IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.の特許一覧

特表2022-537107ビタミンB12及びビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性固体経口剤形
<>
  • 特表-ビタミンB12及びビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性固体経口剤形 図1
  • 特表-ビタミンB12及びビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性固体経口剤形 図2
  • 特表-ビタミンB12及びビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性固体経口剤形 図3a
  • 特表-ビタミンB12及びビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性固体経口剤形 図3b
  • 特表-ビタミンB12及びビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性固体経口剤形 図3c
  • 特表-ビタミンB12及びビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性固体経口剤形 図4a
  • 特表-ビタミンB12及びビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性固体経口剤形 図4b
  • 特表-ビタミンB12及びビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性固体経口剤形 図4c
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-24
(54)【発明の名称】ビタミンB12及びビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性固体経口剤形
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/714 20060101AFI20220817BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20220817BHJP
   A61K 9/24 20060101ALI20220817BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220817BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220817BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220817BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220817BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220817BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220817BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALN20220817BHJP
【FI】
A61K31/714
A61P3/02 104
A61K9/24
A61K47/38
A61K47/12
A61K47/32
A61K47/10
A61K31/155
A61P3/10
A61K47/02
A61K31/7048
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571574
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(85)【翻訳文提出日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2020066757
(87)【国際公開番号】W WO2020254401
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】19180447.5
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
【住所又は居所原語表記】Het Overloon 1, NL-6411 TE Heerlen,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ケンツ, マーティン トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ミジック, ズドラブカ
(72)【発明者】
【氏名】ニーダーケル, アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】シュナイター, ラルフ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA40
4C076AA42
4C076AA95
4C076BB01
4C076CC22
4C076DD37
4C076DD41
4C076DD43
4C076EE13
4C076EE32
4C076FF24
4C076FF67
4C076GG16
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA39
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZC24
4C206AA01
4C206AA02
4C206HA31
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA55
4C206MA72
4C206NA12
4C206NA13
4C206ZC35
(57)【要約】
本発明は、即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含む固体経口剤形に関し、前記持続放出性錠剤コアは、少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬を含み、前記即時放出性コーティングは、ビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物を含む。好ましい実施形態では、ビタミンB12枯渇薬は、メトホルミン又は薬学的に許容可能なその塩である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含む、固体経口剤形であって、
前記持続放出性錠剤コアが少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬を含み、
前記即時放出性コーティングがビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物を含む、固体経口剤形。
【請求項2】
前記即時放出性コーティングが、さらなる有効活性成分を含み、前記即時放出性コーティングが好ましくはエンパグリフロジン又は薬学的に許容可能なその塩を含む、請求項1に記載の固体経口剤形。
【請求項3】
前記少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬が、メトホルミン又は薬学的に許容可能なその塩であり、前記少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬が好ましくはメトホルミンHClである、請求項1又は2に記載の固体経口剤形。
【請求項4】
少なくとも1つのカルシウムイオン供給源をさらに含み、前記カルシウムイオン供給源が好ましくはカルシウム塩であり、前記カルシウム塩が好ましくはリン酸カルシウム、炭酸カルシウム及びクエン酸カルシウムからなる群から選択され、前記カルシウム塩が、より好ましくは無水クエン酸カルシウム、二クエン酸三カルシウム四水和物、無水リン酸一カルシウム、無水リン酸二カルシウム、無水リン酸三カルシウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択される、請求項3に記載の固体経口剤形。
【請求項5】
前記固体経口剤形の持続放出性錠剤コアが少なくとも1つのカルシウム塩を含み、前記カルシウム塩が好ましくはクエン酸カルシウムであり、前記クエン酸カルシウムが、好ましくは無水クエン酸カルシウム又は二クエン酸三カルシウム四水和物である、請求項3又は4に記載の固体経口剤形。
【請求項6】
前記即時放出性コーティングがビタミンB12の噴霧乾燥処方物を含み、前記ビタミンB12の噴霧乾燥処方物が、好ましくは、前記ビタミンB12の噴霧乾燥処方物の総重量に基づき、0.01~1重量%、より好ましくは0.05~0.5重量%、最も好ましくは0.1重量%のシアノコバラミンを含む、請求項1~5の何れか1項に記載の固体医薬剤形。
【請求項7】
前記即時放出性コーティングが、少なくとも部分的に保護コーティングによって被覆され、前記保護コーティングが好ましくは二酸化チタンなどの少なくとも1つの光保護剤を含む、請求項1~6の何れか1項に記載の固体医薬剤形。
【請求項8】
前記固体経口剤形の経口摂取後、固体経口剤形中のビタミンB12枯渇薬の総重量に基づき、前記ビタミンB12枯渇薬の30重量%未満が胃で放出され、及び/又は
