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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-23
(54)【発明の名称】化学化合物を合成する方法
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/10 20190101AFI20220816BHJP
   G06F 16/90 20190101ALI20220816BHJP
【FI】
G16C20/10
G06F16/90 100
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506295
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(85)【翻訳文提出日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 US2019044068
(87)【国際公開番号】W WO2021021120
(87)【国際公開日】2021-02-04
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504115013
【氏名又は名称】イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン
(71)【出願人】
【識別番号】311016949
【氏名又は名称】シグマ-アルドリッチ・カンパニー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Sigma-Aldrich Co. LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】サラ・トライス
(72)【発明者】
【氏名】ティム・クネハンス
(72)【発明者】
【氏名】マチェイ・ヴォイチコフスキ
【テーマコード(参考)】
5B175
【Fターム(参考)】
5B175DA06
5B175KA04
(57)【要約】
システム、ソフトウェアアプリケーション、及び、方法を開示し、これらは、逆合成ソフトウェアアプリケーションを利用している間、カスタマーが、化合物及び物質に関する当該カスタマーの独自のデータベースを保護することを可能にする。カスタマーの独自のデータベースは、逆合成システムに提供される前に、暗号化される。こうした暗号化は、ハッシュ、及び、任意でソルトを使用して実施される。その後は、従来行われている通り、逆合成アルゴリズムがシントンを生成する。しかし、シントンの生成後、シントンは、ハッシュ化され、その結果、シントンは、カスタマーの独自のデータベース中のエントリと比較することができる。かくして、カスタマーのデータベースの実際のコンテンツは、逆合成システム又はソフトウェアアプリケーションからは決して利用可能にはならない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的化合物に対して逆合成を実行する方法であって、以下を含む方法:
前記標的化合物をレトロンに設定すること;
前記レトロンに対する第1の逆合成検索を実行して1組のシントンを探すこと;
前記1組のシントンのうちの各シントンをハッシュ化すること;
ハッシュ化された各シントンを、独自のデータベース中のエントリと比較すること、ここで、前記独自のデータベース中の前記エントリは、同一のハッシュアルゴリズムを用いてハッシュ化される;
前記比較に成功した場合、前記シントンを記録、及び/又は、表示すること;並びに、
前記比較に失敗した場合、前記1組のシントンを前記レトロンに設定し、並びに、前記実行、ハッシュ化、及び比較ステップを繰り返すこと。
【請求項2】
請求項1の方法であって、ハッシュ化する前に、前記1組のシントンをソルト化し、そして、前記独自のデータベース中の前記エントリを、同じソルトを用いてソルト化する、方法。
【請求項3】
請求項2の方法であって、前記ソルトが各カスタマーごとにユニークである、方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、前記1組のシントンも、パブリックデータベース中のエントリと比較する、方法。
【請求項5】
請求項4の方法であって、前記パブリックデータベース中の前記エントリがハッシュ化されていない、方法。
【請求項6】
