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特表2022-537052操作された腫瘍選択的タンパク質発現
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-23
(54)【発明の名称】操作された腫瘍選択的タンパク質発現
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20220816BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220816BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220816BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12Q1/6869 Z ZNA
A61K48/00
A61P35/00
A61P43/00 111
G01N33/53 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021576038
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(85)【翻訳文提出日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 US2020038742
(87)【国際公開番号】W WO2020257655
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】62/864,673
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521061298
【氏名又は名称】カーナル バイオロジクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】アークル, ユスフ
(72)【発明者】
【氏名】イルマズ, バラク
(72)【発明者】
【氏名】オズデミール, カフェル
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4C084AA13
4C084MA41
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZC411
(57)【要約】
本開示は、腫瘍選択的翻訳を達成するための技術を提供する。本開示に記載されるがん対正常細胞の翻訳ランドスケープを研究するための2つの相補的パイプラインの使用は、がん細胞特異的タンパク質発現のための合成DNAまたはmRNA構築物を操作するために使用され得る腫瘍選択的配列モチーフの同定を可能にする。本開示は、腫瘍選択的モチーフの特徴を説明し、治療上非常に重要なペイロードをコードするために使用できるモジュール式腫瘍選択的構築物設計の実施形態を提供する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
そのヌクレオチド配列が腫瘍選択的翻訳配列要素であるかまたはその相補体である配列要素を含む、操作された核酸。
【請求項2】
前記操作された核酸のヌクレオチド配列が、オープンリーディングフレームまたはその相補体を含む、請求項1に記載の操作された核酸。
【請求項3】
前記腫瘍選択的翻訳配列要素が、前記オープンリーディングフレーム内または上流の腫瘍選択的リードスルーモチーフであるか、またはそれを含む、請求項2に記載の操作された核酸。
【請求項4】
前記腫瘍選択的リードスルーモチーフが、上流の隣接配列、終止コドン、及び下流の隣接配列を含む、請求項3に記載の操作された核酸。
【請求項5】
腫瘍選択的リードスルーモチーフが、VNNNNNNMNNMWK、NNNVWNNKGHHNH、DVHVNNNCWNNNB、MWBNNNNNNNNNN、WGNNSNHNHDNNN、VNNNNNNNNMWKまたはVMNNNWNKNNNNNを含む群から選択される配列を含み、ここで、VはA、CまたはGを表し、WはAまたはCを表し、WはAまたはT/Uを表し、KはGまたはT/Uを表し、HはA、CまたはT/Uを表し、DはA、GまたはT/Uを表し、BはC、GまたはT/Uを表し、SはGまたはCを表し、Nは、前記リードスルー終止コドン及び前記下流の隣接配列の最初の14ヌクレオチドにまたがる領域内の任意のヌクレオチドを表す、先行請求項のいずれか1項に記載の操作された核酸。
【請求項6】
前記腫瘍選択的リードスルーモチーフは、ステムループ;バルジループ、シュードノット、または前記下流の隣接配列の最初の50ヌクレオチド内のそれらの組み合わせ、ならびに好ましくは終止コドン及び前記下流の隣接配列の最初の16ヌクレオチド内に位置する前記ステムループの一部、またはそれらの組み合わせを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の操作された核酸。
【請求項7】
ステムループが、前記下流の隣接配列の最初の50ヌクレオチド内に20を超える塩基対ヌクレオチドを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の操作された核酸。
【請求項8】
腫瘍選択的リードスルーモチーフは、42%を超える、48%を超える、好ましくは54%を超えるGC含量を有する下流の隣接配列を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の操作された核酸。
【請求項9】
腫瘍選択的リードスルーモチーフが、プロリン残基をコードするコドンを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の操作された核酸。
【請求項10】
前記オープンリーディングフレームが自殺タンパク質をコードする、先行請求項のいずれか1項に記載の操作された核酸。
【請求項11】
前記自殺タンパク質がネクロトーシスを誘発する、請求項10に記載の操作された核酸。
【請求項12】
前記自殺タンパク質が構成的に活性なMLKLである、請求項11に記載の操作された核酸。
【請求項13】
前記自殺タンパク質がピロトーシスを誘発する、請求項10に記載の操作された核酸。
【請求項14】
前記自殺タンパク質が構成的に活性なガスデルミンDである、請求項13に記載の操作された核酸。
【請求項15】
前記操作された核酸は免疫原性が低下している、請求項1に記載の操作された核酸。
【請求項16】
その配列がオープンリーディングフレームまたはその相補体を含み、その中または前に、腫瘍選択的リードスルーモチーフが操作された核酸であって、前記オープンリーディングフレームが、自殺タンパク質、細胞表面抗原、抗体薬剤、毒素、遺伝子修飾タンパク質、またはウイルス複製タンパク質からなる群から選択されるペイロードタンパク質をコードする、前記核酸。
【請求項17】
請求項1に記載の核酸を含む、医薬組成物。
【請求項18】
前記医薬組成物がナノ粒子を含む、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記ナノ粒子が脂質ナノ粒子である、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記操作された核酸がRNAであるかまたはRNAを含む、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記操作された核酸がDNAであるかまたはDNAを含む、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記操作された核酸は、前記医薬組成物の投与がRNAを細胞に送達するように、前記細胞において発現される、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項23】
治療有効量の請求項1に記載の操作された核酸または請求項17に記載の医薬組成物を投与することを含む、対象のがんを治療する方法。
【請求項24】
前記対象の前記がんが発がん性リボソームを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記発がん性リボソームが、p53活性の喪失、RB活性の喪失、FBL過剰発現、またはリボソームタンパク質遺伝子のヘミ接合性喪失のうちの少なくとも1つを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記対象がアミノグリコシド系抗生物質、マクロライド系抗生物質、アタルレン、またはイバカフトール、イバカフトール/ルマカフトールを投与されていない、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記対象が、ダイアモンド-ブラックファン貧血、先天性角化異常症、シュバッハマン-ダイアモンド症候群、5q-骨髄異形成症候群、トリーチャーコリンズ症候群、軟骨-毛形成不全、孤立性先天性無脾症、ボーエン-コンラディ症候群、または北米インドの小児性肝硬変に罹患していない、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記投与のステップが、複数の用量を投与することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記がんに対する免疫応答の1つ以上の特徴をモニタリングするステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記投与のステップは、前記免疫応答が確立されたことを前記モニタリングが検出するまで用量を投与し続けることを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
リードスルーコンセンサス配列、高いG-C含量を有する配列;プロリンをコードするコドン;ステムループ;バルジループ、シュードノット、またはそれらの組み合わせを含む、腫瘍選択的翻訳配列要素。
【請求項32】
トランスクリプトーム全体のトランスラトーム分析を含む、腫瘍選択的核酸配列を同定する方法。
【請求項33】
前記方法が、Ribo-seq及びLC/MSベースのプロテオミクスパイプラインを含む、請求項32に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年6月21日に出願された米国仮出願番号第62/864,673号の優先権を主張し、その全内容は参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
がんの治療のための改善された治療法を開発する必要がある。がん細胞を特異的に標的とするように調整された治療法は、ユニークな治療オプションの機会を提供することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、翻訳可能な核酸配列の腫瘍選択的発現を達成する技術を提供する。
【0004】
治療目的での核酸の送達は、急成長している強力な分野である。特に、特に翻訳可能なRNA分子(例えば、mRNA)を含む、核酸の送達を安定化及び/または達成するための技術に関する分野で重要な進歩が最近遂げられた。
【0005】
とりわけ、本開示は、これらの優れた開発及び米国食品医薬品局によるRNA治療薬の最初の販売承認を含む他の開発にもかかわらず、腫瘍選択性が依然として課題であるという洞察を提供する。本開示は、翻訳可能なRNA(例えば、mRNA)であるかまたはそれを送達するものを含む、核酸の腫瘍選択的翻訳を達成するための技術を提供する。とりわけ、本開示によって達成される腫瘍選択性は、そのような腫瘍選択性なしでは利用できない及び/または推奨できない(例えば、許容できないリスクプロファイルに関連する)特定の治療戦略(例えば、特に有毒な薬剤を含む可能性がある)、例えば、非腫瘍細胞及び/または組織内またはそれらに1つ以上の望ましくない効果を有する可能性のある戦略の使用を可能にする。
【0006】
本開示は、翻訳可能な核酸配列の腫瘍選択的発現を達成する技術を提供する(例えば、mRNAにおいて)。とりわけ、本開示は、翻訳可能な核酸(例えば、mRNA)に含まれる場合に、1つ以上のコードされた産物の腫瘍選択的発現を達成する配列モチーフを定義する。特に、いくつかの実施形態では、本開示は、腫瘍選択的リードスルーモチーフを提供する。
【0007】
本開示は、研究が、腫瘍の発生及び/または進行に関連するリボソームの構造及び機能の変化をますます明らかにしていることを認めている。例えば、Bastide and David Oncogenesis 2018 Apr 7(4):34を参照されたい。本開示は、そのようなリボソーム変化ががん治療を改善するために利用され得ることをさらに認める。とりわけ、本開示は、腫瘍選択的翻訳リードスルーを利用して、翻訳産物(例えば、ポリペプチド)の腫瘍選択的発現及び/または活性を達成できることを教示している。
【0008】
本開示は、例えば、腫瘍選択的リードスルーモチーフなどの腫瘍選択的翻訳配列要素を定義するための技術を提供し、さらに、定義されたそのような腫瘍選択的翻訳配列要素を提供する。さらに、本開示は、がん細胞を標的とすることを意図したペイロードの腫瘍選択的発現及び/または活性(例えば、腫瘍選択的送達及び/または発現を介して)を達成することを目的とする既存の技術に関する様々な洞察を提供する。
【0009】
例えば、本開示は、「腫瘍選択的」または「がん細胞特異的」として記載される多くの技術が、がんと非がんの状況との間の適度な識別のみを達成することが多いことを理解している。例えば、Wroblewska et al.は、細胞内miR-21レベルが高く、miR-141、miR-142(3p)、miR-146aレベルが低い場合に活性化されるmRNA回路を使用し、HEK293細胞(Nat Biotechnol.2015 Aug;33(8):839-41)と比較してHeLa細胞で約6倍高いインビトロ細胞死滅を達成した。同様に、Jain et al.,2018(Nucleic Acid Ther.2018 Oct 1;28(5):285 96.)は、miR-122及びmiR-142標的部位の挿入を使用して、肝臓と脾臓でそれぞれインビボmRNA活性を89%及び85%減少させた(約6~10倍の減少に相当する)。しかし、腫瘍内に注入された場合、miRNA標的部位に挿入されたmRNAのかなりの部分が、腫瘍浸潤免疫細胞を含む健康な細胞に取り込まれることも示された(Hewitt et al.,Sci Transl Med.2019 Jan 30;11(477))。免疫細胞におけるこの活性は、細胞殺傷タンパク質をコードするmRNAの免疫腫瘍学への応用には逆効果となる可能性がある。
【0010】
本開示は、特に、翻訳リードスルーに寄与する可能性のある配列要素を評価するための特定の既存の技術に関する問題の原因を特定する。とりわけ、リボソームプロファイリングは、翻訳のリードスルーを推測するために使用されてきた。しかし、リボソームプロファイリングには、リボソームの速度を低下させたり失速させたりするRNA配列及び構造に偏りがある。したがって、これらのイベントは過剰に表現され、単独で使用した場合、リードスルーの効率の決定が不正確になる可能性がある。一方、LC/MSベースのプロテオミクスアプローチは、RNAレベルのアーティファクトはないが、飛行性(イオン化、移動、検出の効率が低い)または存在量の低いペプチドを見逃す可能性があるため、偽陰性率が高くなる。したがって、本開示は、とりわけ、翻訳リードスルーに寄与する可能性のある配列要素を評価するための技術の新規な使用を記載している。
【0011】
いくつかの実施形態において、本開示は、適切な比較可能な非がん細胞(複数可)と比較してがん細胞(複数可)において翻訳が好ましく起こる場合、翻訳が「腫瘍選択的」であると見なす。例えば、いくつかの実施形態において、翻訳は、適切な比較可能な非がん細胞と比較して、がん細胞(複数可)において少なくとも2倍高いことが観察された場合、腫瘍選択的であると見なされ得る。いくつかの実施形態において、腫瘍選択的翻訳は、適切に比較可能な非がん細胞と比較して、がん細胞(複数可)において少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、15、20倍以上高くなり得る。
【0012】
いくつかの実施形態において、腫瘍選択的翻訳は、腫瘍特異的であると見なされ得る(例えば、翻訳が適切な比較可能な非がん細胞(複数可)では検出できないが、関連するがん細胞(複数可)では検出可能である場合)。
【0013】
いくつかの実施形態において、本開示は、そのヌクレオチド配列が腫瘍選択的翻訳配列要素である(またはその相補体である)配列要素を含む、操作された核酸を提供する。したがって、いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書に記載の腫瘍選択的翻訳配列要素を含む、及び/またはペイロード配列の腫瘍選択的翻訳を示す翻訳可能な核酸(例えば、RNA、及び具体的にはmRNA)であるかまたはそれを送達する技術を提供する。
【0014】
いくつかの実施形態において、本開示は、そのヌクレオチド配列が腫瘍選択的翻訳配列要素であるかまたはその相補体である配列要素を含む、操作された核酸を提供する。いくつかの実施形態において、操作された核酸のヌクレオチド配列は、オープンリーディングフレームまたはその相補体を含む。いくつかの実施形態において、腫瘍選択的翻訳配列要素は、オープンリーディングフレーム内もしくは上流の腫瘍選択的リードスルーモチーフであるか、またはそれを含む。いくつかの実施形態において、腫瘍選択的リードスルーモチーフは、上流の隣接配列、終止コドン、及び下流の隣接配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、腫瘍選択的リードスルーモチーフは、VNNNNNNMNNMWK、NNNVWNNKGHHNH、DVHVNNNCWNNNB、MWBNNNNNNNNNN、WGNNSNHNHDNNN、VNNNNNNNNMWKまたはVMNNNWNKNNNNNを含む群から選択される配列を含み、ここで、VはA、CまたはGを表し、WはAまたはCを表し、WはAまたはT/Uを表し、KはGまたはT/Uを表し、HはA、CまたはT/Uを表し、DはA、GまたはT/Uを表し、BはC、GまたはT/Uを表し、SはGまたはCを表し、Nは、リードスルー終止コドン及び下流の隣接配列の最初の14ヌクレオチドにまたがる領域内の任意のヌクレオチドを表す。いくつかの実施形態において、腫瘍選択的リードスルーモチーフは、ステムループ;バルジループ、シュードノット、または下流の隣接配列の最初の50ヌクレオチド内のそれらの組み合わせ、ならびに好ましくは終止コドン及び下流の隣接配列の最初の16ヌクレオチド内に位置するこのステムループの一部、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、ステムループは、下流の隣接配列の最初の50ヌクレオチド内に20を超える塩基対ヌクレオチドを含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、腫瘍選択的リードスルーモチーフは、42%を超える、48%を超える、好ましくは54%を超えるGC含量を有する下流の隣接配列を含む。いくつかの実施形態において、腫瘍選択的リードスルーモチーフは、プロリン残基をコードするコドンを含む。いくつかの実施形態において、操作された核酸のオープンリーディングフレームは、自殺タンパク質をコードする。いくつかの実施形態において、操作された核酸は、免疫原性が低下している。
【0017】
いくつかの実施形態において、本開示は、その配列がオープンリーディングフレームまたはその相補体を含み、その中または前に、腫瘍選択的リードスルーモチーフが操作された核酸を提供し、ここで、オープンリーディングフレームが、自殺タンパク質、細胞表面抗原、抗体薬剤、毒素、遺伝子修飾タンパク質、またはウイルス複製タンパク質からなる群から選択されるペイロードタンパク質をコードする。いくつかの実施形態において、本開示は、そのヌクレオチド配列が腫瘍選択的翻訳配列要素であるかまたはその相補体である配列要素を含む、操作された核酸を含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、ナノ粒子を含む。いくつかの実施形態において、操作された核酸は、医薬組成物の投与がRNAを細胞に送達するように、細胞において発現される。
【0018】
いくつかの実施形態において、本開示は、対象におけるがんを治療する方法を提供し、この方法は、治療有効量の操作された核酸または操作された核酸を含む医薬組成物を投与することを含み、操作された核酸のヌクレオチド配列は、腫瘍選択的翻訳配列要素であるかまたはその相補体である配列要素を含む。いくつかの実施形態において、治療された対象におけるがんは、発がん性リボソームを含む。いくつかの実施形態において、発がん性リボソームは、p53活性の喪失、RB活性の喪失、FBL過剰発現、またはリボソームタンパク質遺伝子のヘミ接合性喪失のうちの少なくとも1つを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、本開示は、リードスルーコンセンサス配列、高いG-C含量を有する配列;プロリンをコードするコドン;ステムループ;バルジループ、シュードノット、またはそれらの組み合わせを含む腫瘍選択的翻訳配列要素を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、腫瘍選択的核酸配列を同定する方法を提供し、この方法は、トランスクリプトーム全体のトランスラトーム分析を含む。いくつかの実施形態において、本開示は、オープンリーディングフレーム内またはその前にリードスルーモチーフを挿入することにより、腫瘍選択的核酸を操作する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】例示的な腫瘍選択的リードスルーモチーフの概略図である。各モチーフは、上流の隣接配列、終止コドン、及び下流の隣接配列を含む。上流の隣接配列(約60ヌクレオチド)は、コドンの3番目(ぐらつき)の位置内に高いGC含量を持っている。下流の隣接配列(約50ヌクレオチド)は、GC含量が高く、最初の10~12ヌクレオチド内に線形コンセンサス配列があり、ステムループ構造(または別の安定したRNA構造)がある。
