(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-24
(54)【発明の名称】1種以上の同化アミノ酸による筋骨格への効果を増強するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/175 20160101AFI20220817BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220817BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220817BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220817BHJP
A61P 21/06 20060101ALI20220817BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20220817BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20220817BHJP
A61K 38/07 20060101ALI20220817BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20220817BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20220817BHJP
A61K 38/01 20060101ALI20220817BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220817BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220817BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20220817BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
A23L33/175
A61P21/00
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P21/06
A61P43/00 105
A61K38/17
A61K38/08
A61K38/07
A61K38/06
A61K38/05
A61K38/01
A61K38/02
A61K31/198
A61K31/05
A61P3/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571793
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(85)【翻訳文提出日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2020067251
(87)【国際公開番号】W WO2020254664
(87)【国際公開日】2020-12-24
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ファイギ, ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ガット, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】シヴィレット, ガブリエーレ
(72)【発明者】
【氏名】ブトリ, クレア
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD07
4B018MD19
4B018MD20
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4C084AA02
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4C206AA01
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4C206MA04
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4C206MA75
4C206MA80
4C206MA86
4C206NA06
4C206NA14
4C206ZA94
4C206ZB21
4C206ZC22
4C206ZC75
(57)【要約】
筋骨格への効果の増強を必要とする個体において、1種以上の同化アミノ酸による筋骨格への効果を増強する方法は、1種以上の同化アミノ酸を含む組成物を、当該個体に投与する工程を含むことができ、当該組成物は、1種以上のオートファジー誘導化合物も、当該組成物がオートファジーに関して少なくとも中立となるのに有効な総量で含む。別の態様では、オートファジーの低下に関連する変性プロセスを防止することによって1種以上の同化アミノ酸の1種以上のマイナス効果を克服する方法は、1種以上の同化アミノ酸を含有する組成物を、当該克服を必要とする個体に投与する工程を含み、当該組成物は、1種以上のオートファジー誘導化合物を、当該組成物がオートファジーに関して少なくとも中立となるのに有効な総量で更に含有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の同化アミノ酸を含む組成物であって、
個体の1種以上の同化アミノ酸による筋骨格への効果を増強するために必要とする前記個体に使用するように前記組成物がオートファジーに関して少なくとも中立となるのに有効な総量で1種以上のオートファジー誘導化合物を更に含む、組成物。
【請求項2】
前記1種以上のオートファジー誘導化合物が、チモール、カルバクロール、スペルミジン、ウロリチン(例えば、ウロリチンA、ウロリチンB又はウロリチンD)、ラパマイシン、トリン1、バルプロ酸、ポリフェノール(例えば、レスベラトロール)、カフェイン、メトホルミン、5’AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)活性化因子、L型カルシウムチャネル阻害因子、ケトン(例えば、β-ヒドロキシブチレート、ケトン塩、又はケトンエステル誘導体)、4,4’-ジメトキシカルコン、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記1種以上の同化アミノ酸が、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、グルタミン、シトルリン、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記1種以上の同化アミノ酸が、ロイシン、アルギニン、又はグルタミンのうちの少なくとも1種を、前記個体においてmTORを活性化するのに有効な量で含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、骨格筋においてオートファジーを誘導する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記個体が高齢個体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記個体が、サルコペニア若しくはフレイルを有する、又はサルコペニア若しくはフレイルを発症するリスクがある、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記個体が、(i)重篤、(ii)急性腎傷害、(iii)慢性腎傷害、(iv)慢性腎疾患による筋量の低下、及び(v)慢性腎疾患による筋機能の低下からなる群から選択される少なくとも1つの状態を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記個体が、重篤なミオパチーを有する、又は重篤なミオパチーを発症するリスクがある、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記個体が、癌、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性心不全(CHF)、急性腎疾患又は慢性腎疾患(CKD)などの慢性疾患に続発する悪液質又は筋肉消耗を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、前記1種以上の同化アミノ酸の少なくとも一部及び/又は前記1種以上のオートファジー誘導化合物の少なくとも一部を提供するタンパク質を含み、前記タンパク質の少なくとも一部が、(i)動物源由来のタンパク質、(ii)植物源由来のタンパク質、及び(iii)これらの混合物からなる群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記タンパク質の少なくとも一部が、(i)乳タンパク質、(ii)ホエイタンパク質、(iii)カゼイン塩、(iv)カゼインミセル、(v)エンドウ豆タンパク質、(vi)大豆タンパク質、及び(vii)これらの混合物からなる群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記タンパク質の少なくとも一部が、(i)遊離形態のアミノ酸、(ii)加水分解されていないタンパク質、(iii)部分的に加水分解されたタンパク質、(iv)広範囲に加水分解されたタンパク質、及び(v)これらの混合物からなる群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記タンパク質の少なくとも一部が、5~95%加水分解されている、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記タンパク質が、2~10アミノ酸の長さを有するペプチドを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
