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特表2022-537113オートファジーの誘導のためにチモール及び/又はカルバクロールを使用する組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-24
(54)【発明の名称】オートファジーの誘導のためにチモール及び/又はカルバクロールを使用する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20220817BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220817BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220817BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220817BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220817BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220817BHJP
【FI】
A61K31/05
A61P3/04
A61P25/00
A61P3/10
A61P3/06
A61P1/16
A61P25/28
A61P25/22
A61P21/00
A61P13/12
A61P1/00
A61P9/10
A61P27/02
A61P31/00
A61P35/00
A61K47/42
A61K45/00
A61P43/00 121
A23L33/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571792
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(85)【翻訳文提出日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2020067250
(87)【国際公開番号】W WO2020254663
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】19181530.7
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ファイギ, ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ガット, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】シヴィレット, ガブリエーレ
(72)【発明者】
【氏名】シッツァーノ, フェデリコ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD07
4B018MD20
4B018MD66
4B018ME08
4B018ME10
4B018ME14
4C076BB01
4C076CC09
4C076EE41A
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA66
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4C084ZA66
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4C084ZA81
4C084ZA94
4C084ZB26
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4C084ZC33
4C084ZC35
4C084ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA17
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA72
4C206MA75
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA15
4C206ZA33
4C206ZA66
4C206ZA70
4C206ZA75
4C206ZA81
4C206ZA94
4C206ZB26
4C206ZB32
4C206ZC33
4C206ZC35
(57)【要約】
組成物及び方法は、オートファジーの誘導を必要とする個体においてオートファジーを誘導するために、チモール及び/又はカルバクロールの組み合わせを、任意選択的に高タンパク質と共に使用することができる。好ましくは、チモール及び/又はカルバクロールの組み合わせを、任意選択的にタンパク質と共に含有する配合物が、例えば筋肉においてオートファジーを誘導するのに有効な量で、個体に投与される。この配合物は、タンパク質合成と損傷した細胞物質の除去とを同時に促進することができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞機能不全、ゲノム損傷、ミトコンドリア機能の変化若しくはミトコンドリア密度の低下に関連する疾患又は状態の治療、予防又は管理を必要とする個体において、前記治療、予防又は管理に使用するための、チモール及び/又はカルバクロールを含む組成物。
【請求項2】
健康な中高年者において、抗酸化能力の増加、酸化ストレスの低減、免疫機能の維持、及び/又は認知機能の維持に使用するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ミトコンドリア関連の疾患又は状態が、ストレス、肥満、代謝率の低下、メタボリックシンドローム、真性糖尿病、糖尿病合併症、高脂血症、遊離脂肪酸の上昇、肝疾患、NAFLD、NASH、神経変性疾患、脳卒中、認知障害、ストレス誘発性又はストレス関連性認知機能障害、気分障害、不安障害、加齢に伴う神経細胞死又は神経機能障害、筋骨格障害、フレイル、プレフレイル、慢性腎疾患、胃腸障害、外傷、感染、がん、黄斑変性、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
オートファジーの誘導を必要とする個体においてオートファジーの誘導に使用するための、有効量のチモール及び/又はカルバクロールを含む組成物。
【請求項5】
チモール及び/又はカルバクロールが高タンパク質と組み合わされている、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記高い量のタンパク質が、前記組成物の少なくとも約25エネルギー%である量のタンパク質である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記高い量のタンパク質が、前記組成物の6g/100kcalを超えるタンパク質/エネルギー比を提供する量の前記タンパク質である、請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
前記タンパク質の少なくとも一部が、(i)動物源由来のタンパク質、(ii)植物源由来のタンパク質、及び(iii)これらの混合物からなる群から選択される、請求項5~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記タンパク質の少なくとも一部が、(i)乳タンパク質、(ii)ホエイタンパク質、(iii)カゼイン塩、(iv)カゼインミセル、(v)エンドウ豆タンパク質、(vi)大豆タンパク質、及び(vii)これらの混合物からなる群から選択される、請求項5~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記タンパク質が、(i)前記タンパク質の少なくとも50重量%がカゼインである配合、(ii)前記タンパク質の少なくとも50重量%がホエイタンパク質である配合、(iii)前記タンパク質の少なくとも50重量%がエンドウ豆タンパク質である配合、及び(iv)前記タンパク質の少なくとも50重量%が大豆タンパク質である配合、からなる群から選択される配合を有する、請求項5~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記タンパク質の少なくとも一部が、(i)遊離形態のアミノ酸、(ii)加水分解されていないタンパク質、(iii)部分的に加水分解されたタンパク質、(iv)広範囲に加水分解されたタンパク質、及び(v)これらの混合物からなる群から選択される、請求項5~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記タンパク質が、2~10アミノ酸の長さを有するペプチドを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記タンパク質が、(i)遊離形態、(ii)少なくとも1つの追加のアミノ酸に結合している形態、及び(iii)これらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの形態の分岐鎖アミノ酸を含む、請求項5~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、炭水化物源を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、高いタンパク質:炭水化物比を有する、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
