インクが流体である、ステップと、
f)複数の層を含む所定の三次元パターンに従って、前記ステップe)からの流体インクを堆積させるステップと、
g)プラットフォーム上に堆積した前記流体インクを固化温度で固化させるステップと、を含む、方法。
【請求項13】
ステップa)で提供された前記脂肪組成物が、
50重量%~60重量%、好ましくは50重量%~55重量%のラウリン酸(C12:0)と、
16重量%~23重量%、好ましくは17重量%~21重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)と、を含み、
前記酸のパーセンテージが、前記脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップa)で提供された脂肪組成物が、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、
20℃で85~100、好ましくは90~98の固体脂肪含有量、および/または25℃で75~96、好ましくは78~94の固体脂肪含有量、および/または
30℃で35~58、好ましくは40~55の固体脂肪含有量、および/または
35℃で1~7、好ましくは1~5の固体脂肪含有量
を有する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
ステップc)から得られた前記ブレンドが、ステップd)において52℃~62℃の温度で、好ましくは53℃~58℃の温度で混合される、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップd)から得られた前記混合物が、27℃~37℃の温度、好ましくは29℃~36℃の温度、より好ましくは30℃~35℃の温度に冷却される、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~10のいずれか一項に記載の食用菓子インク組成物から得られる3D印刷された菓子製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3D印刷用の食用菓子インク組成物、その使用、3D印刷された菓子製品、および3D印刷用の食用菓子インク組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナライズされたチョコレートバーやチョコレート様の菓子製品など、カスタマイズされた食品に対する人気がますます高まっている。カスタマイズされた食品は限られた量で必要とされることが多いため、これらの製品が、鋳型成形や、熟練した職人の手などによる、伝統的な方式で製造される場合、食品メーカーにとってはこれらの製品の製造コストが比較的高くなる。
【0003】
3D食品印刷は、カスタム設計された食品の製造効率を向上させるための潜在的な解決手段を提供する一方で、消費者にとって許容可能で支払い可能なレベルにまで製品コストを削減することができると考えられる。
【0004】
3D食品印刷技術としては、インクジェット印刷法、粉末結合積層(powder binding deposition)法、熱溶融積層法(FDM)が挙げられる。インクジェット印刷技術は、熱または圧電ヘッドを使用して、液滴をノズルから押し出すのに必要な圧力を発生させる。粉末結合積層としては、選択的レーザー焼結、選択的熱風焼結、ならびに溶融および液体結合が挙げられる。FDMの適用は一般的に、ピューレなどの軟質材料の印刷や、溶融チョコレートおよびヒドロゲル形成材料の印刷において見られる。可食インクが押出機/シリンジにロードされる。デジタル制御により動作する印刷ヘッドを使用して、ピストンによって力を加え、その結果、インクがプラットフォーム上に堆積する。
【0005】
EP0462093A1は、食用インクで印刷された菓子製品を調製する方法、特に印刷されたチョコレートおよびそれに使用されるインクに関するものであり、該インクは、少なくとも溶媒、懸濁した顔料、糖および界面活性剤を含み、好ましくは親油性物質および乳化剤を含むものである。
【0006】
WO2014/139966は、食用インクで印刷するための、およびインクジェット印刷装置を使用して食用インクを材料に印刷するためのプロセスに関する。その材料は食用材料であり得る。そのインクは、着色料、少なくとも30%の水、少なくとも25%の炭水化物甘味料を含み得、またジオールおよびトリオールの両方を含まないものであり得る。
【0007】
WO2013/068154は、装飾コーティングされた冷凍菓子製品を製造するためのプロセスに関し、そのプロセスは、冷凍菓子にコーティング材料の層を適用するステップと、脂肪ベースのインクをコーティングされた冷凍菓子にインクジェット印刷してパターンを形成するステップと、を含み、その脂肪ベースのインクは、少なくとも70のN10値を有する、脂肪または脂肪混合物である。
【0008】
EP1551930A1は、着色料と、脂肪もしくはワックスを分散できる担体と、脂肪もしくはワックスベースと、を含む、脂肪もしくはワックスベースの食用インクの、食用基材上への高分解能インクジェット印刷を用いて、食用製品上への高解像度画像の作製を開示する。この方法では、圧電印刷ヘッドを利用し、食用製品としては、ワックス研磨された砂シェル表面などの非平面の疎水性表面を有し、その上に100dpi超の、好ましくは300dpi超の解像度を有する印刷画像を有する菓子片が挙げられる。
【0009】
GB1441446Aは、菓子に食用インク組成物を塗布することによる菓子の装飾方法に関する。
【0010】
WO2016/150960は、特定のテクスチャリング剤を含む食品組成物、および3D印刷プロセスにおける該食品組成物の使用に関する。
【0011】
WO2016/168421は、液体、砂糖、および1つ以上のヒドロコロイドから作製される食用材料を開示する。その食用材料は、食用カップ、コンテナ等を形成するために使用することができ、高温または低温の液体を長期間保持することができ、貯蔵寿命が長い。その食用材料を形成する組成物は、3D印刷における食用用途にさらに好適である場合があり得る。
【0012】
EP2727469A1は、チョコレート層などの三次元結晶構造を印刷する方法に関し、印刷後、材料は所望の結晶構造を有する。
【0013】
EP2937206A1は、チョコレート層などの三次元結晶構造を印刷するための方法を記載しており、印刷後、材料は、所望の結晶構造および複数の非ランダムな空洞を有する。
