(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-24
(54)【発明の名称】自己始動型同期リラクタンスモータ回転子、モータおよび圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/22 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
H02K1/22 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021553784
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(85)【翻訳文提出日】2021-11-09
(86)【国際出願番号】 CN2019128067
(87)【国際公開番号】W WO2020253191
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】201910532905.6
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517441262
【氏名又は名称】グリー エレクトリック アプライアンス、インコーポレイテッド オブ チューハイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー、シャ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ビン
(72)【発明者】
【氏名】シー、チンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】シャオ、ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユー、キンホン
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA22
5H601BB11
5H601CC01
5H601CC17
5H601CC19
5H601DD01
5H601DD11
5H601EE39
5H601FF02
5H601FF04
5H601FF17
5H601GA02
5H601GA26
5H601GC12
5H601HH09
(57)【要約】
本出願は、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造、モータ、および圧縮機を提供する。自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造は、回転子コアを備え、回転子コアには複数のスリット溝が設けられ、各スリット溝の両端には充填溝が設けられ、各充填溝の第一端は各スリット溝に隣接して設けられ、各充填溝の第二端は前記回転子コアの半径方向に沿って外側に延伸し、各充填溝の前記第二端の端部には少なくとも1つのベベルエッジ構造が設けられているため、前記回転子コアのd軸磁束がベベルエッジ構造に形成されたチャネルに沿って固定子に入るとき、磁束に急激な変化は生じない。各充填溝の第二端の端部に少なくとも1つのベベルエッジ構造が設けられているため、各充填溝の第二端の端部の断面積が小さくなり、隣接する2つの充填溝の間に形成される磁気伝導チャネルの幅が長くなり、回転子構造の磁気抵抗の急激な変化が効果的に低減され、回転子構造を有するモータのトルクリップルが効果的に低減され、鉄損が低減され、モータの効率が改善される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造であって、
複数のスリット溝(20)が設けられた回転子コア(10)を備え、各スリット溝(20)の両端にはそれぞれ充填溝(30)が設けられており、各充填溝(30)の第一端は各スリット溝(20)に隣接し、各充填溝(30)の第二端は前記回転子コア(10)の半径方向に沿って外側に延伸し、各充填溝(30)の前記第二端の端部には少なくとも1つのベベルエッジ構造が設けられているため、前記回転子コア(10)のd軸磁束が前記ベベルエッジ構造に形成されたチャネルに沿って固定子に入るとき前記磁束に急激な変化は生じない、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項2】
各充填溝(30)の前記第二端の前記端部には、2つのベベルエッジ構造が設けられており、前記2つのベベルエッジ構造が、
前記回転子コア(10)のシャフト孔(12)から遠くにある前記充填溝(30)の一方の側壁上に配置された第1のベベルエッジ構造(11)であって、前記第1のベベルエッジ構造(11)の延長線が前記d軸と第1の挟角を形成する第1のベベルエッジ構造(11)と、
前記シャフト孔(12)の近くにある前記充填溝(30)の一方の側壁に配置された第2のベベルエッジ構造(13)であって、前記第2のベベルエッジ構造(11)の延長線が前記d軸と第2の挟角を形成する第2のベベルエッジ構造(13)と
を備える、請求項1に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項3】
前記第1のベベルエッジ構造(11)と前記第2のベベルエッジ構造(13)が、前記充填溝(30)の幅方向に距離を置いて配置される、請求項2に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項4】
前記第1の挟角をθ1とすると、135°≦θ1であり、前記第2の挟角をθ2とすると、θ2≦170°である、請求項2または3に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項5】
前記第1の挟角または前記第2の挟角の少なくとも一方が前記d軸から離れる方向に徐々に大きくなる、請求項4に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項6】
前記回転子コア(10)の回転子パンチングシートが方向性ケイ素鋼板でできており、前記方向性ケイ素鋼板の磁気伝導率の最大方向が前記d軸方向であり、前記方向性ケイ素鋼板の前記磁気伝導率の最小方向が前記q軸方向である、請求項1に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項7】
独立充填溝(40)が前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部の近くに開放的に設けられ、前記回転子コア(10)の前記q軸が前記回転子コア(10)の半径方向に沿って前記独立充填溝(40)の幾何学的中心線と一致する、請求項1に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項8】
前記q軸を通過する前記回転子コア(10)の任意の磁極上の前記スリット溝(20)の幅と、前記q軸を通過する前記磁極上の前記独立充填溝(40)の幅との和をL3、前記回転子コア(10)の前記シャフト孔(12)から前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部までの距離をL4とすると、0.2≦L4/L3≦0.5である、請求項7に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項9】
前記スリット溝(20)およびその両端に対応する前記充填溝(30)が磁気バリア層を形成し、磁気伝導チャネルは隣接する2つの磁気バリア層の間に形成され、前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部の近くにある前記磁気伝導チャネルの少なくとも一方の端部の延伸方向が前記d軸に平行である、請求項1に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項10】
前記磁気伝導チャネルの両端には直線部(50)が設けられ、前記直線部(50)の延伸方向が前記d軸に平行であり、前記直線部(50)の長さが前記d軸から離れる方向に沿って徐々に短くなる、請求項9に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項11】
前記磁気伝導チャネルの幅が前記q軸から両側に向かって徐々に長くなる、請求項9に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項12】
前記複数のスリット溝(20)のうちの少なくとも1つが前記スリット溝(20)の途中で円弧状構造を有し、前記スリット溝(20)の両端が直線断面構造を有する、請求項1に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項13】
隣接する充填溝(30)間の距離をd1、隣接する磁気バリア層間の最小幅をdとすると、d1≧dである、請求項9に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項14】
前記独立充填溝(40)の両端と前記回転子コア(10)の前記シャフト孔(12)とをそれぞれ結ぶ線の挟角をαとすると、20°≦α≦60°である、請求項7に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項15】
前記独立充填溝(40)および前記充填溝(30)が導電性非磁性材料で充填され、前記充填された導電性非磁性材料が前記回転子コア(10)の両端のエンドリングを介して短絡される、請求項7に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項16】
