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特表2022-536610持続性迷走神経刺激によって感覚知覚を改善するための方法および装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-18
(54)【発明の名称】持続性迷走神経刺激によって感覚知覚を改善するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20220810BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569875
(86)(22)【出願日】2020-06-14
(85)【翻訳文提出日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 US2020037660
(87)【国際公開番号】W WO2020252428
(87)【国際公開日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】62/861,715
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507303125
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティー イン ザ シティー オブ ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ワン キ
(72)【発明者】
【氏名】ローデンキルヒ チャールズ
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ03
4C053JJ04
4C053JJ06
4C053JJ27
(57)【要約】
対象における感覚処理を修正するための方法および装置が提供される。局面は、一過性の感覚処理修正のために対象に持続性迷走神経刺激を適用することに関する。対象が感覚修正を必要とする場合に、またはオンデマンドで、持続性迷走神経刺激を適用するための装置も提供される。装置は、迷走神経刺激を必要とする身体の領域に適用するための補綴装置と連結することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の感覚処理を修正する方法であって、前記対象に持続性(tonic)迷走神経刺激を適用する工程を含み、前記対象の前記感覚処理が修正される、方法。
【請求項2】
前記迷走神経刺激の周波数が少なくとも約0.3 Hzである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記周波数が約0.5~80 Hzである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記周波数が約30~60 Hzである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記迷走神経刺激の電流の少なくとも約0.2 mAが迷走神経に到達する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記迷走神経刺激の前記電流の約0.5~約3 mAが前記迷走神経に到達する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記迷走神経刺激の前記電流の約1.5~約2.5 mAが前記迷走神経に到達する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
約1~約60 mAの電流が、前記迷走神経刺激を生成する装置から発せられる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
約5~約30 mAの前記電流が、前記迷走神経刺激を生成する前記装置から発せられる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記持続性迷走神経刺激の適用時間が少なくとも約3秒である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記持続性迷走神経刺激の前記適用時間が少なくとも約30秒である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記持続性迷走神経刺激の前記適用時間が少なくとも約4分である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記感覚処理が約1秒未満で修正される、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記感覚処理が約10秒未満で修正される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記感覚処理が約1分未満で修正される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記修正された感覚処理が一過性である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記迷走神経刺激が連続的である、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記迷走神経刺激が非連続的である、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記非連続的迷走神経刺激がデューティサイクルの形態であり、迷走神経刺激が適用されない前記デューティサイクルの部分の期間が約7~約10秒以下である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記非連続的迷走神経刺激がデューティサイクルの形態であり、迷走神経刺激が適用されない前記デューティサイクルの部分の期間が約3~約7秒以下である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記非連続的迷走神経刺激がデューティサイクルの形態であり、迷走神経刺激が適用されない前記デューティサイクルの部分の期間が約0.5~約3秒以下である、請求項18記載の方法。
【請求項22】
前記感覚処理の修正が、感覚鋭敏性を増強することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記感覚鋭敏性の増強が、感覚モダリティの鋭敏性を強化することを含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記感覚モダリティが、視覚刺激、聴覚刺激、嗅覚刺激、味覚刺激、および触覚刺激からなる群から選択される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記感覚処理の修正が、誤認誘発エラーの発生を減少させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項26】
前記感覚処理の修正が、青斑核の選択的活性化を含む、請求項1記載の方法。
【請求項27】
前記感覚処理の修正が、刺激をコード化するために使用される神経活性の時間的構造を変更することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項28】
前記感覚処理の修正が、ブレイン・マシン・インターフェースによる脳への情報の書き込みを促進する、請求項1記載の方法。
【請求項29】
前記感覚処理の修正が、神経可塑性変化から生じない、請求項1記載の方法。
【請求項30】
前記感覚処理の修正が、多感覚統合を実行する能力を改善する、請求項1記載の方法。
【請求項31】
前記感覚処理の修正が、t型カルシウムチャネル活性を低下させる神経調節によって生じる、請求項1記載の方法。
【請求項32】
前記感覚処理の修正が、不快なまたは気を散らす感覚知覚の発生を減らす、請求項1記載の方法。
【請求項33】
前記感覚処理の修正が、特定の感覚モダリティを選択的に助ける、請求項1記載の方法。
【請求項34】
前記感覚処理の修正が、脳の感覚経路部分におけるノルエピネフリン濃度を増加させる、請求項1記載の方法。
【請求項35】
対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の効率が、前記迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%上昇する、請求項26記載の方法。
【請求項36】
対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の速度が、前記迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%上昇する、請求項26記載の方法。
【請求項37】
元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数が、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約10%増加する、請求項17記載の方法。
【請求項38】
元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数が、平均で少なくとも約20%増加する、請求項37記載の方法。
【請求項39】
元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数が、平均で約25~60%増加する、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記迷走神経刺激が、感覚刺激と1回以上対にされない、請求項1記載の方法。
【請求項41】
前記迷走神経刺激が、前記対象の頸部領域に適用される、請求項1記載の方法。
【請求項42】
前記頸部領域が、前記対象の左頸部領域および右頸部領域を含む、請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記迷走神経刺激が、前記対象の前記左頸部領域または前記右頸部領域に適用される、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記迷走神経刺激が、耳介経皮領域に適用される、請求項1記載の方法。
【請求項45】
前記耳介経皮領域が、前記対象の左耳介経皮領域および右耳介経皮領域を含む、請求項44記載の方法。
【請求項46】
前記迷走神経刺激が、前記対象の前記左耳介経皮領域または前記右耳介経皮領域に適用される、請求項45記載の方法。
【請求項47】
前記感覚処理の修正が、1つまたは複数の感覚障害を有する対象の感覚知覚を改善することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項48】
前記1つまたは複数の感覚障害が、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害、および味覚障害のうちの1つまたは複数からなる群から選択される、請求項47記載の方法。
【請求項49】
前記対象が、感覚修正を必要とする障害状態を有さない、請求項1記載の方法。
【請求項50】
前記障害状態が、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害、および味覚障害からなる群のうちの1つまたは複数から選択される、請求項49記載の方法。
【請求項51】
対象における感覚処理を修正する方法であって、以下の工程を含む方法:
第1の時点から第2の時点までに測定された、前記対象の少なくとも1つの眼について瞳孔径の平均値および分散値を決定する工程;
前記瞳孔径を測定し、瞳孔径値を決定する工程;ならびに
前記瞳孔径値が瞳孔径の前記平均値から少なくとも約1~3標準偏差である場合に、持続性迷走神経刺激を前記対象に適用する工程。
【請求項52】
前記対象に感覚刺激を受けさせる工程をさらに含む、請求項51記載の方法。
【請求項53】
前記迷走神経刺激の周波数が少なくとも約0.3 Hzである、請求項51記載の方法。
【請求項54】
前記迷走神経刺激の前記周波数が約0.5~80 Hzである、請求項53記載の方法。
【請求項55】
前記迷走神経刺激の前記周波数が約30~60 Hzである、請求項54記載の方法。
【請求項56】
前記迷走神経刺激の電流の少なくとも約0.2 mAが迷走神経に到達する、請求項51記載の方法。
【請求項57】
前記迷走神経刺激の前記電流の約0.5~約3 mAが前記迷走神経に到達する、請求項56記載の方法。
【請求項58】
前記迷走神経刺激の前記電流の約1.5~約2.5 mAが前記迷走神経に到達する、請求項57記載の方法。
【請求項59】
約1~約60 mAの電流が、前記迷走神経刺激を生成する装置から発せられる、請求項51記載の方法。
【請求項60】
約5~約30 mAの前記電流が、前記迷走神経刺激を生成する前記装置から発せられる、請求項59記載の方法。
【請求項61】
前記持続性迷走神経刺激の適用時間が少なくとも約3秒である、請求項51記載の方法。
【請求項62】
前記持続性迷走神経刺激の前記適用時間が少なくとも約30秒である、請求項61記載の方法。
【請求項63】
前記持続性迷走神経刺激の前記適用時間が少なくとも約4分である、請求項62記載の方法。
【請求項64】
前記感覚処理が約1秒未満で修正される、請求項51記載の方法。
【請求項65】
前記感覚処理が約10秒未満で修正される、請求項64記載の方法。
【請求項66】
前記感覚処理が約1分未満で修正される、請求項65記載の方法。
【請求項67】
前記修正された感覚処理が一過性である、請求項51記載の方法。
【請求項68】
前記迷走神経刺激が連続的である、請求項51記載の方法。
【請求項69】
前記迷走神経刺激が非連続的である、請求項51記載の方法。
【請求項70】
前記非連続的迷走神経刺激がデューティサイクルの形態であり、迷走神経刺激が適用されない前記デューティサイクルの部分の期間が約7~約10秒以下である、請求項69記載の方法。
【請求項71】
前記非連続的迷走神経刺激がデューティサイクルの形態であり、迷走神経刺激が適用されない前記デューティサイクルの部分の期間が約3~約7秒以下である、請求項69記載の方法。
【請求項72】
前記非連続的迷走神経刺激がデューティサイクルの形態であり、迷走神経刺激が適用されない前記デューティサイクルの部分の期間が約0.5~約3秒以下である、請求項69記載の方法。
【請求項73】
前記感覚処理の修正が、感覚鋭敏性を増強することを含む、請求項51記載の方法。
【請求項74】
前記感覚鋭敏性の増強が、感覚モダリティの鋭敏性を強化することを含む、請求項73記載の方法。
【請求項75】
前記感覚モダリティが、視覚刺激、聴覚刺激、嗅覚刺激、味覚刺激、および触覚刺激の1つまたは複数からなる群から選択される、請求項74記載の方法。
【請求項76】
前記感覚処理の修正が、誤認誘発エラーの発生を減少させることを含む、請求項51記載の方法。
【請求項77】
前記感覚処理の修正が、青斑核の選択的光遺伝学的活性化を含む、請求項51記載の方法。
【請求項78】
前記感覚処理の修正が、刺激をコード化するために使用される神経活性の時間的構造を変更することを含む、請求項51記載の方法。
【請求項79】
前記感覚処理の修正が、ブレイン・マシン・インターフェースによる脳への情報の書き込みを促進する、請求項51記載の方法。
【請求項80】
前記感覚処理の修正が、神経可塑性変化から生じない、請求項51記載の方法。
【請求項81】
前記感覚処理の修正が、多感覚統合を実行する能力を改善する、請求項51記載の方法。
【請求項82】
前記感覚処理の修正が、t型カルシウムチャネル活性を低下させる神経調節によって生じる、請求項51記載の方法。
【請求項83】
前記感覚処理の修正が、不快なまたは気を散らす感覚知覚の発生を減らす、請求項51記載の方法。
【請求項84】
前記感覚処理の修正が、特定の感覚モダリティを選択的に助ける、請求項51記載の方法。
【請求項85】
前記感覚処理の修正が、脳の感覚経路部分におけるノルエピネフリン濃度を増加させる、請求項51記載の方法。
【請求項86】
対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の効率が、前記迷走神経刺激を受けなかった対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%上昇する、請求項77記載の方法。
【請求項87】
対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の速度が、前記迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%上昇する、請求項77記載の方法。
【請求項88】
元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数が、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約10%増加する、請求項77記載の方法。
【請求項89】
元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数が、平均で少なくとも約20%増加する、請求項88記載の方法。
【請求項90】
元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数が、平均で約25~60%増加する、請求項89記載の方法。
【請求項91】
前記迷走神経刺激が感覚刺激と対にされない、請求項51記載の方法。
【請求項92】
前記迷走神経刺激が、前記対象の頸部領域に適用される、請求項51記載の方法。
【請求項93】
前記頸部領域が、前記対象の左頸部領域および右頸部領域を含む、請求項92記載の方法。
【請求項94】
前記迷走神経刺激が、前記対象の前記左頸部領域または前記右頸部領域に適用される、請求項93記載の方法。
【請求項95】
前記迷走神経刺激が、前記対象の耳介経皮領域に適用される、請求項93記載の方法。
【請求項96】
前記耳介経皮領域が、前記対象の左耳介経皮領域および右耳介経皮領域を含む、請求項95記載の方法。
【請求項97】
前記迷走神経刺激が、前記対象の前記左耳介経皮領域または前記右耳介経皮領域に適用される、請求項96記載の方法。
【請求項98】
前記感覚処理の修正が、1つまたは複数の感覚障害を有する対象の感覚知覚を改善することを含む、請求項51記載の方法。
【請求項99】
前記1つまたは複数の感覚障害が、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害、および味覚障害からなる群から選択される、請求項98記載の方法。
【請求項100】
前記対象が、感覚修正を必要とする障害状態を有さない、請求項51記載の方法。
【請求項101】
前記障害状態が、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害、および味覚障害からなる群のうちの1つまたは複数から選択される、請求項100記載の方法。
【請求項102】
対象の感覚処理を修正する方法であって、以下の工程を含む方法:
前記対象が感覚処理の修正を必要とする時期を検出する工程;
前記対象に持続性迷走神経刺激を適用して前記感覚処理の修正を提供する工程;および
前記対象がもはや前記感覚処理の修正を必要としない場合に、前記感覚処理の修正の適用を中止する工程。
【請求項103】
前記対象が前記感覚処理の修正を必要とすることの検出が、
第1の時点から第2の時点までの前記対象の眼の瞳孔径の平均値および分散値を決定すること;
前記瞳孔径を測定し、瞳孔径値を決定すること;ならびに
前記瞳孔径値が瞳孔径の前記分散値から少なくとも約1~3標準偏差である場合に、持続性迷走神経刺激を前記対象に適用すること
を含む、請求項102記載の方法。
【請求項104】
前記迷走神経刺激の周波数が少なくとも約0.3 Hzである、請求項102記載の方法。
【請求項105】
前記迷走神経刺激の前記周波数が約0.5~80 Hzである、請求項104記載の方法。
【請求項106】
前記周波数が約30~60 Hzである、請求項105記載の方法。
【請求項107】
前記迷走神経刺激の電流の少なくとも約0.2 mAが迷走神経に到達する、請求項102記載の方法。
【請求項108】
前記迷走神経刺激の前記電流の約0.5~約3 mAが前記迷走神経に到達する、請求項107記載の方法。
【請求項109】
前記迷走神経刺激の前記電流の約1.5~約2.5 mAが前記迷走神経に到達する、請求項108記載の方法。
【請求項110】
約1~約60 mAの電流が、前記迷走神経刺激を生成する装置から発せられる、請求項102記載の方法。
【請求項111】
約5~約30 mAの前記電流が、前記迷走神経刺激を生成する前記装置から発せられる、請求項110記載の方法。
【請求項112】
前記持続性迷走神経刺激の適用時間が少なくとも約3秒である、請求項102記載の方法。
【請求項113】
前記持続性迷走神経刺激の前記適用時間が少なくとも約30秒である、請求項112記載の方法。
【請求項114】
前記持続性迷走神経刺激の前記適用時間が少なくとも約4分である、請求項113記載の方法。
【請求項115】
前記感覚処理が約1秒未満で修正される、請求項102記載の方法。
【請求項116】
前記感覚処理が約10秒未満で修正される、請求項115記載の方法。
【請求項117】
前記感覚処理が約1分未満で修正される、請求項116記載の方法。
【請求項118】
前記修正された感覚処理が一過性である、請求項102記載の方法。
【請求項119】
前記迷走神経刺激が連続的である、請求項102記載の方法。
【請求項120】
前記迷走神経刺激が非連続的である、請求項102記載の方法。
【請求項121】
前記非連続的迷走神経刺激がデューティサイクルの形態であり、迷走神経刺激が適用されない前記デューティサイクルの部分の期間が約7~約10秒以下である、請求項120記載の方法。
【請求項122】
前記非連続的迷走神経刺激がデューティサイクルの形態であり、迷走神経刺激が適用されない前記デューティサイクルの部分の期間が約3~約7秒以下である、請求項120記載の方法。
【請求項123】
前記非連続的迷走神経刺激がデューティサイクルの形態であり、迷走神経刺激が適用されない前記デューティサイクルの部分の期間が約0.5~約3秒以下である、請求項120記載の方法。
【請求項124】
前記感覚処理の修正が、感覚鋭敏性を増強することを含む、請求項102記載の方法。
【請求項125】
前記感覚鋭敏性の増強が、感覚モダリティの鋭敏性を強化することを含む、請求項124記載の方法。
【請求項126】
前記感覚モダリティが、視覚刺激、聴覚刺激、嗅覚刺激、味覚刺激、および触覚刺激からなる群から選択される、請求項125記載の方法。
【請求項127】
前記感覚処理の修正が、誤認誘発エラーの発生を減少させることを含む、請求項102記載の方法。
【請求項128】
前記感覚処理の修正が、青斑核の選択的活性化を含む、請求項102記載の方法。
【請求項129】
前記感覚処理の修正が、刺激をコード化するために使用される神経活性の時間的構造を変更することを含む、請求項102記載の方法。
【請求項130】
前記感覚処理の修正が、ブレイン・マシン・インターフェースによる脳への情報の書き込みを促進する、請求項102記載の方法。
【請求項131】
前記感覚処理の修正が、神経可塑性変化から生じない、請求項102記載の方法。
【請求項132】
前記感覚処理の修正が、多感覚統合を実行する能力を改善する、請求項102記載の方法。
【請求項133】
前記感覚処理の修正が、t型カルシウムチャネル活性を低下させる神経調節によって生じる、請求項102記載の方法。
【請求項134】
前記感覚処理の修正が、不快なまたは気を散らす感覚知覚の発生を減らす、請求項102記載の方法。
【請求項135】
前記感覚処理の修正が、特定の感覚モダリティを選択的に助ける、請求項102記載の方法。
【請求項136】
前記感覚処理の修正が、脳の感覚経路部分におけるノルエピネフリン濃度を増加させる、請求項102記載の方法。
【請求項137】
対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の効率が、前記迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%上昇する、請求項128記載の方法。
