(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-25
(54)【発明の名称】RNAウイルスの複製と遺伝子発現を制御する新たな仕組み
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20220818BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20220818BHJP
C12N 15/57 20060101ALI20220818BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220818BHJP
C12N 15/47 20060101ALI20220818BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220818BHJP
C12N 15/66 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/86 Z
C12N15/57
C12N15/62 Z
C12N15/47
C12N15/63 100Z
C12N15/66
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573198
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(85)【翻訳文提出日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2020067218
(87)【国際公開番号】W WO2020254644
(87)【国際公開日】2020-12-24
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(71)【出願人】
【識別番号】521221331
【氏名又は名称】ビラ セラピューティクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】マイケ ドロテー ホルム-フォン ラーアー
(72)【発明者】
【氏名】エマヌエル ハイルマン
(72)【発明者】
【氏名】ヤニーネ キンペル
(72)【発明者】
【氏名】ギード ボルマン
(72)【発明者】
【氏名】リーザ エーゲラー
(72)【発明者】
【氏名】ベネディクト ホーファー
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、特定のタンパク質分解酵素阻害剤を用いる調節用の条件付きタンパク質分解酵素手法を用いて、RNAウイルスの複製および遺伝子発現を制御する新たな仕組みに関する。より具体的には、本発明は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含む一本鎖RNAウイルス、好ましくはモノネガウイルス目の一本鎖RNAウイルスに関する。タンパク質分解酵素は、タンパク質分解酵素阻害剤を用いて阻害でき、従ってタンパク質分解酵素および前記タンパク質分解酵素の切断部位は、調節可能なスイッチを形成する。ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質中で分子内位置から分子間位置に調節可能なスイッチの挿入部位を変更して、タンパク質分解酵素阻害剤の効果をONスイッチからOFFスイッチに変更できる。RNAウイルスは、さらに異種タンパク質をコードしてもよく、次にその発現をウイルス活性の制御により調節する。RNAウイルス中のONスイッチを用いて、異種タンパク質の発現を直接調節できる。さらに、条件付きウイルス活性または異種タンパク質の発現による前記ウイルスの生体内および生体外での使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含む一本鎖RNAウイルスであって、
(a)前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の切断部位を少なくとも含む分子内挿入部位に挿入物を含み、または
(b)前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、N末端またはC末端に融合した前記タンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされている、一本鎖RNAウイルス。
【請求項2】
前記タンパク質分解酵素は、タンパク質分解酵素阻害剤を用いて阻害できる、請求項1に記載の一本鎖RNAウイルス。
【請求項3】
前記一本鎖RNAウイルスは、マイナスセンス一本鎖RNAウイルスであり、好ましくはモノネガウイルス科のマイナスセンス一本鎖RNAウイルスである、請求項1または2に記載の一本鎖RNAウイルス。
【請求項4】
前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、重合酵素補因子、重合酵素、およびヌクレオカプシドからなる群から選択され、好ましくは、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、
(a)重合酵素補因子、好ましくはPタンパク質またはその機能的同等物;
(b)重合酵素、好ましくはLタンパク質;および/または
(c)それらの組合せである、請求項3に記載の一本鎖RNAウイルス。
【請求項5】
前記タンパク質分解酵素は、HIV-1タンパク質分解酵素、好ましくはHIV-1タンパク質分解酵素の一本鎖二量体であり、前記タンパク質分解酵素は、インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンプレナビル、ホスアンプレナビル、アタザナビル、チプラナビル、ダルナビルからなる群から選択されるタンパク質分解酵素阻害剤により阻害できる、請求項1~4のいずれか1項に記載の一本鎖RNAウイルス。
【請求項6】
前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位は、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の前記分子内挿入部位内に位置し、
(a)前記タンパク質のタンパク質分解性切断は、前記分子内挿入部位内の前記タンパク質分解酵素の切断部位で前記ウイルス転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を切断する;
(b)前記分子内挿入部位内での切断は、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を不活性にする;
(c)前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の前記分子内挿入部位内での切断は、ウイルスの転写および/または複製を阻害する;
(d)前記ウイルスは、前記タンパク質分解酵素の特異的阻害剤の存在下で活性であり、前記タンパク質分解酵素の特異的阻害剤の不在下で不活性である;および/または
(e)前記ウイルスは、さらに少なくとも1つの異種タンパク質をコードし、前記異種タンパク質は、前記ウイルスが前記タンパク質分解酵素の特定の阻害剤の存在下で活性である場合には発現され、前記ウイルスが前記タンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下で不活性である場合には発現されない、請求項1~5のいずれか1項に記載の一本鎖RNAウイルス。
【請求項7】
前記一本鎖RNAウイルスは、水胞性口内炎ウイルス(VSV)であり、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Pタンパク質および/またはLタンパク質であり、前記分子内挿入部位は、
(a)VSVi Pタンパク質の好ましくはアミノ酸193~199位、より好ましくはアミノ酸196位に対応する位置にあるVSV Pタンパク質の可撓性ヒンジ領域内にある;
(b)VSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、より好ましくはアミノ酸1620に対応するLタンパク質のメチル転移酵素ドメインのループ内にある;または
(c)(a)と(b)の組合せである、請求項1~6のいずれか1項に記載の一本鎖RNAウイルス。
【請求項8】
前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合した前記タンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされ、
(a)前記融合タンパク質のタンパク質分解性切断により、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質が活性型で放出される;
(b)前記タンパク質分解酵素の切断部位により分離された、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合した前記タンパク質分解酵素を含む前記融合タンパク質中の前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、タンパク質分解性切断が無い場合は不活性である;
(c)前記融合タンパク質のタンパク質分解性切断は、前記タンパク質分解酵素の特異的阻害剤を用いて阻害される;
(d)前記ウイルスは、前記タンパク質分解酵素の特定のタンパク質分解酵素阻害剤の存在下では不活性であり、前記タンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下では活性である;
(e)前記ウイルスはさらに、少なくとも1つの異種タンパク質をコードし、前記異種タンパク質は、前記ウイルスが前記タンパク質分解酵素の特定の阻害剤の存在下で不活性である場合には発現せず、前記ウイルスが前記タンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下で活性である場合には発現する;
(d)前記融合タンパク質はさらに、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合した前記タンパク質分解酵素の反対側の末端に融合したさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質を含み、前記さらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質および前記タンパク質分解酵素はまた、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されている;
(e)いずれかの側で前記タンパク質分解酵素の切断部位に隣接する前記タンパク質分解酵素は、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を連結する遺伝子間領域を、さらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質で置換する;および/または
(f)いずれかの側で前記タンパク質分解酵素の切断部位に隣接する前記タンパク質分解酵素は、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を連結する遺伝子間領域を、さらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質で置換し、前記タンパク質分解酵素の喪失は、前記ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質、および前記さらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質を含むさらなる不活性な融合タンパク質をもたらす、請求項1~5のいずれか1項に記載の一本鎖RNAウイルス。
【請求項9】
前記一本鎖RNAウイルスは、モノネガウイルス科のマイナスセンス一本鎖RNAウイルスであり、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合した前記タンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされ、
(a)前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Lタンパク質である;および/または
(b)前記融合タンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端に融合した前記タンパク質分解酵素を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の一本鎖RNAウイルス。
【請求項10】
前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、融合タンパク質としてコードされ、前記融合タンパク質は、
(a)前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合した前記タンパク質分解酵素からなり、前記融合タンパク質は、場合によっては、前記タンパク質分解酵素と前記ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーを含む;または、
(b)前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合した前記タンパク質分解酵素、および前記ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合した前記タンパク質分解酵素の反対側に融合したさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質を含み、前記さらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質および前記タンパク質分解酵素もまた、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の一本鎖RNAウイルス。
【請求項11】
少なくとも1つの異種タンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含むRNAウイルスであって、前記少なくとも1つの異種タンパク質は、前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物を含み、好ましくは前記異種タンパク質は、治療用タンパク質、レポーター、または腫瘍抗原である、RNAウイルス。
【請求項12】
治療に使用する、請求項1~10のいずれか1項に記載の一本鎖RNAウイルス、または請求項11に記載のRNAウイルス。
【請求項13】
癌の治療に使用する、請求項1~10のいずれか1項に記載の一本鎖RNAウイルス、または請求項11に記載のRNAウイルス。
【請求項14】
前記癌は固形腫瘍であり、好ましくは大腸がん、前立腺がん、乳がん、肺がん、皮膚がん、肝臓がん、骨がん、卵巣がん、膵臓がん、脳腫瘍、頭部および頸部がん、リンパ腫(ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫)、脳がん、神経芽細胞腫、中皮腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫、および肉腫からなる群から選択される、請求項13に記載の使用のための一本鎖RNAウイルスまたはRNAウイルス。
【請求項15】
配列番号28の配列を有するVSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、より好ましくはアミノ酸1620に対応するLタンパク質のメチル転移酵素ドメインのループ内に挿入物を含む組換えVSV Lタンパク質。
【請求項16】
請求項15に記載の組換えVSV Lタンパク質を含む水疱性口内炎ウイルス(VSV)。
【請求項17】
RNAウイルス複製を制御する方法であって、
(a)請求項6または7に記載のRNAウイルスで宿主細胞を形質導入または遺伝子導入すること、および
(b)前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤の存在下または不在下で前記宿主細胞を維持することを含み、
前記タンパク質分解酵素阻害剤の付加は、ウイルスの転写および/または複製を可能にし、前記タンパク質分解酵素阻害剤の不在は、ウイルスの転写および複製を阻害する、方法;または、
(a)請求項8~10のいずれか1項に記載のRNAウイルスで宿主細胞を形質導入または遺伝子導入すること、および
(b)前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤の存在下または不在下で前記宿主細胞を維持することを含み、
前記タンパク質分解酵素阻害剤の付加は、ウイルスの転写および/または複製を阻害し、前記タンパク質分解酵素阻害剤の不在は、ウイルスの転写および複製を可能にする、方法;または、
(a)請求項119に記載のRNAウイルスで宿主細胞を形質導入または遺伝子導入すること、
ここで前記タンパク質分解酵素は、少なくとも1つの異種タンパク質の分子内挿入部位内に位置し、および
(b)前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤の存在下または不在下で前記宿主細胞を維持することを含み、
前記タンパク質分解酵素阻害剤の付加は、異種タンパク質の発現を可能にし、前記タンパク質分解酵素阻害剤の不在は、異種タンパク質の発現を阻害する、方法。
【発明の詳細な説明】
【本開示の分野】
【0001】
本発明は、タンパク質分解酵素に特異的な調節用の阻害剤を用いる条件付きタンパク質分解酵素の手法を用いて、RNAウイルスの複製と遺伝子発現を制御する新たな仕組みに関する。より具体的には、本発明は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含む一本鎖RNAウイルス、好ましくはモノネガウイルス目の一本鎖RNAウイルスに関する。タンパク質分解酵素は、タンパク質分解酵素阻害剤を用いて阻害でき、従ってタンパク質分解酵素および前記タンパク質分解酵素の切断部位は、調節可能なスイッチを形成する。ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質中で分子内位置から分子間位置に調節可能なスイッチの挿入部位を変更して、タンパク質分解酵素阻害剤の効果をONスイッチからOFFスイッチに変更できる。RNAウイルスは、さらに異種タンパク質をコードしてもよく、次にその発現をウイルス活性の制御により調節する。RNAウイルス中のONスイッチを用いて、異種タンパク質の発現を直接調節できる。さらに、条件付きウイルス活性または異種タンパク質の発現による前記ウイルスの生体内および生体外での使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換えウイルスは、効率的な遺伝子治療ベクターとして、ウイルス免疫療法として、あるいは癌ウイルス療法での腫瘍溶解性ウイルスとして大きな可能性を示している。一般的に、これら3種の異なる治療形態は、遺伝子の過剰発現、RNA干渉を用いる遺伝子のノックダウン、および自殺遺伝子の送達を利用している。治療の環境では、導入遺伝子またはウイルス遺伝子発現の一時的な制御により、安全スイッチと効力ダイヤルの双方を構成する。調節可能なプロモーター(例えばTetシステム)などのDNAウイルス活性の修飾因子は、十分に確立されているが、これらの仕組みを用いても(レトロウイルスは例外であるが)大半のRNAウイルスを調節することは不可能である。
【0003】
アプタザイムは、RNAウイルスを厳密に制御するための仕組みを持つ(Ketzer et al., PNAS, 2014, 111(5): E554-62)。アプタザイムは、小さな化合物(アプタマー)に応答するRNA構造および酵素的に活性なRNA(リボザイム)からなっている。この仕組みにより、その融合タンパク質に対しOFFスイッチとして作用して、RNA麻疹ウイルスの拡散を調節できることが分かった。しかしながら、ウイルスの転写または複製の活動は制御されなかった。麻疹ウイルスでは、ウイルスの拡散を効果的に阻害するためには、ウイルス融合タンパク質の3’ UTRおよび5’ UTRの双方にアプタザイムを配置する必要があり、その結果として、ウイルスの後代が1/1000台まで減少した。阻害はウイルス複製サイクルの後半の段階、すなわち融合段階に行われた。見掛け上は、少量の融合タンパク質でもウイルスの拡散を促進するには十分である。従って、1/1000台までの減少は、多段感染測定(0.0001の低いMOI)および8日間の長い観察期間のみで発生した。3’ UTRおよび5’ UTRのいずれかにアプタザイムを1回挿入しても、力価の大幅な低下はなかった。
【0004】
異なる手法に続いて、タンパク質の分解を制御するウイルスPタンパク質(Chung et al.. Nature Chemical Biology, 2015, 11:713-722)にC末端で融合した小分子支援シャットオフ(SMASh)タグによる麻疹ウイルスRNA複製のOFFスイッチ制御が提示された。
【0005】
本発明者らは、条件付きタンパク質分解に基づく調節可能なシステムの開発を試みた。このシステムは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)タンパク質分解酵素の切断部位に隣接する小さなHIVタンパク質分解酵素(99個のアミノ酸)を、モデルタンパク質分解酵素としてのRNA水胞性口内炎ウイルス(VSV)のゲノムの異なる遺伝子座にクローニングすることを含む。HIVタンパク質分解酵素は、ホモ二量体として活性であり、アスパルチルタンパク質分解酵素として作用する。HIVでは、この分解酵素は、プラス鎖ゲノムから翻訳されたポリタンパク質を機能性タンパク質に切断する。HIVタンパク質分解酵素はそのウイルス複製サイクルに必須であり、いくつかのタンパク質分解酵素阻害剤が薬剤管理機関によって承認されていて、かつ新規の阻害剤が開発中である。このようなタンパク質分解酵素阻害剤の1つはアンプレナビルであり、これはHIVタンパク質分解酵素ホモ二量体間の触媒中心に結合し、それによってその機能を減弱する。
【0006】
マイナスセンス一本鎖RNAウイルスであり、かつラブドウイルス科の原型の一部である水疱性口内炎ウイルス(VSV)は、ワクチンベクター、腫瘍溶解性ウイルス、および追跡手段として広く検討されている。ウイルス基礎科学および治療用ウイルスの開発で広く用いられているにも拘らず、RNAウイルスであるVSVは、今までのところ外部から調節可能であるとは示されていない。VSV RNAゲノムには、3’から5’に向かい以下の順に5個のウイルスゲノム、すなわち核タンパク質(Nタンパク質)、続いてリン酸化タンパク質(Pタンパク質)、基質タンパク質(Mタンパク質)、糖タンパク質(Gタンパク質)、最後に重合酵素または巨大タンパク質(Lタンパク質)が含まれる。全てのVSV遺伝子は、転写が開始される3’末端(Nタンパク質の上流)の同一の挿入部位を用いて、VSV重合酵素によって順次転写される。遺伝子は、1つのRNAゲノムからのいくつかのウイルスmRNAの転写を可能とする遺伝子間領域とともに点在する。第1のウイルスタンパク質であるNタンパク質は、ウイルスRNAゲノムに及び、Pタンパク質とLタンパク質によって生成されるウイルス重合酵素複合体と相互作用する。Mタンパク質はウイルスカプシドを形成し、核膜孔の閉塞により細胞の翻訳を阻害する。Gタンパク質は細胞の付着および侵入を促進し、その膜融合特性は別の病原性因子を構成する。VSVの臨床的な開発は、実験動物に見られる潜在的な神経毒性の副作用のために制限されている。
【本発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今回初めて、外から投与される臨床承認化合物の存在下で、条件付き制御によりRNAウイルスの活性を投入する調節スイッチを提示する。スイッチの挿入部位を分子内位置から分子間位置に変更することで、化合物の効果をONスイッチからOFFスイッチに転換できる。これらの調節エレメントは、腫瘍学およびワクチン接種の分野で治療用ウイルスとしての開発が現在検討されているRNAウイルス向けの新規の安全対策を提供する。さらに投与された薬物の存在に依存して、治療中にウイルスを排出する場合の環境安全の防護を提供する。ONスイッチの場合に、HIVタンパク質分解酵素などの自己触媒的に活性なタンパク質分解酵素は、VSVなどの原型のマイナス鎖RNAウイルスのPタンパク質および/またはLタンパク質などの必須タンパク質の分子内挿入部位中に、すなわちオープンリーディングフレーム中に挿入される。HIVタンパク質分解酵素阻害剤などのタンパク質分解酵素に特異的な阻害剤の添加により、これらの必須ウイルスタンパク質の切断を防止し、ウイルス重合酵素活性を進展させることができる。さらに本発明者らは、ウイルス複製に僅かな影響しか及ぼさないLタンパク質中の新規の挿入部位を特定した。OFFスイッチの場合に、自己触媒的に活性なタンパク質分解酵素は、分子間挿入部位内に挿入され、かつ必須タンパク質に融合し、非機能的融合タンパク質を生成する。自己タンパク質分解により、原型のマイナス鎖RNAウイルスであるVSVのLタンパク質などの機能的な必須タンパク質を放出する。HIVタンパク質分解酵素阻害剤などの特定のタンパク質分解酵素阻害剤の添加により、機能不全のポリタンパク質の切断を防止し、従ってウイルスの重合酵素活性を阻害する。
【0008】
一側面では、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含む一本鎖RNAウイルスを提供し、ここで(a)ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の切断部位を少なくとも含む分子内挿入部位に挿入物を含むか、あるいは(b)ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されているN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされている。場合によっては、このウイルスはさらに異種タンパク質をコードしていてもよい。本明細書でONスイッチとも呼ばれる一方の選択肢(a)では、タンパク質分解酵素は、分子内挿入部位での前記タンパク質分解酵素の切断部位でウイルス転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を切断する。本明細書でOFFスイッチとも呼ばれる他方の選択肢(b)では、タンパク質分解酵素は、融合タンパク質としてコードされた、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に位置する前記タンパク質分解酵素の切断部位で切断して、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を放出する。選択肢(b)の一実施態様では、融合タンパク質は、配列番号30のアミノ酸配列を含まない。タンパク質分解酵素は、タンパク質分解酵素阻害剤を用いて阻害される限り、いずれのタンパク質分解酵素であってもよい。
【0009】
一実施態様では、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、RNA依存性RNA重合酵素、あるいは、好ましくは(Pタンパク質またはその機能的同等物などの)重合酵素補因子、(Lタンパク質などの)重合酵素、および(Nタンパク質などの)ヌクレオカプシドからなる群からから選択される、RNA依存性RNA重合酵素またはヌクレオカプシドを含む重合酵素複合体のタンパク質である。
【0010】
好ましくは、一本鎖RNAウイルスは、マイナスセンス一本鎖RNAウイルスであり、より好ましくは、モノネガウイルス目のマイナスセンス一本鎖RNAウイルスである。特定の実施態様では、一本鎖RNAウイルスは、ラブドウイルス科、パラミクソウイルス科、フィロウイルス科、ニャミウイルス科、ニューモウイルス科、およびボルナウイルス科からなる群から選択される科のウイルスである。好ましくは、一本鎖RNAウイルスは、パラミクソウイルス科のウイルスであり、好ましくは麻疹ウイルス(MeV)またはラブドウイルス科のウイルスであり、好ましくはベシキュロウイルス属のウイルスであり、最も好ましくは水胞性口内炎ウイルス(VSV)である。一実施態様では、ウイルスは腫瘍溶解性ウイルスであり、好ましくは腫瘍溶解性ウイルスはVSVである。さらにより好ましい実施態様では、ベシキュロウイルスは、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質GPを有する、好ましくはWE-HPI株を有する水疱性口内炎ウイルスである。このようなVSVは、例えば国際特許公開WO2010/040526号に説明されていて、VSV-GPと命名されている。
【0011】
一実施態様では、一本鎖RNAウイルスは、モノネガウイルス目であるマイナスセンス一本鎖RNAウイルスであり、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、重合酵素補因子、重合酵素、およびヌクレオカプシドからなる群から選択され、好ましくは、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、(a)重合酵素補因子、好ましくはPタンパク質またはその機能的同等物;(b)重合酵素、好ましくはLタンパク質;および/または(c)それらの組合せである。
【0012】
本発明に従って用いられるタンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の活性を調節する。従ってその分解酵素はまた、ウイルスの転写および/または複製を調節する。一実施態様では、タンパク質分解酵素は自己触媒タンパク質分解酵素である。別の実施態様では、またはさらに、タンパク質分解酵素はウイルスタンパク質分解酵素であり、好ましくは、タンパク質分解酵素はHCVまたはHIVに由来する。別の実施態様では、タンパク質分解酵素はHIV-1タンパク質分解酵素であり、好ましくはHIV-1タンパク質分解酵素の一本鎖二量体である。適切なHIV-1タンパク質分解酵素阻害剤は、限定はされないが、インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンプレナビル、ホスアンプレネビル、アタザナビル、チプラナビル、またはダルナビルである。
【0013】
分子内挿入部位に挿入物を有する実施態様(ONスイッチ)では、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の分子内挿入部位にある挿入物は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の活性に影響を及ぼさないか、あるいは実質的に影響を及ぼさない。
【0014】
特定の実施態様では、少なくとも前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の切断部位は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の分子内挿入部位内に位置し、タンパク質のタンパク質分解切断により、分子内挿入部位内の前記タンパク質分解酵素の切断部位でウイルス転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を切断する。分子内挿入部位内での切断により、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を不活性化する。ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の分子内挿入部位内でのさらなる切断により、ウイルスの転写および/または複製を阻害する。従って、ウイルスは、タンパク質分解酵素の特定の阻害剤の存在下では活性であり、タンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下では不活性である。ウイルスはさらに、少なくとも1つの異種タンパク質をコードしてもよく、この異種タンパク質は、ウイルスがタンパク質分解酵素の特定の阻害剤の存在下で活性である場合には発現し、ウイルスがタンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下で不活性である場合には発現しない。
【0015】
