(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-25
(54)【発明の名称】金属錯体試薬を介するHisタグ付タンパク質などの標的分子への標識および/または担体の部位特異的、速度論的に不活性なコンジュゲーション
(51)【国際特許分類】
C07K 1/13 20060101AFI20220818BHJP
C07K 4/00 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C07K1/13 ZNA
C07K4/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021575268
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(85)【翻訳文提出日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 EP2020067047
(87)【国際公開番号】W WO2020254540
(87)【国際公開日】2020-12-24
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】598165611
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ
(71)【出願人】
【識別番号】509223977
【氏名又は名称】ウニベルジテート ハイデルベルク
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ベンク,アメリエ・エス
(72)【発明者】
【氏名】ベンク,ルーツィア・テー
(72)【発明者】
【氏名】ベグナー,セラフィーネ
(72)【発明者】
【氏名】コンバ,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】シュパッツ,ヨアヒム・ペー
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045EA61
4H045FA10
(57)【要約】
本発明は、タンパク質などの標的分子を標識および/または担体にコンジュゲートする/結合させるための手段および方法に関する。具体的には、本発明は、(i)金属カチオンリガンドとしての硝酸イオン、ならびに(ii)キレート化リガンドと、標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメインを配位する金属カチオンを含む錯体を提供する。この錯体は、標識および/または担体を、標的分子、好ましくは、タンパク質に結合させるために使用することができる。本発明の錯体を介する標識または担体の結合は、金属カチオンの配位圏中の主要リガンドとしての標的分子との生成物錯体が形成されるような、金属カチオンリガンドと、標的分子の配位基との置き換えを含む。したがって、本発明はまた、標識および/または担体の標的分子への結合を含む使用および方法も提供する。また、本発明の標識化および/または担体結合方法によって得られる生成物ならびにその使用も提供される。本発明はさらに、本発明の錯体を生産するための方法および本発明の錯体を生産するための成分を含むキットに関する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)金属カチオン;
b)金属カチオンリガンドとしての硝酸イオン;ならびに
c)キレート化リガンドと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体。
【請求項2】
金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドが、1つもしくは複数のカルボン酸基および/または1つもしくは複数のアミン基および/または1つもしくは複数の芳香族アミンおよび/またはリン酸イオンを含む多座リガンドである、請求項1に記載の錯体。
【請求項3】
c)の金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドが、
ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノ二酢酸(IDA)、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン(TED)、コンセンサス配列(GHHPH)
nG(式中、nは1~3である;配列番号1~3も参照されたい)を有するペプチドなどのキレート化ペプチドまたはカジスチン、トリアザシクロノナン(TACN)、ジエチレントリアミン-五酢酸(DTPA)、フィトケラチン、カルボキシメチルアスパラギン酸(CMA)、リン酸イオン、タンニン酸(TA)、ポルフィリン、ジピリジルアミン(DPA)、フィチン酸、ニトリロプロピオン二酢酸(NPDA)、ニトリロイソプロピオン二酢酸(NIPDA)、N-(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリス(カルボキシメチル)-10-(2’-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアゾシクロデカン、1,4,7-トリアザシクロナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、1-(1,3-カルボキシプロピル)-1,4,7-トリアザシクロノナン-4,7-二酢酸(NODAGA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(TETA)、エチレンジシステイン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-四酢酸(DACT)、ビス(アミノエタンチオール)カルボン酸、エチレン-ビス(オキシエチレン-ニトリロ)四酢酸(EGTA)、トリエチレンテトラミン-六酢酸(TTHA)、1,4,7-トリアザシクロノナンホスフィン酸(TRAP)、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)、プリン、ピリジミジンおよびその誘導体
から選択される、請求項1に記載の錯体。
【請求項4】
c)の金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドが、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノ二酢酸(IDA)、コンセンサス配列(GHHPH)
nGを有するキレート化ペプチド、ジエチレントリアミン-五酢酸(DTPA)、ニトリロプロピオン二酢酸(NPDA)、ニトリロイソプロピオン二酢酸(NIPDA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレン-ビス(オキシエチレン-ニトリロ)四酢酸(EGTA)、カルボキシメチルアスパラギン酸(CMA)およびその誘導体から選択される、請求項1に記載の錯体。
【請求項5】
c)の金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドが、NTA、IDAおよびその誘導体を含むか、またはそれから選択される、請求項1に記載の錯体。
【請求項6】
金属カチオンが、遷移金属カチオンである、請求項1から4のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項7】
錯体の金属カチオンが、二価、三価または四価金属カチオンである、請求項1から5のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項8】
金属カチオンが、10
-1s
-1以下、好ましくは、10
-2s
-1以下の水リガンド交換速度を有する金属カチオンである、請求項1から6のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項9】
金属カチオンが、Co
3+、Cr
3+、Rh
3+、Ir
3+、Pt
2+、Pt
4+、Ru
2+、Ru
3+、La
3+、Eu
3+、Os
2+、Pd
4+、Mo
3+、Fe
3+、Ru
3+、Gd
3+、Tc
3+、Re
3+、Sm
3+、Tb
3+、Ce
3+、Pr
3+、Nd
3+、Pm
3+、Dy
3+、Ho
3+、Er
3+、Tm
3+、Yb
3+、V
2+、Mn
4+、Fe
2+およびLu
3+からなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項10】
金属カチオンが、Co
3+、Cr
3+、Rh
3+、Ir
3+、Ir
4+、Pt
2+、Pt
4+、Pd
4+、Mo
3+、Fe
3+、Gd
3+、Tb
3+、Eu
3+、Ru
2+、La
3+、Ru
3+、Re
3+、Re
4+、V
2+、Mn
4+、Fe
2+およびOs
2+からなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項11】
金属カチオンが、Co
3+またはPt
4+である、請求項1から7のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項12】
錯体が[Pt(IV)(NTA)NO
3]
-錯体を含み、標識および/または担体がNTAに結合される、請求項1から11のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項13】
標識が、フルオロフォア、診断剤、標的化部分、治療剤、PEG分子、脂質、ビオチンおよび/またはその誘導体、タンパク質、ペプチド、毒素ならびに/またはチオール、アジド、アルキン、ニトロン、テトラジンおよびテトラゾールから選択される反応基を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項14】
標識が、フルオロフォアを含む、またはそれである、請求項1から12のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項15】
標識が、ビオチンまたはその誘導体を含む、またはそれである、請求項1から12のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項16】
担体が、ポリマー、ヒドロゲル、マイクロ粒子、ナノ粒子、スフィア(ナノおよびマイクロスフィアを含む)、ビーズ、量子ドット、人工物または固体表面である、請求項1から12のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項17】
金属カチオンキレート化ドメインが、キレート化リガンドと、標識および/または担体との間にリンカーを含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の錯体を含む組成物。
【請求項19】
標的分子の標識化のための請求項1から17のいずれか一項に記載の錯体または請求項18に記載の組成物の使用であって、標的分子が、タンパク質、ペプチドまたは核酸、好ましくは、錯体中の金属カチオンリガンドを交換することができるタンパク質またはDNAを含み、さらにより好ましくは、前記標的分子が、配列[H
nS
m]
k(式中、Hは、ヒスチジン残基またはヒスチジン様残基であり、Sは、スペーサーアミノ酸残基であり、nは、いずれの場合も独立に1~4であり、mは、いずれの場合も独立に0~6であり、kは2~6である)の形態で少なくとも4個のヒスチジン残基またはヒスチジン様残基を含む、使用。
【請求項20】
標的分子の標識化のための請求項1から17のいずれか一項に記載の錯体または請求項18に記載の組成物の使用であって、前記標的分子が、少なくとも2個のヒスチジン残基を含むヒスチジンリッチ領域を含有し、前記ヒスチジンリッチ領域が、前記少なくとも2個のヒスチジン残基を空間的に近接した状態にする標的分子の3次元フォールディングによって形成され、少なくとも2個のヒスチジン残基が、0~5オングストロームの距離を有し、アミノ酸配列中で連続していない、使用。
【請求項21】
ヒスチジンリッチ領域が、抗体のFc領域である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
標識および/または担体を、抗体、そのドメイン(例えば、Fc領域)またはその断片に結合させるための、請求項1から17のいずれか一項に記載の錯体または請求項18に記載の組成物の使用。
【請求項23】
標識が毒素である、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
標的分子の標識化のための請求項1から17のいずれか一項に記載の錯体または請求項18に記載の組成物の使用であって、前記標的分子が、ヒスチジン様残基が空間的に近接した状態になるときに標的分子の3次元フォールディング中に生じる、ヒスチジン様残基に富む領域を含有し、少なくとも2個のヒスチジン様残基が、0~5オングストロームの距離を有し、アミノ酸配列中で連続していない、使用。
【請求項25】
標的分子が、医薬品、診断剤、研究剤、化粧品および/または環境処理(例えば、水処理)のためのタンパク質である、請求項19、20または24に記載の使用。
【請求項26】
標的分子が、ペプチドまたはタンパク質を含む、またはそれである、請求項19、20または24に記載の使用。
【請求項27】
標的分子が、酵素、抗体などの標的化タンパク質、サイトカイン、脂肪酸輸送のためのFABSなどの輸送タンパク質、フェリチンなどの貯蔵タンパク質、コラーゲンなどの機械的支持タンパク質、増殖因子、インスリンもしくはTSHなどのホルモン、インターフェロン、糖タンパク質、合成的に操作されたタンパク質またはその断片を含む、またはそれである、請求項19、20、24、25または26に記載の使用。
【請求項28】
標的分子が、N末端、C末端、または内部配列領域に、ヒスチジン残基またはヒスチジン様残基を含む、請求項19から27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
ヒスチジン残基またはヒスチジン様残基が、Hisタグの形態で含まれ、好ましくは、Hisタグが、2~10個、好ましくは、4~8個、最も好ましくは、6~8個の連続する残基からなる、請求項19から27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
医薬品、診断剤および/または化粧品を生産するための、請求項1から17のいずれか一項に記載の錯体または請求項18に記載の組成物の使用。
【請求項31】
a)金属カチオン、好ましくは、請求項5から11のいずれか一項に記載の金属カチオン;
b)金属カチオンリガンドとしての硝酸イオン;ならびに
c)キレート化リガンドと、標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン、好ましくは、請求項2から5および請求項13から17のいずれか一項に記載の金属カチオンキレート化ドメイン
を含むキット。
【請求項32】
請求項1から17のいずれか一項に記載の錯体を生産するための方法であって、溶液中で、(i)金属カチオン;(ii)請求項1のb)に記載の金属カチオンリガンド;および(iii)請求項1のc)に記載の金属カチオンキレート化ドメインをインキュベートするステップを含む、方法。
【請求項33】
請求項1から17のいずれか一項に記載の錯体を収集および/または精製するステップをさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
金属カチオンキレート化ドメインが、請求項2から5および請求項13から17のいずれか一項に記載の金属カチオンキレート化ドメインである、請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
金属カチオンが、請求項5から11のいずれか一項に記載の金属カチオンである、請求項32から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
金属カチオンがPt
4+であり、金属カチオンリガンドがNO
3
-錯体であり、金属カチオンキレート化ドメインがNTAを含む、請求項32または33に記載の方法。
【請求項37】
請求項1から17のいずれか一項に記載の錯体または請求項18に記載の組成物を、請求項19から29のいずれか一項に記載の標的分子である標的分子と共にインキュベートするステップを含む、標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法。
【請求項38】
標識および/または担体が連結された標的分子を回収および/または精製するステップをさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
溶液が、4.0~9.5、好ましくは、5.5~8.0のpHを有する、請求項37または38に記載の方法。
【請求項40】
インキュベーションが、少なくとも10秒、好ましくは、1分、最も好ましくは、10分にわたって実施される、請求項37から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
インキュベーションが、0~95℃、好ましくは、0~60℃、最も好ましくは、0~42℃の温度で実施される、請求項37から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
インキュベーションが、水または水性溶液中で実施される、請求項37から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
インキュベーションが、DMSO、DMF、DMS、アセトニトリルおよびイソプロパノールからなる群から選択される1つまたは複数の有機溶媒を含む溶液中で実施される、請求項37から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
インキュベーションが、1つまたは複数のGoodの緩衝物質、Tris、リン酸イオンおよび/または炭酸イオン/重炭酸イオンを含有する水性溶液中で実施される、請求項37から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
インキュベーションが、好ましくは、CaCl
2の形態で提供される、Ca
2+の存在下で実施される、請求項37から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
インキュベーションが、1つまたは複数の緩衝物質を含有する水性溶液中で実施され、緩衝物質が、アミン、カルボン酸、芳香族アミンおよび/またはリン酸基を含まない、請求項37から45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
インキュベーションが、ACES、AMPSO、BES、BisTris、BisTrisプロパン、ホウ酸、CAPS、CAPSO、CHES、DIPSO、EPPS、HEPES、HEPBS、HEPPSO、MES、MOPS、MOPSO、PIPES、POPSO、TAPS、TAPSO、TEA、TES、炭酸/重炭酸緩衝剤、リン酸緩衝剤(例えば、PBS)およびTrisからなる群から選択される1つまたは複数の緩衝物質を含有する水性溶液中で実施される、請求項37から46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
インキュベーションが、BisTris、CAPS、CAPSO、HEPES、HEPBS、HEPPSO、MES、MOPS、MOPSO、PIPES、TAPS、TES、リン酸緩衝剤(例えば、PBS)およびTrisからなる群から選択される1つまたは複数の緩衝物質を含有する水性溶液中で実施される、請求項37から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
インキュベーションが、Bis-Tris、MES、HEPESおよびPIPESからなる群から選択される緩衝物質を含む水性溶液中で実施される、請求項37から48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
標識および/または担体の存在下でのH
2O
2を用いた処理などの酸化ステップを含まない、請求項37から49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
請求項37から50のいずれか一項に記載の方法によって得られる標識された、または担体に結合した標的分子。
【請求項52】
請求項51に記載の標識された、または担体に結合した標的分子を含む組成物。
【請求項53】
研究試薬としての、請求項51に記載の標識された、もしくは担体に結合した標的分子または請求項52に記載の組成物の使用。
【請求項54】
薬剤としての使用のための、請求項51に記載の標識された、もしくは担体に結合した標的分子または請求項52に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質などの標的分子を標識および/または担体にコンジュゲートする/結合させるための手段および方法に関する。具体的には、本発明は、(i)金属カチオンリガンドとしての硝酸イオン、ならびに(ii)キレート化リガンドと、標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメインを配位する金属カチオンを含む錯体を提供する。この錯体は、標識および/または担体を、標的分子、好ましくは、タンパク質に結合させるために使用することができる。本発明の錯体を介する標識または担体の結合は、金属カチオンの配位圏中の主要リガンドとしての標的分子との生成物錯体が形成されるような、金属カチオンリガンドと、標的分子の配位基との置き換えを含む。したがって、本発明はまた、標識および/または担体の標的分子への結合を含む使用および方法も提供する。また、本発明の標識化および/または担体結合方法によって得られる生成物ならびにその使用も提供される。本発明はさらに、本発明の錯体を生産するための方法および本発明の錯体を生産するための成分を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学的に修飾されたタンパク質が、多くの生物学的適用にとって非常に重要な手段となってきた。蛍光に基づくアッセイ、ウェスタンブロットおよびタンパク質精製などの生命科学研究における様々な生化学および細胞技術は、標識または固定されたタンパク質に依拠する。しかし、バイオ医薬品(例えば、抗体-薬物コンジュゲート、PEG化および脂質化)、バイオセンサー、生体イメージングおよびさらには医用工学を含む医療診断の開発のためにも、タンパク質コンジュゲーションは重要な生産ステップである。それにより、あらゆる適用分野において、タンパク質機能を妨げない、単純で、安定で、部位特異的な修飾方法が望ましい。さらに、核酸などの他の生体分子も、標識されるか、または担体に結合されることが多い。
【0003】
古典的な標識化/固定化手順では、低分子は、迅速かつ効率的な方法で、例えば、N-ヒドロキシ-スクシンイミド(NHS)由来試薬またはマレイミドを介して、目的の非修飾タンパク質中の反応基(リシンにおける一次アミンまたはシステインにおけるチオールなど)に共有的に結合される(ChenおよびWu、2016)。しかしながら、これらの手法は全て、タンパク質中のこれらの反応部位の遍在的な利用可能性のため、固有の欠点を有する。したがって、部位特異性の欠如、不均一な固定化/標識化化学量論ならびにさらには、タンパク質機能の脱安定化および喪失と共に、大きなバッチ間変動性をもたらす、これらの標識化反応の制御は限られる(Lindhoudら、2012)。この問題に対処するために、近年では、部位特異的タンパク質コンジュゲーションのためのいくつかの新しい技術が開発された。
【0004】
それにより、最も顕著なものは、ビオチン部分が、ビオチンリガーゼBirAを含む酵素触媒作用によって短いペプチドタグに部位特異的に結合される、Aviタグシステムである(Tiratら、2006)。しかし、他の方法でも、ソルターゼ(Poppら、2007)、トランスグルタミナーゼ(LinおよびTing、2006)、リポ酸リガーゼ(Fernandez-Suarez,M.ら、2007)およびホスホ-パンテイニル-トランスフェラーゼ(Yinら、2005)などの酵素が、短い認識ペプチドタグを介するタンパク質の配向的コンジュゲーションを触媒するために使用される。
【0005】
別の手法は、非天然アミノ酸を介した、テトラチン、アルキン、アジドまたはノルボルネンなどの生体直交型官能基のリボソーム組込みによる遺伝子コードの拡大である(Ouら、2011;Deitersら、2003;Langら、2012)。特異的連結化学を使用して、標的タンパク質を、非常に正確な方法で組み込まれる基において修飾することができる。
【0006】
あるいは、非天然アミノ酸に対して、タンパク質表面上の独特の反応性および低い存在量を示す従来のアミノ酸を、部位特異的標識化のために使用することができる。この文脈における多くの方法は、選択的標的化のために接近可能なチオール基を提供する操作されたシステイン置換を使用する(Junutulaら、2008;Calら、2014)。表面露出したアミノ酸だけでなく、N末端アミノ酸も、タンパク質コンジュゲーションのための有用な反応点であってよい。例えば、N末端システインを、チオエステル誘導体との天然の化学的ライゲーション(Dawsonら、1994)によって選択的に標的化するか、または短いN末端タグ中に組み込まれる場合、タンパク質を、ペルフルオロ芳香族試薬(Zhangら、2016)によって標識することができる。あるいは、標的化可能な独特のアルデヒド基をもたらすN末端セリンの酸化(GaertnerおよびOfford、1996)によって、またはN末端グリシン-ヒスチジンタグのアシル化(Martos-Maldonadoら、2018)によって、タンパク質を部位特異的にコンジュゲートすることができる。
【0007】
上記方法は、それらが他の適用のために使用されることがあまりない特殊な分子タグ、非天然アミノ酸および/またはさらなるアミノ酸が組み込まれる必要があるという共通点がある。したがって、骨の折れる遺伝子操作およびタンパク質の再発現が必要であることが多い。さらにより重要なことには、これらの方法の主に多段階の化学的コンジュゲーション反応は、タンパク質の安定性および機能に負に影響し得るかなり過酷な反応条件で実施されることが多い。
【0008】
さらに、タンパク質生化学の分野で広く使用される親和性タグであるHisタグとの相互作用に依拠するいくつかの標識化戦略が開発された。Hisタグは、通常、6~8個のヒスチジン部分からなり、ニトリロ三酢酸(NTA)およびヒスチジンのイミダゾール基のNi2+媒介性配位に基づく確立された精製技術(Hochuliら、1988)のため、Hisタグ付タンパク質は普及している。[Ni(II)(NTA)(Hisタグ)]錯体の形成によってHisタグ付タンパク質をNi2+-NTA基質に結合する原理も、表面上でのタンパク質の固定化(Kangら、2007;Rusminiら、2007)、ならびにフルオロフォアおよび他の分子のタンパク質へのコンジュゲーション(Kamotoら、2008)などの多くの他の適用のために適合された。しかしながら、これらの方法の主な欠点は、改良されたトリス-NTA試薬(Huangら、2009)を使用する場合であっても、これらのNi2+媒介性錯体の低い親和性および急速なリガンド交換速度である。EDTAまたはイミダゾールのような、既に少量の一般的なキレーターは、錯体を破壊し、タンパク質コンジュゲーションを妨害する。
【0009】
いくつかのさらなる文献は、速度論的に不活性でもなく、さらには不安定性を必要ともしない同様の錯体を記載する;例えば、WO2005/112977A2、WO03/072143A1、WO2005/120700A2、WO2009/114520、WO98/06739A1、米国特許第4,569,794号A、Blockら、2009、WO03/018756A2、US2010/069293A1、WO2004/104023A2、WO02/33044A2、US2013/131283A1、WO2011/031771A1、US2008/015263を参照されたい。
【0010】
WO2003/072143A1も、担体がヒスチジンタグを有するポリペプチドを含んでもよい、担体と、目的の活性薬剤とを接続するための金属架橋の使用を記載する。
Ni2+媒介性錯体の制限を克服するために、一般的に使用されるNi2+またはCo2+の代わりにCo3+が、錯体形成を媒介するための金属イオンとして提唱された(WegnerおよびSpatz、2013;Hale、1995)。4個の配位部位がNTAなどのキレーターによって占有され、2個がHisタグのヒスチジンによって占有される、Co3+の低スピン8面体常磁性錯体(eg
6t2g
0)の使用により、Hisタグ付タンパク質のNTA部分への速度論的に不活性な連結を達成することができる。Co3+に基づく錯体は、Ni2+に基づく錯体(3×106s-1)よりも有意に低いリガンド交換速度(約10-6s-1)を有することが見出された(LippardおよびBerg、1994)。
【0011】
しかしながら、[Co(III)(NTA)(His-タンパク質)]錯体のリガンド交換速度は極端に低いが、逆に、錯体の形成も遅い。したがって、間接的で多段階の調製方法は現在、そのような[Co(III)(NTA)(His-タンパク質)]錯体を生産するための選択方法である(WO2014/072525A1;WegnerおよびSpatz、2013;Hale、1995;
図2A中の反応スキームの略図を参照されたい)。第1に、全体の[Co(II)(NTA)(His-タンパク質)]錯体の過酸化水素を用いた酸化ステップ後に、Co
2+とのプレ錯体が形成され、Co
2+は最終的な錯体中で直接的にCo
3+に酸化される。この方法は非常に速く、単純であるが、タンパク質の存在下での酸化プロセスは、アミノ酸酸化のため、タンパク質機能の喪失を引き起こし得る。さらに、過酸化水素と、コバルトイオンとの組合せはまた、タンパク質骨格の切断または分解をもたらし、Hisタグの除去および標識を含む錯体からのタンパク質の遊離をもたらし得る、フェントン反応を誘発し得る(Andbergら、2007)。
【0012】
酸化ステップを含む間接的で多段階の調製方法を用いて生産されたHisタグ付タンパク質とのCo3+に基づく錯体も、表面上にタンパク質を固定化するために用いられてきた(Wegnerら、2016;Di Russoら、2018)。しかし、表面固定化の文脈でも、この方法は、タンパク質機能に負に影響し、また、ある特定の表面構造を妨害し得る、過酷な酸化剤H2O2の使用に悩まされる。
【0013】
上記の文献と同様、EP0497585A2は、[Co(II)(IDA)(His-タンパク質)]錯体が形成された後にのみ、Co2+のCo3+への酸化を用いる。[Co(II)(IDA)(His-タンパク質)]錯体を、数時間にわたってO2ガスと接触させて、Co2+のCo3+への酸化を容易にする。しかしながら、不安定なタンパク質は、高濃度の酸素への数時間の曝露によって損傷され得ることが当業界で公知である。さらに、本発明者らは、前記方法を再現することができなかった。すなわち、本発明者らは、[Co(II)(NTA)(His-タンパク質)]錯体をO2ガスと接触させた場合、安定な錯体を観察しなかった。
【0014】
ZatloukalovaおよびKucerovaは、タンパク質の存在下での酸化を回避することができる、[Co(III)(IDA)(His-タグ)(H
2O)]錯体を形成させるための手順を提唱した(ZatloukalovaおよびKucerova、2006)。この手順では、Co
2+中心を、IDAとのプレ錯体中で過酸化水素を用いてCo
3+に酸化した後、得られる[Co(III)(IDA)(H
2O)
3]
+をHisタグ付タンパク質と配位させて、最終的な[Co(III)(IDA)(Hisタグ)(H
2O)]錯体を形成させる(反応スキームの略図については
図2Bを参照されたい;ZatloukalovaおよびKucerova、2006)。しかし、この方法は依然として大きな欠点を有する。水リガンドとのCo
2+に基づくプレ錯体と比較して、水リガンドとのCo
3+に基づくプレ錯体は、有意に遅く配位し、添付の実施例において本発明者らによって示されるように、特に、多くのタンパク質にとって必要とされる低温では、錯体形成の最終的な有効性も低い。さらに、IDAコンジュゲートの存在下での過酸化水素の使用は、酸化によって、IDAコンジュゲートに結合させようとするコンジュゲート、すなわち、標識および/または担体の機能に依然として負に影響し得る。例えば、フルオロフォアの蛍光は、酸化時に減少し得る。さらに、プロトコールは、さらなる下流の適用のために過酸化水素からの酸化したプレ錯体の精製を必要とする。これらの精製プロセスは、材料および時間を消費するものであり、下流の適用において修飾しようとするタンパク質を酸化し、損傷し得る残留酸化剤のリスクを負う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
かくして、本発明の基礎となる技術的課題は、標識/担体および標的分子の機能および/または安定性の阻害を防止する容易かつ効率的な様式で錯体形成によって標識および/または担体の、タンパク質などの標的分子への結合を可能にする改良された手段および方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この技術的課題は、特許請求の範囲で特徴付けられ、本明細書の以下に提供される実施形態の提供によって解決される。
第1の態様では、本発明は、
a)金属カチオン;
b)金属カチオンリガンドとしての硝酸イオン;ならびに
c)キレート化リガンドと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体の形態の化合物を提供する。
【0017】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明の錯体は、標識および/または担体を、Hisタグ付タンパク質などの標的分子に結合させるための有利な手段であることを見出した。標識化は、錯体の第1配位圏中での、錯体の金属カチオンリガンドの標的分子との交換によって達成される。この交換により、キレート化リガンドと、第1のリガンドとしての標識および/または担体と、第2のリガンドとしての標的分子とを含む金属カチオンキレート化ドメインを有する新しい錯体が形成される。遷移金属カチオンCo3+またはPt4+を含む本発明の錯体を用いる、添付の実施例に例示されるように、本発明の錯体は、速度論的に不活性な様式で、標識および/または担体の標的分子への結合を可能にする。ヒスチジン残基は、特に、Co3+またはPt4+などの遷移金属との、金属錯体の形成に関与し得るリガンドであるため、好ましい標的分子は、Hisタグ付タンパク質またはヒスチジンリッチ領域を有するタンパク質である。添付の実施例はまた、標的分子によって交換される金属カチオンリガンドとして硝酸イオンを使用することができることも示す。ヒスチジンタグは、2座および/または多座リガンドとして機能することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付の実施例に示されるように、本発明の手段および方法は、特に、金属カチオン、硝酸イオン(金属カチオンリガンドとしての)およびキレート化リガンドを含む金属カチオンキレート化ドメインならびに標識および/または担体を含む、および/またはそれからなる新規性かつ進歩性のある錯体に関する。「硝酸イオン」の代わりに「炭酸イオン」(CO3
2-またはHCO3
-)を用いる対応する錯体を用いることもできることが、本明細書の開示ならびに添付の実施例から明らかである。したがって、本発明は、対応する「硝酸イオン錯体」に基づくが、対応する「炭酸イオン錯体」も本明細書に記載される。本発明の文脈における炭酸イオンおよび硝酸イオンは、両金属カチオンが対応するプレ錯体からの遊離後にプロトン化されるため、等価であると考えてよい。さらなる詳細は、本明細書の以下に提供される。
【0019】
本発明の錯体の利点は、H2O2を使用する酸化反応が、標識および/または担体が存在する錯体の生産ステップにとっても、標識および/または担体の標的分子への結合にとっても必要ではないということである。H2O2処理などの酸化ステップの回避は、酸化による標的分子、標識および/または担体の機能を妨害することなく、標識および/または担体の結合を達成することができる利点を有する。これは、金属錯体媒介性標識化および/または担体結合を、特に、タンパク質などの酸化感受性標的分子に対しても、より広く適用可能にする。さらに、それはまた、酸化剤を除去するための煩わしく時間消費的な洗浄ステップの必要性を低減させる。
【0020】
低いリガンド交換速度を有するCo(III)または他の遷移金属について、いかなる中間ステップも用いない直接的な錯体形成は極端に遅く、非効率的である。したがって、これらの速度論的に不活性な錯体の形成のための現在の最先端の方法は、2段階の手順に焦点を合わせる。それにより、最初に、速度論的に不安定な酸化状態にある金属中心(例えば、Co(II))が形成された後、一般的には過酸化水素を用いる酸化プロセスが行われる。このように、酸化プロセスはタンパク質、金属結合ドメインおよび/または担体の予測不可能な機能障害をもたらし得る。
【0021】
これらの制限を克服するために、本発明は、速度論的に不活性な錯体の直接的形成のためのプロセスを記載する。所望の酸化状態にある金属から直接出発して、タンパク質、金属結合ドメインまたはタンパク質の存在下での酸化試薬の使用を回避することができる。それにより、選択された金属を、炭酸イオンまたは硝酸イオンである3つの金属カチオンリガンドと予め錯体化された金属結合ドメインに導入する。第1のステップでは、2つの金属カチオンリガンドを、金属カチオンキレート化ドメインによって置き換えた後、タンパク質の配位を介して最後の金属カチオンリガンドの置き換えを行う。金属と、炭酸イオンまたは硝酸イオンとの予備配位は、より高い錯体形成効果と対になった有意により速い錯体形成速度をもたらす、最終的な錯体の形成を容易にする。炭酸イオンまたは硝酸イオンリガンドが配位されたプレ錯体を使用する改善された直接錯体形成プロセスは、これらの金属カチオンリガンドが、プレ錯体からの遊離後にプロトン化される能力を起源とする。炭酸イオンの場合、リガンド遊離時のプロトン化は形成プロセスをさらに増強し得るガス形成をもたらすことができる。したがって、本発明者らによって示されるように、炭酸イオンまたは硝酸イオンプレ錯体を使用して、水を含む他のリガンドよりも有意に速く、より効率的に速度論的に不活性な金属錯体を直接形成させることができる。
【0022】
上記のWegnerおよびSpatz(同箇所)ならびにZatloukalovaおよびKucerova(同箇所)の先行技術では、Co
