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特表2022-536819乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法
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  • 特表-乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-19
(54)【発明の名称】乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/02 20060101AFI20220812BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20220812BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20220812BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
C22B11/02
C22B7/00 B
B09B3/40
C04B18/14 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021542209
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-01
(85)【翻訳文提出日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 CN2021074719
(87)【国際公開番号】W WO2022001103
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】202010835163.7
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516265780
【氏名又は名称】北京科技大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】丁云集
(72)【発明者】
【氏名】張深根
【テーマコード(参考)】
4D004
4K001
【Fターム(参考)】
4D004AA43
4D004AB03
4D004BA02
4D004CA29
4D004CB31
4D004CC11
4D004DA06
4K001AA10
4K001AA41
4K001BA22
4K001DA05
4K001GA19
4K001KA01
4K001KA06
4K001KA13
(57)【要約】
本発明は、白金族金属(PGM)回収の技術分野に関し、乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法を提供する。Alを担体とする廃触媒に対して、乾式製錬により鉄を利用して白金族金属を捕集する方法を開示し、当該方法において、CaO-Al-Fe-Bスラグ系を使用し、スラグと鉄の分離によって白金族金属の効率的な富化を実現し、CaO-MgO-Al-SiOスラグ系が難溶性の白金族金属-フェロシリコンを生成することが回避され、白金族金属の回収率が向上する。本発明は、スラグ量が少なく、Fe-PGM合金がケイ素を含まず、回収効率が高く、コストが低いという特徴を有し、工業的生産に適する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を捕集剤とし、アルミニウム系廃触媒を回収対象とし、CaO-Al-Fe-Bスラグ系を使用し、一定の酸素分圧で溶融して白金族金属を捕集し、最後に、スラグと鉄の分離によってFe-PGM合金を得て、白金族金属の効率的な回収を実現することを特徴とする乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【請求項2】
前記CaO-Al-Fe-Bスラグ系中のCaO、Al、Fe及びBの質量分率は、それぞれ35~50wt.%、40~60wt.%、5~10wt.%、0~10wt.%であり、CaO、Al、Fe及びBの4者の和≧90%であることを特徴とする請求項1に記載の乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【請求項3】
前記CaO-Al-Fe-Bスラグ系において、CaO、Al、Fe及びBの4つの成分を除き、他の成分は、LiO、NaO、KO、MgO、FeO、MnOのいずれか1つ又は1つ以上であり、LiO、NaO、KO、MgO、FeO、MnOの各成分の含有量は0~5wt.%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【請求項4】
前記捕集剤としては鉄粉を使用し、前記鉄粉の使用量は、前記アルミニウム系廃触媒の質量の5~40wt.%であり、酸素分圧≦10-3atmになるように制御し、溶融温度は1500~1800℃であることを特徴とする請求項1に記載の乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【請求項5】
白金族金属の回収率は99%以上であることを特徴とする請求項1に記載の乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【請求項6】
白金族金属の溶融・捕集によって生成された溶融スラグは、セメントを製造するために使用することができることを特徴とする請求項1に記載の乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【請求項7】
前記アルミニウム系廃触媒は、アルミナを担体とする白金族金属含有廃触媒であることを特徴とする請求項1に記載の乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族金属回収分野に属し、乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族金属(Platinum group metals,PGM)は、安定性が高く、高温耐性及び触媒活性に優れるなどの物理化学的特性のため、自動車、石油、電子機器、化学工業、航空宇宙及び環境保全などの分野に広く使用されている。しかしながら、中国のPGMは、埋蔵量が少なく、使用量が大きく、輸入依存度が高く、供給と需要との矛盾が非常に際立っている。石油化学産業は、PGMの重要な消費分野であり、Alを担体とする触媒を使用した水素化、脱水素化、酸化、還元、異性化、芳香族化、分解、合成などに用いられる。2018年まで、中国の石油化学産業規模以上の企業が2.6万軒あり、原油加工量が6.5億トンを超え、触媒の使用量が約6000~8000トンであり、PGMの使用量が約20~25トンであり、大きな資源量を有する。
