(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-23
(54)【発明の名称】ヒト化抗VEGF FAB抗体断片及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220816BHJP
C07K 16/22 20060101ALI20220816BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220816BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220816BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220816BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220816BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220816BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220816BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220816BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220816BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220816BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220816BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220816BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220816BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220816BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/22 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/68
A61K39/395 Y
A61K31/7088
A61K35/76
A61P27/02
A61P3/10
A61K45/00
A61K48/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022503863
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(85)【翻訳文提出日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 CN2020102560
(87)【国際公開番号】W WO2021013065
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】201910657311.8
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521271439
【氏名又は名称】神州細胞工程有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲謝▼ 良志
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼ 春▲ユン▼
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ 俊
(72)【発明者】
【氏名】孔 ▲徳▼生
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
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4H045AA11
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(57)【要約】
本発明は腫瘍免疫療法の分野に関するものであり、ヒト化抗VEGF Fab抗体断片に関する。本発明において、抗体断片(重鎖/軽鎖可変領域を含む)をコードする核酸配列、核酸配列を有するベクター、医薬組成物、及びキットが開示される。本発明において開示される抗VEGF Fab抗体断片は、高い親和性でVEGFに特異的に結合し得、そして受容体VEGFR2へのVEGFの結合を遮断し、また、VEGFによるHUVEC細胞増殖効果を中和し得る。完全長構造と比較して、Fab断片の抗体は、貫通性がより強力であり、また、毒性、並びに胃腸穿孔、高血圧、及び大出血等の副作用がより低く、また補体カスケード応答を活性化し得ず、そのため、眼内炎及び自己免疫性炎症性応答の発症のリスクを低減させる。当該抗体は、限定はしないが、高齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、網膜浮腫、変性近視、及び脈絡膜新生血管(CNV)を含む、脈絡膜新生血管を特徴とする様々な眼の疾患を臨床的に治療するために使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号27で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1領域、及び配列番号28で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR2領域、及び配列番号29で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3領域を有する重鎖可変領域、並びに
配列番号24で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1領域、配列番号25で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2領域、及び配列番号26で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3領域を有する軽鎖可変領域
を含む、単離された抗VEGF抗体のFab断片。
【請求項2】
配列番号36で示されるアミノ酸配列又は配列番号36に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号37で示されるアミノ酸配列又は配列番号37に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を含む、請求項1に記載の抗VEGF抗
体のFab断片。
【請求項3】
重鎖定常領域CH1及び軽鎖定常領域を更に含むFab断片であり、好ましくは、重鎖定常領域CH1が、配列番号40で示されるアミノ酸配列又は配列番号40に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するIgG1重鎖定常領域であり、且つ/或いは軽鎖定常領域が、配列番号39で示されるアミノ酸配列又は配列番号39に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖定常領域である、請求項1又は2に記載の抗VEGF抗体のFab断片。
【請求項4】
重鎖シグナルペプチド及び軽鎖シグナルペプチドを更に含み、好ましくは、前記重鎖シグナルペプチドが、配列番号34で示されるアミノ酸配列又は配列番号34に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、且つ/或いは前記軽鎖シグナルペプチドが、配列番号35で示されるアミノ酸配列又は配列番号35に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列である、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片。
【請求項5】
IgG抗体に関連するFab抗体断片、好ましくは、IgG1抗体に関連するFab抗体断片である、請求項1から4のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片。
【請求項6】
モノクローナルである、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片。
【請求項7】
組換えヒトVEG165タンパク質に対する前記抗VEGF抗体又はその抗原結合断片の結合親和性K
Dが、0.01-8E-10M、好ましくは0.1-5E-10M、及び更に好ましくは0.5-3E-10M、最も好ましくは1.54E-10Mである、請求項1から6のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片及びさらなる治療剤を含む、抗体-薬剤コンジュゲートであって、好ましくは前記抗VEGF抗体のFab断片がリンカーを介してさらなる治療剤と結合している、抗体-薬剤コンジュゲート。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片をコードする核酸。
【請求項10】
配列番号45で示されるヌクレオチド配列及び/又は配列番号46で示されるヌクレオチド配列を含み、好ましくは、配列番号49で示されるヌクレオチド配列及び/又は配列番号48で示されるヌクレオチド配列を更に含み、更に好ましくは、配列番号41で示されるヌクレオチド配列及び/又は配列番号42で示されるヌクレオチド配列を含む、請求項9に記載の核酸。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項9若しくは10に記載の核酸又は請求項11に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項13】
請求項12に記載の宿主細胞をFab抗体断片の発現に適した条件下で培養する工程、及び発現したFab抗体断片を培養培地から採取する工程を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片を産生するための方法。
【請求項14】
請求項1から7のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片、又は請求項8に記載の抗体-薬剤コンジュゲート、又は請求項9若しくは10に記載の核酸、又は請求項11に記載の発現ベクター、及び薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物。
【請求項15】
血管新生に関連する疾患の治療における、請求項1から7のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片、又は請求項8に記載の抗体-薬剤コンジュゲート、又は請求項14に記載の医薬組成物の使用。
【請求項16】
血管新生に関連する前記疾患が眼の疾患である、請求項15に記載の抗VEGF抗体のFab断片又は抗体-薬剤コンジュゲート又は医薬組成物の使用。
【請求項17】
前記眼の疾患が、高齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、網膜浮腫、変性近視、脈絡膜新生血管(CNV)を含む、脈絡膜新生血管を特徴とする、請求項16に記載の抗VEGF抗体のFab断片又は抗体-薬剤コンジュゲート又は医薬組成物の使用。
【請求項18】
必要とする対象に、治療有効量の請求項1から7のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片、又は請求項8に記載の抗体-薬剤コンジュゲート、又は請求項14に記載の医薬組成物を投与し、これによって血管新生に関連する疾患を治療する工程を含む、血管新生に関連する疾患を治療するための方法。
【請求項19】
血管新生に関連する前記疾患が眼の疾患である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記眼の疾患が、高齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、網膜浮腫、変性近視、脈絡膜新生血管(CNV)を含む、脈絡膜新生血管を特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
血管新生に関連する疾患の治療のための医薬の調製における、請求項1から7のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片、又は請求項8に記載の抗体-薬剤コンジュゲート、又は請求項14に記載の医薬組成物の使用。
