IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カンザス、ステート、ユニバーシティ、リサーチ、ファウンデーションの特許一覧

特表2022-537029グラフェン/酸化グラフェンコア/シェル粒子、それを作製する方法、およびそれを使用する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-23
(54)【発明の名称】グラフェン/酸化グラフェンコア/シェル粒子、それを作製する方法、およびそれを使用する方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/184 20170101AFI20220816BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20220816BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220816BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220816BHJP
   C08K 9/00 20060101ALI20220816BHJP
   C08F 292/00 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C01B32/184
C01B32/198
C08L101/00
C08K3/04
C08K9/00
C08F292/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021574910
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(85)【翻訳文提出日】2022-02-14
(86)【国際出願番号】 US2020038055
(87)【国際公開番号】W WO2020257229
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】62/862,251
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/935,438
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/016,637
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
(71)【出願人】
【識別番号】521437677
【氏名又は名称】カンザス、ステート、ユニバーシティ、リサーチ、ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KANSAS STATE UNIVERSITY RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】ステファン、エイチ、ボスマン
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー、ソーレンセン
(72)【発明者】
【氏名】ホセ、コバルビアス
(72)【発明者】
【氏名】マドゥマリ、カルボウィラゲ
(72)【発明者】
【氏名】アルジュン、ネパール
【テーマコード(参考)】
4G146
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD20
4G146AD22
4G146AD24
4G146AD28
4G146CB14
4J002AA011
4J002BB031
4J002BB121
4J002BC031
4J002BD041
4J002BD151
4J002BG051
4J002BG061
4J002BG131
4J002CF001
4J002CK021
4J002CL001
4J002DA016
4J002FB076
4J002FB086
4J002FB266
4J026AC00
4J026BA02
4J026BA03
4J026BA05
4J026BA10
4J026BA11
4J026BA27
4J026BA32
4J026CA07
4J026DB30
4J026GA01
(57)【要約】
グラフェン/酸化グラフェン粒子を温和条件下で作製する方法であって、プリスティングラフェンを過酸化水素および鉄供給源と反応させることで、溶液中のプリスティングラフェン粒子の外表面を酸化させ、グラフェン/酸化グラフェン粒子を得ることを含む、方法。また、それを組み入れている方法および物品が開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン/酸化グラフェン粒子を作製する方法であって、
pH5.0以下の水性溶媒系と、過酸化水素と、外表面を有するプリスティングラフェン粒子と、を含む反応液を作製すること;
前記反応液に鉄供給源を添加すること;
前記反応液をある時間撹拌またはかき混ぜし、ヒドロペルオキシルラジカルを前記グラフェン粒子と反応させて、溶液中の前記プリスティングラフェン粒子の外表面を酸化することで、前記グラフェン/酸化グラフェン粒子を得ること;並びに
前記溶液から前記グラフェン/酸化グラフェン粒子を回収すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記反応液の作製が、ハイドロゲンピリオドをpH5.0以下の水性溶媒系中に分散させること、前記プリスティングラフェン粒子を前記溶媒系に添加すること、並びに、前記溶液をある時間撹拌することで、前記反応液中に前記粒子の実質的に均一の分散液を得ること、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鉄供給源が二価鉄イオン、三価鉄イオン、および鉄酸塩からなる群から選択され、好ましくは硫酸鉄(II)六水和物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記反応液が前記作製工程、添加工程、および撹拌工程の間100℃以下の温度に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記反応液が前記作製工程、添加工程、および撹拌工程の間約40℃~約75℃の温度に維持される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記グラフェン/酸化グラフェン粒子が濾過および/または遠心分離によって回収される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
水性溶媒系中の回収されたグラフェン/酸化グラフェン粒子を洗浄することで、反応生成物を中和することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記回収されたグラフェン/酸化グラフェン粒子を真空乾燥下で乾燥させることで、粉末化したグラフェン/酸化グラフェン粒子を得ることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記プリスティングラフェン粒子が爆轟法により合成されたグラフェンのフラクタル凝集体である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記回収されたグラフェン/酸化グラフェン粒子のそれぞれが、グラフェンコアと、薄酸化グラフェン表面コーティングまたはシェルとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化グラフェン表面をメタノールと反応させることで、GOメチルエステル(mGO)を得ることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
塩化チオニルもしくは硫酸の存在下、または高圧高温下で前記酸化グラフェン表面を前記メタノールと反応させることで、前記mGOを得ることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記mGOを溶媒系中で加熱することにより前記メチル基を置換することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記溶媒がヘキサン、水酸化アンモニウム、濃アンモニウム、THF、DMF、エチレングリコール、およびアルコールからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記メチル基が一級アミン基、エステル基、アミド基などで置換される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記置換により、酸化グラフェンカルボキシルアミド、酸化グラフェンカルボキシルブチルアミド、酸化グラフェン、酸化グラフェンジエチレングリコールエステル(degGO)、酸化グラフェンアミド(aGO)、酸化グラフェンジエチルアミド(deaGO)、および酸化グラフェン1-アミノヘキサン-6-アミド(dahmGO)からなる群から選択されるmGO誘導体が得られる、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記酸化グラフェン表面層に部分により機能性付与することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記部分がアプタマー、ペプチド、抗体、受容体タンパク質、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記mGOまたはその誘導体を複数のモノマーと反応させることで、前記グラフェン/酸化グラフェン粒子が中に組み込まれた複合ポリマーを得ることをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記酸化グラフェン表面コーティングまたはシェルを除去することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項21】
グラフェンコアと、薄酸化グラフェン表面コーティングまたはシェルとを含み、少なくとも85%の炭素と、約15%までの酸素とを含む、グラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項22】
少なくとも90%の炭素と、約3%~約4%の酸素とを含む、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項23】