前記タンパク質が、(i)前記タンパク質の少なくとも50%が1~5kDaの分子量を有する配合、(ii)前記タンパク質の少なくとも50%が5~10kDaの分子量を有する配合、及び(iii)前記タンパク質の少なくとも50%が10~20kDaの分子量を有する配合、からなる群から選択される配合を有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、炭水化物源及び/又は脂肪源を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
投与する工程が、経口、経腸、非経口、及び静脈内注射の群から選択される少なくとも1つの経路を使用する、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記1種以上の同化アミノ酸の総量が、前記組成物中の前記1種以上の同化アミノ酸の総量とほぼ等しい、又はより多い、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記1種以上の同化アミノ酸の総量が、前記組成物中の前記1種以上の同化アミノ酸の総量より少なくとも2倍多い、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
1種以上の同化アミノ酸を含む組成物であって、1種以上のオートファジー誘導化合物を、前記組成物がオートファジーに関して少なくとも中立となるのに有効な総量で更に含む、組成物。
【請求項22】
前記組成物が、食品組成物、ダイエタリーサプリメント、栄養組成物、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又は乳で再構成される粉末栄養製剤、食品添加物、医薬品、ドリンク、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
治療組成物を作製する方法であって、
1種以上のオートファジー誘導化合物を、1種以上の同化アミノ酸を含むベース組成物に添加して、前記治療組成物を形成する工程を含み、
前記1種以上のオートファジー誘導化合物は、前記治療組成物がオートファジーに関して少なくとも中立となるのに有効な総量で前記ベース組成物に添加される、方法。
【請求項24】
前記ベース組成物が、経口、経腸、非経口、及び静脈内注射の群から選択される少なくとも1つの経路による投与のために配合される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ベース組成物が、オートファジー誘導に関してマイナスである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記ベース組成物が、オートファジー誘導に関してマイナスである前記ベース組成物の一部を形成する量の前記1種以上の同化アミノ酸を含有する、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記ベース組成物中の前記1種以上の同化アミノ酸の総量を定量する工程と、
前記ベース組成物中の前記1種以上の同化アミノ酸の総量を使用して、前記ベース組成物に添加される前記1種以上のオートファジー誘導化合物の総量を決定する工程と、を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記ベース組成物中の前記1種以上の同化アミノ酸の総量を使用して、前記ベース組成物に添加される前記1種以上のオートファジー誘導化合物の総量を決定する工程は、前記1種以上の同化アミノ酸の総量から予想されるオートファジーに対する効果を決定することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ベース組成物中の前記1種以上の同化アミノ酸の総量を使用して、前記ベース組成物に添加される前記1種以上のオートファジー誘導化合物の総量を決定する工程は、前記ベース組成物に添加される前記1種以上のオートファジー誘導化合物の総量から予想されるオートファジーに対する効果が、前記1種以上の同化アミノ酸の総量から予想されるオートファジーに対する効果とほぼ等しい、又はより大きいように、前記ベース組成物に添加される前記1種以上のオートファジー誘導化合物の総量を決定することを更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
タンパク質合成と損傷した細胞物質の除去とを同時に促進する組成物を、必要とする個体に投与する工程を含む方法であって、
前記組成物は、1種以上の同化アミノ酸を含み、前記組成物は、1種以上のオートファジー誘導化合物を、前記組成物がオートファジーに関して少なくとも中立となるのに有効な総量で更に含む、方法。
【請求項31】
オートファジーの低下に関連する変性プロセスを防止することによって1種以上の同化アミノ酸の1種以上のマイナス効果を克服する方法であって、
1種以上の同化アミノ酸を含む組成物を、必要とする個体に投与する工程を含み、
前記組成物は、1種以上のオートファジー誘導化合物を、前記組成物がオートファジーに関して少なくとも中立となるのに有効な総量で更に含む、方法。
【請求項32】
オートファジー誘導因子が、チモール、カルバクロール、スペルミジン、ウロリチン(例えば、ウロリチンA、ウロリチンB又はウロリチンD)、ラパマイシン、トリン1、バルプロ酸、ポリフェノール(例えば、レスベラトロール)、カフェイン、メトホルミン、5’AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)活性化因子、L型カルシウムチャネル阻害因子、ケトン(例えば、β-ヒドロキシブチレート、ケトン塩、又はケトンエステル誘導体)、4,4’-ジメトキシカルコン、及びこれらの混合物を含む、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001]本開示は、概して、1種以上のオートファジー誘導化合物を使用して、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、グルタミン、又はシトルリンなどの1種以上の同化アミノ酸の効果を増強する、組成物及び方法に関する。より具体的には、本開示は、1種以上の同化アミノ酸を含む組成物を投与することに関し、当該組成物は、1種以上のオートファジー誘導化合物を、1種以上の同化アミノ酸によりオートファジーに対するマイナス効果があった場合でも組成物がオートファジーに関して少なくとも中立、好ましくはオートファジーに関してプラスとなるのに有効な量で、更に含む。組成物は、タンパク質合成と損傷した細胞物質の除去とを同時に促進することができる。投与のレシピエントは、例えば、集中治療室(ICU)内の患者などの重篤な患者;高齢患者、例えば老齢の個体;サルコペニア若しくはフレイルを有する患者;又は慢性腎疾患(例えば、透析によるアミノ酸の喪失)を有する個体及び/又は急性腎傷害を有する個体であり得る。
【0002】
[0002]集中治療の大きな進歩により、重篤患者は、多くの場合、以前は致死的であった急性疾患からも生き延びている。しかしながら、この初期フェーズを生き延びても、重篤な慢性フェーズに入った患者の死亡率は依然として高い。死亡は、多くの場合、難治性多重臓器不全、急性腎傷害及び急性腎不全、重篤なミオパチー、又は重症度の低い筋力低下によるものである。筋肉のミオパチー及び筋力低下を改善するために、栄養法、成長ホルモン、又はアンドロゲンなどの治療法が導入されているが、これらの介入は臓器不全及び死亡のリスクを予想外に増加させることから成功していない。更に、外傷及び手術患者に対する栄養補助は、実際には有害な影響を有し得る。
【0003】
[0003]重篤患者に適切な治療及び十分な栄養を供給するための有効な手段は未だに存在しない。
【0004】
[0004]更に、加齢に伴う筋肉量及び筋肉機能の低下は、全ての個体において避けられないものであるが、その進行は、遺伝的要因並びに身体活動及び栄養摂取などの環境要因によって大きく異なる。サルコペニアは、加齢に伴う筋肉量及び筋機能の低下が悪化して、生活の質に影響を及ぼすようになっている状態であるとして定義されている。対照的に、フレイルは、加齢に伴う身体機能の衰えという別の分類であり、筋肉量ではなく、筋力及び筋機能の低下を特徴とする。サルコペニアは、老齢集団のうち可動性が病的状態にある個体を分類する区切りを用い、筋肉量及び筋機能の低下をもとに臨床的に診断される。サルコペニアからは将来的な身体障害及び死亡が予測される。サルコペニアには、2016年に公式のICD-10疾病コードが割り当てられている(Ankerら、2016)。
【0005】
[発明の概要]
[0005]細胞質タンパク質の分解は、マクロオートファジーと呼ばれる(単にオートファジーとも呼ばれる)細胞プロセスによって介在される。オートファジープロセスは、炎症反応にも関与し、免疫系による細菌の破壊を促進する。オートファジーは、損傷したミトコンドリアなどの、損傷した及び場合により有害な細胞材料を再利用する、重要なリソソーム系分解経路を構成する。特にオートファジーは、細胞死の影響を弱め、様々な老化モデルにおいて寿命を延長する。
