(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-22
(54)【発明の名称】網状複合材料
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20220815BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20220815BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20220815BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20220815BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20220815BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20220815BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20220815BHJP
H01M 50/429 20210101ALI20220815BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20220815BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20220815BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20220815BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20220815BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20220815BHJP
【FI】
C08J9/00 Z CEW
C08J9/00 CEY
H01M50/414
H01M50/491
H01M50/489
H01M50/426
H01M50/42
H01M50/423
H01M50/429
H01M50/44
H01M50/446
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/403 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021575085
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(85)【翻訳文提出日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 US2020038388
(87)【国際公開番号】W WO2020257425
(87)【国際公開日】2020-12-24
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ラミン・アミン-サナイェイ
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー・ブレズン
(72)【発明者】
【氏名】マーク・オーバート
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・コレット
【テーマコード(参考)】
4F074
5H021
【Fターム(参考)】
4F074AA02
4F074AA38
4F074AA47
4F074AA48
4F074AC02
4F074AC20
4F074AC21
4F074AC32
4F074AH03
4F074CB47
4F074CC04Y
4F074CC10X
4F074CC28Y
4F074DA02
4F074DA13
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4F074DA57
5H021BB12
5H021BB13
5H021CC01
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5H021HH00
5H021HH01
5H021HH02
5H021HH03
5H021HH04
5H021HH06
(57)【要約】
本発明は、電気化学セルのセパレータ、吸音フィルム又は高効率ろ過媒体として好適な網状フィルム複合体及び該網状フィルム複合体の製造方法を開示するものである。網状フィルム複合体は、高い降伏応力(すなわち、50ダイン/cm2超)を示し、かつ、溶媒に溶解された高分子量樹脂(すなわち、室温においてNMP中又は水中5%で100cpを超える溶液粘度を有する)と、ヒュームドアルミナ若しくはヒュームドシリカ若しくはヒュームドジルコニア又はそれらの混合物などの高比表面積(すなわち、10m2/g超)の分散ナノ粒子とから構成されるスラリーを流延して乾燥させることによって製造される。この網状膜複合体は、高温(140℃まで)で高い寸法安定性(すなわち、10%未満の収縮)を維持しつつ、80%までの多孔度で優れたサイクル特性と高いイオン伝導性を示す。網状複合体セパレータ被膜を、電極被膜と共に、2つの別々のプロセス工程又は電極とセパレータとのシミュレーション多層流延を行うことによる1工程プロセスのいずれかで使用して、リチウムイオン電池を製造することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)樹脂及び(b)ナノ粒子を含む網状被膜又はフィルムであって、
前記被膜又はフィルムは多孔質構造を有し、前記多孔質構造は、10%~80%の開放細孔であり、前記樹脂は、約100cp~10000cp、好ましくは100cp~5000cpの溶液粘度(NMP中5重量%、又は水溶性重合体については水中2%において室温で)、前記ナノ粒子は、電子的に非伝導性であり、かつ、1~1000m
2/gの表面積を有する、網状被膜又はフィルム。
【請求項2】
平均孔径が500nm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である、請求項1に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項3】
前記樹脂が、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDF-共重合体、ポリエチレン-四フッ化エチレン(PETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロースCMC、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸並びにそれらの共重合体及びその組合せよりなる群から選択される、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項4】
前記樹脂がポリフッ化ビニリデン重合体を含む、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項5】
前記樹脂がポリアクリレート重合体、ポリメタクリレート重合体を含む、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項6】
前記樹脂がカルボキシメチルセルロース重合体を含む、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項7】
前記樹脂がポリアクリル酸及び/又はポリメタクリル酸重合体を含む、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項8】
前記ナノ粒子が、アルミナ、シリカ、BaTiO
3、CaO、ZnO、ベーマイト、TiO
2、SiC、ZrO
2、ほうケイ酸塩、BaSO
4、ナノクレー、又はそれらの混合物よりなる群から選択される、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項9】
前記ナノ粒子が、アラミド充填剤及びアラミド繊維のチョップド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、PTFE繊維、カーボンナノチューブ、及びそれらの混合物よりなる群から選択される、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項10】
前記ナノ粒子がヒュームドアルミナ若しくはヒュームドシリカ又はその組合せを含む、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項11】
ナノ粒子に対する重合体の重量パーセント比が80:20~10:90、好ましくは70:30~20:80である、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項12】
前記ナノ粒子が1~700m
2/g、より好ましくは1~600m
2/gの表面積を有する、請求項11に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項13】
前記被膜が0.05~100μm、好ましくは0.05~50μm、より好ましくは2~20μmの厚さを有する、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項14】
前記ナノ粒子のサイズが500nm未満、好ましくは200nm未満である、請求項12に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項15】
網状被膜又はフィルムの製造方法であって、次の工程:
(a)重合体が約100cp~10000cp、好ましくは100cp~5000cpの溶液粘度(NMP中5重量%、又は水溶性重合体については水中2重量%において室温で)を有する、溶媒に溶解した樹脂を準備し、
(b)1~1000m
2/gの表面積を有するナノ粒子を準備し、
(c)前記樹脂の溶液と前記ナノ粒子とを混合して、ナノ粒子の重量パーセントに対する重合体の重量パーセントの比が80:20~5:95であるスラリーを生成し、
(d)前記スラリーを基材上に流延して被膜又はフィルムを形成し、