【請求項22】
血管新生に関連する前記疾患が眼の疾患である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記眼の疾患が、高齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、網膜浮腫、変性近視、脈絡膜新生血管(CNV)を含む、脈絡膜新生血管を特徴とする、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
請求項1から7のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片、又は請求項8に記載の抗体-薬剤コンジュゲート、又は請求項14に記載の医薬組成物、及び1つ又は複数のさらなる治療剤を含む、薬学的組み合わせ物。
【請求項25】
請求項1から7のいずれか一項に記載の抗VEGF抗体のFab断片、又は請求項8に記載の抗体-薬剤コンジュゲート、又は請求項14に記載の医薬組成物を含み、好ましくは、投与のためのデバイスを更に含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腫瘍免疫療法の分野に関するものであり、具体的には、ヒト化抗VEGF抗体のFab断片に関する。
【背景技術】
【0002】
血管系の発生は、多くの生理学的及び病理学的プロセスの基礎である。血管内皮増殖因子(VEGF)は、内皮細胞の有糸分裂及び抗アポトーシス促進し、血管の浸透性を増大させ、且つ細胞の移動を促進する、重要な血管新生促進活性を有する増殖因子の群である。ヒトVEGF遺伝子は、染色体6p21.3上に位置し、ジスルフィド結合によって連結して二量体を形成するVEGFをコードするVEGF/PDGFスーパー遺伝子ファミリーに属する。ヒトにおいて、VEGFファミリーには、機能が異なる複数のメンバー:VEGFA(様々な異なるスプライシング変異体を伴うVEGF)、VEGFB、VEGFC、VEGFD、VEGFE、VEGFF、及び胎盤増殖因子(PIGF)が含まれる。最近は、内分泌腺由来血管内皮増殖因子(EG-VEGF)もまた、このファミリーに含まれている(Samson Mら、J Clin Endocrinol Metab. 2004; 89(8):4078~4088)。VEGFは、ヒトの組織及び器官に広く分布しており、とりわけ、眼の網膜色素上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞等に発現している(Goel H Lら、Nat Rev Cancer. 2013; 13(12): 871)。3つのタイプのVEGF受容体:VEGFR1、VEGFR2、及びVEGFR3が存在する。受容体細胞外ドメインへのVEGFの結合は、受容体の二量化を引き起こし、細胞内ドメインにおけるチロシン残基の自己リン酸化を促進し、これによって、下流シグナルが活性化され、これが細胞の増殖、移動、抗アポトーシス、及び血管の浸透性の増大を促進する。VEGFR1及びVEGFR2は血管内皮細胞において主に発現し、一方、VEGFR3はリンパ管内皮細胞において主に発現する。
【0003】
VEGFは、正常な及び病理学的な血管新生の調節において重要な役割を有することが確認されている(Melincovici C Sら、Rom J Morphol Embryol. 2018; 59(2):455~467)。VEGFは、悪性腹水を生じさせ得る様々な腫瘍において過剰発現しており、腫瘍におけるVEGFの発現は、腫瘍細胞の移動能力と相関している。胃腸がん、卵巣がん、乳がん、及び肺がん等の生存率が低い充実性腫瘍を有する患者におけるVEGFの濃度は、疾患の病期と正の相関をしている(Sebastian、Kら、Oncologist. 2009、14(12):1242~1251)。高齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、網膜浮腫、変性近視、及び脈絡膜新生血管(CNV)等の網膜硝子体疾患におけるいくつかの病変の発生もまた、VEGFの発現レベルに緊密に関連している(Patel J Rら、Curr opin ophthalmol. 2016、27(5 ): 387~392; Tan G Sら、Lancet Diabetes Endo. 2017、5(2): 143~155; Mitchell Pら、Lancet. 2018、392(10153): 1147~1159)。
【0004】
VEGFモノクローナル抗体薬は、VEGFと内皮細胞表面受容体VEGFR2及びVEGFR1との相互作用を阻害し、次いで下流のシグナル伝達経路を遮断することによって、内皮細胞の増殖及び新血管形成を阻害する。眼の疾患の治療のための、FDAに承認されたVEGF標的化抗体薬には、ルセンティス(ラニビズマブ、2006年に承認)、EYLEA(アフリベルセプト、2004年に承認)、及び中国においても販売されていたコンベルセプトが含まれる。ルセンティスはヒト由来のVEGFA抗体のFab断片であり、これは、全ての活性形態のVEGFAを結合し、VEGFR1及びVEGFR2へのその結合を阻害し、これによって血管内皮細胞の増殖及び移動を阻害し、血管の浸透性を低減させ、こうして脈絡膜新生血管の形成を阻害する。完全長抗体と比較して、Fab断片の形態の抗体は、容易に網膜を通過して網膜下腔まで行き、標的組織に達してVEGFを結合し得、こうして、脈絡膜新生血管の形成を阻害する。血液循環を介して全身系に入るFab断片抗体は、わずか0.09日間、すなわち約2時間で排除され、正常なVEGFの生理学的機能に対する影響を最小にし、胃腸穿孔、高血圧、及び大出血等の毒性効果を低減させる(Ferrara, Nら、Retina. 2006、26(8): 859~870; Van Wijngaardenら、Clin Exp Optom. 2008、91(5): 427~437)。研究によって、AMDと補体効果によって生じる炎症性応答との間の関係が示されており、Fc部分を有さないFab抗体断片は補体カスケードを刺激せず、こうして、眼内炎及び自己免疫性炎症性応答のリスクを低減させる(Ferrara, Nら、Retina. 2006、26(8): 859~870)。ルセンティスは、ウェット型AMD、CNV、DME、及び網膜浮腫の治療に承認されている。ベバシズマブは、転移性結腸がん及び非小細胞肺がん等の充実性腫瘍の治療についてFDAによって承認された組換えヒトモノクローナル抗体であり、AMDの治療のための適応外薬剤として現在使用されている。アフリベルセプト及びコンベルセプトは、リガンドに結合するVEGFRの特異的ドメインを有し、特異的な高い親和性でVEGFに結合し得、そして受容体へのVEGFの結合を遮断する、ヒト化組換え融合タンパク質である。アフリベルセプトは、ベバシズマブ及びルセンティスよりも高いVEGF165親和性を有し、DMEの治療において優れた有効性を示している。アフリベルセプトは、ウェット型AMD、網膜静脈分枝閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、CNV、DME、及び糖尿病性網膜症の治療に承認されている。コンベルセプトは、ウェット型AMDの治療について中国で承認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,500,362号
【特許文献2】米国特許第5,821,337号
【特許文献3】米国特許第6,737,056号
【特許文献4】米国特許第6,194,551号
【特許文献5】WO1999/51642
【特許文献6】米国特許第4,816,397号
【特許文献7】米国特許第5,168,062号
【特許文献8】米国特許第4,510,245号
【特許文献9】米国特許第4,968,615号
【特許文献10】米国特許第4,399,216号
【特許文献11】米国特許第4,634,665号
【特許文献12】米国特許第5,179,017号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Samson Mら、J Clin Endocrinol Metab. 2004; 89(8):4078~4088
【非特許文献2】Goel H Lら、Nat Rev Cancer. 2013; 13(12): 871
【非特許文献3】Melincovici C Sら、Rom J Morphol Embryol. 2018; 59(2):455~467
【非特許文献4】Sebastian、Kら、Oncologist. 2009; 14(12):1242~1251
【非特許文献5】Patel J Rら、Curr opin ophthalmol. 2016、27(5 ): 387~392
【非特許文献6】Tan G Sら、Lancet Diabetes Endo. 2017、5(2): 143~155
【非特許文献7】Mitchell Pら、Lancet. 2018、392(10153): 1147~1159
【非特許文献8】Ferrara, Nら、Retina. 2006、26(8): 859~870
【非特許文献9】Van Wijngaardenら、Clin Exp Optom. 2008、91(5): 427~437
【非特許文献10】Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD. 1991
【非特許文献11】Chothia及びLesk、J MolBiol 196:901~917(1987)
【非特許文献12】Kabatら: Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、US Department of Health and Human Services、PHS、NIH、NIH Publication 第91~3242、1991
【非特許文献13】Altschulら、1990、J. Mol. Biol. 215: 403~410
【非特許文献14】Guyerら、Journal of Immunology 117: 587 (1976)
【非特許文献15】Kimら、Journal of Immunology 24: 249 (1994)
【非特許文献16】Gazzano-Santoroら、J. Immunol Methods 202: 163 (1996)
【非特許文献17】Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、N. Y.、1989
【非特許文献18】Ausubel, F. M.、Brent, R.、Kingston, R. E.、Moore, D. D.、Sedman, J. G.、Smith, J. A.、及びStruhl, K.編(1995). Current Protocols in Molecular Biology. New York: John Wiley and Sons
【非特許文献19】Ausubel, F. M.ら(編) Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates, (1989)
【非特許文献20】Urlaub及びChasin、(1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216~4220
【非特許文献21】R.J. Kaufman及びP.A. Sharp (1982) Mol. Biol. 159:601-621
【非特許文献22】Colligan, Current Protocols in Immunology, or Current Protocols in Protein Science、John Wiley & Sons, NY、N.Y.、(1997~2001)
【非特許文献23】Barbas C Fら、CSHL Press. 2004
【非特許文献24】Jones S Tら、Bio/technology. 1991、9(1): 88
【非特許文献25】O'Brien, PM及びAitken, R. (編)、Springer Science & Business Media. 2002、ISBN: 9780896037113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの薬剤は硝子体内に局所投与されるため、頻回投与は、眼及び眼周囲の感染からのダメージを生じさせる可能性が高い。したがって、薬剤の有効性を向上させ、投与頻度を低減させて、より大きな治療利益を患者にもたらすために、薬剤の最適化が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、限定はしないが高齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、網膜浮腫、変性近視、及び脈絡膜新生血管(CNV)の発生を含む脈絡膜新生血管を特徴とする眼の疾患を治療するために使用することができる、新規なヒト化抗VEGF抗体のFab断片を提供する。
