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特表2022-537469グリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-26
(54)【発明の名称】グリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法
(51)【国際特許分類】
   D03D 47/18 20060101AFI20220819BHJP
【FI】
D03D47/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021513945
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(85)【翻訳文提出日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 IB2020055647
(87)【国際公開番号】W WO2020254981
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】102019000009357
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515355022
【氏名又は名称】イテマ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】ITEMA S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・ルッツァーナ
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ・ミネット
(72)【発明者】
【氏名】ロレンツォ・ミネッリ
【テーマコード(参考)】
4L050
【Fターム(参考)】
4L050AB08
4L050CB02
4L050ED12
4L050EE11
(57)【要約】
縦糸の間に形成されたシェッド内で、一対の歯付きホイール(W)によって、キャリンググリッパとドローインググリッパとが交互に駆動されるグリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法であって、キャリンググリッパとドローインググリッパとは、それぞれの一端部を支持する対応する可撓性ストラップ(B)を介して、一対の歯付きホイール(W)によって駆動され、各ストラップ(B)は、ストラップ(B)の本体に長手方向に形成された一連のスロットによって各歯付きホイール(W)に噛み合わされ、ガイドスライド(S)によって歯付きホイール(W)の一部に密着した状態で保持され、緯糸挿入機構の動作は、織機の中央制御装置によって監視される。前記制御方法は、a.ストラップ(B)の安静時の表面温度(Ti)と、織機の動作中のストラップ(B)の表面温度を連続的に検知し、b.ストラップ(B)の安静時の表面温度(Ti)と、摩擦下での表面温度(Tf)と、それらの表面温度間の差(ΔT)と、経時変化とに基づいて織機の動作を表すパラメータを計算し、c.織機の動作を表すパラメータを、それぞれ予め決められた閾値と比較し、d.パラメータの2つの異なるグループの値が基準閾値を超えたとき、オペレータに警告メッセージを送信するか、織機の中央制御装置にコマンドメッセージを送信することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦糸の間に形成されたシェッド内で、一対の歯付きホイール(W)によって、キャリンググリッパとドローインググリッパとが交互に駆動される、グリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法であって、
前記キャリンググリッパと前記ドローインググリッパとは、それぞれの一端部を支持する対応する可撓性ストラップ(B)を介して、前記一対の歯付きホイール(W)によって駆動され、
各ストラップ(B)は、当該ストラップ(B)の本体に長手方向に形成された一連のスロットによって各歯付きホイール(W)に噛み合わされ、ガイドスライド(S)によって前記歯付きホイール(W)の一部に密着した状態で保持され、
前記緯糸挿入機構の動作は、前記グリッパ織機の中央制御装置によって監視され、
前記制御方法は、
a.可撓性ストラップ(B)の安静時の表面温度(Ti)と、グリッパ織機の動作中の摩擦下での表面温度(Tf)とを検知するステップと、
