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特表2022-537264近接性ベースの標識化システムおよびその応用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-25
(54)【発明の名称】近接性ベースの標識化システムおよびその応用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/542 20060101AFI20220818BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220818BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
G01N33/542 A
G01N21/64 F
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572564
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(85)【翻訳文提出日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 US2020036285
(87)【国際公開番号】W WO2020247725
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】62/858,539
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/982,576
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518148685
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】521533038
【氏名又は名称】エムアールエル ケンブリッジ イーエスシー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】マクミラン、 デビッド ダブリュー.シー.
(72)【発明者】
【氏名】ジェリ、 ジェイコブ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、 タオ
(72)【発明者】
【氏名】オークレー、 ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】レイエス―ロブレス、 タマラ
(72)【発明者】
【氏名】オスルンド、 ロブ シー.
(72)【発明者】
【氏名】フェデイ、 オルグベミニイ オー.
(72)【発明者】
【氏名】パーカー、 ダン ルロイ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス―リベラ、 フランシス パオラ
(72)【発明者】
【氏名】マッカーバー、 ステファン
【テーマコード(参考)】
2G043
4B063
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043BA16
2G043DA02
2G043EA01
2G043FA02
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR56
4B063QS28
4B063QX02
(57)【要約】
一態様において、細胞膜上のタンパク質-タンパク質相互作用を含め、様々な特徴を選択的に同定するように操作可能な微小環境マッピングプラットフォームを提供するための組成物および方法が記載される。いくつかの実施形態では、組成物は、触媒およびタンパク質標識化剤を含み、触媒は、タンパク質標識化剤を反応性中間体へと活性化する。いくつかの実施形態では、触媒は、タンパク質標識化剤にエネルギー移動して反応性中間体を形成することを可能にするための電子構造を有し得る。反応性中間体は、反応性中間体の拡散半径内のタンパク質その他の生体分子と反応または架橋する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近接性に基づく標識化のための組成物であって、
触媒およびタンパク質標識化剤を含み、前記触媒は、エネルギー移動を介して前記タンパク質標識化剤を反応性中間体へと活性化する電子構造を有する、
組成物。
【請求項2】
前記反応性中間体がタンパク質と架橋する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記反応性中間体がタンパク質のC-H結合に挿入される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記反応性中間体がカルベン、ニトレンまたはフェノキシラジカルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記反応性中間体は、水性または水性ベースの環境におけるクエンチング前の拡散半径が4 nm未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記反応性中間体が、5ナノ秒(ns)未満の半減期(t1/2)を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記エネルギー移動はデクスターエネルギー移動である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記エネルギー移動が単一電子移動である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記エネルギー移動が、前記触媒の三重項励起状態からのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記触媒が光触媒である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記光触媒は、電磁スペクトルの可視領域内の光を吸収する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記触媒が、電磁スペクトルの可視領域に吸収を有する遷移金属光触媒である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記エネルギー移動が、前記光触媒の三重項励起状態からのものであり、前記三重項励起状態は60 kcal/molを超えるエネルギーを有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記遷移金属光触媒が下記式で表されるものであり、
【化1】

式中、Mは遷移金属であり、
A、D、E、G、YおよびZは、CおよびNから独立して選択され、
R1~R6はそれぞれ1~4個の任意の環置換基を表し、前記1~4個の任意の環置換基のそれぞれは独立してアルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミン、アミド、エーテル、-C(O)O-、-C(O)OR7、および-R8OHからなる群から選択され、R7は水素およびアルキルからなる群から選択され、R8はアルキルであり、
X-は対イオンである、
請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
前記遷移金属光触媒が、水性または水性ベースの環境において可溶性である、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
前記タンパク質標識化剤がジアジリンまたはアジドである、請求項12~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記触媒が有機光触媒である、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記有機光触媒が、チオキサントン、フェノールチアジン、フラビン、フェノアジン、クマリン、アセトフェノン、およびベンゾフェノン基からなる群より選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記エネルギー移動が単一電子移動である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記タンパク質標識化剤がマーカーで官能化され、前記マーカーがビオチン、デスチオビオチン、アルキン、アジド、FLAGタグ、フルオロフォア、およびクロロアルカン官能性からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項21】
生体分子結合剤と結合された遷移金属光触媒を含む、複合体。
【請求項22】
前記生体分子結合剤が、タンパク質、多糖類、核酸、または脂質を含む、請求項21に記載の複合体。
【請求項23】
前記生体分子結合剤が、細胞表面受容体に特異的なリガンドを含む、請求項21記載の複合体。
【請求項24】
前記遷移金属光触媒が、60 kcal/molを超える三重項励起状態を有する、請求項21に記載の複合体。
【請求項25】
前記遷移金属錯体が下記式で表されるものであり、
【化2】

式中、Mは遷移金属であり、
A、D、E、G、YおよびZは、CおよびNから独立して選択され、
R1~R6はそれぞれ1~4個の任意の環置換基を表し、前記1~4個の任意の環置換基のそれぞれは独立してアルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミン、アミド、エーテル、-C(O)O-、-C(O)OR7、および-R8OHからなる群から選択され、R7は水素およびアルキルからなる群から選択され、R8はアルキルであり、
X-は対イオンである、
請求項21~24のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項26】
前記遷移金属光触媒と前記生体分子結合剤との間に親水性リンカーをさらに含む、請求項21~24のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項27】
前記リンカーがアルキレンオキシドを含む、請求項26に記載の複合体。
【請求項28】