請求項4の方法であって、前記パブリックデータベース中の前記エントリが、前記独自のデータベースと同一のハッシュアルゴリズムを用いてハッシュ化される、方法。
【請求項7】
請求項1の方法であって、実行可能ファイルを用いて前記独自のデータベースを生成する、方法。
【請求項8】
請求項7の方法であって、前記実行可能ファイルは、指示を含み、前記指示は、処理ユニットによって実行されると、前記処理ユニットが以下の動作を行うことを可能にする、方法:
カスタマーのデータベース中の全てのエントリを、正準型式に変換する;
正準型式に変換後各エントリをハッシュ化する;及び、
前記独自のデータベース中の前記ハッシュ化されたエントリを記憶する。
【請求項9】
請求項8の方法であって、前記実行可能ファイルは、更に、ユニークなソルトを含み、そして、指示を含み、前記指示は、前記処理ユニットによって実行されると、前記処理ユニットが以下の動作を行うことを可能にする、方法:
前記ハッシュ化の前に正準型式中の各エントリをソルト化する。
【請求項10】
請求項8の方法であって、前記実行可能ファイルは、更に、指示を含み、前記指示は、前記処理ユニットによって実行されると、前記処理ユニットが以下の動作を行うことを可能にする、方法:
カスタマーからのパスワードを要求する;
ソルトとしての前記パスワードを利用する;及び
前記ハッシュ化の前に正準型式中の各エントリをソルト化する。
【請求項11】
請求項8の方法であって、前記カスタマーのデータベース中の各エントリがSMILES記法である、方法。
【請求項12】
請求項8の方法であって、前記カスタマーのデータベース中の各エントリがInChI記法である、方法。
【請求項13】
請求項8の方法であって、前記カスタマーのデータベース中の各エントリがInChI-Keys記法である、方法。
【請求項14】
ソフトウェアプログラムであって、非一時的記憶媒体上に配置され、前記ソフトウェアプログラムは、指示を含み、前記指示は、処理ユニットによって実行されると、以下によって、標的化合物に関する逆合成を実行する、ソフトウェアプログラム:
前記標的化合物をレトロンに設定すること;
前記レトロンに対する第1の逆合成検索を実行して1組のシントンを探すこと;
前記1組のシントンのうちの各シントンをハッシュ化すること;
各ハッシュ化されたシントンを、独自のデータベース中のエントリと比較すること、ここで、前記独自のデータベース中の前記エントリは、同一のハッシュアルゴリズムを用いてハッシュ化される;
前記比較に成功した場合、前記シントンを記録、及び/又は、表示すること;、並びに、
前記比較に失敗した場合、前記1組のシントンを前記レトロンに設定し、並びに、前記実行、ハッシュ化、及び比較ステップを繰り返すこと。
【請求項15】
請求項14のソフトウェアプログラムであって、前記ソフトウェアプログラムは、更に以下の動作を行うための指示を含む、ソフトウェアプログラム:
ハッシュ化する前に、前記1組のシントンをソルト化する;ここで、前記独自のデータベース中の前記エントリは、同じソルトを用いてソルト化される。
【請求項16】
請求項14のソフトウェアプログラムであって、前記ソフトウェアプログラムは、更に以下の動作を行うための指示を含む、ソフトウェアプログラム:
前記1組のシントンを、パブリックデータベース中のエントリと比較すること。
【請求項17】
請求項16のソフトウェアプログラムであって、前記パブリックデータベースがハッシュ化されない、ソフトウェアプログラム。
【請求項18】
請求項16のソフトウェアプログラムであって、前記パブリックデータベース中の前記エントリが、前記独自のデータベースと同一のハッシュアルゴリズムを用いてハッシュ化される、ソフトウェアプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化学化合物を生成するための合成経路に関するシステム及び方法(逆合成分析とも言う)について説明する。
【背景技術】
【0002】
非自明な標的へとつながるマルチステップの化学合成を計画するためのコンピュータによるプログラミングは、ここ50年間にわたって、つかみどころのない目標であった。具体的には、1つのソフトウェアアプリケーション(SynthiaTMとも言う)は、最小限のヒトによる指導の下、構造的に多様で、尚且つ、医学的に関連する標的につながる完全な経路を設計してきた。これらの理論的な経路は、研究室において連続的に実行され、今までのアプローチに対する実質的な改善をもたらし、又は、所与の標的への最初の文書化されたルートを提供してきた。
