(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-18
(54)【発明の名称】過酸化ジアシルを生成するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 409/34 20060101AFI20220810BHJP
【FI】
C07C409/34
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573476
(86)(22)【出願日】2020-06-11
(85)【翻訳文提出日】2022-02-08
(86)【国際出願番号】 EP2020066227
(87)【国際公開番号】W WO2020249688
(87)【国際公開日】2020-12-17
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509131443
【氏名又は名称】ヌーリオン ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フェノーツハップ
【氏名又は名称原語表記】Nouryon Chemicals International B.V.
【住所又は居所原語表記】Velperweg 76, 6824 BM Arnhem, the Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【氏名又は名称】末広 尚也
(72)【発明者】
【氏名】タマ-,マルティヌス,キャサリヌス
(72)【発明者】
【氏名】デン ブレーバー,アントニー
(72)【発明者】
【氏名】ディリクス,カロリーナ,アンナ,マリア,クリスティーナ
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC40
4H006AD16
4H006BB31
4H006BD33
4H006BE32
(57)【要約】
無水物の過酸化水素との反応、形成されたカルボン酸の除去、該カルボン酸からの無水物の生成、およびプロセス内の無水物の再利用を伴う、過酸化ジアシルを生成するためのプロセス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化ジアシルを生成するためのプロセスであって、以下の工程:
a)式R
1-C(=O)-O-C(=O)-R
2を有する無水物をH
2O
2と反応させることによって、過酸化ジアシルおよびカルボン酸を含む混合物を生成する工程であって、式中、R
1が、酸素および/またはハロゲン含有置換基で任意選択的に置換された、1~17個の炭素原子を有する直鎖および分岐鎖アルキル、シクロアルキル、アリール、ならびにアリールアルキル基から選択され、R
2が、酸素および/またはハロゲン含有置換基で任意選択的に置換された、2~17個の炭素原子を有する直鎖および分岐鎖アルキル、シクロアルキル、アリール、ならびにアリールアルキル基から選択される、生成する工程、
b)前記カルボン酸を、そのカルボン酸塩または付加物の形態で、前記混合物から抽出または分離する工程、
c)前記カルボン酸を前記塩または付加物から遊離する工程、
d)任意選択的に、式R
2-C(=O)Hのアルデヒドを酸素と反応させることによって、追加量のカルボン酸を生成する工程、
e)工程c)で得られた前記カルボン酸、および任意選択的に追加量の式R
2-C(=O)OHのカルボン酸(工程d)から得られた、および/または別の方法で得られた前記追加量のカルボン酸)を、酸無水物または式C(R
4)
2=C=O(式中、各R
4が、独立して、HおよびCH
3から選択される)のケテン、好ましくは酢酸無水物と反応させて、式R
1-C(=O)-O-C(=O)-R
2を有する無水物を形成する工程、ならびに
f)工程e)で形成された前記無水物の少なくとも一部を、工程a)に再利用する工程、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記カルボン酸を、工程e)において酢酸無水物と反応させる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
