(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-17
(54)【発明の名称】ZIP6及び/又はZIP10に対する抗体を含む抗有糸分裂組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220809BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220809BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20220809BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220809BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220809BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220809BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220809BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220809BHJP
【FI】
A61K39/395 N
C07K16/28 ZNA
C07K16/30
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 105
A61K45/00
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021572873
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(85)【翻訳文提出日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2020065653
(87)【国際公開番号】W WO2020249483
(87)【国際公開日】2020-12-17
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】501125275
【氏名又は名称】ユニバーシティ カレッジ カーディフ コンサルタンツ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】テイラー,キャスリン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのZIP(Zrt、Irt様タンパク質)輸送体タンパク質の細胞外ドメインを選択的に結合してその機能、特に有糸分裂を阻害する少なくとも1つの抗体又はそのエピトープを含む抗有糸分裂剤;該抗有糸分裂剤を含む組成物;及び癌を含む過剰増殖性障害を処置するための前記抗有糸分裂剤又は組成物の使用に関する。
【選択図】
図3F
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗有糸分裂組成物であって、有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置において使用するために、少なくとも1つのZIP(Zrt、Irt様タンパク質)輸送体の細胞外ドメインを選択的に結合してその機能を阻害する少なくとも1つの抗体又はその断片を含み、前記ZIP輸送体は、ZIP6若しくはZIP10のいずれか、又はその両方を含むヘテロ二量体である、抗有糸分裂組成物。
【請求項2】
前記断片が、前記抗体の少なくとも(1又は複数の)相補性決定領域を含む、請求項1に記載の抗有糸分裂組成物。
【請求項3】
前記断片がアプタマーである、請求項1に記載の抗有糸分裂組成物。
【請求項4】
ZIP6についてはN末端1~325若しくは1~350及びZIP10については1~407の間で、またZIP6についてはN末端31~325若しくは31~350及びZIP10については31~407の間で、前記抗体が前記ZIP6及び/又はZIP10輸送体の細胞外ドメインを結合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗有糸分裂組成物。
【請求項5】
前記抗体が、ZIP6についてはN末端アミノ酸93~350及びZIP10については46~395の間で結合する、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗有糸分裂組成物。
【請求項6】
前記抗体が、ZIP6についてはN末端アミノ酸220~350及びZIP10については46~395の間で結合する、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗有糸分裂組成物。
【請求項7】
前記抗体が、ZIP6の以下のECD:
N末端エピトープ(配列番号1 93-HHDHDHHSDHEHHSD-107);
N末端エピトープ(配列番号2 246-EPRKGFMYSRNTNE-259);
N末端及び膜貫通ドメイン1を含む(配列番号3 301-RSCLIHTSEK KAEIPPKTYS LQIAWVGGFI AISIISFLSL LGVILVPLMN-350);
N末端(配列番号4 303-CLIHTSEKKAEIP-315);
N末端、(配列番号5 129-HSHHNHAASGKNKRKALCPDHDSDSSGKDPRNSQGKGAHRPEHASGRRNVKDSVSASEVTSTVYNTVSEGTHFLETIETPRPGKLFPKDVSSSTPPSVTSKSRVSRLAGRKTNESVSEPRKGFMYSRNTNENPQE-263);
N末端、(配列番号6 288-NYLCPAIINQIDARSCLIHTSEKKAEIPPKTYSLQIAWVGGFIAISIISF-337);
の1つ内に、又は
ZIP10の以下のECD:
N末端、(配列番号11 46-LEPSKFSKQAAENE-59);
N末端(配列番号12 164-EKETVEVSVKSDDKHMHDHNHRLRHHHRLHHHLDHNTHHFHNDSITPSERGEPSNEPSTETNKTQEQSDVKLPKGKRKKKGRKSNENSEVITPGFP-253);
N末端、(配列番号13 295-QDLDPDNEGELRHTRKREAPHVKNNAIISLR-395)
N末端、(配列番号14 36-LHRQHRGMTELEPSKFSKQAAENEKKYYIEKLFERYGENGRLSFFGLEKL-85)
の1つ内に結合する、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗有糸分裂組成物。
【請求項8】
前記抗体が、ZIP6M、ZIP6Y、ZIP6AM、ZIP6X、ZIP6R、抗SLC39A6
a、抗SLC39A6
b、抗SLC39A6
c、抗SLC39A6
d、LIV-1/ZIP6抗体、抗SLC39A6
e、抗SLC39A6
f、ZIP62-A、ZIP10、抗SLC39A10
a、抗SLC39A10
b、SLC39A10
a、抗SLC39A10
c及びSLC39A10
bを含む群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗有糸分裂組成物。
【請求項9】
前記抗体が、ZIP6Y、ZIP6AM、ZIP10及び抗SLC39A10
aを含む群から選択される、請求項8に記載の抗有糸分裂組成物。
【請求項10】
前記抗体が、ZIP6の以下の細胞外ループ:
細胞外ループTM2-3(配列番号7 382-ASHHHSHSHEEPAMEMKRGPLFSHLSSQNIEESAYFDSTWK-423);
細胞外ループTM4-5(配列番号8 619-TEGLSSG-625);
細胞外ループTM6-7(配列番号9 680-HYAENVSM-687);
細胞外C末端(配列番号10 748-KIVFRINF-755);
の少なくとも1つに結合する、
又は前記抗体が、ZIP10の以下の細胞外ループ:
細胞外ループTM2-3(配列番号15 465-GGHDHSHQHAHGHGHSHGHESNKFLEEYDAVLK-497);
細胞外ループTM4-5(配列番号16 693-SAGLTGG-699);
細胞外ループTM6-7(配列番号17 754-QYANNITLWN-762);
細胞外ループC末端(配列番号18 824-KIVFDIQF-831)
の少なくとも1つに結合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗有糸分裂組成物。
【請求項11】
少なくとも2つの抗体又はその断片が組み合わせて使用される、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗有糸分裂組成物。
【請求項12】
少なくとも1つの抗体が前記ZIP6輸送体の少なくとも一部を結合し、1つの抗体が前記ZIP10輸送体の少なくとも一部を結合する、請求項11に記載の抗有糸分裂組成物。
【請求項13】
単一の抗体が、前記ZIP6:ZIP10ヘテロ二量体を結合してその機能を阻害する、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗有糸分裂剤。
【請求項14】
前記過剰増殖性障害が、癌及び固形腫瘍、リンパ腫又は白血病、乳癌、前立腺癌、結腸癌、脳癌、肺癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌及び腎臓癌などのその様々な形態;多発性嚢胞腎疾患(PKD)及び関連する嚢胞性腎疾患;黒色腫;過形成、化生及び異形成ならびにそれらの様々な形態;免疫系の増殖性障害(骨髄及びリンパ増殖性障害など);前立腺肥大症;子宮内膜症;乾癬;組織修復及び異常な創傷治癒;ならびに線維症、例えば、肺線維症、特発性肺線維症、肝硬変、心内膜心筋線維症、血管狭窄又は脊柱管狭窄、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性巨大線維症、腎性全身性線維症、クローン病、ケロイド又は陳旧性心筋梗塞、強皮症/全身性硬化症、関節線維症及び癒着性関節包炎などを含む群から選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗有糸分裂剤。
【請求項15】
癌が、固形腫瘍、リンパ腫又は白血病、乳癌、前立腺癌、結腸癌、脳癌、肺癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、食道癌及び腎臓癌から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の抗有糸分裂組成物。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の抗有糸分裂組成物を薬学的に又は獣医学的に許容され得る賦形剤又は担体と一緒に含む、癌の処置において使用するための薬学的組成物又は獣医学的組成物。
