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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-18
(54)【発明の名称】超分子構造体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/78 20060101AFI20220810BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C07K14/78 ZNA
C12N5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573760
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(85)【翻訳文提出日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 GB2020051399
(87)【国際公開番号】W WO2020249944
(87)【国際公開日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】1908522.4
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521542786
【氏名又は名称】セルラーエボリューション・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マルティナ・ミオット
(72)【発明者】
【氏名】チェ・ジョン・コノン
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BB22
4B065BB40
4B065BC50
4B065CA24
4B065CA41
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA01
4H045EA20
4H045EA60
(57)【要約】
本発明は、複数の融合フィブリルを含む超分子構造体であって、各フィブリルが複数の細胞接着モチーフリポペプチドを含む、超分子構造体に関する。本発明はまた、前記構造体、細胞維持、細胞培養、及び/又は細胞バイオプロセシングのための表面を含む水性媒体であって、前記構造体が表面内若しくは表面上に固定化されている、水性媒体、並びに細胞維持、細胞培養、及び/又はバイオプロセシングにおける前記構造体の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の融合フィブリルを含む超分子構造体であって、各フィブリルが複数の細胞接着モチーフリポペプチドを含む、超分子構造体。
【請求項2】
前記細胞接着モチーフが、細胞外マトリックスタンパク質配列又はその断片若しくはバリアントである、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記細胞外マトリックスタンパク質が、フィブロネクチン、コラーゲン、ルミカン、デコリン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブリノーゲン、エラスチン、バイグリカン、ヘパリン、テネイシン、及びオステオポンチンからなる群から選択される、請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
前記細胞接着モチーフが、
a)RGD(配列番号1)、RGDS(配列番号5)、PHSRN(配列番号6)、LDVP(配列番号7)、WQPPRARI(配列番号8)、IGD(配列番号9)、REDV(配列番号10)、及びIDAP(配列番号11)、若しくはそれらのバリアントから選択されるアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるフィブロネクチン断片、
b)KTTKS(配列番号2)、GTPGPQGIAGQRGVV(配列番号12)、GROGER(配列番号13)、GLKGEN(配列番号14)、GFOGER(配列番号15)、及びMNYYSNS(配列番号16)、若しくはそれらのバリアントから選択されるアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるコラーゲン断片、又は
c)EVTLN(配列番号17)、ELDLSYNKLK(配列番号18)、及びYEALRVANEVTLN(配列番号3)から選択されるアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるルミカン断片、又は
d)YIGSR(配列番号19)、IKVAV(配列番号20)、CCRRIKVAVWLC(配列番号21)、及びRGDから選択されるアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるラミニン断片である、請求項2又は3に記載の構造体。
【請求項5】
複数の前記細胞接着モチーフリポペプチドが、少なくとも2つの異なる細胞接着モチーフリポペプチドを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項6】
前記少なくとも2つの異なる細胞接着モチーフリポペプチドが、
a)KTTKS(配列番号2)を含むか又はそれからなる細胞接着モチーフリポペプチド、及び
b)YEALRVANEVTLN(配列番号3)を含むか又はそれからなる細胞接着モチーフリポペプチド
である、請求項5に記載の構造体。
【請求項7】
前記リポペプチドが、6から24個の炭素原子の炭素鎖を含む脂質部分を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の超分子構造体を含む水性媒体。
【請求項9】
細胞培養培地である、請求項8に記載の媒体。
【請求項10】
前記細胞培養培地が血清を含まない、請求項9に記載の媒体。
【請求項11】
前記細胞培養培地が、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)、ハムのF12、ライボビッツのL15培地、RPMI-1640、Mesencult(商標)基礎培地、及びDMEM-F12からなる群から選択される、請求項9又は10に記載の媒体。
【請求項12】
細胞維持、細胞培養、及び/又は細胞バイオプロセシングのための表面であって、請求項1から7のいずれか一項に記載の超分子構造体が前記表面内又は表面上に固定化されている、表面。
【請求項13】
前記表面が2D又は3Dである、請求項12に記載の表面。
【請求項14】
前記2D表面が、カバーガラス又は細胞培養容器の表面であり、任意選択で、前記細胞培養容器が、チューブ、フラスコ、皿、又は複数のウェルを含むプレートから選択される、請求項13に記載の表面。
【請求項15】
前記3D表面が足場であり、任意選択で、前記足場がヒドロゲル又はポリスチレン足場である、請求項13に記載の表面。
【請求項16】
細胞の維持、培養、及び/若しくはバイオプロセシングのための、請求項1から7のいずれか一項に記載の超分子構造体、又は請求項8から11のいずれか一項に記載の水性媒体、又は請求項12から15のいずれか一項に記載の表面の使用。
【請求項17】
前記バイオプロセシングがコラーゲン産生のためである、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記超分子構造体、媒体、又は表面が細胞成長を促進させる、請求項16に記載の使用。
【請求項19】
前記細胞が、ヒト間質前駆細胞、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞、及び不死化マウス筋芽細胞からなる群から選択される、請求項16から18のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の融合フィブリルを含む超分子構造体であって、各フィブリルが複数の細胞接着モチーフリポペプチドを含む、超分子構造体に関する。本発明はまた、前記構造体、細胞維持、細胞培養、及び/又は細胞バイオプロセシングのための表面を含む水性媒体であって、前記構造体が表面内若しくは表面上に固定化されている、水性媒体、並びに細胞維持、細胞培養、及び/又はバイオプロセシングにおける前記構造体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生細胞の成長における科学の進歩を利用した数多くの商業市場が確立され出現し、医薬品、幹細胞、遺伝子治療、又は細胞をベースにした肉をも含む新製品を製造している。これらの製品の目的は、人類の将来の必要性に適した商品を創出することである。このような製品はより持続可能であり、食糧不足、地球温暖化、又は医療へのアクセスに関連する問題に対処することができる。
【0003】
これらの応用の多くには、接着細胞を使用することが必要である。しかし、現在、これらの分野の発展を妨げる多くの問題がある。これらの問題には、汚染の危険性、高い費用、及びバッチ間の変動が伴う動物由来成分(血清等)の使用が含まれる。動物性製品の使用は適正製造規範にも準拠しておらず、倫理的な議論の的になることが多い。代替となる無血清培地は存在するが、これらは高価であり、全細胞種に利用できるわけではない。
【0004】
更に、現在の接着細胞の培養方法には、従来のバッチ細胞培養の限界が関連している。現在のバッチバイオプロセシング技術は、大きな表面積及び大量の成長培地(費用全体の最大70%を占める)を必要とするが、いずれも拡張性に限界がある。その結果、企業は市場の需要を満たすことができず、提供の可能性が低下し、より持続可能で、より安価で、より環境に優しい製品の開発が全体的に遅れる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】I. W. Hamley(Soft Matter, 2011, 7: 4122)
【非特許文献2】Stupp等(Faraday Discussions, 2013, 166: 9~30)
【非特許文献3】Cui H.等, Biopolymers, 2010; 94(1): 1~18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、細胞(接着細胞を含む)をより効率的に維持、培養、及びバイオプロセシングし、潜在的な副作用が少ない製品が必要とされている。本発明は、これらの問題の一部だけでも対処することができる製品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、特異なトポロジーを有する新しいリポペプチド超分子構造体を生成した。この新しい構造体は、複数の融合フィブリルを有し、各フィブリルが複数の細胞接着モチーフリポペプチドを含む。