図2】U1nからU10nまでの構築物マップである。各構築物には、7-メチルグアノシンキャップ、5’UTR、コード領域、3’UTR、及びポリAテール(転写後に追加)が含まれている。コード領域は、開始コドン(ATG/AUG)、リードスルー(RT)モチーフ、自己切断ペプチド、及び最初のATG/AUGを欠くナノルシフェラーゼコード領域(オープンリーディングフレーム)を含む。このモジュラー設計により、ベクターバックボーンとRTモチーフを維持しながら、コードされた遺伝子を迅速に置き換えることができる。
図3】テストされた構築物の翻訳活性を示す図である。トランスフェクションの24時間前に、健康な(HUVEC)細胞及びがん(NCI-H1299)細胞を播種した。リポフェクタミン配合構築物(U1n-U10n)を室温で15分間インキュベートした後、細胞培養培地に添加した。ナノルシフェラーゼ活性を16時間後に測定した。トランスフェクションは3回行い、データは平均+/-SDとして示されている。
図4】例示的なリードスルーモチーフの二次構造を示す図である。U2n構築物の終止コドンを取り巻くリードスルーモチーフには、内部ループ及びバルジを備えた大きなステムループ構造が含まれている。
図5】Onco-333の構成マップである。Onco-333の設計には、キャップ構造、5’UTR配列、リードスルーモチーフを含むホタルルシフェラーゼ(fLuc)コード領域、3’UTR配列、及びポリAテール(転写後に追加)が含まれる。
図6】Onco-333mRNAのインビトロ試験を示す図である。Onco-333mRNAは、健康な細胞(BJ線維芽細胞)、形質転換細胞(Rb及びp53機能を抑制するAd E1A及びE1Bを発現するHEK293細胞)、及び白血病細胞(K562)にトランスフェクトされ、健康な細胞で検出可能なfLuc活性がないことを示している。ルシフェラーゼ活性は、Bright Glo Assay(Promega)によって測定した。トランスフェクションは3回行い、データは平均+/-SDとして示されている。
図7】Onco-333mRNAのインビボ試験を示す図である。Onco-333mRNA及び野生型mRNA(対照mRNA)は、TransIT mRNA試薬を使用して製剤化され、健康なC57/Bl6マウスに注射(静脈注射)された。24時間後、肝臓、脾臓、骨髄(BM)、及び肺組織ホモジネートのfLuc活性レベルをエクスビボで測定し、これは、Onco-333がインビボでも腫瘍選択的であることを示している(群あたりn=3)。
図8】ヒトとマウスの白血病、及びTP53変異を有する肺癌細胞株におけるOnco-333活性を示す図である。マウス非小細胞肺癌細胞(LL/2)、ヒト非小細胞肺癌細胞(NCI-H1299)、ヒト急性骨髄性白血病(HL-60)、マウス急性骨髄性白血病(C1498)細胞にOnco-333mRNAをトランスフェクトし、24時間後にfLuc活性を測定した。(実験は3回行い、データは平均+/-SDとして示されている)。TP53の変異状態は次のとおりである。LL2:c.G1001C:p.R334P、H1299:ホモ接合のc.(del)、HL60:ホモ接合のc.(del)。
図9】リードスルー転写物の3’UTR配列内に見られる配列の特徴の分析を示す図である。健康なRT転写物及びがんのRT転写物は、位置重み行列(PWM)を使用して分析した。これは、配列の特徴が同じ正確なヌクレオチド位置にあることを前提としている。分析の前景にはRT転写物が含まれ、背景には3’UTRからのヒトトランスクリプトームの最初の120ヌクレオチドの残りが含まれていた。終止コドン(琥珀、黄土色、オパール)は完全に整列していた。さらに、RT mRNA転写物の3’UTR配列の最初の120ヌクレオチドの分析は、GCが豊富な配列を示した。赤い水平線は、過剰発現または過少発現のp<0.05有意線である。左に示すように、健康なRT転写物には有意な傾向はない。一方、がんの転写物は、最初の48~50ヌクレオチド内でG-Cの過剰発現及びAUの過少発現を示す。
図10】リードスルー転写物のコード領域配列内に見られる配列の特徴の分析を示す図である。3’UTRの最初の領域に加えて、がんのRT転写物のコード配列(CDS)領域の最後のヌクレオチドにも、健康なRT転写物では観察されないいくつかの異なる傾向がある。示されているように、TAG及びTGA終止コドンを有するがん特異的RT転写物は、ぐらつく塩基でG/Cヌクレオチドの過剰発現を示す。より強い二次構造はより高いG/Cヌクレオチド含量を必要とするが、コード領域には正しいタンパク質をコードするためのコドン制約があり、ほとんどのコドンの最初の2つの位置が固定されている。
図11】塩基対カバレッジ分析を示す図である。RNAモチーフの二次構造を分析するために、がんRT及び健康なRT転写物は、Co-foldアルゴリズムを介してmRNA全体として折り畳まれた。がんRT転写物及び健康なRT転写物の終止コドン(終止コドンを含むCDSでは100ヌクレオチド、3’UTRでは100nt)の周りの領域のドットブラケット表記が抽出された。カバレッジ分析は、各ヌクレオチド位置(x軸)上でアーチ状になっている塩基対(y軸)の数を特定することによって実行された。オレンジ色の線は健康なRT転写物を示し、青い線はがんのRT転写物を示す。この分析は、終止コドンのリードスルーが終止コドンの周りにより多くの構造化された領域を必要とすることを示している。終止コドンはX軸の2~4の位置にある。がんの転写物は、終止コドン及び3’UTRの最初の16ヌクレオチドの周りにより多く構造化されている。
図12】腫瘍選択的リードスルー転写物内の線形コンセンサス配列を示す図である。黄土色の健康及びがんRT転写物の3’UTR領域の最初の13ヌクレオチドは、GLAM2(Gapped Local Alignment of Motifs)を介して分析した。これは、配列の特徴が同じ正確なヌクレオチド位置にあるとは想定していない。この分析により、次のコンセンサス配列:VNNNNNNMNNMWK、NNNVWNNKGHHNH、DVHVNNNCWNNNB、MWBNNNNNNNNNN、WGNNSNHNHDNNN、VNNNNNNNNMWKまたはVMNNNWNKNNNNNが明らかになった。ここで、VはA、CまたはGを表し、WはAまたはCを表し、WはAまたはT/Uを表し、KはGまたはT/Uを表し、HはA、CまたはT/Uを表し、DはA、GまたはT/Uを表し、BはC、GまたはT/Uを表し、SはGまたはCを表し、Nは任意のヌクレオチドを表す。
図13】腫瘍選択的リードスルー転写物内の線形コンセンサス配列を示す図である。黄土色の健康及びがんRT転写物の3’UTR領域の最初の13ヌクレオチドは、GLAM2(Gapped Local Alignment of Motifs)を介して分析した。これは、配列の特徴が同じ正確なヌクレオチド位置にあるとは想定していない。この分析により、次のコンセンサス配列:VNNNNNNMNNMWK、NNNVWNNKGHHNH、DVHVNNNCWNNNB、MWBNNNNNNNNNN、WGNNSNHNHDNNN、VNNNNNNNNMWKまたはVMNNNWNKNNNNNが明らかになった。ここで、VはA、CまたはGを表し、WはAまたはCを表し、WはAまたはT/Uを表し、KはGまたはT/Uを表し、HはA、CまたはT/Uを表し、DはA、GまたはT/Uを表し、BはC、GまたはT/Uを表し、SはGまたはCを表し、Nは任意のヌクレオチドを表す。
図14】深層学習を使用した、異なる終止コドンを持つ腫瘍選択的リードスルー転写物の比較分析を示す図である。フィードフォワードディープニューラルネットワーク(完全に接合されたオートエンコーダー)モデルを構築し、UAG(琥珀)、UAA(黄土色)、及びUGA(オパール)コドンに続くリードスルー配列の類似性を分析するために、がんリードスルー転写物の3’UTR領域の最初の13ヌクレオチドでトレーニングした。次に、主成分分析から2D及び3D画像を生成した。これは、UGAが表現を広げているのに対し、琥珀色及び黄土色の転写物が潜在空間に非常に密集していることを示している。これは、文献で報告されている終止コドンの効率と相関している。
図15】深層学習を使用した、異なる終止コドンを持つ腫瘍選択的リードスルー転写物の比較分析を示す図である。フィードフォワードディープニューラルネットワーク(完全に接合されたオートエンコーダー)モデルを構築し、UAG(琥珀)、UAA(黄土色)、及びUGA(オパール)コドンに続くリードスルー配列の類似性を分析するために、がんリードスルー転写物の3’UTR領域の最初の13ヌクレオチドでトレーニングした。次に、主成分分析から2D及び3D画像を生成した。これは、UGAが表現を広げているのに対し、琥珀色と黄土色の転写物が潜在空間に非常に密集していることを示している。これは、文献で報告されている終止コドンの効率と相関している。
図16】熱感受性SV40ラージT抗原を介したp53阻害の有無にかかわらず、細胞におけるOnco-333活性をさらに示す図である。32℃で増殖した細胞は、p53活性を阻害する機能的なSV40を有し、p53を脱阻害する39℃で増殖した細胞と比較して、Onco-333の発現が高い。
図17】A及びBは、本開示に記載されている腫瘍選択的モチーフを使用した2つのレポーターペイロードの腫瘍選択的発現をさらに示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
投与:本明細書で使用される用語「投与」は典型的には、組成物の対象またはシステムへの投与を指す。当業者であれば、適切な状況下で対象、例えばヒトに投与するために利用され得る種々の経路を認識していよう。例えば、いくつかの実施形態において、投与は、全身的または局所的であり得る。いくつかの実施形態では、投与は経腸的または非経口的であり得る。いくつかの実施形態では、投与は注射(例えば、筋肉内、静脈内、または皮下注射)によるものであり得る。いくつかの実施形態において、注射は、ボーラス注射、点滴、灌流、または注入を含み得る。いくつかの実施形態において、投与は局所的であり得る。当業者は、本明細書に記載の特定の治療法で使用するための適切な投与経路、例えば、耳介(耳)、頬側、結膜、皮膚、歯、子宮頸管内、副鼻腔内、気管内、腸内、硬膜外、羊膜外、体外、間質内、腹内、羊膜内、動脈内、関節内、胆管内、気管支内、嚢内、心臓内、軟骨内、尾側、海綿内、腔内、脳内、槽内、角膜内、冠動脈内、体腔内、皮内、脊髄内、腺管内、十二指腸内、硬膜内、表皮内、食道内、胃内、歯肉内、病変内、管腔内、リンパ腺内、骨髄内、髄膜内、筋肉内、眼内、卵巣内、心膜内、腹腔内、胸膜内、前立腺内、肺内、鼻腔内、脊髄内、滑液嚢内、腱内、精巣内、髄腔内、胸腔内、小管内、腫瘍内、鼓室内、子宮内、脈管内、静脈内、静脈内ボーラス、静脈内点滴、脳室内、硝子体内、喉頭部、経鼻、経鼻胃、眼、経口、口咽頭、非経口、経皮、関節周囲、硬膜外、神経周囲、歯周、直腸、呼吸器(例えば、吸入)、眼球後部、軟部組織、クモ膜下、結膜下、皮下、舌下、粘膜下、局所、経皮吸収、経粘膜、経胎盤、経気管、尿管、尿道、または膣を含む、www.fda.govにリストされているものを認識していよう。いくつかの実施形態において、投与は、電気浸透、血液透析、浸潤、イオントフォレーシス、灌注、及び/または密封包帯を含み得る。いくつかの実施形態では、投与は、間欠的な(例えば、時間的な隔たりがある複数の用量の)投薬及び/または定期的な(例えば、一定期間を隔てた個々の用量の)投薬を含み得る。いくつかの実施形態では、投与は、連続投薬を含み得る。
【0022】
作用物質:本明細書で使用される「作用物質」という用語は、例えば、小分子、ポリペプチド、核酸、糖類、脂質、金属、またはそれらの組み合わせもしくは複合体を含む任意の化学的分類の化合物、分子、または実体を指し得る。いくつかの実施形態では、「作用物質」という用語は、ポリマーを含む化合物、分子、または実体を指し得る。いくつかの実施形態では、この用語は、1つ以上の高分子部分を含む化合物または実体を意味し得る。いくつかの実施形態では、「作用物質」という用語は、特定の高分子または高分子部分を実質的に含まない化合物、分子、または実体を意味し得る。いくつかの実施形態では、この用語は、いかなる高分子または高分子部分も欠いている、または実質的に含まない化合物、分子、または実体を意味し得る。
【0023】
アミノ酸:本明細書で使用される「アミノ酸」という用語は、例えば1以上のペプチド結合の形成によってポリペプチド鎖に組み込まれ得る任意の実体を意味する。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、一般構造HN-C(H)(R)-COOHを有する。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸である。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、非天然アミノ酸である。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、D-アミノ酸である。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、L-アミノ酸である。本明細書で使用される「標準アミノ酸」という用語は、天然に存在するペプチドに一般的に見出される20種類のL-アミノ酸のうちのいずれかを意味する。「非標準アミノ酸」は、天然源であるか、天然源から得られるかと問わず、標準アミノ酸以外の任意のアミノ酸を意味する。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、ポリペプチドにおけるカルボキシ末端及び/またはアミノ末端のアミノ酸を含め、上記の一般構造と比較して構造修飾を含んでもよい。例えば、いくつかの実施形態では、アミノ酸は、一般構造と比較して、(例えば、アミノ基、カルボン酸基、1以上のプロトン、及び/またはヒドロキシル基の)メチル化、アミド化、アセチル化、ペグ化、グリコシル化、リン酸化、及び/または置換によって修飾されていてもよい。いくつかの実施形態では、このような修飾は、例えば、修飾されたアミノ酸を含むポリペプチドの安定性または循環半減期を、修飾されていないことを除いては同一のアミノ酸を含むものと比較して変化させ得る。いくつかの実施形態では、このような修飾は、修飾されたアミノ酸を含むポリペプチドの関連する活性を、修飾されていないことを除いては同一のアミノ酸を含むものと比較して著しく変化させない。文脈から明らかになるように、いくつかの実施形態では、「アミノ酸」という用語は、遊離アミノ酸を意味するように使用される場合がある。いくつかの実施形態では、この用語は、ポリペプチドのアミノ酸残基、例えば、ポリペプチド内のアミノ酸残基を意味するように使用される場合がある。
【0024】
抗体:本明細書で使用する場合、「抗体」という用語は、特定の標的抗原への特異的結合をもたらすのに十分である標準的な免疫グロブリン配列要素を含むポリペプチドを意味する。当該技術分野において知られているように、天然に産生されるようなインタクト抗体は、「Y字型」構造と一般的に称される、互いに会合する、2個の同一の重鎖ポリペプチド(各約50kD)、及び2個の同一の軽鎖ポリペプチド(各約25kD)から構成される、約150kDの四量体薬剤である。各重鎖は、少なくとも4つのドメイン(各々約110アミノ酸長)から構成されている。すなわち、アミノ末端可変(VH)ドメイン(Y構造の先端に位置する)の後に、3つの定常ドメイン:CH1、CH2、及びカルボキシ末端CH3(Yの基部の先端に位置する)が続いている。「スイッチ」として知られている、短い領域は、重鎖可変領域及び定常領域を接合する。「ヒンジ」は、CH2及びCH3ドメインを抗体の残りに接合する。このヒンジ領域中の2箇所のジスルフィド結合は、インタクト抗体中で2個の重鎖ポリペプチドを互いに接合する。各軽鎖は2つのドメインから構成されている。すなわち、アミノ末端可変(VL)ドメインの後にカルボキシ末端定常(CL)ドメインが続き、これらは、別の「スイッチ」によって互いから分離している。インタクト抗体四量体は、2つの重鎖-軽鎖二量体から構成されている。これらの二量体において、重鎖及び軽鎖が1つのジスルフィド結合によって互いに結合し、2つの他のジスルフィド結合が重鎖ヒンジ領域を互いに接続することにより、二量体同士が接続され、四量体が形成される。また、天然に産生された抗体は、典型的にはCH2ドメインでグリコシル化されている。自然抗体の各ドメインは、2つのベータシート(例えば、3本鎖、4本鎖、または5本鎖のシート)同士がまとまって固まった逆平行ベータバレルになることから形成された「免疫グロブリンフォールド」によって特徴付けられる構造を有する。各可変ドメインは、「相補性決定領域」として知られる3つの超可変ループ(CDR1、CDR2、及びCDR3)、及び4つの若干不変な「フレームワーク」領域(FR1、FR2、FR3、及びFR4)を含む。自然抗体がフォールドするとき、FR領域がベータシートを形成してドメインの構造フレームワークとなり、重鎖と軽鎖の両方のCDRループ領域が三次元空間で結合する結果、Y構造の先端に位置する1つの超可変抗原結合部位を作る。天然に存在する抗体のFc領域は、補体系の要素に結合し、例えば細胞傷害性を媒介するエフェクター細胞などのエフェクター細胞の受容体にも結合する。当該技術分野において公知であるように、Fc受容体に対するFc領域の親和性及び/または他の結合特性は、グリコシル化または他の修飾を介して調節することができる。いくつかの実施形態では、本発明に従い生成及び/または利用される抗体は、グリコシル化されたFcドメイン、例えばグリコシル化などの修飾または工学操作を受けたFcドメインを含む。本発明では、特定の実施形態において、自然抗体に見出されるような十分な免疫グロブリンドメイン配列を含むポリペプチドまたはポリペプチドの複合体はいずれも、かかるポリペプチドが天然に生成されている(例えば、抗原に反応する生物によって生成されている)か、または組換え工学操作、化学合成、もしくは他の人工システムもしくは方法論によって生成されているかにかかわらず、「抗体」と称される及び/または「抗体」として使用される場合がある。いくつかの実施形態では、抗体はポリクローナルである。いくつかの実施形態では、抗体はモノクローナルである。いくつかの実施形態では、抗体は、マウス抗体、ウサギ抗体、霊長類抗体、またはヒト抗体に特徴的な定常領域配列を有する。いくつかの実施形態では、抗体配列要素は、当該技術分野で公知であるように、ヒト化されたもの、霊長類化されたもの、キメラなどである。さらに、本明細書で使用する「抗体」という用語は、適切な実施形態(別段の記載がない限り、または文脈から明らかでない限り)において、代替的な実施態様において抗体の構造及び機能的特徴を利用するための当該技術分野において公知である、または開発された構築物またはフォーマットのいずれかを意味し得る。例えば、諸実施形態では、本発明に従い利用される抗体は、限定するものではないが、インタクトIgA、IgG、IgEまたはIgM抗体;二重特異性抗体または多特異性抗体(例えば、Zybodies(登録商標)など);抗体断片、例えばFab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離されたCDRまたはそれらのセット;一本鎖Fv;ポリペプチド-Fc融合物;単一ドメイン抗体(例えば、IgNARまたはその断片などのサメ単一ドメイン抗体);ラクダ科抗体;マスク抗体(例えば、Probodies(登録商標));Small Modular ImmunoPharmaceuticals(「SMIPs(商標)」);一本鎖ダイアボディまたはタンデムダイアボディ(TandAb(登録商標));VHH;Anticalins(登録商標);Nanobodies(登録商標)ミニボディ;BiTE(登録商標);アンキリンリピートタンパク質またはDARPINs(登録商標);Avimers(登録商標);DART;TCR様抗体;Adnectins(登録商標);Affilins(登録商標);Trans-bodies(登録商標);Affibodies(登録商標);TrimerX(登録商標);MicroProteins;Fynomers(登録商標)、Centyrins(登録商標);ならびにKALBITOR(登録商標)から選択されるフォーマットである。いくつかの実施形態では、抗体は、天然に産生された場合には有しているはずの共有結合的修飾(例えば、グリカンの結合)を欠いている場合がある。いくつかの実施形態において、抗体は、共有結合的修飾(例えば、グリカンの付着)、ペイロード(例えば、検出可能な部分、処置部分、触媒部分など)、または他のペンダント基(例えば、ポリエチレングリコールなど)を含むことができる。
【0025】