【0003】
アルミニウム系廃触媒担体は、高融点のAlであり、従来のCaO-MgO-Al-SiOスラグ型は、融点が高く、スラグ量が大きく、鉄を利用して捕集することで難溶性のフェロシリコンを生成し、最終的には白金族金属の回収率が低くなる。
【0004】
現在、Alを担体とする廃触媒中の白金族金属の回収方法は、主に湿式溶解であり、即ち、酸性環境で種々の酸化剤によってPGMを溶解させ、PGMと担体の分離効果を実現する。例えば、中国発明特許(中国特許出願第201810979537.5号明細書)では、アルミナ担体白金レニウム廃触媒に対して、硫酸を用いてアルミナ担体を溶解させ、更に王水を用いて白金を溶解させ、多量の硫酸が消費され、且つ廃水量が大きく、環境負荷が大きい。中国発明特許(中国特許出願第201910796194.3号明細書)には、酸化焙焼前処理を採用し、更に塩酸及び塩素系酸化剤によってパラジウムを浸出させる方法が開示されている。中国発明特許(中国特許出願第201810181326.7号明細書)には、低温蒸留によって廃触媒中の有機物を回収してから、HCl+NaC+Hを用いてパラジウムを酸化浸出するプロセスが開示されている。中国発明特許(中国特許出願第201710383466.8号明細書)では、まず、アルミナ担体を粉砕して微細化し、その後、塩酸、硫酸、NaCl及び液体NaClOを用いて白金を選択的に溶解させる。中国発明特許(中国特許出願第201810842524.3号明細書)には、難溶性のα-Al系の白金含有廃触媒に対して、アルカリ焙焼-水浸漬によってAl担体を溶解させ、更に塩酸+塩素酸ナトリウムによって白金を酸化溶解させることが開示されている。上記湿式プロセスのいずれによっても、多量の廃水が生成され、且つ、白金族金属の溶解過程において、Cl、NOなどの有毒ガスを生成しやすく、環境汚染が深刻である。
【0005】
近年、乾式製錬による富化は、研究のホットスポットになっている。中国発明特許(中国特許出願第201710856842.0)号明細書)には、Niを捕集剤とし、ホウ砂、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、メチルセルロースの少なくとも1つを添加してスラグを形成し、1050~1200℃のマイクロ波で廃触媒中の白金族金属を捕集する、マイクロ波加熱によって溶融して白金族金属を捕集する方法が開示されており、当該方法は、溶融温度が低く、捕集率が高いという利点を有するが、捕集過程において、SOが生成され、且つニッケルが有毒な重金属であり、潜在的な環境リスクを有する。中国発明特許(中国特許出願第201811156196.8号明細書)には、実質的に銅を用いて廃触媒中の白金族金属を捕集する、廃棄回路基板と自動車排気ガスの廃触媒を相乗的に資源化する方法が開示されており、回収率が98%を超え、重金属汚染が深刻であり、且つダイオキシンが排出されるリスクが存在する。中国発明特許(中国特許出願第201510797358.6号明細書)には、ニッケルマットを捕集剤とし、酸化カルシウム、シリカをスラグ形成剤とし、1400~1450℃で溶融して廃触媒中の白金族金属を捕集することが開示されており、ニッケルが有毒な重金属であり、且つ溶融過程においてSOガスが生成される。中国発明特許(中国特許出願第201911145745.6号明細書)には、VOC廃触媒から白金族金属を回収する方法が開示されており、具体的には、FeSを捕集剤とし、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、フッ化カルシウム、ホウ砂などをスラグ形成剤として添加し、溶融温度が1000~1700℃であり、白金族金属の捕集効果が高いが、SOガスが生成され、スラグ量が大きいなどの欠点を有する。中国発明特許(中国特許出願公開第201610883402.X号明細書)及び非特許文献(賀小塘、李勇、呉喜龍、趙雨、王歓、劉文,プラズマ溶融技術による白金族金属の富化プロセスの初期研究[J].貴金属,2016,37(01),1~5.)では、自動車の廃触媒に対して、プラズマアーク炉により鉄を利用して捕集し、溶融温度が1500~1800℃であり、プロセスフローが短く、白金族金属の回収率が高いなどの利点を有するが、高温でフェロシリコンが生成されることで後続の白金族金属の分離が困難になり、最終的にコストの増加及び回収率の低下につながる。例えば、非特許文献(呉喜龍、賀小塘、李紅梅、趙金成、施秋杰、湯永松、李勇、王歓、趙雨、雷霆,白金・パラジウム・ロジウム含有の鉄合金富化物の溶解試験研究[J].非鉄金属(製錬部分),2016(03),52~54+67.)では、プラズマ溶融によって得られた鉄合金の溶解及び白金族金属の回収が研究され、鉄合金中の単体ケイ素の含有量が10~15%であり、Fe-PGMの耐腐食性が非常に高く、塩酸+塩素酸ナトリウムを用いて酸化した最適な浸出プロセスの条件で、白金、パラジウム及びロジウムの浸出率がそれぞれ57%、62%及び25%であることを発見した。中国発明特許(中国特許出願公開第103014352号明細書)には、鉄、銅を捕集剤とし、ナトリウム塩をスラグ形成剤とし、1100~1450℃でアルミナを担体とする石油化学触媒中のPGMを捕集する、アルミナを担体とする石油化学触媒から白金族金属を溶融して抽出する方法が開示されており、当該特許によれば、フェロシリコンの生成を回避することができるが、どのようなナトリウム塩であるかが開示されておらず、捕集効果がまだ検証されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許出願第201810979537.5号明細書
【特許文献2】中国特許出願第201910796194.3号明細書
【特許文献3】中国特許出願第201810181326.7号明細書
【特許文献4】中国特許出願第201710383466.8号明細書
【特許文献5】中国特許出願第201810842524.3号明細書
【特許文献6】中国特許出願第201710856842.0号明細書
【特許文献7】中国特許出願第201811156196.8号明細書
【特許文献8】中国特許出願第201510797358.6号明細書
【特許文献9】中国特許出願第201911145745.6号明細書
【特許文献10】中国特許出願第201610883402.X号明細書
【特許文献11】中国特許出願公開第103014352号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】賀小塘、李勇、呉喜龍、趙雨、王歓、劉文,プラズマ溶融技術による白金族金属の富化プロセスの初期研究[J].貴金属,2016,37(01),1~5.
