(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-22
(54)【発明の名称】ラジウム-226からアクチニウム-225を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
G21G 1/02 20060101AFI20220815BHJP
G21G 4/08 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
G21G1/02
G21G4/08 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021576260
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(85)【翻訳文提出日】2022-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2020067352
(87)【国際公開番号】W WO2020254689
(87)【国際公開日】2020-12-24
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521555409
【氏名又は名称】ニュークリア・リサーチ・アンド・コンサルタンシー・グループ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サンデル・デ・フロート
(72)【発明者】
【氏名】クラース・バッケル
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・アスキス
(57)【要約】
ラジウム-226を含有する出発物質を原子炉からの中性子照射に供してラジウム-226をラジウム-225に変換し、ラジウム-225含有材料を提供することによる、ラジウム-226含有材料からのラジウム-225含有材料を製造するための方法であって、ラジウム-226含有出発物質の中性子照射は、減速原子炉で実施され、ラジウム-226含有出発物質は、熱中性子吸収遮蔽で遮蔽されていることを特徴とする、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジウム-226を含有する出発物質を原子炉からの中性子照射に供してラジウム-226をラジウム-225に変換し、ラジウム-225含有材料を提供することによる、ラジウム-226含有材料からのラジウム-225含有材料を製造するための方法であって、
- ラジウム-226含有出発物質の中性子照射は、減速原子炉で実施され、
- ラジウム-226含有出発物質は、熱中性子吸収遮蔽で遮蔽され、
- ラジウム-225がアクチニニウム-225へ崩壊することを可能にし、
- ラジウム-225含有材料からアクチニウム-225を分離する、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
ラジウム-225含有材料からラジウム同位体を分離することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
減速原子炉が減速材料試験炉である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
減速原子炉が減速高フラックス炉である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
熱中性子吸収遮蔽が、ホウ素、カドミウム、ガドリニウム、ハフニウム、並びにこれらの元素を含む材料およびそれらの混合物などの熱中性子吸収断面積の大きい材料からなる群、好ましくはガドリニウムから作られる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
減速原子炉からの高速中性子が、約0.1MeV、好ましくは5MeVから約20MeVの範囲のエネルギーを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
熱中性子が、約20eVから約1000eVの範囲のエネルギーを有する、請求項1から6いずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ラジウム-226含有材料が、金属として、酸化物として、ハロゲン化物、硝酸塩または炭酸塩などの塩として、またはそれらの混合物として提供される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ラジウム-226含有出発物質を中性子照射に供してラジウム-226をラジウム-225およびアクチニウム-225含有材料へ変換するステップを含む、アクチニウム-225含有材料の製造のための方法であって、