【0014】
CN107410628Aは、3D印刷様の迅速形成型のフォンダン食品材料を開示する。そのフォンダン食品材料は、質量パーセントで、以下の原材料、すなわち綿菓子25%~30%、アイシング55%~60%、バター6%~10%、コーンシロップ4%~6%、タイロース粉末0.5%~1%およびホワイトオイル1.5%~3%を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0462093号明細書
【特許文献2】国際公開第2014/139966号
【特許文献3】国際公開第2013/068154号
【特許文献4】欧州特許出願公開第1551930号明細書
【特許文献5】英国特許出願公開第1441446号明細書
【特許文献6】国際公開第2016/150960号
【特許文献7】国際公開第2016/168421号
【特許文献8】欧州特許出願公開第2727469号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第2937206号明細書
【特許文献10】中国特許出願公開第107410628号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
3D印刷プロセスに好適な食用菓子インク組成物を提供し、構造安定性が改善され望ましい外観特性を備える印刷製品を得ることに対するニーズが依然として存在する。また、三次元の食用菓子を印刷するための適切な食用インクを使用する、実行可能かつ効率的な3D印刷方法を提供することに対するニーズも存在する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、20重量%~75重量%の甘味料と、15重量%~50重量%の脂肪組成物とを含む、3D印刷用の食用菓子インク組成物が提供され、該脂肪組成物は、45重量%~65重量%のラウリン酸(C12:0)と、15重量%~25重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)とを含み、該酸のパーセンテージは、脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づき、該脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で80~100の固体脂肪含有量、25℃で70~98の固体脂肪含有量および30℃で30~60の固体脂肪含有量を有する。
【0018】
本発明の食用菓子インクは、3D食品印刷に特に有用であることが見出された。本発明の食用菓子インクは、印刷前のテクスチャーおよび粘度が良好であるため、ノズルからスムーズにインクを押し出すことができる。プラットフォーム上に堆積した後でも、そのインクは非常に安定かつ強固な構造を維持することができ、それによりさらなる処理および/またはパッケージングが容易に可能となる。印刷されたオブジェクトもまた、所定のデザインに比較的近いものとなる。特に、本発明によるインクは、驚くべきことに、3D印刷された製品に良好な外観特性を提供する。
【0019】
「3D印刷」という用語は、材料が層状に一緒に添加された状態で、該材料が連結または固化して、所定の三次元オブジェクトを生成させる、自動化されたプロセスを指す。
【0020】
「食用」という用語は、菓子製品などの食品として、または食品の一部として、使用するのに好適であることを指す。
【0021】
「菓子」という用語は、スイーツ(キャンディー)やチョコレートなどの甘味料を含む食用食品を指す。
【0022】
「インク組成物」という用語は、成分を混合することによって調製され、3D印刷に使用する準備ができており、印刷後に固化して事前に設計された3Dオブジェクトを形成する、液体状のペースト材料を指す。「インク」という用語は、3D印刷の文脈で使用するものを指し、必ずしも着色剤(例えば染料)または色の存在を意味するわけではないが、インク組成物が色を有しても、また着色剤を含んでもよい。
【0023】
「甘味料」という用語は、甘い味を提供するために食品に添加される物質を指し、当技術分野で周知である。甘味料としては、ショ糖(一般に「砂糖」とも呼ばれ、精製後または未精製の形態で提供され得る)、グルコース、フルクトース、コーンシロップおよび高フルクトースコムシロップなどのシロップ、蜂蜜、エリスリトールを含むポリオール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、ラクチトール、キシリトール、イソマルト、プロピレングリコール、グリセロール(グリセリン)、スレイトール、ガラクチトールおよびパラチノース、スクラロース、アセスルファムカリウム、アセスルファム酸およびそれらの塩、アスパルテーム、アリタム、ネオタメ、アドバンタム、シクラメート、サッカリンおよびそれらの塩、ネオヘスペリジン、ステビオールグルコシド、果実抽出物およびそれらの組み合わせが挙げられる。当業者であれば、所望の程度の甘味を達成するために、甘味料の量、または甘味料の組み合わせを調整することができるであろう。好ましい甘味料は、ショ糖、グルコース、果糖、コーンシロップなどのシロップ、および高果糖コーンシロップである。特に好ましい甘味料はショ糖である。
【0024】
「脂肪」という用語は、脂肪酸アシル基を含有するグリセリド油脂を指し、いずれの特定の融点も意味しない。「油」という用語は、「脂肪」と同義語として使用される。
【0025】
本明細書で使用される、「脂肪酸」という用語は、8~24個の炭素原子を有する直鎖の飽和または不飽和(モノ-不飽和およびポリ-不飽和を含む)カルボン酸を指す。「脂肪酸」という用語は、遊離脂肪酸およびグリセリド中の脂肪酸残基を包含する。x個の炭素原子およびy個の二重結合を有する脂肪酸は、Cx:yと表されてもよい。例えば、パルミチン酸はC16:0と表されてもよく、オレイン酸はC18:1と表されてもよい。本明細書で言及される組成物中の脂肪酸のパーセンテージは、グリセリド中に存在するトリグリセリド、ジグリセリド、およびモノグリセリドのアシル基を含み、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく。脂肪酸プロファイル(すなわち、組成)は、例えば、ISO12966-2およびISO12966-4に従ってガスクロマトグラフィーを使用する脂肪酸メチルエステル分析(FAME)によって決定され得る。
