(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-26
(54)【発明の名称】炭素ナノチューブを含む生体信号測定用電気化学的バイオセンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1473 20060101AFI20220819BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20220819BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20220819BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20220819BHJP
A61B 5/1486 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
A61B5/1473
G01N27/30 B
G01N27/30 A
G01N27/327 353T
G01N27/416 338
A61B5/1486
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568690
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(85)【翻訳文提出日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 KR2020006558
(87)【国際公開番号】W WO2020235919
(87)【国際公開日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】10-2019-0059001
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521500683
【氏名又は名称】ソガン ユニバーシティ リサーチ ビジネス ディベロプメント ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】SOGANG UNIVERSITY RESEARCH BUSINESS DEVELOPMENT FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】35 Baekbeom-ro,Mapo-gu,Seoul 04107(KR)
(71)【出願人】
【識別番号】510115030
【氏名又は名称】アイセンス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】シン,ウンソプ
(72)【発明者】
【氏名】クワン,ユジョン
(72)【発明者】
【氏名】ハ,ウンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソク-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ヨン ジェ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,イン ソク
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ヒュンヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミンギ
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK10
4C038KL01
4C038KL09
4C038KM01
4C038KY06
4C038KY11
(57)【要約】
本発明は、炭素ナノチューブを含む生体信号測定用電気化学的センサを提供する。連続血糖測定用電気化学的センサは、炭素ナノチューブと共に、酸化還元酵素、電子伝達媒介体および架橋物質を含むセンシング膜が固定された電極で構成された電気化学センサは、酵素が対象物質を酸化させ、この酸化過程により得られた電子を電子伝達媒介体と炭素ナノチューブを介して急速に伝達することによって、優れた性能を有する連続血糖測定用センサを構成することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素ナノチューブを含む生体信号測定のための電気化学的バイオセンサ用センシング膜。
【請求項2】
前記生体信号測定のための電気化学的バイオセンサは、連続血糖測定用電気化学的バイオセンサである、請求項1に記載のセンシング膜。
【請求項3】
前記炭素ナノチューブは、センシング膜の全体重量対比1~20重量%含まれるものである、請求項1に記載のセンシング膜。
【請求項4】
電子伝達媒介体、架橋物質および酸化還元酵素をさらに含むものである、請求項1に記載のセンシング膜。
【請求項5】
前記電子伝達媒介体は、Os、Rh、Ru、Ir、FeおよびCoからなる群より選択される1種の遷移金属、および1座または複数の座のリガンドを含む遷移金属錯体、および重合体骨格(backbone)を含むものである、請求項4に記載のセンシング膜。
【請求項6】
前記重合体骨格と遷移金属複合体とを連結するリンカー構造をさらに含むものである、請求項5に記載のセンシング膜。
【請求項7】
前記重合体骨格は、ポリビニルピリジン(Poly(vinylpyridine):PVP)およびポリビニルイミダゾール(Poly(vinylimidazole):PVI)およびポリアリルグリシジルエーテル(Poly allyl glycidyl ether:PAGE)からなる群より選択される1種以上である、請求項5に記載のセンシング膜。
【請求項8】
前記リガンドは、ピリジンおよびイミダゾールからなる群より選択される1種以上のヘテロ環化合物である、請求項5に記載のセンシング膜。
【請求項9】
前記酸化還元酵素は、脱水素酵素(dehydrogenase)、酸化酵素(oxidase)、およびエステル化酵素(esterase)からなる群より選択された1種以上の酸化還元酵素;または