追加量のカルボン酸を、工程d)において生成し、工程e)において反応させる、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記カルボン酸が、工程b)において塩基の水溶液を用いて抽出されて、カルボン酸塩を形成し、前記カルボン酸が、工程c)において、前記抽出物の酸性化によってその塩から遊離される、先行請求項のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記カルボン酸が、工程b)において塩基の水溶液を用いて抽出されて、カルボン酸塩を形成し、前記カルボン酸が、工程c)において、電気化学的膜分離、好ましくは双極膜電気透析(BPM)によってその塩から遊離される、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
工程e)中に、酢酸が、前記反応混合物から除去される、先行請求項のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
工程e)が、反応性蒸留カラムで実施される、先行請求項のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記式R
1-C(=O)-O-C(=O)-R
2を有する前記無水物が、対称無水物であり、式中、R
1およびR
2が、等しく、酸素および/またはハロゲン含有置換基で任意選択的に置換された、2~17個の炭素原子を有する直鎖および分岐鎖アルキル、シクロアルキル、アリール、ならびにアリールアルキル基から選択される、先行請求項のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
R
1およびR
2が、独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖および分岐鎖アルキル基から選択される、先行請求項のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記式R
1-C(=O)-O-C(=O)-R
2の前記無水物が、イソ酪酸無水物、2-メチル酪酸無水物、2-メチルヘキサン酸無水物、2-プロピルヘプタン酸無水物、イソノナン酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、2-エチルヘキサン酸無水物、カプリル酸無水物、n-吉草酸無水物、イソ吉草酸無水物、カプロン酸無水物、およびラウリン酸無水物からなる群から選択される、請求項8または9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記過酸化ジアシルが、過酸化ジ-2-メチルブチリル、過酸化ジ-イソ-バレリル、過酸化ジ-n-バレリル、過酸化ジ-n-カプロイル、過酸化ジ-2-メチルヘキサノイル、過酸化ジ-2-プロピルヘプタノイル、過酸化ジ-イソノナノイル、ジ-シクロヘキシルカルボニル無水物、ジ-2-エチルヘキサノイル無水物、過酸化アセチル-イソブチリル、過酸化プロピオニル-イソブチリル、および過酸化ジ-イソブチリルからなる群から選択される、請求項8~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記過酸化ジアシルが、過酸化ジ-イソブチリルである、請求項11に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化ジアシルを調製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化ジアシルは、以下の一般式を有し、
R-C(=O)-O-O-C(=O)-R
式中、R基は、独立して、ヘテロ原子含有置換基で任意に置換されたアリール、アリールアルキル、ならびに直鎖、分岐鎖、および環状アルキル基から選択される。
【0003】
そのような過酸化ジアシルは、以下の式によって示されるように、過剰の酸無水物または酸塩化物を過酸化水素のアルカリ性溶液と反応させることによって調製することができる。
2R-C(=O)-O-C(=O)-R+Na2O2→R-C(=O)-O-O-C(=O)-R+2NaOC(=O)R
2R-C(=O)Cl+Na2O2→R-C(=O)-O-O-C(=O)-R+2NaCl
この反応スキームにおいて、Na2O2は、個別的な生成物Na2O2を指すのではなく、H2O2およびNaOOHを含む平衡を指す。
【0004】
米国特許第3,956,396号は、無水物と過酸化水素とを反応させることと、形成された生成物を抽出および濾過工程によって反応混合物から分離することとを含む、過酸化ジアシルを調製するためのプロセスを開示する。
【0005】
