(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-17
(54)【発明の名称】アストロウイルスレプリコンの方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/40 20060101AFI20220809BHJP
C12N 15/46 20060101ALI20220809BHJP
C12N 15/87 20060101ALI20220809BHJP
C12N 15/88 20060101ALI20220809BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220809BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220809BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C12N15/40 ZNA
C12N15/46
C12N15/87 Z
C12N15/88 Z
C12N5/10
A61P37/04
A61K39/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572632
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(85)【翻訳文提出日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 US2020037094
(87)【国際公開番号】W WO2020252093
(87)【国際公開日】2020-12-17
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508296509
【氏名又は名称】アクセス ツー アドバンスト ヘルス インスティチュート
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エラスムス,ジェシー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA45
4C085AA03
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
(57)【要約】
本発明は、増強された免疫応答を誘導するような目的の分泌タンパク質の発現のための組換えレプリコンと、その使用方法とを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えレプリコン核酸であって、
a.細胞によって分泌され得る目的のタンパク質をコードするサブゲノム核酸配列を含む、第1のオープンリーディングフレームと、
b.第1のアストロウイルス非構造タンパク質(nsP1a)をコードし、かつ超可変領域を含む核酸配列を含む、第2のオープンリーディングフレームと、
c.第2のアストロウイルス非構造タンパク質(nsP1b)をコードし、かつ前記サブゲノム核酸配列の転写を開始するように位置付けられているサブゲノムプロモーターを含む、第3のオープンリーディングフレームと、を含む、組換えレプリコン核酸。
【請求項2】
前記第1のオープンリーディングフレームが、アストロウイルス構造タンパク質(VP90)をコードする核酸配列のサブセットをさらに含む、請求項1に記載の組換えレプリコン核酸。
【請求項3】
前記サブセットが、5~50のヌクレオチドからなる、請求項2に記載の組換えレプリコン核酸。
【請求項4】
前記サブセットが、30のヌクレオチドからなる、請求項3に記載の組換えレプリコン核酸。
【請求項5】
c.→b.→a.の構造を有する、請求項1に記載の組換えレプリコン核酸。
【請求項6】
前記第1のオープンリーディングフレーム内で始まり、前記第1のオープンリーディングフレームの3’末端を越えて延びるアストロウイルス保存配列要素をさらに含む、請求項1に記載の組換えレプリコン核酸。
【請求項7】
第1のアストロウイルス遺伝子型を有し、前記超可変領域が、前記第1のアストロウイルス遺伝子型とは異なる第2のアストロウイルス遺伝子型を有する、請求項1に記載の組換えレプリコン核酸。
【請求項8】
前記第1のアストロウイルス遺伝子型が、HAstV VIIであり、前記第2のアストロウイルス遺伝子型が、HAstV IVである、請求項7に記載の組換えレプリコン核酸。
【請求項9】
前記第3のオープンリーディングフレームが、翻訳上流リボソーム結合部位を含む、請求項1に記載の組換えレプリコン核酸。
【請求項10】
その5’末端に7-メチルグアニレートキャップを有する、先行請求項のいずれか一項に記載の組換えレプリコン核酸。
【請求項11】
前記第1のオープンリーディングフレームが、リボソームスキッピング特性を有するペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、先行請求項のいずれか一項に記載の組換えレプリコン核酸。
【請求項12】
リボソームスキッピング特性を有する前記ペプチドが、Thosea asignaウイルスキャプシドタンパク質(T2A)からの2Aペプチドである、請求項11に記載の組換えレプリコン核酸。
【請求項13】
先行請求項のいずれか一項に記載の組換えレプリコン核酸を含むナノ粒子。
【請求項14】
前記組換えレプリコン核酸を含有するナノ構造脂質担体から本質的になる、請求項13に記載のナノ粒子。
【請求項15】
薬学的に許容可能な担体中に請求項13または14に記載の複数のナノ粒子を含む製剤。
【請求項16】
薬学的に許容可能な担体中に、請求項1~11のいずれか一項に記載の組換えレプリコン核酸を含む組成物。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか一項に記載の組換えレプリコン核酸を含む単離細胞。
【請求項18】