前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部の近くにある前記独立充填溝(40)の前記側壁と前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部との間の距離をL1とすると、0.5δ≦L1<δであり、前記充填溝(30)から前記スリット溝(20)までの距離をL2とすると、0.5δ≦L2<δであり、ただし、δは前記固定子コアと前記回転子コア(10)との間のエアギャップの幅である、請求項7に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項17】
前記シャフト孔(12)の前記断面が楕円形であり、前記シャフト孔(12)の長軸が前記d軸上に位置し、前記シャフト孔(12)の短軸が前記回転子コア(10)の前記q軸上に位置する、請求項2に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項18】
前記第1の挟角をθ1とすると、135°≦θ1であるか、または前記第2の挟角をθ2とすると、θ2≦170°である、請求項2または3に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項19】
前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部の近くにある前記独立充填溝(40)の前記側壁と前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部との間の距離をL1とすると、0.5δ≦L1<δであり、または前記充填溝(30)から前記スリット溝(20)までの距離をL2とすると、0.5δ≦L2<δであり、ただし、δは前記固定子コアと前記回転子コア(10)との間の前記エアギャップの幅である、請求項7に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造。
【請求項20】
自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造を備えるモータであって、前記自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造は、請求項1~19のいずれか一項に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造である、モータ。
【請求項21】
自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造を備える圧縮機であって、前記自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造は、請求項1~19のいずれか一項に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造である、圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、モータの技術分野に関し、特に、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造、モータおよび圧縮機に関する。本出願は、2019年6月19日に中国国家知識産権局に提出された「自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造、モータおよび圧縮機」と題する特許出願第201910532905.6号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
自己始動型同期リラクタンスモータは、誘導モータとリラクタンスモータの構造上の特徴を併せ持つ。このモータは、かご型誘導によってトルクを生成して始動することができ、回転子インダクタンスギャップを利用してリラクタンストルクを生成し、定速運転を実現することができる。このモータは、電源に直接接続することで始動運転を実現することができる。自己始動型同期リラクタンスモータは、非同期始動永久磁石モータと比較して希土類永久磁石材料を使用せず減磁もなく、低コストで信頼性の高いモータである。
【0003】
従来技術において、中国特許第1255925C号明細書は、安価で始動が容易な同期誘導モータならびに同期誘導モータの製造装置および製造方法を提供する。磁束が通りやすい一方の方向のd軸と磁束が通りにくい他方の方向のq軸とを90度で備えた2極の磁極突起で形成された回転子には、少なくとも一対のスリット部と該スリット部の外周側に配置された複数のスロット部とが設けられている。スリット部およびスロット部には、導電性材料が充填されている。スリット部は直線状に形成されており、スロット部は周方向に等間隔で放射状に配置されている。したがって、スロット部間での磁束の方向は回転子表面の半径方向に対して垂直であり、スロット部はd軸方向の磁束の通りを妨げ、特にスロット部がq軸に近いほどd軸磁束への妨げが顕著になり、かつq軸磁束の通りがスムーズになるため、d軸とq軸の磁束の差が顕在化せず、突極比が大きくならず、モータの出力および効率が十分ではない。また、スリット部が回転子の周囲に均等に分布しており、スリット部と固定子コギングとの相互作用によりトルクリップルが大きくなり、振動や騒音の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本出願の主な目的は、従来技術における大きなトルクリップルを解決するための自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造、モータ、および圧縮機を提供することである。
【0006】
上記の目的を達成するために、本出願の一態様によれば、複数のスリット溝が設けられた回転子コアを備える自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造が提供されており、各スリット溝の両端には充填溝が設けられ、各充填溝の第一端は各スリット溝に隣接し、各充填溝の第二端は回転子コアの半径方向に沿って外側に延伸し、各充填溝の第二端の端部には少なくとも1つのベベルエッジ構造が設けられており、回転子コアのd軸磁束がベベルエッジ構造に形成されたチャネルに沿って固定子に入るとき、磁束に急激な変化は生じない。
【0007】
さらに、各充填溝の第二端の端部には、回転子コアのシャフト孔から遠くにある充填溝の一方の側壁に配置された第1のベベルエッジ構造であって、該第1のベベルエッジ構造の延長線がd軸と第1の挟角を形成する第1のベベルエッジ構造と、シャフト孔の近くにある充填溝の一方の側壁に配置された第2のベベルエッジ構造であって、該第2のベベルエッジ構造の延長線がd軸と第2の挟角を形成する第2のベベルエッジ構造とを備えた2つのベベルエッジ構造が設けられている。
【0008】
さらに、第1のベベルエッジ構造および第2のベベルエッジ構造は、充填溝の幅方向に距離を置いて配置される。
【0009】
さらに、第1の挟角をΘ1とすると、135°≦Θ1であり、および/または第2の挟角をΘ2とすると、Θ2≦170°である。
【0010】
また、第1の挟角および/または第2の挟角の角度は、d軸から離れるに従って徐々に大きくなる。
【0011】
また、回転子コアの回転子パンチングシートは方向性ケイ素鋼板でできており、方向性ケイ素鋼板の磁気伝導率の最大方向をd軸方向とし、方向性ケイ素鋼板の磁気伝導率の最小方向をq軸方向とする。
【0012】
また、回転子コアの外側エッジ部の近くには独立充填溝が開放的に設けられており、回転子コアのq軸は回転子コアの半径方向に沿った独立充填溝の幾何学的中心線と一致する。
【0013】
また、q軸を通る回転子コアの任意の磁極におけるスリット溝の幅と、q軸を通る磁極における独立充填溝の幅との和をL3とし、回転子コアシャフト孔から回転子コアの外側エッジ部までの距離をL4とすると、0.2≦L4/L3≦0.5である。
【0014】
さらに、スリット溝およびその両端に対応する充填溝は磁気バリア層を形成し、隣接する2つの磁気バリア層の間に磁気伝導チャネルが形成され、回転子コアの外側エッジ部の近くにある磁気伝導チャネルの少なくとも一方の端部の延伸方向はd軸と平行である。
【0015】
さらに、磁気伝導チャネルの両端には直線部が設けられており、該直線部の延伸方向はd軸に平行であり、直線部の長さはd軸から離れる方向に沿って徐々に短くなる。
【0016】
さらに、磁気伝導チャネルの幅は、q軸から両側に向かって徐々に長くなる。
【0017】
また、複数のスリット溝のうちの少なくとも1つはスリット溝の途中で円弧状構造を有し、スリット溝の両端は直線断面構造を有する。
【0018】
さらに、隣接する充填溝間の距離をd1、隣接する磁気バリア層間の最小幅をdとすると、d1≧dである。
【0019】
さらに、独立充填溝の両端と回転子コアシャフト孔とをそれぞれ結ぶ線の挟角をαとすると、20°≦α≦60°である。
【0020】
さらに、独立充填溝および充填溝には、導電性非磁性材料が充填され、充填された導電性非磁性材料は、回転子コアの両端のエンドリングを介して短絡される。
【0021】
さらに、回転子コアの外側エッジ部の近くにある独立充填溝の側壁と回転子コアの外側エッジ部との間の距離をL1とすると、0.5δ≦L1<δであり、充填溝からスリット溝までの距離をL2とすると、0.5δ≦L2<δであり、ただし、δは固定子コアと回転子コアとの間のエアギャップの幅である。