【非特許文献2】呉喜龍、賀小塘、李紅梅、趙金成、施秋杰、湯永松、李勇、王歓、趙雨、雷霆,白金・パラジウム・ロジウム含有の鉄合金富化物の溶解試験研究[J].非鉄金属(製錬部分),2016(03),52~54+67.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術においてアルミニウム系廃触媒の湿式浸出試薬の消費量が多く、廃水排出量が大きく、且つ乾式製錬により銅・鉛・ニッケルを利用して捕集することによって重金属汚染が引き起こされることに対して、高温での鉄捕集溶融は、シリカを還元してフェロシリコンを生成するため、後続の白金族金属の浸出率が低い技術的問題が招かれ、且つ、材料消費が高く、スラグ量が大きいなどの問題が存在し、本発明は、乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法を提供し、CaO-Al-Fe-Bという新規なケイ素を含まないスラグ系に基づき、鉄を利用して廃触媒中の白金族金属を捕集し、重金属汚染及びフェロシリコンの生成を根本的に回避し、白金族金属の回収による汚染がなく、コストが低く、スラグ量が少なく、白金族金属の回収率が高いことを実現し、産業上の利用可能性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の技術的解決手段を採用する。
【0010】
乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法は、鉄を捕集剤とし、アルミニウム系廃触媒を回収対象とし、CaO-Al-Fe-Bスラグ系を使用し、一定の酸素分圧で溶融して白金族金属を捕集し、最後に、スラグと鉄の分離によってFe-PGM合金を得て、白金族金属の効率的な回収を実現する。
【0011】
更に、前記CaO-Al-Fe-Bスラグ系中のCaO、Al、Fe及びBの質量分率は、それぞれ35~50wt.%、40~60wt.%、5~10wt.%、0~10wt.%であり、CaO、Al、Fe及びBの4者の和≧90%である。
【0012】
更に、前記CaO-Al-Fe-Bスラグ系において、CaO、Al、Fe及びBの4つの成分を除き、他の成分は、LiO、NaO、KO、MgO、FeO、MnOのいずれか1つ又は1つ以上であり、LiO、NaO、KO、MgO、FeO、MnOの各成分の含有量は0~5wt.%である。
【0013】
更に、前記捕集剤としては鉄粉を使用し、前記鉄粉の使用量は、前記アルミニウム系廃触媒の質量の5~40wt.%であり、酸素分圧≦10-3atmになるように制御し、溶融温度は1500~1800℃である。ここで、系内の酸素分圧≦10-3atmになるように制御することで、捕集剤の鉄とスラグ相におけるFeとが反応して捕集剤の損失を引き起こし、更に捕集効果に影響することを防止することができる。
【0014】
更に、前記方法は、鉄捕集過程においてフェロシリコンを生成するという問題を徹底的に解決することができ、前記方法によれば、白金族金属の回収率は99%以上である。
【0015】
更に、前記方法を用いて製造された溶融スラグは、重金属を含まず、Al含有量が高く、且つ、一定のBを含み、白金族金属の溶融・捕集によって生成された溶融スラグは、強度が高く、熱安定性が良好で、膨張係数が低いセメントを製造するために使用することができる。
【0016】
更に、前記アルミニウム系廃触媒は、アルミナを担体とする白金族金属含有廃触媒である。
【0017】
本発明の原理は、以下の通りである。
【0018】
本発明により提供される方法は、鉄と白金族金属が連続固溶体を形成する特性を利用し、非毒性の鉄を利用してアルミニウム系廃触媒中の白金族金属を捕集し、従来、乾式製錬により銅、鉛、ニッケルなどを利用して捕集することに起因する重金属汚染を回避する。白金族金属の捕集効率は、主に溶融スラグの粘度及び密度によるものであり、粘度が低く、密度が小さいほど、鉄合金とスラグ相の分離が容易になり、白金族金属の回収率が高くなる。本発明は、CaO-Alの2元状態図に基づいて1370℃前後で共晶反応を起こし、その後、Fe及びCaO、Alを添加することで融点が低いカルシウムフェライト(1100~1250℃)、カルシウムアルミノフェライト(~1400℃)を形成することにより、スラグ相の融点を更に低下させ、スラグ相中のAl含有量が40~60wt.%の範囲である場合にその融点が1400℃よりも低く、一定の過熱度(100~400℃)で流動性が良いスラグを形成することを実現し、また、Bを導入し、CaO、Alと共に低融点のホウ酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム、ホウアルミン酸カルシウムなどの一連の化合物を生成し、このような化合物は、上記カルシウムフェライト、カルシウムアルミノフェライトと融点がより低い共溶融物を更に形成し、粘度及び密度がより低い新たなCaO-Al-Fe-Bスラグ系を更に形成し、低い融点(<1400℃)を満たす条件で、スラグ相中のAl含有量を更に増大させると同時に白金族金属の回収率を向上させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有益な効果は、以下の通りである。
【0020】
(1)本発明に記載の方法は、CaO-Al-Fe-Bスラグ系を使用することでケイ素の導入を根本的に回避し、従来のCaO-(MgO)-Al-SiOスラグ系から高温で鉄を利用して捕集することでフェロシリコンが生成されるという問題を完全に解決し、白金族金属と鉄の効率的な分離に寄与する。
【0021】
(2)本発明に記載の方法により選択されたCaO-Al-Fe-Bスラグ系は、低い融点(≦1400℃)を有し、且つ、スラグ相中のAl含有量が高く(40~60wt.%)、フラックスの添加量が少ないため、スラグ量が少なく、省エネルギーで環境に優しいメリットを有する。
【0022】
(3)本発明に記載の方法において、CaO、Al、Fe、Bスラグを形成することで一連の低温化合物を生成するとともに低融点の共溶融物を形成することにより、スラグ相の融点を更に低下させ、スラグ相の成分の適用区間を拡大し、また、Bの密度が低いため、スラグ相の密度も低下し、鉄合金の沈降に寄与し、スラグ相と鉄合金の効率的な分離が実現され、白金族金属の回収率が向上する。
【0023】
(4)本発明に記載の方法により生成された溶融スラグは、独特な化学成分のため、熱安定性が良好で、強度が高く、膨張係数が低いセメントを製造するために使用することができ、廃棄スラグの資源化利用が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施例における乾式製錬によるアルミニウム系触媒の白金族金属の富化方法を示すプロセスフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、具体的な図面を参照しながら本発明の具体的な実施例を詳しく説明する。なお、下記実施例に記載の技術的特徴又は技術的特徴の組み合わせは、独立していると見なされるべきではなく、それらは、組み合わせられることでより優れた技術的効果を達成することができる。下記実施例の図面において、各図面に現れる同じ符号は、同じ特徴又は部材を代表し、異なる実施例に使用することができる。