国際公開第02/098924号は、フッ素化無水物と過酸化水素とを反応させることを含む、フッ素化過酸化ジアシルを調製するためのプロセスを開示する。ワークアップ工程は開示されていない。
【0006】
米国特許第6,610,880号は、混合酸無水物をヒドロペルオキシドと反応させることによって過酸化ジアシルを調製するためのプロセスを開示し、このプロセスにおいて、過酸化物および炭酸モノエステルが形成される。ワークアップ中、炭酸モノエステルは、CO2とアルコールとに脱炭酸化される。アルコールの再利用には、ホスゲンが必要とされる。混合酸無水物は、カルボン酸をギ酸ハロゲンと接触させることによって調製される。この経路は、分子内にヒドロキシ基を有する過酸化物の場合など、酸塩化物が高価であるか、または利用できない場合に、過酸化物を作製するのに最も適切である。
【0007】
酸塩化物は、比較的高価であり、かつ塩化物含有水層を生じ、これは、塩分濃度の高い廃水をもたらす。
【0008】
一方、無水物は、酸塩化物よりもさらに高価であり、このプロセスの廃棄物流は、形成されたカルボン酸塩に起因して高い有機負荷、すなわち、高い化学的酸素要求量(COD)値を含有し、したがって、経済的および環境的に魅力的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3,956,396号明細書
【特許文献2】国際公開第02/098924号パンフレット
【特許文献3】米国特許第6,610,880号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、酸塩化物の使用を必要とせず、同時にその排出物中に低カルボン酸(塩)濃度を含有する過酸化ジアシルを生成するためのプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、以下の工程:
a)式R1-C(=O)-O-C(=O)-R2を有する無水物をH2O2と反応させることによって、過酸化ジアシルおよびカルボン酸を含む混合物を生成する工程であって、式中、R1が、酸素および/またはハロゲン含有置換基で任意選択的に置換された、1~17個の炭素原子を有する直鎖および分岐鎖アルキル、シクロアルキル、アリール、ならびにアリールアルキル基から選択され、R2が、酸素および/またはハロゲン含有置換基で任意選択的に置換された、2~17個の炭素原子を有する直鎖および分岐鎖アルキル、シクロアルキル、アリール、ならびにアリールアルキル基から選択される、生成する工程、
b)カルボン酸を、そのカルボン酸塩または付加物の形態で、混合物から抽出または分離する工程、
c)カルボン酸を塩または付加物から遊離する工程、
d)任意選択的に、式R2-C(=O)Hのアルデヒドを酸素と反応させることによって、追加量のカルボン酸を生成する工程、
e)工程c)で得られたカルボン酸、および任意選択的に追加量の式R2-C(=O)OHのカルボン酸(工程d)から得られた、および/または別の方法で得られた該追加量のカルボン酸)を、酸無水物または式C(R4)2=C=O(式中、各R4が、独立して、HおよびCH3から選択される)のケテン、好ましくは酢酸無水物と反応させて、式R1-C(=O)-O-C(=O)-R2を有する無水物を形成する工程、ならびに
f)工程e)で形成された無水物の少なくとも一部を、工程a)に再利用する工程、を含む、プロセスによって、達成することができる。
【0012】
このプロセスは、無水物から過酸化ジアシルを生成し、この無水物は、少なくとも部分的にカルボン酸副生成物から得られる。この工程a)で形成されたカルボン酸の再利用により、経路は経済的に魅力的となり、その排出物は低CODとなる。
【0013】
好ましくは、工程a)において必要とされる無水物の量を形成するために必要とされる任意の追加量のカルボン酸は、対応するアルデヒドの酸化によって得られる。したがって、工程d)において追加量のカルボン酸を生成し、工程e)においてそれを酢酸無水物またはケテンと反応させることが好ましい。
【0014】
このプロセスは、腐食性または揮発性反応物の使用を伴わないため、生産安全性を高め、過酸化ジアシルが最終的に使用される場所(例えば、重合施設)での生産が可能となる。そのようなオンサイト生産により、応需型の過酸化物生産が可能となり、それによって貯蔵容量および結果として生じる安全対策を最小限に抑えることが可能となる。
【0015】
工程a)は、過酸化水素の、式R1-C(=O)-O-C(=O)-R2を有する無水物との反応を伴う。
【0016】