【請求項138】
対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の速度が、前記迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%上昇する、請求項128記載の方法。
【請求項139】
元の刺激と再現された刺激との間の相関係数が、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約10%増加する、請求項128記載の方法。
【請求項140】
元の刺激と再現された刺激との間の相関係数が、平均で少なくとも約20%増加する、請求項139記載の方法。
【請求項141】
元の刺激と再現された刺激との間の相関係数が、平均で約25~60%増加する、請求項140記載の方法。
【請求項142】
前記迷走神経刺激が、感覚刺激と1回以上対にされない、請求項102記載の方法。
【請求項143】
前記迷走神経刺激が、前記対象の頸部領域に適用される、請求項102記載の方法。
【請求項144】
前記頸部領域が、前記対象の左頸部領域および右頸部領域を含む、請求項143記載の方法。
【請求項145】
前記迷走神経刺激が、前記対象の前記左頸部領域または前記右頸部領域に適用される、請求項144記載の方法。
【請求項146】
前記迷走神経刺激が、耳介経皮領域に適用される、請求項102記載の方法。
【請求項147】
前記耳介経皮領域が、前記対象の左耳介経皮領域および右耳介経皮領域を含む、請求項146記載の方法。
【請求項148】
前記迷走神経刺激が、前記対象の前記左耳介経皮領域または前記右耳介経皮領域に適用される、請求項147記載の方法。
【請求項149】
前記感覚処理の修正が、1つまたは複数の感覚障害を有する対象の感覚知覚を改善することを含む、請求項102記載の方法。
【請求項150】
前記1つまたは複数の感覚障害が、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害、および味覚障害からなる群から選択される、請求項149記載の方法。
【請求項151】
前記対象が、感覚修正を必要とする障害状態を有さない、請求項102記載の方法。
【請求項152】
前記障害状態が、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害、および味覚障害からなる群のうちの1つまたは複数から選択される、請求項151記載の方法。
【請求項153】
対象の感覚処理を修正する方法であって、
第1の時間から第2の時間までの生体電子信号の変化を測定する工程;
前記第1の時間から前記第2の時間までの前記生体電子信号の平均値および分散値を決定する工程;
前記生体電子信号の測定値を決定する工程;ならびに
前記測定値が前記平均値から少なくとも1~3標準偏差である場合に、前記対象に持続性迷走神経刺激を適用する工程
を含む、方法。
【請求項154】
対象の感覚処理を修正するために前記対象に持続性迷走神経刺激を適用するように適合された迷走神経刺激装置であって、前記持続性迷走神経刺激の適用時間が少なくとも約4分間である、迷走神経刺激装置。
【請求項155】
前記迷走神経刺激の周波数が少なくとも約0.3 Hzである、請求項154記載の装置。
【請求項156】
前記周波数が約0.5~80 Hzである、請求項155記載の装置。
【請求項157】
前記周波数が約30~60 Hzである、請求項156記載の装置。
【請求項158】
前記迷走神経刺激の電流の少なくとも約0.2 mAが迷走神経に到達する、請求項154記載の装置。
【請求項159】
前記迷走神経刺激の前記電流の約0.5~約3 mAが前記迷走神経に到達する、請求項158記載の装置。
【請求項160】
前記迷走神経刺激の前記電流の約1.5~約2.5 mAが前記迷走神経に到達する、請求項159記載の装置。
【請求項161】
約1~約60 mAの電流が、前記迷走神経刺激を生成する装置から発せられる、請求項154記載の装置。
【請求項162】
約5~約30 mAの前記電流が、前記迷走神経刺激を生成する前記装置から発せられる、請求項161記載の装置。
【請求項163】
前記感覚処理が約1秒未満で修正される、請求項162記載の装置。
【請求項164】
前記感覚処理が約10秒未満で修正される、請求項163記載の装置。
【請求項165】
前記感覚処理が約1分未満で修正される、請求項164記載の装置。
【請求項166】
前記修正された感覚処理が一過性である、請求項154記載の装置。
【請求項167】
前記迷走神経刺激が連続的である、請求項154記載の装置。
【請求項168】
前記迷走神経刺激が非連続的である、請求項154記載の装置。
【請求項169】
前記非連続的迷走神経刺激がデューティサイクルの形態であり、迷走神経刺激が適用されない前記デューティサイクルの部分の期間が約7~約10秒以下である、請求項168記載の装置。
【請求項170】
前記非連続的迷走神経刺激がデューティサイクルの形態であり、迷走神経刺激が適用されない前記デューティサイクルの部分の期間が約3~約7秒以下である、請求項168記載の装置。
【請求項171】
前記非連続的迷走神経刺激がデューティサイクルの形態であり、迷走神経刺激が適用されない前記デューティサイクルの部分の期間が約0.5~約3秒以下である、請求項168記載の装置。
【請求項172】
前記感覚処理の修正が、感覚鋭敏性を増強することを含む、請求項154記載の装置。
【請求項173】
前記感覚鋭敏性の増強が、感覚モダリティの鋭敏性を強化することを含む、請求項172記載の装置。
【請求項174】
前記感覚モダリティが、視覚刺激、聴覚刺激、嗅覚刺激、味覚刺激、および触覚刺激からなる群から選択される、請求項173記載の装置。
【請求項175】
前記感覚処理の修正が、誤認誘発エラーの発生を減少させることを含む、請求項154記載の装置。
【請求項176】
前記感覚処理の修正が、青斑核の選択的活性化を含む、請求項154記載の装置。
【請求項177】
前記感覚処理の修正が、刺激をコード化するために使用される神経活性の時間的構造を変更することを含む、請求項154記載の装置。
【請求項178】
前記感覚処理の修正が、ブレイン・マシン・インターフェースによる脳への情報の書き込みを促進する、請求項154記載の装置。
【請求項179】
前記感覚処理の修正が、神経可塑性変化から生じない、請求項154記載の装置。
【請求項180】
前記感覚処理の修正が、多感覚統合を実行する能力を改善する、請求項154記載の装置。
【請求項181】
前記感覚処理の修正が、t型カルシウムチャネル活性を低下させる神経調節によって生じる、請求項154記載の装置。
【請求項182】
前記感覚処理の修正が、不快なまたは気を散らす感覚知覚の発生を減らす、請求項154記載の装置。
【請求項183】
前記感覚処理の修正が、特定の感覚モダリティを選択的に助ける、請求項154記載の装置。
【請求項184】
前記感覚処理の修正が、脳の感覚経路部分におけるノルエピネフリン濃度を増加させる、請求項154記載の装置。
【請求項185】
対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の効率が、前記迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%上昇する、請求項176記載の装置。
【請求項186】
対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の速度が、前記迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%上昇する、請求項176記載の装置。
【請求項187】
元の刺激と再現された刺激との間の相関係数が、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約10%増加する、請求項172記載の装置。
【請求項188】
元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数が、平均で少なくとも約20%増加する、請求項187記載の装置。
【請求項189】
元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数が、平均で約25~60%増加する、請求項188記載の装置。
【請求項190】
前記迷走神経刺激が、感覚刺激と1回以上対にされない、請求項154記載の装置。
【請求項191】
前記迷走神経刺激が、前記対象の頸部領域に適用される、請求項154記載の装置。
【請求項192】
前記頸部領域が、前記対象の左頸部領域および右頸部領域を含む、請求項191記載の装置。
【請求項193】
前記迷走神経刺激が、前記対象の前記左頸部領域または前記右頸部領域に適用される、請求項192記載の装置。
【請求項194】
前記迷走神経刺激が、耳介経皮領域に適用される、請求項154記載の装置。
【請求項195】
前記耳介経皮領域が、前記対象の左耳介経皮領域および右耳介経皮領域を含む、請求項194記載の装置。
【請求項196】
前記迷走神経刺激が、前記対象の前記左耳介経皮領域または前記右耳介経皮領域に適用される、請求項195記載の装置。
【請求項197】
前記感覚処理の修正が、1つまたは複数の感覚障害を有する対象の感覚知覚を改善することを含む、請求項154記載の装置。
【請求項198】
前記1つまたは複数の感覚障害が、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害、および味覚障害からなる群から選択される、請求項197記載の装置。
【請求項199】
前記対象が、感覚修正を必要とする障害状態を有さない、請求項154記載の装置。
【請求項200】
前記障害状態が、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害、および味覚障害からなる群のうちの1つまたは複数から選択される、請求項199記載の装置。
【請求項201】
侵襲性、非侵襲性、または低侵襲性である、請求項154記載の装置。
【請求項202】
前記対象の身体部分に関連付けられるように適合された補綴装置をさらに含む、請求項154記載の装置。
【請求項203】
前記補綴装置が、前記迷走神経刺激を前記対象の頸部領域に向けるように適合されている、請求項202記載の装置。
【請求項204】
前記頸部領域が、前記対象の左頸部領域および右頸部領域を含む、請求項203記載の装置。
【請求項205】
前記補綴装置が、前記迷走神経刺激を前記対象の前記左頸部領域または前記右頸部領域に向けるように適合されている、請求項204記載の装置。
【請求項206】
前記補綴装置が、前記迷走神経刺激を前記対象の前記左頸部領域および前記右頸部領域に向けるように適合されている、請求項204記載の装置。
【請求項207】
前記補綴装置が、前記迷走神経刺激を前記対象の耳介経皮領域に向けるように適合されている、請求項204記載の装置。
【請求項208】
前記耳介経皮領域が、前記対象の左耳介経皮領域および右耳介経皮領域を含む、請求項207記載の装置。
【請求項209】
前記迷走神経刺激が、前記対象の前記左耳介経皮領域または前記右耳介経皮領域に適用される、請求項208記載の装置。
【請求項210】
前記補綴装置が、眼鏡、サングラス、補聴器、ネックカラー、頭蓋顔面補綴、音声補綴、圧迫刺激装置、感覚神経プロテーゼ、眼窩補綴、頸部カラー、ハローベスト、歯科インプラント、顔面インプラント、ヘルメット、車両または機械の操縦室、機械制御部、ヘッドアップディスプレイ、ヘッドセット、ネックレス、イヤリング、ゴーグル、ティアラ、スカーフ、宝石類、髪飾り、ヘッドスカーフ、帽子、ネクタイ、ボンネット、イヤーマフ、ヘッドホン、ヘッドセット、ショール、ラニヤード、ウィッグ、フード、ヘッドバンド、ヘアゴム、ベレー帽、ヘアクリップ、ネックピロー、シャツカラー、ライフルスコープ、双眼鏡、暗視装置、望遠鏡、仮想現実ヘッドセット、ビデオ・ゲーム・コントローラ、ビデオ・ゲーム・システム、衣類、粘着パッチ、血圧モニタ、心拍数モニタ、オキシメータ、時計、スマートウォッチ、電話、および3D眼鏡からなる群から選択される、請求項202記載の装置。
【請求項211】
連続的な持続性迷走神経刺激を少なくとも約5 Hzの周波数で対象に適用することを含む、対象の感覚処理を修正する方法。
【請求項212】
前記連続的な持続性迷走神経刺激の振幅が少なくとも約0.25 mAである、請求項211記載の方法。
【請求項213】
前記連続的な持続性迷走神経刺激の適用時間が少なくとも約30秒である、請求項211記載の方法。
【請求項214】
前記感覚処理が約1秒未満で修正される、請求項211記載の方法。
【請求項215】
前記修正された感覚処理が一過性である、請求項211記載の方法。
【請求項216】
対象の感覚処理を修正する方法であって、
前記対象に感覚刺激を受けさせる工程;
第1の時点から第2の時点までの瞳孔拡張における変化を測定する工程;
前記第1の時点から前記第2の時点までの前記瞳孔拡張について平均値を決定する工程;
前記瞳孔拡張を測定し、瞳孔拡張値を決定する工程;および
前記瞳孔拡張値が前記瞳孔拡張の平均値から少なくとも2標準偏差である場合に、持続性連続的迷走神経刺激を前記対象に適用する工程
を含む、方法。
【請求項217】
前記連続的な持続性迷走神経刺激の振幅が少なくとも約0.25 mAである、請求項216記載の方法。
【請求項218】
前記連続的な持続性迷走神経刺激の適用時間が少なくとも約30秒である、請求項216記載の方法。
【請求項219】
前記感覚処理が約1秒未満で修正される、請求項216記載の方法。
【請求項220】
前記修正された感覚処理が一過性である、請求項216記載の方法。
【請求項221】
対象の感覚処理を修正する方法であって、
前記対象の所定の感覚刺激の時期を検出する工程;
前記所定の感覚刺激が検出される場合に、持続性連続的迷走神経刺激を前記対象に適用する工程;および
前記所定の感覚刺激が検出されない場合、前記対象への連続的迷走神経刺激の適用を中止する工程
を含む、方法。
【請求項222】
前記連続的な持続性迷走神経刺激の振幅が少なくとも約0.25 mAである、請求項221記載の方法。
【請求項223】
前記連続的な持続性迷走神経刺激の適用時間が少なくとも約30秒である、請求項221記載の方法。
【請求項224】
前記感覚処理が約1秒未満で修正される、請求項221記載の方法。
【請求項225】
前記修正された感覚処理が一過性である、請求項221記載の方法。
【請求項226】
対象に迷走神経刺激を適用するための補綴装置であって、
迷走神経刺激を必要とする前記対象の身体部分に関連付けられるように適合された補綴装置と;
持続性連続的迷走神経刺激を前記対象に適用することができる迷走神経刺激装置と
を含む、補綴装置。
【請求項227】
前記連続的な持続性迷走神経刺激の振幅が約0.1~約3 mAである、請求項226記載の補綴装置。
【請求項228】
前記連続的な持続性迷走神経刺激の適用時間が少なくとも約30~約180秒である、請求項226記載の補綴装置。
【請求項229】
約1秒未満で感覚処理を修正する、請求項226記載の補綴装置。
【請求項230】
前記修正された感覚処理が一過性である、請求項229記載の補綴装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特許および特許出願を含むがこれらに限定されない、本明細書に引用されるすべての参考文献は、その全体が参照により組み入れられる。本出願は、2019年6月14日に出願された米国仮特許出願第62/861,715号の優先権および恩典を主張し、その全体は参照により本明細書に組み入れられる。本明細書に開示された特定のデータは、本出願の最先の優先日後に公開された。Rodenkirch et.al.,Rapid and transient enhancement of thalamic information transmission induced by vagus nerve stimulation、J.Neural Eng.17 026027(2020年4月8日)。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発に関する記載
本発明は、国立科学財団によって授与された1847315、および国立衛生研究所によって授与されたMH 112267の下、政府の支援によって行われた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
最近の研究では、前脳へのノルエピネフリン(NE)の唯一の供給源である青斑核(LC)が、体性感覚経路の初期段階において、行動状態に関連する神経コード化の調節を提供することが示されている1。具体的には、LC活性化が視床内回路動態のノルエピネフリン調節を介して視床特徴選択性を増強することが見出された。感覚処理の調節は多くのトランスレーショナルな用途を有するが、LCは、現在利用可能な技術による直接的な非侵襲的活性化を妨げる深脳幹核である2~4。しかしながら、末梢神経刺激技術は、最小限の侵襲性および少ない副作用で下流神経調節系を容易に活性化することができるので、治療への路を提供する5。以前の研究には、迷走神経刺激(VNS)がLCを活性化することが示されている6。さらに、VNSは、ヒトのてんかんおよび耳鳴りの治療への使用がFDA(米国食品医薬品局)によって承認されており、うつ病、自閉症、脳卒中による傷害、およびPTSD(心的外傷後ストレス障害)を含む多種多様な神経障害の治療として提案されている7~13。最近、非侵襲性経皮的VNSを可能にする技術が開発され、商業的に実施されている14~17。VNSは、青斑核-ノルエピネフリン(LC-NE)系を含む神経調節ネットワークを活性化することが示されている6、18
【0004】
以前の研究は、VNSを、おそらくは神経調節経路の活性化によって、脳回路の神経可塑性を促進するために使用することに焦点を当てていた19。これらのVNS誘導の神経可塑性に駆動される変化は、長い時間尺度にわたって持続することができる20
【0005】
青斑核(LC)活性化は、後内側腹側核(VPm)における特徴選択性を改善し、視床中継ニューロンによって皮質に伝達される感覚刺激関連情報を効果的に増加させ、感覚刺激の詳細な知覚を改善する1。迷走神経刺激(VNS)を使用して、LC活性を増加させることができる6。VNSは、てんかん、うつ病、脳卒中および耳鳴りを含む神経障害を治療するための治療法として研究されてきた。LC活性化は、瞳孔径と相関している21
【0006】
感覚情報が脳に入ると、それは神経信号としてコード化される。次いで、コード化された感覚情報は、知覚の前に複数の脳領域を通って処理される。感覚情報のこの処理は不完全であり、得られる知覚の精度を下げるノイズを導入する。したがって、知覚の鋭敏さは、感覚処理の質に依存する。
【0007】
触覚、聴覚、および視覚刺激における細部の正確な知覚は、正確かつ安全に仕事を行うために有用である。感覚情報が神経活動としてコード化されると、知覚が生じる前に、それは複数の脳領域(すなわち、視床、皮質)を通して処理される。したがって、知覚の鋭敏さは、脳による感覚刺激の忠実度の高い、正確な処理(すなわち、感覚処理)に依存する。知覚の精度は、職場での業務を完了する、スポーツで競争する、さらには趣味を楽しむ個人の能力に大きな影響を及ぼす。残念なことに、感覚喪失はありふれたことである。例えば、ある研究は、57歳を超える成人の94%が、少なくとも1つの感覚モダリティに欠陥を有することを発見した22。これは、米国において、おおよそ6400万人が何らかの形態の加齢による感覚喪失を抱えていることを示唆している。高齢者人口が増加するにつれて、加齢による感覚喪失を抱える人口が増加し、感覚障害を有する個人を収容するために適切に設計されていない現在の施設にストレスを与えるであろう23。しかしながら、感覚喪失のリスクがあるのは、高齢者だけではない。加齢に加えて、外傷性脳損傷(TBI)および様々な神経障害もまた、感覚の鋭敏性を低下させ得る24~26。最後に、通常は正確な知覚を有する個人であっても、時として、感覚障害を患う可能性はある。これは、通常は健康な感覚を有する個人の感覚鋭敏性を低下させ得る、疲労および不注意などの複数の一般的に発生する要因があるからである27、28
【0008】
私たちは感覚に依存しているため、感覚喪失は、生活の質に対して非常に破壊的な影響を与える。感覚喪失は、孤立させることがよく知られており、精神的健康に荒廃的影響を及ぼし得る29。高齢者の感覚障害は、独立して生活する能力を妨げる可能性があるため、特に有害である。例えば、触覚の減弱によって、多くの場合、シャツのボタン掛け30、または個人衛生的作業を完了するために必要な物の把握が困難になる。視覚および聴覚の低下は、コミュニケーションの断絶につながり23、重要な支援関係にストレスを与える1。感覚喪失の複合的な影響は、多くの場合、うつ病、不安、および社会的状況からの離脱につながる。最終的に、感覚喪失は、転落など、生命を脅かす結果をもたらし得る事故のリスク増加に関連する31。疲労または不注意によって起こり得る、他の点では健康な個人における一時的な感覚障害であっても27、28、重大な悪影響をもたらし得る。例えば、感覚の鋭敏さの低下から生じる感覚誤認は、兵役隊員または重機を操作する労働者にとって犠牲の大きいヒューマンエラーをもたらし得る。さらに、最高のパフォーマンスが重要であるスポーツまたはeスポーツで競技する個人の場合、不正確な知覚は、誤った判断および失敗を引き起こし得る。
【0009】
利用できる感覚処理の改善方法は現在不足しており、存在するものは多くの欠点を有する。刺激薬は感覚処理を改善するが、心臓障害32、不眠症、不安、および嗜癖を引き起こす33、34。様々な向知性薬の種類は、しばしば、それらのサプリメントが脳機能を改善するという未検証の主張をしている。しかしながら、向知性薬は、ほとんど効果がなく、適切な試験を欠いているので時には危険である35。例えば、ある研究グループは、ある化合物が認知機能を改善する可能性があることを示唆する最小限の前臨床研究を彼らが発表した後、向知性薬会社が、長期毒性の試験をせずにその化合物の販売を開始したことを発見した36。臨床試験をしていない、研究段階の化合物を消費することによって、消費者が進んで健康を危険にさらし得るということは、感覚能力を改善できる技術に対する需要が満たされていないことを強調している。最後に、刺激薬および向知性薬の両方が経口的に摂取されるので、それらの効果は開始が遅く(摂取から30~60分)、必要に応じて遮断することができない。まとめると、これらの所見によって、嗜癖、心臓障害、または不眠症のリスクなしにオンデマンドで感覚処理を改善することができる生体電子工学技術に対する、満たされていない臨床的需要があることが明らかである。
【0010】
必要とされているのは、感覚情報の知覚を改善する、例えば、感覚知覚を強化し、神経障害の感覚構成要素を治療するための方法および装置である。
【発明の概要】
【0011】
本明細書に記載の局面は、対象に持続性(tonic)迷走神経刺激を適用することによって対象の感覚処理を修正する方法を提供し、ここで対象の感覚処理は修正される。VNSの急速かつ一過性の効果は、短い時間尺度で視床内の感覚処理に実質的に影響を与えることができる。VNSのこの新しい用途は、神経可塑性によって誘発される長期的変化に依存するのではなく、むしろ視床における感覚処理を短期的で迅速に改善するためにVNSを利用する(例えば、効果はVNSの停止の1分以内に消失する)。
【0012】
別の局面では、持続性VNS(例えば、延長持続性VNS)は、感覚ニューロンの特徴選択性ならびに情報伝達効率および速度を増加させることによって、視床感覚処理を改善することができる。本明細書に記載されるように、従来のデューティサイクルVNSは、感覚処理に対するVNSの効果の急速で一過性の性質に起因して、変動するバイアスを感覚誘発応答に生じさせるので、感覚の増強には最適ではない。本明細書に記載の方法および装置は、VNSを使用して知覚作業における行動の機能を改善する。
【0013】
さらなる局面は、第1の時点から第2の時点までの瞳孔径の平均値および分散値を決定すること;瞳孔径を測定し、瞳孔径値を決定すること;ならびに瞳孔径値が瞳孔径の分散値から少なくとも約1~3標準偏差である場合に、持続性迷走神経刺激を対象に適用することによって、対象における感覚処理を修正する方法を提供する。一部の場合では、対象は感覚刺激を受ける。
【0014】