【請求項17】
少なくとも1つの他の治療剤と組み合わせた請求項1~15に記載の抗有糸分裂組成物を含む、過剰増殖性障害の処置において使用するための併用治療薬。
【請求項18】
過剰増殖性障害を処置する方法であって、過剰増殖性障害を有する又は有することが疑われる対象に、請求項1~17のいずれか一項に記載の抗有糸分裂組成物又は併用治療薬が投与される、方法。
【請求項19】
前記対象が哺乳動物である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記哺乳動物が、ヒト、霊長類 ウマ、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、有蹄動物、又は任意の他の家庭用若しくは農業用の種である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ZIP10に対して特異的である抗体又はその断片であって、前記抗体は、ZIP10輸送体のエピトープN末端46~59アミノ酸配列番号11 LEPSKFSKQAAENEに対して特異的である、抗体又はその断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのZIP(Zrt、Irt様タンパク質)輸送体タンパク質の細胞外ドメインを選択的に結合してその機能、特に有糸分裂を阻害する少なくとも1つの抗体又はその断片を含む抗有糸分裂剤;該抗有糸分裂剤を含む組成物;及び過剰増殖性障害を処置するための前記抗有糸分裂剤又は組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞増殖は、あらゆる多細胞形態の生命体にとって必須である。したがって、細胞増殖、すなわち限られた数の細胞から始まる細胞数の増加は、あらゆる多細胞生物に関連する。細胞増殖は高度に調節された過程である。多細胞生物の生体量の単なる増加とは別に、多細胞生物は、高度に組織化された細胞間相互作用を維持するために細胞増殖を制御しなければならない。細胞増殖のあらゆる調節解除は、病的状態を呈する、又はもたらす。
【0003】
病的症状及びより良性の症状を含む様々な疾患は、望ましくない細胞増殖、特に細胞の増加した増殖又は過剰増殖を特徴とする。これらの障害の多くは寿命を短縮させ、他の障害は生活の質を劇的に低下させる。
【0004】
例えば、癌は、過剰増殖性疾患の最も有名な例の1つである。癌は、一群の細胞が制御されない成長を示し、隣接する組織の浸潤及び破壊をもたらす、大きく不均一な種類の疾患である。癌細胞はしばしば転移し、腫瘍細胞はリンパ系を介して又は血流を介して体内の他の場所に広がる。
【0005】
多発性嚢胞腎疾患(PKD)及び関連する嚢胞性腎疾患、過形成、化生及び異形成ならびにそれらの様々な形態、免疫系の増殖性障害(骨髄及びリンパ増殖性障害など)、前立腺肥大症、子宮内膜症、乾癬、組織修復及び創傷治癒及び線維症などの、但しこれらに限定されない他の形態の過剰増殖性疾患も存在する。
【0006】
線維症は、器官又は組織における過剰な線維性結合組織の形成を伴い、広い範囲に広がり、侵襲性になると、組織又は器官の変性及び/又は機能の喪失をもたらし得る。さらに、線維症は、肺線維症、特発性肺線維症、肝硬変、心内膜心筋線維症、血管狭窄又は脊柱管狭窄、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性巨大線維症、腎性全身性線維症、クローン病、ケロイド又は陳旧性心筋梗塞、強皮症/全身性硬化症、関節線維症及び癒着性関節包炎を含むがこれらに限定されない哺乳動物における多数の疾患状態において役割を果たす。
【0007】
このような過剰増殖性疾患は数十年にわたって知られているが、効果的な処置は依然として困難である。数多くの抗増殖剤が過去10年間にわたって報告されている。多くの抗増殖剤が研究されてきたが、顕著な臨床的進歩はほとんど遂げていない。
【0008】
本明細書に記載されている細胞増殖性障害は、様々な理由で起こり得るが、一般に、異常な有糸分裂及び/又は望ましくない有糸分裂を伴う。
【0009】
亜鉛は細胞における必須イオンであり、亜鉛がなければ、細胞は生命を維持することができない。亜鉛は、50を超える異なる酵素クラスに相当し、細胞増殖に不可欠である300を超える酵素の補因子である。亜鉛は、タンパク質、核酸、炭水化物及び脂質代謝、ならびに遺伝子転写、分化及び発達の制御に関与する。亜鉛欠乏は有害であり得、発育不全及び重篤な代謝障害を引き起こすが、一方で過剰な亜鉛は細胞に有毒であり得る。
【0010】
亜鉛の生物学を調査するための新しい分子ツールの開発により、細胞における亜鉛の複数の生物学的機能が明らかにされ、亜鉛のシグナル伝達の多様性を実証することによって、亜鉛は「21世紀のカルシウム」と称されている。亜鉛の細胞レベルは、特異的亜鉛輸送体タンパク質によって厳密に調節されており、それらのタンパク質には2つの公知のファミリーが存在する。これらの2つのファミリーは、亜鉛輸送に対して反対の作用を有する。亜鉛輸送体のZnTファミリー(SLC30A)(以前には、cation diffusion facilitator(カチオン拡散促進剤)を略してCDFと呼ばれていた)は、亜鉛を細胞質から細胞外へ又は細胞内区画中に輸送するのに対して、亜鉛輸送体のZIPファミリー(Zrt様、Irt様タンパク質の略)(SLC39A)は、細胞外又は細胞内区画のいずれかから細胞質中に亜鉛を輸送し、これらの輸送体のうちの2つ、ZIP6(SLC39A6/LIV-1)及びZIP10(SLC39A10)は近縁の相同分子種である。増大する証拠によって、ZIP輸送体のSLC39Aファミリーの様々なメンバーが疾患状態に関与していることが示されている。
【0011】
上記2つの相同分子種ZIP6:ZIP10によって形成されたヘテロ二量体が有糸分裂を開始する上で重要な機能を有することが本明細書に開示されている。特定の細胞外ZIP6/ZIP10ドメインを標的とすることによって、本発明者らは、このヘテロ二量体ZIP6:ZIP10の阻害が有糸分裂を完全に防止し、したがって細胞増殖及び成長を防止することができることを実証した。この阻害は、有糸分裂を増加させる作用物質の存在下でさえ観察され、さらに阻害は用量依存的に起こった。
【0012】
最も有利には、ZIP6及びZIP10輸送体は、多量体複合体を形成し、細胞分裂を開始するために、有糸分裂の開始直前に細胞膜へと移行するに過ぎず、したがって、細胞が分裂しているとき又は転移するために円形化しているときにのみ存在し、これにより、選択的な治療標的を見事に提供することも見出された。
【0013】
したがって、本発明者らの研究は、この過程において鍵となるタンパク質であるZIP6及びZIP10、ならびにヘテロ二量体化し、有糸分裂を引き起こすために必要な亜鉛流入を媒介するそれらの能力を明らかにすることによって、増殖における亜鉛の長年確立された役割への分子的洞察を提供する。これらのタンパク質を阻害することにより、本発明者らは、癌などの細胞過剰増殖を特徴とする疾患において細胞分裂を防止する新しい方法を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、抗有糸分裂組成物であって、有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置において使用するために、少なくとも1つのZIP(Zrt、Irt様タンパク質)輸送体の細胞外ドメインを結合してその機能を阻害する少なくとも1つの抗体又はその断片を含み、前記ZIP輸送体は、ZIP6若しくはZIP10のいずれか、又はその両方を含むヘテロ二量体である、抗有糸分裂組成物が提供される。
【0015】
本明細書における抗体又はその断片への言及は、前記亜鉛輸送体の細胞外ドメインを結合し、最も理想的にはヘテロ二量体の形成を防止し、及び/(and so)又は細胞の細胞質中への亜鉛の輸送を阻害する抗体の部分を指す。
【0016】
より具体的には、前記断片は、ヘテロ二量体の一部、特にエピトープに対する、抗体若しくはその重要部分の相補性決定領域(CDR)又はアプタマーである。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、前記組成物は、それぞれがZIP6:ZIP10ヘテロ二量体の異なる部分を標的とする1つより多くの抗体を含む。理想的には、抗体の少なくとも1つがヘテロ二量体のZIP6輸送体部分を結合し、抗体の少なくとも1つがヘテロ二量体のZIP10輸送体部分を結合する抗体の組み合わせが使用される。これに加えて又はこれに代えて、前記ヘテロ二量体の前記ZIP6輸送体及び前記ZIP10輸送体隣接部分の両方を結合する少なくとも1つの抗体が使用される。
【0018】
当業者によって理解されるように、抗体は、ポリクローナル抗体、又はより理想的にはモノクローナル抗体であり得、前記輸送体の細胞外ドメインの全体又は一部を結合することができる。
【0019】
理想的には、抗体又は断片は、前記抗体の少なくとも(1又は複数の)相補性決定領域への言及を含む。
【0020】
本明細書におけるZIP輸送体タンパク質への言及は、細胞外又は細胞内区画のいずれかから細胞の細胞質中に亜鉛を輸送する亜鉛輸送体のSLC39Aファミリーを指す。当業者に公知であるように、ZIPファミリーは、14個のヒト配列を含み、そのうちの9個は、主に細胞膜上に位置し、亜鉛を細胞内に輸送する8個の膜貫通ドメインタンパク質を有する高度に保存された群であるLIV-1サブファミリーに属する。特に、LIV-1サブファミリーのヒトメンバーは、ZIP4、ZIP5、ZIP6、ZIP7、ZIP8、ZIP10、ZIP12、ZIP13、ZIP14を含む。
【0021】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態において、理想的には、前記抗体は、理想的には、輸送体のN末端全体に関して、すなわち切断事象より前に付番された以下の基準座標:
ZIP6についてはN末端1~325又は1~350及びZIP10については1~407の間で;さらにより好ましくは、ZIP6についてはN末端31~325又は31~344及びZIP10については31~407の間で、前記ZIP6及び/又はZIP10輸送体の(1又は複数の)細胞外ドメイン(ECD)を結合する。さらにより好ましくは、ZIP6についてはN末端アミノ酸93~350及びZIP10については46~395の間で。さらにより理想的には、前記抗体は、ZIP6についてはアミノ酸220~350及びZIP10についてはアミノ酸46~395を結合する。さらにより理想的には、前記抗体は、ZIP6についてはアミノ酸246~259及びZIP10についてはアミノ酸46~59を結合する。