前記酸化グラフェン表面コーティングまたはシェルが、カルボン酸表面基、ケトン表面基、および/またはアルコール表面基の1つまたはそれ以上を含む、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項24】
約550℃までの高い熱安定性を有する、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項25】
硫酸などのインターカラントも、ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンなどの混入物および不純物なども本質的に含まない、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項26】
前記粒状グラフェンコアが、酸化されていない対照グラフェン材料の面間隔と少なくとも99.5%同一の面間隔を有する、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項27】
前記薄酸化グラフェン表面コーティングまたはシェルが機能性付与された、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項28】
前記薄酸化グラフェン表面コーティングまたはシェルが、メチルエステル、一級アミン、アミド、アルコールエステル、水酸化物、カルボン酸、またはこれらの組み合わせを含む、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項29】
前記薄酸化グラフェン表面コーティングまたはシェルが、アプタマー、ペプチド、抗体、受容体タンパク質、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される標的部分を含む、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項30】
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法によって作製される、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項31】
爆轟法により合成されたグラフェンのフラクタル凝集体の表面を酸化することにより作製される、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項32】
前記酸化が過酸化水素を酸化剤として用いて100℃以下の温度で実行される、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項33】
前記グラフェンコアが1~15層のグラフェン層を含む、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項34】
前記グラフェンコアが1~10層のグラフェン層を含む、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項35】
前記グラフェンコアが1~5層のグラフェン層を含む、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項36】
前記グラフェンコアが1~2層のグラフェン層を含む、請求項21に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子。
【請求項37】
請求項21~36のいずれか一項に記載のグラフェン/酸化グラフェン粒子を複数含む組成物であって、肉眼的には綿毛状またはけば状の黒色の粉末または粒子であることを特徴とする、組成物。
【請求項38】
易流動性の粉末である、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
表面を有する基材と、前記基材表面上に積層された請求項37に記載の組成物を含む層と、を含む物品。
【請求項40】
前記組成物が溶媒系中に分散され、前記表面に湿式塗布された、請求項39に記載の物品。
【請求項41】
前記組成物がポリマー系と混合され、前記表面上に印刷された、請求項39に記載の物品。
【請求項42】
前記グラフェン/酸化グラフェン粒子を複数のモノマーと反応させることで、前記グラフェン/酸化グラフェン粒子が中に組み込まれた、前記基材表面上に積層された複合ポリマーが得られた、請求項39に記載の物品。
【請求項43】
前記層が1mm未満の厚さを有する薄膜である、請求項39に記載の物品。
【請求項44】
前記層が0.5mm未満の厚さを有する薄膜である、請求項39に記載の物品。
【請求項45】
前記組成物が前記表面上に焼結された、請求項39に記載の物品。
【請求項46】
ポリマー、樹脂、またはセメントマトリックス中に分散された請求項37に記載の組成物を含む、複合物品。
【請求項47】
請求項21~36のいずれか一項に記載の複数のグラフェン/酸化グラフェン粒子を、ポリマーマトリックスと反応させたものを含む、複合ポリマー。
【請求項48】
前記ポリマーマトリックスが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、およびこれらのコポリマーからなる群から選択される、請求項47に記載の複合ポリマー。
【請求項49】
請求項37に記載の組成物を多孔質体に成形したものを含む、固体物品。
【請求項50】
前記多孔質体が焼結された、請求項49に記載の固体物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、それぞれ「GRAPHENE TO GRAPHENE/GRAPHENE OXIDE CORE/SHELL PARTICULATES AND METHODS OF MAKING AND USING THE SAME」という表題の、2019年6月17日に出願された米国仮特許出願第62/862,251号、2019年11月14日に出願された同第62/935,438号、および2020年4月28日に出願された同第63/016,637号に基づく優先権の利益を主張するものであり、それぞれはその全体が参照によって本明細書に援用されたものとする。
【0002】
技術分野
本発明は、さらなる機能性付与を行うことで種々の誘導体化合物を作製できる、酸化表面を有する粒子グラフェン系材料に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の記述
グラフェンは、六方晶構造でsp結合した炭素原子の二次元単層である。グラフェンシートが積み重なることで、面間隔0.335nmのグラファイトを形成する。グラフェンは、機械的強度に優れ、室温における固有キャリア移動度が高く、また、電気伝導度と熱伝導度がグラファイトの面内値に匹敵するなど、その独特な物理的性質からかなりの関心を集めている。これらの特性は、ウィンドウや電話などのデバイス用のナノエレクトロニクス、センサ、ナノコンポジット、バッテリー、スーパーキャパシタ、水素貯蔵、太陽電池、発光ダイオード(LED)、タッチパネル、およびスマートグラスなどの技術領域でのグラフェンの応用を可能にするための道を開くものである。また、グラフェンの医療用途および生物学的用途も企図される。しかしながら、グラフェンの使用には、当該材料の疎水的性質およびその強いファンデルワールス力に起因する、溶解性および分散性の乏しさが障害となっていた。すなわち、グラフェンは、物理的な混合物を得ることのみに好適であって、化学的な結合物を得ることには適していない。改善したものとして、酸化グラフェン(GO)などのグラフェンの官能化誘導体の探索が行われた。
【0004】
GOへの従来的なアプローチは、グラファイト(G)から出発し、強力な酸化剤と芳しくない化学反応条件とを用いる。基本となる3つのアプローチが、Brodie(HNO中のKClO)(On the atomic weight of graphite.、Philosophical Transactions of the Royal Society of London、1859年(149巻)、頁249~259)、Staudenmaier(HSOまたはHSO/HNO中のKClO)(Verfahren zur Darstellung der Graphitsaure.、Ber Dtsch Chem Ges、31巻:頁1481~1487、1898年)、HummersおよびOffeman(ハマーズ法)(HSO中のNaNOおよびKMnO)(Preparation of graphitic oxide. Journal of the American Chemical Society、1958年、80巻(6号)、頁1339~1339)によって開発された。これらの方法に対する多数の変法が文献中に存在する。これらは全て共通して、グラファイトから出発し、酸化グラファイトと反応させ、次に剥離を行い、さらに酸化グラフェンへの酸化が必要となる(図1)。剥離の工程は芳しくない化学条件とその後の加熱によって駆動される。硫酸がグラファイト層間のインターカレートとして働くことにより、グラファイトの層間距離が0.335nmから0.6nm超へと拡張される。従来のグラファイトからのGOの合成法が全て、やや再現性に乏しく、そのためGOを材料科学や電子工学に応用する際に理想的に適した合成法ではないという点で、これらの文献は一致している。また、従来のGOの製造では、著しい量の化学廃棄物が生成され、ClO、NO、またはNなどの有害ガスが放出される。さらに、ナトリウム陽イオンおよびカリウム陽イオンを酸化工程完了後の酸化グラフェンから除去することが難しいため、不純物質が生じる。グラファイトの化学酸化と、その後の剥離とさらなる酸化とにより生成されたGOは、カルボニル基とカルボン酸基とが縁にあり、エポキシ基とヒドロキシル基とが基面内にあることも特徴である(図2)。
【0005】
代替的なGO合成アプローチが報告され、これらのアプローチは、水晶ウェハ上で、グルコースの水熱重合により表面上に酸化グラフェンナノシート(GON)を合成し、その後1300Kで熱アニーリングすることを含む。この方法は、横方向の広がりがそれぞれ約20μmおよび100μmの、単層および数層(5層未満)のGONを調整可能に合成することを可能にする。この方法は、酸化グラフェンへの環境に優しいアプローチであるように思われるが、エネルギーを大量に消費するため、GOを大量に生産することができない。その上、水晶上のGONの化学構造の特性評価が十分ではない。
【0006】