別の実施態様では、一本鎖RNAウイルスは水疱性口内炎ウイルス(VSV)であり、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Pタンパク質および/またはLタンパク質である。Pタンパク質での適切な分子内挿入部位の例は、限定はされないが、(配列番号27のアミノ酸配列などの)VSVi Pタンパク質の好ましくはアミノ酸193~199位、より好ましくはアミノ酸196位に対応する位置にあるVSV Pタンパク質の可撓性ヒンジ領域である。一実施態様では、VSV Pタンパク質は、VSVインディアナ株(VSVi)に由来し、Pタンパク質中の分子内挿入部位は、(配列番号27のアミノ酸配列などの)VSVi Pタンパク質の好ましくはアミノ酸193~199位、より好ましくはアミノ酸196位にあるVSV Pタンパク質の可撓性ヒンジ領域である。Lタンパク質中の適切な分子内挿入部位の例は、限定はされないが、(配列番号28のアミノ酸配列などの)VSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、かつさらに好ましくはアミノ酸1620に対応するLタンパク質のメチル転移酵素(MT)ドメインのループ内にある。一実施態様では、VSV Lタンパク質は、VSVインディアナ株(VSVi)に由来し、Lタンパク質中の分子内挿入部位は、(配列番号28のアミノ酸配列などの)VSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、かつさらに好ましくはアミノ酸1620に由来するLタンパク質のメチル転移酵素(MT)ドメインのループ内にある。一実施態様では、水疱性口内炎ウイルス(VSV)およびウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、上述のように分子内挿入部位に挿入物を有するPタンパク質およびLタンパク質である。
【0016】
分子間挿入部位に挿入物を有する選択肢(OFFスイッチ)では、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされている。特定の実施態様では、融合タンパク質のタンパク質分解性切断により、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質をその活性形態で放出する。前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質中のウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、タンパク質分解性切断が無い場合は不活性である。融合タンパク質のタンパク質分解性切断は、タンパク質分解酵素の特異的阻害剤を用いて阻害できる。従ってウイルスは、タンパク質分解酵素の特定のタンパク質分解酵素阻害剤の存在下では不活性であり、タンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下では活性である。ウイルスはさらに、少なくとも1つの異種タンパク質をコードしてもよく、この異種タンパク質は、ウイルスがタンパク質分解酵素の特定の阻害剤の存在下で不活性である場合には発現せず、ウイルスがタンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下で活性である場合には発現する。融合タンパク質はまた、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素の反対側の末端に融合したさらなるウイルスタンパク質を含んでもよく、前記さらなるウイルスタンパク質および前記タンパク質分解酵素はまた、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されている。一実施態様では、タンパク質分解酵素は、いずれかの側が前記タンパク質分解酵素の切断部位に隣接していて、かつウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を連結する遺伝子間領域をさらなるウイルスタンパク質により置換する。従ってタンパク質分解酵素の喪失により、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質およびさらなるウイルスタンパク質を含むさらなる不活性な融合タンパク質をもたらす。融合タンパク質はまた、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素の反対側の末端に融合した異種タンパク質を含んでもよく、前記異種タンパク質および前記タンパク質分解酵素は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されている。一実施態様では、タンパク質分解酵素は、いずれかの側で前記タンパク質分解酵素の切断部位に隣接していて、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を連結する遺伝子間領域を異種タンパク質により置換する。従ってタンパク質分解酵素の喪失により、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質および異種タンパク質を含むさらなる不活性な融合タンパク質が得られる。融合タンパク質は、タンパク質分解酵素とウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質との間に、または該当する場合には、タンパク質分解酵素とさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質との間に、さらにリンカーを含んでもよい。リンカーは、タンパク質分解酵素と切断部位を分離していてもよく、あるいは切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質とを分離していてもよく、かつ/あるいはタンパク質分解酵素とさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質を分離していてもよい。
【0017】
この選択肢(OFFスイッチ)の好ましい実施態様では、一本鎖RNAウイルスは、モノネガウイルス目のマイナスセンス一本鎖RNAウイルスであり、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Lタンパク質である。この選択肢(OFFスイッチ)の別の好ましい実施態様では、融合タンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端に融合したタンパク質分解酵素を含む。この選択肢(OFFスイッチ)のさらに別の実施態様では、一本鎖RNAウイルスは、モノネガウイルス目のマイナスセンス一本鎖RNAウイルスであり、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質はLタンパク質であり、融合タンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されたLタンパク質のN末端に融合したタンパク質分解酵素を含む。
【0018】
別の側面では、本発明は、少なくとも1つの異種タンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含むRNAウイルスに関し、少なくとも1つの異種タンパク質は、少なくとも前記タンパク質分解酵素の切断部位、および場合によってはさらにタンパク質分解酵素を含む分子内挿入部位に挿入物を含む。このウイルスは、腫瘍溶解性ウイルスであってもよく、この腫瘍溶解性ウイルスは好ましくはVSVである。
【0019】
異種タンパク質は、治療用タンパク質、レポーター、または腫瘍抗原であってもよい。
【0020】
さらなる側面では、本発明は、治療に使用するための、特に癌の治療に使用するための本発明によるRNAウイルスに関する。癌は固形腫瘍であってもよく、好ましくは結腸がん、前立腺がん、乳がん、肺がん、NSCLC(非小細胞肺がん)、皮膚がん、肝臓がん、骨がん、卵巣がん、膵臓がん、脳腫瘍、頭頸部がん、HNSCC(頭頚部扁平上皮がん)、リンパ腫(ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫)、脳がん、神経芽細胞腫、中皮腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫、および肉腫からなる群から選択される。
【0021】
さらに別の側面では、本発明は、VSVi Lタンパク質(配列番号28)のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、さらに好ましくはアミノ酸1620に対応するLタンパク質のメチル転移酵素ドメインのループ内に挿入物を含む組換えVSV Lタンパク質に関する。挿入物は、(ルシフェラーゼまたは蛍光タンパク質などの)レポータータンパク質、あるいはタンパク質分解酵素の切断部位、またはタンパク質分解酵素と前記タンパク質分解酵素の切断部位を含んでもよい。挿入物がタンパク質分解酵素の切断部位、またはタンパク質分解酵素と前記タンパク質分解酵素の切断部位を含む場合に、タンパク質分解酵素は、ウイルスタンパク質分解酵素および/または自己触媒タンパク質分解酵素であってもよい。好ましくは、タンパク質分解酵素は、HCVまたはHIVに由来する。一実施態様では、タンパク質分解酵素は、HIV-1タンパク質分解酵素、好ましくはHIV-1タンパク質分解酵素の一本鎖二量体である。適切なHIV-1タンパク質分解酵素阻害剤は、限定はされないが、インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンプレナビル、ホスアンプレネビル、アタザナビル、チプラナビル、またはダルナビルである。特定の実施態様では、Lタンパク質は、二次変異を含んでもよい。本発明に従って、組換えVSV Lタンパク質を含む水疱性口内炎ウイルス(VSV)も提供する。
【0022】
本発明はさらに、(a)分子内挿入部位に挿入物を有する本発明の選択肢(ONスイッチ)によるRNAウイルスで宿主細胞を形質導入または遺伝子導入すること、および(b)前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤の存在下または不在下で宿主細胞を維持することを含む、RNAウイルス複製を制御する方法を提供し、ここで前記タンパク質分解酵素阻害剤の添加は、ウイルスの転写および/または複製を可能にし、前記タンパク質分解酵素阻害剤の不在は、ウイルスの転写および複製を阻害する。
【0023】
本発明はまた、(a)分子間挿入部位に挿入物を有する本発明の選択肢(OFFスイッチ)によるRNAウイルスで宿主細胞を形質導入または遺伝子導入すること、および(b)前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤の存在下または不在下で宿主細胞を維持することを含む、RNAウイルス複製を制御する方法を提供し、ここで前記タンパク質分解酵素阻害剤の添加は、ウイルスの転写および/または複製を阻害し、前記タンパク質分解酵素阻害剤の不在は、ウイルスの転写および複製を可能にする。
【0024】
本発明はまた、(a)少なくとも1つの異種タンパク質が、少なくとも前記タンパク質分解酵素の切断部位、および場合によってはさらにタンパク質分解酵素を含む分子内挿入部位に挿入物を含む選択肢の本発明により、RNAウイルスで宿主細胞を形質導入または遺伝子導入すること、および(b)前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤の存在下または不在下で宿主細胞を維持することを含む、RNAウイルスより異種タンパク質の発現を制御する方法を提供し、ここで前記タンパク質分解酵素阻害剤の添加は異種タンパク質の発現を可能にし、前記タンパク質分解酵素阻害剤の不在は異種タンパク質発現を阻害する。本発明に従う方法でのタンパク質は、自己触媒タンパク質分解酵素であってもよく、自己触媒タンパク質分解酵素は、好ましくはHIV-1タンパク質分解酵素であり、より好ましくはHIV-1タンパク質分解酵素の一本鎖二量体である。適切なHIV-1タンパク質分解酵素阻害剤は、限定はされないが、インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンプレナビル、ホスアンプレネビル、アタザナビル、チプラナビル、またはダルナビルである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、VSV-prot-ONシステムの原理を示す。
図1A:HIVタンパク質分解酵素二量体構築物を、重合酵素複合体を形成する2個のVSVタンパク質、Pタンパク質、およびLタンパク質内に挿入した。HIVタンパク質分解酵素は二量体として機能する。VSV Pタンパク質および重合酵素(Lタンパク質)のオープンリーディングフレームの一部としてのHIVタンパク質分解酵素の機能を確保するために、本発明者らは、事前に結合したタンパク質分解酵素二量体を用いた。このように、Pタンパク質は、タンパク質分解酵素阻害剤が存在しない限り、翻訳時に自己触媒的に活性になり、かつPタンパク質を切断する機能的なタンパク質分解酵素二量体を予め含んでいる。
図1B:HIVタンパク質分解酵素二量体のタンパク質リボン構造を示す。HIVタンパク質分解酵素は、二量体として機能する。VSVリン酸化タンパク質および重合酵素のオープンリーディングフレームの一部としてのHIVタンパク質分解酵素の機能を確保するために、本発明者らは、事前に結合したタンパク質分解酵素二量体(タンパク質のリボン構造の下部にある暗灰色のループ)を用いた。
【0026】
【
図2】
図2は、A)aa196(P-196PR2)位の発現プラスミドでの連結二量体タンパク質分解酵素の構造、およびB)P-196PR2の構築物構造を示す。連結二量体タンパク質分解酵素がaa196位にあるPタンパク質のcDNA配列(P-196PR2)、およびVSV核タンパク質(Nタンパク質)と基質タンパク質(Mタンパク質)の隣接配列は、GeneArtによって合成された。連結タンパク質分解酵素二量体には、アミノ酸配列 (GGSG)
3からなる可撓性リンカーが隣接している。この分離により、Pタンパク質とLタンパク質の三次構造による分子内挿入タンパク質の攪乱が最小限に抑えられる。第1のタンパク質分解酵素の前にかつ第2のタンパク質分解酵素の後に、タンパク質分解酵素の切断配列が配置される。2個のタンパク質分解酵素は、二量体リンカー配列を介して接続される。
【0027】
【
図3】
図3は、VSV-ΔPウイルスを補完するためのトランス供給されたVSV Pタンパク質のタンパク質分解酵素連結調節を示す。リン酸化タンパク質-タンパク質分解酵素構築物の機能性を、まずP-196PR2がクローンされたP発現プラスミド(P-prot)により試験した。BHK細胞にこのP-prot構築物で遺伝子導入して、VSV-ΔP変異体で感染させた。VSV-ΔPは、レポーター遺伝子として赤色蛍光タンパク質を備えていた。VSV-ΔPの機能には、P-Protを発現する細胞によって横断的に提供された作動Pタンパク質を必要とする。A(1~3):アンプレナビル添加無し、B(1~3):1 μMのアンプレナビル添加、C(1~3):正常なP発現プラスミドを用いる、遺伝子導入後の指定時間でのプラス対照で処理された遺伝子導入された細胞の代表的な各写真を示している。
【0028】
【
図4】
図4は、全長VSV-P-prot配列を有するプラスミド構造、およびaa196位に連結された二量体タンパク質分解酵素(P196PR2)を備えるリン酸化タンパク質(Pタンパク質)の構築物構造を示す。VSV Indiana GFP中のPタンパク質遺伝子は、P-196PR2により置換された。VSVゲノムの5番目の位置(Gタンパク質とLタンパク質の間)にある強化GFP(eGFP)をマーカー遺伝子として使用する。
【0029】
【
図5】
図5は、タンパク質分解酵素切断配列および可撓性リンカーを含む、HIVタンパク質分解酵素二量体挿入構築物、およびHIVタンパク質分解酵素二量体挿入物のアミノ酸配列(配列番号29)を有するVSV Pタンパク質の概略図を示す。結合されたタンパク質分解酵素二量体は、アミノ酸配列 (GGSG)
3からなる可撓性リンカーに隣接する。第1のタンパク質分解酵素の前かつ第2のタンパク質分解酵素の後に、タンパク質分解酵素の切断配列が配置される。2つのタンパク質分解酵素はリンカー配列を介して接続されている。
【0030】
【
図6】
図6は、タンパク質分解酵素阻害剤であるアンプレナビルが、タンパク質分解酵素スイッチを発現するVSV-P-protの活性を調節することを示す。
図6A:VSV-P-protのゲノムの完全性を試験するために、ウイルスのゲノムRNAを精製しかつ逆転写して、P196PR2でPCRを実行した。タンパク質分解酵素の挿入のないVSV変異体を、陰性対照として用いた。ゲルの1列目と4列目ではマーカーを用い、2列目はVSV対照のPCR産物を示し、3列目はVSV-P-ProtのPCR産物を示している。本発明者らは、P196PR2およびタンパク質分解酵素陰性Pタンパク質のPCR断片が、それぞれ予想されるサイズであることを見出した(タンパク質分解酵素を含むPタンパク質の予想サイズは1490 bpであり;タンパク質分解酵素を含まないPタンパク質の予想サイズは773 bpであり;VSV-P-Protの標準力価は1.8×10
7である)。続いてPCR産物の配列を決定した。
図6B:全長VSV-P-Protの生成後に、その機能を10 μMのアンプレナビル(APV)の存在下および不在下でのBHK細胞の感染によって試験した。APVの存在下では、eGFPの発現(左側の列)と標準的な細胞培養皿での細胞変性効果(右側の列)によりウイルス活性を観察できた。
図6C:APVの有無でのVSV-P-Protの溶菌斑測定を示す。APVの存在下では、細胞変性効果が溶菌斑測定で確認できた。APVが不在の場合、eGFPシグナルも細胞変性効果は観察できなかった。配列番号4の元のDNA配列を有するタンパク質分解酵素二量体配列内で変異が起こったかどうかを評価するための2つのサンガー配列決定反応による挿入部位の配列決定により、タンパク質分解酵素二量体配列に変異が無いことが明確になった。
【0031】
【
図7】
図7は、VSV-P-prot活性が、種々のHIVタンパク質分解酵素阻害剤によって調節できることを示す。VSV-P-protがサキナビルやインジナビルなどの第2世代のタンパク質分解酵素阻害剤で複製できるかどうかを試験した。レポーター遺伝子eGFP(
図7A:左側の写真)、細胞変性効果(
図7A:右側の写真)、および溶菌斑形成(
図7B)の蛍光シグナルにより、サキナビル(SQV)およびインジナビル(IND)によるVSV-P-protの機能性が確認された。
【0032】
【
図8】
図8は、タンパク質分解酵素阻害剤であるアンプレナビルが、用量依存的にVSV-P-Prot活性を調節することを示す。VSV-P-protのウイルス活性に対するHIVタンパク質分解酵素阻害剤であるアンプレナビルの用量応答を示す。BHK細胞を1のMOIで感染させ、24時間後にウイルスの拡散を評価した。
図8A:ウイルスのeGFP発現と細胞変性効果は、APVの用量の増加とともに増大する。
図8B:VSV-P-prot複製は、100 nMのアンプレナビル用量で開始し、3~100 μMの用量範囲で最大活性の平坦域に到達して、そのより高用量では悪化した。複製曲線では、VSVよりもVSV-P-protでは僅かな低下が見られた。
【0033】
【
図9-1】
図9は、VSV-P-protの神経毒性の抑止を示す。
図9A:野生型に基づくVSV-dsRed(2 μlで2×10
5のTCID
50)の頭蓋内注入は、神経毒性の深刻な兆候をもたらした。アンプレナビルの有無にかかわらず、VSV-P-protでは神経毒性は観察されなかった。
図9B:VSV-dsRedを注射したマウスを示す生存グラフでは、慈悲的な理由のために4日以内で犠牲となってもらう必要があった。
図9C:体重の図では、VSV-dsRedを注射したマウスの体重が大幅に減少したことを示す。
【
図9-2】
図9は、VSV-P-protの神経毒性の抑止を示す。
図9D:冠状脳切片の組織学的蛍光分析により、赤色蛍光を発現するVSV-dsRedの広範な拡散が明らかになった。ウイルス感染は、線条体、皮質下領域、(左右両側の)視床下部の全体にわたって見出された。対照的に、アンプレナビルの有無にかかわらず、VSV-P-ProtからのGFP発現は、頭蓋内での拡散の兆候がなく、注射針の形跡の直ぐ内側のみに限られていた。
【0034】
【
図10】
図10は、VSV-P-Protのタンパク質分解酵素の調節活性が、複数のウイルス継代後も安定なままであることを示す。ウイルスは、準最適のAPV濃度で20回継代され、エスケープ変異体を検出するために、全ての継代をタンパク質分解酵素阻害剤を含まない細胞に移した。
図10A:APVの有無での継代されたVSV-P-Protを接種したBHK細胞を示す。
図10B:継代後に、ウイルスゲノムRNAを単離しかつ逆転写した。挿入物の領域でPCRを実行して、続いてPCRにより配列決定した。本発明者らは、P196PR2およびタンパク質分解酵素陰性Pタンパク質PCR断片がそれぞれ予想されるサイズ(P-Protを含む場合の予想サイズは1490 bpであり;P-Protを含まない場合の予想サイズは773 bpである)であることを見出した。
【0035】
【
図11-1】
図11は、VSV Lタンパク質でのドメイン体系、構造、および挿入部位を示す。
図11A:3’→5’方向での遺伝子を示す概略のVSVゲノム体系、および対応するドメインの境界が上段の数字で標識化されたVSV Lタンパク質ドメイン体系(Liang et al., Cell, 2015, 162(2): 314-327)を示す。CD1506、CD1537、MT1603、MT1620、およびMT1889は、ここで試験された候補挿入部位を示す。
図11B:構造情報によって決定されるVSV Lタンパク質構造を示す。右側の図は、相補的ドメイン(CD)、メチル転移酵素ドメイン(MT)、およびC末端ドメイン(CTD)を拡大し視覚化している。
【
図11-2】
図11は、VSV Lタンパク質でのドメイン体系、構造、および挿入部位を示す。
図11C:挿入部位として選択されたループを有するCD、MT、およびCTDを拡大表示する。
図11D:MT1620の位置にmCherryが挿入されたVSV Lタンパク質の分子モデルを示す。
【0036】
【
図12-1】
図12は、MT1620の位置でのmCherryの挿入が、複製能力のあるウイルスをもたらすことを示している。
図12Aの上部:挿入部位を備えるVSV Lタンパク質ドメイン体系を示す。顕微鏡写真は、5個の種々のL-mCherry発現プラスミドで遺伝子導入された293T細胞を示す。対応する挿入部位は、ドメインの略称と、続いてアミノ酸番号で標識されている。赤色(上段)はL-mCherryの発現を示す。
図12Aの下部:10のMOIでVSV-GFP-ΔLで感染した後の同様に遺伝子導入された293T細胞を示す。緑色の蛍光は、機能的なL-mCherry融合タンパク質と重合酵素活性を示している。
図12B:BHK-21細胞の感染から24時間後のVSV-L-mCherry、VSV-GFP-L-mCherry、およびVSV-L-mWasabiの蛍光画像および位相コントラスト画像を示す。ウイルスゲノム配列を蛍光画像の上部に表示する。
【
図12-2】
図12は、MT1620の位置でのmCherryの挿入が、複製能力のあるウイルスをもたらすことを示している。
図12C:12%のポリアクリルアミドゲルの還元条件下でのmCherryに対する免疫ブロットを示す。負荷対照としてβ-アクチンを用いた。VSV、VSV-GFP、VSV-L-mCherry、およびVSV-GFP-L-mCherryに感染したBHK-21細胞を、感染の8時間後に用いて溶解物を調製した。
【0037】
【
図13-1】
図13は、MT1620の位置にmCherryを挿入すると、中程度の低下がもたらされることを示している。
図13A:クリスタルバイオレット溶菌斑測定によるウイルス複製の適合性評価を示す。6ウェル皿からの代表的な写真を、単一の溶菌斑表示に対応する顕微鏡の挿入図とともに示している。BHK-21の単層にウイルスを1時間接種し、洗浄した後に24時間培養した。
図13B:異なるVSV株のウイルス複製動態であり、BHK-21細胞でのVSV(黒丸点)およびVSV-L-mCherry(白三角点)の一段階の成長動態を示す。力価をTCID
50測定を用いて定量した。
【
図13-2】
図13は、MT1620の位置にmCherryを挿入すると、中程度の低下がもたらされることを示している。
図13C:IFN応答MTT生存率測定でのウイルス誘発細胞毒性活性の比較を示す。IFN応答性のBHK-21細胞を、IFN量を増加(0、10、100、500、および1000 U/ml)させて処理し、0.1、1、および10のMOIで感染させた。生存率を未処理の対照に対して正規化して示している。棒は平均値の±SEM(n=4)を表す。IFN処理が無い場合には、双方のウイルスとも感染細胞での生存率を同程度に低下させる。
【0038】
【
図14】
図14は、代替の調節可能なウイルスVSV-L-protの生成する、VSV Lタンパク質へのタンパク質分解酵素スイッチの挿入を示す。
図14A:BHK細胞を、APVの有無によりVSV-L-protでにより接種した。
図14B:溶菌斑の精製後に、ウイルスゲノムRNAを単離し逆転写した。VSV-L-protの挿入物の領域と挿入物の無い対照ウイルス(挿入物を含むLタンパク質の予想サイズは1830 bpであり、挿入物を含まないLタンパク質の予想サイズは1114 bpである)でPCRを実行して、続いてPCRにより配列決定したが、変異は検出されなかった。
【0039】
【
図15】
図15は、タンパク質分解酵素阻害剤であるアンプレナビルが、用量依存的にVSV-L-prot活性を調節することを示す。HIVタンパク質分解酵素阻害剤であるアンプレナビルに対するVSV-L-protの用量応答を試験した。BHK細胞を1のMOIで感染させ、24時間後にウイルスの拡散を評価した。
図15A:ウイルスのGFP発現は、アンプレナビルの用量の増加とともに増大する。
図15B:VSV-L-prot活性は、100 nMのアンプレナビル用量で開始し、30 μMで最大活性に達した。細胞への毒性の影響により、それより高いアンプレナビル濃度をL-protについては試験しなかった。複製曲線は、VSVよりもVSV-L-protで僅かな低下が見られた。
【0040】
【
図16】
図16は、VSV-P-mWasabi-L-mCherryを生成する、PおよびLへの機能的な二重分子内挿入を用いるVSVの生成を示す。VSV-P-prot-L-protの試験として、PおよびLへの機能的な二重分子内挿入を用いるVSVであるVSV-P-mWasabi-L-mCherryを生成した。溶菌斑測定(
図16Aの左部:mWasabi、中央部:mCherry、右部:溶菌斑、下部:構築物の概略図式)およびcDNA合成とPCR(
図16Bの1:VSV P部位、2:VSV-P-mWasabi-L-mCherry P部位、3:VSV L部位、4:VSV-P-mWasabi-L-mCherry L部位)によるゲノムの完全性の試験での二重蛍光読出し値および細胞変性効果により二重挿入機能を確認した。
【0041】
【
図17】
図17は、VSV-Prot-OFFシステムの原理およびHIVタンパク質分解酵素二量体のタンパク質リボン構造を示す。
図17A:GFPとLタンパク質の間の遺伝子間領域を、HIVタンパク質分解酵素構築物で置換された。
図17B:HIVタンパク質分解酵素は二量体として機能する。GFP-Prot-L融合タンパク質のオープンリーディングフレームの一部としてのHIVタンパク質分解酵素の機能を確保するために、事前に結合されたタンパク質分解酵素二量体を用いた。
【0042】
【
図18】
図18は、遺伝子間領域をHIVタンパク質分解酵素二量体で機能的に置換したVSVの生成を示す。
図18A:(GGSG)
3リンカーを含まないVSV-GFP-Prot-Lを接種したBHK細胞を示す(リンカーを含む構築物は示さない)。10 μMのアンプレナビルを添加すると、ウイルスの活動が停止する。
図18B:溶菌斑を精製した後に、(GGSG)
3リンカーの有無によるVSV-GFP-Prot-LのウイルスゲノムRNAを単離して逆転写した。Prot-Offウイルスと対照ウイルスの両方の挿入領域でPCRを実行し、続いてPCRにより配列決定した。図に示すのは、1:タンパク質分解酵素を含まないGFP-L断片(959 bp)、2:(GGSG)
3リンカーを含むGFP-Prot-L断片(1559 bp)、3:(GGSG)
3リンカーを含まないGFP-Prot-L断片(1487 bp)である。救出されたVSV-Prot-Offウイルス((GGSG)
3リンカーを含まず)とHIVタンパク質分解酵素挿入物の領域の構築物プラスミドおよびプラスミド配列のコンセンサス配列との配列アライメントは、いかなる変異も示さなかった。
【0043】
【
図19-1】
図19は、タンパク質分解酵素阻害剤であるアンプレナビルが、用量依存的にVSV-Prot-OFF活性を調節することを示す。VSV-Prot-OFFのウイルス活性に対するHIVタンパク質分解酵素阻害剤の用量応答を示す。
図19A:BHK細胞を1のMOIで感染させ、24時間後にウイルス感染を評価した。ウイルスのGFP発現は、アンプレナビル(APV)の用量の増加とともに減少する。
図19B:24 hpiで測定されたウイルス複製を示す。VSV-Prot-OFF活性は、30 nMのAPV用量で減少を開始した。試験したAPVの最高用量は30 μMであった。30 μMより高いAPV濃度は、細胞への毒性影響のためにVSV-Prot-OFFでは試験しなかった。10 μMのサキナビル(SQV、白色の記号)は、ウイルス複製の最も強い抑制を示した。
【
図19-2】
図19は、タンパク質分解酵素阻害剤であるアンプレナビルが、用量依存的にVSV-Prot-OFF活性を調節することを示す。VSV-Prot-OFFのウイルス活性に対するHIVタンパク質分解酵素阻害剤の用量応答を示す。
図19C:表示のサキナビル濃度を用いて24 hpiで測定されたウイルス複製を示す。
図19D:BHK細胞を、一段階の複製動態において、表示のVSV変異体であるVSV-GFPまたはVSV-Prot-Offを3のMOIで感染させた。採取した上清中のウイルス力価を測定して、Log
10 TCID
50/mlとして示す。
【0044】
【
図20】
図20は、VSV-P-protをタンパク質分解酵素阻害剤の投与によって生体内で調節できることを示す。ヌードマウスにU87神経膠芽腫細胞を皮下異種移植し、0.1 cm
3の中央値容量で表示のウイルスVSV-P-prot-Lucまたは対照緩衝液を単回投与により腫瘍内に注射した。0.8 mMのアンプレナビル(APV)および0.2 mMのリトナビル(RTV)を含むタンパク質分解酵素阻害剤(PI)混合物を、12時間毎に50 μLで腹腔内投与した。
図20A:代表的な生物発光画像は、ウイルス接種の8日後から示されている。
図20B:PI(黒色の四角形)または薬物媒体(灰色の円形)を投与されたマウス(n=5;平均値のSD;* p<0.05)でのVSV-P-prot-Lucで治療した腫瘍からのルシフェラーゼ信号の生物発光画像(BLI)の定量値を示す。
【0045】
【
図21】
図21は、VSV-L-protをタンパク質分解酵素阻害剤の投与によって生体内で調節できることを示す。ヌードマウスにU87神経膠芽腫細胞を皮下異種移植し、0.1 cm
3の中央値容量で表示のウイルスVSV-L-prot、VSV対照、または対照緩衝液(偽薬)を単回投与により腫瘍内に注射した。0.8 Mmのアンプレナビル(APV)および0.2 mMのリトナビル(RTV)を含むタンパク質分解酵素阻害剤(PI)混合物を、12時間毎に50 μLで腹腔内投与した。
図21A:腫瘍をノギスで測定し、体積を長さ×幅
2×0.4の式を用いて計算した。VSV-L-protによる皮下U87腫瘍の腫瘍内治療により、腫瘍増殖の減弱をもたらした。
図21B:生存率の図に、PIの不在下でVSV-L-protにより治療されたマウス(太い実線)での腫瘍と比較して、VSV-L-prot+PI(細い実線)により治療された動物での生存率が増加したことを示している(L-protウイルス治療±PI、n=5;VSV、n=3;PBS、n=6;平均値のSD、* p<0.0X、** p<0.01)。
【0046】
【
図22】
図22は、タンパク質分解酵素阻害剤が、腫瘍の体積および生存率によって示されるように生体内でVSV-Prot-Off活性を調節することを示す。NOD-SCIDマウスに、100 μLのG62神経膠腫細胞の懸濁液を皮下異種移植し、0.07 cm