対象を治療して免疫を前記対象に付与する方法であって、請求項16に記載の製剤を前記対象に投与することと、それによって前記対象において免疫応答を誘発することを含む、方法。
【請求項19】
前記免疫応答が、CD4+T細胞活性化を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
目的のタンパク質を細胞から分泌する方法であって、前記目的のタンパク質が分泌される条件下で、請求項1~11のいずれか一項に記載の組換えレプリコン核酸を前記細胞に導入することを含み、前記細胞が細胞培養物中にあり、それによって前記タンパク質を前記細胞から分泌する、方法。
【請求項21】
前記目的のタンパク質を前記細胞培養物から採取する工程をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項20に記載の方法から生成された前記目的のタンパク質を含む、組成物。
【請求項23】
目的の治療用タンパク質を対象に送達する方法であって、請求項22に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項24】
治療量の目的のタンパク質を対象に送達する方法であって、請求項17に記載の有効量の単離細胞を対象に投与することを含み、前記目的のタンパク質が治療用タンパク質であり、前記細胞が分泌し、それによって治療量の前記目的のタンパク質を前記対象に送達する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された免疫応答を誘発するための組換えレプリコンおよびそれを使用するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫を付与するためのワクチンの使用の基本的な側面は、対象の免疫系からの応答を誘発するように、対象に免疫原性薬剤を送達することである。具体的には、対象の適応免疫系の有効な刺激は、特定の病原体に対して長期的な免疫を獲得するのに重要である。ウイルス性病原体に対する免疫付与の1つのアプローチは、独立して複製可能なウイルス遺伝物質、すなわちレプリコンを宿主細胞に導入し、免疫系を刺激する抗原性タンパク質の発現および分泌をもたらすことを伴う。
【0003】
現在のレプリコン技術は、元々、ウイルスレプリコン粒子(VRP)と呼ばれる、エンベロープ糖タンパク質を含むまたは含まないウイルス由来のヌクレオカプシドに、RNAレプリコンをパッケージ化する能力に基づいて概念化および開発された。このアプローチは、必然的に、大きな外来ゲノム情報の組み込みを可能にし得る適切なパッケージ化能力を有するより大きなウイルスに制限されていた。この要件を満たすために、一般に使用される2つのVRPは、比較的大きいゲノム(11キロベース超)および粒径(60nm超)を有するアルファウイルスまたはフラビウイルスに由来する。
【0004】
RNA分解から保護し得る様々な製剤を利用するRNAの非ウイルス送達の出現によって、裸のRNAレプリコンの開発において、感染性RNAゲノムを含有するプラス鎖RNAウイルスを利用することが可能になった。レプリコンをウイルス粒子内にパッケージ化する必要性を排除することによって、より大きなウイルスに由来するレプリコンを使用する要件も排除される。しかしながら、この技術は、おそらく昔から広範囲にわたり使用されていたため、アルファウイルスおよびフラビウイルスのレプリコンの使用に依然として重点を置いている。さらに、アルファウイルス系の裸のRNAレプリコンは、目的の異種遺伝子をコードするサブゲノムのその使用のため、ならびに宿主のIFN媒介抗ウイルス状態の強固な誘導およびそれに対する耐性のため、その強固な抗原発現動態により、ワクチンプラットフォームとして効果的であることが証明されている。しかしながら、潜在的な毒性の問題を最もよく回避するためには、有効用量のレプリコン材料を減少させることが望ましいため、ゲノムのサイズは、依然として考慮事項である。加えて、組換えDNA技術を使用する核酸操作は、より小さな構築物で作業する場合に大幅に単純化され、その結果、遺伝子の扱い易さが向上し、ワクチン候補の開発がより迅速になる。したがって、既存のプラットフォームと同じまたは同様の有益な特徴を示す、より小さいゲノムを有するレプリコンを開発することが、依然として望ましい目標である。
【0005】
本開示は、この所望のプロファイルに適合し、かつ免疫応答の増加の誘導に有効である組換えアストロウイルスレプリコンを提供することによって、当技術分野における欠点を克服する。
【発明の概要】
【0006】
説明によると、実施形態は、組換えレプリコン核酸であって、細胞によって分泌され得る目的のタンパク質をコードするa.)サブゲノム核酸配列を含む、第1のオープンリーディングフレームと、b.)第1のアストロウイルス非構造タンパク質(nsP1 a)をコードし、かつ超可変領域を含む核酸配列を含む、第2のオープンリーディングフレームと、c.)第2のアストロウイルス非構造タンパク質(nsP1b)をコードし、かつサブゲノム核酸配列の転写を開始するように位置付けられているサブゲノムプロモーターを含む、第3のオープンリーディングフレームと、を含む、組換えレプリコン核酸を含む。いくつかの実施形態では、組換えレプリコン核酸は、構造:c.→b.→a.を有する。いくつかの実施形態では、組換えレプリコン核酸は、その5’末端に7-メチルグアニレートキャップを有する。
【0007】
いくつかの実施形態では、第1のオープンリーディングフレームは、アストロウイルス構造タンパク質(VP90)をコードする核酸配列のサブセットをさらに含む。特定の実施形態では、サブセットは、5~50のヌクレオチドからなる。他の特定の実施形態では、サブセットは、30のヌクレオチドからなる。
【0008】