【0026】
本発明の脂肪組成物は、本明細書で定義される脂肪酸および固体脂肪含有量の要件を満たす、天然もしくは合成の脂肪、天然もしくは合成の脂肪の画分、またはそれらの混合物から作製され得る。好ましくは、脂肪組成物は、1つ以上の植物性脂肪であるか、またはそれに由来し、任意選択で水素化されている。
【0027】
本発明のインク組成物は、20重量%~75重量%、好ましくは25重量%~70重量%、より好ましくは35重量%~60重量%、さらにより好ましくは43重量%~55重量%の甘味料を含む。
【0028】
本発明のインク組成物は、15重量%~50重量%、好ましくは20重量%~45重量%、より好ましくは25重量%~40重量%、さらにより好ましくは25重量%~34重量%の脂肪組成物を含む。
【0029】
したがって、本発明の好ましいインク組成物は、25重量%~70重量%の甘味料と、20重量%~45重量%の脂肪組成物と、を含む。本発明のより好ましいインク組成物は、35重量%~60重量%の甘味料と、25重量%~40重量%の脂肪組成物と、を含む。本発明のさらにより好ましいインク組成物は、43重量%~55重量%の甘味料と、25重量%~34重量%の脂肪組成物と、を含む。
【0030】
本発明のさらにより好ましいインク組成物は、25重量%~70重量%の砂糖と、20重量%~45重量%の脂肪組成物と、を含む。本発明のより好ましいインク組成物は、35重量%~60重量%の砂糖と、25重量%~40重量%の脂肪組成物と、を含む。本発明のさらにより好ましいインク組成物は、43重量%~55重量%の砂糖と、25重量%~34重量%の脂肪組成物と、を含む。
【0031】
本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、好ましくは85重量%~100重量%、より好ましくは88重量%~100重量%の飽和脂肪酸(SAFA)を有し、該酸のパーセンテージは、脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく。
【0032】
本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、好ましくは、オレイン酸(C18:1):(総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0))の重量比が0.01~0.55、より好ましくは0.01~0.45、さらにより好ましくは0.01~0.40であり、該酸のパーセンテージは、脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく。
【0033】
本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、45重量%~65重量%、好ましくは50重量%~60重量%、より好ましくは50重量%~55重量%のラウリン酸(C12:0)を含み、該酸のパーセンテージは、該脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく。
【0034】
本発明によるインク組成物の脂肪組成物の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)は、15%~25%、好ましくは16%~23%、より好ましくは17%~21%であり、該酸のパーセンテージは、該脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく。
【0035】
したがって、本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、好ましくは、50重量%~60重量%のラウリン酸(C12:0)と、16重量%~23重量%の総パルミチン酸(C16.0)およびステアリン酸(C18:0)とを含み、該酸のパーセンテージは、該脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく。本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、より好ましくは、50重量%~55重量%のラウリン酸(C12:0)と、17重量%~21重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)とを含み、該酸のパーセンテージは、該脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく。
【0036】
好ましい実施形態では、本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、50重量%~60重量%のラウリン酸(C12:0)と、16重量%~23重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)と、92重量%~100重量%の飽和脂肪酸(SAFA)と、を含み、オレイン酸(C18:1):(総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0))の重量比は0.01~0.55である。
【0037】
好ましい実施形態では、本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、50重量%~55重量%のラウリン酸(C12:0)と、17重量%~21重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)と、93重量%~100重量%の飽和脂肪酸(SAFA)と、を含み、オレイン酸(C18:1):(総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0))の重量比は0.01~0.45である。
【0038】
本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、好ましくは0.0重量%~7.0重量%、より好ましくは0.1重量%~6.0重量%のオレイン酸(C18:1)を含む。
【0039】
本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で80~100の固体脂肪含有量、25℃で70~98の固体脂肪含有量、および30℃で30~60の固体脂肪含有量を有する。
【0040】