【0008】
この新しい超分子構造体の生成は、本発明者等によって開発されたこのような構造体を作製する新しい方法によって可能になった。詳細には、本発明者等は、凍結乾燥リポペプチドを無血清細胞培養培地(SFM)に溶解することによって、リポペプチドが自己組織化してフィブリルを形成し、それらが互いに融合して、水中で生成される当技術分野で定義されたリポペプチド構造体とはトポロジー的に特異な超分子構造体を生成することを示した。したがって、本明細書で例示した構造体はSFMを使用して生成されたが、このような構造体は、水のイオン強度よりも大きいイオン強度を有するその他の溶媒を使用しても生成され得ることが理解されよう。
【0009】
本発明者等は、この新しい構造体は、その中でリポペプチドが自己組織化する溶媒のイオン強度の結果として形成されると考えている。本発明者等は、(水と比較して)高い溶媒のイオン強度が、リポペプチド間に静電引力を生成し、それがリポペプチドの組織化方法を変化させると仮定している。
【0010】
本発明者等は、この新しい超分子構造体が、様々な異なるリポペプチドの自己組織化によって形成され得ることを実証した。詳細には、本発明者等は、RGD(配列番号1)、KTTKS(配列番号2)、又はYEALRVANEVTLN(配列番号3)等の細胞接着モチーフを含む3つのリポペプチドの使用によってこれを実証した。
【0011】
驚くべきことに、本発明者等は、複数の融合フィブリルを含む超分子構造体であって、各フィブリルが複数の細胞接着モチーフリポペプチド(RGD、KTTKS、又はYEALRVANEVTLN等)を含む、超分子構造体が、細胞成長及び/又は細胞コラーゲン産生を増大させることを見出した。本発明者等は、融合フィブリルを含む超分子構造体が、当技術分野のフィブリル性超分子構造体と比較して異なる生理活性を有し、リポペプチドのアミノ酸部分の一部又は全部がそこから得られる内因性生体分子の機能をより良好に模倣することができると考えている。
【0012】
更に、本発明者等によって生成された超分子構造体は、水を使用して当技術分野で生成された構造体よりも高いフィブリル密度を有する。これは、細胞接着モチーフの密度が高い超分子構造体を生じる可能性があるため、有利であり得る。
【0013】
一態様では、複数の融合フィブリルを含む超分子構造体であって、各フィブリルが複数の細胞接着モチーフリポペプチドを含む、超分子構造体が本明細書で提供される。
【0014】
一実施形態では、細胞接着モチーフは、細胞外マトリックスタンパク質配列又はその断片若しくはバリアントである。
【0015】
一実施形態では、細胞外マトリックスタンパク質は、フィブロネクチン、コラーゲン、ルミカン、デコリン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブリノーゲン、エラスチン、バイグリカン、ヘパリン、テネイシン、及びオステオポンチンからなる群から選択される。
【0016】
一実施形態では、細胞接着モチーフは、
a)RGD(配列番号1)、RGDS(配列番号5)、PHSRN(配列番号6)、LDVP(配列番号7)、WQPPRARI(配列番号8)、IGD(配列番号9)、REDV(配列番号10)、及びIDAP(配列番号11)、若しくはそれらのバリアントから選択されるアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるフィブロネクチン断片、
b)KTTKS(配列番号2)、GTPGPQGIAGQRGVV(配列番号12)、GROGER(配列番号13)、GLKGEN(配列番号14)、GFOGER(配列番号15)、及びMNYYSNS(配列番号16)、若しくはそれらのバリアントから選択されるアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるコラーゲン断片、又は
c)EVTLN(配列番号17)、ELDLSYNKLK(配列番号18)、及びYEALRVANEVTLN(配列番号3)から選択されるアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるルミカン断片、又は
d)YIGSR(配列番号19)、IKVAV(配列番号20)、CCRRIKVAVWLC(配列番号21)、及びRGDから選択されるアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるラミニン断片である。
【0017】
一実施形態では、複数の細胞接着モチーフリポペプチドは、少なくとも2つの異なる細胞接着モチーフリポペプチドを含む。
【0018】
一実施形態では、少なくとも2つの異なる細胞接着モチーフリポペプチドは、
a)KTTKS(配列番号2)を含むか又はそれからなる細胞接着モチーフリポペプチド、及び
b)YEALRVANEVTLN(配列番号3)を含むか又はそれからなる細胞接着モチーフリポペプチドである。
【0019】
一実施形態では、リポペプチドは、6から24個の炭素原子の炭素鎖を含む脂質部分を含む。
【0020】
一態様では、本明細書で記載したような超分子構造体を含む水性媒体が、本明細書で提供される。
【0021】
一実施形態では、媒体は細胞培養培地である。
【0022】
一実施形態では、細胞培養培地は血清を含まない。
【0023】
一実施形態では、細胞培養培地は、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)、ハムのF12、ライボビッツのL-15培地、RPMI-1640、Mesencult(商標)基礎培地、又はDMEM-F12である。
【0024】
一態様では、細胞維持、細胞培養、及び/又は細胞バイオプロセシングのための表面であって、本明細書で記載したような超分子構造体が表面内又は表面上に固定化されている、表面が本明細書で提供される。
【0025】
一実施形態では、表面は2D又は3Dである。
【0026】
一実施形態では、2D表面は、カバーガラス又は細胞培養容器の表面であり、任意選択で、細胞培養容器は、チューブ、フラスコ、皿、又は複数のウェルを含むプレートから選択される。
【0027】
一実施形態では、3D表面は足場であり、任意選択で、足場はヒドロゲル又はポリスチレン足場である。
【0028】
一態様では、細胞の維持、培養、及び/若しくはバイオプロセシングのための、本明細書で記載したような超分子構造体、又は水性媒体、又は表面の使用が、本明細書で提供される。
【0029】
一実施形態では、バイオプロセシングはコラーゲン産生のためである。
【0030】
一実施形態では、超分子構造体、媒体、又は表面は細胞成長を促進する。
【0031】
一実施形態では、細胞は、ヒト間質前駆細胞、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞、及び不死化マウス筋芽細胞からなる群から選択される。
【0032】
文脈上別段の必要がある場合を除いて、本開示に記載されている考察は、本発明による構造体、水性媒体、及び表面、並びにそれらの使用に適用することができると考えるべきである。
【0033】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通じて、「含む(comprise)」及び「含有する(contain)」という用語及びそれらの変形は、「含むがそれらに限定されない」を意味し、その他の部分、添加物、成分、整数、又はステップを除外することを意図していない(及び除外しない)。
【0034】
本明細書の説明及び特許請求の範囲全体を通して、文脈上別段の必要がない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、文脈上別段の必要がない限り、本明細書は単数形だけでなく複数形も考慮していると理解されるべきである。
【0035】
本発明の特定の態様、実施形態、又は例に関連して記載された特徴、整数、特性、化合物、化学的部分、又は基は、それらと適合しない場合を除き、本明細書で記載したその他の任意の態様、実施形態、又は例に適用可能であると理解されるべきである。
【0036】
本発明の様々な態様を以下に更に詳細に説明する。
【0037】
本発明の実施形態を、添付の図面を参照にして以後に更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】RGDSリポペプチドの原子間力顕微鏡(AFM)によって実施された前方偏向スキャン分析によって、水中(左)又は無血清培地中(SFM;右)のいずれかで自己組織化した単一型RGDSリポペプチドのトポグラフィー的特性を示した図である。スケールバー:1μm。挿入図のサイズ:1μm×1μm。この図は、水中対SFM中でのリポペプチドの可溶化から得られた自己組織化構造体の違いを強調している(後者は本明細書で記載したような融合フィブリルを含む)。
図2】無血清培地(SFM;上)中又は水(下)中で自己組織化した単一型及び複合リポペプチド系のトポグラフィー的特性を示した図である。RGDS、ルミカン(Lumican)、マトリキシル(Matrixyl)、及びルミカン:マトリキシルリポペプチドの原子間力顕微鏡(AFM)によって実施された前方偏向スキャン(それぞれ、グレースケール=500及び100nm)。上図のスケールバー:画像については8μm、挿入図については2μm。下図のスケールバー:画像については1μm、挿入図については0.5μm。
図3】無血清培地(SFM)中又は水中で自己組織化したリポペプチドと共に培養されたヒト間質前駆細胞で実施された細胞の生体適合性及び生理活性アッセイの結果を示した図である(Cell number (% of seeded cells)は、細胞数(接種した細胞の%)を表す)。グラフは、蒸留水(H2O)又はSFMのいずれかに様々な濃度で可溶化したルミカン(A)、マトリキシル(C)、及びRGDSリポペプチド(E)を使用した場合の3日目及び7日目のヒト間質前駆細胞の増殖、並びに水又はSFMのいずれかに予め可溶化したルミカン(B)、マトリキシル(D)、及びRGDSリポペプチド(F)と共に7日間培養した後に、ヒト間質前駆細胞によって沈着されたコラーゲンの量を示した図である。全実験について平均±S.D.、n=3;*、**、***、及び****は対照(0 SFM)と比較して統計学的に有意差があることを意味し、それぞれp<0.05、0.01、0.001、及び0.0001に対応する。