【0022】
また、シャフト孔の断面は楕円形であり、シャフト孔の長軸はd軸上に位置し、シャフト孔の短軸は回転子コアのq軸上に位置する。
【0023】
本出願の別の態様によれば、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造を含むモータが提供され、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造は、上述の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造である。
【0024】
本出願の別の態様によれば、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造を含む電動圧縮機が提供され、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造は、上述の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造である。
【0025】
本出願の技術的解決策を適用すると、各充填溝の第二端の端部に少なくとも1つのベベルエッジ構造が設けられているため、各充填溝の第二端の端部の断面積が小さくなり、隣接する2つの充填溝の間に形成される磁気伝導チャネルの幅が長くなり、回転子構造の磁気抵抗の急激な変化が効果的に低減されるので、回転子構造を有するモータのトルクリップルが効果的に低減され、鉄損が低減され、モータの効率が改善される。
【0026】
本明細書の一部となる本明細書の図面は、本出願に対するさらなる理解のためのものであり、例示的な実施形態およびその説明は、本出願を解釈するためのものであり、本出願を過度に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本出願による自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造の第1の実施形態の概略構造図である。
【
図2】本出願による自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造の第2の実施形態の概略構造図である。
【
図3】本出願による自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造の第3の実施形態の概略構造図である。
【
図4】本出願および従来技術による自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造のトルク比較図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
矛盾しない限り、本出願の実施形態および実施形態のフィーチャは、互いに組み合わせることができることに注意すべきである。以下、本出願を、図面を参照して、実施形態と併せて詳細に説明する。
【0029】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するものに過ぎず、本出願による例示的な実施形態を限定することは意図していないことに注意すべきである。本明細書で使用される場合、文脈上明らかに他のことを示さない限り、単数形は複数形を含むことも意図している。さらに、本明細書において、「備える」および/または「含む」という用語を使用する場合、それはフィーチャ、ステップ、動作、装置、構成要素、および/またはそれらの組合せが存在することを表していることも理解すべきである。
【0030】
本出願の本明細書、特許請求の範囲および図面における「第1」および「第2」という用語は、類似の対象を区別するために使用されており、必ずしも特定の順序または順位を説明するために使用されるわけではないことに注意すべきである。このように使用される用語は、適切な状況下で入れ替えることができ、その結果、本明細書に記載された本出願の実施形態は、例えば、本明細書に図示または記載されたもの以外の順序で実施することができることを理解すべきである。さらに、「含む」および「有する」という用語およびそれらの任意の変形は、非排他的な包含をカバーすることを意図している。例えば、一連のステップまたはユニットを含むプロセス、方法、システム、製品、または装置は、必ずしも明示的にリストされたものに限定されない。これらのステップまたはユニットは、明確にリストされていないか、このようなプロセス、方法、製品、または装置に固有ではない他のステップまたはユニットを含んでもよい。
【0031】
説明を簡単にするために、本明細書では、「の上に」、「の頂上で」、「の表面上方に」、「の上方に」などの空間的相対関係を表す用語を使用して、1つの装置またはフィーチャと、他の装置またはフィーチャとの間の空間的位置関係を図面に示されるように説明することができる。この空間的相対関係を表す用語は、装置の図に示されている向き以外の使用中または動作中における異なる向きを含むことを意図していることを理解すべきである。例えば、図中の装置が逆さまにされた場合、「他の装置や構造の上方に」または「他の装置や構造の上に」と説明されている装置は、「他の装置や構造の下方に」または「他の装置や構造の下に」として配置される。したがって、例示的な用語「上方に」は、「上方に」および「下方に」という両方の向きを含んでもよい。この装置はまた、他の異なる方法(90度または他の向きに回転)によって配置することもでき、本明細書で使用される空間的相対関係の説明は、それに応じて解釈される。
【0032】
以下、図面を参照しながら、本出願によるこれらの例示的な実施形態について詳細に説明する。しかしながら、これらの例示的な実施形態は、様々な異なる形態で実施することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。これらの実施形態は、本出願の開示を徹底的かつ完全なものにしながら、これらの例示的な実施形態の概念を当業者に十分に伝えるために提供されるものであることを理解すべきである。図面では、明確にするために、層や領域の厚さを拡大した可能性があり、そして、同一の参照符号を用いて同一の装置を表しているため、その説明は省略した。
【0033】
図1~
図3に示すように、本出願の一実施形態によれば、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造が提供される。
【0034】
具体的には、
図1に示すように、回転子構造は回転子コア10を含む。回転子コア10には複数のスリット溝20が設けられ、各スリット溝20の両端には充填溝30がそれぞれ設けられている。充填溝30の第一端はスリット溝20に隣接して設けられ、充填溝30の第二端は回転子コア10の半径方向に沿って外側に延伸し、各充填溝30の第二端の端部には少なくとも1つのベベルエッジ構造が設けられており、回転子コア10のd軸磁束がベベルエッジ構造に形成されたチャネルに沿って固定子に入るとき、磁束に急激な変化は生じない。
【0035】
この実施形態では、各充填溝の第二端の端部に少なくとも1つのベベルエッジ構造が設けられているため、各充填溝の第二端の端部の断面積が小さくなり、隣接する2つの充填溝の間に形成される磁気伝導チャネルの幅が長くなり、回転子構造の磁気抵抗の急激な変化が効果的に低減されるので、回転子構造を有するモータのトルクリップルが効果的に低減され、鉄損が低減され、モータの効率が改善される。
【0036】
図1に示すように、各充填溝30の第二端の端部には、回転子コア10のシャフト孔12から遠くにある充填溝30の一方の側壁に配置された第1のベベルエッジ構造11であって、該第1のベベルエッジ構造11の延長線がd軸と第1の挟角を形成する第1のベベルエッジ構造11と、シャフト孔12の近くにある充填溝30の一方の側壁に配置された第2のベベルエッジ構造13であって、該第2のベベルエッジ構造13の延長線がd軸と第2の挟角を形成する第2のベベルエッジ構造13とを備えた2つのベベルエッジ構造が設けられている。ここで、第1のベベルエッジ構造11および第2のベベルエッジ構造13は、充填溝30の幅方向に距離を置いて配置される。第1の挟角をθ1とすると、135°≦θ1であり、および/または第2の挟角をθ2とすると、θ2≦170°である。したがって、固定子に入る磁界を徐々に小さくしてトルクリップルを小さくしたり、固定子に入る磁束を大きくしてモータトルクを大きくしたりすることができる。
【0037】
回転子構造の性能をさらに改善し、回転子構造を有するモータの効率を改善するために、第1の挟角および第2の挟角をd軸から離れる方向に徐々に大きくなるように設定することができる。ここで、回転子コア10の回転子パンチングシートは方向性ケイ素鋼板でできており、方向性ケイ素鋼板の磁気伝導率の最大方向はd軸方向であり、方向性ケイ素鋼板の磁気伝導率の最小方向はq軸方向である。回転子コア10の外側エッジ部の近くには独立充填溝40が開放的に設けられており、回転子コア10のq軸は回転子コア10の半径方向に沿った独立充填溝40の幾何学的中心線と一致する。
【0038】
また、回転子コア10のq軸を通る任意の磁極におけるスリット溝20の幅と、q軸を通る磁極における独立充填溝40の幅との和をL3とし、回転子コア10のシャフト孔12から回転子コア10の外側エッジ部までの距離をL4とすると、0.2≦L4/L3≦0.5である。スリット溝20およびその両端に対応する充填溝30は、磁気バリア層を形成する。隣接する2つの磁気バリア層の間に磁気伝導チャネルが形成され、回転子コア10の外側エッジ部の近くにある磁気伝導チャネルの少なくとも一方の端部の延伸方向はd軸と平行である。したがって、d軸磁束はd軸上をスムーズに通ることができ、インダクタンスギャップが大きくなり、リラクタンストルクが向上する。ここで、