b.前記ストラップ(B)の安静時の表面温度(Ti)と、摩擦下での表面温度(Tf)と、それらの表面温度間の差(ΔT)と、経時変化と、に基づいて前記グリッパ織機の動作を表すパラメータを計算するステップと、
を含み、
前記ストラップ(B)の安静時の表面温度(Ti)として、前記ストラップ(B)の作業領域の近傍の室温が測定され、前記室温は、前記グリッパ織機に搭載された潤滑油タンク内の潤滑油の温度として間接的に検知され、
前記制御方法は、更に、
c.前記グリッパ織機の動作を表す前記パラメータを、それぞれ予め決められた閾値と比較するステップと、
d.前記閾値の超過を、
i.前記ストラップ(B)の表面温度に関連するパラメータの第1のグループ、及び
ii.前記ストラップ(B)の表面温度の経時変化の勾配に関連するパラメータの第2のグループ、
で個別に検討するステップと、
e.前記パラメータの第1のグループの当該パラメータの実際の値がそれぞれの閾値を超え、前記パラメータの第2のグループの当該パラメータの実際の値がそれぞれの閾値を超えない場合、前記緯糸挿入機構の1以上の構成要素の限界摩耗状態の到達を示す警告メッセージをオペレータに送信するか、或いは、前記グリッパ織機の中央制御装置に前記到達を示すコマンドメッセージを送信するステップと、
f.前記パラメータの第1のグループの当該パラメータの実際の値及び前記パラメータの第2グループの当該パラメータの実際の値がそれぞれの閾値を超えた場合、前記緯糸挿入機構の構成要素の機械的な調整が誤っている可能性を示す警告メッセージをオペレータに送信するか、或いは、当該可能性を示すコマンドメッセージを前記グリッパ織機の中央制御装置に送信するステップと、
を含む、グリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法。
【請求項2】
前記グリッパ織機の動作を表すパラメータの第1のグループは、
i.Tf:前記ストラップの摩擦下での表面温度、
ii.ΔT=(Tf-Ti):初期移行期間における前記ストラップ(B)の摩擦下での表面温度(Tf)の増加、
iii.ΔTd:日常動作中の前記ストラップ(B)の摩擦下での表面温度(Tf)の増加である、
請求項1に記載のグリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法。
【請求項3】
前記グリッパ織機の動作を表すパラメータの第2のグループは、
iv.G:初期移行期間における前記ストラップ(B)の摩擦下での表面温度(Tf)の経時変化の勾配、
v.Gm:前記表面温度(Tf)が予め決められた基準の室温で正規化されている、処理の延長動作期間における、前記ストラップ(B)の摩擦下での表面温度(Tf)の経時変化の勾配である、
請求項1又は2に記載のグリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法。
【請求項4】
各ストラップ(B)の摩擦下での表面温度(Tf)は、前記ストラップ(B)が前記ガイドスライド(S)に入る位置で、前記ストラップ(B)と接触している前記ガイドスライド(S)の上壁の温度を測定することによって検知される、請求項1に記載のグリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法。
【請求項5】
前記グリッパ織機の動作を表すパラメータは、最初の慣らし運転期間の後に、前記緯糸挿入機構が前記グリッパ織機に完全に取り付けられた新しい構成要素によって構成された試験織機で実験的に検知され、これによって確立された値が、前記検討されたパラメータのそれぞれについての基準最適値とみなされる、請求項4に記載のグリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法。
【請求項6】
前記緯糸挿入機構の1以上の個々の構成要素の摩耗状態を監視するための装置を更に含む、請求項5に記載のグリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法。
【請求項7】
前記ストラップ(B)の摩擦下での表面温度(Tf)が予め決められた閾温度を超えたとき、前記ストラップ(B)の少なくとも1つのガイドスライド(S)を強制冷却するステップを更に含む、請求項1~6のいずれか1つに記載のグリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法。
【請求項8】
前記強制冷却するステップにおいて冷媒流体として織機潤滑油が使用される、請求項7に記載のグリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法。
