(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-24
(54)【発明の名称】改良マスサイトメトリー
(51)【国際特許分類】
H01J 49/16 20060101AFI20220817BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220817BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20220817BHJP
H01J 49/40 20060101ALI20220817BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220817BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220817BHJP
H01J 49/00 20060101ALN20220817BHJP
【FI】
H01J49/16 200
G01N27/62 G
G01N27/62 F
H01J49/04 630
H01J49/40
C12M1/34 A
C12M1/34 B
C12M1/00 A
H01J49/00 040
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573218
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(85)【翻訳文提出日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 US2020038097
(87)【国際公開番号】W WO2020257258
(87)【国際公開日】2020-12-24
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】514112754
【氏名又は名称】フリューダイム カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100205833
【氏名又は名称】宮谷 昂佑
(72)【発明者】
【氏名】ポール コーカム
(72)【発明者】
【氏名】アレキサンダー ロボダ
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド エム レイナー
【テーマコード(参考)】
2G041
4B029
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA03
2G041DA14
2G041EA03
2G041FA11
2G041FA12
2G041FA16
2G041GA06
2G041JA03
2G041JA16
4B029AA07
4B029FA02
4B029FA03
4B029FA15
(57)【要約】
本発明の実施形態は、これまでのICPベースのイオン化システムを新しいレーザーイオン化システムに置き換えることに関し、改良された質量分析計ベースの装置および試料を分析するためにそれらを使用する方法、特に生体試料の分析のための質量分析マスサイトメトリー、イメージング質量分析およびイメージングマスサイトメトリーの使用を提供する。したがって、本発明の実施形態は、(1)サンプラーと、(2)サンプラーによって試料から除去された物質を受け取るレーザーイオン化システムであって、レーザーイオン化システムは、イオン化システム導管とイオン化システム導管を通過するまたは出ていく試料物質をイオン化するように適合されたパルスレーザーとを備える、レーザーイオン化システムと、(3)当該イオン化システムから元素イオンを受け取って当該元素イオンを分析するための質量分析計と、を備える装置、例えば、マスサイトメーターを提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって、
(a)サンプラーと、
(b)前記サンプラーによって試料から除去された物質を受け取るレーザーイオン化システムであって、前記レーザーイオン化システムは、イオン化システム導管と前記イオン化システム導管を通過するまたは出ていく試料物質をイオン化するように適合されたパルスレーザーとを備える、レーザーイオン化システムと、
(c)前記イオン化システムから元素イオンを受け取り、前記元素イオンを分析する質量分析計と、
を備える、装置。
【請求項2】
前記レーザーイオン化システムのレーザーは、ピコ秒レーザーまたはフェムト秒レーザーである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記レーザーイオン化システムの前記レーザーは、固体レーザー、ファイバーレーザー、半導体レーザーまたはVECSELである、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記レーザーイオン化システムの前記レーザーは、1ps未満の持続時間を有するパルスを生成するように適合される、請求項2または請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記レーザーイオン化システムの前記レーザーは、400fs以下、300fs以下、200fs以下、100fs以下、50fs以下、25fs以下、20fs以下、10fs以下などの、500fs以下の持続時間のパルスを生成するように適合される、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記レーザーイオン化システムの前記レーザーは、少なくとも1MHz、少なくとも2MHz、少なくとも3MHz、少なくとも4MHz、少なくとも5MHz、少なくとも10MHz、少なくとも20MHz、少なくとも50MHz、少なくとも100MHz、少なくとも200MHz、少なくとも500MHzまたは1GHz以上などの、少なくとも100,000Hzの繰り返し数で、レーザーパルスを生成するように適合される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記レーザーイオン化システムの前記レーザーは、50μm以下、20μm以下、10μm以下または5μm以下などの、100μm以下のビーム幅を有するように適合される、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記イオン化システム導管は、それに沿って前記導管の内径が減少するテーパー部を備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の装置記載の装置。
【請求項9】
前記イオン化システム導管の前記直径の減少は、約3倍以上、約4倍以上、約5倍以上、約6倍以上、約7倍以上、約8倍以上、約9倍以上、約10倍以上などの、約2倍以上である、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記テーパー部分は、前記テーパー部分の狭い端でのガスの流れが超音速になるように適合される、請求項8または9に記載の装置。
【請求項11】
前記イオン化システム導管は、前記テーパー部分の下流に広がりを備え、前記イオン化レーザーは、前記テーパーの前記広がり側からレーザー光を照射するように位置する、請求項7から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記レーザーイオン化システムは、前記レーザーによって生成されたレーザー放射を、前記イオン化システム導管または前記イオン化システム導管を出ていく物質の経路を複数回通過させるための反射器配置をさらに備える、請求項1から11のいずれか一項に記載の装置記載の装置。
【請求項13】
前記反射器配置は、前記イオン化システム導管内または出口において複数の焦点を提供するような形状である1つ以上の反射器を備え、1つ以上の反射器は、凸型などである、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記サンプラーは、レーザーアブレーションシステムである、請求項1から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記レーザーアブレーションシステムの前記レーザーは、例えば約20Hz以上、約30Hz以上、約50Hz以上または約100Hz以上などの、約10Hz以上の繰り返し数で試料をアブレーションするように適合される、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記サンプラーは、試料物質のプルームを生成するように構成されており、前記レーザーイオン化システムは、単一のプルームをイオン化するために複数のレーザーパルスを生成するように構成される、請求項14または15に記載の装置。
【請求項17】
前記レーザーイオン化システムの前記レーザーは、10
4倍超、5×10
4倍超、10
5倍超、5×10
5倍超、10
6倍超または10
6倍超より大きいなどの、前記レーザーアブレーションシステムの繰り返し数の10
3倍超の繰り返し数で、パルスを生成するように構成される、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記レーザーアブレーションシステムの前記レーザーは、約3μm以下、約2μm以下、約1μm以下、約0.5μm以下などの、4μm未満のスポットサイズ径で試料をアブレーションするように構成される、請求項14から17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記レーザーアブレーションシステムの前記レーザーは、レーザーパルスあたり500nm以下、400nm未満、300nm未満、200nm未満、100nm未満、50nm以下の深さまで試料をアブレーションするように構成される、請求項14から18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
マスサイトメーターである、請求項1から19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
マスサイトメトリーの実施方法であって、サンプラーから試料物質を得るステップと、サンプラーから得られた試料をレーザーでイオン化して試料イオンを生成するステップと、前記試料イオンを質量分析によって検出するステップと、を含む、マスサイトメトリーの実施方法。
【請求項22】
試料を分析する方法であって、サンプラーから複数の部分の試料物質を得るステップと、前記サンプラーから得られた試料物質の各部分をレーザーで別々にイオン化して試料イオンを生成するステップと、前記試料イオンを質量分析によって検出するステップとを含み、各部分の物質は、複数のレーザーパルスによってイオン化される、方法。
【請求項23】
請求項1から18のいずれか一項に記載の装置または請求項19に記載のマスサイトメーターを用いる、マスサイトメトリーの実施方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年6月18日に出願された米国仮出願第62/862,849号に基づく優先権の利益を主張し、あらゆる目的においてその内容を参照により本明細書に援用する。
【0002】
(技術分野)
本実施形態は、マスサイトメトリーおよび/または元素質量分析を使用する試料の分析に関する。
【背景技術】
【0003】
単一の細胞(または単一のビーズなどの他の粒子)を分析する機能は、母集団の各要素の特性についてその特性を個別に決定することが可能であるため、便利である。したがって、この分析は、母集団の各要素の特性の単純な平均である単一の測定よりも優れた洞察を提供する。
【0004】
蛍光活性化セルソーター(FACS)は、細胞または粒子がレーザービームを通過するときにそれらをスキャンすることによって、細胞または粒子の特性を測定し得る。細胞または粒子を細胞成分に特異的な蛍光色素、例えば細胞表面の受容体および細胞核のDΝAで標識化することによって、粒子または細胞が励起ビームを横切るときに標識成分の量を蛍光として検出し得る。放出される蛍光の量は、細胞/抗原に結合した蛍光プローブの量に比例するため、蛍光色素に接合した抗体は、細胞上および細胞内の抗原を定性的および定量的に測定するための試薬として日常的に使用される。このアプローチの欠陥は、細胞染色法の制限および困難さならびにおよび蛍光色素のスペクトルの重複に関する。言い換えると、検出された蛍光色素の発光はすべてが特定の波長にあるわけではなく、これは、複数の標識を使用すると、検出された発光の一部が誤って正しくない標識に割り当てられ得ることを意味する。したがって、これは技術の識別力を制限する。
【0005】
この問題を克服する技術は、マスサイトメトリーである。これは、標識が分析される物質に特異的に結合するという点で、フローサイトメトリーに類似している。標識は、例えば抗体などの特異的結合パートナーを使用して、細胞または粒子上の抗原を特異的に標的とする。標識は、フローサイトメトリーとマスサイトメトリーとの間で差異がある。マスサイトメトリーにおいては、1つ以上の検出可能な標識は、既知の比質量の原子であり、通常、希土類金属などの遷移金属である。したがって、検出可能な標識原子がMSによって検出されるとき、それは、特異的結合パートナーの標的が分析される試料内に存在することが推測され得る。
【0006】
関連技術は、イメージングマスサイトメトリー(IMC)である。ここで、物質は、懸濁液中の細胞を懸濁液としてマスサイトメーターに導入するのではなく、例えば組織試料などの生体試料からアブレーションされ、アブレーションされた物質は質量分析計によって分析される。同様に、試料上の特定の標的にタグ付けするために使用される元素標識は、MSによって検出され得、アブレーションされた物質内のその存在が推測され得る。アブレーションが行われた試料上の位置および検出された元素タグの量を記録することによって、試料中の標的の分布の画像を構築することが可能である。同様に、液体試料のマスサイトメトリーと同様に、MSを用いて多くの異なる元素タグを同時に検出することが可能であり、これは高度に多重化されたイメージングを行うことを意味する。
【0007】
同時に、自然な状態の組織中に存在する元素のマップは、組織切片のレーザーアブレーションICP-MSなどのイメージング質量分析によっても、記録され得る。
【発明の概要】
【0008】
例えば、質量分析計、マスサイトメーター、イメージング質量分析計、イメージングマスサイトメーターなどの、装置は、実施形態では通常、3つの核となる構成要素を含む。
【0009】
第1には、試料からの物質を装置の他の構成要素に導入するためのサンプラーである。装置に取り込まれた後、試料中の原子(検出可能な標識原子を含む)が質量分析構成要素(MS構成要素;第3の構成要素)によって検出され得る前に、試料をイオン化する必要がある。したがって、本装置は、質量/電荷比に基づくMS構成要素による検出を可能にするために、原子をイオン化するイオン化システムである第2の構成要素を備える。このようにして、試料は装置に取り込まれ、イオン源によってイオン化され、試料のイオンはMS構成要素に渡される。MS構成要素は多くのイオンを検出し得、特定の用途ではそのように適合され得るが、これらのイオンのほとんどは試料を構成する原子のイオンとなる。いくつかの用途、例えば地質学または考古学用途などにおける鉱物の分析においては、これで十分な場合があり得る。
【0010】
いくつかの場合において、例えば、生体試料を分析するとき、試料の元来の元素組成は、適切な情報をもたらさない場合があり得る。これは、通常、すべてのタンパク質および核酸は同じ主成分原子から構成されているため、タンパク質/核酸を含有する領域とそのようなタンパク質または核酸物質を含有しない領域を区別することが可能であっても、特定のタンパク質を他のすべてのタンパク質と区別することはできないためである。しかしながら、分析される物質に通常の条件下では存在しない、あるいは少なくとも大量には存在しない原子(例えば、希土類金属などの特定の遷移金属原子など、詳細については以下の標識化の項目を参照されたい)で試料を標識することによって、試料の特定の特性を決定し得る。IHCおよびFISHと同様に、検出可能な標識は、とりわけ、試料上または試料中の分子を標的とする抗体、核酸またはレクチンなどのSBPを使用することによって、試料上または試料中の特定の標的(スライド上の固定された細胞または組織試料など)に結合され得る。試料中に自然に存在する原子からのイオンを検出する場合と同様に、イオン化された標識を検出するために、検出器システムを使用する。通常、液体試料を分析する場合は、溶液中の細胞などの粒子を1つずつイオン化システムに導入し、これによって、MS構成要素によって検出された得られた原子は、特定の粒子に割り当てられ得、試料の各分析部分の特徴を個別に把握することが可能になる。しかしながら、マスサイトメトリーを液体試料で行ういくつかの場合では、溶液中の複数の粒子を意図的に同時にイオン化して検出する。試料が組織などの固体生物試料の場合は、その後、イオン化システムへの導入および続いてMS構成要素によるイオン検出のために、通常、レーザーアブレーションを使用して組織試料から物質のプルームを発生させる。ここでは、液体試料の各粒子を個別に分析するのと同様の方法で、固体試料から生成された各プルームをプルームごとに分析する。LA-ICP-MSを介する生体試料のイメージングは、これまでにも細胞レベルの解像度でのイメージングが報告されている。
