(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-18
(54)【発明の名称】医薬品のin-vivo放出のためのハイドロゲル
(51)【国際特許分類】
A61K 47/69 20170101AFI20220810BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20220810BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20220810BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220810BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220810BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220810BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220810BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20220810BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20220810BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20220810BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20220810BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20220810BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20220810BHJP
A61L 27/26 20060101ALI20220810BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20220810BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20220810BHJP
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A61L 27/58 20060101ALI20220810BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20220810BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220810BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20220810BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220810BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220810BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220810BHJP
A61P 29/02 20060101ALI20220810BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20220810BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220810BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220810BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220810BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220810BHJP
【FI】
A61K47/69
A61P23/02
A61K31/445
A61K9/06
A61K47/10
A61K47/34
A61K47/36
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A61L27/22
A61L27/26
A61L27/34
A61L27/50 100
A61L27/24
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A61K47/46
A61K45/00
A61P19/00
A61P21/00
A61P31/00
A61P29/00
A61P29/02
A61P25/04
A61P37/06
A61P17/02
A61P43/00 105
A61K47/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573764
(86)(22)【出願日】2020-06-11
(85)【翻訳文提出日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 EP2020066238
(87)【国際公開番号】W WO2020249695
(87)【国際公開日】2020-12-17
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(31)【優先権主張番号】PCT/NL2019/050352
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514116305
【氏名又は名称】ユーエムセー・ユトレヒト・ホールディング・ベー・フェー
(71)【出願人】
【識別番号】521542764
【氏名又は名称】セントリクス・ベー・フェー
(71)【出願人】
【識別番号】521542775
【氏名又は名称】ベーオー-イーペー・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スザンナ・ピルソ
(72)【発明者】
【氏名】ヤスパー・ヘーラルト・ステフェリンク
(72)【発明者】
【氏名】ヨアンネス・ヤコーブス・フェルラーン
(72)【発明者】
【氏名】バス・イェルン・オーステルマン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA94
4C076CC01
4C076CC03
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4C076CC09
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4C081AB04
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4C086AA01
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4C086ZB08
4C086ZB11
4C086ZB21
4C086ZB31
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1種の医薬品を含む、医薬品のin-vivo放出のためのハイドロゲルであって、 (i)酸化β-シクロデキストリンとゲスト-ホスト相互作用を形成することができる、官能基化剤、好ましくは第一級アミノアルキルフェノールで官能基化されたタンパク質系バイオポリマー、より好ましくはチラミンで官能基化されたゼラチン(GTA)及び(ii)酸化β-シクロデキストリン(oβ-CD)を含み、生体適合性の光開始剤の存在下で可視光への曝露により架橋し、その結果、(膨潤質量-乾燥質量)/乾燥質量として算出される、2~20の範囲の膨潤度がもたらされる、ハイドロゲルに関する。本発明は、その調製のための方法、及び筋骨格障害の治療のための、好ましくは感染症、炎症、悪性過程、成長障害、変性障害の治療、又はこれらの障害(の外科的治療)から生じる痛みの治療のための医薬品に更に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の医薬品を含む、医薬品のin-vivo放出のためのハイドロゲルであって、前記ハイドロゲルが、
