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特表2022-537081正極活性材料、その調製方法、正極シート、リチウムイオン二次電池及びその関連の電池モジュール、電池パック並びに装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-23
(54)【発明の名称】正極活性材料、その調製方法、正極シート、リチウムイオン二次電池及びその関連の電池モジュール、電池パック並びに装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220816BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220816BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513042
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(85)【翻訳文提出日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 CN2020109996
(87)【国際公開番号】W WO2021042990
(87)【国際公開日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】201910824127.8
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100086807
【弁理士】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】ドウ シューシー
(72)【発明者】
【氏名】フー チュンファ
(72)【発明者】
【氏名】ジィァン イャオ
(72)【発明者】
【氏名】ウー チー
(72)【発明者】
【氏名】ハー ジンファ
(72)【発明者】
【氏名】ドン ビン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA16
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】正極活性材料、その調製方法、正極シート、リチウムイオン二次電池及びその関連の電池モジュール、電池パック並びに装置に関する。
【解決手段】正極活性材料は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物におけるニッケルのモル含有量は、ニッケル、コバルト及びマンガンの総モル含有量の60%~90%であり、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、空間群(aa)に属する層状結晶構造を有し、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物の遷移金属層は、ドーピング元素を含み、正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差は、20%以下であり、正極活性材料の78%脱リチウム化状態での示差走査熱量分析スペクトルにおいて、主放熱ピークの初期放熱温度が200℃以上であり、主放熱ピークの積分面積が100J/g以下である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含む正極活性材料であって、
前記リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物におけるニッケルのモル含有量は、ニッケル、コバルト及びマンガンの総モル含有量の60%~90%であり、前記リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、下記の空間群に属する層状結晶構造を有し、
前記リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物の遷移金属層は、ドーピング元素を含み、且つ、前記正極活性材料の粒子における前記ドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差は、20%以下であり、
前記正極活性材料の78%脱リチウム化状態での示差走査熱量分析スペクトルにおいて、主放熱ピークの初期放熱温度が200℃以上であり、主放熱ピークの積分面積が100J/g以下である、
正極活性材料。
【数1】
【請求項2】
前記主放熱ピークの半値幅は、30℃以下であり、又は、
前記主放熱ピークのピーク温度は、230℃以上である、
請求項1に記載の正極活性材料。
【請求項3】
前記正極活性材料の粒子における前記ドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差は、15%以下である、
請求項1又は2に記載の正極活性材料。
【請求項4】
前記正極活性材料の78%脱リチウム化状態において、前記ドーピング元素は、+3価以上の原子価を有し、選択的に、+4価、+5価、+6価、+7価及び+8価のうちの1種類又は複数種類の原子価を有する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の正極活性材料。
【請求項5】
前記ドーピング元素は、Al、Si、Ti、V、Ge、Se、Zr、Nb、Ru、Pd、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含み、選択的に、ドーピング元素は、Al、Si、Ge、Se、Zr、Ru、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含み、選択的に、ドーピング元素は、Si、Ge、Se、Ru、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含む、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の正極活性材料。
【請求項6】
前記正極活性材料の真密度ρは、4.6g/cm≦ρ≦4.9g/cmを満たす、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の正極活性材料。
【請求項7】
前記正極活性材料の真ドーピング濃度ωは、2300μg/cm≦ω≦49500μg/cmを満たし、選択的に、3000μg/cm≦ω≦35000μg/cmを満たし、選択的に、14810μg/cm≦ω≦36710μg/cmを満たす、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の正極活性材料。
【請求項8】
前記正極活性材料の粒子における前記ドーピング元素の平均質量濃度に対する前記正極活性材料における前記ドーピング元素の質量濃度の偏差は、ε<50%を満たし、選択的に、ε≦30%を満たし、さらに選択的に、ε≦20%を満たす、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の正極活性材料。
【請求項9】
前記正極活性材料は、さらに、
(1)前記正極活性材料の体積平均粒径D50が、5μm~20μmであり、選択的に8μm~15μmであり、さらに選択的に、9μm~11μmであること、
(2)前記正極活性材料の比表面積が、0.2m/g~1.5m/gであり、選択的に、0.3m/g~1m/gであること、
(3)前記正極活性材料のタップ密度が、2.3g/cm~2.8g/cmであること、
(4)5トン(49kNに相当)の圧力での前記正極活性材料の圧密度が、3.1g/cm~3.8g/cmであること
のうちの1つ又は複数を満たす、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の正極活性材料。
【請求項10】
前記リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、化学式 Li1+a[NiCoMn]Oを満たし、ここで、Mは、前記ドーピング元素であり、Mは、Al、Si、Ti、V、Ge、Se、Zr、Nb、Ru、Pd、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類から選択され、0.7≦x≦0.9、0<y<0.3、0<z<0.3、0≦a<0.2、0<b<0.3、x+y+z+b=1であり、又は、
前記リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、化学式 Li1+c[Nir-dCoMnM’]Oを満たし、ここで、M’は、前記ドーピング元素であり、M’は、Al、Si、Ti、V、Ge、Se、Zr、Nb、Ru、Pd、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類から選択され、0.7≦r-d≦0.9、0<s<0.3、0<t<0.3、0≦c<0.2、0<d<0.3、r+s+t=1である、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の正極活性材料。
【請求項11】
正極活性材料の調製方法であって、
正極活性材料前駆体、リチウム源及びドーピング元素前駆体を混合して、混合材料を取得する工程であって、ここで、前記正極活性材料前駆体は、Ni、Co及びMnを含有する酸化物、水酸化物及び炭酸塩のうちの1種類又は複数種類から選択され、且つ、ニッケルのモル含有量は、ニッケル、コバルト及びマンガンの総モル含有量の60%~90%である工程と、
前記混合材料に対して焼結処理を行って、正極活性材料を取得する工程と、
を含み、
ここで、前記正極活性材料は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、前記リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、下記の空間群に属する層状結晶構造を有し、
前記リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物の遷移金属層は、ドーピング元素を含み、且つ、前記正極活性材料の粒子における前記ドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差は、20%以下であり、
前記正極活性材料の78%脱リチウム化状態での示差走査熱量分析スペクトルにおいて、主放熱ピークの初期放熱温度が200℃以上であり、主放熱ピークの積分面積が100J/g以下である、
調製方法。
【数2】
【請求項12】
前記ドーピング元素前駆体は、アルミニウム酸化物、シリコン酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、ゲルマニウム酸化物、セレン酸化物、ジルコニウム酸化物、ニオブ酸化物、ルテニウム酸化物、パラジウム酸化物、アンチモン酸化物、テルル酸化物及びタングステン酸化物のうちの1種類又は複数種類から選択され、選択的に、前記ドーピング元素前駆体は、Al、SiO、SiO、TiO、TiO、V、V、V、GeO、SeO、ZrO、Nb、NbO、RuO、PdO、Sb、Sb、TeO、WO及びWOのうちの1種類又は複数種類から選択される、
請求項11に記載の調製方法。
【請求項13】
前記焼結処理は、
(a)焼結処理の雰囲気が、酸素含有雰囲気であり、選択的に、焼結雰囲気の酸素濃度が、70%~100%であり、選択的に、75%~95%であること、
(b)焼結処理の温度が、600℃~1000℃であり、選択的に、700℃~900℃であること、
(c)焼結処理の時間が、5h~25hであり、選択的に、10h~20hであること
のうちの少なくとも1つを満たす、
請求項11又は12に記載の調製方法。
【請求項14】
前記ドーピング元素前駆体をL部に均等又は任意に分け、L個のバッチに分けてドーピングし、ここで、Lが1~5であり、選択的に、2~3であり、
選択的に、正極活性材料前駆体、リチウム源及び第1バッチのドーピング元素前駆体を混合して、1回目の焼結処理を行うことと、1回目の焼結処理の生成物と第2バッチのドーピング元素前駆体とを混合して、2回目の焼結処理を行うことと、このように類推し、L-1回目の焼結処理の生成物と第Lバッチのドーピング元素前駆体とを混合し、L回目の焼結処理を行って、正極活性材料を取得することと、を含む、
請求項11乃至13のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項15】
前記調製方法は、
(a)毎回の焼結処理の温度が、600℃~1000℃であり、選択的に、700℃~900℃であり、さらに選択的に、800℃~850℃であること、
(b)毎回の焼結処理の時間が、3h~25hであり、選択的に、5h~10hであること、
(c)総焼結処理時間が、5h~25hであり、選択的に、15h~25hであること
のうちの少なくとも1つを満たす、
請求項14に記載の調製方法。
【請求項16】
正極シートであって、
正極集電体と前記正極集電体に設けられる正極活物質層とを含み、
前記正極活物質層は、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の正極活性材料、又は、請求項11乃至15のいずれか1項に記載の調製方法により得られる正極活性材料を含む、
正極シート。
【請求項17】
請求項16に記載の正極シートを含む、リチウムイオン二次電池。
【請求項18】
請求項17に記載のリチウムイオン二次電池を含む、電池モジュール。
【請求項19】
請求項17に記載のリチウムイオン二次電池、又は、請求項18に記載の電池モジュールを含む、電池パック。
【請求項20】