3の中央値容量で、表示のウイルスVSV-Prot-Off、VSV-GFP、または対照緩衝液(偽薬)を単回投与により腫瘍内に注射し、さらにAおよびBの縦方向の黒色点線で示されるように7日後に再度腫瘍内に注射した。0.8 mMのサキナビル(SQV)および0.2 mMのリトナビル(RTV)を含むタンパク質分解酵素阻害剤(PI)混合物を、8時間毎に50 μLで腹腔内投与した。PI治療を、腫瘍の退縮が観察された2回目のウイルス注射の8日後に開始した。
図22A:腫瘍をノギスで測定し、体積を長さ×幅
2×0.4の式を用いて計算した。
図22B:生存率の図に、観察期間にわたるウイルス神経毒性および/または腫瘍発生の生存率を反映している(VSV-Prot-Offウイルス治療±PI、n=8;VSV-GFP、n=8;平均値のSD)。
【0047】
【
図23】
図23は、タンパク質分解酵素阻害剤が、免疫蛍光によって示されるように生体内でVSV-Prot-Off活性を調節することを示す。0.07cm
3の体積中央値を有するG62異種移植片に、表示のVSV変異体であるVSV-Prot-OffまたはVSV-GFPあるいは対照緩衝液(偽薬)を腫瘍内に注射した。PI治療(SQVおよびRTV)を、組織学的検討のために単回ウイルス治療の3日後に開始した。各群毎に3匹のマウスの免疫蛍光染色の代表的な画像を示している。上部の図はDAPI染色;中央の図は抗VSV-N抗体染色;および下部の図は抗VSV-N抗体染色の拡大領域を示す。PI治療は、VSV-Prot-Off-GFPの主に注射部位への拡散を制限していた。
【0048】
【
図24】
図24は、生体外での可溶性IL12をコードするVSV-Prot-Off活性に対するサキナビルの用量応答を示す。BHK細胞を、0.1のMOIで、表示のVSV異性体であるVSV-GP、VSV-GP-IL12、VSV-GP-GFP-IL12-Prot-Off-wl、またはVSV-GP-GFP-IL12-Prot-Off-w/olにより感染させ、洗浄後に10、100、300、1.000、10.000 nmolのタンパク質分解酵素阻害剤(PI)であるサキナビルの不在下(-ctrl)および存在下で培養した。感染の30時間後に上清を採取した。
図24A:VSV-GP-GFP-IL12-Prot-Offゲノム体系の概略図であり、3’→5’方向の遺伝子を示している(上部の図)。ウイルス力価を、TCID
50により上清で測定した。リンカーの有無(wl、w/ol)でのVSV-GP-IL12-Prot-Offのウイルス力価は、サキナビル濃度と逆相関していた。
図24B:酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を実施して、上清中に発現された導入遺伝子IL12を測定した。IL12の発現はサキナビル濃度と逆相関していた。対照として、サキナビルを含まないVSV-GP-IL12試料(-ctrl)を希釈して測定した。
【0049】
【
図25】
図25は、生体外での可溶性IL12をコードするVSV-Prot-Off活性に対するアタザナビルの用量応答を示す。BHK細胞を、1のMOIで、表示のVSV変異体であるVSV-GP-IL12、VSV-GP-Luc-IL12-Prot-Off-w/ol、またはVSV-GP-Luc-IL12-Prot-Off-wlにより感染させ、洗浄後に10、100、300、1.000、10.000 nmolのアタザナビルの不在下(-ctrl)または存在下で培養した。感染の30時間後に上清を採取した。
図25A:VSV-GP-Luc-IL12-Prot-Offゲノム体系の概略図であり、3’→5’方向の遺伝子を示している(上部の図)。ウイルス力価を、TCID
50により上清で測定した。リンカーの有無(wl、w/ol)でのVSV-GP-Luc-IL12-Prot-Offのウイルス力価は、アタザナビル濃度と逆相関していた。
図25B:酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を実施して、上清中に発現された導入遺伝子IL12を測定した。IL12の発現はアタザナビル濃度と逆相関していた。対照として、アタザナビルを含まないVSV-GP-IL12試料(-ctrl)を希釈して測定した。
【0050】
【
図26】
図26は、可溶性IL12および異なるレポータータンパク質の両方をコードする2つのVSV-Prot-off構築物の複製動態を示す。
図26A:IL12およびGFP(VSV-GP-Prot-Off-w/ol GFP IL12)またはルシフェラーゼ(VSV-GP-Prot-Off-w/ol Luc IL12)のいずれかをコードするVSV変異体のVSV-Prot-Offゲノム体系の概略図であり、これらは可溶性IL12と、タンパク質分解酵素二量体およびLタンパク質に(N末端からC末端に)融合したGFPまたはルシフェラーゼ(Luc)のいずれかを含む融合タンパク質をコードする、3’→5’方向への遺伝子を示している。
図26B:BHK細胞を、3のMOIで、一段階の複製動態で表示のVSV変異体により感染させた。感染後に、細胞を洗浄して、GMEM中で表示時間で培養した。採取した上清中のウイルス力価を測定して、Log
10TCID
50/mlとして示す。
【0051】
【
図27】
図27は、膜に固定されたIL12をコードするVSV-Prot-off構築物の概略図を示す。
図27A:VSV-Prot-offゲノム体系の概略図であり、CD4膜貫通ドメインに融合したIL12、タンパク質分解酵素、およびLタンパク質を含む融合タンパク質をコードする3’→5’方向の遺伝子を示している。
図27B:IL12、CD4膜貫通ドメイン(TM)、タンパク質分解酵素(prot二量体)、および膜貫通ドメインに位置するLタンパク質(L)を含む融合タンパク質の概略図を示す。
【0052】
【
図28-1】
図28は、VSV-Prot-off構築物を用いる膜結合治療用タンパク質の発現に関する原理証明を示す。CD4の膜貫通ドメインを備えるIL12を重合酵素に直接融合させて、タンパク質分解酵素阻害剤(PI)の存在により、ウイルス複製と導入遺伝子発現の両方を低減できる。BHK細胞を1のMOIで表示のVSV変異体により感染させ、洗浄後に細胞を10、100、300、1.000、10.000 nmolのアタザナビル(ATV)の不在下(-ctrl)または存在下で培養した。感染の30時間後に上清を採取した。
図28A:上清中のウイルス力価をTCID
50により測定した。リンカーを含まないVSV-GP-TM-IL12-Prot-Off(-w/ol)またはIL12の膜貫通ドメインとHIVタンパク質分解酵素二量体の間にフォワードリンカーを正確に含むVSV-GP-TM-IL12-Prot-Off(-fl)のウイルス力価は、AZV濃度と逆相関していたが、VSV-GP-IL12は影響を受けなかった。
図28B:リンカーを含まないVSV-GP-TM-IL12-Prot-Off(-w/ol)またはフォワードリンカー正確に含むVSV-GP-TM-IL12-Prot-Off(-fl)で感染させた培養物の濾過していない上清を、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)でIL12について試験した。
【
図28-2】
図28は、VSV-Prot-off構築物を用いる膜結合治療用タンパク質の発現に関する原理証明を示す。CD4の膜貫通ドメインを備えるIL12を重合酵素に直接融合させて、タンパク質分解酵素阻害剤(PI)の存在により、ウイルス複製と導入遺伝子発現の両方を低減できる。BHK細胞を1のMOIで表示のVSV変異体により感染させ、洗浄後に細胞を10、100、300、1.000、10.000 nmolのアタザナビル(ATV)の不在下(-ctrl)または存在下で培養した。感染の30時間後に上清を採取した。
図28C:VSV-GP-TM-IL12-Prot-Off-flにより感染させた細胞を、細胞溶解緩衝液で希釈して、IL12濃度を、溶解した試料(上清+溶解細胞)のELISAによって、細胞を含む上清(溶解せず)または濾過した上清のみ(n=2)と比較して測定した。
図28D:BHK細胞を、3のMOIで表示のVSV変異体により感染させ、表示の期間培養した。フォワードリンカーを含まない(-w/ol)または含む(-fl)VSV-Prot-Offの膜貫通IL12変異体は、起源ウイルスVSV-GP-IL12に対比して、初期時点のみで中程度の低下が見られた。
【発明の詳細な説明】
【0053】
一般的な実施態様である「含む(comprising)」または「含んだ(comprised)」は、より特定的な実施態様である「からなる(consisting of)」を包含する。さらに単数形および複数形は、限定する形態では用いない。本明細書で使用される単数形「a」、「an」および「the」は、単数形のみを指定するように明示的に述べられてない限り、単数形および複数形の両方を示す。
【0054】
本発明で使用される用語「相同体」または「相同の」は、元々の配列またはその相補的配列に対し、配列が少なくとも80%同一であるポリペプチド分子または核酸分子を意味する。好ましくは、ポリペプチド分子または核酸分子は、対照配列またはその相補配列に対し配列が少なくとも90%同一である。より好ましくは、ポリペプチド分子または核酸分子は、対照配列またはその相補配列に対し配列が少なくとも95%同一である。最も好ましくは、ポリペプチド分子または核酸分子は、対照配列またはその相補配列に対し配列が少なくとも98%同一である。相同タンパク質はさらに、元々の配列と同一または類似のタンパク質活性を示す。
【0055】
本明細書で使用される用語「アミノ酸位置に対応している」または「アミノ酸位置に対応する」とは、例えば配列番号27の配列を有するPタンパク質のアミノ酸配列または配列番号28の配列を有するLタンパク質のアミノ酸配列などのVSViの定義済みの配列を含み、さらにその天然の変異体または他のVSV血清型由来の配列も含む。また、VSVなどのRNAウイルスのゲノム配列が変化して、従って同一の血清型由来であっても配列番号27または配列番号28で提供される配列とは同一ではない可能性があることは、当業者は分かっている。しかしながら、配列アラインメントを用いて、当業者は、それぞれPタンパク質またはLタンパク質の配列番号27または配列番号28の配列での定義済みの位置、すなわち相同位置に対応する、特定のVSV配列中での配列の位置を識別する方法を知っている。配列番号27の配列を有するPタンパク質または配列番号28の配列を有するLタンパク質中の定義済みの位置に対応する位置を含むこのような配列は、配列番号27の配列または配列番号28の配列に対し少なくとも80%の配列同一性を有することになり、好ましくは配列番号27の配列または配列番号28の配列に対し少なくとも90%の同一性を有することになる。対応する配列はまた、タンパク質分解酵素および/または前記タンパク質分解酵素の切断部位などの組換え挿入物を含んでもよいが、これら挿入物が対応する配列を決定とは考えるべきではない。
【0056】
用語「タンパク質」は、「アミノ酸残基配列」または「ポリペプチド」と互換的に用いられ、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。これらの用語はまた、限定はされないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、糖化、またはタンパク質処理を含む反応によって翻訳後に修飾されるタンパク質を含む。分子がその生物学的な機能活性を維持している間に、アミノ酸配列の置換、欠失、または挿入などの修飾および変更を、ポリペプチドの構造中で実施できる。例えば、特定のアミノ酸配列の置換を、ポリペプチドまたはその基礎となる核酸コード配列中で実施でき、同一の特性を有するタンパク質を得ることができる。用語「ポリペプチド」は、典型的には10個を超えるアミノ酸を有する配列を指し、用語「ペプチド」は、最大10個のアミノ酸の長さを有する配列を意味する。但しこれらの用語は互換的に使用される場合がある。
【0057】
用語「融合タンパク質」は、異なる供給源由来の部分からなるキメラタンパク質を指し、特に元々別々のタンパク質またはその断片をコードする2つ以上の遺伝子または遺伝子部分の結合によって生成される。組換え融合タンパク質は、組換えDNA技術によって人工的に生成される。融合タンパク質は、全長タンパク質(すなわち全ての機能ドメインを含む)またはその断片、例えば1つ以上の機能ドメイン、コンセンサスモチーフ、別の全長タンパク質(すなわち全ての機能ドメインを含む)またはその断片に融合した切断部位を含んでもよい。「融合」とは、第1のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から第2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列までがフレーム内にあって、その結果、ヌクレオチド配列が単一のタンパク質として発現することを意味する。ポリタンパク質は、典型的にはRNAウイルス内で発生する、融合タンパク質の部分型である。ポリタンパク質は、単一のオープンリーディングフレーム内でいくつかのタンパク質をコードする単一のmRNAの翻訳によって生成されるタンパク質であり、すなわち互いに融合しているタンパク質(マルチシストロン性のmRNA)である。ポリタンパク質は、典型的にはタンパク質分解酵素により、翻訳後にまたは同時翻訳的に単一のタンパク質に処理される。
【0058】
本明細書で使用される用語「ゲノムRNA」は、RNAウイルスの遺伝性の遺伝子情報を指す。但し本発明の環境では、用語「ゲノム」はまた、典型的には、RNAウイルスのゲノム、従ってリボ核酸配列を有するRNAゲノムを指す。当業者は、RNAウイルスのゲノムがまた、プラスミドなどのベクター中のDNA配列として提供されてもよいことは分かっている。次にRNAゲノムを、転写による宿主細胞での遺伝子導入に続いて、宿主細胞中で生成する。
【0059】
本明細書で使用される用語「遺伝子」は、機能的産物として発現されて、あるいは遺伝子発現の調節によって、生物の形質に影響を及ぼす遺伝性ゲノム配列のDNAまたはRNA遺伝子座を指す。遺伝子およびポリヌクレオチドは、ゲノム配列内のようにイントロンおよびエキソンを含んでもよく、または開始コドン(メチオニンコドン)および翻訳停止コドンを含むオープンリーディングフレーム(ORF)などのcDNA内のようにコード配列のみを含んでもよい。遺伝子およびポリヌクレオチドはまた、転写開始、翻訳、および転写終結などのそれらの発現を調節する領域を含んでもよい。従って、プロモーターなどの調節エレメントもまた含まれる。
【0060】
本明細書で使用される用語「核酸」、「ヌクレオチド」、および「ポリヌクレオチド」は、互換的に用いられ、5’→3’末端から読み取れるデオキシリボヌクレオチド塩基またはリボヌクレオチド塩基の一本鎖または二本鎖ポリマーを指し、かつ二本鎖DNA(dsDNA)、一本鎖DNA(ssDNA)、一本鎖RNA(ssRNA、マイナスセンスおよびプラスセンス)、二本鎖RNA(dsRNA)、ゲノムDNA、cDNA、cRNA、組換えDNAまたは組換えRNA、およびそれらの誘導体、例えば修飾された骨格を含むそれらの誘導体が含まれる。
【0061】
本明細書で使用される用語「リボ核酸」、「RNA」、または「RNAオリゴヌクレオチド」は、核酸塩基、リボース糖、およびリン酸基から構築されるヌクレオチドの配列からなる分子を指す。RNAは、通常は一本鎖分子であり、様々な機能を発揮できる。用語「リボ核酸」には、具体的には、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、およびマイクロRNA(miRNA)を含み、それらのそれぞれは、生物細胞中で特異的な役割を果たす。このリボ核酸には、マイクロRNA(miRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、およびPiwi相互作用RNA(piRNA)などの低分子非コードRNAが含まれる。用語「非コード」は、RNA分子がアミノ酸配列に翻訳されないことを意味する。
【0062】
用語「上流」および「下流」は、DNAまたはRNA内での相対的な位置を指す。DNAまたはRNAのそれぞれの鎖は、デオキシリボースまたはリボース単位の末端炭素位置に関連する5’末端および3’末端を有する。慣例により、「上流」はポリヌクレオチドの5’末端への方向を意味し、「下流」はポリヌクレオチドの3’末端への方向を意味する。ゲノムDNAなどの二本鎖DNAの場合には、用語「上流」はコード鎖の5’末端への方向を意味し、用語「下流」はコード鎖の3’末端への方向を意味する。
【0063】
用語「コード鎖」または「プラスセンス鎖」は、タンパク質をコードするRNA鎖を指す。
【0064】
用語「非コード鎖」、「アンチセンス鎖」、または「マイナスセンス鎖」または「マイナス鎖」は、翻訳の前にRNA依存性RNA重合酵素によってプラス鎖RNAに転写される必要があるRNA鎖を指す。
【0065】
「ベクター」は、異種ポリヌクレオチドを細胞中に導入するために使用できる核酸である。一種のベクターは「プラスミド」であり、さらなる核酸区画を連結できる鎖状または環状の二本鎖DNA分子を指す。別種のベクターはウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、VSV、およびMeVの複製欠損形態または活性形態)であり、さらなるDNAまたはRNA区画をウイルスゲノム中に導入できる。
【0066】
用語「コードする(encode)」および「コードする(code)」は、広い意味で、重合高分子の情報を用いて第1の分子とは異なる第2の分子の生成を誘導する任意のプロセスを指す。第2の分子は、第1の分子の化学的性質とは異なる化学構造を有してもよい。例えば、用語「コードする」は、半保存的DNAの複製プロセスを表し、このプロセスでは、二本鎖DNA分子の1本の鎖を鋳型として用いて、DNA依存性DNA重合酵素によって新規に合成された相補的な姉妹鎖をコードする。さらに、DNA分子は、(例えばDNA依存性RNA重合酵素を用いて)RNA分子をコードでき、あるいは(マイナス鎖の)RNA分子は、(プラス鎖の)RNA分子を(例えばRNA依存性RNA重合酵素を用いて)コードできる。また(プラス鎖の)RNA分子は、翻訳プロセスのようにポリペプチドをコードできる。翻訳のプロセスを説明するために使用される用語「コードする」はまた、アミノ酸をコードする三重コドンにまで拡大される。RNA分子はまた、例えば、RNA依存性DNA重合酵素を用いる逆転写プロセスによって、DNA分子をコードできる。ポリペプチドをコードするDNA分子を述べる場合には、転写および翻訳のプロセスを指す。
【0067】
本明細書で使用される用語「異種ポリペプチド」または「異種タンパク質」は、受容体すなわちRNAウイルスとは異なる生物または異なる種に由来するタンパク質を指す。本発明の環境では、当業者には、それがウイルスによって天然に発現されないタンパク質を指すことが分かっている。タンパク質の部分として使用される場合の用語「異種」はまた、タンパク質が本質的に互いに同一の関係であると判別されない2つ以上のアミノ酸配列を含むことを示していてもよい。本発明の環境では、それは、典型的には、治療用タンパク質、腫瘍特異的抗原または腫瘍関連抗原などの抗原、または(ルシフェラーゼまたは蛍光タンパク質などの)レポーターである。
【0068】
用語「治療用タンパク質」は、ヒトおよび/または動物の医療に使用できるタンパク質を指す。これらには、限定はされないが、抗体、成長因子、血液凝固因子、インターフェロンおよびインターロイキンなどのサイトカイン、ケモカイン、およびホルモンが含まれ、好ましくは成長因子、サイトカイン、ケモカイン、および抗体が含まれる。
【0069】
用語「サイトカイン」は、低分子タンパク質を指し、これは細胞によって放出されかつ細胞間の媒介物として作用し、例えば、分泌細胞を包囲する細胞の挙動に影響を及ぼす。サイトカインは、T細胞、B細胞、NK細胞、およびマクロファージなどの免疫細胞または他の細胞によって分泌されてもよい。サイトカインは、オートクリンシグナル伝達、パラクリンシグナル伝達、内分泌シグナル伝達などの細胞間のシグナル伝達事象に関与する可能性がある。それらは、限定はされないが、免疫、炎症、および造血を含む一連の生物学的プロセスを媒介する可能性がある。サイトカインは、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン、または腫瘍壊死因子であってもよい。
【0070】
本明細書で使用される「成長因子」は、細胞増殖を刺激できるタンパク質またはポリペプチドを指す。
【0071】
本明細書で使用される用語「発現」は、宿主細胞内の異種核酸配列の転写および/または翻訳を指す。宿主細胞内の目的の遺伝子産物の発現水準は、細胞内に存在している対応するmRNA(またはプラス鎖RNA)の量、または選択配列によってコードされるポリペプチドの量のいずれかに基づいて決定される可能性がある。例えば、選択配列から転写されたRNAは、ノーザンブロットハイブリダイズ、リボヌクレアーゼRNA保護、細胞RNAへのその場ハイブリダイズ、またはqPCRなどのPCRによって定量できる。選択配列がコードされるタンパク質は、種々な方法によって、例えばELISA、ウエスタンブロット、放射免疫測定、免疫沈降、タンパク質の生物学的活性測定、タンパク質の免疫染色とその後のFACS分析、または均一時間分解蛍光(HTRF)測定によって定量できる。miRNAまたはshRNAなどの非コードRNAの発現水準は、qPCRなどのPCRによって定量してもよい。
【0072】
用語「遺伝子産物」は、遺伝子またはDNAポリヌクレオチドがコードされるmRNAポリヌクレオチドおよびポリペプチドの両方を指す。
【0073】
本明細書で使用される「レポーター遺伝子」は、容易に検出および定量できるレポータータンパク質すなわち「レポーター」をコードするポリヌクレオチドである。従って、レポーターの発現水準の測定値は、典型的には、転写および/または翻訳の水準を示している。レポーターをコードする遺伝子はレポーター遺伝子である。例えば、レポーター遺伝子は、その活性を定量できる酵素などのレポーター、例えば、アルカリ脱リン酸酵素(AP)、クロランフェニコールアセチル基転移酵素(CAT)、ウミシイタケルシフェラーゼ、またはホタルルシフェラーゼタンパク質をコードしていてもよい。レポーターにはまた、蛍光タンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)または強化GFP(EGFP)を含むいずれかのGFPの組換え変異体、青色蛍光タンパク質(BFPおよび他の誘導体)、シアン蛍光タンパク質(CFPおよび他の誘導体)、黄色蛍光タンパク質(YFPおよび他の誘導体)、および赤色蛍光タンパク質(RFPおよび他の誘導体)、またはmCherryやmWasabiなどの他の蛍光タンパク質が含まれる。
【0074】
用語「タンパク質分解酵素(protease)」または「タンパク質分解酵素(proteinase)」は、本明細書では同義語として使用され、タンパク質分解、すなわちペプチド結合の加水分解によるタンパク質の異化作用を支援する酵素を指す。タンパク質分解酵素は、セリンタンパク質分解酵素、システインタンパク質分解酵素、スレオニンタンパク質分解酵素、アスパラギン酸タンパク質分解酵素、グルタミン酸タンパク質分解酵素、メタロタンパク質分解酵素、およびアスパラギンペプチド脱離酵素の7つの広範囲な群に分類できる。タンパク質分解酵素は、原核生物、真核生物、ウイルスなど、全ての生物内で作用する。原則として、全てのタンパク質分解酵素は、それらが高度に特異的であり、すなわち基質配列の制限された組を有しかつ特定の阻害剤が利用可能である限り、本発明の環境では適切である。タンパク質分解酵素阻害剤は、タンパク質分解酵素に特異的であり、生体内での使用に適していて、すなわち対象、好ましくはヒト対象への経口投与または非経口投与後などに、生体内で安全であり、生体活用性があり、かつ活性であることが知られている必要がある。ウイルスタンパク質分解酵素は、抗ウイルス薬と共通の標的となるので好都合であり、従って、ウイルスタンパク質分解酵素を阻害する多くのタンパク質分解酵素阻害剤が承認されていて、ヒトでは安全であると評価されている。例えば、ヒト免疫不全(HIV)タンパク質分解酵素の場合には、特徴が明確な種々のタンパク質分解酵素阻害剤が利用可能であり、所望の動態を備えるシステムの調節を可能とする。適切なHIVタンパク質分解酵素阻害剤の例は、限定はされないが、例えば、インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンプレナビル、ホスアンプレネビル、アタザナビル、チプラナビル、およびダルナビルである。治療では、タンパク質分解酵素阻害剤、特にHIVタンパク質分解酵素阻害剤を、リトナビルと組み合わせて投与してもよい。リトナビルは、他のタンパク質分解酵素阻害剤の血漿濃度を増加させる。ヒトタンパク質分解酵素は、ヒト患者には内因性タンパク質であり、従って免疫応答を誘発しないので好都合である。本発明によるRNAウイルスで用いられるタンパク質分解酵素は、異種タンパク質分解酵素、すなわちウイルスには内因性ではないタンパク質分解酵素である。本明細書で使用される用語「Prot」または「prot」は、タンパク質分解酵素の略称であり、従って、例えばL-Protは、本明細書に開示される分子内タンパク質分解酵素を含むLタンパク質を指し、P-Protは、本明細書に開示される分子内タンパク質分解酵素を含むPタンパク質を指し、あるいはProt-Lは、Lタンパク質に融合したタンパク質分解酵素を指し、Prot-Pは、Pタンパク質に融合したタンパク質分解酵素を指す。
【0075】
タンパク質分解酵素は、単量体または二量体であってもよい。好ましくは、二量体は、可撓性リンカーを介して単量体を連結して、一本鎖二量体の形態で用いられる。二量体としてのみ活性であるタンパク質分解酵素の例としては、実施例中に用いられるHIVタンパク質分解酵素である。HIV-1タンパク質分解酵素に関する説明のように、一本鎖二量体は、好ましくは、第1のタンパク質分解酵素と第2のタンパク質分解酵素との間の相同性を回避するためにコドン最適化されている。HIV 1タンパク質分解酵素のコドン最適化一本鎖二量体は、例えば、配列番号5のDNA配列を有してもよい。これは、VSVに過去に説明されたように(Simon-Loriere and Holmes 2011)、「コピー選択」組換え事象のリスクを低減し、ここでウイルスの重合酵素であるLタンパク質を、鋳型間でスイッチさせて、配列の延伸をスキップできる。「コピー選択」は、重合酵素が新生RNA鎖の新規に選択された鋳型との配列相同性によって誘導される場合に起きる。好ましくは、タンパク質分解酵素は自己触媒的に活性であり、すなわち、その分解酵素はシス開裂を媒介する。これは、タンパク質分解酵素の固有の特性であってもよく、あるいはタンパク質分解酵素に近接してそれぞれの切断部位をクローニングして生成されてもよく、すなわちタンパク質分解酵素は、N末端切断部位および/またはC末端切断部位を有する。好ましくは、タンパク質分解酵素は、いずれかの側の前記タンパク質分解酵素の切断部位によって組み立てられている。従って、タンパク質分解酵素は、前記タンパク質分解酵素の2つの切断部位を有し、一方はタンパク質分解酵素のN末端側にあり、他方はC末端側にある。好ましくは、2つの切断部位は同一ではない。切断部位を有するタンパク質分解酵素は、片側または両側にリンカーをさらに有してもよく、そのリンカーは、片側または両側の切断部位に隣接するか、あるいはタンパク質分解酵素と1つ以上の切断部位との間にある。
【0076】
従って、本発明による調節エレメントまたは「スイッチ」は、タンパク質分解酵素、前記タンパク質分解酵素の少なくとも1つの切断部位、および前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤を含む。
【0077】
本明細書で使用される用語「RNAウイルス」は、その遺伝物質としてリボ核酸(RNA)を有するウイルスを指す。RNAウイルスは、一本鎖(ssRNA)であってもよく、二本鎖(dsRNA)であってもよい。一本鎖RNAウイルスには、特にモノネガウイルス目および(インフルエンザウイルスを含むオルトミクソウイルス科を含む)アーティキュラウイルス目を含む「マイナスセンスssRNAウイルス(NegaRNAviricota)」の分類区分(門)を含み、かつコロナウイルス科、フラビウイルス科、エンテロウイルス科などの「プラスセンスssRNAウイルス」の分類区分を含む。特にモノネガウイルス目のマイナスセンスssRNAウイルスは、ボルナウイルス科(例えば、ボルナ病ウイルス(BDV))、ニャミウイルス科(ニャマニニウイルス(NYMV))、ラブドウイルス科(狂犬病ウイルス、水胞性口内炎ウイルス(VSV)、マラバウイルス)、フィロウイルス科(EBOVを含むエボラウイルス)、パラミクソウイルス科(麻疹ウイルス(MeV)、ニューキャッスル病ウイルス(NDV)を含む)、およびニューモウイルス科(例えば、ヒト呼吸器多核体ウイルス(HRSV))を含む。本発明の環境では、ラブドウイルス科およびパラミクソウイルス科が好ましく、より好ましくはベシキュロウイルス属のRNAウイルスである。
【0078】
マイナスセンスウイルスRNAは、mRNAに相補的であり、翻訳前に、RNA依存性RNA重合酵素によってプラスセンスRNAに変換される必要がある。従って、マイナスセンスRNAの精製済みRNAは、最初に転写する必要があるので感染性はなく、ウイルス粒子(ビリオン)中に含まれるRNA依存性RNA重合酵素を必要とする。RNA配列は配列決定のために逆転写されるので、組換えRNAウイルスの配列は、一般的にcDNA配列として提供される。
【0079】
用語「リンカー」は、タンパク質の異なる部分の機能に影響を及ぼすことなく、あるいはそれ自体に機能を持つことなくタンパク質の異なる部分を分離する、約6~30アミノ酸、好ましくは7~15アミノ酸の可変長の分離ペプチドをコードする配列を指す。リンカーは、可撓性または剛性であってもよく、好ましくは、リンカーは可撓性リンカーである。好ましくは、タンパク質分解酵素切断部位と、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質との間にはリンカーを用いない。
RNAウイルスの条件付き調節
【0080】
一側面では、本発明は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含む一本鎖RNAウイルスに関し、ここで、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物、および場合によってはさらにタンパク質分解酵素を含む。タンパク質分解酵素は、分子内挿入部位での前記タンパク質分解酵素の切断部位で、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を切断する。分子内挿入部位での切断は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質を不活性にする。タンパク質分解酵素阻害剤の添加は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を「スイッチオン」とするので、この側面は、本発明の環境ではONスイッチと呼ばれることもある。好ましくは、挿入物は、いずれかの側にグリシン-セリンリンカーなどの可撓性のリンカーを含む。
【0081】
別の側面では、本発明は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含む一本鎖RNAウイルスに関すし、ここで、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、N末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされている。融合タンパク質は、切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間に、グリシン-セリンリンカーなどのリンカーを含んでもよく、または含まなくてもよい。より一般的には、融合タンパク質は、タンパク質分解酵素とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間に、すなわちタンパク質分解酵素と切断部位との間に、あるいは切断部位とウイルス転写および/または複製に必須のタンパク質との間に、リンカーを含んでもよく、または含まなくてもよい。好ましくは、融合タンパク質は、切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーを含まない。あるいは、融合タンパク質は、タンパク質分解酵素と切断部位との間に、リンカーを含んでもよくまたは含まなくてもよい。タンパク質分解酵素は、融合タンパク質としてコードされた、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に位置する前記タンパク質分解酵素の切断部位で切断して、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を放出する。従って、タンパク質分解酵素および前記タンパク質分解酵素のタンパク質分解酵素の切断部位は、分子間位置にある。ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のタンパク質分解性の放出は、ウイルスの転写および/または複製に必須の前記タンパク質を活性にする。すなわち、タンパク質分解性切断は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つの活性なタンパク質を放出する。本明細書で使用される用語「放出」または「タンパク質分解性の放出」は、前記タンパク質を不活性にするウイルス転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質に融合した配列の排除を指す。タンパク質分解酵素阻害剤の添加は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を「スイッチオフ」とするので、この態様は、本発明の環境ではOFFスイッチと呼ばれることもある。