スペルミジン、ウロリチン、ラパマイシン、トリン1、バルプロ酸、ポリフェノール、カフェイン、メトホルミン、5’AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)活性化因子、L型カルシウムチャネル阻害因子、ケトン、及びこれらの混合物からなる群から選択されるオートファジー誘導因子を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記オートファジーが、骨格筋において誘導される、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記個体が、高齢個体である、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記個体が、サルコペニア若しくはフレイルを有する、又はサルコペニア若しくはフレイルを発症するリスクがある、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記個体が、重篤である、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
投与する工程が、経口、経腸、非経口、及び静脈内注射の群から選択される少なくとも1つの経路を使用する、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
チモール及び/又はカルバクロールとタンパク質との組み合わせを、オートファジーの誘導を必要とする個体においてオートファジーを誘導するのに有効である1回分の摂取量で含む、組成物。
【請求項23】
前記組成物が、食品組成物、ダイエタリーサプリメント、栄養組成物、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又は乳で再構成される粉末栄養製剤、食品添加物、医薬品、ドリンク、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記タンパク質の少なくとも一部が、請求項5~16のいずれか一項に記載のタンパク質である、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
治療組成物を作製する方法であって、
チモール及び/又はカルバクロールの組み合わせを、任意選択的に高タンパク質と共にベース組成物に添加して、前記治療組成物を形成する工程を含み、
前記治療組成物が、オートファジーの誘導を必要とする個体においてオートファジーを誘導するのに有効である1回分の摂取量で、前記組み合わせを含む、方法。
【請求項26】
オートファジー誘導因子と高タンパク質との組み合わせを含む組成物を投与する工程を含む方法であって、
前記組成物が、必要とする個体に、タンパク質合成と損傷した細胞材料の除去とを同時に促進する量の前記組み合わせを提供するように投与される、方法。
【請求項27】
(i)LC3-IIタンパク質発現又はターンオーバーのレベルの上昇、(ii)前記LC3-II/LC3-Iタンパク質比のレベルの増加、(iii)p62タンパク質のレベルの減少、(iv)オートファゴソームのタンパク質のレベルの減少、(v)オートファジー関連遺伝子のmRNA発現のレベルの上昇、(vi)LC3陽性顆粒の数及び/又はサイズ及び/又は強度の増加、並びに(vii)LC3及び/又は別のオートファゴソームタンパク質の分解、からなる群から選択される少なくとも1つの結果を得る方法であって、
前記方法は、必要とする個体に、オートファジー誘導因子と高タンパク質との組み合わせを含む組成物を治療有効量で投与する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001]本開示は、概して、オートファジーの誘導のために、チモール及び/又はカルバクロールの組み合わせを使用する組成物及び方法に関する。より具体的には、本開示は、チモール及び/又はカルバクロールを、単独で又は高タンパク質との組み合わせで含む配合物を、例えば筋肉においてオートファジーを誘導するのに有効な量で投与することに関する。この配合物は、タンパク質合成と損傷した細胞物質の除去とを同時に促進することができる。投与のレシピエントは、個体又は重篤な患者、例えば、集中治療室(ICU)内の患者、高齢患者、例えば、老齢個体、又はサルコペニア若しくはフレイルを有する患者;又は慢性腎疾患(例えば、透析によるアミノ酸の喪失)、及び/若しくは急性腎傷害、又は肝疾患を有する個体であり得る。
【0002】
[0002] 集中治療の大きな進歩により、重篤患者は、多くの場合、以前は致死的であった急性疾患からも生き延びている。しかしながら、この初期フェーズを生き延びても、重篤な慢性フェーズに入った患者の死亡率は依然として高い。死亡は、多くの場合、難治性多重臓器不全、急性腎傷害及び急性腎不全、重篤なミオパチー、又は重症度の低い筋力低下によるものである。筋肉のミオパチー及び筋力低下を改善するために、栄養法、成長ホルモン、又はアンドロゲンなどの治療法が導入されているが、これらの介入は臓器不全及び死亡のリスクを予想外に増加させることから成功していない。更に、外傷及び手術患者に対する栄養補助は、実際には有害な影響を有し得る。
【0003】
[0003]重篤患者に適切な治療及び十分な栄養を供給するための有効な手段は未だに存在しない。
【0004】
[発明の概要]
[0004]細胞質タンパク質の分解は、マクロオートファジーと呼ばれる(単にオートファジーとも呼ばれる)細胞プロセスによって介在される。オートファジープロセスは、炎症反応にも関与し、免疫系による細菌の破壊を促進する。オートファジーは、損傷したミトコンドリアなどの、損傷した及び場合により有害な細胞材料を再利用する、重要なリソソーム系分解経路を構成する。特にオートファジーは、細胞死の影響を弱め、様々な老化モデルにおいて寿命を延長する。本発明者らは、驚くべきことに、チモール及び/又はカルバクロールが筋肉のオートファジーを誘導することを見出した。更に、チモール及び/又はカルバクロールは、高タンパク質の等カロリー食との組み合わせで筋肉のオートファジーを相乗的に誘導する。
【0005】
[0005]したがって、全般的な実施形態では、本開示は、細胞機能不全、ゲノム損傷、ミトコンドリア機能の変化若しくはミトコンドリア密度の低下に関連する疾患又は状態の治療、予防、又は管理を必要とする個体において、当該治療、予防又は管理に使用するための、チモール及び/又はカルバクロールを含む組成物を提供する。
【0006】
[0006]本発明はまた、オートファジーの誘導を必要とする個体において、オートファジーの誘導に使用するための組成物も提供する。組成物は、有効量のチモール及び/又はカルバクロールを、単独で、又は高タンパク質と組み合わせて含む。高い量のタンパク質は、本組成物の少なくとも約25エネルギー%である量のタンパク質であり得、及び/又は多量のタンパク質は、本組成物の6g/100kcalを超えるタンパク質/エネルギー比を提供する量のタンパク質であり得る。
【0007】
[0007]一実施形態では、チモール及びカルバクロールは、スペルミジン、ウロリチン(例えば、ウロリチンA、ウロリチンB又はウロリチンD)、ラパマイシン、トリン1、バルプロ酸、ポリフェノール(例えば、レスベラトロール)、カフェイン、メトホルミン、5’AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)活性化因子、L型カルシウムチャネル阻害因子、ケトン(例えば、β-ヒドロキシブチレート、ケトン塩、又はケトンエステル誘導体)、及びこれらの混合物からなる群から選択される、オートファジー誘導因子と組み合わされる。
【0008】
[0008]一実施形態では、オートファジーは、骨格筋において誘導される。
【0009】
[0009]一実施形態では、個体は、高齢個体である。
【0010】
[0010]一実施形態では、個体は、サルコペニア若しくはフレイルを有する、又はサルコペニア若しくはフレイルを発症するリスクがある。
【0011】
[0011]一実施形態では、個体は、重篤である。
【0012】
[0012]一実施形態では、個体は、重篤なミオパチーを有する、又は重篤なミオパチーを発症するリスクがある。
【0013】
[0013]一実施形態では、個体は、急性腎不全を伴う重篤な状態である、又は急性腎不全を発症するリスクがある。
【0014】
[0014]一実施形態では、個体は、神経変性疾患又は脳卒中を有する。
【0015】
[0015]一実施形態では、個体は、肝疾患、例えば、NAFLD、NASH、又は腸炎などの胃腸状態、例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病(Crown’s)、粘膜炎、及び腸内細菌叢の異常(gut dysbiosis)を有する。
【0016】
[0016]一実施形態では、個体は、関連する筋量又は筋機能の低下を伴う又は伴わない慢性腎疾患を有する。
【0017】
[0017]一実施形態では、個体は、がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性心不全(CHF)、急性腎疾患又は慢性腎疾患(CKD)などの慢性疾患に続発する悪液質又は筋消耗を有する。
【0018】
[0018]一実施形態では、タンパク質の少なくとも一部は、(i)動物源由来のタンパク質、(ii)植物源由来のタンパク質、及び(iii)これらの混合物からなる群から選択される。
【0019】
[0019]一実施形態では、タンパク質の少なくとも一部は、(i)乳タンパク質、(ii)ホエイタンパク質、(iii)カゼイン塩、(iv)カゼインミセル、(v)エンドウ豆タンパク質、(vi)大豆タンパク質、及び(vii)これらの混合物からなる群から選択される。
