(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-25
(54)【発明の名称】所定の構成の複数の発現カセットの標的指向性組込みによって二価二重特異性抗体発現細胞を作製するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220818BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220818BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220818BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220818BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220818BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20220818BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20220818BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20220818BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20220818BHJP
【FI】
C12N15/13
C12P21/08 ZNA
C12N5/10
C12N15/09 100
C07K16/46
C12N15/85 Z
C12N15/62 Z
C12N9/10
C12N15/54
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021575275
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(85)【翻訳文提出日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 EP2020066685
(87)【国際公開番号】W WO2020254355
(87)【国際公開日】2020-12-24
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】アウアー ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】アウスレンダー シモン
(72)【発明者】
【氏名】ポップ モニカ
(72)【発明者】
【氏名】ゲプフェルト ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】フーク クリスティーナ-リサ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050KK07
4B050LL01
4B050LL05
4B064AG27
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書では、二価二重特異性抗体を生産するための方法が報告され、該方法は、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含む哺乳動物細胞を培養する工程と、細胞または培養培地から二価二重特異性抗体を回収する工程とを含み、ここで、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸は、哺乳動物細胞のゲノム内に安定して組み込まれており、かつ5’から3’の方向に、第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および第2の重鎖をコードする第4の発現カセット;または、第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および第1の重鎖をコードする第4の発現カセットのいずれかを含み、第1の重鎖は、N末端からC末端に向けて、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含み、第2の重鎖は、N末端からC末端に向けて、第1の軽鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含み、第1の軽鎖は、N末端からC末端に向けて、第2の重鎖可変ドメインおよびCLドメインを含み、第2の軽鎖は、N末端からC末端に向けて、第2の軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含み、第1の重鎖可変ドメインと第2の軽鎖可変ドメインは第1の結合部位を形成し、第2の重鎖可変ドメインと第1の軽鎖可変ドメインは第2の結合部位を形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価二重特異性抗体を生産するための方法であって、
a)前記二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含む哺乳動物細胞を培養する工程、および
b)前記細胞または培養培地から前記二価二重特異性抗体を回収する工程
を含み、
前記二価二重特異性抗体をコードする前記デオキシリボ核酸が、前記哺乳動物細胞のゲノム中に安定に組み込まれており、かつ5’から3’の方向に、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット
を含み、
前記第1の重鎖が、CH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、前記第2の重鎖が、CH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む、
二価二重特異性抗体を生産するための方法。
【請求項2】
二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸であって、5’から3’の方向に、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット
を含み、
前記第1の重鎖が、CH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、前記第2の重鎖が、CH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む、
デオキシリボ核酸。
【請求項3】
哺乳動物細胞における二価二重特異性抗体の発現のためのデオキシリボ核酸の使用であって、前記デオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット
を含み、
前記第1の重鎖が、CH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、前記第2の重鎖が、CH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む、
使用。
【請求項4】
細胞のゲノムに組み込まれている、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含む、組換え哺乳動物細胞であって、前記二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット
を含み、
前記第1の重鎖が、CH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、前記第2の重鎖が、CH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む、
組換え哺乳動物細胞。
【請求項5】
2つのデオキシリボ核酸を含む組成物であって、前記2つのデオキシリボ核酸が、3つの異なる組換え認識配列および4つの発現カセットを含み、
- 第1のデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
- 第1の組換え認識配列、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、および
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー
を含み、かつ
- 第2のデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
- 前記第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、および
- 第2の組換え認識配列
を含み、
前記第1の重鎖が、CH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、前記第2の重鎖が、CH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む、
組成物。
【請求項6】
二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含みかつ前記二価二重特異性抗体を分泌する組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、
a)哺乳動物細胞のゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれている外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞を提供する工程であって、前記外因性ヌクレオチド配列が、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する第1および第2の組換え認識配列、ならびに前記第1の組換え認識配列と前記第2の組換え認識配列との間に位置する第3の組換え認識配列を含み、かつ前記組換え認識配列がすべて異なる、哺乳動物細胞を提供する工程;
b)a)で提供された細胞に、3つの異なる組換え認識配列および4つの発現カセットを含む2つのデオキシリボ核酸の組成物を導入する工程であって、
- 第1のデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
- 第1の組換え認識配列、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、および
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー
を含み、かつ
- 第2のデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
- 前記第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、および
- 第2の組換え認識配列
を含み、
前記第1および第2のデオキシリボ核酸の前記第1~第3の組換え認識配列が、組み込まれている前記外因性ヌクレオチド配列の前記第1~第3の組換え認識配列と一致しており、
1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットの5’末端部分および3’末端部分が、まとまると、前記1つの第2の選択マーカーの機能的発現カセットを形成し、
前記第1の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、前記第2の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む、
2つのデオキシリボ核酸の組成物を導入する工程;
c)1つまたは複数のリコンビナーゼを、
i)b)の第1および第2のデオキシリボ核酸と同時に、または
ii)その後で逐次的に
のいずれかで導入する工程であって、
前記1つまたは複数のリコンビナーゼが、前記第1および前記第2のデオキシリボ核酸の組換え認識配列を認識する(かつ、任意で、前記1つまたは複数のリコンビナーゼが、2つのリコンビナーゼ媒介カセット交換を行う)、
1つまたは複数のリコンビナーゼを導入する工程;ならびに
d)前記第2の選択マーカーを発現しかつ前記二価二重特異性抗体を分泌する細胞を選択する工程
を含み、それにより、前記二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含みかつ前記二価二重特異性抗体を分泌する組換え哺乳動物細胞が生産される、
組換え哺乳動物細胞を生産するための方法。
【請求項7】
前記重鎖のうちの1つが変異S354Cをさらに含み、それぞれの他の重鎖が変異Y349C(Kabatによるナンバリング)を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の、二価二重特異性抗体を生産するための方法、またはデオキシリボ核酸、または使用、または組換え哺乳動物細胞、または組成物、または組換え哺乳動物細胞を生産するための方法。
【請求項8】
前記第2の軽鎖が、VH-VL交換後のドメイン交換軽鎖VH-CH1またはCH1-CL交換後のドメイン交換軽鎖VL-CH1である、請求項1から7のいずれか一項に記載の、二価二重特異性抗体を生産するための方法、またはデオキシリボ核酸、または使用、または組換え哺乳動物細胞、または組成物、または組換え哺乳動物細胞を生産するための方法。
【請求項9】
- 前記第1の重鎖が、N末端からC末端に向けて、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含み、
- 前記第2の重鎖が、N末端からC末端に向けて、第1の軽鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含み、
- 前記第1の軽鎖が、N末端からC末端に向けて、第2の重鎖可変ドメインおよびCLドメインを含み、
- 前記第2の軽鎖が、N末端からC末端に向けて、第2の軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含み、
前記第1の重鎖可変ドメインおよび前記第2の軽鎖可変ドメインが第1の結合部位を形成し、前記第2の重鎖可変ドメインおよび前記第1の軽鎖可変ドメインが第2の結合部位を形成する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の、二価二重特異性抗体を生産するための方法、またはデオキシリボ核酸、または使用、または組換え哺乳動物細胞、または組成物、または組換え哺乳動物細胞を生産するための方法。
【請求項10】
正確に1コピーの前記デオキシリボ核酸が、単一の部位または遺伝子座で前記哺乳動物細胞のゲノムに安定して組み込まれる、請求項1、3、4および6から9のいずれか一項に記載の、二価二重特異性抗体を生産するための方法、またはデオキシリボ核酸、または使用、または組換え哺乳動物細胞、または組成物、または組換え哺乳動物細胞を生産するための方法。
【請求項11】
前記二価二重特異性抗体をコードする前記デオキシリボ核酸が、選択マーカーをコードするさらなる発現カセットを含み、前記選択マーカーをコードする前記発現カセットは、前記第3の組換え認識配列の5’側に一部が、3’側に一部が位置しており、前記発現カセットの、前記5’側に位置する部分が、プロモーターおよび開始コドンを含み、前記発現カセットの、前記3’側に位置する部分が、開始コドンのないコード配列およびポリAシグナルを含み、前記開始コドンが、前記コード配列に作動可能に連結され、前記選択マーカーをコードする前記発現カセットの、前記5’側に位置する部分が、開始コドンに作動可能に連結されたプロモーター配列を含み、ここで、前記プロモーター配列が上流側で前記第2の発現カセットと隣接し、前記開始コドンが下流側で前記第3の組換え認識配列と隣接し;前記選択マーカーをコードする前記発現カセットの、前記3’側に位置する部分が、開始コドンを欠く前記選択マーカーをコードする核酸を含み、上流側で前記第3の組換え認識配列と隣接し、下流側で前記第3の発現カセットと隣接し、前記開始コドンが前記コード配列に作動可能に連結される、請求項1から5、および6から10のいずれか一項に記載の、二価二重特異性抗体を生産するための方法、またはデオキシリボ核酸、または使用、または組換え哺乳動物細胞、または組成物、または組換え哺乳動物細胞を生産するための方法。
【請求項12】
抗体鎖の各発現カセットが、5’から3’の方向に、プロモーター、抗体鎖をコードする核酸、およびポリアデニル化シグナル配列、ならびに任意でターミネーター配列を含み、かつ
前記選択マーカーをコードする各発現カセットが、5’から3’の方向に、プロモーター、前記選択マーカーをコードする核酸、およびポリアデニル化シグナル配列、ならびに任意でターミネーター配列を含み、
前記プロモーターがイントロンAを含むヒトCMVプロモーターであり、前記ポリアデニル化シグナル配列がbGHポリアデニル化シグナル配列であり、かつ前記ターミネーターがhGTターミネーターであり;ただし例外として前記選択マーカーの発現カセットでは、前記プロモーターがSV40プロモーターであり、前記ポリアデニル化シグナル配列がSV40ポリアデニル化シグナル配列であり、かつ前記ターミネーターが存在しない、
請求項1から11のいずれか一項に記載の、二価二重特異性抗体を生産するための方法、またはデオキシリボ核酸、または使用、または組換え哺乳動物細胞、または組成物、または組換え哺乳動物細胞を生産するための方法。
【請求項13】
前記哺乳動物細胞がCHO細胞である、請求項1、3、4、および6から12のいずれか一項に記載の、二価二重特異性抗体を生産するための方法、またはデオキシリボ核酸、または使用、または組換え哺乳動物細胞、または組成物、または組換え哺乳動物細胞を生産するための方法。
【請求項14】
すべてのカセットが一方向に配置されている、請求項1から13のいずれか一項に記載の、二価二重特異性抗体を生産するための方法、またはデオキシリボ核酸、または使用、または組換え哺乳動物細胞、または組成物、または組換え哺乳動物細胞を生産するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞株作製およびポリペプチド生産の分野に関する。より正確には、哺乳動物細胞のゲノムへの特定の発現カセット配列の組込みをもたらす二重リコンビナーゼ媒介カセット交換反応によって得られた組換え哺乳動物細胞が、本明細書において報告される。前記細胞は、二価二重特異性抗体を生産するための方法において使用することができる。
【背景技術】
【0002】
例えば抗体などの、分泌されるグリコシル化されたポリペプチドは、通常、安定発現または一過性発現のいずれかとして真核細胞において組換え発現されることにより生産される。
【0003】
目的の外因性ポリペプチドを発現する組換え細胞を作製するための1つの戦略は、該目的のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のランダムな組込みとそれに続く分泌工程および単離工程を含む。しかし、この手法にはいくつかの不都合な点がある。第一に、細胞のゲノム中へのヌクレオチド配列の機能的組込みはそれ自体、珍しい事象であるだけでなく、ヌクレオチド配列が組み込まれる場所についてのランダム性を考慮に入れると、これらの珍しい事象の結果、遺伝子発現および細胞増殖に様々な表現型が生じる。「位置効果変異」として知られるそのような変異は、少なくとも部分的に、真核細胞ゲノムに存在する複雑な遺伝子調節ネットワーク、ならびに組込みおよび遺伝子発現のための特定のゲノム遺伝子座の利用可能性に起因する。第二に、一般に、ランダム組込み戦略は、細胞のゲノム中に組み込まれるヌクレオチド配列コピーの数をコントロールしない。実際に、遺伝子増幅法は、高生産細胞を実現するために使用されることが多い。しかし、このような遺伝子増幅は、例えば不安定な細胞増殖および/または生産物発現などの望ましくない細胞表現型を招く可能性もある。第三に、ランダム組込みプロセスにつきものの組込み遺伝子座不均一性が原因となって、目的のポリペプチドについて望ましい発現レベルを示している組換え細胞を単離するためにトランスフェクション後に何千個もの細胞をスクリーニングすることには、時間がかかり、大きな労働力を要する。そのような細胞を単離した後でさえ、目的のポリペプチドの安定な発現は保証されておらず、安定な市販用生産細胞を得るには、さらなるスクリーニングが必要とされる場合がある。第四に、ランダム組込みによって得られた細胞から生産されるポリペプチドは、高度の配列差異を示し、これは、高レベルのポリペプチド発現を選択するために使用される選択剤の変異原性にいくらか起因する可能性がある。最後に、生産しようとするポリペプチドの複雑性が高いほど、すなわち、目的のポリペプチドを細胞内で形成するのに必要とされる異なるポリペプチドまたはポリペプチド鎖の数が多いほど、互いに異なるポリペプチドまたはポリペプチド鎖の発現比率をコントロールすることが、より重要になる。発現比率のコントロールは、目的のポリペプチドの効率的な発現、正確な組立て、および高い発現収率での成功裡な分泌を可能にするために必要とされる。
【0004】
リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)による標的指向性組込みは、真核生物宿主ゲノムのあらかじめ定められた部位に特異的かつ効率的に外来DNAを導くための方法である(Turanら、J.Mol.Biol.407(2011)193~221(非特許文献1))。
【0005】
国際公開第2006/007850号(特許文献1)では、抗RhD組換えポリクローナル抗体および個々の宿主細胞のゲノム中への部位特異的組込みを用いる製造方法が開示されている。
【0006】
Crawford,Y.ら(Biotechnol.Prog.29(2013)1307~1315(非特許文献2))は、phiC31インテグラーゼ技術とCRE-Lox技術を組み合わせて用いて、標的指向性細胞株開発のために信頼のおける宿主を限定的なゲノムスクリーニングによって迅速に同定したことを報告した。
【0007】
国際公開第2013/006142号(特許文献2)では、そのゲノム中にドナーカセットを安定的に組み入れた、遺伝的に変更された真核細胞のほぼ均質な集団を開示しており、該ドナーカセットは、ターゲティング核酸部位および選択可能マーカータンパク質コード配列を含む単離された核酸断片に作動可能に連結された強力なポリアデニル化部位を含み、該単離された核酸断片は、第1の組換え部位および第2の異なる組換え部位に挟まれている。
【0008】
国際公開第2018/162517号(特許文献3)では、i)発現カセット配列およびii)異なる発現ベクター間での発現カセットの分布に応じて、発現収率および生産物の質に大きな差異が認められたことが開示されている。
【0009】
Tadauchi,T.らは、抗体の発現を困難にするものを体系的に調査するために、調節された標的指向性組込みの細胞株開発アプローチを利用することを開示している(Biotechnol.Prog.35(2019)No.2,1~11(非特許文献3))。
【0010】
Rajendra,Y.らは、単一のクワッドベクターは、安定したCHO細胞株を生成するための単純でありながら効果的な代替アプローチであり、臨床ヘテロmAb治療薬の細胞株生成を加速する可能性があることを開示している(Biotechnol.Prog.33(2017)469~477(非特許文献4))。
【0011】
国際公開第2017/184831号(特許文献4)では、真核細胞における組換えタンパク質の部位特異的組込みおよび発現を開示しており、特に、発現増強遺伝子座を使用することによる、真核細胞、特にチャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)細胞株における二重特異性抗体を含む抗体の発現を改善する方法を開示している。この文献のデータは匿名化された方法で提示されているため、実際に示されている内容を結論付けることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2006/007850号