(e)形成された前記被膜又はフィルムを乾燥させること
を含み、
乾燥後の前記被膜又はフィルムが多孔質構造を有し前記多孔質構造は10体積%~80体積%の開放細孔であり、
前記スラリーは、50ダイン/cm
2~5000ダイン/cm
2、好ましくは75~3000ダイン/cm
2の降伏応力を示し、前記スラリーの固形分が2~30重量%の固形分、好ましくは2~20重量%の固形分である、前記製造方法。
【請求項16】
平均孔径が1000nm未満である、より好ましくは500nm未満である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記樹脂が、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDF-共重合体、ポリエチレン-四フッ化エチレン(PETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロースCMC、ポリアクリル酸(PAA)、並びにそれらの共重合体及びその組合せよりなる群から選択される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記樹脂がポリフッ化ビニリデン単独重合体及び/又は共重合体を含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項19】
前記樹脂がポリメタクリレート及び/又はポリアクリル重合体を含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項20】
前記樹脂がカルボキシメチルセルロース重合体を含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項21】
前記樹脂がポリメタクリル酸及び/又はポリアクリル酸重合体を含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項22】
前記ナノ粒子が、アルミナ、シリカ、BaTiO
3、CaO、ZnO、ベーマイト、TiO
2、SiC、ZrO
2、ほうケイ酸塩、BaSO
4、ナノクレー、ジルコニア又はそれらの混合物よりなる群から選択される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項23】
前記ナノ粒子がヒュームドアルミナ若しくはヒュームドシリカ又はその組合せを含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項24】
前記ナノ粒子が、アラミド充填剤及びアラミド繊維のチョップド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、PTFE繊維、カーボンナノチューブ、及びそれらの混合物よりなる群から選択される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項25】
ナノ粒子の重量パーセントに対する重合体の重量パーセントの比が80:20~5:95、好ましくは80:20~10:90である、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項26】
前記ナノ粒子が1~700m
2/g、より好ましくは1~600m
2/gの表面積を有する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記被膜が0.05~100μm、好ましくは0.05~50μm、より好ましくは2~20μmの厚さを有する、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項28】
前記ナノ粒子のサイズが500nm未満、好ましくは200nm未満である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
請求項15~28のいずれかに記載の方法によって製造された網状被膜又はフィルム。
【請求項30】
網状フィルム又は被膜を、ウェット・オン・ウェットプロセスにおいて1工程で基材に同時に直接流延する、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項31】
請求項3に記載の網状被膜又はフィルムを含む物品であって、前記物品が、電気化学デバイスのセパレータ、吸音被膜、フィルター媒体、又はHEPAフィルターなどの高効率粒子吸着フィルターよりなる群から選択される物品。
【請求項32】
請求項3に記載の網状被膜又はフィルムを含む物品であって、前記物品が電気化学デバイスのセパレータを含む物品。
【請求項33】
請求項3に記載の網状被膜又はフィルムを含む物品であって、前記物品が、HEPAフィルターなどの高効率粒子吸着フィルターを含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、電気化学デバイスのセパレータ、吸音塗料、又は高効率ろ過媒体として好適な網状(多孔質、オープンマトリックス構造)フィルム複合体の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
背景
リチウム金属電池、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、リチウムイオンポリマー電池などのリチウム電池は、この20年間で飛躍的な進歩を遂げ、今や携帯電話、ノートパソコン、電動工具、さらに重要なことには、世界中の自動車の電動化の需要を牽引する存在となっている。しかし、このような電池は、火災や爆発的な破壊を引き起こす可能性があるため、安全性の面で懸念が高まっている。
【0003】
現在のリチウムイオン電池は、熱安定性を向上させ、かつ、カソードとアノードとの短絡を防ぐために、非被覆又は酸化アルミニウム若しくはセラミック粒子被覆ポリオレフィン系セパレータを使用するのが一般的である。ポリオレフィン系セパレータは、多孔質で電子絶縁性である。さらに、このようなポリオレフィン系セパレータは、電極との密着性が悪く、融点が140℃以下であるため、電池の内部及び/又は外部要因によって温度が上昇した際に収縮溶融し、短絡してしまうことがある。この短絡は、電気エネルギーの放出に起因する電池の爆発や発火等の事故につながるおそれがある。さらに、ポリオレフィン系セパレータは約4.25V以上で酸化しやすく、それにより電池の寿命が短くなる。そのため、高温での熱収縮を受けず、電極との密着性が高く、電気化学的に安定なセパレータが必要とされている。
【0004】
セパレータは多孔質体であり、一般に薄膜状である。従来技術として、アノード及び/又はカソードに直接被膜として適用されるセパレータ(米国特許出願公開第2015/340676号)、及び、電極に対する被覆としてではなく、電池に個々の部品として統合されて別個に作製される自立型セパレータ(米国特許第8,409,746号)も知られている。また、米国特許第9,799,917号及び米国特許第9,548,167号にも、セパレータ被膜が記載されている。
【0005】
セパレータに求められる要件は、非常に薄いこと、効果的な電子絶縁性、高いイオン輸送性、高い引張強度、電極の体積変化に対応できる伸縮性、電気化学的安定性、高い気孔率、耐薬品性、機械的耐性、さらに電池の安全率を高めるために高温での寸法安定性など非常に厳しいものである。
【0006】
セパレータは、溶融加工可能なプラスチック製であることが多く、溶液流延や押出成形でフィルムを形成し、その後延伸させてフィルム内に30~60%の空隙を生じさせる。現在の一般的なセパレータは、ポリプロピレン(融点約160~165℃)、ポリエチレン(融点約110~135℃)又はそのブレンドをベースとするのが一般的である。例えば、米国特許第4,620,956号及び同5,691,047号には、ポリオレフィンセパレータを製造するための溶融押出及び延伸方法が記載されており、米国特許第8,064,194号及び同8,012,799号には、ポリオレフィンセパレータを製造するための溶液流延方法が記載されている。また、米国特許出願公開第2009/0208832号及び同2010/0183907号に開示されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)(融点約165~170℃)製の多孔質セパレータも知られている。このようなセパレータの重大な欠点は、高温での寸法安定性が低いこと、又は熱堅牢性がないことであり、それによって収縮してセル内の短絡につながる可能性がある。そのため、このようなセパレータは本質的に安全であるとは考えられていない。
【0007】
ガラス又はセラミック材料からなる無機不織布や、セルロースポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート及び/又はエンジニアリング樹脂などの有機不織布に基づくセパレータが知られている(米国特許第8,936,878号及び同9,412,986号)。これらのセパレータは、温度的には安定であるが、電気化学的及び機械的に健全でないことが多く、それによって対応する電池の寿命が短くなる。さらに、不織布セパレータの大きな厚みによって、多くの用途で求められることが多いセルの出力及びエネルギー密度が制限される。
【0008】
リチウムイオン電池におけるセパレータの本質的な機能は、電解液を通過させながら電極間の電子ショートを防止し、イオンを輸送することである。セパレータは、電池の安全性、耐久性、放電性能に重要な役割を果たす。現在、ポリオレフィン(PE/PP)系微多孔質膜が最も広く使用されているセパレータである。既存の代替品に比べて低コストであるためである。自動車などのハイエンド用途では、安全性の向上と長寿命化により、セラミック被覆されたポリオレフィン膜が使用される傾向にある。
【0009】
従来のポリオレフィン製セパレータには、いくつかの大きな欠点がある。従来の電解質による濡れ性が悪く、その結果、セル製造時の電解質充填工程に長時間を要する。さらに重要なのは、ポリオレフィン製セパレータは高温になるとセルの端部から引っ張られて収縮するため、カソードとアノードとが直接接触してしまうことである。その結果、短絡が火災や爆発を引き起こす可能性がある。別の欠点は、ポリオレフィンがリチウムイオン環境下、特に高電圧下では化学的安定性(カソード側の耐酸化性)が低いことである。ポリエチレン製セパレータは4.25Vで容易に酸化され、サイクル性能に劣ることが実証されている。