【0020】
[0020]一実施形態では、タンパク質は、(i)タンパク質の少なくとも50重量%がカゼインである配合、(ii)タンパク質の少なくとも50重量%がホエイタンパク質である配合、(iii)タンパク質の少なくとも50重量%がエンドウ豆タンパク質である配合、及び(iv)タンパク質の少なくとも50重量%が大豆タンパク質である配合、からなる群から選択される配合を有する。
【0021】
[0021]一実施形態では、タンパク質の少なくとも一部は、(i)遊離形態のアミノ酸、(ii)加水分解されていないタンパク質、(iii)部分的に加水分解されたタンパク質、(iv)広範囲に加水分解されたタンパク質、及び(v)これらの混合物からなる群から選択される。特定の非限定的な例では、タンパク質の少なくとも一部は、コラーゲン、すなわち、加水分解されていないコラーゲン及び/又は加水分解されたコラーゲンである。
【0022】
[0022]タンパク質は、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、アルギニン、システイン、グルタミン、グリシン、プロリン、オルニチン、セリン、チロシン、及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上のアミノ酸を含み得る。タンパク質は、2~10アミノ酸の長さを有するペプチドを含み得る。
【0023】
[0023]一実施形態では、本組成物は、(i)遊離形態、(ii)少なくとも1つの追加のアミノ酸に結合している形態、及び(iii)これらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの形態の分岐鎖アミノ酸を含む。
【0024】
[0024]一実施形態では、タンパク質の少なくとも一部は5~95%加水分解されている。
【0025】
[0025]一実施形態では、タンパク質は、(i)タンパク質の少なくとも50%が1~5kDaの分子量を有する配合、(ii)タンパク質の少なくとも50%が5~10kDaの分子量を有する配合、及び(iii)タンパク質の少なくとも50%が10~20kDaの分子量を有する配合、からなる群から選択される配合を有する。
【0026】
[0026]一実施形態では、本組成物は、炭水化物源を含む。本組成物は、高いタンパク質:炭水化物比を有し得る。
【0027】
[0027]一実施形態では、投与する工程は、経口、経腸、非経口、及び静脈内注射の群から選択される少なくとも1つの経路を使用する。
【0028】
[0028]別の実施形態では、本開示は、チモール及び/又はカルバクロールの組み合わせを、任意選択的に高タンパク質と共に含む組成物を提供し、当該組成物は、オートファジーの誘導を必要とする個体においてオートファジーを誘導するのに有効である1回分の摂取量で、上記組み合わせを含む。本組成物は、食品組成物、ダイエタリーサプリメント、栄養組成物、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又はミルクで再構成される粉末栄養製剤、食品添加物、医薬、ドリンク、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0029】
[0029]別の実施形態では、本開示は、治療組成物の製造方法を提供し、当該方法は、チモール及び/又はカルバクロールの組み合わせを、単独で又は高タンパク質との組み合わせでベース組成物に添加して、治療組成物を形成する工程を含み、当該治療組成物は、オートファジーの誘導を必要とする個体においてオートファジーを誘導するのに有効である1回分の摂取量で、上記組み合わせを含む。ベース組成物は、経口、経腸、非経口、及び静脈内注射の群から選択される少なくとも1つの経路による投与のために配合され得る。
【0030】
[0030]別の実施形態では、チモール及び/又はカルバクロールを、単独で又は高タンパク質との組み合わせで含む組成物は、タンパク質合成と損傷した細胞物質の除去とを必要とする個体において、タンパク質合成と損傷した細胞物質の除去とを同時に促進する。
【0031】
[0031]別の実施形態では、本開示は、(i)LC3-IIタンパク質発現又はターンオーバーのレベルの上昇、(ii)LC3-II/LC3-Iタンパク質比のレベルの増加、(iii)p62タンパク質のレベルの減少、(iv)オートファゴソームのタンパク質のレベルの減少、(v)オートファジー関連遺伝子のmRNA発現のレベルの上昇、(vi)LC3陽性顆粒の数及び/又はサイズ及び/又は強度の増加、並びに(vii)LC3及び/又は別のオートファゴソームタンパク質の分解、からなる群から選択される少なくとも1つの結果を得る方法を提供する。本方法は、チモール及び/又はカルバクロールの組み合わせを、任意選択的に高タンパク質と共に含む組成物を、治療有効量で、かかる組成物を必要とする個体に投与する工程を含む。
【0032】
[0032]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の利点は、個体、重篤な動物、重篤なヒト、高齢の動物、又は高齢のヒトの状態を改善することである。
【0033】
[0033]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、例えば、重篤患者、個体、又は高齢個体における、過剰な異化作用を予防又は治療することである。
【0034】
[0034]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、過剰な異化作用による罹患又は死亡のリスクを低減又は予防することである。
【0035】
[0035]本開示の追加の利点は、重篤患者における多臓器機能障害症候群から回復する、治療する、又は治癒させることである。
【0036】
[0036]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、ハンチントン病、認知症、及び関係する神経性の希少疾患などの神経疾患から高齢個体を保護することである。
【0037】
[0037]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、例えば、サルコペニア、フレイル、封入体筋炎、コルチコステロイド又はスタチンなどの薬物によって誘発されたミオパチー/筋融解、不動又は入院によって誘発された筋消耗などの筋肉機能障害から高齢個体を保護することである。
【0038】
[0038]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー又はVI型コラーゲン筋ジストロフィーなどの筋ジストロフィー、ミトコンドリア脳筋症、ミトコンドリアミオパチー、糖原病、リソソーム蓄積症、ポンペ病が挙げられるが、これらに限定されない、遺伝疾患に罹患している患者を保護することである。
【0039】
[0039]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、オートファジーを誘導するために、例えば、水性液体組成物として、個人又は重篤患者に非経口的又は経腸的に投与され得る組成物である。
【0040】
[0040]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、重篤患者が人工呼吸器をつけている期間を短縮すること、又は人工呼吸器を取り外すまでの期間を繰り上げることである。
【0041】
[0041]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、例えば、非経口栄養送達によって引き起こされる、特に調和の取れていない栄養又は相対的な栄養過多によって引き起こされる多臓器不全又は筋力低下から、非経口栄養を受けている重篤患者を保護することである。
【0042】
[0042]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、筋力低下から高齢個体を保護することである。
【0043】
[0043]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、重篤患者又は高齢個体の生存性を向上させることである。
【0044】
[0044]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、集中治療室からの退院後に、可動性の回復を加速すること、又は寝たきりの期間を短縮することである。
【0045】
[0045]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、重篤患者が既に生命を脅かされる状態までかなり進行した段階にある場合であっても、効果が有益であるというものである。
【0046】
[0046]追加の特徴及び利点は、以降の発明の詳細な説明及び図面に記載され、これらにより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
[0047]
図1】チモールが、ヒトジャーカット細胞において、125μMの濃度から出発して用量依存的にオートファジーを誘導したことを示すグラフ表(graph table)である。データは、2反復の平均±標準誤差として表されている(事後ダネット検定を用いた一元配置分散、***p<0.001)。