【0006】
[0006]本明細書で後に詳述されるように、本発明者らは、mTOR経路による筋骨格系の同化に関与することが公知であるいくつかのアミノ酸、例えば、アルギニン、グルタミン及びロイシン、並びに/又は同化分岐鎖アミノ酸、例えばロイシン及びイソロイシが、基底オートファジーを減少させることを見出した。しかしながら、本発明者らは、チモール、カルバクロール、スペルミジン、ウロリチン(例えば、ウロリチンA、ウロリチンB又はウロリチンD)、ラパマイシン、トリン1、バルプロ酸、ポリフェノール(例えば、レスベラトロール)、カフェイン、メトホルミン、5’AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)活性化因子、L型カルシウムチャネル阻害因子、ケトン(例えば、β-ヒドロキシブチレート、ケトン塩、又はケトンエステル誘導体)、4,4’-ジメトキシカルコン、及びこれらの混合物は、オートファジーを強力に誘導することができ、したがって、筋肉及び神経筋変性、並びに筋量及び筋機能の低下などの、同化アミノ酸によるオートファジーに対するマイナス影響に対抗し得ることを発見した。
【0007】
[0007]したがって、全般的な実施形態では、本開示は、必要とする個体において、1種以上の同化アミノ酸による筋骨格への効果を増強する方法を提供する。本方法は、1種以上の同化アミノ酸を含む組成物を個体に投与する工程を含み、当該組成物は、組成物がオートファジーに関して少なくとも中立、好ましくはオートファジーに関してプラスとなるのに有効な総量で1種以上のオートファジー誘導化合物を更に含む。
【0008】
[0008]一実施形態では、1種以上の同化アミノ酸は、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、グルタミン、シトルリン、及びこれらの混合物からなる群から選択される。1種以上の同化アミノ酸は、ロイシン、グルタミン、又はアルギニンのうちの少なくとも1種を、個体においてmTORを活性化するのに有効な量で含み得る。
【0009】
[0009]一実施形態では、1種以上のオートファジー誘導化合物は、チモール、カルバクロール、スペルミジン、ウロリチン(例えば、ウロリチンA、ウロリチンB又はウロリチンD)、ラパマイシン、トリン1、バルプロ酸、ポリフェノール(例えば、レスベラトロール)、カフェイン、メトホルミン、5’AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)活性化因子、L型カルシウムチャネル阻害因子、ケトン(例えば、β-ヒドロキシブチレート、ケトン塩、又はケトンエステル誘導体)、4,4’-ジメトキシカルコン、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0010】
[0010]一実施形態では、組成物は、骨格筋においてオートファジーを誘導する。
【0011】
[0011]一実施形態では、個体は、高齢の個体である。
【0012】
[0012]一実施形態では、個体は、サルコペニア若しくはフレイルを有する、又はサルコペニア若しくはフレイルを発症するリスクがある。
【0013】
[0013]一実施形態では、個体は、重篤である。
【0014】
[0014]一実施形態では、個体は、重篤なミオパチーを有する、又は重篤なミオパチーを発症するリスクがある。
【0015】
[0015]一実施形態では、個体は、急性腎不全を伴う重篤な状態である、又は急性腎不全を発症するリスクがある。
【0016】
[0016]一実施形態では、個体は、関連する筋量又は筋機能の低下を伴う又は伴わない慢性腎疾患を有する。
【0017】
[0017]一実施形態では、個体は、がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性心不全(CHF)、急性腎疾患又は慢性腎疾患(CKD)などの慢性疾患に続発する悪液質又は筋消耗を有する。
【0018】
[0018]一実施形態では、組成物は、1種以上の同化アミノ酸の少なくとも一部及び/又は1種以上のオートファジー誘導化合物の少なくとも一部を提供するタンパク質を含み、当該タンパク質は、(i)動物源由来のタンパク質、(ii)植物源由来のタンパク質、及び(iii)これらの混合物からなる群から選択され、好ましくは、(a)乳タンパク質、(b)ホエイタンパク質、(c)カゼイン塩、(d)カゼインミセル、(e)エンドウ豆タンパク質、(f)大豆タンパク質、及び(g)これらの混合物のうちの1種以上である。特定の非限定的な例では、タンパク質の少なくとも一部は、コラーゲン、すなわち、加水分解されていないコラーゲン及び/又は加水分解されたコラーゲンである。
【0019】
[0019]タンパク質は、(i)遊離形態のアミノ酸、(ii)加水分解されていないタンパク質、及び(iii)部分的に加水分解されたタンパク質、(iv)広範囲に加水分解されたタンパク質、及び(v)これらの混合物からなる群から選択され得る。タンパク質は、2~10アミノ酸の長さを有するペプチドを含み得る。任意に、タンパク質の少なくとも一部は5~95%加水分解されている。任意に、タンパク質は、(i)タンパク質の少なくとも50%が1~5kDaの分子量を有する配合、(ii)タンパク質の少なくとも50%が5~10kDaの分子量を有する配合、及び(iii)タンパク質の少なくとも50%が10~20kDaの分子量を有する配合、からなる群から選択される配合を有する。
【0020】
[0020]一実施形態では、組成物は、炭水化物源及び/又は脂肪源を含む。
【0021】
[0021]一実施形態では、投与する工程は、経口、経腸、非経口、及び静脈内注射の群から選択される少なくとも1つの経路を使用する。
【0022】
[0022]一実施形態では、1種以上の同化アミノ酸の総量は、組成物中の1種以上の同化アミノ酸の総量とほぼ等しい、又はより多い。
【0023】
[0023]別の実施形態では、本開示は、1種以上の同化アミノ酸を含む組成物を提供し、当該組成物は、組成物がオートファジーに関して少なくとも中立、好ましくはオートファジーに関してプラスとなるのに有効な総量で1種以上のオートファジー誘導化合物を更に含む。本組成物は、食品組成物、ダイエタリーサプリメント、栄養組成物、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又はミルクで再構成される粉末栄養製剤、食品添加物、医薬、ドリンク、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0024】
[0024]別の実施形態では、本開示は、治療組成物を作製する方法を提供し、当該方法は、1種以上のオートファジー誘導化合物を、1種以上の同化アミノ酸を含むベース組成物に添加して、治療組成物を形成する工程を含み、1種以上のオートファジー誘導化合物は、治療組成物がオートファジーに関して少なくとも中立、好ましくはオートファジーに関してプラスとなるのに有効な量で、ベース組成物に添加される。ベース組成物及び/又は治療組成物は、経口、経腸、非経口、及び静脈内注射の群から選択される少なくとも1つの経路による投与のために配合され得る。ベース組成物は、オートファジーの誘導に関してマイナスであることができ(すなわち、組成物が総合的にマイナスである)、及び/又はベース組成物は、オートファジーの誘導に関して中立又はプラスであり得るが、オートファジーの誘導に関してマイナスとなる量の1種以上の同化アミノ酸を含有し得る(すなわち、1種以上の同化アミノ酸は、オートファジーの誘導に関してマイナスである部分を形成する)。
【0025】
[0025]一実施形態では、方法は、ベース組成物中の1種以上の同化アミノ酸の総量を定量する工程と;ベース組成物中の1種以上の同化アミノ酸の総量を使用して、ベース組成物に添加される1種以上のオートファジー誘導化合物の総量を決定する工程と、を含む。ベース組成物中の1種以上の同化アミノ酸の総量を使用して、ベース組成物に添加される1種以上のオートファジー誘導化合物の総量を決定する工程は、好ましくは、1種以上の同化アミノ酸の総量から予想されるオートファジーに対する効果を決定することを含む。ベース組成物中の1種以上の同化アミノ酸の総量を使用して、ベース組成物に添加される1種以上のオートファジー誘導化合物の総量を決定する工程は、好ましくは、ベース組成物に添加される1種以上のオートファジー誘導化合物の総量から予想されるオートファジーに対する効果が、1種以上の同化アミノ酸の総量から予想されるオートファジーに対する効果とほぼ等しい、又はより大きいように、ベース組成物に添加される1種以上のオートファジー誘導化合物の総量を決定することを更に含む。
【0026】
[0026]別の実施形態では、本開示は、タンパク質合成と損傷した細胞物質の除去とを同時に促進する量の組成物を、必要とする個体に投与する工程を含む方法であって、当該組成物は、1種以上の同化アミノ酸を含み、当該組成物は、組成物がオートファジーに関して少なくとも中立、好ましくはオートファジーに関してプラスとなるのに有効な総量で1種以上のオートファジー誘導化合物を更に含む、方法を提供する。
【0027】
