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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-23
(54)【発明の名称】アルカリ金属二次電池とその用途
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20220816BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20220816BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20220816BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220816BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20220816BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220816BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220816BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20220816BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220816BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220816BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/054
H01M4/133
H01M10/0562
H01M10/0565
H01M10/0566
H01M4/66 A
H01M4/80 C
H01M4/62 Z
H01M4/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021575233
(86)(22)【出願日】2020-06-16
(85)【翻訳文提出日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 EP2020066570
(87)【国際公開番号】W WO2020254294
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】102019208843.0
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597159765
【氏名又は名称】フラウンホーファーゲゼルシャフト ツール フォルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシユング エー.フアー.
(71)【出願人】
【識別番号】503435240
【氏名又は名称】テヒニッシェ・ウニヴェルジテート・ドレスデン
【住所又は居所原語表記】Helmholtzstrasse 10,01069 Dresden,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】ヒッパウフ,フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】デルフラー スザンヌ
(72)【発明者】
【氏名】アルトハウス,ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】カスケル,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】パンペル,ジョナス
(72)【発明者】
【氏名】ブロイ,ルイス
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017AS10
5H017BB16
5H017CC25
5H017DD05
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH04
5H017HH10
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ12
5H029AJ14
5H029AK06
5H029AL12
5H029AL13
5H029AM12
5H029AM16
5H029CJ16
5H029DJ07
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029DJ13
5H029DJ15
5H029DJ16
5H029EJ07
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ06
5H029HJ07
5H029HJ12
5H029HJ19
5H029HJ20
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA15