別のアプローチでは、超高真空中での、原子状酸素を用いた、SiC(0001)上の酸化型エピタキシャルグラフェンが関与する。グラフェン上への酸素原子の化学吸着が、走査トンネル顕微鏡法(STM)、高分解能内殻準位X線光電子分光法(XPS)、ラマン分光法、および紫外光電子分光法(UPS)を用いて検証された。熱可逆性が533Kで生じた。この場合も、このアプローチは、半導体産業では興味深いものではあるが、化学的に安定なGOを大量に生産することができない。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、広くは、グラフェン/酸化グラフェン粒子を作製する方法に関する。上記方法は、通常、鉄供給源の存在下、低pH(5.0以下)の水性反応液中でプリスティングラフェン粒子を過酸化水素と反応させることを含む。反応液をある時間撹拌またはかき混ぜし、反応液中に生成されたヒドロペルオキシルラジカルをグラフェン粒子と反応させて、溶液中のプリスティングラフェン粒子の外表面を酸化することで、グラフェン/酸化グラフェン粒子を得る。この粒子はその後に溶液から回収できる。
【0008】
また、グラフェンコアと、薄酸化グラフェン表面コーティングまたはシェルとを含み、少なくとも85%の炭素と、約15%までの酸素とを含む、グラフェン/酸化グラフェン粒子も、本明細書に記載される。
【0009】
本発明の種々の実施形態に係る複数のグラフェン/酸化グラフェン粒子を含む、それらから本質的になる、またはそれらからなる組成物も、本明細書に記載される。上記組成物は、肉眼的には、綿毛状またはけば状の黒色の粉末または粒子として特徴付けることができる。1または複数の実施形態において、上記組成物は易流動性の粉末である。
【0010】
また、表面を有する基材と、当該基材表面上に積層された本発明の種々の実施形態に係るG/GO組成物を含む層と、を含む物品も、本明細書に記載される。1または複数の実施形態において、上記組成物は、溶媒系中に分散され、上記表面に湿式塗布される。1または複数の実施形態において、上記組成物は、ポリマー系と混合され、上記表面上に印刷される(例えば、三次元形態としての印刷を含む)。1または複数の実施形態において、グラフェン/酸化グラフェン粒子を複数のモノマーと反応させることで、上記グラフェン/酸化グラフェン粒子が中に組み込まれた、基材表面上に積層された複合ポリマーが得られる。1または複数の実施形態において、上記層は1mm未満の厚さを有する薄膜である。1または複数の実施形態において、上記層は0.5mm未満の厚さを有する薄膜である。1または複数の実施形態において、上記組成物は基材表面上に焼結される。
【0011】
複合物品も本明細書に記載される。1または複数の実施形態において、これらの複合物品は、本発明の種々の実施形態に係る組成物を、ポリマー、樹脂、またはセメントマトリックスに分散させたものを含む。また、本発明の種々の実施形態に係る複数のグラフェン/酸化グラフェン粒子を、ポリマーマトリックスと反応させたものを含む複合ポリマーも、本明細書に記載される。1または複数の実施形態において、上記ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、およびこれらのコポリマーからなる群から選択される。
【0012】
また、本発明の種々の実施形態に係る組成物を多孔質体に成形したものを含み、この多孔質体は所望により焼結される、固体物品も本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本特許又は出願ファイルは、少なくとも1つのカラー図面を含んでいる。カラー図面を含む本特許又は特許出願公開の写しは、請求に応じて、必要な手数料が支払われた場合に、米国特許商標庁により提供される。
【0014】
図1図1は、グラファイトの酸化と剥離を介した従来の酸化グラフェン合成の例示である。
図2図2は、従来のグラファイト化学酸化により生成されたGOの構造を例示している。
図3図3は、フェントン酸化型グラフェンの多層状フラクタル凝集体の例示である。
図4図4は、酸化グラフェンを含む多層状グラフェンコアの拡大図であり、化学的にインタクトなグラフェンコアと、インタクトな層状グラフェンシートの表面にグラフェン酸化生成物(カルボン酸基およびケトン基、また、ヒドロキシル基の可能性がある)の無定形シェルと、を含む、グラフェン/酸化グラフェンコア/シェル粒子を例示している。
図5図5は、酸化グラフェン表面を有する多層状グラフェンコアの拡大側面図を示している。
図6A図6Aは、グラフェンである三層(コア)と、酸化グラフェンである各外層(シェル)とからなるコア/シェル構造であって、-OH基が面表面上に存在し、-COOH基が端部に存在することを示している、断面図イラストを示している。FTIRおよび滴定から、-COOHが主要な官能基(90%超)であるように見えるが、いくらかの-OH基も端部に存在し得ることは理解されよう。
図6B図6Bは、グラフェンから酸化グラフェンへのフェントン酸化を示している。
図7図7は、出発材料として使用された、爆轟法により合成されたプリスティングラフェンのフラクタル凝集体の透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
図8図8は、図8からの、(A)20nmスケールと(B)10nmスケールの拡大TEM画像を示しており、規則的な層状グラフェン領域と不規則的な層状グラフェン領域が共存していることを示している。この特定の構造は互いに積層された少なくとも10個のグラフェン層を示している。
図9図9はフェントン酸化型グラフェンのフラクタル凝集体のTEM画像である。フェントン酸化後も、この材料の全体的な構造は実質的に不変である。この酸化後の材料は、規則的な層状グラフェン領域と不規則的な層状グラフェン領域という、非常に類似した構造を示す。
図10図10は、(A)50nmスケールと(B)10nmスケールの拡大TEM画像を示しており、出発材料と同様に、規則的な層状グラフェン領域と不規則的な層状グラフェン領域が共存していることを示している。
図11図11は、一般的な酸化グラフェン反応および酸化グラフェンメチルエステル反応を示しており、Rは当該反応に使用された一級アミンに基づいた可変部分を示している。
図12図12は、爆轟法合成されたグラフェン(GN、99.2%C、0.1%H、0.7%O、表1)と、フェントン酸化型グラフェン(GO、90.1%C、1.7%H、8.2%O、表1)の、XRDスペクトルの比較のグラフである。
図13図13は、爆轟法合成されたプリスティングラフェン(99.2%C、0.1%H、0.7%O、表1、上段スペクトル)と、フェントン酸化型グラフェン(90.1%C、1.7%H、8.2%O、表1、下段スペクトル)の、FTIR透過スペクトルを比較したグラフを示している。
図14図14は、グラフェン(G:99.2%C、0.1%H、0.7%O、表1)と、フェントン酸化された酸化グラフェン(GO:90.1%C、1.7%H、8.2%O、表1)の、熱重量分析における挙動を比較したグラフを示している。
図15図15は、(A)Doehlertマトリックス1の反応表面(触媒変化:50~150mg FeSO・7HO;温度変化:40~60℃);および(B)Doehlertマトリックス2の反応表面(触媒変化:50~150mg FeSO・7HO;温度変化:50~70℃)についての各グラフを示している。
図16図16は、カルボン酸基をメチルエステルに変換した後の、フェントン酸化された酸化グラフェン(GO:90.1%C、1.7%H、8.2%O)の、熱重量分析における挙動のグラフである。
図17図17は、全てのグラフェン誘導体が高い吸光度(optical extinction)Eを有することを示すグラフである。
図18図18は、20℃のHO中のG、GO、mGO、GON、GONBの分散性を示すグラフである。
図19図19は、MTTアッセイ(MTT:3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)で測定した場合の、対照群と比較した、グラフェン(G)、酸化グラフェン(GO)と24時間インキュベーションした後の、マウス神経前駆細胞の細胞生存率を示すグラフである。相対誤差は3パーセント未満である。
図20図20は、グラフェンの示差熱重量分析(N下)を示すグラフである。50℃未満の温度(水の脱離)と500℃超の温度で有意な重量減少が生じており、従来法で作製された酸化グラフェン(ハマーズ法)と比較して、コア/シェルグラフェン/酸化グラフェンの優れた熱安定性を示している。
図21図21は、グラフェンの示差熱重量分析(TGA)(N2下)を示すグラフである。60℃未満の温度で有意な重量減少が生じている(水の脱離)。
図22図22は、酸化グラフェン(ラージバッチ)のFTIRを示すグラフである。カルボン酸基の存在をはっきりと識別できる。
図23図23は、GOからmGOへのフィッシャーエステル合成反応を示している。
図24図24は、GOからmGOへの、塩化チオニルを介したエステル合成反応を示している。
図25図25は、方法B(塩化チオニルを介したエステル合成反応)に従って作製された酸化グラフェンメチルエステル(mGO)の、(A)示差熱重量分析(TGA)および(B)FTIRの各グラフを示している。
図26図26は、GOからmGOへの、高圧を介したエステル合成反応を示している。
図27図27は、酸化グラフェン(GO)から酸化グラフェンジエチレングリコールエステル(degGO)への、塩化チオニルを介したエステル合成反応を示している。
図28図28は、塩化チオニルを介したエステル合成反応により作製されたdegGOの示差熱重量分析(TGA)のグラフである。
図29図29は、mGOからの酸化グラフェンアミド(aGO)の合成を示している。
図30図30は、aGOの、(A)FTIRおよび(B)示差熱重量分析(TGA)の各グラフを示している。
図31図31は、mGOからの酸化グラフェンジエチルアミド(deaGO)の合成を示している。
図32図32は、mGOからの酸化グラフェン1-アミノヘキサン-6-アミド(dahmGO)の合成を示している。
図33図33は、GO誘導体による水素イオンを触媒とした重合の説明であり、R基はポリマーの主鎖および/または側鎖の各種モノマー部分(例えば、炭素/アルキル基、水素、酸素など)を示しており、nはモノマー反復単位を示している。
図34図34は、GO誘導体によるラジカルを介した重合の説明であり、R基はポリマーの主鎖および/または側鎖の各種モノマー部分(例えば、炭素/アルキル基、水素、酸素など)を示しており、nはモノマー反復単位を示している。
図35図35は、金属を触媒とした重合の説明である。Zr(cp)Cl+-[O-Al(CH-(cp:シクロペンタジエニルリガンド)は、金属有機重合触媒(チーグラー・ナッタ型以降に開発されたもの)の一例であり、R基はポリマーの主鎖および/または側鎖の各種モノマー部分(例えば、炭素/アルキル基、水素、酸素など)を示しており、nはモノマー反復単位を示している。