抗体薬剤:本明細書で使用される場合、用語「抗体薬剤」は、特定の抗原に特異的に結合する薬剤を指す。いくつかの実施形態では、この用語は、特異的結合を付与するのに十分な免疫グロブリン構造的要素を含む任意のポリペプチドまたはペプチド複合体を包含する。例示的な抗体薬剤は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、抗体薬剤は、マウス、ウサギ、霊長目、またはヒト抗体に特徴的な1つ以上の定常領域配列を含み得る。いくつかの実施形態では、抗体薬剤は、当該技術分野で公知であるように、ヒト化されたもの、霊長類化されたもの、キメラなどである1つ以上の配列要素を含み得る。いくつかの実施形態では、「抗体薬剤」という用語は、代替的な実施態様において抗体の構造及び機能的特徴を利用するための当該技術分野において公知である、または開発された構築物またはフォーマットの1つ以上を意味するために使用される。例えば、諸実施形態では、本発明に従い利用される抗体薬剤は、限定するものではないが、インタクトIgA、IgG、IgEまたはIgM抗体;二重特異性抗体または多特異性抗体(例えば、Zybodies(登録商標)など);抗体断片、例えばFab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離されたCDRまたはそれらのセット;一本鎖Fv;ポリペプチド-Fc融合物;単一ドメイン抗体(例えば、IgNARまたはその断片などのサメ単一ドメイン抗体);ラクダ科抗体;マスク抗体(例えば、Probodies(登録商標));Small Modular ImmunoPharmaceuticals(「SMIPs(商標)」);一本鎖ダイアボディまたはタンデムダイアボディ(TandAb(登録商標));VHH;Anticalins(登録商標);Nanobodies(登録商標)ミニボディ;BiTE(登録商標);アンキリンリピートタンパク質またはDARPINs(登録商標);Avimers(登録商標);DART;TCR様抗体;Adnectins(登録商標);Affilins(登録商標);Trans-bodies(登録商標);Affibodies(登録商標);TrimerX(登録商標);MicroProteins;Fynomers(登録商標)、Centyrins(登録商標);ならびにKALBITOR(登録商標)から選択されるフォーマットである。いくつかの実施形態では、抗体は、天然に産生された場合には有しているはずの共有結合的修飾(例えば、グリカンの結合)を欠いている場合がある。いくつかの実施形態では、抗体は、共有結合的修飾(例えば、グリカンの結合、ペイロード[例えば、検出可能な部分、治療的な部分、触媒部分など]、または他のペンダント基[例えば、ポリエチレングリコールなど])を含むことができる。多くの実施形態では、抗体薬剤は、そのアミノ酸配列が相補性決定領域(CDR)として当業者に認識された1つ以上の構造的要素を含むポリペプチドであるか、そのアミノ酸配列が相補性決定領域(CDR)として当業者に認識された1つ以上の構造的要素を含むポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、抗体薬剤は、そのアミノ酸配列が参照抗体で見られるものに実質的に同一である少なくとも1つのCDR(例えば、少なくとも1つの重鎖CDR及び/または少なくとも1つの軽鎖CDR)を含むポリペプチドであるか、またはそのアミノ酸配列が参照抗体で見られるものに実質的に同一である少なくとも1つのCDR(例えば、少なくとも1つの重鎖CDR及び/または少なくとも1つの軽鎖CDR)を含むポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、含まれたCDRは、配列が同一であるか、または参照CDRと比較した場合1~5のアミノ酸置換を含むかのいずれかであるという点で、参照CDRに実質的に同一である。いくつかの実施形態では、含まれたCDRは、参照CDRとの85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を示すという点で、参照CDRに実質的に同一である。いくつかの実施形態では、含まれたCDRは、参照CDRとの96%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を示すという点で、参照CDRに実質的に同一である。いくつかの実施形態では、含まれたCDRは、含まれたCDR内の少なくとも1つのアミノ酸が参照CDRと比較した場合欠失、付加、または置換されるが、含まれたCDRが参照CDRのものと他の点では同一であるアミノ酸配列を有するという点で、参照CDRに実質的に同一である。いくつかの実施形態では、含まれたCDRは、含まれたCDR内の1~5のアミノ酸が参照CDRと比較した場合欠失、付加、または置換されるが、含まれたCDRが参照CDRと他の点では同一であるアミノ酸配列を有するという点で、参照CDRに実質的に同一である。いくつかの実施形態では、含まれたCDRは、含まれたCDR内の少なくとも1つのアミノ酸が参照CDRと比較した場合置換されるが、含まれたCDRが参照CDRのものと他の点では同一であるアミノ酸配列を有するという点で、参照CDRに実質的に同一である。いくつかの実施形態では、含まれたCDRは、含まれたCDR内の1~5のアミノ酸が参照CDRと比較した場合欠失、付加、または置換されるが、含まれたCDRが参照CDRと他の点では同一であるアミノ酸配列を有するという点で、参照CDRに実質的に同一である。いくつかの実施形態では、抗体薬剤は、そのアミノ酸配列が免疫グロブリン可変ドメインとして当業者に認識された構造的要素を含むポリペプチドであるか、またはそのアミノ酸配列が免疫グロブリン可変ドメインとして当業者に認識された構造的要素を含むポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、抗体薬剤は、免疫グロブリン結合ドメインに対して相同であるか、または大部分が相同である結合ドメインを有するポリペプチドタンパク質である。
【0026】
がん:本明細書で使用される場合、「がん」という用語は、細胞が比較的に異常な、制御されていない、及び/または自律的な成長を示し、その結果、それらが異常に高い増殖速度及び/または細胞増殖の制御の有意な喪失を特徴とする異常な成長表現型を示す疾患、障害、または状態を指す。いくつかの実施形態では、がんは、1つ以上の腫瘍によって特徴付けられることができる。当業者は、例えば、副腎皮質癌、星細胞腫、基底細胞癌、カルチノイド、心臓の、胆管細胞癌、脊索腫、慢性骨髄増殖性腫瘍、頭蓋咽頭癌、非浸潤性乳管癌、上衣腫、眼球内黒色腫、消化管カルチノイド、消化管間質腫瘍(GIST)、妊娠性絨毛性疾患、神経膠腫、組織球症、白血病(例えば、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、有毛細胞白血病、骨髄性白血病、骨髄性白血病)、リンパ腫(例えば、バーキットリンパ腫[非ホジキンリンパ腫]、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、菌状息肉症、セザリー症候群、エイズ関連リンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)、黒色腫、メルケル細胞癌腫、中皮腫、骨髄腫(例、多発性骨髄腫)、骨髄異形成症候群、乳頭腫症、傍神経節腫、褐色細胞腫、胸膜肺芽腫、網膜芽細胞腫、肉腫(例えば、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、骨肉腫、横紋筋肉腫、子宮肉腫、脈管肉腫)、ウィルムス腫瘍、及び/または副腎皮質、肛門、虫垂、胆管、膀胱、骨、脳、乳房、気管支、中枢神経系、子宮頸部、結腸、子宮内膜、食道、目、卵管、胆嚢、消化管、生殖細胞、頭頸部、心臓、腸、腎臓(例えば、ウィルムス腫瘍)、喉頭、肝臓、肺(例えば、非小細胞肺癌、小細胞肺癌)、口、鼻腔、口腔、卵巣、膵臓、直腸、皮膚、胃、精巣、喉、甲状腺、陰茎、咽頭、腹膜、下垂体、前立腺、直腸、唾液腺、尿管、尿道、子宮、膣、または外陰のがんを含む様々なタイプのがんを認識している。いくつかの実施形態では、がんは、1つ以上の固形腫瘍である場合もあれば、それを含む場合もある。いくつかの実施形態では、がんは、1つ以上の血液学的腫瘍である場合もあれば、それを含む場合もある。
【0027】
併用療法:本明細書で使用する場合、「併用療法」という用語は、対象が2つ以上の治療計画(例えば、2種以上の治療薬)に同時に曝露される臨床的介入を指す。いくつかの実施形態では、2種以上の治療計画を同時に投与することができる。いくつかの実施形態において、2種以上の治療計画は、連続して投与することができる(例えば、第2の計画の任意の用量の投与の前に第1の計画が投与される)。いくつかの実施形態では、2種以上の治療計画は、重複する投薬計画で投与される。いくつかの実施形態では、併用療法の投与は、1種以上の治療薬剤または治療法の、他の薬剤または治療法を投与されている対象への組み合わせでの投与を含み得る。いくつかの実施形態において、併用療法は、必ずしも個々の薬剤を単一の組成物で一緒に(または必ずしも同時に)投与することを必要としない。いくつかの実施形態において、併用療法の2つ以上の治療薬剤または治療法は、例えば、別々の投与経路(例えば、1つの薬剤が経口、もう1つの薬剤が静脈内投与)を介して別々の組成物で、及び/または異なる時点で対象に別々に投与する。いくつかの実施形態において、2つ以上の治療薬剤は、同じ投与経路を介して、及び/または同時に、組み合わせ組成物で、または組み合わせ化合物で(例えば、単一の化学複合体または共有結合実体の一部として)一緒に投与し得る。
【0028】
比較可能:本明細書で使用する場合、「比較可能」という用語は、2つ以上の薬剤、物質、状況、条件のセットなどであって、互いに同一でなくてもよいが、観察される差または類似性に基づいて結論が合理的に導かれ得ることを当業者が理解する、それらの間の比較を可能にするほど十分に類似する、当該2つ以上の薬剤、物質、状況、条件のセットなどを指す。いくつかの実施形態では、比較可能な条件、状況、個体、または集団のセットは、複数の実質的に同一の特徴及び1つまたは少数の変化する特徴を特徴とする。当業者は、文脈における任意の所与の状況で、2つ以上のかかる薬剤、物質、状況、条件のセットなどが比較可能と見なされるために、どの程度の同一性が必要とされるかを理解するであろう。例えば、当業者は、状況、個体、または集団のセットは、異なる状況、個体、または集団のセットの下で、またはそれらを用いて得られた結果または観察された現象の差が、様々なそれらの特徴の差異により引き起こされるか、または様々なそれらの特徴の差異の存在を示すという合理的な結論を保証するための十分な数及び種類の実質的に同一の特徴を特徴とする場合に、互いに比較可能であることを理解するであろう。
【0029】
対応する:ポリペプチド、核酸、及び化合物の文脈で本明細書で使用される場合、「対応する」という用語は、適切な参照化合物または組成物との比較を通じて、化合物または組成物中の構造要素、例えば、アミノ酸残基、ヌクレオチド残基、または化学部分の位置/同一性を示す。例えば、いくつかの実施形態において、ポリマー中のモノマー残基(例えば、ポリペプチド中のアミノ酸残基またはポリヌクレオチド中の核酸残基)は、適切な参照ポリマー中の残基に「対応する」ものとして同定され得る。例えば、当業者は、簡単にするために、ポリペプチド中の残基が、参照関連ポリペプチドに基づく標準的な番号付けシステムを使用して指定されることが多く、その結果、例えば、位置190の残基に「対応する」アミノ酸が、実際には特定のアミノ酸鎖の190番目のアミノ酸である必要はなく、参照ポリペプチドの190番目の位置にある残基に対応することを理解するであろう。当業者は、「対応する」アミノ酸を同定する方法を容易に理解している(例えば、Benson et al.Nucl.Acids Res.(1 January 2013)41(D1):D36-D42;Pearson et al. PNAS Vol.85,pp.2444-2448,April 1988を参照されたい)。当業者は、例えば、ポリペプチド及び/または拡散における「対応する」残基を特定するために利用できる、例えば、BLAST、CS-BLAST、CUSASW++、DIAMOND、FASTA、GGSEARCH/GLSEARCH、Genoogle、HMMER、HHpred/HHsearch、IDF、Infernal、KLAST、USEARCH、parasail、PSI-BLAST、PSI-Search、ScalaBLAST、Sequilab、SAM、SSEARCH、SWAPHI、SWAPHI-LS、SWIMM、またはSWIPEなどのソフトウェアプログラムを含む、様々な配列アラインメント戦略を知っているであろう。
【0030】
発現:本明細書で使用される場合、核酸配列の「発現」という用語は、核酸配列からの遺伝子産物の生成を指す。いくつかの実施形態において、遺伝子産物は、転写物(例えば、一次転写物またはmRNAなどの処理された転写物)であり得る。いくつかの実施形態において、遺伝子産物は、ポリペプチドであり得る。いくつかの実施形態において、核酸配列の発現は、(1)DNA配列からのRNAテンプレートの生成(例えば、転写による);(2)RNA転写物の処理(例えば、スプライシング、編集、5’キャップ形成、及び/または3’末端形成による);(3)RNAのポリペプチドまたはタンパク質への翻訳;及び/または(4)ポリペプチドまたはタンパク質の翻訳後修飾の1つ以上を含む。
【0031】
隣接配列:本明細書で使用される場合、「隣接配列」という用語は、目的の配列またはドメインの前または後の任意の配列を指す。例えば、終止コドンの上流の領域は、「上流隣接領域」と呼ばれることがある。
【0032】
遺伝子:本明細書で使用される場合、「遺伝子」という用語は、遺伝子産物(例えば、RNA産物及び/またはポリペプチド産物)をコードするDNAまたはRNA配列を指す。いくつかの実施形態において、遺伝子は、コード配列(例えば、特定の遺伝子産物をコードする配列)を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子は非コード配列を含む。いくつかの特定の実施形態において、遺伝子は、コード配列(例えば、エキソン)及び非コード配列(例えば、イントロン)の両方を含み得る。いくつかの実施形態において、遺伝子は、例えば、遺伝子発現(例えば、細胞型特異的発現、誘導性発現)の1つ以上の態様を制御または影響し得る1つ以上の調節要素(例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、終結シグナル)を含み得る。いくつかの実施形態では、遺伝子は、ゲノム(例えば、染色体または他の複製可能な核酸の中または上)に位置するかまたは見出される(または位置するもしくは見出されるものと同一のヌクレオチド配列を有する)。
【0033】
突然変異体:本明細書で使用される場合、「突然変異体」という用語は、参照生物、細胞、または生体分子と比較して遺伝的変異を有する生物、細胞、または生体分子(例えば、核酸またはポリペプチド)を指す。例えば、変異体核酸またはポリペプチドは、いくつかの実施形態において、参照核酸分子と比較して、例えば、1つ以上の残基(例えば、1つ以上のヌクレオバースまたはアミノ酸)の置換、1つ以上の残基の欠失(例えば、内部欠失または切頭)、1つ以上の残基の挿入、2つ以上の残基の反転などを有し得る。当業者は、そのような核酸またはポリペプチド変異体の様々な特定のタイプ、例えば、融合、インデルなどに精通しているであろう。変異体核酸もしくはポリペプチドを含むまたは発現する生物もしくは細胞は、本明細書では「変異体」と呼ばれることもある。いくつかの実施形態において、突然変異体は、遺伝子産物の機能の喪失に関連する遺伝子変異体を含む。機能の喪失は、機能の完全な廃止、例えば、活性(例えば、結合活性、酵素活性など)の廃止、または機能の部分的な喪失、例えば、低下した活性(例えば、結合活性、酵素活性など)であり得る。いくつかの実施形態では、突然変異体は、機能の獲得、例えば、既存の活性の増強、または適切な参照と比較した新しい活性の獲得(例えば、遺伝的変異がない同じ実体)に関連する遺伝的変異を含む。いくつかの実施形態では、機能獲得変異体は、特徴または活性の変化を獲得している可能性がある。いくつかの実施形態において、機能獲得変異体は、構成的活性を有し得る。いくつかの実施形態において、機能喪失変異体は、望ましい活性を失った(または参照と比較して減少した)可能性がある。いくつかの実施形態において、突然変異体の構造、レベル、及び/または活性が比較される参照生物、細胞、または生体分子は、野生型生物、細胞、または生体分子である。
【0034】
核酸:本明細書で使用される場合、「核酸」という用語は、少なくとも3ヌクレオチドのポリマーを指す。いくつかの実施形態では、核酸は、DNAであるか、またはDNAを含む。いくつかの実施形態では、核酸は、RNAであるか、またはRNAを含む。いくつかの実施形態において、核酸は一本鎖である。いくつかの実施形態では、核酸は二本鎖である。いくつかの実施形態において、核酸は、一本鎖部分及び二本鎖部分の両方を含む。いくつかの実施形態において、核酸は、1つ以上のホスホジエステル結合を含む骨格を含む。いくつかの実施形態において、核酸は、ホスホジエステル結合及び非ホスホジエステル結合の両方を含む骨格を含む。例えば、いくつかの実施形態では、核酸は、例えば「ペプチド核酸」のように、1つ以上のホスホロチオエートまたは5’-N-ホスホルアミダイト結合及び/または1つ以上のペプチド結合を含む骨格を含み得る。いくつかの実施形態において、核酸は、1つ以上またはすべての天然残基(例えば、アデニン、シトシン、デオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシグアノシン、デオキシチミジン、グアニン、チミン、ウラシル)を含む。いくつかの実施形態において、核酸は、1つ以上またはすべての非天然残基を含む。いくつかの実施形態において、非天然残基は、ヌクレオシド類似体(例えば、2-アミノアデノシン、2-チオチミジン、イノシン、ピロロ-ピリミジン、3-メチルアデノシン、5-メチルシチジン、C-5プロピニル-シチジン、C-5プロピニル-ウリジン、2-アミノアデノシン、C5-ブロモウリジン、C5-フルオロウリジン、C5-イドウリジン、C5-プロピニルーウリジン、C5-プロピニル-シチジン、C5-メチルシチジン、2-アミノアデノシン、7-デアザアデノシン、7-デアザグアノシン、8-オキソアデノシン、8-オキソグアノシン、0(6)-メチルグアニン、2-チオシチジン、メチル化塩基、挿入塩基、及びそれらの組み合わせ)を含む。いくつかの実施形態において、非天然残基は、天然残基のものと比較して、1つ以上の修飾糖(例えば、2’-フルオロリボース、リボース、2’-デオキシリボース、アラビノース、及びヘキソース)を含む。いくつかの実施形態において、核酸は、RNAやポリペプチドなどの機能的遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を有する。いくつかの実施形態において、核酸は、1つ以上のイントロンを含むヌクレオチド配列を有する。いくつかの実施形態において、核酸は、天然源からの単離、酵素的合成(例えば、相補的テンプレートに基づく重合、例えば、インビボまたはインビトロ、組換え細胞もしくはシステムにおける複製、または化学合成によって調製し得る。いくつかの実施形態において、核酸は、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、20、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000以上の残基長を有する。
【0035】
ペプチド:本明細書で使用される場合、「ペプチド」という用語は、典型的には比較的短い、例えば、約100アミノ酸未満、約50アミノ酸未満、約40アミノ酸未満、約30アミノ酸未満、約25アミノ酸未満、約20アミノ酸未満、約15アミノ酸未満、または10アミノ酸未満の長さを有するポリペプチドを指す。
【0036】
医薬組成物:本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、ヒトまたは動物の対象への投与に適した組成物を指す。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体と一緒に製剤化された活性剤を含む。いくつかの実施形態において、活性剤は、治療計画での投与に適切な単位用量で存在する。いくつかの実施形態において、治療計画は、それを必要とする対象または集団に投与されたときに所望の治療効果を達成する統計的に有意な確率を示すために決定されたスケジュールに従って投与される1つ以上の用量を含む。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、経口投与、例えば、水薬(水性もしくは非水性の溶液もしくは懸濁液)、錠剤、例えば、頬側、舌下、及び体内吸収を標的とするもの、ボーラス、粉末、顆粒、舌に適用するためのペースト;非経口投与、例えば、皮下、筋肉内、静脈内もしくは硬膜外注射によるもの、例えば、無菌の溶液もしくは懸濁液、もしくは徐放性製剤としてのもの;局所適用、例えば、皮膚、肺、もしくは口腔に適用されるクリーム、軟膏、もしくは制御放出性パッチもしくはスプレーとしてのもの;膣内投与もしくは直腸内投与、例えば、ペッサリー、クリーム、もしくは泡状物としてのもの;舌下投与;眼内投与;経皮投与;または経鼻投与、肺内投与、及び他の粘膜表面への投与に適したものを含め、固体または液体形態で投与するために特別に製剤化されていてもよい。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、ヒト対象への投与を意図しており、それに適している。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、無菌であり、及び/または実質的にパイロジェンフリーである。
