(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-25
(54)【発明の名称】タンパク質試料におけるHPLCに基づく凝集剤の検出
(51)【国際特許分類】
C07K 1/14 20060101AFI20220818BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20220818BHJP
C07K 1/30 20060101ALI20220818BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220818BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C07K1/14
C07K16/00
C07K1/30
C12P21/08
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021574906
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(85)【翻訳文提出日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 EP2020066922
(87)【国際公開番号】W WO2020254483
(87)【国際公開日】2020-12-24
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514232085
【氏名又は名称】ユーシービー バイオファルマ エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャーヴェイス、アニック
(72)【発明者】
【氏名】デュビシー、ジョエル
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE03
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045FA74
4H045GA05
(57)【要約】
本出願は、逆相疎水性相互作用HPLCの使用と帯電エアロゾル検出との組み合わせに基づいて、対象の組換えタンパク質を含有する試料中の残留pDADMACを測定するための迅速かつ簡単な方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の組換えタンパク質を含有する試料中のpDADMACを測定するための方法であって、
a)前記試料を逆相疎水性相互作用HPLCに適用する工程と、
b)疎水性勾配溶出を用いて、カラムから結合したpDADMACを溶出させる工程と、
c)帯電エアロゾル検出器(CAD)を使用して、工程b)で回収された前記pDADMACを測定する工程と、を含む方法であって、
a)で適用される前記試料が、0.2~3%(v/v)のCAD適合性酸を含む、方法。
【請求項2】
工程a)で適用される前記試料が、200mg/ml未満、20~100mg/mlなど、例えば20~60mg/mlのタンパク質濃度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)で適用される前記試料が、2~4のpHを有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)で適用される前記試料が、0.5~1.5%(v/v)のCAD適合性酸を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記CAD適合性酸が、トリフルオロ酢酸、酢酸、ヘプタフルオロ酪酸およびギ酸から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記逆相疎水性相互作用HPLCが、PLRP-S HPLCである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、対照を参照することにより、試料中に存在するpDADMACの濃度を決定する工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記対象の組換えタンパク質が、抗体、抗体断片またはそれらの誘導体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程a)で適用される前記試料が、CAD適合性酸が添加された前記組換えタンパク質の精製の工程から直接得られた試料である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
タンパク質精製中にpDADMACを添加することを含む、対象のタンパク質を製造する方法であって、その後の前記pDADMACの除去が、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法に従って測定される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質の製造ならびに宿主細胞上清からの組換えタンパク質の回収および精製の分野に関する。本発明は、試料中のポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)pDADMACのレベルを測定し、タンパク質精製中にその除去を確実にする方法を利用する。
【背景技術】
【0002】
治療の分野では、タンパク質および抗体、および特に抗体由来分子などの生物学的実体の使用が絶えず存在および重要性を増しており、それに伴い、並行して制御された製造方法の必要性が高まっている。治療用タンパク質の商業化は、治療用タンパク質を大量に産生することを要し、所望のタンパク質を発現する宿主細胞およびその処理を改善することに多くの努力が注がれており、産物の力価の増加をもたらす。結果として、より多量のバイオマスおよび残屑も細胞培養レベルで観察される。そのバイオマスおよび残屑は、タンパク質精製プロセスの一部として除去されなければならない。