請求項17に記載のリチウムイオン二次電池、請求項18に記載の電池モジュール、又は、請求項19に記載の電池パックのうちの少なくとも1種類を含む、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年9月2日に提出された「正極活性材料、正極シート及びリチウムイオン二次電池」という発明の名称の中国特許出願第201910824127.8号の優先権を主張し、当該出願の全ての内容が本文に援用される。
【0002】
本願は、二次電池の技術分野に属し、具体的に、正極活性材料、その調製方法、正極シート、リチウムイオン二次電池及びその関連の電池モジュール、電池パック並びに装置に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン二次電池は、充電式電池であり、主に正極と負極との間のリチウムイオンの移動により動作し、現在広く応用されているクリーンエネルギーである。正極活性材料は、リチウムイオン二次電池の重要な構成部分として、電池の充放電過程において正極と負極との間で往復移動するリチウムイオンを提供するため、正極活性材料の電池性能への発揮が重要になっている。
リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、高い理論容量を有するため、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を正極活性材料として用いるリチウムイオン二次電池は高いエネルギー密度を有することが期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、どのようにして当該リチウムイオン二次電池に高いエネルギー密度及び良好な高温サイクル性能を両立させるかは早急に解決すべき技術的課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の第1の態様は、正極活性材料を提供し、それは、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物におけるニッケルのモル含有量は、ニッケル、コバルト及びマンガンの総モル含有量の60%~90%であり、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、下記空間群に属する層状結晶構造を有し、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物の遷移金属層は、ドーピング元素を含み、且つ、正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差は、20%以下であり、正極活性材料の78%脱リチウム化状態での示差走査熱量分析スペクトルにおいて、主放熱ピークの初期放熱温度が200℃以上であり、主放熱ピークの積分面積が100J/g以下である。
【数1】
【0006】
本願に係る正極活性材料は、高ニッケル含有量のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、それは、高い充放電電圧及び比容量特性を有し、当該正極活性材料を用いることにより、リチウムイオン二次電池は高い容量性能及びエネルギー密度を有することができる。同時に、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、ドーピング元素をさらに含み、且つ正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差が20%以下であり、正極活性材料の78%脱リチウム化状態での示差走査熱量分析スペクトルにおいて、主放熱ピークの初期放熱温度が200℃以上であり、主放熱ピークの積分面積が100J/g以下であるため、正極活性材料が高い熱安定性及び高温サイクル安定性を有することができる。これにより、本願の正極活性材料を用いる場合、リチウムイオン二次電池が高い高温サイクル性能を有するようにすることができる。
【0007】
上記任意の実施形態において、前記主放熱ピークの半値幅は、30℃以下であってもよい。正極活性材料が上記条件を満たす場合、より高い熱安定性及び高温サイクル安定性を有することができるため、リチウムイオン二次電池の高温サイクル性能をさらに向上させることができる。
【0008】
上記任意の実施形態において、前記主放熱ピークのピーク温度は、230℃以上であってもよい。上記条件を満たす場合、正極活性材料の熱安定性を向上させることができるため、電池の高温サイクル性能を向上させることができる。
【0009】
上記任意の実施形態において、前記正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差は、15%以下である。当該正極活性材料を用いる電池は、より高いエネルギー密度及び高温サイクル性能を有することができる。
【0010】
上記任意の実施形態において、前記正極活性材料の78%脱リチウム化状態において、前記ドーピング元素は、+3価以上の原子価を有し、選択的に、+4価、+5価、+6価、+7価及び+8価のうちの1種類又は複数種類の原子価を有する。高い価数状態を有するドーピング元素は、酸素原子を効果的に拘束し、さらにリチウム脱離後の正極活性材料のDSCスペクトルにおける主放熱ピークの初期放熱温度及び最大放熱温度を向上させ、主放熱ピークの積分面積及び半値幅を減少させることができ、これにより正極活性材料は高い熱安定性及び高温サイクル安定性を有するため、電池のエネルギー密度及び高温サイクル性能をさらに向上させることができる。
【0011】
上記任意の実施形態において、前記ドーピング元素は、Al、Si、Ti、V、Ge、Se、Zr、Nb、Ru、Pd、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含むことができ、選択的に、ドーピング元素は、Al、Si、Ge、Se、Zr、Ru、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含むことができ、選択的に、ドーピング元素は、Si、Ge、Se、Ru、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含むことができる。これらのドーピング元素は、上記効果をよりよく発揮し、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度及び高温サイクル性能をさらに向上させることができる。
【0012】
上記任意の実施形態において、前記正極活性材料の真密度ρ真は、4.6g/cm≦ρ真≦4.9g/cmを満たすことができる。正極活性材料が高い比容量を有するため、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0013】
上記任意の実施形態において、前記正極活性材料の真ドーピング濃度ωは、2300μg/cm≦ω≦49500μg/cmを満たすことができ、選択的に、3000μg/cm≦ω≦35000μg/cmを満たし、選択的に、14810μg/cm≦ω≦36710μg/cmを満たす。正極活性材料の真ドーピング濃度が適切な範囲内にある場合、「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料のDSCスペクトルにおける主放熱ピークの初期放熱温度及び最大放熱温度を向上させ、主放熱ピークの積分面積及び半値幅を減少させることができ、同時に正極活性材料が良好なリチウムイオン輸送性能を有するよう保証し、これにより電池のエネルギー密度及び高温サイクル性能を向上させることができる。
【0014】
上記任意の実施形態において、前記正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の平均質量濃度に対する前記正極活性材料におけるドーピング元素の質量濃度の偏差は、ε<50%であり、選択的に、ε≦30%であり、さらに選択的に、ε≦20%である。正極活性材料のεが上記範囲内にある場合、その巨視的及び微視的な一致性が高い。正極活性材料は、充放電サイクル過程において、粒子の膨張収縮程度が一致し、粒子の安定性が高く、それが高い容量発揮と常温及び高温サイクル性能とを有するのに役立つ。そのため、電池の応じる性能も向上される。
【0015】
上記任意の実施形態において、前記正極活性材料の体積平均粒径D50は、5μm~20μmであってもよく、選択的に、8μm~15μmであり、さらに選択的に、9μm~11μmである。正極活性材料のD50が上記範囲内にある場合、リチウムイオン及び電子の輸送拡散性能を向上させることができるため、リチウムイオン二次電池のサイクル性能及び倍率性能を向上させることができる。正極活性材料はさらに高い圧密度を有することができるため、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0016】
上記任意の実施形態において、前記正極活性材料の比表面積は、0.2m/g~1.5m/gであってもよく、選択的に、0.3m/g~1m/gである。正極活性材料の比表面積が上記範囲内にある場合、正極活性材料の容量発揮及びサイクル寿命を向上させることができ、さらに正極スラリーの加工性能を改善することができるため、電池が高いエネルギー密度及びサイクル性能を有するようにすることができる。
【0017】
上記任意の実施形態において、前記正極活性材料のタップ密度は、2.3g/cm~2.8g/cmであってもよい。正極活性材料のタップ密度が上記範囲内にある場合、リチウムイオン二次電池が高いエネルギー密度を有するのに役立つ。
【0018】
上記任意の実施形態において、5トン(49kNに相当)の圧力での前記正極活性材料の圧密度は、3.1g/cm~3.8g/cmであってもよい。正極活性材料の圧密度が上記範囲内にある場合、リチウムイオン二次電池が高いエネルギー密度及びサイクル性能を有するのに役立つ。
【0019】
上記任意の実施形態において、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、化学式 Li1+a[NiCoMn]Oを満たすことができ、ここで、Mは、前記ドーピング元素であり、Mは、Al、Si、Ti、V、Ge、Se、Zr、Nb、Ru、Pd、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類から選択され、0.7≦x≦0.9、0<y<0.3、0<z<0.3、0≦a<0.2、0<b<0.3、x+y+z+b=1である。
【0020】
上記任意の実施形態において、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、化学式 Li1+c[Nir-dCoMnM’]Oを満たすことができ、ここで、M’は、前記ドーピング元素であり、M’は、Al、Si、Ti、V、Ge、Se、Zr、Nb、Ru、Pd、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類から選択され、0.7≦r-d≦0.9、0<s<0.3、0<t<0.3、0≦c<0.2、0<d<0.3、r+s+t=1である。
【0021】
本願の第2の態様は、正極活性材料の調製方法を提供し、それは、
正極活性材料前駆体、リチウム源及びドーピング元素前駆体を混合して、混合材料を取得する工程であって、ここで、前記正極活性材料前駆体は、Ni、Co及びMnを含有する酸化物、水酸化物及び炭酸塩のうちの1種類又は複数種類から選択され、且つ、ニッケルのモル含有量は、ニッケル、コバルト及びマンガンの総モル含有量の60%~90%である工程と、
前記混合材料に対して焼結処理を行って、正極活性材料を取得する工程と、
を含み、
ここで、前記正極活性材料は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、前記リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、下記空間群に属する層状結晶構造を有し、
前記リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物の遷移金属層は、ドーピング元素を含み、且つ、前記正極活性材料の粒子における前記ドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差は、20%以下であり、
前記正極活性材料の78%脱リチウム化状態での示差走査熱量分析スペクトルにおいて、主放熱ピークの初期放熱温度が200℃以上であり、主放熱ピークの積分面積が100J/g以下である。
【数2】
【0022】
本願に係る調製方法により得られる正極活性材料は、高ニッケル含有量のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、同時にリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物はさらにドーピング元素を含み、且つ、正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差は、20%以下であり、正極活性材料の78%脱リチウム化状態での示差走査熱量分析スペクトルにおいて、主放熱ピークの初期放熱温度が200℃以上であり、主放熱ピークの積分面積が100J/g以下であり、これにより、当該正極活性材料を用いるリチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度及び高温サイクル性能を有することができる。
【0023】