図1に示すように、磁気チャネルの両端は、d軸の上側の線と平行である。
【0039】
図1に示すように、磁気伝導チャネルの両端には、直線部50が設けられており、直線部50の延伸方向はd軸に平行であり、直線部50の長さはd軸から離れる方向に沿って徐々に短くなる。磁気伝導チャネルの幅は、q軸から両側に向かって徐々に長くなる。
【0040】
また、複数のスリット溝20の少なくとも1つはスリット溝の途中で円弧状構造を有し、円弧状構造を有するスリット溝20の両端は直線断面構造を有する。隣接する充填溝30間の距離をd1、隣接する磁気バリア層間の最小幅をdとすると、d1≧dである。
図1に示すように、独立充填溝40の2つの端部と回転子コア10のシャフト孔12とをそれぞれ結ぶ線の挟角をαとすると、20°≦α≦60°である。独立充填溝40および充填溝30には、導電性非磁性材料が充填され、充填された導電性非磁性材料は、回転子コア10の両端のエンドリング60を介して短絡される。回転子コアの外側エッジ部の近くにある独立充填溝40の側壁と回転子コア10の外側エッジ部との間の距離をL1とすると、0.5δ≦L1<δであり、充填溝30からスリット溝20までの距離をL2とすると、0.5δ≦L2<δであり、ただし、δは固定子コアと回転子コア10との間のエアギャップの幅である。ここで、シャフト孔12の断面は楕円形であり、シャフト孔12の長軸はd軸上に位置し、シャフト孔12の短軸は回転子コア10のq軸上に位置する。実際、
図2に示すように、シャフト孔12の断面は円形構造を呈する。
【0041】
上記の実施形態の回転子構造は、電気設備の技術分野でも使用することができ、すなわち、本出願の別の態様によれば、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造を含むモータが提供され、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造は、上記の実施形態の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造である。
【0042】
上記の実施形態の回転子構造は、圧縮機設備の技術分野でも使用することができ、すなわち、本出願の別の態様によれば、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造を含む圧縮機が提供され、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造は、上記の実施形態の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造である。実際、このような回転子構造は、ファンおよび空気圧縮機設備の技術分野にも適用することができる。
【0043】
具体的には、本出願の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子構造を採用することにより、非同期モータの低効率性や、負荷に応じて回転速度が変化するという問題が解決される。このような回転子構造を採用することにより、低コストで信頼性が高く、高効率な定回転速度運転を実現することができる。充填溝の外側端部は、コーナ切削を用いてベベルエッジ構造に設計され、これにより、磁気抵抗の急激な変化が効果的に低減され、モータのトルクリップルが低減され、鉄損が低減され、モータの効率が改善される。従来技術において回転子d軸磁束に対する充填溝(スロット部)による障害を軽減しつつ、方向性ケイ素鋼材を採用して回転子のd軸磁気方向を方向性ケイ素鋼材の最大磁気方向と一致させ、d軸とq軸の磁束の差を大きくして、モータの出力および効率を向上させる。
【0044】
充填溝の外側端部はコーナ切削によって作られており、これにより、磁気抵抗の急激な変化が効果的に低減され、モータのトルクリップルが低減され、一方で鉄損が低減され、モータの効率が改善される。これにより、磁束は、回転子の回転中にベベルエッジ部を通って固定子に徐々に移行することが可能になるため、磁束の急激な変化が緩やかになり、トルクリップルが低減する。さらに、切込み部により、磁束漏れを増やすことなく、有効d軸磁束が固定子に入ってトルクを確実に発生させることができる。回転子は、方向性ケイ素鋼板でできている。ケイ素鋼板の磁気伝導率の最大方向は回転子のd軸方向であり、ケイ素鋼板の磁気伝導率の最小方向は回転子のq軸方向である。この材料特性を利用することで、モータのインダクタンス差が拡大し、モータのリラクタンストルクが大きくなる。一方、磁気バリアの円弧部を低減するために楕円形のシャフト孔が使用されるため、磁気バリア間のチャネルはより直線的になる傾向があり、方向性ケイ素鋼板の最適な利用が実現される。
【0045】
ここで、回転子構造は、特定の構造を有する回転子パンチングシートを軸方向に積層することによって形成される。回転子パンチングシートには、充填溝およびスリット溝と、回転軸に合うシャフト孔12とが設けられている。充填溝およびスリット溝が一体になって回転子の多層磁気バリア構造を形成し、隣接する磁気バリア層間の空間が回転子の磁束通路となり、充填溝の外側端部の両エッジ部のコーナ部分が切削される。2つの切削エッジ部とd軸に平行な水平切削エッジ部との間の挟角は、それぞれθ1、θ2である。角度θ1、θ2は、充填溝がd軸から離れる方向に沿って徐々に大きくなり、すなわち、充填溝がd軸から遠くなるほど、充填溝の外側端部の2つの切削エッジ部とd軸に平行な水平切削エッジ部との間の挟角は大きくなる。角度θ1およびθ2は、135°≦θ1またはθ2≦170°を満たす。より好ましくは、145°≦θ1またはθ2≦165°である。これにより、磁束は、回転子の回転中に切込み部を通って固定子に徐々に移行することが可能になるため、磁束の急激な変化が緩やかになり、トルクリップルが減少する。さらに、切込み部により、磁束漏れを増やすことなく、有効d軸磁束が固定子に入ってトルクを確実に発生させることができる。
【0046】
回転子パンチングシートは、方向性ケイ素鋼板でできており、ケイ素鋼板の磁気伝導率の最大方向は回転子のd軸方向であり、ケイ素鋼板の磁気伝導率の最小方向が回転子のq軸方向である。この目的は、材料特性を利用してモータのインダクタンス差を拡大し、モータのリラクタンストルクを増大させ、モータ回転子の鉄損を低減させ、モータの効率を改善することである。回転子の外周円とシャフト孔との間の距離に対する、充填溝と前記スリット溝とからなる回転子磁気バリア部のq軸方向の幅の比は、0.2~0.5とすることができる。より好ましくは、この比は0.3~0.4であり得る。この目的は、十分な磁気バリア幅を確保し、q軸磁束を効果的に遮断するだけでなく、磁束飽和を防止するための合理的な磁束チャネルを確保し、d軸磁束を増やし、モータの突極比を大きくし、モータのリラクタンストルクを大きくし、モータの出力トルクを最適化する、合理的な磁気バリア比を選択することである。
【0047】
充填溝からなる回転子磁気バリア層とスリット溝との間の回転子磁気伝導チャネルは、回転子の外側エッジ部付近において、ケイ素鋼板の磁気伝導率の最大方向と平行である。回転子磁気バリア層の間の回転子磁気伝導チャネルがd軸に近いほど、d軸磁束の通りを妨げないように、ケイ素鋼板の磁気伝導率の最大方向に平行な磁気伝導チャネルの長さが長くなる。
【0048】
充填溝とスリット溝とで構成される回転子磁気バリア層間の回転子磁束チャネルの幅は、q軸の位置で最も狭くなり、q軸から回転子の外周円の両エッジ部まで磁束チャネルの幅は徐々に最大値まで推移する。目的は、d軸磁束チャネルを最適化し、d軸方向の磁束を増やし、d軸とq軸の磁束の差を大きくし、より大きなリラクタンストルクを生成し、モータの出力トルクを大きくし、効率を上げることである。スリット溝は、回転子の外周円に近い直線部と、それに対応する円弧線部とで構成されている。スリット溝がシャフト孔の近くにあるほど、円弧線部のラジアンは大きくなる。シャフト孔位置から回転子外周に移行すると、円弧線部のラジアンは徐々に小さくなり、さらには直線となる。この設計は、回転子シャフト孔の位置を考慮しており、回転子のd軸方向およびq軸方向の空間を合理的に利用してd軸磁束通路を可能な限りスムーズにする一方で、q軸磁束通路を遮断して回転子空間の使用を最適化し、回転子のd軸およびq軸のインダクタンス差を改善してモータ性能を向上させる。
【0049】
さらに、隣接する充填溝間の幅d1と、対応する磁気バリア層間の最小幅dとの関係は、d1≧dを満たすべきである。これにより、d軸方向の磁束チャネルが過飽和にならず、d軸磁束の通りを妨げる過飽和を回避することができる。回転子のq軸方向に位置し、d軸の両側に対称に分布する独立充填溝も回転子の周囲に設けられている。独立充填溝のq軸方向の両端と円の中心線との間の挟角は、角度範囲が20°≦α≦60°、より好ましくは40°≦α≦50°を満たすαである。
【0050】
この設計は、一方で回転子の磁気バリア層の数を増やし、突極差を大きくすることができ、他方でモータの始動性を向上させることができる。
【0051】
充填溝および独立充填溝の両方には、導電性非磁性材料が充填され、回転子の両端のエンドリング60は自己短絡を実現し、かご型構造を形成し、自己始動機能を実現する。
【0052】