[0027]別の実施形態では、本開示は、オートファジーの低下に関連する変性プロセスを防止することによって、1種以上の同化アミノ酸の1つ以上のマイナス効果を克服する方法を提供する。本方法は、1種以上の同化アミノ酸を含む組成物を個体に投与する工程を含み、当該組成物は、チモール、カルバクロール、スペルミジン、ウロリチン(例えば、ウロリチンA、ウロリチンB又はウロリチンD)、ラパマイシン、トリン1、バルプロ酸、ポリフェノール(例えば、レスベラトロール)、カフェイン、メトホルミン、5’AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)活性化因子、L型カルシウムチャネル阻害因子、ケトン(例えば、β-ヒドロキシブチレート、ケトン塩、又はケトンエステル誘導体)、4,4’-ジメトキシカルコン、及びこれらの混合物などの1種以上のオートファジー誘導化合物を、例えば筋肉内で、組成物がオートファジーに関して少なくとも中立、好ましくはオートファジーに関してプラスとなるのに有効な量で、更に含む。
【0028】
[0028]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の利点は、重篤な動物、重篤なヒト、高齢の動物、又は高齢のヒトの状態を改善することである。
【0029】
[0029]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、例えば、重篤患者又は高齢個体における、過剰な異化効果を予防又は治療することである。
【0030】
[0030]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、例えば、重篤患者又は高齢個体における、過剰な異化効果による罹患又は死亡のリスクを低減又は予防することである。
【0031】
[0031]本開示の追加の利点は、重篤患者における多臓器機能障害症候群から回復する、治療する、又は治癒させることである。
【0032】
[0032]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、ハンチントン病、認知症、及び関係する神経性の希少疾患などの神経疾患から高齢個体を保護することである。
【0033】
[0033]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、例えば、サルコペニア、フレイル、封入体筋炎、コルチコステロイド又はスタチンなどの薬物によって誘発されたミオパチー/筋融解、不動又は入院によって誘発された筋消耗などの筋肉機能障害から高齢個体を保護することである。
【0034】
[0034]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー又はVI型コラーゲン筋ジストロフィーなどの筋ジストロフィー、ミトコンドリア脳筋症、ミトコンドリアミオパチー、糖原病、リソソーム蓄積症、ポンペ病が挙げられるが、これらに限定されない、遺伝疾患に罹患している患者を保護することである。
【0035】
[0035]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、例えば、多臓器機能障害又は火傷を治療するために、オートファジーを誘導するため、例えば、水性液体組成物として、重篤患者に非経口的又は経腸的に投与され得る組成物である。
【0036】
[0036]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、重篤患者が人工呼吸器をつけている期間を短縮すること、又は人工呼吸器を取り外すまでの期間を繰り上げることである。
【0037】
[0037]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、例えば、非経口栄養送達によって引き起こされる、特に調和の取れていない栄養又は相対的な栄養過多によって引き起こされる多臓器不全又は筋力低下から、非経口栄養を受けている重篤患者を保護することである。
【0038】
[0038]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、筋力低下から高齢個体を保護することである。
【0039】
[0039]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、重篤患者又は高齢個体の生存性を向上させることである。
【0040】
[0040]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、集中治療室からの退院後に、可動性の回復を加速すること、又は寝たきりの期間を短縮することである。
【0041】
[0041]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、重篤患者が既に生命を脅かされる状態までかなり進行した段階にある場合であっても、効果が有益であるというものである。
【0042】
[0042]追加の特徴及び利点は、以降の発明の詳細な説明及び図面に記載され、これらにより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
[0043]
【
図1】本明細書に開示される実験例における個々のアミノ酸によるオートファジー活性化を示す。
図1は、ゼブラフィッシュにおいて異なる濃度(10mM及び100mM)のロイシンがオートファジーに及ぼす阻害効果を示す。ゼブラフィッシュの幼生を16時間処理した。結果を24反復の平均±標準誤差として表した。
図2は、ゼブラフィッシュにおいて異なる濃度(250μM及び500μM)のアルギニンがオートファジーに効果を及ぼさないことを示す。ゼブラフィッシュの幼生を16時間処理した。結果を24反復の平均±標準誤差として表した。
【
図2】本明細書に開示される実験例における個々のアミノ酸によるオートファジー活性化を示す。
図1は、ゼブラフィッシュにおいて異なる濃度(10mM及び100mM)のロイシンがオートファジーに及ぼす阻害効果を示す。ゼブラフィッシュの幼生を16時間処理した。結果を24反復の平均±標準誤差として表した。
図2は、ゼブラフィッシュにおいて異なる濃度(250μM及び500μM)のアルギニンがオートファジーに効果を及ぼさないことを示す。ゼブラフィッシュの幼生を16時間処理した。結果を24反復の平均±標準誤差として表した。
【
図3】高齢マウス(高齢)における力-周波数応答(force frequency response)に対する特定のアミノ酸混合物(AA)及びAA+チモール(AA+Thy)の効果、及び通常食を給餌した成体マウス(成体)との比較を示す。20ヶ月齢のマウスに、対照食、又は同じ食餌に特定のアミノ酸混合物(AA)若しくはAAとチモール(AA+Thy)との混合物を添加したもののいずれかを3ヶ月間給餌した。6ヶ月齢の成体マウスに、対照食を3ヶ月間給餌した。結果を平均±標準誤差で表した。成体:対照食を給餌した6ヶ月齢のマウス。高齢:対照食を給餌した20ヶ月齢のマウス。高齢+AA:特定のアミノ酸混合物を添加した対照食を給餌した20ヶ月齢のマウス。高齢+AA+Thy:アミノ酸混合物及びチモールを添加した対照食を給餌した20ヶ月齢のマウス。データは、Benjamini、Krieger、及びYekutieliの事後2段階線形上昇手順(post-hocTwo-stage linear step-up procedure)を用いて、9-12反復の平均±標準偏差(二元ANOVA)として表されている。
****p<0.0001、
**p<0.01、
*p<0.05
【発明を実施するための形態】
【0044】
[0045]定義
[0046]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0045】
[0047]パーセンテージは全て、特に明記しない限り組成物の総重量に対する重量によるものとする。同様に、全ての量及び全ての比率は、特に明記しない限り、重量による。pHについての参照がなされる場合には、値は標準的な装置により25℃にて測定されるpHに相当する。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。
【0046】
[0048]更に、本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数(integers)、整数(whole)又は分数、を含むものと理解されたい。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項をサポートすると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと解釈されたい。
【0047】
[0049]本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、別途文脈が明らかに示していない限り、単数形の単語は複数形を含む。したがって、「1つの」、「ある」、及び「当該」」(「a」、「an」及び「the」)の言及には、概してそれぞれの用語の複数形が包含される。例えば、「あるアミノ酸」又は「当該アミノ酸」への言及は、複数のそのような「アミノ酸」を含む。「X及び/又はY」という文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。同様に、「X又はYのうちの少なくとも1つ」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びYの両方」と解釈されるべきである。
【0048】