この式におけるR1は、酸素および/またはハロゲン含有置換基で任意選択的に置換された、1~17個の炭素原子を有する直鎖および分岐鎖アルキル、シクロアルキル、アリール、ならびにアリールアルキル基から選択される。好適な置換基の例は、アルコキシ、塩素、およびエステル置換基である。炭素原子の数は、好ましくは2~11個、さらにより好ましくは2~8個、および最も好ましくは3~6個の炭素原子である。さらなる好ましい実施形態では、R1は、直鎖または分岐鎖アルキル基から選択される。最も好ましくは、R1は、n-プロピル、n-ブチル、イソブチル、2-ブチル、およびイソプロピル基からなる群から選択される。
【0017】
この式におけるR2は、酸素および/またはハロゲン含有置換基で任意選択的に置換された、2~17個の炭素原子を有する直鎖および分岐鎖アルキル、シクロアルキル、アリール、ならびにアリールアルキル基から選択される。好適な置換基の例は、アルコキシ、塩素、およびエステル置換基である。炭素原子の数は、好ましくは2~11個、さらにより好ましくは2~8個、および最も好ましくは3~6個の炭素原子である。さらなる好ましい実施形態では、R2は、直鎖または分岐鎖アルキル基から選択される。最も好ましくは、R2は、n-プロピル、n-ブチル、イソブチル、イソブチル、2-ブチル、およびイソプロピル基からなる群から選択される。
【0018】
無水物は、対称であり得、R1=R2を意味するか、または不斉であり得、R1≠R2を意味する。
【0019】
無水物が対称である場合、工程a)で形成され、工程b)で抽出または分離されるカルボン酸は、式R2-C(=O)OHを有する。無水物が不斉である場合、カルボン酸は、R2-C(=O)OHおよびR1-C(=O)OHの混合物である。
【0020】
好適な対称無水物は、プロピオン酸無水物、n-酪酸無水物、イソ酪酸無水物、ピバリン酸無水物、n-吉草酸無水物、イソ吉草酸無水物、2-メチル酪酸無水物、2-メチルペンタン酸無水物、2-メチルヘキサン酸無水物、2-メチルヘプタン酸無水物、2-エチル酪酸無水物、カプロン酸無水物、カプリル酸無水物、イソカプロン酸無水物、n-ヘプタン酸無水物、ノナン酸無水物、イソノナン酸無水物、3,5,5-トリメチルヘキサン酸無水物、2-プロピルヘプタン酸無水物、デカン酸無水物、ネオデカン酸無水物、ウンデカン酸無水物、ネオヘプタン酸無水物、ラウリン酸無水物、トリデカン酸無水物、2-エチルヘキサン酸無水物、ミリスチン酸無水物、パルミチン酸無水物、ステアリン酸無水物、フェニル酢酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、3-メチル-シクロペンタンカルボン酸無水物、ベータ-メトキシプロピオン酸無水物、メトキシ酢酸無水物、エトキシ酢酸無水物、プロポキシ酢酸無水物、アルファ-エトキシ酪酸無水物、安息香酸無水物、o-、m-、およびp-トルイル酸無水物、2,4,6-トリメチル安息香酸無水物、o-、m-、およびp-クロロ安息香酸無水物、o-、m-、およびp-ブロモ安息香酸無水物、o-、m-、およびp-ニトロ安息香酸無水物、o-、m-およびp-メトキシ安息香酸無水物、ならびに上記の無水物のうちの2つ以上の混合物である。
【0021】
対称無水物の好適な混合物の例は、イソ酪酸無水物と2-メチル酪酸無水物との混合物、イソ酪酸無水物と2-メチルペンタン酸無水物との混合物、2-メチル酪酸無水物とイソ吉草酸無水物との混合物、および2-メチル酪酸無水物と吉草酸無水物との混合物である。
【0022】
不斉無水物は、通常、不斉無水物と対称無水物との混合物として入手可能である。これは、不斉無水物は、通常、酸の混合物を、例えば酢酸無水物と反応させることによって得られるためである。これは、不斉無水物および少なくとも1つの対称無水物を含む、無水物の混合物をもたらす。そのような無水物の混合物を、本発明のプロセスにおいて使用することができる。好適な不斉無水物の例は、好ましくはイソ酪酸無水物と2-メチル酪酸無水物との混合物として存在する、イソ酪酸-2-メチル酪酸無水物;好ましくはイソ酪酸無水物と酢酸無水物との混合物として存在する、イソ酪酸-酢酸無水物;好ましくはプロピオン酸無水物とイソ酪酸無水物との混合物として存在する、プロピオン酸-イソ酪酸無水物;好ましくは2-メチル酪酸無水物と吉草酸無水物との混合物として存在する、2-メチル酪酸-吉草酸無水物、および好ましくは酪酸無水物と吉草酸無水物との混合物として存在する、酪酸-吉草酸無水物である。
【0023】