図2】チモールが、ゼブラフィッシュ幼生において、50μMの濃度から出発して用量依存的にオートファジーを誘導したことを示すグラフである。データは、18反復の平均±標準誤差として表されている。アスタリスクは、未処理のゼブラフィッシュと比較した、事後ダネット検定を用いた一元配置分散によって計算された有意水準を表す(***P<0.001)。ハッシュマークは、NH4Cl処理したセブラフィッシュと比較した、事後ダネット検定を用いた一元配置分散分析によって計算された有意水準を表す(#P<0.05、###P<0.001)。
図3】チモールで急性処理したマウスの肝臓に対し実施したウェスタンブロットの、LC3-II/LC3-Iタンパク質量のデンシメトリーによる定量を示すグラフである。データは、5反復の平均±標準誤差として表されている(事後ダネット検定を用いた一元配置分散、P<0.05)。
図4】チモール20mg/kg/日で8週間処理した肥満マウスにおける脂肪肝の低減を示すグラフである。データは、12反復の平均±標準誤差として表し、比較のため片側のスチューデントt検定を用いた。p<0.05、***p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0048】
[0051]定義
[0052]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0049】
[0053]パーセンテージは全て、特に明記しない限り組成物の総重量に対する重量によるものとする。同様に、全ての比率は、特に明記しない限り、重量による。pHについての参照がなされる場合には、値は標準的な装置により25℃にて測定されるpHに相当する。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。
【0050】
[0054]更に、本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数(integers)、整数(whole)又は分数、を含むものと理解されたい。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項をサポートすると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと解釈されたい。
【0051】
[0055]本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、別途文脈が明らかに示していない限り、単数形の単語は複数形を含む。したがって、「1つの」、「ある」、及び「当該」」(「a」、「an」及び「the」)の言及には、概してそれぞれの用語の複数形が包含される。例えば、「原材料(an ingredient)」又は「方法(a method)」と言及する際は、複数の、かかる「原材料」又は「方法」が含まれる。「X及び/又はY」という文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。同様に、「X又はYのうちの少なくとも1つ」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びYの両方」と解釈されるべきである。
【0052】
[0056]同様に、「含む/構成される(comprise)」、「含む/構成される(comprises)」、及び「含む/構成される(comprising)」という用語は、排他的ではなく、他を包含し得るものとして解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは他を包含し得るものであると解釈される。しかし、本開示により提供される実施形態は、本明細書で具体的に開示されない任意の要素を含まない場合がある。したがって、用語「含む(comprising)」を用いて規定される実施形態の開示は、開示される構成要素「から本質的に構成される」、及び「から構成される」実施形態の開示でもある。「を本質的に含む(consisting essentially of)」とは、実施形態が、特定の構成要素を50重量%超、好ましくは特定の構成要素を少なくとも75重量%、より好ましくは特定の構成要素を少なくとも85重量%、最も好ましくは特定の構成要素を少なくとも95重量%、例えば、特定の構成要素を少なくとも99重量%含むことを意味する。
【0053】
[0057]本明細書で使用するとき、用語「例(example)」は、特に、後に用語の列挙が続く場合に、単に例示的なものであり、かつ説明のためのものであり、排他的又は包括的なものであるとみなすべきではない。本明細書で開示される全ての実施形態は、特に明示的に示されない限り、本明細書で開示される任意の別の実施形態と組み合わせることができる。
【0054】
[0058]「動物」としては、齧歯類動物、水生哺乳動物、イヌ及びネコなどの飼育動物、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマなどの家畜、並びにヒトを含むがこれらに限定されない哺乳動物が挙げられるが、これらに限定されない。「動物」、「哺乳動物」、又はこれらの複数形が使用される場合、これらの用語はまた、文章の文脈によって示される、又は示すことを目的としている効果について能力を有する任意の動物、例えば、オートファジーが可能な動物にも適用される。本明細書で使用するとき、用語「患者」は、本明細書で定義される治療を受けている又は治療を受ける予定の動物、例えば、哺乳動物、好ましくはヒトを含むと理解される。本明細書で使用するとき、「個体」及び「患者」という用語は、多くの場合、ヒトを指して使用されるが、本開示はヒトに限定されない。
【0055】
[0059]したがって、「個体」及び「患者」という用語は、本明細書で開示される方法及び組成物が有益となり得る任意の動物、哺乳動物又はヒトを指す。実際に、ヒト以外の動物は、ヒトの状態によく似た長期の重篤な病気を経験する。これらの重篤な動物は、ヒトにおいて相当するものと同じ代謝障害、免疫障害、及び内分泌腺障害、並びに臓器不全及び筋消耗の発症を経験する。更に、動物は、老化の影響も同様に経験する。
【0056】
[0060]用語「老齢」は、ヒトに関連して、少なくとも55歳、好ましくは63歳超、より好ましくは65歳超、最も好ましくは70歳超の年齢を意味する。ヒトの文脈における用語「老年成体(older adult)」又は「高齢個体(ageing individual)」は、少なくとも45歳、好ましくは50歳以上、より好ましくは55歳以上の年齢を意味し、老齢の個体を含む。
【0057】
[0061]他の動物については、「老年成体」又は「高齢個体」とは、その個々の種、及び/又は種内における属の、平均寿命の50%を超えたものをいう。動物は、平均期待寿命の66%を超えた場合、好ましくは平均期待寿命の75%を超えた場合、より好ましくは平均期待寿命の80%を超えた場合に、「老齢」であるとみなされる。高齢のネコ又はイヌは、少なくとも約5歳齢である。老齢のネコ又はイヌは、少なくとも約7歳齢である。
【0058】
[0062]サルコペニアは、加齢に伴う筋肉量及び筋機能(筋力及び歩行速度を含む)の低下として定義される。サルコペニアは、筋量低下、筋力低下、及び身体パフォーマンス低下のうちの1つ以上によって評価することができる。
【0059】
[0063]サルコペニアは、例えばChenら(2014)に記載されているように、AWGSOP(Asian Working Group for Sarcopenia in Older People)の定義に基づいて、対象において診断することができる。筋量低下は、概ね、身長の二乗に対して正規化した体肢除脂肪量(ALM指数)の低下を基準とすることができ、具体的には男性の場合は7.00kg/m2未満、女性の場合は5.40kg/m2未満のALM指数を基準とすることができる。身体パフォーマンスの低下は、概ね、歩行速度、具体的には0.8m/秒未満の歩行速度を基準とすることができる。筋力低下は、概ね、握力低下を基準とすることができ、具体的には男性で26kg未満及び女性で18kg未満の握力を基準とすることができる。
【0060】
[0064]追加的に又は代替的に、サルコペニアは、例えばCrutz-Jentoftら(2010)に記載されているように、EWGSOP(European Working Group for Sarcopenia in Older People)の定義に基づいて、対象において診断することができる。筋量低下は、概ね、身長の二乗に対し正規化した体肢除脂肪量(ALM指数)の低下を基準とすることができ、具体的には男性の場合は7.23kg/m2未満、女性の場合は5.67kg/m2未満のALM指数を基準とすることができる。身体パフォーマンスの低下は、概ね、歩行速度、具体的には0.8m/秒未満の歩行速度を基準とすることができる。筋力低下は、概ね、握力低下を基準とすることができ、具体的には男性で30kg未満及び女性で20kg未満の握力を基準とすることができる。
【0061】
[0065]追加的に又は代替的に、サルコペニアは、例えばStudenskiら(2014)に記載されているように、Foundation for the National Institutes of Health(FNIH)の定義に基づいて、対象において診断することができる。筋量低下は、概ね、体格指数(BMI;kg/m2)に対して正規化した体肢除脂肪量(ALM)の低下を基準とすることができ、具体的にはBMIに対するALMが、男性の場合0.789未満、女性の場合0.512未満であることを基準とすることができる。身体パフォーマンスの低下は、概ね、歩行速度、具体的には0.8m/秒未満の歩行速度を基準とすることができる。筋力低下は、概ね、握力低下を基準とすることができ、具体的には男性で26kg未満及び女性で16kg未満の握力を基準とすることができる。筋力低下はまた、概ね、握力対体格指数の低下を基準とすることができ、具体的には男性で1.00未満及び女性で0.56未満の握力対体格指数を基準とすることができる。