【0011】
マスサイトメーターを含む現在の多くの質量分析装置は、イオン化された物質がMSに導入される前に、イオン化システムとして誘導結合プラズマ(ICPを使用する。ICPは、
図1に示すように、ICPトーチに保持されている。質量分析計は、最小限の質量チャネル間の干渉で、イオン化システムによって生成された1原子質量単位のイオンを分離し得る。あらゆる種類の質量分析計は、本明細書で説明するシステムの質量分析計構成要素として使用され得、例えば、飛行時間型(TOF)検出器が有用である。
【0012】
本発明の実施形態は、従来のICPベースのイオン化システムを新しいレーザーイオン化システムに置き換え、改良された質量分析計ベースの装置とそれらを用いて試料を分析する方法、特に生体試料の分析のための質量分析マスサイトメトリー、イメージング質量分析、イメージングマスサイトメトリーの使用を提供することに関する。したがって、本発明の実施形態は、
(1)サンプラーと、
(2)サンプラーによって試料から除去された物質を受け取るレーザーイオン化システムであって、レーザーイオン化システムは、イオン化システム導管とイオン化システム導管を通過するまたは出ていく試料物質をイオン化するように適合されたパルスレーザーとを備える、レーザーイオン化システムと、
(3)当該イオン化システムから元素イオンを受け取り、当該元素イオンを分析する質量分析計と、
を備える、装置、例えばマスサイトメーターを提供する。
【0013】
本装置の一実施形態を示す
図2を参照すると、本装置は、レーザーイオン化システム200によってイオン化のために試料物質を提供するサンプラー100を備える。サンプラー100は、レーザーイオン化システム200と連通し、試料物質は、導管を通してサンプラー100からレーザーイオン化システム200に渡される。試料物質は、液体および/または気体であり得る。試料物質は、少なくとも部分的に、キャリアガス中のガス状物質の雲またはキャリアガス中の液体の液滴などのキャリアガスによって、導管に沿って運ばれる。レーザーイオン化システム200は、イオン化システム導管210およびレーザー220を備える。物質は、レーザー220からのレーザー光221によって、イオン化システム導管210内でイオン化される。いくつかのシステムにおいては、レーザー220は、フェムト秒レーザーなどのパルスレーザーである。イオン化後、イオンは、質量分析計300によって検出される。多くの種類の質量分析計は、例えばTOF検出器など、本装置での使用に適している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(試料導入)
装置のサンプラーは、分析する試料に適した様々な形態を取り得る。
【0015】
試料が液体のとき、次いで、レーザーイオン化システムに試料を導入するサンプラーは、試料ループであり得る。試料ループは、ユーザーによってマスサイトメーターに手動で注入された液体を保存するために使用され、その後、ポンプは、試料をイオン化およびその後の分析のためにレーザーイオン化システムへ駆動し得る。液体試料は、通常、細胞(原核生物または真核生物)またはウイルスなどの粒子を含有し、これらはレーザーイオン化システムに導入される。ループの使用は、ユーザーが試料を素早くマスサイトメーターに導入したい場合に有利である。
【0016】
本発明の実施形態の一部のマスサイトメーターにおいては、オートサンプラーがサンプラーとして使用される。オートサンプラーは、後続の分析のために試料をマスサイトメーターシステムに取り込むプロセスを自動化する。オートサンプラーは、システムの外側にある1つ以上の容器から、正確な体積(ユーザー定義であり得る)の試料をシステムに取り込むロボット構成要素である。それゆえ、オートサンプラーは、ユーザーがシステムを監視することなく、複数の試料をマスサイトメトリーにかけることを可能にし、手動による試料導入よりも高い精度と再現性を得られる。
【0017】
オートサンプラーは、例えばガスクロマトグラフィーまたは液体クロマトグラフィーの分析用(AgilentまたはThermo Scientific製など)、フローサイトメトリー用(Intellicyt製のHyperCyt(登録商標)オートサンプラーまたはLife Technologies製のオートサンプラーなど)が、市販されている。
【0018】
いくつかの実施形態では、分析される試料は、地質鉱物試料などの固体試料、または固体基板上の生体試料(例えば、以下でより詳細に説明するように、細胞懸濁液が顕微鏡スライドに分注されている場合などの、組織切片または細胞の単層もしくは個々の細胞)である。これらの試料は、レーザーアブレーション(LA)システムによってレーザーイオン化システムに導入される。したがって、いくつかの実施形態では、サンプラーは、LAシステムである。LAシステムの使用により、試料のイメージングが可能になる。試料内の異なる標的分子は、異なる標識原子で標識され、標識された組織試料の複数の細胞にわたってレーザーアブレーションが行われる。本方法は、検出されたシグナルをそれらのシグナルを発生させたレーザーアブレーションの既知の位置にリンクさせることによって、標識された標的分子を試料上の特定の位置に定位させることを可能にし、試料の画像を構築する。
【0019】
(LA-マスサイトメーターなどのイメージング装置の構成要素)
(レーザーアブレーションサンプリングシステム)
簡単に言えば、レーザーアブレーションサンプリングシステムの構成要素は、試料に向けられるレーザー放射のビームを放出するレーザー源を含む。試料は、レーザーアブレーションサンプリングシステムのチャンバー(試料チャンバー)内のステージ上に位置される。ステージは、通常、並進ステージであるため、試料がレーザー放射のビームに対して移動し得、これにより、試料上の異なる位置が分析のためにサンプリングされ得る。以下で更に詳しく説明するように、ガスは、試料チャンバーを通って流れ、ガスの流れは、レーザー源が試料をアブレーションするときに生成されるエアロゾル化された物質のプルームを、その元素組成(元素タグからの標識原子などの標識原子を含む)に基づく試料の画像の分析および構築のために運び去る。以下で更に説明するように、別の作用形態では、レーザーアブレーションサンプリングシステムのレーザーシステムを使用して、試料から物質を脱着させ得る。
【0020】
特に生体試料(細胞、組織切片など)の場合、試料はしばしば不均質である(ただし、不均質試料は、本開示の他の適用分野、すなわち、非生物学的性質の試料で知られている)。不均質試料は、異なる物質から構成される領域を含有する試料であるため、試料の一部の領域は、所定の波長で他の領域よりも低い閾値フルエンスにおいてアブレーションされ得る。アブレーションの閾値に影響を与える要因は、物質の吸収係数および物質の機械的強度である。生体組織の場合、吸収係数は、レーザー放射の波長によって数桁規模の変動があり得るため、大きな影響を与えるであろう。例えば、生体試料においては、ナノ秒のレーザーパルスを利用したとき、タンパク様物質を含有する領域は、200~230nmの波長範囲においてより容易に吸収し、DNAを主に含有する領域は、260~280nmの波長範囲においてより容易に吸収する。
【0021】
試料物質のアブレーション閾値に近いフルエンスでレーザーアブレーションを行うことが可能である。この方法でアブレーションを行うと、エアロゾルの形成がしばしば改善され得、結果として分析後のデータの質の向上を助け得る。最小のクレーターを得て、得られる画像の解像度を最大にするために、ガウスビームがしばしば使用される。ガウスビームの断面は、ガウス分布を有するエネルギー密度プロファイルを記録する。その場合、ビームのフルエンスは、中心からの距離に応じて変化する。その結果、アブレーションのスポットサイズの直径は、(i)ガウスビームウエスト(1/e2)および(ii)適用されるフルエンスと閾値フルエンスとの比の、2つのパラメータの関数である。
【0022】
したがって、再現可能な量の物質を各アブレーションレーザーパルスで一貫して除去し、イメージングデータの品質を最大化するためには、一貫したアブレーション径を維持することが有用であり、これは、レーザーパルスによって標的に供給されるエネルギーとアブレーションされる物質のアブレーション閾値エネルギーとの比を調整することを意味する。この要件は、DNAとタンパク質との比が変化する生体組織または試料の領域中の鉱物の特定の組成に応じて変化する地質試料など、アブレーションの閾値エネルギーが試料にわたって変化する不均質試料をアブレーションするときに問題となる。これに対処するため、複数の波長のレーザー放射を試料の同じアブレーション箇所に焦点を合わせることで、その箇所の試料の組成に基づいて、より効果的に試料をアブレーションし得る。
【0023】
(レーザー)
概して、試料のアブレーションに使用されるレーザーの波長および出力の選択は、細胞分析における通常の使用方法に従い得る。レーザーは、試料キャリアを実質的にアブレーションすることなく、所望の深さまでアブレーションを生じさせるのに十分なフルエンスを有しなければならない。通常、0.1~5J/cm2のレーザーフルエンス、例えば3~4J/cm2または約3.5J/cm2のレーザーフルエンスが適しており、レーザーは、理想的には200Hz以上の速度でこのフルエンスを有するパルスを生成することが可能である。いくつかの例では、このようなレーザーからの単一のレーザーパルスは、分析のために細胞物質をアブレーションするのに十分であるべきであり、その結果、レーザーパルスの周波数は、アブレーションプルームが生成される周波数と一致する。一般的に、生体試料のイメージングに有用なレーザーであるためには、レーザーは、例えば本明細書に記載される特定のスポットサイズに焦点を合わせられ得る、100ns未満(好ましくは1ns未満)の持続時間を有するパルスを発生させるべきである。
【0024】
例えば、レーザーシステムによるアブレーションの周波数は、200Hz~100MHzの範囲内、200Hz~10MHz、200Hz~1MHz、200Hz~100kHz、500~50kHzの範囲内または1kHz~10kHzの範囲内である。
【0025】
各アブレーションプルームを個別に分解することが望ましい場合(以下に示すように、試料にパルスのバーストを発射するときは必ずしも望ましくない場合があり得る)、機器は、これらの周波数で、連続するアブレーション間のシグナルの重複を避けるのに十分に迅速にアブレーションされた物質を分析可能でなければならない。連続するプルームから生じるシグナル間の重なりは、10%未満の強度であり、より好ましくは5%未満、理想的には2%未満の強度であることが好ましい。プルームの分析に必要な時間は、試料チャンバーのウォッシュアウト時間(下記の試料チャンバーの項目を参照されたい)、レーザーイオン化システムへのプルームエアロゾルの通過時間およびイオン化された物質の分析にかかる時間に依存する。各レーザーパルスは、以下に詳述するように、その後に構築される試料の画像上のピクセルに相関され得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、レーザー源は、ナノ秒のパルス持続時間を有するレーザー、またはフェムト秒レーザーなど、超高速レーザー(1ps(10-12秒)またはそれよりも速いパルス持続時間)を備える。超高速パルス持続時間は、アブレーション領域からの熱拡散を制限し、それによってより正確で信頼性の高いアブレーションクレーターを提供し、同様に、各アブレーション事象からのデブリの散乱を最小化するため、多くの利点を提供する。フェムト秒レーザーは、ここで説明したシステムおよび装置に特に有用である。
【0027】
いくつかの例においては、レーザー光源としてフェムト秒レーザーが使用される。フェムト秒レーザーは、1ps未満の持続時間を有する光パルスを発するレーザーである。このような短いパルスを発生させるには、しばしばパッシブモードロックという技術が用いられる。フェムト秒レーザーは、さまざまな種類のレーザーを用いて生成され得る。通常の30fs~30psの持続時間は、パッシブモードロックされた固体バルクレーザーを用いて達成され得る。同様に、例えば、ネオジムまたはイッテルビウムをドープした利得媒質に基づく様々なダイオード励起レーザーもこの領域で動作する。高度な分散補償を有するチタンサファイアレーザーは、10fs未満のパルス持続時間にも適しており、極端な場合には約5fsにまで達する。パルスの繰り返し数は、ほとんどの場合、10MHz~500MHzであるが、より高いパルスエネルギーを得るために、数メガヘルツの繰り返し数を有する低繰り返し数のバージョンも存在する(Lumentum(米国、カリフォルニア州)、Radiantis(スペイン)、Coherent(米国、カリフォルニア州)などから入手可能)。このタイプのレーザーには、パルスエネルギーを増加させる増幅システムが付属し得る。
【0028】
超高速ファイバーレーザーにも様々なタイプが存在するが、こちらもまたほとんどの場合はパッシブモードロックであり、通常、50~500fsのパルス持続時間および10~100MHzの繰り返し数を提供する。このようなレーザーは、NKT Photonics(デンマーク、旧Fianium)、Amplitude Systems(フランス)、Laser-Femto(米国、カリフォルニア州)などから市販されている。このタイプのレーザーのパルスエネルギーは、多くの場合統合型ファイバー増幅器の形である、増幅器によって増加され得る。
【0029】
いくつかのモードロックダイオードレーザーは、フェムト秒持続時間のパルスを生成し得る。レーザーの出力を直接考慮すると、パルスの持続時間は通常、数百フェムト秒程度である(Coherent(米国カリフォルニア州)などから入手可能)。
【0030】
いくつかの例においては、ピコ秒レーザーが使用される。これまでの文章ですでに説明した多くの種類のレーザーもまた、ピコ秒範囲の持続時間のパルスを生成するように適合され得る。最も一般的な光源は、能動的または受動的にモードロックされた固体バルクレーザーであり、例えば、パッシブモードロックされたNdドープYAG、ガラスまたはバナジウムレーザーである。同様に、ピコ秒モードロックレーザーおよびレーザーダイオードも市販されている(例えば、NKT Photonics(デンマーク)、EKSPLA(リトアニア)など)。
【0031】
あるいは、外部から変調をかけてナノ秒以下の持続時間パルスを発生させるために、連続波レーザーを使用し得る。
【0032】
通常、本明細書に記載されているレーザーシステムにおいてアブレーションのために使用されるレーザービームは、すなわちサンプリング位置において、100μm以下のスポットサイズを有する。例えば50μm以下、25μm以下、20μm以下、15μm以下または10μm以下、例えば約3μm以下、約2μm以下、約1μm以下などである。スポットサイズと呼ばれる距離は、ビームの最長の内部寸法に対応し、例えば、円形のビームの場合にはビーム直径であり、正方形のビームの場合には対向するコーナー間の対角線の長さに対応し、四角形の場合には最長の対角線の長さなどに対応する(前述したように、ガウス分布を伴う円形ビームの直径は、フルエンスがピークフルエンスの1/e2倍に減少したポイント間の距離として規定される)。ガウスビームの代わりに、ビームシェーピングおよびビームマスキングを用いて、所望のアブレーションスポットを提供し得る。例えば、一部の用途では、トップハット型のエネルギー分布を有する正方形のアブレーションスポット(すなわち、ガウス型のエネルギー分布と対照的に、ほぼ均一なフルエンスを有するビーム)が有用であり得る。この配置は、ガウス型エネルギー分布のピーク時のフルエンスと閾値フルエンスとの比に対するアブレーションスポットサイズの依存性を減らす。閾値フルエンスに近いフルエンスでのアブレーションは、より信頼性の高いアブレーションクレーターの生成をもたらし、デブリの発生を制御する。したがって、レーザーシステムは、ガウスビームに配置された回折光学素子などのビームマスキングおよび/またはビームシェーピング構成要素を備え得、ビームを再成形して、例えば、ビーム全体で±25%未満で変化する、例えば、±20%未満、±15%未満、±10%未満または±5%未満で変化する、均一またはほぼ均一なフルエンスのレーザー焦点スポットを生成する。場合によっては、レーザービームは、正方形の断面形状を有する。場合によっては、ビームは、トップハット型のエネルギー分布を有する。上述したように、本発明の実施形態の文脈では、スポットサイズと呼ばれる距離は、サンプリング位置におけるビームの最長の内寸であり、すなわち、スポットサイズは、ビームの横方向の寸法であるので、例えば、円形ビームのスポットサイズは直径である。しかしながら、対物レンズの焦点スポットは3次元体積であり、焦点スポットサイズの軸方向の寸法は一般的に横方向の寸法よりも長いため、本発明の実施形態の文脈では、焦点スポットの軸方向の寸法が「スポットサイズ」と呼ばれる距離よりも長くなる場合があることを、当業者であれば理解するであろう。
【0033】