【0003】
清澄化細胞培養液を得るためにバイオマスを除去し、該培養液から対象のタンパク質を精製するのを助ける1つのアプローチには、哺乳動物細胞および酵素をカプセル化するため、ならびに微生物細胞培養物を凝集させるために使用されるカチオン性ポリマーなどの凝集剤の使用が含まれる。典型的には、凝集剤を沈降させた後、細胞培養液から除去し、次いで遠心分離および/またはデプスフィルターによってさらに処理して、いわゆる清澄化細胞培養物を得て、該培養物から対象のタンパク質が精製される。
【0004】
凝集剤は、アニオン性、カチオン性または「マルチモーダル」であり得る。溶液のpHが特定のタンパク質のpI未満である場合、タンパク質は正味の正電荷を帯びている。これらの条件下で、カチオン性高分子電解質は不純物を沈殿させ、対象のタンパク質を溶液中に残し得る。逆に、アニオン性高分子電解質は、対象のタンパク質を沈殿させてタンパク質-高分子電解質沈殿物を形成し、溶液中に不純物を残し得る。
【0005】
細胞および細胞残屑が典型的には全体的に負電荷を有することを考慮すると、カチオン性ポリマーは、この用途に特に適している。これにより、溶液から脱落するイオン相互作用によって形成された中和粒子が形成される。組換えタンパク質を産生する細胞からの清澄化細胞培養液の凝集に使用されるカチオン性ポリマーの例としては、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)、ポリアミン、ポリアミノ酸、ポリアクリルアミドおよびキトサンが挙げられる。
【0006】
他方で、アニオン性凝集剤もこれに関連して使用されており、特にアニオン性高分子電解質、ポリビニルスルホン酸、ポリアクリル酸およびカルボキシメチルデキストランスルファートは、上清中に不純物を残すCHO細胞採取物からのモノクローナル抗体の濃縮および選択的沈殿について評価されている。
【0007】
より最近のアプローチは、カスタマイズを必要とせず、広範囲の抗体と共に使用できるマルチモーダル機能を有する凝集剤の使用を試みている。
【0008】
細胞培養上清を清澄化するための凝集剤の使用に関する追加の情報は、Singh et al.2016 Clarification technologies for monoclonal antibody manufacturing processes:current state and future perspectives Biotechnol Bioeng 113:698に見出すことができる。
【0009】
治療薬の大規模な商業的製造の観点から、タンパク質を投与可能な形態に調製する前に、その後の精製プロセス中に、当該凝集剤をヒトへの投与に安全なレベルまで確実に除去することが不可欠である。
【0010】
細胞培養に有用な凝集剤として知られているカチオン性ポリマーの例は、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)(例えば、Peck et al.2015 Dosing considerations and impacts on the clarification of mammalian cell culture feed streams using poly-diallyldimethylammonium chloride flocculant in conjunction with Clarisolve(登録商標)depth filtersを参照)である。今日まで、前処理された細胞培養供給流中の残留pDADMACを測定する方法は、表面プラズモン共鳴(例えば、Detection of residual pDADMAC using surface plasmon resonance spectroscopy,Merck KGaAを参照)の使用に基づいている。さらに最近の方法は、蒸発光散乱検出(ELSD)(Khodadadian et al.2019 Determination of residual poly diallyldimethylammonium chloride(pDADMAC)in monoclonal antibody formulations by size exclusion chromatography and evaporative light scattering detector)Biologicals 57:21の使用に基づいている。しかしながら、既存の方法は、精度、感度、ダイナミックレンジ、および検量線の性質に関して制限がある。
【0011】
したがって、タンパク質の混成物を含有する試料に適用可能な残留凝集剤のレベルを検出するための迅速かつ頑健な方法を提供する継続的必要性が存在し、該方法は、製造プロセス中のこの凝集剤のクリアランス評価を可能にするであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、対象の組換えタンパク質を含有する試料中のpDADMACを測定するための迅速かつ簡単な方法を提供し、該方法は、逆相疎水性相互作用HPLCの使用および帯電エアロゾルの検出を含む。
【0013】
第1の態様において、本発明は、対象の組換えタンパク質を含有する試料中のpDADMACを測定するための方法であって、
a)試料を逆相疎水性相互作用HPLCに適用する工程と、
b)疎水性勾配溶出を用いて、カラムから結合したpDADMACを溶出させる工程と、
c)帯電エアロゾル検出器を使用して、工程b)で回収されたpDADMACを測定する工程と、を含む方法であって、
a)で適用される試料が、0.2~3%(v/v)のCAD適合性酸を含む、方法に関する。
【0014】
さらなる態様では、本発明は、タンパク質精製中にpDADMACの添加を含む対象のタンパク質を製造する方法に関し、後続の該pDADMACの除去は、pDADMACを測定するための本発明の方法に従って測定される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の方法に従って6つの濃度のpDADMACを測定することから得られた検量線を示す図である。
