(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-25
(54)【発明の名称】PD-1及びPD-L1を標的とする四価二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220818BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220818BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220818BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220818BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220818BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220818BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220818BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220818BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220818BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220818BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220818BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220818BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20220818BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220818BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220818BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220818BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220818BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220818BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20220818BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20220818BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20220818BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220818BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220818BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P17/00
A61P13/12
A61P13/08
A61P1/18
A61P15/00
A61P1/04
A61P11/00
A61P1/02
A61P11/02
A61P11/04
A61P27/16
A61P1/16
A61P25/00
A61P35/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571397
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(85)【翻訳文提出日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2021088154
(87)【国際公開番号】W WO2021227782
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/090442
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】510277073
【氏名又は名称】三生国健薬業(上海)股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SUNSHINE GUOJIAN PHARMACEUT ICAL(SHANGHAI)CO.,LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】特許業務法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】朱禎平
(72)【発明者】
【氏名】趙▲ジエ▼
(72)【発明者】
【氏名】黄浩旻
(72)【発明者】
【氏名】夏梦▲イン▼
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA25
4C085AA14
4C085AA16
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA42
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ヒトPD-L1に結合する抗体、及び前記ヒトPD-L1に結合する抗体を用いて作製したPD-1及びPD-L1を標的とする四価二重特異性抗体を提供する。本発明の四価二重特異性抗体は、Fc修飾が不要であり且つミスマッチの恐れもなく、簡易に製造でき、モノクローナル抗体に劣らない生体活性および物理化学的特性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD-1及びPD-L1を標的とする四価二重特異性抗体であって、
2つのポリペプチド鎖および4つの共通軽鎖を含み、
前記ポリペプチド鎖は、配列番号29又は配列番号31で表されるアミノ酸配列を有し、
前記共通軽鎖は、配列番号15で表されるアミノ酸配列を有することを特徴とする、四価二重特異性抗体。
【請求項2】
単離されたヌクレオチドであって、
請求項1に記載の四価二重特異性抗体をコードすることを特徴とする、ヌクレオチド。
【請求項3】
前記ヌクレオチドは、前記ポリペプチド鎖又は前記共通軽鎖をコードし、
前記ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号30又は配列番号32で表され、前記共通軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号16で表される、請求項2に記載のヌクレオチド。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のヌクレオチドを含んでなることを特徴とする、発現ベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の発現ベクターを含んでなることを特徴とする、ホスト細胞。
【請求項6】
請求項1に記載の四価二重特異性抗体を製造する方法であって、
発現条件下で請求項5に記載のホスト細胞を培養することにより、前記四価二重特異性抗体を発現するステップaと、
ステップaで発現した前記四価二重特異性抗体を分離、精製するステップbと
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の四価二重特異性抗体および薬学的に許容可能な担体を含んでなる、薬物組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の四価二重特異性抗体又は請求項7に記載の薬物組成物の、がんを治療するための薬物の製造における用途。
【請求項9】
前記がんは、メラノーマ、腎臓がん、前立腺がん、膵癌、乳がん、結腸がん、肺がん、食道がん、頭頚部扁平上皮がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、甲状腺がん、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫及びその他の腫瘍性悪性疾患からなる群より選ばれる、請求項8に記載の用途。
【請求項10】
請求項1に記載の四価二重特異性抗体又は請求項7前記の薬物組成物を、要治療の被験者に投与することを特徴とする、がんを治療するための方法。
【請求項11】
前記がんは、メラノーマ、腎臓がん、前立腺がん、膵癌、乳がん、結腸がん、肺がん、食道がん、頭頚部扁平上皮がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、甲状腺がん、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫及びその他の腫瘍性悪性疾患からなる群より選ばれる、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体工学の分野に属し、より具体的には、PD-1及びPD-L1を標的とする四価の二重特異性抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトプログラム細胞死受容体-1(以下、「PD-1」とも称する)は、288個のアミノ酸からなるI型膜タンパク質であり、免疫チェックポイント(Immune Checkpoint)のうち主な1つとして知られている(Blank et al,2005,Cancer Immunotherapy,54:307~314)。PD-1は、活性化されたTリンパ球において発現し、そのリガンドであるプログラム細胞死受容体リガンド1(programmed cell death-Ligand 1、以下では「PD-L1」とも称する)およびプログラム細胞死受容体リガンド2(programmed cell death-Ligand 2、以下では「PD-L2」とも称する)に結合することでTリンパ球の活性や関連する体内細胞の免疫反応を抑制することができる。PD-L2は、主にマクロファージおよび樹状細胞で発現し、PD-L1は、Bリンパ球とTリンパ球、微小血管上皮細胞などの末梢性細胞、及び肺臓、肝臓、心臓等の組織細胞で広く発現する。研究を積み重ねた結果、PD-1とPD-L1の相互作用が体内免疫系の均衡化維持に必須であり、同時にPD-L1陽性腫瘍細胞が免疫監視から逃れるための主な作用機序と原因であることが解明されている。したがって、PD-1/PD-L1シグナル経路に対するがん細胞の負調節を遮断して免疫系を活性化することは、T細胞に関連する腫瘍特異的な細胞免疫反応を亢進させることができ、新たな腫瘍治療法としてがん免疫療法を確立するのに有用であると考えられる。