充填溝および独立充填溝から回転子コアの外表面までの距離はL1、充填溝2とスリット溝との距離はL2である。L1およびL2は、それぞれ0.5δ≦L1<δ、および0.5δ≦L2<δの要件を満たすべきであり、ただし、δは固定子コアと回転子コアとの間のエアギャップの幅である。この設計により、回転子の機械的強度を確保しつつ、モータの性能を向上させつつ、モータの回転子部における磁束の漏れ量を低減することができる。
【0053】
シャフト孔の形状は、丸孔の形状に限定されない。好ましくは、シャフト孔5は、楕円形または楕円形に類似した形状になるように設計される。楕円形状または楕円に類似する形状のシャフト孔の長軸は回転子のd軸方向に配置され、短軸は回転子のq軸方向に配置される。楕円形のシャフト孔設計は、方向性ケイ素鋼材の特性に合わせて磁気バリアの円弧を小さくしているため、磁気バリア間のチャネルがより直線的になる傾向があり、方向性ケイ素鋼板が最適に利用される。
【0054】
本出願の回転子構造と従来技術とのトルク比較図である
図4に示すように、本出願の回転子構造は、モータの出力トルクを効果的に大きくすることができるため、モータの性能がより良好になり、一方でモータのトルクリップルおよび鉄損が低減される。
【0055】
上記に加えて、本明細書で言及されている「一実施形態」、「別の実施形態」、「実施形態」などは、この実施形態に関連して説明される具体的なフィーチャ、構造、または特性を参照しており、これらは本出願で一般的に説明される少なくとも1つの実施形態において、本明細書全体を通して同様に表現していることに注意すべきである。本明細書で、同じ表現が複数箇所で出てきても、必ずしも同じ実施形態を指しているわけではない。さらに、任意の実施形態と組み合わせて特定のフィーチャ、構造、または特性を説明する場合、他の実施形態を組み合わせてこのようなフィーチャ、構造、または特性を実現することも、本出願の範囲内にあると主張している。
【0056】
上述の実施形態では、各実施形態の説明はそれ自体に重点を置いている。ある実施形態で詳細に説明されていない部分については、他の実施形態の関連する説明を参照してもよい。
【0057】
上記の説明は、本出願を限定するものではなく、本出願の好ましい実施形態にすぎない。当業者にとって、本出願について様々な修正や変更を行うことができる。本出願の精神と原則の範囲内で行われるいかなる修正、等価置換、改良なども、本出願の保護範囲内に含まれるはずである。
【符号の説明】
【0058】
10.回転子コア
11.第1のベベルエッジ構造
12.シャフト孔
13.第2のベベルエッジ構造
20.スリット溝
30.充填溝
40.独立充填溝
50.直線部
60.エンドリング
【手続補正書】
【提出日】2021-12-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年6月19日に中国国家知識産権局に提出された「自己始動型同期リラクタンスモータ回転子、モータおよび圧縮機」と題する特許出願第201910532905.6号の優先権を主張する。
【0002】
本出願は、モータの技術分野に関し、特に、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子、モータおよび圧縮機に関する。
【背景技術】
【0003】
自己始動型同期リラクタンスモータは、誘導モータとリラクタンスモータの構造上の特徴を併せ持つ。このモータは、かご型誘導によってトルクを生成して始動することができ、回転子インダクタンスギャップを利用してリラクタンストルクを生成し、定速運転を実現することができる。このモータは、電源に直接接続することで始動運転を実現することができる。自己始動型同期リラクタンスモータは、非同期始動永久磁石モータと比較して希土類永久磁石材料を使用せず減磁もなく、低コストで信頼性の高いモータである。
【0004】
安価で始動が容易な同期誘導モータならびに同期誘導モータの製造装置および製造方法が提供された。磁束が通りやすい一方の方向のd軸と磁束が通りにくい他方の方向のq軸とを90度で備えた2極の磁極突起で形成された回転子には、少なくとも一対のスリット部と該スリット部の外周側に配置された複数のスロット部とが設けられている。スリット部およびスロット部には、導電性材料が充填されている。スリット部は直線状に形成されており、スロット部は周方向に等間隔で放射状に配置されている。したがって、スロット部間での磁束の方向は回転子表面の半径方向に対して垂直であり、スロット部はd軸方向の磁束の通りを妨げ、特にスロット部がq軸に近いほどd軸磁束への妨げが顕著になり、かつq軸磁束の通りがスムーズになるため、d軸とq軸の磁束の差が顕在化せず、突極比が大きくならず、モータの出力および効率が十分ではない。また、スリット部が回転子の周囲に均等に分布しており、スリット部と固定子コギングとの相互作用によりトルクリップルが大きくなり、振動や騒音の原因となる。
【発明の概要】
【0005】
上記によると、大きなトルクリップルを解決するための自己始動型同期リラクタンスモータ回転子、モータ、および圧縮機を提供することが必要である。
【0006】
いくつかの実施形態において、複数のスリット溝が設けられた回転子コアを備える自己始動型同期リラクタンスモータ回転子が提供されており、各スリット溝の両端には充填溝が設けられ、各充填溝の第一端は各スリット溝に隣接し、各充填溝の第二端は回転子コアのd軸に平行に外側に延伸し、各充填溝の第二端には少なくとも1つのベベルエッジが設けられており、回転子コアのd軸磁束がベベルエッジに形成されたチャネルに沿って固定子に入るとき、磁束に急激な変化は生じない。
【0007】
いくつかの実施形態において、各充填溝の第二端には、回転子コアのシャフト孔から遠くにある充填溝の一方の側壁に配置された第1のベベルエッジであって、該第1のベベルエッジがd軸と第1の挟角を形成する第1のベベルエッジと、シャフト孔に隣接する充填溝の一方の側壁に配置された第2のベベルエッジであって、該第2のベベルエッジがd軸と第2の挟角を形成する第2のベベルエッジとを備えた2つのベベルエッジが設けられている。
【0008】
いくつかの実施形態において、第1のベベルエッジおよび第2のベベルエッジは、充填溝の幅方向に距離を置いて配置される。
【0009】
いくつかの実施形態において、第1の挟角をθ1とすると、θ1≧135°であり、および/または第2の挟角をθ2とすると、θ2≦170°である。
【0010】
いくつかの実施形態において、第1の挟角および/または第2の挟角の角度は、d軸から離れるに従って徐々に大きくなる。
【0011】
いくつかの実施形態において、回転子コアの回転子パンチングシートは方向性ケイ素鋼板でできており、方向性ケイ素鋼板の最大磁気伝導率の方向をd軸方向とし、方向性ケイ素鋼板の最小磁気伝導率の方向をq軸方向とする。
【0012】
いくつかの実施形態において、回転子コアの外側エッジ部に隣接して独立充填溝が設けられており、回転子コアのq軸は回転子コアの半径方向に沿った独立充填溝の幾何学的中心線と一致する。
【0013】
いくつかの実施形態において、q軸を通る回転子コアの任意の磁極におけるスリット溝の幅と、q軸を通る磁極における独立充填溝の幅との和をL3とし、回転子コアシャフト孔から回転子コアの外側エッジ部までの距離をL4とすると、0.2≦L4/L3≦0.5である。
【0014】
いくつかの実施形態において、スリット溝およびその両端に対応する充填溝は磁気バリア層を形成し、隣接する2つの磁気バリア層の間に磁気伝導チャネルが形成され、回転子コアの外側エッジ部に隣接する磁気伝導チャネルの少なくとも一方の端部の延伸方向はd軸と平行である。
【0015】
いくつかの実施形態において、磁気伝導チャネルの両端には直線部が設けられており、該直線部の延伸方向はd軸に平行であり、直線部の長さはd軸から離れる方向に沿って徐々に短くなる。
【0016】
いくつかの実施形態において、磁気伝導チャネルの幅は、q軸から両側に向かって徐々に長くなる。
【0017】
いくつかの実施形態において、複数のスリット溝のうちの少なくとも1つはスリット溝の途中で円弧状構造を有し、スリット溝の両端は直線断面を有する。
【0018】
いくつかの実施形態において、隣接する充填溝間の距離をd1、隣接する磁気バリア層間の最小幅をdとすると、d1≧dである。
【0019】
いくつかの実施形態において、独立充填溝の両端と回転子コアシャフト孔とをそれぞれ結ぶ線の挟角をαとすると、20°≦α≦60°である。
【0020】
いくつかの実施形態において、独立充填溝および充填溝には、導電性非磁性材料が充填され、充填された導電性非磁性材料は、回転子コアの両端のエンドリングを介して短絡される。
【0021】
いくつかの実施形態において、回転子コアの外側エッジ部に隣接する独立充填溝の側壁と回転子コアの外側エッジ部との間の距離をL1とすると、0.5δ≦L1<δであり、充填溝からスリット溝までの距離をL2とすると、0.5δ≦L2<δであり、ただし、δは固定子コアと回転子コアとの間のエアギャップの幅である。
【0022】
いくつかの実施形態において、シャフト孔の断面は楕円形であり、シャフト孔の長軸はd軸上に位置し、シャフト孔の短軸は回転子コアのq軸上に位置する。
【0023】
いくつかの実施形態において、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子を含むモータが提供され、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子は、上述の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子である。
【0024】