【0082】
従って、融合タンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素からなってもよい。融合タンパク質は、場合によっては、タンパク質分解酵素とウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質との間に、グリシン-セリンリンカーなどのリンカーをさらに含んでもよい。従って、融合タンパク質は、切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーを含んでもよく、または含まなくてもよく、あるいは、融合タンパク質は、タンパク質分解酵素と切断部位との間にリンカーを含んでもよく、または含まなくてもよい。好ましくは、融合タンパク質は、切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーを含まない。但し、前記融合タンパク質でのウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の不活性化には、さらなる要素は必要としない。従って融合タンパク質は、タンパク質分解酵素の切断部位で分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素、および場合によってはリンカーからなってもよい。融合タンパク質はまた、(a)タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素、および(b)ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素の反対側の末端に融合したさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質を含んでもよく、またはそれらからなってもよく、ここで、前記のさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質および前記タンパク質分解酵素はまた、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されている。融合タンパク質は、場合によっては、タンパク質分解酵素とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーをさらに含み、かつ/あるいはタンパク質分解酵素とさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質との間にリンカーをさらに含む。この環境では、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質ならびにさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質である両方のタンパク質を放出するために、タンパク質分解酵素がタンパク質分解酵素のいずれかの側に(いずれかの側の前記タンパク質分解酵素の切断部位によって組み立てられる)切断部位を含むことが重要である。好ましくは、タンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質のN末端に融合しているか、あるいはウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質はLタンパク質であるか、またはタンパク質分解酵素は、Lタンパク質のN末端に融合している。いずれかの側の前記タンパク質分解酵素(および場合によってはリンカー)の2つの切断部位は、好ましくは互いに異なっている。いずれかの側に切断部位を有するタンパク質分解酵素は、さらに一方側または両側にリンカーを有してもよく、このリンカーは、一方側または両側の切断部位に隣接しているか、またはタンパク質分解酵素と1つ以上の切断部位との間にあってもよい.好ましくは、融合タンパク質は、切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質との間にリンカーを含まない。
【0083】
本発明の環境で適切なRNAウイルスは、特に一本鎖RNAウイルスである。用語「一本鎖RNAウイルス」には、プラスセンス一本鎖RNAウイルスまたはマイナスセンス一本鎖RNAウイルスが含まれる。好ましくは、RNAウイルスは、マイナスセンス一本鎖RNAウイルスである。一実施態様では、RNAウイルスは、モノネガウイルス目のウイルスである。より具体的には、モノネガウイルス目の一本鎖RNAウイルスは、ラブドウイルス科、パラミクソウイルス科、フィロウイルス科、ニャミウイルス科、ニューモウイルス科、およびボルナウイルス科からなる群から選択される科のウイルス、好ましくはラブドウイルス科またはパラミクソウイルス科のウイルス、好ましくはベシキュロウイルス属のウイルス、より好ましくは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)また麻疹ウイルス(MeV)、さらにより好ましくはVSVであってもよい。
【0084】
一実施態様では、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、RNA依存性RNA重合酵素(RdRp)および/またはRNA依存性RNA重合酵素および/またはヌクレオカプシドタンパク質を含む重合酵素複合体のタンパク質である。好ましくは、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、重合酵素補因子、重合酵素、およびヌクレオカプシドタンパク質からなる群から選択される。用語「重合酵素補因子」は、RNA重合酵素の転写および複製の複合体の必須成分を指す。VSVでは、RdRp複合体は、RdRpとして作用する巨大タンパク質(Lタンパク質)とリン酸化タンパク質(Pタンパク質)を含む。Pタンパク質は2個のドメインを有し、一方は転写に関与し、他方は複製に関与する。典型的には、Pタンパク質はウイルスのリボヌクレオカプシドに結合し、かつRNA依存性RNA重合酵素を鋳型表面に配置する。
【0085】
特定の実施態様では、RNAウイルスはモノネガウイルス目のウイルスであり、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、リン酸化タンパク質(Pタンパク質)またはその機能的同等物などの重合酵素補因子、巨大タンパク質(Lタンパク質)などの重合酵素、および/または核タンパク質(Nタンパク質)などのヌクレオカプシドである。ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、ウイルスの転写および/または複製に必須の1つ、2つ、または3つのタンパク質であってもよく、好ましくはウイルスの転写および/または複製に必須の1つまたは2つのタンパク質であってもよい。Pタンパク質の用語「機能的同等物」は、RNA依存性RNA重合酵素そのもの以外のRdRp複合体の必須成分を指す。
【0086】
モノネガウイルス目は、限定はされないが、ボルノウイルス科、ニャミウイルス科、ラブドウイルス科、フィロウイルス科、パラミクソウイルス科、およびニューモウイルス科を含む。重合酵素は、ボルノウイルス科(例えばBDV)、ニャミウイルス科(例えばNYMV)、ラブドウイルス科(例えばVSV、マラバウイルス)、フィロウイルス科(例えばEBOV)、パラミクソウイルス科(例えばMeV)、およびニューモウイルス科(例えばHRSV)中のLタンパク質を指す。ヌクレオカプシドは、ボルノウイルス科(例えばBDV)ニャミウイルス科(例えばNYMV)、ラブドウイルス科(例えばVSV)、パラミクソウイルス科(例えばMeV)、およびニューモウイルス科(例えばHRSV)中のNタンパク質を指し、フィロウイルス科(例えばEBOV)ではNPタンパク質を指す。従ってNタンパク質の機能的同等物の一例は、フィロウイルス科のNPタンパク質である。重合酵素補因子は、ニャミウイルス科(例えばNYMV)、ラブドウイルス科(例えばVSV)、およびニューモウイルス科(例えばHRSV)中のPタンパク質を指し、ボルノウイルス科(例えばBDV)ではX/Pタンパク質、フィロウイルス科(例えばEBOV)ではVP35、およびパラミクソウイルス科(例えばMeV)ではP/V/Cタンパク質を指す。ニャミウイルス科は、Pタンパク質に加えて、さらなる重合酵素補因子であるXタンパク質を含む。従って、Pタンパク質の機能的同等物の例は、ボルノウイルス科でのX/Pタンパク質、フィロウイルス科でのVP35タンパク質、パラミクソウイルス科でのP/V/Cタンパク質、およびニャミウイルス科でのXタンパク質である。
【0087】
一実施態様では、RNAウイルスはモノネガウイルス目のウイルスであり、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Pタンパク質またはその機能的同等物などの重合酵素補因子、および/またはLタンパク質などの重合酵素、あるいはそれらの組合せである。好ましくは、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Lタンパク質などの重合酵素である。理論に拘束されることなく、ウイルス遺伝子の転写はゲノムの3’末端にある単一のプロモーターから順番に起こり、各転写物の量の減少がもたらされるので、ゲノムの最後部にあるLタンパク質での修飾は、他のタンパク質の修飾と比較してより少なくなる。
【0088】
タンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の活性を調節する。タンパク質分解酵素は、分子内位置では少なくとも前記タンパク質分解酵素の切断部位によりウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質を不活性にし、それに対し分子間位置では、タンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質を活性にする。このタンパク質分解酵素は、その活性状態にあり、かつ前記タンパク質分解酵素のタンパク質阻害剤が不在であるタンパク質分解酵素を指す。従って、タンパク質分解酵素はまた、ウイルスの転写および/または複製を調節する。用語「前記タンパク質分解酵素の切断部位」は、ポリペプチドのタンパク質分解性切断の基質として機能するコンセンサスアミノ酸配列を指す。それぞれのタンパク質分解酵素での切断部位は、当技術分野では既知である。
【0089】
一実施態様では、タンパク質分解酵素は自己触媒性タンパク質分解酵素であるか、あるいはタンパク質分解酵素は自己触媒性タンパク質分解酵素として作用する。自己触媒性タンパク質分解酵素として作用するタンパク質分解酵素とは、タンパク質分解酵素が自己触媒的に活性である、すなわちその分解酵素がシス開裂を媒介することを意味する。典型的には、自己触媒的に活性なタンパク質分解酵素はまた、それぞれの切断部位を含む異なるポリペプチドにおいて、シス切断に加えてトランス切断を媒介する。シス切断の媒介は、タンパク質分解酵素の固有の特性(自己触媒性タンパク質分解酵素)である可能性がある。例えばタンパク質分解酵素は、1つ以上の切断部位に隣接している。従ってタンパク質分解酵素は、タンパク質分解酵素を含むポリペプチドの切断を媒介する。特定の場合には、タンパク質分解酵素は、自己触媒的切断によってポリタンパク質から放出される可能性がある。タンパク質分解酵素はまた、タンパク質分解酵素のN末端またはC末端に1つまたは2つの切断部位を組み込むことによって自己触媒的に活性になる可能性がある。従って、自己触媒性タンパク質分解酵素として作用するタンパク質分解酵素、または触媒的に活性であるタンパク質分解酵素はまた、タンパク質分解酵素に近接してそれぞれの切断部位をクローニングすることによって生成されてもよく(同一のポリペプチド表面に切断部位を自然に発現せず)、その結果、組換えタンパク質分解酵素は、N末端および/またはC末端に切断部位を有する。好ましくは、タンパク質分解酵素は、いずれかの側の前記タンパク質分解酵素の切断部位によって組み立てられている。従って、タンパク質分解酵素は、前記タンパク質分解酵素の2つの切断部位を有し、一方はタンパク質分解酵素のN末端側にあり、他方はC末端側にある。自己触媒性タンパク質分解酵素または自己触媒性タンパク質分解酵素として作用するタンパク質分解酵素は、ONスイッチ(タンパク質分解酵素阻害剤の添加は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を「スイッチオン」にする)に関連する側面を優先し、またOFFスイッチ(タンパク質分解酵素阻害剤の添加は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を「スイッチオフ」にする)に関連する側面を優先する。但し、ONスイッチに関連する側面では、分子内挿入部位での挿入物は、前記タンパク質分解酵素の切断部位のみを含んでもよいが、タンパク質分解酵素は、トランスで、すなわち、好ましくはRNAウイルスがコードする別個のポリペプチドとして提供されてもよい。従って、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、少なくとも前記タンパク質分解酵素の切断部位、好ましくはタンパク質分解酵素および前記タンパク質分解酵素の切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物を含む。従って、前記タンパク質分解酵素の切断部位のみを含む分子内挿入部位での挿入物の場合には、タンパク質分解酵素はトランスで提供される。
【0090】
さらに、タンパク質分解酵素または自己触媒性タンパク質分解酵素は、任意のタンパク質分解酵素、特にウイルスタンパク質分解酵素、原核生物タンパク質分解酵素、または真核生物タンパク質分解酵素、特にウイルスまたは真核生物タンパク質分解酵素であってもよい。本発明によるRNAウイルスで用いられるタンパク質分解酵素は、異種タンパク質分解酵素、すなわち、ウイルスに内因性ではないタンパク質分解酵素である。一実施態様では、タンパク質分解酵素は、タンパク質分解酵素がHCVまたはHIVに由来するようなウイルスタンパク質分解酵素である。当業者なら、本発明の環境に適切なタンパク質分解酵素は、非常に特異的であり、すなわち、固有で稀な基質配列の限定された集合を有し、さらに利用可能な特異的な阻害剤を有することを分かっている。特定の阻害剤を利用できることにより、RNAウイルスの条件付き調節が可能になる。タンパク質分解酵素阻害剤は、タンパク質分解酵素のタンパク質分解活性を阻害し、ここで「阻害」とは、タンパク質分解酵素が、阻害剤を含まないタンパク質分解酵素と比較して少なくとも80%の阻害、少なくとも90%の阻害、少なくとも95%の阻害、少なくとも99%の阻害、好ましくは100%の阻害を示すことを意味する。好ましくは、阻害剤を治療用血清濃度に対応する用量で用いる。
【0091】
タンパク質分解酵素阻害剤は、タンパク質分解酵素に特異的であり、かつ生体内での使用に適する必要があり、すなわち、例えば対象、好ましくはヒト対象への経口または非経口投与の後に生体内で安全であり、生体利用可能であり、かつ活性である必要がある。ウイルスタンパク質分解酵素は、抗ウイルス薬での一般的な標的となるので好都合であり、従って、ウイルスタンパク質分解酵素を阻害する複数のタンパク質分解酵素阻害剤が承認されていて、ヒトに安全であると評価されている。例えば、ヒト免疫不全(HIV)タンパク質分解酵素の場合に、特徴が明確な様々なタンパク質分解酵素阻害剤が利用可能であり、所望の動態によりシステムの調節を可能する。適切なHIVタンパク質分解酵素阻害剤の例は、限定はされないが、例えば、インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンプレナビル、ホスアンプレナビル、アタザナビル、チプラナビル、およびダルナビルである。ヒトタンパク質分解酵素は、ヒト患者にとって内因性タンパク質であり、従って免疫応答を誘発しないので好都合である。適切なヒトタンパク質分解酵素の例は、限定はされないが、カスパーゼおよびメタロプロテイナーゼである。適切なヒトタンパク質分解酵素阻害剤の例は、限定はされないが、例えばカスパーゼ阻害剤であるエムリカサンおよびニボカサン;基質メタロプロテイナーゼ阻害剤であるバチマスタット、タノマスタット、およびエカリキシマブである。
【0092】
タンパク質分解酵素は、単量体または二量体であってもよい。好ましくは、二量体は、可撓性リンカーを介して単量体を連結して、一本鎖二量体の形態で用いられる。二量体としてのみ活性であるタンパク質分解酵素の例は、実施例で用いているHIVタンパク質分解酵素である。HIV-1タンパク質分解酵素での説明のように、一本鎖二量体を、好ましくは、第1のタンパク質分解酵素と第2のタンパク質分解酵素との間の相同性を回避するためにコドン最適化する。これにより、VSVでの過去の説明のように(Simon-Loriere and Holmes 2011)、ウイルス重合酵素であるLタンパク質が鋳型間で切り替わり配列延伸をスキップできる「コピー選択」組換え事象のリスクが軽減される。「コピー選択」は、重合酵素が新生RNA鎖の新規に選択された鋳型との配列相同性によって誘導される場合に発生する。好ましくは、タンパク質分解酵素は自己触媒的に活性であり、すなわち、それはシス開裂を媒介する。一実施態様では、タンパク質分解酵素は、HIV-1タンパク質分解酵素であり、好ましくはHIV-1タンパク質分解酵素の一本鎖二量体(例えば、配列番号5のDNA配列を有するHIV-1タンパク質分解酵素の一本鎖二量体)である。適切なHIV-1タンパク質分解酵素阻害剤は、限定はされないが、インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンプレナビル、ホスアンプレナビル、アタザナビル、ティプラナビル、またはダルナビルであり、好ましくはアンプレナビル、サキナビル、またはインジナビルである。別の実施態様では、タンパク質分解酵素は、HCVタンパク質分解酵素NS3であり、適切なNS3阻害剤は、限定はされないが、ボセプレビル、テラプレビル、アスナプレビル、シルプレビル、ファルダプレビル、バニプレビル、ナルラプレビル、シメプレビル、またはダノプレビルであり、好ましくはバニプレビル、ナルラプレビル、シメプレビル、またはダノプレビルである。
【0093】
本発明による一本鎖RNAウイルスはさらに、異種タンパク質、好ましくは、治療用タンパク質、レポーター、または腫瘍抗原、より好ましくは、治療用タンパク質または腫瘍抗原をコードしてもよい。このような異種タンパク質の生成は、ウイルス転写複合体の本来の活性に依存する。
【0094】
特定の実施態様では、ウイルスは腫瘍溶解性ウイルスである。腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞に優先的に感染して死滅させるウイルスである。死滅した癌細胞は、さらなる癌細胞に感染しかつ宿主の抗腫瘍免疫応答を刺激する細胞断片を放出する新規の感染性ウイルス粒子を放出する。臨床的に試験された腫瘍溶解性RNAウイルスには、限定はされないが、レオウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、インフルエンザウイルス、セムリキ森林ウイルス、シンドビスウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、セネカバレーウイルス、マラバウイルス、およびVSVが含まれる。好ましくは、腫瘍溶解性ウイルスはVSVである。このウイルスには、国際特許公開WO 2010/040526号での説明のように、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質(GP)により疑似型となったVSV-GPなどのその誘導体が含まれる。
ONスイッチ
【0095】
ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含む一本鎖RNAウイルスを提供し、ここで、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、少なくとも前記タンパク質分解酵素の切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物、および場合によってはさらにタンパク質分解酵素を含み、好ましくはタンパク質分解酵素および前記タンパク質分解酵素の切断部位を含む。
【0096】
ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の分子内挿入部位での挿入物は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の活性に影響を及ぼさない。ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の活性は、ウイルスレポーター遺伝子発現であるTCID
50複製測定またはMTT死滅測定(
図13Cを参照)を検出して、好ましくはTCID
50複製測定を用いて評価してもよい。ここで、分子内部位に挿入物を有するウイルスの転写および/または複製に必須の修飾タンパク質は、一本鎖RNAウイルスによって発現されてもよく、あるいはウイルスの転写および/または複製に必須の前記タンパク質を欠損する一本鎖RNAウイルスとともにプラスミド表面でトランスで発現されてもよい。ウイルスの転写または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の分子内挿入部位での挿入物は、タンパク質の活性、すなわち例えばTCID
50によって測定されるウイルス複製が、分子内挿入部位に挿入物を含まない組換え一本鎖RNAウイルス(対照)と比較して、対数値で2以下の力価、好ましくは対数値で1.5以下の力価、より好ましくは対数値で1以下の力価、さらにより好ましくは同等の力価を提供する場合に、かつ対照試料および試験試料内でタンパク質分解酵素阻害剤が存在する分子内挿入部位にタンパク質分解酵素がある場合に、ウイルスの転写または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の活性に影響を及ぼさないと考えられる。
【0097】
一本鎖RNAウイルスにおいて、少なくとも前記タンパク質分解酵素の切断部位および場合によってはさらにタンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の分子内挿入部位内に位置し、かつタンパク質のタンパク質分解性切断により、分子内挿入部位内の前記タンパク質分解酵素の切断部位で、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を切断する。分子内挿入部位内の切断により、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を不活性にする。従って、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の分子内挿入部位内の切断は、さらにウイルスの転写および/または複製を阻害する。その結果として、ウイルスは、タンパク質分解酵素の特異的阻害剤の存在下では活性となり、タンパク質分解酵素の特異的阻害剤の不在下では不活性となる。一本鎖RNAウイルスはさらに、少なくとも1つの異種タンパク質をコードしてもよく、異種タンパク質は、ウイルスがタンパク質分解酵素の特異的阻害剤の存在下で活性である場合には発現され、ウイルスがタンパク質分解酵素の特異的阻害剤の不在下で不活性である場合には発現されない。このような異種タンパク質の生成は、ウイルス転写複合体の本来の活性に依存する。適切な異種タンパク質は、治療用タンパク質、レポーター、または腫瘍抗原などのタンパク質である。
【0098】
特定の実施態様では、タンパク質分解酵素は、重合酵素複合体を構成する水胞性口内炎ウイルス(VSV)の1つまたは2つのタンパク質(Pタンパク質および/またはLタンパク質を個別にかつ組合せで)の分子内挿入部位に挿入される自己触媒性HIVタンパク質分解酵素二量体である。タンパク質分解酵素阻害剤の存在下では、ウイルスタンパク質の完全性が維持され、ウイルスを複製する。タンパク質分解酵素阻害剤を含まない場合は、HIVタンパク質分解酵素二量体は、自己触媒的に活性であり、翻訳時に必須のウイルスタンパク質を切断する。DNAウイルス(例えばTet-On)の調節モジュールに類似して、この仕組みを、実施例では「prot-ON」と呼んでいる。
【0099】
一実施態様では、分子内挿入部位での挿入物は、タンパク質分解酵素および前記タンパク質分解酵素の少なくとも1つの切断部位を含む。分子内位置で、タンパク質分解酵素は2つの切断部位を有する。従って、タンパク質分解酵素は、いずれかの側に切断部位を有し、場合によっては、片側または両側にリンカーを有する。リンカーは、片側または両側の切断部位に隣接してもよく、あるいはタンパク質分解酵素と1つ以上の切断部位との間に位置してもよい。タンパク質分解酵素のいずれかの側にあるタンパク質分解酵素(および場合によってはリンカー)の2つの切断部位は、好ましくは互いに異なっている。
【0100】
一実施態様では、RNAウイルスはモノネガウイルス目ウイルスであり、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Pタンパク質またはその機能的同等物などの重合酵素補因子;Lタンパク質などの重合酵素;および/またはNタンパク質などのヌクレオカプシドである。ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、ウイルスの転写および/または複製に必須の1つ、2つ、または3つのタンパク質、好ましくはウイルスの転写および/または複製に必須の1つまたは2つのタンパク質であってもよい。特定の実施態様では、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Pタンパク質またはその機能的同等物、あるいはLタンパク質またはそれらの組合せである。
【0101】
可撓性リンカーおよびタンパク質分解酵素二量体のコドンの使用は、第1および第2のタンパク質分解酵素間の相同性を回避するように最適化されている。VSVでのいわゆる「コピー選択」組換え事象は過去に説明されているが(Simon-Loriere and Holmes 2011)、ウイルス重合酵素であるLタンパク質が鋳型を切り替え、また配列延伸をスキップする可能性があるので、この予防措置が採用された。「コピー選択」は、重合酵素が新生RNA鎖の新規に選択された鋳型との配列相同性によって誘導される場合に、優先的に発生する。さらに、点変異はRNAウイルス中で頻繁に発生し、VSVの場合には、約10,000分の1のヌクレオチドの変異率で発生する。理論的には、全てのゲノムは1つの変異を有し、その変異により、VSVゲノム(および他のRNAウイルスゲノム)を1つの配列としてではなく、いわゆる「疑似種」の混合物を指すようにウイルス学者を導いている。従って、タンパク質分解スイッチを不活性にするHIVタンパク質分解酵素配列内での変異の発生は、現実的に可能である。条件付きのONスイッチの制御を奪う可能性のあるそのエスケープ変異体または復帰変異体ウイルスを回避するために、タンパク質分解酵素モジュール(ONスイッチ)を、Pタンパク質およびLタンパク質などの第1および第2の必須VSVタンパク質中にタンパク質分解酵素二量体を導入して二重にしてもよい。タンパク質分解酵素およびそれぞれの切断部位は、ウイルスの転写および/または複製に必須の2つのタンパク質では、同一であってもよくまたは異なってもよく、従って、同一または異なるタンパク質分解酵素阻害剤によって調節されてもよい。
【0102】
VSVのPタンパク質のアミノ酸196での適切な挿入部位は、既に説明されていて(Das et al., J Virol, 2006, 80(13):6368-6377 and Das and Pattnaik, J Virol, 2005, 79(13):8101-8112)、ここで、番号付けは、(例えば、配列番号1のヌクレオチド配列および/または配列番号27のアミノ酸配列を有する)血清型VSVインディアナ株(VSVI)のPタンパク質を指す。
【0103】
Lタンパク質挿入部位が説明されているが、結果として生じるウイルスには、温度感受性があり、継代後に不安定であった(Ruedas and Perrault 2009, Ruedas and Perrault 2014)。VSVLタンパク質に関する最近公開された完全な構造情報(Liang, Li et al. 2015)に基づいて、最初は蛍光タンパク質により、続いてHIVタンパク質分解酵素二量体により、可能な許容部位が特定・評価された。
【0104】
従って、一実施態様では、一本鎖RNAウイルスは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)である。複数のVSV血清型が存在するが、最も明確に特徴付けられかつ治療によく用いられるVSV血清型は、VSVインディアナ株(VSVi)である。本明細書に開示かつ使用される全ての配列は、VSVi由来である。また、国際特許公開WO 2010/040526号に詳細に説明されるVSV-GPなどのVSViの誘導体も包含される。VSVインディアナ株はRNAウイルスであるので、利用可能ないくつかの完全ゲノムヌクレオチド配列が存在するが、一例としては、配列番号22のcDNA配列(GenBank受託番号:MH919398.1)である。実施例で生成されたウイルスは、配列番号20のDNA配列に由来する。従って、以下に指定する位置は、VSViのPタンパク質またはLタンパク質、あるいは配列番号27または28のそれぞれのアミノ酸配列を有するVSViのPタンパク質またはLタンパク質の提示のアミノ酸位置に対応する位置として提供される。当業者なら、配列アラインメント(配列整列)によって、さらなるVSViのPタンパク質またはLタンパク質の配列中の対応するアミノ酸配列を識別する方法を知っている。
【0105】