【0026】
本発明の実施例は、乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法を提供し、プロセスフローチャートは図1に示され、前記方法は、鉄を捕集剤とし、新たなCaO-Al-Fe-Bスラグ系を使用し、材料を均一に混合してから、1500~1800℃、酸素分圧が10-3atmよりも低い条件で溶融し、スラグ相と合金の分離によって白金族金属に富んだFe-PGM合金を得る。
【0027】
本発明の実施例のケイ素を含まないスラグ系中のCaO、Al、Fe及びBの質量分率は、それぞれ35~50wt.%、40~60wt.%、5~10wt.%、0~10wt.%であり、4者の和≧90%である。
【0028】
以下、具体的な実施例を参照しながら本発明の実現を詳しく説明する。
【実施例1】
【0029】
100部のアルミニウム系の白金含有の廃棄石油化学触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、Bを添加することでスラグ相の成分をAlが40wt.%、CaOが50wt.%、Feが5wt.%、Bが5wt.%であるように調整し、5部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1550℃であり、炉内の酸素圧が10-3atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物が白金を十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pt合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Ptの回収率が99.2%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例2】
【0030】
100部のアルミニウム系のパラジウム含有の廃棄石油化学触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、Bを添加することでスラグ相の成分をAlが42wt.%、CaOが40wt.%、Feが5wt.%、Bが10wt.%、NaOが3wt.%であるように調整し、7部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1500℃であり、炉内の酸素圧が2.1×10-3atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物がパラジウムを十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pd合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Pdの回収率が99.4%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例3】
【0031】
100部のアルミニウム系の白金含有の廃棄石油化学触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、Bを添加することでスラグ相の成分をAlが45wt.%、CaOが44wt.%、Feが5wt.%、Bが1wt.%、KOが2%、NaOが3%であるように調整し、10部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1600℃であり、炉内の酸素圧が3.5×10-3atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物が白金を十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pt合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Ptの回収率が99.0%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例4】
【0032】
50部のアルミニウム系の白金・ロジウム含有の廃棄石油化学触媒及び50部のアルミニウム系のパラジウム含有の廃棄石油化学触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、B、MgOを添加することでスラグ相の成分をAlが50wt.%、CaOが35wt.%、Feが10wt.%、Bが3wt.%、MgOが3%であるように調整し、15部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1650℃であり、炉内の酸素圧が4.3×10-3atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物が白金、パラジウムを十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pt/Rd合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Pt、Pdの回収率がそれぞれ99.2%及び99.4%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例5】
【0033】
100部の白金・イリジウム含有の石油改質廃触媒を取り、フラックスであるCaO、Feを添加することでスラグ相の成分をAlが55wt.%、CaOが40wt.%、Feが5wt.%であるように調整し、20部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1720℃であり、炉内の酸素圧が5.2×10-4atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物が白金、イリジウムを十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pt/Ir合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Pt、Irの回収率が99.5%及び99.2%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例6】
【0034】
