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  • 特表-Mycoplasma培地製剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-16
(54)【発明の名称】Mycoplasma培地製剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220808BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220808BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20220808BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
C12N1/20 ZNA
A61P11/00
A61K39/02
A61P31/04 171
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572872
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(85)【翻訳文提出日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 US2020036297
(87)【国際公開番号】W WO2020251847
(87)【国際公開日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】62/859,294
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516001834
【氏名又は名称】エランコ・ユーエス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Elanco US Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】クマール,アービンド
(72)【発明者】
【氏名】ガンガイア,ダラネシュ・マヒマプラ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
【Fターム(参考)】
4B065AA37X
4B065CA43
4C085AA03
4C085BA48
4C085CC07
4C085DD24
4C085EE01
4C085GG03
4C085GG05
(57)【要約】
本発明は、Mycoplasma増殖のためのブタ血清および動物(主にウシ脳および脊髄)由来成分を含まない培地製剤に関する。培地製剤は、Mycoplasma抗原性を保存するように合理的に設計される。これらの培地製剤中で増殖させたMycoplasmaは、ワクチン、特に多価ブタワクチンにおいて有用である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化コリン、ナイアシンアミド、ニコチン酸、L-メチオニン、L-システイン、プトレシン二塩酸塩、チアミンピロリン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、スペルミン、ピリドキサール5’-リン酸一水和物、テトラヒドロ葉酸、3’-デホスホ補酵素、およびリボフラビンを含む組成物であって、
Mycoplasma増殖サプリメント(「MGS」)である、組成物。
【請求項2】
Mycoplasmaが、M.hyosynoviae、M.suis、M.hyorhinitis、およびM.hyopneumoniae(「Mhp」)からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Mycoplasmaが、M.hyopneumoniaeである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
Mycoplasmaの培養方法であって、
Frey培地およびブタ脳心臓浸出物(p-BHI)培地からなる群から選択される基本培地と、
ウマ血清と、
Mycoplasma増殖サプリメントと、を含む培地中にMycoplasmaを配置することを含む、方法。
【請求項5】
前記Mycoplasmaが、M.hyosynoviae、M.suis、M.hyorhinitis、およびM.hyopneumoniae(「Mhp」)からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記Mycoplasmaが、M.hyopneumoniaeである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ウマ血清が約2.5%~約10%v/vで存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記ウマ血清が約5%~約10%v/vで存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記ウマ血清が約10%v/vで存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記MGSの構成成分が、
約0.5mg/Lの塩化コリン、
約0.025mg/Lのナイアシンアミド、
約0.025mg/Lのニコチン酸、
約0.1mMのL-メチオニン、
約1.5mMのL-システイン、
約0.1mMのプトレシン二塩酸塩、
約0.01mg/Lのチアミンピロリン酸、
約0.284mMのL-アスコルビン酸ナトリウム、
約0.1mMのスペルミン、
約0.025mg/Lのピリドキサール5’-リン酸一水和物、
約0.05mg/Lのテトラヒドロ葉酸、
約0.025mg/Lの3’-デホスホ補酵素A、および
約0.01mg/Lのリボフラビン、の最終濃度で存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記Mycoplasmaが、37℃で3~15日間培養される、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
免疫原性組成物の調製方法であって、
Frey培地およびブタ脳心臓浸出物(p-BHI)培地からなる群から選択される基本培地、ウマ血清、ならびにMycoplasma増殖サプリメントを含む培地中でMycoplasmaを培養することと、
前記Mycoplasmaを37℃でインキュベートすることと、
前記Mycoplasmaを不活化することと、を含む、方法。
【請求項13】
前記Mycoplasmaを不活化することは、2-ブロモエチルアミンを用いて行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
Mycoplasmaによって引き起こされる疾患を予防、軽減、または緩和するための薬物の製造における、請求項1~3のいずれか一項に記載のMGSの使用。
【請求項15】