好ましくは、無水物は、対称である。より好ましい対称無水物は、イソ酪酸無水物、2-メチル酪酸無水物、2-メチルヘキサン酸無水物、2-プロピルヘプタン酸無水物、イソノナン酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、2-エチルヘキサン酸無水物、カプリル酸無水物、n-吉草酸無水物、イソ吉草酸無水物、カプロン酸無水物、およびラウリン酸無水物である。最も好ましいのは、イソ酪酸無水物である。
【0024】
工程a)は、-10~70℃、より好ましくは0~40℃、最も好ましくは5~30℃の範囲の温度で実施される。
【0025】
H2O2:無水物のモル比は、好ましくは0.40:1~1.0:1、より好ましくは0.45:1~0.70:1、および最も好ましくは0.50:1~0.60:1の範囲である。
【0026】
この反応中の水相のpHは、好ましくは少なくとも6、より好ましくは少なくとも7、および最も好ましくは少なくとも9である。このpHに到達するために添加され得る好適な塩基としては、マグネシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、またはカルシウムの酸化物、水酸化物、重炭酸塩、炭酸塩、(ヒドロ)リン酸塩、およびカルボン酸塩が挙げられる。
【0027】
塩基は、好ましくは、無水物に対して50~200mol%、より好ましくは70~140mol%、および最も好ましくは90~120mol%の量で添加される。
【0028】
この反応は、溶媒の存在を必要としない。しかしながら、最終生成物(すなわち、過酸化ジアシル)が溶媒中での希釈を必要とする場合、溶媒を事前充填するか、または反応中に反応混合物に投与することができる。好適な溶媒は、アルカン、クロロアルカン、エステル、エーテル、アミド、およびケトンである。好ましい溶媒は、イソドデカン、Spirdane(登録商標)、Isopar(登録商標)鉱油などのアルカン(の混合物);酢酸エチル、酢酸メチル、エチレングリコールジベンゾエート、マレイン酸ジブチル、ジイソノニル-1,2-シクロヘキサンジカルボキシレート(DINCH)、または2,2,4-トリメチルペンタンジオールジイソブチレート(TXIB)などのエステル;およびフタル酸ジメチルまたはテレフタル酸ジオクチルなどのフタレートである。
【0029】
工程a)から得られる反応混合物は、水相および有機相を含有する二相混合物である。
【0030】
工程b)に従って、カルボン酸は、そのカルボン酸塩または付加物の形態で、混合物から抽出または分離される。該塩または付加物の形成は、塩基の存在を必要とする。工程a)中に塩基が存在しなかった場合、または工程a)中に添加された塩基の量が、カルボン酸の大部分を対応する塩もしくは付加物に変換するのに不十分である場合、工程b)において塩基または追加量の塩基が添加され得る。工程a)から生じる混合物中に存在する塩基の量が、カルボン酸の大部分を対応する塩または付加物に変換するのに十分である場合、工程b)において追加量の塩基を添加する必要はない。
【0031】
好適な塩基は、アルキル化アミン、マグネシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、またはカルシウムの酸化物、水酸化物、重炭酸塩、炭酸塩、およびカルボン酸塩である。これらの塩基は、カルボン酸を脱プロトン化し、それによって水相に終着する水溶性塩を形成する。その後、有機相および水相は分離される。
【0032】
他の好適な塩基は、カルボン酸を捕捉し、それによって付加物を形成することができる、塩基性機能を有する固体材料である。そのような固体材料の例は、ポリ(スチレン-コ-ビニルベンジルアミン-コ-ジビニルベンゼン)、N-{2-[ビス(2-アミノエチル)アミノ]エチル}アミノメチル-ポリスチレン、ジエチルアミノメチル-ポリスチレン、スチレンおよびジビニルベンゼンのジメチルアミノメチル化コポリマー、ポリマー結合モルホリン、ポリ(4-ビニルピリジン)、3-アミノプロピルシリル官能化SBA-15シリカ等のアルキルアミン基を含有するゼオライトまたはメソポーラスシリカ、高分子アミン、ならびにこれらの材料のうちの1つ以上の混合物などの塩基性イオン交換樹脂である。形成された付加物は、濾過によって反応混合物から除去することができる。
【0033】
水相中のあらゆる残留ペルオキシ化合物は、水相を、溶媒および/または無水物、好ましくは式R1-C(=O)-O-C(=O)-R2の無水物で洗浄することによって除去することができる。