【特許文献2】国際公開第2013/006142号
【特許文献3】国際公開第2018/162517号
【特許文献4】国際公開第2017/184831号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Turanら、J.Mol.Biol.407(2011)193~221
【非特許文献2】Crawford,Y.ら、Biotechnol.Prog.29(2013)1307~1315
【非特許文献3】Tadauchi,T.ら、Biotechnol.Prog.35(2019)No.2,1~11
【非特許文献4】Rajendra,Y.ら、Biotechnol.Prog.33(2017)469~477
【発明の概要】
【0014】
本明細書では、二価二重特異性抗体、特にドメイン交換を有する二価二重特異性抗体を発現する組換え哺乳動物細胞が報告される。二価二重特異性抗体は、前記哺乳動物細胞によって天然には発現されないヘテロ多量体ポリペプチドである。より具体的には、二価二重特異性抗体は、4つのポリペプチドまたはポリペプチド鎖:全長軽鎖である1つの軽鎖;ドメイン交換された軽鎖である、さらなる軽鎖;全長重鎖である1つの重鎖;および、ドメイン交換された重鎖である、さらなる重鎖、からなるヘテロ多量体タンパク質である。二価二重特異性抗体の発現を実現するために、特定かつ所定の配列中に複数の異なる発現カセットを含む組換え核酸が、哺乳動物細胞のゲノムに組み込まれた。
【0015】
二価二重特異性抗体を発現する組換え哺乳動物細胞を作製するための方法および該組換え哺乳動物細胞を用いて二価二重特異性抗体を生産するための方法も、本明細書において報告される。
【0016】
1つの好ましい実施形態では、二価二重特異性抗体は、
- N末端からC末端に向けて、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む、第1の重鎖、
- N末端からC末端に向けて、第1の軽鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む、第2の重鎖、
- N末端からC末端に向けて、第2の重鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む、第1の軽鎖、ならびに
- N末端からC末端に向けて、第2の軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む、第2の軽鎖
を含み、
前記第1の重鎖可変ドメインおよび前記第2の軽鎖可変ドメインは第1の結合部位を形成し、前記第2の重鎖可変ドメインおよび前記第1の軽鎖可変ドメインは第2の結合部位を形成する。
【0017】
1つの好ましい実施形態では、二価二重特異性抗体は、
- N末端からC末端に向けて、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む、第1の重鎖、
- N末端からC末端に向けて、第2の重鎖可変ドメイン、CLドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む、第2の重鎖、
- N末端からC末端に向けて、第1の軽鎖可変ドメインおよびCH1ドメインを含む、第1の軽鎖、ならびに
- N末端からC末端に向けて、第2の軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む、第2の軽鎖
を含み、
前記第1の重鎖可変ドメインおよび前記第2の軽鎖可変ドメインは第1の結合部位を形成し、前記第2の重鎖可変ドメインおよび前記第1の軽鎖可変ドメインは第2の結合部位を形成する。
【0018】
本発明は、ヘテロ多量体二価二重特異性抗体の発現に必要とされる異なる発現カセットの配列、すなわち発現カセット構成が、哺乳動物細胞のゲノム中に組み込まれた際に、二価二重特異性抗体の発現収率に影響を与えるという知見に、少なくとも部分的に基づいている。
【0019】
本発明は、特定の発現カセット構成を有する、ヘテロ多量体二価二重特異性抗体をコードする核酸を、哺乳動物細胞のゲノム中に組み込むことによって、二価二重特異性抗体の効率的な組換え発現および生産を実現できるという知見に、少なくとも部分的に基づいている。
【0020】
二重リコンビナーゼ媒介カセット交換反応によって、所定の発現カセット配列を哺乳動物細胞のゲノム中に有利に組み込めることが、判明している。
【0021】
本発明による1つの態様は、二価二重特異性抗体を生産するための方法であって、
a)二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含む哺乳動物細胞を、任意で二価二重特異性抗体の発現に適した条件下で、培養する工程、
b)細胞または培養培地から二価二重特異性抗体を回収する工程、
を含み、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸が、哺乳動物細胞のゲノム中に安定に組み込まれており、かつ5’から3’の方向に、
(1)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、
または(2)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第1の重鎖をコードする第4の発現カセット
のいずれかを含む、方法である。
【0022】
1つの実施形態において、正確に1コピーのデオキシリボ核酸が、哺乳動物細胞のゲノムの単一の部位または遺伝子座に安定に組み込まれている。
【0023】
本発明の一態様は、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸であって、5’から3’の方向に、
(1)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、
または(2)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第1の重鎖をコードする第4の発現カセット
のいずれかを含む、デオキシリボ核酸である。
【0024】
本発明の一態様は、哺乳動物細胞における二価二重特異性抗体の発現のためのデオキシリボ核酸の使用であって、当該デオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
(1)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、
または(2)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第1の重鎖をコードする第4の発現カセット、
のいずれかを含む、使用である。
【0025】
使用の1つの実施形態において、デオキシリボ核酸は、哺乳動物細胞のゲノム中に組み込まれる。
【0026】
1つの実施形態において、正確に1コピーのデオキシリボ核酸の使用が、哺乳動物細胞のゲノムの単一の部位または遺伝子座に安定に組み込まれる。
【0027】
本発明の一態様は、細胞のゲノムに組み込まれている、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含む組換え哺乳動物細胞であって、当該二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
(1)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、
または(2)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第1の重鎖をコードする第4の発現カセット
のいずれかを含む、組換え哺乳動物細胞である。
【0028】
1つの実施形態において、正確に1コピーのデオキシリボ核酸が、哺乳動物細胞のゲノムの単一の部位または遺伝子座に安定に組み込まれている。
【0029】
これまでのすべての態様の1つの実施形態において、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸は、
- 第1(最も5’側)の発現カセットの5’側に位置する、第1の組換え認識配列、
- 第4(最も3’側)の発現カセットの3’側に位置する、第2の組換え認識配列、および
- 第3の組換え認識配列であって、
- 第1の組換え認識配列と第2の組換え認識配列の間、かつ
- 2つの発現カセットの間
に位置する、第3の組換え認識配列
をさらに含み、
ここで、すべての組換え認識配列は異なる。
【0030】
1つの実施形態において、第3の組換え認識配列は、第2の発現カセットと第3の発現カセットの間に位置する。
【0031】
1つの実施形態において、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸は、選択マーカーをコードする別の発現カセットを含み、当該選択マーカーをコードする発現カセットは、第3の組換え認識配列の5’側に一部が、3’側に一部が位置しており、該発現カセットの、5’側に位置する部分は、プロモーターおよび開始コドンを含み、該発現カセットの、3’側に位置する部分は、開始コドンのないコード配列およびポリAシグナルを含み、開始コドンがコード配列に作動可能に連結される。
【0032】
本発明の1つの態様は、2つのデオキシリボ核酸を含む組成物であって、当該2つのデオキシリボ核酸が、3つの異なる組換え認識配列および8つの発現カセットを含み、
- 第1のデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
(1)
- 第1の組換え認識配列、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、および
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー
または(2)
- 第1の組換え認識配列、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、および
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー
のいずれかを含み、かつ
- 第2のデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
(1)
- 前記第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、および
- 第2の組換え認識配列、
または(2)
- 前記第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第4の発現カセット、および
- 第2の組換え認識配列
のいずれかを含む、組成物である。
【0033】
1つの実施形態において、第1および第2のデオキシリボ核酸は両方とも(1)の構成を含むか、または、第1および第2のデオキシリボ核酸は両方とも(2)の構成を含む。
【0034】
これまでのすべての態様の1つの実施形態において、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸は、選択マーカーをコードする別の発現カセットをさらに含む。
【0035】
1つの実施形態において、選択マーカーをコードする発現カセットは、第3の組換え認識配列の、
i)5’側、または
ii)3’側、または
iii)一部が5’側、一部が3’側
に位置する。
【0036】
1つの実施形態において、選択マーカーをコードする発現カセットは、第3の組換え認識配列の5’側に一部が、3’側に一部が位置しており、該発現カセットの、5’側に位置する部分は、プロモーターおよび開始コドンを含み、該発現カセットの、3’側に位置する部分は、開始コドンのないコード配列およびポリAシグナルを含む。
【0037】
1つの実施形態において、選択マーカーをコードする発現カセットの、5’側に位置する部分は、開始コドンに作動可能に連結されたプロモーター配列を含み、該プロモーター配列は、上流側で第2の発現カセットと隣接し(すなわち、第2の発現カセットに対して下流の位置にあり)、開始コドンは、下流側で第3の組換え認識配列と隣接し(すなわち、第3の組換え認識配列に対して上流の位置にあり);かつ、選択マーカーをコードする発現カセットの、3’側に位置する部分は、開始コドンを欠く選択マーカーをコードする核酸を含み、上流側で第3の組換え認識配列と隣接し、下流側で第3の発現カセットと隣接している。
【0038】
1つの実施形態において、開始コドンは翻訳開始コドンである。1つの実施形態において、開始コドンはATGである。
【0039】
本発明の一態様は、細胞のゲノムに組み込まれている、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含む、組換え哺乳動物細胞であり、
二価二重特異性抗体をコードする該デオキシリボ核酸は、以下のエレメント:
第1の組換え認識配列、第2の組換え認識配列、および第3の組換え認識配列、
第1の選択マーカーおよび第2の選択マーカー、ならびに
第1~第4の発現カセット
を含み、前記エレメントの配列は、5’から3’の方向に、
RRS1-1stEC-2ndEC-RRS3-SM1-3rdEC-4thEC-RRS2
であり、ここで、
RRS=組換え認識配列、
EC=発現カセット、
SM=選択マーカー
である。
【0040】
本発明の1つの態様は、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含みかつ二価二重特異性抗体を分泌する組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、
a)哺乳動物細胞のゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれている外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞を提供する工程であって、前記外因性ヌクレオチド配列が、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する第1および第2の組換え認識配列、ならびに前記第1と前記第2の組換え認識配列の間に位置する第3の組換え認識配列を含み、かつ前記組換え認識配列がすべて異なる、哺乳動物細胞を提供する工程;
b)a)で提供された細胞に、3つの異なる組換え認識配列および4つの発現カセットを含む2つのデオキシリボ核酸の組成物を導入する工程であって、
- 第1のデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
(1)
- 第1の組換え認識配列、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、および
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー
または(2)
- 第1の組換え認識配列、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、および
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー
のいずれかを含み、かつ
- 第2のデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
(1)
- 前記第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、および
- 第2の組換え認識配列、
または(2)
- 前記第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第4の発現カセット、および
- 第2の組換え認識配列
のいずれかを含み、
前記第1および第2のデオキシリボ核酸の前記第1~第3の組換え認識配列が、前記組み込まれている外因性ヌクレオチド配列の前記第1~第3の組換え認識配列と一致しており、
1つの第2の選択マーカーをコードする前記発現カセットの5’末端部分および3’末端部分が、一緒にされると、1つの第2の選択マーカーの機能的発現カセットを形成する、
2つのデオキシリボ核酸の組成物を導入する工程;
c)1つまたは複数のリコンビナーゼを、
i)b)の第1および第2のデオキシリボ核酸と同時に、または
ii)その後で逐次的に
導入する工程であって、
前記1つまたは複数のリコンビナーゼが、前記第1および前記第2のデオキシリボ核酸の組換え認識配列を認識する(かつ、任意で、前記1つまたは複数のリコンビナーゼが、2つのリコンビナーゼ媒介カセット交換を行う)、
1つまたは複数のリコンビナーゼを導入する工程;
d)第2の選択マーカーを発現しかつ二価二重特異性抗体を分泌する細胞を選択する工程
を含み、それにより、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含みかつ二価二重特異性抗体を分泌する組換え哺乳動物細胞が生産される、方法である。
【0041】
1つの実施形態において、第1および第2のデオキシリボ核酸は両方とも(1)の構成を含むか、または、第1および第2のデオキシリボ核酸は両方とも(2)の構成を含む。
【0042】
1つの実施形態において、前述の1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットは、第3の組換え認識配列の5’側に一部が、3’側に一部が位置しており、前記発現カセットの、5’側に位置する部分は、プロモーターおよび開始コドンを含み、該発現カセットの、3’側に位置する部分は、開始コドンのない前述の1つの第2の選択マーカーをコードする配列およびポリAシグナルを含む。
【0043】
1つの実施形態において、1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットの5’末端部分は、開始コドンに作動可能に連結されたプロモーター配列を含み、該プロモーター配列は、上流側で第2の発現カセットと隣接し(すなわち、第2の発現カセットに対して下流の位置にあり)、開始コドンは、下流側で第3の組換え認識配列と隣接し(すなわち、第3の組換え認識配列に対して上流の位置にあり);かつ、前述の1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットの3’末端部分は、開始コドンを欠く前述の1つの第2の選択マーカーをコードする配列を含み、上流側で第3の組換え認識配列と隣接し、下流側で第3の発現カセットと隣接している。
【0044】
1つの実施形態において、開始コドンは翻訳開始コドンである。1つの実施形態において、開始コドンはATGである。
【0045】
これまでのすべての態様および実施形態のうちの1つの実施形態において、第1のデオキシリボ核酸は第1のベクターに組み込まれ、第2のデオキシリボ核酸は第2のベクターに組み込まれる。
【0046】
これまでのすべての態様および実施形態のうちの1つの実施形態において、各発現カセットは、5’から3’の方向に、プロモーター、コード配列、およびポリアデニル化シグナル配列を含み、任意で、ターミネーター配列が続いている。
【0047】
これまでのすべての態様および実施形態のうちの1つの実施形態において、
抗体鎖の各発現カセットは、5’から3’の方向に、プロモーター、抗体鎖をコードする核酸、およびポリアデニル化シグナル配列、ならびに任意でターミネーター配列を含み、かつ
選択マーカーをコードする各発現カセットは、5’から3’の方向に、プロモーター、選択マーカーをコードする核酸、およびポリアデニル化シグナル配列、ならびに任意でターミネーター配列を含む。
【0048】
これまでのすべての態様および実施形態のうちの1つの実施形態において、プロモーターは、イントロンAを含むか含まないヒトCMVプロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列は、bGHポリA部位であり、ターミネーターは、hGTターミネーターである。
【0049】
ターミネーター配列は、RNAポリメラーゼIIによる非常に長いRNA転写物の生成、すなわち、本発明によるデオキシリボ核酸における次の発現カセットへのリードスルーを防止し、本発明による方法で使用される。つまり、目的の1つの構造遺伝子の発現は、それ自体のプロモーターによって制御される。
【0050】
したがって、ポリアデニル化シグナルとターミネーター配列の組み合わせにより、効率的な転写終結が達成される。つまり、RNAポリメラーゼIIのリードスルーは、二重終結シグナルの存在によって防止される。ターミネーター配列は複雑な分解を開始し、DNAテンプレートからのRNAポリメラーゼの解離を促進する。
【0051】
これまでのすべての態様および実施形態のうちの1つの実施形態において、プロモーターは、イントロンAを含むヒトCMVプロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列はbGHポリアデニル化シグナル配列であり、かつターミネーター配列はhGTターミネーターであり;ただし例外として選択マーカーの発現カセットでは、プロモーターがSV40プロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列がSV40ポリアデニル化シグナル配列であり、かつターミネーター配列が存在しない。
【0052】
これまでのすべての態様および実施形態のうちの1つの実施形態において、哺乳動物細胞はCHO細胞である。1つの実施形態において、CHO細胞はCHO-K1細胞である。
【0053】
すべての態様および実施形態の1つの実施形態において、二価二重特異性抗体は、抗ANG2/VEGF二重特異性抗体である。1つの実施形態では、二重特異性抗ANG2/VEGF抗体は、RG7221またはバヌシズマブである。
【0054】
すべての態様および実施形態の1つの実施形態において、二価二重特異性抗体は、抗ANG2/VEGF二重特異性抗体である。1つの実施形態では、二重特異性抗ANG2/VEGF抗体は、RG7716またはファリシマブである。
【0055】
そのようなANG2/VEGF二重特異性抗体は、国際特許第2010/040508号、国際特許第2011/117329号、国際特許第2014/009465号に報告されており、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0056】
すべての態様および実施形態の1つの実施形態において、二価二重特異性抗体は、抗PD1/TIM3二重特異性抗体である。そのような抗体は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2017/055404号に報告されている。
【0057】
すべての態様および実施形態の1つの実施形態において、二価二重特異性抗体は、抗PD1/Lag3二重特異性抗体である。そのような抗体は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2018/185043号に報告されている。
【0058】
これまでのすべての態様および実施形態のうちの1つの実施形態において、二価二重特異性抗体の第1の軽鎖および第2の軽鎖のいずれも、共通の軽鎖または普遍的な軽鎖ではない。
【0059】
これまでのすべての態様および実施形態のうちの1つの実施形態において、第2の重鎖可変ドメインおよび第1の軽鎖可変ドメインは第1の結合部位を形成し、第1の重鎖可変ドメインおよび第2の軽鎖可変ドメインは第2の結合部位を形成する。
【0060】
すべての態様および実施形態の1つの好ましい実施形態において、正確に2つのデオキシリボ核酸が含まれるか、または導入される。
【0061】
本発明によるデオキシリボ核酸中の個々の発現カセットは、順次配置される。1つの発現カセットの終わりとその後の次の発現カセットの開始との間の距離は、ほんの数ヌクレオチドであり、これは、クローニング手順に必要であったことであり、すなわち、結果として生じるものである。