- ラジウム-226含有出発物質の中性子照射は、減速原子炉内で実施され、
- ラジウム-226含有出発物質は、熱中性子吸収遮蔽で熱中性子から遮蔽されており、
- ラジウム-225含有材料は、アクチニウム-225含有材料へ崩壊することができる、ことを特徴とする、方法。
【請求項10】
ラジウム同位体が、アクチニウム-225含有材料の中への崩壊を可能にする前に、ラジウム-225含有材料から分離される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
減速原子炉においてラジウム-226に高速中性子を照射してラジウム-225を生成する方法における熱中性子吸収遮蔽の使用であって、好ましくはラジウム-225はアクチニウム-225へ崩壊することができる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジウム-226(226Ra)からアクチニウム-225(225Ac)同位体を製造するための方法に関する。より具体的には、本発明は、ラジウム-225(225Ra)を製造するための方法、および崩壊によるアクチニウム-225へのその後の変換に関する。
【背景技術】
【0002】
アクチニウム-225(225Ac)は、約10日の半減期を有するアルファ放射性同位体であり、医療用途に大きな展望を示している。225Acの用途は、標的アルファ療法(Targeted Alpha Therapy、TAT)で特に予見されている。標的アルファ療法(TAT)において、同位体は様々な生体分子または標的化合物に結び付けることができる。様々な生体分子または標的化合物は、例えば癌細胞に特異的に結合する。細胞を標的とした同位体のアルファ崩壊は、アルファ崩壊により癌細胞を破壊する。標的薬剤が十分に特異的である場合、この用途は、悪性細胞が局所的に処置され、効果的に破壊される治療の機会を提供するだろう。局所化され、対象を定めた治療を使用することにより、負の副作用を最小限に抑えることができる。これは、化学療法またはホルモン療法など、患者全体が治療による影響を受け、副作用が深刻となり得る、より一般的な治療と比較して有利である。標的アルファ療法(TAT)の開発は、現在急速に進化している。急速な発展は、TATで使用するのに適切な品質と量の225Acなどのアルファ放射性同位体の増大した必要性を生み出す。
【0003】
さらに、225Acの娘同位体の1つは213Bi(ビスマス-213)である。213Biは45分の半減期を有しており、アルファ放射体ベースの治療にも採用することができる。213Bi同位体はまた、225Acが生成されるときに間接的にも生成される。
【0004】
高純度の225Acは製造が困難である。これまでのところ、ごくわずかな229Th(トリウム-229)ソースが利用できる。229Thは、225Raを介した崩壊により225Acを生成する。しかしながら、利用可能な229Thの量は少ないため、これらのルートは小規模な用途だけをサポートすることができる。225Ac生成のための229Thソースの生成は、複数の中性子捕獲による熱スペクトルでの226Ra照射により達成することができる。残念ながら、このルートはまた、高エネルギーのガンマフラックスを生成する228Thなどのあまり望ましくない同位体を生成する。228Thからのような高エネルギーガンマフラックスは、10から20年の期間の処理および放射線防護に困難性を引き起こす。
【0005】
225Acを生成するための別の方法は、高エネルギー(高速)中性子により誘導される226Ra(n、2n)反応から直接225Raを生成することである。
【0006】
226Raの225Raへの、さらに225Acへの変換のためのプロセスを説明している文献がいくつかある。
【0007】
欧州特許出願公開第0752710号明細書(EP0752710)は、(n、2n)反応において高エネルギー中性子を使用する高速スペクトル原子炉におけるラジウム-226からアクチニウム-225への変換を説明しており、不要なラジウム-227同位体の崩壊に続くアクチニウム-225の分離の後に所望の同位体を化学的に分離することに焦点を当てている。
【0008】