【0034】
カルボン酸の除去後、過酸化ジアシルを含有する有機相は、精製および/または乾燥され得る。精製は、任意選択的に塩、塩基、もしくは酸を含有する水で洗浄すること、および/または、例えば、カーボンブラックもしくは珪藻土上で濾過することによって実施することができる。乾燥は、MgSO4もしくはNa2SO4のような乾燥塩を使用することによって、または空気もしくは真空乾燥工程を使用することによって実施することができる。過酸化ジアシルを水中で乳化する場合、乾燥工程を省略することができる。
【0035】
工程c)において、カルボン酸は、例えば、
(i)カルボン酸塩を含有する水相を酸性化すること、
(ii)付加物を(例えば、加熱もしくは酸性化することによって)分割し、塩基性機能を有する固体材料からカルボン酸を物理的に分離(例えば、蒸留)すること、または
(iii)電気化学的膜分離、例えば双極膜電気透析(BPM)を介して塩を分割することによって、遊離される。
【0036】
カルボン酸の酸性化およびプロトン化のための好ましい酸は、H2SO4、HCl、NaHSO4、KHSO4などのような、3未満のpKaを有する酸である。最も好ましくは、H2SO4が使用される。H2SO4を使用する場合、好ましくは、90~96重量%の溶液として添加される。
【0037】
酸性化は、好ましくは6未満、より好ましくは4.5未満、および最も好ましくは3未満のpHになるよう実施される。得られるpHは、好ましくは1未満ではない。
【0038】
酸に加えて、少量の還元剤、例えば、亜硫酸塩および/またはヨウ化物もまた、過酸化物残基を分解するために水相に添加され得る。任意の過酸化ジアシル残基を分解するために、熱処理(例えば、20~80℃)を適用することができる。
【0039】
次いで、カルボン酸を含有する有機層は、任意の水性の塩含有層から分離される。分離は、液体/液体分離器、遠心分離器、(パルスおよび/またはパックされた)向流カラム、ミキサセトラ(の組み合わせ)、または連続(プレート)分離器などの従来の分離装置を使用して、重力によって実施することができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、分離は、有機液相を濃縮塩溶液、例えば、20~30重量%のNaCl、NaHSO4、KHSO4、Na2SO4、またはK2SO4溶液で塩析することによって促進することができる。塩は、水性液相中のカルボン酸の溶解度を低下させる。この抽出は、反応器、遠心分離器、またはミキサセトラなどの任意の好適なデバイスで実施することができる。
【0041】
特に、酪酸、イソ酪酸、ペンタン酸、およびメチルまたはエチル分岐鎖ペンタン酸のような低分子量の酸については、残留量の酸が水層中に溶解したままである。この残留量は、吸着、(共沸)蒸留、または抽出によって回収することができる。任意選択的に、カルボン酸の溶解度を低下させるために、塩(例えば、硫酸ナトリウム)を水層に添加することができる。
【0042】
別の実施形態では、カルボン酸の遊離は、電気化学的膜分離によって達成される。電気化学的膜分離技法の例は、膜電気分解および双極膜電気透析(BPM)である。BPMは、好ましい電気化学的膜分離法である。
【0043】
電気化学的膜分離は、カルボン酸および金属水酸化物(例えば、NaOHまたはKOH)中の金属カルボン酸塩の分割、および両方の種の分離をもたらす。したがって、膜によって分離された(i)カルボン酸含有混合物および(ii)NaOHまたはKOH溶液をもたらす。
【0044】
NaOHまたはKOH溶液は、本発明のプロセス、例えば工程a)において再利用することができる。
【0045】
温度、塩濃度、およびカルボン酸の水中溶解度に応じて、カルボン酸含有混合物は、2つの液相の二相混合物または均質混合物であり得る。均質混合物が電気化学的膜分離条件下(概ね40~50℃)で形成される場合、混合物を約30℃未満の温度に冷却すること、および/または塩の添加により、二相混合物が形成されることを確実にする。次いで、この二相カルボン酸含有混合物の有機液層は、重力によって、または遠心分離器のような装置を使用することによって、水層から分離することができる。
【0046】
カルボン酸含有有機相は、任意選択的に、工程e)で使用する前に、アルコール、ケトン、アルケン、および水などの揮発性物質を除去するために精製される。これらの揮発性物質は、吸着、蒸留、または塩、分子ふるい等で乾燥させることによって、除去することができる。蒸留は、好ましい精製方法である。蒸留は、好ましくは、2つの生成物収集段階、すなわち、1つはアルコールのような不純物を収集する段階、もう1つは任意選択的にカルボン酸との共沸剤として、残りの水を収集する段階を伴う。