【0003】
Pdcd1遺伝子によってコードされるPD-1は、CD28とCTLA-4に関連する免疫グロブリンスーパーファミリーに属するメンバーである。PD-1がそのリガンドであるPD-L1及び/又はPD-L2に結合すると、抗原受容体を介したシグナル伝達を阻害することが研究により解明され、かつラットPD-1の構造及びマウスPD-1とヒトPD-L1の共結晶構造(Zhang Xら,Immunity 20:337~347(2004); Linら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 105:3011~6(2008))も既に解明されている。PD-1及びそれに類似するファミリーメンバーは、I型の膜貫通糖タンパク質であり、リガンド結合用のIg可変型(V-型)ドメインとシグナル伝達分子結合用の細細胞質尾部を含む。また、PD-1細細胞質尾部には、チロシン残基に基づくシグナル伝達モチーフであるITIM(免疫受容体チロシン依存性抑制モチーフ)及びITSM(免疫受容体チロシン依存性スイッチモチーフ)を含む。
【0004】
PD-1は、腫瘍の免疫逃避機構において重要な役割を果たす。腫瘍免疫療法とは、人体自身の免疫系を利用してがんを抵抗する仕組みであり、腫瘍治療法としては前例のない革新的なものである。ところが、腫瘍微小環境に起因して腫瘍細胞が有効な免疫破壊から免れることがあるため、如何に腫瘍微小環境を打破するかが腫瘍治療において特に重要な課題になっている。腫瘍微小環境におけるPD-1の作用については、現在、PD-L1がマウスやヒト腫瘍で発現し(殆どのPD-L1陰性腫瘍細胞系ではIFNγによって誘導可能である)、腫瘍の免疫逃避において重要なターゲットであると推定される[Iwai Yら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.99:12293~12297(2002); Strome S.Eら,Cancer Res.,63:6501~6505(2003)]。免疫組織化学法による組織生検を行ったところ、PD-1が人の多くの原発腫瘍(例えば、腫瘍浸潤性リンパ球)で発現し、及び/又は腫瘍細胞で発現することが実証されている。これらの組織としては、例えば肺がん、肝がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん、結腸がん、神経膠腫、膀胱がん、乳がん、腎臓がん、食道がん、胃がん、口腔扁平上皮がん、尿路上皮がん、膵がん及び頭頸部腫瘍などが挙げられる。そこで、PD-1とPD-L1の相互作用を遮断するということは、腫瘍特異的なT細胞の免疫活性を亢進させ且つ免疫系による腫瘍細胞の排除に有利であるため、PD-1が腫瘍免疫治療薬の開発において注目を浴びる標的である。
【0005】
二重特異性抗体とは、2つの抗原に又は2つの結合エピトープを同時に特異的に結合しうる抗体分子を指す。二重特異性抗体は、構造上の対称性から対称性および非対称性分子に分けられ、また、結合サイトの数から二価、三価、四価および多価分子に分けられる。二重特異性抗体は、1種の斬新な治療用抗体として活用され、様々な炎症性疾患、がん及び他の疾患の治療に有用であると考えられつつある。この数年、新たな二重特異性抗体の構造態様が多く報告されているが、ミスマッチのない分子を得ることが二重特異性抗体を製造する際の主な難点である。従来の二重特異性抗体としては何れもミスマッチの問題を抱え、製造時に1種又は2種以上のミスマッチに起因する副産物や凝集体ができてしまい、目的とする二重特異性抗体の収率、純度および化学物理的安定性に影響を与え、引いては体内における二重特異性抗体の安全性と有効性に影響を与える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来の課題に鑑みてなされ、ヒトPD-L1に結合する抗体、及び前記ヒトPD-L1に結合する抗体に基づいて作製したPD-1及びPD-L1を標的とする四価の二重特異性抗体を提供することをその目的とする。
【0007】
つまり、本発明の第1側面では、ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0008】
本発明の第2側面では、単離されたヌクレオチドを提供し、かかるヌクレオチドは、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片をコードする。
【0009】
本発明の第3側面では、前記ヌクレオチドを含んでなる発現ベクターを提供する。
【0010】
本発明の第4側面では、前記発現ベクターを含んでなるホスト細胞を提供する。
【0011】
本発明の第5側面では、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の第6側面では、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片を含む薬物組成物を提供する。
【0013】
本発明の第7側面では、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片又は前記薬物組成物の、PD-L1過剰発現に起因する疾患を治療するための薬物の製造における用途を提供する。
【0014】
本発明の第8側面では、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片又は前記薬物組成物を用いて、PD-L1過剰発現に起因する疾患を治療する方法を提供する。
【0015】
本発明の第9側面では、PD-1及びPD-L1を標的とする四価二重特異性抗体を提供する抗。
【0016】
本発明の第10側面では、単離されたヌクレオチドを提供し、かかるヌクレオチドは、前記四価二重特異性抗体をコードする。
【0017】
本発明の第11側面では、前記ヌクレオチドを含んでなる発現ベクターを提供する。
【0018】
本発明の第12側面では、前記発現ベクターを含んでなるホスト細胞を提供する。
【0019】
本発明の第13側面では、前記四価二重特異性抗体の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の第14側面では、前記四価二重特異性抗体を含む薬物組成物を提供する。
【0021】
本発明の第15側面では、前記四価二重特異性抗体又は前記薬物組成物の、がんを治療するための薬物の製造における用途を提供する。
【0022】
本発明の第16側面では、前記四価二重特異性抗体又は前記薬物組成物を用いてがんを治療する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成すべく、本発明は、以下の技術案により構成される。
【0024】
本発明の第1側面では、ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供し、かかるヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片は、
a)重鎖相補性決定領域としてアミノ酸配列が配列番号17で表されるH-CDR1、アミノ酸配列が配列番号18で表されるH-CDR2、およびアミノ酸配列が配列番号19で表されるH-CDR3と、
b)軽鎖相補性決定領域としてアミノ酸配列が配列番号20で表されるL-CDR1、アミノ酸配列が配列番号21で表されるL-CDR2、およびアミノ酸配列が配列番号22で表されると、を含む。
【0025】
本発明によれば、前記抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体である。
【0026】
本発明によれば、前記抗体は、ラット由来の抗体、キメラ抗体又はヒト化抗体である。
【0027】
本発明によれば、前記抗原結合断片は、Fab断片、F(ab’)2断片、Fv断片および一本鎖抗体からなる群より選ばれる。
【0028】
本発明によれば、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号9で表され、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号10で表される。
【0029】
本発明によれば、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片は、重鎖のアミノ酸配列が配列番号13で表され、軽鎖のアミノ酸配列が配列番号15で表される。
【0030】
本発明の第2側面では、単離されたヌクレオチドを提供し、かかるヌクレオチドは、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片をコードする。
【0031】
本発明によれば、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片は、重鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号14で表され、軽鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号16で表される。