図36図36は、アニオン(リビング)重合の説明であり、mGOが金属水素化物と反応することで重合が開始されており、R基はポリマーの主鎖および/または側鎖の各種モノマー部分(例えば、炭素、水素、酸素など)を示しており、nはモノマー反復単位を示している。
図37図37は、グラフェン/酸化グラフェン(ナノ)粒子のナイロン型ポリマーへの組み込みを示しており、mおよびnはモノマー反復単位を示している。
図38図38は、グラフェン/酸化グラフェン(ナノ)粒子のポリエステル型ポリマーへの組み込みを示しており、mおよびnはモノマー反復単位を示している。
図39図39は、20mLの0.100M NaOHを100mgのGOに添加することを開始点とした、滴定曲線(pH対0.100M HClの体積)のグラフである。黒色の四角:GOの滴定;灰色の菱形:参照曲線(GO添加なし)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、調整されたグラフェン/酸化グラフェン(G/GO)粒子を作製するための新規の方法に関するものであり、好ましくは爆轟法合成されたグラフェンを出発材料として用いる方法である(Nepalら、One-step synthesis of graphene via catalyst-free gas-phase hydrocarbon detonation.、Nanotechnology、2013年、24巻(24号)、245602)。その結果として、改良された酸化グラフェン粒子材料、これらの材料の機能性付与誘導体、これらの複合体、およびこれらの用途について説明する。好ましくは、プリスティングラフェン出発材料が本発明の実施形態に使用される。換言すれば、本発明の方法は、好ましくは、従来のアプローチに含まれるような剥離法もグラファイト出発材料も含まないものである。
【0016】
爆轟法合成されたグラフェンが好ましいプリスティングラフェン材料であり、その作製法は、参照によって本明細書に援用される米国特許第9,440,857号に詳述されている。上記の方法は、固体、液体、または気体としての炭素含有材料を、酸化剤または酸素供給源(例えば、O、NO、NO)と、比較的高温な反応器内で制御爆轟することによって、プリスティングラフェンナノシートおよびこれらのナノシートの分岐状フラクタル凝集体を、触媒物質を用いずに生成することを含む、一段階工程を伴う。通常、上記反応器に所望量の反応物が添加され、スパークを用いて上記材料の爆轟が達成される。グラフェン粒子を含むエアロゾルゲルが生成される。大規模化したアプローチでは、上記装置は、反応チャンバと、当該反応チャンバと機能的に接続された真空源と、点火アセンブリと、を含む。反応チャンバは、炭素含有材料の供給源および酸化剤の供給源と機能的に連結されている。真空源は、特に粒子材料の生成後に、反応チャンバの内容物の少なくとも一部を選択的に排気するように作動する。点火アセンブリも、反応チャンバに機能的に接続されており、各供給源から反応チャンバに送達された、ある含量の炭素含有材料およびある含量の酸化剤の燃焼を開始するように構成されている。点火アセンブリは、イオン化アークを間に生成するように作動する一対の電極を含み、各電極は点火アセンブリ内に取り外し可能に設置された各カセット内に収容されている。
【0017】
上記反応に用いるための例示的な炭素含有材料としては、炭素リッチな前駆物質、ガス、ガス混合物、粉末、およびエアロゾルなどの注入可能な材料が挙げられる。上記出発材料としては、任意の炭化水素化合物を挙げることができ、特に、飽和または不飽和のC1~C12炭化水素化合物が挙げられる。ある実施形態では、アセチレンが特に好ましい炭化水素材料である。炭素含有材料は、1種類の材料または化合物を含むものであってもよいし、炭素含有化合物の混合物を含むものであってもよい。
【0018】
1または複数の実施形態において、燃焼反応は少なくとも3000K、少なくとも3500K、または少なくとも4000Kの温度で生じる。特定の実施形態では、燃焼反応は約3000K~約5000K、約3500K~約4500K、または約4000Kの温度で生じる。これらの温度において炭素含有材料と酸化剤を燃焼させると、黒鉛性の煤ではなく、高配向性グラフェン粒子が形成されやすいことが分かっている。必要ならば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、または窒素などの不活性ガス物質を、反応器内に投入される反応混合物中に含ませることで、燃焼中の温度制御を助けることができる。また、ある実施形態、特に燃焼反応が爆轟である実施形態では、反応混合物の燃焼は非常に急速に進行する。爆轟は、典型的には、超音速の発熱性前線が媒体中を加速し、最終的に、その真正面に伝播する衝撃波前線を発生させることを含む。ある実施形態では、燃焼は約5~約100ミリ秒、約10~約75ミリ秒、または約20~約50ミリ秒の持続時間を有する。
【0019】
爆轟前の反応器内に存在する酸化剤と炭素含有材料の比は、反応混合物の爆轟後に形成されるグラフェン粒子の特徴に寄与し得る。ある実施形態では、酸化剤の炭素含有材料に対するモル比は1.5以下である。特定の実施形態では、酸化剤の炭素含有材料に対する比は約0.1~約1.5、約0.2~約1.2、約0.2~約1.0、または約0.3~約0.8である。この工程により、優れた純度のバルク合成または大量のグラフェンが可能となる。
【0020】
プリスティングラフェンを合成するための別のアプローチとして、フラッシュグラフェン(Luongら、Gram-scale bottom-up flash graphene synthesis、Nature、2020年、参照によって本明細書に援用される)が挙げられ、このアプローチは、安価な炭素系材料、または石炭、石油コークス、バイオ炭、カーボンブラック、食品廃棄物、ゴムタイヤ、および混合プラスチック廃棄物などの他の炭素源のフラッシュジュール加熱を利用して、当該材料をグラフェンに変換する。この炭素源が反応器内の2つの電極間で軽く圧縮されており、コンデンサバンクからの高圧放電が、反応器内の炭素源材料を100ミリ秒未満のうちに少なくとも3000Kに昇温させる。この工程により、炭素源中の無定形炭素がフラッシュグラフェンに変換される。この工程の収率は出発材料の炭素含量に大きく依存する。いくつかの実施形態では、炭素源材料をカーボンブラックまたは別の同様の導電材料と混合することで、当該材料の伝導率を向上させてもよい。いくつかの実施形態では、フラッシュグラフェンは20nm未満の平均粒径を有する。いくつかの実施形態では、フラッシュグラフェンは、平均サイズ0.5~1.2μmの、より大型であるが薄いシートの形態で生成される。
【0021】
グラフェン出発材料は種々の形態を取ってもよいが、好ましくは、単層グラフェンまたは多層グラフェンとしての、分岐状フラクタル凝集体、ナノシート、結晶性フレーク、ナノプレートレット、および小板鎖(platelet chain)の形態であり、通常、肉眼的には、高純度(98.5%以上の炭素)の、綿毛状またはけば状の黒色の粉末材料または粒子材料として特徴付けることができる。換言すれば、グラフェン出発材料は、好ましくはグラファイトも酸化グラファイトも本質的に含まない。上記粒子は、好ましくはナノサイズ粒子であり、通常は約350nmの最大表面間寸法(maximum surface-to-surface dimension)を有し、好ましくは約20nm~約100nmの最大表面間寸法を有する。上記粒子は、電子顕微鏡下では、縁が重なり互いに絡み合った薄い単層として、あるいは、2~3層、可能性としては最大15層、好ましくは1~10層、より好ましくは1~5層、さらにより好ましくは1~2または3層、最大5層を含む、またはそれらからなる、より秩序立ったナノシート積層物として、観察することができる。すなわち、本発明において使用されるグラフェンは、高純度akaプリスティンであり、外来物質および不純物を本質的に含まず(すなわち、0.5%未満、好ましくは0.1%未満)、炭素含量が少なくとも約98.5%、好ましくは少なくとも99%(逆に、酸素含量は1%未満)。
【0022】
プリスティングラフェン粒子を、穏やかなフェントン酸化条件下、且つ100℃未満(好ましくは80℃未満、より好ましくは75℃未満)の温度下で酸化させたところ、G/GO粒子が得られ、各粒子は、実質的に純粋であり且つインタクトなグラフェンコアと薄酸化グラフェン表面コーティングまたはシェルとを含む(それらから本質的になる、またはそれらからなる)。フラクタル凝集体の形態にある複数のG/GO粒子を図3に示す。図4および図5は、酸化表面12a、12bと、実質的にインタクトなグラフェンコア14とを有する、粒子10を誇張して図示している。図6Aも参照されたい。
【0023】
この酸化法は通常、低pH(好ましくは5.0未満、好ましくは約2.5~約4.0、より好ましくは約2.8~約3.2、さらにより好ましくは約3.0)の水性溶媒系を含む反応液を調製することを含む。この反応液は、酸化剤としての約2.5w/w%~約25w/w%(好ましくは2.5w/w%~約15w/w%)の過酸化水素と、約0.1w/w%~約10w/w%(好ましくは約1w/w%~約8w/w%)のプリスティングラフェン粒子と、を含む。反応液をある時間撹拌またはかき混ぜすることで、グラフェン粒子を溶媒系中に分散させ、上記粒子の実質的に均一な分散液を得る。必要に応じて、好適な酸系を用いて上記溶液のpHを小さくすることができる。グラフェン粒子を分散させたら、触媒として二価鉄イオン二価鉄イオン(通常、硫酸鉄(II)、FeSO)水和物、三価鉄イオン、または鉄酸塩などの鉄供給源を約0.005w/w%~約5w/w%(好ましくは約0.05w/w%~約2.5w/w%)の量で反応液に添加する。反応液をある時間撹拌またはかき混ぜすることでヒドロペルオキシルラジカルを発生させ、これをグラフェン炭素と反応させることで、溶液中の粒子表面を酸化させる。通常、反応液は約1時間~約24時間撹拌され、好ましくは少なくとも約1時間、好ましくは少なくとも約10時間、より好ましくは約24時間撹拌される。この工程中、反応液は好ましくは100℃以下の温度に維持され、好ましくは約0℃~約100℃、好ましくは約25℃~約85℃、より好ましくは約40℃~約75℃の温度に維持される。反応工程を図6Bに示す。
【0024】