【0062】
[0066]本明細書で使用するとき、「フレイル」は、加齢に伴い複数の生理学的システムにわたって予備能及び機能が低下することに起因して、脆弱性が高まった結果、日常的又は急性のストレッサーに対処する能力が損なわれる、臨床的に認識可能な状態として定義される。確立された定量的標準がない場合、フレイルは、エネルギー特性が損なわれたことを示す以下の5つの表現型基準のうち3つを満たすと、Friedらにより機能的に定義されている:(1)筋力低下(ベースラインでの握力が母集団の下位20%以内、性別及び体格指数について補正)、(2)持久力不足及びエネルギー不足(最大VOに関連する自己申告による疲労)、(3)動作緩慢(15フィートの歩行時間に基づいてベースラインが母集団の下位20%、性別及び身長について補正)、(4)身体活動低下(ベースラインでの1週間当たりに消費されたキロカロリーの重み付けスコア、各性別について特定された身体活動の第1五分位(lowest quintile);例えば、男性については383kcal/週未満、女性については270kcal/週未満)、及び/又は意図しない体重減少(過去1年間で10ポンド)。Fried LP,Tangen CM,Walston Jら,”Frailty in older adults:evidence for a phenotype.”J.Gerontol.A.Biol.Sci.Med.Sci.56(3):M146-M156(2001)。これらの基準のうちの1つ又は2つが存在するプレフレイル段階は、フレイルに進行するリスクが高いものとして特定される。
【0063】
[0067]「悪液質」は、基礎疾患に関連する複雑な代謝症候群であり、筋肉の減少を特徴とし、脂肪量の減少を伴う場合も伴わない場合もある。成人では(体液貯留分を補正した)体重減少又は小児では成長障害(内分泌障害を除く)が悪液質に顕著な臨床的特徴である。
【0064】
[0068]悪液質は、がん、慢性心不全、腎不全、慢性閉塞性肺疾患、AIDS、自己免疫障害、慢性炎症性障害、肝硬変、拒食症、慢性膵炎、並びに/又は代謝性アシドーシス及び神経変性疾患などの疾患を有する患者においてしばしば見られる。
【0065】
[0069]特定の種類のがん、例えば、膵臓がん、食道がん、胃がん、腸がん、肺がん、及び/又は肝臓がんでは、悪液質が特に一般的に見られる。
【0066】
[0070]悪液質について国際的に認められている診断基準は、制限された期間での、例えば、6ヶ月間での5%を超える体重減少、又は現在の体重及び身長(体格指数[BMI]が20kg/m未満である)若しくは骨格筋量(DXA、MRI、CT、又は生体インピーダンスによって測定される)により消耗を既に示している個体における2%を超える体重減少、というものである。悪液質は、様々なステージを経て、すなわち前悪液質から悪液質、難治性悪液質へと徐々に進行し得る。重篤度は、エネルギー貯蔵及び身体タンパク質(BMI)の消耗度に応じて、進行中の体重減少と組み合わせて分類することができる。
【0067】
[0071]特に、がん悪液質は、過去6ヶ月間(単純な飢餓のない状態で)での体重減少が5%超であること;又はBMIが20未満でありかつ体重減少度が2%超であること;又は体肢除脂肪量が、筋量低下と矛盾しないこと(男性で7.26kg/m未満、女性で5.45kg/m未満)、かつ任意の体重減少度が2%超であること、として定義されている(Fearonら、2011)。
【0068】
[0072]「前悪液質」は、拒食症及び代謝の変化と併せて体重減少が5%以下であることとして定義され得る。現在、更に進行する可能性が高い前悪液質の患者、又は前悪液質が進行する速度、を特定するための強力なバイオマーカーは存在しない。難治性悪液質は、本質的に患者の臨床的特性及び状況に基づいて定義される。
【0069】
[0073]用語「治療」及び「治療すること」には、状態又は疾患(障害)の改善をもたらす任意の効果、例えば状態又は疾患を和らげること、軽減すること、制御すること、又は解消させることが含まれる。この用語は、必ずしも完治するまで対象が処置/治療されることを意味するものではない。状態又は疾患を「治療すること」又は「その治療」の非限定的な例としては、(1)状態又は疾患を阻害すること、すなわち状態若しくは疾患又はその臨床症状の発症を止めること、及び(2)状態又は疾患を緩和すること、すなわち状態若しくは疾患又はその臨床症状の一時的又は永続的な消退を生じさせることが挙げられる。治療は患者に関連するものであってもよく、又は医師に関連するものであってもよい。
【0070】
[0074]用語「予防」又は「予防すること」は、状態又は障害にさらされ得る又はそれに罹り易い傾向があり得るが、まだ状態又は障害の症状を呈していない又はそれが現れていない個体において、言及される状態又は障害の臨床症状を発症させないことを意味する。用語「状態」及び「疾患/障害」は、任意の疾患、状態、症状、又は徴候を意味する。
【0071】
[0075]相対的な語句「改善された(improved)」、「増加した(increased)」、及び「増強された(enhanced)」などは、オートファジー誘導因子(例えば、スペルミジン)と高タンパク質(本明細書で開示される)との組み合わせを含む本組成物と、タンパク質が少ないこと以外は同一である組成物とを比較した効果を指す。
【0072】
[0076]用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取が意図され、かかる個体に対して少なくとも1種の栄養素を提供する、製品又は組成物を意味する。本明細書に記載の多くの実施形態を含む本開示の組成物は、本明細書に記載の必須成分(essential elements)及び制限に加え、本明細書に記載の、又は食事療法に有用な、任意の追加の若しくは任意選択的な成分、構成成分、又は制限を含んでよく、これらから構成されてよく、又は本質的にこれらから構成されてよい。
【0073】
[0077]本明細書で使用するとき、「完全栄養」は、その組成物が投与される動物にとって、唯一の栄養源とするのに十分な、十分な種類及びレベルの主要栄養素(タンパク質、脂質及び炭水化物)及び微量栄養素を含有する。個体は、このような完全栄養組成物から、個体が必要とする栄養分の100%を受容可能である。
【0074】
[0078]本明細書で使用するとき、用語「重篤患者」は、急性の生命を脅かす症状を発症している個体、又はそのような発症の危険が差し迫っていると診断された個体である。重篤患者は、医学的に不安定であり、治療されない場合には、死亡する可能性が高い(例えば、死亡率50%超)。
【0075】
[0079]重篤患者の非限定的な例としては、疾患若しくは傷害に起因して、生命を脅かす急性の単一若しくは多臓器系不全が持続する、又は持続するリスクがある患者、手術されていて、合併症を併発している患者、及び先週中に重要臓器の手術を受けた、又は先週中に大手術を受けた患者が挙げられる。
【0076】
[0080]重篤患者のより具体的な非限定的な例としては、疾患若しくは傷害に起因して、生命を脅かす急性の単一若しくは多臓器系不全が持続する、又は持続するリスクがある患者、及び手術されていて、合併症を併発している患者が挙げられる。重篤患者の更なる具体的な非限定的な例としては、心臓手術、大脳手術、胸部手術、腹部手術、血管手術、又は移植のうちの1つ以上が必要な患者、及び神経疾患、大脳外傷、呼吸不全、腹膜炎、多発外傷、重症熱傷、又は重篤な多発性神経障害のうちの1つ以上に罹患している患者が挙げられる。
【0077】
[0081]用語「集中治療室(ICU)」は、重篤患者を治療する病院の一部を指す。用語「集中治療室」はまた、そこで行われる治療活動がICUの治療活動と同じ又は同様であれば、介護施設;診療所(例えば、民間診療所)なども範囲に含む。「ICU患者」は、用語「重篤患者」に包含される。
【0078】
[0082]用語「多臓器機能障害」は、感染症、血流の低下、代謝亢進、又は事故若しくは手術などの傷害から生じる状態を指す。重篤患者が死亡する「多臓器不全」は、少なくとも2つの重要臓器系の機能障害又は機能不全と定義される記述的な臨床症候群であると考えられる。一様にかつ最も具体的に影響を受ける重要臓器系は、肝臓、腎臓、肺、並びに心臓血管系、神経系、及び血液系である。多臓器機能障害の非限定的な例としては、急性呼吸窮迫症候群、心不全、肝不全、腎不全、呼吸不全、集中治療、ショック、広範囲熱傷、敗血症(例えば、全身性炎症反応症候群)、及び脳卒中が挙げられる。
【0079】
[0083]用語「経腸投与」は、経口投与(経口強制栄養投与を含む)及び直腸投与を包含するが、経口投与が好ましい。用語「非経口投与」は、消化管以外の経路によって与えられる物質の送達を指し、静脈内、動脈内、筋肉内、脳室内、骨内、皮内、くも膜下腔内、並びにまた腹腔内投与、膀胱腔内注入、及び海綿体内注射などの投与経路を範囲に含む。
【0080】
[0084]好ましい非経口投与は、静脈内投与である。非経口投与の特定の形態は、栄養の静脈内投与による送達である。非経口栄養は、食品が他の経路によって与えられない場合、「全非経口栄養」である。「非経口栄養」は、好ましくは、グルコースなどの糖類を含み、脂質、アミノ酸、及びビタミンのうちの1種以上を更に含む、等張水溶液又は高張水溶液(又は溶解される固体組成物、又は等張溶液若しくは高張溶液を得るために希釈される液体濃縮物)である。
【0081】
[0085]実施形態