生体試料を分析するとき、個々の細胞を分析するために使用されるレーザービームのスポットサイズは、細胞の大きさおよび間隔に依存する。例えば、細胞が互いに密集している場合(組織切片など)、レーザーシステムの1つ以上のレーザー光源は、これらの細胞よりも大きくないスポットサイズを有し得る。このサイズは、試料内の特定の細胞に依存するが、一般的には、レーザースポットの直径は4μm未満であり、例えば、約3μm以下、約2μm以下、約1μm以下である。所定の細胞を細胞内分解能で分析するために、システムはこれらの細胞よりも大きくないレーザースポットサイズを使用し、より具体的には、細胞内分解能で物質をアブレーションし得るレーザースポットサイズを使用する。スポットサイズが小さいほど、より分解能の高い画像が得られる。場合によっては、例えば細胞がスライド上に散らばっていて、細胞間に空きがあるような場合、細胞の大きさよりも大きなスポットサイズを用いてシングルセル分析が行われ得る。この場合、対象となる細胞の周囲の追加でアブレーションされた領域は、追加の細胞を含まないため、より大きなスポットサイズを使用してシングルセルの特性を達成し得る。したがって、使用する特定のスポットサイズは、分析される細胞のサイズに応じて適切に選択され得る。生体試料では、細胞がすべて同じ大きさであることはほぼない。したがって、細胞内分解能のイメージングが望まれる場合、アブレーション手順を通して一定のスポットサイズが維持されるならば、アブレーションのスポットサイズは最小の細胞よりも小さくなるべきである。小さなスポットサイズは、レーザービームの焦点合わせを用いて達成され得る。1μmのレーザースポット直径は、1μmのレーザー焦点(すなわち、レーザービームの焦点における直径)に対応するが、レーザー焦点は、標的上のエネルギーの空間分布(例えば、ガウスビーム形状)およびアブレーションの閾値エネルギーに対するレーザーの総エネルギーの変動により、+20%以上変動し得る。
【0034】
(レーザーアブレーションの焦点)
レーザーが試料から物質をアブレーションする効率を最大化するには、試料がレーザーの焦点に対して適切な位置に、例えば焦点にあるべきである。これは、焦点が、レーザービームが最小直径を有し、最も集中したエネルギーを有する場所だからである。これは、いくつかの方法で達成され得る。第1の方法は、光が所望のアブレーション効果を果たすのに十分な強度を有する所望のポイントへと、試料がそれに方向付けられたレーザー光の軸で(すなわち、レーザー光の経路を上下に/レーザー源に向かっておよび離れて)移動され得る方法である。あるいはまたは加えて、レンズは、レーザー光の焦点を移動するために使用され得、そうして、例えば縮小によって、試料の位置で物質をアブレーションするレンズの効果的な能力を使用し得る。1つ以上のレンズは、レーザーと試料ステージとの間に配置される。単独でまたは前述の2つの方法のいずれかもしくは両方と組み合わせて使用され得る第3の方法は、レーザーの位置を変更することであり得る。
【0035】
システムのユーザーが物質のアブレーションに最も適した位置に試料を配置するのを支援するために、カメラは、試料を保持するステージに向けられ得る(以下で詳細に説明する)。したがって、本開示は、試料ステージに向けられたカメラを備えるレーザーアブレーションサンプリングシステムを提供する。カメラによって検出された画像は、レーザーが焦点を合わせるのと同じポイントに焦点を合わせられ得る。これは、レーザーアブレーションと光学イメージングとの両方に同じ対物レンズを使用することによって実現され得る。ユーザーは、2つの焦点を一致させることにより、光学画像に焦点が合っているときにレーザーアブレーションが最も効果的であることを確実にし得る。試料に焦点を合わせるためのステージの正確な動きは、Physik Instrumente、Cedrat-technologies、Thorlabsおよび他の供給元から入手可能なピエゾアクティベーターを使用して行なわれ得る。
【0036】
(レーザーアブレーションサンプリングシステムの試料チャンバー)
レーザーアブレーションを施すとき、試料は、試料チャンバー内に配置される。試料チャンバーは、試料を保持するステージを備える(通常、試料は試料キャリア上にある)。アブレーションされると、試料中の物質はプルームを形成し、ガス入口からガス出口までの試料チャンバー内のガスの流れによって、アブレーションされた場所での標識原子を含むエアロゾル化した物質のプルームが運ばれる。ガスは、物質をイオン化システムに運び、これは、物質をイオン化して検出器による検出を可能にする。標識原子を含む、試料中の原子は、検出器によって識別され得るため、それらの検出により、プルーム中の複数の標的の有無および試料上のアブレーションされた場所にどのような標的が存在したかの判定が明らかになる。このように、試料チャンバーは、分析される固体試料を収容するだけでなく、エアロゾル化した物質をイオン化システムおよび検出システムに移動させる出発点として、2つの役割を担っている。これは、チャンバー内のガスの流れは、アブレーションされた物質のプルームがシステムを通過する際の広がりに影響を与え得ることを意味する。アブレーションされたプルームがどの程度広がるかを示す指標として、試料チャンバーのウォッシュアウト時間がある。この数値は、試料からアブレーションされた物質が、チャンバー内を流れるガスによって試料チャンバーから運び出されるまでの時間の測定値である。
【0037】
このように、レーザーアブレーションから生成されたシグナルの空間分解能(つまり、後述するように、アブレーションが除去のためだけでなくイメージングのために使用される場合)は、(i)アブレーションされる全領域にわたってシグナルが統合される際のレーザーのスポットサイズおよびプルームが生成される速度とレーザーに対する試料の動きとの関係、ならびに(ii)前述のように連続したプルームからのシグナルの重なり合いを回避するような、プルームが生成されている速度に対するプルームを分析し得る速度、を含む要因に依存する。したがって、プルームの個別分析が望ましい場合、可能な限り短時間でプルームを分析可能にすることで、プルームの重なりの可能性を最小限に抑えることができる(その結果、プルームをより頻繁に発生させることが可能になる)。
【0038】
したがって、ウォッシュアウト時間が短い(例えば100ms以下)試料チャンバーは、本明細書に開示された装置および方法で使用するのに有利である。ウォッシュアウト時間が長い試料チャンバーは、画像が生成され得るか、または連続する試料スポットから発生するシグナル間のオーバーラップにつながる速度のいずれかを制限する(例えば、Kindnessら(2003;Clin Chem 49:1916-23)は、シグナルの持続時間が10秒超であった)。そのため、エアロゾルのウォッシュアウト時間は、総スキャン時間を増大させずに高分解能を実現するための重要な制限要因となる。ウォッシュアウト時間が100ms以下の試料チャンバーは当技術分野で既知である。例えば、Gurevich&Hergenroeder(2007;J.Anal.At.Spectrom.22:1043-1050)は、ウォッシュアウト時間が100ms未満の試料チャンバーを開示している。試料チャンバーは、30ms以下のウォッシュアウト時間を有するWangら(2013;Anal.Chem.85:10107-16)(国際公開第2014/146724号明細書も参照されたい)に開示されており、それにより、高いアブレーション周波数(例えば、20Hzを超える)が可能であり、したがって、迅速な分析が可能である。他のそのような試料チャンバーは、国際公開第2014/127034号明細書に開示される。国際公開第2014/127034号明細書における試料チャンバーは、標的に近接して動作可能に配置されるように構成される試料捕捉セルを備え、試料捕捉セルは、捕捉セルの表面に形成される開口を有する捕捉キャビティであって、開口を通して、レーザーアブレーション部位から放出または生成される標的物質を受け取るように構成される捕捉キャビティと、捕捉キャビティ内に露出し、捕捉キャビティ内で受け取られる標的物質の少なくとも一部が試料として出口へ移送されるように捕捉キャビティ内のキャリアガスの流れを入口から出口へ向けて構成されるガイド壁と、を含む。国際公開第2014/127034号明細書における試料チャンバー内の捕捉キャビティの体積は、1cm3未満であり、0.005cm3未満であり得る。場合によっては、試料チャンバーは、25ms以下のウォッシュアウト時間を有する。例えば、20ms、10ms以下、5ms以下、2ms以下、1ms以下または500μs以下、200μs以下、100μs以下、50μs以下、または25μs以下のウォッシュアウト時間を有する。例えば、試料チャンバーは、10μs以上のウォッシュアウト時間を有し得る。通常、試料チャンバーのウォッシュアウト時間は5ms以下である。
【0039】
完全を期すため、場合によっては、試料チャンバーのウォッシュアウト時間よりも頻繁に試料からのプルームが発生し得、結果として得られる画像ににじみが生じる(例えば、特定の分析のために可能な限り高い分解能が必要とされない場合など)。
【0040】
試料チャンバーは、通常、試料(および試料キャリア)を保持し、レーザー放射のビームに対して試料を移動させる並進ステージを備える。試料キャリアを介して試料へのレーザー放射の照射を必要とする動作モードを使用するとき、試料キャリアを保持するステージもまた、使用するレーザー放射に対して透過であるべきである。
【0041】
このように、試料は、レーザー放射が試料に照射されるときにレーザー放射に直面する試料キャリア(例えば、スライドガラス)の側に位置し得、その結果、アブレーションプルームは、レーザー放射が試料に照射される側と同じ側に放出され、そこから捕捉される。あるいは、試料は、レーザー放射が試料に照射されるのと反対側に位置し得(、アブレーションプルームはレーザー光と反対側に放出され、そこから捕捉されるすなわち、レーザー放射が試料に到達する前に試料キャリアを通過する)。
【0042】
試料の様々な離散領域の特定の部分をアブレーションする場合に特に使用される試料チャンバーの特徴の1つは、レーザーに対して試料をx軸およびy軸(すなわち水平方向)内に移動させ得(レーザービームがz軸で試料に照射される)、x軸とy軸とが互いに垂直であるという広い移動範囲である。ステージを試料チャンバー内で移動させ、レーザーの位置を装置のレーザーアブレーションサンプリングシステム内に固定することによって、より信頼性の高い正確な相対位置が得られる。また、移動範囲がより大きいほど、離散したアブレーション領域は、互いにより遠い位置になり得る。試料は、その上に試料を配置するステージを移動させることによって、レーザーに対して移動する。従って、試料ステージは、X軸およびY軸において少なくとも10mmの、試料チャンバー内での移動範囲を有し得る。例えば、X軸およびY軸において20mm、X軸およびY軸において30mm、X軸およびY軸において40mm、X軸およびY軸において50mm、例えばX軸およびY軸において75mmの、試料チャンバー内での移動範囲を有し得る。場合によっては、移動範囲は、標準的な25mm×75mmの顕微鏡スライドの表面全体をチャンバー内で分析できるようなものになる。もちろん、細胞内アブレーションを実現可能にするためには、広い移動範囲に加えて、正確な移動が必要である。したがって、ステージは、x軸およびy軸において、10μm未満の増分で、例えば、5μm未満、4μm未満、3μm未満、2μm未満、1μm以下、500nm未満、200nm未満、100nm未満の増分で、試料を移動させるように構成され得る。例えば、ステージは、少なくとも50nmの増分で試料を移動させるように構成され得る。精密なステージの動きは、約1μmの増分で、例えば、1μm±0.1μmなどの増分で、行われ得る。顕微鏡ステージには、Thorlabs、Prior ScientificおよびApplied Scientific Instrumentationなどから入手可能な市販品を使用し得る。あるいは、SmaractのSLC-24ポジショナーなど、所望の移動範囲と適切な高精度の移動とを提供するポジショナーに基づいて、構成要素から電動ステージを構築し得る。試料ステージの移動速度は、分析の速度にも影響し得る。そのため、試料ステージは、1mm/s超の動作速度、例えば10mm/s、50mm/s、100mm/sなどの動作速度を有する。
【0043】
もちろん、試料チャンバー内の試料ステージが広い移動範囲を有するとき、試料チャンバーはステージの動きに適切に対応できるようなサイズにしなければならない。したがって、試料チャンバーのサイズ決めは、関連する試料のサイズに依存し、結果として可動試料ステージのサイズが決まる。試料チャンバーの例示的なサイズは、10×10cm、15×15cmまたは20×20cmの内部チャンバーである。チャンバーの深さは、3cm、4cmまたは5cmであり得る。当業者であれば、本明細書の教示に従って適切な寸法を選択することができるであろう。レーザーアブレーションサンプラーを用いて生体試料を分析するための試料チャンバーの内寸は、試料ステージの移動範囲よりも大きくなければならず、例えば、少なくとも5mm、少なくとも10mmなどである。これは、チャンバーの壁がステージの端に近すぎる場合、物質のアブレーションされたプルームを試料から離してイオン化システムに取り込む、チャンバー内を通過するキャリアガスの流れが乱流になり得るためである。乱流はアブレーションされたプルームを乱すため、物質のプルームは、アブレーションされた物質の密な雲として残るかわりに、アブレーションされて装置のイオン化システムに運ばれた後、広がり始める。アブレーションされた物質のより広いピークは、ピークの重なりに起因する干渉につながるため、イオン化システムおよび検出システムによって生成されるデータに悪影響を及ぼし、そのため、最終的には、アブレーションの速度がもはや実験的に対象にならないような速度まで減速されない限り、空間的に殆ど分解されないデータを有する。
【0044】
上述したように、試料チャンバーは、イオン化システムに物質を取り込むガス入口およびガス出口を備える。しかしながら、実施される特定のアブレーションプロセスに適していると当業者によって判断されるように、チャンバー内のガスの流れを向けるおよび/またはチャンバーにガスの混合物を供給するための入口または出口として機能するポートをさらに含有し得る。
【0045】
(カメラ)
レーザーアブレーションのための試料の最も効果的な位置を識別することに加えて、カメラ(例えば、帯電結合素子イメージセンサベース(CCD)カメラまたは、アクティブピクセルセンサーベースのカメラ)または任意の他の光検出手段をレーザーアブレーションサンプリングシステムに含めることにより、様々なさらなる分析および技術を可能にする。CCDは、光を検出し、それをデジタル情報に変換して画像を生成する手段である。CCDイメージセンサー内に、光を検出する一連のコンデンサがあり、各コンデンサは、決定された画像上のピクセルを表す。これらのコンデンサにより、入射光を電荷に変換することが可能となる。CCDは、この電荷を読み取るために使用され、記録された電荷は画像に変換され得る。APS(アクティブピクセルセンサー)は、画素センサーのアレイを含有する集積回路からなるイメージセンサーであり、各画素は、光検出器およびアクティブ増幅器、例えばCMOSセンサーを含有する。
【0046】
(レーザーアブレーション)
一般的に、レーザーアブレーションは、本明細書に関する修正(例えば、試料物質をイオン化するためにICPを使用すること、あるいはTOF MS検出器を使用することは必須ではない)を考慮して、例えば、Giesenら、2014および国際公開2014169394号明細書に従来定められたような方法で実行される。例えば、本方法はまた、後述するように、質量分析検出をOES検出に置き換えても実行され得る。
【0047】
(レーザーイオン化システム)
従来のマスサイトメトリー装置および多くの質量分析装置は、試料中からの物質をイオン化するシステム(すなわち、MSによって検出するイオンのイオン源)として、誘導結合プラズマ(ICP)を用いていた。しかしながら、ICP-MSのイオン伝達効率は、1を大きく下回っている。つまり、ICPに導入された物質から検出されるイオンの数は、物質が完全にイオン化された場合に期待される数よりもはるかに少ない。伝達効率の低さは、キャリアガス(通常はアルゴン)のイオンによって発生する空間電荷の問題に関連する。以下に説明するように、空間電荷効果は、密に詰まったイオンの反発をもたらし得、または空間電荷は、反対のタイプの電荷を有する粒子の存在下で中性種の形成につながり得、結果として、質量分析計によって検出できなくなる。ICPのイオンの多くは、トーチ先端のプラズマを維持するために使用されるアルゴンガスから発生する(
図1のトーチにおいては、イオン化のために物質を運ぶ流れに加えて、*で標識されたアルゴンガスの流入口が追加されていることに留意されたい)。このように、大量のアルゴンキャリアイオンおよびキャリアガスから発生する電子を伴わずに元素イオンを生成するアプローチは、機器の感度を向上させ得る。
【0048】
本発明者らは、標準的なマスサイトメーターのように、マスサイトメトリーおよび質量分析のイオン化システムとしてICPを使用する代わりに、レーザーイオン化システムを使用して試料をイオン化することが可能であることを確認した。本発明者らは、エアロゾルまたは蒸気の形で存在する試料物質を元素イオンに変換する効果のある任意の適切なレーザーを、キャリアガスから過剰なイオンを生成しないことを条件に、レーザーイオン化システムに使用することができ、ピコ秒およびフェムト秒レーザーが本発明の実施形態のレーザーイオン化システムに有用である(フェムト秒レーザーが特に有用である)ことを明らかにした。レーザーイオン化は、イオンビームに著しい量のキャリアガスのイオンを加えることなくレーザー光中のエネルギーが試料物質を断片化、原子化、イオン化するため、利点をもたらす。このイオン化システムは、液体試料と固体試料との両方に対応する。