脱水素酵素、酸化酵素、およびエステル化酵素からなる群より選択された1種以上の酸化還元酵素と、フラビンアデニンジヌクレオチド(flavin adenine dinucleotide、FAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide、NAD)、およびピロロキノリンキノン(Pyrroloquinoline quinone、PQQ)からなる群より選択された1種以上の補助因子とを含むものである、請求項4に記載の連続血糖測定電気化学的バイオセンサ用センシング膜。
【請求項10】
前記炭素ナノチューブは、単一壁炭素ナノチューブ、多重壁炭素ナノチューブまたは単一壁炭素ナノチューブおよび多重壁炭素ナノチューブのブレンドである、請求項1に記載の連続血糖測定電気化学的バイオセンサ用センシング膜。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の生体信号測定のための電気化学的バイオセンサ用センシング膜、電極、架橋物質およびポリ陰イオン性重合体を含む電気化学的バイオセンサ。
【請求項12】
前記センサは、連続血糖測定用である、請求項11に記載の電気化学的バイオセンサ。
【請求項13】
拡散膜(diffusion layer)、保護膜(protection layer)、絶縁体(insulator)および基板をさらに含むものである、請求項11に記載の電気化学的バイオセンサ。
【請求項14】
前記電極は、作動電極および対向電極からなる2電極であるか、作動電極、対向電極および基準電極からなる3電極である、請求項11に記載の電気化学的バイオセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2019年5月20日付の韓国特許出願第10-2019-00590001号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、炭素ナノチューブを導入することで吸着力、安定性および電子伝達速度が増加して反応時間が短縮し、感応の線形性が向上した生体信号測定用電気化学的バイオセンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
糖尿は全世界的に19人中1人がかかる非常に深刻な疾病であって、高齢化の進行や食習慣の変化に伴ってさらに増加する傾向を示す。このような糖尿は、膵臓でインスリンが分泌されず血糖を調節できない1型糖尿と、細胞のインスリン抵抗性によってインスリンが分泌されるにもかかわらず血糖を調節できない2型糖尿とに分類され、2型糖尿がひどくなる場合で、インスリンの分泌にも異常が生じる場合は1.5型に分類されたりする。このように血糖調節ができず血中ブドウ糖の濃度が高い数値に維持される場合、これによって様々な合併症(例:心筋梗塞、脳卒中、網膜症、腎不全など)の危険が大きく増加するため、患者が自ら血糖を測定および管理できるように補助する技術が必須である。
【0004】
患者が日常生活をしながら自ら血糖を測定できるようにする技術としては、SMBG(self monitoring blood glucose)技術がある。この技術は、針により患者が自ら指先の毛細血管で微量の出血を発生させ、出血により得られた血液のブドウ糖の濃度を血糖測定センサにより測定する方式である。この技術は、簡便で正確に血糖を測定できるが、特定時間の血糖濃度を知ることができるのみで、患者の血糖変化の推移を観察するには困難がある。また、測定するたびに患者が直接指先で出血を発生させなければならないため、それによる痛みが発生するというデメリットがある。糖尿のうち1型糖尿の場合、先天的な原因である場合が多く、幼い年齢から血糖を測定し管理しなければならないが、測定するたびに痛みが発生するSMBG技術が幼い糖尿の人には大きな負担になりうる。さらに、採血による細菌感染などの問題も発生することがあり、血液サンプルを化学処理されたセンサに流入させる過程で所定の期限が必要になることから、血中糖数値の測定において誤差を生じる問題点があった。
【0005】
ブドウ糖濃度を測定する方法としては、電気化学的方法、赤外線分光による方法など様々な方法が論文を通して発表された[Yokowama,K.,Sode,K.,Tamiya,E.,Karube,I.Anal.Chim.Acta1989,218,137;Rabinovitch,B.,March,W.F.,Adams,R.L.Diabetes Care1982,5,254;G.M.,Moses,R.G.,Gan,I.E.T.,Blair,S.C.Diabetes Res.Clin.Pract.1988,4,177;D_Auria,S.,Dicesare,N.,Gryczynski,Z.,Gryczynski,I.;Rossi,M.;Lakowicz,J.R.Biochem.Biophys.Res.Commun.2000,274,727]。
【0006】
かつては電気化学的方法による測定が最も多く用いられてきており、電気化学的測定方法のうち最もよく用いられているのは、ブドウ糖を酸化させる酵素を用いる方法である。よく用いられるSMBG技術においてもこのような電気化学的方法が使用される。SMBG方式で糖濃度を測定する技術も、測定の正確度を高め誤差を低減するための研究と開発が全世界的に進められている。また、特定時点の血糖のみを測定できるSMBGとは異なり、連続的に血糖の推移を観察できる連続的血糖モニタリング(continuous glucose monitoring)センサ技術も活発に研究され、様々な製品が発売されている。
【0007】
連続血糖測定器を開発して発売した企業は、代表的に、デックスコム(Dexcom)、アボット(Abbott)、メドトロニック(Medtronic)社があり、それぞれG5、リブレ(Libre)、ガーディアン(Guardian)を販売中である。これらの製品はいずれも電気化学的原理をベースとしている。しかし、同じ電気化学的センサといっても、センサに使用される酵素、電子伝達媒介体および電極の種類によってその性能と安定性の差が大きい。
【0008】
商用化された連続血糖測定器は、過酸化水素を酸化させて糖濃度を測定する方法、高分子に化学的に結合した電子伝達媒介体を使用する方法が知られている。このように電気化学的原理を使用する血糖センサは、通常ブドウ糖を酸化させる酵素を含み、酵素の電子を伝達するために過酸化水素や様々な種類の電子伝達媒介体を含むことができる。このような方式を連続血糖測定システムに実現するためには、センサを構成する酵素、電子伝達媒介体が保管条件または測定条件で安定していなければならず、血糖の変化に迅速に反応して感応時間が短くなければならない。