次に、得られた酸化生成物(G/GO粒子)を、例えば濾過および/または遠心分離によって、反応液から取り出す。回収されたG/GO粒子は、好ましくは、上清において6より高い中性pHが得られるまで反応生成物を中和するために、水性溶媒系中で洗浄される。G/GO粒子は、真空乾燥下などで乾燥するか、または凍結乾燥し、さらなる使用まで保存することができる。得られたG/GO粒子は、薄GOシェルと見なされる酸化表面を有する、実質的にインタクトなグラフェンコアから構成されるものと見なすことができる(図6A)。このことは、出発材料と比較した場合に、コア内のグラフェンの面間隔や格子面間隔という、間隔における変化がほとんどないことを意味する。また、得られたG/GO粒子は少なくとも85%の炭素を含み、好ましくは少なくとも90%炭素、より好ましくは少なくとも92%炭素、さらにより好ましくは約92~98%の炭素を含む。同様に、G/GO粒子は最大15%の酸素(約0.5%~15%)を含み、好ましくは最大10%の酸素(約0.5%~10%)、より好ましくは約1%~約8%の酸素、好ましくは約3~約4%の酸素を含む。換言すれば、出発グラフェン材料は、表面を薄い酸化層で機能性付与し、機能性付与された水分散性材料(例えば、カルボン酸、ケトン、および/またはアルコール表面基)という好ましい特徴を付与するのに「必要なだけの」酸化を受けたが、他の点では、各粒子の本体/コア全体で、グラフェンの種々の有利な特徴を保持していることが理解されよう。
【0025】
1または複数の実施形態では、各工程条件を調整することで、得られるG/GO粒子において様々な特性を達成することができ、例えば、酸化グラフェンの表面酸素含有量を変化させたり、且つ/または、表面電荷(ゼータ電位)を変化させたりすることができる。例えば、表面酸素含有量の増加(8%超)は、鉄供給源の量を増加させ、反応温度を上昇させること(例えば、3w/w%のHおよび0.125w/w%のFeSO・7HO、60℃)により、達成することができる。同様に、表面酸素含有量の減少(3%未満)は、鉄供給源の量を減少させ、反応温度を低下させること(例えば、3w/w%のHおよび0.05w/w%のFeSO・7HO、50℃)により、達成することができる。ゼータ電位の増加(+14mV超)は、より低い温度を用い、また鉄供給源の量を減少させること(例えば、3w/w%のHおよび0.15w/w%のFeSO・7HO、50℃)により、達成することができる。一方で、より高い温度と、若干多めの鉄供給源を用いること(例えば、3w/w%のHおよび0.125w/w%のFeSO・7HO、60℃)により、ゼータ電位は減少させることができる(-5mV未満)。総ゼータ電位は出発プリスティングラフェン材料の初期ゼータ電位の影響も受けることを理解されたい。爆轟グラフェン出発材料の合成に用いられる材料を異なる化学量論比で混合することで、ゼータ電位の異なるグラフェンが得られる。
【0026】
出発グラフェン粒子の形態はG/GO粒子において実質的に保持されていると好都合であり、すなわち、G/GO粒子は、単層グラフェンまたは多層グラフェンとしての、分岐状フラクタル凝集体、ナノシート、結晶性フレーク、ナノプレートレット、および小板鎖の形態であり、通常、肉眼的には、高純度の、綿毛状またはけば状の、黒色の、粉末状または粒子状の、G/GO材料として特徴付けることができる。これは、図7図10のTEM画像で例示されている。図7図8は、爆轟法によるプリスティングラフェンのTEM画像を示している。図9および図10のTEM画像から分かるように、出発グラフェン粒子の形態は、本発明による製造で得られたG/GO粒子において実質的に保持されている。個々のG/GO粒子の粒径は通常約20nm~約100nmの範囲である(ここで、「径」は粒子の断面図における最大値表面間寸法であり、例えば直径である)。
【0027】
このように作製されたG/GO粒子は、少なくとも約5mg/mLという良好な水分散性を有し、好ましくは約5mg/mL~約20mg/mL、より好ましくは約10mg/mL~約20mg/mLである。また、このように作製されたG/GO粒子は、最大約550℃という高い熱安定性を有し、600℃以下の温度では少しの重量減少(約3.5%)を示すのみである。換言すれば、上記粒子は、熱的に安定であり、100℃を超える温度でも熱分解を示さず、好ましくは200℃超、より好ましくは300℃超、より好ましくは400℃超、さらにより好ましくは500℃超(最大約550℃)の温度で熱分解を示さない。また上記G/GO粒子は、200nm~約1400nmの範囲の広い吸収スペクトルを有し、治療的技術および/またはセラノスティック技術など、温熱療法応用において特に有用となろう。
【0028】
上記方法および得られる生成物においては、従来技術では必要とされる芳しくない化学物質および廃棄物が回避されるものと理解されたい。例えば、上記方法ではグラフェンは剥離を受けないため、上記G/GO粒子は硫酸などのインターカラントを本質的に含まない。さらに、上記G/GO粒子は、ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンなどの、他の混入物や不純物も本質的に含まない。本明細書で使用される場合、「本質的に含まない」とは、100重量%と見なした上記粒子の総重量に対して0.1重量%未満を意味し、好ましくは0.05重量%未満、より好ましくは0.01重量%未満である。
【0029】
また、G/GO粒子および得られる製品の種々の用途も本明細書において企図される。例えば、G/GO粒子は、層または薄膜として積層することで、フレキシブルエレクトロニクス、太陽電池、化学センサ、電池電極、コンデンサなどの、導電膜を作製することができる。G/GO粒子はまた、各種ポリマーおよびフィラーを分散させることで、種々様々な強化複合体を作製することができる。さらに、G/GO粒子は、濾過媒体として働くこともできるし、あるいは濾過膜に成形することもできる。G/GO粒子は、成形および焼結によりグラフェンフォームを作製することができる。望ましい場合、酸化物層は除去することができるものと理解されたい。1または複数の実施形態では、G/GO粒子の酸化層を、加熱により除去することで、層状グラフェン凝集体の合成などが可能となる。
【0030】
あるいは、酸化物層の表面基に、所望の用途に応じて、さらなる反応、修飾、または機能性付与を行うことで、種々様々な新規材料(例えば、GO誘導体)を作製することができる。例えば、酸化表面上のカルボン酸基は、種々様々な有機または無機物質と反応させることができる。1または複数の実施形態では、酸化グラフェン表面層を、メタノールと、塩化チオニル存在下を含む各種条件下で反応させることで、GOメチルエステル(mGO)が得られる。メチル基を、有機溶剤(THF、ヘキサン、DMF、水酸化アンモニウムなど)中の加熱により、アンモニア(NH)または一級アミン(R-NH、R=C~Cアルキル、例えば、CH~C20)と置換することで、例えば、酸化グラフェンアミド、酸化グラフェンジエチルアミド、酸化グラフェンのカルボキシルアミド、酸化グラフェンのカルボキシルブチルアミドなどが得られる。同様に、mGOを、エチレングリコールと反応させることで、酸化グラフェンジエチレングリコールエステル(degGO)を形成させることができる。例示的な反応スキームを各実施例に記載する。以下でより詳細に記載する通りに、さらなるmGO誘導体を作製することができる。表面を修飾または機能性付与したG/GO粒子は、表面を修飾または機能性付与したG/GO粒子を、単独で、または強化用繊維(例えば、ガラス繊維)および/もしくは砂、石、砂利、岩などの骨材と組み合わせて、マトリックスレジンまたはレジンセメント中に分散するなどにより、複合体組成物の調製に使用することができる。また、表面を修飾または機能性付与したG/GO粒子を、各種モノマーと反応させることで、中に組み込まれたG/GO粒子により特性が向上した複合ポリマーを得ることもできる。
【0031】
表面を修飾または機能性付与したG/GO粒子は、各種部分でさらなる機能性付与を行うこともでき、この部分としては、抗体、アプタマー、ペプチドなどが挙げられるが、これらに限定はされない。これらの新規材料は、電気インピーダンス測定の使用によるものを含む、生化学的応用やバイオセンシング応用の様々な技術に利用される。
【0032】
酸化グラフェンシェルを減少、除去、または化学反応させた後、残ったグラファイトコアが、グラフェンの機械的性質および電気的性質を有すると都合がよい。本発明の種々の実施形態のさらなる利点は、本明細書の開示内容と下記の実施例を検討することにより、当業者には明らかとなろう。本明細書に記載の種々の実施形態は、本明細書で特に記載がない限り、必ずしも相互に排他的ではないことが理解されよう。例えば、1つの実施形態で説明または描写された特徴は、他の実施形態に含まれている場合もあるが、必ずしも含まれているわけではない。すなわち、本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態の種々の組み合わせおよび/または統合を包含する。
【0033】
本明細書で使用される場合、「および/または」という表現は、2つ以上の項目からなる列挙で使用される場合、列挙された項目のいずれか1つを単独で採用できること、または、列挙された項目のうちの2つ以上の任意の組み合わせを採用できることを意味する。例えば、組成物が成分A、B、および/またはCを含有するまたは含有しないと記載されている場合、当該組成物は、A単独;B単独;C単独;AとBの組み合わせ;AとCの組み合わせ;BとCの組み合わせ;またはA、B、およびCの組み合わせを含有するまたは含有しない可能性がある。
【0034】
また、本明細書では、本発明の種々の実施形態に関連して特定のパラメータを定量化するために数値範囲を使用している。数値範囲が提供されている場合、そのような範囲は、範囲の低い方の値のみを記載しているクレーム限定、および範囲の高い方の値のみを記載しているクレーム限定に対して、文言上のサポートを提供するものと解釈されるべきであることを理解されたい。例えば、約10~約100の数値範囲が開示されている場合、「約10超」(上限なし)と記載しているクレームおよび「約100未満」(下限なし)と記載しているクレームに対して、文言上のサポートを提供する。
【実施例
【0035】
下記の実施例は、本発明による方法を記載している。しかしながら、これらの実施例は、例示として提供されたものであり、実施例中の何物も、本発明の範囲全体に対する限定とは見なされるべきではないことを理解されたい。
【0036】
実施例1
促進酸化法としてのフェントン型反応
熱フェントン型反応のキーとなる反応は水溶液中の鉄(II)と過酸化水素との間の反応である。確認されたH消費の反応キネティクスは、温度に対し指数関数的な依存性を示している。基材と、鉄(II)のキレート化の可能性に応じて、2つの競合的な主要反応がある:
【0037】
【化1】
【0038】