いくつかの実施形態では、組換えレプリコン核酸は、第1のオープンリーディングフレーム内で始まり、第1のオープンリーディングフレームの3’末端を越えて延びるアストロウイルス保存配列要素をさらに含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、超可変領域は、組換えレプリコン核酸のアストロウイルス遺伝子型とは異なるアストロウイルス遺伝子型を有する。これらの実施形態のうちのいくつかでは、組換えレプリコン核酸のアストロウイルス遺伝子型は、HAstV VIIであり、超可変領域のアストロウイルス遺伝子型は、HAstV IVである。
【0010】
いくつかの実施形態では、第3のオープンリーディングフレームは、翻訳上流リボソーム結合部位を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、第1のオープンリーディングフレームは、リボソームスキッピング特性を有するペプチドをコードする核酸配列をさらに含む。特定の実施形態では、ペプチドは、Thosea asignaウイルスキャプシドタンパク質(T2A)からの2Aペプチドである。
【0012】
他の実施形態は、上記組換えレプリコン核酸のうちのいずれかを含むナノ粒子を含む。これらの実施形態のうちのいくつかでは、ナノ粒子は、組換えレプリコン核酸を含有するナノ構造脂質担体から本質的になる。他の実施形態は、薬学的に許容可能な担体中に複数のナノ粒子を含む製剤を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、対象を治療して免疫を対象に付与する方法は、上記製剤を対象に投与することと、それによって、対象において免疫応答を誘発することと、を含む。これらの実施形態のうちのいくつかでは、免疫応答は、CD4+T細胞活性化を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、組成物は、薬学的に許容可能な担体中に上記組換えレプリコン核酸のうちのいずれかを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、単離細胞は、上記組換えレプリコン核酸のうちのいずれかを含む。他の実施形態では、治療量の目的のタンパク質を対象に送達する方法は、有効量の単離細胞を対象に投与することを含み、目的のタンパク質は治療用タンパク質であり、細胞は分泌し、それによって治療量の目的のタンパク質を対象に送達する。
【0016】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質を細胞から分泌する方法は、目的のタンパク質が分泌される条件下で、上記組換えレプリコン核酸のうちのいずれかを細胞に導入することを含み、細胞は細胞培養物中にあり、それによってタンパク質を細胞から分泌する。いくつかの実施形態は、目的のタンパク質を細胞培養物から採取する工程をさらに含む。別の実施形態は、この方法から生成された目的のタンパク質を含む、組成物を含む。さらに他の実施形態では、目的の治療用タンパク質を対象に送達する方法は、組成物を対象に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A-1】ヒトアストロウイルスゲノムの構成と、目的のタンパク質を発現させるためのその有意性とを示す。
図1Aは、3つのオープンリーディングフレーム(ORF)、ORF 1a、ORF 1b、およびORF 2を含むヒトアストロウイルス(HAstV)のゲノム構成の概略図を示し、サブゲノムの転写および翻訳において役割を果たすことを提案されている、ORF2をフランキングする高度に保存された配列要素の位置も示す。
図1Bは、NanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ(nLUC)をコードするHAstVの4つのレプリコンを示す表であり、各々がHAstV ORF2およびORF2に隣接する3’非翻訳領域(3’UTR)に由来するフランキング配列への修飾の4つの組み合わせのうちの1つを有する。
図1Cは、100ngのレプリコンでトランスフェクトされ、24時間後に採取された293T細胞における
図1Bに記載のレプリコンからのnLUCの発現を、それぞれ陽性対照および陰性対照としてのnLUCまたはジカウイルス(ZIKV)抗原をコードするアルファウイルスレプリコンとともに示す。
【
図2A】筋肉内注射されたC57Bl/6マウスで免疫応答を誘導する能力におけるナノ構造脂質製剤化レプリコン間の比較を示す。
図2Aは、目的の遺伝子(GOI)をコードするサブゲノムを特徴とするアルファウイルス由来のレプリコンの概略図を示す。
図2Bは、NLC製剤化レプリコンならびに裸レプリコンおよび模擬注射対照の4つの投与量での、ZIKV遺伝子を有するアルファウイルスレプリコンのプラーク減少中和テストの結果を示す。
図2Cは、アルファウイルスレプリコンによって誘導された2つの異なる抗原特異的CD8 T-細胞のパーセンテージを示す。
図2Dは、アルファウイルスレプリコンによって誘導された2つの異なる抗原特異的CD4 T-細胞のレベルを示す。
図2Eは、GOIをコードするそのサブゲノムを有する
図1B(5’-HAstV-3’)からのアストロウイルスレプリコンのうちの1つの概略図を示す。
図2Fは、2つのGOI:ZIKV NS3抗原および結核菌抗原ID-93をコードするアルファウイルスおよびアストロウイルスレプリコンによって誘導された抗原特異的CD4 T-細胞の合計パーセンテージを示す。ID-93タンパク質単独およびGLA-SEアジュバントを用いた結果も示す。
図2Gは、ナイーブマウスおよび血球凝集素遺伝子の部分配列をコードするアストロウイルスレプリコンで以前にプライミングされたマウスへの非アジュバント化線状エピトープ(PR8ヘマグルチニン(HA)サブユニット)の単回用量後の抗血球凝集素免疫グロブリンG ELISA力価を示す。
【
図3A】予測されるレプリコンの二次RNA構造および遺伝子発現に対するORF2配列長の効果を示す。
図3Aは、野生型(WT)HAstVのORF 1bの3’末端および5’末端ORF2を包含する400-ヌクレオチド(nt)領域の予測される二次構造を示す。トリプルヘアピン構造は、細い線および中程度の太さの線で示され、ORF2開始コドンは囲まれている。