【
図2】原薬試料中に添加されたpDADMACの理論レベル(1.0~10.0μg pDADMAC/mLで評価された5つのレベル)に対して個々の測定濃度をプロットすることから得られた結果の直線性を示す図である。
【
図3】「現状のまま」(非添加)で分析された原薬および1.0μg pDADMAC/mLを添加された原薬のクロマトグラフィープロファイルのオーバーレイを示す図である。
【
図4】2つの異なる原薬試料における1.0μg/mLの添加レベルでのpDADMAC回収の検証を示す図である。
【
図5】3つの濃度レベル(1.0~2.0および5.0μg pDADMAC/mL)で添加された2つの原薬試料で得られた真度および精度の結果の要約を示す図である。
【
図6】追加の改変抗体型のFab-scFv(二重特異性と呼ばれる)およびFab-2x dsscFv(三価と呼ばれる)における真度および精度の結果の要約を示す図である。
【
図7】「現状のまま」(非添加)で分析された原薬および1.0μg pDADMAC/mLを添加された原薬のクロマトグラフィープロファイルのオーバーレイを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、複合タンパク質混合物中のpDADMACを検出するための新しい方法を提供することによって、上記に示した必要性を解決し、該方法は、迅速かつ簡単であり、タンパク質製造中のこの凝集剤のクリアランス評価を可能にする。特に、この方法は、様々な精製工程中にリアルタイムでpDADMACの測定を可能にする。
【0017】
第1の態様において、本発明は、対象のタンパク質を含有する試料中のpDADMACを測定するための方法であって、
a)試料を逆相疎水性相互作用HPLCに適用する工程と、
b)疎水性勾配溶出を用いて、カラムから結合したpDADMACを溶出させる工程と、
c)帯電エアロゾル検出器を使用して、工程b)で回収されたpDADMACを測定する工程と、を含む方法であって、
a)で適用される試料が、0.2~3%のCAD適合性酸を含む、方法に関する。
【0018】
帯電エアロゾル検出器(CAD)は、揮発性水性/有機移動相を用いて行われるHPLC分離に使用されるように設計されている。
【0019】
疎水性勾配溶出は、分離の開始(例えば、90%水性)と終了(例えば、90%有機;メタノール/アセトニトリル)の間に移動相の疎水性の変化を伴う。
【0020】
この方法は、検出の蒸発プロセスを要するCAD機器の使用を伴うため、適合性添加剤を添加することができる揮発性移動相を要する。また、クロマトグラフィー工程で注入された試料ならびにCADに入る移動相に含有される添加剤も、適合性でなければならない。本発明の方法は、「CAD適合性酸」を使用する。この用語は、本明細書で使用される場合、CADでの使用に適した任意の酸を指す。典型的には、CAD検出に使用される酸性添加剤には、TFA(トリフルオロ酢酸)、酢酸、ギ酸、またはヘプタフルオロ酪酸が含まれる。
【0021】
例として、疎水性勾配は、移動相A=0.1% TFA(トリフルオロ酢酸)/H2O、移動相B=0.1% TFA/CH3CNおよび移動相C=0.1% TFA/MeOHを使用することによって得ることができる。CAD適合性酸改質剤が添加されることになる、例えば、有機溶媒としてのエタノールまたはイソプロパノールの使用に基づく移動相塩基などの当該勾配に利用可能な異なる揮発性移動相を当業者が知っていることを考慮すると、この例は限定的と見なされるべきではない。
【0022】
CAD装置により、溶離液中のすべての不揮発性および多くの半揮発性の分析物を検出することができる。対象の化合物(pDADMACポリマー)は、UV検出の場合のように発色団を有する必要はなく、質量分析の場合のようにイオン化される必要もない。CADでは、検出器は、分析物の超微細エアロゾルから形成された乾燥粒子に付与された電荷を測定する。測定される電荷は、試料中の分析物量に比例する。CAD検出器の操作はかなり簡単であり、いくつかの制御可能なパラメータを設定するだけでよく、ELSD(蒸発光散乱検出器)検出と比較して感度が向上する。
【0023】
pDADMACまたはポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)は、イオン性相互作用機構を介して負に帯電した細胞および細胞残屑をより大きな粒子に迅速に凝集させるという点で、凝集剤として非常に有効な水溶性カチオン性ポリマーである。pDADMACは、10KDa未満から10000KDaまでの様々なポリマーサイズで入手可能であるが、凝集哺乳動物細胞培養物については、しばしば中程度の平均分子量サイズ(例えば、約500KDa)が使用され、Merckなどの既知の提供者によって得ることができる。
【0024】
特定の実施形態では、該疎水性相互作用HPLC(高圧液体クロマトグラフィー)は、AgilentまたはPhenomenexによって供給されるPLRP-S HPLC、すなわち、Polymer Laboratories Reversed Phase-Styrene(ジビニルベンゼン)である。PLRP-S HPLCカラムには、残留表面官能基(すなわち、酸性シラノール基の典型的なシリカの問題はない)のないマクロ多孔性で本質的に均一に疎水性の固定相が充填されており、最適な分離能を可能にする。当業者は、分離する分子に応じて、適切な孔径が選択されることを理解するであろう。充填材の1000Å孔径は、本発明の試料(pDADMACポリマーを含む)中に存在する高分子量種の分離に特に適している。PLRP-S材料は、最適化された分析条件で得られた圧力に対して機械的に安定である。さらに、PLRP-S HPLCカラムを使用して、シリカ充填に関連する制約がいずれもなく、pH1~14で分離を行うことができる。したがって、本発明の特定の実施形態では、PLRP-Sカラムは、1000Åの孔径を有する。