前記薬物が、ブタの治療のためである、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブタ血清を含まず、動物由来成分を最小限含むかまたは全く含まない培地製剤に関する。培地製剤は、Mycoplasma種、特にMycoplasma hyopneumoniaeの増殖に有用である。培地製剤は、抗原遺伝子発現を維持しながらMycoplasma増殖を最適化するように合理的に設計される。開示される培地製剤中で増殖させたMycoplasmaは、ブタワクチンにおける使用に適している。
【背景技術】
【0002】
Mycoplasmaは、細胞壁を欠く小さなグラム陰性細菌であり、一般に非運動性であり、多くの場合、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫、さらには植物に寄生性または病原性を示す。Mycoplasma科内には多数のMycoplasma種が分類されている。Mycoplasmaは共生細菌であり得、哺乳動物の粘膜と関連して見出されることが多い。2つ以上のMycoplasma種が、特定の粘膜表面にコロニーを形成し得る。Mycoplasmaは、特に免疫不全生物において、様々な病態の原因物質として関与してきた。場合によっては、Mycoplasmaの病原性は、ウイルスまたは他の細菌の存在と関連付けられ得る。Mycoplasmaはまた、二次感染病原体としても作用し得る。
【0003】
Mycoplasma関連疾患を制御、軽減または予防するために、効果的なワクチンが所望される。そのようなワクチンの抗原を生成するためにはMycoplasmaの培養物が必要であるが、Mycoplasmaの性質そのものが困難を呈する。Mycoplasmaは、自己複製する最小の非ウイルス生物であり、それに対応して小さなゲノムを含み、総遺伝子数は約1,000に満たないと推定される。この限られたゲノムは、必須栄養素の産生に必要な多くの酵素を欠いているため、Mycoplasmaは、増殖のために宿主細胞因子または細胞培養サプリメントに依存する。例えば、Mycoplasmaは、多くの場合、グアニンおよびシトシンヌクレオシド、ならびにコレステロールまたは他の脂質の外部供給源を必要とする。したがって、Mycoplasmaは、その環境の特徴を必然的に帯びるようになり、それによって抗原発現および免疫原性が変化するため、Mycoplasmaを含有するワクチンは、Mycoplasmaの増殖に使用されるプロセスおよびサプリメントに応じて有効性が異なる。
【0004】
複数のMycoplasma種がブタの疾患に関与してきた。M.hyosynoviaeは、ブタに関節炎を引き起こすと考えられ、M.suisは、貧血をもたらす可能性があり、M.hyorhinitisは、特に若いブタにおいて、線維性多発性漿膜炎に寄与し得る。M.hyopneumoniae(「Mhp」)は、流行性肺炎を引き起こし、ブタ生殖器呼吸器症候群(PRRS)ウイルスおよびインフルエンザウイルスとともにブタ呼吸器病症候群(PRDC)の因子である。
【0005】
Mycoplasma抗原が、例えば、PRRSウイルス、インフルエンザウイルス、ブタパルボウイルス、アフリカ豚熱ウイルス、および/もしくはブタサーコウイルス-2(PCV-2)等の1つ以上の他の細菌またはウイルスと組み合わされた、多価ワクチンが望ましいことが多い。しかしながら、Mycoplasmaは、コレステロール等の供給源としてブタ血清中で増殖させた場合に抗原として最も有効であるが、血清は、他の病原体、特にPCV-2に対する免疫化を妨げる可能性のある抗体を含有する。抗PCV2抗体を低減または排除するために、他者は、プロテインA/Gカラムによって抗体を除去している(例えば、米国特許第9,120,859号を参照されたい)が、これは労力を要し、かつコストがかかる。低血清培養系が開発されている(例えば、米国特許第9,273,281号を参照されたい)が、これらは汚染真核細胞因子を含む場合があり、そのようにして培養されたMycoplasmaは最適な免疫原性を有しない場合がある。
【0006】
必要とされているのは、増殖が最適化されるが、汚染物質が低減または排除され、かつ免疫原性が維持される、改善されたMycoplasmaの培養方法である。商業目的のために、方法は費用対効果が高く、容易に実施されるべきであり、かつ望ましくない汚染物質が制限されるべきである。本明細書に開示するのは、合理的に設計されたMycoplasmaの培養方法、該方法を行うための培地製剤、および該方法を用いて調製されるMycoplasmaを含有するワクチンである。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、塩化コリン、ナイアシンアミド、ニコチン酸、L-メチオニン、L-システイン、プトレシン二塩酸塩、チアミンピロリン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、スペルミン、ピリドキサール5’-リン酸一水和物、テトラヒドロ葉酸、3’-デホスホ補酵素、およびリボフラビンを含む組成物を提供する。本組成物は、Mycoplasma増殖サプリメント(「MGS」)として使用され得る。MGSを使用して増殖されるMycoplasmaは、M.hyosynoviae、M.suis、M.hyorhinitis、またはM.hyopneumoniae(「Mhp」)であり得る。MGSを使用して増殖されるMycoplasmaは、M.hyopneumoniaeであり得る。MGSを使用して増殖されるMycoplasmaは、ブタ動物、組織、もしくは細胞内またはその上で増殖することができる任意のMycoplasmaであり得る。MGSの構成成分は、約0.5mg/Lの塩化コリン、約0.025mg/Lのナイアシンアミド、約0.025mg/Lのニコチン酸、約0.1mMのL-メチオニン、約1.5mMのL-システイン、約0.1mMのプトレシン二塩酸塩、約0.01mg/Lのチアミンピロリン酸、約0.284mMのL-アスコルビン酸ナトリウム、約0.1mMのスペルミン、約0.025mg/Lのピリドキサール5’-リン酸一水和物、約0.05mg/Lのテトラヒドロ葉酸、約0.025mg/Lの3’-デホスホ補酵素A、および約0.01mg/Lのリボフラビンの最終濃度で完全増殖培地中に存在し得る。
【0008】
本発明は、基本培地、ウマ血清、およびMycoplasma増殖サプリメントを含む培地中にMycoplasmaを配置することを含む、Mycoplasmaの培養方法を提供する。基本培地は、Frey培地およびブタ脳心臓浸出物(p-BHI)培地から選択される。MGSは、塩化コリン、ナイアシンアミド、ニコチン酸、L-メチオニン、L-システイン、プトレシン二塩酸塩、チアミンピロリン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、スペルミン、ピリドキサール5’-リン酸一水和物、テトラヒドロ葉酸、3’-デホスホ補酵素、およびリボフラビンを含む。MGSの構成成分は、約0.5mg/Lの塩化コリン、約0.025mg/Lのナイアシンアミド、約0.025mg/Lのニコチン酸、約0.1mMのL-メチオニン、約1.5mMのL-システイン、約0.1mMのプトレシン二塩酸塩、約0.01mg/Lのチアミンピロリン酸、約0.284mMのL-アスコルビン酸ナトリウム、約0.1mMのスペルミン、約0.025mg/Lのピリドキサール5’-リン酸一水和物、約0.05mg/Lのテトラヒドロ葉酸、約0.025mg/Lの3’-デホスホ補酵素A、および約0.01mg/Lのリボフラビンの最終濃度で完全増殖培地中に存在し得る。