(i)酸化β-シクロデキストリンとゲスト-ホスト相互作用を形成することができる、フェノール性ヒドロキシル基が導入されている官能基化剤、好ましくは第一級アミノアルキルフェノールで官能基化されたタンパク質系バイオポリマー、より好ましくはチラミンで官能基化されたゼラチン(GTA)、及び
(ii)酸化β-シクロデキストリン(oβ-CD)
を含み、前記ハイドロゲルが、生体適合性の光開始剤の存在下で可視光への曝露により架橋され、その結果、(膨潤質量-乾燥質量)/乾燥質量として算出される、2~20の範囲の膨潤度がもたらされ、前記生体適合性の光開始剤が、リボフラビン及び過硫酸ナトリウムの組み合わせである、ハイドロゲル。
【請求項2】
共溶媒を更に含み、好ましくは前記共溶媒は可塑剤である、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項3】
前記可塑剤がグリセロールである、請求項2に記載のハイドロゲル。
【請求項4】
oβ-CD内の10~30%、好ましくは15~25%の第二級ヒドロキシル基がアルデヒド基に変換されている、請求項1から3のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項5】
oβ-CDの量が、ハイドロゲルの0.1質量%~10質量%、好ましくはハイドロゲルの2質量%~6質量%の範囲である、請求項1から4のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項6】
医薬品としてブピバカインを、好ましくは結晶形態で、0.01~200mg/mL体積の量で含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項7】
前記医薬品がバイオポリマー中に封入されている、好ましくはPLGA、PCL、ゼラチン、アルギン酸塩、又はリポソーム中に封入されている、請求項1から6のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項8】
医薬品としてブピバカイン、並びに1種又は複数の更なる成分、好ましくは共医薬品、着色料、及び緩衝剤から選択される更なる成分を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項9】
(a)官能基化剤、好ましくは第一級アミノアルキルフェノールで官能基化されたバイオポリマー中のフェノール-フェノール架橋、
(b)官能基化されたバイオポリマー上に存在するアミノ基及びoβ-CDのアルデヒド基の間のシッフ塩基架橋、並びに
(c)バイオポリマーにグラフトされた第一級アミノアルキルフェノールのフェノール部分及びoβ-CDの空洞の間のゲスト-ホスト相互作用
のタイプの架橋を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項10】
5~10%のひずみで、3N分
-1~最大18Nの力傾斜率の制御された力モードで動的機械分析により得られる応力-ひずみ曲線の勾配から測定される、100~600kPaの間の弾性率を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項11】
コーティング、好ましくは生分解性ポリマーのコーティング、好ましくはPLGA、PCL、ゼラチン又はアルギン酸塩のコーティングにより部分的に被覆されている、請求項1から10のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項12】
前記タンパク質系バイオポリマー(i)が、シルク、コラーゲン、フィブリン又はゼラチン、より好ましくはゼラチンから選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項13】
前記官能基化剤が第一級アミノアルキルフェノール、好ましくはチラミンである、請求項1から12のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項14】
前記医薬品が疎水性医薬品である、請求項1から13のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項15】
官能基化剤で官能基化されたタンパク質系バイオポリマーが、チラミンで官能基化されたゼラチン(GTA)である、請求項14に記載のハイドロゲル。
【請求項16】
約4の範囲の膨潤度、及び5~10%のひずみで、3N分
-1~最大18Nの力傾斜率の制御された力モードで動的機械分析により得られる応力-ひずみ曲線の勾配から測定される約400kPaの弾性率を有し、
(a)骨への取り付けのための穴付きで提供されるか、又は
(b)骨の一部を包むためのスリーブとして成形されるか、又は
(c)親指の爪の形状をしており、骨への固定のための硬質な部分を含む、
請求項1から15のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項17】
リングの形状のハイドロゲルから、試料をキャリパー器具に取り付け、リングの初期の内径(ID)を測定し、次いでリングを徐々に伸長させ、((破断時のID-静止状態ID)/静止状態ID)*100%として伸びを算出することにより測定される、100~300%の間の、好ましくは120~250%の間の破断点伸びを有する、請求項1から16のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載のハイドロゲルを調製するための方法であって、
- 官能基化剤で官能基化されたタンパク質系バイオポリマー、oβ-CD、生体適合性の光開始剤、及び任意選択で請求項1に規定の医薬品の混合溶液を調製する工程、
- 溶液を可視光に曝露して、ハイドロゲルを生成する工程、並びに
- 混合溶液に医薬品が含まれていなかった場合、ハイドロゲルを医薬品の溶液と接触させて、それにより医薬品をハイドロゲル中に拡散させる工程、
- ハイドロゲルを乾燥させる工程
を含む、方法。
【請求項19】
筋骨格障害の治療における使用のための、好ましくは感染症、炎症、悪性過程、成長障害、変性障害、外傷、自己免疫疾患の治療、又はこれらの障害(の外科的治療)から生じる痛みの治療のための、請求項1から17のいずれか一項に記載のハイドロゲル。
【請求項20】
(a)液状形態の(又は微粒子中に封入された)医薬品と混合された、官能基化剤で官能基化されたバイオポリマーと、
(b)oβ-CDで官能基化されたバイオポリマーと
の組み合わせを投与する、好ましくはこれを注射することによりin vivoで調製され、
前記組み合わせがin vivoで可視光に曝露されてin vivoでハイドロゲルを生成する、
請求項19に記載のハイドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品のin-vivo放出のためのハイドロゲルに関する。詳細には、本発明は医薬品、例えば、ブピバカイン及び/又はその他の局所麻酔薬の制御された局所放出に関する。より詳細には、本発明は、骨格構造に密接に接触させるためのハイドロゲルに関する。本発明は、in-vitro及びin-vivo両方でのその調製方法に更に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルは、三次元の、物理的に又は化学的に架橋した水溶性ポリマーのネットワークである。ハイドロゲルの親水性の性質、生体組織と同様の水分含量及び弾性により、これらは生物医学的用途に対する優れた候補となる。ゆえに、(ヒト又は動物)体内で持続的に医薬品を放出するように設計された生分解性ハイドロゲルについての、かなりの数の先行技術が存在する。