好ましくは、本発明のインク組成物の脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で85~100の固体脂肪含有量、より好ましくは90~98の固体脂肪含有量を有する。
【0041】
好ましくは、本発明のインク組成物の脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、25℃で75~96の固体脂肪含有量、より好ましくは78~94の固体脂肪含有量を有する。
【0042】
好ましくは、本発明のインク組成物の脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、30℃で35~58の固体脂肪含有量、より好ましくは40~55の固体脂肪含有量を有する。
【0043】
好ましくは、本発明のインク組成物の脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、35℃で1~7の固体脂肪含有量、より好ましくは1~5の固体脂肪含有量を有する。
【0044】
好ましい実施形態では、本発明のインク組成物の脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で85~100の固体脂肪含有量、25℃で75~96の固体脂肪含有量、30℃で35~58の固体脂肪含有量、および35℃で1~7の固体脂肪含有量を有する。
【0045】
より好ましい実施形態では、本発明のインク組成物の脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で90~98の固体脂肪含有量、25℃で78~94の固体脂肪含有量、30℃で40~55の固体脂肪含有量、および35℃で1~5の固体脂肪含有量を有する。
【0046】
食用インク組成物は、該インク組成物の脂肪組成物が30℃または35℃で好ましい範囲内の固体脂肪含有量を有するときに、印刷中にノズルからスムーズかつ制御可能に押し出され、プラットフォーム上に堆積される、特に望ましいレオロジー特性を有すると考えられる。
【0047】
食用インク組成物はまた、インク組成物の脂肪組成物が20℃および/または25℃で望ましい範囲内の固体脂肪含有量を有するときに、プラットフォーム上に堆積された後、3D印刷製品の特に安定かつ強固な構造を提供すると考えられる。
【0048】
好ましい実施形態では、本発明のインク組成物の脂肪組成物は、パーム核油、パーム核油画分、ココナッツ油、ココナッツ油画分およびそれらの混合物から選択される水素化ラウリン油を含む。
【0049】
「ラウリン油」という用語は、主に短鎖および中鎖脂肪酸(カプリル酸(C8:0)、カプリン酸(C10:0)、ラウリン酸(C12:0)、およびミリスチン酸(C14:0))、例えば、ココナッツ油、パーム核油、ババス油、コフネヤシ油、クフェア油を含むグリセリド油脂を指す。
【0050】
より好ましい実施形態では、本発明のインク組成物の脂肪組成物は、水素化パーム核油を含む。さらにより好ましい実施形態では、本発明のインク組成物の脂肪組成物は、50重量%~100重量%の水素化パーム核油を含む。
【0051】
別の好ましい実施形態では、本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、トリステアリン酸ソルビタンを含む。より好ましくは、本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、0.5重量%~5.0重量%のトリステアリン酸ソルビタンを含む。さらにより好ましくは、本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、1.0重量%~3.0重量%のトリステアリン酸ソルビタンを含む。インク組成物の脂肪組成物が1.0重量%~3.0重量%のトリステアリン酸ソルビタンを含むとき、3D印刷製品の外観は特に望ましい。
【0052】
別のより好ましい実施形態では、本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、水素化パーム核油およびトリステアリン酸ソルビタンを含む。
【0053】
あるいは、本発明のインク組成物の脂肪組成物は、好ましくは非水素化されている。用語「非水素化」は、組成物が、水素化に供されて不飽和脂肪アシル基を飽和脂肪アシル基に変換された脂肪から調製されないことを意味する。脂肪が水素化されていないという要件は、組成物中のトランス脂肪酸残基の含有量が、典型的には、存在する総C8~C24脂肪酸に基づいて1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満であることを意味する。
【0054】
別の好ましい実施形態では、3D印刷用の食用菓子インク組成物は、20重量%~75重量%の甘味料と、15重量%~50重量%の非水素化脂肪組成物とを含み、該非水素化脂肪組成物は、45重量%~65重量%のラウリン酸(C12:0)と、15重量%~25重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)とを含み、該酸のパーセンテージは、脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づき、該脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で80~100の固体脂肪含有量、25℃で70~98の固体脂肪含有量および30℃で30~60の固体脂肪含有量を有する。
【0055】
別のより好ましい実施形態では、本発明による3D印刷用の食用菓子インク組成物は、20重量%~75重量%の甘味料と、15重量%~50重量%の非水素化脂肪組成物とを含み、該水素化脂肪組成物は、45重量%~65重量%のラウリン酸(C12:0)と、15重量%~25重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)と、85重量%~96重量%の飽和脂肪酸(SAFA)とを含み、該酸のパーセンテージは、脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づき、該脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で80~100の固体脂肪含有量、25℃で70~98の固体脂肪含有量および30℃で30~60の固体脂肪含有量を有する。