前記固体経口剤形の経口摂取後、前記固体経口剤形中のビタミンB12の総重量に基づき、ビタミンB12の少なくとも70重量%が、前記固体経口剤形の経口摂取後に胃で放出され、前記ビタミンB12が好ましくはシアノコバラミンである、請求項1~7の何れか1項に記載の固体経口剤形。
【請求項9】
薬剤としての使用のための、請求項1~8の何れか1項に記載の固体経口剤形。
【請求項10】
メトホルミン誘導性ビタミンB12欠乏の処置又は予防における使用のための、請求項3~8の何れか1項に記載の固体経口剤形。
【請求項11】
持続放出性錠剤コアと、少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬と、を含む固体経口剤形を製造する方法であって、
前記持続放出性錠剤コアが、ビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物を含む即時放出性コーティングとともに提供される、方法。
【請求項12】
少なくとも1つのカルシウム塩及び任意選択的に微結晶セルロースを伴う少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬の乾式造粒の段階を含み、
前記カルシウム塩が好ましくはリン酸カルシウムであり、前記カルシウム塩が最も好ましくは無水リン酸二カルシウムである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬がメトホルミン又は薬学的に許容可能なその塩であり、前記少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬が好ましくはメトホルミンHClである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~7の何れか1項に記載の固体経口剤形が製造される、請求項11~13の何れかに記載の方法。
【請求項15】
即時放出性コーティングを製造するためのビタミンB12の噴霧乾燥処方物の使用であって、
前記即時放出性コーティングが、少なくとも部分的に、少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性錠剤コアを被覆する、使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、摂取するとビタミンB12の枯渇を引き起こす薬物に関する。
【0002】
[発明の背景]
ある種の薬物の長期使用中、血清ビタミンB12レベルが低下する。このような薬物の例はメトホルミンである。他の薬剤もビタミンB12を枯渇させることが知られている。従って、患者が以前低ビタミンB12レベルになったことがある場合、医師は、(例えば血液検査を行うことにより)処置中に患者のビタミンB12レベルを監視することが勧められる。
【0003】
メトホルミンは、即時放出性処方物として、持続放出性処方物として及びまた多剤混合薬(FDC)としても、市販されている。
【0004】
組み合わせ製品の例は、SYNJARDY(登録商標)XRである。SYNJARDY(登録商標)XRの各フィルムコーティング錠剤は、即時放出性製剤原料エンパグリフロジンで覆われる持続放出性メトホルミン塩酸塩錠剤コアを含む。パッケージのリーフレットによれば、SYNJARDY(登録商標)XRの可能性のある副作用は、低ビタミンB12レベル又はさらにはビタミンB12欠乏である。
【0005】
ビタミンB12の正常吸収よりも低い分は、ビタミンB12の摂取を増加させることにより代償され得る。一部の食品(肝臓及び腎臓など)は、ビタミンB12を比較的大量に含む。しかし、多くの患者にとって、及び特に菜食主義者及びビーガンにとって、食用臓物の消費増加は選択肢ではない。代替物として、ビタミンB12栄養補助食品が摂取され得る。
【0006】
栄養補助食品が容易に入手可能である一方で、1種類のみではなく2種類の錠剤を定期的に摂取する必要がある場合、患者コンプライアンスが低くなることが有名であることが知られている。糖尿病患者ではさらなる同時投薬があることが多いので、これは高齢の糖尿病患者の場合、特に当てはまる。同時投薬は、所謂「錠剤数」(即ち投与しようとする錠剤の数)を増加させ、故に治療の順守が悪くなるリスクがある。患者コンプライアンスは、1つの錠剤が処方せん医薬品(Rx)を含み、一方で第2の錠剤がスーパーマーケットで購入され得る場合、さらに悪くなる。今までのところ、患者は、非常に異なるサプライチャネルに由来する錠剤の組み合わせ摂取に全く慣れていない。さらに、ビタミンB12欠乏からの症状は、かなりゆっくりと起こり、慢性的な高血糖及び糖尿病により引き起こされる症状と識別不能であり得る。従って、1又は2つのビタミンB12サプリメント摂取を怠ることによって、患者の状態が直ちに悪化することはないであろう。一連の薬物摂取中にあまり緩和を感じないという認識は、治療レジメンを中断するという患者の決断に影響を与えるので、これもまた患者のコンプライアンスに負の影響を与える。
【0007】
ビタミンB12枯渇薬を含む経口剤形により誘導されるビタミンB12枯渇に対するより良好な対処方法が必要とされている。
【0008】
[発明の概要]
錠剤数を減少させ、患者コンプライアンスを向上させるために、ビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性錠剤にビタミンB12を添加する。そのため、(i)即時放出性処方物を持続放出性処方物で置き換えることにより、及び(ii)ビタミンB12栄養補助食品のさらなる摂取が過剰になるようにビタミンB12を処方物に含めることにより、錠剤数減少が達成される。
【0009】
本発明の根本的な問題は、即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含む固体経口剤形により解決され、このコアは、少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬を含み、前記コーティングはビタミンB12を含む。
【0010】
固体経口剤形は、コーティングからビタミンB12を患者の胃に放出し、同時に錠剤の持続放出性コア中に含まれる薬物は主に患者の腸で放出される。この非常に特異的な放出パターンにより、有意義な形で患者の血液中のビタミンB12レベルが上昇するか又は維持される。
【0011】
ビタミンB12は、胃で放出される場合のみ吸収され得る。吸収のために、ビタミンB12は、内因子と複合体(B12-IF複合体)を形成しなければならない。求められる内因子は、胃に存在するが、腸にはない。胃の後に放出される場合(即ち腸)、ビタミンB12はあまり吸収されないか又は全く吸収されない。
【0012】
胃で放出させるために、ビタミンB12は、本発明の剤形の即時放出性コーティング中に含まれるべきである。しかし、損傷を与える光から保護するために、ビタミンB12はむしろ、コーティングの下のコア内に配置されるべきである。従って、等しく望ましくない2つの選択肢の間で困難な選択を行わなければならない。
【0013】
ビタミンB12の過剰量を添加する、及び/又は好ましくない短い有効期限を受け入れることは、このジレンマを解決するための1つの方法である。しかし、発明者らは、その光感受性にもかかわらず、即時放出性コーティング中にビタミンB12が含まれ得るようになる、ビタミンB12を光から保護するためのより洗練された技術的解決法を発見した。
【0014】
一実施形態では、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物は、本発明の即時放出性コーティング中に含まれる。ビタミンB12結晶と比較して、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物は、光安定性が向上している。従って、好ましい実施形態では、本発明の固体経口剤形は、即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含み、前記コアは少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬を含み、前記コーティングはビタミンB12の噴霧乾燥処方物を含む。本発明は、即時放出性コーティングを製造するためのビタミンB12の噴霧乾燥処方物の使用にも関し、前記即時放出性コーティングは、少なくとも部分的に、少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性錠剤コアを被覆する。
【0015】
或いは、ビタミンB12を含むコーティングの上に第2の保護層を付加し得る。このようなさらなる保護層は、ビタミンB12を光から保護し、任意選択的に二酸化チタン(TiO2)などの少なくとも1つの光保護剤を含む。
【0016】
本発明に関連して、ビタミンB12枯渇薬は好ましくはメトホルミンHClである。メトホルミンHClは、薬学的に許容可能なメトホルミンの塩であり、2型糖尿病の処置で主に使用される。2型糖尿病をさらにより効果的に処置するために、メトホルミンHClをエンパグリフロジンなどの第2の抗糖尿病薬と組み合わせ得る。
【0017】
有効性及び患者コンプライアンスを向上させるために、多剤混合薬(FDC)中で異なる機序により作用する2つの薬物を組み合わせ得る。本発明の好ましい実施形態は、メトホルミンHCl及びエンパグリフロジンなどの少なくとも1つのさらなる抗糖尿病薬のFDCに関する。従って、本発明の固体経口剤形は、好ましくは、即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含み、
前記コアはメトホルミンHClを含み、