【0037】
ポリペプチド:本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、少なくとも3つのアミノ酸残基のポリマーを指す。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、1つ以上またはすべての天然アミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、1つ以上またはすべての非天然アミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、1つ以上またはすべてのD-アミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、1つ以上またはすべてのL-アミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、1つ以上のペンダント基または他の修飾を含み、例えば、1つ以上のアミノ酸側鎖を修飾するまたはそれに結合すること、ポリペプチドのN末端において、ポリペプチドのC末端において、またはそれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、アセチル化、アミド化、アミノエチル化、ビオチン化、カルバミル化、カルボニル化、シトルリン化、脱アミド化、脱イミノ化、エリミニル化、グリコシル化、脂質化、メチル化、ペグ化、リン酸化、スモイル化、またはそれらの組み合わせなどの1つ以上の修飾を含む。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、1つ以上の分子内または分子間ジスルフィド結合に関与し得る。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、環状であり得、及び/または環状部分を含み得る。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、環状ではなく、及び/または環状部分を含まない。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは線状である。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、ステープルされたポリペプチドを含み得る。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、1つ以上の他のポリペプチドとの非共有または共有結合による非共有複合体形成に関与する(例えば、抗体における場合のように)。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、自然界に存在するアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、自然界に存在しないアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、人工的行為によって設計及び/または生成されるという点で操作されるアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態において、「ポリペプチド」という用語は、参照ポリペプチド、活性、または構造の名前に付加され得る。そのような場合、本明細書では、関連する活性または構造を共有し、したがって同じクラスまたはファミリーのポリペプチドのメンバーであると見なすことができるポリペプチドを指すために使用される。そのようなクラスごとに、本明細書は、アミノ酸配列及び/または機能が知られているクラス内の例示的なポリペプチドを提供し、及び/または当業者はそのようなポリペプチドを知っているであろう。いくつかの実施形態では、そのような例示的なポリペプチドは、ポリペプチドクラスまたはファミリーの参照ポリペプチドである。いくつかの実施形態において、ポリペプチドクラスまたはファミリーのメンバーは、このクラスの参照ポリペプチドと有意な配列相同性または同一性を示し、このクラスの参照ポリペプチドと共通の配列モチーフ(例えば、特徴的な配列要素)を共有し、及び/またはこのクラスの参照ポリペプチドと共通の活性を共有する(いくつかの実施形態では、同等のレベルまたは指定された範囲内で);いくつかの実施形態ではこのクラス内のすべてのポリペプチドと)。例えば、いくつかの実施形態において、メンバーポリペプチドは、参照ポリペプチドとは、少なくとも約30~40%、多くの場合、約50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%を超える全体的な配列相同性または同一性を示し、及び/または非常に高い配列同一性、多くの場合90%、さらに95%、96%、97%、98%、または99%を超える配列同一性を示す少なくとも1つの領域(例えば、いくつかの実施形態において特徴的な配列要素を含み得る保存領域)を含む。このような保存領域は通常、少なくとも3~4、多くの場合最大20以上のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、保存領域は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15またはそれ以上の連続するアミノ酸の少なくとも1つのストレッチを包含する。いくつかの実施形態において、有用なポリペプチドは、親ポリペプチドのフラグメントを含み得る。いくつかの実施形態において、有用なポリペプチドは、複数のフラグメントを含み得、そのそれぞれは、目的のポリペプチドに見出されるものとは互いに異なる空間配置で同じ親ポリペプチドに見出される(例えば、親において直接連結されているフラグメントは、目的のポリペプチドにおいて空間的に分離され得るか、またはその逆であり得、及び/またはフラグメントは、目的のポリペプチドにおいて親とは異なる順序で存在し得る)ので、目的のポリペプチドは、その親ポリペプチドの誘導体である。
【0038】
参照:本明細書で使用する場合、「参照」という用語は、比較を行う対象に対する標準または対照を指す。例えば、いくつかの実施形態では、目的の作用物質、動物、個体、集団、試料、配列、または値は、参照または対照の作用物質、動物、個体、集団、試料、配列、または値と比較する。いくつかの実施形態では、参照または対照は、目的の試験または決定と実質的に同時に試験及び/または決定される。いくつかの実施形態では、参照または対照は、任意選択で有形媒体に具現化された歴史的参照または対照である。典型的には、当業者に理解されるように、参照または対照は、評価対象と比較可能な条件または状況下で決定または解析される。当業者は、考えられる特定の参照または対照への依存及び/または比較を正当化するのに十分な類似性が存在する場合を理解するであろう。
【0039】
試料:本明細書で使用される場合、用語「試料」は、本明細書に記載のように、目的の供給源から得られたか、または目的の供給源から誘導された生物学的試料を指す。いくつかの実施形態では、目的の供給源は、微生物、植物、動物、またはヒトのような生物であるか、またはそれらを含む。いくつかの実施形態では、生物学的試料は、生物学的組織もしくは流体、あるいはそれらの1つ以上の成分であるか、またはそれらを含む。いくつかの実施形態では、生物学的試料は、骨髄、血液、血液細胞、腹水(ascite)、組織または生検試料、細胞含有体液、浮遊核酸、喀痰、唾液、尿、脳脊髄液、腹水(peritoneal fluid)、胸水、糞便、リンパ、婦人科体液、皮膚スワブ、膣スワブ、口腔スワブ、鼻腔スワブ、そのような乳管洗浄液または気管支肺胞洗浄液のような洗液もしくは洗浄液、吸引液、擦過物、骨髄標本、組織生検標本、手術標本、他の体液、分泌物、及び/または排泄物、及び/またはそこからの細胞であり得るか、またはこれらを含むことができる。いくつかの実施形態では、生物学的試料は、個体、例えば、ヒトまたは動物対象から得られた細胞を含む。いくつかの実施形態では、得られた細胞は、試料が得られた個体からの細胞であるか、または試料が得られた個体からの細胞を含む。いくつかの実施形態では、試料は、任意の適切な手段によって、目的の供給源から直接得られる「一次試料」である。例えば、いくつかの実施形態では、主要な生物学的試料は、生検(例えば、細針吸引または組織生検)、手術、体液(例えば、血液、リンパ、糞便)の採取からなる群から選択される方法により得られる。いくつかの実施形態では、文脈から明らかであるように、用語「試料」は、主要試料の加工(例えば、1つ以上の及び/または構成要素を除去すること、及び/または1つ以上の薬剤を添加すること)により得られる調製物を指す。例えば、半透膜を使用するろ過が挙げられる。かかる「加工試料」は、例えば、試料から抽出された、またはmRNAの増幅もしくは逆転写、特定の成分の単離及び/または精製などのような技術に一次試料を供することによって得られた、核酸またはポリペプチドを含み得る。
【0040】
対象:本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、生物、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、非ヒト哺乳類、非ヒト霊長類、霊長類、実験動物、マウス、ラット、ハムスター、ガービル、ネコ、イヌ)を指す。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、成人、青年、または小児対象である。いくつかの実施形態において、対象は、例えば、本明細書に記載のがんまたは腫瘍など、本明細書に提供されるように治療することができる疾患、障害または状態に罹患している。いくつかの実施形態において、対象は、疾患、障害、または状態に感受性がある。いくつかの実施形態において、感受性のある対象は、疾患、障害または状態を発症する素因がある、及び/または(参照対象または集団で観察された平均リスクと比較して)そのリスクが高いことを示す。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害または状態の1以上の症状を示す。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害、または状態の特定の症状(例えば、疾患の臨床症状)または特徴を示さない。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害、または状態のいかなる症状または特徴も示さない。いくつかの実施形態では、対象は患者である。いくつかの実施形態では、対象は、診断及び/または治療が施される及び/または施されている個体である。
【0041】
治療薬剤:本明細書で使用される場合、用語「治療薬剤」は一般に、対象に投与された際に、所望の効果(例えば、所望の生物学的、臨床的、または薬理学的効果)を誘発する薬剤を指す。いくつかの実施形態では、作用物質は、適切な集団内で統計的に有意な効果を示す場合、治療薬剤であると見なされる。いくつかの実施形態において、適切な集団は、疾患、障害または状態に罹患している及び/または感受性がある対象の集団である。いくつかの実施形態では、適切な集団は、モデル生物の集団である。いくつかの実施形態では、適切な集団は、年齢層、性別、遺伝的背景、既存の臨床状態、治療への以前の曝露などの1つ以上の基準によって定義され得る。いくつかの実施形態では、治療薬剤は、有効量で対象に投与されたときの対象の疾患、障害、及び/または状態の1つ以上の症状または特徴の発症を軽減、改善、緩和、阻害、予防、遅延、重症度を軽減、及び/または発生率を低下させる物質である。いくつかの実施形態では、「治療薬剤」は、ヒトへの投与用に市販できるようになる前に政府機関によって承認されている、または承認される必要がある作用物質である。いくつかの実施形態では、「治療薬剤」は、ヒトへの投与のために医学的処方が必要とされる作用物質である。いくつかの実施形態において、治療薬剤は、本明細書に記載されるようなCREBBPアンタゴニストであり得る。
【0042】
治療有効量:本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語は、それが投与される対象または集団において所望の効果(例えば、所望の生物学的、臨床的、または薬理学的効果)をもたらす量を指す。いくつかの実施形態では、この用語は、特定の投薬計画(例えば、治療的投薬計画)に従って対象に投与されたときに、統計的に所望の効果を達成する可能性が高い量を指す。いくつかの実施形態では、この用語は、疾患、障害、及び/または状態に罹患している及び/または感受性がある集団の少なくともかなりの割合(例えば、少なくとも約25%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、またはそれ以上)で効果を生み出すのに十分な量を指す。いくつかの実施形態において、治療有効な量は、疾患、障害、及び/または状態の1つ以上の症状の発生率及び/または重症度を低減し、及び/または発症を遅らせる量である。当業者は、「治療有効量」という用語が、実際には、特定の個体において成功した治療を達成することを必要としないことを理解するであろう。むしろ、治療有効量は、そのような治療を必要とする患者に投与されたときに、かなりの数の対象、例えば、治療される患者集団内の少なくとも約25%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、またはそれ以上の患者において特定の所望の応答を提供する量であり得る。いくつかの実施形態において、治療有効量への言及は、1つ以上の特定の組織(例えば、疾患、障害または状態によって影響を受ける組織)または体液(例えば、血液、唾液、血清、汗、涙、尿)で測定された所望の効果を誘発するのに十分な量への言及であり得る。当業者は、いくつかの実施形態において、治療有効量の特定の薬剤または療法が、単回投与で製剤化及び/または投与され得ることを理解するであろう。いくつかの実施形態において、治療有効な薬剤は、例えば、投薬計画の一部として、複数の用量で製剤化及び/または投与され得る。
【0043】
腫瘍:本明細書で使用される場合、「腫瘍」という用語は、細胞または組織の異常な成長を指す。いくつかの実施形態において、腫瘍は、前がん性(例えば、良性)、悪性、前転移性、転移性、及び/または非転移性である細胞を含み得る。いくつかの実施形態では、腫瘍は、がんに関連しているか、またはがんの兆候である。いくつかの実施形態では、腫瘍は、分散性腫瘍または液体腫瘍であり得る。いくつかの実施形態では、腫瘍は、固体腫瘍であり得る。
【0044】
上流及び下流:本明細書でRNAを説明するときに使用される場合、「上流」という用語は、RNA分子の5’末端に向かうまたはその近くを指し、「下流」という用語は、RNA分子の3’末端に向かうまたはその近くを指す。本明細書でDNAを説明するときに使用されるように、「上流」はコード鎖の5’末端に向かっており、「下流」はコード鎖の3’末端に向かっている。DNAの逆平行配向のため、これは、テンプレート鎖の3’末端が上流にあり、5’末端が下流にあることを意味する。
【0045】
バリアント:分子、例えば、核酸、タンパク質、または小分子の文脈で本明細書で使用する場合、「バリアント」という用語は、参照分子との顕著な構造的同一性を示すが、参照物質と比較して、例えば、1つ以上の化学部分の存在または非存在またはレベルにおいて当該参照分子と構造的に異なる物質を指す。いくつかの実施形態では、バリアントは、その参照分子と機能的にも異なる。一般に、特定の分子が適切に参照分子の「バリアント」であると見なされるかどうかは、当該参照分子との構造的同一性の程度に基づく。当業者によって理解されるように、任意の生物学的または化学的な参照分子は、ある特定の特徴的な構造要素を有する。バリアントは、定義上、1つ以上のそのような特徴的な構造要素を共有するが、参照分子とは少なくとも1つの態様が異なる別個の分子である。少数の例のみを挙げると、ポリペプチドは、線状もしくは3次元空間において互いに指定される位置を有し、及び/または特定の構造モチーフ及び/または生物学的機能に寄与する複数のアミノ酸から構成される特徴的な配列要素を有していてもよい。核酸は、線状または3次元空間において互いに指定される位置を有する複数のヌクレオチド残基から構成される特徴的な配列要素を有していてもよい。いくつかの実施形態において、変異型ポリペプチドまたは核酸は、アミノ酸またはヌクレオチド配列における1つ以上の違い、及び/またはポリペプチドもしくは核酸の共有成分である(例えば、ポリペプチドまたは核酸骨格に結合している)化学部分(例えば、炭水化物、脂質、リン酸基)における1つ以上の違いのため、参照ポリペプチドまたは拡散とは異なり得る。いくつかの実施形態において、変異型ポリペプチドまたは核酸は、参照ポリペプチドまたは核酸とは、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、または99%の全体的な配列同一性を示す。いくつかの実施形態において、変異型ポリペプチドまたは核酸は、参照ポリペプチドまたは核酸と少なくとも1つの特徴的な配列要素を共有しない。いくつかの実施形態において、参照ポリペプチドまたは核酸は、1つ以上の生物学的活性を有する。いくつかの実施形態において、変異型ポリペプチドまたは核酸は、参照ポリペプチドまたは核酸の生物学的活性のうちの1つ以上を共有する。いくつかの実施形態において、変異型ポリペプチドまたは核酸は、参照ポリペプチドまたは核酸の生物学的活性のうちの1つ以上を欠いている。いくつかの実施形態において、変異型ポリペプチドまたは核酸は、参照ポリペプチドまたは核酸と比較して、低下したレベルの1つ以上の生物学的活性を示す。いくつかの実施形態において、目的のポリペプチドまたは核酸は、特定の位置での少数の配列変化を除いて、参照のアミノ酸またはヌクレオチド配列と同一であるアミノ酸またはヌクレオチド配列を有する場合、参照ポリペプチドまたは核酸の「バリアント」であると見なされる。通常、バリアントの残基の約20%未満、約15%未満、約10%未満、約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、または約2%未満は、参照と比較して、置換、挿入、または削除される。いくつかの実施形態において、変異型ポリペプチドまたは核酸は、参照と比較して、約10、約9、約8、約7、約6、約5、約4、約3、約2、または約1の置換残基を含む。多くの場合、変異型ポリペプチドまたは核酸は、参照と比較して非常に少数(例えば、約5未満、約4未満、約3未満、約2未満、または約1未満)の置換、挿入、または削除された機能的残基(すなわち、特定の生物学的活性に関与する残基)を含む。いくつかの実施形態において、変異型ポリペプチドまたは核酸は、約5以下、約4以下、約3以下、約2以下、または約1以下の付加または欠失を含み、いくつかの実施形態において、参照と比較して、付加または欠失を含まない。いくつかの実施形態において、変異型ポリペプチドまたは核酸は、参照と比較して、約25未満、約20未満、約19未満、約18未満、約17未満、約16未満、約15未満、約14未満、約13未満、約10未満、約9未満、約8未満、約7未満、約6未満、一般に約5未満、約4未満、約3未満、または約2未満の付加または欠失を含む。いくつかの実施形態において、参照ポリペプチドまたは核酸は、自然界に見られるものである。いくつかの実施形態において、参照ポリペプチドまたは核酸は、ヒトポリペプチドまたは核酸である。
【0046】
特定の実施形態の詳細説明
がん
本開示は、とりわけ、がんの治療、例えば、対象の腫瘍の治療に有用な方法及び組成物を提供する。
【0047】
がんは世界中の主要な死因の1つである。年間に診断される新しいがんの症例数は、2030年までに2300万人を超えると予想されている。米国国立がん研究所が発表した統計によると、2018年に米国で170万人を超える新しいがんの症例が診断され、60万人以上がこの病気で亡くなった。
【0048】
最も一般的ながんは、降順で、乳癌、肺癌及び気管支癌、前立腺癌、結腸及び直腸癌、皮膚の黒色腫、膀胱癌、非ホジキンリンパ腫、腎臓及び腎骨盤癌、子宮内膜癌、白血病、膵臓癌、甲状腺癌、肝臓癌である。男性及び女性の35%以上が、生涯のある時点でがんと診断されると予想されている。
【0049】