【0010】
PVDF及びセラミック被覆されたセパレータは、ポリオレフィンセパレータの欠点に対処することが示されている。例えば、米国特許第8,168,332号及び同9,017,878号には、高温での寸法安定性及び電解質の濡れ性を改善するために、PVDFバインダーを有する無機層をポリオレフィンセパレータに被覆することが記載されている。この被覆セパレータは高い寸法安定性を有するものの、セパレータが依然としてポリオレフィン系基材を含むため、高温でのセパレータの収縮を防止することはできない。さらに、ポリオレフィン系セパレータにわたって無機層微多孔質膜を流延すると、セパレータの厚みが約2倍となり、電池容量及び出力密度に悪影響を及ぼしてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/340676号明細書
【特許文献2】米国特許第8,409,746号明細書
【特許文献3】米国特許第9,799,917号明細書
【特許文献4】米国特許第9,548,167号明細書
【特許文献5】米国特許第4,620,956号明細書
【特許文献6】米国特許第5,691,047号明細書
【特許文献7】米国特許第8,064,194号明細書
【特許文献8】米国特許第8,012,799号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2009/0208832号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2010/0183907号明細書
【特許文献11】米国特許第8,936,878号明細書
【特許文献12】米国特許第9,412,986号明細書
【特許文献13】米国特許第8,168,332号明細書
【特許文献14】米国特許第9,017,878号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
消音被膜:
消音被膜は、壁を伝わってくる音を防いだり、部屋の反響を抑えたりするために、古くからある概念である。消音被膜又は防音塗料は、音響塗料、断熱塗料、消音塗料、及び、遮音塗料などとも呼ばれる。消音被膜は、会話などの背景音を低減することができれば、より魅力的になり、かつ、壁に塗るだけでよい。
【0013】
ジェットエンジンは、航空機客室の主な騒音源であるが、ジェットエンジンは、重合発泡体などの消音材に典型的に使用される材料にとっては高温すぎる。航空機のエンジン音を低減するための可能性の一つは、エンジン筐体に遮音性及び耐熱性に優れた材料を被覆することである。現在の最善の措置は、通常の重合発泡体を鋳型として使用して、その鋳型から耐熱性のある消音用超合金金属発泡体を作製することである。ニッケル系超合金のスラリーを重合発泡体上に塗布し、その後重合体を焼き切ると、元の重合体と同一の構造を持つオープンセル金属フォームが残る。しかし、この技術は非常にコストが高く、ジェットエンジンの筐体に被覆するのは現実的ではない。さらに、優れた消音被膜を実現するためには、単一の発泡体ブロック内で孔径の勾配を調節できるように鋳型の複製プロセスを制御することが必要となり、プロセスが非常に高価で複雑になってしまう。
【0014】
ろ過媒体:
高効率フィルターは、繊維状又は多孔質の材料から構成され、空気中のほこりや花粉などの固体微粒子を除去する装置である。このフィルターは、空気の質が重要視される用途、特にビルの換気システムやエンジン内で使用される。発泡体、プリーツ紙又はガラス繊維のフィルターエレメントを使用したシステムもある。しかし、これらの媒体は、空気中のサブミクロン微粒子を除去することには物理的な限界がある。複雑な繊維の網で空気中の汚染物質を捕捉する高効率微粒子空気フィルター(Heigh Efficiency Particulate Air Filter:HEPAフィルター)というものがある。しかし、繊維を網状にする技術の欠点は、サブミクロンの直径の繊維の一貫した製造である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の説明
「共重合体」とは、異なる単量体を2個以上有する重合体を意味する。「重合体」は、単独重合体及び共重合体を含むように使用される。樹脂及び重合体は区別なく使用される。重合体は、均質であってもよく、不均質であってもよく、共単量体単位の勾配分布を有していてもよい。引用される全ての文献は、参照により本明細書において援用される。本明細書で使用するときに、特に記載がない限り、パーセントは重量パーセントを意味する。結晶化度及び溶融温度は、ASTM D3418に記載されるように、10℃/分の加熱速度でDSCによって測定される。溶融粘度は,ASTM D3835に準拠して230℃で測定され、kPoise@100Sec-1で表される。重合体の希釈溶液粘度及び還元粘度は、ASTM D2857に準拠して室温で測定される。
【0016】
網状のフィルム又は被膜は、多孔質のオープンマトリックス構造を持つフィルム又は被膜を意味する。「オープン」とは、細孔が密閉されていないことを意味する。流体は細孔間を移動することができる。間隙率又は多孔度は、マトリックスを圧縮することによって、又は密度を測定することによって、又は空隙に液体を満たして密度の変化を測定することによって測定できる。好ましくは、間隙(多孔度)は密度によって測定される。
【0017】
ナノサイズの充填剤又はナノサイズの粒子は、充填剤又は粒子のサイズが1μm未満、好ましくは500nm未満、好ましくは200nm未満であることを意味する。ナノサイズの粒子は、100nm未満とすることができる。粒子径は、光散乱(Nicom、又はMicrotech装置など)により測定される体積平均粒子径である。
【0018】
高比表面積粒子とは、粒子の表面積が1m2/gよりも大きい、好ましくは5m2/gよりも大きい、より好ましくは10m2/gよりも大きいことを意味する。好ましくは、1m2/g~1000m2/gの間、より好ましくは1m2/g~700m2/gの間、さらに好ましくは10m2/g~500m2/gの間である。粒子の表面積は、5m2/g~700m2/gの間とすることができる。高比表面積粒子の中には、3次元分岐構造を有するものがあり、これをアスペクト比の大きな粒子を生じさせることができるフラクタル形状ということができる。フラクタル形状とは、3次元分岐を有する一次粒子の集合体である。
【0019】
高分子量とは、室温(25℃)でNMP中において5%で測定した溶液粘度が少なくとも100cp、好ましくは100cp~10000cpの間、より好ましくは100cp~5000cpの間であること、又は還元粘度Rvが少なくとも0.2dl/gから2dl/gまでであることを意味する。
【0020】
降伏応力とは、流体中において流動を開始させるために必要な最小のせん断応力のことである。高降伏応力は、少なくとも50ダイン/cm2であり、好ましくは100ダイン/cm2よりも大きく、125ダイン/cm2よりも大きい。降伏応力は、5000ダイン/cm2まで、好ましくは3000ダイン/cm2までとすることができる。さらに、スラリーは流延可能でなければならず、これは、スラリーの溶液粘度が室温で20000cP未満、好ましくは10000cp未満であることを意味する。
【0021】
PVDFは、フッ素樹脂の中でも電気化学抵抗性に優れ、密着性に優れていることから、非水性電解質デバイスのセパレータ用のバインダーや被覆剤として有用であることが分かっている。セパレータは、電池内のアノードとカソードとの間に障壁を形成して、高いイオン輸送を可能にしつつ電子ショートを防止する。
【0022】
本発明は、ナノサイズの細孔を有する網状フィルム複合体、及びナノサイズの細孔を有する網状フィルム複合体の製造方法を提供するものである。ナノサイズの細孔は、500nm未満、好ましくは2nm~500nmの平均細孔径を有する。また、本発明は、ナノサイズの細孔を有する網状フィルム複合体からなる電池におけるセパレータ被膜を提供する。
【0023】
網状フィルム複合体は、異なる種類の樹脂と多種多様なナノサイズ粒子、特にフュームドアルミナ、フュームドシリカなど一次粒子の集合体であるフラクタル形状構造を有する粒子とを用いて製造できる。
【0024】
網状フィルム複合体は、高比表面積粒子と高分子量樹脂とを溶媒中において室温(25℃)で混合させて、低固形分(すなわち全固形分が30重量%未満、好ましくは20重量%未満、より好ましくは12重量%未満、さらには10重量%未満)であっても高降伏応力(50ダイン/cm2超)を示すスラリーを生じさせることによって作製される。このスラリーを流延(キャスト)し、高温で乾燥させることにより、ナノサイズの細孔を有する網状フィルム複合体が形成される。
【0025】
驚くべきことに、高比表面積ナノサイズ粒子(例えば、ヒュームドアルミナ、又はヒュームドシリカ、又はセラミックス)と高分子量樹脂(例えば、高MW-PVDF(室温でNMP中において5%の溶液粘度が100cp以上)又は高MW-PMMA(ASTM D2857を使用した周囲温度での還元粘度Rvが0.5dl/gよりも大きい)との、NMP中で作製されたスラリーは、低い固形分(すなわち、全固形分が30重量%未満、好ましくは20重量%未満、より好ましくは12重量%未満、さらには10重量%未満)であっても高降伏応力(50ダイン/cm2超)を示すことができることが分かった。この高降伏応力スラリーを流延し、高温(すなわち50~180℃、好ましくは120℃超)で乾燥させると、ナノサイズの細孔を有する網状フィルム複合体が形成された。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は120℃のオーブンで30分間乾燥した後のPVDF/Al
2O
3の50/50重量比の高分解能SEM写真である。被膜は固形分5.7%のNMPスラリーから流延された。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態では、半結晶性である高分子量PVDF(室温においてNMP中5%での溶液粘度が100cp超)を本発明において使用した。