【請求項9】
前記強制冷却するステップにおいてペルチェセルを使用し、前記ペルチェセルの低温側を、冷却すべきガイドスライド(S)に接触させるとともに、前記ペルチェセルの高温側を、冷媒液として織機潤滑油を使用して冷却する、請求項8に記載のグリッパ織機の緯糸挿入装置の制御方法。
【請求項10】
前記ストラップ(B)の表面温度が予め決められた第1の閾値を超えると、前記ストラップ(B)の摩擦下での表面温度(Tf)が前記第1の閾値以下に低下するまで、前記グリッパ織機の織り速度を段階的に低下させる、請求項1~9のいずれか1つに記載のグリッパ織機の自動制御方法。
【請求項11】
前記ストラップ(B)の表面温度が予め決められた第2の閾値を超えると、前記グリッパ織機が最初の停止後に再起動することを防止する、請求項10に記載のグリッパ織機の自動制御方法。
【請求項12】
前記ストラップ(B)の表面温度が予め決められた第3の閾値を超えると、前記グリッパ織機を停止させる、請求項11に記載のグリッパ織機の自動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリッパ織機の緯糸挿入機構を制御する方法に関する。特に、本発明は、予め決められたパラメータに基づいて、緯糸挿入機構の様々な構成要素の摩耗及び作業状態を連続的に監視し、これらのパラメータが満たされていない場合には、緯糸挿入機構の設定及び/又は摩耗の対象となる機構の構成要素を交換するための改善措置を提案する制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
当技術分野の専門家に知られ且つ図1に模式的に示されているように、グリッパ織機の緯糸挿入機構は、織機の反対側から移動する一対のグリッパ(キャリンググリッパ及びドローインググリッパ)を備え、これらのグリッパは、シェッドの中央で発生する互いの緯糸交換を通じてシェッドへの緯糸の挿入を提供する。キャリンググリッパとドローインググリッパの往復動作は、それぞれのグリッパが固定されている一方の端部で、2本の可撓性ストラップBによって対称的に制御されている。2本のストラップのそれぞれへの往復動作は、それぞれの歯付きホイールWによって行われ、その歯はストラップBの中央部に沿って形成された連続したスロットF内で噛み合っている。歯付きホイールWへの往復回転動作は、織機電気メインモータによって付与される。当該モータの連続的な回転動作は、本発明の目的には関係のない構造の異なるタイプの運動学的機構を介して往復回転動作に便宜的に変換される。
【0003】
各歯付きホイールWと各可撓性ストラップB(各ストラップの一端部に固定されたグリッパ)との間の正確な噛み合わせは、各歯付きホイールのための2つのガイドスライドSによって提供される。実際のところ、ガイドスライドSは、関連する歯付きホイールWの回転軸に対して半径方向に都合よく調整されており、予め決められた角度幅を有する歯付きホイールの噛合部を中心として、ストラップBのスロットFと歯付きホイールWの歯との間の幾何学的に正しい噛み合い位置に、ストラップBを曲げて歯付きホイールに密着させた状態で保持している。このような歯合部の角度幅は、ホイールWによってストラップBに付与された力がホイールWの歯に過度に高い局所応力を引き起こさないように計算され、グリッパがシェッドの外にあるときに、ストラップBの自由端部が織機の下側の領域に向けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
曲げられたストラップBの表面と対応するガイドスライドSの摺動面との間の接触領域では、半径方向の遠心力が発生する。この遠心力は、ストラップBの曲げ剛性による静的な成分と、ストラップBが歯付きホイールWの軸の周りで高速回転することによる動的な成分とで構成されている。このような遠心力は、ストラップB及びガイドスライドSを形成する材料の摩擦係数、ホイールWの軸に対するガイドスライドSの設定位置、及び摺動速度、の関数である対応する摩擦力を生じさせる。この摩擦力は、ガイドスライドS及びストラップBの表面が互い接触して漸進的に加熱されることをもたらす。それ自体がストラップBの過熱に寄与する更なる摺動現象は、ストラップBの側縁部と、シェッドに沿って配置された金属製のガイドフックとの間で発生し、ストラップBを所望の方向にシェッドを通じてガイドすることによって、ストラップBをその直線的な構成に戻して保持することが可能となる。
【0005】