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA16
5H050CA14
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA03
5H050DA04
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA15
5H050EA24
5H050FA15
5H050FA16
5H050FA17
5H050GA18
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA06
5H050HA07
5H050HA12
5H050HA17
5H050HA19
(57)【要約】
本発明は、アルカリ金属二次電池に関するものである。二次電池は、陰極、陽極、並びに陰極と陽極の間に配置され、陰極と陽極の炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質を含む。陽極は、炭素層を含む、又は炭素層から構成されており、炭素層は単独で、又は導電性の基板と組み合わせて、導電性の接触を形成している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)陰極と、
b)炭素層を含む、又は炭素層から構成された陽極であって、前記炭素層が単独で、又は導電性の基板と組み合わせて、導電性の接触を形成している陽極と、
c)前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質と、を含み、
前記炭素層が、アルカリ金属二次電池の充電プロセスにおいて、前記電解質にアクセスできず、電気化学的に蒸着したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した第1のタイプの細孔を有することを特徴とする、アルカリ金属二次電池。
【請求項2】
前記第1のタイプの細孔は、蒸着により生成された金属アルカリ金属の取り込みに有利な化学修飾が施されており、前記化学修飾は、細孔表面上の層、細孔表面上のナノ粒子、細孔表面上の少なくとも1つの化学官能基、及びそれらの組み合わせからなる群から好ましくは選択されることを特徴とする、請求項1に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項3】
前記第1のタイプの細孔は、
i)0.5~100nmの範囲、又は、
ii)2nmより大きいこと、又は、
iii)2nm未満の細孔径を有し、
前記細孔径は、好ましくは窒素物理吸着で決定することができる、請求項1又は2に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項4】
前記炭素層は、第2のタイプの細孔及び/又は前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み、前記第2のタイプの細孔及び/又は前記空洞は、3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲、特に1μmから1000μmの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、好ましくは、電子顕微鏡で決定することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項5】
前記第2のタイプの細孔及び/又は前記空洞が、好ましくはその空間的広がりの全容積において、電解質を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項6】
前記炭素層は、
i)充電された状態では、アルカリ金属、好ましくはリチウム又はナトリウムを含み、前記アルカリ金属は、前記炭素層の総重量に基づいて、好ましくは10~90重量%の割合で存在し、
ii)充電されていない状態では、前記炭素層がリチウムやナトリウム、好ましくはアルカリ金属を含まないことを特徴とする、
請求項1~5のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項7】
前記電解質が、好ましくは、Li2S-P2S5、Li2S-GeS2、Li2S-B2S3、Li6PS5Cl、Li2S-SiS2、Li2S-P2S5-LIX (X=Cl、Br、I)、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-BS3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-ZmSn(m及びnは整数であり、MはP、Si又はGeから選択される)、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LipMOq(p及びqは整数であり、Mは、P、Si又はGeから選択される)、Na2S-P2S5、Na2S-GeS2、Na2S-B2S3、NaePSsCl、Na2S-SiS2、Na2S-P2S5-NaX(X=Cl、Br、I)、Na2S-P2S5-Na2O、Na2S-P2Ss-Na2O-NaI、Na2S-SiS2-NaI、Na2S-SiS2-NaBr、Na2S-SiS2-NaCl、Na2S-SiS2-B2Ss-NaI、Na2S-SiS2-P2Ss-NaI、Na2S-P2S5-ZmSn(m及びnは整数であり、MはP、Si又はGeから選択される)、Na2S-SiS2-Na3PO4、Na2S-SiS2-NapMOq(p及びqは整数であり、Mは、P、Si又はGeから選択される)系、又はこれらの混合物からの硫化性固体電解質であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項8】