さらに別の局面では、対象に感覚刺激を受けさせること;第1の時点から第2の時点までの瞳孔径における変化を測定すること(例えば、第1の時点から第2の時点までの時間範囲にわたる測定値のサンプリング);第1の時点から第2の時点までの瞳孔径について平均値および分散値を決定すること;瞳孔径を測定し、瞳孔径値を決定すること;ならびに瞳孔径値が瞳孔径の分散値から少なくとも約1~3標準偏差である場合に、持続性連続的迷走神経刺激を対象に適用することによって、対象における感覚処理を修正する方法を提供する。
【0015】
本明細書に記載の局面は、対象が感覚処理の修正を必要とする時期を検出すること;対象に持続性迷走神経刺激を適用して感覚処理の修正を提供すること;および対象がもはや感覚処理の修正を必要としない場合に、感覚処理の修正の適用を中止することによって、対象の感覚処理を修正する方法を提供する。
【0016】
さらなる局面は、生体電子信号(例えば、EEG(同調、相対電力帯域の強度、空間パターン分析))、EKG(心拍数、心拍変動)、血圧の変化、ECOG(同調、相対電力帯域の強度、空間パターン分析)、呼吸数、発汗(例えば、皮膚表面の導電率によって測定される)、または侵襲性もしくは非侵襲性ブレイン・マシン・インターフェースから記録される信号)における第1の時間から第2の時間までの変化を測定すること(例えば、第1の時点から第2の時点までの時間範囲にわたる測定値をサンプリングすること);第1の時間から前記第2の時間までの信号について平均値および分散値を決定すること;生体電子信号を測定して、生体電子信号について測定値を決定すること;ならびに測定値が分散値から少なくとも約1~3標準偏差である場合に、対象に持続性迷走神経刺激を適用することによって、対象の感覚処理を修正する方法を提供する。
【0017】
さらなる局面は、対象に持続性迷走神経刺激を適用するように適合された迷走神経刺激装置を提供して、対象の感覚処理を修正し、ここで持続性迷走神経刺激の適用時間は、少なくとも約3秒間、少なくとも約30秒間、または少なくとも約4分間である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1-1】図1Aは、実験装置の例示的な図およびVNS電極カフ移植を示す。図1Bは、点状刺激に対する動物の本質的な(principle)ヒゲの例示的なVPmニューロン応答を示す。
図1-2】図1Cは、例示的なヒゲおよびVNSのパターンを示す。図1Dは、休止期間の末期と比較した対照期間中の特徴変調係数の例示的な概要を示す。図1Eは、休止期間の末期と比較した対照期間中のバースト中のスパイクの割合の例示的な概要を示す。図1Fは、休止期間の末期と比較した対照期間中の情報伝達効率の改善の例示的な概要を示す。
図2-1】図2Aは、上で言及した同じ白色ガウス雑音(WGN)ヒゲ刺激の反復提供に対する、VNSを用いた場合および用いない場合の例示的なVPm応答の例示的なスパイクのラスタープロットを示す。図2Bは、上記で言及された同じWGNヒゲ刺激に対する、VNSを用いた場合および用いない場合のVPmニューロンの例示的な発火率を示す。図2Cは、白色雑音逆相関分析に使用される例示的な線形-非線形ポアソンモデルを示す。
図2-2】図2Dは、VNSを用いて、および用いずに回復された例示的なVPmニューロンによってコード化された例示的な動態学的特徴および対応する非線形チューニング関数(挿入図)を示す。図2Eは、VNSを用いた場合および用いない場合の特徴変調係数の例示的な概要を示す。図2Fは、VNSによる情報伝達効率の改善の例示的な概要を示す。図2Gは、持続性スパイク、バーストスパイク、およびバースト事象によって伝達される情報の例示的な概要プロットを示す。
図2-3】図2Hは、VNSを用いた場合および用いない場合の、バーストにおける視床スパイクの割合の例示的な概要を示す。図2Iは、標準デューティサイクルVNSを用いた情報伝達効率(ビット/スパイク)の例示的な概要を示す。図2Jは、標準デューティサイクルVNSを用いた情報伝達効速度(ビット/秒)の例示的な概要を示す。
図3図3Aは、標準デューティサイクルVNSの様々な期間中に回復された例示的なVPmニューロンの例示的な特徴選択性を示す(挿入図は、対応する非線形チューニング関数を示す)。図3Bは、標準デューティサイクルVNSの様々な期間中の特徴変調係数の例示的な概要を示す。図3Cは、標準デューティサイクルVNSの様々な期間中のスパイクの割合の例示的な概要を示す。図3Dは、標準デューティサイクルVNSの様々な期間中の情報伝達の改善の例示的な概要を示す。
図4-1】図4Aは、様々なパターン中の上記で言及した同じヒゲ刺激に応答したVPm発火率の例示的な概要を示す。図4Bは、様々なVNSパターン中の特徴変調係数の例示的な概要を示す。図4Cは、様々なVNSパターン中の情報伝達効率(ビット/スパイク)の改善の例示的な概要を示す。図4Dは、様々なVNSパターン中のバーストにおけるスパイクの割合の例示的な概要を示す。
図4-2】図4Eは、様々なVNSパターンを用いた情報伝達効率(ビット/スパイク)の例示的な概要を示す。図4Fは、急速デューティサイクルVNSの様々な期間中の発火率の例示的な概要を示す。図4Gは、急速デューティサイクルVNSの様々な期間中のスパイク係数の割合の例示的な概要を示す。図4Hは、急速デューティサイクルVNSの様々な期間中の特徴変調の例示的な概要を示す。
図4-3】図4Iは、急速デューティサイクルVNSの様々な期間中の情報伝達効率の改善の例示的な概要を示す。
図5-1】図5Aは、急速デューティサイクルVNSの様々な振幅中のVPm発火率の例示的な概要を示す。図5Bは、急速デューティサイクルVNSの様々な振幅中に回復された例示的なVPmニューロンの例示的な特徴選択性を示す。図5Cは、急速デューティサイクルVNSの様々な振幅中の特徴変調係数の例示的な概要を示す。図5Dは、急速デューティサイクルVNSの様々な振幅中の情報伝達の改善の例示的な概要を示す。
図5-2】図5Eは、急速デューティサイクルVNSの様々な振幅中のバーストにおけるスパイクの割合の例示的な概要を示す。図5Fは、持続性VNSの様々な振幅中のVPm発火率の例示的な概要を示す。図5Gは、持続性VNSの様々な振幅中に回復された例示的なVPmニューロンの例示的な特徴選択性を示す(挿入図は、対応する非線形チューニング関数を示す)。図5Hは、持続性VNSの様々な振幅中の特徴変調係数の例示的な概要を示す。
図5-3】図5Iは、持続性VNSの様々な振幅中の情報伝達効率の改善の例示的な概要を示す。図5Jは、持続性VNSの様々な振幅中のバーストにおけるスパイクの割合の例示的な概要を示す。
図6-1】図6Aは、持続性VNSの様々な周波数でのVPm発火率の例示的な概要を示す。図6Bは、持続性VNSの様々な周波数でのバーストにおけるスパイクの割合の例示的な概要を示す。図6Cは、持続性VNSの様々な周波数中に回復された例示的なVPmニューロンの特徴選択性の例示的な概要を示す(挿入図は、対応する非線形チューニング関数を示す)。図6Dは、持続性VNSの様々な周波数での特徴変調係数の例示的な概要を示す。
図6-2】図6Eは、持続性VNSの様々な周波数での情報伝達効率の改善の例示的な概要を示す。
図7A】同じ固定WGN刺激の複数の提供に対する同じニューロンの事象前後のスパイクラスターの例示的な要約を示し、対照条件中の応答(青色ドット)の上に重ねた5 Hz LC活性化中の応答(黄色ドット)(上)、および対照および5 Hz LC活性化の両方の上記応答の対応するSDFを含み、点線は事象閾値を示す。
図7B】対照条件(2.6±0.2 Hz)中に除去された事象として分類される平均事象/秒(左)、および5 Hz LC活性化(1.9±0.2 Hz)中の出現事象として分類される平均事象/秒(右)の例示的な要約を示す。
図7C】5 Hz LC活性化(50±4%)中に除去されたすべての対照事象のパーセント(左)、および5 Hz LC活性化(40±3%)中の出現事象として分類されたすべての事象のパーセント(右)の例示的な要約を示す。
図8-1】図8Aは、様々な事象タイプにおいて低下するVPmスパイクについて回復された特徴選択性の例を示す。図8Bは、図8Aの特徴選択性に対応する例示的な非線形チューニング関数を示す。図8Cは、除去された事象内に入るスパイクと出現事象内に入るスパイクとを比較した、特徴変調係数の例示的な集団平均を示す。図8Dは、除去された事象内に入るスパイクと出現事象内に入るスパイクとを比較した、情報伝達効率の例示的な集団平均を示す。
図8-2】図8Eは、LC刺激無しで保存された事象内に入るスパイクと5 Hz LC刺激有りで保存された事象内に入るスパイクとを比較した、特徴変調係数の例示的な集団平均を示す。図8Fは、LC刺激無しで保存された事象内に入るスパイクと5 Hz LC刺激有りで保存された事象内に入るスパイクとを比較した、情報伝達効率の例示的な集団平均を示す。図8Gは、除去された事象内に入るスパイクと出現事象内に入るスパイクとを比較した、情報伝達効率の例示的な集団平均を示す。図8Hは、LC刺激無しで保存された事象内に入るスパイクと5 Hz LC刺激有りで保存された事象内に入るスパイクとを比較した、情報伝達効率の例示的な集団平均を示す。
図8-3】図8Iは、除去された事象内に入るスパイクと出現事象内に入るスパイクとを比較した、情報伝達効率の例示的な集団平均を示す。図8Jは、LC刺激無しで保存された事象内に入るスパイクと5 Hz LC刺激有りで保存された事象内に入るスパイクとを比較した、情報伝達効率の例示的な集団平均を示す。
図9A】特定のニューロンについての経時的な特徴係数値および方向的特徴選択性(左上)(赤い星印は、最大の正の値を有するピークを示す)、およびヒゲ刺激に対する同じニューロンの実際の応答のSDF(左下)(青い星印は、観察された事象を示す)、およびパネルに対応する方向的選択性特徴(右)の例を示す。
図9B】特定のニューロンについての経時的な特徴係数値および非方向的特徴選択性(左上)(赤い星印は、最大の絶対値を有するピークを示す)、およびヒゲ刺激に対する同じニューロンの実際の応答のSDF(左下)(青い星印)、およびパネルに対応する非方向的選択性特徴(右)の例を示す。
図9C】5 HzのLC刺激有り、および無しでの「理想的な」時点で起こる事象の例示的な割合を示す。
図9D】有意な特徴選択性に対応する非線形チューニング関数の方向性の、5 Hz LC刺激有り、および無しでの例示的な集団平均を示す図である。
図10A】元のヒゲ偏向刺激に対する、LC刺激有り、および無しでの再構成の例を示す。
図10B】再構成に使用される特徴の数に対する元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数の、LC刺激有り、およびLC刺激無しの場合の例を示す。
図10C】再構成に使用される特徴の数に対する元の刺激と再構成された刺激との間のRMSE(平均二乗偏差)の例を示す。
図11図11Aは、LC刺激の有無にかかわらず、有意な特徴選択性を有するTRNニューロンの例を示す。図11Bは、図11Aの特徴選択性に対応する例示的な非線形チューニング関数を示す。図11Cは、LC刺激無しでは有意な特徴選択性を欠く、LC刺激中に有意な特徴選択性を有するTRNニューロンの例を示す。図11Dは、図11Cの特徴選択性に対応する例示的な非線形チューニング関数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本明細書に記載の局面は、覚醒に連結する感覚処理の神経調節に基づいた、知覚鋭敏性を改善するための生体電子工学的な方法および装置を提供する。迷走神経の末梢刺激を使用して、感覚処理の最適化によって感覚鋭敏性を高める神経調節を誘導する方法が提供される。本明細書に記載の装置は、外部装着型の経皮的迷走神経刺激装置(nVNS)であり得る。
【0020】
いくつかの局面では、装置は、容易に着脱できる軽量非侵襲性神経インターフェースであり、重要な時点でユーザが装置に関与することができる。例えば、nVNSは、明確にコミュニケートする能力が重要となる社会的状況の間、または潜在的に危険な状況で、もしくは潜在的に危険な機器を用いて作業する場合に使用することができる。いくつかの例では、装置は非侵襲性であり、例えば、頸部を通る迷走神経の上部に置かれる外部接着平坦電極パッチによって、皮膚を通して電流が迷走神経に送達される。
【0021】
本明細書に記載の方法および装置は、刺激薬および向知性薬を含む現在の感覚処理修正の方法を改善する。nVNSは、心臓障害および不眠症を引き起こす嗜癖性刺激薬ならびに長期安全性試験を欠く向知性薬とは異なり、神経調節を誘導する安全かつ効果的な方法であることが周知である。いくつかの例では、本明細書に記載の方法および装置の基礎となる作用機構は、活性化の数秒後に効果の全強度を提供することができ、効果は非活性化まで一定のままである。本明細書に記載の方法および装置は、効果を迅速にオンおよびオフに切り替えることができない経口投与される刺激薬とは異なり、オンデマンドでタスク依存的に使用することができる。
【0022】
本明細書に記載の局面は、対象に持続性迷走神経刺激を適用することによって対象の感覚処理を修正する方法を提供し、ここで対象の感覚処理は修正される。「持続性」という用語は、継続的もしくは段階的な刺激または十分に迅速なデューティサイクル刺激を指す。一部の場合では、持続性迷走神経刺激は、約10秒を超える休止期間を含まない。
【0023】
以前の移植VNS装置は、12秒の休止期間(すなわち、オフサイクル)を有する最大速度デューティサイクルを有する。いくつかの例では、本明細書に記載の局面は、約10または11秒以下の休止期間を有する。理論に束縛されるものではないが、感覚処理への効果は、長期間の休止後に弱まると考えられ、これにより、感覚処理に、変動するバイアスが生じる。例えば、本明細書の段落[0215]~[0217]、[0223]~[0226]、[0230]~[0233]を参照されたい。
【0024】
以前のgammacore経皮的VNS装置は、連続パターンを使用して群発性頭痛および片頭痛を治療する。しかしながら、このVNSは休止期間なしで送達されるので、VNSは最大3分間だけ送達され、その後損傷を防ぐために停止する。これらの以前の装置は、時間間隔を空けた時間に3分間の刺激を送達するように設計されている。対照的に、本明細書に記載の局面は、3分を超えてもよい連続的な刺激タスクを送達するので、以前の装置はこれらの局面には適していない。さらなる局面は、電荷蓄積を防止するためにVNS刺激の休止期間を含む。したがって、別の局面では、急速デューティサイクルVNSを使用して、感覚鋭敏性を強化することができる。
【0025】
「感覚処理の修正」という用語は、対象の感覚処理(例えば、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚など)を変更することを指す。一局面では、修正は、改善された方法で(例えば、より速く、より正確に、より安全に、またはより長期間)対象が作業を実行するように、感覚処理を改善することである。
【0026】
一局面では、迷走神経刺激の周波数は、少なくとも約0.3 Hz、約0.5~80 Hz、または約30~60 Hzである。例えば、本明細書の段落[0242]~[0246]を参照されたい。いくつかの例では、迷走神経刺激パルス構造は、単一二相性方形パルス、非対称二相性パルス、三角二相性パルス、ガウス二相性パルス、相間ギャップ二相性パルス、疑単相性パルス、正弦波パルスの1つまたは複数のサイクルからなる群から選択される。
【0027】
いくつかの例では、少なくとも約0.2 mA、約0.5~約3 mA、または約1.5~約2.5 mAの迷走神経刺激電流が迷走神経に到達する。例えば、本明細書の段落[0234]~[0240]を参照されたい。
【0028】
いくつかの例では、持続性迷走神経刺激を適用する時間は、少なくとも約3秒、少なくとも約30秒、または少なくとも約4分である。
【0029】
感覚処理は、本明細書に記載の方法によって約1秒未満、約10秒未満、または約1分未満で修正される。修正された感覚処理は、一過性であり得る。「一過性」という用語は、永久ではない期間を指す。いくつかの例では、期間は短時間または短くてもよい(例えば、約5秒、30秒、または1分以内に消散する)。例えば、本明細書の段落[0215]~[0217]を参照されたい。
【0030】
迷走神経刺激は、連続的または非連続的であり得る。「連続的」という用語は中断を含まないことを指し、「非連続的」という用語は中断を含むことを指す。
【0031】
非連続的な迷走神経刺激は、デューティサイクルの形態であり得る。「デューティサイクル」という用語は、信号がオン-オフサイクルを完了する期間を指す。いくつかの例では、迷走神経刺激が適用されないデューティサイクルの部分は、約7~約10秒以下である。一局面では、迷走神経刺激が適用されないデューティサイクルの部分は、約3~7秒以下である。別の局面では、迷走神経刺激が適用されないデューティサイクルの部分は、約0.5~3秒以下である。例えば、本明細書の段落[0215]~[0217]、[0223]~[0226]、[0230]~[0233]を参照されたい。
【0032】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、感覚鋭敏性または知覚感度を増加させる。「感覚鋭敏性」という用語は、1つまたは複数の感覚の、信号を正確に解釈する能力を指す。いくつかの例では、感覚鋭敏性の増加は、感覚モダリティ(例えば、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、および触覚の刺激)の鋭敏性を強化することを含む。
【0033】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、誤認誘発エラーを減らすことを含む。例えば、Rodenkirch et al.,Locus coeruleus activation enhances thalamic feature selectivity via norepinephrine regulation of intrathalamic circuit dynamics,Nature Neuroscience,vol.22(2019年1月)、図8、130頁、および付随する文章を参照されたい。別の局面では、感覚処理の修正は、青斑核の選択的活性化を含む。
【0034】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、刺激をコード化するために使用される神経活性の時間的構造を変更することを含む。例えば、本明細書の段落[0251]~[0255]、[0256]~[0265]、[0266]~[0275]を参照されたい。
【0035】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、ブレイン・マシン・インターフェースによる脳への情報の書き込みを促進する(例えば、感覚神経補綴で使用されるパターン化微小刺激、感覚経路に直接適用される拡張/仮想現実)。
【0036】
一局面では、感覚処理の修正は、持続する神経可塑性変化から生じない。例えば、本明細書の段落[0215]~[0217]を参照されたい。
【0037】
別の局面では、感覚処理の修正は、多感覚統合(例えば、2つ以上の感覚を組み合わせて使用すること、視覚と触覚の両方のフィードバックを使用してボールを捕らえるなど)を実行する能力を改善する。多感覚統合を実行する能力の改善は、例えば、2つ以上の感覚の同時使用を必要とし得る作業に対する知覚感度の増加によって定量化することができる、2つ以上の感覚の感覚鋭敏性の向上によって評価することができる。
【0038】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、t型カルシウムチャネル活性を低下させる神経調節によって生じる。t型カルシウムチャネルは、バーストスパイキング活性の要因である。t型カルシウムチャネルの影響、および結果として生じるt型カルシウムチャネル誘導バーストスパイキング活性は、視床皮質感覚ニューロンによる情報伝達の効率および速度を低下させることが分かった。LC刺激およびVNSは、バースト活性を低下させる。LC刺激によりバースト率が約60%低下し、t型カルシウムチャネル電流の視床スパイキングへの寄与は、LC刺激で約25%減少すると推定される。例えば、Rodenkirch et al.,Locus coeruleus activation enhances thalamic feature selectivity via norepinephrine regulation of intrathalamic circuit dynamics,Nature Neuroscience,vol.22(2019年1月)、(図5図6図7)、および付随する文章を参照されたい。VNSは、バースト中のスパイクの確率を約10~25%低下させる。例えば、Rodenkirch et.al.,Rapid and transient enhancement of thalamic information transmission induced by vagus nerve stimulation、J.Neural Eng.17 026027(図2h図7e図jおよび図8e)および付随する文章を参照されたい。
【0039】
さらなる局面では、感覚処理の修正は、不快なまたは気を散らす感覚知覚の発生を減らす(例えば、特定の聴覚、視覚、味覚、嗅覚、または触覚の刺激が不快、痛み、圧倒するもの、または気を散らすものになり得る感覚処理障害を有する個人において)。
【0040】
例えば、感覚処理の修正は、特定の感覚モダリティを選択的に助ける(例えば、修正は、ある感覚に対して別の感覚よりも強い、つまり聴覚よりも触覚に対して強い)。
【0041】
さらなる局面では、感覚処理の修正は、脳の感覚経路部分(例えば、視床、皮質)におけるノルエピネフリン濃度を増加させることを含む。例えば、Rodenkirch et.al.,Locus coeruleus activation enhances thalamic feature selectivity via norepinephrine regulation of intrathalamic circuit dynamics,Nature Neuroscience,vol.22(2019年1月)、(図4)および付随する文章を参照されたい。
【0042】
別の局面では、対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の効率は、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%向上する。例えば、本明細書の段落[0218]~[0222]、[0227]~[0228]、[0234]~[0241]、[0242]~[0246]を参照されたい。「情報伝達効率の向上」という用語は、ニューロンのスパイキング応答の各スパイクが類似の刺激における特徴(すなわち、刺激とスパイク列との間の相互情報)の有無についてコード化する情報(すなわち、ビット)に関する、感覚ニューロンによる情報の伝達の効率を指す。
【0043】
さらに別の局面では、対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の速度は、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%増加する。例えば、本明細書の段落[0218]~[0222]、[0227]~[0228]、[0234]~[0241]、[0242]~[0246]を参照されたい。
【0044】
さらなる局面では、元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数は、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約10%、または少なくとも約20%、または約25%~60%増加する。例えば、本明細書の段落[0277]~[0287]を参照されたい。
【0045】
いくつかの例では、迷走神経刺激は、感覚刺激と1回以上対にされない。VNSのバーストは、以前はVNSを別の刺激(すなわち、触覚刺激(指腹で軽くたたく)または聴覚刺激(周波数トーン))と対にすることによって、長期間にわたって適用されてきた20,37-46。この方法は、一定期間後の特定の対となる刺激の検出を改善することができ、神経可塑性に基づいている。以前の方法は、全般的な感覚鋭敏性、または対となる刺激以外の刺激に対する感覚鋭敏性を改善しない。