一実施態様では、一本鎖RNAウイルスはVSVであり、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、VSVのPタンパク質および/またはLタンパク質である。Pタンパク質の適切な分子内挿入部位は、VSV Pタンパク質の可撓性ヒンジ領域内にあり、好ましくはVSVi Pタンパク質のアミノ酸193~199位、より好ましくはアミノ酸196位に対応する位置にある。特定の実施態様では、Pタンパク質の分子内挿入部位は、VSViのPタンパク質のアミノ酸193~199位にあり、好ましくは、VSViのPタンパク質のアミノ酸196にある。ここでこれらの番号は、VSViのPタンパク質を指し、VSViのPタンパク質の1つの例示的な配列は、配列番号27のアミノ酸配列を有する。一実施態様では、Pタンパク質の分子内挿入部位は、配列番号27の配列またはその相同体を有するVSViのPタンパク質のアミノ酸193~199位にあり、好ましくは配列番号27の配列またはその相同体を有するVSViのPタンパク質のアミノ酸196にあり、この相同体は、配列番号27に対して少なくとも80%の配列同一性、好ましくは配列番号27に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。Lタンパク質の適切な分子内挿入部位は、Lタンパク質のメチル転移酵素ドメイン(MT)内にあり、特にVSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、より好ましくはアミノ酸1620に対応するLタンパク質のメチル転移酵素ドメインのループ内にある。特定の実施態様では、Lタンパク質の分子内挿入部位は、VSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、より好ましくはアミノ酸1620にある。ここでこれらの番号は、VSViのLタンパク質を指し、VSViのLタンパク質の1つの例示的な配列は、配列番号28のアミノ酸配列を有する。一実施態様では、Lタンパク質の分子内挿入部位は、配列番号28の配列またはその相同体を有するVSViのLタンパク質のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、さらにより好ましくはアミノ酸1620にあり、この相同体は、配列番号28に対して少なくとも80%の配列同一性、好ましくは配列番号28に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。別の実施態様では、一本鎖RNAウイルスはVSVであり、Pタンパク質は、VSVi Pタンパク質のアミノ酸193~199位に対応する位置、好ましくはVSVi Pタンパク質のアミノ酸193~199位のVSV Pタンパク質の可撓性ヒンジ領域内に、前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物を含み、あるいはLタンパク質は、VSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634に対応する位置、好ましくはVSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634位のLタンパク質のメチル転移酵素ドメイン(MT)のループ内に、前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位を含む細胞内挿入部位に挿入物を含む。さらに別の実施態様では、一本鎖RNAウイルスはVSVであり、Pタンパク質は、VSVi Pタンパク質のアミノ酸193~199位に対応する位置、好ましくはVSVi Pタンパク質のアミノ酸193~199位のVSV Pタンパク質の可撓性ヒンジ領域内に、前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物を含み、かつLタンパク質は、VSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634に対応する位置、好ましくはVSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634位のLタンパク質のメチル転移酵素ドメイン(MT)のループ内に、前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位を含む細胞内挿入部位に挿入物を含む。ウイルスの転写および/または複製に必須の複数の、好ましくは2つのタンパク質にONスイッチを配置すると、エスケープ変異体のリスクが軽減される。継代の繰返しにもかかわらず、ONスイッチのエスケープ変異体は見られていないが、ウイルスの転写および/または複製に必須の2つのタンパク質への挿入により、安定性がより向上する。本明細書で使用される用語「アミノ酸位置」は、以下を指し、すなわち、配列番号27の配列を有するVSVi Pタンパク質のアミノ酸196位は、配列番号27の配列を有するVSVi Pタンパク質のアミノ酸196~197位の間を意味し、かつ配列番号28の配列を有するVSVi Lタンパク質のアミノ酸1620は、配列番号28の配列を有するVSVi Lタンパク質のアミノ酸1620~1621位の間を意味する。
【0106】
ONスイッチシステムは、本質的に環境安全の要素を内包している。ウイルスの後代はタンパク質分解酵素阻害剤の存在に依存しているので、潜在的に放出されるウイルスは、増殖性の感染には活性でない。このことは、治療用RNAウイルスが動物の病気を引き起こす可能性がある場合に、重要となる可能性がある。
【0107】
VSVは、典型的には、神経毒性および頭蓋内拡散に関連している。生体内のデータでは、ONスイッチシステムが神経毒性および頭蓋内拡散の完全な阻害をもたらすことを示していた。タンパク質分解酵素阻害剤であるアンプレナビルは、血液脳関門を通過しないので、化合物の全身投与は、脳内にウイルス活性を付与せず、全身にわたるアンプレナビルの存在下でウイルス複製をもたらすONスイッチシステムが全身的に存在するにもかかわらず、神経毒性は存在しなかった。
【0108】
一実施態様では、本発明による一本鎖RNAウイルスは、治療での使用、特に癌治療での使用、特にヒトでの使用のためのウイルスである。
OFFスイッチ
【0109】
さらに、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含む一本鎖RNAウイルスを提供し、ここでウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、N末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされる。一実施態様では、融合タンパク質は、配列番号30のアミノ酸配列を含まない。好ましくは、タンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端に融合する。従って、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位および場合によってはリンカーによって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端に直接融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされる。融合タンパク質は、タンパク質分解酵素とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間に、グリシン-セリンリンカーなどのリンカーを含んでもよくまたは含まなくてもよい。従って、融合タンパク質は、切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーを含んでもよくまたは含まなくてもよく、あるいは、融合タンパク質は、タンパク質分解酵素と切断部位との間にリンカーを含んでもよくまたは含まなくてもよい。好ましくは、融合タンパク質は、切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーを含まない。
【0110】
ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされ、融合タンパク質のタンパク質分解性切断により、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質をその活性形態で放出する。従って、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質およびタンパク質分解酵素は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された融合タンパク質として発現される。タンパク質分解性切断が起きると、タンパク質分解酵素とウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は分離される。ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、融合タンパク質では不活性であり、タンパク質分解性切断による放出(タンパク質分解性放出とも呼ばれる)が起きると活性になる。本発明によると、融合タンパク質は、配列番号30のアミノ酸配列を含まない。この配列は、Chungら(Nature Chemical Biology (2015), 11: 713-722)によって説明されるSMAShタグ内でデグロンとして機能して、タンパク質の分解をもたらす。対照的に、本発明によれば、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されたウイルス転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質へのタンパク質分解酵素の融合は、ウイルス転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を不活性にする。従って融合タンパク質は、発現されかつ検出可能であり、すなわち分解されていない。従って、融合タンパク質内では、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、機能的に不活性である。融合タンパク質内で、Lタンパク質などのウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を機能的に不活性にすることは、タンパク質の分解を必要とせずにウイルス生成を効率的にスイッチオフするには十分である。一本鎖RNAウイルスは、さらに少なくとも1つの異種タンパク質をコードしてもよく、異種タンパク質は、ウイルスがタンパク質分解酵素の特異的阻害剤の存在下で活性である場合に発現され、ウイルスがタンパク質分解酵素の特異的阻害剤の不在下で不活性である場合には発現されない。このような異種タンパク質の生成は、ウイルス転写複合体の本来の活性に依存している。適切な異種タンパク質は、治療用タンパク質、レポーター、または腫瘍抗原などのタンパク質である。
【0111】
従って、タンパク質分解性切断を含まずに前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質でのウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、不活性である。融合タンパク質のタンパク質分解性切断は、タンパク質分解酵素の特異的阻害剤を用いて阻害される。従って、一本鎖RNAウイルスは、タンパク質分解酵素の特定のタンパク質分解酵素阻害剤の存在下では不活性であり、タンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下では活性である。
【0112】
一実施態様では、タンパク質分解酵素および前記タンパク質分解酵素の切断部位は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質を連結する遺伝子間領域を、さらなるウイルスタンパク質で置換する。従って、一実施態様では、融合タンパク質は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質、およびタンパク質分解酵素と前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されたさらなるウイルスタンパク質を含み、タンパク質分解酵素は、好ましくは、前記タンパク質分解酵素の切断部位のいずれかの側(すなわちタンパク質分解酵素のN末端およびC末端に)隣接している。従って、タンパク質分解酵素の喪失は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質およびさらなるウイルスタンパク質を含む、さらなる不活性な融合タンパク質をもたらす。言い換えれば、復帰変異体またはエスケープ変異体でのタンパク質分解酵素および前記タンパク質分解酵素の切断部位の欠失は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質を含む新しい非機能的融合タンパク質を、さらなるウイルスタンパク質に融合したその不活性状態でもたらすことになる。従って、遺伝子間領域全体の置換は、タンパク質分解酵素を含む挿入物および前記タンパク質分解酵素の切断部位の欠失がさらなる融合タンパク質をもたらすので、ウイルスをより安全にし、さらなる融合タンパク質は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質およびさらなるウイルスタンパク質を含む。さらなるウイルスタンパク質は、ウイルスの転写および/または複製に必須の第2のタンパク質であってもよい。タンパク質分解酵素の挿入物の欠失はこのウイルスにはいずれの利点も提供しないので、この機能によりエスケープ変異体からの保護を提供する。
【0113】
ウイルスゲノムが、互いに隣接するウイルスの転写および/または複製に必須の2つのタンパク質を含まない場合には、これは、遺伝子シャッフルで達成されてもよい。VSVでは、遺伝子をシャッフルできることが知られている。但しゲノム内での遺伝子の順序は、翻訳頻度に相関している。従って、遺伝子シャッフルは、通常ある程度の減衰が伴う。あるいは、さらなるウイルスタンパク質は、ウイルスの転写および/または複製に必須ではないウイルスタンパク質である。
【0114】
別の実施態様では、タンパク質分解酵素および前記タンパク質分解酵素の切断部位は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質を連結する遺伝子間領域を、
図17に示すような異種タンパク質により置換する。言い換えると、タンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質に一方の端部で融合し、他方の端部で異種タンパク質に融合し、それぞれの端部は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されている。従って、一実施態様では、融合タンパク質はまた、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素の反対側の末端に融合した異種タンパク質を含んでもよく、前記異種タンパク質および前記タンパク質分解酵素はまた、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されている。一実施態様では、タンパク質分解酵素は、いずれかの側で前記タンパク質分解酵素の切断部位に隣接していて、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を連結する遺伝子間領域を、異種タンパク質で置換する。従って、タンパク質分解酵素の喪失は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質および異種タンパク質を含むさらなる不活性な融合タンパク質をもたらす。
【0115】
遺伝子間領域がタンパク質分解酵素によって置換される場合に、タンパク質分解酵素は、前記タンパク質分解酵素の切断部位がいずれかの側で隣接する自己触媒性タンパク質分解酵素である必要があり、すなわち、前記タンパク質分解酵素に対して、一方はタンパク質分解酵素(または一本鎖二量体タンパク質分解酵素)のN末端にあり、他方はC末端にある前記タンパク質分解酵素の2つの切断部位を含む。従って一実施態様では、融合タンパク質は、ウイルス転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素の反対側の末端に融合したさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質をさらに含み、ここで、前記さらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質および前記タンパク質分解酵素はまた、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されている。特定の実施態様では、いずれかの側で前記タンパク質分解酵素の切断部位に隣接するタンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を連結する遺伝子間領域を、さらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質で置換し、好ましくは、復帰ウイルスまたはエスケープ変異体でのタンパク質分解酵素の欠失により、少なくとも1つのさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質とともに融合タンパク質を形成して、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の不活性化をもたらす。遺伝子間領域をタンパク質分解酵素で置換することは、(さらなるウイルスタンパク質の場合に)遺伝子間領域の数を減少させる、または(異種タンパク質の場合に)増加させないという利点を有し、従ってウイルスの弱毒化のリスクを低減する。タンパク質分解酵素のいずれかの側にある前記タンパク質分解酵素(および場合によってはンカー)の2つの切断部位は、好ましくは互いに異なっている。
【0116】
一実施態様では、RNAウイルスはモノネガウイルス目のウイルスであり、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Pタンパク質またはその機能的同等物などの重合酵素補因子;Lタンパク質などの重合酵素;および/またはNタンパク質などのヌクレオカプシドである。ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、ウイルスの転写および/または複製に必須の1つまたは2つのタンパク質、好ましくはウイルスの転写および/または複製に必須の1つのタンパク質であってもよい。好ましくは、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Pタンパク質またはその機能的同等物またはLタンパク質であり、好ましくはLタンパク質である。さらにタンパク質分解酵素は、好ましくは、Pタンパク質(またはその機能的同等物)またはLタンパク質のN末端に融合し、より好ましくはLタンパク質のN末端に融合している。
【0117】
好ましい実施態様では、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Lタンパク質であり;あるいはタンパク質分解酵素は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端に融合していて;あるいは、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Lタンパク質であり、タンパク質分解酵素は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、Lタンパク質のN末端に融合している。本発明によれば、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、好ましくはLタンパク質は、融合タンパク質、好ましくは、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質中では不活性であり、かつタンパク質分解性切断によって放出されると活性になる。
【0118】
一実施態様では、一本鎖RNAウイルスは、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含み、ここで、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素からなる融合タンパク質としてコードされ、融合タンパク質は、場合によっては、タンパク質分解酵素とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間に、グリシン-セリンリンカーなどのリンカーをさらに含む。従って、融合タンパク質は、切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーを含んでもよくまたは含まなくてもよく;あるいは、融合タンパク質は、タンパク質分解酵素と切断部位との間にリンカーを含んでもよくまたは含まなくてもよい。好ましくは、融合タンパク質は、切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーを含まない。好ましくは、タンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質のN末端に融合しているか、あるいはウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Lタンパク質であるか、またはタンパク質分解酵素は、Lタンパク質のN末端に融合している。
【0119】
別の実施態様では、一本鎖RNAウイルスは、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含み、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、(a)前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素、および(b)ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素の反対側の末端に融合したさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質を含むか、またはそれらからなる融合タンパク質としてコードされ、ここで、前記のさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質および前記タンパク質分解酵素はまた、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離され、融合タンパク質は、場合によっては、タンパク質分解酵素とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーをさらに含み、かつ/あるいはタンパク質分解酵素とさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質との間にリンカーを含む。従って、融合タンパク質は、切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーを含んでもよくまたは含まなくてもよく;あるいは、融合タンパク質は、タンパク質分解酵素と切断部位との間にリンカーを含んでもよくまたは含まなくてもよく;かつ/あるいは融合タンパク質は、切断部位とさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質との間にリンカーを含んでもよくまたは含まなくてもよく;あるいは、融合タンパク質は、タンパク質分解酵素の他方の側と切断部位との間にリンカーを含んでもよくまたは含まなくてもよい。好ましくは、融合タンパク質は、切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーを含まない。
【0120】
好ましくは、タンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質のN末端に融合していて、またはウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Lタンパク質であり、またはタンパク質分解酵素は、Lタンパク質のN末端に融合している。タンパク質分解酵素のいずれかの側にある前記タンパク質分解酵素(および場合によってはリンカー)の2つの切断部位は、好ましくは互いに異なっている。いずれかの側に切断部位を有するタンパク質分解酵素は、片側または両側の切断部位に隣接するか、あるいはタンパク質分解酵素と1つ以上の切断部位との間で、片側または両側にリンカーを有してもよい。好ましくは、融合タンパク質は、切断部位とウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質との間にリンカーを含まない。
【0121】
一実施態様では、本発明による一本鎖RNAウイルスは、治療での使用、特に癌治療での使用、特にヒトでの使用のためのウイルスである。
異種タンパク質の条件付き発現
【0122】
本発明による一本鎖RNAウイルスは、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含み、(a)ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物を含み、または(b)ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、N末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされ、少なくとも1つの異種タンパク質をさらにコードしてもよい。そのような異種タンパク質の生成は、本来のウイルス転写および/または複製に依存し、従って、ウイルス転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質が活性である必要がある。従って、選択肢(a)(ONスイッチ)では、ウイルスがタンパク質分解酵素の特定の阻害剤の存在下で活性な場合に異種タンパク質は発現され、ウイルスがタンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下で不活性な場合に異種タンパク質は発現されず、かつ選択肢(b)(OFFスイッチ)では、ウイルスがタンパク質分解酵素の特定の阻害剤の存在下で不活性な場合に異種タンパク質は発現されず、ウイルスがタンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下で活性な場合に異種タンパク質は発現される。適切な異種タンパク質は、治療用タンパク質、レポーター、または腫瘍抗原などのタンパク質である。特に治療目的のために、異種タンパク質は、好ましくは、免疫調節または細胞死調節機能を有する治療用タンパク質、あるいは腫瘍抗原である。治療用タンパク質はまた、自殺遺伝子によってコードされたタンパク質であってもよい。
【0123】
さらに、少なくとも1つの異種タンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含むRNAウイルスを本明細書で提供し、ここで、少なくとも1つの異種タンパク質は、前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物を含む。一実施態様では、RNAウイルスは一本鎖RNAウイルスである。
【0124】
用語「一本鎖RNAウイルス」は、プラスセンス一本鎖RNAウイルスまたはマイナスセンス一本鎖RNAウイルスを含む。好ましくは、RNAウイルスは、マイナスセンス一本鎖RNAウイルスである。一実施態様では、RNAウイルスは、モノネガウイルス目のウイルスである。より具体的には、モノネガウイルス目の一本鎖RNAウイルスは、ラブドウイルス科、パラミクソウイルス科、フィロウイルス科、ニャミウイルス科、ニューモウイルス科、およびボルナウイルス科からなる群から選択される科のウイルスであってもよく、好ましくはラブドウイルス科またはパラミクソウイルス科のウイルス、好ましくはベシキュロウイルス属のウイルス、より好ましくは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)または麻疹ウイルス(MeV)、さらにより好ましくはVSVであってもよい。
【0125】
特定の実施態様では、ウイルスは腫瘍溶解性ウイルスである。腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞に優先的に感染して死滅させるウイルスである。死滅した癌細胞は、さらなる癌細胞に感染し、かつ宿主の抗腫瘍免疫応答を刺激する細胞断片を放出する新たな感染性ウイルス粒子を放出する。臨床的に試験された腫瘍溶解性RNAウイルスには、限定はされないが、レオウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、インフルエンザウイルス、セムリキ森林ウイルス、シンドビスウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、セネカバレーウイルス、マラバウイルス、およびVSVが含まれる。好ましくは、腫瘍溶解性ウイルスはVSVである。
【0126】
用語「異種」は、ウイルスに感染した宿主または患者ではなく、RNAウイルスを指し、従って真核生物、特にヒトタンパク質を明示的に包含する。異種タンパク質は、受容体とは異なる生物または異なる種に由来するタンパク質、すなわちRNAウイルスである。本発明によるRNAウイルスによってコードされる少なくとも1つの異種タンパク質は、治療用タンパク質、レポーター、または腫瘍抗原であってもよい。好ましくは、少なくとも1つの異種タンパク質は、免疫調節機能または細胞死調節機能を有する治療用タンパク質であり、好ましくは、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、および抗体からなる群から選択される。治療用タンパク質はまた、膜結合タンパク質であってもよく、またはCD4の膜貫通ドメインなどの膜貫通ドメインを、好ましくはリンカーを介して連結して異種タンパク質に融合することによって膜に結合させてもよい。治療用タンパク質はまた、コードされた自殺遺伝子であってもよい。あるいは、またはさらに、少なくとも1つの異種タンパク質は、系統抗原、新生抗原、精巣抗原、および腫瘍ウイルス抗原などの(腫瘍特異性抗原および/または腫瘍関連抗原を含む)腫瘍抗原である。用語「腫瘍特異性抗原」は、腫瘍細胞内でのみ発現して、生物のいかなる他の組織でも発現しない抗原を指す。用語「腫瘍関連抗原」は、生物での他の組織と比較して腫瘍細胞中で過剰発現される、すなわちより高い濃度で発現される抗原を指す。腫瘍抗原はまた、1つ以上の新生抗原であってもよい。ここで新生抗原は、腫瘍の体細胞変異から生じる新たに形成された抗原である。当業者なら、患者からの新生抗原を検出および決定する方法を知っている。別の実施態様では、異種タンパク質は、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、mCherry、またはmWasabiなどのレポータータンパク質である。特に治療目的のために、異種タンパク質は、好ましくは、免疫調節機能または細胞死調節機能を有する治療タンパク質、または腫瘍抗原である。
【0127】
当業者なら、分子内挿入部位に前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位を含む挿入物が、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、すなわちONスイッチの分子内挿入部位に前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位を含む挿入物に対応することを分かっている。従って、上述の開示およびONスイッチに関連する実施態様は、少なくとも1つの異種タンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位を含むウイルスの修飾ゲノムを含むRNAウイルスに同様に適用され、ここで、少なくとも1つの異種タンパク質は、分子内挿入部位に前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位を含む挿入物を含む。一実施態様では、RNAウイルスは一本鎖RNAウイルスである。
【0128】
当業者なら、異種タンパク質のONスイッチに関連する側面が、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のONスイッチと組み合わされてもよいことをさらに分かっている。従って、一方はウイルス活性を制御し、他方はウイルスにコードされた治療用タンパク質の活性を制御する2つの独立したスイッチを備えた武装ウイルスがまた考えられる。両方のスイッチは、好ましくは、2つの独立した化合物によって制御される。
【0129】
一実施態様では、本発明によるRNAウイルスは、治療での使用、特に癌治療での使用、特にヒトでの使用のためのウイルスである。
【0130】
さらに、少なくとも1つの組換えタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を提供し、ここで、少なくとも1つの組換えタンパク質は、タンパク質分解酵素および前記タンパク質分解酵素の切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物を含み、あるいはタンパク質分解酵素および前記タンパク質分解酵素の切断部位を含む分子内挿入部位に組換えタンパク質を含む。従って、本明細書に説明のONスイッチはまた、治療用タンパク質、特に微小治療域を備える治療用タンパク質に使用できる。そのような治療用タンパク質の例はサイトカインである。
【0131】