上記任意の実施形態において、前記ドーピング元素前駆体は、アルミニウム酸化物、シリコン酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、ゲルマニウム酸化物、セレン酸化物、ジルコニウム酸化物、ニオブ酸化物、ルテニウム酸化物、パラジウム酸化物、アンチモン酸化物、テルル酸化物及びタングステン酸化物のうちの1種類又は複数種類から選択され、選択的に、前記ドーピング元素前駆体は、Al、SiO、SiO、TiO、TiO、V、V、V、GeO、SeO、ZrO、Nb、NbO、RuO、PdO、Sb、Sb、TeO、WO及びWOのうちの1種類又は複数種類から選択される。
【0024】
上記任意の実施形態において、焼結処理の雰囲気は酸素含有雰囲気であり、選択的に、焼結雰囲気の酸素濃度は70%~100%であり、選択的に、75%~95%である。
【0025】
上記任意の実施形態において、焼結処理の温度は600℃~1000℃であり、選択的に、700℃~900℃である。
【0026】
上記任意の実施形態において、焼結処理の時間は5h~25hであり、選択的に、10h~20hである。
【0027】
上記任意の実施形態において、前記ドーピング元素前駆体をL部に均等又は任意に分け、L個のバッチに分けてドーピングし、ここで、Lが1~5であり、選択的に、2~3である。選択的に、正極活性材料前駆体、リチウム源及び第1バッチのドーピング元素前駆体を混合し、1回目の焼結処理を行うことと、1回目の焼結処理の生成物と第2バッチのドーピング元素前駆体とを混合し、2回目の焼結処理を行うことと、このように類推し、L-1回目の焼結処理の生成物と第Lバッチのドーピング元素前駆体とを混合し、L回目の焼結処理を行って、正極活性材料を取得することと、を含む。
【0028】
上記任意の実施形態において、毎回の焼結処理の温度は600℃~1000℃であり、選択的に、700℃~900℃であり、さらに選択的に、800℃~850℃である。
【0029】
上記任意の実施形態において、毎回の焼結処理の時間は3h~25hであり、選択的に、5h~10hである。
【0030】
上記任意の実施形態において、総焼結処理時間は5h~25hであり、選択的に、15h~25hである。
【0031】
本願の第3の態様は、正極シートを提供し、それは、正極集電体と前記正極集電体に設けられる正極活物質層とを含み、前記正極活物質層は、本願の第1の態様の正極活性材料、又は、本願の第2の態様の調製方法により得られる正極活性材料を含む。
【0032】
本願の正極シートが前記正極活性材料を含むため、それを用いるリチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度及び高温サイクル性能を有することができる。
【0033】
本願の第4の態様は、本願の第3の態様の正極シートを含むリチウムイオン二次電池を提供する。
【0034】
本願のリチウムイオン二次電池が前記正極シートを含むため、高いエネルギー密度及び高温サイクル性能を有することができる。
【0035】
本願の第5の態様は、本願の第4の態様のリチウムイオン二次電池を含む電池モジュールを提供する。
【0036】
本願の第6の態様は、本願の第4の態様のリチウムイオン二次電池、又は、本願の第5の態様の電池モジュールを含む電池パックを提供する。
【0037】
本願の第7の態様は、本願の第4の態様のリチウムイオン二次電池、本願の第5の態様の電池モジュール、又は、本願の第6の態様の電池パックのうちの少なくとも1種類を含む装置を提供する。
【発明の効果】
【0038】
本願の電池モジュール、電池パック及び装置が本願のリチウムイオン二次電池を含むため、少なくとも前記リチウムイオン二次電池と同じ又は類似する効果を有する。
【0039】
以下、本願の実施例の技術的手段をより明確に説明するために本願の実施例に必要な図面を簡単に説明するが、当然のことながら、以下に説明された図面は単に本願のいくつかの実施例に過ぎず、当業者であれば、これらの図面に基づいて、クリエイティブな労力無しで他の図面を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本願の実施例に係る正極活性材料を示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、DSC)で測定した放熱曲線図であり、即ち示差走査熱量分析スペクトルであり、DSCスペクトルと略称される。
図2】実施例1の正極活性材料粒子の断面画像であり、ここで、輝点は粒子内に均一に分布されているドーピング元素を示す。
図3】実施例1~21及び比較例1~7の正極活性材料粒子における前記ドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差を測定するために取られた位置を示す模式図である。
図4】リチウムイオン二次電池の一実施形態の模式図である。
図5図4の分解図である。
図6】電池モジュールの一実施形態の模式図である。
図7】電池パックの一実施形態の模式図である。
図8図7の分解図である。
図9】リチウムイオン二次電池を電源とする装置の一実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本願の発明目的、技術的解決手段及び有益な技術的効果をより明確にするために、具体的な実施例と組み合わせて本願を詳細に説明する。理解すべきことは、本明細書に記載の実施形態は、単に本願を解釈するためのものであり、本願を限定するためのものではない。
【0042】
簡単のために、本明細書ではいくつかの数値範囲のみを明確に開示している。ただし、任意の下限は、任意の上限と組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよく、任意の下限は、他の下限と組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよく、同様に、任意の上限は、任意の他の上限と組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよい。また、明確に記載されていないが、範囲の端点間の各点又は単一の数値はその範囲内に含まれる。したがって、各点又は単一の数値は、それ自体の下限又は上限として、任意の他の点又は単一の数値と組み合わせて、又は他の下限又は上限と組み合わせて、明確に記載されていない範囲を形成してもよい。
【0043】
本明細書の記載において、特に説明しない限り、「以上」及び「以下」は、対象となる数字を含み、「1種類又は複数種類」のうち「複数種類」は、2種類又は2種類以上を意味することに留意すべきである。
【0044】
本明細書の説明において、特に説明しない限り、「又は(or)」は、包括的である。例えば、「A又は(or)B」は、「A、B、或いはA及びBの両方」を表す。より具体的に、以下の任意の条件は、いずれも、「A又はB」を満たす。Aが真(或いは存在)であり且つBが偽(或いは存在しない)であること、Aが偽(或いは存在しない)であり且つBが真(或いは存在)であること、或いは、A及びBがいずれも真(或いは存在)であること。
【0045】
本願の上記発明の概要は、本願に開示の各実施形態又は各実現形態を説明することを意図するものではない。以下の説明は、例示的な実施形態をより具体的に例示して説明する。本願全体を通して、様々な組み合わせの形で使用できる一連の実施例によってガイダンスが提供される。各実施例において、列挙は、代表的なグループとしてのみ使用され、網羅的であると解釈されてはいけない。
【0046】
正極活性材料
本願の第1の態様は、正極活性材料を提供し、それは、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物におけるニッケルのモル含有量は、ニッケル、コバルト及びマンガンの総モル含有量の60%~90%であり、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、下記空間群に属する層状結晶構造を有し、正極活性材料の遷移金属層はドーピング元素を含み、且つ、正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差は、20%以下であり、正極活性材料の78%脱リチウム化状態でのDSCスペクトルにおいて、主放熱ピークの初期放熱温度が200℃以上であり、主放熱ピークの積分面積が100J/g以下である。
【数3】
【0047】
本明細書において、正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度とは、粒子の任意の選択された位置での有限体積要素内において、ドーピング元素が全ての元素で占める質量濃度であり、EDX(Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy、エネルギー分散型X線分光計)又はEDS元素分析と、元素濃度分布に対するTEM(Transmission Electron Microscope、透過型電子顕微鏡)又はSEM(Scanning Electron Microscope、走査電子顕微鏡)単一点走査測定との組み合わせ、又は他の類似の方式により取得することができる。そのうち、EDX又はEDS元素分析とTEM又はSEM単一点走査測定とを組み合わせる場合、正極活性材料の粒子における異なる位置において、μg/gで算出されるドーピング元素の質量濃度を、それぞれ、η、η、η、…、ηと記し、nは、15よりも大きい正の整数である。
【0048】
正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の平均質量濃度とは、単一又は複数の正極活性材料粒子内において、ドーピング元素が全ての元素で占める質量濃度であり、EDX又はEDS元素分析と、TEM又はSEM表面走査による元素濃度分布の測定との組み合わせ、又は他の類似の方式により取得することができる。EDX又はEDS元素分析と、TEM又はSEM表面走査による元素濃度分布の測定との組み合わせという方式により測定する場合、測定面は上記単一点測定における全ての測定位置を含む。正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の平均質量濃度を下記の符号で記し、単位はμg/gである。
【数4】
【0049】
正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差σは、下記式(1)に基づいて算出される。
【数5】
【0050】
本明細書において、「78%脱リチウム化状態」とは、電池の充電過程において、正極活性材料から脱離されるリチウムのモル含有量が、理論リチウム含有量の78%に達する際の状態を指す。二次電池は、実際の使用過程において、一般的に、一つの「満充電状態」を設定し、且つ、一つの「充電カットオフ電圧」を対応的に設定することにより、電池の安全使用を保証する。「満充電状態」とは、二次電池の荷電状態(State of Charge、SOC)が100%であることを指し、換言すれば、上記正極活性材料を含む正極により構成される二次電池が、可逆的充放電を行う範囲内において、充電カットオフ電圧まで充電されることを指す。当該「満充電状態」又は「充電カットオフ電圧」は、正極活性材料の差異又は安全性の要求の差異により、一定の差異が存在する。リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含む正極活性材料により製造される二次電池の「満充電状態」において、正極活性材料の脱リチウム化状態は、正常な使用を保証するために、一般的に、「78%脱リチウム化状態」程度である。
【0051】
本明細書において、「脱リチウム化状態」と充電電圧との対応関係を組み合わせて、「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料を研究する。具体的に、当該正極活性材料を使用する一連の電池を、それぞれ、0.1C 倍率で、2.8V、2.9V、3.0V、3.1V、3.2V、3.3V、……、4.0V、4.1V、4.2V、4.3V、4.4V、4.5V(即ち、充電電圧間隔が0.1Vである)まで充電し、その後、電池の正極シートを取り外し、洗浄して電解液を除去し、正極活性材料を分解し、誘導結合プラズマ-放射分光計(inductively coupled plasma-Optical Emission spectrometers、ICP-OES)を用いて、正極活性材料のLi、遷移金属(Ni、Co、Mn)、O元素の質量濃度を測定し、当該充電電圧での正極活性材料の各元素の化学量論比を算出し、当該充電電圧での正極活性材料の化学式を換算して取得し、さらに「78%脱リチウム化状態」に対応する充電電圧を取得する。
【0052】
被験正極活性材料を含む電池を、「78%脱リチウム化状態」に対応する電圧に充電し、解体により、「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料を取得して、更なる研究を行うことができる。
【0053】
「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料のDSCスペクトルは、示差走査熱量計による測定によって得られる。図1は、一例としての正極活性材料のDSCスペクトルを示す。図1に示すように、DSCスペクトルにおいて、熱流束を縦軸とし、温度を横軸としている。本明細書において、主放熱ピークとは、DSCスペクトルにおいて積分面積が最大のピークであり、正極活性材料の酸素放出によるその層状相構造の不可逆的な相転移によって生成される放熱ピークである。主放熱ピークの初期放熱温度は、主放熱ピークの低温側の最大勾配点の接線と、ピーク前の基線efの延長線との交点(即ち、外挿開始点)Aである。主放熱ピークの積分面積は、放熱ピークと内接基線fgとで囲まれる領域の面積であり、当該領域で放出される単位重量の正極活性材料の熱量を表すために用いられる。
【0054】
