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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-24
(54)【発明の名称】電池用官能基化リチウム負極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1395 20100101AFI20220817BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20220817BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220817BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20220817BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20220817BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/40
H01M10/052
H01M4/134
H01M4/136
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571553
(86)(22)【出願日】2020-05-05
(85)【翻訳文提出日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 IB2020054247
(87)【国際公開番号】W WO2020240308
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】19382436.4
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521524128
【氏名又は名称】アコンディシオナミエント タラセンス
【氏名又は名称原語表記】ACONDICIONAMIENTO TARRASENSE
(71)【出願人】
【識別番号】313012604
【氏名又は名称】ジョンソン マッセイ パブリック リミテッド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル・ヴァルディヴィエルソ・アンゲル
(72)【発明者】
【氏名】ルイス・ミグエル・マルティンス・ドス・サントス
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・オーチャー
(72)【発明者】
【氏名】ゴカン・サバス
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド・グティエレス・タウステ
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン・デシラーニ
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン・ダニエル・ローズ
(72)【発明者】
【氏名】ウルデリコ・ウリッシ
【テーマコード(参考)】
5H029
5H032
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK05
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029AM09
5H029CJ13
5H029CJ21
5H032AA01
5H032AS02
5H032AS11
5H032BB07
5H032CC11
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA16
5H050CA11
5H050CA12
5H050CB12
5H050GA13
5H050GA21
(57)【要約】
本発明は、電池用の官能基化リチウム負極に関し、それはジアゾニウム塩を用いた特定の方法によって得られる。本発明はまた、そのリチウム負極のセルでの使用、そのリチウム負極を含むセル、そのセルの電子デバイスでの使用及びそのセルを含む電子デバイスに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル、エノールエーテル、0~4個のC1-C4アルキル基を持つ芳香族炭化水素、又は0~4個のC1-C4アルキル基を持つモルホリン溶媒から選択される有機溶媒中で、リチウム金属サブストレートを芳香族ジアゾニウム塩と接触させることを含む、官能基化リチウム負極を調製する方法。
【請求項2】
前記溶媒は、トルエン、テトラヒドロフラン、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン、4-エチルモルホリン及び1,4ジオキサンから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リチウム金属サブストレートがチップの形態であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ジアゾニウム塩を、前記リチウム負極との反応の前に、対応するアニリンから調製することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ジアゾニウム塩を、前記リチウム負極との反応の前に溶解することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ジアゾニウム塩を調製しあるいは容器内に溶解し、続いて前記リチウム負極をその容器内に導入して官能基化を行うことを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記ジアゾニウム塩は、4-ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、4-ブロモベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、3,5-ジクロロフェニルジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩及び4-プロパギルオキシベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩を含むジアゾニウム塩の群、並びに3,5-ビス(トリフルオロメチル)アニリン、4-(ヘプタデカフルオロオクチル)アニリン及び4-アミノフェネチルアルコールを含むアニリンの群に由来するジアゾニウム塩の群から選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
官能基化反応を電気化学的又は化学的に行うことを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の方法によって得られる官能基化リチウム負極。