【0025】
本発明方法の別の実施形態では、試料は、0.1%~3%のCAD適合性酸、例えば、0.1%~2%のCAD適合性酸、または0.1%~1.5%のCAD適合性酸、または0.5%~1.5%のCAD適合性酸を含む。本発明のさらなる実施形態では、試料は1%のCAD適合性酸を含む。
【0026】
1つの実施形態において、工程a)で適用される試料は、2~4のpHを有する。
【0027】
本発明の観点から可能なCAD適合性酸には、トリフルオロ酢酸(TFA)、ヘプタフルオロ酪酸、酢酸またはギ酸が含まれるが、これらに限定されない。本発明方法の特定の実施形態では、該CAD適合性酸はトリフルオロ酢酸である。
【0028】
CAD適合性酸の正確な割合および性質は、試料の特異性、特に精製物体である対象の組換えタンパク質の特性を考慮して、当業者によって選択されるであろう。
【0029】
本発明の特定の実施形態では、該CAD適合性酸は、例えば、15%(体積/体積)のCAD適合性酸の原液からの添加などによって、上記方法の工程a)の前に試料に添加される。
【0030】
試料への酸の添加は、試料にも含有される組換えタンパク質の溶解度に影響を及ぼす可能性があり、場合によっては、沈殿させる可能性がある。この沈殿物は、いくらかの残留pDADMACも含有し得るため、試料中に存在するpDADMAC量の過小評価をもたらすであろう。そのような現象を回避するために、当業者は、試料を希釈して組換えタンパク質の濃度を低下させる有益な効果を認識するであろう。
【0031】
同様に、タンパク質濃度を調整することを望む場合、試料は、例えば、試料中に既に存在する緩衝液をさらに添加することなどによって、適切な緩衝液を使用して希釈され得る。
【0032】
本発明の方法の一実施形態では、工程a)で適用される試料は、200mg/ml未満、例えば、100mg/ml未満、例えば60mg/ml未満の組換えタンパク質濃度を含む。さらなる特定の実施形態では、試料は、20~60mg/mlの組換えタンパク質濃度を含む。
【0033】
同様に、より小さい分子量の分子を除去するための濾過工程などの他の試料調製技術が望ましい場合がある。
【0034】
本発明の方法の一実施形態では、工程a)で適用された試料は、80kDa以下、60kDa以下、50kDa以下の孔径を有するフィルターで濾過されている。さらなる特定の一実施形態では、試料は、30kDaの孔径を有するフィルターで濾過される。
【0035】
同様に、試料中に存在するタンパク質の一部または全部が消化されるように、試料の酸性処理が望ましい場合がある。別の実施形態では、本方法は、工程a)における試料の適用前に試料の酸性処理を含む。本方法のさらなる実施形態では、試料は、工程a)におけるその適用前に、酸性処理工程および濾過工程に供される。
【0036】
特定の実施形態では、本発明の方法は、対照を参照することにより、試料中に存在するpDADMACの濃度を決定する工程をさらに含む。
【0037】
典型的には、検量線は、製剤緩衝液に添加され、本発明の方法に従って処理される既知濃度のpDADMACを使用して作成される。
【0038】
本発明の方法を定量アッセイで用いる場合、未知量のポリマーを含む試料で測定されたpDADMAC電荷を検量線で補間して、試料のpDADMAC濃度を得る。しかしながら、本発明の方法は、「限界試験」アッセイ、すなわちpDADMACの存在が対象の特定の限界未満であることの決定を目的とする試験においても使用され得る。これらの「限界試験」では、各試料は「現状のまま」分析され、対象の限界に相当するpDADMAC量で添加される。例えば、対象の限界が1μg/mlのpDADMACである場合、試料を採取し、2つのアリコートに分割し、1つの得られたアリコートに1μg/mlのpDADMACを添加し、pDADMACの濃度を検量線の補間によって測定し、次いで、残りのアリコートを本発明の方法によって直接測定し、pDADMACの不在を検量線への補間によって検証する。
【0039】
対象の組換えタンパク質を含む試料は、精製プロセスの工程から直接得られてもよく、または該プロセスの最後で、もしくは精製プロセス内の工程から得られてもよく、pDADMACの漸進的クリアランスの分析を可能にする。
【0040】
一実施形態では、工程a)で適用される試料は、CAD適合性酸が添加された該組換えタンパク質の精製の工程から直接得られた試料である。
【0041】
治療の分野では、対象のタンパク質は、例えば、抗体、サイトカイン、成長因子、ホルモン、ならびに他の調節ペプチドおよびタンパク質から選択され得る。このようなタンパク質は、組織および分泌物から抽出され得るが、バイオテクノロジーの発展、およびより大量のこれらの分子の必要性の高まり、およびそれらの調製のより高い標準化のため、組換えタンパク質として産生されることが多い。
【0042】
本発明の特定の実施形態では、対象の組換えタンパク質は、抗体、抗体断片またはその誘導体である。
【0043】
大規模商業目的のために製造される対象の組換えタンパク質、例えば、抗体などは、組換え抗体をコードする1つ以上の発現ベクターでトランスフェクションされた真核宿主細胞を培養することによって産生され得る。真核宿主細胞は、好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0044】
哺乳動物細胞は、抗体の成長および発現を支持する任意の培地中で培養することができ、好ましくは、培地は、動物血清およびペプトンなどの動物由来産物を含まない既知組成培地である。当業者に利用可能な異なる細胞培養培地があり、適切な濃度で存在するビタミン、アミノ酸、ホルモン、成長因子、イオン、緩衝剤、ヌクレオシド、グルコースまたは同等のエネルギー源の異なる組み合わせを含み、細胞増殖およびタンパク質産生を可能にする。追加の細胞培養培地成分は、当業者に知られているであろう細胞培養サイクル中の異なる時間に適切な濃度で細胞培養培地に含まれ得る。