【0032】
本発明の第3側面では、前記ヌクレオチドを含んでなる発現ベクターを提供する。
【0033】
本発明の第4側面では、前記発現ベクターを含んでなるホスト細胞を提供する。
【0034】
本発明の第5側面では、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片の製造方法を提供し、かかる製造方法は、発現条件下で前記ホスト細胞を培養することにより、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片を発現するステップaと、ステップaで発現した前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片を分離、精製するステップbと、を含む。
【0035】
本発明の第6側面では、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片と、薬学的に許容可能な担体とを含む薬物組成物を提供する。
【0036】
本発明の第7側面では、前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片又は前記薬物組成物の、PD-L1過剰発現に起因する疾患を治療するための薬物の製造における用途を提供する。
【0037】
本発明によれば、前記のPD-L1過剰発現に起因する疾患は、がんである。好ましくは、前記がんは、メラノーマ、腎臓がん、前立腺がん、膵がん、乳がん、結腸がん、肺がん、食道がん、頭頚部扁平上皮がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、甲状腺がん、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫及びその他の腫瘍性悪性疾患からなる群より選ばれる。
【0038】
本発明の第8側面では、PD-L1過剰発現に起因する疾患を治療するための方法を提供する、かかる治療方法は、要治療の被験者に前記ヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片又は前記薬物組成物を投与することを含む。
【0039】
本発明によれば、前記PD-L1過剰発現に起因する疾患は、がんである。好ましくは、前記がんは、メラノーマ、腎臓がん、前立腺がん、膵癌、乳がん、結腸がん、肺がん、食道がん、頭頚部扁平上皮がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、甲状腺がん、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫及びその他の腫瘍性悪性疾患からなる群より選ばれる。
【0040】
本発明の第9側面では、PD-1及びPD-L1を標的とする四価二重特異性抗体を提供し、かかる抗体は、2つのポリペプチド鎖および4つの共通軽鎖を含み、そのうち前記ポリペプチド鎖は、配列番号29又は配列番号31で表されるアミノ酸配列を有し、前記共通軽鎖は、配列番号15で表されるアミノ酸配列を有する。
【0041】
本発明の第10側面では、単離されたヌクレオチドを提供し、前記ヌクレオチドは、前記四価二重特異性抗体をコードする。
【0042】
本発明の一好適な実施形態において、前記ヌクレオチドは、前記ポリペプチド鎖および前記共通軽鎖をコードし、そのうち前記ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号30又は配列番号32で表され、前記共通軽鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号16で表される。
【0043】
本発明の第11側面では、前記ヌクレオチドを含んでなる発現ベクターを提供する。
【0044】
本発明の第12側面では、前記発現ベクターを含んでなるホスト細胞を提供する。
【0045】
本発明の第13側面では、前記四価二重特異性抗体の製造方法を提供し、かかる製造方法は、発現条件下で前記ホスト細胞を培養することにより、前記四価二重特異性抗体を発現するステップaと、ステップaで発現した前記四価二重特異性抗体を分離、精製するステップbと、を含む。
【0046】
本発明の第14側面では、前記四価二重特異性抗体と、薬学的に許容可能な担体とを含む薬物組成物を提供する。
【0047】
本発明の第15側面では、前記四価二重特異性抗体又は前記薬物組成物の、がんを治療するための薬物の製造における用途を提供する。
【0048】
本発明によれば、前記がんは、メラノーマ、腎臓がん、前立腺がん、膵癌、乳がん、結腸がん、肺がん、食道がん、頭頚部扁平上皮がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、甲状腺がん、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫及びその他の腫瘍性悪性疾患からなる群より選ばれる。
【0049】
本発明の第16側面では、がんを治療するための方法を提供する、かかる治療方法は、要治療の被験者に前記四価二重特異性抗体又は前記薬物組成物を投与することを含む。
【0050】
本発明によれば、前記がんは、からなる群より選ばれるメラノーマ、腎臓がん、前立腺がん、膵癌、乳がん、結腸がん、肺がん、食道がん、頭頚部扁平上皮がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、甲状腺がん、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫及びその他の腫瘍性悪性疾患からなる群より選ばれる。
【発明の効果】
【0051】
本発明は、ヒトPD-L1に結合する抗体、及び前記ヒトPD-L1に結合する抗体に基づいて作製したPD-1及びPD-L1を標的とする四価二重特異性抗体を提供する。本発明の四価二重特異性抗体は、Fcによる修飾を不要とし且つミスマッチが起こることなく、簡易に製造でき、生体活性や物理化学的特性からしてモノクローナル抗体に等しいか、若しくはモノクローナル抗体を上回る。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】本発明の二重特異性抗体の構造を模式的に示す図であり、そのうちVH-AはPDL1抗体又は609の重鎖可変領域を示し、VH-Bは609又はPDL1抗体の重鎖可変領域を示し、VLは共通軽鎖の軽鎖可変領域を示し、CH1、CH2およびCH3は重鎖定常領域における3つの構造ドメインを示し、CLは共通軽鎖の軽鎖定常領域を示し、重鎖同士の間のジスルフィド結合は線分で表され、重鎖と軽鎖の間のジスルフィド結合も線分で表され、ポリペプチド鎖のN末端に近接するCH1とVH-Aの間の線分は、人工的に導入されたリンカーを示し、ポリペプチド鎖のC末端に近接するCH1とCH2の間の線分は、抗体本来のリンカーおよびヒンジ領域(重鎖がヒトIgG4のサブタイプである場合、ヒンジ領域にはEUナンバリングの第228位においてSからPへのサイト変異を含む)を示す。
【
図2】PDL1抗体とPD-L1の相対結合親和性をELISA法で測定したときの結果を示す図である。
【
図3】PD-1とPD-L1の相互作用に対するPDL1抗体の阻害活性を示す図である。
【
図4】
図4A~
図4Bは、MLR活性に対するPDL1抗体の増強効果を示す図である。
【
図5】
図5A~
図5Bは、PDL1抗体、モノクローナル抗体609及びそのハイブリッド抗体のELISA結果を示す図である。
【
図6】
図6A~
図6Bは、PDL1-Fab-609-IgG4及び609-Fab-PDL1-IgG4のELISA結果を示す図である。
【
図7】
図7A~
図7Dは、MLR活性に対する609-Fab-PDL1-IgG4の増強効果を示す図である。
【
図8】
図8A~
図8Bは、609-Fab-PDL1-IgG4の薬物動態学的特性を示す図である。
【
図9】
図9A~
図9Bは、609-Fab-PDL1-IgG4のHPLC-SECスペクトルである
【
図13】609-Fab-PDL1-IgG4の分子量を解析するマススペクトルである。
【
図14】マウス体内における609-Fab-PDL1-IgG4二重特異性抗体の抗腫瘍活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
下記表1に、本発明に係る抗体の配列情報を纏めて示す。
【0054】
【0055】
本発明において、「抗体(Ab)」及び「免疫グロブリンG(IgG)」とは、構造特徴が同じである約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、2つの同じ軽鎖(L)と2つの同じ重鎖(H)で構成される。各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合を介して重鎖に結合し、異なる免疫グロブリンにおいて重鎖アイソタイプの間のジスルフィド結合数が異なる。各重鎖および軽鎖は、規則的な間隔を隔てて鎖内ジスルフィド結合を備え、各重鎖の一端に可変領域(VH)を有し、可変領域に続いて3つの構造ドメインCH1、CH2およびCH3からなる定常領域を有する。各軽鎖の一端に可変領域(VL)を有し、他端に1つのCL構造ドメインからなる定常領域を有し、軽鎖の定常領域と重鎖の定常領域における第1構造ドメインCH1がペアリングし、かつ軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域がペアリングして構成される。定常領域は、抗体と抗原の結合に直接に関与せず、例えば抗体依存性細胞介在性の細胞毒性(ADCC)に関与するなど、他の生体機能を示す。重鎖の定常領域は、サブタイプとしてIgG1、IgG2、IgG3、IgG4を含み、軽鎖の定常領域は、サブタイプとしてκ(Kappa)またはλ(Lambda)定常領域を含む。重鎖と軽鎖は、重鎖のCH1構造ドメインと軽鎖のCL構造ドメインの間の共有ジスルフィド結合を介して一体に連結され、2つの重鎖は、ヒンジ領域同士の間に形成される鎖間ジスルフィド結合を介して一体に連結される。本発明の抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、2種類以上の抗体で形成される多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、抗体の抗原結合断片などが挙げられ、ラット由来の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体のうち何れか1種である。