反応(1)では、鉄(II)からHへの電子移行を介してヒドロキシラジカルが形成される。反応(2)では、オキソ鉄(IV)種が形成される。なお、これらの反応に参加している水分子は理解しやすくするために示していない。ヒドロキシラジカルは、(a)水素引き抜き(爆轟法で合成されたグラフェンの水素含有量は少ないためこの場合では起こりにくい)を介して、または、(b)グラフェンから当該ヒドロキシラジカルへの電子移動の際に、または、(c)炭素炭素二重結合への付加の際に、反応を生じる。
【0039】
【化2】
【0040】
これらの反応は全て、有機ラジカルを形成し、これが次に、ペルオキシルラジカルの形成の際に酸素と反応し(d)、これがさらに反応して、最終的にケトンまたはカルボン酸を形成する。
【0041】
【化3】
【0042】
オキソ鉄(IV)種は水溶液中では最大で数秒間残ることができる。オキソ鉄(IV)種は有機物との電子移動によって反応する(e)。
【0043】
【化4】
【0044】
この反応の次に、酸素の付加が起こり(d)、ペルオキソラジカルの化学反応を介してカルボン酸やケトンなどの酸化生成物が形成される。
【0045】
結論としては、どちらの主要反応経路でもグラフェンの酸化が起こる。ヒドロキシラジカルは過酸化水素に再結合する可能性があるため、オキソ鉄(IV)がヒドロキシラジカルよりも有効である。
【0046】
【化5】
【0047】
グラフェンとの反応に加えて、フェントン型反応の反応中間体はどちらも、Hと反応することが可能である。
【0048】
【化6】
【0049】
表1に示されているように、ヒドロペルオキシルラジカル(HO )は強力な酸化剤である。ヒドロペルオキシルラジカルは、水素引き抜き、電子移動、および以前に形成されたラジカルへの付加を通じて、グラフェンなどの有機物と反応する。
【0050】
鉄(III)は、ヒドロペルオキシルラジカル(HO )の共役塩基であるスーパーオキシド(O ・-)との反応を介して再利用される(pK(HO /O ・-)=4.8822)(ハーバー・ワイス反応)。この段階によりフェントン型反応の触媒サイクルが完了される。
【0051】
【化7】
【0052】
複合的な反応ネットワークに伴う固有の問題は、グラフェンからグラフェン/酸化グラフェンへのキネティクスを予測することが実質的に不可能ということである。そのため、最適実験計画法(Optimal Experimental Design Methodology)を適用することで、反応条件の最適化を行った。
【0053】
グラフェンのフェントン型酸化
本明細書で報告された酸化実験および最適化実験は、電動オーバーヘッドスターラーと、ステンレス鋼プローブを有する電子温度計とを備えた250mLフラスコ内にて実施した。フラスコは的確に選抜された温度に維持された水浴中に浸した(表1を参照)。フラスコに、pH=3.0の水溶液(硫酸、フィッシャー・ケミカル社(Fisher Chemical))を90.0ml加え、フラスコ内部の温度が外側の水浴の温度に達するまで(許容ΔT=2K)撹拌した。
【0054】
次に、10.0mLの30%H(アクロス・オーガニクス社)をフラスコに添加し、その混合物を5分間撹拌した後、分岐状フラクタル凝集体、ナノシート、およびナノプレートレット(綿毛状グラフェン粉末、エアロゾルゲルと呼ばれる場合がある)の形態のプリスティングラフェンを1.0g添加した。このグラフェンは、爆轟法による合成で作製することで、高純度の出発材料が得られる。これらの各実験では0.3グラフェンを用いたが、これは、合成に使用されたO/H混合物における炭素に対する酸素のモル分率を指す(爆轟の際の酸素の化学量論比が30%であると、+60.0mVのゼータ電位を有するグラフェンが得られる)。
【0055】
得られた懸濁液を、分散系が形成されるまで(およそ10分間)撹拌した。この時点で、所定量のFeSO・7HO(表1)を固体として一度に添加した。このフェントン型酸化反応液を、選抜された浴槽温度で24時間撹拌し続けた。
【0056】
【表1】
【0057】
次に、この酸化生成物(グラフェン/酸化グラフェン(G/GO)コア/シェル粒子)を、コーニング社製3606060Mガラスフィルター(孔径:10~15μm)、またはGEヘルスケア社製1001030(中孔径)濾紙のいずれかを用いて濾過分離した。あるいは、形成されたG/GOを、7000RPMで5分間遠心分離してもよい。得られたG/GO粒子を100mLの再蒸留水中に再懸濁し、再度濾過分離(または遠心分離)する。この工程を上清のpHが6.0を超えるまで(ここでは5回)反復した。得られたG/GO粒子は、真空デシケーター内のP上で24時間乾燥させた後、ポリエチレン容器またはポリプロピレン容器内で室温で保存した。
【0058】
典型的な収率は75~80%(濾過)および82~85%(遠心分離)の範囲であった。濾過および遠心分離によって得られたグラフェン/酸化グラフェンのゼータ電位は実質的に同一であった(±0.1mV)。
【0059】
反応産物の特性評価
元素(CHO)分析
CHO分析を実施し、グラフェン出発材料の酸化の指標とした。酸化の程度は選択された工程条件(表1)に依存する。他の報告では、従来のハマーズ法で酸化グラフェンの合成を行った場合にC/O比が1:1まで下がることが記載されているが、本明細書において報告されたC/O比は10:1を超えない。この発見は、グラフェン粒子周囲の外部シェルが酸化され、グラフェン/酸化グラフェンコア/シェルナノ粒子が得られたことの、実験的証拠と見なすことができる。
【0060】
粉末X線回折(XRD)
図12に示されているように、最も強度の強い線の位置は、グラフェンとフェントン酸化された酸化グラフェンとにおいて実質的に同じである。結論として、グラフェンと酸化グラフェンとにおいて、グラフェン層間の面間隔に有意な変化は生じない(0.05%未満の変化)。一方、グラファイトの酸化すなわちハマーズ法により合成された酸化グラフェンは、グラフェン層の間に硫酸がインターカレーションされた後に酸化が生じたことにより、面間隔が増加し、最も強度が高いピークの位置が識別可能な程度に左にシフトしていることを特徴とすることが知られている。この作用が確認されないことから、合成の際にインターカレーションが起こっていないと結論付けられる。グラフェンと酸化グラフェンとのXRDスペクトルの比較に基づくと、この新規材料は、実質的にインタクトなグラフェンコアと、それを取り囲む無定形の酸化グラフェンシェルとを有する。
【0061】
フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
FTIRは、材料中の、永久双極子モーメントを有する官能基の存在を検出するのに理想的である。図13に示されているように、爆轟法で合成されたグラフェン(99.2%C、0.1%H、0.7%O)の粉末FTIRスペクトルと、フェントン酸化型グラフェン(90.1%C、1.7%H、8.2%O)の粉末FTIRスペクトルとの間には、有意差が存在する。フェントン酸化型グラフェンの高エネルギー側のFTIR窓は-COOH基のシグナルで占められているが(3500~2500cm-1)、グラフェンにはこれが全く見られない。低エネルギー側のFTIR窓では、広いC=O吸収バンド(1800~1680cm-1)と、C-O-H官能基の存在を示す1330cm-1辺りの肩部とが、フェントン酸化型グラフェンでは確認できるが、酸化前のグラフェンでは確認できない。FTIRデータから、フェントン酸化では、グラフェン粒子の外側に、カルボン酸基が生成され、また、他の酸化生成物(例えばケトン類およびアルコール類)が生成される可能性もあると結論された。この発見は、グラフェンのフェントン酸化の際に、グラフェン/酸化グラフェンコア/シェル粒子が形成されるというパラダイムを実証するものである。
【0062】
ゼータ電位測定
このデータにより、フェントン酸化型グラフェンの表面における化学変化が明確に示される。爆轟法で合成されたプリスティングラフェンのHO(pH=7.0)中のゼータ電位は+60mVであるが(表1)、フェントン酸化型グラフェンの場合、実際の酸化条件に依存して+17.7~-8.2mVまで減少する。水(pH=7.0)中で約-40mVのゼータ電位を有する、ハマーズ法を用いて合成された酸化グラフェンと比較すると、本明細書で論じられた酸化法の場合で得られたデータは明らかに異なっており、これは、グラフェンのフェントン酸化によって得られる酸化構造が異なることを示している。酸化グラフェンで負のゼータ電位が確認されることが少ないことは、グラフェンが酸化の際に剥離を起こさないという説明と合致している。よって、多層グラフェンのうちの単一グラフェンシートは両側から酸化することができないので、酸化グラフェン中のカルボン酸の含有量は少なくなる。グラフェン/酸化グラフェンコアシェル粒子のパラダイムは、この実験的所見とも最もよく適合する。
【0063】
熱重量測定
グラフェン誘導体を新規材料に使用することに関して、その熱安定性(および機械的安定性)は非常に高い重要性を持つ。酸化グラフェンの熱安定性(および機械的安定性)が高いほど、これらの材料は複合材料としてより好適なものとなる。グラフェンは最高900℃の優れた熱安定性を示すことが知られているが、一方、従来法で合成された酸化グラフェンは酸化の程度に依存して200℃~400℃で分解を起こす。フェントン型酸化により合成された酸化グラフェンの質量は、600℃に加熱された場合に、3.5重量%(図14)~5重量%(他の酸化条件、図示せず)だけ減少する。最も重要なこととして、このプロセスは550℃から開始されるが、これは他の酸化グラフェンの場合よりも著しく高い。なお、100℃以下では、フェントン酸化された酸化グラフェンにはばらつきのある質量減少(最大7重量%)が確認されるが、これは物理吸着水と低分子量酸化生成物とが原因であった。図14に示されているように、高温での僅かな酸化により、グラフェンには若干の重量増加が確認できるが、フェントン酸化された酸化グラフェンは最高550℃まで熱安定性を示す。600℃では、3.5%の重量減少が確認される。これらの結果から、グラフェン/酸化グラフェンコア/シェル粒子が形成される際にグラフェンコアが保存されることが確認される。
【0064】
実施例2
爆轟法で合成されたグラフェンからグラフェン/酸化グラフェンコア/シェル粒子へのフェントン型酸化の最適化
最適実験計画法(OEDM)