【0009】
本発明は、Mycoplasmaの培養方法を提供し、該方法を用いて増殖されるMycoplasmaは、ブタ動物、組織、もしくは細胞内またはその上で増殖することができる任意のMycoplasmaであり得る。本方法を用いて増殖されるMycoplasmaは、M.hyosynoviae、M.suis、M.hyorhinitis、またはM.hyopneumoniae(「Mhp」)であり得る。本方法を用いて増殖されるMycoplasmaは、M.hyopneumoniaeであり得る
【0010】
本発明は、基本培地、ウマ血清、およびMycoplasma増殖サプリメントを含む培地中にMycoplasmaを配置することを含む、Mycoplasmaの培養方法を提供する。ウマ血清は、約2.5%~約10%v/vで完全培地中に存在し得る。ウマ血清は、約5%~約10%v/vで完全培地中に存在し得る。ウマ血清は、約10%v/vで完全培地中に存在し得る。ウマ血清は、約2%、2.5%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、または10%で完全培地中に存在し得る。
【0011】
本発明は、基本培地、ウマ血清、およびMycoplasma増殖サプリメントを含む培地中にMycoplasmaを配置することと、Mycoplasmaを37℃で3~15日間培養することと、を含む、Mycoplasmaの培養方法を提供する。本発明は、基本培地、ウマ血清、およびMycoplasma増殖サプリメントを含む培地中にMycoplasmaを配置することと、Mycoplasmaを37℃で3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15日間培養することと、を含む、Mycoplasmaの培養方法を提供する。Mycoplasmaの培養は、軌道振盪も含み得る。
【0012】
本発明は、基本培地、ウマ血清、およびMycoplasma増殖サプリメントを含む培地中にMycoplasmaを配置することと、Mycoplasmaを37℃でインキュベートすることと、Mycoplasmaを不活化することと、を含む、免疫原性組成物の調製方法を提供する。基本培地は、Frey培地およびブタ脳心臓浸出物(p-BHI)培地から選択される。MGSは、塩化コリン、ナイアシンアミド、ニコチン酸、L-メチオニン、L-システイン、プトレシン二塩酸塩、チアミンピロリン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、スペルミン、ピリドキサール5’-リン酸一水和物、テトラヒドロ葉酸、3’-デホスホ補酵素、およびリボフラビンを含む。ウマ血清は、約2.5%~約10%v/vで完全培地中に存在し得る。免疫原性組成物に含まれるMycoplasmaは、ブタ動物、組織、もしくは細胞内またはその上で増殖することができる任意のMycoplasmaであり得る。免疫原性組成物に含まれるMycoplasmaは、M.hyosynoviae、M.suis、M.hyorhinitis、またはM.hyopneumoniae(「Mhp」)であり得る。Mycoplasmaは、2-ブロモエチルアミンで不活化され得る。
【0013】
本発明は、Mycoplasmaによって引き起こされる疾患を予防、軽減、または緩和するための薬物の製造におけるMGSの使用を提供する。MGSは、塩化コリン、ナイアシンアミド、ニコチン酸、L-メチオニン、L-システイン、プトレシン二塩酸塩、チアミンピロリン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、スペルミン、ピリドキサール5’-リン酸一水和物、テトラヒドロ葉酸、3’-デホスホ補酵素、およびリボフラビンを含む。薬物は、免疫原性組成物またはワクチンであり得る。薬物は、ヒトおよびブタを含む非ヒト動物の治療に有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】示される培地製剤中でのMhpの3日間培養物の全規模CCUアッセイの結果。データは、Acutoneを含有する3つの製剤が1つの実験にのみ含まれたことを除いて、3つの実験複製の平均を表す。
図2】全規模CCUアッセイによって判定される、大規模発酵槽システム内の6つの異なる培地製剤中でのMhpの増殖。0日目のCCUレベルは、接種菌に基づいて推定される。
図3】実験培地製剤中で増殖させたMhpをワクチン接種し、次いで毒性のあるMhpでチャレンジしたブタの肺病変スコア。総肺病変スコアリングは、頭腹側肺硬化(CVPC)法を用いて行われ、肺の別個の7つの葉(右頂端、右心臓、右尾側、左尾側、左心臓、左頂端、および中間)における肺病変パーセンテージの合計に、肺全体に寄与する各肺葉のおよその体積を乗じたものとして定義される総肺病変パーセンテージとして表される。市販のワクチンFOSTERA(Zoetis Animal Health)は、陽性対照として提示されている。
図4】ELISAによって測定される、ワクチン接種したブタの血清中のPCV-2中和抗体価。ELISAは、製造業者(Professional Veterinary Service,Inc.)の推奨に従って、INGEZIM CIRCO IgG ELISAキットを使用して行われた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の考察で使用される場合、用語「a」または「an」は、別途指定されない限り、1つ以上を包含すると理解されるべきである。
【0016】
本明細書で使用される場合、「Mycoplasma」は、Mycoplasma科内に分類される任意の種を指す。この用語は、単一の生物、または複数の生物を含有する培養物を意味し得る。この定義に特に含まれるのは、M.hyosynoviae、M.suis、M.hyorhinitis、およびM.hyopneumoniae(「Mhp」)である。本明細書で使用される場合、「不活化された」Mycoplasmaは、宿主または培養物内でもはや複製することができない生物を意味する。不活化された生物は、殺傷または死滅させられたとみなされる。不活化は、タンパク質の化学的変化、細胞の構造の化学的もしくは物理的変化、または核酸の化学的もしくは物理的変化を含むが、これらに限定されない様々な方法によって達成され得る。
【0017】