3+媒介性錯体の形成によってタンパク質を標識するための方法が記載される。しかしながら、本発明とは対照的に、これらの方法は両方とも、H
2O
2を使用する酸化ステップを含んでいた(
図2AおよびBを参照されたい)。酸化ステップは、標識(例えば、フルオロフォア)および/または担体および標識しようとするタンパク質の安定性および機能に負に影響し得る有害な処理である(添付の実施例を参照されたい)。本発明の錯体は、これらの先行技術のプロトコールに含まれる酸化ステップの回避を可能にする。さらに、本発明の錯体は、標識および/または担体を金属カチオンによって媒介される相互作用によって標的分子に結合させることができるように、迅速かつ効率的に、標的分子、好ましくは、Hisタグ付タンパク質またはヒスチジンリッチ領域を有するタンパク質に結合する金属を配位させる。標識および/または担体は、WegnerおよびSpatzならびにZatloukalovaおよびKucerovaによって記載された同様の速度論的に不活性な様式で最終生成物中の標的分子に結合される。標的分子の結合は、金属カチオン配位リガンドを標的分子と交換して、本明細書では「生成物錯体」と称される、新しい錯体を形成させることによって達成される。CO
3
2-およびHCO
3
-から選択される炭酸イオンまたは硝酸イオンである金属配位リガンドを選択することによって、本発明者らは、金属カチオンキレート化ドメインを含む標識/担体と、金属カチオンに配位した標的分子とを含む「生成物錯体」を、非常に効率的かつ迅速に形成させることができることを見出した。特に、本発明者らは、標的分子の結合が、特に低温で、ZatloukalovaおよびKucerovaの方法に記載されたように、金属カチオンリガンドとして水を使用する錯体と比較して、より完全で、より速いことを見出した。かくして、本発明の錯体は、標的分子(例えば、Hisタグ付タンパク質)に標識および/または担体をより速く、より完全に結合させる。要するに、本発明の錯体の重要な利点は、錯体が迅速かつ効率的な結合を可能にし、同時に、標識および/または担体の存在下で酸化試薬を使用するための要求を防止するということである。
【0023】
本発明の錯体またはそれを含む組成物は、限定されるものではないが、フルオロフォア、毒素、診断部分、標的化部分、安定化ドメインおよび/または反応基を用いたタンパク質の標識化などのいくつかの適用において特に有用である。錯体を使用して、特に、毒素で標識された抗体などのバイオ医薬品、および診断剤を製造することもできる。標識化は、速度論的に不活性であり(すなわち、リガンド交換速度が10-1s-1であるか、またはそれより低い)、Ni2+またはCo2+に基づく錯体を用いた場合に問題となることが多いリガンド交換を防止することができる。標識化は、Ni2+またはCo2+に基づく錯体を用いる場合よりも、さらに熱力学的に安定である。
【0024】
本発明の錯体を使用して、標的分子、好ましくは、タンパク質の担体への安定な結合を達成することもできる。担体は、例えば、表面、ビーズ、ナノ粒子、人工物(prosthetic)、量子ドット、ポリマー、ヒドロゲル、マイクロ粒子、スフィア(例えば、ナノおよび/もしくはマイクロスフィア)またはその組合せであってもよい。例えば、実施例19は、Hisタグ付GFPを、金ナノ構造ガラス表面に結合することができることを示す。最初に、金ナノ構造ガラス表面を、金粒子とチオール基との相互作用によってNTA-リンカー-チオール試薬をカップリングすることによって、NTAで官能化する。続いて、本発明の錯体を、表面上で作製し、His-GFPを結合させる(
図21)。さらに、非限定的な実施例20において、Hisタグ付GFPを、本発明の錯体にリンカーを介してカップリングされたビオチン基に結合させることができることが示される。続いて、ビオチン基、リンカー、本発明の錯体およびHisタグ付GFPを含む生成物を、ストレプトアビジン基を含むビーズにカップリングした(
図22)。
【0025】
添付の実施例は、様々な(Hisタグ付)タンパク質を、本発明の錯体を使用してビーズにカップリングすることができることを示す。1つの試験したタンパク質(ソルターゼA)について、酵素活性が固定化の際に保存されることが証明された(実施例14、
図16C)。また、抗体のFc領域のヒスチジンリッチ領域を使用して、抗体を本発明の錯体を介してビーズにカップリングすることができることも示される。
図16Dに示されるように、固定された抗体は、その抗原に結合する能力を保持する。
【0026】
本発明の錯体が、標識しようとする標的分子ならびに/またはWegnerおよびSpatzならびにZatloukalovaおよびKucerovaによって記載されたような標識および/もしくは担体の存在下での酸化ステップを必要とすることなく、迅速かつ効率的な金属カチオン媒介性標識化または標的分子への担体結合を達成することができることにより、本発明の錯体は、標的タンパク質ならびに/または標識および/もしくは担体の酸化を回避することが典型的には非常に重要である上記の適用にとって特に好適なものになる。
【0027】
本発明の錯体を、溶液中で、または固体として提供することができる。本発明の錯体は、特に、溶液中で提供される場合、電荷を担持してもよい。電荷は、金属カチオン、金属カチオンリガンドおよび金属カチオンキレート化ドメインの電荷に依存するであろう。例えば、金属カチオンとしてのCo3+、金属カチオンリガンドとしてのCO3
2-、およびキレート化リガンドとしてのNTAと非荷電標識とからなる金属カチオンキレート化ドメインを含む錯体は、電荷「2-」(すなわち、二価の負電荷)を有する。錯体を、対抗イオンと共に提供することもできる。錯体が1つまたは複数の対抗イオンをさらに含む場合、それを固体として提供することもできる。対抗イオンは、好ましくは、一価イオンである。特に好ましいものは、アルカリ金属の群に由来する一価イオンである。最も好ましいものは、錯体が負に荷電する場合、対抗イオンとしてのNa+およびK+である。
【0028】
本発明の錯体の金属カチオンキレート化ドメイン(あるいは、第1のリガンドまたはキレーターと称してもよい)は、キレート化リガンドを含む。キレート化リガンドは、錯体の金属カチオンによって配位させることができる少なくとも2つの結合部位を提供することによって錯体の金属カチオンとの配位を媒介する(すなわち、換言すれば、2座または多座である)。好ましい実施形態では、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、3座(例えば、IDA)または4座(例えば、NTA)であってもよい。「3座」とは、キレート化リガンドが、金属イオンに基づく錯体中でドナー原子(すなわち、Lewisドナー)として機能することができる3個の原子を含むことを意味する。「4座」とは、キレート化リガンドが、金属イオンに基づく錯体中でドナー原子(すなわち、Lewisドナー)として機能することができる4個の原子を含むことを意味する。したがって、換言すれば、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、好ましくは、錯体の金属カチオンによって配位させることができる、3個または4個、より好ましくは、4個の結合部位を有してもよい。理論によって束縛されるものではないが、錯体中でドナー原子(すなわち、Lewisドナー)として機能することができるより多くの原子を有するキレート化リガンドの使用は、金属カチオンが錯体中でより強く結合するという利点を有する。より強力な結合は、錯体からの金属カチオンの望ましくない遊離、すなわち、錯体の望ましくない分解の頻度を防止する。これは、本発明の使用および方法によって形成される、本発明の錯体ならびに「生成物錯体」にも適用される。一般に、3座および4座錯体が、本明細書では好ましい。添付の実施例によれば、4座が最も好ましい。
【0029】
本発明の錯体の金属カチオンキレート化ドメインは、標識および/または担体、すなわち、標的分子に結合させようとする機能的部分をさらに含む。キレート化リガンドを、標識および/もしくは担体と直接的に、またはリンカーを介して連結することができる。
【0030】
金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、原理的には、当業界で公知の任意のキレート化リガンドであってもよい。好ましいキレート化リガンドは、少なくとも1つもしくは複数のカルボン酸基および/または1つもしくは複数のアミン基を含む。一実施形態では、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、ポリカルボン酸、ポリアミンまたはアミノポリカルボン酸であってもよい。
【0031】
例示的であるが、非限定的なキレート化リガンドは、ニトリロ三酢酸(NTA)(Hochuliら、1987)、イミノ二酢酸(IDA)(Porathら、1975、Arnold、1991、Franzrebら、2006)、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン(TED)(PorathおよびOlin、1983)、キレート化ペプチド(例えば、コンセンサス配列(GHHPH)nG(式中、Gはグリシンを指し、Hはヒスチジンを指し、Pはプロリンを指し、nは1~3の整数である)を有するペプチド;配列番号1~3も参照されたい)(HutchensおよびYip、1992)、キレート化タンパク質(例えば、hisタグ付タンパク質もしくは本明細書の他の箇所に定義される間隔のあるHisタグを有するタンパク質)またはカジスチン(Hayashiら、1986)、トリアザシクロノナン(TACN)(SobiesciakおよびZielenkiewicz、2010)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)(RahhalおよびRichter、1988;Hnatowichら、1982、Hnatowichら、1983)、フィトケラチン(Songら、2014)、カルボキシメチルアスパラギン酸(CMA)(Porathら、1975、Hutschenreiterら、2003)、タンニン酸(TA)(Zhangら、2015、Han,Liuら、2017)、ポルフィリン(Shaoら、2015)、ジピリジルアミン(DPA)(Cleracら、2000)、フィチン酸(EvansおよびPierce、1982)、ニトリロプロピオン二酢酸(NPDA)(Mitsuoら、1970)、ニトリロイソプロピオン二酢酸(NIPDA)(Mitsuoら、1970)、N-(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)(WubsおよびBeenackers、1993、Graffら、1995)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(WubsおよびBeenackers、1993)、エチレン-ビス(オキシエチレン-ニトリロ)四酢酸(EGTA)(Borderら、1976、Okazakiら、2011)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(DOTA)(Klineら、1991、Chappellら、2003)、1,4,7-トリス(カルボキシメチル)-10-(2’-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアゾシクロデカン(Filippiら、2014)、1,4,7-トリアザシクロノナンホスフィン酸(TRAP)(Simecekら、2012)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラ-デカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(TETA)(YuanfangおよびChuanchu、1991)、エチレンジシステイン(Kongら、2010)、ビス(アミノエタンチオール)カルボン酸(Sunら、1996)、トリエチレンテトラアミン六酢酸(TTHA)(HarjuおよびRingbom、1970、Achourら、1998)、1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-四酢酸(DACT)(Krzekら、2007)、リン酸イオン(Rizkallaら、1980)、1,4,7-トリアザシクロナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)(Strandら、2013;Simecekら、2012)、1-(1,3-カルボキシプロピル)-1,4,7-トリアザシクロノナン-4,7-二酢酸(NODAGA)(Strandら、2013)、デオキシリボ核酸(DNA)(Pagesら、2015)、リボ核酸(RNA)(Albertiら、2016)、プリン(CiniおよびGiogi、1987)およびピリジミジン(SahaおよびMukherjee、1984)である。
【0032】
したがって、c)の金属カチオンキレート化ドメインに含まれるキレート化リガンドを、例えば、以下の非限定的な一覧:ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノ二酢酸(IDA)、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン(TED)、コンセンサスアミノ酸配列(GHHPH)nG(式中、Gはグリシンを指し、Hはヒスチジンを指し、Pはプロリンを指し、nは1~3の整数である;配列番号1~3も参照されたい)を有するペプチドなどのキレート化ペプチドまたはカジスチン、トリアザシクロノナン(TACN)、ジエチレントリアミン-五酢酸(DTPA)、フィトケラチン、カルボキシメチルアスパラギン酸(CMA)、リン酸イオン、タンニン酸(TA)、ポルフィリン、ジピリジルアミン(DPA)、フィチン酸、ニトリロプロピオン二酢酸(NPDA)、ニトリロイソプロピオン二酢酸(NIPDA)、N-(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリス(カルボキシメチル)-10-(2’-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアゾシクロデカン、1,4,7-トリアザシクロナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、1-(1,3-カルボキシプロピル)-1,4,7-トリアザシクロノナン-4,7-二酢酸(NODAGA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(TETA)、エチレンジシステイン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-四酢酸(DACT)、ビス(アミノエタンチオール)カルボン酸、エチレン-ビス(オキシエチレン-ニトリロ)四酢酸(EGTA)、トリエチレンテトラミン-六酢酸(TTHA)、1,4,7-トリアザシクロノナンホスフィン酸(TRAP)、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)、プリン、ピリジミジンおよびその誘導体から選択することができる。
【0033】
これらのキレート化リガンドは全て、それらが金属カチオンとの配位錯体を形成するためのLewis塩基ドナーとして作用することができる少なくとも2個の配位部位を提供する(すなわち、キレート化剤である)という共通点を有する。したがって、一実施形態では、キレート化リガンドは、金属カチオンに配位することができる、すなわち、それらがルイス塩基として作用することができる、少なくとも2、3、4、5個またはそれより多い化学基を有してもよい。
【0034】
好ましい実施形態では、c)の金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノ二酢酸(IDA)、コンセンサス配列(GHHPH)nG(式中、nは1~3である;配列番号1~3も参照されたい)を有するキレート化ペプチド、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ニトリロプロピオン二酢酸(NPDA)、ニトリロイソプロピオン二酢酸(NIPDA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレン-ビス(オキシエチレン-ニトリロ)四酢酸(EGTA)、カルボキシメチルアスパラギン酸(CMA)およびその誘導体から選択される。
【0035】
別の好ましい実施形態では、キレート化リガンドは、アミノポリカルボン酸であってよい。好ましくは、アミノポリカルボン酸は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノ二酢酸(IDA)、エチレン-ビス(オキシエチレン-ニトリロ)四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、およびトリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン(TED)、トリアザシクロノナン(TACN)またはその誘導体から選択される。
【0036】
特に好ましい実施形態では、c)の金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、NTA、IDA、TALONおよびその誘導体を含むか、またはそれから選択される。キレート化リガンドとして最も好ましいのは、NTAおよびIDAであり、特に最も好ましいのは、IDAである。NTAは、4座リガンドであり、かくして、金属カチオンに特に強力に結合する。IDAは、3座であり、これも金属カチオンに強力に結合するが、NTAよりは弱い。金属カチオンへの強力な結合は、錯体の望ましくない分解または標的分子からの標識および/もしくは担体の遊離をもたらす金属カチオンの遊離を防止する。ある特定の実施形態では、高い安定性のパーセンテージを有する錯体を、NTAとの錯体よりも速く形成させることができるため、IDAが好ましい。第2の金属カチオンリガンドは、依然として金属に半分配位したままであるが、4座金属結合ドメインを使用する場合には、それは完全に置換されるため、3座金属結合ドメインについて、タンパク質の配位は、さらに容易になると推定される。部分的配位のため、リガンドを、タンパク質の1個のヒスチジン残基によって容易に置換することができる。ここで、ごく近くにある1個または2個の他のヒスチジン残基も、最後のリガンドを遊離し、安定な錯体を形成することができる。
【0037】
キレート化リガンドの文脈では、用語「誘導体」は、同じリード構造を有するが、さらなる化学反応基によって置換されていてもよい化合物を指す。好ましくは、この文脈における用語「誘導体」は、カルボキシル、アミン、アジド、アクリレート、マレイミド、ヒドロキシル、チオール、芳香族、脂肪族、ジスルフェート、およびビニルスルホン基からなる群から選択される1つまたは複数のさらなる化学基による置換を含む。誘導体という用語はまた、同位体置換を有する分子を含んでもよい。「同位体置換」は、1個または複数の原子が同位体標識されることを意味する。
【0038】
金属カチオンは、好ましくは、それぞれの酸化状態で安定である金属カチオンである。酸化状態は、用いられる金属に応じて、+2、+3または+4であってもよい。したがって、錯体の金属カチオンは、二価、三価または四価金属カチオンであってもよい。好ましい実施形態では、カチオンは、三価金属カチオン(例えば、Co3+)である。別の好ましい実施形態では、カチオンは、四価金属カチオン(例えば、Pt4+)である。
【0039】
金属カチオンは、例えば、Co3+などの、低スピン8面体常磁性錯体(eg
6t2g
0)を形成することができる金属カチオンであってもよい。したがって、一実施形態では、錯体は、低スピン8面体常磁性錯体(eg
6t2g
0)、好ましくは、Co3+低スピン8面体常磁性錯体(eg
6t2g
0)であってもよい。金属カチオンは、例えば、Pt4+などの、反磁性8面体低スピン錯体(t2g
6eg
0)を形成することができる金属カチオンであってもよい。したがって、一実施形態では、錯体は、反磁性8面体低スピン錯体(t2g
6eg
0)、好ましくは、反磁性8面体低スピンPt4+(t2g
6eg
0)であってもよい。
【0040】
好ましくは、金属カチオンは、10-1s-1以下(例えば、10-2s-1以下または10-3s-1以下)の水リガンド交換速度を有する金属カチオンである。そのような低い水リガンド交換速度を有する金属カチオンは、速度論的に不活性である、すなわち、非常に低い速度でのみ標的分子リガンドを交換し、共有結合に近いもの(すなわち、速度論的に不活性な結合)を提供する、標的分子との非常に堅い錯体を形成する利点を有する。
【0041】
金属カチオン(およびそれを含む錯体)の水交換速度を決定するための方法は、当業界で公知である。水交換速度を決定するために用いることができる方法の概説は、A.Dunandおよび共同研究者(Dunandら、2003)によって記載されている。本発明の文脈において使用される遅い交換速度を評価するために、測定方法は、17O NMR分析を含んでもよい(Cusanelliら、1996)。そのようなアッセイでは、金属と、17O標識された水との錯体を生成し、H2O中に溶解する。水交換速度を決定するために、経時的な17Oの喪失を、H2Oとの交換から生じるピークシフトによって測定する。
【0042】
好ましい実施形態では、錯体の金属カチオンは、遷移金属カチオンであってもよい。遷移金属カチオンは、好ましくは、10-1s-1以下の水リガンド交換速度を示す酸化状態にある。この範囲の水交換速度を有する、および/または速度論的に不活性であることが当業界で公知である遷移金属カチオンとしては、Co3+、Cr3+、Rh3+、Ir3+、Ir4+、Pt2+、Pt4+、Pd4+、Mo3+、Fe3+、Gd3+、Tb3+、Eu3+、Ru2+、La3+、Ru3+、Re3+、Re4+、Os2+、V2+、Mn4+およびFe2+が挙げられる。かくして、遷移金属カチオンに属する本発明の文脈で用いることができる金属イオンの好ましいが、非限定的な例は、Co3+、Cr3+、Rh3+、Ir3+、Ir4+、Pt2+、Pt4+、Pd4+、Mo3+、Fe3+、Gd3+、Tb3+、Eu3+、Ru2+、La3+、Ru3+、Re3+、Re4+、Os2+、V2+、Mn4+およびFe2+である。
【0043】
一実施形態では、金属カチオンは、三価遷移金属カチオン、好ましくは、上に列挙された三価遷移金属カチオン、さらにより好ましくは、Co3+であってもよい。
別の実施形態では、金属カチオンは、四価遷移金属カチオン、好ましくは、上に列挙された四価遷移金属カチオン、さらにより好ましくは、Pt4+であってもよい。
【0044】
一実施形態では、錯体の金属カチオンは、ランタノイド(内部遷移金属とも称される)カチオンであってもよい。ランタノイドは、遷移金属の亜群であり、以下の金属:La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuが挙げられる。本発明において用いることができるランタノイドカチオンは、好ましくは、10-1s-1以下、好ましくは、10-2s-1以下の水リガンド交換速度を有する酸化状態を有する。この範囲の水交換速度を有する、および/または速度論的に不活性であることが当業界で公知であるランタノイドカチオンは、La3+、Eu3+、Gd3+およびTb3+である。したがって、本発明の文脈における金属カチオンは、La3+、Eu3+、Gd3+およびTb3+からなる群から選択されるランタノイドカチオンであってもよい。かくして、一実施形態では、錯体の金属カチオンはまた、三価ランタノイドカチオンであってもよい。
【0045】
一実施形態では、金属カチオンは、Pt4+、Co3+、Cr3+、Rh3+、Ir3+、Pt2+、Ru2+、Ru3+、La3+、Eu3+、Os2+、Pd4+、Mo3+、Fe3+、Ru2+、Gd3+、Tc3+、Re3+、Sm3+、Tb3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Dy3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、Yb3+、Lu3+、V2+、Mn4+およびFe2+からなる群から選択することができる。当業者であれば、これらの金属カチオンが非常に低い水リガンド交換速度を特徴とすることを知っている。本発明者らは、低い水リガンド交換速度を有する特にそのような金属カチオンが、本発明の錯体を標的分子と共にインキュベートすることによって形成される生成物錯体中で標識および/または担体含有金属カチオンキレート化ドメインと、標的分子との相互作用を媒介するための有用な金属カチオンであることを見出した。これは、これらの金属が、熱力学的に安定であり、速度論的に不活性である生成物錯体中での非常に安定な相互作用を容易にするためである。
【0046】
好ましい実施形態では、金属カチオンは、Pt4+、Co3+、Cr3+、Rh3+、Ir3+、Ir4+、Pt2+、Pd4+、Mo3+、Fe3+、Gd3+、Tb3+、Eu3+、Ru2+、La3+、Ru3+、Re3+、Re4+、Os2+、V2+、Mn4+およびFe2+からなる群から選択される。これらの金属カチオンは、10-1s-1以下の水リガンド交換速度を有する、および/または速度論的に不活性な金属カチオンであることが文献中に記載されている:Co3+(LippardおよびBerg、1994)、Cr3+(HelmおよびMerbach、2002;HelmおよびMerbach、1999)、Rh3+(Aebischerら、1993;HelmおよびMerbach、1999)、Ir3+(Cusanelliら、1996;HelmおよびMerbach、1999)、Ir4+(Saitoら、1990)、Pt2+(Helmら、1984;HelmおよびMerbach、1999)、Pt4+(Giandomenicoら、1995)、Pd4+(Saitoら、1990)、Mo3+(Saitoら、1990)、Fe3+(Harringtonら、2018)、Gd3+(Caravanら、2001)、Tb3+(Junkerら、2018)、Eu3+(MorrowおよびChin、1993)、Ru2+(Hugi-Clearyら、1987;HelmおよびMerbach、1999)、La3+(MorrowおよびChin、1993)、Ru3+(Hugi-Clearyら、1987;HelmおよびMerbach、1999)、Re3+(HouseおよびHouse、2015)、Re4+(Saitoら、1990)およびOs2+(Livingstone、1973)、V2+(HouseおよびHouse、2015)、Mn4+(HouseおよびHouse、2015)、Fe2+(HouseおよびHouse、2015)。かくして、これらの金属カチオンは、標的分子との同様に安定な生成物錯体を形成することができ、標識および/または担体が標的分子に安定的に結合することが妥当である。
【0047】
本発明の文脈では、「速度論的に不活性な金属カチオン」は、10-1s-1以下の水リガンド交換速度を有する金属カチオンと理解される。この定義およびカットオフはまた、文献(Taube、1952;Luther III、2016)中でのこの表現の一般的な理解に従う。水交換速度を測定するための好ましい方法は、本明細書の他の箇所に記載される。
【0048】
金属錯体中のリガンド、例えば、本明細書で使用される「生成物錯体」中の標的分子の結合の文脈で使用される場合の「速度論的に不活性」は、好ましくは、水性溶液中のリガンド交換速度が10
-1s
-1以下、さらにより好ましくは、10
-2s
-1以下であることを意味する。リガンド交換速度を測定するための方法は当業界で公知である。例えば、水交換速度を測定するための本明細書の他の箇所に記載される方法を、変更すべきところは変更して使用することができる。本発明による「生成物錯体」中の標的分子の結合のリガンド交換速度を決定するため、および/または速度論的不活性を評価するためのアッセイは、添付の実施例および図面(例えば、
図1、6および7Bを参照されたい)に記載のように、競合リガンド(イミダゾールもしくはEDTAなど)および/または還元剤(例えば、DTT)との競合を測定することを含んでもよい。標的分子の錯体(すなわち、「生成物錯体」)への結合の「速度論的不活性」を評価するための好ましいアッセイを、実施例5に記載の例示的方法によって評価することができる。具体的には、アガロースビーズに連結されたNTAとの[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体を、本明細書ならびに添付の実施例および図面に記載のように生成することができる。続いて、このビーズに結合した[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体を、標的分子と共にインキュベートして、アガロースビーズ上に固定された[Co(III)(NTA)(標的タンパク質)]「生成物錯体」を形成させることができる。続いて、[Co(III)(NTA)(標的タンパク質)]錯体の化学的安定性を、等量の生成されたアガロースビーズをPBS(=対照)またはイミダゾール溶液(250mMイミダゾールを添加したPBS)(=試料)で洗浄することによって評価することができる。必要に応じて、従来のNi
2+-NTAに基づくマトリックスを、比較として用いることができる。次いで、結合した標的分子の量を、全ての試料について評価することができる(必要に応じて、洗浄の前後に)。同様に、添付の実施例21に記載の手法を使用することができる。具体的には、アガロースビーズに連結されたNTAとの[Pt(IV)(NTA)(NO
3)]
-錯体を、本明細書ならびに添付の実施例および図面に記載のように生成することができる。続いて、このビーズに結合した[Pt(IV)(NTA)(NO
3)]
-錯体を、標的分子と共にインキュベートして、アガロースビーズ上に固定された[Pt(IV)(NTA)(標的タンパク質)]「生成物錯体」を形成させることができる。続いて、[PT(IV)(NTA)(標的タンパク質)]錯体の化学的安定性を、等量の生成されたアガロースビーズをHEPESに基づく緩衝剤(=対照)またはイミダゾール溶液(250mMイミダゾールを添加したHEPESに基づく緩衝剤)(=試料)で洗浄することによって評価することができる。必要に応じて、従来のNi
2+-NTAに基づくマトリックスを、比較として用いることができる。次いで、結合した標的分子の量を、全ての試料について評価することができる(必要に応じて、洗浄の前後に)。標的分子の存在(すなわち、読出し)を決定するための方法は、標的分子の特性に依存し、当業界で公知である。例えば、アッセイは、蛍光測定(例えば、標的分子が蛍光性である場合)を含んでもよい。非蛍光性標的分子については、標的分子を検出する蛍光抗体を、読出しのために使用することができる。読出しのための別の例は、標的分子が酵素である場合、または標的分子に対する酵素標識抗体を使用する場合、酵素反応の使用である。本発明の文脈では、標的分子リガンドは、好ましくは、250mMのイミダゾールで洗浄されたビーズ(=試料)が洗浄後に、PBSで洗浄されたビーズ(=対照)に結合した標的分子の量と比較して、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、好ましくは、約85%、さらにより好ましくは、少なくとも約90%、さらにより好ましくは、約95%、最も好ましくは、少なくとも約99%の標的分子を含有する場合、「生成物錯体」中の「速度論的に不活性」な結合であることがわかる。
【0049】
一実施形態では、金属カチオンは、Co3+またはCr3+であってもよい。
特に好ましい実施形態では、金属は、Co3+である。添付の実施例に示されるように、Co3+は、本発明の錯体の迅速かつ容易な生産にとって特に好適であり、それを可能にし、標的分子への速度論的に不活性な結合を確保する。
【0050】
別の特に好ましい実施形態では、金属は、Pt4+である。添付の実施例に示されるように、Pt4+は、本発明の錯体の迅速かつ容易な生産にとって特に好適であり、それを可能にし、標的分子への速度論的に不活性な結合を確保する。
【0051】
本発明はまた、金属カチオンがCo3+であり、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドがNTA(またはその誘導体)である錯体に関する。
本発明はまた、金属カチオンがCo3+であり、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドがIDA(またはその誘導体)である錯体に関する。
【0052】
本発明はまた、金属カチオンがCo3+であり、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドがTalon(またはその誘導体)である錯体に関する。
本発明はまた、金属カチオンがPt4+であり、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドがNTA(またはその誘導体)である錯体に関する。
【0053】
本発明はまた、金属カチオンがPt4+であり、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドがTalon(またはその誘導体)である錯体に関する。
本発明はまた、金属カチオンがPt4+であり、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドがIDA(またはその誘導体)である錯体に関する。
【0054】
したがって、本発明は、
a)Co3+;
b)CO3
2-およびHCO3
-から選択される炭酸イオンまたは硝酸イオンである金属カチオンリガンド;ならびに
c)NTAと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体(例えば、標識および/または担体を標的分子に結合させるための錯体)に関する。
【0055】
本発明はまた、
a)Co3+;
b)CO3
2-またはHCO3
-リガンド;ならびに
c)NTAと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体(例えば、標識および/または担体を標的分子に結合させるための錯体)に関する。
【0056】
本発明はまた、
a)Co3+;
b)NO3
-リガンド;ならびに
c)NTAと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体(例えば、標識および/または担体を標的分子に結合させるための錯体)に関する。
【0057】
本発明はまた、
a)Co3+;
b)NO3
-リガンド;ならびに
c)Talonと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体(例えば、標識および/または担体を標的分子に結合させるための錯体)に関する。
【0058】
本発明はまた、
a)Co3+;
b)NO3
-リガンド;ならびに
c)IDAと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体(例えば、標識および/または担体を標的分子に結合させるための錯体)に関する。
【0059】
本発明はまた、
a)Pt4+;
b)NO3
-リガンド;ならびに
c)NTAと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体(例えば、標識および/または担体を標的分子に結合させるための錯体)に関する。
【0060】
本発明はまた、
a)Pt4+;
b)NO3
-リガンド;ならびに
c)Talonと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体(例えば、標識および/または担体を標的分子に結合させるための錯体)に関する。
【0061】
本発明はまた、
a)Pt4+;
b)NO3
-リガンド;ならびに
c)IDAと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体(例えば、標識および/または担体を標的分子に結合させるための錯体)に関する。
【0062】
一実施形態では、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)であり、金属カチオンは、Gd3+、In3+、およびFe3+から選択される。一実施形態では、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、タンニン酸(TA)であり、金属カチオンはCo3+である。一実施形態では、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドはジピリジルアミン(DPA)であり、金属カチオンはCo3+である。一実施形態では、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、1,4,7-トリアザシクロノナンホスフィン酸(TRAP)であり、金属カチオンはGa3+である。一実施形態では、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、エチレンジシステインであり、金属カチオンはRe3+またはTc3+である。一実施形態では、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、トリエチレンテトラアミン六酢酸(TTHA)であり、金属カチオンは、Gd3+、In3+、およびFe3+からなる群から選択される。一実施形態では、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)であり、金属カチオンはIn3+である。一実施形態では、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドは、1-(1,3-カルボキシプロピル)-1,4,7-トリアザシクロノナン-4,7-二酢酸(NODAGA)であり、金属カチオンはIn3+である。
【0063】
本発明の錯体の金属カチオンリガンド(第2のリガンドと称してもよい)は、炭酸イオンCO3
2-およびHCO3
-または硝酸イオンから選択される。本発明者らは、これらの金属カチオンリガンドを使用することが標的分子の配位を容易にすることを見出した。これは、標的分子との錯体からの炭酸イオンまたは硝酸イオンのより迅速かつより容易な交換によって達成される。炭酸イオンおよび硝酸イオンは両方とも、錯体からの遊離後にプロトン化され得る。このプロトン化は、錯体からの遊離を容易にする。
【0064】
好ましい実施形態では、金属カチオンリガンドは、硝酸イオンである。硝酸イオンは、標的分子との生成物錯体の形成を容易にすることが、添付の実施例において示される。換言すれば、本発明の錯体は、標識および/または担体の標的分子への結合に関してより反応性である。
【0065】