【0022】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、ZIP10とのZIP6のヘテロ二量体の形成が小胞体中で起こり、ZIP6/ZIP10ヘテロ二量体が細胞膜に移動して細胞の円形化を開始し、亜鉛を細胞中に運び入れて有糸分裂を開始するためにはZIP6のN末端切断が必要であると考えている。ヘテロ二量体の細胞外ドメイン、具体的にはZIP6の切断されたN末端及び/又はZIP10のN末端の細胞外ドメイン(すなわち、転位のためのER中でのN末端切断後にタンパク質上に残存するもの)の優先的な標的化を通じて、ZIP6又はZIP10抗体は、有糸分裂を防止するために、一方又は両方の輸送体のN末端を結合し、亜鉛流入を遮断するか、又はプロテアーゼ切断などの亜鉛活性化を妨害することによって、ZIP6/ZIP10ヘテロ二量体を阻害することができる。
【0023】
最も好ましくは、前記抗体は、輸送体のN末端全体に関して、すなわち切断事象より前に付番された以下の基準座標の間で、ZIP6の以下のECDの少なくとも1つを結合する。
【0024】
N末端エピトープ(配列番号1 93-HHDHDHHSDHEHHSD-107);
N末端エピトープ(配列番号2 246-EPRKGFMYSRNTNE-259);
N末端及び膜貫通ドメイン1を含む(配列番号3 301-RSCLIHTSEK KAEIPPKTYS LQIAWVGGFI AISIISFLSL LGVILVPLMN-350);
N末端(配列番号4 303-CLIHTSEKKAEIP-315);
N末端、(配列番号5 129-HSHHNHAASGKNKRKALCPDHDSDSSGKDPRNSQGKGAHRPEHASGRRNVKDSVSASEVTSTVYNTVSEGTHFLETIETPRPGKLFPKDVSSSTPPSVTSKSRVSRLAGRKTNESVSEPRKGFMYSRNTNENPQE-263);
N末端、(配列番号6 288-NYLCPAIINQIDARSCLIHTSEKKAEIPPKTYSLQIAWVGGFIAISIISF-337);
細胞外ループTM2-3(配列番号7 382-ASHHHSHSHEEPAMEMKRGPLFSHLSSQNIEESAYFDSTWK-423);
細胞外ループTM4-5(配列番号8 619-TEGLSSG-625);
細胞外ループTM6-7(配列番号9 680-HYAENVSM-687);
細胞外C末端(配列番号10 748-KIVFRINF-755);
最も好ましくは、前記抗体は、輸送体のN末端全体に関して、すなわち切断事象より前に付番された以下の基準座標の間で、ZIP10の以下のECDの少なくとも1つを結合する。
【0025】
N末端、(配列番号11 46-LEPSKFSKQAAENE-59);
N末端(配列番号12 164-EKETVEVSVKSDDKHMHDHNHRLRHHHRLHHHLDHNTHHFHNDSITPSERGEPSNEPSTETNKTQEQSDVKLPKGKRKKKGRKSNENSEVITPGFP-253);
N末端、(配列番号13 295-QDLDPDNEGELRHTRKREAPHVKNNAIISLR-395)
N末端、(配列番号14 36-LHRQHRGMTELEPSKFSKQAAENEKKYYIEKLFERYGENGRLSFFGLEKL-85)
細胞外ループTM2-3(配列番号15 465-GGHDHSHQHAHGHGHSHGHESNKFLEEYDAVLK-497);
細胞外ループTM4-5(配列番号16 693-SAGLTGG-699);
細胞外ループTM6-7(配列番号17 754-QYANNITLWN-762);
細胞外ループC末端(配列番号18 824-KIVFDIQF-831)。
【0026】
さらにより好ましくは、前記抗体は、表1に示されている、ZIP6M、ZIP6Y、ZIP6AM、ZIP6X、ZIP6R、抗SLC39A6a、抗SLC39A6b、抗SLC39A6c、抗SLC39A6d、LIV-1/ZIP6抗体、抗SLC39A6e、抗SLC39A6f、ZIP62-A、ZIP10、抗SLC39A10a、抗SLC39A10b、SLC39A10a、抗SLC39A10c及びSLC39A10b抗体を含む群から選択される。最も好ましくは、前記抗体又はその断片は、ZIP6Y、ZIP6AM、ZIP10及び抗SLC39A10aを含む群から選択される。
【0027】
本発明の第1の態様のさらに好ましい実施形態において、前記抗体又はその断片の少なくとも2つは組み合わせで使用され、この組み合わせにおいて、少なくとも1つはZIP6輸送体の少なくとも一部を結合し、1つはZIP10輸送体の少なくとも一部を結合する;あるいは、ZIP6:ZIP10ヘテロ二量体を結合してその機能を阻害する単一の抗体が使用される。
【0028】
本明細書における過剰増殖性障害への言及は、良性であるか又は病的であるかを問わず、所与の細胞又は組織型に対して許容され得る又は正常なレベルと見なされるレベルと比較して異常に高いレベルの細胞増殖を特徴とし、当業者によって容易に認識及び理解されるであろう任意の障害を指す。過剰増殖性障害の例としては、癌及び固形腫瘍、リンパ腫又は白血病、乳癌、前立腺癌、結腸癌、脳癌、肺癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、腎臓癌;黒色腫などのその様々な形態;多発性嚢胞腎疾患(PKD)及び関連する嚢胞性腎疾患;過形成、化生及び異形成ならびにそれらの様々な形態;免疫系の増殖性障害(骨髄及びリンパ増殖性障害など);前立腺肥大症;子宮内膜症;乾癬;組織修復及び異常な創傷治癒;ならびに線維症、例えば、肺線維症、特発性肺線維症、肝硬変、心内膜心筋線維症、血管狭窄又は脊柱管狭窄、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性巨大線維症、腎性全身性線維症、クローン病、ケロイド又は陳旧性心筋梗塞、強皮症/全身性硬化症、関節線維症及び癒着性関節包炎などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、前記過剰増殖性障害は癌である。最も好ましくは、本明細書において言及される癌には、以下の癌:鼻咽頭癌、滑膜癌、肝細胞癌、腎癌、結合組織の癌、黒色腫、肺癌、腸癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、脳癌、喉癌、口腔癌、肝臓癌、骨癌、膵臓癌、絨毛癌、ガストリン産生腫瘍、褐色細胞腫、プロラクチン産生腫瘍、T細胞白血病/リンパ腫、神経腫、フォンヒッペル-リンダウ病、ゾリンジャー-エリソン症候群、副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、尿管癌、脳癌、乏突起膠腫、神経芽細胞腫、髄膜腫、脊髄腫瘍、骨癌、骨軟骨腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、原発部位不明の癌、カルチノイド、消化管のカルチノイド、線維肉腫、乳癌、パジェット病、子宮頸癌、結腸直腸癌、直腸癌、食道癌、胆嚢癌、頭部癌、眼癌、頸部癌、腎臓癌、ウィルムス腫瘍、肝臓癌、カポシ肉腫、前立腺癌、肺癌、精巣癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、口腔癌、皮膚癌、中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、内分泌膵臓癌、グルカゴン産生腫瘍、膵臓癌、副甲状腺癌、陰茎癌、下垂体癌、軟部組織肉腫、網膜芽細胞腫、小腸癌、胃癌、胸腺癌、甲状腺癌、絨毛性癌、胞状奇胎、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、聴神経腫、菌状息肉症、インスリノーマ、カルチノイド症候群、ソマトスタチン産生腫瘍、歯肉癌、心臓癌、口唇癌、髄膜癌、口癌、神経癌、口蓋癌、耳下腺癌、腹膜癌、咽頭癌、胸膜癌、唾液腺癌、舌癌及び扁桃癌の任意の1つ又はそれより多くが含まれる。
【0030】
好ましい実施形態において、前記癌は、固形腫瘍、リンパ腫又は白血病、食道癌、乳癌、前立腺癌、腎細胞癌腫、転移性乳癌及び胃癌、結腸癌、脳癌、肺癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌及び腎臓癌を含む又はこれらからなる群から選択される。
【0031】
抗有糸分裂剤は、満たされていない臨床的ニーズを有する癌、又は臨床的予後/転帰が悪い癌の処置又は予防に特に有用である。これには、化学療法耐性癌、転移性癌、現在処置が困難な癌、例えば膵臓及び非小細胞肺癌腫、トリプルネガティブ乳癌、ホルモン耐性乳癌、黒色腫、特にB-raf阻害剤に耐性のものが含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明の第2の態様によれば、本明細書で定義される抗有糸分裂剤を薬学的又は獣医学的に許容され得る賦形剤又は担体とともに含む、過剰増殖性障害、最も好ましくは癌の処置において使用するための薬学的組成物又は獣医学的組成物が提供される。
【0033】
適切な薬学的賦形剤は、当業者に周知である。薬学的組成物は、任意の適切な経路、例えば、経口、直腸、鼻、気管支(吸入)、局所(点眼剤、頬側及び舌下を含む)、膣又は非経口(皮下、筋肉内、静脈内及び皮内を含む)投与による投与のために製剤化され得、薬学の分野で周知の任意の方法によって調製され得る。
【0034】
組成物は、本明細書で定義された抗体を担体と混ぜることによって調製され得る。一般に、製剤は、抗体を液体担体又は細かく分割された固体担体又はその両方と均一かつ緊密に混ぜ、次いで、必要であれば生成物を成形することによって調製される。本発明は、本明細書で定義される抗体を、薬学的又は獣医学的に許容され得る、担体又はビヒクルと併せる又は混ぜることを含む、薬学的組成物を調製するための方法に及ぶ。
【0035】
本発明における経口投与のための製剤は、それぞれが所定量の活性作用物質を含有するカプセル、サシェ若しくは錠剤などの個別の単位として;散剤又は粒剤として;水性液体若しくは非水性液体中の活性作用物質の溶液若しくは懸濁液として;又は水中油型液体エマルジョン若しくは油中水型液体エマルジョンとして;又はボーラスなどとして提示され得る。
【0036】
経口投与用の組成物(例えば、錠剤及びカプセル)の場合、「許容され得る担体」という用語は、一般的な賦形剤、例えば結合剤、例えばシロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクロース及びデンプンなどのビヒクル;充填剤及び担体、例えばコーンスターチ、ゼラチン、ラクトース、スクロース、結晶セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、塩化ナトリウム及びアルギン酸;ならびにステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム及びその他のステアリン酸金属塩、ステアリン酸グリセロール、ステアリン酸、シリコーン流体、タルクワックス、油及びコロイド状シリカなどの潤滑剤を含む。ペパーミントなどの香味剤、冬緑油、サクランボ香味剤なども使用することができる。剤形を容易に識別可能にするために着色剤を添加することが望ましいことがあり得る。錠剤はまた、当技術分野で周知の方法によってコーティングされ得る。