本明細書で使用される場合、「Mycoplasma増殖サプリメント」(「MGS」)は、Mycoplasma増殖に重要であると特定された構成成分の合理的に設計された組成物を意味する。構成成分の特定は、Mhpのゲノム解析に基づいている。MGSは、典型的には、完全培地の調製中に基本培地製剤に添加される濃縮溶液として調製される。本明細書に開示されるMGSは、塩化コリン、ナイアシンアミド、ニコチン酸、L-メチオニン、L-システイン、プトレシン二塩酸塩、チアミンピロリン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、スペルミン、ピリドキサール5’-リン酸一水和物、テトラヒドロ葉酸、3’-デホスホ補酵素、およびリボフラビンを含む。当業者は、これらの構成成分のいくつかの塩形態が交換可能であり得ることを認識するであろう。
【0018】
本明細書で使用される場合、「完全培地」は、示される生物または細胞の増殖に必要な有機因子を含む培養培地を指す。Mhpの場合、完全培地は、少なくとも基本培地、血清、およびMGSを含む。「最終濃度」とは、完全培地中の示される構成成分の濃度を意味する。
【0019】
本明細書で使用される場合、「Frey」培地および「ブタ脳心臓浸出物」(「p-BHI」)培地は、表11および表12に特定される製剤を意味する。
【0020】
本明細書で使用される場合、「免疫原性組成物」は、動物に投与されたときに免疫応答を誘発する組成物である。免疫原性組成物は、少なくとも1つの抗原および少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む。抗原は、生きているかもしくは不活化された全ウイルス、細菌、または他の病原体であり得る。抗原はまた、ウイルス、細菌、または他の病原体から単離、精製、または部分精製された抗原分子でもあってもよい。抗原は、ポリペプチド、多糖、核酸、もしくは脂質、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。
【0021】
本明細書で使用される場合、「ワクチン」は、動物に投与された場合に、疾患の症状からの保護、症状に対する耐性、症状の予防、または症状の軽減を付与する免疫原生組成物であり、該症状は、病原性生物、例えば、細菌、より具体的にはMycoplasmaによって引き起こされる。
【0022】
本明細書で使用される場合、「ブタ(porcine)」および「ブタ(swine)」という用語は、偶蹄類イノシシ科内のSus属の動物のいずれかであるブタを指す。
【0023】
「約」という用語は、当業者によって理解され、それが使用される文脈に応じてある程度変動する。本明細書で使用される場合、「約」は、その用語が関連付けられた値の±10%の変動を包含することを意味する。
【0024】
本明細書で使用される場合、「治療すること(treating)」、「治療すること(to treat)」、または「治療(treatment)」という用語は、既存の症状、障害、状態、もしくは疾患の進行または重症度を抑制、減速、停止、軽減、改善、または逆転させることを含む。治療は、予防的または治療的に適用され得る。
【0025】
以下の実施例は、Mycoplasmaの培養に有用な材料およびそのように培養されたMycoplasmaの使用を含む、Mycoplasmaの培養方法の例示である。他の実施形態および使用が当業者には明らかであり、本発明がこれらの特定の例示的な実施例または好ましい実施形態に限定されないことが理解されるであろう。
【0026】
本明細書に提示される試験の目的は、ブタ血清を含まず、ウシの脳心臓浸出物(または可能であれば任意の動物成分)を含まない培地中で、M.hyopneumoniaeを成功裏に増殖させることができるかどうかを判定することである。最も成功した製剤は、次いで、動物における有効性試験の材料を生成するために使用される。新しい培地製剤の成功を評価するための主要な応答変数は、色調変化単位(CCU)アッセイによって推定される生存細胞数であった。最も有望な製剤中で増殖させた細胞のプロテオミクス分析を行い、ブタ血清の不在が、細胞の抗原特性を低下させ、ワクチン製品の免疫原性効果を低下させる可能性がある細胞のタンパク質発現プロファイルを著しく変化させたかどうかを判定する。
【0027】
別途記載されない限り、与えられるすべてのパーセンテージは、体積当たりの体積(v/v)である。
【0028】
実施例1
本試験の目的は、M.hyopneumoniae(Mhp)株の同一性を確認し、さらなる実験のための作業用ストックを確立することである。
【0029】
GL713と称されるMhpの北米株(PNEUMOSTAR MYCOの有効成分)を使用して作業用ストックを確立する。実施例1、4、および5では、GL713のX+4継代の0.5mLアリコートを使用して、10%ブタ血清(HyCloneカタログ番号SH30908.04)を含有する25mLのFriis培地(Teknova)をバッフル付きの非通気性ポリカーボネートフラスコ(125mL)に接種する。3日間37℃で軌道撹拌(100rpm)した後、12.5mLの培養物を使用して、10%ブタ血清を含有する100mLのFriis培地を500mLフラスコに接種する。3日後、10%ブタ血清とともに20%グリセロールを含有する100mLのFriis培地を培養物に添加し、混合した。混合物を等分し(1mL)、-80℃で凍結させてX+5作業用シードを確立する。提示される試験の過程において、Mhp培養物を3~4日ごとに10%ブタ血清を含有する新鮮なFriis培地に継代し、接種源を継代X+6で維持する。
【0030】
GL713シードの同一性を確認するために、フェノール-クロロホルム法を用いてゲノムDNAを単離する。単離されたゲノムの質および量を、NANODROP(ThermoScientific)およびアガロースゲル電気泳動法を用いて評価する。アガロースゲル電気泳動法は、8kb超で流れるゲノムDNAの存在を示す。NANODROP分析は、77.3ng/uLのゲノムDNA収率を示す。
【0031】
ゲノムDNAをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によって分析し、16S rRNA遺伝子の同一性を確認する。簡潔に述べると、25uLのGREENTAQ HOT START GREEN PCRマスターミックス(ThermoScientific)、1uLのフォワードプライマー(5’GTAGAAAGGAGGTGTTCCATCC3’、配列番号1)、1uLのリバースプライマー(5’ACGCTAGCTGTGTGCTTAAT3’、配列番号2)、20.0uLのHO、および3uLの単離されたゲノムDNAを使用して、50uLのPCR反応混合物を調製する。PCR増幅のために、95℃の初期変性温度を3分間行い、次いで、95℃の変性温度で30秒間、60℃のアニーリング温度で30秒間、および72℃の伸長温度で1分間を35サイクル行う。最終的な伸長ステップは、72℃で10分間行われる。PCR産物を、QIAQUICK PCR Purification Kit(Qiagen)を使用して精製した。PCR産物の質および量を、NANODROPおよびアガロースゲル電気泳動法を用いて評価した。PCR増幅の結果は、約1600bpのPCR産物を示すが、予想されたサイズと相関するのは1503bpである。