[0086]したがって、全般的な実施形態では、本開示は、細胞機能不全、ゲノム損傷、ミトコンドリア機能の変化若しくはミトコンドリア密度の低下に関連する疾患又は状態の治療、予防、又は管理を必要とする個体において、当該治療、予防又は管理に使用するための、チモール及び/又はカルバクロールを含む組成物を提供する。組成物は、オートファジーを誘導するための組成物も提供する。
【0082】
[0087]本発明の一態様では、組成物は、健康な中高年者において、抗酸化能を増加させ、酸化ストレスを低減し、免疫機能を維持し、及び/又は認知機能を維持する。
【0083】
[0088]別の態様では、ミトコンドリア関連疾患又は状態は、ストレス、肥満、代謝率の低下、メタボリックシンドローム、真性糖尿病、糖尿病合併症、高脂血症、遊離脂肪酸の上昇、肝疾患、NAFLD、NASH、神経変性疾患、脳卒中、認知障害、ストレス誘発性又はストレス関連性認知機能障害、気分障害、不安障害、加齢に伴う神経細胞死又は神経機能障害、筋骨格障害、フレイル、プレフレイル、慢性腎疾患、胃腸障害、外傷、感染、がん、黄斑変性、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0084】
[0089]本発明の別の態様は、オートファジーの誘導を必要とする個体においてオートファジーを誘導する方法である。本方法は、チモール及び/又はカルバクロールを、任意選択的に高タンパク質(例えば、組成物の総エネルギーの約25%)と共に含む組成物を投与する工程を含み、当該組成物は、例えば筋肉において、オートファジーを誘導するのに有効な量の組み合わせを提供するよう投与される。本組成物は、非経口的に、経腸的に、又は静脈内に投与することができる。
【0085】
[0090]好ましい実施形態では、本組成物は、スペルミジン、ウロリチン(例えば、ウロリチンA、ウロリチンB又はウロリチンD)、ラパマイシン、トリン1、バルプロ酸、ポリフェノール(例えば、レスベラトロール)、カフェイン、メトホルミン、5’AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)活性化因子、L型カルシウムチャネル阻害因子、及びこれらの混合物からなる群から選択されるオートファジー誘導因子を更に含有する。好適なオートファジー誘導因子の非限定的な例は、スペルミジン、パルミチン酸、5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボシド(AICAR)、ベラパミル、ニフェジピン、ジルチアゼム、ピペラジンフェノチアジン誘導体(例えば、トリフルオペラジン)、ケトン(例えば、β-ヒドロキシブチラート、ケトン塩、又はケトンエステル誘導体)、及びこれらの混合物である。好適な形態のスペルミジンの非限定的な例としては、スペルミジン三塩酸塩、スペルミジンリン酸塩六水和物、スペルミジンリン酸塩六水和物、及びL-アルギニル-3,4-スペルミジンが挙げられる。
【0086】
[0091]一実施形態では、本組成物は、6gタンパク質/100kcalを超える、好ましくは9gタンパク質/100kcalを超えるタンパク質/エネルギー比を有する。一実施形態では、タンパク質は、本組成物の少なくとも24エネルギー%、より好ましくは本組成物の少なくとも36エネルギー%である。
【0087】
[0092]非限定的な例として、本組成物は、1.0gタンパク質/体重(kg)/日を超える、好ましくは1.2gタンパク質/体重(kg)/日を超える;例えば、最大2.5gタンパク質/体重(kg)/日(例えば、1.0~2.5gタンパク質/体重(kg)/日;1.2~2.5gタンパク質/体重(kg)/日;又は1.5~2.5gタンパク質/体重(kg)/日)、好ましくは最大2.0gタンパク質/体重(kg)/日(例えば、1.0~2.0gタンパク質/体重(kg)/日;1.2~2.0gタンパク質/体重(kg)/日;又は1.5~2.0gタンパク質/体重(kg)/日)、及びより好ましくは最大1.5gタンパク質/体重(kg)/日(例えば、1.0~1.5gタンパク質/体重(kg)/日又は1.2~1.5gタンパク質/体重(kg)/日)である量のタンパク質を提供する1日用量で投与することができる。タンパク質の1日用量は、組成物を1日当たり1回以上摂取することによって提供され得る。
【0088】
[0093]本組成物が液体形態である場合、好適な高タンパク質濃度の非限定的な例としては、6~20gタンパク質/100mL、例えば、6~11gタンパク質/100mL;7~14gタンパク質/100mL;7~12gタンパク質/100mL;8~11gタンパク質/100mL、8~20gタンパク質/100mL;9~20gタンパク質/100mL;及び11~20gタンパク質/100mLが挙げられる。
【0089】
[0094]組成物は、薬学的に好適な担体中に薬理学的有効量のチモール及び/又はカルバクロールを含むことができる。水性液体組成物において、濃度は、好ましくは水性液体組成物の約0.05重量%~約4重量%、又は約0.5重量%~約2重量%、又は約1.0重量%~約1.5重量%の範囲である。
【0090】
[0095]特定の実施形態では、本方法は、個体における血漿チモール及び/又はカルバクロール値を、例えば、血漿1L当たり、50~6000nmol、好ましくは100~6000nmolの値まで増加させる処理である。本方法は、体重1kg当たり、0.05mg~1g、好ましくは1mg~200mg、より好ましくは5mg~150mg、更により好ましくは10mg~120mg、又は最も好ましくは40mg~80mgの重量範囲でチモール及び/又はカルバクロールを毎日投与する工程を含み得る。
【0091】
[0096]典型的には、1日当たり50μg~10gのチモール及び/又はカルバクロールが1回以上に分けて個体に投与される。
【0092】
チモール(10~64%)は、タイム(Thymus vulgaris L,Lamiaceae)の精油の主要構成成分の1つである。カルバクロールは、Origanum vulgare(オレガノ)の精油、タイム油、コショウソウから得られた油、及びヤグルマハッカ中に存在する。タイム亜種の精油は、5%~75%のカルバクロールを含有するのに対し、Satureja(セイボリー)亜種は1%~45%の含有量を有する。origanum mamaorana(マジョラム)及びクレタディタニー(Dittany of Crete)はカルバクロールに富み、それぞれ50%及び60~80%である。したがって、本組成物の一部の実施形態は、組成物中のチモール及び/カルバクロールの少なくとも一部を、特にタイム及びオレガノから提供する、植物及び/又は濃縮した植物抽出物、精油又は画分を含む。
【0093】
[0097]本組成物は、筋肉、例えば骨格筋においてオートファジーを誘導することができる。このような筋肉の非限定的な例としては、次のうちの1つ以上が挙げられる:外側広筋、腓腹筋、脛骨筋、ヒラメ筋、長指伸筋(extensor,digitorum longus)(EDL)、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋、大臀筋、外眼筋、顔筋肉、又は横隔膜。
【0094】
[0098]オートファジーの誘導を必要とする個体は、ストレス、肥満、代謝率の低下、メタボリックシンドローム、真性糖尿病、糖尿病合併症、高脂血症、遊離脂肪酸の上昇、肝疾患、NAFLD、NASH、神経変性疾患、脳卒中、認知障害、ストレス誘発性又はストレス関連性認知機能障害、気分障害、不安障害、加齢に伴う神経細胞死又は神経機能障害、筋骨格障害、フレイル、プレフレイル、慢性腎疾患、胃腸障害(潰瘍性大腸炎、クローン病(Crown’s)、粘膜炎、及び腸内菌共生バランス失調など)、外傷、感染、がん、黄斑変性、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるミトコンドリア関連疾患又は状態を有する個人であり得る。
【0095】
[0099]オートファジーの誘導を必要とする個体は、高齢の動物又は高齢のヒトなどの高齢個体であり得る。一部の実施形態では、オートファジーの誘導を必要とする個体は、老齢の動物又は老齢のヒトである。
【0096】
[0100]オートファジーの誘導を必要とする個体は、重篤患者であり得る。様々な実施形態では、本方法は、重篤患者において、例えば、患者が非経口栄養を受けることでホメオスタシスが機能しなくなった、若しくは妨げられた場合に、多臓器機能障害を治療若しくは予防することができ;多臓器機能障害から重篤患者を保護することができ;乳酸アシドーシス、例えば、非経口栄養によって誘導される乳酸アシドーシスの発症を治療若しくは予防することができ;重篤患者における筋力低下を治療若しくは予防することができ;非経口栄養によって栄養状態が悪化することによる罹患若しくは死亡を減少若しくは予防することができ;及び/又は身体システムの崩壊を防止することができる。
【0097】
[0101]一部の実施形態では、重篤患者は、乳酸アシドーシス、筋力低下、高血糖、多臓器不全、ホメオスタシスの失敗、及びホメオスタシスの妨害からなる群から選択される少なくとも1つの生命を脅かす状態を有する。一実施形態では、重篤患者は、非感染性疾患を有する。一実施形態では、重篤患者は、敗血症に起因しない又は敗血症に関連しない多臓器機能障害を有する。多臓器機能障害及び筋力低下は、救命救急現場においては一般的であり、調和の取れていない非経口栄養送達、又は非経口的に送達された相対的若しくは絶対的な栄養過多によって引き起こされ又は悪化し得る。
【0098】