【0009】
一態様において、本発明は、配列番号13で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1領域、配列番号14で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR2領域、及び配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3領域を有する重鎖可変領域、並びに配列番号10で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1領域、配列番号11で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2領域、及び配列番号12で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3領域を有する軽鎖可変領域を含む、単離された抗VEGF抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0010】
一部の実施形態において、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合断片は、配列番号22で示されるアミノ酸配列又は配列番号22に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号23で示されるアミノ酸配列又は配列番号23に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する。
【0011】
一部の実施形態において、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合断片は、重鎖定常領域及び軽鎖定常領域を更に含み、好ましくは、重鎖定常領域は、配列番号38で示されるアミノ酸配列又は配列番号38に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するIgG1重鎖定常領域であり、且つ/或いは、軽鎖定常領域は、配列番号39で示されるアミノ酸配列又は配列番号39に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖定常領域である。
【0012】
一部の実施形態において、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合断片は、ヒト化抗体又はキメラ抗体である。
【0013】
別の態様において、本発明は、配列番号27で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1領域、及び配列番号28で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR2領域、及び配列番号29で示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3領域を有する重鎖可変領域、並びに、配列番号24で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1領域、配列番号25で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2領域、及び配列番号26で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3領域を有する軽鎖可変領域を含む、単離された抗VEGF抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0014】
一部の実施形態において、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合断片は、配列番号36で示されるアミノ酸配列又は配列番号36に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖定常領域、及び配列番号37で示されるアミノ酸配列又は配列番号37に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0015】
一部の実施形態において、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合断片は、Fab断片であり、前記Fab断片は重鎖定常領域CH1及び軽鎖定常領域を更に含み、好ましくは、重鎖定常領域CH1は、配列番号40で示されるアミノ酸配列又は配列番号40に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するIgG1重鎖定常領域であり、且つ/或いは軽鎖定常領域は、配列番号39で示されるアミノ酸配列又は配列番号39に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖定常領域である。
【0016】
一部の実施形態において、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合断片は、重鎖シグナルペプチド及び軽鎖シグナルペプチドを更に含み、好ましくは、前記重鎖シグナルペプチドは、配列番号34で示されるアミノ酸配列、又は配列番号34に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、且つ/或いは前記軽鎖シグナルペプチドは、配列番号35で示されるアミノ酸配列、又は配列番号35に対して少なくとも90%、92%、95%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列である。
【0017】
一部の実施形態において、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合断片は、Fab抗体断片である。
【0018】
一部の実施形態において、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合断片は、IgG抗体、好ましくはIgG1抗体である。
【0019】
一部の実施形態において、前記抗VEGF抗体のFab断片は、IgG抗体に関連するFab抗体断片、好ましくは、IgG1抗体に関連するFab抗体断片である。
【0020】
一部の実施形態において、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合断片は、モノクローナル抗体である。
【0021】
一部の実施形態において、前記抗VEGF抗体のFab断片は、モノクローナルである。
【0022】
一部の実施形態において、組換えヒトVEG165タンパク質に対する前記抗VEGF抗体又はその抗原結合断片の結合親和性KDは、0.01-8E-10M、好ましくは0.1-5E-10M、更に好ましくは0.5-3E-10M、最も好ましくは1.54E-10Mである。
【0023】
一部の実施形態において、前記抗原結合断片は、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、Fd断片、Fd'断片、単鎖抗体分子、又は単一ドメイン抗体であり、単鎖抗体分子は、好ましくはscFv、ジ-scFv、トリ-scFv、ダイアボディ、又はscFabである。
【0024】
更に別の態様において、本発明は、本発明の抗VEGF抗体又はその抗原結合断片及びさらなる治療剤を含む抗体-薬剤コンジュゲートを提供し、好ましくは、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合断片は、リンカーを介して前記さらなる治療剤と結合している。
【0025】
更に別の態様において、本発明は、本発明の抗VEGF抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸を提供する。
【0026】
一部の実施形態において、前記核酸は、配列番号4で示されるヌクレオチド配列及び/若しくは配列番号5で示されるヌクレオチド配列を含むか、又は配列番号20で示されるヌクレオチド配列及び/若しくは配列番号21で示されるヌクレオチド配列を含むか、又は配列番号45で示されるヌクレオチド配列及び/若しくは配列番号46で示されるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、前記核酸は、配列番号49で示されるヌクレオチド配列及び/若しくは配列番号48で示されるヌクレオチド配列を更に含む。更に好ましくは、前記核酸は、配列番号41で示されるヌクレオチド配列及び/又は配列番号42で示されるヌクレオチド配列を含む。
【0027】
更に別の態様において、本発明は、本発明の核酸を含む発現ベクターを提供する。
【0028】
更に別の態様において、本発明は、本発明の核酸又は本発明の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0029】
更に別の態様において、本発明は、本発明の宿主細胞を抗体発現に適した条件下で培養する工程、及び発現した抗体を培養培地から採取する工程を含む、本発明の抗VEGF抗体又はその抗原結合断片を産生するための方法を提供する。
【0030】
更に別の態様において、本発明は、本発明の宿主細胞をFab抗体断片の発現に適した条件下で培養する工程、及び発現したFab抗体断片を培養培地から採取する工程を含む、本発明の抗VEGF抗体又はその抗原結合断片を産生するための方法を提供する。
【0031】
更に別の態様において、本発明は、本発明の抗VEGF抗体若しくはその抗原結合断片、又は本発明の抗体-薬剤コンジュゲート、又は本発明の核酸、又は本発明の発現ベクター、及び薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物を提供する。
【0032】
更に別の態様において、本発明は、血管新生に関連する疾患の治療において使用するための、本発明の抗VEGF抗体若しくはその抗原結合断片、又は本発明の抗体-薬剤コンジュゲート、又は本発明の医薬組成物を提供する。
【0033】
一部の実施形態において、血管新生に関連する前記疾患は、眼の疾患である。
【0034】
一部の実施形態において、前記眼の疾患は、高齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、網膜浮腫、変性近視、脈絡膜新生血管(CNV)を含む、脈絡膜新生血管を特徴とする眼の疾患である。
【0035】
更に別の態様において、本発明は、必要とする対象に、治療有効量の本発明の抗VEGF抗体若しくは抗原結合断片、又は本発明の抗体-薬剤コンジュゲート、又は本発明の医薬組成物を投与し、これによって血管新生に関連する疾患を治療する工程を含む、血管新生に関連する疾患を治療するための方法を提供する。
【0036】
一部の実施形態において、血管新生に関連する前記疾患は、眼の疾患である。
【0037】
一部の実施形態において、前記眼の疾患は、高齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、網膜浮腫、変性近視、脈絡膜新生血管(CNV)を含む、脈絡膜新生血管を特徴とする眼の疾患である。
【0038】
更に別の態様において、本発明は、血管新生に関連する疾患の治療のための医薬の調製において使用するための、本発明の抗VEGF抗体若しくはその抗原結合断片、又は本発明の抗体-薬剤コンジュゲート、又は本発明の医薬組成物を提供する。
【0039】
一部の実施形態において、血管新生に関連する前記疾患は、眼の疾患である。
【0040】
一部の実施形態において、前記眼の疾患は、高齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、網膜浮腫、変性近視、脈絡膜新生血管(CNV)を含む、脈絡膜新生血管を特徴とする眼の疾患である。
【0041】
更に別の態様において、本発明は、本発明の抗VEGF抗体若しくはその抗原結合断片、又は本発明の抗体-薬剤コンジュゲート、又は本発明の医薬組成物、及び1つ又は複数のさらなる治療剤を含む、薬学的組み合わせ物を提供する。
【0042】