【0056】
本発明において、「二重特異性抗体」とは、2つの抗原(標的)又は2つのエピトープを同時に認識し且つ特異的に結合しうる抗体分子を指すものである。
【0057】
本発明において、「モノクローナル抗体」とは、ほぼ均一な群から得られる抗体を指し、すなわち極一部が自然変異を形成する以外、該群に含まれる単一抗体が同じであることを意味する。モノクローナル抗体は、1つの抗原サイトを高い特異性で認識して結合する。そして、通常のポリクローナル抗体製剤(通常、異なる決定基を認識しうる複数の抗体を含む混合物である)と異なり、モノクローナル抗体は抗原における単一決定基を認識して結合する。モノクローナル抗体は、上記の特異性に加え、ハイブリドーマを培養することにより得られ且つ他の免疫グロブリンによって汚染されないという優勢がある。なお、本発明において「モノクローナル」とは、抗体の特性を指すものであり、ほぼ均一な抗体群から得られ、何らの特別な方法で製造されるものと解釈してはいけない。
【0058】
本発明において、「ラット由来の抗体」とは、ラット又はモウス由来の抗体であり、中でもマウス由来の抗体が特に好ましい。本発明に係るラット由来の抗体は、ヒトPD-L1の細細胞外領域を抗原としてマウスを免疫し、さらにハイブリドーマ細胞をスクリーニングすることにより得られる。
【0059】
本発明において、「キメラ抗体」とは、ある種に由来の重鎖可変領域および軽鎖可変領域配列と、別の種に由来の定常領域配列とで構成される抗体を指し、例えばヒト定常領域と繋いだマウス重鎖および軽鎖の可変領域を有する抗体が挙げられる。
【0060】
本発明において、「ヒト化抗体」とは、CDRがヒト以外の動物(例えば、マウス)抗体に由来し、それ以外のフレームワーク領域や定常領域部分がヒト抗体に由来するものを指す。なお、結合性を維持する観点からフレームワーク領域の残基を変更することも可能である。
【0061】
本発明において、「抗原結合断片」とは、ヒトPD-L1の結合エピトープに特異的に結合しうる抗体の切断断片を指す。本発明の抗原結合断片としは、Fab断片、F(ab’)2断片、Fv断片、一本鎖抗体(scFv)などが挙げられる。Fab断片は、抗体の重鎖のVH及びCH1と、軽鎖のVL及びCL構造ドメインとで構成される。F(ab’)2断片は、抗体をペプシンで消化して得られる断片である。Fv断片は、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域が非共有結合を介して緊密に連結されたダイマーで構成される。一本鎖抗体(scFv)は、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域が15~20個のアミノ酸からなるリンカーによって連結された抗体である。
【0062】
本発明において、「Fcフラグメント」は、結晶性断片(fragment crystallizable,Fc)とも称され、抗体のCH2とCH3構造ドメインで構成される。Fcフラグメントは、抗原への結合活性を示さず、抗体とそのエフェクター分子又は細胞とが相互作用する部位である。
【0063】
本発明において、「可変」とは、抗体可変領域の一部に配列差異があり、特定抗原に対する各抗体の結合性や特異性を決定する構成である。また、可変度を決める配列は、抗体可変領域全体に渡って均一に分布するわけでなく、軽鎖および重鎖の可変領域における相補性決定領域(CDR)又は超可変領域と称される3つのフラグメントに集中して存在する。可変領域において保存性が比較的高い部分がフレームワーク領域(FR)であり、天然重鎖および軽鎖の可変領域にそれぞれ4つのFR領域を含む。これらのFR領域は大抵β-折り畳み構造を形成し、接続リングを構成する3つのCDRによって互いに連結されるが、場合によっては部分的なβ-折り畳み構造を形成することもできる。各鎖のCDRは、FR領域を介して緊密に隣接し、かつ他鎖のCDRと共に抗体の抗原結合サイトを形成する[Kabatら、NIH Publ.No.91-3242、第I巻第647~669頁(1991)]。
【0064】
本発明において、「アンチ」や「結合」とは、2つの分子が非ランダムに結合する反応を指し、例えば、抗体とその認識対象である抗原との間の反応を特定するものである。抗体は、通常、1×10-7M未満の平衡定数(以下、「KD」とも称する)、例えば1×10-8M未満、より好ましくは1×10-9M未満、より好ましくは1×10-10M未満、1×10-11M未満又はそれ以下の平衡定数でその抗原に結合する。本発明において、「KD」は、特定の抗体と抗原が相互作用する際の平衡定数であり、抗体と抗原の結合力を表わすものである。平衡定数が低いほど抗体と抗原の結合が強く、すなわち抗体と抗原の結合力が高くなり、具体的には、表面プラズモン共鳴法(Surface Plasmon Resonance,SPR)を利用し、Biacore装置を用いて抗体と抗原の結合力を測定することができ、またはELISA法を利用して抗体と抗原が結合する際の相対結合親和性を測定することができる。
【0065】
本発明において、「価」とは、抗体分子内に存在する抗原結合サイトの数を表わす用語である。本発明の二重特異性抗体は、4つの抗原結合サイトを有し、四価であることが好ましい。本発明において、抗原結合サイトとしては、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0066】
本発明において、「結合エピトープ」とは、ペプチド決定基によって構成され、抗原内の抗体に特異的に結合しうる領域である。
【0067】
本発明において、「共通軽鎖」とは、同じ軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を含む軽鎖であり、第1抗原に結合する第1抗体の重鎖とペアリングすることにより第1抗原に特異的に結合する結合サイトを形成することができ、一方で第2抗原に結合する第2抗体の重鎖とペアリングすることにより第2抗原に特異的に結合する結合サイトを形成することができる。さらに、共通軽鎖の軽鎖可変領域と第1抗体の重鎖可変領域とが第1抗原結合サイトを形成し、共通軽鎖の軽鎖可変領域と第2抗体の重鎖可変領域が第2抗原結合サイトを形成する。
【0068】
本発明において、発現ベクターについては特に制限がなく、例えばpTT5、pSECtag系、pCGS3系、pCDNA系発現ベクターなど、並びに他の哺乳動物発現系に用いるベクターを使用することができ、かような発現ベクターには、適切な転写調節配列や翻訳調節配列が連結された融合DNA配列が含まれる。
【0069】
本発明に適用可能なホスト細胞としては、上記発現ベクターを発現しうる細胞が挙げられ、例えば哺乳類動物や昆虫ホスト細胞培養系の真核細胞を利用して本発明の融合タンパク質を発現することができ、CHO(Chinese Hamster Ovary)、HEK293、COS、BHK及びこれらに由来の変性細胞などを本発明に使用可能である。
【0070】
本発明において、「薬物組成物」とは、本発明のヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片又は四価二重特異性抗体と、薬学的に許容可能な担体とで構成される薬物製剤を指し、これらの製剤は、安定な治療効果を発揮すると同時に本発明のヒトPD-L1に結合する抗体又はその抗原結合断片、又は四価二重特異性抗体のアミノ酸コア配列の構造完全性を維持することができ、さらに、タンパク質の多官能基を分解(例えば、凝集、脱アミノ化や酸化)から免れるようにすることができる。
【0071】
以下、実施例に係るタンパクの発現および精製方法を説明するが、本発明はこれらについて特に制限されない。タンパクの発現および精製方法としては、具体的には、目的遺伝子をpcDNA4発現ベクターに導入し、得られた発現ベクター又は発現カセットは、ポリエチレンイミン(PEI)法を利用してFreeStyleTM293-F細胞(Thermo Fisher Scientific社製、以下では「HEK293F」とも称する)に導入して抗体又は組換えタンパク質を発現させた。そして、Free Style 293発現培地(Thermo Fisher Scientific社製)においてHEK293F細胞を5日間培養し、培養液から上澄みを回収し、Protein‐A又はニッケルカラムで抗体又は組換えタンパク質を精製した。
【0072】
実施例で行う混合リンパ球反応(以下、「MLR」とも称する)について、具体的には、Histopaque(Sigma社製)を用いてヒト血液から末梢血単核球(以下、「PBMC」とも称する)を分離し、接着法を利用してPBMCの単核球を分離した。そして、IL-4(25ng/mL)とGM-CSF(25ng/mL)を用いて単核球を樹状細胞に分化誘導し、7日後に接着細胞を消化して樹状細胞を回収した。別のドナーの血液からも上記と同様にしてPBMCを分離し、MACS磁気カラム及びCD4マイクロビーズ(MiltenyiBiotec社製)を用いてPBMCからCD4陽性T細胞を分離した。上記樹状細胞(104個細胞/ウェル)とCD4陽性T細胞(105個細胞/ウェル)を適切な割合で均一に混ぜ合わせ、96ウェルプレートの各ウェルに150μLずつ播種した。数時間後、96ウェルプレートに段階的に希釈した抗体を50μL加え、37℃のインキュベータにおいて3日間インキュベートした。上記実験において、細胞培養にAIM-V培地(Thermo Fisher Scientific社製)を用い、マニュアルに記載の標準手順に従ってIL-2及びIFN-γの分泌量を測定した。サンドイッチELISA法を利用してIL-2及びIFN-γを検出し、サンドイッチELISA法で使われる抗体試薬としてはBD Biosciences社製のものであった。SpectraMax 190プレートリーダーでOD450値を読み出し、得られたデータをGraphPad Prism6で処理して解析グラフを作成し、EC50を算出した。