グラフェンのフェントン型酸化条件を最適化する目的で、CHO分析で測定されるところの酸素含有量に対する2つの主要な工程変数(U)の影響と、得られたグラフェン/酸化グラフェンコア/シェルナノ粒子のゼータ電位(実験的反応RおよびR)を求めた:(I)硫酸鉄(II)の濃度(U、H水溶液(pH=3.0)100ml当たりのミリグラム数)および(II)反応温度(U、℃)。OEDMを用いて、必要最小限の実験で有意義な結果を得ることができる実験マトリックス(experimental matrix)の設計を行った。OEDMは、統計的に有意なモデリングと最適化された変数の予測を可能にする実験マトリックスが形成されるように、各独立変数の実験的設定が同時に変更される、多変数モデルをベースとしている。工程パラメータ最適化への非常に簡単なアプローチを提供する、いわゆるDoehlertマトリックスが選択された。この設計では、独立変数Uは正規化される。中心的な変数xは以下のように定義される。
【0065】
【数1】
【0066】
式中、Ui,0=(最大U+最小U)/2は、実験的領域(Doehlert六角形)の中心におけるUの値である。ΔUは(最大U-最小U)/2と定義される。Doehlertマトリックスの場合、従属変数Y=f(x)は以下の二次多項式モデルで表される。
【0067】
【数2】
【0068】
独立変数が2つである場合、Doehlertマトリックスは、中心変数を含む六角形を形成する、7つの均一に分布した実験を含む。中心の実験は、少なくとも3回反復し、結果の統計的再現性を確認する必要がある。プログラムパッケージDESIGN Expert2を用いて多項式モデルの係数の算出を行い、最小二乗法を適用することで得られた曲面応答と、F検定を用いて、二次多項式モデルの妥当性を確認した。図15(A)に示されるモデルに対しANOVA解析を行った結果、p値は0.0001未満となり有意であった。このモデルの最終的な応答方程式は下記の通りである。
【0069】
【数3】
【0070】
図15(B)に示されるモデルに対しANOVA解析を行った結果、p値は0.0001未満となり有意であった。このモデルの最終的な応答方程式は下記の通りである。
【0071】
【数4】
【0072】
2回目のDoehlert最適化では、最大値は60℃および125mgのFeSO・7HOに接近することが明確に示されている。
【0073】
フェントン酸化型爆轟法グラフェン(0.3)のXPS測定
酸化グラフェン粒子の特性評価を、単色Alkα X線源を備えた超高真空(1×10-9バール)装置において、X線光電子分光法(PHI 5000 VersaProbe II、フィジカル・エレクトロニクス社(Physical Electronics Inc.))を用いて行った。X線ビームサイズは100μmとし、サーベイスペクトルの記録はパスエネルギー(PE)を117eV、ステップサイズを1eV、滞在時間を20ミリ秒として行い、高エネルギー分解能スペクトルの記録はPEを23eV、ステップサイズを0.05eV、滞在時間を20ミリ秒として行った。各測定前にAuto-z(すなわち、最高強度のための自動高さ調整)を行い、分析装置の焦点を合わせた。各成分の平均スイープ数を(5~25スイープ)に調整し、最適な信号雑音比を得た。XPS取得から収集されたデータを、Multipakソフトウェアツールを用いて解析した。O1s、C1s Fe2p3に対応する3つのピークがGOのサーベイスペクトラムに確認された(図示せず)。成分の原子組成は、C、O、およびFeがそれぞれ96.3パーセント、3.2パーセント、および0.5パーセントと測定された(図示せず)。
【0074】
他の形態の炭素基および酸基の解析を行うため、GOのC1sピークのデコンボリューションを行った。デコンボリューションによって、286.2eV(C-O)、284.67eV(C-C)、および284.38eV(sp C)に3つの炭素基および酸素基成分が示された(データ未記載)。
比較用XPS文献データ
(1)O1s 531.50keV O-C=O
(2)O1s 532.34keV C=O
(3)O1s 533.10keV C-OH
(4)O1s 534.07keV C-O-C
XPS文献データとの比較により、グラフェン/酸化グラフェンコア/シェル粒子の表面にカルボン酸が存在することが示された。
【0075】
爆轟法グラフェン(G)由来の酸化グラフェン(GO)の化学的表面修飾
塩化チオニルの存在下で爆轟法グラフェン(フェントン法、GO)由来の酸化グラフェンをメタノールと反応させると、GOメチルエステル(mGO、爆轟法グラフェン由来酸化グラフェンのカルボキシルメチルエステル)が得られる。得られる材料は尚も負のゼータ電位(-20±5mV)を有する。メチル基の存在と-COOH基の消失は、フーリエトランスファー(transfer)赤外分光法によって確認することができる。有機溶剤(THF、ヘキサン)中で加熱することで、アンモニア(NH)または一級アミン(R-NH、R=CH~C20)のいずれかによりメチル基を置換することができる。
【0076】
mGO合成:500mgの爆轟法グラフェン(0.3)由来GOを、5分間の超音波処理により、25mLの無水メタノール中に分散させた。氷上で15分間冷却した後、4mLの塩化チオニル(SOCl)を滴加した。この溶液を2時間撹拌し続け、1時間加熱還流した。室温に冷却した後、mGOを遠心分離(7,000RPM、15分間)で回収した後、メタノールに再懸濁し、再度回収した。この手順をさらに2回繰り返した。その後、mGOを凍結乾燥することで、残留している微量メタノールを除去した。(収率:実質的に定量的)上記材料の熱安定性は優れている。酸化グラフェンの質量減少は550~600℃の温度区間で約3.5%であり、GOメチルエステルの質量減少は1.0%未満である。さらに、室温~100℃においての吸着水の減少も見られなかった。
【0077】
GON合成:100mgのmGOを濃アンモニア水(HO中33%NH)中に5分間の超音波処理によって分散させ、その後1時間加熱還流することで、爆轟法グラフェン由来酸化グラフェンのカルボキシルアミドを合成した。室温に冷却した後、GONを遠心分離(7,000RPM、15分間)で回収した後、メタノールに再懸濁し、再度回収した。この手順をさらに2回繰り返した。その後、mGOを凍結乾燥することで、残留している微量メタノールを除去した。(収率:実質的に定量的)
【0078】
GONB合成:100mgのmGOを、5重量%の1-ブチル-アミンを含有するDMF10ml中に、5分間の超音波処理によって分散させ、その後120℃で1時間加熱することで、爆轟法グラフェン由来酸化グラフェンのカルボキシルブチルアミドを合成した。室温に冷却した後、GONBを遠心分離(7,000RPM、15分間)で回収した後、メタノールに再懸濁し、再度回収した。この手順をさらに2回繰り返した。その後、mGOを凍結乾燥することで、残留している微量メタノールを除去した。(収率:実質的に定量的)
【0079】
化学的酸化グラフェン誘導体の化学安定性
本明細書で論じられた全ての化学的酸化グラフェン誘導体の熱重量分析における挙動は非常に類似している。熱安定性はGOと比較して増加している。図16に示されているように、600℃で確認された質量減少は2.5%未満である。
【0080】
グラフェン、酸化グラフェン、およびグラフェンカルボキシルアミドの紫外可視(UV/Vis)吸収試験
図17に示されているように、全てのグラフェン誘導体は高い吸光度Eを有しており、これにより、実質的に全ての波長で、組織における光熱的な応用が可能である。しかし、インビボ適用の場合は、700~800nm(およびそれ以上)の波長が好ましい(生物組織の光学窓領域)。
【0081】
G、GO、mGO、GON、GONBの水への分散性
G、GO、mGO、GON、GONBのHOへの分散性を、適切な質量を再蒸留水中で15分間超音波処理し、1時間の待ち時間により当該物質が沈殿するための時間を与え、その後、遠心分離(7000RPM、30分間)によって溶液とグラフェン誘導体沈殿物のデカンテーションを行うことにより、調べた。結果を図18に示す。mGOのおおよその分散性が4.6mg/mLであり、これがmGOの水中での化学反応を可能にするものであることは注目に値する。この発見は、アミン誘導体に対するメタノールの交換を介して、(治療用のペプチド配列およびタンパク質(抗体および抗体フラグメントを包含する)を包含する、あらゆる種類のアミン誘導体を、mGOに結合することを可能にするものである。
R-CO-OCH+R-NH→R-CO-NH+CHOH
【0082】
神経前駆細胞における細胞毒性
爆轟法グラフェンおよび酸化グラフェンの生化学的応用およびバイオセンシング応用の可能性を、マウス神経前駆細胞とのインキュベーションにより評価した。図19に示されているように、細胞生存率は、0.25mg/mlのGおよびGOで、グラフェンおよび酸化グラフェンとの24時間のインキュベーション後に、100%から約60%に減少した。0.25~1.0mg/mlのGおよびGOでは、24時間のインキュベーション後、プラトーに達している。これらの初期実験によれば、両材料が、生化学的応用およびバイオセンシング応用に非常に適している。
【0083】
実施例3
合成のスケールアップ-バッチサイズの増大およびさらなるGO誘導体の合成
GOをより大量にバッチ生産することを目的として、合成条件をスケールアップするためのさらなる研究を行った。また、材料特性を調整するため、GOの種々の機能化誘導体を合成する手順を実施した。
【0084】
爆轟法グラフェンからのフェントン型酸化による酸化グラフェン合成
この実験では、ゼータ電位ζ=16.26mVの、0.4爆轟法グラフェン(爆轟の際の酸素の化学量論量が40%)を使用した。反応液を作製するため、1.0gのグラフェン0.4を、500mlフラスコ内の、100mlの反応物水溶液(10vol%H/水(pH=3、硫酸))に添加した。グラフェンが反応物水溶液中に分散されるまで試料を超音波処理し、その後333Kに加熱した。僅かな発泡が見られた。次に、125mgの固体FeSO・7HOを一度に添加した。この混合物を60℃で24時間撹拌した。遠心分離(7000rpmで10分)でGOを回収し、水で5~7回洗浄した。最後にGOを一晩凍結乾燥し、特性評価を行った。収率:0.90g(90%)、ゼータ電位:ζ=-8.2mV。図20に示されているように、示差熱重量分析では、50℃未満の温度(水の脱離)と500℃超の温度での有意な重量減少が示されており、これは、従来法で作製された酸化グラフェン(ハマーズ法)と比較して、コア/シェルグラフェン/酸化グラフェンの優れた熱安定性を示すものである。
【0085】
爆轟法グラフェンからの酸化グラフェン合成のスケールアップ