【0003】
逆合成が達成可能だとわかれば、ある人は、自動化された逆合成の手法の範囲を拡張しようと考える可能性がある。興味深い可能性のひとつとして、カスタマーが以下のことを行うことが可能になる:化合物に関するカスタマーの独自のデータベースを提供すること、及び、共通の利用可能な化合物、又は、こうした独自のデータベースからの化合物に到達した時点で逆合成を終了すること。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、カスタマーからしてみれば、カスタマーの独自の(propriety)データベースを、別のエンティティ(例えば、こうしたソフトウェアアプリケーションの所有者)と共有することに躊躇する可能性がある。したがって、他のエンティティがカスタマーのデータベースにアクセスすることを可能にすることなく、カスタマーの独自のデータベースをカスタマーが利用するためのシステム及び方法があれば有益であろう。また、ソフトウェアアプリケーションが、複数のカスタマーからのデータベースを利用して動作することができ、その際に、これらのデータベースのいずれかにおける暗号化されていないデータにアクセスすることなく、並びに、こうしたデータベース内でのオーバーラップを検出することなく、動作するのであれば有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
開示するのは、システム、ソフトウェアアプリケーション、及び、方法であり、これらは、逆合成ソフトウェアアプリケーションを利用している間、カスタマーが、化合物及び物質に関する当該カスタマーの独自のデータベース(proprietary database)を保護することを可能にする。カスタマーの独自のデータベースは、逆合成システムに提供される前に、暗号化される。こうした暗号化は、ハッシュ、及び、任意でソルトを使用して実施される。その後、逆合成アルゴリズムは、従来通り、シントンを生成する。しかし、シントンの生成後、シントンは、ハッシュ化され、その結果、シントンは、カスタマーの独自のデータベース中のエントリと比較することができる。かくして、カスタマーのデータベースの実際のコンテンツは、逆合成システム又はソフトウェアアプリケーションにとって分子フォーマットで利用可能な状態にさせられることがない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本開示をよりよく理解できるよう、添付図面について言及するが、ここで、同様の要素については、同様の番号で言及され、各図面は以下の通りである。
【0007】
図1】逆合成を実行するための代表的なシステムを示す;
図2】本明細書に記載のソフトウェアアプリケーションのユーザのための代表的なシステムを示す;
図3】ハッシュ化された独自のデータベースを生成するためのシーケンスを示す;
図4】元々のデータベースのエントリと、ソルト化及びハッシュ化されたエントリとの比較を示す;
図5】ハッシュ化された独自のデータベースを用いて逆合成を実行するためのシーケンスを示す;
図6】第2のデータストアを利用するための図5のシーケンスのエンハンスメントを示す;及び
図7図6に示すプロセスのバリエーションを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、化学化合物の逆合成における進歩を示す。本開示は、システム、方法、及び、ソフトウェアアプリケーションについて説明するが、これらは、カスタマーのライブラリの機密性を保護する逆合成分析を可能にする。ソフトウェアアプリケーションは、任意の適切な言語で記述することができ、そして、任意のシステムで実行されてもよい。ソフトウェアアプリケーションは1以上の処理ブロックを含む。これらの処理ブロックは、それぞれ、コンピュータ又は他の処理ユニットで実行されるソフトウェアモジュール又はアプリケーションであってもよい。ソフトウェアアプリケーションを実行する代表的な逆合成システム10を図1に示す。処理ユニット20は、複数の方法で実装でき(例えば、専用のハードウェアを用いてもよく、又は、汎用目的のハードウェアを用いてもよい(例えば、パーソナルコンピュータ))、本明細書で引用する機能を実行するためのマイクロコード又はソフトウェアを用いてプログラムされる。