【0037】
錠剤は、圧縮又は成形によって作製され得、1つ又はそれより多くの補助成分を含んでもよい。圧縮された錠剤は、結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、防腐剤、界面活性剤又は分散剤と混合されていてもよい散剤又は粒剤などの自由流動形態の活性作用物質を適切な機械中で圧縮することによって調製され得る。成形された錠剤は、不活性な液体希釈剤で湿らせた粉末化された化合物の混合物を適切な機械中で成形することによって作製され得る。錠剤は、コーティングされてもよく又は刻み目が付けられてもよく、活性作用物質の徐放又は制御放出を提供するように製剤化され得る。
【0038】
経口投与に適した他の製剤には、着香された基剤、通常はスクロース及びアラビアゴム又はトラガカント中に活性作用物質を含むロゼンジ;ゼラチン及びグリセリン、又はスクロース及びアラビアゴムなどの不活性基剤中に活性作用物質を含むトローチ;及び適切な液体担体中に活性作用物質を含む洗口剤が含まれる。
【0039】
非経口製剤は一般に無菌である。
【0040】
皮膚への局所適用のために、組成物は、クリーム、軟膏、ゼリー、溶液又は懸濁液などへ構成され得る。薬物に使用され得るクリーム又は軟膏製剤は、例えば、英国薬局方などの薬学の標準的な教科書に記載されているような当技術分野で周知の従来の製剤である。
【0041】
治療上有効な本明細書で定義される組成物の正確な量、及びそのような化合物が最良に投与される経路は、当業者によって容易に決定される。そのような量は、当然のことながら、処置されている具体的な症状、症状の重症度、年齢、身体状態、サイズ及び体重を含む個々の患者パラメータ、処置の期間、併用療法の性質(もし存在すれば)、具体的な投与経路、ならびに医療従事者の知識及び専門知識に属する同様の要因に依存する。これらの要因は当業者に周知であり、日常的な実験のみで対処することができる。個々の成分又はそれらの組み合わせの最大用量、すなわち、健全な医学的判断による最も高い安全用量が使用されることが一般に好ましい。しかしながら、医学的理由、心理学的理由、又は任意の他の理由のために、患者は、より低い用量又は耐容され得る用量を求め得ることが当業者によって理解されよう。他の要因には、所望の処置期間が含まれる。適用された初期用量において対象における応答が不十分である場合には、より高い用量(又は異なる、より局所的な送達経路による効果的により高い用量)が、患者の耐容性が許容する程度まで使用され得る。
【0042】
本発明の第3の態様によれば、少なくとも1つの他の治療剤と組み合わせて上記抗有糸分裂剤を含む、過剰増殖性障害の処置において使用するための併用治療薬が提供される。
【0043】
限定されるものではないが、このような作用物質の例としては、原発性病変を標的とすること又は後期疾患進行を抑制することを目的とした第一選択の又は補助の、抗ホルモン、放射線又は化学療法剤;例えば、抗HER2剤、例えばトラスツズマブ及びペルツズマブ、ならびに標準的な補助療法レジメン、例えば5-フルオロウラシル、ドキソルビシン及びシクロホスファミド(FAC);5-フルオロウラシル、エピルビシン及びシクロホスファミド(FEC);及びドキソルビシン及びシクロホスファミド(AC);シクロホスファミド、メトトレキサート及び5-フルオロウラシル(CMF);及びドセタキセル、ドキソルビシン、シクロホスファミド(TAC)が挙げられる。本発明の化合物と組み合わせて使用するための他の適切な作用物質は、ベバシズマブ(アバスチン)などの抗血管新生/抗転移剤である。
【0044】
本発明のさらなる態様によれば、過剰増殖性障害を処置する方法であって、過剰増殖性障害を有する又は有することが疑われる対象に、本発明に記載の抗有糸分裂剤又は抗有糸分裂組成物又は併用治療薬が投与される、方法が提供される。
【0045】
本発明のこの態様の好ましい実施形態において、前記対象は哺乳動物である。理想的には、前記哺乳動物は霊長類である。より理想的には、前記哺乳動物は、ヒト、ウマ、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、有蹄動物、又は任意の他の家庭用若しくは農業用の種である。最も理想的には、前記哺乳動物はヒトである。
【0046】
当業者によって理解されるように、前記方法は、癌及び固形腫瘍、リンパ腫又は白血病、乳癌、前立腺癌、結腸癌、脳癌、肺癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌及び腎臓癌などのその様々な形態;多発性嚢胞腎疾患(PKD)及び関連する嚢胞性腎疾患;黒色腫;過形成、化生及び異形成ならびにそれらの様々な形態;免疫系の増殖性障害(骨髄及びリンパ増殖性障害など);前立腺肥大症;子宮内膜症;乾癬;組織修復及び異常な創傷治癒;ならびに線維症、例えば、肺線維症、特発性肺線維症、肝硬変、心内膜心筋線維症、血管狭窄又は脊柱管狭窄、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性巨大線維症、腎性全身性線維症、クローン病、ケロイド又は陳旧性心筋梗塞、強皮症/全身性硬化症、関節線維症及び癒着性関節包炎などの、但しこれらに限定されない、疑われる又は診断された過剰増殖性障害が存在する多数の疾患状況において使用することができる。
【0047】
本発明の好ましい実施形態において、前記過剰増殖性障害は癌である。最も好ましくは、本明細書において言及される癌には、以下の癌:鼻咽頭癌、滑膜癌、肝細胞癌、腎癌、結合組織の癌、黒色腫、肺癌、腸癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、脳癌、喉癌、口腔癌、肝臓癌、骨癌、膵臓癌、絨毛癌、ガストリン産生腫瘍、褐色細胞腫、プロラクチン産生腫瘍、T細胞白血病/リンパ腫、神経腫、フォンヒッペル-リンダウ病、ゾリンジャー-エリソン症候群、副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、尿管癌、脳癌、乏突起膠腫、神経芽細胞腫、髄膜腫、脊髄腫瘍、骨癌、骨軟骨腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、原発部位不明の癌、カルチノイド、消化管のカルチノイド、線維肉腫、乳癌、パジェット病、子宮頸癌、結腸直腸癌、直腸癌、食道癌、胆嚢癌、頭部癌、眼癌、頸部癌、腎臓癌、ウィルムス腫瘍、肝臓癌、カポシ肉腫、前立腺癌、肺癌、精巣癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、口腔癌、皮膚癌、中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、内分泌膵臓癌、グルカゴン産生腫瘍、膵臓癌、副甲状腺癌、陰茎癌、下垂体癌、軟部組織肉腫、網膜芽細胞腫、小腸癌、胃癌、胸腺癌、甲状腺癌、絨毛性癌、胞状奇胎、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、聴神経腫、菌状息肉症、インスリノーマ、カルチノイド症候群、ソマトスタチン産生腫瘍、歯肉癌、心臓癌、口唇癌、髄膜癌、口癌、神経癌、口蓋癌、耳下腺癌、腹膜癌、咽頭癌、胸膜癌、唾液腺癌、舌癌及び扁桃癌の任意の1つ又はそれより多くが含まれる。
【0048】
本発明の好ましい方法において、前記癌は、食道癌、乳癌、前立腺癌、腎細胞癌腫、転移性乳癌及び胃癌を含む又はこれらからなる群から選択される。
【0049】
抗有糸分裂剤は、満たされていない臨床的ニーズを有する癌、又は臨床的予後/転帰が悪い癌の処置又は予防に特に有用である。これには、化学療法耐性癌、転移性癌、現在処置が困難な癌、例えば膵臓及び非小細胞肺癌腫、トリプルネガティブ乳癌、ホルモン耐性乳癌、黒色腫、特にB-raf阻害剤に耐性のものが含まれるが、これらに限定されない。
【0050】
本発明のさらなる態様によれば、ZIP10に対して特異的である抗体又はその断片であって、前記抗体は、ZIP10輸送体のエピトープN末端46~59アミノ酸LEPSKFSKQAAENE(配列番号11)に対して特異的である、抗体又はその断片が提供される。
【0051】
本発明の各態様の好ましい特徴は、他の態様のいずれかに関連して説明されているとおりであり得る。
【0052】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通じて、「含む(comprise)」及び「含有する(contain)」という用語ならびにこれらの用語の変形、例えば「含む(comprising)」及び「含む(comprises)」は、「含むが、これらに限定されない(including but not limited to)」を意味し、他の部分、添加剤、成分、整数又は工程を排除しない。本明細書の説明及び特許請求の範囲を通じて、文脈上別段の必要がない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、文脈上別段の必要がない限り、本明細書は単数だけでなく複数も想定していると理解されるべきである。
【0053】
本明細書で引用されている任意の特許又は特許出願を含む全ての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。いかなる参考文献も先行技術を構成することを認めるものではない。さらに、先行技術のいずれかが当技術分野における通常の一般的知識の一部を構成することを認めるものではない。
【0054】
本発明の他の特徴は、以下の実施例から明らかになるであろう。一般的に言えば、本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲及び図面を含む)に開示された特徴の任意の新規の1つ又は任意の新規の組み合わせに及ぶ。したがって、本発明の特定の態様、実施形態又は実施例に関連して記載される特徴、整数、特性、化合物又は化学部分は、これらと整合しない場合を除き、本明細書に記載される任意の他の態様、実施形態又は実施例に適用可能であると理解されるべきである。
【0055】
さらに、特に明記しない限り、本明細書に開示される任意の特徴は、同一の又は同様の目的を果たす代替の特徴によって置き換えられ得る。
【0056】
ここで、以下の実施例及び以下の図面を参照しながら、本発明を単に例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1A】