図4】細胞培養培地がRGDSを補給したヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hASC)の増殖に及ぼす影響を示した図である。SFM又は蒸留水(H2O)のいずれかに50μMで可溶化したRGDSリポペプチドの存在下での3日目及び7日目のhASCの増殖。全実験について平均±S.D.、n=3;****はSFM中の対照と比較して統計学的に有意差があることを意味し、0.0001に対応する。
図5】細胞培養培地がルミカン又はマトリキシルを補給したhASCの増殖に及ぼす影響を示した図である。(A)無血清培地(SFM)又は蒸留水(H2O)のいずれかに50μMで可溶化したルミカン又はマトリキシルリポペプチドの存在下での3日目及び7日目のhASC増殖をAlamar Blueアッセイによって報告した図である。SFM又はH2Oのいずれかに50又は25μMで可溶化したルミカン(B)又はマトリキシルリポペプチド(C)と共に7日間培養した後に、hASCによって沈着されたコラーゲン(Collagen)の総量を報告した図である。全実験について平均±S.D.、n=3。
図6】リポペプチドが自己組織化している細胞培養培地がC2C12細胞の生体適合性及び生理活性にどのように影響を及ぼすかを示した図である(Cell number (x-fold of controlは、細胞数(対照のx倍)を表す)。(A)蒸留水(H2O)又は無血清培地(SFM)のいずれかに様々な濃度で可溶化したルミカンリポペプチドを使用した場合の3日目及び7日目のC2C12増殖を示した図である。(B)H2O又はSFMのいずれかに予め可溶化したルミカンリポペプチドと共に7日間培養した後に、C2C12によって沈着されたコラーゲンの量を示した図である。全実験について平均±S.D.、n=1;*、**、***、及び****は統計学的に有意差があることを意味し、それぞれp<0.05、0.01、0.001、及び0.0001に対応する。
図7】リポペプチドが自己組織化している細胞培養培地がC2C12細胞の生体適合性及び生理活性にどのように影響するかを示した図である。(A)蒸留水(H2O)又は無血清培地(SFM)のいずれかに様々な濃度で可溶化したマトリキシルリポペプチドを使用した場合の3日目及び7日目のC2C12増殖を示した図である。(B)H2O又はSFMのいずれかに予め可溶化したマトリキシルリポペプチドと共に7日間培養した後に、C2C12によって沈着されたコラーゲンの量を示した図である。全実験について平均±S.D.、n=1;*、**、***、及び****は統計学的に有意差があることを意味し、それぞれp<0.05、0.01、0.001、及び0.0001に対応する。
図8】リポペプチドが自己組織化している細胞培養培地がC2C12細胞の生体適合性及び生理活性にどのように影響するかを示した図である。(A)蒸留水(H2O)又は無血清培地(SFM)のいずれかに様々な濃度で可溶化したRGDSリポペプチドを使用した場合の3日目及び7日目のC2C12増殖を示した図である。(B)H2O又はSFMのいずれかに予め可溶化したRGDSリポペプチドと共に7日間培養した後に、C2C12によって沈着されたコラーゲンの量を示した図である。全実験について平均±S.D.、n=1;*、**、***、及び****は統計学的に有意差があることを意味し、それぞれp<0.05、0.01、0.001、及び0.0001に対応する。
図9】(A)ライボビッツのL-15培地、(B)RPMI 1640培地、(C)DMEM-F12培地、(D)Mesencult(商標)基礎培地;(E)水対照中で自己組織化した単一型RGDSリポペプチドのトポグラフィー的特性を示した図である。細胞培養培地中で組織化したリポペプチドが、複数の融合フィブリルを含む超分子構造体を形成していることがわかる。スケールバーは2μmに対応する。
【発明を実施するための形態】
【0039】
複数の融合フィブリルを含む超分子構造体が、本明細書で提供される。
【0040】
「超分子構造体」「融合フィブリル性構造体」又は「構造体」という用語は、本明細書では同義に使用されており、複数のフィブリルから構成される集合体を意味する。フィブリルは超分子構造体内で互いに融合している。各フィブリルは複数の細胞接着モチーフリポペプチドを含む。超分子構造体は、フィブリルが一緒に融合したフィブリルの配置として説明することもできる。
【0041】
融合フィブリルは、低温透過型電子顕微鏡法(cryo-TEM)、AFM、又はX線小角散乱を使用して識別することができることが理解されよう。適切な方法の詳細を本明細書の別のところで記載する。
【0042】
本明細書で使用したように、「フィブリル」という用語は、リポペプチドから形成される繊維様構造体を意味する。繊維様構造体(すなわち、フィブリル)は、ナノファイバー、フィラメント、テープ、チューブ、ねじれ繊維、ツイストフィラメント、ツイストテープ、ツイストチューブ、又はネットワーク、或いはそれらの組み合わせであってもよい。フィブリルの構造的特性は当技術分野でよく知られている(例えば、I. W. Hamley(Soft Matter, 2011, 7: 4122)及びStupp等(Faraday Discussions, 2013, 166: 9~30))による以下の概説を参照のこと)。
【0043】
典型的には、フィブリルは、幅約40~290nm及び/又は長さ約150~2500nmの領域内であってよい。構造体は、均一及び/又は不均一な形状のフィブリルから形成されていてもよい。構造体内では、フィブリルは実質的に同じサイズ又は異なるサイズであってもよい。
【0044】
構造体中に存在する複数のフィブリルは一緒に融合している。例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ以上のフィブリルを一緒に融合させて構造体を形成することができる。
【0045】
融合フィブリル性構造体は、高密度の球状の沈着物を形成することができる。球状の沈着物は、少なくとも200nmの直径を有し得る。例えば、球状沈着物は、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも600、少なくとも700、少なくとも800nm等の直径を有し得る。一例では、球状沈着物は、約200から約800nmの幅の直径を有する。
【0046】
本明細書で記載した超分子構造体は、水中で自己組織化した同じリポペプチドを使用して当技術分野で生成されたものよりも高いフィブリル密度を有する。密度は、低温透過型電子顕微鏡法(cryo-TEM)又はAFMを使用して、異なる条件で形成された構造体が占める総面積を分析することによって、決定することができることが理解されよう。その他の適切な方法の詳細も当業者によく知られている。
【0047】
一例では、本明細書で記載した超分子構造体は、水中で自己組織化した同じリポペプチドを使用して生成された超分子構造体のフィブリルの密度よりも少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%高いフィブリルの密度を有する。例えば、本明細書で生成された超分子構造体は、水中で自己組織化した同じリポペプチドを使用して生成された超分子構造体のフィブリルの密度よりも少なくとも40%高いフィブリルの密度を有し得る。
【0048】
当業者によって理解されるように、本明細書の文脈において、溶媒として水を使用して生成された超分子構造体に対して比較が行われた場合、意味される水は蒸留水である。したがって、本明細書で「水」溶媒といえば蒸留水を意味する。
【0049】
一例では、フィブリルはナノテープである。言い換えると、この例において、超分子構造体は複数の融合ナノテープを含む。
【0050】
典型的には、ナノテープは、幅約40~290nm及び/又は長さ約150~2500nmの領域内であってもよい。構造体は、均一及び/又は不均一な形状のナノテープから形成されていてもよい。構造体内では、ナノテープは実質的に同じサイズ又は異なるサイズであってもよい。
【0051】
構造体中に存在する複数のナノテープは一緒に融合している。例えば、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、又はそれ以上のナノテープが一緒に融合して構造体を形成していてもよい。
【0052】
本明細書で使用した「リポペプチド」という用語は、脂質部分及びアミノ酸部分を含むか又はそれらからなる両親媒性分子を意味する。「リポペプチド」、「両親媒性分子」、「ペプチド両親媒性物質」、及び「PA」という用語は、本明細書では同義に使用される。両親媒性の特質によって、複数のリポペプチドが自己組織化して超分子構造体になることができる。リポペプチドはよく知られており、それらの自己組織化の特質は当技術分野で十分に特徴付けられている(例えば、Cui H.等, Biopolymers, 2010; 94(1): 1~18を参照のこと)。したがって、適切なリポペプチドは、例えば、特定の条件下で自己組織化して超分子構造体を形成する傾向を試験することによって、当業者によって容易に識別され得る。リポペプチドの自己組織化及び対応するc.a.c.は、チオフラビン(ThT)及びピレン(Pyr)蛍光分光法によって評価することができる。蛍光スペクトルは、蛍光分光計で記録される。ThTアッセイの場合、スペクトルは典型的に、励起波長λex=440nmを使用して460~600nmで記録され、リポペプチドは4~5×10-3%(w/v)ThT溶液中に溶解される。Pyrアッセイの場合、スペクトルは典型的に、励起波長λex=339nmを使用して360~550nmで記録される。Pyrアッセイは、希釈剤として1~1.5×10-5%(w/v)Pyr溶液を使用して実施される。蛍光強度は、リポペプチド濃度の対数に対してプロットされる。データの屈曲点は、ThT/Pyr分子の環境の変化を意味し、c.a.c.を識別するために使用される。
【0053】