図3Bは、ORF2の最初の9ntを含有する5’-3’HAstVレプリコンの167-nt領域の予測される二次構造を示し、トリプルヘアピン構造の明らかな欠失を示す。
図3Cは、トリプルヘアピン構造の見かけの安定化を有する、ORF2の最初の30nt(構造の右下の細い線で示される)を含む、188-nt領域の予測される二次構造を示す。
図3Dは、ORF2の最初の9ntを含む
図1Bのレプリコンのうちの3つと、未修飾のフランキング配列(5’-30nt-3’)、修飾5’フランキング配列(Δ5’-30nt-3’)、およびThosea asignaウイルス2A(T2A)リボソームスキップ配列(5’-30nt-T2A-3’)が追加された未修飾のフランキング配列を有するORF2の最初の30ntを含む3つのレプリコンとについて、293T細胞におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。
【
図4】アルファウイルスおよびアストロウイルスレプリコンのサブゲノムの転写および翻訳を検出するための結合された転写および翻訳アッセイの結果を示す。
図4Aは、野生型HAstVに感染させたCaCo-2細胞におけるサブゲノム転写を示す。
図4Bは、nLUCをコードする5’-30nt-T2A-3’レプリコンおよびキャッピングされていない対照で293T細胞をトランスフェクトした後の定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)およびルシフェラーゼアッセイの結果を示す。
図4Cは、nLUCをコードするアルファウイルスレプリコンおよびキャッピングされていない対照で293T細胞をトランスフェクトした後のqRT-PCRおよびルシフェラーゼアッセイの結果を示す。
【
図5】ORF 1aの超可変領域(HVR)がネイティブ遺伝子型(HVR-VII)または分岐遺伝子型(HVR-IV)である、5’-30nt-T2A-3’レプリコン間の2種類の細胞における遺伝子発現の比較を示す。
【
図6A】ORF 2の翻訳制御機構、特に翻訳の終止-再開を調査するために使用されるバイシストロンレポーターアッセイの結果を示す。
図6Aは、ORF 1bの選択された変異の要約を示す。
図6Bは、
図6Aに記載の100ngの各プラスミドでのトランスフェクションの24時間後のBHK細胞溶解物のデュアルルシフェラーゼアッセイの結果を示す。
【
図7A】下流のORF発現の上流のORF配列への依存性を示す。
図7Aは、ORF 1bに欠失を有するプラスミド構築物の図を示す。
図7Bは、100ngの各プラスミドでのトランスフェクションの24時間後のBHK細胞におけるデュアルルシフェラーゼアッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で使用する場合、「レプリコン核酸」または「レプリコン」は、単一の複製起点から複製するリボ核酸(RNA)分子、またはRNAの領域を指す。「組換えレプリコン核酸」という用語は、ヒトの介入によって改変されたレプリコン核酸を指す。非限定的な例として、組換え核酸分子は、1)例えば、化学的または酵素的技術を使用して(例えば、化学的核酸合成の使用によって、または複製、重合、エキソヌクレアーゼ消化、エンドヌクレアーゼ消化、ライゲーション、逆転写、転写、塩基修飾(例えば、メチル化を含む)、もしくは核酸分子の組換え(相同および部位特異的組換えを含む)のための酵素の使用によって))インビトロで合成または修飾されている、2)本質的に結合されていない結合ヌクレオチド配列を含む、3)天然に存在する核酸分子配列に関して1つ以上のヌクレオチドを欠くように分子クローニング技術を使用して操作されている、および/あるいは4)天然に存在する核酸配列に関して1つ以上の配列変化または再配列を有するような分子クローニング技術を使用して操作されている。
【0019】
「核酸配列」という用語は、核酸分子の配列を指す。米国特許法施行規則§1.822に記載されているヌクレオチド塩基の命名法が本明細書で使用されている。核酸分子は、3Kb~50Kb、例えば3Kb~40Kb、3Kb~40Kb、3Kb~30Kb、3Kb~20Kb、5Kb~40Kb、5Kb~40Kb、5Kb~30Kb、5Kb~20Kb、または10Kb~50Kb、例えば15Kb~30Kb、20Kb~50Kb、20Kb~40Kb、5Kb~25Kb、または30Kb~50Kbを含むがこれらに限定されない任意の長さであり得る。核酸分子はまた、例えば、50kbを超え得る。
【0020】
「オープンリーディングフレーム」(ORF)という用語は、開始コドン(通常AUG)で始まり、停止コドン(通常UAA、UAGまたはUGA)で終わる一続きのコドンからなる核酸配列を意味する。複数のオープンリーディングフレームが単一の核酸分子に存在してもよく、1つのオープンリーディングフレームが同じ分子上の別のオープンリーディングフレームと重複してもよい。例えば、1つのオープンリーディングフレームの核酸配列は、別のオープンリーディングフレームの開始コドンを含んでもよい。
【0021】
「アストロウイルス5’非翻訳領域(5’UTR)」という用語は、オープンリーディングフレームORF 1aの開始AUGの上流に位置する核酸配列を含むアストロウイルスゲノムの断片を意味する。
【0022】
「アストロウイルス3’非翻訳領域(3’UTR)」は、オープンリーディングフレームORF2の終止コドンの下流に位置する核酸配列を含むアストロウイルスゲノムの断片を意味する。
【0023】
「サブゲノムプロモーター」は、複製プロセスの一部としてサブゲノムメッセンジャーRNAの転写を指示するプロモーターである。そのようなプロモーターは、野生型配列または野生型配列から修飾されているがプロモーター活性を保持している配列を有し得る。
【0024】