この実験では、以下の通りに、100gの0.4グラフェンを酸化することで、98gの酸化グラフェンを得た。100gのグラフェンを、5000mlフラスコ内の1000mlの反応物水溶液(10vol%H/水(pH=3、硫酸))に添加した。メカニカルスターラーを用いて試料を1時間撹拌した。この間に、グラフェンは反応物水溶液中に分散され、反応を開始した。30分後、温度は80±5℃に達した。かなりの発泡が見られた。温度が60℃に下がるまで、リアクターの撹拌を続けた。その後、1.25gの固体FeSO・7HOを一度に添加した。温度は15分以内に95±5℃に上昇し、それからゆっくりと低下した。この混合物を24時間撹拌した。遠心分離(7000rpmで10分)でGOを回収し、水で5~7回洗浄した。最後にGOを一晩凍結乾燥し、特性評価を行った。収率:98g(98%)、ゼータ電位:ζ=-16.7mV。図21に示されているように、この酸化グラフェンはT=600℃まで安定した状態を保っており、これは、小スケールのGOおよび従来法で作製されたGO(ハマーズ法)の両方と比較して、スケールアップ後のコア/シェルグラフェン/酸化グラフェンの熱安定性が優れていることを示すものである。図22に示されているように、FTIRから、スケールアップ後のバッチを酸化できたことが確認された。
【0086】
酸化グラフェンメチルエステル(mGO)-3種類の合成プロトコル
フィッシャーエステル合成反応
64.5mgの酸化グラフェン(GO)を、マグネチックスターラーと還流冷却器とを備えた150mL丸底フラスコ内の、100mLの無水メタノール中に、超音波処理により懸濁させた。次に、1mLの濃硫酸をGO懸濁液に添加し、その後24時間還流した(図23)。24時間後、遠心分離(7,000rpmで10分)でmGOを回収し、蒸留水で5回洗浄した。最後に、mGOを一晩凍結乾燥した。収率:59.3g(65%)、ゼータ電位:ζ=-11.3mV。
【0087】
カルボン酸塩化物反応
500mgのGOを、マグネチック撹拌子と還流冷却器とを備えた150mL丸底フラスコ内の、25mLのメタノール中に、超音波処理により懸濁させた。次いで、このGO懸濁液を氷浴中で0℃に冷却し、1.25mLの塩化チオニルをゆっくりと添加した(1.25mLのSOClはメタノール量の5体積%)。SOClの添加が完了した後、反応生成物を室温で24時間撹拌した(図24)。24時間後、反応生成物を1時間還流してから、室温まで放冷した。最後に、遠心分離(7,000rpmで10分)でmGOを回収し、蒸留水で5回洗浄し、その後一晩凍結乾燥した。収率:472mg(94%)、ゼータ電位:ζ=-15.34mV。図25は、上記生成物の(A)熱安定性と、(B)FTIR解析を示している。
【0088】
高圧リアクター
500mgのGOを、PARR4560加圧式リアクター用に設計されたPyrexバイアル内で、5mLのメタノール中に懸濁した(図26)。加圧式リアクターを次に、アルゴン雰囲気下、200℃/250psiで1時間加熱した。その後、さらに1時間かけて室温まで放冷した。最後に、遠心分離(7,000rpmで10分)でmGOを回収し、蒸留水で5回洗浄し、その後一晩凍結乾燥した。収率:457mg(91%)、ゼータ電位:ζ=-16.4mV。
【0089】
酸化グラフェンジエチレングリコールエステル(degGO)
200mgのmGOを、マグネチック撹拌子と還流冷却器とを備えた150mL丸底フラスコ内で、超音波処理により、20mLのエチレングリコール中に懸濁した(図27)。懸濁液を室温で24時間撹拌した後、197~198℃で1時間還流した。次に、degGO懸濁液を室温まで冷却し、遠心分離(7,000rpmで10分)による回収を行い、蒸留水で5回洗浄した後、一晩凍結乾燥した。収率:188mg(94%)、ゼータ電位:ζ=-12.9mV。熱安定性を図28に示す。
【0090】
酸化グラフェンアミド(aGO)
50mgのmGOを、マグネチックスターラーと還流冷却器とを備えた150mL丸底フラスコ内で、超音波処理により、25mLの水酸化アンモニウム(HO中30重量%NH)中に懸濁した(図29)。この懸濁液を1時間還流してから、室温まで放冷した。次いで、遠心分離(7,000rpmで10分)でアミド化GOを回収し、蒸留水で5回洗浄し、その後一晩凍結乾燥した。収率:34mg(68%)、ゼータ電位:ζ=-27.6mV。図30はaGOの(A)FTIR解析と(B)熱安定性を示している。
【0091】
酸化グラフェンジエチルアミド(deaGO)
50mgのmGOを、マグネチックスターラーと還流冷却器とを備えた150mL丸底フラスコ内で、超音波処理により、1重量パーセント(0.19g)のジメチルアミンを含有する20mLのジメチルホルムアミド(DMF)中に懸濁した(図31)。この懸濁液を154~155℃で1時間還流してから、室温まで放冷した。次いで、遠心分離(7,000rpmで10分)でアミド化GOを回収し、無水ジエチルエーテルで5回洗浄し、その後一晩凍結乾燥した。収率:31mg(64%)、ゼータ電位:ζ=-24.8mV。
【0092】
酸化グラフェン1-アミノヘキサン-6-アミド(dahmGO)
50mgのmGOを、マグネチックスターラーと還流冷却器とを備えた150mL丸底フラスコ内で、超音波処理により、1重量パーセント(0.19g)の1,6-ジアミノヘキサンを含有する20mLのDMF中に懸濁した(図32)。この懸濁液を154~155℃で1時間還流してから、室温まで放冷した。次いで、遠心分離(7,000rpmで10分)でアミド化GOを回収し、無水ジエチルエーテルで5回洗浄し、その後一晩凍結乾燥した。収率:33mg(66%)、ゼータ電位:ζ=-22.7mV。
【0093】
上記の反応から、GO粒子またはmGO粒子を、実質的にいかなる種類の双極性溶媒、非プロトン溶媒、および単極性溶媒とも、さらにはイソプロパノールおよびtert-ブタノールなどの立体障害アルコールとも、反応させることができ、それにより新たな化合物誘導体を生成できたことが理解されよう。
【0094】
酸化グラフェンへのペプチドの結合(GKK-GO合成)
10mgのGOを、超音波処理により5ドラム透明ガラスバイアル内の5mLのDMF中に懸濁した。次に、20mgのオリゴペプチドGKK、5mgのEDC、および5mgのDMAPを懸濁し、5分間超音波処理した。その後、懸濁液を室温で一晩撹拌した。最後に、遠心分離(7,000rpmで10分)でGKK修飾GOを回収し、DMFで5回、無水ジエチルエーテルで5回洗浄し、その後凍結乾燥した。収率:15mg(75%)、ゼータ電位:ζ=+1.51mV。
【0095】
酸化グラフェンメチルエステル(GKK-mGO)へのペプチドの結合
10mgのmGOを、PARR4560加圧式リアクター用に設計されたPyrexバイアル内で、10mgの短オリゴペプチド(GKK)を含有する5mLのDMF中に懸濁した。加圧式リアクターを次に、アルゴン雰囲気下、200℃/170psiで1時間加熱した。その後、さらに1時間かけて室温まで放冷した。最後に、遠心分離(7,000rpmで10分)でGKK-mGOを回収し、DMFで5回、無水ジエチルエーテルで5回洗浄し、その後一晩凍結乾燥した。収率:17mg(85%)、ゼータ電位:ζ=+4.8mV。
【0096】
ポリマー内へのGO誘導体の組み込み
mGOは、重合可能な二重結合を含有することから、イオン重合合成、カチオン重合合成、または金属触媒重合合成(図33~35)により、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリアクリレート(PA)、およびポリアクリルアミド(PAM)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、並びにポリテトラフルオロエチレン(TEFLON(登録商標))を包含する種々の重付加ポリマーと、一体化することができる。
【0097】
本研究では、100mgのmGOを、超音波処理により、5mLの無水ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)中に分散させた。アルゴン下、20mgのLiAlH(またはNaHなどの金属水素化物)を固体として添加した。この後、激しい二水素発生が起こった。H2発生が確認できなくなるまで(1時間)、この反応性混合物を室温で撹拌し、その後、室温の減圧下で蒸発乾固した。陰イオン性のmGOは、リビング重合反応でスターターとして用いることができる。
【0098】
図36に示されているように、典型的なアニオン(リビング)重合は、LiAlHおよびmGOを、少なくとも1つの二重結合を含むモノマーと、60~150℃で、アルゴン下(または少なくとも3回の凍結脱気後)、1~24時間インキュベートすることからなる。
【0099】
GO誘導体のdahmGOは、重縮合の際、全てのナイロン型ポリマー(ポリアミド)と反応する。実質的にいかなる質量比でも出発混合物との混合が可能である(図37)。重縮合反応が80℃より高い温度で実施される場合、mGOも使用できる。次いで、反応の際、アミドに対するメチルエステル交換が起こる。また、mGOは重縮合の際に全てのポリエステルとも反応する(図38)。実質的にいかなる質量比でも出発混合物との混合が可能である。ポリエチレンテレフタラートの場合、degGOも使用できる。
【0100】
dahmGOまたは類似化合物も、degGOまたは類似化合物(例えばグリセロールエステル)も、共にイソシアン酸塩と反応する。よって、それらは、熱可塑性ポリウレタンおよびデュロプラスチック(duroplastic)ポリウレタンに組み入れることができる。後者は、架橋度がより高く、且つ、グラフェン/酸化グラフェン誘導体コア/シェル粒子の重量基準の量がより多いことを特徴とする。
【0101】
酸化グラフェンの滴定
100mgのフェントン酸化された酸化グラフェンを20mLの0.100M NaOH中に懸濁した。懸濁液を300Kで5分間撹拌した後、0.100M HCl溶液を段階的に添加した。各段階で、平衡状態に達していることを確認した後(1~5分後)、pHメーターを用いて溶液のpHを記録し、その後、次の量のHClを添加した。同様の手順を、同体積のNaOHを用いて、ただしGOの添加は行わずに、使用した。pH値が約7.00で同じであるときの、2本の滴定曲線におけるHClの体積の差により、GOの重量増分当たりのイオン化された基(ヒドロキシル基およびカルボキシル基)の濃度が得られる。結果を図39に示す。約pH7における体積差は170μLである。これは、GO100mg当たり1.7×10-5モルの酸性基、すなわちGO1g当たり1.7×10-4モルの酸性基に相当する。さらに、滴定曲線の形から、酸性基は主に(95%超)-COOHであると結論付けられるが、これはGOと標準の両方の滴定曲線がほぼ同一となる高pHでは-OHが(再)プロトン化されるためである。これより、各側面上で、各-COOH分子は約10-18の面積を占めると算出することができ、これは1nmと等しい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
【国際調査報告】