リポペプチドナノ構造体は、電界放出型低温電子顕微鏡(例えば、JEOL JEM-3200FSC)、AFM、又はX線小角散乱を使用した低温透過型電子顕微鏡(cryo-TEM)によって評価することができる。cryo-TEMの場合、ガラス状標本を、ホールサイズ3.5μmのホールカーボン銅グリッド上で準備する。リポペプチド溶液をグリッドに塗布し、次に液体エタン及びプロパンの1/1混合液で-180℃でガラス状にする。低温電子顕微鏡は、画像化中、-187℃で操作する。リポペプチド溶液は、約10~5Paで-187℃から-60℃まで加熱してから、-187℃で画像化する。顕微鏡での凍結乾燥方法と同等の-187から-60℃への加熱方法によって、試料から氷を昇華させ、ガラス化した水を除去する。明視野モード及びスリット幅20eVのゼロロスエネルギーフィルタリング(オメガ型)を使用して画像を撮影する。顕微鏡写真は、CCDカメラ(例えば、Gatan Ultrascan 4000)を使用して記録する。
【0054】
本明細書で使用した「複数」という用語は、2つ又は3つ以上として定義される。構造体中の2つ又は3つ以上のリポペプチドは同じでもあっても異なっていてもよい。
【0055】
リポペプチドのアミノ酸部分は、天然又は合成のアミノ酸配列であってもよい。天然のアミノ酸配列は、自然界に存在し、タンパク質又はその断片をコードする配列である。天然のアミノ酸配列は、ヒト、動物、植物、真菌、原生生物、古細菌、及び/又は細菌のタンパク質又はそれらの断片をコードしていてもよい。例えば、断片は、約3から約20又は約3から約10のアミノ酸等の、約3から約40のアミノ酸を含んでいてもよい。
【0056】
アミノ酸部分は、細胞接着に関与する細胞外マトリックスタンパク質配列(すなわち、細胞外マトリックスタンパク質の配列;モチーフとも呼ばれる)を含んでいてもよい。或いは、アミノ酸部分は、このような配列の断片又はバリアントを含んでいてもよく、断片又はバリアントも細胞接着に関与している。このような配列(それらの断片及びバリアントを含む)は、本明細書では「細胞接着モチーフ」と呼ばれる。言い換えると、本明細書で使用したように、「細胞接着モチーフ」という用語は、細胞接着に関与する細胞外マトリックスタンパク質モチーフ、並びにそれらの断片及びバリアントを包含する。したがって、「細胞接着モチーフ」という用語は、細胞外マトリックスタンパク質細胞接着モチーフ、又はそれらの断片又はバリアントを包含し、断片又はバリアントも細胞接着に関与している。
【0057】
したがって、本明細書で使用したように、「細胞接着モチーフリポペプチド」という用語は、細胞接着に関与する細胞外マトリックスタンパク質モチーフ、又はその断片若しくはバリアントを含むか又はそれからなるアミノ酸部分を含むリポペプチドを表す。
【0058】
本明細書で使用したように、「細胞接着に関与する」とは、リポペプチドに対する細胞接着を促進すること、及び/又は、例えば、細胞の表面に表示されるインテグリン等の細胞表面分子を介して細胞に結合することによって、細胞に直接接着又は結合することを意味する。細胞接着モチーフは通常、例えば、細胞の表面に表示されたインテグリン等の細胞表面分子を介して細胞に結合することによって、細胞に直接接着することができる。
【0059】
細胞接着に関与する多くの細胞外マトリックスタンパク質が当技術分野で知られている。例として、細胞接着に関与する細胞外マトリックスタンパク質は、フィブロネクチン、コラーゲン(I、II、III、及びV型等)、ルミカン、デコリン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブリノーゲン、エラスチン、バイグリカン、ヘパリン、テネイシン、及びオステオポンチンからなる群から選択することができる。更に、細胞接着モチーフは、上述の分子の結合ドメインを含有する誘導体又は断片を含む、前述のタンパク質のいずれかから得られる任意のペプチドであってもよい。モチーフの例には、RGD(アルギニン-グリシン-アスパラギン酸)モチーフ、YIGSR(チロシン-イソロイシン-グリシン-セリン-アルギニン)モチーフ等のインテグリン結合モチーフ、及び機能的に同等な関連ペプチドが含まれる。例えば、RGD配列(例えば、RGDS)及びWQPPRARI配列を含有するペプチドは、内皮細胞の拡散及び遊走の特質を誘導することが知られており、YIGSRペプチドは上皮細胞の付着を促進することが示された。アミノ酸配列が細胞接着モチーフであるかどうかは、特定の細胞型への接着及び選択性についてペプチドライブラリーをスクリーニングすることによって判定することができる。細胞接着モチーフは、ファージディスプレイ技術を介して経験的に開発することもできる。
【0060】
リポペプチドのアミノ酸部分は、1つ又は複数の細胞接着モチーフを含むか、又はそれらからなることができる。例えば、リポペプチドのアミノ酸部分は、2、3、4、5、又はそれ以上の細胞接着モチーフを含むか、又はそれらからなることができる(直列であってもよく、又は、例えば、リポペプチドのアミノ酸部分内のその他のアミノ酸若しくはリンカーによって空間的に分離されていてもよい)。リポペプチドのアミノ酸部分が複数の細胞接着モチーフを含む例では、モチーフの一部又は全部は同じであってもよい。或いは、モチーフの一部又は全部は異なっていてもよい。
【0061】
細胞接着モチーフは、細胞接着に関与する細胞外マトリックスタンパク質又はその断片若しくはバリアント(すなわち、細胞接着に関与する細胞外マトリックスタンパク質;細胞外マトリックスタンパク質のバリアント、このバリアントは細胞接着に関与する;細胞外マトリックスタンパク質の断片、この断片は細胞接着に関与する;又は細胞外マトリックスタンパク質の断片のバリアント、この断片のバリアントは細胞接着に関与する)であってもよい。
【0062】
細胞接着モチーフは、RGD、RGDS、PHSRN、LDVP、WQPPRARI、IGD、REDV、及びIDAP、又はそれらのバリアントからなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなるフィブロネクチン断片であってもよい。バリアントは、例えば、RGD、RGDS、PHSRN、LDVP、WQPPRARI、IGD、REDV、及びIDAPからなる群から選択されるアミノ酸配列と比較して1、2、又は3個の保存的アミノ酸置換を有する保存的アミノ酸置換バリアントであってもよい。
【0063】
或いは、細胞接着モチーフは、KTTKS、GTPGPQGIAGQRGVV、GROGER、GLKGEN、GFOGER、及びMNYYSNS又はそれらのバリアントからなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなるコラーゲン断片であってもよい。バリアントは、例えば、KTTKS、GTPGPQGIAGQRGVV、GROGER、GLKGEN、GFOGER、及びMNYYSNSからなる群から選択されるアミノ酸配列と比較して1、2、又は3個の保存的アミノ酸置換を有する保存的アミノ酸置換バリアントであってもよい。
【0064】
或いは、細胞接着モチーフは、EVTLN、ELDLSYNKLK、及びYEALRVANEVTLN、又はそれらのバリアントからなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなるルミカン断片であってもよい。バリアントは、EVTLN、ELDLSYNKLK、及びYEALRVANEVTLNからなる群から選択されるアミノ酸配列と比較して、例えば、1、2、又は3個の保存的アミノ酸置換を有する保存的アミノ酸置換バリアントであってもよい。
【0065】
或いは、細胞接着モチーフは、YIGSR、IKVAV、CCRRIKVAVWLC、及びRGD、又はそれらのバリアントからなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなるラミニン断片であってもよい。バリアントは、YIGSR、IKVAV、CCRRIKVAVWLC、及びRGDからなる群から選択されるアミノ酸配列と比較して、例えば、1、2、又は3個の保存的アミノ酸置換を有する保存的アミノ酸置換バリアントであってもよい。
【0066】
前述のように、リポペプチドのアミノ酸部分は合成であってもよい。「合成」とは、それらが自然界には存在しないアミノ酸配列を含むことを意味する。合成アミノ酸部分は、自然界に生じるアミノ酸配列、例えばペプチドに類似していてもよい。単なる例として、合成細胞接着モチーフは、V2A2E2、HSNGLPLGGGSEEEAAAVVV(配列番号22)、HSNGLPLGGGSEEEAAAVVV(K)(配列番号23)、及びHSNGLPLGGGSEEEAAAVVVK(配列番号24)、又はそれらのバリアントからなる群から選択することができる。
【0067】
アミノ酸部分は酵素切断可能な配列を含んでいてもよい。
【0068】
一例では、アミノ酸部分は酵素切断可能な配列及び細胞接着モチーフを含むか又はそれらからなっていてもよい。このような例では、酵素切断可能な配列はアミノ酸部分のN末端にあってもよく、一方、細胞接着モチーフはアミノ酸部分のC末端にあってもよい。
【0069】
「酵素切断可能な配列」という用語は、酵素によって切断することができるアミノ酸配列を意味する。酵素は、例えば、プロテアーゼであってもよい。プロテアーゼによって切断することができる酵素切断可能な配列はまた、プロテアーゼ切断可能配列と呼ばれることがあることは理解されるであろう。プロテアーゼ及びプロテアーゼによって切断される配列の例は、当業者によく知られているであろう。単なる例として、プロテアーゼは、メタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、及びアスパラギンペプチドリアーゼからなる群から選択することができる。メタロプロテアーゼは、例えば、MMP1又はMMP2であってもよい。TPGPQGIAGQ(配列番号25)は、MMP1又はMMP2によって切断することができる酵素切断可能な配列の一例である。
【0070】
酵素切断可能な配列の存在は、本明細書で開示した融合フィブリル性超分子構造体で維持及び/又は培養された細胞の自発的放出を可能にするために有用であり得る。酵素切断可能な配列の切断によって超分子構造体から放出された細胞は、担体を含まず、構造的に、及び/又は表現型的に、それらの天然の対応物と同等であることができる。このような細胞は、例えば、自家移植の場合有利であり得る。「担体を含まない」とは、細胞が維持及び/又は培養された超分子構造体の残遺物を含まないことを意味する。
【0071】
本明細書で使用した「断片」という用語は、対応する野生型アミノ酸配列の切り詰め型であるペプチドを意味する。ペプチドの断片は、それに対応する野生型アミノ酸配列の部分と100%同一性を共有していてもよい。
【0072】