前記電解質が液体電解質又はゲル電解質であり、前記電解質の全ての成分、特に前記電解質のすべての分子が、
i)前記第1のタイプの細孔の大きさを超える、及び/又は
ii)前記電解質と多孔質炭素粒子の間に配置された、アルカリ金属イオンに対して導電性である保護層の細孔の大きさを超える大きさを有し、
前記電解質は、好ましくは、イオン液体を含む、又はイオン液体で構成されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項9】
前記炭素層は、アルカリ金属イオンを炭素網状組織に沿って輸送するのに適した炭素網状組織を形成していることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項10】
前記炭素層が、
i)0.5cm/g以上の炭素、好ましくは0.8cm/g以上の炭素、特に好ましくは1.0cm/g以上の炭素の細孔容積を有する前記第1のタイプの細孔を含み、及び/又は
ii)IUPACに従って分類されたミクロ細孔、メソ細孔、及び/又はマクロ細孔、好ましくはIUPACに従って分類されたミクロ細孔を含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項11】
前記炭素層が、炭素材料の質量に基づいて、400mAh/g以上、好ましくは600mAh/g以上、特に好ましくは800mAh/g以上、特に1000mAh/g以上の比容量を有するような量で、電気化学蒸着により生成された金属アルカリ金属を取り込むのに適していることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項12】
前記電解質が、
i)少なくとも10-10S・cm-1、好ましくは少なくとも10-8S・cm-1、特に好ましくは少なくとも10-6S・cm-1、非常に特に好ましくは少なくとも10-4S・cm-1、特に少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有し、及び/又は
ii)前記陽極の前記導電性の基板より、及び/又は前記陰極よりも電子に対する導電性が低く、好ましくは前記電子に対する導電性が本質的にないことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項13】
前記電解質が、
i)箔として設計されており、及び/又は
ii)前記陽極から前記陰極の方向に向かって、1μmから100μm、好ましくは10μmから50μmの範囲の最大伸長を有することを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項14】
前記陰極が、
i)集電体を含み、前記集電体は好ましくは層の形態であり、前記層は特に好ましくは、伸縮層、両面コーティングを有する層、繊維布の層、プライマー層を有する層の形態であり、
ii)さらに、アルカリ金属源を含まない、又はアルカリ金属源を含み、前記アルカリ金属源は、好ましくは、前記陰極の総重量を基準にして60~99重量%の割合で存在し、
iii)固体電解質を含み、
iv)導電性添加剤を含み、
v)少なくとも部分的に線維状ポリテトラフルオロエチレンを含み、少なくとも部分的に前記線維状ポリテトラフルオロエチレンは、好ましくは、前記陰極の総重量を基準にして1重量%未満の割合で存在し、
前記陰極は、好ましくは、前記言及された成分で構成される、請求項1~13のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項15】
前記アルカリ金属二次電池は、リチウム二次電池又はナトリウム二次電池であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項16】
輸送手段、建物及び/又は電子機器に対する、好ましくは、自動車、航空機、ドローン、列車及びそれらの組み合わせからなる群から選択される輸送手段のエネルギー源としての、請求項1~15のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ金属二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、陰極、陽極、並びに陰極と陽極の間に配置され、陰極及び陽極の炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質を含む。陽極は、炭素層を含む、又は炭素層から構成されており、炭素層は単独で、又は導電性の基板と組み合わせて、導電性の接触を形成している。二次電池は、炭素層が、アルカリ金属二次電池の充電プロセスにおいて、電解質にアクセスできず、電気化学的に蒸着したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した第1のタイプの細孔を含むことを特徴とする。アルカリ金属二次電池は、非常に高い比容量、高い出力密度、高いサイクル安定性、高い長期安定性、及び高い動作信頼性を特徴とする。