一実施態様では、本発明によるポリヌクレオチドまたは組換えタンパク質は、治療での使用、特にヒトの治療での使用のためのウイルスである。従って、タンパク質分解酵素は、免疫反応を防止するために、好ましくはヒト由来である。
【0132】
従って一実施態様では、タンパク質分解酵素は、メタロタンパク質分解酵素またはカスパーゼなどのヒトタンパク質分解酵素である。適切なヒトタンパク質分解酵素阻害剤の例は、限定はされないが、例えば、エメリカサン、ニボカサン、バチマスタット、タノマスタット、およびエカリキシマブである。さらなる実施態様では、タンパク質分解酵素は、自己触媒性タンパク質分解酵素、または自己触媒性タンパク質分解酵素として作用するタンパク質分解酵素である。従って、タンパク質分解酵素は、前記タンパク質分解酵素の切断部位に隣接していてもよく、好ましくは、タンパク質分解酵素は、いずれかの側で前記タンパク質分解酵素の切断部位に隣接している。タンパク質分解酵素のいずれかの側にある前記タンパク質分解酵素(および場合によってはリンカー)の2つの切断部位は、好ましくは互いに異なっている。好ましくは、挿入物は、いずれかの側にグリシン-セリンリンカーなどの可撓性リンカーを含む。
治療での使用
【0133】
さらに、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含む本発明による一本鎖RNAウイルスを本明細書に提供し、ここで(a)ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、少なくとも前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物を含み、あるいは(b)ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、治療に使用する前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、N末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされ、一本鎖RNAウイルスは、場合によっては、少なくとも1つの異種タンパク質、例えば、治療用タンパク質または腫瘍抗原をさらにコードする。適切な治療法は、癌治療、遺伝子治療、および/または予防的かつ治療的なワクチン接種である。
【0134】
好ましい実施態様では、一本鎖RNAウイルスは、癌の治療に使用するウイルスである。
【0135】
少なくとも1つの異種タンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含む、本発明によるRNAウイルスも本明細書で提供され、ここで、少なくとも1つの異種タンパク質は、少なくとも前記タンパク質分解酵素の切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物を含み、場合によってはさらに治療に使用するためのタンパク質分解酵素を含む。適切な治療法は、癌治療、遺伝子治療、および/または予防的および治療的ワクチン接種である。
【0136】
好ましい実施態様では、RNAウイルスは、癌の治療に使用するウイルスである。
【0137】
ウイルスを、静脈内、腫瘍内、皮下、筋肉内、皮膚内、鼻腔内、腹腔内、好ましくは静脈内または腫瘍内に投与してもよい。ウイルスは、生理緩衝液または関連製剤を用いて投与してもよい。用いるタンパク質分解酵素阻害剤は、前記タンパク質分解酵素に特異的である。適切なHIVタンパク質分解酵素阻害剤の例は、限定はされないが、例えば、インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンプレナビル、ホスアンプレナビル、アタザナビル、チプラナビル、およびダルナビルである。他の適切なタンパク質分解酵素阻害剤は、当技術分野ではよく知られている。治療では、タンパク質分解酵素阻害剤、特にHIVタンパク質分解酵素阻害剤は、Cypファミリーなどの分解酵素の遮断薬、例えばリトナビルと組み合わせて投与してもよい。リトナビルまたは他の分解酵素阻害剤は、他のタンパク質分解酵素阻害剤の血漿濃度を増大させる。
【0138】
タンパク質分解酵素阻害剤を、任意の適切な経路によって、好ましくは皮下、経口、または静脈内、より好ましくは経口で投与してもよい。
【0139】
癌は固形腫瘍であってもよく、好ましくは大腸がん、前立腺がん、乳がん、肺がん、皮膚がん、肝臓がん、骨がん、卵巣がん、膵臓がん、脳腫瘍、頭部および頸部がん、リンパ腫(ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫)、脳がん、神経芽細胞腫、中皮腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫、および(横紋筋肉腫などの)肉腫からなる群から選択されてもよい。
Lタンパク質の挿入部位
【0140】
さらに、Lタンパク質のメチル転移酵素(MT)ドメイン内に、またはVSViLタンパク質、特に配列番号28のアミノ酸配列を有するVSViLタンパク質のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、さらにより好ましくはアミノ酸1620に対応するLタンパク質のメチル転移酵素ドメインのループ内に、挿入物を含む組換えVSV Lタンパク質を提供する。特定の実施態様では、Lタンパク質の分子内挿入部位は、VSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、さらにより好ましくはアミノ酸1620に存在する。ここで、これらの番号はVSViのLタンパク質を指し、VSViのLタンパク質の1つの例示的な配列は、配列番号28のアミノ酸配列を有する。一実施態様では、Lタンパク質の分子内挿入部位は、配列番号28の配列またはその相同体を有するVSViのLタンパク質のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、さらにより好ましくはアミノ酸1620に存在し、ここで相同体は、配列番号28に対して少なくとも80%の配列同一性、好ましくは、配列番号28に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。
【0141】
本明細書で使用される用語「挿入物」は、数個のアミノ酸(少なくとも3個、少なくとも5個、少なくとも10個、好ましくは少なくとも15個のアミノ酸)から、最大500個、最大300個、および最大250個のアミノ酸などの数百個のアミノ酸を含む可変長のアミノ酸配列を指す。挿入物は、別の配列中に導入され、本明細書の場合にはLタンパク質配列に導入されて、アミノ酸の正味の付加をもたらす。従って、挿入物は、例えば、タンパク質分解酵素の少なくとも切断部位(例えば、配列番号6および7のような少なくとも約15個のアミノ酸);タンパク質分解酵素および少なくとも前記タンパク質の切断部位;またはレポータータンパク質を含んでもよい。好ましくは、挿入物は、いずれかの側にグリシン-セリンリンカーなどの可撓性リンカーを含む。特定の実施態様では、挿入物は、15~500個のアミノ酸、好ましくは15~300個のアミノ酸、より好ましくは15~250個のアミノ酸である。挿入物は、アミノ酸の正味の付加をもたらし、アミノ酸置換、すなわち、1個以上のアミノ酸を同一の数の異なるアミノ酸で単純に置き換えるアミノ酸置換を含まない。
【0142】
Lタンパク質の分子内挿入部位での挿入物は、Lタンパク質の活性に影響を及ぼさない。Lタンパク質の活性は、ウイルスレポーター遺伝子の発現の検出、すなわちTCID
50複製測定またはMTT死滅測定(
図13Cを参照)によって、好ましくはTCID
50複製測定を用いて評価してもよい。ここで、分子内部位に挿入物を有する修飾Lタンパク質は、一本鎖RNAウイルスによって発現されてもよく、またはLタンパク質を欠く一本鎖RNAウイルスとともにプラスミド表面でトランスで発現されてもよい。Lタンパク質の分子内挿入部位での挿入物は、タンパク質の活性、従って例えばTCID
50によって測定されるウイルス複製が、分子内挿入部位に挿入物のない組換え一本鎖RNAウイルス(対照)と比較して、対数値で2以下の力価、好ましくは対数値で1.5以下の力価、より好ましくは対数値で1以下の力価、さらにより好ましくは等しい力価を提供する場合に、かつ対照試料および試験試料内でタンパク質分解酵素阻害剤が存在する分子内挿入部位にタンパク質分解酵素がある場合に、Lタンパク質の活性に影響を及ぼさないと考えられる。
【0143】
一実施態様では、挿入物は蛍光タンパク質を含む。別の実施態様では、挿入物は、タンパク質分解酵素の切断部位を含み、あるいはタンパク質分解酵素と前記タンパク質分解酵素の切断部位を含む。タンパク質分解酵素は、2つのタンパク質分解酵素の切断部位に隣接する一本鎖二量体であってもよく、あるいはタンパク質分解酵素は、N末端および/またはC末端タンパク質分解酵素の切断部位に隣接するモノマーであってもよい。一実施態様では、タンパク質分解酵素は、HCVまたはHIV由来などのウイルスタンパク質分解酵素である。好ましくは、タンパク質分解酵素は、自己触媒性タンパク質分解酵素であるか、または自己触媒性タンパク質分解酵素として作用する。
【0144】
自己触媒性タンパク質分解酵素は、HIV-1タンパク質分解酵素、好ましくはHIV-1タンパク質分解酵素の一本鎖二量体であってもよく、かつこのタンパク質分解酵素は、インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンプレナビル、ホスアンプレナビル、アタザナビル、ティプラナビル、およびダルナビルからなる群から選択されるタンパク質分解酵素阻害剤によって阻害されてもよい。
【0145】
Lタンパク質はさらに、好ましくはLタンパク質のメチル転移酵素ドメインに、二次変異を含んでもよい。一実施態様では、この二次変異はLタンパク質の活性を回復させる。
【0146】
さらに、本発明による組換えVSV Lタンパク質を含む水疱性口内炎ウイルス(VSV)を本明細書で提供する。
生体外の方法
【0147】
さらにRNAウイルスの複製を制御する方法を提供し、この方法は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含む本発明による一本鎖RNAウイルスで、宿主細胞を形質導入または遺伝子導入すること;および前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤の存在下または不在下で宿主細胞を維持することを含み、ここで、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、少なくとも前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物を含み、前記タンパク質分解酵素阻害剤の付加は、ウイルスの転写および/または複製を可能にし、かつ前記タンパク質分解酵素阻害剤の不在は、ウイルスの転写および複製を阻害する。
【0148】
またRNAウイルスの複製を制御する方法を提供し、この方法は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含む本発明による一本鎖RNAウイルスで、宿主細胞を形質導入または遺伝子導入すること;および前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤の存在下または不在下で宿主細胞を維持することを含み、ここで、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、N末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされ、前記タンパク質分解酵素阻害剤の付加は、ウイルスの転写および/または複製を阻害し、かつ前記タンパク質分解酵素阻害剤の不在は、ウイルスの転写および複製を可能にする。
【0149】
さらにRNAウイルスによる異種タンパク質の発現を制御する方法を提供し、この方法は、本発明によるRNAウイルスで宿主細胞を形質導入または遺伝子導入すること;および前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤の存在下または不在下で宿主細胞を維持することを含み、ここでタンパク質分解酵素は、少なくとも1つの異種タンパク質の分子内挿入部位内に位置し、前記タンパク質分解酵素阻害剤の付加は、異種タンパク質の発現を可能にし、前記タンパク質分解酵素阻害剤の不在は、異種タンパク質発現を阻害する。
【0150】
好ましくは、本発明による方法は、生体外での方法である。従って、形質導入または遺伝子導入および維持の工程は、生体外での細胞培養により実施される。
【0151】
タンパク質分解酵素は、好ましくは自己触媒性タンパク質分解酵素であり、より好ましくはHIV-1タンパク質分解酵素であり、さらにより好ましくはHIV-1タンパク質分解酵素の一本鎖二量体である。このタンパク質分解酵素は、複数のタンパク質分解酵素阻害剤が利用可能であるので特に好都合である。適切なタンパク質分解酵素阻害剤は、例えば、インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンプレナビル、ホスアンプレナビル、アタザナビル、チプラナビル、またはダルナビルである。
上述の内容を考慮して、本発明はまた以下の項目を包含することが分かる。
項目1:
ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含む一本鎖RNAウイルスであって、
(a)ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の切断部位を少なくとも含む分子内挿入部位に挿入物を含み、または
(b)ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、N末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされている。
項目2:
項目1の記載の一本鎖RNAウイルスであって、
(a)タンパク質分解酵素は、分子内挿入部位にある前記タンパク質分解酵素の切断部位で、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を切断する、または
(b)タンパク質分解酵素は、融合タンパク質としてコードされるウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に位置する前記タンパク質分解酵素の切断部位で切断して、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を放出する。
項目3:
項目1または2に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
タンパク質分解酵素は、タンパク質分解酵素阻害剤を用いて阻害できる。
項目4:
項目1~3のいずれか1項目に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、RNA依存性RNA重合酵素、あるいはRNA依存性RNA重合酵素またはヌクレオカプシドを含む重合酵素複合体のタンパク質であり、好ましくは、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、重合酵素補因子、重合酵素、およびヌクレオカプシドからなる群から選択される。
項目5:
項目1~4のいずれか1項目に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
一本鎖RNAウイルスは、マイナスセンス一本鎖RNAウイルスであり、好ましくはモノネガウイルス科のマイナスセンス一本鎖RNAウイルスである。
項目6:
項目1~5のいずれか1項目に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
一本鎖RNAウイルスは、
(a)ラブドウイルス科、パラミクソウイルス科、フィロウイルス科、ニャミウイルス科、ニューモウイルス科、およびボルナウイルス科からなる群から選択される科のウイルスであり、および/または
(b)パラミクソウイルス科のウイルス、好ましくは麻疹ウイルス(MeV)であり、またはラブドウイルス科のウイルス、好ましくは水疱性口内炎ウイルス(VSV)である。
項目7:
項目5または6に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、重合酵素補因子、重合酵素、およびヌクレオカプシドからなる群から選択され、好ましくは、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、
(a)重合酵素補因子、好ましくはPタンパク質またはその機能的同等物;
(b)重合酵素、好ましくはLタンパク質;および/または
(c)それらの組合せである。
項目8
項目1~7のいずれか1項目に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
(a)タンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の活性を調節する;
(b)タンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製を調節する;
(c)タンパク質分解酵素は、自己触媒性タンパク質分解酵素である;
(d)タンパク質分解酵素は、ウイルスタンパク質分解酵素である;および/または
(e)タンパク質分解酵素は、HCVまたはHIVに由来する。
項目9
項目1~8のいずれか1項目に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
タンパク質分解酵素は、HIV-1タンパク質分解酵素、好ましくはHIV-1タンパク質分解酵素の一本鎖二量体であり、このタンパク質分解酵素は、インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンプレナビル、ホスアンプレナビル、アタザナビル、チプラナビル、ダルナビルからなる群から選択されるタンパク質分解酵素阻害剤により阻害できる。
項目10:
項目1~9のいずれか1項目に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の分子内挿入部位にある挿入物は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の活性に影響を及ぼさない。
項目11:
項目1~10のいずれか1項目に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の分子内挿入部位内に位置し、
(a)タンパク質のタンパク質分解性切断は、分子内挿入部位内の前記タンパク質分解酵素の切断部位でウイルス転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を切断する;
(b)分子内挿入部位内での切断は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を不活性にする;
(c)ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質の分子内挿入部位内での切断は、ウイルスの転写および/または複製を阻害する;
(d)ウイルスは、タンパク質分解酵素の特異的阻害剤の存在下で活性であり、タンパク質分解酵素の特異的阻害剤の不在下で不活性である;および/または
(e)ウイルスは、さらに少なくとも1つの異種タンパク質をコードし、この異種タンパク質は、ウイルスがタンパク質分解酵素の特定の阻害剤の存在下で活性である場合には発現され、ウイルスがタンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下で不活性である場合には発現されない。
項目12:
項目1~11のいずれか1項目に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
一本鎖RNAウイルスは、水胞性口内炎ウイルス(VSV)であり、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Pタンパク質および/またはLタンパク質であり、分子内挿入部位は
(a)VSVi Pタンパク質(例えば配列番号27の配列)の好ましくはアミノ酸193~199位、より好ましくはアミノ酸196位に対応する位置にあるVSV Pタンパク質の可撓性ヒンジ領域内にある;
(b)配列番号28の配列を有するVSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、より好ましくはアミノ酸1620に対応するLタンパク質のメチル転移酵素ドメインのループ内にある;または
(c)(a)と(b)の組合せである。
項目13:
項目1~9のいずれか1項目に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされ、
(a)融合タンパク質のタンパク質分解性切断により、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質が活性型で放出される;
(b)前記タンパク質分解酵素の切断部位により分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質中のウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、タンパク質分解性切断が無い場合は不活性である;
(c)融合タンパク質のタンパク質分解性切断は、タンパク質分解酵素の特異的阻害剤を用いて阻害される;
(d)ウイルスは、タンパク質分解酵素の特定のタンパク質分解酵素阻害剤の存在下では不活性であり、タンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下では活性である;
(e)ウイルスはさらに、少なくとも1つの異種タンパク質をコードし、この異種タンパク質は、ウイルスがタンパク質分解酵素の特定の阻害剤の存在下で不活性である場合には発現せず、ウイルスがタンパク質分解酵素の特定の阻害剤の不在下で活性である場合には発現する;
(d)融合タンパク質はさらに、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素の反対側の末端に融合したさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質を含み、前記さらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質および前記タンパク質分解酵素はまた、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離されている;
(e)いずれかの側で前記タンパク質分解酵素の切断部位に隣接するタンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を連結する遺伝子間領域を、さらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質で置換する;および/または
(f)いずれかの側で前記タンパク質分解酵素の切断部位に隣接するタンパク質分解酵素は、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質を連結する遺伝子間領域を、さらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質で置換し、タンパク質分解酵素の喪失は、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質、およびさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質を含むさらなる不活性な融合タンパク質をもたらす。
項目14:
項目1または13に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
一本鎖RNAウイルスは、モノネガウイルス科のマイナスセンス一本鎖RNAウイルスであり、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素を含む融合タンパク質としてコードされ、
(a)ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、Lタンパク質である;および/または
(b)融合タンパク質は、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端に融合したタンパク質分解酵素を含む。
項目15:
項目1または13に記載の一本鎖RNAウイルスであって、
ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質は、融合タンパク質としてコードされ、この融合タンパク質は、
(a)前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素からなり、この融合タンパク質は、場合によっては、タンパク質分解酵素とウイルスの転写および/または複製に必須のタンパク質との間にリンカーを含む;
(b)前記タンパク質分解酵素およびさらなるウイルスタンパク質の切断部位によって分離された、ウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素、あるいはウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質のN末端またはC末端に融合したタンパク質分解酵素の反対側に融合した異種タンパク質を含み、ここで前記さらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質および前記タンパク質分解酵素もまた、前記タンパク質分解酵素の切断部位によって分離され、融合タンパク質は、場合によってはさらに、タンパク質分解酵素とウイルスの転写および/または複製に必須の少なくとも1つのタンパク質との間にリンカーを含み、かつ/あるいはタンパク質分解酵素とさらなるウイルスタンパク質または異種タンパク質との間にリンカーを含む;または
(c)配列番号30のアミノ酸配列を含まない。
項目16:
少なくとも1つの異種タンパク質、タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の切断部位をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスの修飾ゲノムを含むRNAウイルスであって、少なくとも1つの異種タンパク質は、前記タンパク質分解酵素および場合によってはさらなるタンパク質分解酵素の少なくとも切断部位を含む分子内挿入部位に挿入物を含む。
項目17:
項目16に記載のRNAウイルスであって、異種タンパク質は、治療用タンパク質、レポーター、または腫瘍抗原である。
項目18:
治療に使用する項目1~15のいずれか1項目に記載の一本鎖RNAウイルス、あるいは項目16または17に記載のRNAウイルス。
項目19:
癌の治療に使用する項目1~15のいずれか1項目に記載の一本鎖RNAウイルス、あるいは項目16または17に記載のRNAウイルス。
項目20:
項目19に記載の使用のための一本鎖RNAウイルスあるいはRNAウイルスであって、癌は固形腫瘍であり、好ましくは大腸がん、前立腺がん、乳がん、肺がん、皮膚がん、肝臓がん、骨がん、卵巣がん、膵臓がん、脳腫瘍、頭部および頸部がん、リンパ腫(ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫)、脳がん、神経芽細胞腫、中皮腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫、および肉腫からなる群から選択される。
項目21:
配列番号28の配列を有するVSVi Lタンパク質のアミノ酸1614~1634、好ましくはアミノ酸1614~1629、より好ましくはアミノ酸1616~1625、さらにより好ましくはアミノ酸1620に対応するLタンパク質のメチル転移酵素ドメインのループ内に挿入物を含む組換えVSV Lタンパク質。
項目22:
項目21に記載の組換えVSV Lタンパク質であって、Lタンパク質はさらに二次変異を含む。
項目23:
項目21または22に記載の組換えVSV Lタンパク質を含む水疱性口内炎ウイルス(VSV)。
項目24:
RNAウイルス複製を制御する方法であって、この方法は、
(a)項目10~12のいずれか1項目に記載のRNAウイルスで宿主細胞を形質導入または遺伝子導入すること、および
(b)前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤の存在下または不在下で宿主細胞を維持することを含み、
前記タンパク質分解酵素阻害剤の付加は、ウイルスの転写および/または複製を可能にし、前記タンパク質分解酵素阻害剤の不在は、ウイルスの転写および複製を阻害する。
項目25:
RNAウイルス複製を制御する方法であって、この方法は、
(a)項目13~15のいずれか1項目に記載のRNAウイルスで宿主細胞を形質導入または遺伝子導入すること、および
(b)前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤の存在下または不在下で宿主細胞を維持することを含み、
前記タンパク質分解酵素阻害剤の付加は、ウイルスの転写および/または複製を阻害し、前記タンパク質分解酵素阻害剤の不在は、ウイルスの転写および複製を可能にする。
項目26:
RNAウイルスによって異種タンパク質発現を制御する方法であって、この方法は、
(a)項目16または17に記載のRNAウイルスで宿主細胞を遺伝子導入または遺伝子導入すること、
ここでタンパク質分解酵素は、少なくとも1つの異種タンパク質の分子内挿入部位内に位置し、および
(b)前記タンパク質分解酵素に特異的なタンパク質分解酵素阻害剤の存在下または不在下で宿主細胞を維持することを含み、
前記タンパク質分解酵素阻害剤の付加は、異種タンパク質の発現を可能にし、前記タンパク質分解酵素阻害剤の不在は、異種タンパク質の発現を阻害する。
【実施例】
【0152】
材料および方法
Pタンパク質
【0153】
aa196位に連結二量体タンパク質分解酵素を有するリン酸化タンパク質(配列番号1のcDNA配列を有するPタンパク質;配列番号27のアミノ酸配列に対応する)のDNA配列(P196PR2、配列番号3のDNA配列)、およびVSV核タンパク質および基質タンパク質の隣接配列をGeneArtによって合成した。VSVインディアナ株内のPタンパク質遺伝子を、P196PR2によって置き換えた。5位のGFPをマーカー遺伝子として用いた。隣接するVSV-N配列およびVSV-M配列を備えるP196PR2を、30 bpで2つの制限酵素部位(XbaIおよびBst1107l)にわたって広がる配列を用いてPCRにより全長VSVベクターに増幅して、前記酵素で切断した。続いて、ギブソン・アセンブリによるクローニングで構築物を生成した(
図4)。
【0154】
タンパク質分解酵素連結二量体構築物(配列番号5のDNA配列)を、(GGSG)3リンカー配列(配列番号4のDNA配列;配列番号29のアミノ酸配列)に隣接させ、Pタンパク質とタンパク質分解酵素二量体との間を空間的に分離させた。5’ GGSGリンカーは配列番号8のDNA配列を有し、3’ GGSGリンカーは配列番号9のDNA配列を有する。リンカーコドンを、上流のリンカーと下流のリンカーとの相同性を避けるように手動で設計した。切断部位は、各タンパク質分解酵素ドメインとリンカーとの間に位置し、かつ配列番号6および配列番号7のDNA配列を有する。タンパク質分解酵素二量体コドンを、最適化アルゴリズムと手動調整の相互作用によって選択した。最適化プロセスは、ヒトコドンの使用と、第1のタンパク質分解酵素と第2のタンパク質分解酵素間の相同性の回避との間の妥協プロセスであった。オーバーハングを、ギブソン・アセンブリのクローニングによって導入した。
【0155】
リン酸化タンパク質-タンパク質分解酵素構築物の機能性を、まずP発現プラスミド(
図2)により試験し、このプラスミドでは、GeneArtによって生成されたP196PR2のDNAをベクターの消化によってクローンし、XbaIおよびBst1107lとともに挿入し、次いでT4連結酵素で連結する。BHK細胞を、このP-Prot(Pタンパク質とタンパク質分解酵素)構築物で遺伝子導入してVSV-ΔP変異体で感染させた。VSV-ΔPは、レポーター遺伝子として赤色蛍光タンパク質(RFP)を備えていた。VSV-ΔPの機能では、P-Protを発現する細胞によってトランスで提供された作用Pタンパク質を必要とする。この構成では、本発明者らは、VSV-ΔP-RFPの活性がタンパク質分解酵素阻害剤(アンプレナビルであり、0.1、1、および10 μMの濃度)の存在に直接関連付くことを示すことができた。タンパク質分解酵素阻害剤が存在しないと、Pタンパク質は切断されRFPシグナルは検出されなかった。