特定の実施形態では、本発明の錯体は、[Co(III)(NTA)CO3]2-錯体、[Co(III)(NTA)HCO3]-錯体またはその水和物を含む。標識および/または担体は、NTAに結合される。これらの錯体において、4個の配位部位がNTAによって占有され、2個が炭酸イオンによって占有される。炭酸イオンは、2座リガンドである、すなわち、ドナー(すなわち、ルイス塩基)として錯体中の金属カチオンに配位することができる2個の原子を有し、標的分子の結合を容易にする。NTAは、その4座結合のため、金属カチオンの特に強力な結合を示すキレーターである。かくして、NTAは、望ましくない金属カチオン遊離による望ましくない錯体および生成物錯体の分解を防止する。
【0066】
好ましい実施形態では、本発明の錯体は、[Co(III)(NTA)NO3]-錯体またはその水和物を含む。別の好ましい実施形態では、本発明の錯体は、[Co(III)(IDA)NO3]錯体またはその水和物を含む。
【0067】
別の好ましい実施形態では、本発明の錯体は、[Pt(VI)(NTA)NO3]-錯体またはその水和物を含む。別の好ましい実施形態では、本発明の錯体は、[Pt(VI)(IDA)NO3]錯体またはその水和物を含む。
【0068】
本発明の錯体の金属カチオンキレート化ドメインは、標識および/または担体を含む。換言すれば、本発明の錯体は、機能的部分を含む。標識および/または担体は、キレート化リガンドの配位基とは異なる、すなわち、同じ原子を共有しないのが好ましい。しかしながら、一部の実施形態では、キレート化リガンドならびに標識および/または担体はまた、1つまたは複数の原子を共有してもよい。
【0069】
本発明の錯体の金属カチオンキレート化ドメインは、キレート化リガンドおよび標識を含んでもよいが、担体を含まない。あるいは、本発明の錯体の金属カチオンキレート化ドメインは、キレート化リガンドおよび担体を含んでもよいが、標識を含まない。別の実施形態では、本発明の錯体の金属カチオンキレート化ドメインは、担体および標識を含んでもよい。
【0070】
特定の実施形態では、金属カチオンキレート化ドメインは、キレート化リガンドと標識および/または担体との間にリンカーをさらに含んでもよい。そのようなリンカーは、錯体形成を容易にする、ならびに/または標識および/もしくは担体とキレート化リガンドとの間の規定の距離を確立することができる。リンカーは、原理的には、標識/担体を、所望の距離でキレート化リガンドに共有的に連結するのに好適な任意の化学基であってもよい。当業者であれば、環境および意図される使用の条件に対する結合の抵抗性に関する必要性に従ってリンカーを選択することができる。リンカーは、例えば、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)リンカー、負荷電スルホン基、ポリエチレングリコール(PEG)、ピロリン酸ジエステル、ペプチドに基づくリンカー(例えば、Val-Cit-PABCもしくはVal-Ala-PABC(式中、CitはL-シトルリンを指し、PABCはp-アミノベンジルオキシカルボニルを指す)などのカテプシンB応答性リンカー)、ヒドラゾン、ジスルフィド含有リンカー、チオエーテル含有リンカー、ベータ-グルクロニドまたはそれらの組合せを含んでもよい。一実施形態では、リンカーは、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)リンカー、負荷電スルホン基、ピロリン酸ジエステル、ペプチドに基づくリンカー(例えば、Val-Cit-PABCもしくはVal-Ala-PABCなどのカテプシンB応答性リンカー)、ヒドラゾン、ジスルフィド含有リンカー、チオエーテル含有リンカー、ベータ-グルクロニド、核酸リンカー(好ましくは、DNA)またはそれらの組合せからなってもよい。抗体-薬物コンジュゲート(ADC)リンカーは、当業界で公知である。本発明の文脈において用いることができる例示的なADCリンカーは、例えば、TsuchikamaおよびAn、2018、ADC_Review 2019;および/またはJainら、2015に記載されており、それらは全て、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。負荷電スルホン基に基づくリンカーも、当業界で公知である。本発明の文脈で用いることができる負荷電スルホン基を有する例示的リンカーは、その全体が参照により本明細書に組み込まれるZhaoら、2011に記載されている。PEGリンカーは、当業界で公知である。本発明の文脈で用いることができる例示的PEGリンカーは、その全体が参照により本明細書に組み込まれるLyonら、2015に記載されている。ピロリン酸ジエステルリンカーは、当業界で公知である。本発明の文脈で用いることができる例示的なピロリン酸ジエステルリンカーは、その全体が参照により本明細書に組み込まれるKernら、2016に記載されている。ペプチドに基づくリンカー(例えば、Val-Cit-PABCまたはVal-Ala-PABCなどのカテプシンB応答性リンカー)は、当業界で公知である。本発明の文脈で用いることができる例示的なペプチドに基づくリンカー(例えば、Val-Cit-PABCまたはVal-Ala-PABCなどのカテプシンB応答性リンカー)は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるDubowchikら、2002および/またはHartley、2011に記載されている。ヒドラゾンリンカーは、当業界で公知である。本発明の文脈で用いることができる例示的なヒドラゾンは、その全体が参照により本明細書に組み込まれるTolcherら、1999に記載されている。ジスルフィド含有リンカーは、当業界で公知である。本発明の文脈で用いることができる例示的なジスルフィド含有リンカーは、その全体が参照により本明細書に組み込まれるSaitoら、2003に記載されている。チオエーテル含有リンカーは、当業界で公知である。本発明の文脈で用いることができる例示的なチオエーテルリンカーは、その全体が参照により本明細書に組み込まれるStentonら、2018に記載されている。ベータ-グルクロニドリンカーは、当業界で公知である。本発明の文脈で用いることができる例示的なベータ-グルクロニドリンカーは、その全体が参照により本明細書に組み込まれるJeffreyら、2010に記載されている。DNAリンカーなどの核酸リンカーは、当業界で公知である。
【0071】
金属カチオンキレート化ドメインの標識は、フルオロフォア、診断剤、標的化部分、治療剤、ポリエチレングリコール(PEG)分子、脂質、ビオチン(および/または例えば、フォトビオチン:N-(4-アジド-2-ニトロフェニル)-アミノプロピル-N’-(N-d-ビオチニル-3-アミノプロピル)-N’-メチル-1,3-プロパンジアミン(Fosterら、1985)などのその誘導体)、タンパク質(例えば、抗体)、ペプチドまたは毒素を含むか、またはそれからなってもよい。標識はまた、好ましくは、クリック化学にとって好適なチオール基または反応基から選択される反応基を含むか、またはそれからなってもよい。クリック化学にとって好適な反応基の非限定例は、アジド、アルキン、ニトロン、テトラジンおよびテトラゾールである。本明細書の他の箇所に記載される用語「誘導体」の定義は、変更すべきところは変更して適用される。
【0072】
標識は、直接検出することができる機能的部分(蛍光、発色、高電子密度、化学発光、および放射活性標識など)、ならびに間接的に、例えば、酵素反応または分子相互作用を介して検出される、酵素またはリガンドなどの部分を含んでもよい。
【0073】
例示的な標識としては、限定されるものではないが、放射性同位体32P、14C、125I、3H、および131I(好ましくは、これらの原子は、キレート化リガンドの一部を形成しない)、フルオロフォア、フルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、例えば、ホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ、例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、およびグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、HRPなどの色素前駆体を酸化するために過酸化水素を用いる酵素とカップリングした、ウリカーゼおよびキサンチンオキシダーゼなどの複素環オキシダーゼ、ラクトペルオキシダーゼ、またはミクロペルオキシダーゼ、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリアファージ標識、安定フリーラジカルなどが挙げられる。別の実施形態では、標識は、陽電子放射体である。陽電子放射体としては、限定されるものではないが、68Ga、18F、64Cu、86Y、76Br、89Zr、および124Iが挙げられる。特定の実施形態では、陽電子放射体は、89Zrである。
【0074】
一実施形態では、前記標識は、酸化試薬(好ましくは、H2O2)処理に対して感受性である標識である。この文脈での「酸化試薬に対して感受性」とは、標識が、酸化剤処理後に機能/活性(例えば、フルオロフォアの場合、蛍光)および/または安定性の低下を示すことを意味する。好ましくは、酸化剤処理は、20mM H2O2溶液を用いた処理であり、標識は、少なくとも0.5時間、1時間、2時間または24時間の処理後に感受性である。酸化剤に対する感受性の好ましい試験においては、インキュベーションを、少なくとも1時間、例えば、WegnerおよびSpatz、2013に酸化ステップとして記載されたように、正確に1時間にわたって20mM H2O2溶液中で実施することができる。あるいは、この試験を、少なくとも90分、例えば、ZatloukalovaおよびKucerovaの酸化ステップについて記載されたように、正確に90分にわたって0.05%(v/v)のH2O2溶液中で行うことができる。試験を短縮するために、当業者であれば、1%(v/v)のH2O2などの、より高いH2O2濃度を有する溶液を使用することもできる。H2O2感受性を評価するために使用することができる時間経過実験を含む、好ましいH2O2濃度およびインキュベーション時間は、添付の実施例に記載される。酸化剤感受性を測定するためのアッセイは、処理の前および処理中の様々な時点での、酸化剤(例えば、H2O2)を含む溶液(好ましくは、水性溶液、さらにより好ましくは、水中の望ましい酸化剤濃度で)とのインキュベーションおよび標識の機能/活性および/または安定性を示す読出しの測定(例えば、フルオロフォアの場合、放射される蛍光を測定する)を含む。標識は、読出し測定が標識の機能/活性および/または安定性の喪失を示す場合、「酸化感受性」であると考えられる。標識の機能/活性および/または安定性の喪失を評価するための好ましい時点は、使用され、上記の酸化剤の存在下でCo2+をCo3+に酸化するのに必要とされる時間である。H2O2感受性を評価する場合、H2O2の好ましい濃度およびインキュベーション時間は、上のこの一節に示されたものである。フルオロフォア標識の酸化感受性を試験するための例示的な方法は、添付の実施例に記載される。当業者であれば、使用される標識に応じてこのアッセイを改変し、H2O2濃度およびインキュベーション時間としてパラメーターを適合させることができる。
【0075】
一実施形態では、標識は、フルオロフォアを含むか、またはそれからなってもよい。フルオロフォアは、当業界で公知であり、公共的および/または商業的に利用可能である。また、フルオロフォアを金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドにカップリングするための方法も、当業界で公知である。添付の実施例によって示されるように、多くのフルオロフォア(例えば、フルオレセイン、FITC、Atto488およびAlexa488)は、H2O2処理に対して感受性である。この感受性は、本発明の錯体を、標識としてのフルオロフォアの文脈における使用にとって特に好適なものにする。しかし、この利点は、フルオロフォアに限定されない。一実施形態では、金属結合ドメインは、標識としてフルオロフォアを含んでもよく、キレート化リガンドはNTAであってもよい。一実施形態では、金属結合ドメインは、標識としてフルオロフォアを含んでもよく、キレート化リガンドはIDAであってもよい。
【0076】
一実施形態では、フルオロフォアは、フルオレセイン、FITC、Atto488およびAlexa488であってもよい。添付の実施例で示されるように、これらのフルオロフォアは、H2O2処理に対して感受性である。
【0077】
一実施形態では、本発明の錯体と、より具体的には、標識および/または担体は、Shaoら(Shaoら、2015)によって記載されたポルフィリンリン脂質ではないか、またはそれを含まなくてもよい。
【0078】
本発明の文脈における用語「標識」は、金属カチオンキレート化ドメインのキレート化リガンドの一部である水素原子などの単一原子を含まない。好ましくは、標識は、少なくとも2個の原子、少なくとも3個または少なくとも10個の原子を含む構造に関する。
【0079】
好ましくは、標識は、機能的部分および/または当業界で公知の方法(例えば、NMR、蛍光測定、酵素アッセイなど)を用いて検出することができる部分である。
上記のように、金属結合ドメインは、担体を含んでもよい(必要に応じて、標識に加えて)。本発明による担体の非限定例は、ポリマー、ヒドロゲル、マイクロ粒子、ナノ粒子、スフィア(例えば、ナノまたはマイクロスフィア)、ビーズ(例えば、マイクロビーズ)、量子ドット、人工物および固体表面である。一実施形態では、担体は、ナノパターン化金表面を含むか、またはそれであってもよい。そのようなナノパターン化金表面を、チオール残基で官能化してもよい。
【0080】
当業者であれば、キレート化リガンドと担体とを含む金属結合ドメインを形成するために担体上にキレート化リガンドを結合/固定する技術を知っている。例えば、キレート化リガンドがアミノポリカルボン酸(例えば、NTA)である場合、キレート化リガンドを、例えば、少なくとも1個のカルボン酸基またはアミノ基を介して、固相に共有結合させることができる。別の実施形態では、キレート化リガンドを、アミドまたはエステル結合を介して担体に連結することができる。
【0081】
好ましい実施形態では、担体は、アガロースビーズなどのビーズ(例えば、マイクロビーズ)である。したがって、本発明は、本発明の錯体(標識および/または担体を含まない)が結合したビーズ(例えば、マイクロビーズ)に関する。これらのビーズを、親和性マトリックスと称することもできる。本発明の錯体を含むそのようなビーズは、標的分子をビーズに結合させる(すなわち、標的分子をビーズに固定する)ためのすぐに使える試薬である。
【0082】
したがって、本発明は、
a)Co3+;
b)CO3
2-およびHCO3
-から選択される炭酸イオンまたは硝酸イオンである金属カチオンリガンド;ならびに
c)NTAとビーズとを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体(例えば、標的分子をビーズに結合させるための錯体)に関する。
【0083】
好ましくは、本発明は、
a)Co3+;
b)金属カチオンリガンドとしての硝酸イオン;および
c)NTAとビーズとを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体(例えば、標識および/または担体を標的分子に結合させるための錯体)に関する。
【0084】
より好ましくは、本発明は、
a)Pt4+;
b)金属カチオンリガンドとしての硝酸イオン;ならびに
c)NTAとビーズとを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体(例えば、標識および/または担体を標的分子に結合させるための錯体)に関する。
【0085】
そのような錯体を、添付の実施例に記載のように生成することができる。例えば、NTAアガロース樹脂(Qiagen、1022963)を、10倍ビーズ容量のddH2Oで1回、3倍ビーズ容量の100mM EDTA pH7.5で1回、10倍ビーズ容量のddH2Oで3回洗浄することができる。続いて、1M NaHCO3中の、10倍ビーズ容量の1mM Na3[CO(III)(CO3)3]・3H2OまたはK3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oを、ビーズに添加することができる。1100rpmで振とうする23℃でのサーモシェーカー中で48時間インキュベートした後、ビーズを、10倍ビーズ容量のddH2Oで2回、10倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤(50mM Tris pH7.4、150mM NaCl)で1回洗浄することができる。最後に、ビーズを収集して(例えば、遠心分離によって)、担体としてのビーズに結合した錯体を得ることができる。
【0086】
添付の実施例に示されるように、理論によって束縛されるものではないが、本発明の錯体を形成させるための、金属カチオン、金属カチオンリガンドおよび金属カチオンキレート化ドメインのインキュベーション時間は、本発明の錯体の標的分子との後の会合に影響し得る。本発明の錯体の形成のためのインキュベーション時間は、本発明の文脈では、「錯体形成時間」である。本発明の錯体と標的分子とのインキュベーション時間は、本発明の文脈では、「錯体-標的インキュベーション時間」である。非限定例18は、例えば、錯体形成時間が10分である場合、同じ錯体-標的インキュベーション時間であるが、48時間の錯体形成時間を用いた場合と比較して、30分の錯体-標的インキュベーション時間後に、実質的により多くの標的分子(すなわち、His
6-GFP)が、本発明の錯体に結合することを示す(
図20B)。しかしながら、錯体-標的インキュベーション時間が延長される場合(例えば、48時間に)、His
6-GFPの本発明の錯体への効率的な結合が回復される(例えば、
図10を参照されたい)。当業者であれば、必要に応じて対応するインキュベーション時間を容易に適合させる立場にある。
【0087】
さらに、添付の実施例は、錯体形成時間と、錯体-標的インキュベーション時間との両方が、得られる生成物錯体の安定性、すなわち、本発明の錯体と、標的分子との間の安定正に影響することを示す。実施例18は、錯体形成時間が10分であり、錯体-標的インキュベーション時間が30分である場合、標的分子は、本発明の錯体に効率的に結合するが、生成物錯体の画分だけが速度論的に不活性である、すなわち、イミダゾール処理に対して抵抗性であることを示す(
図20B)。速度論的に不活性な生成物錯体の画分は、1つのインキュベーション時間、すなわち、錯体形成時間または錯体-標的インキュベーション時間が延長される(例えば、48時間に)場合に増加する。
【0088】
また、非限定例18によって示されるように、10分の錯体形成時間と、48時間の錯体-標的インキュベーション時間との組合せは、高い画分の安定な生成物錯体をもたらす。さらに、48時間の錯体形成時間と、30分の錯体-標的インキュベーション時間との組合せは、安定な生成物錯体をもたらす(例えば、実施例10、
図11を参照されたい)。上で考察されたように、48時間の錯体形成時間は、標的分子の本発明の錯体への結合効率の低下をもたらし得る。
【0089】
したがって、標的分子の性質に応じて、当業者であれば、好適なインキュベーション時間を選択する方法を知っている。標的分子は、例えば、インキュベーション中に変性または凝集する傾向が非常に高いが、速度論的に不活性な生成物錯体が必要である。かくして、必要に応じて、当業者であれば、得られる生成物錯体の量は減少し得るが、長い錯体形成時間(例えば、48時間)およびより短い錯体-標的インキュベーション時間(例えば、30分)を選択してもよい。添付の実施例18は、金属キレート化リガンドとしてNTAを用いて実施されたことに留意されたい。
【0090】
理論によって束縛されるものではないが、上記のインキュベーション時間の影響は、使用される金属キレート化リガンドに依存し得ることに留意されたい。例えば、添付の非限定例15では、金属キレート化リガンドとしてIDAが使用され、前記実施例は、高い画分の速度論的に不活性な生成物錯体が、2つの短いインキュベーション時間(すなわち、10分の錯体形成時間および30分の錯体-標的インキュベーション時間)についても形成されることを実証する。
【0091】
かくして、当業者であれば、インキュベーション時間が、それぞれ個々の金属キレート化リガンドについて決定する必要がある生成物錯体の安定性に対する影響を有し得ることを知っている。しかし、対応するインキュベーション時間のこの適合化は、関連する当業界の技術の範囲内にあり、本発明の教示および実験部分の実例およびその中に提供される科学的詳細を用いて難なく達成することができる。同様に、当業者であれば、速度論的に不活性な生成物錯体を得るために、pH、温度および緩衝剤系のようなさらなるパラメーターを容易に適合させることもできる。
【0092】
表1は、当業者が、生成物錯体の安定性および安定な、すなわち、速度論的に不活性な生成物錯体の収率に対するインキュベーション時間の効果を決定するのに役立ち得る。
例えば、中程度の安定性は、高い安定性、すなわち、高い画分の速度論的に不活性な生成物錯体をもたらすインキュベーション時間と比較して、より小さい画分の生成物錯体が速度論的に不活性であることを意味する。中程度の安定性はまた、ある特定の適用および技術分野にとって有用であり得る安定な生成物錯体の収率をもたらし得ることに留意されたい。無制限の量の標的分子が入手可能であり、短期間で安定な生成物錯体が必要とされる場合、当業者であれば、好ましくは、NTAが金属カチオンキレート化リガンドとして使用される場合、以下のプロトコール:
- 2つのより短いインキュベーション時間を選択する
- 得られる生成物錯体(例えば、ビーズに結合した)をイミダゾールで処理して、速度論的に不活性ではない生成物錯体を除去する
- イミダゾール処理に対して抵抗性である生成物錯体、すなわち、速度論的に不活性な生成物錯体を回収する(例えば、ビーズを回収することによって)
を指してもよい。
【0093】
当業者であれば、適用に応じて前記プロトコールを適合化させる方法をよく知っている。
表1をさらに使用して、錯体形成時間および錯体-標的インキュベーション時間を選択することができることが明らかである。
【0094】
したがって、表1に開示される時間を、本発明の錯体、本明細書に記載の方法および使用と組み合わせることができる。
したがって、本発明は、例えば、
a)金属カチオン;
b)CO3
2-またはHCO3
-である金属カチオンリガンド;ならびに
c)キレート化リガンドと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体であって、錯体形成時間が約48時間である、錯体に関する。
【0095】
本発明はまた、
a)金属カチオン;
b)CO3
2-またはHCO3
-である金属カチオンリガンド;ならびに
c)キレート化リガンドと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体であって、錯体形成時間が約10分である、錯体に関する。
【0096】
さらに、本発明は、例えば、
a)金属カチオン;
b)金属カチオンリガンドとしてのNO3
-;ならびに
c)キレート化リガンドと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体であって、錯体形成時間が約48時間である、錯体に関する。
【0097】
本発明はまた、
a)金属カチオン;
b)金属カチオンリガンドとしてのNO3
-;ならびに
c)キレート化リガンドと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含む錯体であって、錯体形成時間が約10分である、錯体に関する。
【0098】
表1は、単に例示目的のものであり、いかなる意味でも本発明の範囲について限定するものではないことに留意されたい。
【0099】
【0100】
NTAのCo3+への結合を、インキュベーション中の、系へのエネルギーの導入/エネルギーへの曝露によって増強することができる。そのような系へのエネルギーの導入/エネルギーへの曝露は、様々な周波数での電磁気共鳴技術(例えば、NMR、x線、UV-Vis)、熱、超音波、またはプラズモン共鳴技術であってもよい。
【0101】
本発明の担体またはその表面を、アミノ基、カルボン酸基および/またはNHSエステルなどの活性化エステルでさらに官能化することができる。
担体を含む金属結合ドメインに関するさらなる非限定例は、WO2014/072525A1およびWO2003/072143に記載されており、それらはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0102】
第2の態様では、本発明は、本発明の錯体を含む組成物に関する。錯体に関して本明細書の他の箇所で言われることは、変更すべきところは変更して適用される。
組成物は、錯体に加えて、追加の化合物を含んでもよい。そのような化合物は、本明細書の他の箇所で特定されるように本発明の錯体を生産するために使用される化学的化合物であってもよい。組成物はまた、同じ金属カチオンを有するが、異なるリガンドを有する錯体などの、他の錯体を含んでもよい。組成物は、溶液または固体の形態にあってもよい。
【0103】
一実施形態では、本発明の組成物は、本発明の錯体と、HCO3
-またはCO3
2-とを含む溶液であってもよい。HCO3
-またはCO3
2-の存在は、錯体の金属カチオンリガンドの遊離を防止する、すなわち、錯体安定性を容易にする。HCO3
-またはCO3
2-は、好ましくは、金属カチオンリガンドも炭酸イオンである場合、溶液中で用いられる。硝酸イオンが金属カチオンリガンドとして用いられる場合、溶液は、HCO3
-またはCO3
2-よりもむしろ硝酸イオンを含んでもよい。
【0104】
組成物溶液中のHCO3
-またはCO3
2-の濃度は、少なくとも1mM、好ましくは、少なくとも10mM、最も好ましくは、1Mであってもよい。組成物溶液中の硝酸イオンの濃度は、少なくとも1mM、好ましくは、少なくとも10mM、最も好ましくは、1Mであってもよい。
【0105】
本発明者らは、本発明の錯体がまた、例えば、合成後に未精製である場合に、追加成分の存在下で、標識および/または担体を標的分子に結合させるための試薬としてその機能を実行することを見出した。したがって、本明細書に記載の本発明の錯体の使用、ならびに本明細書に記載される本発明の錯体を使用する方法を、変更すべきところは変更して、本発明の組成物を用いて行うことができる。当業者であれば、それぞれの使用または方法の効率および/または反応速度に負に影響し得る組成物中の成分を回避できるであろう。
【0106】
第3の態様では、本発明は、本発明の錯体を生産するための方法を提供する。生産方法は、(i)金属カチオン;(ii)金属カチオンリガンド、および(iii)金属カチオンキレート化ドメインを一緒にインキュベートするステップを含む。溶液中で(すなわち、溶媒、好ましくは、水性溶液の存在下で)これらの成分をインキュベートする間に、本発明の錯体は、難なく形成するであろう。上で考察されたように、前記インキュベーション時間は、本発明の文脈における「錯体形成時間」である。前記インキュベーションの時間は、本発明の文脈における「錯体形成時間」である。表1および添付の実施例は、当業者が好適な錯体形成時間を選択するのに役立ち得る。したがって、本発明はまた、(i)金属カチオン;(ii)金属カチオンリガンド、および(iii)金属カチオンキレート化ドメインを一緒にインキュベートするステップを含み、インキュベーション時間、すなわち、錯体形成時間が約48時間である、生産方法に関する。本発明はまた、(i)金属カチオン;(ii)金属カチオンリガンド、および(iii)金属カチオンキレート化ドメインを一緒にインキュベートするステップを含み、インキュベーション時間、すなわち、錯体形成時間が約1時間である、生産方法に関する。本発明はさらに、(i)金属カチオン;(ii)金属カチオンリガンド、および(iii)金属カチオンキレート化ドメインを一緒にインキュベートするステップを含み、インキュベーション時間、すなわち、錯体形成時間が約3.5時間である、生産方法に関する。さらに、本発明は、(i)金属カチオン;(ii)金属カチオンリガンド、および(iii)金属カチオンキレート化ドメインを一緒にインキュベートするステップを含み、インキュベーション時間、すなわち、錯体形成時間が約30分である、生産方法に関する。再度、他のインキュベーション時間は、当業者の日常的な技術のうちにある。
【0107】
金属カチオン、金属カチオンリガンドおよび金属カチオンキレート化ドメインに関して本明細書の他の箇所で言われることは、変更すべきところは変更して適用される。
好ましい実施形態では、金属カチオンおよび金属カチオンリガンドを、中性錯体、好ましくは、塩(例えば、固体または溶液として)の形態で提供することができる。中性錯体(例えば、塩)はまた、他の成分を含んでもよい。この実施形態では、インキュベーションとは、溶液中で中性錯体(例えば、塩)と、金属カチオンキレート化ドメインとを混合すること、および規定の時間にわたってこの混合物を維持することを意味する。中性錯体(例えば、塩)を使用する場合、方法は、中性錯体(例えば、塩)を生産するステップをさらに含んでもよい。必要に応じて、塩を、固体として誘導し、濾過および/または洗浄してもよい。
【0108】
インキュベーションを、少なくとも1分、少なくとも5分、少なくとも10分、少なくとも20分、少なくとも30分、少なくとも45分、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも3時間、少なくとも4時間、少なくとも5時間、少なくとも8時間、少なくとも10時間、少なくとも12時間、少なくとも15時間、少なくとも18時間、少なくとも24時間または少なくとも48時間にわたって行うことができる。換言すれば、錯体形成時間は、少なくとも1分、少なくとも5分、少なくとも10分、少なくとも20分、少なくとも30分、少なくとも45分、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも3時間、少なくとも4時間、少なくとも5時間、少なくとも8時間、少なくとも10時間、少なくとも12時間、少なくとも15時間、少なくとも18時間、少なくとも24時間または少なくとも48時間であってもよい(表1も参照されたい)。インキュベーション時間が長くなるほど、より多くの錯体が形成される。反応のいくつかの時点で、錯体形成の飽和を観察することができる。この飽和が観察される時点および形成される錯体の収率は、例えば、使用される成分の温度および濃度ならびに成分自体(例えば、緩衝剤の選択)に依存する。生産プロセスにとって、飽和への到達は必要ではないが、生産収率を増加させることができる。
【0109】
インキュベーションは、原理的には、反応に使用される溶媒が液体状態にある任意の温度で行うことができる。水性溶液または水を溶媒として使用する場合、温度を、0℃~99℃から選択することができる。好ましくは、温度は、使用される標識および/または担体の温度安定性に従って選択される。したがって、好ましい温度範囲は、例えば、2℃~42℃、4℃~37℃および4℃~25℃である。理論によって束縛されるものではないが、錯体の形成は、より高い温度によって容易になるため、標識および/または担体の安定性が負に影響されない限り、より高い温度が好ましい。当業者であれば、標識および/または担体の温度安定性の知識に応じて温度を選択することができる。
【0110】
金属カチオン、金属カチオンリガンドおよび金属カチオンキレート化ドメインを、本明細書の他の箇所に記載されるように、それぞれ個別に選択することができる。これらの成分の組合せまたは本明細書の他の箇所に記載されるそのサブセットに関する優先性は、変更すべきところは変更して適用される。
【0111】
本発明の錯体を生産するための方法は、錯体を収集するステップ、および/または精製するステップをさらに含んでもよい。上記のように、本発明の錯体はまた、特に、本発明の生産方法のインキュベーションステップによって生産される反応混合物を含む、他の化合物の存在下でその機能を実行する。しかし、ある特定の設定では、錯体の精製および/または単離が望ましい場合がある。洗浄は、好ましくは、1mM、好ましくは、10mM、さらにより好ましくは、100mM、最も好ましくは、1MのCO3
2-またはHCO3
-を含む溶液を用いて行われる。添付の実施例および図面に示されるように、そのような溶液を用いた本発明の錯体の洗浄は、本発明の錯体が標識および/または担体を標的分子(例えば、タンパク質)に結合させるために使用される場合、標識および/または担体の結合の改善をもたらす。理論によって束縛されるものではないが、1M CO3
2-またはHCO3
-を含む溶液で洗浄ステップを行うことは、CO3
2-またはHCO3
-リガンドが洗浄中に本発明の錯体から遊離するのを防止する。
【0112】
方法が担体を含む場合、精製および/または単離は、1つまたは複数の洗浄ステップを含んでもよい。次いで、最後の洗浄ステップ後に担体から洗浄緩衝剤を除去することによって、担体を単離することができる。例えば、ビーズが用いられる場合、ビーズを遠心分離によって沈降させ、上清を除去することができる。液体を流出させるが、担体に結合した錯体を保持する代替的なフィルターカラムを用いることができる。フィルターカラムは、沈降化および上清の吸引の使用と比較して洗浄ステップにおいて失われる担体(例えば、ビーズ)が少ないという利点を有する。
【0113】
標識が用いられる場合、精製方法は、標識を特異的に認識する親和性マトリックスを使用することを含んでもよい。親和性マトリックスに結合した後、錯体を1回または複数回洗浄して、遊離試薬を除去することができる。最後のステップにおいて、錯体を溶出させることができる。錯体の精製および単離は、さらに、またはあるいは、サイズ排除クロマトグラフィーまたはアニオンもしくはカチオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーをも含んでもよい。あるいは、WegnerおよびSpatz、2013に示されたように、標識されたタンパク質は、遊離Hisタグを有する非標識タンパク質と比較して、Ni2+-NTAとの相互作用の低下を示すか、相互作用を示さないため、Ni2+-NTA樹脂により、標識されたものを標識されていないものから分離することができる。
【0114】
特に、錯体が担体を含まず、Co3+が金属カチオンとして用いられる場合、本発明の錯体を精製するための方法を、当業界で記載された方法(例えば、Shibata M.、1983を参照されたい)によって行うこともできる。
【0115】
本発明の特定の錯体は、金属カチオンとしてCo3+を、金属カチオンリガンドとしてCO3
2-またはHCO3
-から選択される炭酸イオンを含む。本発明のこの好ましい錯体を生産するための方法は、塩の形態などの、対抗イオンとの中性錯体の形態でCo3+およびCO3
2-またはHCO3
-を提供するステップを含んでもよい。あるいは、Co3+およびCO3
2-またはHCO3
-を含む荷電錯体を、溶液中で提供することができる。好ましい実施形態では、中性錯体(および塩)は、ナトリウムトリス-カルボナトコバルト(III)三水和物(Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2O)またはカリウムトリス-カルボナトコバルト(III)三水和物(K3[Co(III)(CO3)3]・3H2O)から選択される。
【0116】
ナトリウムトリス-カルボナトコバルト(III)三水和物(Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2O)を、BauerおよびDrinkard(BauerおよびDrinkard、1960)により記載されたように合成することができる。簡単に述べると、50mlのddH2O中の0.1モル(29.1g)のCo(II)(NO3)・6H2O(Sigma;1.02554)と、10mlの30%過酸化水素(Riedel-de Haen;18312)との混合物を、50mlのddH2O中の0.5モル(=42.0g)の重炭酸ナトリウム(Merck;1.06329)の氷冷スラリーに撹拌しながら滴下添加することができる。次いで、混合物を、1時間にわたって連続撹拌しながら氷上でインキュベートすることができる。続いて、オリーブ色の生成物を濾過し、冷水、無水エタノールおよび乾燥エーテルのそれぞれで3回洗浄することができる。最後に、生成物を減圧下で一晩乾燥し、必要に応じて、窒素雰囲気中、-20℃で保存することができる。当業者であれば、使用される濃度および量を適合させることができる。生産の成功を、例えば、添付の実施例で用いられるように、NMRによって確認することができる。
【0117】
カリウムトリス-カルボナトコバルト(III)三水和物(K3[Co(III)(CO3)3]・3H2O)を、Shibata(Shibata、1983;Moriら、1956の適合化)によって記載されたように溶液中で合成することができる。簡単に述べると、24mlのddH2O中の0.1モル(24g)のCo(II)Cl2・6H2O(Honeywell;255599)と、40mlの30%過酸化水素との混合物を、70mlのddH2O中の0.7モル(70g)の重炭酸カリウム(Honeywell;237205)の氷冷スラリーに撹拌しながら滴下添加することができる。続いて、得られる緑色の溶液を濾過し(例えば、吸引による)、以下の実験のために直接使用することができる。当業者であれば、使用される濃度および量を適合させることができる。生産の成功を、例えば、添付の実施例で用いられるように、NMRによって確認することができる。
【0118】
形成させようとする錯体の金属カチオンリガンドがHCO3
-またはCO3
2-である場合、HCO3
-またはCO3
2-を含む溶液(好ましくは、緩衝化溶液)中でインキュベーションを実施することができる。好ましくは、HCO3
-またはCO3
2-は、少なくとも1mM、好ましくは、少なくとも10mM、最も好ましくは、1Mの濃度で提供される。インキュベーションは、形成させようとする錯体の金属カチオンリガンドがNCO3
-である場合、好ましくは、NO3
-を含む溶液(好ましくは、緩衝化溶液)中で実施される。好ましくは、NO3
-は、少なくとも1mM、好ましくは、少なくとも10mM、最も好ましくは、1Mの濃度で提供される。
【0119】
本発明の特定の錯体は、金属カチオンとしてPt4+を、金属カチオンリガンドとしてNO3
-を含む。前記錯体を、以下に記載されるように調製することができる。NTAで官能化されたアガロースビーズ(Qiagen;1022963)を、1)10倍ビーズ容量のddH2Oで、2)10倍ビーズ容量の100mM EDTA pH8.0で、3)10倍ビーズ容量のddH2Oで2回および10倍ビーズ容量の1M硝酸で1回、洗浄することができる。続いて、16倍ビーズ容量の、1M硝酸中の白金(IV)硝酸溶液(44mg/lのPt(IV))(Fisher Scientific;15407817)を添加することができる。1400rpm、25℃でサーモシェーカー中、10分にわたって試料をインキュベートした後、ビーズを、16倍ビーズ容量の1M硝酸で3回洗浄することができる。