ローカルメモリデバイス25は、ソフトウェアアプリケーションと指示を含むことができ、これらは、処理ユニット20によって実行されると、逆合成システム10が本明細書に記載の機能を実行することを可能にする。このローカルメモリデバイス25は、不揮発性メモリであってもよい(例えば、FLASH ROM、電気的に消去可能なROM、又は、他の適切なデバイス)。他の実施形態において、ローカルメモリデバイス25は、揮発性メモリであってもよい(例えば、RAM又はDRAM)。また、逆合成システム10は、データストア50を含む。データストア50は大量のデータ(例えば、反応ルールのリスト、商用化合物のリスト、及び、これらのグラム単価)を保存するのに使用することができる。更には、逆合成システム10はユーザ入力デバイス30を含むことができる(例えば、キーボード、マウス、タッチスクリーン、又は、他の適切なデバイス)。また、逆合成システム10は、ディスプレイデバイス40を含むことができる(例えば、コンピュータスクリーン、LEDディスプレイ、タッチスクリーンなど)。データストア50、ユーザ入力デバイス30及びディスプレイデバイス40は、すべて、処理ユニット20と通信可能な状況にある。幾つかの実施形態において、逆合成システム10は、ネットワークインターフェース60を持ってもよく、外部ネットワークと通信してもよく(例えば、インターネット)、これにより、処理ユニット20が、逆合成システム10からリモートで記憶されている情報にアクセスすることが可能になる。
【0009】
データストア50は、既知の反応を記述する方法の広大なナレッジベースを記憶することができる。一実施形態において、データストア50は、70000を超える反応ルールを含むことができる。更には、逆合成システム10は、開始材料の多様なコレクションにアクセスすることができる。こうした情報は、データストア50又は別のストレージ要素に記憶されてもよい。あるいは、こうした情報は、処理ユニット20にとって、ネットワークインターフェース60を通してアクセス可能であってもよい。一実施形態において、公知文献による700万を超える物質に関する情報が、処理ユニット20にとって利用可能である。また、こうした情報は、これらの物質のうちの少なくとも一部に関するグラム単価を含むことができる。これらの物質は、それぞれ、グラフィカルな形式とは対照的であるが、テキスト形式で記憶されてもよい。例えば、物質は、Simplified Molecular Input Lines Entry System (SMILES)文字列を用いて描写されてもよい。SMILESは、ASCII文字列を用いて化学種の構造を記述した記述法である。他の記述法としては、以下を含む; IUPAC International Chemical Identifier (InChI)、及び、InChI-Keys。一般的に、どの記述を用いるかに関わらず、同一の化合物は、異なった文字列を用いて表現することができる。したがって、特定の実施形態において、すべての文字列が、正準表現を用いて再記述される。
【0010】
更には、処理ユニット20は、独自のデータベース80へアクセスすることができ、当該データベースは暗号化されている。こうした独自のデータベース80は、ソフトウェアアプリケーションの特定のカスタマーが利用可能である化合物及び物質のライブラリを含む。こうした独自のデータベース80は、複数の正準表現を含み、各表現は、特定のユーザにとって利用可能である特定の物質に対応する。そして、各正準表現はハッシュを用いて暗号化される。ハッシュは、SHA-1、SHA-2、SHA-3、MD5、又は別のアルゴリズムであってもよい。具体的なハッシュアルゴリズムは、本開示によって限定されない。特定の実施形態において、独自のデータベース80における各エントリは、ハッシュ化する前に、ソルト化される。「ソルト」は、任意の文字列であり、各正準表現に付加又は追加される。こうした追加される入力は、独自のデータベース80の機密性を更に保護することになる。
【0011】
独自のデータベース80のソルト化及びハッシュ化によって、サードパーティは、独自のデータベース80のコンテンツを決定することができない。かくして、カスタマーは、公開された逆合成システム及びソフトウェアアプリケーションを利用することができるが、その際には、化合物及び物質に関するカスタマーの機密のライブラリへのアクセスを提供することなく利用することができる。
【0012】