織機の運転速度が速いため、或いは、ガイドスライドSの調整位置が正しくないために、放散される熱エネルギが増加し、その結果、ストラップB及びガイドスライドSの両方の温度が上昇する。ガイドスライドSの温度が高すぎると、ストラップが構成されている高分子材料の経年劣化が早くなり、早期の摩耗や破損による寿命の大幅な低下を招く。また、ストラップBの摩耗は、当該ストラップの上流側及び下流側の両方で、緯糸挿入機構の他の構成要素に悪影響を及ぼす。上流側において、ストラップの摩耗は、歯付きホイールWの歯との正確さに欠ける噛み合いにつながり、同じ回転方向の各々の反転時に、歯付きホイールWに対する衝撃事象をトリガする遊びの設定につながる。一方、下流側において、ストラップの摩耗は、グリッパの正確性に欠けるガイドを意味し、グリッパ自体の摩耗を加速させるのと同様に、キャリンググリッパとドローインググリッパとの間での緯糸交換のエラーの数を増加させる。
【0006】
グリッパ織機における緯糸挿入機構の現在の制御方法は、上記のような各構成要素間の相互依存性を全く考慮しておらず、上記のような摩耗の対象となる各構成要素、すなわち、歯付きホイールW、可撓性ストラップB、グリッパの摩耗状態を統計的及び直接観察の両方で監視し、耐用年数が終了したと判断されたときにそれらの交換を行うようにしているに過ぎない。
【0007】
しかしながら、緯糸挿入機構の各構成要素の摩耗は、複数の同時進行要因によって決定されるため、規則的な現象ではなく、各構成要素間で均一なものでもない。従って、先行技術では、過度に摩耗した部品を交換する適切な時期の評価は、非常にデリケートなプロセスであり、緯糸挿入機構の様々な部品の外観及び発生した織エラーの種類及び頻度に基づいて、緯糸挿入機構の様々な部品の残存耐用年数を評価することができる専門的で長い経験を有する織物オペレータの介入を必要とする。緯糸挿入機構の構成要素を早期に交換することは、明らかに資源の浪費及び経済的な損害を伴う。一方、過度の摩耗状態下で長期間使用することは、加工される繊維製品や織機部材自体に損害をもたらす可能性のある破損の重大な危険性を伴う。
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、緯糸挿入機構の故障の可能性について迅速にオペレータに警告し、加速された摩耗現象の発生を回避するように調整を実行したり、構成要素を交換したりして、製織作業中に前記構成要素の偶発的な破損を回避することができる、グリッパ織機の緯糸挿入機構の構成要素の実際の摩耗の自動制御を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題のため、本発明の第1の目的は、グリッパ織機の緯糸挿入機構の実際の作業状態の品質を評価するために特に重要であり、且つ、十分に簡単で工業的に実現可能な技術的手順で効果的に監視することができる制御パラメータを定義することにある。
【0010】
次に、本発明の第2の目的は、織機の異なる作業状態において、前記制御パラメータの変動を処理するのに適したグリッパ織機の緯糸挿入機構の制御方法であって、前記緯糸挿入機構の構成要素を調整するための介入を必要とする故障と、限界摩耗状態に達した前記緯糸挿入機構の1以上の構成要素の交換を必要とする故障とを区別するための方法を提供することにある。
【0011】
最後に、本発明の第3の目的は、緯糸挿入機構の様々な構成要素の摩耗の程度を直接検知することを提供する装置及び統合可能な制御方法を提供することにある。
【0012】
この問題及びこれらの目的は、請求項1に定義された特徴を有するグリッパ織機の緯糸挿入機構を制御する方法によって達成される。前記制御方法の他の好ましい特徴は、従属請求項に定義される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
しかしながら、本発明に係るグリッパ織機の緯糸挿入機構を制御する方法の更なる特徴及び利点は、単なる非限定的な例として与えられ且つ添付の図面に示された、その好適な実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【0014】
図1】本明細書の導入部で説明したグリッパ織機の緯糸挿入機構の本質的な構成要素を示すグリッパ織機の概略正面図である。
図2】本発明に係るグリッパ織機のガイドスライドの透視図である。
図3図2のガイドスライドの上面図であり、その内部冷却コイルを示す透視図である。
図4】本発明のグリッパ織機におけるグリッパストラップのガイドスライドを供給する冷却回路の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施された研究及び実験的評価の結果、本明細書の導入部で既に示された様々な理由から、グリッパ織機の緯糸挿入機構の重要な構成要素は、グリッパの移動を駆動する可撓性ストラップBの中に確実に見出すことができるという結論に達した。