【0046】
本明細書に記載の局面によれば、感覚処理を修正するために、VNSを任意の適切な位置に適用することができる。いくつかの例では、迷走神経刺激は、対象の頸部領域(例えば、対象の左頸部領域、右頸部領域、またはその両方)に適用される。いくつかの例では、迷走神経刺激は、耳介経皮領域(対象の左耳介経皮領域、右耳介経皮領域、またはその両方)に適用される。
【0047】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、1つまたは複数の感覚障害(例えば、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害および味覚障害)を有する対象の感覚知覚を改善することを含む。
【0048】
いくつかの局面では、対象は、感覚の修正を必要とする障害状態(例えば、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害および味覚障害)を有しない。例えば、そのような対象は、一般に健康であると考えられ得る。
【0049】
さらなる局面は、第1の時点から第2の時点までの瞳孔径の平均値および分散値を決定すること;瞳孔径を測定し、瞳孔径値を決定すること;ならびに瞳孔径値が瞳孔径の平均値から少なくとも約1~3標準偏差である場合に、持続性迷走神経刺激を対象に適用することによって、対象における感覚処理を修正する方法を提供する。場合によっては、対象は感覚刺激を受ける。
【0050】
この局面では、瞳孔径は、改変されたアイウェアまたはカメラ(例えば、ウェブカメラ、コンタクトレンズ、および眼インプラント)を用いて測定することができる。例えば、対象(例えば、航空交通管制官)は、一連の作業中に瞳孔径を監視する、改良された眼鏡(例えば、グーグルグラスまたは類似の装置)を装着することができる。瞳孔径は、第1の時点から第2の時点までの瞳孔径の平均値および分散値を計算することによって較正することができる。一連の作業中に、周期的な測定を実施することができる。瞳孔径が平均値から少なくとも約1~3標準偏差である場合、迷走神経刺激を、所望の期間(例えば、1、4、5、10、15、30、45、60、90秒など)、または所与の作業(例えば、航空機の着陸の誘導)中に連続的に、本明細書に記載のように適用することができる。
【0051】
別の局面では、瞳孔径、または低下した感覚処理を代理する別のものをアルゴリズムまたは機械学習方法によって測定して、VNS刺激が必要とされる時期およびVNS治療の時間の長さを決定することができる。あるいは、時間の長さは、所与の作業に対して予め決定することができる。
【0052】
一局面では、迷走神経刺激の周波数は、少なくとも約0.3 Hz、約0.5~80 Hz、または約30~60 Hzである。例えば、本明細書の段落[0242]~[0246]を参照されたい。
【0053】
いくつかの例では、少なくとも約0.2 mA、約0.5~約3 mA、または約1.5~約2.5 mAの迷走神経刺激電流が迷走神経に到達する。例えば、本明細書の段落[0234]~[0241]を参照されたい。別の局面では、約1~約60 mAまたは5~約30 mAの電流が、迷走神経刺激を生成する装置から発せられる。
【0054】
いくつかの例では、持続性迷走神経刺激を適用する時間は、少なくとも約3秒、少なくとも約30秒、または少なくとも約4分である。
【0055】
感覚処理は、本明細書に記載の方法によって約1秒未満、約10秒未満、または約1分未満で修正される。修正された感覚処理は、一過性であり得る。「一過性」という用語は、永久ではない期間を指す。いくつかの例では、期間は短時間または短くてもよい(例えば、約5秒、30秒、または1分以内に消散する)。例えば、本明細書の段落[0215]~[0217]を参照されたい。
【0056】
迷走神経刺激は、連続的または非連続的であり得る。「連続的」という用語は中断を含まないことを指し、「非連続的」という用語は中断を含むことを指す。
【0057】
非連続的な迷走神経刺激は、デューティサイクルの形態であり得る。「デューティサイクル」という用語は、信号がオン-オフサイクルを完了する期間を指す。いくつかの例では、迷走神経刺激が適用されないデューティサイクルの部分は、約7~約10秒以下である。一局面では、迷走神経刺激が適用されないデューティサイクルの部分は、約3~7秒以下である。別の局面では、迷走神経刺激が適用されないデューティサイクルの部分は、約0.5~3秒以下である。例えば、本明細書の段落[0215]~[0217]、[0223]~[0226]、[0230]~[0233]を参照されたい。
【0058】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、感覚鋭敏性を増加させる。「感覚鋭敏性」という用語は、1つまたは複数の感覚の、信号を正確に解釈する能力を指す。いくつかの例では、感覚鋭敏性の増加は、感覚モダリティ(例えば、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、および触覚の刺激)の鋭敏性を強化することを含む。知覚感度の増加は、広く受け入れられている感覚鋭敏性の増加の尺度である。
【0059】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、誤認誘発エラーを減らすことを含む。例えば、Rodenkirch et al.,Locus coeruleus activation enhances thalamic feature selectivity via norepinephrine regulation of intrathalamic circuit dynamics,Nature Neuroscience,vol.22(2019年1月)、図8、130頁、および付随する文章を参照されたい。別の局面では、感覚処理の修正は、青斑核の選択的活性化を含む。
【0060】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、刺激をコード化するために使用される神経活性の時間的構造を変更することを含む。例えば、本明細書の段落[0251]~[0255]、[0256]~[0265]、[0266]~[0276]を参照されたい。
【0061】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、ブレイン・マシン・インターフェースによる脳への情報の書き込みを促進する(例えば、感覚神経補綴で使用されるパターン化微小刺激、感覚経路に直接適用される拡張/仮想現実)。
【0062】
一局面では、感覚処理の修正は、神経可塑性変化から生じない。例えば、本明細書の段落[0215]~[0217]を参照されたい。
【0063】
別の局面では、感覚処理の修正は、多感覚統合(例えば、2つ以上の感覚を組み合わせて使用すること、視覚と触覚の両方のフィードバックを使用してボールを捕らえるなど)を実行する能力を改善する。多感覚統合を実行する能力の改善は、例えば、2つ以上の感覚の同時使用を必要とする作業に対する知覚感度の増加によって定量化することができる、2つ以上の感覚の感覚鋭敏性の向上によって評価することができる。
【0064】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、t型カルシウムチャネル活性を低下させる神経調節によって生じる。t型カルシウムチャネルは、バーストスパイキング活性の要因である。t型カルシウムチャネルの影響、および結果として生じるt型カルシウムチャネル誘導バーストスパイキング活性は、視床皮質感覚ニューロンによる情報伝達の効率および速度を低下させることが分かった。LC刺激およびVNSは、バースト活性を低下させる。LC刺激によりバースト率が約60%低下し、t型カルシウムチャネル電流の視床スパイキングへの寄与は、LC刺激で約25%減少すると推定される。例えば、Rodenkirch et al.,Locus coeruleus activation enhances thalamic feature selectivity via norepinephrine regulation of intrathalamic circuit dynamics,Nature Neuroscience,vol.22(2019年1月)、(図5図6図7)、および付随する文章を参照されたい。VNSは、バースト中のスパイクの確率を約10~25%低下させる。例えば、Rodenkirch et.al.,Rapid and transient enhancement of thalamic information transmission induced by vagus nerve stimulation、J.Neural Eng.17 026027(図2h図7e図jおよび図8e)および付随する文章を参照されたい。
【0065】
さらなる局面では、感覚処理の修正は、不快なまたは気を散らす感覚知覚の発生を減らす(例えば、特定の聴覚、視覚、味覚、嗅覚、または触覚の刺激が不快、痛み、圧倒するもの、または気を散らすものになり得る感覚処理障害を有する個人において)。
【0066】
例えば、感覚処理の修正は、特定の感覚モダリティを選択的に助ける(例えば、修正は、ある感覚に対して別の感覚よりも強い――聴覚よりも触覚に対して強い)。
【0067】
さらなる局面では、感覚処理の修正は、脳の感覚経路部分(例えば、視床、皮質)におけるノルエピネフリン濃度を増加させることを含む。例えば、Rodenkirch et al.,Locus coeruleus activation enhances thalamic feature selectivity via norepinephrine regulation of intrathalamic circuit dynamics,Nature Neuroscience,vol.22(2019年1月)、(図4)および付随する文章を参照されたい。
【0068】
別の局面では、対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の効率は、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%向上する。例えば、本明細書の段落[0218]~[0222]、[0227]~[0228]、[0234]~[0241]、[0242]~[0246]を参照されたい。「情報伝達効率の向上」という用語は、ニューロンのスパイキング応答の各スパイクが類似の刺激における特徴(すなわち、刺激とスパイク列との間の相互情報)の有無についてコード化する情報(すなわち、ビット)に関する、感覚ニューロンによる情報の伝達の効率を指す。
【0069】
さらに別の局面では、対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の速度は、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%増加する。例えば、本明細書の段落[0218]~[0222]、[0227]~[0228]、[0234]~[0241]、[0242]~[0246]を参照されたい。
【0070】
さらなる局面では、元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数は、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約10%、または少なくとも約20%、または約25%~60%増加する。例えば、本明細書の段落[0277]~[0287]を参照されたい。
【0071】
いくつかの例では、迷走神経刺激は、感覚刺激と1回以上対にされない。
【0072】
本明細書に記載の局面によれば、感覚処理を修正するために、VNSを任意の適切な位置に適用することができる。いくつかの例では、迷走神経刺激は、対象の頸部領域(例えば、対象の左頸部領域、右頸部領域、またはその両方)に適用される。いくつかの例では、迷走神経刺激は、耳介経皮領域(対象の左耳介経皮領域、右耳介経皮領域、またはその両方)に適用される。
【0073】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、1つまたは複数の感覚障害(例えば、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害および味覚障害)を有する対象の感覚知覚を改善することを含む。
【0074】
いくつかの局面では、対象は、感覚の修正を必要とする障害状態(例えば、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害および味覚障害)を有しない。例えば、そのような対象は、一般に健康であると考えられ得る。
【0075】
本明細書に記載の局面は、対象が感覚処理の修正を必要とする時期を検出すること;対象に持続性迷走神経刺激を適用して感覚処理の修正を提供すること;および対象がもはや感覚処理の修正を必要としない場合に、感覚処理の修正の適用を中止することによって、対象の感覚処理を修正する方法を提供する。
【0076】
一局面では、迷走神経刺激(例えば、連続的な持続性迷走神経刺激)を必要に応じて適用し、刺激が必要でない場合は中止することができる。例えば、製品の品質管理検査を行う対象は、検査対象の製品が存在する場合にのみ、迷走神経刺激を適用されて感覚処理を改善することができる。目標物があるかどうかは、例えば、カメラまたは他の感覚装置、すなわちスマートアイウェアなどを使用して決定することができる。別の例では、より高いレベルの集中力を必要とする作業(例えば、手術、航空機の操縦、重機の操作)を実行する対象に、作業に従事する場合にのみ迷走神経刺激を適用して、感覚処理を改善することができる。
【0077】
いくつかの例では、対象が感覚処理の修正を必要とすることの検出は、第1の時点から第2の時点までの瞳孔径の平均値および分散値を決定すること;瞳孔径を測定し、瞳孔径値を決定すること;ならびに瞳孔径値が瞳孔径の分散値から少なくとも約1~3標準偏差である場合に、持続性迷走神経刺激を対象に適用することを含む。
【0078】
一局面では、迷走神経刺激の周波数は、少なくとも約0.3 Hz、約0.5~80 Hz、または約30~60 Hzである。例えば、本明細書の段落[0242]~[0246]を参照されたい。
【0079】
いくつかの例では、少なくとも約0.2 mA、約0.5~約3 mA、または約1.5~約2.5 mAの迷走神経刺激電流が迷走神経に到達する。例えば、本明細書の段落[0234]~[0241]を参照されたい。別の局面では、約1~約60 mAまたは5~約30 mAの電流が、迷走神経刺激を生成する装置から発せられる。
【0080】
いくつかの例では、持続性迷走神経刺激を適用する時間は、少なくとも約3秒、少なくとも約30秒、または少なくとも約4分である。
【0081】
感覚処理は、本明細書に記載の方法によって約1秒未満、約10秒未満、または約1分未満で修正される。修正された感覚処理は、一過性であり得る。「一過性」という用語は、永久ではない期間を指す。いくつかの例では、期間は短時間または短くてもよい(例えば、約5秒、30秒、または1分以内に消散する)。例えば、本明細書の段落[0215]~[0217]を参照されたい。
【0082】
迷走神経刺激は、連続的または非連続的であり得る。「連続的」という用語は中断を含まないことを指し、「非連続的」という用語は中断を含むことを指す。
【0083】
非連続的な迷走神経刺激は、デューティサイクルの形態であり得る。「デューティサイクル」という用語は、信号がオン-オフサイクルを完了する期間を指す。いくつかの例では、迷走神経刺激が適用されないデューティサイクルの部分は、約7~約10秒以下である。一局面では、迷走神経刺激が適用されないデューティサイクルの部分は、約3~7秒以下である。別の局面では、迷走神経刺激が適用されないデューティサイクルの部分は、約0.5~3秒以下である。例えば、本明細書の段落[0215]~[0217]、[0223]~[0226]、[0230]~[0233]を参照されたい。
【0084】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、感覚鋭敏性を増加させる。「感覚鋭敏性」という用語は、1つまたは複数の感覚の、信号を正確に解釈する能力を指す。いくつかの例では、感覚鋭敏性の増加は、感覚モダリティ(例えば、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、および触覚の刺激)の鋭敏性を強化することを含む。知覚感度の増加は、広く受け入れられている感覚鋭敏性の増加の尺度である。
【0085】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、誤認誘発エラーを減らすことを含む。例えば、Rodenkirch et al.,Locus coeruleus activation enhances thalamic feature selectivity via norepinephrine regulation of intrathalamic circuit dynamics,Nature Neuroscience,vol.22(2019年1月)、図8、130頁を参照されたい。別の局面では、感覚処理の修正は、青斑核の選択的活性化を含む。
【0086】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、刺激をコード化するために使用される神経活性の時間的構造を変更することを含む。例えば、本明細書の段落[0251]~[0255]、[0256]~[0265]、[0266]~[0276]を参照されたい。
【0087】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、ブレイン・マシン・インターフェースによる脳への情報の書き込みを促進する(例えば、感覚神経補綴で使用されるパターン化微小刺激、感覚経路に直接適用される拡張/仮想現実)。
【0088】
一局面では、感覚処理の修正は、持続する神経可塑性変化から生じない。例えば、本明細書の段落[0215]~[0217]を参照されたい。
【0089】
別の局面では、感覚処理の修正は、多感覚統合(例えば、2つ以上の感覚を組み合わせて使用すること、視覚と触覚の両方のフィードバックを使用してボールを捕らえるなど)を実行する能力を改善する。多感覚統合を実行する能力の改善は、例えば、2つ以上の感覚の同時使用を必要とし得る作業に対する知覚感度の増加によって定量化することができる、2つ以上の感覚の感覚鋭敏性の向上によって評価することができる。
【0090】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、t型カルシウムチャネル活性を低下させる神経調節によって生じる。t型カルシウムチャネルは、バーストスパイキング活性の要因である。t型カルシウムチャネルの影響、および結果として生じるt型カルシウムチャネル誘導バーストスパイキング活性は、視床皮質感覚ニューロンによる情報伝達の効率および速度を低下させることが分かった。LC刺激およびVNSは、バースト活性を低下させる。LC刺激によりバースト率が約60%低下し、t型カルシウムチャネル電流の視床スパイキングへの寄与は、LC刺激で約25%減少すると推定される。例えば、Rodenkirch et al.,Locus coeruleus activation enhances thalamic feature selectivity via norepinephrine regulation of intrathalamic circuit dynamics,Nature Neuroscience,vol.22(2019年1月)、(図5図6図7)、および付随する文章を参照されたい。VNSは、バースト中のスパイクの確率を約10~25%低下させる。例えば、Rodenkirch et.al.,Rapid and transient enhancement of thalamic information transmission induced by vagus nerve stimulation、J.Neural Eng.17 026027(図2h図7e図jおよび図8e)および付随する文章を参照されたい。
【0091】
さらなる局面では、感覚処理の修正は、不快なまたは気を散らす感覚知覚の発生を減らす(例えば、特定の聴覚、視覚、味覚、嗅覚、または触覚の刺激が不快、痛み、圧倒するもの、または気を散らすものになり得る感覚処理障害を有する個人において)。
【0092】
例えば、感覚処理の修正は、特定の感覚モダリティを選択的に助ける(例えば、修正は、ある感覚に対して別の感覚よりも強い――聴覚よりも触覚に対して強い)。
【0093】
さらなる局面では、感覚処理の修正は、脳の感覚経路部分(例えば、視床、皮質)におけるノルエピネフリン濃度を増加させることを含む。Rodenkirch et al.,Locus coeruleus activation enhances thalamic feature selectivity via norepinephrine regulation of intrathalamic circuit dynamics,Nature Neuroscience,vol.22(2019年1月)、(図4)および付随する文章を参照されたい。
【0094】
別の局面では、対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の効率は、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%向上する。例えば、本明細書の段落[0218]~[0222]、[0227]~[0228]、[0234]~[0241]、[0242]~[0246]を参照されたい。「情報伝達効率の向上」という用語は、ニューロンのスパイキング応答の各スパイクが類似の刺激における特徴(すなわち、刺激とスパイク列との間の相互情報)の有無についてコード化する情報(すなわち、ビット)に関する、感覚ニューロンによる情報の伝達の効率を指す。
【0095】
さらに別の局面では、対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の速度は、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%増加する。例えば、本明細書の段落[0218]~[0222]、[0227]~[0228]、[0234]~[0241]、[0242]~[0246]を参照されたい。
【0096】
さらなる局面では、元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数は、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約10%、または少なくとも約20%、または約25%~60%増加する。例えば、本明細書の段落[0277]~[0287]を参照されたい。
【0097】
いくつかの例では、迷走神経刺激は、感覚刺激と1回以上対にされない。VNSのバーストは、以前はVNSを別の刺激(すなわち、触覚刺激(指腹で軽くたたく)または聴覚刺激(周波数トーン))と対にすることによって、長期間にわたって適用されていた。20,37-46この方法は、一定期間後の特定の対となる刺激の検出を改善することができ、神経可塑性に基づいている。以前の方法は、全般的な感覚鋭敏性、または任意の刺激に対する感覚鋭敏性を改善しない。
【0098】
本明細書に記載の局面によれば、感覚処理を修正するために、VNSを任意の適切な位置に適用することができる。いくつかの例では、迷走神経刺激は、対象の頸部領域(例えば、対象の左頸部領域、右頸部領域、またはその両方)に適用される。いくつかの例では、迷走神経刺激は、耳介経皮領域(対象の左耳介経皮領域、右耳介経皮領域、またはその両方)に適用される。
【0099】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、1つまたは複数の感覚障害(例えば、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害および味覚障害)を有する対象の感覚知覚を改善することを含む。
【0100】