【0003】
電池セルのエネルギー密度を高めることは、取り分け、電気自動車の航続距離を伸ばす為など、世界的な研究開発の目標となっている。この固体電解質は、金属リチウム陽極を安全かつ安定的に動作させることができ、厚くて重いグラファイト陽極を置き換えることができると期待されている為、固体電池に焦点を当てている。
【0004】
しかし、リチウムを陽極として使用するには、まだ多くの課題がある。セル内には電解質との2次元的な界面があり、充放電プロセス中にこの界面を介してイオンが拡散する。界面に細孔やデンドライトを形成せず、従ってセル、特に固体電解質に機械的応力を与えずにリチウムイオンを可逆的に大量輸送するには、低い充電電流、温度上昇、及びセルスタックへの高い圧力が必要である。これらの条件により、これまでは適用領域が大幅に制限されていた。この問題はまだ解決されていない。その理由から、固体電池はまだ業界では生産されていない。
【0005】
グラファイト陽極を有する固体電池は、安定した動作が可能であることが知られている。しかし、その比容量は372mAh/gに留まっている(グラファイトのリチウムのインターカレーションメカニズム)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに基づき、本発明の目的は、高比容量、高出力密度、及び高サイクル安定性を特徴とするアルカリ金属二次電池であって、その作動中、二次電池の成分に作用する機械的応力が可能な限り低く、電池の長期安定性及び作動安全性が向上するアルカリ金属二次電池を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その目的は、請求項1の特徴を有するリチウム二次電池と、請求項16に記載の使用法によって達成される。従属請求項は、有利な展開を示している。
【0008】
本発明によれば、
a)陰極と、
a)炭素層を含む、又は炭素層から構成された陽極であって、前記炭素層が単独で、又は導電性の基板と組み合わせて、導電性の接触を形成している陽極と、
b)前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質と、を含み、
前記炭素層が、アルカリ金属二次電池の充電プロセスにおいて、前記電解質にアクセスできず、電気化学的に蒸着したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した第1のタイプの細孔を有することを特徴とする、アルカリ金属二次電池が提供される。
【0009】
「炭素層」とは、特に、多孔質炭素、カーボンブラック、グラフェン、グラファイト、グラファイト状炭素(GLC)、炭素繊維、炭素ナノ繊維、炭素中空球及びそれらの混合物又は組み合わせからなる群から選択される導電性炭素材料から構成される層を意味する。
【0010】
従って、「炭素層」の好ましい特徴(例えば、細孔容積、比密度、細孔径など)は、炭素のみからなる層に関するものである。原則として、この炭素層は他の物質(例えば、バインダー及び/又はアルカリ金属)から構成されても勿論構わない。例えば、炭素層が(例えば、第2のタイプの細孔に)さらなる物質を含んでいる場合、特定の特性はここで与えられた範囲から逸脱する場合もある。
【0011】
アルカリ金属二次電池は、非常に高い比容量と高出力密度を特徴とするだけでなく、むしろ、二次電池の成分が作動している時に作用する機械的応力が非常に小さい為、長期安定性が高く、高い動作信頼性を有するという利点がある。
【0012】
高比容量、高出力密度、サイクル安定性を実現している理由の一つは、第1のタイプの細孔である。第1のタイプの細孔は、蒸着した金属アルカリ金属を効率的かつ可逆的に取り込むことができる。ここで重要なのは、二次電池の電解質が第1のタイプの細孔に入り込めないという状況である。
【0013】
実は、この提供されたアルカリ金属二次電池は、意外な発見に遡る。アルカリ金属二次電池を放電すると、金属アルカリ金属が電子の放出によってアルカリ金属イオンに酸化されることが知られている。理論的には、それによって生じたアルカリ金属イオンは、電解質がアルカリ金属イオンと直接接触している場合にのみ、電解質によって効率的に取り込まれ、転換される。言い換えれば、得られたアルカリ金属イオンが電解質との接触を失うと、アルカリ金属イオンの電解質への輸送が非常に非効率的になるか、あるいは断絶するはずである。しかし、出願人は驚くべきことに、上記のような炭素層を使用すれば、そのようなことはないことを発見した。又、第1のタイプの細孔内で発生した、電解質から離れたアルカリ金属イオンであっても、炭素網状組織を介して(特に第1のタイプの細孔内で)効率的に電解質に受け渡され、期待通り、電荷の輸送が途切れないことに注目した。