本明細書で使用したように、「バリアント」という用語は、対応する野生型アミノ酸配列と比較して、1つ又は複数のアミノ酸が異なるアミノ酸で置き換えられているペプチドを意味する。ペプチドの活性の性質を変化させることなく、いくつかのアミノ酸を広義に類似した特質を有するその他のアミノ酸に変化させることができることは当技術分野でよく理解されている(保存的置換)。一般的に、ペプチドの特質に最大の変化をもたらす可能性のある置換とは、(a)親水性残基(例えば、Ser又はThr)が疎水性残基(例えば、Leu、lie、Phe、又はVal)の代わりに、又はそれによって置換されるもの;(b)システイン又はプロリンが任意のその他の残基の代わりに、又はその他の残基によって置換されるもの;(c)電気的陽性側鎖を有する残基(例えば、Arg、His、又はLys)が電気的陰性残基(例えば、Glu、又はAsp)の代わりに、又はそれらによって置換されるもの、或いは(d)かさ高い側鎖を有する残基(例えば、Phe又はTrp)がより小さな側鎖を有する残基(例えば、Ala、Ser)又は側鎖を有さない残基(例えば、Gly)の代わりに、又はそれらによって置換されるものである。
【0073】
細胞接着タンパク質の断片又はバリアントは、対応する野生型ペプチドの生物学的機能を実質的に保持することができる。本明細書で使用した「生物学的機能」という用語は、細胞結合を促進する能力を意味していてもよい。生物学的機能を「実質的に保持する」とは、断片又はバリアントが、野生型ペプチドの、例えば、細胞結合を促進する生物学的機能の少なくとも約50%、60%、75%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、又はそれ以上を保持することを意味する。実際に、断片又はバリアントは、野生型ペプチドよりも高い生物学的機能を有することができる。断片又はバリアントは、野生型ペプチドの、例えば、細胞結合を促進する生物学的機能の110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、又はそれ以上を有することができる。
【0074】
リポペプチドの脂質部分は、直鎖状、分枝状、又は環状であってもよい。例えば、脂質部分は直鎖状であってもよい。
【0075】
脂質部分は、6から24個の炭素原子の疎水性炭素鎖を含んでいてもよい。したがって、脂質部分は、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24個、又はそれ以上の炭素原子の炭素鎖を含んでいてもよい。例えば、脂質部分は、16又は18個の炭素原子の炭素鎖を含むであろう。脂質部分が、例えば、C16又はC18と呼ばれる場合、脂質部分が、それぞれ、16個又は18個の炭素原子の炭素鎖を含むことを意味することが理解されよう。限定ではなく例として、脂質部分は、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデセン酸(ステアリン酸)、オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸を含むか、又はそれらからなっていてもよい。
【0076】
脂質部分は飽和又は不飽和であってもよい。
【0077】
リポペプチドの脂質部分及びアミノ酸部分は、直接的又は間接的に付着していてもよい。直接的な付着とは、脂質部分及びペプチド部分がリンカーによって分離されていないことを意味する。例えば、脂質部分及びアミノ酸部分は共有結合していてもよい。間接的な付着とは、脂質部分及びペプチド部分がリンカーによって分離されていることを意味する。
【0078】
本明細書で使用した「リンカー」という用語は、脂質部分とアミノ酸部分との間に位置する部分を意味する。適切なリンカーを選択することは、当業者の能力の範囲内である。例えば、剛直なリンカーが望まれる場合、剛直な多価不飽和アルキル又はアリール、ビアリール、ヘテロアリール等であってもよい。柔軟なリンカーが望まれる場合、Gly-Gly-Gly等の柔軟なペプチド、又は柔軟な飽和アルカニル若しくはヘテロアルカニルであってもよい。親水性リンカー又はスペーサーは、例えば、ポリアルコール又はポリエーテル、例えば、ポリアルキレングリコールであってもよい。疎水性リンカーは、例えば、アルキル又はアリールであってもよい。
【0079】
例えば、リンカーは、Gly-Gly-Gly等の柔軟なペプチドであってもよい。
【0080】
一例では、細胞接着モチーフリポペプチドは、C16脂質部分及び配列RGDSを含むか又はそれからなるアミノ酸部分を含むことができる。この例では、リポペプチドは、脂質とRGDS配列との間にリンカー(例えば、Gly-Gly-Glyリンカー)を含むことができる。
【0081】
別の例では、細胞接着モチーフリポペプチドは、C16脂質部分並びに配列RGDS及び酵素切断可能配列を含むか又はそれらからなるアミノ酸部分を含むことができる。この例では、酵素切断可能な配列はTPGPQGIAGQであってもよい。酵素切断可能な配列はアミノ酸部分のN末端にあってもよく、細胞接着モチーフはアミノ酸部分のC末端にあってもよい。
【0082】
別の例では、細胞接着モチーフリポペプチドは、C16脂質部分及び配列YEALRVANEVTLNを含むか又はそれらからなるアミノ酸部分を含んでいてもよい。この例では、脂質部分とアミノ酸部分との間のリンカーは必要とされなくてもよく、例えば、脂質部分及びYEALRVANEVTLNアミノ酸配列が直接付着していてもよい。
【0083】
別の例では、細胞接着モチーフリポペプチドは、C16脂質部分及び配列KTTKSを含むか又はそれからなるアミノ酸部分を含んでいてもよい。この例では、脂質部分とアミノ酸部分との間のリンカーは必要とされなくてもよく、例えば、脂質部分及びKTTKSアミノ酸配列が直接付着していてもよい。
【0084】
超分子構造体は、単一型又は複合体であってもよい。
【0085】
構造体が同一でない分子で構成されている場合、構造体は複合体であり、分子の一部又は全部はリポペプチドであり、リポペプチドの少なくとも1つは細胞接着モチーフリポペプチドである。
【0086】
一例では、複合構造体は、少なくとも2つの異なるリポペプチドを含むか、又はそれらからなり、リポペプチドの少なくとも1つは、細胞接着モチーフリポペプチドである。複合構造体は、少なくとも1つの非細胞性接着モチーフリポペプチドを更に含んでいてもよい。非細胞性接着モチーフリポペプチドとは、細胞結合を促進するアミノ酸配列を含まないものである。複合構造体は、構造体の明確に定義された個別のドメイン中に均等に分散しているか、又は分離している異なるリポペプチドによって構成されていてもよい。
【0087】
一例では、少なくとも1つの細胞接着モチーフリポペプチドは、C16脂質部分及び配列YEALRVANEVTLNを含むか又はそれからなるアミノ酸部分を含んでいてもよい。接着モチーフリポペプチドはまた、脂質部分とアミノ酸部分との間にGly-Gly-Glyリンカーを更に含むことができる(例えば、脂質部分とYEALRVANEVTLN配列との間にGly-Gly-Glyリンカーがあってもよい)。
【0088】
立体障害を低減するために、少なくとも1つの非細胞性接着モチーフリポペプチドを使用して超分子構造体を形成する細胞接着モチーフリポペプチドを希釈することができる。
【0089】
一例では、複合構造体は、少なくとも2つの異なるリポペプチドを含むか、又はそれらからなり、少なくとも2つのリポペプチドはいずれも(特異な)細胞接着モチーフリポペプチドである。例えば、少なくとも2つの細胞接着モチーフリポペプチドのうちの1つは、C16脂質部分及び配列YEALRVANEVTLNを含むか又はそれからなるアミノ酸部分を含んでいてもよい。このようなリポペプチドは「C16-YEALRVANEVTLN」と呼ばれることがある。接着モチーフリポペプチドは、脂質部分とアミノ酸部分との間にGly-Gly-Glyリンカーを更に含むことができる。このようなリポペプチドは「C16-GGG-YEALRVANEVTLN」と呼ばれることがある。少なくとも2つの細胞接着モチーフリポペプチドのうちの2番目は、C16脂質部分及び配列KTTKSを含むか又はそれからなるアミノ酸部分を含んでいてもよい。このようなリポペプチドは「C16-KTTKS」と呼ばれることがある。
【0090】
複合構造体では、異なるリポペプチドの比が変動することがあることが理解されよう。例えば、構造体が2つの異なる種類のリポペプチドを含む場合、第1のリポペプチドの第2のリポペプチドに対するモル比は、約1:10から約10:1、約1:9から約9:1、約1:8から約8:1、約1:7から約7:1、約1:6から約6:1、約1:5から約5:1、約1:4から約4:1、約1:3から約3:1、約1:2から約2:1、又は約1:1であってもよい。例えば、第1のリポペプチドの第2のリポペプチドに対する比は、約1:7から約7:1、約1:6から約6:1、又は約1:5から約5:1であってもよい。
【0091】
構造体が同一のリポペプチド分子で構成されている場合、単一型である。
【0092】
構造体が単一型である一実施形態では、構造体は、C16脂質部分並びにRGDS、EALRVANEVTLN、及びKTTKSからなる群から選択される細胞接着モチーフを含むアミノ酸部分を含む細胞接着モチーフリポペプチドを含んでいてもよい。一例では、アミノ酸配列がRGDSの場合、細胞接着モチーフリポペプチドは、脂質部分とRGDS配列との間にGly-Gly-Glyリンカーを更に含んでいてもよい。
【0093】
構造体が単一型である一実施形態では、構造体は、C16脂質部分並びにRGDS、EALRVANEVTLN、及びKTTKSからなる群から選択される細胞接着モチーフを含むアミノ酸部分を含む細胞接着モチーフリポペプチドを含んでいてもよい。一例では、アミノ酸配列がRGDSである場合、アミノ酸部分は、酵素切断可能な配列(例えば、TPGPQGIAGQ)を更に含むことができる。酵素切断可能な配列はアミノ酸部分のN末端にあってもよく、細胞接着モチーフはアミノ酸部分のC末端にあってもよい。
【0094】
本発明者等は、本明細書で記載した融合フィブリル性超分子構造体が、蒸留水のイオン強度よりも大きいイオン強度を有する水性媒体中で自己組織化する場合に、リポペプチドから形成されることを見出した。しかし、驚くべきことに、一旦融合フィブリル性超分子構造体が形成されると、その構造体は、異なる媒体(例えば、水等、構造体が自己組織化する溶媒よりもイオン強度が低い媒体)中に配置された場合でもそのトポロジーを維持する。
【0095】
したがって、本明細書で記載したような融合フィブリル性超分子構造体を含む水性媒体を本明細書で提供する。本明細書で既に記載したように、融合フィブリル性超分子構造体は、複数の細胞接着モチーフリポペプチドを含む。