【請求項10】
前記リチウムの表面に結合された、官能基で適宜置換された芳香族ジアゾニウム塩に由来する有機基を含むことを特徴とする、請求項9に記載の官能基化リチウム負極。
【請求項11】
前記リチウムの表面に結合された置換フェニル基を含むことを特徴とする、請求項10に記載の官能基化リチウム負極。
【請求項12】
請求項9~11のいずれかに記載の官能基化リチウム負極のLi-Sセル、Li-イオンセル又はLi-O2セルから選択されるセルでの使用。
【請求項13】
請求項9~11のいずれかに記載の官能基化リチウム負極を含むLi-Sセル、Li-イオンセル又はLi-O2セルから選択されるセル。
【請求項14】
請求項13に記載のセルの電子デバイスでの使用。
【請求項15】
請求項13に記載のセルを含む電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の分野に関し、特にLi-S、Li-イオン又はLi-O2電池用リチウム負極に関する。
【背景技術】
【0002】
電池はエネルギーを貯蔵するデバイスであり、そのパフォーマンスは高く要求される。さまざまな電池の型があり、例えばNi-Cd、Ni-Zn、Ag-Zn、Li-イオン、Li-O2、リチウム-鉄-リン酸塩、Li-Sである。
【0003】
特にLi-S電池は、そのかなりの安価と高い理論的な比容量(specific capacity)(1675mA.h/g)及び理論的なエネルギー密度(2500W.h/kg)によって特別な注目を受けている。
【0004】
Li-S電池は、一般に、正極、セパレータ、電解質、負極及び電流コレクタを含む。
【0005】
正極は、通常、硫黄、炭素系材料及びバインダを含有する。負極は、リチウム金属であり、そして、通常はセパレータ及び有機溶媒系電解質によって正極から分離されている。
【0006】
非特許文献1:Fotouhi et al., Lithium-Sulfur Battery Technology Readiness and Applications - A Review, Energies, 2017, 10, 1937を見ると、Li-S電池の作動原理が要約され、すなわち作動(放電)中に正極から固体硫黄が電解質中へ溶解して、S8(I)を形成する。液状のS8は、次いで正極で電気化学的に還元され、負極でのLi金属のLi+イオンへの酸化を伴って、中間生成物、いわゆる多硫化リチウム(PS)種(Li2Sx)を形成する。多硫化物種(Li2Sx、2<x≦8)は、液体電解質に溶解性であり、正極から電解質/セパレータ側へ拡散して出てゆく。放電が進むと、多硫化物鎖の長さが短くなり、それは順に、Li2Sx化合物の粘性、流動性及び溶解性に影響する。放電の終期には、S8はLi2Sまで充分に還元されて、そして負極は、Li金属が充分にはぎ取られる。
【0007】
Li-S電池の従来技術を見ると、非特許文献2:Zhang et al., Advances in lithium - sulfur batteries, Mat. Sci. Eng. R, 2017, 121, 1-29は、リチウム金属の問題が公知であることを開示し、すなわち強い反応性、デンドライトの形成、安全性が憂慮され、その結果、最近は、LiをLi-イオン電池ですでに使用されている負極の中から選ばれる別の負極、例えばシリコン系負極に置換する試みがなされている。
【0008】
非特許文献3:Kang et al., A review of recent developments in rechargeable lithium‐sulfur batteries, Nanoscale, 2016, 8, 16541-16588は、再充電可能なLi-S電池に関するレビューであり、それは負極の開発をカバーする。負極はLi‐S電池の不可欠な構成要素であり、負極が不安定であると、電池のサイクル寿命は、迅速な容量フェーディングを伴って悪影響すると開示されている。Li-S電池のリチウム負極を保護するために検討の必要な有益な方法がいくつか開示され、すなわち負極用保護層(例えば多層グラフェン、固体電解質インターフェイス(SEI))、複合体(例えば三元複合体Si-C-Li)、リチウムプレドープ(pre-lithiated)負極(例えばリチウムプレドープSi、空孔内にLiを充填したグラフェン)、あるいは、負極としてのLiイオン埋め込み材料(例えば炭素、Si系、Sn系)である。
【0009】
非特許文献4:Cheng et al., Toward Safe Lithium Metal Anode in Rechargeable Batteries: A Review, Chem. Rev., 2017, 117, 10403-10473は、Li負極を保護するためのいくつかのアプローチを開示し、すなわち固体電解質インターフェイス(電気化学的前処理、化学的前処理、物理的前処理)、リチオフィリックマトリックス、及びコンダクティブマトリックスの人工形成である。
【0010】
非特許文献5:Luo et al., A dual-functional polymer coating on a lithium anode for suppressing dendrite growth and polysulfide shuttling in Li‐S batteries, Chem. Comm., 2017, 53, 963-966は、ナフィオン(登録商標)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなるポリマーブレンドでコーティングされたリチウム負極を開示し、それは、高S分正極を持つLi-Sプロトタイプ電池のレート特性(rate performance)及びサイクル性の実質的増強とともに、クーロン効率の改善を示す。
【0011】
非特許文献6:Manthiram et al., Rechargeable Lithium‐Sulfur Batteries, Chem. Rev., 2014, 114, 11751-11787は、負極が、Li-S電子の本質的な部分であり、理由は、その安定性がLi-S電子の長期のサイクル寿命を決定するためであると開示する。さらに、リチウム金属負極の信頼性は、そのパッシベーション層の安定性に極めて依存し、それは、電解質溶媒を変更し、そして添加剤を導入することで改善し得ると開示する。代案として、リチウムを含有するシリコン系及び炭素系負極が開示される。
【0012】