【0032】
精製したPCR産物を希釈し、プライマーと混合して、配列決定用の予め混合した試料(GenScript)を作製する。PCR産物は、両端から配列決定される(すなわち、フォワードプライマーおよびリバースプライマーの両方を使用する)。配列決定後、Basic Local Alignment Search Toolを使用して結果を分析し、GL713 16S rRNA配列がM.hyopneumoniae 232(GenBank受託番号AE017332)と99%同一であることが確認される。
【0033】
実施例2
これらの試験で使用するためのGL713のストックを調製するために、GL713のX+1継代の1mLアリコートを使用して、10%ブタ血清を含有する50mLのFriis培地を、250mLのバッフル付き、非通気性ポリカーボネートフラスコに接種する。4日間37℃で軌道撹拌(100rpm)した後、20%グリセロールを含有するがブタ血清は含有しない15mLの新鮮なFriis基本培地を培養物に添加し、混合した。各1mLのアリコートを-80℃で凍結させて、X+2プレプレマスターシードを確立する。1つのアリコートを使用して、10%ブタ血清を含有する100mLのFriisを各々含有する3×500mLのバッフル付きフラスコに接種する。培養物を37℃で5日間、100rpmで軌道振盪しながらインキュベートする。5日目に、3つのフラスコを合わせて300mLの培養物を得る。300mLの培養物を、20%グリセロール(ブタ血清なし)を含有する300mLの新鮮なFriis基本培地と合わせ、-80℃にて1.25mLアリコートで保存することによってX+3のプレマスターシードを調製する。プレマスターシードは、全規模CCUアッセイを用いて生存率について試験し、好気性および嫌気性の両方の条件下、室温および37℃の両方でインキュベートした血液寒天プレートを用いて無菌性について試験する。提示される試験の過程において、3~4日ごとに、10%ブタ血清を含有する新鮮なFriis培地にMhp培養物を継代し、接種源を継代X+4で維持する。
【0034】
X+2プレプレマスターシードの全ゲノム配列決定を行って、GL713の同一性をさらに確認し、Mhpの潜在的な代謝/栄養能力または欠損を特定するための経路解析を容易にする。
【0035】
高分子量ゲノムDNAは、フェノール-クロロホルム法を用いて単離する。単離されたゲノムの質および量を、NANODROPおよびアガロースゲル電気泳動法を用いて評価する。アガロースゲル電気泳動法は、8kb超で流れるゲノムDNAの存在を示し、NANODROP分析は、377.6ng/uLのゲノムDNA収率を示す。単離されたDNAは、ACGT,Inc.(Wheeling,IL,USA)によって配列決定される。配列決定の後、コンティグに注釈を付け、BLASTによって同一性について分析する。
【0036】
GL713の配列決定は、ペアエンドシーケンシングによる38,410,897の生リード、およびメイトペアシーケンシングによる3,102,689のリードをもたらす。最終的なアセンブリにより5つのコンティグが明らかになる。GL713の推定ゲノムサイズは862,838bpである。BLAST分析は、GL713のゲノム配列がM.hyopneumoniae 232と99%同一であることを示す。
【0037】
実施例3
本試験の目的は、代謝経路解析を通じてMhpの主要な代謝要件を特定することである。実施例2のGL713およびM.hyopneumoniae 232(GenBank受託番号AE017332)のゲノム配列を、以下の4つのアプローチを用いて分析する:
バイオインフォマティクス的に、MhpゲノムをEscherichia coliゲノムおよびCoxiella burnetiiゲノムと比較することにより経路を特定する、
M.hyopneumoniae GL713ゲノムおよび232ゲノムを既存の代謝経路について手動でスキャンする、
経路情報を公開された文献(インシリコおよび実験研究の両方)から収集する、ならびに
他のMycoplasma種、特にヒトMycoplasmaから予測される経路情報を、Mhpゲノム配列と比較する。
【0038】
この分析に基づくと、Mhpはアミノ酸の合成のための経路を含まないと考えられるが、膜内にいくつかのアミノ酸およびペプチドトランスポーターが存在する。したがって、Mhpは、アミノ酸および/またはペプチドの外部供給源を絶対的に必要とする。
【0039】
Mhpは、脂質を合成する能力が限られており、識別可能な脂肪酸生合成経路を有しない。したがって、Mhpは、脂肪酸、グリセロール、グリセロホスホジエステル、およびコリンの外部供給源を絶対的に必要とする。コレステロールは、恐らく膜の安定性に必要とされ、細胞表面に吸着され得るが、コレステロールを利用する経路またはトランスポーターは特定されていない。
【0040】
Mhpは、DNAおよびRNA構築のためのプリンおよびピリミジンを新規に合成する能力を有しない。しかしながら、Mhpは、ペントースリン酸経路に供給されるL-アスコルビン酸塩を利用する経路を有するため、DNAおよびRNA合成のためのホスホリボース前駆体を形成することができる。したがって、Mhpは、グアニン、アデニン、シチジン、ウラシル、およびチミジンの外部供給源、ならびにL-アスコルビン酸塩またはリボースのいずれかの外部供給源も必要とする。
【0041】
Mhpは、グルコースを利用するための完全な経路を有し、グルコースは好ましい炭素源であると考えられる。グルコースは解糖経路に入ってピルビン酸塩を生成し、ピルビン酸塩は、酢酸経路に入って最終生成物として酢酸を生成するか、または乳酸経路に入って最終生成物として乳酸を生成するかのいずれかである。解糖経路と酢酸経路の両方がATPを生成し、乳酸経路はATP合成に必要なNADを再生する。CCUアッセイは、グルコースの乳酸への変換に基づいており、これはpH変化をもたらし、その結果として培地中のフェノールレッドの色変化をもたらす。したがって、Mhpは、培地中のグルコースを必要とするが、代替の炭素源であるマンニトール、フルクトース、グリセロール、マンノース、L-アスコルビン酸塩も、Mhpが膜内のこれらすべての炭素源のトランスポーターを有するため、可能である。1つのグルコース源は、1~2mMのグルコースを含有する血清であり得る。しかしながら、Mhpは、機能的TCAサイクルを有しないため、TCAサイクルおよび他のグルコース集約経路の欠如により、E.coliのような高レベルのグルコースを必要としない。
【0042】
このようにして特徴付けられるすべてのMycoplasma種のうち、Mhpのみがミオイノシトール異化経路を含むと考えられる。したがって、Mhp中のミオイノシトールは、炭素源およびCoAの前駆体として機能し得る。ミオイノシトールのトランスポーターは、Mhp膜にも存在する。
【0043】