[0050]同様に、「含む/構成される(comprise)」、「含む/構成される(comprises)」、及び「含む/構成される(comprising)」という用語は、排他的ではなく、他を包含し得るものとして解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは他を包含し得るものであると解釈される。しかし、本開示により提供される実施形態は、本明細書で具体的に開示されない任意の要素を含まない場合がある。したがって、用語「含む(comprising)」を用いて規定される実施形態の開示は、開示される構成要素「から本質的に構成される」、及び「から構成される」実施形態の開示でもある。
【0049】
[0051]本明細書で使用するとき、用語「例(example)」は、特に、後に用語の列挙が続く場合に、単に例示的なものであり、かつ説明のためのものであり、排他的又は包括的なものであるとみなすべきではない。本明細書で開示される全ての実施形態は、特に明示的に示されない限り、本明細書で開示される任意の別の実施形態と組み合わせることができる。
【0050】
[0052]「動物」としては、齧歯類動物、水生哺乳動物、イヌ及びネコなどの飼育動物、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマなどの家畜、並びにヒトを含むがこれらに限定されない哺乳動物が挙げられるが、これらに限定されない。「動物」、「哺乳動物」、又はこれらの複数形が使用される場合、これらの用語はまた、文章の文脈によって示される、又は示すことを目的としている効果について能力を有する任意の動物、例えば、オートファジーが可能な動物にも適用される。本明細書で使用するとき、用語「患者」は、本明細書で定義される治療を受けている又は治療を受ける予定の動物、例えば、哺乳動物、好ましくはヒトを含むと理解される。本明細書で使用するとき、「個体」及び「患者」という用語は、多くの場合、ヒトを指して使用されるが、本開示はヒトに限定されない。
【0051】
[0053]したがって、「個体」及び「患者」という用語は、本明細書で開示される方法及び組成物が有益となり得る任意の動物、哺乳動物又はヒトを指す。実際に、ヒト以外の動物は、ヒトの状態によく似た長期の重篤な病気を経験する。これらの重篤な動物は、ヒトに対応するものと同じ代謝障害、免疫障害、及び内分泌腺障害、並びに臓器不全及び筋消耗の発症を経験する。更に、動物は、老化の影響も同様に経験する。
【0052】
[0054]用語「老齢」は、ヒトに関連して、少なくとも55歳、好ましくは63歳超、より好ましくは65歳超、最も好ましくは70歳超の年齢を意味する。ヒトの文脈における用語「老年成体(older adult)」又は「高齢個体(ageing individual)」は、少なくとも45歳、好ましくは50歳以上、より好ましくは55歳以上の年齢を意味し、老齢の個体を含む。
【0053】
[0055]他の動物については、「老年成体」又は「高齢個体」とは、その個々の種、及び/又は種内における属の、平均寿命の50%を超えたものをいう。動物は、平均期待寿命の66%を超えた場合、好ましくは平均期待寿命の75%を超えた場合、より好ましくは平均期待寿命の80%を超えた場合に、「老齢」であるとみなされる。高齢のネコ又はイヌは、少なくとも約5歳齢である。老齢のネコ又はイヌは、少なくとも約7歳齢である。
【0054】
[0056]サルコペニアは、加齢に伴う筋肉量及び筋機能(筋力及び歩行速度を含む)の低下として定義される。サルコペニアは、筋量低下、筋力低下、及び身体パフォーマンス低下のうちの1つ以上によって評価することができる。
【0055】
[0057]筋量低下は、概ね、身長の二乗に対して正規化した体肢除脂肪量(ALM指数)の低下を基準とすることができ、具体的には男性の場合は7.00kg/m2未満、女性の場合は5.40kg/m2未満のALM指数を基準とすることができる。身体パフォーマンスの低下は、概ね、歩行速度、具体的には0.8m/秒未満の歩行速度を基準とすることができる。筋力低下は、概ね、握力低下を基準とすることができ、具体的には男性で26kg未満及び女性で18kg未満の握力を基準とすることができる。
【0056】
[0058]追加的に又は代替的に、サルコペニアは、例えばCrutz-Jentoftら(2010)に記載されているように、EWGSOP(European Working Group for Sarcopenia in Older People)の定義に基づいて、対象において診断することができる。筋量低下は、概ね、身長の二乗に対し正規化した体肢除脂肪量(ALM指数)の低下を基準とすることができ、具体的には男性の場合は7.23kg/m2未満、女性の場合は5.67kg/m2未満のALM指数を基準とすることができる。身体パフォーマンスの低下は、概ね、歩行速度、具体的には0.8m/秒未満の歩行速度を基準とすることができる。筋力低下は、概ね、握力低下を基準とすることができ、具体的には男性で30kg未満及び女性で20kg未満の握力を基準とすることができる。
【0057】
[0059]追加的に又は代替的に、サルコペニアは、例えばStudenskiら(2014)に記載されているように、Foundation for the National Institutes of Health(FNIH)の定義に基づいて、対象において診断することができる。筋量低下は、概ね、体格指数(BMI;kg/m2)に対して正規化した体肢除脂肪量(ALM)の低下を基準とすることができ、具体的にはBMIに対するALMが、男性の場合0.789未満、女性の場合0.512未満であることを基準とすることができる。身体パフォーマンスの低下は、概ね、歩行速度、具体的には0.8m/秒未満の歩行速度を基準とすることができる。筋力低下は、概ね、握力低下を基準とすることができ、具体的には男性で26kg未満及び女性で16kg未満の握力を基準とすることができる。筋力低下はまた、概ね、握力対体格指数の低下を基準とすることができ、具体的には男性で1.00未満及び女性で0.56未満の握力対体格指数を基準とすることができる。
【0058】
[0060]本明細書で使用するとき、「フレイル」は、加齢に伴い複数の生理学的システムにわたって予備能及び機能が低下することに起因して、脆弱性が高まった結果、日常的又は急性のストレッサーに対処する能力が損なわれる、臨床的に認識可能な状態として定義される。確立された定量的標準がない場合、フレイルは、エネルギー特性が損なわれたことを示す以下の5つの表現型基準のうち3つを満たすと、Friedらにより機能的に定義されている:(1)筋力低下(ベースラインでの握力が母集団の下位20%以内、性別及び体格指数について補正)、(2)持久力不足及びエネルギー不足(最大VO2に関連する自己申告による疲労)、(3)動作緩慢(15フィートの歩行時間に基づいてベースラインが母集団の下位20%、性別及び身長について補正)、(4)身体活動低下(ベースラインでの1週間当たりに消費されたキロカロリーの重み付けスコア、各性別について特定された身体活動の第1五分位(lowest quintile);例えば、男性については383kcal/週未満、女性については270kcal/週未満)、及び/又は意図しない体重減少(過去1年間で10ポンド)。Fried LP,Tangen CM,Walston Jら,「Frailty in older adults:evidence for a phenotype.」J.Gerontol.A.Biol.Sci.Med.Sci.56(3):M146-M156(2001)。これらの基準のうちの1つ又は2つが存在するプレフレイル段階は、フレイルに進行するリスクが高いものとして特定される。
【0059】
[0061]「悪液質」は、基礎疾患に関連する複雑な代謝症候群であり、筋肉の減少を特徴とし、脂肪量の減少を伴う場合も伴わない場合もある。悪液質に顕著な臨床的特徴は、成人における(体液貯留分を補正した)体重減少又は小児の成長障害(内分泌障害を除く)である。
【0060】
[0062]悪液質は、がん、慢性心不全、腎不全、慢性閉塞性肺疾患、AIDS、自己免疫障害、慢性炎症性障害、肝硬変、拒食症、慢性膵炎、並びに/又は代謝性アシドーシス及び神経変性疾患などの疾患を有する患者においてしばしば見られる。
【0061】
[0063]特定の種類のがん、例えば、膵臓がん、食道がん、胃がん、腸がん、肺がん、及び/又は肝臓がんでは、悪液質が特に一般的に見られる。
【0062】
[0064]悪液質について国際的に認められている診断基準は、制限された期間での、例えば、6ヶ月間での5%を超える体重減少、又は現在の体重及び身長(体格指数[BMI]が20kg/m2未満である)若しくは骨格筋量(DXA、MRI、CT、又は生体インピーダンスによって測定される)により消耗を既に示している個体における2%を超える体重減少、というものである。悪液質は、様々なステージを経て、すなわち前悪液質から悪液質、難治性悪液質へと徐々に進行し得る。重篤度は、エネルギー貯蔵及び身体タンパク質(BMI)の消耗度に応じて、進行中の体重減少と組み合わせて分類することができる。
【0063】
[0065]特に、がん悪液質は、過去6ヶ月間(単純な飢餓のない状態で)での体重減少が5%超であること;又はBMIが20未満でありかつ体重減少度が2%超であること;又は体肢除脂肪量が、筋量低下と矛盾しないこと(男性で7.26kg/m2未満、女性で5.45kg/m2未満)、かつ任意の体重減少度が2%超であること、として定義されている(Fearonら、2011)。
【0064】