米国特許出願公開第2014-226774号明細書(US20140226774)は、熱遮蔽を使用する226Raから227Acへの変換を説明しており、熱中性子から227Acを保護し、226Ra核が20eVと1KeVとの間のエネルギーでより高い熱外群の中性子に晒されるようにスペクトルを形成している。
【0009】
米国特許出願公開第2007-092051号明細書(US20070092051)は、高速中性子の実質的なフラックスを有する高速中性子炉(FNR)において226Raに中性子を照射することによりアクチニウム-225を生成するアプローチを説明している。高速中性子は約0.1-5MeVから約20MeVの中性子エネルギーを有している。約0.1MeV、好ましくは5MeVから約20MeVの中性子エネルギーを有する中性子でラジウム-226を照射すると、225Raが得られる。ベータ粒子の放出による225Raの自然崩壊により、それは225Acに変換される。理論計算に基づいて、US20070092051の潜在的な収量は、1グラムのラジウム226あたり5mCi(0.185GBq)のラジウム225と推定される。
【0010】
従って、225Ra(n、2n)ルートを介して225Acを生成することは既に可能である。しかしながら、関心の高まりを考慮すると、225Raを生成し、そこから225Acを生成する、より効率的で、より便利で、より生産的なルートに関連性がある。
【0011】
US20070092051に記載されているようなFNRに基づく既存のルートの欠点は、FNRがすぐに利用できず、商業的に健全な方法で運用することが難しいことである。世界中で、約20のFNRが利用可能である。これらは一般的に医療用同位体の製造のために使用されていないか、使用できない。そのようなFNRにおいて標的を導入して取得することは一般に複雑であり、これらのシステムは225Raの手ごろな生産に対して、限られた柔軟性および運用日数を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0752710号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2014-226774号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007-092051号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、この方法を改善し、特に、より高い収率および選択性で、並びにより容易に利用可能で、生産目的により適した原子核インフラを使用する、より効率的な方法で、ラジウム-226から所望のラジウム-225およびアクチニウム-225同位体の生成を可能にすることに着手した。
【0014】
本発明者らは、FNRの内部の代わりに、「通常の」減速材料試験炉が使用されるとき、ラジウム-225およびアクチニウム-225が高収率および選択的に製造できることを発見した。
【0015】
減速材料試験炉は、(MeVスペクトルのエネルギーを持つ)高速中性子および(<KeVスペクトルのエネルギーを持つ)(エピ)熱中性子を含む中性子束を生成する。減速材料試験炉の中性子スペクトルにおける熱中性子の存在は、熱中性子がさまざまな量でさまざまな他の同位体を生成できるため(すなわち、所望の225Raに対して低い選択性を作り出し、それ故所望の同位体生成物の加工(workup)および225Ra出発物質の燃焼(burn-up)を複雑にする、すなわち、所望の225Raの収率を低下させる)、225Acの効率的な生成に問題がある。
【0016】
High Flux Reactor Petten(HFR)を使用する最初の実験から、226Ra(n、2n)による225Raの生成率は、これまでに知られているよりも高いことがわかっている。これは、HFRなどの「通常の」材料試験炉における中性子束の高速中性子部分を使用して、225Acの供給源として225Raを生成する機会を提供している。HFRなどの一般的な減速材料試験炉は、一般にほとんどのFNRよりも低い高速中性子束を有しているが、HFRにおいて照射される226Raの照射後実験は、材料試験炉における高速フラックスが顕著な量の225Acを生成するのに十分であることを示している。
【0017】
本発明者らは、226Raから225Acを製造する効率的な方法は、中性子束の高速中性子部分のみが使用され、熱中性子の放射化が(実質的に)排除された場合であることに気付いた。本発明者らは、これは、周囲の熱中性子吸収遮蔽、および好ましくはラジウム226ターゲットを使用することにより達成され得ることに気付いた。