【0028】
PMMAのような高分子量樹脂(還元粘度Rvが0.5dl/g超)、また高MW PAA(室温でpH7の水中での溶液粘度が100から10000cpまで、好ましくは5000cpまで)を使用して、高降伏応力スラリー(50ダイン/cm2超)を得ることができ、最終的には、PVDFで作製された網状フィルムと同様の特性の網状フィルム組成物を製造することができる。
【0029】
本発明で使用される充填剤の種類は、一般に金属酸化物及び/又はセラミックスである。本発明で使用される充填剤の種類、例えば、不溶性充填剤としては、アルミナ、シリカ、BaTiO3、CaO、ZnO、ボーマイト、TiO2、SiC、ZrO2、ほうケイ酸塩、BaSO4、ナノクレー、Pb(Zr,Ti)O3、Pb1-xLaxZryO3(0<x<1、0<y<1)、PBMg3Nb2/3)3、PbTiO3、ハフニア(HfO(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、Y2O3、Al2O3、SiO2又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
また、有用な有機充填剤はチョップド繊維であり、アラミド充填剤及び繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、PTFE繊維、及びナノファイバー、カーボンナノチューブ、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
樹脂は高い溶液粘度、すなわち室温でNMP中5%において100cpよりも高い粘度を有すべきである。好ましくは、溶液粘度は、室温でNMP中の5%固形分で測定して、100~10000cpの間、より好ましくは100~5000cpの間である。水溶性重合体について、溶液粘度は、室温(25℃)において、水中で2%及びpH7で測定して、100cp~10000cp、好ましくは100cp~5000cpの間である。場合によっては、pHは溶液粘度に影響を及ぼすことがある。この用途では、重合体の種類や用途に応じて、pHは2~12まで変動可能である。
【0032】
本発明において有用な重合体(樹脂)としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン-四フッ化エチレン(PETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリアクリル酸アルキル、ポリメタクリル酸アルキル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロースCMC、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMAA)の単独重合体及び共重合体が挙げられるが、これらに限定されない。他の有用な重合体としては、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエステルが挙げられる。
【0033】
ポリフッ化ビニリデン
好ましい実施形態では、重合体は、ポリフッ化ビニリデンの単独重合体又は共重合体である。本明細書で使用するときに、用語「フッ化ビニリデン重合体」(PVDF)は、その意味のなかに、通常高分子量の単独重合体、共重合体、及び三元共重合体のいずれをも含む。PVDFの共重合体は、より軟質、すなわち、より低いTm、融点及び減少した結晶構造を有するため、特に好ましい。このような共重合体としては、少なくとも1種の共単量体と共重合されたフッ化ビニリデンが挙げられる。本発明の最も好ましい共重合体及び三元共重合体は、フッ化ビニリデン単位が、重合体中の全単量体単位の総重量の少なくとも50モル%、少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも80モル%、さらに好ましくは少なくとも85モル%を含むものである。
【0034】
フッ化ビニリデンの共重合体、三元共重合体及びそれよりも高次の重合体は、フッ化ビニリデンと、フッ化ビニル、トリフルオロエテン、テトラフルオロエテン、3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、3,3,3,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン及びヘキサフルオロプロペンなどの部分又は完全フッ素化α-オレフィン、ヘキサフルオロイソブチレンなどの部分フッ素化オレフィン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロエチルビニルエーテル、ペルフルオロ-n-プロピルビニルエーテル及びペルフルオロ-2-プロポキシプロピルビニルエーテルなどの過フッ素化ビニルエーテル、ペルフルオロ(1,3-ジオキソール)及びペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)などのフッ素化ジオキソール、2-ヒドロキシエチルアリルエーテル又は3-アリルオキシプロパンジオールなどのアリル単量体、部分フッ化アリル単量体、又はフッ化アリル単量体、並びにエテン又はプロペンよりなる群から選択される1種以上の単量体とを反応させることによって製造できる。いくつかの好ましい実施形態では、共単量体は、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニル、ペンタフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロプロピルビニルエーテルよりなる群から選択される。
【0035】
特に好ましいのは、少なくとも約75から90モル%までのフッ化ビニリデンと、それに対応して10~25モル%のヘキサフルオロプロペンとから構成される共重合体である。また、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロペンと、テトラフルオロエチレンとの三元共重合体も本明細書において具体化されるフッ化ビニリデン共重合体の種類の代表である。
【0036】
一実施形態では、フッ化ビニリデン重合体中において、50重量%まで、好ましくは20重量%まで、より好ましくは15重量%までのヘキサフルオロプロペン(HFP)単位と、50重量%、好ましくは80重量%、より好ましくは85重量%以上のVDF単位とが存在する。最終用途環境、例えば電池内において優れた寸法安定性を有するPVDF-HFP共重合体を提供するためには、HFP単位ができるだけ均質に分布していることが望まれる。
【0037】
セパレータ被覆組成物に使用するためのPVDFの共重合体は、好ましくは、溶融粘度で測定したときに高分子量を有する。高分子量とは、ASTMの方法D-3835に準拠して232℃、100秒-1で測定して、10キロポイズ以上、好ましくは20キロポイズ以上の溶融粘度を有するPVDFを意味する。
【0038】
ポリビニリデン系重合体などのフッ素重合体は、当該技術分野で知られている任意のプロセスで製造される。乳化重合及び懸濁重合などのプロセスが好ましく、米国特許第6,187,885号、及び欧州特許出願公開第0120524号に記載されている。
【0039】
合成ポリアミド
ポリアミドは、分子鎖中の繰り返し単位がアミド基で結合された重合体(長い複数の単位から構成される物質)である。アミド基は、一般化学式CO-NHを有する。アミド基は、アミン(NH2)基とカルボキシル(CO2H)基との相互作用によって生成する場合や、アミノ酸又はアミノ酸誘導体(その分子がアミノ基とカルボキシル基の両方を含む)の重合によって生成する場合がある。
【0040】
ポリアミドの合成は当該技術分野においてよく説明されており、例として国際公開第15/071604号、国際公開第14179034号、欧州特許出願公開第0550308号、欧州特許出願公開第0550315号、米国特許第9,637,595号が挙げられる。
【0041】
ポリアミドは、
・アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸及び12-アミノドデカン酸などの1種以上のアミノ酸、又はカプロラクタム、オナントラクタム及びラウリルラクタムなどの1種以上のラクタムと、
・ヘキサメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン及びトリメチルヘキサメチレンジアミンなどのジアミンとイソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカンジカルボン酸などの二酸との1種以上の塩又は混合物と
の縮合生成物又は開環生成物とすることができる。
【0042】
ポリアミドの例としては、PA6、PA7、PA8、PA9、PA10、PA11及びPA12、並びにPA6,6のようなコポリアミドを挙げることができる。
【0043】
コポリアミドは、少なくとも2種のα,ω-アミノカルボン酸又は2種のラクタム又は1種のラクタムと1種のα,ω-アミノカルボン酸の縮合から誘導されるものとすることができる。コポリアミドは、少なくとも1種のα,ω-アミノカルボン酸(又は1種のラクタム)、少なくとも1種のジアミン及び少なくとも1種のジカルボン酸の縮合から誘導されるものとすることができる。
【0044】
ラクタムの例としては、主環に3~12個の炭素原子を有するものが挙げられ、これらのラクタムは置換されていてもよい。例えば、β,β-ジメチルプロピオラクタム、α,α-ジメチルプロピオラクタム、アミロラクタム、カプロラクタム、カプリラクタム、ラ及びウリルラクタムが挙げられる。
【0045】
α,ω-アミノカルボン酸の例としては、アミノウンデカン酸及びアミノドデカン酸が挙げられる。ジカルボン酸の例としては、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、ブタン二酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、スルホイソフタル酸のナトリウム塩又はリチウム塩、二量化脂肪酸(これらの二量化脂肪酸は少なくとも98%の二量体含有量を有し、水素添加されていることが望ましい)及びドデカン二酸HOOC(CH2)10COOHを挙げることができる。