いくつかの実施形態では、本開示による治療に適した腫瘍またはがんは、例えば、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、副腎皮質癌、副腎皮質癌、AIDS関連癌(例えば、カポシ肉腫、AIDS関連リンパ腫、原発性CNSリンパ腫)、肛門癌、付属癌、星状細胞腫、非定型ラブドイド腫瘍、基底細胞癌、胆管癌、膀胱癌、骨癌、脳腫瘍、乳癌、気管支腫瘍、バーキットリンパ腫、癌様腫瘍、癌腫、心臓(心臓)腫瘍、中枢神経系腫瘍、頸部癌、胆管癌、脊索腫、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄増殖性新生物、結腸直腸癌、頭蓋咽頭腫、皮膚T細胞リンパ腫、非浸潤性乳管癌(DCIS)、胚性腫瘍、子宮内膜癌、子宮内膜肉腫、表皮腫、食道の、感覚神経芽細胞腫、ユーイング肉腫、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、眼癌、ファロピウス管癌、胆嚢癌、胃(胃)癌、胃腸癌性腫瘍、胃腸間質腫瘍(GIST)、生殖細胞腫瘍、妊娠性栄養芽細胞性疾患、神経膠腫、毛状細胞白血病、頭頸部癌、肝細胞(肝臓)癌、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、眼内メラノーマ、膵島細胞腫瘍、カポジ肉腫、腎臓腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、喉頭癌、白血病、唇及び口腔癌、肝癌、肺癌、リンパ腫、男性乳癌、悪性線維性組織球腫、メラノーマ、メルケル細胞癌、中皮腫、口癌、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫、形質細胞新生物、真菌性真菌症、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性新生物、鼻腔癌、鼻咽頭癌、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、口腔癌、口腔腔癌、口腔咽頭癌、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、膵臓神経内分泌腫瘍(膵島細胞腫瘍)、傍神経節腫、副鼻腔癌、副甲状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、フェオクロモサイトーマ、下垂体腫瘍、胸膜肺芽細胞腫、原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫、原発性腹膜癌、前立腺癌、直腸癌、腎細胞(腎臓)癌、網膜芽細胞腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、横紋筋肉腫、唾液腺癌、肉腫、セザリー症候群、皮膚癌、小腸癌、軟組織腫癌、扁平上皮癌、扁平頸部癌、胃(胃)癌、T細胞リンパ腫、精巣癌、精巣癌、喉癌、胸腺癌、胸腺腫、甲状腺癌、尿道癌、子宮肉腫、子宮肉腫、膣癌、血管腫瘍、外陰部癌、ワルデンストレームマクログロブリン血症、ウィルムス腫瘍を含む。いくつかの好ましい実施形態において、本開示による治療に適した腫瘍またはがんは、肺癌(非小細胞肺癌及び小細胞肺癌の両方)、結腸癌、膵臓癌、頭頸部癌、食道癌、卵巣癌(例えば、高悪性度漿液性卵巣癌)、膀胱癌、肝臓癌、胃癌、メラノーマ、AML(例えば、治療関連AML、複雑な核型AML、17p欠失を伴うAML)、慢性骨髄性白血病、及びバーキットリンパ腫を含む、p53突然変異または不活化の頻度が高いがんを含む。
【0050】
リボソーム
リボソームはタンパク質合成の中心である。リボソームは、核酸コードの指示に従って個々のアミノ酸を結合することによりタンパク質を合成する。真核生物のリボソームは、4つのrRNA種及び80のリボソームタンパク質(RP)でできた複雑な高分子機械である。成熟リボソームは、18S rRNAと33RPを含む小さな40Sリボソームサブユニット、及び28S、5.8S、5S rRNA、47RPを含む大きな60Sリボソームサブユニットの2つのサブユニットで構成されている。rRNAは、塩基のメチル化、シュードウリジン化、2’-ヒドロキシルでのリボースメチル化(2’-O-メチル化)などの機能を含めて大幅に修飾されている。最も豊富なrRNA修飾は、シュードウリジンシンターゼ及びH/ACAボックス核小体低分子RNA(snoRNA)によるウリジンのシュードウリジンへの異性化、ならびにメチルトランスフェラーゼフィブリラリン(FBL)によるリボースの2’-O-メチル化である。
【0051】
通常、リボソームはRNAコード内の指示を「読み取る」。いくつかの実施形態において、このコードを含む核酸は、mRNAである。いくつかの実施形態において、リボソームの構造的特徴は、リボソーム活性によって生成される、一連のアミノ酸、新生ポリペプチドと相互作用する。いくつかの実施形態では、リボソームは、新生ポリペプチドの折り畳みに影響を及ぼし得る。
【0052】
腫瘍選択的翻訳
発がん性リボソーム
本開示は、研究が、腫瘍の発生及び/または進行に関連するリボソームの構造及び機能の変化をますます明らかにしていることを認めている。例えば、Bastide and David Oncogenesis 2018 Apr 7(4):34を参照されたい。発がん性リボソームは、劇的に変化した翻訳ランドスケープ(「トランスラトーム」)を持っている。様々な発がん遺伝子をより効果的に翻訳することに加えて、がんリボソームは、翻訳の忠実度が低いこと、及び/または終止コドンのリードスルーが変化または増加することを特徴とすることが示されている。
【0053】
発がん性リボソームの機能の変化に寄与する可能性のある様々なメカニズムが説明されている。これらは、リボソーム生合成の変化、リボソームタンパク質遺伝子の変異、リボソームタンパク質の発現の変化、rRNAの発現の変化、及び/またはrRNAの修飾の変化を含む。例えば、Bastide and David Oncogenesis 2018 Apr 7(4):34を参照されたい。rRNA 2’-O-メチル化パターンの変化は、がんの進化にも関与している。一部のがんでは、p53の不活性化は、FBLの過剰発現、及びそれに続くrRNAメチル化のランドスケープの変化を引き起こす(Marcel et al.Cancer Cell.2013;24:318-330)。このようなp53の不活性化(及び/またはFBLの過剰発現及び/またはrRNAメチル化の変化)は、翻訳の忠実度の低下及びIRES含有mRNAの翻訳の増加をもたらす。p53タンパク質をコードする遺伝子であるTP53は、最も一般的に変異している腫瘍抑制遺伝子であり、rRNA修飾とともに、リボソームタンパク質の変化を介したリボソーム調節とも密接に関連している。リボソームタンパク質遺伝子のハプロ不全は、すべてのがんの約43%に見られる(Ajore et al.,EMBO Mol Med.2017;9(4):498-507)。健康な細胞では、必須のリボソームタンパク質遺伝子の両方のコピーが失われると致命的である。ただし、リボソームタンパク質遺伝子の単一コピーが失われると、リボソームタンパク質の化学量論が変化し、リボソームタンパク質RPL5及びRPL11はより高い遊離(非結合)型を持ち、5S rRNAと一緒にMDM2に結合し、p53を安定化させて成長停止またはアポトーシスを刺激する。健康な細胞におけるこのp53を介した制御メカニズムは、「リボソーム生合成の障害チェックポイント(Gentilella et al.Mol Cell.2017;67(1):55-70.e4)」と呼ばれる。TP53に 加えて、別の一般的に変異した腫瘍抑制遺伝子である網膜芽細胞腫(RB1)遺伝子もリボソーム調節に関与し、MYC発がん遺伝子で形質転換された老人性ヒト細胞の翻訳リードスルーを抑制する(del Toro et al.BioRxiv.2019;10.1101/788380)。
【0054】
本開示は、腫瘍選択的リードスルーががんの治療のための強力な戦略として利用できることを認めている。本開示は、とりわけ、そのような核酸に含まれる及び/またはそのような核酸によってコードされるペイロードの発現が腫瘍細胞(非腫瘍細胞と比較して)において選択的または特異的に発現されることを確実にする技術を提供することによって、核酸治療(及び、特にmRNA治療などのRNAを含む)の分野における広範な研究に基づく。
【0055】
真の腫瘍選択的または腫瘍特異的発現を提供することにより、本開示は、腫瘍選択的または腫瘍特異的ペイロード発現を達成できない状況で必要とされ得る標的化された(例えば、腫瘍選択的)送達戦略を開発及び/または利用する必要性を低減または不要にする。もちろん、本開示を読む当業者は、利用可能なそのような腫瘍選択的送達技術が、いくつかの実施形態において、提供される技術と望ましく組み合わせられ得ることを理解するであろう。それは単に必要ではない。
【0056】
あるいは、またはさらに、真の腫瘍選択的または腫瘍特異的発現を提供することにより、本開示は、そのような高度の選択性なしに不適切または望ましくない可能性があるペイロードを利用するためのオプションを作る。例えば、本明細書で論じられるように、細胞毒性ペイロード(例えば、毒素、ならびに前ネクロトーシス、前アポトーシス、及び前アポトーシスタンパク質)は、本明細書に記載されている範囲で腫瘍選択性を保証できない技術とともに利用される場合、許容できない副作用及び/または毒物学プロファイルを有する可能性がある。
【0057】
腫瘍選択的翻訳配列要素
リードスルーモチーフ
とりわけ、本開示は、異なるリボソーム(例えば、腫瘍細胞におけるリボソーム、例えば、発がん性リボソーム-対非腫瘍細胞におけるリボソーム、例えば、非発がん性リボソーム)が異なる処理能力及び/またはリードスルー特性(例えば、それを介して処理能力に影響を与える一時停止構造及び/または終止コドンに対する異なる応答)を有するという認識を包含する。いくつかの実施形態において、発がん性リボソームは、非発がん性リボソームと比較してフレームシフトを有する。いくつかの実施形態において、発がん性リボソームによるフレームシフトは、本明細書に記載されるペイロード配列の発現をもたらし得る。
【0058】
いくつかの実施形態において、発がん性リボソームは、標準的な終止コドンをリードスルーし、または処理する。いくつかの実施形態において、発がん性リボソームによる終止コドンのリードスルーは、終止コドンの、新生ポリペプチドに組み込まれたアミノ酸への翻訳をもたらす。いくつかの実施形態において、発がん性リボソームによる終止コドンのリードスルーは、その終止コドンに続く下流(3’UTR)配列の一部またはすべての翻訳をもたらす。
【0059】
特定の理論に拘束されることを望まず、本開示は、終止コドンのリボソームリードスルーが、18s rRNAとリボソームによって結合されるRNA(例えば、mRNA)との間の相互作用によって引き起こされ得ることを観察する。例えば、rRNAのヘリックスはmRNA配列と相互作用する可能性がある。終止コドンのリードスルーを引き起こすリボソームによって結合されたmRNAとS.cervisaeにおけるrRNAのヘリックス17の相互作用を記載したNamy et al.EMBO Rep.2001 Sep 15;2(9):787-793を参照されたい。本開示は、とりわけ、ヒトrRNAヘリックス37が、終止コドンリードスルーに寄与するmRNAの配列と相互作用することができることを認識している。
【0060】
あるいは、またはさらに、腫瘍選択的リボソーム終止コドンのリードスルーは、翻訳可能な核酸(例えば、mRNAなどのRNA)に1つ以上の特定の構造的特徴を含めることによって誘導及び/または増強することができる。いくつかの実施形態において、翻訳可能な核酸(例えば、mRNAなどのRNA)の1つ以上の一次構造の特徴を使用して、腫瘍選択的終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強することができる。あるいは、またはさらに、いくつかの実施形態において、翻訳可能な核酸(例えば、mRNAなどのRNA)の1つ以上の二次及び/または三次構造の特徴(例えば、ステムループ、バルジループ、キッシングループ、シュードノット、または分岐ループ)を使用して、腫瘍選択的終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強することができる。いくつかの実施形態において、終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強することができる構造的特徴は、下流の隣接配列の最初の50、60、70、80、90、100、110、または120ヌクレオチド内にある。いくつかのさらなる実施形態において、終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強することができる構造的特徴の部分は、下流の隣接配列の最初の16ヌクレオチドによって構成される。
【0061】
いくつかの実施形態において、終止コドンのリードスルーを誘導及びよび/または増強することができる構造的特徴は、下流の隣接配列の最初の10、20、30、40、50、60またはそれ以上のヌクレオチド内の10、20、30、40、50またはそれ以上の塩基対ヌクレオチドを含む。
【0062】
本開示のいくつかの実施形態によれば、終止コドンのリードスルーは、本明細書に記載されるような腫瘍選択的リードスルーモチーフの使用を通じて誘導及び/または増強することができる。
【0063】
あるいは、またはさらに、いくつかの実施形態では、高いG-C含量の1つ以上の領域を含めることで、腫瘍特異的終止コドンのリードスルーを誘導することができる。例えば、いくつかの実施形態において、翻訳可能な核酸(例えば、mRNAなどのRNAの)の3’UTRにおける高いG-C含量により、腫瘍特異的終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強することができる。いくつかの実施形態において、終止コドンに先行するヌクレオチド中の高いG-C含量を使用して、その終止コドンの腫瘍特異的終止コドンリードスルーを誘導及び/または増強することができる。いくつかの実施形態において、終止コドンに先行する60ヌクレオチド中の高いG-C含量を使用して、その終止コドンの腫瘍特異的終止コドンリードスルーを誘導及び/または増強することができる。いくつかの実施形態において、終止コドンに続く50ヌクレオチド中の高いG-C含量を使用して、その終止コドンの腫瘍特異的終止コドンリードスルーを誘導及び/または増強することができる。いくつかの実施形態において、終止コドンの後の最初の120ヌクレオチド(すなわち、3’UTR中)中の高いG-C含量を使用して、その終止コドンの腫瘍特異的終止コドンリードスルーを誘導及び/または増強することができる。いくつかの実施形態では、高いG-C含量は、非リードスルー転写物と比較して4以上の二項確率の対数オッズを意味する。いくつかの実施形態において、リードスルーモチーフは、下流の隣接配列において、42%を超える、48%を超える、好ましくは54%を超えるGC含量を有する。
【0064】
いくつかの実施形態において、リードスルーモチーフは、アミノ酸配列VNNNNNNMNNMWK(配列番号24)、NNNVWNNKGHHNH(配列番号25)、DVHVNNNCWNNNB(配列番号26)、MWBNNNNNNNNNN(配列番号27)、WGNNSNHNHDNNN(配列番号28)、VNNNNNNMNNMWK(配列番号29)またはVMNNWNKNNNNNN(配列番号30)を含み、ここで、VはA、CまたはGを表し、WはAまたはCを表し、WはAまたはT/Uを表し、KはGまたはT/Uを表し、HはA、CまたはT/Uを表し、DはA、GまたはT/Uを表し、BはC、GまたはT/Uを表し、SはGまたはCを表し、Nは、リードスルー終止コドン及び下流の隣接配列の最初の14ヌクレオチドにまたがる領域内の任意のヌクレオチドを表す。
【0065】
本開示はさらに、新生ポリペプチドへのプロリンの導入をもたらすコドンの包含が新生ポリペプチドのキンクを誘発することができ、そのようなキンクを使用して、腫瘍選択的終止コドンのリードスルーを誘発及び/または増強することができるという洞察を提供する。したがって、いくつかの実施形態では、腫瘍選択的終止コドンのリードスルーは、腫瘍選択的終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強するための本明細書に記載の他の戦略の1つ以上の代替として、または他の戦略の1つ以上に加えて、翻訳可能な核酸に1つ以上のプロリンをコードするコドンを含めることによって誘導及び/または増強し得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、mRNAのステムループは、終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強することができる。いくつかの実施形態において、終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強するステムループは、終止コドンの約20、40、60、80または120ヌクレオチド内にある。いくつかの実施形態において、終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強するステムループは、終止コドンの直前のコード配列にある。いくつかの実施形態において、終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強するステムループは、3’UTRにある。いくつかの実施形態において、終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強するステムループは、コード領域及び3’UTR境界にまたがる領域にある。いくつかの実施形態において、mRNAのバルジループまたはシュードノットは、終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強することができる。いくつかの実施形態において、終止コドンのリードスルーを誘導及び/または増強する核酸構造は、リードスルーをもたらさない核酸構造と比較して低いギブス自由エネルギーを有する。いくつかの実施形態において、終止コドンのリードスルーを誘導する核酸の3’UTRの最初の25、50、または75ヌクレオチドは、非がん終止コドンリードスルー対応物よりも、デルタGが5kcal/モル;10kcal/モル;15kcal/モル;20kcal/モル;25kcal/モル;30kcal/モル低い。いくつかの実施形態において、終止コドンのリードスルーを誘導する核酸の3’UTRの最初の25、50、または75ヌクレオチドは、非がん終止コドンリードスルー対応物よりも、5kcal/モルから20kcal/モル;5kcal/モルから10kcal/モル;または10kcal/モルから20kcal/モルの範囲;25kcal/モル;30kcal/モル低いデルタGを有する。
【0067】
いくつかの実施形態において、アミノグリコシド(例えば、ゲンタマイシン)及びマクロライド(例えば、エリスロマイシン)は、終止コドンのリードスルーを誘導することができる。理論に拘束されることを望まずに、アミノグリコシドは18s rRNAに結合することによって終止コドンのリードスルーを誘発でき、マクロライドは大きなリボソームサブユニット内のペプチドチャネルに結合することによって終止コドンのリードスルーを誘発できる。いくつかの実施形態において、アミノグリコシド及びマクロライドは、健康な(正常な)細胞において終止コドンのリードスルーを誘発することができる。いくつかの実施形態において、アミノグリコシドまたはマクロライドで治療される対象は、終止コドンリードスルーモチーフを含む核酸で治療されるべきではない。
【0068】
いくつかの実施形態において、本開示は、腫瘍選択的翻訳配列要素が腫瘍特異的であり得、がん細胞においてのみ翻訳及びペイロード発現をもたらすことができる(すなわち、非がん細胞において検出可能な発現がない)という認識を包含する。あるいは、またはさらに、いくつかの実施形態において、腫瘍選択的翻訳配列要素は、適切に比較可能な非がん細胞と比較して、がん細胞において2、5、10、15、20、30倍またはそれ以上高く翻訳される。
【0069】
いくつかの実施形態において、腫瘍選択的翻訳配列要素は、内部リボソーム侵入セグメント/部位(IRES)を含むことができる。いくつかの実施形態において、発がん性リボソーム、またはRNA結合タンパク質は、発がん性選択的翻訳配列要素においてIRESに優先的に結合する。いくつかの実施形態において、腫瘍選択的翻訳配列要素は、翻訳開始RNA結合タンパク質(RBP)によって結合されるか、またはその結合を指示することができる。いくつかの実施形態において、腫瘍選択的翻訳配列要素は、IRESを含み、RBPによって結合されるか、またはRBPの結合を指示することができる。
【0070】
リードスルーの評価
本開示は、本明細書に記載されるような腫瘍選択的翻訳配列要素の同定及び/または特徴付けに有用な終止コドンリードスルーの評価(例えば、同定及び/または特徴付け)に関連する様々な洞察を提供する。
【0071】
例えば、本明細書の実施例に記載されているように、本開示は、終止コドンのリードスルーを評価するための特定の一般的なアプローチに関する問題の原因を特定する。とりわけ、本開示は、多くの先行のアプローチが、リボソーム占有率(例えば、リボソームプロファイリング及び/またはRNA配列研究による)またはポリペプチド産生(例えば、質量分析)のいずれかの分析に依存してきたことを認める。本開示は、そのようなアプローチが、技術に固有のバイアスのために偽陽性及び/または偽陰性の結果をもたらす可能性があるが、常に評価されるとは限らないという洞察を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、終止コドンのリードスルーが、(i)リボソームの占有または位置;及び(ii)リードスルーポリペプチドの産生を独立して評価する技術の組み合わせの使用を通じて評価されることが望ましいことを教示している。
【0072】
本開示はさらに、終止コドンのリードスルーを評価するための多くの先行のアプローチが、観察されたレベルまたは特徴(リボソームプロファイリング、RNA配列、質量分析、または1つ以上の他の技術、またはそれらの任意の組み合わせによって決定されるかどうか)を「参照」と比較してきたが、その「参照」自体が1つ以上のがん関連の特徴を有し、したがって、本明細書に記載の「非がん」参照との真の比較を提供しないという洞察を提供する。
【0073】