【0120】
本発明の錯体を生産するための方法は、本発明の錯体の中心を形成する金属カチオンが、例えば、H2O2処理によって酸化される、標識および/または担体の存在下での酸化ステップを含まないのが特に好ましい。
【0121】
一態様では、本発明はさらに、
a)金属カチオン;
b)CO3
2-およびHCO3
-から選択される炭酸イオンまたは硝酸イオン、好ましくは、硝酸イオンである金属カチオンリガンド、ならびに
c)キレート化リガンドと標識および/または担体とを含む金属カチオンキレート化ドメイン
を含むキットに関する。
【0122】
金属カチオン、金属カチオンリガンドおよび金属カチオンキレート化ドメイン、キレート化リガンドならびに標識および/または担体に関して本明細書の他の箇所で言われることは、変更すべきところは変更して適用される。
【0123】
キットは、本発明の錯体を生産するためのキットであってもよく、すなわち、本発明の錯体を形成するために反応することができる成分を含んでもよい。別の実施形態では、集合した錯体がキットに含まれてもよい。
【0124】
特定の実施形態では、金属カチオンは、Co3+であり、キットは、金属カチオンと、ナトリウムトリス-カルボナトコバルト(III)三水和物(Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2O)またはカリウムトリス-カルボナトコバルト(III)三水和物(K3[Co(III)(CO3)3]・3H2O)の形態の金属カチオンリガンドとを含む。好ましくは、金属カチオンキレート化ドメインは、リガンドおよび/または担体にカップリングした、NTAを含む。このキットを用いれば、本発明による好ましいCo3+錯体を生成することができる。
【0125】
一態様では、キットの成分a)~c)を、実体として、例えば、本発明の錯体として提供しなくてもよい。
別の態様では、キットはまた、例えば、塩の形態で(例えば、本明細書の他の箇所に示される対抗イオンと共に;または溶液、例えば、本発明の組成物の文脈で定義されるような、例えば、NO3
-を含む溶液中で)、本発明の錯体として集合させた金属カチオン、金属カチオンリガンドおよび金属カチオンキレート化ドメインを含んでもよい。そのようなキットはさらに、好適な反応緩衝剤(好ましくは、本明細書の他の箇所で本発明の錯体を用いる方法および使用について記載される緩衝剤のいずれか)などの試薬を含んでもよい。必要に応じて、キットは、精製材料(例えば、ビーズ、アガロースビーズ)および/またはフィルターカラムをさらに含んでもよい。好ましい実施形態では、キットは、担体がビーズ(例えば、マイクロビーズ)である、本発明の錯体を含んでもよい。この実施形態では、錯体は、標的分子結合のためのすぐに使える親和性樹脂として提供される。
【0126】
上で説明した通り、本発明の錯体は、金属カチオン媒介性相互作用によって標識または担体を標的分子に結合させるのに特に有用である。本発明者らは、驚くべきことに、CO3
2-もしくはHCO3
-から選択される炭酸イオンまたは硝酸イオンの使用が、金属カチオンリガンドとして水を含む以前に使用された錯体と比較して、標的分子との錯体形成を容易にすることを見出した。当業界では、標識および/または担体を含まない[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体のみが記載された(DaviesおよびHung、1976;Visserら、2001)。しかし、これらの先行技術文献は、この錯体を、標識を用いて改変するための動機付けも、タンパク質(例えば、Hisタグ付タンパク質)などの標的分子を標識するためのこの錯体の使用についても提供しなかった。特に、これらの先行技術文献はまた、本発明者らによって見出された(添付の実施例を参照されたい)、標識および/または担体を標的分子に結合させる際の有利な特徴も示唆しなかった。
【0127】
第4の態様では、本発明は、錯体中に含まれる標識および/または担体を標的分子に結合させるための本発明の錯体の使用に関する。それにより、標識および/または担体の間の金属カチオン媒介性連結は、標的分子が、錯体の第1配位圏中の金属カチオンリガンドを置き換えることができるように、本発明の錯体を標的分子と接触させることによって達成される。金属カチオンリガンドはCO3
2-、HCO3
-および硝酸イオンから選択されるため、これは、本発明の錯体を用いて特に高い速度で達成される。添付の実施例において炭酸イオンCO3
2-および硝酸イオンについて例示されるように、これらの金属カチオンリガンドを、配位圏中の標的分子によって、特に、ルイス塩基として機能する2つの基を含む標的分子(例えば、Hisタグ付タンパク質)によって、容易に置き換えることができる。理論によって束縛されるものではないが、本発明の錯体の金属カチオンリガンドは、錯体からの遊離後にプロトン化され、次いで、錯体からのそれらの遊離および標的分子との交換を容易にすると考えられる。金属カチオンリガンドとしての炭酸イオンの場合、炭酸イオンのプロトン化は、金属カチオンリガンド遊離を容易にすることによって標的分子結合をさらに容易にする気体形成をもたらす。したがって、炭酸イオンCO3
2-およびHCO3
-は、本発明の文脈における好ましい金属カチオンリガンドである。別の特定の好ましい金属カチオンリガンドは、硝酸イオンである。添付の実施例は、硝酸イオンが標的分子によって容易に置き換えられることを実証する。
【0128】
したがって、本発明は、標識および/または担体を標的分子に結合させるための本発明の錯体または組成物の使用を提供する。本発明の標的分子は、核酸(例えば、DNA、RNAまたはヌクレオチドアナログから作製されるDNAもしくはRNAのアナログ)、ペプチドまたはタンパク質を含む。特に、本発明による標的分子は、核酸(例えば、DNA、RNAまたはヌクレオチドアナログから作製されるDNAもしくはRNAのアナログ)、ペプチドまたはタンパク質であってもよい。本発明の文脈における標的分子は、タンパク質またはペプチドを含むことが特に好ましい。同様に、標的分子がタンパク質またはペプチドであるのも特に好ましい。標的分子に含まれるタンパク質もしくはペプチドまたは標的分子を形成するタンパク質もしくはペプチドを、それらが金属錯体内のリガンド(ルイス塩基)として作用することができるように構成しなければならない。これは、分子が、1つまたは複数の部分;特に、リガンド/ルイス塩基として作用することができ、錯体の金属カチオンに配位することができるアミノ酸を含有しなければならないことを意味する。換言すれば、標的分子が、リガンドとしての標的分子を含む新しい錯体を形成するために本発明の錯体中の金属カチオンリガンドを交換することができるように、それを構成しなければならない。標的分子のリガンドが本発明の錯体中で金属カチオンリガンドを交換することができるかどうかを、例えば、以下のように、(i)本発明の錯体で官能化されたビーズの使用(そのようなビーズの調製を、添付の実施例に記載のように行うことができる);(ii)標的分子の添加(例えば、添付の実施例に記載のようなプロトコールに従う);(iii)ビーズと標的分子とのインキュベーション(好ましくは、4℃で少なくとも30分、少なくとも1時間、少なくとも3時間、少なくとも3.5時間、少なくとも24時間、好ましくは、48時間);(iv)ビーズと上清との分離;(v)標的特異的方法(例えば、蛍光に基づく、抗体検出、酵素試験、定量的質量分析など)による上清および/またはビーズ中の標的分子の分析によって試験することができる。錯体を含まない陰性対照を含有させるべきである。次いで、上清中の標的分子の量の減少および/またはビーズに結合した標的分子の量の増加を測定することによって、交換を検出することができる。
【0129】
好ましい実施形態では、標的分子のタンパク質またはペプチド(すなわち、標的分子に含まれる、または標的分子を形成する)は、配列[XnSm]k(式中、Xは、本発明の錯体の金属カチオンと配位する、すなわち、ルイス塩基として機能することができるアミノ酸の基から独立に選択されるそれぞれの位置にあり;Sは、アミノ酸の第1の基に含まれないアミノ酸であり(Sは、独立にそれぞれの位置にあるアミノ酸のこの一覧から選択される);nは、いずれの場合も独立に1~4であり;mは、いずれの場合も独立に0~6であり;kは、2~6(配列番号4~8を参照されたい)、好ましくは、2~5(配列番号4~7を参照されたい)である)の形態で少なくとも4個のアミノ酸残基を有する「金属カチオンリガンドアミノ酸モチーフ」を含み、「金属カチオンリガンドアミノ酸モチーフ」は、本発明の錯体の金属カチオンと配位することができるアミノ酸の基から選択される少なくとも4個、好ましくは、少なくとも6個、最も好ましくは、少なくとも8個を含む。「金属カチオンリガンドアミノ酸モチーフ」は、規則的な配列を有してもよい、すなわち、nおよびmは、出現するごとに、同じ値を有するか、または不規則な配列を有してもよい、すなわち、nおよびmは、異なる値を有してもよい。したがって、一実施形態では、標的分子は、配列番号4~8に定義されるアミノ酸配列のいずれかを含む、またはそれからなる「金属カチオンリガンドアミノ酸モチーフ」であって、本発明の錯体の金属カチオンと配位することができるアミノ酸の基から選択される少なくとも4個、好ましくは、少なくとも6個、最も好ましくは、少なくとも8個を含む、「金属カチオンリガンドアミノ酸モチーフ」を含んでもよい。アミノ酸モチーフ内で本発明の錯体の金属カチオンと配位することができる第1の基のアミノ酸の数が多いほど、金属錯体の結合強度および/または特異性が増大し得る、すなわち、標識および/または担体への結合が容易になり得る。
【0130】
「本発明の錯体の金属カチオンと配位することができるアミノ酸の基」は、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、リシン、プロリン、セリン、トレオニン、アスパラギン、アルギニン、セレノシステインおよびピロリシンからなってもよい。好ましくは、「本発明の錯体の金属カチオンと配位することができるアミノ酸の基」は、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸およびヒスチジンからなる。さらにより好ましくは、「本発明の錯体の金属カチオンと配位することができるアミノ酸の基」は、グリシン、トリプトファン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸およびヒスチジンからなる。これらのアミノ酸は、金属カチオンと錯体を形成することができる金属リガンドとして好適であることが公知である(Chinら、1999;McAuliffら、1966;Sugimoriら、1993;Sajadi、2010;BellおよびSheldrick、2014)。最も好ましくは、「本発明の錯体の金属カチオンと配位することができるアミノ酸の基」は、ヒスチジンからなる;すなわち、「X」はヒスチジンである。
【0131】
本明細書で使用される場合、「金属カチオンリガンドアミノ酸モチーフ」は、好ましくは、それが、リガンドとして「金属カチオンリガンドアミノ酸モチーフ」を含む新しい錯体を形成するために本発明の錯体中の金属カチオンリガンドを交換することができるように構成される。新しい錯体を形成するための金属カチオンリガンドとの交換を、標的分子について上記されたように試験することができる。
【0132】
ヒスチジンは、金属カチオン錯体についてよく研究されたリガンドであり、金属イオンおよびヒスチジンタグとの錯体形成は、タンパク質生化学の分野で、例えば、タンパク質を精製するか、またはそれを表面に結合させるために広く使用される。本発明の文脈では、標的分子(例えば、標的分子を形成するか、またはそこに含まれるタンパク質またはペプチド)は、配列[HnSm]k(式中、Hは、ヒスチジンであり、Sは、それぞれの位置で、ヒスチジンとは異なるアミノ酸残基、好ましくは、グリシンおよび/またはセリンおよび/またはトレオニンから独立に選択され、nは、いずれの場合も独立に1~4であり、mは、いずれの場合も独立に0~6であり、kは、2~6(配列番号9~13を参照されたい)、好ましくは、2~5(配列番号10~13を参照されたい)である)の形態で少なくとも4個のヒスチジン残基を含む「間隔のあるヒスチジンタグ」を含んでもよい。間隔のあるヒスチジンタグは、規則的な配列を有してもよい、すなわち、nおよびmは、出現するごとに、同じ値を有するか、または不規則な配列を有してもよい、すなわち、nおよびmは、異なる値を有してもよい。したがって、一実施形態では、標的分子は、配列番号9~13に定義されるアミノ酸配列のいずれかを含む、またはそれからなる間隔のあるヒスチジンタグを含んでもよく、「金属カチオンリガンドアミノ酸モチーフ」は、少なくとも4個、好ましくは、少なくとも6個、最も好ましくは、少なくとも8個のヒスチジン残基を含む。ポリヒスチジンタグ内のヒスチジンの数が多いほど、金属カチオン(例えば、Co3+)に対する結合強度および特異性が増大し得る。しかしながら、連続するヒスチジンが多すぎると、一部の場合、組換えタンパク質、例えば、大腸菌(E.coli)中で組換え発現されるタンパク質の発現レベルおよび溶解度が低下し得る。これらの問題は、グリシン、セリンまたはトレオニンを含む、短い間隔を有する連続するヒスチジンを中断させることによって、すなわち、間隔のあるヒスチジンタグを用いて克服することができる。
【0133】
特に好ましい実施形態では、標的分子は、Hisタグを含んでもよい。Hisタグは、2~14個、好ましくは、3~10個、さらにより好ましくは、4~8個の連続するヒスチジンまたはヒスチジン様残基を含むか、またはそれからなってもよい。一実施形態では、Hisタグは、少なくとも2個、好ましくは、少なくとも3個、好ましくは、少なくとも4個、好ましくは、少なくとも5個、最も好ましくは、少なくとも6個(例えば、2、3、4、5、6、7または8個)の連続するヒスチジンまたはヒスチジン様残基を含んでもよい。「ヒスチジン様」とは、イミダゾール基を含有する非天然アミノ酸誘導体を指す。特定の好ましい実施形態では、Hisタグは、少なくとも4個、好ましくは、少なくとも5個、最も好ましくは、少なくとも6個(例えば、4、5、6、7または8個)の連続するヒスチジン残基からなる。
【0134】
Hisタグは、天然タンパク質中に存在する配列ストレッチであってよいか、または組換えヒスチジンタグであってもよい。この文脈での「組換え」とは、Hisタグが、遺伝子操作によって、例えば、Hisタグを含む融合タンパク質が発現されるようにコード核酸配列を変更することによって、人工的に生成されることを意味する。
【0135】
Hisタグは、標的分子のN末端もしくはC末端に含まれるか、または内部配列ストレッチとして提供されてもよい。一部の実施形態では、Hisタグは、N末端およびC末端であってもよい。
【0136】
一実施形態では、本発明の標的分子は、少なくとも2個、好ましくは、少なくとも3個、好ましくは、少なくとも4個、好ましくは、少なくとも5個、最も好ましくは、少なくとも6個のヒスチジンまたはヒスチジン様残基が空間的に近接した状態にある3次元構造を有してもよい。この文脈での「空間的に近接した状態」は、それぞれの残基間の0~5オングストロームの距離を好ましくは意味する。2個の残基間の「距離」は、2個の個々の近隣のヒスチジン側鎖またはヒスチジン様側鎖の2個の最も近い窒素原子間の最短距離である。
【0137】
本発明の標的分子の非限定的な好ましい例は、医薬品、診断剤、研究剤、化粧品および/または環境処理のためのタンパク質(例えば、水処理のためのタンパク質)である。
標的分子の他の非限定的な好ましい例は、酵素、標的化タンパク質(例えば、抗体、ナノボディなど)、サイトカイン、輸送タンパク質(例えば、脂肪酸輸送のためのFABS)、貯蔵タンパク質(例えば、フェリチン)、機械的支持タンパク質(例えば、コラーゲン)、増殖因子、ホルモン(例えば、インスリンもしくはTSH)、インターフェロン、糖タンパク質、合成的に操作されたタンパク質またはその断片を含むか、またはそれからなる分子である。
【0138】
また、本発明の文脈で用いられる標的分子は、核酸であってもよい。核酸は、プリンおよびピリミジン塩基を含む。両方とも、本発明の金属カチオンと錯体を形成することができることが知られている。好ましくは、核酸は、少なくとも2個、好ましくは、少なくとも5個、さらにより好ましくは、少なくとも10個の塩基を含む。核酸は、DNA、RNA、LNAおよび当業界で公知の他の核酸誘導体を含む。最も好ましいのは、DNAである。特に、標的分子は、折り紙構造、すなわち、3次元の折畳みを有する核酸構造である。そのような折り紙構造は、典型的には、足場鎖とステープル鎖とを含むいくつかの核酸鎖の塩基対形成によって形成される。
【0139】
標的分子の標識化のための本発明の錯体または組成物の使用は、本発明の錯体の金属カチオンリガンドを標的分子と交換することによる、標識および/または担体の標的分子への結合を含む。前記交換は、本発明の錯体を標的分子と接触させることによって達成される。したがって、前記使用は、好ましくは、本発明の錯体を、溶液中で標的分子と接触させることを含む。
【0140】
したがって、一態様では、本発明は、本発明の錯体または本発明の錯体を含む組成物を、標的分子と共にインキュベートするステップを含む、標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法に関する。標的分子は、本明細書の他の箇所で定義される標的分子である。
【0141】
「インキュベートすること」は、錯体と標的分子とを、溶液中で混合し、混合物を規定の時間にわたって反応させることを意味する。錯体が標的分子と共にインキュベートされる時間は、本発明の文脈では「錯体-標的インキュベーション時間」である。表1および添付の実施例は、当業者が錯体-標的インキュベーション時間を選択するのに役立ち得る。したがって、本発明は例えば、錯体に含まれる標識および/または担体を標的分子に結合させるための本発明の錯体の使用であって、錯体-標的インキュベーション時間が約48時間であってもよい、使用に関する。本明細書に記載のように、錯体形成時間も、生成物錯体形成に対する影響を有し得る。また、本明細書に記載のように、錯体形成時間を、表1または添付の実施例に基づいて選択することができる。したがって、本発明は、例えば、錯体に含まれる標識および/または担体を標的分子に結合させるための本発明の錯体の使用であって、錯体形成時間が約48時間であり、錯体-標的インキュベーション時間が約3.5時間である、使用に関する。別の実証例では、本発明は、錯体に含まれる標識および/または担体を標的分子に結合させるための本発明の錯体の使用であって、錯体形成時間が約10分であり、錯体-標的インキュベーション時間が約48時間である、使用に関する。本発明はさらに、錯体に含まれる標識および/または担体を標的分子に結合させるための本発明の錯体の使用であって、錯体形成時間が約10分であり、錯体-標的インキュベーション時間が約30分である、使用に関する。本発明はまた、錯体に含まれる標識および/または担体を標的分子に結合させるための本発明の錯体の使用であって、錯体形成時間が約10分であり、錯体-標的インキュベーション時間が約3時間である、使用に関する。本発明はまた、錯体に含まれる標識および/または担体を標的分子に結合させるための本発明の錯体の使用であって、錯体形成時間が約48時間であり、錯体-標的インキュベーション時間が約1時間である、使用にも関する。
【0142】
錯体に含まれる標識および/または担体を標的分子に結合させるための本発明の錯体の使用の特定の実施形態では、金属キレート化リガンドはIDAであり、錯体形成時間は10分であり、錯体-標的インキュベーション時間は約30分である。
【0143】
錯体に含まれる標識および/または担体を標的分子に結合させるための本発明の錯体の使用の別の好ましい実施形態では、金属キレート化リガンドはIDAであり、錯体形成時間は10分であり、錯体-標的インキュベーション時間は約3時間である。
【0144】
標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法は、標識および/または担体が連結された標的分子を回収および/または精製するステップを含んでもよい。これは、標識および/または担体が結合した単離された標的分子を提供することである。
【0145】
方法が担体を結合させるステップを含む場合、担体が結合している標的分子の精製および/または単離を、担体を単離することによって達成することができる。例えば、固体担体が用いられる場合、ビーズを遠心分離によって沈降させ、上清を除去することができる。あるいは、液体を流出させるが、担体に結合した錯体を保持するフィルターカラムを用いることができる。必要に応じて、担体を緩衝剤溶液で洗浄して、不純物を除去することができる。
【0146】
一般的には、担体または標識が用いられるかどうかに関係なく、単離および/または精製を、クロマトグラフィーによって実施することができる。前記クロマトグラフィーは、担体および/または標識に結合される標的分子ならびに遊離標的分子ならびに本発明の錯体の間での分子サイズおよび形状の差異を使用するサイズ排除クロマトグラフィーを含むか、またはそれからなってもよい。
【0147】
標識および/または担体が結合した本発明による標的分子を精製するための方法は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2014/072525にも記載されている。
【0148】
一実施形態では、精製を、WO2014/072525に記載された従来のNi-NTAカラムを用いて実行することもできる。
本発明の錯体またはそれを含む組成物のインキュベーションを、異なるpH値を有する溶液中で行うことができる。しかし、標識および/または担体の標的分子への結合は、多様なpH値で行ってもよい。pH値が小さくなるほど、金属カチオンリガンド(すなわち、炭酸イオンまたは硝酸イオン)の遊離が容易になる。これは、遊離されるリガンドがプロトン化されるためである。炭酸イオンCO3
2-およびHCO3
-はさらに、それらがプロトン化される場合に遊離される気体を形成する。
【0149】
原理的には、pH値が低いほど、交換反応は容易になるが、インキュベーション中のpHは、典型的には、用いられる標的分子と適合する範囲で選択される。特に、タンパク質は、多くの場合、低すぎるか、または高すぎるpH値には感受性である。pHは、好ましくは、標的分子の安定性(例えば、タンパク質の3次元フォールディングおよび/またはタンパク質の生物学的機能)が維持されるように選択される。しかし、pHは依然として好ましくは、リガンド交換、すなわち、標識および/または担体の標的分子への結合を容易にする標的分子のpH安定性範囲の下端で選択される。当業者であれば、異なるpH値でのタンパク質の安定性および機能を試験するためのアッセイを知っている。
【0150】
好ましい実施形態では、本発明の錯体の標的分子とのインキュベーション中のpHは、4.0~9.5、好ましくは、5.5~8.0である。これらのpH範囲では、多くの標的分子、特に、多くのタンパク質は安定および/または機能的である。
【0151】
金属カチオンリガンドと、標的分子との交換は、典型的には、短時間で起こる。かくして、必要とされる結合効率および使用される標的分子に応じて、本発明に従って標識および/または担体を結合させるための方法のインキュベーションステップを、わずか少なくとも約10秒、好ましくは、少なくとも約1分、最も好ましくは、少なくとも約10分の短さで行うことができる。好ましい実施形態では、インキュベーションは、少なくとも約30分、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約3時間、少なくとも約4時間、少なくとも約5時間、少なくとも約7時間、少なくとも約9時間、少なくとも約12時間、少なくとも約24時間または少なくとも約48時間で実施される。理論によって束縛されるものではないが、より長いインキュベーションは、より高い結合収率をもたらすと考えられる。しかしながら、ある特定のインキュベーション時間後、標識化および/または担体結合の飽和が認識される。好ましいインキュベーション時間は、使用される標的分子および所望の結合有効性に依存してもよい。当業者であれば、遊離標識および/もしくは担体の枯渇を測定すること、ならびに/または標識および/もしくは担体が結合した標的分子を定量することによって結合有効性を試験することができる。
【0152】
標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法のインキュベーションステップを、異なる温度で行うことができる。金属カチオンリガンドと、標的分子との交換は、原理的には、0~95℃の任意の温度で機能する。温度が高いほど、リガンド交換反応は速くなる。しかしながら、標的分子は温度感受性であるタンパク質などの生体分子を含むか、またはそれからなるため、標的分子の安定性および/または機能を確保するように温度を選択しなければならない。例えば、好熱性細菌を起源とするタンパク質は、非好熱菌起源に由来するタンパク質より高い反応温度を許容するであろう。同様に、DNAは、RNAよりも高い熱耐性を有する。したがって、温度は、用いられる標的分子に依存する。用いることができる非限定的な温度範囲は、0℃~約95℃、0℃~約60℃、0℃~約42℃、0℃~約25℃および約4℃~約25℃である。温度は、インキュベーション中に一定のままであってもよい。あるいは、1つまたは複数の異なる温度または温度勾配を用いてもよい。一実施形態では、標的分子はタンパク質であり、温度は0℃~約25℃、好ましくは、約2℃~約8℃から選択される。
【0153】
上記のように、インキュベーションステップは、溶液中で行われる。純水または水性溶液を含む、異なる溶液をこの文脈で用いることができる。かくして、一実施形態では、インキュベーションを、水または水性溶液中で実施することができる。あるいは、またはさらに、溶液は、1つまたは複数の有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒の非限定的な好ましいセットは、DMSO、DMF、DMS、アセトニトリル、およびイソプロパノールを含む。したがって、一実施形態では、インキュベーションを、DMSO、DMF、DMS、アセトニトリルおよびイソプロパノールからなる群から選択される1つまたは複数の有機溶媒を含む溶液中で実施することができる。当業者であれば、下流の適用および/または標的分子の安定性もしくは活性を阻害しないような溶液を選択するであろう。タンパク質の文脈では、好ましくは、生理的条件と共に、水性溶液が特に好ましい。
【0154】
添付の実施例に示されるように、標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法を、異なる緩衝試薬の存在下で行うことができる。したがって、好ましい実施形態では、方法のインキュベーションステップを、1つまたは複数のGoodの緩衝物質を含む水性溶液中で行うことができる。
【0155】
Goodの緩衝物質は、1966~1980年にNorman Goodおよび同僚によって選択および記載された生化学および生物学研究のための20種の緩衝剤である(Goodら、1966;Goodら、1972;Fergusonら、1980を参照されたい)。これらの緩衝剤は、当業界で公知である。
【0156】
例示的であるが、非限定的な緩衝剤は、ACES、AMPSO、BES、BisTrisプロパン、ホウ酸、CAPS、CAPSO、CHES、DIPSO、EPPS、HEPES、HEPBS、HEPPSO、MES、MOPS、MOPSO、PIPES、POPSO、TAPS、TAPSO、TEA、TESおよびTrisであり、ならびにそれらの誘導体を用いてもよい。「誘導体」は、同じ構造的骨格を有するが、追加の化学部分によって置換されている緩衝物質に関する。あるいは、またはさらに、Tris緩衝剤、炭酸/重炭酸緩衝剤またはリン酸緩衝剤(例えば、PBS)を用いてもよい。
【0157】
一実施形態では、BisTrisおよび誘導体、炭酸/重炭酸緩衝剤、CAPS、CAPSO、HEPES、HEPBS、HEPPSO、MES、MOPS、MOPSO、PIPES、リン酸緩衝剤(PBSなど)、TAPS、TES、およびTrisから選択される緩衝物質を用いることができる。
【0158】
これらの例示的な緩衝剤を使用する場合、溶液のpHは、以下のように選択することができる:
ACES:6.0~7.8;AMPSO:8.0~10.0;BES:6.2~8.0;BisTris:5.5~7.5;BisTrisプロパン:6.0~9.8;ホウ酸:8.2~10.5;CAPS:9.5~11.5;CAPSO:8.5~10.5;CHES:8.4~10.2;DIPSO:6.8~8.5;EPPS:7.0~9.0;HEPES:7.2~9.5;HEPBS:7.4~9.2;MES:5.2~7.0;MOPS:6.2~8.2;MOPSO:6.0~8.0;リン酸:5.5~8.2;PIPES:5.9~7.8;POPSO:7.0~8.7;TAPS:7.4~9.4;TAPSO:6.7~8.5;TEA:7.0~8.5;TES:6.5~8.5;Tris:6.8~9.5;炭酸緩衝剤:8.5~11.0。
【0159】
緩衝能力が絶対的に要求されないような広範囲のpH値で反応を行うことができるため、原理的には、他のpH値を、上記の緩衝剤のそれぞれと共に用いることもできる。しかしながら、pHを一定に保ち、反応をより良好に制御するために、緩衝剤が緩衝能力を有する、上記のpH範囲におけるpHが好ましい。
【0160】
1mM~1M、好ましくは、1mM~250mM、最も好ましくは、1mM~100mM(例えば、50mM)などの様々な濃度で緩衝剤を用いることができる。当業者であれば、結合有効性を評価し、様々な緩衝剤濃度を使用することによって、理想的な緩衝剤濃度を試験することができる。
【0161】
添付の実施例に示されるように、緩衝物質/緩衝剤の選択は、標識および/または担体の標的分子への結合効率に影響し得る。理論によって束縛されるものではないが、低い金属結合定数を有する緩衝剤は、結合の効率の増加を示す。低い金属カチオン結合定数は、緩衝剤が金属に配位し、第1配位圏中のリガンド位置を遮断するのを防止する。
【0162】
かくして、一実施形態では、本発明の文脈において使用される緩衝物質/緩衝剤は、低い金属結合定数を有する緩衝物質/緩衝剤であってもよい。「低い金属結合定数」によって理解されるもの、およびそのような緩衝物質/緩衝剤の好ましい例は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Ferreiraら、2015に開示されている。
【0163】
さらに、好ましい実施形態では、インキュベーションステップは、アミン基およびカルボニル基から選択される1つまたはそれ未満(好ましくは、なし)の基を含む緩衝物質/緩衝剤の存在下で実施される。これらの基は、錯体中の金属カチオンへの結合を媒介することができるルイス塩基を含む。かくして、これらの基の非存在は、緩衝物質の金属カチオンへの結合を減少させるか、または防止し、それによって、標的分子の結合を容易にする。
【0164】
添付の実施例によって示されるように、以下の緩衝剤が、標識および/または担体結合を容易にするために有利である:MES、HEPES、Bis-TrisおよびPIPES。実施例は、これらの緩衝剤が、Trisに基づく緩衝剤よりも高い結合効率をもたらすことを示す。したがって、特に好ましい実施形態では、インキュベーション中の溶液中に存在する緩衝物質を、MES、HEPES、Bis-TrisおよびPIPESから選択することができる。これらの緩衝物質は、標識および/または担体結合にとって特に有利である。非限定例13は、インキュベーションのために使用されるpHに応じて、緩衝剤を選択する必要があり得ることを実証する。本発明の錯体および標的分子のインキュベーションが約7.5のpHで実施される場合、BisTrisではなくHEPESを使用することができる。本発明の錯体および標的分子のインキュベーションが約5.5のpHで実施される場合、BisTrisを使用することができる。最も好適な緩衝剤およびpHの決定は、関連する当業界の技術の範囲内にあり、本発明の教示および実験部分の実例およびその中に提供される科学的詳細を用いて難なく達成することができる。
【0165】
これらの結果を考慮して、また、金属カチオンに結合する緩衝剤を可能な限り低く保持する理論的考慮に基づいて、緩衝物質を、好ましくは、BisTris、CAPS、CAPSO、HEPES、HEPBS、HEPPSO、MES、MOPS、MOPSO、PIPES、TAPSおよびTESから選択することができる。
【0166】
好ましい実施形態では、本発明の錯体またはそれを含む組成物の標的分子とのインキュベーションを、溶液中でCa2+イオンの存在下で行うことができる。本発明の錯体の金属カチオンリガンドがHCO3
-またはCO3
2-から選択される炭酸イオンである場合、Ca2+イオンの存在が特に好ましい。これは、Ca2+イオンが、溶液から沈降し、それによって錯体からの炭酸イオンの遊離を容易にする、不溶性のCaCO3を形成し得るからである。これは次いで、リガンドとしての標的分子の結合を容易にし、それによって、標識および/または担体の標的分子への結合を容易にする。好ましくは、反応溶液中に溶解するCaCl2を溶解させることによって、Ca2+イオンを提供する。Ca2+イオンを、反応の開始時に添加する、すなわち、本発明の錯体と標的分子とを接触させる場合、直接添加することができる。あるいは、あまり好ましくはないが、Ca2+イオンを、反応中に塩の形態(好ましくは、CaCl2)で添加してもよい。Ca2+イオン(好ましくは、CaCl2の形態にある)は、0.1~50mM、さらにより好ましくは、0.1~10mM、最も好ましくは、1mMの濃度で添加されるのが好ましい。
【0167】
本発明に従って標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法は、本発明の錯体の金属カチオンが、例えば、H2O2処理によって酸化される酸化ステップを必要としない。そのような好ましい実施形態では、本発明に従って標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法は、H2O2を用いた処理などの酸化ステップを含まない。これは、Co3+媒介性標識および/または担体結合を形成させる文脈において特に好ましい。以前に報告された方法(例えば、WegnerおよびSpatz、2013)では、機能的部分のCo3+媒介性結合は、リガンドとしてのhisタグ付標的タンパク質とのCo2+錯体を形成させた後にのみ、Co2+をCo3+に酸化することによって達成された。添付の実施例に示されるように、Coカチオンの存在下でのそのような酸化ステップは、タンパク質分解をもたらし得る自発的なフェントン反応をもたらし得る。さらに、タンパク質の酸化は、タンパク質のフォールディングおよび機能を阻害し得る。かくして、酸化ステップが必要とされないことは、本発明の方法の特定の利点である。
【0168】
標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法はまた、本明細書の他の箇所に記載される本発明の錯体(および必要に応じて、したがって使用される塩などの中性錯体)の生産を含んでもよい。
【0169】
本発明に従って標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法は、標識されたもの、および/または担体に結合したものの生産をもたらす。したがって、方法はまた、標識および/または担体が結合される標的分子を生産するための方法と称してもよい。本明細書の他の箇所に示される標的分子に関する優先性は、変更すべきところは変更して適用される。したがって、一実施形態では、本発明の方法は、標識および/または担体を、タンパク質、例えば、Hisタグ付タンパク質、抗体、その誘導体(例えば、scFv断片およびナノボディを含む)またはそのドメインに結合させるための方法であってもよい。
【0170】
標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法の好ましい実施形態は、標的分子がHisタグ付タンパク質であり、Hisタグ付タンパク質が、表面である担体(例えば、チップ)に結合されるものである。好ましくは、金属カチオンとしてのCo3+またはPt4+、金属カチオンリガンドとしての本明細書に定義される炭酸イオンまたは硝酸イオン、好ましくは、硝酸イオンおよびキレート化リガンドとしてのNTA、TalonまたはIDAを用いるこの方法では、Hisタグ付タンパク質は、表面に結合される。標的分子の高い安定性および速度論的に不活性な結合のため、タンパク質を、共有に近い様式で、イミダゾールおよび他のキレート(例えば、EDTA)ならびに還元等価処理に関して不活性である表面に結合させることができる。
【0171】
さらに別の態様では、本発明は、本発明に従って標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法によって得られる、または得られた、標識および/または担体が結合した標的分子に関する。本発明の方法によって得られた標識および/または担体に結合した標的分子は、標的分子も、標識および/または担体も、酸化ステップ(例えば、H2O2による処理)を受けていないことを特徴とする。対照的に、そのような構造を生成する以前に報告された方法は、i)標的分子と、ii)標識および/または担体との少なくとも一方または両方の存在下での酸化ステップを含んでいた。したがって、本発明の方法の生成物は、酸化されない、およびH2O2などの酸化剤を含まないという利点を有する。これはまた、生産される標識された、および/または担体に結合した標的分子の医学的使用にとって重要な利点を有する。
【0172】
錯体、その成分、標的分子ならびに本発明に従って標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法に関して本明細書の他の箇所で言われたことは、変更すべきところは変更して適用される。
【0173】
本発明の方法によって得られる、標識および/または担体が結合した標的分子も、錯体である。この得られた「生成物錯体」は、本発明の錯体の金属カチオンを含み、i)本発明の錯体の金属結合ドメインおよびii)標的分子に配位している。
【0174】
本発明はまた、標識および/または担体を標的分子に結合させるための方法によって得られる、または得られた、標識された、および/または担体に結合した標的分子を含む組成物も提供する。
【0175】