代表的なカスタマーのシステム100を図2に示す。処理ユニット120は、複数の方法で実装することができ(例えば、専用のハードウェアを用いてもよく、又は、汎用目的のハードウェアを用いてもよい(例えば、パーソナルコンピュータ))、本明細書で引用する機能を実行するためのマイクロコード又はソフトウェアを用いてプログラムされる。ローカルメモリデバイス125は、指示を含むことができ、これらは、処理ユニット120によって実行されると、カスタマーのシステム100が本明細書に記載の機能を実行することを可能にする。このローカルメモリデバイス125は、不揮発性メモリであってもよい(例えば、FLASH ROM、電気的に消去可能なROM、又は、他の適切なデバイス)。他の実施形態において、ローカルメモリデバイス125は、揮発性メモリであってもよい(例えば、RAM又はDRAM)。カスタマーのシステム100はユーザ入力デバイス130を含むことができる(例えば、キーボード、マウス、タッチスクリーン、又は、他の適切なデバイス)。また、カスタマーのシステム100は、ディスプレイデバイス140を含むことができる(例えば、コンピュータスクリーン、LEDディスプレイ、タッチスクリーンなど)。ユーザ入力デバイス130及びディスプレイデバイス140は、すべて、処理ユニット120と通信可能な状況にある。幾つかの実施形態において、カスタマーのシステム100は、ネットワークインターフェース160を持ってもよく、外部ネットワークと通信してもよく(例えば、インターネット)、これにより、処理ユニット120が、自身の独自のデータベースを逆合成システム10に提供することが可能となる。
【0013】
また、カスタマーのシステム100は、データストアも持ってもよく、当該データストアは、化合物及び物質に関するカスタマーのデータベース180を持ってもよい。
【0014】
図3は方法を示し、当該方法は、ハッシュ化された独自のデータベース80を生成するために用いてもよく、当該データベースは、逆合成システム10に提供されてもよい。こうした方法は、実行可能ファイルをカスタマーのシステム100に提供することによって実行されてもよい。実行可能ファイルは、指示を含み、当該指示は、カスタマーのシステム100上の処理ユニット120によって実行されると、本明細書に記載の機能を実行する。換言すれば、図3に示すプロセスは、カスタマーのシステム100上で実行されてもよい。かくして、暗号化されていないカスタマーのデータベース180は、逆合成システム10又はソフトウェアアプリケーションにとって利用可能となることはない。こうした実行可能ファイルは、逆合成システム10によって生成されてもよく、そして、カスタマーのシステム100によって送信されてもよい(例えば、インターネット経由でダウンロードすることによって)。
【0015】
以下のプロセスは、実行可能ファイルによって実行される。最初に、プロセス(300)に示すように、カスタマーのデータベース180中の各エントリをレビューして、エントリが正準型式(canonical form)であることを確認する。これは、必須であり、その理由は、ハッシュ化されたシントンの比較を成功させる条件としては、各化合物が単一の表現のみを用いて記述される場合だからである。各エントリをレビューして正準型式に変換した後、ソルトを各エントリに追加することができる(プロセス(310)に示すように)。こうしたソルトは特定のカスタマーにとってユニークなものであってもよく、そして、機密性を保持されてもよい。例えば、一実施形態において、実行可能ファイルは、ユニークなソルトを含み、当該ソルトは、カスタマーにとって見えないようにされる。実行可能ファイル、及び、ソフトウェアアプリケーションは、特定のカスタマーごとに同一のソルトを使用する。他の実施形態において、ソルトを使用しなくてもよい。これらの実施形態において、プロセス(310)を省略してもよい。次に、プロセス(320)に示すように、各エントリは、ソルトを用いた正準表現であるが、ハッシュ化される。上述したように、本開示によって、特定のハッシュ化アルゴリズムに限定されるものではない。これらのソルト化及びハッシュ化されたエントリは、それぞれ、独自のデータベース80へとコンパイルされる。いったんこれが完了すると、独自のデータベース80を、ソフトウェアアプリケーションにとって、利用可能になるようにしてもよく、なぜならば、暗号化されていないコンテンツはもはや逆合成システム10又はソフトウェアアプリケーションにとってアクセス可能ではないからである。
【0016】