【0073】
また、実施例において物理化学的特性を評価するために行われた別の測定や検出は、以下の通りにして行われた。
【0074】
HPLC-SEC解析は、以下の通りにして行われた。具体的には、抗体は、高分子量のタンパク質であり、かつ高度で複雑な二次及び三次構造を有するため、翻訳後修飾、凝集や分解といった変化を抱え、化学特性や物理特性からして異質なものである。そのため、分離技術を利用して二重特異性抗体を解析した場合、変性体、凝集体および切断断片がよく見られ、これらの存在は抗体の安全性及び有効性に大きな損害をもたらし、抗体の製造と保存時にも凝集体、切断断片、組織化が不完全な分子が生成するのが一般的である。そこで、本発明では高速液体クロマトグラフィー・サイズ排除クロマトグラフィー(HPLC-SEC)を用い、モノマーに比べて凝集体の分子量が比較的大きいためピークの保持時間が短く、一方で分解した断片(切断断片)および組織化が不完全な分子の分子量が比較的小さく、関連ピークの保持時間が長いといった原理に基づき、試料における不純物の量を検出した。HPLC-SEC解析装置としてはDionex Ultimate 3000を用い、移動相としては20mMのリン酸二水素ナトリウム母液を適宜取ってから20mMのリン酸水素二ナトリウムでPH6.8±0.1に調整したものを使い、試料の注入量を20μgとした。カラムとしてはTSK G3000SWXL、カラム規格7.8×300mm 5μmのものを使い、流速0.5mL/分、溶出時間30分間、カラム温度25℃、試料チャンバー温度10℃、検出波長214nmの条件下で実験を行った。
【0075】
HPLC-IEC解析は、以下の通りにして行われた。抗体は、N-グリコシル化、C末端リシン残基の修飾、N末端グルタミン又はグルタミン酸の環化、アスパラギンの脱アミド化、アスパラギン酸の異性化およびアミノ酸残基の酸化など、翻訳後修飾によって表面電荷が直接又は間接的に変化して帯電電荷に異質性が生じ、なお、抗体の製造および保存時にも電荷変異体が生成しやすくなるため、その帯電電荷に基づき電荷変異体を分離、解析することができる。かかる電荷変異体は、イオン交換クロマトグラフィー(CEX)及び陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)を用い、主要ピーク(main Peak)に対する酸性種 (acidic species)及び塩基性種(basic species)の保持時間を測定することで解析することができる。具体的には、酸性種は、CEXの主要ピークより先又はAEXの主要ピークより後に溶出され、塩基性種は、CEXの主要ピークより後又はAEXの主要ピークより先に溶出され、酸性種および塩基性種に対応するピークをそれぞれ酸性ピークおよび塩基性ピークと称する。本発明において、高速液体クロマトグラフィー・イオン交換クロマトグラフィー(HPLC-IEC)を用いて試料の帯電特性(すなわち、電荷均一性)を分析し、HPLC-IEC解析装置としてはDionex Ultimate 3000、カラムとしてはThermo PropacTM WCX-10、移動相Aとして20mMのPB(pH6.3)、移動相Bとして20mMのPB+200mM NaCl(pH6.3)をそれぞれ用い、2種類の移動相については予め設定したプログラムに従って各自の割合を時系列に従って調整しつつ、流速1.0mL/分、カラム温度30℃、試料チャンバー温度10℃、試料の注入量20μg、検出波長214nmの条件下で実験を行った。
【0076】
実施例では、キャピラリー電気泳動-SDS(以下、「CE-SDS」とも称する)を利用して試料に含まれる切断断片および組織化が不完全な分子の量を測定した。キャピラリー電気泳動は非還元型および還元型に分けられ、非還元型のキャピラリー電気泳動に供される試料は、還元剤であるDTTを用いて分子内のジスルフィド結合を破壊する必要がなく、還元型のキャピラリー電気泳動に供される試料は、DTTを用いて分子内のジスルフィド結合を破壊することが行われ、以下では非還元型および還元型のCE-SDSをそれぞれNR-CE-SDSおよびR-CE-SDSと略称する場合がある。キャピラリー電気泳動装置としてBeckman Coulter社製のProteomeLabTM PA800 plusを用い、214nmのUV検出器が搭載され、キャピラリーとしてはBare Fused-Silica Capillary、規格30.7cm×50μm、有効長20.5cmのものを使い、関連試薬は何れもBeckman Coulter社製のものであった。キャピラリー電気泳動は、キャピラリーおよび試料チャンバー温度20±2℃、分離電圧15kVの条件下で行われた。
【0077】
示差走査熱量測定法(以下、「DSC」とも称する)は、制御可能な昇温又は降温プログラムに従って試料温度を変化させながら試料分子の熱量変化を測定することにより、試料の熱安定性を評価する方法である。その原理としては、昇温過程においてタンパク質が熱量を吸収することにより折り畳み構造が解けられ、このとき、試料チャンバーに温度差が生じ、このような温度差を補うエネルギーは検出設備ですることができる。そして、これらの熱量変化は検出スペクトルにおいてピーク状として表れ、タンパク質の折り畳み構造が解けるときのピーク温度値がいわばタンパク質の融解温度(以下、「Tm」とも称する)である。Tmは、タンパクの熱安定性を表わす重要な指標であり、Tmが高いほどタンパクの安定性が高いと考えられる。
【0078】
実施例では、以下の通りにして抗体の分子量を測定した。具体的には、抗体試料をペプチドN-グリカナーゼF(PNGase F)及びエンドグリコシダーゼF2を用いて処理することにより糖鎖を取り除き、液体クロマトグラフィー・質量分析装置としてWaters社製のUPLC-XEVO G2 Q-TOFを用いて試料の分子量を分析、確定した。移動相Aとして0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)を含むHPLC用水、移動相Bとして0.1%TFAを含むアセトニトリルを用い、カラムとしてはMass PREPTM Micro Desalting Column、規格2.1×5mmのものを使い、移動相勾配として移動相Bを1.5分間内において5%から90%に上昇させ、カラム温度80℃、流速0.2mL/分、ESI温度130℃の条件下で実験を行った。分析装置の制御、データ収集及びマスシグナルの逆畳み込みにはBiopharmaLynx v1.2(Waters社製)を利用した。
【0079】
以下、実施例や実験例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例や実験例に制限されない。以下においてベクターやプラスミドの作製方法、タンパク質をコードする遺伝子をベクターやプラスミドに導入する方法、プラスミドをホスト細胞に導入する方法など、従来周知の操作については説明を省略することがある。これらの操作は当業者が熟知し、例えばSambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniais,T.(1989),Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd edition,Cold spring Harbor Laboratory Pressなどの出版物に詳細な説明がある。
【0080】
実施例1:ヒト化抗ヒトPD-L1抗体の作製
1.1)PD-1及びPD-L1組換えタンパク質の調製
PD-1及びPD-L1の細胞外領域をコードする遺伝子は、国際出願WO2018/137576A1に記載のものであった。遺伝子組換え技術を利用し、PD-1及びPD-L1の細胞外領域をコードする遺伝子末端にそれぞれポリヒスチジンをコードする配列を付け、組換え遺伝子をpcDNA4発現ベクターに導入して発現させ、組換えタンパク質を精製してそれぞれPD1-His及びPD-L1-Hisと名づけた。また、遺伝子組換え技術を利用し、PD-1及びPD-L1の細胞外領域をコードする遺伝子末端にそれぞれヒトIgG1のFcフラグメントをコードする配列を付け、組換え遺伝子をpcDNA4発現ベクターに導入して発現させ、組換えタンパク質を精製してそれぞれPD1-ECD-hFc及びPD-L1-ECD-hFcと名づけた。
【0081】
1.2)ラット由来のヒトPD-L1モノクローナル抗体の作製
上記PD-L1-ECD-hFcを抗原とし、Balb/cマウス(上海霊暢バイオテック社製)に対して免疫を行った。マウス免疫、抗体価の測定、ハイブリドーマのクローニング及びスクリーニングは、WO2018/137576A1の明細書実施例2の記載を参照することができる。ELISAを利用してハイブリドーマから陽性クローンを選別する際には、以下の通りに行われた。つまり、上記PD-L1-Hisを用いて1ウェル当たり10ngの量でELISAプレートを被覆し、1%のウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBST(KH2PO4 0.2g、Na2HPO4・12H2O 2.9g、NaCl 8.0g、KCl 0.2g、Tween-20 0.5mLを含み、純水で1Lに調整したもの)を加えてELISAプレートをブロッキング処理した。一方、測定抗体を段階的に希釈し、上記組換えタンパク質で被覆したELISAプレートに加えて室温、30分間インキュベートした後にプレートを洗い流した。HRP標識のヤギ抗ラット抗体(Fc特異的なものであり、Sigma社製)を適宜希釈してウェルに加え、室温、30分間インキュベートしてからプレートを洗い流した。そして、各ウェルにTMBを基質とする着色液(着色液Aとしては酢酸ナトリウム三水和物13.6g、クエン酸一水和物1.6g、30%の過酸化水素水0.3mLを含み、純水で500mLに調整し、着色液Bはエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム0.2g、クエン酸一水和物0.95g、グリセロール50mL、TMB 0.15gを含み、純水で500mLに調整した。TMBは、着色液Bに供えて予め3mLのDMSOに溶かし、使用直前に着色液Aと着色液Bを体積比1:1の割合で均一に混ぜ合わせた)を100μL加えて室温、1~5分間インキュベートした後、停止液として2MのH2SO4を50μL加えて反応を停止させ、SpectraMax 190プレートリーダーでOD450値を読み取った。