本発明の方法によって得られる、もしくは得られた標識および/もしくは担体に結合した標的分子またはそれを含む組成物を、研究試薬として使用することができる。かくして、本発明はまた、研究試薬としての本発明の方法によって得られる、または得られた標識された、または担体に結合した標的分子の使用にも関する。同様に、研究試薬として本発明の方法によって生成された標識された、または担体に結合した標的分子を使用するステップを含む方法が提供される。例えば、標的分子は、細胞培養のために固体担体に固定される細胞外マトリックスタンパク質であってもよい。
【0176】
一実施形態では、本発明の方法によって得られる、もしくは得られた標識された、および/もしくは担体に結合した標的分子またはそれを含む組成物を、in vitroでの診断剤として使用することができる。例えば、標的分子は、分析物(例えば、分析物としての抗原を認識する抗体)を特異的に認識する検出タンパク質であってもよく、標識および/または担体を、当業界で公知の測定方法を順守するように構成することができる。
【0177】
本発明は、薬剤としての使用のための、本発明の方法によって得られる、もしくは得られた標識された、および/または担体に結合した標的分子またはそれを含む組成物に関する。同様に、本発明の方法によって得られる、もしくは得られた標識された、および/もしくは担体に結合した標的分子またはそれを含む組成物の有効量を患者に投与するステップを含む、処置方法が提供される。好ましくは、標的分子は、酵素、抗体などの標的化タンパク質、サイトカイン(例えば、G-CSF)、脂肪酸輸送のためのFABSなどの輸送タンパク質、フェリチンなどの貯蔵タンパク質、コラーゲンなどの機械的支持タンパク質、増殖因子、インスリンもしくはTSHなどのホルモン、インターフェロン、糖タンパク質、合成的に操作されたタンパク質またはその断片から選択される。
【0178】
本発明は特に、標的分子および/または標識を、in vivoで薬剤として使用される場合、例えば、in vivoでの錯体の標的構造への結合の際に、標的分子を含む「生成物錯体」から遊離させることができる実施形態も包含する。したがって、本発明の方法によって得られる、標識および/または担体が結合した標的分子を、標識および/または標的分子を、好ましくは、in vivoで遊離させることができるように構成することができる。生成物錯体中の金属カチオンの還元、pH変化ならびに/または標的分子および/もしくは標識の標的構造(例えば、受容体またはがん細胞特異的表面タンパク質などの細胞表面タンパク質)への結合によって、遊離を誘発することができる。
【0179】
本発明の「錯体」は、金属カチオンとリガンドとによって形成される錯体を指す。かくして、錯体という用語は、好ましくは、配位錯体または金属錯体に関する。錯体は、金属カチオンの形態にあるルイス酸と、1つまたは複数のリガンドの形態にある1つまたは複数のルイス塩基とを含む。本発明の錯体は、本明細書の他の箇所で定義される少なくとも2個のリガンドを有する。
【0180】
本明細書で使用される用語「タンパク質」および「ペプチド」は両方とも、アミノ酸からなるポリペプチドに関する。用語「ペプチド」は、20個以下のアミノ酸を有するポリペプチドを指す。用語「タンパク質」は、20個より多いアミノ酸を有するポリペプチドを指す。ポリペプチドという用語は、「ペプチド」と「タンパク質」との両方を包含する。本明細書において「タンパク質またはペプチド」が記載される場合、ポリペプチドも含まれる。
【0181】
本明細書で使用される場合、「抗体」は、標的タンパク質に特異的または選択的に結合することができる任意の分子である。抗体は、抗体または完全長抗体と実質的に同じ結合活性を示すその一部/断片を含んでもよいか、またはそれであってもよい。抗体はまた、多価分子、多重特異性分子(例えば、ダイアボディ)、融合分子、アプチマー、アビマー、または他の天然に存在する、もしくは組換え的に作出された分子を含んでもよい。本発明において有用な例示的抗体は、抗体様分子を含む。抗体様分子は、標的分子に結合することによって機能を示すことができる分子であり(例えば、Current Opinion in Biotechnology 2006、17:653~658頁;Current Opinion in Biotechnology 2007、18:1~10頁;Current Opinion in Structural Biology 1997、7:463~469頁;Protein Science 2006、15:14~27頁を参照されたい)、例えば、DARPin(WO2002/020565)、アフィボディ(WO1995/001937)、アビマー(WO2004/044011;WO2005/040229)、アドネクチン(WO2002/032925)およびフィノマー(WO2013/135588)を含む。一般に、用語「抗体」は、最も広い意味で本明細書で使用され、限定されるものではないが、所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、完全ヒト抗体および抗体断片を含む種々の抗体構造を包含する。本発明のうちにある抗体はまた、キメラ抗体、組換え抗体、組換え抗体の抗原結合断片またはヒト化抗体であってもよい。
【0182】
抗体の「抗原結合部分」または「抗原結合断片」という用語は、インタクト抗体の一部を含み、インタクト抗体が結合する抗原に結合するインタクト抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および抗体から形成される多重特異性抗体が挙げられる。
【0183】
用語「リガンド」とは、一部の様式で別の種と相互作用する種を指す。本発明の文脈では、錯体の文脈で使用される場合の「リガンド」は、ルイス酸との配位結合を形成することができるルイス塩基を含む分子を指す。他の例では、リガンドは、金属イオンとの配位結合を形成する基を含む、有機物であることが多い種である。金属イオンに配位する場合、リガンドは、例えば、末端(すなわち、単一の金属イオンに結合する)および架橋(すなわち、ルイス塩基の1個の原子が1個より多い金属イオンに結合する)を含む、当業者には公知の様々な結合様式を有してもよい。
【0184】
用語「ルイス酸」および「ルイス酸性」は、当業界で認識されており、上で定義されたルイス塩基から一対の電子を受け取ることができる化学部分を指す。
用語「ルイス塩基」および「ルイス塩基性」とは、一般に、ある特定の反応条件下で一対の電子を供与することができる化学部分を指す。ルイス塩基を、ルイス塩基および金属イオンの同一性に応じて、ある特定の錯体中で単一の電子を供与するものとして特徴付けることができるが、多くの目的にとって、ルイス塩基は、2個の電子供与体として最良に理解される。ルイス塩基部分の例としては、アルコール、チオール、およびアミンなどの非荷電化合物、ならびにアルコキシド、チオレート、カルバニオン、および種々の他の有機アニオンなどの荷電部分が挙げられる。ある特定の例では、ルイス塩基は、オキシドなどの単一原子からなってもよい。
【0185】
用語「配位」または「配位すること」は、リガンドと金属カチオンとの相互作用を指す。
本発明の文脈における用語「診断剤」または「複数の診断剤」は、診断型の薬剤に関する。非限定例は、後にポジトロン放出断層撮影(PET)もしくは単一光子放出コンピューター断層撮影(SPECT)イメージングまたは当業者には公知の他の方法を使用して検出することができる、放射性ヌクレオチド、当業界で公知の方法によって検出することができる蛍光部分および酵素活性部分である。診断剤はまた、それに結合した放射性ヌクレオチド、フルオロフォアまたは酵素を含む抗体も含む。
【0186】
用語「医薬品」は、限定されるものではないが、低分子、バイオ医薬品(例えば、抗体)を含む、任意の薬剤または予防剤に関する。好ましい医薬品は、抗体である。
本発明は、以下の図面および実施例によって実証される。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【
図1】[Co(III)(NTA)(His-タンパク質)]錯体の化学反応性。Co
2+およびCo
3+錯体中心にHis
6-GFP(配列番号14)が固定されたNTAビーズを、250mMイミダゾールと共に異なるキレーターおよび還元剤と共にインキュベートし、溶出したHis
6-GFPの量を測定した。Co
3+中心の速度論的不活性のため、[Co(III)(NTA)(His
6-GFP)]の形態でビーズ上に固定された場合、His
6-GFPはほとんど溶出しない。グラフは、WegnerおよびSpatz、2013(WegnerおよびSpatz、2013)から適合させたものである。
【
図2-1】[Co(III)(NTA)]化学によるHisタグ付タンパク質の標識化のための方法の概略図。A:Wegner & Spatz(WegnerおよびSpatz、2013)によって2013年に公開された、予め形成された[Co(II)(NTA)(His-タンパク質)]錯体の酸化による[Co(III)(NTA)(His-タンパク質)]錯体の形成。NTAに、Co
2+イオン(Co(II)Cl
2由来)を予めロードし、Hisタグ付タンパク質と共にインキュベートする。最後に、Co
2+中心を、20mM H
2O
2を用いて1時間にわたって全タンパク質錯体を酸化することによってCo
3+に変換する。しかしながら、酸化ステップが、コンジュゲートされたタンパク質の機能および安定性に影響し得るため、この方法は大きな欠点を有する。さらに、NTA部分に結合したコンジュゲートは、酸化プロセスによって影響され得る。B:Zatloukalova & Kucerova(ZatloukalovaおよびKucerova、2006)によって2006年に公開された、予め形成された[Co(II)(IDA)(H
2O)
3]錯体の酸化による[Co(III)(IDA)(His-タンパク質)]錯体の形成。IDAに、Co
2+イオン(Co(II)Cl
2由来)を予めロードし、Co
2+中心を、20mM H
2O
2を用いて1時間にわたって[Co(II)(IDA)(H
2O)
3]錯体を酸化することによってCo
3+に変換する。続いて、[Co(III)(IDA)(H
2O)
3]
+錯体を、Hisタグ付タンパク質と共にインキュベートする。非常に遅い錯体形成および結合有効性の低下のため、この手順は制限される。さらに、IDA部分に結合したコンジュゲートは、酸化プロセスによって影響され得る。C:コバルト(III)炭酸イオンを使用することによる[Co(III)(NTA)(His-タンパク質)]錯体の形成。NTAに、コバルト(III)炭酸イオン(例えば、Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O)に由来するCo
3+を予めロードして、本発明の錯体を形成させる。次いで、錯体をHisタグ付タンパク質と共にインキュベートする。この手順は、温和な反応条件下で実施することができるHisタグ付タンパク質のコンジュゲーションのための非常に単純なワークフローである。反応を生理的緩衝条件で連続的に実施することができるため、タンパク質ならびにNTAコンジュゲート、すなわち、標識(例えば、フルオロフォア)および/または担体の機能を完全に保持することができる。さらに、炭酸イオンリガンドは、手順Bにおける2つの水リガンドと比較して、迅速かつ効率的なタンパク質結合を可能にする。
【
図2-2】D:白金(IV)硝酸イオンを使用することによる[Pt(IV)(NTA)(His-タンパク質)]錯体の形成。NTAに、白金(IV)硝酸イオン溶液に由来するPt
4+を予めロードして、本発明の錯体を形成させる。次いで、錯体をHisタグ付タンパク質と共にインキュベートする。この手順は、温和な反応条件下で実施することができるHisタグ付タンパク質のコンジュゲーションのための非常に単純なワークフローである。それにより、硝酸イオンリガンドは、手順Bにおける2つの水リガンドと比較して、迅速かつ効率的なタンパク質結合を可能にする。
【
図3】過酸化水素を用いたフルオロフォアの酸化。様々なフルオロフォアを、1%H
2O
2中でのインキュベーション後、0.05%H
2O
2と共に約21時間にわたってインキュベートした。フルオロフォアの蛍光を、15(0.05%H
2O
2)から30(1%H
2O
2)分毎に測定した。全てのフルオロフォアが、H
2O
2処理中に蛍光強度の低下を示し、これは、H
2O
2を用いる酸化ステップが標識の機能および安定性を阻害し得ることを示している。
【
図4】H
2O
2によるコバルト酸化中のタンパク質分解およびHisタグ切断。Hisタグ付タンパク質(3.3μM)を、66μMのCoCl
2および20mMのH
2O
2を用いて、または用いずに、1時間にわたってインキュベートした。西洋わさびペルオキシダーゼにカップリングしたα-His
6-タグ抗体(クローンH-3)を使用するウェスタンブロットにより、タンパク質の安定性およびHisタグの切断を分析した。コバルトおよびH
2O
2への曝露時に、タンパク質は、分解の部分的兆候ならびにHisタグの切断を自発的に示した。提示された画像に由来するゲルレーンは、同じゲル/膜を起源とする。
【
図5】NTAおよびそのコバルト錯体の
1H-NMRスペクトル。A:NTAの
1H-NMR測定値は、約3.6ppmでピークを示し、これは、ソフトウェアNMR Predict(https://www.nmrdb.org/new_predictor/index.shtml?v=v2.103.0;2019年4月バージョン)を使用してin silicoで作出されたスペクトル(3.57ppmのピーク計算値)と相関する。BanfiおよびPatiny、2008;Castilloら、2011;Aires-de-Sousaら、2002を参照されたい。B:NTAを、Co
2+およびD
2Oを用いて[Co(II)(NTA)(D
2O)
2]
-に錯体化する場合(CoCl
2・6H
2Oを用いて合成)、約3.6ppmからのピークは、約3.8ppmにシフトする。C+D:錯体を、Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O(C)またはK
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O(D)と共に生産する場合、ピークは約1.9ppmにさらにシフトし、これは所望のカルボナト錯体[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-の存在を示す。全てのppmシフトを、4.7ppmで残存するH
2Oのピークに対して正規化する。
【
図6】[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-により得られた[Co(III)(NTA)(His
6-PercevalHR)]錯体の安定性。Ni
2+およびCo
3+錯体中心にHis
6-PercevalHR(配列番号15)が固定されたNTAビーズ(後者はNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oを用いて生産された)を、PBSまたはイミダゾール(250mM)で洗浄し、ビーズ上に残存するHis
6-PercevalHRの量を、蛍光測定によって決定した。[Co(III)(CO
3)
3]塩によって生産された[Co(III)(NTA)(His
6-PercevalHR)]錯体は、それにより、H
2O
2酸化手順により形成された錯体についてと類似するイミダゾール中での化学的安定性を示す(
図1と比較する)。エラーバー:±SD;p値:<0.001:
***;<0.01:
**;<0.05:
*;≧0.05:有意でない。
【
図7-1】[Co(III)(NTA)]錯体へのタンパク質結合。[Ni(II)(NTA)(H
2O)
2]
-、[Co(III)(NTA)(H
2O)
2]または[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化されたアガロースビーズを、His
6-GFP(配列番号14)と共にインキュベートした。A:残存する未結合のタンパク質を、様々な時点での上清の蛍光測定によって決定した。炭酸イオン分子が会合した[Co(III)(NTA)]錯体は、水分子が会合した[Co(III)(NTA)]錯体よりも有意に速くタンパク質に結合する。
【
図7-2】B:312時間のインキュベーション後、ビーズを、緩衝剤または250mMイミダゾールで洗浄し、ビーズ上に残存するHis
6-GFPの量を、蛍光測定によって決定した。それにより、全ての[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体は、類似するイミダゾール中での化学的安定性を示す。しかしながら、[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体で官能化されたビーズは、[Co(III)(NTA)(H
2O)
2]を予めロードしたビーズよりも有意に多くのタンパク質に結合する。エラーバー:±SD;p値:<0.001:
***;<0.01:
**;<0.05:
*;≧0.05:有意でない。
【
図8-1】タンパク質結合に対する緩衝物質の効果。A+B:[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化されたアガロースビーズを、異なる緩衝剤中でHis
6-GFP(配列番号14)と共にインキュベートした。残存する未結合のタンパク質を、様々な時点での上清の蛍光測定によって決定した。MESおよびBis-Trisに基づく緩衝溶液中で、錯体形成はTrisに基づく緩衝剤と比較して速く、TrisおよびHEPESに基づく緩衝剤と比較して効率的であった。グラフBは、時点0および実験開始後3時間でのグラフAからのズームである。エラーバー:±SD。
【
図8-2】タンパク質結合に対する緩衝物質の効果。A+B:[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化されたアガロースビーズを、異なる緩衝剤中でHis
6-GFP(配列番号14)と共にインキュベートした。残存する未結合のタンパク質を、様々な時点での上清の蛍光測定によって決定した。MESおよびBis-Trisに基づく緩衝溶液中で、錯体形成はTrisに基づく緩衝剤と比較して速く、TrisおよびHEPESに基づく緩衝剤と比較して効率的であった。グラフBは、時点0および実験開始後3時間でのグラフAからのズームである。エラーバー:±SD。
【
図9】[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-および[Co(III)(NTA)(H
2O)
2]のUV-Visスペクトル。室温で水性溶液中での[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-および[Co(III)(NTA)(H
2O)
2]の可視光吸収スペクトル。NTAをNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oと共にインキュベートすることによって[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-を生産し、NTAをCo(II)Cl
2・6H
2Oと共にインキュベートすることによって形成された[Co(II)(NTA)(H
2O)
2]錯体のH
2O
2を用いた酸化によって[Co(III)(NTA)(H
2O)
2]を生産する。2つの最大値のそれぞれのピークシフトは、[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体での炭酸イオンリガンドの存在を示す。
【
図10-1】Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2OとNTAとのインキュベーション時間および温度に依存する[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成および安定性。NTAで官能化されたアガロースビーズを、4℃(A)、25℃(B)および70℃(C)で様々な期間にわたってインキュベートする。続いて、得られる[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体を、His
6-GFPと共に48時間インキュベートする。HEPESに基づく緩衝剤または緩衝剤中の250mMイミダゾールを用いたストリンジェントな洗浄によって、最終的な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性を試験する。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、BCAアッセイによって決定した。Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAのインキュベーション時間の増大と共に、その後、タンパク質を25℃で48時間にわたってインキュベートする場合、安定な錯体ならびにビーズ上の固定されたHis
6-GFPのパーセンテージが増大する。温度の上昇と共に、固定されたタンパク質は、より早く飽和に達する。エラーバー:±SD。
【
図10-2】Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2OとNTAとのインキュベーション時間および温度に依存する[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成および安定性。NTAで官能化されたアガロースビーズを、4℃(A)、25℃(B)および70℃(C)で様々な期間にわたってインキュベートする。続いて、得られる[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体を、His
6-GFPと共に48時間インキュベートする。HEPESに基づく緩衝剤または緩衝剤中の250mMイミダゾールを用いたストリンジェントな洗浄によって、最終的な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性を試験する。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、BCAアッセイによって決定した。Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAのインキュベーション時間の増大と共に、その後、タンパク質を25℃で48時間にわたってインキュベートする場合、安定な錯体ならびにビーズ上の固定されたHis
6-GFPのパーセンテージが増大する。温度の上昇と共に、固定されたタンパク質は、より早く飽和に達する。エラーバー:±SD。
【
図11-1】[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-とHis
6-GFPとのインキュベーション時間および温度に依存する[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成および安定性。[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化された磁気アガロースビーズを、様々な期間にわたって4、25および37℃でインキュベートし、タンパク質結合緩衝剤または緩衝剤中の250mMイミダゾールを用いたストリンジェントな洗浄によって、最終的な「Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性を試験する。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて決定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。A:相対蛍光に基づくイミダゾール処理後のビーズ上に固定されたHis-GFP。より長いタンパク質インキュベーション時間と共に、より多くのタンパク質をビーズ上に固定することもでき、3.5時間で飽和プラトーに達し始めた。最終的な錯体の収率に対するタンパク質インキュベーション温度の効果は観察することができなかった。B:緩衝剤洗浄と比較したイミダゾール処理後のビーズ上に固定されたHis-GFPのパーセンテージ。全ての生産された錯体は、250mMイミダゾール処理に対して高い安定性を示す。エラーバー:±SD。
【
図11-2】[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-とHis
6-GFPとのインキュベーション時間および温度に依存する[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成および安定性。[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化された磁気アガロースビーズを、様々な期間にわたって4、25および37℃でインキュベートし、タンパク質結合緩衝剤または緩衝剤中の250mMイミダゾールを用いたストリンジェントな洗浄によって、最終的な「Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性を試験する。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて決定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。A:相対蛍光に基づくイミダゾール処理後のビーズ上に固定されたHis-GFP。より長いタンパク質インキュベーション時間と共に、より多くのタンパク質をビーズ上に固定することもでき、3.5時間で飽和プラトーに達し始めた。最終的な錯体の収率に対するタンパク質インキュベーション温度の効果は観察することができなかった。B:緩衝剤洗浄と比較したイミダゾール処理後のビーズ上に固定されたHis-GFPのパーセンテージ。全ての生産された錯体は、250mMイミダゾール処理に対して高い安定性を示す。エラーバー:±SD。
【
図12】K
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oを用いた[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成および安定性。NTAで官能化された磁気アガロースビーズを、示された時間にわたってK
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oと共にインキュベートした後、生産された[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体と共にHis
6-GFPをインキュベートする。タンパク質緩衝剤(「緩衝剤」)または緩衝剤中の250mMイミダゾール(「イミダゾール」)を用いたストリンジェントな洗浄によって、最終的な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性を試験する。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて決定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。K
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oによって生産される[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体もまた、His-GFPと配位して、安定な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体を形成することができる。エラーバー:±SD;p値:<0.001:
***;<0.01:
**;<0.05:
*;≧0.05:有意でない。
【
図13】異なる緩衝剤系における[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成およびNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAとの10分のインキュベーションに伴うその錯体安定性。Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAの10分のインキュベーション時間後の[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化された磁気アガロースビーズを、様々な期間にわたって、異なる緩衝剤系中でHis
6-GFPと共にインキュベートする。緩衝溶液(「緩衝剤」)、次いで、緩衝剤中の250mMイミダゾール(「イミダゾール」)を用いたストリンジェントな洗浄によって、最終的な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性を試験する。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて決定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。A:イミダゾール処理後のビーズ上に固定されたタンパク質の量。B:イミダゾール処理の前後での15分のタンパク質インキュベーション後のビーズ上に固定されたHis-GFP。安定な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成は、全てのタンパク質結合緩衝剤系に関して可能であるが、結合したタンパク質に関する効率および最終的な錯体の安定性のパーセンテージについては変化する。エラーバー:±SD。
【
図14-1】異なる緩衝剤系における[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成およびNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAとの48時間のインキュベーションに伴うその錯体安定性。Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAの48時間のインキュベーション時間後の[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化された磁気アガロースビーズを、様々な期間にわたって、異なる緩衝剤系中でHis
6-GFPと共にインキュベートする。分析緩衝剤(「緩衝剤」)または分析緩衝剤中の250mMイミダゾール(「イミダゾール」)を用いたストリンジェントな洗浄によって、最終的な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性を試験する。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて決定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。A:イミダゾール処理後のビーズ上に固定されたタンパク質の量。B~E:イミダゾール処理を用いた、または用いない、1分(B)、15分(C)、1時間(D)または24時間(E)のタンパク質インキュベーション後のビーズ上に固定されたHis-GFP。安定な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成は、全てのタンパク質結合緩衝剤系に関して可能であるが、結合したタンパク質に関する効率は変化する。エラーバー:±SD。
【
図14-2】異なる緩衝剤系における[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成およびNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAとの48時間のインキュベーションに伴うその錯体安定性。Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAの48時間のインキュベーション時間後の[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化された磁気アガロースビーズを、様々な期間にわたって、異なる緩衝剤系中でHis
6-GFPと共にインキュベートする。分析緩衝剤(「緩衝剤」)または分析緩衝剤中の250mMイミダゾール(「イミダゾール」)を用いたストリンジェントな洗浄によって、最終的な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性を試験する。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて決定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。A:イミダゾール処理後のビーズ上に固定されたタンパク質の量。B~E:イミダゾール処理を用いた、または用いない、1分(B)、15分(C)、1時間(D)または24時間(E)のタンパク質インキュベーション後のビーズ上に固定されたHis-GFP。安定な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成は、全てのタンパク質結合緩衝剤系に関して可能であるが、結合したタンパク質に関する効率は変化する。エラーバー:±SD。
【
図14-3】異なる緩衝剤系における[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成およびNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAとの48時間のインキュベーションに伴うその錯体安定性。Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAの48時間のインキュベーション時間後の[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化された磁気アガロースビーズを、様々な期間にわたって、異なる緩衝剤系中でHis
6-GFPと共にインキュベートする。分析緩衝剤(「緩衝剤」)または分析緩衝剤中の250mMイミダゾール(「イミダゾール」)を用いたストリンジェントな洗浄によって、最終的な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性を試験する。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて決定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。A:イミダゾール処理後のビーズ上に固定されたタンパク質の量。B~E:イミダゾール処理を用いた、または用いない、1分(B)、15分(C)、1時間(D)または24時間(E)のタンパク質インキュベーション後のビーズ上に固定されたHis-GFP。安定な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成は、全てのタンパク質結合緩衝剤系に関して可能であるが、結合したタンパク質に関する効率は変化する。エラーバー:±SD。
【
図15-1】様々なpH値での[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体形成およびその錯体安定性。Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAの48時間のインキュベーション時間後の[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化された磁気アガロースビーズを、様々な期間にわたって、様々なpH値でBisTrisまたはHEPESに基づく緩衝剤系中でHis
6-GFPと共にインキュベートする。分析緩衝剤(「緩衝剤」)または分析緩衝剤中の250mMイミダゾール(「イミダゾール」)を用いたストリンジェントな洗浄によって、最終的な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性を試験する。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて決定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。A:イミダゾール処理後のビーズ上に固定されたタンパク質の量。B:イミダゾール処理を用いた、または用いない15分のタンパク質インキュベーション後のビーズ上に固定されたHis-GFP。安定な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成は、全てのpH値で可能であるが、結合したタンパク質に関する効率は変化する。それにより、効率は、タンパク質インキュベーションと共に、また、タンパク質インキュベーション中のpH値の低下と共に増大する。エラーバー:±SD。
【
図15-2】様々なpH値での[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体形成およびその錯体安定性。Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAの48時間のインキュベーション時間後の[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化された磁気アガロースビーズを、様々な期間にわたって、様々なpH値でBisTrisまたはHEPESに基づく緩衝剤系中でHis
6-GFPと共にインキュベートする。分析緩衝剤(「緩衝剤」)または分析緩衝剤中の250mMイミダゾール(「イミダゾール」)を用いたストリンジェントな洗浄によって、最終的な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性を試験する。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて決定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。A:イミダゾール処理後のビーズ上に固定されたタンパク質の量。B:イミダゾール処理を用いた、または用いない15分のタンパク質インキュベーション後のビーズ上に固定されたHis-GFP。安定な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成は、全てのpH値で可能であるが、結合したタンパク質に関する効率は変化する。それにより、効率は、タンパク質インキュベーションと共に、また、タンパク質インキュベーション中のpH値の低下と共に増大する。エラーバー:±SD。
【