【0046】
ジアミンは、6~12個の炭素原子を有する脂肪族ジアミンであることができ、アリール型及び/又は飽和環状型であってもよい。例としては、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、テトラメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、1,5-ジアミノヘキサン、2,2,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサン、ジアミンポリオール、イソホロンジアミン(IPD)、メチルペンタメチレンジアミン(MPDM)、ビス(アミノシクロヘキシル)メタン(BACM)及びビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン(BMACM)が挙げられる。
【0047】
コポリアミドの例としては、カプロラクタムとラウリルラクタムとの共重合体(PA6/12)、カプロラクタムとアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの共重合体(PA6/6-6)、カプロラクタムとラウリルラクタムとアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの共重合体(PA6/12/6-6)、カプロラクタムとラウリルラクタムと11-アミノウンデカン酸とアゼライン酸とヘキサメチレンジアミンとの共重合体(PA6/6-9/11/12)、カプロラクタムとラウリルラクタムと11-アミノウンデカン酸とアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの共重合体(PA6/6-6/11/12)、及びラウリルラクタムとアゼライン酸とヘキサメチレンジアミンとの共重合体(PA6-9/12)が挙げられる。
【0048】
また、ポリアミドとしては、ポリエーテル-b-ポリアミド、ポリエステル-b-ポリアミドなどのポリアミドブロック共重合体も挙げられる。
【0049】
別のポリアミドは、アーケマ社製ORGASOL(登録商標)超微粒子ポリアミド6、12及び6/12粉末であり、このものは微多孔質であり、製造プロセスのためオープンセルを有する。これらの粉末は、等級に応じて5~60μmという非常に狭い粒子径範囲を有する。平均粒子径が5~20と低いものが好ましい。
【0050】
アクリル
本明細書で使用するときに、アクリル重合体とは、メタクリレート及びアクリレート単量体並びにこれらの混合物から形成される重合体、共重合体及び三元共重合体を含むものとする。メタクリレート単量体及びアクリレート単量体は、単量体混合物の51~100パーセントを占めることができ、0~49パーセントの他のエチレン性不飽和単量体、例えば、限定されないが、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリルなどが存在していてもよい。好適なアクリレート単量体、メタクリレート単量体及び共単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル及びメタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル及びメタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソオクチル及びアクリル酸イソオクチル、アクリル酸ラウリル及びメタクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル及びメタクリル酸ステアリル、アクリル酸イソボルニル及びメタクリル酸イソボルニル、アクリル酸メトキシエチル及びメタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸2-エトキシエチル及びメタクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル及びメタクリル酸ジメチルアミノエチル単量体が挙げられるが、これらに限定されない。メタクリル酸及びアクリル酸などの(メタ)アクリル酸は共単量体とすることができる。アクリル重合体としては、典型的には乳化重合により製造されるコア-シェル構造などの多層アクリル重合体が挙げられる。
【0051】
スチレン
本明細書で使用するときに、スチレン系重合体は、スチレン及びα-メチルスチレン単量体並びにそれらの混合物から形成される重合体、共重合体及び三元重合体を含むものとする。スチレン及びαメチルスチレン単量体は、単量体混合物の50~100%を占めることができ、0~50%の他のエチレン性不飽和単量体、例えば限定されないが、アクリレート、メタクリレート、アクリロニトリルが存在してもよい。スチレン系重合体としては、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート(ASA)共重合体、スチレン-アクリロニトリル(SAN)共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)などのスチレン-ブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン(MBS)、及びスチレン-メタクリル酸メチル共重合体(S/MMA)などのスチレン-(メタ)アクリレート共重合体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
本明細書で使用するときに、ポリオレフィンとは、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びエチレンとプロピレンとの共重合体を含むものとする。エチレン及びプロピレン単量体は、単量体混合物の51~100%を占めることができ、0~49%の他のエチレン性不飽和単量体、例えば限定されないが、アクリレート、メタクリレート、アクリロニトリル、無水物が存在していてもよい。ポリオレフィンの例としては、エチレンエチルアセテート共重合体(EVA)、エチレン(メタ)アクリレート共重合体、無水エチレン共重合体及びグラフト重合体、プロピレン(メタ)アクリレート共重合体、無水プロピレン共重合体及びグラフト重合体が挙げられる。
【0053】
本発明においてスラリーを作製するのに有用な溶媒としては、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン及び炭化水素が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、溶媒は、NMP、水、又はアセトンである。溶媒は、使用される重合体を溶解して目に見える透明な溶液を与えることができなければならない。例えば、PVDFは、NMPに可溶である。PVDFは水には不溶なので、水はPVDFに対しては使用されない。ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロースCMC、ポリアクリル酸(PAA)、及びそれらの共重合体は、一般に水に可溶である。
【0054】
他の添加剤
本発明の被覆組成物は有効量の他の添加剤をさらに含むことができ、他の添加剤としては、充填剤、レベリング剤、消泡剤、pH緩衝剤、及び所望のセパレータ要件を満たしつつ製剤に典型的に使用される他の補助剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
本発明のスラリー被覆組成物においては、さらに任意に湿潤剤、増粘剤又はレオロジー改質剤を有することができる。
【0056】
湿潤剤は、被覆組成物スラリー中において、溶媒100部あたり0~5部、又は0.1~5部、好ましくは0~3部、又は0.1~3部の1種以上の湿潤剤で存在することができる(部は重量基準である)。界面活性剤は湿潤剤として機能することができるが、湿潤剤には非界面活性剤も含まれていてよい。いくつかの実施形態では、湿潤剤は有機溶媒とすることができる。任意の湿潤剤が存在すると、粉末状材料がスラリーに均一に分散することができる。有用な湿潤剤としては、TRITONシリーズ(Dow社製)及びPLURONICシリーズ(BASF社製)などのイオン性及び非イオン性界面活性剤、BYK-346(BYK Additives社製)及びNMP、DMSO及びアセトンなどの溶剤と相溶性のある有機液体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
増粘剤及び/又はレオロジー改質剤は、水100部(重量部)あたり0~10部、好ましくは0~5部の1種以上の増粘剤又はレオロジー改質剤として被覆組成物中に存在していてよい。上記分散体に増粘剤又はレオロジー改質剤を添加することにより、流延プロセスに適切なスラリー粘度を与えつつ、粉体材料の沈降を防止し又は遅らせることができる。有機レオロジー改質剤のほかに、無機レオロジー改質剤を単独で又は組み合わせて使用することもできる。
【0058】
全固形分及び樹脂対ナノ粒子充填剤の比率は、高降伏応力スラリー、すなわち50ダイン/cm2よりも高い、好ましくは75ダイン/cm2よりも高い、さらに好ましくは100ダイン/cm2よりも高い、又はさらに200ダイン/cm2よりも高いものを提供するように選択すべきである。降伏応力は、5000ダイン/cm2まで、好ましくは3000ダイン/cm2までとすることができる。
【0059】
スラリーの固形分は、2重量%~30重量%の固形分、好ましくは2~20重量%、さらに好ましくは2~12%、又は2~10重量%(重合体の重量+ナノ粒子の重量に基づく)とすることができる。
【0060】
充填剤は高い比表面積を持ち、溶媒への分散性が良く、好ましくはフラクタル形状の構造である。
【0061】
例えば、スラリー中の固形分を減少させる(例えば10%から6%へ)と数%高い多孔度が得られ、乾燥温度を高くする(例えば100℃の代わりに180℃)と数%多孔度が上昇し、MWが高い樹脂によって高い多孔度を生じ、高表面積充填剤によって高い多孔度が生じるなどのいくつかの要因が網状フィルム複合体の多孔度又は密度に影響を及ぼす。これらの調整可能な特性の全てを適用して、特定の用途にとって望ましい特性を有する網状フィルム複合体を製造することができる。