[0066]「前悪液質」は、拒食症及び代謝の変化と併せて体重減少が5%以下であることとして定義され得る。現在、更に進行する可能性が高い前悪液質の患者、又は前悪液質が進行する速度、を特定するための強力なバイオマーカーは存在しない。難治性悪液質は、本質的に患者の臨床的特性及び状況に基づいて定義される。
【0065】
[0067]用語「治療」及び「治療すること」には、状態又は疾患(障害)の改善をもたらす任意の効果、例えば状態又は疾患を和らげること、軽減すること、制御すること、又は解消させることが含まれる。この用語は、必ずしも完治するまで対象が処置/治療されることを意味するものではない。状態又は疾患を「治療すること」又は「その治療」の非限定的な例としては、(1)状態又は疾患を阻害すること、すなわち状態若しくは疾患又はその臨床症状の発症を止めること、及び(2)状態又は疾患を緩和すること、すなわち状態若しくは疾患又はその臨床症状の一時的又は永続的な消退を生じさせることが挙げられる。治療は患者に関連するものであってもよく、又は医師に関連するものであってもよい。
【0066】
[0068]用語「予防」又は「予防すること」は、状態又は障害にさらされ得る又はそれに罹り易い傾向があり得るが、まだ状態又は障害の症状を呈していない又はそれが現れていない個体において、言及される状態又は障害の臨床症状を発症させないことを意味する。用語「状態」及び「疾患/障害」は、任意の疾患、状態、症状、又は徴候を意味する。
【0067】
[0069]相対的用語「改善された」、「増加された」、及び「増強された」などは、1種以上のオートファジー誘導化合物を含まないこと又は1種以上のオートファジー誘導化合物が少ないこと以外は同一である組成物と比較した、1種以上の同化アミノ酸と1種以上のオートファジー誘導化合物との両方を含む組成物の効果を指す。
【0068】
[0070]用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取が意図され、かかる個体に対して少なくとも1種の栄養素を提供する、製品又は組成物を意味する。本明細書に記載の多くの実施形態を含む本開示の組成物は、本明細書に記載の必須成分(essential elements)及び制限に加え、本明細書に記載の、又は食事療法に有用な、任意の追加の若しくは任意選択的な成分、構成成分、又は制限を含んでよく、これらから構成されてよく、又は本質的にこれらから構成されてよい。
【0069】
[0071]本明細書で使用するとき、「完全栄養」は、その組成物が投与される動物にとって、唯一の栄養源とするのに十分な、十分な種類及びレベルの主要栄養素(タンパク質、脂質及び炭水化物)及び微量栄養素を含有する。個体は、このような完全栄養組成物から、個体が必要とする栄養分の100%を受容可能である。
【0070】
[0072]本明細書で使用するとき、用語「重篤患者」は、急性の生命を脅かす症状を発症している個体、又はそのような発症の危険が差し迫っていると診断された個体である。重篤患者は、医学的に不安定であり、治療されない場合には、死亡する可能性が高い(例えば、死亡率50%超)。
【0071】
[0073]重篤患者の非限定的な例としては、疾患若しくは傷害に起因して、生命を脅かす急性の単一若しくは多臓器系不全が持続する、又は持続するリスクがある患者、手術されていて、合併症を併発している患者、及び先週中に重要臓器の手術を受けた、又は先週中に大手術を受けた患者が挙げられる。
【0072】
[0074]重篤患者のより具体的な非限定的な例としては、疾患若しくは傷害に起因して、生命を脅かす急性の単一若しくは多臓器系不全が持続する、又は持続するリスクがある患者、及び手術されていて、合併症を併発している患者が挙げられる。重篤患者の更なる具体的な非限定的な例としては、心臓手術、大脳手術、胸部手術、腹部手術、血管手術、又は移植のうちの1つ以上が必要な患者、及び神経疾患、大脳外傷、呼吸不全、腹膜炎、多発外傷、重症熱傷、又は重篤な多発性神経障害のうちの1つ以上に罹患している患者が挙げられる。
【0073】
[0075]用語「集中治療室(ICU)」は、重篤患者を治療する病院の一部を指す。用語「集中治療室」はまた、そこで行われる治療活動がICUの治療活動と同じ又は同様であれば、介護施設;診療所(例えば、民間診療所)なども範囲に含む。「ICU患者」は、用語「重篤患者」に包含される。
【0074】
[0076]用語「多臓器機能障害」は、感染症、血流の低下、代謝亢進、又は事故若しくは手術などの傷害から生じる状態を指す。重篤患者が死亡する「多臓器不全」は、少なくとも2つの重要臓器系の機能障害又は機能不全と定義される記述的な臨床症候群であると考えられる。均一かつ最も具体的に影響を受ける重要臓器系は、肝臓、腎臓、肺、並びに心臓血管系、神経系、及び血液系である。多臓器機能障害の非限定的な例としては、急性呼吸窮迫症候群、心不全、肝不全、腎不全、呼吸不全、集中治療、ショック、広範囲熱傷、敗血症(例えば、全身性炎症反応症候群)、及び脳卒中が挙げられる。
【0075】
[0077]用語「経腸投与」は、経口投与(経口強制栄養投与を含む)及び直腸投与を包含するが、経口投与が好ましい。用語「非経口投与」は、消化管以外の経路によって与えられる物質の送達を指し、静脈内、動脈内、筋肉内、脳室内、骨内、皮内、くも膜下腔内、並びにまた腹腔内投与、膀胱腔内注入、及び海綿体内注射などの投与経路を範囲に含む。
【0076】
[0078]好ましい非経口投与は、静脈内投与である。非経口投与の特定の形態は、栄養の静脈内投与による送達である。非経口栄養は、食品が他の経路によって与えられない場合、「全非経口栄養」である。「非経口栄養」は、好ましくは、グルコースなどの糖類を含み、脂質、アミノ酸、及びビタミンのうちの1つ以上を更に含む、等張水溶液又は高張水溶液(又は溶解される固体組成物、又は等張溶液若しくは高張溶液を得るために希釈される液体濃縮物)である。
【0077】
[0079]実施形態
[0080]本開示の一態様は、必要とする個体において、1種以上の同化アミノ酸による筋骨格への効果を増強する方法である。本方法は、1種以上の同化アミノ酸を含む組成物を個体に投与する工程を含み、当該組成物は、1種以上のオートファジー誘導化合物を、例えば筋肉内で、組成物がオートファジーに関して少なくとも中立、好ましくはオートファジーに関してプラスとなるのに有効な量で、更に含む。本組成物は、非経口的に、経腸的に、又は静脈内に投与することができる。
【0078】
[0081]本明細書で使用するとき、「筋骨格への効果を増強する」とは、(i)1種以上の同化アミノ酸のプラス(同化)効果が、1種以上のオートファジー誘導化合物が全く存在しないこと又はより少量で存在すること以外は同一に配合された組成物の場合よりも大きいこと、及び/又は(ii)1種以上の同化アミノ酸のプラス(同化)効果が、1種以上のオートファジー誘導化合物が全く存在しないこと又はより少量で存在すること以外は同一に配合された組成物の場合よりも長時間続くことを意味する。
【0079】
[0082]好適な同化アミノ酸の非限定的な例としては、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、グルタミン、シトルリン、及びこれらの混合物が挙げられる。組成物は、ロイシン、イソロイシン、又はアルギニンのうちの1種以上を、遊離形態で、並びに/又はペプチド及び/若しくはタンパク質(乳タンパク質、動物性タンパク質、又は植物性タンパク質など)として結合した形態で含み得る。好ましくは、任意のロイシン又はアルギニンが、mTORを活性化するのに有効な量で組成物中に存在する。組成物の1日用量は、0.175~142.85mg/kg bwのロイシン、好ましくは0.35~71.425mg/kg bwのロイシン、0.175~71.425mg/kg bwのイソロイシン;20~300mg/kg bwのアルギニン、好ましくは50~200mg/kg bwのアルギニン、及び/又は20~300mg/kg bwのシトルリン、好ましくは100~200mg/kg bwのシトルリンを含み得る。1種以上の同化アミノ酸の1日用量は、組成物を1日当たり1回分以上摂取することによって提供され得る。
【0080】
[0083]オートファジーを誘導する好適な化合物の非限定的な例としては、チモール、カルバクロール、スペルミジン、ウロリチン(例えば、ウロリチンA、ウロリチンB又はウロリチンD)、ラパマイシン、トリン1、バルプロ酸、ポリフェノール(例えば、レスベラトロール)、カフェイン、メトホルミン、5’AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)活性化因子、L型カルシウムチャネル阻害因子、ケトン(例えば、β-ヒドロキシブチレート、ケトン塩、又はケトンエステル誘導体)、4,4’-ジメトキシカルコン、及びこれらの混合物が挙げられる。好適な形態のスペルミジンの非限定的な例としては、スペルミジン三塩酸塩、スペルミジンリン酸塩六水和物、スペルミジンリン酸塩六水和物、及びL-アルギニル-3,4-スペルミジンが挙げられる。
【0081】
[0084]組成物は、1種以上のオートファジー誘導化合物を、1種以上の同化アミノ酸によりオートファジーに対するマイナス効果があった場合でも組成物がオートファジーに関して少なくとも中立、好ましくはオートファジーに関してプラスとなるのに有効な量で含む。
【0082】
[0085]組成物は、薬学的に好適な担体中に薬理学的有効量のオートファジー誘導因子を含むことができる。水性液体組成物において、濃度は、好ましくは水性液体組成物の約0.05重量%~約4重量%、又は約0.5重量%~約2重量%、又は約1.0重量%~約1.5重量%の範囲である。
【0083】