前記コーティングは、ビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物及び好ましくはエンパグリフロジンである少なくとも1つのさらなる抗糖尿病薬を含む。
【0018】
さらにより効果的にメトホルミン誘導性のビタミンB12欠乏を予防又は処置するために、少なくとも1つのイオン性カルシウムの供給源が、任意選択的に、固体経口剤形の持続放出性コア中に含まれ得る。イオン性カルシウムは、B12-IF複合体が回腸細胞表面受容体に結合するために必須である。メトホルミンなどの薬物は、粘膜細胞膜に対してカルシウムと競合し、従ってビタミンB12吸収不良を誘発する。前記ビタミンB12吸収不良は、少なくとも部分的にイオン性カルシウムで回復可能である。
【0019】
ビタミンB12を胃で放出させようとするのと同時に(及び従って剤形の即時放出性コーティングの一部でなければならない)、イオン性カルシウムの供給源は、剤形中の何れかの場所に配置され得る(例えばコーティング内及び/又はコア内)。しかし、イオン性カルシウムの殆どの供給源がかなりの量のスペースを必要とするので、カルシウムイオンの少なくとも1つの供給源は、好ましくは固体経口剤形の持続放出性コア中に含まれる。従って、本発明の固体経口剤形は、好ましくは、即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含み、
前記コアは、メトホルミン又は薬学的に許容可能なその塩及び少なくとも1つのイオン性カルシウムの供給源を含み、
前記コーティングはビタミンB12を含む。
【0020】
イオン性カルシウムの供給源として、何らかの薬学的に許容可能なカルシウム塩を使用し得る。しかし、持続放出性錠剤コア中に含まれる場合、カルシウム塩は、好ましくはクエン酸のカルシウム塩である。持続放出性錠剤コアは、少なくとも部分的に溶けずに患者の腸に到達し、そのため、錠剤コア内のカルシウム塩は腸液中で十分に可溶性であるべきである。クエン酸のカルシウム塩は、腸液中で良好な又はさらに優れた溶解性を有する。従って、本発明の固体経口剤形は、好ましくは、即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含み、
前記コアは、メトホルミン又は薬学的に許容可能なその塩及びクエン酸カルシウムを含み、
前記コーティングは、ビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物を含む。
【0021】
さらにより好ましい実施形態では、本発明の固体経口剤形は、好ましくは即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含み、
前記コアは、メトホルミンHCl及びクエン酸カルシウムを含み、
前記コーティングは、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物及び好ましくはエンパグリフロジンである少なくとも1つのさらなる抗糖尿病薬を含む。
【0022】
本発明は、メトホルミン誘導性ビタミンB12欠乏の処置又は予防における使用など、薬剤としての本明細書中に記載の固体経口投与量の使用にも関する。
【0023】
最終的に、本発明は、持続放出性錠剤コア及び少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬を含む固体経口剤形を製造する方法にも関し、前記持続放出性錠剤コアは、ビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物を含む即時放出性コーティングとともに提供される。
【0024】
[発明の詳細な説明]
本発明は、胃でビタミンB12を放出し、腸で長時間にわたりビタミンB12枯渇薬を放出する固体経口剤形に関する。ビタミンB12枯渇薬は好ましくはメトホルミンHClである。
【0025】
[定義]
「含む(comprising)」という用語は、オープンな用語である。従って、本明細書中に記載の固体経口剤形は、2つ以上のコーティングを含み得る。例えば、これは、2つのコーティングを含み得、内側のコーティングは、ビタミンB12の供給源を含み、外側のコーティングは、内側のコーティングのビタミンB12を光から保護する保護層である。同様に、本明細書中に記載の固体経口投与量は、カルシウムイオンの2つ以上の供給源を含み得る。例えばこれは、クエン酸カルシウム及び無水リン酸二カルシウムを含み得る。後者は、メトホルミンHClを造粒する際に有用であり、メトホルミンで処置されている患者によるビタミンB12の吸収も増加させ得る。従って、無水リン酸二カルシウムは、二重の機能性を有し得る。
【0026】
「固体経口医薬剤形」という用語は、錠剤、顆粒剤カプセル及びサシェなどの剤形を指す。好ましくは、この用語は、少なくとも1つの即時放出性コーティングで覆われる持続放出性コアを含む錠剤又は顆粒剤を指す。空のカプセル殻に又はサシェなどの何れかの他の容器に顆粒剤が充填され得る。最も好ましくは、「固体経口医薬剤形」という用語は、少なくとも1つの即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含む錠剤を指す。
【0027】
本発明との関連において、「コーティング」は、好ましくはフィルムコーティングである。一般的には、本発明の即時放出性コーティングは、溶解されていない粒子を含む。前記粒子は、ビタミンB12結晶又はビタミンB12を含む噴霧乾燥粒子であり得る。従って、ビタミンB12は赤色なので、本発明のコーティングは、赤い点を含み得る。
【0028】
本発明との関連において、「持続放出」という用語は、投与頻度の減少に関する。本発明との関連において、「持続放出」は、ビタミンB12枯渇薬を指し、投与頻度(及び従って錠剤数)を減少させ得るように、少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬(例えばメトホルミンHCl)が長時間にわたり身体においてゆっくり放出されることを意味する。このような製品の例は、1日1回経口摂取する必要があるSYNJARDY(登録商標)XRである。メトホルミンHClを含有する、しかし持続放出性ではない同じ医学的適用に対する他の製品(GLUCOPHAGE(登録商標)など)は、1日に3回又はさらには4回摂取する必要がある。本発明の持続放出性錠剤コアは、遅延時間があってもよいし又はなくてもよい。例えば、少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬の放出は、錠剤が胃を通過するまで遅延させられ得、次に長時間にわたり腸で放出される。しかし、遅延時間がある場合でさえも、本発明の固体経口剤形は一般的に腸溶性コーティングされていない。
【0029】
本発明の「即時放出性コーティング」は、ビタミンB12及び任意選択的にエンパグリフロジンなどの少なくとも1つのさらなる有効活性成分(API)を含む。従って、コーティングが溶解されているか又は何らかの他の方式で破壊される場合、ビタミンB12及び何らかのさらなる任意選択的なAPIが身体に放出される。本発明の固体剤形の経口投与後、このコーティングは、ビタミンB12及び何らかのさらなる任意選択的なAPIの(全てではないとしても)殆どが、投与される固体経口剤形の残りが腸に到達する前に胃に放出されるように、遅延なく胃液により破壊される。好ましい実施形態では、本発明の即時放出性コーティングは、胃へのビタミンB12及び任意選択的なエンパグリフロジンの放出を可能にする。
【0030】
任意選択的な本発明の「保護コーティング」は、少なくとも部分的に本発明の即時放出性コーティングを被覆する(即ち外側のコーティングである)。本発明の固体剤形の経口投与後、本発明の即時放出性コーティングへと(即ち内側のコーティングへと)胃液が素早く接近できるように、遅延なく保護コーティングが胃液により破壊される。従って、本発明の保護コーティングは、腸溶性コーティングではない。本発明の保護コーティングの主たる目的は、内側のコーティングのビタミンB12を光から保護することである。従って、保護コーティングは、好ましくは少なくとも1つの光保護剤を含む。好ましくないものの、これはエンパグリフロジンなどの何らかの他のAPIも含み得る。
【0031】
本発明の固体医薬剤形は、好ましくは微結晶セルロース(MCC)を含む。MCCは、セルロースの酸加水分解により調製される周知の賦形剤である。工業スケールの場合、MCCは、希釈鉱酸を使用した木材及び/又はコットンセルロースの加水分解により得られる。次に処理済みパルプをすすぎ、製粉などのさらなる工程段階あり又はなしで噴霧乾燥させる。多くのタイプの微結晶セルロース(MCC)が市販されている。本発明との関連において、「微結晶セルロース」という用語は、T.Vehovec et al.:“Influence of different types of commercially available microcrystalline cellulose on degradation of perindopril erbumine and enalapril maleate in binary mixtures”,Acta Pharm.62(2012),page 518の表1で列挙される賦形剤などの部分的脱重合セルロースからなるあらゆるタイプの微結晶セルロースを含む。PROSOLV(登録商標)SMCCなどのケイ化微結晶セルロースも含まれる。本発明との関連において、「ケイ化微結晶セルロース」という用語は、微結晶セルロース(MCC)及び二酸化ケイ素、例えばコロイド状二酸化ケイ素(CSD)などを含む賦形剤を指す。
【0032】