適切な代謝活性に必要な補因子の中でも、Mhpは、テトラヒドロ葉酸塩、4-ホスホパントテン、リボフラビン、ピリドキサール-5-リン酸、およびチアミンピロリン酸を合成する手段を有しないと考えられ、したがって、それらの外部供給源を必要とする。同様に、Mhpは、ポリアミン、スペルミン、およびプトレシンを合成する手段を有しないと考えられ、したがって、それらの外部供給源を必要とするが、これらの分子の膜組み込みトランスポーターがMhpに存在する。他の潜在的な栄養必要量としては、L-システインおよびメチオニンが挙げられる。
【0044】
経路解析から得られた照合情報に基づいて、Mycoplasma増殖サプリメント(MGS)と称されるサプリメントを設計する。このサプリメント中の成分およびその濃度を表1に記載する。照合された経路情報は、塩基培地および他の成分を選択するために用いることもでき、これらは以下の実施例において実験的に試験される。
【表1】
【0045】
実施例4
本試験の目的は、省略型のCCUアッセイを用いて、以下の変数に応じてMhp GL713の増殖を評価することである。
1.基本培地:Vegetone浸出物ブロス(動物成分なし、Sigma、カタログ番号41960)、AF Friis(動物成分なし、Becton Dickinson実験製剤、バッチ番号CRD17082)、AF PPLO(動物成分なし、Becton Dickinson実験製剤、バッチ番号CRD17079)、Acutone(動物成分なし、Neogen/Acumedia、カタログ番号7742A)、Friis(ウシ脳心臓浸出物含有;Teknova、カタログ番号F0485)、ブタ脳心臓浸出物(ブタBHI;Becton Dickinson、カタログ番号BD256120)、およびFrey(膵臓ダイジェスト含有;Becton Dickinson、カタログ番号212346)。これらの培地は、経路解析からの情報に基づいて、Mhpの基本的な栄養必要量を提供するように選択される。ワクチン製品の国際的登録を容易にするために、動物由来成分を含まない基本培地が含まれる。
2.血清源:ブタおよびウマ。以前は、ニワトリ、七面鳥、ウサギ等の他の血清源がMycoplasma増殖のために用いられていたが、コスト分析により、これらの血清源が増殖培地のコストを増加させることが示されたため、試験されなかった。ウマ血清(Sigmaカタログ番号H1138-500mL)は、ブタ血清と同等のコストである。
3.ブタ血清レベル:1%、5%、および10%。現在一般的な培地製剤であるFriis Mycoplasma Base Medium(Teknova)は、増殖のために10%ブタ血清を使用する。Mhpがブタ血清の非存在下で増殖しない場合、培地中のブタ血清の減少が、Mhp抗原調製物中の汚染抗体の下流除去を容易にし得る。
4.Mycoplasma増殖サプリメント(MGS):1倍および2.5倍(表1)。
5.ミオイノシトール:1倍、2倍、および10倍(SigmaAldrich)。代謝経路解析により、Mhpがミオイノシチオール異化の完全な経路を含んでいることが明らかになり、ミオイノシトールがMhp増殖のエネルギー源として機能する可能性が示唆される。
6.Select Phytone:経路解析に基づくと、Mhpはアミノ酸を合成することができず、アミノ酸およびペプチドのための膜トランスポーターをコードする遺伝子を含有する。DIFCO SELECT PHYTONE UF(Becton Dickinson、カタログ番号210931)は動物由来成分を含まず、アミノ酸およびペプチドの豊富な供給源であるため、この栄養素の添加によってMhp増殖が促進される可能性がある。
7.酵母抽出物:酵母抽出物(BD Biosciences)は、Mhpが増殖のために絶対的に必要とするペプチドおよびアミノ酸の豊富な供給源である。
8.pH:7.6および8.0。Wodke et al.(Molecular Systems Biology 9:653,2013)において、著者らは、Mhpが、pH7.5と比較して、pH8.0でより多くのグルコースを利用し、より多くのタンパク質を蓄積したことを示した。
9.卵黄抽出物:卵黄は、コレステロール、脂肪酸、およびアミノ酸の豊富な供給源である。以前は、卵黄抽出物(SigmaAldrich)を用いてMycoplasmaを増殖させることに成功していた(Sasaki et al.,Microbiol Immunol.29(6):499-507,1985)。
10.グルコース:1g/L、2g/L、3g/L、および4g/L。一般に、血清は、約4g/Lのグルコースを含有し、経路解析からの情報に基づいて、グルコースは、Mhpの主要な炭素源であると考えられる。したがって、特に血清が培地製剤に含まれない場合の、Mhp増殖に対するグルコースの効果が試験される。
11.グリセロール:Mhpは、炭素源および脂質生合成の前駆体の両方として機能することができるグリセロールの代謝経路を含む。Mhp増殖に対するグリセロールの効果が試験される。
【0046】
これらの実験(実施例4および5)のための接種菌を調製するために、10%ブタ血清を含有する100mLのFriisを、2×1mLの凍結X+2ストックを含む500mLバッフル付きフラスコに接種する。完全なCCUアッセイは非常に多くの労力および空間を要するため、Mhpを3日間増殖させ、次いで省略型のCCUアッセイを用いて増殖を評価する。簡潔に述べると、被験試料を10倍に連続希釈し、ボルテックスで混合し、37℃で3日間インキュベートする。陰性対照として、少なくとも2本の未接種チューブが含まれる。増殖は、培地中のフェノールレッドの赤色から黄色への色変化をもたらすpHシフトによって示される。Mhp増殖は、pHシフトを引き起こす乳酸の蓄積と相関する。エンドポイント力価は、Mhp増殖を示す最高希釈度(最終)によって示される。
【0047】
異なる変数を用いて、培地製剤の9ラウンドの試験を行う。CCUアッセイの結果は調製の3日後に得られる。したがって、ある場合には、前の実験の結果が分かる前に次の実験が設定される。培養物は、培養3日目の終わりに、血液寒天上で無菌性(すなわち、汚染)試験にも供される。
【表2】
【0048】
このラウンドの変数試験から導き出すことができる結論は、培地のpHを8.0に調整することによって、pH7.6と比較してMhp増殖は増強されないこと、Vegetone浸出物ブロスおよびSelect PhytoneがMhp増殖を支持しないこと、ウマ血清がブタ血清の代わりになると考えられること、ならびにMGSがMhp増殖を増強することである。
【表3】
【0049】
このラウンドの変数試験から導き出すことができる結論は、ミオイノシトールがMhp増殖を増強するとは考えられず、ブタ血清を含むAcutone(動物成分なし)が対照よりも高い増殖を支持するということである。このラウンドの結果はまた、ウマ血清がブタ血清の代わりになり得ること、およびMGSがMhp増殖を促進することを裏付ける。
【表4】
【0050】
このラウンドの変数試験から導き出すことができる結論は、グルコースの添加がMhp増殖を増強するとは考えられず、MGSは、Fris基本培地を用いた増殖を増強するが、Acutone基本培地を用いた増殖は増強しないということである。