前記遷移金属光触媒は、電磁スペクトルの可視領域内の光を吸収する、請求項21に記載の複合体。
【請求項29】
前記生体分子結合剤が、前記遷移金属光触媒に共有結合している、請求項21に記載の複合体。
【請求項30】
近接性に基づく標識化のためのシステムであって、
生体分子結合剤に結合された触媒を含む複合体とタンパク質標識化剤とを含み、
前記触媒は、エネルギー移動を介して前記タンパク質標識化剤を反応性中間体へと活性化する電子構造を有する、
システム。
【請求項31】
前記反応性中間体がタンパク質と架橋する、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
前記生体分子結合剤が、細胞表面受容体に特異的なリガンドを含み、前記反応性中間体が前記表面細胞受容体と架橋する、請求項30に記載のシステム。
【請求項33】
前記反応性中間体がタンパク質のC-H結合に挿入される、請求項30に記載のシステム。
【請求項34】
前記反応性中間体がカルベンである、請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
前記反応性中間体は、水性または水性ベースの環境におけるクエンチング前の拡散半径が4 nm未満である、請求項30に記載のシステム。
【請求項36】
前記エネルギー移動はデクスターエネルギー移動である、請求項30に記載のシステム。
【請求項37】
前記エネルギー移動が単一電子移動である、請求項30に記載のシステム。
【請求項38】
前記エネルギー移動が、前記触媒の三重項励起状態からのものである、請求項30に記載のシステム。
【請求項39】
前記触媒は、電磁スペクトルの可視領域内の光を吸収する、請求項38に記載のシステム。
【請求項40】
前記触媒は、電磁スペクトルの可視領域に吸収を有する遷移金属光触媒である、請求項30に記載のシステム。
【請求項41】
前記エネルギー移動が、前記光触媒の三重項励起状態からのものであり、前記三重項状態は60 kcal/molを超えるエネルギーを有する、請求項40に記載のシステム。
【請求項42】
前記遷移金属光触媒が下記式で表されるものであり、
【化3】

式中、Mは遷移金属であり、
A、D、E、G、YおよびZは、CおよびNから独立して選択され、
R1~R6はそれぞれ1~4個の任意の環置換基を表し、前記1~4個の任意の環置換基のそれぞれは独立してアルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミン、アミド、エーテル、-C(O)O-、-C(O)OR7、および-R8OHからなる群から選択され、R7は水素およびアルキルからなる群から選択され、R8はアルキルであり、
X-は対イオンである、
請求項40または41に記載のシステム。
【請求項43】
前記生体分子結合剤が、タンパク質、多糖類、核酸、または脂質を含む、請求項30に記載のシステム。
【請求項44】
前記タンパク質標識化剤が、ジアジリンまたはアジドである、請求項40または41に記載のシステム。
【請求項45】
近接性に基づくの標識化の方法であって、
生体分子結合剤に結合された触媒を含む複合体を提供すること、
前記生体分子結合剤により前記複合体を細胞膜の標的領域に位置付けること、
前記触媒によりタンパク質標識化剤を反応性中間体へと活性化すること、および
前記反応性中間体を、前記標的領域内の1つ以上のタンパク質に結合させること
を含む、方法。
【請求項46】
前記生体分子結合剤が、細胞表面受容体に特異的なリガンドを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記反応性中間体が、前記一つ以上のタンパク質のC-H結合に挿入される、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記反応性中間体は、水性または水性ベースの環境におけるクエンチング前の拡散半径が4 nm未満である、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
前記触媒は、エネルギー移動を介して前記タンパク質標識化剤を前記反応性中間体へと活性化する電子構造を有する、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
前記エネルギー移動が、デクスターエネルギー移動である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記エネルギー移動が単一電子移動である、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記エネルギー移動が、前記触媒の三重項励起状態からのものである、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記励起三重項状態が60 kcal/molを超えるエネルギーを有する、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記触媒が遷移金属光触媒である、請求項49~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記遷移金属光触媒が下記式のものであり、
【化4】

式中、Mは遷移金属であり、
A、D、E、G、YおよびZは、CおよびNから独立して選択され、
R1~R6はそれぞれ1~4個の任意の環置換基を表し、前記1~4個の任意の環置換基のそれぞれは独立してアルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミン、アミド、エーテル、-C(O)O-、-C(O)OR7、および-R8OHからなる群から選択され、R7は水素およびアルキルからなる群から選択され、R8はアルキルであり、
X-は対イオンである、
請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記タンパク質標識化剤が、ジアジリンまたはアジドである、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記反応性中間体に結合された前記1つ以上のタンパク質を濃縮することをさらに含む、請求項45に記載の方法。
【請求項58】
前記生体分子結合剤が、タンパク質、多糖類、核酸、または脂質を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項59】
前記1つ以上のタンパク質は前記細胞膜に結合している、請求項45に記載の方法。
【請求項60】
前記1つ以上のタンパク質が、前記細胞膜と接触した隣接細胞に結合している、請求項45に記載の方法。
【請求項61】
インタラクトームマッピングのために、前記反応性中間体に結合された前記1つ以上のタンパク質を同定することをさらに含む、請求項45に記載の方法。
【請求項62】
前記反応性中間体に結合された前記1つ以上のタンパク質を精製することをさらに含む、請求項45に記載の方法。
【請求項63】
精製することが親和性クロマトグラフィーを含む、請求項62記載の方法。
【請求項64】
前記タンパク質標識化剤で標識されていない、前記標的領域内の1つ以上のタンパク質を精製することをさらに含む、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
前記反応性中間体によって結合された前記1つ以上のタンパク質が、顕微鏡により前記標的領域内に同定可能である、請求項45に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願データ
本出願は、2019年6月7日に出願された米国仮特許出願第62/858,539号および2020年2月27日に出願された米国仮特許出願第62/982,576号に対して、特許協力条約第8条による優先権を主張し、これらの各出願の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、近接性(proximity)に基づく標識化技術に関し、特に、細胞環境におけるタンパク質の高分解能標識化を可能にする組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質近接性標識化は、タンパク質相互作用ネットワークをプロファイリングするための強力なアプローチとして出現してきた。近接性標識化を介して付随タンパク質またはバイスタンダータンパク質を標識する能力は、関心のあるタンパク質の細胞環境および生物学的役割をさらに理解する上で重要な意味を持ちうる。現在の近接性標識化法はすべて、隣接するタンパク質を少数の選択されたアミノ酸残基上で拡散または物理的接触を通じて標識する反応性中間体を、酵素に基づいて生成することの使用を含む。この技術の変革的なインパクトにもかかわらず、例えばペルオキシダーゼ活性化を介したフェノキシラジカル(t1/2 >100μs)またはビオチンリガーゼを介したビオチン-AMP(t1/2 >60 s)等、これらの反応性中間体の固有の安定性は、それらの発生箇所から遠く離れた拡散を促進し得る。結果として、これらの酵素生成反応性中間体で緊密な微小環境内でのプロファイリングをすることはチャレンジとなる。さらに、大きな酵素サイズ、標識化のために特定のアミノ酸に依存すること、およびこれらの標識化システムを時間的に制御できないことは、限られた空間領域内でプロファイリングするうえでさらなるチャレンジを提示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの限界を考慮すると、近接性ベースの標識化のための新しいアプローチが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの態様において、細胞膜上のタンパク質-タンパク質相互作用を含む様々な特徴を選択的に同定するように操作可能な微小環境マッピングプラットフォームを提供するための組成物および方法が本明細書に記載される。いくつかの態様において、組成物は、触媒(catalyst)とタンパク質標識化剤とを含み、触媒は、タンパク質標識化剤を反応性中間体へと活性化させる。いくつかの実施形態において、触媒は、タンパク質標識化剤へのエネルギー移動を可能にして反応性中間体を形成するための電子構造を有し得る。反応性中間体は、反応性中間体の拡散半径内でタンパク質または他の生体分子と反応または架橋する。タンパク質または他の生体分子がその拡散半径内にない場合、反応性中間体は、周囲の水性環境または水性ベースの環境によってクエンチされる。本明細書にさらに記載するように、反応性中間体の拡散半径は、特定の微小環境マッピングの考慮点に合わせて調整することができ、ナノメートルスケールに限定することができる。いくつかの実施形態において、例えば、拡散半径は、10 nm未満または5 nm未満であり得る。さらに、いくつかの実施形態において、反応性中間体は、5 ns未満の半減期を有することができる。ある実施形態において、タンパク質標識化剤は、例えば分析を補助するためのビオチンまたは発光マーカーのようなマーカーで官能化され得る。反応性中間体を提供するためにタンパク質標識化剤とのエネルギー移動に関与するように作用可能な任意の触媒を使用することができる。いくつかの実施態様では、遷移金属触媒が使用される。あるいは、非遷移金属有機触媒を用いてもよい。触媒からタンパク質標識化剤へのエネルギー移動は、デクスターエネルギー移動を含む、本明細書にさらに記載される種々の機序を介して起こり得る。