いくつかの局面では、対象は、感覚の修正を必要とする障害状態(例えば、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害および味覚障害)を有しない。例えば、そのような対象は、一般に健康であると考えられ得る。
【0101】
さらなる局面は、生体電子信号(例えば、EEG(同調、相対電力帯域の強度)、EKG(心拍数、心拍変動)、血圧の変化、ECOG、呼吸数、発汗(例えば、皮膚表面の導電率によって測定される)、または侵襲性もしくは非侵襲性ブレイン・マシン・インターフェースから記録される信号)における第1の時間から第2の時間までの変化を測定すること(例えば、第1の時点から第2の時点までの時間範囲にわたる測定値をサンプリングすること);第1の時間から前記第2の時間までの信号について平均値および分散値を決定すること;生体電子信号を測定して、生体電子信号について測定値を決定すること;ならびに測定値が平均値から少なくとも約1~3標準偏差である場合に、対象に持続性迷走神経刺激を適用することによって、対象の感覚処理を修正する方法を提供する。
【0102】
さらなる局面は、対象に持続性迷走神経刺激を適用するように適合された迷走神経刺激装置を提供して、対象の感覚処理を修正し、ここで持続性迷走神経刺激の適用時間は、少なくとも約3秒間、少なくとも約30秒間、または少なくとも約4分間である。いくつかの局面では、迷走神経刺激は、連続的または非連続的である。
【0103】
「適合された」という用語は、本明細書に記載の迷走神経刺激を適用するように構成またはプログラムされた装置を指す。例えば、装置は、少なくとも約3秒間、少なくとも約30秒間、または少なくとも約4分間、持続性迷走神経刺激を適用するようにプログラムされたマイクロプロセッサを含むことができ、感覚処理は、約1秒未満、約10秒未満、または約1分未満で修正される。装置は、本明細書に記載の方法に従って迷走神経刺激を適用するように構成またはプログラムすることができる。
【0104】
いくつかの例では、装置は、オンデマンドで迷走神経刺激を適用するために、対象が手動で操作することができる。別の局面では、装置は、身体部分(すなわち、腕、脚、頭、胴体など)に取り付け、迷走神経刺激を適用するよう適合された補綴装置をさらに含んで、特定の作業を完遂するために感覚処理を改善することができる。
【0105】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、感覚鋭敏性を増加させる。「感覚鋭敏性」という用語は、1つまたは複数の感覚の、信号を正確に解釈する能力を指す。いくつかの例では、感覚鋭敏性の増加は、感覚モダリティ(例えば、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、および触覚の刺激)の鋭敏性を強化することを含む。知覚感度の増加は、広く受け入れられている感覚鋭敏性の増加の尺度である。
【0106】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、誤認誘発エラーを減らすことを含む。例えば、Rodenkirch et al.,Locus coeruleus activation enhances thalamic feature selectivity via norepinephrine regulation of intrathalamic circuit dynamics,Nature Neuroscience,vol.22(2019年1月)、図8、130頁を参照されたい。別の局面では、感覚処理の修正は、青斑核の選択的活性化を含む。
【0107】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、刺激をコード化するために使用される神経活性の時間的構造を変更することを含む。例えば、本明細書の段落[0251]~[0255]、[0256]~[0265]、[0266]~[0276]を参照されたい。
【0108】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、ブレイン・マシン・インターフェースによる脳への情報の書き込みを促進する(例えば、感覚神経補綴で使用されるパターン化微小刺激、感覚経路に直接適用される拡張/仮想現実)。
【0109】
一局面では、感覚処理の修正は、持続する神経可塑性変化から生じない。例えば、本明細書の段落[0215]~[0217]を参照されたい。
【0110】
別の局面では、感覚処理の修正は、多感覚統合(例えば、2つ以上の感覚を組み合わせて使用すること、視覚と触覚の両方のフィードバックを使用してボールを捕らえるなど)を実行する能力を改善する。多感覚統合を実行する能力の改善は、例えば、2つ以上の感覚の同時使用を必要とする作業に対する知覚感度の増加によって定量化することができる、2つ以上の感覚の感覚鋭敏性の向上によって評価することができる。
【0111】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、t型カルシウムチャネル活性を低下させる神経調節によって生じる。t型カルシウムチャネルは、バーストスパイキング活性の要因である。t型カルシウムチャネルの影響、および結果として生じるt型カルシウムチャネル誘導バーストスパイキング活性は、視床皮質感覚ニューロンによる情報伝達の効率および速度を低下させることが分かった。LC刺激およびVNSは、バースト活性を低下させる。LC刺激によりバースト率が約60%低下し、t型カルシウムチャネル電流の視床スパイキングへの寄与は、LC刺激で約25%減少すると推定される。例えば、Rodenkirch et al.,Locus coeruleus activation enhances thalamic feature selectivity via norepinephrine regulation of intrathalamic circuit dynamics,Nature Neuroscience,vol.22(2019年1月)、(図5図6図7)、および付随する文章を参照されたい。VNSは、バースト中のスパイクの確率を約10~25%低下させる。例えば、Rodenkirch et.al.,Rapid and transient enhancement of thalamic information transmission induced by vagus nerve stimulation、J.Neural Eng.17 026027(図2h図7e図jおよび図8e)および付随する文章を参照されたい。
【0112】
さらなる局面では、感覚処理の修正は、不快なまたは気を散らす感覚知覚の発生を減らす(例えば、特定の聴覚、視覚、味覚、嗅覚、または触覚の刺激が不快、痛み、圧倒するもの、または気を散らすものになり得る感覚処理障害を有する個体において)。
【0113】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、特定の感覚モダリティを選択的に助ける(例えば、修正は、ある感覚に対して別の感覚よりも強い――聴覚よりも触覚に対して強い)。
【0114】
さらなる局面では、感覚処理の修正は、脳の感覚経路部分(例えば、視床、皮質)におけるノルエピネフリン濃度を増加させることを含む。例えば、Rodenkirch et al.,Locus coeruleus activation enhances thalamic feature selectivity via norepinephrine regulation of intrathalamic circuit dynamics,Nature Neuroscience,vol.22(2019年1月)、(図4)および付随する文章を参照されたい。
【0115】
「情報伝達効率の向上」という用語は、ニューロンのスパイキング応答の各スパイクが類似の刺激における特徴(すなわち、刺激とスパイク列との間の相互情報)の有無についてコード化する情報(すなわち、ビット)に関する、感覚ニューロンによる情報の伝達の効率を指す。
【0116】
さらに別の局面では、対象における視床皮質系中継ニューロンによって伝達される感覚関連情報の速度は、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約100~200%増加する。例えば、本明細書の段落[0218]~[0222]、[0227]~[0228]、[0234]~[0241]、[0242]~[0246]を参照されたい。
【0117】
さらなる局面では、元の刺激と再構成された刺激との間の相関係数は、迷走神経刺激を受けていない対象と比較して、平均で少なくとも約10%、または少なくとも約20%、または約25%~60%増加する。例えば、本明細書の段落[0277]~[0287]を参照されたい。
【0118】
いくつかの例では、迷走神経刺激は、感覚刺激と1回以上対にされない。
【0119】
本明細書に記載の局面によれば、感覚処理を修正するために、VNSを任意の適切な位置に適用することができる。いくつかの例では、迷走神経刺激は、対象の頸部領域(例えば、対象の左頸部領域、右頸部領域、またはその両方)に適用される。いくつかの例では、迷走神経刺激は、耳介経皮領域(対象の左耳介経皮領域、右耳介経皮領域、またはその両方)に適用される。
【0120】
いくつかの例では、感覚処理の修正は、1つまたは複数の感覚障害(例えば、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害および味覚障害)を有する対象の感覚知覚を改善することを含む。
【0121】
いくつかの局面では、対象は、感覚の修正を必要とする障害状態(例えば、視覚障害、聴覚障害、触覚障害、嗅覚障害および味覚障害)を有しない。例えば、そのような対象は、一般に健康であると考えられ得る。
【0122】
いくつかの例では、装置は侵襲性、非侵襲性、または低侵襲性である。「非侵襲性」という用語は、皮膚を物理的に突き通ることを必要としない、末梢神経刺激の装置および方法を指す(例えば、経皮的、集束超音波、振動)。「侵襲性」という用語は、皮膚を物理的に突き通ることを必要とし得る末梢神経刺激の装置および方法を指す。「低侵襲性」方法は、部分的に皮膚を物理的に突き通るが、無痛かつ安全な方法によるものを指す(例えば、痛みも手術の必要性もなくマイクロニードルが皮膚をわずかに突き刺し、容易に着脱ができる、マイクロニードルアレイ表面パッチ)。
【0123】
本明細書に記載の装置は、迷走神経刺激を必要とする対象の身体部分に関連付けられるように適合された補綴装置をさらに含むことができる。
【0124】
いくつかの局面では、補綴装置は、迷走神経刺激を対象の頸部領域に向けるように適合されることができる。一局面では、頸部領域は、対象の左頸部領域、右頸部領域、またはその両方を含む。
【0125】
いくつかの局面では、補綴装置は、迷走神経刺激を対象の耳介経皮領域に向けるように適合される。一局面では、頸部領域は、対象の左耳介経皮領域、右耳介経皮領域、またはその両方を含む。
【0126】
いくつかの例では、補綴装置は、侵襲性、非侵襲性、または低侵襲性であり得る適切な医療装置、衣類、または付属品であってもよい。補綴装置は、本明細書に記載の迷走神経刺激装置を収容するか、それと接触するか、さもなければそれと関連付けることができる。いくつかの例では、補綴装置は、眼鏡、サングラス、補聴器、ネックカラー、頭蓋顔面補綴、音声補綴(例えば喉頭装置)、圧迫刺激装置(例えば、神経調節を誘導するように設計された加重ブランケットまたは圧縮型のシャツ)、感覚神経プロテーゼ(例えば、蝸牛インプラント、網膜インプラント、視覚皮質インプラント、聴覚皮質インプラント)、眼窩補綴、頸部カラー、ハローベスト、歯科インプラント、顔面インプラント、ヘルメット、車両または機械の操縦室、機械制御部(例えば、機械の使用中に着用する、刺激パッチまで延びるワイヤ)、ヘッドアップディスプレイ、ヘッドセット、ネックレス、イヤリング、ゴーグル(例えば、運動競技用または保護用)、ティアラ、スカーフ、宝石類、髪飾り、ヘッドスカーフ、帽子、ネクタイ、ボンネット、イヤーマフ(例えば、暖めるために、または聴覚を保護するために)、ヘッドホン、ヘッドセット、ショール、ラニヤード、ウィッグ、フード(例えば、シャツまたはコート用)、ヘッドバンド、ヘアゴム、バレッタ、ヘアクリップ、ネックピロー、シャツカラー、ライフルスコープ、双眼鏡、暗視装置、望遠鏡、ヘアピース、仮想現実ヘッドセット、電話ヘッドセット、電話、ビデオ・ゲーム・コントローラ、ビデオ・ゲーム・システム、衣類、粘着パッチ、血圧モニタ、心拍数モニタ、オキシメータ、時計、スマートウォッチ、電話、および3D眼鏡からなる群から選択される。
【0127】
図1A図1Fは、VNS後の休止期間中(例えば、VNSの停止後45~75秒)のヒゲ刺激に対するVNS振幅、周波数、および感覚ニューロン応答を測定することによって、VNSを使用した感覚処理へのVNS効果の一過性の性質を確認する例示的な実験の結果を提供する。
【0128】
図2A図2Jは、VNSがバースト発火の抑制もしながら、特徴選択性および情報伝達を増加させることを示す。
【0129】
図3A図3Dは、標準デューティサイクルVNS(すなわち、30秒オン/60秒オフ)が、感覚処理状態において、変動するバイアスを生成することが観察されたため、知覚を最適化するのに最適ではないことを示している。感覚処理に対するVNSの影響はオフ期間中に消散し、次のオンサイクル中に戻る。これにより、デューティサイクルVNSの異なる期間に送達される2つの刺激の間の識別が妨害される。
【0130】
図4A図4Iは、持続性かつ急速デューティサイクルVNSの例示的なパターン(例えば、休止期間が約10秒を超えないVNS、例えば、3秒オン/7秒オフ)を使用して、変動する感覚処理バイアスを作り出すことなく感覚処理を強化できたことを示す。急速デューティサイクル(すなわち、3秒オン/7秒オフ)を有するVNSは、変動するバイアスを誘発することなく感覚処理を強化し、同時に、神経への損傷の可能性を最小限に抑えるために、比較的短い休止期間を依然として含んだ。
【0131】
図5A図5Jに基づいて、本明細書に記載の局面は、持続性VNSおよび急速デューティサイクルVNS(3秒オン/7秒オフ)振幅を増加させると、特徴選択性および情報伝達の増加によって証明されるように、感覚処理の改善が増加することを示す。いくつかの例では、これらのパターンを最適化して、変動するバイアスを感覚処理に誘発する長期間の静止状態(すなわち、約10秒超)を伴うVNSパターンよりも、強力な改善を誘発することができる。
【0132】
図6A図6Eは、持続性VNSの周波数を上げると、特徴選択性および情報伝達の増加によって証明されるように、感覚処理の改善が増加することを示す。いくつかの例では、連続的持続性30 Hz VNSは、変動するバイアスを感覚処理に誘発しないので、感覚情報伝達速度を標準的なデューティサイクルVNSの強度の約2倍に向上させる。
【0133】
図7A図7Cは、例示的なLC活性化が、同じ感覚刺激をコード化するために使用される時間的スパイキング構造視床皮質感覚中継ニューロンを変化させ得ることを示す。
【0134】
図8A図8Jは、感覚刺激をコード化するために使用される時間的構造視床皮質感覚中継ニューロンの例示的なLC活性化誘導変化が、詳細な感覚情報のコード化のためにより最適なコード化システムを生成できることを示す(例えば、それぞれ効率および速度である、スパイク毎および秒毎の感覚関連情報の送達量が多くなる)。
【0135】
図9A図9Dは、感覚刺激をコード化するために使用される時間的構造視床皮質感覚中継ニューロンのLC活性化誘導変化の一例が、感覚刺激のコード化に最適であることを示す。この例では、LC活性化中、ニューロンは、存在/非存在がコード化されている特徴と最も接近して一致する感覚刺激の特徴のみに、より選択的に応答する。ここで、「特徴係数」とは、その時点で刺激がニューロンコード化特徴にどの程度類似しているかを指す。LC活性化は、この例では、視床皮質感覚中継ニューロンの方向選択性も増加させ、LC活性化が刺激方向を識別する能力を改善する可能性があることを示している。
【0136】
図10A図10Cは、LC活性化に誘導された視床情報コード化の改善によって、視床ニューロン特徴選択性およびスパイク列からの元の刺激の、より正確な再構成が可能になることを示す。
【0137】
図11A図11Dは、LC活性化が、(1)視床網様核(TRN)ニューロンのサブセットへ伝達される感覚関連情報の速度を上げ、(2)LC刺激がないと特徴に対して選択的に応答しなかった視床網様核(TRN)のサブセットにおいて、ゲートで制御された特徴選択性を誘発することができることを示す。
【0138】
本明細書に記載の局面は、対象に連続的な持続性迷走神経刺激を少なくとも約5 Hzの周波数で適用することを含む、対象の感覚処理を修正する方法を提供する。「連続な」という用語は、中断しないことを指す。「持続性」という用語は、デューティサイクルパターンと比較して、継続的または段階的であることを指す。「感覚処理の修正」という用語は、対象の感覚処理(例えば、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚など)を変更することを指す。一局面では、修正は、改善された方法で(例えば、より速く、より正確に、より長期間)対象が作業を実行するように、感覚処理を改善することである。
【0139】
別の局面では、連続的な持続性迷走神経刺激の振幅は、約0.25 mAまたは約0.1 mA~約3 mAであり得る。
【0140】
連続的な持続性迷走神経刺激を適用する時間は、少なくとも約1秒、5秒、10秒、15秒、30秒、45秒、60秒、90秒、180秒またはそれ以上であり得る。
【0141】
本明細書で論じるように、感覚処理の修正は、約1秒未満で起こり、短期間または一過性である(例えば、VNSの停止後約1分以内)。
【0142】
さらなる局面は、対象に感覚刺激を受けさせること;第1の時点から第2の時点までの瞳孔拡張における変化を測定すること;第1の時点から第2の時点までの瞳孔拡張について平均値を決定すること;瞳孔拡張を測定し、瞳孔拡張値を決定すること;および瞳孔拡張値が瞳孔拡張の平均値から少なくとも2標準偏差である場合に、持続性連続的迷走神経刺激を対象に適用することによって、対象における感覚処理を修正する方法を提供する。
【0143】
この局面では、瞳孔拡張は、改良されたアイウェアまたはカメラを用いて測定することができる。例えば、対象(例えば、航空交通管制官)は、一連の作業中に瞳孔拡張を監視する、改良された眼鏡(例えば、グーグルグラスまたは類似の装置)を装着することができる。瞳孔拡張は、第1の時点から第2の時点までの瞳孔拡張の平均を計算することによって較正することができる。一連の作業中に、周期的な測定を実施することができる。瞳孔拡張が平均値から少なくとも約2標準偏差である場合、迷走神経刺激を、所望の期間(例えば、1、5、10、15、30、45、60、90秒など)、または所与の作業(例えば、航空機の着陸の誘導)中に連続的に、本明細書に記載のように適用することができる。
【0144】
別の局面では、瞳孔拡張、または低下した感覚処理に代わる別のものをアルゴリズムまたは機械学習方法によって測定して、VNS刺激が必要とされる時期およびVNS治療の時間の長さを決定することができる。
【0145】
さらなる局面は、対象の所定の感覚刺激の時期を検出すること;所定の感覚刺激が検出される場合に、持続性連続的迷走神経刺激を対象に適用すること;および所定の感覚刺激が検出されない場合、対象への連続的迷走神経刺激の適用を中止することによって、対象の感覚処理を修正する方法を提供する。
【0146】
この局面では、対象は所定の刺激(例えば、写真、文書、人間または動物、組立ライン上の車など)を受けることができ、迷走神経刺激(例えば、連続的な持続性迷走神経刺激)を、所定の刺激が存在する場合にのみ適用し、所定の刺激が存在しない場合に中断することができる。例えば、製品の品質管理検査を行う対象は、検査対象の製品が存在する場合にのみ、この局面を使用して感覚処理を改善することができる。目的物の有無は、カメラまたは他の感覚装置、すなわちスマートアイウェアなどを使用して判定することができる。
【0147】
さらなる局面は、本明細書に記載の方法に従って対象に連続的な持続性迷走神経刺激を適用するための装置を提供する。そのような装置は、オンデマンドで迷走神経刺激を適用するために、対象が手動で操作することができる。別の局面では、装置は、身体部分(すなわち、腕、脚、頭、胴体など)に取り付け、迷走神経刺激を適用するよう適合された補綴装置をさらに含んで、特定の作業を完遂するために感覚処理を改善することができる。
【実施例
【0148】
実施例1
VNSが視床感覚処理を調節する程度を理解するために、VNS刺激パターンを体系的に変化させながら、反復WGNヒゲ偏向に応答したラット感覚毛の経路のVPm(後内側腹側核)から単一ユニット活性を記録した(図1A)。VPmは、体性感覚情報を皮質に導く、視床における中継核である47、48。VPmニューロンは、ニューロンの対応する本質的なヒゲの刺激に確実に応答する49、50図1B)。4つの異なるVNSパターン:刺激無し(対照として)、標準デューティサイクル(30 Hz、30秒オン/60秒オフのデューティサイクル)、連続的持続性(10 Hz)、および急速デューティサイクル(30 Hz、3秒オン/7秒オフのデューティサイクル)を試験した(図1C)。各VNSパターンを180秒続け、その180秒の間に、少なくとも75秒の休止期間をはさんで、15秒の固定WGNヒゲ刺激を12回繰り返し送達した。
【0149】
感覚処理のVNS調節は一過性である
VNS状態の間にはさまれた休止期間中に、ベースライン条件にリセットするのに十分な時間をシステムが有したことを確認するために、VNS刺激のない対照期間中の各VPmニューロンの応答を、すべての休止期間の後半(先行するVNS状態の停止後45~75秒)中に生じる同じニューロン応答と比較した。正確な実験設計を確認すると、感覚処理に対するVNSの効果は一過性であり、VNSの停止から60秒以内に消散した。これは、特徴変調(図1D;対照期間中の1に対して休止期間の後半中の0.96±0.04、特徴36、ニューロン25、ラット6、p=0.27、対応のあるt検定)、バースト中のスパイクの割合(図1E;対照期間中の23±2%に対して休止期間の後半中の24±2%、ニューロン25、ラット6、p=0.48、対応のあるt検定)、および情報伝達(図1F;対照期間中の0.13±0.03ビット/スパイクに対して休止期間の後半中の0.14±0.04ビット/スパイク、特徴36、ニューロン25、ラット6、p=0.21、ウィルコクソンの符号順位検定)に有意差がないため、定量的に確認された。
【0150】
これらの結果は、神経可塑性に基づく、長い時間尺度にわたって持続する以前に報告されたVNS誘導効果とは異なり、VNSによる感覚処理の強化は、VNSの停止後に急速に消散することを示唆する。さらに、これにより、この実験においてVNS状態の間に挿入された休止期間が、システムがベースライン条件に戻るのに十分な長さであったことが確認される。
【0151】
実施例2
標準デューティサイクルVNSは視床特徴選択性および情報伝達を改善した
VPmニューロンの特徴選択性および視床感覚処理に対するVNSの効果を推定するために、同じ固定白色ガウス雑音(WGN)ヒゲ刺激に対するVPmニューロンの応答を、VNSを用いた場合と用いない場合とで比較した。同じWGN刺激の反復提供に応答して記録されたVPmスパイキング活性のラスタープロットにおいて明らかに認識できる線条は、細胞が各提供の間の特定の時点において確実に発火したことから、ニューロンが刺激における特定の動態学的特徴に対して感受性であることを示した(図2A)。
【0152】
標準デューティサイクルVNS(すなわち、30 Hz、30秒オン/60秒オフ)は、視床中継ニューロンの発火率を変化させなかった(図2B;対照期間中の11.0±0.6 Hzに対して標準デューティサイクルVNS中11.5±0.7 Hz、ニューロン25、ラット6、p=0.20、対応のあるt検定;特に明記しない限り、すべての結果は平均±SEMで報告される)。スパイクトリガ共分散分析を使用して、特定の特徴に対するVPmニューロンの応答の選択性を評価した1、51図2C)。これは、(1)ニューロンが選択的に応答した回復された動態学的特徴の振幅が増加していること、および(2)非線形チューニング関数が高い特徴係数値で上に傾いていることによって示されるように、VNSがVPmニューロンの特徴選択性を改善したことを示した1図2D)。
【0153】