「保存配列要(CSE)」という用語は、すべての既知のヒトアストロウイルスのゲノム内で同様の位置、配列、および二次構造を有するRNA要素を説明する。
【0025】
本明細書で使用する「単離細胞」は、細胞が自然に発生する環境から除去された、および/または細胞がその自然環境で発生する状態から改変または修飾された細胞または細胞の集団である。単離細胞は、例えば、細胞培養物中の細胞であり得る。単離細胞はまた、動物内にあり得る、および/または動物に導入され得る細胞であることができ、細胞は、例えば、アルファウイルス粒子の細胞への導入によって改変または修飾されている。
【0026】
「対象」には、温血動物、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、ウシ、ネコ、イヌ、ブタ、ラット、およびマウスが含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
いくつかの実施形態は、ナノ粒子を形成するために超分子構造にカプセル化されたレプリコンを含む組成物(例えば、薬学的組成物)を提供し、複数のそのようなナノ粒子は、薬学的に許容可能な担体中に分散される。特定の実施形態では、ナノ粒子は、脂質系ナノ粒子にカプセル化されたレプリコンを含む。特定の態様では、ナノ粒子は、ナノ構造脂質担体(NLC)にカプセル化されたレプリコンを含む。1つの好適なNLCの例は、Erasmus et al.,Molecular Therapeutics 26(10):2507-2522(2018)に記載されている。
【0028】
「薬学的に許容可能な」とは、生物学的または他の方法で望ましくないわけではない材料を意味し、すなわち、材料は、実質的に有害な生物学的効果を引き起こすことなく、または材料に含有される組成物の他の成分のいずれかと有害に相互作用することなく、選択されたナノ粒子とともに対象に投与され得る。薬学的に許容可能な担体は、ヒトおよび他の対象への投与または送達に好適である。担体は、当業者によく知られているように、活性成分のいずれの分解も最小限に抑え、対象におけるいずれの有害な副作用も最小限に抑えるように自然に選択されるであろう(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science;latest edition参照)。ワクチンまたは他の免疫原性組成物などの薬学的製剤は、薬学的に許容可能な担体と組み合わせて、開示された免疫原性量のアストロウイルスレプリコンを含み得る。例示的な薬学的に許容可能な担体には、滅菌パイロジェンフリー水および滅菌パイロジェンフリー生理食塩水が含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
様々な組成物(例えば、核酸、ナノ粒子、薬学的組成物)の投与は、いくつかの異なる経路のいずれかによって達成され得る。組成物は、筋肉内、皮下、腹腔内、皮内、鼻腔内、頭蓋内、舌下、膣内、直腸内、経口、または局所的に投与され得る。組成物はまた、皮膚乱切法を介して、またはパッチもしくは液体を介して経皮的に投与され得る。組成物はまた、ある期間にわたって組成物を放出する生分解性材料の形態で真皮下に送達され得る。組成物はまた、注射を介して筋肉内に送達され得る。
【0030】
核酸、ナノ粒子、および薬剤的組成物は、対象における細胞であり得る細胞に目的の分泌タンパク質を送達する方法において用いられ得る。したがって、いくつかの実施形態は、有効量の核酸、ナノ粒子、および/または実施形態の組成物を細胞に導入する方法を提供する。また、有効量の核酸、ナノ粒子、および/または実施形態の組成物を対象に送達する方法も提供される。そのような方法は、遺伝子治療のための周知のプロトコルに従って、細胞および/または対象に治療効果を与えるために用いられ得る。
【0031】
アストロウイルスレプリコンは、そのより小さなゲノムサイズを、アルファウイルスレプリコンにより提供された機能である、サブゲノムRNA複製戦略および遅延性であるが強固なIFNの誘導と組み合わせることによって、魅力的な代替を提供する。アストロウイルスレプリコン機構は、約4kbのRNAによってコードされているが、アルファウイルスまたはフラビウイルス起源のものは、約8kbのRNAによってコードされている。これにより、コピー数の観点から有効用量が約2倍減少する。
【0032】
本明細書で使用する場合、「有効量」は、治療効果であり得る所望の効果を生成するのに十分な組成物または製剤の量を指す。有効量は、当業者の知識および専門知識の範囲内で、年齢、対象の全身状態、治療される状態の重症度、投与される特定の薬剤、治療期間、任意の併用治療の性質、使用される薬学的に許容可能な担体、および同様の要因によって変動する。必要に応じて、任意の個人における「有効量」は、関連するテキストおよび文献を参照することによって、および/または日常的な実験を使用することによって、当業者によって決定され得る。(例えば、Remington, The Science and Practice of Pharmacy(20th ed.2000)参照)。
【0033】
本明細書に記載のレプリコンRNA組成物は、投与製剤と適合性のある方式で、予防的および/または治療的に有効であるような量で投与される。一般に104~1010の用量での単位(例えば、104、105、106、107、108、109、または1010)の範囲内であり得る、投与される量は、治療を受ける対象、粒子が投与または送達される経路、発現産物の免疫原性、所望のエフェクター免疫応答の種類、および所望の保護の程度に依存する。投与または送達する必要のある活性成分の有効量は、医師、獣医、または他の医療従事者の判断に依存してもよく、所与の対象に固有であり得るが、そのような決定はそのような医療従事者の技能の範囲内である。
【0034】
開示される組成物および製剤は、単回用量または複数回用量のスケジュールで与えられ得る。複数回用量スケジュールは、一次投与コースが、1回~10回以上の別々の用量の後に、所望の効果(例えば、治療応答)を維持およびまたは強化するために必要に応じて後続の時間間隔で投与される他の用量を含むものである。