【0006】
別の態様では、近接性に基づく標識化のための複合体(コンジュゲート)が本明細書に記載される。複合体は、生体分子結合剤にカップリングされた触媒を含む。触媒は、上述のような反応性中間体を生成するために、タンパク質標識化剤へのエネルギー移動のための電子構造を有し得る。いくつかの実施形態では、その生体分子結合剤を使用して、マッピングのために触媒を特定の環境に選択的に配置またはターゲティングすることができる。生体分子結合剤は、例えば、近接性標識化および関連分析のために所望の細胞環境に触媒を配置する。生体分子結合剤は、いくつかの実施形態において、タンパク質、多糖類、核酸、または脂質を含み得る。場合によっては、生体分子結合剤は、タンパク質、多糖類、核酸、または脂質を含む多価ディスプレイシステムを含み得る。また、生体分子結合剤は、標的タンパク質に対して特異的な結合親和性を有する低分子リガンドであってもよい。
【0007】
別の態様では、近接性に基づく標識化のためのシステムが本明細書に記載される。ある実施形態において、システムは、生体分子結合剤にカップリングされた触媒と、タンパク質への結合について触媒によって活性化されたタンパク質標識化剤とを含む複合体を含む。コンジュゲートおよびタンパク質標識化剤は、上記および以下の詳細な説明に記載されるいずれかの組成および/または特性を有することができる。
【0008】
さらなる態様において、近接性に基づく標識化の方法が本明細書に記載される。近接性に基づく標識化の方法は、触媒を提供することと、触媒によりタンパク質標識化剤を反応性中間体へと活性化させることとを含む。反応性中間体はタンパク質とカップリングあるいは結合する。いくつかの実施形態において、触媒は、タンパク質標識化剤と共にタンパク質マッピングをするための特定の環境に触媒を選択的に配置またはターゲティングするために、生体分子結合剤にカップリングされる。触媒、複合体、およびタンパク質標識化剤は、上記および以下の詳細な説明に記載された組成および/または特性を有することができる。
【0009】
これらおよび他の実施形態は、以下の詳細な説明においてさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本明細書に記載される実施形態による、式 (I) のイリジウム光触媒とジアジリンタンパク質標識化剤との間のエネルギー移動を示す。
図2図2は、いくつかの実施形態による、タンパク質または他の生体分子の標識化のために遷移金属光触媒からのエネルギー移動を介して反応性中間体を形成するように操作可能な種々のジアジリンを示す。
図3図3は、いくつかの実施形態による、フラビンに基づくタンパク質標識化のための反応機構を示す。
図4図4は、生体分子結合剤をカップリングするための反応性官能基を有する式 (I) の種々の遷移金属光触媒を示す。
図5図5は、いくつかの実施形態による、生体分子結合剤とコンジュゲートを形成する式 (I) のいくつかの遷移金属光触媒を示す。
図6図6Aは、いくつかの実施形態による本明細書に記載の近接性ベースの標識化のシステムおよび方法の作動を示す。図6Bは、いくつかの実施形態による、膜Gタンパク質共役受容体(GPCR)の同定および検証のための、本明細書に記載の近接性ベースの標識化のシステムおよび方法の作動を示す。
図7図7Aは、いくつかの実施形態による、光触媒によるジアジリン増感を介して生成されたカルベンによるタンパク質の標識化を示す。図7Bは、図7Aの反応スキームで使用されるIr光触媒を示す。
図8図8Aは、アガロースビーズ上のVEGFR2-FcまたはEGFR-Fcのコンジュゲート標的化近接性ベース標識化を示し、VEGFR2-FcまたはEGFR-Fcの空間的に選択的なタンパク質標識化を示している。図8Bは、HRP-二次抗体コンジュゲートによる、アガロースビーズ結合VEGFR2またはEGFRの一次抗体標的化標識化の非選択性を示す。
図9図9Aは、Jurkat細胞上のCD45標的化μマッピング(μMapping)および関連するウェスタンブロット分析を示す。図9Bは、Jurkat細胞上のCD45、CD29、またはCD47のμマッピングを示し、これは既知の(CD29:CD49D、CD45:CD45AP:CD2)および以前に知られていなかった相互作用因子の両方を含む、タンパク質のユニークなセットの濃縮をもたらす。図9Cは、最先端のペルオキシダーゼ近接性ベースの標識化方法からの結果を示し、そこでは、細胞表面CD45および付随タンパク質がCD29やCD47から分けられなかった。
図10図10Aは、いくつかの実施形態による、PD-L1微小環境をμマッピングするための本明細書に記載されるコンジュゲートおよびタンパク質標識化剤の使用を示す。図10Bは、いくつかの実施形態による、PD-L1微小環境のμ-マッピングから得られた収束的に濃縮されたタンパク質のストリング分析を示す。
【0011】
図11図11Aは、いくつかの実施形態による、シナプス内/シナプス外ターゲティングを介した、本明細書に記載される組成物および方法によるトランスまたはシス標識化を示す。図11Bは、いくつかの実施形態による、ペルオキシダーゼに基づく標的化標識と比較した、10分間光照射を用いた本明細書に記載のμマッピング組成物によるJY-PD-L1 B細胞上のPD-L1の抗体標的化のフローサイトメトリー分析である。図11Cは、いくつかの実施形態による、ペルオキシダーゼに基づく標的化標識と比較した、10分間光照射を用いた本明細書に記載のμマッピング組成物によるJurkat T細胞上のCD45ROの抗体標的化のフローサイトメトリー分析である。図11Dは、いくつかの実施形態による、非選択的なペルオキシダーゼに基づく標的化標識と比較した、本明細書に記載のμマッピング組成物による選択的標識を示す、2細胞系共焦点顕微鏡画像を提供する。
図12図12Aは、いくつかの実施形態による、二次抗体フラビンコンジュゲートを用いたビーズベースのタンパク質標識化を示す。図12Bは、いくつかの実施形態による、示された時点における光依存性CD45ビオチン化のウェスタンブロット分析である。図12Cは、いくつかの実施形態による、混合T細胞集団におけるCD45ROまたはCD45RA標的化細胞標識化の概略図である。図12Dは、いくつかの実施形態による、CD45RA+またはCD45RO+ T細胞ビオチン化の光標識化時間経過のフローサイトメトリー分析である。
図13図13Aは、いくつかの実施形態による、二次抗体フラビンコンジュゲート (AFC) によるJurkat細胞上のCD45の光近接性標識化を示す概略図である。図13Bは、図13AのJurkat細胞のCD45標的化標識化のウェスタンブロット分析である。図13Cは、CD45指向性標識化を伴う細胞の共焦点イメージングであり、ビオチン化が細胞表面に限定され、かつ光曝露時間依存性であることを示している。図13Dは、Jurkat細胞におけるCD45の標的化ビオチン化対アイソタイプ標的ビオチン化についての有意性対濃縮倍率のボルケーノプロットを提供する。
図14図14Aは、いくつかの実施形態による、二次抗体フラビンコンジュゲート (AFC) を用いたJY-PDL1細胞上のPDL1の光近接性標識化を示す概略図である。図14Bは、PDL1を発現するRaji細胞上のPDL1の標的化ビオチン化対アイソタイプ標的化ビオチン化についての有意性対濃縮倍率のボルケーノプロットを提供する。図14Cは、PDL1を発現するJYおよびRaji細胞上のPDL1標的標識化から同定された、有意に濃縮されたタンパク質のベン図である。図14Dは、既知のPDL1関連機能を有する、JYおよびRaji細胞上で標的化されたPDL1から同定された有意に濃縮されたタンパク質のリストである。図14Eは、PDL1標的化実験について有意に濃縮されたタンパク質のストリングタンパク質相互作用ネットワークおよびGOターム分析である。
図15図15Aは、いくつかの実施形態による、組換えJurkatおよびRaji細胞からなる2細胞システムを示す概略図である。図15Bはフローサイトメトリー分析であり、抗体フラビンコンジュゲート (AFC) を用いたPDL1ターゲティングではRaji細胞およびJurkat細胞の両方でビオチン化が検出されているが、アイソタイプターゲティングを用いた場合または可視光照射の非存在下では検出されていない。図15Cは、Raji細胞のPDL1標的化を伴うRaji-Jurkat二細胞系の共焦点顕微鏡撮像であり、AFCを用いて、Raji細胞と、Jurkat細胞上の細胞接触点との両方の標識化を明らかにしている。図15Dは、いくつかの実施形態による、組換えJurkatおよびRaji細胞からなる2細胞システムを示す概略図である。図15Eはフローサイトメトリー分析であり、Jurkat細胞上のCD45RO(シナプスから排除されることが知られている)のターゲティング標識化が、AFCを用いた場合には低いレベルのRaji細胞間標識化を、そしてHRPを用いた場合にはほぼ定量的標識化をもたらしている。
【0012】
図16図16は、いくつかの実施形態による、小分子に基づくコンジュゲートを用いた炭酸脱水酵素の選択的標識化のための、スルホンアミド-イリジウムコンジュゲートおよびビオチンタグ化ジアジリンを含む実験設定および結果を示す。