ビタミンB12は、周知の水溶性ビタミンである。本発明との関連において、「ビタミンB12」という用語は、ビタミンB12の何らかのビタマーを指し、ビタミンB12誘導体及び/又はビタミンB12の代謝産物を含む。好ましくは、しかし、「ビタミンB12」という用語はシアノコバラミンを指す。シアノコバラミンは、適切な微生物を使用して発酵により産生され得る。
【0033】
「結晶性ビタミンB12」は、結晶の総重量に基づき少なくとも98重量%のビタミンB12を含む。一実施形態では、本発明の固体経口剤形は、結晶性ビタミンB12を全く含まない。
【0034】
本発明の本発明の(of the invention of the invention)固体経口剤形は、ビタミンB12の少なくとも1つの噴霧乾燥処方物を含み得る。「ビタミンB12の噴霧乾燥処方物」という表現は、ビタミンB12及び少なくとも1つの賦形剤を含む水溶液の噴霧乾燥により入手可能である粉末を指し、ここで前記少なくとも1つの賦形剤は、好ましくはクエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸、マルトデキストリン クエン酸及び加工食用デンプンからなる群から選択される。本発明の好ましい実施形態では、「ビタミンB12の噴霧乾燥処方物」という表現は、シアノコバラミン及び少なくとも1つの賦形剤を含む水溶液を噴霧乾燥することにより入手可能である粉末を指し、ここで前記少なくとも1つの賦形剤は好ましくはクエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸、マルトデキストリン及び加工食用デンプンからなる群から選択される。
【0035】
ビタミンB12結晶は、結晶の総重量に基づき少なくとも98重量%のビタミンB12含量を有する。少なくとも1つの賦形剤が存在するため、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物は、噴霧乾燥処方物の総重量に基づき90重量%未満のビタミンB12を含む。ビタミンB12の噴霧乾燥処方物中のビタミンB12の正確な濃度は、噴霧乾燥処方物中の賦形剤の量に依存する。好ましくは、本発明のビタミンB12の噴霧乾燥処方物は、噴霧乾燥処方物の総重量に基づき1重量%以下のビタミンB12を含む。当業者は、ビタミンB12不含のビタミンB12の噴霧乾燥処方物は除外されることを理解する。また好ましくは、本発明のビタミンB12の噴霧乾燥処方物は、粉末の総重量に基づき1重量%以下のシアノコバラミンを含む水溶性粉末又は水分散性粉末でもある。当業者は、ビタミンB12不含の粉末が排除されることを理解する。本発明の最も好ましい実施形態では、「ビタミンB12の噴霧乾燥処方物」という表現は、シアノコバラミン及び少なくとも1つの賦形剤を含む水溶液を噴霧することにより入手可能である粉末を指し、ここで前記賦形剤は好ましくはクエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸、マルトデキストリン及び加工食用デンプンからなる群から選択され、前記粉末は、粉末の総重量に基づき1重量%以下のシアノコバラミンを含む。繰り返すが、当業者は、ビタミンB12不含の粉末が排除されることを理解する。
【0036】
本発明との関連において、「メトホルミン」という用語は、メトホルミン又は薬学的に許容可能なその塩を指す。恐らく最もよく知られる薬学的に許容可能なメトホルミンの塩はメトホルミンHClである。従って、本発明の最も好ましい実施形態では、「メトホルミン」という用語は、メトホルミンHClを指す。
【0037】
メトホルミンHClは、成形性及び流動性に乏しい。従って、メトホルミンHClは、好ましくは打錠前に造粒される。このような造粒工程中、メトホルミンは、圧縮し易く、自由流動性があり、基本的に無塵の顆粒に変換される。本発明との関連において、「粒状メトホルミン」という用語は、メトホルミンHClと、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と、を含む顆粒剤を指す。賦形剤は特に制限されない。しかし、参照により本明細書によって組み込まれる欧州特許第2938362号明細書の教示に従う場合、良好な品質の粒状メトホルミンが得られる。
【0038】
本発明との関連において、「カルシウム塩」という用語は、何らかの薬学的に許容可能なカルシウム塩を指す。従って、この用語は、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及びクエン酸カルシウムを含む。炭酸カルシウムは、式CaCOを有する化学的化合物である。「クエン酸カルシウム」という用語は、クエン酸一カルシウム、クエン酸二カルシウム及びクエン酸三カルシウムを含む。既知のクエン酸三カルシウム塩としては、無水クエン酸カルシウム(即ちCa(C))及び二クエン酸三カルシウム四水和物(即ち[Ca(C(HO)]・2HO)が挙げられる。「リン酸カルシウム」という用語は、無水リン酸カルシウム及び水和リン酸カルシウムを含む。無水リン酸カルシウム、無水リン酸一カルシウム(Ca(HPO)、無水リン酸二カルシウム(CaHPO)又は無水リン酸三カルシウム(Ca(PO)は公知である。本発明の最も好ましい実施形態では、カルシウム塩という用語は、無水リン酸二カルシウム(CaHPO)を指す。
【0039】
[持続放出性コア]
本発明の固体経口剤形は、好ましくは持続放出性錠剤コアである持続放出性コアを含む。前記コアの目的は、ビタミンB12枯渇薬の投与頻度を減少させ得るような、少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬の長時間にわたる放出である。
【0040】
持続放出性コアは、それが長時間にわたり身体においてゆっくりと少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬を放出する限り、あらゆる公知の製造方法により製造され得る。従って、これは、例えば造粒、押出又は圧縮により製造され得る。好ましくは、本発明の持続放出性コアは、錠剤プレスでの圧縮により製造される持続放出性錠剤コアである。
【0041】
本発明の持続放出性コア及び特に本発明の持続放出性錠剤コアは、好ましくは少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と、を含む。より好ましくは、これは、メトホルミン又は薬学的に許容可能なその塩と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と、を含む。最も好ましくは、これは、メトホルミンHClと、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と、を含む。
【0042】
好ましい薬学的に許容可能な賦形剤は、制御放出剤(ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、希釈剤(微結晶セルロース及びケイ化微結晶セルロースなど)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム及びベヘン酸グリセリルなど)及びカルシウム塩である。特に好ましい薬学的に許容可能な賦形剤は、75重量%微結晶セルロース及び25重量%無水リン酸二カルシウムの組み合わせであることが知られるAvicel(登録商標)DGである。
【0043】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の持続放出性錠剤コアは、粒状メトホルミンHClを含む混合物を圧縮することにより得られる。粒状メトホルミンHClは、Vistin Pharma(ノルウェー、オスロ)で市販されているか、又は欧州特許第2938362B1号明細書で開示されるようなAvicel(登録商標)DGを使用することによって製造され得る。
【0044】
好ましい本発明の持続放出性錠剤コアは、少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬と、少なくとも1つの制御放出剤と、少なくとも1つの希釈剤と、少なくとも1つの滑沢剤と、任意選択的に少なくとも1つのカルシウムイオン供給源と、を含み、ここで前記カルシウムイオン供給源は、好ましくはカルシウム塩であり、前記カルシウム塩は、好ましくはリン酸カルシウム、炭酸カルシウム及びクエン酸カルシウムからなる群から選択され、前記カルシウム塩は、より好ましくは無水クエン酸カルシウム、二クエン酸三カルシウム四水和物、無水リン酸一カルシウム、無水リン酸二カルシウム、無水リン酸三カルシウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択される。
【0045】
少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬がメトホルミン又は薬学的に許容可能なその塩の場合、カルシウムイオン供給源は、好ましくはクエン酸カルシウム、より好ましくは無水クエン酸カルシウム、二クエン酸三カルシウム四水和物又はその混合物である。これは、クエン酸カルシウムに加えて、さらなるカルシウムイオン供給源を添加する可能性を排除しない。例として、メトホルミンHClがAvicel(登録商標)DGとともに造粒される場合、本発明の持続放出性錠剤コアは、メトホルミンHClと、少なくとも1つの制御放出剤と、少なくとも1つの滑沢剤と、少なくとも1つの希釈剤(好ましくは微結晶セルロースである)と、第二リン酸カルシウム無水物と、クエン酸カルシウムと、を含み、前記クエン酸カルシウムは、好ましくは無水クエン酸カルシウム、二クエン酸三カルシウム四水和物又はそれらの混合物である。
【0046】