【0049】
このアプローチが特に有利である可能性がある用途には、イメージングマスサイトメトリーによる生体試料のイメージングが含まれる。これらの用途においては、生体試料はレーザーパルス(セットアップ内の第2のレーザーからの可能性が高い)によって照会され、生体試料上の対象のピクセルごとにアブレーションされた物質のプルームが生成される。生成されたプルームは、通常、照会された領域からの蒸気およびナノメートルスケールのエアロゾルを運ぶ。本発明の実施形態によれば、以下に詳細を説明するように、プルーム物質から元素イオンを生成するのに十分な強度のレーザー照射を行うことによって、蒸気およびエアロゾルを直接イオン化し得る。
【0050】
図2を参照すると、通常、レーザーイオン化システム200は、レーザー220から放出されたレーザー光221によってイオン化システム導管を通過する物質のイオン化を可能にするために、レーザーシステムがイオン化システム導管210に向けられるように配置されたイオン化システム導管210とレーザーシステム220とを備える。イオン化システム導管の一端は、装置のサンプラー100と連通し、導管の反対側の端は、装置の質量分析計300と連通する。したがって、サンプラーからの物質は、質量分析計に運ばれるにつれて、レーザー光によってイオン化される。
【0051】
(レーザーイオン化システムにおいて使用するレーザー)
一般的にイオン化に有用なレーザーは、1パルスあたり数マイクロジュール規模のエネルギーを供給するが、そのパルスを高い頻度で発生させることが可能である。レーザーは、試料物質から元素イオンを生成する。生成された元素イオンは、その後、装置内の質量分析計で分析され得る。レーザーは、ピコ秒レーザーまたはフェムト秒レーザーであり得る。いくつかの実施形態では、レーザーはフェムト秒レーザーである。
【0052】
フェムト秒レーザーは、固体レーザーであり得る。パッシブモードロックされた固体バルクレーザーは、典型的な持続時間が30fsから30psの高品質の超短パルスを放出し得る。このようなレーザーの例としては、ネオジムをドープした結晶またはイッテルビウムをドープした結晶などを用いたダイオード励起レーザーを含む。チタンサファイアレーザーは、10fs未満のパルス持続時間、極端な場合には約5fsまで下げて使用され得る(例えば、Thorlabsから入手可能なOctavius Ti:Sapphire Lasersなど)。パルスの繰り返し数は、ほとんどの場合、1kHz~500MHzである。
【0053】
フェムト秒レーザーは、ファイバーレーザーであり得る。様々なタイプの超高速ファイバーレーザーは、パッシブモードロックも可能であり得る、通常、パルス持続時間は50~500fs、繰り返し数は0.10~100MHz、平均出力は数ミリワット~数ワットである(フェムト秒ファイバーレーザーは、Toptica、IMRA America、Coherent, Inc.から市販されている)。
【0054】
フェムト秒レーザーは、半導体レーザーであり得る。一部のモードロックダイオードレーザーは、フェムト秒の持続時間でパルスを生成し得る。レーザーの出力を直接考慮すると、通常は、少なくとも数百フェムト秒のパルス持続時間が発生するが、外部でパルスを圧縮すれば、より短いパルス持続時間が達成され得る。
【0055】
垂直外部共振器型面発光レーザー(VECSEL)をパッシブにモードロックさせることも可能で、特に短パルス持続時間、高パルス繰り返し数および場合によっては高平均出力の組み合わせをもたらし得るため、興味深いが、高パルスエネルギーには不向きである。
【0056】
本明細書で紹介するシステムおよび方法に適したフェムト秒レーザーは、カラーセンターレーザーおよび自由電子レーザーをも含む。
【0057】
いくつかの実施形態では、レーザーは、ナノ秒、ピコ秒またはフェムト秒スケールのパルス持続時間のパルスを生成するように適合される。例えば、レーザーは、500fs以下の持続時間を有し得、例えば、400fs以下、300fs以下、200fs以下、100fs以下、50fs以下、45fs以下、25fs以下、20fs以下、または10fs以下などの持続時間を有し得る。フェムト秒レーザーは、1ps未満の持続時間のパルスを生成するように適合される。
【0058】
いくつかの実施形態では、レーザーは、少なくとも100,000Hzのパルス繰り返し数、例えば、少なくとも1MHz、少なくとも2MHz、少なくとも3MHz、少なくとも4MHz、少なくとも5MHz、少なくとも10MHz、少なくとも20MHz、少なくとも50MHz、少なくとも100MHz、少なくとも200MHz、少なくとも500MHz、または1GHz以上のパルス繰り返し数を有するように適合される。
【0059】
いくつかの実施形態では、レーザーは、その焦点において、100μm以下のビーム幅(1/e2)、例えば50μm以下、20μm以下、10μm以下、5μm以下のビーム幅(1/e2)を有するように適合される。レーザーの焦点は、ビームのエネルギーが最も集中する場所であり、それによって、最大のイオン化が達成される場所である。
【0060】
いくつかの実施形態では、レーザーは、1ナノジュールから最大50ミリジュールまでのパルスエネルギーを有するように適合される。物質のスパッタリングまたは物質のアブレーションを支援するためのレーザーは、1ナノジュールから100マイクロジュールの間のパルスエネルギーを有するように、例えば、10ナノジュールから100マイクロジュールの間、100ナノジュールから10マイクロジュールの間、500ナノジュールから5マイクロジュールの間、約1マイクロジュール、約2マイクロジュール、約3マイクロジュールまたは約4マイクロジュールなどの、パルスエネルギーを有するように適合され得る。ポストイオン化用のレーザーは、1ミリジュールから50ミリジュールの間のパルスエネルギーを有するように、例えば5ミリジュールから40ミリジュールの間、10ミリジュールから30ミリジュールの間、20ミリジュールから35ミリジュールの間、または約25ミリジュールもしくは35ミリジュールなどの、パルスエネルギーを有するように適合され得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、レーザーは、約1ミリジュールのパルスエネルギーを有し、少なくとも10MHzのパルス繰り返し数を有し、100fs未満の持続時間、例えば50fs以下、45fs以下、25fs以下、20fs以下、10fs以下などの持続時間を有するパルスを生成するように適合される。
【0062】
キャリアガスからのイオンの数を減らすという利点に加えて、レーザーイオン化システムは、他のメカニズムを通して空間電荷効果を回避することによって、イオン化効率をさらに高めるように適合され得る。例えば、レーザーイオン化システムは、単一のプルームまたは粒子の内容物をイオン化するために、イオン化レーザーの複数のレーザーパルスを利用するように適合され得る。複数のパルスを使用する場合、その後1つのパルスで発生するイオンの量が減少する。
【0063】
上述したように、小さな体積内に大量の正電荷および負電荷が発生する場合、形成されたイオンの運動は、イオンおよび電子によって誘起された空間電荷からもたらされる局所的な場によって支配される。小さな体積内の荷電イオンが多すぎる場合、結果として生じるイオンを検出のために検出器に向けるために使用される質量分析計内に存在するイオン光学系からの磁場などの外部磁場は、正電荷と負電荷との分離などに効果的ではなく、そのようなイオン雲は最終的に中和し、イオン化効率を低下させる。例えば、10,000電気素量を含有する(直径)10μm規模のイオン雲は、約3Vの静電ポテンシャルを生成する。数eVは、電子を原子に保持するエネルギーであるため、イオン化後の自由電子のエネルギーレベルである可能性もある。その結果、10マイクロメートル規模の体積内に10000個の規模のイオンが存在するイオン密度は、空間電荷の挙動が支配的になり始める限界に近い。
【0064】
単一のプルームまたは粒子の内容物をイオン化するためにより多くのパルスを使用することに加えて、本発明者らは、イオン化レーザーのパルスによってイオン化される物質の量を制御することによって、この問題に対処するための更なる技術および手直しをも明らかにした。これらの技術は、単一のプルームまたは粒子の内容物をイオン化するために、単独で、または互いに組み合わせて、および必要に応じて、イオン化レーザーの複数のパルスを使用して使用され得る。これにより、生成されるイオンの数がより少なくなり、電荷の再結合および中和の前に、イオン光学系が電荷の分離を果たし得る。
【0065】
次いで、サンプラーがレーザーアブレーション装置の場合、プルームあたりの物質量は、レーザーイオン化システムによってイオン化するための各プルームを生成するために、少量の物質のみをアブレーションすることによって、コントロールされ得る。これには主に2つの方法がある。第1には、各プルームを生成するために、試料から物質の小さなスポット、例えば、4μm未満、例えば3μm未満、2μm未満、1μm未満、500nm未満、400nm未満、300nm未満、200nm未満、または100nm以下、をアブレーションすることである。通常、スポットサイズは1μm以下である。第2には、アブレーションレーザーの適切な設定、例えばパルスあたりの出力を調整するなどによって、アブレーションスポットの深さを制御することである。結果として得られるクレーターの深さは、500nm未満、400nm未満、300nm未満、200nm未満、100nm未満、50nm未満または20nm以下であり得る(すなわち、各レーザーパルスは、レーザーパルスのスポット直径内で、500nm、400nm未満、300nm未満、200nm未満、100nm未満または50nm以下の試料からの物質をアブレーションする)。試料の深さの合計がレーザーパルスごとにアブレーションされる試料の深さよりも大きい場合は、試料の同じ場所に複数のパルスを照射して、試料のその場所を完全にアブレーションし得る。
【0066】
1×1μmのスポットから発生し、100nmの深さにアブレーションされたプルームは、約1010個の原子を含有する。この場合、1010個の原子は、各々104個の原子を含有する106個の部分に細分化され得る。この場合、各部分は、トンネリング効果またはマルチフォトン効果に基づくフェムト秒レーザーイオン化などの直接レーザーイオン化によってイオン化され得る。このようなイオン化は、100%に近いイオン化効率が得られるため、104個の原子から104個のイオンが生成され得る。このイオンの数は、空間電荷の境界線内に収まっているため、正の粒子および負の粒子を分離するのに適度な効率が保証される。アブレーションスポットが300nm×300nm、試料の厚さが100nmの場合、アブレーションされる物質の量は10倍になり、アブレーションプルームをイオン化するために必要なイオン化レーザーパルスの数は105に減るため、アブレーションされる物質の量を減すことにより、さらなる利点がもたらされる。
【0067】
この設定がイメージングマスサイトメトリーまたはイメージング質量分析に使用された場合、試料からプルームを生成するためのアブレーションレーザーの1パルスは、試料のほぼ完全なイオン化を達成することを期待してアブレーションプルームをイオン化するためのイオン化レーザーの105のパルスを伴う。アブレーションスポットの直径が小さいほどおよび/またはアブレーションの深さが浅いほど、アブレーションされたプルームをアブレーションするのに必要なレーザーイオン化システムのレーザーからのパルス数は少なくなる。したがって、いくつかの実施形態では、レーザーイオン化システムのレーザーは、104倍超、5×104倍超、105倍超、5×105倍超、106倍超または106倍超より大きいなどの、レーザーアブレーションシステムの繰り返し数の103倍より大きい繰り返し数でパルスを生成するように構成されている。
【0068】
より劣るイオン化、例えば10%程度のイオン化を許容する場合、イオン化レーザーの対応するパルス数は、減少し得る。例えば、生体試料を分析するとき、標的分子をマークするために2つ以上のコピーの元素タグが使用される場合、イオン化の程度が低下しても許容され得る。例えば、10個以上の元素タグのコピーが標的抗原に結合する抗体に共有結合されている場合、少なくとも1つの元素タグがイオン化されて検出されるため、10%のイオン化が許容され得る。
【0069】
(イオン化システム導管)
イオン化を最大化するために、アブレーションによって生成されたプルームは、広げられ得、その結果、イオン化レーザーからの一連のパルスによってイオン化され得る。プルームの体積を増加させるために、いくつかのパラメータが採用され得る。したがって、本装置の一実施形態では、サンプラーは、プルームを生成するように構成されたレーザーアブレーションシステムを備え、本装置は、レーザーイオン化の前にプルームの体積を増加させる配置を含む。
【0070】
1つのパラメータは、アブレーションシステムのアブレーションチャンバー内の圧力である。試料をアブレーションするとき、得られたアブレーションプルームの膨張が止まったときのプルーム体積は、アブレーションチャンバー(そこからイオン化システム導管がアブレーションプルームを運ぶ)内の圧力に反比例する。したがって、アブレーションチャンバーは大気圧よりも低い圧力で維持され得る。例えば、1気圧ではなく0.5気圧で動作させると、プルームがイオン化システム導管に入る前に、アブレーションプルームの気体体積が2倍に増加する。アブレーションチャンバーは、0.5気圧未満、例えば0.1気圧満または0.05気圧未満で動作され得る。
【0071】
第2のパラメータは、アブレーションチャンバーとイオン化が起こるポイントとの間のイオン化システム導管内での試料の滞留時間である。アブレーションプルームがアブレーションチャンバーから導管に沿って運ばれるにつれて、プルームは拡散し、拡散の度合いはプルームがガスの流れの中で費やす時間(プルームの滞留時間)に比例する。したがって、導管がより長いほど、より拡散し、こうして効率的なイオン化に適するより広いプルームとなる(より拡散したプルームがイオン化されるとき、単位体積あたりに生成されるイオンの数はより少なくなり、そのため電荷中和効果の影響が少なくなる)。同様に、導管内のガスの流れを遅くすると、滞留時間が増加し、アブレーションプルームの拡散がより促進される。これは、単位時間当たりにマスサイトメーターまたは質量分析計システムに導入されるガスの体積およびアブレーションチャンバーとイオン化システムとの間の導管の直径によって制御可能である。拡散を適切に制御するためのこれらのパラメータの変化は、当業者であれば容易に行うことができる。
【0072】
いくつかの実施形態では、イオン化される試料物質のプルームの再成形は、空間電荷効果を低減するために拡散に頼るのと同様に、またはその代わりに行うことができる。ある事象からの物質(例えば、個々のアブレーションプルーム)を分析するのにかかる時間の長さは、物質のプルームがどのように拡散しているか、従って、結果として生じるイオン雲がどのように拡散しているかに依存しており、より拡散している雲は分析に時間がかかる。
【0073】
フェムト秒レーザーによってイオン化され得る体積の大きさは、通常マイクロメートル規模であるため(例えば1μmスポットのアブレーションによって生成されるプルームよりも通常小さいため)、ガス状の試料物質は、イオン化の効率を最大化するために、拡散によって生成された球形状から、直径がわずか数マイクロメートルである伸長糸形状に再成形され得る。
【0074】
試料物質のプルームを再成形するための簡単なアプローチは、出力方向に向かってテーパー状になっているイオン化システム導管を利用することである。これは、
図3のAからDに示される。この図では、試料物質400のプルームが、イオン化システム導管210に沿って流れるキャリアガス中を進む様子が示されている。雲がイオン化システム導管210のテーパー420を通過すると、その幅は狭くなるが、その長さは増大する。例えば、イオン化システム導管の内径は、導管の入力端ではxμmであり得るが、出力端の近くではx/10μmにまで先細りして減少し得る(例えば、入力端で300μm、出力端で30μm)。先細りは、イオン化システム導管の長さに沿って生じ得、あるいは導管の一部のみの先細りであり得る(つまり、導管は、その長さの第1の部分では同じ内径を有し、その後、内径が減少する第2の部分が続く)。イオン化システム導管内のプルームが、第1の部分で直径100μmまで拡大した場合、プルームがテーパー部分を通過する際に、ほぼ同じ直径の比率が維持される。このように、テーパー開始時の直径がテーパー終了時の10倍であれば、テーパー部分を通過するプルームの直径は、10μmである。同時に、この例では、プルームの体積が保存されるため、プルームの長さは100μmから10mmに増大する。このように、いくつかの実施形態では、イオン化システム、導管は、テーパー部分を備え、導管の内径は、テーパーに全体わたって、2倍以上減少し、例えば、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上または50倍以上のように減少する。ここでいう内径は、導管を通る最も長い断面の測定値である。例えば、導管が円形の場合、内径は単純に円の直径であるが、導管が長方形の場合、それが直径となる。