図1A~1Fは、有糸分裂のためにZIP6が必要であることを示す。細胞分裂周期を同期させるための100nMノコダゾールでの20時間のZIP6-Y抗体処理は、有糸分裂細胞(pS10ヒストンH3陽性、赤色)の数を濃度依存的に有意に減少させる(
図1A)。
【
図1B】FACS細胞周期分析により、ZIP6-Y抗体(1:20)で処理されたMCF-7細胞におけるG2/M集団の著しい減少が明らかとなっている。
【
図1C】MDA-436細胞におけるZIP6-Y抗体による100nMノコダゾールでの20時間の処理が、有糸分裂細胞の数を有意に減少させることを示す(pS10ヒストンH3陽性、赤色)。
【
図1D】MDA-231細胞(D)におけるZIP6-Y抗体による100nMノコダゾールでの20時間の処理が、有糸分裂細胞の数を有意に減少させることを示す(pS10ヒストンH3陽性、赤色)。
【
図1E】24時間の血清枯渇によって同期化されたMCF-7細胞を、同期化後に有糸分裂に入るために要する時間である血清置換の30時間後に固定した。有糸分裂数、すなわちpS10ヒストンH3についての陽性(赤色)は、ZIP6-Y抗体処理(1:10)に起因する有糸分裂細胞の数の著しい減少を示す。
【
図1F】形質移入された細胞に対するFACS細胞周期分析は、ZIP6で形質移入されたときのG2/Mの著しい増加を示す。少なくとも3つの独立した実験の結果が、平均±標準偏差として示されている。
図1A、
図1C及び
図1Dについては、統計学的有意性はノコダゾール処理試料と比較されている。**p<0.01、***p<0.001。スケールバー、25μm。
【
図2A】
図2A~2Eは、有糸分裂のためにZIP6:ZIP10ヘテロ二量体が必要であることを示す。FACS細胞周期分析により、対照と比較して、ノコダゾール処理細胞におけるG2/M集団の増加が明らかとなっている(
図2A)。3つの独立した実験の結果が、平均±標準偏差として示されている。統計的有意性は、スチューデントのt検定によって決定される。***p<0.001。
【
図2B】ノコダゾール処理されたMCF-7細胞において本発明者らのZIP6-Y又は本発明者らのZIP10抗体のいずれかを単独で使用した対照PLAは、
図3Dと比較して、有糸分裂細胞においてわずかな点しか生じない(矢印)。スケールバー、20μm。
【
図2C】ZIP6野生型(WT)で形質移入された細胞におけるV5抗体での免疫沈降及びZIP10についてのプロービングは、対照IgGレーンには存在しない組換えZIP6とZIP10の結合を実証する。
【
図2D】FACS細胞周期分析により、同じ皿からの接着細胞と比較して、有糸分裂シェイクオフ技術を使用して収集された非接着細胞におけるG2/M集団の増加が確認される。3つの独立した実験の結果が、平均±標準偏差として示されている。統計的有意性は、スチューデントのt検定によって決定される。***p<0.001。
【
図2E】ノコダゾールで処理されたMCF-7細胞において、ZIP6-SC及びpY
705STAT3抗体を一緒に、ならびに個々の対照ZIP6-SC及びpS
727STAT3抗体を使用したPLAは、
図5Fと比較してわずかな点しか生成しない。3つの独立した実験の結果が、平均±標準偏差として示されている。
【
図3A】
図3A~3Fは、有糸分裂に対するZIP6:ZIP10ヘテロ二量体の必要性を示す。100nMノコダゾールでの20時間のZIP10抗体処理が、有糸分裂細胞(pS10ヒストンH3陽性、赤色)の数を濃度依存的に有意に減少させている(
図3A)スケールバー、25μm。
【
図3B】FACS細胞周期分析により、ZIP10抗体(1:20)で処理されたMCF-7細胞におけるG2/M集団の著しい減少が明らかとなっている。
【
図3C】100nMのノコダゾールによる20時間のMDA-436細胞におけるZIP10抗体処理は、有糸分裂細胞(pS
10ヒストンH3陽性、赤色)の数を濃度依存的に有意に減少させる。
【
図3D】100nMのノコダゾールによる20時間のMDA-231細胞(D)におけるZIP10抗体処理は、有糸分裂細胞(pS
10ヒストンH3陽性、赤色)の数を濃度依存的に有意に減少させる。
【
図3E】ノコダゾール処理されたMCF-7細胞においてZIP6-Y及びZIP10抗体を使用する近接ライゲーションアッセイ(PLA)は、非有糸分裂細胞と比較して有糸分裂細胞において増加した点を生成する(白い矢印)。スケールバー、15μm。
【
図3F】細胞増殖は、本発明者らのZIP6-Y又はZIP10抗体のいずれかによる処理によって有意に抑制される。少なくとも3つの独立した実験の結果が、平均±標準偏差として示されている。
図3A、
図3C及び
図3Dについては、統計学的有意性はノコダゾール処理試料と比較されている。
図3Fについては、統計学的有意性は対照(Con)と比較されている。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図4A】
図4A~4Dは、有糸分裂におけるSTAT3の関与を示す。pS
727STAT3(緑色)、pY
705STAT3(緑色)、α-チューブリン(赤色)及びpS
10ヒストンH3(赤色)についてTAMR細胞を免疫染色し、DAPI(青色)で対比染色した(
図4A)。上パネル:有糸分裂細胞(矢印)は、pS
727STAT3について陽性である。中央パネル:矢印は、pS10ヒストンH3について陰性であるが、依然としてpS
727STAT3について陽性である細胞質分裂中の細胞を示す。下パネル:有糸分裂細胞は、pY
705STAT3について陰性である。矢印は、細胞膜上のpY
705STAT3染色を示す。スケールバー、20μm。
【
図4B】
図6DからのGAPDH値に対して正規化されたpS
727STAT3、pY
705STAT3及びpS
10ヒストンH3の濃度測定データが、平均±標準偏差として示されている。
【
図4C】蛍光顕微鏡法は、有糸分裂細胞周期期の間にpS
38StathminとpS
727STAT3の共局在を示すが、間期には示さない。スケールバー、10μm。
【
図4D】
図6Fと比較して、pS
38Stathmin抗体のみを使用した対照PLAは、有糸分裂細胞においてわずかな点しか生じない(矢印)。スケールバー、15μm。
【
図5A】
図5A~5Kは、ZIP6及びZIP10が、有糸分裂において亜鉛によって引き起こされたpS
727STAT3を結合することを示す。ZIP6-SC(赤色)、pS
727STAT3(緑色)及びDAPI(青色)について染色された、接着細胞の平坦な部分(plain)の上にある有糸分裂MCF-7細胞は、ZIP6及びpS
727STAT3について濃縮されている(
図5A)。スケールバー、20μm。
【
図5B】100mMノコダゾールで処理された有糸分裂MCF-7細胞における、ZIP6-SC抗体を使用したpS
727STAT3及びZIP6(68kDaバンド)の増加、ならびにpY
705STAT3の減少(pS
10ヒストンH3染色)。
【
図5C】無血清培地中20μM亜鉛(Zn)及び10μMピリチオン(P)で20分間処理されたMCF-7細胞は、pS
727STAT3の亜鉛依存性の著しい増加及びpY
705STAT3の対応する減少を示す。
【
図5D】5μMフルオジン-3を負荷されたMCF-7細胞は、有糸分裂細胞中でのみ増加した緑色蛍光を有し(白い矢印)、総細胞蛍光は統計学的に有意な増加を確認する。スケールバー、15μm。
【
図5E】接着性集団と非接着性集団に分離され、5μMフルオジン-3を負荷されたノコダゾール処理MCF-7細胞のFACS分析は、増加した緑色蛍光を示す。
【
図5F】ノコダゾール処理MCF-7細胞においてZIP6-SCとpS
727STAT3抗体を使用するPLAは、ZIP6-SCとpY
705STAT3抗体とは対照的に、有糸分裂細胞においてのみ有意に増加した数の点を生成する(白い矢印)。黄色の矢印は、細胞質分裂では点がより少ないことを示す。
【
図5G】ノコダゾール処理MCF-7細胞においてZIP10とpS
727STAT3抗体を使用するPLAは、有糸分裂細胞において増加した点(白い矢印)を生成する。スケールバー、15μm。
【
図5H】異なる種におけるZIP6配列の模式図は、予測されるSTAT3結合部位YESQ(緑色の枠)の保存を示す。
【
図5I】ZIP6中のSTAT3結合部位付近の変異した残基の模式図。
【
図5J】全てC末端V5タグを有する、ZIP6野生型(WT)又は配列が検証された変異体で形質移入された細胞におけるV5抗体による免疫沈降は、S475A及びY473A変異体におけるpS
727STAT3への結合の有意な減少を実証する。
【
図5K】異なる種におけるZIP10配列の模式図は、予測されたSTAT3結合部位YKQQ(緑色の枠)の保存を実証する。少なくとも3つの独立した実験の結果が、平均±標準偏差として示されている。*p<0.05、***p<0.001。
【
図6A】
図6A~6Fは、有糸分裂全体を通じてのpS
727STAT3の増加及びpStathminへのその結合を示す。pS
727STAT3(緑色)は、間期と比較して、DAPI(青色)及びα-チューブリン(赤色)で染色されたTAMR細胞中の有糸分裂の全ての段階で増加している(
図6A)。スケールバー、12μm。
【
図6B】乳癌組織の隣接するスライス片は、同じ有糸分裂細胞中でpS
10ヒストンH3及びpS
727STAT3の両方を示す。
【
図6C】pS
10ヒストンH3及びpS
727STAT3の両方が、正常なマウス腸の陰窩内の有糸分裂細胞中に存在する。
【
図6D】ノコダゾールで19時間前処理されたTAMR細胞における1時間の亜鉛(亜鉛キレート剤TPEN)又はSTAT3阻害剤の減少は効果を有さないが、亜鉛処理された試料はpS
10ヒストンH3及びpS
727STAT3及び完全長STAT3バンドを解く。
【
図6E】100nMのノコダゾールで19時間に加えて100μMの亜鉛及び10μMのピリチオンで0~60分間処理されたTAMR細胞中で、有糸分裂の計数(pS
10ヒストンH3について陽性)を実施した。15分間の亜鉛処理は、有糸分裂を通じて進行するのに十分である。
【
図6F】ノコダゾールで処理されたMCF-7細胞においてpS
38Stathmin及びpS
727STAT3抗体を使用したPLAは、有糸分裂細胞においてのみ点の増加を生じる(白い矢印)。スケールバー、20μm。少なくとも3つの独立した実験の結果が、平均±標準偏差として示されている。*p<0.05、**<0.01、***p<0.001。
【
図7A】
図7A~7Eは、有糸分裂中のZIP6のN末端切断を示す。
図7Aの模式図は、切断1(PM再配置)及び切断2(有糸分裂)後に得られたZIP6抗体エピトープ位置(M、Y及びSC)及びバンドサイズを示す。
【
図7B】ノコダゾールで処理された接着細胞及び非接着細胞は、増加したpS
10ヒストンH3、ならびに増加したZIP6バンド68kDa(SC及びY抗体)、48kDa(SC抗体)及び15kDa(Y抗体)を有する。
【