少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬がメトホルミンではない場合、本発明の持続放出性錠剤コアは、カルシウムイオン供給源を含み得るが含む必要はない。カルシウムイオンがビタミンB12のメトホルミン誘導性の吸収不良を覆す一方で、カルシウムイオンは、何らかの他のビタミンB12枯渇薬により誘導される吸収不良を覆してもよいし又は覆さなくてもよい。しかし、カルシウムイオンが吸収不良を覆さないとしても、他のビタミンB12枯渇薬はまた、Avicel(登録商標)DGなどの賦形剤とともに造粒することから恩恵を受け得る。従って、本発明の持続放出性錠剤コアは、ビタミンB12枯渇薬がメトホルミンでないとしても、カルシウム塩を含み得る。
【0047】
本発明の持続放出性錠剤コアの放出速度は、薬学的に許容可能な賦形剤によって、及び特に制御放出剤によって制御されるが、-驚くべきことに-クエン酸カルシウムによるものではない。従って、クエン酸カルシウムは好ましいカルシウムイオン供給源である。
【0048】
好ましい実施形態では、本発明の固体経口剤形の経口摂取後、40重量%未満、より好ましくは30重量%未満、さらにより好ましくは20重量%未満、最も好ましくは10重量%未満のビタミンB12枯渇薬が空腹状態の患者の胃で放出される。
【0049】
腸において、メトホルミンは、粘膜細胞膜に対してカルシウムイオンと競合する。従って、より大量のカルシウムイオンは、より少量のカルシウムイオンよりもビタミンB12の吸収を大きく増加させる(飽和に達しない限り)。好ましい本発明の持続放出性錠剤コアは、0.0001~0.012molのCa2+、好ましくは0.0003~0.006molのCa2+、最も好ましくは0.0005~0.001molのCa2+を含む。
【0050】
本発明の根底にある1つの問題は、市販の組み合わせ薬SYNJARDY(登録商標)XRの改良型の提供である。最良のシナリオでは、このような改良版のパッケージリーフレットは、もはや、長期処置がビタミンB12欠乏を引き起こし得ることを警告する必要はない。SYNJARDY(登録商標)XRは、1000mgメトホルミンHClを含む。従って、好ましい本発明の持続放出性錠剤コアは、1000mgのメトホルミンHClと、0.0001~0.012molのCa2+、好ましくは0.0003~0.006のCa2+、最も好ましくは0.0005~0.001molのCa2+を含む。
【0051】
本発明の固体経口剤形は、本発明の持続放出性コア、好ましくは本発明の持続放出性錠剤コアを含む。従って、本発明の好ましい実施形態は、即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含む固体経口剤形に関し、
前記持続放出性錠剤コアは、500mg~1000mgのメトホルミンHClと、50mg~300mgのクエン酸カルシウムと、少なくとも1つの制御放出剤と、少なくとも1つの希釈剤と、少なくとも1つの滑沢剤と、を含み、
前記クエン酸カルシウムは、好ましくは無水クエン酸カルシウム、二クエン酸三カルシウム四水和物又はそれらの混合物であり、
前記即時放出性コーティングは、ビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物を含み、
前記持続放出性錠剤コアは、1000mgのメトホルミンHClを含む。
【0052】
[コーティング]
本発明の固体経口剤形は、少なくとも1つのコーティングを含む。これが1つのコーティングのみを含む場合、前記コーティングは本明細書中に記載の即時放出性コーティングである。ビタミンB12を患者の胃で放出させるためには、1つの即時放出性コーティングで十分である。それにもかかわらず、本発明の固体経口剤形は、本明細書中に記載のように複数(例えば2つ又は3つ)の即時放出性コーティングを含み得る。このようなあまり好ましくない実施形態では、即時放出性コーティングのそれぞれは、患者の胃にビタミンB12を放出する。
【0053】
少なくとも1つの即時放出性コーティングに加えて、本発明の固体経口剤形は、本明細書中に記載の保護コーティングを任意選択的に含む。即時放出性コーティング中に含有されるようなビタミンB12を光から保護するためには1つの保護コーティングで十分である一方で、本発明の固体経口剤形は、本明細書中に記載されるように複数(例えば2つ又は3つ)の保護コーティングを含み得る。好ましくは、本発明の固体経口剤形は、固体経口剤形の経口投与時に患者の唾液と接触する1つの保護コーティングを含む。
【0054】
保護コーティングにもかかわらず、固体経口剤形の経口摂取後、固体経口剤形中のビタミンB12の総重量に基づき、ビタミンB12の好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、さらにより好ましくは少なくとも85重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%が空腹状態の患者の胃で放出されるように、ビタミンB12が胃に迅速に放出される。そのため、示される重量%はB12ビタマーシアノコバラミンに関連した。従って、即時放出性コーティングがビタミンB12の噴霧乾燥処方物を含む場合、示される重量%は、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物中のシアノコバラミンの総量に関連した。
【0055】
好ましくは、本発明の固体経口剤形は、1つの即時放出性コーティング及び1つの保護コーティングを含み、前記即時放出性コーティングは、ビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物を含み、前記保護コーティングは、即時放出性コーティングのビタミンB12を光から保護する。そうするために、保護コーティングは、好ましくは二酸化チタンなどの少なくとも1つの光保護剤を含む。
【0056】
即時放出性コーティングがビタミンB12の噴霧乾燥処方物を含む場合、前記ビタミンB12の噴霧乾燥処方物は、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物の総重量に基づき、好ましくは0.01~1重量%、より好ましくは0.05~0.5重量%、最も好ましくは0.1重量%のシアノコバラミンを含む。
【0057】
安全に関して、エビデンスが十分である場合、「忍容可能な上限摂取レベル」(ULとして知られる)がビタミン及びミネラルに対して設定される。ビタミンB12の場合、高用量からの有害効果に対するヒトのデータがないので、ULはない。従って、即時放出性コーティング中のビタミンB12(又は即時放出性コーティング中に2つ以上ある場合)の総量は特に制限されない。しかし、本発明の好ましい実施形態は、即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含む固体経口剤形に関し、
前記持続放出性錠剤コアは少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬を含み、
前記即時放出性コーティングは、1μg~10μgのシアノコバラミン、より好ましくは1μg~6μgのシアノコバラミン、最も好ましくは1μg~4μgのシアノコバラミンを含む。それにより、前記シアノコバラミンが、結晶性ビタミンB12として、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物として、又はその混合物として添加され得る。
【0058】
任意選択的に、即時放出性コーティング及び/又は保護コーティングは、少なくとも1つのさらなる有効活性成分(API)を含み得る。任意選択的なさらなるAPIが存在する場合、これは、好ましくは即時放出性コーティング中に含まれる。
【0059】
少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬がメトホルミンHClである場合、任意選択的なさらなるAPIは、好ましくはエンパグリフロジン又は薬学的に許容可能なその塩である。本発明の好ましい実施形態は、即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含む固体経口剤形に関し、
前記持続放出性錠剤コアは、1000mgのメトホルミンHClと、任意選択的に少なくとも1つのカルシウムイオン供給源と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と、を含み、
前記即時放出性コーティングは、1μg~10μgのシアノコバラミン、より好ましくは1μg~6μgのシアノコバラミン、最も好ましくは1μg~4μgのシアノコバラミンを含み、
前記即時放出性コーティングは、5mg~25mgのエンパグリフロジンを含み、前記即時放出性コーティングは、5mgのエンパグリフロジン又は10mgのエンパグリフロジン又は12.5mgのエンパグリフロジン又は25mgのエンパグリフロジンを含み、
前記即時放出性コーティングは、少なくとも部分的に保護コーティングによって被覆され、
前記固体経口剤形の持続放出性錠剤コアは、任意選択的に少なくとも1つのカルシウム塩を含み、前記カルシウム塩は好ましくはクエン酸カルシウムであり、前記クエン酸カルシウムは好ましくは無水クエン酸カルシウム又は二クエン酸三カルシウム四水和物である。
【0060】
[製造の方法]
本発明は、持続放出性コアと少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬とを含む固体経口剤形を製造する方法にも関し、前記持続放出性コアは、ビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物を含む即時放出性コーティングとともに提供される。それにより、前記持続放出性コアは、好ましくは持続放出性錠剤コアである。