【0096】
本明細書で使用した「水性媒体」という用語は、水を含有する任意の液体媒体を意味する。水性媒体は、細胞培養培地、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、又はその他の生理食塩水であってもよく、或いは実際には水であってもよい。しかし、「水性媒体」という用語は、水が常に媒体の主成分であるべきであることを意味するものではないことが理解されよう。水性媒体は血清を含んでいなくてもよい。
【0097】
「細胞培養培地」及び「培養培地」(それぞれの場合において複数は「培地(media)」)という用語は、生細胞を培養するための栄養溶液を意味し、同義に使用することができる。細胞培養培地は完全な配合物、すなわち細胞を培養するための補給を必要としない細胞培養培地であってもよく、又は不完全な配合物、すなわち補給を必要とする細胞培養培地であってもよく、又は不完全な配合物を補給することができる培地であってもよく、完全な配合物の場合、培養又は培養結果を改善することができる。
【0098】
様々な細胞培養培地が当業者に知られており、培養される細胞の種類が使用される培養培地の種類を決定し得ることも理解されるであろう。
【0099】
単なる例であり、限定ではないが、培養培地は、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)、ハムのF-12(F-12)、ライボビッツのL-15培地、RPMI-1640、Mesencult(商標)基礎培地、最小必須培地(MEM)、基礎培地イーグル(BME)、ハムのF-10、α最小必須培地(αMEM)、グラスゴーの最小必須培地(G-MEM)、及びIscoveの改変ダルベッコ培地(IMDM)、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択することができる。市販されている(例えば、Thermo Fisher Scientific社、Waltham、MAから)その他の培地、又は他の場合に当技術分野で知られているその他の培地を、本開示の場合に同様に使用することができる。更に、単なる例として、培地は293SFM、CD-CHO培地、VP SFM、BGJb培地、BrinsterのBMOC-3培地、細胞培養凍結培地、CMRL培地、EHAA培地、eRDF培地、Fischerの培地、GamborgのB-5培地、GLUTAMAX(商標)補給培地、Graceの昆虫細胞培地、HEPES緩衝培地、Richterの改変MEM、IPL-41昆虫細胞培地、McCoyの5A培地、MCDB 131培地、培地199、改変イーグル培地(MEM)、培地NCTC-109、Schneiderのショウジョウバエ培地、TC-100昆虫培地、WaymouthのMB 752/1培地、Williamの培地E、タンパク質を含まないハイブリドーマ培地II(PFHM II)、AIM V培地、角化細胞SFM、合成角化細胞SFM、STEMPRO(登録商標)SFM、STEMPRO(登録商標)完全メチルセルロース培地、HepatoZYME-SFM、Neurobasal(商標)培地、Neurobasal-A培地、Hibernate(商標)A培地、Hibernate E培地、内皮SFM、ヒト内皮SFM、ハイブリドーマSFM、PFHM II、Sf 900培地、Sf 900 II SFM、EXPRESS FIVE(登録商標)培地、CHO-S-SFM、AMINOMAX-II完全培地、AMINOMAX-C100完全培地、AMINOMAX-C140基礎培地、PUB-MAX(商標)核型分析培地、KARYOMAX骨髄核型分析培地、及びKNOCKOUT D-MEM、又は任意のそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0100】
細胞培養培地は血清を含まなくてもよい。例えば、無血清培地は、DMEM、F-12、ライボビッツのL-15培地、RPMI-1640、Mesencult(商標)基礎培地、又はそれらの組み合わせ(例えば、DMEM-F12)であってもよい。
【0101】
水性媒体(例えば、DMEM、F-12、ライボビッツのL-15培地、RPMI-1640、Mesencult(商標)基礎培地、又はDMEM-F12等の無血清培地)は、約1μMから約100μMまでの濃度で融合フィブリル性超分子構造体を含むことができる。適切には、水性媒体は、約5μMから約50μM、約10μMから約30μM、又は約12μMから約25μMの濃度の融合フィブリル性超分子構造体を含むことができる。例えば、水性媒体は、約10μM、約11μM、約12μM、約13μM、約14μM、約15μM、約16μM、約17μM、約18μM、約19μM、約20μM、約21μM、約22μM、約23μM、約24μM、約25μM、約26μM、約27μM、約28μM、約29μM、約30μM、又はそれ以上の濃度の融合フィブリル性超分子構造体を含むことができる。当業者は、例えば、細胞増殖に対する媒体の影響又は細胞バイオプロセシング(コラーゲン産生等)に対する影響を分析することによって、適切な濃度を決定することができるであろう。細胞増殖及びコラーゲン産生を分析するための例示的な方法は、本明細書の他の場所で述べる。
【0102】
細胞維持、細胞培養、及び/又は細胞バイオプロセシングのための表面も本明細書で提供する。本明細書で記載したような融合フィブリル性超分子構造体が表面内又は表面上に固定化されている。
【0103】
本明細書で使用した「表面」という用語は、細胞が成長することができる領域を意味する。表面は2次元(2D)であっても3次元(3D)であってもよい。2D表面の一例は、カバーガラス、又はチューブ、フラスコ、皿、若しくは複数のウェルを含むプレート等の細胞培養容器の表面である。培養容器は、細胞を培養するための無菌環境を提供することができるガラス、プラスチック、又は金属の容器であってもよい。3D表面の一例は、ポリスチレン足場(例:Alvetex(商標))又はゲル足場(例:ヒドロゲル)等の足場である。
【0104】
前述のように、融合フィブリル性超分子構造体は、超分子構造体でコーティングされた表面を提供するために、表面に固定化することができる。表面は部分的又は全体的にコーティングすることができる。超分子構造体で表面をコーティングする方法は、当技術分野で一般的に知られている。例として、表面は、表面にリポペプチドを含む溶液を滴下して均一に分配し、その後表面を乾燥させて、自己組織化した融合フィブリル性超分子構造体の薄膜を形成することによってコーティングすることができる。一例では、構造体は、カバーガラス、又はチューブ、フラスコ、皿、若しくは複数のウェルを含むプレート等の細胞容器の表面等の2D表面に固定化することができる。
【0105】
融合フィブリル性超分子構造体は、細胞維持、細胞培養、及び/又は細胞バイオプロセシングのための表面内にあってもよい。「表面内」とは、構造体が表面に組み込まれ、したがって表面によって構造体が部分的又は完全にカプセル化されることを意味する。表面に超分子構造体を組み込む方法も、当技術分野で知られている。例えば、超分子構造体を形成するリポペプチドは、表面(3D足場等)が形成される溶液に添加することができる。
【0106】
一部の例では、本明細書で記載した融合フィブリル性超分子構造体は、実際には、それ自体が細胞維持、細胞培養、及び/又は細胞バイオプロセシングのための表面であってもよいことが理解されよう。このような実施形態では、構造体は、水性媒体中にあってもよく、又は表面内若しくは表面上に固定化されていてもよい。水性媒体が構造体を含み、構造体が表面である実施形態は、表面積が細胞成長の制限因子となり得る接着細胞の場合に特に有利であり得る。溶液中の融合フィブリル性超分子構造体は、例えば、水性媒体を含有する細胞培養容器の表面よりも、細胞成長のためにより大きな表面積を提供することができる。これは、細胞培養及び/又はバイオプロセシングの改善に関連する費用の削減等の利点を有することができる。構造体は3D表面であってもよい。
【0107】
本明細書で使用した「細胞維持」という用語は、細胞数を実質的に増大させることなく、人工(例えば、インビトロ)環境で細胞を生存させ続けることを意味する。本明細書で使用した「細胞培養」という用語は、人工環境で、細胞の成長、分化、及び/又は継続的な生存に有利な条件下で、細胞を維持することを意味する。本開示の場合、細胞は、細胞の個体若しくは集団、又は組織、器官若しくは器官系であってもよい。細胞は、真核生物(例えば、動物、植物、及び真菌細胞)又は原核生物(例えば、細菌細胞)であってもよい。細胞は動物細胞であってもよい。例えば、細胞は哺乳動物(例えば、ヒト又はマウス)である。単なる例として、ヒト細胞はヒト間質前駆細胞又はヒト脂肪由来間葉系幹細胞であってもよい。単なる例として、マウス細胞は不死化マウス筋芽細胞であってもよい。
【0108】
水性媒体、表面、又は実際に本明細書で記載した構造体は、細胞成長を促進することができる。細胞成長は、例えば、適切な対照と比較して細胞数及び/又は細胞生存率が増大した場合に促進され得る。
【0109】
本明細書で使用した「細胞バイオプロセシング」という用語は、生物学的起源の分子を産生することを意味する。本明細書で記載した水性媒体、表面、又は実際に融合フィブリル性超分子構造体は、細胞のバイオプロセシングを改善することができる。細胞バイオプロセシングを改善することは、本明細書で記載した融合フィブリル性超分子構造体の存在下で維持又は培養された細胞が、適切な対照と比較して、より多くの生物学的起源の分子を産生することができることを意味する。生物学的起源の分子は、例えば、コラーゲンであってもよい。
【0110】
細胞培養の方法は当業者によく知られている。本明細書の文脈において、細胞培養は、必要な効果、例えば、コラーゲン等の生物学的起源の分子の細胞産生の増大を得るために、必要とされる限り長くすることができる。単なる例として、本明細書で記載したような融合フィブリル性超分子構造体の存在下での細胞培養は、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約12時間、又はそれ以上であってもよい。適切には、細胞培養は、約24時間(約1日)、約36時間、約48時間(約2日)、約60時間、約72時間(約3日)、又はそれ以上であってもよい。適切には、細胞培養は、約84時間、約96(約4日)時間、約108時間、約120時間(約5日)、約132時間、約144時間(約6日)、約156時間、約168時間(約7日)、約180時間、約192時間(約8日)、約204時間、約216時間(約9日)、又はそれ以上であってもよい。