非特許文献7:Ma et al., Enhanced cycle performance of a Li‐S battery based on a protected lithium anode, J. Mater. Chem. A, 2014, 2, 19355-19359は、Li‐S電池の保護層として、リチウム負極の表面に調製された導電性高分子層を開示する。それは、リチウム負極と多硫化リチウムとの間の腐食反応を有効に妨げるだけでなく、Liデンドライト成長もまた抑制する。ポリマーは、PEDOT及びPEG(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-コ-ポリ(エチレングリコール))から調製される。保護コーティングは、リチウム金属をポリマー溶液中へ浸漬することにより調製された。
【0013】
特許文献1:PCT国際出願WO-A-2016/083271は、Li-S電池用リチウム電極のコーティングとしてスルホン化フッ素樹脂を開示する。
【0014】
非特許文献8:Song et al., Ionomer-Liquid Electrolyte Hybrid Ionic Conductor for High Cycling Stability of Lithium Metal Electrodes, Sci. Rep., 2015, 5, 14458は、Li金属電極に強固に積層された高イオン導電性イオノマー/液体電解質ハイブリッド層を開示し、それは、10mA/cm2までの高電流密度にて安定なLi電着を実現し、そして低分極をもった対応するLi金属電池の室温動作を可能にする。ハイブリッド層は、Li金属電極上に厚みが数ミクロンのナフィオン層を積層化し、続いて1M LiPF6エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(1/1)電解質に浸すことにより作製されると開示される。
【0015】
非特許文献9:Kazyak et al., Improved Cycle Life and Stability of Lithium Metal Anodes t hrough Ultrathin Atomic Layer Deposition Surface Treatments, Chem. Mater., 2015, 27(18), 6457-6452は、Li金属箔電極を超薄Al2O3層で処理して、サイクル寿命及びリチウム金属負極の故障耐性(failure resistance)を改善することを開示する。
【0016】
非特許文献10:Wu et al., A Trimethylsilyl Chloride Modified Li Anode for Enhanced Performance of Li-S Cells, ACS Appl. Mater. Interfaces, 2016, 8, 16386-16395は、リチウム箔をテトラヒドロフラン溶媒、酸素雰囲気及びクロロトリメチルシラン液に順に曝すことによって、Li-Sセル用のリチウム負極を改善する方法を開示する。XPSデータにより、表面にLi-SiMe3よりもむしろLi-O-SiMe3が形成すことが確認される。より多い可逆放電容量とより高いクーロン効率を達成し得ると開示されている。
【0017】
非特許文献11:Fan et al., Advanced chemical strategies for lithium-sulfur batteries: A review, Green Energy Environ., 2018, 3, 2-19は、Li-S電池のパフォーマンスは、依然として理論的予測からかけ離れており、それは、硫黄の固有の絶縁(inherent insulation)、溶解性多硫化物のシャトリング、正極の膨潤、及びリチウムデンドライトの形成のためであると開示する。このレビューは、官能基(酸素、窒素及びホウ素等)や化学添加剤(金属、高分子等)を炭素構造に導入することによってLi-S電池のパフォーマンスを改善するための化学吸収における最近の進展及びこれらの外来ゲストが溶解した多硫化物をいかにして固定化するかを主に議論する。
【0018】
非特許文献12:Zhao et al., A review on anode for lithium-sulfur batteries: Progress and Prospects, Chem. Eng. J., 2018, 347, 343-365は、Li-S電池の負極安定性を強化するためのさまざまな戦略についての包括的なレビューを開示し、それは、電解質及び電流コレクタを改善し、人工保護フィルムを採用し、そしてリチウム負極を置き換える別の負極を見つけること含む。リチウム負極を保護するためのいくつかの代案が開示され、すなわち電解質添加剤を用いる固体電解質インターフェイスの形成、人工SEIフィルム(例えば直接被覆、マグネトロンスパッタリング、化学的被覆、化学的グラフト、化学蒸着による)、サンドイッチテクノロジー、コンパウンドテクノロジー(例えばC-Li、Si-Li、Si-C-Li、Sn-C-Li)、非リチウム負極(例えばC、Si、金属合金)の使用である。
【0019】
非特許文献13:Cheng et al., Review‐Li Metal Anode in Working Lithium-Sulfur Batteries, J. Electrochem. Soc., 2018, 165(1), A6058 ‐ A6072は、リチウム‐硫黄電池の応用は、いくつかの障害の挑戦を受けており、硫黄の低い活用と劣った寿命を含み、それは多硫化リチウムのシャトル及び作動しているリチウム‐硫黄電池内のリチウムデンドライト成長に一部起因することを開示する。多硫化Liの影響を検討して、Li金属負極を保護するいくつかの戦略が提案されており、例えば電解質添加剤、人工的固体電解質インターフェイス(SEI)、固体型電解質及び構造化複合体リチウム負極を開示する。さらに、表面コーティングは、Li金属負極上に保護層を堆積するための容易かつコスト効果に優れた方法であり、それは、実用Li-S電池に利便に適用でき、コーティング材料にAl2O3、炭素、いくつかのポリマー及びいくつかの合金が開示される。
【0020】
したがって、従来技術で入手可能な異なる提案にもかかわらず、Li-S電池で有効な新規なリチウム負極を提供する必要が依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】A Review, Energies, 2017, 10, 1937
【非特許文献2】Mat. Sci. Eng. R, 2017, 121, 1-29
【非特許文献3】Nanoscale, 2016, 8, 16541-16588
【非特許文献4】A Review, Chem. Rev., 2017, 117, 10403-10473
【非特許文献5】Chem. Comm., 2017, 53, 963-966
【非特許文献6】Chem. Rev., 2014, 114, 11751-11787
【非特許文献7】J. Mater. Chem. A, 2014, 2, 19355-19359
【非特許文献8】Sci. Rep., 2015, 5, 14458