100部のアルミニウム系の白金含有の廃棄石油化学触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、Bを添加することでスラグ相の成分をAlが52wt.%、CaOが40wt.%、Feが6wt.%、Bが2wt.%であるように調整し、25部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1750℃であり、炉内の酸素圧が3.7×10-4atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物が白金を十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pt合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Ptの回収率が99.7%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例7】
【0035】
100部のパラジウム含有の石油水素化廃触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、Bを添加することでスラグ相の成分をAlが50wt.%、CaOが42wt.%、Feが5wt.%、Bが3wt.%であるように調整し、30部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1700℃であり、炉内の酸素圧が2.7×10-4atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物がパラジウムを十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pd合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Pdの回収率が99.1%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例8】
【0036】
100部の白金・パラジウム含有の石油異性化廃触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、Bを添加することでスラグ相の成分をAlが48wt.%、CaOが45wt.%、Feが6wt.%、Bが1wt.%であるように調整し、35部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1680℃であり、炉内の酸素圧が5.4×10-4atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物が白金、パラジウムを十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pt/Pd合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Pt及びPdの回収率がそれぞれ99.4%及び99.5%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例9】
【0037】
100部の過酸化水素水産業のパラジウム含有廃触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムを添加することでスラグ相の成分をAlが46wt.%、CaOが44wt.%、Feが5wt.%、NaOが3wt.%、LiOが2wt.%であるように調整し、40部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1600℃であり、炉内の酸素圧が1.3×10-5atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物がパラジウムを十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pd合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Pdの回収率が99.5%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例10】
【0038】
100部のアルミニウム系の白金・ロジウム含有の廃棄石油化学触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、Bを添加することでスラグ相の成分をAlが43wt.%、CaOが48wt.%、Feが7wt.%、Bが2wt.%であるように調整し、18部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1660℃であり、炉内の酸素圧が2.5×10-4atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物が白金、ロジウムを十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pt/Rh合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Pt及びRhの回収率がそれぞれ99.6%及び99.2%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例11】
【0039】
100部の酢酸産業のアルミニウム系のパラジウム含有廃触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、B、MgO、MnOを添加することでスラグ相の成分をAlが40wt.%、CaOが40wt.%、Feが5wt.%、Bが8wt.%、MgOが4wt.%、MnOが3wt.%であるように調整し、23部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1520℃であり、炉内の酸素圧が4.1×10-5atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物がパラジウムを十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pd合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Pdの回収率が99.3%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例12】
【0040】
100部のアルミニウム系の白金含有の廃棄石油化学触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、B、炭酸ナトリウム、FeOを添加することでスラグ相の成分をAlが44wt.%、CaOが40wt.%、Feが5wt.%、Bが1wt.%、NaOが7wt.%、FeOが3wt.%であるように調整し、36部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1550℃であり、炉内の酸素圧が1.5×10-6atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物が白金を十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pt合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Ptの回収率が99.4%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例13】