【0035】
「治療量」は、調節効果(例えば、治療応答)を与えるのに十分な量を指し、これは、当技術分野で周知であり得るように、例えば、対象の状態(例えば、1つ以上の症状)の改善、状態の進行の遅延もしくは軽減、障害、疾患、もしくは病気の発症の遅延、および/または障害、疾患、もしくは病気の臨床的パラメータのいずれかにおける変化を含む、障害、疾患、または病気に罹患した対象に有益な効果となり得る。本開示で企図される治療応答の別の例は、対象の免疫系の刺激による病原性疾患に対する耐性の増加である。
【0036】
本明細書で使用する場合、「a」、「an」、および「the」は、使用される文脈に応じて、1つまたは2つ以上を意味し得る。例えば、「a」の付く細胞は、1つの細胞または複数の細胞を意味する。また、本明細書で使用する場合、「および/または」は、関連する列挙された項目のうちの1つ以上のありとあらゆる可能な組み合わせ、ならびに代替(「または」)で解釈される場合の組み合わせの欠如を指し、かつそれらを包含する。
【0037】
前述の詳細な説明は、単に例示のために与えられており、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、その中で修正および変更を行うことができることが理解される。
【実施例】
【0038】
以下の実施例は、ある特定の開示された実施形態を例示するために提供されており、決して本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0039】
実施例1-材料および方法
レプリコンRNAの調製
様々なアストロウイルスレプリコン配列を合成し、T7プロモーターの下流ならびにデルタ肝炎ウイルスリボザイム配列、T7ターミネーター、およびNotI制限部位の上流のプラスミドにクローン化した。下流の研究のためにRNAを調製するために、精製されたプラスミドをNotI酵素による制限消化とそれに続くフェノール-クロロホルムおよびエタノール沈殿による精製によって線状化した。次に、線状化されたテンプレートをT7ポリメラーゼを使用したRNAの転写に使用し、LiCl沈殿およびエタノール洗浄によって精製した。次に、ワクシニアウイルスキャッピング酵素を使用してRNA転写物をキャッピングし、LiCl沈殿およびエタノール洗浄によって精製した。
【0040】
実施例2-選択された修飾を有するレプリコンからのタンパク質発現
野生型(WT)ヒトアストロウイルス(HAstV)複製機構は、5’および3’非翻訳領域(UTR)ならびに非構造タンパク質、nsP1aおよびnsP1bからなり、それぞれ、2つの重複するオープンリーディングフレーム、ORF 1aおよびORF 1bによってコードされ、リボソームフレームシフト機構によって処理される。ORF 1bの3’末端は、ORF 1aおよび1bから翻訳されたタンパク質によって媒介されたサブゲノムRNAの転写を開始すると仮定されている提案されたサブゲノムプロモーターを含有する。ORF 2によってコードされた構造タンパク質は、開始コドンがORF 1bの3’末端と重複するこのサブゲノムRNAから翻訳されると考えられている。加えて、高度に保存されたステムループ配列が、ORF2の3’末端から始まり、3’UTRで終わるように存在する。
図1Aを参照されたい。
【0041】
これらの保存配列要素の組み合わせを含有する4つのレプリコンを開発して、それらがORF2の発現に重要であるか否かをテストした。5’-3’レプリコンは、無傷の5’および3’保存配列要素を含有していた。他のレプリコンは、ORF 2の開始メチオニン(Δ5’)、保存3’ORF 2配列の欠失(Δ3’)、またはその両方(Δ5’-Δ3’)をサイレンシングしたORF 1bの同義変異を含有していた。ORF 2は、NanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ(nLUC)をコードする配列を含んでいた。
図1Bを参照されたい。
【0042】
ORF 2発現に対する配列要素の効果をテストするために、293T細胞に100ngの各レプリコンを、nLUCまたはジカウイルス(ZIKV)抗原をそれぞれ陽性対照および陰性対照としてコードするアルファウイルスレプリコンとともにトランスフェクトし、24時間後にnLUC発現を測定した。このテストの結果を
図1Cに示す。無傷の5’および3’配列は、nLUC発現をΔ5’-Δ3’対応物の5倍、バックグラウンドの約25倍増強したが、発現レベルは、アルファウイルス陽性対照より約17,000倍下回り、追加の核酸配列が、ORF2の発現を増強する上でおそらく重要であることが示唆された。
【0043】
実施例3-組換えアストロウイルスレプリコンによるCD4+T細胞誘導
次に、結核菌抗原、ID-93、またはジカウイルスNS3抗原に対するT細胞応答を誘導する5’-3’HAstVレプリコンの能力を評価した。これらの構築物を調製するために、ID-93またはジカウイルスNS3タンパク質をコードする配列を合成し、AvrIIとPvuI制限部位との間の5’-3’HAstVレプリコン(
図2E)と、また、ギブソンアセンブリを使用したPflMIとSacII制限部位との間のベネズエラ馬脳炎ウイルス(
図2A)のTC-83株に由来するアルファウイルスレプリコンとにクローン化した。次に、キャッピングされたRNAを上記実施例1に記載されるように調製し、BHK細胞にトランスフェクトして、ウエスタンブロットによって抗原発現を確認した(データは示されていない)。抗原発現の確認後、レプリコンをナノ構造脂質担体に製剤化し、1μgの各レプリコンをC57BL/6マウスに単回筋肉内注射を介して投与した。ID-93レプリコンでは、タンパク質サブユニットのみならびにアジュバント化(GLA-SE)タンパク質サブユニットの追加対照を含めて、レプリコンとより従来のワクチン調製との間のT細胞応答を比較し、後者は、マウスで強力な抗原特異的CD4