図7C】100nMのノコダゾールで20時間処理され、1~2時間回復させたMCF-7細胞は、有糸分裂の進行を示し(pS
10ヒストンH3について陽性)、15kDa(ZIP6-Y抗体)を含むZIP6バンドと酷似しており、切断2と合致する。
【
図7D】pS
10ヒストンH3(緑色、矢印)、ZIP6-Y(赤色)及びDAPI(青色)について染色されたMCF-7細胞は、分裂期前(パネル1~2)でのZIP6-Yの存在ならびに中期(パネル2)及び後期(パネル3)の両期でのZIP6-Yの非存在を実証する。スケールバー、20μm。
【
図7E】亜鉛を細胞中に取り込み、有糸分裂を推進する(1,2)ZIP6:ZIP10ヘテロ二量体のモデルを示す模式図。取り込まれた亜鉛は、pS
727STAT3の形成を引き起こし(3)、pS
727STAT3は、ZIP6及びZIP10(4)ならびにpS
38Stathmin(5)を結合し、有糸分裂のために必要とされるpS
38Stathmin駆動微小管再編成にpS
727STAT3を連関させる。
【
図8】N末端領域及び本発明による結合のための細胞外ループを示すZIP6タンパク質配列(配列番号19)。
【
図9】N末端領域及び本発明による結合のための細胞外ループを示すZIP10タンパク質配列(配列番号20)。
【
図10】黒色腫細胞における有糸分裂のZIP6及びZIP10抗体阻害。ZIP6Y又はZIP10抗体あり又はなしで、SK-MEL-29細胞を150nMのノコダゾールで18時間処理した。pS
10ヒストンH3(赤色)及びDAPI(青色)について細胞を染色した。各集団の代表的な画像を示す。スケールバー:10μm。グラフは、平均±標準誤差として表される有糸分裂中の細胞の百分率を示す(n=3)。統計的有意性は、ノコダゾール単独で処置された集団と比較して、ANoVAを用いて測定した。*p<0.05、**p<0.01;
【
図11】前立腺癌細胞における有糸分裂のZIP6及びZIP10抗体阻害。ZIP6Y又はZIP10抗体あり又はなしで、DU145細胞を150nMノコダゾールで18時間処理した。pS
10ヒストンH3(赤色)及びDAPI(青色)について細胞を染色した。各集団の代表的な画像を示す。スケールバー:20μm。グラフは、平均±標準誤差として表される有糸分裂中の細胞の百分率を示す(n=3)。統計的有意性は、ノコダゾール単独で処置された集団と比較して、ANoVAを用いて測定した。*p<0.05、**p<0.01;
【
図12A】
図12A~12Cは、ZIP6Y及びZIP10抗体の両方を使用した、MCF-7細胞における有糸分裂のZIP6及びZIP10複合抗体阻害を示す。ZIP6抗体若しくはZIP10抗体又はこれら2つの混合物あり又はなしで、MCF7細胞を150nMのノコダゾールで18時間処理した(
図12A)。
【
図12B】有糸分裂中の細胞の50%の減少(ピンクの線)を与える用量から得られる有糸分裂中の細胞の観察された百分率から使用された各抗体の量を判断した。pS
10ヒストンH3(赤)及びDAPI(青)について細胞を染色した。各集団の代表的な画像を示す。角括弧は、2つの抗体の合計濃度を示す。スケールバー:10μm。
【
図12C】有糸分裂中の細胞の百分率が平均±標準誤差として示されている(n=3)。統計的有意性は、両抗体で処置された集団と比較して、ANoVAを用いて測定した。*p<0.05、**p<0.01;***p<0.001;
【
図13】28日にわたるMCF-7細胞における細胞分裂のZIP6抗体阻害。週に2回、合計28日間培地を交換した時点で、MCF-7細胞をZIP6Y抗体で処理した。コールターカウンターを用いて総細胞数を計数し、細胞を毎週採取した。グラフは平均±標準誤差を表す(n=3)。
【
図14】ZIP6Y抗体注射は、トリプルネガティブ乳癌腫瘍をインビボで50%超遅延させる。MDA231トリプルネガティブ乳癌細胞を注射されたマウスは腫瘍を発症し、その後、マウスに抗体又は対照を4日ごとに20日間注射し、腫瘍体積を測定した。ZIP6処理された腫瘍の成長は、20日間で、PBS対照と比較して50%減少し、非処置と比較して66%減少した。
【発明を実施するための形態】
【0058】
表1.N末端ZIP6及びZIP10抗体のリスト。
【0059】
材料及び方法
材料、抗体及び処置
使用された抗体は、ZIP6-Y及びZIP10(自社);Santa Cruz BiotechnologyからのZIP6-SC(E-20、SC-84875)、pS727STAT3(SC-8001-R及びSC-136193)、pY705STAT3(SC-7993-R)、総STAT3(SC-8019)及びGAPDH(SC-32233);Cell Signalling Technologyからのα-チューブリン(DM1A、#3873S)、pS10ヒストンH3(#9706S及び#3377)及びpS38Stathmin(#4191);InvitrogenからのマウスV5;AbcamからのウサギV5(Ab9116);Sigma-Aldrichからのβ-アクチン(A5316)であった。
【0060】
使用された処理は、100ng/mLのノコダゾール(Sigma-Aldrich、M1404)20時間、200μMのSTAT3阻害剤細胞透過性ペプチド(Calbiochem、573096)、及び10μMのピリチオンナトリウムを含む20~100μMの亜鉛(Sigma-Aldrich)、及び25又は50μMのTPEN(Sigma-Aldrich)であった。
【0061】
細胞株及び免疫組織化学
MCF-7細胞及びMCF-7細胞から発達させたタモキシフェン耐性細胞(TAMR)(1)を以前に記載されたとおりに(2)培養した。ホルマリン固定パラフィン包埋乳癌試料を脱脂し、再水和した後、pS727STAT3(SC-8001-R、1/650)又はpS10ヒストンH3(#3377、1/30)抗体とともに2時間インキュベートし、Dako Envision#K4011試薬で検出した。EDTAを加えたTris塩基中、pH9で2分間の加圧調理器を抗原賦活化のために使用した。使用した原乳癌材料は、適切な倫理的承認を有した(REC参照番号C2020313)。マウス腸組織の免疫組織化学は以前に記載されている(3)。
【0062】
プラスミド及び形質移入
ベクターpcDNA3.1/V5-His-TOPOを使用した、C末端V5タグを有するZIP6/LIV-1/SLC39A6(4)及びZIP7/HKE4(5)のための組換え構築物の生成は、以前に記載されている。上記プラスミドからZIP6変異体(Y473A、S471A、S475A及びS478A、S479A)を生成し、配列決定によって確認した。記載されるように(6)、16時間、リポフェクタミンー2000(Life Technologies)で細胞を形質移入した。
【0063】
SDS-PAGE、ウェスタンブロッティング及び免疫沈降。
【0064】
細胞を採集し、PBSで洗浄し、哺乳動物細胞用のプロテアーゼ阻害剤カクテル(Signa-Aldrich)及びホスファターゼ阻害剤(2mMオルトバナジン酸ナトリウム及び50mMフッ化ナトリウム)を含む溶解緩衝液pH7.6(50mM Tris、150mM NaCl、5mM EGTA及び1%TritonX-100)で4℃で1時間溶解した。タンパク質は、Bio-Rad/Bradford色素-結合タンパク質マイクロアッセイを使用して測定した。3つの別々の実験からの40μg/レーンのウェスタンブロット結果をGAPDH値に対して正規化した。免疫沈降のために、洗浄及びSDS-Pageより前に、500μgのタンパク質を5μgの抗体とともに一晩、20μlのEZview Red Protein A Affinity Gel(Sigma)とともに4時間インキュベートした。
【0065】
蛍光顕微鏡法及びFACS分析
形質移入の前に、厚さ0.17mmのカバーガラス上で1×105個の細胞を5~7日間成長させた。カバーガラスを固定し、前述のように(7)処理した。亜鉛画像化のために、細胞に5μM Fluozin-3(Invitrogen)を37℃で30分間負荷した。Becton-Dickinson FACSVerseを用いたFACS分析では、有糸分裂シェイクオフによって回収された非接着細胞及びトリプシン処理によって採集された接着細胞に5μM Fluozin-3(Invitrogen)を30分間負荷し、続いて培地中で30分間回収した。細胞周期分析では、細胞を70%エタノール中で一晩固定し、続いてFACS分析の前に、0.2μg/mL DNase-free RNaseAを加えた20μg/mLヨウ化プロピジウム(Sigma-Aldrich)及びPBS中の0.1%Triton X-100による37℃で20分間のDNA染色を行い、Watsonプラグマティックアルゴリズムを用いてFlowJo Softwareバージョン10で分析した。スケールバーは10μmである。
【0066】
近接ライゲーションアッセイ(PLA)
8ウェルチャンバースライド(Lab-Tek、Fisher)上の細胞を固定した後、以前に記載されたように(8)Duolink redキット(Sigma)を使用してPLAを行った。赤い蛍光の点は2分子結合を示す。少なくとも3つの異なる実験からの少なくとも12の別個の画像を使用してImageToolソフトウェア(Olink)によって細胞あたりのドットを決定し、平均値±標準誤差として提示した。
【0067】
統計解析
統計解析は、スチューデントのt-検定、又は事後ダネット及びテイムヘイン検定を用いたANOVAのいずれかを使用して行った。*=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001として有意性を仮定した。エラーバーは、少なくとも3つの異なる実験による標準偏差(SD)である。
【0068】
結果
有糸分裂のためのZIP6及びZIP10の必要性。
【0069】
本発明者らは、本発明者らのZIP6-Y N末端抗体とともに細胞をインキュベートすることによって、有糸分裂開始におけるZIP6の役割を最初に発見した。微小管重合を遮断するノコダゾールで処理された細胞は、pS
10ヒストンH3及びDAPI染色によって判断されるように有糸分裂細胞の増加した百分率を有し(
図1A)、FACS分析によってG2/M細胞の著しい増加を有する(
図2)。本発明者らのZIP6-Y抗体処理ありでのノコダゾールは、濃度依存的様式で有糸分裂を有意に減少させ(
図1A)、G2/M四倍体集団を減少させ(
図1B)、ZIP6媒介性亜鉛流入の遮断を示唆した。
【0070】
この効果は、2つのトリプルネガティブ(ER-、PR-及びHer2-)乳癌細胞株(MDA-436及びMDA-231;
図1C及び
図1D)、さらに黒色腫癌細胞株(SK-MEL-29;
図10)及び前立腺癌細胞株(DU145;
図11)において再現された。特に、この効果はインビボでも再現され、ZIP6阻害が、処置困難なトリプルネガティブ乳癌(TNBC)腫瘍の成長を対照と比較して50%超遅延させることが実証された(
図13)。