【0056】
別のさらにより好ましい実施形態では、本発明による3D印刷用の食用菓子インク組成物は、20重量%~75重量%の甘味料と、15重量%~50重量%の非水素化脂肪組成物とを含み、該非水素化脂肪組成物は、45重量%~65重量%のラウリン酸(C12:0)と、15重量%~25重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)と、88重量%~95重量%の飽和脂肪酸(SAFA)とを含み、該酸のパーセンテージは、脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づき、該脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で80~100の固体脂肪含有量、25℃で70~89の固体脂肪含有量および30℃で35~58の固体脂肪含有量を有する。
【0057】
非水素化脂肪組成物は、トランス脂肪酸の存在による健康リスクを低減するだけでなく、飽和脂肪酸の量も低減するため、食用菓子インク組成物に非水素化脂肪組成物を使用することは代替的に好ましい。当技術分野で周知のように、飽和脂肪は、栄養学的観点から望ましくない場合があり得る。飽和脂肪はまた、製品の香味の放出性および口当たり性を低下させ得る。好ましい代替的実施形態では、非水素化脂肪組成物を含む食用菓子インク組成物は、印刷前に依然として良好で許容可能な流動性および粘度を有し、プラットフォーム上に堆積した後に、3D印刷製品の構造を強固で許容可能なものとし、また良好な外観をもたらす。
【0058】
別の好ましい実施形態では、本発明によるインク組成物の脂肪組成物は、二重分画によって調製されたパーム核ステアリンおよび二重分画によって調製されたパームステアリン(それぞれ、パーム核スーパーステアリンおよびパームスーパーステアリンとも称される)を含む。分画は、油脂の分野で周知のように、乾式分画、溶媒分画または洗剤分画であり得る。「二重分画」という用語は、油脂の二段階分画を指す。好ましい分画は、当技術分野で周知の乾式分画である。二重分画によって製造されたパーム核スーパーステアリンは、好ましくは3~7のヨウ素価、より好ましくは4~6のヨウ素価を有する。二重分画によって調製されたパームスーパーステアリンは、好ましくは8~20のヨウ素価、より好ましくは10~15のヨウ素価を有する。「ヨウ素価」という用語は、100gの油に添加され得るヨウ素のグラム数を指し、AOCS法Cd1-25などの標準法により測定される。
【0059】
本発明による食用菓子インク組成物は、好ましくは、ココア粉末、粉乳、植物性粉乳、乳製品粉末、ヨーグルト粉末、カカオマス、バニリン、乳化剤、着色料および香味料から選択される1つ以上の任意選択の成分をさらに含む。
【0060】
本発明による食用菓子インク組成物は、好ましくは5重量%~25重量%の、より好ましくは6重量%~20重量%のココア粉末を含む。
【0061】
別の好ましい態様では、本発明による食用菓子インク組成物は、0.1重量%~1重量%、より好ましくは0.1重量%~0.5重量%の着色料を含む。
【0062】
「乳化剤」という用語は、乳濁液の安定性を動力学的に増加させる物質、例えば、レシチン、ポリリシノレイン酸ポリグリセリン(PGPR)、トリステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノグリセリドおよびジグリセリド、蒸留モノグリセリド、ならびに脂肪酸のプロピレングリコールエステルを指す。
【0063】
本発明によってさらに提供されるのは、3D印刷に好適な食用菓子インク組成物を作製するための方法であり、a)本発明による脂肪組成物を提供するステップと、b)ステップa)で提供された該脂肪組成物を完全に融解させるステップと、c)甘味料と、任意選択で、ココア粉末、粉乳、植物性粉乳、乳製品粉末、ヨーグルト粉末、カカオマス、バニリン、乳化剤、着色料および香味料から選択される1つ以上の成分とを、ステップb)からの溶融された液体状の該脂肪組成物とブレンドするステップであって、該ブレンドが、20重量%~75重量%の甘味料と、15重量%~50重量%のステップa)およびb)からの該脂肪組成物と、を含むステップと、d)ステップc)で得られた該ブレンドを50℃~65℃の温度で混合するステップと、e)該ステップd)から得られた混合物を28℃~40℃の温度に冷却するステップであって、該インク組成物が流体であるステップと、を含む。インク組成物は、28℃~40℃の温度で該方法の最後に流動性を有することにより、3D印刷で使用することができる。
【0064】
本発明はまた、3D印刷のための本発明による食用菓子インク組成物の使用に関する。
【0065】
本発明はまた、3D食用菓子製品を印刷するための方法に関し、a)脂肪組成物を提供するステップであって、該脂肪組成物が、45重量%~65重量%のラウリン酸(C12:0)と、15重量%~25重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)とを含み、該酸のパーセンテージが、該脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づき、該脂肪組成物が、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で80~100の固体脂肪含有量、25℃で70~98の固体脂肪含有量および30℃で30~60の固体脂肪含有量を有するステップと、b)ステップa)で提供された該脂肪組成物を完全に融解させるステップと、c)砂糖または他の甘味料と、任意選択で、カカオ粉末、粉乳、植物性粉乳、乳製品粉末、ヨーグルト粉末、カカオマス、バニリン、乳化剤、着色剤および香味料から選択される1つ以上の成分を、ステップb)からの溶融された液体状の該脂肪組成物とブレンドするステップであって、該ブレンドが、20重量%~75重量%の甘味料と、15重量%~50重量%のステップa)およびb)からの該脂肪組成物と、を含むステップと、d)ステップc)から得られた該ブレンドを50℃~65℃の温度で混合するステップと、e)該ステップd)から得られたインクを27℃~40℃の温度に冷却するステップであって、該インクが流体であるステップと、f)複数の層を含む所定の三次元パターンに従って該流体インクを堆積させるステップと、g)固化温度でプラットフォーム上で該流体インクを固化させるステップと、を含む。