【0045】
哺乳動物細胞の培養は、振とうフラスコまたはバイオリアクターなどの任意の適切な容器内で行うことができ、例えば、必要とされる生産規模に応じてフェドバッチモードで操作されても操作されなくてもよい。これらのバイオリアクターは、撹拌タンクまたはエアリフト反応器のいずれかであってもよい。1,000L超~50,000L、好ましくは5,000L~20,000L、または10,000Lの容量を有する様々な大規模バイオリアクターが利用可能である。あるいは、2L~100Lなどの小規模のバイオリアクターを使用して、本発明の方法に従って抗体を製造することもできる。
【0046】
本発明の方法に従って製造することができる抗体またはその抗原結合断片は、典型的には、哺乳動物宿主細胞培養物、典型的にはCHO細胞培養物の上清中に見出される。抗体またはその抗原結合断片などの対象のタンパク質が上清に分泌されるCHO培養プロセスの場合、該上清は、当技術分野で知られる方法によって、典型的には遠心分離によって収集される。誤解を避けるため、上清とは、細胞培養物の遠心分離から生じる沈降細胞上にある液体を意味する。
【0047】
凝集とは、懸濁液中の粒子がより大きなサイズの凝集体またはクラスターを形成するプロセスである。このプロセス中、粒子は、凝集剤の添加によってフロックの形態で懸濁液から生じる。凝集剤は、アニオン性またはカチオン性ポリマーであり得る。天然凝集剤、ならびに特定の分子量および分布を有するように製造することができる合成凝集剤が存在する。
【0048】
カチオン性ポリマーは、有機物質などの負に帯電した粒子と相互作用する。細胞培養上清において、カチオン性ポリマーは、負に帯電した粒子、例えば生細胞および非生細胞、核酸、タンパク質およびリポソームを含む細胞代謝産物ならびに細胞残屑と相互作用する。細胞培養上清中に見出される負に帯電した化合物とカチオン性ポリマーとの凝集は、その後に溶液から脱落するより大きな粒子の形成をもたらす。
【0049】
組換えタンパク質を発現する細胞を含有するまたは含有していた哺乳動物細胞培養培地へのポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)などのカチオン性ポリマーの添加は、細胞(生存および非生存)、細胞代謝産物および細胞残屑を含む負に帯電した粒子を凝集させる。次いで、これらの大きな凝集粒子は、遠心分離により、または重力沈降により除去することができ、典型的な遠心分離された収集供給流と比較して有意に高い収集フィルタートレイン処理量を有する供給流を生成する。
【0050】
このフィルタートレインの後に回収される上清は、典型的には清澄化細胞培養液と呼ばれ、次いで、対象の精製タンパク質を得るために、典型的には2または3のクロマトグラフィー工程および限外濾過/透析濾過の工程を含むいくつかの工程でさらに処理される。
【0051】
このさらなる精製または下流精製プロセスの間に、pDADMACなどの残留凝集剤、ならびに宿主細胞タンパク質、タンパク質凝集体および分解産物を含む他の不純物も除去される。
【0052】
これに関連して、十分なクリアランスを確実にするために精製タンパク質試料(典型的には原薬と呼ばれる)中のpDADMACの最終濃度を測定することが重要であり得るが、プロセス全体の制御を改善するために精製工程中にこの測定を行うことも重要であり得る。
【0053】
したがって、本発明のプロセスの特定の実施形態では、試料は、対象の最終精製タンパク質から得られる。また、本発明の方法の代替実施形態では、試料は、該タンパク質の精製流中の工程から得られる。
【0054】
第2の態様では、本発明は、対象のタンパク質を製造する方法に関し、該方法は、タンパク質精製中にpDADMACを添加する工程を含み、該pDADMACの除去は、前の段落に記載の方法に従って測定される。
【0055】
本明細書で使用される「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」という用語は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を指す。本明細書で使用される「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」という用語は、当技術分野で知られる組換え技術によって生成される組換え抗体を含むが、これらに限定されない。「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」には、任意の種、特に哺乳動物種の抗体が含まれ、例えば、IgD、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4 IgEを含む任意のアイソタイプのヒト抗体、およびIgGA1、IgGA2を含むこの基本構造の二量体、またはIgMおよびその改変変異体などの五量体として産生される抗体、例えばチンパンジー、ヒヒ、アカゲザルもしくはカニクイザル由来の非ヒト霊長類抗体、例えばマウスもしくはラット由来の齧歯類抗体、ウサギ、ヤギもしくはウマの抗体、ならびにラクダ科動物の抗体(例えば、Nanobodies(商標)などのラクダまたはラマ由来)およびそれらの誘導体、またはニワトリ抗体などの鳥類種、またはサメ抗体などの魚類種のものである。「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」という用語はまた、少なくとも1つの重鎖および/または軽鎖の抗体配列の第1の部分が第1の種に由来し、重鎖および/または軽鎖の抗体配列の第2の部分が第2の種に由来する「キメラ」抗体も指す。本明細書における対象のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、アカゲザルまたはカニクイザルなどの旧世界サル)およびヒト定常領域配列に由来する可変ドメイン抗原結合配列を含む「霊長類化」抗体が含まれる。