【表5】
【0051】
このラウンドの変数試験から導き出すことができる結論は、ミオイノシトール濃度を増加させることがMhp増殖を増強するとは考えられないということである。Mhpは、対照培地中よりもブタ血清を含むAcutone中で良好に増殖するが、血清の非存在下、またはウマ血清の存在下では、AcutoneはMhp増殖を支持しない。
【表6】
【0052】
このラウンドの変数試験から導き出すことができる結論は、MGSは、Fris基本培地を用いた増殖を促進するが、Acutone基本培地を用いた増殖は促進しないということ、およびAcutoneは、ブタ血清の非存在下ではMhp増殖を支持しないということである。
【表7】
【0053】
このラウンドの変数試験から導き出すことができる結論は、ブタ血清またはウマ血清を含むブタBHIが、Mhp増殖を支持する上でFriis培地と非常に類似した挙動を示すということである。
【表8】
【0054】
このラウンドの変数試験から導き出すことができる結論は、特にAcutoneおよびPorcine BHIでは、ブタ血清のパーセンテージを1%に減少させることによりMhp増殖が妨げられる可能性があるということである。このラウンドの変数試験から導き出すことができる別の結論は、ブタ血清パーセンテージを5%に減少させることにより、Mhp増殖を支持するためにFriis基本培地を用いた対照と非常に類似した挙動を示すが、5%ブタ血清は、AcutoneおよびPorcine BHIを用いたMhp増殖を支持しないということである。このラウンドは、数回凍結および解凍したMGSを用いて行われ、Mhp増殖に対するMGSの非効率的な影響を説明していることに留意されたい。
【表9】
【0055】
このラウンドの変数試験から導き出すことができる結論は、AF Friis培地は、ブタ血清の存在下で対照培地と同様にMhp増殖を支持するが、通常のFriis培地とは異なり、AF FriisおよびAF PPLO培地は、ウマ血清および/またはMGSを用いたMhp増殖を支持しないということである。
【表10】
【0056】
このラウンドの変数試験から導き出すことができる結論は、AF Friis培地は、ブタ血清の存在下では対照培地と同様にMhp増殖を支持するが、通常のFriis培地とは異なり、AF Friis培地は、ウマ血清、MGS、および/または酵母抽出物を用いたMhp増殖を支持しないということである。
【0057】
実施例5
本試験の目的は、実施例4で特定された潜在的な培地製剤を、3つの独立した実験において全規模CCUアッセイを用いて確認することである。
【0058】
これらの実験のための接種菌を調製するために、10%ブタ血清を含有する100mLのFriisを、2×1mLの凍結ストックを含む500mLバッフル付きフラスコに接種する。各実験培地製剤につき、25mLの培養物(最終体積)に、20%(すなわち5mL)の3日齢培養物を播種する。Mhpを3日間増殖させ、次いで、3つの独立した実験複製を用いる全規模CCUアッセイを用いて増殖を評価する。全規模アッセイでは試料希釈液中のMhpを37℃で14~15日間増殖させることを除いて、全規模CCUアッセイは、省略型のアッセイ(実施例4)と同じ様式で実施される。培養物は、培養3日目の終わりに、血液寒天上で無菌性(すなわち、汚染)試験にも供される。
【0059】
18種の異なる培地製剤を試験する:
製剤1:Friis+10%ブタ血清+MGS
製剤2:変更後のブタ-BHI+10%ブタ血清+MGS
製剤3:Friis+10%ブタ血清
製剤4:変更後のブタBHI+10%ブタ血清
製剤5:Friis+10%ウマ血清+MGS
製剤6:Friis+10%ウマ血清
製剤7:Frey+10%ウマ血清+MGS
製剤8:変更後のブタBHI+10%ウマ血清
製剤9:Friis+MGS
製剤10:Frey+MGS
製剤11:変更後のブタBHI+10%ウマ血清+MGS
製剤12:Frey+10%ブタ血清
製剤13:変更後のブタBHI+MGS
製剤14:Frey+10%ウマ血清
製剤15:Acutone+10%ブタ血清+MGS
製剤16:Friis
製剤17:Acutone+10%ウマ血清+MGS
製剤18:Acutone+MGS
【0060】
これらの実験では、ブタの脳/心臓浸出物(ブタBHI)が、表11に示すように製造業者(Becton Dickinson、カタログ番号BD256120)の指示から変更される。
【表11】
どちらのタイプにも0.01g/Lのフェノールレッドが含まれる。
【0061】
図1に示すように、製剤17(Acutone+10%ウマ血清+MGS)および製剤18(Acutone+MGS)を除いて、製剤は、対照製剤であるFriis+ブタ血清のMhp増殖に相当するMhp増殖を支持した。図には示されていないが試験された他の培地製剤としては、Becton Dickinson、AF FriisおよびAF PPLOからの2つ以上の動物由来成分を含まない培地が挙げられる。これらの培地はまた、ブタ血清の非存在下ではMhp増殖を支持しなかった。血清またはMGSを一切含まないFriis培地が、Mhpの増殖をかなり良好に指示したことは興味深いが、Friisにはウシ脳浸出物が含まれており、国際的な製品登録には許容されない。また、図1には示されていないが、Mhpは、いずれかの血清またはMGSを含まないm-BHIおよびFrey中では増殖不良である。
【0062】
Mhp増殖を支持した16の培地製剤のうち、Friis+10%ブタ血清(対照、製剤3)、m-P-BHI+10%ウマ血清+MGS(製剤11)、m-P-BHI+10%ウマ血清+MGS(毎日補充)、m-P-BHI+MGS(製剤13)、Frey+10%ウマ血清+MGS(製剤7)、およびFrey+MGS(製剤10)の5つの培地製剤を、大規模(フラスコ規模とは対照的に)発酵槽システムにおけるさらなる検証のために使用した。
【0063】
実施例6
本試験の目的は、フラスコ試験(実施例5)から選択された培地製剤を、商業的製造条件により近い大規模発酵槽システム(Ambr 250、Sartorius)において比較することである。これらの実験で試験された変数は以下のとおりである。
1.基本培地:Friis(対照)、Frey、および変更後のブタ脳心臓浸出物(m-P-BHI)、
2.血清:10%ブタ血清(対照)、10%ウマ血清、または血清なし、ならびに
3.MGS:毎日、または初期培養時にのみ補充される。
【0064】
この実験のための接種菌を調製するために、25mLの培養物に、3日間増殖させた0.5mLの作業用ストックを接種する。この「前接種菌」20mLを、FoamAway消泡剤(Gibco、0.75ml/L)を含む200mLのFriis+10%ブタ血清に接種するために使用する。この接種菌を、1%(v/v)の比率で発酵槽に接種するために使用される前に、37℃で3日間、100RPMで軌道振盪しながらインキュベートする。
【0065】
6つの様々な培地製剤を試験する:
製剤1:Friis+10%ブタ血清(対照)、
製剤2:m-P-BHI+10%ウマ血清+MGS、
製剤3:m-P-BHI+10%ウマ血清+MGS(毎日補充)、
製剤4:m-P-BHI+MGS、
製剤5:Frey+10%ウマ血清+MGS、および
製剤6:Frey+MGS。
【0066】
Mhpを6つの製剤のそれぞれにおいて4日間培養する。全規模CCUアッセイを毎日行う。3日目の終わりに、アリコートを採取し、血液寒天上で無菌性(すなわち、汚染)試験に供する。4日間培養の終わりに、実施例7に記載されるようなプロテオミクス分析のためにMhpを収集する。
【0067】
図2に示すように、Frey+10%ウマ血清+MGS(製剤5)、m-P-BHI+10%ウマ血清+MGS(製剤2)、およびm-P-BHI+10%ウマ血清+MGS(毎日補充)(製剤3)におけるMhp増殖は、対照製剤1であるFriis+10%ブタ血清のMhp増殖と非常に類似している。しかしながら、m-P-BHI+MGSおよびFrey+MGSにおけるMhp増殖は、対照培地と比較して不良である。実施例5におけるフラスコ規模の試験との違いについて考えられる1つの説明は、選択された培地製剤がMhp増殖に与える極端な影響を識別するために、発酵槽試験が1%という非常に少ない接種菌で行われることである。
【0068】
実施例7
本試験の目的は、選択された培地製剤中のブタ血清および/または動物由来成分の不在が、細胞の抗原特性を低下させ、ワクチン製品の免疫原性効果を低下させる可能性があるMhpの全体的なタンパク質プロファイルを著しく変化させるかどうかを判定することである。
【0069】
実施例6に記載の発酵槽培養物から約80mLを収集し、10,000rpmで30分間、4℃で遠心分離する。細胞ペレットを1mLの氷冷PBSで1回洗浄し、次いで8Mの尿素、150mMのNaCl、50mMのTris-Cl、pH8.0で1時間溶解させる。細胞溶解物は、プロテオミクス分析のためにMSBioWorks(Ann Arbor,MI,USA)に提出される。
【0070】
選択された培地製剤中で増殖させたMhpのタンパク質発現プロファイルは、Friis+ブタ血清(対照)中で増殖させたMhpのタンパク質発現プロファイルと非常に類似している。これらのデータは、選択された培地製剤中のブタ血清の不在が、Mhpのタンパク質発現プロファイルを変化させるとは考えられないことを示唆している。選択された培地製剤中で増殖させたMhpは、Friis+ブタ血清中で増殖させたMhpと同様の免疫原性を保持し得るが、これは実験によって確認されるべきである。インビボでの免疫原性有効性のためにMhpを増殖させるために使用される最終培地製剤の組成を表12に記載する。
【表12】
どちらの基本培地にも0.01g/Lのフェノールレッドが含まれる。完全培地は、最大10%の熱不活化ウマ血清(HS)および1倍MGSを含む(表1)。MGSは、100倍溶液として調製し、さらなる使用のために-20℃にてアリコートで保存するべきである。一旦解凍した後は、再使用のためにMGSを凍結させるべきではない。
【0071】
実施例8
本試験の目的は、Mhp(X+3ストック)を最終培地製剤中で増殖させたときの、Mhpとブタサーコウイルス2型(PCV-2)ワクチンの組み合わせのMhp画分の有効性を評価することである。ワクチン接種-チャレンジ実験は、対照、無作為化、および単一盲検試験である。
【表13】
【表14】
【0072】
実験ワクチンを調製するために、Sf9 MCS細胞(昆虫細胞株)においてバキュロウイルス発現系を使用してPCV2ウイルス様粒子を調製する。PCV2抗原(50μg/mlの最終濃度)を含有する上清を、希釈剤対照または不活化Mhpと混合し、続いて、50%~50%の最終濃度でW/O/W製剤を添加する。
【0073】
実験Mhpワクチンは、以下の場合に有効であるとみなされる:(1)陰性対照(第1群)と比較して、治療群の平均肺硬化の減少が>40%であり、(2)ワクチン接種における緩和率が>0.35であり、(3)緩和率のより低い95%信頼区間が>0.2である。3~4週齢のブタでは、陰性対照動物におけるチャレンジ後の肺硬化は、肺の8~15%(群平均応答)であると予想される。陽性ワクチンの影響は、対照と比較したワクチン接種の群平均応答の低下に等しい。ワクチン接種における肺病変の減少は、少なくとも40%であるべきである。ワクチン接種群の動物から記録された肺硬化率を、毒性のあるMhpでチャレンジした後の非ワクチン接種(陰性対照)群の動物から記録された肺硬化率と比較することによって、データセットを統計的有意性(両側p<0.05)について試験する。チャレンジ材料は、対照培地中で増殖させたGL713である。対照群(第7群)に対する治験ワクチン群(第1~5群)の緩和率および関連する95%のより低い信頼区間(LCB)が、肺硬化率について推定される。第6群は、陽性対照群として含まれる。
【0074】
実験の主要転帰は、剖検時に検査され、動物の肺全体の大きさのパーセンテージとして記録された、チャレンジ動物における肺硬化の量である。図3に示すように、予想されたとおり、PCV-2抗原のみをワクチン接種した動物は、毒性のあるMhpによるチャレンジから保護されない。Mhpをブタ-BHI+HS+MGS中で増殖させ、4mMの最終濃度になるように2-ブロモエチルアミンを添加することによって不活化して、ワクチンに製剤化すると、Mhp抗原は、ワクチンが皮内投与されるか筋肉内投与されるかにかかわらず、毒性のあるMhpによるチャレンジからの保護を提供する。しかしながら、Frey基本培地+HS+MGS中で増殖させたMhp由来の抗原は、筋肉内投与された場合にのみ有効である。3つの有効なMhpワクチンは、陽性対照ワクチンと同様かまたはそれよりも優れた効力を示す。
【0075】
毎日の臨床観察結果を評価し、実験の副次的転帰として報告する。表15.さらに、異なる実験ワクチンの免疫化部位の注射部位病変および肉質を剖検時に評価して、ベースラインの屠殺による中止データを確立する。
【表15】
【0076】
最終的な試験変数は、Mhp抗原画分が、実験培地製剤中で増殖させた場合に、Mhp抗原とPCV-2抗原を組み合わせたときのPCV-2抗原の免疫原性を妨げるかどうかを判定することである。図4に示すように、すべての実験ワクチンは、ブタに投与されたときに抗PCV2抗体を誘発することができるが、皮内投与されたMhp(Frey)+PCV2は、この場合も最適以下の結果であった。第2~4群からのワクチン接種は、PCV2対照、第1群と同等の様式で応答する。
配列表
配列番号1
Mhyo-PCR-16S-rRNAフォワードプライマー
5’GTAGAAAGGAGGTGTTCCATCC3’
配列番号2
Mhyo-PCR-16S-rRNAリバースプライマー
5’ACGCTAGCTGTGTGCTTAAT3’
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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【国際調査報告】