【0009】
特に、高分子に化学的に結合している電子伝達媒介体を用いる場合には、電子伝達媒介体の電子伝達速度が非常に遅く低い感度を示す場合が多い。
【0010】
したがって、このような遷移金属複合体と重合体を有する電子伝達媒介体を含む連続血糖測定用電気化学的センサのような生体信号測定用電気化学的センサとして、顕著に増加した電子伝達速度を示しながらも高い感度を有する生体信号測定用電気化学的センサに関する要求が高まってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような背景の下、本発明が解決しようとする課題は、前述のように顕著に増加した電子伝達速度を示しながらも高い感度を有する連続血糖測定用電気化学的センサおよびその製造方法を提供することを目的とする。
ただし、本実施例が解決しようとする技術的課題は、上記のような技術的課題に限定されず、さらに他の技術的課題が存在し得る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の技術的課題を達成するための一つの態様として、本発明は、炭素ナノチューブを含む生体信号測定用電気化学的センサに用いられるセンシング膜およびこれを含む生体信号測定用電気化学的センサに関する。好ましくは、前記生体信号測定用電気化学的センサは、連続血糖測定用電気化学的センサである。本発明の一実施例による生体信号測定用電気化学センサのセンシング膜およびセンサは、酵素、電子伝達媒介体、炭素ナノチューブを含むことができ、電極およびポリ陰イオン性重合体をさらに含むことができる。さらに、これらの構成要素を機械的、化学的に強化および安定化するためのコーティング(coating)を含むことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による炭素ナノチューブを含む生体信号測定用電気化学的センサは、吸着力、安定性および電子伝達速度が顕著に増加して電子が容易に伝達されることによって、高い反応速度と正確度を有する。これによって、既存の電気化学的生体信号センサよりも血糖のような生体信号の変化を迅速で正確に測定できるセンサを提供できるというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、製造例1による炭素ナノチューブ(carbon nanotube:CNT)が含まれている電極と含まれていない電極の循環電圧電流(cyclic voltammetry)を測定したグラフである。
【
図2】
図2は、製造例1による炭素ナノチューブが含まれている電極と含まれていない電極で0.02-0.1mMの濃度でグルコースに対する感応度を確認したグラフである。
【
図3】
図3は、製造例1による炭素ナノチューブが含まれている電極と含まれていない電極で1-5mMの濃度でグルコースに対する感応度を確認したグラフである。
【
図4】
図4は、製造例1による炭素ナノチューブが含まれている電極と含まれていない電極で0.1mMから1mMにグルコース濃度が変化した時の感応時間を確認したグラフである。
【
図5】
図5は、製造例1による炭素ナノチューブが含まれている電極と含まれていない電極で0mMのグルコース濃度で測定される基線電流(baseline current)を確認したグラフである。
【
図6】
図6は、製造例1による炭素ナノチューブを含む電極上にナフィオン(nafion)をコーティングした後、0.5mMグルコース/PBS溶液で0.35V vs Ag/AgClをかけて駆動させて14日間の電極性能の変化を確認したグラフである。
【
図7】
図7は、製造例2による炭素ナノチューブが含まれている電極と含まれていない電極で1-5mMの濃度でグルコースに対する感応度を確認したグラフである。
【
図8】
図8は、製造例2による炭素ナノチューブが含まれている電極と含まれていない電極でセンサの初期安定化効果を確認したグラフである。
【
図9】
図9は、製造例2による炭素ナノチューブが含まれている電極と含まれていない電極でセンサの感応電流の変化を確認したグラフである。
【
図10】
図10は、製造例2による炭素ナノチューブが含まれている電極と含まれていない電極でセンサのscan rate別電極の循環電圧電流を確認したグラフである。
【
図11】
図11AおよびBは、製造例2による炭素ナノチューブが含まれている電極でセンサのscan rate別(
図11A)、scan rate
1/2別(
図11B)電極の循環電圧電流のpeak plotを示すグラフである。
【
図12】
図12は、炭素ナノチューブが含まれていない電極でセンサのscan rate別(
図12A)、scan rate
1/2別(
図12B)電極の循環電圧電流のpeak plotを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0016】
本発明において、用語「生体信号の測定」とは、生体試料内にある特定の物質、例えば、血液中の血糖、コレステロール、タンパク質、ホルモンなどのような生体試料または生体中の物質を定量分析することを意味する。好ましくは、このような生体信号の測定は、血糖の測定であってもよい。したがって、本発明の生体信号測定用電気化学的バイオセンサの一例として血糖測定用電気化学的バイオセンサが挙げられ、好ましくは、連続血糖測定用電気化学的バイオセンサを例示することができる。本発明によるセンシング膜は、このような生体信号測定用電気化学的バイオセンサにおいて前記生体信号を感知する膜を意味する。
【0017】