任意の所与の時点における特徴係数の大きさは、刺激と特徴との間の類似性を表すので、非線形チューニング関数の形状のこの変化は、ニューロンのコード化された特徴と厳密に一致するスパイク追従刺激のみに対するニューロンの選択性の増加を示す。回復された特徴の振幅の変化を定量的に測定するために、先に定義された特徴変調係数を使用した1(方法を参照されたい)。特徴変調係数1は、コード化された動態学的特徴に有意な変化がなかったことを示唆し、一方、1を超える値は、形状の変化を伴わない振幅の増加を示唆する。標準デューティサイクルVNSは、1よりも有意に大きい特徴変調係数をもたらすことが分かった(図2E;VNSなしの1に対して標準デューティサイクルVNS中の1.21±0.05、特徴36、ニューロン25、ラット6、p=1.8e-2、対応のあるt検定)。
【0154】
各ニューロンのコード化された動態学的特徴および非線形チューニング関数の両方に対するVNSの効果を定量化するために、情報理論的手法を用いて、各VPmスパイクによって送達される情報を刺激におけるコード化された特徴の有無に関して推定した1。特徴選択性の改善の観察と一致して、標準デューティサイクルVNSは、情報伝達効率(図2F;標準デューティサイクルVNSありで対照ビット/スパイクの202±27%、特徴36、ニューロン25、ラット6、p=5.0e-5、ウィルコクソンの符号順位検定;図2I、VNSなしの0.13±0.03ビット/スパイクに対して標準デューティサイクルVNSありの0.20±0.05ビット/スパイク、特徴36、ニューロン25、ラット6、p=4.6e-4))、および情報伝達速度(図2J;標準デューティサイクルVNSありで対照ビット/秒の206±28%、特徴36、ニューロン25、ラット6、p=1.4e-6、ウィルコクソンの符号順位検定)の両方を劇的に増加させた。
【0155】
以前の研究と一致して、視床中継ニューロンは、対照条件下でバースト発火を示した1、52。視床バーストは詳細な刺激特徴に関する情報の伝達の低下に関連しているので53、54、感覚処理のVNS誘導強化はまた、VPmニューロンのバースト発火の抑制と一致し得る。視床バーストスパイクは、持続性スパイクほど多くの情報を送達しなかった(図2G、持続性スパイクによる0.18±0.05ビット/スパイクに対してバーストスパイクによる0.035±0.005ビット/スパイク、VNSなし、特徴36、ニューロン25、ラット6、p=1.3e-4、ウィルコクソンの符号順位検定)。持続性スパイクによって送達された情報を、点事象とみなされた場合に各バーストによって送達された情報と比較すると、バースト事象は平均して、持続性スパイクよりも少ない情報を送達した(図2G、持続性スパイクによる0.18±0.05ビット/スパイクに対してバースト事象による0.080±0.01ビット/スパイク、VNSなし、特徴36、ニューロン25、ラット6、p=0.08、ウィルコクソンの符号順位検定)。しかしながら、差はあまり有意ではなく、おそらくはサンプリングが限られていたためである。予想通り、VNSはバーストにおけるVPmスパイクの割合を減少させた(図2H;VNSなしの23±2%に対して標準デューティサイクルVNS中の21±2%、ニューロン25、ラット6、p=1.3e-3、対応のあるt検定)。
【0156】
実施例3
視床感覚処理に対するVNS効果の短い時間尺度によってVNSの標準デューティサイクルパターンが生じ、変動する視床感覚処理状態を誘発した
治療に使用される典型的なVNS刺激パターンは、伝統的に比較的遅いデューティサイクル(例えば、30秒オン/60秒オフ)を使用する。本明細書に記載する、使用される標準VNSパターンのオフ期間(60秒)は、感覚処理に対するVNSの効果が消散するのにかかる期間(約45秒)よりも長い。比較的遅いデューティサイクルのパターンが神経障害における症状を効率的に緩和することが証明されているが、VNSのオンおよびオフの切り替えがどのように視床状態を調節するかは、VPm感覚処理に対するVNSの影響がこのような短い時間尺度で生じ、消散することを考えると不明であった。
【0157】
これを試験するために、VNSのオン期間中のVPmニューロンの応答を、オフ期間の前半30秒中および後半30秒中の同じニューロンの応答と比較した。興味深いことに、視床特徴選択性および情報伝達に対するVNSの効果は、オフ期間中に急速に減少した。回復されたコード化された特徴の振幅は、VNSオン期間中よりもVNSオフ期間の後半30秒中に有意に小さかった(図3A)。特徴変調係数を使用して再構成された特徴振幅のこの差を定量化すると、係数は、標準デューティサイクルVNSのオン区間中でオフ区間よりも大きかった(図3B;オン期間中の1.20±0.06に対してオフ期間の後半中の1.06±0.05、特徴36、ニューロン25、ラット6、p 2.8e-2、対応のあるt検定)。
【0158】
標準デューティサイクルVNSによって誘発される視床処理状態の変動は、VNSオフ期間の後半30秒間のバーストにおけるスパイクの割合に、VNSオン期間と比較した有意な変化があったという観察によってさらに証明された(図3C;オン期間中の19±2%に対してオフ期間の後半中の22±2%、ニューロン25、ラット6、p=8.2e-5、対応のあるt検定)。
【0159】
したがって、スパイク毎に送信される情報は、標準デューティサイクルVNSのオン期間よりもオフ期間の後半中に著しく少なかった(図3D;オン期間中の対照ビット/スパイクの254±31%に対してオフ期間の後半中の対照ビット/スパイクの190±26%、特徴36、ニューロン25、ラット6、p=1.3e-2、対応のあるt検定)。まとめると、これらの結果は、標準デューティサイクルVNSが、知覚感度にとって最適ではない、視床における感覚処理の変動状態をもたらしたことを示している。この変動状態が知覚感度にとって最適でないのは、VNSサイクルのオン期間中に発生した同じ刺激が、VNSサイクルのオフ期間中に発生した場合とは異なる視床応答を誘発し、したがって異なる刺激として誤って知覚され得るからである。
【0160】
実施例4
持続性および急速デューティサイクルVNS(すなわち、3秒オン/7秒オフ)は、変動を誘発することなく視床情報伝達を強化した
この実施例では、データは、VNSが視床感覚処理の改善を急速に誘導し、VNSを遮断するとこの改善が急速に消えることを示唆している。さらに、データは、標準デューティサイクルVNSパターンが、変動する感覚処理状態を作り出すことを示唆している。本明細書に記載されるように、変動する処理状態を作り出さずに感覚処理へのVNSの利点を達成する1つの方法は、長いオフ期間を有さない急速デューティサイクルVNS(例えば、3秒オン/7秒オフ)または連続的持続性VNSを使用することである。これらの刺激パターンが感覚処理の最適な、変動のない強化に使用できるかどうかを評価するために、標準デューティサイクル(30秒オン、60秒オフ)、急速デューティサイクル(3秒オン、7秒オフ)、および連続的(10 Hz)VNSを同じ記録セッションで実行し、視床特徴選択性に対する様々なVNSパターンの効果を比較した。標準デューティサイクル(30秒オン、60秒オフ)、急速デューティサイクル(3秒オン、7秒オフ)、および連続(10 Hz)VNSのいずれも、対照条件と比較して有意に異なるVPm発火率をもたらさなかった(図4A;VNSなしの11.0±0.6 Hzに対して10 Hz持続性VNS中の10.9±0.7 Hz、急速デューティサイクルVNS中の11.2±0.7 Hz、および標準デューティサイクルVNS中の11.6±0.7 Hz、ニューロン25、ラット6、それぞれp=0.79、0.53および0.21、対応のあるt検定)。
【0161】
標準デューティサイクル(30秒オン、60秒オフ)、急速デューティサイクル(3秒オン、7秒オフ)、および連続(10 Hz)VNSは、(1)特徴変調係数(図4B;標準デューティサイクルVNS中の1.12±0.05に対して10 Hz持続性VNS中の1.14±0.04、または急速デューティサイクルVNS中の1.15±0.05、特徴36、ニューロン25、ラット6、それぞれp=0.61および0.33、対応のあるt検定)によって定量化される視床特徴選択性、および(2)情報伝達効率(図4C;標準デューティサイクルVNS中の対照ビット/スパイクの202±27%に対して10 Hz持続性VNS中の対照ビット/スパイクの197±19%、または急速デューティサイクルVNS中の対照ビット/スパイクの223±29%、特徴36、ニューロン25、ラット6、それぞれp=0.84および0.19、対応のあるt検定;図4E標準デューティサイクルVNS中の0.20±0.05ビット/スパイクに対して10 Hz持続性VNS中の0.18±0.04ビット/スパイク、および急速デューティサイクルVNS中の0.20±0.05ビット/スパイク、特徴36、ニューロン25、ラット6、それぞれp=0.77および0.53、それぞれウィルコクソンの符号順位検定および対応のあるt検定)において同様の改善をもたらした。
【0162】
標準デューティサイクル(30秒オン、60秒オフ)、急速デューティサイクル(3秒オン、7秒オフ)、および連続(10 Hz)VNSは、対照条件と比較した場合、バースト中のスパイクの割合の減少をもたらすすべてのVNSパターンで、同程度のバースト中のスパイク割合を含むVPm応答をもたらした(図4D;標準デューティサイクルVNS中の21±2%に対して10 Hz持続性VNS中の20±2%、または急速デューティサイクルVNS中の21±2%、ニューロン25、ラット6、それぞれp=0.04および0.56、対応のあるt検定)。急速デューティサイクルのVNSが、標準デューティサイクルのVNSによって誘発されることが観察されるものと同様のVPm感覚処理状態の変動を導入したかどうかを調べるために(標準デューティサイクルの異なる段階の分析と同様の様式で)、急速デューティサイクルの刺激のオン期間中のVPmニューロンの応答をセグメント化し、オフ期間の前半または後半中の同じニューロンの応答と比較した。
【0163】
ここで、急速デューティサイクルVNSのオン期間とオフサイクルの前半または後半との間で、発火率(図4F;オン期間中の11.3±0.7 Hzに対してオフ期間前半中の11.2±0.7 Hz、またはオフ期間後半中の11.1±0.7 Hz、ニューロン25、ラット6、それぞれp=0.19および=0.22、対応のあるt検定)およびバースト中のスパイクの割合(図4G;オン期間中の21±2%に対してオフ期間前半中の21±2%、またはオフ期間後半中の21±2%、ニューロン25、ラット6、それぞれp=0.59および=0.85、対応のあるt検定)に有意差はなかった。
【0164】
特徴選択性の改善および非線形チューニング関数の変化は両方とも、急速デューティサイクルVNSのオン期間とオフ期間の前半および後半との間で変動しなかった。急速デューティサイクル中の特徴選択性が変動しないことが、オン期間とオフ期間の前半後半いずれかとの間の特徴変調係数の差の不存在につながった(図4H;オン期間中の1.12±0.05に対してオフ期間の前半中の1.18±0.06またはオフ期間の後半中の1.17±0.07、特徴36、ニューロン25、ラット6、それぞれp=0.30および=0.37、対応のあるt検定)。
【0165】
また、急速デューティサイクルVNSのオン期間とオフ期間の前半後半のいずれかとの間で、情報伝達効率の向上の強度に差はなかった(図4I;オン期間中の対照ビット/スパイクの236±32%に対してオフ期間の前半中の対照ビット/スパイクの223±25%、またはオフ期間の後半中の対照ビット/スパイクの256±45%、特徴36、ニューロン25、ラット6、それぞれp=0.64および=0.89、それぞれ対応のあるt検定およびウィルコクソンの符号順位検定)。
【0166】
まとめると、これらの例示的な結果は、急速デューティサイクルVNSおよび持続性VNSの両方が、標準デューティサイクルVNSによって誘発された視床感覚処理状態の変動を誘発することなく、標準デューティサイクルVNSと同じレベルの視床感覚処理の改善をもたらすことを示している。変動する視床感覚処理状態の間、変動中の異なる時点で同じ刺激が受信された場合、異なる視床応答を引き起こし、それが類似の刺激を識別する能力を低下させ得るので、これは重要である。
【0167】
実施例5
視床感覚処理に対する急速デューティサイクルおよび持続性VNSの効果は、振幅依存性であった
これらの結果は、急速デューティサイクルVNSおよび持続性VNSの両方を使用して視床感覚処理を最適に強化することができる一方で、標準デューティサイクルVNSは、視床処理状態の変動を誘発するので、この目的には最適ではないことを示している。これらの刺激パターンの効果を比較する実験中、すべてのVNSパルスを1 mAの固定電流振幅で送達した。しかしながら、臨床状況において現在使用されているVNSの振幅は、患者ごとに異なり得、広範囲の値内に存在する55-57。VNSのいくつかの効果は、VNS振幅と逆U字形の関係を有することが分かっている58-62。したがって、感覚処理に対する異なる振幅のVNSの効果を決定するために、新しい実験を実施して、視床情報伝達へのVNS効果のVNS振幅に対する感度を調べた。4つの異なるVNS振幅、0(対照として)、0.4 mA、1 mA、および1.6 mAを比較した。
【0168】
異なる振幅での急速デューティサイクルVNSを分析すると、対照期間と比較して、3つの振幅のいずれもWGNヒゲ刺激に応答したVPm発火率の変化を誘発しなかった(図5A、VNSなしの対照中の11.3±2.1 Hzに対して0.4 mA急速デューティサイクルVNS中の11.6±2.4 Hz、1 mA急速デューティサイクルVNS中の11.1±2.3 Hz、および1.6 mA急速デューティサイクルVNS中の10.36±1.8 Hz、ニューロン7、ラット2、それぞれp=0.65、0.80、および0.21、対応のあるt検定)。
【0169】
急速デューティサイクルVNSによって誘発される特徴選択性および情報伝達における改善は、特徴変調係数(図5C;VNSなしの対照中の1に対して0.4 mA急速デューティサイクルVNS中0.98±0.07、1 mA急速デューティサイクルVNS中の1.05±0.07、または1.6 mA急速デューティサイクルVNS中の1.11±0.04、特徴13、ニューロン7、ラット2、それぞれp=0.78、0.44、および0.02、対応のあるt検定)、および情報伝達効率(図5D、0.4 mA急速デューティサイクルVNS中の対照ビット/スパイクの116±12%、1 mA急速デューティサイクルVNS中の対照ビット/スパイクの138±14%、または1.6 mA急速デューティサイクルVNS中の対照ビット/スパイクの144±17%、特徴13、ニューロン7、ラット2、それぞれp=0.20、1.6e-2、および2.3e-2、対応のあるt検定)によって定量的に測定されるように、振幅(図5B)と共に単調に増加した。
【0170】
バースト中のスパイクの割合の減少(図5E、VNSなしの対照中の14.9±2.4%に対して0.4 mA急速デューティサイクルVNS中の13.5±2.3%、1 mA急速なデューティサイクルVNS中の11.5±2.0%、または1.6 mA急速デューティサイクルVNS中の11.3±2.0%、ニューロン7、ラット2、それぞれp=0.17、1.6e-2、および6.9e-4、対応のあるt検定)によって証明されるように、バースト発火も、急速デューティサイクルVNSの振幅の増加と共に単調に減少した。
【0171】
同様に、異なる振幅での10 Hz持続性VNSを分析すると、対照期間と比較して、3つの振幅のいずれも、WGNヒゲ刺激に応答したVPm発火率の変化を誘発しなかった(図5F、VNSなしの対照中の10.0±1.1 Hzに対して0.4 mA 10 Hz VNS中の9.9±1.1 Hz、1 mA 10 Hz VNS中の9.4±1.1 Hz、および1.6 mA 10 Hz VNS中の9.1±1.1 Hz、ニューロン16、ラット5、それぞれp=0.84、0.46、および0.08、対応のあるt検定)。
【0172】
持続性VNSによって誘発される特徴選択性における改善は、特徴変調係数(図5H;VNSなしの対照中の1に対して0.4 mA 10 Hz VNS中の0.95±0.05、1 mA 10 Hz VNS中の1.12±0.06、または1.6 mA 10 Hz VNS中の1.28±0.06、特徴24、ニューロン16、ラット5、それぞれp=0.33、0.048、および2.0e-4、対応のあるt検定)、および情報伝達効率(図5I、0.4 mA 10 Hz VNS中の対照ビット/スパイクの125±8%、1 mA 10 Hz VNS中の対照ビット/スパイクの182±17%、または1.6 mA 10 Hz VNS中の対照ビット/スパイクの272±38%、特徴24、ニューロン16、ラット5、それぞれp=7.5e-3、7.4e-5、および1.7e-4、対応のあるt検定)によって定量的に測定されるように、VNSの振幅(図5G)と共に単調に増加した。
【0173】
バースト中のスパイクの割合の減少(図5J、VNSなしの対照中の28.1±3.3%に対して0.4 mA 10 Hz VNS中の27.1±3.5%、1 mA 10 Hz VNS中の24.7±3.4%、または1.6 mA 10 Hz VNS中の22.5±3.3%、ニューロン16、ラット5、それぞれp=0.36、5.6e-2、および6.9e-5、対応のあるt検定)によって証明されるように、バースト発火も、持続性VNSの振幅の増加と共に単調に減少した。
【0174】
まとめると、これらの特性評価結果は、VNSが振幅依存的に視床感覚処理を急速に改善することを示唆している。
【0175】
実施例6
視床感覚処理に対するVNSの効果は周波数依存性であった
異なる周波数を用いるVNSは、臨床用途において顕著な効果を有し得る55-57。したがって、VNSの異なる周波数が視床感覚処理にどのように影響するかを評価することが重要であった。この目的のために、10 Hz、1 mA連続的持続性VNS中のVPmニューロンの応答を、30 Hz、1 mA連続的持続性VNS刺激中の同じニューロンの応答と比較した(標準デューティサイクルVNSのオン期間から得られる)。
【0176】
ここでもまた、両方の周波数の持続性VNSは、対照期間中と有意差のない発火率をもたらした(図6A;VNSなしの対照中の11.0±0.6 Hzに対して10 Hz VNSありの10.9±0.7 Hz、または30 Hz VNS中の11.3±0.7 Hz、ニューロン25、ラット6、それぞれp=0.79および0.49、対応のあるt検定)。
【0177】
バースト中のスパイクの割合は、持続性VNS周波数の増加と共に単調に減少した(図6B;VNSなしの対照中の23.0±2.3%に対して10 Hz VNSありの19.4±2.2%、または30 Hz VNS中の18.8±2.0%、ニューロン25、ラット6、それぞれp=1.2e-5および1.8e-5、対応のあるt検定)。
【0178】
さらに、30 HzのVNSは、回復された特徴の振幅および非線形チューニング関数の上への傾きをより強力に増大させた。回復された特徴に対する10 Hzおよび30 HzのVNSの効果を定量化すると、両方とも特徴変調係数が有意に1を超え、これが持続性VNS周波数の増加と共に単調に増加することが観察された(図6C、VNSなしの対照中の1に対して10 Hz VNS中の1.14±0.04、または30 Hz VNS中の1.20±0.06、特徴36、ニューロン25、ラット6、それぞれp=1.7e-3および1.9e-3、対応のあるt検定)。
【0179】
感覚処理に対するVNSの影響が持続性VNS周波数と共に単調に増加するため、結果として、情報伝達効率もVNS周波数と共に単調に増加した(図6D、10 Hz VNS中の対照ビット/スパイクの198±19%に対して30 Hz VNS中の対照ビット/スパイクの255±32%、特徴36、ニューロン25、ラット6、それぞれp=8.2e-6および2.2e-5、対応のあるt検定)。情報伝達効率は、10 Hzよりも30 Hz VNSの方が著しく強力に改善された(図6E、p=6.8e-3、対応のあるt検定)。
【0180】
実施例7
視床網様体-視床回路動態のLC調節によって、同じWGNヒゲ刺激をコード化するためにVPmニューロンが使用する時間的構造が変化した
ペントバルビタール麻酔したラットにおけるLC-NE系の活性化条件を変化させながら、固定WGNヒゲ偏向パターンの反復提供に応答したVPmニューロンの単一ユニット活性を記録した63。ここで、高次元時空ヒゲ偏向信号のニューロンのスパイク列へのコード化は、線形-非線形ポアソン・カスケード・モデルを使用してモデル化された51、64
【0181】
同じWGNヒゲ刺激の複数の提供に応答して、VPmニューロンは、ニューロンが選択的にコード化する動態学的特徴に厳密に一致する刺激の区分に対応する特定の時点で、確実に応答する。事象と呼ばれる確実な応答が起こるこれらの時点は、スパイク密度関数(SDF)のピークを特定するための閾値(3×平均発火率)を使用することによって特定された。同じ固定刺激に対するニューロンの複数の応答が記録されると、まず事象前後のラスターを刺激前後時間ヒストグラム(PSTH)に畳み込むことによってSDFが生成され、次いでPSTHを、それを適応カーネルで畳み込むことによって平滑化した(方法を参照)。
【0182】
逆相関分析により、各VPmニューロンが選択的に応答した1つまたは複数の動態学的特徴を回復し、次いで、1つまたは複数の対応する非線形チューニング関数を計算し、刺激がその特徴に類似する程度に対するニューロンの応答の感度を例証した。情報理論的手法を使用して(方法を参照)、ニューロンのスパイク応答と、刺激においてニューロン選択性がコード化する特徴の有無との間の相互情報を定量化した63
【0183】
興味深いことに、以前の研究では、LCによって誘発される発火率の全体的な低下も、LC活性化によって誘発される確実性の改善も、観察されたLC活性化によって誘発される情報伝達効率および速度の改善の原因となり得ないことが示された63。さらに、以前の研究では、LC活性化中の持続性スパイクはLC活性化なしの持続性スパイクよりも有意に多くの情報を運ぶので、バーストスパイクの除去でも、観察されたLC活性化に誘導された感覚処理の増強を説明することができないことも分かった63。それでは、入力刺激における特徴の有無をコード化するために使用されるVPm応答の時間的パターンは、情報伝達の効率および速度を最適化するようにどのように変化するのであろうか。
【0184】
この問題をさらに調べるために、各VPmニューロンが固定WGN刺激をコード化するために使用される事象の時間的構造を、LC刺激を用いた場合および用いない場合で比較した。5 HzのLC刺激を用いたVPm応答の事象前後ラスターおよびSDFを、LC刺激を用いないVPm応答のものの上に重ねると、LC刺激が時間的事象構造を変化させることが明確に分かる(図7A)。
【0185】
いくつかの事象は、対照条件とLC活性化条件の両方にわたって保存されている(図7A、保存された事象を紫色の囲みで標識する)。しかしながら、LC活性化によって、対照条件下で存在したいくつかの事象が除去される(図7A、除去された事象を赤色の囲みで標識する)。さらに、LC活性化によって、対照条件下で存在しなかったいくつかの新しい事象が追加される(図7A、出現した事象を緑色の囲みで標識する)。
【0186】
これは、LC活性化が、最適でない事象を除去し、より最適な事象を加えることによって、各VPmニューロンが特定の刺激をコード化するために使用する時間的構造を最適化し得ることを示唆している。
【0187】
時間的事象構造の変化のさらなる分析を可能にするために、事象タイプを以下のように分類した。0 Hz LC刺激事象と重複するあらゆる5 Hz LC刺激事象を「保存された事象」とみなした。5 Hz LC刺激中のいかなる事象とも重複しなかった0 Hz LC刺激中のVPm事象を「除去された事象」とみなし、一方、0 Hz LC刺激中のいかなる事象とも重複しなかった5 Hz LC刺激中のVPm事象を「出現した事象」とみなした(図7A)。
【0188】
ここで、対照条件中に見られた事象の約半分がLC刺激で除去された一方、5 Hz LC活性化中に見られた事象の約40%が新たに出現し、対照条件中には存在しなかったことが分かった(図7B図7C、19匹のラットにわたる32個のニューロン)。
【0189】
実施例8
LC活性化によって有益性の低い事象が除去され、有益性の高い事象が導入された