【0062】
用途:
本発明の網状フィルム複合体は、電気化学デバイスのセパレータとして、吸音塗料として、フィルター媒体として、又はHEPAフィルターなどの高効率微粒子吸着フィルターに使用できる。
【0063】
ナノ粒子(ヒュームドアルミナ、ヒュームドシリカ、ヒュームドジルコニアなど)を使用して作製され、20~80%、好ましくは25~75%の多孔度を有するPVDF網状フィルム複合体の用途の一つは、リチウムイオン電池や他のタイプの電気化学デバイスのセパレータとして使用して、安全性の向上、性能アップ、製造コスト削減を図ることである。網状フィルム複合体は、高温でも収縮しないのみならず、電池内のホットスポットで膨張して、暴走した電極を互いにさらに分離することになる。例えば、PVDF樹脂中におけるHFP共単量体の量を変化させると、HFP含有量の多い(例えば20%)樹脂で作製された網状フィルム複合体は、HFP含有量の少ない(例えば8%)樹脂で作製されたものに対して低温で膨潤/膨張するため、同じ膨潤/膨張を得るためにはさらに高い温度が必要となる場合がある。VDFの共重合体中におけるHFPの好ましい重量パーセントは、1~25重量%である。網状フィルム複合体の別の利点は、電極と同時に流延できることである。すなわち、ダブルスロットダイキャスト機を使用して、ウェット・オン・ウェット技術を用いて集電体に2つのスラリー層(活性電極、及びセパレータ層)を同時に流延することができる。その後、乾燥及びカレンダー塗布工程中に、電極とセパレータとの一体型構造が形成される。電気化学デバイスの電極セパレータ又はフィルター媒体のような多層複合構造体は、ウェット・オン・ウェットで流延することが可能である。ウェット・オン・ウェット技術を用いると、2つの層は急な界面なしに絡み合うようになり、密着性が向上する。網状のフィルムや被膜は、1ステップのウェット・オン・ウェットプロセスで、基材上に同時かつ直接流延できる。
【0064】
本発明の被膜は、消音用途又は高効率フィルター媒体で機能することができるため、消音と高効率フィルターの両方が本発明の利益を得ることができる。次のものを含む多くの要因が、多孔質オープンセル被膜の正確な吸収及びろ過プロファイルを決める:セルサイズ;屈曲度;多孔度;被膜厚さ及び被膜密度。驚くべきことに、分散媒のアスペクト比を変更すること、分散媒を脱凝集させるための混合度、バインダー又は分散媒の相比を変更すること、スラリー中の全固形分を変更すること、溶液粘度の異なる重合体を使用してスラリーのせん断応力を変更することによって、被膜の孔径を変更できることが分かった。
【0065】
さらに重要なことは、バインダーの曲げ弾性率を、さらに軟質でリッジの少ない共重合体にすることによって減少させ、それにより、振動を吸着し、より効率的な消音被膜として機能することができることである。
【0066】
あるいは、重合体の大部分がPVDFからなる場合、PVDFは静電消散特性が低いため、ろ過媒体として高い静電荷を帯びる可能性がある。その結果、細孔を通過してしまう可能性のあるウイルスなどのサブミクロン粒子を吸着させることができる。また、開示したろ過媒体の別の利点は、溶媒耐性が高いことである。したがって、溶媒で頻繁に洗浄/すすぎを行うことができ、その悪影響が長く続くこともない。
【0067】
セパレータ
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、電池その他の任意の電気化学デバイス内における過酷な環境に耐えることができ、被膜に容易に加工することができる。電極上に被覆された場合に、被膜は、別個のセパレータ基部を必要とすることなく、セパレータとして機能する。セパレータ被膜は、電気化学的に安定なナノサイズの無機粒子を含む。好ましくは、ナノサイズの粒子は、セパレー被覆組成物の最大体積パーセントを構成する。ナノサイズの粒子は、セパレータに機械的安定性を与える。この粒子は、球状又はフラクタル形状構造とすることができるが、多くの場合、不規則形状である。
【0068】
被覆組成物中の無機粒子は、それらの間に間隙容量を形成することを可能にし、それによってスペーサーとしての微細孔を形成しかつ物理的な形状を維持する役割を果たす。さらに、無機粒子は、200℃以上の高温でも物性が変化しない特徴を有するため、この無機粒子を用いた被覆セパレータは、耐熱性に優れる。無機粒子は、粒子状であってもよいし、繊維状であってもよい。また、これらの混合物も想定される。
【0069】
無機材料は、電気化学的に安定であること(駆動電圧範囲において、酸化及び/又は還元を受けないこと)が必要である。高密度の材料よりも低密度の材料の方が、製造される電池の重量を減らすことができるため、好ましい。
【0070】
一実施形態では、粒子又は繊維は、化学的(エッチング又は官能化など)、機械的、又は照射(プラズマ処理など)によって表面処理されてもよい。
【0071】
無機粒子は、ナノサイズである。好ましくは、繊維は1μm未満の直径を有する。また、細孔が大きすぎると、充放電サイクルを繰り返す際に内部短絡が発生する可能性が高くなる場合がある。
【0072】
無機粒子は、重合体固形分及び無機粒子の合計を基準にして、被覆組成物中に20~95重量%、好ましくは20~90重量%で存在する。無機材料の含有量が20重量%未満であると、バインダー重合体が多量に存在し、無機粒子間に形成される間隙容量が減少するため細孔径及び多孔度が低下し、電池の品質劣化が生じる。
【0073】
別の例では、網状フィルム複合体を保護被膜として使用することができる。すなわち、ナノサイズのZnO又はナノTiO2を用いると、高い紫外線遮蔽/保護効果を発揮する。
【0074】
網状フィルム複合体を触媒担体として使用して、触媒駆動反応用の高表面媒体を提供し、触媒効率を向上させることができる。触媒は網状フィルムに取り入れてもよいし、その上に堆積させてもよい。
【0075】
被覆方法
被覆組成物を、ブラシ、ローラー、インクジェット、ディップ、ナイフ、グラビア、ワイヤーロッド、スキージ、フォームアプリケータ、カーテン塗布、真空塗布、スロットダイ、又はスプレーなど、当該技術分野で知られている手段によって電極の少なくとも1つの表面に塗布する。その後、被膜を室温又は高温で電極上において乾燥させる。最終的な乾燥被膜の厚みは、0.5~15μm、好ましくは1~8μm、より好ましくは2~4μmである。
【0076】
被覆された電極を使用して、当該技術分野において知られている手段により、電池、キャパシタ、電気二重層キャパシタ、膜電極複合体(MEA)又は燃料電池などの電気化学デバイスを形成することができる。被膜の両側に負電極及び正電極を配置することによって、非水性型電池を形成することができる。例えば、カソードが被覆されている場合、アノードを被膜の隣に配置し、アノード・セパレータ被覆カソードアセンブリを形成することができる。
【0077】
被膜を固体基材上に流延し、その後基材から除去して電極上に配置すること、あるいは電極上に直接流延することができる。
【0078】
発明の態様
態様1:
(a)樹脂及び(b)ナノ粒子を含む網状被膜又はフィルムであって、
前記被膜又はフィルムは多孔質構造を有し、前記多孔質構造は、10%~80%の開放細孔であり、前記樹脂は、約100cp~10000cp、好ましくは100cp~5000cpの溶液粘度(NMP中5重量%、又は水溶性重合体については水中2%において室温で)、前記ナノ粒子は、電子的に非伝導性であり、かつ、1~1000m2/gの表面積を有する、網状被膜又はフィルム。
【0079】
態様2:
平均孔径が500nm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である、態様1に記載の網状被膜又はフィルム。
【0080】
態様3:
前記樹脂が、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDF-共重合体、ポリエチレン-四フッ化エチレン(PETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロースCMC、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMAA)並びにそれらの共重合体及びその組合せよりなる群から選択される、態様1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【0081】
態様4:
前記樹脂がポリフッ化ビニリデン単独重合体又は共重合体を含む、態様1~3のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【0082】
態様5:
前記樹脂がポリメタクリレートを含む、態様1~3のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【0083】
態様6:
前記樹脂がカルボキシメチルセルロースを含む、態様1~3のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【0084】
態様7:
前記樹脂がポリアクリル酸及び/又はポリメタクリル酸を含む、態様1~3のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【0085】
態様8:
前記ナノ粒子が、アルミナ、シリカ、BaTiO3、CaO、ZnO、ベーマイト、TiO2、SiC、ZrO2、ほうケイ酸塩、BaSO4、ナノクレー、又はそれらの混合物よりなる群から選択される、態様1~7のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【0086】
態様9:
前記ナノ粒子が、アラミド充填剤及びアラミド繊維のチョップド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、PTFE繊維、カーボンナノチューブ、及びそれらの混合物よりなる群から選択される、態様1~7のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【0087】
態様10:
前記ナノ粒子がヒュームドアルミナ又はヒュームドシリカ、又はヒュームドジルコニアを含む、態様1~7のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【0088】
態様11:
ナノ粒子に対する重合体の重量パーセント比が80:20~10:90、好ましくは70:30~20:80である、態様1~10のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【0089】
態様12:
前記ナノ粒子が1~700m2/g、より好ましくは1~600m2/gの表面積を有する、態様1~11のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【0090】
態様13:
セパレータ被膜が0.05~100μm、好ましくは0.05~50μm、より好ましくは0.05~10μmの厚さを有する、態様1~12のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【0091】
態様14:
前記ナノ粒子のサイズが500nm未満、好ましくは200nm未満である、態様1~13のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【0092】
態様15:
前記ナノ粒子のサイズが100nm未満である、態様1~13のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【0093】
態様16:
網状被膜又はフィルムの製造方法であって、次の工程:
(a)重合体が約100cp~10000cp、好ましくは100cp~5000cpの溶液粘度(NMP中5重量%、又は水溶性重合体については水中2重量%において室温で)を有する、溶媒に溶解した樹脂を準備し、
(b)1~1000m2/gの表面積を有するナノ粒子を準備し、
(c)前記樹脂の溶液と前記ナノ粒子とを混合して、ナノ粒子の重量パーセントに対する重合体の重量パーセントの比が80:20~5:95であるスラリーを生成し、
(d)前記スラリーを基材上に流延して被膜又はフィルムを形成し、
(e)形成された前記被膜又はフィルムを乾燥させること
を含み、
乾燥後の前記被膜又はフィルムが多孔質構造を有し、前記多孔質構造は10%~80%の開放細孔であり、
前記スラリーは、50ダイン/cm2~5000ダイン/cm2、好ましくは75~3000ダイン/cm2の降伏応力を示し、前記スラリーの固形分が2~30重量%の固形分、好ましくは2~20重量%の固形分である、前記製造方法。
【0094】
態様17:
平均孔径が1000nm未満である、態様16に記載の方法。
【0095】
態様18:
平均孔径が500nm未満、より好ましくは100nm未満である、態様16に記載の方法。
【0096】
態様19:
前記樹脂が、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDF-共重合体、ポリエチレン-四フッ化エチレン(PETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロースCMC、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMAA)並びにそれらの共重合体及びその組合せよりなる群から選択される、態様16~18のいずれかに記載の方法。
【0097】
態様20:
前記樹脂がポリフッ化ビニリデン単独重合体又は共重合体を含む、態様16~18のいずれかに記載の方法。
【0098】
態様21:
前記樹脂がポリメタクリレートを含む、態様16~18のいずれかに記載の方法。
【0099】
態様22:
前記樹脂がカルボキシメチルセルロースを含む、態様16~18のいずれかに記載の方法。
【0100】
態様23:
前記樹脂がポリアクリル酸及び/又はポリメタクリル酸を含む、態様16~18のいずれかに記載の方法。
【0101】
態様24:
前記ナノ粒子が、アルミナ、シリカ、BaTiO3、CaO、ZnO、ベーマイト、TiO2、SiC、ZrO2、ほうケイ酸塩、BaSO4、ナノクレー、又はそれらの混合物よりなる群から選択される、態様16~23のいずれかに記載の方法。
【0102】
態様25:
前記ナノ粒子がヒュームドアルミナ又はヒュームドシリカを含む、態様16~23のいずれかに記載の方法。
【0103】
態様26:
前記ナノ粒子が、アラミド充填剤及びアラミド繊維のチョップド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、PTFE繊維、カーボンナノチューブ、及びそれらの混合物よりなる群から選択される、態様16~23のいずれかに記載の方法。
【0104】
態様27:
前記溶媒が、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン及び炭化水素よりなる群から選択される、態様16~26のいずれかに記載の方法。
【0105】
態様28:
前記溶媒がNMP、水、アセトン及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはNMPである、態様16~26のいずれかに記載の方法。
【0106】
態様29:
前記溶媒が水を含む、態様16~26のいずれかに記載の方法。
【0107】
態様30:
前記溶媒がNMPを含む、態様16~26のいずれかに記載の方法。
【0108】
態様31:
前記溶媒とナノ粒子との両方を含む、形成されたスラリーの固形分が2~30重量%、好ましくは2~15重量%である、態様16~30のいずれかに記載の方法。
【0109】
態様32:
前記溶媒とナノ粒子との両方を含む、形成されたスラリーの固形分が2~12重量%である、態様16~30のいずれかに記載の方法。
【0110】
態様33:
ナノ粒子の重量パーセントに対する重合体の重量パーセントの比が80:20~5:95、好ましくは80:20~10:90である、態様16~32のいずれかに記載の方法。
【0111】
態様34:
ナノ粒子の重量パーセントに対する重合体の重量パーセントの比が70:30~20:80である、態様16~32のいずれかに記載の方法。
【0112】
態様35:
前記ナノ粒子が1~700m2/g、より好ましくは1~600m2/gの表面積を有する、態様16~34のいずれかに記載の方法。
【0113】
態様36:
前記被膜が0.05~100μm、好ましくは0.05~50μm、より好ましくは0.05~20μmの厚さを有する、態様16~34のいずれかに記載の方法。
【0114】
態様37:
前記ナノ粒子のサイズが500nm未満、好ましくは200nm未満である、態様16~36のいずれかに記載の方法。
【0115】
態様38:
前記ナノ粒子のサイズが100nm未満である、態様16~36のいずれかに記載の方法。
【0116】
態様39:
網状フィルム又は被膜を、ウェット・オン・ウェットプロセスにおいて1工程で基材に同時に直接流延する、態様16~38のいずれかに記載の方法。
【0117】
態様40:
態様16~39のいずれかに記載の方法によって製造された網状被膜又はフィルム。
【0118】
態様41:
態様1~15のいずれかに記載の網状被膜又はフィルムを含む物品であって、前記物品が、電気化学デバイスのセパレータ、吸音被膜、フィルター媒体、又はHEPAフィルターなどの高効率粒子吸着フィルターよりなる群から選択される物品。
【0119】
態様42:
態様1~15のいずれかに記載の網状被膜又はフィルムを含む物品であって、前記物品が電気化学デバイスのセパレータを含む物品。
【0120】
態様43:
態様1~15のいずれかに記載の網状被膜又はフィルムを含む物品であって、前記物品が、HEPAフィルターなどの高効率粒子吸着フィルターを含む物品。
【0121】
試験方法
溶融粘度はASTM法D-3835に基づき、450°F(232℃)、100sec-1で測定される。
【0122】
ナノ粒子の粒子径は、Malvern Masturizer 2000粒子径分析器を使用して測定できる。データは重量平均粒子径(直径)として報告される。
【0123】
粉末/ラテックスの平均離散粒子径は、レーザー光散乱を用いたNICOMP(商標)380サブミクロン粒子径測定装置を使用して測定できる。データは重量平均粒子径(直径)として報告される。
【0124】
複合体の密度は、複合体の重量をサンプルの体積で割ることによって算出した。まず、複合体をアルミホイル上に流延し、流延した複合体をスタンプカットして1.33cm2の表面積を有するサンプルを作製した。サンプルの厚みは、0.1μmの精度を有するマイクロメーターで測定した。複合体の重量は、分析天秤を使用して測定し、アルミニウム箔の重量を差し引いた。固体材料の密度は、公表された文献値に基づく:すなわち、PVDF重合体=1.78g/cm3、PMMA=1.13g/cm3、CMC=1.6g/cm3である。
【0125】
材料のBET比表面積、細孔容量、細孔径分布は、QUANTACHROME NOVA-Eガス吸着装置を使用して測定できる。77Kで窒素吸着・脱着等温線を作成する。マルチポイントブルナウアー・エメット・テラー(BET)窒素吸着法を使用して比表面積の特性を評価する。非局所密度汎関数法(NLDFT、N2、77k、スリット孔モデル)を使用して細孔容量及び細孔径分布を特性評価する。
【0126】
溶液の粘度:ASTM 2857。
【0127】
降伏応力の逆算:Brookfield粘度計DV-III Ultra、スピンドルCP52、Herschel-Bulkleyモデル式に基づいて算出:
【数1】
τ=せん断応力(D/cm
2)
k=粘性指数(cP)
n=フローインデックス
τ°=降伏応力(D/cm
2)
D=せん断速度(1/秒)。
τ=せん断応力(D/cm
2):加えた応力に対して平行な1以上の面に沿った滑りにより材料を変形させる傾向のある力。
τ°=降伏応力(D/cm
2):降伏応力とは、物体が永久に変形する又は流動を始めるのに必要な応力の量である。
k=粘性指数(cP):流体の性質に関連する。流体の粘度が高くなるほど粘性指数は増加する。
D=せん断速度(1/秒)。せん断速度とは、ある流体層が隣接する層上を通過する際の速度の変化率のことである。