例えば、本開示は、多くの細胞株が、本明細書に記載されるような腫瘍選択的終止コドンリードスルーを評価するための参照としてのそれらの有用性を低下させる1つ以上のがん関連特徴を含むことを認識している。例えば、HEK293細胞は、本開示の多くの実施形態において、腫瘍選択的終止コドンリードスルーを評価するための「非がん」参照として使用しないことが好ましい。その原因として、これらの細胞は、アデノウイルスE1B遺伝子などの1つ以上のウイルス遺伝子挿入を含む可能性があり、これらの挿入は、p53を非活性化し、細胞を不死の腫瘍形成性細胞株に変換し、そのような評価におけるパフォーマンスに影響を与え、腫瘍選択性を特定しようとする分析を歪めたり破壊したりする可能性があるからである。
【0074】
核酸
とりわけ、本開示は、本明細書に記載されるように、腫瘍選択的翻訳に関与する、及び/またはそうでなければ関連する核酸を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、腫瘍選択的リードスルーモチーフを含む翻訳可能な核酸であるか、それを含むか、またはそれを送達する核酸を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、目的のペイロードをコードし、本明細書に記載されるような腫瘍選択的翻訳配列要素を含む翻訳可能な核酸であるか、それを含むかまたは送達する核酸を提供する。
【0075】
いくつかの実施形態において、提供される核酸は、本明細書に記載の翻訳可能な核酸(例えば、mRNAなどのRNA)を生成するために、例えば、細胞に導入されると、転写されるか、または転写されるテンプレート鎖を生成する)DNA(例えば、一本鎖または二本鎖DNA)であるか、またはそれを含み得る。いくつかの実施形態において、提供される核酸は、本明細書に記載の翻訳可能な核酸(例えば、コード配列及び腫瘍選択的翻訳配列要素(複数可)であるか、またはそれらを含み得る)であるかまたはそれを含む(またはその相補体であるか、それを含む)ことができるRNA(例えば、mRNA)であるか、またはそれを含むことができる。
【0076】
いくつかの実施形態において、提供される核酸は、DNAもしくはRNA、またはその両方であるか、またはそれらを含む。いくつかの実施形態において、提供される核酸は、天然に存在するDNA及び/またはRNAに対して化学的に修飾されている。いくつかの実施形態において、提供された核酸は、シュードウリジンで修飾されていない。
【0077】
いくつかの実施形態において、提供される核酸は、本明細書に記載されるような翻訳可能な核酸である。いくつかの実施形態において、提供された核酸は、本明細書に記載されるように、翻訳可能な核酸を生成するために発現可能である(例えば、発現するように転写され得る)。いくつかの実施形態では、提供される核酸は、本明細書に記載の翻訳可能な核酸の補体、またはそのような翻訳可能な核酸(またはその補体)を生成するために発現可能な核酸の補体である。
【0078】
したがって、いくつかの実施形態において、本開示は、RNA(例えば、mRNA)治療の分野における最近の開発に基づいて構築され、そして開発を増進する。いくつかのグループは、例えば、RNAの生成及び/または安定性を改善する、哺乳動物(例えば、ヒト)対象へのRNA投与及び/または送達を容易にするためのカプセル化または他のシステムを提供するための技術を開発する重要な仕事をした。BioNTech AG、CureVac AG、Ethris AG、Moderna Therapeutics、Translate Bio,Inc.などの企業による最近の研究により、いくつかの臨床候補が開発され、最近、米国食品医薬品局によって初めてRNA治療薬が承認された。当業者は、RNA治療薬の生産、安定性、投与などのために利用可能な技術のいずれかまたはすべてが、哺乳動物(例えば、ヒト)対象に翻訳可能なRNAを投与する本開示の実施形態に適用可能及び/または利用できることを理解するであろう。
【0079】
同様に、本開示は、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト)対象の細胞に翻訳可能な核酸を送達することができるDNA及び/またはRNAベクターの開発を含む、遺伝子治療の分野における様々な開発に基づいて構築され、そして開発を増進する。腫瘍溶解性ウイルスに関する最近の研究は、様々な悪性腫瘍における効率的な遺伝子送達と細胞殺傷を実証している(Raman et al., Immunotherapy.2019 Jun;11(8):705-723;Mahalingam et al.,Cancers (Basel).2018 May 25;10(6))。さらに、自己増幅型mRNAレプリコンに取り組んでいるグループは、タンパク質発現の延長による効率的な局所送達と薬物動態プロファイルの改善を実証している(Avogadri et al,Cancer Immunol Res.2014 May;2(5):448-58;Huysmans et al.,2019 bioRxiv 10.1101/528612)。本開示のいくつかの実施形態において、提供される核酸は、腫瘍溶解性ウイルス粒子または腫瘍溶解性DNAもしくはRNA、あるいはポリマーまたは脂質ナノ粒子に製剤化された自己増幅型mRNAを含む。
【0080】
いくつかの実施形態において、提供される核酸は、対象において導入、産生、及び/または発現された場合に、低いまたは低下した(適切な参照と比較して)免疫原性を示すように操作される。当業者は、それらを含まない核酸と比較して、それらを含む核酸の免疫原性を増加または減少させることができる特定の配列要素及び/または化学修飾を知っている。多くの実施形態において、提供される核酸は、対象において導入、産生、及び/または発現されたまたは発現される核酸が、期待されるまたは観察される免疫原性が低いことを特徴とするように操作される。例えば、提供されるmRNAは、GC含量を増やす(Thess et al.,2015,Mol Ther. 23:1456-64)またはU含量を減らす(Kariko & Sahin,2017,WIPO特許出願番号WO2017/036889A1;Vaidyanathan,et al.,2018.12:530-542)ことによって操作できる。提供されるmRNAは、シュードウリジン、N1-メチル-シュードウリジン、メトキシーウリジン、2-チオウリジンなどの非標準的なヌクレオチドをmRNAに組み込むことによって修飾されたものを含むことができる(Kariko,2005,Immunity.23:165-75;Kariko,2008,Mol Ther.16:1833-40;Kormann et al.,2011,Nat Biotechnol.29:154-157;Andries et al.,2015,J Control Release.217:337-344)。
【0081】
あるいは、またはさらに、いくつかの実施形態において、翻訳可能なペイロードを含むまたはコードする提供される核酸は、ペイロードが、対象に導入及び/または生成されたときに、比較的低い免疫原性を示すように操作される。例えば、いくつかの実施形態では、免疫原性エピトープ(複数可)は、特定のペイロードに対して定義されている可能性があり、免疫原性の低い変異体(例えば、1つ以上のそのような免疫原性エピトープ内に配列変更を有する、または翻訳後修飾のパターンを変更することなどによって免疫原性に影響を与えるもの)は、本開示に従って利用することができる。
【0082】
コード配列
本明細書に記載されるように、本開示は、特に、コード配列(例えば、ペイロードコード配列)及び腫瘍選択的翻訳配列要素を含む翻訳可能な核酸に関する。
【0083】
本開示を読む当業者は、多種多様な有用なペイロード配列が知られており、本明細書の教示に従って利用することができることを理解するであろう。いくつかの実施形態において、ペイロードは、がん細胞において発現される場合、対象内で生存及び/または増殖するそれらの能力を低下させる遺伝子産物(例えば、ポリペプチド)である。
【0084】
いくつかの実施形態では、ペイロード配列は、細胞に対して毒性があり得、及び/または毒性物質を(例えば、酵素的に)生成し得る。
【0085】
いくつかの実施形態において、ペイロード配列は、細胞を免疫学的攻撃及び/またはクリアランスに対してより感受性を有するようにする可能性がある。例えば、いくつかのそのような実施形態において、ペイロード配列は、抗原、抗体、抗体フラグメント、または膜貫通タンパク質及び/または細胞内シグナル伝達分子(例えば、ITAMまたは共刺激分子エンドドメイン)に融合したそれらのキメラバージョンであり得るか、またはそれらを含み得、その膜貫通タンパク質及び/または細胞内シグナル伝達分子は、対象の免疫系及び/または対象に投与された、または投与される予定の免疫学的療法(例えば、CAR-TまたはCAR-NK細胞、増殖したT細胞など)にとって特に誘引性がある。あるいは、またはさらに、いくつかのそのような実施形態において、ペイロード配列は、免疫学的チェックポイントを軽減または阻害する薬剤であり得るか、またはそれを含み得る。
【0086】
本明細書に記載されるように、提供される開示の1つの特徴は、そのような腫瘍制限的発現なしでは受け入れられない及び/または推奨されないペイロードが効果的に利用され得るような程度の腫瘍選択性を達成することである。
【0087】
いくつかの実施形態では、本開示に従って使用するためのペイロード配列は、がん細胞において、及び/または特定の状況下で(例えば、別個の薬剤の存在下で)選択的に活性である。しかしながら、いくつかの実施形態において、特に本開示によって提供される腫瘍選択性の程度に照らして、いくつかの実施形態において、ペイロードは、構成的に活性であり、及び/または切断もしくはリン酸化などの翻訳後修飾を必要としないタンパク質を含む。
【0088】
いくつかの実施形態では、ペイロードは、それが生成される細胞から(例えば、翻訳によって)分泌されない。他のいくつかの実施形態では、ペイロードは、腫瘍微小環境に分泌されるタンパク質である。
【0089】
いくつかの実施形態において、ポリペプチドペイロードは、抗体、細胞表面タンパク質(例えば、T細胞、NK細胞などの内因性または投与された免疫細胞によって標的とされる抗原またはエピトープであるか、またはそれらを含む)、酵素、遺伝子改変タンパク質、自殺タンパク質、毒素、ウイルス複製タンパク質、ウイルス表面抗原などであり得るか、またはそれらを含み得る。いくつかの実施形態において、ポリペプチドペイロードは、がんの治療のために承認された生物学的薬剤であり得るか、またはそれを含み得る。
【0090】
いくつかの実施形態において、リンカーは、腫瘍選択的翻訳配列要素とペイロード配列との間に存在し得る。いくつかの実施形態において、リンカーは、2Aリンカーを含む。いくつかの実施形態において、リンカーは、PT2Aリンカーを含む。いくつかの実施形態において、リンカーは、F2Amリンカーを含む。
【0091】
抗体薬剤
がんの治療に有用ないくつかの抗体治療法が当技術分野で知られている。mRNA治療分野における最近の進展は、目的の抗体薬剤をコードする翻訳可能な核酸の送達が、抗体治療薬を投与するための実行可能かつ効果的な戦略であり得ることを示している(例えば、Van Hocke & Roose,J. Translational Med.17:54,Feb 22,2019を参照)。本開示を読む当業者は、その教示が治療用抗体薬剤に適用可能であることを理解するであろう。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるような翻訳可能な核酸は、治療用抗体薬剤であるかまたはその成分であるポリペプチドをコードする。本開示のいくつかの実施形態において、そのような薬剤は、受容体チロシンキナーゼ(例えば、EGFR、Her2、CD20、FGFR)または血管新生促進因子(例えば、VEGF、VEGFR、PDGF、PDGFR)に対する抗体薬剤であり得る。いくつかの他の実施形態において、ペイロードは、抗体薬剤(例えば、単鎖可変フラグメント(scFv)、ナノボディ、または二重特異性抗体)、融合タンパク質、または合成ポリペプチドであり得る。
【0092】
免疫チェックポイント阻害剤及び調節因子
免疫チェックポイントは免疫システムの調節因子である。それらは、免疫回避及びヒト腫瘍の回避において重要な役割を果たす。それらの調節因子は、がん治療の分野で有意な有効性を示している(Wei et al.,Cancer Discov.2018.10.1158/2159-8290を参照)。腫瘍から分泌される場合、そのような免疫調節因子の腫瘍内濃度はより高く、それらの全身濃度はより低い。この改善された薬物動態プロファイルは、これらの薬剤に関連する有効性を高め、毒性を低下させることができる。いくつかの実施形態において、ペイロードは、免疫チェックポイント阻害剤、すなわち、免疫チェックポイントタンパク質に対するアンタゴニスト抗体薬剤、例えば、抗PD1、抗PDL1、抗CTLA-4、抗TIM3、抗BTLA、抗VISTA、抗LAG-3、抗TIGIT、抗CD39、抗SIRP-αなどであるか、またはそれらを含み得る。いくつかの他の実施形態において、ペイロードは、CD-28、OX40、GITR、CD137、CD27、HVEM、またはCD27に対するアゴニスト抗体であり得るか、またはそれを含み得る。いくつかの他の実施形態では、ペイロードは、CD80、CD86、及びOX40Lなどの共刺激分子であり得る。
【0093】
サイトカイン
サイトカインは免疫細胞の調節に重要な役割を果たしている。IL-2及びIFN-alphaは、転移性黒色腫及び腎細胞癌(高用量、ボーラスIl-2)及びステージIII黒色腫(IFN-alpha)の治療のためにFDAが承認した最初の2つの免疫療法サイトカインであった(Lee and Margolin,Cancers (Basel).2011 Dec;3(4):3856-3893)。しかし、それらの臨床使用は全身毒性の問題によって制限されている(Rosenberg,J Immunol,2014,192(12) 5451-5458)。当業者は、サイトカインの腫瘍選択的産生及び分泌がそれらの治療ウィンドウを大幅に改善できることを理解するであろう。いくつかの実施形態において、本開示に従って使用するためのペイロードは、IL-2、IL-2スーパーカイン/ムテイン、IL-12、IL15、IL15、IL15R-アルファ融合、IL-23、IL-36、TNF-アルファ、IFN-アルファ、IFN-ガンマ、FLT3リガンド、CCL4、RANTES、GM-CSF、またはそれらの操作された変異体もしくは融合物であり得る。
【0094】
腫瘍微小環境の調節因子
ヒトのがんでは、腫瘍の微小環境は、抗腫瘍免疫応答を予防または抑制するために頻繁に変更される(Binnewies et al.,Nature Medicine,24,541-550,2018;Valkenburg et al.,Nature Reviews Clinical Oncology,15,366-381,2018)。細胞外マトリックスを変化させて免疫細胞の浸潤を促進したり、環境を炎症させて冷たい腫瘍を熱い腫瘍に変えたりする腫瘍微小環境の様々な調節因子がある。これらの調節因子のいくつかは、前臨床モデルで有効性の兆候を示している。しかしながら、他のいくつかは、全身毒性の問題のために前臨床または臨床開発中に落とされなかった(例えば、Ramanathan et al, Journal of Clinical Oncology,Jan 18-20,2018 36.4_suppl.208を参照)。本開示は、全身効果を最小限に抑えながら腫瘍内活性を増強することができるそのような免疫調節因子の局所分泌を可能にする方法を当業者に教える。いくつかの実施形態において、ペイロードは、キヌレニナーゼ、アデノシンデアミナーゼ(ADA2)及び15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)などのタンパク質であり得る。いくつかの他の実施形態では、ペイロードは、細胞外マトリックスを分解し、腫瘍間質を変化させる、ヒアルロニダーゼ及びコレガナーゼなどの酵素であり得る。
【0095】
細胞表面抗原
当業者は、腫瘍細胞の表面に発現される抗原またはエピトープを免疫学的に標的することによってがんを治療するために開発された様々な治療技術を知っている。いくつかの実施形態において、本開示に従って使用するための翻訳可能な核酸によってコードされるペイロードは、対象の免疫系及び/または対象に投与される免疫療法(例えば、CAR-TもしくはCAR-NK療法などの細胞療法、または養子免疫療法)によって免疫学的に標的とされ得るそのような抗原またはエピトープをコードする。いくつかの実施形態では、そのような細胞表面抗原またはエピトープは、関連するがん細胞によってすでに発現されている抗原またはエピトープであるか、またはそれを含み得る。特定の理論に拘束されることを望まずに、本開示は、そのような抗原またはエピトープの発現の増加がその標的化を容易にし得ることを提案している。いくつかの実施形態において、そのような抗原またはエピトープは、関連する腫瘍細胞によってまだ発現されていないものであり得る。いくつかのそのような実施形態において、それは、既存の免疫応答または治療による標的化を可能にするように選択され得る。
【0096】
遺伝子組み換えタンパク質
本開示を読む当業者は、その教示が、遺伝子修飾酵素及びそれらの使用、例えば、がん細胞のゲノム、トランスクリプトームなどの1つ以上の態様を改変または破壊するための使用に関連していることに気付くであろう。
【0097】
例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の翻訳可能な核酸によってコードされるペイロードは、遺伝子修飾タンパク質(例えば、ヌクレアーゼであるか、またはヌクレアーゼを含む)であり得るか、またはそれを含み得る。いくつかの実施形態において、遺伝子修飾酵素は、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、CRISPRベースの遺伝子修飾システムの1つ以上の成分(例えば、Cas酵素)であり得るか、またはそれらを含み得る。
【0098】
いくつかの実施形態において、遺伝子修飾タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ)は、優先的にまたは関連するがん細胞においてのみ見出される配列を標的とする。しかしながら、本開示を読む当業者は、遺伝子修飾タンパク質自体がそれらの細胞でのみ優先的に発現されるので、達成における腫瘍選択性の程度が、がん細胞に特に特異的ではない配列を標的とする遺伝子修飾タンパク質の使用を可能にすることを理解するであろう。
【0099】
自殺タンパク質
当業者は、一般に「自殺タンパク質」と呼ばれる様々なタンパク質(「自殺遺伝子」によってコードされる)を認識し、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の翻訳可能な核酸に含まれるペイロード配列が自殺タンパク質であるかまたは自殺タンパク質を含むことを理解するであろう。
【0100】
いくつかの実施形態において、自殺タンパク質は、細胞死を誘導するタンパク質である。いくつかの実施形態において、自殺タンパク質は、ネクロトーシス、ピロトーシスまたはフェロトーシスなどの免疫原性細胞死を誘発するタンパク質である。本開示は、ネクロトーシスを誘発する特定の自殺タンパク質が、本開示による使用に特に有利である可能性があるという洞察を提供する。例えば、本開示は、ネクロトーシスが適応免疫応答を誘発及び/または促進し得ることを観察している。特定の理論に拘束されることを望まずに、本開示は、ネクロトーシスが、RIPKの活性化につながるFas、TNF、及びLPSを含む免疫リガンドを含むことを観察している。Dhuriya and Sharma J Neuroinflammation.2018 Jul 6;15(1):199;Linkermann and Green N Engl J Med.2014 Jan 30;370(5):455-465。本開示は、適応免疫応答を誘導及び/または促進し得るネクロトーシス自殺タンパク質の使用が、腫瘍細胞の阻害、破壊及び/または除去を促進し得ることを教示している。いくつかの実施形態において、自殺タンパク質はアポトーシスを誘導する。いくつかのそのような実施形態において、自殺タンパク質は、p53であるか、またはp53媒介アポトーシス経路に関与するタンパク質(例えば、PUMA、BIM、BAX、BAK、tBID、CASPASE-3、CASPASE-7、CASPASE-8、CASPASE-9)である。
【0101】
いくつかの実施形態において、自殺タンパク質は、それを発現する細胞を、別個の薬剤による殺傷に対してより感受性を有するようにするタンパク質であるか、またはそれを含む。一例を挙げると、当業者は、哺乳動物には自然には見られず、酵素を発現しない細胞に無害である可能性のある物質を毒素に変換する特定のウイルス及び/または細菌酵素を知っている。いくつかの実施形態において、そのような自殺タンパク質は、そうでなければ不活性な薬剤(例えば、薬物)を、例えば、核酸合成を阻害する毒性代謝拮抗剤に変換する酵素であるか、またはそれを含む。いくつかのそのような実施形態において、自殺タンパク質は、チミジンキナーゼであり、チミジンキナーゼをコードするペイロード配列は、ガンシクロビルもしくはバラシクロビル治療と同時投与されるか、またはガンシクロビルもしくはバラシクロビル治療の前に投与される。
【0102】
いくつかの実施形態において、本開示に従って使用するための自殺タンパク質ペイロードは、混合系統キナーゼドメイン様シュードキナーゼ(MLKL)、受容体相互作用セリン/スレオニンプロテインキナーゼ3(RIPK3)、受容体相互作用セリン/スレオニンプロテインキナーゼ1(RIPK1)、デスドメインを持つFas関連タンパク質(FADD)、またはガスデルミンD(GSDMD)、システインアスパラギン酸プロテアーゼ、システインアスパルターゼまたはシステイン依存性アスパラギン酸指向性プロテアーゼ(CASPASE-1またはCASP-1)、CASPASE-4、CASPASE-5、CASPASE-12、PYCARD/ASC(PYD及びCARDドメイン含有/デスドメインを持つFas関連タンパク質)またはそれらの変異体である。