【0047】
工程e)およびf)に従って、その後、カルボン酸を、酸無水物または式C(R4)2=C=Oのケテン(式中、各R4が、独立して、HおよびCH3から選択される)、好ましくは、酢酸無水物と反応させて、式R1-C(=O)-O-C(=O)-R2を有する無水物を形成し、その後、これを工程a)に少なくとも部分的に再利用し、再び使用して、過酸化ジアシルを生成する。
【0048】
工程e)の反応、特に酢酸無水物との反応は、中間区間にカルボン酸および酢酸無水物を供給される反応性蒸留カラムで有利に実施される。無水生成物はカラムの下部から抽出され、酢酸生成物はカラムの上部から収集される。代替的な方法は、蒸留カラムを上に載せた攪拌反応器内で無水物を生成することである。これにより、平衡を移動させるために、形成時に酢酸を蒸留することが可能になる。米国特許第2005/014974号は、酢酸無水物をイソ酪酸と反応させることによってイソ酪酸無水物を調製するためのプロセスを開示し、このプロセスは、形成された酢酸を蒸留する工程を含む。蒸留カラムは、高純度の酢酸を得るのに十分に効率的であることが好ましい。カラムの効率は、少なくとも8つの理論プレートであることが好ましい。高純度の酢酸は、様々な目的のために販売および/または使用することができる。
【0049】
式C(R4)2=C=Oのケテンとの反応は、好ましくは、米国特許第2,589,112号に開示されているように、向流吸着デバイスにおいて実施される。好ましいケテンは、式CH2=C=Oを有する。
【0050】
工程e)において触媒を使用してもよいが、触媒の非存在下で反応を実施することが好ましい。好適な触媒の例は、マグネシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、またはカルシウムの酸化物、水酸化物、重炭酸塩、炭酸塩、およびカルボン酸塩である。
【0051】
カルボン酸対酢酸無水物のモル比は、好ましくは0.5:1~5:1、より好ましくは1.5:1~2.2:1、最も好ましくは1.8:1~2.2:1の範囲である。酢酸無水物に対してわずかに過剰のカルボン酸が使用され得る。
【0052】
反応は、好ましくは、70~200℃、好ましくは100~170℃、最も好ましくは120~160℃の温度で実施される。温度は、反応器内の圧力を調整することによって、所望の値に維持することができる。この圧力は、好ましくは1~100kPa、より好ましくは5~70kPaの範囲である。
【0053】
反応の完了後、式R1-C(=O)-O-C(=O)-R2の無水物を精製するために、存在し得るあらゆる過剰の酢酸無水物を留去することができる。
【0054】
次いで、この無水物を、工程a)で再び使用することができる。
【0055】
好ましい実施形態では、工程e)で使用されるカルボン酸は、2つまたは3つの供給源から得られる。第1の供給源は、工程c)で遊離されるカルボン酸である。第2の供給源は、以下に記載されるように、工程d)に従って対応するアルデヒドを酸化することにより得られるカルボン酸である。第3の供給源は、任意の他の方法で得られた追加量のカルボン酸である。
【0056】
工程d)の酸素源としては、好ましくは空気が使用されるが、純酸素、酸素富化空気、または酸素貧化空気も適用され得る。酸素源は、反応器にガスとして、好ましくはスパージャを使用して供給することにより、反応混合物に添加することができる。
【0057】
工程d)の反応は、好ましくは0~70℃の範囲、より好ましくは10~60℃の範囲、および最も好ましくは20~55℃の範囲の温度で実施される。
【0058】
好ましくは大気圧が使用され、より低い圧力ではアルデヒドが蒸発し得るが、これは望ましくない。
【0059】
触媒は、任意選択的に使用され得る。酸化を加速するだけでなく、酸の収率も高める非常に優れた触媒は、白金黒および第二鉄塩である。セリウム、ニッケル、鉛、銅、およびコバルト塩もまた有用であり、特に、それらのカルボン酸塩が有用である。
【0060】
触媒は、アルデヒドに対して0~20mol%、より好ましくは0~5mol%、および最も好ましくは0~2mol%の量で添加され得る。
【0061】