本願の実施例に係る正極活性材料は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、ニッケルのモル含有量は、ニッケル、コバルト及びマンガンの総モル含有量の60%~90%である。高ニッケル含有量のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物が高い充放電電圧及び比容量特性を有するため、それを用いるリチウムイオン二次電池は、高い容量性能及びエネルギー密度を示すことができる。
【0055】
本願の実施例に係るリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、ドーピング元素をさらに含み、且つ、正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差σは、20%以下である。正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の分布の均一性が高く、粒子内部の各箇所の性質が一致し、ドーピング元素は、粒子の各位置の構造安定性を向上させることができ、粒子の各位置での酸素放出問題及び構造相転移を抑制し、「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料のDSCスペクトルにおける主放熱ピークの初期放熱温度を向上させ、主放熱ピークの積分面積を減少させるのに役立つことができる。
【0056】
「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料のDSCスペクトルにおいて、主放熱ピークの初期放熱温度は、200℃以上であり、さらに、205℃以上、207℃以上、又は210℃以上であってもよい。主放熱ピークの初期放熱温度が高いため、正極活性材料は、高温サイクル過程及び加熱昇温条件下で、いずれも高い構造安定性を有し、且つ、高い電気化学的活性を有する層状相状態で常に維持することができるため、その中の酸素原子が元の格子位置から脱離しにくい。正極活性材料は、不可逆的な構造相転移が発生しにくいため、高い熱安定性及び高温サイクル安定性を表すことができ、リチウムイオン二次電池の高温サイクル性能及び安全性能を向上させることができる。
【0057】
「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料のDSCスペクトルにおいて、主放熱ピークの積分面積は、100J/g以下であり、さらに、85J/g以下、74J/g以下、67J/g以下、55J/g以下、又は48J/g以下であってもよい。主放熱ピークの積分面積が小さいこと、即ち高温サイクル過程及び加熱昇温条件下での正極活性材料の放熱量が減少することは、高温サイクル過程及び加熱昇温条件下で発生される正極活性材料の不可逆的反応又は構造破壊が小さいことを示す。正極活性材料の熱安定性及び高温サイクル安定性が効果的に向上されるため、リチウムイオン二次電池の高温サイクル性能及び安全性能を顕著に向上させることができる。
【0058】
また、均一にドーピングされた正極活性材料において、粒子内部の異なる領域でのリチウムイオンの移動拡散能力が同じレベルにあり、これにより正極活性材料が高いリチウムイオンの輸送性能を有することができるため、電池の容量性能、エネルギー密度及びサイクル性能を改善するのに役立つことができる。均一にドーピングされた正極活性材料において、粒子の各箇所の構造安定性及び変形抵抗能力が大体同じであるため、粒子内の応力分布が均一になる。当該正極活性材料の粒子は破裂しにくく、破裂により露出される新たな表面による副反応と容量及びサイクル性能の悪化とを防止するため、電池の高温サイクル性能をさらに向上させることができる。
【0059】
本願の実施例に係る正極活性材料を用いることにより、リチウムイオン二次電池に高い容量性能、エネルギー密度及び高温サイクル性能を両立させることができる。
【0060】
リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物がドーピング元素を含み、且つ正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差σが20%以下であるため、さらに「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料のDSCスペクトルにおける主放熱ピークの最大放熱温度を向上させ、主放熱ピークの半値幅を減少させることができる。
【0061】
いくつかの実施例において、「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料のDSCスペクトルにおいて、主放熱ピークの半値幅は、選択的に、30℃以下であり、さらに選択的に、28℃以下である。本明細書において、主放熱ピークの半値幅は、ピーク高さmnの半分箇所でのピーク幅であり、nは、主放熱ピークのピークトップmから引く横軸に垂直な直線と、内接基線fgとの交点である。
【0062】
主放熱ピークの半値幅が上記範囲内にある場合、「78%脱リチウム化状態」の高温サイクル過程及び加熱昇温条件下で発生される正極活性材料の不可逆的反応又は構造破壊をさらに減少させ、正極活性材料の熱安定性及び高温サイクル安定性をさらに向上させるため、リチウムイオン二次電池の性能をさらに向上させる。
【0063】
主放熱ピークの半値幅が上記範囲内にあることは、さらに、正極活性材料へのドーピング改質により明らかな新規相が生成されていないことを意味し、ドーピング元素は、基本的に、ニッケルサイト、マンガンサイト、コバルトサイトのうちの1つ又は複数においてドーピング置換を行っており、正極活性材料は良好な層状結晶構造を維持している。当該正極活性材料は、リチウムイオンの挿入及び脱離に良好な担体を提供することができ、リチウムイオンの挿入及び脱離に役立ち、可逆的リチウムイオンが電極表面又は電解液において消費されることを防止し、不可逆的容量を効果的に低減させ、これにより正極活性材料は高い初期容量及びサイクル容量保持率を有することができるため、電池のエネルギー密度と常温及び高温サイクル性能とを向上させることができる。
【0064】
いくつかの実施例において、「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料のDSCスペクトルにおいて、主放熱ピークのピーク温度は、選択的に、225℃以上であり、さらに選択的に、230℃以上である。このような正極活性材料は、加熱昇温及び高温サイクル過程においていずれも酸素放出現象が発生しにくく、リチウム脱離後の正極活性材料において不可逆的相転移が発生されることを効果的に抑制するため、正極活性材料の熱安定性を向上させ、さらに電池の高温サイクル性能を向上させる。
【0065】
いくつかの選択可能な実施形態において、正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差σは、15%以下であり、選択的に、12%以下であり、さらに選択的に、10%以下である。当該正極活性材料を用いた電池は、より高いエネルギー密度及び高温サイクル性能を有することができる。
【0066】
本願の実施例に係る正極活性材料において、ドーピング元素は、ニッケル、コバルト、マンガン以外の遷移金属元素、及び炭素、窒素、酸素、硫黄以外の第IIA族から第VIA族までの元素のうちの1種類又は複数種類から選択される。選択的に、「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料において、ドーピング元素は、+3価以上の原子価を有し、さらに選択的に、+3価より大きい原子価を有する。例えば、「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料において、ドーピング元素は、+4価、+5価、+6価、+7価及び+8価のうちの1種類又は複数種類の原子価を有し、さらに例えば、+4価、+5価、+6価のうちの1種類又は複数種類の原子価を有する。
【0067】
高い価数状態を有するドーピング元素と酸素原子との結合能力が高く、即ち酸素原子と結合する結合エネルギーが大きく、これにより酸素原子を効果的に拘束し、加熱昇温及び高温サイクル過程において発生されるリチウム脱離後の正極活性材料の酸素放出を防止し、不可逆的な構造相転移を抑制し、リチウム脱離後の正極活性材料のDSCスペクトルにおける主放熱ピークの初期放熱温度及び最大放熱温度を向上させ、主放熱ピークの積分面積及び半値幅を減少させる。正極活性材料は高い熱安定性及び高温サイクル安定性を有することができるため、電池のエネルギー密度及び高温サイクル性能をさらに向上させることができる。
【0068】
高い価数状態を有するドーピング元素は、さらに正極活性材料においてより多くの電子を寄与することができるため、正極がより多くのリチウムイオンを放出するようサポートすることができ、電池のエネルギー密度をさらに向上させることができる。特に、ドーピング元素は+3価より大きい価数状態を有し、これはリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物におけるニッケル、コバルト及びマンガンの平均価数状態(+3価)を超え、それが正極活性材料において寄与する電子数はさらに多くなるため、電池の容量発揮及びエネルギー密度をさらに向上させることができる。
【0069】
本明細書において、被験正極活性材料を含む電池を、「78%脱リチウム化状態」に対応する電圧まで充電し、その後に電池を解体して、「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料を取得することができる。「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料におけるドーピング元素Mの原子価は、X線光電子分光分析(XPS)により測定することができる。より正確には、シンクロトロン放射光電子分光分析(Synchrotron radiation photoelectron spectroscopy、SRPES)により測定することができる。
【0070】
いくつかの実施例において、ドーピング元素は、Al、Si、Ti、V、Ge、Se、Zr、Nb、Ru、Pd、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含むことができる。選択的に、ドーピング元素は、Al、Si、Ge、Se、Zr、Ru、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含むことができる。選択的に、ドーピング元素は、Si、Ge、Se、Ru、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含むことができる。これらのドーピング元素は上記効果をよりよく発揮することができ、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度及び高温サイクル性能をさらに向上させることができる。
【0071】
いくつかの実施例において、正極活性材料の真ドーピング濃度ωは、1500μg/cm≦ω≦60000μg/cmである。選択的に、2300μg/cm≦ω≦49500μg/cmである。選択的に、3000μg/cm≦ω≦35000μg/cmである。選択的に、14810μg/cm≦ω≦36710μg/cmである。選択的に、24900μg/cm≦ω≦25510μg/cmである。
【0072】
本明細書において、正極活性材料の真ドーピング濃度ωは、以下の式(2)により算出される。
【数6】
式(2)において、ωは、正極活性材料の真ドーピング濃度であり、単位がμg/cmである。
【0073】
ρ真は、正極活性材料の真密度であり、単位がg/cmであり、それは正極活性材料の質量と正極活性材料の真体積との比に等しく、ここで、真体積ρとは、固体物質の実際の体積であり、正極活性材料の粒子内部及び粒子間の孔隙を含まない。ρ真は、本分野の周知の機器及び方法、例えばガス容積法を用いて測定することができ、粉末真密度試験機を用いて測定することができる。
【0074】
φは、正極活性材料におけるμg/gを単位とするドーピング元素の質量濃度であり、即ち、1グラムの正極活性材料に含まれるドーピング元素の質量である。ここで、φは、巨視的正極活性材料全体におけるドーピング元素の含有量を表し、正極活性材料粒子にドーピングされるドーピング元素、正極活性材料粒子の表面の他の相に富化されるドーピング元素、及び正極活性材料の粒子間に位置するドーピング元素を含む。φは、正極活性材料溶液吸収スペクトル、例えばICP(Inductive Coupled Plasma Emission Spectrometer、誘導結合プラズマスペクトル発生器)、XAFS(X-ray absorption fine structure spectroscopy、X線吸収微細構造スペクトル)等により測定することができる。
【0075】
正極活性材料の真ドーピング濃度が適切な範囲内にある場合、「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料のDSCスペクトルにおける主放熱ピークの初期放熱温度及び最大放熱温度を向上させ、主放熱ピークの積分面積及び主放熱ピークの半値幅を減少させると共に、さらに正極活性材料が良好な層状結晶構造を有するよう保証することができ、正極活性材料が良好なリチウムイオン挿入/脱離性能を有することを確保することができ、これにより正極活性材料は高い初期容量及びサイクル容量保持率を有するため、電池のエネルギー密度及び高温サイクル性能を向上させることができる。
【0076】
また、正極活性材料の真ドーピング濃度が上記範囲内にある場合、さらにドーピング元素が遷移金属層にドーピングされることを保証し、それがリチウム層に入ることを防止し、正極活性材料粒子が高いリチウムイオン輸送拡散能力を有するよう保証し、これにより電池は高い容量発揮及びサイクル性能を有する。