[0086]特定の実施形態では、本方法は、個体における血漿オートファジー誘導因子のレベルを、例えば、50~6000nmol/L血漿、好ましくは100~6000nmol/L血漿のレベルまで増加させる処理である。本方法は、オートファジー誘導因子を、0.05mg~1g/kg体重、好ましくは1mg~200mg/kg体重、より好ましくは5mg~150mg/kg体重、更により好ましくは10mg~120mg/kg体重、又は最も好ましくは40mg~80mg/kg体重の重量範囲で毎日投与する工程を含み得る。
【0084】
[0087]典型的には、1日当たり50μg~10gのオートファジー誘導因子が1回以上に分けて個体に投与される。
【0085】
[0088]チモール(10~64%)は、タイム(Thymus vulgaris L,Lamiaceae)の精油の主要構成成分の1つである。カルバクロールは、Origanum vulgare(オレガノ)の精油、タイム油、コショウソウから得られた油、及びヤグルマハッカ中に存在する。タイム亜種の精油は、5%~75%のカルバクロールを含有するのに対し、Satureja(セイボリー)亜種は1%~45%の含有量を有する。origanum mamaorana(マジョラム)及びクレタディタニー(Dittany of Crete)はカルバクロールに富み、それぞれ50%及び60~80%である。したがって、本組成物の一部の実施形態は、組成物中のチモール及び/カルバクロールの少なくとも一部を、特にタイム及びオレガノから提供する、植物及び/又は濃縮した植物抽出物、精油又は画分を含む。
【0086】
[0089]小麦胚芽は、スペルミジンに富んでいる。したがって、本組成物の一部の実施形態は、本組成物中のオートファジー誘導因子の少なくとも一部を提供する小麦胚芽及び/又は濃縮小麦胚芽抽出物を含む。
【0087】
[0090]ホエイタンパク質は、ロイシン及びイソロイシンなどのBCAAに富んでいる。したがって、組成物のいくつかの実施形態は、組成物中の同化アミノ酸の少なくとも一部を提供するホエイタンパク質を含む。
【0088】
[0091]本組成物は、筋肉、例えば骨格筋においてオートファジーを誘導することができる。このような筋肉の非限定的な例としては、次のうちの1つ以上が挙げられる:外側広筋、腓腹筋、脛骨筋、ヒラメ筋、長指伸筋(extensor,digitorum longus)(EDL)、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋、大臀筋、外眼筋、顔筋肉、又は横隔膜。
【0089】
[0092]オートファジーの誘導を必要とする個体は、高齢の動物又は高齢のヒトなどの高齢個体であり得る。一部の実施形態では、オートファジーの誘導を必要とする個体は、老齢の動物又は老齢のヒトである。
【0090】
[0093]オートファジーの誘導を必要とする個体は、重篤患者であり得る。様々な実施形態では、本方法は、重篤患者において、例えば、患者が非経口栄養を受けることでホメオスタシスが機能しなくなった、若しくは妨げられた場合に、多臓器機能障害を治療若しくは予防することができ;多臓器機能障害から重篤患者を保護することができ;乳酸アシドーシス、例えば、非経口栄養によって誘導される乳酸アシドーシスの発症を治療若しくは予防することができ;重篤患者における筋力低下を治療若しくは予防することができ;非経口栄養によって栄養状態が悪化することによる罹患若しくは死亡を減少若しくは予防することができ;及び/又は身体システムの崩壊を防止することができる。
【0091】
[0094]一部の実施形態では、重篤患者は、乳酸アシドーシス、筋力低下、高血糖、多臓器不全、ホメオスタシスの失敗、及びホメオスタシスの妨害からなる群から選択される少なくとも1つの生命を脅かす状態を有する。一実施形態では、重篤患者は、非感染性疾患を有する。一実施形態では、重篤患者は、敗血症に起因しない又は敗血症に関連しない多臓器機能障害を有する。多臓器機能障害及び筋力低下は、救命救急現場においては一般的であり、調和の取れていない非経口栄養送達、又は非経口的に送達された相対的若しくは絶対的な栄養過多によって引き起こされ又は悪化し得る。
【0092】
[0095]一部の実施形態では、重篤患者は、重症外傷、多発外傷、高リスク手術、広範囲手術、大脳外傷、脳出血、呼吸不全、腹膜炎、急性腎傷害、急性肝傷害、重症熱傷、重篤な多発性神経障害、重篤なミオパチー、及びICU獲得性筋力低下からなる群から選択される少なくとも1つの疾患を有する。
【0093】
[0096]一部の実施形態では、重篤患者は、経腸栄養又は非経口栄養を受けている。一部の実施形態では、本組成物は、ミトコンドリア機能障害、例えば、重篤患者への不十分な又は調和の取れていない非経口栄養によって誘発されたミトコンドリア機能障害を治療又は予防する。
【0094】
[0097]本開示の別の態様では、方法は、オートファジーの低下に関連する変性プロセスを防止することによって、1種以上の同化アミノ酸の1つ以上のマイナス効果を克服する。本方法は、1種以上の同化アミノ酸を含む組成物を個体に投与する工程を含み、当該組成物は、チモール、カルバクロール、スペルミジン、ウロリチン(例えば、ウロリチンA、ウロリチンB又はウロリチンD)、ラパマイシン、トリン1、バルプロ酸、ポリフェノール(例えば、レスベラトロール)、カフェイン、メトホルミン、5’AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)活性化因子、L型カルシウムチャネル阻害因子、ケトン(例えば、β-ヒドロキシブチレート、ケトン塩、又はケトンエステル誘導体)、4,4’-ジメトキシカルコン、及びこれらの混合物などの、1種以上のオートファジー誘導化合物を、例えば筋肉内で、組成物がオートファジーに関して少なくとも中立、好ましくはオートファジーに関してプラスとなるのに有効な量で、更に含む。
【0095】
[0098]本明細書で使用するとき、用語「タンパク質」は、遊離形態のアミノ酸、アミノ酸2~20個の分子(本明細書では「ペプチド」と称する)を含み、また、同様に、より長いアミノ酸鎖も含む。小さいペプチド、すなわち、アミノ酸2~10個の鎖は、単独で、又は他のタンパク質との組み合わせにより本組成物に好適である。アミノ酸の「遊離形態」は、アミノ酸のモノマー形態である。好適なアミノ酸としては、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸の両方が挙げられる。本組成物は、1種以上のタンパク質、例えば、1つ以上の(i)ペプチド、(ii)より長いアミノ酸鎖、又は(iii)遊離形態のアミノ酸の混合物を含んでもよく;この混合物は、好ましくは所望のアミノ酸プロファイル/含有量が得られるように配合される。
【0096】
[0099]本組成物は、1種以上の同化アミノ酸の少なくとも一部及び/又は1種以上のオートファジー誘導化合物の少なくとも一部を提供するタンパク質を含むことができ、当該タンパク質の少なくとも一部は、動物由来又は植物由来であり得、例えば、乳製品タンパク質、例えば、乳タンパク質濃縮物若しくは乳タンパク質単離物;カゼイン塩若しくはカゼイン、例えば、カゼインミセル濃縮物若しくはカゼインミセル単離物;又はホエイタンパク質、例えば、ホエイタンパク質濃縮物若しくはホエイタンパク質単離物のうちの1種以上などの乳タンパク質由来であり得る。追加的に又は代替的に、タンパク質の少なくとも一部は、大豆タンパク質又はエンドウ豆タンパク質のうちの1種以上などの植物性タンパク質であり得る。
【0097】
[0100]これらのタンパク質の混合物、例えば、カゼインがタンパク質の大部分であるが全部ではない混合物、ホエイタンパク質がタンパク質の大部分であるが全部ではない混合物、エンドウ豆タンパク質がタンパク質の大部分であるが全部ではない混合物、及び大豆タンパク質がタンパク質の大部分であるが全部ではない混合物もまた好適である。一実施形態では、タンパク質の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%は、ホエイタンパク質である。一実施形態では、タンパク質の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%は、カゼインである。一実施形態では、タンパク質の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%は、植物性タンパク質である。
【0098】
[0101]ホエイタンパク質は、例えば、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質単離物、ホエイタンパク質ミセル、ホエイタンパク質加水分解物、酸性ホエイ、甘性ホエイ、変性甘性ホエイ(カゼイノグリコマクロペプチドが除去された甘性ホエイ)、ホエイタンパク質の画分、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される任意のホエイタンパク質であり得る。
【0099】
[0102]カゼインは任意の哺乳類から得ることができるが、好ましくは牛乳から、及び好ましくはカゼインミセルとして得られる。
【0100】
[0103]タンパク質は、加水分解されていなくてもよく、部分的に加水分解されていてもよく(すなわち、分子量は3kDa~10kDaで、平均分子量は5kDa未満のペプチド)、又は顕著に加水分解されてもよく(すなわち、90%が3kDa未満の分子量を有するペプチド)、例えば、5%~95%の範囲が加水分解されてもよい。一部の実施形態では、加水分解されたタンパク質のペプチドプロファイルは、異なる分子量の範囲内であり得る。例えば、ペプチドの大部分(50モル%超又は50重量%超)は、1~5kDa又は5~10kDa又は10~20kDa以内の分子量を有し得る。