「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体に由来する配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域由来の残基が、所望の特異性、親和性および活性を有する、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリまたは非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域[または相補性決定領域(CDR)]由来の残基で置き換えられたヒト抗体(レシピエント抗体)である。ほとんどの場合、CDR外、すなわち、フレームワーク領域(FR)のヒト(レシピエント)抗体の残基は、対応する非ヒト残基によってさらに置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体には見出されない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体の性能をさらに改良するために行われる。ヒト化は、ヒトにおいて非ヒト抗体の免疫原性を低下させ、したがって、ヒト疾患治療への抗体の適用を容易にする。ヒト化抗体およびそれらを生成するためのいくつかの異なる技術は、当技術分野で周知である。「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」という用語はまた、ヒト化の代替として生成することができるヒト抗体も指す。例えば、内因性マウス抗体が産生されない場合、免疫化すると、ヒト抗体の完全なレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作製することが可能である。例えば、キメラ変異マウスおよび生殖系列変異マウスにおける抗体重鎖連結領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠失は、内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。このような生殖系列変異マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの導入は、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子を保有するトランスジェニック動物を該抗原で免疫すると、特定の抗原に対する特異性を有するヒト抗体の産生をもたらす。このようなトランスジェニック動物を作製するための技術、およびこのようなトランスジェニック動物からヒト抗体を単離し、産生するための技術は、当技術分野で知られている。あるいは、トランスジェニック動物、例えばマウスでは、マウス抗体の可変領域をコードする免疫グロブリン遺伝子のみが、対応するヒト可変免疫グロブリン遺伝子配列で置き換えられる。抗体定常領域をコードするマウス生殖系列免疫グロブリン遺伝子は変化しないままである。このようにして、抗体エフェクターはトランスジェニックマウスの免疫系で機能し、その結果、B細胞の発生は本質的に変化せず、インビボでの抗原曝露時に抗体応答の改善をもたらし得る。対象の特定抗体をコードする遺伝子がそのようなトランスジェニック動物から単離されると、完全ヒト抗体を得るために、定常領域をコードする遺伝子をヒト定常領域遺伝子で置き換えることができる。インビトロでヒト抗体(antibodies)/抗体(antibody)断片を得るための他の方法は、ファージディスプレイまたはリボソームディスプレイ技術などのディスプレイ技術に基づいており、少なくとも部分的に人工的に、またはドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから作製される組換えDNAライブラリーが使用される。ヒト抗体を作製するためのファージおよびリボソームディスプレイ技術は当技術分野で周知である。ヒト抗体はまた、単離されたヒトB細胞から作製される場合もあり、対象の抗原で該ヒトB細胞をエクスビボ免疫化し、続いて融合してハイブリドーマを作製し、次いでこれを最適なヒト抗体についてスクリーニングすることができる。本明細書で使用される「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」という用語はまた、非グリコシル化抗体も指す。
【0056】
本明細書で使用される「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」という用語は、ヒト(例えば、IgG)および他の哺乳動物種を含む任意の種の非切断型抗体を指すだけでなく、抗体断片も指す。抗体の断片は、当該分野で知られる少なくとも1つの重鎖または軽鎖の免疫グロブリンドメインを含み、1つ以上の抗原に結合する。本発明による抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFvおよびscFv断片、ならびにダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ドメイン抗体(dAb)、例えば単一ドメイン抗体(sdAb)、VHHおよびVNAR断片、一本鎖抗体、抗体断片または抗体から形成される二重特異性、三重特異性、四重特異性または多重特異性の抗体が含まれ、Fab-FvまたはFab-Fv-Fv構築物を含むがこれらに限定されない。上記で定義した抗体断片は、当技術分野で知られている。
【0057】
一実施形態では、抗体は、
a)式(I)のポリペプチド鎖:
VH-CH1-X-V1、および
b)式(II)のポリペプチド鎖:
VL-CL-Y-V2
を含む、または上記からなる多重特異性抗体分子であり、
式中、
VHは重鎖可変ドメインを表し、
CH1は、重鎖定常領域のドメイン、例えばそのドメイン1を表し、
Xは結合またはリンカーを表し、
Yは結合またはリンカーを表し、