【0018】
遮蔽は熱中性子(の大部分)を吸収し、高速中性子の大部分が通過してターゲット材料(226Ra)と相互作用することを可能にしている。
【0019】
熱遮蔽は、好ましくは、226Raを225Raに変換するための所望のエネルギーを有する中性子のみまたは実質的な中性子がターゲット材料に吸収されて相互作用しないようにスペクトルが成形されるように形成される。226Raから225Raへの変換のための好ましい中性子エネルギーウィンドウは、0.1MeV、好ましくは5MeVから20MeVの範囲にある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
従って、本発明は、ラジウム-226を含む出発物質を、減速材試験炉(の内部または近く)からの中性子照射に供して、ラジウム-226をラジウム-225に変換し、ラジウム-225含有の材料を提供することによる、ラジウム-226含有材料からのラジウム-225含有材料の製造に関し、
- ラジウム-226含有出発物質の中性子照射は、減速原子炉において実施され、
- ラジウム-226含有出発物質は、熱中性子吸収遮蔽で遮蔽されている
ことを特徴としている。
【0021】
ラジウム-226の照射の間に熱中性子吸収遮蔽を使用すると、以下の利点をもたらすことがわかった。
- ラジウム-226の熱中性子の放射化により生成される高放射性同位体の量および種類の低減。いくつかの高放射性同位体は、遮蔽が難しい高エネルギーのガンマ線を生成し、照射後の取り扱いおよび処理が複雑である。熱中性子遮蔽は、これらの特定の同位体の形成を効果的に低減させ、それにより照射後のターゲット材料の取り扱い、処理および精製の実現可能性を大幅に促進させる。
- ラジウム-226の熱中性子の放射化により生成される同位体の量および種類の低減。これは、(生産物品質が改善された)最終生産物につながり得る熱中性子の放射化による不要な同位体の生成を低減させ、廃棄物の流れおよび(プロセス品質が改善された)分離プロセスの複雑さを低減させる。これは、例えば、非常に長寿命の同位体であり、最終生産物から可能な限り排除すべきであるが、所望の同位体225Acから化学的に分離することができない227Acに特に当てはまる。
- 熱中性子の放射化による226Raの燃焼が低減され、それにより生産のために必要な226Raの量を低減させる。226Raは希少である。
- 熱中性子吸収による225Raの燃焼(225Raから226Raへの「逆放射化」)が低減され、それにより225Raの生成を最適化する。
- 226Raの重量単位(gr)あたり225Raの生産量を増大させる。
- 226Raの重量単位(gr)あたり225Acの収量を増大させる。
- (不要な同位体など)生成される廃棄物の量を低減させる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】熱中性子遮蔽されたラジウムターゲット材料を保持する格納容器シリンダの例の概略図を示している。
【
図2】熱中性子遮蔽および熱中性子非遮蔽(比較のため)の形態の両方での
226Raの照射で達成される放射能のグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の方法は、既存の、且つ容易に利用可能な照射インフラを採用することを可能にし、それにより、医療分野に広い応用を見出すアクチニウム同位体の生成のためのこの方法の比較的迅速かつ費用効果の高い実施を可能にする。減速材料試験炉などの照射インフラは大量に照射できるため、大量生産することができる。225Acの10日間という比較的長い半減期は、効果をあまり損なうことなく世界中に流通できるため、一元化された生産を可能にする。これは、代替の225Ac生成技術を使用する、複数の機械での分散型生産と比較して、大きな経済的利益をもたらす。
【0024】
本発明の別の態様では、熱中性子吸収遮蔽において226Raを照射すると、照射後数日以内にターゲット内の他の元素からラジウム(すなわち、ターゲット内のすべてのラジウム同位体)を分離して、ターゲットに存在する不要な不純物、または崩壊により生成される不要な不純物を排除することが可能であることが見出された。照射終了から最初の精製までの期間は、227Ra(半減期42.2分)が崩壊するのに少なくとも十分でなければならない。特に、227Acは、21.8年の半減期を有する不要な同位体であり、患者および環境内への導入を避けるべきであり、本発明の方法における熱中性子吸収遮蔽を採用することによりその生成が大部分回避されるとしても、依然として許容できない量で照射された材料内に存在し得る。