図16-1】[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-によるHisタグまたはヒスチジンリッチ領域を有する様々なタンパク質の安定な固定化。[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化された磁気アガロースビーズを、His-GFP、His-プロテインA、His-ソルターゼ、His-ヒト血清アルブミンまたは抗GFPマウスIgG1と共にインキュベートし、タンパク質結合緩衝剤または緩衝剤中の250mMイミダゾールを用いたストリンジェントな洗浄によって、最終的な[Co(III)(NTA)(タンパク質)]錯体の安定性を試験する。A:[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-とのタンパク質インキュベーション後のタンパク質上清のSDS-PAGE。マーカー:200、150、100、75、50、37、25kDa。レーン1、4、7、10および13:[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-インキュベーション後に残存するタンパク質。レーン2、5、8、11および14:[Ni(II)(NTA)(H
2O)
2]
-インキュベーション後に残存するタンパク質。レーン3、6、9、12および15:NTAインキュベーション後に残存するタンパク質。レーン1~3:His-GFP、レーン4~6:His-プロテインA、レーン7~9:His-ソルターゼ、レーン10~12:His-HSA、レーン13~15:抗GFPマウスIgG1。単に高いパーセンテージであるHis-プロテインAについてを除いて、全てのタンパク質を、タンパク質インキュベーション後に上清から除去することができた。B:イミダゾール処理後のBCAアッセイによって決定されたビーズ上のタンパク質の量。安定な[Co(III)(NTA)(タンパク質)]錯体形成を、全てのタンパク質について達成することができた。
【
図16-2】C:SensoLyte(登録商標)520 Sortase A Activity Assay Kitを用いて蛍光測定的に決定されたイミダゾール処理の前後の固定されたソルターゼの活性。ソルターゼは、固定後も依然として活性であり、形成された[Co(III)(NTA)(His-ソルターゼ)]錯体は250mMイミダゾールを用いた処理に抵抗することができた。
【
図16-3】D+E:ビーズスラリーの蛍光に基づいて決定された、NTA(D)またはIDA(E)で官能化されたビーズ上に固定された抗GFPマウスIgG1へのGFP結合(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。固定された抗体は、GFP結合によって示されるように依然として機能的であった。
【
図17】金属結合ドメインとしてのIDAおよびTALON。それぞれ、[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-または[Co(III)(TALON)(CO
3)]錯体により生産されたA:[Co(III)(IDA)(His-GFP)]およびB:[Co(III)(TALON)(His-GFP)]錯体の形成および化学的安定性。Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O、次いで、His
6-GFPタンパク質のインキュベーション時間を、括弧内に示す(Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/タンパク質インキュベーション時間)。HEPESに基づく緩衝剤または緩衝剤中の250mMイミダゾールを用いたストリンジェントな洗浄により、化学的安定性を試験した。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて測定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。金属処理を用いないビーズと比較して、[Co(III)(IDA/TALON)(CO
3)]
2-錯体を使用してビーズ上に固定された、有意により多くのHis
6タンパク質が化学的に安定であった。それにより、3座金属結合ドメインIDAを用いた錯体の化学的安定性は、4座TALON錯体に対して劇的に増大した。エラーバー:±SD;p値:<0.001:
***;<0.01:
**;<0.05:
*;≧0.05:有意でない。
【
図18】[Co(III)(IDA)(His-タンパク質)]錯体の化学反応性。[Co(III)(IDA)(His
6-GFP)]錯体を用いて官能化されたビーズを、250mMイミダゾールと組み合わせたキレーターまたは還元剤を含む様々な条件を用いてインキュベートし、ビーズ上に残存するHis-GFPの量を、ビーズスラリーの蛍光によって測定する(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。Co
3+中心の速度論的不活性のため、His
6-GFPはほとんど溶出されず、生産された[Co(III)(IDA)(His-タンパク質)]錯体の高い安定性を示している。エラーバー:±SD。
【
図19-1】His
6-GFPの[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-および[Co(III)(IDA)(H
2O)
2]
+への固定化効率。His
6-GFPインキュベーションのA:3時間およびB:24時間後の磁気ビーズ上での[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-または[Co(III)(IDA)(H
2O)
2]
+錯体により生産された[Co(III)(IDA)(His-GFP)]の錯体形成効率および化学的安定性。示された時間(10分または48時間)にわたってNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oと共にIDAで官能化された磁気ビーズをインキュベートすることによって、[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-錯体を生産した。HEPESに基づく緩衝剤または緩衝剤中の250mMイミダゾールを用いたストリンジェントな洗浄により、化学的安定性を試験した。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて測定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。[Co(III)(IDA)(H
2O)
2]
+錯体で官能化されたビーズと比較して10分のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oインキュベーションを用いて調製された[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-錯体を使用してビーズ上に固定された、有意により多くのHis
6タンパク質が化学的に安定であった。48時間のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oインキュベーションを用いて調製された[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-錯体は、24時間のタンパク質インキュベーション時間後に[Co(III)(IDA)(H
2O)
2]
+錯体を打ち負かした。全ての[Co(III)(IDA)(His-GFP)]錯体が、イミダゾールに対して高い化学的安定性を示した。エラーバー:±SD;p値:<0.001:
***;<0.01:
**;<0.05:
*;≧0.05:有意でない。
【
図19-2】His
6-GFPの[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-および[Co(III)(IDA)(H
2O)
2]
+への固定化効率。His
6-GFPインキュベーションのA:3時間およびB:24時間後の磁気ビーズ上での[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-または[Co(III)(IDA)(H
2O)
2]
+錯体により生産された[Co(III)(IDA)(His-GFP)]の錯体形成効率および化学的安定性。示された時間(10分または48時間)にわたってNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oと共にIDAで官能化された磁気ビーズをインキュベートすることによって、[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-錯体を生産した。HEPESに基づく緩衝剤または緩衝剤中の250mMイミダゾールを用いたストリンジェントな洗浄により、化学的安定性を試験した。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて測定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。[Co(III)(IDA)(H
2O)
2]
+錯体で官能化されたビーズと比較して10分のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oインキュベーションを用いて調製された[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-錯体を使用してビーズ上に固定された、有意により多くのHis
6タンパク質が化学的に安定であった。48時間のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oインキュベーションを用いて調製された[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-錯体は、24時間のタンパク質インキュベーション時間後に[Co(III)(IDA)(H
2O)
2]
+錯体を打ち負かした。全ての[Co(III)(IDA)(His-GFP)]錯体が、イミダゾールに対して高い化学的安定性を示した。エラーバー:±SD;p値:<0.001:
***;<0.01:
**;<0.05:
*;≧0.05:有意でない。
【
図20】[Co(II)(金属結合ドメイン)(His-GFP)]の酸素処理に対する[Co(III)(IDA/NTA)(CO
3)]による[Co(III)(IDA/NTA)(His-GFP)]の化学的に安定な錯体形成。磁気ビーズ上での、[Co(III)(金属結合ドメイン)(CO
3)]
2-錯体(Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/タンパク質インキュベーション時間)または酸素(8時間)もしくは過酸化水素(20mM、1時間)処理を用いた[Co(II)(金属結合ドメイン)(His-GFP)]の酸化により生産されたA:[Co(III)(IDA)(His-GFP)]またはB:[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の化学的安定性を、HEPESに基づく緩衝剤または緩衝剤中の250mMイミダゾールの処理を用いてチャレンジした。ビーズ上に固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて測定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。[Co(II)(金属結合ドメイン)(His-GFP)]の8時間の酸素処理と比較して、[Co(III)(金属結合ドメイン)(CO
3)]錯体を使用してビーズ上に固定された、有意により多くのHis6タンパク質が化学的に安定であった。エラーバー:±SD;p値:<0.001:
***;<0.01:
**;<0.05:
*;≧0.05:有意でない。
【
図21】表面上での[Co(III)(HS-PEG-NTA)(His-GFP)]錯体の形成。His-GFPを、[Co(III)(HS-PEG-NTA(CO
3)]
2-錯体により金ナノ構造ガラス表面に固定した。ナノ構造金ドットを、チオール-PEG-NTAにより官能化した後、Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oと共にインキュベートして、[Co(III)(HS-PEG-NTA(CO
3)]
2-錯体を形成させた後、His
6-GFPを、[Co(III)(HS-PEG-NTA)(His-GFP)]錯体の形成によって固定する。金ドットが、ガラス表面との非特異的タンパク質相互作用を回避する間、全ての表面を、短いPEG層を用いて不動態化する。固定されたHis-GFPの量を、表面上での蛍光に基づいて決定し(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)、表面上でのGFP固定化を確認した。「PEGのみ」:不動態化された表面;「PEG/GFP」:His-GFPと共にインキュベートした不動態化された表面;「金属なし」:チオール-PEG-NTAおよびHis-GFPと共にインキュベートした不動態化された表面;「[Co(III)(NTA)(His-GFP)]」:チオール-PEG-NTA、Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2OおよびHis-GFPと共にインキュベートした不動態化された表面。
【
図22】溶液中での[Co(III)(NTA-X-ビオチン)(His-GFP)]錯体の形成。Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2OをNTA-X-ビオチンと共にインキュベートした後、様々なインキュベーション時間にわたってHis-GFPを得られる錯体と共にインキュベートすることによって生産された[Co(III)(NTA-X-ビオチン)(CO
3)]錯体を介してHis-GFPをビオチン部分にカップリングした。最終的な錯体を、ビオチン-ストレプトアビジン相互作用によってストレプトアビジンで官能化されたビーズに固定した。ビオチン化されたタンパク質に関する尺度としての固定されたタンパク質の量を、ビーズスラリーの蛍光に基づいて決定した(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)。A:ストレプトアビジンビーズ上に固定された、10分のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTA-X-ビオチンおよび30分の[Co(III)(NTA-X-ビオチン)(CO
3)]/His-GFPインキュベーション後に生成された[Co(III)(NTA-X-ビオチン)(His-GFP)」錯体。全てのNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2OのNTAに対する比について、有意な量のHis-GFPをビオチン化し、ビーズ上に固定することができた。それにより、Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O比が高いほど、標識化の速度が増大する。B:緩衝剤中の250mMイミダゾールを用いたストリンジェントな洗浄後にストレプトアビジンビーズ上に固定された、10分のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTA-X-ビオチンおよび30分または48時間の[Co(III)(NTA-X-ビオチン)(CO
3)]/His-GFPインキュベーション後に生成された[Co(III)(NTA-X-ビオチン)(His-GFP)]錯体。タンパク質インキュベーション時間が増加すると共に、固定された、したがって、化学的に安定な錯体の量が増加する。エラーバー:±SD;p値:<0.001:
***;<0.01:
**;<0.05:
*;≧0.05:有意でない。
【
図23】[Pt(IV)(NTA)(NO
3)]官能化ビーズ上でのHis
6-GFP固定化。NTAで官能化されたアガロースビーズを、白金(IV)硝酸イオンと共に10分インキュベートした後、His
6-GFPと共に30分インキュベートした。形成された[Pt(IV)(NTA)(His
6-GFP)]錯体の化学的安定性を、250mMイミダゾールを用いてチャレンジし、ビーズ上の固定されたタンパク質をBCAアッセイによって決定した。[Pt(IV)(NTA)(NO
3)]錯体による有意な量のタンパク質の安定な固定化を示すことができた。さらに、金属結合リガンド硝酸イオンの使用は、容易かつ迅速な、錯体へのタンパク質結合を可能にした。エラーバー:±SD;p値:<0.001:
***;<0.01:
**;<0.05:
*;≧0.05:有意でない。
【実施例】
【0188】
実施例1:[Co(II)(NTA)(His6-GFP)]および[Co(III)(NTA)(His6-GFP)]錯体の化学的安定性の比較
[Co(II)(NTA)(His6-GFP)]および[Co(III)(NTA)(His6-GFP)]が固定されたビーズのアリコートを、250mMイミダゾールと組み合わせた、強力なキレーターまたは広く使用される還元剤と共にインキュベートして、Co3+に基づく錯体が、化学的安定性に関して一般的に使用されるNi2+またはCo2+に基づく錯体よりも優れていることを示した。
【0189】
His6-GFP(配列番号14)を、プラスミドpET His6 GFP TEV LIC(Addgene#29663)(Pedelacqら、2006)を使用して大腸菌BL21(DE3)中で発現させ、WegnerおよびSpatz(WegnerおよびSpatz、2013)により記載されたNi2+-NTAビーズにより精製した。
【0190】
Ni2+-NTAアガロース樹脂(Novagen)を、1)9倍ビーズ容量のddH2Oで、2)3倍ビーズ容量の0.1M EDTA pH7.5で、3)9倍ビーズ容量の緩衝剤A(50mM Tris-HCl pH7.4、300mM NaCl)で3回、4)1.5倍ビーズ容量の0.1M CoCl2・6H2Oで、5)9倍ビーズ容量の緩衝剤B(緩衝剤A+250mMイミダゾール)で、および6)9倍ビーズ容量の緩衝剤Aで3回、洗浄した。最後に、His6-GFPを、1倍ビーズ容量の、緩衝剤A中の10μM His6-GFP中でインキュベートすることによって、それらをビーズ上にロードした。各ステップの間に、ビーズスラリーを300gで1分遠心分離し、上清をデカンテーションした。[Co(III)(NTA)(His6-GFP)]錯体を得るために、Co2+-NTA上にHis6-GFPが固定されたビーズを、20mM H2O2を含む緩衝剤A中、室温で1時間インキュベートした(Co2+を含有する対照として後に使用されるビーズを、H2O2を含まない緩衝剤A中でインキュベートした)。続いて、ビーズを緩衝剤Aで数回洗浄した後、ビーズを、2倍ビーズ容量の緩衝剤A中に再懸濁し、安定性実験のために150μlのアリコート中に分配した。最後に、50μlの各試験試薬(最終濃度:キレーター:250mMイミダゾール、25mM NTA、25mM EDTA;還元剤(システアミン、DTT、TCEP、アスコルビン酸イオン):250mMイミダゾールを添加した1mM)を、アリコートに添加した。室温で1時間インキュベートした後、100μlの上清を、プレートリーダー(TECAN、infinite 2000)を使用してGFP蛍光(λex=480nm、λem=510nm)について分析した。全ての実験を、二重に実施した。
【0191】
図1に示されるように、His
6-GFPをCo
3+中心に結合させた場合、試験したキレーターまたは還元剤とのインキュベーション時に、非常に少量の溶出タンパク質しか観察されなかった。対照的に、Co
2+ビーズに結合したHis
6-GFPは、同じ条件下で完全に溶出された。かくして、[Co(III)(NTA)(His
6-GFP)]錯体は、強力なキレーターによる破壊およびCo
2+への還元に対して両方とも不活性である。
【0192】
実施例2:過酸化水素によるフルオロフォアの酸化
実施例1に記載され、先行技術において以前に記載された方法(WegnerおよびSpatz、2013を参照されたい)において用いられるような、Co2+をCo3+に酸化するためのH2O2の利用は、結合したタンパク質を害するだけでなく、標識または担体などのNTAコンジュゲートの機能にも負に影響し得る。例えば、いくつかのフルオロフォアの蛍光は、以下に示されるようにH2O2による酸化時に減少し得る。
【0193】
フルオロフォアコンジュゲートを、リン酸緩衝塩水(PBS)(Thermo;18912014)(最終濃度:5μg/mlフルオレセイン(Riedel de Haen;28802);185μg/ml Alexa488結合抗体(Invitrogen;A11039);9μg/ml FITC結合抗体(Thermo;MA1-81891);5μm atto488結合Ni2+-NTA(Sigma;39625))中に希釈し、100μlの各フルオロフォア溶液を、0.05%H2O2と共に約21時間インキュベートした後、黒色の96ウェルプレート中、1%H2O2中で別に22時間インキュベートした。蛍光強度(λex=490nm、λem=535nm)を、プレートリーダー(TECAN;Spark)上で15分(0.05%H2O2)または30分(1%H2O2)毎に測定した。
【0194】
図3に示される蛍光測定値は、全ての分析したフルオロフォアが、H
2O
2とのインキュベーション時に蛍光強度の顕著な低下を示したことを示す。
実施例3:H
2O
2によるコバルト酸化中のタンパク質分解およびHisタグ切断
実施例1に記載され、WegnerおよびSpatz(WegnerおよびSpatz、2013)によって以前に記載された方法において用いられるような、Co
2+をCo
3+に酸化するためのH
2O
2の利用は、抗Hisタグウェスタンブロットにおいて示されるように、タンパク質分解およびヒスチジン残基の切断(Davies、1987、Stadtman、1990)をもたらし得る、フェントン様反応(Hanna、Kadiiskaら、1992)を自発的に誘発し得る。
【0195】
蛍光タンパク質PercevalHR(配列番号15)を、プラスミドpRsetB-PercevalHR(Addgene#49081)(Tantamaら、2013)を使用して大腸菌DH5α中で発現させ、(Tantamaら、2013)に記載されたようにNi2+-NTAカラムにより精製した。
【0196】
3.3μMのHis7タグ付PercevalHRタンパク質を、タンパク質緩衝剤(50mM Tris pH7.4、150mM NaCl)中の33μMのCoCl2・6H2Oと混合し、室温で2分インキュベートした。続いて、20mM H2O2を添加し、混合物を、21℃で1.5時間インキュベートした。コバルトおよび/またはH2O2を含まない対照試料については、等量のタンパク質緩衝剤を使用した。最後に、反応を、33mM EDTA pH8.0を用いてクエンチした。
【0197】
ウェスタンブロット分析のために、タンパク質試料を、SDS試料緩衝剤(25mM Tris-HCl pH6.8、192mMグリシン、0.1%(w/v)SDS、0.002%(w/v)ブロモフェノールブルー、100mM DTT(最終濃度))と混合し、70℃で10分変性させ、84pmolのタンパク質を、SDS-PAGEゲル(7%(w/v)アクリルアミド-ビスアクリルアミド(37.5:1)、375mM Tris-HCl pH8.8、0.1%(w/v)SDS、0.1(w/v)過硫酸アンモニウム、0.1%(v/v)TEMED;泳動条件:120V一定、Laemmliの泳動緩衝剤(25mM Tris-HCl pH8.8、192mMグリシン、0.1%(w/v)SDS))上にロードした。タンパク質分離後、タンパク質を、ニトロセルロース膜(Whatman、10401196)上にブロットし、膜を、TBS-T(20mM Tris-HCl pH7.5、150mM NaCl、0.1%(v/v)Tween20)を用いて室温で5分洗浄した後、TBS-T中の5%(w/v)ウシ血清アルブミンを用いて室温で1時間ブロックした。最後に、膜を、200ng/ml西洋わさびペルオキシダーゼ標識抗Hisタグ抗体(クローンH-3)(Santa Cruz、sc-8036HRP)と共にインキュベートし、TBS-Tで10分、3回洗浄し、ルミノールに基づく増強化学発光西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)基質溶液(Thermo、34076)中、室温で5分インキュベートした。Hisタグ付タンパク質からの化学発光シグナルを、LAS3000システム(FUJIFILM)を使用して検出した。
【0198】
図4におけるウェスタンブロットは、スメアであまり強くないバンドによる、タンパク質と、H
2O
2と組み合わせたコバルトとのインキュベーション時のあり得るタンパク質分解ならびに自発的なHisタグ切断を示す。
【0199】
実施例4:[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体の合成
H
2O
2の使用を完全に回避するために、[Co(III)(NTA)(His-タンパク質)]錯体の形成のためにCo(III)炭酸イオン(例えば、Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2OおよびK
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O)を用いる新しい方法が開発された。錯体形成プロセスは、
図2C中に概略的に図示される。第1のステップでは、Co(III)塩を、NTAと共にインキュベートして、[Co(III)(NTA)CO
3]
2-を形成させる。プロトン磁気共鳴分光法(
1H-NMR)を適用して、[Co(III)(NTA)CO
3]
2-錯体の形成の成功を示した。
【0200】
ナトリウムトリス-カルボナトコバルト(III)三水和物の合成
ナトリウムトリス-カルボナトコバルト(III)三水和物(Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2O)を、BauerおよびDrinkard(BauerおよびDrinkard、1960)により記載されたように合成した。簡単に述べると、50mlのddH2O中の0.1モル(29.1g)のCo(II)(NO3)・6H2O(Sigma;1.02554)と、10mlの30%過酸化水素(Riedel-de Haen;18312)との混合物を、50mlのddH2O中の0.5モル(=42.0g)の重炭酸ナトリウム(Merck;1.06329)の氷冷スラリーに撹拌しながら滴下添加した。混合物を、連続撹拌しながら氷上で1時間インキュベートした。続いて、オリーブ色の生成物を濾過し、冷水、無水エタノールおよび乾燥エーテルのそれぞれで3回洗浄した。最後に、生成物を減圧下で一晩乾燥し、窒素雰囲気中、-20℃で保存した。
【0201】
カリウムトリス-カルボナトコバルト(III)三水和物の合成
カリウムトリス-カルボナトコバルト(III)三水和物(K3[Co(III)(CO3)3]・3H2O)を、Shibata(Shibata、1983;Moriら、1956の適合化)によって記載されたように溶液中で合成した。簡単に述べると、24mlのddH2O中の0.1モル(24g)のCo(II)Cl2・6H2O(Honeywell;255599)と、40mlの30%過酸化水素との混合物を、70mlのddH2O中の0.7モル(70g)の重炭酸カリウム(Honeywell;237205)の氷冷スラリーに撹拌しながら滴下添加した。続いて、得られる緑色の溶液を吸引により濾過し、以下の実験のために直接使用する。
【0202】
[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体の調製
ナトリウム塩から[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体を生産するために、580μモル(210mg)のNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oを、ddH2O中の2mlの1M重炭酸ナトリウムおよび2Mニトリロ三酢酸三ナトリウム塩(Sigma;N0253)に添加し、スラリーを30分超音波処理した。70℃で72時間のインキュベーション後、3mlの1M重炭酸ナトリウムを新しいピンク色がかったスラリーに添加し、混合物を70℃で2時間超音波処理した。続いて、スミレ色の上清を、NMR分析に提出した。カリウム塩から生産された錯体については、K3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oを、0.1モルのCoCl2・6H2O(上を参照されたい)から溶液中で合成した後、0.1モルのニトリロ三酢酸三ナトリウム塩(25.7g)を、(Shibata、1983)に記載のように60mlのddH2Oと共に添加した。60℃での連続撹拌下で3時間のインキュベーション後、得られたスミレ色の溶液を濾過し、水性酢酸でpHをpH7.3に調整した。最後に、溶液を4℃で一晩インキュベートし、白色の沈降物から除去し、NMR分析に提出した。錯体[Co(II)(NTA)(D2O)]-を得るために、5mMのニトリロ三酢酸(Sigma;72559)と、5mMのCoCl2・6H2Oとの混合物を、D2O中のストック溶液から生産し、NMR測定の前に室温で15分インキュベートした。D2O(Carl Roth;HN81.3)中にニトリロ三酢酸を溶解するために、少量の10M NaOHを、対応するストック溶液に添加した。純粋なNTAの測定のために、D2O中の5mM溶液を、上記のように調製されたストック溶液から調製した。1H-NMRスペクトルを、400MHzの共鳴周波数でJeol ECZ400S分光計上、室温で測定した。シグナルノイズ比を改善するために、最大32のシグナルをフーリエ変換の前に付加した。得られたスペクトルの強度を、7ppmで正規化し、全てのppm値を、4.70ppmでの水ピークに調整した。
【0203】
純粋なNTAならびにコバルトおよび水または炭酸イオンリガンドとのその錯体のH
1-NMRスペクトルを測定することにより、[Co(III)(NTA)CO
3]
2-錯体の形成を確認した(
図5)。純粋なNTAの水素のスペクトルは、4.70ppmでの遍在性の水ピークの他に、約3.6ppmでのピークを示し、これは、ソフトウェアNMR Predict(https://www.nmrdb.org/new_predictor/index.shtml?v=v2.103.0)(BanfiおよびPatiny、2008;Castilloら、2011;Aires-de-Sousaら、2002)によって実施されたシミュレーション(計算値3.57ppm)と一致している。NTAが、コバルトおよび水(ここで、H
1-NMR測定値のため、重水(D
2O)が使用される)との錯体([Co(II)(NTA)(D
2O)
2]
-;
図5B)または炭酸イオンとの錯体([Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-;
図C+D)を形成する場合、約3.6ppmでの元のピークは、それぞれ、リガンドとしてのD
2Oについては約3.8ppmに、炭酸イオンに関しては約1.9ppmにシフトした。錯体の生産のためにナトリウムまたはカリウムコバルト(III)炭酸イオンを使用したかどうかに関係なく、類似するピークシフトが観察された。NTAピークのシフトは、さらなる原子が錯体化プロセス中に水素原子のごく近くに来るため、NTA中の水素原子の磁気環境が変化することを示す。したがって、コバルト(III)炭酸イオンを用いて生産された錯体に関する異なるピークシグとの観察は、最終的なコバルト-NTA錯体中の水リガンドの代わりに炭酸イオンリガンドの存在を強く示す。
【0204】
実施例5:[Co(III)(NTA)(CO3)]により形成された[Co(III)(NTA)(His6-PercevalHR)]錯体の化学的安定性
アガロースビーズに連結されたNTAとの[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体を、Hisタグ付タンパク質PercevalHRと共にインキュベートして、アガロースビーズ上に固定された[Co(III)(NTA)(His6-PercevalHR)]を形成させた。続いて、[Co(III)(NTA)(His6-PercevalHR)]錯体の化学的安定性を評価した。対照として、従来のNi2+NTAに基づくマトリックスを用いた。
【0205】
蛍光タンパク質PercevalHR(配列番号15)を、プラスミドpRsetB-PercevalHR(Addgene#49081)(Tantama、Martinez-Francoisら、2013)を使用して大腸菌DH5α中で発現させ、(Tantama、Martinez-Francoisら、2013)に記載されたようにNi2+-NTAカラムにより精製した。
【0206】
NTAアガロース樹脂(Qiagen、1022963)を、1)10倍ビーズ容量のddH2Oで、2)3倍ビーズ容量の100mM EDTA pH7.5で、3)10倍ビーズ容量のddH2Oで3回洗浄した後、1M NaHCO3中の10倍ビーズ容量の1mM Na3[CO(III)(CO3)3]・3H2Oまたは1mM Ni(II)SO4を添加した。1100rpmで振とうする23℃でのサーモシェーカー中で48時間インキュベートした後、ビーズを、10倍ビーズ容量のddH2Oで2回、10倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤(50mM Tris pH7.4、150mM NaCl)で1回洗浄した。最後に、タンパク質緩衝剤中の1倍ビーズ容量の10μM His6-PercevalHR(配列番号15)を添加し、サーモシェーカー上、1100rpmで振とうしながら4℃で48時間インキュベートして、タンパク質をマトリックスに結合させた。10倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で2回洗浄した後、3倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤を添加し、10μlのビーズスラリーを、プレートリーダー(TECAN、infinite 2000)を使用してPercevalHR蛍光(λex=500nm、λem=545nm)について分析した。錯体の安定性を試験するために、10倍ビーズ容量の、タンパク質緩衝剤中の250mMイミダゾールまたはタンパク質緩衝剤のみを添加した後、ビーズを、10倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で洗浄することによって除去した。最後に、ビーズを、3倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁し、10μlのビーズスラリーを、残存する蛍光について分析した。全ての実験を、三重に実施した。
【0207】
図6に示されるように、対照として使用した[Ni(II)(NTA)(His
6-PercevalHR)]錯体は、キレーターイミダゾール処理に対して低い安定性を示した。際だって対照的に、コバルト(III)炭酸イオンにより形成された[Co(III)(NTA)(His
6-PercevalHR)]錯体および[Co(III)(NTA)(CO
3)]プレ錯体は、イミダゾールに対して強い安定性を示す。錯体の測定された安定性は、間接的な酸化方法(実施例1で用いられたもの)を用いて生産された[Co(III)(NTA)(His
6-PercevalHR)]錯体と類似する。したがって、このデータは、驚くべきことに、[Co(III)(NTA)(His
6-PercevalHR)]を、[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-プレ錯体を使用することによって高い効率で酸化ステップなしに形成させることができることを確認する。
【0208】
実施例6:His6-GFPの[Co(III)(NTA)CO3]2-に対する結合速度
実施例4は、[Co(III)(NTA)CO3]2-錯体を形成させることができることを実証する。さらに、実施例5は、NTAによりビーズに連結された[Co(III)(NTA)CO3]2-錯体を合成し、驚くべきことに、これを使用して、ビーズ上で[Co(III)(NTA)(His-タンパク質)]錯体を形成させることができることを示す。本発明者らは、コバルト(III)中心でのリガンドとしての炭酸イオンは、[CoIII(NTA)(His-タンパク質)]錯体の形成を容易にし得ると推測した。この知見を確認するために、His6-GFPの[Co(III)(NTA)(H2O)2]および[Co(III)(NTA)(CO3)]2-に対する結合効率を直接比較した。
【0209】
NTAアガロースビーズの官能化
NTAアガロース樹脂(Qiagen、1022963)を、1)10倍ビーズ容量のddH
2Oで、2)10倍ビーズ容量の100mM EDTA pH7.5で、3)それぞれ、[Co(II)(NTA)(H
2O)
2]
-および[Co(III)(NTA)(H
2O)
2]錯体については、10倍ビーズ容量のddH
2Oで2回および6.7倍ビーズ容量のddH
2Oで1回または[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体については、10倍ビーズ容量のddH
2Oで2回および6.7倍ビーズ容量の1M NaHCO
3で1回、洗浄した。続いて、8.7倍ビーズ容量の、ddH
2O中の1mM Co(II)Cl
2・6H
2O([Co(II)(NTA)(H
2O)
2]
-および[Co(III)(NTA)(H
2O)
2]錯体について)または1M NaHCO
3中の1mM Na
3[CO(III)(CO
3)
3]・3H
2O([Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体について)を添加した。1100rpm、25℃でサーモシェーカー中で18時間インキュベートした後、ビーズを、それぞれ、6.7倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤(50mM Tris-HCl pH7.4、300mM NaCl)([Co(II)(NTA)(H
2O)
2]
-、[Co(III)(NTA)(H
2O)
2]錯体および[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体の1試料について)または1M NaHCO
3(
図7中の「1M NaHCO
3中の[Co(III)(NTA)(CO
3)]」と称される[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体の1試料について)で洗浄した。最終的な[Co(III)(NTA)(H
2O)
2]錯体を含む試料については、2回目の洗浄を、6.7倍ビーズ容量の、ddH
2O中の20mM H
2O
2を用いて実施し、サーモシェーカー(1100rpm)上、25℃で1時間インキュベートした。
【0210】
His
6-GFPの、官能化されたNTAアガロースビーズに対する結合速度
生産されたビーズを、3.3倍ビーズ容量の、タンパク質緩衝剤(50mM Tris-HCl pH7.4、300mM NaCl)中の20μM His