図17図17は、いくつかの実施形態に従って、リガンド-イリジウムコンジュゲートが、その選択性によってBSAよりもそれらの対応するタンパク質標的を標識化する能力を詳述する。
図18図18は、いくつかの実施形態に従って、本明細書に記載の近接性ベースの標識化組成物および方法を用いたタンパク質-タンパク質相互作用の同定を示す。
図19図19は、いくつかの実施形態に従って、本明細書に記載の近接性ベースの標識化組成物および方法を用いたタンパク質-タンパク質相互作用の同定を示す。
図20図20は、いくつかの実施形態に従って、本明細書に記載の近接性ベースの標識化組成物および方法を用いたタンパク質-タンパク質相互作用の同定を示す。
図21図21は、いくつかの実施形態による、A2aR-IrコンジュゲートおよびA2aR-ジアジリンコンジュゲートを示す。
図22図22は、ADORA2Aの3 log2倍率変化濃縮を示す、本明細書に記載の光触媒標識化方法、および、化学量論ジアジリン、ADORA2Aを使用した場合の統計学的濃縮の欠如を示す。
図23図23は、いくつかの実施形態によるhGPR40-IrコンジュゲートおよびDiaz-PEG3-Btを示す。
図24図24Aおよび24Bは、いくつかの実施形態による、本明細書に記載の組成物および方法によるhGPR40標識化のウェスタンブロット結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記述される実施形態は、以下の詳細な説明および実施例、ならびにそれらの前および後の説明を参照することによって、より容易に理解することができる。しかしながら、本明細書に記載される要素、装置および方法は、詳細な説明および実施例に提示される特定の実施形態に限定されない。これらの実施形態は、本発明の原理の単なる例示であることを認識すべきである。当業者には、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく多数の変更および適合が容易に明らかになるであろう。
【0014】
[定義]
本明細書において単独でまたは組み合わせて使用される「アルキル」という用語は、任意で1つ以上の置換基で置換された直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素基を指す。例えば、アルキルはC1~C30またはC1~C18であり得る。
【0015】
用語「アリール」は、本明細書において単独でまたは組み合わせて使用される場合、任意で1つ以上の環置換基で置換された芳香族単環式または多環式の環系を指す。
【0016】
本明細書で単独でまたは組み合わせて使用される用語「ヘテロアリール」は、環原子の1つ以上が炭素以外の元素、例えば窒素、ホウ素、酸素および/または硫黄である、芳香族単環式または多環式の環系を指す。
【0017】
本明細書で単独でまたは組み合わせて使用される用語「複素環」は、環系の1つ以上の原子が炭素以外の元素、例えばホウ素、窒素、酸素、および/または硫黄もしくはリンである単環系または多環系を指し、ここで環系は任意で1つ以上の環置換基で置換される。複素環系は、芳香族環および/または非芳香族環を含み得る。
【0018】
本明細書で単独でまたは組み合わせて使用される用語「アルコキシ」は、部分RO-を指し、ここでRは、上記で定義されたアルキル、アルケニル、またはアリールである。
【0019】
本明細書で単独でまたは組み合わせて使用される用語「ハロ」は、周期表のグループVIIAの元素(ハロゲン)を指す。化学的環境に応じて、ハロは中性または陰イオン状態にあり得る。
【0020】
本明細書で特に定義されていない用語は、当該技術分野における通常の意味が与えられる。
【0021】
[I.近接性ベースの標識化組成物]
細胞膜上のタンパク質-タンパク質相互作用を含め、様々な特徴を選択的に同定するように操作可能な微小環境マッピングプラットフォームを提供するための組成物が本明細書に記載される。いくつかの実施形態において、組成物は、触媒およびタンパク質標識化剤を含み、該触媒は、タンパク質標識化剤を反応性中間体へと活性化する。いくつかの実施形態において、触媒は、タンパク質標識化剤へのエネルギー移動を可能にして反応性中間体を形成するための電子構造を有することができる。いくつかの実施形態において、例えば、触媒は、タンパク質標識化剤とデクスターエネルギー移動を行う。いくつかの実施形態では、エネルギー移動は単一電子移動によって進行し得る。
【0022】
いくつかの実施形態において、タンパク質標識化剤へのエネルギー移動は、触媒電子構造の励起状態に起因し得る。触媒の励起状態は、例えば、一重項励起状態または三重項励起状態であり得る。触媒の励起状態は、触媒によるエネルギー吸収を含む、1つ以上の機序によって生成され得る。いくつかの実施態様において、触媒は光触媒であり、励起状態は、1以上の光子の吸収によって誘導される。他の実施形態では、触媒は、周囲環境における1つ以上の化学種との相互作用によって励起状態に置かれ得る。あるいは、電子移動を含む、タンパク質標識化剤へのエネルギー移動は、触媒電子構造の基底状態から生じ得る。
【0023】
電子移動を含む、タンパク質標識化剤へのエネルギー移動は、タンパク質標識化剤の反応性中間体を形成する。反応性中間体は、反応性中間体の拡散半径内のタンパク質または他の生体分子と反応または架橋する。タンパク質または他の生体分子が拡散半径内にない場合、反応性中間体は、周囲の水性または水性ベースの環境によってクエンチされる。反応性中間体の拡散半径は、特定の微小環境マッピング(近接性ベースの標識化)の考慮事項に合わせて調整することができ、ナノメートルスケールに制限することができる。いくつかの実施形態において、例えば、反応性中間体の拡散半径は、水性環境でのクエンチングの前において、10 nm未満、5 nm未満、4 nm未満、3 nm未満、または2 nm未満であり得る。したがって、反応性中間体は、拡散半径内でタンパク質または他の生体分子と反応または架橋するか、あるいはタンパク質または生体分子が存在しない場合には、水性環境によってクエンチされる。このようにして、触媒とタンパク質標識化剤との協調的努力によって、高分解能で局所環境をマッピングすることができる。さらに、いくつかの実施形態において、反応性中間体は、クエンチングに先立って5 ns未満、4 ns未満、または2 ns未満のt1/2を示すことができる。さらなる実施形態では、反応性中間体の半減期の延長を通じて、拡散半径を5~500 nmに延長することができる。
【0024】
エネルギー移動ならびに反応性中間体生成および付随するタンパク質または生体分子の結合のための前述の電子構造特性を示す任意の触媒-タンパク質標識化剤の組み合わせを、微小環境マッピングのために使用することができる。いくつかの実施態様において、触媒は、遷移金属錯体である。遷移金属錯体は、いくつかの実施形態において、タンパク質標識化剤へのエネルギー移動を促進する長寿命三重項励起状態(T1)を示し得る。T1状態は、例えば、0.2~2μsのt1/2を有し得る。本明細書に記載の遷移金属錯体は光触媒性であり得、いくつかの実施形態では、電磁スペクトルの可視領域の光を吸収する。電磁放射の吸収によって遷移金属錯体はS1状態に励起され、続いてT1状態に定量的項間交差する。遷移金属触媒は、その後、タンパク質標識化剤への短距離デクスターエネルギー移動を経て、基底状態S0に戻ることができる。標識化剤へのエネルギー移動は、タンパク質または他の生体分子との反応のために標識化剤を活性化する。一部の実施形態では、遷移金属錯体のT1状態は60 kcal/mol超であり得る。金属中心は、例えば、白金族の遷移金属から選択され得る。一部の実施形態では、金属中心はイリジウムであり得る。
【0025】
遷移金属錯体は、前述した励起およびタンパク質標識化剤へのエネルギー移動の原理に合致する任意の組成および構造を有することができる。いくつかの実施形態において、光触媒遷移金属錯体は六配位である。本明細書に記載される近接性ベースの標識化組成物の遷移金属光触媒は、いくつかの実施形態では、下記式 (I) で表されるものであり:
【化1】

式中、Mは遷移金属であり、
A、D、E、G、YおよびZは、CおよびNから独立して選択され、
R1~R6はそれぞれ1~4個の任意の環置換基を表し、前記1~4個の任意の環置換基のそれぞれは独立してアルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミン、アミド、エーテル、-C(O)O-、-C(O)OR7、および-R8OHからなる群から選択され、R7は水素およびアルキルからなる群から選択され、R8はアルキルであり、
X-は対イオンである。任意の置換基R1~R6が存在しない場合は、水素が、式 (I) のアリール環上の位置を占めることが理解される。いくつかの実施態様において、対イオン(X-)は、テトラアルキルボレート、テトラフルオロボレート、テトラフェニルボレート、PF6 -及び塩化物から選択され得る。いくつかの実施態様において、Mは、白金族の遷移金属から選択される。金属中心はイリジウムであってもよい。
【0026】
式 (I) の遷移金属錯体の配位子は、いくつかの実施形態において、1つ以上のピリジン部分を含み得る。いくつかの実施形態において、1以上の配位子は、ビピリジンまたはその誘導体を含む。遷移金属錯体の配位子は、下記表Iに提供される種からも選択され得る。
【0027】
表I―光触媒遷移金属錯体配位子
【表1】
【0028】
いくつかの実施態様において、式 (I) の光触媒遷移金属錯体は、[Ir(dF(CF3)ppy)2(dtbbpy)](PF6)、[Ir(dF(CF3)ppy)2(bpy)](PF6)、またはそれらの誘導体である。
【0029】
さらに、式 (I) の錯体を含め、本明細書に記載の光触媒遷移金属錯体の配位子は、水性または水性ベースの環境における遷移金属錯体の溶解性を高めるために、1つ以上の極性または親水性部分で修飾され得る。適切な部分は、限定されるものではないが、カルボキシル、ヒドロキシル、および/またはポリエチレングリコールなどのアルキレンオキシド部分を含み得る。
【0030】
本明細書にさらに記載するように、遷移金属錯体は、生体分子結合剤をカップリングするための反応性官能基を組み込むことができる。いくつかの実施形態において例えば、式 (I) の遷移金属光触媒を含め、遷移金属触媒は、BCN(ビシクロノニン、ビシクロ[6.1.0]ノニン)、DBCO(ジベンゾ-ビシクロ-オクチン)、TCO(trans-シクロオクテン)、テトラジン、アルキン、およびアジドを含むがこれらに限定されない、1つ以上のクリックケミストリー部分を含み得る。