【0025】
加工(workup)(すなわち、所望の同位体の分離)は、様々な方法で実施することができる。一実施形態では、照射された226Raからのアクチニウム同位体の化学的抽出(または溶出)によりアクチニウム(227Acおよび225Acの両方)を除去する。照射後の数時間から数日に分離が行われると、生産物の品質に対して有害となり得る他の全てのアクチニウム同位体が生産前に除去されているため、十分な量の225Raが残り、十分な量で、且つ純粋な形で新しい225Acを生成する。
【0026】
別の実施形態では、加工は、照射された226Raからのラジウム同位体の抽出(または溶出)によって実施され、その後、分離物中の225Raが225Acに崩壊することを可能にする。
【0027】
本発明の方法における熱中性子遮蔽は、ラジウム226出発物質を(閉じた)熱中性子遮蔽内に包含することにより確立することができる。熱中性子遮蔽は、熱中性子断面積の大きい材料で作られている。熱中性子遮蔽の材料は、好ましくは、ホウ素、カドミウム、ガドリニウム、ハフニウムおよびそれらの混合物からなる熱中性子吸収断面積の大きい元素の群から選択される。ガドリニウム遮蔽が優先される。
【0028】
226Ra出発物質は、所望の化学的形態で(金属、酸化物、塩またはそれらの混合物として)提供することができる。出発物質はまた、粉末として、および/またはAlなどの他の元素と組み合わせて提供され得る。出発物質は、焼結および/またはペレット化され得る。出発物質は、容器、好ましくは、金属、石英、またはセラミック材料で作ることができ、密閉されて格納容器を形成することができる密閉された容器、例えば、密閉されたアンプルを形成する容器に置かれる。
【0029】
アンプルは、熱中性子吸収断面積が大きく(好ましくはガドリニウムなど)、高エネルギー中性子に対する吸収断面積が小さい材料からなる、好ましくは円筒形の本体に置かれる。熱中性子遮蔽は、閉じた格納容器を形成すると考えることもできる。追加的または代替的に、アンプル内のターゲット材料は、熱中性子吸収材料と混合されてもよい。この構成は、第2の格納容器、通常は(溶接された)エンドキャップで閉じられた金属製の円筒形の本体に置かれる。格納容器は、原子炉冷却材によって外側で冷却される。
【0030】
遮蔽と外部格納容器との間に、必要に応じて低密度の高熱伝導性フィラーを追加して、全ての材料および構成要素において生成された熱を高い熱勾配なしに冷却材に輸送し、過熱を回避して熱勾配を低減し、それにより様々な材料および構成要素における熱応力、溶融、分解を低減することができる。
【0031】
材料試験炉からの低エネルギー(熱)中性子束は熱遮蔽材料により吸収されるため、低エネルギー(熱)中性子は遮蔽空洞内にほとんど存在しない。高エネルギー(高速)中性子(典型的には約0.1MeV、好ましくは5MeVから約20MeV)は、比較的妨げられることなく通過する。従って、この構成において、特定の高速中性子スペクトルが中性子遮蔽内で作り出される。遮蔽内の226Ra含有材料の場合、226Ra(n、2n)反応は材料試験炉の高速フラックス(遮蔽によってほとんど妨げられない)において起こるが、熱中性子は遮蔽により効果的に吸収されるため、熱中性子の放射化反応は回避される。
【0032】
本発明は、以下でより詳細に説明することができる(
図1)。
【0033】
金属、酸化物、炭酸塩、窒化物などの様々な化学形態にあり得るラジウム出発物質(5)は、ラジウム出発物質格納ユニット(4)内に提供される。ユニット(4)は、金属、石英、セラミックなどの耐放射線性の軽い材料のアンプルであり得る。ラジウム含有の出発物質は、エンドキャップ(2)で閉じることができる熱中性子遮蔽ホルダ(3)内に置くことができる。熱中性子遮蔽ホルダ(3)およびエンドキャップ(2)は、ホウ素、カドミウム、ガドリニウムなどの熱断面積の大きい材料で作ることができる。ホルダおよびエンドキャップに対して好ましい材料はガドリニウムである。好ましくは、ホルダおよびエンドキャップは、同じまたは実質的に同じ熱中性子吸収材料からのものである。熱中性子遮蔽は、好ましくは、ラジウムターゲット材料を完全に囲む、すなわち、原子炉の熱中性子からそれを遮蔽する。熱遮蔽されたラジウムターゲット材料は、一般に格納容器キャップ(1)を有し得る金属材料からの格納容器(7)に置くことができる。格納容器および格納容器キャップは、例えば溶接により密封して閉じることができる。格納容器および格納容器キャップは、好ましくは、同じまたは実質的に同じ材料からのものである。格納容器と熱遮蔽との間に、充填材(6)、典型的には良好な熱伝導率を有する軽量の材料、例えば、グラファイトまたはアルミニウムを提供することができる。