6-GFP(配列番号14)と共にインキュベートし、サーモシェーカー上、1100rpmで振とうしながら4℃でインキュベートした。[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-の1試料(
図7において「1M NaHCO
3中の[Co(III)(NTA)(CO
3)]」と称される)については、タンパク質緩衝剤の代わりに1M NaHCO
3を使用した。未結合のタンパク質の画分を、種々の時点でプレートリーダー(TECAN、Spark)において100μl上清の蛍光強度(λ
ex=490nm、λ
em=535nm)を測定することによって分析した。
【0211】
[Co(III)(NTA)(His6-GFP)]錯体の化学的安定性
上記のような、官能化されたビーズと、His6-GFP(配列番号14)とのインキュベーションが終結した後、ビーズに結合したタンパク質の量を分析した。このために、ビーズを、6.7倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で3回洗浄し、6.7倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁し、最後に、100μlのビーズスラリーを、プレートリーダー(TECAN、Spark)を使用してGFP蛍光(λex=490nm、λem=535nm)について分析した。錯体の安定性を試験するために、1.7倍ビーズ容量の、タンパク質緩衝剤中の1.25Mイミダゾール(最終濃度250mM)を添加し、6.7倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤でビーズを3回洗浄した後、サーモシェーカー上、1100rpm、25℃で10分インキュベートした。最後に、ビーズを、6.7倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁し、100μlのビーズスラリーを、残存する蛍光について分析した。全ての実験を、三重に実施した。
【0212】
これらの実験の結果は、炭酸イオン分子が会合したCo
3+錯体が、水分子がCo
3+に結合した錯体よりも有意に速くタンパク質に結合することを明確に示している(
図7A)。一致して、[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体で官能化されたビーズは、[Co(III)(NTA)(H
2O)
2]を予めロードしたビーズよりも有意に多くのタンパク質に結合する(
図7B)。さらに、
図7Bは再度、[Co(III)(NTA)(His
6-GFP)]錯体が、キレーター(ここではイミダゾール)に対する強い安定性を示すことを確認するものである。
【0213】
実験はさらに、タンパク質結合前に1M NaHCO3を用いてビーズに結合した[Co(III)(NTA)(CO3)]2-を洗浄することにより、His6-GFP結合がさらに容易になることを示す。理論によって束縛されるものではないが、緩衝剤中のHCO3
-および/またはCO3
2-の存在は、[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体の、より遅く増強する[Co(III)(NTA)(H2O)2]錯体への変換を防止すると考えられる。本発明の実験では、His-タンパク質結合を、「1M NaHCO3中の[Co(III)(NTA)(CO3)]」試料(上記参照)については1M NaHCO3の存在下でも実施したが、タンパク質結合中の1M NaHCO3の存在は、仮にあったとしても、非常に小さい程度で寄与するに過ぎないと想定される。これは、タンパク質結合中に、炭酸イオンリガンドがCo3+錯体から遊離するのが望ましく、1M NaHCO3の存在によって容易になるよりもむしろ妨害され得るからである。
【0214】
実施例7:様々な緩衝剤系中でのHisタグ付タンパク質の、[Co(III)(NTA)(CO3)]2-への結合速度
[Co(III)(NTA)(His-タンパク質)]錯体の形成を、反応緩衝剤の組成を変化させることによって改善することができるかどうかを決定した。
【0215】
[Co(III)(NTA)(CO3)]2-で官能化されたビーズを、小さく改変して実施例6に記載のように調製した:ビーズ洗浄ステップ1)~3)を、5倍ビーズ容量の対応する溶液で実施した。3)においては、2回目および3回目の洗浄ステップを、1M NaHCO3を用いて行った。金属を、6.5倍ビーズ容量でロードした。金属結合後、ビーズを、5倍ビーズ容量の1M NaHCO3で洗浄した。
【0216】
また、Hisタグ付GFP(配列番号14)とのインキュベーションを、5倍ビーズ容量の10μMタンパク質溶液を使用し、50mM Tris pH7.4を50mM Bis-Tris pH6.0、50mM HEPES pH7.0、50mM MES pH6.0または50mM Tris-HCl pH7.5で置き換えることによってタンパク質緩衝剤を適合させたこと以外は、実施例6に記載のように実施した。さらに、タンパク質インキュベーションの最初の24時間を、4℃の代わりに室温で実施した。
【0217】
実験は、Trisに基づく緩衝剤を、HEPESまたは特に、MESもしくはBisTrisに基づく緩衝剤などの非配位緩衝剤によって置き換えた場合、反応速度および効率を有意に改善することができることを示した。24時間のインキュベーション後、Trisに基づく緩衝剤に関する75%と比較して、MESおよびBisTrisに基づく緩衝剤を使用した場合に、全タンパク質の95%がビーズ上に固定された(
図8A)。さらに、
図7Aと
図8Aとの結果の比較は、タンパク質インキュベーションの最初の24時間の温度の増大および/または1M NaHCO
3を用いた洗浄は、His-タンパク質配位を容易にすることを示す。インキュベーションの既に3時間後、MESまたはBisTrisに基づく緩衝剤を使用した場合、約80%のタンパク質をビーズに結合させることができた。対照的に、Trisに基づく緩衝剤中では、50%未満のタンパク質がビーズ上に固定された。合理的な時間尺度で非常に高効率でHisタグ付タンパク質を[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体と配位することができることが示された。
【0218】
様々なタンパク質緩衝剤について示されたpH値は、溶液をビーズに添加する前のpHを示すことに注目されたい。ビーズ上に残存する2回目の洗浄ステップからの残留NaHCO3のため、全試料中のpHは、タンパク質とのインキュベーション中に8.5~9であった(pH測定によって検証した)。したがって、全ての緩衝溶液中の非常に類似するpH値のため、実験は、緩衝物質自体がHis-タンパク質結合に対する影響を有することを明確に示す。Tris緩衝剤と比較してGoodの緩衝剤MESおよびBisTrisの観察されたより良好な性能は、Co3+と錯体を形成することができないGoodの緩衝剤の使用が、Tris緩衝剤などの、そのような錯体を形成することができる緩衝剤の使用と比べて有利であることを示唆する。
【0219】
実施例8:[Co(III)(NTA)(CO3)]2-のUV-Vis分析
実施例4は、NMRによって、[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体を形成させることができることを実証する。以下の実施例では、別の技術、すなわち、UV-Visによる吸光度測定によって、[Co(III)(NTA)CO3]2-錯体の形成を証明する。
【0220】
[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体の調製:
[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体を生産するために、1時間の超音波処理を用いて溶液中に塩を溶解した後、0.22μmフィルターを通す濾過ステップを行うことによって、1M NaHCO3中の1mMのNa3[CO(III)(CO3)3]・3H2Oの溶液を調製する。続いて、1M NaHCO3溶液中の0.95mMのNa3[CO(III)(CO3)3]・3H2Oと、ddH2O中に溶解した0.95mMのNTA三ナトリウム塩(Sigma;N0253)との混合物を、1M NaHCO3中で調製する。25℃で1時間のインキュベーション後、明るいスミレ色の溶液の可視光吸収を、UV-Vis-NIR分光光度計(Cary5000)上、1cmのキュベット(Brand;759150)中で測定した。
【0221】
[Co(III)(NTA)(H2O)2]錯体の調製:
[Co(III)(NTA)(H2O)2]錯体を生産するために、0.95mMのCo(II)Cl2・6H2O、0.95mMのNTA三ナトリウム塩(Sigma;N0253)および20mMのH2O2の混合物を、ddH2O中で調製する。25℃で24時間のインキュベーション後、明るいスミレ色の溶液の可視光吸収を、ddH2Oを用いるブランクに対して、UV-Vis-NIR分光光度計(Cary5000)上、1cmのキュベット(Brand;759150)中で測定した。
【0222】
図9における結果は、それぞれ、[Co(III)(NTA)(H
2O)
2]錯体についての402nmから、[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体についての390nmへの、または567nmから573nmへの2つのピークのシフトにより、[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体中の金属結合リガンドとしての炭酸イオンの配位を明確に示している。
【0223】
実施例9:[Co(III)(NTA)(CO3)]2-へのHis6-GFPの配位ならびにNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2OとNTAとの様々なインキュベーション時間および温度後の形成された[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性
実施例4は、[Co(III)(NTA)CO3]2-錯体を、NTAと、Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oとのインキュベーションによって形成させることができることを実証する。以下の実施例では、得られる[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体へのHis6-GFP配位に対する、Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2OとNTAとの様々なインキュベーション時間および温度の効果ならびにイミダゾールに対する最終的な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の化学的安定性を精査する。
【0224】
NTAアガロースビーズの官能化
NTAで官能化されたアガロースビーズ(Qiagen;1022963)を、1)27倍ビーズ容量のddH2Oで、2)27倍ビーズ容量の100mM EDTA pH8.0で、3)27倍ビーズ容量のddH2Oで1回および27倍ビーズ容量の1M NaHCO3で2回、洗浄した。続いて、16倍ビーズ容量の、1M NaHCO3中の1mM Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oを添加し、ビーズを1400rpmでサーモシェーカー中、示されたように4℃、25℃または70℃で1分、10分、30分、1時間、24時間または48時間インキュベートした。インキュベーション後、ビーズを、16倍ビーズ容量の1M NaHCO3で2回洗浄した。
【0225】
官能化された[Co(III)(NTA)(CO3)]2-アガロースビーズへのHis6-GFPの固定化
生産されたビーズを、12倍ビーズ容量の、タンパク質緩衝剤(50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl)中の10μM His6-GFP(配列番号14)と共に、サーモシェーカー上、1400rpmで振とうしながら48時間、25℃でインキュベートした。官能化されたビーズと、His6-GFP(配列番号14)とのインキュベーション後、ビーズを、16倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で1回洗浄し、16倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。
【0226】
[Co(III)(NTA)(His6-GFP)]錯体の化学的安定性
示された[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体形成プロセスを実施した後、化学的ストレスを用いて、および用いずに、ビーズに結合したタンパク質の量を分析した。このために、ビーズを2つの部分(それぞれ、7.2倍ビーズ容量)に分割し、それぞれ、17.8倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤またはタンパク質結合緩衝剤中の250mMイミダゾールで1回洗浄した。17.8倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で最後に洗浄した後、ビーズを、17.8倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。25μlのビーズスラリー上の固定されたタンパク質の量を、製造業者の指針に基づいてマイクロプレート中でのBCAアッセイ(Thermo、23227)によって決定した。実験を、三重に実施した。
【0227】
図10に示されるこれらの実験の結果は、タンパク質を48時間のような長期間にわたってインキュベートした場合、緩衝剤ならびにイミダゾール処理後に、Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2OおよびNTAのインキュベーション時間と、アガロースビーズ上の固定されたHis-GFPの量との間に正の相関があることを明確に示している。70℃でのインキュベーションについては、NTAへのNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oの配位は高温では当然加速されるため、反応は、既に1分後にはその飽和点に達すると考えられる。さらに、
図10AおよびBに示される4℃および25℃で実施されるインキュベーションについては、インキュベーション時間は、錯体安定性と正に相関する。25℃でのインキュベーションについては、10分のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAインキュベーションで既に高い錯体安定性に達するが、4℃のインキュベーションについては、この安定性は24時間のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAインキュベーション後にのみ達する。したがって、安定な錯体形成は、より高い温度で加速されると想定される。
【0228】
実施例10:様々な温度での[Co(III)(NTA)(CO3)]2-で官能化されたビーズへのHis-タンパク質結合の速度
以下の実施例では、様々なHis-タンパク質インキュベーション時間後、および3つの異なる温度での、[Co(III)(NTA)(CO3)]2-で官能化された磁気アガロースビーズへのタンパク質結合ならびに得られる[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体のイミダゾールに対する安定性を検査する。
【0229】
NTA磁気アガロースビーズの官能化
NTAで官能化されたアガロースビーズ(Thermo;78605)を、1)26倍ビーズ容量のddH2Oで、2)26倍ビーズ容量の100mM EDTA pH8.0で、3)26倍ビーズ容量のddH2Oで2回および26倍ビーズ容量の1M NaHCO3で1回、洗浄した。続いて、160倍ビーズ容量の、1M NaHCO3中の1mM Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oまたは金属を含まない試料については1M NaHCO3を添加し、ビーズを、1400rpmでサーモシェーカー上、25℃で48時間インキュベートした。インキュベーション後、ビーズを、160倍ビーズ容量の1M NaHCO3で3回洗浄した。
【0230】
官能化された[Co(III)(NTA)(CO3)]2-磁気アガロースビーズへのHis6-GFPの固定化
生産されたビーズを、サーモシェーカー上、1400rpmで振とうしながら示されるように4、25または37℃で、示されるように1分、10分、30分、1時間、2時間、3.5時間または24時間にわたって、120倍ビーズ容量の、50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl中の10μM His6-GFP(配列番号14)と共にインキュベートした。官能化されたビーズと、His6-GFP(配列番号14)とのインキュベーション後、ビーズを、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で1回洗浄し、最終的に、160倍ビーズ容量の対応する洗浄緩衝剤中に再懸濁した。
【0231】
[Co(III)(NTA)(His6-GFP)]錯体の化学的安定性
示された[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体形成プロセスを実施した後、化学的ストレスを用いて、および用いずに、ビーズに結合したタンパク質の量を分析した。このために、ビーズを2つの部分に分割し、それぞれ、倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤またはタンパク質結合緩衝剤中の250mMイミダゾールで1回洗浄した。178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤を用いた最後の洗浄後、ビーズを、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。最後に、10μlのビーズスラリーを、プレートリーダー(TECAN、Spark)を使用してGFP蛍光(λex=490nm、λem=535nm)によりその固定されたタンパク質の量について分析した。実験を、三重に実施した。
【0232】
図11Aに記載されるように、イミダゾール処理されたビーズ上の固定されたタンパク質の量は、His-GFPと、[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-で官能化されたビーズとのインキュベーション時間と共に増加する。全てのタンパク質インキュベーション時間および温度について、イミダゾールに対する得られた錯体の高い安定性を観察することができた(
図11B)。
【0233】
実施例11:[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成および[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体を形成するためのK3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oを使用する安定性
実施例4は、K3[Co(III)(CO3)3]・3H2OをNTAと共にインキュベートすることによる[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体の形成を示す。以下の実施例では、K3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oを用いて生産された[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体へのHis-GFPの配位ならびに得られる[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体のイミダゾールに対する化学的安定性を検査する。
【0234】
NTA磁気アガロースビーズの官能化
NTAで官能化された磁気アガロースビーズ(Thermo;78605)を、1)600倍ビーズ容量のddH2Oで、2)600倍ビーズ容量の100mM EDTA pH8.0で、3)600倍ビーズ容量のddH2Oで1回および600倍ビーズ容量の1M NaHCO3で2回、洗浄した。続いて、160倍ビーズ容量の、1M NaHCO3中の1mM K3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oまたは金属を含まない試料については1M NaHCO3のみを添加した。K3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oを、実施例4に記載のように生産した。濃度の計算は、合成プロセスの100%の還元効率の仮定に基づく。1400rpm、25℃でサーモシェーカー中、示されるように10分または48時間にわたって示されるような試料をインキュベートした後、ビーズを、160倍ビーズ容量の1M NaHCO3で3回洗浄した。
【0235】
官能化されたNTA磁気ビーズへのHis6-GFPの固定化
生産されたビーズを、120倍ビーズ容量の、タンパク質緩衝剤(50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl)中の10μM His6-GFP(配列番号14)と共に、サーモシェーカー上、1400rpmで振とうしながら、示されるように1時間または48時間、25℃でインキュベートした。官能化されたビーズと、His6-GFP(配列番号14)とのインキュベーション後、ビーズを、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で1回洗浄し、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。
【0236】
[Co(III)(NTA)(His6-GFP)]錯体の化学的安定性
示された[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体形成プロセスを実施した後、化学的ストレスを用いて、および用いずに、ビーズに結合したタンパク質の量を分析した。このために、ビーズを2つの部分(それぞれ、72倍ビーズ容量)に分割し、それぞれ、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤またはタンパク質結合緩衝剤中の250mMイミダゾールで1回洗浄した。178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で最後に洗浄した後、ビーズを、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁し、10μlのビーズスラリーを、プレートリーダー(TECAN、Spark)を使用してGFP蛍光(λex=490nm、λem=535nm)によりその固定されたタンパク質の量について分析した。実験を、三重に実施した。
【0237】
図12に記載される結果は、His-GFPが、K
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2OとNTAとのインキュベーションによって形成された[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体に配位することができることを明確に示す。得られる[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体は、イミダゾール処理に対する高い化学的安定性を示す。K
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oはより高い濃度で可溶性であるため、K
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oの使用は、Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oよりも高い濃度で金属結合ドメインとのインキュベーションを実施する可能性を提供する。
【0238】
実施例12:[Co(III)(NTA)(CO3)]2-へのHis6-GFPの配位および様々なタンパク質結合緩衝剤中での形成された[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性
実施例7は、[Co(III)(NTA)(CO3)]2-へのHisタグ付タンパク質の結合速度に対する様々な緩衝物質の効果を示す。以下の実施例では、様々な異なる緩衝剤系中、2つの異なるNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2O/NTAインキュベーション時間での[Co(III)(NTA)(CO3)]2-で官能化された磁気アガロースビーズへのタンパク質結合ならびに得られる[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体のイミダゾールに対する安定性を検査する。
【0239】
NTA磁気アガロースビーズの官能化
NTAで官能化されたアガロースビーズ(Thermo;78605)を、1)182倍ビーズ容量のddH2Oで、2)182倍ビーズ容量の100mM EDTA pH8.0で、3)10分のNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2O/NTAインキュベーション時間を用いる試料については、182倍ビーズ容量のddH2Oで1回および182倍ビーズ容量の1M NaHCO3で2回、または、48時間のNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2O/NTAインキュベーション時間を用いる試料については、182倍ビーズ容量のddH2Oで2回および182倍ビーズ容量の1M NaHCO3で1回、洗浄した。続いて、160倍ビーズ容量の、1M NaHCO3中の1mM Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oまたは金属を含まない試料については1M NaHCO3を添加し、ビーズを、1400rpmでサーモシェーカー上、示されたように10分または48時間、25℃でインキュベートした。インキュベーション後、ビーズを、160倍ビーズ容量の1M NaHCO3で、10分のNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2O/NTAインキュベーション時間を用いる試料については2回または48時間のNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2O/NTAインキュベーション時間を用いる試料については3回洗浄した。
【0240】
官能化された[Co(III)(NTA)(CO3)]2-磁気アガロースビーズへのHis6-GFPの固定化
生産されたビーズを、Tris、HEPES、MES、MOPS、BisTris、ACES、PIPES、BES、CAPS、TAPSに基づくタンパク質緩衝剤(50mM緩衝剤pH7.2、150mM NaCl)またはPBS中の、120倍ビーズ容量の10μM His6-GFP(配列番号14)と共に、サーモシェーカー上、1400rpmで振とうしながら、示されたように1分、15分、1時間または24時間にわたって25℃でインキュベートした。官能化されたビーズと、His6-GFP(配列番号14)とのインキュベーション後、ビーズを、160倍ビーズ容量の、10分のNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2O/NTAインキュベーション時間を用いる試料についてはタンパク質緩衝剤で、または48時間のNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2O/NTAインキュベーション時間分析を用いる試料については分析緩衝剤(50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl)で1回洗浄し、最後に、160倍ビーズ容量の対応する洗浄緩衝剤中に再懸濁した。
【0241】
[Co(III)(NTA)(His6-GFP)]錯体の化学的安定性
示された[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体形成プロセスを実施した後、化学的ストレスを用いて、および用いずに、ビーズに結合したタンパク質の量を分析した。このために、48時間のNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2O/NTAインキュベーション時間を用いる試料のためのビーズを、2つの部分(それぞれ、72倍ビーズ容量)に分割し、それぞれ、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤またはタンパク質結合緩衝剤中の250mMイミダゾールで1回洗浄した。178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で最後に洗浄した後、ビーズを、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。10μlのビーズスラリー上の固定されたタンパク質の量を、プレートリーダー(TECAN、Spark)を使用してGFP蛍光(λex=490nm、λem=535nm)により分析した。10分のNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2O/NTAインキュベーション時間を用いる試料については、ビーズを、最初の160倍ビーズ容量の、タンパク質結合緩衝剤中の250mMイミダゾール、次いで、160倍ビーズ容量のタンパク質結合緩衝剤を用いる洗浄処理の前後に分析した。実験を、三重に実施した。
【0242】
結果は、全ての緩衝剤系において、hisタグ付タンパク質を、化学的に安定な様式でビーズに固定することができることを明確に示していた。それにより、安定な錯体の割合は、10分のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAインキュベーション時間を用いる試料(
図13)と比較して、48時間のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAインキュベーション時間を用いる試料(
図14)において、より高い。全ての緩衝剤系およびNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAインキュベーション時間について、イミダゾール処理後の固定されるタンパク質の量は、タンパク質インキュベーション時間と共に増加する。それにより、異なる緩衝剤系は、10分のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAインキュベーション時間と比較して、48時間のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAインキュベーション時間を用いる試料において反応速度に対するより大きな影響を有する。48時間のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAインキュベーション時間を用いる試料上でのHEPES、MES、MOPSおよびPIPES緩衝剤の使用は、短いタンパク質インキュベーション時間でビーズ上に安定に固定されるタンパク質の量の増加をもたらすことが想定される(
図14B~D)。より長いインキュベーション時間について、HEPES、MES、MOPSまたはACESが良好な緩衝剤の選択であると想定される(
図14E)。
【0243】
実施例13:[Co(III)(NTA)(CO3)]2-へのHis6-GFPの配位に対するpHの効果および形成された[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の安定性
実施例7は、[Co(III)(NTA)(CO3)]2-へのHisタグ付タンパク質の結合速度に対する、タンパク質結合緩衝剤のpHの効果を示す。以下の実施例では、それぞれ5つの異なるpH値を有する2つのタンパク質結合緩衝剤系中での、[Co(III)(NTA)(CO3)]2-で官能化された磁気アガロースビーズへのタンパク質結合ならびに得られる[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体のイミダゾールに対する安定性を検査する。
【0244】
NTA磁気アガロースビーズの官能化
NTAで官能化されたアガロースビーズ(Thermo;78605)を、1)26倍ビーズ容量のddH2Oで、2)26倍ビーズ容量の100mM EDTA pH8.0で、3)26倍ビーズ容量のddH2Oで2回および26倍ビーズ容量の1M NaHCO3で1回、洗浄した。続いて、160倍ビーズ容量の、1M NaHCO3中の1mM Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oまたは金属を含まない試料については1M NaHCO3を添加し、ビーズを、1400rpmでサーモシェーカー中、25℃で48時間インキュベートした。インキュベーション後、ビーズを、160倍ビーズ容量の1M NaHCO3で、48時間のNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2O/NTAインキュベーション時間を用いる試料について3回洗浄した。
【0245】
官能化された[Co(III)(NTA)(CO3)]2-磁気アガロースビーズへのHis6-GFPの固定化
生産されたビーズを、BisTrisに基づく系についてはpH5.5、6.0、6.5、7.0または7.5およびHEPESに基づく系についてはpH7.5、8.0、8.5、9.0または9.5を有するBisTrisまたはHEPESに基づくタンパク質緩衝剤(50mM緩衝剤、150mM NaCl)中の、120倍ビーズ容量の10μM His6-GFP(配列番号14)と混合し、サーモシェーカー上、1400rpmで振とうしながら、示されたように1分、15分、1時間または24時間にわたって25℃でインキュベートした。官能化されたビーズとHis6-GFP(配列番号14)とのインキュベーション後、ビーズを、160倍ビーズ容量の分析緩衝剤(50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl)で1回洗浄し、最後に、160倍ビーズ容量の分析緩衝剤中に再懸濁した。
【0246】
[Co(III)(NTA)(His6-GFP)]錯体の化学的安定性
示された[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体形成プロセスを実施した後、化学的ストレスを用いて、および用いずに、ビーズに結合したタンパク質の量を分析した。このために、ビーズを2つの部分(それぞれ、72倍ビーズ容量)に分割し、それぞれ、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤またはタンパク質結合緩衝剤中の250mMイミダゾールで1回洗浄した。178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で最後に洗浄した後、ビーズを、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。10μlのビーズスラリーを、プレートリーダー(TECAN、Spark)を使用してGFP蛍光(λex=490nm、λem=535nm)によりその固定されたタンパク質の量について分析した。実験を、三重に実施した。
【0247】
結果は、全てのpH値において、hisタグ付タンパク質を、化学的に安定な様式でビーズに固定することができることを明確に示していた。それにより、高いパーセンテージのHis-GFPを、化学的に安定な様式で固定することができ、イミダゾール処理の前後での固定されるタンパク質の量は、タンパク質インキュベーション時間と共に増加する(
図15A)。最終的な[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の錯体形成効率は、より低いpH値でタンパク質結合緩衝剤と共に劇的に増加する(
図15B)。それにより、pHに基づくだけでなく、緩衝剤系を起源とする効率の差異も観察することができた(pH7.5のBisTris対HEPES)。
【0248】
実施例14:[Co(III)(NTA)(CO)3]2-または[Co(III)(IDA)(CO)3]-で官能化されたビーズへの、Hisタグまたはヒスチジンリッチ領域による様々なタンパク質の固定化
いくつかの実施例は、[Co(III)(NTA)(CO)3]2-または[Co(III)(IDA)(CO)3]-によるHis6-GFPのビーズへの固定化を示す。以下の実施例では、様々なhisタグ付タンパク質ならびにhis Fc部分のそのヒスチジンリッチ領域と配位した抗体のビーズへの固定化を試験する。さらに、固定された酵素(ソルターゼ)および抗体(固定された抗GFP IgG1へのGFP結合)の機能を精査する。
【0249】
NTAで官能化された磁気アガロースビーズ(Thermo;78605)またはIDAで官能化された磁気ビーズ(Cube Biotech;30805)を、1)33倍ビーズ容量のddH2Oで、2)33倍ビーズ容量の100mM EDTA pH8.0で、3)33倍ビーズ容量のddH2Oで1回ならびに金属を含まない、およびコバルト中心を含む試料については、33倍ビーズ容量の1M NaHCO3で2回またはニッケル中心を含む試料については33倍ビーズ容量のddH2Oで3回、洗浄した。続いて、160倍ビーズ容量の、1M NaHCO3中の1mM Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oまたは金属を含まない試料については1M NaHCO3またはニッケル中心を含む試料についてはddH2O中の1mM NiSO4を添加し、ビーズを、1400rpmでサーモシェーカー中、25℃で10分インキュベートした。インキュベーション後、ビーズを、160倍ビーズ容量の1M NaHCO3またはニッケル中心を含む試料についてはddH2Oで3回洗浄した。
【0250】
官能化された[Co(III)(NTA/IDA)(CO3)]2-磁気アガロースビーズへのタンパク質の固定化