【非特許文献9】Chem. Mater., 2015, 27(18), 6457-6452
【非特許文献10】ACS Appl. Mater. Interfaces, 2016, 8, 16386-16395
【非特許文献11】A review, Green Energy Environ., 2018, 3, 2-19
【非特許文献12】Chem. Eng. J., 2018, 347, 343-365
【非特許文献13】J. Electrochem. Soc., 2018, 165(1), A6058 ‐ A6072
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】WO2016/083271A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、電池用の官能基化リチウム負極(functionalized lithium anode)を調製する方法である。
【0024】
本発明の別の様相は、前記方法により得られる負極に関する。
【0025】
本発明の別の様相は、その負極のセルでの使用に関する。
【0026】
本発明の別の様相は、その負極を含むセルに関する。
【0027】
本発明の別の様相は、そのセルの電子デバイスでの使用に関する。
【0028】
本発明の別の様相は、そのセルを含む電子デバイスに関する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1では、本発明の方法に従って官能基化されたリチウム負極を非官能基化リチウム負極と対比して試験するのに使用されたアセンブリを示す。前記アセンブリは、以下の素子:ステンレスキャップ、リチウム金属負極、セパレータ、炭素-硫黄正極、ステンレスペーサ及びステンレスキャップを含む。
図2図2では、実施例1に従う官能基化リチウム負極(Δ)及び非官能基化リチウム負極(Ο)を用いて実施例10で行われたガルバノスタットテストの結果が示されている。縦座標にmAh/gで表記される放電容量、そして横座標にサイクル数が表されている。
図3図3では、実施例1に従う官能基化リチウム負極(Δ)及び非官能基化リチウム負極(Ο)を用いて実施例10で行われたガルバノスタットテストの結果が示されている。縦座標に%で表記されるクーロン効率(CE)、そして横座標にサイクル数が表されている。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の対象は、エーテル、エノールエーテル、0~4個のC1-C4アルキル基を持つ芳香族炭化水素又は0~4個のC1-C4アルキル基を持つモルホリン溶媒から選択される有機溶媒中で、リチウム金属サブストレートを芳香族ジアゾニウム塩と接触させることを含む、官能基化リチウム負極を調製する方法である。
【0031】
本発明の発明者等は、電気化学セル(以降、「セル」)、特にLi-Sセル内に組み入れられた際に、サイクル寿命とクーロン効率の両方を改善する官能基化リチウム負極を、ジアゾニウム塩との反応により調製する方法を開発している。リチウム金属表面でのジアゾニウム塩の還元が、リチウム負極に電池効率の良化と寿命の延長につながる物理化学的安定性の強化をもたらすことが意外にも判明した。
【0032】
Li負極を保護するために提案された他の既存の技術/処置に対して、ジアゾニウム塩の還元によるリチウムへの有機層の付着は、デンドライト成長及び他の有害な相互作用プロセス(例えばLi-S電池内の多硫化物の負極への拡散)から見て持っている利益がいくつか存在し、それらの一つは、固定化有機層とリチウムサブストレートとの間に確立された(共有)結合の疑いなく強い特性であり、それは、リチウム上へ安定な共有結合膜を固定化するの利便な手段を構築する。それは、超薄膜(厚みは単分子層からミクロンまで変更し得る)を形成する表面への高分子鎖の強い共有結合のための一つの選択方法のようである。それは、有機的に改変されたリチウム負極に、他の方法を介してキャストされた他のコーティングのものを圧倒する化学的、機械的及び熱的安定性を付与する。したがって、この結果は、頻繁な動作の過酷条件に対して抵抗し得るより耐性かつ耐久な保護コーティングである。
【0033】
リチウム負極上のアリールジアゾニウム塩の還元はまた、汎用の方法で構成され、すなわち市販あるいはアニリン誘導体を介したin situ生成によるほとんど無限のジアゾニウム塩を使用できる。これにより、広範囲の有機分子のグラフティングが可能になり、同時に、Liの表面特性の調整が可能になる。これに加えて、これらの有機層をリチウム上にグラフト化するために各種溶媒を使用可能であり、例えばトルエン、テトラヒドロフラン、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン、4-エチルモルホリン、1,4-ジオキサンやこれらの組合せであり、これらは、本方法の適応性をより強化する。したがって、適当な溶媒を使用することによって、本発明の方法は、溶媒及びリチウム金属サブストレート間の寄生的(parasitic)/二次反応無く、ジアゾニウムプレカーサをリチウム金属サブストレート上へグラフトさせる。好ましくは、前記溶媒は無極性である。前記溶媒は、エーテル、エノールエーテル、0~4個のC1-C4アルキル基を持つ芳香族炭化水素又は0~4個のC1-C4アルキル基を持つモルホリン溶媒から選択される。前記溶媒は、好ましい実施態様では、トルエン、テトラヒドロフラン、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン、4-エチルモルホリン及び1,4ジオキサンから選択される。
【0034】
それはまた、実行の比較的簡易かつ有効な技術であり、コストのかからない試薬の存在下でポテンシャルステップの印加によって、自発的又は電気化学的誘導を介して簡易に達成し得る。これは、同様の目的を達成するために、すなわちLi-S電子内の多硫化物拡散や他の有害な相互作用プロセス(例えばデンドライト成長)からLi負極を保護するために、リチウム表面の誘導体化を実行するのに今日使用されたより複雑な仕組みや高価な技術とまさに対抗する。
【0035】
本明細書及び特許請求の範囲を通して、冠詞「一つ(a)」又は「前記(the)」が前にある単数の表記は、文脈が明確に反対を示唆しない限り、広義に複数に対する言及もまた含めると理解される。
【0036】
本発明の文脈において、所定値で称する用語「約(approximately)」は、前記値に一定の変動、一般に+/-5%の変動が許容されると理解される。
【0037】
構成要素に関連して「を含む(comprising)」、「を有する(having)」、「を含む(including)」、又は「を含有する(containing)」等の用語を用いた発明の様相に関する本発明の記載は、本発明と同様の様相についての支持を与える意図であり、「からなる(consisting of)」、「から実質的になる(consists essentially of)」又は「を実質的に含む(substantially comprises)」は、その他で言及するか、明らかに文脈に反しない限り、特定の要素についての支持を与える意図である。