【0071】
微小管を安定化させ、これによって細胞がノコダゾール遮断を克服するのを補助することによってZIP6の遮断が機能したわけではないことを確認するために、本発明者らは、24時間の血清枯渇による部分的な同期化の30時間後に、細胞が有糸分裂に入る前にZIP6-Y抗体を添加することによってノコダゾールなしでこの実験を繰り返したところ、有糸分裂を有意に減少させた(
図1E)。さらに、LacZ又はZIP7とは対照的に、ZIP6で形質移入された細胞は、接着細胞では2倍、非接着細胞では4倍、有糸分裂百分率を増加させ(
図1F)、有糸分裂におけるZIP6の重要な役割をさらに確認した。
【0072】
本発明者らは、ZIP6及びZIP10がヘテロ二量体を形成することを示したので、本発明者らは、有糸分裂においてZIP10がZIP6と同様に挙動するかどうかを試験した。本発明者らのZIP10抗体とのノコダゾール処理された細胞のインキュベーションは、有糸分裂集団を同様に減少させ(
図2A)、FACS分析によって確認され(
図2B)、MDA-436細胞(
図2C)、MDA-231細胞(
図2D)、SK-MEL-29細胞(
図10)及びDU145細胞(
図11)でも観察された。
【0073】
ZIP6又はZIP10阻害が有糸分裂を等しく防止したことに鑑みて、本発明者らは、近接ライゲーションアッセイを使用してZIP6及びZIP10結合を試験したところ、有糸分裂細胞(
図3E、4A)における結合の濃縮が明らかにされ、続いてZIP10についてプローブされたZIP6形質移入細胞におけるV5を用いた免疫沈降によってこの観察が確認された(
図4B)。さらに、ZIP6-Y又はZIP10抗体による処理は、96時間にわたって細胞増殖を有意に抑制し(
図3F)、これらの亜鉛輸送体を遮断することが細胞分裂を防止することを実証し、これは最長28日間でさえ当てはまることが示された(
図13)。
【0074】
さらに、本発明者らは、組み合わせて使用されるブロッキングZIP6及びZIP10の両方での処理を通じた、ZIP6/ZIP10ヘテロ二量体の複合阻害の効果も調査した(
図12)。特に、併用処理は、いずれかの抗体単独と比較して有糸分裂のさらなる減少をもたらし、併用処理が腫瘍増殖の優れた阻害を提供し得ることを示唆している(
図12C)。
【0075】
ZIP6及びZIP10は、有糸分裂において亜鉛によって引き起こされるPS
727STAT3を結合する
ZIP6は、円形化した有糸分裂細胞中で濃縮されており(
図5A)、本発明者らは、これらの有糸分裂細胞がpS
727STAT3も含むことを発見した。本発明者らは、N末端切断及び細胞膜転位と合致するpY
705STAT3の同時減少(
図5B)及び増加した68kDa ZIP6バンドを伴うウェスタンブロットによって、有糸分裂において上昇したpS
727STAT3を確認した(
図5B)。さらに、亜鉛処理はSTAT3のリン酸化状態をpY705からpS727に変化させ(
図5C)、これまでに有糸分裂の状況では報告されたことがない相互関係を実証している。しかしながら、有糸分裂におけるpS
727STAT3のこの検出は、有糸分裂全ゲノム質量分析スクリーニングにおいても観察された。興味深いことに、pY
705STAT3の喪失はSTAT3の転写活性を終結させ、転写は有糸分裂中に停止することが知られている。
【0076】
次に、本発明者らは、有糸分裂細胞における亜鉛の増加を確認し(
図5D、E)、非接着細胞において3倍の増加を示した。接着細胞の48%と比較して90%が4N DNA含有量を有したので(
図4A)、これらの非接着細胞は、有糸分裂細胞で濃縮されていた。他の者も、有糸分裂細胞における増加した亜鉛を観察しており、間期細胞と比較して有糸分裂細胞での亜鉛の3倍の増加を実証している。
【0077】
近接ライゲーションアッセイを使用して、本発明者らは次に、専ら有糸分裂細胞において、別々にZIP6(
図5F)及びZIP10(
図5G)の両方がpS
727STAT3に有意な結合をすることを実証した。対照的に、pS
705STAT3とZIP6又はZIP10のいずれかとの間には検出可能な相互作用は存在しなかった(
図4B)。興味深いことに、細胞質分裂後にはpS
727STAT3に結合したZIP6はより少なかった(
図5F、黄色の矢印)ことから、有糸分裂が停止した時点での解離が示唆される。これらのデータは、専ら有糸分裂中にZIP6及びZIP10を結合するpS
727STAT3の亜鉛媒介性形成を実証する。
【0078】
ZIP6タンパク質配列は、膜貫通ドメイン3~4の間の細胞質ループ(YESQ、残基473~476)上に予測されるSTAT3結合部位を有し、これはSTAT3結合部位YxxQのコンセンサスモチーフに適合し、哺乳動物において高度に保存されている(
図5H)。本発明者らは、STAT3の結合に何らかの残基が関与しているかどうかを調べるために、ZIP6変異体を作製し(
図5I)、これを免疫沈降によって試験した。pS
727STAT3に対するプロービングは、野生型ZIP6ならびに変異体S471A、S478A及びT479Aで形質移入された細胞の両方でZIP6を共沈殿させたが、Y473A又はS475A変異体で形質移入された細胞ではZIP6を共沈殿させなかった(
図5J)。これらのデータは、残基Y473でのSTAT3結合ZIP6と一致し、S475も重要である。これらの残基は、進化的に保存されたZIP6の配列中に存在する(
図5H)。ZIP10も、対応する領域中によく保存された予測されるSTAT3結合部位YKQQ(512~524)を有する(
図5K)。
【0079】
pS
727STAT3は有糸分裂中にpS
38Stathminを結合し、有糸分裂終了のために切断される
有糸分裂過程とのpS
727STAT3の時間的関連を分析するために、本発明者らは、有糸分裂中の細胞においてpS
727STAT3を画像化した(
図6A)。これにより、全ての有糸分裂段階でのpS
727STAT3の存在が明らかになり、これは有糸分裂細胞におけるpS
727STAT3の存在及びpY
705STAT3の非存在によって確認され、細胞質分裂を受けている細胞がなおpS
727STAT3について陽性であるが、pS
10ヒストンH3については陰性であったことに注目すると、有糸分裂を通じてpS
727STAT3が長期間存在することを示している。さらに、本発明者らは、ヒト乳癌の隣接するスライス片を使用して同じ細胞中のpS
10ヒストンH3によって判断したところ、インビボで有糸分裂細胞中にpS
727STAT3を検出した(
図6B)。正常なマウス腸の有糸分裂細胞においてもpS
727STAT3のさらなるインビボ染色が見られ(
図6C)、正常な状態及び疾患状態を包含する有糸分裂中の一般的な過程であることが示唆された。
【0080】
ノコダゾール処理の最後の1時間、亜鉛キレート剤又はSTAT3阻害剤のいずれかでの処理によって、有糸分裂進行に対する亜鉛の効果を調べた。pS
10ヒストンH3又はSTAT3リン酸化状態に対して影響を及ぼさず(
図6D)、このことは、細胞が有糸分裂に達する前にSTAT3と亜鉛の両方が必要であることを確証した。興味深いことに、50μM又は100μMの亜鉛との1時間のインキュベーションは、pS
10ヒストンH3の喪失及びpY
705STAT3へのpY
727STAT3の復帰によって判断されるように、もはや有糸分裂していない細胞と一致する効果を有した(
図6D)。本発明者らは、減少した亜鉛曝露時間を使用した蛍光イメージングによって、これらの細胞が有糸分裂を経て進行したことを確認し(
図6E)、有糸分裂細胞数の減少を早くも15分で観察した。重要なことに、有糸分裂を終了したこれらの亜鉛処理細胞は通常の完全長STAT3バンドを失っており(
図6D)、STAT3のC末端切断形態のみを示し、したがって残基S727を除去していた。有糸分裂終了時のSTAT3のこの切断、S727の除去は、Y705がリン酸化された活性転写因子型のSTAT3を回復させることを可能にし、それにより、転写能力を再確立し、有糸分裂を終了するための明確な手段を提供する。
【0081】
本発明者らは、pS
727STAT3のpS
38スタスミンとの相互作用を実証することによって、ZIP6:pS
727STAT3複合体を確立された有糸分裂カスケードの中に統合した。この形態のスタスミンは、有糸分裂微小管の再編成を可能にするだけでなく、有糸分裂紡錘体の集合及び有糸分裂開始の両方にも不可欠である。したがって、専ら有糸分裂細胞中でpS
727STAT3の存在及びpS
38スタスミンとの結合が確立されたこと(
図6F)は、有糸分裂の最中にスタスミンを安定化する上でのpS
727STAT3の役割を裏付ける。
【0082】
有糸分裂中のZIP6のN末端切断
本発明者らは以前に、予想PEST部位における細胞膜への再転位のための必要条件としてZIP6のN末端切断を確立しており[7]、これらはしばしば細胞周期によって調節された様式でプロセシングされるので、本発明者らは、異なるエピトープを有するZIP6抗体を使用して有糸分裂中のいずれかのさらなる切断を調べた(
図7A)。
【0083】
ノコダゾール処理細胞は、N末端ZIP6-Y抗体と細胞質ループZIP6-SC抗体の両方によって認識されるZIP6の68kDaバンド(
図7A、切断1)の大幅な増加を示した(
図7B)。本発明者らはまた、いずれもノコダゾール処理において増加した2つのより短いバンドをZIP6について検出した。これらは、ZIP6-Y抗体での15kDaのバンド及びZIP6-SC抗体での48kDaのバンドに対応し(
図7B)、さらなるN末端切断(
図7A、切断2)及び残存ZIP6細胞外N末端の細胞外ドメインシェディングを意味する。ZIP6及びZIP10をともに含むZIPチャネルのLIV-1サブファミリーに由来するプリオンタンパク質は、ZIPチャネルと同様のN末端を有し、機能的制御の手段として細胞外ドメインシェディングを受ける。興味深いことに、亜鉛輸送体のLIV-1ファミリーの2つのメンバーであるZIP10及びZIP4の両方の適切な亜鉛輸送機能のために、N末端切断が必要とされる。これらの事実は、本発明者らのデータと合わせると、N末端ZIP6及び/又はZIP10の細胞外切断が、ZIP6:ZIP10ヘテロ二量体機能及び有糸分裂の開始を引き起こす能力を調節するために及び必要であり得るという新たな証拠を提供する。
【0084】
有糸分裂進行とのZIP6切断2の正確な関係を調べるために、本発明者らは、ノコダゾール処置後の1~2時間の回復中にZIP6切断を調べ、pS
10ヒストンH3の減少で確認されるように有糸分裂を経た進行を可能にした(
図7C)。これらの条件において、本発明者らは、有糸分裂におけるその出現と一致する(
図7C)、pS
10ヒストンH3の活性化と並行したZIP6の15kDaバンドの増加、その後の、細胞が有糸分裂から脱出するにつれての減少を観察した。さらに、ZIP6-SC抗体の68kDaのバンドが減少し、48kDaのバンドが出現したが(