【0075】
いくつかの実施形態では、テーパー部分におけるキャリアガスの流れは、ほぼ音速、あるいは超音速である。これは、プルームを引き伸ばすための最高速度の流れを提供する。これはまた、テーパー部分での滞留時間を減少させ、結果として、装置のこの部分でのイオンの損失につながり得る望ましくない拡散の広がりを最小限に抑える。いくつかの実施形態では、イオン化レーザーは、この最も狭いポイント(ガスがテーパー内で最も高速になる場所)で試料をイオン化するように配置される。流速が速くなると、従来のパルスによってイオン化された試料の部分に当たることなく、試料物質をイオン化するために使用されるより速いレーザーの繰り返し数が可能になる。そうすることによって、プルームは、上述のようにイオン化後の中和につながる空間電荷効果の最小化に適切な、より小さな部分に分割され得る。
【0076】
(レーザー光の利用効率の最大化)
レーザー光学系とイオン化システム導管とを適切に設計することによって、レーザーイオン化システムのレーザーを、イオン化システム導管を通過するおよび/または出ていく試料物質を通して反射するように向けることが可能である。このため、レーザー光は、試料物質中に複数回焦点を合わせ得、それにより、導管を通過する試料および/または導管から出ていく試料物質のイオン化に最も効率的なレーザー光の使用をもたらす。
【0077】
それにより、いくつかの実施形態では、レーザーイオン化システムは、レーザーによって生成されたレーザー光を試料に複数回通過させるための反射器配置をさらに備える。場合によっては、反射器配置は、イオン化導管内に複数の焦点を提供するような形状である1つ以上の反射器を備え、場合によっては、イオン化導管の出口(通常、試料物質がイオン化システム導管によって押し込まれた狭い直径の形状から拡大していない場所)に複数の焦点を提供するように配置される。これは、
図4および
図5に示されている。
図4では、レーザー光221は、導管に沿って複数の焦点が形成430されるように配置された反射器によって、テーパー420に従ってイオン化導管210内で反射される様子が示されている。
【0078】
レーザー光を最大限に利用するために、レーザー光は、マルチパスセルに導入され得る。通常のマルチパスセルは、光がイオン化導管210内の同じ空間を通って何度も反射され、導管に沿って通過する試料物質400をイオン化するように配置された凸型反射器500を利用する。そうすることで、レーザー光は、イオン化導管内(
図5A)または導管とMS520のスキマーもしくはサンプラーコーンとの間の導管のテーパー状端の出口(
図5B)で複数の焦点に焦点を合わせ得、そのため、同じレーザー光を用いた試料物質のイオン化は、何度も行われ得、試料による吸収を最大にして、下流のMSによる分析のための元素イオンを生成する。したがって、いくつかの実施形態では、反射器配置は、少なくとも1つの凸型反射器を備える。
図5に模式的に示されているように、複数の凸型反射器は、イオン化導管の長さに沿って配置され得、焦点の数を増大させる。
図5には焦点が示されていないが、
図4と同様に、反射器は、イオン化される物質の量が最も多い導管の中央に焦点が当たるように配置されている。
【0079】
いくつかの実施形態では、レーザー光は導波管として機能する導管のテーパー部分で発射され、エネルギー密度はテーパー部分でのみイオン化に適したレベルに達するようになっている。これは、
図6に示されている。ここで、レーザー光211は、レーザー210から出て、テーパーが狭くなるにつれて、テーパーの狭い端に向かって、試料物質610をイオン化し得るレーザー光の密度に達するまで、テーパーの内面から反射される。
【0080】
図7を参照すると、いくつかの実施形態では、テーパー状の導管は、狭くなった後に広がり710を有する。レーザー光221は、広がり側からテーパー420の端に向けて発射される(イオン化レーザーは、テーパーの広がり側からレーザー光を照射するように配置される)。広がりの角度は、レーザー光の焦点合わせに使用される対物レンズの開口数に合わせて調整され得る。より広い角度は、より多くの開口数のレンズの使用を可能にし、レーザー焦点の直径を最小化するのに役立つ。イオン化によって生じたイオンは、ガスの流れに沿って進む。このイオンは、イオン光学系によって偏向され、対物レンズに衝突しないようにガスの流れの方向から軌道を変え得る。いくつかの実施形態では、対物レンズは、中央に穴を有し得、イオンが通過することを可能にする。
【0081】
(マルチレーザーシステムによる液体試料のイオン化)
試料が液体の場合、細胞またはウイルスなどの粒子は、イオン化レーザーの上流にある第1のレーザーによってより小さな粒子に分解される。その後、イオン化レーザーは、粒子をイオン化し得、上記の説明に沿って元素イオンを生成する。レーザーは、細胞が液体の中にある間に、細胞を分解するように作用し得る。あるいは、気相中内で細胞を断片化し得る。ここでは、液体試料を霧化して気相細胞を生成し得、その気相細胞を第1のレーザーで分解して、イオン化レーザーでイオン化され得る断片にする。気相で断片化する別の方法として、ドロップオンデマンドデバイス(http://www.microfab.com/dispensing-devices、http://www.polypico.com/wp-content/uploads/2015/06/Poly-Pico_Brochure_-2015.pdf)あるいはインクジェット式のプリンタヘッドに基づくデバイスを使用して、ガスの流れに細胞を導入することがある。いくつかの実施形態では、2つ以上のレーザーを使用して、細胞を分解し、2つ、3つ、4つ、または5つ以上のレーザーなどのイオン化レーザーによってイオン化される断片にする。例えば、第1のレーザーは、試料を第1の直径の断片に分解し得、第1のレーザーの下流に配置された第2のレーザーは、第1の直径の断片をさらに小さな直径の断片に分解し得る。レーザーの数が2つより多い場合も同じ原理で、各レーザーが断片をより小さな断片に分解する。イオン化前のフラグメントは、特にレーザーアブレーションの実施形態を例として使用してテーパー状導管を議論する場合に、上記のプルームと同じ方法で操作され得る物質の雲の中にある。この装置に関連して上述したすべての特徴は、液体試料中の単一の細胞または粒子の分析、例えば、マスサイトメーターにも同様に適用され得る。
【0082】
(レーザーイオン化を有するレーザーアブレーション)
上述したように、サンプラーがレーザーアブレーションシステムであるとき、サンプラーは、試料物質のプルームを生成するように構成され、レーザーイオン化システムはそれをイオン化するように構成される。いくつかの実施形態では、レーザーイオン化システムは、単一のプルームをイオン化するために複数のレーザーパルスを生成するように構成される。いくつかの実施形態では、レーザーイオン化システムは、104倍超、5×104倍超、105倍超、5×105倍超、106倍超などの、レーザーアブレーションシステムの繰り返し数の103倍より大きい繰り返し数でパルスを生成するように構成されている。
【0083】
いくつかの実施形態では、装置は、固体試料をアブレーションしてプルームを生成するように適合され、物質のプルームをイオン化するレーザーイオン化システムのレーザーである、単一のレーザーを備える。この配置において、レーザーイオン化システム内のレーザーパルスの繰り返し数は、イオン化される物質のプルームを生成するために、しばしばアブレーションチャンバー内のレーザーの繰り返し数よりも数桁大きい必要がある。このため、アブレーションとイオン化とにおいて同じレーザーを使用する場合、装置は、アブレーションチャンバーに向けられるレーザーパルスを制御するように構成されるパルスピッカー(Del Mar photonics、KMLabs、EKSMA Opticsから入手可能)をさらに備える。いくつかの実施形態では、装置は、アブレーション用およびイオン化用のレーザーパルスの出力を制御するようにプログラムされた、レーザーパルス出力制御モジュールを備える。いくつかの実施形態では、装置は、2つの光学減衰器(Thorlabs、Newportなどから市販されている)を備え、1つはアブレーションレーザーパルス用、もう1つはイオン化レーザーパルス用であり、各種類のパルスの出力を独立して制御する。
【0084】
(質量検出器システム)
例示的なタイプの質量検出器システムは、四重極型、飛行時間(TOF)型、磁気セクター型、高分解能型、単一またはマルチコレクターベースの質量分析計を含む。特に、磁気セクター型の機器は、1メガピクセル/秒以上の高速記録に適している。
【0085】
イオン化された物質の分析にかかる時間は、イオンを検出するために使用する質量分析計の種類に依存する。例えば、ファラデーカップを使用する機器は、一般的に急速なシグナルを分析するには遅すぎる。全体として、望ましいイメージング速度、分解能および多重化の程度によって、使用されるべき質量分析計のタイプが決まる(または、逆に、質量分析計の選択によって、達成され得る速度、分解能および多重化が決まる)。
【0086】
ポイントイオン検出器のように、一度に1つの質量電荷比(m/Q、MSにおいては一般的にm/zと表す)のみでイオンを検出する質量分析機器では、イメージング検出の結果が悪くなる。第一に、質量電荷比の切り替えに時間がかかるため、複数のシグナルを判定する速度が制限され得、第二に、イオンの存在量が少ない場合、機器が他の質量電荷比に焦点をあわせているとき、シグナルを見逃し得る。したがって、異なるm/Q値を有するイオンを実質的に同時に検出する技術を使用することが好ましい。
【0087】
(検出器の種類)
(四重極検出器)
四重極質量分析計は、一端に検出器を伴う4本の平行ロッドを備える。交番RF電位および固定DCオフセット電位は、一対のロッドと他方の対との間に印加され、その結果、一対のロッド(互いに対向の各ロッド)は、他方の対のロッドに対して反対の代替電位を有する。イオン化された試料は、ロッドの中央を通って、ロッドに平行な方向に検出器に向かって通過する。印加された電位は、特定の質量電荷比のイオンのみが安定した軌道を有し、検出器に到達するように、イオンの軌道に影響を与える。他の質量電荷比のイオンは、ロッドと衝突するであろう。
【0088】
(磁気セクター検出器)
磁気セクター質量分析法では、イオン化された試料は、イオン検出器に向かって湾曲したフライトチューブを通る。フライトチューブにわたって印加された磁場は、イオンをその経路から偏向させる。各イオンの偏向量は、各イオンの質量電荷比に基づいているため、一部のイオンのみが検出器に衝突し、他のイオンは検出器から偏向される。マルチコレクターセクターフィールド機器では、検出器のアレイを使用して、様々な質量のイオンを検出する。ThermoScientific Neptune PlusおよびNu Plasma IIなどの一部の機器では、磁気セクターを静電セクターと組み合わせて、質量電荷比に加えて、運動エネルギーによってイオンを分析する二重集束磁気セクター機器を提供する。Mattauch-Herzog形状を有するマルチ検出器(例えば、半導体直接電荷検出器を使用した1回の測定でリチウムからウランまでの全ての元素を同時に記録できるSPECTRO MS)を使用し得る。これらの機器は、複数のm/Qシグナルを実質的に同時に測定し得る。検出器に電子倍率器を含むことによって、これらの感度を増大させ得る。しかしながら、アレイセクター機器は、増加するシグナルの検出には有効であるが、シグナルレベルが減少する場合にはあまり有効ではないため、特に高い変動濃度で標識が存在する状況にはあまり適していない。
【0089】
(飛行時間型(TOF)検出器)
飛行時間型質量分析計は、試料入口と、強電界を印加した加速チャンバーと、イオン検出器とを備える。イオン化された試料分子のパケットは、試料入口から加速チャンバーに導入される。まず、各イオン化された試料分子は、同じ運動エネルギーを有するが、イオン化された試料分子が加速チャンバーを通して加速されると、それらの試料分子は、それらの質量によって分離され、より軽いイオン化された試料分子は、より重いイオンよりも速く移動する。検出器は、到着した全てのイオンを検出する。各粒子が検出器に到達するのにかかる時間は、粒子の質量電荷比に依存する。
【0090】
このように、TOF検出器は、単一の試料中の複数の質量を半同時的に登録し得る。理論的には、TOF技術は、それらの空間電荷特性のためICPイオン源に理想的には適していないが、実際、TOF機器は、単一セルイメージングを可能にするのに十分迅速かつ高感度に、ICPイオンエアロゾルを分析し得る。TOF質量分析器は、通常、TOF加速器内およびフライトチューブ内の空間電荷の影響を取り扱うのに必要な妥協のために、原子分析においては一般的でない。一方で、本開示による組織イメージングは、標識原子のみを検出することによって効果的であり得、そのため、他の原子(例えば、原子量が100未満の原子)は除去され得る。これにより、より効率的に操作および集束され得る、(例えば)100~250ダルトン領域の質量に富む密度の低いイオンビームが得られる。それによってTOF検出が容易になり、TOFの高いスペクトル走査速度が利用され得る。このように、TOF検出と、試料中には稀であり理想的には非標識試料で見られる質量を超える質量を有する標識原子の選択とを組み合わせることによって高速イメージングが実現され得る。このように、標識質量の狭いウインドウを使用することは、TOF検出が効率的なイメージングに使用されることを意味する。
【0091】
適切なTOF機器は、Tofwerk、GBC Scientific Equipment(例えばOptimass 9500 ICP-TOFMS)、Fluidigm Canada(例えばCyTOF(商標)、CyTOF(商標)2など)から市販されている。これらのCyTOF(商標)機器は、TofwerkおよびGBCの機器よりも感度が高く、希土類金属の質量範囲(特にm/Qの範囲が100~200)のイオンを迅速かつ高感度に検出し得るため(Banduraら(2009;Anal.Chem.81:6813-22)を参照されたい)マスサイトメトリーにおける用途が知られている。したがって、これらは本開示で使用するための好ましい機器であり、Bendallら(2011;Science 332,687-696)およびBodenmillerら(2012;Nat.Biotechnol.30:858-867)など、当技術分野で既に知られている機器設定でイメージングに使用することができる。これらの質量分析計は、高周波レーザーアブレーションまたは試料脱着の所要時間で、高い質量スペクトル取得周波数で多数のマーカーを半同時的に検出し得る。これらは、細胞あたり100程度の検出限界で標識原子の存在量を測定し得るため、組織試料の画像を高感度に構築可能である。このような特徴のため、マスサイトメトリーは、細胞内分解能で組織をイメージングする際の感度と多重化の需要とを満たすために使用され得る。マスサイトメトリー機器を高解像度レーザーアブレーションサンプリングシステムおよび高速トランジット低分散試料チャンバーと組み合わせることによって、実用的な所要時間で高度に多重化された組織試料の画像を構築することが可能となっている。
【0092】
TOFは、質量補正器と結合され得る。イオン化事象の大部分において、原子から一つの電子が叩き出されたM+イオンが生成される。特に質量Mの多数のイオンが検出器に入る場合、TOF MSの動作モードのために、場合によっては、隣接する質量(M±1)のためのチャネルへの1つの質量(M)のイオンの何らかのブリーディング(またはクロストーク)が存在する(つまり、装置がイオン偏向器を備えていた場合、イオンカウントは高いが、サンプリングイオン化システムとMSとの間に位置するイオン偏向器がMSにイオンが入ることを妨げるほど高くはない)。各M+イオンの検出器への到着時間は、平均値(各M個について既知)を中心とした確率分布に従うため、質量M+のイオンの数が多いとき、一部は、通常M-1+またはM+1+のイオンと関連する時間に到着する。しかしながら、各イオンは、TOF MSに入る際に既知の分布曲線を有するため、質量Mのチャネルのピークに基づいて、質量MのイオンのM±1のチャネルへの重なりを決定することが可能である(既知のピーク形状との比較によって)。TOF MSにおいては検出されるイオンのピークが非対称であるため、この計算は特にTOF MSに適している。したがって、M-1、M、M+1チャネルの読み取り値を補正して、検出されたイオンのすべてをMチャネルに適切に割り当てることが可能である。このような補正は、サンプリングおよび本明細書に記載する試料から物質を除去する技術としてのレーザーアブレーション(または後述するような脱着)を包括するようなイオン化システムによって生成される大量のイオンパケットの性質のため、イメージングデータを補正する際に特に役立つ。TOF MSからのデータを逆たたみ込みするすることによってデータの品質を向上させるプログラムおよび方法は、国際公開第2011/098834号明細書、米国特許第8723108号および国際公開第2014/091243号明細書に記載されている。
【0093】
(イメージの構築)