上記のように、本発明による生体信号測定用電気化学的バイオセンサ用センシング膜は、炭素ナノチューブを含むことを特徴とする。前記用語、「炭素ナノチューブ」とは、地球上に多量存在する炭素からなる炭素同素体であって、1つの炭素が他の炭素原子と六角形ハニカム状に結合してチューブ形態をなしている物質であり、チューブの直径がナノメートル水準と極めて小さい領域の物質を意味する。前記炭素ナノチューブは、優れた機械的特性、電気的選択性、優れた電界放出特性、高効率の水素貯蔵媒体特性などを有し、現存する物質の中で欠陥がほとんどない完璧な新素材として知られており、高度な合成技術によって製造され、合成方法としては、電気放電法、熱分解法、レーザ蒸着法、プラズマ化学気相蒸着法、熱化学気相蒸着法、電気分解方法、フレーム(Flame)合成方法などによって製造される。本発明による炭素ナノチューブは、単一壁、二重壁または多重壁などの形態を有することができ、場合によっては、ロープ形態を有してもよいが、好ましくは、単一壁炭素ナノチューブ、多重壁炭素ナノチューブ、または単一壁炭素ナノチューブおよび多重壁炭素ナノチューブのブレンドである。
【0018】
前記炭素ナノチューブは、センサの全体重量対比1~20重量%含まれる。
【0019】
このように炭素ナノチューブを含む場合、吸着力、安定性および電子伝達速度が顕著に増加する。一実施態様として、本発明の連続血糖測定用電気化学的バイオセンサは、例えば、炭素ナノチューブを含まないバイオセンサに比べて約10倍、好ましくは1.5~20倍増加した電子伝達速度を示すことができる。具体的な一実施例として、本発明者らは、炭素ナノチューブを含ませ、または、含ませないことで、生体信号測定用電気化学的バイオセンサとして連続血糖測定用電気化学的バイオセンサを用いて、循環電圧電流法(cyclic voltammetry)、グルコースに対する感応度、感応時間、基線電流(baseline current)および14日間の電極性能の変化を確認した結果、本発明による炭素ナノチューブを含むセンシング膜と電極を有する連続血糖測定用電気化学的バイオセンサは、炭素ナノチューブを含まないセンサに比べて数秒内に最大電流に到達し、2倍の高い感応度を示すだけでなく、高濃度グルコース領域でも飽和による感応の減少なく電流が線形的に増加し、長期間電極性能を確保できることを確認できた。
【0020】
また、本発明によるセンシング膜は、前記炭素ナノチューブと共に、酸化還元酵素、電子伝達媒介体および架橋物質をさらに含むことができる。具体的な一態様として、前記炭素ナノチューブ、酸化還元酵素、電子伝達媒介体および架橋物質は共にブレンドを形成して、電極およびポリ陰イオン性重合体と共に、本発明による生体信号測定用電気化学的センサに含まれる。
【0021】
本発明による生体信号測定用センシング膜およびセンサ中に含まれる酸化還元酵素は、生体の酸化還元反応を触媒する酵素を総称するものであり、本発明では、測定しようとする対象物質、例えば、バイオセンサの場合には、測定しようとする対象物質(例えば、グルコース)と反応して還元される酵素を意味する。具体的には、本発明において、酸化還元酵素は、ブドウ糖を酸化させる役割を果たし、このようにグルコースを酸化させて得られた電子を電子伝達媒介体が伝達する構造を有する。この時、発生した電流変化などの信号を測定して対象物質を定量する。そして、炭素ナノチューブは高い伝導性を提供して、電子が伝達される速度および効率を上げることによって、性能が向上したセンサを構成する。
【0022】
本発明に使用可能な酸化還元酵素は、各種脱水素酵素(dehydrogenase)、酸化酵素(oxidase)、エステル化酵素(esterase)などからなる群より選択された1種以上であってもよいし、酸化還元または検出対象物質によって、前記酵素群に属する酵素の中で前記対象物質を基質とする酵素を選択して使用することができる。
【0023】
より具体的には、前記酸化還元酵素は、グルコース脱水素酵素(glucose dehydrogenase、GDH)、グルタミン酸脱水素酵素(glutamate dehydrogenase)、グルコース酸化酵素(glucose oxidase)、コレステロール酸化酵素(cholesterol oxidase)、コレステロールエステル化酵素(cholesterol esterase)、ラクテート酸化酵素(lactate oxidase)、アスコルビン酸酸化酵素(ascorbic acid oxidase)、アルコール酸化酵素(alcohol oxidase)、アルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase)、ビリルビン酸化酵素(bilirubin oxidase)などからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0024】
一方、前記酸化還元酵素は、測定しようとする対象物質(例えば、対象物質)から酸化還元酵素が奪った水素を保管する役割を果たす補助因子(cofactor)を共に含むことができるが、例えば、フラビンアデニンジヌクレオチド(flavin adenine dinucleotide、FAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide、NAD)、ピロロキノリンキノン(Pyrroloquinoline quinone、PQQ)などからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0025】
例えば、血中グルコース濃度を測定しようとする場合、前記酸化還元酵素としてグルコース脱水素酵素(glucose dehydrogenase、GDH)を使用することができ、前記グルコース脱水素酵素は、補助因子としてFADを含むフラビンアデニンジヌクレオチド-グルコース脱水素酵素(flavin adenine dinucleotide-glucose dehydrogenase、FAD-GDH)、および/または補助因子としてFAD-GDHを含むニコチンアミドアデニンジヌクレオチド-グルコース脱水素酵素(nicotinamide adenine dinucleotide-glucose dehydrogenase)であってもよい。
【0026】