【0062】
これまでのすべての態様および実施形態のうちの1つの実施形態において、直後の2つの発現カセットは、最大で100bps離れている(すなわち、それぞれ、ポリAシグナル配列またはターミネーター配列の末端から次のプロモーターエレメントの開始までが、最大で100塩基対(bps)である)。1つの実施形態において、2つの直後の発現カセットは、最大で50bps離れている。1つの好ましい実施形態では、直後の2つの発現カセットは、最大30bps離れている。
【発明を実施するための形態】
【0063】
発明の態様の詳細な説明
本発明は、異なるポリペプチドを含む複合分子、すなわちヘテロ多量体である二価二重特異性抗体の発現のために、所定かつ特定の発現カセット構成を使用すると、CHO細胞などの哺乳動物細胞において二価二重特異性抗体の効率的な発現および生産がもたらされるという知見に、少なくとも部分的に基づいている。
【0064】
本発明は、組換えCHO細胞などの組換え哺乳動物細胞を生産するために二重リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)を使用することができ、その際、所定かつ特定の発現カセット配列がゲノム中に組み込まれ、その結果として、二価二重特異性抗体の効率的な発現および生産がもたらされるという知見に、少なくとも部分的に基づいている。この組込みは、標的指向性組込みによって哺乳動物細胞のゲノムの特定の部位に引き起こされる。それにより、ヘテロ多量体二価二重特異性抗体の異なるポリペプチドの互いに対する発現比率を制御することが可能である。その結果として、正確に折り畳まれ組み立てられた二価二重特異性抗体の効率的な発現、正確な組立て、および高い発現収率での成功裡な分泌が実現される。
【0065】
I.定義
本発明を実施するための有用な方法および技術は、例えば、Ausubel,F.M.(ed.),Current Protocols in Molecular Biology,I~III巻(1997);Glover,N.D.,and Hames,B.D.,ed.,DNA Cloning:A Practical Approach,I巻およびII巻(1985),Oxford University Press;Freshney,R.I.(ed.),Animal Cell Culture-a practical approach,IRL Press Limited(1986);Watson,J.D.,ら、Recombinant DNA,Second Edition,CHSL Press(1992);Winnacker,E.L.,From Genes to Clones;N.Y.,VCH Publishers(1987);Celis,J.,ed.,Cell Biology,Second Edition,Academic Press(1998);Freshney,R.I.,Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,second edition,Alan R.Liss,Inc.,N.Y.(1987)に記載されている。
【0066】
組換えDNA技術を使用することにより、核酸の誘導体の作製が可能になる。このような誘導体は、例えば、置換、変更、交換、欠失または挿入によって、個々のまたはいくつかのヌクレオチド位置で修飾することができる。修飾または誘導体化は、例えば、部位特異的変異誘発によって行うことができる。このような修飾は、当業者によって容易に行うことができる(例えば、Sambrook,J.ら、Molecular Cloning:A laboratory manual(1999)Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,USA;Hames,B.D.,and Higgins,S.G.,Nucleic acid hybridization-a practical approach(1985)IRL Press,Oxford,Englandを参照)。
【0067】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈において特に明白な規定がない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「1つの細胞(a cell)」への言及は、複数のそのような細胞、および当業者に公知であるその等価物を含み、他も同様である。同様に、用語「1つの(a)」(または「1つの(an)」)、「1つまたは複数の」、および「少なくとも1つの」も、本明細書において同義的に使用され得る。用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、および「有する(having)」が同義的に使用され得ることにも留意すべきである。
【0068】
用語「約」は、その後に続く数値の±20%の範囲を意味する。1つの実施形態において、「約」という用語は、その後に続く数値の±10%の範囲を意味する。1つの実施形態において、「約」という用語は、その後に続く数値の±5%の範囲を意味する。
【0069】
用語「含む(comprising)」は、用語「からなる(consisting of)」も含む。
【0070】
用語「外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞」は、そのような細胞の子孫を含めて、1つまたは複数の外因性核酸が導入され、かつその後の遺伝子修飾のための開始点になることが目的とされる細胞を、包含する。したがって、用語「外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞」は、哺乳動物細胞のゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれている外因性ヌクレオチド配列を含む細胞を包含し、この外因性ヌクレオチド配列は、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する、少なくとも1つの第1および少なくとも1つの第2の組換え認識配列(これらのリコンビナーゼ認識配列は異なる)を含む。1つの実施形態において、外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞は、宿主細胞のゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれている外因性ヌクレオチド配列を含む細胞であり、この外因性ヌクレオチド配列は、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する第1および第2の組換え認識配列、ならびに第1と第2の組換え認識配列の間に位置する第3の組換え認識配列を含み、かつ組換え認識配列はすべて異なる。
【0071】
本明細書において使用される場合、用語「組換え細胞」は、最終的な遺伝子修飾後の細胞、例えば、目的のポリペプチドを発現し、該目的のポリペプチドの任意の規模での生産のために使用できる細胞を意味する。例えば、リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)に供され、それによって目的のポリペプチドのコード配列が宿主細胞のゲノム中に導入された「外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞」は、「組換え細胞」である。この細胞は、さらにRMCE反応を行うことが依然としてできるが、そうすることは目的ではない。
【0072】
「外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞」および「組換え細胞」はどちらも、「形質転換細胞」である。この用語は、継代の回数に関わらず、初代形質転換細胞も、それに由来する子孫も含む。子孫は、例えば、核酸含有量が親細胞と完全に同一ではなくてもよいが、変異を含んでもよい。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングまたは選択されたのと同じ機能または生物活性を有している変異子孫は、包含される。
【0073】
「単離された」組成物とは、その天然環境の成分から分離された組成物である。いくつかの実施形態において、組成物は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動法(IEF)、キャピラリー電気泳動、CE-SDS)またはクロマトグラフィー(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換もしくは逆相HPLC)によって測定した場合に95%または99%を超える純度まで精製される。抗体の純度を評価するための方法の概説については、例えば、Flatman,S.ら、J.Chrom.B848(2007)79-87を参照されたい。
【0074】
「単離核酸」は、その天然環境の成分から分離された核酸分子を指す。単離核酸は、元々その核酸分子を含む細胞に含まれているが、その核酸分子が、染色体外に存在するか、又はその天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する核酸分子を含む。
【0075】
「単離された」ポリペプチドまたは抗体とは、その天然環境の成分から分離されたポリペプチド分子または抗体分子を意味する。
【0076】
用語「組込み部位」は、外因性ヌクレオチド配列が挿入される、細胞ゲノム内の核酸配列を意味する。特定の実施形態において、組込み部位は、細胞ゲノム中の隣り合う2つのヌクレオチドの間にある。特定の実施形態において、組込み部位は、ヌクレオチド配列のストレッチを含む。特定の実施形態において、組込み部位は、哺乳動物細胞のゲノムの特定の遺伝子座内に位置している。特定の実施形態において、組込み部位は、哺乳動物細胞の内因性遺伝子内にある。
【0077】
用語「ベクター」または「プラスミド」は、同義的に用いることができ、本明細書において使用される場合、それが連結されている別の核酸を増殖させることができる核酸分子を意味する。この用語は、自己複製する核酸構造としてのベクター、及びベクターが導入された宿主細胞のゲノム内へと組み込まれたベクターを含む。特定のベクターは、それらが機能的に連結されている核酸の発現を指示することができる。このようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。
【0078】
用語「に結合する」は、ある結合部位のその標的への結合、例えば、抗体重鎖可変ドメインおよび抗体軽鎖可変ドメインを含む抗体結合部位などの、各抗原への結合を意味する。この結合は、例えばBIAcore(登録商標)アッセイ(GE Healthcare、Uppsala、Sweden)を用いて測定することができる。すなわち、用語「(抗原に)結合する」は、インビトロアッセイでの、抗体のその抗原への結合を意味する。1つの実施形態において、結合は、抗体を表面に結合し、その抗体への抗原の結合を表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定する結合アッセイにおいて、測定される。結合とは、例えば、10-8M以下、いくつかの実施形態において10-13~10-8M、いくつかの実施形態において10-13~10-9Mの結合親和性(KD)を意味する。用語「結合する」は、用語「特異的に結合する」も含む。
【0079】
例えば、BIAcore(登録商標)アッセイの1つの可能な実施形態において、抗原が表面に結合され、抗体、すなわちその結合部位の結合が、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される。結合親和性は、用語ka(結合定数:複合体を形成する結合についての速度定数)、kd(解離定数;複合体の解離についての速度定数)、およびKD(kd/ka)に基づいて定義される。あるいは、SPRセンサーグラムの結合シグナルを、共鳴シグナルの高さおよび解離挙動に関して、参照物の応答シグナルと直接比較することもできる。
【0080】
用語「結合部位」は、標的に対して結合特異性を示す任意のタンパク質性実体を意味する。これは、例えば、受容体、受容体リガンド、アンチカリン、アフィボディ、抗体などであり得る。したがって、本明細書で使用される「結合部位」という用語は、第2のポリペプチドに特異的に結合することができるか、または第2のポリペプチドによって特異的に結合されることのできる、ポリペプチドを意味する。
【0081】
本明細書において使用される場合、用語「選択マーカー」は、その遺伝子を有する細胞が、対応する選択剤の存在下でポジティブまたはネガティブに特異的に選択されることを可能にする遺伝子を意味する。例えば、限定するわけではないが、選択マーカーにより、その選択マーカー遺伝子で形質転換された宿主細胞が、各選択剤の存在下(選択的培養条件下)で、ポジティブに選択されることが可能になり得る;形質転換されていない宿主細胞は、選択的培養条件下で増殖することも生存することもできないと考えられる。選択マーカーは、ポジティブ、ネガティブ、または二機能性であってよい。ポジティブ選択マーカーにより、マーカーを有する細胞の選択が可能になり得るのに対し、ネガティブ選択マーカーにより、マーカーを有する細胞を選択的に排除することが可能になり得る。選択マーカーは、宿主細胞において薬物に対する耐性を付与することができるか、または代謝もしくは異化の欠陥を補うことができる。原核細胞においては、とりわけ、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、またはクロラムフェニコールに対する耐性を付与する遺伝子を使用することができる。真核細胞において選択マーカーとして有用な耐性遺伝子としては、アミノグリコシド系ホスホトランスフェラーゼ(APH)(例えば、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HYG)、ネオマイシン、およびG418 APH)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(TK)、グルタミン合成酵素(GS)、アスパラギン合成酵素、トリプトファン合成酵素(インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(ヒスチジノールD))の遺伝子、ならびにピューロマイシン、ブラスチシジン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン、およびミコフェノール酸に対する耐性をコードする遺伝子が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。さらなるマーカー遺伝子は、国際公開第92/08796号および国際公開第94/28143号に記載されている。
【0082】
対応する選択剤の存在下での選択を容易にすることを超えて、選択マーカーは、別法として、普通は細胞に存在しない分子、例えば、緑色蛍光性タンパク質(GFP)、高感度GFP(eGFP)、合成GFP、黄色蛍光性タンパク質(YFP)、高感度YFP(eYFP)、シアン蛍光性タンパク質(CFP)、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、J-red、DsRed単量体、mOrange、mKO、mCitrine、Venus、YPet、Emerald、CyPet、mCFPm、Cerulean、およびT-Sapphireであってよい。例えば、コードされるポリペプチドが発する蛍光の検出または不在にそれぞれ基づいて、そのような分子を発現する細胞を、この遺伝子を内部に持たない細胞と区別することができる。
【0083】
本明細書において使用される場合、用語「作動可能に連結された」は、目的の様式でそれらが機能することを可能にする関係にある、2つ以上の成分の近接した配置を意味する。例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサーがコード配列の転写を調節する役割を果たす場合、そのプロモーターおよび/またはエンハンサーはコード配列に作動可能に連結されている。特定の実施形態において、「作動可能に連結されて」いるDNA配列は、単一の染色体上で近接し、隣り合っている。特定の実施形態において、例えば、1つの分泌リーダーおよび1つのポリペプチドなど2つのタンパク質のコード領域をつなげる必要がある場合、これらの配列は近接し、隣り合い、かつ同じ読み枠に存在する。特定の実施形態において、作動可能に連結されたプロモーターは、コード配列の上流に位置しており、かつコード配列の隣に存在してよい。特定の実施形態において、例えば、コード配列の発現を調節するエンハンサー配列に関して、2つの成分は、隣り合ってはいないが、作動可能に連結されてよい。エンハンサーがコード配列の転写を増大させる場合、エンハンサーはコード配列に作動可能に連結されている。作動可能に連結されたエンハンサーは、コード配列の上流、内部、または下流に位置してよく、かつコード配列のプロモーターからかなり離れて位置してよい。作動可能な連結は、当該技術分野で公知の組換え法によって、例えば、PCR方法を用いて、かつ/または好都合な制限部位でのライゲーションによって、達成することができる。好都合な制限部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを従来の手法に従って使用することができる。配列内リボソーム進入部位(IRES)は、5’末端に非依存的にオープンリーディングフレーム(ORF)の内部位置で翻訳を開始することを可能にする場合、ORFに作動可能に連結されている。
【0084】
本明細書において使用される場合、用語「隣接する」は、第1のヌクレオチド配列が第2のヌクレオチド配列の5’もしくは3’末端のいずれか、または両末端に位置していることを意味する。隣接ヌクレオチド配列は、第2のヌクレオチド配列の隣に存在するか、またはそれから所定の距離の位置にあってよい。隣接ヌクレオチド配列の長さには特に制限はない。例えば、隣接配列は、数塩基対または数千塩基対であってよい。
【0085】
デオキシリボ核酸は、コード鎖および非コード鎖を含む。用語「5’」および「3’」は、本明細書において使用される場合、コード鎖上の位置を指す。
【0086】
本明細書において使用される場合、用語「外因性」は、あるヌクレオチド配列が特定の細胞に由来せず、DNA送達法、例えば、トランスフェクション法、エレクトロポレーション法、または形質転換法によって該細胞に導入されることを示す。したがって、外因性ヌクレオチド配列は人工配列であり、この人工物は、例えば、起源が異なる部分配列の組合せ(例えば、SV40プロモーターを有するリコンビナーゼ認識配列と緑色蛍光性タンパク質のコード配列との組合せは、人工核酸である)から、または配列(例えば、膜結合型受容体の細胞外ドメインのみをコードする配列もしくはcDNA)の部分的な欠失もしくは核酸塩基の変異から、生じ得る。用語「内因性」は、細胞に由来するヌクレオチド配列を意味する。「外因性」ヌクレオチド配列は、塩基組成が同一である「内因性」対応物を有し得るが、「外因性」配列は、例えば組換えDNA技術によって細胞に導入されている。
【0087】
抗体
ヒト免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖のヌクレオチド配列に関連する一般的な情報は、Kabat,E.A.ら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service,National Institutes of Health、Bethesda,MD(1991)に与えられる。
【0088】
「重鎖」という用語は、本明細書ではその本来の意味で使用され、すなわち、抗体を形成する4つのポリペプチド鎖のうちの2つのより大きなポリペプチド鎖を示す(例えば、Edelman,G.M.and Gally J.A.,J.Exp.Med.116(1962)207-227を参照)。この文脈における「より大きい」という用語は、分子量、長さ、およびアミノ酸数のいずれかを指すことができる。「重鎖」という用語は、そこに存在する個々の抗体ドメインの配列および数とは無関係である。それは、それぞれのポリペプチドの分子量に基づいてのみ割り当てられる。
【0089】
「軽鎖」という用語は、本明細書ではその本来の意味で使用され、すなわち、抗体を形成する4つのポリペプチド鎖のうちのより小さなポリペプチド鎖を示す(例えば、Edelman,G.M.and Gally J.A.,J.Exp.Med.116(1962)207-227を参照)。この文脈における「より小さい」という用語は、分子量、長さ、およびアミノ酸数のいずれかを指すことができる。「軽鎖」という用語は、そこに存在する個々の抗体ドメインの配列および数とは無関係である。それは、それぞれのポリペプチドの分子量に基づいてのみ割り当てられる。
【0090】
本明細書において使用される場合、重鎖および軽鎖のすべての定常領域およびドメインのアミノ酸位置は、Kabat,ら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)において説明されるKabatナンバリングシステムによりナンバリングされ、本明細書では「Kabatによるナンバリング」と称される。具体的には、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th ed.、Public Health Service,National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)のKabatナンバリングシステム(647~660ページを参照されたい)は、カッパアイソタイプおよびラムダアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLに使用し、Kabat EUインデックスナンバリングシステム(661~723ページを参照されたい)は、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2およびCH3であって、本明細書では、この場合には、「Kabat EUインデックスによるナンバリング」と称することによってさらに明確にしている)に使用される。
【0091】
本明細書での「抗体」という用語は、最も広義に使用され、全長抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗体-抗体断片-融合体ならびにそれらの組み合わせを含む様々な抗体構造を包含するが、これらに限定されない。
【0092】
「天然抗体」という用語は、様々な構造を有する天然に存在する免疫グロブリン分子を意味する。例えば、天然IgG抗体は、ジスルフィド結合されている2つの同一の軽鎖及び2つの同一の重鎖で構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に向けて、各重鎖は、重鎖可変領域(VH)とそれに続く3つの重鎖定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)を有し、それにより、第1および第2の重鎖定常ドメインの間にヒンジ領域が位置している。同様に、N末端からC末端に向けて、各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)とそれに続く軽鎖定常ドメイン(CL)を有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種類の1つに割り当てられてもよい。
【0093】
「全長抗体」という用語は、天然抗体の構造に実質的に類似した構造を有する抗体を表す。全長抗体は、それぞれNからC末端方向に可変領域および定常ドメインを含む2つ以上の全長抗体軽鎖、ならびに、それぞれNからC末端方向に可変領域、第1の定常ドメイン、ヒンジ領域、第2の定常ドメインおよび第3の定常ドメインを含む2つの抗体重鎖を含む。天然抗体とは対照的に、全長抗体は、1つもしくは複数の追加のscFv、または重鎖もしくは軽鎖Fab断片、または、全長抗体の異なる鎖の1つもしくは複数の末端にコンジュゲートしているが各末端には1つの断片のみであるscFabなどのさらなる免疫グロブリンドメインを含んでもよい。これらのコンジュゲートもまた、全長抗体という用語により包含される。