【0066】
「固化温度」という用語は、インク組成物がプラットフォーム上で固化する温度を指す。食用組成インクの固化温度は、一般に15℃~28℃、好ましくは18℃~25℃である。
【0067】
好ましくは、本発明による方法のステップa)で提供される脂肪組成物は、50重量%~60重量%のラウリン酸(C12:0)と、16重量%~23重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)とを有し、該酸のパーセンテージは、該脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく。
【0068】
より好ましくは、本発明による方法のステップa)で提供される脂肪組成物は、50重量%~55重量%のラウリン酸(C12:0)と、17重量%~21重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)とを有し、該酸のパーセンテージは、該脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく。
【0069】
好ましくは、本発明による方法のステップa)で提供された脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で85~100の固体脂肪含有量を有する。より好ましくは、本発明による方法のステップa)で提供された脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で90~98の固体脂肪含有量を有する。
【0070】
好ましくは、本発明による方法のステップa)で提供された脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、25℃で75~96の固体脂肪含有量を有する。より好ましくは、本発明による方法のステップa)で提供された脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、25℃で78~94の固体脂肪含有量を有する。
【0071】
好ましくは、本発明による方法のステップa)で提供された脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、30℃で35~58の固体脂肪含有量を有する。より好ましくは、本発明による方法のステップa)で提供された脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、30℃で40~55の固体脂肪含有量を有する。
【0072】
好ましくは、本発明による方法のステップa)で提供された脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、35℃で1~7の固体脂肪含有量を有する。より好ましくは、本発明による方法のステップa)で提供された脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、35℃で1~5の固体脂肪含有量を有する。
【0073】
好ましい実施形態では、本発明による方法のステップa)で提供される脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で85~100の固体脂肪含有量、25℃で75~96の固体脂肪含有量、30℃で35~58の固体脂肪含有量、および35℃で1~7の固体脂肪含有量を有する。
【0074】
より好ましい実施形態では、本発明による方法のステップa)で提供される脂肪組成物は、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で90~98の固体脂肪含有量、25℃で78~94の固体脂肪含有量、30℃で40~55の固体脂肪含有量、および35℃で1~5の固体脂肪含有量を有する。
【0075】
該方法に従ってステップc)から得られたブレンドは、好ましくはステップd)において52℃~62℃の温度で、より好ましくは53℃~58℃の温度で混合される。
【0076】
該方法に従ってステップd)から得られた混合物は、好ましくは27℃~37℃の温度に、より好ましくは29℃~36℃の温度に、さらにより好ましくは30℃~35℃の温度に冷却される。
【0077】
好ましい実施形態では、本発明による3D食用菓子製品を印刷するための方法は、a)脂肪組成物を提供するステップであって、該脂肪組成物が、50重量%~60重量%のラウリン酸(C12:0)と、16重量%~23重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)とを含み、該酸のパーセンテージが、該脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づき、該脂肪組成物が、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で85~100の固体脂肪含有量、25℃で75~96の固体脂肪含有量、30℃で35~58の固体脂肪含有量、および35℃で1~7の固体脂肪含有量を有するステップと、b)ステップa)で提供された該脂肪組成物を完全に融解させるステップと、c)砂糖または他の甘味料と、任意選択でココア粉末、粉乳、植物性粉乳、乳製品粉末、ヨーグルト粉末、ココアマス、バニリン、乳化剤、着色剤および香料から選択される1つ以上の成分を、ステップb)からの溶融された液体状の該脂肪組成物とブレンドするステップであって、該ブレンドが、25重量%~70重量%の甘味料と、20重量%~45重量%のステップa)およびb)からの該脂肪組成物とを含むステップと、d)ステップc)から得られた該ブレンドを52℃~62℃の温度で混合するステップと、e)該ステップd)から得られたインクを27℃~37℃の温度に冷却するステップであって、該インクが流体であるステップと、f)複数の層を含む所定の三次元パターンに従って流体インクを堆積させるステップと、g)固化温度でプラットフォーム上で該流体インクを固化させるステップと、を含む。
【0078】