【0014】
アルカリ金属二次電池は、第1のタイプの細孔に、蒸着により生成した金属アルカリ金属を取り込み易い化学修飾が施されていることを特徴とすることができる。化学修飾は、好ましくは、細孔表面上の層、細孔表面上のナノ粒子、細孔表面上の少なくとも1つの化学官能基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。更に、第1のタイプの細孔は、特定の細孔形状及び/又は細孔の性質を有することができる。第1のタイプの細孔における金属構造の形成は、細孔の形状及び/又は細孔の特性によって促進することができる。これにより、アルカリ金属を電解質から分離する為の過電圧(エネルギー障壁)を低減することができる。細孔炭素(細孔径2nm以下)では、0V以上で金属Liクラスターの形成が観察され(対Li/Li+)、これは熱力学的な生成エンタルピーが低下していることを示している。
【0015】
第1のタイプの細孔は、0.5~100nmの範囲の細孔径を有することができる。更に、第1のタイプの細孔は、2nm超の細孔径を有することができる。第1のタイプの細孔は、特に好ましくは2nm未満の細孔径を有する。なぜならば、この場合、0V(対Li/Li+)以上の金属Liクラスターの形成が観察され、これは熱力学的な生成エンタルピーの低下を示す(例を参照)からであり、細孔径は好ましくは窒素物理吸着で決定することができる。
【0016】
炭素層は、第2のタイプの細孔及び/又は電解質にアクセス可能な空洞を更に含むことができる。第2のタイプの細孔は、電解質との接触領域が大きい為、アルカリ金属イオンの電解質から炭素層への効果的な往復輸送が可能となり、優れた可逆性(サイクル安定性)を有する高い充放電電流を実現することができる。ここで重要なのは、電解質が第2のタイプの細孔を介して炭素層に深く浸透することができ、その結果、金属アルカリ金属の蒸着が陽極の炭素層のより深い層でも行われること、つまり、ある意味で、深くない「2次元」の界面に比べて拡大された表面を持つ深い「3次元」の界面を介して行われることである。第1のタイプの細孔は、電解質で満たされていない為、蒸着した金属アルカリ金属を取り込む為の炭素層の深層部の「自由空間」としても機能する。金属アルカリ金属を広い表面と電解質の入っていない自由空間に蒸着させることで、二次電池の作動中に二次電池の成分にかかる機械的応力が大幅に低減される。このように、本発明によるアルカリ金属二次電池は、公知のアルカリ金属二次電池と比較して、長期安定性と動作信頼性が高い。
【0017】
深さのない「2次元」の界面と比較して、「3次元」の界面は、有利に、「2次元」の電解質への接触面の2~100倍、好ましくは3~30倍、特に好ましくは5~20倍、取り分け8~12倍の大きさの接触面を提供する。例えば、100~1000倍の大きさの「3次元」接触面が増えると、逆に不利になる。というのも、炭素層と電解質の界面でも二次反応による損失が発生する為、接触面が大き過ぎると、その損失が不利になるからである。
【0018】
第2のタイプの細孔及び/又は空洞は、3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲、特に1μmから1000μmの範囲の空間的広がりを有することができ、その空間的広がりは、好ましくは、電子顕微鏡を用いて決定することができる。
【0019】
好ましい実施形態では、第2のタイプの細孔及び/又は空洞は、好ましくはその空間的広がりの全体積において電解質を含む。
【0020】
充電されている状態では、炭素層はアルカリ金属、好ましくはリチウム又はナトリウムを含むことができ、アルカリ金属は、炭素層の総重量に基づいて、好ましくは10~90重量%の割合で存在する。
【0021】
更に、充電されてない状態では、炭素層がリチウムやナトリウム、好ましくはアルカリ金属を含んでいないことも考えられる。
【0022】
好ましい実施形態では、電解質は、硫化性固体電解質である。
【0023】
しかし、電解質は、液体電解質又はゲル電解質である場合もあり、電解質の全ての成分、特に電解質の全ての分子は、第1のタイプの細孔のサイズを超えるサイズ、及び/又は、電解質と多孔質炭素粒子との間に配置された保護層の細孔のサイズを超えるサイズを有することができ、保護層はアルカリ金属イオンに対して導電性である。電解質は、好ましくはイオン液体を含む、又はイオン液体で構成されている。
【0024】
好ましい実施形態では、炭素層は、アルカリ金属イオンを炭素網状組織に沿って輸送するのに適した炭素網状組織を形成する。このことは、特に、第1のタイプの細孔が、第1のタイプの細孔内で(例えば、細孔壁に沿って)アルカリ金属イオンを輸送するのに適していることを意味する。アルカリ金属二次電池の放電時には、細孔に蒸着したアルカリ金属と電解質の間にどうしても一定の距離ができてしまい、その距離は細孔の大きさにも依るが、数百nmにもなる。完全放電の為には、細孔内に蓄積されたアルカリ金属が完全に戻ってくることが必要であり、電解質中に蓄積されたアルカリ金属イオンが酸化された後にも完全に戻ってくることが必要である。このような完全な戻り輸送は、炭素網状組織、特に第1のタイプの細孔(複数可)が、アルカリ金属イオンを電解質に導くのに適している場合にのみ行われる。第1のタイプの細孔は、好ましくは、二次電池の放電容量を増加させる為、これらの特性を有する。