【0094】
「抗体結合部位」という用語は、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインの対を意味する。抗原への適切な結合を確実にするために、これらの可変ドメインは同族の可変ドメインであり、すなわち一緒に属する。抗体の結合部位は、少なくとも3つのHVR(例えば、VHHの場合)または3~6つのHVR(例えば、天然に存在する、すなわち、VH/VLペアを有する従来の抗体の場合)を含む。一般に、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基が、結合部位を形成している。これらの残基は通常、抗体重鎖可変ドメインと対応する抗体軽鎖可変ドメインのペアに含まれる。抗体の抗原結合部位は、「超可変領域」または「HVR」からのアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」または「FR」領域は、本明細書で定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。したがって、抗体の軽鎖および重鎖可変ドメインは、N末端からC末端に向けて、領域FR1、HVR1、FR2、HVR2、FR3、HVR3、およびFR4を含む。特に、重鎖可変ドメインのHVR3領域は、抗原結合に最も寄与し、抗体の結合特異性を定義する領域である。「機能的結合部位」は、その標的に特異的に結合することができる。「特異的に結合する」という用語は、インビトロアッセイにおいて、標的への結合部位の結合を表し、一実施形態では、結合アッセイにおいてである。そのような結合アッセイは、結合イベントが検出され得る限り、任意のアッセイであり得る。例えば、抗体を表面に結合させ、該抗体への抗原の結合が表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される、結合アッセイである。あるいは、ブリッジングELISAを使用することができる。
【0095】
「超可変領域」または「HVR」という用語は、本明細書で使用される場合、超可変的な配列(「相補性決定領域」または「CDR」)であり、および/または構造的に定義されるループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原に接触する残基(「抗原接触」)を含有するアミノ酸残基ストレッチを含む、抗体可変ドメインのそれぞれの領域を指す。一般的に、抗体は、6つのHVRを含み、重鎖可変ドメインVHに3つ(H1、H2、H3)、軽鎖可変ドメインVLに3つ(L1、L2、L3)である。
【0096】
HVRには、次のものが含まれる:
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、および96~101(H3)に生じる超可変ループ(Chothia,C.およびLesk,A.M.、J.Mol.Biol.196(1987)901-917)、
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)、および95~102(H3)に生じるCDR(Kabat,E.A.ら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)、NIH Publication 91-3242)、
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)および93~101(H3)で生じる抗原接触(MacCallumら J.Mol.Biol.262:732~745(1996));ならびに
(d)アミノ酸残基46~56(L2)、47~56(L2)、48~56(L2)、49~56(L2)、26~35(H1)、26~35b(H1)、49~65(H2)、93~102(H3)、および94~102(H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組合せ。
【0097】
別段の指示がない限り、HVR残基および可変ドメイン内の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書において、上記のKabatらに従ってナンバリングされている。
【0098】
抗体の「クラス」は、定常ドメインまたは定常領域、好ましくは重鎖が持つFc領域の種類を指す。抗体の5種類の主要なクラスがあり、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMが存在し、これらのうちのいくつかを、「サブクラス」(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2に更に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0099】
「重鎖定常領域」という用語は、定常ドメインを含む免疫グロブリン重鎖の領域を意味し、すなわち、天然免疫グロブリンの場合は、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを意味し、または、全長免疫グロブリンの場合は、第1の定常ドメイン、ヒンジ領域、第2の定常ドメインおよび第3の定常ドメインを意味する。1つの実施形態において、ヒトIgG重鎖定常領域は、重鎖のAla118からカルボキシル末端に及ぶ(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。ただし、定常領域のC末端リジン(Lys447)は、存在してもよく、または存在しなくてもよい(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。「定常領域」という用語は、鎖間ジスルフィド結合を形成するヒンジ領域システイン残基を介して互いに共有結合することができる2つの重鎖定常領域を含む二量体を意味する。
【0100】
「重鎖Fc領域」という用語は、ヒンジ領域(中間および下部ヒンジ領域)の少なくとも一部、第2の定常ドメイン(例えばCH2ドメイン)、および第3の定常ドメイン(例えばCH3ドメイン)を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を意味する。一実施形態では、ヒトIgG重鎖Fc領域は、重鎖のAsp221またはCys226またはPro230からカルボキシル末端に及ぶ(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。したがって、Fc領域は定常領域よりも小さいが、C末端部分はそれと同一である。しかしながら、重鎖Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在してもよく、または存在しなくてもよい(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。「Fc領域」という用語は、鎖間ジスルフィド結合を形成するヒンジ領域システイン残基を介して互いに共有結合することができる2つの重鎖Fc領域を含む二量体を意味する。
【0101】
抗体の定常領域、より正確にはFc領域(および同様に定常領域)は、補体活性化、C1q結合、C3活性化、およびFc受容体結合に直接関与している。補体系に対する抗体の影響は、特定の条件に依存するが、C1qへの結合は、Fc領域における規定の結合部位によって引き起こされる。このような結合部位は、先行技術で公知であり、例えば、Lukas,T.J.ら、J.Immunol.127(1981)2555-2560、Brunhouse,R.およびCebra,J.J.、Mol.Immunol.16(1979)907-917、Burton,D.R.ら、Nature 288(1980)338-344、Thommesen,J.E.ら、Mol.Immunol.37(2000)995-1004、Idusogie,E.E.ら、J.Immunol.164(2000)4178-4184、Hezareh,M.ら、J.Virol.75(2001)12161-12168、Morgan,A.ら、Immunology 86(1995)319-324、およびEP0307434において記載されている。このような結合部位は、例えば、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331およびP329(KabatのEUインデックスによるナンバリング)である。サブクラスIgG1、IgG2、およびIgG3の抗体は通常、補体活性化、C1q結合、およびC3活性化を示すのに対し、IgG4は、補体系を活性化せず、C1qと結合せず、C3を活性化しない。「抗体のFc領域」は、当業者に周知の用語であり、抗体のパパイン切断に基づいて規定される。
【0102】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、同一であり、及び/又は同じエピトープに結合するが、例えば、自然発生変異を含有するか、又はモノクローナル抗体調製物の産生中に生じる、起こり得るバリアント抗体は例外であり、かかるバリアントは一般的に少量で存在する。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対して指向する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体製剤のそれぞれのモノクローナル抗体は、1つの抗原上の単一の決定基に対して指向する。したがって、改変詞「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集合から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするように解釈すべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含むがこれらに限定されない種々の技術によって作製されてもよい。
【0103】
「価数」との用語は、本出願で使用される場合、抗体内の特定数の結合部位の存在を示す。したがって、「二価」、「四価」および「六価」との用語は、抗体内のそれぞれ2個の結合部位、4個の結合部位および6個の結合部位の存在を示す。
【0104】
「単一特異性抗体」は、単一の結合特異性を有する、すなわち、1つの抗原に特異的に結合する抗体を意味する。単一特異性抗体を、全長抗体もしくは抗体断片(例えば、F(ab’)2)またはそれらの組合せ(例えば、全長抗体と追加のscFvまたはFab断片)として調製することができる。単一特異性抗体は、一価である必要はない。すなわち、単一特異性抗体は、1つの抗原に特異的に結合する1つを超える結合部位を含んでもよい。例えば、天然抗体は、単一特異性であるが二価である。
【0105】
「多重特異性抗体」は、同じ抗原または2つの異なる抗原上の少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体を表す。多重特異性抗体を、全長抗体もしくは抗体断片(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)またはそれらの組合せ(例えば、全長抗体と追加のscFvまたはFab断片)として調製することができる。多重特異性抗体は、少なくとも二価であり、すなわち、2つの抗原結合部位を含む。また、多重特異性抗体は、少なくとも二重特異性である。したがって、二価の二重特異性抗体は、多重特異性抗体の最も単純な形態である。2つ、3つまたはより多く(例えば、4つ)の機能的な抗原結合部位を有する操作された抗体が報告されている(例えば、米国特許出願公開第2002/0004587号明細書を参照)。
【0106】
特定の実施形態において、抗体は、多重特異性抗体、例えば、少なくとも二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原またはエピトープに対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。特定の実施形態では、結合特異性の1つは第一の抗原に対するものであり、他は、異なる第二の抗原に対するものである。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、同じ抗原の2つの異なるエピトープに結合し得る。多重特異性抗体を使用して、抗原を発現する細胞に細胞障害性物質を局在化させ得る。
【0107】
多重特異性抗体を作製するための技術としては、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(Milstein,C.およびCuello,A.C.、Nature305(1983)537-540、WO93/08829、およびTraunecker,A.ら、EMBO J.10(1991)3655-3659を参照されたい)、および「ノブ・イン・ホール(knob-in-hole)」操作(例えば、米国特許第5,731,168号を参照されたい)が挙げられるが、これらに限定されない。多重特異性抗体はまた、抗体Fc-ヘテロ二量体分子を作製するための静電的ステアリング効果の操作(国際公開第2009/089004号)、2つ以上の抗体または断片を架橋すること(例えば、米国特許第4,676,980号、およびBrennan,M.ら、Science、229(1985)81-83を参照)、ロイシンジッパを使用して二重特異性抗体を産生すること(例えば、Kostelny,S.A.ら、J.Immunol.148(1992)1547-1553を参照;二重特異性抗体断片を作製するための特定の技術を使用すること(例えば、Holliger,P.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90(1993)6448-6444を参照)、および一本鎖Fv(scFv)二量体を使用すること(例えば、Gruber,M.ら、J.Immunol.152(1994)5368-5374を参照、および、例えば、Tutt,A.ら、J.Immunol.147:(1991)60-69)に記載されるような三重特異性抗体を調製することによっても作製され得る。
【0108】
抗体または断片はまた、WO2009/080251、WO2009/080252、WO2009/080253、WO2009/080254、WO2010/112193、WO2010/115589、WO2010/136172、WO2010/145792、またはWO2010/145793に記載されているような多重特異性抗体であり得る。
【0109】
抗体またはその断片はまた、WO2012/163520に開示されるような多重特異性抗体であってもよい。
【0110】
二重特異性抗体は、一般に、同じ抗原上の2つの異なる重複しないエピトープまたは異なる抗原上の2つのエピトープに特異的に結合する抗体分子である。
【0111】
この文脈における「非重複」という用語は、二重特異性Fabの第1のパラトープ内に含まれるアミノ酸残基が第2のパラトープ内に含まれず、二重特異性Fabの第2のパラトープ内に含まれるアミノ酸が第1のパラトープ内に含まれないことを示す。
【0112】
「ノブ・イントゥー・ホール」二量体化モジュールおよび抗体操作におけるその使用は、Carter P.;Ridgway J.B.B.;Presta L.G.:Immunotechnology,Volume 2,Number 1,February 1996,pp.73-73(1)に記載されている。
【0113】
抗体の重鎖のCH3ドメインを、「ノブ・イントゥー・ホール」技術によって改変することができる。例えば、WO96/027011、Ridgway,J.B.ら、Protein Eng.9(1996)617-621、およびMerchant,A.M.ら、Nat.Biotechnol.16(1998)677-681に、いくつかの例を伴って詳細に記載されている。この方法では、2つのCH3ドメインの相互作用表面を改変して、これら2つのCH3ドメインのヘテロ二量体化を増加させ、それによってそれらを含むポリペプチドのヘテロ二量体化を増加させる。(2つの重鎖の)2つのCH3ドメインのそれぞれは「ノブ」であることができ、他方は「ホール」である。ジスルフィドブリッジの導入はさらに、ヘテロ二量体を安定化させ(Merchant,A.M.ら、Nature Biotech.16(1998)677-681;Atwell,S.ら、J.Mol.Biol.270(1997)26-35)、収率を増加させる。
【0114】
(抗体重鎖の)CH3ドメインの変異T366Wは、「ノブ変異」または「変異ノブ」として表され、(抗体重鎖の)CH3ドメインの変異T366S、L368A、Y407Vは、「ホール変異」または「変異ホール」として表される(KabatのEUインデックスによるナンバリング)。CH3ドメイン間の追加の鎖間ジスルフィド架橋(Merchant,A.M.ら、Nature Biotech.16(1998)677-681)も、例えば、「ノブ変異」を有する重鎖のCH3ドメインにS354C変異を導入(「ノブ-cys-変異」または「変異ノブ-cys」と表記)すること、および「ホール変異」を有する重鎖のCH3ドメインにY349C変異を導入(「ホール-cys-変異」または「変異ホール-cys」と表記)することにより、使用できる(KabatのEUインデックスによるナンバリング)。
【0115】
「ドメインクロスオーバー」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体重鎖VH-CH1断片とその対応する同族の抗体軽鎖とのペアにおいて、すなわち抗体Fab(断片-抗原結合)において、少なくとも1つの重鎖ドメインが、その対応する軽鎖ドメインによって置換されており、その逆も同様である、という点について、ドメイン配列が天然抗体の配列から逸脱していることを表す。ドメインクロスオーバーは、一般的に3種類あり、(I)CH1およびCLドメインのクロスオーバーであって、軽鎖中のドメインクロスオーバーによってVL-CH1ドメイン配列がもたらされ、重鎖断片中のドメインクロスオーバーによってVH-CLドメイン配列(またはVH-CL-ヒンジ-CH2-CH3ドメイン配列を有する全長抗体重鎖)がもたらされるもの、(ii)VHおよびVLドメインのドメインクロスオーバーであって、軽鎖中のドメインクロスオーバーによってVH-CLドメイン配列がもたらされ、重鎖断片中のドメインクロスオーバーによってVL-CH1ドメイン配列がもたらされるもの、ならびに(iii)完全な軽鎖(VL-CL)および完全なVH-CH1重鎖断片のドメインクロスオーバー(「Fabクロスオーバー」)であって、ドメインクロスオーバーによってVH-CH1ドメイン配列を有する軽鎖がもたらされ、ドメインクロスオーバーによってVL-CLドメイン配列を有する重鎖断片がもたらされるもの(上述のすべてのドメイン配列は、N末端からC末端への方向で示されている)がある。
【0116】
本明細書で使用される場合、対応する重鎖ドメインおよび軽鎖ドメインに関して「互いに置き換えられた」という用語は、上述のドメインクロスオーバーを指す。そのため、CH1およびCLドメインが「互いに置き換えられた」場合、該用語は、項目(i)の下で言及されたドメインクロスオーバー、ならびに結果として生じる重鎖および軽鎖ドメイン配列を指す。したがって、VHおよびVLが「互いに置き換えられた」場合、該用語は、項目(ii)の下で言及されたドメインクロスオーバーを指し、またCH1およびCLドメインが「互いに置き換えられ」、かつVHおよびVLドメインが「互いに置き換えられた」場合、該用語は、項目(iii)の下で言及されたドメインクロスオーバーを指す。ドメインクロスオーバーを含む二重特異性抗体は、例えば、WO2009/080251、WO2009/080252、WO2009/080253、WO2009/080254、およびSchaefer,W.ら、Proc.Natl.Acad.Sci USA108(2011)11187-11192において報告されている。このような抗体は、一般にCrossMabと呼ばれる。
【0117】
多重特異性抗体はまた、一実施形態では、上記の項目(i)で述べたCH1およびCLドメインのドメインクロスオーバー、または上記の項目(ii)で述べたVHおよびVLドメインのドメインクロスオーバー、または上記の項目(iii)で述べたVH-CH1およびVL-VLドメインのドメインクロスオーバーのいずれかを含む、少なくとも1つのFab断片を含む。ドメインクロスオーバーを伴う多重特異性抗体の場合、同じ抗原に特異的に結合するFabは、同じドメイン配列であるように構築される。そのため、ドメインクロスオーバーを伴う1つを超えるFabが、多重特異性抗体に含まれる場合、Fabは、同じ抗原に特異的に結合する。
【0118】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基、およびヒトFRからのアミノ酸残基を含む抗体を指す。ある特定の実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むものであり、それにおいて、HVR(例えば、CDR)の全てまたは実質的に全てが非ヒト抗体のものに相当し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト抗体のものに相当する。ヒト化抗体は、必要に応じて、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでいてもよい。ある抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化形態」は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0119】
「組換え抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、組換え細胞などの組換え手段により調製、発現、作製または単離された全ての抗体(キメラ、ヒト化およびヒト)を表す。これには、NS0、HEK、BHK、CHO細胞などの組換え細胞から単離された抗体が含まれる。
【0120】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」という用語は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指し、すなわちそれは、機能的な断片である。抗体断片の例としては、以下に限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、二重特異性Fab、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFvまたはscFab)が挙げられる。
【0121】
II.組成物および方法
通常、例えば治療用ポリペプチドのような目的のポリペプチドの組換え大量生産のためには、該ポリペプチドを安定に発現し分泌する細胞が必要とされる。この細胞は、「組換え細胞」または「組換え生産細胞」と呼ばれ、このような細胞を作製するために使用される方法は「細胞株開発」と呼ばれる。細胞株開発方法の第1の工程において、例えばCHO細胞などの適切な宿主細胞に、前記目的のポリペプチドの発現に適した核酸配列をトランスフェクトする。第2の工程において、目的のポリペプチドを安定に発現する細胞を、目的のポリペプチドをコードする核酸と共にコトランスフェクトしておいた選択マーカーの共発現に基づいて選択する。
【0122】