【0003】
例えば、J. Adv. Res. 2017、8、217~233頁で、ハイドロゲル及びそれらの医学的用途についての、E.A. Kamounらによる詳細なレビューが見られる。この論文の序文で示されるように、E. CaloらによるEur. Polym. J. 2015、65、252~267頁、「Biomedical applications of hydrogels: A review of patents and commercial products」で更なる概要が見られる。
【0004】
Q. Fengらは、Biomaterials 2016、101、217~228頁で「Mechanically resilient, injectable, and bioadhesive supramolecular gelatin hydrogels crosslinked by weak host-guest interactions assist cell infiltration and in situ tissue regeneration」を記載している。
【0005】
RSC Adv.、2017、7、34053では、T.T.H. Thiらが、疎水性薬物の放出のための新たなプラットフォームとしての注射可能なハイドロゲルについて記載している。接着性を増大させるため、更なるSchiff(シッフ)塩基反応がフェノール-フェノール架橋ゼラチンハイドロゲルに導入された。疎水性空洞を有し、アルデヒド基を提示するように酸化されたβ-シクロデキストリン(これ以降は「oβ-CD」)が、Schiff塩基反応によりゼラチン骨格にグラフトされ、空洞が疎水性薬物の封入をもたらした。西洋ワサビペルオキシダーゼ及び過酸化水素(これ以降は「HRP/H2O2」)の存在下で、ゼラチン-チラミン(これ以降は「GTA」)及びoβ-CDを混合するだけで、in situでGTA-oβ-CDハイドロゲルが迅速に且つ制御可能に形成された。GTA-oβ-CDハイドロゲルの最適な組成物は、1wt%のoβ-CDを有する5wt%のGTAであることが判明した。その弾性率及び分解速度は、更なるイミン結合ゆえに、GTAハイドロゲルの1.8及び1.5倍の大きさであった。疎水性薬物(例えば、デキサメタゾン及びクルクミン)は、GTAマトリックスよりも大きい装填効率でGTA-oβ-CDマトリックス中に均質に溶解させることができた。ヒト皮膚線維芽細胞を使用する細胞生存率のin vitro試験では、GTA-oβ-CDハイドロゲルが細胞適合性であることが実証された。要約すると、二重に機能する注射可能なGTA-oβ-CDハイドロゲルが、組織接着及び疎水性薬物送達を改善するための有望なプラットフォームとして使用可能である。
【0006】
これらのハイドロゲルの設計中に考えるべき重要な因子は、その作用機構に関する1)送達期間、及び2)送達場所を含む。例えば、効果的な局所鎮痛のためには、麻酔薬が送達され、痛みの起源にごく接近して一定期間in situに留まることが不可欠である。持続性放出の問題点は、ブピバカイン(これ以降は「Bupi」)等の低分子において特に困難である。
【0007】
Bupiは、非常に効果的且つ比較的安価な局所麻酔薬である。しかし、その効果の期間は約8時間に限定される。効果期間の延長を得るために従来のブピバカイン溶液の用量又は濃度を増大させると、全身及び局所両方への毒性をもたらすおそれがある、Regional Anesthesia & Pain Medicine 2018;43:124~130頁の、Gitman M、Barrington MJ「Local Anesthetic Systemic Toxicity: A Review of Recent Case Reports and Registries」を参照のこと。心臓及び中枢神経系への毒性は、ブピバカインの周知の全身毒性効果である。ゆえに、Bupiを局所的に且つ遅延させて放出する方法を見つけ出すことは興味深く、それによりBupiは、局所ボーラス注射等の従来のブピバカイン用途と比較して、より長く、且つ局所及び全身細胞毒性の発生率を減少させて作用しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】PCT/NL2018/050832
【特許文献2】US2010/031228
【特許文献3】NL2023208
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】E.A. Kamounら J. Adv. Res. 2017、8、217~233頁
【非特許文献2】E. Caloら Eur. Polym. J. 2015、65、252~267頁、「Biomedical applications of hydrogels: A review of patents and commercial products」
【非特許文献3】Q. Fengら、Biomaterials 2016、101、217~228頁「Mechanically resilient, injectable, and bioadhesive supramolecular gelatin hydrogels crosslinked by weak host-guest interactions assist cell infiltration and in situ tissue regeneration」
【非特許文献4】T.T.H. Thiら RSC Adv.、2017、7、34053
【非特許文献5】Gitman M、Barrington MJ Regional Anesthesia & Pain Medicine 2018;43:124~130頁、「Local Anesthetic Systemic Toxicity: A Review of Recent Case Reports and Registries」
【非特許文献6】Belin、Michael W.、らCornea 2018、37、1218~1225頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
更に、ほとんどのハイドロゲルが、ハイドロゲルの調製、用途、機械的特性、及び生体適合性に関して、臨床への移行のための厳密な必要条件を満たさない。本発明者らは、医薬品の制御された持続性放出を有する生体適合性、生分解性ハイドロゲルを設計することに着手した。更に、本発明者らは、多用途で大規模に生成するのが容易であり、架橋させるのが容易であり、且つ柔軟で丈夫なハイドロゲルを生成するように、制御された方式で架橋させることが可能なハイドロゲルを設計することに着手した。これに関して、ハイドロゲルは、埋め込まれて局所環境及び力に耐えることが可能となるように十分に柔軟で丈夫であって、医薬品を放出するのに十分な時間埋め込み場所に留まり、破断する又は別の方法で損壊されないようでなければならないことが理解されるべきである。このことは、ハイドロゲルが、例えば、押し付けられる骨格構造の表面の形状に適応可能であり、それにより骨格構造の外側の骨表面との密接な接触が達成されることを意味する。同様の方式で、ハイドロゲルはその他の筋骨格組織又は外科インプラントの表面に押し付けられてよい。通常、これには100~600kPaの間の弾性/圧縮率(Young率)を有するハイドロゲルが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、少なくとも1種の医薬品を含む、医薬品のin-vivo放出のためのハイドロゲルであって、
(i)第一級アミノアルキルフェノールで官能基化されたバイオポリマー、好ましくはチラミンで官能基化されたゼラチン(GTA)及び
(ii)酸化β-シクロデキストリン(oβ-CD)
を含み、