【0077】
いくつかの選択可能な実施形態において、正極活性材料粒子におけるドーピング元素の平均質量濃度に対する正極活性材料におけるドーピング元素の質量濃度φの偏差は、ε<50%である。選択的に、ε≦30%である。さらに選択的に、ε≦20%である。さらに選択的に、ε≦15%、又はε≦13%である。
【0078】
正極活性材料粒子におけるドーピング元素の平均質量濃度に対する正極活性材料におけるドーピング元素の質量濃度φの偏差εは、以下の式(3)により算出される。
【数7】
【0079】
正極活性材料のεが上記範囲内にあることは、ドーピング元素が正極活性材料粒子の内部に円滑にドーピングされ、正極活性材料粒子の表面の他の相に分布されるドーピング元素及び正極活性材料粒子の隙間に包埋されるドーピング元素の含有量が少なく、正極活性材料の巨視的及び微視的な一致性が高く、構造が均一であることを意味する。当該正極活性材料は、充放電サイクル過程において、粒子の膨張収縮程度が一致し、粒子の安定性が高く、それが高い容量発揮と常温及び高温サイクル性能とを有するのに役立つ。
【0080】
本願の実施例に係る正極活性材料は、選択的に、上記の真ドーピング濃度範囲内に均一にドーピングされ、これによりドーピング元素の微視的分布と巨視的含有量との一致性を保証し、正極活性材料の熱安定性及び高温サイクル安定性をより効果的に向上させるため、電池のエネルギー密度及び高温サイクル性能をよりよく向上させることができる。
【0081】
いくつかの実施例において、正極活性材料の真密度ρは、4.6g/cm≦ρ真≦4.9g/cmを満たすことができる。これにより、正極活性材料が高い比容量を有するため、電池の容量性能及びエネルギー密度を向上させることができる。
【0082】
いくつかの選択可能な実施形態において、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物におけるニッケルのモル含有量は、ニッケル、コバルト及びマンガンの総モル含有量の70%~90%であり、例えば75%~85%である。当該正極活性材料は、より高い比容量特性を有し、リチウムイオン二次電池の容量性能及びエネルギー密度を向上させることができる。
【0083】
いくつかの例として、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、化学式 Li1+a[NiCoMn]Oを満たすことができ、ここで、Mは、ドーピング元素であり、それは、ニッケルサイト、コバルトサイト及びマンガンサイトのうちの1つ又は複数に対してドーピング置換を行っており、且つ、0.6≦x≦0.9、0≦y<0.3、0≦z<0.3、0≦a<0.2、0<b<0.3、x+y+z+b=1である。当該高ニッケル三元正極活性材料を用いることにより、リチウムイオン二次電池に高い容量性能、エネルギー密度並びに常温及び高温サイクル性能を両立させることができる。
【0084】
選択的に、0.7≦x≦0.9、0<y<0.3、0<z<0.3である。当該高ニッケル三元正極活性材料は、エネルギー密度が高く、構造安定性が高く、電池が高いエネルギー密度及び長いサイクル寿命を有するのに役立つ。
【0085】
選択的に、Mは、Al、Si、Ti、V、Ge、Se、Zr、Nb、Ru、Pd、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類から選択される。選択的に、Mは、Al、Si、Ge、Se、Zr、Ru、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含むことができる。選択的に、Mは、Si、Ge、Se、Ru、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含むことができる。ドーピング元素Mは、高ニッケル三元正極活性材料が高い熱安定性及び高温サイクル安定性を有するよう保証し、電池の総合性能を向上させる。
【0086】
また、ドーピング元素Mが高い原子価を有するため、正極活性材料においてより多くの電子を寄与でき、高ニッケル三元正極活性材料がより多くのリチウムイオンを放出するようサポートし、これにより電池の容量性能及びエネルギー密度を向上させることができる。
【0087】
別の例として、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、化学式 Li1+c[Nir-dCoMnM’]Oを満たすことができ、ここで、M’はドーピング元素であり、それは、ニッケルサイトを部分的に置換しており、且つ、0.6≦r-d≦0.9、0≦s<0.3、0≦t<0.3、0≦c<0.2、0<d<0.3、r+s+t=1である。当該高ニッケル三元正極活性材料を用いることにより、リチウムイオン二次電池に高い容量性能、エネルギー密度並びに常温及び高温サイクル性能を両立させることができる。
【0088】
選択的に、0.7≦r-d≦0.9、0<s<0.3、0<t<0.3である。当該高ニッケル三元正極活性材料は、エネルギー密度が高く、構造安定性が高く、電池に高いエネルギー密度及び長いサイクル寿命を有するのに役立つ。
【0089】
選択的に、M’は、Al、Si、Ti、V、Ge、Se、Zr、Nb、Ru、Pd、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類から選択される。選択的に、M’は、Al、Si、Ge、Se、Zr、Ru、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含むことができる。選択的に、M’は、Si、Ge、Se、Ru、Sb、Te及びWのうちの1種類又は複数種類を含むことができる。同様に、ドーピング元素M’は、高ニッケル三元正極活性材料が高い熱安定性及び高温サイクル安定性を有するよう保証し、電池の総合性能を向上させる。また、ドーピング元素M’は、高ニッケル三元正極活性材料がより多くのリチウムイオンを放出するようサポートし、リチウムイオン二次電池の容量性能及びエネルギー密度を向上させることができる。
【0090】
上記実施例における各種リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、それぞれ別々に正極活性材料に用いられてもよく、いずれか2種類以上のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物の組み合わせが正極活性材料に用いられてもよい。
【0091】
正極活性材料の体積平均粒径D50は、選択的に、5μm~20μmであり、さらに選択的に、8μm~15μmであり、さらに選択的に、9μm~11μmである。正極活性材料のD50が上記範囲内にある場合、材料におけるリチウムイオン及び電子の移動経路が短く、正極活性材料におけるリチウムイオン及び電子の輸送拡散性能をさらに向上させ、電池の分極を減少させるため、リチウムイオン二次電池のサイクル性能及び倍率性能を向上させることができ、また、正極活性材料が高い圧密度を有するようにし、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0092】
正極活性材料のD50が上記範囲内にある場合、さらに正極活性材料の表面での電解液の副反応を減少させ、正極活性材料粒子間の凝集を減少させるため、正極活性材料の常温及び高温サイクル性能並びに安全性能を向上させるのに役立つ。
【0093】
正極活性材料の比表面積は、選択的に、0.2m/g~1.5m/gであり、さらに選択的に、0.3m/g~1m/gである。正極活性材料の比表面積が上記範囲内にある場合、正極活性材料が高い活性比表面積を有するよう保証し、同時に正極活性材料の表面での電解液の副反応を減少させるのに役立つため、正極活性材料の容量発揮及びサイクル寿命を向上させることができ、また、スラリー調製及び充放電過程における正極活性材料の粒子間の凝集の発生を抑制し、電池のエネルギー密度及びサイクル性能を向上させることができる。
【0094】
正極活性材料のタップ密度は、選択的に、2.3g/cm~2.8g/cmである。正極活性材料のタップ密度が上記範囲内にある場合、リチウムイオン二次電池が高い容量性能及びエネルギー密度を有するのに役立つ。
【0095】
5トン(49kNに相当)の圧力での正極活性材料の圧密度は、選択的に、3.1g/cm~3.8g/cmである。正極活性材料の圧密度が高い場合、リチウムイオン二次電池が高い容量性能及びエネルギー密度を有すると共に、良好な常温サイクル性能及び高温サイクル性能を有するのに役立つ。
【0096】
選択的に、正極活性材料粒子の形態は、球体及び略球体のうちの1種類又は複数種類である。
【0097】
いくつかの実施形態において、正極活性材料は、一次粒子の凝集により形成される二次粒子を含む。これらの実施形態において、前述の「粒子」は二次粒子を含む。
【0098】
本明細書において、正極活性材料の体積平均粒径D50は、本分野の周知の意味であり、メジアン粒径とも呼ばれ、正極活性材料粒子の体積分布50%に対応する粒径を示す。正極活性材料のD50は、本分野の周知の装置及び方法を用いて測定することができ、例えばレーザー粒度分析計(例えば、英国マルバーンインストゥルメンツ社のMastersizer3000型)を用いて測定することができる。
【0099】
正極活性材料の比表面積は、本分野の周知の含意であり、本分野の周知の装置及び方法を用いて測定することができ、例えば、窒素ガス吸着比表面積分析測定方法を用いて測定し、BET(Brunauer Emmett Teller、ブルナウアー‐エメット‐テラー)法で算出することができ、ここで、窒素ガス吸着比表面積分析測定は、米国カンタクローム社のNOVA 2000e型比表面積及び孔径分析器により行うことができる。具体的な例として、測定方法は、以下の通りである。秤量された空サンプル管を用いて8.000g~15.000gの正極活性材料を取り、正極活性材料を均一に撹拌して秤量し、サンプル管をNOVA 2000e脱気ステーションに入れて脱気し、脱気された正極活性材料及びサンプル管の総質量を秤量し、総質量から空サンプル管の質量を減算して脱気された正極活性材料の質量Gを取得する。サンプル管をNOVA 2000eに入れ、異なる相対圧力下での正極活性材料の表面での窒素ガスの吸着量を測定し、ブルナウアー‐エメット‐テラー(Brunauer-Emmett-Teller)多層吸着理論及びその公式に基づいて単分子層吸着量を求め、さらに正極活性材料の総表面積Aを算出し、A/G算出により正極活性材料の比表面積を取得する。
【0100】
正極活性材料のタップ密度は、本分野の周知の意味であり、本分野の周知の機器及び方法を用いて測定することができ、例えば、タップ密度測定器(例えばFZS4-4B型)を用いて容易に測定することができる。
【0101】
正極活性材料の圧密度は、本分野の周知の意味であり、本分野の周知の機器及び方法を用いて測定することができ、例えば、電子圧力試験機(例えばUTM7305型)を用いて容易に測定することができる。
【0102】
次に、正極活性材料の調製方法を模式的に説明する。この調製方法によれば、上記いずれかの正極活性材料を取得することができる。調製方法は、
正極活性材料前駆体、リチウム源及びドーピング元素前駆体を混合し、焼結処理を行って、正極活性材料を取得することを含む。
【0103】
正極活性材料前駆体は、化学量論比に応じて、Ni、Co及びMnを含有する酸化物、水酸化物及び炭酸塩のうちの1種類又は複数種類であってもよく、例えば、化学量論比に応じて、Ni、Co及びMnを含有する水酸化物である。
【0104】
正極活性材料前駆体は、本分野の既知の方法により得られ、例えば共沈法、ゲル法又は固相法により調製される。
【0105】
一例として、Ni源、Co源及びMn源を溶媒により分散させて混合溶液を取得する。連続並流反応の方式を使用し、混合溶液、強アルカリ溶液及び錯化剤溶液を撹拌付きの反応釜に同時にポンピングし、反応溶液のpH値を10~13に制御し、反応釜内の温度が25℃~90℃であり、反応過程において不活性ガスで保護する。反応が完了した後、エージング、濾過、洗浄及び真空乾燥を経て、Ni、Co及びMnを含有する水酸化物を取得する。
【0106】
Ni源は、可溶性のニッケル塩であってもよく、例えば、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、シュウ酸ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの1種類又は複数種類であり、また例えば、硫酸ニッケル及び硝酸ニッケルのうちの1種類又は複数種類であり、更に例えば、硫酸ニッケルである。Co源は、可溶性コバルト塩であってもよく、例えば、硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、シュウ酸コバルト及び酢酸コバルトのうちの1種類又は複数種類であり、また例えば、硫酸コバルト及び硝酸コバルトのうちの1種類又は複数種類であり、更に例えば、硫酸コバルトである。Mn源は、可溶性のマンガン塩であってもよく、例えば、硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、シュウ酸マンガン及び酢酸マンガンのうちの1種類又は複数種類であり、また例えば、硫酸マンガン及び硝酸マンガンのうちの1種類又は複数種類であり、さらに例えば、硫酸マンガンである。
【0107】
強アルカリは、LiOH、NaOH及びKOHのうちの1種類又は複数種類であってもよく、例えばNaOHである。錯化剤は、アンモニア水、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸アンモニウム及びエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)のうちの1種類又は複数種類であってもよく、例えばアンモニア水である。