+T細胞応答を誘導するように以前に示されている。単回注射の14日後、脾臓を採取し、ジカウイルスNS3またはマイコバクテリウムID-93抗原のいずれかに由来するMHC-II制限ペプチドで刺激し、フローサイトメトリーによる分析のために染色した(
図2F)。
【0044】
図2に示す結果は、細菌またはウイルス抗原をコードするアルファウイルス由来のレプリコンの非ウイルス送達が、単回筋肉内注射後のコードされた抗原に対する強力なCD8+および抗体応答を駆動する(
図2B-D)一方で、同じ抗原をコードするアストロウイルス由来のレプリコンは、有意に高い抗原特異的CD4+T細胞応答を駆動する(
図2F)。
【0045】
線状エピトープに対するこれらのCD4+T-細胞応答がタンパク質サブユニット全体に対する抗体応答を増強し得るか否かをテストするために、C57Bl/6マウスに、季節性インフルエンザウイルスのサブタイプ間で保存され、かつC57Bl/6マウスで反応性があることが以前に示された血球凝集素(HA)遺伝子の15アミノ酸(aa)配列をコードするアストロウイルスレプリコンの単回用量でプライミングした。21日後、非アジュバント化組換えPR8 HAサブユニットタンパク質の単回用量を、アストロウイルスRNAでプライミングしたマウスとナイーブマウスとに投与し、抗HA IgG ELISA力価を比較した。保存された15aa配列をコードするアストロウイルスRNAでプライミングされたマウスは、タンパク質のみを受けたマウス(平均=1:400)と比較して有意に高い(5.5倍)抗HA ELISA力価(平均=1:2200)に達した(
図2G)。
【0046】
実施例4-発現および翻訳に対するORF2配列組成物の効果
A.ORF2配列長
予測された二次RNA構造を、提案されたサブゲノムRNAプロモーターを含むWT HAstVの400-bp領域について評価し、ORF2の最初の9のヌクレオチド(nt)を含有する実施例2および3の5’-3’nLUCレプリコンの予測構造と比較した。WT配列(
図3Aに示す)では、トリプルヘアピン構造が明確に観察され(細い線および中程度の太さの線でレンダリングされた構造として表されている)、ORF2の開始コドンが囲まれている。ORF2の最初の9ntを含む5’-3’レプリコンの予測される二次構造(
図3Bに示す)では、2つのヘアピン構造が存在せず、ヘアピン(細い線で示されている)のみがWTとレプリコン配列との間で保存されている。図の右下に細い線で示されるORF 2からの追加の21ntを含めることによって、トリプルヘアピン構造は、予測において安定しているように見える(
図3C)。
【0047】
HAstV複製におけるこれらの30ntの役割を評価するために、同義変異をORF 1b(5’-30nt-3’またはΔ5’-30nt-3’レプリコンそれぞれ)に含むまたは含まない30-nt配列を含有する、追加のHAstVレプリコンを構築した。ORF2のN末端10アミノ酸をコードする5’-30nt-3’レプリコンの場合、Thosea asignaウイルス2A(T2A)リボソームスキッピング配列をnLUC遺伝子の前に挿入して、5’-30nt-T2A-3’レプリコンを作製した。
【0048】
RNAのインビトロ転写およびキャッピングに続いて、293T細胞に2つのベネズエラ馬脳炎ウイルスレプリコンを含む各構築物を同じ用量でトランスフェクトし、1つはnLUC(VEE-nLUC)の遺伝子、もう1つはZIKV抗原(VEE-ZIKV)の遺伝子を、それぞれ陽性対照および陰性対照として含んだ。トランスフェクションの24時間後、異種遺伝子発現を定量化するためにルシフェラーゼアッセイを実施した。
図3Dに示す結果は、30ntが異種遺伝子発現を増強し、ORF 2開始コドンが効率的な翻訳開始に関与すること、およびルシフェラーゼ活性がバックグラウンドレベルの16,000倍超で検出され、アルファウイルス複製ウイルスRNAの30倍以内に近づくという結論を裏付ける。
【0049】
B.翻訳における同定されたORF 2配列の役割
ORF2発現における最初の30ntの重要性を実証したため、次にサブゲノム転写におけるこの配列要素の役割を決定した。
【0050】
定量的逆転写(qRT)PCRアッセイを、アストロウイルス複製中に蓄積するゲノムおよびサブゲノムコピーを定量化するように設計し、WTアストロウイルス複製のコンテキストでアッセイを検証した。CaCo-2細胞を、感染多重度0.1でWTアストロウイルスに感染させ、感染後0、4、8、12、および24時間に細胞溶解物を採取した。次に、RNAを抽出し、標準曲線として使用される同じウイルスの感染性クローンからのT7転写RNAとともにqRT-PCRアッセイで実行した。サブゲノム転写は、感染後8時間で始まるゲノム転写と比較して5倍の過剰で検出でき(
図4A)、以前に公開されたノーザンブロットデータを要約し、このアッセイが実際にサブゲノム転写を検出できることを確認した。
【0051】
次に、このアッセイを、構造遺伝子をコードせず、細胞間で拡散できないレプリコンのコンテキストに適用し、転写と組み合わせたORF2発現の簡単な定量化も可能になり得る。陽性対照として、アルファウイルスレプリコンのゲノムおよびサブゲノムを検出するための同様のqRT-PCRアッセイを設計した。アルファウイルスレプリコンは、トランスフェクションの8時間後に始まる過剰なサブゲノム転写を実証し、nLUC発現と一致したが(
図4B)、アストロウイルスレプリコン(5’-30nt-T2A-3’)は、ゲノムを超えるサブゲノム転写の証拠を実証せず、興味深いことに、nLUCの発現は、早くもトランスフェクションの30分後に検出することができた(
図4B)。
【0052】
これらの結果によって、1)テストされた配列要素がサブゲノムRNA転写を媒介するには不十分であり、2)HAstVがサブゲノムRNA転写とは独立してORF2の早期翻訳を可能にするORF2発現の代替機構を利用することが示唆される。サブゲノムメッセージを利用してその構造遺伝子を翻訳するカリシウイルスについても、同様の観察を行った。ウシノロウイルスにおけるサブゲノム転写とは独立した構造遺伝子の早期発現について記載されている。これによって、RNA複製における構造遺伝子発現の重要な役割も示唆され得る。