【0082】
次に、24ウェルプレート用いて陽性クローンを拡大培養し、限界希釈法を利用してサブクローニングを実施した。そして、目的抗体を安定に発現するハイブリドーマのモノクローナル株を、Hybridoma-SFM無血清培地(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて7日間培養した後、Protein-A/Gカラムで培養液の上澄みからヒトPD-L1に結合しうるラット由来のヒトPD-L1モノクローナル抗体を精製した。ヒトPD-L1に対する上記ラット由来のモノクローナル抗体の相対結合親和性については、ELISA法を用いて測定し、相対結合親和性の最も高いM8クローンを選んで後の実験に備えた。
【0083】
1.3)ラット由来のPD-L1モノクローナル抗体の配列測定およびヒト化改造
まず、ステップ1ではラット由来のヒトPD-L1モノクローナル抗体の可変領域配列を測定した。具体的には、Trizolを用いてM8モノクローナル株からトータルRNAを抽出し、逆転写キットを用いてmRNAからcDNAを合成し、Roland Kら編集の「抗体工程」第I巻第323頁に記載のプライマーペアを用い、PCR法によってM8クローンの軽鎖可変領域および重鎖可変領域の遺伝子を増幅し、得られたPCR産物をpMD18-Tベクターに導入し、配列測定を行って可変領域の遺伝子配列を解析した。
【0084】
次に、M8抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を解析し、具体的には、KABAT法則に則ってM8抗体の重鎖および軽鎖の抗原相補性決定領域、及びフレームワーク領域をそれぞれ確定した。M8抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列としては、H-CDR1がSYGVH(配列番号1)であり、H-CDR2がLIWSGGGTDYNAAFIS(配列番号2)であり、H-CDR3がQLGLRAMDY(配列番号3)であり、軽鎖CDRのアミノ酸配列としては、L-CDR1がRASQSIGTTIH(配列番号4)であり、L-CDR2がYASESVS(配列番号5)であり、L-CDR3がQQSNSWPLT(配列番号6)でった。
【0085】
ステップ2では、ラット由来のヒトPD-L1モノクローナル抗体をヒト化した。具体的には、ラット由来M8抗体の重鎖可変領域について、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/においてヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、相同性が高いIGHV4-59*01を選んで重鎖CDRのヒト化テンプレートとし、ラット由来M8抗体の重鎖CDRをIGHV4-59*01のフレーム領域に移植し、かつH-CDR3の後ろにWGQGTSVTVSS(配列番号7)を付けて第4フレームワーク領域とすることによりCDR移植重鎖可変領域の配列を得た。同様に、ラット由来M8抗体の軽鎖可変領域についてもヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGKV6-21*01を選んで軽鎖CDRのヒト化テンプレートとし、ラット由来M8抗体の軽鎖CDRをIGKV6-21*01のフレーム領域に移植し、かつL-CDR3の後ろにFGAGTKLEIK(配列番号8)を付けて第4フレームワーク領域とすることによりCDR移植軽鎖可変領域の配列を得た。そして、CDR移植可変領域における一部のアミノ酸サイトに変異を導入し、このとき、アミノ酸配列に対してKABAT編集を行い、アミノ酸サイトの位置をKABATナンバリングに変更した。
【0086】
好ましくは、CDR移植重鎖可変領域においてKABATナンバリング第6位のEをQ、第9位のPをG、第16位のEをQ、第17位のTをS、第27位のGをF、第29位のIをL、第37位のIをV、第61位のAをP、第62位のAをS、第63位のFをL、第64位のIをK、第67位のVをL、第71位のVをR、第78位のFをV、第80位のLをF、第82位のLをI、および第82C位のVをLにそれぞれ変更する。また、好ましくは、CDR移植軽鎖可変領域においてKABATナンバリング第11位のQをL、第53位のEをQ、第55位のVをF、および第78位のLをVにそれぞれ変更する。
【0087】
そして、上述のサイト変異を抱える重鎖可変領域および軽鎖可変領域をそれぞれヒト化重鎖可変領域(配列番号9)及びヒト化軽鎖可変領域(配列番号10)とし、上海生工バイオテック社に委託してヒト化重鎖可変領域およびヒト化軽鎖可変領域をコードするDNAを合成した。ヒト化重鎖可変領域とヒトIgG1の重鎖定常領域(配列番号11を繋いで得られた全長のヒト化重鎖遺伝子をPDL1-HC抗体(配列番号13および配列番号14)と名づけ、また、ヒト化軽鎖可変領域とヒトKappa鎖の定常領域(配列番号12)を繋いで得られた全長のヒト化軽鎖遺伝子をPDL1-LC抗体(配列番号15および配列番号16)と名づけた。PDL1-HC抗体及びPDL1-LC抗体遺伝子をそれぞれpcDNA4発現ベクターに導入し、PEI法を利用して重鎖および軽鎖の発現ベクターを同時にHEK293F細胞に導入して発現し、Protein-Aカラムで精製抗体を精製し、得られた抗体をPDL1抗体とした。
【0088】
PDL1抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列としては、H-CDR1がSYGVH(配列番号17)であり、H-CDR2がLIWSGGGTDYNPSLKS(配列番号18)であり、H-CDR3がQLGLRAMDY(配列番号19)であり、軽鎖CDRのアミノ酸配列としては、L-CDR1がRASQSIGTTIH(配列番号20)であり、L-CDR2がYASQSFS(配列番号21)であり、L-CDR3がQQSNSWPLT(配列番号22)であった。
【0089】
1.4)対照物抗体であるアテゾリズマブ-IgG1の調製
陽性対照物抗体であるアテゾリズマブの重鎖可変領域および軽鎖可変領域の配列(配列番号23および配列番号24)は、「WHO薬物情報」第29巻第3号(2015)に記載されている配列情報を参考し、上海生工バイオテック社に委託して上記可変領域をコードするDNAを合成した。アテゾリズマブの重鎖可変領域(アテゾリズマブ-VH)とヒトIgG1の重鎖定常領域(配列番号11)を繋いで得られた全長の重鎖遺伝子をアテゾリズマブ-HCと名づけ、アテゾリズマブの軽鎖可変領域(アテゾリズマブ-VL)とヒトKappa軽鎖の定常領域(配列番号12)を繋いで得られた全長の軽鎖遺伝子をアテゾリズマブ-LCと名づけた。アテゾリズマブ-HC及びアテゾリズマブ-LCをそれぞれpcDNA4発現ベクターに導入し、HEK293F細胞で発現し、抗体を精製してアテゾリズマブ-IgG1と名づけた。
【0090】
1.5)PD-L1に対するヒト化抗ヒトPD-L1抗体の相対結合親和性の測定
上記PD-L1-Hisを、1ウェル当たり10ng入れてELISAプレートを被覆し、1%のBSAを含むPBSTでブロッキング処理した。測定抗体を段階的に希釈し、上記組換えタンパク質で被覆したELISAプレートに入れて室温、30分間インキュベートした後、ELISAプレートを洗い流した。適宜希釈したHRP標識のヤギ抗ヒト抗体(Fc特異的なものであり、Sigma社製)を入れて室温、30分間インキュベートし、プレートを洗い流した。各ウェルにTMBを基質とする着色液を100μL加え、室温、1~5m分間インキュベートした後、2MのH2SO4停止液を50μL加えて反応を停止した。SpectraMax 190プレートリーダーでOD450値を測定し、得られたデータをGraphPad Prism6で処理して解析グラフを作成し、EC50を算出した。
【0091】
図2に示すように、PDL1抗体およびアテゾリズマブ-IgG1は何れもPD-L1-Hisに効果的に結合することができ、EC
50がそれぞれ0.1018nM及び0.09351nMであり、両者は見かけ上同じ結合特性を示した。このとき、同種対照物抗体としてはヒトPD-L1に結合しないヒトIgG1抗体を用いた。
【0092】
1.6)PD-1とPD-L1の相互作用に対するヒト化抗ヒトPD-L1抗体の阻害活性