更に別の態様において、本発明は、本発明の抗VEGF抗体若しくはその抗原結合断片、又は本発明の抗体-薬剤コンジュゲート、又は本発明の医薬組成物を含み、好ましくは、投与のためのデバイスを更に含む、キットを提供する。
【0043】
本発明は、以下の添付の図面と組み合わせて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】VEGF165ウサギ抗体VEGF-R988が、VEGFR2タンパク質へのVEGF165の結合を遮断することを示す図である。
【
図2】VEGF165ウサギ抗体VEGF-R988が、VEGF165-HUVEC増殖効果を中和することを示す図である。
【
図3】ELISAによって検出される、VEGF165へのヒト化抗体VEGF-H988 Fabの結合を示す図である。
【
図4】ELISAによって検出される、mVEGF164へのVEGF-H988 Fabの結合を示す図である。
【
図5】抗体VEGF-H988 Fabが、ELISAによって検出される、VEGFR2タンパク質へのVEGF165の結合を遮断することを示す図である。
【
図6】ルセンティスと比較した、異なる濃度のVEGF165の中和における、VEGF-H988 Fabの効果を示す図である。
【
図7】EYLEAと比較した、異なる濃度のVEGF165の中和における、VEGF-H988 Fabの効果を示す図である。
【
図8】アバスチンと比較した、異なる濃度のVEGF165の中和における、VEGF-H988 Fabの効果を示す図である。
【
図9】コンベルセプトと比較した、異なる濃度のVEGF165の中和における、VEGF-H988 Fabの効果を示す図である。
【
図10】ブロルシズマブと比較した、異なる濃度のVEGF165の中和における、VEGF-H988 Fabの効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の様々な態様は、単離された抗VEGF抗体のFab断片、前記抗体断片又はその抗原結合断片を含む抗体-薬剤コンジュゲート、前記Fab抗体をコードする核酸及び発現ベクター、並びに前記核酸又は発現ベクターを有する宿主細胞、前記抗VEGF Fab抗体を産生するための方法、前記抗VEGF Fab抗体を含む医薬組成物、並びに血管新生に関連する疾患を治療するための前記抗VEGF Fab抗体の使用方法に関する。
【0046】
定義
別段の記載がない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されている意味を有する。本発明の目的では、以下の用語は、当技術分野において一般に理解される意味と一貫するように定義されている。
【0047】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの」、「a/an」、「別の」、及び「前記」は、文脈から別段のことが明らかに示されない限り、対象物の複数形の指定を含む。
【0048】
用語「抗体」は、免疫グロブリン分子を指し、また、所望の生物学的活性を示すあらゆる形態の抗体を指す。これらとしては、限定はしないが、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体及び多重特異的抗体(例えば二重特異的抗体)、並びに更には抗体断片が含まれる。典型的には、完全長抗体の構造は、好ましくは、ジスルフィド結合によって典型的に相互接続されている、4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖、及び2つの軽(L)鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域及び重鎖定常領域を有する。各軽鎖は、軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を有する。この典型的な完全長抗体構造に加えて、構造はまた、他の誘導体形態も含む。
【0049】
前記重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、これらに点在する、より保存的な領域(フレームワーク領域(FR)と呼ばれる)及び超可変領域(相補性決定領域(CDR)と呼ばれる)に更に分けることができる。
【0050】
用語「相補性決定領域」(CDR、例えば、CDR1、CDR2、及びCDR3)は、その存在が抗原の結合に必要な、抗体の可変領域内のアミノ酸残基を指す。各可変領域は、CDR1、CDR2、及びCDR3と同定されている3つのCDR領域を典型的に有する。各相補性決定領域は、Kabatによって定義されている「相補性決定領域」のアミノ酸残基(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD. 1991)及び/又は「高可変ループ」のアミノ酸残基(Chothia及びLesk、J MolBiol 196:901~917(1987))を有し得る。
【0051】
用語「フレームワーク」又は「FR」残基は、本明細書において定義されるCDR残基以外の可変領域内の残基である。
【0052】
各重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、3つのCDR及び最大4つのFRを典型的に有し、前記CDR及びFRは、以下の順序で、例えば、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4の順序で、アミノ末端からカルボキシル末端まで配列している。
【0053】
所与の抗体の相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)は、Kabatシステム(Kabatら: Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、US Department of Health and Human Services、PHS、NIH、NIH Publication 第91~3242、1991)を使用して同定することができる。
【0054】
用語「定常領域」は、抗原への抗体の結合に直接的には関与しないが抗体依存性の細胞傷害性等の様々なエフェクター機能を示す、抗体の軽鎖及び重鎖内のアミノ酸配列を指す。
【0055】
抗体の重鎖は、その定常領域のアミノ酸配列の抗原性の違いに従って、α、δ、ε、γ、及びμという5つのクラスに分類することができる。重鎖が軽鎖と完全な抗体を形成する場合、これはIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMという5つのクラスに分類することができ、これらは更にIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2等のサブクラス(アイソタイプ)に分類することができる。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、κ及びλに分類することができる。
【0056】
「抗体の抗原結合断片」は、親抗体の結合特異性の少なくとも一部を保持し、親抗体の抗原結合領域又は可変領域(例えば1つ又は複数のCDR)の少なくとも一部を典型的に含む、無傷抗体分子の一部を含む。抗原結合断片の例としては、限定はしないが、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、Fd断片、Fd'断片、単鎖抗体分子(例えば、scFv、ジ-scFv、若しくはトリ-scFv、ダイアボディ、又はscFab)、単一ドメイン抗体が含まれる。Fab断片は通常、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域1(CH1)、並びに軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)を有する。
【0057】
用語「抗体断片」は、「抗原結合断片」として上記で記載したものに加えて、限定はしないがFc断片を含む、親抗体の生物学的特性の少なくとも一部を保持する、無傷ではない抗体分子を指す。
【0058】
用語「抗体-薬物コンジュゲート」又は「ADC」は、場合によって治療剤又は細胞傷害剤であり得る化学的薬物(本明細書において作用剤とも呼ばれる)の1つ又は複数に化学的に連結している、抗体又はその抗原結合断片等の結合タンパク質を指す。好ましい実施形態において、ADCは、抗体、細胞傷害薬又は治療薬、及び薬物を抗体に連結又はコンジュゲートさせ得るリンカーを含む。ADCは、2、4、6、又は8つの装薬物質を含む、抗体にコンジュゲートした1~8のいずれかの値の薬物を通常有する。ADCに含まれ得る薬物の非限定的な例は、有糸分裂阻害剤、抗腫瘍抗生物質、免疫調節剤、遺伝子療法のためのベクター、アルキル化剤、抗血管形成剤、代謝拮抗剤、ホウ素を含有する作用剤、化学療法保護剤、ホルモン、抗ホルモン剤、コルチコステロイド、光活動性治療剤、オリゴヌクレオチド、放射性核種剤、トポイソメラーゼ阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、及び放射線増感剤である。
【0059】
用語「キメラ抗体」は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の由来源又は種に由来し、残りの部分が異なる由来源又は種に由来する、抗体を指す。「キメラ抗体」はまた、上記に定義した機能的断片でもあり得る。「ヒト化抗体」は、「キメラ抗体」のサブセットである。
【0060】
用語「ヒト化抗体」又は「ヒト化抗原結合断片」は、本明細書において、(i)非ヒト由来源(例えば、異種免疫系を有するトランスジェニックマウス)に由来し、ヒト生殖系配列に基づく、抗体若しくは抗体断片、又は(ii)可変領域が非ヒト由来のものであり定常領域がヒト由来のものであるキメラ抗体である、抗体若しくは抗体断片、又は(iii)可変領域のCDRが非ヒト由来のものであり、可変領域の1つ若しくは複数のフレームワーク領域がヒト由来のものであり、且つ、定常領域が存在する場合にはヒト由来のものである、CDR移植体である、抗体若しくは抗体断片、として定義される。「ヒト化」の目的は、考えられる最大の親和性を保持しながら、ヒト体内において、非ヒト由来抗体の免疫原性を排除することである。非ヒト由来源抗体のフレームワーク配列に最も類似しているヒトフレームワーク配列をヒト化のための鋳型として選択することが有利である。一部のケースにおいて、親和性の低下を避けるために、ヒトフレームワーク配列内の1つ又は複数のアミノ酸を非ヒト構築物内の対応する残基で置き換えることが必要である場合がある。
【0061】
用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体集団に由来する抗体を指し、すなわち、集団に含まれる全ての単一の抗体は、非常にわずかな量で存在し得る考えられる突然変異(例えば天然の突然変異)を除いて同一である。用語「モノクローナル」は、したがって、問題となっている抗体の性質を指し、すなわち、関連のない抗体の混合物ではない。異なるエピトープに対する異なる抗体を通常含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物中の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一のエピトープに対して向けられている。モノクローナル抗体調製物は、その特異性に加えて、他の抗体によって通常は汚染されていないという利点を有する。用語「モノクローナル」は、任意の特定の方法による前記抗体の産生を要するとは理解されない。
【0062】
抗体は、腫瘍関連ペプチド抗原標的(このケースではVEGF)等の標的抗原に「特異的に結合」し、すなわち、前記抗原を発現する細胞又は組織を標的化する治療剤として前記抗体を使用することを可能にするために十分な親和性で前記抗原を結合し、また、他のタンパク質と顕著には交差反応しないか、又は、上記の標的タンパク質のホモログ及びバリアント(例えば、突然変異形態、スプライスバリアント、若しくはタンパク質加水分解トランケート形態)以外のタンパク質と顕著には交差反応しない。
【0063】