【0025】
第1のタイプの炭素層の細孔は、合わせて0.5cm/g以上の炭素、好ましくは0.8cm/g以上の炭素、特に好ましくは1.0cm/g以上の炭素の細孔容積を有することができる。細孔容積が大きいと、蒸着で生成された金属アルカリ金属を取り込む為の空間が大きくなり、高容量が得られると共に、電解質との接触領域が最大となり、高い充放電電流が確保できるという利点がある。又、細孔容積が大きいことは、二次電池の重量を低く抑えることができることを意味し、これは特にモバイル用途(重量/出力比が低い)において決定的な利点となる。
【0026】
炭素層は、IUPACに従って分類されるミクロ細孔、メソ細孔及び/又はマクロ細孔で構成されることができ、好ましくはIUPACに従って分類されるミクロ細孔で構成されてもよい。
【0027】
炭素層は、炭素材料の質量に基づいて、400mAh/g以上、好ましくは600mAh/g以上、特に好ましくは800mAh/g以上、特に1000mAh/g以上の比容量を有するような量で、蒸着により生成された金属アルカリ金属を取り込むのに適したものとすることができる。
【0028】
電解質は、少なくとも10-10S・cm-1、好ましくは少なくとも10-8S・cm-1、特に好ましくは少なくとも10-6S・cm-1、非常に好ましくは少なくとも10-4S・cm-1、特に少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有することができる。
【0029】
好ましい実施形態では、電解質は、導電性の基板、又は陽極の炭素層、及び/又は陰極よりも電子に対する導電性が低く、好ましくは電子に対する導電性が本質的に無い。
【0030】
電解質は、箔として設計することができる。
【0031】
更に、陽極から陰極の方向への電解質は、1μmから100μm、好ましくは10μmから50μmの範囲で最大伸長を有していてもよい。
【0032】
陰極は集電体を含むことができ、集電体は好ましくは層の形態であり、層は特に好ましくは、伸縮層、両面コーティングを有する層、繊維布の層、プライマー層を有する層の形態である。
【0033】
更に、陰極がアルカリ金属源を含まない、又はアルカリ金属源を含むことも可能であり、アルカリ金属源は、好ましくは、陰極の総重量を基準にして60~99重量%の割合で存在する。
【0034】
更に、陰極は固体電解質を含むことができる。
【0035】
更に、陰極は導電性の添加剤を含むことができる。
【0036】
これとは別に、陰極は少なくとも部分的に繊維状ポリテトラフルオロエチレンを含むことができ、少なくとも部分的に繊維状ポリテトラフルオロエチレンは、好ましくは、陰極の総重量を基準にして1重量%未満の割合で存在する。
【0037】
好ましい実施形態では、陰極は上述の成分で構成されている。
【0038】
アルカリ金属二次電池は、リチウム二次電池やナトリウム二次電池であってもよい。
【0039】
更に、本発明によるアルカリ金属二次電池を輸送手段、建物及び/又は電子機器に使用すること、好ましくは、自動車、航空機、ドローン、列車及びそれらの組み合わせからなる群から選択される輸送手段のエネルギー源として使用することを提案する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1A】乃至
図1C】本発明によるアルカリ金属二次電池(ここではリチウム二次電池)の、陽極の炭素層の炭素粒子と電解質との界面におけるプロセスを模式的に示す。
図2A】乃至
図2B】本発明によるアルカリ金属二次電池の構造を模式的に示す。
図3】本発明によるアルカリ金属二次電池(リチウム二次電池)を用いて行った実験の結果を示す。
図4】実施例のTiC-CDCセルのリチウム化と脱リチウム化の3サイクル目と4サイクル目の結果の電位プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明による主題は、本明細書に示された特定の実施形態に限定することを望むものではなく、以下の図及び以下の例を用いてより詳細に説明することを意図している。
【0042】
図1A~Cは、本発明によるアルカリ金属二次電池(ここではリチウム二次電池)の、陽極の炭素層の炭素粒子6と電解質8との界面におけるプロセスを模式的に示している。図1Aに描写されている充電プロセスでは、リチウムイオンが陰極(図示せず)から電解質8を介して、炭素粒子6の第1のタイプの細孔7に輸送される。そこでは、リチウムイオンが電子を取り込み、その電子が陽極の導電層(図示せず)から炭素粒子6に流れ、リチウム金属10に還元され、これが第1のタイプの細孔7内に位置することになる。図1Bの放電プロセスでは、金属リチウム10が電子を引き抜いてリチウムイオンに酸化され(つまり、金属リチウムが溶解する)、そのリチウムイオンが電解質に取り込まれて陰極に輸送される。図1Cに描写されている状況は、電解質8から遠く離れた場所でリチウムイオンに溶解したリチウム金属10でも、電解質8に効率的に輸送され、そこから陰極に輸送されるという驚くべき発見を説明している。従って、第1のタイプの細孔7に沿って、電解質8の方向にリチウムイオンを効率的に輸送することが可能でなければならない。