[0102]一部の実施形態では、個人又は重篤患者は、重症外傷、多発性外傷、脳卒中、神経変性疾患、高リスク手術、広範囲手術、大脳外傷、脳出血、呼吸不全、腹膜炎、急性腎傷害、急性肝傷害、NAFLD、NASH、胃腸障害(潰瘍性大腸炎、クローン病(Crown’s)、粘膜炎、及び腸内菌共生バランス失調など)、重症熱傷、重篤な多発性神経障害、重篤なミオパチー、及びICU獲得性筋力低下からなる群から選択される少なくとも1つの障害を有する。
【0099】
[0103]一部の実施形態では、個体又は重篤患者は、経腸又は非経口栄養を受けている。一部の実施形態では、本組成物は、ミトコンドリア機能障害、例えば、重篤患者への不十分な又は調和の取れていない非経口栄養によって誘発されたミトコンドリア機能障害を治療又は予防する。
【0100】
[0104]本開示の別の態様では、方法は、LC3-IIタンパク質発現又はターンオーバーのレベルの上昇(例えば、ウェスタンブロット、質量分析、ELISA、アプタマー又はナノボディベースのプロテオミクスにより、測定することができる);LC3-II/LC3-Iタンパク質比のレベルの増加(例えば、上記の方法のいずれかにより測定することができる);p62タンパク質のレベルの減少(例えば、上記の方法により測定することができる);オートファゴソームのタンパク質(例えば、これらに限定されないが、Atg5、Beclin-1、Atg7、Atg12)のレベルの減少;オートファジー関連遺伝子(例えば、これらに限定されないが、MAP1LC3、GABARAP、Atg5、Beclin-1、Atg7、Atg12)のmRNA発現のレベルの上昇;並びにLC3陽性顆粒の数及び/又はサイズ及び/又は強度の増加(免疫蛍光法により、又はGFPのような蛍光レポータータンパク質でLC3を標識することにより、又はフローサイトメトリーにより評価することができる);LC3及び/又は別のオートファゴソームタンパク質の分解(顕微鏡検査又はフローサイトメトリーにより評価されたそのリソソーム分解を評価することにより、例えば、リソソームに達したときに色を変化させるpH感受性蛍光レポーターにタンパク質を融合させることにより測定することができる;又は、WTタンパク質の蛍光強度を、オートファゴソームに挿入することができない変異タンパク質(例えば、脂質化できず、かつオートファゴソームに挿入することができないLC3ΔG変異体)と比較することによって測定することができる)からなる群から選択される少なくとも1つの結果を得る。本方法は、オートファジーの誘導を必要とする個体に、オートファジー誘導因子と高タンパク質との組み合わせを含む組成物を治療有効量で投与する工程を含む。
【0101】
[0105]本明細書で使用するとき、用語「タンパク質」は、遊離形態のアミノ酸、アミノ酸2~20個の分子(本明細書では「ペプチド」と称する)を含み、また、同様に、より長いアミノ酸鎖も含む。小さいペプチド、すなわち、アミノ酸2~10個の鎖は、単独で、又は他のタンパク質との組み合わせにより本組成物に好適である。アミノ酸の「遊離形態」は、アミノ酸のモノマー形態である。好適なアミノ酸としては、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸の両方が挙げられる。本組成物は、1種以上のタンパク質、例えば、1種以上の(i)ペプチド、(ii)より長いアミノ酸鎖、又は(iii)遊離形態のアミノ酸の混合物を含んでもよく;この混合物は、好ましくは所望のアミノ酸プロファイル/含有量が得られるように配合される。
【0102】
[0106]タンパク質の少なくとも一部は、動物に由来するもの又は植物に由来するもの、例えば、乳製品タンパク質、例えば、乳タンパク質濃縮物若しくは乳タンパク質単離物;カゼイン塩若しくはカゼイン、例えば、カゼインミセル濃縮物若しくはカゼインミセル単離物;又はホエイタンパク質、例えば、ホエイタンパク質濃縮物若しくはホエイタンパク質単離物のうちの1種以上などの乳タンパク質由来であり得る。追加的に又は代替的に、タンパク質の少なくとも一部は、大豆タンパク質又はエンドウ豆タンパク質のうちの1種以上などの植物性タンパク質であり得る。
【0103】
[0107]これらのタンパク質の混合物、例えば、カゼインがタンパク質の大部分であるが全部ではない混合物、ホエイタンパク質がタンパク質の大部分であるが全部ではない混合物、エンドウ豆タンパク質がタンパク質の大部分であるが全部ではない混合物、及び大豆タンパク質がタンパク質の大部分であるが全部ではない混合物もまた好適である。一実施形態では、タンパク質の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%は、ホエイタンパク質である。一実施形態では、タンパク質の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%は、カゼインである。一実施形態では、タンパク質の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%は、植物性タンパク質である。
【0104】
[0108]ホエイタンパク質は、例えば、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質単離物、ホエイタンパク質ミセル、ホエイタンパク質加水分解物、酸性ホエイ、甘性ホエイ、変性甘性ホエイ(カゼイノグリコマクロペプチドが除去された甘性ホエイ)、ホエイタンパク質の画分、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される任意のホエイタンパク質であり得る。
【0105】
[0109]カゼインは任意の哺乳類から得ることができるが、好ましくは牛乳から、及び好ましくはカゼインミセルとして得られる。
【0106】
[0110]タンパク質は、加水分解されていなくてもよく、部分的に加水分解されていてもよく(すなわち、分子量は3kDa~10kDaで、平均分子量は5kDa未満のペプチド)、又は顕著に加水分解されてもよく(すなわち、90%が3kDa未満の分子量を有するペプチド)、例えば、5%~95%の範囲が加水分解されてもよい。一部の実施形態では、加水分解されたタンパク質のペプチドプロファイルは、異なる分子量の範囲内であり得る。例えば、ペプチドの大部分(50モル%超又は50重量%超)は、1~5kDa又は5~10kDa又は10~20kDa以内の分子量を有し得る。
【0107】
[0111]タンパク質は、必須アミノ酸及び/又は条件付き必須アミノ酸、例えば、カロリー制限レジメンでは送達が不十分であり得るアミノ酸を含むことができる。例えば、タンパク質は、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、及びバリンからなる群から選択される1種以上の必須アミノ酸を含むことができ;これらのアミノ酸(存在する場合)のそれぞれは、体重1kg当たり約0.0476~約47.6mgの1日用量で本組成物において投与され得る。特に、メチオニンの摂取量が低いと、タンパク質の翻訳レベルが低下し、最終的には筋肉合成のレベルが低下する。タンパク質は、アルギニン、システイン、グルタミン、グリシン、プロリン、オルニチン、セリン、及びチロシンからなる群から選択される1種以上の条件付き必須アミノ酸(例えば、病気又はストレスに条件付きで必須のアミノ酸)を含むことができ;これらのアミノ酸(存在する場合)のそれぞれは、体重1kg当たり約0.0476~約47.6mgの1日用量で本組成物において投与され得る。
【0108】
[0112]本組成物は、1種以上の分岐鎖アミノ酸(BCAA)を含み得る。例えば、組成物は、ロイシン、イソロイシン、及び/又はバリンを、遊離形態で、並びに/又はペプチド及び/若しくはタンパク質(乳タンパク質、動物性タンパク質、又は植物性タンパク質など)として結合して含み得る。分岐鎖アミノ酸の1日用量は、体重1kg当たり0.35~142.85mgのロイシン、好ましくは体重1kg当たり0.175~71.425mgのロイシン;体重1kg当たり0.175~71.425mgのイソロイシン;及び体重1kg当たり0.175~71.425mgのバリンのうちの1種以上を含み得る。1種以上の分岐鎖アミノ酸の1日用量は、組成物を1日当たり1回分以上摂取することによって提供され得る。
【0109】
[0113]ホエイタンパク質は、BCAAに富んでいる。したがって、本組成物の一部の実施形態は、組成物中のBCAAの少なくとも一部を提供するホエイタンパク質を含む。
【0110】
[0114]一実施形態では、本組成物は、炭水化物源を含む。デンプン(例えば、変性デンプン、アミロースデンプン、タピオカデンプン、コーンデンプン)、スクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、固形コーンシロップ、マルトデキストリン、キシリトール、ソルビトール、又はこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない、任意の好適な炭水化物を本組成物に使用してもよい。
【0111】
[0115]炭水化物源は、好ましくは本組成物の50エネルギー%以下、より好ましくは本組成物の36エネルギー%以下、最も好ましくは本組成物の30エネルギー%以下である。組成物は、例えば、0.66超、好ましくは0.9超、より好ましくは1.2超の高いタンパク質:炭水化物エネルギー比を有することができる。
【0112】