【0038】
本明細書の発明の詳細な説明に開示された範囲は、その上下限の両方を含んでいる。
【0039】
リチウム金属サブストレート
リチウム負極を調製するのに適したリチウム金属サブストレートは、チップの形態で入手でき、例えばMTI社から入手できる。好ましい実施態様では、前記リチウム金属サブストレートは、セルのタイプ及び構造に応じて、通常、99.9%の高純度、そして様々な形状、厚み及び表面の形態であるが、負極は、例えばコインセルやパウチセル内に設置される。
【0040】
ジアゾニウム塩
本発明のリチウム負極は、エーテル、エノールエーテル、0~4個のC1-C4アルキル基を持つ芳香族炭化水素、又は0~4個のC1-C4アルキル基を持つモルホリン溶媒から選択される溶媒内、好ましくはトルエン、テトラヒドロフラン、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン、4-エチルモルホリン、及び1,4ジオキサンから選択される溶媒内で、芳香族ジアゾニウム塩との反応を用いて官能基化される。
【0041】
前記ジアゾニウム塩は、一般に、対応するアニリンから調製され、あるいはいくつかのケースではそのようなものが市販されている。
【0042】
前記ジアゾニウム塩は、好ましい実施態様では、前記リチウム負極との反応の前に、ニトロソ化剤、例えばメチル亜硝酸塩、イソプロピル亜硝酸塩、tert-ブチル亜硝酸塩等のアルキル亜硝酸塩、アミル亜硝酸塩、又はイソアミル亜硝酸塩の存在下で対応するアニリンから調製され、単離や精製の必要はない。
【0043】
前記ジアゾニウム塩は、別の好ましい実施態様では、一旦合成されると、単離され得、また、市販のジアゾニウム塩を用いてもよい。その実施態様では、前記、ジアゾニウム塩は、前記リチウム負極との反応の前に、溶解される。より好ましい実施態様では、前記ジアゾニウム塩は、調製されあるいは容器内に溶解され、続いて前記リチウム負極をその容器内に導入して官能基化を行う。
【0044】
本特許出願方法に使用するのに適するジアゾニウム塩は、フェニル基に存在する置換基によって限定されないが、例えば4-ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、4-ブロモベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩及び3,5ジクロロフェニルジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩であり得、これらは、市販されており(シグマ-アルドリッチ)、あるいは「Jin et.al., Click Chemistry on Solution-Dispersed Graphene and Mono層 CVD Graphene, Chem. Mat., 2011, 23 (14), 3362-3370」に開示されている4-プロパギルオキシベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩であり得る。求核置換を用いて積層セパレータを後官能基化(post-functionalize)するためにハロゲン化ジアゾニウム塩を使用してもよい。
【0045】
4-プロパギルオキシベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩は、Jin等(前掲)に開示されるようなクリックケミストリーを用いてリチウム負極を後官能基化するのに適する。
【0046】
本特許出願の方法への使用に適するアニリンは、例えば3,5-ビス(トリフルオロメチル)アニリン、4-(ヘプタデカフルオロオクチル)-アニリン及び4-アミノフェネチルアルコールであり、これらは市販されている(シグマーアルドリッチ)。
【0047】
アニリンのジアゾニウム塩への転換は、例えばM.B. Smith,J.March, March’s Advanced Organic Chemistry(5th ed.),John Wiley&Sons, New York, 2001(ISBN: 0-471-58589-0)のような有機化学で周知である。その反応では、アニリンは、亜硝酸、又は亜硝酸ナトリウム塩と塩酸との組み合わせで処理されるが、その組み合わせは、「F. Csende, Alkyl Nitrates Valuable Reagents in Organic Synthesis, Mini-Rev. Org. Chem., 2015, 12, 127-148」中に適当な溶媒、好ましくは脱酸素溶媒として開示されるように、亜硝酸又は等価化合物、例えばアルキル亜硝酸塩を生ずる。
【0048】
前記ジアゾニウム塩の陰イオンは、ジアゾ化反応に使用される酸に依存する。一般に、陰イオンは、塩酸塩、臭化水素酸塩又はテトラフルオロホウ酸塩である。
【0049】
前記アニリンは、好ましい実施態様では、トルエン、テトラヒドロフラン、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン、4-エチルモルホリン及び1,4-ジオキサンから選択される脱酸素溶媒(deoxygenated solvent)のような非水環境中で、tert-ブチル亜硝酸塩と反応される。
【0050】
前記ジアゾニウム塩は、好ましい実施態様では、4-ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、4-ブロモベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、3,5-ジクロロフェニルジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩及び4-プロパギルオキシベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩を含むジアゾニウム塩の群、並びに3,5-ビス(トリフルオロメチル)アニリン、4-(ヘプタデカフルオロオクチル)アニリン及び4-アミノフェネチルアルコールを含むアニリンの群に由来するジアゾニウム塩の群から選択される。前記リチウム負極は、好ましい実施態様では、3,5-ビス(トリフルオロメチル)アニリン、4-(ヘプタデカフルオロオクチル)アニリン及び4-アミノフェネチルアルコールに由来するジアゾニウム塩を用いて官能基化され、より好ましくは3,5-ビス(トリフルオロメチル)アニリンである。
【0051】
官能基化反応
前記リチウム負極を官能基化する方法は、リチウム負極と芳香族ジアゾニウム塩との反応を含む。
【0052】