いくつかの実施形態において、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子を含む電動圧縮機が提供され、自己始動型同期リラクタンスモータ回転子は、上述の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子である。
【0025】
本出願の技術的解決策を適用すると、各充填溝の第二端に少なくとも1つのベベルエッジが設けられているため、各充填溝の第二端の断面積が小さくなり、隣接する2つの充填溝の間に形成される磁気伝導チャネルの幅が長くなり、回転子の磁気抵抗の急激な変化が効果的に低減されるので、回転子を有するモータのトルクリップルが効果的に低減され、鉄損が低減され、モータの効率が改善される。
【0026】
本明細書の一部となる本明細書の図面は、本開示に対するさらなる理解のためのものであり、例示的な実施形態およびその説明は、本開示を解釈するためのものであり、本開示を過度に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本
開示のいくつかの実施形態による自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子の概略構造図である。
【
図2】本
開示の他のいくつかの実施形態による自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子の概略構造図である。
【
図3】本
開示の他のいくつかの実施形態による自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子の概略構造図である。
【
図4】本
開示のいくつかの実施形態および
関連技術による自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子のトルク比較図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
矛盾しない限り、本開示の実施形態および実施形態のフィーチャは、互いに組み合わせることができることに注意すべきである。以下、本開示を、図面を参照して、実施形態と併せて詳細に説明する。
【0029】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するものに過ぎず、本開示による例示的な実施形態を限定することは意図していないことに注意すべきである。本明細書で使用される場合、文脈上明らかに他のことを示さない限り、単数形は複数形を含むことも意図している。さらに、本明細書において、「備える」および/または「含む」という用語を使用する場合、それはフィーチャ、ステップ、動作、装置、構成要素、および/またはそれらの組合せが存在することを表していることも理解すべきである。
【0030】
本開示の本明細書、特許請求の範囲および図面における「第1」および「第2」という用語は、類似の対象を区別するために使用されており、必ずしも特定の順序または順位を説明するために使用されるわけではないことに注意すべきである。このように使用される用語は、適切な状況下で入れ替えることができ、その結果、本明細書に記載された本開示の実施形態は、例えば、本明細書に図示または記載されたもの以外の順序で実施することができることを理解すべきである。さらに、「含む」および「有する」という用語およびそれらの任意の変形は、非排他的な包含をカバーすることを意図している。例えば、一連のステップまたはユニットを含むプロセス、方法、システム、製品、または装置は、必ずしも明示的にリストされたものに限定されない。これらのステップまたはユニットは、明確にリストされていないか、このようなプロセス、方法、製品、または装置に固有ではない他のステップまたはユニットを含んでもよい。
【0031】
説明を簡単にするために、本明細書では、「の上に」、「の頂上で」、「の表面上方に」、「の上方に」などの空間的相対関係を表す用語を使用して、1つの装置またはフィーチャと、他の装置またはフィーチャとの間の空間的位置関係を図面に示されるように説明することができる。この空間的相対関係を表す用語は、装置の図に示されている向き以外の使用中または動作中における異なる向きを含むことを意図していることを理解すべきである。例えば、図中の装置が逆さまにされた場合、「他の装置や構造の上方に」または「他の装置や構造の上に」と説明されている装置は、「他の装置や構造の下方に」または「他の装置や構造の下に」として配置される。したがって、例示的な用語「上方に」は、「上方に」および「下方に」という両方の向きを含んでもよい。この装置はまた、他の異なる方法(90度または他の向きに回転)によって配置することもでき、本明細書で使用される空間的相対関係の説明は、それに応じて解釈される。
【0032】
以下、図面を参照しながら、本開示によるこれらの例示的な実施形態について詳細に説明する。しかしながら、これらの例示的な実施形態は、様々な異なる形態で実施することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。これらの実施形態は、本開示の開示を徹底的かつ完全なものにしながら、これらの例示的な実施形態の概念を当業者に十分に伝えるために提供されるものであることを理解すべきである。図面では、明確にするために、層や領域の厚さを拡大した可能性があり、そして、同一の参照符号を用いて同一の装置を表しているため、その説明は省略した。
【0033】
図1~
図3に示すように、本
開示の一実施形態によれば、自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子が提供される。
【0034】
具体的には、
図1に示すように、回転
子は回転子コア10を含む。回転子コア10には複数のスリット溝20が設けられ、各スリット溝20の両端には充填溝30がそれぞれ設けられている。充填溝30の第一端はスリット溝20に隣接して設けられ、充填溝30の第二端は回転子コア10の
d軸に平行に外側に延伸し、各充填溝30の第二
端には少なくとも1つのベベルエッ
ジが設けられており、回転子コア10のd軸磁束がベベルエッ
ジに形成されたチャネルに沿って固定子に入るとき、磁束に急激な変化は生じない。
【0035】
これらの実施形態では、各充填溝の第二端に少なくとも1つのベベルエッジが設けられているため、各充填溝の第二端の断面積が小さくなり、隣接する2つの充填溝の間に形成される磁気伝導チャネルの幅が長くなり、回転子の磁気抵抗の急激な変化が効果的に低減されるので、回転子を有するモータのトルクリップルが効果的に低減され、鉄損が低減され、モータの効率が改善される。
【0036】
図1に示すように、各充填溝30の第二
端には、回転子コア10のシャフト孔12から遠くにある充填溝30の一方の側壁に配置された第1のベベルエッ
ジ11であって、該第1のベベルエッ
ジ11がd軸と第1の挟角を形成する第1のベベルエッ
ジ11と、シャフト孔12
に隣接する充填溝30の一方の側壁に配置された第2のベベルエッ
ジ13であって、該第2のベベルエッ
ジ13がd軸と第2の挟角を形成する第2のベベルエッ
ジ13とを備えた2つのベベルエッ
ジが設けられている。ここで、第1のベベルエッ
ジ11および第2のベベルエッ
ジ13は、充填溝30の幅方向に距離を置いて配置される。第1の挟角をθ1とすると
、θ1
≧135°であり、および/または第2の挟角をθ2とすると、θ2≦170°である。したがって、固定子に入る磁界を徐々に小さくしてトルクリップルを小さくしたり、固定子に入る磁束を大きくしてモータトルクを大きくしたりすることができる。
【0037】
回転子の性能をさらに改善し、回転子を有するモータの効率を改善するために、第1の挟角および第2の挟角をd軸から離れる方向に徐々に大きくなるように設定することができる。ここで、回転子コア10の回転子パンチングシートは方向性ケイ素鋼板でできており、方向性ケイ素鋼板の最大磁気伝導率の方向はd軸方向であり、方向性ケイ素鋼板の磁気伝導率の最小方向はq軸方向である。回転子コア10の外側エッジ部に隣接して独立充填溝40が開放的に設けられており、回転子コア10のq軸は回転子コア10の半径方向に沿った独立充填溝40の幾何学的中心線と一致する。
【0038】
また、回転子コア10のq軸を通る任意の磁極におけるスリット溝20の幅と、q軸を通る磁極における独立充填溝40の幅との和をL3とし、回転子コア10のシャフト孔12から回転子コア10の外側エッジ部までの距離をL4とすると、0.2≦L4/L3≦0.5である。スリット溝20およびその両端に対応する充填溝30は、磁気バリア層を形成する。隣接する2つの磁気バリア層の間に磁気伝導チャネルが形成され、回転子コア10の外側エッジ部
に隣接する磁気伝導チャネルの少なくとも一方の端部の延伸方向はd軸と平行である。したがって、d軸磁束はd軸上をスムーズに通ることができ、インダクタンスギャップが大きくなり、リラクタンストルクが向上する。ここで、
図1に示すように、磁気チャネルの両端は、d軸の上側の線と平行である。
【0039】
図1に示すように、磁気伝導チャネルの両端には、直線部50が設けられており、直線部50の延伸方向はd軸に平行であり、直線部50の長さはd軸から離れる方向に沿って徐々に短くなる。磁気伝導チャネルの幅は、q軸から両側に向かって徐々に長くなる。
【0040】
また、複数のスリット溝20の少なくとも1つはスリット溝の途中で円弧状構造を有し、円弧状構造を有するスリット溝20の両端は直線断面構造を有する。隣接する充填溝30間の距離をd1、隣接する磁気バリア層間の最小幅をdとすると、d1≧dである。