図4が示すのは、幾つかの代表的な正準のSMILES文字列及び結果としてのハッシュ値である。留意されたい点として、ハッシュ値から、正準のSMILES文字列を再生成する手段が存在しない。さらには、以下の点に留意されたい:ハッシュ値は、元々のSMILES文字列に対するいかなる知見も与えない。
【0017】
図3に対する機能的なエンハンスメントとして、特定の実施形態において、ソルト化及びハッシュ化された正準表現はソートされてもよい(例えば、アルファベット順に)(プロセス(330)に示すように)。こうしたエンハンスメントにより、マッチする部分を探すための独自のデータベース80の検索を行うための、ソフトウェアアプリケーションにとって必要となる時間を減らすことができる。
【0018】
独自のデータベース80をどうやって生成するかについて説明してきたが、カスタマーのための逆合成を実行するために使用されるシーケンスを、以下説明する。こうしたシーケンスの代表的なフローチャートを図5に示す。最初に、プロセス(400)に示すように、独自のデータベース80が、逆合成システム10の処理ユニット20にとって利用可能となる。こうしたことは以下によって達成することができる:独自のデータベース80を逆合成システム10にアップロードすること、又は、逆合成システム10が独自のデータベース80にリモートアクセスすることを可能にすること。
【0019】
次に、プロセス(410)に示すように、逆合成検索を開始する。具体的には、マッチング反応テンプレートを適用し、そして、第1世代のシントンのセットを生成する。最初の検索に関して、レトロンを標的化合物に設定する。各候補となるレトロンからシントン(複数可)への変換r→s1,s2,…,sN(ここで、第1世代においてr=t)に関して、シントンを特定する(プロセス(420)に示すように)。当業者にとってよく知られているが、レトロンは、最小の分子サブ構造であり、特定の変換を可能にする。また、よく知られているが、シントンは、合成におけるフォーメーションをアシストする化合物の断片であり、その標的分子から派生する。
【0020】
任意のシントンが独自のデータベース80に存在するかどうかを決定する目的で、独自のデータベース80がハッシュ化されるため、カスタマーのデータベース上で以前に実行された、シントンに関する同一のオペレーションを実行することが必要となる(プロセス(430)に示すように)。換言すれば、各シントンは、正準型式でなければならない。その後、各シントンは、図3のプロセス(310)で使用された同一のソルトを用いて、ソルト化される(もしも、こうしたことが独自のデータベース80に対して実行された場合)。最後に、各シントンのソルト化された正準表現は、図3のプロセス(320)で使用された同一のハッシュアルゴリズムを用いてハッシュ化される。
【0021】
カスタマーのデータベース180で実行された、正確に同一の変換がシントンに対して実行されるため、ハッシュ化されたシントンは、カスタマーのデータベース中の正確に同一な化合物にのみマッチすることとなる。したがって、プロセス(440)に示すように、ハッシュ化されたシントンは、独自のデータベース80中のエントリと比較される。もしも、マッチした部分を見つけると、シントンを記録し、及び/又は、表示する(プロセス(450)に示すように)。逆合成のこうした経路はここで完成し、このシントンは更なる分析にかける必要はない。シーケンスを継続して、独自のデータベース80にまだマッチングさせていない他のシントンがあるかどうかをみるためチェックする(プロセス(460)に示すように)。まだ特定されていない他のシントンがある場合、逆合成プロセスは継続する。例えば、残りのシントンをここで、標的分子として処理する(プロセス(480)に示すように)。その後、逆合成プロセスは、これらの残りのシントンを標的として用いて継続する。
【0022】
こうしたプロセスは、全てのシントンが独自のデータベース80において見つかるまで継続する(プロセス(470)に示すように)。得られた合成経路は、その後、カスタマーに提供される(例えば、カスタマーのシステム100に関連するディスプレイデバイス140上に結果を表示することによって)。あるいは、得られた合成経路は、カスタマーに、テキストファイル、Eメール、又は、他の手段を通して提供されてもよい。
【0023】