[0116]一実施形態では、本組成物は、脂肪源を含む。脂肪源は、任意の適切な脂肪又は脂肪混合物を含み得る。好適な脂肪源の非限定的な例としては、植物性脂肪(例えば、オリーブ油、コーン油、ヒマワリ油、高オレイン酸ヒマワリ油、菜種油、キャノーラ油、ヘーゼルナッツ油、大豆油、パーム油、ココナッツ油、クロフサスグリ種子油、ルリヂサ油、レシチンなど)、動物性脂肪(乳脂肪など);又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0113】
[0117]チモール及び/又はカルバクロールの組み合わせを、任意選択的に高タンパク質と組み合わせて含む組成物は、ヒト、例えば、高齢個体又は重篤な個体に、治療有効量で投与することができる。治療に有効な用量は当業者により決定され得るものであり、状態の重症度並びに個体の体重及び全身状態など、当業者に公知のいくつもの因子に応じて異なり得る。
【0114】
[0118]本組成物は、好ましくは少なくとも週2日、より好ましくは少なくとも週3日、最も好ましくは週7日;少なくとも1週間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、又は更に長い期間、個体に投与される。一部の実施形態では、本組成物は、例えば、少なくとも治療効果が達成されるまで、数日にわたって連続的に個体に投与される。一部の実施形態では、本組成物は、少なくとも30日間、60日間、又は90日間連続で毎日個体に投与することができる。
【0115】
[0119]上記の投与例は、間断のない連日投与を必要とするものではない。それよりむしろ、投与期間中の2~4日間の中断など、投与には何回かの短期間の中断があってもよい。本組成物の理想的な投与継続期間は当業者により決定され得る。
【0116】
[0120]好ましい実施形態では、本組成物は、個体に経口投与又は経腸投与(例えば経管栄養法)される。例えば、本組成物は、飲料、カプセル、錠剤、散剤又は懸濁液剤として個体に投与することができる。
【0117】
[0121]本組成物は、ヒト及び/又は動物が摂取するのに好適ないかなる種類の組成物であってもよい。例えば、本組成物は、食品組成物、ダイエタリーサプリメント、栄養組成物、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又は乳で再構成される粉末栄養製剤、食品添加物、医薬品、飲料及びドリンクからなる群から選択され得る。一実施形態では、本組成物は、経口栄養補助食品(ONS)、完全栄養配合物、医薬品、薬剤又は食品製品である。好ましい実施形態では、本組成物は個体に飲料として投与される。本組成物は粉末としてサシェに保存され、次に使用の際に水などの液体中に懸濁されてもよい。
【0118】
[0122]経口又は経腸投与が不可能であるか、又は推奨されない一部の場合には、本組成物はまた、非経口投与されてもよい。
【0119】
[0123]一部の実施形態では、本組成物は単回投与剤形で個体に投与され、すなわち、食事と一緒に個体に与えられる1つの製剤中に全ての化合物が存在している。他の実施形態では、本組成物は別個の剤形で同時投与され、例えば少なくとも1つの構成成分と本組成物の他の構成成分のうちの1つ以上は別個のものとして同時投与される。
[0124]
【実施例
【0120】
[0125]実施例1:インビトロ実験
[0126]材料及び方法
[0127]ヒトリンパ球T細胞株ジャーカット(クローンE6.1、ATCCTIB-152)を使用して、インビトロでのオートファジーフラックスを測定した。細胞を、加湿雰囲気中、標準条件(5%CO2、37℃)を用いて、RPMI培地で増殖させた。実験のために、細胞を洗浄し、計数し、96ウェル平底プレート内で1×105個/ウェルを2連でインキュベートした。実験条件には、陰性対照(0.5%DMSO)、陽性対照としてのラパマイシン処理(1μM)、及び飢餓培地としてのアール平衡塩溶液(EBSS)を含んだ。細胞は、1.95μM~250μMの範囲の異なる濃度のチモール(RPMI中)で処理した。並行して、MerckのFlow Cellectオートファジーキット(現在はGuava Autophagy LC3抗体ベースキット)の溶液Aを用いたインキュベートのために、同じ実験条件を用意した。化合物Aによる処理は、LC3小胞のリソソーム分解をブロックし、オートファジーフラックスの測定に使用される。細胞を、チモールと共に、37℃で1.30時間インキュベートした。更に30分間、溶液Aを添加した。次いで、Guava Autophagy LC3抗体ベースキットを使用し、製造業者の指示に従って、LC3抗体検出用の96ウェルV底プレートに細胞を移した。簡潔に述べると、細胞を透過処理して、細胞質型のLC3(LC3-I)を除去し、フルオロフォアのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識したモノクローナル抗LC3抗体と共にインキュベートした。次いで、Becton Dickinson LSORP Fortessaフローサイトメトリー分析装置を用いてサンプルを採取した。FCS Expressソフトウェアを用いてオフライン分析を実施し、結果をFITCチャネルにおける中央蛍光強度として表した(細胞中に存在するLC3-IIの量に関係する)。
【0121】
[0128]結果を図1に示す。この図は、チモールが、ヒトジャーカット細胞において、125μMの濃度から出発して用量依存的にオートファジーを誘導したことを示す。
【0122】
[0129]実施例2:オートファジーレポーターゼブラフィッシュの実験
[0130]材料及び方法
[0131]オートファジーレポーターゼブラフィッシュ系統(Anautophagy reporter zebrafish line)は、骨格筋特異的プロモーターの制御下でZsGreenに融合されたLC3タンパク質の安定発現によって作製された。異系交配したトランスジェニックゼブラフィッシュの幼生を、標準的な実験室条件下、28℃で飼育し、96ウェルプレートにおいて、図3に示す様々な濃度のチモールで、受精後48時間処理した。16時間の処理後、幼生を0.016%トリカインで麻酔し、ImageXpress共焦点システム(Molecular Devices)を用いて倍率20倍で画像化した。各幼生のZスタック画像をキャプチャし、最大投影画像を作製した。塩化アンモニウムを更に4時間添加して、リソソーム分解をブロックした。画像を、前回と同様に再度取得した。オートファジーフラックスを定量するため、LC3顆粒の数を、塩化アンモニウムの存在下及び不在下、MetaXpressソフトウェア(Moleculare Devices)で計算し、ゼブラフィッシュのエリアによって正規化した。
【0123】
[0132]結果を図2に報告する。このグラフは、チモールが、ゼブラフィッシュ幼生において、50μMの濃度から出発して用量依存的にオートファジーを誘導したことを示す。
【0124】
[0133]実施例3:インビボ実験
[0134]材料及び方法
[0135]短期処理
[0136]10~15週齢のC57bl6/Jに、組織の摘出前に、20mg/kg/体重、及び100mg/kg/体重の濃度のチモールを用いた2種類の処理を2日間連続して実施した。イソフルラン吸入によりマウスを屠殺した後、放血を行った。肝臓を回収し、液体窒素中で凍結させた。
【0125】
[0137]肥満モデルにおける長期処理
[0138]マウスに、高脂肪食(Research Diets D12492:60%脂肪、20%タンパク質、20%炭水化物)を8週間給餌した。イソフルラン吸入によりマウスを屠殺した後、放血を行った。肝臓を回収し、OCTに包埋し、イソペンタン中で凍結させた。脂肪滴を可視化するために、10μmの肝臓切片を切り出し、オイルレッドOで染色した。脂質のサイズを、imageJソフトウェアを使用して計算した。
【0126】
[0139]ウェスタンブロット
[0140]20mL/gのRIPA緩衝液(150mM塩化ナトリウム、50mMトリス(pH8)、1%Triton X-100、0.5%デオキシコール酸、0.1%SDS、タンパク質分解酵素阻害剤カクテル)に均質化した30~50mgの組織から、組織解離剤(gentleMACS Miltenyi Biotec)により全タンパク質溶解物を抽出した。タンパク質濃度をBCAアッセイにより測定し、4X LDSサンプル緩衝液(Invitrogen)を添加してサンプルを調製した。4~12%の勾配ゲルでのSDS-PAGEにより20μgのタンパク質を分離し、ドライ式iBLOTシステム(Invitrogen)を使用してPVDF膜に転写した。膜をLC3(Novus Biologicals 2220)及びGAPDH(Cell Signaling 2118)抗体と共にインキュベートし、ECL基質(Pierce)で検出した。ImageJソフトウェアを使用して、画像のデンシトメトリー分析によってタンパク質定量を行った。
【0127】
[0141]結果をそれぞれ図3及び図4に示す。図3は、チモールで急性処理したマウスの肝臓で実施したウェスタンブロットのLC3-II/LC3-Iタンパク質量のデンシメトリーによる定量を示し、図4は、チモール20mg/kg/日で8週間処理した肥満マウスにおける脂肪肝の軽減を示す。
【0128】
[0142]本明細書で説明されている現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び変形が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。かかる変更及び変形は、本発明の主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、行うことができる。それゆえ、そのような変更及び変形は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】