V1は、dsFv、sdAb、scFvまたはdsscFvを表し、
VLは軽鎖可変ドメインを表し、
CLは、Cカッパなどの軽鎖定常領域由来のドメインを表し、
V2は、dsFv、sdAb、scFvまたはdsscFvを表し、
式中、V1またはV2の少なくとも一方は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2015/197772号に記載されているdsFvまたはdsscFvである。
【0058】
本明細書で使用される「一本鎖可変断片」または「scFv」とは、重鎖可変ドメイン(VH)および軽鎖可変ドメイン(VL)を含むか、またはそれらからなる一本鎖可変断片を指し、VHとVLの可変ドメイン間のペプチドリンカーによって安定化される。VHおよびVLの可変ドメインは、任意の適切な配向であってもよく、例えば、VHのC末端はVLのN末端に連結されてもよく、またはVLのC末端はVHのN末端に連結されてもよい。
【0059】
「ジスルフィド安定化一本鎖可変断片」または「dsscFv」とは、VHとVLの可変ドメイン間のペプチドリンカーによって安定化され、VHとVLとの間のドメイン間ジスルフィド結合も含む一本鎖可変断片を指す。
【0060】
「ジスルフィド安定化可変断片」または「dsFv」とは、VHとVLの可変ドメイン間にペプチドリンカーを含まず、代わりにVHとVLとの間のドメイン間ジスルフィド結合によって安定化されている一本鎖可変断片を指す。
【0061】
特定の一実施形態では、抗体は、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2015/197772号に記載されているFab-2x dsscFv型の多重特異性抗体である。
【0062】
さらなる特定の実施形態では、Fab-2x dsscFv型の多重特異性抗体分子は三価抗体であり、すなわち、各Fvは異なるエピトープに結合する。
【0063】
さらなる特定の実施形態では、多重特異性抗体は、国際公開第2015/197772号に記載されているFab-dsscFv-dsFv型を有する。
【0064】
例
以下の例は、Agilentによって供給された1000Å 8μ粒子(150×2.1mm)PLRP-Sカラム、およびMillipore(nr.137069)によって供給された10%のpDADMAC水溶液を使用して実施された。以下に詳述するように、調製試料の他の成分(タンパク質、製剤賦形剤、...)からポリカチオン性pDADMACポリマーが分離された。
【0065】
例1:検量線の作成
ポリマーの10%重量対体積標準液を使用して、25μgおよび100μg pDADMAC/mLの2つの濃縮溶液を適切なタンパク質製剤緩衝液で調製した。これらの2つの溶液を緩衝液でさらに希釈して、0.5、1.0、2.0、5.0、8.0および10.0μg pDADMAC/mLの既知の理論濃度を用いて検量線を得た。HPLC分析の前に、10μLの15%(v/v)TFA水溶液を100μLの標準に添加することによって、6つの各較正標準を酸性化し、2回注入した。分析は、Corona(商標)Veo(商標)RS Charged Aerosol Detectorを用いて行い、
溶出に適用した勾配は以下の通りであった。
溶媒A;H2O/TFA 0.1%
溶媒B:CH3CN/TFA 0.1%
溶媒C:MeOH/TFA 0.1%
【0066】
【0067】
各シリーズの試料が分析される前後に較正標準を注入し、較正標準の12回の注入の面積を用いて、1/xの重み付けで二次(quadratic)(二次(second order))回帰直線を構築した。得られた検量線の一例を
図1に示す。決定係数(r
2)は1.00(≧0.98、典型的な許容基準)であった。次いで、各分析試料について得られたpDADMAC測定値を検量線に補間し、pDADMAC濃度を決定した。
【0068】
例2:結果の直線性
一回の検証練習で、最初に56.8mgの抗体/mLの試料を含有する原薬(IgG4)試料に、5つの濃度レベル(1.0、2.0、5.0、8.0および10.0μg/mL)でpDADMACを添加し、各レベルで三連調製物であった。HPLC分析の前に、10μLの15% TFA水溶液を100μLの標準に添加することによって各試料を酸性化し、110μLの適切なタンパク質製剤緩衝液を添加してさらに希釈した。この方法を適用して15の調製物を分析し、得られた個々の測定濃度(μg pDADMAC/mLの添加試料)を、添加したpDADMACの理論レベルに対してプロットした。
図2に示すように、得られた線形回帰の決定係数(r
2)は1.00(≧0.98、典型的な許容基準)であった。したがって、本方法は、評価範囲(1mLの原薬試料当たり1.0~10.0μg pDADMAC)で線形である。
【0069】
例3:定量的測定:
各試料を「現状のまま」分析し、試料1mL当たり1.0μgのpDADMAC/(それぞれの3連調製物)で添加した。6つの各調製物を以下のように酸性化および希釈工程に供した。HPLC分析の前に、10μLの15% TFA水溶液および110μLの適切なタンパク質製剤緩衝液を100μLの試料に添加する。
【0070】
1.0μg pDADMAC/mLを非添加および添加し分析される原薬試料(97.8mgのIgG4抗体/mLを含有し、pDADMACによる凝集を適用した製造プロセスから得られた)について得られた典型的なクロマトグラフィープロファイルのオーバーレイを
図3に示す。
【0071】
検出器の混入または汚染の可能性を回避するために、CAD機器の切替弁を使用して、pDADMACピークシグナルを読み取るのに必要な時間(すなわち、pDADMACピーク保持時間の約1分前および1分後)の間のみ検出器の噴霧器に流れを導いた。プロファイルは、5.3分近くのpDADMACポリマーを表すピークを示した。pDADMACピークの保持時間(5.3分)で干渉ピークが検出されないため、この方法の特異性が実証された。さらに、最高pDADMAC濃度から開始し、最小濃度の参照標準まで漸減する検量線の測定を行い、検量線の後に1つのブランクを注入することによって確立されるように、試料間でpDADMACの有意なキャリーオーバーは観察されなかった。