図6が示すのは、図5のシーケンスのエンハンスメントである。具体的には、特定の実施形態において、逆合成システム10は、独自のデータベース80、及び、市販の入手可能な化合物及び物質のデータストア50の両者を含んでもよい。独自のデータベース80がソルト化及びハッシュ化される一方で、データストア50はソルト化及びハッシュ化されなくてもよい。したがって、特定の実施形態において、シーケンスは、プロセス(421)及びプロセス(422)を含み、これらは、プロセス(420)の後に位置する。プロセス(421)に示すように、シントンは、データストア50中のエントリと比較されてもよい。これらの比較は、シントンがハッシュ化される前に行われる。任意のシントンがデータストア50中のエントリとマッチした場合、そのシントンを表示し、及び/又は、記録する(プロセス(422)に示すように)。その後、シーケンスは、プロセス(460)へと進む。もしも、シントンが、データストア50中のいずれのエントリともマッチしない場合、シーケンスは、継続して、プロセス(430)へと進む。かくして、市販の入手可能な物質と、独自の物質の両方が、検索アルゴリズムに含まれてもよい。
【0024】
図6の変形例として、図7に示すが、データストア50も、独自のデータベース80と同一のパラメータを用いてソルト化及びハッシュ化される。したがって、シントンがソルト化及びハッシュ化された後、プロセス(430)に示すように、ソルト化及びハッシュ化されたシントンは、その後、ハッシュ化されたパブリックデータベース中のエントリと比較される(プロセス(431)に示すように)。もしも、マッチした部分を見つけるとシントンを表示する、及び/又は、記録する(プロセス(432)に示すように)。その後、シーケンスは継続して、プロセス(460)へと進む。もしもマッチングしたものが見つからなかった場合、シーケンスは、その後、プロセス(440)へと進み、ここでハッシュ化されたシントンは、独自のデータベース80中のエントリと比較される。
【0025】
上記説明の開示内容では、実行可能ファイルがユニークなソルトをカスタマーに提供しているが、他の実施形態も可能である。例えば、別の実施形態において、実行可能ファイルは、カスタマーがパスワードを入力して、これをソルトとして寄与させることを可能にしてもよい。その後、こうしたパスワードは、実行可能ファイルによって使用され、カスタマーのデータベース180をソルト化し、独自のデータベース80を生成する(プロセス(310)に示すように)。さらには、こうしたパスワードは、逆合成システム10へ送信され、その結果、同一のパスワードを用いて、プロセス(430)に示すプロセスで、ソルト化プロセスを実行する。
【0026】
したがって、本開示は、あるシステム、方法、及び、ソフトウェアアプリケーションについて説明するものであるが、これらは、ユーザが独自のデータベースを利用することを可能にし、ここで、ソフトウェアアプリケーションが、独自のデータベースのコンテンツにアクセスすることを可能にすることなく、利用することを可能にする。これにより、別のパーティにカスタマーの機密情報を提供するというカスタマーの不安感を軽減することができ、その一方で、なおも、こうしたソフトウェアアプリケーションをカスタマーが利用することを可能にすることができる。
【0027】
さらには、カスタマーごとにユニークなソルトを利用することも、カスタマーのデータベースのセキュリティを向上させる。具体的には、ソルトを使用しない場合、複数のカスタマーの独自のデータベースを比較して、共通性を決定することが可能になるかもしれない。しかし、ソルトを使用することで示唆されるのは、2つの異なるカスタマーの独自のデータベースにおける同一の化合物が同一の最終ハッシュをもつことはないということであり、したがって、データベース間での比較が不可能となる。
【0028】
本開示は、本明細書に記載の具体的な実施形態によって範囲を限定されない。実際のところ、本明細書に記載の実施形態のほか、他の様々な実施形態及び本開示の改変が、上述の説明及び添付図面から、当業者にとって明白なものとなる。したがって、こうした他の実施形態及び改変は、本開示の範囲内に包含されることを意図する。さらには、特定の目的で特定の環境で特定の実装というコンテキストで、本開示を本明細書に記載してきたが、当業者が認識するであろうこととして、こうした有用性はこれらに限定されるものではなく、そして、本開示は、任意の数の目的で任意の数の環境で有益に実装することができるということである。したがって、以降に記載する特許請求の範囲は、本明細書に記載の本開示の全容及び思想の観点から解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】