【0108】
混合溶液、強アルカリ溶液及び錯化剤溶液の溶媒は、いずれも特に限定されず、例えば、混合溶液、強アルカリ溶液及び錯化剤溶液の溶媒は、それぞれ別々に、脱イオン水、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロパノール及びn-ヘキサノールのうちの1種類又は複数種類であり、例えば脱イオン水である。
【0109】
反応過程において導入される不活性ガスは、例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスのうちの1種類又は複数種類である。
【0110】
リチウム源は、酸化リチウム(LiO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸二水素リチウム(LiHPO)、酢酸リチウム(CHCOOLi)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)及び硝酸リチウム(LiNO)のうちの1種類又は複数種類であってもよい。さらに、リチウム源は、炭酸リチウム、水酸化リチウム及び硝酸リチウムのうちの1種類又は複数種類である。さらに、リチウム源は、炭酸リチウムである。
【0111】
ドーピング元素前駆体は、ドーピング元素の酸化物、硝酸化合物、炭酸化合物、水酸化合物及び酢酸化合物のうちの1種類又は複数種類であってもよい。例えばドーピング元素の酸化物であり、例えば酸化アルミニウム(例えばAl等)、酸化ケイ素(例えばSiO、SiO等)、酸化チタン(例えばTiO、TiO等)、酸化バナジウム(例えばV、V、V等)、酸化ゲルマニウム(例えばGeO等)、酸化セレン(例えばSeO等)、酸化ジルコニウム(例えばZrO等)、酸化ニオブ(例えば、Nb、NbO等)、酸化ルテニウム(例えばRuO等)、酸化パラジウム(例えばPdO等)、酸化アンチモン(例えばSb、Sb等)、酸化テルル(例えば、TeO等)及び酸化タングステン(例えばWO、WO等)のうちの1種類又は複数種類である。
【0112】
正極活性材料前駆体、リチウム源及びドーピング元素前駆体は、ボールミル混合機又は高速混合機を用いて混合することができる。混合された材料を雰囲気下の焼結炉に入れて焼結する。焼結雰囲気は、酸素含有雰囲気であり、例えば空気雰囲気又は酸素雰囲気である。選択的に、焼結雰囲気の酸素濃度は、70%~100%であり、例えば75%~95%である。焼結温度は、例えば、600℃~1000℃である。選択的に、焼結温度は700℃~900℃である。これは、ドーピング元素の分布の均一性を向上させるのに役立つ。焼結時間は、実際の状況に応じて調整することができ、例えば、5h~25hであり、また例えば、10h~20hである。
【0113】
なお、正極活性材料の調製時に、様々な理論的に実行可能な方式によって、ニッケルコバルトマンガン酸化物正極活性材料のDSC初期放熱温度及び放熱ピーク面積を調整することができ、例えば、ドーピング元素の種類、ドーピング元素の含有量、焼結時間、焼結温度、焼結回数及び焼結時の酸素濃度等を利用する。本願において、固相焼結ドーピング方式のいくつかの措置を挙げており、焼結回数を調整し、ドーピング元素をバッチでドーピングし、全体焼結時間及び焼結温度を制御し、焼結酸素濃度を制御する方式により、得られるリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物におけるニッケルのモル含有量をニッケル、コバルト及びマンガンの総モル含有量の60%~90%にし、それが下記空間群に属する層状結晶構造を有するようにし、遷移金属層がドーピング元素を含み、且つ、正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差が10%以下になるようにすることができ、また、当該正極材料の78%脱リチウム化状態下でDSCを測定する時、主放熱ピークの初期放熱温度が200℃以上になり、主放熱ピークの積分面積が100J/g以下になるようにすることができる。理解すべきことは、本明細書に記述された方法は、単に本願を説明するためのものであり、本願を限定するものではない。
【数8】
【0114】
一例として、ドーピング元素前駆体をL個のバッチに分けて、ドーピング元素のドーピングを行うことができ、ここで、Lは1~5であってもよく、例えば2~5、又は2~3であってもよい。これらの実施例において、正極活性材料の調製方法は、正極活性材料前駆体、リチウム源及び第1バッチのドーピング元素前駆体を混合して、1回目の焼結処理を行う工程と、その後に1回目の焼結処理の生成物と第2バッチのドーピング元素前駆体とを混合して、2回目の焼結処理を行う工程と、このように類推し、L-1回目の焼結処理の生成物と第Lバッチのドーピング元素前駆体とを混合し、L回目の焼結処理を行って、正極活性材料を取得する工程と、を含むことができる。
【0115】
ドーピング元素前駆体を、L部に均等に又は任意に分けて、L個のバッチのドーピングを行うことができる。
【0116】
毎回の焼結処理の温度は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。毎回の焼結処理の時間は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。当業者は、ドーピング元素の種類及びドーピング量に基づいて焼結温度及び時間の調整を行うことができる。例えば、毎回の焼結処理の温度は、600℃~1000℃であってもよく、例えば、700℃~900℃であり、さらに例えば、800℃~850℃である。毎回の焼結処理の時間は、3h~25hであってもよく、例えば、5h~10hである。総焼結時間は、5h~25hであってもよく、例えば15h~25hである。
【0117】
ドーピングが難しい元素、例えば大きい原子半径のドーピング元素に対して、焼結温度の向上及び/又は焼結時間の延長によりドーピングの均一性を向上させることができる。
【0118】
いくつかの実施例において、さらに焼結生成物を破砕処理して篩分けすることにより、最適化された粒径分布及び比表面積を有する正極活性材料を取得することができる。ここで、破砕の方式は特に限定されず、実際の需要に応じて選択することができ、例えば粒子破砕機を使用する。
【0119】
正極シート
本願は、本願のいずれか1種類又は複数種類の正極活性材料を用いる正極シートを提供している。
【0120】
本願の実施例に係る正極シートは、本願の正極活性材料を用いるため、リチウムイオン二次電池に良好な常温及び高温サイクル性能並びに高いエネルギー密度を両立させることができる。
【0121】
具体的に、正極シートは、正極集電体と正極集電体の少なくとも1つの表面に設けられる正極活物質層とを含む。例えば、正極集電体は、自体の厚さ方向において対向する2つの表面を含み、正極活物質層は、正極集電体の2つの表面のうちのいずれか1つ又は両方に積層設置される。
【0122】
正極活物質層は、本願のいずれか1種類又は複数種類の正極活性材料を含む。
【0123】
また、正極活物質層は、さらに導電剤及び接着剤を含むことができる。本願は、正極活物質層における導電剤及び接着剤の種類を特に限定せず、実際の需要に応じて選択することができる。
【0124】
一例として、導電剤は、黒鉛、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの1種類又は複数種類であってもよい。接着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水性アクリル樹脂(water-based acrylic resin)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン三元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン三元共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ素含有アクリル樹脂及びポリビニルアルコール(PVA)のうちの1種類又は複数種類であってもよい。
【0125】
正極集電体は、良好な導電性能及び機械的特性の金属箔材又は多孔質金属板を用いることができ、その材質は、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、銀及びそれらの合金のうちの1種類又は複数種類であってもよい。正極集電体は、例えば、アルミニウム箔である。
【0126】
正極シートは、本分野の一般的な方法に従って製造することができる。例えば、正極活性材料、導電剤及び接着剤を溶媒により分散させて、均一な正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥、ロールプレス等の工程を経た後、正極シートが得られ、溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)及び脱イオン水であってもよい。
【0127】
リチウムイオン二次電池
本願は、正極シート、負極シート、セパレータ及び電解質を含むリチウムイオン二次電池を提供し、ここで、正極シートは、本願の任意の正極シートである。
【0128】
リチウムイオン二次電池は、本願の正極シートを用いるため、良好な常温及び高温サイクル性能並びに高いエネルギー密度を両立させることができる。
【0129】
負極シートは、金属リチウムシートであってもよい。
【0130】
負極シートは、負極集電体と負極集電体の少なくとも1つの表面に設けられる負極活物質層とをさらに含んでもよい。例えば、負極集電体は、自体の厚さ方向において対向する2つの表面を含み、負極活物質層は、負極集電体の2つの表面のうちのいずれか1つ又は両方に積層される。
【0131】
負極活物質層は、負極活性材料を含む。本願の実施例は、負極活性材料の種類を特に限定せず、実際の需要に応じて選択することができる。一例として、負極活性材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ハードカーボン、ソフトカーボン、ケイ素、ケイ素-炭素複合体、SiO(0<m<2、例えばm=1)、Li-Sn合金、Li-Sn-O合金、Sn、SnO、SnO、スピネル構造のチタン酸リチウム LiTi12、Li-Al合金及び金属リチウムのうちの1種類又は複数種類であってもよい。
【0132】
負極活物質層は、導電剤と接着剤とをさらに含んでもよい。本願の実施例は、負極活物質層における導電剤及び接着剤の種類を特に限定せず、実際の需要に応じて選択することができる。一例として、導電剤は、黒鉛、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの1種類又は複数種類である。接着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルブチラール(PVB)、及び水性アクリル樹脂のうちの1種類又は複数種類である。
【0133】
負極活物質層は、増粘剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)をさらに選択的に含んでもよい。
【0134】
負極集電体は、良好な導電性能及び機械的性質を有する金属箔材又は多孔質金属板を用いることができ、その材質は、銅、ニッケル、チタン、鉄及びそれらの合金のうちの1種類又は複数種類であってもよい。負極集電体は、例えば、銅箔である。
【0135】
負極シートは、本分野の一般的な方法に従って製造することができる。例えば、負極活性材料、導電剤、接着剤及び増粘剤を溶媒により分散させて、均一な負極スラリーを形成し、負極スラリーを負極集電体に塗布し、乾燥、圧延等の工程を経た後、負極シートが得られ、溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)又は脱イオン水であってもよい。
【0136】
本願の実施例のリチウムイオン二次電池において、電解質は、固体電解質、例えばポリマー電解質、無機固体電解質等を用いることができるが、これに限定されない。電解質は、電解液を用いてもよい。上記電解液として、溶媒及び溶媒中に溶解されたリチウム塩を含む。
【0137】
ここで、溶媒は、非水有機溶媒であってもよく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)及び酪酸エチル(EB)のうちの1種類又は複数種類であり、例えば2種類以上である。
【0138】
リチウム塩は、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiBF(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiClO(過塩素酸リチウム)、LiAsF(ヘキサフルオロヒ酸リチウム)、LiFSI(ジフルオロスルホニルイミドリチウム)、LiTFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム)、LiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、LiDFOB(ジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウム)、LiBOB(ジシュウ酸ホウ酸リチウム)、LiPO(ジフルオロリン酸リチウム)、LiDFOP(ジフルオロジシュウ酸リン酸リチウム)及びLiTFOP(テトラフルオロシュウ酸リン酸リチウム)のうちの1種類又は複数種類であってもよく、例えば、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiBF(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiBOB(ジシュウ酸ホウ酸リチウム)、LiDFOB(ジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウム)、LiTFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム)、及びLiFSI(ジフルオロスルホニルイミドリチウム)のうちの1種類又は複数種類である。