【0034】
図1は、熱中性子遮蔽されたラジウムターゲット材料を保持する格納容器シリンダの例の概略図を示している。
【0035】
図2は、遮蔽されたおよび遮蔽されない形態において、照射中および照射後の
225Acおよび
225Raの量を経時的に示している。遮蔽されていないケースは、オランダのHFR Pettenにおける高フラックス位置での
226Ra 0.12mgの実際の照射に基づいている。
225Ac含有量は3つの異なる時間で測定され、グラフに示されている。測定から、そして計算により裏付けられた
225Acの量は、熱中性子吸収遮蔽なしでの照射の終わりに生成される
225Raの量を提供する。高速中性子は熱中性子吸収遮蔽により吸収されず、影響も受けず、生成された
225Raの熱中性子による燃焼が熱中性子吸収遮蔽により除去されるため、
225Raの生成率は熱中性子吸収遮蔽が採用される場合に同等以上になる。
【0036】
照射および崩壊後の量に基づいて経時的な既知の225Raの量を用いて、225Acの抽出の工程をシミュレートすることができる。
- 3日後、全てのアクチニウムが化学的に除去され、ラジウム同位体225Raおよび226Raのみが残る。このアクチニウムは、許容できない量の不要な227Ac同位体を含むことができ、廃棄されるか、他の目的に使用され得る。
- その時点から、225Raは常に新しい225Acを生成し、他のアクチニウム同位体は形成または存在しない。
- 生成された225Acは、ほとんどの225Raが崩壊するまで繰り返し除去できる。図において、一時的な抽出スキームが示されており、5~8日の範囲の期間の後、225Acがラジウムから抽出される。
【0037】
全てのラジウムは、照射終了後3日(すなわち、照射開始後31+3日)で抽出および精製されると計算される。従って、抽出および精製されたラジウムは、その時点でアクチニウムをもはや含んでいない。続いて生成される225Acは、精製されたラジウムに存在する225Raからの崩壊によって生成される。
【0038】
図2は、熱中性子遮蔽および熱中性子非遮蔽(比較のため)の形態の両方での
226Raの照射で達成される放射能のグラフを示している。
【0039】
図は、HFRのような通常の熱中性子材料試験炉でこのように照射された0.12mgの226Raからのものを示しており、おおよそ合計で6.9GBqの225Ac/g226Raを生成できると推定することができ、これは1ドーズあたり8MBqが仮定される場合(225Acの通常のPSMA用途に基づく)、860人の患者に対応する。従って、1グラムの226Raの量に基づいて、数百の患者の線量の複数の抽出を実施することができる。熱中性子吸収遮蔽を採用することは、同等以上の量を提供するが、不要な同位体の放射能は大幅に低減され、取り扱いおよび処理を大幅に容易にし、照射の間に不純物の形成を低減することにより、最終生産物における不純物のリスクを低減する。米国特許出願公開第2007-092051号明細書(US20070092051)に記載されている方法では、理論計算に基づいて、高速中性子炉におけるラジウム226のグラムあたり5mCi(0.185GBq)のラジウム225と推定された。本発明は、HFRなどの通常の材料試験炉において著しく高い収率(約40倍)を提供する。
【0040】
225Acを生成する他の既知の方法があるが、本発明の方法の主な利点は、既存の容易に利用可能な照射インフラを使用することができ、かなりの量の225Acを提供し、同時に照射後の取り扱い、処理および精製を複雑にする不要な同位体の形成を排除することができる。容易に利用可能な照射インフラの使用は、比較的迅速で費用効果の高い実装を可能にする。これは、既に需要が高く、特に、去勢抵抗性前立腺癌の治療のためにPSMA化合物と組み合わせて採用される225Acで達成される素晴らしい結果および新しい医療用途に対するその期待される有効性に関して、今後数年間で需要が大幅に増加すると予想される医療用同位体にとって重要である。
【符号の説明】
【0041】
1 格納容器キャップ
2 エンドキャップ
3 熱中性子遮蔽ホルダ
4 ラジウム出発物質格納ユニット
5 ラジウム出発物質
6 充填材
7 格納容器
【国際調査報告】