【0111】
適切には、細胞培養は、約1日から約9日、例えば、約2日から約8日、又は約3日から約7日であってもよい。
【0112】
適切な対照は、例えば、本明細書で記載した融合フィブリル性超分子構造体の存在なしに成長した細胞であってもよい。対照細胞は、水中で自己組織化した構造体等の当技術分野のフィブリル性超分子構造体の存在下で成長させてもよい。
【0113】
本発明の特定の態様、実施形態、又は例に関連して記載された特徴、整数、特性、化合物、化学的部分、又は基は、それらと適合しない場合を除き、本明細書で記載したその他の任意の態様、実施形態、又は例に適用可能であると理解されるべきである。本明細書(添付した特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)で開示した特徴は全て、このような特徴及び/又はステップの少なくともいくつかが互いに相反する組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせることができる。本発明は、前述のいかなる実施形態の詳細にも限定されない。本発明は、本明細書(添付した特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)で開示した特徴の任意の新規のもの、又は任意の新規の組み合わせ、或いはそのように開示された任意の方法若しくはプロセスのステップの任意の新規のもの、又は任意の新規の組み合わせに適用される。
【0114】
本発明の様々な更なる態様及び実施形態は、本開示を考慮すれば当業者には明らかであろう。
【実施例
【0115】
1.材料及び方法
1.1 無血清培地中でのリポペプチド溶液の調製
凍結乾燥したリポペプチドを、静電気除去装置を作動させて秤量した。凍結乾燥したリポペプチドは静電性が高いため、静電気除去装置がないと粉末の移動がうまくいかない。これは、リポペプチドの粉末を失わないようにして、必要な量のリポペプチドを正確に秤量するために必要不可欠である。
【0116】
次に、リポペプチドを無血清培地に所望の濃度で可溶化した。無血清培地は、DMEM-F12、ライボビッツのL-15培地、RPMI 1640培地、又はアスコルビン酸1mM及び1:100インスリン-トランスフェリン-セレンを補給したMesencult(商標)基礎培地である。保存溶液は、使用したリポペプチドのc.a.c.値よりも大きいc.a.c.値を有するように調製しなければならない。c.a.c.値はリポペプチド配列に応じて変動し、ピレン蛍光測定によって決定される。
【0117】
例示的な保存液:RGDSリポペプチドの場合は1.52mM、ルミカン:マトリキシルリポペプチドの場合は1.25mM(後者は、最終濃度1.25mMを得るために2つの粉末を15:85の比で一緒に混合して構成する)。溶液を室温で30~45分間ボルテックスした後、55℃で30分間超音波処理する。溶液は4℃で一晩回転させなければならない。それでもリポペプチドが十分に可溶化していない場合は、ボルテックス及び超音波処理のステップを繰り返す。最終的な保存溶液は、実質的に、好ましくは完全に透明で、リポペプチド凝集がないことが必要である。保存液は4℃で保存すべきである。
【0118】
1.2 水中でのリポペプチド溶液の調製
1)リポペプチドを秤量する。
2)臨界凝集濃度(c.a.c.)を超える所望の濃度で、リポペプチドを水溶液に溶解する。
3)溶液を少なくとも15分間ボルテックスする。
4)溶液を55℃を超えずに少なくとも30分間超音波処理する。
5)溶液を一晩涼しい環境下で回転させる。
6)最終保存溶液を涼しい環境下で保存する。
【0119】
1.3 細胞増殖
細胞増殖は、Alamar Blueアッセイによって、各実験について公知の細胞数を使用した標準検量線から細胞数を推定して評価することができる。新鮮な培養培地を使用して1:10希釈で調製した50μMのレサズリン試薬(Sigma Aldrich社)と共に細胞を37℃で5~3時間インキュベートした後、100μlの培養上清(3連)をFluoroskan Ascent蛍光分光光度計又はVarioskan(商標)Lux(いずれもThermo Scientific社製)を使用した590nmでの蛍光発光分析のために採取する。インキュベーション時間は、実験及び細胞の種類に応じて異なる。
【0120】
1.4 コラーゲン沈着アッセイ
細胞によって沈着したコラーゲンの量は、シリウスレッドアッセイを使用して調べる(Jimenez等、1985)。特に、細胞を70%氷冷エタノールで固定し、-80℃に少なくとも10分間移して、材料が完全に固定されるようにする。その後、エタノール溶液を除去し、各ウェルを蒸留水で穏やかに洗浄した。細胞をシリウスレッド/ピクリン酸溶液(Sigma Aldrich社)で処理し、穏やかに攪拌しながら4℃で一晩インキュベートする。翌日、結合していない色素を除去し、細胞を蒸留水で穏やかに濯いだ。次に、細胞を500μlのNaOH(Fisher Scientific社)1Mで室温で10分間撹拌しながら処理して溶液を分散させ、その後各試料の一定量100μLを3連で96ウェルプレートに移した。総コラーゲンは、得られた試料のMultiskan Ascent(商標)又はVarioskan(商標)Lux(いずれもThermo Fisher Scientific社)を使用して読み取った490nmでの吸光度を、公知の標準濃度のコラーゲンの吸光度と比較することによって計算する。各試験条件を3連で実施する。
【0121】
1.5 原子間力顕微鏡(AFM)
材料の表面トポグラフィーの分析は、ContAI-Gソフトコンタクトモードカンチレバー(BudgetSensors社;Bulgaria)を装備したNanosurf Easyscan 2制御原子間力顕微鏡を使用して、共振周波数13kHz、及び公称ばね定数0.2N/mで実施する。簡単に説明すると、試料の変位及びドリフトを最小限に抑えるために、様々な試料をパラフィルムで覆われたスライドガラス(それぞれBemis社;USA及びThermoFisher Scientific社)に載せる。表面トポグラフィーは、各試料の別々の3領域から、10μm/s、1nV、及びPゲイン及びIゲインが1でスキャンした512×2方向の線で分析する。トポグラフィーのデータは、スキャニングプローブイメージプロセッサソフトウェアパッケージ(Image Metrology A/S社)を使用して、ラインワイズ及びチルト補正のために処理する。データは、標本の寸法及び分布を測定するために、ImageJ(オープンソースJavaアプリケーションNIH、USA)v1.46のOrientationJプラグインを使用して分析する。実験は全て、各試料の個々の4領域で実施した(n=3)。
【0122】
2.結果
2.1 培養培地中での可溶化によって調製したリポペプチドの自己組織化
リポペプチド(脂質化ペプチド)を2回蒸留水(通常のように)ではなく無血清培養培地(SFM)中に可溶化すると、異なる超分子ナノ構造体を想定して自己組織化が起こる(図2及び図9)。
【0123】
結果は、培地中での単一型RGDSリポペプチドが水と比較して全く異なった自己組織化をすることを示している。水中では、RGDSリポペプチドは個々のナノテープ/ツイストナノテープのネットワークを形成する(Castelletto等、2013;Gouveia等、2013)。他方で、SFM中では、このようなリポペプチドは、融合したナノテープを含む、より大きく、より高密度の配置を形成する。同様に、単一型のルミカン及びマトリキシルリポペプチドは、水と比較してSFM中で全く異なった自己組織化をした(図2)。水中では、ルミカンリポペプチドは脂質様とアミロイドペプチド様の自己組織化の間(すなわち、ナノテープとフィブリル構造体の間)の境界構造体で組織化したが(Hamley等、2015)、一旦自己組織化したマトリキシルは広いナノテープを呈した(Castelletto等、2010)。対照的に、ルミカン及びマトリキシルリポペプチドは、SFM中で融合フィブリル性構造体を形成し、高密度の凝集体に配置される。最後に、複合システムLum85:マトリキシル15及びLum15:マトリキシル85は、単一型のマトリキシルリポペプチドよりも単一型のルミカンリポペプチドに似た構造体を形成した。全体的に見ると、これらの結果は、培地中における単一型及び複合リポペプチドの超分子自己組織化構造体の存在、並びに水中で組織化した構造体と比較した場合の構造の著しい違いを示している。
【0124】
2.2リポペプチドの生体適合性及び生理活性に対する細胞培養培地の影響
次に、生体適合性及び生物活性に対する様々なナノ構造体の影響を調べた。この研究では、リポペプチドをコーティングではなく培地補給物として使用した。リポペプチドの生理活性は、3種類の異なる細胞、すなわち、ヒト間質前駆細胞、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hASC)、及び不死化マウス筋芽細胞株(C2C12)について評価した。
【0125】
2.2.1 ヒト間質前駆細胞に対する影響
本発明者等は、同じリポペプチド分子によって発揮される効果は、自己組織化が開始される溶媒に応じて異なる可能性があると仮定した。ルミカン、マトリキシル、及びRGDSリポペプチドは、予め水中又は培地中のいずれかで自己組織化した保存溶液を使用して、培養培地に対する補給物として調べた。特に、細胞は7日間培養し、増殖は3日目及び7日目に評価し、一方コラーゲン沈着は7日目に分析した。
【0126】
結果は、ルミカンリポペプチドが水中で自己組織化し、25μM(H2O 25μM)及び12μM(H2O 12μM)で補給された場合、補給していない無血清培地(SFM)と比較して、3日目(p<0.0001)及び7日目(それぞれp=0.001及びp=0.0005)に細胞増殖を有意に増大させたことを示した(図3A)。
【0127】
他方で、ルミカンリポペプチドは培地中で自己組織化し、同じ濃度で補給された場合、3日目まで細胞増殖がわずかに増大したに過ぎなかった(12及び25μMでそれぞれp=0.003及びp=0.0012)(図3A)。
【0128】
同様に、水中で自己組織化したルミカンリポペプチドと共に7日間培養したヒト間質前駆細胞によって沈着したコラーゲンの量は、培地中で自己組織化した対応するPAの濃度と比較して25μMで≒75%及び12μMで約15%高かった(図3B)。
【0129】