【0031】
反応性中間体を生成するタンパク質標識化剤へのエネルギー移動のために操作可能な触媒は、いくつかの実施形態において、非遷移金属触媒を含み得る。本明細書に記載される近接性に基づく標識化の化合物および方法において使用するための種々の有機触媒は、いくつかの実施形態において、チオキサントン、フェノチアジン、フラビン、フェノキサジン、ベンゾフェノチアジン、クマリン、アセトフェノン、またはベンゾフェノン基を含むことができる。場合によっては、有機触媒は、トリアリールメタン基、ローズベンガル、ポルフィリン、クロリン、バクテリオクロリン、メチレンブルー、アクリジン染料、キサンテン染料、またはアリールメタン染料を含む。非遷移金属有機触媒は、本明細書に記載される遷移金属錯体の電子構造および/または他の特性を有することができ、それはタンパク質標識化剤へのエネルギー移動のための一重項および/または三重項励起状態を含む。有機触媒からタンパク質標識化剤へのエネルギー移動は、例えばデクスターエネルギー移動または単一電子移動など、本明細書に記載の任意の機序を介して起こり得る。いくつかの実施態様において、有機触媒は光触媒であり、タンパク質標識化剤へのエネルギー移動のための励起状態は、有機触媒による1以上の光子の吸収によって生成される。例えば、有機触媒は、電磁スペクトルの可視領域における光を吸収し得る。
【0032】
タンパク質標識化剤は、触媒からエネルギー移動を受けて反応性中間体を形成する。反応性中間体は、反応性中間体の拡散半径内のタンパク質または他の生体分子と反応または架橋する。反応性中間体の拡散半径は上記の通りである。タンパク質標識化剤の具体的なアイデンティティーは、触媒のアイデンティティー、形成される反応性中間体の性質、反応性中間体の寿命および拡散半径を含む、いくつかの考察点に応じて選択することができる。
【0033】
例えば、触媒が遷移金属光触媒である実施形態において、タンパク質標識化剤は、ジアジリン(diazirine)であり得る。励起状態光触媒からの三重項エネルギー移動は、ジアジリンをその三重項(T1)状態へと促進させることができる。ジアジリン三重項はN2の脱離を受けて遊離三重項カルベンを放出し、このカルベンがピコ秒時間スケールのスピン平衡を経て反応性の一重項状態に達し(t1/2<1 ns)、これが近傍のタンパク質と架橋するか、または水性環境中でクエンチされる。図1は、本明細書に記載されるいくつかの実施形態による、式 (I) のイリジウム光触媒とジアジリンタンパク質標識化剤との間のエネルギー移動を示す。特に、遷移金属触媒の励起状態を生成するために使用される電磁放射は、ジアジリンを反応性カルベンに活性化しない。いくつかの実施態様において、遷移金属錯体の消散係数(extinction coefficient)は、ジアジリンのものよりも3~5桁大きい。
【0034】
図1の反応機序を含め、本明細書で論じられる技術的原理と合致する任意のジアジリンを使用することができる。例えば、ジアジリン増感は、遊離カルボン酸、フェノール、アミン、アルキン、炭水化物、およびビオチン基を含む、顕微鏡およびプロテオミクスのアプリケーションのための有用なペイロードを有する種々のp-およびm-置換アリールトリフルオロメチルジアジリンに拡張することができる。図2は、いくつかの実施形態による、タンパク質または他の生体分子の標識化のための、遷移金属光触媒からのエネルギー移動を介して反応性中間体を形成するように操作可能な種々のジアジリンを示す。図2に示すように、ジアジリンは、ビオチンなどのマーカーで官能化することができる。ある実施形態において、マーカーは、デスチオビオチンである。マーカーは、タンパク質標識化剤によって標識されたタンパク質の同定を助けることができる。マーカーは、例えば、ウェスタンブロットおよび/または他の分析技術を介したアッセイ結果において有用となり得る。マーカーには、ビオチンおよびデスチオビオチンに加えて、アルキン、アジド、FLAGタグ、フルオロフォアおよびクロロアルカン官能性が含まれ得る。
【0035】
触媒が遷移金属光触媒であるいくつかの実施形態において、タンパク質標識化剤はアジドであり得る。励起状態光触媒からの三重項エネルギー移動はアジドからのニトレン形成を促進できる。反応性のニトレンは、近傍のタンパク質と架橋するか、または水性環境中でクエンチされる。ニトレン形成のために遷移金属光触媒によるエネルギー移動を受けるように操作可能な任意のアジドを使用することができる。ある実施形態において、アジドはアリールアジドである。
【0036】
触媒が有機触媒であるいくつかの実施形態において、タンパク質標識化剤は、有機触媒から単一電子移動を受けるための1つ以上の部分を含み得る。タンパク質標識化剤への単一電子移動は、有機触媒の局所環境においてタンパク質と反応するために本明細書に記載の拡散半径および/または寿命を有する反応性ラジカルを生成することができる。例えば、有機触媒は、フラビン光触媒であり得る。励起されたフラビン光触媒は、フェノール部分と単一電子移動を経て、反応性フェノキシラジカルを生成することができる。図3は、いくつかの実施形態によるフラビンベースのタンパク質標識化のための反応機序を示す。図3に示すように、フェノール性タンパク質標識化剤は、そのタンパク質標識化剤によって標識されたタンパク質の同定を補助するためのタグ(Tag)またはマーカーで官能化される。
【0037】
[II.コンジュゲート]
別の態様では、近接性に基づく標識化のためのコンジュゲート(複合体)が本明細書に記載される。コンジュゲートは、生体分子結合剤に結合された触媒を含む。生体分子結合剤に連結された触媒は、上記セクションIに詳述された遷移金属触媒および有機触媒を含め、本明細書に記載されたいずれかの触媒を含み得る。さらに、生体分子結合剤は、いくつかの実施形態において、タンパク質、多糖類、核酸、または脂質を含み得る。場合によっては、生体分子結合剤は、タンパク質、多糖類、核酸、または脂質を含む多価ディスプレイ系を含み得る。ある実施形態において、生体分子結合剤は、標的タンパク質に対する特異的結合親和性を有する小分子リガンドであり得る。生体分子結合剤を用いて、近接性標識化および関連分析のために所望の細胞外環境に触媒を位置付けることができる。従って、生体分子結合剤の具体的なアイデンティティーは、近接性ベースの標識化プロセスにおける触媒の配置のための所望の標的部位の化学的および/または立体的要件に応じて選択され得る。あらゆる生体分子標的部位が選択され得、標的部位は本開示において限定されない。ある実施形態において、標的部位は、タンパク質-タンパク質相互作用を研究するためのタンパク質であり得、それは細胞膜受容体との相互作用を含む。いくつかの実施形態において、例えば、生体分子結合剤は、所望の抗原に結合した一次抗体と相互作用するための二次抗体などの、抗体である。他の実施形態において、生体分子結合剤は、Gタンパク質共役受容体などの細胞膜のタンパク質受容体に対する特異性を有するリガンドである。
【0038】
生体分子結合剤は、触媒に結合され得る。いくつかの実施形態において、触媒は、生体分子結合剤をカップリングするための反応性ハンドルまたは官能基を含む。いくつかの実施形態において、例えば、触媒は、BCN、DBCO、TCO、テトラジン、アルキンおよびアジドを含むがこれらに限定されない、1つ以上のクリックケミストリー部分を含み得る。図4は、生体分子結合剤をカップリングするための反応性官能性を有する式 (I) の種々の遷移金属光触媒を示す。図4に示すように、反応性官能基と配位リガンドとの間に様々な長さのアルキレンオキシドリンカーを使用することができる。エチレンオキシドのようなアルキレンオキシドリンカーの長さは、標的部位の立体条件を含むいくつかの考慮点に従って選択することができる。図5は、いくつかの実施形態による、生体分子結合剤とコンジュゲートを形成する式 (I) のいくつかの遷移金属光触媒を示す。
【0039】
[III.近接性ベースの標識化のためのシステム]
別の態様では、近接性ベースの標識化のためのシステムが本明細書に記載される。システムは、例えば、生体分子結合剤に結合された触媒と、タンパク質に結合するために触媒によって活性化されるタンパク質標識化剤とを含むコンジュゲートを含む。コンジュゲートは、上記セクションIIに詳述される実施形態を含め、本明細書に記載されるいずれかの触媒と生体分子結合剤とを含むことができる。例えば、触媒は、エネルギー移動を介してタンパク質標識化剤を反応性中間体へと活性化するための電子構造を有し得る。さらに、タンパク質標識化剤は、上記セクションIに記載のタンパク質標識化剤を含め、本明細書に記載の標識化剤のいずれかを含み得る。コンジュゲートおよび関連するタンパク質標識化剤の具体的なアイデンティティーは、近接性ベースの標識システムでマッピングされるべき生物学的環境の化学的性質および/または立体的要件などのいくつかの考慮事項に応じて選択することができる。
【0040】
本明細書に記載される近接性ベースの標識化のためのシステムは、様々な用途に使用することができる。いくつかの実施形態において、システムは、コンジュゲートおよび関連タンパク質標識化剤がプロテオミクスにより生物学的コンテクストにおける1つ以上の分子を同定することを可能にする、標的化同定を実現にする。さらに、コンジュゲートおよびタンパク質標識化剤を含むシステムは、インタラクトーム(interactome)マッピングを促進する。コンジュゲートおよびタンパク質標識化剤を標的指向化することは、プロテオミクスにより生物学的文脈における1つ以上の分子および隣接する相互作用因子を検出および同定することを可能とする。本明細書に記載のシステムによるそのような分子の同定は、そのような分子および隣接する相互作用因子の濃縮および/または精製を可能にすることができる。それに加えて、コンジュゲートおよびタンパク質標識化剤を含むシステムは、顕微鏡を介して、生物学的文脈における1つ以上の分子の検出および同定をさらに可能にする。
【0041】
[IV―近接性ベースの標識化の方法]