前記官能基化反応は、電気化学的又は化学的に行われる。
【0053】
前記反応は、好ましい実施態様では、電気化学的に行われる。
【0054】
前記反応は、別の好ましい実施態様では、化学的に行われる。
【0055】
前記反応は、通常、室温で実行されるが、溶媒及びジアゾニウム塩の安定性に依存して、0℃~130℃の温度で実行することができる。前記反応は好ましくは、、室温で実行される。
【0056】
前記ジアゾニウム塩の電気化学的反応は、サイクリックボルタンメトリー又は電位ステップアプローチのいずれかにより行うことができ、これで材料の堆積量にわたって高度のコントロールが提供される。ジアゾニウム電解還元を達成するために、極めて低い還元電位が要求され、典型的には0V(対Li/Li+)よりも低く、好ましくは還元電位は-1V(対Li/Li+)である。ジアゾニウム基の電子吸引力のために、ラジカルの生成には低電位のみが要求される。
【0057】
前記リチウム負極の化学的官能基化は、予めin situで対応するアニリン化合物から調製するか又は簡易にジアゾニウム塩を溶解したジアゾニウム塩溶液中で行われるが、ジアゾニウム塩は、調製及び単離し又は市販のものを使用でき、溶媒は、エーテル、エノールエーテル、0~4個のC1-C4アルキル基を持った芳香族炭化水素又は0~4個のC1-C4アルキル基を持ったモルホリン溶媒、好ましくはトルエン、テトラヒドロフラン、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン、4-エチルモルホリン及び1,4-ジオキサンから選択され。溶媒は、好ましくは、トルエン、テトラヒドロフラン及び3,4-ジヒドロ-2H-ピランから選択される。前記反応は、一般に、30分後に終了する。
【0058】
前記反応後、官能基化リチウム負極を調製する方法は、官能基化に用いた溶媒、及び異なる極性の追加の溶媒、アセトニトリル及びトルエンを用いて洗浄して、前記リチウム表面へのジアゾニウム塩の吸着を減じるステップを含む。
【0059】
官能基化リチウム負極
本発明の別の様相は、本発明の方法によって得られる官能基化リチウム負極に関する。
【0060】
前記官能基化リチウム負極は、前記リチウムの表面に結合された、ハロ、-S-C1-C6アルキル、-OH、フルオロ(C1-C10)アルキル、C1-C5アルキル、-(C1-C5アルキル)-OH、NO2、CN及びプロパギルオキシから独立に選択される1~5個の官能基で適宜置換された芳香族ジアゾニウム塩に由来する有機基を含む。
【0061】
前記リチウム負極は、好ましい実施態様では、リチウムの表面に結合された置換フェニル基を含み、より好ましくは、前記フェニル基は、4-ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、4-ブロモベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、3,5-ジクロロフェニルジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩及び4-プロパギルオキシベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩を含む群から選択されるジアゾニウム塩、若しくは3,5-ビス(トリフルオロメチル)アニリン、4-(ヘプタデカフルオロオクチル)アニリン及び4-アミノフェネチルアルコールを含む群から選択されるアニリンから得られたジアゾニウム塩に由来する。
【0062】
したがって、前記リチウム負極の表面に結合したフェニル基は、好ましくは4-ニトロフェニル、4-ブロモフェニル、3,5-ジクロロフェニル、4-プロパギルオキシフェニル、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル、4-(ヘプタデカフルオロオクチル)フェニル、4-フェネチルアルコール及び3-(メチルチオ)フェニルから選択される。前記置換フェニル基は、好ましい実施態様では、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、4-(ヘプタデカフルオロオクチル)基及び4-フェネチルアルコールから選択され、より好ましくは3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基である。
【0063】
X-線光電子分光法(XPS)は、前記リチウム負極の表面に起こる官能基化を確認する。官能基化は、ジアゾニウム塩のジアゾニウムカチオンの等方性脱ジアゾニウム(homolytic dediazonation)から生じたリチウム表面とフェニル基との共有結合性の結合の結果である。この官能基化は、異なる溶媒を用いた超音波洗浄後でさえも維持され、それは、付着の強度と安定性を確証するものである。
【0064】
セル及び電子デバイス
本発明の別の様相は、その官能基化リチウム負極のLi-Sセル、Li-イオンセル、及びLi-O2セルでの使用に関する。
【0065】
前記官能基化リチウム負極は、Li-Sセル、Li-イオンセル及びLi-O2セルに組み込むのに適する。それは、好ましい実施態様では、Li-Sセルで用いられる。それは、別の好ましい実施態様では、Li-Sコインセル、Li-イオンコインセル及びLi-O2コインセルに組み込むのに適する。それは、より好ましい実施態様では、Li-Sコインセルで用いられる。
【0066】
例えばCR2016型コインセルのようなLi-Sセルは、図1に示すように、通常、以下の素子:
1) ステンレスキャップ
2) リチウム金属負極
3) セパレータ
4) 炭素-硫黄正極
5) ステンレススペーサー
6) ステンレスキャップ
を含む。
【0067】
さらに、前記セルは、電解質を含む。前記電解質は、好ましい実施態様では、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジオキサン(DOL)、ビス(トリフルオロメチルスルホニルアミン)リチウム塩LiTFSI及びLiNO3の組合せからなる。
【0068】
リチウム塩溶液系の他の電解質、例えばリチウムヘキサフルオロリン酸塩(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、LiCF3SO3及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)もまた、TEGDME、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジオキサン(DOL)、ジグライム(DG)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート(PC)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、トリグライム、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、並びにこれらの組合せのような非水性溶媒中で使用可能である。例えばビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(EMImTFSI)や1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩(BMImPF6)のような常温イオン液体(RTIL)電解質の使用もまた、例えばDME/DOL溶媒中の0.5M LiCF3SO3や0.5M LiPF6のような液体電解質への添加剤として報告されている。