図1に示すように、独立充填溝40の2つの端部と回転子コア10のシャフト孔12とをそれぞれ結ぶ線の挟角をαとすると、20°≦α≦60°である。独立充填溝40および充填溝30には、導電性非磁性材料が充填され、充填された導電性非磁性材料は、回転子コア10の両端のエンドリング60を介して短絡される。回転子コアの外側エッジ部
に隣接する独立充填溝40の側壁と回転子コア10の外側エッジ部との間の距離をL1とすると、0.5δ≦L1<δであり、充填溝30からスリット溝20までの距離をL2とすると、0.5δ≦L2<δであり、ただし、δは固定子コアと回転子コア10との間のエアギャップの幅である。ここで、シャフト孔12の断面は楕円形であり、シャフト孔12の長軸はd軸上に位置し、シャフト孔12の短軸は回転子コア10のq軸上に位置する。
他の実施形態では、
図2に示すように、シャフト孔12の断面は円形構造を呈する。
【0041】
上記の実施形態の回転子は、電気設備の技術分野でも使用することができ、いくつかの実施形態によれば、上記の実施形態の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子を含むモータが提供される。
【0042】
上記の実施形態の回転子は、圧縮機設備の技術分野でも使用することができ、いくつかの実施形態によれば、上記の実施形態の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子を含む圧縮機が提供される。実際、このような回転子は、ファンおよび空気圧縮機設備の技術分野にも適用することができる。
【0043】
本開示の自己始動型同期リラクタンスモータ回転子を採用することにより、非同期モータの低効率性や、負荷に応じて回転速度が変化することが解決される。このような回転子を採用することにより、低コストで信頼性が高く、高効率な定回転速度運転を実現することができる。充填溝の外側端部は、コーナ切削を用いてベベルエッジに設計され、これにより、磁気抵抗の急激な変化が効果的に低減され、モータのトルクリップルが低減され、鉄損が低減され、モータの効率が改善される。従来技術において回転子d軸磁束に対する充填溝(スロット部)による障害を軽減しつつ、方向性ケイ素鋼材を採用して回転子のd軸磁気方向を方向性ケイ素鋼材の磁気方向と一致させ、d軸とq軸の磁束の差を大きくして、モータの出力および効率を向上させる。
【0044】
充填溝の外側端部はコーナ切削によって作られており、これにより、磁気抵抗の急激な変化が効果的に低減され、モータのトルクリップルが低減され、一方で鉄損が低減され、モータの効率が改善される。これにより、磁束は、回転子の回転中にベベルエッジ部を通って固定子に徐々に移行することが可能になるため、磁束の急激な変化が緩やかになり、トルクリップルが低減する。さらに、切込み部により、磁束漏れを増やすことなく、有効d軸磁束が固定子に入ってトルクを確実に発生させることができる。回転子は、方向性ケイ素鋼板でできている。ケイ素鋼板の最大磁気伝導率の方向は回転子のd軸方向であり、ケイ素鋼板の最小磁気伝導率の方向は回転子のq軸方向である。この材料特性を利用することで、モータのインダクタンス差が拡大し、モータのリラクタンストルクが大きくなる。一方、磁気バリアの円弧部を低減するために楕円形のシャフト孔が使用されるため、磁気バリア間のチャネルはより直線的になる傾向があり、方向性ケイ素鋼板の最適な利用が実現される。
【0045】
ここで、回転子は、特定の構造を有する回転子パンチングシートを軸方向に積層することによって形成される。回転子パンチングシートには、充填溝およびスリット溝と、回転軸に合うシャフト孔12とが設けられている。充填溝およびスリット溝が一体になって回転子の多層磁気バリア構造を形成し、隣接する磁気バリア層間の空間が回転子の磁束通路となり、充填溝の外側端部の両エッジ部のコーナ部分が切削される。2つの切削エッジ部とd軸に平行な水平切削エッジ部との間の挟角は、それぞれθ1、θ2である。角度θ1、θ2は、充填溝がd軸から離れる方向に沿って徐々に大きくなり、すなわち、充填溝がd軸から遠くなるほど、充填溝の外側端部の2つの切削エッジ部とd軸に平行な水平切削エッジ部との間の挟角は大きくなる。角度θ1およびθ2は、θ1≧135°またはθ2≦170°を満たす。より好ましくは、145°≦θ1またはθ2≦165°である。これにより、磁束は、回転子の回転中に切込み部を通って固定子に徐々に移行することが可能になるため、磁束の急激な変化が緩やかになり、トルクリップルが減少する。さらに、切込み部により、磁束漏れを増やすことなく、有効d軸磁束が固定子に入ってトルクを確実に発生させることができる。
【0046】
回転子パンチングシートは、方向性ケイ素鋼板でできており、ケイ素鋼板の最大磁気伝導率の方向は回転子のd軸方向であり、ケイ素鋼板の最小磁気伝導率の方向が回転子のq軸方向である。この目的は、材料特性を利用してモータのインダクタンス差を拡大し、モータのリラクタンストルクを増大させ、モータ回転子の鉄損を低減させ、モータの効率を改善することである。回転子の外周円とシャフト孔との間の距離に対する、充填溝と前記スリット溝とからなる回転子磁気バリア部のq軸方向の幅の比は、0.2~0.5とすることができる。より好ましくは、この比は0.3~0.4であり得る。この目的は、十分な磁気バリア幅を確保し、q軸磁束を効果的に遮断するだけでなく、磁束飽和を防止するための合理的な磁束チャネルを確保し、d軸磁束を増やし、モータの突極比を大きくし、モータのリラクタンストルクを大きくし、モータの出力トルクを最適化する、合理的な磁気バリア比を選択することである。
【0047】
充填溝からなる回転子磁気バリア層とスリット溝との間の回転子磁気伝導チャネルは、回転子の外側エッジ部付近において、ケイ素鋼板の最大磁気伝導率の方向と平行である。回転子磁気バリア層の間の回転子磁気伝導チャネルがd軸に近いほど、d軸磁束の通りを妨げないように、ケイ素鋼板の最大磁気伝導率の方向に平行な磁気伝導チャネルの長さが長くなる。
【0048】
充填溝とスリット溝とで構成される回転子磁気バリア層間の回転子磁束チャネルの幅は、q軸の位置で最も狭くなり、q軸から回転子の外周円の両エッジ部まで磁束チャネルの幅は徐々に最大値まで推移する。目的は、d軸磁束チャネルを最適化し、d軸方向の磁束を増やし、d軸とq軸の磁束の差を大きくし、より大きなリラクタンストルクを生成し、モータの出力トルクを大きくし、効率を上げることである。スリット溝は、回転子の外周円に隣接する直線部と、それに対応する円弧線部とで構成されている。スリット溝がシャフト孔の近くにあるほど、円弧線部のラジアンは大きくなる。シャフト孔位置から回転子外周に移行すると、円弧線部のラジアンは徐々に小さくなり、さらには直線となる。この設計は、回転子シャフト孔の位置を考慮しており、回転子のd軸方向およびq軸方向の空間を合理的に利用してd軸磁束通路を可能な限りスムーズにする一方で、q軸磁束通路を遮断して回転子空間の使用を最適化し、回転子のd軸およびq軸のインダクタンス差を改善してモータ性能を向上させる。
【0049】
いくつかの実施形態において、隣接する充填溝間の幅d1と、対応する磁気バリア層間の最小幅dとの関係は、d1≧dを満たすべきである。これにより、d軸方向の磁束チャネルが過飽和にならず、d軸磁束の通りを妨げる過飽和を回避することができる。回転子のq軸方向に位置し、d軸の両側に対称に分布する独立充填溝も回転子の周囲に設けられている。独立充填溝のq軸方向の両端と円の中心線との間の挟角は、角度範囲が20°≦α≦60°を満たすαであり、いくつかの実施形態では、40°≦α≦50°を満たすαである。
【0050】
この設計は、一方で回転子の磁気バリア層の数を増やし、突極差を大きくすることができ、他方でモータの始動性を向上させることができる。
【0051】
充填溝および独立充填溝の両方には、導電性非磁性材料が充填され、回転子の両端のエンドリング60は自己短絡を実現し、かご型構造を形成し、自己始動機能を実現する。
【0052】
充填溝および独立充填溝から回転子コアの外表面までの距離はL1、充填溝2とスリット溝との距離はL2である。L1およびL2は、それぞれ0.5δ≦L1<δ、および0.5δ≦L2<δの要件を満たすべきであり、ただし、δは固定子コアと回転子コアとの間のエアギャップの幅である。この設計により、回転子の機械的強度を確保しつつ、モータの性能を向上させつつ、モータの回転子部における磁束の漏れ量を低減することができる。
【0053】
シャフト孔の形状は、丸孔の形状に限定されない。いくつかの実施形態では、シャフト孔5は、楕円形または楕円形に類似した形状になるように設計される。楕円形状または楕円に類似する形状のシャフト孔の長軸は回転子のd軸方向に配置され、短軸は回転子のq軸方向に配置される。楕円形のシャフト孔設計は、方向性ケイ素鋼材の特性に合わせて磁気バリアの円弧を小さくしているため、磁気バリア間のチャネルがより直線的になる傾向があり、方向性ケイ素鋼板が最適に利用される。
【0054】
本
開示の回転
子と従来技術とのトルク比較図である
図4に示すように、本
開示の回転
子は、モータの出力トルクを効果的に大きくすることができるため、モータの性能がより良好になり、一方でモータのトルクリップルおよび鉄損が低減される。
【0055】