別の態様では、近接性に基づく標識化の方法が本明細書に記載される。近接性ベースの標識化方法は、生体分子結合剤に連結された触媒を含むコンジュゲートを提供して、その触媒によりタンパク質標識化剤を反応性中間体へと活性化することと、反応性中間体をタンパク質に結合させることとを含む。コンジュゲートは、上記セクションIIに詳述される実施形態を含め、本明細書に記載されるいずれかの触媒および生体分子結合剤を含むことができる。さらに、タンパク質標識化剤は、上記セクションIに記載のタンパク質標識化剤を含め、本明細書に記載の標識化剤のいずれかを含むことができる。コンジュゲートおよび関連タンパク質標識化剤の具体的なアイデンティティーは、近接性ベースの標識化システムでマッピングされるべき生物学的環境の化学的性質および/または立体的要件などのいくつかの考慮事項に応じて選択することができる。近接性に基づく標識化のいくつかの実施形態において、触媒は、生体分子結合剤の非存在下で提供され得る。
【0042】
本明細書に記載される方法は、細胞膜の局所領域および/または局所細胞外環境を含め、様々な生物学的環境をマッピングするために利用され得る。触媒と生体分子結合剤とを含むコンジュゲートは、細胞膜の特定の局所領域(例えば、対象となる受容体)に標的指向化することができる。タンパク質標識化剤の活性化は、標的局所領域におけるタンパク質(複数可)および/または他の分子を同定することができる。特筆すべきことに、活性化されたタンパク質標識化剤は、標的化された細胞領域と接触している別の細胞に付随する分子を同定または標識することもできる。したがって、本明細書に記載するシステムおよび方法により、細胞間相互作用および細胞間環境を解明しマッピングすることができる。上述の方法は、インタラクトームマッピングを可能にし、そしてプロテオミクスによって生物学的文脈における1つまたは複数の分子および隣接する相互作用因子の同定を可能にする。本明細書に記載の方法によるそのような分子の同定は、そのような分子および隣接する相互作用因子の濃縮および/または精製を可能にすることができる。
【0043】
図6Aは、いくつかの実施形態に従った、本明細書に記載される近接性ベースの標識化のシステムおよび方法の動作を示す。図6Aに示されるように、光触媒および抗体を含むコンジュゲートが、細胞膜の特定の局所領域を標的化する。光触媒が照射されて励起状態は生成した後、ジアジリンタンパク質標識化剤にエネルギー移動が起こる。ジアジリンタンパク質標識化剤は、分析における同定目的のためのタグを含む。エネルギー移動は、タンパク質標識化剤を反応性カルベンへと活性化する。反応性カルベンは、本明細書に記載されるように、緊密な拡散半径内でタンパク質および/または他の生体分子に結合する。光触媒の活性化またはエネルギー移動半径の外のジアジリン標識化剤は活性化されない。さらに、反応性カルベンの拡散半径外のタンパク質および/または他の生体分子は標識されない。このようにして、高分解能近接性ベース標識化を達成することができる。
【0044】
図6Bは、いくつかの実施形態による、膜Gタンパク質共役受容体 (GPCR) の同定および検証についての、本明細書に記載の近接性ベース標識化のシステムおよび方法の動作を示す。図6Bに提供されるように、コンジュゲートは、GPCRに対する特異性を有する生体分子結合剤にカップリングされた光触媒を含む。コンジュゲートはGPCRの局所部位に結合する。光触媒に青色光を照射して励起状態を提供した後、ジアジリンタンパク質標識化剤にエネルギー移動が起こる。ジアジリンタンパク質標識化剤は、分析における同定目的のための親和性ハンドルまたはタグを含む。このエネルギー移動が、タンパク質標識化剤を反応性カルベンへと活性化する。反応性カルベンは、本明細書に記載されるように、緊密な拡散半径内でタンパク質および/または他の生体分子に結合する。局所的GPCR部位で複数の標識化事象が起こることができ、シグナル増幅につながる。
【0045】
これらおよび他の実施形態は、以下の非限定的な実施例によってさらに例示される。
【実施例
【0046】
実施例1―タンパク質標識化のための光触媒ジアジリン増感
光触媒ジアジリン増感を介して生成されたカルベンがタンパク質を標識できることが実証された。図7 Aに示すように、光触媒3をDPBS中でジアジリン4およびBSAと組み合わせて、100μLの総溶液体積および所望の成分濃度を有する反応混合物を得た。光触媒3は図7Bに示され、表Iはサンプル条件を要約している。次いでこれらの試料は、暗所に置かれるか、UV (375 nm) 光を照射されるか、またはバイオフォトリアクター中で可視 (450 nm) 光を100%の強度で10分間照射された。次いで、30μLの試料を取り出し、4×還元性Laemmliサンプルバッファー(5%β-メルカプトエタノール)10μLと合わせ、ボルテックスし、95℃で10分間加熱した。次いで、各試料10μLをウェスタンブロットによって分析した。
【0047】
表I.サンプル条件
【表2】
【0048】
サンプル2についてはBSAのビオチン化が検出された。BSAとビオチン化ジアジリンプローブの溶液が450 nm光で照射された場合(サンプル3)、ビオチン化の程度は0.5%未満であり、この波長ではジアジリンのバックグラウンドシグナルは最小限であることが確立された。しかしながら、水溶性光触媒3の存在下では、BSAの触媒依存性ビオチン化が観察された。BSAの光触媒標識化は、インタクトタンパク質の質量分析によりさらに確認された。従来の酵素ベースの標識方法とは異なり、このアプローチは、タンパク質標識化のために光触媒3を介したジアジリン感作を維持するために、可視光の連続的送達を要する。この特徴を利用して、図7Aに示すように、光源をオンまたはオフにすることによって如何に標識化プロセスに対する微細な時間的コントロールが得られるかを実証した。
【0049】
実施例2―抗体-光触媒コンジュゲートおよびそれを用いた近接性ベースの標識化
細胞表面上で空間的に標的化された光触媒近接性標識化のための一般的なエントリーポイントとして、二次抗体-光触媒コンジュゲートを調製した。ヤギ抗マウス(Gt/α‐Ms)抗体を、最初にアジド酪酸N‐ヒドロキシスクシンイミドエステルとの反応を介してアジド基で修飾し、次いでクリックケミストリーを介してアルキン含有イリジウム触媒に結合させ、1:6の抗体‐光触媒比を得た。イリジウム触媒は、図7Bに示すイリジウム錯体3である。
【0050】
次に、表面上でタンパク質標的化ラベリングに取り組むために、α-ヒト免疫グロブリン-G(IgG)アガロースビーズに結合したヒトFcタグ化の血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)タンパク質と上皮成長因子受容体(EGFR)タンパク質とを含むモデル系を調製した(図8A)。これらのビーズを、20 a Ms/α-VEGFR2抗体およびIr-Gt/α-Msと順次インキュベートして、イリジウム触媒をビーズ表面上のVEGFR2タンパク質に近接させた。ジアジリン-ビオチンプローブの存在下でこれらのビーズを450 nm光で照射すると、EGFRよりもVEGFR2を選択的に標識化することが得られた。Ms/α‐EGFRを一次抗体(1°Ab)として用いた場合には、標識化の選択性は逆転した。図8Bに示されるように、ペルオキシダーゼに基づく標識化を用いた類似の実験では、EGFRまたはVEGFR2を区別することができなかったことに留意することが重要である。
【0051】
実施例3―細胞膜上の微小環境マッピング
抗体標的化光触媒ジアジリン活性化(すなわちμマップ(μMap))を生細胞の表面に適用した。これらの実験のために、細胞表面5への抗体の添加は、抗体媒介タンパク質架橋を制限するために4℃で維持された。抗原受容体シグナル伝達に関与するT細胞表面上の非常に豊富なチロシンホスファターゼであるCD45を最初の標的として選択した。Jurkat細胞上のCD45標的化μマップのウェスタンブロット分析は、アイソタイプ(isotype)標的化コントロールと比較して、光および時間依存性のタンパク質ビオチン化を示した(図9A)。次に、ストレプトアビジン濃縮化タンパク質のタンデムマスタグ(TMT)に基づく定量的プロテオーム解析を用いて、CD45と2つの既知結合体(CD45APおよびCD2)を、富化された細胞膜タンパク質のより広いサブセットの一部として同定した(図9B)。
【0052】
細胞表面標識の概念実証を得たところで、同じ細胞膜上の空間的に分離した微小環境をμマップが区別できるかどうかを検討した。この目的のために、細胞表面上で既知の空間共有的会合を持たない理想的な標的としてCD29とCD47を選択した。実際、Jurkat細胞上のCD45、CD29、またはCD47のμマッピングは、既知の相互作用体(CD29:CD49D、CD45:CD45AP:CD2)および以前には知られていなかった相互作用体の両方を含むユニークなタンパク質セットの富化をもたらした(図9 B)。重要なのことに、いくつかのタンパク質が標的タンパク質のペア間で共有されていたが、3つすべてのタンパク質で共有されていたものはなく、関係していない微小環境同士を識別するμマップの能力が実証された。対照的に、最新技術のペルオキシダーゼに基づく近接性標識法を用いる場合、細胞表面CD45および関連タンパク質は、CD29またはCD47から選択的に分離されなかった(図9C)。
【0053】
実施例4―細胞膜上の微小環境マッピング
本明細書に記載した組成物および方法の選択性は、B細胞においてPD-L1の近接性タンパク質インタラクトームを調べるためにも利用された。十分に確立されているように、PD-L1は、T細胞活性の抑制を介して腫瘍進行を加速し得る免疫チェックポイントリガンドとして、癌細胞において重要な役割を果たす。この事象において、PD-L1標的としたμマップは、腫瘍壊死因子受容体ファミリーの一員であるCD30および免疫抑制受容体5であるCD300Aが(図10A)、有意な濃縮に基づいて、新規相互作用因子である可能性があることを明らかにした。これらの結果は、チェックポイントタンパク質の微小環境に関する新しい洞察を提供するμマッピングの可能性を強調する。
【0054】
PD-L1μマッピングによって同定されたタンパク質の濃縮されたサブセットをさらに検証するために、これら二つの高度に濃縮されたタンパク質の10の標的化標識を実施した。したがって、PD-L1微小環境内のこれらのタンパク質の標的化μマッピングは、同様の濃縮リストを提供して、それらの空間的関連性を検証するはずである。実際、α-CD30、α-CD300A、およびα-PD-L1の誘導によるμマッピングは、同じセットの12個の表面受容体を同定した(図10B)。