次に、異なる事象タイプにおけるスパイクの特徴選択性に差があるかどうかを決定するために、4つの異なるスパイク群を選択した:除去された事象中に発生したLC刺激無しのスパイク、保存された事象中に発生したLC刺激無しのスパイク、保存された事象中に発生した5 Hz LC活性化中のスパイク、および出現した事象中に発生した5 HZ LC活性化中のスパイク。
【0190】
事象の各サブタイプにおけるスパイクの特徴選択性が回復されると、LC活性化中の新たに出現した事象内に入るスパイクの特徴選択性は、対照条件中の除去された事象内に入るスパイクと比較して改善された特徴選択性を有した(図8A図8B)。除去された事象に比べて改善された、出現した事象のこの特徴選択性は、事象のLC媒介除去および導入が最適な特徴選択性を支持することを示す。
【0191】
次に、除去された事象および出現した事象のスパイクの回復された特徴の振幅を、すべての対照条件スパイクを使用して再構成された特徴選択性の振幅と、特徴変調係数を計算することによって比較した(方法を参照)。回復された特徴振幅が対照期間中に回復された特徴選択性のそれよりも大きい場合、特徴変調係数は1より大きい値に増加する。ここで、実際に出現した事象中のスパイクは、除去された事象中のスパイクよりも有意に大きい特徴変調係数を有していた(図8C、除去された事象内のスパイクの1.0±0.1に対して、出現した事象内のスパイクの1.7±0.1、19匹のラット、32個のニューロンにわたる59個の特徴、p=6.2e-5、対応のあるt検定)。
【0192】
情報理論的手法を用いて、次にこれらのスパイクによって送達される情報を、それらが刺激において選択的にコード化する特徴の有無に関して定量化した。結果は、出現した事象内のスパイクが、除去された事象内のスパイクよりも有意に多くの情報を運んだことを示した(図8D、除去された事象内の0.20±0.02ビット/スパイクに対して出現した事象内の0.67±0.10ビット/スパイク、19匹のラット、32個のニューロンにわたる59個の特徴、p=3.9e-9、ウィルコクソンの符号順位検定)。
【0193】
保存された事象時間中にLC刺激無しで発生したスパイクと、保存された事象時間中にLC刺激有りで発生したスパイクとを比較すると、これらのスパイクの特徴選択性がLC活性化によって同様に改善されることが分かった(図8A図8B)。これは、保存された事象内であっても、LC活性化によってスパイクの分布がより有益性の低い保存された事象から、より有益性の高い保存された事象へとシフトすることを示唆している。
【0194】
保存された事象時間中にLC刺激無しで発生したスパイクよりも、保存された事象時間中にLC刺激有りで発生したスパイクの特徴変調係数が有意に大きいことが観察された(図8E、LC刺激無しの保存された事象内のスパイクの1.8±0.1に対して、5 Hz LC刺激有りの保存された事象内のスパイクの2.2±0.1、19匹のラット、32個のニューロンにわたる59個の特徴、p=1.3e-6、対応のあるt検定)。
【0195】
さらに、保存された事象時間中にLC刺激有りで発生したスパイクは、保存された事象時間中にLC刺激無しで発生したスパイクよりも有意に多くの情報を運んだ(図8F、LC刺激無しの保存された事象内の0.37±0.05ビット/スパイクに対して、5 Hz LC刺激有りの保存された事象内の0.93±0.14ビット/スパイク、19匹のラット、32個のニューロンにわたる59個の特徴、p=9.3e-10、対応のあるt検定)。
【0196】
異なる事象タイプ内のスパイクによってコード化された情報における事象構造の変化および観測された違いが、SDFから事象時間を識別するために選択された閾値のアーチファクトではなかったことを検証するために、上記の分析を再び実行したが、異なる事象閾値(例えば、2×および4×平均発火率)を使用した。
【0197】
これらの新たな事象閾値の両方を用いると、除去された事象と比較して、出現した事象のビット/スパイクに依然として同じ増加がある(図8G、2×平均発火率事象閾値、LC刺激無しの除去された事象内の0.15±0.02ビット/スパイクに対して、5 Hz LC刺激有りの出現した事象内の0.69±0.14ビット/スパイク、19匹のラット、32個のニューロンにわたる59個の特徴、p=6.8e-9、ウィルコクソンの符号順位検定、図8I、4×平均発火率事象閾値、LC刺激無しの除去された事象内の0.29±0.04ビット/スパイクに対して、5 Hz LC刺激有りの出現した事象内の0.81±0.14ビット/スパイク、19匹のラット、32個のニューロンにわたる59個の特徴、p=8.5e-11、ウィルコクソンの符号順位検定)。
【0198】
さらに、事象閾値の両方を用いると、LC刺激有りで発生する保存された事象のスパイクと、LC刺激無しで発生する保存された事象のスパイクとの間にビット/スパイクの同じ増加が依然としてある(図8H、2×平均発火率事象閾値、LC刺激無しの保存された事象内の0.25±0.03ビット/スパイクに対して、5 Hz LC刺激有りの保存された事象内の0.82±0.12ビット/スパイク、19匹のラット、32個のニューロンにわたる59個の特徴、p=7.1e-9、ウィルコクソンの符号順位検定、図8J、4×平均発火率事象閾値、LC刺激無しの保存された事象内の0.45±0.06ビット/スパイクに対して、5 Hz LC刺激有りの保存された事象内の1.07±0.16ビット/スパイク、19匹のラット、32個のニューロンにわたる59個の特徴、p=1.7e-9、ウィルコクソンの符号順位検定)。
【0199】
実施例9
LC活性化中のVPmニューロンの時間応答事象の再編成は、特徴選択性にとって理想的な事象配置に好都合である
LC活性化によって、同じ刺激をコード化するために同じVPmニューロンによって使用される確実な応答事象のための時間的位置が再構築されることを見出し、LC刺激の有無によって、各VPmニューロンのコード化パターンがどの程度理想的であるかを調べた。この実施例では、特定の特徴選択性を有するニューロンにとって、対応する応答事象への刺激の理想的なコード化がどのようなものであるかの定義を決定した。
【0200】
研究は、各ニューロンの実際のSDFに存在したものと厳密に同じ数の事象を理想的な応答で使用することによって、各ニューロンの理想的な応答に関して制約される。
【0201】
これらの事象を配置する理想的な時点を見出すために、まずWGN刺激の各時点について特徴係数値(すなわち、20ミリ秒の先行する刺激と特徴選択性との間のドット積)を計算した(図9A図9B)。
【0202】
理論に束縛されるものではないが、非常に有益なニューロンは、特徴係数の規模が大きい(例えば、得られた特徴係数ベクトルのピーク)時点でのみ応答すると考えられる。しかしながら、ニューロンの応答が特徴係数のサインに方向的に感受性である(すなわち、大きな負の特徴係数値および正の特徴係数値に比べて、大きな正の特徴係数値にのみに感受性である)かどうかは、ニューロン間で異なる。特定の特徴に方向的な様式で選択的に応答するニューロンは、理想的には、それらが正の値である場合にのみ大きな特徴係数で発火する(図9A)。一方、特定の特徴に非方向的な様式で選択的に応答するニューロンは、理想的には、それらが負(逆の特徴)であるか正であるかにかかわらず、大きな特徴係数で発火する(図9B)。
【0203】
ニューロンの特徴選択性が方向的であるか非方向的であるかを判定するために、各特徴について、対応する非線形チューニング指数の指向性を51で定義される方向性アルファ値を使用して定量化した(方法を参照)。方向選択的である特徴選択性は、非対称非線形チューニング関数(図9A、右パネル)を示し、1に近いアルファ値を有するであろう。方向選択的ではない特徴選択性は、y軸に対して対称に見える対応する非線形チューニング関数(図9B、右パネル)、および0に近いアルファ値を有するであろう。
【0204】
興味深いことに、LC刺激は、アルファによって測定されるように、VPm特徴選択性の方向性をわずかに増加させた(図9D、アルファ=LC刺激無しの0.44±0.04に対して、5 Hz LC刺激有り0.55±0.04、19匹のラット中の32個のニューロン中の59個の特徴、p=6.8e-4、対応のあるt検定)。
【0205】
ニューロンが選択的に応答した各特徴が、方向的方式でコード化されたか否かを判定する場合、LC活性化した場合としない場合の特徴選択性の平均方向性アルファ値を使用した。閾値(アルファ=0.3)を下回る、得られた平均方向性アルファ値は、いずれも非方向選択的であると考えられ、一方、それを上回る平均値は、いずれも方向選択的であると考えられた。
【0206】
各特徴選択性の方向性を計算した後、次いで事象を配置するのに最も理想的である対応する特徴係数ベクトルのピークを特定することができた。
【0207】
ここでは、元の応答で観察されたのと同じ数の事象が保存されたが、事象時間は理想的に位置するように、すなわち、方向選択的特徴については最大の正の値を有する特徴係数ベクトルのピークに(図9A、赤い星印)、または非方向選択的特徴については最大の絶対値に移された(図9B、赤い星印)。
【0208】
これらの理想的な事象時点によるコード化を、LC刺激有り、および無しで観察された実際の事象時点と比較した(図9A図9B、青い星印)。ここで、LC刺激により、理想的な事象時点で発生した事象の割合が増加した(図9C、LC刺激無しの0.20±0.01に対して、5 Hz LC刺激有りの0.23±0.01、19匹のラット中の32個のニューロン中の59個の特徴、p=6.0e-6、対応のあるt検定)。
【0209】
先の結果と合わせて、これは、LC活性化が、より有益な、したがってより最適な事象配置を助けるような方法で時間的事象構造の変化をもたらすことを示している。
【0210】
実施例10
LC活性化中の視床皮質応答は、LC活性化しない場合に比べて、元の刺激をより正確な再構成へとデコードすることができる
次に、個々の視床皮質ニューロンの刺激コード化特性の変化が、時空間的なヒゲ刺激を正確にコード化するVPmニューロンの集団の能力にどのように影響するかを調べるために、同じ固定WGN刺激によって駆動されるすべての応答について、VPm記録のサブセットを選択した。理想的観察者の観点から、VPmニューロンの応答および特徴選択性のみを知る元の刺激を、LC刺激有り、および無しの場合でどの程度正確にデコードおよび再構成することができるかについて分析した(方法を参照)。
【0211】
元の刺激を再構成するために、刺激における特徴の先行する強度は、その時点でのニューロンの平均スパイキング応答に関連するものであると仮定した(方法を参照)。最初に、再構成精度を向上させるために非方向性特徴選択性を正しく方向付ける必要があるため、方向性特徴選択性のみを使用して近似を再構成した。
【0212】
次いで、任意の時点における特徴選択性の方向が、方向性特徴選択性のみを使用して再構成された近似のそれに等しいと仮定することによって、非方向性特徴選択性を使用して再構成を改善した。
【0213】
興味深いことに、最終的な再構成は、5 Hz LC刺激中のニューロンのスパイキング応答および特徴選択性を使用すると、LC刺激しないニューロンのスパイキング応答および特徴選択性を使用して生成された再構成と比較して、より正確である(図10A)。
【0214】
これは、LC刺激が、視床皮質スパイク列からの元の刺激のより正確な再構成が可能になる方法で視床における感覚関連情報のコード化を最適化していることを示し、刺激の知覚の精度も高めることができることを示唆している。実際、以前の研究では、LC刺激が、ヒゲ刺激の2つの異なる周波数を区別するラットの知覚感度を増強することが分かった63
【0215】
再構成が元の刺激と一致する度合いにLC刺激がどのように影響するか、およびデコードされた刺激の精度とそれをデコードするために使用される特徴との比にLC刺激がどのように影響するかを定量化するために、方向的PSTH-特徴対からの刺激を複数回デコードする上記の方法を、使用される可能な特徴の数ごとに複数回実行した。方向的再構成の各々について、その再構成と元の刺激との間の相関係数を保存した。
【0216】
方向的再構成に使用される特徴の数に対する平均相関係数のプロットを見ると、使用される特徴の数の増加と共に再構成の精度が向上することが分かった(図10B)。
【0217】
また、別の特徴を追加すると精度が低下することも分かり、各特徴選択性によって運ばれる情報にある程度の冗長性があることを示している。
【0218】
この実施例では、再構成に使用される特徴の数にかかわらず、LC刺激は、相関係数(図10B)、または再構成と元の刺激との間のRMSE(図10C)のいずれかによって測定されるように、より正確な再構成をもたらした。
【0219】
興味深いことに、方向的特徴のみで再構成する場合、LC刺激の有無による再構成の精度の差は、デコードされた特徴の数が増加するにつれて増した。理論に束縛されるものではないが、おそらくLC活性化は、VPmニューロンによって運ばれる情報の冗長性を低下させると考えられる。
【0220】
異なる量の非方向的特徴を追加することによって方向的再構成の精度がどのように改善されるかを調査する、類似の分析を次いで実行した(図10B)。この分析の結果も、LC刺激が、方向的および非方向的の両方の特徴からデコードされた場合、より正確な再構成をもたらすことを示した(図10B図10C)。
【0221】
実施例11
LC刺激は、TRNニューロンのサブセットの特徴選択性に影響を与えた
ここでは、TRN特徴選択性に対するLC活性化の効果を説明した。興味深いことに、TRNニューロンの約43%は、LC刺激の有無にかかわらず有意な特徴選択性を示した。
【0222】
常に特徴選択性を示すこれらのTRNニューロンのうち、それらの約半分は、特徴選択性においてLC活性化に誘導された改善を示した(図11A図11B)。
【0223】
TRNニューロンの20%は、LC刺激無しでは有意な特徴選択性を示さなかったが、5 Hz LC刺激で有意な特徴選択性を有した(図11C図11D)。これらのニューロンの特徴選択性は、次にLC活性化によってゲート制御されると考えることができ、それはLC活性によって表示されるような高い覚醒状態の間にのみ起こる。
【0224】
これは、LC活性化に誘導された視床内動態の変化によって、TRNニューロンがより特徴選択的な様式でヒゲ刺激に応答することが可能になることを示唆する。
【0225】
TRNニューロンが、比較的直交性の特徴選択性を有するVPmニューロンに投射し、したがって、これを抑制する場合、TRNニューロンの選択性の向上は、神経支配されたVPmニューロンの特徴選択性を鋭くすることができる。例えば、抑制するVPmニューロンの特徴選択性と比較的直交する特徴に選択的に応答する抑制性TRNニューロンは、神経支配されたVPmニューロンの特徴選択性と刺激が密接に一致しない時点で、VPmニューロンの応答の抑制をもたらすであろう。VPmニューロンのTRN阻害が一般的なものから特徴選択的なものへとシフトすることは、LC活性化が同じヒゲ刺激に対するVPmニューロンの時間的応答構造を変化させる理由の説明になり得る。
【0226】
考察
以前の研究は、神経可塑性を誘発することが知られている神経調節システムの活性化をおそらくは通して、VNSを使用して脳回路の神経可塑性を促進することに焦点を当てていた65。これらの変更は、対となる刺激またはVNS活性化を伴う作業を必要とし、数週間から数ヶ月にわたって行われる20。対照的に、本明細書中に記載されるように、VNSはまた、短い時間尺度で視床内の感覚処理に劇的に影響を及ぼすことができ、事前の対形成を必要としないことが分かった。さらに、感覚処理に対するVNSの効果は、VNSの停止後に急速に消散するので一過性であることが判明した。したがって、VNSのこの新たな適用は、神経可塑性によって誘発される長期変化に依存するのではなく、おそらくは視床の神経化学状態を急速に変化させることができる神経調節中枢、例えばLCの活性化を介して、VNS活性化は視床における感覚処理の急速で一過性の調節をもたらす。
【0227】
視床感覚処理のVNS誘導改善は、特徴選択性の増強によって生じ、VPmニューロンによって伝達される感覚情報の効率および速度の増加をもたらした。以前の研究は、強化された視床感覚処理と改善された知覚性能との間の因果関係を示している1、66。したがって、このデータは、VNSが視床感覚処理を改善することを示すように、VNSの特定のパターンを使用して、知覚作業における行動性能を改善できる可能性を示唆している。
【0228】
VNSは、直接LC刺激と同様の様式で視床特徴選択性および情報伝達を改善した。
【0229】
以前の研究では、LC刺激によって誘発される視床バーストの抑制と情報伝達の改善との間の因果関係が実証されており1、VNSも視床におけるバースト発火を抑制したことに留意することが重要である。これが予想外ではないのは、迷走神経がNTSの投射によってLC活性に影響を及ぼし、VNSがLC活性を増加させることが示されているからである6、67
【0230】
しかしながら、NTSはまた、同様に感覚視床に投射する前脳基底部を含む68、LC以外の神経調節核にも投射する。LCまたは前脳基底部のいずれかの活性化は、感覚処理を調節することが示されている1、69、70。したがって、ここで観察される視床感覚処理の改善は、VNSによって活性化される調節系の集団的作用に起因し得る。神経調節核が高度に相互接続されていることは注目に値する71、72。例えば、VNSはLCと背側縫線核の両方に興奮性の影響を及ぼすことが示されているが、NTSから背側縫線核への直接的な投射はない6、73。したがって、VNSは、異なる神経調節系の直接的または間接的な活性化のいずれかによって視床感覚処理を調節し得る。
【0231】
ネコ総腓骨神経モデルを使用する以前の研究は、非連続的なデューティサイクルで送達される電気刺激を使用すると、神経組織が損傷される可能性が低下することを示している74。現在の臨床治療では、VNSは、最も一般的には、30秒オン/60秒オフなどのデューティサイクル様式で与えられ55~57、75、これは、デューティサイクル刺激がもたらす神経損傷のリスクが少ないという仮定に基づいている74。視床感覚処理のVNS改善は一過性であり、VNSの停止後に急速に消散し、その結果、標準デューティサイクルVNSのオフ期間中にVNSの効果は消散した。この変動する視床処理状態によって、VPmニューロンは、特徴変調、感覚情報伝達効率、およびバースト発火率において、標準デューティサイクルVNSのオン期間とオフ期間との間で差を示す。
【0232】
標準デューティサイクルVNSに誘発された変動する感覚処理状態は、刺激に関連せずにその結果雑音として作用するであろう、知覚の変動するバイアスをおそらく誘発し、したがって、知覚識別作業中に必要とされる正確な情報処理に特に有害である。例えば、同じ刺激が、標準デューティサイクルのオン期間中の受信とオフ期間中の受信とで異なる神経応答を生成し、これは、同じ刺激が2つの異なる刺激として知覚される原因となり得る。
【0233】
3秒オン7秒オフの急速デューティサイクルでのVNSは、視床の感覚処理状態の変動を誘発しなかった。これはおそらく、視床における感覚処理のVNS修正の時定数が、標準デューティサイクルVNSパターンよりも速いが急速デューティサイクルVNSパターンよりは早くないという事実に起因する。
【0234】
VNSの周波数を、急速デューティサイクルVNSおよび持続性VNSの振幅と同様に増加させると、特徴選択性の増加および刺激関連情報伝達の改善によって証明されるように、感覚処理がより強力に改善された。これらの結果は、連続的にまたは少なくとも高周波デューティサイクルのいずれかで送達される高周波かつ高振幅VNSを使用して、知覚処理のための最適な状態が最も良好に達成されることを示唆している。
【0235】
強力なタイプのVNSパターンは、あまりにも激しく送達されると、迷走神経損傷または患者の不快感のリスクを高める可能性がある。最小の神経損傷リスクで刺激の知覚を効果的に強化する1つの方法は、刺激事象に関する連続的持続性VNSの活性化の時間を調整して、持続性VNSが、ユーザが行動的に重要な刺激を受け得る任意の期間中に連続的に送達されるが、刺激を受けないこれらの期間の間は遮断されるようにすることである。刺激でロックされる、感覚処理のこのタイプのVNS増強は、VNSが開始されると知覚のVNS誘導改善が急速に始まるという事実によって促進される。以前の研究は、LC-NE系の活性化が、より難しい作業中により有益であることを示唆した1。したがって、作業によって決まるオンデマンドVNSは、行動性能を向上させるのに最適な構成であり得る。
【0236】
感覚知覚強化が必要とされる期間中に急速デューティサイクルまたは持続性VNSをオンにできることは、これらの障害を患っている個人にとって非常に有用であろう。例えば、触覚の感覚を損傷した個人は、多くの場合、シャツのボタンを留める、または物を掴むなどの作業に苦労する30。非侵襲性VNSシステムは、ユーザが作業の前にそれをオンにし、その後オフにすることができるように設計することができる。これにより、使用期間が比較的極小になるので、神経損傷のリスクのない、高周波かつ高振幅の、連続的な持続性VNSまたは急速デューティサイクルVNSが可能になる。このタイプのオンデマンド知覚強化装置は、ここに示すVNSによる感覚処理強化の急速な開始によって可能であり、てんかんおよびうつ病を治療するために使用される神経可塑性に基づく方法などの効果を確認するための長期間の刺激を必要としない。
【0237】
新たに開発された感覚神経プロテーゼは、感覚皮質および視床などの感覚経路に沿った異なる領域のパターン化された微小刺激を使用して、疾患、変性、または傷害によって失われた感覚を回復させることを試みている76~81。これらの神経プロテーゼを使用して脳に情報を書き込み、所望の知覚を生成する場合、脳の状態が知覚および行動に大きく影響するため、書き込まれている脳領域の状態を考慮に入れることができる82、83。脳状態の変化は、同じ微小刺激パターンを引き起こしてニューロン活性化の異なる結果をもたらし得るか、または結果として生じる高次脳領域によるニューロン活性化の読み出しを変化させ得、したがって異なる知覚的経験を呼び起こすための同じ微小刺激パターンを引き起こし得る。
【0238】
この研究は、感覚性視床中継ニューロンの膜電位変動を減少させる視床内動態のシフトに起因して、LC活性化およびVNSから生じる特徴選択性の増加および情報伝達の改善が起こることを示唆する1。膜電位の変動は、非刺激関連バイアスを導入するため、感覚処理に最適ではない。この同じ理由で、膜電位の変動は、感覚神経プロテーゼによって必要とされる感覚領域への情報の書き込みに最適ではない可能性がある。したがって、パターン化されたVNSを介して情報処理状態を調節する能力を現在の感覚神経補綴書き込み技術と組み合わせることにより、神経補綴感覚の精度および確実性の改善が可能になり得る。
【0239】
脳の状態を調整して、脳に情報を書き込むための最適な状態を作り出すことが、感覚のための非侵襲性脳刺激方法および認知神経プロテーゼにも適用可能であり得るのは、脳の状態の変動によって、経路に沿った領域に情報を確実かつ正確に書き込む能力に同じバイアスが生じるためである。
【0240】
パターン化された微小刺激を使用する感覚神経プロテーゼでは、主な目標は、患者が埋め込まれたアレイ内の隣接する電極からの微小刺激によって誘発される感覚をより良好に識別することである。例えば、蝸牛インプラントを有する個人が、その蝸牛インプラントの隣接する電極からの刺激を識別する能力は、患者間で大きく異なり84、識別能力の改善は、より良好な音声認識に関連する。したがって、感覚系における識別可能な微小刺激電極間の最小距離に対する非侵襲性VNS誘導調節の効果を調査することは、価値があるであろう。
【0241】
LC持続性活性は感覚処理と相関しており、持続性発火が増加すると、感覚処理および知覚識別能力の改善をもたらす。LC持続性活性と瞳孔径と皮質EEGパターンとの間の因果関係も示されており21、瞳孔径および/またはEEGパターンの変化を使用してLC活性を割り出せることを示している。したがって、自己最適化感覚増強神経プロテーゼは、閉ループ系からなり得る。この系は、瞳孔径および/または脳状態を指し示す他の生理学的信号を追跡することによって、覚醒および感覚処理の現在の状態を読み出す。次に、ユーザの感覚処理が詳細な特徴の特定および識別から、より基本的な検出へと離れていく時期を識別し、VNSを送達することによってこの変化を補正することができる。
【0242】