【0103】
毒素
いくつかの実施形態において、本開示に従って使用するためのペイロードは、毒素タンパク質であるか、または毒素タンパク質を含み得る。当業者は、がん細胞を殺すのに有用である可能性がある様々な毒素タンパク質を知るであろう。本明細書に記載されるように、達成される腫瘍選択性の程度は、非常に強力なペイロードでさえ、そのようなペイロードが非癌細胞で発現される場合に重大な有害な影響を及ぼし得るにもかかわらず、利用され得るようなものであることが本開示の1つの特徴である。いくつかの実施形態では、ペイロードは、がん細胞から分泌されない毒素である。
【0104】
いくつかの実施形態において、毒素は、細菌毒素であるか、または細菌毒素を含み得る。いくつかの実施形態において、毒素は、毒動物によって産生される毒素であるか、またはそれを含み得る(例えば、Kozlov et al Rec Pat DNA Gene Sequ1:200,2007を参照)。いくつかの実施形態において、毒素は、植物毒素であるか、または植物毒素を含み得る。
【0105】
いくつかの実施形態において、本開示に従ってペイロードとして利用され得る毒素は、ホスホリパーゼまたはレシチナーゼであり得るか、またはそれらを含み得る。いくつかの実施形態において、有用な毒素は、致死性毒素であるか、または致死性毒素を含み得る。いくつかの実施形態において、有用な毒素は、外毒素であるか、または外毒素を含み得る。いくつかの実施形態において、有用な毒素は、孔形成毒素であるか、または孔形成毒素を含み得る。いくつかの実施形態において、有用な毒素は、発熱性外毒素であるか、または発熱性外毒素を含み得る。
【0106】
いくつかの実施形態において、ペイロードとして利用され得る毒素は、バチルス(例えば、Bacillus anthracis)、ボルタデラ(例えば、Bortadella pertussis)、クロストリジウム(Clostridium botulinum)、コリネバクテリウム(例えば、Corynebacterium diphtheriae)、大腸菌(例えば、Eschericia coli)、リステリア(例えば、Listeria monocytogenes)、シュードモナス(pseudomonas aeruginosa)、ブドウ球菌(例えば、Staphylocococus aureus)、連鎖球菌、赤痢菌(例えば、shigella dysenteriae)である細菌に見られる(または由来する)毒素である。
【0107】
いくつかの実施形態において、毒素は、コレラ毒素(例えば、A-5B)、ジフテリア毒素(例えば、A/B)、ペルツシス毒素(例えば、A-5B)、E.coli熱不安定性毒素LT(例えば、A-5B)、志賀毒素(例えば、A-5B)、シュードモナスエキソトキシン(例えば、A/B)、ボツリヌス毒素(例えば、A/B)、破傷風毒素(例えば、A/B)、炭疽菌毒素(例えば、致死因子[LF])、staphylococcus aureaus表皮剥脱毒素Bであるか、またはそれらを含み得る。
【0108】
いくつかの実施形態において、毒素は、パーフリンギオリシン(例えば、clostridium perfringens由来)、溶血素(例えば、eschericia coli由来)、リステリオリシン(例えば、listeria monocytogenes由来)、炭疽菌EF(例えば、bacillys anthracis由来)、アルファ毒素(例えば、staphylococcus aureaus由来)、ニューモリシン(例えば、streptococcus pneumoniae由来)、ストレプトリジンPO(例えば、streptococcus pyogenes由来)、ロイコシジン(例えば、staphylococcus aureus由来)であるか、またはそれらを含み得る。
【0109】
いくつかの実施形態において、毒素は、外毒素の成分(例えば、炭疽菌毒素の致死因子)であり得、すなわち、それ自体では、哺乳動物細胞に内在化することができない。
【0110】
いくつかの実施形態において、毒素は、リシンまたはアマニチンであるか、またはそれらを含み得る。いくつかの実施形態において、毒素は、アルファアマニチンであるか、またはアルファアマニチンを含み得る。
【0111】
誘導性または抑制性タンパク質
遺伝子工学と合成生物学の最近の進歩により、小分子調節因子を介して誘導性または抑制性タンパク質が可能になった。いくつかの実施形態において、抑制性タンパク質を、リガンド誘導分解(LID)ドメインに融合させることができる。これにより、小分子シールド-1で処理するときにタンパク質がタンパク質分解的切断される。いくつかの他の実施形態において、誘導性タンパク質は、二量体化によって小分子リミダシッドによって活性化される誘導性カスパーゼ-9であり得る。活性化されたカスパーゼ-9は細胞の急速なアポトーシスを引き起こす。いくつかの他の実施形態において、誘導または抑制は、他の分解ドメイン(例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼベースの不安定化ドメイン)または二量体化ドメイン(例えば、FKBP-FRB)及び/または他の小分子(例えば、ドキシサイクリン、ラパマイシン、トリメトプリム)を介して達成し得る。いくつかの実施形態において、本開示に従って使用するためのペイロードは、誘導性または抑制性タンパク質であるか、またはそれらを含み得る。
【0112】
ウイルスタンパク質
当業者は、本明細書に記載されるようなペイロードとして有用なタンパク質を産生する様々なウイルスを知っている。いくつかの実施形態において、ペイロードは、ウイルスタンパク質であるか、またはウイルスタンパク質を含み得る。いくつかの実施形態では、ペイロードは、エプスタインバーウイルスのLMP1タンパク質であり得る。いくつかの実施形態において、ペイロードは、腫瘍溶解性ウイルスタンパク質であるか、または腫瘍溶解性ウイルスタンパク質を含み得る。
【0113】
いくつかの実施形態において、ペイロードは、ウイルス複製タンパク質であるか、またはウイルス複製タンパク質を含み得る。いくつかの実施形態において、ウイルス複製タンパク質は、ウイルス複製サイクルに必要とされるタンパク質である。いくつかの実施形態において、ウイルス複製タンパク質は酵素である。いくつかの実施形態において、ウイルス複製タンパク質は、プロテアーゼ、ポリメラーゼ、または転写酵素である。
【0114】
産生
本開示を読む当業者は、本明細書に記載されるような翻訳可能な核酸を産生するために有用に使用することができる様々な技術が利用可能であることを理解するであろう。いくつかの実施形態において、そのような産生は、エクスビボであり得る(すなわち、本明細書に記載されるようながん治療を必要とする対象の外で)。いくつかの実施形態において、そのような産生は、インビボであり得る。
【0115】
いくつかの実施形態において、翻訳可能な核酸は、化学合成及び/または化学修飾(例えば、キャッピング)によって、全体的または部分的に生成し得る。
【0116】
いくつかの実施形態において、翻訳可能な核酸は、テンプレート核酸をコピーする(例えば、複製または転写を介して)ことによって、全体的または部分的に生成し得る。いくつかの実施形態では、そのようなコピーはエクスビボであり得る。いくつかの実施形態では、そのようなコピーはインビボであり得る。
【0117】
送達
本開示を読む当業者は、本開示に従って(少なくとも)がん細胞への翻訳可能な核酸の送達を達成するために様々な技術が利用可能であることを理解し、さらに、送達のいくつかのモードが、翻訳可能な核酸(例えば、mRNA)を含む組成物の投与を含み、送達のいくつかのモードが、投与後に翻訳可能な核酸が生成される組成物の投与を(例えば、翻訳可能な核酸をコードするまたはテンプレートとするベクターの投与を介して)含むことを理解するであろう。
【0118】
ナノ粒子の送達
本明細書に記載のように、当業者は、哺乳動物(例えば、ヒト)対象内を含む、細胞への核酸の効果的な送達を達成するために様々な投与システムが開発されていることを認識するであろう。
【0119】
そのような利用可能な技術の中には、例えば、ヒドロゲル、脂質、及び/またはポリマーナノ粒子技術を含む様々なナノ粒子技術がある。
【0120】
いくつかの実施形態において、核酸は、脂質ナノ粒子を使用して、本開示に従って対象に送達される。本明細書で使用される場合、「脂質ナノ粒子」という句は、1つ以上の脂質(例えば、カチオン性脂質、非カチオン性脂質、及びPEG修飾脂質)を含む移動ビヒクルを指す。いくつかの実施形態において、脂質ナノ粒子は、核酸の1つ以上のコピーを1つ以上の標的細胞に送達するように製剤化される。適切な脂質の例には、例えば、ホスファチジル化合物(例えば、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴ脂質、セレブロシド、及びガングリオシド)が含まれる。
【0121】
いくつかの実施形態において、核酸は、ポリマーナノ粒子を使用して、本開示に従って対象に送達される。適切なポリマーとして、例えば、ポリアクリレート、ポリアルキシアノアクリレート、ポリラクチド、ポリラクチド-ポリグリコリドコポリマー、ポリカプロラクトン、デキストラン、アルブミン、ゼラチン、アルギン酸塩、コラーゲン、キトサン、シクロデキストリン、デンドリマー及びポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0122】
いくつかの実施形態では、本発明の核酸の送達に使用するための脂質は、参照により本明細書に組み込まれる国際特許公開WO2010/053572に記載されているものを含む。特定の実施形態において、本発明の組成物及び方法は、例えば、(15Z,18Z)-N,N-ジメチル-6-(9Z、12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル)テトラコサ-15,18-ジエン-1-アミン(HGT5000)、(15Z,18Z)-N,N-ジメチル-6-((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル)テトラコサ-4,15,18-トリエン-1-アミン(HGT5001)、及び(15Z,18Z)-N,N-ジメチル-6-((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル)テトラコサ-5,15,18-トリエン-1-アミン(HGT5002)など、2012年3月29日に出願された米国仮特許出願第61/617,468号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載のイオン化可能なカチオン性脂質を含む脂質ナノ粒子を使用する。
【0123】
いくつかの実施形態において、脂質N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリドまたは「DOTMA」が使用される。(Feigner et al.(Proc.Nat’l Acad.Sci.84,7413(1987);U.S.Pat.No.4,897,355)。DOTMAは、単独で製剤化することもでき、中性脂質、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンもしくは「DOPE」または他のカチオン性もしくは非カチオン性脂質と組み合わせてリポソーム輸送ビヒクルまたは脂質ナノ粒子にすることもでき、そのようなリポソームを使用して、標的細胞への核酸の送達を増強することができる。他の適切な脂質は、例えば、5-カルボキシスペルミルグリシンジオクタデシルアミドまたは「DOGS」、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミン-カルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウムまたは「DOSPA」(Behr et al.Proc.Nat.’l Acad.Sci.86,6982(1989);米国特許第5,171,678号;米国特許第5,334,761号)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパンまたは「DODAP」、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパンまたは「DOTAP」を含む。企図される脂質には、1,2-ジステアリルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパンまたは「DSDMA」、1,2-ジオレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパンまたは「DODMA」、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパンまたは「DLinDMA」、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパンまたは「DLenDMA」、N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリドまたは「DODAC」、N,N-ジステアリール-N,N-ジメチルアンモニウムブロミドまたは「DDAB」、N-(1,2-ジミリスチルオキシプロプ-3-イル)-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミドまたは「DMRIE」、3-ジメチルアミノ- 2-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシブタン-4-オキシ)-1-(シス,シス-9,12-オクタデカジエノキシ)プロパンまたは「CLinDMA」、2-[5’-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシ)-3’-オキサペントキシ)-3-ジメチルII-(シス,シス-9’,l-2’-オクタデカジエノキシ)プロパンまたは「CpLinDMA」、N,N-ジメチル-3,4-ジオレイルオキシベンジルアミンまたは「DMOBA」、1,2-N,N’-ジオレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパンまたは「DOcarbDAP」、2,3-ジリノレオイルオキシ-Ν,Ν-ジメチルプロピルアミンまたは「DLinDAP」、1,2-N,N’-ジリノレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパンまたは「DLincarbDAP」、1,2-ジリノレオイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパンまたは「DLinCDAP」、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキソランまたは「DLin--DMA」、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノエチル-[1,3]-ジオキソランまたは「DLin-K-XTC2-DMA」、及び2-(2,2-ジ((9Z,12Z)-オクタデカ-9,l2-ジエン-1-イル)-1,3-ジオキソラン-4-イル)-N,N-ジメチルエタンアミン(DLin-KC2-DMA))(WO2010/042877;Semple et al.,Nature Biotech.28:172-176(2010)(Heyes,J.,et al.,J Controlled Release 107:276-287(2005);Morrissey,DV.,et al.,Nat.Biotechnol.23(8):1003-1007(2005);PCT公開WO2005/121348A1を参照)、DLin-MC3-DMA(WO2015199952A1 Tam and Cullis Pharmaceutics.2013 Sep;5(3):498-507を参照)またはそれらの混合物も含まれる。コレステロールベースのカチオン性脂質の使用もまた、本発明によって企図される。このようなコレステロールベースのカチオン性脂質は、単独で、または他のカチオン性もしくは非カチオン性脂質と組み合わせて使用することができる。適切なコレステロールベースのカチオン性脂質は、例えば、DC-チョイ(N,N-ジメチル-N-エチルカルボキサミドコレステロール)、1,4-ビス(3-N-オレイルアミノ-プロピル)ピペラジン(Gao, et al. Biochem. Biophys.Res. Comm.179,280(1991);Wolf et al.BioTechniques 23,139 (1997);米国特許第5,744,335号)、またはICEを含む。
【0124】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞に優先的に感染してがん細胞を殺すウイルスである。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞に優先的に感染してがん細胞を殺す野生型ウイルスである。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞に優先的に感染してがん細胞を殺す、操作されたウイルスである。いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、小胞性口内炎ウイルス、ポリオウイルス、レオウイルス、セネカウイルス、アデノウイルスであり得る。
【0125】
ベクター送達
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の翻訳可能な核酸は、翻訳可能な核酸をコードする及び/またはテンプレートとする核酸ベクターの投与によって対象に送達し得る。いくつかの実施形態において、有用なベクターは、ウイルスベクターであるか、またはウイルスベクターを含み得る。
【0126】
いくつかの実施形態において、ベクターシステム(例えば、ウイルスベクターシステム)は、自然界に見出される成分及び/または配列(すなわち、野生型成分及び/または配列)であるか、またはそれらを含み得る。いくつかの実施形態において、ベクターシステムは、操作された成分及び/または配列(すなわち、その配列が適切な野生型参照に対して修飾された成分及び/または野生型参照において一緒に見出されないが、例えば、複数の異なるソースからの成分の集合を表す成分)であるか、またはそれらを含み得る。
【0127】
当業者は、本開示に従って有用であり得る様々なウイルスベクターシステムに精通している。
【0128】
いくつかの実施形態において、ウイルスベクターシステムは、がん細胞に優先的に感染するウイルス(例えば、腫瘍溶解性ウイルス)の成分であるか、またはそれを含み得る。当業者は、例えば、ワクシニアウイルス、小胞性口内炎ウイルス、ポリオウイルス、レオウイルス、セネカウイルス、及びアデノウイルスを含む様々な腫瘍溶解性ウイルスを知っている。
【0129】
本開示は、腫瘍溶解性ウイルスベクターシステムの使用が、例えば、腫瘍細胞を殺すための補完的なメカニズムを潜在的に提供することにおいて、特定の利点を有し得るという洞察を提供する。
【0130】
しかしながら、本明細書に記載されるように、本開示に従って達成される腫瘍選択性の程度は、核酸送達ベクターの腫瘍選択性を、本開示の多くの実施形態にとって重要ではないものにする。
対象
【0131】
本明細書に記載されるように、本開示は、がんの治療に特に有用な技術を提供する。
【0132】
いくつかの実施形態では、提供する技術は、がんに苦しむ対象に適用する。すなわち、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の翻訳可能な核酸(例えば、少なくとも1つの腫瘍選択的翻訳配列要素及びペイロードコード配列を含む)は、(例えば、翻訳可能な核酸を含む組成物の投与によって、または翻訳可能な核酸を対象においてもしくは対象によって生成させる組成物の投与によって)送達される。
【0133】
いくつかの実施形態において、対象は、他の治療(例えば、がん及び/またはがんの治療の1つ以上の副作用を治療するための他の治療法)を受けた、受けている、及び/または受ける予定である。いくつかのそのような実施形態において、ペイロードは、他の治療法に対する細胞の感受性を高めるタンパク質であるか、またはそれを含む。
【0134】
いくつかの実施形態において、対象は、健康な細胞において終止コドンのリードスルーを引き起こすことが知られている医薬品を受けていない。いくつかの実施形態では、対象は、アミノグリコシド及び/またはマクロライドを受けていない。
【0135】
いくつかの実施形態では、対象は、嚢胞性線維症及び/またはデュシェンヌ型筋ジストロフィー療法(例えば、アタルレンまたはPTC124)を受けていない。
【0136】
いくつかの実施形態において、対象は、ピロナリジンテトラホスフェート(抗マラリア薬)、及びパラアミノ安息香酸カリウム(PABA、ペイロニー病に使用)、実験化合物RTC13、RTC14、及びNB54、及び/またはハーブサプリメントエスシンを受けていない。
【0137】