【0061】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、次の段階:
a)少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬と、任意選択的に少なくとも1つのカルシウムイオン供給源と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と、を含む持続放出性錠剤コアを提供すること、及び
b)ビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物を含む即時放出性コーティングとともに段階a)の持続放出性錠剤コアを提供すること
を含み、
前記少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬は、メトホルミン又は薬学的に許容可能なその塩であり、前記少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬は、より好ましくはメトホルミンHClであり、
前記少なくとも1つのカルシウムイオン供給源は、好ましくはカルシウム塩であり、前記カルシウム塩は、好ましくは、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及びクエン酸カルシウムからなる群から選択され、前記カルシウム塩は、より好ましくは無水クエン酸カルシウム、二クエン酸三カルシウム四水和物、無水リン酸一カルシウム、無水リン酸二カルシウム、無水リン酸三カルシウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択される。
【0062】
段階a)は、好ましくは少なくとも1つのカルシウム塩及び任意選択的に微結晶セルロースとの少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬の乾式造粒の段階を含み、前記カルシウム塩は、好ましくはリン酸カルシウムであり、前記カルシウム塩は最も好ましくは無水リン酸二カルシウムである。
【0063】
段階b)は、好ましくは液体即時放出性コーティングを段階a)の持続放出性錠剤コア上に噴霧することにより行われる。前記液体即時放出性コーティングは、好ましくは、溶媒(例えばエタノール)及び少なくとも1つの薬学的に許容可能な結合剤とビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物を混合することにより得られる。
【0064】
ビタミンB12の噴霧乾燥処方物はビタミンB12を光から保護する。従って、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物は、液体即時放出性コーティング中でインタクト/不溶性のままであるはずである。これは、適切な方式で溶媒を選択することによって達成され得る。ビタミンB12及び市販のビタミンB12の噴霧乾燥処方物の両方とも、エタノール中で殆ど又は全く溶けないので、好ましい溶媒はエタノールである。ビタミンB12は赤色であるため、持続放出性錠剤コアは、任意選択的な保護コーティングで被覆される前に裸眼で見え得る赤いスポットを有し得る。
【0065】
液体即時放出性コーティングは、好ましくはエンパグリフロジンであるさらなる有効活性成分又は薬学的に許容可能なその塩も含み得る。従って、本発明の方法は、好ましくは次の段階:
a)メトホルミンHClと、少なくとも1つのカルシウム塩と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と、を含む持続放出性錠剤コアを提供する、及び
b)エンパグリフロジン及びビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物を含む即時放出性コーティングとともに段階a)の持続放出性錠剤コアを提供する、段階を含み、
前記カルシウム塩は好ましくはクエン酸カルシウムであり、前記クエン酸カルシウムは、好ましくは無水クエン酸カルシウム又は二クエン酸三カルシウム四水和物である。
【0066】
本発明は、即時放出性コーティングを製造するためのビタミンB12の噴霧乾燥処方物の使用にも関し、前記即時放出性コーティングは、少なくとも部分的に少なくとも1つのビタミンB12枯渇薬を含む持続放出性コアを被覆し、前記持続放出性コアは好ましくは持続放出性錠剤コアである。
【0067】
[固体経口剤形の使用]
本発明は、薬剤としての使用のための本明細書中に記載の固体経口剤形にも関する。本明細書中に記載の固体経口剤形は、好ましくはメトホルミンHClを含む。従って、本発明の一実施形態は、即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含む固体経口剤形に関し、
前記持続放出性錠剤コアは、メトホルミンHClと、任意選択的に少なくとも1つのカルシウムイオン供給源と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と、を含み、
前記即時放出性コーティングは、ビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物を含み、
メトホルミンを必要とする患者の処置における使用のためのものである。
【0068】
糖尿病に罹患している患者は、メトホルミンを必要とし得る。従って、本発明は、糖尿病の処置における使用のための本明細書中に記載の固体経口剤形にも関する。本発明の好ましい実施形態は、即時放出性コーティングで覆われる持続放出性錠剤コアを含む固体経口剤形に関し、
前記持続放出性錠剤コアは、メトホルミンHClと、任意選択的に少なくとも1つのカルシウムイオン供給源と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と、を含み、
前記即時放出性コーティングは、エンパグリフロジンと、ビタミンB12又はその噴霧乾燥処方物と、を含み、
糖尿病の処置における使用のためのものである。
【0069】
本発明は、薬物誘導性ビタミンB12欠乏の処置又は予防のための方法にも関し、この方法は、本明細書中に記載の固体経口剤形を投与する段階を含む。好ましい実施形態では、本発明は、メトホルミン誘導性ビタミンB12欠乏の処置又は予防のための方法に関し、前記方法は、本明細書中に記載の固体経口剤形を投与する段階を含む。
【0070】
メトホルミンでの長期処置は、末梢ニューロパチーを引き起こし得る血清ビタミンB12レベルの低下と関連付けられている。従って、本発明は、メトホルミン誘導性の末梢ニューロパチーの予防のための方法にも関し、前記方法は、本明細書中の固体経口剤形を投与する段階を含む。代替的な実施形態は、メトホルミン誘導性末梢ニューロパチーの予防における使用のための、本明細書中に記載のような固体経口剤形に関する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1図1は、メトホルミンHClを含む非コーティング錠剤コアの空腹時人工胃液(FaSSGF)中における溶解プロファイルを示す。2種類のコアを試験した:カルシウム塩あり及びなし。2種類のコアの組成は表2a及び2bで与える。
図2図2は、メトホルミンHClを含む非コーティング錠剤コアの空腹時人工腸液(FaSSIF)中における溶解プロファイルを示す。同じ2つのタイプのコアを図1で示される実験のように試験した。
図3a図3a、3b及び3cは、コーティング錠剤コアの溶解プロファイルに関する。コーティングは、ビタミンB12の供給源を含む。2種類のビタミンB12の供給源を試験した:結晶性ビタミンB12及びビタミンB12の噴霧乾燥処方物。従って、2種類のコーティングコアを試験した。2種類のコーティングの組成は、表5a及び5bで示される。図3aは、結晶性ビタミンB12に関する、FaSSGF中におけるメトホルミン及びエンパグリフロジンの溶解プロファイルを示す。
図3b図3bは、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物に関する、FaSSGF中におけるメトホルミン及びエンパグリフロジンの溶解プロファイルを示す。
図3c図3cは、FaSSGF中における2種類のコーティングからのエンパグリフロジン溶解の比較を示す。
図4a図4a、4b及び4cは、図3a、3b及び3cで示されるものと同様の実験に関する。しかし、これらの実験に対して、FaSSGFの代わりにFaSSIF中で溶解プロファイルを測定した。図4aは、結晶性ビタミンB12に関する、FaSSIF中におけるメトホルミン及びエンパグリフロジンの溶解プロファイルを示す。
図4b図4bは、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物に関する、FaSSIF中におけるメトホルミン及びエンパグリフロジンの溶解プロファイルを示す。
図4c図4cは、FaSSIF中における2種類のコーティングからのメトホルミン溶解の比較を示す。
【0072】
[実施例]
[実施例1(好ましいイオン性カルシウム供給源の選択)]
実施例1において、ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分析)によるCa2+イオン含量の決定を介して、人工腸液中で4つの異なるカルシウム塩の溶解度を分析した。
【0073】
カルシウム塩は:
- 炭酸カルシウム(95MD、Particle Dynamicsで入手可能)、
- リン酸二カルシウム無水物(DiCafos A150、Budenheimで入手可能)、