具体例において、前記使用可能な酸化還元酵素は、FAD-GDH(例えば、EC1.1.99.10など)、NAD-GDH(例えば、EC1.1.1.47など)、PQQ-GDH(例えば、EC1.1.5.2など)、グルタミン酸脱水素酵素(例えば、EC1.4.1.2など)、グルコース酸化酵素(例えば、EC1.1.3.4など)、コレステロール酸化酵素(例えば、EC1.1.3.6など)、コレステロールエステル化酵素(例えば、EC3.1.1.13など)、ラクテート酸化酵素(例えば、EC1.1.3.2など)、アスコルビン酸酸化酵素(例えば、EC1.10.3.3など)、アルコール酸化酵素(例えば、EC1.1.3.13など)、アルコール脱水素酵素(例えば、EC1.1.1.1など)、ビリルビン酸化酵素(例えば、EC1.3.3.5など)などからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0027】
最も好ましくは、前記酸化還元酵素は、37℃の緩衝溶液で1週間70%以上の活性度を維持できるグルコース脱水素酵素である。
【0028】
また、酸化還元媒介体は、酸化還元酵素が還元(グルコース酸化)されて得られた電子を伝達する役割を果たすもので、遷移金属に1つ以上のリガンドが配位結合している遷移金属複合体およびポリビニルピリジン(Poly(vinylpyridine):PVP)あるいはポリビニルイミダゾール(Poly(vinylimidazole):PVI)、ポリアリルグリシジルエーテル(Poly allyl glycidyl ether:PAGE)からなる群より選択される1種以上のような重合体骨格(backbone)、そして選択的に前記重合体骨格と遷移金属複合体とを連結するリンカー構造を含むものであってもよい。
【0029】
好ましくは、前記遷移金属は、Os、Rh、Ru、Ir、FeおよびCoからなる群より選択される1種の遷移金属であってもよいし、さらに好ましくは、Osである。また、リガンドは一般に1座、2座、3座または4座であり、公知の遷移金属と配位結合できるリガンドであれば制限なく使用可能であるが、好ましくは、ピリジンおよび/またはイミダゾール誘導体のような窒素を含むヘテロ環化合物である。さらに、複数の座のリガンドは、多重のピリジンおよび/またはイミダゾール環(例えば、ビピリジン、ビイミダゾールなど)を含むことができる。
【0030】
また、本発明で使用可能な架橋物質は、ジ-アルデヒド化合物(Di-aldehyde)、ジ-エポキシド化合物(di-epoxide)などを使用することができるが、これに制限されるわけではない。
【0031】
一方、本発明によるセンシング膜は、界面活性剤、水溶性高分子、4級アンモニウム塩、脂肪酸、増粘剤などからなる群より選択された1種以上の添加剤を、試薬溶解時の分散剤、試薬製造時の粘着剤、長期保管の安定剤などの役割のために追加的に含むことができる。
【0032】
前記界面活性剤は、組成物を分注する時、組成物が電極上で均等に広がって均一な厚さに分注されるようにする役割を果たすものであってもよい。前記界面活性剤として、トリトンX-100(Triton X-100)、ソディウムドデシルスルフェート(sodium dodecyl sulfate)、パーフルオロオクタンスルホネート(perfluorooctane sulfonate)、ソディウムステアレート(sodium stearate)などからなる群より選択された1種以上を使用することができる。本発明では、センシング膜を形成するブレンドが均一な厚さに分注されるようにする役割を適切に果たすようにするために、前記界面活性剤を酸化還元酵素100重量部を基準として3~100重量部、例えば30~70重量部の量で含有することができる。例えば、活性度が700U/mgの酸化還元酵素を用いる場合、酸化還元酵素100重量部を基準として界面活性剤30~70重量部を含有することができ、酸化還元酵素の活性度がこれより高くなると、界面活性剤の含有量をこれより低く調節することができる。
【0033】
前記水溶性高分子は、支持体および酵素の安定化および分散(dispersing)を補助する役割を効果的に果たすために、重量平均分子量が2,500~3,000,000程度、例えば、5,000~1,000,000程度であってもよい。
【0034】
前記増粘剤は、試薬を電極に強固に付着させる役割を果たす。前記増粘剤としては、ナトロゾール、ジエチルアミノエチル-デキストランヒドロクロライド(DEAE-Dextran hydrochloride)などからなる群より選択された1種以上を使用することができる。本発明では、酸化還元重合体を電極に強固に付着させるために、前記増粘剤を酸化還元酵素100重量部を基準として10~90重量部、例えば30~90重量部の量で含有することができる。例えば、活性度が700U/mgの酸化還元酵素を用いる場合、酸化還元酵素100重量部を基準として増粘剤30~90重量部を含有することができ、酸化還元酵素の活性度がこれより高くなると、増粘剤の含有量をこれより低く調節することができる。
【0035】
さらに他の態様として、本発明は、前記炭素ナノチューブを含むセンシング膜を含む生体信号測定用電気化学的バイオセンサを提供する。好ましくは、前記生体信号測定用電気化学的バイオセンサは、連続血糖測定用電気化学的バイオセンサである。
【0036】
具体的には、本発明による連続血糖測定用電気化学的バイオセンサは、電極およびポリ陰イオン性重合体をさらに含むことができる。
【0037】
また、作動電極は、炭素、金、白金、印加電位に対して電極がイオン化されない金属電極を使用することができる。
【0038】
また、2電極を有する電気化学的バイオセンサの場合、対向電極が金、白金、銀または銀/塩化銀電極を使用することができ、基準電極までを含む3電極の電気化学的バイオセンサの場合、基準電極として金、白金、銀または銀/塩化銀電極を使用することができる。
【0039】
本発明において、ポリ陰イオン性重合体は、陰イオン性を有する妨害種を阻害する役割を果たすために含まれ、例えば、NafionやPSS(polystyrene sulfonate)、ポリアクリレート(polyacrylate)のようにスルホニル基(sulfonyl group)またはカルボキシレート基(carboxylate group)を多数有している多重陰イオン性高分子を意味する。
【0040】