対称過酸化ジアシルおよび不斉過酸化ジアシルの両方は、本発明のプロセスによって生成することができる。対称無水物(R1=R2)を使用する場合、対称過酸化ジアシルが得られる。このプロセスによって特に好適に生成され得る過酸化ジアシルの例は、過酸化ジ-2-メチルブチリル、過酸化ジ-イソ-バレリル、過酸化ジ-n-バレリル、過酸化ジ-n-カプロイル、過酸化ジ-2-メチルヘキサノイル、過酸化ジ-2-プロピルヘプタノイル、過酸化ジ-イソノナノイル、ジ-シクロヘキシルカルボニル無水物、ジ-2-エチルヘキサノイル無水物、過酸化アセチル-イソブチリル、過酸化プロピオニル-イソブチリル、および過酸化ジ-イソブチリルである。最も好ましいのは、過酸化ジ-イソブチリルである。
【0062】
本発明に従うプロセスおよびその個々の工程は、バッチ式にまたは連続的に実施することができる。連続モードで実施されることが好ましい工程は、工程e)における無水物を作製するための反応性蒸留、ならびに工程c)におけるカルボン酸の単離および精製である。
【0063】
また、バッチ作業と連続作業との組み合わせも使用することができる。組み合わせの例は、以下のとおりである。
-工程a)における過酸化ジアシルへのバッチ反応、続いてカルボン酸のバッチ分離および連続精製、ならびに工程e)における無水物への連続反応性蒸留、
-過酸化ジアシルへの連続反応、ならびにカルボン酸の分離および精製、続いて工程e)における無水物へのバッチモード蒸留、または
-過酸化ジアシルへのバッチ反応および生成物の分離、続いてカルボン酸の連続モード精製、ならびに工程e)における無水物への連続反応性蒸留。
【発明を実施するための形態】
【0064】
実施例
【0065】
実施例1
温度計およびタービンインペラを備えた空の反応器に、79gのn-酪酸無水物および16.9gのSpirdane(登録商標)D60(前合計)を10℃で充填した。混合物を15~17℃で冷却しながら、194gの10.8重量%のNaOH溶液および12.4gの70重量%のH2O2溶液を17分間で投与した。
【0066】
10℃での反応後5分後、水相を重力により分離させ、その後除去した。62.6重量%の過酸化ジ-n-ブチリルを含有する有機層を、MgSO4・2H2Oで乾燥させ、G3ガラスフィルタ上で濾過した。
【0067】
水相(241g)を、0~5℃で18.3gのSpirdane(登録商標)D60と攪拌して、残留過酸化物を抽出し、層を分離させた。その後、H2SO4(26.8g、96重量%)を水層に添加し、27℃まで温度上昇をもたらした。215.4gの水層および51.6gの有機層を得、これらの層を分離した。該有機層中の有機化合物は、99重量%超の酪酸から構成されていた。
【0068】
200mbar、80℃で、回転蒸発器で水を共沸除去した後、n-酪酸を、別の供給源(この場合はSigma Aldrich)からのn-酪酸と混合し、次いで、酢酸無水物と、n-酪酸:酢酸無水物のモル比2:1.05で反応させ、加熱して、酢酸を400mbar未満および120℃で蒸留して、残渣としてn-酪酸無水物を得た。次いで、この無水物を第1の工程に再利用し、H2O2と反応させた。
実施例2
温度計およびタービンインペラを備えた空の反応器に、45.6gのSpirdane(登録商標)D60(前合計)および288gの水を0℃で充填した。混合物を5℃で冷却しながら、211gの25重量%のNaOH溶液、32.4gの70重量%のH2O2溶液、および211gのイソ酪酸無水物を40分間で投与した。
【0069】
5℃で反応後10分後、水層を重力により沈降させ、その後除去した。有機層は、無水物で計算した収率94%に対応する、70.9重量%の過酸化ジ-イソブチリルを含有した。水層は、約24重量%のイソ酪酸ナトリウムを含有した。
【0070】
該水層に、10.4gのSpirdane(登録商標)D60を添加し、得られた混合物を0~5℃で混合した。Spirdane(登録商標)D60層の分離後、32.5gのH2SO4、96%を水層に添加した。得られた270.1gの水層および60.6gの有機イソ酪酸層を分離した。該有機層中の有機化合物は、99.5重量%を超のイソ酪酸から構成されていた。
【0071】
200mbar、80℃で、回転蒸発器で水を共沸除去した後、イソ酪酸を、別の供給源(この場合はSigma Aldrich)からのイソ酪酸と混合し、次いで、酢酸無水物と、イソ酪酸:酢酸無水物のモル比2:1.05で反応させ、加熱して、酢酸を400mbar未満および120℃で蒸留して、残渣としてイソ酪酸無水物を得た。次いで、この無水物を第1の工程に再利用し、H2O2と反応させる。
【国際調査報告】