【0016】
更に、本出願人によって行われた実験試験において、ストラップBの実際の使用状態を特徴付ける幾つかの取り得るパラメータの中で、前記のような表面温度がそれぞれのガイドスライドに対するストラップBの摩擦状態に直接関連していることを考慮すると、ストラップBの表面温度が最も重要なものであることを見出した。ストラップが作用する摩擦状態は、織機の主な可変作業パラメータ、特に、
-織機の運転速度
-作業室の温度
-ストラップとガイドスライドと間の遊び
-不適切なストラップの設定
-不適切な織機の調整
に関連している。
【0017】
出願人は、正確且つ継続的に監視されたときの、ストラップの表面温度、及び、前記表面温度の経時的な勾配が、本発明の根底にある課題を解決するために使用される理想的なパラメータであり得るという見識を持っている。この見識に基づいて、本発明は、想到されたものである。
【0018】
(ストラップの表面温度測定)
グリッパストラップの表面温度を、緯糸挿入機構全体の実際の作業状態の品質の評価パラメータとして使用するためには、まず、各ストラップBの直接近接した位置で、好ましくは、ストラップ経路の中で最も高い摩擦力があってストラップの温度が最も高くなる位置で、前記温度を測定することが必要である。実際のところ、上記のように定義された位置でストラップ温度を測定することによって、ストラップの局所温度の実際の最大変動を検知することができ、当該変動は、本発明の目的のために最も重要であり、その時間にわたる変化が同じくらい多くの情報を提供するのに有用ではないであろうストラップ平均温度よりも重要である。
【0019】
この観点で、好ましい位置は、ストラップBが上部ガイドスライドSに入る位置、すなわち、ストラップが制御ホイールWに密着した曲線構成から、シェッド内で想定される直線構成に切り替わる位置である。便宜上、前記温度は、走行中のストラップBと接触しているガイドスライドSの壁に温度センサ1を、可能な限りストラップBとの前記壁の接触領域に近い位置に配置することにより測定される。ここでは、ストラップBとガイドスライドSとの間の緊密な機械的摺動接触を考慮するとともに、ガイドスライドSが高い熱伝導率を有する金属材料で作られていることを考慮して、ガイドスライドSの温度が同じ位置にあるストラップBの表面温度にほぼ等しいと仮定する。従って、これら2つの観察結果から、上記の位置でのストラップBとガイドスライドSとの間の温度差は無視できる程度であると考えられる。
【0020】
従って、センサ1は、摩擦状態下でのストラップBの表面温度(以下、Tfという)を繰り返し検知し、織機内で同時に作業する2本のストラップBのそれぞれについて、製織作業中に収集した温度Tfに関する情報は、織機中央制御装置に送信され、更なる処理のために記憶される。
【0021】
同様に、ストラップBの安静時の温度(以下、Tiという)を検知する必要があり、これは、製織プロセスの摩擦に直接関連し且つ個々の織機又は製織室の一般的な過熱に起因しない、ストラップBの温度上昇を評価するためのベースラインとして使用される。しかしながら、前記ストラップガイドの摺動に対する摩擦現象による直接的な影響を受けないストラップBの限定された領域は、必然的に摩擦下にある周囲の領域の温度上昇による影響を受けるので、前記温度を直接検知することは実質的には不可能である。
【0022】
本発明によれば、ストラップBの安静時Tiにおける表面温度の信頼性の高い測定を達成するために、この温度は、合理的な近似で、ストラップ作業領域の近傍の室温に対応していると仮定されている。しかしながら、室温を直接測定することは、織機の「高温」部材への近さの大小に応じて局所的に高い範囲で変化し、この温度が有意に検知され得る正確な位置を特定することを困難にするので、容易ではなく、実用的ではない。本発明の特徴によれば、織機の熱相への影響を制御して間接的に室温を測定すること、すなわち、織機のタンク内に収容された潤滑油の温度とその経時変化を機械の熱相の直接的な指標として、また、局所的な室温の間接的な指標として用いることが、より効果的で便利であると考えられる。
【0023】
従って、初期の室温として及びストラップBの安静時の表面温度Tiとして、製織動作を開始する前の潤滑油の温度を仮定し、走行状態での潤滑油の温度の任意の後続の変化は、考慮に入れられた個々の機械を基準にして、対応する室温の変化が十分正確に測定され、それにより、ストラップBの安静時の表面温度Tiが十分正確に測定される、と考えられる。この選択によって、ストラップBの温度の増加値は、局所的な室温の任意の変化によって引き起こされる影響から自動的に修正されることができる。