さらに、このような電極およびポリ陰イオン性重合体以外にも、本発明は、例えば、絶縁体(insulator)、基板、拡散膜(diffusion layer)、保護膜(protection layer)などをさらに含むことができる。電極の場合、作動電極および対向電極のような2種の電極を含んでもよく、作動電極、対向電極および基準電極のような3種の電極を含んでもよい。一実施形態において、本発明によるバイオセンサは、少なくとも2つ、好ましくは2つまたは3つの電極を備えた基板に、先に言及した炭素ナノチューブ、電子伝達媒介体、酸化還元酵素および架橋物質を含むブレンドを塗布した後に乾燥して製作した電気化学的バイオセンサである。例えば、電気化学的バイオセンサにおいて、作動電極および対向電極が基板の互いに反対の面に備えられ、前記作動電極上に、本発明による含まれるセンシング膜が積層され、作動電極および対向電極が具備された基板の両面に、順次に、絶縁体、拡散膜および保護膜が積層されることを特徴とする電気化学的バイオセンサが提供される。
【0041】
具体的な態様として、前記基板は、PET(polyethylene terephthalate)、PC(polycarbonate)およびPI(polyimide)からなる群より選択される1種以上の素材からなるものであってもよい。
【0042】
拡散膜としては、Nafion、セルロースアセテート(cellulose acetate)およびシリコーンゴム(silicone rubber)、ポリウレタン、ポリウレタンベースの共重合体からなる群より選択される1種以上を使用することができ、保護膜としては、シリコーンゴム、ポリウレタンおよびポリウレタンベースの共重合体からなる群より選択される1種以上を使用することができるが、これに制限されるわけではない。
【0043】
このような本発明による電気化学的バイオセンサは、顕著に吸着力、安定性および電子伝達速度が増加して反応時間が短縮し、感応の線形性が向上するという特徴を有する。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を下記の実施例によってさらに詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0045】
製造例1:本発明による炭素ナノチューブを含む連続血糖測定用電気化学的センサの製造
本発明による炭素ナノチューブを含む電気化学センサを製造するために、次の方法によりセンサを製造した。まず、電子伝達媒介体(PVI-Os(bpy)2Cl)、酸化還元酵素(glucose dehydrogenase)および架橋物質(polyethylene glycol diglycidylether)をそれぞれ水系または有機系溶媒を用いて溶解させ、撹拌および超音波分散方式を用いてそれぞれの溶液を製造した後、製造されたそれぞれの溶液を混合して混合液を製造した。一方、電子伝達媒介体(PVI-Os(bpy)2Cl)、酸化還元酵素(glucose dehydrogenase)、架橋物質(polyethylene glycol diglycidylether)が含まれている溶液とは別途に炭素ナノチューブ分散液を製造した。炭素ナノチューブ分散液は、最初に炭素ナノチューブ(CNT)を非イオン性界面活性剤としてsigma-aldrichから購入したTriton-Xと共に溶媒に分散させ、溶媒としては水を用いて分散液を製造した。炭素ナノチューブの分散には超音波分散方式を使用した。このような方法で製造された炭素ナノチューブ分散液を、電子伝達媒介体(PVI-Os(bpy)2Cl)、酸化還元酵素(glucose dehydrogenase)、架橋物質(polyethylene glycol diglycidylether)混合液と追加的に混合し、分散のために撹拌した。このような方法で最終的に電子伝達媒介体(PVI-Os(bpy)2Cl)、酸化還元酵素(glucosede hydrogenase)、架橋物質(polyethylene glycol diglycidylether)および炭素ナノチューブを含む混合液を製造した。
さらに、連続血糖用電気化学センサを製作するために、前述した方法で製造した溶液をcarbon pasteがprintingされた電極上にドロップ(drop)コーティング方式を用いてコーティングし、以後、常温で24時間架橋反応させて硬化した。硬化後、蒸留水を用いて製造されたセンサを洗浄した。
【0046】
比較例1:炭素ナノチューブを含まない連続血糖測定用電気化学的センサの製造
炭素ナノチューブを含まない電気化学センサを製造するために、次の方法によりセンサを製造した。
電子伝達媒介体、酸化還元酵素および架橋物質をそれぞれ水系または有機系溶媒を用いて溶解させ、撹拌および超音波分散方式を用いてそれぞれの溶液を製造し、製造されたそれぞれの溶液を混合して、最終的には電子伝達媒介体、酸化還元酵素および架橋物質を含む混合液を製造した。さらに、連続血糖用電気化学センサを製作するために、前述した方法で製造した溶液をカーボンペースト(carbon paste)が印刷(printing)された電極上にドロップ(drop)コーティング方式を用いてコーティングし、以後、常温で24時間架橋反応させて硬化した。硬化後、蒸留水を用いて製造されたセンサを洗浄した。
【0047】
実施例1:炭素ナノチューブを含むか否かによる連続血糖測定用電気化学的センサのcyclic voltammetryの比較
炭素ナノチューブを含む電極の電子伝達性能を、炭素ナノチューブを含まない電極と比較するための方法として、循環電圧電流法(cyclic voltammetry)を使用した。循環電圧電流法のための基準電極としてはAg/AgCl電極を使用した。対電極としては白金ワイヤを用いた。循環電圧電流法を施す時に使用される電解質としてリン酸バッファー(phosphate buffer)が含まれている生理食塩水を使用した。循環電圧電流法を施す時に印加電圧を変換する走査速度(scan rate)は10mV/sを用いた。電圧の印加順序は、高い電圧から低い電圧で先に走査した。この実験結果を
図1に示した。
図1から確認できるように、炭素ナノチューブを含む電極がそうでない電極よりも大きい酸化還元ピーク(peak)を示すことが分かった。
【0048】
実施例2:炭素ナノチューブを含むか否かによる連続血糖測定用電気化学的センサの低濃度グルコースに対する感応度の比較