より好ましい実施形態では、本発明による3D食用菓子製品を印刷するための方法は、a)脂肪組成物を提供するステップであって、該脂肪組成物が、50重量%~55重量%のラウリン酸(C12:0)と、17重量%~21重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)とを含み、該酸のパーセンテージが、該脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づき、該脂肪組成物が、ISO8292-1に従う非安定化脂肪の測定において、20℃で90~98の固体脂肪含有量、25℃で78~94の固体脂肪含有量、30℃で40~55の固体脂肪含有量、および35℃で1~5の固体脂肪含有量を有するステップと、b)ステップa)で提供された該脂肪組成物を完全に融解させるステップと、c)砂糖または他の甘味料と、任意選択で、カカオ粉末、粉乳、植物性粉乳、乳製品粉末、ヨーグルト粉末、カカオマス、バニリン、乳化剤、着色剤および香味料から選択される1つ以上の成分とを、ステップb)からの溶融された液体状の該脂肪組成物とブレンドするステップであって、該ブレンドが、35重量%~60重量%の甘味料と、25重量%~40重量%のステップa)およびb)からの該脂肪組成物とを含むステップと、d)ステップc)から得られた該ブレンドを53℃~58℃の温度で混合するステップと、e)該ステップd)から得られたインクを29℃~36℃の温度に冷却するステップであって、該インクが流体であるステップと、f)複数の層を含む所定の三次元パターンに従って流体インクを堆積させるステップと、g)固化温度でプラットフォーム上で該流体インクを固化させるステップと、を含む。
【0079】
別の好ましい実施形態では、本発明による3D食用菓子製品を印刷するための方法は、a)非水素化脂肪組成物を提供するステップであって、該非水素化脂肪組成物が、45重量%~65重量%のラウリン酸(C12:0)と、15重量%~25重量%の総パルミチン酸(C16:0)およびステアリン酸(C18:0)と、85重量%~96重量%の飽和脂肪酸(SAFA)とを含み、該酸のパーセンテージが、該脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合する酸を指し、C8~C24脂肪酸の総重量に基づき、該脂肪組成物が、ISO8292-1に従って非安定化脂肪の測定において、20℃で80~100の固体脂肪含有量、25℃で70~98の固体脂肪含有量、および30℃で30~60の固体脂肪含有量を有するステップと、b)ステップa)で提供された該脂肪組成物を完全に融解させるステップと、c)砂糖または他の甘味料と、任意選択で、ココア粉末、粉乳、植物性粉乳、乳製品粉末、ヨーグルト粉末、ココアマス、バニリン、乳化剤、着色剤および香料から選択される1つ以上の成分とを、ステップb)からの溶融された液体状の該脂肪組成物とブレンドするステップであって、該ブレンドが、25重量%~70重量%の甘味料と、20重量%~45重量%のステップa)およびb)からの該脂肪組成物とを含むステップと、d)ステップc)から得られた該ブレンドを52℃~62℃の温度で混合するステップと、e)該ステップd)から得られたインクを27℃~37℃の温度に冷却するステップであって、該インクが流体であるステップと、f)複数の層を含む所定の三次元パターンに従って流体インクを堆積させるステップと、g)固化温度でプラットフォーム上で該流体インクを固化させるステップと、を含む。
【0080】
本発明はまた、本発明による食用菓子インク組成物から得られる、またはそれから得ることができる3D印刷された菓子製品に関する。
【0081】
本発明はまた、食用製品における、本発明による食用菓子インク組成物から得られる、またはそれから得ることができる3D印刷された菓子製品の使用に関する。
【0082】
本明細書で明らかに先に公表された文献のリストまたは考察は、その文献が最新技術の一部であるか、または共通の一般知識であることを認めるものと必ずしも解釈されるべきではない。
【0083】
本発明の所与の態様、実施形態、特徴、またはパラメータについての優先度および選択肢は、別段文脈が示さない限り、本発明のすべての他の態様、実施形態、機能、およびパラメータについてのありとあらゆる優先度および選択肢と組み合わせて開示されているものとみなされるべきである。
【0084】
以下の非限定的な実施例は本発明を説明するものであり、その範囲を決して限定するものではない。実施例において、および本明細書を通して、他に示されない限り、すべての割合、部分、および比率は重量による。
【実施例】
【0085】
実施例1-脂肪組成物
3つの脂肪組成物を調製した。各脂肪組成物を漂白し、脱臭した。
【0086】
脂肪1は、完全に水素化されたパーム核ステアリン100重量%である。パーム核ステアリンは、パーム核油から得たステアリン画分として、乾式分画によって製造した。パーム核ステアリンを次に、ヨウ素価が1未満となるまで水素化した。脂肪1aは、99重量%の完全に水素化されたパーム核ステアリンと、1.0重量%のトリステアリン酸ソルビタンとのブレンドである。
【0087】
脂肪2は、二重分画によって得た96重量%のパーム核スーパーステアリンと、二重分画によって得た4重量%のパーム油スーパーステアリンとのブレンドである。パーム核ステアリンは、パーム核油から得たステアリン画分として、乾式分画によって製造した。パーム核スーパーステアリンは、パーム核ステアリンと、パーム核油から乾式分画によって得られるステアリン画分との混合物である。パーム核スーパーステアリンのヨウ素価は、AOCS法Cd1-25で測定した結果、4~6であった。パーム油ステアリンは、パーム油から乾式分画によって得られるステアリン画分である。パーム油スーパーステアリンは、パーム油ステアリンから乾式分画によって得られるステアリン画分である。二重分画されたパーム油ステアリンのヨウ素価は、AOCS法Cd1-25で測定した結果、10~15である。
【0088】
2つの比較脂肪組成物を調製した。また各比較脂肪組成物を漂白し、脱臭した。
【0089】
比較脂肪1は、パーム核ステアリン100重量%である。
【0090】
比較脂肪2は、60重量%のパーム核ステアリンと40重量%のココナッツ油とのブレンドである。
【0091】
脂肪1、脂肪1a、脂肪2、比較脂肪1、比較脂肪2の分析結果を表1に示す。
【0092】
【0093】
実施例2-菓子用インク組成物の調製
55℃の湯浴に浸漬されたステンレス鋼容器内で、少なくとも3時間かけ、実施例1の各脂肪組成物(脂肪1、脂肪1a、脂肪2、比較脂肪1および比較脂肪2)を完全に溶融させた。
【0094】