【0069】
実施例10並びに図2及び3に示されるように、本発明に従う官能基化リチウム負極は、電解質の低い消耗によってセルのサイクル寿命とクーロン効率の両方の改善を示すが、ここでは多硫化物のシャトルが阻止され、それは、ジアゾニウム還元を用いた官能基化により提供されるリチウム界面の安定性の強化の成果である。
【0070】
したがって、本特許出願の官能基化リチウム負極が従来技術に対して有利であることは明らかである。
【0071】
本発明の別の様相では、そのリチウム負極を含むLi-Sセル、Li-イオンセル又はLi-O2セル、好ましくはLi-Sセルに関する。
【0072】
本発明の別の様相では、そのLi-Sセル、Li-イオンセル又はLi-O2セル、好ましくはLi-Sセルの電子デバイスでの使用に関する。
【0073】
そのようなセルを含む一般の電子デバイスは、例えば電動腕時計(デジタル式及びアナログ式の両方)、パーソナルコンピューターのリアルタイムクロック用のバックアップ電源、レーザポインタ、小型LED懐中電灯、ソーラー/電動ろうそく、自転車のLED前照灯及び尾灯、ポケットコンピュータ、補聴器、電子玩具、心拍数モニタ、デジタル式温度計やデジタル式高度計である。
【0074】
本発明は以下の実施態様を含む:
1. エーテル、エノールエーテル、0~4個のC1-C4アルキル基を持つ芳香族炭化水素、又は0~4個のC1-C4アルキル基を持つモルホリン溶媒から選択される有機溶媒中で、リチウム金属サブストレートを芳香族ジアゾニウム塩と接触させることを含む、官能基化リチウム負極を調製する方法。
【0075】
2. 前記溶媒は、トルエン、テトラヒドロフラン、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン、4-エチルモルホリン及び1,4ジオキサンから選択されることを特徴とする、実施態様第1項に記載の方法。
【0076】
3. 前記リチウム金属サブストレートがチップの形態であることを特徴とする、実施態様第1項に記載の方法。
【0077】
4. 前記ジアゾニウム塩を、前記リチウム負極との反応の前に、対応するアニリンから調製することを特徴とする、実施態様第1~3項のいずれかに記載の方法。
【0078】
5. 前記ジアゾニウム塩を前記リチウム負極との反応の前に溶解することを特徴とする、実施態様第1~4項のいずれかに記載の方法。
【0079】
6. 前記ジアゾニウム塩を調製しあるいは容器内に溶解し、続いて前記リチウム負極を導入して官能基化を行うことを特徴とする、実施態様第4又は5項に記載の方法。
【0080】
7. 前記ジアゾニウム塩は、4-ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、4-ブロモベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、3,5-ジクロロフェニルジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、及び4-プロパギルオキシベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩を含むジアゾニウム塩の群、並びに3,5-ビス(トリフルオロメチル)アニリン、4-(ヘプタデカフルオロオクチル)アニリン及び4-アミノフェネチルアルコールを含むアニリンの群に由来するジアゾニウム塩の群から選択されることを特徴とする、実施態様第1~6項のいずれかに記載の方法。
【0081】
8. 前記リチウム負極は、3,5-ビス(トリフルオロメチル)アニリン、4-(ヘプタデカフルオロオクチル)アニリン及び4-アミノフェネチルアルコールに由来するジアゾニウム塩を用いて官能基化されることを特徴とする、実施態様第7項に記載の方法。
【0082】
9. 前記リチウム負極は、3,5-ビス(トリフルオロメチル)アニリンに由来するジアゾニウム塩を用いて官能基化されることを特徴とする、実施態様第7項に記載の方法。
【0083】
10. 官能基化反応を電気化学的又は化学的に行うことを特徴とする、実施態様第1~9項のいずれかに記載の方法。
【0084】
11. 官能基化反応を電気化学的に行うことを特徴とする、実施態様第10項に記載の方法。
【0085】
12. 官能基化反応を化学的に行うことを特徴とする、実施態様第10項に記載の方法。
【0086】
13. 実施態様第1~12項のいずれかに記載の方法によって得られる官能基化リチウム負極。
【0087】
14. 前記リチウムの表面に結合された、官能基で適宜置換された芳香族ジアゾニウム塩に由来する有機基を含むことを特徴とする、実施態様第13項に記載の官能基化リチウム負極。
【0088】
15. 前記リチウムの表面に結合された置換フェニル基を含むことを特徴とする、実施態様第14項に記載の官能基化リチウム負極。
【0089】
16. 前記リチウム負極の前記表面に結合された前記フェニル基は、4-ニトロフェニル、4-ブロモフェニル、3,5-ジクロロフェニル、4-プロパギルオキシフェニル、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル、4-(ヘプタデカフルオロオクチル)フェニル、4-フェネチルアルコール及び3-(メチルチオ)フェニルを含む群から選択されることを特徴とする、実施態様第15項に記載の官能基化リチウム負極。
【0090】
17. 前記リチウム負極の前記表面に結合された前記フェニル基は、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、4-(ヘプタデカフルオロオクチル)基及び4-フェネチルアルコールから選択されることを特徴とする、実施態様第16項に記載の官能基化リチウム負極。
【0091】
18. 前記置換フェニル基は、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基であることを特徴とする、実施態様第17項に記載の官能基化リチウム負極。
【0092】
19. 実施態様第13~18項のいずれかに記載の官能基化リチウム負極のLi-Sセル、Li-イオンセル又はLi-O2セルから選択されるセルでの使用。