【0139】
電解液にさらに他の添加剤、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、トリフルオロメチルエチレンカーボネート(TFPC)、スクシノニトリル(SN)、アジポニトリル(ADN)、グルタロニトリル(GLN)、ヘキサネトリニトリル(HTN)、1,3-プロパンスルトン(1,3-PS)、エチレンサルフェート(DTD)、メチルジスルホン酸メチレン(MMDS)、1-プロピレン-1,3-スルトン(PST)、4-メチルエチレンサルフェート(PCS)、4-エチルエチレンサルフェート(PES)、4-プロピルエチレンサルフェート(PEGLST)、プロピレンサルフェート(TS)、1,4-ブタンスルトン(1,4-BS)、亜硫酸エチレン(DTO)、ジメチルサルファイト(DMS)、ジエチルサルファイト(DES)、スルホン酸エステル環状四級アンモニウム塩、トリス(トリメチルシラン)リン酸エステル(TMSP)及びトリス(トリメチルシラン)ホウ酸エステル(TMSB)のうちの1種類又は複数種類を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0140】
本願の実施例に係るリチウムイオン二次電池は、セパレートを特に限定せず、電気化学的安定性及び機械的安定性を有する任意の周知の多孔質構造のセパレート、例えば、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)のうちの1種類又は複数種類の単層又は多層フィルムを選択することができる。
【0141】
正極シートと負極シートを交互に積層して配置し、且つ正極シートと負極シートとの間にセパレートを配置して隔離の役割を果たすようにして、コアを取得するし、巻回した後にコアを取得してもよい。コアをハウジング内に置き、電解液を注入し、封止して、リチウムイオン二次電池を取得する。
【0142】
本願は、二次電池の形状を特に限定せず、円筒形、四角形、又は他の任意の形状であってもよい。図4は、一例としての四角形構造の二次電池5である。
【0143】
いくつかの実施例において、二次電池は外装を含むことができる。当該外装は、正極シート、負極シート及び電解質を封止するために用いられる。
【0144】
いくつかの実施例において、図5を参照すると、外装は、ケース51及びカバープレート53を備える。そのうち、ケース51は、底板と、底板に接続された側板と、を備え、底板及び側板により囲まれて収容室が形成される。ケース51は、収容室に連通している開口を有し、カバープレート53は、前記収容室を密閉するように、前記開口をカバーする。
【0145】
正極シート、負極シート及びセパレータは、巻回工程又は積層工程を経てコア52を形成することができる。コア52は、前記収容室内に封止されている。電解質は電解液を用いることができ、電解液はコア52内に浸潤されている。二次電池5に含まれるコア52の個数は1つ又は複数であってもよく、必要に応じて調整することができる。
【0146】
いくつかの実施例において、二次電池の外装は、硬質シェルであってもよく、例えば、硬質プラスチックシェル、アルミニウムシェル及び鋼シェル等である。電池の外装は、ソフトパックであってもよく、例えば、袋状のソフトパックである。ソフトパックの材質は、プラスチックであってもよく、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)等のうちの1種類又は複数種類であってもよい。
【0147】
いくつかの実施例において、二次電池は、組み立てられて、電池モジュールを形成することができ、電池モジュールに含まれる二次電池の個数は複数であってもよく、具体的な個数は、電池モジュールの用途及び容量に応じて調整することができ。
【0148】
図6は、一例としての電池モジュール4である。図6を参照すると、電池モジュール4において、複数のリチウムイオン二次電池5は、電池モジュール4の長さ方向に沿って順次に配列されてもよい。当然のことながら、他の任意の方式により配列することも可能である。さらに、この複数のリチウムイオン二次電池5を締結具によって固定してもよい。
【0149】
選択的に、電池モジュール4はさらに収容空間を有するケースを含んでもよく、複数のリチウムイオン二次電池5は当該収容空間に収容される。
【0150】
いくつかの実施例において、上記電池モジュールはさらに組み立てられて電池パックを形成することができ、電池パックに含まれる電池モジュールの個数は、電池パックの用途及び容量に応じて調整することができる。
【0151】
図7及び図8は、一例としての電池パック1である。図7及び図8を参照すると、電池パック1には、電池ボックスと、電池ボックス内に配置された複数の電池モジュール4とが含まれてもよい。電池ボックスは、上部筐体2及び下部筐体3を備え、上部筐体2は、下部筐体3を覆うように配置され、電池モジュール4を収容する密閉空間を形成することができる。複数の電池モジュール4は、任意の方式により電池ボックス内に配置されてもよい。
【0152】
本願はさらに装置を提供し、前記装置は、本願の二次電池、電池モジュール又は電池パックのうちの少なくとも1種類を含む。前記二次電池、電池モジュール又は電池パックは、前記装置の電源として用いられてもよく、前記装置のエネルギー貯蔵ユニットとして用いられてもよい。前記装置は、モバイル機器(例えば、携帯電話、ノートパソコン等)、電気自動車(例えば、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクーター、電動ゴルフカート、電動トラック等)、電気列車、船舶及び衛星、エネルギー貯蔵システム等が挙げられるが、これらに限定されない。前記装置は、その使用の必要に応じて、二次電池、電池モジュール又は電池パックを選択することができる。
【0153】
図9は、一例としての装置である。当該装置は、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車等である。二次電池の高電力及び高エネルギー密度に対する当該装置の要求を満たすために、電池パック又は電池モジュールを使用してもよい。
【0154】
他の例としての装置は、携帯電話、タブレット、ノートパソコン等であってもよい。当該装置は、一般的に軽量化及び薄型化を必要とし、電源として二次電池を用いることができる。
【実施例
【0155】
以下の実施例は、本願に開示の内容をより具体的に説明する。これらの実施例は、単に説明のためのものであり、本願に開示の範囲内での様な修正及び変更は、当業者にとって自明である。特に説明しない限り、以下の実施例で報告される全ての部、百分率、及び比率は、重量を基にしたものであり、実施例で使用される全ての試薬は、市販のものであるか、又は常用の方法に従って合成されたものであり、さらに処理することなく直接使用することができる。また、実施例で使用される装置は、市販のものである。
【0156】
実施例1
正極活性材料の調製
ドーピング元素は、Sbである。ドーピング元素前駆体 酸化アンチモンSbをほぼ均等に3つのバッチに分けてSbドーピングを行う。
【0157】
正極活性材料前駆体 [Ni0.8Co0.1Mn0.1](OH)、水酸化リチウム LiOH及び第1バッチの酸化アンチモンを高速混合機に入れ、1h混合して、混合物を取得する。ここで、正極活性材料前駆体と水酸化リチウムとのモル比 Li/Meは、1.05であり、Meは、正極活性材料前駆体におけるNi、Co、Mnの総モル量を示す。混合物を雰囲気下の焼結炉に入れて焼結し、焼結温度は830℃であり、焼結時間は5hであり、焼結雰囲気は、O濃度90%の酸素含有雰囲気である。
【0158】
1回目の焼結処理の生成物及び第2バッチの酸化アンチモンを高速混合機に入れ、1h混合して、2回目の焼結を行い、焼結温度、焼結時間及び焼結雰囲気は、1回目の焼結と同じである。
【0159】
2回目の焼結処理の生成物及び第3バッチの酸化アンチモンを高速混合機に入れ、1h混合して、3回目の焼結を行い、焼結温度及び焼結雰囲気は、前の二回の焼結と同じであり、焼結時間は10hである。総焼結時間は、20hである。
【0160】
3回目の焼結処理の生成物を破砕し、篩にかけると、高ニッケル三元正極活性材料を取得することができる。酸化アンチモンの添加量は、正極活性材料におけるSbの真ドーピング濃度が25110μg/cmとなるようにする。
【0161】
電解液の調製
EC、DEC、DMCを体積比1:1:1に応じて混合した後、溶媒を取得し、次にリチウム塩LiPFを上記溶媒により溶解させて、電解液を取得する。ここで、LiPFの濃度は、1mol/Lである。
【0162】
ボタン型電池の製造
上記調製された正極活性材料、導電性カーボンブラック及び接着剤 PVDFを重量比90:5:5に応じて、溶剤 N-メチルピロリドン(NMP)により分散させ、均一に混合して、正極スラリーを取得する。正極スラリーを正極集電体アルミニウム箔に均一に塗布し、乾燥、冷間プレスを経て、正極シートを取得する。ボタン電池ボックスにおいて、正極シート、セパレータ及び金属リチウム片を順次積層し、上記電解液を注入し、組み立てを経た後、ボタン型電池が得られる。
【0163】
全電池の製造
上記調製された正極活性材料、導電剤 アセチレンブラック及び接着剤 PVDFを重量比94:3:3に応じて、溶剤 NMPにより分散させ、均一に混合して、正極スラリーを取得する。正極スラリーを正極集電体アルミニウム箔に均一に塗布し、乾燥、冷間プレスを経て、正極シートを取得する。
【0164】
負極活性材料 人造黒鉛、ハードカーボン、導電剤 アセチレンブラック、接着剤 スチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤 カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)を重量比90:5:2:2:1に応じて、脱イオン水により分散させ、均一に混合して、負極スラリーを取得する。負極スラリーを負極集電体アルミニウム箔に均一に塗布し、乾燥、冷間プレスを経て、負極シートを取得する。
【0165】
ポリエチレン(PE)多孔質重合フィルムをセパレータとする。正極シート、セパレータ、負極シートを順次に積層してベアコアを取得し、ベアコアを外装内に配置し、上記電解液を注入して封止し、化成等の工程を経た後、全電池を取得する。
【0166】
実施例2~11、実施例13~17及び比較例1~4
実施例1との相違とは、正極活性材料の調製工程における関連パラメータを変更し、ドーピング元素の混入時の種類、各バッチの含有量を調整し、焼結温度を600℃~900℃とし、焼結雰囲気をO濃度75%~95%の酸素含有雰囲気とし、総焼結時間を10h~20hとして、所定のドーピング元素の種類、ドーピング量及びドーピング均一性を有する正極活性材料を取得することであり、ここで、多元素ドーピングに係る実施例4及び実施例5は、各ドーピング元素の含有量が基本的に同じであり、比較例1は、ドーピング元素が添加されておらず、残りのパラメータは、表1及び表2に示す通りである。
【0167】
実施例12及び比較例5
実施例1との相違とは、実施例12において、ドーピング元素が単一バッチで添加され、焼結温度が720℃であり、比較例5において、ドーピング元素が単一バッチで添加され、焼結温度が650℃であることであり、残りのパラメータは、表1及び表2に示す通りである。
【0168】
実施例18、19
実施例1との相違とは、実施例18において、1回目の焼結温度が800℃であり、7h焼結し、2回目の焼結温度が750℃であり、2h焼結し、3回目の焼結温度が700℃であり、2h焼結し、ここで、第2バッチのドーピング元素が総ドーピング元素の含有量の40%であり、第3バッチのドーピング元素が総ドーピング元素の含有量の10%であり、残りのパラメータは、表1及び表2に示す通りである。
【0169】
実施例1との相違とは、実施例19において、1回目の焼結温度が750℃であり、6h焼結し、2回目の焼結温度は700℃であり、1h焼結し、3回目の焼結温度が650℃であり、1h焼結し、ここで、第2バッチのドーピング元素が総ドーピング元素の含有量の50%であり、第3バッチのドーピング元素が総ドーピング元素の含有量の20%であり、残りのパラメータは、表1及び表2に示す通りである。
【0170】
実施例20、21と比較例6、7
実施例1との相違とは、実施例20、21及び比較例7の正極活性材料前駆体が[Ni0.6Co0.2Mn0.2](OH)であり、混入されたドーピング元素の種類に差があり、比較例6の正極活性材料前駆体が[Ni0.6Co0.2Mn0.2](OH)であり、ドーピング元素が添加されていないことであり、残りのパラメータは、表1及び表2に示す通りである。
【0171】
試験部分
1)「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料のDSC測定
25℃で、18個のボタン型電池をそれぞれ1Cの定電流で充放電カットオフ電圧の上限まで充電し、さらに定電圧で電流≦0.05mAに充電し、その後に2分間放置し、次に1Cの定電流で充放電カットオフ電圧の下限まで放電する。
【0172】