【0043】
図2A~2Bは、本発明によるアルカリ金属二次電池の構造を模式的に示したものである。図2Aでは二次電池が充電されていない状態、図2Bでは二次電池が充電されている状態を表している。描写されているアルカリ金属二次電池は、陰極1と、導電性基板3を含む陽極2とを備えており、導電性基板3は、ある幾何学的な領域4上に延在しており、この領域4上の少なくとも一部の領域には、炭素層5が配置されており、炭素層5は、第1のタイプの細孔7を有する炭素粒子6を含み、陽極2の導電性基板3と互いに導電性の接触を形成している。更に、二次電池は、陰極1と陽極2との間に配置され、陰極1及び陽極2の炭素粒子6とイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質8を含む。炭素層5は、炭素粒子6の間に第2のタイプの細孔9を有し、この細孔は、少なくとも領域において電解質8を構成し、第1のタイプの細孔7は、電解質を取り込むのには適さないが、蒸着により生成された金属アルカリ金属10を取り込むのに適した小さな細孔径を有している。図10では、金属アルカリ金属10の蒸着が、第1のタイプのわずかな細孔7に簡略化されて描写されている。
【0044】
図3は、本発明によるアルカリ金属二次電池(リチウム二次電池)を用いて行った実験の結果を示している。リチウム化時の電圧プロファイルは破線で、脱リチウム化時の電圧プロファイルは実線で描写されている。リチウム二次電池は、請求項1に記載の陽極と、陰極としてのリチウム金属箔と、硫化性固体電解質とを有するハーフセルであった。0.05mA/cmの定電流でリチウム化又は脱リチウム化が行われた。脱リチウム化の比容量は423mAh/gと決定された。
【0045】
図4は、実施例のTiC-CDCセルのリチウム化と脱リチウム化の3サイクル目と4サイクル目の結果の電位プロファイルを示している。ハーフセルの3サイクル目で521.0mAh/gTiC-CDCの可逆的なリチウムイオン化容量を観測することができた。
【0046】
例:本発明によるアルカリ金属二次電池の容量
全ての材料処理は不活性ガスの下で行われた。
【0047】
まず、炭素材料であるTiC-CDCを不活性ガス条件下で200℃で12時間乾燥させた。この炭素材料は、2nm未満の細孔径を有する第1のタイプの細孔を有しており、細孔径は窒素物理吸着で決定できる。
【0048】
粉末状の複合電極(陽極)を製造する為に、乾燥したTiC-CDCを、i)気相から成長した炭素ナノ繊維(VG-CNF)、ii)導電性炭素添加剤、iii)固体電解質(Li6PS5Cl=SE)と、60:5:35の質量比で30分間、メノウ乳鉢の中で、手動で混合した。
【0049】
続いて、直径13mmの金型を用いて、テフロン(登録商標)ライナー付きのステンレス製アウターケーシングにハーフセルを作製した。直径13mm、厚さ50μmのLi箔(対向電極)を金型内に配置し、その上に固体電解質粉末(Li6PS5Cl粉末=SE粉末)150gをマイクロスパチュラで均一に散布した。この合成物を圧縮してペレットにした。
【0050】
次に、TiC-CDC複合体粉末(7.44mg)(試験電極)を、金型内で圧縮された固体電解質表面に均一に散布して、4トンの油圧プレスを用いて30秒間かけて再度圧縮した。その結果、セルの活物質応力は3.36mg/cm2となった。
【0051】
セルの電気化学的挙動は、バッテリーテスターVMP3(フランス、バイオロジック(BioLogic)社)で測定した。ここでは、25℃の一定温度で、0V超の電位と0Vの電位で、陽極(本発明による炭素層を有する)の再可逆容量を対極(リチウム金属箔)に対して試験した(対Li/Li+)。
【0052】
炭素層の炭素活性母材を0Vにリチウム化し、次のステップで、電流が-0.01mAを超えるまで0Vの一定電圧にする、そして、炭素層の炭素活性母材を2Vに脱リチウム化するという様々なサイクルを行った。このときの印加電流は0.065mAであった。
【0053】
その結果得られた、TiC-CDCセルのリチウム化と脱リチウム化の3サイクル目と4サイクル目の電位プロファイルが図4に示されている。ハーフセルの3サイクル目で521.0mAh/gTiC-CDCの可逆的なリチウムイオン化容量が観測された。
【符号の説明】
【0054】
1:陰極
2:陽極
3:陽極の導電性の基板
4:一定の幾何学的な領域を超えた伸長
5:炭素層
6:炭素粒子
7:炭素層の第1のタイプの細孔
8:電解質
9:炭素層の第2のタイプの細孔
10:第1のタイプの細孔における蒸着(例えば、リチウム)によって生成された金属アルカリ金属

図1A)】
図1B)】
図1C)】
図2A)】
図2B)】
図3
図4
【国際調査報告】