生体適合性の光開始剤の存在下で可視光への曝露により架橋し、その結果、(膨潤質量-乾燥質量)/乾燥質量として算出される、2~20、好ましくは2~6の範囲の膨潤度がもたらされる、ハイドロゲルを提供する。膨潤質量は、in vivoでのハイドロゲルの平衡質量である。膨潤質量は、37℃等の体温で、PBS等の疑似体液中で、膨潤から24h後に(又は平衡状態に到達した時に)in vitroで実験的に決定されうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】GTAの形成及びGTAの架橋の概略図である。ここでは、リボフラビン/過硫酸ナトリウム(SPS)及び光の影響下での、タイプ(a)の架橋が示される。
【
図2】Schiff反応におけるゼラチンのアミン基とoβ-CDのアルデヒド基とのタイプ(b)の架橋、並びにGTAのチラミン基及びシクロデキストリン中の空洞の間のゲスト-ホスト相互作用を示すタイプ(c)の架橋の概略図である。
【
図3a】本発明の実施形態によるリング要素の上面図である。
【
図4】ねじ要素、及びねじ要素の軸部に接して配置された
図3aのリング要素の組み合わせを示す図である。
【
図5】患者の骨にねじ込まれた
図4の組み合わせを示す図である。
【
図6a】人工股関節インプラントの実施形態を示す図である。
【
図6b】人工股関節インプラントの大腿成分のネックに接して配置されたスリーブ要素の第1の実施形態を含む、
図6aの人工股関節インプラントの実施形態を示す図である。
【
図7a】リング状固定手段又はねじ状固定手段を有する「親指の爪」の実施形態を示す図である。
【
図7b】リング状固定手段又はねじ状固定手段を有する「親指の爪」の実施形態を示す図である。
【
図7c】骨に取り付けられるように配置された実施形態7aを示す図である。
【
図8】GTA-oβCD混合物の動的振幅試験のグラフである。
【
図9】グリセロール処理前後の、GTA含量20wt%を有するハイドロゲルの圧縮力のグラフである。
【
図10】グリセロール処理前後の、GTA含量20wt%を有するリングの形状のハイドロゲルの破断点伸び(元の内径に対する%)のグラフである。
【
図11】グリセロールでの処理前後の、20wt%のGTAハイドロゲルの圧縮率のグラフである。
【
図12】0.01Mクエン酸緩衝液pH6中での、ハイドロゲルマトリックスからのブピバカイン結晶の累積放出のグラフである。PLGA膜でハイドロゲルを部分的にコーティングした。放出は総薬物含量の百分率として表される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ハイドロゲルは、水溶性ポリマーを架橋させることにより合成されうる。ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレングリコール)、ポリアクリルアミド及びポリサッカライド(例えばヒアルロン酸)等の水溶性ポリマーが、ハイドロゲルを形成するのに使用される最も一般的な系である。これらの水溶性ポリマーは生体適合性であり、各種医薬的及び生物医学的用途において広く使用される。これらの一般的なハイドロゲルはBupiのための担体として使用されうるが、柔軟である/変形可能でありつつも丈夫であること、生体適合性であり生分解性であること、及びその特性の広範な調整が可能であること等の重要な特性を欠くことが判明した。興味深いことに、ゼラチン及び同様のポリマー等のバイオポリマーの架橋により、改善された担体がもたらされうることが判明した。
【0014】
多くの様々なハイドロゲルが存在するが、本発明は、生体適合性であり、埋め込み及びin-vivoで使用が可能な医学的ハイドロゲルに注目している。更に、これらは生分解性でなければならない。ハイドロゲルはバイオポリマー、すなわち生体により産生される天然のポリマーを含むため、生分解性である、すなわちヒト体内で自然に分解されうる。
【0015】
本発明は特にゼラチンを使用することに関して記載されるが、アミノ及びヒドロキシル基を含む、いかなる水溶性の生体適合性バイオポリマーでも使用可能である。例えば、ヒアルロン酸、キトサン、及びセルロース等の、タンパク質系及び/又はポリサッカライド系ポリマーが使用可能である。好ましくは、バイオポリマーはタンパク質系ポリマー、例えば、エラスチン、シルク、コラーゲン、フィブリン又はゼラチン等である。より好ましくは、タンパク質系バイオポリマーは、シルク、コラーゲン、フィブリン又はゼラチンである。これらのポリマーは、リボフラビン媒介性の架橋に使用可能なチロシン基を含む。最も好ましくは、ハイドロゲルはゼラチンベースである。ハイドロゲルは、その他の生体適合性で水溶性の合成又は天然のポリマーも含みうる。その他のポリマーは、全体のポリマー含量に対して最大50質量%を構成しうる。その入手のしやすさ、生体適合性及びコストから、単独のポリマー成分としてゼラチンの使用が好ましい。
【0016】
バイオポリマー、好ましくはゼラチンに対する酸化β-シクロデキストリンの量は、広い範囲内で変動しうる。好ましくは、oβ-CDの量はハイドロゲルの0.1質量%~10質量%、好ましくはハイドロゲルの2質量%~6質量%の範囲とすることができる。より多量の酸化β-シクロデキストリンを使用すると、チラミン官能基及び酸化β-シクロデキストリン空洞の間での相互作用が増大するために、ゼラチンの化学的架橋が妨害されるおそれがある。
【0017】
バイオポリマー、好ましくはゼラチンは、好ましくは官能基化剤としてのチラミン、4-(2-アミノ-エチル)フェノールで官能基化される。チラミンに加えて、又はチラミンの代わりに、式NH2-R-PhOH及びその置換型の、その他の第一級アミノアルキルフェノールが使用可能である。チラミンは、ゼラチンカルボン酸基との官能基化によりゼラチン骨格にフェノール性ヒドロキシル基を導入するための、最も一般的な使用される化合物である。代わりに、フェノール性ヒドロキシル基が、ヒドロキシフェニルプロピオン酸等の官能基化剤を使用して、ゼラチンアミノ基との反応により導入されてもよい。重要なのは、官能基化剤の生体適合性及びその、シクロデキストリンとゲスト-ホスト相互作用を形成する可能性である。その入手のしやすさ、生体適合性及びコストから、バイオポリマーを官能基化するための単独の薬剤としてチラミンの使用が好ましい。
【0018】
官能基化の度合は、広い範囲内で変動しうる。確実に適切に架橋させるため、ゼラチン中の5~50%、好ましくは20~25%の間のカルボキシ基を、チラミン又は同様の官能基化剤と反応させることが好ましい。代わりのバイオポリマーが使用される場合、同様の官能基化の度合が必要とされる。
【0019】
ハイドロゲルにおけるβ-シクロデキストリンの使用は公知である。本発明では、β-シクロデキストリンが酸化される。β-シクロデキストリンの酸化は、ゼラチンへのグラフトを可能にするために必要とされる。酸化の程度は、第二級ヒドロキシル基の5~30%、好ましくは20~30%で変動しうる。酸化により、分子中の第二級ヒドロキシル基のアルデヒド基への変換がもたらされる。好ましい酸化の程度により、ゼラチン骨格へのoβ-CDのグラフトが最大となる一方、未反応のアルデヒド基から生じうる細胞毒性効果が制限され、水へのoβ-CDの十分な可溶性が確実となる。
【0020】
GTA及びシクロデキストリンベースのハイドロゲルは公知であるが、本発明者らは、既存のハイドロゲルがその物理的及び化学的特性に関して改善されうることを発見した。結果として、本発明の新規のハイドロゲルは、特に鎮痛を達成するために医薬品が必要とされる特定の場所に埋め込まれ固定されうる。これは、例えば変形可能な物体の形態のハイドロゲルであってよく、それによりハイドロゲルは、それが固定される骨格構造又は外科インプラントの形状に合う。ゆえに新規のハイドロゲルは、その内容物、例えばBupiのような医薬品を常に適切な場所で放出する。この点において適切なのは、特定の架橋密度が達成されることであり、その結果、膨潤質量(平衡状態の膨潤時)-乾燥質量/乾燥質量として算出される、2~20の範囲の、好ましくは2~6の範囲の膨潤度がもたらされる。架橋密度は、
(a)第一級アミノアルキルフェノール又は同様の官能基化剤で官能基化されたバイオポリマー中のフェノール-フェノール架橋、