いくつかの実施形態において、対象は、ダイアモンド-ブラックファン貧血、先天性角化異常症、シュバッハマン-ダイアモンド症候群、5q-骨髄異形成症候群、トリーチャーコリンズ症候群、軟骨-毛形成不全、孤立性先天性無脾症、ボーエン-コンラディ症候群、北米インド小児肝硬変などのリボソモパシーの影響を受けない。
【実施例
【0138】
実施例1:例示的な腫瘍選択的リードスルーモチーフ
本実施例は、本明細書に記載されるような腫瘍選択的発現を与える特定の例示的なリードスルーモチーフ(すなわち、「腫瘍選択的リードスルーモチーフ」)、ならびにそのようなモチーフを同定及び/または特徴付けるための特定のアプローチを説明する。本明細書に記載のように、本開示は、特定の構造的特徴(例えば、一次、二次、及び/または三次構造的特徴)を有する核酸配列要素が、特にがん細胞において特にリードスルー翻訳を指示することにより、非罹患細胞と比較してがん細胞において選択的翻訳を指示することを教示している。したがって、本開示は、腫瘍選択的リードスルーモチーフである配列要素を定義し、特徴付ける。
【0139】
本明細書に記載の特定の腫瘍選択的リードスルーモチーフ(すなわち、適切に比較可能な非がん細胞と比較して、特にがん細胞におけるmRNA終止コドンの直接リードスルー)は、異なる技術の組み合わせを使用することによって同定及び/または特徴付けられた。いくつかの実施形態では、腫瘍選択的発現を与えるリードスルーモチーフは、(1)リボソームプロファイリング(例えば、Ribo-seq)分析においてリボソーム占有率の増加を示すこと、及び(2)その存在ががん特異的プロテオームでLC/MSによって検出可能な3’-UTRコードペプチドのレベルの上昇と相関していること、及び/または(3)レポーター構築物に含まれる場合、1つ以上の腫瘍選択的リボソームへのリードスルーの増加を特異的に付与することによって特徴付けられる。
【0140】
実際、とりわけ、本開示は、トランスクリプトーム内の配列の翻訳を評価するために当技術分野で利用される特定の技術に関する問題の原因に関する特定の洞察を提供し、有用な腫瘍選択的リードスルーを特定及び/または特徴付けるために効果的な戦略を説明する。
【0141】
例えば、本開示は、Ribo-seq(リボソームプロファイリング)などの利用可能な技術が、例えば、任意の所与の細胞におけるリボソーム位置に関するトランスクリプトーム全体の情報を提供するのに有用であることを理解している。本開示は、そのような情報(特に三重項周期性と関連して)を使用して翻訳効率を推測することができるが、リボソームを減速または失速させるRNA配列及び構造に偏っており、そのような配列及び構造を見かけのリードスルーモチーフとして「誤って」同定する可能性があるという洞察を提供する。
【0142】
本開示は、リボソーム局在化分析に関するこの問題は、同じバイアスを持たない1つ以上の補完的な分析を実行することによって、少なくとも部分的に対処できることを教示している。例えば、本開示は、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC/MS)がそのようなRNAレベルのアーチファクトを含まないこと、タンパク質またはポリペプチドは、Orbitrapなどの高分解能LC/MSシステムで簡単に検出できることを認めている。本開示は、そのようなLC/MS技術に関する問題の原因をさらに理解するが、例えば、飛行性の低いペプチドは、LC/MSのみのアプローチでは過小評価されたり、見落とされたりする可能性がある。さらに、液体クロマトグラフィーの特定のフラクションで最も豊富な20のペプチドに含まれないペプチドは検出されない。
【0143】
本開示は、技術の組み合わせの注意深い選択、具体的には、例えば、1つ以上のリボソーム占有分析技術(例えば、Ribo-seq/リボソームプロファイリング)及び1つ以上のポリペプチド分析技術(例えば、LC/MS、レポーターポリペプチドなど)の組み合わせを含む選択が、本明細書に記載されるように、腫瘍選択的リードスルーモチーフを正確及び/または効率的に同定及び/または特徴付けるために重要であり得ることを実証した。
【0144】
本実施例は、がん細胞及び健康な細胞におけるリードスルートランスクリプトームを徹底的に調査するために、及び/または特定の腫瘍選択的リードスルーモチーフを定義及び/または特徴付けるために、Ribo-seq及びLC/MS技術の組み合わせの使用を説明する。
【0145】
プロテオミクスレベルでリードスルーイベントを決定するために、質量分析ベースのデータ生成パイプラインを構築した。例えば、Mertins et al.Nature.2016 May 25;534(7605):55-62を参照されたい。簡単に説明すると、3’UTRのみでコードできる推定ペプチドのリストは、カスタムpythonスクリプトを使用して作成する。次に、通常のCDS(SwissProtヒトプロテオームから)、推定上の小さなオープンリーディングフレーム(sORF)ペプチドデータセット(Price2、ORF-RATER、Rp-Bp)、セレノプロテインデータセット(selenoDB)、及び汚染ペプチドを検索スペースに追加する。デコイペプチドは、MaxQuantソフトウェア(バージョン1.6.4.0)によって生成した。MS-MSタンデムイオンスペクトルを分析し、クラウドコンピューティング(96 vCPU、768 GB RAM、4x900GB SSDを備えたAWSインスタンス)を介してMaxQuantによって分析し、検索スペースからの推定ペプチドと照合した。読み出しファイルをカスタムpythonスクリプトによって分析し、3’UTRでのみコードできるペプチドを抽出した。ペプチドがヒトCDSに由来できないことを確認するために、ペプチド配列をNCBIヒトプロテオームに対してブラストする。さらに、公開されているLC-MSデータを使用して、これらのペプチドがヒト腫瘍または健康な試料で生成されているかどうか、それぞれ17の健康な成人組織、7胎児組織、及び6つの精製された初代造血細胞を含むTCGA乳癌MSプロテオームデータ、CPTAC健康な乳房プロテオームデータ、及びヒトプロテオームデータのドラフトマップを調査した(Mertins et al.,2016.Nature.534(7605):55-62;Kim et al.,2014.Nature.509(7502):575-81)。このパイプラインは、終止コドンのリードスルーイベントを介してリボソームによってのみ生成できる多数のペプチドを特定した。
【0146】
核酸配列上のリボソームの位置、ならびに健康な細胞及びがん細胞からのゲノム全体の翻訳プロファイリングを分析して、3’UTR領域にリボソームの数が多い転写物を特定した。これもリードスルーを示唆する。例えば、Zur et al.,Sci Rep.2016 Feb 22;6:21635;Ingolia et al.Science.2009 Apr 10;324(5924):218-23を参照されたい。簡単に言えば、リボソームによって保護されているmRNA領域はディープシーケンシングされている。28~32ntのリードはトランスクリプトームにマッピングされ、リボソームが占める領域を特定する。この分析により、GAPDHの3’UTR領域はリボソーム占有率が比較的低いことが確認したが、FUNDC1及びCYTH1はどちらも3’UTRの読み取り数が比較的多かった。
【0147】
質量分析パイプラインによって特定されたペプチドデータセットに対応する核酸配列は、リボソームフットプリントの翻訳が3’UTR配列に見られる場合に終止コドンのリードスルーイベントを検証できるため、Ribo-Seqで分析した。Trips-Vizサーバーツール(Michel et al,2018 Nucleic Acids Res.2018 Jan 4;46(D1):D823-D830;Kiniry et al,Nucleic Acids Res.2019 Jan 8;47(D1):D847-D852)を使用して、ヒトの悪性細胞株及び健康な細胞株からの24のデータセットでリボソームフットプリントの対象となる転写物をチェックした。また、Ribo-seq分析用のバイオインフォマティクスツール及びグラフィカルユーザーインターフェイスの独自のパイプラインを使用した。CDS領域での読み取り数を、3’UTRからの読み取りと比較した。健康なデータセットからのデータ量が少ないことを説明するために、Ribo-seq分析のトリプレット周期性カットオフをがん細胞で0.72、健康な細胞で0.000に設定した。各転写物について、CDS領域内に活発に翻訳されたmRNAを示すのに十分な数の読み取り(500読み取りを超える)があり、3’UTR領域内に別の下流ORFに対応しない明確なリボソームフットプリントシグナルがあった場合、その転写物をリードスルーmRNAと見なした。
【0148】
リードスルー転写物も逆の順序で検索した。ヒト転写物のリードスルー率をRibo-seqによって決定し、質量分析データセットをチェックして、上位のRibo-seqヒットがLC/MSリードスルーデータセットにも存在するかどうかを判断した。高いRibo-seq読み取り数は、翻訳を妨げるmRNAの二次構造に起因する可能性があり、したがってがん細胞の高い翻訳率とは相関しない可能性がある。
【0149】
とりわけ、本明細書に記載の分析は、終止コドンUAA及びUAGを有する腫瘍選択的リードスルー転写物の上流3’UTR配列(10mers)が、腫瘍選択的リードスルー転写物を含むUGAの3’UTR配列と比較して互いにより密接に関連していることを特定した。完全に接続されたオートエンコーダであるディープラーニングモデルは、UAAグループとUAGグループが潜在空間に非常に緊密なクラスターを持ち、UGAグループが表現を広げていることを示した(図14及び15)。これは、文献で報告されている終止コドンの効率と相関している(Loughran et al.,Nucleic Acids Res.2014;42:8928-38)。
【0150】
さらに、リードスルー終止コドンを有すると同定された核酸配列を、NUPACK及びCoFoldを含むアルゴリズムを使用して、標準的な終止コドンの近くの構造的特徴について分析した。位置重み行列ベースの配列分析を、CDSの最後の120ヌクレオチドとmRNAリードスルー転写物の3’UTRの最初の120ntに適用した。図9に示すように、3つの可能な終止コドンのそれぞれについて、がんのリードスルー転写物は、健康なリードスルー転写物と比較して、最初の120ヌクレオチド内、特に3’UTRの最初の48~50ヌクレオチド内にG-C過剰発現を示す。さらに、図10に示すように、リードスルー停止コドンを持つがんリードスルー転写物のコード配列(CDS)の最後の120ヌクレオチドも、健康なリードスルー転写物と比較してG-Cヌクレオチドの過剰発現を示す。健康的なリードスルー転写物は、CDSと3’UTRの両方で非リードスルー転写物と比較した場合、G-Cの過剰表現もある。終止コドン周辺の領域(CDSでは100ヌクレオチド、3’UTRでは100nt)を確認しながら、ヒトトランスクリプトームのCoFold分析を行った。この分析は、終止コドンのリードスルーが、特に終止コドン及び3’UTR配列の最初の16ヌクレオチド内の、終止コドンの周りのより高度な塩基対形成、すなわち、より構造化された領域、例えば、ステムループ及びバルジループを含むことを示した(図11)。がんの転写物は、終止コドン領域の周りでさらに構造化されている。この増加した相対構造は、健康なリードスルー転写物と比較して、平均して7.52kcal/mol低いΔG値に対応する。がんの転写物は、3’UTRの最初の50ヌクレオチド内に平均22.5塩基対(vs21.6塩基対)及び55%GC含量(vs42%)を有する。
【0151】
実施例2:例示的な腫瘍選択的リードスルー構築物
本実施例は、本明細書に記載されるような例示的な腫瘍選択的リードスルーモチーフを組み込んだ構築物、ならびにその特定の特徴付けを説明する。
【0152】
例えば、実施例1で説明したように、同定された及び/または特徴付けられた推定上の腫瘍選択的リードスルーモチーフを組み込んだ構築物が作成された。Ribo-seq分析で腫瘍選択的リードスループロファイルを持つことが実証された質量分析リードスルーイベントリストからの10ヒットが、腫瘍選択的構築物に含めるために選択された。これらの例示的な推定上の腫瘍選択的リードスルーモチーフの配列を表1に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0153】
図2は、ナノルシフェラーゼをコードする構築物のどこにリードスルーモチーフが挿入されたかを示す例示的なテスト構築物マップを示している。この特定のリードスルーモチーフは、終止コドンの周りの推定上の腫瘍選択的リードスルー配列を含んだ。リードスルーモチーフは、終止コドン、隣接するコード領域に由来する隣接配列、及びカセットが由来する元の遺伝子の3’UTRを含んだ。図3は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)またはH1299肺癌細胞のいずれかにトランスフェクトした場合の10の構築物のそれぞれのナノルシフェラーゼ発現レベルを示している。テストしたほとんどのリードスルー配列は、健康な細胞よりもがん細胞で好ましい発現を示した。図4は、構築物U2nの終止コドン周辺の領域の折り畳みを示している。終止コドン及び3’UTR配列にまたがる大きなステムループ構造がある。
【0154】
本明細書に記載の候補及び/または同定された腫瘍選択的リードスルーモチーフの腫瘍選択性をさらに評価するために、図5に示すように、例示的なリードスルー配列をホタルルシフェラーゼ配列に挿入して、構築物Onco-333を生成した。図6を参照すると分かるように、この構築物は白血病のK562細胞と形質転換されたHEK293細胞で発現したが、健康なBJフォアスキン細胞では発現しなかった。さらに、野生型ホタルルシフェラーゼmRNAは健康なマウス組織で発現したが、リードスルー配列を含むホタルルシフェラーゼ配列は健康なマウス組織では発現しなかった(図7)。図8に示すように、この構築物は、ヒトまたはマウス由来のTP53変異がん細胞株でもテストされ、陽性の発現を示した。これらのデータは、リードスルーモチーフの腫瘍選択性を示している。
【0155】
Onco-333 fLuc配列(UTR配列及びpolyAテールは大文字になっている):
GAAATAAGAGAGAAAAGAAGAGTAAGAAGAAATATAAGAGCCACCatggaagacgccaaaaacataaagaaaggcccggcgccattctatccgctggaagatggaaccgctggatagcaactgcataaggctatgaagagatacgccctggttcctggaacaattgcttttacagatgcacatatcgaggtggacatcacttacgctgagtacttcgaaatgtccgttcggttggcagaagctatgaaacgatatgggctgaatacaaatcacagaatcgtcgtatgcagtgaaaactctcttcaattctttatgccggtgttgggcgcgttatttatcggagttgcagttgcgcccgcgaacgacatttataatgaacgtgaattgctcaacagtatgggcatttcgcagcctaccgtggtgttcgtttccaaaaaggggttgcaaaaaattttgaacgtgcaaaaaaagctcccaatcatccaaaaaattattatcatggattctaaaacggattaccagggatttcagtcgatgtacacgttcgtcacatctcatctacctcccggttttaatgaatacgattttgtgccagagtccttcgatagggacaagacaattgcactgatcatgaactcctctggatctactggtctgcctaaaggtgtcgctctgcctcatagaactgcctgcgtgagattctcgcatgccagagatcctatttttggcaatcaaatcattccggatactgcgattttaagtgttgttccattccatcacggttttggaatgtttactacactcggatatttgatatgtggatttcgagtcgtcttaatgtatagatttgaagaagagctgtttctgaggagccttcaggattacaagattcaaagtgcgctgctggtgccaaccctattctccttcttcgccaaaagcactctgattgacaaatacgatttatctaatttacacgaaattgcttctggtggcgctcccctctctaaggaagtcggggaagcggttgccaagaggttccatctgccaggtatcaggcaaggatatgggctcactgagactacatcagctattctgattacacccgagggggatgataaaccgggcgcggtcggtaaagttgttccattttttgaagcgaaggttgtggatctggataccgggaaaacgctgggcgttaatcaaagaggcgaactgtgtgtgagaggtcctatgattatgtccggttatgtaaacaatccggaagcgaccaacgccttgattgacaaggatggatggctacattctggagacatagcttactgggacgaagacgaacacttcttcatcgttgaccgcctgaagtctctgattaagtacaaaggctatcaggtggctcccgctgaattggaatccatcttgctccaacaccccaacatcttcgacgcaggtgtcgcaggtcttcccgacgatgacgccggtgaacttcccgccgccgttgttgttttggagcacggaaagacgatgacggaaaaagagatcgtggattacgtcgccagtcaagtaacaaccgcgaaaaagttgcgcggaggagttgtgtttgtggacgaagtaccgaaaggtcttaccggaaaactcgacgcaagaaaaatcagagagatcctcataaaggccaagaagggcggaaagatcgccgtgtaaGCTGCCTTCTGCGGGGCTTGCCTTCTGGCCATGCCCTTCTTCTCTCCCTTGCACCTGTACCTCTTGGTCTTTGAATAAAGCCTGAGTAGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA(配列番号22)
【0156】
Onco-333 RTモチーフ:
ctatccgctggaagatggaaccgctggaTAGcaactgcataaggctatgaagaga(配列番号23)
【0157】
ドットブラケット表記:
(((((((.(((.........))).))))))).....((((((((...((((((((
【0158】
実施例3:例示的な腫瘍選択的リードスルー構築物
本実施例は、本明細書に記載されるような例示的な腫瘍選択的リードスルーモチーフを組み込んだ構築物、ならびにその特定の特徴付けをさらに説明する。
【0159】
onco-333の翻訳活性は、FL-62891細胞で、32及び39の2つの異なる条件下で7日間テストした。39’Cに移行すると、FL-62891細胞に見られるSV40抗原の熱感受性変異体が不活性化され、p53機能の阻害解除(すなわち活性化)及びp21レベルの増加、ならびに負のフィードバックループによるp53レベルの減少をもたらす。細胞を50,000細胞/ウェルで白い底の96ウェルプレートに播種した。プレートを対応する温度に保ち、48時間後に細胞を200ngのonco-333mRNA/ウェルでトランスフェクトした。16時間のインキュベーション後、PromegaGloMaxプレートリーダーでBright-Gloルシフェラーゼアッセイを使用してホタルルシフェラーゼ活性を測定した。トランスフェクションは3回行い、データは平均+/-S.D.(p=0.019)として示されている。特に、p53活性の低下は、onco-333発現の増加をもたらす(図16)。
【0160】
図17は、本開示に記載されている腫瘍選択的モチーフを含む構築物からのナノルシフェラーゼの腫瘍選択的発現を示している。健康なヒト内皮細胞(HUVEC)及びヒト肺癌細胞(NCI-H1299)に推定上の腫瘍選択性ナノルシフェラーゼ構築物(U11-U17)をトランスフェクトし、24時間後にPromega GloMax Discover Microplate Readerによってナノルシフェラーゼ(nLuc)活性を測定した。図17Aは、がん細胞における腫瘍選択的構築物からのナノルシフェラーゼの特異的発現を示している。健康なヒト線維芽細胞(WI-38)及びヒト肺癌細胞(NCI-H1299)に、推定上の腫瘍選択的ホタル-ルシフェラーゼ(fLuc)構築物をトランスフェクトし、24時間後に相対的なルシフェラーゼ活性を測定した。図17Bは、がん細胞における腫瘍選択的構築物からのホタルルシフェラーゼの特異的発現を示している。トランスフェクションは3回行った。データは平均+/-標準偏差として示されている。
【0161】
これらの例示的な推定上の腫瘍選択的リードスルーモチーフの配列を表2に示す。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0162】
均等物
当業者は、本明細書に記載される本発明の具体的な実施形態の多くの均等物を理解するか、または定型的に過ぎない実験を使用して確認することができるであろう。本発明の範囲は、上記の説明に限定されるものではなく、むしろ以下の特許請求の範囲に記載される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
2022537052000001.app
【国際調査報告】