それにもかかわらず、リポペプチドの存在は、自己組織化が起こった溶媒とは無関係に、対照(SFM)と比較してコラーゲン沈着を有意に増大させた。対照的に、SFM中で自己組織化したマトリキシルリポペプチドは、i)対照と比較して両方の条件で7日目の細胞生存率が劇的に減少し(p<0.0001)(図3C)、ii)対照と比較して7日目で沈着したコラーゲンの量が有意に増大し(p<0.0001)、水中で自己組織化したマトリキシルリポペプチドと比較して≒55%高かった(図3D)。
【0130】
更に、水中で自己組織化したRGDSリポペプチドは、両濃度(50及び500μM)で培地中で自己組織化したRGDSリポペプチドと比較して、細胞増殖を大幅に損ない、両条件及び濃度では3日目及び7日目に対照より有意に低いことがわかった(p<0.0001)(図3E)。しかし、両条件及び濃度で、対照と比較してコラーゲンの沈着量が有意に増大し、水中で自己組織化したRGDSリポペプチドでは培地中で自己組織化したリポペプチドの対応する濃度と比較して、500μM及び50μMでそれぞれコラーゲン量が65%及び35%増大した(図3F)。全体として、図3で報告された結果は、自己組織化が最初に生じる溶媒が、ヒト間質前駆細胞のリポペプチドの生体適合性及び生理活性に持続的な影響を与えることを示している。
【0131】
2.2.3 ヒト脂肪由来間葉幹細胞(hASC)に対する影響
hASCも、水中でc.a.c.を上回って予め可溶化したRGDSリポペプチドと共に培養し、次いでSFM中で最終濃度50μMに希釈した(図4)。これは、様々な自己組織化構造体が、ヒト間質前駆細胞で見いだされたように、hASCの挙動に影響を与えるかどうかを理解するためであった。結果は、水中で自己組織化したRGDSが、培地中で自己組織化したRGDSリポペプチドが細胞増殖に対して示さなかった統計的に有意な(3日目からp<0.0001)毒性効果を実際に有していることを示した(図3Eに相当する)。
【0132】
更に、hASCも、水中でc.a.c.を上回って予め可溶化されたルミカン又はマトリキシルリポペプチドと共に培養し、次いでSFM中で50μMの最終濃度に希釈した(図5)。重要ではないが、結果は、両方のリポペプチドは水ではなく培地中に可溶化した場合に細胞増殖をわずかに増大させることを示した(図5A)。コラーゲン沈着に有意差は表れなかったが、水中のルミカンリポペプチド(図5B)及びSFM中のマトリキシルリポペプチド(図5C)は、培養7日後にhASCによって沈着したコラーゲンをわずかに増大させた。
【0133】
2.2.3 不死化マウス筋芽細胞株(C2C12)に対する影響
C2C12は、ルミカン又はマトリキシル又はRGDSリポペプチドのいずれかを補給した無血清培地(SFM)中で最大7日間培養した。各リポペプチド保存液は、無血清培地(SFM)中又は水中(H2O)のいずれかでc.a.c.を上回って調製した。C2C12の増殖は、3日目及び7日目にAlamar Blueアッセイを使用して評価した。沈着したコラーゲンの量は、7日目にシリウスレッドアッセイを使用して定量化した。
【0134】
ルミカンリポペプチドを25及び50μMで試験し、結果は、培地中で可溶化された場合、3日目以降細胞増殖を有意に増大させることを示した(図6)。更に、このようなリポペプチドを水ではなくSFM中で可溶化すると、沈着したコラーゲンが有意に増大した(図6)。
【0135】
同様に、マトリキシルリポペプチドを25及び50μMで試験し、リポペプチドを培地中で可溶化すると、細胞増殖及びコラーゲン沈着の両方が有意に増大した(図7)。
【0136】
最後に、RGDSリポペプチドを25、50、及び500μMで試験し、結果は、このようなリポペプチドは、水中に可溶化するとC2C12に対して非常に強い毒性効果を有することを示した(図8)。他方で、SFM中で可溶化すると、毒性効果が有意に減少し、コラーゲン沈着が増大した(図8)。
【0137】
(参考文献)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
【配列表】
2022536747000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-02-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の融合フィブリルを含む超分子構造体であって、各フィブリルが複数の細胞接着モチーフリポペプチドを含む、超分子構造体。
【請求項2】
前記細胞接着モチーフが、細胞外マトリックスタンパク質配列又はその断片若しくはバリアントである、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記細胞外マトリックスタンパク質が、フィブロネクチン、コラーゲン、ルミカン、デコリン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブリノーゲン、エラスチン、バイグリカン、ヘパリン、テネイシン、及びオステオポンチンからなる群から選択される、請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
前記細胞接着モチーフが、
a)RGD(配列番号1)、RGDS(配列番号5)、PHSRN(配列番号6)、LDVP(配列番号7)、WQPPRARI(配列番号8)、IGD(配列番号9)、REDV(配列番号10)、及びIDAP(配列番号11)、若しくはそれらのバリアントから選択されるアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるフィブロネクチン断片、
b)KTTKS(配列番号2)、GTPGPQGIAGQRGVV(配列番号12)、GROGER(配列番号13)、GLKGEN(配列番号14)、GFOGER(配列番号15)、及びMNYYSNS(配列番号16)、若しくはそれらのバリアントから選択されるアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるコラーゲン断片、又は
c)EVTLN(配列番号17)、ELDLSYNKLK(配列番号18)、及びYEALRVANEVTLN(配列番号3)から選択されるアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるルミカン断片、又は
d)YIGSR(配列番号19)、IKVAV(配列番号20)、CCRRIKVAVWLC(配列番号21)、及びRGDから選択されるアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるラミニン断片である、請求項2又は3に記載の構造体。
【請求項5】
複数の前記細胞接着モチーフリポペプチドが、少なくとも2つの異なる細胞接着モチーフリポペプチドを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項6】
前記少なくとも2つの異なる細胞接着モチーフリポペプチドが、
a)KTTKS(配列番号2)を含むか又はそれからなる細胞接着モチーフリポペプチド、及び
b)YEALRVANEVTLN(配列番号3)を含むか又はそれからなる細胞接着モチーフリポペプチド
である、請求項5に記載の構造体。
【請求項7】
前記リポペプチドが、6から24個の炭素原子の炭素鎖を含む脂質部分を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の超分子構造体を含む水性媒体。
【請求項9】
細胞培養培地である、請求項8に記載の媒体。
【請求項10】
前記細胞培養培地が血清を含まない、請求項9に記載の媒体。
【請求項11】
前記細胞培養培地が、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)、ハムのF12、ライボビッツのL15培地、RPMI-1640、Mesencult(商標)基礎培地、及びDMEM-F12からなる群から選択される、請求項9又は10に記載の媒体。
【請求項12】
細胞維持、細胞培養、及び/又は細胞バイオプロセシングのための表面であって、請求項1から7のいずれか一項に記載の超分子構造体が前記表面内又は表面上に固定化されている、表面。
【請求項13】
前記表面が2D又は3Dである、請求項12に記載の表面。
【請求項14】
前記2D表面が、カバーガラス又は細胞培養容器の表面であり、任意選択で、前記細胞培養容器が、チューブ、フラスコ、皿、又は複数のウェルを含むプレートから選択される、請求項13に記載の表面。
【請求項15】
前記3D表面が足場であり、任意選択で、前記足場がヒドロゲル又はポリスチレン足場である、請求項13に記載の表面。
【請求項16】
細胞の維持、培養、及び/若しくはバイオプロセシングのための、請求項1から7のいずれか一項に記載の超分子構造体、又は請求項8から11のいずれか一項に記載の水性媒体、又は請求項12から15のいずれか一項に記載の表面の使用。
【請求項17】
前記バイオプロセシングがコラーゲン産生のためである、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記超分子構造体、媒体、又は表面が細胞成長を促進させる、請求項16に記載の使用。
【請求項19】
前記細胞が、ヒト間質前駆細胞、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞、及び不死化マウス筋芽細胞からなる群から選択される、請求項16から18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
複数の融合フィブリルを含む超分子構造体であり、各フィブリルが複数の細胞接着モチーフリポペプチドを含む、超分子構造体を製造する方法であって、複数の前記細胞接着モチーフリポペプチドを、蒸留水のイオン強度よりも大きいイオン強度を有する水性媒体中で自己組織化させて、前記超分子構造体を製造する工程を含む方法。
【請求項21】
蒸留水のイオン強度よりも大きいイオン強度を有する水性媒体に凍結乾燥リポペプチドを溶解する工程を含み、任意選択で、前記水性媒体が無血清細胞培養培地である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記水性媒体が、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)、ハムのF12、ライボビッツのL15培地、RPMI-1640、Mesencult(商標)基礎培地、及びDMEM-F12からなる群から選択される細胞培養培地である、請求項21に記載の方法。
【国際調査報告】