(b)官能基化されたバイオポリマー上に存在するアミノ基及びoβ-CDのアルデヒド基の間のSchiff塩基架橋、並びに
(c)バイオポリマーにグラフトされた官能基化剤のフェノール部分及びoβ-CDの空洞の間のゲスト-ホスト相互作用
のタイプの架橋を使用することにより達成される。
【0021】
本発明は特に、フェノール-フェノール架橋の形成の優れた制御及び調節可能性を提供する。結果として、ハイドロゲルは、架橋タイプ(a)、(b)及び(c)間の多様な比を有して生成されうる。更に、架橋密度を調和させることにより、弾性も変動させることができる。この関連性は本明細書で以下に論じられ、そこで本発明のハイドロゲルの各種実施形態が論じられる。
【0022】
ハイドロゲルの表面をコーティングで部分的に被覆することにより、医薬品の放出の方向が更に改善されうる。治療されるべき体の部分に隣接して貼付された、埋め込まれたハイドロゲルを有し、更にハイドロゲルの被覆されていない表面が、治療されるべき体の部分に隣接していれば、その他の方向への医薬品の放出が低減されるか又は回避さえされる。このことは、副作用の低減、及び、医薬品がより低濃度で、又はその代わりに、通常の量の医薬品がよりゆっくり放出されることからより長い作用時間で作用する可能性という利点を有する。
【0023】
コーティングは、医薬品を含まず十分に厚いという条件で、ハイドロゲルの材料から構成されてよい。しかし、好ましくは、コーティングはハイドロゲル自体の材料よりも、医薬品に対して透過性が低い材料から構成される。コーティングは、柔軟であっても殻のようであってもよい。ハイドロゲルと同様に、コーティングは生体適合性バイオポリマーから構成されなければならない。生分解性は、ハイドロゲルと比較して同じでも延長されてもよい。好適な材料は、ポリカプロラクトン(これ以降は「PCL」)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(これ以降は「PLGA」)、ゼラチン、又はアルギン酸(alginate)を含むがこれらに限定されない。
【0024】
ゆえに、かなり重要なのは光開始剤の性質である。タイプ(a)の架橋のための架橋系は当技術分野で公知であり、HRP/H2O2をベースとする。リボフラビン、過硫酸ナトリウム(SPS)及び可視光の組み合わせの使用により架橋を達成することが新規である。ビタミンB2としても知られるリボフラビンは体内に自然に存在し、生体適合性であり、角膜コラーゲンの架橋のため臨床用途において現在使用されている(Belin、Michael W.、らCornea 2018、37、1218~1225頁)。SPSの存在下でリボフラビンを可視光に曝露すると、反応性の中間体が生成される。可視光で、ヒトの目に可視の電磁スペクトルの部分が意図される。通常のヒトの目は、波長約380~約740に、又は780ナノメートルにさえも反応する。特に、本発明は400~700ナノメートルの間の波長で試験を行った。その他の使用可能な光開始剤は、フェロセン、及びアントラキノンである。
【0025】
更に、光誘起性の架橋の使用により、先行技術から公知のHRP/H2O2系よりも良好な制御及び調節可能性がもたらされる。好ましくは、リボフラビン及びSPSはモル比1:5~20、好ましくは約1:10(リボフラビン:SPS)で使用される。例えば、リボフラビン及びSPSは、リボフラビンについては0.1~10mM、SPSについては1~100mMで使用されうる。好ましくは、リボフラビンは、リボフラビンの水溶性形態であるフラビンモノヌクレオチドである。
【0026】
先に論じられるように、バイオポリマー対シクロデキストリンの量を変動させることにより、バイオポリマーの官能基化を変動させることにより、シクロデキストリンの酸化の量を変動させることにより、及び光開始剤の量を変動させることにより、例えば、リングの形状のハイドロゲル、スリーブの形状のハイドロゲル、親指の爪の形状のハイドロゲル、楔の形状のハイドロゲル(例えば骨切り術のため)、又は、プレート及び骨の間での利用に好適な形状等のその他の好適な形状のハイドロゲルとしての意図される使用に対し、架橋密度、それゆえに膨潤度及び弾性率が調和されうる。埋め込み、及び医薬品の持続性放出をもたらす能力のためには、以下の特性が望ましい。
・機械的に丈夫なハイドロゲル及びゆっくりとした分解につながる高い架橋度。ゆえに、分解は薬物放出に対し最小限の影響しか有しない、
・例えばコーティングの使用による、好ましい場所への薬物の指向性放出、並びに
・骨格構造又は外科インプラント等の、押し付けられる構造の表面の形状に適応し、それにより構造との密接な接触が達成される能力。
【0027】
図3を見てみると、ハイドロゲルは様々な用途を見出すことができる。同時係属出願には、医薬品の局所放出のための担体としての、リングの形態のハイドロゲルの使用が記載されており(PCT/NL2018/050832、参照により本明細書に組み込まれる)、そこでハイドロゲルはねじと組み合わせて使用される。先願発明に準拠するハイドロゲルが
図3aに示される。
図3aは、概して参照番号1で表記される、本発明の実施形態によるリング要素の上面図を示す。リング要素1は、中心の開口部3を有する変形可能なリング体2を含む。リング要素1は、外科用ねじ要素、例えば脊椎固定システムの椎弓根スクリューの軸部に接して配置されるように設計される。リング体2はハイドロゲルから作製される。
図3bはリング要素1の断面A-Aを示す。リング要素1の外側表面の壁は、骨接触表面4及び区画壁5により形成される。骨接触表面4及び区画壁5は、区画6を区切る。区画6は基本的にリング体2により形成され、医薬品を含む。好ましい実施形態において、骨接触表面4は埋め込み後、放出されるべき医薬品の第1の放出速度を有し、区画壁5は放出されるべき医薬品の第2の放出速度を有する。好ましくは、第1の放出速度は第2の放出速度よりも実質的に大きい、例えば第2の放出速度の少なくとも2、好ましくは少なくとも10倍である。好ましい実施形態に準拠すれば、医薬品は経時的に、望ましい放出プロファイルに従って、主に骨接触表面4を介して区画6から放出される。
図4は、外科用ねじ要素20、及びねじ要素20の軸部21に接して取り付けられた
図3aのリング要素1の組み合わせを示す。軸部21は、患者の骨に設けられた穴にねじ要素20をねじ込むためのねじ山22を含む。ねじ要素20は、軸部21と一体化したねじ頭24、及び独立したコネクター部分25を有する近接部分23を更に含む。ねじ要素20が標準的なねじ要素であること、すなわちリング要素1と組み合わせた使用に特に適応させてはいないことを述べておく。ねじ要素20は、例えば、US2010/031228で開示される脊椎固定システムのねじ要素である。
図5は、治療されるべき患者の骨51に設けられた穴50にねじ込まれた後の、外科用ねじ要素20及びリング要素1の組み合わせを示す。骨51は、例えば患者の脊椎の椎弓根である。膨潤度約4及び弾性率400k
Paを有する、本発明に準拠するハイドロゲルは、前記用途に非常に好適である。
【0028】
別の同時係属出願には、例えば人工関節のための、スリーブの形態の、医薬品の局所放出のための担体としてのハイドロゲルの使用が記載されている(NL2023208、参照により本明細書に組み込まれる)。先願発明に準拠するハイドロゲルが
図6aに示される。
図6aは、概して参照番号60で表記される人工股関節インプラントを示す。人工股関節インプラント60は、患者の大腿骨に連結される大腿成分61、及び患者の寛骨臼(股関節窩)に連結される寛骨臼成分65を含む。大腿成分61は、大腿骨内に配置されるステム62、ネック63及びネック63上で支持されるヘッド64を含む。寛骨臼成分65は、寛骨臼カップ66内に配置されるライナー67を備えうる寛骨臼カップ66を含む。人工股関節インプラント60は当技術分野で広く公知である。これらのタイプの人工股関節インプラント60を使用する股関節置換術は現在、最も一般的な整形手術のうちの1つであるが、短期及び長期の患者満足度は様々である。痛み及び感染症リスク等の、股関節置換術の考えられる負の効果を考慮すると、人工股関節インプラント60の埋め込み後に、1種又は複数の医学的活性薬剤を患者に投与する必要がある。