上記に加えて、本明細書で言及されている「一実施形態」、「別の実施形態」、「実施形態」などは、この実施形態に関連して説明される具体的なフィーチャ、構造、または特性を参照しており、これらは本開示で一般的に説明される少なくとも1つの実施形態において、本明細書全体を通して同様に表現していることに注意すべきである。本明細書で、同じ表現が複数箇所で出てきても、必ずしも同じ実施形態を指しているわけではない。いくつかの実施形態では、任意の実施形態と組み合わせて特定のフィーチャ、構造、または特性を説明する場合、他の実施形態を組み合わせてこのようなフィーチャ、構造、または特性を実現することも、本開示の範囲内にあると主張している。
【0056】
上述の実施形態では、各実施形態の説明はそれ自体に重点を置いている。ある実施形態で詳細に説明されていない部分については、他の実施形態の関連する説明を参照してもよい。
【0057】
上記の説明は、本開示を限定するものではなく、本開示の好ましい実施形態にすぎない。当業者にとって、本開示について様々な修正や変更を行うことができる。本開示の精神と原則の範囲内で行われるいかなる修正、等価置換、改良なども、本開示の保護範囲内に含まれるはずである。
【符号の説明】
【0058】
10.回転子コア
11.第1のベベルエッジ
12.シャフト孔
13.第2のベベルエッジ
20.スリット溝
30.充填溝
40.独立充填溝
50.直線部
60.エンドリング
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子であって、
複数のスリット溝(20)が設けられた回転子コア(10)を備え、各スリット溝(20)の両端にはそれぞれ充填溝(30)が設けられており、各充填溝(30)の第一端は各スリット溝(20)に隣接し、各充填溝(30)の第二端は前記回転子コア(10)の
d軸に平行に外側に延伸し、各充填溝(30)の前記第二
端には少なくとも1つのベベルエッ
ジが設けられているため、前記回転子コア(10)の
前記d軸磁束が前記ベベルエッ
ジに形成されたチャネルに沿って固定子に入るとき前記磁束に急激な変化は生じない、自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項2】
各充填溝(30)の前記第二
端には、2つのベベルエッ
ジが設けられており、前記2つのベベルエッ
ジが、
前記回転子コア(10)のシャフト孔(12)から遠くにある前記充填溝(30)の一方の側壁上に配置された第1のベベルエッ
ジ(11)であって、前記第1のベベルエッ
ジ(11
)が前記d軸と第1の挟角を形成する第1のベベルエッ
ジ(11)と、
前記シャフト孔(12)
に隣接する前記充填溝(30)の一方の側壁に配置された第2のベベルエッ
ジ(13)であって、前記第2のベベルエッ
ジ(11
)が前記d軸と第2の挟角を形成する第2のベベルエッ
ジ(13)と
を備える、請求項1に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項3】
前記第1のベベルエッ
ジ(11)と前記第2のベベルエッ
ジ(13)が、前記充填溝(30)の幅方向に距離を置いて配置される、請求項
1または2に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項4】
前記第1の挟角をθ1とすると
、θ1
≧135°であり、前記第2の挟角をθ2とすると、θ2≦170°である、請求項
1~3のいずれか一項に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項5】
前記第1の挟角または前記第2の挟角の少なくとも一方が前記d軸から離れる方向に徐々に大きくなる、請求項
1~4のいずれか一項に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項6】
前記回転子コア(10)の回転子パンチングシートが方向性ケイ素鋼板でできており、前記方向性ケイ素鋼板の
最大磁気伝導率
の方向が前記d軸方向であり、前記方向性ケイ素鋼板の
最小磁気伝導率
の方向
がq軸方向である、請求項
1~5のいずれか一項に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項7】
独立充填溝(40)が前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部
に隣接して開放的に設けられ、前記回転子コア(10)
のq軸が前記回転子コア(10)の半径方向に沿って前記独立充填溝(40)の幾何学的中心線と一致する、請求項
1~6のいずれか一項に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項8】
前記q軸を通過する前記回転子コア(10)の任意の磁極上の前記スリット溝(20)の幅と、前記q軸を通過する前記磁極上の前記独立充填溝(40)の幅との和をL3、前記回転子コア(10)の前記シャフト孔(12)から前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部までの距離をL4とすると、0.2≦L4/L3≦0.5である、請求項7に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項9】
前記スリット溝(20)およびその両端に対応する前記充填溝(30)が磁気バリア層を形成し、磁気伝導チャネルは隣接する2つの磁気バリア層の間に形成され、前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部
に隣接する前記磁気伝導チャネルの少なくとも一方の端部の延伸方向が前記d軸に平行である、請求項
1~8のいずれか一項に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項10】
前記磁気伝導チャネルの両端には直線部(50)が設けられ、前記直線部(50)の延伸方向が前記d軸に平行であり、前記直線部(50)の長さが前記d軸から離れる方向に沿って徐々に短くなる、請求項9に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項11】
前記磁気伝導チャネルの幅が前記q軸から両側に向かって徐々に長くなる、請求項9に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項12】
前記複数のスリット溝(20)のうちの少なくとも1つが前記スリット溝(20)の途中で円弧状構造を有し、前記スリット溝(20)の両端が直線断面構造を有する、請求項
1~11のいずれか一項に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項13】
隣接する充填溝(30)間の距離をd1、隣接する磁気バリア層間の最小幅をdとすると、d1≧dである、請求項9に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項14】
前記独立充填溝(40)の両端と前記回転子コア(10)の前記シャフト孔(12)とをそれぞれ結ぶ線の挟角をαとすると、20°≦α≦60°である、請求項7に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項15】
前記独立充填溝(40)および前記充填溝(30)が導電性非磁性材料で充填され、前記充填された導電性非磁性材料が前記回転子コア(10)の両端のエンドリングを介して短絡される、請求項7に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項16】
前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部
に隣接する前記独立充填溝(40)の前記側壁と前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部との間の距離をL1とすると、0.5δ≦L1<δであり、前記充填溝(30)から前記スリット溝(20)までの距離をL2とすると、0.5δ≦L2<δであり、ただし、δは前記固定子コアと前記回転子コア(10)との間のエアギャップの幅である、請求項7に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項17】
前記シャフト孔(12)の前記断面が楕円形であり、前記シャフト孔(12)の長軸が前記d軸上に位置し、前記シャフト孔(12)の短軸が前記回転子コア(10)の前記q軸上に位置する、請求項2に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項18】
前記第1の挟角をθ1とすると
、θ1
≧135°であるか、または前記第2の挟角をθ2とすると、θ2≦170°である、請求項2または3に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項19】
前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部
に隣接する前記独立充填溝(40)の前記側壁と前記回転子コア(10)の前記外側エッジ部との間の距離をL1とすると、0.5δ≦L1<δであり、または前記充填溝(30)から前記スリット溝(20)までの距離をL2とすると、0.5δ≦L2<δであり、ただし、δは前記固定子コアと前記回転子コア(10)との間の前記エアギャップの幅である、請求項7に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子を備える、モータ。
【請求項21】
請求項1~19のいずれか一項に記載の自己始動型同期リラクタンスモータ回転
子を備える、圧縮機。
【国際調査報告】