【0024】
このようにして収集された温度データは、織機の中央制御装置で処理されて、例えば以下の主要なパラメータのような緯糸挿入機構の作業状態の重要なパラメータを提供する。
-Ti:ストラップの安静時の表面温度
-Tf:ストラップの摩擦下での表面温度
-ΔT=(Tf-Ti):初期移行期間におけるストラップの摩擦下での表面温度の上昇量
-G:初期移行期間におけるTiからTfへの温度上昇勾配と時間との関係
-ΔTd:日常の処理中のΔT値の増加
-Gm:延長された作業期間中の、予め決められた基準室温で正規化される温度Tfの勾配
【0025】
(基準ベースライン値及び基準閾値)
上記パラメータ値は、様々な構成要素の機械的定着が起こる初期の慣らし運転期間の後、織機に完全に取り付けられた新しい構成要素によって緯糸挿入機構が形成される試験織機上で実験的に検知される。このようにして、上記の考慮されたパラメータのそれぞれに対して最適であると考えられている理論的な基準ベースライン値が確立される。
【0026】
本発明の制御方法を1つの特定の織機に設定すると、これらの基準ベースライン値は、初期動作期間に行われる(この場合も、最初の慣らし運転期間の後、新しい構成要素を有する緯糸挿入機構によって行われる)自己学習プロセスを通じて洗練される。これにより、前記特定の織機に特有の一連の実際の基準ベースライン値が定義される。
【0027】
同様に、実験データに基づいて、前記パラメータに対する一連の基準閾値が定義され、この閾値を超えると、著しい摩耗の兆候を示す構成要素を交換するか、或いは、検討中のパラメータが前記閾値以下に低下するような値まで織り速度を漸進的に低下させるなどの措置が取られなければならない。
【0028】
(調整及び交換)
本発明の制御方法は、前記パラメータとそれらの関連する基準ベースライン値及び基準閾値との間の比較に基づいて、ユーザに警告メッセージを送信することができ、及び/又は織機の中央制御装置に、その動作を修正するように指示することができる。例えば、そのようなメッセージは、第1の段階において、織機の織り速度を段階的に減少させるように、或いは、摩耗した構成要素を交換するように、或いは、異なる構成要素の機械的な調整をチェックするように、オペレータに単に助言してもよい。構成要素の摩耗が進んだ場合、織機の中央制御装置は、織機の織り速度を直接漸進的に制限するか、或いは、他の理由による第1の停止後の機械の再起動を防止するか、或いは、織機を停止させてもよい。
【0029】
特に、本発明の方法の別の特徴によれば、ストラップBの表面温度に関するパラメータの第1のグループ(例えば、Tf,ΔT,ΔTd)がそれらの閾値を超える一方で、ストラップBの表面温度の経時的な勾配に関するパラメータの第2のグループ(例えば、G、Gm)がそれらの閾値を超えない場合、緯糸挿入機構の1以上の構成要素の限界摩耗状態の到達の指標とみなされ、この点に関するメッセージがオペレータに送信される。
【0030】
これに対して、上記パラメータの両方のグループがそれらの閾値を超える場合、誤動作が構成要素の不適切な機械的調整に依存していると考えられ、対応するメッセージがオペレータに送信される。
【0031】
また、本発明の制御方法は、緯糸挿入機構の個々の構成要素の摩耗状態を直接監視する1以上の装置(好ましくは、光学装置、電気装置、電子装置、又は電磁装置のいずれか)からの他の情報を容易に統合してもよい。この付加的な情報は、限界摩耗状態に達して交換する必要がある緯糸挿入機構の特定の構成要素に関して、より正確な情報をオペレータに提供するために、グリッパストラップBの表面温度に関連して上述したものと調整されてもよい。
【0032】
(ストラップの表面温度の強制冷却)
本発明に係る制御方法は、ストラップBの摩擦下での表面温度Tfが基準閾値に接近したときに、直接的な冷却介入を更に提供し、ストラップBとの接触領域におけるガイドスライドSの温度を低下又は制限し、同じガイドスライド内の冷媒流体の循環を通じて摩擦によって発生する熱を除去し、それによって過熱によるストラップBの損傷の加速化の発生を回避する。
【0033】
このような強制冷却は、温度Tfの上昇が本質的に室温上昇によるものである場合、恒久的に行われてもよい。これに対して、過度に高い温度Tfが機械的な調整の問題又は摩耗した構成要素の使用の問題に起因する場合、強制冷却は一時的なものであってもよく、前記調整/交換は、例えば、物品の織り動作を完了するために、延期されなければならない。このようにして、前記強制冷却のおかげで、ストラップBを正確に安全な状態に維持しながら、作業を中断することなく完了させることができる。