炭素ナノチューブを含む電極の低いグルコース濃度範囲での感応度を炭素ナノチューブを含まない電極と比較するために、製造例1で製造された炭素ナノチューブが含まれている電極と含まれていない電極を用いて、低濃度のグルコース溶液でクロノアンペロメトリー(chronoamperometry)を施して感応度を比較した。クロノアンペロメトリーのための基準電極としてはAg/AgCl電極が使用された。対電極としては白金ワイヤを用いた。クロノアンペロメトリーを施す時に印加する電圧は、循環電圧電流法により測定したグラフで測定した酸化電圧よりも正(+)の方向に大きい電圧を印加させた。電解質としてはリン酸バッファーが含まれている生理食塩水を使用した。低濃度グルコース範囲での感応を見るためのグルコース濃度は0.02mM、0.04mM、0.06mM、0.08mM、0.1mMを用いており、実験は12分間進行させた。その結果を
図2に示した。
図2から確認できるように、本発明による炭素ナノチューブを含む電極がそうでない電極に比べて約2倍程度高い感応性を示すことを確認できた。
【0049】
実施例3:炭素ナノチューブを含むか否かによる連続血糖測定用電気化学的センサの高濃度グルコースでの感応度の比較
高濃度グルコースで炭素ナノチューブを含むか否かによる連続血糖測定用電気化学的センサの有無による感応度を比較するために、実施例2と同様の方法で進行させ、使用するグルコースの濃度を1mM、2mM、3mM、4mMおよび5mM用いて試験し、その結果を
図3に示した。
図3から確認できるように、炭素ナノチューブを含む電極がそうでない電極に比べて約2.5倍高い感応性を示すことが分かった。また、炭素ナノチューブを含まない電極は、高濃度領域で飽和が起きて感応が減少したが、炭素ナノチューブを含む電極は、グルコース濃度に比例して電流が線形的に増加したことが分かった。
【0050】
実施例4:炭素ナノチューブを含むか否かによる連続血糖測定用電気化学的センサの最大電流到達時間の比較
炭素ナノチューブを含む電極の最大電流到達時間を、炭素ナノチューブを含まない電極の最大電流到達時間と比較するための方法として、クロノアンペロメトリー(chronoamperometry)を使用した。この時、基準電極、対電極、印加電圧、電解質は前記実施例2、3の場合と同様にして行った。最大電流に到達する時間を測定する時、1M濃度のグルコース溶液を添加して、最終的には0.1mM濃度であったグリコース濃度を1mMに変更し、濃度を変更した時の、電流が最大に到達する時間を確認した。この時、電流の範囲が増加した電流の大きさの±10%範囲以内にノイズが発生した場合に最大電流に到達したものと見なし、その結果を
図4に示した。
図4から分かるように、炭素ナノチューブが含まれていない電極は、グルコース濃度が変化しても電流が徐々に増加して、安定的に最大電流に到達するのに30秒から1分かかるが、炭素ナノチューブを含む電極の場合、数秒内に最大電流に到達することが分かった。
【0051】
実施例5:炭素ナノチューブを含むか否かによる連続血糖測定用電気化学的センサの基線電流(baseline current)の比較
炭素ナノチューブが含まれている電極と含まれていない電極で0mMグルコース濃度で測定される基線電流(baseline current)を確認するために、クロノアンペロメトリー(chronoamperometry)を使用した。この時、基準電極、対電極、印加電圧、電解質は前記実施例2、3の場合と同一である。基線電流を測定する時は、グルコースを電解質に添加しない状態でクロノアンペロメトリーを実施した。また、電圧を印加し、十分な時間維持して電流が安定した範囲内で維持されるようにした後、維持された電流の大きさを基線電流とする。この時の範囲は電流の大きさの±10%以内とし、その結果を
図5に示した。
図5から確認できるように、炭素ナノチューブを含まない電極の場合、グルコースが全くない条件であるにもかかわらず0.1μA以上の高い基線電流が流れることが分かったが、炭素ナノチューブを含む電極は、電極内の電子伝達媒介体を完全に酸化させることによって0.05μA以下の低い基線電流(baseline current)を示すことが分かった。
【0052】
実施例6:炭素ナノチューブを含む連続血糖測定用電気化学的センサの時間別感応度の安定性の確認
炭素ナノチューブを含む電極の時間別感応度の安定性を確認するための方法としてクロノアンペロメトリー(chronoamperometry)を使用した。この時、基準電極、対電極、印加電圧、電解質は前記実施例2、3の場合と同一である。測定は、一定時間センサを特定の条件で保管する段階と、特定の条件で一定時間保管したセンサの感応度をクロノアンペロメトリーにより測定する段階とで構成され、一定時間保管する段階とクロノアンペロメトリーを施す段階が交互に構成される。したがって、本試験では、炭素ナノチューブを含む電極上にナフィオン(nafion)をコーティングした後、0.5mMのグルコース/PBS溶液で0.35V vs Ag/AgClをかけて駆動させて、14日間の電極性能の変化を確認した。感応度は、1mM以下の濃度のグルコース溶液でクロノアンペロメトリーにより測定した電流をグルコース濃度で割った値により確認した。センサを一定時間保管する条件で電解質に1M濃度のグルコースを添加して、最終的には5mM濃度のグルコース溶液となるようにした。その結果を
図6に示した。
図6に示されているように、本発明による炭素ナノチューブを含む電極は、その感度(sensitivity)が気温や測定エラーによって誤差を示すとはいえ、概ね安定した感度(sensitivity)が維持されることが分かった。
【0053】
製造例2:本発明による炭素ナノチューブを含む連続血糖測定用電気化学的センサの製造
本発明による炭素ナノチューブを含む電気化学センサを製造するために、次の方法によりセンサを製造した。まず、電子伝達媒介体としてPVI-Os(bpy)2Cl(PVI:ポリビニルイミダゾール、bpy:ビピリジン)、酸化還元酵素(GDH)および架橋物質としてPEGDGEをそれぞれ蒸留水に溶解し、撹拌および超音波分散方式を用いてそれぞれの溶液を製造し、製造されたそれぞれの溶液を混合して、最終的には電子伝達媒介体、酸化還元酵素および架橋物質を含む混合液を製造した。