生産されたビーズを、120倍ビーズ容量の、タンパク質結合緩衝剤(50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl)中のタンパク質(10μM His-GFP(配列番号14);10μM His-プロテインA(Abcam;ab52953);10μM His-ソルターゼA(配列番号16);1μM His-ヒト血清アルブミン(antikoerperonline;ABIN2181228);0.2μM抗GFPマウスIgG1(Biolegend;902605))と混合し、それぞれ、48時間またはIDA試料については30分にわたってサーモシェーカー上、1400rpmで振とうしながら25℃でインキュベートした。官能化されたビーズと、タンパク質とのインキュベーション後、タンパク質上清の試料を、SDS-PAGEによる後の分析のために保存し、ビーズを、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で1回洗浄し、最後に、160倍ビーズ容量の分析緩衝剤中に再懸濁するか、または抗体試料については、別の部分に記載されるようにGFPインキュベーションを継続した。
【0251】
[Co(III)(NTA/IDA)(タンパク質)]錯体の化学的安定性
示された[Co(III)(NTA/IDA)(タンパク質)]錯体形成プロセスを実施した後、化学的ストレス後に、ビーズに結合したタンパク質の量を分析した。このために、ビーズを、178倍ビーズ容量の、タンパク質結合緩衝剤中の250mMイミダゾールで1回洗浄した。178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で最後に洗浄した後、ビーズを、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。25μlのビーズスラリー上のタンパク質の量を、製造業者の指針に基づいてマイクロプレート中でのBCAアッセイ(Thermo、23227)によって決定した。
【0252】
ビーズ上に固定されたソルターゼAの機能の決定
20μlのビーズスラリー上の固定されたソルターゼAの活性を、AnaspecからのSensoLyte(登録商標)520 Sortase A Activity Kit(#72228)を用いて製造業者により記載されたように決定した。
【0253】
固定されたα-GFP抗体へのGFP結合
固定された抗体の機能を評価するために、[Co(III)(NTA/IDA)(IgG1)]で官能化されたビーズを、120倍ビーズ容量の、タンパク質結合緩衝剤中の0.54μM GFP(Hisタグを含まない)(Abcam;ab84191)と共に、25℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、ビーズを、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で1回洗浄し、最後に160倍ビーズ容量の分析緩衝剤中に再懸濁し、IDAを含む試料の場合、上記のような化学的安定性の決定にかけた。最後に、固定された抗体に結合したGFPを、プレートリーダー(TECAN、Spark)を使用して10μlのビーズスラリーのGFP蛍光(λex=490nm、λem=535nm)に基づいて決定した。
【0254】
タンパク質上清のSDS-PAGE
タンパク質インキュベーション後のタンパク質上清のSDS-PAGEを、12%(w/v)アクリルアミド-ビスアクリルアミド(37.5:1)ゲルを使用し、ウェルあたり6μlのタンパク質上清をロードすること以外は、実施例3に記載のように実施した。バンドの可視化を、Instant Blue Coomassie染色(Expedion;ISB1L)を用いて実施した。
【0255】
His-ソルターゼの精製
ソルターゼA酵素(配列番号16)を、プラスミドpET29_eSrtA(Addgene#75144)(Chen,Dorrら、2011)を使用して大腸菌BL21(DE3)中で発現させ、(Chen,Dorrら、2011)に記載のようにNi2+-NTAカラムにより精製した。
【0256】
図16に提示される結果は、His
6-GFPの他に、他のHisタグ付タンパク質またはさらにはヒスチジンリッチ領域を介する抗体も、タンパク質結合中に上清から除去し(
図16A)、最終的に、[Co(III)(NTA)(CO)
3]
2-または[Co(III)(IDA)(CO)
3]
-で官能化されたビーズ上に安定に固定することができる(
図16B)ことを明確に示している。さらに、例えば、ソルターゼA酵素は依然として活性である(
図16C)か、またはNTAもしくはIDAビーズ上に固定された抗GFP抗体は依然としてその抗原であるGFPに結合することができるため、固定されたタンパク質は依然として機能的であることを示すことができた。
【0257】
実施例15:NTA以外の他の金属結合ドメインを使用する錯体の形成および安定性
実施例4は、[Co(III)(NTA)CO3]2-錯体を形成させることができることを実証する。さらに、実施例5は、NTAによりビーズに連結された[Co(III)(NTA)CO3]2-錯体を合成し、驚くべきことに、これを使用して、ビーズ上で[Co(III)(NTA)(His-タンパク質)]錯体を形成させることができることを示す。本発明者らは、NTA以外の他の金属結合ドメインを使用して、[Co(III)(金属結合ドメイン)(His-タンパク質)]錯体を形成させることもできると推測した。イミノ二酢酸(IDA)を用いた錯体形成方法の多用途性を試験するために、3座金属結合ドメイン、および市販の4座金属結合ドメインであるTALONを検査した。
【0258】
IDA/TALON磁気ビーズの官能化
IDAで官能化された磁気ビーズ(Cube Biotech;30805)またはTALONで官能化された磁気アガロース樹脂(Takara、635636)を、1)20倍ビーズ容量のddH2Oで、2)20倍ビーズ容量の100mM EDTA pH8.0で、3)20倍ビーズ容量のddH2Oで2回および20倍ビーズ容量の1M NaHCO3で1回、洗浄した。続いて、160倍ビーズ容量の、1M NaHCO3中の1mM Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oまたは金属を含まない試料については1M NaHCO3のみを添加した。1400rpm、25℃でサーモシェーカー中、10分または48時間にわたって示されるような試料をインキュベートした後、ビーズを、160倍ビーズ容量の1M NaHCO3で3回洗浄した。
【0259】
官能化されたIDA/TALON磁気ビーズへのHis6-GFPの固定化
生産されたビーズを、160倍ビーズ容量の、タンパク質緩衝剤(50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl)中の10μM His6-GFP(配列番号14)と共に、サーモシェーカー上、1400rpmで振とうしながら、示されるように30分、1時間または48時間、25℃でインキュベートした。官能化されたビーズと、His6-GFP(配列番号14)とのインキュベーション後、ビーズを、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で1回洗浄し、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。
【0260】
[Co(III)(IDA/TALON)(His6-GFP)]錯体の化学的安定性
示された[Co(III)(IDA)(His-GFP)]または[Co(II)(TALON)(His-GFP)]錯体形成プロセスを実施した後、化学的ストレスを用いて、および用いずに、ビーズに結合したタンパク質の量を分析した。このために、ビーズを2つの部分(それぞれ、72倍ビーズ容量)に分割し、それぞれ、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤またはタンパク質結合緩衝剤中の250mMイミダゾールで1回洗浄した。178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で最後に洗浄した後、ビーズを、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁し、10μlのビーズスラリーを、プレートリーダー(TECAN、Spark)を使用してGFP蛍光(λex=490nm、λem=535nm)によりその固定されたタンパク質の量について分析した。両実験を、三重に実施した。
【0261】
実験は、金属結合ドメインとしてのIDA(
図17A)およびTALON(
図17B)を用いたタンパク質固定化を明確に示す。したがって、コバルト(III)炭酸イオン錯体によるコバルト(III)媒介性タンパク質固定化は、金属結合ドメインとしてのNTAの使用に限定されない。さらに、3座金属結合ドメインIDAは、(
図20Bを参照されたい)と比較して短いインキュベーション時間にわたる改善された安定性などのさらに改善された特徴を示す。4座金属結合ドメインであるTALONもまた、タンパク質固定化を示す。
【0262】
実施例16:[Co(III)(IDA)(His-GFP)]錯体の化学的安定性の精査
実施例1は、[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の化学的安定性を示す。実施例15では、[Co(III)(IDA)(His-GFP)]の形成およびイミダゾールに対するその安定性が証明されている。以下の実施例では、「Co(III)(IDA)(His-GFP)]で官能化されたビーズを、250mMイミダゾールと組み合わせた、強力なキレーターまたは広く使用される還元剤と共にインキュベートして、IDAと、Co3+金属中心との錯体が、NTAおよびCo3+から構成される錯体が実施例1で示されたようにできるように、化学的に安定な錯体を形成することを示した。
【0263】
IDA磁気ビーズの官能化
IDAで官能化された磁気ビーズ(Cube Biotech;30805)を、1)20倍ビーズ容量のddH2Oで、2)20倍ビーズ容量の100mM EDTA pH8.0で、3)20倍ビーズ容量のddH2Oで2回および20倍ビーズ容量の1M NaHCO3で1回、洗浄した。続いて、160倍ビーズ容量の、1M NaHCO3中の1mM Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oまたは金属を含まない試料については1M NaHCO3を添加し、ビーズを、1400rpmでサーモシェーカー中、25℃で10分インキュベートした。インキュベーション後、ビーズを、20倍ビーズ容量の1M NaHCO3で3回洗浄した。生産されたビーズを、160倍ビーズ容量の、50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl中の10μM His6-GFP(配列番号14)と共に、サーモシェーカー上、1400rpmで振とうしながら30分、25℃でインキュベートした。His6-GFP(配列番号14)と共にインキュベートした後、ビーズを、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で3回洗浄した。
【0264】
[Co(III)(IDA)(His6-GFP)]錯体の化学的安定性
続いて、160倍ビーズ容量の各試験試薬(最終濃度:タンパク質緩衝剤中の250mMイミダゾール、25mM NTAもしくは25mM EDTAまたはタンパク質緩衝剤中の1mM DTT、TCEPもしくは250mMイミダゾールを添加したアスコルビン酸イオンまたは示されるような50mMグリシンpH10.0)を、対応する試料に添加した。1400rpmで振とうしながら25℃で1時間インキュベートした後、上清を除去し、ビーズを、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で3回洗浄し、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に溶解した。最後に、10μlのビーズスラリーを、プレートリーダー(TECAN、Spark)を使用してGFP蛍光(λex=490nm、λem=535nm)によりその残存する固定されたタンパク質の量について分析した。実験を、三重に実施した。
【0265】
実験は、キレーターおよび還元剤を含む異なる化学物質に対する[Co(III)(IDA)(His
6-GFP)]錯体の高い化学的安定性を明確に示す。
図18に記載されるように、緩衝剤のみで処理したビーズと比較して、His
6-GFPを[Co(III)(IDA)(CO
3)]錯体に結合させた場合、試験したキレーターまたは還元剤とのインキュベーション時に、固定されたものの非常にわずかな還元が観察された。かくして、[Co(III)(IDA)(His
6-GFP)]錯体は、強力なキレーターによる破壊およびCo
2+への還元に対して両方とも不活性である。
【0266】
実施例17:[Co(III)(IDA)(CO3)]-対[Co(III)(IDA)(H2O)2]+による[Co(III)(IDA)(His-GFP)]錯体形成の比較
実施例4は、[Co(III)(NTA)CO3]2-錯体を形成させることができることを実証する。さらに、実施例5は、NTAによりビーズに連結された[Co(III)(NTA)CO3]2-錯体を合成し、驚くべきことに、これを使用して、ビーズ上で[Co(III)(NTA)(His-タンパク質)]錯体を形成させることができることを示す。実施例6では、His-GFPの[Co(III)(NTA)(CO3)]2-への結合速度が、[Co(III)(NTA)(H2O)2]を使用する錯体形成に関する速度と比較して改善されることが示される。実施例15では、IDAが、[Co(III)(IDA)CO3]-による[Co(III)(IDA)(His-GFP)]錯体の形成にとって可能な金属結合ドメインであることが示される。本発明者らは、コバルト(III)中心でのリガンドとしての炭酸イオンは、[Co(III)(IDA)(His-タンパク質)]錯体の形成を容易にし得ると推測した。この知見を確認するために、[Co(III)(IDA)(H2O)2]および[Co(III)(IDA)(CO3)]-へのHis6-GFPの錯体形成効率ならびに最終的な[Co(III)(IDA)(His-GFP)]錯体の化学的安定性を直接比較した。
【0267】
IDA磁気ビーズの官能化
IDAで官能化された磁気ビーズ(Cube Biotech;30805)を、1)80倍ビーズ容量のddH2Oで、2)80倍ビーズ容量の100mM EDTA pH8.0で、3)それぞれ、80倍ビーズ容量のddH2Oで2回および80倍ビーズ容量の、[Co(III)(IDA)(CO3)]2-錯体については1M NaHCO3または[Co(II)(IDA)(H2O)2]-錯体もしくは金属を含まない試料についてはddH2Oで1回、洗浄した。
【0268】
続いて、160倍ビーズ容量の、脱気したddH2O中の1mM Co(II)Cl2・6H2O([Co(II)(IDA)(H2O)2]および[Co(III)(IDA)(H2O)2]+試料について)または1M NaHCO3中の1mM Na3[CO(III)(CO3)3]・3H2O([Co(III)(IDA)(CO3)]-錯体について)を添加した。金属を含まない試料に、160倍ビーズ容量のddH2Oを添加した。1400rpm、25℃でサーモシェーカー中、10分(または[Co(III)(IDA)(CO3)]-錯体を用いる示された試料については48時間)インキュベートした後、ビーズを、それぞれ、160倍ビーズ容量の、[Co(III)(IDA)(CO3)]2-錯体を用いる試料については1M NaHCO3で、または[Co(II)(IDA)(H2O)2]試料もしくは金属を含まない試料についてはddH2Oで3回洗浄した。[Co(III)(IDA)(H2O)2]+を、160倍ビーズ容量で1回洗浄し、1400rpmを用いるサーモシェーカー上、25℃で1時間にわたって160倍ビーズ容量の20mM H2O2中でインキュベートし、最後に、160倍ビーズ容量のddH2Oで1回洗浄した。
【0269】
官能化されたIDA磁気ビーズへのHis6-GFPの固定化
生産されたビーズを、160倍ビーズ容量の、示されたようなタンパク質緩衝剤(50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl)またはPBS中の10μM His6-GFP(配列番号14)と共に、サーモシェーカー上、1400rpmで振とうしながら、示されるように3時間または24時間、25℃でインキュベートした。官能化されたビーズと、His6-GFP(配列番号14)とのインキュベーション後、ビーズを、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で1回洗浄し、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。
【0270】
[Co(III)(IDA(His6-GFP)]錯体の化学的安定性
示された[Co(III)(IDA)(His-GFP)]錯体形成プロセスを実施した後、化学的ストレスを用いて、および用いずに、ビーズに結合したタンパク質の量を分析した。このために、ビーズを2つの部分(それぞれ、72倍ビーズ容量)に分割し、それぞれ、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤またはタンパク質結合緩衝剤中の250mMイミダゾールで1回洗浄した。178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で最後に洗浄した後、ビーズを、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁し、10μlのビーズスラリーを、プレートリーダー(TECAN、Spark)を使用してGFP蛍光(λex=490nm、λem=535nm)によりその固定されたタンパク質の量について分析した。実験を、三重に実施した。
【0271】
これらの実験の結果は、NTAおよびNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oを10分インキュベートすることによって得られた[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-錯体で官能化されたビーズが、[Co(III)(IDA)(H
2O)
2]
+を予めロードしたビーズよりも有意に多くタンパク質に結合することを明確に示す(
図19)。48時間のNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oインキュベーション後に得られた[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-錯体で官能化されたビーズについて、[Co(III)(IDA)(H
2O)
2]
+錯体を超える有意な利点は、24時間のタンパク質インキュベーション後にのみ見える。IDAに関する好ましいインキュベーション時間は、Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2O/NTAについては10分であり、その後のタンパク質インキュベーションについては30分~3時間であると強調される。これらのインキュベーション時間の組合せに関して、[Co(III)(IDA)(H
2O)
2]
+と比較して[Co(III)(IDA)(CO
3)]
-錯体の有意な改善された固定化効率が達成される。さらに、
図19は再度、[Co(III)(IDA)(His
6-GFP)]錯体が、キレーター(ここではイミダゾール)に対する強い安定性を示すことを確認するものである。
【0272】
実施例18:[Co(III)(金属結合ドメイン)(CO3)]2-による[Co(III)(金属結合ドメイン)(His-GFP)]の化学的に安定な錯体形成と、[Co(II)(金属結合ドメイン)(His-GFP)]の酸素処理との比較
実施例5は、[Co(III)(NTA)(CO3)]2-により形成される高いパーセンテージの[Co(III)(NTA)(His-タンパク質)]錯体が化学的に安定であることを実証する。本発明者らは、[Co(III)(金属結合ドメイン)CO3]2-から始まる[Co(III)(金属結合ドメイン)(His-タンパク質)]錯体形成が、[Co(II)(金属結合ドメイン)(His-タンパク質)]の酸素による処理よりも増大した量の化学的に安定な[Co(III)(金属結合ドメイン)(His-タンパク質)]錯体をもたらし得ると推測した。この知見を確認するために、[Co(III)(金属結合ドメイン)(CO3)]による、または[Co(II)(金属結合ドメイン)(His-タンパク質)]の8時間の酸素処理による、形成された化学的に安定な[Co(III)(金属結合ドメイン)(His-タンパク質)]錯体の量を、それぞれ、金属結合ドメインとしてNTAまたはIDAを使用して直接比較した。
【0273】
IDA/NTA磁気アガロースビーズの官能化
IDAで官能化された磁気ビーズ(Cube Biotech;30805)またはNTAで官能化された磁気アガロース樹脂(Thermo、78605)を、1)80倍ビーズ容量のddH2Oで、2)80倍ビーズ容量の100mM EDTA pH8.0で、3)80倍ビーズ容量のddH2Oで2回およびそれぞれ、160倍ビーズ容量の、[Co(II)(IDA/NTA)(H2O)2]錯体についてはddH2Oまたは[Co(III)(IDA/NTA)(CO3)]錯体もしくは金属を含まない試料については1M NaHCO3で1回、洗浄した。[Co(II)(IDA/NTA)(H2O)2]錯体を含む試料については、全ての洗浄を、脱気した、20分窒素通気した溶液を用いて、ならびに窒素を上に載せたチューブ中で実施した。
【0274】
続いて、160倍ビーズ容量の、脱気した、20分窒素通気したddH2O中の1mM Co(II)Cl2・6H2O([Co(II)(IDA/NTA)(H2O)2]について)または1M NaHCO3中の1mM Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2O([Co(III)(IDA/NTA)(CO3)]錯体について)を添加した。金属を含まない試料に、1M NaHCO3を添加した。1400rpm、25℃でサーモシェーカー中、10分(または[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体を含む示された試料については48時間)インキュベートした後、ビーズを、160倍ビーズ容量の、それぞれ、[Co(II)(IDA/NTA)(H2O)2]試料についてはddH2Oまたは[Co(III)(IDA/NTA)(CO3)]錯体を含む試料もしくは金属を含まない試料については1M NaHCO3で3回洗浄した。
【0275】
官能化されたIDA/NTA磁気ビーズへのHis
6-GFPの固定化
生産されたビーズを、120倍ビーズ容量の、タンパク質緩衝剤(50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl)中の10μM His
6-GFP(配列番号14)と共に、サーモシェーカー上、1400rpmで振とうしながら、金属を含まない試料について、または
図9に示されるように30分または48時間、25℃でインキュベートした。官能化されたビーズと、His
6-GFP(配列番号14)とのインキュベーション後、ビーズを、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で2回(「H
2O
2による[Co(III)(IDA/NTA)(His-GFP)]」試料については1回のみ)洗浄し、最後に、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤を添加した。[Co(II)(IDA/NTA)(His-GFP)]の1つの試料(
図20中で「O
2による[Co(III)(IDA/NTA)(His-GFP)]」と称される)に、8時間にわたってO
2を通気したが、[Co(II)(IDA/NTA)(His-GFP)]の別の試料(
図9中で「H
2O
2による[Co(III)(IDA/NTA)(His-GFP)]」と称される)では、6.4倍ビーズ容量の500mM H
2O
2(最終20mM)を添加し、サーモシェーカー上、1400rpm、25℃で1時間インキュベートした後、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で洗浄した。
【0276】
[Co(III)(IDA/NTA)(His6-GFP)]錯体の化学的安定性
示された[Co(III)(IDA)(His-GFP)]または[Co(II)(NTA)(His-GFP)]錯体形成プロセスを実施した後、化学的ストレスを用いて、および用いずに、ビーズに結合したタンパク質の量を分析した。このために、ビーズを、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で1回洗浄し、160倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁し、2つの部分(それぞれ、72倍ビーズ容量)に分割し、それぞれ、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤またはタンパク質結合緩衝剤中の250mMイミダゾールで1回洗浄した。178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で最後に洗浄した後、ビーズを、178倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁し、10μlのビーズスラリーを、プレートリーダー(TECAN、Spark)を使用してGFP蛍光(λex=490nm、λem=535nm)によりその固定されたタンパク質の量について分析した。IDA実験を、三重に実施した;NTA実験を、3つの独立した実験において一重に実施した。
【0277】
図20で実証されるこれらの実験の結果は、酸素を用いて8時間にわたって[Co(II)(金属結合ドメイン)(His-タンパク質)]錯体で官能化されたビーズに通気する場合よりも、有意に多くのHis
6-GFPタンパク質を、[Co(III)(IDA)(CO
3)]
2-錯体(
図20A)および[Co(III)(NTA)(CO
3)]
2-錯体(
図20B)を使用してビーズ上に化学的に安定に固定することができることを明確に示す。高いパーセンテージの安定な錯体の他に、[Co(III)(金属結合ドメイン)(CO
3)]
2-の使用も、酸化方法よりも速い。
【0278】
実施例19:表面上への[Co(III)(HS-PEG-NTA)(CO3)]2-錯体によるタンパク質固定化
本発明のいくつかの実施例は、[Co(III)(NTA)(CO3)]2-による[Co(III)(NTA)(His-タンパク質)]錯体の形成を示す。本実施例では、この原理を用いたタンパク質固定化を、ナノ構造金ドットを用いたガラス表面上で試験する。
【0279】
ナノ構造ガラス表面の生産および不動態化
ナノ構造表面を、走査電子顕微鏡によって決定された場合に58nmの平均粒子空間を有する、以前に記載された(Spatz、Mossmerら、2000、Roman、Martinら、2003、Lohmuller、Aydinら、2011)ジブロックコポリマーミセルナノリソグラフィーによって生産した。簡単に述べると、それぞれ、5mg/mlのポリスチレン(501)-b-ポリ-2-ビニルピリジン(323)(Polymer Source、Canada)を、o-キシレンに溶解した。続いて、0.5のテトラクロロ金酸のビニルピリジンモノマーに対する比で溶液に添加し、24時間撹拌した。溶液を、20x20mmのN1ガラスカバースリップ(Carl Roth、Germany)上でスピンコーティングした。その後、基質を、プラズマ手順(10%H2/90%Ar、350W、0.4mbar、45分)にかけた。
【0280】
金ナノ構造の間のガラス基質への任意のタンパク質の非特異的接着を防止するために、ガラス表面を、以前に記載のような手順(Blummel、Perschmannら、2007)に従って不動態化した。したがって、ナノパターン化された表面を、酸素プラズマ(150W、0.4mbar、10分)中で活性化し、窒素雰囲気下、0.25mMのα-メトキシ-ω-トリメトキシシリルポリ(エチレングリコール)(分子量2000g/mol)(Iris Biotech、Germany)、5.5μMの水および20mMの乾燥トリメチルアミン(Acros Organics、USA)を含有する乾燥トルエンp.a.(Acros Organics、USA)中、80℃で一晩インキュベートした。最後に、基質を、酢酸エチル(Acros Organics、USA)で3回、メタノール(VWR chemicals、USA)で1回洗浄し、N2流下で乾燥した。
【0281】
チオール-PEG-NTAを用いた表面の官能化
不動態化後、99.8%エタノール中の100μlの0.5mM HS-(CH2)11-EG3-NTA(Prochimia;TH007)または「PEGのみ」および「PEG/GFP」試料についてはエタノールのみを、それぞれの表面上にピペットで加えた。室温で1時間インキュベートした後、表面を、ddH2O浴中で、または「[Co(III)(NTA)(His-GFP)]」試料については、1M NaHCO3中で3回洗浄した。
【0282】
[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成
官能化後、表面を、「[Co(III)(NTA)(His-GFP)]」試料については1M NaHCO3中の400μlの1mM Na3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oまたは他の試料についてはddH2Oで覆い、室温で10分インキュベートした。続いて、表面を、「[Co(III)(NTA)(His-GFP)]」試料については1M NaHCO3または他の試料についてはddH2Oの浴中で3回洗浄した。最後に、タンパク質結合緩衝剤(50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl)中の300μlの10μM His6-GFPを、表面の頂部に添加し、室温で30分インキュベートした。タンパク質結合緩衝剤の浴中で3回洗浄した後、表面を、透明な6ウェルプレート中に入れ、タンパク質結合緩衝剤で覆い、表面上の固定されたタンパク質の尺度としてのGFP-蛍光(λex=490nm、λem=535nm)を、プレートリーダー(TECAN、Spark)を使用して分析した。
【0283】
実験の結果を、
図21に提示する。それにより、他の対照試料と比較して、チオール-PEG-NTA、Na
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2OおよびHis-GFPで処理した表面に関するはるかにより高い蛍光シグナルを測定することができたが、これは、表面上での[Co(III)(NTA)(His-GFP)]錯体の形成の成功を示す。
【0284】
実施例20:[Co(III)(ビオチン-X-NTA)(CO3)]錯体を用いたHis-GFPの部位特異的ビオチン化
いくつかの実施例では、Hisタグ付タンパク質のビーズへの固定化および実施例19では、[Co(III)(NTA)(CO3)]2-錯体によるNTAで官能化された表面が示される。以下の実施例では、溶液中での、[Co(III)(ビオチン-X-NTA)(CO3)]錯体によるそのHisタグでのHis-GFPのビオチン化を試験する。
【0285】
His-GFPのビオチン化
60μMのビオチン-X-NTA(Sigma-Aldrich;51410)を、1M NaHCO3中の30μM(試料1:2)、60μM(試料1:1)もしくは600μM(試料10:1)のNa3[Co(III)(CO3)3]・3H2Oまたは金属を含む試料については1M NaHCO3のみと混合し、回転ホイール上、室温で10分インキュベートする。続いて、得られる[Co(III)(ビオチン-X-NTA)(CO3)]錯体を、回転ホイール上で30分または48時間、タンパク質結合緩衝剤(50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl)中の6μM His6-GFP(配列番号14)の溶液と共に室温でインキュベートする。
【0286】
ストレプトアビジンで官能化されたセファロースへの[Co(III)(ビオチン-X-NTA)(His-GFP)]の固定化
インキュベーション後、得られた[Co(III)(ビオチン-X-NTA)(His-GFP)]錯体を、室温で回転させながら示されたような30分または48時間のインキュベーションステップにおいて、166倍ビーズ容量のタンパク質結合緩衝剤で3回洗浄することによって調製された、ストレプトアビジンで官能化されたセファロース(GE Healthcare、17-5113-01)に結合させた。インキュベーション後、ビーズを、16倍ビーズ容量のタンパク質結合緩衝剤で3回洗浄し、16倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。
【0287】
[Co(III)(ビオチン-X-NTA)(His6-GFP)]錯体の化学的安定性
ビーズへの[Co(III)(ビオチン-X-NTA)(His-GFP)]錯体の固定化プロセスの後、化学的ストレスを用いて、または用いずに、ビーズに結合したタンパク質の量を分析した。このために、ビーズを2つの部分に分割し、それぞれ、17倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤またはタンパク質結合緩衝剤中の250mMイミダゾールで1回洗浄した。17倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で最後に洗浄した後、ビーズを、17倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。最後に、10μlのビーズスラリーを、プレートリーダー(TECAN、Spark)を使用してGFP蛍光(λex=490nm、λem=535nm)によりその固定されたタンパク質の量について分析した。実験を、三重に実施した。
【0288】
図22Aに提示されるように、溶液中で、Hisタグ付GFPのビオチン化を、全てのCo/NTA比について示すことができた。しかしながら、ストレプトアビジンビーズ上に固定されたビオチン化されたタンパク質の蛍光に基づいて測定された場合、ビオチン-X-NTAのNa
3[Co(III)(CO
3)
3]・3H
2Oに対する比が高いほど、より良好な標識化効率を達成することもできた。
図22Bでは、48時間のタンパク質インキュベーション後により多くの錯体が、10分のタンパク質インキュベーションを用いた試料と比較して、ストリンジェントなイミダゾール洗浄後にストレプトアビジンビーズ上に固定されるため、タンパク質インキュベーションが長いほど、安定な形成される錯体の量が多いことが示される。
【0289】
実施例21:白金(IV)硝酸イオンを使用する[Pt(IV)(NTA)(His6-GFP)]の錯体形成および化学的安定性
本発明者らは、リガンドとしての炭酸イオンだけでなく、金属中心にある硝酸イオンも、[(金属)(NTA)(His-タンパク質)]錯体の形成を容易にすることができると推測した。さらに、本発明者らは、Co3+の他に、低いリガンド交換速度を示す他の遷移金属も、化学的に安定な[(金属)(NTA)(His-タンパク質)]錯体を形成することができると推測する。この知見を確認するために、His6-GFPの[Pt(IV)(NTA)(NO3)]の結合効率を検査した。
【0290】
NTAアガロースビーズの官能化
NTAで官能化されたアガロースビーズ(Qiagen;1022963)を、1)10倍ビーズ容量のddH2Oで、2)10倍ビーズ容量の100mM EDTA pH8.0で、3)10倍ビーズ容量のddH2Oで2回および10倍ビーズ容量の1M硝酸で1回、洗浄した。続いて、16倍ビーズ容量の、1M硝酸中の白金(IV)硝酸イオン溶液(44mg/lのPt(IV))(Fisher Scientific;15407817)または金属を含まない試料については1M硝酸のみを添加した。1400rpm、25℃でサーモシェーカー中、10分にわたって試料をインキュベートした後、ビーズを、16倍ビーズ容量の1M硝酸で3回洗浄した。
【0291】
官能化された[Pt(IV)(NTA)(NO3)]アガロースビーズへのHis6-GFPの固定化
生産されたビーズを、16倍ビーズ容量の、タンパク質緩衝剤(50mM HEPES pH7.2、150mM NaCl)中の10μM His6-GFP(配列番号14)と共に、サーモシェーカー上、1400rpmで振とうしながら30分、25℃でインキュベートした。官能化されたビーズと、His6-GFP(配列番号14)とのインキュベーション後、ビーズを、16倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で1回洗浄し、16倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。
【0292】
[Pt(IV)(NTA)(His6-GFP)]錯体の化学的安定性
示された[Pt(IV)(NTA)(His6-GFP)]錯体形成プロセスを実施した後、化学的ストレスを用いて、および用いずに、ビーズに結合したタンパク質の量を分析した。このために、ビーズを2つの部分(それぞれ、7.2倍ビーズ容量)に分割し、それぞれ、17.8倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤またはタンパク質結合緩衝剤中の250mMイミダゾールで1回洗浄した。17.8倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤で最後に洗浄した後、ビーズを、17.8倍ビーズ容量のタンパク質緩衝剤中に再懸濁した。25μlのビーズスラリー上のタンパク質の量を、製造業者の指針に基づいてマイクロプレート中でのBCAアッセイ(Thermo、23227)によって決定した。実験を、三重に実施した。
【0293】
図23に記載される結果は、白金(IV)が、化学的に安定な様式でNTAで官能化されたビーズへのHis
6-GFPの固定化を媒介したことを明確に示す。これは、コバルト(III)だけでなく、白金(IV)も、NTAおよびhisタグ付タンパク質と速度論的に不活性な錯体を形成することができることを証明する。さらに、非常に速い錯体形成を、金属結合リガンドとしての硝酸イオンの使用によって示すことができた。
【0294】
上記の本文は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる以下の参考文献に言及する。
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【配列表】
【国際調査報告】