用語「結合親和性」は、分子の個々の結合部位とその結合パートナーとの間の非共有結合相互作用を合わせたものの強度を指す。別段の記載がない限り、「結合親和性」は、本明細書において使用される場合、結合対のメンバー(例えば抗体及び抗原)間の1:1の相互作用を反映する、内因性の結合親和性を指す。本明細書において使用される場合、用語「KD」は、抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指す。本明細書において使用される場合、用語「kon」は、抗体が抗原に結合する速度定数を指す。本明細書において使用される場合、用語「koff」は、抗体が抗体/抗原複合体から解離する速度定数を指す。「KD」、「結合速度定数kon」、及び「解離速度定数koff」は、分子(例えば抗体)とその結合パートナー(例えば抗原)との間の親和性を説明するために一般に使用される。親和性は、すなわち、リガンドが特定のタンパク質を結合する緊密性の程度である。結合親和性は、2つの分子の間の水素結合、静電気的相互作用、疎水性力、及びファンデルワールス力等の非共有結合性の分子間相互作用の影響を受ける。更に、リガンドとその標的分子との間の結合親和性は、他の分子の存在の影響を受け得る。親和性は、本明細書において記載されるELISAを含む、当技術分野において公知の従来の方法によって解析することができる。
【0064】
用語「エピトープ」には、抗体又はT細胞受容体に特異的に結合するあらゆるタンパク質決定基クラスターが含まれる。エピトープ決定基クラスターは、典型的には、分子の化学的に活性な表面基(例えば、アミノ酸又は糖側鎖又はこれらの組み合わせ)からなり、特異的な三次元構造の特徴及び特異的な電荷の特徴を有することが多い。
【0065】
用語「単離された」抗体は、抗体が発現している細胞の成分から同定及び単離されている抗体である。単離された抗体には、前記抗体の天然環境における少なくとも1つの成分が不在の組換え細胞内部のin situ抗体が含まれる。しかし、通常は、単離された抗体は、少なくとも1つの精製工程を介して調製される。
【0066】
2つのポリペプチド又は核酸配列の間の「配列同一性」は、前記配列間で同一の残基の数を、残基の総数に対するパーセンテージとして示し、小さい方の比較対象分子のサイズに基づいて計算される。同一性パーセンテージを計算する場合、アラインされる配列は、配列間のマッチが最大となるような方法でマッチされ、マッチ内のギャップ(存在する場合)は、特定のアルゴリズムによって解決される。2つの配列の間の同一性を決定するための好ましいコンピュータプログラム方法としては、限定はしないが、GAP、BLASTP、BLASTN、及びFASTAを含む、GCGプログラムパッケージが含まれる(Altschulら、1990、J. Mol. Biol. 215: 403~410)。上記の手順は、International Center for Biotechnology Information(NCBI)及び他のソースから公開されている。周知のスミス・ウォーターマンアルゴリズムもまた、同一性を決定するために使用することができる。
【0067】
用語「Fc受容体」又は「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を指す。天然配列のヒトFcR、好ましくは、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIアイソフォームを含む、IgG抗体に結合する受容体(ガンマ受容体)、並びにこれらの受容体のバリアントが好ましい。全ての他のFcRが、用語「FcR」に含まれる。この用語にはまた、胎児への母親のIgGの輸送に関与する新生児受容体(FcRn)も含まれる(Guyerら、Journal of Immunology 117: 587 (1976)、及びKimら、Journal of Immunology 24: 249 (1994))。
【0068】
用語「新生児Fc受容体」は、「FcRn」と省略されるが、IgG抗体のFc領域に結合する。新生児Fc受容体(FcRn)は、インビボでのIgG様抗体の代謝運命において重要な役割を有する。FcRnは、IgGをリソソーム分解経路から守るように機能し、これによって、血清中でのそのクリアランスを低減させ、その半減期を延ばす。したがって、IgGのインビトロでのFcRn結合特性/特徴は、循環におけるそのインビボでの薬物動態学的特性の指標である。
【0069】
用語「エフェクター機能」は、抗体のFc領域に起因し得る生物学的活性を指し、このFc領域はアイソタイプごとに変化する。抗体のエフェクター機能の例としては、C1q結合及び補体依存性細胞傷害性(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞介在性細胞傷害性(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、サイトカイン分泌、免疫複合体介在性の抗原提示細胞による抗原の取り込み、細胞表面受容体の下方調節(例えばB細胞受容体)、並びにB細胞活性化が含まれる。
【0070】
用語「エフェクター細胞」は、1つ又は複数のFcRを発現し、エフェクター機能を実行する、白血球を指す。一態様において、前記エフェクター細胞は、少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を実行する。ADCCを仲介するヒト白血球の例としては、末梢血単核球(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞、及び好中球が含まれる。エフェクター細胞は、天然由来源、例えば血液から単離することができる。エフェクター細胞は通常、エフェクター相に関連するリンパ球であり、サイトカインを産生するために機能するか(ヘルパーT細胞)、病原体に感染した細胞を殺傷するか(細胞傷害性T細胞)、又は抗体を分泌する(分化型B細胞)。
【0071】
「免疫細胞」には、造血系に由来し、免疫応答において役割を有する、細胞が含まれる。免疫細胞としては、B細胞及びT細胞等のリンパ球、ナチュラルキラー細胞、並びに、単球、マクロファージ、好酸球、マスト細胞、好塩基球、及び顆粒球等の骨髄細胞が含まれる。
【0072】
「抗体依存性細胞介在性細胞傷害性」又は「ADCC」は、分泌されたIgが、ある特定の細胞傷害性細胞(例えば、NK細胞、好中球、及びマクロファージ)に存在するFcγ受容体に結合して、これらの細胞傷害性エフェクター細胞が抗原を有する標的細胞に特異的に結合し、次いで例えば細胞毒を使用して前記標的細胞を殺傷することを可能にする、細胞傷害性の形態を指す。標的抗体のADCC活性を評価するために、米国特許第5,500,362号又は米国特許第5,821,337号又は米国特許第6,737,056号(Presta)において記載されているインビトロADCCアッセイ等の、インビトロADCCアッセイを行うことができる。このようなアッセイにおいて使用するための有用なエフェクター細胞としては、PBMC及びNK細胞が含まれる。
【0073】
「補体依存性細胞傷害性」又は「CDC」は、補体の存在下での標的細胞の溶解を指す。補体活性化の従来の経路は、補体系の第1の成分(C1q)を、その対応する抗原に結合する抗体(適切なサブクラスの)に結合させることによって開始される。補体活性化を評価するために、Gazzano-Santoroら、J. Immunol Methods 202: 163 (1996)において記載されているCDCアッセイ等の、CDCアッセイを行うことができる。例えば、米国特許第6,194,551号及びWO1999/51642において、Fc領域のアミノ酸配列が改変されたポリペプチドバリアント(バリアントFc領域を有するポリペプチド)、及びC1q結合が増強又は低減しているポリペプチドバリアントが記載されている。
【0074】
「ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)」は、臍帯静脈から単離され、生理学的及び薬理学的研究に、例えば高分子輸送、血液凝固、血管新生、及び線維素溶解に、通常使用される。特に、これは、血管新生に関する調査及びVEGF依存性のシグナル伝達経路(関連する内皮増殖因子)に関する他の研究のためのモデルとして使用することができる。
【0075】
本発明の抗体のアミノ酸配列
本発明は、組換えヒトVEGF165タンパク質を使用してウサギを免疫化し、次いで、ファージディスプレイライブラリースクリーニングによって、組換えヒトVEGF165タンパク質に特異的に結合する抗体クローンVEGF165-R988を得た。VEGF165-R988 scFv抗体の重鎖及び軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を次いで、ウサギIgG1重鎖定常領域又はウサギカッパ軽鎖定常領域をコードするヌクレオチド配列を有するpSTEP2ベクターに、PCRによって挿入し、そして、培養して発現させた。高純度の抗体が、タンパク質A精製カラムを使用して精製された。ELISAは、ウサギ抗体VEGF165-R988がVEGFR2タンパク質へのVEGF165タンパク質の結合を効果的に阻害し得ること、及びVEGF165-R988がVEGF165のHUVEC増殖促進能力を効果的に中和し得ることを示した。
【0076】
次いで、ヒト化CDRの移植のための従来の方法を使用して、その配列がウサギ軽鎖又は重鎖可変領域の配列に近いヒト抗体の軽鎖又は重鎖可変領域を鋳型として選択し、ウサギ抗体軽鎖又は重鎖の3つのCDRの各々(Table 1(表3))を前記ヒト抗体の可変領域に挿入することによって、ヒト化軽鎖可変領域(VL)配列及び重鎖可変領域(VH)配列を得た。ウサギフレームワーク領域の重要な部位はCDR活性の安定性の維持に必須であるため、この重要な部位を、ウサギ抗体の対応する配列に復帰突然変異させた。VEGF-H988-10軽鎖/重鎖発現ベクターを全遺伝子合成によって得、HEK-293細胞にトランスフェクトし、培養して発現させ、そして、タンパク質A精製カラムを使用して培養上清を精製して、高純度のVEGF-H988-10抗体を得た。VEGF-H988-10抗体の親和性を向上させるために、重鎖及び軽鎖可変領域のCDR領域のSDMライブラリー(LCDR1、LCDR3、HCDR2、及びHCDR3を含む)を構築した。上記の4つの突然変異体ライブラリーはscFv形態で構築し、scFv-gIII融合タンパク質としてファージベクターにクローニングした。各CDRについて、可溶性抗原VEGFに対して最適な結合能力を有するCDRクローンをスクリーニングし、最後に、CDRの親和性及び安定性が最適化されたVEGF-H988 Fab抗体断片を得た。
【0077】
完全長抗体と比較して、Fab断片の形態の抗体は、胃腸穿孔、高血圧、及び大出血の観点から、より強力な貫通性及びより低い毒性を有し、また補体カスケード応答を刺激せず、そのため、眼内炎及び自己免疫性炎症性応答のリスクを低減させる。
【0078】
本発明の核酸
本発明はまた、本発明の抗体又はその一部分をコードする核酸分子にも関する。これらの核酸分子の配列には、限定はしないが、配列番号2~3、4~7、16~17、20~21、41~49、及び52~53が含まれる。
【0079】
本発明の核酸分子は、本明細書において開示されている配列に限定されず、これらのバリアントも含む。本発明におけるバリアントは、ハイブリダイゼーションにおけるそれらの物理的特性を参照して記載され得る。当業者には、核酸ハイブリダイゼーション技術を使用して、核酸が、それらの補体及びそれらの同等物又はホモログを同定するために使用され得ることが認識されよう。また、ハイブリダイゼーションが100%未満の相補性で行われ得ることも認識されよう。しかし、条件が適切に選択されれば、ハイブリダイゼーション技術を使用して、特定のプローブに対するDNA配列の構造的関連性に基づいて前記DNA配列を区別することができる。このような条件についてのガイダンスについては、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、N. Y.、1989、並びにAusubel, F. M.、Brent, R.、Kingston, R. E.、Moore, D. D.、Sedman, J. G.、Smith, J. A.、及びStruhl, K.編(1995). Current Protocols in Molecular Biology. New York: John Wiley and Sonsを参照されたい。
【0080】
組換えベクター及び発現
本発明はまた、本発明の1つ又は複数のヌクレオチド配列を含む組換え構築物も提供する。本発明の組換え構築物は、本発明の抗体をコードする核酸分子をプラスミド、ファージミド、ファージ、又はウイルスベクター等のベクターに挿入することによって構築される。
【0081】