【0029】
図6bは、大腿成分61のネック63に接して配置される、本発明の実施形態によるスリーブ要素68を備える
図6aの人工股関節インプラント60を示す。スリーブ要素68は、本発明に準拠し、医薬品、例えば、麻酔薬又は鎮痛薬等の痛みの治療薬を更に含むハイドロゲルを含む。膨潤度約4及び弾性率400kPaを有する、本発明に準拠するハイドロゲルは、前記用途に非常に好適である。
【0030】
別の用途において、ハイドロゲルの一部が「親指の爪」のピンとして作用するのに十分に硬質であり、一方でハイドロゲルの残りは親指の爪の頭を形成するという条件で、ハイドロゲルはそれ自体で使用される。これは
図7aに図示されており、ピンは(72)であり爪の頭は(71)である。医薬品はピンの軸、又は爪の頭に含まれうる。この実施形態において、ハイドロゲルと比較して異なる透過性を有するバイオポリマーのコーティングにより、ピンから離して、頭(73)の外側表面を被覆することが魅力的である。これにより、骨の方向への医薬品の指向性放出が確実となる。膨潤度約4及び弾性率400kPaを有する、本発明に準拠するハイドロゲルは、前記用途に非常に好適である。好ましくは、親指の爪の頭は外部がコーティングされている。更に、ピンはハイドロゲル以外の生分解性材料から別個に作製されてもよい。
【0031】
これらの実施形態はそれぞれ、ハイドロゲルの、押し付けられている骨又はインプラントの形状に適応する能力により、筋骨格障害の治療、特に骨格障害の治療に非常に好適である。これらの障害は、感染症、炎症、悪性過程、成長障害、変性障害、外傷、自己免疫疾患、又はこれらの障害(の外科的治療)から生じる痛みの治療を含む。好ましくは、これらの障害は、感染症、炎症、悪性過程、成長障害、変性障害又はこれらの障害(の外科的治療)から生じる痛みの治療を含む。
【0032】
本発明はBupiの使用に関して記載されるが、いかなる(局所)麻酔薬でも使用可能である。局所麻酔薬は通常、アミド及びエステルに分けられ、アミドがより一般的に使用される。麻酔薬は好ましくは、アルチカイン、プロカイン、クロロプロカイン、エチドカイン、プリロカイン、ブピバカイン、レボブピバカイン、ロピバカイン、メピバカイン、リドカイン、ジブカイン、又はその他のアミノ-カイン等のアミノ-アミド局所麻酔薬であるが、テトラカイン、プロカイン又はクロロプロカイン等のエステル系であってもよい。麻酔薬は、2種以上の麻酔薬の組み合わせを含んでいてもよい。好ましくは、麻酔薬は、ブピバカイン、リポソームブピバカイン又はレボブピバカイン、リドカイン、又はブピバカイン、リポソームブピバカイン及び/若しくはレボブピバカインを含む麻酔薬の組み合わせである。医薬品は、抗菌又は抗がん剤、成長因子、免疫調節薬等であるか、又はこれらを含んでいてもよい。医薬品は更に、親水性でも疎水性でもよい。ハイドロゲルの親水性性質により、親水性医薬品がハイドロゲルに容易に組み込まれる。oβ-CDの疎水性空洞により、疎水性薬物の封入がもたらされる。ゆえに、疎水性医薬品に関して、本発明のハイドロゲルは、oβ-CDを含まないハイドロゲルに対して利点を有する。好ましくは、医薬品は疎水性である。医薬品の疎水性の尺度は、平衡状態でのオクタノール及び水の混合物中の医薬品の濃度比である、オクタノール-水-分配係数Pである。疎水性医薬品については、logP>0、好ましくはlogP>2である。
【0033】
ハイドロゲルは、着色料、安定剤、共溶媒、緩衝剤及び同様の一般的な添加剤のような更なる成分を含んでいてよい。ブピバカインが医薬品として使用される場合、及びその限りでは、ブピバカインは好ましくは0.01~200mg/mL体積の量で使用される。更に、医薬品自体が、ハイドロゲルに包含される前に、例えば50nm~200μmのサイズ範囲のナノ又は微粒子に封入されてよい。医薬品は、PLGA、PCL、ゼラチン、アルギン酸又はリポソーム中に封入されてよい。
【0034】
ハイドロゲルからのブピバカインの放出は、in situでの薬物の結晶化により更に延長されうる。特に、ハイドロゲルの膨潤媒としてアルカリ溶液を使用すると、ハイドロゲルマトリックス内でのブピバカイン結晶の形成が誘起される。周囲媒質中で結晶がゆっくり溶解することで、ブピバカインの制御された放出が可能となる。
【0035】
医薬品に加えて、1種又は複数の更なる成分、好ましくは共医薬品(co-medication)、共溶媒、着色料、及び緩衝剤から選択される更なる成分が含まれていてよい。共医薬品は、ハイドロゲルに添加されるあらゆる更なる医薬品、好ましくはハイドロゲル中に存在する少なくとも1種の医薬品の効果を増強する医薬品と考えてよい。共溶媒は可塑剤を含むがこれに限定されない。1つのこのような可塑剤はグリセロールである。ハイドロゲルマトリックスにグリセロールを添加するとより高い弾性がもたらされるが、試料の剛性は影響されない。生じるハイドロゲルは、100~300%の間、好ましくは120~250%の間の破断点伸びを有しうる。
【0036】
ハイドロゲルの原材料を作製するための方法は公知である。ゆえに、チラミン及び関連の第一級アミノアルキルフェノールで、ゼラチン及び関連のバイオポリマーを官能基化することは公知である。同様に、シクロデキストリンを酸化することは公知である。先に引用され、参照により本明細書に含まれる、Thiら、RSC Adv.2017を参照のこと。重要だが医学的用途の分野では一般的なのは、混入の全ての形態を除去することである。例として、ハイドロゲルは以下の方法により調製されうる:
1.GTA、oβ-CD、SPS、リボフラビン及びブピバカインの溶液を調製する。
2.所定の濃度のGTA、oβ-CD、SPS及びリボフラビンが得られるように溶液を混合する。これらの濃度は、望ましい機械的及び放出特性次第で変動可能であり、GTA、oβ-CD(特定の範囲内で)及びSPS濃度がより高いほど、より高密度に架橋したハイドロゲルがもたらされる。
3.次いで、得られた溶液を所定の期間可視光に曝露する。時間は、望ましい機械的特性次第で変動可能であり、曝露時間が短いほど、より低密度に架橋したハイドロゲルがもたらされる。
4.次いで、得られたハイドロゲルをブピバカイン溶液に沈めて、ブピバカイン、及び必要に応じてグリセロール等の共溶媒をハイドロゲル中に拡散させる。
5.次いで、ハイドロゲルを乾燥させて、使用可能な状態にする。
6.任意選択で、例えば、ハイドロゲルと比較して、ブピバカインに対する異なる透過性を有するバイオポリマーの溶液でハイドロゲルを部分的にコーティングして、封入された医薬品を確実に指向性放出させてもよい。コーティングは、ハイドロゲルの機械的特性も増強しうる。コーティングは、工程6後にハイドロゲルに付加されてもよい。代わりに、所定の形状のコーティングの殻を形成し、この殻に工程2の溶液を導入することもでき、これによりコーティングはハイドロゲルの型として作用する。
【0037】
例として、コーティングされたハイドロゲルは以下のように調製されうる:
1.適切な溶媒(PCLの場合、これはジクロロメタンである)中のバイオポリマー(例えばPCL)溶液を調製する。使用されるPCL溶液は濃度0.5~25wt%の範囲である。
2.2つの選択肢が適用可能である:
a.金属型をバイオポリマーの溶液に浸漬させる。ポリマー溶液が型をコーティングする。次いでポリマー溶液を放置して乾燥させ、型から取り出す。型の形状のコーティングが構築されている。
b.ハイドロゲルをバイオポリマーの溶液に浸漬させる。溶液がハイドロゲルをコーティングする。次いでポリマー溶液をハイドロゲルに接して放置して乾燥させ、ハイドロゲルの周りにコーティングを形成させる。別の方法を使用するなら、PCL溶液をハイドロゲルにスプレーして、スプレーコーティングによるコーティングを達成することもできる。
3.ポリマー溶液の粘性、浸漬工程の期間、浸漬工程 (沈めて、収縮させる)の速度及び例えば1~10回の間の浸漬繰り返しの回数次第で、コーティングの望ましい厚さが得られる。