ポリペプチドをコードする核酸、すなわちコード配列は、構造遺伝子と呼ばれる。このような構造遺伝子は単純な情報であり、その発現には追加の制御エレメントが必要とされる。したがって、普通は、構造遺伝子は発現カセットに組み込まれる。発現カセットが哺乳動物細胞において機能的となるために必要とされる最小限の制御エレメントは、構造遺伝子の上流(すなわち5’側)に位置する、該哺乳動物細胞において機能的なプロモーター、および構造遺伝子の下流(すなわち3’側)に位置する、該哺乳動物細胞において機能的なポリアデニル化シグナル配列である。プロモーター配列、構造遺伝子配列、およびポリアデニル化シグナル配列は、作動可能に連結された形態で並べられる。
【0123】
目的のポリペプチドが、互いに異なる(単量体)ポリペプチドから構成されるヘテロ多量体ポリペプチドであるならば、1つの発現カセットだけでなく、含まれる構造遺伝子が異なる多数の発現カセット、すなわち、ヘテロ多量体ポリペプチドの異なる(単量体)ポリペプチドのそれぞれについて少なくとも1つの発現カセットが必要とされる。例えば、全長抗体は、軽鎖の2個のコピーおよび重鎖の2個のコピーを含むヘテロ多量体ポリペプチドである。したがって、全長抗体は、2つの異なるポリペプチドから構成される。したがって、全長抗体の発現のためには2つの発現カセット、すなわち軽鎖のための1個および重鎖のための1個が必要とされる。例えば、全長抗体が二重特異性抗体である、すなわち該抗体が、2つの異なる抗原に特異的に結合する2つの異なる結合部位を含む場合、軽鎖同士も互いに異なり、重鎖同士も互いに異なる。したがって、このような二重特異性全長抗体は、4つの異なるポリペプチドから構成され、4つの発現カセットが必要とされる。
【0124】
目的のポリペプチドのための発現カセットは、いわゆる「発現ベクター」に順に組み込まれる。「発現ベクター」は、細菌細胞中で該ベクターを増幅し、かつ含まれる構造遺伝子を哺乳動物細胞中で発現させるのに必要とされるすべてのエレメントを提供する核酸である。典型的には、発現ベクターは、例えば大腸菌(E. coli)の場合、複製開始点および原核生物選択マーカー、さらには真核生物選択マーカー、ならびに目的の構造遺伝子の発現に必要とされる発現カセットを含む、原核生物プラスミド増殖単位を含む。「発現ベクター」は、哺乳動物細胞に発現カセットを導入するための輸送運搬体である。
【0125】
以前のパラグラフで概説したように、発現しようとするポリペプチドが複雑であるほど、必要とされる異なる発現カセットの数もまた多くなる。本質的に、発現カセットの数と共に、宿主細胞のゲノム中に組み込まれる核酸のサイズも大きくなる。同時に、発現ベクターのサイズも大きくなる。しかし、ベクターのサイズの実用的な上限は約15kbpの範囲にあり、それを上回ると、操作および処理の効率が著しく落ちる。この問題は、2つ以上の発現ベクターを用いることによって対処することができる。それによって、発現カセットを、該発現カセットの一部のみをそれぞれ含む異なる発現ベクター間で分け合うことができる。
【0126】
従来の細胞株開発(CLD)は、目的のポリペプチド(SOI)のための発現カセットを有するベクターのランダム組込み(RI)に依拠している。一般に、ランダム手法によってベクターがトランスフェクトされる場合、いくつかのベクターまたはその断片が細胞ゲノム中に組み込まれる。したがって、RIに基づくトランスフェクションプロセスは、予測不可能である。
【0127】
このようにして、異なる発現ベクター間で発現カセットを分け合うことでサイズの問題に対処することにより、新たな問題-組み込まれる発現カセットの不揃いな数およびその空間的分布-が生じる。
【0128】
通常、構造遺伝子の発現用の発現カセットが細胞ゲノム中により多く組み込まれるほど、発現される各ポリペプチドの量は多くなる。組み込まれる発現カセットの数のほかに、組込みの部位および遺伝子座も発現収率に影響を与える。例えば、発現カセットが、細胞ゲノム中の転写活性が低い部位に組み込まれる場合、コードされたポリペプチドはごく少量しか発現されない。しかし、同じ発現カセットが、細胞ゲノム中の転写活性が高い部位に組み込まれる場合、コードされたポリペプチドは多量に発現される。
【0129】
ヘテロ多量体ポリペプチドの互いに異なるポリペプチドのための発現カセットが、同じ頻度で、かつ同程度の転写活性を有する遺伝子座にすべて組み込まれる限り、この発現の違いが問題を引き起こしてはいない。このような状況下では、多量体ポリペプチドに含まれるすべてのポリペプチドが同量で発現され、多量体ポリペプチドが正確に組み立てられる。
【0130】
しかし、このシナリオが起こる可能性は非常に低く、2つより多いポリペプチドで構成される分子に対してこのシナリオを保証することはできない。例えば、国際公開第2018/162517号では、i)発現カセット配列およびii)異なる発現ベクター間での発現カセットの分布に応じて、発現収率および生産物の質の大きな差異がRIによって観察されたことが開示されている。この理論に縛られるわけではないが、この観察結果は、異なる発現ベクターに由来する異なる発現カセットが、細胞中で異なる頻度で異なる遺伝子座に組み込まれ、その結果、ヘテロ多量体ポリペプチドに含まれる様々なポリペプチドが差次的に、すなわち適切ではない様々な比率で発現されるという事実に起因する。その結果、単量体ポリペプチドの一部が、相対的に多い量で存在し、それ以外が相対的に少ない量で存在する。ヘテロ多量体ポリペプチドに含まれる単量体がこのように不均衡であることが原因で、不完全な組立て、間違った組立て、および分泌速度の低下が起こる。前述のどれも、正確に折り畳まれたヘテロ多量体ポリペプチドの発現収率の低下、および生産物に関係する副産物の割合の上昇を招く。
【0131】
従来のRI CLDとは違って、標的指向性組込み(TI)CLDは、細胞ゲノム中のあらかじめ定められた「ホットスポット」に、様々な発現カセットを含む導入遺伝子を導入する。また、この導入は、所定の比率の発現カセットを用いる。その結果、この理論に縛られるわけではないが、ヘテロ多量体ポリペプチドに含まれる様々なポリペプチドのすべてが、同じ(または少なくとも同程度であり、少ししか違わない)速度かつ適切な比率で発現される。その結果、正確に組み立てられたヘテロ多量体ポリペプチドの量は増加するはずであり、生産物に関係する副産物の割合は低下するはずである。
【0132】
また、所定のコピー数および所定の組込み部位が与えられたとすると、TIによって得られる組換え細胞は、RIによって得られる細胞と比べて、優れた安定性を有しているはずである。さらに、選択マーカーは、適切なTIを有する細胞を選択するためだけに使用され、高レベルの導入遺伝子発現を示す細胞を選択するためには使用されないことから、メトトレキサート(MTX)またはメチオニンスルホキシミン(MSX)のような選択剤の変異誘発性が原因の一部である配列バリアント(SV)が生じる可能性を最小限にするために、変異誘発性の低いマーカーを適用してよい。
【0133】
しかし、TIで使用される導入遺伝子中の発現カセットの配列、すなわち発現カセット構成が、二価二重特異性抗体の発現に強い影響を持っていることが、現在では判明している。
【0134】
本発明は、個々の発現カセットを所定の数および配列で有する特定の発現カセット構成を使用する。これにより、哺乳動物細胞において発現される二価二重特異性抗体の発現収率が高くなり、生産物の質が良くなる。
【0135】
本発明による発現カセット配列を有する導入遺伝子の所定の組込みのために、TI方法が使用される。本発明は、2プラスミド・リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)反応を用いて、二価二重特異性抗体を発現する組換え哺乳動物細胞を作製する新規の方法を提供する。改良点は、特に、所定の配列中の同じ遺伝子座における所定の組込み、ならびにそれによる二価二重特異性抗体の高発現および生産物に関係する副産物の形成の減少である。
【0136】
本発明で開示される主題は、二価二重特異性抗体の安定な大量生産のために組換え哺乳動物細胞を生産するための方法だけでなく、有利な副産物プロファイルを有する二価二重特異性抗体の生産力が高い組換え哺乳動物細胞もまた、提供する。
【0137】
本明細書において使用される2プラスミドRMCE戦略は、同じTI遺伝子座に複数の発現カセットを挿入することを可能にする。
【0138】
II.a 本発明による導入遺伝子および方法
二価二重特異性抗体を発現する組換え哺乳動物細胞が、本明細書において報告される。二価二重特異性抗体は、前記哺乳動物細胞によって天然には発現されないヘテロ多量体ポリペプチドである。より具体的には、二価二重特異性抗体は、4つのポリペプチド:第1の抗体重鎖、第2の抗体重鎖、第1の抗体軽鎖、および第2の抗体軽鎖からなるヘテロ多量体タンパク質である。二価二重特異性抗体の発現を実現するために、特定かつ所定の配列中に異なる発現カセットを含む組換え核酸が、哺乳動物細胞のゲノムに組み込まれた。
【0139】
二価二重特異性抗体を発現する組換え哺乳動物細胞を作製するための方法および該組換え哺乳動物細胞を用いて二価二重特異性抗体を生産するための方法も、本明細書において報告される。
【0140】
本発明は、ヘテロ多量体二価二重特異性抗体の発現に必要とされる異なる発現カセットの配列、すなわち発現カセット構成が、哺乳動物細胞のゲノム中に組み込まれた際に、二価二重特異性抗体の発現収率に影響を与えるという知見に、少なくとも部分的に基づいている。
【0141】
本発明は、組換えCHO細胞などの組換え哺乳動物細胞を生産するために二重リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)を使用することができ、その際、所定かつ特定の発現カセット配列がゲノム中に組み込まれ、その結果として、二価二重特異性抗体の効率的な発現および生産がもたらされるという知見に、少なくとも部分的に基づいている。この組込みは、標的指向性組込みによって哺乳動物細胞のゲノムの特定の部位に引き起こされる。それによって、ヘテロ多量体抗体の互いに異なるポリペプチドの、互いに対する発現比率をコントロールすることが可能である。その結果として、正確に折り畳まれ組み立てられた二価二重特異性抗体の効率的な発現、正確な組立て、および高い発現収率での成功裡な分泌が実現される。
【0142】
二価二重特異性抗体はヘテロ四量体であるため、その発現には少なくとも4つ:第1には第1の抗体重鎖の発現のため、第2には第2の抗体重鎖の発現のため、第3には第1の抗体軽鎖の発現のため、第4には第2の抗体軽鎖の発現のための、異なる発現カセットが必要である。さらに、ポジティブ選択マーカーのための1種または複数のさらなる発現カセットも含まれてよい。
【0143】
ドメインクロスオーバー/交換による1つの二価二重特異性抗体について、一過性トランスフェクションから以下の結果が得られた(ベクターは示された発現カセットのみを含んでいた;l+h=1つの軽鎖発現カセットとホール変異を有する重鎖用の1つの発現カセットを含むベクター;xl+k=ドメイン交換を有する軽鎖用の1つの発現カセットおよびノブ変異を有する重鎖用の1つの発現カセットを含むベクター;xl+h=ドメイン交換を有する軽鎖用の1つの軽鎖発現カセットおよびホール変異を有する重鎖用の1つの発現カセットを含むベクター;l+k=軽鎖用の1つの発現カセットとノブ変異を有する重鎖用の1つの発現カセットを含むベクター):
l=軽鎖;h=ホール変異を有する重鎖;xl=ドメイン交換を有する軽鎖;k=ノブ変異を有する重鎖
【0144】
一過性トランスフェクションで得られた結果からわかるように、4つの発現カセットの配列と組み合わせにより、異なる発現収率と生成物品質が得られる。
【0145】
一般に、一過性のタンパク質発現プロファイルが安定した発現プロファイルを予測することが当技術分野で認められている(例えば、Diepenbruck,C.ら、Mol.Biotechnol.54(2013)497-503;Rajendra,Y.ら、Biotechnol.Prog.33(2017)469-477を参照)。
【0146】
TIホストにおける生産性に対する発現カセット構成の影響を調べるために、RMCE安定プールを、ドメインクロスオーバー/交換による二価二重特異性抗体の、異なる数と構成の個々の鎖の発現カセットを含む2つのプラスミド(フロントベクターとバックベクター)をトランスフェクトすることによって作製した。フローサイトメトリーによるRMCEの選択、回収および検証の後、プールの生産性を14日間の流加生産アッセイで評価した。
【0147】
安定したトランスフェクト細胞における発現収率および生成物品質に対する抗体鎖発現カセット構成の効果を、ドメイン交換を有する6つの異なる二価二重特異性抗体について評価した。すべてが異なるターゲティング特異性を有していた。一部について、異なるVH/VLペアの影響も分析した。これらの10個の異なる抗体について、以下の結果が得られた。
【0148】
【0149】
【0150】
k=ノブ変異を有する重鎖;h=ホール変異を有する重鎖;l=軽鎖;xl=ドメイン交換を有する軽鎖;var=異なる結合部位配列
【0151】
本発明を以下に要約する。
本発明の独立した態様は、二価二重特異性抗体を生産するための方法であって、
a)二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含む哺乳動物細胞を培養する工程、および
b)細胞または培養培地から二価二重特異性抗体を回収する工程
を含み、当該二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸が、哺乳動物細胞のゲノム中に安定に組み込まれており、かつ5’から3’の方向に、
(1)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、
または(2)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第1の重鎖をコードする第4の発現カセット
のいずれかを含み、
任意で、第1または第2の軽鎖が、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第1または第2の重鎖が、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖であり、
任意で、(1)の場合、または(1)および(2)の場合、第1の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含むか、またはその逆である、
方法である。
【0152】
二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸の安定した組み込みは、哺乳動物細胞のゲノムに安定して組み込まれ、発現カセットの特定の配列が維持される限り、当業者に知られている任意の方法によって行うことができる。
【0153】
1つの好ましい実施形態では、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖である。
【0154】
(1)の場合、または(1)および(2)の場合における1つの好ましい実施形態では、第1の重鎖は、CH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、第2の重鎖は、CH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0155】
1つの好ましい実施形態では、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖であり、かつ
第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0156】
本発明の独立した一態様は、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸であって、5’から3’の方向に、
(1)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、
または(2)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第1の重鎖をコードする第4の発現カセット
のいずれかを含み、
任意で、第1または第2の軽鎖が、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第1または第2の重鎖が、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖であり、
任意で、(1)の場合、または(1)および(2)の場合、第1の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含むか、またはその逆である、
デオキシリボ核酸である。
【0157】
1つの好ましい実施形態では、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖である。
【0158】
(1)の場合または(1)および(2)の場合における1つの好ましい実施形態では、第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0159】
1つの好ましい実施形態では、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖であり、
第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0160】
本発明の独立した態様は、哺乳動物細胞における二価二重特異性抗体の発現のためのデオキシリボ核酸の使用であって、当該デオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
(1)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、
または(2)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第1の重鎖をコードする第4の発現カセット
のいずれかを含み、
任意で、第1または第2の軽鎖が、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第1または第2の重鎖が、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖であり、
任意で、(1)の場合、または(1)および(2)の場合、第1の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含むか、またはその逆である、
使用である。
【0161】
1つの好ましい実施形態では、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖である。
【0162】
(1)の場合、または(1)および(2)の場合における1つの好ましい実施形態では、第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0163】
1つの好ましい実施形態では、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖であり、
第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0164】
本発明の一態様は、細胞のゲノムに組み込まれている、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含む、組換え哺乳動物細胞であって、当該二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
(1)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、
または(2)
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、および
- 第1の重鎖をコードする第4の発現カセット
のいずれかを含み、
任意で、第1または第2の軽鎖が、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第1または第2の重鎖が、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖であり、
任意で、(1)の場合、または(1)および(2)の場合、第1の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含むか、またはその逆である、
組換え哺乳動物細胞である。
【0165】
1つの好ましい実施形態では、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖である。
【0166】
(1)の場合、または(1)および(2)の場合における1つの好ましい実施形態では、第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0167】
1つの好ましい実施形態では、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖であり、
第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0168】
本発明の一態様は、2つのデオキシリボ核酸を含む組成物であって、当該2つのデオキシリボ核酸が、3つの異なる組換え認識配列および4つの発現カセットを含み、
- 第1のデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
(1)
- 第1の組換え認識配列、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、および
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー
または(2)
- 第1の組換え認識配列、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、および
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー
のいずれかを含み、かつ
- 第2のデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
(1)
- 前記第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、および
- 第2の組換え認識配列、
または(2)
- 前記第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第4の発現カセット、および
- 第2の組換え認識配列
のいずれかを含み、
任意で、第1または第2の軽鎖が、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第1または第2の重鎖が、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖であり、
任意で、(1)の場合、または(1)および(2)の場合、第1の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含むか、またはその逆である、
組成物である。
【0169】
1つの実施形態において、第1および第2のデオキシリボ核酸は両方とも(1)の構成を含むか、または、第1および第2のデオキシリボ核酸は両方とも(2)の構成を含む。
【0170】
1つの好ましい実施形態では、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖である。
【0171】
(1)の場合、または(1)および(2)の場合における1つの好ましい実施形態では、第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0172】
1つの好ましい実施形態では、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖であり、
第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0173】
本発明の一態様は、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含みかつ二価二重特異性抗体を分泌する組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、
a)哺乳動物細胞のゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれている外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞を提供する工程であって、前記外因性ヌクレオチド配列が、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する第1および第2の組換え認識配列、ならびに前記第1と前記第2の組換え認識配列の間に位置する第3の組換え認識配列を含み、かつ前記組換え認識配列がすべて異なる、哺乳動物細胞を提供する工程;
b)a)で提供された細胞に、3つの異なる組換え認識配列および4つの発現カセットを含む2つのデオキシリボ核酸の組成物を導入する工程であって、
- 第1のデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
(1)
- 第1の組換え認識配列、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第2の発現カセット、および
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー
または(2)
- 第1の組換え認識配列、
- 第1の軽鎖をコードする第1の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第2の発現カセット、および
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー
のいずれかを含み、かつ
- 第2のデオキシリボ核酸が、5’から3’の方向に、
(1)
- 前記第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、
- 第2の重鎖をコードする第4の発現カセット、および
- 第2の組換え認識配列、
または(2)
- 前記第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 第2の軽鎖をコードする第3の発現カセット、
- 第1の重鎖をコードする第4の発現カセット、および
- 第2の組換え認識配列
のいずれかを含み、
任意で、第1または第2の軽鎖が、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第1または第2の重鎖が、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖であり、
任意で、(1)の場合、または(1)および(2)の場合、第1の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含むか、またはその逆であり、
前記第1および第2のデオキシリボ核酸の前記第1~第3の組換え認識配列が、前記組み込まれている外因性ヌクレオチド配列の前記第1~第3の組換え認識配列と一致しており、
1つの第2の選択マーカーをコードする前記発現カセットの5’末端部分および3’末端部分が、一緒にされると、1つの第2の選択マーカーの機能的発現カセットを形成する、
2つのデオキシリボ核酸の組成物を導入する工程;
c)1つまたは複数のリコンビナーゼを、
i)b)の第1および第2のデオキシリボ核酸と同時に、または
ii)その後で逐次的に
導入する工程であって、
前記1つまたは複数のリコンビナーゼが、前記第1および前記第2のデオキシリボ核酸の組換え認識配列を認識する(かつ、任意で、前記1つまたは複数のリコンビナーゼが、2つのリコンビナーゼ媒介カセット交換を行う)、
1つまたは複数のリコンビナーゼを導入する工程;ならびに
d)第2の選択マーカーを発現しかつ二価二重特異性抗体を分泌する細胞を選択する工程
を含み、それにより、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸を含みかつ二価二重特異性抗体を分泌する組換え哺乳動物細胞が生産される、方法である。
【0174】
1つの実施形態において、第1および第2のデオキシリボ核酸は両方とも(1)の構成を含むか、または、第1および第2のデオキシリボ核酸は両方とも(2)の構成を含む。
【0175】
1つの好ましい実施形態では、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖である。
【0176】
(1)の場合、または(1)および(2)の場合における1つの好ましい実施形態では、第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0177】
1つの好ましい実施形態では、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、対応するドメイン交換された重鎖であり、かつ
第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0178】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、二価二重特異性抗体をコードする正確に1コピーのデオキシリボ核酸が、標的指向性組込みによって哺乳動物細胞のゲノム中の単一の遺伝子座に安定して組み込まれる。
【0179】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、二価二重特異性抗体をコードする正確に1コピーのデオキシリボ核酸が、単一または二重リコンビナーゼ媒介カセット交換反応によって哺乳動物細胞のゲノム中の単一の遺伝子座に安定して組み込まれる。
【0180】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、第1の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含むか、またはその逆である。
【0181】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、重鎖のうちの1つは変異S354Cをさらに含み、それぞれの他の重鎖は変異Y349Cを含む(Kabatによるナンバリング)。
【0182】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、第1の重鎖は、追加のドメイン交換Fab断片を含む伸長した重鎖である。
【0183】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の一実施形態において、第1の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第1の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された重鎖である。
【0184】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の一実施形態において、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された重鎖である。
【0185】
(1)の場合、または(1)および(2)の場合の本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、第1の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、かつ第2の重鎖がCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含むか、またはその逆である。
【0186】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の一実施形態において、第1の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第1の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された重鎖であり、(1)の場合、または(1)および(2)の場合、第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0187】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の一実施形態において、第2の軽鎖は、VH-CL(VH-VLドメイン交換)またはVL-CH1(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された軽鎖であり、それぞれの第2の重鎖は、VL-CH1-CH2-CH3(VH-VLドメイン交換)またはVH-CL-CH2-CH3(CH1-CLドメイン交換)を含む、ドメイン交換された重鎖であり、(1)の場合、または(1)および(2)の場合、第1の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366W(Kabatによるナンバリング)を含み、第2の重鎖はCH3ドメイン内に変異T366S、L368A、およびY407V(Kabatによるナンバリング)を含む。
【0188】
本発明のすべての独立した態様およびすべての従属する実施形態の1つの実施形態において、
- 第1の重鎖は、N末端からC末端に向けて、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含み、
- 第2の重鎖は、N末端からC末端に向けて、第1の軽鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含み、
- 第1の軽鎖は、N末端からC末端に向けて、第2の重鎖可変ドメインおよびCLドメインを含み、
- 第2の軽鎖は、N末端からC末端に向けて、第2の軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含み、
前記第1の重鎖可変ドメインおよび前記第2の軽鎖可変ドメインが第1の結合部位を形成し、前記第2の重鎖可変ドメインおよび前記第1の軽鎖可変ドメインが第2の結合部位を形成する。
【0189】
本発明のすべての独立した態様およびすべての従属する実施形態の1つの実施形態において、
- 第1の重鎖は、N末端からC末端に向けて、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含み、
- 第2の重鎖は、N末端からC末端に向けて、第2の重鎖可変ドメイン、CLドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含み、
- 第1の軽鎖は、N末端からC末端に向けて、第1の軽鎖可変ドメインおよびCH1ドメインを含み、
- 第2の軽鎖は、N末端からC末端に向けて、第2の軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含み、
前記第1の重鎖可変ドメインおよび前記第2の軽鎖可変ドメインが第1の結合部位を形成し、前記第2の重鎖可変ドメインおよび前記第1の軽鎖可変ドメインが第2の結合部位を形成する。
【0190】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、正確に1コピーのデオキシリボ核酸が、哺乳動物細胞のゲノムの単一の部位または遺伝子座に安定に組み込まれる。
【0191】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、二価二重特異性抗体をコードするデオキシリボ核酸は、選択マーカーをコードするさらなる発現カセットを含む。
【0192】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、選択マーカーをコードする発現カセットは、第3の組換え認識配列の5’側に一部が、3’側に一部が位置しており、前記発現カセットの、5’側に位置する部分は、プロモーターおよび開始コドンを含み、前記発現カセットの、3’側に位置する部分は、開始コドンのないコード配列およびポリAシグナルを含み、開始コドンはコード配列に作動可能に連結される。
【0193】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、選択マーカーをコードする発現カセットの、5’側に位置する部分は、開始コドンに作動可能に連結されたプロモーター配列を含み、プロモーター配列は、上流に第2の発現カセットが隣接し、開始コドンは、下流に第3の組換え認識配列が隣接し;かつ、選択マーカーをコードする発現カセットの、3’側に位置する部分は、開始コドンを欠く選択マーカーをコードする核酸を含み、上流には第3の組換え認識配列が隣接し、下流には第3の発現カセットが隣接しており、開始コドンはコード配列に作動可能に連結される。
【0194】
本発明のすべての独立した態様およびすべての従属する実施形態の1つの実施形態において、
抗体鎖の各発現カセットは、5’から3’の方向に、プロモーター、抗体鎖をコードする核酸、およびポリアデニル化シグナル配列、ならびに任意でターミネーター配列を含み、かつ
選択マーカーをコードする各発現カセットは、5’から3’の方向に、プロモーター、選択マーカーをコードする核酸、およびポリアデニル化シグナル配列、ならびに任意でターミネーター配列を含む。
【0195】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、プロモーターは、イントロンAを含むヒトCMVプロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列はbGHポリアデニル化シグナル配列であり、かつターミネーターはhGTターミネーターであり;ただし例外として選択マーカーの発現カセットでは、プロモーターがSV40プロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列がSV40ポリアデニル化シグナル配列であり、かつターミネーターが存在しない。
【0196】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、哺乳動物細胞はCHO細胞である。
【0197】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、すべてのカセットは一方向に配置されている。
【0198】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、選択マーカーをコードする発現カセットは、第3の組換え認識配列の5’側に一部が、3’側に一部が位置しており、前記発現カセットの、5’側に位置する部分は、プロモーターおよび開始コドンを含み、前記発現カセットの、3’側に位置する部分は、開始コドンのないコード配列およびポリAシグナルを含む。
【0199】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、選択マーカーをコードする発現カセットの、5’側に位置する部分は、開始コドンに作動可能に連結されたプロモーター配列を含み、該プロモーター配列は、上流側で第2の発現カセットと隣接し(すなわち、第2の発現カセットに対して下流の位置にあり)、開始コドンは、下流側で第3の組換え認識配列と隣接し(すなわち、第3の組換え認識配列に対して上流の位置にあり);かつ、選択マーカーをコードする発現カセットの、3’側に位置する部分は、ポリアデニル化配列に作動可能に連結された、開始コドンを欠く選択マーカーをコードする核酸を含み、上流側で第3の組換え認識配列と隣接し、下流側で第3の発現カセットと隣接している。
【0200】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、開始コドンは翻訳開始コドンである。1つの実施形態において、開始コドンはATGである。
【0201】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、第1のデオキシリボ核酸は第1のベクターに組み込まれ、第2のデオキシリボ核酸は第2のベクターに組み込まれる。
【0202】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、各発現カセットは、5’から3’の方向に、プロモーター、コード配列、およびポリアデニル化シグナル配列を含み、任意でターミネーター配列が続いており、これらはすべて互いに作動可能に連結されている。
【0203】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、哺乳動物細胞はCHO細胞である。1つの実施形態において、CHO細胞はCHO-K1細胞である。
【0204】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、リコンビナーゼ認識配列は、L3、2LおよびLoxFasである。1つの実施形態において、L3は配列番号01の配列を有し、2Lは配列番号02の配列を有し、LoxFasは配列番号03の配列を有する。1つの実施形態において、第1のリコンビナーゼ認識配列はL3であり、第2のリコンビナーゼ認識配列は2Lであり、第3のリコンビナーゼ認識配列はLoxFasである。
【0205】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、プロモーターは、イントロンAを含むヒトCMVプロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列は、bGHポリA部位であり、ターミネーター配列は、hGTターミネーターである。
【0206】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、プロモーターは、イントロンAを含むヒトCMVプロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列はbGHポリA部位であり、かつターミネーター配列はhGTターミネーターであり;ただし例外として選択マーカーの発現カセットでは、プロモーターがSV40プロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列がSV40ポリA部位であり、かつターミネーター配列が存在しない。
【0207】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、ヒトCMVプロモーターは、配列番号04の配列を有する。1つの実施形態において、ヒトCMVプロモーターは、配列番号06の配列を有する。
【0208】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、bGHポリアデニル化シグナル配列は、配列番号08である。
【0209】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、hGTターミネーターは、配列番号09の配列を有する。
【0210】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、SV40プロモーターは、配列番号10の配列を有する。
【0211】
本発明のすべての独立した態様およびすべての依存する実施形態の1つの実施形態において、SV40ポリアデニル化シグナル配列は、配列番号07である。
【0212】
本発明によるすべての態様および実施形態の1つの実施形態において、二価の二重特異性抗体は、抗ANG2/VEGF二重特異性抗体である。1つの実施形態では、二重特異性抗ANG2/VEGF抗体は、RG7221またはバヌシズマブである。
【0213】
本発明によるすべての態様および実施形態の1つの実施形態において、二価の二重特異性抗体は、抗ANG2/VEGF二重特異性抗体である。1つの実施形態では、二重特異性抗ANG2/VEGF抗体は、RG7716またはファリシマブである。
【0214】
そのようなANG2/VEGF二重特異性抗体は、国際特許第2010/040508号、国際特許第2011/117329号、国際特許第2014/009465号に報告されており、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0215】
本発明によるすべての態様および実施形態の1つの実施形態において、二価の二重特異性抗体は、抗PD1/TIM3二重特異性抗体である。そのような抗体は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2017/055404号に報告されている。
【0216】
本発明によるすべての態様および実施形態の1つの実施形態において、二価の二重特異性抗体は、抗PD1/Lag3二重特異性抗体である。そのような抗体は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2018/185043号に報告されている。
【0217】
II.b リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)
標的指向性組込みにより、哺乳動物細胞ゲノムのあらかじめ定められた部位に外因性ヌクレオチド配列が組み込まれることが可能になる。特定の実施形態において、標的指向性組込みは、1つまたは複数の組換え認識配列(RRS)を認識するリコンビナーゼによって媒介される。特定の実施形態において、標的指向性組込みは、相同組換えによって媒介される。
【0218】
「組換え認識配列」(RRS)は、リコンビナーゼによって認識され、リコンビナーゼに媒介された組換え事象のために必要かつ十分である、ヌクレオチド配列である。RRSを用いて、組換え事象が起こると考えられるヌクレオチド配列中の位置を定めることができる。
【0219】
特定の実施形態において、RRSは、LoxP配列、LoxP L3配列、LoxP 2L配列、LoxFas配列、Lox511配列、Lox2272配列、Lox2372配列、Lox5171配列、Loxm2配列、Lox71配列、Lox66配列、FRT配列、Bxb1 attP配列、Bxb1 attB配列、φC31 attP配列、およびφC31 attB配列からなる群から選択される。複数のRRSが存在しなければならない場合、同一でないRRSが選択される限りにおいて、各配列の選択は他方に依存する。
【0220】
特定の実施形態において、RRSは、Creリコンビナーゼによって認識され得る。特定の実施形態において、RRSは、FLPリコンビナーゼによって認識され得る。特定の実施形態において、RRSは、Bxb1インテグラーゼによって認識され得る。特定の実施形態では、RRSは、φC31インテグラーゼによって認識され得る。
【0221】
RRSがLoxP部位である特定の実施形態において、細胞は、組換えを行うためにCreリコンビナーゼを必要とする。RRSがFRT部位である特定の実施形態において、細胞は、組換えを行うためにFLPリコンビナーゼを必要とする。RRSがBxb1 attP部位またはBxb1 attB部位である特定の実施形態において、細胞は、組換えを行うためにBxb1インテグラーゼを必要とする。RRSがφC31 attP部位またはφC31attB部位である特定の実施形態において、細胞は、組換えを行うためにφC31インテグラーゼを必要とする。これらのリコンビナーゼは、これらの酵素のコード配列を含む発現ベクターを用いて細胞中に導入することができる。
【0222】