Lタンパク質
【0156】
VSV Lウイルスの挿入を、4個断片のギブソン・アセンブリによって全VSVゲノム中に導入した。ベクターの大部分(断片4)を、pVSV-GFPの酵素SfoIおよびFseIで制限酵素消化によって提供した。HIVタンパク質分解酵素二量体挿入物(断片1)を、構築物の両端にある可撓性の(GGSG)3リンカーに特異的なプライマー配列(配列番号4のDNA配列;配列番号29のアミノ酸配列)により増幅した。断片1を包囲するLタンパク質配列(断片2および3)を、プライマーMT1620-insertGGSG for(配列番号25)を有する断片3の5’末端に、かつプライマーMT1620-insertGGSG rev(配列番号26)を有する断片2の3’末端にある(GGSG)3リンカーにオーバーハングを導入するpVSVから増幅する。Lタンパク質は、配列番号2のcDNA配列および配列番号28のアミノ酸配列を有するが、挿入物を配列番号28のアミノ酸1620位に導入した。タンパク質分解酵素挿入物を備える得られたLタンパク質は、配列番号10のDNA配列を有し、これは配列決定によって確認された。さらに断片4へのオーバーハングを、最近傍の制限酵素切断部位FseIの49ヌクレオチド上流に結合するフォワードプライマーである49bp-before-Fsel [5’-GCT GCC AAG TAA TAC ACC GG-3’](配列番号23)を用いて断片2の5’末端に、かつ最近傍の制限酵素切断部位SfoIの50ヌクレオチド下流に結合するリバースプライマーである50bp-after-Sfol [5’-TTT ATC TCC TCC TAA AGT TTC-3’](配列番号24)を用いて断片3の3’末端に導入した。
VSVベクター
【0157】
WT VSVベクター(インディアナ株)およびVSV-GFPベクター(インディアナ株)は、それぞれ、配列番号20および配列番号21のDNA配列を有する(詳細は、Schnell et al., J Virol. 1996, 70(4): 2318-2323, Boritz et al., J Virol, 1999. 73(8): 6937-6945、およびMuik et al., Cancer Res. 2014, 74(13): 3567-3578を参照)。VSV-GFP-ΔP(ウイルスエンベロープタンパク質Pを欠く組換えVSVインディアナ株)を、他の場所での説明と同様に生成した(Muik et al., J Mol Med (Berl), 2012, 90(8):959-970)。感染性ウイルスを、Prot-Onウイルスの場合には10 μMのアンプレナビルの存在下で、かつタンパク質分解酵素不含のProt-Offウイルスの場合にはアンプレナビルの不在下で、293T細胞での標準ヘルパーウイルス不含のリン酸カルシウムレスキュー技術を用いて回収した(Witko et al., J Virol, 2006, 135(1):91-101)。BHK21細胞を、複製能力のあるVSV変異体の増幅のために用いた。
細胞株
【0158】
BHK-21細胞(米国培養細胞系統保存機関、Manassas, VA)を、10%のウシ胎児血清、5%のリン酸トリプトース培養液、100単位/mLのペニシリン、および0.1 mg/mLのストレプトマイシンを補充したグラスゴー最少必須培地(GMEM)内で培養した。
【0159】
293T細胞(293tsA1609neo)および293-VSV(VSVのN、P-GFP、およびLを発現する293細胞)(Panda et al., J Virol, 2010, 84(9): 4826-4831)を、10%のFCS、1%のP/S、2%のグルタミン、1倍のピルビン酸ナトリウム、および1倍の非必須アミノ酸を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)内で培養した。
インシリコ実験
【0160】
構造の視覚化および分子モデリング:全ての構造を、Coot 0.8.7.1(Emsley et al., Acta Crystallogr D Biol Crystallogr, 2010, 66(Pt4):486-501)およびUCSF Chimera 1.12(Pettersen et al., J Comp Chem, 2004, 25(13): 1605-1612)を用いて解析した。分子構造の画像を、UCSF Chimera1.12を用いて形成した。VSV-L-MT1620-mCherryモデルを、次のように形成した。配列番号28のアミノ酸配列を有するVSV Lタンパク質(タンパク質データバンク(PDB)受託コード5a22)および(リンカーを含む)配列番号11のDNA配列を有するmCherry(PDB受託コード2h5q)を、ZDockサーバー(Pierce et al., Bioinformatics, 2014, 30(12):1771-1773)とドッキングした。VSV Lタンパク質を、非拘束のmCherryを剛体モードでドッキングした対照構造として定義した。mCherryのN末端とC末端は、MT1620(メチル転移酵素ドメイン(MT)挿入部位内の配列番号28のアミノ酸1620)の近傍に位置するため、トップヒットのうちの1つを選択した。その後に、FiberDock(Mashiach et al., Poteins, 2010, 78(6):1503-1519)を用いて、剛体タンパク質ドッキングソリューションを柔軟に改良した。(GGSG)3リンカーをCoot 0.8.7.1内に手動で導入し、ModLoop(Pieper et al., Nucleic Acids Res, 2014, 42(Database issue): D336-346)を用いてモデル化した。
RNA抽出、cDNA合成、およびPCR
【0161】
まずウイルスRNAを、製造業者の指示に従って、ウイルスDNA/RNAキットであるpeqGOLD(Peqlab)を用いて精製した。続いてcDNA合成を、RevertAid First Strand cDNA Synthesis Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて、製造元の指示に従って実施した。次にPCRを、Q5(登録商標) HotStart High-Fidelity DNA Polymerase(NEB)を用いて実施した。アニール温度は、NEB Annealing Temperature Calculatorの推奨に従って選択した。伸長時間は1分/1000ヌクレオチドとした。
複製動態
【0162】
BHK-21細胞を1×105細胞/ウェルで24ウェルプレートに播種し、37℃で一晩培養した。翌日に培地を取り出し、細胞を、対応するVSV変異体の0.1の感染多重度(MOI)で感染させた。細胞を種菌とともに1時間培養し、続いてPBSで2回洗浄した。1 mLの新鮮な培地を細胞に加え、細胞を37℃で培養した。洗浄直後を0時間値とした。さらに上清を、4時間、8時間、12時間、16時間、24時間、および36時間後に採取した。試料は、BHK21細胞でのTCID50測定によりウイルス力価が測定されるまで-80℃で保存した。
用量応答
【0163】
BHK-21細胞を1×105細胞/ウェルで24ウェルプレートに播種し、37℃で一晩培養した。翌日に培地を取り出し、細胞を対応するVSV変異体の1の感染多重度(MOI)で感染させた。0 nM、30 nM、100 nM、300 nM、1 μM、3 μM、10 μM、30 μM、および100 μMのアンプレナビル濃度を添加した。ウイルスの後代を24 hpiで採取した。
TCID
50
測定
【0164】
ウイルス力価を、過去の説明のようなSpearman-Karberの方法(Kaerber, Archiv fur Experimentalle Pathologie und Pharmakologie, 1931, 162:480-483)を使用し、50%の組織培養感染量(TCID50)測定を用いて決定した。簡潔に説明すると、ウイルスの10倍の段階希釈液を調製した。100 μLの各希釈液を96ウェルプレート内の集密的なBHK-21細胞に4連で加えて、細胞変性効果が見られるまで37℃で24~48時間培養した。感染したウェルの数を数えて、TCID50値を計算した。
生体外での細胞毒性測定
【0165】
溶菌斑を、60%の集密度で感染させたBHK-21細胞のクリスタルバイオレット染色・固定によって得た(Flukaからの15 gのクリスタルバイオレット、85 mLのEtOH、250 mLの37%ホルムアルデヒド、および1000 mLのH2O)。固定前の最終的な集密度は約80%であった。ウイルス原液の5倍段階希釈液を調製し、1:106.5、1:107、1:107.5、1:108、1:108.5、および1:109を用いて6ウェルプレート内の細胞を感染させた。感染の1時間後に、細胞をPBSで洗浄して、2.5%の溶菌斑アガロース/GMEM混合物で覆った。アガロース/培地混合物は、感染の24時間後にクリスタルバイオレットで実施される固定の前にウェルから注意深く取り出した。
IFN死滅測定
【0166】
ウイルス細胞の死滅は、インターフェロン応答測定で評価され、この測定では、IFN適性のBHK-21細胞を、組換え汎用I型IFN(PBL assay science, Piscataway Township, NJ)の量を増加(10、100、500、および1000 U/mL)させて処理して、0.1、1、および10のMOIで感染させた。細胞を、INF処理の1日前に104で播種した。INF処理は、感染の16時間前に実施した。感染を72時間進行させた。この感染時間の後に、チアゾリルブルーを4時間にわたって加えた。次に細胞を、x g SDSを含む0.1 MのNaCl中にさらに4時間にわたって溶解した。MTT-ホルマザンを540 nmで測定した。
溶菌斑測定
【0167】
BHK-21細胞の単層をウイルス原液の段階希釈液に感染させた。感染の1時間後に、細胞をPBSで2回洗浄し、2.5%の溶菌斑アガロースの1:1希釈液および全GMEM培地で覆った。その翌日に溶菌斑アガロースを取り出して、クリスタルバイオレットを用いて細胞を染色した。
免疫ブロット
【0168】
BHK-21細胞を、5のMOIでVSV、VSV-GFP、VSV-L-mCherry、またはVSV-GPF-L-mCherryに感染させ、細胞溶解物を、4、8、12、および24時間後に調製した。未感染のBHK-21細胞を対照として用いた。細胞を氷冷細胞溶解緩衝液(50 mmol/LのHEPES、pH 7.5;150 mmol/LのNaCl;1%のTriton X-100;2%のアプロチニン;2 mmol/LのEDTA、pH 8.0;50 mmol/Lのフッ化ナトリウム;10 mmol/Lのピロリン酸ナトリウム;10%のグリセロール;1 mmol/Lのバナジン酸ナトリウム;および2 mmol/LのPefabloc SC)中で30分間溶解した。細胞片を処置するために、細胞溶解物を13.000 rpmで10分間遠心分離した。タンパク質を含む上清を、-80℃で保存した。
【0169】
タンパク質溶解物のSDS-PAGEを、12%のポリアクリルアミドゲル表面の還元条件下で実施した。VSV、VSV-GFP、VSV-L-mCherry、およびVSV-GFP-L-mCherryの比較には、8時間時点の溶解物を用いた。タンパク質を、タンク式ブロット装置を用いて、0.45 μmのニトロセルロース膜(Whatman, Dassel, Germany)に移した。ブロット時間は90分間とした。この膜を、5%の脱脂乳と0.1%のTween 20(PBSTM)を含む1倍のPBSで一晩阻害して、PBSTM中で1:1,000に希釈したmCherryに特異的なウサギモノクローナル抗体とともに室温で3時間培養した。抗体を組換えmCherryに対して生育して、(後程公開としたが)社内で精製した。洗浄後に、PBSTM中で1:5,000に希釈した過酸化酵素結合ウサギIgGに特異的なヤギ由来の抗体(Invitrogen, Carlsbad, CA)を添加し、ブロットをさらに1時間培養した。さらに洗浄した後に、化学発光(ECL)を増強したブロットを成長させた。1回目の検出後に、同一のブロットを徹底的に洗浄し、再利用して負荷制御のために染色した。アクチンを、PBSTM中で1:5,000に希釈したマウス由来のβ-アクチン特異的モノクローナル抗体(A2228;Sigma, Munich, Germany)で染色して、二次西洋ワサビ過酸化酵素結合マウスIgGに特異的なヤギ由来の抗体を用いた。1回目の検出で述べたような洗浄時間、培養時間、およびブロットの成長を実施した。
遺伝子導入
【0170】
L-mCherry発現プラスミドの遺伝子導入を、293T細胞中で、MirusからのTransIT(登録商標)-LT1遺伝子導入キットを用いて実施した。プラスミドDNAと遺伝子導入試薬の量は、遺伝子導入の1日前にウェルあたり2.7 × 105個の293T細胞を播種した24ウェルプレートにおいて、製造業者の推奨に従って選択した。P発現プラスミドを、L-mCherry発現プラスミドとともに遺伝子導入した。遺伝子導入の24時間後に、293T細胞を10のMOIでVSV-GFP-ΔLにより感染させた。感染の48時間後に画像を取得した。
動物実験
【0171】
動物実験は、国内の動物実験法に準拠している。動物実験の許可は、国家当局によって付与された。
【0172】
定位法:ウイルスの定位マウスへの脳注射を、マウス定位構造物(Harvard Apparatus, Hollistion- MA)を用いて実施した。麻酔を100 mg/kgのケタミンと10 mg/kgのキシラジンの混合物によって誘導した。手術後に、鎮痛療法を5 mg/kgのケトプロフェンで、抗生物質療法を5 mg/kgのエンロフロキサシンで実施した。鎮痛療法を、飲料水中の経口イブプロフェン溶液(0.1 mg/mL)により継続した。定位手術中に、マウスを定位構造築物に固定した。マウスの頭部を剃り、2回のベタジンと2回のエタノールで洗浄した。頭皮を外科用メスを開いた。注入穴の部位は、十字縫合に向け配向させて位置決めした。直径1 mmの注入穴を電気ドリル(FST, Foster city CA)で開けた。ウイルスの注入量として、1 μL/分の注入速度で10 μLを与えた。手術中はマウスを加熱パッド上に置いて、ワセリンで目を保護した。
【0173】
画像分析:蛍光顕微鏡(Nikon, Japan)を用いて、マウスの脳および腫瘍の培養物および組織学的切片中のウイルス感染細胞を解析した。
【0174】
統計分析:統計的有意性を、スチューデント(Student)のt検定および分散分析(ANOVA)によって決定した。0.05未満のP値は統計的に有意と見做された。GraphPadのプリズムソフトウェア(GraphPad Software, Inc., La Jolla, CA)を、統計分析とデータ表示に用いた。マルチカラーの写真パネルと重合せ画像の構成には、Adobe Photoshopソフトウェアを用いた。
実施例1:タンパク質分解酵素調節ONスイッチ、VSV-P-protの生成
【0175】
RNAウイルスの活性を制御する調節可能なスイッチを生成するために、本発明者らは、VSV遺伝子の発現および複製に必須の遺伝子中に自己触媒的に活性なタンパク質分解酵素配列を組み込むシステムを開発した(
図1a)。最初のONスイッチ構築物では、HIVタンパク質分解酵素二量体をVSVの重合酵素の補因子であるPタンパク質(配列番号1)に導入して、VSV-P-protを生成した。分子内挿入部位は、Pタンパク質の機能に影響を及ぼさないことが過去に示されていた(Das et al., J Virol., 2006, 80(13):6368-6377)。HIVタンパク質分解酵素の機能には二量体化を必要とする。翻訳後のタンパク質分解活性を即座に促進するために、遺伝子挿入構築物を、可撓性リンカーによって結合されたHIVタンパク質分解酵素(PR)の2つの複製物を含むように設計した(
図1B、
図2)(Krausslich, PNAS, 1991, 88(8): 3213-3217)。可撓性リンカー(配列番号8および9)もまた、タンパク質分解酵素構築物(配列番号5)の上流および下流に適用され、配列番号4のコード配列を有する切断部位およびリンカーを有するタンパク質分解酵素二量体をもたらして、残りの融合タンパク質からタンパク質分解酵素の独立した機能を確保した(Chen et al., Adv Drug Deliv Rev, 2013, 65 (10:1357-1369)。両方のタンパク質分解酵素配列のコドンの使用は、ヒトコドンの使用と、複製中のコピー選択事象のリスクを最小限に抑えるように配列相同性を回避するための2つの配列間の調整とを考慮に入れるための妥協の結果であった(Simon-Loriere and Holmes, Nat Rev Microbiol, 2011, 9(8):617-626)。得られた配列(配列番号29)を
図5に示す。一本鎖結合二量体(PR2)は、
図4および5に示すように対応する切断部位(配列番号6および7)にさらに隣接していて(de Oliveira et al., J Virol, 2003, 77(17):9422-9430)、かつaa196位(P196)でVSV Pタンパク質の可撓性ヒンジ領域にクローンされ、これについては、機能的な分子内挿入を許容する領域としての説明が過去にあった(Das et al. 2006)。
【0176】
統合された自己タンパク質分解性ONスイッチで本来のVSVリン酸化タンパク質機能を確認するために、単離されたP196PR2構築物をコードするプラスミドでBHK細胞を遺伝子導入し、続いてそのPタンパク質を欠損しかつ赤色蛍光タンパク質(RFP)レポーター遺伝子をその場所で発現するVSV(VSV-ΔP-RFP)で感染させた(Muik et al., J Mol Med (Berl), 2012, 90(8):959-970)。VSV-ΔP-RFP感染細胞のRFPシグナルは、P196PR2と特定のHIVタンパク質分解酵素阻害剤(ここではアンプレナビル)の存在下でのみ検出可能であった(
図3、写真B1~B3)。タンパク質分解酵素阻害剤の不在は、ウイルス遺伝子の発現とウイルスの複製の欠如をもたらし(
図3、写真A1~A3)、P196PR2は本質的なウイルスPタンパク質機能を維持し、タンパク質分解性ONスイッチの阻害によって制御できることを示している。
【0177】
次に本発明者らは、その天然のPタンパク質に代えてP196PR2を発現する組換えVSV(VSV-P-prot)を生成し、これはまた5番目の遺伝子位置にeGFPレポーター遺伝子を含んでいた(
図4)。VSV-P-protの救出および伝播を、10 μMのアンプレナビルを含む培地条件で実施した。PCR増幅と配列決定により、P196PR2構築物がVSVゲノム中に正確に組み込まれたことを確認した(
図6A)。VSV-P-protによるBHK細胞の感染は、アンプレナビル(10 μM)の不在下ではなく存在下で24時間以内に強いGFPシグナルをもたらし、供給されたタンパク質分解酵素阻害がVSV-P-protの遺伝子発現を制御することを示していた(
図6B)。逆にVSV-P-protのウイルス溶菌斑形成によって観察されたウイルス複製により、タンパク質分解酵素阻害剤に依存することも見出された(
図6C)。ウイルスRNAは、逆転写されかつ配列確認の対象となった。ウイルスゲノム配列からの挿入物の配列は、ウイルス構築プラスミドと完全に整列していた。
実施例2:VSV-P-protは、用量依存的にかつ種々のHIVタンパク質分解酵素阻害剤によって調節可能である
【0178】
VSV-P-protのアンプレナビルの依存的活性がHIVタンパク質分解酵素阻害剤種の他の材料でも一般的であるかどうかを試験するために、BHK細胞を第2世代化合物であるサキナビル(10 μM)およびインジナビル(10 μM)とともに培養し、続いて0.01のMOIでVSV-P-protにより感染させた。アンプレナビルの効果と一致して、両方の阻害剤は、ウイルス遺伝子発現(GFPシグナル)とウイルス複製(溶菌斑形成)を促進していて(
図7)、HIVタンパク質分解酵素ベースのVSV ONスイッチシステムの普遍的な標的化能力を確認できた。さらにロピナビル(10 μM)およびその他のHIVタンパク質分解酵素阻害剤も、VSV-P-protを調節することが示された(データは示さず)。
【0179】
ウイルス産生および初期の検討に使用されるアンプレナビル用量を、APVで経口的に治療された患者での過去に説明されているAPV血漿濃度に従って選択した(Sadler et al., Antimicrob Agents Chemother, 1999, 43(7):1686-1692)。さらにVSV-P-protのアンプレナビル制御活性が用量依存的であるかどうかを調べるために、用量応答検討を実施した。先に説明したように、ウイルス遺伝子発現(GFP)とウイルス複製(TCID
50複製測定)の両方に対するアンプレナビルの効果を評価した。BHK細胞を1のMOIで感染させて、24時間後にウイルス感染を評価した(
図8A)。単工程成長曲線では、VSV-Pprot活性が、100 nMのアンプレナビル用量で始まり、3~100 μMの用量範囲で最大活性の平坦域に達し、それより高用量では低下することが明らかになった(
図8B)。P-prot制御の仕組みの無い標準的な組換えVSVのウイルス複製は、対数値で1.5以上高い力価をもたらし、30 μMまでのアンプレナビル用量では影響を受けず、これにより、アンプレナビルがP-protスイッチの不在下ではVSV複製を制御できないことを示していた。複製曲線は、VSVよりもVSV-P-protで僅かな低下を示していた。
実施例3:VSV-Pprotの神経毒性および頭蓋内拡散の欠如
【0180】
VSVでは、CNS空間内に入れた場合の実験動物での顕著な神経毒性が知られている。VSV糖タンパク質は、神経細胞に対して強い親和性を示し、かつ順行性と逆行性の両方の軸索の拡散が報告されている。VSV-P-protの神経毒性が通常のVSVと比較してどの程度抑止されるかを調べるために、マウス線条体中への直接定位注射を用いた。野生型ベースのVSV-dsRedの頭蓋内注入(2 μLで2 x 10
5のTCID
50)は、注射後の2日以内に始まる後肢麻痺、協調性の欠如、円背、および重度の体重減少(
図9C)として現れる神経毒性の深刻な兆候(
図9A)をもたらした。人道的な理由から、全てのマウスを4日以内に安楽死させる必要があった(
図9B)。全く対照的に、同一用量のVSV-P-protを脳に注射しても神経毒性の兆候はもたらされなかった。さらにマウスは、アンプレナビルおよびリトナビルで同時に処置(100 μLのPBS中の100 μMのアンプレナビルおよび(APVの分解を抑制する)25 μMのリトナビルを、10日間にわたって1日2回腹腔内投与)した場合に、頭蓋内へのVSV-P-prot注射後に脳に関連する有害な兆候を示さなかった(
図9A~C)。定位注射後の潜在的な頭蓋内拡散を検討するために、毒性関連安楽死(VSV-dsRed)の日またはVSV-P-prot接種の10日後に脳を採取した。冠状脳切片の組織学的蛍光分析は、赤色蛍光を発現するVSV-dsRedの広範囲にわたる拡散を示していた。ウイルス感染は、線条体、皮質下領域、および(両側の)視床下部全体で見られた。対照的に、VSV-P-protからのGFP発現は、アンプレナビルが全身投与されたかどうかに関係なく、VSV-P-protの頭蓋内拡散のいずれの兆候もなく、注射針の跡の直ぐ裏側だけに完全に限定されていた(
図9D)。これらのデータにより、VSV-P-protがVSVに典型的な神経毒性および頭蓋内拡散を伴わないことが確認できる。
【0181】
従って、さらにリガンド依存性のウイルス活性を、親VSVに関連する神経毒性および頭蓋内拡散の完全な抑制によって生体内で確認した。アンプレナビルは血液脳関門を通過しないので、化合物の全身投与ではウイルス活性は付与されず、全身に存在するONシステムにもかかわらず神経毒性は存在しなかった。
実施例4:VSV-P-protのタンパク質分解酵素阻害剤依存の遺伝的安定性
【0182】
RNAウイルスは、変異率が約10,000分の1であるVSVの場合に、頻繁な変異を起こし易い(Steinhauer and Holland 1986, Steinhauer, de la Torre et al. 1989)。VSV-P-protの調節可能なウイルス制御ONスイッチが、複数のウイルス複製回数を通して機能的に安定しているかどうかを試験するために、最適(10 μM)および準最適(1 μM)のアンプレナビル条件で生体外の連続ウイルス継代を使用した。それぞれの継代後に、タンパク質分解酵素阻害剤の依存性を、アンプレナビル無しで培養した平行皿に上清の試料を移した後のGFP発現によって評価した。20回の継代(P20)後に、アンプレナビルのエスケープウイルス変異体は観察されなかった(
図10A)。VSV-P-protのゲノムの完全性を確認するために、準最適のアンプレナビル処理ウイルス増殖からの継代P20から採取されたウイルスゲノムRNAを精製し、逆転写し、かつ挿入物であるP-196PR2表面でPCRを実行した。タンパク質分解酵素挿入の無いVSV変異体を、陰性対照として用いた。P-196PR2およびタンパク質分解酵素が陰性のPタンパク質PCR断片は、予想されたサイズであることが分かった(
図10B)。その後のP-prot部位の配列決定および親プラスミド構築物(配列番号4)内のそれぞれの配列とのアラインメント比較により、構築物内の1つの変異(タンパク質分解酵素2:ヌクレオチドG23A;アミノ酸R8K)が明らかになったが、この変異は構築物を非機能的にはしなかった。この変異が機能的に完全に無変化かどうか、低APV濃度への適応あるいは稀なコドン(R:7%)から頻繁なコドン(K:74%)への交換を反映しているかどうかはまだ分かっていない。
実施例5:VSV Lタンパク質でのタンパク質分解酵素挿入部位の同定
【0183】
ウイルスを制御する自己触媒的に活性なタンパク質分解酵素手法がまた、別の必須VSVタンパク質内に挿入された場合に機能できるかどうかを試験するために、本発明者らは、VSV-L-protを生成を試みた。安定な非減衰の分子内挿入は現在まで十分に報告されてこなかったため(Ruedas and Perrault, J Virol, 2009, 83(23):12241-12252;Ruedas and Perrault, J Virol, 2014, 88(24): 14458-14466)、本発明者らは、まずVSV Lタンパク質の能力としてレポーター遺伝子(mCherry)の挿入に耐えられるかどうかの検討に着手した。構造誘導手法を用いて、mCherryの5つの異なるLタンパク質挿入部位(配列番号28のアミノ酸配列を有するLタンパク質のアミノ酸位置CD1506、CD1537、MT1603、MT1620、およびMT1889)を特定し、それらの挿入部位は表面と可撓性ループに配置されているために妥当と考えられ、これにより立体衝突の可能性を最小限に抑えることができる(
図11A、C)。またLタンパク質の構造的完全性を保持するように、αヘリックスおよびβシート内の挿入部位は避けるようにした。
図11Dは、MT1620での挿入のモデルを示していて、これにより、以下の説明のように複製能力のあるウイルスをもたらした。候補挿入部位について提案されたインシリコで設計された構造予測を選別するために、CD1506、CD1537、MT1603、MT1620、およびMT1889に挿入されたVSVLタンパク質発現ベクターを生成した。これら5つの構築物をHEK細胞に遺伝子導入した後に、レポーターとしてeGFPをコードする増殖能力のないVSV-GFP-ΔLウイルスによる感染を実施した。この選別では、全ての部位がmCherryシグナルを示したが、2つの部位(CD1506、MT1620)のみがeGFPシグナルを表示し、L-mCherry融合タンパク質の転写活性を示している(
図12A)。従って、全ての挿入部位は、効率は変化するものの正確なmCherryの折り畳みを可能にするが、2つの挿入だけが重合酵素活性を保持する。ウイルス複製能力に対するeGFP陽性クローンを試験するために、全VSVゲノムにこれらの部位(CD1506、MT1620)をクローンすることを選択した。2つのVSV骨格、すなわち一方はゲノム内の5番目の位置にレポーターとしてeGFPを備え、他方はeGFPを備えない骨格に、各部位をクローンした。CD1506構築物を備えたVSV変異体は、複数回の試行後でも救助できなかった。対照的に、VSV-L-MT1620およびVSV-GFP-L-MT1620ウイルス救助により、複製能力のあるウイルスを生成した。このことは、細胞変性効果と蛍光シグナルによって確認された(
図12B)。予想通りに、VSV-eGFP-L-MT1620-mCherryは、FITC(緑色)帯域とTRITC(赤色)帯域の両方で蛍光シグナルを示し、VSV-L-MT1620-mCherryはTRITC帯域でのみ蛍光シグナルを示した。両側にリンカーが隣接するmCherryは、配列番号11のDNA配列を有する。VSV-L-MT1620-mWasabiは、FITC帯域で緑色の蛍光を示した(
図12B)。タンパク質mWasabiも同様に、両側にリンカーが隣接し、配列番号12のDNA配列がコードされている。タンパク質濃度によるmCherryの存在を検証するために、mCherry特異的抗体を用いて免疫ブロットを実施した。BHK-21細胞を、VSV、VSV-GFP、VSV-L-MT1620-mCherry、およびVSV-GFP-L-MT1620-mCherryで感染させた。陽性対照として、mCherryのみを含むベクターをBHK-21細胞内に遺伝子導入した。Lタンパク質内のmCherryは、ウイルス感染後のL-mCherry融合タンパク質の生成に従って、高分子量(267 kDaで予測)でシグナルを示した(
図12C)。
【0184】
これらの結果を総合すると、MT1620の位置へのmCherryの挿入が成功し、複製能力のあるウイルスがもたらされることが示されている。
【0185】
野生型ベースのVSVと比較してVSV-L挿入物の複製能力および潜在的な弱毒化を評価するために、溶菌斑測定を溶菌斑のサイズで判断するように実施し(
図13A)、ウイルス複製を定量化するTCID
50測定を実施した(
図13B)。双方の試験では、野生型VSVと比較してVSV-L挿入物の低下が明らかになり、ウイルス複製力価が対数値で約1~2減少した。さらに、VSVと比較してインターフェロンの存在下または不在下でBHK細胞で細胞死滅を誘発するVSV-L挿入物の能力を評価するために、MTT生存率測定を実施した。IFNの不在下では、VSV-L挿入物感染後のウイルス細胞毒性はVSV感染と同等であった(
図13C)。IFNの存在下では、2つのL-MT1620-mCherry VSV変異体は、VSVおよびVSV-GFPと比較してより強いIFN依存性を示して、その結果として死滅が僅かに減少し(
図13C;GFP変異体のデータは示さず)、MT1620の位置へのmCherryの挿入により、野生型VSVと比較して、複製または細胞溶解の能力を大幅に損なうことなく軽度の低下をもたらすという知見を確証した。
【0186】
本実施例で得られたL-mCherryの配列決定結果は、配列番号13の配列として提供される。全ての救助されたVSV-L挿入物変異体の配列確認時に、大半のウイルスで1~3の二次非同義変異が観察され、これらは挿入部位の近傍に位置していた。これらの変異は条件付きであってもよく、適切な重合酵素機能にとって好都合な可能性がある。
実施例6:別のタンパク質分解酵素調節よるONスイッチ、VSV-L-protの生成
【0187】
VSV Lタンパク質内での機能的挿入部位の発見は、別の調節可能なVSV-prot変異体であるVSV-L-Protを生成することを可能にした。VSV-P-protと同様に、VSV-L-Protは、Lタンパク質(配列番号10)内にタンパク質分解酵素挿入物を含むので、APVに応答しその存在下で(またサキナビルおよびインジナビルとともに)高力価に複製され、タンパク質分解酵素阻害剤無しでは複製されない(
図14A)。
【0188】
VSV-L-Protのゲノムの完全性を試験するために、ウイルスゲノムRNAを精製し、逆転写し、かつL-MT1620PR2でPCRを実施した。タンパク質分解酵素を挿入しないVSV変異体を陰性対象として用いた。本発明者らは、L-MT1620PR2およびタンパク質分解酵素が陰性のLタンパク質のPCR断片は、予測サイズであることを見出した(
図14B)。
【0189】