上記の装置は、試料から除去されたイオン化された試料物質のパケット中の複数の原子のシグナルを提供し得る。原子が試料内に自然に存在するためまたは原子が標識試薬によってその位置に局在化されているため、試料物質のパケット内の原子の検出によって、アブレーションの位置におけるその存在が明らかになる。試料表面の既知の空間的位置からイオン化された試料物質の一連のパケットを生成することによって、検出器のシグナルは、試料上の原子の位置を明らかにし、そのシグナルを用いて試料の画像を構築し得る。複数の標的を識別可能な標識で標識することによって、標識原子の位置と同一標的の位置を関連付けることが可能であるため、この方法は、蛍光顕微鏡などの従来の技術をはるかに上回る多重化レベルに到達して、複雑な画像を構築し得る。
【0094】
シグナルを画像に組み立てることは、コンピュータを使用し、既知の技術およびソフトウェアパッケージを使用して実現され得る。例えば、Kylebank SoftwareのGRAPHISパッケージが使用され得、また、TERAPLOTのような他のパッケージをも使用され得る。MALDI-MSIなどの技術からのMSデータを用いたイメージングは、当技術分野で知られており、例えば、Robichaudら(2013;J Am Soc Mass Spectrom 24 5:718-21)は、Matlabプラットフォーム上でMSイメージングファイルを表示および分析するための「MSiReader」インターフェースを開示し、Klinkertら(2014;Int J Mass Spectrom http://dx.doi.org/10.1016/j.ijms.2013.12.012)は、完全な空間およびスペクトル分解能で2D MSIデータセットおよび3D MSIデータセットの両方を迅速にデータ探索および視覚化するための2つのソフトウェア機器、例えば「Datacube Explorer」プログラムを開示する。
【0095】
本明細書で開示された方法で得られた画像は、例えばIHCの結果を分析するのと同じ方法でさらに分析され得る。例えば、画像は、試料内の細胞亜集団を明確にするために使用され得、臨床診断に有用な情報を提供し得る。同様に、SPADE分析を使用して、本開示の方法が提供する高次元のサイトメトリーデータから細胞階層を抽出し得る(Qiuら(2011; Nat. Biotechnol. 29:886-91))。
【0096】
(試料)
本開示の特定の態様は、生体試料をイメージングする方法を提供する。そのような試料は、試料内のこれらの細胞の画像を提供するためにイメージングマスサイトメトリー(IMC)に供され得る複数の細胞を含み得る。本発明の実施形態は、免疫組織化学(IHC)技術によって現在研究されている組織試料を、質量分析(MS)または光学発光分光分析(OES)による検出に適した標識原子を用いて分析するために使用され得る。さらに、本発明の実施形態では、組織試料を調製するための様々な技術を提供し、従来の方法で調製した試料を用いるIMCおよびIMS技術よりも優れた分解能を提供する。特に、本発明の実施形態は、電子顕微鏡によるイメージングに適した試料を調製するための技術、超薄型試料を調製するための技術およびそれらの組み合わせを提供する。これらの方法を、本明細書でさらに説明する。
【0097】
本明細書に記載の方法では、任意の適切な組織試料が使用され得る。例えば、組織は、上皮、筋肉、神経、皮膚、腸、膵臓、腎臓、脳、肝臓、血液(例えば、血液塗抹標本)、骨髄、頬スワイプ、頸部スワイプまたは任意の他の組織のうちの1つ以上からの組織を含み得る。生体試料は、生体から得られる不死化細胞株または初代細胞であり得る。診断、予後または実験(例えば、薬剤開発)の目的のためには、組織は腫瘍からのものであり得る。いくつかの実施形態では、試料は、既知の組織からのものであり得るが、その試料が腫瘍細胞を含有するかどうかは不明であり得る。イメージングは、腫瘍の存在を示す標的の存在を明らかにし得、診断が容易になる。腫瘍からの組織は、対象となる方法によっても特徴づけられる免疫細胞を含み得、腫瘍の生物学についての知見を提供し得る。組織試料は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を備え得る。組織は、哺乳類、動物研究モデル(例えば、ヒト腫瘍異種移植片を有する免疫不全齧歯類などの特定の疾患のもの)またはヒト患者など、任意の生多細胞生物から得られ得る。
【0098】
組織試料は、例えば2~10μm、例えば4~6μmの範囲内の厚さを有する切片であり得る。このような切片を作成する技術は、例えばミクロトームを用いて、IHCの分野では既知であり、脱水ステップ、固定、埋め込み、透過化、切片化などを含む。このように、組織を化学的に固定し得、その後、所望の平面に切片を調製し得る。また、凍結切片法またはレーザーキャプチャーマイクロダイセクションをも用いて、組織試料を調製し得る。試料は、例えば細胞内標的の標識化のための試薬の取り込みを可能にするために、透過処理され得る(上記を参照されたい)。
【0099】
分析される組織試料のサイズは、現在のIHC法と同様であるが、最大サイズは、レーザーアブレーション装置、特に試料チャンバーに収まる試料のサイズによって決定付けられる。最大5mm×5mmのサイズが一般的であるが、より小さな試料(1mm×1mmなど)も有用である(これらの寸法は、切片の厚さではなく、切片のサイズを指す)。
【0100】
本開示は、組織試料のイメージングに有用であることに加えて、むしろ付着細胞の単層または固体表面に固定化された細胞(従来の免疫細胞化学のように)などの細胞試料のイメージングにも用いられ得る。これらの実施形態は、細胞懸濁液マスサイトメトリーのために容易に可溶化し得ない付着細胞の分析に特に有用である。したがって、本開示は、現行の免疫組織化学分析の向上に有用であるだけでなく、免疫細胞化学を向上するために使用され得る。
【0101】
(極薄試料)
前述のように、従来のIMCおよびIMS技術は、数マイクロメートルの厚さの組織試料を使用していた。
【0102】
そのため、本発明の実施形態は、分析のための生体試料を調製する方法であって、試料を標識原子(標識原子は本明細書でさらに説明される)で標識することと、試料を薄切片に分割することとを含み、必要に応じて、試料が、10マイクロメートル以下より小さい厚さ、例えば1マイクロメートル以下、または100nm以下、または50nm以下、または30nm以下などの厚さの切片に分割される、方法を提供する。本発明の実施形態はまた、分析のための生体試料を調製する方法であって、試料を薄切片に分割することと、試料を標識原子(標識原子は本明細書でさらに説明される)で標識することとを含み、必要に応じて、試料が、10マイクロメートル以下より小さい厚さ、例えば、1マイクロメートル以下、または100 nm以下、または50 nm以下、または30 nm以下などの厚さの切片に分割される、方法を提供する。RM Boeckelerから入手できるATUMtomeなどの自動ミクロトームを使用して、本明細書に記載される方法に従った厚さの切片に試料を分割し得る。極薄切片は、試料からアブレーションされる物質のプルームを小さくすることに貢献し得、これは、イオン化導管におけるイオン化の効率を向上させることに貢献し得る。
【0103】
上記の方法で作製した試料は、本明細書に記載されているIMCおよびIMS技術のいずれにも使用され得る。しかしながら、上記の方法で調製した試料は、特にレーザーイオン化による分析に適している。
【0104】
(試料キャリア)
特定の実施形態においては、試料は、固体支持体(すなわち、試料キャリア)上に固定化され、イメージング質量分析のために配置され得る。固体支持体は光学的に透明であり得、例えばガラスやプラスチック製であり得る。
【0105】
場合によっては、試料キャリアは、本明細書に記載された装置および方法で使用するための基準点として機能する特徴を備え、例えば、アブレーションまたは脱着されて分析される対象の特徴/領域の相対的な位置を計算することが可能である。基準点は、光学的に分解可能であり得または質量分析によって分解可能であり得る。
【0106】
(標的元素)
イメージング質量分析では、1つ以上の標的元素(すなわち、元素または元素同位体)の分布が対象となり得る。特定の態様では、標的元素は、本明細書に記載される標識原子である。標識原子は、単独で試料に直接添加され得、生物学的活性分子にまたはその中に共有結合され得る。特定の実施形態では、標識原子(例えば、金属タグ)は、以下に詳述するように、DNAまたはRNA標的にハイブリダイズするための抗体(その同族抗原に接合する)、アプタマーまたはオリゴヌクレオチドなどの特異的結合対(SBP)の要素に接合され得る。標識原子は、当技術分野で既知である任意の方法でSBPに結合され得る。特定の態様では、標識原子は、ランタニドまたは遷移元素などの金属元素、または本明細書に記載される別の金属タグである。金属元素は、60amu超、80amu超、100amu超または120amu超の質量を有し得る。本明細書に記載の質量分析計は、金属元素の質量未満の元素イオンを欠乏させ得、その結果、豊富なより軽い元素が空間電荷効果を生み出さないおよび/または質量検出器を圧しない。
【0107】
(組織試料の標識化)
本開示は、標識原子、例えば複数の異なる標識原子で標識された試料の画像を生成し、この場合、試料の特定の領域、好ましくは細胞内の領域をサンプリング可能な装置によって、標識原子が検出される(したがって、標識原子が元素タグに相当する)。複数の異なる原子の参照は、複数の原子種が試料を標識化するために使用されることを意味する。これらの原子種は、質量検出器を用いて識別され得(例えば、それらは異なるm/Q比を有する)、その結果、プルーム内に2つの異なる標識原子が存在すると、2つの異なるMSシグナルが生じる。光学分光計を使用して原子種を区別することもでき(例えば、異なる原子は異なる発光スペクトルを有する)、その結果、プルーム内に2つの異なる標識原子が存在すると、2つの異なる発光スペクトルシグナルが発生する。
【0108】
(質量タグ付き試薬)
本明細書で使用する質量タグ付き試薬は、いくつかの成分を含む。第1は、SBPである。第2は、質量タグである。質量タグとSBPとは、質量タグとSBPとの接合によって少なくとも部分的に形成されたリンカーによって結合される。また、SBPと質量タグとの間の結合は、スペーサーをも備え得る。質量タグとSBPとは、さまざまな反応化学的手法によって共に接合され得る。例示的な接合反応化学には、チオールマレイミド、NHSエステルおよびアミンまたはクリックケミストリー反応物質(好ましくはCu(I)フリーの化学物質)、例えば、歪みアルキンおよびアジド、歪みアルキンおよびニトロン、および歪みアルケンおよびテトラジンが含まれる。
【0109】
(質量タグ)
本発明の実施形態で使用される質量タグは、様々な形態をとり得る。通常、タグは、少なくとも1つの標識原子を備える。標識原子については、本明細書で後述する。
【0110】
したがって、最も単純な形態では、質量タグは、リガンド内に配位された金属標識原子を有する金属キレート基である金属キレート部分を備え得る。いくつかの例では、質量タグごとに単一の金属原子を検出するだけで十分であり得る。しかしながら、他の例では、各質量タグが2つ以上の標識原子を含有することが望ましい場合があり得る。これは、後述するように、いくつかの方法で実現され得る。
【0111】
2つ以上の標識原子を含有し得る質量タグを生成するための第1の手段は、ポリマーの2つ以上のサブユニットに結合した金属キレート化リガンドを備えるポリマーの使用である。ポリマー中の少なくとも1つの金属原子を結合することができる金属キレート基の数は、約1~10,000であり得、例えば、5~100、10~250、250~5,000、500~2,500または500~1,000であり得る。少なくとも1つの金属原子は、金属キレート化基の少なくとも1つに結合し得る。ポリマーは、例えば5~100、10~250、250~5,000、500~2,500または500~1,000などの、約1~10,000の重合度を有し得る。したがって、ポリマーベースの質量タグは、例えば5~100、10~250、250~5,000、500~2,500または500~1,000などの、約1~10,000の標識原子を備え得る。
【0112】
(マスサイトメトリー用途のための試料の標識)
いくつかの実施形態では、上述したように、装置および方法は、試料に添加されている(すなわち、通常は存在しない)原子を検出する。そのような原子は、標識原子と呼ばれる。いくつかの実施形態では、複数の標識原子の同時検出が可能であり、例えば、少なくとも3、4、5、10、20、30、32、40、50あるいは100の異なる標識原子の多重標識検出が可能である。また、標識原子は組み合わせ方法で使用され得、識別可能な標識の数をさらに増加させる。異なる標的を異なる標識原子で標識することにより、単一の細胞上の複数の標的の存在を判定することが可能である。
【0113】
本実施形態で使用され得る標識原子は、MSまたはOESによって検出可能であり非標識組織試料には実質的に存在しない種を含む。例えば、12C原子は天然に豊富に存在するため、標識原子としては不適切であるが、11Cは天然には存在しない人工的同位体であるため、理論的にはMSに使用され得る。標識原子は、多くの場合、金属である。しかしながら、好ましい実施形態では、標識原子は、希土類金属(15のランタノイドと、スカンジウムおよびイットリウム)などの遷移金属である。これらの(OESおよびMSによって区別され得る)17種類の元素は、(MSによって)容易に区別され得る多くの異なる同位体を提供する。これらの様々な元素は、濃縮された同位体の形で入手可能である。例えば、サマリウムは6つの安定同位体を有し、ネオジムは7つの安定同位体を有し、これらは全て濃縮された形で入手できる。15種類のランタノイド元素は、重複しない固有の質量を有する少なくとも37種類の同位体を提供する。標識原子として使用するのに適した元素の例は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)などを含む。希土類金属に加えて、他の金属原子は、例えば、金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ビスマス(Bi)などの検出に適している。放射性同位元素の使用は、取り扱いがより不便で不安定であるため、好ましくなく、例えば、Pmは、ランタニドの中で好ましい標識原子ではない。
【0114】
飛行時間(TOF)分析(本明細書で説明する)を容易にするために、80~250の範囲内、例えば80~210の範囲内または100~200の範囲内の原子量を有する標識原子を使用することが有用である。この範囲には、ランタノイドのすべてが含まれるが、ScおよびYは含まれない。100~200の範囲では、TOF MSの高いスペクトル走査速度を活用しながら、様々な標識原子を使用した理論的101プレックス分析が可能になる。前述のように、質量が非標識試料で見られるものより上のウインドウ内にある標識原子を選択することによって(例えば、100~200の範囲内)、TOF検出を使用して生物学的に有意なレベルで迅速なイメージングを提供し得る。
【0115】
使用される質量タグ(および質量タグあたりの標識原子の数)および各SBPに取り付けられる質量タグの数に応じて、さまざまな数の標識原子が単一のSBP要素に結合され得る。より多くの標識原子がSBP要素に結合すると、より高い感度が実現し得る。例えば、10、20、30、40、50、60、70、80、90または100を超える標識原子を、最大10,000など、例えば5~100、10~250、250~5,000、500~2,500または500~1,000の、標識原子をSBP要素に結合させ得る。上述のように、各々はジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)またはDOTAなどのキレート剤を含有する、複数のモノマー単位を含有する単分散ポリマーを使用し得る。DTPAは、例えば3+ランタノイドイオンを約10-6Mの解離定数で結合する。これらのポリマーは、上述の説明に沿ってクリックケミストリー反応物質を結合するマレイミドとの反応を介してSBPに結合するために使用され得るチオールで終端し得る。他の官能基もこれらのポリマーの接合に使用され得る。例えば、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルなどのアミン反応性基、カルボキシル基または抗体のグリコシル化に対して反応性のある基などである。任意の数のポリマーが各SBPに結合し得る。使用され得るポリマーの具体例としては、直鎖(「X8」)ポリマーまたは第3世代樹状(「DN3」)ポリマーが挙げられ、どちらもMaxPar(商標)試薬として入手され得る。金属ナノ粒子の使用は、上述のように、標識内の原子数を増やすためにも使用され得る。
【0116】
いくつかの実施形態では、質量タグのすべての標識原子は同じ原子質量である。あるいは、質量タグは、異なる原子質量の標識原子を備え得る。したがって、いくつかの例においては、標識試料は、各々が単一のタイプの標識原子のみを備える一連の質量タグ付きSBPで標識化され得る(各SBPはその同族の標的に接合するため、各種類の質量タグは、試料上で特定の位置に、例えば抗原に、局在化される)。あるいは、いくつかの例では、標識された試料は、各々が標識原子の混合を備える一連の質量タグ付きSBPで標識化され得る。いくつかの例では、試料を標識するために使用される質量タグ付きSBPは、単一の標識原子の質量タグを有するものの混合物とそれらの質量タグ中の標識原子の混合物とを備え得る。