【0093】
20. 実施態様第19項に記載の、前記官能基化リチウム負極のLi-Sセルでの使用。
【0094】
21. 実施態様第13~18項のいずれかに記載の官能基化リチウム負極のLi-Sコインセル、Li-イオンコインセル又はLi-O2コインセルから選択されるセルでの使用。
【0095】
22. 実施態様第21項に記載の、前記官能基化リチウム負極のLi-Sコインセルでの使用。
【0096】
23. 実施態様第13~18項のいずれかに記載の官能基化リチウム負極を含む、Li-Sセル、Li-イオンセル又はLi-O2セルから選択されるセル。
【0097】
24. 前記セルは、Li-Sセルであることを特徴とする、実施態様第23項に記載のセル。
【0098】
25. 実施態様第23又は24項に記載のセルの電子デバイスでの使用。
【0099】
26. 実施態様第23又は24項に記載のセルを含む電子デバイス。
【実施例
【0100】
実施例1:リチウム負極の化学的官能基化
グローブボックス内部で、リチウムチップ(約1.5cm2, 44mgに対応)をn-ペンタンで洗浄し(3分間)、乾燥した。その後、3,5-ビス(トリフルオロメチル)アニリンをドライトルエンに溶解することにより、3,5-ビス(トリフルオロメチル)ジアゾニウム塩溶液(10mM)を調製した。前記ジアゾニウム塩(30mM)に対して過剰量のtert-ブチル亜硝酸塩を添加して、その溶液を30分間、攪拌した。次いで、前記ジアゾニウム溶液にリチウムチップを投入し、30分間、攪拌した。最後に、チップを、トルエン、官能基化を行った溶媒及びアセトニトリルで洗浄し、乾燥した。
【0101】
X-線光電子分光法で、官能基がリチウム表面に起きていることを、F1s結合エネルギーに帰属するスペクトルの強いピークの存在によって確認した。このピークは、非官能基化リチウム負極に対応するスペクトルでは、観測されなかった。
【0102】
実施例2-9:リチウム負極の化学的及び電気化学的官能基化
表Iに示す因子に従う、2ファクトリアルデザインによって、官能基化負極を調製した。
【0103】
【表I】
【0104】
表IIに示すレイアウトに従って実験を行った。
【表II】
【0105】
ジアゾニウム塩のプレカーサである4-アミノフェネチルアルコール(119mg)を用いた反応は、無水テトラヒドロフラン(THF)溶媒を用いて行った。
【0106】
ジアゾニウム塩のプレカーサである(4-ヘプタデカフルオロオクチル)アニリン(409mg)を用いた反応は、無水3,4-ジヒドロ-2H-ピラン溶媒を用いて行った。
【0107】
実施例1に開示されたのと実質的等価な手順に従って化学的官能基化を行った。
【0108】
リチウムチップをn-ペンタンで洗浄し(3分間)、乾燥した。前記リチウムチップを(予め、30分間攪拌した)ジアゾニウム塩溶液に投入し、そして-1V(対Li/Li+)の電位を30分間印加することにより、電気化学的官能基化を生起させた。リチウムチップが作用電極、Ptワイヤが対極電極、そしてリチウムワイヤが参照電極であった。
【0109】
最後に、ジアゾニウム塩のプレカーサに応じて、THF又は3,4-ジヒドロ-2H-ピランのいずれか、さらに異なる極性溶媒(トルエン及びアセトニトリル)でLiチップをすすいで、Li表面へのジアゾニウム塩の吸着を減じた。
【0110】
X-線光電子分光法で、4試料すべてのリチウム表面に官能基化が起きていることが確認された。
【0111】
4-アミノフェネチルアルコールを用いた官能基化(実施例2,4,6及び8)の場合、非官能基化リチウム負極との主な相違は、
- C-O環境(environment)に帰属される過剰(%)のC1sII (BE=287ev)
- OH基の存在に帰属される過剰(%)のO1sII (BE=534ev) (O1sピークの高結合エネルギー側の肩)
- C1sII (C-O)/O1sII (OH)比 ≒ 1 (COH結合に関するC/OH比に従う)、それに対して元(pristine)のLiでは3.8
であった。
【0112】
(4-ヘプタデカフルオロオクチル)アニリンを用いた官能基化(実施例3,5,7及び9)の場合、非官能基化リチウム負極との主な相違は、
- F-Cフルオロカーボン結合に帰属される過剰(%)F1s(687ev)及び(690eV)
- C-Fに対応する過剰(%)のC1s(293eV)
であった。
【0113】
実施例10:官能基化リチウム負極を含むLi/S電池のガルバノスタットテスト
実施例1に開示された手順に従って調製した官能基化リチウム負極、及び非官能基化リチウム負極のガルバノスタットテストを、図1に示す以下の素子を含むLi/S電池(CR2016-型コインセル)内で行った:
1) ステンレスキャップ(直径20mm、厚み1.6mm)
2) リチウム金属負極(リチウム99.9%チップ、直径15.6mm、厚み0.25mm)
3) セパレータ(セルガード(登録商標)2500)
4) 硫黄70%、ケッチェンブラック炭素15%及びPEO15%を含有する2.5mAh.cm-2硫黄/炭素系正極
5) ステンレススペーサー(2ディスク:直径16.7mm、厚みそれぞれ1mm及び0.2mm)
6) ステンレスキャップ(直径20mm、厚み1.6mm)
【0114】
1:1(v/v)のジメトキシエタン:ジオキサン、1M LiTFSI、0.2M LiNO3であるエーテル系電解質内に前記セパレータを浸した。
【0115】
セルを、放電深度(DOD)/容量制限なく、C/5にて1.9~2.6Vの間で循環させた(cycled)。1Cとして1300mA/gを用いた。
【0116】
両リチウム負極のクーロン効率を記録し、サイクル数に対して表した。結果を図2に示す。非官能基化リチウム負極(Ο)と比べて、官能基化リチウム負極(Δ)の方が、クーロン効率が良いことが観測された。実際、官能基化リチウム負極を含むセルではより高いクーロン効率が維持され、それは電解質のより低い消耗を示していることがわかる。
【0117】
両リチウム負極の放電容量を記録し、サイクル数に対して表した。結果を図3に示す。観測された容量値は、両セルとも120サイクルまで極めて似ていることが観測された。その後、すべてのケースで漸進的降下(progressive drop)が観測されたけれども、より良いクーロン効率(図2)とともに高い放電容量を示す官能基化リチウム負極(Δ)を含むセルのパフォーマンスがより良いことは明らかである。したがって、サイクル数を増した時に、非官能基化リチウム負極(Ο)と比べて官能基化リチウム負極(Δ)のより良いパフォーマンスが観測された。
【0118】
本発明に従う官能基化リチウム負極は、より低い電解質消耗による電気化学的セルのサイクル寿命及びクーロン効率の両方の改善を示したが、ここでは、多硫化物のシャトルが阻止され、それは、ジアゾニウム塩を用いた官能基化によって提供されるリチウム界面の安定性の増強の成果である。
図1
図2
図3
【国際調査報告】