Cre-LoxP部位特異的組換え系は、多くの生物学的実験系において広く使用されている。Creは、34bpのLoxP配列を認識する、38kDaの部位特異的DNAリコンビナーゼである。CreはバクテリオファージP1に由来し、チロシンファミリー部位特異的リコンビナーゼに属する。Creリコンビナーゼは、LoxP配列間の分子内組換えと分子間組換えの両方を媒介することができる。LoxP配列は、2つの13bp逆方向反復に挟まれた8bpの非パリンドロームコア領域から構成される。Creリコンビナーゼは13bpの反復に結合し、それによって8bpのコア領域内での組換えを媒介する。Cre-LoxPの媒介による組換えは、高効率で起こり、いかなる他の宿主因子も必要としない。2つのLoxP配列が同じヌクレオチド配列上に同じ向きで配置されている場合、Creの媒介による組換えは、それら2つのLoxP配列の間に位置するDNA配列を、共有結合的に閉じた環として切除する。2つのLoxP配列が同じヌクレオチド配列上に逆向きの位置で配置されている場合、Creの媒介による組換えは、それら2つの配列の間に位置するDNA配列の向きを逆にする。2つのLoxP配列が2つの異なるDNA分子上に存在する場合、かつ一方のDNA分子が環状である場合、Creの媒介による組換えの結果、環状DNA配列が組み込まれる。
【0223】
特定の実施形態において、LoxP配列は、野生型LoxP配列である。特定の実施形態において、LoxP配列は、変異LoxP配列である。変異LoxP配列は、Creの媒介による組込みまたは置換の効率を高めるために開発された。特定の実施形態において、変異LoxP配列は、LoxP L3配列、LoxP 2L配列、LoxFas配列、Lox511配列、Lox2272配列、Lox2372配列、Lox5171配列、Loxm2配列、Lox71配列、およびLox66配列からなる群から選択される。例えば、Lox71配列は、左の13bp反復中で5bpが変異している。Lox66配列は、右の13bp反復中で5bpが変異している。野生型LoxP配列も変異LoxP配列も、Creに依存した組換えを媒介することができる。
【0224】
用語「一致RRS」とは、2つのRRS間で組換えが起こることを示す。特定の実施形態において、2つの一致RRSは、同じである。特定の実施形態において、どちらのRRSも、野生型LoxP配列である。特定の実施形態において、どちらのRRSも、変異LoxP配列である。特定の実施形態において、どちらのRRSも、野生型FRT配列である。特定の実施形態において、どちらのRRSも、変異FRT配列である。特定の実施形態において、2つの一致RRSは、互いに異なる配列であるが、同じリコンビナーゼによって認識され得る。特定の実施形態において、第1の一致RRSはBxb1 attP配列であり、第2の一致RRSはBxb1 attB配列である。特定の実施形態において、第1の一致RRSはφC31 attB配列であり、第2の一致RRSはφC31 attB配列である。
【0225】
II.c TIに適した例示的哺乳動物細胞
前述したような、外因性核酸(「ランディング部位」)を含む、TIに適した任意の公知または今後得られる哺乳動物細胞を、本発明において使用することができる。
【0226】
これまでのセクションに基づく、外因性核酸(ランディング部位)を含むCHO細胞を用いて、本発明を例示する。これは、単に本発明を例示するために提示され、決して限定として解釈すべきではない。本発明の真の範囲は、特許請求の範囲において設定される。
【0227】
1つの好ましい実施形態において、哺乳動物細胞のゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれている外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞は、CHO細胞である。
【0228】
本発明において使用するために適している、そのゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれている外因性ヌクレオチド配列を含む例示的哺乳動物細胞は、Creリコンビナーゼの媒介によるDNA組換えのための3つの異種特異的loxP部位を含むランディング部位(=哺乳動物細胞のゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれている外因性ヌクレオチド配列)を内部に持つ、CHO細胞である。これらの異種特異的loxP部位は、L3、LoxFas、および2Lであり(例えば、Lanzaら、Biotechnol.J.7(2012)898~908;Wongら、Nucleic Acids Res.33(2005)e147を参照されたい)、その際、L3および2Lはランディング部位の5’末端および3’末端にそれぞれ隣接しており、LoxFasはL3部位と2L部位の間に位置している。ランディング部位は、IRESを介した選択マーカーの発現を蛍光性GFPタンパク質の発現に結び付けて、ポジティブ選択によってランディング部位を安定化することならびにトランスフェクションおよびCre組換え後に該部位が存在しないものを選択すること(ネガティブ選択)を可能にする、バイシストロン性単位をさらに含む。緑色蛍光性タンパク質(GFP)は、RMCE反応をモニターするのに役立つ。例示的なGFPは、配列番号11の配列を有する。
【0229】
先のパラグラフで概説したようにランディング部位がこのように編成されていることによって、2つのベクター、いわゆる、L3部位およびLoxFas部位を有するフロントベクターならびにLoxFas部位および2L部位を内部に持つバックベクターを同時に組み込むことが可能になる。ランディング部位に存在するものとは異なる、選択マーカー遺伝子の機能的エレメントは、両方のベクター間に分配されている:プロモーターおよび開始コドンはフロントベクター上に位置しているのに対し、コード領域およびポリAシグナルはバックベクター上に位置している。両方のベクターに由来する前記核酸がCreを媒介として正確に組み込まれた場合にのみ、各選択剤に対する耐性が誘導される。
【0230】
通常、TIに適した哺乳動物細胞は、哺乳動物細胞のゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれている外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞であって、該外因性ヌクレオチド配列が、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する第1および第2の組換え認識配列、ならびに第1と第2の組換え認識配列の間に位置する第3の組換え認識配列を含み、かつ組換え認識配列がすべて異なる、外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞である。前記外因性ヌクレオチド配列は、「ランディング部位」と呼ばれる。
【0231】
本発明で開示される主題では、外因性ヌクレオチド配列のTIに適した哺乳動物細胞を使用する。特定の実施形態において、TIに適した哺乳動物細胞は、哺乳動物細胞のゲノム中の組込み部位に組み込まれている外因性ヌクレオチド配列を含む。TIに適したこのような哺乳動物細胞は、TI宿主細胞と表記することもできる。
【0232】
特定の実施形態において、TIに適した哺乳動物細胞は、ランディング部位を含む、ハムスター細胞、ヒト細胞、ラット細胞、またはマウス細胞である。特定の実施形態において、TIに適した哺乳動物細胞は、ランディング部位を含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、CHO K1細胞、CHO K1SV細胞、CHO DG44細胞、CHO DUKXB-11細胞、CHO K1S細胞、またはCHO K1M細胞である。
【0233】
特定の実施形態において、TIに適した哺乳動物細胞は、組み込まれている外因性ヌクレオチド配列を含み、該外因性ヌクレオチド配列は、1つまたは複数の組換え認識配列(RRS)を含む。特定の実施形態において、外因性ヌクレオチド配列は、少なくとも2つのRRSを含む。RRSは、リコンビナーゼ、例えば、Creリコンビナーゼ、FLPリコンビナーゼ、Bxb1インテグラーゼ、またはφC31インテグラーゼによって認識され得る。RRSは、LoxP配列、LoxP L3配列、LoxP 2L配列、LoxFas配列、Lox511配列、Lox2272配列、Lox2372配列、Lox5171配列、Loxm2配列、Lox71配列、Lox66配列、FRT配列、Bxb1 attP配列、Bxb1 attB配列、φC31 attP配列、およびφC31 attB配列からなる群から選択され得る。
【0234】
特定の実施形態において、外因性ヌクレオチド配列は、第1、第2、および第3のRRS、ならびに第1と第2のRRSの間に位置する少なくとも1つの選択マーカーを含み、かつ第3のRRSは、第1および/または第2のRRSとは異なる。特定の実施形態において、外因性ヌクレオチド配列は第2の選択マーカーもさらに含み、かつ第1と第2の選択マーカーは互いに異なる。特定の実施形態において、外因性ヌクレオチド配列は、第3の選択マーカーおよび配列内リボソーム進入部位(IRES)もさらに含み、該IRESは該第3の選択マーカーに作動可能に連結されている。第3の選択マーカーは、第1の選択マーカーとも第2の選択マーカーとも異なってよい。
【0235】
選択マーカーは、アミノグリコシド系ホスホトランスフェラーゼ(APH)(例えば、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HYG)、ネオマイシン、およびG418 APH)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(TK)、グルタミン合成酵素(GS)、アスパラギン合成酵素、トリプトファン合成酵素(インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(ヒスチジノールD)、ならびにピューロマイシン、ブラスチシジン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン、およびミコフェノール酸に対する耐性をコードする遺伝子からなる群から選択され得る。また、選択マーカーは、緑色蛍光性タンパク質(GFP)、高感度GFP(eGFP)、合成GFP、黄色蛍光性タンパク質(YFP)、高感度YFP(eYFP)、シアン蛍光性タンパク質(CFP)、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、J-red、DsRed単量体、mOrange、mKO、mCitrine、Venus、YPet、Emerald6、CyPet、mCFPm、Cerulean、およびT-Sapphireからなる群から選択される蛍光性タンパク質であってもよい。
【0236】
特定の実施形態において、外因性ヌクレオチド配列は、第1、第2、および第3のRRS、ならびに第1と第3のRRSの間に位置する少なくとも1つの選択マーカーを含む。
【0237】
外因性ヌクレオチド配列は、特定の細胞に由来しないが、DNA送達法、例えば、トランスフェクション法、エレクトロポレーション法、または形質転換法などによって前記細胞に導入することができるヌクレオチド配列である。特定の実施形態において、TIに適した哺乳動物細胞は、哺乳動物細胞のゲノム中の1つまたは複数の組込み部位に組み込まれた少なくとも1つの外因性ヌクレオチド配列を含む。特定の実施形態において、外因性ヌクレオチド配列は、哺乳動物細胞のゲノムの特定の遺伝子座内の1つまたは複数の組込み部位に組み込まれる。
【0238】
特定の実施形態において、組み込まれている外因性ヌクレオチド配列は、1つまたは複数の組換え認識配列(RRS)を含み、該RRSはリコンビナーゼによって認識され得る。特定の実施形態において、組み込まれている外因性ヌクレオチド配列は、少なくとも2つのRRSを含む。特定の実施形態において、組み込まれている外因性ヌクレオチド配列は、3つのRRSを含み、第3のRRSは第1と第2のRRSの間に位置している。特定の実施形態において、第1および第2のRRSは同じであり、第3のRRSは、第1のRRSとも第2のRRSとも異なる。特定の好ましい実施形態において、3つのRRSはすべて互いに異なる。特定の実施形態において、RRSは、LoxP配列、LoxP L3配列、LoxP 2L配列、LoxFas配列、Lox511配列、Lox2272配列、Lox2372配列、Lox5171配列、Loxm2配列、Lox71配列、Lox66配列、FRT配列、Bxb1 attP配列、Bxb1 attB配列、φC31 attP配列、およびφC31 attB配列からなる群から、相互に独立して、選択される。
【0239】
特定の実施形態において、組み込まれている外因性ヌクレオチド配列は、少なくとも1つの選択マーカーを含む。特定の実施形態において、組み込まれている外因性ヌクレオチド配列は、第1、第2、および第3のRRS、ならびに少なくとも1つの選択マーカーを含む。特定の実施形態において、選択マーカーは、第1と第2のRRSの間に位置している。特定の実施形態において、2つのRRSは、少なくとも1つの選択マーカーに隣接する。すなわち、第1のRRSが選択マーカーの5’側(上流)に位置し、第2のRRSが選択マーカーの3’側(下流)に位置している。特定の実施形態において、第1のRRSは、選択マーカーの5’末端の隣に存在し、かつ第2のRRSは、選択マーカーの3’末端の隣に存在する。
【0240】
特定の実施形態において、選択マーカーは第1と第2のRRSの間に位置しており、かつこれら2つの隣接RRSは互いに異なる。特定の好ましい実施形態において、第1の隣接RRSはLoxP L3配列であり、第2の隣接RRSはLoxP 2L配列である。特定の実施形態において、LoxP L3配列(sequenced)は選択マーカーの5’側に位置しており、LoxP 2L配列は選択マーカーの3’側に位置している。特定の実施形態において、第1の隣接RRSは野生型FRT配列であり、第2の隣接RRSは変異FRT配列である。特定の実施形態では、第1の隣接するRRSは、Bxb1 attP配列であり、第2の隣接するRRSは、Bxb1 attB配列である。特定の実施形態において、第1の隣接RRSはφC31 attP配列であり、第2の隣接RRSはφC31 attB配列である。特定の実施形態において、2つのRRSは、同じ向きに位置づけられている。特定の実施形態において、2つのRRSは、両方が順方向または逆方向である。特定の実施形態において、2つのRRSは、反対の向きに位置づけられている。
【0241】
特定の実施形態において、組み込まれている外因性ヌクレオチド配列は、2つのRRSが隣接する、第1および第2の選択マーカーを含み、該第1の選択マーカーは該第2の選択マーカーとは異なる。特定の実施形態において、2つの選択マーカーのどちらも、相互に独立して、グルタミン合成酵素選択マーカー、チミジンキナーゼ選択マーカー、HYG選択マーカー、およびピューロマイシン耐性選択マーカーからなる群から選択される。特定の実施形態において、組み込まれている外因性ヌクレオチド配列は、チミジンキナーゼ選択マーカーおよびHYG選択マーカーを含む。特定の実施形態において、第1の選択マーカーは、アミノグリコシド系ホスホトランスフェラーゼ(APH)(例えば、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HYG)、ネオマイシン、およびG418 APH)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(TK)、グルタミン合成酵素(GS)、アスパラギン合成酵素、トリプトファン合成酵素(インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(ヒスチジノールD)、ならびにピューロマイシン、ブラスチシジン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン、およびミコフェノール酸に対する耐性をコードする遺伝子からなる群から選択され、第2の選択マーカーは、GFP、eGFP、合成GFP、YFP、eYFP、CFP、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、J-red、DsRed単量体、mOrange、mKO、mCitrine、Venus、YPet、Emerald、CyPet、mCFPm、Cerulean、およびT-Sapphire蛍光性タンパク質からなる群から選択される。特定の実施形態において、第1の選択マーカーはグルタミン合成酵素選択マーカーであり、第2の選択マーカーはGFP蛍光性タンパク質である。特定の実施形態において、両方の選択マーカーに隣接する2つのRRSは、互いに異なる。
【0242】
特定の実施形態において、選択マーカーは、プロモーター配列に作動可能に連結されている。特定の実施形態において、選択マーカーは、SV40プロモーターに作動可能に連結されている。特定の実施形態において、選択マーカーは、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターに作動可能に連結されている。
【0243】
特定の実施形態において、組み込まれている外因性ヌクレオチド配列は、3つのRRSを含む。特定の実施形態において、第3のRRSは、第1と第2のRRSの間に位置している。特定の実施形態において、第1および第2のRRSは同じであり、第3のRRSは、第1のRRSとも第2のRRSとも異なる。特定の好ましい実施形態において、3つのRRSはすべて互いに異なる。
【0244】
II.d 本発明を実施するために適した例示的ベクター
上記に概説した「単一ベクターRMCE」のほかに、2つの核酸を同時に標的指向性組込みするために、新規な「2ベクターRMCE」を実施することができる。
【0245】
「2ベクターRMCE」戦略は、本発明によるベクターの組合せを用いる本発明による方法において実施される。例えば、限定されるわけではないが、組み込まれている外因性ヌクレオチド配列は、3つのRRS、例えば、第3のRRS(「RRS3」)が第1のRRS(「RRS1」)と第2のRRS(「RRS2」)の間に存在する並びを含むことができ、第1のベクターは、組み込まれている外因性ヌクレオチド配列上の第1のRRSおよび第3のRRSと一致する2つのRRSを含み、第2のベクターは、組み込まれている外因性ヌクレオチド配列上の第3のRRSおよび第2のRRSと一致する2つのRRSを含む。2ベクターRMCE戦略の例を
図1に例示している。このような2ベクターRMCE戦略により、TIに適した哺乳動物細胞のゲノムにおけるTI後に本発明による発現カセット構成が得られるように、各配列の各RRSペアの間に適切な数のSOIを組み入れることによって複数のSOIを導入することが可能になる。
【0246】
2プラスミドRMCE戦略は、2つの独立したRMCEを同時に実施するために3つのRRS部位を使用することを含む(
図1)。したがって、2プラスミドRMCE戦略を用いるTIに適した哺乳動物細胞のランディング部位は、第1のRRS部位(RRS1)に対しても第2のRRS部位(RRS2)に対しても交差活性を有していない第3のRRS部位(RRS3)を含む。標的とされる2つの発現プラスミドは、効率的な標的指向性のために同じ隣接RRS部位を必要とし、一方の発現プラスミド(フロント)にはRRS1およびRRS3が隣接し、他方(バック)にはRRS3およびRRS2が隣接している。また、2プラスミドRMCEでは、2つの選択マーカーも必要とされる。1つの選択マーカー発現カセットが、2つの部分に分割された。フロントプラスミドは、プロモーターとそれに続く開始コドンおよびRRS3配列を含む。バックプラスミドは、開始コドン(ATG)を欠き、選択マーカーコード領域のN末端に融合されたRRS3配列を有する。融合タンパク質のインフレーム翻訳、すなわち作動可能な連結を確実にするために、RRS3部位と選択マーカー配列の間に付加的なヌクレオチドを挿入する必要がある場合がある。両方のプラスミドが正確に挿入された場合にのみ、選択マーカーの完全な発現カセットが組み立てられ、したがって、各選択剤に対する耐性が細胞に与えられる。
図1は、2プラスミドRMCE戦略を示す概略図である。
【0247】
単一ベクターRMCEと2ベクターRMCEのどちらも、ドナーDNA上に存在するDNA配列と組込み部位が存在する哺乳動物細胞ゲノム中のDNA配列とを正確に交換することにより、哺乳動物細胞ゲノムのあらかじめ定められた部位に1つまたは複数のドナーDNA分子を一方向性に組み込むことを可能にする。これらのDNA配列は、i)少なくとも1つの選択マーカー、もしくはある種の2ベクターRMCEの場合のような「分割された選択マーカー」、および/またはii)少なくとも1つの外因性SOI、に隣接する2つの異種特異的RRSを特徴とする。
【0248】
RMCEは、二重組換え乗換え事象を伴い、この事象は、リコンビナーゼによって触媒され、標的ゲノム遺伝子座内の2つの異種特異的RRSとドナーDNA分子の間で起こる。RMCEは、フロントベクターおよびバックベクターに由来する組み合わせられたDNA配列のコピーを、哺乳動物細胞ゲノムのあらかじめ定められた遺伝子座に導入するように設計されている。ただ1回の乗換え事象を伴う組換えとは違って、RMCEは、原核生物ベクターの配列が哺乳動物細胞ゲノム中に導入されず、したがって、宿主の免疫または防御機構の望まれない誘発を減らし、かつ/または防ぐように、実行することができる。RMCE手順は、複数のDNA配列を用いて繰り返すことができる。
【0249】
特定の実施形態において、標的指向性組込みは、2回のRMCEによって実現され、その際、2つの異なるDNA配列が両方とも、TIに適した哺乳動物細胞のゲノムのあらかじめ定められた部位に組み込まれ、各DNA配列は、ヘテロ多量体ポリペプチドの一部分および/または2つの異種特異的RRSが隣接する少なくとも1つの選択マーカーもしくはその一部分をコードする、少なくとも1つの発現カセットを含む。特定の実施形態において、標的指向性組込みは、複数回のRMCEによって実現され、その際、複数のベクターに由来するDNA配列がすべて、TIに適した哺乳動物細胞のゲノムのあらかじめ定められた部位に組み込まれ、各DNA配列は、ヘテロ多量体ポリペプチドの一部分および/または2つの異種特異的RRSが隣接する少なくとも1つの選択マーカーもしくはその一部分をコードする、少なくとも1つの発現カセットを含む。特定の実施形態において、選択マーカーは、一部が第1のベクターにおいてコードされ、一部が第2のベクターにおいてコードされてよく、その結果、二重RMCEによって両方が正確に組み込まれた場合にのみ、その選択マーカーの発現が可能になる。このような系の例を
図1に示している。
【0250】
特定の実施形態において、リコンビナーゼに媒介された組換えによる標的指向性組込みにより、原核生物ベクターに由来する配列を含まずに、宿主細胞ゲノムの1つまたは複数のあらかじめ定められた組込み部位に、選択マーカーおよび/または多量体ポリペプチドの様々な発現カセットが組み込まれる。
【0251】
描写され、特許請求される様々な実施形態に加えて、本開示の主題は、本明細書に開示され、特許請求される特徴の他の組合せを有する他の実施形態も対象とする。したがって、本明細書に提示される特定の特徴は、本開示の主題が本明細書に開示される特徴の任意の好適な組合せを含むように、本開示の主題の範囲内において他の様式で互いに組合せられても良い。本開示の主題の特定の実施形態の前述の説明は、例証及び説明目的のために提示されている。包括的であるようにも本開示の主題を開示される実施形態に限定するようにも意図されていない。
【0252】
本開示の主題の趣旨又は範囲から逸脱することなく、本開示の主題の組成物及び方法に様々な修正及び変形を加えることができることは、当業者には明らかである。したがって、本開示の主題が添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内の修正及び変形を含むよう意図されている。
【0253】
様々な刊行物、特許、及び特許出願が本明細書に引用されており、それらの内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0254】