【0041】
100部のアルミニウム系のルテニウム含有の廃棄石油化学触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、B、炭酸ナトリウムを添加することでスラグ相の成分をAlが50wt.%、CaOが35wt.%、Feが7wt.%、Bが6wt.%、NaOが2wt.%であるように調整し、15部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1740℃であり、炉内の酸素圧が3.2×10-6atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物がルテニウムを十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Ru合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Ruの回収率が99.2%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例14】
【0042】
100部のアルミニウム系の白金含有の廃棄石油化学触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、Bを添加することでスラグ相の成分をAlが54wt.%、CaOが37wt.%、Feが6wt.%、Bが3wt.%であるように調整し、12部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1750℃であり、炉内の酸素圧が2.4×10-6atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物が白金を十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pt合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Ptの回収率が99.6%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例15】
【0043】
100部のアルミニウム系のパラジウム含有の廃棄石油化学触媒を取り、フラックスであるCaO、Fe、Bを添加することでスラグ相の成分をAlが57wt.%、CaOが35wt.%、Feが5wt.%、Bが3wt.%であるように調整し、20部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1780℃であり、炉内の酸素圧が6.4×10-6atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物がパラジウムを十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pd合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Pdの回収率が99.5%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
【実施例16】
【0044】
100部のアルミニウム系の白金含有の廃棄石油化学触媒を取り、フラックスであるCaO、Feを添加することでスラグ相の成分をAlが60wt.%、CaOが35wt.%、Feが5wt.%であるように調整し、5部の鉄粉を添加してから均一に混合し、混合物を溶融炉に入れて溶融し、溶融温度が1800℃であり、炉内の酸素圧が1.4×10-8atmになるように制御し、反応が完了した後に鉄合金溶融物が白金を十分に捕集して溶融物の底部に沈むように暫く静置する。その後、スラグと合金の分離によってFe-Pt合金及び溶融スラグを得て、検出したところ、Ptの回収率が99.7%であり、溶融スラグは、高性能セメントの製造に用いられる。
図1
【手続補正書】
【提出日】2021-08-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を捕集剤とし、アルミニウム系廃触媒を回収対象とし、CaO-Al-Fe-Bスラグ系を使用し、一定の酸素分圧で溶融して白金族金属を捕集し、最後に、スラグと鉄の分離によってFe-PGM合金を得て、白金族金属の効率的な回収を実現し、酸素分圧≦10 -3 atmになるように制御し、
前記CaO-Al-Fe-Bスラグ系中のCaO、Al、Fe及びBの質量分率は、それぞれ35~50wt.%、40~60wt.%、5~10wt.%、0~10wt.%であり、CaO、Al、Fe及びBの4者の和≧90%であることを特徴とする乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【請求項2】
前記CaO-Al-Fe-Bスラグ系において、CaO、Al、Fe及びBの4つの成分を除き、他の成分は、LiO、NaO、KO、MgO、FeO、MnOのいずれか1つ又は1つ以上であり、LiO、NaO、KO、MgO、FeO、MnOの各成分の含有量は0~5wt.%であることを特徴とする請求項1に記載の乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【請求項3】
前記捕集剤としては鉄粉を使用し、前記鉄粉の使用量は、前記アルミニウム系廃触媒の質量の5~40wt.%であり、溶融温度は1500~1800℃であることを特徴とする請求項1に記載の乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【請求項4】
白金族金属の回収率は99%以上であることを特徴とする請求項1に記載の乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【請求項5】
白金族金属の溶融・捕集によって生成された溶融スラグは、セメントを製造するために使用することができることを特徴とする請求項1に記載の乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【請求項6】
前記アルミニウム系廃触媒は、アルミナを担体とする白金族金属含有廃触媒であることを特徴とする請求項1に記載の乾式製錬によるアルミニウム系廃触媒中の白金族金属の富化方法。
【国際調査報告】