各菓子インク組成物について、1440グラムの砂糖、210グラムのココア粉末DR74、210グラムのココア粉末NE、210グラムのスキムミルク粉末、12グラムのレシチンおよび0.6グラムのバニリンのプレミックスを調製し、室温に維持した。次に、完全に溶融させた各脂肪組成物930グラムをそれぞれプレミックスに加え、ブレンドした。
【0095】
実験用ボールミル(W-1-S、Wiener BV、オランダ)を準備し、ウォーターバスを使用して55℃に温度調節した。続いて、表2のすべての成分を含む各ブレンドをそれぞれボールミルに加え、全内容物を最高速度で40分間粉砕した。次に、ボールミルを最低速度に設定し、各材料をミルの出口からそれぞれステンレス鋼の容器に回収した。
【0096】
【0097】
回収した各材料を、55℃に設定した湯浴に浸漬させたステンレス鋼の容器に保存した。次に、容器を15℃~16℃の水浴に入れ、撹拌しながら、各材料を32℃~35℃の温度に冷却した。それにより、5つの菓子インク組成物を得た(表3)。
【0098】
【0099】
実施例3-菓子製品の3D印刷
続いて、実施例2の各菓子インク組成物を、予熱した30mLのプラスチック製シリンジ型エクストルーダー(直径23mm、40℃)に添加した。このシリンジをすぐに、発熱体を備えたByflow Focus 3Dフードプリンター(Byflow、オランダ)に装着し、シリンジを33~35℃の制御された温度に維持した。3D印刷を開始し、160×160mmの単一壁および高さ10層の、正方形からなるモデル印刷物を作製した。この所定のパターンは、Sketchupで作製し、Slic3rソフトウェアによってG-コードファイルに変換した。印刷ノズルの押し出し直径を1.6mmとし、垂直印刷速度をすべての層で15mm/秒に設定した。シリンジからインクを押し出すために必要な力をプリンターが調整することを可能にするため、最初はオブジェクトから10mmの位置に1つのブリムを印刷した。層の高さを、すべての印刷において1.2mmに設定した。それにより、5つの3D印刷された菓子製品をそれぞれ得た(表4)。
【0100】
【0101】
実施例4-3D印刷された菓子製品の評価
すべてのインク組成物は、押出機内での許容可能な粘度を有し、シリンジからスムーズに押し出し、一定の印刷速度でプラットフォーム上に堆積させることができる。印刷後、各製品の重量および高さを測定した。結果を表5に示す。
【0102】
【0103】
3D印刷された菓子製品1、1a、2の高さは、設計値12mm(1.2mm×10層)に非常に近いことが観察され、これは、印刷後の構造が設計されたものとかなり近似していることを意味する。高さの値が低いのは、インク組成物の結晶化挙動が遅すぎるために、印刷後にオブジェクトの構造が崩壊することによる。結晶化が遅いインク組成物は、明らかに3D印刷には好適でない。
【0104】
3D印刷された各菓子製品の剛性を、印刷後に直接評価した。剛性評価を表6に示す。
【0105】
【0106】
比較3D印刷製品1と比較3D印刷製品2の構造は、柔らかすぎ、不安定である。逆に、3D印刷製品2は、わずかに柔軟性があるが、硬くて安定している。3D印刷製品1および3D印刷製品1aは、硬く、望ましい。層の分離は、3D印刷製品1~3すべてで良好であり、一方で比較3D印刷製品1~2では、凝固が遅すぎるために層の分離が発生しなかった。
【0107】
すべての製品を室温で5ヶ月間保存した。5ヶ月後、各3D印刷菓子製品の光沢および再結晶(ブルーミング)を評価した。評価を表7に示す。
【0108】
【0109】
3D印刷製品1、3D印刷製品1a、および3D印刷2では再結晶は観察されなかった。比較3D印刷製品1および比較3D印刷製品2と比較すると、3D印刷製品1、3D印刷製品1aおよび3D印刷製品2は、光沢がある。3D印刷された製品1aの外観は特に望ましい。
【0110】
実施例5-染色された菓子製品の3D印刷
55℃の湯浴に浸漬されたステンレス鋼容器内で、少なくとも3時間かけ、本発明による実施例1の各脂肪組成物(脂肪1、脂肪1aおよび脂肪2)を完全に溶融させた。
【0111】
各菓子インク組成物について、1320グラムの砂糖、300グラムの脱脂粉乳、360グラムのフルクリーム粉乳、18グラムのレシチン、12グラムの着色料、および0.6グラムのバニリンのプレミックスを調製し、温度調節されたキャビネット中で50℃まで予熱した。CHR Hansenから、着色料FruitMax(登録商標)Blue1500OS、SweetColor(登録商標)Pink1150OSSおよびMintGreen300OSを入手した。次に、完全に溶融させた各脂肪組成物930グラムをそれぞれプレミックスに加え、ブレンドした。
【0112】
実験用ボールミル(W-1-S、Wiener BV、オランダ)を準備し、ウォーターバスを使用して55℃に温度調節した。続いて、表8のすべての成分を含む各ブレンドをそれぞれボールミルに加え、全内容物を最高速度で40分間粉砕した。次に、ボールミルを最低速度に設定し、各材料をミルの出口からそれぞれステンレス鋼の容器に回収した。
【0113】
【0114】
回収した各材料を、55℃に設定した湯浴に浸漬させたステンレス鋼の容器に保存した。次に、容器を15℃~16℃の水浴に入れ、撹拌しながら、各材料を32℃~35℃の温度に冷却した。
【0115】
続いて、染色された各菓子インク組成物を、予熱した30mLのプラスチック製シリンジ型エクストルーダー(直径23mm、40℃)に添加した。このシリンジをすぐに、発熱体を備えたByflow Focus 3Dフードプリンター(Byflow、オランダ)に装着し、シリンジを33~35℃の制御された温度に維持した。3D印刷を開始し、160×160mmの単一壁および高さ10層の、正方形からなるモデル印刷物を作製した。この所定のパターンは、Sketchupで作製し、Slic3rソフトウェアによってG-コードファイルに変換した。印刷ノズルの押し出し直径を1.6mmとし、垂直印刷速度をすべての層で15mm/秒に設定した。シリンジからインクを押し出すために必要な力をプリンターが調整することを可能にするため、最初はオブジェクトから10mmの位置に1つのブリムを印刷した。層の高さを、すべての印刷において1.2mmに設定した。
【0116】
得られたすべての3D印刷された染色された菓子製品は、良好かつ安定な構造を有し、また望ましい明るい色彩を有する。これらの製品は、食用製品の装飾としての使用に特に好適である。
【国際調査報告】