PD-L1-ECD-hFcを、ビオチンN-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(商品番号&規格H1759-100MG、Sigma社製)を用いてビオチン化した。ヒトPD-1-ECD-hFcを炭酸ナトリウム緩衝液(Na2CO3 1.59gとNaHCO3 2.93gを含み、純水1Lで調製したもの)で希釈して濃度が2μg/mLとなるようにし、ピペットで吸い取って96ウェルのELISAプレートに1ウェル当たり100μLずつ加え、室温で4時間インキュベートした。プレートをPBSTで1回洗い流した後、1ウェル当たりに1%のBSAを含むPBSTを200μL加えて室温、2時間インキュベートすることによりブロッキング処理を行った。ブロッキング処理液を捨て、さらにプレートを軽く叩いて残液が残らないようにし、次の処理に備えて4℃に保存した。96ウェルプレートにおいて、1%のBSAを含むPBST溶液を用いてビオチン標識のPD-L1-ECD-hFcを希釈して濃度が500ng/mLになるようにし、また、上記タンパク溶液を用いてヒトPD-L1抗体を段階的に希釈した。希釈済の抗体とビオチン化PD-L1-ECD-hFcの混合溶液を上記ヒトPD1-ECD-hFcで被覆したELISAプレートに入れて室温、1時間インキュベートした後、PBSTでプレートを3回洗い流した。1%のBSAを含むPBST溶液を用いて1:1000の体積比で希釈したHRP標識ストレプトアビジン(BD Biosciences社製)を加え、室温で45分間インキュベートし、PBSTでプレートを3回洗い流した。TMBを基質とする着色液を1ウェル当たり100μLずつ加えて室温、1~5分間インキュベートし、2MのH2SO4停止液を1ウェル当たり50μLずつ加えて反応を停止し、プレートリーダーでOD450値を読み取り、得られたデータをGraphPad Prism6で処理して解析グラフを作成し、IC50を算出した。
【0093】
図3に示すように、PDL1抗体およびアテゾリズマブ-IgG1は、PD-1とPD-L1の相互作用に対してほぼ同じ阻害活性を示し、IC
50がそれぞれ1.366nMおよび1.471nMであった。この試験では、同種対照物抗体としてヒトPD-L1に結合しないヒトIgG1抗体を用いた。
【0094】
1.7)混合リンパ球反応に対するヒト化抗ヒトPD-L1抗体の影響
図4Aに示すように、PDL1抗体およびアテゾリズマブ-IgG1は、何れもMLR細胞のIL-2分泌を効果的に刺激し、EC
50がそれぞれ0.306nMおよび0.29nMであった。また、
図4Bに示すように、PDL1抗体およびアテゾリズマブ-IgG1は、何れもMLR細胞のIFN-γ分泌を効果的に刺激し、EC
50がそれぞれ0.1464nMおよび0.1294nMであった。この試験では、同種対照物抗体としてヒトPD-L1に結合しないヒトIgG1抗体を用いた。
【0095】
実施例2:PD-1及びPD-L1を標的とする四価二重特異性抗体の作製
2.1)配列
mAb1-25-Hu(以下、「609」とも略称する)はヒト化抗ヒトPD-1モノクローナル抗体であり、その重鎖可変領域および軽鎖可変領域の配列としてはWO2018/137576A1に記載のものであった。このようなヒト化重鎖可変領域および軽鎖可変領域(配列番号25および配列番号226)を、ヒトIgG4(S228P)の重鎖定常領域(配列番号27)およびKappaの軽鎖定常領域(配列番号12)にそれぞれ繋いで完全なヒト化mAb1-25-Huモノクローナル抗体(609)を作製した。ここで、PDL1抗体は、ヒトPD-L1を標的とするヒト化モノクローナル抗体であり、その配列は実施例1.3に記載されたものと同様であった。
【0096】
2.2)共通軽鎖の選定
PDL1抗体の軽鎖可変領域と609の軽鎖可変領域については、BLAST法を利用して配列解析を行い、両者のアミノ酸配列において完全に共有するアミノ酸残基が74%を占め、性質面で類似したアミノ酸残基が86%を占めることが確認できた。
【0097】
PDL1抗体の重鎖および軽鎖遺伝子をそれぞれPDL1-HC抗体及びPDL1-LC抗体と名づけ、609の重鎖および軽鎖遺伝子をそれぞれ609-HC及び609-LCと名づけ、これらをそれぞれpcDNA4発現ベクターに導入した。上記重鎖および軽鎖の発現ベクターについては、それぞれPDL1-HC抗体とPDL1-LC抗体、609-HCと609-LC、PDL1-HC抗体と609-LC、及び609-HCとPDL1-LC抗体を組合わせて抗体を発現精製し、得られた抗体をそれぞれPDL1抗体、609、PDL1-HC抗体+609-LC及び609-HC+PDL1-LC抗体と名づけた。
【0098】
上記PD1-ECD-hFc及びPD-L1-ECD-hFcをELISAプレートに1ウェル当たり10ngずつ入れてELISAプレートを被覆し、1%のBSAを含むPBSTでELISAプレートをブロッキング処理した。測定抗体を段階的に希釈し、上述の組換えタンパク質を被覆したELISAプレートに加えて室温、30分間インキュベートし、プレートを洗い流した。HRP標識のヤギ抗ヒト抗体(Fab特異的、Sigma社製)を適宜希釈し、ELISAプレートに加えて室温、30分間インキュベートし、プレートを洗い流した。各ウェルにTMB基質とする着色液を100μL加えて室温、1~5分間インキュベートした後、2MのH2SO4停止液を50μL加えて反応を停止し、SpectraMax 190プレートリーダーでOD450値を読み取り、得られたデータをGraphPad Prism6で処理して解析グラフを作成し、EC50を算出した。
【0099】
図5Aに示すように、609及び609-HC+PDL1-LC抗体は何れもPD1-ECD-hFcに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.2001nMおよび0.2435nMであった。一方、PDL1抗体及びPDL1-HC抗体+609-LCは、PD1-ECD-hFcに結合することができなかった。また、
図5Bに示すように、PDL1抗体はPD-L1-ECD-hFcに効果的に結合し、EC
50が0.1246nMである一方、609、PDL1-HC抗体+609-LC及び609-HC+PDL1-LC抗体は、PD1-ECD-hFcに効果的に結合することができなかった。そこで、PDL1-LC抗体(配列番号15および配列番号16)を共通軽鎖として選んで二重特異性抗体を作製した。
【0100】
2.3)二重特異性抗体の作製
PDL1抗体の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインを繋ぎ、そして人工リンカーを介して609の重鎖可変領域を付け、このとき人工リンカーとしては配列番号28で表されるGGGGSGGGGSGGGGSを用い、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域および2つのCH1構造ドメインを含む重鎖遺伝子を構築し、PDL1-Fab-609-IgG4(配列番号29及び配列番号30)と名づけた。同様に、609の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインを繋ぎ、そして人工リンカーを介してPDL1抗体の重鎖可変領域を付け、このとき人工リンカーとしては配列番号28で表されるGGGGSGGGGSGGGGSを用い、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む重鎖遺伝子を構築し、609-Fab-PDL1-IgG4(配列番号31及び配列番号32)と名づけた。
【0101】
上記配列をそれぞれpcDNA4発現ベクターに導入し、PDL1-Fab-609-IgG4及び609-Fab-PDL1-IgG4発現ベクターをそれぞれPDL1-LC抗体発現ベクターと組合わせて抗体を発現し、精製して得られた抗体をそれぞれPDL1-Fab-609-IgG4及び609-Fab-PDL1-IgG4と名づけた。ここで、簡略化を図って重鎖名を抗体名とした。
【0102】
2.4)ELISA法による相対結合親和性の測定
ELISA法を利用し、上記1.3と同様にして相対結合親和性を測定した。
【0103】
図6Aに示すように、609-HC+PDL1-LC抗体、PDL1-Fab-609-IgG4及び609-Fab-PDL1-IgG4は何れもPD1-Hisに効果的に結合し、EC50がそれぞれ0.3821nM、5.308nMおよび0.4213nMであった。また、
図6Bに示すように、PDL1抗体、PDL1-Fab-609-IgG4及び609-Fab-PDL1-IgG4は、PD-L1-His何れもに効果的に結合し、EC50がそれぞれ0.1204nM、0.1400nMおよび0.1350nMであった。この試験では同種対照物抗体としてPD-1やPD-L1に結合しないヒトIgG4抗体を用いた。実験結果から、二重特異性抗体であるPDL1-Fab-609-IgG4及び609-Fab-PDL1-IgG4がPD-1およびPD-L1に結合できることが実証された。
【0104】
2.5)MLRに対する刺激活性
AおよびCの結果は同じMLR実験から得られ、BおよびDの結果は他の独立したMLR実験から得られ、このとき同種対照物抗体としてはPD-1及びPD-L1に結合しないヒトIgG4抗体を用いた。
図7A及び
図7Bに示すように、PDL1抗体、609-HC+PDL1-LC抗体及び609-Fab-PDL1-IgG4は何れもMLR細胞のIL-2分泌を効果的に刺激し、EC
50は、
図7Aに示された通りそれぞれ0.306nM、0.5384nMおよび0.1023nMであり、また、
図7Bに示された通りそれぞれ0.1016nM、0.6819nMおよび0.1259nMであった。なお、
図7C及び
図7Dに示すように、PDL1抗体、609-HC+PDL1-LC抗体及び609-Fab-PDL1-IgG4は何れもMLR細胞のIFN-γ分泌を効果的に刺激し、EC
50は、
図7Cに示された通りそれぞれ0.5119nM、1.21nMおよび0.1675nMであり、並びに
図7Dに示された通りそれぞれ0.1464nM、1.29nMおよび0.05491nMであった。なお、
図7A~
図7Bに示すように、MLR細胞のIL-2分泌量に対する刺激活性において、609-Fab-PDL1-IgG4は、同じ使用濃度でPDL1モノクローナル抗体又は609-HC+PDL1-LC抗体に比べてより優れた刺激活性を示すことが確認できた。
【0105】
2.6)Biacore法による結合性評価