【0055】
実施例5―二細胞システム内のシナプス内/シナプス外μマッピング
新しい腫瘍治療戦略の開発には、特にT細胞の活性化と分化の文脈において、細胞間コミュニケーションの基礎となる機序の理解が必要となることはよく認識されている。さらに、PD-L1の局在がT細胞/抗原提示細胞(APC)免疫シナプス内で(すなわち、2つの免疫相互作用性細胞の間のインターフェースにおいて)見出されることを考慮すると、本明細書に記載される複合体および方法を用いたPD-L1指向性μマッピングは、PD-L1発現APC表面のビオチン化(シス標識化)だけでなく、隣接するシナプスT細胞のビオチン化(トランス標識化)ももたらすはずだと仮定された(図11A)。さらに、重要なコントロール実験として、CD45ROのようなシナプスから排除されたタンパク質を標的とする場合には、拡散半径が最小化されたμマップは、離れたトランスの細胞膜のビオチン化を妨げるであろうと仮定された。
【0056】
抗原提示細胞としてのPD-L1発現性のJY-Bリンパ球と、PD-1およびCD45ROアイソフォームを特異的に発現するJurkat Tリンパ球とから構成される2細胞系において、PD-L1およびCD45を標的とするμマッピングを評価した。免疫細胞-APC相互作用は複数の受容体タイプ(例えば、接着性、共刺激/共抑制性、およびT細胞受容体(TCR)-主要組織適合複合体(MHC)5)の結合によって駆動されることを考慮して、MHCクラスIIとTCRの係合を促進させB細胞/T細胞の免疫シナプス形成およびシグナル伝達を促進させるためにブドウ球菌エンテロトキシンD(SED)を使用した(図11A)。青色光照射に基づくμマッププロトコールの適用後、シス/トランス標識選択性の程度をフローサイトメトリー分析を介してアッセイした。予想された通り、PD-L1標的化μマップは、シスおよびトランス細胞標識の両方をもたらしたが、CD45RO標的化μマップは、隣接するB細胞のいかなる標識化も伴わずに、CD45RO発現性Jurkat細胞上での選択的シス標識化をもたらした(図11Bおよび11C)。μマップとは明らかに対照的に、この二細胞系内のPD-L1またはCD45ROの、ペルオキシダーゼに基づく近接性標識は、30秒間以内に両方の細胞型の完全な標識化をもたらし、これはフローサイトメトリーおよび共焦点顕微鏡によって明らかに可視化された(図11B、11Cおよび11D)。対照的に、PD-L1標的化μマップは、シスおよびトランスの細胞接触領域におけるのみのトランス標識化に対して高い選択性を示した(図11D)。重要なことに、Jurkat-JY共培養系におけるPD-1へのμマップ技術の適用は、シスおよびトランス細胞標識化の逆方向の傾向をもたらした。まとめると、これらの知見は、タンパク質-タンパク質相互作用を解明するためのμマップの能力が、複雑な多細胞系内の動的インターフェースの高度に選択的な標識化に直接応用され得ることを明確に示している。
【0057】
実施例6―抗体-光触媒(photocatalyst)コンジュゲートおよびそれを用いた近接性ベースの標識化
フェノール系タンパク質標識化剤と組み合わされたフラビン光触媒を含むコンジュゲートを、本明細書に記載する近接性ベースの標識化組成物および方法において使用することができる。図12Aは、CD45-FcまたはPDL1-Fc融合タンパク質が同じビーズ上に結合され、次いで一次抗体および二次抗体フラビンコンジュゲート(AFC)に結合された、ビーズベースのタンパク質標識化を示す。次に、ビオチンフェノールおよび可視光の存在下でCD45またはPDL1を標識化する。図12Bは、示された時点についての光依存性CD45ビオチン化のウェスタンブロット分析である。
【0058】
図12Cは、混合T細胞集団におけるAFCを用いたCD45ROまたはCD45RA標的化細胞標識の概略図である。図12Dは、アイソタイプ (上) 、α-CD45RA+AFC (中) 、およびα-CD45RO+AFC (下) を用いたCD45RA+またはCD45RO+ T細胞のビオチン化の光標識化時間経過のフローサイトメトリー分析である。
【0059】
実施例7―細胞膜上の微小環境マッピング
図13Aは、二次抗体フラビンコンジュゲート(AFC)を用いたJurkat細胞上のCD45の近接性光標識化を示す概略図である。図13Bは、Jurkat細胞のCD45標的標識化のウェスタンブロット分析である。ビオチン化レベルは、CD45指向性標識化では可視光照射時間の関数として増加したが、アイソタイプ対照では増加しなかった。図13Cは、CD45指向性標識を有する細胞の共焦点イメージングであり、ビオチン化(マゼンタ染色)が細胞表面に限定され且つ光曝露時間に依存することを示す。核はHoechst染色で標識され、スケールバーは5 mmを示す。図13Dは、2分間の青色光照射、収穫、ストレプトアビジンビーズ上での捕獲、および定量的質量分析ベースのプロテオミクス分析に従った、Jurkat細胞におけるCD45の標的化ビオチン化対アイソタイプ標的化ビオチン化の有意性対濃縮倍率のボルケーノプロットを提供する。有意に濃縮されたタンパク質(FDRで補正されたp値が0.05未満であり、アイソタイプ標的化対照を超えた濃縮倍率が2.5(1.32 log2倍変化)超であるもの)は青色の点で示され、この濃縮されたグループ内の既知のCD45会合体はオレンジ色の点で示され、CD45は赤色の点で示される(n=3実験)。
【0060】
実施例8―細胞膜上の微小環境マッピング
図14Aは、二次抗体フラビンコンジュゲート(AFC)を用いた、JY-PDL1細胞上のPDL1の近接性光標識化を示す概略図である。図14Bは、2分間の青色光照射、収穫、ストレプトアビジンビーズ上での捕獲、および定量的質量分析ベースのプロテオミクス分析に従った、PDL1発現性Raji細胞上のPDL1の標的化ビオチン化対アイソタイプ標的化ビオチン化についての有意性対濃縮倍率のボルケーノプロットを提供する。有意に濃縮されたタンパク質(FDRで補正されたp値が0.05未満であり、アイソタイプ標的化対照を超えた濃縮倍率が2.5(1.32 log2倍変化)超であるもの)はオレンジ色または青色の点として示され、PDL1は赤色の点で示される(n=3の実験)。図14Cは、PDL1を発現するJYおよびRaji細胞上のPDL1標的標識化から同定された有意に濃縮されたタンパク質のVenn図である。両方の細胞型で同定されたタンパク質を中央に示す。図14Dは、既知のPDL1関連機能を有する、JYおよびRaji細胞で標的化されたPDL1から同定された有意に濃縮されたタンパク質のリストである。図14Eは、PDL1標的化実験についての有意に濃縮されたタンパク質のストリングタンパク質相互作用ネットワークおよびGOターム分析である。陰影は、広範な遺伝子オントロジー(生物学的プロセス)用語の中での属性を示す。複数の陰影トーンを持つノードは、複数のタームにおける属性を示します。太いエッジはStringDBからの相互作用の実験的証拠を示し、細いエッジは他のソースからの相互作用を示す。
【0061】
実施例9―二細胞システム内のシナプス内/シナプス外μマッピング
図15 Aは、組換えJurkatおよびRaji細胞からなる2細胞系を示す概略図である。PDL1に対する光触媒 (PC) またはペルオキシダーゼ (HRP) による抗体標的標識化が図示されている。図15Bはフローサイトメトリー分析であり、そこでは、抗体フラビンコンジュゲート (AFC) を用いたPDL1標的化でRaji細胞およびJurkat細胞の両方においてビオチン化が検出されているが、アイソタイプ標的化、または可視光照射の非存在下では検出されていない。PDL1標識化Raji細胞と懸濁A375細胞の間では、細胞間の標識化は観察されなかった。図15Cは、Raji細胞上のPDL1標的化を伴うRaji-Jurkat二細胞系の共焦点顕微鏡撮像であり、AFCが用いられると、Raji細胞とJurkat細胞上の細胞接触点との両方での標識を見せている一方、HRPでは、両方の細胞型で過剰な標識が観察された(白い矢印で示される)。ビオチン化、CD3表面発現、および核について細胞を画像化した。図15Dは、組換えJurkatおよびRaji細胞からなる2細胞系を示す概略図である。CD45に対する光触媒 (PC) またはペルオキシダーゼ (HRP) による抗体標的標識化が図示されている。図15Eはフローサイトメトリー分析であり、Jurkat細胞上のCD45RO(シナプスから排除されることが知られている)の標的標識化が、AFCを用いると低いレベルのRaji細胞間標識という結果になり、HRPを用いた場合には、ほぼ定量的な標識化という結果をもたらした。
【0062】
実施例10―小分子ベースのコンジュゲートを用いた選択的タンパク質標識化
小分子イリジウムコンジュゲートが特定のタンパク質に向けて直接標識化をする能力をまず確認するために、単純な2タンパク質生化学アッセイを設計した。標的タンパク質であるカルボニックアンヒドラーゼ(CA)と、競合タンパク質としてのウシ血清アルブミン(BSA)の等モル比を選択した。この仮説に従うと、ビオチンタグ化ジアジリンおよびスルホンアミド-イリジウムコンジュゲートの存在下での該混合物の照射は、BSAではなくCAの選択的標識化をもたらすであろう。ストレプトアビジンを用いたイムノブロットによる標識比の分析は、反応効率および選択性の両方の指標を提供するであろう。イリジウム触媒がリガンド結合に及ぼし得る影響を認識して、触媒-リガンドコンジュゲートは、2つの成分を空間的に分離するためにPEG3(トリエチレングリコール)リンカーと共に調製した。喜ばしいことに、ビオチン-ペグ3-ジアジリンの存在下で10分間450 nm光での照射後、3.5:1で標的タンパク質CAの方に偏った標識化が観察された。図16は、スルホンアミド-イリジウムコンジュゲートおよびビオチンタグ化ジアジリンを含む実験の構成および結果を示す。
【0063】
対照的に、非コンジュゲートの光触媒の存在下で標識化を行うと、CAよりもBSAの方が5:1の比で選択的にビオチン化された。まとめると、これは、Ir-リガンドコンジュゲートを用いた場合の標識化選択性の3倍の増加を含み、標的IDのためのこのアプローチの信頼性を提供している。重要なことに、この選択性は、過剰の非コンジュゲート化スルホンアミドリガンドを伴わせて標的化実験を実施した場合には完全に除去され、観察された選択性はリガンドタンパク質結合事象の結果であったことが確認された。さらに、HEK 293T細胞溶解物中で標識化を行った場合にもCAの有意な濃縮が見出され、この方法論が生物学的設定のうち最も複雑なものとも適合することが検証された。