- 二クエン酸三カルシウム四水和物(Merckで入手可能)
- 無水クエン酸カルシウム(Gadotで入手可能)であった。
【0074】
可溶化液は、
- SIF(人工腸液、pH=6.8、Ph.Eur.に従い調製)であった。
【0075】
溶解液を37℃に加熱し、この温度で分析を行った。分析中、可溶化液にアクセスして塩を添加し、24時間混合し続けた。その後、溶液をろ過し、ATR-IR分析を使用して沈殿物を調べて、出発物質(例えば個々のCa塩)の存在を確認した。減衰全反射(ATR)は、さらなる調製なく固体又は液体状態で直接試料を調べることを可能にする赤外線分光学と組み合わせて使用されるサンプリング技術である。Ca2+イオン含量について、ろ過した溶液を分析した。得られた溶解度の結果を表1で示す。
【0076】
【表1】
【0077】
ビタミンB12のインビボ吸収のためには、ビタミンB12-IF複合体が形成される必要があり、次にそれが回腸において腸細胞受容体に結合する。この過程のために、患者の回腸にカルシウムイオンが存在するべきである。
【0078】
本発明の錠剤コアは持続放出性錠剤コアなので、これは、部分的に又は完全に溶解せずに、患者の腸に到達する。コアがカルシウム塩を含む場合、前記カルシウム塩は、また部分的に又は完全に溶解せずに、患者の腸に到達する。回腸で不溶のままであるカルシウム塩は、ビタミンB12の吸収を顕著には上昇させない。従って、持続放出性コア中に含まれる何れのカルシウム塩も、腸液中で十分に可溶性であるべきである。
【0079】
実施例1は、クエン酸カルシウム塩が腸液中で十分に可溶性であることを示す。従って、二クエン酸三カルシウム四水和物及び無水クエン酸カルシウムなどのクエン酸カルシウム塩は、本発明の持続放出性錠剤コア中に含まれるのに特に適切である。
【0080】
[実施例2(カルシウム塩あり及びなしでの、非コーティング持続放出性メトホルミンコアの調製)]
メトホルミンコアの打錠混合物に対して、ステアリン酸マグネシウム及びベヘン酸グリセリル(外側の相)を除いて、表2a及び2bで列挙される個々の構成成分を2.5L粉末ガラスボトルに注ぎ、Turbula 3Dミキサー/ブレンダー(WAB plc.スイス、Muttenz)を使用して、32rpmで16分間ブレンドした。その後、500ミクロンのメッシュサイズの篩を通じてステアリン酸マグネシウム及びベヘン酸グリセリルを篩にかけ、前のブレンド物に添加した。32rpmで4分間のさらなるブレンド後、この最終打錠混合物をKorsch plc.(ドイツ、ベルリン)からのXP1偏心プレスに移した。
【0081】
クエン酸カルシウムなしの錠剤コアの場合の組成の唯一の相違である14.5重量%クエン酸Caは、さらなるProsolv SMCC 90の添加で代償(補充)した(~20.4重量%、cf.表2b)。
【0082】
表2aは、クエン酸カルシウムありの錠剤コアの場合の組成を示す。
【0083】
全てのコアに対して、31.52±1.16kNの平均圧縮力及び10錠/分の打錠スピードを使用した。
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
使用したパンチは、直径が20mmであり、2枚の円形の平らで切り込みがある側面があった。1.50gの錠剤重量を標的とし、得られたコア特性を表3で列挙する。Mettler Toledo ltd.(スイス、Greifensee)からのPB 303-LDR Delta Range天秤上で錠剤重量を記録した。Erweka ltd.(ドイツ、Heusentamm)からの錠剤硬度試験器TBH 220 TDを用いて破壊力及び錠剤の高さを測定した。Erweka ltd.(ドイツ、Heusenstamm)からのTA 120摩損度試験器を使用してUSP <1216>(10個の錠剤を25rpmで100回転)に従い、摩損度試験を行った。
【0087】
【表4】
【0088】
[実施例3(カルシウム塩あり及びなしでの非コーティング持続放出性メトホルミンコアの溶解データ)]
実施例3において、メトホルミンHClの放出に対するカルシウム塩添加の効果を試験した。
【0089】
Erweka ltd.(ドイツ、Heusenstamm)からのUSP2装置DT600 HH上で3つ組で溶解試験を行った。75rpmのパドル速度及び37℃の温度を使用した。得られた溶解プロファイルを図1及び2で示す。各コアに対する溶解液として、空腹時人工胃液(FaSSGF)空腹時人工腸液(FaSSIF)900mlを使用した。
【0090】
[生体模倣液FaSSIF及びFaSSGFの調製]
組成の詳細な全体像を表4で示す。1リットルのFaSSIF緩衝液に対して、0.420gの水酸化ナトリウムペレット(Sigma-Aldrich Chemie plc.;スイス、Buchs)、3.954gの無水リン酸二水素ナトリウム(Sigma-Aldrich Chemie plc.;スイス、Buchs)及び6.186gの塩化ナトリウム(Sigma-Aldrich Chemie plc.;スイス、Buchs)を1リットルの精製水中で溶解させた。1M塩酸(Merck KGaA.;ドイツ、Darmstadt)でpH値を調整した。最後に、2.240gのSIF粉末(Biorelevant.com ltd.;英国、ロンドン)を総体積1Lの緩衝液中で溶解させた。磁気撹拌プレート上での撹拌2時間後、FaSSIFはすぐ使用できる状態になった。
【0091】
生体関連液FaSSGFに対する1リットルの緩衝液中で、1.999g塩化ナトリウム(Sigma-Aldrich Chemie plc.;スイス、Buchs)を1リットルの精製水中で溶解させた。1M塩酸(Merck KGaA.;ドイツ、Darmstadt)でpH値を調整した。最終的に、総体積1Lの緩衝液中で0.0597gのSIF粉末(Biorelevant.com ltd.;英国、ロンドン)を溶解させた。この液に対して使用した精製水は、Satorius Lab Instruments GmbH & Co.KG(ドイツ、ゲッティンゲン)からのarium Proで処理し、伝導率は25℃で≦0.055μS/cmであった。
【0092】
【表5】
【0093】
異なる時点で2mlの試料を採取し(図1及び2参照)、2mlのFaSSGF又はFaSSIFですぐに補充することによって溶解容器中の体積を一定に維持した。infochroma plc.(スイス、Goldau)からのTitan PTFEシリンジフィルター(17mm;0.45μm)を通じて試料をろ過し、2mlの褐色HPLCガラスバイアル(Wicom Germany ltd.、ドイツ、Heppenheim)中にすぐに封入した。
【0094】
[HPLC分析]
1ml/min流速及び20μLの注射体積でUV検出器を277nmで用いてAgilent Technologies ltd.(ドイツ、Waldbronn)からのHPLC 1200シリーズ機器上で逆相法を使用して、室温(RT)にて3つ組で薬物濃度を測定した。HPLCには、Agilent Technologiesからの疎水性C18カラム(ZORBAX Eclipse Plus、5μm、2.1×150mm)が備えられた。移動相として、50%(v/v)メタノール及び50%(v/v)リン酸緩衝液(pH3.0)を使用した。リン酸緩衝液に対して、6.8gのリン酸カリウム一塩基性を1リットルの精製水中で溶解させ、pHをリン酸(85%)で3.0に調整した。移動相に対して使用した全ての化学物質は、Sigma-Aldrich Chemie plc.(スイス、Buchs)から供給された。
【0095】
図1及び2は、実施例3で得られたデータを示す。
【0096】
[結論]
実施例3のデータは、非コーティング錠剤コアに関し、一方で本発明の固体経口剤形は、少なくとも1つの即時放出性コーティングで被覆される錠剤コアを含有する。従って、本発明の固体経口剤形の経口投与後、錠剤コアのコーティングを最初に溶解させる必要がある。図1で示されるデータ(FaSSGF)は、コーティングが溶解されたら起こることのシミュレーションに関する。図1で示されるように、患者の胃において(即ち胃液中で)、メトホルミンの限られた量しか錠剤コアから放出されない。図1は、クエン酸カルシウムの添加によって、胃液中におけるメトホルミン放出が僅かに遅れることも示す。メトホルミンの持続放出性処方物の提供が目標であるので、これは許容可能である。
【0097】
本発明の固体経口剤形の経口投与からおよそ30~60分後、少なくとも部分的に溶解されていない錠剤コア(コーティングなし;コーティングは胃で溶解されている)は、幽門を通じて患者の十二指腸に到達する。コアが胃から腸へと通過するために必要である正確な時間量は患者の状態(飽食又は空腹)に依存する。図2で示されるデータ(FaSSIF)は、少なくとも部分的に溶解されていない錠剤コアが患者の腸に到達したときに起こることのシミュレーションに関する。カルシウムあり及びなしのメトホルミンコアは、持続放出剤形の溶解プロファイルを示す。FaSSIF中で8時間後、クエン酸カルシウムなしのコアの場合はメトホルミンの89±3.5%及びクエン酸カルシウムがあるコアの場合はメトホルミンの93±1.3%が放出された。
【0098】
従って、クエン酸カルシウムの添加は、腸におけるメトホルミン放出に顕著な影響を与えない。これは、1日1回投与を可能にするメトホルミンの既存の承認された持続放出性処方物に対するラインエクステンションを求める場合、重要な態様である。メトホルミンの放出プロファイルを修正することなく、既存の承認された処方物に対してクエン酸カルシウムが添加され得ることが予想される。言い換えると、既存の承認された処方物にクエン酸カルシウムを添加する場合、生物学的に同等な処方物が得られることが予想される。