【0034】
図4は、グリッパ織機用のストラップのガイドスライドSの冷却回路を簡略化した図である。ガイドスライドS内に冷媒流体を循環させて、ストラップの外表面とガイドスライド自体との間の摩擦によって発生する熱の一部を除去する。タンク3の下流に配置された都合の良いサイズのポンプ2は、冷媒流体をガイドスライドS内に押圧する。接触している2つの構成要素間のエネルギ交換は、冷媒流体の温度の上昇をもたらすが、ガイドスライドSの温度を低下させることを可能にする。このため、冷却流体は、タンクに再投入される前に、その温度を低下させるために、1以上の静的ヒートシンク4(又は熱を放散させる他の能動装置)を介して搬送される。
【0035】
このような冷却装置を備えたガイドスライドSの内部構造は、図3に示すように、冷媒流体が流れる内部循環用の1以上の流路5を有する。ガイドスライドSの本体の金属材料は、外部環境への放熱及び冷媒流体との熱交換を更に促進する。
【0036】
冷媒流体は、専用の適当な冷却回路を使用して、この用途のために特別に選択されてもよいし、利用可能であれば、織機の潤滑油の循環機構を使用して、流れの一部を冷却されるガイドスライドに向けて流路を迂回させてもよい。これら2つの冷却機構の選択は、明らかに、要求される冷却機構の性能にも依存する。
【0037】
特に、織機の潤滑油の温度(通常平均55~65℃)が前記冷却を行うには高すぎる場合、すなわち、ストラップBの摩擦下での表面温度Tfの基準閾値が55℃より小さい場合には、ガイドスライドSとペルチェセルとを組み合わせることによって、負の熱電効果を利用してガイドスライドSの温度を低下させ、ペルチェセルの高温側の温度を低下させる役割を冷却回路に任せて、潤滑油のメイン回路を冷却源として使用することは可能である。
【0038】
実際のところ、ペルチェセルに電気的に電力を供給することによって、冷却されるセルの一方側から、加熱されるセルの反対側への熱の流れが得られる。セルの「低温側」は、ストラップBとの摩擦によって発生する熱の一部を吸収するために、ガイドスライドSの本体と接触している側であり、ストラップと接触しているガイドスライド側を冷却する。低温側から取り除かれた熱は、逆に、ペルチェセル自体によるジュール効果によって発生した熱に加えて、「高温側」にも伝達される。
【0039】
従って、この場合も、ペルチェセル自体の完全性を確保するために、熱放散機構の適用が必要である。この熱放散機構は、冷媒流体として織機の潤滑油を使用する冷却回路に設けられる。この解決策の利点として、ペルチェセルの冷却効果により、従来の機構で達成可能な温度に比べて、ガイドスライドSの温度を低くすることが可能である。更に、発生した熱がガイドスライドSから高温で除去されるため、織機の強制潤滑回路の油は、ストラップBの摩擦下での表面温度Tfに対して通常所望される温度よりも高いにもかかわらず、冷媒流体として使用することができる。
【0040】
先の説明から、本発明がどのようにその意図された全ての目的を十分に達成したかが明らかになる。実際、ストラップの表面温度は、ストラップBの実際の作業状態の制御パラメータとして監視されやすいパラメータであることが証明されている。また、このパラメータは、織機の異常な作業状態を効率的且つタイムリーに強調する上で特に重要であり、それが不正確な調整に起因するものであれ、或いは、過度に摩耗した部品の使用に起因するものであれ、それによって本発明の第1の目的が十分に達成される。
【0041】
更に、上述した基本的な制御パラメータの経時変化の勾配に関連する付加的な制御パラメータを処理し、制御手段で前記パラメータを使用することにより、制御手段が前記構成要素の摩耗を検知するための特別な装置に統合されている場合に、交換されるべき構成要素の特定の指標をオペレータに与えて、緯糸挿入機構の構成要素の調整又は交換に向けてオペレータを誘導することによって、織機に対して実行されるべき介入のタイプを選択することができるようになる。これにより、本発明の第2及び第3の目的も十分に達成される。
【0042】
しかしながら、本発明は、その例示的な実施形態に過ぎない上述の特定の構成に限定されると考えられるべきではなく、本発明の範囲から逸脱することなく、当業者が想到する全ての範囲内で、以下の請求項によってのみ定義される、異なる変形形態が可能である。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】