本明細書において提供される抗体は、軽鎖及び重鎖又はこれらの一部分をコードするヌクレオチド配列を宿主細胞において組換え発現させることによって調製することができる。抗体を組換え発現させるために、宿主細胞に軽鎖及び/又は重鎖又はこれらの一部分をコードするヌクレオチド配列を有する1つ又は複数の組換え発現ベクターをトランスフェクトして、前記軽鎖及び重鎖を前記宿主細胞において発現させることができる。標準的な組換えDNA法が、重鎖及び軽鎖をコードする核酸を調製する及び/又は得るため、これらの核酸を組換え発現ベクターに組み込むため、並びに前記ベクターを宿主細胞に導入するために使用される。例えば、Sambrook、Fritsch、及びManiatis (編), Molecular Cloning; A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor, N.Y.、(1989)、Ausubel, F. M.ら(編) Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates, (1989)、並びに、Bossらによる米国特許第4,816,397号において記載されているもの。
【0082】
適切な宿主細胞は、原核細胞及び真核細胞である。原核宿主細胞の例は細菌であり、真核宿主細胞の例は、酵母細胞、昆虫細胞、又は哺乳動物細胞である。調節配列の選択を含む、発現ベクターの設計が、宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベル、及び発現が構成的であるか誘導性であるか等の多くの因子によって決定されることが理解されるべきである。
【0083】
細菌発現
所望の抗体をコードする構造的DNA配列を、適切な翻訳開始シグナル及び翻訳終結シグナル及び機能的プロモーターと共に、作動可能なリーディングフレームに挿入することによって、細菌において使用するための発現ベクターが構築される。ベクターは、1つ又は複数の表現型選択マーカー、及び、ベクターの維持を確実にし、必要に応じて宿主内で増殖させるための、複製起点を有する。形質転換のための適切な原核生物宿主としては、大腸菌(E. coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、並びにシュードモナス属(Pseudomonas)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、及びスタフィロコッカス属(Staphylococcus)の複数の種が含まれる。
【0084】
細菌ベクターは、例えば、ファージベース、プラスミドベース、又はファージミドベースであり得る。これらのベクターは、選択マーカー、及び周知のクローニングベクターpBR322(ATCC 37017)のエレメントを通常有する市販されているプラスミドに由来する細菌複製起点を有し得る。適切な宿主株を形質転換し、宿主株を適切な細胞密度まで増殖させた後、選択されたプロモーターを適切な方法(例えば、温度変化又は化学的誘導)によって抑制解除/誘導し、そして細胞をさらなる時間にわたり培養する。細胞は通常、遠心分離によって採取され、物理的又は化学的方法によって破壊され、そして、得られた租抽出物はさらなる精製のために保持される。
【0085】
細菌系において、様々な発現ベクターを、発現させるタンパク質の使用目的に従って、有利に選択することができる。例えば、多くのこのようなタンパク質が抗体産生又はペプチドライブラリースクリーニングのために産生される場合には、例えば、精製が容易な融合タンパク質産物の高レベルの発現を指示するベクターが望ましい場合がある。
【0086】
哺乳動物での発現及び精製
哺乳動物宿主細胞における発現のための好ましい調節配列としては、哺乳動物細胞における高レベルのタンパク質発現を指示するウイルスエレメント、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)に由来するプロモーター及び/又はエンハンサー(例えば、CMVプロモーター/エンハンサー)、シミアンウイルス40(SV40)のプロモーター及び/又はエンハンサー(例えば、SV40プロモーター/エンハンサー)、アデノウイルスのプロモーター及び/又はエンハンサー(例えば、アデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))、並びにポリオーマウイルスのプロモーター及び/又はエンハンサーが含まれる。ウイルス調節エレメント及びこれらの配列のさらなる記載については、例えば、Stinskiによる米国特許第5,168,062号、Bellらによる米国特許第4,510,245号、及びSchaffnerらによる米国特許第4,968,615号を参照されたい。組換え発現ベクターはまた、複製起点及び選択マーカー(例えば、Axelらによる米国特許第4,399,216号、米国特許第4,634,665号、及び米国特許第5,179,017号を参照されたい)も含む。適切な選択マーカーは、G418、ハイグロマイシン、又はメトトレキサート等の薬物に対する耐性をベクターが導入されている宿主細胞に付与する遺伝子を含む。例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子はメトトレキサートに対する耐性を付与し、一方、neo遺伝子はG418に対する耐性を付与する。
【0087】
宿主細胞への発現ベクターのトランスフェクションは、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、及びDEAE-デキストラントランスフェクション等の標準的な技術を使用して行うことができる。
【0088】
本明細書において提供される抗体を発現させるための適切な哺乳動物宿主細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)[Urlaub及びChasin、(1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216~4220において記載されているdhfr-CHO細胞を含み、例えばR.J. Kaufman及びP.A. Sharp (1982) Mol. Biol. 159:601-621において記載されているDHFR選択マーカーが利用される]、NSO骨髄腫細胞、COS細胞、並びにSP2細胞が含まれる。
【0089】
本発明の抗体は、限定はしないが、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィー、タンパク質Gアフィニティークロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、リン酸セルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、及びレクチンクロマトグラフィーを含む公知の方法によって、組換え細胞培養物から回収及び精製することができる。高性能液体クロマトグラフィー(「HPLC」)も、精製に使用することができる。例えば第1、4、6、8、9、及び10章の各々が参照によってその全体が本明細書に組み込まれる、Colligan, Current Protocols in Immunology, or Current Protocols in Protein Science、John Wiley & Sons, NY、N.Y.、(1997~2001)を例えば参照されたい。
【0090】
本発明の抗体の特徴及び機能
本発明のヒト化抗体VEGF-H988 Fabの特徴解析及び機能解析を行った。解析は、本発明の抗体が以下の利点を有することを示した:
(1)VEGF-H988 FabのVEGF165タンパク質への結合能力は、ルセンティスのそれに類似している、
(2)VEGF-H988 FabのVEGF165タンパク質への結合親和性は、ルセンティスのそれよりも良好であり、ルセンティスの約3.75倍である、
(3)VEGF165-H988 Fabは、組換えヒトVEGF165タンパク質に特異的に結合し、組換えマウスmVEGF164タンパク質とは交差結合しない、
(4)VEGF165-H988 Fabは、VEGF165タンパク質へのVEGFR2タンパク質の結合を効果的に阻害し得、その阻害能力はルセンティスよりも明らかに良好である、
(5)VEGF-H988 Fabの中和活性は異なる濃度の組換えヒトVEGF165でルセンティスよりも強力であり、その中和活性は高濃度のVEGF165でEYLEAよりも強力であり、その中和活性は異なる濃度のVEGF165でベバシズマブ及びブロルシズマブよりも強力であるが、コンベルセプトの活性と同等である。
【0091】
使用
本発明の抗体は、限定はしないが、高齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、網膜浮腫、変性近視、及び脈絡膜新生血管(CNV)の発生を含む、脈絡膜新生血管を特徴とする眼の疾患を含む、血管新生に関連する疾患を治療するために使用することができる。
【0092】
医薬組成物
本発明の抗体は、本発明の抗体及び1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体、希釈剤、又は賦形剤を含む医薬組成物を形成するために、少なくとも1つの他の作用剤(例えば、安定な化合物)と共に調製することができる。場合によって、医薬組成物は、さらなる治療剤を含有し得る。
【0093】
キット
本発明はまた、前述の本発明の医薬組成物を含有する1つ又は複数の容器を含む薬学的パッケージ及びキットにも関する。このような容器には、医薬品又は生物製剤の製造、使用、又は販売を管理している政府機関によって規定された形態の仕様書が添付されていてよく、これは、前記医薬品又は生物製剤を製造、使用、又は販売している上記機関によるヒト投与についての承認を反映している。
【0094】
調製及び保存
本発明の医薬組成物は、当技術分野において公知の様式で、例えば、従来の混合方法、溶解方法、造粒方法、トローチ調製方法、製粉方法、乳化方法、カプセル化方法、包埋方法、又は凍結乾燥方法によって調製することができる。
【0095】
許容可能な担体に配合された本発明の化合物を含む医薬組成物が既に調製されていたら、適応状態の治療のために、これらを適切な容器に入れ、ラベル付けしてよい。このようなラベルは、薬物の量、頻度、及び投与経路を含む。
【0096】
組み合わせ物
上記の本発明の抗体を含む医薬組成物はまた、抗新生物剤等の1つ又は複数の他の治療剤と組み合わされ、この場合、得られた組み合わせ物は、許容できない副作用を生じさせない。
【0097】
以下の実施例は、本発明のより良好な理解を助けるが、本発明を限定することを意図したものではない。以下の実施例における実験方法は、別段の特定がない限り、全て従来の方法である。以下の実施例で使用される実験材料は、別段の特定がない限り、従来の生化学的試薬の販売者から購入した。
【実施例】
【0098】
(実施例1)
抗体ファージディスプレイライブラリーを使用する、VEGFR2へのVEGF165の結合を遮断するウサギ抗体のスクリーニング
1.1 ウサギの免疫化
組換えヒトVEGF165タンパク質(Sino Biological, Inc社から入手、カタログ番号11066-HNAH)を使用して、ウサギを免疫化した。ヒトVEGF165タンパク質の細胞外領域Met1~Arg191のアミノ酸配列(UniProt P15692-4)は、配列番号1である。
【0099】
詳細な方法は以下の通りであった:組換えヒトVEGF165タンパク質をフロイントアジュバントと混合し、ウサギを当該混合物で、それぞれ3週間、2週間、及び2週間の間隔で4回、各回500μgの用量で、皮下で免疫化した。4回目の免疫化から、免疫化の4日後に、眼の内眼角網状組織を介して血液を回収した。ウサギ抗VEGF165の血清力価を、被覆された組換えヒトVEGF165タンパク質を使用して、ELISAによって測定した。5回目の免疫化による血清の力価は1:250000に達し、ウサギを、5回目の免疫化の9週間後に、25μgの組換えヒトVEGF165タンパク質で、静脈内でブーストした。7日後、マウスを屠殺し、脾臓組織を取り出し、液体窒素中で凍結した。
【0100】
1.2 抗体ファージディスプレイライブラリーのスクリーニング
TriPure単離試薬(Roche社から入手、カタログ番号11 667 165 001)を使用してRNAをウサギ脾臓組織から抽出し、逆転写キット(Invitrogen社から入手、カタログ番号18080-051)を使用してRNAを逆転写することによってcDNAを得た。ウサギ抗体の軽鎖可変領域の配列を増幅するために10対のプライマーを設計し、重鎖可変領域の配列を増幅するために4対のプライマーを設計した(Barbas C Fら、CSHL Press. 2004)。伸長PCRをオーバーラップさせることによって、ウサギ抗体の軽鎖及び重鎖可変領域をコードする配列を、scFvをコードするヌクレオチド配列にアセンブルし、以下のリンカーによって軽鎖及び重鎖可変領域を連結させた(Jones S Tら、Bio/technology. 1991、9(1): 88)。