本発明者らは、タンパク質分解酵素二量体配列内で変異が起こったかどうかを評価するために、2つのサンガー配列決定反応により挿入部位の配列決定を行った。配列決定の結果は、プラスミド配列に一致していた。タンパク質分解酵素二量体配列に変異は観察されなかった。
実施例7:VSV-L-protは用量依存的に調節できる
【0190】
VSV-P-protと同様に、VSV-L-protのアンプレナビル制御活性が用量依存的であるかどうかを調べるために、用量応答検討を実施した。前の説明のように、ウイルス遺伝子発現(GFP)(
図15A)とウイルス複製(TCID
50複製測定)の両方に対するアンプレナビルの効果を評価した(
図15B)。VSV-L-prot活性は、100 nMのアンプレナビル用量で始まり、30 μMの用量で最大活性に達した。過去のVSV-P-protの検討では細胞に毒性があることで力価が低下することが示されたので、それより高いアンプレナビル濃度をL-protでは試験しなかった。さらに複製曲線は、VSV-P-protによって見られる曲線に相当するVSVよりVSV-L-protでは緩やかな低下を示していた。
実施例8:直列型のタンパク質分解酵素調節ONスイッチ、VSV-P-L-protの生成
【0191】
条件付きONスイッチ制御を失う可能性がある復帰ウイルスの成長の可能性を調べるために、本発明者らは、Pタンパク質とLタンパク質中の挿入物の可能性をさらに調査した。次に機能的な二重挿入物を有するVSV変異体の構想の最初の実証として、PおよびL内に機能的な二重分子内挿入物を備えたVSV、すなわちVSV-P-mWasabi-L-mCherryを生成した。溶菌斑測定(
図16A)での二重蛍光読出しと細胞変性効果、およびcDNA合成/PCRとサンガー配列決定によるゲノムの完全性の試験により、二重挿入機能を確認した。
【0192】
VSV-P-mWasabi-L-mCherryのゲノム完全性を試験するために、ウイルスゲノムRNAを精製し、逆転写し、かつP-196-mWasabi(配列番号15)およびL-MT1620-mCherry(配列番号14)でPCRを実施した。蛍光タンパク質の挿入物が無いVSV変異体を陰性対照として用いた。本発明者らは、P-196-mWasabi、L-MT1620-mCherry、および蛍光タンパク質が陰性のPおよびLタンパク質のPCR断片が、それらの予測サイズであることを見出した(
図16B)。
【0193】
本発明者らは、変異が蛍光マーカー配列内で起こった可能性があるかどうかを評価するために、2つのサンガー配列決定反応により挿入部位を配列確認した。配列決定の結果は、プラスミド配列と一致していた。挿入配列に変異は見られなかった。配列決定の結果により、VSV-P-mWasabi-L-mCherryのP-196-mWasabiおよびL-MT1620-mCherryのcDNA配列は、それぞれ配列番号14および配列番号15として提示される。
【0194】
直列型の分子内挿入物の実現可能性を確認した後に、本発明者らは次に、二重ONスイッチ調節VSV変異体であるVSV-P-L-protを生成した。ウイルスは正常に救出され、VSV-P-protとVSV-L-protの両方の単一スイッチ構築物と類似して動作するように見受けられた。このウイルスはまた、タンパク質分解酵素阻害剤依存性を示して、アンプレナビルの存在下でのみ溶菌斑を生成した(データは示さず)。但し二重スイッチウイルスは、単一スイッチウイルスに比較して僅かに大きな低下を示した。
【0195】
従って全体として、本発明者らは、HIVタンパク質分解酵素二量体が、重合酵素複合体を構成する水胞性口内炎ウイルス(VSV)の2つのタンパク質(Pタンパク質およびLタンパク質、別々におよび組合せて)中に分子内挿入された構築物を生成した。タンパク質分解酵素阻害剤の存在下では、ウイルスタンパク質の完全性が維持され、ウイルスは複製される可能性がある。タンパク質分解酵素阻害剤が無い場合に、HIVタンパク質分解酵素二量体は自己触媒的に活性であり、翻訳されると必須のウイルスタンパク質を切断した。DNAウイルス内の調節モジュール(Tet-Onなど)と同様に、本発明者らはこの仕組みを「prot-ON」と名付けた。
【0196】
本発明者らは、第1および第2のタンパク質分解酵素間の相同性を回避するために、可撓性リンカーおよびタンパク質分解酵素二量体のコドン使用を最適化した。VSVでのいわゆる「コピー選択」組換え事象は以前から説明されていて(Simon-Loriere and Holmes 2011)、ウイルス重合酵素であるLタンパク質が鋳型を切り替え、また配列延伸をスキップする可能性があるので、この予防措置を採用していた。「コピー選択」は、重合酵素が新生RNA鎖の新規に選択された鋳型との配列相同性によって誘導される場合に、優先的に発生する。さらに、点変異はRNAウイルス中で頻繁に発生し、VSVの場合にはヌクレオチドに約10,000分の1の変異率で発生する。理論的には、いずれのゲノムも1つの変異を有し、その変異により、ウイルス学者がVSVゲノム(および他のRNAウイルスゲノム)を1つの配列としてではなく、いわゆる「疑似種」の混合物を指すように導いている。従って、タンパク質分解性スイッチを不活性にするHIVタンパク質分解酵素配列内での変異の発生は、現実的に可能である。本発明者らは、条件付きのONスイッチの制御を奪う可能性のあるそのようなエスケープ変異体または復帰変異体ウイルスを回避するために、Pタンパク質およびLタンパク質などの第2の必須VSVタンパク質中にタンパク質分解酵素二量体を導入して、タンパク質分解酵素モジュール(ONスイッチ)を二重にした。
【0197】
連続的な継代にわたってウイルス複製を支援すると思われる、過去に公開されたV SVタンパク質での唯一の他の機能的分子内挿入部位は、Mタンパク質であると説明されていた(Soh and Whelan, Virol, 2015, 89(23):117050-11760)。しかしながら、Mタンパク質を制御することによりウイルスが複製を受けておそらくエスケープ変異が促進される可能性があるので、VSVの複製機構を直接制御するのが好ましい。Lタンパク質内の挿入部位は説明されてきているが、結果として生じるウイルスは温度感受性であり、継代後は不安定であった(Ruedas and Perrault 2009, Ruedas and Perrault 2014)。対照的に本発明者らは、最初に蛍光タンパク質、続いてHIVタンパク質分解酵素二量体を備える機能的な挿入を形成できた。P-protとL-protの双方とも、試験された全てのHIVタンパク質分解酵素阻害剤の存在に応答して、化合物の用量依存的に複製された。タンパク質分解酵素阻害剤が不在の場合には、ウイルス遺伝子の発現は終結して複製も停止した。
【0198】
この検討では試験していないが、ONスイッチシステムは、本質的にさらなる環境安全要素を備えている。ウイルスの後代はタンパク質分解酵素阻害剤の存在に依存するので、潜在的に放出されるウイルスは増殖性感染に対して活性ではない。このことは、治療用RNAウイルスが届出義務のある動物の病気を引き起こしたり模倣する可能性がある場合に特に重要なことになる。
実施例9:タンパク質分解酵素調節OFFスイッチ、VSV-GFP-prot-Lの生成
【0199】
タンパク質分解酵素に基づくONスイッチの生成に続いて、本発明者らはまた、スイッチオフが可能なVSV変異体であるVSV-Prot-offを生成した。同一のHIVタンパク質分解酵素媒介自己触媒性スイッチシステムを用いて、分子内部位から分子間部位への挿入の部位変更は、ウイルス促進からウイルス停止への方向の逆転制御をもたらす。このOFFスイッチでは、変異体コドン最適化を備えるタンパク質分解酵素二量体をVSVゲノムに挿入して、GFP、タンパク質分解酵素二量体、およびウイルス重合酵素Lの融合タンパク質を形成した。Lタンパク質のN末端に融合したタンパク質分解酵素二量体を有するこの巨大融合タンパク質は、機能的に不活性であると予測されるが、タンパク質分解酵素阻害剤の不在下ではLタンパク質のタンパク質分解性遊離によって活性化されると予測される。このOFF構築物では、本発明者らは、VSVの遺伝子間領域をその切断部位が隣接するHIVタンパク質分解酵素で置換した。遺伝子間領域は、1つのRNA鎖から複数のタンパク質を生成するために重要な役割を果たす。VSV-GFP内の必須ではないレポータータンパク質であるGFPとLタンパク質の間の遺伝子間領域を選択し(
図17A)、2つのウイルスを生成した。一方のウイルスは、HIVタンパク質分解酵素二量体構築物を包囲する可撓性リンカー領域(配列番号16)を有し、他方のウイルスは、HIVタンパク質分解酵素二量体構築物を包囲する領域(配列番号17)を有さない。可撓性リンカー領域は、HIVタンパク質分解酵素二量体がその認識配列を切断した後に、GFP上のC末端タグおよびLタンパク質上のN末端タグとして残留すると思われるので、このリンカー領域は回避する方が都合がよい。但し、これら2つの構築物はその複製能力が僅かに異なる。アンプレナビル(10 μM)を付加すると、ウイルス導入遺伝子発現(GFP)ならびにウイルス複製(溶菌斑測定)の両方の水準でウイルス活性の停止がもたらされた(
図18A)。このシステムには、さらなる独自の安全機能が付加された。理論的には、タンパク質分解酵素挿入物の喪失により、ウイルスの後代がOFFスイッチ制御を逸する可能性がある。従って本発明者らは、2つの隣接するVSVタンパク質、すなわちこの場合にはGFPとVSVタンパク質の融合タンパク質が形成されてウイルスが機能不全になるという不利益に対処するように、遺伝子間領域の代わりにタンパク質分解酵素OFFスイッチを配置した。
【0200】
VSV-GFP-Prot-Lのゲノムの完全性を試験するために、ウイルスゲノムRNAを精製し、逆転写し、かつGFP-Prot-LでPCRを実施した。タンパク質分解酵素挿入の無いVSV変異体を陰性対照として用いた。本発明者らは、VSF-GFP-Prot-Lおよびタンパク質分解酵素陰性のLタンパク質PCR断片は、それらの予測サイズであることを見出した(
図18B)。
【0201】
本発明者らは、タンパク質分解酵素二量体配列内で変異が起こったかどうかを評価するために、2つのサンガー配列決定反応を用いて挿入部位を配列決定した。配列決定の結果は、プラスミド配列と一致していた。各構築物中のタンパク質分解酵素二量体配列に1つの変異が観察された。変異は、配列番号18の配列(すなわち第2のタンパク質分解酵素ヌクレオチド配列のnt 254)を有するリンカーを備えるタンパク質分解酵素二量体のcDNA配列のnt 623に対応するリンカー含有構築物中のアミノ酸85位に存在し、かつ変異は、配列番号19の配列を有するリンカーを含まないタンパク質分解酵素二量体のcDNA配列のnt 589(すなわちは第2のタンパク質分解酵素ヌクレオチド配列のnt 256)に対応するリンカー不含構築物中のアミノ酸86位に存在し、両方の変異とも第2のタンパク質分解酵素内にある。これらの変異は、典型的なタンパク質分解酵素阻害剤耐性の変異としては説明されておらず、タンパク質分解酵素阻害剤による調節を妨害しない。おそらくこれらの変異は、GFPとLとの間で融合する場合にタンパク質分解酵素をより活性にした。
実施例10:VSV-GFP-prot-Lは、用量依存的に種々のタンパク質分解酵素阻害剤によって調節可能である
【0202】
2つのprot-ON構築物と同様に、VSV-GFP-Prot-L(VSV-Prot-Off)のアンプレナビル制御活性が用量依存的であるかどうかを調べるために、用量応答検討を実施した。前の説明のように、ウイルス遺伝子発現(GFP)とウイルス複製(TCID
50複製測定)の両方に対するアンプレナビルの効果を評価した(
図19AおよびB)。タンパク質分解酵素阻害剤の不在下では、VSV-GFP-Prot-L活性は通常のVSVに比較して低下していなかった。VSV-GFP-Prot-L活性は、低いアンプレナビル濃度(0~300 nM)では高く、1 μMで低下し始めた。またVSV-GFP-Prot-Lがアンプレナビル以外のタンパク質分解酵素阻害剤に応答するかどうかも試験した。10 μMのサキナビルによる処理は、アンプレナビルよりもさらに強力なウイルス複製阻害をもたらした(
図19B)。この阻害を、0~30 μMのサキナビル濃度を用いて
図19Cのようにさらに確認した。さらに単工程の複製動態を、12ウェルプレートでウェル当たり10
5個のBHK細胞を播種し、かつ3のMOIでVSV-Prot-OffまたはVSV-GFPで感染させて測定した(
図19D)。感染の1時間後に、細胞をPBSで2回洗浄し、指示時点まで500 μLのGMEM内で培養した。開始値すなわち0時間の時点では、500 μLのGMEMを直ぐに回収した。VSV-Prot-Offには、VSV-GFPと比較して低下はなかった(
図19D)。
【0203】
従って、「prot-ON」構築物と同一の自己タンパク質分解性システムを用いるが、機能的に異なるゲノム位置で、本発明者らはさらに、遺伝子間領域のHIVタンパク質分解酵素二量体での置換によって作用する、タンパク質分解酵素依存性OFF調節の逆転の仕組みを開発した。この構築物では、HIVの場合と同様に、タンパク質分解酵素が2つのウイルスタンパク質を分離するように活性である必要がある。この構築物内にタンパク質分解酵素阻害剤を加えると、ウイルス活性を阻害する非機能的な融合タンパク質(ポリタンパク質)が生じる。Tet-On/Tet-Offとの類似性を維持して、本発明者らは、この構築物を「prot-Off」と名付けた。最適なウイルス活性制御のために、ONスイッチとOFFスイッチの両方を、ウイルス複製/転写機構のタンパク質を調節することにより、ウイルス増殖の初期段階を妨害するように設計した。従って、本発明者らの手法を発展させて、RNAウイルス調節の現状の方法を潜在的に勝る方法にできる。
【0204】
Prot-Offウイルスでの遺伝子間領域の置換として、必須ではないレポータータンパク質、GFP、および必須Lタンパク質の間での置換を例示してきたが、Prot-Offは、必須のウイルスタンパク質を連結する遺伝子間領域をさらなるウイルスタンパク質で均等に置換して、それにより、タンパク質分解酵素構築物を排除すると非機能の融合タンパク質が生じる可能性があるので、ウイルスをより安全にできる。古典的な耐性変異は、これら変異はタンパク質分解酵素阻害剤での継続的な処理下でHIV中に発生するので、理論的にはProt-OFF構築物内でも発生できる可能性がある。しかしながら、広範囲の利用可能なタンパク質分解酵素阻害剤により、そのような点変異を補償できる可能性がある。
実施例11:VSV-P-protは、タンパク質分解酵素阻害剤の投与により生体内で調節可能である
【0205】
生体内でONスイッチウイルスを検証するために、実施例1に説明され
図4に示されるように、生体内撮像用のeGFPレポーター遺伝子に代えてルシフェラーゼレポーター遺伝子を含むルシフェラーゼ発現変異体であるVSV-P-prot-Lucを生成した。6~8週齢のメスの無胸腺ヌードマウス(Janvier Labs, Le Genest-Saint-Isle, France)を、12時間毎の明暗サイクルで餌と水を無制限に摂取させるBL2施設内に収容した。皮下異種移植の場合に、2×10
6個の細胞を含む100 μLのヒトU87神経膠芽腫細胞懸濁液をヌードマウスの右横腹に注射した。移植期間後に、体積中央値が0.1 cm
3のU87異種移植片を、VSV-Pprot-Lucまたは対照緩衝液の10
7個のウイルスを含む30 μLの単回用量(TCID
50により用量設定)を腫瘍内注射した。タンパク質分解酵素阻害剤処理(10%のDMSO、40%のPEG300、5%のTween80、および45%のPBSを含む薬物媒体中の0.8 mMのAPV+0.2 mMのRTVの50 μLを12時間毎に腹腔内投与する)をウイルス投与の1時間前に開始した。リトナビルは、生体内で分解酵素(Cypファミリー)の遮断薬として作用する。リトナビルは他のPIの濃度を増大させる。RTVは、まさにその目的のために、HIVの治療での添加剤としても使用される。さらにRTVは、p糖タンパク質を遮断するので、脳内のその他のPIの濃度を上昇させる。ルシフェラーゼ発現VSV変異体の生物発光の生体内撮像は、Urbiola Cら(int. J. Cancer, 2018, 148: 1786-1796)が説明するように、IVIS(登録商標) Lumina II(Perkin Elmer, Waltham, MA)システムを用いて実施した。
図20Aは、ウイルス注射後8日目の代表的な生物発光画像を示している。8日目では、タンパク質分解酵素阻害剤で処理されたマウスでのみ発光が検出されている。これは、
図20Bに示す生物発光画像(BLI)で定量されたルシフェラーゼシグナルデータでも確認される。タンパク質分解酵素阻害剤が無い場合に、ルシフェラーゼシグナルは2日目~3日目の間で最大になり、その後低下し始める。タンパク質分解酵素阻害剤の投与とは無関係の初期の生物発光シグナルは、ウイルス調製物がウイルスの産生および保存中に自己タンパク質分解を遮断するアンプレナビルを含んでいたという事実によって説明できる。さらにタンパク質分解酵素阻害剤を注射しないと、生物発光シグナルは3日後に有意に減少し(
図20B)、その後腫瘍制御は喪失した(データは示さず)。対照的に、タンパク質分解酵素阻害剤の存在下では、ルシフェラーゼシグナルは全体的に遥かに高い水準で17日間一定であり(
図20B)、腫瘍のサイズは抑えられた(データは示さず)。これらのデータは、ONスイッチ構築物の生体内機能性を示しており、タンパク質分解酵素阻害剤の存在下では、この実験で用いたレポーター遺伝子ルシフェラーゼや治療用タンパク質など導入遺伝子のウイルス発現および複製を可能にする。
実施例12:VSV-L-protはタンパク質分解酵素阻害剤の投与により生体内で調節できる
【0206】
生体内データは、レポーターとしてGFPを発現するVSV-L-protを用いてさらに確認できた。実施例11での説明のように、ヌードマウスにU87神経膠芽腫細胞を皮下に異種移植した。体積中央値が0.1 cm
3で、VSV-L-prot、VSV対照、または対照緩衝液(偽薬)の単回投与でマウスに腫瘍内注射した。VSV-L-protの生成は上記の実施例6で説明する。0.8 mMのアンプレナビル(APV)と0.2 mMのリトナビル(RTV)を含むタンパク質分解酵素阻害剤(PI)混合物を、12時間毎に50 μLで腹腔内投与した。腫瘍をノギスで測定し、体積を長さ×幅
2×0.4の式を用いて計算した。VSV-L-protによる皮下U87腫瘍の腫瘍内治療は、タンパク質分解酵素阻害剤無しの治療と比較して、タンパク質分解酵素阻害剤混合物の存在下で腫瘍増殖の低下(
図21A)および生存率が増大する恩恵(
図21B)がもたらされた。この構想実証の検討で用いられたタンパク質分解酵素阻害剤の濃度は、比較的低いのでさらに増加させることができる。全体として、これらのデータは、ウイルスONスイッチの生体内での適合性をさらに確証している。
実施例13:タンパク質分解酵素阻害剤は、生体内でVSV-Prot-Off活性を調節する
【0207】
本発明者らは、さらに生体内でOFFスイッチを試験した。6~8週齢のメスNOD.CB-17-Prkdcscid/Rjマウス(Janvier Labs, Le Genest-Saint-Isle, France)を、12時間毎の明暗サイクルで餌と水を無制限に摂取させるBL2施設内に収容した。皮下異種移植の場合には、2×10
6個のヒトG62神経膠腫細胞を含む100 μLの神経膠芽腫細胞懸濁液をNOD-SCIDマウスの横腹内に注射した。OFFスイッチシステムを試験するために、体積中央値が0.07 cm
3のG62異種移植片に、VSV-Prot-Off(n=16)、VSV-GFP(n=8)、または対照緩衝液(偽薬;n=7)の2×10
7個のウイルス(TCID
50)を含む30 μLを腫瘍内注射した。ウイルス治療は7日後に繰返した。VSV-Prot-OFF(VSV-GFP-prot-L)の生成は、上記の実施例6で説明され、
図17Aに示される。タンパク質分解酵素阻害剤の混合物での処理(10%のDMSO、40%のPEG300、5%のTween80、45%のPBSを含む薬物媒体中の0.8 mMのSQV+0.2 mMのRTVを8時間毎に50μLで腹腔内注入する)を、腫瘍退縮が観察された場合に2回目のウイルス注射の8日後に開始した。腫瘍をノギスで測定し、体積を長さ×幅
2×0.4の式を用いて計算した。6日目から、VSV-GFPで処理されたマウスは神経毒性の兆候を示した(
図22B)。処理の15日後に、VSV-Prot-Offで処理したマウスの一部で神経学的症状が発症し、残りのマウスを無作為に2つの群に分割した。その第1の群(n=7)には、継続的なウイルス複製を可能にするタンパク質分解酵素阻害剤を投与せず、腫瘍の制御は維持されたものの一部のマウスではさらに神経毒性が生じた。但し神経毒性は、親のVSV-GFP処理マウスに比較して減少した(8匹のマウスのうちで、3匹対6匹)。続いて、第2の群(n=8)をタンパク質分解酵素阻害剤の混合物(SQV+RTV)で1日3回処理してOFFスイッチを開始させた。この群では神経毒性の兆候は観察されなかった。(
図22B)。OFFスイッチの活性化後には、腫瘍の制御は低下してぶり返しが起こった(
図22A)。
実施例14:タンパク質分解酵素阻害剤は、免疫蛍光が示すように生体内でVSV-Prot-Off活性を調節する
【0208】
異種移植片を、実施例13に説明のように移植した。体積中央値が0.07 cm
3のG62異種移植片に、VSV-Prot-OffまたはVSV-GFPの2×10
6個のウイルス(TCID
50)含む30 μLで腫瘍内注射し、タンパク質分解酵素阻害剤の処理(10%のDMSO、40%のPEG300、5%のTween80、45%のPBSを含む薬物媒体中の0.8 mMのSQV+0.2 mMのRTVを8時間毎に50μLで腹腔内注入する)を1回目のウイルス治療の3日後に開始した。1週間後(10日目)に腫瘍を採取し、抗VSV-N抗体染色を用いてウイルスの拡散を解析した。代表的な画像(
図23)は、タンパク質分解酵素阻害剤の不在下でVSV-GFPでの広範囲な腫瘍内拡散を示し、VSV-Prot-OFFでの腫瘍内拡散が僅かに減少していることを示しており、これはVSV-Prot-OFFが生体内である程度低下していることを示唆している。対照的に、ウイルス接種の3日後に開始したタンパク質分解酵素阻害剤の治療では、ウイルスの拡散が阻止され微小な孤立領域に限定されていた。
実施例15:タンパク質分解酵素阻害剤であるサキナビルは、タンパク質分解酵素調節OFFスイッチを備えたVSVを用いて可溶性IL12の発現を調節する
【0209】
治療用タンパク質の導入遺伝子の発現が、OFFスイッチを用いて調節できるかどうかをさらに調査するために、VSV-GP-IL12-Prot-Offを細胞培養物内で試験した。(
図24Aの上部に概略的に示される)VSV-GP-IL12-Prot-Offは、国際特許公開WO2010/040526号に詳述さるように、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質(GP)で疑似型とされたVSV-GPに基づき、VSVの神経毒性を克服するために開発された。ウェル当たり10
5個のBHK細胞を12ウェルプレートに播種した。細胞を、VSV変異体であるVSV-GP、VSV-GP-IL12、VSV-GP-GFP-IL12-Prot-Off-wl、またはVSV-GP-GFP-IL12-Prot-Off_w/olの0.1のMOIで感染させた。感染の1時間後に、細胞をPBSで洗浄し、タンパク質分解素阻害剤を含まない標準GMEM(-ctrl)、あるいは10、100、300、1.000、10.000 nmolのタンパク質分解素阻害剤であるサキナビルで培養した。感染の30時間後に上清を採取した。ウイルス力価はTCID
50により測定された。リンカーの有無(wl、w/ol)でのVSV-GP-IL12-Prot-Offのウイルス力価は、PIであるサキナビルの存在と濃度に依存していた(
図24A)。次に酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を実行して、発現した導入遺伝子IL12もサキナビル濃度に依存するかどうかを決定した。VSV-GP-IL12-Prot-Off-w/olは、適度に好ましい力価特性(PIがなくても力価が高く、PIに対する応答が強い)を有していたので、その後のELISAに用いた。VSV-GP-IL12および非阻害Prot-Offウイルスは、測定検出限界を超えるIL12濃度をもたらした。PIを含まない対照試料(-ctrl)のみは、希釈して測定した。IL12濃度は、種々のサキナビル用量で処理されたProt-Offウイルスのウイルス力価に比例していた(
図24B)。
実施例16:タンパク質分解酵素阻害剤であるアタザナビルは、タンパク質分解酵素調節OFFスイッチを備えたVSVを用いて可溶性IL12の発現を調節する
【0210】
ウェル当たり10
5個のBHK細胞を12ウェルプレートに播種した。細胞を、VSV変異体であるVSV-GP-IL12、VSV-GP-Luc-IL12-Prot-Off-wl(
図25A)、(
図25Aに示すようにLucに代えてGFPを含む)VSV-GP-Luc-IL12-Prot-Off-w/olの1のMOIで感染させた。感染の1時間後に、細胞をPBSで洗浄して、PIを含まない標準GMEM(-ctrl)、あるいは10、100、300、1.000、10.000 nmolのアタザナビルと呼ばれる最近開発のタンパク質分解酵素阻害剤で培養した。感染の30時間後に上清を採取した。ウイルス力価はTCID
50により測定した。この場合も、リンカーを含まないProt-Off変異体はより高い力価に複製され、アタザナビルに対してより迅速に反応した(
図25A)。従って、この変異体をIL12のELISAに用いた。VSV-GP-IL12ウイルスおよび阻害されてないProt-Offウイルスは、測定検出限界を超えるIL12濃度をもたらした。PIを含まない対照試料(-ctrl)のみは希釈して測定した(
図25B)。
実施例17:IL12およびレポータータンパク質をコードするタンパク質分解酵素調節OFFスイッチを用いたVSVの複製動態
【0211】
ウェル当たり10
5個のBHK細胞を12ウェルプレートに播種した。細胞を、単工程の複製動態のために、VSV変異体であるVSV-GP-IL12、VSV-GP-Prot-Off-w/ol GFP IL12(
図26Aの上部)、VSV-GP-Prot-Off-w/ol Luc IL12(
図26Aの下部)の3のMOIで感染させた。感染の1時間後に、細胞をPBSで2回洗浄し、指示時点まで500 μLのGMEM内で培養した。開始値すなわち0時間の時点では、500 μLのGMEMを直ぐに回収した。VSV-Prot-Off変異体は、元のウイルスであるVSV-GP-IL12に比較して、初期の時点で軽度の低下を示していた(
図26B)。
実施例18:タンパク質分解酵素調節OFFスイッチを用いる膜結合治療用タンパク質の発現の構想実証(
図27および28)
【0212】
全身に投与されたIL12の強い毒性のために、IL12を所望の部位に保持する膜固定型変異体が開発されている(Poutou, J. et al., Gene Therapy (2015) 22, 696-706)。本発明者らは、この原理を応用して可溶性IL12構築物に勝るいくつかの利点を得た。まずPoutouらが説明しているように、局所的に生成されるIL12は全身毒性を低減する。それにもかかわらず毒性は完全に阻止されておらず、従ってさらなる調節が依然として望まれる。
図27に示すように、IL12をCD4の膜貫通ドメインとともにVSV重合酵素(Lタンパク質)に直接融合させることにより、タンパク質分解酵素阻害剤の存在によりウイルス複製と導入遺伝子発現の両方を低減できる。さらにウイルスのエスケープ変異体の環境では、可能性として毒性のある導入遺伝子を調節ウイルスのOFFスイッチ変異体中のタンパク質分解酵素二量体に融合させると、ウイルスに導入遺伝子と調節スイッチの両方を一度に排除させることになる。スイッチのみを排除しても、機能しない導入遺伝子-重合酵素融合タンパク質をもたらすことになる。さらに導入遺伝子とOFFスイッチの両方を組み合わせて、ウイルスをコードする能力を効率よく利用する。典型的には、遺伝子をさらなる遺伝子間領域によってVSVゲノムに付加する。VSV遺伝子は連続的な勾配下で転写され、それによって全ての遺伝子間領域が下流の転写産物の発現を低減する。従って、余分な遺伝子間領域を必要とせずに導入遺伝子を導入すると、ウイルスの弱毒化を低減できることになる。
【0213】
過去のProt-Off構築物は、HIVタンパク質分解酵素二量体と重合酵素との間の可撓性リンカーが、タンパク質分解酵素阻害剤の不在下でより低い力価および僅かに緩い緊縮性の調節の両方をもたらすことを示していた。重合酵素のN末端に結合した、タンパク質分解酵素切断後の残留リンカーにより、前者の現象を説明できる可能性がある。さらにHIVタンパク質分解酵素と重合酵素との間の可撓性リンカーは、より緊縮性の低い立体障害のためにある程度の活性を可能にし、これによりおそらくより緊縮性の低い調節をもたらす可能性がある。従って、膜貫通固定型IL12ウイルス変異体を、IL12-TMとHIVタンパク質分解酵素二量体との間のみでの可撓性リンカー(フォワードリンカー-fl)を用いるか、あるいはタンパク質分解酵素に隣接する任意のリンカーを用いない(リンカーなし-w/ol)かのいずれかによって設計した。CD4膜固定とタンパク質分解酵素-重合酵素融合タンパク質との間にいくらかのさらなる間隙を提供するようにフォワードリンカー構築物を設計した。膜貫通ドメインは、(配列番号32の核酸配列がコードされた)配列番号31のアミノ酸配列を有し、(配列番号35の核酸配列がコードされた)配列番号34の配列アミノ酸を有するリンカーによって、配列番号33のヌクレオチド配列がコードされたIL12から分離されている。
【0214】
ウイルス力価およびIL-12発現は、細胞培養物内で測定された。ウェル当たり10
5個のBHK細胞を12ウェルプレートに播種した。細胞を、VSV変異体であるVSV-GP-TM-IL12-Prot-Off-w/ol、VSV-GP-TM-IL12-Prot-Off-fl、またはVSV-GP-IL12(対照)の1のMOIで感染させた。感染の1時間後に、細胞をPBSで洗浄して、PIを含まない標準GMEM(-ctrl)、あるいは10、100、300、1.000、10.000 nmolのアタザナビルで培養した。感染の30時間後に上清を採取した。ウイルス力価はTCID
50により測定した(
図28A)。さらに、未濾過の上清をELISAでIL12について試験した。IL12は膜結合型であるので、原理的にはウイルス溶解細胞のみがタンパク質を放出することになる。実際に最大のIL12濃度は、分泌されたIL12と比較してPI陰性対照試料では低かった(
図28Bを、
図24Bおよび25Bと比較のこと)。分泌された変異体を除いて、ELISA測定の限界は、未希釈の試料では対数値で2~3のスケールを超えなかった。
【0215】
従って本発明者らは、溶解細胞、細胞を含む上清、および上清のみを含む各試料を比較した。溶解細胞は、細胞、および1:1で添加された死滅細胞と緩衝液を有する未濾過の上清を含む。細胞を含む上清とは、死滅細胞を含む未濾過の上清を指し、上清は遠心分離されて死滅細胞を除去した。従って上清には、ウイルス細胞の死滅によって遊離したIL12のみが含まれる。試料を細胞溶解緩衝液で希釈すると、細胞膜から遊離したタンパク質によってIL12濃度が10倍に増大した。逆に遠心分離により、従って残りのIL12保有細胞からの上清の除去により、試料中のIL12の濃度はさらに低下した。
【0216】
本発明者らは、細胞培養物中のVSVをコードする膜貫通型IL12の複製動態をさらに分析した。ウェル当たり10
5個のBHK細胞を12ウェルプレートに播種した。細胞を、単工程複製動態のために、VSV変異体であるVSV-GP-TM-IL12-Prot-Off-fl、VSV-GP-TM-IL12-Prot-Off-w/ol、またはVSV-GP-IL12の3のMOIで感染させた。感染の1時間後に、細胞をPBSで2回洗浄して、指示時点まで500 μLのGMEM内で培養した。開始値すなわち0時間の時点では、500 μLのGMEMを直ぐに回収した。VSV-Prot-Off膜貫通IL12変異体は、起源ウイルスであるVSV-GP-IL12に比較して、初期の時点で中程度の低下を示した(
図28D)。おそらくこの初期の低下は、小胞体でのIL12-タンパク質分解酵素-重合酵素融合タンパク質の発現に起因している。但し、VSV複製複合体は細胞質内に形成される。従って遊離した重合酵素は、ERからウイルス複製部位に拡散する必要がある。しかしながら、後半の時点では低下は明白ではなく、さらにフォワードリンカーを含む構築物とリンカーを含まない構築物との間に差異は観察されなかった。
【表1】
【配列表】
【国際調査報告】