その後、上記充放電後の18個のボタン型電池を、それぞれ0.1C倍率で2.8V、2.9V、3.0V、3.1V、3.2V、3.3V、…、4.0V、4.1V、4.2V、4.3V、4.4V、4.5V(即ち、充電電圧間隔が0.1Vである)まで充電する。各充電後のボタン型電池を取り、乾燥室内において解体して正極シートを取り出してサンプルとし、サンプルの質量を秤取し記録した後に分解タンクに入れ、分解試薬として王水10mLをゆっくり添加し、その後にCEM-Mars5マイクロ波分解器に入れ、2450Hzのマイクロ波放射周波数で分解を行う。分解後のサンプル溶液を容量フラスコに移して均一に振り、サンプリングしてPE7000DV型ICP-OESのサンプル導入システムに入れ、0.6MPaのアルゴンガスの圧力及び1300Wの高周波電力で、正極活性材料に対して、Li、O、Ni、Co、Mn及びドーピング元素の質量濃度測定を行い、各元素の質量濃度に基づいて各電圧での化学式を換算して取得し、さらに各電圧での脱リチウム化状態を取得する。換算により得られる正極活性材料の化学式がLi0.22Ni0.8Co0.1Mn0.1である場合、対応する脱リチウム化状態は、(1-0.22)×100%=78%であり、対応する電圧は、78%脱リチウム化状態に対応する電池電圧である。
【0173】
ボタン型電池を0.1C倍率で「78%脱リチウム化状態」に対応する電圧まで充電する。その後、乾燥室において解体してボタン型コアを取り外し、正極シート全体を取り出してビーカーに入れ、適量の高純度無水ジメチルカーボネート(DMC)を入れ、8hごとにDMCを交換し、3回連続的に洗浄し、次に乾燥室の真空静置ボックスに入れ、真空引き状態を-0.096MPaに維持し、12h乾燥する。乾燥室内でブレードによって乾燥後の正極シートから粉末を掻き取り、4.95mg~5.05mgの正極活性材料粉末を秤取してSTA449F3-QMS403C型示差走査熱量計の高圧坩堝に入れて密封し、10℃/minの昇温速度でサンプルを加熱し、温度によるサンプル熱流の変化データを記録して、DSCスペクトルを取得し、主放熱ピークの放熱開始温度、半値幅、積分面積及び最大放熱温度を取得する。
【0174】
ボタン型電池における正極は、全電池を直接取って乾燥室において解体して得られた正極シートであってもよく、その真中領域から適当な大きさを打ち抜き、ボタン型電池の正極シートとする。
【0175】
2)正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差の測定
正極活性材料粉末サンプル2gを秤量し、サンプルを導電性接着剤が付着されたサンプル台に均一に分散させ、さらに軽く押圧して粉末を固定させるか、又は電池の正極シートから1cm×1cmの電極シートを切断し、サンプル台に貼り付けて被験サンプルとする。サンプル台を真空サンプルビン内に入れて固定し、日本電子(JEOL)社のIB-09010CP型断面研磨装置を用いて正極活性材料粒子の断面(図3に示す通りである)を製造し、図3に示す粒子の断面の17個の箇所を参照して点を取り、各点の面積が20nm×20nmであり、英国オックスフォードインストゥルメンツグループのX-Max型エネルギー分光計(EDS)を使用し、ドイツZEISSのSigma-02-33型走査電子顕微鏡(SEM)と組み合わせて、当該17個の箇所のドーピング元素の質量濃度を測定し、測定方法は以下の通りである。検出元素として、Li、O、Ni、Co、Mn及びドーピング元素を選択し、SEMパラメータを、20kV加速電圧、60μmアパーチャ、8.5mm動作距離、2.335A電流とし、EDS測定を行う時にスペクトルパターンの面積が250000cts以上(収集時間及び収集速度により制御する)に達する際に測定を停止して、データを収集し、各箇所のドーピング元素の質量濃度を取得し、それぞれη、η、η、…、η17と記す。
【0176】
正極活性材料粒子におけるドーピング元素の下記平均質量濃度の測定方法は、以下の通りである。上記EDS-SEM測定方法を使用し、図3における破線枠に示すように、測定面積は、上記正極活性材料粒子における点走査の全ての点をカバーし、且つ、当該二次粒子の断面を超えていない。
【数9】
【0177】
その後、式(1)から、正極活性材料粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差σを算出する。
【0178】
電池中の正極活性材料を測定するために、乾燥室で電池を解体し、正極シートの真中部分を取り出してビーカーに入れ、適量の高純度無水ジメチルカーボネートDMCを注ぎ、8時間ごとにDMCを交換し、3回連続的に洗浄し、次に乾燥室の真空静置ボックスに入れ、真空引き状態(-0.096MPa)を維持し、12時間乾燥させ、乾燥後に1cm×1cm以上の大きさの電極シートサンプルを切り出し、電極シートサンプルを導電性接着剤が付着されたサンプル台に貼り付ける。或いは、乾燥室内でブレードによって正極活性材料粉末2gを掻き取って測定サンプルとし、上記方法に従って測定を行う。
【0179】
3)正極活性材料の真ドーピング濃度の測定
中国北京Builder電子技術株式会社のTD2400型粉末真密度試験機を用いて正極活性材料の真密度ρを測定し、測定方法は以下の通りである。25℃で一定の質量の正極活性材料をサンプルカップに入れ、正極活性材料の質量mを記録し、正極活性材料が取り付けられたサンプルカップを真密度計の測定チャンバに入れ、測定システムを密閉し、ヘリウムガス又は窒素ガス等の小分子直径の不活性ガスを導入し、サンプル室及び膨張室内のガスの圧力を検出することにより、ボイルの法則 PV=nRTに基づいて被測定材料の真体積Vを測定し、m/Vにより二次粒子の真密度ρを算出する。ここで、nは、サンプルカップ中のガスのモル量であり、Rは、理想気体定数であって、8.314を取り、Tは、環境温度であって、298.15Kである。
【0180】
米国PerkinElmer(PE)社の7000DV型誘導結合プラズマ-放射分光計(inductively coupled plasma-Optical Emission spectrometers、ICP-OES)を使用して正極活性材料におけるドーピング元素の質量濃度φを測定し、測定方法は以下の通りである。正極活性材料を含む電極シートを、総質量が0.5gを超えるウェハ又は少なくとも5gの正極活性材料粉末サンプルに打ち抜き、サンプルの質量を称量して記録した後に分解タンクに入れ、王水10mLを分解試薬としてゆっくり添加し、その後に米国CEM会社のMars5マイクロ波分解器に入れ、2450Hzのマイクロ波放射周波数で分解を行う。分解後のサンプル溶液を容量フラスコに移して均一に振り、サンプリングしてICP-OESサンプル導入システムに入れ、0.6MPaのアルゴンガスの圧力及び1300Wの高周波電力で正極活性材料のドーピング元素の質量濃度測定を行う。
【0181】
その後、前述の式(2)に従って、正極活性材料の真ドーピング濃度ωを算出する。
【0182】
4)「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料におけるドーピング元素の原子価
被験正極活性材料を含むボタン型電池を「78%脱リチウム化状態」に対応する電圧まで充電し、次に乾燥室でハサミで電池を解体し、正極シート全体を取り出してビーカーに入れ、適量の高純度無水ジメチルカーボネート(DMC)を注ぎ、8hごとにDMCを交換し、3回連続的に洗浄し、次に乾燥室の真空静置ボックスに入れ、真空引き状態を-0.096MPaに維持し、12h乾燥させる。乾燥後の正極シートをXPS測定サンプルとする。
【0183】
電極シートサンプルを3M絶縁テープを介してKratos社のAXIS Supra型XPSのサンプル台に貼り付け、自動的にサンプルを導入した後、少なくとも1h真空引きする。単色Alターゲット(AlKα、1486.6eV)を励起源として、0.1eVをステップ長さとし、40eVをパスエネルギー(Pass Energy)として、ドーピング元素の微細スペクトルの走査を行い、ピーク分割により特定元素の標準的なXPS特徴ピークを同定して、元素の価数状態を決定する。
【0184】
5)ボタン型電池の初期の1グラムあたりの容量の測定
25℃で、電池を0.1Cの定電流で充放電カットオフ電圧の上限まで充電し、さらに定電圧で電流が0.05mA以下になるまで充電し、その後に2分間放置し、次に0.1Cの定電流で充放電カットオフ電圧の下限まで放電し、今回の放電容量は、ボタン型電池の初期の1グラムあたりの容量である。
【0185】
6)全電池の初期の1グラムあたりの容量測定
25℃で、電池を1/3Cの定電流で充放電カットオフ電圧の上限まで充電し、さらに定電圧で電流が0.05mA以下になるまで充電し、その後に5分間放置し、次に1/3Cの定電流で充放電カットオフ電圧の下限まで放電すると、今回の放電容量が全電池の初期の1グラムあたりの容量である。
【0186】
7)全電池の高温サイクル性能の測定
45℃で、電池を1Cの定電流で充放電カットオフ電圧の上限まで充電し、さらに定電圧で電流が0.05mA以下になるまで充電し、その後に5分間放置し、さらに1Cの定電流で充放電カットオフ電圧の下限まで放電すると、これが一つの充放電サイクルであり、今回の放電容量を1回目サイクルの放電比容量Dと記す。電池に対し、上記方法に応じて400回のサイクル充放電測定を行って、400回目サイクルの放電比容量D400を記録する。
45℃、1C/1Cで400回サイクル後の全電池の容量保持率(%)=D400/D×100%
【0187】
測定1)、5)、6)、7)において、
実施例1~19及び比較例1~5において、ボタン型電池の充放電カットオフ電圧は、2.8V~4.25Vであり、全電池の充放電カットオフ電圧は、2.8V~4.2Vである。
実施例20~21及び比較例6~7において、ボタン型電池の充放電カットオフ電圧は、2.8V~4.35Vであり、全電池の充放電カットオフ電圧は、2.8V~4.3Vである。
【0188】
実施例1~21及び比較例1~7の測定結果を表2及び表3に示す。
【0189】
【表1】
【0190】
表1において、各バッチのドーピング質量比=第1バッチのドーピング元素前駆体の質量:第2バッチのドーピング元素前駆体の質量:第3バッチのドーピング元素前駆体の質量である。
【0191】
【表2】
【0192】
表2に示す原子価は、「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料におけるドーピング元素の一番高い原子価である。
【0193】
【表3】
【0194】
実施例1~5、13~17と比較例1~2、及び実施例20~21と比較例6~7の比較結果から分かるように、正極活性材料が層状リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物におけるニッケルのモル含有量がニッケル、コバルト及びマンガンの総モル含有量の60%~90%であり、遷移金属層がドーピング元素を含み、且つ正極活性材料の粒子におけるドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差が20%以下であり、「78%脱リチウム化状態」の正極活性材料のDSCスペクトルにおいて、主放熱ピークの初期放熱温度が200℃以上であり、主放熱ピークの積分面積が100J/g以下である場合、リチウムイオン二次電池に高い容量及び高い高温サイクル性能を両立させることができる。
【0195】
実施例6~10と比較例3~4の結果から分かるように、ドーピング元素のドーピング量が小さい場合、正極材料中の酸素原子に対するドーピング元素の拘束能力が不足であり、正極の構造安定性が依然として悪く、これにより材料の加熱過程においてDSCの放熱開始温度及び最大放熱温度がいずれも小さく、対応する放熱積分面積及び半値幅が大きく、不安定な正極活性材料構造により、電池の容量が低く、高温サイクル性能が低い。ドーピング量が大きい場合、過剰なドーピング元素は従来の正極活性材料構造を破壊し、これにより正極活性材料の熱安定性が低く、同時に電池の容量発揮及び45℃サイクル容量保持率も低い。
【0196】
実施例11、12と比較例5の結果から分かるように、正極活性材料粒子内部のドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差が20%以下である場合、正極活性材料内部でのドーピング元素の分布が非常に均一になり、正極活性材料の安定性を明らかに向上させ、材料の熱安定性が高く、対応する電池の容量及び高温サイクル性能が優れている。逆に、ドーピング元素の局所質量濃度の相対偏差が20%を超える場合、ドーピング不均一領域の格子応力が大きく、電池の容量及び高温サイクル性能を悪化した。
【0197】
実施例1、18、19の結果から分かるように、εが30%以下である場合、ドーピング元素が正極活性材料粒子の内部にスムーズにドーピングされ、正極活性材料の構造安定性の向上に対するドーピング元素の作用を十分に発揮し、正極活性材料の熱安定性を向上させると同時に電池容量及び高温サイクル性能を改善することができる。εが30%より大きい場合、ドーピング元素は正極活性材料粒子の隙間又は表面に多く分布し、ドーピング元素の改善効果が悪く、正極材料の熱安定性が悪いが、表面に分布されたドーピング元素が、被覆により電解液の副反応を遮断する一定の役割を程度果たすため、この時にコアの容量及び高温サイクル性能はわずかに低下する。
【0198】
以上、本願の具体的な実施形態について説明したが、本願の保護範囲はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本願に開示の技術的範囲内において、様々な等価な修正又は差替えが容易に考えられ、これらの修正又は差替えは、本願の範囲内に含まれるべきである。したがって、本願の保護範囲は、特許請求の範囲の保護範囲に準ずるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】