【0099】
[実施例4(カルシウム塩を含み、2つの異なるビタミンB12供給源を使用するコアのコーティング)]
実施例4において、本発明の好ましい実施形態による固体経口剤形を調製した。
【0100】
最初に、実施例2のものと同一のコアを製造した。コアの組成は、表2で示される組成と同一であり、即ちコアはメトホルミンHCl及び二クエン酸三カルシウム四水和物を含んだ。次にこのようにして得られた持続放出性コアをコーティングした。
【0101】
Glatt(スイス、Pratteln)からのlab coater GC-1を使用して持続放出性コアのコーティングを行った。コーティング錠剤の2つの異なるバッチを作製した。第1のバッチにおいて、ビタミンB12の供給源として結晶性ビタミンB12を使用した。第2のバッチにおいて、ビタミンB12の供給源としてビタミンB12の噴霧乾燥処方物(0.1%WS、DSM Nutritional Products、スイスで市販)を使用した。
【0102】
両ケースにおいて、2つのコーティング層で錠剤コアを覆った。第1のコーティング層はビタミンB12(結晶性ビタミンB12又はビタミンB12の噴霧乾燥処方物の何れか)及びエンパグリフロジンを含有した。次に、保護層として第1のコーティング層の上に第2のコーティング層を付加した。
【0103】
結晶性ビタミンB12がビタミンB12の供給源として使用された第1のバッチにおいて、結晶性ビタミンB12は光に対する感受性が高いので、かなり厚い保護層を付加した。ビタミンB12の噴霧乾燥処方物がビタミンB12の供給源として使用された第2のバッチにおいて、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物は結晶性ビタミンB12よりも光感受性が低いので、かなり薄い保護層を付加した。
【0104】
表5aは、ビタミンB12の供給源としての結晶性ビタミンB12の使用(即ち第1のバッチ)に関し、両コーティング層の組成を示す。
【0105】
【表6】
【0106】
表5bは、ビタミンB12の供給源としてのビタミンB12の噴霧乾燥処方物の使用(即ち第2のバッチ)に関し、両コーティング層の組成も示す。
【0107】
【表7】
【0108】
第1のコーティング層は、Evonik(ドイツ、Darmstadt)からのEudragit E PO Ready-Mixを含有する。これは、塩基性ブチル化メタクリラートコポリマー、タルカム及び二酸化チタンを含む即時使用できる混合物である。25mg/錠剤の投与量に達するために十分な量でエンパグリフロジン(BOC Sciences,アメリカ合衆国、ニューヨーク州、Shirley)を添加した。全ての固体成分の重量を測定し、ガラスビーカーに添加した。十分に汲み上げ可能なコーティング懸濁液を得るために、溶媒中の固体含量の約10%が提供された。ガラスビーカー中の固形物に、総量EtOH abs.の2/3を添加し、200rpm前後の速度にてIKA撹拌ブレード(ドイツ、Staufen)で45分間前後、継続して撹拌した。その後、EtOH abs.の残りを添加し、均一な懸濁液を得るために5分間混合した。
【0109】
全てのコーティング工程に対して同じ工程パラメーターを使用し;これらを表6で示す。
【0110】
【表8】
【0111】
錠剤バッチのそれぞれに対するコーティングの重量増加及び時間を表7で示す。結晶性ビタミンB12がビタミンB12の供給源として使用されたバッチに対して、より厚い保護層を得るために、第2のコーティング層に対するコーティング時間を長くした。目標とした厚みの増加は、重量増加がより大きいことにより確認された。
【0112】
【表9】
【0113】
アッセイ分析の結果を表8で示す。
【0114】
【表10】
【0115】
[実施例5(実施例4で製造された固体経口剤形の2つの異なるタイプの含量分析)]
実施例4で製造された固形蛍光剤形においてビタミンB12、メトホルミン及びエンパグリフロジンの含量を測定した。
【0116】
[ビタミンB12含量分析]
HPLC法も使用して、コーティング錠剤に対するビタミンB12のアッセイを行った。ビタミンB12は、ビタマーの群に対する集合名詞である。この方法を使用した全てのビタマーをシアノコバラミンとして決定した。試料調製は次のとおりであった:4個の個々の錠剤を分析した。酢酸ナトリウム緩衝液を使用して個々のビタマーを試料から抽出し、シアン化カリウムによりビタマーシアノコバラミン(R=-CN)に変換する。精製のために、シアノコバラミンに選択的に結合する特異的な抗体を含有する免疫親和性カラムに抽出物のアリコートを通す。次に、メタノールを使用してシアノコバラミンをカラムから溶出させる。361nmの波長で検出を行った。
【0117】
コーティング錠剤のビタミンB12の噴霧乾燥処方物に対する平均ビタミンB12含量を表9で示す。
【0118】
【表11】
【0119】
[メトホルミン及びエンパグリフロジン含量分析]
メトホルミン及びエンパグリフロジンに対するそれらのAPI含量について、(結晶性ビタミンB12を伴う、及びビタミンB12 0.1%WS用量設定を伴う)コーティング錠剤の各バッチに対する5個の錠剤を分析した。この目的のために、各錠剤を250mlのHPLC移動相(50:50v/vメタノール:リン酸緩衝液pH3.0)中で分散させ、アルミ箔で被覆されたボトル中で48時間にわたり800rpm(マグネチック撹拌機)で撹拌した。各錠剤分散物から、4つの試料を採取し、HPLC移動相で1:4に希釈して錠剤の総濃度/リットル移動相にした。HPLC分析の前に、希釈した試料を混合し、infochroma plc.(スイス、Goldau)からのTitan PTFEシリンジフィルター(17mm;0.45μm)でろ過した。得られた薬物含量を表10a及び10bで示す。
【0120】
表10aは、ビタミンB12の供給源としての結晶性ビタミンB12の使用に関し、平均メトホルミン及びエンパグリフロジン濃度を示す。
【0121】
【表12】
【0122】
表10bは、ビタミンB12の供給源としてのビタミンB12の噴霧乾燥処方物の使用に関し、平均メトホルミン及びエンパグリフロジン濃度も示す。
【0123】
【表13】
【0124】
[実施例6(胃液中における実施例4で提供される2つの異なるタイプの固体経口剤形の溶解試験)]
コーティング時に、実施例3に記載の非コーティング錠剤コアと同じように、コーティング錠剤からのメトホルミン、エンパグリフロジン及びビタミンB12の、FaSSGF中における溶解プロファイルを分析した。
【0125】
図3a、3b及び3cは、FaSSGF中におけるメトホルミン及びエンパグリフロジンの溶解プロファイルを示す。
【0126】
図3aは、結晶性ビタミンB12を伴うコーティング錠剤の、FaSSGF中におけるメトホルミン及びエンパグリフロジンの溶解プロファイルを示す。図3bは、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物(0.1%WS)を伴うコーティング錠剤の、FaSSGF中におけるメトホルミン及びエンパグリフロジンの溶解プロファイルを示す。図3cは、ビタミンB12 0.1% WS及び結晶性ビタミンB12を伴う、FaSSGF中における即時放出コーティングからのエンパグリフロジン溶解の比較を示す。
【0127】
結晶性ビタミンB12又はビタミンB12の噴霧乾燥処方物(WS0.1%)がコーティング中で使用される場合、溶解プロファイルにおいて2つのバッチ間で有意差はない。
【0128】
30分後、即時放出コーティングは、両バッチについてFaSSGF中で完全に溶解され、15分後、エンパグリフロジンは最大で66.4±0.2%、既に溶解されている。
【0129】
両バッチに対して、FaSSGF中で2時間溶解(37℃及び75rpm)後にメトホルミンの30%未満が溶解され、1時間後に溶解されているのは僅か17%前後である。この時間量後、固体剤形の残りが胃(胃液)から幽門を通って十二指腸(腸液)に至ると予想される。
【0130】
[実施例7(腸液中における、実施例4で提供される固体経口剤形の2つの異なるタイプの溶解試験)]
実施例3に記載の非コーティング錠剤コアと同じように、FaSSIF中における、コーティング錠剤からのメトホルミン、エンパグリフロジン及びビタミンB12の溶解プロファイルを分析した。
【0131】
図4a、4b及び4cは、FaSSIF中におけるメトホルミン及びエンパグリフロジンの溶解プロファイルを示す。
【0132】
図4aは、結晶性ビタミンB12を伴うコーティング錠剤の、FaSSIF中におけるメトホルミン及びエンパグリフロジンの溶解プロファイルを示す。
【0133】
図4bは、ビタミンB12の噴霧乾燥処方物(0.1%WS)を伴うコーティング錠剤の、FaSSIF中におけるメトホルミン及びエンパグリフロジンの溶解プロファイルを示す。
【0134】
図4cは、ビタミンB12 0.1%WS及び結晶性ビタミンB12を伴う、FaSSIF中におけるメトホルミン溶解の比較を示す。
【0135】
腸液中で、2つのコーティング層の溶解後、両バッチに対する持続的なメトホルミン放出がはっきりと見える。8時間後、メトホルミンの80%超が放出される。
【0136】
図4a、4b及び4cで2つのコーティング層の効果が見られ得るものの(即ち遅延時間)、前記効果はインビボでは観察されないであろう。本発明の剤形の経口投与後、この剤形は最初に胃に到達し、そこで胃液に曝露される。胃にある間に、2つの保護層が溶解される。剤形が腸液に曝露されるときに、2つのコーティング層がなくなる。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
【国際調査報告】