4.次いでコーティングは、拡散表面の減少及びハイドロゲルに対するある程度の機械的支持により、指向性放出、ハイドロゲルからの/ハイドロゲルのよりゆっくりとした放出及び分解をもたらす。
【0038】
ナノ/微粒子に封入されたブピバカインは、工程3の光への曝露の前に、工程2で溶液に添加されてよく、それにより、封入されたブピバカインがハイドロゲル中に装填される。この事例では、更なるブピバカインが工程4でハイドロゲルに導入されてよいが、工程4は省かれてもよい。
【0039】
上記方法では、チラミンで官能基化されたゼラチン(GTA)が使用されるが、官能基化剤で官能基化されたその他のバイオポリマーが、GTAの代わりに又はGTAに加えて使用されてもよい。同様に、上記方法では、ブピバカインが医薬品として使用されるが、その他の医薬品、更に共医薬品、共溶媒、着色料、及び緩衝剤から選択される更なる成分が使用されてもよい。
【0040】
この方法は、ハイドロゲルが使用される体の外で架橋したハイドロゲルについて使用されうる。工程6を欠く上記方法の改変形態として、GTA、oβ-CD、リボフラビン、SPS及びブピバカインの溶液と医薬品を混合し、例えば、医薬品が使用されるべき場所への注入又は注射により、これらを体内に投与することも可能である。次いで工程3がin vivoで実施される。
【実施例】
【0041】
本明細書に記載される方法を添付した。
【0042】
材料:
ゼラチン(ブタ皮膚、A型、300gブルーム強度)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、チラミン塩酸塩、2-モルホリノエタンスルホン酸一水和物(MES)、過硫酸ナトリウム(SPS)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、過ヨウ素酸ナトリウム、β-シクロデキストリン、グリセロール、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リボフラビン(RB)、及びエチレングリコールをSigma-Aldrich社から購入した。セルロース透析膜(Spectra/Por(商標)、0.5kDa;12kDa分子量カットオフ)をSpectrum Laboratories社から購入した。ブピバカインをSiegfried社、スイスから得た。
【0043】
ゼラチン-チラミン(GTA)の合成:
ゼラチンA型を50℃でMES緩衝液に溶解させ、その後チラミン、EDC及びNHSを添加した。反応混合物を撹拌しながら放置して一晩反応させた。次いで混合物を水に対して透析し、凍結乾燥により生成物を得た。
【0044】
チラミン含量測定
ゼラチンの官能基化度を、275nmでのポリマー溶液(0.1%、w/v)の吸光度を測定することにより決定し、蒸留水中の既知の百分率のチラミンの吸光度を測定することにより得られる較正曲線から算出した。
【0045】
β-シクロデキストリンの酸化:
過ヨウ素酸ナトリウムとの反応により酸化β-シクロデキストリンを調製した。簡潔に言えば、β-シクロデキストリンを蒸留水中に分散させ、その後過ヨウ素酸ナトリウムを添加し、暗所で一晩、室温で撹拌した。エチレングリコールの添加により反応を終了させた。MWCO 500Daの透析膜(Spectrum Labs社)を使用して、3日間混合物を脱イオン水に対して透析し、凍結乾燥により生成物を収集した。溶媒として重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)又は重水(D2O)のいずれかを使用する1H NMRにより、酸化の程度を決定した。β-シクロデキストリンは、4.8~4.9ppm対4ppmでのプロトン比約2.04を有するが、約1.49への比の変化により反応の進行が分かる。
【0046】
GTA/β-シクロデキストリンハイドロゲルの作製:
ハイドロゲル架橋の前に、GTA、oβ-CD、SPS及びリボフラビンの溶液を調製した。別に示されない限り、GTAは官能基化度10~25%を有しており、第二級ヒドロキシル基の酸化の程度が15~30%のoβ-CDを使用した。最終濃度20wt% GTA、0~10wt% oβ-CD、0~100mM SPS及び0~10mMリボフラビンが得られるように、これらの溶液を混合した。oβ-CDを有しない試料を対照として使用した。得られた溶液を可視光、特に400~700nmの波長範囲を使用する白色光ランプからの可視光に曝露して、ハイドロゲル形成を可能にした。
【0047】
膨潤比の決定:
特注の型を使用することにより調製された円盤の形状のGTAハイドロゲルで、膨潤研究を実施した。合成後、ハイドロゲル試料をpH7.4で37℃のPBSに、24時間又は平衡状態の膨潤が達成されるまで浸け込んだ。所定の時点で、過剰量の水を除去して試料を秤量した(Ws)。次いでハイドロゲルを凍結乾燥して乾燥質量(Wd)を得た。膨潤比を(Ws-Wd)/Wdとして定義した。
【0048】
ゲル割合を決定するため、合成後に試料を凍結乾燥させ(Wd1)、次いで水に24時間浸して可溶性画分を除去した。次いでハイドロゲルを乾燥させ(Wd2)、ゲル割合(%)を(Wd1/Wd2)×100%として算出した。
【0049】
結晶化
ブピバカイン結晶の形成を誘起するため、合成後にハイドロゲルを0.1M NaHCO3水性緩衝液(pH8.5)(任意選択で30%(v/v)グリセロールを含む)に2時間浸して、ハイドロゲル中の薬物の結晶化を誘起し(且つ任意選択でグリセロールを拡散させ)た。次いでハイドロゲルを放置して37℃で乾燥させた。
【0050】
機械的試験:
動的機械分析機(DMA Q800、TA Instruments社、イギリス)を使用して、円盤の形状の膨潤したハイドロゲルで圧縮試験を実施した。3N分-1~最大18Nの力傾斜率(force ramp rate)の制御された力モードで、室温で実験を実施した。5~10%のひずみでの応力-ひずみ曲線の勾配から、弾性率を決定した。試験を行った材料の塑性変形(すなわち、元の形態/形状/状態に戻らないこと)を誘起するのに必要とされる力を、最大能力500NのMark-10 ES10手動力試験スタンドを使用して室温で測定した。直径5mmのハイドロゲルに対して断面1cmの平行板設計を使用した。Mark-10 ES10に組み込まれたデジタル力ゲージで、加えられた圧縮力を測定した。
【0051】
試料をキャリパー器具に取り付けることにより、カスタマイズした方法を使用して、リングの形状のハイドロゲルの伸びを測定した。キャリパーをまず、リングの初期の内径を測定するのに使用し、次いで徐々に伸長させた。破断時のリングの内径を記録した。次いで((破断時のID-静止状態ID)/静止状態ID)*100%として伸びを算出した。
【0052】
レオロジーの挙動:
GTA及びoβCDの間の相互作用を研究するため、レオロジー実験を実施した。
【0053】
レオロジー-ゲル化時間
官能基化されたゼラチン及びoβCD(それぞれ最終濃度20%及び2%(w/v))の溶液を混合した直後に、溶液をレオメータープレートに置き、37℃で経時的にゲル化をモニタリングした(ひずみを1%で一定に、角周波数を1rad/sに設定した)。約8分時点で、貯蔵弾性率(G’)及び粘性係数(G”)の間の交差が観察され、G’がG”よりも高くなり、ゲル化点を示す。計90分間ゲル化をモニタリングし、次いで実験を停止した。この実験は、最終ハイドロゲルにおいて、フェノール-フェノール結合に加えて、oβCD及び改変ポリマーの間に更なる架橋(Schiff塩基反応;ホスト-ゲスト相互作用)も存在することを明らかに裏付けている。
【0054】
レオロジー-動的振幅試験(高いひずみ変形)
ゲル化実験後、動的振動振幅試験を実施して、ネットワーク内の架橋相互作用の可逆性を評価した。一定の角周波数1rad/sで、低ひずみ(1%)及び高ひずみ(2000%)のサイクルを交互に行い、G’及びG”をモニタリングした。各サイクルを200秒間実施した(