【0053】
実施例5-ORF2遺伝子発現に対するORF 1aキメラ現象の効果
ゲノムおよびサブゲノム転写の違いに関連する超可変領域(HVR)と呼ばれるORF 1aの領域を調査した。遺伝子型IV HAstVsに由来するHVRは、臨床サンプル中のウイルスの力価がより高いこと、およびサブゲノム対ゲノムの比率の違いに関連している。
【0054】
上述の5’-30nt-T2A-3’レプリコンをバックボーン(遺伝子型VII HVR)として使用して、HVRを遺伝子型IV HAstVのレプリコンに置き換え、CaCo2およびBHK細胞をトランスフェクトした。
図5に示すように、BHK細胞ではORF 2発現の違いは検出されなかったが、CaCo-2細胞では小さいながらも有意な違いが検出され、CaCo-2細胞のwtウイルスで観察された以前に公開されたデータを裏付けた。細胞株間の結果の不一致によって、宿主範囲におけるHVRの役割が示唆される。興味深いことに、HVRキメラは、E.coliでの毒性が低く、プラスミドの収量が高いことを実証し、これは、アストロウイルスレプリコンの下流適用に有用であることを証明し得る。
【0055】
実施例6-サブゲノム転写非依存性ORF2翻訳の機構
カリシウイルスとアストロウイルスとの間の進化的関係を考慮して、次に、アストロウイルスがカリシウイルスと同様にORF 1bとORF2との間の翻訳終止再開(TTR)を利用し、複製サイクルの早期にORF2のサブゲノム転写非依存性翻訳を可能にするか否かをテストした。この仮説をテストするために、HAstV-1のORF 1bおよびORF2の808bp領域によって分離された、それぞれ第1および第2のORFにおいてレニラルシフェラーゼおよびホタルルシフェラーゼをコードするバイシストロンレポーターが生成された(
図6A)。次に、カリシウイルスのTTRは上流のORF停止コドンの位置に依存するが、下流のORF開始コドンには依存しないことが示されているため、ORF 1b 停止コドンおよびORF2開始コドンの重要性をテストするために一連の変異が行われた。陰性対照として、ORF 2開始コドンの直前のORF 1bの終わりに停止コドンを挿入した(3’STOP)。100ngの各プラスミドでBHK細胞をトランスフェクトした後、デュアルルシフェラーゼアッセイを実施して、最初にホタル活性を測定し、続いてクエンチングおよびレニラ活性の検出を行った(
図6B)。次に、上流のORF(レニラ)発現と比較した下流のORF(ホタル)発現を、陰性対照(3’STOP)に対して正規化した。
【0056】
WT ORF 1b/ORF 2配列は、3’STOP陰性対照と比較して下流ORF発現の12倍の増加をもたらした。ORF 1b停止コドンの種類は下流のORF発現にとって重要ではないようだが、停止コドンをトリプトファンをコードするTGGに置き換えることによって位置を変更すると、終止する前にORF 1bリーディングフレームがさらに34コドン拡張され、下流のORF発現を廃止するようにみえる。最後に、ORF 2の開始コドンをACGに置き換えても、下流のORF2の発現には影響しないようである。これらの発見は、カリシウイルスのTTRと一致している。
【0057】
カリシウイルスのTTRの機構は、カリシウイルスゲノムの翻訳上流リボソーム結合部位(TURBS)と呼ばれる、上流配列に結合する宿主18sリボソームRNAの相補配列に依存することが示されており、切り離されたリボソームが下流のORFの翻訳を再開することが可能になる。アストロウイルスORF 1bにおけるそのような配列の潜在的な位置を同定するために、次に、バイシストロンレポーターシステム(
図7A)における一連の欠失変異体を生成した。加えて、del3変異体内に位置するTURBS様配列内にも変異が発生し、その配列が下流のORF発現に重要であるかどうかを確認した。結果によって、TURBS様配列が下流のORF発現に有意に影響を与えるようには見えなかったが、del3変異体内に位置する200bp配列が必要であることが示唆される(
図7B)。興味深いことに、この200bpの配列は、
図3Cに示すトリプルヘアピン構造を形成すると予測される。
【0058】
同等物
前述の書面による明細書は、当業者が実施形態を実施することを可能にするのに十分であると考えられる。前述の説明および実施例は、ある特定の実施形態を詳述し、本発明者によって企図される最良の形態を説明する。しかしながら、前述のものが本文中にどれほど詳細に見えても、実施形態を多くの方式で実施してもよく、添付の特許請求の範囲およびその任意の同等物に従って解釈するべきであることが理解されよう。
【0059】
本明細書で使用する場合、用語は、明示的に示されているか否かにかかわらず、例えば、整数、分数、およびパーセンテージを含む数値を指す。この用語は、一般に、記載された値と同等であると当業者がみなす(例えば、同じ機能または結果を有する)数値の範囲(例えば、記載された範囲の+/-5~10%)を指す。少なくともなどの用語が数値または範囲のリストの前にある場合、この用語はリストで提供されるすべての値または範囲を修飾する。場合によっては、この用語は、最も近い有意な数字に四捨五入される数値を含み得る。
【0060】
配列表
以下の配列表は、本明細書に開示される配列のリストを提供する。DNA配列(Tsを含む)がRNAに関して参照される場合、TsはUs(コンテキストに応じて修飾または非修飾の場合がある)に置き換える必要があり、その逆も同様であると理解される。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【表1-13】
【表1-14】
【表1-15】
【表1-16】
【表1-17】
【表1-18】
【配列表】
【国際調査報告】