一方、電子伝達媒介体、酸化還元酵素、架橋物質が含まれている溶液とは別途に炭素ナノチューブ分散液を製造した。炭素ナノチューブ分散液は、最初に炭素ナノチューブ(CNT)を非イオン性界面活性剤としてsigma-aldrichから購入したTriton-Xと共に溶媒に分散させ、溶媒としては水を用いて分散液を製造した。炭素ナノチューブの分散には超音波分散方式を使用した。このような方法で製造された炭素ナノチューブ分散液を、電子伝達媒介体、酸化還元酵素、架橋物質混合液と追加的に混合し、分散のために撹拌した。このような方法で最終的に電子伝達媒介体、酸化還元酵素、架橋物質および炭素ナノチューブを含む混合液を製造した。
さらに、連続血糖用電気化学センサを製作するために、前述した方法で製造した溶液をcarbon pasteがprintingされた電極上にドロップ(drop)コーティング方式を用いてコーティングした。電極はscreen printed carbon electrodeを用いた。以後、常温で24時間、摂氏25℃、相対湿度50%が維持されるオーブンで架橋反応させて硬化した。硬化後、蒸留水を用いて製造されたセンサを洗浄した。
【0054】
実施例7:炭素ナノチューブを含むか否かによる連続血糖測定用電気化学的センサの高濃度グルコースに対する感応度の比較-2
製造例2で製造された炭素ナノチューブが含まれている電極と含まれていない電極を用いて、高濃度のグルコース溶液でクロノアンペロメトリー(chronoamperometry)を施して感応度を比較した。クロノアンペロメトリーのための基準電極としてはAg/AgCl電極が使用された。対電極としては白金ワイヤを用いた。クロノアンペロメトリーを施す時に印加する電圧は、循環電圧電流法により測定したグラフで測定した酸化電圧よりも正(+)の方向に大きい電圧(0.4V vs)を印加させた。電解質としてはリン酸バッファーが含まれている生理食塩水を使用した。低濃度グルコース範囲での感応を見るためのグルコース濃度は1mM、2mM、3mM、4mM、5mMを用いており、実験は12分間進行させた。その結果を
図7に示した。
図7から確認できるように、炭素ナノチューブを含まない電極は、感応性をほとんど示さないのに対し、本発明による炭素ナノチューブを含む電極は、高い感応性を示すことを確認できた。
【0055】
実施例8:炭素ナノチューブを含むか否かによるセンサの初期安定化効果の比較
製造例2で製造された炭素ナノチューブを含む電極と含まれていない電極の初期安定化効果を比較するために、次の方法によって試験を実施した。
作業電極として炭素ナノチューブを含む電極または含まない電極を用いており、基準電極としてはAg/AgCl電極が使用され、対電極としては白金ワイヤを用いた。クロノアンペロメトリーを施す時に印加する電圧は、循環電圧電流法により測定したグラフで測定した酸化電圧よりも正(+)の方向に大きい電圧(0.4V vs)を印加させた。電解質としてはリン酸バッファーが含まれている生理食塩水を使用した。安定化傾向を見るための生理食塩水のグルコース濃度は0mMであり、実験は5分間進行させた。その結果を
図8に示した。
図8から分かるように、炭素ナノチューブが含まれていない電極は、電圧印加後3分程度までも電流の安定化がなされていないのに対し、本発明による炭素ナノチューブが含まれている電極は、最初の電圧印加時から電流の安定化がなされていることを確認した。
【0056】
実施例9:炭素ナノチューブを含むか否かによる連続血糖測定用電気化学的センサのグルコース濃度に応じた感応電流変化の比較
製造例2で製造された炭素ナノチューブを含む電極と含まれていない電極の感応電流の変化を比較するために、次の方法によって試験を実施した。作業電極として炭素ナノチューブを含む電極または含まない電極を用いており、基準電極としてはAg/AgCl電極が使用され、対電極としては白金ワイヤを用いた。クロノアンペロメトリーを施す時に印加する電圧は、循環電圧電流法により測定したグラフで測定した酸化電圧よりも正(+)の方向に大きい電圧(0.4V vs Ag/AgCl)を印加させた。電解質としてはリン酸バッファーが含まれている生理食塩水を使用した。生理食塩水のグルコース濃度が変化した時の、電流の変化を比較するために、グルコース濃度を0.1mMから1mMに変更し、0.1mMで1分、1mMで1分間の計2分間0.4V vs Ag/AgClを印加して実験した。その結果を
図9に示した。
図9から分かるように、CNTを含まない電極の場合は、最大電流に到達する時間が数分以上かかったが、CNTを含む電極の場合は、数秒以内に最大電流に到達して、CNTを含む電極の感応変化速度が速いことを確認した。
【0057】
実施例10:炭素ナノチューブを含むか否かによる連続血糖測定用電気化学的センサのScan rate別cyclic voltammetryの比較
炭素ナノチューブを含む電極の電子伝達性能を、炭素ナノチューブを含まない電極と比較するための方法として、循環電圧電流法(cyclic voltammetry)を用いた。循環電圧電流法のための基準電極としてはAg/AgCl電極が使用された。対電極としては白金ワイヤを用いた。循環電圧電流法を施す時に使用される電解質としてリン酸バッファー(phosphate buffer)が含まれている生理食塩水を使用した。循環電圧電流法を施す時に印加電圧を変換する走査速度(scan rate)は1、2、5および10mV/sを用いた。電圧の印加順序は高い電圧から低い電圧で先に走査した。この実験結果を
図10、11および12に示した。
図10は、電圧の変化に応じた電流値の変化を示したグラフであり、
図10から確認できるように、炭素ナノチューブを含む電極がそうでない電極よりすべてのscan rateでより大きい酸化還元ピーク(peak)を示すことが分かった。
図11A、Bおよび12A、Bは、炭素ナノチューブを含む場合(
図11AおよびB)および含まない場合(
図12)の実験結果をpeak plotで示したグラフで、CNTを含まない電極の場合、CV peakの電流の大きさがscan rateの1/2乗に比例して拡散メカニズムに従うが、CNTを含む電極の場合、CV peakの電流の大きさがscan rateの1/2乗の増加幅より大幅に増加し、10mV/s以下のscan rateではscan rateの1乗に比例したので、CNTを含む電極の場合、含まない電極より表面反応が増加したことが分かった。
【国際調査報告】