n=フローインデックス:複雑な流体の流動挙動は、従来、変形速度及びせん断速度の変化に対する粘度の依存性に基づき、ニュートン流体と非ニュートン流体とに区別して特徴づけられてきた。
τはせん断応力であり、これをせん断速度で割って粘度を得る必要がある。算出方法は次のとおりである:
【数2】
表中において、kはセンチポイズで表されているため、100で割ってD/cm
2とし、τ°に加える必要がある。τ°を逆算するために、上記式は次のとおりになる:
【数3】
【実施例】
【0128】
例1:
NMPを溶媒として使用した、約8%スラリー固形分(重量%)での、PVDF(Kynar HSV-1810)(カルボキシル官能性を有するPVDF重合体)とヒュームドアルミナとの3種の網状フィルム複合体。フュームドアルミナの等級:フュームドアルミナ:Aeroxide AluC
【表1】
【0129】
これは、本発明の方法を使用して得ることができる多孔度を示す。多孔度(%)=[1-(フィルム密度/算出密度)]×100である。ナノ粒子に対する樹脂の重量比を調節することで、多孔度を変化させることができる。高い多孔度が達成できた。
【0130】
例2:
フュームドアルミナとPVDF重合体(Kynar HSV-900)とRV=1.1のPMMAとからなる網状フィルム複合体。溶媒としてNMPを使用し、スラリーの固形分(重量)を8%とした。
【0131】
【0132】
これは、本発明の方法を使用して得ることができる多孔度を示す。一般に、使用する樹脂が少ないほど、良好な多孔度が得られる。異なる樹脂を使用することもできる。この例では、PVDFとPMMAの両方によって、少なくとも42%の多孔度が得られた。
【0133】
例3:
様々な導電性カーボン及びヒュームドアルミナを使用したPVDF(Kynar 1810)とPMMA(RV=1.1)樹脂との網状フィルム複合体をカレンダー塗布した。ナノ粒子に対する重合体の重量比は50:50であった。溶媒としてNMPを使用し、スラリーの固形分(重量)は8%であった。
【0134】
【0135】
これは、網状のフィルムが形成されていること、多孔性を有することを示す。
【0136】
例4:
網状フィルム複合体に及ぼす温度の影響。
【0137】
ナノ粒子に対する重合体の重量比は50:50であった。溶媒としてNMPを使用し、スラリーの固形分(重量)は8%であった。
【0138】
【0139】
これは、一般的に乾燥温度が高いほど多孔度が高くなることを示す。
【0140】
例5:
2種類のナノ粒子(ヒュームドシリカ及びナノZnO)と3種類のバインダー(CMC、PAA、CMC/SBR)を使用した水系プロセス。溶媒としてNMPを使用し、スラリーの固形分(重量)を8%とした。
【0141】
【表5】
フュームドシリカ等級:エボニック社製のAerosil R9200及びR7200
【0142】
これは、本発明の方法を使用して得ることができる多孔度を示す。様々な重合体及び様々なナノ粒子を使用することができる。
【手続補正書】
【提出日】2022-04-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)樹脂及び(b)ナノ粒子を含む網状被膜又はフィルムであって、
前記被膜又はフィルムは多孔質構造を有し、前記多孔質構造は、10%~80%の開放細孔であり、前記樹脂は、約100cp~10000cp、好ましくは100cp~5000cpの溶液粘度(NMP中5重量%、又は水溶性重合体については水中2%において室温で)、前記ナノ粒子は、電子的に非伝導性であり、かつ、1~1000m
2/gの表面積を有する、網状被膜又はフィルム。
【請求項2】
平均孔径が500nm
未満、好ましくは100nm
未満、より好ましくは50nm
未満である、請求項1に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項3】
前記樹脂が、
次の単独重合体及び共重合体:ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
、ポリエチレン-四フッ化エチレン(PETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリ
(アルキル)アクリレート、ポリ
(アルキル)メタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロースCMC、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸
(PMAA)及びその組合せよりなる群から選択される、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項4】
前記樹脂がポリフッ化ビニリデン重合体を含む、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項5】
前記樹脂がポリ
(アルキル)アクリレート重合体、
又はポリ
(アルキル)メタクリレート重合体を含む、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項6】
前記樹脂が
カルボキシメチルセルロース重合体、ポリアクリル酸
重合体又はポリメタクリル酸重合体
のうち少なくとも一つを含む、請求項1又は2に記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項7】
前記ナノ粒子が
、チョップド
アラミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、PTFE繊維、カーボンナノチューブ、及びそれらの混合物よりなる群から選択される、請求項1
~6のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項8】
前記ナノ粒子がヒュームドアルミナ若しくはヒュームドシリカ又はその組合せを含む、請求項1
~6のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項9】
ナノ粒子に対する
樹脂の重量パーセント比が80:20~10:90、好ましくは70:30~20:80である、請求項1
~8のいずれかに記載の網状被膜又はフィルム。
【請求項10】
網状被膜又はフィルムの製造方法であって、次の工程:
(a)
樹脂が約100cp~10000cp、好ましくは100cp~5000cpの溶液粘度(NMP中5重量%、又は水溶性重合体については水中2重量%において室温で)を有する、溶媒に溶解した樹脂を準備し、
(b)1~1000m
2/gの表面積を有するナノ粒子を準備し、
(c)
溶媒に溶解した前記樹
脂と前記ナノ粒子とを混合して、ナノ粒子の重量パーセントに対する
樹脂の重量パーセントの比が80:20~5:95であるスラリーを生成し、
(d)前記スラリーを基材上に流延して被膜又はフィルムを形成し、
(e)形成された前記被膜又はフィルムを乾燥させること
を含み、
乾燥後の前記被膜又はフィルムが多孔質構造を有し前記多孔質構造は10体積%~80体積%の開放細孔であり、
前記スラリーは、50ダイン/cm
2~5000ダイン/cm
2、好ましくは75~3000ダイン/cm
2の降伏応力を示し、前記スラリーの固形分が2~30重量%の固形分、好ましくは2~20重量%の固形分である、前記製造方法。
【請求項11】
前記樹脂が、
次の単独重合体及び共重合体:ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
、ポリエチレン-四フッ化エチレン(PETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリ
(アルキル)アクリレート、ポリ
(アルキル)メタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロースCMC、ポリアクリル酸(PAA)、
ポリメタクリル酸(PMAA)及びその組合せよりなる群から選択される、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記樹脂がポリフッ化ビニリデン単独重合体及び/又は共重合体を含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
前記樹脂がポリ
(アルキル)メタクリレート及び/又はポリ
(アルキル)アクリル重合体を含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項14】
前記樹脂がポリメタクリル酸及び/又はポリアクリル酸重合体を含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子がヒュームドアルミナ若しくはヒュームドシリカ又はその組合せを含む、請求項
10~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記ナノ粒子が
、チョップド
アラミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、PTFE繊維、カーボンナノチューブ、及びそれらの混合物よりなる群から選択される、請求項
10~14のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
ナノ粒子の重量パーセントに対する
樹脂の重量パーセントの比が80:20~5:95、好ましくは80:20~10:90である、請求項
10~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
網状フィルム又は被膜を、ウェット・オン・ウェットプロセスにおいて1工程で基材に同時に直接流延する、請求項
10~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
請求項
1~9のいずれかに記載の網状被膜又はフィルムを含む物品であって、前記物品が、電気化学デバイスのセパレータ、吸音被膜、フィルター媒体、又はHEPAフィルターなどの高効率粒子吸着フィルターよりなる群から選択される物品。
【請求項20】
請求項
1~9のいずれかに記載の網状被膜又はフィルムを含む物品であって、前記物品が電気化学デバイスのセパレータを含む物品。
【国際調査報告】