GE healthcare社製のBiacore 8K装置を用い、上述の抗体とPD-1又はPD-L1の結合力を測定した。具体的には、Biacore 8K装置において、Protein-A/Gが固定されたチップで各抗体を捕捉し、そして組換えタンパク質PD1-His又はPD-L1-Hisを注入することにより結合・解離グラフを取得し、チップ再生には6Mのグアニジン塩酸塩溶液を用いた。得られたデータをBiacore 8K専用の解析ソフトで解析し、結果を下記表2に纏めて示す。
【0106】
【0107】
表2に示すように、PD-1に対する609-Fab-PDL1-IgG4及び609-HC+PDL1-LC抗体の結合定数(Kon)と解離定数(Koff)がほぼ同じく、平衡定数(KD)も同じレベルにあり、KDがそれぞれ2.57E-08および3.49E-08であった。PD-L1に対する609-Fab-PDL1-IgG4及び609-HC+PDL1-LC抗体の結合定数(Kon)と解離定数(Koff)もほぼ同じく、平衡定数(KD)も同じレベルにあり、KDがそれぞれ6.08E-10および8.43E-10であった。平衡定数(KD)と結合性は、互いに反比例の関係を示した。
【0108】
2.7)薬物動態学特性の評価
本実施例では、SDラット(浙江維通利華実験動物技術会社により購入)を用いて609-Fab-PDL1-IgG4の薬物動態を検討した。具体的には、ラットを幾つかの組に分け、各組は5匹ずつであり、ラットの平均体重は約200gであった。そして、ラットには尾静脈経由で1mgの抗体を投与し、投与後の指定時点で眼窩から採血し、血液が自然凝固するまで待ってから遠心して血清を回収した。
【0109】
血清中における目的抗体の濃度は、以下のように測定した。PD1-His及びPD-L1-Hisを用い、1ウェル当たりそれぞれ20ng及び10ngの被覆濃度でELISAプレートを被覆し、そして1%のBSAを含むPBSTでELISAプレートをブロッキング処理した。ラット血清を適宜希釈した後、PD1-His及びPD-L1-Hisを被覆したELISAプレートに加えて室温、1時間インキュベートし、プレートを洗い流した。その後、HRP標識のヤギ抗ヒト抗体(Fc特異的なものであり、Sigma社製)を加えて室温、30分間インキュベートし、該抗体は種間交叉反応性を無くすために吸着処理が行われ、ラット由来の抗原を識別しないものである。プレートを洗い流し、各ウェルにTMBを基質とする着色液を100μL加えて室温、1~5分間インキュベートし、2MのH2SO4停止液を50μL加えて反応を停止した。プレートリーダーでOD450値を読み取り、さらに、検量線を利用してOD450値を抗体の血清濃度に換算し、得られたデータをGraphPad Prism6で処理して解析図を作成し、Phoenixソフトを用いてラット体内における抗体薬物の半減期を算出した。
【0110】
図8Aに示すように、609-Fab-PDL1-IgG4の半減期は365時間(15.2日)であった。また、
図8Bに示すように、609-Fab-PDL1-IgG4の半減期は446時間(18.6日)であり、PDL1モノクローナル抗体の半減期は361時間(15.0日)であった。実験結果から、609-Fab-PDL1-IgG4及びPDL1モノクローナル抗体が類似した薬物動態特性を有することが確認できた。
【0111】
2.8)物理化学的特性の評価
2.8.1)HPLC-SEC
図9Aは、モノクローナル抗体609のHPLC-SECスペクトルであり、スペクトルにおいてピーク1、ピーク2およびピーク3といった3つのピークが特に目立ち、各ピークの占有割合はそれぞれ0.7%、0.3%および99.0%であった。そのうち、ピーク1およびピーク2の保持時間が主要ピークに当たるピーク3より短く、凝集体によるものと考えられ、両者の占有割合は合計1.0%であった。また、スペクトルからは分解した断片(切断断片)および組織化が不完全な分子を表わすピークが確認できなかった。
図9Bは、609-Fab-PDL1-IgG4のHPLC-SECスペクトルであり、スペクトルにおいてピーク1、ピーク2およびピーク3といった3つのピークが特に目立ち、各ピークの占有割合はそれぞれ0.2%、99.5%および0.3%であった。そのうち、ピーク1の保持時間が主要ピークに当たるピーク2より短く、凝集体によるものと考えられ、ピーク3の保持時間が主要ピークに当たるピーク2より長く、分解した断片(切断断片)および組織化が不完全な分子によるものと考えられる。
【0112】
2.8.2)CE-SDS
図10A~10Bは、それぞれモノクローナル抗体609のNR-CE-SDSおよびR-CE-SDSスペクトルであり、
図10C~
図10Dは、それぞれ609-Fab-PDL1-IgG4のNR-CE-SDSおよびR-CE-SDSスペクトルである。609のNR-CE-SDS主要ピークに当たるピーク8の占有割合が98.92%であり、609-Fab-PDL1-IgG4のNR-CE-SDS主要ピークに当たるピーク9の占有割合が97.70%であった。609のR-CE-SDS主要ピークに当たるピーク4(軽鎖に対応するピーク)およびピーク8(重鎖に対応するピーク)の占有割合は、それぞれ32.03%および66.99%であり、両者の面積比が1:2.09であった。また、609-Fab-PDL1-IgG4のR-CE-SDS主要ピークに当たるピーク3(軽鎖に対応するピーク)およびピーク9(重鎖に対応するピーク)の占有割合は、それぞれ38.73%および58.78%であり、両者の面積比が2:3.03であった。また、NR-CE-SDSにおいて、モノクローナル抗体609及び609-Fab-PDL1-IgG4の主要ピークがほぼ同じ占有割合を示し、かつR-CE-SDSにおいて、モノクローナル抗体609および609-Fab-PDL1-IgG4の軽鎖と重鎖のピーク面積比が予測通りであった。
【0113】
2.8.3)HPLC-IEC
図11A~
図11Bは、それぞれモノクローナル609及び609-Fab-PDL1-IgG4のHPLC-IECスペクトルであり、かかる主要ピークの占有割合がそれぞれ82.95%及び92.70%であった。この結果から、帯電特性からして609-Fab-PDL1-IgG4がモノクローナル抗体609を上回ることが実証された。
【0114】
2.8.4)DSC
図12A~
図12Bは、それぞれ609及び609-Fab-PDL1-IgG4のDSCスペクトルであり、そのうち、TmOnsetは、タンパク質の折り畳みが解け又はタンパク質が変性するときの温度であり、Tmはピーク温度である。609のTmOnsetおよびTmは、それぞれ63.68℃及び72.36℃であり、609-Fab-PDL1-IgG4のTmOnsetおよびTmは、それぞれ64.22℃および76.25℃であった。この結果から、熱安定性からして609及び609-Fab-PDL1-IgG4がほぼ同じであることが実証された。
【0115】
2.8.5)分子量の検出
609-Fab-PDL1-IgG4において、各分子はそれぞれ2つの長い重鎖および4つの軽鎖を含み、重鎖C末端におけるリシン残基の修飾を考慮した場合の分子量理論値(Expected Molecular Weight)が238099Daであった。一方、
図13に示すように、分子量測定値(Measured Molecular Weight)が238100Daであり、理論値と僅か1Daの差があった。この結果から、609-Fab-PDL1-IgG4が予測通りの分子構造を有することが実証された。
【0116】
実施例3:マウス体内における二重特異性抗体の抗腫瘍作用
ヒト末梢血単核球(PBMC)を用いてNSGマウス体内においてヒト化免疫系を再構築し、さらに、前記マウスを用いてヒト肺がんNCI-H292の皮下移植腫瘍モデルを作製した。該マウス腫瘍モデルは、ヒトPD-1を発現するT細胞及びヒトPD-L1を発現するヒト腫瘍細胞を兼ね備え、PD-1及びPDL-1を標的とする二重特異性抗体の体内における抗腫瘍活性を評価することができる。具体的には、以下の通りに評価を行った。体外においてヒト非小細胞肺がん株であるNCI-H292細胞(ATCC(登録商標)CRL-1848
TM)を培養し、細胞懸濁液を調整して濃度が1×10
8個細胞/mLとなるようにした後、Matrigel(BD Biosciences社製、製品番号356234)と1:1の体積比で混ぜ合わせた。また、購入したPBMC細胞(Allcells社製、製品番号PB005-C)を復活させ、PBSで再懸濁し、PBMC懸濁液を調整して濃度が1×10
7個細胞/mLとなるようにした。上述の腫瘍細胞懸濁液とPBMC懸濁液を1:1の体積比で混ぜ合わせ、混合液200μLを取って無菌条件下でM-NSGマウス(上海南方モデル生物研究センターにより入手)の背中右側皮下に接種した。接種当日に接種済みのマウスを体重に従ってランダムで幾つかの組に分け、各組にはそれぞれ10匹のマウスを配分した。マウスへの投与は、それぞれ対照物組に生理食塩水、Opdivo組にPD-1陽性対照物抗体であるOpdivo(ブリストル・マイヤーズスクイブ社製)10mg/kg、Tecentriq組にPD-L1陽性対照物抗体であるTecentriq(ロシュ製薬社製)10mg/kg、及び609-Fab-PDL1-IgG4組に16mg/kgの609-Fab-PDL1-IgG4を注射することで行われた。二重特異性抗体とモノクローナル抗体の分子量が異なるため、本実験ではそれぞれの抗体を物質量に換算してからそれぞれの抗体を同じ物質量で投与した。その後、上述の投与計画に従って週2回の頻度で合計8回投与し、腫瘍体積については毎週2回測定した。最後に、
図14に示すように、各組の腫瘍生長状況を時系列に従って整理して生長グラフを作成した。
【0117】
30日目の実験終了時点でOpdivo組、Tecentriq組及び609-Fab-PDL1-IgG4組の腫瘍抑制率がそれぞれ50.5%、84.4%および96.0% であり、このときの腫瘍抑制率は、算式として[腫瘍抑制率=(対照組の平均腫瘍体積-実験組の平均腫瘍体積)/対照組の平均腫瘍体積×100%]に従って算出した。実験結果からは、Opdivo組およびTecentriq組の場合に比べ、609-Fab-PDL1-IgG4組においてより優れた腫瘍抑制効果が確認できた。
【国際調査報告】