図7C)、これは、ZIP6切断2の発生と一致する(
図7A)。さらに、免疫蛍光によってZIP6について有糸分裂細胞を画像化すると、本発明者らは、前期中にZIP6-Y陽性有糸分裂細胞を観察することが可能であったに過ぎず(
図7D、パネル1及び2)、有糸分裂の後続の段階の細胞は常にZIP6-Yについて陰性であり(
図7D、パネル2及び3)、有糸分裂開始後のZIP6のN末端の除去を確認した。これらのデータを合わせると、有糸分裂が前期で開始された後に、ZIP6は、ZIP6-Y抗体エピトープの下流のN末端においてさらに切断されることが確認される(
図7A)。ZIP6の第2のN末端切断がSTAT3のリン酸化状態の亜鉛依存的変化の後にのみ生じることも注目に値し、この第2の切断がZIP6:ZIP10ヘテロ二量体を不活性化し得ることを示唆している。
【0085】
これらのデータは全て、有糸分裂における亜鉛のこれまで不明であった役割に対する新たな機序を考案することを可能にする。本発明者らは、スタスミン依存性微小管再編成及びヒストンH3活性化などの公知の有糸分裂経路に合流する有糸分裂複合体(ZIP6、ZIP10、pS
727STAT3及びpS
38スタスミン)の形成を含むモデルを提案する(
図7E)。ZIP6N末端切断によって活性化されたZIP6:ZIP10ヘテロ二量体は、細胞膜に移動して亜鉛を細胞中に取り込み、有糸分裂を開始する。この取り込まれた亜鉛は、有糸分裂全体を通じて残存するpS
727STAT3の形成を引き起こし、STAT3転写活性を妨げる。このpS
727STAT3は、ZIP6及びZIP10の両方ならびにpS38スタスミンも結合し、有糸分裂のために必要とされるp38スタスミン駆動の微小管再編成にpS
727STAT3を結び付ける複合体を形成する。
【0086】
まとめ
本発明者らは、有糸分裂経路が活性化され得る前の、ZIP6/ZIP10ヘテロ二量体を介した亜鉛流入の必要性を示してきたが、これは、亜鉛が細胞増殖のために不可欠とされてきた理由、さらには、亜鉛欠乏が非常に有害であり得る理由を説明する。ZIP6又はZIP10抗体、特にこれらの輸送体のN末端を結合する抗体により有糸分裂を阻害する能力は、現在、癌及び線維症などの増殖性疾患を阻害するための新しい治療機会を提供する。
【表1】
【0087】
参考文献
1.Knowlden,J.M.et al.Elevated levels of epidermal growth factor receptor/c-erbB2 heterodimers mediate an autocrine growth regulatory pathway in tamoxifen-resistant MCF-7 cells.Endocrinology 144,1032-1044(2003)。
【0088】
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【0089】
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【0093】
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【手続補正書】
【提出日】2021-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するための抗有糸分裂組成物であって、少なくとも1つのZIP(Zrt、Irt様タンパク質)輸送体の細胞外ドメインを選択的に結合してその機能を阻害する少なくとも1つの抗体又はその断片を含み、前記ZIP輸送体は、ZIP6若しくはZIP10のいずれか、又はその両方を含むヘテロ二量体であり、前記抗体がZIP6についてはN末端アミノ酸93~350及びZIP10については46~395の間で結合する、抗有糸分裂組成物。
【請求項2】
前記断片が、前記抗体の少なくとも(1又は複数の)相補性決定領域を含む、請求項1に記載の有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するための抗有糸分裂組成物。
【請求項3】
ZIP6についてはN末端1~325若しくは1~350及びZIP10については1~407の間で、またZIP6についてはN末端31~325若しくは31~350及びZIP10については31~407の間で、前記抗体が前記ZIP6及び/又はZIP10輸送体の細胞外ドメインを結合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するための抗有糸分裂組成物。
【請求項4】
前記抗体が、ZIP6についてはN末端アミノ酸220~350及びZIP10については46~395の間で結合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するため抗有糸分裂組成物。
【請求項5】
前記抗体が、ZIP6の以下のECD:
N末端エピトープ(配列番号1 93-HHDHDHHSDHEHHSD-107);
N末端エピトープ(配列番号2 246-EPRKGFMYSRNTNE-259);
N末端及び膜貫通ドメイン1を含む(配列番号3 301-RSCLIHTSEK KAEIPPKTYS LQIAWVGGFI AISIISFLSL LGVILVPLMN-350);
N末端(配列番号4 303-CLIHTSEKKAEIP-315);
N末端、(配列番号5 129-HSHHNHAASGKNKRKALCPDHDSDSSGKDPRNSQGKGAHRPEHASGRRNVKDSVSASEVTSTVYNTVSEGTHFLETIETPRPGKLFPKDVSSSTPPSVTSKSRVSRLAGRKTNESVSEPRKGFMYSRNTNENPQE-263);
N末端、(配列番号6 288-NYLCPAIINQIDARSCLIHTSEKKAEIPPKTYSLQIAWVGGFIAISIISF-337);
の1つ内に、又は
ZIP10の以下のECD:
N末端、(配列番号11 46-LEPSKFSKQAAENE-59);
N末端(配列番号12 164-EKETVEVSVKSDDKHMHDHNHRLRHHHRLHHHLDHNTHHFHNDSITPSERGEPSNEPSTETNKTQEQSDVKLPKGKRKKKGRKSNENSEVITPGFP-253);
N末端、(配列番号13 295-QDLDPDNEGELRHTRKREAPHVKNNAIISLR-395)
N末端、(配列番号14 36-LHRQHRGMTELEPSKFSKQAAENEKKYYIEKLFERYGENGRLSFFGLEKL-85)
の1つ内に結合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するための抗有糸分裂組成物。
【請求項6】
前記抗体が、ZIP6M、ZIP6Y、ZIP6AM、ZIP6X、ZIP6R、抗SLC39A6
a、抗SLC39A6
b、抗SLC39A6
c、抗SLC39A6
d、LIV-1/ZIP6抗体、抗SLC39A6
e、抗SLC39A6
f、ZIP62-A、ZIP10、抗SLC39A10
a、抗SLC39A10
b、SLC39A10
a、抗SLC39A10
c及びSLC39A10
bを含む群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するための抗有糸分裂組成物。
【請求項7】
前記抗体が、ZIP6Y、ZIP6AM、ZIP10及び抗SLC39A10
aを含む群から選択される、請求項6に記載の有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するための抗有糸分裂組成物。
【請求項8】
少なくとも2つの抗体又はその断片が組み合わせて使用される、請求項1~7のいずれか一項に記載の有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するための抗有糸分裂組成物。
【請求項9】
少なくとも1つの抗体が前記ZIP6輸送体の少なくとも一部を結合し、1つの抗体が前記ZIP10輸送体の少なくとも一部を結合する、請求項8に記載の有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するための抗有糸分裂組成物。
【請求項10】
単一の抗体が、前記ZIP6:ZIP10ヘテロ二量体を結合してその機能を阻害する、請求項1~9のいずれか一項に記載の有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するための抗有糸分裂剤。
【請求項11】
前記過剰増殖性障害が、癌及び固形腫瘍、リンパ腫又は白血病、乳癌、前立腺癌、結腸癌、脳癌、肺癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌及び腎臓癌などのその様々な形態;多発性嚢胞腎疾患(PKD)及び関連する嚢胞性腎疾患;黒色腫;過形成、化生及び異形成ならびにそれらの様々な形態;免疫系の増殖性障害(骨髄及びリンパ増殖性障害など);前立腺肥大症;子宮内膜症;乾癬;組織修復及び異常な創傷治癒;ならびに線維症、例えば、肺線維症、特発性肺線維症、肝硬変、心内膜心筋線維症、血管狭窄又は脊柱管狭窄、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性巨大線維症、腎性全身性線維症、クローン病、ケロイド又は陳旧性心筋梗塞、強皮症/全身性硬化症、関節線維症及び癒着性関節包炎などを含む群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するための抗有糸分裂剤。
【請求項12】
癌が、固形腫瘍、リンパ腫又は白血病、乳癌、前立腺癌、結腸癌、脳癌、肺癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、食道癌及び腎臓癌から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の有糸分裂を防止することによる過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するための抗有糸分裂組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗有糸分裂組成物を薬学的に又は獣医学的に許容され得る賦形剤又は担体と一緒に含む、癌の処置又は予防において使用するための薬学的組成物又は獣医学的組成物。
【請求項14】
少なくとも1つの他の治療剤と組み合わせた請求項1~12に記載の抗有糸分裂組成物を含む、過剰増殖性障害の処置又は予防において使用するための併用治療薬。
【請求項15】
ZIP10に対して特異的である抗体又はその断片であって、前記抗体は、ZIP10輸送体のエピトープN末端46~59アミノ酸配列番号11 LEPSKFSKQAAENEに対して特異的である、抗体又はその断片。
【国際調査報告】