TCTAGTGGTGGCGGTGGTTCGGGCGGTGGTGGAGGTGGTAGTTCTAGATCTTCC(SSGGGGSGGGGGGSSRSS)(配列番号2)、
【0101】
次いで、制限エンドヌクレアーゼSfi I(Fermentas社から入手)によってファージベクターpComb3x(Sino Biological, Inc.社から入手)に酵素的にライゲーションし、X-Blueコンピテント細胞に電気的形質転換して、ウサギファージディスプレイscFv抗体ライブラリーを構築した。組換えヒトVEGF165タンパク質をELISAプレートに被覆し、抗VEGF165陽性抗体に富むファージライブラリーを、ファージ抗体パンニングプロセス(O'Brien, PM及びAitken, R. (編)、Springer Science & Business Media. 2002、ISBN: 9780896037113)のプロセスに従ってスクリーニングした。単一コロニーファージを、発現に富んだライブラリーから選択し、組換えヒトVEGF165タンパク質へのこれらの結合をELISAによって検出した。組換えヒトVEGF165に特異的に結合する抗体クローンを選択し、シーケンシングのためにシーケンシングサービス会社に送って、VEGF165-R988 scFv抗体のヌクレオチド配列(配列番号3)を得た。
【0102】
1.3 VEGF165を標的化するウサギ抗体の産生
VEGF165-R988 scFv抗体の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列をPCR増幅し、Sca I+Kpn I(Fermentas社)で消化した、重鎖シグナルペプチド(配列番号43)及びウサギ重鎖IgG1定常領域(配列番号6)をコードするヌクレオチド配列を有するpSTEP2ベクターに、in-fusion方法によって挿入し、こうして、重鎖(配列番号52)を発現するベクターを得た。VEGF165-R988 scFv抗体の軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列をPCR増幅し、Sca I+BamH I(Fermentas社)で消化した、軽鎖シグナルペプチド(配列番号44)及びウサギカッパ軽鎖定常領域(配列番号7)をコードするヌクレオチド配列を有するpSTEP2ベクターに、in-fusion方法によって挿入し、こうして、軽鎖(配列番号53)を発現するベクターを得た。組換えプラスミドを抽出し、HEK-293細胞にトランスフェクトし、発現のために7日間培養し、そして、培養上清をタンパク質A精製カラムによって精製して、高純度の抗体を得た。
【0103】
【0104】
【0105】
1.4 VEGF165を標的化するウサギ抗体の機能解析
1.4.1 ウサギ抗体は、VEGFR2-hisへのVEGF165の結合を遮断する
1μg/mLの濃度のVEGF165タンパク質(SinoBiological, Inc.社から入手した)を、100μL/ウェルで一晩、4℃で、96ウェルプレートに被覆した。翌日、プレートを洗浄し、室温で1時間遮断させた。5μg/mLのVEGFR2-ビオチンタンパク質(SinoBiological, Inc.社から入手した)100μL、及び異なる濃度の抗体VEGF-R988を添加し、共インキュベートした。プレートを洗浄して未結合の抗体を除去し、ストレプトアビジン/HRP(Beijing ZSGB-Bio Co., Ltd.社から入手した)とインキュベートし、次いで、繰り返し洗浄し、そして、色素生成性基質溶液を添加して発色させた。発色が止まった後、OD450を測定した。VEGF165を標的化するウサギ抗体の濃度を水平座標として取り、阻害率PI%を垂直座標として取って、graphPad Prism 6.0ソフトウェアをデータ解析及び曲線チャートの作成に使用した。阻害率(%)=(ODブランク-ODサンプル)/ODブランク×100%であり、式中、ODブランクは、VEGFR2-ビオチンのみが添加され、ウサギ抗体は添加されていないウェルのOD値を指し、ODサンプルは、VEGFR2-ビオチン及びウサギ抗体の両方が添加されたウェルのOD値を指す。
【0106】
図1に示すように、抗体VEGF-R988は、被覆されたVEGF165タンパク質に効果的に結合し得、VEGFR2タンパク質へのVEGFR165タンパク質の結合を阻害し得る。
【0107】
1.4.2 ウサギ抗体は、VEGF165によって誘導されるHUVEC増殖効果を阻害する
前記ウサギ抗体の、VEGF165によって誘導される臍帯静脈内皮細胞増殖の中和効果を、WST-8法を使用して検出した。ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECを、4×103個細胞/ウェルで96ウェルプレートに接種し、10%FBS及び5%L-Glnを含有するM199培地中で4時間培養し、次いで、異なる濃度の抗体VEGF-R988を50μL/ウェルで添加し、次いで、最終濃度10ng/mLのVEGF-165を10μL/ウェルで添加し、96ウェルプレートを、37℃、5%CO2の細胞インキュベーターで3日間インキュベートし、そしてブランクウェルB(細胞なし)、ネガティブコントロールM(細胞接種あり、抗体サンプルなし、VEGF-165の添加あり)、並びにM'(細胞接種あり、抗体サンプルなし、及びVEGF-165なし)を使用した。インキュベーション後、10μL/ウェルのWST-8色素生成溶液を添加し、96ウェルプレートをCO2インキュベーターでインキュベートして発色させ、発色が止まった後、OD450及びOD630をマイクロプレートリーダーで測定した。読み取り値は(OD450-OD630)であり、各群のOD値をその群の読み取り値マイナスブランクウェルBの読み取り値として定義して抗体の中和率を計算し、中和率%=(ネガティブコントロールMのOD値-サンプルのOD値)/(ネガティブコントロールMのOD値-M'のOD値)×100%であった。標準曲線を、抗体サンプル濃度を水平座標として取り、中和率を垂直座標として取って、統計ソフトウェアGraphPad Prismの自動解析機能を使用して計算し、4パラメータロジスティック回帰方程式を使用して、標準的な「S」曲線を当てはめて、抗体サンプルの半数効果濃度(EC50)を計算した。
【0108】
図2に示す結果は、抗体VEGF-R988がVEGF165のHUVEC増殖促進能力を効果的に低減させることを示している。
【0109】
(実施例2)
ウサギ抗体VEGF-R988のヒト化、修飾、及びそのFab断片の産生
2.1 ウサギ抗体VEGF-R988の軽鎖及び重鎖のCDRの決定
実施例1.2で決定されたVEGF-R988 scFv抗体のヌクレオチド配列に基づいて、VEGF-R988 scFvの重鎖及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を推定した。配列番号8/9を参照されたい。
【0110】
Kabatインデックス及びIMGTナンバリングスキームを参照して、ウサギ抗体VEGF-R988-scFvの軽鎖及び重鎖の3つのCDRの各々のアミノ酸配列を決定した。Table 1(表3)を参照されたい。次の工程で、軽鎖及び重鎖の前述のそれぞれの3つのCDRを、ヒト化抗体VEGF-R988-scFvに移植した。実施例2.2を参照されたい。
【0111】
【0112】
2.2 CDR移植によるウサギ抗体VEGF-R988のヒト化
ウサギ抗体のヒト化を、CDR移植の従来のヒト化方法を使用して行った。その配列がウサギ軽鎖又は重鎖可変領域の配列に近い、ヒト抗体の軽鎖又は重鎖可変領域を、鋳型として選択し、ウサギ軽鎖又は重鎖の3つのCDR(Table 1(表3))の各々をヒト抗体の可変領域に挿入して、ヒト化軽鎖可変領域(VL)又はヒト化重鎖可変領域(VH)配列をそれぞれ得た。VEGF-R988の軽鎖可変領域のヒト鋳型は、VEGF-R988の軽鎖に65.30%相同なIGKV1-27*01であり、重鎖可変領域のヒト鋳型は、VEGF-R988の重鎖に53.20%相同なIGHV4-4*08である。
【0113】
2.3 ヒト化可変領域のフレームワーク領域での復帰突然変異
ウサギ由来のフレームワーク領域内の一部の重要なアミノ酸はCDR活性の維持に必須であるため、これら重要なアミノ酸を、対応するウサギ抗体アミノ酸配列に復帰突然変異させ、以下の部位を復帰突然変異させた: 軽鎖では、1位をEに復帰突然変異させ、2位をLに復帰突然変異させ、4位をLに復帰突然変異させ、そして63位をKに復帰突然変異させた。一方、重鎖では、3位をVに復帰突然変異させ、37位をVに復帰突然変異させ、47位をYに復帰突然変異させ、78位をVに復帰突然変異させ、79位をDに復帰突然変異させ、そして91位をFに復帰突然変異させた。全ての上記の部位は、Kabatのナンバリングスキームを参照することによってナンバリングした。ヒト化抗体VEGF-H988-10を、CDRヒト化移植及びフレームワーク領域の復帰突然変異によって得た。
【0114】
2.4 ヒト化モノクローナル抗体VEGF-H988-10の産生及びCDR親和性の修飾
VEGF-H988-10の重鎖可変領域(配列番号20)を全遺伝子合成方法によって得、次いで、Sca I+Nhe I(Fermentas社)で消化した、重鎖シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号43)及びヒトIgG1定常領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号47)を有するpSTEP2ベクターに、in-fusion方法によって挿入して、VEGF-H988-10重鎖(配列番号16)を発現するベクターを得た。VEGF-H988-10の軽鎖可変領域(配列番号21)を全遺伝子合成方法によって得、次いで、Sca I+BsiW I(Fermentas社)で消化した、軽鎖シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号44)及びヒトカッパ定常領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号48)を有するpSTEP2ベクターに、in-fusion方法によって挿入して、VEGF-H988-10軽鎖(配列番号17)を発現するベクターを得た。プラスミドを抽出し、HEK-293細胞にトランスフェクトし、細胞を7日間培養した。培養上清をタンパク質A精製カラムで精製して、高純度の抗体を得た。
【0115】
【0116】
【0117】
VEGF-H988-10の親和性を向上させるために、重鎖及び軽鎖可変領域のCDR領域のSDMライブラリー(3つの飽和突然変異ライブラリーLCDR1、LCDR3、及びHCDR2を含む)を構築した。一方、抗体の化学的安定性を向上させるためには、脱アミド化又は異性化を受け得るアミノ酸残基を別のアミノ酸残基に修飾するべきである。アスパラギンの脱アミド化は、NG、NS、NA、NT等で生じ得、抗体の安定性又は生物学的機能に影響するイソアスパラギン酸残基を生成させる。VEGF-H988の可変領域HCDR3は脱アミド化感受性部位を有しており、したがって、SDMライブラリーを構築して、抗体の化学的安定性及び生物学的機能を向上させた。上記の4つの突然変異体ライブラリーはscFv形態で構築し、scFv- gIII融合タンパク質としてファージベクターにクローニングした。各CDRについて、可溶性抗原VEGFに対して最適な結合能力を有するCDRクローンをスクリーニングし、最後に、CDRの親和性及び安定性が最適化された抗体VEGF-H988を得た。VEGF-H988軽鎖及び重鎖CDRの配列をTable 2(表6)に示す。
【0118】
【0119】
2.5 ヒト化VEGF-H988 Fab断片の産生