【0117】
(スペーサー)
前述のように、場合によっては、SBPは、スペーサーを備えるリンカーを介して質量タグに接合される。SBPとクリックケミストリー試薬との間(例えば、SBPと歪みシクロアルキン(またはアジド);歪みシクロアルケン(またはテトラジン);などとの間)には、スペーサーがあり得る。質量タグとクリックケミストリー試薬との間(例えば、質量タグとアジド(または歪みシクロアルキン);テトラジン(または歪みシクロアルケン);などとの間)には、スペーサーがあり得る。いくつかの例では、SNPとクリックケミストリー試薬との間およびクリックケミストリー試薬と質量タグの間との両方にスペーサーがあり得る。
【0118】
スペーサーは、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサー、ポリ(N-ビニルピロリド)(PVP)スペーサー、ポリグリセロール(PG)スペーサー、ポリ(N-(2-ヒドロキシルプロピル)メタクリルアミド)スペーサーまたはポリオキサゾリン(POZ、例えばポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリンまたはポリプロピレンオキサゾリンなど)もしくはC5-C20非環状アルキルスペーサーであり得る。例えば、スペーサーは、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、15以上、20以上のEG(エチレングリコール)単位を有するPEGスペーサーであり得る。PEGリンカーは、3~12のEG単位、4~10のEG単位を有し得、または4、5、6、7、8、9もしくは10のEG単位を有し得る。リンカーは、シスタミンまたはその誘導体を含み得、1つ以上のジスルフィド基を含み得または当業者に既知である他の適切なリンカーであり得る。
【0119】
スペーサーは、質量タグが接合するSBPへの立体効果を最小化するのに有益であり得る。また、PEGベースのスペーサーなどの親水性スペーサーは、質量タグ付きSBPの溶解性を向上させる作用を果たし得、凝集を防止する役割を果たし得る。
【0120】
(SBP)
イメージングマスサイトメトリーを含むマスサイトメトリーは、特異的結合対の要素間の特異的結合の原理に基づく。質量タグは、特異的結合対の要素に結合し、これは、質量タグを対の他方の要素である標的/分析物に局在させる。しかしながら、特異的結合は、他の分子種を排除して1つだけの分子種に結合することを必要としない。むしろ、その結合が非特異的でないこと、つまりランダム相互作用ではないことを定義する。そのため、複数の標的に結合するSBPの例は、複数の異なるタンパク質に共通するエピトープを認識する抗体である。ここでは、結合は、特異的であり、抗体のCDRによって媒介されるが、複数の異なるタンパク質が抗体によって検出される。共通のエピトープは、天然に存在し得、またはFLAGタグのような人工的なタグであり得る。同様に、核酸の場合、規定された配列の核酸は、完全に相補的な配列に排他的に結合しない場合があり得るが、当業者であれば分かるように、異なる厳重さのハイブリダイゼーション条件の使用下で、不適合対の様々な不均一の許容差を導入し得る。それにも関わらず、このハイブリダイゼーションは、SBP核酸と標的分析物との相同性によってなされるため、非特異的ではない。同様に、リガンドは、複数の受容体に特異的に結合し得、例えば、TNFαは、TNFR1とTNFR2との両方に結合する。
【0121】
SBPは、核酸二重鎖、抗体/抗原複合体、受容体/リガンド対またはアプタマー/標的対のいずれかを備え得る。こうして、標識原子は、組織試料に接触する核酸プローブに結合され得、その結果、プローブは、組織内の相補的な核酸とハイブリダイズし得、例えば、DNA/DNA二重鎖、DNA/RNA二重鎖またはRNA/RNA二重鎖を形成する。同様に、標識原子は、抗体に結合し得、その後組織試料に接触し、結果としてその抗原に結合し得る。標識原子は、リガンドに結合し得、その後組織試料に接触し、結果としてその受容体に結合し得る。標識原子は、アプタマーリガンドに結合し得、その後組織試料に接触し、結果としてその標的に結合し得る。このように、標識されたSBP要素は、DNA配列、RNA配列、タンパク質、糖、脂質または代謝物を含む、試料中のさまざまな標的の検出に使用され得る。
【0122】
そのため、質量タグ付きSBPは、タンパク質もしくはペプチド、またはポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドであり得る。
【0123】
タンパク質SBPの例は、抗体またはその抗原結合フラグメント、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体融合タンパク質、scFv、抗体模倣物、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、ビオチンまたはそれらの組み合わせを含み、ここで、必要に応じて、抗体模倣物は、ナノボディ、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アビマー、DARPin、ファイノマー、クニッツドメインペプチド、モノボディまたはそれらの任意の組み合わせ、受容体-Fc融合物などの受容体、リガンド-Fc融合物などのリガンド、レクチン、例えば、小麦胚芽凝集素などの凝集素を含む。
【0124】
ペプチドは、直鎖状のペプチドであり得、または二環状などの環状のペプチドであり得る。使用され得るペプチドの一例は、ファロイジンである。
【0125】
ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、一般的に、3’-5’ホスホジエステル結合で結合されたデオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドを含有するヌクレオチドの一本鎖または二本鎖のポリマー、同様にポリヌクレオチド類似物を指す。核酸分子は、DNA、RNAおよびcDNAを含むが、これらに限定されない。ポリヌクレオチド類似物は、天然のポリヌクレオチドに見られる標準的ホスホジエステル結合以外の主鎖を有し得、必要に応じて、リボースまたはデオキシリボース以外の修飾された一つ以上の糖部分を有し得る。ポリヌクレオチド類似物は、標準ポリヌクレオチド塩基にワトソン-クリック塩基対形成によって水素結合が可能である塩基を含有し、ここで、類似物主鎖は、オリゴヌクレオチド類似物分子と標準ポリヌクレオチド中の塩基との間で配列特異的にそのような水素結合を可能にする方法で塩基を提示する。ポリヌクレオチド類似物の例は、ゼノ核酸(XNA)、架橋型核酸(BNA)、グリコール核酸(GNA)、ペプチド核酸(PNA)、yPNA、モルホリノポリヌクレオチド、ロック核酸(LNA)、トレオース核酸(TNA)、2’-0-メチルポリヌクレオチド、2’-0-アルキルリボシル置換ポリヌクレオチド、ホスホロチオエートポリヌクレオチドおよびボロノホスフェートポリヌクレオチドを含むが、これらに限定されない。ポリヌクレオチド類似物は、例えば、7-デアザプリン類似物、8-ハロプリン類似物、5-ハロピリミジン類似物を含む、プリンもしくはピリミジン類似物、またはヒポキサンチン、ニトロアゾール、イソカルボスチリル類似物、アゾールカルボキサミドおよび芳香族トリアゾール類似体を含む任意の塩基と対を成し得る汎用塩基類似物または親和性結合のためのビオチン部分などの更なる官能性を有する塩基類似物を有し得る。
【0126】
(抗体SBP要素)
典型的な実施形態では、標識されたSBP要素は抗体である。抗体の標識化は、1つ以上の標識原子結合分子を抗体に接合することを通して、例えば、NHS-アミン化学反応、スルフヒドリル-マレイミド化学反応またはクリックケミストリー(歪みアルキンとアジド、歪みアルキンとニトロン、歪みアルケンとテトラジンなど)を用いて質量タグを結合させることによって達成され得る。イメージングに有用な細胞タンパク質を認識する抗体は、IHC用としてすでに広く利用されており、現在の標識技術(例えば、蛍光)の代わりに標識原子を使用することによって、本明細書で開示する方法にこれらの既知の抗体を容易に適合させ得るが、多重化能力が増大するという利点がある。抗体は、細胞表面の標的または細胞内の標的を認識し得る。抗体は、様々な標的を認識し得る。例えば、それらは、個々のタンパク質を特異的に認識し得、共通のエピトープを共有する複数の関連タンパク質を認識し得、タンパク質上の特定の翻訳後修飾を認識し得る(例えば、標的のタンパク質上のチロシンとホスホチロシンを区別するため、リジンとアセチルリジンを区別するため、ユビキチン化を検出するため)。標的に結合した後、抗体に接合した標識原子を検出し、試料中の標的の位置を明らかにし得る。
【0127】
標識されたSBP要素は、通常、試料中の標的SBP要素と直接相互作用する。しかしながら、いくつかの実施形態では、標識されたSBP要素が標的SBP要素と間接的に相互作用することが可能である。例えば、一次抗体は、標的SBP要素に結合し得、次に、標識された二次抗体は、サンドイッチアッセイの方法で一次抗体に結合可能であり得る。しかしながら、通常、この方法は、より簡単に実現され得、より高い多重化が可能であるため、直接的な相互作用に依存する。しかしながら、どちらの場合も、試料は、試料中の標的SBP要素に結合され得るSBP要素に接触し、これは、後の段階で標的SBP要素に結合した標識を検出する。
【0128】
(核酸SBPおよび標識方法の変更)
RNAは、本明細書に開示される方法および装置を特定の高感度でおよび必要に応じて定量的な方法で検出可能である、他の生体分子である。RNAは、タンパク質の分析についての前述と同じ方法で、RNAに特異的に結合する元素タグで標識されたSBP要素の使用によって検出され得る(例えば、相補的配列のロック核酸(LNA)分子、相補的配列のペプチド核酸(PNA)分子、相補的配列のプラスミドDNA、相補的配列の増幅DNA、相補的配列のRNAの切片片、および相補的配列のゲノムDNAの断片を含む、前述のような相補的配列のポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド)。RNAは、成熟mRNAだけでなく、RNAプロセシング中間体および新生プレmRNA転写物をも含む。
【0129】
ある実施形態では、本明細書に記載されている方法を用いて、RNAとタンパク質との両方を検出する。
【0130】
RNAを検出するために、本明細書に記載されている生体試料中の細胞を、本明細書に記載されている方法および装置を使用して、RNAおよびタンパク質含有量の分析のために調製し得る。特定の態様では、細胞は、ハイブリダイゼーションステップの前に、固定および透過化される。細胞は、固定および/または透過化された状態で準備され得る。細胞は、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなどの架橋性固定剤によって固定され得る。代わりにまたは加えて、細胞は、エタノール、メタノールまたはアセトンなどの沈殿固定剤を用いて固定され得る。細胞は、ポリエチレングリコール(例えば、Triton X-100)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween-20)、サポニン(両親媒性グリコシド基)などの洗浄剤、またはメタノールもしくはアセトンなどの化学薬品によって透過化され得る。場合によっては、固定化および透過化は、同じ試薬または試薬セットで行われ得る。固定化および透過化の技術については、Jamurらが「Permeabilization of Cell Membranes」(Methods Mol.Biol.、2010)で説明している。
【0131】
細胞内の標的核酸の検出、または「in situ ハイブリダイゼーション」(ISH)は、これまで蛍光タグ付きオリゴヌクレオチドプローブを用いて行われてきた。本明細書で述べたように、質量タグ付きオリゴヌクレオチドをイオン化および質量分析と組み合わせて、細胞内の標的核酸を検出し得る。in-situハイブリダイゼーション法は、当技術分野で既知である(Zenobiら”Single-Cell Metabolomics:Analytical and Biological Perspectives,”Science vol.342, no.6163, 2013を参照されたい)。ハイブリダイゼーションプロトコルは、米国特許第5,225,326号明細書、米国特許出願公開第2010/0092972号明細書および米国特許出願公開第2013/0164750明細書にも記載されており、これらは参照により本明細書に援用される。
【0132】
ハイブリダイゼーションの前に、懸濁液中に存在する細胞または固体支持体上に固定化された細胞は、前述のように固定化および透過化され得る。透過化により、標的ハイブリダイゼーションヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチドおよび/または質量タグ付きオリゴヌクレオチドの細胞内への侵入を可能にしながら、細胞が標的核酸を保持することが可能になり得る。任意のハイブリダイゼーションステップの後、例えば、標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドの核酸標的へのハイブリダイゼーションの後、増幅オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの後および/または質量タグ付きオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの後に、細胞は、洗浄され得る。
【0133】
細胞は、取り扱いを容易にするために、本方法のすべてのステップまたはほとんどのステップにおいて、懸濁状態にされ得る。しかしながら、本方法は、固体組織試料(例えば、組織切片)中の細胞および/または固体支持体(例えば、スライドまたは他の表面)上に固定化された細胞にも適用可能である。このように、場合によっては、細胞が試料中およびハイブリダイゼーションのステップ中に懸濁している場合もあり得る。その他の場合は、ハイブリダイゼーションの間、細胞は、固体支持体に固定化される。
【0134】
標的核酸は、本方法によって検出される、対象の細胞内に十分に存在する任意の核酸を含む。標的核酸は、細胞内に複数のコピーが存在するRNAであり得る。例えば、標的RNAの10以上、20以上、50以上、100以上、200以上、500以上または1,000以上のコピーは、細胞内に存在し得る。標的RNAは、メッセンジャーNA(mRNA)、リボソームRNA(rRNA)、転移RNA(tRNA)、小核RNA(snRNA)、小干渉RNA(siRNA)、長鎖ノンコーディングRNA(IncRNA)または当技術分野で既知である他のタイプのRNAであり得る。標的RNAは、20ヌクレオチド以上、30ヌクレオチド以上、40ヌクレオチド以上、50ヌクレオチド以上、100ヌクレオチド以上、200ヌクレオチド以上、500ヌクレオチド以上、1,000ヌクレオチド以上、20~1,000ヌクレオチド、20~500ヌクレオチドの長さ、40~200ヌクレオチドの長さ、などであり得る。
【0135】
特定の実施形態では、質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、標的核酸配列に直接ハイブリダイズされ得る。しかしながら、追加のオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせることで、特異性および/またはシグナルの増幅を向上させること可能になり得る。
【0136】
特定の実施形態では、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドは、標的核酸上の近位領域にハイブリダイズされ得、ハイブリダイゼーションスキームにおける追加のオリゴヌクレオチドのハイブリダイズのための部位を共に提供し得る。
【0137】
特定の実施形態では、質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドに直接ハイブリダイズされ得る。他の実施形態では、1つ以上の増幅オリゴヌクレオチドは、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、質量タグ付きオリゴヌクレオチドが結合し得る複数のハイブリダイゼーション部位を提供するように、同時にまたは連続して追加され得る。1つ以上の増幅オリゴヌクレオチドは、質量タグ付きオリゴヌクレオチドの有無にかかわらず、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドにハイブリダイズ可能な多量体として提供され得る。
【0138】