以前の研究は、アンフェタミンなどの特定の医薬化合物が、感覚刺激の処理を増強し得ることを示唆している85~87。感覚処理のVNS増強は、薬理学的治療に代わるか、またはそれを増強することができる。非侵襲性VNSは、薬理学的技術に関連する耐性増大の不利益を受けず、副作用が最小限になるように調整することができるので、VNSは医薬品よりも優れている88
【0243】
以前の研究では、視床特徴選択性ならびに情報伝達効率および速度の増加は、知覚識別作業の性能の改善につながることが示されている1。具体的には、知覚感度(d')の増加によって証明されるように、様々な周波数で送達されるヒゲ刺激を識別するラットの能力が改善された。本明細書に記載の結果は、非侵襲性VNSを使用してヒトの知覚感度を急速に強化できることを示唆している。これは、画像および音声の識別または機械の操作など、多くの仕事関連の作業に役立つ可能性がある。さらに、感覚処理のVNS誘導増強は、視覚、聴覚、および触覚刺激のわずかな違いを識別する能力が成果に大きな差をもたらす、軍事要員およびスポーツおよびeスポーツにとって有益であり得る。
【0244】
LC活性化が、VPmが同じ刺激をコード化するために使用する時間的に正確な発火パターンを変化させることが予想外に見出され、LCは、主にゲインまたはSNR(信号対雑音比)の調節を介して感覚処理を増強するのではないという発明者らの主張をさらに裏付ける。しかしながら、このコード化パターンの変化が、ニューロンがコード化される動態学的特徴の変化なしに生じることは、直感に反する。本明細書中に記載される方法および装置を使用は、VPmニューロンによって伝達される刺激関連情報の効率および速度を向上させるので、新たなコード化パターンが最適化される。
【0245】
以前に、感覚処理のLC誘導増強は、VPmニューロンの情報伝達効率および速度の改善だけでなく、特徴選択性の増強をもたらすことが示された63。ここで、理想的観察者として、LC刺激によって、VPmニューロンの集団の応答からデコードする際に元の刺激のより正確な回復が可能になることが示され、LC刺激が、ヒゲ刺激の知覚の精度を強化することを示唆している。
【0246】
事象時点が理想的な位置で発生するかどうかを調べる場合、VPmニューロンは、複数の特徴を選択的にコード化し得る。したがって、ニューロンの特徴のうちの1つにとって非理想的であり得る事象時点は、別のものにとって理想的であり得る。興味深いことに、本明細書に記載されるように、1つの特徴に対して選択的なニューロン、ならびに複数に対して選択的なニューロンの特徴選択性にとって理想的な時間に発生する事象の割合が増加する。ヒゲ刺激をコード化するために使用される確実性の高い事象の時間的構造の変化が、1つの特徴の特徴選択性を、別の特徴の特徴選択性の低下という代償を払って改善した場合、理想的な時間での事象の割合に対するLC活性化の結果の混合が見られることが予想されるであろう。そうではなく、特徴選択性の大部分にわたって改善が生じたことが観察され、除去された事象が、ニューロンがコード化した特徴のいずれかにとって理想的な事象ではなかったことを示唆している。このようにして、LCがもたらす時間応答構造の変化は、別の特徴を犠牲にして特徴選択性を1つの特徴の方へシフトさせず、むしろニューロンによって選択的に応答されるすべての特徴の特徴選択性を改善する。
【0247】
先に示されたように、感覚処理のための視床状態のこの最適化の基礎となる機構は、LCに誘発される視床のNE濃度増加の作用である。NEの作用は、VPmおよびTRNの両方においてt型カルシウムチャネル活性の低下をもたらし、これは、VPmニューロンの閾値下の膜電位変動を減少させると考えられる。これらの根底にある雑音変動を除去することにより、VPmニューロンの応答を、よりPrVからの刺激関連の入力のみに関連するように変化させることができる。
【0248】
検出のために最適化されたバースト視床状態と、識別のために最適化された持続性視床状態との間の勾配に沿って感覚処理が存在することが提案されている89~92。TRNは、トポグラフィ的に位置合わせされた入力を感覚視床領域から受け取り、それと引き換えに、トポグラフィ的に位置合わせされた抑制性入力を視床中継細胞に提供する93、94。したがって、TRNが非選択的バースト様式で応答しているか、または持続性特徴選択的様式で応答しているかは、感覚情報の視床皮質伝達に大きく影響する。
【0249】
LCの強力な覚醒期間中、刺激がヒゲに送達されると、入ってくる刺激と最も密接に一致する特徴選択性を有するVPmニューロンが最初にスパイクする可能性があり、特徴選択性が刺激とあまり密接に一致しない他の競合するVPmニューロンの応答を、それらの応答が比較的遅延すると予測されると、TRNの負のフィードバックループを介して抑制することができる。したがって、この状態では、選択的TRN抑制性フィードバックは、特徴選択性が刺激と最も密接に一致するVPmニューロンのみがスパイクする機会を与えられる、ウィナーテイクスオール方式の応答を作り出す。このタイプのコード化は、異なる刺激がVPmニューロンの独特の集団を誘発するので、刺激の識別能力を強化するであろう。
【0250】
LC覚醒が弱い状態の間、t型カルシウムチャネルが刺激される可能性があり、したがってヒゲ刺激は、複数のVPmニューロンからの迅速な応答を、その特徴選択性が刺激と密接に一致しないものであっても誘発する可能性がある。それらの応答が、t型カルシウムチャネル活性化の全か無かの性質によって促進されるからである。この状態で、TRN選択的フィードバックは、t型カルシウムチャネル活性がこれらの活動電位が生じる速度を押し上げるので、VPm活動電位を打ち負かすのに十分迅速には起こらないであろう。代わりに、TRNフィードバックは、VPmニューロンが既にスパイクした後に受信され、これはその後、VPmニューロンをさらに過分極状態に追い込み、したがって、バースト活性のためにそれらのt型カルシウムチャネルを再刺激する。このタイプのコード化は、すべての刺激が強い多ニューロン応答を引き起こすように、刺激の検出を強化するが、重複しすぎて識別できない集団応答を引き起こす可能性があるため、異なる刺激の識別を低下させる。
【0251】
本明細書に記載の局面は触覚感覚経路を分析したが、LC-NEシステムは、視覚および聴覚モダリティの感覚処理を同様に調節すると考えられる。これは、以前の研究が、視覚および聴覚の両方の視床皮質ニューロンにおいて、注意力およびNEレベルの増加とバースト活性の減少とを相関させていたことを理由とする89、90、95~101。LCは、よく知られた注意および覚醒の神経調節物質であるので102、これらの発見は、LCが、注意力および覚醒が向上した期間中に詳細な感覚情報の視床皮質伝達を改善することによって、行動状態に関連する方法で知覚を最適化することができることを示している92,103。したがって、本明細書の方法および装置は、味覚および嗅覚感覚処理のLC調節にも使用することができる。
【0252】
神経調節系は進化を超えて良好に維持されていること、および神経調節系の機能はヒトおよびげっ歯類などの他の哺乳動物において類似していることに留意することが重要である104。したがって、これらの前臨床試験の結果は、本明細書で使用される広く受け入れられている動物モデルによって示されるように、ヒトに変換可能である。
【0253】
方法
外科手術。すべての動物実験は、コロンビア大学の動物実験委員会によって承認され、手順はNIHガイドラインに従って実施された。16匹の成体アルビノラット(Sprague-Dawley,Charles River Laboratories,Wilmington,MA;移植時において約225~275 g)をこの研究で使用した。12時間明暗サイクルを維持した専用の収容施設に、1ケージあたり1~2匹の動物を収容した。
【0254】
ラットは、2%の気化イソフルランに適した手術室に運ばれる前に、それらのホームケージ内で5%の気化イソフルランで鎮静させた。次いで、ラットを定位フレームに乗せ、麻酔薬をケタミン/キシラジン(80/8 mg/kg)に切り替えた6。サーボ制御された加熱パッド(FHC Inc.,Bowdoin,ME)によって、体温を37℃に維持した。血中酸素飽和度レベルおよび心拍数を、非侵襲性モニタ(Nonin Medical Inc,Plymouth,MN)を使用して継続的に監視した。
【0255】
VNSカフの埋め込みができるように、ラットの左腹側に切開を行った。磁気固定器リトラクションシステム(Fine Scientific Tools,Foster City,CA)を使用して、胸骨舌骨筋と胸鎖乳突筋とを縦方向に分離し、頸動脈鞘内の頸動脈に隣接する迷走神経への明瞭なアクセスを提供した。ガラス器具を使用して迷走神経を頸動脈鞘から分離し、神経への損傷の可能性を最小限にした。次いで、白金-イリジウム双極カフ電極105を迷走神経の周囲に配置して、VNSの送達を可能にした。次いで、VNSカフに接続された絶縁リードを切開部から延ばし、縫合糸で閉じた。
【0256】
VNS移植後、動物を空中浮遊台上の特注の改良定位フレーム(RWD Life Science、中国)に慎重に載せて、記録電極の挿入のためにVPm上の開頭術を可能にした。次いで、露出した脳表面を、開頭術の前後に作成された、保持ウェルに含まれる温かい生理食塩水で覆った。
【0257】
電気生理学。単一の鋭利なタングステンマイクロ電極(直径75μm、インピーダンス約3~5 MΩ、FHC Inc,Bowdoin,ME)を使用して、細胞外単一ユニット活性を記録した。油圧マイクロポジショナ(David Kopf,Tujunga,CA)により、マイクロメータ分解能でのゆっくりとした、制御された電極位置決めが可能になり、したがって記録されたニューロンへの近接配置が可能になった。細胞外神経信号は、記録部位とは反対側の、硬膜の表面と接触している接地ネジを基準とし、次いでバンドパスフィルタリングし(300~8k Hz)、Plexon記録システム(OmniPlex、Plexon Inc.、Dallas、TX)を使用して40 kHzでデジタル化した。市販のソフトウエア(Offline Sorter、Plexon)を用いて、単一ユニットのスパイク選別を行った。
【0258】
ラット脳アトラスからの定位座標を使用してVPmを標的とした106。VPmニューロンの同一性は、ニューロンの主要なヒゲの機械的刺激に対する強い応答によって確認された48~50。最小不応期が1ミリ秒を超え、記録全体を通して波形が安定した、大きくて容易に単離可能なVPmユニットのみを使用した。バーストスパイキングは、4ミリ秒以下のISI(スパイク間隔)で発生し、少なくとも100ミリ秒の静止後に発生する任意の2つ以上のスパイクとして定義された53
【0259】
迷走神経刺激。迷走神経カフリードを、較正された電気マイクロ刺激装置(Multi Channel Systems、Reutlingen、ドイツ)に接続し、次いで、これを1 kHzで作動するxPC targetリアルタイムシステム(MathWorks、MA)によってトリガした。VNSの期間中、カソードが先行する二相電流パルス(相あたり250μs)を10または30 Hzのいずれかで、0.4、1、または1.6 mAのいずれかの振幅で、連続、急速(3秒オン/7秒オフ)、または標準(30秒オン/60秒オフ)のいずれかのデューティサイクルで送達した。各記録について、各VNS状態の複数回の反復をランダムな順序で送達した。各VNS状態の送達は、180秒間継続し、その後、次の条件の開始前にシステムをベースライン条件にリセットできるように、75~90秒の休止時間を挿入した。ヒトにおいて現在実施されているように、右迷走神経の刺激は、洞房結節を神経支配する右迷走神経遠心路による心臓の不規則性を引き起こすことが示されているので107、左迷走神経のみが刺激された。さらに、VNSの極性は固定され、この極性の反転としての(負極頭蓋)によって徐脈を誘発することが示されている108
【0260】
ヒゲ刺激。109に記載されているような閉ループシステム(micromax 67145 board、Cambridge Technology)によって制御される特注の改良ガルボモータ(ガルバノメータ光学スキャナモデル6210 H、Cambridge Technologies)を使用して、正確で高周波の機械的なヒゲ刺激(12.5 mmシャフト)を送達した。ガルボモータの位置は、VNS/LC活性化を制御する同じxPC targetリアルタイムシステムによって制御された。Plexon記録システムを使用してガルボモータの出力アナログ位置信号も記録することにより、ヒゲ刺激の精度を検証した。ヒゲを約10 mmの長さに切断し、ヒゲパッドから約5 mmの位置にある偏向アームに挿入した。WGNを250 Hzでローパスフィルタリングした(10次バタワース)1。ガルボモータを使用して、固定白色ガウス雑音(WGN)の15秒間のクリップの連続的反復からなる信号の後に、ヒゲの偏向を連続的に送った。ヒゲ偏向の程度を記録全体にわたって固定して、様々なVNS条件下での同一の刺激に対してニューロンの応答が同様であるか、または変化するかどうかを決定した。
【0261】
データ分析。ここで、VPmニューロンは、1、51、64によって既に詳述されているように、線形-非線形ポアソンモデル(LNP)によって刺激関連情報をコード化すると仮定した。固定WGNヒゲ偏向パターンの反復送達に対するニューロンのスパイキング応答の分析を通して、ニューロンの特徴選択性を回復することができ、これを線形フィルタセットおよび対応する非線形チューニング関数のセットによって表すことができる。具体的には、各ニューロンの最初の重要な特徴は、各スパイクに先行する20ミリ秒の窓中のスパイクトリガ平均(STA)ヒゲ変位として回復された。次にスパイクトリガ共分散(STC)分析を使用して、複数の動態学的特徴に選択的に応答した任意のニューロンにとって重要な特徴の残りのセットを回復した64
【0262】
ここで、tnはn番目のスパイクの時間であり、
はスパイクに先行する時間窓中の刺激を表すベクトルであり、Nはスパイクの総数である。
【0263】
STAの統計的有意性は、1000回のブートストラップテストを伴うブートストラップ手順を使用して決定した。回復されたSTAは、それらの振幅がブートストラップ置換範囲の99.9パーセンタイル内にある場合、有意ではないとみなされた。STC回復フィルタの有意性は、STC回復フィルタに対応する固有値の入れ子式ブートストラップを使用して決定した。フィルタの対応するブートストラップ範囲の99.9パーセンタイルを超える再構成された固有値は、有意であるとみなされた。有意な特徴選択性を有さないニューロンは、さらなる分析から除外した。
【0264】
LC活性化により回復された特徴変調を定量化するために、特徴変調係数を以下のように定義する1
【0265】
回復された有意な特徴それぞれに対応する各非線形チューニング関数を推定するために、各スパイクについて特徴係数(すなわち、ニューロンの線形フィルタと各スパイクに先行する刺激との間のドット積)を計算した。次いで、スパイクが与えられた特徴係数値kの確率分布(すなわち、Prob(k|スパイク))を決定することができる。使用した刺激についてすべての可能な特徴係数を計算するために、20ミリ秒窓を15秒のWGN刺激にスライドさせ、そこからすべての特徴係数値の確率分布(すなわち、Prob(k))を生成した。Prob(k|スパイク)をProb(k)で割ることによって、発火率を特徴係数値にマッピングする非線形チューニング関数が生成される。
【0266】
様々なVNSまたはLC刺激条件下でスパイク列が運ぶ情報を、特徴の有無に関して定量化するために、特徴の有無と各条件でのスパイクの観察との間の相互情報を以下のように計算した110
【0267】
式中、kは特徴である。情報伝達速度(すなわち、ビット/秒)は、ビット/スパイクに、WGN刺激に応答したニューロンの平均発火率を乗算することによって計算した。
【0268】
統計。一標本コルモゴロフ-スミルノフ検定を使用して、統計的検定を行う前にデータの正規性を評価した。サンプルが正規に分布している場合、対応のあるまたは対応のないt検定を使用した。そうでなければ、マン・ホイットニーのU検定を非対のサンプルに使用し、またはウィルコクソンの符号順位検定を対のサンプルに使用した。多重比較をボンフェローニ補正で補正した。
【0269】
電気生理学。この研究で分析されたすべての実験データは、LC活性化が視床特徴選択性にどのように影響するかを調査する研究において以前に公開された63。データ生成の背後にある詳細な外科的および電気生理学的方法は、63にて見出すことができる。簡潔には、ラットをペントバルビタールナトリウムで麻酔し、定位固定フレームに取り付けて、LCおよびVPmまたはTRNへのアクセスを提供する開頭術の実施を可能にした。電子LC微小刺激を受けたラットについては、記録電極をLC内に進行させ、LC位置を、足のピンチに対するLCニューロンの特徴的応答によって確認した111。次いで、記録システムの接続を切り、電極を電気マイクロ刺激装置(S88、Grass Instrument、Warwick、RI)に接続した。実験の4週間前に光遺伝学的LC刺激を受けたラットについては、レンチウイルスをラットのLCに直接注入し、これにより、ノルアドレナリン作動性ニューロンの選択的トランスフェクションがチャネルロドプシン2(pLenti-PRSx 8-hChR2(H134R)-mCherry、UNCベクターコア、約7e9 vp/ml)を発現することが可能になった。光遺伝学的LC刺激実験の開始時に、光ファイバカニューレを進行させてLCに対して位置決めし、次いで、LEDドライバ(Plexon、波長493 nm)に取り付けた。次にすべての実験について、記録電極をVPmまたはTRN中に前進させ、VPm/TRNニューロンをそれらの定位座標、および断続ヒゲ偏向に対する応答によって識別した49
【0270】
実験的パラダイム。ここで簡単に説明した実験手順は、このデータセットの元の出版物でより詳細に説明されている63。簡潔には、WGNヒゲ偏向の固定ブロックを、閉ループシステム(micromax 67145 board、Cambridge Technology)によって制御される特注の改良ガルボモータ109(ガルバノメータ光学スキャナモデル6210 H、Cambridge Technologies)によって、主要なヒゲに繰り返し送達した。次いで、刺激の複数回の反復に対するVPmニューロン応答の単一ユニット記録を、Plexon記録システム(OmniPlex、Plexon Inc.、Dallas、TX)によって捉えた。それぞれの記録中、LC活性化条件を変化させた。したがって、それぞれの記録の終わりに、同じ固定WGN刺激への同じVPmニューロンの複数の応答の、LC活性化の各条件についてのデータセットを生成した。これにより発明者らは、各VPmニューロンが刺激における動態学的特徴に関する情報を選択的にコード化する方法が、LC活性化によりどのように変化させられるかを分析することができた。一局面では、LC刺激を用いないVPmニューロンの応答を、5 Hz LC刺激を用いた応答と対比して分析した。
【0271】
逆相関分析。線形-非線形ポアソンカスケードモデル(LNP)を用いて、VPmニューロンおよびTRNニューロンの両方の応答をモデル化した51、64。同じ固定WGN刺激に対するニューロンの複数の応答を分析することにより、ニューロンが選択的に応答する刺激における動態学的特徴を識別することができる。最初にスパイクトリガ平均(STA)を計算することで各ニューロンの有意な特徴が回復され、続いてスパイクトリガ共分散(STC)マトリックスを計算して、複数の動態学的特徴に選択的に応答した任意のニューロンについて残りの有意な特徴のセットが回復した51、64
【0272】
ここで、tnはn番目のスパイクの時間であり、
はそのスパイクに先行する時間窓中の刺激を表すベクトルであり、Nはスパイクの総数である。ブートストラップ手順を使用して、特徴の統計的有意性を決定した64。異なるLC活性化条件中に回復された特徴の振幅の変化を定量化するために、以前に以下のように定義された特徴変調係数を使用した63
【0273】
LNPモデルの線形部分が再構成されたら、すなわち、ニューロンが動態学的特徴に選択的に応答したら、各特徴の対応する非線形チューニング関数は、スパイクが与えられた特徴係数の確率分布を、刺激に見られるすべての可能性ある特徴係数の確率分布で割ることによって計算することができる。
【0274】
式中、kは特徴係数値、すなわち線形フィルタと先行する刺激とのドット積である。
【0275】
特定の特徴に対する選択的応答の方向性の強度は、以下のように非線形チューニング関数の対称性を分析することによって定量化した。
【0276】
式中、Gは非線形チューニング関数であり、Bは特徴係数値の2標準偏差に等しい。
【0277】
それらが選択的に応答した特徴に関するVPmニューロンによって伝達される情報を、以下のように定量化した51,110
【0278】
式中、kは特徴係数であり、得られるビット/スパイク値は、刺激におけるその動態学的特徴の有無と、このニューロンによるスパイクの発生との間の相互情報を示す。
【0279】
同じWGNヒゲ刺激に対するニューロンの応答における確実な事象の識別を可能にするために、ニューロンの応答の刺激前後時間ヒストグラム(PSTH)をビニングし(2ミリ秒ビン)、スパイク密度関数(SDF)を生成するために、適合可能なボックスカーカーネル(boxcar kernel)で畳み込み112、そのサイズは、各ビンで1から、そのカーネルが及ぶビンが少なくとも10個のスパイクを含むまで動的に増加した。次いで、閾値(特に明記しない限り、平均発火率の3倍)を使用して、その後に事象とみなされたSDFのピークを識別した112
【0280】
VPm応答をデコードする理想的観察者の視点から元の刺激の近似を再構成するために、入力刺激に対する各ニューロンの平均時間的応答パターン(例えば、刺激前後時間ヒストグラム)、ならびにそのニューロンがコード化された特徴を計算した。複数の特徴に選択的であったニューロンについては、各特徴-PSTH対を固有であるとみなした。方向選択的特徴-PSTH対のみを選択して、最初の再構成に使用した。これは、理想的観察者の観点から、刺激の方向性が事前に決定され得るまで、非方向選択的特徴は有益ではないことから行われた。
【0281】
各方向選択的特徴-PSTH対について、PSTHの各時点で、刺激における特徴の先行する強度は、そのビン内のPSTH値(すなわち、その時点での平均スパイク数/テスト)に関連すると仮定された。したがって、方向選択的特徴-PSTH対の各点おいて再構成されたベクトルは、以下のように計算された。
【0282】
式中、PSTHおよび特徴の両方のビンサイズは、元の刺激のサンプリング周波数(すなわち、5000 Hz、0.2ミリ秒のビン)に等しく、Tは特徴の長さである。各方向特徴-PSTH対に対応するすべての再構成ベクトルを合計し、元の刺激の再構成を生成するために得られたベクトルのzスコアを決定した。
【0283】
任意の時点で元の刺激方向に近似させるために方向的再構成を使用して、非方向選択的特徴-PSTH対を使用して再構成をさらに改善した。この目的のために、各非方向選択的特徴-PSTH対について、各点において以下に等しい再構成を生成した。
【0284】
A=1 if dot(方向的再構成(t-T:t)、特徴)≧0
A=-1 if dot(方向的再構成(t-T:t)、特徴)<0
【0285】
Aの値は、任意の時点で特徴を効果的に反転し、その結果その方向は、方向性特徴のみから生成された再構成に最もよく一致する方向になるように選択される。非方向選択的特徴-PSTH対の各々について再構成された刺激ベクトルを計算すると、方向的および非方向的特徴-PSTH対再構成の両方を使用した刺激の再構成が以下のように生成された。
【0286】
統計。すべての統計的検定は両側検定であった。一標本コルモゴロフ-スミルノフ検定を使用して、統計的検定を行う前にデータの正規性を評価した。サンプルが正規に分布している場合、対応のあるまたは対応のないt検定を使用した。そうでなければ、対ではないサンプルについては両側マン・ホイットニーU検定を使用し、対のサンプルについては両側ウィルコクソン符号順位検定を使用した。ボンフェローニ補正を多重比較に使用した。
【0287】
参考文献
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
図7A
図7B
図7C
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図11
【国際調査報告】