図8)。低ひずみ(1%)ではG’(白丸)がG”(灰色丸)よりも高く、固体様の挙動を示している。次いで、次のサイクルではひずみが2000%に増大され、G”がG’よりも高く、粘性様の挙動を示した。ひずみが低減された次の工程では、材料はその元の剛性を回復することができた。この実験は、ジチロシン架橋に加えて犠牲結合として作用し、ハイドロゲル材料の機械的特性の増大に寄与するoβCD及びチラミン-官能基化ゼラチンの間の相互作用の存在による、ハイドロゲル材料の自己回復能力を示している。
【0055】
薬物装填及びIn vitroでの薬物放出アッセイ
薬物放出特性の研究のため、50mg/mLのブピバカイン水溶液への24時間の浸け込みにより、得られたハイドロゲルにブピバカインを装填し、その後マトリックス中でブピバカインのpH誘導結晶化を行った。
【0056】
37℃でpH6の0.1Mクエン酸緩衝液1mLを含むバイアル内にハイドロゲルを配置することにより、ハイドロゲルからのブピバカインの放出を測定した。
【0057】
所定の時点で、一定分量の試料100μLを放出溶液から採取し、新しい緩衝液で置き換えた。試料を1:10で希釈した。ギ酸アンモニウム(10mM、pH2.4)及び移動相としてアセトニトリル/水/ギ酸(96:5:0.2、v:v:v)の混合物を使用するUPLCにより、ブピバカイン放出を決定した。
【0058】
分析結果
光開始剤の濃度を増大させるにつれての、ハイドロゲルの膨潤比及びゾル割合(sol fraction)を分析した。膨潤比は試験を行った全ての濃度で同様であった;わずかに4超。ゾル割合(ゲルの非架橋部分)は濃度2mMで0%近くと最低であり、その他のハイドロゲルでは約1%であった。2mMがハイドロゲルにとって好ましい濃度である。
【0059】
10、15及び20wt%GTAベースで、光開始剤としてリボフラビン/SPSを使用するハイドロゲル(対照)を、一定時間の可視光への曝露により調製した。GTA含量20wt%を有するハイドロゲルが、最大の圧縮力抵抗52±13Nを示した。グリセロール処理後、GTA含量10wt%のハイドロゲルが200~400Nの間の圧縮力を示し、GTA含量15%のハイドロゲルが400Nを超える圧縮力を示した。GTA含量20%のハイドロゲルが400Nを優に上回るスコアを出し、圧縮に対して最も抵抗性であった(
図9)。
【0060】
更に、ハイドロゲルマトリックスにグリセロールを添加すると、グリセロール処理前後それぞれで、リングの形状のハイドロゲルについて、伸びが80.3±6.5%から189.3±56.8%に著しく増大し、弾性が改善された(
図10)。
【0061】
再度ハイドロゲル(対照)を作製したが、ここでは一定のGTA含量20wt%を有し、増大するSPS濃度を使用し、その後可視光に曝露した。0mM SPSではハイドロゲルが形成されなかった。低濃度ではハイドロゲルがその形態を維持しなかった。より高濃度のSPSでは、機械試験装置の最大能力(500N)を超えるハイドロゲルがもたらされた。本発明に基づけば、選択されるSPS濃度により最適な機械的特性及び最小の細胞毒性効果が与えられた。
【0062】
再度ハイドロゲルを作製したが、ここでは一定のGTA含量20wt%、一定のRB/SPS濃度並びに様々な量のoβ-CD、0wt%(対照)、2wt%(発明)、4wt%(発明)及び6wt%(発明)を有していた。より高濃度のoβ-CDでは、膨潤の減少及びそれゆえの架橋の増大がもたらされる。膨潤比は約6~3で変動した。
【0063】
GTA含量20wt%、一定比のRB/SPS及び一定濃度のoβ-CDで調製されたハイドロゲルで、圧縮率に対する照射時間の効果を評価した。照射時間を増大させると、ハイドロゲルの圧縮率の増大がもたらされた。圧縮率は167.5(±20)kPa(5分)、328.3(±29)kPa(10分);455.7(±63)kPa(20分)、及び552.3(±138)kPa(30分)であることが判明した。照射時間を増大させると、ハイドロゲルの膨潤の減少ももたらされ、このことは架橋の増大と一致する。膨潤は照射時間10~30分の間で約4の値に到達した。グリセロールをハイドロゲルに添加しても圧縮率の変化はもたらされなかった(
図11)。
【0064】
再度各種濃度のoβ-CDを有するハイドロゲルを作製した。ブピバカインをハイドロゲルに組み込むことの、圧縮率に対する効果を試験した。圧縮率に対して効果を有しないことが判明した。先に決定されたように、oβ-CDの増大によりハイドロゲルの圧縮率は増大する。
【0065】
先に引用されたThiら、RSC Adv. 2017に準拠して、GTA含量20wt%、HRP 0.5EU/mL、H2O2 0.04%、及び様々な濃度のoβ-CDでハイドロゲルを作製した。これらを、本発明に準拠して作製された、同様のGTA及びoβ-CD含量を有し、しかし光開始剤としてRB及びSPSで調製されたハイドロゲルと比較した。本発明によるハイドロゲルは、同じポリマー濃度でより高い圧縮率を示した。
【0066】
ヒトMSC細胞を使用し、Live/Deadアッセイを使用して、本発明のハイドロゲルの個々の成分の細胞毒性を試験した。明記される濃度の化合物(PBS中に溶解されている)に細胞を1時間曝露した。細胞生存率を、ハイドロゲルがPBSのみに1時間曝露される対照のウェルと比較した。48時間後に、製造業者のプロトコルに従ってLive/Deadアッセイを実施した。試験を行った全ての濃度のリボフラビン及びoβ-CDについて、細胞生存率は対照のウェルと同様であった。
【0067】
alamarBlue(商標)アッセイを使用して、ヒトMSCの代謝活性を評価した。先に引用されたThiら、RSC Adv. 2017に準拠するハイドロゲル、又は等しいGTA含量の、本発明に準拠するハイドロゲルのいずれかに細胞を48時間曝露した。続いて、プロトコルに従ってアッセイを実施した。試験を行ったハイドロゲルの代謝活性は対照とほとんど同様であり、本光開始剤の細胞適合性が裏付けられた。グリセロール処理前後のハイドロゲルで、細胞生存率又は代謝活性に有意差は観察されなかった。更に、ハイドロゲル中でブピバカインの結晶化を誘起するためアルカリ緩衝剤を使用しても、細胞と接触させた際に細胞毒性効果はもたらされなかった。
【0068】
部分的にPLGAでコーティングされたハイドロゲルからの結晶化ブピバカインの放出は、0.01Mクエン酸緩衝液pH6.0中で168時間を超えた。放出プロファイルは、初期のバースト放出(最初の8時間で総薬物含量の約20%)、その後のほぼ直線のブピバカイン放出段階を特徴としていた。薬物放出の168時間後、ハイドロゲルの分解による実験の完了後に決定されたように、総薬物含量の20%がハイドロゲル内部に留まった(
図12)。
【0069】
指向性放出に対するコーティングの影響を決定するため、メチレンブルーを含むハイドロゲルを、流延により得られた180μm厚さのPCL膜上に流延した。ハイドロゲルからのメチレンブルーの放出を、組織様の堅さを得るように塩化カルシウムで架橋させた3%アルギン酸ゲルでシミュレートした。ハイドロゲルの上部のみをPCLでコーティングした。0、1、2、及び3時間時点で試料を検査した。放出の方向に対する重力の効果を排除するために、ハイドロゲルを垂直に配置した。外観検査により、PCLで被覆されていない方向にのみメチレンブルーが放出されたことが明らかとなった。同じ実験をブピバカインで実施した。累積放出が評価され、PCLで被覆された方向からでは8時間後に約2mgに到達することが判明し、その一方、PCLで被覆されていない方向ではこれに1時間以内で到達した。このことは、ハイドロゲル内で医薬品の指向性放出をもたらすのに、コーティングが使用されうることを裏付けている。
【符号の説明】
【0070】
1 リング要素
2 リング体
3 開口部
4 骨接触表面
5 区画壁
6 区画
20 ねじ要素
21 軸部
22 ねじ山
23 近接部分
24 ねじ頭
25 コネクター部分
50 穴
51 骨
60 人工股関節インプラント
61 大腿成分
62 ステム
63 ネック
64 ヘッド
65 寛骨臼成分
66 寛骨臼カップ
67 ライナー
68 スリーブ要素
71 爪の頭
72 ピン
73 頭
【国際調査報告】