以下の実施例および図面は、本発明の理解を助けるために提供され、本発明の真の範囲は添付の特許請求の範囲において説明される。
【図面の簡単な説明】
【0255】
【
図1】2つの独立したRMCEを同時に実行するために、3つのRRS部位の使用を伴う2プラスミドRMCE戦略のスキーム。
【実施例】
【0256】
配列の説明
配列番号01:L3リコンビナーゼ認識配列の例示的配列
配列番号02:2Lリコンビナーゼ認識配列の例示的配列
配列番号03:LoxFasリコンビナーゼ認識配列の例示的配列
配列番号04~06:ヒトCMVプロモーターの例示的なバリアント
配列番号07:例示的なSV40ポリアデニル化シグナル配列
配列番号08:例示的なbGHポリアデニル化シグナル配列
配列番号09:例示的なhGTターミネーター配列
配列番号10:例示的なSV40プロモーター配列
配列番号11:例示的なGFP核酸配列
【0257】
実施例:
実施例1
一般的な技術
1)組換えDNA技術
Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y,(1989)に記載されているように、標準的な方法を使用してDNAを操作した。分子生物学的試薬は、製造元の説明書に従って使用した。
【0258】
2)DNA配列決定
DNA配列決定は、SequiServe GmbH(Vaterstetten、Germany)で実施された。
【0259】
3)DNAおよびタンパク質配列解析および配列データ管理
EMBOSS(欧州分子生物学オープンソフトウェアスイート)ソフトウェアパッケージおよびInvitrogenのVector NTIバージョン11.5を、配列の作成、マッピング、解析、アノテーション、および図示のために使用した。
【0260】
4)遺伝子およびオリゴヌクレオチド合成
所望の遺伝子セグメントは、Geneart GmbH(Regensburg、Germany)での化学合成によって調製された。合成された遺伝子断片を、増殖/増幅のために大腸菌プラスミドにクローニングした。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列を、DNA配列決定によって検証した。あるいは、短い合成DNA断片を、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドをアニーリングするか、PCRを介して組み立てた。それぞれのオリゴヌクレオチドは、metabion GmbH(Planegg-Martinsried、Germany)によって調製された。
【0261】
5)試薬
特に明記されていない限り、すべての市販の化学物質、抗体、およびキットは、製造元のプロトコルに従って提供されたとおりに使用した。
【0262】
6)TI宿主細胞株の培養
TI CHO宿主細胞を、湿度85%、5%CO2の加湿インキュベーター内で37℃で培養した。それらを、300μg/mlのハイグロマイシンBと4μg/mlの第2の選択マーカーを含む独自のDMEM/F12ベースの培地で培養した。細胞を3日または4日ごとに0.3x10E6細胞/mlの濃度で総量30mlに分割した。培養には、125mlの非バッフル三角フラスコを使用した。細胞を150rpmで5cmの振とう振幅で振とうした。細胞数は、Cedex HiRes Cell Counter(Roche)によって決定した。細胞は60日齢に達するまで培養を続けた。
【0263】
7)クローニング
一般
R部位でのクローニングは、目的の遺伝子(GOI)の隣にあるDNA配列に依存し、これは次の断片にある配列と等しい配列である。このように、断片の組立ては、等しい配列の重なりと、それに続く、組み立てられたDNAのニックのDNAリガーゼによる封鎖によって可能になる。したがって、単一遺伝子、特に適切なR部位を含む予備ベクターのクローニングが必要である。これらの予備ベクターのクローニングが成功した後、R部位で挟まれている目的の遺伝子は、R部位のすぐ隣を切断する酵素による制限消化を介して切り出される。最後の工程は、すべてのDNA断片を1つの工程で組み立てることである。より詳細には、5’-エキソヌクレアーゼは重複領域(R部位)の5’末端を除去する。その後、R部位のアニーリングを行なうことができ、DNAポリメラーゼが3’末端を伸長して配列のギャップを埋める。最後に、DNAリガーゼはヌクレオチド間のニックを封鎖する。エキソヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、リガーゼなどのさまざまな酵素を含むアセンブリ・マスターミックスを追加し、続いて反応ミックスを50℃でインキュベートすると、単一断片が1つのプラスミドにアセンブリされる。その後、コンピテント大腸菌細胞をプラスミドで形質転換する。
【0264】
一部のベクターでは、制限酵素を介したクローニング戦略を使用した。適切な制限酵素を選択することにより、望みの目的の遺伝子を切り出し、その後、ライゲーションによって別のベクターに挿入することができる。したがって、マルチクローニングサイト(MCS)で切断する酵素を使用し、スマートな方法で選択して、正しいアレイ内の断片のライゲーションを実行できるようにすることが好ましい。ベクターと断片が以前に同じ制限酵素で切断されている場合、断片とベクターの粘着末端は完全に適合し、その後DNAリガーゼでライゲーションすることができる。ライゲーション後、コンピテント大腸菌細胞を新しく作製されたプラスミドで形質転換する。
【0265】
制限消化によるクローニング
制限酵素によるプラスミドの消化のために、以下の成分を氷上で一緒にピペッティングした。
【0266】
【0267】
1回の消化でより多くの酵素を使用する場合は、各酵素1μlを使用し、多かれ少なかれPCRグレードの水を添加して容量を調整した。すべての酵素は、ニューイングランドバイオラボのCutSmartバッファー(100%活性)での使用に適格であり、同じインキュベーション温度(すべて37℃)であるという前提条件で選択された。
【0268】
インキュベーションは、サーモミキサーまたはサーマルサイクラーを使用して行い、サンプルを一定温度(37℃)でインキュベートできるようにした。インキュベーション中、サンプルは攪拌されなかった。インキュベーション時間は60分に設定された。その後、サンプルをローディング色素と直接混合し、アガロース電気泳動ゲルにロードするか、さらなる使用のために4℃/氷上で保存した。
【0269】
ゲル電気泳動用に1%アガロースゲルを調製した。そのため、1.5gの多目的アガロースを125三角フラスコに量り入れ、150mlのTAE緩衝液で満たした。アガロースが完全に溶解するまで、混合物を電子レンジで加熱した。0.5μg/mlの臭化エチジウムをアガロース溶液に加えた。その後、ゲルを型に流し込んだ。アガロースが固まった後、型を電気泳動チャンバーに入れ、チャンバーをTAE緩衝液で満たした。その後、サンプルをロードした。最初のポケット(左から)に、適切なDNA分子量マーカーをロードし、続いてサンプルをロードした。ゲルは<130Vで約60分間泳動した。電気泳動後、ゲルをチャンバーから取り出し、UV-Imagerで分析した。
【0270】
ターゲットバンドをカットし、1.5mlエッペンドルフチューブに移した。ゲルの精製には、QiagenのQIAquick Gel Extraction Kitを製造元の指示に従って使用した。さらなる使用のために、DNA断片を-20℃で保存した。
【0271】
ライゲーション用の断片は、挿入断片とベクター断片の長さ、およびそれらの相互の相関関係に応じて、1:2、1:3、または1:5のベクター対挿入断片のモル比で一緒にピペッティングした。ベクターに挿入する必要のある断片が短い場合は、1:5の比率を使用した。挿入断片がより長ければ、ベクターとの相関関係で使用される挿入断片の量はより少なくなる。各ライゲーションで50ngのベクター量を使用し、特定の挿入断片量をNEBioCalculatorで計算した。ライゲーションには、NEBのT4 DNAライゲーションキットを使用した。ライゲーション混合物の例を次の表に示す。
【0272】
【0273】
DNAと水の混合から始めて、バッファーの添加、最後に酵素の添加は、すべての成分を氷上で一緒にピペッティングした。反応物を上下にピペッティングすることにより穏やかに混合し、短時間マイクロ遠心分離し、次に室温で10分間インキュベートした。インキュベーション後、T4リガーゼを65℃で10分間熱失活させた。サンプルを氷上で冷却した。最後の工程では、10ベータ・コンピテント大腸菌細胞を2μlのライゲーションプラスミドで形質転換した(以下を参照)。
【0274】
R部位アセンブリによるクローニング
アセンブリのために、両端にR部位を持つすべてのDNA断片を、氷上で一緒にピペッティングした。4つを超える断片を組み立てる場合は、メーカーの推奨に従って、すべてのフラグメントの等モル比(0.05 ng)を使用した。反応ミックスの2分の1を、NEBuilder HiFi DNAアセンブリ・マスターミックスによって実施した。総反応量は40μlであり、PCRクリーンの水を満たして到達させた。次の表に、例示的なピペッティングスキームを示す。
【0275】
【0276】
反応混合物を設定した後、チューブをサーモサイクラー内で常に50℃で60分間インキュベートした。組み立てに成功した後、10ベータ・コンピテント大腸菌を2μlの組み立てたプラスミドDNAで形質転換した(以下を参照)。
【0277】
形質転換10ベータ・コンピテント大腸菌細胞
形質転換のために、10ベータ・コンピテント大腸菌細胞を氷上で解凍した。その後、2μlのプラスミドDNAを細胞懸濁液へ直接ピペットで移した。チューブをはじき、氷上に30分間置いた。その後、セルを42℃の温かいサーマルブロックに入れ、正確に30秒間熱ショックを与えた。その直後に、細胞を氷上で2分間冷却した。950μlのNEB10ベータ増殖培地を細胞懸濁液に添加した。細胞を振とうしながら37℃で1時間インキュベートした。次に、50~100μlを事前に温めた(37℃)LB-Amp寒天プレートにピペットで移し、使い捨てスパチュラで広げた。プレートを37℃で一晩インキュベートした。プラスミドの取り込みに成功しアンピシリンに対する耐性遺伝子を持っている細菌だけが、このプレート上で増殖できた。翌日、単一コロニーを採取し、その後のプラスミド調製のためにLB-Amp培地で培養した。
【0278】
細菌培養
大腸菌の培養は、Luria Bertaniの略であるLB培地で行い、1ml/Lの100mg/mlアンピシリンを添加して、0.1mg/mlのアンピシリン濃度にした。異なるプラスミド調製量について、以下の量に単一の細菌コロニーを接種した。
【0279】
【0280】
ミニプレップの場合、96ウェル2mlディープウェルプレートにウェルあたり1.5mlのLB-Amp培地を充填した。コロニーを拾い、つまようじを培地に押し込んだ。すべてのコロニーが拾われたとき、プレートを粘着性の空気多孔質膜で閉じた。プレートを37℃のインキュベーター内で200rpmの振とう速度で23時間インキュベートした。
【0281】
ミニプレップの場合、15mlのチューブ(換気された蓋付き)に3.6mlのLB-Amp培地を充填し、細菌コロニーを均等に接種した。つまようじは取り除かずに、インキュベーションのあいだチューブ内に残した。96ウェルプレートと同様に、チューブを37℃、200rpmで23時間インキュベートした。
【0282】
マキシプレップの場合、200mlのLB-Amp培地をオートクレーブ処理したガラス製の1L三角フラスコに充填し、約5時間経過した1mlの細菌の日中培養物を接種した。三角フラスコを紙栓で閉じ、37℃、200rpmで16時間インキュベートした。
【0283】
プラスミドの調製
ミニプレップの場合、50μlの細菌懸濁液を1mlのディープウェルプレートに移した。その後、細菌細胞をプレート内で3000rpm、4℃で5分間遠心分離した。上澄みを除去し、細菌ペレットを含むプレートをEpMotionに入れた。約90分後、分析が行われ、溶出されたプラスミドDNAをさらなる使用のためにEpMotionから取り出すことができた。
【0284】
ミニプレップの場合、15mlのチューブをインキュベーターから取り出し、3.6mlの細菌培養物を2つの2mlのエッペンドルフチューブに分割した。チューブを卓上マイクロ遠心機で6,800xgで室温で3分間遠心分離した。その後、Qiagen QIAprep Spinミニプレップ・キットを使用して、製造元の指示に従ってミニプレップを実行した。プラスミドDNA濃度をNanodropで測定した。
【0285】
マキシプレップは、Macherey-Nagel NucleoBond(登録商標)Xtra Maxi EFキットを使用して、製造元の指示に従って実行した。DNA濃度をNanodropで測定した。
【0286】
エタノール沈殿
DNA溶液の容量を2.5倍容量のエタノール100%と混合した。混合物を、-20℃で10分間インキュベートした。次に、DNAを14,000rpm、4℃で30分間遠心分離した。上澄みを注意深く除去し、ペレットを70%エタノールで洗浄した。この場合も、チューブを14,000rpm、4℃で5分間遠心分離した。上澄みをピペッティングにより注意深く除去し、ペレットを乾燥させた。エタノールが蒸発したら、適量のエンドトキシンフリーの水を加えた。DNAを4℃で一晩、水に再溶解する時間を与えた。少量のアリコートを採取し、NanodropデバイスでDNA濃度を測定した。
【0287】
実施例2
プラスミドの作製
発現カセットの組成
抗体鎖の発現には、以下の機能的要素を含む転写単位を使用した:
- イントロンAを含む、ヒトサイトメガロウイルス由来の前初期エンハンサーおよびプロモーター、
- ヒト重鎖免疫グロブリン5’非翻訳領域(5’UTR)、
- マウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
- それぞれの抗体鎖をコードする核酸、
- ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)、および
- 任意で、ヒトガストリンターミネーター(hGT)。
【0288】
発現される所望の遺伝子を含む発現ユニット/カセットに加えて、基本的/標準的な哺乳動物発現プラスミドは、
- 大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18からの複製起点、および
- 大腸菌にアンピシリン耐性を付与するベータラクタマーゼ遺伝子
を含む。
【0289】
フロントおよびバックベクタークローニング
2プラスミド抗体構築物を構築するために、抗体HCおよびLC断片を、L3およびLoxFAS配列を含む前方ベクター骨格、ならびにLoxFASおよび2L配列ならびにpac選択マーカーを含む後方ベクターにクローニングした。CreリコンビナーゼプラスミドpOG231(Wong,E.T.ら、Nuc.Acids Res.33(2005)e147;O’Gorman,S.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94(1997)14602-14607)を、すべてのRMCEプロセスに使用した。
【0290】
それぞれの抗体鎖をコードするcDNAを、遺伝子合成(Geneart、Life Technologies Inc.)によって作製した。37℃で1時間、遺伝子合成物およびバックボーンベクターをHindIII-HFおよびEcoRI-HF(NEB)で消化し、アガロースゲル電気泳動によって分離した。挿入断片およびバックボーンのDNA断片をアガロースゲルから切り取り、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いて抽出した。製造業者のプロトコルに従って迅速ライゲーションキット(Roche)を用いて、3:1の挿入断片/バックボーン比で、精製した挿入断片およびバックボーン断片をライゲーションした。次いで、42℃で30秒間の熱ショックによってライゲーションアプローチをコンピテント大腸菌DH5αに形質転換し、37℃で1時間インキュベートした後、選択用のアンピシリンを含む寒天プレートに播種した。プレートを37℃で一晩インキュベートした。
【0291】
翌日、クローンを採取し、ミニプレップまたはマキシプレップのために振盪しながら37℃で一晩インキュベートした。これは、EpMotion(登録商標)5075(Eppendorf)を用いて、またはそれぞれQIAprepスピンミニプレップキット(Qiagen)/NucleoBond XtraマキシEFキット(Macherey&Nagel)を用いて、実施した。すべてのコンストラクトを配列決定して、いかなる不適切な変異も存在しないように徹底した(SequiServe GmbH)。
【0292】
第2のクローニング工程において、第1のクローニングの場合と同じ条件を用いて、あらかじめクローニングしたベクターをKpnI-HF/SalI-HFおよびSalI-HF/MfeI-HFで消化した。TIバックボーンベクターをKpnI-HFおよびMfeI-HFで消化した。分離および抽出を、前述したようにして実施した。製造業者のプロトコルに従ってT4 DNAリガーゼ(NEB)を用いて、1:1:1の挿入断片/挿入断片/バックボーン比で、精製した挿入断片およびバックボーンのライゲーションを4℃で一晩実施し、65℃で10分間、不活性化した。前述したようにして、下記のクローニング工程を実施した。
【0293】
クローニングされたプラスミドを、TIトランスフェクションおよびプール作製のために使用した。
【0294】
実施例3
培養、トランスフェクション、選択およびプール作製
TI宿主細胞を、独自のDMEM/F12ベースの培地で、150rpmの一定の撹拌速度、標準的な加湿条件下(95%rH、37℃、および5%CO2)で、使い捨て125mlベント・シェイク・フラスコ内にて増殖させた。3~4日ごとに、細胞を、選択マーカー1および選択マーカー2を有効濃度で含む合成培地に、3x10E5細胞/mlの濃度で播種した。培養物の密度と生存率を、Cedex HiRes細胞カウンタ(F.Hoffmann-La Roche Ltd、Basel、Switzerland)で測定した。
【0295】
安定したトランスフェクションのために、等モル量のフロントベクターとバックベクターを混合した。1μgのCre発現プラスミドを、5μgの混合物に添加した。
【0296】
トランスフェクションの2日前に、TI宿主細胞を、4x10E5細胞/mlの密度で、新鮮な培地に播種した。トランスフェクションは、NucleofectorキットV(Lonza、Switzerland)を使用して、製造元のプロトコルに従ってNucleofectorデバイスで実施した。3x10E7の細胞を、30μgのプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクション後、細胞を、選択剤を含まない30mlの培地に播種した。
【0297】
播種後5日目に細胞を遠心分離し、組換え細胞の選択のために6x10E5細胞/mlの有効濃度のピューロマイシン(選択剤1)と1-(2’-デオキシ-2’-フルオロ-1-ベータ-D-アラビノフラノシル-5-ヨード)ウラシル(FIAU;選択剤2)を含む合成培地80mLに移した。細胞を37℃、150rpmでインキュベートした。この日から5%CO2、85%湿度で、分割はしなかった。培養物の細胞密度および生存率を定期的にモニターした。培養物の生存率が再び増加し始めたとき、選択剤1および2の濃度を、以前に使用した量の約半分に減少させた。より詳細には、細胞の回収を促進するために、生存率が40%より高く、かつ生細胞濃度(VCD)が0.5×10E6細胞/mLより高い場合は選択圧を下げた。したがって、4×10E5細胞/mlを遠心分離し、選択培地II(合成培地、1/2選択マーカー1および2)40mlに再懸濁した。これらの細胞を以前と同じ条件で、かつこの場合も分割せずに、インキュベートした。
【0298】
選択を開始してから10日後、細胞内GFPおよび細胞表面に結合した細胞外二価二重特異性抗体の発現を測定するフローサイトメトリーによって、Cre媒介性カセット交換の成功を確認した。ヒト抗体の軽鎖および重鎖に対するAPC抗体(アロフィコシアニン標識F(ab’)2断片ヤギ抗ヒトIgG)を、FACS染色に用いた。フローサイトメトリーは、BD FACS Canto IIフローサイトメータ(BD、Heidelberg、Germany)を使用して実施した。試料あたり10000イベントを測定した。生細胞を、側方散乱(SSC)に対する前方散乱(FSC)のプロットでゲートした。生細胞ゲートは、トランスフェクトされていないTI宿主細胞で定義され、FlowJo 7.6.5 ENソフトウェア(TreeStar、Olten、Switzerland)を用いて、すべての試料に適用された。GFPの蛍光をFITCチャネルで定量した(488nmで励起、530nmで検出)。APCチャネル(645nmで励起、660nmで検出)において二価二重特異性抗体を測定した。CHO親細胞、すなわちTI宿主細胞の作製に使用された細胞を、GFPおよび二価二重特異性抗体の発現に対するネガティブコントロールとして使用した。選択開始から14日後、生存率は90%を超え、選択は完了したと見なされた。
【0299】
実施例4
FACSスクリーニング
FACS解析を実施して、トランスフェクション効率およびトランスフェクションのRMCE効率を調べた。トランスフェクトされたアプローチの4×10E5細胞を遠心分離し(1200rpm、4分)、1mLのPBSで2回洗浄した。PBSを用いる洗浄工程の後、沈殿物を400μLのPBSに再懸濁し、FACSチューブ(セルストレーナーキャップ付きのFalcon(登録商標)丸底チューブ、Corning)に移した。FACS CantoIIを用いて測定を実施し、ソフトウェアFlowJoを用いてデータを解析した。
【0300】
実施例5
流加培養
流加生産培養は、独自の合成培地を含む振盪フラスコまたはAmbr15容器(Sartorius Stedim)で実施した。細胞を、0日目に1x10E6細胞/mlで播種し、3日目に温度を変化させた。3、7、および10日目に、培養物に独自のフィード培地を加えた。Vi-Cell(商標)XR装置(Beckman Coulter)を使用して、0、3、7、10、および14日目に、培養物中の細胞の生存細胞数(VCC)および生存率割合を測定した。Bioprofile 400 Analyzer(Nova Biomedical)を使用して、7、10および14日目にグルコース濃度および乳酸濃度を測定した。流加開始後14日目に、遠心分離(10分、1000rpmおよび10分、4000rpm)によって上清を採取し、濾過(0.22μm)によって清澄化した。UV検出を伴うプロテインA親和性クロマトグラフィーを使用して、14日目の力価を測定した。製品の品質は、CaliperのLabChip(Caliper Life Sciences)によって決定した。
【0301】
実施例6
ベクターデザインの効果
TIホストにおける生産性に対する発現カセット構成の影響を調べるために、RMCEプールを、ドメインクロスオーバー/交換による二価二重特異性抗体の、異なる数と構成の個々の鎖の発現カセットを含む2つのプラスミド(フロントベクターとバックベクター)をトランスフェクトすることによって作製した。フローサイトメトリーによるRMCEの選択、回収および検証の後、プールの生産性を14日間の流加生産アッセイで評価した。
【0302】
安定したトランスフェクト細胞における発現収率および生成物品質に対する抗体鎖発現カセット構成の効果を、ドメイン交換を有する6つの異なる二価二重特異性抗体について評価した。すべてが異なるターゲティング特異性を有していた。一部について、異なるVH/VLペアの影響も分析した。これらの10個の異なる抗体について、以下の結果が得られた。
【0303】
【0304】
【0305】
k=ノブ変異を有する重鎖;h=ホール変異を有する重鎖;l=軽鎖;xl=ドメイン交換を有する軽鎖;var=異なる結合部位配列
【配列表】
【国際調査報告】