2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドを使用することで特異性が向上する一方、増幅オリゴヌクレオチドを使用することでシグナルが増加する。2つの標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドは、細胞内の標的RNAにハイブリダイズされる。2つの標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドは共に、増幅オリゴヌクレオチドが結合し得るハイブリダイゼーション部位を提供する。増幅オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションおよび/またはその後の洗浄は、2つの近接した標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを可能にするが、しかしちょうど1つの標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドへの増幅オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの融解温度を超える温度で行われ得る。第1の増幅オリゴヌクレオチドは、複数のハイブリダイゼーション部位を提供し、そこに第2の増幅オリゴヌクレオチドが結合して、分岐パターンを形成する。質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、第2の増幅オリゴヌクレオチドによって提供される複数のハイブリダイゼーション部位に結合し得る。これらの増幅オリゴヌクレオチド(質量タグ付きオリゴヌクレオチドの有無を問わず)を共に、本明細書では「多量体」と呼ぶ。したがって、「増幅オリゴヌクレオチド」という用語は、アニールされ得るさらなるオリゴヌクレオチドへの同じ結合部位の複数のコピーを提供するオリゴヌクレオチドを含む。他のオリゴヌクレオチドの結合部位の数を増やすことによって、標的に見られ得る最終的な標識の数が増える。このようにして、複数の標識オリゴヌクレオチドは、単一の標的RNAに間接的にハイブリダイズされる。これは、RNAあたりに使用される元素の検出可能な原子数を増やすことによって、コピー数の少ないRNAの検出を可能にする。
【0139】
この増幅を行うための1つの特定の方法は、以下に詳細に説明するように、Advanced cell diagnostics製のRNAscope(登録商標)法を使用することを含む。さらに別の方法は、QuantiGene(登録商標)FlowRNA法(Affymetrix eBioscience)を適合させた方法の使用である。このアッセイは、分岐DNA(bDNA)シグナル増幅を用いたオリゴヌクレオチドペアプローブデザインに基づく。カタログには4,000超のプローブが掲載されているほか、カスタムセットを追加料金なしで要求することも可能である。前段の文に沿って、この方法は、標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドを標的にハイブリダイゼーションさせた後、第1の増幅オリゴヌクレオチド(QuantiGene(登録商標)法ではプリアンプリフィケーションオリゴヌクレオチドと呼ぶ)を備える分岐構造を形成し、アニールし得る複数の第2の増幅オリゴヌクレオチドにステムを形成する(QuantiGene(登録商標)法では単に増幅オリゴヌクレオチドと呼ぶ)ことによって機能する。その後、複数の質量タグ付きオリゴヌクレオチドが結合し得る。
【0140】
もう一つのRNAシグナルの増幅手段は、ローリングサークル増幅手段(RCA)に依る。この増幅システムを増幅プロセスに導入し得る様々な方法がある。第1の例では、ハイブリダイゼーション核酸として第一の核酸が使用され、第一の核酸は円形である。第1の核酸は、一本鎖であり得または二本鎖であり得る。第1の核酸は、標的RNAに相補的な配列を備える。第1の核酸が標的RNAにハイブリダイズした後、第1の核酸に相補的なプライマーは、第1の核酸にハイブリダイズされ、通常は試料に外因的に添加されるポリメラーゼおよび核酸を使用したプライマー伸長のために使用される。しかしながら、場合によっては、第1の核酸を試料に添加したとき、すでにプライマーが結合している場合もあり得る。第1の核酸が円形である結果として、プライマーの伸長が複製の完全なラウンドを完了すると、ポリメラーゼがプライマーを置換し得、伸長が継続され(すなわち、5’→3’エキソヌクラーゼ活性なしに)、第1の核酸の相補体のさらに結合し連鎖したコピーが生成され、それによってその核酸配列が増幅される。 たがって、元素タグ(RNAまたはDNA、または上述のLNAもしくはPNAなど)を備えるオリゴヌクレオチドは、第1の核酸の相補体の連鎖コピーにハイブリダイズされ得る。したがって、RNAシグナルの増幅の度合いは、環状核酸を増幅するステップに割り当てられた時間の長さによって制御され得る。
【0141】
RCAの別の用途では、標的RNAにハイブリダイズする第1の、例えばオリゴヌクレオチドは、円形であるのではなく、直鎖状であり得、標的に相補的な配列を有する第1の部分とユーザーが選択した第2の部分とを備え得る。次いで、この第2の部分に相同な配列を有する円形のRCAテンプレートは、この第1のオリゴヌクレオチドにハイブリダイズされ得、上記のようにRCA増幅が行われる。標的特異的部分とユーザーが選択した部分とを有する第1のもの、例えばオリゴヌクレオチドを使用することにより、ユーザーが選択した部分は、様々な異なるプローブ間で共通となるように選択され得る。これは、異なる標的を検出する一連の反応において、同じ後続の増幅試薬を使用することができるため、試薬効率が良い。しかしながら、当業者に理解されるように、この戦略を採用した場合、多重反応で特定のRNAを個別に検出するためには、標的RNAにハイブリダイズする各第1の核酸は、固有の第2の配列を有する必要があり、結果、各環状核酸は、標識オリゴヌクレオチドによってハイブリダイズされ得る固有の配列を含有するべきである。このようにして、各標的RNAからのシグナルを特異的に増幅および検出し得る。
【0142】
RCA分析をもたらすための他の構成は、当業者にとって既知であろう。いくつかの例では、第1の、例えばオリゴヌクレオチドが、続く増幅およびハイブリダイゼーションステップの間に標的から解離するのを防ぐために、第1の、例えばオリゴヌクレオチドは、ハイブリダイゼーションの後に(例えば、ホルムアルデヒドによって)固定され得る。
【0143】
さらに、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)は、RNAシグナルを増幅するために使用され得る(例えば、Choiら、2010、Nat. Biotech, 28:1208-1210参照)。Choiの説明によると、HCR増幅器は、イニシエーターがない場合には重合しない2つの核酸ヘアピン種からなる。各HCRヘアピンは、一本鎖の末端が露出した入力ドメインと、折り畳まれたヘアピンの中に隠れた一本鎖の末端を有する出力ドメインとからなる。2つのヘアピンのうち一方の入力ドメインにイニシエーターをハイブリダイズすると、ヘアピンが開き、出力ドメインが露出する。この(以前は隠されていた)出力ドメインを第2のヘアピンの入力ドメインにハイブリダイズすると、そのヘアピンが開き、イニシエーターと同じ配列の出力ドメインが現れる。イニシエーター配列の再生は、第1のヘアピンと第2のヘアピンとの交互の重合ステップの連鎖反応の基礎をもたらし、ニック二本鎖「ポリマー」が形成される。本明細書に記載されている方法および装置の用途において、第1および第2のヘアピンのいずれかまたは両方は、元素タグで標識され得る。増幅手順は、特定の配列の出力ドメインに依存しているため、個別のヘアピンのセットを用いた様々な離散した増幅反応は、同じプロセスで独立して行われ得る。したがって、この増幅は、多数のRNA種の多重分析における増幅をも可能にする。Choiが指摘するように、HCRは、等温性トリガーによる自己組織化プロセスである。そのため、ヘアピンは、その場自己組織化を起こす前に、試料に浸透し、試料への深い浸透および高い信号対バックグラウンド比の可能性を示唆する。
【0144】
ハイブリダイゼーションは、標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチドおよび/または質量タグ付きオリゴヌクレオチドなどの、1つ以上のオリゴヌクレオチドと細胞を接触させ、ハイブリダイゼーションが起こり得る条件を提供することを含み得る。ハイブリダイゼーションは、生理食塩水-クエン酸ナトリウム(SCC)緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理食塩水-リン酸ナトリウム-EDTA(SSPE)緩衝液、TNT緩衝液(トリスHCl、塩化ナトリウムおよびTween20を有する)または他の任意の適切な緩衝液などの、緩衝液中で行われ得る。ハイブリダイゼーションは、1つ以上のオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの融解温度程度以下の温度で行われ得る。
【0145】
未結合のオリゴヌクレオチドを除去するように、ハイブリダイゼーション後に1回以上の洗浄を行うことによって、特異性が向上し得る。洗浄の厳重さを上昇させると、特異性は向上し得るが、全体のシグナルは減少する。洗浄の厳重さは、洗浄バッファーの濃度を増加もしくは減少させることによって、温度を上昇させることによっておよび/または洗浄の時間を長くすることによって増大され得る。RNAseインヒビターは、任意のまたはすべてのハイブリダイゼーションのインキュベーションおよびその後の洗浄に使用され得る。
【0146】
1つ以上の標的ハイブリダイジングオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチドおよび/または質量タグ付きオリゴヌクレオチドを含むハイブリダイゼーションプローブの第1のセットは、第1の標的核酸を標識するために使用され得る。追加のハイブリダイゼーションプローブのセットは、追加の標的核酸を標識するために使用され得る。ハイブリダイゼーションプローブの各セットは、異なる標的核酸に特異的であり得る。ハイブリダイゼーションプローブの追加のセットは、異なるセットのオリゴヌクレオチド間のハイブリダイゼーションを減少させまたは防止するように設計され得、ハイブリダイゼーションされ得および洗浄され得る。加えて、各セットの質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、固有のシグナルを提供し得る。このように、複数のオリゴヌクレオチドのセットを使用して、2、3、5、10、15、20またはそれ以上の異なる核酸標的を検出し得る。
【0147】
場合によっては、検出される異なる核酸は、単一遺伝子のスプライスバリアントである。質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、エクソンの配列内で(以下に説明するように、直接または他のオリゴヌクレオチドを介して間接的に)ハイブリダイズしそのエクソンを含有するすべての転写産物を検出するように設計され得、またはスプライスジャンクションを架橋して特定のバリアントを検出するように設計され得る(例えば、ある遺伝子が3つのエクソンおよび2つのスプライスバリアント、エクソン1-2-3およびエクソン1-3、を有する場合、この2つは、区別され得る。すなわち、バリアント1-2-3は、エクソン2にハイブリダイズすることによって特異的に検出され得、バリアント1-3は、エクソン1-3ジャンクションにわたってハイブリダイズすることによって特異的に検出され得る)。
【0148】
(シングルセル解析)
本開示の方法は、試料内の複数の細胞をレーザーアブレーションすることを含み、こうして、複数の細胞からのプルームが分析され、その内容が試料内の特定の位置にマッピングされ、画像が提供される。ほとんどの場合、本方法のユーザーは、試料全体ではなく、試料内の特定の細胞にシグナルを局在化させる必要がある。そのために、試料内の細胞の境界(例:細胞膜、場合によっては細胞壁)が画定され得る。
【0149】
細胞境界の画定は、様々な方法で行われ得る。例えば、上述したような顕微鏡検査など、細胞境界を画定し得る従来の技術を用いて、試料を調査し得る。したがって、これらの方法を実行するとき、上述したようなカメラを備える分析システムが特に有用である。次に、本開示の方法を用いてこの試料の画像を作成し得、この画像を先の結果に重ね合わせ得、それによって検出されたシグナルを特定の細胞に局在化させ得る。実際、上述したように、いくつかのケースでは、レーザーアブレーションは、顕微鏡ベースの技術を使用して対象であると判断された試料内の細胞のサブセットにのみ向けられ得る。
【0150】
しかしながら、本開示のイメージング方法の一部として、複数の技術を使用する必要性を回避するために、細胞境界を画定することが可能である。このような境界画定戦略は、IHCおよび免疫細胞化学でよく知られており、これらのアプローチは、検出可能な標識を使用することによって適合され得る。例えば、この方法では、細胞境界に位置することが知られている標的分子を標識することを含み得、これらの標識からのシグナルは、境界の画定に使用され得る。適切な標的分子は、接着複合体の要素(β-カテニンやE-カドヘリンなど)のような、細胞境界の豊富なまたは普遍的なマーカーを含む。いくつかの実施形態では、境界を画定するために2つ以上の膜タンパク質を標識し得る。
【0151】
このように、適切な標識を含むことによって細胞の境界を画定することに加えて、特定の細胞小器官を画定することも可能である。例えば、ヒストン(例えばH3)のような抗原を使用して核を識別し得、また、ミトコンドリア特異的抗原、細胞骨格特異的抗原、ゴルジ特異的抗原、リボソーム特異的抗原などを標識することも可能である。それによって、本開示の方法によって細胞の超微細構造を分析することが可能になる。
【0152】
細胞(または細胞小器官)の境界を画定するシグナルは、目で見て評価され得、またコンピュータで画像処理を用いて分析され得る。そのような技術は、例えば、Arceら(2013;Scientific Reports 3,article 2266)が記載する空間フィルタリングを使用して蛍光画像から細胞境界を決定するセグメンテーションスキーム、Aliら(2011;Mach Vis Appl 23:607-21)が開示する明視野顕微鏡法画像から境界を決定するアルゴリズム、Poundら(2012;The Plant Cell 24:1353-61)が開示する共焦点顕微鏡画像から細胞形状を抽出するCellSeT方法、Hodnelandら(2013;Source Code for Biology and Medicine 8:16)が開示する蛍光顕微鏡画像用のCellSegm Matlabツールボックスなど、他のイメージング技術として当業者に既知である。本開示で有用な方法は、ウォーターシェッド変換およびガウスぼかしを用いる。これらの画像処理技術は、単独で使用され得、または使用後に目で確認され得る。
【0153】
細胞の境界が明確になると、特定の標的分子からのシグナルを個々の細胞に割り当てることが可能になる。また、定量的な標準物質を用いて方法を校正することにより、個々の細胞内の標的分析物の量を定量することも可能である。
【0154】
(基準粒子)
本明細書に記載されているように、試料中の標的元素イオンの検出中に基準として使用するために、既知の元素組成または同位体組成の基準粒子を試料(または試料担体)に添加し得る。特定の実施形態では、基準粒子は、遷移金属またはランタノイドなどの金属元素または同位体を備える。例えば、基準粒子は、60amu超、80amu超、100amu超、または120amu超の質量を有する元素または同位体を備え得る。
【0155】
標識原子などの標的元素は、個々の基準粒子から検出された元素イオンに基づいて、試料実行内で正規化され得る。例えば、対象となる方法は、個々の参照粒子からの元素イオンを検出することと標的元素イオンのみを検出することとの切り替えを含み得る。
【0156】
「備える」という用語は、「含む」および「~からなる」を包含し、例えば、Xを「備える」組成は、Xのみからなり得、または追加のもの、例えばX+Yを含み得る。
【0157】
数値xに関連する用語「約」は任意であり、例えばx±10%を意味する。
【0158】
「実質的に」という言葉は、「完全に」を除外せず、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まないものであり得る。必要に応じて、本発明の実施形態の定義から「実質的に」という言葉が省略され得る。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【
図2】本発明の実施形態のマスサイトメーターの図である。
【
図3】テーパー状導管の通過によるプルームの再成形の図である。ここでは、最初の物質の球状の雲が、細くなっていく導管を通過するにつれて直径が減少する。通常、流れは導管の中心部で最も速くなるため、雲がガスの流れによって導管に沿って運ばれると、雲は伸長する。テーパー状導管およびガスの流れを適切に設計することによって、それまでの球状の雲から非常に小さな直径の長い蒸気を生成し得る。
【
図5】凸型反射器を用いた反射器配置の図である。
図5Aは導管を通しての反射、
図5Bは導管のテーパー端での反射を示す。
【
図6】導波管として機能する導管の幅広部分にレーザー光を照射し、エネルギー密度はテーパー部分におけるイオン化に適したレベルにのみ到達する、レーザーイオン化の図である。
【
図7】広がりを備えるイオン化導管の一実施形態を用いたレーザーイオン化の図である。
【国際調査報告】