【0072】
理論的pDADMAC濃度を考慮した6つの較正標準の注入を用いて回帰直線を得た。非添加試料におけるpDADMACの不在を検証した一方、添加試料で測定された濃度を曲線から補間した。三連調製物で測定されたpDADMAC濃度を使用して、1.0μg/mLの添加レベルを以下のように検証する。
・pDADMACの測定濃度および理論濃度の各回収率%は、60%~140%でなければならない。
・3つのpDADMAC測定濃度についての%RSD(相対標準偏差)は、≦15%でなければならない。
【0073】
2つの異なる原薬試料で得られた1.0μg/mL添加レベルでのpDADMAC回収率を
図4に示す。
【0074】
例4:真度、精度および定量限界:
2つの原薬試料を用いてpDADMACアッセイの検証を行った。試料は、同じ抗体の2つの異なる製造バッチから得られ、1つは凝集剤を使用して製造されたもの(以下、「凝集」試料と呼ぶ)であり、もう1つは凝集剤を使用せずに製造されたもの(以下、「非凝集」試料と呼ぶ)である。非凝集試料は56.8mg IgG4抗体/mLを含有した一方、凝集試料は97.8mg IgG4抗体/mLを含有した。両試料に、1.0、2.0および5.0μg pDADMAC/mLの3つの濃度レベルを添加し、各レベルの三連調製物において本発明の方法で(別々の日に)2回分析した。各調製物は、上記の例2および例3に記載したものと同じ酸性化および希釈工程を経た。以下のパラメータを評価した。
・pDADMACの理論濃度と比較した実際のpDADMAC測定濃度(各回内の各レベルでの3連調製物の平均)
に基づいて、真度(%回収率)を算出した。
・各pDADMAC濃度(各調製物について、各回内の各レベルで測定)を用いて、精度-併行精度(%RSD、n=3)を算出した。
・各pDADMAC濃度(両場合を通して各レベルで各調製物について測定)を用いて、全体の室内再現精度(%RSD、n=6)を算出した。
【0075】
図5に示すように、このような低レベルの不純物では、評価した3つの濃度レベルでの3つのパラメータについて典型的な許容基準を満たした。
・真度についての60%~140%内の平均(n=3)%回収率
・精度-併行精度についての平均(n=3)%RSD≦15%
・室内再現精度についての全体平均(n=6)%RSD≦20%
【0076】
試料中のpDADMACの定量限界(3つの典型的な許容基準が満たされた試料に添加される最低濃度として算出)は、試料1mL当たり1.0μgのpDADMACであった。
【0077】
例5:追加の抗体型への本方法の適用:
さらなる実験では、58.2mg/mLで製剤化されたFab-scFv、ならびに80mg/mLで製剤化された国際公開第2015/197772号に記載されているFab-2x dsscFvについて、本発明の方法を検証した。この方法を、対象の1.0μg pDADMAC/mLの限界での限界試験にした。この場合、理論上の1.0μg/mL添加濃度に対する%回収率を算出するために、添加試料で測定されたpDADMAC濃度(μg/mL)を検量線(0.3~5.0μg pDADMAC/mL)に対して定量した。
【0078】
改変された両抗体型について、カラム、機器および操作者などの要因に起因する方法の変動性への寄与は同じであるものと見なされた。したがって、1mL当たり1.0μg pDADMACを添加したFab-scFv試料で最初に4回実施し(各回で6反復)、真度、精度-併行精度および室内再現精度を評価した。さらに、第5の実験では、同様に添加したFab-2x dsscFv Fabについて、真度および精度-併行精度を検証した。
【0079】
Fab-scFvおよびFab-2x dsscFvの両試料で、1.0μg pDADMAC/mLでの6反復の添加物に、10% TFA水溶液の添加による酸性化工程を行い、続いて適切な緩衝液で2倍希釈した。得られた結果を
図6に示す。
【0080】
改変された両抗体型において、真度および精度-併行精度を評価し、典型的な許容基準を満たした(60~140%内の%回収率および15%以下の%RSD n=6調製物)。さらに、Fab-scFv抗体型では、4つの場合で評価された室内再現精度は許容基準内であった(24の添加試料で測定されたpDADMAC濃度についての全体的RSDは20%以下)。
【0081】
例6:異なる試料調製物を用いた方法の適用:
代替の試料調製物を限界試験法(検出限界1μg/ml)として評価した。この測定のために、2つの試料を調製した。
-1つの試料はニート(neat)(製造プロセスから得られる原薬)であり、
-もう1つは1mL当たり1μg pDADMACの添加試料であり、
次いで、両方を強酸(この場合は塩酸37%)と80°Cで3時間インキュベーションする。インキュベーション後、試料が完全に乾燥するまで一晩蒸発させる。次いで、それらを0.5% TFA水溶液中で再構成した後、精製およびpDADMAC濃縮のために遠心フィルターユニット(30kDaカットオフ孔径)で遠心分離する。フィルターによって保持されたpDADMACを含有する試料を0.1% TFA水溶液中で再構成する。
【0082】
次いで、pDADMACをタンパク質残基ならびにPLRP-Sカラム上に残留する賦形剤および不純物から分離し、CAD検出器を使用して本発明の方法に従って測定する。
【0083】
例示結果を
図7に示す。この方法は、いくつかの抗体型について検証されており、各場合につき6回の反復で特異性および検出限界を評価する。塩酸とのインキュベーションの長さを各場合で最適化し、80℃で3~6時間以内であると決定した。
【0084】
これらの試料調製工程の追加は、マトリックス干渉が完全に除去されるため、インプロセス試料におけるpDADMACクリアランスを評価するのに特に興味深い。
【国際調査報告】