【0064】
実施例11―小分子ベースのコンジュゲートを用いた選択的タンパク質標識化
タンパク質のリガンド指向性標的化同定に関するプラットフォームとしての、小分子ベースの触媒コンジュゲートの一般性をさらに検討した。図4のイリジウムアルキンと一連のリガンド-アジドコンジュゲートとの間の銅触媒アジド-アルキンクリック反応 (CuAAC) を用いて、操作的に簡易な態様で、小分子-イリジウムコンジュゲートが容易に調製され得る。リガンド-イリジウムコンジュゲートがその対応するタンパク質標的を標識する能力を、図17に示されるように、BSAと対比されるそれらの選択性によって決定した。Brutonチロシンキナーゼ(BTK、5 nM)へのナノモーラー結合を示す、骨髄性白血病用に市販された治療薬であるダサチニブ(Dasatinib)を、最初に検討した。対応するダサチニブ‐Irコンジュゲートは、ウェスタンブロット法により対照レーンと比較して、BSAよりもBTKに偏って標識化の12倍増加をもたらした。ブロモドメイン阻害剤JQ-114(BRD4への50 nM結合)も、標識を指向化することにおいて同様に効果的であり、BSAに対してBRD4標識化の6倍増加を提供した。次に、それほど強力ではない結合剤である多発性骨髄腫治療薬レナリドミド(Lenalidomide)について調べたが、レナリドミドはセレブロン(CRBN:cereblon)タンパク質と分子接着剤として作用するものである。このリガンドは、より低い結合親和性を示すが(178 nM)、本明細書に記載される光触媒標的化ID手法を誘導することにおいて同等に有効であると判明し、オフコンピート対照に対して3倍の変化をもたらした。総合すると、これらのデータは、この標識化プラットフォームの触媒的性質によってもたらされるシグナルの増幅が、より弱い親和性リガンドを用いたPALの従来からの課題を克服できることを示唆している。さらに、標識化の選択性が照射時間の延長と共に増加され得ることが見出され、これは我々の触媒的標識化仮説をさらに支持している。
【0065】
小分子に加えて他の標的化様式が、本明細書に記載される触媒標識化技術と適合するかを確立することも求めた。E3リガーゼMDM2を標的とするα-ヘリックスステープル化環状ペプチドであるATSP7041は、修飾アジドリジンを介して光触媒に容易にコンジュゲート化できた。図17に提供されるように、遊離光触媒対照と比較して、標的タンパク質の有意な濃縮(3倍)が観察された。D-フェニルアラニンを有する、対応する不活性環状ペプチドの合成は、BSAよりMDM2の方を選択する標識化をもたらさず、このことは、該相互作用が基質特異的であって、バックグラウンド親和性に基づいているのではないことをあらためて確証している。
【0066】
実施例12―小分子タンパク質-タンパク質相互作用(PPI:Protein-Protein Interaction)の調査
PPIは細胞機能に必須であり、小分子薬物発見のための標的としてチャレンジングなクラスを構成する。このチャレンジは部分的には、これらの相互作用の一過性の性質から生じるものであり、このことがそれらを生化学的に検出することを難しくする。しかしながら、多くの顕著な小分子リガンドが、タンパク質複合体に、または動的複合体を介して機能するタンパク質に結合することが知られている。したがって、タンパク質複合体の成分を効果的に識別できる方法は、PPIの研究のための重要なツールとなる。初めに、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)に結合する小分子であるAT7519の研究に取り組んだ。CDK2はサイクリンAタンパク質とPPIを形成し、それが細胞周期の調節に寄与することはよく知られている。図18に示されるように、組換えサイクリンA、CDK2、および(対照としての)BSAへのIrコンジュゲートAT7519の曝露は、BSA対照と比べてCDK2(5倍)およびサイクリンA(2倍)の両方の有意な濃縮を示し、さもなければ調べることが困難であろう一過性相互作用を捕捉するこの方法論の能力を例示した。
【0067】
次に、ラパマイシンがFKBP12をmTOR複合体に動員して免疫応答の抑制をもたらす、ラパマイシン/mTOR軸の探索に着手した。注目すべきことに、図19に示されるように、ペンダントIr触媒によって引き起こされる結合効率の妨害にもかかわらず、照射に際して、両方のタンパク質が対照と比較して濃縮された(FKBP12:2倍、mTOR:12倍)。
【0068】
実施例13―タンパク質-タンパク質相互作用(PPI)の調査
ウェスタンブロット法とMS2分析の組合せを介して、本明細書に記載されたコンジュゲートおよび標識剤を用いたμマッププラットフォームの緊密な標識化を、リガンド結合部位を同定することのために利用できるかどうかを問うた。これを最もよく調べるために、マクロライドであるタクロリムスに結合する3タンパク質複合体カルシニューリンA/FKBP12/カルシニューリンBを選んだ。異なるリンカー長を有する一連のタクロリムス-Irコンジュゲートの合成に際して、短いリンカーは複合体の結合部位の直近の標識化をもたらし、分子認識部位のフットプリントを可能にすることが見出された。しかしながら、テザー(tether)の長さが長くなるにつれて、標識化半径が増大してタンパク質複合体の他のメンバーを含むようになり、標識の一次部位が変化した。PEG3リンカーのMS2分析はこのデータを支持し、結合部位に直接隣接する標識化残基を示した(図20左)。
【0069】
次に、隣接するタンパク質が小分子リガンドと直接には相互作用しない4タンパク質複合体が調べられ、空間を介したタンパク質相互作用体の標識化が達成できることを実証した。これのために、E3リガーゼ複合体であるCRBN/DDB1/Cul4a/RBX1を選択した。本明細書に記述した先の例に合致して、短いテザーが使用された場合には、一次標的CRBNのみが標識されたが、テザー長が増加すると、E3リガーゼ複合体中の隣接するタンパク質をこの技術で捕捉することができた。PEG3リンカーを用いた標識化反応のプロテオーム解析は、CRBN上の小分子結合部位の分子フットプリントに加えて、おそらく二次的タンパク質-タンパク質相互作用から生じる、隣接Cul4a上の標識部位を示した(図20右)。
【0070】
実施例14―細胞表面受容体の同定
例示的な膜標的としてアデノシン受容体A2a(ADORA2A)。このGPCRは免疫療法の重要な標的となってきているが、重要なことに、生細胞の化学プロテオミクスによって同定されたことはかつてない。ADORA2Aについて報告されているリガンドであるA2aを用いて、Irコンジュゲート(A2a-Ir)を合成し、Yaoによって記述されているように、係留ジアジリン結合体を得た(A2a-Dz)(図21)。次いで、提案された標的に対する効力がコンジュゲートに際して保持されることを確認するために、小分子コンジュゲートの結合親和性を測定した。Yaoジアジリンは、親化合物のものに近い結合を保持したが(親A2aの4.8 nMに対して、0.8 nM)、驚くべきことに、Irコンジュゲートは>100倍低い結合親和性(643 nM)を示した。それにもかかわらず、ADORA2A発現HEK293T細胞における、本明細書に記載された光触媒標識化方法とそれに続くストレプトアビジン免疫沈降およびウェスタンブロット分析は、化学量論的Yao型ジアジリン-A2aとA2a-イリジウムプローブとの間で標識化における明白な差を明らかにした。免疫染色は、Yao型ジアジリン-A2aによる標識後に濃縮ADORA2Aに対応するシグナルを示さなかった。しかし、本明細書に記載された光触媒標識化プラットフォームを用いると有意な濃縮が観察された。これらの反応のTMTベースの化学プロテオミクス分析は、最初の結果を確認し、本明細書に記載の光触媒標識化法は、ADORA2Aについて3 log2倍変化の濃縮を示して、GPCRの、議論の余地のない標的同定を提供した。対照的に、化学量論的ジアジリンを用いた場合には、ADORA2Aは先のデータと一致して統計学的に濃縮されていなかった(図22)。重要なことに、その標的タンパク質に対するリガンド-イリジウムコンジュゲートの親和性における著しい損失よりも、この標識化プラットフォームによって与えられるシグナルの触媒的増幅の方がはるかに勝る。
【0071】
実施例15―細胞表面受容体の同定
ヒトGPR40受容体(hGPR40)も、本明細書に記載する組成物および方法を用いた標識化に供した。hGPR40-Irコンジュゲートを、ビオチン化ジアジリン(Diaz-PEG3-Bt)のタンパク質標識化剤と共に用いた(図23)。hGPR40リガンドも競合体として用いた。HEK-hGPR40細胞を、hGPR40-Irコンジュゲートまたは遊離Ir-アルキン光触媒で30分間処理し、洗浄し、(Diaz-PEG3-Bt)で処理した後450 nmで10分間照射した。細胞溶解物をプロセスし、図24Aおよび24Bに示すように、ストレプトアビジン-800を用いたウェスタンブロットおよび全タンパク質染色によって分析した。
【0072】
本発明の様々な実施形態が、本発明の様々な目的を達成するために説明されてきた。これらの実施形態は、本発明の原理の単なる例示であることを認識すべきである。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、数多くの変更および適応が当業者に容易に明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B-1】
図10B-2】
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図12C
図12D-1】
図12D-2】
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図14C
図14D
図14E
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図16
図17
図18
図19
図20-1】
図20-2】
図21
図22
図23
図24A
図24B
【国際調査報告】