順に結合された、軽鎖シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号44)、ヒト化抗体軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号46)、及びヒト抗体カッパ軽鎖定常領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号48)を有する、前述のVEGF-H988 Fab軽鎖及びシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号42)をPCR増幅し、自社開発のpGSベクター(Kpn I+Xba I)にin-fusion方法によって挿入し、正確なプラスミドをシーケンシングによって確認した。順に結合された、重鎖シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号43)、ヒト化抗体重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号45)、及びヒトIgG1重鎖CH1定常領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号49)を有する、VEGF-H988 Fab重鎖及びシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号41)をPCR増幅し、軽鎖を正確に有することが確認されているpGSベクター(Nhe I+Not I)に、in-fusion方法によって挿入し、VEGF-R988 Fabの軽鎖及び重鎖の両方を発現する正確なベクターを、シーケンシングによって確認した。これら発現ベクターは、選択マーカーとしてのGS遺伝子、並びに抗体軽鎖及び重鎖の発現エレメントを有する、真核性の発現ベクターである。これら発現ベクターをCHO-K1-GS-欠損細胞にトランスフェクトし、VEGF-H988 Fab高発現細胞系をMSXスクリーニングによって得た。抗体発現が高いクローンをELISAアッセイによって選択し、高発現細胞系を、細胞の増殖状態及び抗体薬のための重要な質的特徴の両方を考慮することによって選択した。無血清懸濁液培養を使用して、VEGF-H988 Fabを産生するCHO細胞系を培養して、純度及び質の高いVEGF-H988 Fab断片を得た。
【0120】
(実施例3)
ヒト化VEGF-H988 Fab断片の特徴解析
3.1 VEGF165へのVEGF-H988 Fab断片の結合の特徴解析
3.1.1 VEGF-H988 Fab断片はVEGF165に特異的に結合する
異なる濃度の(0.15ng/mL、0.46ng/mL、1.37ng/mL、4.12ng/mL、12.35ng/mL、37.04ng/mL、111.11ng/mL、333.33ng/mL、1000ng/mL、及び3000ng/mL)組換えヒトVEGF165タンパク質(SinoBiological, Inc.社から入手した)を、100μL/ウェルで一晩、4℃で、96ウェルプレートに被覆した。翌日、プレートを洗浄し、室温で1時間遮断させた。1μg/mLのVEGF165-H988 Fab断片、ルセンティス(Norvatis社から入手した)、又はネガティブコントロールH7N9-R1 Fab断片(Sino Biological, Inc.社から入手した)100μLとそれぞれインキュベートした後、プレートを洗浄して未結合の抗体を除去し、次いで、ヤギF(ab')2抗ヒトIgG F(ab')2/HRP(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.社から入手した)とインキュベートし、繰り返し洗浄し、そして、色素生成性基質溶液を添加して発色させた。発色が止まった後、OD450を測定した。組換えヒトVEGF165タンパク質の濃度を水平座標として取り、OD450値を垂直座標として取って、graphPad Prism 6.0ソフトウェアを使用して「S」曲線チャートを当てはめ、組換えヒトVEGF165タンパク質への抗体断片の結合を解析した。
【0121】
図3に示す結果は、組換えヒトVEGF165に特異的に結合するヒト化VEGF165-H988 Fab断片のEC
50値が18.75ng/mLであり、R
2=0.993であること、組換えヒトVEGF165に結合するルセンティスのEC
50値が12.87ng/mLであり、R
2=0.989であることを示している。これは、VEGF165-H988 Fabの組換えヒトVEGF165タンパク質結合能力がルセンティスのそれに類似していることを示している。ネガティブコントロール抗体H7N9-R1のFab断片は、組換えヒトVEGF165タンパク質への結合能力を有さない。
【0122】
3.1.2 VEGF165タンパク質に対するVEGF-H988 Fab断片の結合親和性のアッセイ
VEGF165-H988 Fab断片及びルセンティスの親和性を、ストレプトアビジンで被覆されたセンサー及び固定されたビオチン標識VEGF165タンパク質を使用して、複数の濃度で測定した。
【0123】
組換えヒトVEGF165タンパク質をまず、以下のプロセスの通りに、1:2のモル比で、ビオチンで標識した:組換えVEGF165タンパク質バッファー(20mMのTris、150mMのNaCl、pH8.0)を、5000MWの限外濾過遠沈管での限外濾過を介してPBSと置き換え、UV定量によって測定すると567.57μgのタンパク質が得られ、そして、得られたタンパク質を20mMのビオチン溶液と1:2のモル比で混合し、30分間、室温で、暗所でインキュベートし、次いで、5000MWの限外濾過遠沈管で再び濾過して、未標識のビオチンを除去した。UV定量した後、ビオチン標識タンパク質を、等容積のグリセロール及び最終濃度0.1%のBSAを添加することによって得た。UVによって検出したところ、VEGF165タンパク質の濃度は2.08mg/mLであった。
【0124】
次いで、異なる濃度のVEGF165-H988 Fab断片及びルセンティスの、ビオチン化された組換えヒトVEGF165タンパク質に対する親和性を測定し、得られたKD値が最終親和性であった。
【0125】
Table 3(表7)に示す結果は、組換えヒトVEGF165タンパク質とのVEGF-H988 Fab断片の結合親和性KDの値が1.54E-10(M)であり、結合定数konの値が2.74E+05(1/Ms)であり、そして解離定数kdisの値が4.21E-05(1/s)であったこと、また、Table 3(表7)に示すように、VEGF165タンパク質とのルセンティスの結合親和性KDの値が5.78E-11(M)であり、結合定数konの値が5.36E+04(1/Ms)であり、そして解離定数kdisの値が3.10E-05(1/s)であったことを示している。この結果は、VEGF-H988 Fab断片の親和性がルセンティスのそれより強力であり、これがルセンティスの親和性の約3.75倍強力であったことを示した。したがって、VEGF-H988 Fab断片は、ルセンティスよりも強力なVEGF165タンパク質結合能力を有する。
【0126】
【0127】
3.1.3 VEGF165-H988 Fab断片の種間交差反応性の決定
組換えヒトVEGF165タンパク質又は組換えマウスmVEGF164タンパク質(Sino Biological, Inc.社から入手した)を0.1μg/mL、1μg/mL、及び10μg/mLまでそれぞれ希釈し、100μL/ウェルで一晩、4℃で、96ウェルプレートに被覆した。翌日、プレートを洗浄し、室温で1時間遮断させた。100μLのVEGF165-H988 Fab断片、ルセンティス又はネガティブコントロールH7N9-R-Fabを2μg/mLの濃度でそれぞれ添加し、そして1時間インキュベートした。プレートを洗浄して未結合の抗体を除去した。プレートをヤギF(ab')2抗ヒトIgG F(ab')2/HRP(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.社)とインキュベートし、次いで、繰り返し洗浄し、そして色素生成性基質溶液を添加して発色させた。発色が止まった後、OD450を測定した。タンパク質濃度を水平座標として取り、OD450値を垂直座標として取って、graphPad Prism 6.0ソフトウェアを使用して棒チャートを作成した。
【0128】
図4に示す結果は、VEGF165-H988 Fab断片が組換えヒトVEGF165タンパク質に特異的に結合し、組換えマウスmVEGF164タンパク質との交差結合を示すことを示している一方、ルセンティスが組換えマウスmVEGF164タンパク質との交差結合がないことを示すことを示している。
【0129】
3.2 VEGF-H988 Fab断片の受容体遮断特性
1μg/mLの濃度のVEGF165タンパク質を、100μL/ウェルで一晩、4℃で、96ウェルプレートに被覆した。翌日、プレートを洗浄し、室温で1時間遮断させた。2μg/mLのVEGFR2-hisタンパク質(SinoBiological, Inc.社から入手した)100μLを各ウェルに添加し、異なる濃度のヒト化VEGF-H988 Fab断片、ルセンティス、又はネガティブコントロールH7N9-R1-Fab(SinoBiological, Inc.社から入手した)をそれぞれ添加し、そして共インキュベートした。プレートを洗浄して未結合の抗体を除去した。プレートをC-his-R023/HRPとインキュベートし、次いで繰り返し洗浄し、そして、色素生成性基質溶液を添加して発色させた。発色が止まった後、OD450を測定し、各群について2回ずつ試験した。抗体の濃度を水平座標として取り、阻害率PI%を垂直座標として取って、graphPad Prism 6.0ソフトウェアをデータ解析及び曲線チャートの作成に使用して、IC50値を計算した。阻害率(%)=(ODブランク-ODサンプル)/ODブランク×100%であり、式中、ODブランクは、VEGFR2-hisのみが添加され、ヒト抗体は添加されていないウェルのOD値を指し、ODサンプルは、VEGFR2-his及びヒト化抗体の両方が添加されたウェルのOD値を指す。
【0130】
図5に示すように、VEGFR2タンパク質は、被覆されたVEGF165タンパク質に効果的に結合し得、VEGF-H988 Fab断片は、VEGFR165タンパク質へのVEGFR2タンパク質の結合を、ルセンティスよりも明らかに優れた阻害能力で、効果的に阻害し得、ネガティブコントロールは阻害効果を示さなかった。
【0131】
3.3 VEGF-H988 Fab断片は、異なる濃度のVEGF165の増殖阻害活性を遮断する
ヒト化Fab断片の、VEGF165によって誘導されるHUVEC細胞増殖の中和効果を、WST-8法を使用することによって検出した。HUVEC細胞を、4×103個細胞/ウェルで96ウェルプレートに接種し、10%FBS及び5%L-Glnを含有するM199培地中で4時間培養し、次いで、異なる濃度のヒト化Fab断片を50μL/ウェルで添加し、次いで、最終濃度1000ng/mL、100ng/mL、又は10ng/mLのVEGF-165を10μL/ウェルで添加し、96ウェルプレートを、37℃、5%CO2の細胞インキュベーターで3日間インキュベートし、ブランクウェルB(細胞なし)、ネガティブコントロールM(細胞接種あり、抗体サンプルの添加なし、VEGF-165の添加あり)、及びM'コントロール(細胞接種あり、抗体サンプルの添加なし、及びVEGF-165の添加なし)を使用した。インキュベーション後、10μL/ウェルのWST-8色素生成溶液を添加し、96ウェルプレートをCO2インキュベーターでインキュベートして発色させ、発色が安定化した後、OD450及びOD630をマイクロプレートリーダーで測定した。読み取り値は(OD450-OD630)であり、各群のOD値をその群の読み取り値マイナスブランクウェルBの読み取り値として定義して抗体の中和率を計算し、中和率%=(ネガティブコントロールMのOD値-サンプルのOD値)/(ネガティブコントロールMのOD値-M'のOD値)×100%であった。標準曲線を、抗体サンプル濃度を水平座標として取り、中和率を垂直座標として取って、統計ソフトウェアGraphPad Prismの自動解析機能を使用して計算し、4パラメータロジスティック回帰方程式を使用して、標準的な「S」曲線を当てはめて、抗体サンプルの半数効果濃度(EC50)を計算した。
【0132】
図6~
図10及びTable 4(表8)に示すように、VEGF-H988 Fabの中和活性は、異なる濃度の組換えヒトVEGF165タンパク質全てで、ルセンティスよりも強力であった。VEGF165の濃度が1000ng/mL又は100ng/mLである場合、VEGF-H988 Fabの中和活性はEYLEAよりも強力であったが、VEGF165の濃度が10ng/mLである場合、VEGF-H988 Fabの中和活性はEYLEAのそれよりもわずかに弱かった。VEGF-H988 Fabの中和活性は、異なる濃度の組換えヒトVEGF165タンパク質で、ベバシズマブ及びブロルシズマブのそれよりも優れており、コンベルセプトのそれと同等であった。VEGF165の濃度が増大するにつれ、VEGF-H988 Fabは高い最大中和率を維持したが、一方、EYLEA及びアバスチンは活性の低下を示した。
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
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【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【配列表】
【国際調査報告】