【0101】
[0104]一実施形態では、本組成物は、炭水化物源を含む。デンプン(例えば、変性デンプン、アミロースデンプン、タピオカデンプン、コーンデンプン)、スクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、固形コーンシロップ、マルトデキストリン、キシリトール、ソルビトール、又はこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない、任意の好適な炭水化物を本組成物に使用してもよい。
【0102】
[0105]炭水化物源は、好ましくは本組成物の50エネルギー%以下、より好ましくは本組成物の36エネルギー%以下、最も好ましくは本組成物の30エネルギー%以下である。
【0103】
[0106]一実施形態では、本組成物は、脂肪源を含む。脂肪源は、任意の適切な脂肪又は脂肪混合物を含み得る。好適な脂肪源の非限定的な例としては、植物性脂肪(例えば、オリーブ油、コーン油、ヒマワリ油、高オレイン酸ヒマワリ油、菜種油、キャノーラ油、ヘーゼルナッツ油、大豆油、パーム油、ココナッツ油、クロフサスグリ種子油、ルリヂサ油、レシチンなど)、動物性脂肪(乳脂肪など);又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0104】
[0107]組成物は、ヒトなどの個体、例えば高齢個体又は重篤な個体に、治療に有効な用量で投与することができる。治療に有効な用量は当業者により決定され得るものであり、状態の重症度並びに個体の体重及び全身状態など、当業者に公知のいくつもの因子に応じて異なり得る。
【0105】
[0108]本組成物は、好ましくは少なくとも週2日、より好ましくは少なくとも週3日、最も好ましくは週7日;少なくとも1週間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、又は更に長い期間、個体に投与される。一部の実施形態では、本組成物は、例えば、少なくとも治療効果が達成されるまで、数日にわたって連続的に個体に投与される。一部の実施形態では、本組成物は、少なくとも30日間、60日間、又は90日間連続で毎日個体に投与することができる。
【0106】
[0109]上記の投与例は、間断のない連日投与を必要とするものではない。それよりむしろ、投与期間中の2~4日間の中断など、投与には何回かの短期間の中断があってもよい。本組成物の理想的な投与継続期間は当業者により決定され得る。
【0107】
[0110]好ましい実施形態では、本組成物は、個体に経口投与又は経腸投与(例えば経管栄養法)される。例えば、本組成物は、飲料、カプセル、錠剤、散剤又は懸濁液剤として個体に投与することができる。
【0108】
[0111]本組成物は、ヒト及び/又は動物が摂取するのに好適ないかなる種類の組成物であってもよい。例えば、本組成物は、食品組成物、ダイエタリーサプリメント、栄養組成物、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又は乳で再構成される粉末栄養製剤、食品添加物、医薬品、飲料及びドリンクからなる群から選択され得る。一実施形態では、本組成物は、経口栄養補助食品(ONS)、完全栄養配合物、医薬品、薬剤又は食品製品である。好ましい実施形態では、本組成物は個体に飲料として投与される。本組成物は粉末としてサシェに保存され、次に使用の際に水などの液体中に懸濁されてもよい。
【0109】
[0112]経口又は経腸投与が不可能であるか、又は推奨されない一部の場合には、本組成物はまた、非経口投与されてもよい。
【0110】
[0113]一部の実施形態では、本組成物は単回投与剤形で個体に投与され、すなわち、食事と一緒に個体に与えられる1つの製剤中に全ての化合物が存在している。他の実施形態では、本組成物は別個の剤形で同時投与され、例えば少なくとも1つの構成成分と本組成物の他の構成成分のうちの1つ以上は別個のものとして同時投与される。
【0111】
[0114]別の実施形態では、本開示は、治療組成物を作製する方法を提供し、当該方法は、1種以上のオートファジー誘導化合物を、1種以上の同化アミノ酸を含むベース組成物に添加して、治療組成物を形成する工程を含み、1種以上のオートファジー誘導化合物は、治療組成物がオートファジーに関して少なくとも中立、好ましくはオートファジーに関してプラスとなるのに有効な量で、ベース組成物に添加される。ベース組成物及び/又は治療組成物は、経口、経腸、非経口、及び静脈内注射の群から選択される少なくとも1つの経路による投与のために配合され得る。ベース組成物は、オートファジーの誘導に関してマイナスであることができ(すなわち、組成物が総合的にマイナスである)、及び/又はベース組成物は、オートファジーの誘導に関して中立又はプラスであり得るが、オートファジーの誘導に関してマイナスとなる量の1種以上の同化アミノ酸を含有し得る(すなわち、1種以上の同化アミノ酸は、オートファジーの誘導に関してマイナスである部分を形成する)。
【0112】
[0115]一実施形態では、方法は、ベース組成物中の1種以上の同化アミノ酸の総量を定量する工程と;ベース組成物中の1種以上の同化アミノ酸の総量を使用して、ベース組成物に添加される1種以上のオートファジー誘導化合物の総量を決定する工程と、を含む。ベース組成物中の1種以上の同化アミノ酸の総量を使用して、ベース組成物に添加される1種以上のオートファジー誘導化合物の総量を決定する工程は、好ましくは、1種以上の同化アミノ酸の総量から予想されるオートファジーに対する効果を決定することを含む。ベース組成物中の1種以上の同化アミノ酸の総量を使用して、ベース組成物に添加される1種以上のオートファジー誘導化合物の総量を決定する工程は、好ましくは、ベース組成物に添加される1種以上のオートファジー誘導化合物の総量から予想されるオートファジーに対する効果が、1種以上の同化アミノ酸の総量から予想されるオートファジーに対する効果とほぼ等しい、又はより大きいように、ベース組成物に添加される1種以上のオートファジー誘導化合物の総量を決定することを更に含む。
【0113】
[0116]実施例
[0117]実験プロトコール
[0118]オートファジーレポーターゼブラフィッシュ系統(Anautophagy reporter zebrafish line)は、骨格筋特異的プロモーターの制御下でZsGreenに融合されたLC3タンパク質を安定発現させることによって作製された。異系交配したトランスジェニックゼブラフィッシュの幼生を、標準的な実験室条件下、28℃で飼育し、96ウェルプレートにおいて、0.25~10mMの範囲の濃度のロイシン(
図1)又はアルギニン(
図2)で受精後48時間処理した(n=24)。16時間の処理後、幼生を0.016%トリカインで麻酔し、ImageXpress共焦点システム(Molecular Devices)を用いて倍率20倍で画像化した。各幼生のZスタック画像をキャプチャし、最大投影画像を作製した。オートファジーを定量するため、LC3顆粒の数を、MetaXpressソフトウェア(Moleculare Devices)で計算し、魚のエリアによって正規化した。オートファジーはロイシン処理により減少し、この同化アミノ酸の阻害効果を示唆した(
図1)。オートファジーはアルギニン処理では変化しなかった(
図2)。
【0114】
[0119]高齢マウスは、加齢に伴う衰えにおける栄養療法の効果を評価するための好適なモデルである。筋量、筋力、及び筋機能の低下は、年齢と共に高頻度に見られる。本発明者らが使用したモデルでは、20ヶ月齢のマウスに、通常食、又は同じ食餌に特定のアミノ酸混合物(AA)若しくはAAとチモールとの混合物(AA+Thy)を添加した食餌のいずれかを3ヶ月間給餌した(表1)。
[0120]
【0115】
【0116】
[0121]老化パラメータに対する介入の効果を、若年動物における同じパラメータと比較するため、6ヶ月齢の成体マウスにも対照食を3ヶ月間給餌した。筋力及び筋機能は、麻酔下のマウス(animals)において足底屈筋によって発生した力をin vivoで測定することによって評価した。力は、坐骨神経の電気刺激後に305C筋肉レバートランスデューサで記録した。異なる刺激周波数を印加して様々な仕事強度で筋肉が機能する能力を試験する、力-周波数関係を用いて筋機能を評価した。最大筋力及び力-周波数関係は、AAの補給により有意に改善されたが、AAとチモールとの混合物により更に改善され、筋機能のより良好な改善を示唆した(
図3)。同化アミノ酸、プロオートファジーアミノ酸及びチモールを組み合わせた場合、高齢マウスの筋肉機能に対する改善された効果が観察された。
【0117】
[0122]本明細書で説明されている現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び変形が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。かかる変更及び変形は、本発明の主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、行うことができる。それゆえ、そのような変更及び変形は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
【国際調査報告】